(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】バイオアッセイ感度を増強するための微小流体微粒子標識インピーダンスセンサーアレイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240319BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20240319BHJP
G01N 33/553 20060101ALI20240319BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20240319BHJP
G01N 33/552 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N33/543 597
G01N33/483 E
G01N33/543 591
G01N33/553
G01N33/545 Z
G01N33/552
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555753
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2023-11-01
(86)【国際出願番号】 US2022019800
(87)【国際公開番号】W WO2022192571
(87)【国際公開日】2022-09-15
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】516191939
【氏名又は名称】テキサス・テック・ユニバーシティー・システム
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジュンキュ
(72)【発明者】
【氏名】バビル,アリ・コダヤリ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045BB04
2G045CA25
2G045CA26
2G045FA34
(57)【要約】
生体分子の検出及び定量において改善が施されたデバイス及び方法について本明細書に記載される。デバイス及び方法は、イムノアッセイの感度を改善するために、正弦波インプット電圧から、標的分析物の存在下で電気インピーダンス変化を測定するための微小流体バイオセンシングプラットフォームを含み得る。1つの実施形態では、記載されるデバイス及び方法は、感度及び検出限界を改善するためにシグナル増強微粒子を使用する、定量的診断用ポイントオブケアイムノアッセイプラットフォームを提供し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を検出及び定量するための微小流体デバイスであって、
(a)微小流体チャンネル、バッファー入口、試料入口、及び廃棄物出口を含む多層微小流体ネットワークであり、バッファー入口、試料入口、及び廃棄物出口が、微小流体チャンネルを介して相互に流体連通しており、並びに微小流体ネットワークがバッファー溶液及び試料を受け入れるように構成されている、多層微小流体ネットワークと、
第1の抗体が共有結合している表面を含む基材層であり、第1の抗体が標的分析物に特異的に結合するように適合されており、第1の抗体が第1の電極と第2の電極との間に取り付けられている、基材層と、
を含み、基材層が微小流体チャンネルと流体連通しており、第1の抗体が微小流体チャンネル内に配置されている、
微小流体チップと、
(b)電気インピーダンスの変化を検出するためのディテクターと、
を含む、デバイス。
【請求項2】
微小流体ネットワークが、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、又はその組合せのうちのいずれか1つから選択されるポリマー材料から構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
微小流体ネットワークがPDMSから構成される、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
微小流体ネットワークが、バッファー溶液及び試料の自律的毛管作用流のための幾何学的寸法である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
微小流体ネットワークが、微小流体チャンネル上部に配置されているチャンバー層、キャピラリーバルブ、及びブリッジングホールを備え、チャンバー層及び微小流体チャンネルが、キャピラリーバルブ及びブリッジングホールを介して相互に流体連通しており、並びに試料入口がチャンバー層内に配置されている、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
チャンバー層が第2の抗体を含み、第2の抗体が標的分析物に特異的に結合するように適合されており、及び第2の抗体が微粒子にコンジュゲートしている、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
第2の抗体がビオチン部分を含み、微粒子がストレプトアビジンコーティングを含み、及び第2の抗体が、ストレプトアビジンコーティングに対するビオチン部分の結合を通じて微粒子にコンジュゲートしている、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
微粒子が、磁気ビーズ、ポリスチレンビーズ、シリカビーズ、又はその組合せを含む、請求項6に記載のデバイス。
【請求項9】
微粒子が、直径約1μm~約5μmの範囲のサイズを有する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
微粒子が、直径約2.8μmのサイズを有する磁気ビーズを含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
チャンバー層が、試料入口に連結した多孔性ポリカーボネート(PC)膜を更に含み、及び第2の抗体にコンジュゲートした微粒子が、多孔性PC膜上に固定されている、請求項6に記載のデバイス。
【請求項12】
キャピラリーバルブが、直径約100μm~約300μmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える、請求項5に記載のデバイス。
【請求項13】
キャピラリーバルブが、直径約250μmのサイズを有するオリフィスを備える、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
ブリッジングホールが、直径約0.5mm~約2.5mmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える、請求項5に記載のデバイス。
【請求項15】
ブリッジングホールが、直径約1mmのサイズを有するオリフィスを備える、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
バッファー溶液が、約0.001mM~約1mMの範囲の濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
バッファー溶液が、約0.01mMの濃度でPBSを含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項18】
バッファー溶液が、約1wt%でウシ血清アルブミン(BSA)を更に含む、請求項16に記載のデバイス。
【請求項19】
微小流体ネットワークが1つ又は複数の吸収パッドを更に含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項20】
試料入口が血清分離膜を更に含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
基材層がガラス基材又はプラスチック基材を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項22】
第1の電極及び第2の電極が導電性金属でコーティングされている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項23】
導電性金属が、金(Au)、チタン(Ti)、又はその組合せから選択される、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
第1及び第2の電極間の距離が約1μm~約10μmである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項25】
第1の電極及び第2の電極間の距離が約10μmである、請求項24に記載のデバイス。
【請求項26】
第1の電極及び第2の電極が、約1kHz~約100kHzの範囲の周波数で作動する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項27】
第1の電極及び第2の電極が約10kHzの周波数で作動する、請求項26に記載のデバイス。
【請求項28】
第1の電極及び第2の電極が複数の電極の一部であり、複数の電極が相互に組み合わされる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか一項に記載のデバイスを使用して、試料中の標的分析物の存在を検出及び測定する方法であって、
(a)バッファー溶液をバッファー入口内に装入するステップと、
(b)バッファー溶液を基材層上に流すステップと、
(c)試料を試料入口内に装入するステップと、
(d)バッファー溶液を試料と混合するステップと、
(e)バッファー溶液及び試料の混合物を基材層上に逐次的に流すステップであり、標的分析物が第1の抗体と結合する、ステップと、
(f)バッファー溶液を基材層上に連続的に流してあらゆる未結合の標的分析物を取り除くステップと、
(g)電気インピーダンスの変化を検出して、試料中の標的分析物の濃度を定量化するステップと、
を含む方法。
【請求項30】
流すステップが毛管作用により自律的である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
試料が第2の抗体にコンジュゲートした微粒子と共にインキュベートされた後、バッファー溶液と混合され、標的分析物が微粒子とコンジュゲートした第2の抗体と結合する、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
第2の抗体にコンジュゲートした微粒子が多孔性PC膜上に固定されており、試料を試料入口内に装入した後に、試料が多孔性PC膜に滴下すると、微粒子が膜から放出され、そして試料が、第2の抗体にコンジュゲートした放出後の微粒子と共にインキュベートされる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
バッファー溶液がキャピラリーバルブに到達した後に、試料が試料入口内に装入される、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
試料がバッファー溶液と接触したとき、キャピラリーバルブが開放する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
試料が、対象に由来する血液試料又はその他の生物学的液状試料を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
約5分~約10分の範囲の総アッセイ時間を含む、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年3月12日出願の米国仮特許出願第63/160,594号の優先権を主張し、同号は本明細書において参照によりそのまま組み込まれる。
連邦政府より資金提供された研究
本発明は、国立科学財団より付与された認可番号NSF-EECS/1509746に基づき、政府支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
生体分子の検出及び定量において改善が施されたデバイス及び方法について本明細書に記載される。デバイス及び方法は、イムノアッセイの感度を改善するために、正弦波インプット電圧から、標的分析物の存在下で電気インピーダンス変化を測定するための微小流体バイオセンシングプラットフォームを含み得る。1つの実施形態では、記載されるデバイス及び方法は、感度及び検出限界を改善するためにシグナ増強微粒子を使用する、定量的診断用ポイントオブケアイムノアッセイプラットフォームを提供し得る。
【背景技術】
【0003】
インピーダンス測定式バイオセンサーは、正弦波電圧を適用することにより、作用電極上の生体分子、細胞、又は標識バイオマテリアルの存在に起因する電気インピーダンス変化を測定する電気化学的バイオセンサーのクラスである。この種のセンサーは、低コスト、小型化の容易さ、多重化能力、及び無標識操作に起因して、デジタル化されたポイントオブケア(POC)診断にとって有望であることが判明した。今日までに、複雑性が低下した小型化プラットフォームの開発と連携して、多くの努力が払われてきた。これまでの研究により、微小流体チップ及び小型インピーダンス回路基板から構成されるマラリア診断用の一体型セルカウンティングアッセイシステムが開発された。トランスジェニックタンパク質Cry1Abを検出するために、印刷された金電極チップ及び微小流体フローセルから構成された別の一体型診断プラットフォームが提案された。小型化ポータブルインピーダンス測定式バイオセンサープラットフォームの場合、AD5933チップに基づくインピーダンス測定式リーダーが、深部静脈血栓症及び肺塞栓症の診断用として、IDEアレイ上に微小流体チャンネルを用いて設計された。小型化インピーダンスバイオセンサーの開発において多くの努力がなされたものの、実際のイムノアッセイを実施するための使いやすく十分な感度を備えた一体型プラットフォームはほとんど開発されていない。
【0004】
キャピラリー微小流体技術が、異なるプラットフォームにおいて、異なる種類のイムノアッセイを実施するために利用されてきた。最初期のいくつかの研究の1つにおいて、キャピラリー充填現象を使用するオンチップイムノアッセイの可能性が調査された。自律型流体経路を手に入れるために、キャピラリー保持バルブを導入して、逐次的に送出を行い、複数サイクルを可能にした。チャンネルの幾可学的形状、したがって流体力学的抵抗をコントロールすることにより、流速制御を可能にし、反応チャンバー内のインキュベーション時間を変化させるワンステップキャピラリー駆動式微小流体が開発された。このコンパクトデバイスにより、C反応性タンパク質(CRP)について定量化イムノアッセイが実証されたが、その検出可能な最低蛍光シグナルは10pg/mLのCRPに対応した。このようなプラットフォームは、高感度イムノアッセイを実行するための自律型微小流体チップに通ずる道筋をつけたものの、低感度であること及びアウトプットシグナルを読み取るために大きく、かつ、かさばる下流センサーが必要であることが相まって、それを商業的に有望な製品にまで開発することが阻害された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、疾患と関連する様々なバイオマーカーの検出及び定量に改善をもたらすには、新たな一体化型のユーザーフレンドリーな方法及びデバイスが必要とされる。そのような方法及びデバイスは、様々なPOC診断アプリケーションにおいて有用である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載される1つの実施形態は、生体分子を検出及び定量するための微小流体デバイスであって、(a)微小流体チャンネル、バッファーインレット、試料入口、及び廃棄物出口を含む多層微小流体ネットワークであり、バッファーインレット、試料入口、及び廃棄物出口は、微小流体チャンネルを介して相互に流体連通しており、並びに微小流体ネットワークがバッファー溶液及び試料を受け入れるように構成されている、多層微小流体ネットワーク、並びに第1の抗体が共有結合している表面を含む基材層であり、第1の抗体が標的分析物に特異的に結合するように適合されており、第1の抗体が第1の電極と第2の電極との間に取り付けられている、基材層とを含み、基材層が微小流体チャンネルと流体連通しており、第1の抗体が微小流体チャンネル内に配置されている、微小流体チップと、(b)電気インピーダンスの変化を検出するためのディテクターとを含む、デバイスである。
【0007】
1つの態様では、微小流体ネットワークは、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、又はその組合せのうちのいずれか1つから選択されるポリマー材料から構成される。別の態様では、微小流体ネットワークはPDMSから構成される。
【0008】
別の態様では、微小流体ネットワークは、バッファー溶液及び試料の自律的毛管作用流のための幾何学的寸法である。別の態様では、微小流体ネットワークは、微小流体チャンネル上部に配置されているチャンバー層、キャピラリーバルブ、及びブリッジングホールを備え、チャンバー層及び微小流体チャンネルは、キャピラリーバルブ及びブリッジングホールを介して相互に流体連通しており、並びに試料入口はチャンバー層内に配置されている。別の態様では、チャンバー層は第2の抗体を含み、第2の抗体は標的分析物に特異的に結合するように適合されており、及び第2の抗体は微粒子にコンジュゲートしている。別の態様では、第2の抗体はビオチン部分を含み、微粒子はストレプトアビジンコーティングを含み、及び第2の抗体は、ストレプトアビジンコーティングに対するビオチン部分の結合を通じて微粒子にコンジュゲートしている。別の態様では、微粒子は、磁気ビーズ、ポリスチレンビーズ、シリカビーズ、又はその組合せを含む。別の態様では、微粒子は、直径約1μm~約5μmの範囲のサイズを有する。別の態様では、微粒子は、直径約2.8μmのサイズを有する磁気ビーズを含む。別の態様では、チャンバー層は、試料入口に連結した多孔性ポリカーボネート(PC)膜を更に含み、第2の抗体にコンジュゲートした微粒子は、多孔性PC膜上に固定されている。
【0009】
別の態様では、キャピラリーバルブは、直径約100μm~約300μmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える。別の態様では、キャピラリーバルブは、直径約250μmのサイズを有するオリフィスを備える。別の態様では、ブリッジングホールは、直径約0.5mm~約2.5mmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える。別の態様では、ブリッジングホールは、直径約1mmのサイズを有するオリフィスを備える。
【0010】
別の態様では、バッファー溶液は、約0.001mM~約1mMの範囲の濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。別の態様では、バッファー溶液は、約0.01mMの濃度でPBSを含む。別の態様では、バッファー溶液は、約1wt%でウシ血清アルブミン(BSA)を更に含む。
【0011】
別の態様では、微小流体ネットワークは1つ又は複数の吸収パッドを更に含む。
別の態様では、試料入口は血清分離膜を更に含む。
別の態様では、基材層はガラス基材又はプラスチック基材を含む。別の態様では、第1及び第2の電極は導電性金属でコーティングされている。別の態様では、導電性金属は、金(Au)、チタン(Ti)、又はその組合せから選択される。別の態様では、第1及び第2の電極間の距離は約1μm~約10μmである。別の態様では、第1及び第2の電極間の距離は約10μmである。別の態様では、第1及び第2の電極は、約1kHz~約100kHzの範囲の周波数で作動する。別の態様では、第1及び第2の電極は約10kHzの周波数で作動する。別の態様では、第1及び第2の電極は複数の電極の一部であり、複数の電極は相互に組み合わされる。
【0012】
本明細書に記載される別の実施形態は、開示されるデバイスの実施形態又は態様のうちのいずれか1つを使用して、試料中の標的分析物の存在を検出及び測定する方法であって、(a)バッファー溶液をバッファーインレット内に装入するステップと、(b)バッファー溶液を基材層上に流すステップと、(c)試料を試料入口内に装入するステップと、(d)バッファー溶液を試料と混合するステップと、(e)バッファー溶液及び試料の混合物を基材層上に逐次的に流すステップであり、標的分析物が第1の抗体と結合する、ステップと、(f)バッファー溶液を基材層上に連続的に流してあらゆる未結合の標的分析物を取り除くステップと、(g)電気インピーダンスの変化を検出して試料中の標的分析物の濃度を定量化するステップとを含む方法である。
【0013】
1つの態様では、流すステップは毛管作用により自律的である。別の態様では、試料は第2の抗体にコンジュゲートした微粒子と共にインキュベートされた後、バッファー溶液と混合され、標的分析物は微粒子とコンジュゲートした第2の抗体と結合する。別の態様では、第2の抗体にコンジュゲートした微粒子は多孔性PC膜上に固定されており、試料を試料入口内に装入した後に、試料が多孔性PC膜に滴下すると、微粒子は膜から放出され、そして試料は、第2の抗体にコンジュゲートした放出後の微粒子と共にインキュベートされる。別の態様では、バッファー溶液がキャピラリーバルブに到達した後に、試料は試料入口内に装入される。別の態様では、試料がバッファー溶液と接触したとき、キャピラリーバルブは開放する。
【0014】
別の態様では、試料は、対象に由来する血液試料又はその他の生物学的液状試料を含む。
別の態様では、方法は約5分~約10分の範囲の総アッセイ時間を含む。
【0015】
特許又は出願ファイルには、彩色が施された少なくとも1つの図面が含まれる。カラー図面(複数可)を含むこの特許又は特許出願公開のコピーは、申請及び必要手数料の支払いに応じて特許庁などより提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】微粒子標識イムノアッセイ用の例示的微小流体インピーダンスセンサーアレイについて、その概略図を示す図である。特別仕様のインピーダンスアナライザー及び微小流体チャンネルと一体化した8個の相互に組み合わされた電極(IDE)を示す(左側)。陰性コントロール(上段)及び陽性コントロール(下段)に対するIDEの例証図を示し、そしてIDE上での完全免疫複合体の形成を表す(右)。
【
図2A】金(Au)IDEアレイチップ、2つのインピーダンス分析回路、及びLabVIEWソフトウェアプログラムと関連するシグナル伝達用のデータ取得(DAQ)ボードから構成される例示的システム構成を示す図である。微小流体チャンネルネットワークは、分析物及びバッファー溶液を送出し、並びに洗浄目的で流体力をコントロールするために、IDEアレイの最上部に配置され得る。
【
図2B】例示的IDEチップ作製プロセスに関する概略を示す図である。
【
図2C】IDE及び等価回路の例証図、並びにIDEが、印加された正弦波電圧及び測定された交流電流からインピーダンス変動をどのように測定するか、それを表す式を示す図である。
【
図3】異なる濃度のPBSバッファーにおいて、インピーダンスアナライザー及びLCRメーターにより測定を行い、それに基づき異なる周波数について計算した利得係数を示すグラフである。
【
図4】微粒子標識イムノアッセイ用インピーダンスバイオセンサーの等価回路を示す図である。類似回路は、電極の静電容量効果、電極及び微粒子表面の二重層容量、並びに溶液の抵抗から構成される。
【
図5】
図4に示す回路を使用しながら、伝導率測定器により測定したときの、異なる濃度のバッファーに対するバッファー伝導度のプロットを示すグラフである。
【
図6】Simulink、MATLAB(登録商標)を使用する模擬的な等価回路を示す図である。
【
図7A】検出抗体(detector antibody)コンジュゲート微粒子を用いた改良型検出を使用する、ヒト腫瘍壊死因子-α(TNF-α)イムノアッセイのための表面官能化プロセスを示す図である。ガラス基材上を酸素プラズマ洗浄することによるヒドロキシル基の形成を示す。
【
図7B】検出抗体体コンジュゲート微粒子を用いた改良型検出を使用する、ヒト腫瘍壊死因子-α(TNF-α)イムノアッセイのための表面官能化プロセスを示す図である。除去可能なPDMSマスキングフィルムを配置した後の、3%APTESの30分間インキュベーションを示す。
【
図7C】検出抗体体コンジュゲート微粒子を用いた改良型検出を使用する、ヒト腫瘍壊死因子-α(TNF-α)イムノアッセイのための表面官能化プロセスを示す図である。カルボジイミドカップリング法による活性化捕捉抗体の共有結合固定化を示す。
【
図7D】検出抗体コンジュゲート微粒子を用いた改良型検出を使用する、ヒト腫瘍壊死因子-α(TNF-α)イムノアッセイのための表面官能化プロセスを示す図である。標的分析物であるTNF-αとのインキュベーション及び固定化捕捉抗体との結合を示す。
【
図7E】検出抗体コンジュゲート微粒子を用いた改良型検出を使用する、ヒト腫瘍壊死因子-α(TNF-α)イムノアッセイのための表面官能化プロセスを示す図である。マスクの除去及びPDMS微小流体チャンネルの組み込みを示す。1%w/vウシ血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝稀釈生理食塩水(PBS)(1%PBSB)溶液を、マイクロチャンネルを通じて最初に注入し、そしてBSA表面不動化のために30分間インキュベートした。
【
図7F】ディテクターとして抗体コンジュゲート微粒子を用いた改良型検出を使用する、ヒト腫瘍壊死因子-α(TNF-α)イムノアッセイのための表面官能化プロセスを示す図である。磁気微粒子とコンジュゲートした検出抗体の流動及び流体力学的洗浄を示す。
図7Fにおいて、固定化された捕捉抗体、標的分析物、及び検出抗体コンジュゲート微粒子との間でサンドイッチ免疫複合体が形成される。
【
図8】市販のLCRメーター及びインピーダンスアナライザーを使用してIDE上で測定され、並びにシミュレーションモデルから計算された、脱イオン水内の異なる濃度のPBSを示すグラフである。0.1mM以上のバッファー濃度は飽和を示しており、生体分子が固定化したことによるインピーダンス変動の検出は不可能である。0.01mMのPBSの場合、観測された飽和効果はより低く、pHバッファー能を考慮しながら、0.01mMのPBSを、インピーダンスシグナル測定期間中のバッファー溶液として選択した。
【
図9】選択及び特徴付けを行った磁気、ポリスチレン、及びシリカの各ビーズを含む3つの異なる微粒子タイプを示すグラフである。すべての微粒子は、オリジナル微粒子に関して同一サイズの2.8μmであり、またストレプトアビジンからなる同一表面コーティングを有した。微粒子を熱変性させた場合、粒子のボイリングをホットプレート上で実施し、そしてこの変性した微粒子を次にインピーダンス測定で使用した。すべてのデータは、5%のIDE表面被覆率について収集される。試験した各周波数において、試料の順序付けは、左から右方向に、磁気ビーズ、磁気ビーズ(変性)、ポリスチレンビーズ、ポリスチレンビーズ(変性)、シリカビーズ、シリカビーズ(変性)である。
【
図10】表面官能化期間中の標準化後インピーダンス変動率(%)を示すグラフである。インピーダンスシグナルの変動率(%)は、IDEセンサー上のAPTES及び捕捉抗体のそれぞれと共に増加する。これらの変動は、周波数が11から91kHzに増加すると共に、生み出された二重層容量の効果に起因してわずかに減少する。
【
図11A】磁気微粒子コンジュゲート検出抗体を含む/含まない様々な標的分析物濃度について、インピーダンス変動及びIDE表面被覆率を示す図である。様々な標的濃度に対するIDE上の磁気微粒子密度を示す。
【
図11B】磁気微粒子コンジュゲート検出抗体を含む/含まない様々な標的分析物濃度について、インピーダンス変化及びIDE表面被覆率を示すグラフである。標準化後インピーダンス変動を示し、無標識(磁気微粒子を含まない)及びサンドイッチ微粒子標識(磁気微粒子を含む)の両方について、11kHzにおいて様々な標的濃度のTNF-αと共存させたときの捕捉抗体を比較する。インピーダンスセンサーを微粒子標識イムノアッセイフォーマットとカップリングさせることにより、TNF-αが83.46pg/mLという低い濃度でも検出することができた。この複合センシング技術は、感度を1桁改善することができる。
【
図11C】磁気微粒子コンジュゲート検出抗体を含む/含まない様々な標的分析物濃度について、インピーダンス変化及びIDE表面被覆率を示すグラフである。インピーダンス変動のグラフを示し、無標識(cAb対TNF-α)及びサンドイッチ微粒子標識(cAb対ディテクター)の両方について、11kHzにおいて、様々な標的濃度のTNF-αと共存させたときの捕捉抗体(cAb)を比較し、右の軸に表面被覆率%を含む。
【
図12】IDEの表面被覆率が異なる場合に、2.8μm磁気微粒子について、11kHzにおけるインピーダンス差異の大きさを示すグラフである。
【
図13】キャピラリーバルブ及びブリッジングホールを有する2ステージ微小流体ネットワークを備える例示的微小流体チップに関する概略図を示す図である。
【
図14】2ステージ微小流体チャンネルネットワークにおけるキャピラリーバルブの作動原理の流れを、異なる色素を使用して示す図である。バッファー溶液-青色色素;及び標的分析物を含む試料溶液-赤色色素。
【
図15A】微小流体チップ、インピーダンス分析回路、電源、データ取得ボード、及びプロセシングユニットを含む一体型携帯式POCデバイスの例示的設計を示す図である。
【
図15B】一体型IDE及び微小流体チップを備える一体型携帯式POCデバイスの別の例示的設計を示す図である。
図15Bの設計を用いた場合、すべての筐体及び回路は3Dプリンターを用いて作製される。
【
図16】ブリッジングホール直径が異なる場合の、
図13に示す微小流体設計に基づくブリッジングホール内バッファー挙上時間を示すグラフである。
【
図17】キャピラリー駆動式微小流体チップを備えた一体型IDEシステムにおいて、例示的な自律的及び逐次的フロープロセスを、異なる色素を使用して示す図である。バッファー溶液-青色色素;標的分析物を含む試料溶液-赤色色素;及び検出抗体コンジュゲート微粒子-黄色色素。
【
図18A】キャピラリー駆動式微小流体ネットワークを有する一体型IDEセンシングプラットフォーム上のサンドイッチイムノアッセイから得られた、11kHzにおけるインピーダンス変動を示す図である。捕捉抗体(cAb、マウスモノクローナル抗心筋トロポニンI抗体)をIDEアレイ上に固定し、そして様々なヒト心筋トロポニンI標的分析物(cTnI)濃度を、検出抗体コンジュゲート微粒子を用いて(cTnI対ディテクター)、及び検出抗体コンジュゲート微粒子を用いないで(cAb対cTnI)試験した。検出抗体もマウスモノクローナル抗心筋トロポニンI抗体であり、また2.8μmのM-270磁気微粒子にコンジュゲートさせた。cTnI分析物はヒト心組織に由来し、真空凍結乾燥された。
【
図18B】キャピラリー駆動式微小流体ネットワークを有する一体型IDEセンシングプラットフォーム上のサンドイッチイムノアッセイから得られた、11kHzにおけるインピーダンス変動を示すグラフである。捕捉抗体(cAb、マウスモノクローナル抗心筋トロポニンI抗体)をIDEアレイ上に固定し、そして様々なヒト心筋トロポニンI標的分析物(cTnI)濃度を、検出抗体コンジュゲート微粒子を用いて(cTnI対ディテクター)、及び検出抗体コンジュゲート微粒子を用いないで(cAb対cTnI)試験した。検出抗体もマウスモノクローナル抗心筋トロポニンI抗体であり、また2.8μmのM-270磁気微粒子にコンジュゲートさせた。cTnI分析物はヒト心組織に由来し、真空凍結乾燥された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
別途定義されなければ、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。例えば、本明細書に記載される細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、並びにタンパク質及び核酸化学、並びにハイブリダイゼーションと関連して、並びにそれらの技術において使用されるすべての命名法は、当技術分野において周知されており、また一般的に使用される。矛盾する場合、本開示が、定義を含め、コントロールする。本明細書に記載されるものと類似又は同等の方法及び材料が、本明細書に記載される実施形態及び態様を実践又は試験する際に使用可能であるものの、例示的方法及び材料が以下に記載される。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「アミノ酸」、「ヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、「ベクター」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は、当業者の生化学者により理解されるようなその一般的な意味を有する。標準的な一文字ヌクレオチド(A、C、G、T、U)及び標準的な一文字アミノ酸(A、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、又はY)表記法が、本明細書において使用される。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語、例えば「~を含む(include)」、「~を含むこと(including)」、「~を含有する(contain)」、「~を含有すること(containing)」、「~を有すること(having)」等は、「~を含むこと(comprising)」を意味する。本開示は、明示的に記述される/されないに関わらず、本明細書に提示される実施形態又は要素「を含む(comprising)」、「それから構成される(consisting of)」、及び「それから実質的に構成される(consisting essentially of)」その他の実施形態についても検討する。
【0020】
本明細書で使用される場合、本開示の文脈で使用される「a」、「an」、「the」、及び類似した用語(特に、特許請求の範囲の文脈において)は、本明細書において別途表示される場合、又は文脈より明らかに矛盾する場合を除き、単数形及び複数形の両方を包含するものと解釈される。それに加えて、「a」、「an」、又は「the」は、別途規定する場合を除き、「1つ又は複数」を意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「又は」は接続的又は非接続的であり得る。
本明細書で使用される場合、用語「実質的に」は、きわめて大きな又は非常に大きな程度を意味するが、しかし完全にではない。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「約」又は「およそ」は、目的とする1つ又は複数の数値に適用される場合、記載された参照値と類似する数値、又は当業者により決定される場合、特定の数値に対する許容される誤差範囲(数値がどのように測定又は決定されるか、例えば測定システムの限界等に部分的に依存する)内の数値を指す。1つの態様では、用語「約」とは、用語「約」により修飾された数値の最大±10%の変動に収まる整数及び端数部分の両方を含む任意の数値を指す。或いは、「約」は、当技術分野における実践法に従い、3標準偏差以上を意味し得る。或いは、例えば生体システム又はプロセス等に関して、用語「約」は、ある数値の、いくつかの実施形態では5倍以内、及びいくつかの実施形態では2倍以内といったある倍数以内を意味し得る。本明細書で使用される場合、記号「~」とは、「約」又は「およそ」を意味する。
【0023】
本明細書で開示されるすべての範囲は、両方の端点を個々の数値として、並びに当該範囲以内に規定されるすべての整数及び端数を含む。例えば、0.1~2.0の範囲は、0.1、0.2、0.3、0.4、...2.0を含む。端点が用語「約」により修飾される場合には、規定された範囲は、端点を含め、範囲内の任意の数値の最大±10%の変動によって拡張されるか、又は3標準偏差以上に収まる。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「対照」又は「参照」は、本明細書において交換可能に使用される。「参照」又は「対照」レベルは、測定された結果を評価するときにその対象となるベースライン又はベンチマークとして採用される、事前に決定された数値又は範囲であり得る。「対照」とは、対照実験又は対照細胞も指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「用量」は、少なくとも1回又はそれ以上投与することで治療効果を開始又は生成するのに十分な量を含有する、細胞を含む有効成分処方物又は組成物の任意の形態を表す。「処方物」及び「組成物」は、本明細書において交換可能に使用される。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「予防」とは、統計的に有意な程度まで又は当業者により検出可能な程度まで障害の進行を防止するか又は低下させることを指す。
本明細書で使用される場合、用語「有効量」又は「治療有効量」とは、対象に投与された場合、対象が経験するか又は感染しやすい疾患又は状態のいくつかの症状のうちの1つ又は複数を、ある程度防止、処置し、又は良化させる作用、薬剤、組成物、又は細胞(複数可)の、実質的に無毒性であるが、しかし十分な量を指す。結果は、疾患の兆候、症状、又は原因の低減又は軽減、或いは生体システムの任意のその他の望ましい変化であり得る。有効量は、対象の年齢、サイズ、疾患のタイプ又は程度、疾患の病期、投与経路、使用される補足療法のタイプ又は程度、進行中の疾患プロセス、及び望ましい処置の種類を含む、但しこれらに限定されない、各対象に固有の要因に基づき得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「対象」とは、動物を指す。一般的に、対象は哺乳動物である。対象とは、霊長類(例えば、ヒト、男性又は女性;小児、未成年者、又は成人)、ヒト以外の霊長類、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、サカナ、鳥類等も指す。1つの実施形態では、対象は霊長類である。1つの実施形態では、対象はヒトである。
【0028】
本明細書で使用される場合、対象がそのような処置から生物学的、医学的利益、又は生活の質における利益を享受する場合には、そのような対象は「処置を必要とする」。処置を必要とする対象は、特に防止的(preventive)又は予防的(prophylaxis)処置の場合、症状を必ずしも呈さない。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「~を阻害する」、「阻害」、又は「~を阻害すること」とは、所与の生物学的プロセス、状態、症状、障害、若しくは疾患の低減若しくは抑制、又は生物学的活性若しくはプロセスのベースライン活性における有意な減少を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「処置」又は「~を処置すること」とは、障害又は疾患を含む生物学的プロセスの進行の予防、防止、抑制、抑圧、逆転、緩和、良化、若しくは阻害、又は疾患の完全除去を指す。処置は急性的又は慢性的な方法のいずれかで実施され得る。用語「処置」とは、疾患が苦痛となる前に、疾患の重症度又はそのような疾患と関連する症状を低減させることも指す。疾患、障害、又はその症状の「抑圧」又は「良化」は、そのような疾患、障害、又はその症状が臨床的に発現した後に、本明細書に記載される細胞、組成物、又は化合物を対象に投与することと関係する。疾患、障害、又はその症状「の予防」又は「それを防止すること」は、疾患、障害、又はその症状の発現前に、本明細書に記載される細胞、組成物、又は化合物を対象に投与することと関係する。疾患又は障害「を抑制すること」は、疾患又はその障害を誘発した後、しかしそれが臨床的に発現するか又はその症状が顕在化する前に、本明細書に記載される細胞、組成物、又は化合物を対象に投与することと関係する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「試料」又は「標的試料」とは、標的分析物又は標的バイオマーカーの存在及び/又はレベルが検出対象又は決定対象とされる任意の試料を指す。試料には、液体、溶液、エマルジョン、又は懸濁物質が含まれ得る。試料には、医学的試料が含まれ得る。試料には、任意の生物学的液状物又は組織、例えば血液、全血、血液の分画、例えば血漿及び血清、筋肉、間質液、汗、唾液、尿、涙液、滑液、骨髄、脳脊髄液、鼻汁、喀痰、羊水、気管支肺胞洗浄液、胃洗浄物、嘔吐物、排泄物、肺組織、末梢血単核球、総白血球、リンパ節細胞、脾臓細胞、扁桃細胞、がん細胞、腫瘍細胞、胆汁、消化液、皮膚、又はその組合せ等が含まれ得る。いくつかの実施形態では、試料は一定分量を含む。その他の実施形態では、試料は生体液又は体液を含む。試料は当技術分野において公知の任意の手段により取得可能である。試料は、患者から得られる場合、直接使用可能であるが、又は本明細書において議論されるように、さもなければ当技術分野において公知なように、いくつかの方式で試料の特性を改変するために、例えば濾過、蒸留、抽出、濃縮、遠心分離、妨害成分の不活性化、試薬の添加等により事前処置され得る。1つの実施形態では、試料は、対象に由来する血液試料又はその他の生物学的液状試料を含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、「標的分析物」又は「標的バイオマーカー」とは、生物学的状態又は生物学的プロセス、例えば疾患状態、又は疾患若しくは障害の診断上の指標若しくは予後指標(例えば、疾患又は障害の存在又は遅発的発症の蓋然性を特定する指標)等と関連する物質を指す。バイオマーカーの有無、又はバイオマーカー濃度の増加若しくは減少は、特定の状態又はプロセスと関連し、及び/又はそれを示唆し得る。バイオマーカーは、細胞又は細胞コンポーネント(例えば、ウイルス細胞、細菌細胞、真菌細胞、がん細胞等)、小分子、脂質、炭水化物、核酸、ペプチド、タンパク質、酵素、抗原、及び抗体を含み得るが、但しこれらに限定されない。バイオマーカーは、感染性病原体、例えばバクテリア、菌類、若しくはウイルス等に由来し得るか、又は健常者と比較して、疾患又は障害に罹患した対象においてより多い又は少ない存在量で見出される(例えば、遺伝子の発現又は遺伝子産物の増加又は減少)内因性分子であり得る。1つの実施形態では、標的分析物は、対象から得られた血液試料又は血清試料に由来する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「微小流体的」とは、表面力が容積力を凌駕するような小縮尺(一般的にサブミリメーター)まで幾何学的及び寸法的に縮小された流体の挙動、精密なコントロール、及び操作を指す。「微小流体デバイス」とは、1ミリメーター未満の断面寸法を有する少なくとも1つのマイクロチャンネルを含むデバイス又は回路を指す。開示される発明のいくつかの実施形態では、微小流体デバイスは多層化された微小流体チップを含み得る。
【0034】
本明細書で使用される場合、「インピーダンス」とは、電気インピーダンス又は電子インピーダンスである。本明細書で使用される場合、「電気インピーダンスの変化を検出すること」又は「インピーダンス変動を検出すること」とは、1つ又は複数の電極間のインピーダンスが、前記電極間で分子結合反応が生ずるとき、インピーダンスアナライザー又はインピーダンス測定回路により検出可能である有意な変化を有することを意味する。インピーダンス変化又はインピーダンス変動とは、デバイスの1つ又は複数の電極間で分子結合反応が生ずるときと、分子結合反応が生じないときのインピーダンス値の差異を指す。電極間のインピーダンスは、一般的に検出及び測定するために印加される電場又は正弦波インプット電圧の周波数の関数である。
【0035】
本明細書で使用される場合、「検出限界」又は「LOD」とは、十分な程度の信頼度又は統計的有意性を有して観察可能である最低シグナル、又はシグナルから求められた対応する最低数量を意味する。開示される発明のある特定の実施形態では、信頼性を有して検出され得る標的分析物の最低濃度は、[LOD=[平均ブランク+1.645×(SDブランク)]+1.645×(SD低濃度試料)]として報告される。
【0036】
本明細書で使用される場合、「相互に組み合わされた」とは、互いに組み合わせた手の指のように、1方向を起点とする突出物がそれと異なる方向を起点とする突出物と相互に組み合わさった構造を指す。開示される発明の1つの態様では、第1及び第2の電極は複数の電極の一部であり、複数の電極が相互に組み合わされる。本出願の相互に組み合わされた電極(IDE)要素は、好ましくは相互に接触しない。開示される発明の1つの態様では、第1及び第2の電極間の距離は約1μm~約10μmである。別の態様では、第1及び第2の電極間の距離は約10μmである。1つの実施形態では、開示されるデバイスはIDEアレイを含む。
【0037】
本明細書で使用される場合、「導電性金属」とは、電流を伝導する能力を有する任意の金属を指す。1つの実施形態では、導電性金属は、金(Au)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、又はその組合せのいずれか1つから選択され得る。いくつかの実施形態では、導電性金属は、開示されるデバイスの1つ又は複数の電極上に堆積及びコーティングされ得る。1つの実施形態では、第1及び第2の電極は導電性金属でコーティングされている。別の実施形態では、導電性金属は、金(Au)、チタン(Ti)、又はその組合せから選択される。
【0038】
本明細書で使用される場合、「バイオアッセイ」とは、例えば、抗体又は一本鎖DNA(ssDNA)を含む1つ又は複数の生体分子の使用を通じて、溶液内の標的分析物又は標的生体分子の存在を検出し、及び/又はその濃度を測定するための生化学試験を指す。1つの実施形態では、バイオアッセイは、基材層上に共有結合するか又は固定化されて溶液中の標的分析物に結合し、そしてそれを捕捉する第1の「捕捉抗体」又は「cAb」を含むイムノアッセイを含む。この実施形態の1つの態様では、イムノアッセイには、第1の捕捉抗体により捕捉された標的分析物に結合することによってサンドイッチイムノアッセイの生成に使用される第2の「検出抗体」又は「dAb」が更に含まれる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「~に特異的に結合する」とは、抗体がランダムで無関係の生体分子又は分析物と結合する場合よりも、標的分析物とより容易に結合するように適合されているときを一般的に指す。
【0040】
開示される発明のいくつかの実施形態では、インピーダンス測定式イムノアッセイバイオセンサーデバイスは、正弦波インプット電圧から、生体分子の存在下で電気インピーダンス変動を測定することとして記載される。インピーダンス測定式バイオセンサーの感度を改善するために、いくつかの設計パラメーターが考案されている。一般的に、IDEは、シグナル対ノイズ比が高いこと、抵抗降下が低いこと、及び定常状態への到達が迅速であることといった長所を有するので、インピーダンス測定式バイオセンサーに使用される。IDE設計のきわめて重要なパラメーターは、センシングエリア、電極ギャップ、及び周波数範囲である。IDEアレイそのものの設計は、全体的なセンシングエリアを検討することで、IDEの全体的な感度を増加させることができる。2電極間の電場は生体分子結合事象が生ずる際に効果的に変化し得るので、電極ギャップはIDEバイオセンサーの感度における最も重要なパラメーターである。2電極間の距離がマイクロギャップからナノギャップに減少するとき、感度は更に増加し得る。電極間距離がより小さくなるに従って、試料並びに標識による電極の短絡の機会が増加し、測定の不成功を引き起こすおそれがある。ナノギャップの場合、適切なベースラインを維持するために非常に低いイオン強度を有するバッファー溶液が必要とされ、抗原-抗体相互作用に影響を及ぼすおそれがあることにも留意すべきである。更に、ナノギャップIDEの場合、複雑な組立て手順を必要とし、製造コストの増加、収率の低下、及び実用性の低下を引き起こす。したがって、バイオセンシングプラットフォームのための電極フィンガー間の代表的なギャップは、1~10μmであるように提案される。
【0041】
適する周波数の選択は、アッセイ感度と関連する別の重要なパラメーターである。より低い周波数(<1kHz)では、インピーダンスは、IDEの漏れ抵抗(電極材料に対してきわめて敏感)により支配される。100kHzを上回る高周波数の場合、溶液抵抗が正味のインピーダンスに寄与し、また測定誤差は寄生容量及びインダクタンスに起因して増加する。中間的な周波数(1kHz~100kHz)では、測定シグナルは電極表面容量に依拠し、IDE上での親和性結合の検出を可能にする。したがって、ほとんどのインピーダンス測定式バイオセンサーは、1kHz~100kHz、一般的に約10kHzの周波数を採用し、その場合シグナルは比較的安定であり、またインピーダンス応答は界面変化により支配される。1つの実施形態では、第1及び第2の電極は約1kHz~約100kHzの範囲の周波数において作動する。別の実施形態では、第1及び第2の電極は約10kHzの周波数において作動する。
【0042】
生体分子の検出を目的する任意のバイオセンサーは、反応チャンバー内での界面事象を認識するためのシグナル解釈要素を含むべきである。この要素は、一般的にPOCデバイス内の微小流体バイオチップと一体化しており、また実際のポータブルで実用的なデバイスにおいて小型化され得る。インピーダンス測定式バイオセンサーは、高感度であること、シグナル対ノイズ比が改善していること、及び一体化に好都合であることにより理想的な候補であり、シグナルのデジタル化及び情報伝達の円滑化を実現する。十分に立証された生体電気センサーで使用されるIDEは微小電極のカテゴリーに該当し、またリアルタイムな認識、低抵抗降下、及び定常状態の迅速確立といったその固有の長所に起因して、POCプラットフォームにおいて幅広く利用されてきた。IDEは、通常マイクロメーターサイズ範囲の一連の電極フィンガーから構成され、正弦波電流を適用することにより界面バイオ反応を検出する。
【0043】
この種のインピーダンスに基づくバイオセンサーを使用して全体的なイムノアッセイ性能を改善するために、2つの異なるアプローチが存在する。IDE上に金ナノ粒子を電気化学的にコーティングすることにより電極の全体的な表面積は有意に増加し、そうすることで標的分析物を検出するためのシグナル対ノイズ比は増進される。このアプローチは感度に関して適切な改善をもたらすものの、IDEに対する煩雑な表面調製、並びにバイオ官能化及び更なる組立てステップにより、より有望なPOCプラットフォームの実現には制約がある。別のアプローチは、マイクロ/ナノ粒子を使用して全体的な感度を改善することである。インピーダンス測定式バイオセンサーの全体的な感度は、標識として微粒子又はナノ粒子を使用し、界面変化を誘発することによりインピーダンスシグナルを増幅することによって改善し得る。電気化学的バイオセンサーにおける粒子を用いた標識化は幅広く使用されているものの、ファラデー測定(faradic measurement)で使用される電気化学的バッファーは一部のタンパク質を変性させるおそれのある弱い酸化剤として通常作用するので、PBSバッファー溶液の下でデータを記録する方がより良好であることに留意すべきである。更に、非ファラデー型(non-faradaic)(又は容量的)バイオセンサーにおける微粒子標識化は本質的により単純であり、またファラデー型(faradic)バイオセンサーで必要とされるような、酸化還元反応を完全に行わせることもなく、親和性結合期間中の界面容量の変化と関連する測定を行う能力を有するPOC試験にとってより適応性がある。
【0044】
いくつかの研究で、検出感度に対する粒子サイズ及び材料の効果が実証された。理論的分析から、標識粒子は、漏れ電磁場を効率的にブロックすることができ、IDEの幅及びギャップに関してインピーダンスの増加を引き起こす。この原理を用いて、癌胎児抗原を定量するためのサンドイッチイムノアッセイが金ナノ粒子(GNP)を使用して実施され、1ng/mLの検出限界を実現した。同様に、ガレクチン-1抗体をアルミナナノ粒子にコンジュゲートさせたインピーダンスに基づくリアルタイム免疫センサーが、ガレクチン-1タンパク質の定量における感度及び固定化効率を改善するのに使用された。このような粒子を用いた標識が感度を改善するために様々なアッセイにおいて利用されてきたが、これら粒子の効果に対する理解が欠けており、標識化によるシグナル増強の比較、及び適切なイムノアッセイ手順の導入が欠如していることに起因して、全体的な成果はごくわずかである。
【0045】
代表的な微粒子に基づくアッセイ法は、制御可能な流体力を誘発するために微小流体チャンネルを必要とする。0.1~10pNの流体力は非特異的結合を破断させることができ、そして6~250pNの流体力は特異的結合を維持することが判明している。したがって、微小流体チャンネル内で流速により惹起された流体力学的洗浄力をコントロールしながら利用することが、非特異的に結合した又は未結合の標的分析物又は微粒子をIDEアレイからノックダウンし、全体的なシグナル対ノイズ比を改善するために重要である。
【0046】
微粒子に基づくシグナル増強及び微小流体システムを使用するこのような概念を用いることで、単一プラットフォーム内にイムノアッセイに必要なすべてのコンポーネントを含む、小型化インピーダンス測定式バイオセンサーを開発することができる。1つの実施形態では、このデバイスプラットフォームは、多重化アッセイのための金IDEアレイチップ、セミリアルタイムデータ取得ソフトウェアと接続した小型の特別仕様8チャンネルインピーダンスアナライザー、並びに試料送出及び流体力学的洗浄を目的とする微小流体チャンネルネットワークを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、微小流体ネットワークは、レーザー切断、インジェクション成形、型抜き、粉砕、プレス切断、層ごとの作製、3D印刷、フォトリソグラフィ、又はその組合せのうちの1つ又は複数によって、微小流体チャンネル、キャピラリーバルブ、ブリッジングホール、リザーバー、反応エリア、インレット、及び出口を創出するように作製される。1つの実施形態では、微小流体ネットワークは、イムノアッセイ試薬、例えばバッファー溶液及び試料の自律的毛管作用流のための幾何学的寸法であり得る。
【0048】
キャピラリー駆動式の微小流体技術は、チャンネル内の液体を駆動するのに表面張力を利用し、そしてチャンネル形状を調整することによりコントロール可能である。この技術は、試薬を流すためにキャピラリー駆動式の微小流体技術という受動的な方法を採用する。この受動的流動操作法(passive flow handling method)はあらゆる外部周辺機器から独立しており、したがって小型化POCプラットフォームのための発展的能力を実証する。本来のキャピラリー駆動式微小流体プラットフォームは、異なるキャピラリー要素、例えばキャピラリーポンプ、キャピラリーストップバルブ(CSV)、及びトリガーバルブ等と通常組み合わされる自律的流体回路として記載される。
【0049】
いくつかの実施形態では、急な幾何学的変化を伴う表面特性に基づき、マイクロチャンネル内の液体を停止させるように設計されたCSVについて記載される。マイクロチャンネルの断面が急に拡大すると、キャピラリー効果により惹起される駆動力は減少し、そして液体の先端部が当該ポイントに達したときに液体を停止させる。このようなCSVは製作が容易であり、またキャピラリー駆動式微小流体技術における信頼性のある受動的要素である。しかしながら、作動期間、表面接触角、及び形状は、コーナー流、気泡混入、及び機能停止を防止するために慎重に調査されるべきである。停止バルブの信頼性を改善するために、疎水性PDMSで覆われた親水性シリコンマイクロチャンネルを備えた2レベル停止バルブが開発された。このような停止バルブのバースト圧力は、マイクロチャンネルの寸法及び液体接触角を考慮ながら、数値的及び実験的に研究された。停止バルブは、2つの直角方向のチャンネルの交点において、キャピラリートリガーバルブに容易に改変可能である。このコンフィギュレーションでは、チャンネルから移動してきた液体は、直交するチャンネルから移動してくる他の液体が当該ポイントに到達するまで交点において停止する。交点が直線方向のチャンネル内の液体によって濡れると、毛管力がチャンネル中への流れを駆動し、そして2つの流体は下流に位置する共通チャンネル内で混合する。停止バルブの機能性を強化し、及び作製上の制約を低下させるために、2層トリガーバルブがより高い信頼性及び頑健性を得るためにこれまでに導入され、そして流体を最長30分間停止する試験が行われた。自律的キャピラリー駆動式微小流体技術の設計におけるこれらのこれまでの進展は輝かしい成果であったものの、影響を受けるパラメーターをより良好にコントロールするために、更なる調査が必要とされる。また、POCのための信頼性のあるアプリケーションを伴う実際のイムノアッセイにおいて、これらの流体コントロール要素を試験するために、わずかな数の研究がこれまでに実施されたにすぎない。
【0050】
1つの実施形態では、携帯式インピーダンスアナライザーと一体化したキャピラリー駆動式微小流体技術プラットフォームが、微粒子標識イムノアッセイ用として記載される。流体を効果的に操作するために、2ステージ又は2層の微小流体技術を結びつける垂直方向のCSVが導入され得る。このCSVは、上部微小流体ステージ又はチャンバー内で調製された後に、流体があるポイントに到達すると、試薬が第1のステージ内に注入されるのを可能にする。2ステージ微小流体技術の概念は、小型化微小流体デバイスの設計を可能にするだけでなく、好都合な事前処置インキュベーションステップの追加ももたらす。流体パラメーターを特徴付けることにより、検出アッセイ(例えば、ヒトトロポニンI)のための全体的な時間は、この一体型プラットフォームを用いることで6分未満内に完了させることができる。
【0051】
本明細書に記載される1つの実施形態は、生体分子を検出及び定量するための微小流体デバイスであって、(a)微小流体チャンネル、バッファー入口、試料入口、及び廃棄物出口を含む多層微小流体ネットワークであり、バッファー入口、試料入口、及び廃棄物出口が、微小流体チャンネルを介して相互に流体連通しており、並びに微小流体ネットワークがバッファー溶液及び試料を受け入れるように構成されている、多層微小流体ネットワーク、並びに第1の抗体又は捕捉抗体が共有結合している表面を含む基材層であり、第1の抗体が標的分析物に特異的に結合するように適合されており、第1の抗体は第1の電極と第2の電極との間に取り付けられている、基材層を含み、基材層が微小流体チャンネルと流体連通しており、第1の抗体が微小流体チャンネル内に配置されている、微小流体チップと、(b)電気インピーダンスの変化を検出するためのディテクターとを含む、デバイスである。
【0052】
いくつかの実施形態では、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートグリコール、ポリブチレンアジペートテレフタレート、エチレンテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、パーフルオロアルコキシアルカン、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリオキシメチレン、セルロース、そのコポリマー、又はその組合せのうちの1つ又は複数を含む親水性ポリマー材料を含む微小流体ネットワークが記載される。1つの実施形態では、微小流体ネットワークは、PC、PMMA、COC、ポリイミド、PDMS、又はその組合せのうちの任意の1つから選択されるポリマー材料から構成される。別の実施形態では、微小流体ネットワークはPDMSからなる。
【0053】
ポリマー材料、例えばPDMS等は一般的に疎水性である。開示される発明のある特定の実施形態では、ポリマー材料の親水性を精密にコントロールし、そして微小流体ネットワークの全体的な流速を制御するために、層ごとの(LBL)堆積、酸素プラズマ処理後のポリビニルアルコール(PVA)の堆積、又はポリ(エチレングリコール)コーティング生成を含む表面改質技術が、ポリマー材料表面上で実施可能である。1つの実施形態では、改変は、PDMS又は基材表面へのBSAの堆積と関係し得る。別の実施形態では、改変は、PDMS又は基材表面の酸素プラズマ処理と関係し得る。プラズマ酸化処理は、シラノール(SiOH)基を表面に添加することによりPDMS又は基材表面化学を変化させるのに使用可能である。大気プラズマ及びアルゴンプラズマが、このプラズマ処理アプリケーションにとって有効である。プラズマ処理はPDMS表面をより親水性にせしめ、水溶液による表面の湿気の維持を可能にする。酸化された表面は、トリクロロシランを用いた反応により更に官能化され得る。或いは、長期親水性が求められるアプリケーションの場合、技術、例えば親水性ポリマーグラフティング、表面ナノ構造化、及び界面活性剤が包埋される動的表面改質等も使用可能である。
【0054】
1つの実施形態では、微小流体ネットワークは、微小流体チャンネル上部に配置されているチャンバー層、キャピラリーバルブ、及びブリッジングホールを備え得るが、その場合、チャンバー層及び微小流体チャンネルはキャピラリーバルブ及びブリッジングホールを介して相互に流体連通しており、そして試料入口がチャンバー層内に配置されている。1つの態様では、キャピラリーバルブは、直径約100μm~約300μmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える。別の態様では、キャピラリーバルブは、直径約250μmのサイズを有するオリフィスを備える。別の態様では、ブリッジングホールは、直径約0.5mm~約2.5mmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える。別の態様では、ブリッジングホールは、直径約1mmのサイズを有するオリフィスを備える。
【0055】
別の実施形態では、チャンバー層は第2の抗体又は検出抗体を含み、第2の抗体は標的分析物に特異的に結合するように適合されており、及び第2の抗体は微粒子にコンジュゲートしている。1つの態様では、第2の抗体はビオチン部分を含み、微粒子はストレプトアビジンコーティングを含み、及び第2の抗体はストレプトアビジンコーティングに対するビオチン部分の結合を通じて微粒子にコンジュゲートしている。別の態様では、微粒子は、磁気ビーズ、ポリスチレンビーズ、シリカビーズ、又はその組合せを含む。別の態様では、微粒子は、直径約1μm~約5μmの範囲のサイズを有する。別の態様では、微粒子は、直径約2.8μmのサイズを有する磁気ビーズを含む。別の態様では、チャンバー層は、試料入口に連結した多孔性ポリカーボネート(PC)膜を更に含み、第2の抗体にコンジュゲートした微粒子は、多孔性PC膜上に固定されている。
【0056】
本明細書に記載される別の実施形態は、開示されるデバイスの実施形態又は態様のうちのいずれか1つを使用して、試料中の標的分析物の存在を検出及び測定する方法であって、(a)バッファー溶液をバッファー入口内に装入するステップと、(b)バッファー溶液を基材層上に流すステップと、(c)試料を試料入口内に装入するステップと、(d)バッファー溶液を試料と混合するステップと、(e)バッファー溶液及び試料の混合物を基材層上に逐次的に流すステップであり、標的分析物が第1の抗体又は捕捉抗体と結合する、ステップと、(f)バッファー溶液を基材層上に連続的に流してあらゆる未結合の標的分析物を取り除くステップと、(g)電気インピーダンスの変化を検出して試料中の標的分析物の濃度を定量化するステップとを含む方法である。1つの態様では、流すステップは毛管作用により自律的である。別の態様では、試料は第2の抗体又は検出抗体にコンジュゲートした微粒子と共にインキュベートされた後、バッファー溶液と混合され、標的分析物は微粒子とコンジュゲートした第2の抗体と結合する。別の態様では、第2の抗体にコンジュゲートした微粒子は多孔性PC膜上に固定されており、試料を試料入口内に装入した後に、試料が多孔性PC膜に滴下すると、微粒子は膜から放出され、そして試料は、第2の抗体にコンジュゲートした放出後の微粒子と共にインキュベートされる。別の態様では、バッファー溶液がキャピラリーバルブに到達した後に、試料は試料入口内に装入される。別の態様では、試料がバッファー溶液と接触したとき、キャピラリーバルブは開放する。別の態様では、方法は約5分~約10分の範囲の総アッセイ時間を含む。
【0057】
1つの実施形態では、正弦波インプット電圧から、生体分子の存在下で電気インピーダンス変化を測定するのに使用されるポータブルインピーダンス測定式バイオセンサーデバイスが記載される。ポータブルインピーダンスに基づくバイオセンサープラットフォームは、標識として微粒子を使用して、イムノアッセイの感度及びLODを改善することができる。1つの実施形態では、10/10μm電極/ギャップ及び小型化インピーダンスアナライザーを有する2×4IDEアレイが記載される。微小流体チャンネルを一体化することによって、微粒子を用いたイムノアッセイが、シグナル増強を評価するために実施可能である。本明細書に記載されるように、3つの異なる種類の微粒子が、読み取り感度に対する材料特性及び表面電荷の効果を明確にするために、固定されたサイズにおいて試験された。センサーアレイ上の微粒子の材料依存性を理解するために、磁気微粒子、シリカ微粒子、及びポリスチレン微粒子が試験された。これらの微粒子のうち、磁気微粒子が、センサーアレイから生じたシグナルについて、関連する安定性を伴いつつ高度の増強を示した。磁気微粒子を用いながら、ヒトTNF-αの検出が一連のイムノアッセイについて実証されるが、またシグナル増強レベルはLODを測定することにより比較される。予備的な試験に基づき、磁気微粒子が、TNF-αイムノアッセイを目的とする標識化において最適な性能を示す。抗ヒトTNF-α抗体が、EDC/s-NHS媒介式のバイオコンジュゲーションを通じてIDE表面上に共有結合し得る。異なる濃度の標的分析物及び磁気微粒子とコンジュゲートした抗TNF-α抗体が、ディテクターとして導入される。IDE上に定着した微粒子の表面被覆率から免疫センサー応答(標準化後インピーダンス変動)を取得することにより、検出限界(LOD)は、このイムノアッセイにおいて、無標識化検出の場合の0.99ng/mLから、微粒子標識化検出の場合の83pg/mLまで10倍改善し得る。
【0058】
本明細書に記載される組成物、処方物、方法、プロセス、及びアプリケーションに対する好適な修正及び適合は、あらゆる実施形態又はその態様の範囲から逸脱せずに施すことができることは当業者にとって明白である。提示される組成物及び方法は例示的であり、そして特定された実施形態のいずれかの範囲を制限するようには意図されない。本明細書で開示される様々な実施形態、態様、及びオプションのいずれも、任意に変更又は反復して組み合わせることができる。本明細書に記載される組成物、処方物、方法、及びプロセスの範囲には、本明細書に記載される実施形態、態様、オプション、実施例、及び選好に関するすべての実在的又は潜在的な組合せが含まれる。本明細書に記載される例示的組成物及び処方物では、任意のコンポーネントが省略され、本明細書で開示される任意のコンポーネントが置き換わり、又は本明細書において別途開示される任意のコンポーネントが含まれる可能性がある。処方物内の任意のその他のコンポーネントの質量に対する、又は処方物内のその他のコンポーネントの総質量に対する、本明細書で開示される任意の組成物又は処方物の任意のコンポーネントの質量の比は、それらが明示的に開示されたかのように本明細書により開示される。参照により組み込まれる特許又は公開資料のいずれかに見出される任意の用語の意味が、本開示において使用される用語の意味と矛盾する場合、本開示の用語又は慣用句の意味がコントロールする。更に、上記議論は単に例示的な実施形態について開示及び記載するにすぎない。本明細書で引用されたすべての特許及び公開資料は、その特別な教示を目的として本明細書において参照により組み込まれている。
【0059】
本明細書に記載される本発明の様々な実施形態及び態様について下記の項目によりまとめる。
項目1.生体分子を検出及び定量するための微小流体デバイスであって、
(a)微小流体チャンネル、バッファー入口、試料入口、及び廃棄物出口を含む多層微小流体ネットワークであり、バッファー入口、試料入口、及び廃棄物出口が、微小流体チャンネルを介して相互に流体連通しており、並びに微小流体ネットワークがバッファー溶液及び試料を受け入れるように構成されている、多層微小流体ネットワーク、並びに
第1の抗体が共有結合している表面を含む基材層であり、第1の抗体が標的分析物に特異的に結合するように適合されており、第1の抗体が第1の電極と第2の電極との間に取り付けられている、基材層
を含み、基材層が微小流体チャンネルと流体連通しており、第1の抗体が微小流体チャンネル内に配置されている、
微小流体チップと、
(b)電気インピーダンスの変化を検出するためのディテクターと
を含む、デバイス。
【0060】
項目2.微小流体ネットワークが、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、又はその組合せのうちのいずれか1つから選択されるポリマー材料から構成される、項目1に記載のデバイス。
項目3.微小流体ネットワークがPDMSから構成される、項目2に記載のデバイス。
項目4.微小流体ネットワークが、バッファー溶液及び試料の自律的毛管作用流の幾何学的寸法である、項目1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
項目5.微小流体ネットワークが、微小流体チャンネル上部に配置されているチャンバー層、キャピラリーバルブ、及びブリッジングホールを備え、チャンバー層及び微小流体チャンネルは、キャピラリーバルブ及びブリッジングホールを介して相互に流体連通しており、並びに試料入口はチャンバー層内に配置されている、項目4に記載のデバイス。
項目6.チャンバー層が第2の抗体を含み、第2の抗体が標的分析物に特異的に結合するように適合されており、及び第2の抗体が微粒子にコンジュゲートしている、項目5に記載のデバイス。
項目7.第2の抗体がビオチン部分を含み、微粒子がストレプトアビジンコーティングを含み、及び第2の抗体が、ストレプトアビジンコーティングに対するビオチン部分の結合を通じて微粒子にコンジュゲートしている、項目6に記載のデバイス。
項目8.微粒子が、磁気ビーズ、ポリスチレンビーズ、シリカビーズ、又はその組合せを含む、項目6又は7に記載のデバイス。
項目9.微粒子が、直径約1μm~約5μmの範囲のサイズを有する、項目8に記載のデバイス。
項目10.微粒子が、直径約2.8μmのサイズを有する磁気ビーズを含む、項目9に記載のデバイス。
項目11.チャンバー層が、試料入口に連結した多孔性ポリカーボネート(PC)膜を更に含み、及び第2の抗体にコンジュゲートした微粒子が、多孔性PC膜上に固定されている、項目6~10のいずれか一項に記載のデバイス。
項目12.キャピラリーバルブが、直径約100μm~約300μmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える、項目5~11のいずれか一項に記載のデバイス。
項目13.キャピラリーバルブが、直径約250μmのサイズを有するオリフィスを備える、項目12に記載のデバイス。
項目14.ブリッジングホールが、直径約0.5mm~約2.5mmの範囲のサイズを有するオリフィスを備える、項目5~13のいずれか一項に記載のデバイス。
項目15.ブリッジングホールが、直径約1mmのサイズを有するオリフィスを備える、項目14に記載のデバイス。
項目16.バッファー溶液が、約0.001mM~約1mMの範囲の濃度でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む、項目1~15のいずれか一項に記載のデバイス。
項目17.バッファー溶液が、約0.01mMの濃度でPBSを含む、項目16に記載のデバイス。
項目18.バッファー溶液が、約1wt%でウシ血清アルブミン(BSA)を更に含む、項目16又は17に記載のデバイス。
項目19.微小流体ネットワークが1つ又は複数の吸収パッドを更に含む、項目1~18のいずれか一項に記載のデバイス。
項目20.試料入口が血清分離膜を更に含む、項目1~19のいずれか一項に記載のデバイス。
項目21.基材層がガラス基材又はプラスチック基材を含む、項目1~20のいずれか一項に記載のデバイス。
項目22.第1及び第2の電極が導電性金属でコーティングされている、項目1~21のいずれか一項に記載のデバイス。
項目23.導電性金属が、金(Au)、チタン(Ti)、又はその組合せから選択される、項目22に記載のデバイス。
項目24.第1及び第2の電極間の距離が約1μm~約10μmである、項目1~23のいずれか一項に記載のデバイス。
項目25.第1及び第2の電極間の距離が約10μmである、項目24に記載のデバイス。
項目26.第1及び第2の電極が、約1kHz~約100kHzの範囲の周波数で作動する、項目1~25のいずれか一項に記載のデバイス。
項目27.第1及び第2の電極が約10kHzの周波数で作動する、項目26に記載のデバイス。
項目28.第1及び第2の電極が複数の電極の一部であり、複数の電極は相互に組み合わされる、項目1~27のいずれか一項に記載のデバイス。
項目29.項目1~28いずれか一項に記載のデバイスを使用して、試料中の標的分析物の存在を検出及び測定する方法であって、
(a)バッファー溶液をバッファー入口内に装入するステップと、
(b)バッファー溶液を基材層上に流すステップと、
(c)試料を試料入口内に装入するステップと、
(d)バッファー溶液を試料と混合するステップと、
(e)バッファー溶液及び試料の混合物を基材層上に逐次的に流すステップであり、標的分析物が第1の抗体と結合する、ステップと、
(f)バッファー溶液を基材層上に連続的に流してあらゆる未結合の標的分析物を取り除くステップと、
(g)電気インピーダンスの変化を検出して試料中の標的分析物の濃度を定量化するステップと
を含む方法。
項目30.流すステップが毛管作用により自律的である、項目29に記載の方法。
項目31.試料が第2の抗体にコンジュゲートした微粒子と共にインキュベートされた後、バッファー溶液と混合され、標的分析物が微粒子コンジュゲート第2の抗体と結合する、項目29又は30に記載の方法。
項目32.第2の抗体にコンジュゲートした微粒子が多孔性PC膜上に固定されており、試料を試料入口内に装入した後に、試料が多孔性PC膜に滴下すると、微粒子が膜から放出され、そして試料は、第2の抗体にコンジュゲートした放出後の微粒子と共にインキュベートされる、項目31に記載の方法。
項目33.バッファー溶液がキャピラリーバルブに到達した後に、試料が試料入口内に装入される、項目29~32のいずれか一項に記載の方法。
項目34.試料がバッファー溶液と接触したとき、キャピラリーバルブが開放する、項目33に記載の方法。
項目35.試料が、対象に由来する血液試料又はその他の生物学的液状試料を含む、項目29~34のいずれか一項に記載の方法。
項目36.約5分~約10分の範囲の総アッセイ時間を要する、項目29~35のいずれか一項に記載の方法。
【実施例】
【0061】
【実施例1】
【0062】
インピーダンスセンシングプラットフォームの設計
インピーダンスに基づく免疫センサーは、電極表面上の薄層コンフィギュレーション内での免疫複合体(例えば、バイオ受容体として抗体、及びその対応する分析物として特異抗原)の形成を利用する。この複合体形成は、界面容量及び電極/電解質界面における抵抗を変化させる。電気インピーダンスシグナルは、電流相量に対する電圧相量の比として表される。電極界面に生体分子が存在することにより、センシング電極上の電場が破壊され及び/又は変化したとき、これら2相量間に差異が生ずる。ここで、金(Au)IDEアレイチップ、インピーダンス分析回路、LabVIEWソフトウェアと関連するデータ取得(DAQ)ボード、及び微小流体チャンネルから構成される、
図1に示すような、特別仕様の微小流体インピーダンス測定システムを設計した。
【0063】
従来方式のフォトリソグラフィプロセス及びTi/Au蒸着法に基づき、ほぼ指の幅及び電極間の間隔として10μmを有するAu IDEアレイチップをガラスウェファー上に作製し、サイズが約30×30mmの四角形ガラスチップ上に8セットのIDEを生成した。アナライザー回路内の電気インピーダンスは、12ビットインピーダンスコンバーターチップAD5933(Analog Devices Inc.)により測定される。装置の詳細な見取り図を
図2Aで例証する。例示的IDEチップ作製プロセスの概略を
図2Bに示す。ガラス基材を、フォトレジスト(PR)材料で最初にコーティングする。PRコーティングされたガラス基材を次にUV光に曝露してPRを完全現像する。Eビーム蒸着を次に実施して、導電性金属、例えばチタン又は金等でコーティングする(3/50nm)。PRの剥離を次に実施してIDEチップを生成する。
図2Cは、IDE、等価回路、及びIDEがどのように正弦波印加電圧及び測定された交流電流からインピーダンス変動を測定するか、それを表す式の例証を示す。正弦波励起シグナル(V
PP=200mV)を各IDE対に適用し、そして回路基板が得られた電流を読み取り、そして離散フーリエ変換(DFT)を計算する。DFTはシグナルの周波数依存エネルギーを測定するので、ある周波数におけるインピーダンスZの大きさ及び相は下記の式、
【0064】
【0065】
より取得可能である。但し、式中、v
i、i
o、V
i、I
o、φ
i、φ
o、R
fb、R
A、V
oは、それぞれ正弦波インプット電圧、アウトプット電流量、インプット電圧振幅、アウトプット電流量、インプットシグナルの相、アウトプットシグナルの相、フィードバック抵抗、内部増幅器利得、アウトプット電圧振幅である。AD5933は2つの16ビットレジスターにDFTの実数(R)及び虚数(I)を保持する。2つのデータレジスターは、I2Cプロトコールを使用するDAQボードによるアクセスを受け付け、そしてデータ処理後に特別仕様のLabVIEWソフトウェア内に保管される。利得係数及びシステム位相オフセットを、LCR-メーター(VSP/VMP3、Bio-Logic Science Instrument)を用いてインピーダンス既知の抵抗器を測定し、そして11kHz~91kHzの好ましい範囲内で周波数をスワイプすることにより最初に校正した(
図3)。
【実施例2】
【0066】
微粒子増幅式インピーダンスセンサーの等価回路
IDEバイオセンサーは微粒子増幅を用いた場合、非ファラデー型と考えられるので、その作動原理についてより深い理解を得るために、2電極システムからなる等価回路モデルについて調査を行うことができる。この等価回路の見取り図を
図4に示す。C
gは、電極の寸法(厚さ、ギャップ等)及び周辺溶液の誘電性により決定される電極の幾何学的静電容量である。C
dlは2つの電極の二重層容量を表し、導電性電極と隣接するバッファー溶液との間の界面に現れる。2電極間の溶液の抵抗は、
【0067】
【0068】
により与えられる。上記式中、n、l、wsp、及びLは、それぞれ、電極の数、フリンジの長さ、溶液伝導度、2電極間の間隔、及び隣接する2電極の中央と中央の間の距離である。K(m)は、第1種係数の完全楕円積分であり、
【0069】
【0070】
として定義される。バッファー伝導度(κ)は、携帯式伝導度メーター(Oakton CON 6+、Cole-Parmer、米国)により測定され、異なる濃度のPBSバッファーに対して
図5においてプロットされる通りである。
【0071】
この境界において、電圧を印加したときに、反対極性を有する2つのイオン層が電極表面及びバッファーにおいて形成される。2層のイオンは溶媒分子の単層によって分離され、電極の表面に付着し、そして従来型コンデンサーにおける誘電体として作用する。R
sは2電極間に存在するバッファー溶液の抵抗であり、バッファー溶液に基づき変化するが、界面親和性による影響を受けない。R
sはバッファーにより満たされる空間に依存し、したがって電極の長さ及び電極間のギャップのサイズに依存する。これらのコンポーネントそれぞれを検証するために、単純化されたランドルズ等価回路等価回路を、Simulink、MATLABを使用してシミュレーションした(
図6)。
図6に示すように、2つの二重層容量、C(DL1)及びC(DL2)は電極の対称性に起因して類似すると考えられ、30nFに固定される。R(誘電体)及びCg(誘電体)に対する数値は、それぞれ20kΩ及び0.6nFであると推定される。この溶液のインピーダンスの大きさも、特別仕様のインピーダンスアナライザーを用いて測定され、そして同じ傾向が観察される。インピーダンスアナライザーから得られる数値は、LCRメーターにより測定される絶対値の逆数であることに留意されたい。これらの測定から、特別仕様のインピーダンスアナライザーは、式(G(f)=1/(Z
LCR(f)×Z
アナライザー(f)))により校正され、そして望ましい範囲の周波数に対してプロットされる。
【0072】
捕捉抗体の固定化手順を考慮すると、酸素プラズマ処理はガラス表面上にヒドロキシル基を生成するので、抗体は電極間に固定化される可能性が非常に高い。したがって、微粒子増幅式IDEイムノアッセイを実施することにより、微粒子は主に電極間に所在する。この場合、微粒子は、電極間のインピーダンス(その抵抗性を導入することで)及びギャップに対する二重層容量に影響を及ぼす。
図4において「粒子効果」として強調された部分は、単一の微粒子により誘発された等価コンポーネントである。標的濃度が高い場合、複数の微粒子が電極間に所在し、そして対応する等価コンポーネントが連続的に繰り返され、インピーダンス測定に対して変化を引き起こす。
【実施例3】
【0073】
微小流体の組み込み
単純な微小流体を組み込むために、PDMSに基づく微小流体チャンネルをソフトリソグラフィにより作製した。チャンネルの高さ及び幅はそれぞれ110μm及び2.5mmであったが、IDEの全エリアをカバーするのに十分である。試料溶液を、ピペットを使用して微小流体チャンネルの入口内に適用し、そしてイムノアッセイ用のすべての溶液を駆動し、並びに流体力学的洗浄を実施して未結合又は非特異的微粒子を取り除くために、ミニ真空ポンプ(12/02EB、Thomas Pump)を出口内に配置した。
【実施例4】
【0074】
微粒子の特徴付け
インピーダンスシグナルに対する様々な素材微粒子の増幅効果を評価するために、ストレプトアビジンでコーティングした磁気微粒子(Dynabeads M-280、Thermofisher Scientific、米国)、ポリスチレン微粒子(08-19-303、Micromod、ドイツ)、及びシリカ微粒子(43-19-303、Micromod、ドイツ)を選択した。最初に、インピーダンスシグナルに対する材料の効果を見積もるために、直径2.8μmのサイズを有するこれら3つの異なる微粒子を、インピーダンス分光法を使用しながら、5%のIDE表面被覆率で調査した。微粒子による表面被覆率(%)をコントロールするために、微粒子懸濁物を稀釈し、そしてそれが表面に沈降した後(約30秒)、顕微鏡下で表面被覆率を測定した。次に、材料変動に起因する表面電荷の効果を排除するために、これらの微粒子を120℃で120分間沸騰させて、表面上のすべてのタンパク質を変性させた。この測定から、最適な微粒子を一連のイムノアッセイのために決定した。それに加えて、IDEセンシングプラットフォームの分解能を、磁気微粒子の表面被覆率に関してインピーダンスを測定することにより検証した。IDEアレイ上で様々な微粒子被覆率(0.01~10%)を調製した後に、インピーダンスの大きさの変化を測定して、このプラットフォームの全体的なLODを見積もった。
【実施例5】
【0075】
表面官能化及びオンチップヒトTNF-αイムノアッセイ
インピーダンスセンサーを使用するイムノアッセイを実証するために、TNF-α標的分析物を検出するための受容体として捕捉抗体(抗TNF-α、Abcam、英国)を用いてIDE表面を官能化した。この研究では、カルボジイミド誘発式の架橋を、Au電極間のガラス表面間隙に捕捉抗体を固定するのに利用した。
図7A~
図7Fは、表面の官能化及びイムノコンジュゲーションの全プロセスを表す。新たに調製されたピラニア溶液(H
2SO
4/H
2O
2 3:1V/V)を用いて30秒間処理し、それに後続して脱イオン化(DI)水を用いた入念な水洗及び窒素を用いた乾燥を行うことにより、IDEチップを最初に洗浄した。次に、センシングエリアにおいてのみ生化学反応が生じるように、IDEアレイ上に開口窓を有するパターン化PDMSフィルム(HT6240 Rogers Corp.、米国)を、洗浄済みのIDEチップ上に配置した。酸素プラズマで処理した後に、ヒドロキシル化されたセンサー表面を、3%(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)を用いて官能化し、アミン官能化表面を得た。カルボジイミドカップリング法を適合するために、捕捉抗体を、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びスルホN-ヒドロキシスクシンイミド(スルホ-NHS)(Thermo Scientific、米国)により活性化し、次にAPTES修飾表面にカップリングさせた。捕捉抗体を架橋試薬と共に40分間インキュベートした後に、DI水を用いてIDEチップをリンスした。次に、7つの異なる濃度(10倍稀釈により、10μg/mL~100pg/mL)のヒトTNF-α(ab9642、Abcam、米国)標的分析物を、パターン化領域上で30分間更にインキュベートした。次に、酸素プラズマ処理を介して、PDMS微小流体デバイスをガラススライドに連結した。1%w/vウシ血清アルブミン(BSA)を含む稀釈リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(1%PBSB)溶液を、マイクロチャンネルを通じて最初に注入し、そして表面を不動化するために30分間インキュベートした。次に、ビオチン化抗ヒトTNF-α抗体(R&D Systems、米国)が、ストレプトアビジンコーティング微粒子とコンジュゲートし、そして外部ミニポンプを使用して微粒子をマイクロチャンネル内に導入した。インピーダンスシグナルを、免疫複合体層を形成する1ステップごとに測定したが、各測定前には、未結合の分子及びイオン残留物を徹底的に除去するために、適切なバッファー溶液を用いながら洗浄を慎重に実施した。ベースライン値における変動の影響を除去するために、インピーダンス応答を、各IDE対に対する初期インピーダンス(Z
0)を用いて測定(ΔZ)期間中に標準化したが、これを標準化後インピーダンス変動(ΔZ/Z
0)と呼ぶ。
【実施例6】
【0076】
インピーダンスセンサー性能に対するバッファー濃度の影響
インピーダンスセンサーは特定のバッファー溶液に対してきわめて高感度であるので、最適な微粒子標識インピーダンスセンシングのためにふさわしいバッファーを選択すべきである。様々なPBS濃度について、最初にインピーダンス値をインピーダンスアナライザー(模擬的なランドルズモデル)により測定し、そしてLCRメーターを用いて検証した。
図8は、1mM~0.001mMのPBS濃度について、調べた周波数(11kHz~91kHz)におけるすべての測定値及びシミュレーション結果を示し、取得されたすべての数値について類似した傾向及び一貫性のある結果を実証する。11kHz、0.001mMのPBSにおけるシミュレーション結果を用いた詳細な比較研究を行い、LCRメーター及びポータブルインピーダンスアナライザーから、それぞれ11%及び13.5%の差異が観測された。インピーダンスシグナルは周波数が低いほど電極に対して高感度になるので、低バッファー濃度下でのこれらの差異はIDE電極の製造上の変動に由来する可能性がある。この仕事では、免疫反応に対して標準化後インピーダンス変動を主に使用し、したがって差異は測定に対して最低限度の影響しか有さない可能性がある。
図8に示すように、0.1mM以上の濃度を有するPBSバッファーは、5kΩ未満の範囲で類似したインピーダンスの大きさを示す(シグナルはバッファー溶液により支配される)。PBSを0.01mMまで更に稀釈することにより、インピーダンスの大きさは10kΩ超の範囲にまで増加する。免疫反応に由来するインピーダンス変動は、きわめて導電性の高い飽和バッファー溶液の下では区別できないので、0.01mMのPBS又はより低いPBS濃度がインピーダンスに基づくイムノアッセイに適する。しかしながら、PBS濃度が過剰に低い場合、緩衝能は低下する。バックグラウンドシグナル及び緩衝能を考慮して、すべての後続実験に対して、0.01mMのPBSを試料バッファー溶液として選択した。下記の表1に示すのは、下記の式、
【0077】
【0078】
を使用して計算したIDEに対する溶液抵抗である。
【0079】
【実施例7】
【0080】
インピーダンスセンサー性能に対する微粒子材料組成
微粒子の材料及び表面特性はインピーダンスシグナルに対して重大な影響を有するので、インピーダンス測定に対する様々な微粒子の効果を調査した。一般的に、微粒子は、等価回路から予測可能なように、誘電体層を形成することにより静電容量に対して、並びに電場フリンジを遮断することにより抵抗に対して影響を及ぼす(
図4)。
図9は、11kHz~91kHzの範囲の周波数において、様々な微粒子により誘発された標準化後インピーダンス変動を示し、抵抗値及び静電容量
【0081】
【0082】
の両数値を表す。インピーダンス値を、バッファー溶液から得られたベースラインシグナルに関してIDEごとに標準化した。微粒子の材料と表面の効果を分離するために、ストレプトアビジンコーティング微粒子及び変性微粒子を、このような特徴付け実験のために調製した。ストレプトアビジンを有するポリスチレン及びシリカ微粒子の場合、インピーダンス変動率(%)は、周波数に対応して、それぞれ1.10%から3.04%及び1.11%から2.02%に変化した。これらの微粒子を変性させた後、インピーダンス変動は、ポリスチレンの場合3.98~4.53%まで、及びシリカの場合4.08~4.85%まで増加する。しかしながら、磁性粒子の場合、インピーダンス変動は、変性微粒子の場合2.16~3.36%まで減少することが観測された。これらの結果は、微粒子上にストレプトアビジンが存在したときの界面相互作用及び微粒子表面電荷の促進により説明され得る。シリカ及びポリスチレン微粒子の場合、表面電荷が電場をブリッジングし、また変性状態と比較してインピーダンス変動の低下に寄与する。一方、電気的に透過性の超常磁性微粒子において表面電荷が存在しなければ、誘電率は増加し、また全体的なインピーダンス変動はわずかに低下する。また、電気的に不透過性の材料について、測定周波数を漸増させることにより、標準化後インピーダンス変動が減少することがやはり観測され、ストレプトアビジンコーティング条件及び変性条件のいずれについても、抵抗よりはむしろ静電容量効果がより支配的であることが明らかである。しかしながら、磁気微粒子の場合、インピーダンス変動は適用される周波数に対する依存度がより低く、非導電性粒子により惹起される二重層容量よりも磁気微粒子により形成される抵抗の方が支配的であることを実証する(
図4)。磁気微粒子の場合、分極効果も全体的なインピーダンスの大きさに寄与する。磁気微粒子がIDE間に位置するとき、外部電場が磁気微粒子を分極化させ、したがって微粒子近傍の均等に分布した電場を変化させ、より高い抵抗をもたらす。更に、相対的標準偏差(RSD%)を計算することにより、標準化後インピーダンス変動は、11kHz~91kHzの研究された周波数範囲において、ポリスチレン(21%)及びシリカ(19%)と比較して、磁気微粒子の場合、より良好な精度(11%)を有することが実証された。上記検討に基づき、磁気微粒子を、そのより高いアウトプットシグナル及びより良好な精度に起因して最終的な測定のために選択した。
【実施例8】
【0083】
インピーダンス変動の表面官能化の影響
表面官能化後の標準化後インピーダンス変動を
図10に示す。APTESは、ベア電極の最上部に位置する第1の層であり、また固定化された捕捉抗体は第2の層である。APTESの単一層の厚さは10nm未満であると仮定されるものの、第1の静電容量層としてのその被覆率は有意なインピーダンス増加を引き起こす。これは第1の層の重要性を示しており、その静電容量をできる限り最低限に抑え、イムノアッセイ期間中の感度を改善することが示唆される。捕捉抗体添加後、抗体層に起因して標準化後インピーダンス変動が増加した。このような厚み変動から、その他の周波数と比較して、11kHzが電気二重層容量による最も応答性の周波数に該当し、したがって11kHzの周波数を更なる測定用として選択した。
【実施例9】
【0084】
有効なイムノアッセイを行うための流体力学的洗浄
微粒子標識イムノアッセイがきわめて高感度であることを保証するために、基材の表面を、あらゆる非特異的及び未結合微粒子を取り除くのに十分な流体力で洗浄すべきである。微粒子とコンジュゲートした検出抗体を導入した後に、洗浄ステップを微小流体チャンネル内で実施した。小型のミニポンプを使用してマイクロチャンネル出口内に陰圧を適用することにより、バッファー体積流量を20μL/分で一定に保った。この体積流量は、1.3mm/sのチャンネル内平均速度に対応し、微粒子に対して40pNの全体的な力を生成する。全体的な力は免疫複合体内の接着強度よりも低い;しかしながら、非特異的結合を表面から除去するのに十分である。
【実施例10】
【0085】
オンチップヒトTNF-αイムノアッセイ
ヒトTNF-αイムノアッセイを、インピーダンスに基づくバイオセンサー上で実施した。TNF-αは重要な炎症促進特性を有し、自然免疫及び適応免疫、細胞増殖、並びにアポトーシスプロセスにおいて重要な役割を演じている。急性及び慢性炎症状態(例えば、外傷、敗血症、感染症、関節炎)においてTNF-αの濃度増加が見出されている。ヒトTNF-αは157個のアミノ酸を含有し、17.4kDaの分子量及び5.8の等電点(pI)を有する。
【0086】
イムノアッセイを実施するために、7つの異なる濃度(10μg/mL~100pg/mL)のヒトTNF-αを、無標識検出のために捕捉抗体修飾IDE上で最初にインキュベートした。インピーダンスシグナルを測定した後に、サンドイッチイムノアッセイを実施してシグナル増強を調査するために、抗TNF-α抗体コンジュゲート磁気微粒子を添加した。
図11Aは、異なる濃度のTNF-αと関連する微粒子の分布を示す。
図11Aに示す表面被覆画像から、微粒子被覆率は標的分析物生体分子の濃度に比例することが観測され得る。
図12に示すように、バックグラウンドシグナルにより調整された一連のインピーダンス変動を取得することにより、これらの相違の大きさは微粒子の数及び表面被覆率の増加に起因して増加することが判明した。11kHzにおけるLOD計算から、このセンサーは、磁気微粒子の表面被覆率が0.1%ほど変化しても、そのような小さな変化を検出することができる。更なる測定を、インピーダンスアナライザーを用いて実施した。
図11B~
図11Cは標準曲線を示し、無標識及び微粒子標識イムノアッセイにおける相対的インピーダンスシグナルと分析物濃度との間の関係を表す。統計分析から、無標識及び微粒子標識イムノアッセイについて、それぞれ0.9ng/mL及び83.46pg/mLのLODが達成された。微粒子はLODにおいて1桁の改善を可能にする。無標識アッセイ法の場合、TNF-α分子は捕捉抗体と結合し、そして薄いTNF-α分子層を形成することにより追加の静電容量層に寄与する。TNF-αのpIは5.8であるので、pHが7.4のPBSバッファー内では部分的に負電荷を有する。TNF-α抗原の濃度が増加するに従い、より多くの負電荷が電極間に蓄積し、より高い電場分散及びインピーダンス変動を引き起こす。磁気微粒子で標識すると、電場の遮断及び微粒子の材料特性に起因して、無標識アッセイ法と比較してより大きなインピーダンス変動が観測される。標的の濃度がより高い場合、磁気微粒子は相互により接近することとなり、ガラスの官能化されたエリア上の電極間に固定されるものと期待されるものの、電極上に所在する可能性がある。この場合、電場下に置かれたIDE間の分極した微粒子は、特に距離がDebye長さより小さいとき、追加磁場を生成する。これは、標的の濃度がより高い場合(>100ng/mL)、高インピーダンス変動シグナルを引き起こす。しかしながら、そうした場合、微粒子の相互距離変動並びにランダムな分極に起因して標準偏差も増加させる。更に、アッセイ法の精度を定量化するために、変動係数(CV)を調査した。この仕事では、無標識及び微粒子標識アッセイ法のいずれについても、目標とする生体分子濃度のダイナミックレンジにおいてふさわしいCVである20%未満のCVを実現した。
【0087】
以下に示す表2では、これまでの研究に基づく、様々な標的に対する非ファラデー型IDEに基づく免疫センサー及びインターフェースについて着目する。一般的に、無標識検出法は、シグナル増強技術を利用する検出法と比較して、それより低い感度を示す。いくつかの無標識免疫センサーの感度は、検出プロトコールを最適化すること及び指形状のIDEにより改善したものの、シグナル増強技術は、全体的なLODの改善にとってより有望且つコスト効果の優れた結果を示す。この研究において、微粒子標識法及び微小流体チャンネル経由のコントロールされた流体力学的洗浄力を用いることで、全体的なLODが1桁以上改善することを踏まえ、シグナル増強技術に最適化されたIDE間隔特性を補足することで、インピーダンスシグナルを更に増強することができる。
【0088】
【0089】
生体分子を検出するための様々なバイオセンサーを開発することにより、これらのプラットフォームの感度を増強することに多くの注目が集まった。これらの研究により、小型のインピーダンスアナライザー、データ取得ボード、及び開発に成功した微小流体チャンネルと一体化したIDEアレイから構成されるインピーダンス測定式バイオセンサーが実証される。このプラットフォームから得られるインピーダンスシグナルを、MATLAB Simulink及びLCRメーターにおけるシミュレーションにより最初に検証した。生体分子の単層を検出するためのプラットフォーム及び微粒子検出の分解能を調べ、そして実際のアッセイを実施してヒトTNF-αを定量した。異なる3種類の微粒子を試験した後に、最大且つ一定したインピーダンスシグナルを生成する微粒子で検出抗体を標識した。磁気微粒子を使用することで、LODは、無標識バイオアッセイ法と比較して1桁の改善が可能であった。シグナルを増強するために微粒子標識法を用いたこの新規、高感度インピーダンスバイオセンサーは、POCアプリケーションにとって有望なコントロールされた流体力学的洗浄力を得るために微小流体技術を利用する。
【0090】
様々なデジタル化されたバイオセンサーのなかでも、インピーダンス測定式バイオセンサーは、その一体化の容易さ、小型化、迅速応答、コスト効果の優れたアッセイ法、及びスマートフォンとの好都合なコミュニケーションに起因して、POCにとって将来性のあることが判明した。本明細書に記載されるプラットフォームは、分析物を自律的且つ逐次的に送出するためのキャピラリー駆動式微小流体技術と一体化され得る。この微小流体技術アプローチは、微粒子標識イムノアッセイで用いる場合、流速をある特定の範囲内にコントロールしてコントロールされた流体力学的洗浄力を有するように精密に設計されるべきである。機能性及びLODを改善するために、更なる特徴付け及び最適化が実施され得る。これまでに実証されたように、マイクロ又はナノサイズの粒子は、インピーダンスシグナルに対して大きな影響を及ぼさない。しかしながら、マイクロ/ナノ粒子サイズに対する電極ギャップの比を考慮することにより、最適なバイオセンシング性能を確実にすることができる。更に、微小流体チップ上に血清分離膜を組み込み、そしてスマートフォン又はラップトップと相互作用するコミュニケーションチップを含めることにより、このデバイスは、高感度及び多様な診断を行う能力を備えた理想的なスタンドアローン型POCプラットフォームとなるであろう。
【実施例11】
【0091】
キャピラリー駆動式微小流体技術
微粒子標識法を使用するシグナル増幅式サンドイッチイムノアッセイを実施するためのすべての必要なコンポーネントを備える、キャピラリー微小流体技術及びインピーダンスに基づく一体化バイオセンサーについて記載する。コントロールされたキャピラリー駆動式の力が流体操作に利用され、そして磁気微粒子がLODの改善を目的としてインピーダンスシグナルを増強するように適合される。バイオアッセイを実施するために、小容積の試料(μLの範囲)が、必要なすべての試料及び試薬をセンシングエリア内に逐次的に送出する微小流体チップに導入される。この一体型チップ(又はカートリッジ)は、シグナルを読み取るための携帯式インピーダンス測定式バイオセンサーに挿入される。実際のイムノアッセイでは、毛管作用微小流体技術を使用することで、ユーザー介入を最低限度に抑えつつ、試薬は、約6分以内にこの一体型プラットフォーム上に逐次的に送出される。デモンストレーションする場合、この一体型プラットフォームの全体的な機能性をチェックするために、ヒトトロポニンIを試験することができる。微小流体技術及びIDE一体化プラットフォームは、迅速分子診断のための試料イン・アンサ・アウト型イムノアッセイプラットフォームを可能にする。
【0092】
キャピラリー微小流体設計
図13に示すように、精密にコントロールされたサンドイッチイムノアッセイを実施するために、2ステージキャピラリー駆動式微小流体システムを開発した。両ステージをAutoCAD内で設計し、そして対応するマスクをCAD/Art Servicesから入手した。バッファー保管及び廃棄セクション内のチャンネルの幅として500μmを採用する一方、分岐からセンシングエリアまでのチャンネルの幅は200μmである。望ましいパターンを、シリコンウェファー上にマスターモールドとして現像した後、従来型のフォトリソグラフィプロセスが続いた。両ステージのチャンネルの高さは100μmに固定される。PDMSを硬化試薬と10:1w/wの比で混合し、そしてコンベクションオーブン内、オーバーナイトで硬化させた。硬化後、PDMSをマスターモールドから引き剥がし、そして生検パンチを用いてパンチした。第1ステージ上に、バッファー入口、ブリッジングホール、及び出口を、直径2.5mm、1mm、及び0.5mmでそれぞれパンチした。中間層をPDMSフィルム(HT6240、Rogers Corporation、米国)から裁断し、そして2つのPDMSステージ間でキャピラリー停止バルブ(CSV)として作動する250μm孔を中間層上に創出した。標的分析物をセンサー内に送出するように設計される最上層は、1.5mm及び0.5mmのサイズをそれぞれ有する、標的入口及び脱気(通気)のための2つの孔を有する。
【0093】
キャピラリー駆動式微小流体技術の作動原理
10mMのPBSを溶媒とする1%のウシ血清アルブミン(1%PBSB)であるバッファー溶液(青色色素)をバッファー入口に最初に添加する一方、出口ベントは被覆する(
図14を参照)。毛管現象が、バッファーを、センシングエリアを通過して出口に向かうように駆動する。チャンネルの端部は閉鎖しているので(出口ベントを被覆している場合)、総容積0.2μLが各分岐内のセンシングエリアに進み、そしてブリッジングホール後方5mmで停止する。バッファーがブリッジングホールに到達すると、2つのステージ中央部に位置するCSVにより妨害されるまで、孔内上昇を開始する。次に、デバイスは、標的分析物を含む試料(赤色色素)を上部微小流体ステージ上の試料入口孔内に導入することにより、いつでも稼働する状態にある。試料は、チャンネルの中央部に位置する検出抗体(dAb)コンジュゲート微粒子と最初に衝突し、そして免疫複合体を形成すると、センシングスポット上の捕捉抗体(cAb)により速やかに捕捉される。この試料溶液をブリッジングホールと接触させることにより、試料溶液は下部ステージからやってくるバッファーと混合し、そしてセンシングエリアに流入する。その時、出口ベントからカバーを取り除くことにより、すべての分析物はセンシングエリア上を通過して出口に向かって流れ始め、そしてIDEの最上部で免疫複合体を生成する。
【0094】
一体型IDEセンシングプラットフォームの設計及び組立て
キャピラリー駆動式微粒子標識サンドイッチイムノアッセイを実施するためのすべての必要コンポーネントを含む一体型携帯式デバイスを、インピーダンス測定式バイオセンサーと共に設計した。IDEチップ最上部の微小流体チップは、デバイスのボックス内に挿入可能なスライダー上に配置されている(
図15A~
図15B)。12ビットインピーダンスコンバーターチップAD5933(Analog Devices Inc.)によるアナライザー回路内の電気インピーダンスを、マイクロチップカートリッジ上の電極パッドとそのスプリングピンを用いて接触するように設計した。
図15Aに示すように、デバイスは、DAQボードより提供されるUSBポートを使用してラップトップと接続する。
図15Bに示す代替的設計では、すべての筐体及び回路は3Dプリンターを用いて作製した。
【0095】
キャピラリー微小流体チャンネルにおける流量コントロール
キャピラリー駆動式微小流体システムにおいて流速をコントロールすることは、ある特定の材料では、流速はチャンネルの幾可学的形状にもっぱら依存するので、チャンネルを設計する際に慎重に検討されるべきである重要なパラメーターである。その他の物体力(例えば、重力)を一切含まない層状定常流動に対するナビエ・ストークス方程式を単純化することにより、体積流量率は、
【0096】
【0097】
より推定可能であるが、但し式中、h、w、μ、及びL(t)は、それぞれチャンネルの高さ、幅、液体粘度、及びチャンネル内の時間依存性の液体長さである。この推定は、h=wの場合13%の誤差を有し、またh=w/2の場合0.2%まで低下する。ΔPに対してヤング・ラプラス方程式を代入することにより、キャピラリー駆動式システムに対する流速を計算することができる。
【0098】
CSVの場合、圧力障壁は、下記の式、
【0099】
【0100】
に従い、幾何学的パラメーター並びに液体接触角にも依存するが、但し式中、γ及びhはそれぞれ界面張力及びチャンネル高さである。
1分間酸素プラズマ処理から1時間後に、水接触角は約45°に達し、そしてこれはCSV内のバースト圧力を計算するためにθとして使用されたことが報告された。γ=20mN/m及びh=250μm(キャピラリーバルブのサイズ)と仮定すれば、各CSVのバースト圧力は55Pa(5.5mmH2Oに等しい)となる。h=110μmに対する流体チャンネルの容積容量は55mm3(=μL)であり、その内訳は入口から分岐点までの13mm3及び各分岐の10.5mm3からなる。バッファーがブリッジングホールに到達したとき、35μLがアッセイを完了するのに必要とされる総容積である。3mmのバッファー入口サイズを有することから、またPDMS層厚について2mmを考慮すれば、この35μLバッファー容積により生み出される水頭は、CSVのバースト圧力より小さい。これは、流体ネットワーク用に設計されたCSVの性能を保証する。
【0101】
全体的なアッセイ時間を推定するために、異なるセクションに対する充填時間を調査した。バッファーがプライミングセクションを完全に満たし、そしてセンシングエリアに到達するのに約3分を要する。
図16にプロットするように、ブリッジングホール内でバッファーがCSVまで挙上する時間に対するブリッジングホール直径の効果を調査した。ブリッジングホール直径が1mm未満であれば、挙上時間を有意に変化させないことが判明し、したがって1mmブリッジングホール直径を選択した。この1mmホールサイズの場合、キャピラリー駆動式のバッファー充填に2分を要する。標的分析物を導入し(約1分)、分析物が拡散するまで待機し(約1分)、そして出口からカバーテープを取り除いた後、廃棄容器を満たし、アッセイを終了するのに約1分を要する。すべての時間を考慮すれば、この設計を使用して全アッセイを完了するのに合計約6分を要する。
【0102】
ヒトトロポニンI分析物を用いたバイオアッセイのデモンストレーション
図17に示すように、異なる色素を用いて詳細な流体シーケンスを実証した。
図17のキャプチャーフレームによれば、アッセイはまずバッファー入口からのバッファー装入ステップから開始する。バッファー(青色色素)は、ヤング・ラプラス圧力が定常状態に達するまで、キャピラリーチャンネルを流通する。次に、試料液(赤色色素)及び検出抗体コンジュゲー微粒子(黄色色素)を、逐次的に反応を行わせるために各ウェル内に装入した。出口上のカバーテープを取り除いた後に、圧力が蓄積し、そしてすべての液体に力が加わり、キャピラリーチャンネルを通じて移動し、そして抗原抗体反応が流動期間中に生ずる。
【0103】
このようなデモンストレーションを行った後に、この一体型IDEプラットフォームを更に実証するためにトロポニンIアッセイ法を実施した。
図18A~
図18Bは、すべての流体シーケンスを確認する予備的なアッセイ結果を示す。3つの異なる濃度のトロポニンIを試験することにより、ヒトトロポニンIの濃度が増加するに従い、IDEシグナルが直線的に増加することが観測された。このようなアッセイ法のデモンストレーションにより、インピーダンスアナライザー及び一体型IDEチップの機能について、IDE及びキャピラリー駆動式微小流体チップを含め、妥当性確認した。
【0104】
このキャピラリー駆動式微小流体デバイスを設計し、そして微粒子標識イムノアッセイを実施するのに必要な試薬の自律的且つ逐次的送出について試験した。更に小型化し、そして試料調製を追加するために、微小流体システムを2ステージで設計した。最初に、垂直方向のCSVを設計し、そして2ステージの微小流体技術を結びつけるように特徴付けた。チャンネル内の流動を特徴付けることにより、このディスポーザブルバイオチップを使用する全アッセイは約6分を要する。このチップは、インピーダンスに基づく生体分子測定を行うためのすべての必要コンポーネントを含む携帯式コンパクトケースに挿入されるように設計される。
【0105】
キャピラリー微小流体技術を使用するワンステップイムノアッセイを実施する際の必須ステップは、全血試料からヒト血清を単離することである。微小流体に基づくPOCアプリケーションにおいて、この単離は血清分離膜の手段により一般的に達成される。本明細書に記載される2層微小流体チップは、血清分離膜を、試料入口を通じてディスポーザブルカートリッジ内に容易に導入できるようにする。
【0106】
このプラットフォームを長期使用し、及び表面の湿潤特性を維持するために、微小流体チップ内の流速は、2つの主要な改変によってコントロール可能である。第1に、異なるポリマー材料、例えばポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、環状オレフィンコポリマー(COC)、及びポリイミド等が、PDMSの本質的欠点を克服するのに利用可能である。第2に、PDMSの親水性を精密にコントロールし、そして微小流体ネットワークの全体的な流速を制御するために、一層ごとの堆積、プラズマ処理後のポリビニルアルコールの堆積、又はポリ(エチレングリコール)コーティング生成を含む表面改変技術が、PDMS表面に対して実施可能である。更に、微小流体ネットワークの廃棄領域内又は上部微小流体ステージ内に1つ又は複数の吸収パッドを追加することにより、バッファー及び試料溶液の流速は容易に制御可能であり、したがってより広範囲の速度が取得可能である。
【実施例12】
【0107】
DNAマイクロアレイアプリケーション
開示されるデバイス及びセンサーアレイは、捕捉抗体ではなく、固定化された「捕捉」一本鎖DNA(ssDNA)分子を用いてセンサー表面を官能化することにより、DNAハイブリダイゼーションチップ(すなわち、DNAマイクロアレイ)にも使用可能である。この概念を導入するために、同一の表面化学及び官能化プロセスが、様々なssDNA分子を固定化するのに使用可能である。したがって、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)から増幅された標的分析物DNAを、センサーアレイ上で分析することができる。蛍光シグナルを一般的に利用するマイクロアレイリーダーの代わりに、差次的インピーダンスシグナルが、任意の追加機器を必要とすることなく、DNA又はRNA試料に由来する多数の遺伝子の濃度レベルを決定するために測定可能である。したがって、開示されるデバイス及び方法は、例えばイムノアッセイやDNAマイクロアレイを含む、広範囲のバイオアッセイアプリケーションにおいて使用可能である。
【国際調査報告】