(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】フォワーディング光位相回復及び時間領域多重(TDM)スイッチングを用いるパッシブ光ネットワーク(PON)を介した振動センシング
(51)【国際特許分類】
H04B 10/071 20130101AFI20240319BHJP
H04B 10/272 20130101ALI20240319BHJP
H04B 10/61 20130101ALI20240319BHJP
【FI】
H04B10/071
H04B10/272
H04B10/61
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561303
(86)(22)【出願日】2022-04-05
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 US2022023557
(87)【国際公開番号】W WO2022216758
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504080663
【氏名又は名称】エヌイーシー ラボラトリーズ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】NEC Laboratories America, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ホワン、 ユエ-カイ
(72)【発明者】
【氏名】イプ、 エズラ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、 ティン
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA11
5K102AA63
5K102AD01
5K102AD12
5K102AH14
5K102AH16
5K102AL08
5K102LA02
5K102LA11
5K102LA24
5K102MH01
5K102MH15
5K102MH27
5K102PC01
5K102PD11
5K102PH31
5K102PH47
5K102PH48
5K102PH49
5K102PH50
5K102RB02
(57)【要約】
本開示の態様は、PONアーキテクチャにおける集中型光回線終端装置(OLT)における振動誘起光位相測定を有利に可能にするシステム及び方法について記載する。既存の分散型ファイバセンシングシステム及び方法とは著しく対照的に、本開示の光位相測定は、後方散乱メカニズムに依存せず、PONにおける往復分割損失の後でも十分な光信号対雑音比(OSNR)を維持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォワーディング光位相回復及び時間領域多重化(TDM)スイッチングを用いるパッシブ光ネットワーク(PON)を介した振動センシングのためのシステムであって、
光回線終端装置(OLT)と、
複数の光ネットワーク終端装置(ONT)と、
前記OLTを前記ONTに光学的に接続するパッシブ光ネットワークと、
を有し、複数の前記ONUは、前記PONと光通信する光スイッチと、前記光スイッチと光通信する光反射器とを含み、
前記OLTは、インテロゲータを含み、連続的な光位相干渉信号を前記PONに提供し、複数の前記光反射器によって反射された反射信号を受信し、前記連続的な光位相干渉信号及び前記受信した信号の位相変化の測定から前記PON内の機械的な振動を検出するように構成された、システム。
【請求項2】
前記OLTは、前記反射信号の受信/検出のためのコヒーレント受信機を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記OLTが、センシング及び局部発振の両方のために単一のレーザを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
所定の時点において、前記複数のONUのうちの1つだけが前記反射信号を提供するように、前記複数の光スイッチを選択的に起動するようにさらに構成された、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記PONは、前記連続的な光位相干渉信号及び任意の前記反射信号と同時に電気通信トラフィックを搬送する、請求項5に記載のシステム。
【請求項6】
前記PONは、N台のONUと、1×Nスプリッタと、前記OLTを前記1×Nスプリッタに光学的に接続する単一のフィーダファイバと、前記1×Nスプリッタを個々のONUに光学的に接続するN本のドロップファイバとをそれぞれ含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記OLTは、前記ONU以外の反射源を判定する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記OLTは、前記検出された機械的に振動している前記PONのセクションを判定する、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記OLTが前記ONUにクロック信号を分配する、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
前記ONUのうちの少なくとも1つは、前記反射信号を直接ブーストするゲイン要素を含む、請求項6に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、光通信システム、方法及び構造に関する。より具体的には、フォワーディング光位相回復及び時間領域多重(time domain multiplexed:TDM)スイッチングを用いるパッシブ光ネットワーク(passive optical network:PON)を介した振動センシングを提供する方法及び構造について記載する。
【背景技術】
【0002】
当業者であれば容易に理解できるように、集中型無線アクセスネットワーク(centralized radio access networks:C-RAN)は、5Gモバイルフロントホールアクセスシステムで不可欠な構成要素である。都市及び郊外の5Gカバレッジを提供するため、数平方マイル毎に配備されるファイバベースのパッシブ光ネットワーク(PON)を用いることで、集中型ベースバンドユニット(baseband unit:BBU)がリモートラジオヘッド(remote radiohead:RRH)のクラスタに接続される。
【0003】
C-RANを介したセンシング機能を提供することは、交通/建造物の識別及び地震検出等の新たなビジネスチャンスだけでなく、通信事業者向けのネットワークの健全性の監視を含む、幅広い用途を提供する可能性がある。PONアーキテクチャのファイバセンシングは、カバーエリアが広いため、他のファイバネットワークと比べて重要なセンシングによる利点を提供する可能性がある。
【0004】
しかしながら、現在の標準的なPONアーキテクチャには、光回線終端装置(optical line terminal:OLT)とエンドユーザ光ネットワーク装置(end-useroptical network unit:ONU)との間にパッシブスプリッタ(通常、32または64分割)が含まれており、センシング信号に課される、パッシブ分割(30~40dB)に起因する往復損失により、PONにおけるファイバセンシングの実施がほぼ不可能になる。さらに、PONアーキテクチャの特性により、インテロゲータがOLTに配置されている場合、パッシブ分割後のドロップファイバからの全てのセンシング信号が結合されるため、複数のパスをそれぞれ個別にセンシングすることが困難または不可能になる。
【0005】
これまでに、本出願人らは、反射型光利得素子及び時間領域多重(TDM)スイッチセンシング制御を用いるPONを介した分散型ファイバセンシング(distributed fiber sensing:DFS)に関する技術を開示したが、これにより、一般に、分割損失とマルチパス干渉の問題の両方が解決される。しかしながら、一般的なDFSインテロゲータと各ONUに必要な追加の反射型半導体光増幅器(reflective semiconductor optical amplifier:R-SOA)は高コストであるため、大規模な導入には適していないことがある。
【発明の概要】
【0006】
PONアーキテクチャにおける集中型光回線終端装置(OLT)での振動誘起光位相測定を有利に可能にするシステム及び方法を対象とする本開示の態様により、当技術分野の進歩がもたらされる。分散型ファイバセンシングとは対照的に、光位相測定は後方散乱メカニズムに依存せず、PONにおける往復分割損失後でも十分な光信号対雑音比(optical signal to noise ratio:OSNR)を維持する。
【0007】
本開示の一態様によれば、本開示によるシステム及び方法は、異なるドロップファイバパスにおける振動源を特定するために、異なる光ネットワークユニット(ONU)からの光反射器によるTDMスイッチングを採用する。センシング機構は、光搬送波が共有され、OLTで生成されるアップストリーム(US)データチャネルに有利に統合される。PONアーキテクチャのトポロジ及びその短距離アプリケーションを考慮すると、本開示の態様による本発明のシステム及び方法は、DFSのような特定の空間解像度ではなくファイバセグメントに基づいて振動源の特定を提供する。重要なことは、本開示による本発明のシステム及び方法は、スプリッタ前のフィーダファイバだけでなく、スプリッタ後の個々のドロップファイバパスからも振動源を特定できることである。
【0008】
第1の態様から見ると、本開示によるシステム及び方法は、DFSにおける後方散乱信号の代わりにフォワーディング光信号を用いて振動誘起位相変化を測定する。結果として、本発明のスキームは、PONにおける往復分割損失後でもはるかに高いOSNRを生じさせるため、高度な増幅スキームを必要としない。
【0009】
別の側面から見ると、集中型OLTにおいて異なるドロップファイバパスの位相測定を個別に行うために、本発明のシステム及び方法は、各ONUノードにおいて低コストの反射器及びスイッチを採用する。TDMスキームがスイッチに適用され、各インスタンスで1つの反射光信号のみが測定される。さらなる利点として、TDM同期クロックは、集中型インテロゲータから提供することが可能であり、共有クロックを用いる既存のPONデータ通信からも取得できる。
【0010】
最後に、本開示によるシステム及び方法のさらに別の重要な態様は、既存のPON通信チャネルとの統合である。本発明のシステム及び方法を使用すると、わずかに変更されたコヒーレント受信機DSPにおけるペイロード搬送チャネルから光位相情報を取得できることに留意されたい。したがって、US通信を提供する全てのONUで同じキャリアが使用されている場合、OLTで振動誘起位相測定を実行できる。本願の位相回復アルゴリズムは両方のスキームに適用できるため、TDMと周波数分割多重(frequency-division multiplexing:FDM)の両方をUSデータ通信で有利に使用できる。
【0011】
本開示のより完全な理解は、添付の図面を参照することで実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の態様による、光位相干渉法によるPONアーキテクチャを介した振動検出及び反射光信号のTDMスイッチング制御を示す概略図である。
【0013】
【
図2】
図2は、本開示の態様による、反射信号調整(ONUからOLTへ)のTDMスイッチングメカニズムを示す概略図である。
【0014】
【
図3(A)】
図3(A)は、同時回復を示す一対のプロットであり、本開示の態様による、個別のPONドロップファイバパスにおける振動誘起位相信号である。
【
図3(B)】
図3(B)は、同時回復を示す一対のプロットであり、本開示の態様による、
図3(A)で示した振動誘起位相信号に対応する周波数スペクトルである。
【0015】
【
図4】
図4は、本開示の態様による、WDMを用いる5G C-RANによるフォワード位相回復センシングシステムオーバーレイのための例示的な構成の概略図である。
【0016】
【
図5(A)】
図5(A)は、本開示の態様による、集中型レーザ光源とコヒーレント受信機を用いるPONアップストリーム(US)チャネルを介したフォワード位相回復を示す図である。
【
図5(B)】
図5(B)は、本開示の態様による、FDMサブバンドを介した同時位相回復を示す図である。
【0017】
【
図6】
図6は、本開示の態様による、5GフロントホールにおけるPONシステムの例示的な物理ケーブル接続構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例示的な実施形態は、図面及び詳細な説明によってさらに十分に説明される。しかしながら、本開示による実施形態は、様々な形態で具体化することが可能であり、図面及び詳細な説明に記載された特定のまたは例示的な実施形態に限定されない。
【0019】
以下は、単に本開示の原理を例示するものである。したがって、当業者であれば、本明細書で明示的に説明または図示されていなくても、本開示の主旨及び範囲に含まれる、本開示の原理を具体化する様々な構成を考え出すことができることを理解されたい。
【0020】
さらに、本明細書で挙げる全ての実施例及び条件付き用語は、本開示の原理及び本技術を促進するために本発明者らが提示する概念の理解を助ける教育目的のためだけであることを意味し、具体的に挙げられた実施例及び条件に限定されないと解釈されるべきである。
【0021】
さらに、本開示の原理、態様及び実施形態、並びにその特定の実施例で挙げる本明細書の全てのステートメントは、その構成及び機能の均等物の両方を含むことを意味する。さらに、そのような均等物には、現在知られている均等物と、将来開発される均等物、すなわち構成に関係なく同じ機能を実現する、開発された要素の両方を含むことを意味する。
【0022】
したがって、例えば、本明細書の任意のブロック図は、本開示の原理を実施する回路の実例を示す概念図であることが当業者に理解されよう。
【0023】
本明細書では、特に明記しない限り、図を含む図面は、正確な縮尺率で描かれていない。
【0024】
追加の背景として、パッシブ光ネットワーク(PON)は、ブロードバンドネットワークアクセスをエンドカスタマーに提供するための光ファイバ通信技術であることに注目することから始める。そのアーキテクチャは、電力が供給されない(パッシブ)光ファイバスプリッタを用いてエンドポイント間でファイバ帯域幅を分割するために、単一の光ファイバが複数のエンドポイントにサービスを提供するポイントツーマルチポイントトポロジを実装する。パッシブ光ネットワークは、インターネットサービスプロバイダ(ISP)とそのカスタマーとの間のラストマイルと呼ばれることがよくある。
【0025】
パッシブ光ネットワークは、通常、サービスプロバイダの中央局(ハブ)に位置する光回線終端装置(OLT)と、よりエンドユーザに近い多数の光ネットワークユニット(ONU)または光ネットワーク終端装置(optical network terminal:ONT)とを含む。PONは、ポイントツーポイントのアーキテクチャと比べて必要とされるファイバ及び中央オフィス機器の量が削減される。パッシブ光ネットワークは、光ファイバアクセスネットワークの一種である。
【0026】
ほとんどの場合、ダウンストリーム信号は、複数のファイバを共有する全ての施設にブロードキャストされる。暗号化によって盗聴を防ぐことができる。アップストリーム信号は、多重アクセスプロトコル、通常は時分割多重アクセス(TDMA)を用いて結合される。
【0027】
図1は、本開示の態様による、アーキテクチャの構成を示している。観察されるように、例示的な構成は、OLTを1:Nスプリッタに相互接続するフィーダファイバと、それに続いてリモートノードに位置する個別のONUに対するNドロップファイバを含むPONシステムが含まれる。
【0028】
このようなPONを介したデータ通信の場合、ダウンストリーム(DS)信号及びアップストリーム(US)信号は、3×log2NdBの片道分割損失に耐えるように設計されている。一般的な32~64分割PONの場合、この片道損失は15~18dBの範囲になる。このようなPONを介して動作するセンシングシステムは、PONにおける全てのファイバパスを検出する必要があるため、集中型OLTの位置にインテロゲーションユニットを設置する必要がある。ほとんどの分散型ファイバセンシング(DFS)システムは、ファイバ内の弱い後方散乱効果に依存するため、通常、検出スキームは1:Nスプリッタによって課せられる追加の30~36dBの往復損失を克服できずに、パフォーマンスが大幅に低下する。
【0029】
本開示で示す革新的な構成では、光位相干渉システムがPONで使用される。ファイバの後方散乱を利用する代わりに、光信号はONUの反射器を用いてインテロゲータへ反射される。低位相雑音レーザが位相干渉計で用いられ、OLTに配置される。コヒーレント受信機は、同じレーザ光源から供給される局部発振器(LO)による集中増幅後のONUからの反射光信号を検出するために使用される。本開示の位相インテロゲーションは、(パルスではなく)連続的な光信号を使用し、信号パワーの大部分が反射されるため、ONUで光増幅を行わなくても、高い光信号対雑音比(OSNR)を達成できる。
【0030】
さらに、本発明の革新的な構成により、位相干渉システムは、PONアーキテクチャによるセグメントベースの振動センシングを提供し、フィーダファイバセグメント(S0)及び各ドロップファイバセグメント(S1~SN)から振動源を特定できる。振動源を特定するために、本発明では各ONUで反射光信号にTDMスイッチングスキームを採用するため、集中型インテロゲータでは一度に1つの反射信号のみが測定される。各ドロップファイバブランチにおける位相測定は、TDM制御の光スイッチが順番に閉じることで順番に実行される。振動源の特定を提供する他の方法は、ペイロードを運ぶ通信チャネルを用いることで可能であり、その詳細については後で説明する。
【0031】
いくつかの先に公開された論文で報告されているように、ファイバのルートに沿って振動を検出するために、非常に低い位相雑音を有する超安定光レーザを通常の直線ファイバネットワークを用いることができる。本開示の態様によるシステム及び方法について、PONネットワークにおける光位相干渉法を実行するために必要な変更点の詳細及び先の開示と比較した主な相違点を提示する。
【0032】
本開示の一態様によれば、PONネットワークによって引き起こされる光位相変化を検出するために、センシングレーザ及びコヒーレント受信機をOLTに配置する。コヒーレント受信機に対してLOと同じレーザを使用するため、これは先に報告したような自己位相ビート構成となり、レーザに内在する低周波位相雑音が効果的に抑制される。有利なことに、残りのレーザの位相雑音は、レーザの低周波ドリフトを追跡する位相ロックループによってさらに抑制することが可能であり、残りの位相変化はPONにおける物理的な振動に起因すると考えられる。
【0033】
本開示によるシステム及び方法と従来技術との間の多くの差異の1つは、光信号が同じファイバパスでリモートONUから反射され、検出のためにOLTに戻されることである。PONアーキテクチャは連続的なインテロゲート信号を全てのONUに同時に分配するため、本開示のシステム及び方法では、個別のドロップファイバパス毎にTDMスイッチング制御を使用する。
【0034】
このような例示的な構成では、
図2で例示的に示すように、一度に1台のONUだけがインテロゲート光信号を集中型インテロゲータに反射して戻す、セグメントベースの振動検出を提供する。
【0035】
TDMスイッチングを使用すると、センシングフレーム内の異なるタイムスロットを用いて、個々のドロップファイバに影響を与える振動を検出できる。光パス毎に1フレーム内で1つ以上の位相サンプルを取得できる。検出対象となる振動のほとんどは低周波数であるため、有利なことに、ミリ秒レベルのスイッチング速度を備えたTDM用の低コスト光スイッチを採用できる。ドロップファイバパスに沿ったセンシングを必要としないONUの場合、
図1のONU3で示すようにファイバを終端すればよい。
【0036】
ほとんどのPONデータ通信システムはアップストリームの信号伝達にTDMを使用するため、位相干渉法のためのTDMスイッチングの同期は、データ通信機器からのタイミング情報を利用/借用することで行うことができる。TDMスイッチ用の個々の時間同期システムは、位相インテロゲータによって提供することもできる。このシステムでは、クロックが一元的に各ONUに分配され、各センシングフレーム内の割り当てられた時間ウィンドウで光スイッチを閉じるために、トークンが各ONUに与えられる。このように実施されると、センシングフレームの長さTによって位相インテロゲーションスキームのサンプリングレート(1/T)が決まる。
【0037】
本発明のシステム及び方法を評価するため、反射型位相干渉法におけるTDMスイッチング制御を実証するために1:32分割の実験用PONセットアップで簡単な検証を行った。1本のフィーダファイバと3本のドロップファイバがスプリッタの前後に接続され、それぞれの長さは約1kmである。3本のドロップファイバのそれぞれは、
図1で示したように、光スイッチ及び反射器に接続され、TDM制御サンプリングフレームレート(1/T)は20kHz(それぞれ10μsウィンドウ)に設定した。2つの圧電(PZT)ファイバストレッチャーが2つのドロップファイバパスに設けられ、正弦歪み信号で変調されるファイバの振動をエミュレートする。一元的な位置におけるTDMサンプリング法を用いて3つのパスで同時に位相干渉を測定した結果を
図3(A)及び
図3(B)に示す。観察されるように、3つの個々の時間領域波形が記録され(
図3(A))、静止したファイバパス(黒)及びPZTを有する2つのパス(青及び赤)で測定された位相を示している。
図3(B)の周波数コンテンツを分析することで、2つの個々のパスのPZTの変調された周波数の違いをさらに特定できる。プロットされた結果は、本発明が様々な振動を検出し、それらの振動を発生したファイバパスを特定できることを明確に示している。
【0038】
異なるドロップファイバパスからの振動源を特定することに加えて、本発明はフィーダファイバの振動を特定する方法も提供できる。PONアーキテクチャにおける全ての位相干渉パスは確実にフィーダファイバを通過するため、該フィーダファイバに加わる振動は記録された全ての位相測定値に存在する。したがって、記録された全ての波形間の単純な信号相関をとることで、相関が高い場合にフィーダファイバの振動を特定できる。5Gフロントホールネットワーク用に設置されたほとんどのPONシステムは比較的短いため、一般的なDFSがシステムの設置に必要とする複雑な位置キャリブレーションプロセスを必要とせず、セグメントベースの振動位置特定でネットワーク内の様々な場所におけるイベントを識別するのに十分である。
【0039】
PONシステムには、位相干渉測定にて追加の干渉及び雑音が発生する可能性がある潜在的な状況が存在する。測定に使用される信号帯域幅は通常のデータトラフィック(10GHz以上に対して1MHz以上)と比べて非常に狭いため、反射光信号のOSNRは、スプリッタによる光信号の往復損失があったとしても非常に高くなる。信号劣化の主な原因は、制御できないPONシステムにおける他の反射によるものである可能性がある。信号と干渉の電力レベルを以下に示す。
【数1】
ここで、P
0はフィーダファイバに送信される光パワー、NはPONにおける分割数である。L
Fは、フィーダファイバの長さであり、L
Dは測定用ドロップファイバの長さであり、L
D_avgは全ドロップファイバの平均長である。C
Rayはファイバのレイリー散乱係数であり、C
connはコネクタ及びスプライスに起因する反射率である。
【0040】
ファイバ損失=-0.2dB/km、N=32、LD=LD_avg=1km、Cconn=-50dB、CRay=-72dB/mのパラメータを用いて、本出願人らはPsigがP0よりも-31dB低いことを見出した(LF=1km)。また、Pinterfの4つの項は、P0よりも-42dB、-47dB、-57.5dB及び-62.5dB低いことを見出した。したがって、最初の2つの項よりも10dB以上低い最後の2つの項は省略できる。この場合、信号対干渉比(SIR、Psig対Pinterf)は約10dBである。但し、フィーダファイバLFの長さが長かったり、スプリッタの前のコネクタまたは接続不良によって高反射が発生したりすると、SIRが低下するために位相測定性能が低下する。このようなイベントでは、ONUにゲイン要素を配置してPsigを増大させることが可能であるため、提供されるゲインがSIRに直接追加される。このようなゲイン要素の一例は、半導体光増幅器(SOA)である。実際、反射型SOA(RSOA)は、反射、TDMスイッチング及びゲインの3つの機能を全て提供する。
【0041】
位相測定システムは、PONアーキテクチャによる連続的な信号干渉法を採用し、データ通信と同様の光パワーレベルを適合できる。DFSとは異なり、同じファイバ内の他の通信チャネルに有害な非線形干渉を引き起こす高強度パルスが無い。したがって、フォワーディング位相干渉センシングシステムは、WDMアプローチを用いて同じファイバによるデータ通信システムと組み合わせることができる。
【0042】
図4は、WDMを用いる5G C-RANのフォワード位相回復センシングオーバーレイを示す例示的な配置を示し、標準波長ダイプレクサを用いてセンシングシステムとC-RANシステムを統合する方法の例を示す概略図である。この場合、ダイプレクサは、ファイバ接続の直後にOLTとONUに配置され、データとセンシング信号とを多重化及び逆多重化する。
【0043】
本開示のフォワード位相干渉システムとデータ通信チャネルとの間の統合がさらに実行できる。光位相情報は典型的なコヒーレント受信機DSPモジュールから取得できることを先に述べた。PONアーキテクチャでは、コヒーレント受信機が実装されている場合、ファイバの振動による光位相の変化も同じ方法で取得できる。超低位相雑音レーザとコヒーレント受信機によるコストの上昇は、ハードウェアのコストを全てのONUで共有できれば吸収できる。
【0044】
図5(A)は、レーザ光源がUS通信用の全てのONUで共有され、コヒーレント受信機がOLTで使用される例を示している。共有レーザUS通信は、先にPONで提案されており、ONUで必要な光コンポーネント用の低コストのソリューションがある。実際、R-SOAは、低速データ変調に利用できる統合ソリューションの1つである。USデータ通信がTDMを使用する場合、振動源の特定は、
図2で示したように同じTDM制御フレームに従うことになる。但し、US通信チャネルではFDMの実装が可能であり、各ONUで周波数サブバンドが使用される。この場合、コヒーレント受信機DSPは、
図5(B)で示すように、TDMフレーム調整を必要とせずに、全ての周波数サブバンドの位相情報を同時に取得できる。この場合、位相サンプリングレートは事前に設定されたフレームレートに制限されなくなる。
【0045】
5GアプリケーションにおけるPONシステムの実際のケーブルの敷設及び接続では、各ドロップファイバの物理的なルートはスプリッタの直後では広がらない。
図6で示すように、ケーブル敷設コストを最小限に抑制するため、ドロップファイバは、同じケーブル内の隣接するファイバコアをルートの先頭において同じルートで共有できる。毎回、数本のファイバがドロップボックスでドロップされるが、残りのファイバは(つまり、同じケーブル内で)次のドロップボックスに進む。この構成では、本発明のセグメントベースの振動特定が、共有ケーブルに沿った異なるセクションの振動源を特定する機能も提供できる。但し、各セクションが少なくとも1つのドロップボックスで分離されていることが条件となる。
【0046】
例えば、ドロップボックス1とドロップボックス2との間で振動が発生した場合、ドロップボックス1の後で取得された位相信号の(N-4)で振動が見られることが予想される。したがって、ドロップボックス1から取得した2相信号間の相関と、後でドロップされた別の信号との相関を比較することで、システムは振動がドロップボックス1の前に発生したか、後で発生したかを識別できる。同じ操作を全てのドロップボックスに対して段階的に実行可能であり、各ドロップボックス間の共有ケーブルによる振動源を特定できる。
【0047】
ファイバがドロップした後の振動源の特定は、
図1及び2で示したものと同様に機能する。1つの有用なケースシナリオは、
図6のドロップボックス2で示すように、元の電柱固定具から分離したり落ちたりした、外れたケーブルを特定することである。外れたケーブルは、道路に落ちたり、強風で飛ばされたりした場合に、潜在的な安全上の危険を招く可能性がある。
【0048】
ここでは、いくつかの具体的な例を用いて本開示を示したが、当業者であれば本教示がそれらに限定されないことを認識するであろう。したがって、本開示は本明細書に添付される特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】