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特表2024-513816インスリン産生及び分泌を改善するための方法ならびに組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】インスリン産生及び分泌を改善するための方法ならびに組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/198 20060101AFI20240319BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20240319BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240319BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240319BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61K31/198
A23L33/175
A23L33/10
A61K31/19
A61P3/10
A61K38/00
A61K38/01
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560214
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 US2022022712
(87)【国際公開番号】W WO2022212621
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】21382265.3
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】391008788
【氏名又は名称】アボット・ラボラトリーズ
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ペドロサ,ホセ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ルエダ カブレラ,リカルド
(72)【発明者】
【氏名】マンザノ,マニュエル
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD01
4B018MD08
4B018MD10
4B018MD13
4B018MD15
4B018MD16
4B018MD17
4B018MD19
4B018MD20
4B018MD21
4B018MD28
4B018MD29
4B018MD30
4B018MD31
4B018MD32
4B018MD33
4B018MD34
4B018MD35
4B018MD36
4B018MD37
4B018MD38
4B018MD39
4B018MD40
4B018MD46
4B018MD47
4B018MD49
4B018MD53
4B018MD57
4B018MD58
4B018MD69
4B018MD70
4B018MD76
4B018MD77
4B018MD80
4B018MD89
4B018ME03
4C084AA27
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA43
4C084MA52
4C084NA05
4C084ZC35
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA02
4C206FA53
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA37
4C206MA63
4C206MA72
(57)【要約】
インスリン産生の改善を必要とする対象におけるインスリン産生を改善する方法は、リシン、アルギニン及びβ-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)を含む栄養組成物を前記対象に投与することを含む。インスリン分泌の改善を必要とする対象におけるインスリン分泌を改善する方法は、リシン、アルギニン及びHMBを含む栄養組成物を前記対象に投与することを含む。前記栄養組成物は、約0.01~約15重量%のHMB、約0.03~約40重量%のリシン、及び約0.02~約30重量%のアルギニンを含む。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン産生の改善を必要とする対象におけるインスリン産生を改善する方法であって、
リシン、アルギニン及びβ-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)を含む栄養組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
インスリン分泌の改善を必要とする対象におけるインスリン分泌を改善する方法であって、
リシン、アルギニン及びβ-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)を含む栄養組成物を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
前記対象は、糖尿病または前糖尿病に罹患している、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、糖アルコールを前記対象に投与すること、またはミオイノシトールを前記対象に投与することを更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記HMBは、アルカリ金属HMB、アルカリ土類金属HMB、HMB遊離酸、HMBラクトン及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるか、または前記HMBは、ナトリウムHMB、カリウムHMB、マグネシウムHMB、クロムHMB、カルシウムHMB及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるか、または前記HMBは、カルシウムHMB一水和物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記栄養組成物中のリシン対アルギニンのモル比は、約10:1~約1:1、または約5:1~約1:1、または約3:1~約1:1であり、前記栄養組成物中のリシンとアルギニンとの組み合わせ対HMBのモル比は、約15:1~約1:1、または約10:1~約1:1、または約5:1~約1:1である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記栄養組成物は前記対象に経口投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記栄養組成物は粉末の形態である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記栄養組成物は液体の形態である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象に、1日あたり約1~約10g、もしくは約2~約5gのHMB;及び/または、
1日あたり約0.1~約30g、約1~約10g、もしくは約4~約5gのリシン;及び/または、
1日あたり約0.1~約20g、約1~約10g、もしくは約2~約3gのアルギニンを投与する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記栄養組成物は、タンパク質、炭水化物、及び/または脂肪を更に含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質は、乳清タンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物、乳清タンパク質加水分解物、乳タンパク質濃縮物、乳タンパク質単離物、乳タンパク質加水分解物、乳タンパク質濃縮物、有機乳タンパク質濃縮物、大豆タンパク質濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆タンパク質加水分解物、エンドウ豆タンパク質濃縮物、エンドウ豆タンパク質単離物、エンドウ豆タンパク質加水分解物、酸カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼイン加水分解物、脱脂粉乳、濃縮脱脂粉乳、コラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質単離物、L-カルニチン、タウリン、ルテイン、コメタンパク質濃縮物、コメタンパク質単離物、コメタンパク質加水分解物、ソラマメタンパク質濃縮物、ソラマメタンパク質単離物、ソラマメタンパク質加水分解物、肉タンパク質、ジャガイモタンパク質、ヒヨコ豆タンパク質、キャノーラタンパク質、マングタンパク質、キアヌタンパク質、アマランスタンパク質、チアタンパク質、ヘンプタンパク質、亜麻仁種子タンパク質、ミミズタンパク質、昆虫タンパク質、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記炭水化物は、繊維、ヒト乳オリゴ糖(HMO)、マルトデキストリン、難消化性マルトデキストリン、コーンマルトデキストリン、コーンシロップ、有機コーンマルトデキストリン、コーンシロップ、固形コーンシロップ、スクラロース、セルロースゲル、セルロースガム、ジェランガム、カラギーナン、フラクトオリゴ糖(FOS)、イノシトール、加水分解デンプン、グルコースポリマー、コメ由来炭水化物、スクロース、グルコース、ラクトース、ハチミツ、イソマルツロース、スクロモルト、プルラン、ジャガイモデンプン、ガラクトオリゴ糖、オート麦繊維、大豆繊維、トウモロコシ繊維、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、コンニャク粉、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トラガントガム、カラヤガム、アカシアガム、キトサン、アラビノガラクタン(arabinoglactin)、グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ペクチン、低メトキシペクチン、高メトキシペクチン、穀物ベータグルカン、オオバコ、イヌリン、及びこれらの2つ以上の組み合わせを含む、請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記炭水化物は、イソマルツロース、スクロモルト、マルトデキストリン、難消化性マルトデキストリン、FOS、イヌリン、オート麦繊維、大豆繊維、またはこれらの2つ以上の組み合わせを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記脂肪は、ココナッツ油、分留ココナッツ油、大豆油、大豆レシチン、コーン油、ベニバナ油、ヒマワリ油、パームオレイン、キャノーラ油、モノグリセリド、レシチン、キャノーラ油、中鎖トリグリセリド、リノール酸、α-リノール酸、分留ココナッツ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、ベニバナ油、中鎖トリグリセリド油(MCT油)、高ガンマリノール酸(GLA)、ベニバナ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、魚油(marine oil)、魚油(fish oil)、藻類油、ルリジサ油、綿実油、真菌油、エステル交換油(interesterified oil)、エステル交換油(transesterified oil)、構造脂質、オメガ-3脂肪酸、またはこれらの2つ以上の組み合わせを含む、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記栄養組成物は、タンパク質、炭水化物、脂肪、ならびにビタミン及びミネラルからなる群から選択される1つ以上の栄養素を含む、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
栄養組成物であって、
約0.01~約15重量%のHMB;
約0.03~約40重量%のリシン;及び
約0.02~約30重量%のアルギニンを含み、すべては前記栄養組成物の重量に基づく、前記栄養組成物。
【請求項18】
前記栄養組成物は、
約0.01~約10重量%、約0.01~約8重量%、約0.01~約5.0重量%、約0.1~約10重量%、約0.1~約8重量%、約0.1~約5.0重量%、約0.2~約5.0重量%、約0.3~約3重量%、約0.3~約2重量%、約0.3~約1.5重量%、約0.3~約1.0重量%、約0.3~0.6重量%、または約0.4~約1.5重量%のHMB;
約0.03~約30重量%、約0.03~約20重量%、または約0.1~約10重量%のリシン;及び
約0.02~約20重量%、約0.02~約10重量%、または約0.05~約5重量%のアルギニンを含み、すべては前記栄養組成物の重量に基づく、請求項17に記載の栄養組成物。
【請求項19】
前記栄養組成物は、糖アルコールを更に含むか、またはミオイノシトールを更に含む、請求項17または18に記載の栄養組成物。
【請求項20】
前記栄養組成物は、タンパク質、炭水化物及び/または脂肪を更に含む、請求項17~19のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項21】
前記タンパク質は、乳清タンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物、乳清タンパク質加水分解物、乳タンパク質濃縮物、乳タンパク質単離物、乳タンパク質加水分解物、乳タンパク質濃縮物、有機乳タンパク質濃縮物、大豆タンパク質濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆タンパク質加水分解物、エンドウ豆タンパク質濃縮物、エンドウ豆タンパク質単離物、エンドウ豆タンパク質加水分解物、酸カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼイン加水分解物、脱脂粉乳、濃縮脱脂粉乳、コラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質単離物、L-カルニチン、L-リシン、タウリン、ルテイン、コメタンパク質濃縮物、コメタンパク質単離物、コメタンパク質加水分解物、ソラマメタンパク質濃縮物、ソラマメタンパク質単離物、ソラマメタンパク質加水分解物、コラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質単離物、肉タンパク質、ジャガイモタンパク質、ヒヨコ豆タンパク質、キャノーラタンパク質、マングタンパク質、キアヌタンパク質、アマランスタンパク質、チアタンパク質、ヘンプタンパク質、亜麻仁種子タンパク質、ミミズタンパク質、昆虫タンパク質、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせを含む、請求項20に記載の栄養組成物。
【請求項22】
前記炭水化物は、繊維、ヒト乳オリゴ糖(HMO)、マルトデキストリン、難消化性マルトデキストリン、コーンマルトデキストリン、コーンシロップ、有機コーンマルトデキストリン、コーンシロップ、固形コーンシロップ、スクラロース、セルロースゲル、セルロースガム、ジェランガム、カラギーナン、フラクトオリゴ糖、イノシトール、加水分解デンプン、グルコースポリマー、コメ由来炭水化物、スクロース、グルコース、ラクトース、ハチミツ、イソマルツロース、スクロモルト、プルラン、ジャガイモデンプン、ガラクトオリゴ糖、オート麦繊維、大豆繊維、トウモロコシ繊維、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、コンニャク粉、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トラガントガム、カラヤガム、アカシアガム、キトサン、アラビノガラクタン(arabinoglactin)、グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ペクチン、低メトキシペクチン、高メトキシペクチン、穀物ベータグルカン、オオバコ、イヌリン、及びこれらの2つ以上の組み合わせを含む、請求項20または請求項21に記載の栄養組成物。
【請求項23】
前記炭水化物は、イソマルツロース、スクロモルト、マルトデキストリン、難消化性マルトデキストリン、FOS、イヌリン、オート麦繊維、大豆繊維、またはこれらの2つ以上の組み合わせを含む、請求項22に記載の栄養組成物。
【請求項24】
前記脂肪は、ココナッツ油、分留ココナッツ油、大豆油、大豆レシチン、コーン油、ベニバナ油、ヒマワリ油、パームオレイン、キャノーラ油、モノグリセリド、レシチン、キャノーラ油、中鎖トリグリセリド、リノール酸、α-リノール酸などの1つ以上の脂肪酸、分留ココナッツ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、ベニバナ油、中鎖トリグリセリド油(MCT油)、高ガンマリノール酸(GLA)、ベニバナ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、魚油(marine oil)、魚油(fish oil)、藻類油、ルリジサ油、綿実油、真菌油、エステル交換油(interesterified oil)、エステル交換油(transesterified oil)、構造脂質、オメガ-3脂肪酸、またはこれらの2つ以上の組み合わせを含む、請求項17~23のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項25】
前記栄養組成物は、タンパク質、炭水化物、脂肪、ならびにビタミン及びミネラルからなる群から選択される1つ以上の栄養素を含む、請求項17~24のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項26】
前記栄養組成物は、前記栄養組成物の重量に基づいて、約1~約15重量%のタンパク質、約0.5~約10重量%の脂肪、及び約1~約20重量%の炭水化物を含む、請求項17~25のいずれか1項に記載の栄養組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象におけるインスリン産生を改善する方法、対象におけるインスリン分泌を改善する方法、ならびにリシン、アルギニン、及びβ-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)を使用する栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓β細胞は、血糖濃度を調節するホルモンであるインスリンを産生及び分泌する。β細胞は、血中のグルコース濃度を正常に保つために(すなわち、正常血糖)、十分な濃度でインスリンを産生、保存、及び分泌する必要がある。生理学的に、正常血糖は、末梢でのインスリン感受性(筋肉や脂肪などの末梢組織の体細胞がグルコースをどれだけ容易に吸収することができるか)とインスリン分泌との間のバランスによって支配され、インスリン感受性が低下すると、インスリン分泌が増加する。β細胞は血糖濃度に非常に敏感であるので、血糖濃度の平衡を維持する身体の能力の変化は、その機能に大きな影響を及ぼす。血糖濃度の上昇及びインスリン産生が延長されると、膵臓は、時間の経過と共にβ細胞質量をインスリン需要に適合させる能力を失い、それによって機能的なβ細胞質量が減少する。β細胞の機能的質量の調節異常は、糖尿病の発症及び進行に関連する重要な機構因子である。
【0003】
薬物療法による糖尿病治療の進歩は続いているが、糖尿病発症の病因と機序はまだ完全には解明されていないため、糖尿病進行の対処は重要な問題である。2つの主要な問題、すなわち、糖尿病を治癒させる方法、ならびに一次予防及び二次予防による糖尿病の有病率の低下の方法が存在する。
【0004】
インスリン抵抗性及びβ細胞機能障害は、糖尿病の発症及び進行に重要な役割を有する。インスリン抵抗性は、糖尿病と診断される何年も前から存在することが多いが、筋肉、肝臓及び脂肪組織などの主要な標的組織におけるインスリンに対する応答の低下を反映しており、疾患の発生を予測することが示されている。β細胞の機能は、前糖尿病と診断された患者など耐糖能障害のある患者では既に低下しており、2型糖尿病患者では更に低下している。UKPDSの研究によると、2型糖尿病に罹患した対象のβ細胞機能は、診断時に50%低下し、その後の年ごとに5%の低下を示す可能性があり、発症前の数年で悪化が始まることが示唆されている。Lancet,352(1998):pp.837-853及びpp854-865;Br Med J,317(1998),pp.703-713及びpp.713-720。
【0005】
β細胞の機能的質量の欠乏は、2型糖尿病の発症に必要かつ早期の条件であるため、β細胞の回復及び/またはβ細胞の再生を提供し、かつ機能的な膵島の完全性を維持する方法は、2型糖尿病の予防、進行の遅延、治療、寛解、及び潜在的な治癒のために望ましい。
【0006】
現在、抗糖尿病薬の使用は広く普及している。糖尿病を治療するために利用可能な薬物療法は、主に高血糖レベルを低下させるように作用するため、「対症療法」として開発されてきた。しかしながら、抗糖尿病薬(例えば、メトホルミン、ロシグリタゾン、及びグリブリド)を用いた単剤療法は、低下速度に違いがあるとはいえ、経時的に失敗することが報告されている。更に、現在の治療は、β細胞機能の進行性の喪失を完全に止めるわけではなく、その使用は、低血糖症及び体重増加にも関連している。2型糖尿病の発症及び進行を予防できるようにするためには、治療はまた、高血糖を低下させることとは無関係に、β細胞機能障害を止め、完全に機能するβ細胞質量の回復を促進すべきである。2型糖尿病の管理には、理想的にはインスリン抵抗性及びβ細胞機能障害の早期かつ同時治療が含まれるべきである。
【0007】
上述したように、薬物療法に加えて、運動及び栄養介入による前糖尿病及び糖尿病の両方の効果的な予防管理の理解にも、大きな努力がなされてきた。糖尿病進行の管理のための予防戦略、例えば、前糖尿病から糖尿病への進行、または妊娠後の妊娠糖尿病から2型糖尿病への進行は、インスリン分泌及び作用の改善、糖尿病、特にインスリン抵抗性に関連する要因の最小化、高血糖症の予防、ならびに筋肉の構造及び機能の回復に焦点を当てるべきである。
【0008】
したがって、インスリンの分泌及び産生を改善する方法は、特に糖尿病または前糖尿病に罹患している患者にとって望ましい。また、2型糖尿病または前糖尿病の進行を遅らせる、2型糖尿病または2型糖尿病を予防するまたは回復させるために役立つ、インスリン分泌及び産生を改善する方法を提供することも望ましい。既存の糖尿病治療に関連する上記の制限に対処する助けとなり得る栄養介入も望ましい。
【発明の概要】
【0009】
一実施形態では、本発明は、インスリン産生の改善を必要とする対象におけるインスリン産生を改善する方法であって、リシン、アルギニン及びβ-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)を含む栄養組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0010】
追加の実施形態では、本発明は、インスリン分泌の改善を必要とする対象におけるインスリン分泌を改善する方法であって、リシン、アルギニン及びHMBを含む栄養組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0011】
更なる追加の実施形態では、本発明は、約0.01~約15重量%のHMB、約0.03~約40重量%のリシン及び約0.02~約30重量%のアルギニンを含む栄養組成物に関する。
【0012】
本発明によるインスリン産生を改善し及びインスリン分泌を改善する方法、ならびに栄養組成物は、それらがインスリン分泌及びインスリン産生を改善し、したがってβ細胞変質の低下及び/またはβ細胞の機能性の改善に寄与し得るという点で有利である。したがって、本発明の方法及び栄養組成物は、糖尿病の発症を遅延または予防し、糖尿病の進行を遅延または予防し、及び/または寛解を促進するのに役立ち得る。本発明のこれらの目的及び利点ならびに追加の目的及び利点は、以下の詳細な説明を考慮してより完全に明らかになるであろう。
【0013】
図面に記載された実施形態は、本発明の特定の態様を説明するものであり、本質的に例示的であり、特許請求の範囲によって定義される本発明を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1に記載された、INS-1細胞におけるグルコース取り込みに対する、アルギニン(ARG)、リシン(LYS)、HMB、ならびにアルギニン、リシン及びHMBの組み合わせ(MIX)の効果を示す。
図2】実施例1に記載された、INS-1細胞における膵臓細胞での主なグルコーストランスポーターであるGLUT2の発現レベルに対する、アルギニン(ARG)、リシン(LYS)、HMB、ならびにアルギニン、リシン及びHMBの組み合わせ(MIX)の効果を示す。
図3】実施例2に記載された、INS-1細胞における細胞外グルコース濃度に対するインスリン分泌の急性応答に対する、アルギニン(ARG)、リシン(LYS)、HMB、ならびにアルギニン、リシン及びHMBの組み合わせ(MIX)の効果を示す。
図4】実施例2に記載された、INS-1細胞におけるインスリン産生に対する、アルギニン(ARG)、リシン(LYS)、HMB、ならびにアルギニン、リシン及びHMBの組み合わせ(MIX)の効果を示す。
図5】実施例2に記載された、INS-1細胞の細胞内インスリン濃度に対する、アルギニン(ARG)、リシン(LYS)、HMB、ならびにアルギニン、リシン及びHMBの組み合わせ(MIX)の効果を示す。
図6】実施例3に記載された、β細胞の増殖及び生存率に対する、アルギニン(ARG)、リシン(LYS)、HMB、ならびにアルギニン、リシン及びHMB(MIX)の組み合わせの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特定の実施形態を、本明細書に記載する。しかし、本発明は、異なる形態で具現化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本発明の特定の態様のより具体的な特徴を当業者に説明するために提供される。
【0016】
本明細書に記載の専門用語は、実施形態の説明のみを目的としており、開示全体を限定するものとして解釈されるべきではない。本開示の単数形の特徴または限定へのすべての言及は、別段の指定がない限り、または言及される文脈によって反対のことが明確に示唆されていない限り、対応する複数の特徴または限定を含むものとし、逆もまた同様である。別段の指定がない限り、「a」、「an」、「the」、及び「少なくとも1つ」は互換的に使用される。更に、本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が他に明確に示さない限り、それらの複数形を含む。
【0017】
「含む(includes)」または「含む(including)」という用語は、本明細書または特許請求の範囲で使用される限り、「含む(comprising)」という用語が、クレーム中で移行語として使用される場合に解釈されるように、「含む(comprise)」という用語と同様の方法で追加の要素またはステップを包含することを意図している。更に、「または」という用語が使用される限り(例えば、AまたはB)、「AまたはBまたは両方」を意味することを意図している。「AまたはBのみで両方ではない」を意図する場合、「AまたはBのみで両方ではない」という用語が使用される。したがって、本明細書における「または」という用語の使用は、包括的使用であり、排他的使用ではない。「A及び/またはB」のように、「及び」及び「または」という用語が一緒に使用される場合、これはAまたはBだけでなく、A及びBも示す。
【0018】
本開示に記載された方法及び組成物は、本明細書に記載された要素及びステップのいずれかを含む、またはそれらからなる、または本質的にそれからなることができる。
【0019】
本明細書に開示されるパーセンテージ、部分、及び比率を含むがこれらに限定されないすべての範囲及びパラメータは、その中に組み込まれるあらゆる部分範囲、及び端点間のすべての数を包含すると理解される。例えば、「1~10」と記載された範囲は、1以上の最小値で始まり、10以下の最大値で終わるすべての部分範囲(例えば、1~6.1、または2.3~9.4)、及びその範囲内に含まれる各整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10)を含むと考えられるべきである。
【0020】
本明細書で使用される方法またはプロセスステップの任意の組み合わせは、別段の指定がない限り、または組み合わせが言及される文脈によって反対のことが明確に示唆されていない限り、任意の順序で実行することができる。
【0021】
別段の指示がない限り、すべてのパーセンテージは、重量パーセンテージである。
【0022】
本明細書で使用される「HMB」という用語は、特に明記しない限り、β-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(β-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、β-ヒドロキシイソ吉草酸とも称される)及びその供給源を指す。HMBを特徴付けるために本明細書で使用されるすべての重量、パーセンテージ及び濃度は、特に明記しない限り、供給源に関係なく、HMBの重量に基づく。
【0023】
本明細書で使用される「カルシウムHMB」という用語は、特に明記しない限り、最も一般的に一水和物の形態であるβ-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(β-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、β-ヒドロキシイソ吉草酸、またはHMBとも称される)のカルシウム塩を指す。カルシウムHMBを特徴付けるために本明細書で使用されるすべての重量、パーセンテージ及び濃度は、特に明記しない限り、カルシウムHMB一水和物の重量に基づく。
【0024】
本明細書で使用される「糖尿病」という用語は、特に明記しない限り、1型糖尿病、2型糖尿病、及び妊娠糖尿病を指す。1型糖尿病(若年性糖尿病またはインスリン依存性糖尿病とも称される)は、膵臓がインスリンをほとんど産生しないか、またはまったく産生しない慢性疾患である。免疫系が誤って膵臓におけるインスリン産生β細胞を攻撃及び破壊するため、自己免疫状態とみなされる。2型糖尿病は、体が糖を代謝する過程に影響を及ぼす慢性疾患である。2型糖尿病患者では、体はインスリンの作用に抵抗して細胞によるグルコース取り込みの低下を引き起こすか、または正常なグルコースレベルを維持するのに十分なインスリンを産生しない。2型糖尿病は多くの場合インスリン抵抗性として始まり、これは、体がインスリンを効率的に使用できないことを意味する。妊娠糖尿病は、妊娠中にのみ発生し、妊娠中に産生されるインスリン阻害ホルモンの結果である。妊娠糖尿病と診断された患者は、妊娠後に2型糖尿病を発症するリスクが高い。
【0025】
本明細書で使用される「栄養粉末」という用語は、特に明記しない限り、一般的に流動性の粒子であり、水性液体で再構成可能であり、ヒトへの経口投与に適した栄養粉末を指す。
【0026】
本明細書で使用される「栄養液」という用語は、特に明記しない限り、すぐに飲める液体形態の栄養製品を指し、使用前に本明細書に記載の栄養粉末を再構成することにより作成される栄養液を指す。
【0027】
本明細書で使用される「栄養製品」及び「栄養組成物」という用語は、特に明記しない限り、栄養液及び栄養粉末を指し、栄養粉末は、栄養液を形成するように再構成されてもよく、それらはヒトによる経口摂取に適している。
【0028】
β-ヒドロキシ-β-メチルブチラート(HMB)は、様々な栄養製品及びサプリメントでの使用において公知である、天然に存在するアミノ酸代謝物である。HMBは、必須アミノ酸ロイシンの代謝物であり、タンパク質代謝回転を調節し、タンパク質分解を阻害することが示されている。カルシウムHMBは、経口栄養製品に配合される場合に一般的に使用される形態のHMBであり、この製品には、錠剤、カプセル剤、再構成可能粉末、ならびに栄養液及びエマルジョンが含まれる。
【0029】
HMBは、選択された個体における健康な筋肉の構築または維持を助けるために栄養製品に一般的に使用されているが、本発明者らは、驚くべきことに、HMBが、アルギニン及びリシンと組み合わせて、膵臓β細胞におけるインスリン分泌及びインスリン産生を改善することを発見した。
【0030】
一実施形態では、対象におけるインスリン産生を改善する方法が提供される。方法は、リシン、アルギニン及びHMBを含む栄養組成物を対象に投与することを含む。本発明の別の実施態様では、対象におけるインスリン分泌を改善する方法が提供される。方法は、リシン、アルギニン及びHMBを含む栄養組成物を対象に投与することを含む。これらの方法の特定の実施形態では、対象は、糖尿病または前糖尿病に罹患している。本発明の方法の更なる実施形態では、方法は、糖アルコールを対象に投与することを更に含む。適切な糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、イソマルト、マルチトール及びミオイノシトールが挙げられるが、これらに限定されない。より具体的な実施形態では、糖アルコールは、ミオイノシトールである。
【0031】
本発明の更なる実施態様では、HMB、リシン及びアルギニンを含む栄養組成物が提供される。一実施形態では、栄養組成物は、約0.01~約15重量%または約0.01~約10重量%のHMB、約0.03~約40重量%または約0.03~約30重量%のリシン、及び約0.02~約30重量%または約0.02~約20重量%のアルギニンを含む。本発明の栄養組成物の特定の実施形態では、栄養組成物は、上記の糖アルコールを更に含む。より具体的な実施形態では、糖アルコールは、ミオイノシトールである。
【0032】
本発明の栄養組成物の別の実施形態では、栄養組成物中のリシン対アルギニンのモル比は、約10:1~約1:1、または約5:1~約1:1、または約3:1~約1:1である。更なる別の特定の実施形態では、栄養組成物中のリシン及びアルギニンの組み合わせ対HMBのモル比は、約15:1~約1:1、または約10:1~約1:1、または約5:1~約1:1、または約3:1~約1:1である。
【0033】
HMBのいかなる供給源も、本発明の方法及び栄養組成物における使用に適している。例としては、遊離酸としてのHMB、無水塩もしくは水和塩を含む塩、エステル、ラクトン、または他の生成物形態であって、そうでなければHMBの生体利用可能な形態を提供する、HMBが挙げられる。本発明の方法及び組成物の特定の実施形態では、HMB供給源は、アルカリ金属HMB、アルカリ土類金属HMB、HMB遊離酸、HMBラクトン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。より具体的な実施形態では、HMBの供給源は、ナトリウムHMB、カリウムHMB、マグネシウムHMB、クロムHMB、カルシウムHMB及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるか、またはHMBはカルシウムHMB一水和物である。
【0034】
本方法の具体的な実施態様によれば、リシン、アルギニン及びHMBは経口投与される。より具体的な実施態様では、リシン、アルギニン及びHMBは、栄養組成物中に提供され、経口投与される。
【0035】
本明細書に記載される方法及び栄養組成物は、インスリン産生を改善及び/またはインスリン分泌を改善し、より具体的には、リシン、アルギニンまたはHMB単独で達成されるよりも高い程度でこれらの効果のうちの1つ以上を達成するのに有効な量のリシン、アルギニン及びHMBを使用する。
【0036】
特定の実施形態では、栄養組成物は粉末の形態である。別の特定の実施形態では、栄養組成物は液体の形態である。
【0037】
本方法の特定の実施態様では、対象に、1日あたり約1~約10g、または約2~約5gのHMBを投与する。
【0038】
本方法の他の特定の実施態様では、対象に、1日あたりに約0.1g~約30g、または約1g~約10g、または約3g~約6gのリシンを投与する。
【0039】
本方法の更なる特定の実施態様では、対象に、1日あたり約0.1~約20g、または約1~約10g、または約1~約5gのアルギニンを投与する。
【0040】
リシン及びアルギニンは、栄養組成物に、固有の形態または補充された形態のいずれかで添加することができる。固有のアミノ酸は、食物タンパク質によって提供されるものであるが、補助アミノ酸は、L-配置またはD-配置の遊離アミノ酸である。本発明の特定の実施形態では、栄養組成物は、補助リシン及び/またはアルギニンを使用する。本発明のより具体的な実施態様では、栄養組成物は、リシン及び/またはアルギニンをL-型で使用する。
【0041】
本発明の更なる特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量に基づいて、約0.01~約10重量%、約0.01~約8重量%、約0.01~約5.0重量%、0.1~約10重量%、約0.1~約8重量%、約0.1~約5.0重量%、約0.2~約5.0重量%、約0.3~約3重量%、約0.3~約2重量%、約0.3~約1.5重量%、約0.3~約1.0重量%、約0.3~0.6重量%、または約0.4~約1.5重量%のHMBを含む。
【0042】
別の特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量に基づいて、約0.03~約40重量%、または約0.03~約30重量%、または約0.03~約20重量%のリシンを含む。より具体的な実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量に基づいて、約0.1~約10重量%のリシンを含む。
【0043】
本発明の別の特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量に基づいて、約0.02~約30重量%、または約0.02~約20重量%、または約0.02~約10重量%のアルギニンを含む。より具体的な実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量に基づいて、約0.05~約5重量%のアルギニンを含む。
【0044】
本発明の別の特定の実施形態では、栄養組成物は、タンパク質、炭水化物、及び/または脂肪を必要に応じて任意の量で更に含む。多種多様な供給源、ならびに多種多様な種類のタンパク質、炭水化物及び脂肪を、本明細書に記載される栄養組成物の実施形態において使用することができる。特定の実施形態では、栄養組成物は、タンパク質、炭水化物及び脂肪を含む。
【0045】
更なる特定の実施形態では、栄養組成物のタンパク質は、乳清タンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物、乳清タンパク質加水分解物、乳タンパク質濃縮物、乳タンパク質単離物、乳タンパク質加水分解物、乳タンパク質濃縮物、有機乳タンパク質濃縮物、大豆タンパク質濃縮物、大豆タンパク質単離物、大豆タンパク質加水分解物、エンドウ豆タンパク質濃縮物、エンドウ豆タンパク質単離物、エンドウ豆タンパク質加水分解物、酸カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼイン加水分解物、脱脂粉乳、濃縮脱脂粉乳、コラーゲンタンパク質、コラーゲンタンパク質単離物、L-カルニチン、タウリン、ルテイン、コメタンパク質濃縮物、コメタンパク質単離物、コメタンパク質加水分解物、ソラマメタンパク質濃縮物、ソラマメタンパク質単離物、ソラマメタンパク質加水分解物、肉タンパク質、ジャガイモタンパク質、ヒヨコ豆タンパク質、キャノーラタンパク質、マングタンパク質、キアヌタンパク質、アマランスタンパク質、チアタンパク質、ヘンプタンパク質、亜麻仁種子タンパク質、ミミズタンパク質、昆虫タンパク質、またはこれらのうちの2つ以上の組み合わせを含む。
【0046】
特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の約1重量%~約30重量%の量でタンパク質を含んでもよい。より具体的には、タンパク質は、栄養組成物の約1重量%~約20重量%、約2重量%~約20重量%、約1重量%~約15重量%、約1重量%~約10重量%、約5重量%~約10重量%、約10重量%~約25重量%、または約10重量%~約20重量%を含む、栄養組成物の約1重量%~約25重量%の量で存在し得る。更により具体的には、タンパク質は、栄養組成物の約1重量%~約5重量%、または栄養組成物の約20重量%~約30重量%を含む。
【0047】
他の特定の実施形態では、栄養組成物の炭水化物は、繊維、ヒト乳オリゴ糖(HMO)、マルトデキストリン、コーンマルトデキストリン、コーンシロップ、有機コーンマルトデキストリン、コーンシロップ、固形コーンシロップ、スクラロース、セルロースゲル、セルロースガム、ジェランガム、カラギーナン、フラクトオリゴ糖(FOS)、イノシトール、加水分解デンプン、グルコースポリマー、コメ由来炭水化物、スクロース、グルコース、ラクトース、ハチミツ、糖アルコール類、イソマルツロース、スクロモルト、プルラン、ジャガイモデンプン、ガラクトオリゴ糖、オート麦繊維、大豆繊維、トウモロコシ繊維、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、コンニャク粉、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、トラガントガム、カラヤガム、アカシアガム、キトサン、アラビノガラクタン(arabinoglactin)、グルコマンナン、キサンタンガム、アルギン酸塩、ペクチン、低メトキシペクチン、高メトキシペクチン、穀物ベータグルカン、オオバコ、イヌリン、及びこれらの2つ以上の組み合わせを含む。更なる特定の実施形態では、栄養組成物中の炭水化物は、2つ以上の炭水化物の組み合わせを含み、炭水化物は、様々な吸収速度を有する。特定の実施形態では、本発明の栄養組成物に使用され得る炭水化物は、イソマルツロース、スクロモルト、難消化性マルトデキストリン(例えば、ファイバーソルまたはニュートリオース)、FOS、イヌリン、オート麦繊維、大豆繊維、またはこれらの2つ以上の組み合わせを含む。
【0048】
特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の約0.5重量%~約75重量%の量で炭水化物を含んでもよい。より具体的には、炭水化物は、栄養組成物の約5重量%~約70重量%、約5重量%~約65重量%、約5重量%~約50重量%、約5重量%~約40重量%、約5重量%~約30重量%、約5重量%~約25重量%、約10重量%~約65重量%、約20重量%~約65重量%、約30重量%~約65重量%、約40重量%~約65重量%、約40重量%~約70重量%、または約15重量%~約25重量%を含む、栄養組成物の約1重量%~約70重量%の量で存在し得る。
【0049】
本明細書で使用される「脂肪」及び「油」という用語は、特に明記しない限り、植物もしくは動物から由来または加工された脂質材料を指すために互換的に使用される。これらの用語はまた、このような合成材料がヒトへの経口投与に適している限り、合成脂質材料も含む。
【0050】
更なる特定の実施形態では、脂肪は、ココナッツ油、分留ココナッツ油、大豆油、大豆レシチン、コーン油、ベニバナ油、ヒマワリ油、パームオレイン、キャノーラ油、モノグリセリド、レシチン、キャノーラ油、中鎖トリグリセリド、リノール酸、α-リノール酸などの1つ以上の脂肪酸、分留ココナッツ油、大豆油、コーン油、オリーブ油、ベニバナ油、中鎖トリグリセリド油(MCT油)、高ガンマリノール酸(GLA)、ベニバナ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、魚油(marine oil)、魚油(fish oil)、藻類油、ルリジサ油、綿実油、真菌油、エステル交換油(interesterified oil)、エステル交換油(transesterified oil)、構造脂質、オメガ-3脂肪酸、またはこれらの2つ以上の組み合わせを含む。特定の実施形態では、オメガ-3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸及びα-リノール酸、ならびにこれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される。
【0051】
特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の約0.5重量%~約30重量%の量で脂肪を含んでもよい。より具体的には、脂肪は、栄養組成物の約1重量%~約20重量%、約1重量%~約15重量%、約1重量%~約10重量%、約1重量%~約5重量%、約3重量%~約30重量%、約5重量%~約30重量%、約5重量%~約25重量%、約5重量%~約20重量%、約5重量%~約10重量%、または約10重量%~約20重量%の量を含む、栄養組成物の約0.5重量%~約10重量%、約1重量%~約30重量%の量で存在し得る。
【0052】
例示的な栄養組成物中のタンパク質、炭水化物、及び脂肪の供給源の濃度ならびに相対量は、例えば、意図する使用者の特定の食事の必要性に応じてかなり変動し得る。特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量に基づいて、約2重量%~約20重量%の量のタンパク質供給源、約5重量%~約30重量%の量の炭水化物供給源、及び約0.5重量%~約10重量%の量の脂肪供給源を含み、より具体的には、そのような組成物は液体形態である。別の特定の実施形態では、栄養組成物は、栄養組成物の重量に基づいて、約10重量%~約25重量%の量のタンパク質供給源、約40重量%~約70重量%の量の炭水化物供給源、及び約5重量%~約20重量%の量の脂肪供給源を含み、より具体的には、そのような組成物は粉末形態である。
【0053】
一実施形態では、栄養組成物は、栄養液組成物であり、栄養組成物の重量に基づいて、約1~約15重量%のタンパク質、約0.5~約10重量%の脂肪、及び約5~約30重量%の炭水化物を含む。
【0054】
別の実施形態では、栄養組成物は、栄養粉末組成物であり、栄養組成物の重量に基づいて、約10~約30重量%のタンパク質、約5~約15重量%の脂肪、及び約30~約65重量%の炭水化物を含む。
【0055】
特定の実施形態では、栄養組成物は、乳タンパク質濃縮物及び/または大豆タンパク質単離物を含む少なくとも1つのタンパク質と、キャノーラ油、コーン油、ココナッツ油及び/または魚油を含む少なくとも1つの脂肪と、マルトデキストリン、難消化性マルトデキストリン、スクロース及び/または短鎖フラクトオリゴ糖を含む少なくとも1つの炭水化物と、を含む。
【0056】
栄養組成物はまた、栄養組成物の物理的、化学的、審美的もしくは加工特性を改変するため、または追加の栄養成分として機能するために、1つ以上の成分を含んでもよい。追加成分の非限定的な例としては、保存料、乳化剤(例えば、レシチン)、緩衝液、人工甘味料を含む甘味料(例えば、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース)、着色料、香味料、増粘剤、安定剤などが挙げられる。
【0057】
特定の実施形態では、栄養組成物は、中性pH、すなわち、約6~8、より具体的には、約6~7.5のpHを有する。より具体的な実施形態では、栄養組成物は、約6.5~7.2、またはより具体的には、約6.8~7.1のpHを有する。
【0058】
栄養組成物は、当技術分野で公知の任意の技術を用いて形成することができる。一実施形態では、栄養組成物は、(a)タンパク質及び炭水化物を含む水溶液を調製すること;(b)脂肪及び油溶性成分を含む油配合物を調製すること;及び(c)水溶液と油配合物とを混合し、乳化された液状の栄養組成物を形成することによって形成され得る。HMB、リシン及びアルギニンは、栄養組成物の形成の任意の時点で添加することができる。
【0059】
上記のように、栄養組成物は、粉末の形態または液体の形態で投与され得る。
【0060】
栄養組成物が粉末である場合、例えば、1回利用量は、約40g~約60g、例えば45g、または48.6g、または50gであり、粉末として投与されるか、または約1ml~約500mlの液体中で再構成されるものである。
【0061】
栄養組成物が液体の形態である場合、例えば、粉末から再構成されるか、またはすぐに飲める製品として製造された場合、1回利用量は、約110ml~約500ml、約110ml~約417ml、約120ml~約500ml、約120ml~約417ml、約177ml~約417ml、約207ml~約296ml、約230ml~約245ml、約110ml~約237ml、約120ml~約245ml、約110ml~約150ml、及び約120ml~約150mlを含む、約1ml~約500mlの範囲である。特定の実施形態では、1回利用量は、約1ml、または約100ml、または約225ml、または約237ml、または約500mlである。
【0062】
特定の実施形態では、HMB、リシン及びアルギニンを含む栄養組成物は、1日1回もしくは複数回、または週1回もしくは複数回、対象に投与される。特定の実施形態では、栄養組成物は、1日もしくは1週間に約1回~約6回、または1日もしくは1週間に約1回~約5回、または1日もしくは1週間に約1回~約4回、または1日もしくは1週間に約1回~約3回、対象に投与される。特定の実施形態では、栄養組成物は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、または少なくとも4週間にわたって1日1回または2回投与される。
【0063】
本発明の別の実施形態では、栄養組成物は、タンパク質、炭水化物、脂肪、ならびにビタミン及びミネラルからなる群から選択される1つ以上の栄養素を含む。栄養組成物の特定の実施形態は、ビタミン及び/または関連栄養素を含むことができ、その非限定的な例としては、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、チアミン、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン、コリン、イノシトール、及び/またはこれらの塩及び誘導体、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
栄養組成物の特定の実施形態は、ミネラルを含み、その非限定的な例としては、カルシウム、リン、マグネシウム、亜鉛、マンガン、ナトリウム、カリウム、モリブデン、クロム、鉄、銅、及び/または塩化物、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
以下の実施例は、本発明の方法の態様を実証するものであり、説明の目的のみに提供される。実施例は、一般的な発明概念を制限するものであると解釈されるべきではなく、一般的な発明概念の趣旨及び範囲から逸脱することなく、それらの多くの変形が可能である。
【実施例
【0066】
実施例1:ラットインスリノーマ細胞株(INS-1)におけるグルコース取り込みに対するHMB、リシン及びアルギニンの効果
この実施例では、グルコース刺激に応答してインスリンを放出することができるラットインスリノーマ細胞株(INS-1)を使用して、グルコース代謝及びインスリン分泌の変化、ならびに膵臓グルコーストランスポーターGLUT2の発現レベルを検出することを説明する。
【0067】
INS-1細胞は、11.1mmol/LのD-グルコースを添加したRPMI1640培地に、10%ウシ胎児血清、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、10mmol/LのHEPES、2mmol/LのL-グルタミン、1mmol/Lピルビン酸ナトリウム及び50μmol/Lのβ-メルカプトエタノールを補充し、加湿雰囲気下にて37℃/5%COで維持した。
【0068】
細胞を、異なるエフェクターで一晩インキュベートした。以下の細胞群を使用した。
(i)対照:成分なしのINS-1細胞。
(ii)ARG:5mMのアルギニンの存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
(iii)LYS:10mMのリシンの存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
(iv)HMB:25μΜのHMB遊離酸の存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
(v)MIX:5mMのアルギニン、10mMのリシン及び25μMのHMBの組み合わせの存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
【0069】
2-デオキシ-[3H]d-グルコース(2-DG)(10μmol/L)の取り込みを、取り込みが比例である条件下で10分間にわたって測定した。2-DGの取り込みは、10分後に放射性インキュベーション培地を迅速に吸引し、氷冷リン酸緩衝生理食塩水中で3回洗浄することにより終了した。細胞に関連する放射活性を、0.5NのHClの添加による中和を伴う0.5NのNaOH中での細胞溶解と、それに続く液体シンチレーションによって決定した。ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイを用いて、各ウェルからのアリコートを使用してタンパク質濃度を測定した。
【0070】
図1に示すように、INS-1細胞を、個々のアミノ酸、リシン及びアルギニンとインキュベートすると、グルコース取り込み量が増加した。リシン(10mM)は、対照と比較してグルコース取り込み量を約100%増加させ、アルギニン(5mM)は、対照と比較してグルコース取り込み量を約52%増加させ、HMBは、対照と比較してグルコース取り込み量を約31%増加させた。しかしながら、細胞をリシン(10mM)、アルギニン(5mM)及びHMB(25μM)の組み合わせでインキュベートした場合、グルコース取り込み量は著しく増加した。図1に示すように、アミノ酸とHMBの両方を組み合わせてインキュベートした細胞は、対照と比較して約162%のグルコース取り込み量の増加を示し、リシン単独と比較して約31%のグルコース取り込み量の増加を示した。これらの結果は、リシン、アルギニン及びHMBの組み合わせがβ細胞におけるグルコース取り込みに驚くべき相乗効果を示すことを実証している。
【0071】
図2は、膵臓細胞における主要なグルコーストランスポーター、GLUT2の発現レベルに対する、リシン(10mM)、アルギニン(5mM)、HMB(25μM)及びこれらの組み合わせの効果を示す。リシン(10mM)単独でのインキュベーションでは、対照と比較してGLUT2の発現レベルの相対強度が約90%増加し、アルギニン(5mM)とのインキュベーションでは、対照と比較してGLUT2の発現レベルの相対強度が約30%増加した。しかしながら、HMB(25μM)単独でのインキュベーションでは、対照と比較してGLUT2の発現レベルの相対強度が約23%低下した一方で、リシン(10mM)、アルギニン(5mM)及びHMB(25μM)の組み合わせは、グルコース取り込みに驚くべき相乗効果を示した。リシン(10mM)、アルギニン(5mM)及びHMB(25μM)を組み合わせて細胞をインキュベートすると、対照と比較してGLUT2の発現レベルの相対強度が約220%増加した。
【0072】
これらの結果は、アルギニン、リシン及びHMBの組み合わせが、INS-1細胞におけるグルコース取り込みに相乗効果を示すことを示している。
【0073】
実施例2:ラットインスリノーマ細胞株(INS-1)におけるインスリン分泌及びインスリン産生に対するHMB、リシンならびにアルギニンの効果
この実施例では、急性インスリン分泌及びインスリン産生を検出するためのラットインスリノーマ細胞株の使用について説明する。
【0074】
以下のエフェクター:グルコース(10mM)、ならびにエフェクターであるアルギニン(5mM)、リシン(10mM)、HMB(25μM)ならびにアルギニン(5mM)、リシン(10mM)及びHMB(25μM)の組み合わせの存在下で2時間にわたってINS-1細胞をインキュベートすることによって、急性インスリン分泌を測定した。エフェクターのないINS-1細胞を対照として使用した。インスリンを、製造元の指示に従ってラットインスリン酵素免疫測定(RIEI)キット(Mercodia,Sweden)を使用して検出した。図3に示すように、アルギニン、リシン及びHMBの個々の存在下での細胞外グルコース濃度に対するインスリン分泌の急性応答は、対照に関して有意な差を示さなかった。しかしながら、アルギニン、リシン及びHMBの組み合わせは、対照と比較してインスリン分泌を約79%有意に増加させた。この結果は、アルギニン、リシン及びHMBの組み合わせがβ細胞におけるインスリン分泌に驚くべき相乗効果を示すことを実証している。
【0075】
以下のエフェクター:アルギニン(5mM)、リシン(10mM)、HMB(25μM)、ならびにアルギニン(5mM)、リシン(10mM)及びHMB(25μM)の組み合わせの存在下でINS-1細胞をインキュベートすることによって、β細胞によるインスリン産生を評価した。エフェクターのないINS-1細胞を、再度対照として使用した。細胞を、上記のエフェクターのそれぞれと共に24時間インキュベートした。エフェクターを用いた最初の24時間のインキュベーション期間に続き、同じINS-1細胞をグルコース(10mM)と共に2時間インキュベートした。インスリンを、製造元の指示に従ってRIEIキットを使用して再び検出した。
【0076】
図4に示すように、個々のエフェクターであるアルギニン(5mM)、リシン(10mM)及びHMB(25μM)でインキュベートした細胞のインスリン産生は、対照と比較してわずかに増加したが、驚くべきことに、アルギニン(5mM)、リシン(10mM)及びHMB(25μM)の組み合わせでインキュベートしたINS-1細胞では、インスリン産生が207%であった。これらの結果は、アルギニン(5mM)、リシン(10mM)及びHMB(25μM)の組み合わせが、膵臓β細胞におけるインスリン産生の促進に対して驚くべき相乗効果を示すことを示している。
【0077】
アルギニン(5mM)、リシン(10mM)及びHMB(25μM)の組み合わせでインキュベートしたINS-1細胞を、上述のエフェクターのそれぞれで24時間インキュベートし、続いて細胞を溶解することにより、INS-1細胞におけるインスリン分泌及び産生の増加の上述の効果を確認した。BCAアッセイを用いて、タンパク質濃度を測定した。図5に示すように、細胞内インスリンレベルはまた、対照及び個々のエフェクターの両方と比較して、インスリン産生を有意に増加させることにより、アルギニン、リシン及びHMBの組み合わせによって観察される相乗効果も示した。
【0078】
実施例3:HMB、リシン及びアルギニンがラットインスリノーマ細胞株(INS-1)におけるβ細胞質量の保存に及ぼす効果
この実施例では、生存率についての標準化プロトコルを用いて、遊離脂肪酸(例えば、パルミチン酸)の存在下で、リシン、アルギニン及びHMBの組み合わせがβ細胞の機能特性に及ぼす影響を検出するための、ラットインスリノーマ細胞株(INS-1)の使用について説明する。2型糖尿病患者では、血漿中の遊離脂肪酸濃度の慢性的な増加により、脂質代謝調節障害が生じ、これがβ細胞の機能及び生存率の低下に寄与する(脂肪毒性)。INS-1細胞は、11.1mmol/LのD-グルコースを添加したRPMI1640培地に、10%ウシ胎児血清、100単位/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、10mmol/LのHEPES、2mmol/LのL-グルタミン、1mmol/Lピルビン酸ナトリウム及び50μmol/Lのβ-メルカプトエタノールを補充し、加湿雰囲気下にて37℃/5%COで維持した。
【0079】
凝集前の膵臓細胞を未処理のままにするか(対照)、またはパルミタートで250μΜの濃度にて24時間完全な培地中で処理した(パルミタート)。パルミタートでインキュベートする3時間前に、アルギニン(5mM)、リシン(10mM)、HMB(25μM)、ならびにアルギニン(5mM)、リシン(10mM)及びHMB(25μM)の組み合わせの4つの異なるエフェクターを添加した。
【0080】
この実験で使用した細胞群は、以下のとおりであった。
(i)対照:成分なしのINS-1細胞。
(ii)パルミタート:パルミタート250μΜの存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
(iii)パルミタート+ARG:250μΜのパルミタート及び5mMのアルギニンの存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
(iv)パルミタート+LYS:250μΜのパルミタート及び10mMのリシンの存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
(v)パルミタート+HMB:250μΜのパルミタート及び25μΜのHMB遊離酸の存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
(vi)パルミタート+MIX:250μΜのパルミタート、ならびに5mMのアルギニン、10mMのリシン及び25μMのHMBの組み合わせの存在下でインキュベートしたINS-1細胞。
【0081】
MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を用いた細胞代謝活性の間接測定により、細胞生存率アッセイを行った。上記エフェクターで24時間インキュベートした後、MTT溶液(0.5mg/ml)を30分間添加した。上清を除去し、100μlのMTT溶媒を各ウェルに加え、培養プレートを10分間振とうさせ、その後、光学密度(OD)値を570nmで記録した。
【0082】
図6に示すように、24時間の細胞生存率は、パルミタートインキュベーションによって悪影響を受けた。データは、中間値±SEMとして提供される。対照群(*)またはMix群(#)に対するp値<0.05は、有意であるとみなされた。個々のアミノ酸及びHMBとのインキュベーションは、パルミタートへの細胞の曝露に対して好ましい効果を示さなかった。実際、アルギニン、リシン及びHMBとのインキュベーションは、パルミタート単独での処理と比較して、細胞生存率を個々に低下させた。しかしながら、リシン、アルギニン及びHMB(すなわち、Mix)の組み合わせにより、細胞生存率に対するパルミタートの悪影響が防止され、パルミタートで処理した残りの群と比較して、細胞増殖が著しく高いことが示された。この増加は、パルミタート単独でインキュベートした細胞よりも約20%高かった。これらの結果は、リシン、アルギニン及びHMBの組み合わせが、β細胞質量、したがって機能性の改善に相乗効果を示すことを示している。
【0083】
これらの実施例の結果により、リシン、アルギニン及びHMBの組み合わせが膵臓β細胞におけるインスリン産生及び分泌を増強するという驚くべき相乗効果が実証される。これらの結果は、リシン、アルギニン及びHMBの組み合わせを投与することにより、糖尿病及び前糖尿病の治療、ならびに糖尿病及びその関連疾患の進行の予防に特に関連するβ細胞機能が改善されることを示している。
【0084】
本発明を、その実施形態の説明によって例示し、実施形態をかなり詳細に説明してきたが、このような説明は、添付の特許請求の範囲をこのような詳細に制限すること、またはいかなる形でも制限することを意図するものではない。追加の利点及び修正は、当業者には容易に明らかになるであろう。したがって、本発明は、そのより広い態様において、具体的な詳細、代表的な組成物及び方法、または示しかつ説明した例示的な実施例に限定されない。したがって、一般的な発明概念の趣旨または範囲から逸脱することなく、そのような詳細からの逸脱がなされてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】