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特表2024-513755マンノース3グリカン媒介タンパク質分解
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】マンノース3グリカン媒介タンパク質分解
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20240319BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240319BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240319BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240319BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240319BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240319BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C07K16/18
A61P37/06
A61P35/00
A61P29/00
A61P1/16
A61P7/04
A61P35/02
A61K47/61
A61K47/68
A61K39/395 M
A61K39/395 A
A61K38/02
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558413
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 EP2022057554
(87)【国際公開番号】W WO2022200388
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】63/164,991
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523360197
【氏名又は名称】グリコエラ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】アミレザ ファリドモアヤー
(72)【発明者】
【氏名】レイナー フォラドール
(72)【発明者】
【氏名】マニュエラ マリー
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン アルバート バック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC14
4C076CC16
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C084BA34
4C084BA44
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA531
4C084ZA532
4C084ZA751
4C084ZA752
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C085AA13
4C085AA14
4C085DD51
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA53
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA71
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、マンノース3グリカン媒介分解のための二機能性結合タンパク質を提供する。そのようなグリカン修飾は、現在の治療を改善し、患者にとってより良好な生活の質を可能にするであろう。したがって、そのような二機能性結合タンパク質は、さまざまな疾患を治療及び予防するために有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質に特異的に結合する第1の部分と、下記の構造
【化1】
を含むグリカンを含む第2の部分と、を含む二機能性結合タンパク質であって、
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表す、前記二機能性結合タンパク質。
【請求項2】
前記グリカンが、Xに直接結合しているN-アセチルグルコサミンアミンにおいてフコース残基をさらに含む、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項3】
Xが、前記二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項4】
前記グリカンが、請求項1に記載の構造からなる、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項5】
前記標的タンパク質が、HER2、EGFR、HER3、VEGFR、CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CD38、CD73、TGF-β、ボンベシンR、CAIX、CD13、CD44、v6、CXCR4、ErbB-2、Her2、エムプリン、エンドグリン、EpCAM、EphA2、FAP-α、葉酸R、GRP78、IGF-1R、マトリプターゼ、メソテリン、sMET/HGFR、MT1-MMP、MT6-MMP、Muc-1、PSCA、PSMA、Tn抗原、及びuPAR、TSHRα、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、またはGPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン及びガングリオシドGM1、GD3、GQ1B、MOG、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、CXCR4、CCL2、CXCL12、CSF-1、CD47、またはミスフォールド軽鎖及びミスフォールドしたトランスサイレチンを含む、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項6】
前記第2の部分が、マンノース3受容体、分化クラスター206(CD206)受容体、DC-SIGN(分化クラスター209またはCD209)受容体、C型レクチンドメインファミリー4メンバーG(LSECTin)受容体、マクロファージ誘導性Ca2+依存性レクチン受容体(Mincle)に特異的に結合する、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項7】
前記第2の部分が、Man3GlcNAc2構造を認識する任意のエンドサイトーシス炭水化物結合受容体に特異的に結合する、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項8】
前記第2の部分がグリカン構造を含む、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項9】
前記グリカン構造がマンノース3である、請求項8に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項10】
前記第1の部分が、重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項11】
前記第1の部分が、モノクローナル抗体のFab領域を含む、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項12】
抗体である、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項13】
前記抗体が、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項12に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項14】
前記抗体が組換え体である、請求項12に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項15】
前記抗体が、ヒト化抗体、キメラ抗体、または完全ヒト抗体である、請求項12に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項16】
前記抗体が、2対1、4対1、6対1、8対1、または10対1のグリカン対タンパク質の比を有する、請求項12に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項17】
前記抗体が、所定の特定の残基でグリコシル化されている、請求項12に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項18】
前記二機能性結合タンパク質が自己抗原である、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項19】
前記二機能性結合タンパク質の前記グリカンの少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%が請求項1に記載のグリカンの構造を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項20】
前記標的タンパク質が、細胞表面分子または非細胞表面分子である、請求項1に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項21】
前記細胞表面分子が受容体である、請求項20に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項22】
前記非細胞表面分子が細胞外タンパク質である、請求項20に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項23】
前記細胞外タンパク質が、自己抗体、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、血液タンパク質、または中枢神経系(CNS)タンパク質である、請求項22に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項24】
前記標的タンパク質が前記第1の部分によって結合される、請求項20~23のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項25】
肝臓マクロファージに標的タンパク質を送達する方法であって、前記標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で、前記標的タンパク質を請求項1~22のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質と接触させる、前記方法。
【請求項26】
標的タンパク質を分解する方法であって、宿主細胞による前記標的タンパク質のリソソーム分解を媒介する条件下で、前記標的タンパク質を請求項1~24のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質と接触させることを含む、前記方法。
【請求項27】
前記標的タンパク質が、がんにおいてアップレギュレートされるか、またはがんの進行に関与する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
がんにおいてアップレギュレートされる、またはがんの進行に関与する前記標的タンパク質が、HER2、EGFR、HER3、VEGFR、CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、CCL2、CCR2、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CSF-1R、SIRPα、LILRB1、LILRB2、CD38、CD73、またはTGF-βを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記標的タンパク質が自己免疫疾患の自己抗体である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記標的タンパク質が自己免疫疾患の自己抗原である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記自己免疫疾患の前記自己抗体が、MOG、TSHRα、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、GPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン、またはガングリオシドGM1、GD3もしくはGQ1Bに結合する抗体である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記標的タンパク質が、神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される前記標的タンパク質が、α-シヌクレイン、アミロイドβまたは補体カスケード成分である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記宿主細胞が、骨髄細胞、免疫細胞、内皮細胞、実質細胞、または上皮細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫細胞が、樹状細胞、マクロファージ、単球、ミクログリア細胞、顆粒球またはBリンパ球である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記宿主細胞が任意の細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
前記二機能性結合タンパク質が、異なる第2の部分を含む二機能性結合タンパク質の存在下での前記標的タンパク質の分解と比較して、前記標的タンパク質の分解を増強する、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
前記分解が、エンドサイトーシスまたはファゴサイトーシスによって媒介される、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
請求項1~24のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項40】
患者において疾患を治療または予防する方法であって、請求項1~24のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質、または請求項39に記載の医薬組成物を前記患者に投与することを含む、前記方法。
【請求項41】
前記疾患が、自己免疫疾患、がんもしくは腫瘍、肝疾患、炎症性障害、または血液凝固障害である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記自己免疫疾患が、MOGAD(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患)、バセドウ病、重症筋無力症、抗GBM疾患、免疫性血栓性血小板減少性紫斑病、尋常性後天性天疱瘡、免疫性血小板減少症、自己免疫性脳炎、及びギランバレー症候群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記がんが、肺癌、乳癌、胃癌、結腸直腸癌、膀胱癌、悪性黒色腫、多発性骨髄腫、及びホジキンリンパ腫から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
治療が、標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で前記二機能性結合タンパク質を投与することによって腫瘍関連マクロファージ(TAM)を再プログラミングすることを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記標的タンパク質が、TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される前記標的タンパク質が、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、CXCR4、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記投与ステップが、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、経皮注射、または筋肉内注射を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項48】
請求項1~24のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質、または請求項39に記載の医薬組成物及び前記二機能性分子または前記医薬組成物をそれを必要とする個体に投与するための説明書を含む、キット。
【請求項49】
前記二機能性結合タンパク質または前記医薬組成物が、1つ以上の単位用量で存在する、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
二機能性結合タンパク質であって、(i)標的タンパク質に特異的に結合し、(ii)下記の構造
【化2】
のN-グリカンを含み、
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは前記二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表し、前記N-グリカンが、1、2、3、4または5個のN-グリコシル化部位で前記二機能性結合タンパク質に連結される、前記二機能性結合タンパク質。
【請求項51】
前記グリカンが、Xに直接結合している前記N-アセチルグルコサミンにおいてフコース残基をさらに含む、請求項50に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項52】
Xが、前記二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である、請求項50に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項53】
請求項50に記載の二機能性結合タンパク質の集団であって、前記二機能性結合タンパク質の特定のアミノ酸位置における前記N-グリコシル化部位のうちの少なくとも1個について、前記集団のN-グリコシル化部位のうち少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または99%が、請求項50で特定されるN-グリカンでグリコシル化される、前記二機能性結合タンパク質の集団。
【請求項54】
前記N-グリコシル化部位が1つ以上のアスパラギン残基を含み、前記アスパラギン残基が標準コンセンサス配列のN-X-S/T、N-X-Cモチーフ、及び非標準コンセンサスモチーフ内にある、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項55】
前記N-グリコシル化部位が、組換え工学によって前記二機能性タンパク質に導入される、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項56】
前記組換え工学が、アミノ酸を付加すること、アミノ酸を欠失させること、アミノ酸を置換すること、またはグリコタグを付加することで実施される、請求項55に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項57】
前記グリカンが請求項50に記載の構造からなる、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項58】
前記標的タンパク質が、HER2、EGFR、HER3、VEGFR、CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CD38、CD73、TGF-β、ボンベシンR、CAIX、CD13、CD44、v6、CXCR4、ErbB-2、Her2、エムプリン、エンドグリン、EpCAM、EphA2、FAP-α、葉酸R、GRP78、IGF-1R、マトリプターゼ、メソテリン、sMET/HGFR、MT1-MMP、MT6-MMP、Muc-1、PSCA、PSMA、Tn抗原、及びuPAR、TSHRα、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、またはGPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン及びガングリオシドGM1、GD3、GQ1B、MOG、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、CXCR4、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項59】
前記二機能性タンパク質が、エンドサイトーシス炭水化物結合受容体に結合し、マンノース3受容体、分化クラスター206(CD206)受容体、DC-SIGN(分化クラスター209またはCD209)受容体、C型レクチンドメインファミリー4メンバーG(LSECTin)受容体、マクロファージ誘導性Ca2+依存性レクチン受容体(Mincle)に特異的に結合する、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項60】
前記二機能性タンパク質が、前記N-グリカンを介して前記エンドサイトーシス炭水化物結合受容体に結合する、請求項59に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項61】
前記N-グリカンが、Man3GlcNAc2構造を認識する任意のエンドサイトーシス炭水化物結合受容体に特異的に結合する、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項62】
前記二機能性結合タンパク質が抗体である、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項63】
前記抗体が、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、請求項62に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項64】
前記抗体が組換え体である、請求項62に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項65】
前記抗体が、重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含む、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項66】
前記抗体がFab領域を含む、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項67】
前記抗体がFcドメインを含む、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項68】
前記抗体が、前記FcドメインにN-グリコシル化部位を含み、前記Fcドメインの前記N-グリコシル化部位に前記N-グリカンが連結される、請求項62に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項69】
前記抗体が、前記重鎖可変領域及び/または前記軽鎖可変領域にN-グリコシル化部位を含み、前記重鎖可変領域及び/または前記軽鎖可変領域の前記N-グリコシル化部位に前記N-グリカンが連結される、請求項62に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項70】
前記抗体が、所定の特定の残基でグリコシル化されている、請求項62に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項71】
前記抗体が、2対1、4対1、6対1、8対1、または10対1のグリカン対タンパク質の比を有する、請求項62に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項72】
前記抗体が、所定の特定の残基でグリコシル化されている、請求項62に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項73】
前記二機能性結合タンパク質が、自己抗原を含み、自己抗体に特異的に結合する、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項74】
前記標的タンパク質が、細胞表面分子または非細胞表面分子である、請求項50または53に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項75】
前記細胞表面分子が受容体である、請求項74に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項76】
前記非細胞表面分子が細胞外タンパク質である、請求項74に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項77】
前記細胞外タンパク質が、自己抗体、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、血液タンパク質、または中枢神経系(CNS)タンパク質である、請求項76に記載の二機能性結合タンパク質。
【請求項78】
肝臓マクロファージに標的タンパク質を送達する方法であって、前記標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で、前記標的タンパク質を請求項50~77のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質と接触させる、前記方法。
【請求項79】
標的タンパク質を分解する方法であって、宿主細胞による前記標的タンパク質のリソソーム分解を媒介する条件下で、前記標的タンパク質を請求項50~77のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質と接触させることを含む、前記方法。
【請求項80】
前記標的タンパク質が、がんにおいてアップレギュレートされるか、またはがんの進行に関与する、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
がんにおいてアップレギュレートされる、またはがんの進行に関与する前記標的タンパク質が、HER2、EGFR、HER3、VEGFR CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、CCL2、CCR2、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CSF-1R、SIRPα、LILRB1、LILRB2、CD38、CD73、またはTGF-βを含む、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記標的タンパク質が自己免疫疾患の自己抗体である、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記標的タンパク質が自己免疫疾患の自己抗原である、請求項81に記載の方法。
【請求項84】
前記自己免疫疾患の前記自己抗体が、MOG、TSHRα、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、GPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン、またはガングリオシドGM1、GD3もしくはGQ1Bに結合する抗体である、請求項82に記載の方法。
【請求項85】
前記標的タンパク質が、神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される、請求項79に記載の方法。
【請求項86】
神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される前記標的タンパク質が、α-シヌクレイン、アミロイドβまたは補体カスケード成分である、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記宿主細胞が、骨髄細胞、免疫細胞、内皮細胞、実質細胞、または上皮細胞である、請求項79に記載の方法。
【請求項88】
前記免疫細胞が、樹状細胞、マクロファージ、単球、ミクログリア細胞、顆粒球またはBリンパ球である、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記宿主細胞が任意の細胞である、請求項79に記載の方法。
【請求項90】
前記二機能性結合タンパク質が、N-グリコシル化されていない二機能性結合タンパク質の存在下での前記標的タンパク質の分解と比較して、または請求項50で特定されるN-グリカンとは異なるN-グリカンを含む二機能性結合タンパク質の存在下での前記標的タンパク質の分解と比較して、前記標的タンパク質の分解を増強する、請求項79に記載の方法。
【請求項91】
前記分解が、エンドサイトーシスまたはファゴサイトーシスによって媒介される、請求項79に記載の方法。
【請求項92】
請求項50~77のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質と、薬学的に許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項93】
患者において疾患を治療または予防する方法であって、請求項50~77のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質、または請求項92に記載の医薬組成物を前記患者に投与することを含む、前記方法。
【請求項94】
前記疾患が、自己免疫疾患、がんもしくは腫瘍、肝疾患、炎症性障害、または血液凝固障害である、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
前記自己免疫疾患が、MOGAD(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患)、バセドウ病、重症筋無力症、抗GBM疾患、免疫性血栓性血小板減少性紫斑病、尋常性後天性天疱瘡、免疫性血小板減少症、自己免疫性脳炎、及びギランバレー症候群から選択される、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記がんが、急性リンパ芽球性白血病;急性リンパ芽球性リンパ腫;急性リンパ球性白血病;急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia);急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)(成人/小児);副腎皮質癌;AIDS関連のがん;AIDS関連リンパ腫;肛門癌;虫垂癌;星細胞腫;非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍;基底細胞癌;胆管癌、肝外(胆管癌);膀胱癌;骨の骨肉腫/悪性線維性組織球腫;脳腫瘍(成人/小児);脳腫瘍、小脳星細胞腫(成人/小児);脳腫瘍、大脳星細胞腫/悪性グリオーマ脳腫瘍;脳腫瘍、上衣腫;脳腫瘍、髄芽腫;脳腫瘍、テント上原始神経外胚葉性腫瘍;脳腫瘍、視経路視床下部神経膠腫;脳幹グリオーマ;乳癌;気管支腺腫/カルチノイド;気管支腫瘍;バーキットリンパ腫;小児のがん;カルチノイド胃腸腫瘍;カルチノイド腫瘍;成人の癌腫、原発部位不明;原発不明の癌腫;中枢神経系胎児性腫瘍;中枢神経系リンパ腫、原発;子宮頸癌;小児副腎皮質癌;小児癌;小児大脳星細胞腫;脊索腫、小児;慢性リンパ性白血病;慢性骨髄性白血病;慢性骨髄性白血病;慢性骨髄増殖性障害;結腸癌;結腸直腸癌;頭蓋咽頭腫;皮膚T細胞リンパ腫;線維形成性小円形細胞腫瘍;気腫;子宮内膜癌;上衣芽細胞腫;上衣腫;食道癌;ユーイングファミリー腫瘍のユーイング肉腫;頭蓋外胚細胞腫瘍;性腺外胚細胞腫瘍;肝外胆管癌;胆嚢癌;胃(gastric)(胃(stomach))癌;胃カルチノイド;消化管カルチノイド腫瘍;消化管間質腫瘍;胚細胞性腫瘍:頭蓋外、性腺外、または卵巣妊娠性絨毛性腫瘍;妊娠性絨毛性腫瘍、原発部位不明;神経膠腫;脳幹グリオーマ;神経膠腫、小児視経路及び視床下部;有毛細胞白血病;頭頸部癌;心臓癌;肝細胞性(肝臓)癌;ホジキンリンパ腫;下咽頭癌;視床下部及び視覚路神経膠腫;眼球内メラノーマ;膵島細胞癌(膵島);カポジ肉腫;腎臓癌(腎細胞癌);ランゲルハンス細胞組織球増加症;喉頭癌;口唇癌及び口腔癌;脂肪肉腫;肝癌(原発);肺癌、非小細胞;肺癌、小細胞;リンパ腫、中枢神経系原発;マクログロブリン血症、ワルデンストレーム;男性乳癌;骨の悪性線維性組織球腫/骨肉腫;髄芽腫;髄様上皮腫;黒色腫;黒色腫、眼球内(眼);メルケル細胞癌;メルケル細胞皮膚癌;中皮腫;中皮腫、成人悪性;原発不明転移性扁平上皮性頸部癌;口のがん;多発性内分泌腫瘍症候群;多発性骨髄腫/形質細胞系腫瘍;菌状息肉症、骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性疾患;骨髄性白血病、慢性;骨髄性白血病、成人急性;骨髄性白血病、小児急性;骨髄腫、多発性(骨髄のがん);骨髄増殖性疾患、慢性;鼻腔及び副鼻腔癌;上咽頭癌;神経芽腫、非小細胞肺癌;非ホジキンリンパ腫;乏突起神経膠腫;口腔癌;口腔癌;中咽頭癌;骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫;卵巣癌;卵巣上皮癌(表層上皮性・間質性腫瘍);卵巣胚細胞性腫瘍;卵巣低悪性度腫瘍;膵癌;膵癌、膵島細胞;乳頭腫症;副鼻腔及び鼻腔癌;副甲状腺癌;陰茎癌;咽頭癌;褐色細胞腫;松果体星状細胞腫;松果体胚腫;中間型松果体実質腫瘍;松果体芽腫及びテント上原始神経外胚葉性腫瘍;下垂体腫瘍;下垂体腺腫;形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫;胸膜肺芽腫;原発性中枢神経系リンパ腫;前立腺癌;直腸癌;腎細胞癌(腎臓癌);腎孟・尿管、移行上皮癌;15番染色体上のNUT遺伝子が関与する気道癌;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫、小児;唾液腺癌;肉腫、ユーイングファミリー腫瘍;セザリー症候群;皮膚癌(黒色腫);皮膚癌(非黒色腫);小細胞肺癌;小腸癌 軟部組織肉腫;軟部組織肉腫;脊髄腫瘍;扁平上皮癌;原発不明の頸部扁平上皮癌、転移性;胃(stomach)(胃(gastric))癌;テント上原始神経外胚葉性腫瘍;T細胞リンパ腫、皮膚(菌状息肉症及びセザリー症候群);精巣癌;咽頭癌;胸腺腫;胸腺腫及び胸腺癌;甲状腺癌;小児甲状腺癌;腎孟・尿管の移行上皮癌;尿道癌;子宮癌、子宮内膜;子宮肉腫;膣癌;外陰癌;またはウィルムス腫瘍から選択される、請求項94に記載の方法。
【請求項97】
治療が、標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で前記二機能性結合タンパク質を投与することによって腫瘍関連マクロファージ(TAM)を再プログラミングすることを含む、請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記標的タンパク質が、TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される前記標的タンパク質が、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、CXCR4、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
前記投与ステップが、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、経皮注射、または筋肉内注射を含む、請求項93に記載の方法。
【請求項101】
請求項50~77のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質、または請求項92に記載の医薬組成物及び前記二機能性分子または前記医薬組成物をそれを必要とする個体に投与するための説明書を含む、キット。
【請求項102】
前記二機能性結合タンパク質または前記医薬組成物が、1つ以上の単位用量で存在する、請求項101に記載のキット。
【請求項103】
標的タンパク質のレベル上昇を伴う急性症状を治療する方法であって、治療を必要とする患者に、先行請求項のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質を投与することを含み、前記二機能性結合タンパク質が、(i)前記標的タンパク質に特異的に結合し、(ii)下記の構造
【化3】
を有するN-グリカンを含み、
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは前記二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表し、前記N-グリカンが前記二機能性結合タンパク質に多数のN-グリコシル化部位で連結され、これにより、前記標的タンパク質の半減期が、患者への前記二機能性結合タンパク質の投与後に前記患者において最大5分、15分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、もしくは6時間となるか、または前記標的タンパク質の半減期が、任意の治療の非存在下での前記患者における前記標的タンパク質の前記半減期の最大1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、75%、80%、もしくは最大90%となる、前記方法。
【請求項104】
前記グリカンが、Xに直接結合している前記N-アセチルグルコサミンにおいてフコース残基をさらに含む、請求項103に記載の方法。
【請求項105】
Xが、前記二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である、請求項103に記載の方法。
【請求項106】
前記二機能性タンパク質が、3つ以上のN-グリコシル化部位において前記N-グリカンを担持する、請求項103に記載の方法。
【請求項107】
標的タンパク質のレベル上昇を伴う慢性症状を治療する方法であって、治療を必要とする患者に、先行請求項のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質を投与することを含み、前記二機能性結合タンパク質が、(i)前記標的タンパク質に特異的に結合し、(ii)下記の構造
【化4】
を有するN-グリカンを含み、
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは前記二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表し、前記N-グリカンが前記二機能性結合タンパク質に多数のN-グリコシル化部位で連結され、これにより、前記標的タンパク質の半減期が、前記患者において少なくとも1日、2日、3日、もしくは4日となるか、または前記標的タンパク質の半減期が、前記患者におけるグリコシル化されていない前記二機能性結合タンパク質の前記半減期の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは少なくとも95%となる、前記方法。
【請求項108】
前記グリカンが、Xに直接結合している前記N-アセチルグルコサミンにおいてフコース残基をさらに含む、請求項107に記載の方法。
【請求項109】
Xが、前記二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である、請求項107に記載の方法。
【請求項110】
前記二機能性タンパク質が、2つ以下のN-グリコシル化部位において前記N-グリカンを担持する、請求項107に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.関連出願の相互参照
本願は、2021年3月23日に出願された米国仮出願第63/164,991号の利益を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
2.技術分野
本発明は一般に、マンノース3グリコシル化を有する二機能性結合タンパク質及びそのリソソーム標的化に関する。
【背景技術】
【0003】
3.背景技術
炭水化物結合受容体とグリカンの結合により、さまざまな生物学的経路を可能にする。グリカンと受容体の相互作用は、グリカンの構造によって決定される。これらの重要な生物学的経路は、免疫応答の調節、タンパク質排除の媒介、タンパク質代謝回転、ならびに可溶性糖タンパク質、糖脂質及びまたはグリカン部分を含む任意の天然分子の輸送の制御に関与している。
【0004】
エンドサイトーシスレクチンは、特定のグリカン構造を介してグリコシル化タンパク質を捕捉して分解を媒介することにより、受容体媒介エンドサイトーシスに関与している。エンドサイトーシスレクチンは、人間の体内に遍在しており、さまざまなグリカン構造を認識できる。例えば、Cummings,Richard D.;McEver,Rodger P.(Eds.)(2017):Essentials of Glycobiology[インターネット].3rd edition:Cold Spring Harbor Laboratory Press[8]を参照のこと。グリカン及びそれらの受容体についての追加の背景は、参考文献[9]~[12]に記載されている。
【0005】
炭水化物結合受容体は非常に多様であり、糖鎖工学によって利用して、炎症、血液疾患、自己免疫、がんなどを含むがこれらに限定されないさまざまな疾患に対して前例のない有効性をもつ新規治療薬を開発できる。これにより、グリカン媒介タンパク質分解の概念に基づく新規治療薬の開発が可能になる。ケモカイン、サイトカイン、ポリペプチドまたはモノクローナル抗体などの任意のタンパク質の部位特異的グリコシル化によるヒトグリカン媒介タンパク質分解を利用することで、新規治療法が得られる可能性がある。現在までのところ、タンパク質上に構築されたMan3GlcNAc2などのMan3を含むグリカンが、マンノースまたは受容体を認識するレクチンにどの程度効率的に結合し、リソソーム分解を媒介できるのかは記載されていない。本発明は、特定のグリカン媒介タンパク質分解に関する新規な発見を示す。
【0006】
本明細書で提供される組成物及び方法は、現在の標準治療で治療されるがん、自己免疫疾患、及び炎症性疾患などのさまざまな難治性疾患に苦しむ患者の満たされていない医療ニーズに対処する。
【発明の概要】
【0007】
4.発明の概要
一態様では、標的タンパク質に特異的に結合する第1の部分と、下記の構造
【化1】
を含むグリカンを含む第2の部分と、を含む二機能性結合タンパク質が本明細書で提供され、
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表す。いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質のN-グリカン部分は、マンノトリオース-ジ-(N-アセチル-D-グルコサミン)(Man3GlcNAc2)、すなわち、本段落に示されるマンノース3グリカン構造からなる。
【0008】
特定の実施形態では、本明細書で提供される二機能性タンパク質は、マンノース3構造を有するN-グリカンを末端グリカンとして含む。具体的には、N-グリカンのGlcNAc2部分上のN-グリカンの任意の分岐構造も含まれ得る。例えば、Xに直接連結されているGlcNacはフコシル化され得る。本願で使用される場合、「マンノース3構造」または「Man3構造」または「M3構造」という用語は、3つの末端マンノース残基を有するN-グリカンを指す。
【0009】
いくつかの実施形態では、第1の部分が特異的に結合する標的タンパク質は、HER2、EGFR、HER3、VEGFR、CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CD38、CD73、TGF-β、ボンベシンR、CAIX、CD13、CD44v6、エムプリン、エンドグリン、EpCAM、EphA2、FAP-α、葉酸R、GRP78、IGF-1R、マトリプターゼ、メソテリン、sMET/HGFR、MT1-MMP、MT6-MMP、PSCA、PSMA、Tn抗原、及びuPAR、TSHRα、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、またはGPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン及びガングリオシドGM1、GD3、GQ1B、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、CXCR4、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、第2の部分は、マンノース3受容体、分化クラスター206(CD206)受容体、DC-SIGN(分化クラスター209またはCD209)受容体、C型レクチンドメインファミリー4メンバーG(LSECTin)受容体、またはマクロファージ誘導性Ca2+依存性レクチン受容体(Mincle)に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質の第2の部分は、Man3GlcNAc2構造を認識する任意のエンドサイトーシス炭水化物結合受容体に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質の第2の部分は、ランゲリン、マクロファージマンノース2受容体、デクチン-1、デクチン-2、BDCA-2、DCIR、MBL、MDL、MICL、CLEC2、DNGR1、CLEC12B、DEC-205、アシアロ糖タンパク質受容体(ASPGR)、及びマンノース6リン酸受容体に特異的に結合する。
【0011】
いくつかの実施形態では、第2の部分はグリカン構造を含む。いくつかの実施形態では、グリカン構造はマンノース3である。
【0012】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質の第1の部分は、重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質の第1の部分は、モノクローナル抗体のFab領域を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は組換え体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体、または完全ヒト抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、2対1、4対1、6対1、8対1、または10対1のグリカン対タンパク質の比を有する。
【0014】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、所定の特定の残基でグリコシル化されている。
【0015】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は自己抗原である。
【0016】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質のグリカンの少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%がマンノース3グリカン構造を有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、細胞表面分子または非細胞表面分子である。いくつかの実施形態では、細胞表面分子は受容体である。いくつかの実施形態では、非細胞表面分子は細胞外タンパク質である。いくつかの実施形態では、細胞外タンパク質は、自己抗体、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、血液タンパク質、または中枢神経系(CNS)タンパク質である。
【0018】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、第1の部分によって結合される。
【0019】
一態様では、肝マクロファージ、例えば、肝臓常在性クッパー細胞(KC)及び/または肝臓類洞内皮細胞(LSEC)及び/または単球由来マクロファージ(MoMφ)の、エンドソームに標的タンパク質を送達する方法が本明細書で提供され、標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で、標的タンパク質を本明細書に記載の二機能性結合タンパク質と接触させることを含む。
【0020】
一態様では、標的タンパク質を分解する方法が本明細書で提供され、宿主細胞による標的タンパク質のリソソーム分解を媒介する条件下で、標的タンパク質を本明細書に記載の二機能性結合タンパク質と接触させることを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、がんにおいてアップレギュレートされるか、またはがんの進行に関与する。
【0022】
いくつかの実施形態では、がんにおいてアップレギュレートされる、またはがんの進行に関与する標的タンパク質は、HER2、EGFR、HER3、VEGFR CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、CCL2、CCR2、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CSF-1R、SIRPα、CD38、CD73、LILRB2またはTGF-βを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、自己免疫疾患の自己抗体である。いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、自己免疫疾患の自己抗原である。
【0024】
いくつかの実施形態では、自己免疫疾患の自己抗体は、TSHRα、MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、GPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン、またはガングリオシドGM1、GD3もしくはGQ1Bに結合する抗体である。
【0025】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される。いくつかの実施形態では、神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される標的タンパク質は、α-シヌクレイン、アミロイドβ、補体カスケード成分であるか、または全身性アミロイドーシスでは、凝集したミスフォールド軽鎖もしくは凝集しミスフォールドしたトランスサイレチンの蓄積である。
【0026】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)においてアップレギュレートまたは発現される。いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、腫瘍微小環境におけるTAMの動員に関連している。他の実施形態では、標的タンパク質は、腫瘍微小環境におけるTAMの枯渇に関連している。さらなる実施形態では、標的タンパク質は、腫瘍微小環境におけるTAMの再プログラミングに関連している。
【0027】
いくつかの実施形態では、TAMに関連する標的タンパク質は、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、またはCXCR4を含む。他の実施形態では、TAMに関連する標的タンパク質は、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、骨髄細胞、免疫細胞、内皮細胞、実質細胞、または上皮細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、樹状細胞、マクロファージ、単球、ミクログリア細胞、顆粒球またはBリンパ球である。
【0029】
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、任意の細胞である。
【0030】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、異なる第2の部分を含む二機能性結合タンパク質の存在下での標的タンパク質の分解と比較して、標的タンパク質の分解を増強する。
【0031】
いくつかの実施形態では、分解は、エンドサイトーシスまたはファゴサイトーシスによって媒介される。
【0032】
一態様では、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が本明細書で提供される。
【0033】
一態様では、患者において疾患を治療または予防する方法であって、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質、または本明細書に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む方法が本明細書で提供される。
【0034】
いくつかの実施形態では、疾患は、自己免疫疾患、がんもしくは腫瘍、肝疾患、炎症性障害、または血液凝固障害である。いくつかの実施形態では、自己免疫疾患は、バセドウ病、重症筋無力症、抗GBM疾患、免疫性血栓性血小板減少性紫斑病、尋常性後天性天疱瘡、免疫性血小板減少症、自己免疫性脳炎、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患(MOGAD)、膜性腎症、全身性アミロイドーシス、及びギランバレー症候群から選択される。
【0035】
いくつかの実施形態では、投与ステップは、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、経皮注射、または筋肉内注射を含む。
【0036】
一態様では、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質、または本明細書に記載の医薬組成物、及び二機能性分子または医薬組成物をそれを必要とする個体に投与するための説明書を含む、キットが本明細書で提供される。
【0037】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質または医薬組成物は、1つ以上の単位用量で存在する。
【0038】
いくつかの実施形態では、グリカンは、Xに直接結合しているN-アセチルグルコサミンにおいてフコース残基をさらに含む。いくつかの実施形態では、Xは、二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である。
【0039】
一態様では、二機能性結合タンパク質が本明細書で提供され、二機能性結合タンパク質は、(i)標的タンパク質に特異的に結合し、(ii)下記の構造
【化2】
のN-グリカンを含み、
【0040】
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表し、N-グリカンが、1、2、3、4または5個のN-グリコシル化部位で二機能性結合タンパク質に連結される。
【0041】
いくつかの実施形態では、グリカンは、Xに直接結合しているN-アセチルグルコサミンにおいてフコース残基をさらに含む。いくつかの実施形態では、Xは、二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である。
【0042】
一態様では、二機能性結合タンパク質の集団が本明細書で提供され、二機能性結合タンパク質の特定のアミノ酸位置におけるN-グリコシル化部位のうちの少なくとも1個について、集団のN-グリコシル化部位のうち少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または99%が、マンノース3N-グリカン構造でグリコシル化される。
【0043】
いくつかの実施形態では、N-グリコシル化部位は、1つ以上のアスパラギン残基を含み、アスパラギン残基は、標準コンセンサス配列N-X-S/T、N-X-Cモチーフ(Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸であり得る)、及び非標準コンセンサスモチーフ内にある。
【0044】
いくつかの実施形態では、N-グリコシル化部位は、組換え工学によって二機能性タンパク質に導入される。
【0045】
いくつかの実施形態では、組換え工学は、アミノ酸を付加すること、アミノ酸を欠失させること、アミノ酸を置換すること、またはグリコタグを付加することで実施される。いくつかの実施形態では、グリカンはマンノース3N-グリカン構造からなる。
【0046】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、HER2、EGFR、HER3、VEGFR、CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CD38、CD73、TGF-β、ボンベシンR、CAIX、CD13、CD44、v6、CXCR4、ErbB-2、Her2、エムプリン、エンドグリン、EpCAM、EphA2、FAP-α、葉酸R、GRP78、IGF-1R、マトリプターゼ、メソテリン、sMET/HGFR、MT1-MMP、MT6-MMP、Muc-1、PSCA、PSMA、Tn抗原、及びuPAR、TSHRα、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、またはGPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン及びガングリオシドGM1、GD3、GQ1B、MOG、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、CXCR4、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、二機能性タンパク質は、エンドサイトーシス炭水化物結合受容体に結合し、マンノース3受容体、分化クラスター206(CD206)受容体、DC-SIGN(分化クラスター209またはCD209)受容体、C型レクチンドメインファミリー4メンバーG(LSECTin)受容体、マクロファージ誘導性Ca2+依存性レクチン受容体(Mincle)に特異的に結合する。
【0048】
いくつかの実施形態では、二機能性タンパク質は、N-グリカンを介してエンドサイトーシス炭水化物結合受容体に結合する。いくつかの実施形態では、N-グリカンは、Man3GlcNAc2構造を認識する任意のエンドサイトーシス炭水化物結合受容体に特異的に結合する。
【0049】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は組換え体である。いくつかの実施形態では、抗体は、重鎖可変領域または軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、Fab領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcドメインを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、抗体は、FcドメインにN-グリコシル化部位を含み、FcドメインのN-グリコシル化部位にN-グリカンが連結される。いくつかの実施形態では、抗体は、重鎖可変領域及び/または軽鎖可変領域にN-グリコシル化部位を含み、重鎖可変領域及び/または軽鎖可変領域のN-グリコシル化部位にN-グリカンが連結される。
【0051】
いくつかの実施形態では、抗体は、所定の特定の残基でグリコシル化されている。
【0052】
いくつかの実施形態では、抗体は、2対1、4対1、6対1、8対1、または10対1のグリカン対タンパク質の比を有する。
【0053】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、自己抗原を含み、自己抗体に特異的に結合する。
【0054】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、細胞表面分子または非細胞表面分子である。いくつかの実施形態では、細胞表面分子は受容体である。いくつかの実施形態では、非細胞表面分子は細胞外タンパク質である。
【0055】
いくつかの実施形態では、細胞外タンパク質は、自己抗体、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、血液タンパク質、または中枢神経系(CNS)タンパク質である。
【0056】
一態様では、肝臓マクロファージに標的タンパク質を送達する方法、すなわち、標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で、標的タンパク質を本明細書に記載の二機能性結合タンパク質と接触させることが本明細書で提供される。
【0057】
一態様では、標的タンパク質を分解する方法が本明細書で提供され、宿主細胞による標的タンパク質のリソソーム分解を媒介する条件下で、標的タンパク質を本明細書に記載の二機能性結合タンパク質と接触させることを含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、がんにおいてアップレギュレートされるか、またはがんの進行に関与する。いくつかの実施形態では、がんにおいてアップレギュレートされる、またはがんの進行に関与する標的タンパク質は、HER2、EGFR、HER3、VEGFR CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、CCL2、CCR2、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CSF-1R、SIRPα、LILRB1、LILRB2、CD38、CD73、またはTGF-βを含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、自己免疫疾患の自己抗体である。いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、自己免疫疾患の自己抗原である。いくつかの実施形態では、自己免疫疾患の自己抗体は、MOG、TSHRα、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、GPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン、またはガングリオシドGM1、GD3もしくはGQ1Bに結合する抗体である。
【0060】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される。いくつかの実施形態では、神経変性疾患においてアップレギュレートまたは発現される標的タンパク質は、α-シヌクレイン、アミロイドβまたは補体カスケード成分である。
【0061】
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、骨髄細胞、免疫細胞、内皮細胞、実質細胞、または上皮細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、樹状細胞、マクロファージ、単球、ミクログリア細胞、顆粒球またはBリンパ球である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、任意の細胞である。
【0062】
いくつかの実施形態では、当該二機能性結合タンパク質は、N-グリコシル化されていない二機能性結合タンパク質の存在下での標的タンパク質の分解と比較して、またはマンノース3N-グリカン構造とは異なるN-グリカンを含む二機能性結合タンパク質の存在下での標的タンパク質の分解と比較して、標的タンパク質の分解を増強する。いくつかの実施形態では、当該分解は、エンドサイトーシスまたはファゴサイトーシスによって媒介される。
【0063】
一態様では、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が本明細書で提供される。
【0064】
一態様では、患者において疾患を治療または予防する方法であって、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質、または本明細書に記載の医薬組成物を患者に投与することを含む方法が本明細書で提供される。
【0065】
いくつかの実施形態では、疾患は、自己免疫疾患、がんもしくは腫瘍、肝疾患、炎症性障害、または血液凝固障害である。いくつかの実施形態では、自己免疫疾患は、MOGAD(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患)、バセドウ病、重症筋無力症、抗GBM疾患、免疫性血栓性血小板減少性紫斑病、尋常性後天性天疱瘡、免疫性血小板減少症、自己免疫性脳炎、及びギランバレー症候群から選択される。
【0066】
いくつかの実施形態では、がんは、急性リンパ芽球性白血病;急性リンパ芽球性リンパ腫;急性リンパ球性白血病;急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia);急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)(成人/小児);副腎皮質癌;AIDS関連のがん;AIDS関連リンパ腫;肛門癌;虫垂癌;星細胞腫;非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍;基底細胞癌;胆管癌、肝外(胆管癌);膀胱癌;骨の骨肉腫/悪性線維性組織球腫;脳腫瘍(成人/小児);脳腫瘍、小脳星細胞腫(成人/小児);脳腫瘍、大脳星細胞腫/悪性グリオーマ脳腫瘍;脳腫瘍、上衣腫;脳腫瘍、髄芽腫;脳腫瘍、テント上原始神経外胚葉性腫瘍;脳腫瘍、視経路視床下部神経膠腫;脳幹グリオーマ;乳癌;気管支腺腫/カルチノイド;気管支腫瘍;バーキットリンパ腫;小児のがん;カルチノイド胃腸腫瘍;カルチノイド腫瘍;成人の癌腫、原発部位不明;原発不明の癌腫;中枢神経系胎児性腫瘍;中枢神経系リンパ腫、原発;子宮頸癌;小児副腎皮質癌;小児癌;小児大脳星細胞腫;脊索腫、小児;慢性リンパ性白血病;慢性骨髄性白血病;慢性骨髄性白血病;慢性骨髄増殖性障害;結腸癌;結腸直腸癌;頭蓋咽頭腫;皮膚T細胞リンパ腫;線維形成性小円形細胞腫瘍;気腫;子宮内膜癌;上衣芽細胞腫;上衣腫;食道癌;ユーイングファミリー腫瘍のユーイング肉腫;頭蓋外胚細胞腫瘍;性腺外胚細胞腫瘍;肝外胆管癌;胆嚢癌;胃(gastric)(胃(stomach))癌;胃カルチノイド;消化管カルチノイド腫瘍;消化管間質腫瘍;胚細胞性腫瘍:頭蓋外、性腺外、または卵巣妊娠性絨毛性腫瘍;妊娠性絨毛性腫瘍、原発部位不明;神経膠腫;脳幹グリオーマ;神経膠腫、小児視経路及び視床下部;有毛細胞白血病;頭頸部癌;心臓癌;肝細胞性(肝臓)癌;ホジキンリンパ腫;下咽頭癌;視床下部及び視覚路神経膠腫;眼球内メラノーマ;膵島細胞癌(膵島);カポジ肉腫;腎臓癌(腎細胞癌);ランゲルハンス細胞組織球増加症;喉頭癌;口唇癌及び口腔癌;脂肪肉腫;肝癌(原発);肺癌、非小細胞;肺癌、小細胞;リンパ腫、中枢神経系原発;マクログロブリン血症、ワルデンストレーム;男性乳癌;骨の悪性線維性組織球腫/骨肉腫;髄芽腫;髄様上皮腫;黒色腫;黒色腫、眼球内(眼);メルケル細胞癌;メルケル細胞皮膚癌;中皮腫;中皮腫、成人悪性;原発不明転移性扁平上皮性頸部癌;口のがん;多発性内分泌腫瘍症候群;多発性骨髄腫/形質細胞系腫瘍;菌状息肉症、骨髄異形成症候群;骨髄異形成/骨髄増殖性疾患;骨髄性白血病、慢性;骨髄性白血病、成人急性;骨髄性白血病、小児急性;骨髄腫、多発性(骨髄のがん);骨髄増殖性疾患、慢性;鼻腔及び副鼻腔癌;上咽頭癌;神経芽腫、非小細胞肺癌;非ホジキンリンパ腫;乏突起神経膠腫;口腔癌;口腔癌;中咽頭癌;骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫;卵巣癌;卵巣上皮癌(表層上皮性・間質性腫瘍);卵巣胚細胞性腫瘍;卵巣低悪性度腫瘍;膵癌;膵癌、膵島細胞;乳頭腫症;副鼻腔及び鼻腔癌;副甲状腺癌;陰茎癌;咽頭癌;褐色細胞腫;松果体星状細胞腫;松果体胚腫;中間型松果体実質腫瘍;松果体芽腫及びテント上原始神経外胚葉性腫瘍;下垂体腫瘍;下垂体腺腫;形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫;胸膜肺芽腫;原発性中枢神経系リンパ腫;前立腺癌;直腸癌;腎細胞癌(腎臓癌);腎孟・尿管、移行上皮癌;15番染色体上のNUT遺伝子が関与する気道癌;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫、小児;唾液腺癌;肉腫、ユーイングファミリー腫瘍;セザリー症候群;皮膚癌(黒色腫);皮膚癌(非黒色腫);小細胞肺癌;小腸癌 軟部組織肉腫;軟部組織肉腫;脊髄腫瘍;扁平上皮癌;原発不明の頸部扁平上皮癌、転移性;胃(stomach)(胃(gastric))癌;テント上原始神経外胚葉性腫瘍;T細胞リンパ腫、皮膚(菌状息肉症及びセザリー症候群);精巣癌;咽頭癌;胸腺腫;胸腺腫及び胸腺癌;甲状腺癌;小児甲状腺癌;腎孟・尿管の移行上皮癌;尿道癌;子宮癌、子宮内膜;子宮肉腫;膣癌;外陰癌;またはウィルムス腫瘍から選択される。
【0067】
いくつかの実施形態では、治療は、標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で二機能性結合タンパク質を投与することによって腫瘍関連マクロファージ(TAM)を再プログラミングすることを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される。いくつかの実施形態では、TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される標的タンパク質は、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、CXCR4、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む。
【0069】
いくつかの実施形態では、投与ステップは、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、経皮注射、または筋肉内注射を含む。
【0070】
一態様では、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質、または本明細書に記載の医薬組成物、及び二機能性分子または医薬組成物をそれを必要とする個体に投与するための説明書を含む、キットが本明細書で提供される。
【0071】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質または医薬組成物は、1つ以上の単位用量で存在する。
【0072】
一態様では、本明細書で提供されるのは、標的タンパク質のレベル上昇を伴う急性症状を治療する方法であって、この方法は、それを必要とする患者に先行請求項のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質を投与することを含み、二機能性結合タンパク質は、(i)標的タンパク質に特異的に結合し、(ii)下記の構造
【化3】
を有するN-グリカンを含み、
【0073】
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表し、N-グリカンは、多数のN-グリコシル化部位で二機能性結合タンパク質に連結され、標的タンパク質の半減期が最大5分、15分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、もしくは6時間となるか、または標的タンパク質の半減期が、任意の治療の非存在下での患者における標的タンパク質の半減期の最大1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、75%、80%、もしくは最大90%となる。
【0074】
いくつかの実施形態では、グリカンは、Xに直接結合しているN-アセチルグルコサミンにおいてフコース残基をさらに含む。いくつかの実施形態では、Xは、二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である。
【0075】
いくつかの実施形態では、二機能性タンパク質は、3つ以上のN-グリコシル化部位においてN-グリカンを担持する。
【0076】
一態様では、本明細書で提供されるのは、標的タンパク質のレベル上昇を伴う急性症状を治療する方法であって、この方法は、それを必要とする患者に先行請求項のいずれか1項に記載の二機能性結合タンパク質を投与することを含み、二機能性結合タンパク質は、(i)標的タンパク質に特異的に結合し、(ii)下記の構造
【化4】
を有するN-グリカンを含み、
【0077】
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表し、N-グリカンは、多数のN-グリコシル化部位で二機能性結合タンパク質に連結され、標的タンパク質の半減期が少なくとも1日、2日、3日、もしくは4日となるか、または標的タンパク質の半減期が、患者におけるグリコシル化されていない二機能性結合タンパク質の半減期の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは少なくとも95%となる。
【0078】
いくつかの実施形態では、グリカンは、Xに直接結合しているN-アセチルグルコサミンにおいてフコース残基をさらに含む。いくつかの実施形態では、Xは、二機能性結合タンパク質中のアスパラギン残基である。
【0079】
いくつかの実施形態では、二機能性タンパク質は、2つ以下のN-グリコシル化部位においてN-グリカンを担持する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
5.図面の簡単な説明
図1】Fab上に提示されるMan3グリカンは、マクロファージに高度に内部移行されることを示す。マクロファージを取得し、pHrodo標識抗体とともに3時間インキュベートした。グラフは、Humira(H-A2F)を基準として正規化されたpHrodoの平均平均蛍光強度(MFI)±平均の標準誤差(SEM)を示す。各ポイントは、個々のドナーの値を示す。H-PNGase(N=2)を除く各条件につき少なくとも3ドナー。
【0081】
図2】抗体上のMan3グリカンは、ヒト樹状細胞において高い内部移行及びリソソーム区画標的化をもたらす。内部移行は、Fcγ受容体からは独立している。ヒト単球由来樹状細胞を5人の異なるPBMCドナーから得た。グラフは、N=5の個々のドナーからの平均pHrodo MFI±標準偏差(SD)を示す。Abなしは、pHrodo標識抗体を何も加えなかったことを示し、他のすべての条件は、pHrodo標識抗体を10μg/mlで加えたことを示す。MbT:対照抗体として使用されたMabthera。A-M:Man3-アダリムマブ。A-S:シアル化アダリムマブ。H-M:HUMIRA(登録商標)(アダリムマブ)。H-S:シアル化HUMIRA(登録商標)(アダリムマブ)。+FcRブロッキングは、pHrodo標識抗体を加える前にFcγ受容体ブロッキング剤Human TruStain FcXを加えたことを示す。
【0082】
図3】A及びBは、Fab上に提示されるMan3グリカンが樹状細胞に高度に内部移行されることを示す。樹状細胞を2人のPBMCドナーから得た。樹状細胞をpHrodo標識抗体とともに6時間インキュベートした。A:H-A2F及びA8486-M3の条件の高pHrodoの集団のゲーティングの例。高pHrodoのゲートされた細胞は黒である。B:グラフは、各ドナーの高pHrodoの細胞(Aに示すようにゲートされている)のパーセンテージを示す。
【0083】
図4】マンノース3が、CD206などのマンノース結合受容体及びレクチンによって認識される概略図。
【0084】
図5】分化後のマクロファージの表現型を示す。マクロファージは、CD14+ CD163+ CD1a- CD206+であった。フローサイトメトリーのプロットは、1つの代表的な培養物からのマーカー発現を示す。右のグラフは、CD206+マクロファージのパーセンテージが、ドナー間及び実験間で一定であることを示す。各ポイントは、1人の末梢血単核球(PBMC)ドナーからのデータを表す。
【0085】
図6】A及びBは、Fab上にM3構造を提示する抗体が、CD206発現マクロファージにより特異的に内部移行されることを示す。マクロファージを、pHrodo標識抗体とともに3時間(A)または24時間(B)インキュベートした。グラフは、標識度(DOL)に合わせて調整したpHrodo MFIを示す。ヒストグラムは全ドナーからの平均±SDを示し、各点は、1ドナーからのデータを示す。統計解析、対応のある両側t検定。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;ns:有意ではない(p>0.05)。
【0086】
図7】Man3グリカン構造を提示する抗体が、ラットの血液循環から標的抗原を強力かつ急速に除去することを示す。ラットに、HCA202(0.5mg/kg)及び抗体10mg/kgを静脈(i.v.)した。グラフは、1群あたり3匹または4匹の動物のHCA202血清濃度の平均±SDをng/mlで示す。黒い丸は、H-A2F(アダリムマブ、Humira(登録商標))治療群を示す。白抜きの四角は、A-84-M3治療群を示す。黒い三角は、A-8486-M3治療群を示す。黒い四角は、A-8486-A2G2S2治療群を示す。白抜きの丸は、PBS治療群(HCA202のみ)を示す。白抜きの菱形と点線は、A-M3治療群を示す。グラフ表示では、HCA202レベルが、必要最小限の10倍希釈(MRD10)(点線のLLOQ/MRD10線=20ng/ml)でアッセイ定量下限(LLOQ)を下回った場合、19ng/mlとした。
【0087】
図8】Man3グリカン構造を提示する抗体が、対照抗体と比較して速い速度で肝臓領域に部分的に分布することを示す。マウスに5mg/kgのCF750標識抗体を静脈注射し、蛍光断層撮影法を用いて画像化した。グラフは、ゲートされた関心対象のある肝臓領域における3匹の動物/時点の平均蛍光をpmol±SDで示す。白抜きの四角と点線はA-M3治療群を示す。黒い丸は、H-A2F治療群を示す。黒い三角は、A-8486-M3治療群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
6.発明を実施するための形態
本明細書には、対照抗体と比較して改善された機能性を有する二機能性結合タンパク質(例えば、マンノース3グリコシル化二機能性結合タンパク質)が記載される。本明細書に例示されるように、二機能性結合タンパク質は、二機能性結合タンパク質上のグリコシル化部位上にマンノース3を導入することによって操作され、その結果、二機能性結合タンパク質及びそれが結合する標的のエンドサイトーシス受容体分解を媒介する、操作されたグリコシル化プロファイルが得られる。マンノース3グリカン部位をカスタマイズすることにより、本明細書に記載の操作された二機能性結合タンパク質は、1)均一なグリコシル化を有する、2)免疫複合体などの大きな標的を分解できる、3)定義されたリガンド対抗体比を有する、4)定義されたグリコシル化部位を有する、6)より多様で強力な分解受容体を活性化できる、及び/または5)高度に最適化された方法でタンパク質の分解に関与できる。
【0089】
図4に示すように、理論に束縛されるものではないが、本明細書に記載されるように、二機能性結合タンパク質は、マクロファージマンノース結合受容体、CD206、LSECTin-、肺サーファクタントタンパク質SP-D、Mincle、DC-Sign、及びマンノース3を認識する他の任意のレクチンに結合できる。C型レクチンによるリガンドのエンドサイトーシスは、ファゴリソソームにおける受容体の蓄積及び分解、または細胞表面への受容体のリサイクルをもたらし得る。
【0090】
理論に束縛されるものではないが、マンノース3グリコシル化抗体は、本明細書に記載されるように、自然の分解経路を介して、ヒトの疾患に関連する標的タンパク質を減少させることが期待される。
【0091】
「約」という用語は、数値と併せて使用される場合、参照される数値の±1、±5または±10%以内の任意の数値を指す。
【0092】
本明細書で使用される場合、「患者」という用語は、動物(例えば、鳥類、爬虫類、及び哺乳類)を指す。別の実施形態では、対象は、非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ラット、及びマウス)及び霊長類(例えば、サル、チンパンジー、及びヒト)を含む哺乳類である。いくつかの実施形態では、対象はヒト以外の動物である。いくつかの実施形態では、対象は、家畜またはペット(例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ロバ、またはニワトリ)である。特定の実施形態では、対象は、ヒトである。「対象」及び「患者」という用語は、本明細書では交換可能に使用され得る。
【0093】
「α[数字]」、「α[数字]、[数字]」、「β[数字]」、または「β[数字]、[数字]」という略語は、炭水化物残基を別の基に結合する共有結合であるグリコシド結合またはグリコシド連結を指す。α-グリコシド結合は、両方の炭素が同じ立体化学を有する場合に形成されるが、β-グリコシド結合は、2つの炭素が異なる立体化学を有する場合生じる。
【0094】
本明細書で使用される場合、「二機能性結合タンパク質」という用語は、第1の部分及び第2の部分を介して2つの異なるリガンドと結合できるタンパク質であって、第1の部分が第2の部分とは異なるタンパク質を意味する。本明細書で使用される場合、「二機能性結合タンパク質」という用語は、3つ以上の結合特異性または機能を有するタンパク質を指す。本開示の二機能性結合タンパク質の一例としては、マンノース3グリコシル化抗TSH受容体抗体、または自己抗体に結合するマンノース3グリコシル化可溶性TSH受容体細胞外ドメインを挙げることができる。
【0095】
本明細書で使用される場合、「炎症性障害」という用語には、炎症を特徴とする障害、疾患または症状が含まれる。炎症性障害の例としては、とりわけ、アレルギー、喘息、自己免疫疾患、セリアック病、糸球体腎炎、肝炎、炎症性腸疾患、再潅流傷害及び移植拒絶反応が挙げられる。
【0096】
本明細書で使用される場合、「血液障害」という用語には、血液に影響を与える障害、疾患または症状が含まれる。血液障害の例としては、とりわけ、貧血、血友病などの出血疾患、血栓、及び白血病、リンパ腫、及び骨髄腫などの血液癌が含まれる。
【0097】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」という用語は、動物における、及びより具体的にはヒトにおける使用について連邦もしくは州政府の規制機関によって承認されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識されている薬局方において列挙されていることを意味する。
【0098】
薬学的に許容される担体の文脈において本明細書で使用される「担体」という用語は、医薬組成物がともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。生理食塩水ならびに水性デキストロース及びグリセロール溶液はまた、液体担体として、特に注射可能な溶液に使用することができる。好適な賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどを含む。好適な薬学的担体の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0099】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される二機能性結合タンパク質は、(i)1つ以上の標的タンパク質(複数可)に対する結合特異性、及び(ii)1つ以上のエンドサイトーシス炭水化物結合タンパク質または受容体に対する結合特異性を有する1つ以上のN-グリカン(複数可)を含み得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、糖鎖改変二機能性結合タンパク質は、1つの標的タンパク質に対して1つの結合特異性を有する。より具体的な実施形態では、糖鎖改変二機能性結合タンパク質は、1つの標的タンパク質に対して1つの結合特異性を有し、単一の二機能性結合タンパク質が1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の標的タンパク質分子に結合できるように、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の原子価を有する。
【0101】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、エンドサイトーシス受容体と会合することができる1つ以上のN-グリカン(複数可)を有する。いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、エンドサイトーシス受容体と会合することができる2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のN-グリカンを有する。N-グリカンは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のN-グリコシル化コンセンサス配列(または糖鎖部位)でタンパク質に連結され得る。これらの糖鎖部位は、タンパク質中に天然に存在してもよく、またはアミノ酸の付加、置換、または欠失によって組換えにより導入してもよい。特定の実施形態では、グリコタグをタンパク質に融合させて、二重特異性結合タンパク質を作製する。本明細書で使用される場合、グリコタグは、タンパク質またはポリペプチドのN末端もしくはC末端、あるいは両方の末端に融合したコンセンサスN-グリコシル化部位配列を含むペプチドを指す。いくつかの実施形態では、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上または10以上のグリカンが同じであり、同じエンドサイトーシス受容体(複数可)と会合する。いくつかの実施形態では、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上または10以上のグリカンが異なり、異なるエンドサイトーシス受容体と会合する。
【0102】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質に特異的に結合する、第1の部分及び第2の部分を含む二機能性結合タンパク質が本明細書で提供される。
【0103】
いくつかの実施形態では、第1の部分は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域、またはそれらの抗原断片を含む。いくつかの実施形態では、第1の部分は、モノクローナル抗体のFab領域を含む。いくつかの実施形態では、第1の部分は、本明細書に開示される標的タンパク質のいずれかに特異的に結合する。
【0104】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、TNFαモノクローナル抗体である。他の実施形態では、二機能性結合タンパク質は、TNFαモノクローナル抗体ではない。
【0105】
いくつかの実施形態では、第2の部分は、本明細書に開示されるマンノース3グリカン構造を有するグリカン構造を含む。いくつかの実施形態では、グリカン構造は、本明細書に開示されるグリカンのいずれかである。
【0106】
いくつかの実施形態では、マンノース3グリカンと結合する任意の受容体が、本明細書に開示される組成物及び方法の説明に含まれる。他の実施形態では、第2の部分は、Man3GlcNAc2構造を認識する任意のエンドサイトーシス炭水化物結合受容体に結合する。
【0107】
いくつかの実施形態では、第2の部分は、マンノース3受容体に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第2の部分は、分化クラスター206(CD206)受容体に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第2の部分は、DC-SIGN(分化クラスター209またはCD209)受容体に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第2の部分は、C型レクチンドメインファミリー4メンバーG(LSECTin)受容体に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第2の部分は、マクロファージ誘導性Ca2+依存性レクチン受容体(Mincle)に特異的に結合する。いくつかの実施形態では、第2の部分は、ランゲリン、マクロファージマンノース2受容体、デクチン-1、デクチン-2、BDCA-2、DCIR、MBL、MDL、MICL、CLEC2、DNGR1、CLEC12B、DEC-205、アシアロ糖タンパク質受容体(ASPGR)、及びマンノース6リン酸受容体(M6PR)からなる群から選択される受容体に特異的に結合する。
【0108】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、またはそれらの抗原断片である。いくつかの実施形態では、抗体は組換え抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト対象から単離される。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体、または完全ヒト抗体である。他の実施形態では、二機能性結合タンパク質は自己抗原である。他の実施形態では、二機能性結合タンパク質は、自己抗体である。
【0109】
いくつかの実施形態では、抗体は、2対1、4対1、6対1、8対1または10対1のグリカン対抗体比を有する。いくつかの実施形態では、抗体は、所定の特定の残基でグリコシル化されている。他の実施形態では、抗体は、ランダムな残基でグリコシル化される。
【0110】
いくつかの実施形態では、以下の構造
【化5】
を有する第2の部分を含む二機能性結合タンパク質が本明細書で提供され、
四角はN-アセチルグルコサミン残基を表し、黒い縞模様の円はマンノース残基を表し、Xは二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表す。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される二機能性結合タンパク質のXアミノ酸残基は、二機能性結合タンパク質に操作されたN結合型グリコシル化コンセンサス配列のAsnである。このようなN結合型グリコシル化コンセンサス配列は、いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質の可変ドメインに存在し得る。
【0111】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、
【化6】
の構造を有するグリカンの少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%を含み、Xは、二機能性結合タンパク質のアミノ酸残基を表す。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される二機能性結合タンパク質のXアミノ酸残基は、二機能性結合タンパク質に操作されたN結合型グリコシル化コンセンサス配列のAsnである。
【0112】
いくつかの実施形態では、二機能性結合タンパク質は、マンノトリオース-ジ-(N-アセチル-D-グルコサミン)(Man3GlcNAc2)で糖鎖改変された抗TGF-βモノクローナル抗体または抗Notchモノクローナル抗体である。
【0113】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、細胞表面分子または非細胞表面分子である。いくつかの実施形態では、細胞表面分子は受容体である。いくつかの実施形態では、非細胞表面受容体は細胞外タンパク質である。いくつかの実施形態では、細胞外タンパク質は、自己抗体、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、血液タンパク質、または中枢神経系(CNS)で発現するタンパク質である。
【0114】
いくつかの実施形態では、疾患に関連する標的タンパク質は、非疾患状態と比較して疾患においてアップレギュレートされる。いくつかの実施形態では、疾患に関連する標的タンパク質は、非疾患状態と比較して疾患において発現される。いくつかの実施形態では、疾患に関連する標的タンパク質は、疾患の進行に関与する。いくつかの実施形態では、疾患は、がんまたは腫瘍である。いくつかの実施形態では疾患は自己免疫疾患である。いくつかの実施形態では、疾患は神経変性疾患である。
【0115】
いくつかの実施形態では、疾患はバセドウ病である。バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因である。米国での有病率は1.2%(1)で、女性の生涯リスクは3%にもなる。アゴニスト抗TSH受容体(TSHR)抗体(TRAb)の産生により、チロキシンホルモンの過剰産生が引き起こされる(90%を超える患者がTRAb+)(2)。現在の治療法は50年間も進歩しておらず、高い再発リスクや甲状腺機能低下症などの重篤な副作用によって制限されている。いくつかの実施形態では、バセドウ病に関連する標的タンパク質は、自己抗体結合TSHRαである。他の実施形態では、バセドウ病に関連する標的タンパク質はTSHRαである。
【0116】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、HER2、EGFR、HER3、VEGFR、CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、CCL2、CCR2 Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CSF-1R、SIRPα、LILRB1、LILRB2、LILRB3、LILRB4、CD38、CD73、TGF-βからなる群から選択されるタンパク質を含む。他の実施形態では、標的タンパク質は、TSHRα、MOG、AChR-α1、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、GPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン及びガングリオシドGM1、GD3、及びGQ1Bに結合する抗体を含む。
【0117】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質を肝細胞エンドソームに送達する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、標的タンパク質を肝細胞に送達する方法は、本明細書に開示される任意の標的タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する条件下で、標的タンパク質を、本明細書に開示される二機能性結合タンパク質のいずれかと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、標的タンパク質を肝臓常在性クッパー細胞(KC)及び/または肝臓類洞内皮細胞(LSEC)及び/または単球由来マクロファージ(MoMφ)などの肝マクロファージのエンドソームに送達する方法は、in vivoで行われる。いくつかの実施形態では、標的タンパク質をin vivoで肝細胞エンドソームに送達する様式は、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、経皮注射または筋肉内注射を含む。いくつかの実施形態では、標的タンパク質を肝細胞エンドソームに送達する方法は、エクスビボで行われる。
【0118】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質を分解する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、標的タンパク質を分解する方法は、宿主細胞による本明細書に開示される標的タンパク質のいずれかの分解を媒介する条件下で、標的タンパク質を、本明細書に開示される二機能性結合タンパク質のいずれかと接触させることを含む。いくつかの実施形態では、分解はリソソーム分解である。いくつかの実施形態では、分解は、エンドサイトーシスまたはファゴサイトーシスによって媒介される。いくつかの実施形態では、分解は、本明細書に開示されるあらゆる第2の部分を除くグリカンを含む二機能性結合タンパク質によって媒介される分解よりも、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、15倍、18倍、20倍、25倍、または30倍高い。他の実施形態では、二機能性結合タンパク質は、本明細書に開示されるあらゆる第2の部分を除くグリカンを含む二機能性結合タンパク質の存在下での標的タンパク質の分解と比較して、開示された標的タンパク質のいずれかの分解を増強する。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、骨髄細胞、免疫細胞、内皮細胞、実質細胞または上皮細胞を含むがこれらに限定されない任意の宿主細胞である。いくつかの実施形態では、免疫細胞は、樹状細胞、マクロファージ、単球、ミクログリア細胞、顆粒球またはBリンパ球であり得る。
【0119】
いくつかの実施形態では、マンノース3分解は、エンドサイトーシス受容体の関与により最適である。いくつかの実施形態では、マンノース3媒介分解を介して標的タンパク質を分解する方法は選択的である。いくつかの実施形態では、マンノース3分解は、循環から炎症性サイトカインを除去し、不要な血液因子を除去し、自己抗体を除去し、細胞表面受容体を除去する。
【0120】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質の分解を媒介する二機能性結合タンパク質は、本明細書に開示されるエンドサイトーシス受容体のいずれかによるMan3GlcNAc2の認識を介して、TGF-βを捕捉し、リソソーム中でTGF-βを分解するMan3GlcNAc2を含む抗TGF-βモノクローナル抗体である。このアプローチは、がん治療のために細胞表面のNotchなどの受容体を枯渇させるのに応用できる。
【0121】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、がんにおいてアップレギュレートされるタンパク質である。いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、がんの進行に関与するタンパク質である。本明細書で提供される二機能性結合タンパク質によって結合され得る、がんにおいてアップレギュレートされる、またはがんの進行に関与する標的タンパク質の例としては、HER2、EGFR、HER3、VEGFR、CD20、CD19、CD22、αvβ3インテグリン、CEA、CXCR4、MUC1、LCAM1、EphA2、PD-1、PD-L1、TIGIT、TIM3、CTLA4、VISTA、Notch受容体、EGF、c-MET、CCL2、CCR2、Frizzled受容体、Wnt、LRP5/6、CSF-1R、SIRPα、LILRB1、LILRB2、LILRB3、LILRB4、CD38、CD73、TGF-β、ボンベシンR、CAIX、CD13、CD44v6、CXCR4、ErbB-2、Her2、エムプリン、エンドグリン、EpCAM、EphA2、FAP-α、葉酸R、GRP78、IGF-1R、マトリプターゼ、メソテリン、sMET/HGFR、MT1-MMP、MT6-MMP、Muc-1、PSCA、PSMA、Tn抗原、及びuPARが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、自己免疫疾患に関連するような自己抗体である。本明細書で提供される二機能性結合タンパク質によって結合され得る自己抗体の例としては、MOG、TSHRα、AChR-α1に対する自己抗体、IV型コラーゲンのα3鎖の非コラーゲンドメイン1(α3NC1)、ADAMTS13、デスモグレイン-1/3、またはGPIb/IX、GPIIb/IIIa、GPIa/IIa、NMDA受容体、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、アンフィフィシン及びガングリオシドGM1、GD3、GQ1Bが挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)においてアップレギュレートまたは発現されるタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、標的タンパク質は、腫瘍促進性TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される。TAMでアップレギュレートまたは発現される標的タンパク質の例としては、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、またはCXCR4(7)が挙げられる。他の実施形態では、標的タンパク質は、CCL2、CXCL12、CSF-1、またはCD47(7)を含む。参考文献(7)に記載されているように、これらの標的は、特にTAMの動員とプログラミングを促進することにより、腫瘍促進性TAMの促進に役割を果たす。
【0124】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される二機能性結合タンパク質のいずれかを使用してTAMを再プログラミングする方法が本明細書で提供される。参考文献(7)に記載されているように、TAMの再プログラミングは、マクロファージ受容体を標的にして阻害し、腫瘍形成促進性TAMを抗腫瘍形成性TAMに再プログラミングすることを含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される二機能性結合タンパク質のいずれかを使用してTAMを枯渇させる方法が本明細書で提供される。TAMの枯渇は、増殖に重要な受容体を標的とすることによって発生し得る。これらの受容体を標的にすると、腫瘍形成促進性TAMのアポトーシスを促進することができる。さらなる実施形態では、本明細書に開示される二機能性結合タンパク質のいずれかを使用して、腫瘍微小環境へのTAMの動員を阻害する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、TAMを再プログラミングし、枯渇させ、または動員を阻害する方法は、開示された二機能性結合タンパク質のいずれかを使用して、TAMによってアップレギュレートまたは発現される標的を分解することを含む。いくつかの実施形態では、TAMにおいてアップレギュレートまたは発現される標的タンパク質は、SIRPα、CCR2、CSF-1R、LILRB1、LILRB2、VEGF-R、またはCXCR4を含む。他の実施形態では、TAMに関連する標的タンパク質は、CCL2、CXCL12、CSF-1またはCD47を含む。
【0125】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される二機能性結合タンパク質、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物が本明細書で提供される。
【0126】
いくつかの実施形態では、患者において疾患を治療または予防する方法であって、本明細書に記載される二機能性結合タンパク質または本明細書に記載される医薬組成物を患者に投与することを含む方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、疾患は、自己免疫疾患、がんまたは腫瘍、肝疾患、炎症性障害、または血液障害である。いくつかの実施形態では、自己免疫疾患は、バセドウ病、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体関連疾患(MOGAD)、膜性腎症、重症筋無力症、抗GBM疾患、免疫性血栓性血小板減少性紫斑病、尋常性後天性天疱瘡、免疫性血小板減少症、及びギランバレー症候群から選択される。いくつかの実施形態では、がんまたは腫瘍は、乳癌、結腸直腸癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、肝細胞癌、ならびに血液T細胞及びB細胞悪性腫瘍から選択される。
【0127】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される疾患を治療または予防する方法は、本明細書に記載される二機能性結合タンパク質または本明細書に記載される医薬組成物の静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射、経皮注射、または筋肉内注射を含む投与ステップを含む。
【0128】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される疾患を治療または予防する方法は、異なるグリコシル化プロファイルを有する同じ抗体と比較して同じ効果を達成するために、より低い用量及び/またはより低い投与頻度を必要とし、及び/または長期間(少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは少なくとも12ヶ月、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは少なくとも10年)にわたって投与することができ、及び/または患者において二機能性結合タンパク質に対する免疫応答を誘発しない。
【0129】
いくつかの実施形態では、本開示の二機能性結合タンパク質を含むキットが本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、キットは、二機能性分子または医薬組成物を、それを必要とする個体に投与するための説明書をさらに提供する。
【0130】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物は、単一剤形、例えば、本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の単一剤形で投与することができる。
【0131】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の好適な用量は、治療効果をもたらすのに有効な最低用量に対応する量である。例えば、抗TSH受容体抗体の有効量は、バセドウ病に罹患している対象のTSH活性を阻害する量とすることができる。
【0132】
いくつかの実施形態では、患者に投与される本明細書に記載の二機能性結合タンパク質の量は、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質のグリコシル化プロファイルを有しないかまたはそれとは異なるグリコシル化プロファイルを有する同じ二機能性結合タンパク質の医薬品のラベルに記載されている量よりも少ない。
【0133】
いくつかの実施形態では、一定期間にわたって患者に投与される本明細書に記載の二機能性結合タンパク質の蓄積量は、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質のグリコシル化プロファイルを有しないかまたはそれとはとは異なるグリコシル化プロファイルを有する同じ二機能性結合タンパク質の医薬品のラベルに示される蓄積量よりも少ない。いくつかの実施形態では、低減した蓄積量は、低減した頻度で低減した用量で投与され得る。いくつかの実施形態では、低減した蓄積量は、低減した頻度で標識中の用量と同じまたはそれよりも高い1つ以上の用量で投与され得る。いくつかの実施形態では、低減した蓄積量は、ラベル中の頻度と同じまたはそれよりも高い頻度で1つ以上の低減した用量で投与され得る。いくつかの実施形態では、低減した蓄積量は、医薬製品が治療または予防において同じレベルの効果を達成する期間よりも短い期間にわたって投与され得る。
【0134】
いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、約1~150mg、約5~145mg、約10~140mg、約15~135mg、約20~130mg、約25~125mg、約30~120mg、約35~115mg、約40~110mg、約45~105mg、約50~100mg、約55~95mg、約60~90mg、約65~5mg、約70~80mg、または約75mgであり得る。いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、約5~約80mgであり得る。いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、約25~約50mgであり得る。いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、約15mg~約35mgであり得る。
【0135】
いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、40mg以下、例えば、40mg、35mg、30mg、25mg、20mg、18mg、15mg、12mg、10mg、7mg、5mg、及び2mgであり得る。いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、80mg以下、例えば、80mg、75mg、70mg、65mg、60mg、55mg、50mg、45mg、40mg、35mg、30mg、20mg、15mg、10mg、5mg、及び2mgであり得る。いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、160mg以下、例えば150mg、140mg、130mg、120mg、110mg、100mg、90mg、80mg、75mg、70mg、65mg、60mg、55mg、50mg、45mg、40mg、35mg、30mg、20mg、15mg、10mg、5mg、及び2mgであり得る。いくつかの実施形態では、患者に投与される単回用量中の本明細書に記載される二機能性結合タンパク質の量は、160mg以上、例えば、170mg、180mg、200mg、250mg、及び300mgであり得る。
【0136】
いくつかの実施形態では、本開示の二機能性結合タンパク質は、1週間おき、すなわち、14日毎である頻度で投与することができる。いくつかの実施形態では、本開示の二機能性結合タンパク質は、14日毎よりも低い頻度、例えば、半月毎、21日毎、毎月、8週間毎、隔月、12週間毎、3ヶ月毎、4ヶ月毎、5ヶ月毎、または6ヶ月毎に投与することができる。いくつかの実施形態では、本開示の二機能性結合タンパク質は、14日毎と同じまたはそれよりも高い頻度、例えば、14日毎、10日毎、7日毎、5日毎、1日おき、または毎日投与することができる。
【0137】
いくつかの実施形態では、本開示の二機能性結合タンパク質の投与は、以下の用量、例えば、以下の維持用量よりも高い導入量を含むことができる。いくつかの実施形態では、本開示の二機能性結合タンパク質の投与は、導入量よりも低くかつ以下の維持用量よりも高い第2の用量を含むことができる。いくつかの実施形態では、本開示の二機能性結合タンパク質の投与は、治療期間全体を通してすべての用量で同じ量の二機能性結合タンパク質を含むことができる。
【0138】
本明細書で提供される二機能性結合タンパク質を生成する方法は、当技術分野でよく知られている。本明細書で提供される二機能性結合タンパク質を生成する例示的な方法は、国際特許出願公開WO2019/002512、WO2021/140143、WO2021/140144、及びWO2022/053673に記載されており、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれ、本明細書において例示され、そのうちのいずれか1つが、本明細書で提供される二機能性結合タンパク質を生成するために使用され得る。例えば、当業者は、既知のタンパク質(例えば、モノクローナル抗体)、及び新たに特定されたタンパク質(例えば、モノクローナル抗体)の核酸配列が、当該技術分野で既知の方法を使用して容易に推論され得ることを容易に理解し、よって、任意の二機能性結合タンパク質をコードする核酸を本明細書で提供される宿主細胞に(例えば、発現ベクター、例えば、プラスミド、例えば、相同組換えによる部位特異的組み込みを介して)導入することは、十分に当業者の能力の範囲内であろう。
【0139】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の二機能性結合タンパク質を含むLeishmania宿主細胞が本明細書で提供される。そのような宿主細胞は、いくつかの実施形態では、Leishmania tarentolaeである。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania aethiopica細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania aethiopica種複合体の一部である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania aristidesi細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania deanei細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania donovani種複合体の一部である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania donovani細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania chagasi細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania infantum細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania hertigi細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania major種複合体の一部である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania major細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania martiniquensis細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania mexicana種複合体の一部である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania mexicana細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania pifanoi細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania tropica種複合体の一部である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、Leishmania tropica細胞である。
【0140】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のLeishmania宿主細胞を培養することと、二機能性結合タンパク質を単離することとを含む、二機能性結合タンパク質を作製する方法が本明細書で提供される。
【0141】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法によって産生される二機能性結合タンパク質が本明細書で提供される。Leishmania宿主細胞を産生する方法、及びそのような宿主細胞を使用して二機能性結合タンパク質を産生する方法は、当技術分野でよく知られている。例示的な方法は、国際特許出願公開WO2019/002512、WO2021/140143、WO2021/140144及びWO2022/053673に記載されており、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれ、本明細書において例示され、そのうちのいずれか1つが、Leishmania宿主細胞を生成し、ここで提供される二機能性結合タンパク質を産生するために使用され得る。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載される宿主細胞は、すべて5μg/mlのヘミンを含有する、ブレインハートインフュージョン、トリプチケースソイブロス、または酵母エキスのような富栄養培地中での増殖が挙げられるが、これに限定されない、当該技術分野で既知の標準的な培養技法のいずれかを使用して培養される。追加的に、インキュベーションは、2~3日にわたって静置または振盪培養物として暗所において26℃で行うことができる。いくつかの実施形態では、宿主細胞の培養物は、適切な選択的薬剤を含有する。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるモノクローナル抗体は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及び混合モードクロマトグラフィーを含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られている標準的な精製技術のいずれかを使用して宿主細胞培養上清から精製される。
【0142】
いくつかの実施形態では、N-グリコシル化部位は、N結合型グリコシル化コンセンサス配列である。特定の実施形態では、N結合型グリコシル化コンセンサス配列は、1つ以上のアスパラギン残基であり得る。さらなる実施形態では、N結合型グリコシル化コンセンサス配列は、標準コンセンサス配列N-X-S/T、N-X-Cモチーフ、及び非標準コンセンサスモチーフ内に入る1つ以上のアスパラギン残基であり得る。
【0143】
いくつかの実施形態では、N-グリコシル化部位は、二機能性タンパク質に操作される。いくつかの実施形態では、N-グリコシル化部位は、二機能性タンパク質の配列にN結合型グリコシル化コンセンサス配列を挿入することにより導入され得る。いくつかの実施形態では、N結合型グリコシル化コンセンサス配列をコードする1つ以上の配列は、二機能性タンパク質配列に1つ以上の部位で挿入され得る。いくつかの実施形態では、N結合型グリコシル化コンセンサス配列の挿入は、分子生物学の技法、例えば、DNAクローニング、DNAの抽出、細菌形質転換、トランスフェクション、染色体組み込み、細胞スクリーニング、細胞培養、DNA塩基配列決定法、DNA合成、及び分子ハイブリダイゼーションにより行われ得る。いくつかの実施形態では、N-グリコシル化部位は、ヌクレアーゼを用いた精密な遺伝子編集ツール、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及びクラスター化され規則的に間隔があいた短い回文構造の繰り返し/標的化Cas9エンドヌクレアーゼ(CRISPR/Cas9)により導入され得る。
【0144】
いくつかの実施形態では、二機能性タンパク質は抗体である。いくつかの実施形態では、N結合型グリコシル化コンセンサス配列は、抗体のFab上の1つ以上の部位に導入され得る。いくつかの実施形態では、N結合型グリコシル化コンセンサス配列は、抗体のFc上の1つ以上の部位に導入され得る。
【0145】
いくつかの実施形態では、二機能性タンパク質は、糖鎖部位の数を変化させ、したがって、それぞれの条件について効力及び動態を最適化させることによって条件に合わせて調整される。特定の実施形態では、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の糖鎖部位は、抗体のFabまたはFcへと操作される。特定の実施形態では、1つのFab上にMan3グリカンを提示する1つの操作された糖鎖部位は、効力及び動態が低いマクロファージ内部移行を示し、1つのFab上にMan3グリカンを提示する2つ、3つ、4つ、または5つの操作された糖鎖部位は、効力または動態が速いマクロファージ内部移行を示す。特定の実施形態では、1つのFab上にM3グリカンを提示する1つの操作された糖鎖部位は、効力または動態が低い標的タンパク質分解を示し、1つのFab上にM3グリカンを提示する2つ、3つ、4つ、もしくは5つの操作された糖鎖部位は、効力または動態が速い標的タンパク質分解を示す。いくつかの実施形態では、二機能性タンパク質は、Man3グリカンとは異なる糖鎖部位を含む。
【0146】
Man3担持タンパク質を作製する方法
組換えタンパク質を生成する方法は当該技術分野で知られている。宿主細胞のタンパク質にN-グリカンのバイオコンジュゲーションを行う方法もまた、当該技術分野で知られている。本明細書で提供される二機能性結合タンパク質を生成する例示的な方法は、国際特許出願公開WO2019/002512、WO2021/140143、WO2021/140144、及びWO2022/053673に記載されている。これらの公開に記載のN-グリコシル化の生合成経路は、本明細書に記載のMan3担持二機能性タンパク質を合成するために使用され得る。特定の実施形態では、N-グリコシル化は宿主細胞中で行われ、その結果、宿主細胞の分泌経路におけるMan3担持二機能性タンパク質の産生が得られる。特定の実施形態では、宿主細胞は、Leishmania宿主細胞であり得る。Man3グリコシル化二機能性タンパク質は、当該技術分野で知られている標準的精製技法のいずれかを使用して、細胞培養物からさらに精製される。
【0147】
本明細書で提供される二機能性タンパク質を生成する他の方法を使用することもできる。例えば、化学的結合または化学酵素的修飾を使用して、本明細書で提供される二機能性タンパク質を生成することができる。
【0148】
本発明のさまざまな実施形態の活性に実質的に影響を及ぼさない修飾はまた、本明細書で提供される本発明の定義内で提供されることが理解される。したがって、以下の例は、本発明を例示することを意図しているが、本発明を限定するものではない。
【実施例
【0149】
7.実施例
7.1 実施例1:Man3グリコシル化抗体は、効率的な内部移行及びリソソーム区画標的化をもたらす。
5人の健常ドナーからのPBMCを、標準的フィコール勾配法を使用してバフィーコートから採取した。CD14マイクロビーズ(Miltenyi ref.130-050-201)をメーカーの指示に従って使用して単球をPBMCから分離した。10%熱非働化ウシ胎児血清、1mMピルビン酸ナトリウム(Sigma、ref.S8636)、MEM非必須アミノ酸最終濃度1×(Sigma、ref.11140-03)、50ng/mlの組換えヒトGM-CSF(R&D Systems、ref.215-GM)及び20ng/mlの組換えヒトIL-4(R&D Systems、ref.204-IL)を添加したRPMI培養培地(Gibco、ref.21875-034)中で単球を6日間培養した。6日目における単球の未熟樹状細胞への分化を、マーカーであるCD14、CD1a、CD83、HLA-DRの染色を行ってフローサイトメトリーによって評価した。未熟樹状細胞が、CD14-/low CD1a+HLA-DR+CD83-/lowの表現型を提示することが確認された。
【0150】
抗体は以下のように調製した。モノクローナル抗TNFα抗体、HUMIRA(登録商標)(AbbVie)またはLeishmania tarentolae CGP(CustomGlycan Platform)由来のアダリムマブ変異体(A-S、A-M)、またはMabtheraを、ZebaSpinカラム(ThermoFischer、米国)を使用して30mM MES緩衝液pH6.5に再緩衝した。ガラクトシル化及びアルファ2,6-シアル化(H-S及びA-S変異体を生成するため)は、アプリケーションノートに従って、in vitroグリコシル化(IVGE、Roche Diagnostics)を使用し、37℃で穏やかに回転させながら1ポット反応で実行した。FPLC(Bio-Rad NGC、ドイツ)を使用し、メーカーの推奨に従って、プロテインAセファロース(MabSelectSuReまたはHiTrap MabSelect PrismAカラムGE Healthcare)を用いて反応混合物からグリコシル化mAbを精製した。その後、PD-10(Sephadex 25、Sigma、スイス)を使用した脱塩手順を実行し、PBS pH 6(137mM NaCl、2.7mM KCl、8.6mM NaH2PO4、1.4mM Na2HPO4、Sigma、スイス)への緩衝液交換を行った後、0.2μmPESフィルター(ThermoFisher、米国)を使用して滅菌濾過を行った。抗体の品質とグリコシル化を表1に示す。N-グリカンを、GlycoWorks RapiFluor-MS N-Glycan Kit(Waters、米国)を用いてメーカーの指示に従って分析し、またはPNGaseF放出グリカンのプロカインアミド(PC)標識によって分析した。さらなるN-グリカン分析のために、モノクローナル抗体を、IdeZでF(ab’)2及びFc/2に切断するか(IgG1の場合)、または重鎖と軽鎖にし(IgG4の場合)、SDS PAGE上で分離してバンドを切除し、モノクローナル抗体からのN-グリカンの酵素放出を、PNGase Fを使用して行った。放出後、グリカンをプロカインアミド(PC)で直接標識した。PC標識されたN-グリカンを、質量分析計に結合した蛍光検出でHILIC-UPLC-MSによって分析した。グリカンを、Acquity BEH Amideカラムを使用して分離した。データ処理及び分析は、Unifiを使用して行った。グルコース単位を、プロカインアミド標識デキストランラダーの保持時間に割り当てた。グリカン構造を、そのm/z値及びその保持時間に基づいて割り当てた。グリカン形態及び相対パーセンテージを、ピーク面積に基づいて計算した。SE-HPLC分析は、MabPac(ThermoFischer、米国)カラムで1μg/μLの濃度で行い、メーカーの指示に従って実行した。エンドトキシンレベルは0.2EU/mg(Endosafe(登録商標))未満であった。抗体は、pHrodo色素(pHrodo iFL Red STP Ester[アミン反応性]、ThermoFisher、ref.P36011)でメーカーの指示に従って標識した。表1は、使用した抗体によって提示される主なN-グリカン構造を示す。
【0151】
【表1】
【0152】
未熟樹状細胞を、10μg/mlで加えたpHrodo標識抗体とともに6時間インキュベートした。いくつかの条件では、pHrodo標識抗体の添加の30分前に、Fc受容体ブロッキング試薬(Human TruStain FcX、biolegend ref 640922)をメーカーの推奨に従って加えた。pHrodo標識抗体とのインキュベーションの6時間後、細胞をフローサイトメーターで取得し、pHrodo蛍光強度を記録した。pHrodoの蛍光は酸性pHにより活性化されるため、内部移行した分子が後期エンドソーム及びリソソームの区画に到達したことを示す。したがって、pHrodo蛍光強度は、内部移行し、リソソーム経路へルーティングされた分子の量と相関する。
【0153】
図1は、Man3アダリムマブ(A-M)が、異なるN-グリカンを提示するアダリムマブ変異体よりも顕著に内部移行されたことを示す。HUMIRA(登録商標)(H-M)及びシアル化HUMIRA(登録商標)(H-S)、ならびにシアル化(脱フコシル化)アダリムマブ(A-S)は、参照として使用された抗CD20抗体であるMabthera(MbT)と比較して、同様の低レベルの内部移行を示した。Mabtheraは、HUMIRA(登録商標)と同じ主要N-グリカン構造(A2F)を表示する。これは、抗体によって提示されるMan3グリカンが、内部移行、及び内部移行した抗体のリソソーム分解へのターゲティングをもたらすことを示す。この内部移行は、脱フコシル化されているがシアル化はされていないアダリムマブ(A-S)がHUMIRA(登録商標)またはMabtheraよりも内部移行されてはいなかったことから、脱フコシル化に依存するものではなかった。Man3-抗体のこの内部移行及び は、Fc受容体のブロッキングによりA-M抗体の内部移行が減少しなかったことから、これらの受容体とは独立したものである。これらのデータは、Man3構造と結合する特定の受容体が、樹状細胞によって発現されて、効率的なエンドサイトーシス及びリソソーム分解経路へのルーティングを媒介することを示す。
【0154】
7.2 実施例2:Man3グリコシル化Fab抗体は、ヒトマクロファージで効率的な内部移行及びリソソーム標的化をもたらす。
抗体は、pHrodo色素(pHrodo iFL Red STP Ester[アミン反応性]、ThermoFisher、ref.P36011)でメーカーの指示に従って標識した。pHrodoの蛍光は低pHで活性化されるため、タンパク質の内部移行とリソソーム経路へのターゲティングを可視化することができる。
【0155】
各抗体のpHrodo標識度(DOL)は次のように決定された。抗体を変性緩衝液で1:2に希釈し、Nanodropを使用して280nm及び560nmの波長(A280及びA560)で分析した。タンパク質濃度とpHrodo DOLは次のように計算された。
【0156】
【数1】
【0157】
【数2】
【0158】
MWは使用した抗体の分子量:144000g/Molである。λmaxは560nmで測定された吸光度である。ε色素は吸光係数:65000M-1cm-1である。希釈倍率は2である。
【0159】
この実験で使用した抗体を、FcまたはFab部分上のそれらの主要N-グリカン構造とともに表2に示す。ヒト供血者からの末梢血単核細胞(PBMC)を、標準的フィコール勾配法を使用してバフィーコートから採取した。単球を、EasySepヒト単球分離キット(StemCell ref.19359)を使用してPBMCから分離した。単球を組織培養皿(Falcon、ref.353003)にマクロファージ分化培地中5×10細胞/mlにて播種した。マクロファージ分化培地は、L-グルタミン(Sigma、R8758)、10%ウシ胎児血清(FBS、PanBiotech、P305500)、1%Pen/Strep(Sigma、P4333)、50ng/ml hM-CSF(Peprotech、300-25)を添加したRPMI-1640であった。細胞を細胞培養インキュベーター内で37℃、5%COでインキュベートした。3日目に、細胞培養培地の半分を新鮮なマクロファージ分化培地で置き換えて交換した。合計6~7日の分化後、マクロファージを回収した。細胞培養プレートをPBS1×(Sigma、D8537)ですすぎ、PBS1×+1mM EDTA(Invitrogen、15575-020)中で氷上にて15分間インキュベートした。マクロファージを、細胞擦過及びピペット操作によって回収した。
【0160】
【表2】
【0161】
マクロファージの表現型を、CD1a、CD14、CD206及びCD163の染色を行ってフローサイトメトリーにより確認した。細胞の少なくとも90%がCD14+ CD206+ CD163+であり、マクロファージが適切に分化していることが確認された。
【0162】
マクロファージを内部移行培地に再懸濁し、96ウェル平底細胞培養プレートに10細胞/ウェルにて総体積0.1mlで播種した。内部移行培地は、2%FBSを添加したL-グルタミン含有RPMI-1640である。マクロファージを、プールされたヒト免疫グロブリン(IVIg、薬局から入手したHizentra)とともに2mg/mlの最終濃度にて37℃で30分間プレインキュベートしてからpHrodo標識抗体を1μg/mlの最終濃度で加えた。マクロファージを、pHrodo-抗体+IVIgとともに37℃で3時間インキュベートした。その後、細胞培養物を洗浄し、トリプシン処理を使用してマクロファージを回収し、直ちにフローサイトメーターで取得した。
【0163】
標準的なフローサイトメトリーソフトウェアを使用して、ゲートされた単一細胞集団に対するpHrodoの平均蛍光強度(MFI)を分析した。MFI値はpHrodo DOLに調整された。その後、調整MFI値を、各ドナーについて、Humira(登録商標)(アダリムマブ)(H-A2F)を基準として正規化した。図2は、マクロファージの内部移行データを示す。Mabthera(リツキシマブ)(M-A2F)及びHumira(登録商標)(H-A2F)の内部移行は同様であった。Fc部分上にM3グリカンを提示するアダリムマブ変異体(A-M3)もまた、Humira(登録商標)及びMabtheraと同様に内部移行した。Humira(登録商標)及びA-M3(PNGase)の脱グリコシル化は、約60%の内部移行減少をもたらした。脱グリコシル化は、Fcガンマ受容体の相互作用及びN-グリカン受容体の相互作用を破壊し、そのため、ベースラインの内部移行レベルを示す。Humira(登録商標)及びMabtheraは、マクロファージ上のFcガンマ受容体により内部移行された。対照的に、Fab部分上にM3グリカンを提示するA8486-M3変異体は、全ドナーで、マクロファージに高レベルで内部移行された。A8486-M3の内部移行は、ドナーに応じて、Humira(登録商標)ベースラインよりも17~39倍高かった。Fab部分上に70%のシアル酸末端Nグリカンを有するA8486-A2G2S2変異体はまた、Humira(登録商標)ベースラインよりも6倍効率的に内部移行された。
【0164】
これらの結果は、抗体のFab部分上に提示されるM3グリカンが、ヒトマクロファージによる強力な内部移行及びリソソーム経路へのターゲティングをもたらすことを示す。Man3媒介性リソソーム標的化は、シアル酸媒介性リソソーム標的化よりも強力であった。これらのデータはまた、Man3グリカンの位置により効率的な内部移行が可能になることも示す。Fab Man3グリカンはヒトマクロファージによる効率的な内部移行をもたらす。
【0165】
7.3 実施例3:Man3グリコシル化Fab抗体は、ヒト樹状細胞における効率的な内部移行及びリソソーム標的化をもたらす。
2人のヒト供血者からの末梢血単核細胞(PBMC)を、標準的フィコール勾配法を使用してバフィーコートから採取した。EasySepヒト単球分離キット(Stemcell ref.19359C)をメーカーの指示に従って使用して単球をPBMCから分離した。
【0166】
精製した単球を樹状細胞分化培地に再懸濁し、T75細胞培養フラスコ内に3×10細胞/cmにて播種した。樹状細胞分化培地には、L-グルタミン(Sigma、R8758)、10%ウシ胎児血清(FBS、PanBiotech、P305500)、1%Pen/Strep(Sigma、P4333)、50ng/ml(500U/ml)rhGM-CSF(Peprotech、300-03-20UG)、50ng/ml rhIL-4(Peprotech、200-04-20UG)を添加したRPMI-1640が含まれた。細胞を37℃、5%COで3日間インキュベートした。3日目に、培養培地の半分を新鮮な樹状細胞分化培地で置き換えた。5日目、培地を、50ng/mlのTNFα(Peprotech、AF-300-01A)ならびに10ng/mlのIL-1β(Peprotech、200-01B-10UG)及びIL-6(Peprotech、200-06-5UG)を添加した新鮮な樹状細胞分化培地に置き換えた。細胞をさらに2日間さらに培養した(総分化時間は7日)。細胞培養物を洗浄し、PBS0.02%EDTA中で氷上にて30分間インキュベートした。接着細胞をピペット操作で採取し、PBSで洗浄した。
【0167】
樹状細胞分化は、以下の抗体:Alexa Fluor647 抗ヒトCD163(Biolegend 333619、1:200)、PerCP/Cyanine5.5 抗ヒトCD1a(Biolegend 300129、1:200)、PE抗ヒトCD14(Biolegend 301805、1:400)、Alexa Fluor488 抗ヒトCD206(Biolegend 321113、1:200)を使用しCD1a、CD14 CD206及びCD163の染色を行い、フローサイトメトリーによって確認した。両ドナーとも、CD1a+及びCD206+により評価されるように、少なくとも80%の分化樹状細胞を示した。
【0168】
pHrodoで標識した抗体を実施例IIに記載のように調製した。抗体及びそれらのグリカン構造及びpHrodo DOLは表2に記載されている。
【0169】
樹状細胞を平底96ウェルプレートに0.5×10細胞/ウェルで播種した。樹状細胞を、1mg/mlのIVIg(Hizentra、薬局から入手)とともに37℃で30分間プレインキュベートしてからpHrodo標識抗体を10μg/mlの最終濃度で加えた。樹状細胞を抗体とともに6時間インキュベートした。その後、細胞を回収し、フローサイトメーターで取得した。
【0170】
フローサイトメトリーのデータを、標準的なフローサイトメトリーソフトウェアを使用して分析した。効率的な内部移行が行われた細胞のパーセンテージを、図3Aに示すように、pHrodo内部移行が高レベルの細胞をゲーティングすることにより定義した(高pHrodo集団)。図3Bは、試験した異なる糖鎖変異体の高pHrodo細胞のパーセンテージを示す。データは、Humira(登録商標)(H-A2F)及びMabthera(M-A2F)は低効率で樹状細胞により内部移行されたが、A8486-M3変異体は高度に内部移行されたことを示す。A-M3変異体は、Humira(登録商標)またはMabtheraよりも高いが、A-8486-M3変異体より明らかに劣る内部移行を示した。興味深いことに、A8486-A2G2S2変異体は低い内部移行を示した。
【0171】
全体として、実施例I~IIIのこれらのデータは、マクロファージ及び樹状細胞のいずれについても、Humira(登録商標)及びMabthera(A2F構造)に代表される標準的IgG抗体により提示される古典的グリカン構造と比較して、Man3グリカンが強力な内部移行及びリソソームへのターゲティングをもたらすことを示す。これらのデータはまた、Man3グリカンの位置を選択することにより、特に効率的な内部移行がもたらされ得ることも示す-Fab断片上に提示されたMan3グリカンは、Fc断片上(カノニカルN297上)のMan3グリカンよりもはるかに強力な内部移行をもたらした。最後に、これらのデータは、グリカン構造が異なれば、標的化する細胞型ならびに内部移行及び分解の効率が異なってくることを強調している。シアル化グリカンはマクロファージにより内部移行されるが、樹状細胞では内部移行されない。したがって、グリカン構造、及びその位置を適応させることにより、タンパク質を特定の細胞型に導き、したがって、内部移行及び分解の効力、ならびにタンパク質分解の機能的結果を調節することが可能である。
【0172】
7.4 実施例4:ヒトマクロファージにおけるMan3グリコシル化Fab抗体の内部移行及びリソソーム標的化は、マンノース受容体によって媒介され、提示されるMan3の負荷によって調節される。
Fab上にMan3グリカンを提示する抗体の内部移行が、提示されるMan3の量によって調節されるのかどうかを評価するため、Fab断片に1つ、2つまたは3つの糖鎖部位が挿入された糖鎖変異体を使用して実験を行った。抗体を精製し、実施例Iに記載のようにpHrodoで標識した。表3は、本試験の対象となった抗体の特性を示す。すべての抗体は、サイズ排除HPLC法による評価で凝集レベルが5%未満、還元ポリアクリルアミドゲル電気泳動分析による評価で94%超の純度を示し、エンドトキシンレベルが1EU/mg(LALアッセイ)未満であった。グリカン及びタンパク質の分析方法は実施例Iに記載されている。
【0173】
【表3】
【0174】
ヒト単球由来M2マクロファージを実施例IIに記載のように生成した。マクロファージの表現型を、CD1a、CD14、CD206及びCD163の染色を行ってフローサイトメトリーにより確認した。典型的には、マクロファージの純度は80%超であり、CD206+マクロファージの平均パーセンテージは80%超であった(図5)。
【0175】
マクロファージを内部移行培地に再懸濁し、96ウェル平底細胞培養プレートに10細胞/ウェルにて総体積0.1mlで播種した。内部移行培地は、2%FBSを添加したL-グルタミン含有RPMI-1640である。マクロファージを、プールされたヒト免疫グロブリン(IVIg、薬局から入手したHizentra)とともに2mg/mlの最終濃度にて37℃で30分間プレインキュベートしてからpHrodo標識抗体を1μg/mlの最終濃度で加えた。マクロファージをpHrodo-抗体+IVIgとともに37℃で3時間または24時間インキュベートした。いくつかの条件では、pHrodo標識抗体の添加前に、マクロファージをマンナンとともに1mg/mlで30分間インキュベートした。その後、細胞培養物を洗浄し、トリプシン処理を使用してマクロファージを回収し、直ちにフローサイトメーターで取得した。標準的なフローサイトメトリーソフトウェアを使用して、ゲートされた単一細胞集団に対するpHrodoの平均蛍光強度(MFI)を分析した。MFI値をpHrodo DOLに調整して、調整MFI値を生成した。アダリムマブ変異体(A-84及びA-84.86)の調整MFIを、H-A2Fリファレンスに合わせて正規化した(正規化MFI)。5C9-84.86.162-M3の調整MFIを、5C9-IgG4-A2F非改変参照抗体を基準として正規化した。
【0176】
図6及び表4は、調整MFIデータを示す。3時間後、A-84.86-M3は、H-A2Fリファレンスよりも高い内部移行を示した。同様に、5C9-84.86.162-M3は、5C9-A2Fリファレンスよりも高い内部移行を示した。H-A2F抗体及び5C9-A2F抗体は、非常に類似した内部移行ベースラインを示し、IgG1(アダリムマブ)またはIgG4アイソタイプ(5C9)が、これらの条件においては、マクロファージによる内部移行のベースラインに大きく影響しないことを示している。これらのデータは、抗体により提示されるM3グリカンの負荷と内部移行の効力との間に相関の傾向があることを示しており、Fabあたりの改変糖鎖部位が1つであるA-84-M3は最も低い内部移行を示したが、Fabあたりの改変糖鎖部位が3つある5C9-84.86.162-M3は最も高い内部移行を示した。これらのデータ及び実施例IIからのデータは、ヒト単球由来M2マクロファージによるA-8486-M3の内部移行の効力がH-A2Fと比べて2~20倍超の範囲であったことを示し、ドナーによって効力のばらつきが生じることを示している。3時間目、非M3抗体(A-84.86-A2G2、A-84.86-A2及びA-84.86-A2GalNAc2)のいずれも、H-A2Fよりも多い取り込みを示さなかった(図6A)ことから、マクロファージが極めて選択的にMan3提示抗体を内部移行させることを示している。重要なことには、A-8486-M3の内部移行が、マンノース受容体競合リガンドであるマンナンを1mg/ml(Sigma、ref.M7504)で添加したことにより減少したが、H-A2Fの取り込みはマンナンによる影響を受けなかった(表4)。これらのデータは、M2マクロファージによるM3抗体の内部移行がマンノース受容体(CD206)によって媒介されることを示す。24時間目、内部移行のレベルは高くなっており、内部移行のサイクルの累積によるpHrodoシグナルの蓄積と一致した。興味深いことに、A-84-M3を含め、すべてのM3抗体が、H-A2F及び5C9-IgG4-A2Fのベースラインよりも高い内部移行を示し、糖鎖部位が1つでも操作されたM3 Fab抗体は特異的に認識されて、M2マクロファージに内部移行できることを示している(図6B)。A-8486-A2G2抗体はまた、24時間において、H-A2Fと比較してかろうじて(ただし、統計学的には有意に)内部移行された。
【0177】
【表4】
表4は、2人のマクロファージドナーからの、指定された条件についての平均正規化pHrodo MFIを示す。マクロファージを、マンナンを含む場合、または含まない場合で、pHrodo標識抗体とともに24時間インキュベートした。
【0178】
7.5 実施例5:Man3グリコシル化Fab抗体は、血中循環抗原をin vivoで強力に枯渇させる。
CGPで産生され、かつMan3末端グリカン(M3構造)を提示する抗体の循環細胞外抗原枯渇能力を評価するために、ラットを用いた実験が計画された。ラットに抗原と、Fab上にM3グリカン構造を提示する抗体、または抗原に特異的な対照抗体を注射した。末梢血コンパートメントからの抗原の枯渇の程度を測定するために、処置動物の血清中の循環抗原のレベルを経時的に定量した。表5は、本試験の対象となった抗体の特性を示す。すべての抗体は、サイズ排除HPLC法による評価で凝集レベルが5%未満、還元ポリアクリルアミドゲル電気泳動分析による評価で94%超の純度を示した。すべての糖鎖改変抗体は、抗原「HCA202」への高い結合性を保った。
【0179】
【表5】
【0180】
実験開始時に180~220gのWistar雌ラット(Janvier Labs, St Berthevin,フランス,ref.RjHan:WI)に、抗アダリムマブFab断片HCA202(Biorad、ref.HCA202)(抗原)を0.5mg/kg用量、0.5ml/ラットで静脈内ボーラス注射した。HCA202化合物は、注入前にPierce(商標) High Capacity Endotoxin Removal Spin Columns(Thermofisher、ref.88274)を使用したエンドトキシン除去ステップに供された。15分後、ラットに抗体(表4及び表5)またはPBSを注射した。血液サンプルは、抗体注射後15~30分、1時間、6時間及び24時間の時点で穿刺により頚静脈から採取した。48時間後に終末血液サンプルを腹部大動脈から採取した。血液サンプルを室温で30分間凝固させた後、遠心分離して血清を採取した。
【0181】
総HCA202レベル(結合抗体+遊離HCA202)をELISA法により測定した。抗Penta-His抗体(Qiagen、Ref.34660)を、コーティング緩衝液(PBS pH 7.4、最終組成:8mM Na-Phosphate、8mM K-Phosphate、0.15M NaCl、10mM KCl)中で、5μg/mlで96ウェルELISAプレート上に4℃で一晩コーティングした。HCA202は重鎖のC末端にヒスチジンタグを持っているため、この抗体は抗体結合及び遊離HCA202の捕捉を可能にする。プレートを洗浄緩衝液(PBST=0.05%v/v Tween-20を含むPBS)で3回洗浄した。ブロッキング緩衝液(PBST中2%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA))を各ウェルに添加し、プレートを室温で1~3時間インキュベートした。1:3希釈で500ng/mlから0.7ng/mlまでの7点検量線を別の希釈プレート上で作成した。そのために、希釈していない正常なラットのウィスター血清に5μg/mlのHCA202と3倍モル過剰のアダリムマブ(Humira)をスパイクした。スパイクした血清を室温で10分間インキュベートして、アダリムマブ/HCA202免疫複合体を形成した。スパイクされた血清を、希釈剤B(PBST中の2%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA))を添加することによって10倍(MRD10)に希釈した。免疫複合体標準曲線の1:3連続希釈は、希釈剤Bを使用して実行された。試験サンプルも同様に処理された。希釈剤Bを使用して、試験血清サンプルを希釈プレートで(MRD10サンプルを得るために)10倍に希釈した。標準検量線の線形範囲内にシグナルが収まるように、必要に応じてMRD10サンプルを希釈剤A(2%BSA+0.05%PBSTで希釈した1/10ウィスターラットのプール血清)でさらに希釈した。ブロッキング後、ELISAプレートを洗浄緩衝液で3回洗浄した。検量物質及び希釈した検体をELISAプレートに二重に添加し、室温で1時間インキュベートした。ELISAプレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、1000ng/mlのHumira溶液を各サンプルに添加した。ELISAプレートを室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄した。検出抗体溶液は、ヤギ抗ヒトカッパLC-HRP(Thermofisher、ref.A18853)を希釈液Bで1:5000に希釈して調製した。検出抗体溶液をELISAプレートに添加し、遮光して室温で1時間インキュベートした。次いで、ELISAプレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)基質を添加して、続いてHSOでクエンチすることによって明らかにした。ELISAプレートは、BioTek Synergy H1などのプレートリーダーで450及び650nMで読み取った。データ分析は、Gen5(Biotek)などの標準ソフトウェアを使用して行った。
【0182】
血清サンプル中の抗体レベルはELISA法により定量できる。このアッセイは、サンプル中に存在するアダリムマブ及びアダリムマブ変異体を捕捉するために、ヒトTNFαでコーティングするステップから構成される。検出は、抗ヒトガンマHC特異的HRPタグ付き検出抗体を介して実行できる。したがって、このアッセイでは遊離抗体(HCA202に結合していない少なくとも1つのFabアームを有する抗体)のみが定量される。簡単に言えば、組換えヒトTNF-α(Peprotech、ref.AF-300-01A)を96ウェルELISAプレート上に、通常1μg/mlでpH7.4のPBS中で4℃で一晩コーティングする。ブロッキング緩衝液、希釈緩衝液A及びB、及び洗浄緩衝液は、HC202 ELISAで使用したものと同じである。プレートを3回洗浄し、HCA202 ELISAに記載されているようにブロッキング緩衝液でブロックする。通常、1:3希釈で333.3ng/mlから0.5ng/mlまでの7点検量線は、希釈緩衝液Bで10倍希釈(最小必要な10倍希釈、MRD10)したプールしたウィスターラット血清に1μg/mlのアダリムマブをスパイクすることによって作成される。試験血清サンプルも希釈緩衝液Bで希釈する(最低MRD10サンプル)。希釈した検体と標準検量線サンプルをELISAプレートに移し、ブロッキングステップ後、室温で1時間インキュベートする。その後、プレートを3回洗浄し、検出抗体の溶液を添加する。検出抗体の溶液は、例えばヤギ抗ヒトIgG(γ鎖特異的)-HRP(Sigma、ref.A6029)抗体(通常希釈率1:10,000)を希釈緩衝液Bで希釈して調製することができる。ELISAプレートは検出抗体とともに遮光され、室温で通常1時間インキュベートする。次いで、プレートを3回洗浄し、HCA202 ELISAに記載されているようにTMB基質を添加することによって明らかにする。
【0183】
図7は、HCA202(抗原)レベルについて得られたデータを示す。表6は、HCA202枯渇データを示す。抗体を注射しなかった場合(PBS条件)、HCA202は、Fab断片で予想されるように、48時間かけてゆっくりと減衰する。H-A2F(非改変アダリムマブ、Humira(登録商標))の治療により、24時間及び48時間の時点でHCA202レベル増加がもたらされた。A-M3及びA-8486-A2G2S2で治療した場合も、PBS治療と比較してHCAレベル増加がもたらされた(PBSではCゼロから72%枯渇したのに対し、H-A2F、A-M3及びA-8486-A2G2S2では6時間で52~63%枯渇した)。Cゼロは、即時均一な全血分布を考慮した場合、注射直後に達成されるはずの血清中の(HCAの)理論的濃度である。これは、これらの抗体には枯渇作用がないことを示す。対照的に、露出したMan3グリカンを提示するA-84-M3及びA-8486-M3の注射では、非枯渇抗体及びPBSと比較して1時間ですでにHCA202の完全な枯渇がもたらされ(99%及び94%の枯渇)、6時間で検出不可能レベルであった(表6)。
【0184】
【表6】
【0185】
これらのデータは、Fab断片上にM3グリカンを表示する抗体が、非常に短時間で血液循環から循環抗原を除去する著しく高い効力を持つことを強調する。対照的に、Fc断片内に提示されたM3グリカンは、能動的枯渇を引き起こさない。
【0186】
7.6 実施例6:Man3グリコシル化Fab抗体は、in vivoで肝臓を標的とする。
マンノース末端グリカン(M3構造)を表示する抗体のin vivo分布を研究するために、M3または対照グリカンを表示する蛍光標識抗体を使用し、in vivo及びex vivoの断層撮影イメージングを用いた、マウスによる試験が設計された。
【0187】
抗体は、メーカーの指示に従って、CF750標識キット(Biotium、ref.92221)を使用して、1mg/mLで少なくとも1mLの体積で標識した。標識後、標識度(DOL)を測定した。DOLは2.7~5.2の範囲であったため、抗体は同様に標識されていると考えられた。実施例Vの表5は、本試験の対象となった抗体の特性を示す。実験開始の5~6週間目のSKH1免疫応答性ヘアレスマウス(Charles River Laboratories、ref.Crl:SKH1-hr)に、CF750標識抗体を5mg/kgの用量で(静脈内ボーラス)注射した。マウスは、FMT2500(商標)蛍光断層撮影in vivoイメージングをシステム(PerkinElmer)で使用して撮像し、当該システムは、2D表面蛍光反射率画像(FRI)と3D蛍光断層撮影(FMT)画像データセットの両方を収集した。FMT(NIR励起レーザー745nm/発光770~800nm)を用いて、各動物について背臥位で2回のスキャン(胸部領域+腹部領域)を0.25時間、1時間、3時間、6時間、24時間、48時間の時点で実行した。収集した蛍光データは、動物全身の3次元蛍光シグナルを定量化するために、FMT2500システムソフトウェア(TrueQuant V2.0、PerkinElmer)によって再構成された。胸部、腹部、肝臓領域に関連する生物学的領域を含む3次元の関心領域(ROI)が描出された。各ROIにおける標識抗体の量と用量のパーセンテージを各時点で決定した。6時間及び48時間の時点で、甲状腺(気管を含む)、肺、心臓、肝臓、脾臓、腎臓を摘出し、FMTイメージングに供した。
【0188】
図8は、各抗体の胸部及び肝臓ROIのFMT画像データを経時的に示す。表7は、採取された臓器の6時間後の取得されたFMT画像データを示す。非改変対照抗体のH-A2F(アダリムマブ、Humira(登録商標))は、肝臓領域に低レベルのシグナルが分布した分布プロファイルを示した。肝臓領域ではシグナルは時間の経過とともに増加しなかった(図8)。6時間の時点で、H-A2Fの注射用量の6%しか肝臓に存在しなかったが(表7)、他のすべての臓器で検出された。この分布パターンは、正常なヒトIgG及び広く分布し、依然として主に血液中に存在する抗体の特徴と一致している。抗体A-M3は、H-A2Fと同様の分布プロファイルを示し、広い臓器分布であった。A-8486-M3抗体は、肝臓領域への急速かつ優先的な分布を示した(図8)。6時間の時点で、A-8486-M3の注射用量の19%が肝臓に存在した(表7)。A-8486-M3抗体は甲状腺、肺、心臓、腎臓には存在せず、脾臓でのみ検出可能であった。この分布パターンは、血液中に存在しない抗体の特徴である。これは、A-8486-M3がM2マクロファージ上のマンノース受容体により内部移行され(実施例IV)、非常に迅速かつ強力な循環抗原の枯渇を示した(実施例V)ことを示すデータと一致する。これらのデータは、Fab断片にM3構造を提示する抗体がマンノース受容体(CD206)によって認識され、それが内部移行とリソソーム分解経路へのルーティングを引き起こすという仮定を支持している。
【0189】
【表7】
表は、6時間の時点で示された採取臓器に注入された蛍光団用量の平均(N=3)%を示す。
【0190】
本願を通して、さまざまな刊行物が参照されている。これらの刊行物の開示はそれらの全体が、本発明が属する最新技術をより詳細に説明するために本願で参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0191】
本発明は、上記で提供された例を参照しながら説明されてきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく、さまざまな修正を行うことができることを理解されるべきである。

参考文献
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図1
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【国際調査報告】