(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池用バインダー、それを含む全固体リチウム二次電池正極、それを含む全固体リチウム二次電池分離膜、及び固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240319BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240319BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240319BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240319BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0562
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561744
(86)(22)【出願日】2022-04-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 KR2022004757
(87)【国際公開番号】W WO2022215967
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】10-2021-0046633
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】チェ・ジャンウク
(72)【発明者】
【氏名】イ・テグン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ11
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ04
5H029DJ08
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029EJ12
5H029HJ02
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB12
5H050DA11
5H050DA13
5H050DA18
5H050DA19
5H050EA15
5H050EA23
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池用バインダー、それを含む全固体リチウム二次電池正極、それを含む全固体リチウム二次電池分離膜、及び固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明は、ブタジエン高分子にメルカプトカルボン酸のカルボキシル基がグラフティングされた全固体リチウム二次電池用バインダーであって、ブタジエン高分子対比のカルボキシル基のmol比は、0.1~30:100であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用バインダー;それを含む全固体リチウム二次電池電極複合体;それを含む全固体リチウム二次電池分離膜;及びそれを含む全固体リチウム二次電池;に関するものである。本発明の全固体リチウム二次電池用バインダーは、バインダーの安定性及び溶解度と極性及び接着特性とを同時に満足させることができて、湿式工程基盤の溶液工程で全固体電池の製作を可能にして、全固体電池の商用化時点を大幅に繰り上げることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系高分子に極性官能基が含まれた鎖がグラフティングされた全固体リチウム二次電池用バインダーであって、
前記ジエン系高分子は、ブタジエン高分子またはイソプレン高分子であり、
前記極性官能基は、双極子モーメントに基づいて電極または固体電解質に対する強い引力を有し、
前記ジエン系高分子の単量体に比べて、極性官能基を有する化合物のmol比は、0.1~30であることを特徴とする、全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項2】
前記極性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、アミン基、及びこれらの塩からなる群から選択された何れか1つであることを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項3】
前記バインダーは、ジエン系高分子にメルカプト、過酸化水素、過酸素酸、オゾン、ハロゲン、シラン、及びスルフェニルヒドロジンからなる群から選択される1種以上の化合物でグラフティングされた高分子を含むことを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項4】
前記バインダーは、ジエン系高分子にメルカプト化合物の極性官能基がグラフティングされた、請求項3に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項5】
前記メルカプト化合物は、チオール基によって前記ジエン系高分子にグラフティングされた、請求項4に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項6】
前記バインダーは、前記ジエン系高分子にカルボン酸化合物の極性官能基がグラフティングされた、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項7】
前記カルボン酸化合物は、前記ジエン系高分子とエステル基とを通じてグラフティングされた、請求項6に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項8】
前記カルボン酸化合物が、グラフティングされた前記ジエン系高分子の炭素と隣接したさらに他の炭素にヒドロキシル基が結合されたことを特徴とする、請求項7に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項9】
前記バインダーの極性官能基は、集電体及び活物質の表面に存在するOH基と水素結合を形成することを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項10】
前記バインダーは、n-ヘキサン、トルエン、p-キシレン、酪酸ブチル、テトラヒドロフラン、及び炭酸ジエチルからなる群から選択される1種以上の有機溶媒に溶解されることを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項11】
請求項1から請求項10のうち何れか一項に記載のバインダー、集電体、電極物質及び硫化物系固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池電極複合体。
【請求項12】
前記バインダーの極性官能基は、集電体及び電極物質の表面に存在するOH基と水素結合を形成することを特徴とする、請求項11に記載の全固体リチウム二次電池電極複合体。
【請求項13】
請求項1から請求項10のうち何れか一項に記載のバインダーを含む、全固体リチウム二次電池分離膜。
【請求項14】
請求項12に記載の電極複合体または請求項13に記載の分離膜を含む、全固体リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池用バインダー、それを含む全固体リチウム二次電池正極、それを含む全固体リチウム二次電池分離膜、及び固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池に係り、より詳細には、硫化物系固体電解質と反応せず、無極性溶媒(p-xylene)に対する溶解性及び商用LIBバインダー(PVDF)以上の接着力を有する固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池用バインダー、それを含む全固体リチウム二次電池正極、それを含む全固体リチウム二次電池分離膜、及び固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー電力密度(High energy and power density)及び優れた充電性(good rechargeability)で長時間使われてきたリチウムイオン電池(LIB)は、引火性液体電解質(flammable liquid electrolytes)による安全性の問題によって、電気自動車とエネルギー貯蔵装置などに適用されるのに難点がある。また、全固体リチウム二次電池(All-solid-state lithium secondary batteries、ASSB)は、非引火性固体電解質(SE)によってLIBの安定性の問題を解決することができる次世代バッテリとして注目されているが、このような長所にも拘らず、全固体リチウム二次電池は、構成要素が固体である点のために、粒子間の界面抵抗が主要セル性能の改善に障害物となっており、拡張性のある電池製造工程の不在によって商用化に難点を経験している。
【0003】
これにより、ここ数十年間、スルフィド(Li2SP2S5、Li7P3S11、Li10GeP2S12)、オキシド(Li4SiO4-Li3PO4、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li3xLa2/3xTiO3)及びナイトライド(Li3N、LiPON)のような無機固体電解質についての多くの研究が進められており、一部のスルフィド系固体電解質は、有機液体電解質レベルのイオン伝導性を示すということが確認された。そのうち、アルジロダイト(argyrodites)Li6PS5X(X=Cl、Br、I)は、硫黄の一部がハロゲン原子に置き換えられてイオン伝導性と化学的安定性とが改善され、特に、Li6PS5Clは、高いイオン伝導性(室温で1.3×103 S cm-1)、安価、簡単な製造方法によって最近多くの注目を受けている。また、アルジロダイトとLiCoO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2及びLiMn2O4電極材料との界面安定性の研究では、アルジロダイトの可逆的電気化学的行動が全固体リチウム二次電池の容量保持にも寄与するということが明らかになって、全固体リチウム二次電池の商用化可能性を高めた。
【0004】
しかし、非引火性固体電解質(SE)は、高いイオン伝導性は達成したが、電池製造の側面では、まだ多くの研究が必要な状況である。特に、スルフィド系固体電解質は、極性溶媒に対して強い化学的反応性を表わして多様なバッテリ特性の衝突を引き起こすために、全固体リチウム二次電池の商用化に主要な障害物として作用する。全固体リチウム二次電池は、電極の厚さによって、薄膜バッテリ(<10μm)とバルクタイプバッテリとに分けられ、高エネルギー密度のためのバルクタイプバッテリは、製造工程の方式によって、再びパワーコンプレッション(powder compression)基盤のペレットタイプ電池と溶液工程基盤のシートタイプ電池とに分けられる。
【0005】
全固体リチウム二次電池をロールツロール(roll-to-roll)方式で量産すると共に、セルエネルギー密度と直結される薄くかつ均一な固体電解質層の形成のためには、シートタイプの溶液工程が要求され、これにより、溶液工程で必須要素であるバインダーの重要性が増大しつつある。特に、バインダーは、液体電解質のリチウム二次電池よりもあらゆる電極物質が固体である全固体リチウム二次電池でその重要性がさらに大きい。リチウムイオン電池は、反復的な活物質の体積変化によって電極物質間の断絶が発生しても、液体状態である電解質によってリチウムイオンが移動する。しかし、全固体リチウム二次電池は、バインダーの弱い接着力などによって、一回電極物質界面が断絶されれば、当該電極物質は、電極内で永遠に隔離されるために、全固体リチウム二次電池において、バインダーは、電極物質間の単純な連結以上の意味を有する。
【0006】
一方、ポリマー型バインダーの接着特性は、ポリマー鎖の柔軟性と官能基によって決定される。バインダー高分子の官能基は、集電体及び電極物質の表面と化学結合を形成して接着特性を発現し、連続した構造のポリマー鎖は、電極物質の体積膨張を抑制して電極の接着力の向上に寄与する。これに該当する高分子構造を有する通常のポリマーバインダー、例えば、ポリ(フッ化ポリビニリデン)(PVDF)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)は、強い極性官能基によって高い接着力を示す一方、高い極性の溶媒(NMP、水など)のみに溶解されるために、全固体リチウム二次電池用バインダーとしては適用が不可能である。
【0007】
したがって、現在報告されている溶液工程全固体リチウム二次電池は、キシレン(xylene)、トルエン(toluene)のような非極性または非常に劇性が小さな極性非プロトン性溶媒(very less polar aprotic solvents)に分散可能な低い極性のバインダー、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンエチレンブチレンスチレン共重合体(SEBS)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチルセルロースなどが適用されているが、当該電極の接着が不足であり、電極内での結合メカニズムについての情報も不備である。
【0008】
また、全固体リチウム二次電池は、既存の揮発性有機液体電解質を固体電解質に取り替えて、安定性だけではなく、高エネルギー密度の性能観点で利点があるが、製造工程が生産過程が複雑な乾式工程に制限されており、商用化及び量産には至っていない。
【0009】
一方、全固体電池は、既存のリチウムイオン電池とは異なって、別途の高分子分離膜を要さず、別途の固体電解質層が分離膜の役割を果たす。数十μm厚さ以下の固体電解質分離膜層を作る方法のうち、全固体電池電極上に固体電解質とバインダーのみを含むスラリーをキャスティングして、キャスティング電解質層を作る方法が最も可能性が高いと見なされている。キャスティング電解質層は、バインダーの接着力が重要であるが、既存のバインダーは、目的とする接着力を十分に確保することができず、多様なサイズと形態とを有した分離膜に一括的に適用しにくい問題があった。
【0010】
これにより、本発明者らは、まず「全固体リチウム二次電池用バインダー」についての研究を進めてバインダーの構造と極性とによる全固体リチウム二次電池の接着特性及び電気化学特性を説明し、その結果、バインダーの安定性及び溶解度と極性及び接着特性は、相反関係にあり、バインダーの安定性及び溶解度と極性及び接着特性とを同時に満足させることができる最適化された構造の溶液工程全固体リチウム二次電池用バインダーの開発が必要であるということを確認した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、バインダーの安定性及び溶解度と、極性及び接着特性と、を同時に満足させることができる固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池用バインダー、それを含む全固体リチウム二次電池正極、それを含む全固体リチウム二次電池分離膜、及び固体電解質基盤の全固体リチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した課題を解決するために、本発明は、ジエン系高分子に極性官能基が含まれた鎖がグラフティングされた全固体リチウム二次電池用バインダーであって、前記ジエン系高分子は、ブタジエン高分子またはイソプレン高分子であり、前記極性官能基は、双極子モーメントに基づいて電極または固体電解質に対する強い引力を有し、前記ジエン系高分子対比の極性官能基のmol比は、0.1~30であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用バインダーを提供する。
【0013】
本発明の一実施例において、前記極性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、アミン基、及びこれらの塩からなる群から選択された何れか1つである。
【0014】
本発明の一実施例において、前記バインダーは、ジエン系高分子にメルカプト、過酸化水素、過酸素酸、オゾン、ハロゲン、シラン、及びスルフェニルヒドロジンからなる群から選択される1種以上の化合物でグラフティングされた高分子を含む。
【0015】
本発明の一実施例において、前記バインダーは、ジエン系高分子にメルカプト化合物の極性官能基がグラフティングされ、前記メルカプト化合物は、チオール基によって前記ジエン系高分子にグラフティングされる。
【0016】
本発明の一実施例において、前記バインダーは、前記ジエン系高分子にカルボン酸化合物の極性官能基がグラフティングされ、前記カルボン酸化合物は、前記ジエン系高分子とエステル基とを通じてグラフティングされる。
【0017】
本発明の一実施例において、前記カルボン酸化合物が、グラフティングされた前記ジエン系高分子の炭素と隣接したさらに他の炭素にエステルが結合される。
【0018】
本発明の一実施例において、前記バインダーの極性官能基は、集電体及び活物質の表面に存在するOH基と水素結合を形成する。
【0019】
本発明の一実施例において、前記バインダーは、n-ヘキサン、トルエン、p-キシレン、酪酸ブチル、テトラヒドロフラン、及び炭酸ジエチルからなる群から選択される1種以上の有機溶媒に溶解される。
【0020】
本発明は、また、前述したバインダー、集電体、電極物質及び硫化物系固体電解質を含む全固体リチウム二次電池電極複合体を提供する。
【0021】
本発明の一実施例において、前記バインダーの極性官能基は、集電体及び電極物質の表面に存在するOH基と水素結合を形成し、本発明は、前述したバインダーを含む全固体リチウム二次電池分離膜を提供する。
【0022】
本発明は、また、前述した電極複合体または前述した分離膜を含む全固体リチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、硫化物系固体電解質と反応せず、無極性溶媒(p-xylene)に対する溶解性及び商用LIBバインダー(PVDF)以上の接着力を有する全固体電池用バインダーを提供する。
【0024】
本発明の全固体リチウム二次電池用バインダーは、バインダーの安定性及び溶解度と極性及び接着特性とを同時に満足させることができて、湿式工程基盤の溶液工程で全固体電池の製作を可能にして、全固体電池の商用化時点を大幅に繰り上げることができる。本発明の全固体リチウム二次電池用バインダーは、既存のリチウム二次電池に適用されている湿式工程に追加設備投資なしに適用できると予想される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1B】前記バインダーのFT-IR結果を示した図面である。
【0026】
【
図2A】クリックバインダーの改質程度による接着特性の評価結果を示した図面である。
【
図2B】クリックバインダーの含量による接着特性の評価結果を示した図面である。
【
図2C】カルボン酸以外の他の官能基のグラフティングによる接着特性の評価結果を示した図面である。
【0027】
【
図3】クリックバインダー導入された電池の最初の(a)及び80番目の充放電プロファイル(b)を示した図面である。
【0028】
【
図4】クリックバインダー導入された電池の絶対的重量当たり放電容量の変化推移(a)及び最初のサイクル放電容量に比べて、放電容量の変化推移(b)を示した図面である。
【0029】
【
図5】キャスティング電解質層製作の模式図を示す。
【0030】
【
図6】キャスティング電解質層の接着特性の評価結果を示した図面である。
【0031】
【
図7B】前記バインダーのFT-IR結果を示した図面である。
【0032】
【
図8A】エポキシバインダーのマレイン酸改質程度による接着特性の評価結果を示した図面である。
【
図8B】エポキシバインダーのマロン酸改質程度による接着特性の評価結果を示した図面である。
【
図8C】エポキシバインダーのコハク酸改質程度による接着特性の評価結果を示した図面である。
【
図8D】エポキシバインダーのアジピン酸改質程度による接着特性の評価結果を示した図面である。
【0033】
【
図9】エポキシバインダー導入された電池の最初の充放電プロファイル(a)及び絶対的重量当たり放電容量の変化推移(b)を示した図面である。
【0034】
【
図10】エポキシバインダー導入された電極、キャスティング電解質層を含む電池の最初のサイクル放電容量に比べて、放電容量の変化推移を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。次に紹介される実施例は、当業者に本発明の思想を十分に伝達させるために例として提供されるものである。したがって、本発明は、後術する実施例に限定されず、他の形態に具体化されることもある。そして、図面において、構成要素の幅、長さ、厚さなどは、便宜上、誇張して表現されることもある。明細書の全体にわたって同じ参照番号は、同じ構成要素を示す。
【0036】
本発明において、メルカプト化合物によってジエン系高分子の二重結合が活性化されて極性官能基がグラフティングされてクリック反応を通じて製造した全固体リチウム二次電池用バインダーを「クリックバインダー」と呼ぶ。
【0037】
例えば、本発明では、ジエン系高分子は、ブタジエン高分子またはイソプレン高分子であり、前記ジエン系高分子内のジエン系化合物に比べて、極性官能基のmol比が5:100であるクリックバインダーを「BRC5バインダー」と呼ぶ。
【0038】
本発明において、過酸化水素、過酸素酸、オゾンによってジエン系高分子の二重結合が活性化されて極性官能基がグラフティングされてクリック反応を通じて製造した全固体リチウム二次電池用バインダーを「エポキシバインダー」と呼ぶ。
【0039】
例えば、本発明では、ジエン系高分子は、ブタジエン高分子またはイソプレン高分子であり、前記ジエン系高分子内のジエン系単量体に比べて、極性官能基のmol比が0.5:100であり、マレイン酸に改質されたバインダーを「BRCOOHme0.5バインダー」と呼ぶ。
【0040】
バインダーの極性が高いほど活物質、集電体との接着特性は増加するが、硫化物系固体電解質基盤のスラリー製作時に、分散が容易な溶媒-バインダー組み合わせを探しにくい。したがって、大量化可能な電極製造工程での溶媒、バインダー、硫化物電解質間の極性マッチングが困難であった。
【0041】
それを解決するために、本発明は、ジエン系高分子に極性官能基が含まれた鎖がグラフティングされた全固体リチウム二次電池用バインダーを提供するが、グラフティングされた鎖の極性官能基は、電極表面と双極子モーメントに基づいて電極または固体電解質に対して強い引力で結合する。この際、強い引力は、0.3D(Debye)~5Dの引力である。これにより、集電体や固体電解質との接合特性を増加させながらも、分散が容易であるという長所を有する。
【0042】
本発明の一実施例において、前記ジエン系高分子のうち、ブタジエン高分子は、二重結合の立体構造によって1,2-vinyl、1,4-cis、1,4-transの形態で存在することができ、前記立体構造が混合されたものである。例示として、ブタジエン高分子の場合、前記ブタジエン高分子の含量は、1,4-cis型のブタジエン30~40mol%、1,4-trans型のブタジエン50~60mol%、1,2-vinyl型のブタジエン0~10mol%に含まれるか、または1,4-cis型のブタジエンが90~100mol%、及び1,4-trans型または2-vinyl型のブタジエン0~10mol%の含量で含まれるが、これらに制限されるものではない。
【0043】
本発明の一実施例において、前記極性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、アミン基、及びこれらの塩のうち何れか1つであり、前記極性官能基は、前記電極表面と水素結合することができ、前記ジエン系高分子の単量体に比べて、極性官能基の化合物のmol比は、0.1~30:100レベルである。
【0044】
本発明において、前記バインダーは、n-ヘキサン(n-hexane)、トルエン、p-キシレン(p-xylene)、酪酸ブチル(butyl butyrate)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)、炭酸ジエチル(diethyl carbonate)及び前記と類似した構造を有する有機溶媒に溶解されたものである。より具体的には、本発明の一実施例は、現在最も汎用的に使われるp-xylene溶媒に基づいて、硫化物系固体電解質を変性させずとも、スラリー分散が可能でありながらも、結着力が向上したゴム系のバインダーを提供するが、そのうちの1つは、主鎖高分子で二次電池での汎用性が高いブタジエン高分子にメルカプトカルボン酸をグラフティングするが、ブタジエン単量体に比べて、メルカプトカルボン酸のmol比(mol ratio)を0.1~30:100に調節することにより、硫化物系固体電解質と反応せず、無極性溶媒(p-xylene)に対する溶解性及び商用LIBバインダー(PVDF)以上の接着力を有する全固体電池用バインダーを製造した。
【0045】
本発明において、前記バインダーは、ジエン系高分子にメルカプト、過酸化水素、過酸素酸(peracid)、オゾン、ハロゲン、シラン、及びスルフェニルヒドロジンからなる群から選択される1種以上の化合物でグラフティングされた高分子を含むものであって、前記ジエン系高分子の二重結合を改質するための化合物であれば、前記種類に制限されるものではない。前記二重結合を改質するための方法は、二重結合をエポキシで作って、以後、改質する方式が採用されるが、やはりこれに制限されるものではない。前記ハロゲン化合物は、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨード(I)を含むものである。
【0046】
本発明の一様態は、ブタジエン高分子にメルカプトカルボン酸のカルボキシル基がグラフティングされた全固体リチウム二次電池用バインダーを提供することができる。
【0047】
本発明の一実施例において、前記バインダーは、ブタジエン高分子の二重結合とメルカプトカルボン酸から形成されたチイル(thiyl)ラジカルがチオール-エンクリック反応してブタジエン高分子にメルカプトカルボン酸のカルボキシル基がグラフティングされたものである。
【0048】
本発明において、バインダー合成に使用したチオール-エン反応は、クリック反応(click reaction)の1つであって、UV照射によって生成されたラジカルによってチオールとアルケンからアルキル硫酸を形成する反応である。クリック反応は、2つの分子の反応基の間の相互作用を通じて2つの分子を連結する結合反応である。クリック反応は、緩和された条件で非常に速く、高収率及び高比率の、よく制御された反応であって、樹状分子(dendritic molecules)、架橋結合剤(crosslinking materials)、変形化合物(modified compound)などの多様な合成に広く使われる。
【0049】
本発明において、バインダー合成に使用したエポキシ反応は、過酸化水素とカルボン酸化合物との反応などによって生成された過酸などによって二重結合からエポキシを形成する反応である。エポキシ反応は、反応性が低い二重結合を反応可能なエポキシ官能基に替えて、以後、新たな化合物と反応可能にしてグラフティングされた高分子が得られるようにする反応である。エポキシ反応は、反応方法及び反応物の取り扱いが容易であり、反応物の価格が安くて、産業的にジエン系高分子の多様な合成に広く使われる。
【0050】
図1Aは、ブタジエン高分子及びメルカプト化合物間のクリック(チオール-エン)反応を使用したクリックバインダーの合成過程を示したものであって、ブタジエン高分子の二重結合とメルカプトカルボン酸から形成されたチイルラジカルがチオール-エンクリック反応してブタジエン高分子にメルカプトカルボン酸のカルボキシル基がグラフティングされる。
【0051】
本発明において、ブタジエン高分子は、機械的物性に優れると共に、ゴム状の特性によって機械的物性と弾性性質が要求される全固体電池用バインダーに適するので、バインダーの主鎖として使用する。
【0052】
本発明において、メルカプトカルボン酸は、チオール基と共に集電体及び電極物質との強い水素結合が可能なカルボキシル基を含むので、バインダーのグラフティングに使用する。
【0053】
クリック反応を通じて合成されたバインダーは、極性官能基(例示-カルボキシル基)が集電体及び活物質の表面に存在するOH基と強い水素結合を形成しうる。
【0054】
ブタジエン高分子内のブタジエンに比べて、カルボキシル基のmol比を0.1~30:100に調節した本発明のバインダーは、極性による7種の溶媒に対する溶解度、硫化物系固体電解質との両立性、電極に導入された時の接着特性、電気化学的安定性のテストを通じて全固体リチウム二次電池用バインダーとしての適合性が確認された。
【0055】
本発明のバインダーは、硫化物系固体電解質とn-ヘキサン、トルエン、p-キシレン、酪酸ブチル、テトラヒドロフラン、炭酸ジエチル及び前記と類似した構造を有する有機溶媒に溶解される。
【0056】
本発明のバインダーは、硫化物系固体電解質と両立可能であり、PVDFバインダー以上の接着力を有する。
【0057】
本発明の他の様態は、前記バインダー、集電体、電極物質及び硫化物系固体電解質を含む全固体リチウム二次電池電極複合体を提供する。また、本発明のさらに他の様態は、前記バインダーを含む全固体リチウム二次電池分離膜を提供する。
【0058】
本発明の一実施例において、前記バインダーのカルボキシル基は、集電体及び電極物質の表面に存在するOH基と強い水素結合を形成する。
【0059】
望ましい具体例において、前記硫化物系固体電解質は、アルジロダイトLi6PS5X(X=Cl、Br、I)である。アルジロダイトLi6PS5X(X=Cl、Br、I)は、硫黄の一部がハロゲン原子に置き換えられてイオン伝導性と化学的安定性とが改善されたものである。さらに望ましくは、Li6PS5Cl(LPSCl)を使用することができる。LPSClは、高いイオン伝導性(室温で1.3×103 S cm-1)、安価、製造の容易性によってさらに有利である。
【0060】
望ましい具体例において、前記電極物質は、LiCoO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMn2O4などである。
【0061】
本発明の他の様態は、前記電極複合体または分離膜を含む全固体リチウム二次電池を提供する。本発明の一実施例において、NCM711正極、リチウム(Li)負極と共に最も大きな接着力を示したバインダー(BRC5)が導入された全固体リチウム二次電池(BRC5 ASSB)は、最初のサイクルで169.9mAh g-1、対照群であるBRバインダーが導入されたBR ASSBは、170.7mAh g-1の放電容量を示し、80サイクル後、それぞれ81.1%と75.4%との容量保持率を示した。このようなBRC5バインダーの優れた電気化学性能は、BRC5バインダーの強い接着力によって、反復的なサイクリング後にも、電極物質界面がクラック(crack)なしに密集した接触を形成していることから起因する。
【0062】
【0063】
以下、本発明の望ましい実施例を通じて、本発明による全固体リチウム二次電池用バインダーについて説明する。但し、これは、本発明の望ましい例示として提示されたものであり、如何なる意味でも、これにより、本発明が制限されると解釈されてはならない。ここに記載されていない内容は、本技術分野で熟練した者であれば、十分に技術的に類推することができるものなので、その説明を省略する。
【0064】
【0065】
[実施例]
【0066】
実施例1:クリックバインダーの製造
【0067】
チオール-エンクリック反応を通じて、1,4-trans 55%、1,4-cis 36%、1,2-vinyl 9% ポリブタジエン(Polybutadiene)にカルボキシル基をグラフティングした(
図1A)。カルボキシル基グラフティングにチオール基と共に集電体及び電極物質との強い水素結合が可能なカルボキシル基が含まれているメルカプトカルボン酸を使用した。
【0068】
その合成メカニズムは、次の通りである:
【0069】
光開始剤であるベンゾフェノン(Benzophenone)をUV線によって光分解してラジカルを生成した。前記ラジカルとメルカプトカルボン酸とを反応させてメルカプトカルボン酸のチオール基の水素原子を抽出し、新たなチイルラジカルを生成した。生成されたチイルラジカルとポリブタジエンの二重結合を反応させて、最終的にポリブタジエンにメルカプトカルボキシル基が1:100、3:100、5:100、10:100、15:100(=メルカプトカルボキシル基:ブタジエン)のmol比でグラフティングされた高分子バインダーを合成した。
【0070】
合成されたバインダーのカルボキシル基がグラフティングされた程度は、FT-IRを通じて定性的に確認した。FT-IR分析で反応に使用したメルカプトカルボキシル基のmol比が増加するにつれて、クリック反応後、1710cm
-1ピーク(カルボン酸のカルボニル基ピークに該当)の強度が増加する結果を確認することができた(
図1B)。クリック反応後の前記のような強度の変化は、バインダー内カルボキシル基のグラフティング程度が制御されたクリックバインダーの成功的な合成を意味する。
【0071】
カルボキシル基以外の他の極性官能基の接着力の向上効果を確認するために、メルカプトカルボン酸の代わりに、メルカプトアルコールを5:100(=メルカプトアルコール基:ブタジエン)のmol比を使用してアルコール基がグラフティングされた高分子バインダーを合成した(以下、BRCOH5)。合成メカニズムは、メルカプト化合物の種類が異なるものを除き、メルカプトカルボン酸を使用してBRC5を合成した方法と同じ方法を使用した。
【0072】
【0073】
実験例1:バインダーの接着特性の分析
【0074】
全固体電池は、サイクリングによって活物質及び固体電解質の体積変化が伴われるために、電極物質を連結しているバインダーの接着特性は、非常に重要な要素である。このようなクリックバインダーの接着特性を確認するために、2.5wt%のバインダーが導入された電極を製作して180°ピーリング(peeling)テストを行った(
図2A)。
【0075】
BRC1、BRC3、BRC5、BRC10、BRC15及びブタジエン電極は、全固体電池スラリーに使われるp-xyleneを通じて製作し、硫化物系固体電解質としてはアルジロダイト(Li6PS5Cl、以下、LPSCl)を使用した。ピーリングテストに使われた各電極の組成と平均ピーリング力(average peeling force)は、下記表1と同じである。
【0076】
【0077】
【0078】
既存の商用として使われるBRバインダーを実際セル駆動に使われる固体電解質が含まれたカソード複合体(cathode composite)組成(NCM711:LPSCl:Super P:BR binder=76:20:1.5:2.5)の電極に使用時に、1.58gf mm-1の低い接着力を示した。一方、クリックバインダーの場合、カルボン酸がグラフティングされた量がBRに比べて、カルボン酸のmol比で1:100程度になっても、既存のBRバインダーに比べて、10倍以上の接着力の向上を確認することができた。カルボン酸グラフティングによるBRバインダーの接着力の向上は、グラフティングされた量が5:100レベル以上になれば、接着力の向上効果が飽和されることを確認することができた。
【0079】
また、開発されたクリックバインダーの高い接着力に起因して電極内バインダー含量の最小化可能性を確認した(
図2B)。電極内バインダーは、工程性の向上に寄与するが、電極内活物質の含量を下げるために、エネルギー密度の側面では、不利である。したがって、工程性が確保される範囲内で電極内バインダーの含量を下げることができれば、電極のエネルギー密度の向上に寄与することができる。評価バインダーとしてはBRC5を使用し、ピーリングテストに使われた各電極の組成と平均ピーリング力は、下記表2と同じである。
【0080】
【0081】
実験の結果、BRC5の含量1.0wt%まで下げても、12.17gf/mmに優れた接着性能が出ることを確認することができた。これは、既存のBRバインダーに比べて、7倍以上の性能であって、クリックバインダー使用時に、電極の接着力の向上による工程性だけではなく、電極内バインダー含量の減少を通じた電極エネルギー密度の向上も達成できるということを確認することができた。
【0082】
また、カルボン酸以外の極性官能基の接着力の向上効果を確認するために、アルコール官能基がグラフティングされたBRCOH5バインダーを合成して接着性能を評価した(
図2C)。ピーリングテストに使われた各電極の組成と平均ピーリング力は、下記表3と同じである。
【0083】
【0084】
実験の結果、アルコール官能基も、バインダーにグラフティングされる時に、バインダーの接着特性を向上させることができることを確認することができた。これは、カルボン酸以外に他の極性官能基も、バインダーにグラフティングされる時に、バインダーの接着特性の向上に寄与することができるということを示す。
【0085】
【0086】
実験例2:バインダーの電気化学的性能の分析
【0087】
本発明のクリックバインダーによるASSBの電気化学的性能は、NCM711カソード層、LPSCl固体電解質層、Liカウンター電極で構成されたASSBを通じて確認した。ASSB製作に使用したバインダーは、接着が最も優れたBRC5バインダー及び比較のためのBRバインダーである。
【0088】
Alホイルにp-xylene溶媒のカソード複合体レイヤースラリーと固体電解質(SE)スラリーとを順にキャスティングしてASSBを製作し、この際、各レイヤーの組成は、それぞれNCM711:LPSCl:super P:BRC5バインダー(または、BRバインダー)=76:20:1.5:2.5である。正極層と電解質層キャスティングとの間には、正極層を60℃で1時間、常温で24時間真空乾燥する過程がある。カソード複合体層、SE層、Li層が形成されれば、圧着を通じてセルを完成した。両セルでの正極内での711活物質のローディング量は、20mg cm-2である。
【0089】
図3は、BRC5とBRバインダーASSBsの0.1C(19.5mA g
-1)(範囲:2.5~4.3V vs.Li)での定電流充放電プロファイルを示す。最初のサイクルでBRC5 ASSBとBR ASSBの放電容量は、それぞれ170.7mAh g
-1、169.9mAh g
-1であり、過電圧による充放電プロファイルの差がほとんどないということを確認することができた(
図3の(a))。これは、BRC5のカルボン酸官能基による電極内抵抗上昇が微小であるということを示し、開発されたクリックバインダーが抵抗として電池の電気化学性能に否定的影響を及ぼさないということを確認することができる。80番目のサイクル充放電プロファイルでは、BRC5 ASSBの放電容量がBR ASSBに比べて、優れているということを確認することができた(
図3の(b))。BRC5 ASSBは、80サイクル後、137.9mAh g
-1の放電容量を示した一方、BR ASSBは、同じサイクル数の後、128.7mAh g
-1の放電容量を示し、これは、それぞれ81.1%と75.4%との容量保持率に該当する。サイクルによる絶対的放電容量の変化推移(
図4の(a))及び最初のサイクルに比べて、容量の変化推移(
図4の(b))上でBRC5バインダーが電池の寿命特性に肯定的影響を及ぼすということを確認することができた。これは、キャスティング基盤の全固体電池の反復されるサイクリングにおいて、電極物質を連結するバインダー接着力の重要性を示す結果である。
【0090】
【0091】
実験例3:バインダーのキャスティング電解質層
【0092】
全固体電池は、既存のリチウムイオン電池とは異なって、別途の高分子分離膜を要さず、別途の固体電解質層が分離膜の役割を果たす。数十μm厚さ以下の固体電解質分離膜層を作る方法のうち、最も可能性が高い方法は、全固体電池電極上に固体電解質とバインダーのみを含むスラリーをキャスティングしてキャスティング電解質層を作る方法である(
図5)。キャスティング電解質層は、バインダーの接着力が重要であり、開発されたクリックバインダーは、全固体電池電極だけではなく、キャスティング電解質層のバインダーとしても活用されうる。
【0093】
本発明のバインダーのキャスティング電解質層の接着特性の向上効果を確認するために、固体電解質が含まれたカソード複合体組成(NCM711:LPSCl:Super P:BRC5 binder=76:20:1.5:2.5)の電極を作り、その上にp-xyleneを使用した95wt%のLPSCl及び5wt%のバインダー組成のLPSClフィルムを製作し、比較のために、同一組成の電極とキャスティング電解質層のそれぞれにBR、BRC5を入れた実験群を準備して180°ピーリングテストを行った(
図6)。実験群の名称は、電極に使われたバインダー、キャスティング電解質層に使われたバインダーによって電極バインダー/キャスティング電解質層バインダーと表記する。BRバインダーをキャスティング電解質層に使用したBR/BR、BRC5/BR実験群は、180°ピーリングテスト装備の測定最小値以下の接着特性が確認された(0.1gf/mm以下)。これは、既存のBRバインダーが全固体電池電極用以上にキャスティング電解質層のバインダーとして使われることが不適であるということを意味する。一方、BRC5をキャスティング電解質層に使用したBR/BRC5、BRC5/BRC5実験群では、それぞれ2.23gf/mm、13.03gf/mmの接着力が発現されるということを確認することができた。これは、開発されたBRC5がキャスティング電解質層のバインダーとして使われることが適するということを示す結果である。BR/BRC5、BRC5/BRC5実験群の接着力の差は、電極のバインダーとして使われたBRバインダーの接着力が、キャスティング電解質層のバインダーとして使われたBRC5の接着力よりも低いために、BR/BRC5実験群の接着特性が電極のBRバインダーによって決定される結果と解釈することができる。これは、電極とキャスティング電解質層とで構成された二重フィルムの全体機械的物性を確保するためには、あらゆる層に強い接着特性を有したバインダーを導入しなければならないということを意味し、開発されたクリックバインダーの汎用的必要性を示す結果であると言える。
【0094】
【0095】
実施例2:エポキシバインダーの製造
【0096】
本発明のさらに他の一実施例は、ジエン系高分子をエポキシ化した後、それを極性官能基を有する化合物と反応させて、カルボキシル基のような極性官能基を有する化合物をジエン系高分子にグラフティングさせたものである。以下、具体的な実施例を通じて本発明を詳しく説明するが、本発明の範囲は、これに制限されず、中間体で形成されたエポキシと反応してグラフティング構造を形成しうる任意のあらゆる極性官能基化合物が、いずれも本発明の範囲に属する。過酸化水素とカルボン酸反応を通じて作られた過酸を通じて、1,4-trans 55%、1,4-cis 36%、1,2-vinyl 9% ポリブタジエンにエポキシ官能基を作った後、ジカルボン酸と反応を通じてカルボキシル基をグラフティングした(
図7A)。カルボキシル基グラフティングにエポキシ官能基と反応するカルボキシル基と反対側に集電体及び電極物質との強い水素結合が可能なカルボキシル基が含まれているジカルボン酸を使用した。
【0097】
その合成メカニズムは、次の通りである:
【0098】
ポリブタジエンと過酸化水素とカルボン酸とをクロロホルムに溶かした後、40℃で撹拌してエポキシ官能基を生成した。前記過酸化水素とカルボン酸とを反応させれば、過酸が生成され、該生成された過酸とポリブタジエンとの二重結合を反応させて、最終的にポリブタジエンにエポキシが0.5:100、1:100、1.5:100、2:100、2.5:100(=エポキシ:ポリブタジエン)のmol比でグラフティングされた高分子バインダーを合成した。合成されたエポキシのみ改質されたバインダーは、使用した前記ジエン系高分子内のジエン系高分子対比のエポキシ官能基のmol比によってBREPCxと呼ぶ。例えば、前記ジエン系高分子内のジエン系高分子対比のエポキシ官能基のmol比が5:100に改質されたバインダーを「BREPC5バインダー」と呼ぶ。合成されたBREPCと1:10(=エポキシ:ジカルボン酸)のmol比でジカルボン酸化合物をテトラヒドロフランに溶かした後、60℃で撹拌してカルボン酸がグラフティングされた高分子バインダーを合成した。ジカルボン酸化合物の一側のカルボン酸は、エポキシと反応してジカルボン酸化合物がポリブタジエンにグラフティングされた形態を提供し、他の反対側のカルボン酸は、未反応した状態でポリブタジエンに張り付いて集電体及び電極物質との強い結着力を提供する極性官能基を提供する。ジカルボン酸の一側のカルボン酸が未反応した状態に作るために、エポキシに比べて、ジカルボン酸化合物を1:10のmol比で過量反応させた。ジカルボン酸化合物としてマレイン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸を使用した。合成されたエポキシバインダーは、使用したジカルボン酸化合物の種類及び前記ジエン系高分子内のジエン系高分子対比の極性官能基のmol比によってBRCOOHxY(x=me(マレイン酸)、m(マロン酸)、s(コハク酸)、a(アジピン酸)、Y=ジエン系高分子対比の極性官能基のmol比)と呼ぶ。例えば、ジカルボン酸化合物としてマロン酸を使用し、前記ジエン系高分子内のジエン系高分子対比の極性官能基のmol比が1:100に改質されたバインダーを「BRCOOHm1バインダー」と呼ぶ。
【0099】
合成されたバインダーのカルボキシル基がグラフティングされた程度は、FT-IRを通じて定性的に確認した。FT-IR分析でジカルボン酸と反応させたBRCOOHa1.5バインダーの1700cm
-1ピークの強度が増加する結果を確認することができた(
図7B)。エポキシ反応及びジカルボン酸化合物反応後の前記のような強度の変化は、バインダー内カルボキシル基のグラフされたエポキシバインダーの成功的な合成を意味する。
【0100】
【0101】
実験例2:バインダーの接着特性の分析
【0102】
全固体電池は、サイクリングによって活物質及び固体電解質の体積変化が伴われるために、電極物質を連結しているバインダーの接着特性は、非常に重要な要素である。このようなエポキシバインダーの接着特性を確認するために、2.5wt%のバインダーが導入された電極を製作して180°ピーリングテストを行った(
図8A、
図8B、
図8C、
図8D)。
【0103】
BRCOOHme0.5、BRCOOHm1、1.5、2、2.5、BRCOOHs1、 1.5、2、BRCOOHa1、1.5、2、2.5電極は、全固体電池スラリーに使われるp-xyleneを通じて製作し、硫化物系固体電解質としてはアルジロダイト(Li6PS5Cl、以下、LPSCl)を使用した。ピーリングテストに使われた各電極の組成と平均ピーリング力は、下記表4と同じである。
【0104】
【0105】
【0106】
エポキシバインダーの場合、カルボン酸がグラフティングされた量がBRに比べて、カルボン酸のmol比で0.5:100程度になっても、既存のBRバインダーに比べて、7倍以上の接着力の向上を確認することができた。カルボン酸グラフティングによるBRバインダーの接着力の向上は、グラフティングされた量が1:100レベル以上になれば、接着力の向上効果が飽和されることを確認することができた。これは、カルボン酸グラフティング改質時に、エポキシ官能基がアルコール官能基に変わってカルボン酸以外のアルコール官能基がさらにグラフティングされたために、バインダー内官能基の相対的に少量の改質でも、接着力の向上効果が飽和されたと解釈することができる。バインダーの電気化学的抵抗は、極性官能基の含量と弱い量の相関関係を有するので、このような少量の官能基改質を通じた接着力の向上は、バインダーを導入した電極内抵抗の側面で有利であると見られる。
【0107】
【0108】
実験例2:バインダーの電気化学的性能の分析
【0109】
本発明のクリックバインダーによるASSBの電気化学的性能は、NCM711カソード層、LPSCl固体電解質層、Liカウンター電極で構成されたASSBを通じて確認した。ASSB製作に使用したバインダーは、BRCOOHa2とBRCOOH2.5バインダーである。
【0110】
Alホイルにp-xylene溶媒のカソード複合体レイヤースラリーと固体電解質(SE)スラリーとを順にキャスティングしてASSBを製作し、この際、各レイヤーの組成は、それぞれNCM711:LPSCl:super P:BRCOOHa2バインダー(または、BRCOOH2.5バインダー)=76:20:1.5:2.5である。正極層と電解質層キャスティングとの間には、正極層を60℃で1時間、常温で24時間真空乾燥する過程がある。カソード複合体層、SE層、Li層が形成されれば、圧着を通じてセルを完成した。両セルでの正極内での711活物質のローディング量は、20mg cm-2である。
【0111】
図9の(a)は、BRCOOHa2とBRCOOHa2.5バインダーASSBsの0.1C(19.5mA g
-1)(範囲:2.5~4.3V vs.Li)での定電流充放電プロファイルを示す。最初のサイクルでBRCCOOHa2 ASSBとBRCOOHa2.5 ASSBの放電容量は、両方とも169.9mAh g
-1であり、過電圧による充放電プロファイルの差がほとんどないということを確認することができた(
図9の(a))。これは、BRCOOHa2からBRCOOHa2.5にカルボン酸官能基の含量上昇による電極内抵抗上昇が微小であるということを示し、前記BR ASSBと比較しても、最初のサイクル放電容量(169.9mAh g
-1)及び充放電プロファイルの差が微小であると見て、開発されたエポキシバインダーが抵抗として電池の電気化学性能に否定的影響を及ぼさないということを確認することができる。BRCOOHa2 ASSBは、30サイクル後、155.3mAh g
-1の放電容量を示し、BRCOOH2.5 ASSBは、同じサイクル数の後、150.2mAh g
-1の放電容量を示し、これは、それぞれ91.4%と88.4%との容量保持率に該当する。前記BR ASSBの場合、30サイクル後、151.4mAh g
-1の放電容量を示し、これは、88.7%の容量保持率に該当する。このような優れたエポキシバインダーのサイクル特性は、キャスティング基盤の全固体電池の反復されるサイクリングにおいて、電極物質を連結するバインダー接着力の重要性を示す結果である。
【0112】
【0113】
実験例3:バインダーのキャスティング電解質層
【0114】
全固体電池は、既存のリチウムイオン電池とは異なって、別途の高分子分離膜を要さず、別途の固体電解質層が分離膜の役割を果たす。数十μm厚さ以下の固体電解質分離膜層を作る方法のうち、最も可能性が高い方法は、全固体電池電極上に固体電解質とバインダーのみを含むスラリーをキャスティングしてキャスティング電解質層を作る方法である(
図5)。キャスティング電解質層は、バインダーの接着力が重要であり、開発されたエポキシバインダーは、前記クリックバインダーと同様に全固体電池電極だけではなく、キャスティング電解質層のバインダーとしても活用されうる。
【0115】
本発明の開発されたエポキシバインダーを含むキャスティング電解質層の電気化学性能に及ぼす影響を確認するために、固体電解質が含まれたカソード複合体組成(NCM711:LPSCl:SuperP:BRCOOHs1 binder=76:20:1.5:2.5)の電極を作り、その上にp-xyleneを使用した97.5wt%のLPSCl及び2.5wt%のバインダー組成のLPSClフィルムを製作し、それを固体電解質が含まれたアノード複合体(cathode composite)組成(Gr(黒鉛):LPSCl:BRCOOHs1 binder=71:26.5:2.5)の電極と結合してキャスティング電極及び電解質層のみを含むASSBを製作した。セルでの正極内での711活物質のローディング量は、20mg cm-2であり、正極と負極との容量比は、1:1.2である。
【0116】
図10は、BRCOOHs1バインダーを含むASSBsの0.1C(19.5mA g
-1)(範囲:2.5~4.3V vs.Li)での定電流充放電プロファイルを示す。最初のサイクルで165.4mAh g
-1の放電容量を示した。このような性能は、数百μm厚さのパウダー固体電解質分離膜層を含むリチウム金属半電池での放電容量と類似し、開発されたエポキシバインダーを含む薄い厚さの固体電解質分離膜層を含んでも、電気化学性能に及ぼす悪影響が大きくないということを示す。また、薄い固体電解質分離膜層を含んでいるために、電池の体積当たりエネルギー密度は、既存のパウダー固体電解質分離膜層を含む半電池に比べて、向上した。これは、産業的に活用可能な体積当たりエネルギー密度に到達するために、薄い固体電解質分離膜層を作るのに本発明のバインダー技術の必要性を示す。
【0117】
【0118】
以上、本発明の望ましい実施例について図示して説明したが、本発明は、前述した特定の実施例に限定されず、特許請求の範囲で請求する本発明の要旨を外れずに、当業者によって多様な変形実施が可能であるということはいうまでもなく、このような変形実施は、本発明の技術的思想や展望から個別的に理解されてはならない。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系高分子に極性官能基が含まれた鎖がグラフティングされた全固体リチウム二次電池用バインダーであって、
前記ジエン系高分子は、ブタジエン高分子またはイソプレン高分子であり、
前記極性官能基は、双極子モーメントに基づいて電極または固体電解質に対する強い引力を有し、
前記ジエン系高分子対前記極性官能基のモル比は0.1~30であることを特徴とする全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項2】
前記極性官能基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、アミン基、及びこれらの塩からなる群から選択された何れか1つであることを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項3】
前記バインダーは、ジエン系高分子にメルカプト、過酸化水素、過酸素酸、オゾン、ハロゲン、シラン、及びスルフェニルヒドロジンからなる群から選択される1種以上の化合物でグラフティングされた高分子を含むことを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項4】
前記バインダーは、ジエン系高分子にメルカプト化合物の極性官能基がグラフティングされた、請求項3に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項5】
前記メルカプト化合物は、チオール基によって前記ジエン系高分子にグラフティングされた、請求項4に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項6】
前記バインダーは、前記ジエン系高分子にカルボン酸化合物の極性官能基がグラフティングされた、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項7】
前記カルボン酸化合物は、前記ジエン系高分子とエステル基とを通じてグラフティングされた、請求項6に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項8】
前記カルボン酸化合物が、グラフティングされた前記ジエン系高分子の炭素と隣接したさらに他の炭素にヒドロキシル基が結合されたことを特徴とする、請求項7に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項9】
前記バインダーの極性官能基は、集電体及び活物質の表面に存在するOH基と水素結合を形成することを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項10】
前記バインダーは、n-ヘキサン、トルエン、p-キシレン、酪酸ブチル、テトラヒドロフラン、及び炭酸ジエチルからなる群から選択される1種以上の有機溶媒に溶解されることを特徴とする、請求項1に記載の全固体リチウム二次電池用バインダー。
【請求項11】
請求項1から請求項10のうち何れか一項に記載のバインダー、集電体、電極物質及び硫化物系固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池電極複合体。
【請求項12】
前記バインダーの極性官能基は、集電体及び電極物質の表面に存在するOH基と水素結合を形成することを特徴とする、請求項11に記載の全固体リチウム二次電池電極複合体。
【請求項13】
請求項1から請求項10のうち何れか一項に記載のバインダーを含む、全固体リチウム二次電池分離膜。
【請求項14】
請求項12に記載の電極複合体または請求項13に記載の分離膜を含む、全固体リチウム二次電池。
【国際調査報告】