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▶ セコ ツールズ アクティエボラーグの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240319BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20240319BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240319BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20240319BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240319BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B23B27/14 B
B23B27/14 A
C22C29/08
B22F1/00 M
B22F1/00 R
C22C1/051 H
C23C14/06 A
B23P15/28 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557364
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 EP2022056515
(87)【国際公開番号】W WO2022194767
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】21163142.9
(32)【優先日】2021-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591106875
【氏名又は名称】セコ ツールズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フェーンベリ, イェスパー
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF03
3C046FF10
3C046FF19
3C046FF22
3C046FF32
3C046FF39
3C046FF43
3C046FF44
3C046FF45
3C046FF46
3C046FF50
3C046FF52
4K018AB02
4K018BA04
4K018BA20
4K018BC11
4K018BC13
4K018CA11
4K018CA29
4K018CA31
4K018DA32
4K018EA12
4K018EA31
4K018FA24
4K018KA15
4K018KA42
4K029AA04
4K029AA24
4K029BA58
4K029BC02
4K029BD05
4K029EA01
(57)【要約】
本発明は、焼入鋼および鋳鉄における要求の厳しい切削作業のための最適な硬度および高い靱性を有する切削工具インサートに関する。切削工具は超硬合金の基材(2)を含み、超硬合金は、炭化タングステン(WC)および(Co)バインダー相(4)の硬質構成成分、クロム(Cr)、ならびにバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、および鉄(Fe)の群からの少なくとも1つのさらなる元素を含む。超硬合金は、超硬合金の3.50~4.20wt%のCo-含有量、超硬合金の0.31~0.38wt%のCr-含有量、超硬合金の少なくとも95.22wt%のWC-含有量をさらに有し、超硬合金は26~32kA/mの保磁力を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金の基材(2)を含む切削工具インサート(1)であって、超硬合金がコバルト(Co)を含む金属系バインダー相(4)中の炭化タングステン(WC)の硬質構成成分を含み、超硬合金が、クロム(Cr)、ならびにバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、および鉄(Fe)からなる群からの少なくとも1つのさらなる元素をさらに含む、切削工具インサート(1)であって、
- Co-含有量が超硬合金の3.50~4.20wt%であり、
- Cr-含有量が超硬合金の0.31~0.38wt%であり、
- WC-含有量が超硬合金の少なくとも95.22wt%であり、
- 超硬合金が26~32kA/mの保磁力を有する
ことを特徴とする、切削工具インサート(1)。
【請求項2】
超硬合金が、0.008~0.09wt%のV、好ましくは0.01~0.06wt%のVを含む、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
V+Nbが超硬合金の最大0.12wt%である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
V+Nb+Mo+Fe含有量が超硬合金の最大0.2wt%である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項5】
超硬合金が、1960-2020 HV30、好ましくは1960-2010 HV30の硬度を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
破壊靱性が8.6~9.7MPam-1/2、好ましくは9~9.6MPam-1/2である、請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
保磁力が27~31kA/mである、請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
バインダー相のCr-含有量が8~10wt%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
コーティングが基材上に堆積される、請求項1から8のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項10】
コーティングがPVDまたはCVDコーティングである、請求項9に記載の切削工具。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の超硬合金切削工具インサートを製造する方法であって、
(a)0.76~0.90μmの間隔で、好ましくは0.78~0.88μmの間隔で、最も好ましくは0.79~0.85μmの間隔でのFSSS平均粒子サイズを有するWC粒子、
3.50~4.20wt%のCo、
0.31~0.38wt%のCr、ならびに
以下の元素:V、Nb、Mo、およびFeのうちの少なくとも1つを含む原料粉末
を含む粉末組成物を準備することと、
(b)粉末組成物、ポリマー成形剤、およびミリング液を湿式ミリングしてスラリーを形成させることと、
(c)スラリーを噴霧乾燥して造粒物を形成させることと、
(d)造粒物を成形して所望の形状および寸法の未焼結体とすることと、
(e)未焼結体を焼結して未焼結体よりも小さい体積を有する焼結体とすることと
を含む、方法。
【請求項12】
未焼結体の成形が、加圧成形、射出成形、および押出成形のいずれかにより行われる。
【請求項13】
- 1.5μmを超える厚さを有する耐摩耗性コーティングにより焼結体をコーティングする工程
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
- PVDまたはCVDにより焼結体をコーティングする工程
をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼入鋼または超合金の機械加工に特に有用な切削工具に関する。本開示はまた、同切削工具を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
焼入鋼は広い範囲の鋼および特性をカバーし、使用の目的に応じて多くの様々な状態で存在する。焼入れまま、焼入れおよび焼き戻し済み、表面硬化済み(肌焼、窒化など)は、最大で68 HRCまでの硬度範囲をカバーする一般的な状態である。硬化の目的は強度および耐摩耗性を向上させることである。
【0003】
硬化に適した鋼は、多くの場合にCr、Ni、Mn、およびMoの合金添加元素を有する、中炭素鋼から高炭素鋼である。目的に応じて、他の合金元素が添加される。これらの合金元素の多くは、鋼において硬い研磨粒子を作り出す炭化物形成物質であり、これは高い硬度に加えて、機械加工の際にさらに切削加工性を低下させ切削エッジの摩耗を増加させる。
【0004】
超硬合金切削工具が焼入鋼の機械加工で使用される場合、工具は、切削エッジのアブレシブ摩耗および化学的摩耗、チッピング、ならびに破砕などの様々なメカニズムにより摩耗する。様々な蒸着技術により形成される耐摩耗性の炭化物、窒化物、炭窒化物および/または酸化物化合物の薄い表面層を通常は有する被覆切削工具において、コーティングは耐研磨摩耗性を高めるのに寄与するが、切削面から下層の超硬合金基材への熱の拡散の遮熱材としても作用する。高い切削力と合わされたエッジ領域内の高温は、影響を受けた基材の表面領域内のクリープ変形の増加をもたらし、切削エッジが塑性変形する。焼入鋼の機械加工用の切削工具は、良好な耐変形性、耐摩耗性、および靱性を有していなければならない。
【0005】
これらの要求を満たすために、進化した特性を有する新しい超硬合金が、焼入鋼および鋳鉄における要求の厳しい切削作業のための最適な硬度および高い靱性を有する超硬合金体を有する切削工具を提供する必要性がある。
【0006】
本発明の1つの目的は、高い硬度、高い靱性、およびそれにより改善された切削性能を有する切削工具を実現することである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
本明細書において使用される専門用語は、単に本開示の特定の態様を説明する目的のためのものであり、本発明を限定することを意図していない。本明細書で使用する、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上別途明確に示されない限り、複数形も含むことを意図する。
【0008】
別途定義されない限り、本明細書において使用されるあらゆる用語(技術用語および科学用語を含む)は、この開示が属する分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。
【0009】
本明細書で使用する「切削工具」という用語は、チップ除去による切削、例えば旋削加工、フライス加工、またはドリル加工などに適した切削工具を表すことを意図する。切削工具の例は、インデックス可能な切削インサート、むくドリル、またはエンドミルである。
【0010】
本明細書で使用する「基材」という用語は、コーティングを堆積させることができる本体として理解するべきである。
【0011】
本明細書で使用する「加圧成形」という用語は、未焼結体が形成されるように、炭化タングステン(WC)などの材料粉末をコバルト(Co)と共にパンチとダイの間で加圧成形することに関する。加圧成形は単軸または多軸であってもよい。
【0012】
層の厚さを論じるのに「厚さ」という用語を使用する場合、意味するのは論じられる層の平均厚さであることに注意するべきである。
【0013】
基材の粒子サイズを論じるのに「粒子サイズ」という用語を使用する場合、意味するのは論じられる基材の平均粒子サイズであることに注意するべきである。
【0014】
発明
本発明は超硬合金の基材を含む切削工具に関する。超硬合金はコバルト(Co)を含む金属系バインダー相(4)中の炭化タングステン(WC)の硬質構成成分を含み、超硬合金は、クロム(Cr)、ならびにバナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、および鉄(Fe)からなる群からの少なくとも1つのさらなる元素をさらに含み、
- Co-含有量は超硬合金の3.50~4.20wt%であり、
- Cr-含有量は超硬合金の0.31~0.38wt%であり、
- WC-含有量は超硬合金の少なくとも95.22wt%であり、
- 超硬合金は26~32kA/mの保磁力を有する。
【0015】
Coバインダー相の量は超硬合金の3.50~4.20wt%の間である。Co含有量が3.50wt%未満である場合、多孔性の高いリスクがあり、基材の硬度が高すぎることになり基材がもろくなるが、一方Co含有量が4.20wt%を超える場合、基材の硬度が低すぎることになる。
【0016】
Crの量は超硬合金の0.31~0.38wt%の間である。Cr含有量が0.31wt%未満である場合、粒子成長に対する阻害効果が低すぎることになるが、一方Cr含有量が0.38wt%を超える場合、微細構造中の望ましくないCr-炭化物の沈殿のリスクがある。
【0017】
固溶体硬化を実現させWCの粒子成長を制御し、それにより保磁力、硬度、靱性などのような必要な特性を実現するために、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、および鉄(Fe)からなる群から選択されるさらなる元素の添加が行われる。
【0018】
本発明の一実施形態において、超硬合金は0.008~0.09wt%のV、好ましくは0.01~0.09wt%のV、より好ましくは0.01~0.06wt%のVを含む。
【0019】
本発明の一実施形態において、V+Nbは超硬合金の最大0.12wt%である。
【0020】
本発明の一実施形態において、V+Nb+Mo+Fe含有量は超硬合金の最大0.2wt%である。
【0021】
本発明の一実施形態において、超硬合金は、1960-2020 HV30、好ましくは1960-2010 HV30の硬度を有する。
【0022】
本発明の一実施形態において、切削工具は8.6~9.7MPam-1/2、好ましくは9~9.6MPam-1/2の破壊靱性を有する。
【0023】
本発明の一実施形態において、切削工具は27~31kA/mの保磁力を有する。
【0024】
本発明の一実施形態において、切削工具は8~10wt%の、バインダー相のCr-含有量を有する。
【0025】
本発明の一実施形態において、切削工具はコーティングを有し、好ましくはPVDまたはCVDコーティングを有する。最も好ましくは、コーティングは1.5~5μmの厚さを有する均質なまたはナノレイヤーのPVDコーティングである。
【0026】
本発明の一実施形態において、コーティングは、0.2~1μmのTiAlN内層、交互TiAlN/TiSiN層の1~4μm厚さのナノラミネート、および任意選択によりTiAlNまたはTiSiNのいずれかの0.2~1μmの外層を含む。ナノラミネートの層は約10~40nm厚さである。好ましくは、コーティングのTiAlN-層の組成は(TiAl1-x)N、0.5<x<0.7であり、TiSiN-層の組成は(TiSi1-y)N、0.05<y<0.25である。
【0027】
本発明は、上記のような切削工具を作成する方法にも関する。この方法は、
a.0.76~0.90μmの間隔で、好ましくは0.78~0.88μmの間隔で、最も好ましくは0.79~0.85μmの間隔でのFSSS平均粒子サイズを有するWC粒子、
3.50~4.20wt%のCo、
0.31~0.38wt%のCr、ならびに
以下の元素:V、Nb、Mo、およびFeのうちの少なくとも1つを含む原料粉末
を含む粉末組成物を準備することと、
b.粉末組成物、ポリマー成形剤、およびミリング液を湿式ミリングしてスラリーを形成させることと、
c.スラリーを噴霧乾燥して造粒物を形成させることと、
d.造粒物を成形して所望の形状および寸法の未焼結体とすることと、
e.未焼結体を焼結して未焼結体よりも小さい体積を有する焼結体とすることと
を含む。
【0028】
以下の元素V、Nb、Mo、およびFeのうちの少なくとも1つを含む原料粉末とは、本明細書において、それらの元素の炭化物、窒化物、炭窒化物、または金属形態を意味する。Crは通常は炭化物粉末Crとして添加される。しかし、Crは窒化物粉末としても添加することができる。
【0029】
粉末組成物を、ポリマー成形剤、通常はPEG(ポリエチレングリコール)またはワックス、およびミリング液と混合してスラリーを形成させる。ミリング液は、超硬合金を作る分野において一般的な任意の液体であってもよく、好ましくは水およびアルコールの混合物が使用される。スラリーはミルにおいて、例えばボールミルまたはアトライターミルにおいて湿式ミリングされる。ミルのタイプおよびミリング工程の継続時間は当業者によって決定される。
【0030】
スラリーに噴霧乾燥工程を施して顆粒を形成させる。次いで顆粒を、以下の技術:加圧成形、射出成形、および押出成形のいずれかにより成形して未焼結体とする。好ましくは、加圧成形が使用される。
【0031】
次いで未焼結体を焼結して超硬合金工具とする。例えば真空焼結、HIPなどのような、超硬合金の焼結の分野において一般的な任意の焼結技術を使用することができる。焼結温度は典型的には1300~1580℃の間、好ましくは1360~1450℃の間である。
【0032】
本発明の一実施形態において、1.5μmを超える厚さを有する耐摩耗性コーティングが基材上に堆積され、好ましくはコーティングはPVDまたはCVD技術を使用して堆積される。最も好ましくは、切削工具には厚さ1.5~5μmの厚さを有する均質なまたはナノレイヤーのPVDコーティングが設けられる。
【0033】
本発明の一実施形態において、基材上に堆積されたコーティングは、0.2~1μmのTiAlN内層、交互TiAlN/TiSiN層の1~4μm厚さのナノラミネート、および任意選択によりTiAlNまたはTiSiNのいずれかの0.2~1μmの外層を含む、PVDコーティングである。ナノラミネートの層は約10~40nm厚さである。好ましくは、コーティングのTiAlN-層の組成は(TiAl1-x)N、0.5<x<0.7であり、TiSiN-層の組成は(TiSi1-y)N、0.05<y<0.25である。
【0034】
方法
炭化タングステン粉末の粒子サイズ決定
原料中の炭化タングステン粉末の粒子サイズは、ASTM B330-20に準拠してフィッシャーサブシーブサイザー(FSSS:Fisher sub sieve sizer)により測定した。
【0035】
ビッカース硬度
硬度はビッカース硬度および30kgの荷重、HV30により決定される。使用した装置は、CCDカメラおよび測定用コンピューターを有するFuture-Tech FV300硬度計であった。5回の押し込みを行い、以下の式:
P=重量キログラムで表される荷重(kgf)
d=mmで表される押し込みの対角線の平均長さ
にしたがって硬度を自動計算する測定用コンピューターにより測定する。
【0036】
押し込み間の距離は押し込みの対角線の長さの少なくとも3倍である。
【0037】
この方法の精度は±2%である。
【0038】
保磁力
保磁力(Hc)は、飽和まで磁化された試料を完全に消磁するのに必要な逆転磁場の測定により、保磁力計で決定される。試料の保磁力は、試料中のコバルト(Co)の体積比および試料中の炭化物の粒子サイズと関連している。
【0039】
S-値
磁気飽和の度合いはS-値として表すことができる。
式中、σは、μTmkg-1で表されるバインダー相の測定される磁気モーメント(Ma)であり、16.1μTmkg-1は純粋なコバルトの磁気モーメントである。S-値はバインダー相中のWの含有量に依存し、タングステン含有量の減少と共に増加する。
【0040】
収縮
収縮は、パーセントで表される焼結プロセス中の加圧成形体の収縮に相当し、水平面内で測定される。本体を加圧成形することにより製造される未焼結体に関しては、通常は直線的に約17%収縮する。
【0041】
破壊靱性
破壊靱性は、ISO28079:2009に準拠して、Palmqvist靱性試験とも呼ばれるPalmqvist法を使用して決定される。この方法では、超硬合金の破壊靱性が臨界応力拡大係数、K1cにより表される。30kgfの荷重を使用してビッカースの押し込みを行い、押し込みの角からのクラックの長さを測定して破壊靱性を決定する。Palmqvist破壊靱性、K1cは、
により与えられ、式中、
HV(N/mmまたはMPa)はビッカース硬度であり、
P(N)は押し込み荷重であり、
T(mm)はクラックの全長である。
【0042】
本発明の様々な態様の説明により、また添付の図面を参照して、本発明をここでさらに入念に説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】切削速度160m/sにおける、本開示による切削工具インサートおよび比較用切削工具インサートの工具寿命を比較する図である。
図2】切削工具インサートの製造の例となる方法のブロック図である。工程A~Eは請求項12の工程a~eに対応する。
図3a-c】それぞれ5分、10分、および15分後の、機械加工試験中の本開示による切削工具インサートの摩耗の写真である。
図4a-b】それぞれ5分および10分後の、機械加工試験中の比較用切削工具インサートの摩耗の写真である。
【実施例
【0044】
本開示の例証となる実施形態を、下記においておよび図面を参照してより完全に説明することにする。しかし、本明細書で開示されるデバイスおよび方法は、多くの様々な形態で実現されてもよく、本明細書に示される態様に限定されるものとして解釈されるべきではない。切削工具インサートを製造し分析した。インサートのいくつかを切削試験において評価した。
【0045】
切削インサートの製造
基材
SNUN12048式の超硬合金基材を試料A-Jについて製造した。試料Cおよび試料JもCNMG式で製造した。表1に示される組成にしたがって、すべてが炭化タングステン(WC)、コバルト(Co)粉末、および炭化クロム(Cr)粉末を含有する原料粉末から、基材を生産した。いくつかの試料は、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、および鉄(Fe)からなる群からの少なくとも1つのさらなる粉末元素も含有していた。各試料の組成比を表1に示す。試料中で使用される炭素濃度は、4wt%のCo、0.36wt%のCr、および残り部分がWCの系の状態図、ならびにおよそ0.09wt%のCが焼結中に失われるという知見から見積もられた。
【0046】
試料A~Hで使用されるWCのタイプは、FSSSにより測定した場合に0.85μmの平均粒子サイズを有していた。比較用試料Jについては、WCのタイプはFSSSにより測定した場合に0.6μmの平均粒子サイズを有していた。
【0047】
各試料の粉末を、ミリング液、およびポリエチレングリコール(PEG)である有機バインダーと共に、ボールミルにおいてミリングした。ミリング液は水およびエタノールからなっていた。形成されるスラリーを噴霧乾燥機で乾燥させ、その後約172MPaでの加圧成形操作において加圧成形してインサートとした。試料CおよびJ以外の試料/バリアントについてのすべての粉末バッチを1kgバッチでミリングし、研究室用スプレーで噴霧乾燥させた。フルスケール生産で試料CおよびJをミリングし噴霧乾燥させた。真空中で30分、続いて30BarのAr圧力において約1390℃の温度で30分、加圧成形済み試料を焼結した。
【0048】
保磁力(Hc)、磁気モーメントの度合い(S)、硬度(HV30)、強度靱性(K1C)、(ds)、および加圧成形粉末から焼結粉末までの収縮を、焼結済み試料について測定した。結果を表2に示す。
【0049】
表2のすべての焼結済み試料はISO4499-4:2016(E)に準拠してA00の多孔性を有し、すなわち×100の倍率で細孔が検出されなかった。
【0050】
試料CおよびJのコーティング
試料Cおよび試料Jの基材に2.6μm厚さのPVDコーティングを堆積し、以降は試料をコーティング済み試料Cおよびコーティング済み試料Jと名付ける。PVDコーティングは、基材に近接した0.3μm TiAlNの内層、続いて2.3μm厚さのTiAlN/TiSiNのナノラミネート、およびTiSiNの薄い外層を有する。ナノラミネートの層は約20~40nmである。コーティングのTiAlN-層の組成は(Ti0.33Al0.67)Nであり、TiSiN-層の組成は(Ti0.90Si0.10)Nである。
【0051】
切削試験
強化鋼の被加工物材料に対する同じ切削条件でコーティング済み試料CおよびJの性能を比較することにより、長手方向の旋削を行った。被加工物材料の化学組成および機械的特性をそれぞれ表1および表2に示す。
使用した切削データ:
切削速度、v:160m/分
切削送り、f:0.20mm/回転
切り込み深さ、およそ:1mm
冷却液を使用した。
【0052】
被加工物材料:強化され48 HRCの硬度を有する、Uddeholm社のOrvar Supreme。
【0053】
使用された切削工具はCNMG120408インサートの形状を有していた。
【0054】
5分、10分、および15分の切削時間後のインサートの逃げ面摩耗(W)を観察することにより、切削工具インサートの工具寿命を決定した。表3および図1も参照のこと。逃げ面摩耗が0.2mmの最大値を過ぎたらまたは工具破損したら試験を終了した。
【0055】
各工具の3つのエッジを試験し、結果は下記の表3で見ることができる。
【0056】
図1から、本開示の切削工具による3つの切削エッジにおける、160m/分の切削速度での平均工具寿命は、比較用切削工具の3つの切削エッジの平均工具寿命の少なくとも2倍であることが分かる。図1はまた、本開示の試料Cによる切削工具の最短の工具寿命を有する切削エッジが、比較用切削工具、試料Jの最長の工具寿命よりも長いことも示す。
【0057】
図3a~3cは、5分、10分、および15分の機械加工後のエッジC-2を示す。分かるように、エッジは15分でのコントロールの前に0.2mmの逃げ面摩耗を超えなかった。
【0058】
図4aおよび4bは、それぞれ5分および10分の機械加工後のエッジJ-4を示す。図4bから分かるように、逃げ面は10分の機械加工後のコントロールにおいて既に0.2mmを超えていた。
【0059】
機械加工試験から分かるように、試料Cは強化鋼の旋削作業において比較用試料Jよりも優れている。
【0060】
低コバルト含有量と粗いWC粒子サイズとの組み合わせは、改善された切削性能、ならびに焼結後に収縮したときの改善された特性の両方を有する切削インサートをもたらす。
図1
図2
図3a-c】
図4a-b】
【国際調査報告】