(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】培養した細胞からのタンパク質加水分解組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
A23J 3/30 20060101AFI20240319BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240319BHJP
C07K 14/475 20060101ALI20240319BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20240319BHJP
A61K 8/64 20060101ALN20240319BHJP
A61Q 5/00 20060101ALN20240319BHJP
A61Q 19/00 20060101ALN20240319BHJP
A61K 38/01 20060101ALN20240319BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20240319BHJP
A61K 35/60 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
A23J3/30 ZNA
C12N5/071
C07K14/475
C07K14/78
A61K8/64
A61Q5/00
A61Q19/00
A61K38/01
A61P43/00 111
A61K35/60
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561383
(86)(22)【出願日】2022-04-10
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 IB2022053340
(87)【国際公開番号】W WO2022215055
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522217821
【氏名又は名称】アヴァント ミーツ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AVANT MEATS COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】11 Science Park West Avenue Unit 620,6/F,Biotech Centre 2,Building 11 W Hong Kong(CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チン, ポ サン マリオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, カイ イー キャリー
(72)【発明者】
【氏名】プーン, チュン ヘイ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BD04
4B065BD45
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA50
4C083AD411
4C083AD412
4C083CC02
4C083CC31
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA06
4C084AA07
4C084BA02
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA21
4C084BA43
4C084NA03
4C084NA05
4C084ZC021
4C084ZC022
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB29
4C087BB63
4C087DA03
4C087NA03
4C087NA05
4C087ZC02
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA52
4H045EA01
4H045EA15
4H045FA16
(57)【要約】
生体外細胞培養からの細胞内の全てのタンパク質に実質的に由来する全てのタンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントを実質的に含む細胞加水分解組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)生体外細胞培養からの細胞内の実質的に全てのタンパク質に由来する全てのタンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントを実質的に含み、(ii)生体外細胞培養に用いられる培養基からの廃棄物及び代謝物を実質的に含まない、細胞加水分解組成物。
【請求項2】
前記廃棄物及び代謝物は、アンモニア、乳酸塩、ピルビン酸塩及びプトレシンのうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項3】
水溶性であり、pHがおよそ6.5~8.5である、請求項1に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項4】
前記ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、平均分子サイズがおよそ100ダルトン(Da)~およそ500Daである、請求項1に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項5】
前記生体外細胞培養は、動物細胞培養又は植物細胞培養である、請求項1に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項6】
前記生体外細胞培養は、ニベの浮き袋細胞である、請求項1に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項7】
(i)コラーゲン1α1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、
(ii)コラーゲン1β1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、
(iii)結合組織成長因子(CTGF)に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、
(iv)デコリンに由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、を含む、細胞加水分解組成物。
【請求項8】
アンモニア、乳酸塩、ピルビン酸塩及びプトレシンのうちの少なくとも1種を含む廃棄物及び代謝物を実質的に含まない、請求項7に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項9】
(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号1~112からなる群から選択された少なくとも56個のポリペプチドフラグメントを含み、
(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号113~214からなる群から選択された少なくとも51個のポリペプチドフラグメントを含み、
(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号215~249からなる群から選択された少なくとも17個のポリペプチドフラグメントを含み、
(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号250~285からなる群から選択された少なくとも18個のポリペプチドフラグメントを含む、請求項7に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項10】
(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号286~488からなる群から選択された少なくとも101個のポリペプチドフラグメントを含み、
(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号489~657からなる群から選択された少なくとも84個のポリペプチドフラグメントを含み、
(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号658~722からなる群から選択された少なくとも32個のポリペプチドフラグメントを含み、
(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号723~809からなる群から選択された少なくとも43個のポリペプチドフラグメントを含む、請求項7に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項11】
(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号286~488からなる群から選択された少なくとも101個のポリペプチドフラグメントを含み、
(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号489~657からなる群から選択された少なくとも84個のポリペプチドフラグメントを含み、
(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号658~722からなる群から選択された少なくとも32個のポリペプチドフラグメントを含み、
(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号723~809からなる群から選択された少なくとも43個のポリペプチドフラグメントを含む、請求項9に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項12】
ニベの浮き袋細胞の生体外細胞培養に由来する、請求項9に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項13】
ニベの浮き袋細胞の生体外細胞培養に由来する、請求項10に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項14】
ニベの浮き袋細胞の生体外細胞培養に由来する、請求項11に記載の細胞加水分解組成物。
【請求項15】
(i)生体外細胞培養からの細胞を採取するステップと、
(ii)採取した細胞を溶解して、採取した細胞から全てのタンパク質ポリペプチドを放出させるステップと、
(iii)任意に、溶解ステップからの前記タンパク質ポリペプチドを切断又は分割するステップと、を含み、前記採取ステップは、遠心分離又は濾過によって細胞培養基から細胞を分離するステップを更に含み、
前記溶解ステップは、音波処理、高圧ホモジナイザー、手動粉砕、凍結融解サイクル、加熱、浸透圧衝撃、キャビテーション、アルカリ及び/又は界面活性剤、酸加水分解及び/又は酵素のうちの少なくとも1つを更に含み、前記溶解ステップで得られたタンパク質ポリペプチドは、サブチリシン、キモトリプシン、トリプシン、カルボキシペプチダーゼ、エラスターゼ、ペプシン、プロテイナーゼK及び/又は臭化シアンのうちの少なくとも1つを含む酵素又は化学試薬により切断又は分割される、生体外細胞培養から加水分解組成物を生産する製造方法。
【請求項16】
前記タンパク質ポリペプチドを切断又は分割するステップは、任意ではない、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記タンパク質ポリペプチドは、プロテイナーゼKにより切断又は分割される、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記タンパク質ポリペプチドは、トリプシンにより切断又は分割される、請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
生産された前記加水分解組成物は、(i)生体外細胞培養からの細胞内の実質的に全てのタンパク質に由来する全てのタンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントを実質的に含み、(ii)生体外細胞培養に用いられる培養基からの廃棄物及び代謝物を実質的に含まない細胞加水分解組成物である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】
生産された前記加水分解組成物は、
(i)コラーゲン1α1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、
(ii)コラーゲン1β1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、
(iii)結合組織成長因子(CTGF)に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、
(iv)デコリンに由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、を含む細胞加水分解組成物である、請求項15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年4月9日に出願されたシリアル番号第63/173,332号の仮出願を主張するものである。本願は、2020年11月14日に出願された国際出願番号第PCT/IB2020/060727号の優先権を更に主張するものであり、当該国際出願は、2019年12月2日に出願されたシリアル番号第62/942,568号の米国仮特許出願の優先権を主張するものである。上記で特定された全ての出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本明細書で説明される実施形態は、一般に、培養した細胞からの細胞加水分解組成物に関する。本明細書で説明される実施形態は、更に、培養した細胞からの細胞加水分解組成物の用途、及び培養した細胞からの細胞加水分解組成物の調製プロセスに関する。特に、培養した細胞由来のタンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントが挙げられる。
【背景技術】
【0003】
動物の肉は、タンパク質が豊富で、身体機能のサポートに用いられるタンパク質を作るために必要な全てのアミノ酸の供給源となる。食肉は、しばしば、タンパク質、成長因子、及びサイトカインを含むが、それらに限定されるものではない動物由来の原料を生産するのに用いられる。このような動物由来の原料は、多くの用途を有し、しばしば、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、化粧品、及び傷手当て製品などに含まれる。成長因子、サイトカイン及び細胞外マトリックス(ECM)タンパク質は、皮膚組織の回復や再生を刺激することができる。ヒアルロン酸誘導剤は、皮膚に潤いを与え、皺を減らすことができる。抗酸化剤は、加齢に関係する酸化ストレスから保護することができる。コラーゲンは、治癒を早めることができる。しかしながら、これらの動物由来の原料は、伝統的には、養殖場で飼われたり、野生で捕獲されたりする動物や魚から得られる。同様に、有用な植物特有のタンパク質、成長因子、サイトカインなどを多く含む植物由来の原料(動物由来の原料と組み合わせると、「派生原料」になる)は、現在、養殖場又は野生で植物を収穫して得られる。しかしながら、生きている動物や生きている植物に由来する派生原料を作るには、以下の欠点が伴う。
【0004】
第一に、動物源及び植物源からの不断の供給が必要である。動物製品の需要の増加によって、より多くの動物が、養殖場や屠殺所で、苦しみ、殺されることとなる。保有する家畜を増やすと、環境やエコシステムに更なる負荷を加えてしまうことにもなる。家畜の飼育及び耕作は、森林破壊、きれいな水の消費量の増加、(例えば、植物の成長を促進するために耕作で使用される動物の排泄物、又は殺虫剤及びその他の化学物質の流出による)環境汚染の増加、天然資源の過剰な使用(例えば、過剰耕作及び乱獲など)を引き起こす可能性がある。これらは、自然生態系の枯渇及び地球の生物多様性の減少につながる可能性がある。更には、動物の虐待や、動物の厚生の問題をも提起するものでもある。また、収穫の不安定性は、天候及び気候を含む多くの制御不能要因に依存するため、家畜の飼育及び耕作に固有の特性である。
【0005】
第二に、ターゲットとするタンパク質しか抽出されず、野生の動物や野生の植物において生産されたその他の機能性タンパク質の残りは、浪費されてしまう。通常、野生の動物や野生の植物から、ある、ターゲット/対象とするタンパク質を抽出して、派生原料とする。抽出プロセスにおいて、動物及び/又は植物の一部を採取し、一連のプロセスを経て、そこから組織(例えば、動物の皮膚及び植物の細胞壁)を分解する。これらのプロセスは、化学的エネルギー、熱的エネルギー及び/又は機械的エネルギーの組み合わせの使用を含んでも良い。これらのプロセスにおいて、pH、温度及びその他の条件の変化により、特定のタンパク質が失われる可能性がある。その結果、抽出プロセスにおいて、非ターゲット/対象外のタンパク質や栄養素が捕捉されない。しかしながら、これらの非ターゲット/対象外のタンパク質には微量の機能性タンパク質が含まれており、特定の目的に有益である可能性があるため、派生原料にこれらのタンパク質も含めることが望ましい。例えば、オレンジの栄養は、トータルでの方が、オレンジから抽出されたビタミンCだけと比べて、ある目的について、ヒトに対してより有益である。更には、何らかの有用な部分を得るためだけに動物を飼育するか植物を育てるかして、派生原料とするのは、極めて非効率である。
【0006】
第三に、有害な薬品の使用と関わってしまう。例えば、魚の皮からコラーゲンを抽出することは、魚の皮をアルカリ性や酸性の溶液と混ぜるステップを含む一連のステップに関わることである。これによって、環境やエコシステムには追加の負担がかかってしまう。又、それは、潜在的には、業務上の危険に寄与するものでもある。派生原料にもまた、有害な化学薬剤が含まれているかも知れない。
【0007】
第四に、環境汚染物(重金属、抗生物質、マイクロプラスチック、除草剤、防カビ剤、殺虫剤)、外来性感染性因子(バクテリア、ウイルス、菌類、伝達性海綿状脳症感染性因子)、及び家庭的及び野生の動物及び植物におけるアレルゲンの存在による安全への懸念がある。
【0008】
第五に、分子プロフィールを制御して、動物由来(例えば、動物血清)の、及び植物由来(例えば、植物エキス、植物加水分解物)の原料の濃度を測定するのは困難である。動物由来の、及び植物由来の原料の各バッチは、動物、及び植物の異なるバッチからできており、温度、収穫時期、動物の飼料や肥料の種類、有害生物や寄生生物の存在などの違いによって、大きく偏向し得る。特定のバッチにおける分子によっては、ある個人においてアレルギー反応を引き起こすかも知れないものもある。
【0009】
更には、第六に、動物由来の、及び植物由来の原料が、野生の動物、及び野生の植物から得られるならば、その起源をたどるのは非常に困難である。
【0010】
代わりに、組換え有機体を用いて派生原料を作っても良い。しかしながら、この方法は、遺伝子組換え有機体の使用と関係しており、そのような有機体が偶然放出されると、環境に有害であり得る。更には、生産ラインごとに1つの(1)タンパク質しか生産されない。この方法は、原料に由来する複数のタンパク質について非効率である。加えて、組換え有機体によって生産されるタンパク質は、更に分離されて精製されなければならない。分離と精製は、典型的には、複数のステップを含んでおり、生産費の上昇をもたらす。更には、この方法によって生産されるタンパク質には折り重なりの変種がある。変種の中には、いくつかの機能が失われているものもある。
【0011】
代わりに、使用した培地又は馴化培地も、機能性タンパク質源であっても良い。「使用した」、「使用した培地」、「複数の使用した培地」、「複数の馴化培地」又は「馴化培地」は、細胞とともにインキュベートされた培養基である。しかしながら、上記の方法と同じように、いくつかの欠点がある。第一に、動物源及び植物源を不断に供給することが必要である。それが不利な点は、上記で説明しているので、ここでは繰り返さない。第二に、環境汚染物(重金属、抗生物質、マイクロプラスチック、除草剤、防カビ剤、殺虫剤)、外来性感染性因子(バクテリア、ウイルス、菌類、伝達性海綿状脳症感染性因子)、及び野生動物源及び野生植物源におけるアレルゲンの存在による汚染の懸念がある。第三に、使用した培地の、望まない代謝物や廃棄物が、最終製品の純度に影響を及ぼすかも知れない。精製ステップを追加すれば、生産費の上昇をもたらしてしまう。
【0012】
生体外食肉生産は、細胞培養技法を用いて、実験室で、動物の筋肉組織又は臓器組織を成長させて食肉及び食肉製品を製造するプロセスである。ここで用いられている通り、生体外食肉及び食肉製品には、動物タンパク製品、ならびに全細胞又は加水分解形式の可溶な形態や固形であったりする非食肉製品が含まれる。まだ開発の初期段階ではあるが、生体外食肉及び食肉製品には、健康及び環境上の利点及び動物の繁栄にとっての利益と言った、伝統的な食肉製品に無い数多くの利点がある。それは、細胞畜産業又は細胞培養での畜産製品の生産と言う、より広い分野の一部として運用される次世代の新興の技術である。
【0013】
生体外食肉の生産のための細胞は、動物バイオプシーから取られる細胞(例えば、筋肉細胞、体細胞、幹細胞など)であり、そして、それは、バイオリアクター又はその他の種類の無菌環境における培養基で、動物から分離されて育てられる。その細胞は、バイオリアクターに置かれる三次元の可食の骨組に付着することで、動物臓器を模した半固形又は固形へと成長する。また、細胞は、懸濁培養でも増殖する可能性がある。出発細胞は、動物組織又は連続細胞株から直接得られる一次細胞である。適切な培養基において正しい条件で育てられたら、一次細胞は、成長して増殖するが、細胞のDNAの端におけるテロメア長に関連する有限の回数だけである。他方、連続細胞株は、生体外で、長期間培養できる。細胞生物学の研究によって、一次細胞を如何にして不死の連続細胞株に変えるのかについて手順が確立されている。ウイルス性癌遺伝子、化学処理、又は、テロメアが縮むのを防ぐためのテロメラーゼ逆転写酵素の過剰発現を用いて、一次細胞は、連続細胞株へと形質転換される。
【発明の概要】
【0014】
背景技術で述べた従来の方法は、特定の要件を満たす可能性があり、例えば、組換え方法は、動物に傷を付けることがなく、使用した培地/馴化培地法は、野生動物や野生植物の採取法と比べて、より包括的な微量成分を含む派生原料を比較的低いコストで提供する可能性がある。しかしながら、既存の方法はいずれも、持続可能性、低コスト、全細胞成分、完全な細胞タンパク質/ペプチドの保管物、動物実験を行わないという高まる需要を1つの簡単な解決策によって満たすことができていない。
【0015】
従って、本発明の多くの態様のうち、生体外細胞培養からの細胞内の実質的に全てのタンパク質に由来する全てのタンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントを実質的に含み、(ii)生体外細胞培養に用いられる培養基からの廃棄物及び代謝物を実質的に含まない態様がある。
【0016】
本発明の目的は、生体外食肉生産及び生体外植物生産のそれぞれを用いて、動物由来の原料及び植物由来の原料を得る代替的な方法を提供することである。本発明による派生原料は、環境汚染物、外来性感染性因子、及びアレルゲンが含まれていない。又、動物由来の材料の生産に関係する動物の苦痛や犠牲を制限するのにも役立っている。
【0017】
本発明の細胞加水分解組成物は、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品又は食品における活性成分として適用され得る。細胞加水分解物には、ヒアルロン酸が含まれるが、これに限定されるものではない。本発明の細胞加水分解組成物は、全細胞に由来する全てのタンパク質ポリペプチド及び/又はそのタンパク質ポリペプチドフラグメントを含む。換言すれば、組成物は、単一のタンパク質ポリペプチドの代わりに、複数のタンパク質ポリペプチド及び/又はそのタンパク質ポリペプチドフラグメントを含む。このように、本発明の組成物は、多機能性である。以上より、本発明の更なる目的は、効率的で環境に優しいプロセスにより細胞加水分解組成物を提供することである。本発明のタンパク質加水分解組成物は、バッチからバッチへの一貫性、及びこのような組成物の追跡可能性が向上する。一部のタンパク質ポリペプチドは、動物にのみ存在し、植物に存在しない。また、その逆も同様である。例えば、コラーゲンは、動物細胞にのみ存在し、植物細胞に存在しない。一般に、動物由来のタンパク質ポリペプチドは、植物由来のタンパク質ポリペプチドと比べて、ヒトに対して高い効力を有する。
【0018】
また、本発明の目的は、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品、食品、サプリメント、薬品、及びその他の医薬用品を含むが、それらに限定されるものではない種々の生産業/製品において、消費者又は製造業者にとっての更なる価値を創り出すことであり、と言うのも、それは同時に、従来の、派生原料を作る方法(すなわち、野生の動植物、組換えDNA有機体、及び馴化培地/使用した培地からの抽出)が遭遇する全ての欠点を解決するからである。本発明により以下の利点が得られる。
(1)動物源、及び/又は植物源に依存しない;
(2)遺伝子組換え有機体に依存しない;
(3)対象とする細胞が自然に生産する全ての機能性タンパク質を捕獲する;
(4)純度(製品における浪費がない);
(5)有害な薬品を使用しない;
(6)単純な下流プロセスで、それによって費用が下げられる;
(7)単一の使用/機能/作用ではなく、多機能である。
【0019】
本発明の利点によって、消費者のニーズに合致する新しい価値が作り出される。それによって、種々の製品の活性成分、又は製品そのもの(栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品、食品、サプリメント、薬品、及びその他の医薬用品を含むが、それらに限定されるものではない)に以下の特性が備わる。
(1)派生原料が、高純度であって、廃棄物や有害な薬品が存在していないことによる、すっきりしたラベル;
(2)動物源、及び/又は植物源に、ほとんど依存しないか、低度にしか依存しないことによる持続可能性;
(3)生体材料を用いることによって化学合成がないこと;
(4)対象とする細胞が自然に生産する機能性タンパク質を備える完全分子プロフィールのために多機能である;及び
(5)科学的な原理や試験の結果に支持されている。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によると、細胞加水分解組成物は、(i)コラーゲン1α1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、(ii)コラーゲン1β1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、(iii)結合組織成長因子(CTGF)に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、(iv)デコリンに由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
添付した図面を関連させて考慮すると、本開示は、詳細な説明を参照することで、よりよく理解され得る。図面中の構成要素は、必ずしも縮尺通りではなく、むしろ、開示の本質を例証することに重点が置かれている。
【0022】
【
図1】ニベの浮き袋組織(Aとして表示される)及びニベの浮き袋細胞株(Bとして表示される)におけるタンパク質のウエスタンブロット解析を示す図である。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による、生体外細胞培養から細胞加水分解物を生成する方法のフローチャートである。
【
図3A】再生環境下での加水分解物への露呈に際しての遺伝子発現を描写するチャートである。
【
図3B】抗酸化環境下での加水分解物への露呈に際しての細胞生存を描写するチャートである。
【
図3C】皮膚修復環境下での加水分解物への露呈に際しての遺伝子発現を描写するチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
生体外細胞培養による細胞加水分解物の生成
本発明の、生体外細胞培養から細胞加水分解物(すなわち、動物由来の原料又は植物由来の原料)を生産する方法は、野生の動物又は植物から作られるものと比べて、多くの利点を有する。
【0024】
第一に、細胞は、汚染や病気を含まない条件のもとで育てられるので、培養基は、環境汚染物(重金属、抗生物質、マイクロプラスチック、除草剤、防カビ剤、殺虫剤)、又は外来性感染性因子(バクテリア、ウイルス、菌類、伝達性海綿状脳症感染性因子)を含まない。その結果、生成された動物由来の原料、又は植物由来の原料もまた、汚染や病気を含まない。
【0025】
第二に、動物成分を含まず、化学的に定義される培地を用いることで、ユーザーがアレルギー反応を引き起こしてしまう機会が低減する。これが成し遂げられるのは、培地における動物の血清と、動物由来の成長因子(例えば、牛インシュリン)を遺伝子組換え成長因子で置き換えることによってである。化学的に定義される培地においては、植物エキス/加水分解物は必要とされない。
【0026】
第三に、動物由来の原料、又は植物由来の原料のバッチからバッチへの一貫性が大きく向上する。これは、基礎培地の栄養プロフィール(炭水化物、アミノ酸、ビタミン、ミネラル)が既知であって一貫しており、化学的に定義される培地を、すなわち、全ての栄養素と成長因子の濃度が既知の培地を用いることで、更に精製されるからである。
【0027】
第四に、追跡可能性が向上する。全ての培養基成分についてサプライチェーンが既知であるので、全てのものを簡単に起源までさかのぼることが出来る。
【0028】
第五に、動物の苦痛や犠牲を低減する。生産プロセスを動かすのに、野生動物の動物組織を継続的に供給する必要がない。最初は、動物組織の小片から、スターター細胞を精製して、細胞株に発育させるが、それは、培養基において低温保存するか無期限に増殖させられる。これにより、動物の苦痛や犠牲が制限される。
【0029】
第六に、廃棄物を減らし、効率を高める。培地の栄養素は、細胞の成長のために直接細
胞に供給される。培養した細胞を全て溶解して、細胞加水分解物を生産する。動物/植物の使用されない部分の成長や、動物の交尾や運動といった生命の変遷のために、エネルギーや栄養素を浪費しない。
【0030】
更には、本発明は、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品、食品、サプリメント、薬品、及びその他の医薬用品を含むが、それらに限定されるものではない種々の生産業/製品において、消費者又は製造業者にとっての価値を創り出し、と言うのも、背景技術の項で記述した通り、従来の方法において遭遇する全ての欠点に対処するからである。本発明の生体外食肉生産によって生成される製品の、動物由来の、及び/又は植物由来の原料は、野生の動物又は植物から作られるものと比べて、多くの利点を有する。
【0031】
第一に、動物源の継続的な飼育に依存しない。例えば、通常の方法を介してコラーゲンをベースとするクリームをより多く生産するには、動物の身体部分がより多く必要であって、それは、結果として、更なる動物の苦痛や犠牲になり得る。本発明においては、スターター細胞(幹細胞、筋肉細胞、線維芽細胞、脂肪細胞に限らない)を、動物組織の小片から精製して細胞株へと確立する。細胞株は、低温保存して液体窒素中に蓄積できる。必要な時に、細胞株を解凍して、細胞培養条件のもと無期限に増殖して、活性成分(例えば、成長因子、ECM分子)を生産できる。従って、全プロセスが、自立して持続可能であって、動物の苦痛/犠牲をほとんど引き起こさない。
【0032】
第二に、動物源に依存しない。本発明においては、スターター細胞(幹細胞、筋肉細胞、線維芽細胞、脂肪細胞に限らない)を、動物組織の小片から精製して細胞株へと確立する。細胞株は、遺伝的に改変されない。
【0033】
第三に、本発明の派生原料は、多機能であり、と言うのも、それは、主要なターゲットのタンパク質に加えて、多くの機能性タンパク質を痕跡量だけ含むからである。そのような痕跡量の機能性タンパク質は、多くの細胞機能にとって不可欠である。抽出された野生の動物/植物の一部により近い機能性タンパク質プロフィールをもつ派生原料から作られる製品は、一般に、より未完成の機能性タンパク質プロフィールをもつ派生原料から作られる製品よりも優れた性能を有する。外から補充して機能性タンパク質を派生原料に加えることもできるが、多数の機能性タンパク質を補充するのは困難である。また、補充の数とともに費用が増大する。
【0034】
第四に、本発明により作られる機能性タンパク質には、廃棄物が含まれておらず、と言うのも、成長培地の成分が十分に制御されているからである。
【0035】
第五に、本発明により作られる派生原料には、有害な薬品が含まれておらず、と言うのも、機能性タンパク質を、有害な薬品を用いて抽出するのではないからである。成長培地の成分は十分に制御されている。
【0036】
第六に、本発明により作られる機能性タンパク質には、廃棄物や有害な薬品が含まれておらず、従って、更に分離したり精製したりする必要がない。それゆえ、生産費用を下げることができる。
【0037】
本発明の利点によって、消費者のニーズに合致する新しい価値の創造が可能となる。それによって、種々の製品の活性成分、又は製品そのもの(栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品、食品、サプリメント、薬品、及びその他の医薬用品を含むが、それらに限定されるものではない)に以下の特性が備わる。
(1)派生原料が、高純度であって、廃棄物や有害な薬品が存在していないことによる、すっきりしたラベル;
(2)動物源、及び/又は植物源に、ほとんど依存しないか、低度にしか依存しないことによる持続可能性;
(3)生体材料を用いることによって化学合成がないこと;
(4)対象とする細胞が自然に生産する機能性タンパク質を備える完全分子プロフィールのために多機能である;及び
(5)科学的な原理や試験の結果に支持されている。
【0038】
例えば、
図1は、ニベの浮き袋組織(Aとして表示される)及びニベの浮き袋細胞株(Bとして表示される)におけるタンパク質のウエスタンブロット解析を示す図である。これは、生体外培養細胞に、動物から得られた元の組織と同様のタンパク質が含まれることを示している。従って、上記利点が本発明によって十分に実現され得ることを示している。
【0039】
生体外細胞培養から細胞加水分解組成物を生産する方法は、生体外細胞培養から細胞を採取するステップ(「採取ステップ」)と、採取した細胞を溶解して、採取した細胞から全てのタンパク質ポリペプチドを放出させるステップ(「溶解ステップ」)と、溶解ステップで得られたタンパク質ポリペプチドを切断/分割する任意の消化ステップ(「消化ステップ」)と、を含む。特に、採取ステップは、生体外細胞培養中の細胞を細胞培養基から分離するステップを含んでも良く、生体外細胞培養容器から細胞を取り出すステップ、及び/又は細胞を分離するステップを更に含んでも良い。分離は、細胞培養基から細胞を分離するための遠心分離、及び/又は細胞培養基から細胞を分離するための濾過を含んでも良い。いくつかの実施形態において、孔径が5μm~60μmの膜を使用しても良い。溶解ステップは、音波処理、高圧ホモジナイザー、手動粉砕、及び/又は凍結融解サイクルを含むが、それらに限定されるものではない機械的手段を用いて、細胞を溶解することを更に含んでも良い。細胞を溶解するために、加熱、浸透圧衝撃、キャビテーション、アルカリ及び/又は界面活性剤、酸加水分解及び/又は酵素を含むが、それらに限定されるものではない非機械的手段を使用することもできる。任意の消化ステップにおいて、サブチリシン、キモトリプシン、トリプシン、カルボキシペプチダーゼ、エラスターゼ、ペプシン、プロテイナーゼK及び/又は臭化シアンなどを含むが、それらに限定されるものではない異なる酵素又は化学試薬を使用することができる。
【0040】
上記方法により得られた組成物は、局所的な試薬として、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、化粧品、及び傷手当て製品に適用されても良い。加水分解物はまた、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品、食品、サプリメント、薬品、及びその他の医薬用品を含むが、それらに限定されるものではない様々な製品において、活性成分として用いられても良い。
【0041】
次に図面を参照し、とりわけ、
図2を参照すると、一実施形態において生体外細胞培養から細胞加水分解物を生産する方法が示されている。細胞成長ステップ100において、細胞は、部分的に定義されるか(すなわち、FBS/植物加水分解物/ヒト血小板溶解物が補充された定義される基礎培地)、又は動植物成分を欠いている化学的に定義される培地(すなわち、全ての栄養素と成長因子の濃度が定まっている培地)である培養基を用いて制御された条件のもとで最初に育てられる。更に、いくつかの実施形態においては、細胞成長ステップ100において、少なくとも1つの細胞株を用いても良い。いくつかの実施形態において、細胞株には、幹細胞、筋肉細胞、線維芽細胞、及び脂肪細胞が含まれるものもある。更に、特定の一実施形態においては、細胞成長ステップ100において、培養された魚の浮き袋細胞を用いる。
【0042】
分離ステップ102において、細胞が付着している表面から細胞を分離して、細胞懸濁液を管に収集する。
【0043】
いくつかの実施形態においては、生体外懸濁細胞培養から細胞を収集する場合に、分離ステップ102を省略する。
【0044】
そして、分離ステップ102から得られた混合物を、遠心分離ステップ104において、100×g~500×gで1~10分間、好ましくは300×gで5分間、遠心分離機にかける。上澄みを取り除き、細胞の小球を得る。いくつかの実施形態においては、細胞の小球を培地において再懸濁して遠心分離ステップ104を複数回行っても良い。いくつかの実施形態においては、遠心分離にその他の速度及び時間を使用しても良い。
【0045】
再懸濁ステップ106において、細胞の小球は、所定の体積でPBSに懸濁される。いくつかの実施形態においては、細胞の小球が1mlのPBSに懸濁されるものもある。いくつかの実施形態において、細胞の小球は、PBS以外の緩衝液又は生理食塩水、例えば、ハンクス液に懸濁されても良い。
【0046】
溶解ステップ108において、ステップ106からの細胞を、音波処理によって溶解する。
【0047】
音波処理による細胞の溶解に続けて、可溶部を細胞の残屑から分離する。可溶部中のタンパク質は、消化ステップ110で、酵素によって短い機能性ペプチドに消化される。選択される望ましいプロテアーゼを、25~40℃の温度で1~5時間、好ましくは30℃で2時間、可溶部に加える。いくつかの実施形態において、プロテアーゼは、ペプシン、プロテイナーゼK又はトリプシンであり、好ましくは、プロテイナーゼK又はトリプシンである。異なる分子サイズを有するペプチドが得られる。いくつかの実施形態においては、分子サイズが100ダルトン(Da))~800Daのペプチドが好まれる。好ましくは、分子サイズが500Daより小さいペプチドが好まれるが、それは、分子サイズが500ドルトン(Da)より大きな分子が、最も外側の表皮を効果的に通り抜けて、下に横たわる皮膚層に吸収されないからである。更に、いくつかの実施形態においては、分子サイズが100ダルトン(Da)~500Daのペプチドが好まれる。いくつかの実施形態において、プロテアーゼの適量を細胞懸濁液に加えて、細胞タンパク質をより小さなペプチドへと分解する。消化を1~3時間、好ましくは2時間行って、管を25℃~40℃の温度の水、好ましくは30℃の水浴の中に浸けておく。
【0048】
消化ステップ110の後、続いて、分離ステップ112において、消化ステップ110からの混合物を、15000×g~25000×gで15~35分間、好ましくは15000×gで20分間、遠心分離機にかけて、液体を清澄化し、大きな残屑を除去する。いくつかの実施形態において、分離ステップ112は、消化ステップ110からの混合物を濾過することにより行われても良い。いくつかの実施形態においては、孔径が0.05μm~0.5μmの膜を使用しても良い。マイクロ遠心分離管からの上澄みを、好ましくは50mlの管に組み合わせる。マイクロ遠心分離管の小球をかき乱さないようにする。
【0049】
停止ステップ114において、加熱及び/又は希釈、酵素の消化活動を停止させる。いくつかの実施形態において、停止ステップ114は、分離ステップ112の前に行われても良い。
【0050】
加水分解物を直ちに用いないのであれば、いくつかの実施形態において、それを摂氏+4度~-30度の温度、好ましくは摂氏-10度で蓄積しても良い。
【0051】
細胞加水分解組成物
細胞加水分解組成物は、生体外細胞培養からの細胞内の実質的に全てのタンパク質に由来する全てのタンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントを実質的に含み、(ii)アンモニア、乳酸塩、ピルビン酸塩及びプトレシンのうちの少なくとも1種を含むが、それらに限定されるものではない、生体外細胞培養に用いられる培養基からの廃棄物及び代謝物を実質的に含まない。いくつかの実施形態において、組成物は、アンモニア、乳酸塩、ピルビン酸塩及びプトレシンの全てを含む、生体外細胞培養に用いられる培養基からの廃棄物及び代謝物を実質的に含まない。ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、分子サイズがおよそ100ダルトン(Da)~およそ800Daであっても良い。いくつかの実施形態において、ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、平均分子サイズがおよそ500Daより小さくても良い。その他の実施形態において、ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、平均分子サイズがおよそ100Da~およそ500Daである。細胞加水分解組成物は、冷蔵温度(すなわち、+4℃~-30℃)で蓄積されても良い。一実施形態において、細胞加水分解組成物は、およそ1週間~およそ4週間安定であり得る。その他の一実施形態において、細胞加水分解組成物は、およそ1~およそ6ヶ月安定であり得る。更なる実施形態において、細胞加水分解組成物は、およそ6ヶ月以上安定であり得る。
【0052】
細胞加水分解組成物は、乾燥しても良い。例えば、細胞加水分解組成物は、凍結乾燥しても良く、真空乾燥しても良く、風乾しても良い。乾燥温度は、150℃未満であることが好ましい。
【0053】
いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、少なくとも1種の動物細胞の培養に由来する。その他の実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、少なくとも1種の植物細胞の培養に由来する。いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、動物細胞培養及び植物細胞培養の組み合わせに由来する。更に、いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、ニベの浮き袋細胞株に由来する。いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、変異細胞の培養(動物又は植物の両方)に由来する。いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、変異又は非変異のヒト細胞の培養に由来する。
【0054】
いくつかの実施形態において、細胞加水分解組成物は、ルミカン、フィビュリン、コンドロイチン、キトサン、グリコサミノグリカン(コンドロイチン及びヘパラン)、コンドロアドヘリン及びトロポミオシンなどを更に含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、細胞加水分解組成物は、(i)コラーゲン1α1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、(ii)コラーゲン1β1に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、(iii)結合組織成長因子(CTGF)に由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、(iv)デコリンに由来するタンパク質ポリペプチド及びポリペプチドフラグメントの混合物と、を含む。
【0056】
更に、いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、生体外細胞培養からのニベの浮き袋細胞株に由来する。更に、いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、生体外細胞培養からのニベの浮き袋細胞株と、生体外細胞培養からの動物細胞株及び/又は植物細胞株のうちの少なくとも1種とに由来する。いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、変異細胞の培養(動物又は植物の両方)に由来する。いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、変異又は非変異のヒト細胞の培養に由来する。
【0057】
いくつかの実施形態において、組成物は、アンモニア、乳酸塩、ピルビン酸塩及びプトレシンのうちの少なくとも1種を含むが、それらに限定されるものではない廃棄物及び代謝物を実質的に含まない。いくつかの実施形態において、組成物は、アンモニア、乳酸塩、ピルビン酸塩及びプトレシンの全てを含む廃棄物及び代謝物を実質的に含まない。
【0058】
いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、生体外細胞培養からのニベの浮き袋細胞株に由来し、トリプシンによって酵素的に消化される。いくつかの実施形態において、(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号1~112からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含み、(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号113~214からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含み、(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号215~249からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含み、(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号250~285からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、生体外細胞培養からのニベの浮き袋細胞株に由来し、トリプシンによって酵素的に消化される。いくつかの実施形態において、(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号1~112からなる群から選択された少なくとも56個のポリペプチドフラグメントを含み、(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号113~214からなる群から選択された少なくとも51個のポリペプチドフラグメントを含み、(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号215~249からなる群から選択された少なくとも17個のポリペプチドフラグメントを含み、(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号250~285からなる群から選択された少なくとも18個のポリペプチドフラグメントを含む。
【0060】
いくつかの実施形態において、(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号1~112からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含み、(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号113~214からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含み、(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号215~249からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含み、(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号250~285からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、生体外細胞培養からのニベの浮き袋細胞株に由来し、プロテイナーゼKによって酵素的に消化される。いくつかの実施形態において、(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号286~488からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含み、(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号489~657からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含み、(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号658~722からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含み、(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号723~809からなる群から選択された少なくとも1つのポリペプチドフラグメントを含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、タンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントは、生体外細胞培養からのニベの浮き袋細胞株に由来し、プロテイナーゼKによって酵素的に消化される。いくつかの実施形態において、(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号286~488からなる群から選択された少なくとも101個のポリペプチドフラグメントを含み、(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号489~657からなる群から選択された少なくとも84個のポリペプチドフラグメントを含み、(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号658~722からなる群から選択された少なくとも32個のポリペプチドフラグメントを含み、(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号723~809からなる群から選択された少なくとも43個のポリペプチドフラグメントを含む。
【0063】
いくつかの実施形態において、(i)コラーゲン1α1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号286~488からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含み、(ii)コラーゲン1β1に由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号489~657からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含み、(iii)CTGFに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号658~722からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含み、(iv)デコリンに由来するポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントの混合物は、配列番号723~809からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントの全てを実質的に含む。
【0064】
いくつかの実施形態において、細胞加水分解組成物は、ルミカン、フィビュリン、コンドロイチン、キトサン、グリコサミノグリカン(コンドロイチン及びヘパラン)、コンドロアドヘリン及びトロポミオシンなどを更に含む。
【0065】
加えて、本発明は、配列が配列番号1~809からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントと実質的に類似するポリペプチドフラグメントを更に含む。一実施形態において、ポリペプチドフラグメントは、配列番号1~809からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントに対して少なくとも80%の配列同一性を有しても良い。その他の一実施形態において、ポリペプチドフラグメントは、配列番号1~809からなる群から選択されたポリペプチドフラグメントに対して少なくとも90%の配列同一性を有しても良い。
【0066】
本発明の細胞加水分解組成物は、非加水分解(すなわち、無処置の)タンパク質を更に含み得ることも想定される。非加水分解タンパク質は、実質的に無処置の製剤中に存在し得る。更には、非加水分解タンパク質は、植物の生体外培養から分離されても良く、動物の生体外培養から分離されても良い。タンパク質加水分解物と非加水分解タンパク質との相対的比率は、細胞加水分解組成物の用途によって変化し得る。
【0067】
細胞加水分解組成物に含まれる、生体外細胞培養からの細胞中の複数のタンパク質ポリペプチド、タンパク質ポリペプチドフラグメント及び/又はその他の成分は、全体的な健康、髪の健康、皮膚の健康、創傷治癒、関節の健康、コラーゲンの調節及び軟骨発育の促進を含むが、それらに限定されるものではない様々な用途において、相乗的な効果と利益をもたらす。
【0068】
いくつかの実施形態において、細胞加水分解組成物は、pHが6.5~8.5である。更に、いくつかの実施形態において、細胞加水分解組成物は、水溶性である。更に、いくつかの実施形態において、細胞加水分解組成物の色は、無色から淡黄色までである。
【0069】
細胞加水分解組成物を含む製品
本発明の細胞加水分解組成物は、局所的な試薬として、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、化粧品、及び傷手当て製品に適用されても良い。加水分解物はまた、栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品、食品、サプリメント、薬品、及びその他の医薬用品を含むが、それらに限定されるものではない様々な製品において、活性成分として用いられても良い。
【0070】
本発明の更に他の一態様は、細胞加水分解組成物を含む医薬組成物、及び医薬許容担体である。
【0071】
栄養補助食品、ヘアケア、スキンケア、傷手当て製品、化粧品、又は局所製品に対して、培養した細胞からの加水分解物は、栄養素が豊富であって、皮膚細胞の修復や再生を刺激する複数のタンパク質ポリペプチド及び/又はポリペプチドフラグメントを含み、かつ分子サイズが500ドルトン(Da)より小さい。本発明の加水分解物は、皮膚の深層(真皮、皮下組織)に到達して効果を発揮でき、と言うのも、本発明の加水分解物は、角質層を通り抜けるのに十分なだけ小さく、又、成長因子やサイトカインの機能上の活性を引き出すための、それらの、主要なタンパク質ドメインを維持しているからである。
【0072】
図3Aを参照すると、再生環境における、細胞加水分解組成物で処理されている皮膚細胞と、細胞加水分解物で処理されていない皮膚細胞との間の、遺伝子発現の違いがチャートに示されている。本発明の細胞加水分解組成物が、皮膚の健康なタンパク質代謝を増強し、コラーゲン生成を増加させ、皮膚の微細構造を強化し、健康な顔色や肌の色合いを徹底的に改善し、皮膚及び毛包の完全性を維持することを示している。
【0073】
図3Bを参照すると、抗酸化環境における(本具体例では過酸化水素環境下での)、細胞加水分解組成物(ペプチドAは配列番号286~809を含む本発明の細胞加水分解組成物を意味し、ペプチドBは配列番号1~285を含む本発明の細胞加水分解組成物を意味する)で処理されている皮膚細胞と、細胞加水分解物で処理されていない皮膚細胞との間の、細胞生存の差がチャートに示されている。本発明の細胞加水分解組成物、特にペプチドBが、細胞自身の抗酸化防御を促進し、皮膚の早期老化の原因となる有害な環境刺激物及び汚染物質から細胞を保護し、酸化ストレスから皮膚細胞の生存を増加させることを示している。
図3Cを参照すると、皮膚修復環境における、細胞加水分解物で処理されている皮膚細胞と、細胞加水分解物で処理されていない皮膚細胞との間の、遺伝子発現の違いがチャートに示されている。本発明の細胞加水分解組成物が、若々しい外観のために身体を脱水又は外傷から保護する皮膚バリアを強化し、損傷した皮膚を修復し、早期老化を防止し、皮膚全体の健康を向上させることを示している。
【0074】
上記の記載は、例示的なものであって、制限的なものではない。開示を基礎として、実施形態に対する多くの変形が可能であることが、当業者には明らかとなる。従って、実施形態の範囲は、上記の記述を参照して決められるべきではなく、それらの全範囲又はそれと同等なものの他に特許請求の範囲を参照して決められるべきである。
【0075】
いずれかの実施形態の1つ以上の特徴を、その他の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせても本発明の範囲から逸脱するものではない。冠詞については、特に反対のことを指していなければ、「1つ以上の」ものを意味するよう意図されている。「及び/又は」は、特に反対のことを指していなければ、用語の最も包括的な意味を表すよう意図されている。
【0076】
本発明の開示は、多くの異なる形で実施されて良いが、本発明の開示は、1つ以上の発明の原理の例証であって、いずれか1つの実施形態を、例示された実施形態に限定することを意図するものではないとの理解の上で、図面と説明が呈示されている。
【0077】
従って、開示は、その最も広い観点において、特定の細部、代表的なシステム及び方法、及び上に示されて記述されている説明的な例に限定されるものではない。本発明の開示の範囲や精神から逸脱することなく、上記明細事項に種々の修正や変更を加えても良く、本開示は、そのような修正や変更が、特許請求の範囲やそれと同等なものの範囲内に収まるならば、それら全てをカバーすることが意図されている。
【配列表】
【国際調査報告】