(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】実際の適用及び高感度測定用にパルスレーザー光を共振増強する方法及びレーザーパルス増強装置
(51)【国際特許分類】
H01S 3/05 20060101AFI20240319BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20240319BHJP
【FI】
H01S3/05
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558872
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2022057493
(87)【国際公開番号】W WO2022207410
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500449363
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フェルデルンク デル ヴィッセンシャフテン エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(72)【発明者】
【氏名】フィル、エルンスト
(72)【発明者】
【氏名】ヘーグナー、マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】クラウス、フェレンツ
(72)【発明者】
【氏名】プペツァ、ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ラーブ、アン-カトリーン
(72)【発明者】
【氏名】フォロニナ、リュドミラ
(72)【発明者】
【氏名】ジッグマン、ミハエラ
【テーマコード(参考)】
2G059
5F172
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE11
2G059GG01
2G059GG06
2G059HH01
2G059JJ01
2G059JJ13
2G059LL01
2G059MM01
5F172NR12
5F172ZZ04
(57)【要約】
エンハンスメントキャビティ20内でレーザーパルスをコヒーレント加算することによって、パルスレーザー光を受動的に増強する方法であって、繰り返し周波数frep、及び周波数コムライン間隔が繰り返し周波数frepと等しい周波数コムライン4を含む周波数コムスペクトル3を有する、シードレーザーパルス1のシーケンスを生成するステップと、シードレーザーパルス1を、第1の板状結合素子25を介して、金属表面を有し且つ共振器長Lのキャビティビーム経路26に広がる少なくとも2つのキャビティミラー21、22、23、24を含むエンハンスメントキャビティ(20)内に結合するステップであって、エンハンスメントキャビティ20は、基本横モードTEM00及び高次横キャビティモードTEMnmを有し、それぞれが、一連のキャビティ共振周波数5、及びキャビティオフセット周波数6を有する、ステップと、エンハンスメントキャビティ20におけるシードレーザーパルス1のコヒーレントな重ね合わせによって、キャビティ長毎に少なくとも1つの増強された循環するキャビティパルス2が生成される、ステップとを含み、周波数コムスペクトル3は、消失しているシードコムオフセット周波数を伴う高調波コムスペクトル3であり、エンハンスメントキャビティ20は、循環するキャビティパルス2の往復キャリアエンベロープ位相ずれが、基本横モードTEM00に対して360°/Nと等しくなるように調節され、Nは、2以上の整数であり、周波数コムスペクトル3に沿って、複数の周波数コムライン4を有する複数のキャビティ共振周波数5に周波数オーバーラップが与えられる。さらに、例えば電場分解分光法における、レーザーパルス増強装置及びその用途が説明される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンハンスメントキャビティ(20)内でレーザーパルスをコヒーレント加算することによって、パルスレーザー光を受動的に増強する方法であって、
繰り返し周波数(f
rep)、及び周波数コムライン間隔が前記繰り返し周波数(f
rep)と等しい周波数コムライン(4)を含む周波数コムスペクトル(3)を有する、シードレーザーパルス(1)のシーケンスを生成するステップと、
前記シードレーザーパルス(1)を、第1の板状結合素子(25)を介して、金属表面を有し且つ共振器長Lのキャビティビーム経路(26)に広がる少なくとも2つのキャビティミラー(21、22、23、24)を含むエンハンスメントキャビティ(20)内に結合するステップであって、前記エンハンスメントキャビティ(20)は、基本横モード(TEM
00)及び高次横キャビティモード(TEM
nm)を有し、それぞれが、一連のキャビティ共振周波数(5)、及びキャビティオフセット周波数(6)を有する、ステップと、
前記エンハンスメントキャビティ(20)における前記シードレーザーパルス(1)のコヒーレントな重ね合わせによって、キャビティ長毎に少なくとも1つの増強された循環するキャビティパルス(2)が生成される、ステップとを含み、
前記周波数コムスペクトル(3)は、消失シードコムオフセット周波数を伴う高調波コムスペクトル(3)であり、
前記エンハンスメントキャビティ(20)は、前記循環するキャビティパルス(2)の往復キャリアエンベロープ位相ずれが、前記基本横モードTEM
00に対して360°/Nと等しくなるように調節され、Nは、2以上の整数であり、
前記周波数コムスペクトル(3)に沿って、複数の前記周波数コムライン(4)を有する複数の前記キャビティ共振周波数(5)に周波数オーバーラップが与えられる
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記周波数オーバーラップは、光の速さをcとしてL
*=(c/f
rep)/Nに従って前記エンハンスメントキャビティ(20)の前記共振器長Lを調節すること、及び前記エンハンスメントキャビティ(20)の前記基本横モード(TEM
00)を励起することによって与えられる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記周波数オーバーラップは、前記エンハンスメントキャビティ(20)の、n+m+1=Nとなる前記高次横キャビティモード(TEM
nm)のうちの1つを励起することによって与えられる、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シードレーザーパルス(1)は、差周波発生によって生成される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の板状結合素子(25)は、
前記第1の板状結合素子(25)が、ペリクル、プレート、又はウェッジ素子を含むという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、片面反射防止被覆を有するという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、前記キャビティビーム経路(26)に対して、ブルースター角に等しいか又は近い角度で配向された表面を有するという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、7μm~12μmの波長域で透明であるという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、ポリエチレン又はダイヤモンドで作製されるという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、前記シードレーザーパルス(1)の中心波長を下回る厚さを有するという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、100nm~500μmの範囲の厚さを有するという特徴
のうちの少なくとも1つの特徴を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記キャビティミラー(21)のうちの1つが、前記第1の板状結合素子(25)に出入りする前記キャビティビーム経路(26)が広がる共振器平面の外部に配置され、特に、前記増強された循環するキャビティパルス(2)は、s偏光の微小角入射で、前記共振器平面の外部に配置される前記キャビティミラー(21)で反射されつつ、前記増強された循環するキャビティパルス(2)が、p偏光で前記第1の板状結合素子(25)を通過する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エンハンスメントキャビティ(20)に、調査される試料(8)を供給するステップであって、前記循環するキャビティパルス(2)が前記試料(8)と相互作用する、ステップと、
前記試料(8)と相互作用した前記循環するキャビティパルス(2)から、試料固有の情報を抽出するステップとを含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記キャビティ内で前記試料(8)と相互作用した後で、前記循環するキャビティパルス(2)の出力部分(7)を、前記第1の板状結合素子(25)又は別の第2の板状結合素子(25A)を介して、前記エンハンスメントキャビティ(20)外に結合するステップを含む、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記試料(8)が気体試料であるという特徴、
前記試料(8)が、前記エンハンスメントキャビティ(20)の前記キャビティビーム経路(26)の一部を収容する吸収管(31)内に配置されるという特徴、
前記試料(8)が、前記キャビティビーム経路(26)の限られた領域に供給されるという特徴、
前記試料(8)が、前記エンハンスメントキャビティ(20)を収容する容器(33)内に配置されるという特徴
のうちの少なくとも1つの特徴を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
レーザーパルスのコヒーレント加算によってパルスレーザー光を受動的に増強するように適合される、レーザーパルス増強装置(100)であって、
繰り返し周波数(f
rep)、及び周波数コムライン間隔が前記繰り返し周波数(f
rep)と等しい周波数コムライン(4)を含む周波数コムスペクトル(3)を有する、シードレーザーパルス(1)のシーケンスを生成するように構成されるレーザー光源装置(10)と、
金属表面を有し且つ共振器長Lのキャビティビーム経路(26)に広がる少なくとも2つのキャビティミラー(21、22、23、24)を含むエンハンスメントキャビティ(20)であって、前記エンハンスメントキャビティ(20)は、基本横モード(TEM
00)及び高次横キャビティモード(TEM
nm)を有し、それぞれが、一連のキャビティ共振周波数(5)、及びキャビティオフセット周波数(6)を有するエンハンスメントキャビティ(20)と、
前記シードレーザーパルス(1)を前記エンハンスメントキャビティ(20)内に結合するために配置される第1の板状結合素子(25)とを備え、
前記エンハンスメントキャビティ(20)は、前記エンハンスメントキャビティ(20)内に結合された前記シードレーザーパルス(1)のコヒーレントな重ね合わせに適合されて、少なくとも1つの増強された循環するキャビティパルス(2)が生成され、
前記レーザー光源装置(10)は、消失シードコムオフセット周波数を伴う高調波コムスペクトル(3)を有する前記シードレーザーパルス(1)を生成するように構成され、
前記エンハンスメントキャビティ(20)は、前記循環するキャビティパルス(2)の往復キャリアエンベロープ位相ずれが、前記基本横モードTEM
00に対して360°/Nになるように調節され、Nは、2以上の整数であり、
前記レーザー光源装置(10)及び前記エンハンスメントキャビティ(20)は、前記周波数コムスペクトル(3)に沿って、複数の前記周波数コムライン(4)を有する複数の前記キャビティ共振周波数(5)に周波数オーバーラップを与えるように適合される、
ことを特徴とする、レーザーパルス増強装置(100)。
【請求項11】
前記エンハンスメントキャビティ(20)の前記共振器長Lは、光の速度をcとしてL
*=(c/f
rep)/Nであり、
前記レーザー光源装置(10)及び前記エンハンスメントキャビティ(20)は、前記シードレーザーパルス(1)を前記エンハンスメントキャビティ(20)の前記基本横モード(TEM
00)に結合するように適合される、
請求項10に記載のレーザーパルス増強装置。
【請求項12】
前記レーザー光源装置(10)と、前記エンハンスメントキャビティ(20)との間に配置されたモード整合装置(40)が、前記シードレーザーパルス(1)をモード成形するように、且つ前記シードレーザーパルス(1)を、前記エンハンスメントキャビティ(20)の、n+m+1=Nとなる前記高次横キャビティモード(TEM
nm)のうちの1つと結合するように適合される、
請求項10に記載のレーザーパルス増強装置。
【請求項13】
前記レーザー光源装置(10)は、差周波発生によって前記シードレーザーパルス(1)を生成するように適合される、
請求項10~12のいずれか一項に記載のレーザーパルス増強装置。
【請求項14】
前記第1の板状結合素子(25)は、
前記第1の板状結合素子(25)が、ペリクル、プレート、又はウェッジ素子を含むという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、片面反射防止被覆を有するという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、前記キャビティビーム経路(26)に対して、ブルースター角に等しいか又は近い角度で配向された表面を有するという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、7μm~12μmの波長域で透明であるという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、ポリエチレン又はダイヤモンドで作製されるという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、前記シードレーザーパルス(1)の中心波長を下回る厚さを有するという特徴、
前記第1の板状結合素子(25)が、100nm~500μmの範囲の厚さを有するという特徴
のうちの少なくとも1つの特徴を含む、請求項10~13のいずれか一項に記載のレーザーパルス増強装置。
【請求項15】
前記キャビティミラー(21)のうちの1つが、前記第1の板状結合素子(25)に出入りする前記キャビティビーム経路(26)が広がる共振器平面の外部に配置され、特に、前記レーザー光源装置(10)及び前記エンハンスメントキャビティ(20)は、前記増強された循環するキャビティパルス(2)が、s偏光の微小角入射で、前記共振器平面の外部に配置される前記キャビティミラー(21)で反射されつつ、前記増強された循環するキャビティパルス(2)が、p偏光で前記第1の板状結合素子(25)を通過するように構成される、
請求項10~14のいずれか一項に記載のレーザーパルス増強装置。
【請求項16】
前記第1の板状結合素子(25)又は別の第2の板状結合素子(25A)が、前記循環するキャビティパルス(2)の出力部分(7)を、前記エンハンスメントキャビティ(20)外に結合するように配置される、
請求項10~15のいずれか一項に記載のレーザーパルス増強装置。
【請求項17】
前記エンハンスメントキャビティ(20)は、調査される試料(8)を収容して、前記循環するキャビティパルス(2)が、前記試料(8)と相互作用するように適合され、
前記試料(8)と相互作用した前記循環するキャビティパルス(2)から試料固有の情報を抽出するために、検出装置(30)が配置される、
請求項10~16のいずれか一項に記載のレーザーパルス増強装置。
【請求項18】
前記試料(8)が、気体試料であるという特徴、
前記エンハンスメントキャビティ(20)が、前記エンハンスメントキャビティ(20)の前記キャビティビーム経路(26)の一部を収容し、前記試料(8)を更に収容する吸収管(31)を備えるという特徴、
前記エンハンスメントキャビティ(20)が、前記キャビティビーム経路(26)の限られた領域に前記試料(8)を供給するように構成される供給装置を備えるという特徴、
前記エンハンスメントキャビティ(20)が、前記試料(8)で満たされる容器(33)内に配置されるという特徴
のうちの少なくとも1つの特徴を含む、
請求項17に記載のレーザーパルス増強装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンハンスメントキャビティ内でレーザーパルスをコヒーレント加算することによって、パルスレーザー光を受動的に増強する方法に関する。さらに、本発明は、レーザーパルスをコヒーレント加算することによってパルスレーザー光を受動的に増強するためのエンハンスメントキャビティを備える、レーザーパルス増強装置に関する。本発明の主な用途は、レーザー分光法の分野にある。他の用途は、レーザーパルスの改良、及び/又は高強度高調波パルス、軟X線、硬X線、及びテラヘルツ波生成の技術分野で使用可能である。
【背景技術】
【0002】
本明細書では、本発明の技術背景及び関連技術を説明する、以下の先行技術が参照される。
[1]R.J.Jones et al.,Optics Letters 27,1848(2002)
[2]K.R.Lykke,Optics Commun.157,88(1998)
[3]J.Torgerson et al.,Optics Commun.161,264(1999)
[4]E.Fill et al.“A Pellicle Coupled Optical Resonator” in 2019 Conference on Lasers and Electro-Optics Europe and European Quantum Electronics Conference,OSA Technical Digest(Optical Society of America,2019),paper cf_p_60
[5]S.Holzberger et al.,Optics Letters 40,2165(2015)
[6]A.Foltynowicz et al.,Phys.Rev.Lett.107,233002(2011)
[7]A.Foltynowicz et al.,Appl.Phys.B 110,163(2012)
[8]O.Axner et al.,“NICE-OHMS-Frequency Modulation Cavity Enhanced Spectroscopy-Principles and Performance” in “Cavity Enhanced Spectroscopy and Sensing”,G.Gagliardi and H.P.Look(eds),Springer Series in Optical Sciences 179,Springer Berlin,Heidelberg 2014
[9]A.Khodabakhsh et al.,Optics Letters 39,5034(2014)
[10]R.Gotti et al.,Scientific Reports 10,2523(2020)
[11]G.Zhao et al.,Optics Letters 43,715(2018)
[12]H.J.Zeng,et al.Introductory lecture:Advances in ion spectroscopy:From astrophysics to biology.Faraday Discuss.217,8-33(2019)
[13]D.Romanini et al.,“Introduction to Cavity Enhanced Absorption Spectroscopy” in “Cavity Enhanced Spectroscopy and Sensing”,G.Gagliardi and H.P.Look(eds),Springer Series in Optical Sciences 179,Springer Berlin,Heidelberg 2014
[14]国際公開第2016/102056号
[15]I.Pupeza et al.,Nature 577,52(2020)
【0003】
受動共振器(エンハンスメントキャビティ)におけるレーザーパルスのコヒーレント加算については、[1]でR.J.Jonesらによって説明されている。位相コヒーレントな等距離パルス(シードレーザーパルス)のシーケンスは、2つのミラー(線形キャビティ)、又はリング共振器形状に配置された3つ、4つ、若しくはそれより多くのミラーを含む、共振器装置内に結合される。共振器装置は光路を形成し、該光路は、少なくとも1つの循環キャビティ光パルスを形成するために、入力光パルスが連続して線形に重ね合わされるように調節される。循環キャビティ光パルスは、通常、わずかに透明なミラーを用いて、シードレーザーパルスをキャビティ内に結合することによって得られるが、プレート又はウェッジを介した結合が、K.R.Lykke[2]、J.Torgersonら[3]、及びE.Fillら[4]によって説明されている。
【0004】
受動エンハンスメントキャビティを使用した、このような従来のパルスレーザー光の共振増強には、循環パルスのスペクトル帯域幅に関して厳しい制限がある。特に、限られた帯域幅及びキャビティミラーの分散が、共振器内で広い周波数コムが増強されるのを妨げている。しかしながら、超短パルスの生成、及び高感度な吸収分光法(例えば、電場分解分光法、FRSを用いたトレースガス検出)には、広いスペクトル帯域幅が特に重要である。
【0005】
周波数領域では、入力光パルスは、周波数コムスペクトルにわたる周波数コムラインからなる周波数コムを与える。周波数コムラインは、入力光パルスシーケンスの繰り返し周波数及び入力コムオフセット周波数と等しい、コムライン間隔を有する。広帯域増強の追加要件は、光学系及び幾何学的位相によって決定された[5]共振器の最適オフセット周波数(OOF)と、入力コムオフセット周波数とが互いに整合されることである。特にFRSでは、高調波コム(入力コムオフセット周波数がゼロと等しいコム)が使用されるので、入力オフセット周波数は調整され得ず、共振器キャビティのOOFを調整するために広帯域法が必要になる。
【0006】
共振器キャビティを特定のOOFに調整するには、いくつかの可能性がある。NIRにおける最も効果的なやり方は、[5]で提案されているように、CE位相シフト調整済みのキャビティミラーを使用することである。しかしながら、この手法は、MIRスペクトル範囲では実証されておらず、帯域幅制限をもたらす。
【0007】
以下のように、トレースガス検出に共振キャビティを使用することが過去に述べられている。2011年には、キャビティを使用することによって、ショットノイズを制限した吸収分光法が可能になることが示された。しかしながら、この実験におけるスペクトル帯域幅は、1530nmを中心として、わずか30nmであった[6]。最初の中赤外キャビティ実験は、波長範囲3500~4100nmにおいて8ppbの感度を示した同じグループで実施された[7]。トレースガス検出の最も高感度な方法は、NICE-OHMS(ノイズ耐性キャビティ増強光ヘテロダイン分子分光法)である[8]。しかしながら、この技術は、本質的に狭帯域であり、従って複雑なガス混合物の分析には適していない。さらに、A.Khodabakhshらが説明したように、周波数コムと共にNICE-OHMS技術を実施することも試みられた[9]。それでも、この実験のスペクトル範囲は、極めて狭く、20nmに対応する1585~1590cm-1の間にのみ広がっている。
【0008】
近年は、感度に進歩がみられるが、報告されているスペクトル帯域幅は、まだ非常に限定されており、1.54μmにおける帯域幅18nmで、測定時間5分未満で、感度10-10cm-1でCO2及びC2H2を検出することが、R.Gottiらによって述べられている[10]。G.Zaoらが報告しているように、5000のキャビティのフィネスを適用すると、15.6nmの帯域幅で、アセチレンが6518cm-1で検出される[11]。
【0009】
しかしながら、既存の技術で、イオントラップに格納された分子イオンの直接広帯域分光法を行うのに必要な感度に達したものはなく、分子の総数は、通常、106を超えることはない[12]。これが実現すれば、天体物理学から分析化学、生化学、及び量子科学のシミュレーションまで、可能性ある用途が広がることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R.J.Jones et al.,Optics Letters 27(20),1848‐1850(2002)
【非特許文献2】K.R.Lykke,Optics Commun.157,88‐92(1998)
【非特許文献3】J.Torgerson et al.,Optics Commun.161,264‐266(1999)
【非特許文献4】E.Fill et al.“A Pellicle Coupled Optical Resonator” in 2019 Conference on Lasers and Electro-Optics Europe & European Quantum Electronics Conference,OSA Technical Digest(Optical Society of America,2019),paper cf_p_60
【非特許文献5】S.Holzberger et al.,Optics Letters 40(10),2165‐2168(2015)
【非特許文献6】A.Foltynowicz et al.,Phys.Rev.Lett.107(23),233002(2011)
【非特許文献7】A.Foltynowicz et al.,Appl.Phys.B 110,163‐175(2013)
【非特許文献8】O.Axner et al.,“NICE-OHMS-Frequency Modulation Cavity‐Enhanced Spectroscopy-Principles and Performance” in “Cavity‐Enhanced Spectroscopy and Sensing”,G.Gagliardi and H.P.Look(eds),Springer Series in Optical Sciences 179,Springer Berlin,Heidelberg 2014
【非特許文献9】A.Khodabakhsh et al.,Optics Letters 39(17),5034‐5037(2014)
【非特許文献10】R.Gotti et al.,Scientific Reports 10,2523(2020)
【非特許文献11】G.Zhao et al.,Optics Letters 43(4),715‐718(2018)
【非特許文献12】H.J.Zeng,et al.,Faraday Discuss.217,8-33(2019)
【非特許文献13】D.Romanini et al.,“Introduction to Cavity Enhanced Absorption Spectroscopy” in “Cavity‐Enhanced Spectroscopy and Sensing”,G.Gagliardi and H.P.Look(eds),Springer Series in Optical Sciences 179,Springer Berlin,Heidelberg 2014
【非特許文献14】I.Pupeza et al.,Nature 577,52‐59(2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、受動エンハンスメントキャビティ及び改良レーザーパルス増強装置を使用してパルスレーザー光を増強する改良方法を提供して、特に帯域幅及び分散に関する、従来技術の制限を回避することである。特に、例えば電場分解分光法(FRS)で使用されるような、高調波コム(即ちゼロオフセット周波数コム)の増強を提供することが目的である。特に、分光性能を改善するためにパルスをコヒーレント加算することによって増強パルスレーザー光が与えられ、特にスペクトル帯域幅が大きく、高強度であり且つ/又は分散の影響が最小になる。さらに、実際の用途で安定した動作が可能な小型の構造を有する、レーザーパルス増強装置が提供される。さらに、パルスレーザー光の新規用途が提供される。
【0013】
上述の目的は、独立クレームの特徴を有する、パルスレーザー光を受動的に増強する方法及びレーザーパルス増強装置によって解決される。本発明の好ましい実施形態及び用途は、従属クレームで規定される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の一般的な態様によれば、上述の目的は、エンハンスメントキャビティ内でレーザーパルスをコヒーレント加算することによって、パルスレーザー光を受動的に増強する方法によって解決され、該方法は、繰り返し周波数frep、及び周波数コムライン間隔が繰り返し周波数frepと等しい周波数コムラインを含む周波数コムスペクトルを有する、シードレーザーパルス(シードコム)のシーケンスを生成するステップと、シードレーザーパルスを、第1の板状結合素子を介して、金属表面を有し(以下では金属性キャビティミラー又は金属被覆されたキャビティミラーとしても示される)且つ共振器長Lのキャビティビーム経路に広がる少なくとも2つのキャビティミラーを含むエンハンスメントキャビティ内に結合するステップであって、エンハンスメントキャビティは、基本モード(TEM00)及び高次横キャビティモード(TEMnm)を有し、それぞれが、一連のキャビティ共振周波数、及びキャビティオフセット周波数を有する、ステップと、エンハンスメントキャビティにおけるシードレーザーパルスのコヒーレントな重ね合わせによって、キャビティ長毎に少なくとも1つの増強された循環するキャビティパルスが生成される、ステップとを含む。
【0015】
本発明によれば、周波数コムスペクトルは、消失シードコムオフセット周波数を伴う高調波コムスペクトルである。さらに、本発明によれば、エンハンスメントキャビティは、循環するキャビティパルスの往復キャリアエンベロープ位相(CEP)ずれが、基本横モードTEM00に対して360°/Nと等しくなるように調節され、Nは、2以上の整数であり、周波数コムスペクトルに沿って複数の周波数コムラインを有する複数のキャビティ共振周波数に、周波数オーバーラップが与えられる。CEPずれは、エンハンスメントキャビティ内で1往復する際の、電気キャリア光場と、循環パルスのパルスエンベロープとの間の位相の、位相変化の量である。周波数オーバーラップを提供することは、キャビティ共振周波数が、周波数コムラインの周波数で配置されるように、シードコム及び/又はエンハンスメントキャビティを整合させることを意味する。
【0016】
本発明の第2の一般的な態様によれば、上述の目的は、レーザーパルス増強装置によって解決され、該レーザーパルス増強装置は、レーザーパルスのコヒーレント加算によってパルスレーザー光を受動的に増強するように適合される装置であって、繰り返し周波数frep、及び周波数コムライン間隔が繰り返し周波数frepと等しい周波数コムラインを含む周波数コムスペクトルを有する、シードレーザーパルスのシーケンスを生成するように構成されるレーザー光源装置と、金属表面を有し且つ共振器長Lのキャビティビーム経路に広がる少なくとも2つのキャビティミラーを含むエンハンスメントキャビティであって、エンハンスメントキャビティは、基本モード(TEM00)及び高次横キャビティモード(TEMnm)を有し、それぞれが、一連のキャビティ共振周波数、及びキャビティオフセット周波数を有する、エンハンスメントキャビティと、シードレーザーパルスをエンハンスキャビティ内に結合するために配置される第1の板状結合素子とを備え、エンハンスメントキャビティは、エンハンスメントキャビティ内に結合されたシードレーザーパルスのコヒーレントな重ね合わせに適合されて、少なくとも1つの増強された循環するキャビティパルスが生成される。
【0017】
本発明によれば、レーザー光源は、消失シードコムオフセット周波数を伴う高調波コムスペクトルを有する、シードレーザーパルスを生成するように構成され、エンハンスメントキャビティは、循環するキャビティパルスの往復キャリアエンベロープ位相ずれが、基本横モードTEM00に対して360°/Nと等しくなるように調節され、Nは、2以上の整数であり、レーザー光源装置及びエンハンスメントキャビティは、周波数コムスペクトルに沿って複数の周波数コムラインを有する複数のキャビティ共振周波数に、周波数オーバーラップを与えるように適合される。好ましくは、本発明のレーザーパルス増強装置又はその実施形態は、本発明の第1の一般的な態様又はその実施形態に係る方法を実行するように適合される。
【0018】
エンハンスメントキャビティは、線形キャビティであるか、又はリング共振器形状を有する。キャビティミラーは、平面ミラー又は曲面ミラーであってもよく、好ましくは、少なくとも1つの曲面ミラーが、焦点を合わせたキャビティビーム経路(少なくとも1つの焦点を有するキャビティビーム経路)を提供する。エンハンスメントキャビティは、好ましくは、循環するキャビティパルス(複数可)の光場を増幅するように適合された、光場増幅媒体を有しない。本発明の重要な利点は、[5]とは異なり、金属性のキャビティミラー(即ち金属表面を有するミラー)を提供することによって、キャビティ内を循環するパルスの分散が非常に小さくされ得、これにより、原則として非常に広い帯域幅での動作が可能になることである。好ましくは、エンハンスメントキャビティの全てのミラーが金属性のミラーである。
【0019】
金属性のキャビティミラーは、その一般的な位相シフト効果にかかわらず使用される。具体的には、金属ミラーは、180°のCEPシフトを有する。キャビティの合計CEPシフト(往復位相シフト)は、ミラーの全CEPシフトに、幾何学的位相シフト(グイ位相)を加えたものからなる。幾何学的位相シフトは、キャビティの安定したエッジでのみ、0°又は180°になり得る。さらに、合計CEPシフトと共振器の最適オフセット周波数(OOF)とは、互いに関連性がある。0°と等しいOOFは、0°と等しい合計CEPシフトと同じである。本発明以前は、0°と等しい合計CEPシフトを得ること、及びOOFを0°に設定すること、即ち金属性のミラーを有し、且つ幾何学的位相シフトが180°又は0°とは等しくないキャビティで高調波コムを増強することは、実際には不可能と考えられていた。
【0020】
しかしながら、本願の発明者は、共振器の最適オフセット周波数を設定する新しい手法を見出したため、金属性のミラーを使用して、パルス増強の広い帯域幅特性を提供することが本発明によって可能になる結果、[4]に反して、キャビティ共振がシードコムラインと整合され得る。まず、キャビティは、好ましくはエンハンスメントキャビティの焦点形状を変化させることによって、具体的には、少なくとも2つのミラー同士の距離、及び/又はキャビティビーム経路に対して少なくとも1つのミラーの偏向角を設定することによって、基本横モードTEM00に対する往復キャリアエンベロープ位相ずれが360°/Nに調整される。さらに、以下で概説するように、キャビティ共振周波数は、特に対応する係数でキャビティ長を変更することによって、又は高次横キャビティモードを励起することによって、シードレーザーパルスの周波数コムラインとオーバーラップされる、具体的には整合される。有利には、コムスペクトルの延長部分にわたって、好ましくはコムスペクトル全体にわたって周波数整合が得られて、広帯域高調波コムが増強され得る。
【0021】
エンハンスメントキャビティの広帯域動作とは、好ましくは、1000nmから、特に5μm~20μmの中心波長と、少なくとも100nm、特に少なくとも5000nm、及び/又は最大でも20μm、特に最大でも12μmのスペクトル帯域幅とを有するレーザーパルスを増強することを指す。好ましくは、キャビティパルスの増強された周波数コムは、少なくとも1オクターブの光周波数を網羅する。実施例として、5μm~20μmの範囲の中心波長は、生体試料の特性スペクトル反応範囲(いわゆる指紋領域)を網羅するので特に重要である。エンハンスメントキャビティは、上述のパラメータでレーザーパルスを増強することが可能であり、800nmなどの中心波長、及び200nmなどのスペクトル帯域幅を有するパルスを使用する、高調波生成用の従来のエンハンスメントキャビティとは異なっている。このような従来のエンハンスメントキャビティは、高調波コムに制限されず、誘導体ミラーを使用し得る。
【0022】
本発明の更なる重要な利点によれば、キャビティ入力と出力との間のスペクトル伝達機能は、分散度がこのように低いので、広帯域パルスのパルス幅は、影響を受けないか、又は無視できるほどの影響を受ける。広帯域特性を維持することは、短い時間で増強されたパルスを与えることを意味し、試料を励起するパルスと、試料反応との一時的なオーバーラップを最小化し、従ってFRSにおける強度ノイズを低減することになるため、この特性はFRSにおける本発明の用途にとって重要である。
【0023】
好ましい実施形態(以下に本発明の第1の実施形態として示されており、
図3を参照のこと)によれば、周波数オーバーラップは、光の速さをcとしてL
*=(c/f
rep)/Nに従ってエンハンスメントキャビティの共振器長を調節すること、及びエンハンスメントキャビティの基本横モード(TEM
00)を励起することによって与えられる。基本キャビティ共振周波数のキャビティ共振周波数間隔は、c/L
*と等しく、キャビティ共振周波数のそれぞれに対して、周波数コムラインのN番目毎に、周波数オーバーラップがそれぞれ与えられる。有利には、シードレーザーパルスのパルス繰り返し周波数で与えられる基本長L=(c/f
rep)の1/Nとしてキャビティ長L
*を選択することによって、周波数コムラインのN番目毎に周波数整合が得られる。キャビティ長L
*の設定は、例えば、キャビティの少なくとも2つのミラー間の距離を設定することによって得られる。第1の実施形態は、共振器長を短くすることによって、エンハンスメントキャビティの調節が容易なことに関して特別な利点を有する。
【0024】
代替的な好ましい実施形態(以下で本発明の第2の実施形態として示されており、
図4を参照のこと)によれば、周波数オーバーラップは、エンハンスメントキャビティの、n+m+1=Nとなる高次横キャビティモード(TEM
nm)のうちの1つを励起することによって与えられる。エンハンスメントキャビティの基本共振器長Lは、光の速さをcとしてL=(c/f
rep)に従って維持される。キャビティの共振周波数間隔はc/Lと等しいが、TEM
nmキャビティ共振のオフセット周波数に対するグイ位相誘起寄与は、TEM
00共振のオフセット周波数に対するグイ位相誘起寄与のN倍であり、周波数コムラインコムラインのうちの1つを有するキャビティ共振のそれぞれに、周波数オーバーラップがそれぞれ与えられる。第2の実施形態は、コムスペクトルの全ての周波数コムラインが増強に寄与するので、効率改善に関して特別な利点を有する。
【0025】
好ましくは、第2の実施形態は、シードレーザーパルスの光場を成形することと組み合わされて、循環するキャビティパルスによって励起された、エンハンスメントキャビティの高次モード(TEMnm)との空間的オーバーラップが改善される。好ましい例では、レーザー光源装置は、その出力が、高次モードに適合される幾何学モード構造を有するシードレーザーパルスを含むように動作される。あるいは、レーザー光源装置は、その出力が、基本モード構造を有するシードレーザーパルスを含むように動作され、モード構造を高次キャビティモードの幾何学形状と適合させるために、レーザー光源装置とエンハンスメントキャビティとの間に、モード整合装置が提供される。
【0026】
好ましくは、シードレーザーパルスは、差周波発生(DFG)によって生成される。したがって、レーザー光源装置は好ましくは、差周波発生によるシードレーザーパルスの生成に適合される。特に好ましくは、レーザー光源装置は、特に好ましくは20fsを下回る持続時間でDFGを駆動させるレーザーパルスを放射するパルスレーザー光源を含み、DFG装置は、パルスレーザー光源によって出力されるパルスのパルス内DFG用に配置される。DFG装置の出力は、シードレーザーパルスを供給し、供給するシードレーザーパルスは、本質的にゼロオフセット周波数を有し、位相安定性が高い。
【0027】
第1の板状結合素子は、シードレーザーパルスをキャビティビーム経路に向けて反射することによって、シードレーザーパルスをエンハンスメントキャビティ内に結合するために提供される。第1の板状結合素子は、キャビティビーム経路内に配置される。広帯域増強を改善するために、第1の板状結合素子は、好ましくは以下の特徴のうちの少なくとも1つを含み、これらの特徴は、キャビティ内を循環するキャビティパルスが受ける損失を低減し、キャビティミラーの反射率によって決定された最適値と一致するようにパワー結合比を調節することに関する利点をもたらす。
【0028】
好ましくは、第1の板状結合素子は、ペリクル、プレート、又はウェッジ素子を含む。有利には、このような例示的な結合素子は、エンハンスメントキャビティに導入される分散を最小化する。
【0029】
有利には、第1の板状結合素子は、片面反射防止被覆を有していてもよい。これにより、パワーがキャビティ外へ反射されることによるエタロン効果(帯域幅制限につながる)及び付加的な損失が回避される。
【0030】
さらに、第1の板状結合素子は、キャビティビーム経路に対して、ブルースター角に等しいか又は近い角度で配向され得る表面を有する。薄いウェッジを使用する場合、1つのウェッジ表面は、正確なブルースター角で、又はブルースター角に近い角度で配向される。この場合も、エタロン効果が回避される。
【0031】
別の変形例によれば、第1の板状結合素子が、7μm~12μmの波長域において透過損失が低ければ、この波長範囲で周波数コムを増強すること、及び分光測定にキャビティパルスを使用することについて特別な利点が得られる。
【0032】
好ましい材料選択によれば、第1の板状結合素子は、ポリエチレン又はダイヤモンドで作製されてもよい。これは、ニトロセルロースなどで作製される市販のペリクルとは異なり、中赤外領域において強い吸収性を示す。
【0033】
好ましくは、第1の板状結合素子は、シードレーザーパルスの中心波長を下回る厚さを有して、有利な方法で干渉効果が回避される。特に好ましくは、第1の板状結合素子は、100nm~500μmの範囲の厚さを有する。
【0034】
本発明の更なる好適な変形例によれば、キャビティミラーのうちの1つは、第1の板状結合素子に出入りするキャビティビーム経路が広がる共振器平面の外部に配置される。この非平面の実施形態(
図6を参照)では、選択した偏光で、面外ミラーにおいて且つ板状結合素子において、増強された循環するキャビティパルスを与えることによって、有利な方法でキャビティ往復毎の損失が低減され得る。好ましくは、増強された循環するキャビティパルスは、s偏光の微小角入射で、共振器平面の外部に配置されるキャビティミラーで反射されつつ、増強された循環するキャビティパルスは、p偏光で第1の板状結合素子を通過する。特に、s偏光のミラー反射により、p偏光のものよりも反射率を良くすることが可能になる。さらに、板状結合素子でのp偏光により、板状結合素子のブルースター角を利用することが可能になる。
【0035】
本発明の別の実施形態によれば、循環する増強されたキャビティパルス(複数可)の一部は、例えば分光測定のために、試料と相互作用した後でエンハンスメントキャビティ外に結合される。キャビティ外へのパルス結合は、好ましくは第1の板状結合素子を介して、又は別の第2の板状結合素子を介して行われる。単一の第1の板状結合素子を使用することは、設定の複雑さを低減することに関して利点がある。第1の板状結合素子で循環するキャビティパルスの一部を出力結合することは、循環する光場の一部をキャビティ外へ偏向させることを含んでもよく、循環する光場のこの一部は、第1の板状結合素子で透過されたシードレーザーパルスの一部に干渉しない。あるいは、第1の板状結合素子が配置されてもよく、キャビティビーム経路は、結合素子が1箇所又は2箇所でキャビティビーム経路と交差するように折り返されてもよい。あるいは、第2の板状結合素子を使用することは、シードレーザーパルスをキャビティ内に結合し、光パルスをキャビティ外に結合することを、個別に最適化することに関して利点がある。第2の板状結合素子は、好ましくは、上述した第1の板状結合素子の好ましい特徴のうちの少なくとも1つを含んで構成される。
【0036】
分光法における本発明の好ましい用途によれば、第1の板状結合素子を透過したシードレーザーパルスの一部が分光測定にかけられる。有利には、この透過ビームでは、シードレーザーパルスの透過した光場と、キャビティ外に偏向された循環する光場の一部とが干渉する。キャビティが試料を含んでいない場合は、好ましくは相殺的干渉が生じて、この透過ビームにはほとんどパワーが含まれない。キャビティが試料を含んでいる場合は、透過ビームは、主に試料の分光反応、即ち分子シグナルを含む。
【0037】
したがって、本発明の特に有利な実施形態によれば、調査される試料、好ましくはガス、蒸気、又はエアロゾルなどの気体試料が、循環するキャビティパルスが試料と相互作用するようにエンハンスメントキャビティ内に供給され、試料と相互作用した循環キャビティパルスから、試料固有の情報が抽出される。例えば、吸収測定が実行され、シードレーザーパルスの周波数コムスペクトルと比較した、循環するキャビティパルスの周波数コムスペクトルの試料固有の変化が検出される。レーザーパルス増強装置の好ましい装置の特徴に関して、エンハンスメントキャビティは、調査される試料を収容して、循環するキャビティパルスが試料と相互作用するように適合され、且つ、シードレーザーパルスの周波数コムスペクトルと比較した、循環キャビティパルスの周波数コムスペクトルの試料固有の変化の検出による吸収測定などのために、循環キャビティパルスから試料固有の情報を抽出するための検出装置が配置される。検出装置は、好ましくは、使用可能な設定に従って、電場分解分光測定などの測定を実行するために、エンハンスメントキャビティの外部に配置される。
【0038】
本発明の技術を用いれば、好ましくは広い高調波コムが、効果的にキャビティに結合されて増強される。これは、キャビティ内を循環する短パルスを発生させるために重要である。したがって、広帯域キャビティの主な用途は、高感度な吸収分光法にある。定在波共振キャビティに含まれている試料の有効吸収長は、Fをキャビティのフィネスとして2/πF倍に高められる[12]。周囲ガス内のトレースガス分子などを検出するために最も重要なのは、約500~1500cm-1に広がる、いわゆる光学スペクトルの指紋領域、及びいわゆるスペクトルの官能基領域(1500~4000cm-1)である。多くのガス又はガス混合物を高感度測定するために、できるだけ広いスペクトル領域が調査される。本発明の好ましい用途によれば、1オクターブを超える光周波数の範囲が容易に実現できる。
【0039】
キャビティ内部で相互作用させるために、エンハンスメントキャビティのキャビティビーム経路の一部を収容する吸収管内に、試料が配置されてもよい。有利には、吸収管が試料を収容する容量を制限するので、調査される試料数が低減され得る。あるいは、試料は供給ライン及び/又はノズルを使用して、キャビティビーム経路の限られた領域に、供給装置で供給されてもよい。したがって、本発明の別の重要な特徴は、照射体積の小ささと組み合わせた、感度の増強である。これは、本発明を、エレクトロスプレーや分子ジェットなどの薄片試料の直接吸収分光法に適用する際に利点がある。また、本発明の他の用途では、小体積にパワーを集中させることで、光非線形性を駆動させることが可能になる。
【0040】
あるいは、試料は、エンハンスメントキャビティを収容する容器内に配置されてもよい。この実施形態は、キャビティへの試料の供給が容易になった結果として生じる利点を有する。
【0041】
別の可能な用途は、最小で1μmの波長で示される高フィネスを利用し、これは、近赤外線で同時に共振するレーザーを用いた分子配向などの2波長実験で使用され得る。
【0042】
分光測定における主な用途では、パルスレーザー光を受動的に増強する方法は、分光測定法などの測定方法であり、レーザーパルス増強装置は、分光測定装置などの測定装置であり、これらは両方とも本発明の独立した対象を表している。
【0043】
パルスレーザー光を受動的に増強する方法及びその実施形態、又は分光測定法及びその実施形態の文脈で開示されている特徴もまた、本発明のレーザーパルス増強装置及び分光測定装置並びにそれらの実施形態の好ましい特徴を表している。前述の態様、並びに発明の特徴及び好ましい特徴は、特に、レーザーパルス増強装置及び分光測定装置の構成、並びに装置との関連で説明される個別の構成要素の寸法及び構成に関して、本方法にも適用される。上述した本発明の好ましい実施形態、変形例、及び特徴は、必要に応じて互いに組み合わせ可能である。
【0044】
本発明の更なる詳細及び利点が、概略的な添付の図面を参照しながら以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】線形キャビティを使用した、本発明の好ましい実施形態の特徴を示す。
【
図2】ボウタイキャビティを使用した、本発明の好ましい実施形態の特徴を示す。
【
図3】金属性ミラー被覆を用いた高調波コムの広帯域増強が可能になるように、N分の1に短縮されたキャビティを使用した、第1の実施形態の例を示す。
【
図4】金属性ミラー被覆を用いた高調波コムの広帯域増強が可能になるように、高次横モードで動作されるキャビティを使用した、第2の実施形態の例を示す。
【
図5】単一の板状結合素子によって、ボウタイキャビティの内外にパルスを結合する実施形態を示す。
【
図6】進行波操作用の3つのミラーを有するキャビティを示す。
【
図7】結合素子としてウェッジを使用した、進行波操作用の2つのミラーを有するキャビティを示す。
【
図8】高感度吸収測定に使用され得る線形キャビティを示す。
【
図9】高感度吸収測定用に、ウェッジで結合されたキャビティを使用する実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の実施形態は、シードコムラインの、エンハンスメントキャビティの共振周波数との整合、並びにエンハンスメントキャビティの例示的な構成を参照して以下で説明される。本発明の実際の実施は、説明されているレーザー光源及びキャビティの例に限定されず、これに対応して、他の使用可能な種類のレーザー光源及びキャビティの、形状及び構成で可能になることが強調される。シードレーザーパルスの生成、又は試料による吸収測定の実行の詳細は、それ自体公知であるため図示も説明もされない。
【0047】
図1は、レーザー光源装置10とエンハンスメントキャビティ20とを有するレーザーパルス増強装置100の実施形態を示す。この実施形態のエンハンスメントキャビティ20は、線形キャビティであり、2つのミラー21、22を備え、ミラー21、22は、金表面を有し、共振器長Lでキャビティビーム経路26に広がる。ミラー21、22のうちの少なくとも1つは、共振器の安定性を保証するために曲げられている。第1の板状結合素子25として、ペリクル、プレート、又はウェッジがエンハンスメントキャビティ20内に配置される。結合素子25は、キャビティビーム経路26と交差する。一例として、結合素子25は、厚さ20μmの、ポリエチレンで作製されたペリクルである。線形キャビティの利点は、その簡素さと、入出力結合に単一の結合素子25のみを必要とすることである。
【0048】
レーザー光源装置10は、例えば、増幅モードロックレーザーと、DFGユニット(詳細は示されていない)とを備える。シードレーザーパルス1は、繰り返し周波数f
repと、周波数コムライン間隔が繰り返し周波数f
repと等しい周波数コムライン4を含む周波数コムスペクトル3とを有するパルスシーケンスとして生成される(
図3B及び
図4Bに概略的に示す)。例えば、シードレーザーパルス1は、8~10μmの中心波長、50~100fsの持続時間、及び10~数100MHzの繰り返し周波数を有する。
【0049】
シードレーザーパルス1は、任意選択の半透過ミラー11、及び第1の板状結合素子25を介して、ブルースター角に近い角度で結合素子25を照射することによって、エンハンスメントキャビティ20内に結合される。第1の板状結合素子25は、例えば、厚さが23μmのポリエチレンのペリクルである。入力結合素子25の反射率は低いが、入力結合素子を透過したシードパルスの一部と、入力結合素子から反射されたキャビティ内ビームとの相殺的干渉が、キャビティ内への効率的なパワーの結合につながる。入力結合光の振幅比は比較的小さいが、キャビティ内での低損失により、キャビティ内で増強されるパワーは大きい。さらに、ペリクル又はプレートによって誘発された低損失、及びキャビティミラー21、22の低損失が、キャビティの高フィネスにつながる。結果として、トレースガスの試料を含む吸収セルの有効吸収長が、有意な要因によって高められる(
図8を参照)。
【0050】
エンハンスメントキャビティ20内に結合されたレーザーパルスはコヒーレントに重ね合わされるため、キャビティ長毎に1つ以上の増強されたキャビティパルス2が生成され、ミラー21、22の間を循環する(両方向矢印を参照)。結合素子25を通過する毎に、キャビティパルス2の部分7がエンハンスメントキャビティ20外に偏向されて、半透過ミラー11を介して適用部位30Aに達する。分光用途で、キャビティビーム経路26に試料が含まれている場合、結合素子25を透過したシードレーザーパルスの一部は、試料と相互作用している循環パルスの一部とコヒーレントに重ね合わされ、例えばFRS用の検出装置30で収集される。
【0051】
本発明の第1の実施形態によれば、周波数コムスペクトル3の周波数コムライン4をキャビティ共振周波数5と整合させるために、共振器長Lは、
図3を参照して以下で説明するように設定される。あるいは、本発明の第2の実施形態によれば、
図4を参照して以下で説明するように、シードレーザーパルス1が空間的に成形されて、キャビティの高次横モードに結合される。
【0052】
図2は、レーザー光源装置10とエンハンスメントキャビティ20とを有するレーザーパルス増強装置100の代替実施形態の特徴を示し、エンハンスメントキャビティ20は、4つの金被覆ミラー21、22、23、24によって折り返されたいわゆるボウタイキャビティである。2つのミラー(23、24)は、それらの間にあるキャビティ光路26のキャビティ焦点26Aを画定する、曲面ミラーである。
図2のボウタイキャビティの利点は、フィネス及びCE位相などのパラメータ調節の柔軟性がより高いことである。また、キャビティの進行波操作により、第1の板状結合素子25は、循環期間中に1回だけ横切られる。板状結合素子での反射はキャビティ往復毎に1回だけなので、インピーダンス整合及び損失低減、そして最適な増強が可能になる。この進行波の利点は、
図3~
図7、及び
図9の実施形態でも得られる。さらに、曲面ミラー同士の間にキャビティ焦点26Aが生成され、これは高調波生成やx線生成などのいくつかの用途では必須の事項である。
【0053】
シードレーザーパルス1は、例えば
図1のように、レーザー光源装置10で生成されて、エンハンスメントキャビティ20内に結合され、エンハンスメントキャビティ20でコヒーレントに重ね合わされるため、例えば1つの循環する増強されたキャビティパルス2が生成され、これがキャビティビーム経路26に沿って循環する(矢印を参照)。
図3及び
図4に示すように、シードレーザーパルス1の周波数コムスペクトル3の周波数コムライン4をキャビティ共振周波数5と整合させるために、本発明の第1又は第2の実施形態の手段が提供される。
【0054】
この実施形態の第1の変形例によれば、ペリクルやプレートなどの2つの結合素子25、25Aが提供される。第1の板状結合素子25は、レーザー光源装置10から生じたシードレーザーパルス1をエンハンスメントキャビティ20内に結合するために配置される。矢印の方向に従って、レーザーパルスはキャビティ内を循環し、キャビティパルス2は、別のシードレーザーパルス1とコヒーレントに重ね合わされることによって、第1の板状結合素子25を通過するたびに増強される。
【0055】
任意選択の第2の板状結合素子25Aは、例えば、2つの平面ミラー21と22との間のキャビティビーム経路の部分で、第1の板状結合素子25から距離を隔てて配置される。第2の板状結合素子25Aは、第1の板状結合素子25と比較して低い反射率を有してもよい。キャビティパルス2が通過するたびに、キャビティパルス2の部分7がキャビティ外に反射され、反射された部分は、キャビティ内に結合されたシードレーザーパルス1よりも寄与が少ない。実施例では、第1の結合素子25及び第2の結合素子25Aは、厚さが20μmのポリエチレンフィルム、又は平均厚さが350μmのダイヤモンドウェッジ、又は片面反射防止被覆を有する、厚さ350μmの平行平面ダイヤモンドプレートである。
【0056】
キャビティ焦点26Aにおいて、エンハンスメントキャビティ20内でキャビティパルス2が、例えば、分光測定のため、又は光学的プロセスを駆動させるために使用される場合は、第2の結合素子(破線で示す)は、診断目的でのみ提供されてもよい。あるいは、これは、光を適用部位30Aと結合するために配置される。
【0057】
図2の実施形態の第2の変形例によれば(分光法用途に好ましい構成)、第1の結合素子25によって透過され、試料と相互作用している循環パルスの一部とコヒーレントに重ね合わされる(右側の破線矢印)ビームを収集するための測定装置30が配置され、第2の板状結合素子25Aは省略される。この構成は、FRSのような時間分解のバックグラウンドフリー分光法にとって利点があり、その理由は、第2のプレートによって増強が低減されることがなく、且つ励起パルス(循環増強パルス)が相殺的干渉によって少なくとも部分的に抑制されるために、これによって分子シグナルが重畳されることが少ないからである。
【0058】
本発明の第1の実施形態(共振器長調節による周波数整合)が
図3に図示されており、
図3Aは、(
図2に示すような)4つのミラー21、22、23、24を有する、ボウタイ・エンハンスメントキャビティ20の変形例を示し、第1の板状結合素子25は、ミラー23と24との間のキャビティ焦点に配置されるウェッジ素子である。ミラー21、22、23、24は、共振器長Lでキャビティビーム経路26にまたがっている。
図3Bに示すように、エンハンスメントキャビティ20は、一連の基本キャビティ共振周波数5及びキャビティオフセット周波数6を含む、基本モードTEM
00を有する。本発明の第1の実施形態では、エンハンスメントキャビティ20の高次モードは使用されない。
【0059】
時間領域(
図3A)では、シードレーザーパルス1は、繰り返し率f
repでエンハンスメントキャビティ20に入る。シードレーザーパルスは、レーザー光源装置10によって放射され、エンハンスメントキャビティ20の基本モードTEM
00と整合する基本ガウスモードTEM
00の光場を有する。周波数領域(
図3B)では、シードレーザーパルス1の周波数コムスペクトル3は、間隔がf
repと等しい、等距離の周波数コムライン4を有する。シードレーザーパルス1が高調波コムを与えるので、周波数コムライン4Aがf
repに配置される(入力コムオフセット周波数はゼロと等しい)。
【0060】
周波数コムライン4とキャビティ共振周波数5とを互いに整合するために、エンハンスメントキャビティ20のミラー21、22、23、及び24のうちの少なくとも1つは、往復キャリアエンベロープ位相ずれΔΦ=360°/Nが得られるように調節され、共振器長Lは、数1に従って、例えばN=3で設定される。
【数1】
このような測定の効果が
図3Bに示されている。往復キャリアエンベロープ位相ずれによりキャビティオフセット周波数6がf
rep/Nと等しくなり、従って第1のキャビティ共振周波数5Aを第1の周波数コムライン4Aにシフトする。さらに、周波数領域では、従来のキャビティの共振全長キャビティと比較して、キャビティ共振の周波数が、係数Nを乗じたものになる。すると、N番目のシードコムライン4が全てキャビティ共振周波数5とオーバーラップする。コムスペクトル3の全体にわたって周波数オーバーラップが得られることによって、シードレーザーパルス1と、循環するキャビティパルス2とのコヒーレントな重ね合わせ毎に周波数整合が維持されて、高調波コムを広帯域増強することが可能になる。この広帯域増強は、パワー増強係数をN分の1に減少させるという犠牲を払って得られる。
【0061】
本発明の第2の実施形態(高次キャビティモードへの結合による周波数整合)が
図4に示されており、
図4Aは、4つのミラー21、22、23、24、及びミラー23と24との間のキャビティ焦点に配置されている第1の板状結合素子25(ウェッジ)を有するボウタイ・エンハンスメントキャビティ20を例示的に示す。ミラー21、22、23、24は、共振器長Lでキャビティビーム経路26に広がる。第2の実施形態では、
図4Bに示すように、エンハンスメントキャビティ20の高次横モードが使用され、これは、基本横モードのキャビティ共振周波数の倍数であるキャビティ共振オフセット周波数6を含む、一連の高次モードキャビティ共振周波数5を有する。
【0062】
時間領域(
図4A)では、シードレーザーパルス1は、繰り返し率f
repでエンハンスメントキャビティ20に入る。シードレーザーパルス1は、レーザー光源装置10によって放射された基本ガウスモードTEM
00の光場で生成され、続いて、モード整合装置40で変換されて、光場がエンハンスメントキャビティ20の高次モードTEM
nmに整合され、n+m+1=Nであり、Nは、2以上の自然数である。モード整合装置40は、少なくとも1つの吸収マスク及び/又は位相マスク、並びに任意選択で円筒形の光学素子を備え、光場を幾何学的に成形して、エンハンスメントキャビティ20の高次モードTEM
nmの形状、例えばTEM
11又はTEM
20モードと整合されるように構成される。
【0063】
周波数領域(
図4B)では、シードレーザーパルス1の周波数コムスペクトル3は、差がf
repと等しい、等距離の周波数コムライン4を有する。
図3におけるように、シードレーザーパルス1が高調波コムを与えるので、同様に周波数コムライン4Aが0に配置される(入力コムオフセット周波数はゼロと等しい)。
【0064】
第1の実施形態からは逸脱して、共振器長Lは、数2に従って、即ち従来のキャビティの共振全長キャビティに従って設定される。
【数2】
したがって、周波数領域では、キャビティ共振周波数5は、f
repの間隔を有する(
図4B)。さらに、第1の実施形態のように、エンハンスメントキャビティ20は、好ましくはミラー21、22、23、及び24のうちの少なくとも1つを調節することによって、例えばN=3となる、往復キャリアエンベロープ位相ずれΔΦ=360°/Nが得られるように設定される。金属表面及びTEM
00モードを有する偶数個のミラーの場合は、結果として、最適オフセット周波数6をf
rep/Nにシフトして、第1のキャビティ共振周波数5Aが、第1の周波数コムライン4Aとオーバーラップする。高次モードTEM
nmのキャビティ共振の周波数f
ceoは、基本モードTEM
00の周波数と比較してN倍に高められる。すると、全てのシードコムライン4が、キャビティ共振周波数5のうちの1つとオーバーラップする。第1の実施形態のように、コムスペクトル3の全体にわたってこの周波数オーバーラップが得られることによって、シードレーザーパルス1と、循環するキャビティパルス2とのコヒーレントな重ね合わせ毎に周波数整合が維持されて、高調波コムを広帯域増強することが可能になる。第1の実施形態からは逸脱して、全ての連続する共振にこの広帯域増強が得られる結果、循環するキャビティパルス2の増強の効率が高められる。
【0065】
第1の実施形態に従って共振器長を調節すること、又は第2の実施形態に従って高次モードに結合することは、エンハンスメントキャビティ20のボウタイ形状に限定されず、以下で説明する
図1及び
図2の実施形態、又は
図5~
図9の実施形態など、エンハンスメントキャビティのあらゆる他の構成でも可能である。
【0066】
図5によれば、レーザーパルス増強装置100のエンハンスメントキャビティ20は、
図2のようなボウタイキャビティ形状を有し、キャビティビーム経路26に4つのキャビティミラー21、22、23、及び24が広がる。この実施形態では、入出力結合用に単一の板状結合素子25が提供される。結合素子25は、2つの異なるビーム経路部分でキャビティビーム経路26と交差するように配置され、結果として、キャビティビーム経路26に対して結合素子25の表面の角度がわずかに異なる。エンハンスメントキャビティ20外で適用部位30に結合された、増強されたキャビティパルス(複数可)の部分7と比較して、レーザー光源装置10から生じるシードレーザーパルス1は、別の方向からエンハンスメントキャビティ20内に結合されてもよい。この実施形態は、平面ミラーから反射されたビーム同士の間の角度が非常に小さいという利点がある。
【0067】
図6は、進行波エンハンスメントキャビティ20が3つのミラー21、22、及び23のみを使用している、レーザーパルス増強装置100の非平面の実施形態を示す。平面ミラー21は、高入射角で操作される。このエンハンスメントキャビティ20の利点は、4つのミラーを有するキャビティより損失率が低いことである。この設計の好ましい実現では、平面ミラー21での入射ビーム及び反射ビームが広がる平面は、第1の板状結合素子25で入射ビーム及び透過ビームが広がる平面に垂直である。例えば、後者の平面は、レーザーパルス増強装置100を支持するプラットフォームの水平なx-y平面(図面の平面に垂直)であり、平面ミラー21は、水平なx-y平面と平行に延びている。この実施形態では、放射は、第1の板状結合素子25に対してp偏向され、且つ平面ミラー21に対してs偏向されてもよく、高入射角での反射率が非常に高くなる。
【0068】
図7のレーザーパルス増強装置100は、2つのミラー21、22のみを備える進行波エンハンスメントキャビティ20を有する。
図1の実施形態とは異なり、キャビティビーム経路26は、それ自身に向けて折り返されるのではなく、リング形状に従っている。これは、傾斜したウェッジを含む結合素子25を介して、シードレーザーパルス1を結合することによって可能になる。この設計は、進行波キャビティ(循環する毎に結合素子25を1回だけ通る)の利点を、線形キャビティの低損失と組み合わせている。
【0069】
図8によれば、本発明のレーザーパルス増強装置は、レーザー光源装置10と、エンハンスメントキャビティ20と、検出装置32とを備える分光測定装置200として構成される。分光測定装置200は、高感度な分光トレースガスの検出及び測定に適合される。エンハンスメントキャビティ20は、
図1に示すような線形キャビティの構成を有し、2つのミラー21、22と、ペリクル状の結合素子25とを備える。これに加えて、エンハンスメントキャビティ20内に吸収管31が配置される。吸収管31は、一直線の長手方向に延びる中空管で、キャビティビーム経路26を収容している。吸収管31の軸線方向端部は、エンハンスメントキャビティ20に向かって開かれていてもよく、又は薄箔の窓によって閉じられていてもよく、また代替的に、AR被覆又はブルースター窓によって閉じられていてもよい。吸収管31は、分子ガス又はガス混合物などの、分析されることになる気体試料8で満たされる。
【0070】
例えば、8~10μmの中心波長と、50~100fsの持続時間と、数十~数百MHzの繰り返し周波数とを有するシードレーザーパルス1は、結合素子25を介してエンハンスメントキャビティ20内に結合され、エンハンスメントキャビティ20内を循環する増強されたキャビティパルス2にコヒーレント加算される。キャビティパルス2は、吸収管31を繰り返し通過し、試料8に吸収される。吸収後、キャビティパルス2に続く光場のテールの形状を有する分子反応が、コヒーレントに再放射される。光場のテールは、具体的には試料8の分子の分光学的特徴によって決定される。
【0071】
試料8による吸収の繰り返し及び共振反応によって、光場のテールが線形に増強され、エンハンスメントキャビティ20外に結合されて検出装置32に達する。元の循環するキャビティパルス2の大部分が、相殺的干渉によって排除される(破線矢印を参照)一方で、吸収によって変化するキャビティパルス2の一部は、検出装置32に偏向される。周波数領域では、光場のテールの生成は、シードレーザーパルス1の(複素)周波数コムスペクトルと比較して、循環するキャビティパルス2の(複素)周波数コムスペクトルの試料固有の変化をもたらす。検出装置32は、例えば、電場分解分光法によって、試料固有の変化を感知するように構成される。光場のテールの生成及びその検出の詳細は、例えば、[14]及び[15]で説明されている。
【0072】
図9は、
図7の設計を例にとった、トレースガス検出用のエンハンスメントキャビティ20を備える、分光測定装置200の別の実施形態を示す。2つのミラー21、22と、ウェッジ状の結合素子25とを有するエンハンスメントキャビティ20が、入力窓34と出力窓35とを有する気密容器33に収容されている。容器33は、ガス又はガス混合物などの、分析されることになる気体試料8で満たされる。このようにして、エンハンスメントキャビティ20の全キャビティビーム経路26が、やはり2/πF倍に増強されて、吸収の測定に適用される。シードレーザーパルス1は、入力窓34及び結合素子25を介して、エンハンスメントキャビティ20内に供給される。
図8を参照して説明したように、試料8の分子反応(光場のテール、キャビティパルス2の部分7)がキャビティ20外に結合されて検出装置32に達する一方で、主要なキャビティパルス6は、干渉によって排除される。
【0073】
上述の説明、図面、及び特許請求の範囲で開示されている本発明の特徴は、個別に、且つ組み合わせ又は下位組み合わせにおいて、本発明をその異なる実施形態で実施するための意義を有し得る。
【国際調査報告】