(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】フルフラールの製造方法およびそれに使用するための触媒
(51)【国際特許分類】
C07D 307/50 20060101AFI20240319BHJP
C07D 307/44 20060101ALI20240319BHJP
C07D 307/56 20060101ALI20240319BHJP
C07D 307/36 20060101ALI20240319BHJP
C07D 307/08 20060101ALI20240319BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240319BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20240319BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240319BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20240319BHJP
B01J 27/053 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C07D307/50
C07D307/44
C07D307/56
C07D307/36
C07D307/08
B01J37/08
B01J37/34
B01J37/04 102
B01J37/03 B
B01J27/053 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561007
(86)(22)【出願日】2022-04-01
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 AU2022050296
(87)【国際公開番号】W WO2022204765
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501249191
【氏名又は名称】モナッシュ ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】523374149
【氏名又は名称】アドバンスト フュエル イノベーション ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】ツォウ,キャオキャオ
(72)【発明者】
【氏名】ツァン,リアン
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BC29A
4G169BC31A
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB38
4G169DA05
4G169FB06
4G169FB08
4G169FB09
4G169FB30
4G169FB57
4G169FB58
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
本明細書では、フルフラールへの転化を触媒する固体の硫酸亜鉛リッチな触媒を使用して、リグノセルロースバイオマスまたは糖を豊富に含む抽出物等のその抽出物からフルフラールを製造する方法を提供する。また、本明細書では、硫酸亜鉛リッチな触媒、ならびにタイヤチャーから硫酸亜鉛および硫酸亜鉛リッチな触媒の製造方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルフラールを製造する方法であって、リグノセルロース材料またはその画分を熱分解するステップと、フルフラールを製造するステップとを含み、前記フルフラールの製造が固体の硫酸亜鉛リッチな触媒により触媒される、前記方法。
【請求項2】
触媒が硫酸亜鉛を少なくとも50重量%含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固体の硫酸亜鉛リッチな触媒がさらなる遷移金属を含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらなる遷移金属がパラジウム、鉄、銅、コバルトまたはニッケルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
さらなる遷移金属がパラジウムである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
固体の硫酸亜鉛リッチな触媒がパラジウム金属および/または酸化パラジウムを含有する、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
固体の硫酸亜鉛リッチな触媒が、さらなる遷移金属を0.2から5重量%含有する、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
触媒が硫酸亜鉛から本質的になる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
リグノセルロース材料またはその画分が木材チップ、おがくず、サトウキビ、トウモロコシの芯、バガス、オーツ麦殻、綿実殻、コメ殻および小麦ふすまからなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
リグノセルロース材料またはその画分が、セルロース画分およびヘミセルロース画分からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
リグノセルロース材料またはその画分が、単糖、二糖およびオリゴ糖からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
リグノセルロース材料またはその画分が、アロース、グルコースおよびキシランからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
熱分解の前に、リグノセルロース材料またはその画分が、
- リグニン画分を除去する、および/または
- 糖結合を加水分解する
1つまたは複数の前加工ステップに付される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
フルフラールの製造がスチームの非存在下で実施される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
フルフラールの製造がスチームの存在下で実施される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
スチームのリグノセルロース材料またはその画分に対する重量比が、約0.1:1から約20:1、場合によっては約8:1から約20:1の範囲内である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
熱分解および/またはフルフラールの製造が、約300から約500℃の範囲内の温度で実施される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
バッチプロセスとして実施される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
連続的または半連続的なプロセスとして実施される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
他の反応生成物からフルフラールを分離するステップを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
フルフラールが蒸留により分離される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
フルフラールが、フルフラールを含有する生成物蒸気流の選択的凝縮により分離される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の方法により製造される、フルフラール。
【請求項24】
フルフリルアルコール、フラン酸、フラン、テトラヒドロフラン、レブリン酸、ブタジエン、ヘキサメチレンジアミン、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルテトラヒドロフランおよびフルフラールフェノール樹脂のうちの1つまたは複数を製造する方法であって、
請求項1から22のいずれか一項に記載の方法に従ってフルフラールを製造するステップと、
フルフラールをフルフリルアルコール、フラン酸、フラン、テトラヒドロフラン、レブリン酸、ブタジエン、ヘキサメチレンジアミン、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルテトラヒドロフランおよびフルフラールフェノール樹脂に転化させるステップと
を含む、前記方法。
【請求項25】
固体の硫酸亜鉛を製造する方法であって、
タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させおよび硫酸亜鉛水溶液と固体のタイヤチャー残留物との混合物を生成させるステップと、
固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するステップと、
硫酸亜鉛水溶液から固体の硫酸亜鉛を回収するステップと
を含む、前記方法。
【請求項26】
タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させるステップが、約25から約90℃の範囲内の温度で実施される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
硫酸水溶液の硫酸濃度が、1リットルあたり約1から約5モルの範囲内であり、硫酸水溶液のタイヤチャーに対する質量比が1.5:1から10:1の範囲内で使用される、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
硫酸亜鉛水溶液が、固体のタイヤチャー残留物から濾過により分離される、請求項25から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
固体の硫酸亜鉛が、蒸発、結晶化および析出のうちの1つまたは複数により回収される、請求項25から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
固体の硫酸亜鉛が、50から100℃の範囲内の温度における、硫酸塩水溶液からの水の蒸発による水分量の低減、および後続の固体の硫酸亜鉛の析出により回収される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
蒸発の間の水分量の低減が、後続の析出が固体の硫酸亜鉛七水和物を生成させるように制御される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
固体の硫酸亜鉛が、水または水性溶媒からの結晶化により回収され、結晶化が固体の硫酸亜鉛七水和物を生成させるように水の使用量が制御される、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
固体の硫酸亜鉛を焼成するステップを含む、請求項25から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
焼成ステップが約400から約800℃の範囲内の温度で実施される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
遷移金属がドープされた硫酸亜鉛を製造する方法であって、
タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させおよび硫酸亜鉛水溶液と固体のタイヤチャー残留物との混合物を生成させるステップと、
固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するステップと、
硫酸亜鉛水溶液から固体の硫酸亜鉛を回収するステップと、
硫酸亜鉛をさらなる遷移金属の塩に接触させるステップと、
遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛を製造するステップと
を含む、前記方法。
【請求項36】
さらなる遷移金属がパラジウム、鉄、コバルトまたはニッケルである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
固体の硫酸亜鉛が、さらなる遷移金属の塩に接触させる前に硫酸亜鉛水溶液から回収される、請求項35または36に記載の方法。
【請求項38】
固体の硫酸亜鉛が、有機溶媒の存在下でさらなる遷移金属の塩と混合される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
有機溶媒がエタノールである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
固体の硫酸亜鉛が、超音波処理を使用してさらなる遷移金属の塩と混合される、請求項37から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
固体の硫酸亜鉛が、硫酸亜鉛にさらなる遷移金属を含浸させるように、溶媒に可溶な形態で存在するさらなる遷移金属の塩と混合される、請求項36から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
有機溶媒が加熱および/または真空乾燥により除去される、請求項35から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
さらなる遷移金属の塩が、気化された後に固体の硫酸亜鉛の表面上で凝縮される、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
さらなる遷移金属の塩が硫酸亜鉛水溶液と混合され、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛が、共沈および/または共結晶により製造される、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩が添加される、請求項35から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
さらなる遷移金属の塩との、ならびに安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩との混合ステップの前に、固体の硫酸亜鉛が硫酸亜鉛水溶液から回収される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩が、硫酸亜鉛水溶液と、およびさらなる遷移金属の塩と混合され、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛が、共沈および/または共結晶により製造される、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛を焼成するステップを含む、請求項35から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
焼成ステップが約400から約800℃の範囲内の温度で実施される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛が、焼成後に、約400から約800℃の範囲内の温度で水素に曝露することにより還元ステップに付される、請求項35から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
リグノセルロース材料またはその画分からフルフラールを製造するための触媒としての、請求項25から34のいずれか一項に記載の方法に従って製造される硫酸亜鉛、または、請求項35から50のいずれか一項に記載の方法に従って製造される遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の使用。
【請求項52】
リグノセルロース材料またはその画分からフルフラールを製造するために使用された、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の活性触媒を再生するための方法であって、約400から約800℃の範囲内の温度で水素に曝露することにより、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛を還元ステップに付すステップを含む、方法。
【請求項53】
請求項25から34のいずれか一項に記載の方法により製造される、固体の硫酸亜鉛。
【請求項54】
遷移金属がパラジウム、鉄、ニッケルおよびコバルトからなる群から選択される、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛。
【請求項55】
硫酸亜鉛を少なくとも50重量%含有する、請求項54に記載の遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛。
【請求項56】
遷移金属がパラジウムである、請求項54または55に記載の遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛。
【請求項57】
パラジウム金属および酸化パラジウムを含有する、請求項56に記載の遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛。
【請求項58】
遷移金属を1から5重量%含有する、請求項56または57に記載の遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛。
【請求項59】
追加の安定化用金属および/または酸性度調節用金属を含有する、請求項54から58のいずれか一項に記載の遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛。
【請求項60】
請求項35から50のいずれか一項に記載の方法に従って製造される、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒を使用してリグノセルロースバイオマスまたはその抽出物からフルフラールを製造する方法に関する。本開示はまた、上記方法で利用される硫酸亜鉛リッチな触媒に関し、さらにはタイヤチャーから硫酸亜鉛および硫酸亜鉛リッチな触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロースバイオマスからの、付加価値を有し、再生可能である化学物質の製造は、現在の経済からカーボンニュートラルな未来への円滑な移行に重要である。医薬品、除草剤、安定剤、およびポリマーを含む広範囲の最終製品の合成に有用な前駆体およびプラットホーム材料として、フルフラールは、アメリカ合衆国エネルギー省(DOE)により認められているバイオマス由来の製品の上位12のうちの1つとして列記されている[1,2]。従来から、フルフラールはC5ヘミセルロースから加水分解により製造されている。C5炭化水素からのフルフラールの製造に比べ、C6糖のフルフラールへの転換は、C6の組成および構造のC5との相違に起因する、C6の極めて低いフルフラール収率のため、未だ成功していない[1,3]。
【0003】
溶媒熱反応、すなわち加溶媒分解または加水分解は、これまでに、バイオマス由来の化学物質の選択率を向上させるための最も効率的なアプローチの1つとなることが証明されている[1,4]。産業において、フルフラールは現在、触媒としてH2SO4、HClおよびH3PO4等の濃無機酸または希無機酸を使用することによりヘミセルロースから製造されており、水中で160から240℃の通常の温度範囲で50%から75%のフルフラール収率を達成している[1,5,6]。
【0004】
そのような例の一つは、米国特許出願公開第2011/0144359号明細書[7]に記載されており、これは、プラグフロー反応器においてリグノセルロースバイオマス材料からフルフラールを製造する方法を提供した。最良の場合のシナリオでは、5重量%キシロース水は、触媒として230℃で0.5重量%H2SO4を用いて、5.87分で67.6mol%のフルフラールに転化された。キシロースの全転化率は98.78%であった。さらなる例として、米国特許出願公開第2013/0109869号明細書[8]は、リグノセルロースバイオマスからの同様のフルフラールの製造方法のために、水混和性の溶液中に金属ハロゲン化物を導入した。25%トウモロコシの芯、0.15MのH2SO4、ならびに、水(7.3g)およびテトラヒドロフラン(THF、42.0g)の混合溶媒ならびに塩化ナトリウム(0.7g)中の1%NaClの使用、160℃および30分を含む最適な条件下において、フルフラールの収率が87%に到達することが報告された。
【0005】
より最近では、米国特許出願公開第2014/0171664号明細書[9]は、含キシランリグノセルロース原料からのフルフラールの製造方法を主張している。トウモロコシの芯(16g)および様々なpHの硫酸水溶液(6.4g)の混合物がオートクレーブ内に投入され、6回の温度/圧力サイクルに連続的に付された。最良の場合のシナリオでは、pHが0.50の硫酸水溶液の使用は、68%のフルフラール収率およびキシランの完全転化を生じさせた。別の検討は、ガンマ-バレロラクトン(GVL)溶媒中に触媒として変性Sn-ベータゼオライトを使用した際のグルコースからのフルフラールの最も高い収率は、33分間180℃で0.69mol/モルグルコースに達したことを報告した[1]。
【0006】
プロセスとしてのその完成度に関わらず、加溶媒分解は、困難かつコストを要するフルフラールの分離および回収、無機酸の腐食性および無機酸の使用に由来する大量の廃水等の多くの克服すべき欠点を有する[10]。
【0007】
フルフラールの製造のための潜在的な環境課題および扱うべき課題に起因し、加溶媒分解プロセス中に現在使用されている大量の酸を減らす必要が依然存在する。
【0008】
世界中では、毎年推定15億台の車両の車両用タイヤが交換される必要がある[11]。幾分かは再生され得るものの、タイヤの多くは埋立地に送られ、廃車両用タイヤは重大な環境課題を構成する。例えば、有害なタイヤの成分は周囲の環境中に浸出するおそれがあり、タイヤの山積みは火災リスクを表出させる。
【0009】
車両用タイヤは通常、天然ゴムおよび合成ゴムコンパウンドを含む材料、鋼線およびポリマー繊維等の補強化合物、可塑剤、カーボンブラックおよびシリカ等を含む充填剤、ならびに硫黄および酸化亜鉛化合物等の加硫用化学物質の複合混合物を含有する。この複合混合物は、タイヤ成分の回収および再利用を困難にさせる。
【0010】
廃タイヤから有用な製品を製造するために使用されてきた1つのアプローチは、廃タイヤの熱分解である[12]。通常、これは反応器内で高温でタイヤを加熱してタイヤ油、チャーおよびガス生成物等の成分を製造することを含む。しかし、廃タイヤ生成物のさらなる用途、およびスクラップタイヤから有用な成分を回収するための方法を見つける必要が依然存在する。
【0011】
前述の課題の少なくとも一つに対処する、さらなるフルフラールの製造方法を提供することが望ましいとされる。また、バイオマス成分の高い転化率および/またはフルフラールの高い選択率を可能とするフルフラールの製造方法を提供することが望ましい。
【0012】
タイヤチャー等のスクラップ材料から価値のある材料の効率的な回収を可能にする方法を見つけることがさらに望ましい。
【発明の概要】
【0013】
本発明の発明者らは、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒が、フラッシュ熱分解による、多種多様なバイオマス成分からのフルフラールの製造に強力な触媒効果を有することを突き止めた。精製された硫酸亜鉛、および遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の触媒の両方が、上記方法において効果的であることがわかった。本発明の発明者らはまた、硫酸亜鉛および遷移金属がドープされた硫酸亜鉛を得るための新規の方法、例えばスクラップタイヤチャーからのフルフラールの製造に有用な触媒を提供する方法を発見した。
【0014】
したがって、第一の態様では、リグノセルロース材料またはその画分を熱分解するステップと、フルフラールを製造するステップとを含み、上記フルフラールの製造が固体の硫酸亜鉛リッチな触媒により触媒されるフルフラールの製造方法が提供される。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記触媒は硫酸亜鉛を少なくとも50重量%含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛リッチな触媒は、さらなる遷移金属を含有する。いくつかの実施形態において、さらなる遷移金属はパラジウム、鉄、銅、コバルトまたはニッケルである。いくつかの実施形態において、上記さらなる遷移金属はパラジウムである。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛リッチな触媒は、パラジウム金属および/または酸化パラジウムを含有する。
【0018】
さらなる実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛リッチな触媒は、さらなる遷移金属を0.2から5重量%含有する。
【0019】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛リッチな触媒は、さらなる遷移金属を1から5重量%含有する。
【0020】
いくつかの実施形態において、上記触媒は硫酸亜鉛から本質的になる。
【0021】
いくつかの実施形態において、上記リグノセルロース材料またはその画分は、木材チップ、おがくず、サトウキビ、トウモロコシの芯、バガス、オーツ麦殻、綿実殻、コメ殻および小麦ふすまからなる群から選択される。
【0022】
さらなる実施形態において、上記リグノセルロース材料またはその画分は、セルロース画分およびヘミセルロース画分からなる群から選択される。
【0023】
さらなる実施形態において、上記リグノセルロース材料またはその画分は、単糖、二糖およびオリゴ糖からなる群から選択される。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記リグノセルロース材料またはその画分は、アロース、グルコースおよびキシランからなる群から選択される。
【0025】
いくつかの実施形態において、熱分解の前に、上記リグノセルロース材料またはその画分は、リグニン画分を除去する、および/または糖結合を加水分解するのいずれかの1つまたは複数の前加工ステップに付される。
【0026】
いくつかの実施形態において、上記フルフラールの製造は、スチーム(steam)の非存在下で実施される。
【0027】
いくつかの実施形態において、上記フルフラールの製造は、スチームの存在下で実施される。
【0028】
好ましい実施形態では、スチームのリグノセルロース材料またはその画分に対する重量比は、約0.1:1から約20:1、場合によっては約8:1から約20:1の範囲内である。
【0029】
いくつかの実施形態において、熱分解および/またはフルフラールの製造は、約300から約500℃の範囲内の温度で実施される。
【0030】
いくつかの実施形態において、本発明による方法は、バッチプロセスとして実施される。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明による方法は、連続的または半連続的なプロセスとして実施される。
【0032】
いくつかの実施形態において、本発明による方法は、他の反応生成物からフルフラールを分離するステップを含む。
【0033】
さらなる実施形態において、フルフラールは蒸留により分離される。
【0034】
さらなる実施形態において、フルフラールは、フルフラールを含有する生成物蒸気流の選択的凝縮により分離される。
【0035】
別の態様では、本明細書に規定の方法により製造されるフルフラールも提供される。
【0036】
別の態様では、本発明による方法に従ってフルフラールを製造するステップと、フルフラールをフルフリルアルコール、フラン酸、フラン、テトラヒドロフラン、レブリン酸、ブタジエン、ヘキサメチレンジアミン、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルテトラヒドロフランおよびフルフラールフェノール樹脂に転化させるステップとを含む、フルフリルアルコール、フラン酸、フラン、テトラヒドロフラン、レブリン酸、ブタジエン、ヘキサメチレンジアミン、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルテトラヒドロフランおよびフルフラールフェノール樹脂のうちの1つまたは複数の製造方法が提供される。
【0037】
別の態様では、タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させおよび硫酸亜鉛水溶液と固体のタイヤチャー残留物との混合物を生成させるステップと、固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するステップと、硫酸亜鉛水溶液から固体の硫酸亜鉛を回収するステップとを含む、固体の硫酸亜鉛の製造方法が提供される。
【0038】
好ましい実施形態では、タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させるステップは、約25から約90℃の範囲内の温度で実施される。
【0039】
いくつかの実施形態において、上記硫酸水溶液の硫酸濃度は、1リットルあたり約1から約5モルの範囲内であり、硫酸水溶液のタイヤチャーに対する質量比が1.5:1から10:1の範囲内で使用される。
【0040】
いくつかの実施形態において、上記硫酸亜鉛水溶液は、固体のタイヤチャー残留物から濾過により分離される。
【0041】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛は、蒸発、結晶化および析出のうちの1つまたは複数により回収される。
【0042】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛は、硫酸塩水溶液から50から100℃の範囲内の温度で水分量を減少させるための水の蒸発、および後続の固体の硫酸亜鉛の析出により回収される。
【0043】
いくつかの実施形態において、蒸発の間の水分量の低減は、後続の析出が固体の硫酸亜鉛七水和物を生成させるように制御される。
【0044】
いくつかの実施形態において、上記方法は固体の硫酸亜鉛を焼成するステップを含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、上記焼成ステップは約400から約800℃の範囲内の温度で実施される。
【0046】
別の態様では、タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させおよび硫酸亜鉛水溶液と固体のタイヤチャー残留物との混合物を生成させるステップと、固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するステップと、硫酸亜鉛水溶液から固体の硫酸亜鉛を回収するステップと、硫酸亜鉛をさらなる遷移金属の塩に接触させるステップと、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛を製造するステップとを含む、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の製造方法が提供される。
【0047】
いくつかの実施形態において、上記さらなる遷移金属は、パラジウム、鉄、コバルトまたはニッケルである。
【0048】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛は、さらなる遷移金属の塩に接触させる前に硫酸亜鉛水溶液から回収される。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛は、有機溶媒の存在下でさらなる遷移金属の塩と混合される。いくつかの実施形態において、上記有機溶媒はエタノールである。
【0050】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛は、超音波処理を使用してさらなる遷移金属の塩と混合される。
【0051】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛は、硫酸亜鉛にさらなる遷移金属を含浸させるように、溶媒に可溶な形態で存在するさらなる遷移金属の塩と混合される。
【0052】
いくつかの実施形態において、上記有機溶媒は加熱および/または真空乾燥により除去される。
【0053】
いくつかの実施形態において、さらなる遷移金属の塩は、気化された後に固体の硫酸亜鉛の表面上で凝縮される。
【0054】
いくつかの実施形態において、さらなる遷移金属の塩は硫酸亜鉛水溶液と混合され、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、共沈および/または共結晶により製造される。
【0055】
いくつかの実施形態において、安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩が添加される。
【0056】
いくつかの実施形態において、上記安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩は、硫酸亜鉛水溶液と混合され、そしてさらなる遷移金属の塩と混合され、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、共沈および/または共結晶により製造される。
【0057】
いくつかの実施形態において、本発明による方法は、さらに上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛を焼成するステップを含む。いくつかの実施形態において、上記焼成ステップは、約400から約800℃の範囲内の温度で実施される。
【0058】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、焼成後に、約400から約800℃の範囲内の温度で水素に曝露することにより還元ステップに付される。
【0059】
さらに、リグノセルロース材料またはその画分からフルフラールを製造するための触媒としての、本明細書に規定の方法に従って製造される硫酸亜鉛の使用、または本明細書に規定の方法に従って製造される遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の使用も提供される。
【0060】
別の態様では、リグノセルロース材料またはその画分からフルフラールを製造するために使用された、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の活性触媒を再生するための方法であって、約400から約800℃の範囲内の温度で水素に曝露することにより、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛を還元ステップに付すステップを含む、方法が提供される。
【0061】
別の態様では、本明細書に規定の方法に従って製造された場合に固体の硫酸亜鉛が提供される。
【0062】
別の態様では、上記遷移金属がパラジウム、鉄、ニッケルおよびコバルトからなる群から選択される、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛が提供される。
【0063】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、硫酸亜鉛を少なくとも50重量%含有する。
【0064】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の遷移金属は、パラジウムである。さらなる実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体は、パラジウム金属および酸化パラジウムを含有する。
【0065】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、遷移金属を1から5重量%含有する。
【0066】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、追加の安定化用金属および/または酸性度調節用金属を含有する。
【0067】
別の態様では、本明細書に規定の方法に従って製造される、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】400℃で(a)各種触媒を用いたD-アロースの熱分解から得られた各種生成物の選択率、およびD-アロースの転化率を示すグラフである。
【
図2】各種温度でZnSO
4/PdO触媒を(a)用いない場合、および(b)用いた場合の、D-アロースの熱分解から得られた各種生成物の選択率、およびD-アロースの転化率を示すグラフである。
【
図3】400℃で触媒のアロースに対する各種質量比における、(a)D-アロースの熱分解から得られた各種生成物の選択率、および(b)D-アロースの転化率を示すグラフである。
【
図4】400℃で触媒として8倍のZnSO
4/PdOを用いた、水のアロースに対する各種質量比における、(a)D-アロースの熱分解から得られた各種生成物の選択率、および(b)D-アロースの転化率を示すグラフである。
【
図5】400℃で(a)各種触媒を用いたD-グルコースの熱分解から得られた各種生成物の選択率、および(b)触媒のグルコースに対する各種質量比におけるD-グルコースの転化率を示すグラフである。
【
図6】触媒のグルコースまたはアロースに対する質量比が2である場合において触媒を用いる場合、および用いない場合のD-グルコース(a)およびD-アロース(b)のDTG分析を示す図である。
【
図7】400℃で各種触媒(触媒のキシランに対する質量比:4)を用いたキシランの熱分解から得られた各種生成物の選択率、およびキシランの転化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本明細書の記載および特許請求の範囲の全体を通して、文言「を含む(comprise)」および文言の他の形、例えば「を含む(comprising)」および「を含む(comprises)」は、「含む(including)」を意味するがこれに限定されず、例えば、他の添加物、成分、整数、またはステップを除外することは意図されていない。
【0070】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されているとおり、単数形「ある(a)」「ある(an)」および「その(the)」は、文脈上、そうでないとする明確な指示がない限り、複数の対象物を含む。このように、例えば、「組成物(a composition)」への言及は2つ以上のそのような組成物の混合物を含み、「化合物(the compound)」への言及は2つ以上のそのような化合物の混合物を含み、「金属(a metal)」への言及は2つ以上のそのような金属の混合物を含む、等々。
【0071】
本開示は、参照により本明細書に組み込まれる一定の文献の全体の内容を参照する。本開示の教示内容とそれらの文献の内容との間で矛盾する教示内容が存在する場合には、本開示の教示内容を優先する。
【0072】
フルフラールの製造方法
第一の態様において、本開示は、リグノセルロース材料またはその画分を熱分解するステップと、フルフラールを製造するステップとを含み、フルフラールの製造が固体の硫酸亜鉛リッチな触媒により触媒される、フルフラールの製造方法に関する。
【0073】
発明者らは、硫酸亜鉛リッチな触媒が使用される場合に、向上したフルフラールの選択率および/または収率が観測されることを見出した。本発明による方法は短い滞留時間で実施することができるため、高いスループットが可能となる。さらに、硫酸亜鉛リッチな触媒を利用する本発明による方法は、廃水量を下げることができ、プロセス装置に対して腐食量の低下をもたらすことができる。
【0074】
フルフラールは、高付加価値を有する各種化学物質の製造のためのバイオベース出発基質として使用され得るバイオマスに由来し得る、重要な工業化学物質である。フルフラールは、化学構造
【0075】
【化1】
を有し、フラン-2-カルボアルデヒド、フラン-2-カルボキシアルデヒド、フラール、および2-フルアルデヒドの名称でも知られている。フルフラールは、それ自体が重要な化学物質であるだけでなく、例えば、液体の炭化水素燃料に、プラスチック用の誘導体モノマーに、または食品添加物および医薬品に転化され得る。フルフラールを使用して製造できる下流の化学物質の特定の例としては、フルフリルアルコール、フラン酸、フラン、テトラヒドロフラン、レブリン酸、ブタジエン、ヘキサメチレンジアミン、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルテトラヒドロフランおよびフルフラールフェノール樹脂が挙げられる。
【0076】
上記方法は、原料としてのリグノセルロース材料またはその画分の使用が関与する。リグノセルロース材料はセルロース、ヘミセルロースおよび/またはリグニンを含有する。いくつかの実施形態において、上記方法で使用される上記リグノセルロース材料は、木材チップ、おがくず、サトウキビ、トウモロコシの芯、バガス、オーツ麦殻、綿実殻、コメ殻および小麦ふすまからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、上記方法で使用される上記リグノセルロース材料は、サトウキビである。いくつかの実施形態において、上記方法で使用される上記リグノセルロース材料は、バガスである。いくつかの実施形態において、上記方法で使用される上記リグノセルロース材料は、トウモロコシの芯である。
【0077】
もし所望する場合、リグノセルロース粗体よりもむしろリグノセルロース材料の画分を使用することができる。いくつかの実施形態においてセルロース画分が使用され(例えばセルロース材料を少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、または少なくとも95重量%含有する画分)、例えばセルロースを使用することができる。いくつかの実施形態において、ヘミセルロース画分が使用され(例えばヘミセルロース材料を少なくとも50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%、または少なくとも95重量%含有する画分)、例えばヘミセルロースを使用することができる。いくつかの実施形態において、リグニン材料が少ない画分(例えばリグニン材料を10重量%未満、5重量%未満、または2重量%未満含有するもの)またはリグニン材料を含まないものが使用される。
【0078】
フルフラールの製造方法の原料は、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、およびそれらの混合物を含む。いくつかの実施形態において、単糖、二糖、オリゴ糖および多糖からなる群から選択されるリグノセルロース画分が使用される。
【0079】
いくつかの実施形態において、単糖が使用され、または単糖の混合物である。いくつかの実施形態において、二糖が使用され、または二糖の混合物、または単糖と二糖との混合物である。いくつかの実施形態において、オリゴ糖が使用され、またはオリゴ糖の混合物、またはオリゴ糖と単糖との混合物、またはオリゴ糖と二糖との混合物、またはオリゴ糖と、単糖と、二糖との混合物が使用される。いくつかの実施形態において、多糖が使用され、または多糖の混合物、または多糖と単糖との混合物、または多糖と二糖との混合物、または多糖とオリゴ糖との混合物、または多糖と、オリゴ糖と、単糖および/または二糖との混合物が使用される。
【0080】
いくつかの実施形態において、単糖リッチな画分(例えば単糖を少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%を含有する画分)、または二糖リッチな画分(例えば二糖を少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%含有する画分)、またはオリゴ糖リッチな画分(例えばオリゴ糖を少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%含有する画分)を使用することができる。
【0081】
本発明による方法における使用に好適な単糖の特定の例としては、アロース、グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、フルクトースおよびガラクトースが挙げられる。いくつかの実施形態において、上記方法で使用される原料は、単糖がアロース、グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、フルクトースおよびガラクトースからなる群から選択される、単糖または単糖リッチな画分である。いくつかの実施形態において、上記原料は、アロースまたはアロースリッチな画分(例えばアロースを少なくとも50重量%含有する)である。いくつかの実施形態において、上記原料は、グルコースまたはグルコースリッチな画分(例えばグルコースを少なくとも50重量%含有する)である。
【0082】
本発明による方法における使用に好適な二糖の特定の例としては、スクロース、ラクトースおよびマルトースが挙げられる。いくつかの実施形態において、上記方法で使用される原料は、二糖がスクロース、ラクトースおよびマルトースからなる群から選択される、二糖または二糖リッチな画分である。
【0083】
いくつかの実施形態において、オリゴ糖が使用される。いくつかの実施形態において、多糖が使用される。オリゴ糖および/または多糖の特定の例としては、キシラン、マンナン、アラバン、フルクタンおよびセルロースが挙げられる。いくつかの実施形態において、使用される上記リグノセルロース材料の画分はキシランである。いくつかの実施形態において、使用される上記リグノセルロース材料の画分はセルロースである。
【0084】
リグノセルロース画分が使用される場合、上記画分は任意の好適な1つまたは複数のプロセスステップによりリグノセルロース材料から得ることができる。そのようなプロセスステップは、もし所望する場合、本方法の一部として実施してもよい。あるいは、前処理または前加工を本方法とは別に実施してもよく、例えば、供給者から入手したリグノセルロース画分を使用してもよい。
【0085】
前加工ステップを含む方法では、上記ステップは例えば、リグノセルロース材料のうちの1つまたは複数の他の画分由来のセルロース画分、ヘミセルロース画分および/またはリグニン画分の分離、(例えば多糖および/またはオリゴ糖中に存在する糖結合の加水分解、および単糖画分および/または二糖画分および/またはオリゴ糖画分および/または多糖画分の分離、のうちの1つまたは複数を実施してもよい。
【0086】
例えば、リグノセルロース材料は、単糖、二糖、および/またはオリゴ糖を製造するために、高温および/または高圧に曝露されてもよく、および/または酵素的加水分解に付されてもよく、および/または酸性条件および/またはアルカリ条件に付されてもよい。
【0087】
いくつかの実施形態において、リグニン画分を除去および/または糖結合を加水分解するために1つまたは複数の前加工ステップを経てもよい。これは、例えば粉砕による破砕等の物理的な前処理、酸性溶液またはアルカリ溶液および溶媒を用いる等の化学的な前処理、または細菌を含む微生物等を用いる、および/または酵素的糖化を通じて等の生物学的前処理により達成され得る。例えば、もし木材チップが原料として使用される場合、セルロース分の回収(retrieval)を向上させることでフルフラールの最終収率を向上させるために1つまたは複数の前加工ステップを実施してもよい。
【0088】
もし所望する場合、対象となる画分を他の成分から分離して、対象となる材料を豊富に含む原料を準備してもよい。好適な技法の例としては、水/有機抽出、溶液からの材料の析出/結晶化および固体/液体の画分(例えば濾過、デカント)の分離が挙げられる。
【0089】
上記方法で使用する前に固体のリグノセルロース材料からリグニン画分を除去することが望まれる状況では、いくつかの実施形態において、前加工は、アルカリ水溶液を用いてリグノセルロース材料を高温で処理してリグニンを可溶化するステップと、固体成分と液体成分とを分離するステップとを含む。
【0090】
フルフラールの製造方法は、リグノセルロース材料またはその画分を熱分解するステップを含む。熱分解は、高温を利用した材料の熱による分解であり、通常、窒素またはアルゴンの存在下で実施される。
【0091】
リグノセルロース材料またはその画分の熱分解は、任意の好適な温度で、例えば約200から約600℃の範囲内の温度で実施することができる。いくつかの実施形態において、上記熱分解ステップは、約300から約500℃、または約300から約400℃、または約350から約450℃、または約400から約500℃の温度範囲で実施される。いくつかの実施形態において、上記熱分解ステップは、約300℃、約350℃、約400℃、約450℃または約500℃の温度で実施される。
【0092】
上記熱分解ステップは、上記リグノセルロース材料またはその画分を効果的に熱分解するために好適な時間の間実施される。例えば、上記熱分解ステップは、約5秒から約2分、または約10秒から約60秒、または約20秒から約50秒の範囲内の時間(例えば熱分解反応の保持時間または滞留時間)を有する。いくつかの実施形態において、熱分解ステップ(上記保持時間)の時間は、約25秒から45秒の範囲内である。いくつかの実施形態において、熱分解ステップの時間は約10秒、約15秒、約20秒、約25秒、約30秒、約35秒、約40秒、約45秒、約50秒、約55秒、または約60秒である。
【0093】
熱分解ステップを実施するため、任意の好適な熱分解反応器、例えば流動床反応器を使用することができる。いくつかの実施形態において、流動床反応器が使用される。
【0094】
本発明の発明者らは、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒の使用は、リグノセルロース材料の触媒熱分解に使用された場合に、フルフラールの製造において高い転化率および選択率をもたらす高い触媒活性を発現することを発見した。
【0095】
本明細書に規定のとおり、用語「硫酸亜鉛リッチな」は硫酸亜鉛を、少なくとも20重量%含有する材料を指す。いくつかの実施形態において、上記硫酸亜鉛リッチな材料(例えば硫酸亜鉛リッチな触媒)は、硫酸亜鉛を少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または硫酸亜鉛を少なくとも95重量%、または硫酸亜鉛を少なくとも98重量%、または硫酸亜鉛を少なくとも99重量%含む。いくつかの実施形態において、上記触媒は、硫酸亜鉛から本質的になる、または硫酸亜鉛からなる。
【0096】
いくつかの実施形態において、上記硫酸亜鉛は、無水物または水和物の形態で存在していてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、上記硫酸亜鉛は硫酸亜鉛七水和物であってもよい。いくつかの他の実施形態において、上記硫酸亜鉛は、無水硫酸亜鉛であってもよい。本開示における硫酸亜鉛の重量%に対する基準は、使用された硫酸亜鉛の形態の重量%を指す。例えば、硫酸亜鉛七水和物が使用される場合には、用語「硫酸亜鉛 重量%(wt% zinc sulfate)」は、材料中に存在する(例えば硫酸亜鉛リッチな触媒中に存在する)硫酸亜鉛七水和物の重量%を指す。
【0097】
上記方法において、任意の好適な量の固体の硫酸亜鉛リッチな触媒を使用してもよい。いくつかの実施形態において、触媒のリグノセルロース材料に対する重量比は、1:1から20:1の範囲内、例えば2:1から15:1、または約6:1から10:1の範囲内である。いくつかの実施形態において、触媒の原料に対する重量比は約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1、約10:1、約11:1、約12:1、約13:1、約14:1または約15:1である。
【0098】
固体の硫酸亜鉛リッチな触媒の各種形態は上記方法で使用することができる。例えば、遷移金属がドープされた、またはドープされていない触媒の形態は、原料として使用されるリグノセルロース材料に依存して特に有利な結果をもたらし得る。一方で、いくつかの実施形態において、純硫酸亜鉛または実質的に純粋な硫酸亜鉛を使用することもでき、いくつかの他の実施形態において、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒は、さらなる遷移金属を含有する。さらなる遷移金属への参照は、亜鉛以外の遷移金属であるとして理解される。
【0099】
実施例により実証されているとおり、パラジウム等の遷移金属を用いた硫酸亜鉛のドーピングは、本開示による方法で使用される場合に所望の特性を提供し得る。いくつかの実施形態において、上記さらなる遷移金属は、パラジウム、鉄、銅、コバルトおよびニッケルからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、上記さらなる遷移金属はパラジウムまたは鉄である。いくつかの実施形態において、上記さらなる遷移金属はパラジウムである。
【0100】
いかなる特定の理論に拘束されるわけではないが、パラジウム等の遷移金属の取り込みは、C6糖に存在するC-C結合の開裂を補助することにより、原料からのフルフラールの転化率、およびその次の収率を向上させると考えられている。
【0101】
このように、いくつかの実施形態において、さらなる遷移金属(例えばパラジウム)がドープされた固体の硫酸亜鉛リッチな触媒が使用され、上記方法で使用される上記リグノセルロース材料またはその画分は、C6糖(例えばC6単糖、C6二糖、C6オリゴ糖、および/またはC6多糖)を豊富に含むものである。C6糖を豊富に含むリグノセルロース材料または画分は、C6糖を少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%含有するものである。
【0102】
また、キシラン等のC5糖を豊富に含む原料について、さらなる遷移金属がドープされていない固体の硫酸亜鉛触媒は、上記方法において特に良好に作用することもわかった。したがって、いくつかの実施形態において、さらなる遷移金属がドープされていない固体の硫酸亜鉛リッチな触媒が使用されているため、上記方法で使用されるリグノセルロース材料またはその画分は、C5糖(例えばC5単糖、C5二糖、C5オリゴ糖、および/またはC5多糖)を豊富に含むものである。C5糖を豊富に含むリグノセルロース材料または画分は、C5糖を少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%含有するものである。
【0103】
固体の硫酸亜鉛リッチな触媒にさらなる遷移金属がドープされている場合には、上記さらなる遷移金属は通常、最大20重量%の量で存在する。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、触媒の合計の重量に対して約0.1から約10重量%、または約1から約5重量%の量で存在する。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、約0.5重量%、約1重量%、約1.5重量%、約2重量%、約2.5重量%、約3重量%、約3.5重量%、約4重量%、約4.5重量%または約5重量%の量で存在する。
【0104】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛リッチな触媒は、さらなる遷移金属を約0.1から約5重量%、例えばさらなる遷移金属を0.2から5重量%、または0.5から3重量%、または約0.2重量%、約0.5重量%、約1重量%、約2重量%、約3重量%、約4重量%、または約5重量%含有する。
【0105】
固体の硫酸亜鉛リッチな触媒にさらなる遷移金属がドープされている場合には、上記さらなる遷移金属は例えば、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒と混合または共沈されたものであってもよい。あるいは、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒の表面(または少なくとも表面の一部)は、さらなる遷移金属で被覆されていてもよい。
【0106】
さらなる遷移金属の任意の好適な形態は、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒と共に使用することができる。例えば、さらなる遷移金属の塩形態を使用することができる。上記さらなる遷移金属は、酸化物としてさらに、または代わりに存在していてもよい。上記さらなる遷移金属は、金属そのものの形態でさらに、または代わりに存在していてもよい。いくつかの実施形態において、上記さらなる遷移金属は、混合物の形態で、例えば酸化物として、および金属そのものとして存在していてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒の表面上に存在するさらなる遷移金属は、主に酸化物として存在していてもよく、硫酸亜鉛リッチな触媒の内部に存在するさらなる遷移金属は、主に金属として存在していてもよい。パラジウムの場合は例えば、いくつかの実施形態において、パラジウムはパラジウム金属および/または酸化パラジウムとして固体の硫酸亜鉛リッチな触媒中に存在していてもよい。
【0107】
さらなる遷移金属が、さらなる遷移金属の塩形態を用いて添加される場合、代表的な塩は硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物およびヨウ化物を含む。いくつかの実施形態において、さらなる遷移金属は、遷移金属の硝酸塩を使用して添加される。いくつかの実施形態において、さらなる遷移金属はパラジウムであり、硝酸パラジウムは固体の硫酸亜鉛に添加される。
【0108】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛リッチな触媒は、追加の安定化用金属および/または酸性度調節用金属を含有する。
【0109】
上記触媒は、もし所望する場合、使用前に追加の加工ステップに付されてもよい。例えば、上記触媒は、触媒の細粒を生成させるために、造粒に付されてもよい。
【0110】
上記方法は、任意の好適な装置または反応器装置を使用して実施してもよい。いくつかの実施形態において、上記方法はバッチプロセスとして実施される。いくつかの他の実施形態において、上記方法は、連続的または半連続的なプロセスとして実施される。
【0111】
リグノセルロース材料またはその画分の熱分解、および固体の硫酸亜鉛リッチな触媒により触媒されるフルフラールの製造は、いくつかの実施形態において、単一の反応器内で単一のステップとして実施してもよい。しかし、他の実施形態においては、リグノセルロース材料またはその画分の熱分解、および固体の硫酸亜鉛リッチな触媒により触媒されるフルフラールの製造は、別々のステップとして実施されてもよい。例えば、熱分解は、リグノセルロース蒸気流を生成させるために実施してもよく(例えば第1の反応器内で)、そして上記リグノセルロース蒸気流を固体の硫酸亜鉛リッチな触媒に接触させてフルフラールを製造する(例えば第2の反応器内で)。例えば、リグノセルロース蒸気流は、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒の床上を通過、および/または床中を通り抜けてもよい。いくつかの実施形態において、フルフラールの製造ステップは、流動床反応器を使用して、または充填床反応器を使用して実施される。例えば、造粒された触媒を含有する反応器(例えば流動床反応器または充填床反応器)を使用することができる。
【0112】
いくつかの実施形態において、熱分解と、触媒との接触は、別々のステップとして実施され、第1のステップ(例えば流動床反応器内で)においてリグノセルロース材料またはその画分が熱分解されてリグノセルロース蒸気流を生成させ、もし所望する場合は導入された水蒸気と共に、造粒された触媒を含有する第2の反応器(例えば充填床反応器または移動床反応器)へアルゴンおよび/または窒素を含有する流れにより移送させた後、上記リグノセルロース蒸気流を触媒に接触させることでフルフラールが生成し、最終的にフルフラールを含有する生成物蒸気流が得られる。
【0113】
フルフラールの製造は、任意の好適な温度、例えば約200から約600℃の範囲内の温度で実施することができる。いくつかの実施形態において、フルフラールの製造は約300から約500℃、または約300から約400℃、または約350から約450℃、または約400から約500℃の温度範囲で実施される。いくつかの実施形態において、フルフラールの製造は約300℃、約350℃、約400℃、約450℃または約500℃の温度で実施される。
【0114】
固体の硫酸亜鉛リッチな触媒に接触させるステップによるフルフラールの製造は、フルフラールへの高い転化率を与えるために好適な時間の間実施される。例えば、触媒との接触ステップは、約5秒から約2分、または約10秒から約60秒、または約20秒から約50秒の範囲内の期間にわたって実施してもよい。いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒に接触させるステップは約25秒から45秒の範囲内の期間にわたって実施してもよい。いくつかの実施形態において、時間は約10秒、約15秒、約20秒、約25秒、約30秒、約35秒、約40秒、約45秒、約50秒、約55秒、または約60秒である。
【0115】
熱分解およびフルフラールの製造が単一のステップの一部として実施される場合には、上記で列記された温度および期間は例えば、その単一のステップに適用できる。
【0116】
発明者らは、水蒸気/スチームの存在または非存在は、フルフラールの最終収率に影響を与え得ることを見出した。いくつかの実施形態においてフルフラールの製造方法は、例えばフルフラールの製造が窒素またはアルゴン雰囲気下で実施される場合にはスチームの非存在下で実施される。いくつかの他の実施形態において、上記フルフラールの製造は、例えばスチーム/水蒸気が窒素および/またはアルゴン雰囲気に追加される場合にはスチームの存在下で実施される。いくつかの実施形態において、スチームの、使用されるリグノセルロース材料またはその画分に対する重量比は約0.1:1から約30:1、または約5:1から約30:1、または約0.1:1から約20:1、または約1:1から約20:1、または約8:1から約20:1の範囲内である。いくつかの実施形態において、スチームのリグノセルロース材料に対する重量比は約0.1:1、約0.5:1、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1、約10:1、約11:1、約12:1、約13:1、約14:1、約15:1、約16:1、約17:1約18:1、約19:1、または約20:1である。
【0117】
通常、上記反応の後に、固体の硫酸亜鉛リッチな触媒から容易に分離可能な、フルフラールを含有する生成物蒸気流が得られる。
【0118】
もし所望する場合、フルフラールを含有する上記生成物の混合物を、他の有機成分から分離してもよい。例えば、一定量の軽化合物(LC、例えば、酢酸およびフラン)、レブリン酸(LA)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)およびレボグルコセノン(LGO)等の副生成物が生成し得ることから、それらの成分からフルフラールを分離すること、またはそれらの副生成物の濃度を低減させることが望ましい可能性がある。任意の好適な加工技法は、フルフラールを分離、および/または精製するために使用してもよい。
【0119】
いくつかの実施形態において、フルフラールは、他の成分から蒸留により分離される。例えば、分留を使用してもよく、例えば必要に応じて生成物の混合物の高沸点成分および/または低沸点成分からフルフラールを分離するように、一連のカラムおよび適切な温度条件を用いながら使用してもよい。
【0120】
いくつかの他の実施形態において、フルフラールは、フルフラールを含有する生成物蒸気流の選択的凝縮により分離される。上記フルフラールを含有する生成物蒸気流は高温で存在する。生成物流の温度を適切に調節する(すなわち低下させる)ことにより、まずフルフラールよりも沸点が高い副生成物が気相中に残留するフルフラールから分離され得る。高沸点材料の分離に続いて、その後フルフラールを含有する蒸気流の温度を低下させる(例えばフルフラールの沸点未満)ことで、最終的に低沸点を有する副生成物から分離され得るフルフラールを凝縮することができる。
【0121】
上記で議論したとおり、本方法はフルフラールを製造する。したがって、本明細書に規定の方法により製造されるフルフラールも提供される。
【0122】
フルフラールの製造方法は、フルフラールから製造され得る下流の化学物質への到達手段も提供する。したがって、別の態様では、本発明による方法に従ってフルフラールを製造するステップと、フルフラールをフルフリルアルコール、フラン酸、フラン、テトラヒドロフラン、レブリン酸、ブタジエン、ヘキサメチレンジアミン、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルテトラヒドロフランおよびフルフラールフェノール樹脂に転化させるステップとを含む、フルフリルアルコール、フラン酸、フラン、テトラヒドロフラン、レブリン酸、ブタジエン、ヘキサメチレンジアミン、テトラヒドロフルフリルアルコール、メチルテトラヒドロフランおよびフルフラールフェノール樹脂のうちの1つまたは複数の製造方法が提供される。
【0123】
フルフラールから上記参照化合物を製造する方法は、当技術において既知である。例えば、フルフリルアルコールは、例えば水素化および好適な触媒(ニッケル、パラジウム、白金、または亜鉛-銅系触媒等)を使用した還元、電解触媒的還元、酵素的還元、または好適な細菌または酵母を使用した生体内変換(例えば、その全体の内容が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第2077409号明細書、Gutierrez et al, Appl. Biochem. Biotechnol., 2002, 98-100, 327-40; Brosnahan et al, Nanoscale, 2021, 13, 2312-2316を参照のこと)により製造することができる。
【0124】
フラン酸は、例えば、フルフラール、またはフルフリルアルコール(例えば過マンガン酸塩または二クロム酸塩を用いる)の酸化により製造することができる。さらなる例として、水性カニッツァーロ反応(例えば水酸化ナトリウム等のアルカリの水溶液を用いたフルフラールの処理)は、フラン酸(生成物の混合物の酸性化後)とフルフリルアルコールとの混合物を製造するために使用してもよい。
【0125】
フランは例えば、フルフラールの脱カルボニル化により(例えばパラジウム、ゼオライト、またはニッケル-マグネシウム酸化物触媒を通して)、またはフラン酸(それ自体がフルフラールから製造され得る)の脱炭酸により製造することができる。例えば、その全体の内容が参照により本明細書に組み込まれる、Jiminez-Gomez et al, ACS Sustainable Chem. Eng., 2019, 7, 8, 7676-7685、国際公開第2015/020845号パンフレット、欧州特許第3126342号明細書、および米国特許第7044480号明細書を参照のこと。
【0126】
テトラヒドロフランは、例えばフラン(それ自体がフルフラールから製造され得る)の水素化、例えば酸化パラジウム等のパラジウム触媒を使用することにより、または直接的にフルフラールから中間体生成物を単離することなく(例えば水素およびパラジウム触媒を使用した還元により)製造することができる。例えば、その全体の内容が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2014/118806号パンフレット、およびOrg. Synth. 1936, 16, 77を参照のこと。
【0127】
レブリン酸は例えば、アルコール(例えばメタノール)およびジアルコキシメタン(例えばジメトキシメタン)を用いた処理によりレブリン酸アルキルを製造して加水分解できるようにし(例えば酸性水溶液条件下で)レブリン酸を製造すること(例えばその全体の内容が参照により本明細書に組み込まれるShao et al, Green Energy and Environment, 2019, 4, 4, 400-413を参照のこと)により製造することができる。
【0128】
ブタジエンは、例えば上記で議論したとおり、例えばフルフラールからテトラヒドロフランへの転化、そしてテトラヒドロフランからブタジエンへの転化、例えば脱水開環(例えばシリカ-リンゼオライト等のゼオライト触媒を使用すること(例えば、その全体の内容が参照により本明細書に組み込まれる、Abdelrahman et al, ACS Sustainable Chem. Eng., 2017, 5, 5, 3732-3736を参照のこと)により製造することができる。
【0129】
ヘキサメチレンジアミンは例えば、フルフラールから1,6-ヘキサンジオールに転化させた後、アミン化させて生成させることで、ヘキサメチレンジアミンを製造することができる(例えば、その全体の内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9518005号明細書を参照のこと)。
【0130】
テトラヒドロフルフリルアルコールは、例えばフルフリルアルコール(それ自体がフルフラールから製造され得る)から製造することができ、または例えば、ハイドロキシアパタイト担持パラジウム触媒(例えば、その全体の内容が参照により本明細書に組み込まれるLi et al, Ind. Eng. Chem. Res., 2017, 56, 31, 8843-8849を参照のこと)等の好適な触媒の存在下で水素化させることによりフルフラールから直接的に製造することができる。
【0131】
2-メチルテトラヒドロフランは例えば、フルフラールの還元、例えば好適な触媒の存在下で水素化させる(例えばCo系触媒の存在下で還元させて2-メチルフランを製造し、Ni系触媒の存在下で還元させて2-メチルテトラヒドロフランを製造する)ことにより製造することができる。例えば、その全体の内容が参照により本明細書に組み込まれるLiu et al, Molecular Catalysis, 2020, 490, 110951を参照のこと。
【0132】
フルフラールフェノール樹脂は例えば、フェノールと、例えば水酸化ナトリウム等の塩基の存在下でフルフラールを反応させることにより製造できる。
【0133】
固体の硫酸亜鉛の製造方法
ゴムタイヤのライフサイクルの終わりでのそれらの廃棄は、多くの発展途上国および先進国に対して廃棄物管理における課題を提示している。廃タイヤまたはスクラップタイヤの不適切な廃棄は、多くの健康、安全および環境上の危険に繋がるおそれがある。廃タイヤの熱分解は、酸素の乏しい雰囲気において高温に曝露することを含む、廃タイヤを加工するためによく使用されるプロセスである。通常、廃タイヤの熱分解は、固体のタイヤチャーの重要な成分を与えるが、通常、多くの汚染物を含有するため、熱分解後のチャーの需要は限られている。熱分解後のチャーの1つの用途は、それを活性炭に転化させることであるが、そのようなプロセスは多くの場合、金属イオンを水に浸出させることになり、環境上の危険を引き起こす。
【0134】
発明者らは、タイヤチャー等の廃棄物源から硫酸亜鉛の製造を可能とする、例えば上記のとおりの固体の硫酸亜鉛リッチな触媒の製造を容易とする方法を発見した。したがって、別の態様では、タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させおよび硫酸亜鉛水溶液と固体のタイヤチャー残留物との混合物を生成させるステップと、固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するステップと、硫酸亜鉛水溶液から固体の硫酸亜鉛を回収するステップとを含む、固体の硫酸亜鉛の製造方法が提供される。
【0135】
本方法の利用は、亜鉛廃棄物が捕捉され、固体の状態で単離され、材料で使用されること、または熱分解およびリグノセルロース材料のフルフラールへの転化等の下流のプロセスにおいて使用されることを可能とする。
【0136】
上記方法は、タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させるステップが関与する。通常、硫酸水溶液およびタイヤチャーを混ぜた後(例えばタイヤチャーを硫酸水溶液に加えることができ、またはその逆も可能である)、好適な期間にわたって混合することで、タイヤ残留物からの亜鉛の浸出、および硫酸亜鉛水溶液の生成が可能となる。上記混合物は、反応を容易化させるために、例えば、ミキサーを使用して激しく撹拌または混合してもよい。いくつかの実施形態において、タイヤチャーと硫酸との混合ステップは、特定の速度に制御された撹拌下で実施される。混合物が撹拌される場合には、撹拌速度は例えば、約100rpmから約600rpm、または約200rpmから約400rpmの範囲内、または約100rpm、約200rpm、約300rpm、約400rpm、約500rpm、または約600rpmの速度であってもよい。
【0137】
タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させるステップは、タイヤチャーから亜鉛を浸出させて硫酸亜鉛水溶液を生成させるのに好適な温度で実施される。例えば、上記ステップは、約25から約90℃、または約40から約80℃の範囲内の温度で、または約30℃、約40℃、約50℃、約60℃、約70℃、約75℃、約80℃、約85℃、または約90℃で実施することができる。
【0138】
硫酸水溶液中の硫酸の濃度は通常、1リットルあたり約0.5から約15モルの範囲内であり、例えばいくつかの実施形態において、1リットルあたり約1から約10モル、または1リットルあたり約1から約5モルの範囲内である。いくつかの実施形態において、上記硫酸水溶液濃度は、1リットルあたり約1、約2、約3、約4、または約5モルである。
【0139】
硫酸水溶液の量は、タイヤチャーからの亜鉛の抽出を容易とするように使用される。硫酸水溶液のタイヤチャーに対する容量:質量比は通常、約1:1から20:1、または約1:1から10:1、または約1.5:1から10:1、または約1:1から6:1、または約1.5:1から6:1の範囲内であり、または約1:1または約2:1または約3:1、または約4:1、または約5:1、または約6:1である。
【0140】
いくつかの実施形態において、上記硫酸水溶液の硫酸濃度は1リットルあたり約1から約5モルの範囲内であり、硫酸水溶液のタイヤチャーに対する容量:質量比が1.5:1から10:1の範囲内で使用される。
【0141】
タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させるステップは、硫酸亜鉛として亜鉛を容易に抽出するために好適な期間にわたって実施される。いくつかの実施形態において、上記接触ステップは5分から24時間、例えば5分から12時間、または5分から6時間、または10分から2時間の範囲内の期間、または約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、約1時間、約1.5時間、または約2時間にわたって実施される。
【0142】
タイヤチャーの硫酸水溶液との接触ステップは、任意の好適な装置を使用して実施することができる。例えば、連続的な撹拌槽反応器(CSTR)を使用することができる。
【0143】
もし所望する場合、上記タイヤチャーは、硫酸水溶液に接触させるステップの前に1つまたは複数の前加工ステップを経てもよい。例えば、スクラップタイヤの熱分解の後に、製造されたタイヤチャーは、もし所望する場合、粉砕してふるい分けすることで粒子径を低減する、例えば平均粒子径が100から500μm、または約200から400μm、または約250から300μmの範囲内のタイヤチャーを製造してもよい。粒子径を低減することは亜鉛の抽出の容易化を促進すると理解されている。鋼および/または線成分は例えば、硫酸水溶液に接触させる前にタイヤチャーから除去してもよい。上記タイヤチャーは例えば、硫酸水溶液に接触させるステップの前に、例えば水または水性溶媒を用いて洗浄してもよい。
【0144】
したがって、いくつかの実施形態において、硫酸水溶液に接触させるステップの前に、タイヤチャーは、1つまたは複数の下記プロセスステップ:
粒子径の低減(例えばタイヤチャーの粉砕および/またはふるい分けによる)、
タイヤチャーからの鋼および/または線の除去、および
水または水性溶媒を用いて洗浄するステップ
に付される。
【0145】
このステップを用いたタイヤチャーを接触させるステップの後、上記硫酸亜鉛水溶液は、固体のタイヤチャー残留物から分離される。多くの方法は、固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するために使用することができ、例えば濾過により、または固形分を沈降させ、液体成分をデカントし、吸い上げまたは他の方法で回収することにより分離することができる。いくつかの実施形態において、上記硫酸亜鉛水溶液は、固体のタイヤチャー残留物から濾過により分離される。もし所望する場合、上記固体のタイヤチャー残留物は例えば、追加の硫酸亜鉛を回収するために水または水性溶媒を用いて洗浄してもよい。
【0146】
固体の硫酸亜鉛は、タイヤチャー残留物からの分離ステップの後に、硫酸亜鉛水溶液から回収される。好適な加工技法は、蒸発、結晶化および析出のうちの1つまたは複数により固体の硫酸亜鉛を回収するステップを含む。
【0147】
いくつかの実施形態において、水は、蒸発および/または蒸留のうちの1つまたは複数により除去される。上記硫酸亜鉛水溶液は例えば、50から100℃の範囲内の温度、例えば約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約95℃、または約100℃で加熱してもよい。例えば、真空蒸留を使用してもよく、これにより大気圧での温度より低い温度で水を除去することができる。
【0148】
例えば、いくつかの実施形態において、混合物を沸騰(例えば約100℃に加熱)させることにより硫酸亜鉛水溶液から水が蒸発する。いくつかの他の実施形態において、上記圧力を低下させ、50から60℃の範囲内の温度で加熱させることにより水を蒸発させてもよい。
【0149】
蒸発および/または蒸留の作用は、硫酸亜鉛水溶液混合物を濃縮することである。通常、硫酸亜鉛の飽和溶液が製造されるように水量が低減され、固体の硫酸亜鉛は溶液から結晶化および/または析出する。
【0150】
したがって、いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛は、水分量を減少させるため、50から100℃の範囲内の温度での硫酸塩水溶液からの水の蒸発、および後続の固体の硫酸亜鉛の析出および/または結晶化により回収される。
【0151】
いくつかの他の実施形態において、固体の硫酸亜鉛は、逆溶媒、例えば水混和性の有機溶媒の追加により得ることもでき、最終的に固体の硫酸亜鉛を析出および/または結晶化させる。
【0152】
蒸発、蒸留、析出および/または結晶化ステップを実施するため、任意の好適な装置を使用することができる。例えば結晶化装置、例えばSwenson DTE結晶化装置等は、固体の硫酸亜鉛を得るために使用できる。
【0153】
得られた固体の硫酸亜鉛は、任意の好適な方法により水または水性溶媒から分離することができ、例えば濾過により、または固体成分を沈降させ、例えば吸い上げまたはデカントによって液体の画分を除去することにより、分離することができる。
【0154】
いくつかの実施形態において、残りの液体の成分を、溶液から追加の硫酸亜鉛を回収するためにさらなる加工ステップに付してもよい。例えば、いくつかの実施形態において、得られた溶液を1つまたは複数の蒸発-析出サイクルに付してもよい。
【0155】
いくつかの実施形態において、硫酸亜鉛は、硫酸亜鉛七水和物の形態で硫酸亜鉛水溶液から回収される。
【0156】
したがって、いくつかの実施形態において、蒸発または蒸留ステップは、水を除去し、後続の結晶化および/または析出が硫酸亜鉛七水和物を生成させるような濃度にまで溶液中の硫酸亜鉛を濃縮するために実施される。いくつかの実施形態において、蒸発中の水分量の低減は、後続の析出が固体の硫酸亜鉛七水和物を生成させるように制御される。いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛は、水または水性溶媒からの結晶化により回収され、結晶化が固体の硫酸亜鉛七水和物を生成させるように水の使用量が制御される。
【0157】
上記蒸発ステップは例えば、後続の析出ステップが固体の硫酸亜鉛七水和物を生成させるように特定の条件下で制御することができる。例えば、まず硫酸亜鉛水溶液混合物を約100℃に加熱し、水を除去することで硫酸亜鉛の飽和溶液を生成させてもよく、次により低温で加熱する(例えば50から60℃の範囲内)一方で、追加の水の除去と共に減圧することで硫酸亜鉛七水和物を生成させてもよい。
【0158】
回収される固体の硫酸亜鉛の意図された用途に依存し、例えば不純物を除去するために、次に焼成ステップに付してもよい。したがって、いくつかの実施形態において、上記方法は、固体の硫酸亜鉛を焼成するステップを含む。
【0159】
焼成は、空気または酸素の非存在下で固体を高温に加熱するプロセスを指す。制御された焼成条件を可能とする任意の好適な装置が使用でき、例えば充填床反応器等の反応器が使用できる。
【0160】
上記焼成ステップは、高温で、例えば約300から約1000℃の範囲内で実施される。いくつかの実施形態において、上記焼成ステップは、約400から約800℃の範囲内、例えば約400℃、約500℃、約600℃、約700℃、または約800℃の温度で実施される。
【0161】
上記焼成ステップは例えば、アルゴンまたは窒素等の不活性雰囲気の存在下で実施され得る。
【0162】
スクラップタイヤチャーからの亜鉛の回収に際し、得られたタイヤチャーは、次に発電プラントにおいてクリーン燃料として使用することができ、または、従来のプロセスを使用してカーボンブラック等の高度な吸着剤にさらにアップグレードすることもできる。したがって、いくつかの実施形態において、上記方法は、固体のタイヤチャー残留物を回収するステップを含む。いくつかの実施形態において、上記方法は、固体のタイヤチャー残留物を回収して上記固体のタイヤチャー残留物をカーボンブラックに転化させるステップを含む。
【0163】
遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の製造方法
本明細書ではまた、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛(すなわち亜鉛以外の別の遷移金属がドープされた硫酸亜鉛)の製造方法も提供される。そのような材料は例えば、本明細書で議論したとおり、フルフラールを製造するための触媒として使用される。
【0164】
上記方法は、タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させおよび硫酸亜鉛水溶液と固体のタイヤチャー残留物との混合物を生成させるステップと、固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するステップと、硫酸亜鉛水溶液から固体の硫酸亜鉛を回収するステップと、硫酸亜鉛をさらなる遷移金属の塩に接触させるステップと、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛を製造するステップとを含む。
【0165】
タイヤチャーを硫酸水溶液に接触させるステップ、固体のタイヤチャー残留物から硫酸亜鉛水溶液を分離するステップ、および硫酸亜鉛水溶液から固体の硫酸亜鉛を回収するステップは、固体の硫酸亜鉛の製造方法の議論の文脈で上記に記載されたとおりに実施することができ、それらの方法に関連して議論された実施形態はまた、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の製造方法にもあてはまる。
【0166】
硫酸亜鉛にドープされる遷移金属は、亜鉛以外の任意の所望の遷移金属であってもよい。フルフラールを製造するための触媒としての使用が意図される遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の場合には、上記遷移金属は例えば、触媒活性を向上させるものであってもよく、例えば、パラジウム、鉄 コバルトおよびニッケルからなる群から選択されるものであってもよい。いくつかの実施形態において、上記遷移金属はパラジウムまたは鉄である。いくつかの実施形態において、上記遷移金属はパラジウムである。
【0167】
上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、いくつかの手段で製造することができる。
【0168】
いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛は、遷移金属の塩に接触させるステップの前に、硫酸亜鉛水溶液から回収される。
【0169】
遷移金属の塩形態を使用して遷移金属が添加される場合、代表的な塩は硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物およびヨウ化物を含む。いくつかの実施形態において、遷移金属は、遷移金属の硝酸塩を用いて添加される。いくつかの実施形態において、遷移金属はパラジウムであり、硝酸パラジウムは固体の硫酸亜鉛に添加される。
【0170】
遷移金属の塩形態が固体の硫酸亜鉛に接触する実施形態において、これは例えば有機溶媒の存在下において固体の硫酸亜鉛を遷移金属塩と混合することにより行うことができる。遷移金属塩を可溶化する任意の有機溶媒を使用することができ、例えばアルコール溶媒を使用することができる。いくつかの実施形態において、上記有機溶媒はエタノールである。
【0171】
通常、固体の硫酸亜鉛および遷移金属塩の溶液は好適な量で混ぜ合わせられる。いくつかの実施形態において、液体の固体に対する比は10mL/gである。
【0172】
上記遷移金属の塩および上記固体の硫酸亜鉛を含有する溶液は通常、成分の良好な混合性および均一な混合物の形成を確実とするのに好適な期間にわたって混ぜ合わせられる。混合ステップは、任意の好適な手法を使用して遂行することができ、例えばオーバーヘッドスターラーを使用することができる。いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛は、超音波処理を使用してさらなる遷移金属の塩と混合される。超音波処理は、激しく撹拌して溶液中の粒子を混合するための、超音波周波数における音響エネルギーの使用である。上記超音波処理ステップは、好適な期間にわたって実施してもよい。いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛触媒およびさらなる遷移金属の塩を含有する溶液は、約5分から1時間、または約10から約30分の範囲内の期間にわたって超音波処理に付される。
【0173】
いくつかの実施形態において、上記固体の硫酸亜鉛は、硫酸亜鉛にさらなる遷移金属を含浸させるように、溶媒に可溶な形態で存在するさらなる遷移金属の塩と混合される。
【0174】
固体の硫酸亜鉛のさらなる遷移金属の塩との混合ステップは、任意の好適な装置を使用して実施することができる。例えば、連続的な撹拌槽反応器(CSTR)を使用することができる。
【0175】
遷移金属が有機溶媒溶液により導入される場合には、混合ステップの後に、上記有機溶媒は通常、除去されてもよい。これは例えば、有機溶媒を除去するための加熱および/または真空乾燥ステップにより達成され得る。例えば、上記混合物はオーブンまたはオートクレーブ内で、例えば約50℃から約250℃、または約150℃から約250℃、または約160℃から約200の範囲内、または約150℃、または約160℃、または約170℃、または約180℃、または約190℃、または約200℃、または約210℃、または約220℃、または約230℃、または約240℃、または約250℃の温度で加熱してもよい。高温での有機溶媒の除去に好適な期間は例えば、3から24時間、または6から24時間、または12から16時間の範囲内、または約6、約8、約10、約12、約14、または約16時間であってもよい。いくつかの実施形態において、有機溶媒は、オートクレーブ内で、150℃から約250℃の範囲内の温度でかつ、12時間から約16時間の範囲内の期間にわたって、水熱処理により除去される。
【0176】
いくつかの実施形態において、遷移金属の塩に接触させるステップの前に、固体の硫酸亜鉛が硫酸亜鉛水溶液から回収される場合には、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、遷移金属の蒸気を固体の硫酸亜鉛の表面上で凝縮させるステップにより生成される。例えば、さらなる遷移金属の塩は、気化された後に固体の硫酸亜鉛の表面上で凝縮されてもよい。これは固体の硫酸亜鉛触媒の表面上に遷移金属を直接的に担持させることを可能とする。
【0177】
代替的なアプローチとして、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は例えば、遷移金属の塩を硫酸亜鉛水溶液と混合するステップにより製造することができ、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、共沈および/または共結晶により製造される。
【0178】
例えば、有機溶媒中の遷移金属塩の溶液(例えばエタノール等のアルコール)は、硫酸亜鉛水溶液に加えて溶液を生成させた後に、上記混合物を1つまたは複数の蒸発、蒸留、析出および/または結晶化ステップに付すことができる。
【0179】
蒸発、蒸留、析出および/または結晶化ステップを実施するため、任意の好適な装置を使用することができる。例えば結晶化装置、例えばSwenson DTE結晶化装置等は、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛を得るために使用できる。
【0180】
遷移金属の任意の好適な形態は、固体の硫酸亜鉛と共に使用することができる。例えば、遷移金属の塩形態を使用することができる。上記遷移金属は、酸化物としてさらに、または代わりに存在していてもよい。上記遷移金属は、金属そのものの形態でさらに、または代わりに存在していてもよい。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、混合物の形態で、例えば酸化物として、および金属そのものとして存在していてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛の表面上に存在する遷移金属は、酸化物として(または主に酸化物として)存在していてもよく、さらに硫酸亜鉛の内部に存在する遷移金属は、金属として(または主に金属として)存在していてもよい。パラジウムの場合は例えば、いくつかの実施形態において、パラジウムはパラジウム金属および/または酸化パラジウムとして固体の硫酸亜鉛中に、および/または固体の硫酸亜鉛上に存在していてもよい。
【0181】
いくつかの実施形態において、パラジウム、鉄、コバルトまたはニッケル等の遷移金属を取り込むステップに加えて、安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩が一定量添加される。そのようなステップは、ドーピングプロセスの効率性を向上させるため、例えば熱処理の場合に安定であり、凝集しにくいスピネルまたは合金を形成することで遷移金属を安定化させることにより実施してもよい。使用できる安定化用金属および/または酸性度調節用金属の例は、ランタンおよびセシウムを含む。
【0182】
いくつかの実施形態において、上記安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩は、固体の硫酸亜鉛支持体への含浸により、または硫酸亜鉛および遷移金属を用いた共沈により導入される。
【0183】
いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛は、上記遷移金属の塩と、また、上記安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩との混合ステップの前に、硫酸亜鉛水溶液から回収される。
【0184】
いくつかの実施形態において、上記安定化用金属塩および/または酸性度調節用金属塩は、硫酸亜鉛水溶液と、また、遷移金属の塩と混合され、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、共沈および/または共結晶により製造される。
【0185】
いくつかの実施形態において、焼成ステップは、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛の製造の後に、例えば不純物を除去するために実施される。したがって、いくつかの実施形態において、上記方法は、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛を焼成するステップを含む。
【0186】
焼成ステップは、任意の1つまたは複数の下記利点:機械的にかつ熱力学的に遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の微細構造を安定化させること、他の不純物または揮発性物質を除去すること、より均一でかつ均質な分散性を有する遷移金属がドープされた硫酸亜鉛を与えること、および/または触媒活性を向上させることを可能にするのに役立ち得る。
【0187】
制御された焼成条件を可能とする任意の好適な装置を使用することができ、例えば充填床反応器等の反応器を使用することができる。
【0188】
上記焼成ステップは、高温で、例えば約300から約1000℃の範囲内で実施される。いくつかの実施形態において、上記焼成ステップは約400から約800℃の範囲内、例えば約400℃、約500℃、約600℃、約700℃、または約800℃の温度で実施される。
【0189】
上記焼成ステップは例えば、アルゴンまたは窒素等の不活性雰囲気の存在下で実施され得る。
【0190】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、焼成の後に、約400から約800℃の範囲内、例えば約500から700℃の範囲内の温度で、または約400℃、または約500℃、または約600℃、または約700℃、または約800℃の温度で水素に曝露することにより還元ステップに付される。還元ステップを実施することは、特に活性触媒の生成を促進し得ると考えられている。通常、上記還元ステップは、水素等の不活性ガスの存在下で行われる。
【0191】
上記還元ステップは、任意の好適な装置を使用して実施することができる。例えば充填床反応器を使用することができる。
【0192】
上記の方法により製造される硫酸亜鉛および遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は例えば、フルフラールを製造するための触媒として利用される。したがって、リグノセルロース材料またはその画分からフルフラールを製造するための触媒としての、本明細書に規定のとおりの方法により製造される硫酸亜鉛の使用、または本明細書に規定のとおりの方法により製造される、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛の使用も提供される。
【0193】
遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、フルフラールを製造するための触媒として使用される場合に、いくつかの実施形態において、1回きりまたは少数回の反応に使用することができる。しかし、他の実施形態において、上記触媒は、多くのバッチのフルフラールを製造するために使用することができ、または、長期間にわたる連続的なプロセスで使用することができる。ある場合には、触媒を何度も使用した後、または十分な期間にわたって使用した後に、活性を再生および/または向上させるために、例えば触媒を上記で議論したとおりの還元条件に付すことにより処理することが望ましい場合もある。
【0194】
したがって、リグノセルロース材料またはその画分からフルフラールを製造するために使用された、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛の活性触媒を再生するための方法であって、例えば約400から約800℃の範囲内の温度で水素に曝露することにより、遷移金属がドープされた硫酸亜鉛を還元ステップに付すステップを含む、方法が提供される。
【0195】
固体の硫酸亜鉛の製造方法と関連させて上記で議論したとおり、タイヤチャー残留物は、次に電力プラントにおける燃料として使用する、または、従来のプロセスを使用してカーボンブラック等の吸着剤に転化させることもできる。したがって、いくつかの実施形態において、上記方法は、固体のタイヤチャー残留物を回収するステップを含む。いくつかの実施形態において、上記方法は、固体のタイヤチャー残留物を回収して上記固体のタイヤチャー残留物をカーボンブラックに転化させるステップを含む。
【0196】
硫酸亜鉛リッチな材料および遷移金属がドープされた硫酸亜鉛
本開示はまた、フルフラールの製造において触媒として用いられる、硫酸亜鉛リッチな材料およびそれらの触媒に関する。
【0197】
したがって、さらなる態様において、本明細書に規定の方法により製造される固体の硫酸亜鉛が提供される。
【0198】
また、遷移金属がパラジウム、鉄、ニッケルおよびコバルトからなる群から選択される、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛も提供される。いくつかの実施形態において、上記遷移金属はパラジウムである。
【0199】
いくつかの実施形態において、遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、硫酸亜鉛を少なくとも20重量%含む。いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、硫酸亜鉛を少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、または硫酸亜鉛を少なくとも95重量%、または硫酸亜鉛を少なくとも98重量%、または硫酸亜鉛を少なくとも99重量%含む。
【0200】
いくつかの実施形態において、上記硫酸亜鉛は、無水物または水和物の形態で存在していてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、上記硫酸亜鉛は硫酸亜鉛七水和物であってもよい。いくつかの他の実施形態において、上記硫酸亜鉛は、無水硫酸亜鉛であってもよい。本開示における硫酸亜鉛の重量%に対する基準は、使用された硫酸亜鉛の形態の重量%を指す。例えば、硫酸亜鉛七水和物が使用される場合には、用語「硫酸亜鉛 重量%(wt% zinc sulfate)」は、材料中に存在する(例えば硫酸亜鉛リッチな触媒中に存在する)硫酸亜鉛七水和物の重量%を指す。
【0201】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属はパラジウム、鉄、銅、コバルトおよびニッケルからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、上記遷移金属はパラジウムまたは鉄である。いくつかの実施形態において、上記遷移金属はパラジウムである。
【0202】
上記遷移金属は通常、最大20重量%の量で存在する。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、触媒の合計の重量に対して約0.1から約10重量%、または約1から約5重量%の量で存在する。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、約0.5重量%、約1重量%、約1.5重量%、約2重量%、約2.5重量%、約3重量%、約3.5重量%、約4重量%、約4.5重量%または約5重量%の量で存在する。
【0203】
上記遷移金属は、例えば固体の硫酸亜鉛と混合、または共沈させてもよい。あるいは、固体の硫酸亜鉛の表面(または少なくとも表面の一部)は遷移金属で被覆されていてもよい。
【0204】
遷移金属の任意の好適な形態は、固体の硫酸亜鉛と共に使用することができる。例えば、遷移金属の塩形態を使用することができる。上記遷移金属は、酸化物としてさらに、または代わりに存在していてもよい。上記遷移金属は、金属そのものの形態でさらに、または代わりに存在していてもよい。いくつかの実施形態において、上記遷移金属は、混合物の形態で、例えば酸化物として、および金属そのものとして存在していてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、固体の硫酸亜鉛の表面上に存在する遷移金属は、酸化物として(または主に酸化物として)存在していてもよく、さらに硫酸亜鉛リッチな触媒の内部に存在する遷移金属は、金属として(または主に金属として)存在していてもよい。パラジウムの場合は例えば、いくつかの実施形態において、パラジウムはパラジウム金属および/または酸化パラジウムとして固体の硫酸亜鉛中に、および/または固体の硫酸亜鉛上に存在していてもよい。
【0205】
遷移金属の塩形態を使用して遷移金属が添加される場合、代表的な塩は硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物およびヨウ化物を含む。いくつかの実施形態において、遷移金属は、遷移金属の硝酸塩を用いて添加される。いくつかの実施形態において、遷移金属はパラジウムであり、硝酸パラジウムは固体の硫酸亜鉛に添加される。
【0206】
いくつかの実施形態において、上記遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛は、追加の安定化用金属および/または酸性度調節用金属を含有する。追加の安定化用金属および/または酸性度調節用金属の役割は例えば、触媒性能を向上させること、またはスピネルまたは合金を形成することで触媒上に存在する遷移金属ドーパントを安定化させることであってもよく、熱処理の際に触媒が凝集しにくくなる可能性がある。
【0207】
本明細書ではまた、本明細書に規定の方法に従って製造された遷移金属がドープされた固体の硫酸亜鉛も提供される。
【実施例】
【0208】
本開示は、下記非限定的実施例によりさらに説明される。
【0209】
実験
1.スクラップタイヤチャーからの硫酸亜鉛の調製
スクラップタイヤチャーは、パイロットスケールの流動床反応器内での廃スクラップタイヤ(混合物)の800℃での熱分解に由来するものであった。上記タイヤチャーサンプルを粉砕し、250から300μmの大きさとなるようにふるい分けし、105℃で15時間乾燥させた。タイヤチャーに関し、その内部の鋼および線を洗浄前に除去した。スクラップタイヤチャーの元素分析(表1を参照のこと)は我々の過去の検討の中で示された[17]。灰の含有量は13.3重量%であり、最も豊富な元素としてZn、続いてケイ素(Si)である。それらの組成は、灰の状態でそれぞれ30%および12重量%である。他の主な金属は、カルシウム(Ca、灰を基準として4.7重量%)、アルミニウム(Al、灰を基準として1.2重量%)および鉄(Fe、灰を基準として1.0重量%)である。
【0210】
タイヤチャー中の亜鉛を回収するため、硫酸の各種濃度(1から5mol/L)を1mL/gから6mL/gのL/S比で水で洗浄されたタイヤチャーと混合させた。サーモスタットで25℃から80℃に制御された水浴内の250mLコニカルフラスコ内で全ての浸出実験を実施し、10分から120分の期間にわたって撹拌させた。本検討の全てのケースにおいて撹拌速度は300rpmに制御された。次に、450μmのカットオフサイズを有するフィルター紙を使用して、濾過によりスラリーを分離した。S4)次に、Znリッチな浸出液を飽和するまでおよそ100℃で蒸発させた。硫酸亜鉛を析出させるため、得られた飽和溶液を水浴に移した。さらに、得られた溶液を蒸発-析出サイクルに3回付した。あるいは、飽和溶液を50から60℃で低圧でゆっくり蒸発させ、得られた結晶析出物をZnSO4・7H2Oとして濾別した。
【0211】
【0212】
2.硫酸亜鉛触媒の調製
純ZnS、ZnOおよびZnSO4をMerck Co Ltd.から購入した。一定量のPd(NO3)2・2H2O(Merck)と、液体の固体に対する比(L/S)が10mL/gである、ZnSO4・7H2O(Merck)および30mLエタノールとを、15分間の超音波処理を目的としてビーカー内で混合させた。そして、上記混合物をオートクレーブに移して180℃で12時間水熱処理させた後、80℃で真空乾燥した。その後、後の使用のため、粉末を550℃で2時間焼成させた。調製された触媒は、PdO含有量がおよそ0.8重量%(1.1mol%)であったZnSO4/PdOとラベリングされた。
【0213】
3.フルフラールの製造
3.1 材料
原料としてこの検討において試験されたD-アロース(C6H12O6)、D-グルコース(C6H12O6)およびキシラン((C5H10O5)n)は、純度>99%を有する試薬グレードであり、Merck Co Ltd.から購入されたものであった。
【0214】
3.2 熱分解実験
既に説明されたとおりに、固定床石英管型反応器(直径が2mmでかつ長さが30mm)を用いてPyro-GCシステムで熱分解実験を実施した[13]。簡潔には、バイオマス成分および触媒(H2Oを有する場合および有さない場合)をそれぞれ第1ステージおよび第2ステージに配置した。上記温度は300から500℃の範囲内で変動し、キャリアガスはヘリウム(He、26mL/分)である。保持時間は、各末端温度で25秒に設定される。反応器から吐出された排水は、液体生成物用のキャピラリーカラムと連結されたFID検出器(Agilent、7890B)に送られた。オーブンを25℃/分で50℃(2分間保持)から250℃(2分間保持)に上昇させた。スプリット比は25:1に設定される。条件ごとに少なくとも繰り返しを2回実施した。
【0215】
3.3 結果
3.3.1原料としてD-アロース
触媒のバイオマスに対する質量比を4とし、各種触媒について、400℃でのD-アロース(C6)の触媒熱分解を試験した。
図1に結果が示されている。条件は下記のとおりであった:Pyro-GCシステムにおける熱分解、原料:D-アロース、熱分解温度:400℃、加熱速度:20℃/ミリ秒、保持時間:25秒、触媒のD-アロースに対する質量比:0または4、水のD-アロースに対する質量比:0。
【0216】
アロースの転化率に関しては、アロース単独の際の70重量%から、ZnSO4/PdO(0.8重量%(1.1mol%)PdO)触媒が採用された際の94重量%に上昇した。ブランク(すなわちアロース単独)、ZnS、ZnSO4およびZnSO4/PdOの順で、フルフラールの選択率は、アロース単独の場合の22%からそれぞれ30%、34%および48%に上昇した。これに対して、ZnOまたはPdOの使用は、フルフラール以外にフランの生成を促進した。
【0217】
温度が触媒活性に強く影響することを考慮し、触媒としてZnSO
4/PdOを用いた場合および用いない場合で、300から500℃の範囲の各温度を試験した。
図2でみられるとおり、D-アロース単独と比較して、この触媒の使用は、全ての試験された温度でD-アロースの転化率およびフルフラールの選択率の両方を増加させた。特に、400℃は、アロースの全転化率およびフルフラールの選択率の両方について最適な温度であるとさらに確認された。
【0218】
条件は下記のとおりであった:Pyro-GCシステムにおける熱分解、原料:D-アロース、熱分解温度:300から500℃で温度差は50℃、加熱速度:20℃/ミリ秒、保持時間:25秒、ZnSO4/PdOのD-アロースに対する質量比:0または4、水のD-アロースに対する質量比:0。
【0219】
さらに、
図3に示されているとおり、400℃での各種触媒/アロース比を試験した。条件は下記のとおりであった:Pyro-GCシステムにおける熱分解、原料:D-アロース、熱分解温度:400℃、加熱速度:20℃/ミリ秒、保持時間:25秒、ZnSO
4/PdOのD-アロースに対する質量比:0から8、水のD-アロースに対する質量比:0。
【0220】
フルフラールの選択率は、2倍および4倍のZnSO4/PdO触媒が使用された場合に線形的に上昇し、8倍の触媒が使用された場合におよそ52%に緩やかに上昇した。同様に、アロースの転化率は、69重量%から、触媒のアロースに対する質量比が8の際に96重量%に上昇した。
【0221】
ZnSO
4/PdOのアロースに対する質量比が8の際に、反応器内に各種比率のH
2Oを注入することによる、水蒸気の効果を検討した。
図4に結果が示されている。条件は下記のとおりであった:Pyro-GCシステムにおける熱分解、原料:D-アロース、熱分解温度:400℃、加熱速度:20℃/ミリ秒、保持時間:25秒、ZnSO
4/PdOのD-アロースに対する質量比:8、水のD-アロースに対する質量比:0から20。
【0222】
スチームがレブリン酸(LA)の形成を促進したことがわかった。軽化合物(LC)の生成はスチームにより妨げられた一方で、スチームのアロースに対する比が10:1に上昇するにつれ、フルフラール選択率は興味深いことに、上昇傾向を示した。スチームのアロースに対する比が10の際は、アロースの転化率が92重量%であると共に、フルフラールの選択率は約56%であった。
【0223】
3.3.2 原料としてD-グルコース
グルコースをフルフラールに転化させるそれらの能力について、硫酸亜鉛触媒も評価された。
図5aにおいて実証されているとおり、D-アロースの触媒性能と同様に、ZnSO
4/PdOがグルコースからのフルフラールの選択率の点で最も良好な触媒であることもわかった。使用した条件は下記のとおりであった:Pyro-GCシステムにおける熱分解、原料:D-グルコース、熱分解温度:400℃、加熱速度:20℃/ミリ秒、保持時間:25秒、触媒のD-グルコースに対する質量比:0から8、水のD-グルコースに対する質量比:0。
【0224】
触媒のグルコースに対する比率を上昇させることにより、
図5bにおいて示されているとおり、フルフラール選択率は、グルコースに対する質量比が8:1で、グルコース単独の場合の23%から、ZnSO
4/PdO触媒の場合の43%に上昇した。グルコースおよびアロースのフルフラール選択率は、触媒なしの場合と同様であり、それぞれ23%および22%であった。
【0225】
熱重量分析(TGA、
図6を参照のこと)は、ZnSO
4/PdO触媒が使用された場合に、分解温度が、アロースの場合の127℃と比較して、グルコースの場合は30℃低下したことを示した。この結果は、原料としてアロースを用いる場合、ZnSO
4/PdOが特に良好な触媒であることを支持する。
【0226】
3.3.4 原料としてキシラン
アロースのフルフラールへの転換を触媒する硫酸亜鉛触媒の使用も併せて調査された。フルフラールの製造においてZnSO
4/PdOが最も高い触媒活性を有する、原料としてD-グルコース(C6)およびD-アロース(C6)を使用した場合とは異なり、キシラン(C5)が原料として使用された場合に、純ZnSO
4が最も良好な触媒であることがわかった(
図7を参照のこと)。使用した条件は下記のとおりであった:Pyro-GCシステムにおける熱分解、原料:キシラン、熱分解温度:400℃、加熱速度:20℃/ミリ秒、保持時間:25秒、触媒のキシランに対する質量比:4、水のキシランに対する質量比:0または10。
【0227】
キシランの転化率は、ZnSO4またはZnSO4/PdO触媒を使用した場合に、100%近くになることがわかった。さらに、ZnSO4触媒を使用する場合、フルフラールの選択率は、触媒:キシランの質量比が4から1で、キシラン単独の場合の36%からZnSO4触媒を用いた場合の72%に上昇した。上記フルフラール選択率は、触媒のキシランに対する質量比が10:1で、スチームが追加された場合に、さらに87%に向上した。
【0228】
3.3.5 原料として実物のバイオマス-サトウキビバガスおよびトウモロコシの芯
ZnSO4およびPd含有ZnSO4触媒もまた、サトウキビバガス(表2を参照のこと)およびトウモロコシの芯(表3を参照のこと)を含む実物のバイオマスを使用して試験された。
【0229】
サトウキビバガスについては、ZnSO4/PdO(0.4)は、400℃での選択率が44面積%で、水のサトウキビバガスに対する質量比が10で、22.8重量%で最も高い量のフルフラールを与えた。このフルフラール収率は、Westpro/HuaxiaTechnologyを用いて報告された収率の8から11重量%よりも約2倍高い[14]。同時に、14.6重量%の酢酸が生成し得る。
【0230】
トウモロコシの芯については、0.4から1.1mol%PdO(ZnSO4/PdO)を含有する触媒を用いて、水のトウモロコシの芯に対する質量比が10で32.2から32.9重量%のフルフラールが得られた。このフルフラール収率は、Westpro/HuaxiaTechnologyによる10から12重量%よりも約3倍高い[14]。全体の液体収率は65.0から69.1重量%の範囲内であり、フルフラールの選択率は58.8から61.2面積%で変動した。主な副生成物は酢酸であり、12.5から13.7重量%であった。
【0231】
使用した条件は下記のとおりであった:Pyro-GCシステムにおける熱分解、原料:サトウキビバガスまたはトウモロコシの芯、熱分解温度:400℃、加熱速度:20℃/ミリ秒、保持時間:25秒、触媒のバイオマスに対する質量比:8、水のバイオマスに対する質量比:0または10。
【0232】
【0233】
【0234】
4.結論
この検討は、スクラップタイヤチャーを硫酸で処理するステップと、浸出液から固体の硫酸亜鉛を単離するステップとが関与する簡便なプロセスを経由し、廃棄物材料から硫酸亜鉛を製造する新規の方法を報告した。
【0235】
この検討はまた、PdO担持およびPdO非担持の新規のZnSO4触媒系、それらの製造方法、および300から500℃でのフラッシュ熱分解による各種バイオマス成分からのフルフラールの製造方法における上記触媒の使用も報告した。C6糖に関し、この検討において、ZnSO4/PdOは、他の触媒と比較して最も良好な触媒であることがわかった。スチーム(スチーム対アロース=質量で10:1)と共に触媒としてZnSO4/PdOを用いた場合の400℃でのD-アロース転化率は83.3重量%であると共に、フルフラールの選択率は約56%である。
【0236】
原料としてD-グルコースが使用された場合、触媒としてZnSO4/PdOを用いた場合のD-グルコース転化率が90%である場合に、フルフラール選択率は43%であり、軽化合物(LC)は28.3%であった。
【0237】
C5糖キシランに関しては、ZnSO4が最も良好な触媒であることがわかり、フルフラールの選択率は、キシラン単独の場合の36%から、ZnSO4触媒を用いた場合の72%に上昇し、スチーム(スチーム対キシラン=質量で10:1)を使用した場合にさらに最大87%に上昇した。キシランの転化率は、ZnSO4またはZnSO4/PdOが触媒として使用された場合、100%に近かった。
【0238】
サトウキビバガスおよびトウモロコシの芯である実物のバイオマス原料については、スチームのバイオマスに対する質量比が10でZnSO4/PdO触媒を用いてフルフラールがそれぞれ22.8重量%および32.9重量%で得られた。
【0239】
参照
【0240】
【表4】
上記の参照文献のそれぞれの全体内容は、それらの全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】