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特表2024-513950キャピラリー電気泳動におけるタンパク質分析のための天然蛍光検出
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】キャピラリー電気泳動におけるタンパク質分析のための天然蛍光検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240319BHJP
   G01N 21/05 20060101ALI20240319BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N21/05
G01N33/483 C
G01N33/483 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562537
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(85)【翻訳文提出日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 IB2022053442
(87)【国際公開番号】W WO2022219538
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】63/174,897
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/292,277
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】デリワラ, スニール
(72)【発明者】
【氏名】リー, ティンティン
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ヤガン
(72)【発明者】
【氏名】シルゼル, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジュー, ザイファン
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
2G057
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA05
2G043EA01
2G043EA19
2G043HA01
2G043HA05
2G043JA03
2G043KA03
2G043KA09
2G043LA02
2G043NA01
2G045DA36
2G045FA27
2G045FA29
2G045FB05
2G045FB12
2G057AA04
2G057AB04
2G057AC01
2G057BA05
2G057BB01
(57)【要約】
キャピラリー電気泳動(CE)システムを使用して試料中の標的タンパク質の濃度を決定する方法およびシステムが開示される。特定の態様において、方法は、CEシステムのキャピラリーチューブを通して試料を流すことと、光源を利用して、試料中の少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの励起波長を含む放射線を生成することとを含むことができる。少なくとも1つの励起波長を含む励起ビームは、少なくとも1つの天然蛍光体に蛍光放射線を生成させるために、透明部分の管腔を通過する標的タンパク質の前記少なくとも1つの天然蛍光体を励起するためにキャピラリーチューブの透明部分に向かわせられることができ、励起された標的タンパク質によって放出された蛍光放射線の少なくとも一部は、検出されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリー電気泳動(CE)システムにおける試料のタンパク質分析のための方法であって、前記方法は、
前記CEシステムのキャピラリーチューブを通して前記試料を流すことと、
放射線を生成するために光源を利用することであって、前記放射線は、前記試料中の少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの波長を含む、ことと、
前記少なくとも1つの励起波長を含む励起ビームを前記CEシステムの前記キャピラリーチューブの透明部分に向かわせ、前記透明部分の管腔を通過する前記標的タンパク質の前記少なくとも1つの天然蛍光体を励起することによって、前記少なくとも1つの天然蛍光体に蛍光放射線を生成させることと、
前記励起された標的タンパク質によって放出された蛍光放射線の少なくとも一部を検出することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記光源は、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)を備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光源は、レーザー駆動光源を備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光源は、スペクトル範囲にわたる波長を有する放射線を生成し、前記励起ビームは、前記放射線の前記スペクトル範囲より狭いスペクトル帯域幅を示す、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記励起ビームを生成するために前記放射線をスペクトルフィルタリングすることをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記放射線をスペクトルフィルタリングすることは、光学バンドパスまたはショートパスフィルタを利用することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記光学バンドパスまたはショートパスフィルタは、約200nm~約300nmの範囲内の透過帯域幅を示す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記標的タンパク質は、抗体を備えている、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの波長は、約285nmである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光放射線を検出器の上に集中させるためのレンズを利用することをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記検出器から前記励起波長をフィルタリングすることをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記励起ビーム内に含まれる前記少なくとも1つの励起波長を調整することをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
試料中の標的タンパク質の濃度を決定するためのシステムであって、前記システムは、
放射線を生成するための光源と、
キャピラリー電気泳動システムのキャピラリーチューブ上に前記放射線を誘導するための光学系と
を備え
目的の試料は、前記試料中に存在する場合に少なくとも標的タンパク質を照射するために、前記キャピラリーチューブを通して流れ、
前記光源によって生成された前記放射線は、前記試料中の前記少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの励起波長を含む、システム。
【請求項14】
前記光源は、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)を備えている、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記光源は、レーザー駆動光源を備えている、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記光源は、スペクトル範囲にわたる波長を有する放射線を生成するように構成され、前記励起ビームは、前記放射線の前記スペクトル範囲より狭いスペクトル帯域幅を示す、請求項13から15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つの励起波長は、約285nmである、請求項13から16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
前記キャピラリーチューブは、放射線透明部分を備え、前記励起放射線は、前記放射線透明部分を通して前記キャピラリーチューブの中に導入されることができ、前記励起放射線に応答して前記標的タンパク質によって生成された蛍光放射線の少なくとも一部は、前記放射線透明部分を通して前記キャピラリーチューブを出ることができる、請求項13から16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項19】
前記キャピラリーチューブの前記透明部分に光学的に結合された検出器をさらに備え、前記検出器は、前記蛍光放射線の少なくとも一部を受け取り、前記受け取った蛍光放射線の検出に応答して1つ以上の蛍光検出信号を生成する、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記蛍光放射線を前記検出器の上に向かわせるための光学素子をさらに備え、随意に、前記光学素子は、前記蛍光放射線を前記検出器の上に集中させるためのレンズを備え、さらに随意に、励起放射線をフィルタリング除去するために前記検出器の前に配置されたフィルタをさらに備えている、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記検出器と通信する分析器をさらに備え、前記分析器は、前記1つ以上の検出信号を受信し、前記検出信号を処理することによって前記試料中の前記標的タンパク質の濃度を得る、請求項19および20のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項22】
前記分析器は、前記検出された蛍光放射線の強度に基づいて前記標的タンパク質の前記濃度を決定するように構成されている、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記光学系は、近位端から遠位端まで延びている光ファイバを備え、前記光ファイバの前記近位端は、前記光源によって放出された放射線の少なくとも一部を受け取るために前記光源に光学的に結合されている、請求項13から22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
前記光源と前記光ファイバの前記近位端との間に配置された1つ以上のレンズをさらに備え、前記1つ以上のレンズは、記光源から放出された前記放射線を前記光ファイバの前記近位端に透過し、随意に、前記1つ以上のレンズは、前記光ファイバの前記近位端上に前記LEDの放射面を結像するためにタンデムに設置された2つの収束レンズを備えている、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記2つの収束レンズの間に配置された光学フィルタをさらに備え、前記光学フィルタは、前記放射線の少なくとも一部を受け取り、前記試料を照射するための前記励起波長を選択し、随意に、前記光学フィルタは、光学バンドパスまたはショートパスフィルタを備え、さらに随意に、前記光学バンドパスまたはショートパスフィルタは、約270nm~約290nmの範囲の透過帯域幅を示す、請求項24に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2021年4月14日に出願された米国仮出願第63/174,897号、および2021年12月21日に出願された米国仮出願第63/292,277号の優先権を主張し、それらの内容全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(技術分野)
本開示は、一般に、試料中の1つ以上の標的タンパク質の定量化のためのシステムおよび方法に関し、特に、キャピラリー電気泳動(CE)システムのキャピラリーチューブ内に含まれる標的試料について高い感度および選択性を提供することができるような定量化システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
過去20年間にわたって、キャピラリー電気泳動(CE)は、バイオ医薬品および生体分子分析のための成熟した分離技術に発展してきた。バイオ医薬品産業では、CEベースの技術(キャピラリー電気泳動ドデシル硫酸ナトリウム(CE-SDS)およびキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)を含む)が、治療用モノクローナル抗体(mAb)の分析的特徴づけおよび品質管理を支援するために、ゲルベースの電気泳動技術に取って代わりつつある。
【0004】
CEでは、高い電界強度が適用されることができる細いキャピラリーチューブの使用が、最小限の試料体積を使用した非常に効率的な分離を可能にする環境を提供する。しかしながら、小さいキャピラリー内径は、それらが短い光路長を呈し、したがって、多くの分析物に対して(特に低濃度で存在する分析物に対して)十分な感度を達成するために、大きい試料負荷を必要とするという点で検出課題を引き起こし得る。
【0005】
UV吸光度検出は、CEにおいて最も広く使用されている技術であり、2~3桁の線形ダイナミックレンジを達成することが示されている。しかしながら、その濃度感度は、多くの用途で必要とされるそれより低くあり得る。
【0006】
レーザー誘起蛍光(LIF)検出は、濃度感度を改善し、線形ダイナミックレンジを拡大する試みでよく使用される。しかしながら、市販の励起源は、一般に可視波長範囲で発光し、この範囲では、タンパク質は、本質的に蛍光性ではない。このLIF検出の課題を回避するために、蛍光体誘導体化が使用されているが、さらなる問題を引き起こし得る。
【0007】
例えば、タンパク質上の標識部位は異なる反応性を有し、標識反応は、常、異なって標識されたタンパク質の混合物を生成し、ピークの広がりまたは分裂のみならず、定量化課題をもたらす。さらに、蛍光色素でタンパク質を標識すると、タンパク質の正味電荷における変化につながり、その結果、タンパク質の等電点(pI)を変化させ、天然状態と比較してタンパク質の特性における全体的変化をもたらし得る。
【0008】
UVおよびLIF検出モダリティによってもたらされる課題を回避するための努力において、研究者らは、特定のアミノ酸からの固有の蛍光放出を利用してタンパク質の検出および定量化を容易にするために、励起源として深UVレーザーを使用してきた。タンパク質の天然蛍光検出(NFD)は、514nmのアルゴン-イオンレーザー生成放射線の周波数倍増によって生成された257nm励起放射線を使用して最初に報告された。データは内径50μmのキャピラリーを用いて取得され、コンカルアルブミンに関して14nMの検出限界(LOD)を達成した。
【0009】
同じタンパク質の検出感度が、水冷アルゴン-イオンレーザーから単離された275.4nmレーザーラインを使用して、改善された。ND:YAG(266nm)、KrF(248nm)、He-Ag(224nm)レーザーを含むパルスレーザーも、NFDの励起源として評価された。これらのレーザーは、比較的費用対効果が高いが、そのようなレーザーを使用して達成することができる濃度感度は、好ましくない励起波長およびパルス間変動に起因して、UVアルゴン-イオンレーザーを使用して達成可能な濃度感度より低い。
【0010】
キセノンランプおよび重水素ランプなどのランプは、深UV領域で連続スペクトルを提供し、したがって、NFDのための励起波長における柔軟性を可能にする。しかしながら、従来のランプは、低い放射出力の発散光を放出し、CEにおける蛍光検出のための十分なエネルギーを送達するための課題を提示する。検出を改善するために、ランプベースの蛍光検出システムが導入されており、ランプベースの蛍光検出システムにおいて、水銀-キセノンランプからの光は、フィルタリングされ、続いて、ボールレンズを使用して検出セルに集中させられるために、光ファイバを介してキャピラリーに向かわせられる。放出された蛍光は、全内部反射によってキャピラリーに沿って細胞の端部に配置された光電子増倍管(PMT)に導かれる。この検出システムは、様々な化合物の分析のための市販のCE機器に適合するのに成功した。結果は、トリプトファンの分析のためのLODが6.7nMであり、214nmでの吸光度検出を介して得られた感度より20倍大きいことを示した。タンパク質分析では、LODは10~20nMの範囲にあり、280nmでの吸光度検出より25倍感度が高く、214nmでの吸光度検出に匹敵した。このシステムのPMTを電荷結合デバイスで置き換えることは、このシステムを波長分解能型蛍光検出器に変えることができ、それは、タンパク質のコンフォメーション変化を調べることができる。
【0011】
従来のアプローチと比較してより高い感度および柔軟な励起波長を提供するNFDを使用したタンパク質試料の定量化が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本教示の様々な態様において、試料中の標的タンパク質の濃度を決定するためのシステムが提供され、このシステムは、放射線を生成するための光源と、試料中に存在する場合に少なくとも標的タンパク質を照射するために、目的の試料が流れるキャピラリー電気泳動(CE)システムのキャピラリーチューブ上に放射線を導くための光学系とを含む。光源によって生成された放射線は、試料中の前記少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの励起波長を含むことができる。
【0013】
様々な光源が、本教示に従って使用されることができる。例えば、いくつかの態様において、光源は、少なくとも1つの発光ダイオードを備えていることができる。代替的に、いくつかの態様において、光源は、レーザー駆動光源を備えていることができる。様々な態様において、光源は、スペクトル範囲にわたる波長を有する放射線を生成することができ、励起ビームは、放射線のスペクトル範囲より狭いスペクトル帯域幅を示すことができる。特定の態様において、少なくとも1つの励起波長は、約285nmであり得る。
【0014】
様々な態様において、キャピラリーチューブは、放射線透明部分を備えていることができ、放射線透明部分を通して、励起放射線が、キャピラリーチューブに導入されることができ、かつ励起放射線に応答して前記標的タンパク質によって生成された蛍光放射線の少なくとも一部が、キャピラリーチューブを出ることができる。さらに、いくつかの態様において、システムは、蛍光放射線の少なくとも一部を受け取り、前記受け取った蛍光放射線の検出に応答して1つ以上の蛍光検出信号を生成するために、キャピラリーチューブの透明部分に光学的に結合された検出器をさらに備えていることができる。いくつかの関連する態様において、分析器は、検出信号を受信し、検出信号を処理して前記試料中の前記標的タンパク質の濃度を得るために、検出器と通信することができる。例えば、分析器は、前記蛍光放射線の強度に基づいて標的タンパク質の濃度を決定するように構成されることができる。いくつかの態様において、光学素子が、蛍光放射線を検出器の上に向かわせるために設けられることができ、随時、光学素子は、蛍光放射線を検出器の上に集中させるためのレンズを備えていることができ、さらに随時、フィルタが、励起放射線をフィルタリング除去するために、検出器の前に配置されることができる。
【0015】
様々な態様において、光学系は、近位端から遠位端まで延びている光ファイバを備えていることができ、光ファイバの近位端は、光源によって放出された放射線の少なくとも一部を受け取るために光源に光学的に結合される。いくつかの関連する態様において、システムは、光源から放出された放射線を光ファイバの近位端に透過するために光源と光ファイバの近位端との間に配置された1つ以上のレンズをさらに備えていることができ、随時、いくつかの態様において、1つ以上のレンズは、光ファイバの近位端上にLEDの放射面を結像するためにタンデムに設置された2つの収束レンズを備えていることができる。いくつかの追加の関連する態様において、システムは、放射線の少なくとも一部を受け取り、試料を照射するための励起波長を選択するために、2つの収束レンズの間に配置された光学フィルタをさらに備えていることができる。例えば、光学フィルタは、随時、光学バンドパスまたはショートパスフィルタを備えていることができ、さらに随時、光学バンドパスまたはショートパスフィルタは、約270nm~約290nmの範囲の透過帯域幅を示すことができる。
【0016】
一態様において、放射線を生成するためのレーザー駆動光源と、試料中の少なくとも1つの標的タンパク質を照射するために、目的の試料が流れることができるキャピラリー電気泳動システムのキャピラリーチューブ上に放射線を導くための光学系とを含む試料中の標的タンパク質の濃度を決定するためのシステムが開示され、放射線源によって生成された放射線は、試料中の少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの励起波長を備えている。
【0017】
いくつかの実施形態において、レーザー駆動光源によって生成された放射線は、励起波長を含む連続スペクトル範囲にわたって延びている波長を含む。いくつかのそのような実施形態において、連続スペクトル範囲は、約170nm~約2100nmに及ぶことができる。
【0018】
システムは、光源によって生成された放射線の少なくとも一部を受け取り、試料を照射するための励起波長を選択するために、レーザー駆動光源に対して配置された光学フィルタをさらに含むことができる。いくつかの実施形態において、光学フィルタは光学バンドパスフィルタであり得る。いくつかのそのような実施形態において、光学バンドパスフィルタは、励起波長を中心にし得る約5nm~約50nmの範囲の透過帯域幅を示す。
【0019】
キャピラリーチューブは、放射線透過部分(本明細書では透明または放射線透明部分とも呼ばれる)、例えば、ガラスまたは他の適切な材料で作製された部分を含むことができ、それを通して、励起放射線は、キャピラリーチューブに導入され、少なくとも1つの目的の標的タンパク質を励起することができ、それを通して、励起されたタンパク質によって放出された蛍光放射線は、キャピラリーチューブを出、下流の検出器によって検出されることができる。より具体的に、検出器は、蛍光放射線の少なくとも一部を受け取り、受け取った蛍光放射線の検出に応答して1つ以上の検出信号を生成するために、キャピラリーチューブの放射透過部分の裏面に光学的に結合することができる。
【0020】
いくつかの実施形態において、光学部品、例えば球面ミラーが、キャピラリーチューブ(すなわち、励起光を受ける部分)の前部(本明細書では「前窓」とも呼ばれる)を通って出る蛍光放射線の少なくとも一部を捕捉し、捕捉された放射線またはその少なくとも一部を反射してキャピラリーチューブに戻すために、キャピラリーチューブの透明部分に光学的に結合され、それによって、反射された放射線またはその少なくとも一部は、キャピラリーチューブの裏面を通って出、検出器によって検出される。いくつかのそのような実施形態において、球面ミラーは、曲率半径を有することができ、球面ミラーによって反射された放射線がキャピラリーチューブの中央部分に位置する焦点に集中させられるように、キャピラリーチューブの透明部分に対して位置することができる。次いで、戻された蛍光放射線は、その焦点から発散してキャピラリーチューブを出ることができる。
【0021】
検出器と通信する分析器は、検出器によって生成された検出信号を受信することができ、検出信号を処理して試料中の標的タンパク質の濃度を計算することができる。例として、分析器は、検出された蛍光放射線の強度に基づいて標的タンパク質の濃度を計算するように構成されることができる。
【0022】
上述したように、レーザー駆動放射線源は、連続スペクトル範囲にわたる波長を有する放射線(本明細書では、放射線の波長は真空波長を指す)を生成することができる。これは、目的の標的タンパク質を励起するために、源によって放出される放射線のスペクトル範囲に存在する波長の中からの所望の励起波長の選択を可能にする。いくつかの実施形態において、異なる透過帯域幅を示す複数の光学フィルタが取り付けられたデバイス、例えばフィルタホイールが、異なる励起波長を選択するために、例えば異なる標的タンパク質を検出するために励起放射線の経路に配置された光学フィルタを切り替えるために使用されることができる。いくつかの実施形態において、励起波長は、例えば、約200~約300nmの範囲内であり得る。
【0023】
いくつかの実施形態において、近位端から遠位端まで延びている光ファイバは、光ファイバがその近位端を介してフィルタを通過する励起放射線の少なくとも一部を受け取り、受け取った放射線の少なくとも一部をその遠位端を介してキャピラリーチューブ上に透過して、試料中に存在するか、または試料中に存在すると疑われる少なくとも1つの標的タンパク質を励起するように、光学フィルタおよびキャピラリーチューブに対して配置される。
【0024】
いくつかの実施形態において、励起放射線の少なくとも一部を光ファイバの近位端に向かわせるように構成された光学系は、放射線を光ファイバに集中させるための1つ以上のレンズを含むことができる。いくつかの実施形態において、そのようなレンズは、タンデムに設置された2つの収束レンズを含むことができる。例えば、2つのレンズは、第1のレンズが入射放射線を実質的にコリメートし、第2のレンズが実質的にコリメートされた放射線を光ファイバの近位端に集中させるように構成されることができる。いくつかのそのような実施形態において、光学フィルタが、目的の励起波長を選択するために、2つのレンズの間に配置されることができる。
【0025】
いくつかの実施形態において、そのようなレンズのf数は、光ファイバ(すなわち、光ファイバの近位端)上に集中させられる放射線に関連する収束角が光ファイバの開口数に実質的に等いように選択されることができる。
【0026】
いくつかの実施形態において、システムは、放射線の少なくとも一部を受け取り、試料を照射するための励起波長を選択するために、第1のレンズと第2のレンズとの間に配置された光学フィルタをさらに含むことができる。いくつかのそのような実施形態において、光学フィルタは、光学バンドパスまたはショートパスフィルタを含む。例として、光学バンドパスまたはショートパスフィルタは、約200nm~約300nmの範囲の透過帯域幅を示すことができる。
【0027】
いくつかの実施形態において、レーザー駆動光源は、約0.5~約200mW/mm.sr.nmの範囲の放射輝度を有する放射線を生成することができる。例として、いくつかのそのような実施形態において、約200nm~約300nmの真空波長範囲内の放出された放射線の放射輝度は、5~約200mW/mm.sr.nmの範囲内であることができる。
【0028】
いくつかの実施形態において、キャピラリーチューブは、約10μm~約200μmの範囲、例えば約20μm~約100μmの範囲の内径を有することができる。
【0029】
関連する態様において、キャピラリー電気泳動(CE)システムにおける試料のタンパク質分析のための方法が開示され、方法は、CEシステムのキャピラリーチューブを通して試料を流すことと、試料中の少なくとも1つの標的タンパク質を励起するために適した少なくとも1つの波長を含むスペクトル範囲にわたって広がる波長を有する放射線を生成するためにレーザー駆動光源を利用することと、励起波長を選択するために放射線をスペクトルフィルタリングすることにより、レーザー駆動放射線源によって生成された放射線のスペクトル範囲より狭く、少なくとも1つの目的の標的タンパク質を励起するために適した少なくとも1つの励起波長を含むスペクトル帯域幅を有する励起ビームを生成することとを含む。励起ビームは、蛍光体に蛍光放射線を生成させ、励起された標的タンパク質によって放出された蛍光放射線の少なくとも一部を検出するために、キャピラリーチューブの透明部分の管腔を通過する標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するように、キャピラリー電気泳動システムのキャピラリーチューブに、その透明部分を介して(例えば、放射線透過窓を介して)向かわせられる。
【0030】
放出された蛍光放射線は、キャピラリーチューブを出る蛍光放射線の少なくとも一部は、例えば、その透明部分を介して(例えば、放射線透過窓を介して)、蛍光放射線の検出に応答して1つ以上の検出信号を生成する検出器上に向けられることによって検出されることができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、複数の異なるタンパク質によって放出された蛍光放射線は、電場の影響下で、キャピラリーチューブの入口からチューブの透明部分までのそれらのタンパク質の移動時間の関数として検出される。いくつかのそのような実施形態において、キャピラリーチューブの入口とその透明部分との間の距離は、例えば、励起放射線を介した調査のために目的の異なるタンパク質を分離することにおいてより良好な分解能を可能にするように、例えば約5cm~約100cmの近接範囲内であることができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、レーザー駆動放射線源によって放出された放射線は、放射線に存在する波長のスペクトル範囲を狭くし、その一方、この狭いスペクトル範囲が目的の励起波長を確実に含むようにするために、放射線を光学フィルタ、例えば光学バンドパスまたはショートパスフィルタに通すことによってスペクトルフィルタリングされることができる。
【0033】
励起されたタンパク質によって放出された蛍光放射線は、研究中の試料中のタンパク質の濃度を決定するために分析されることができる。例えば、目的のタンパク質の濃度は、検出された蛍光放射線の強度および/または蛍光ピークの下の面積に基づいて決定されることができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、上記の試料分析方法では、光ファイバが、励起放射線をキャピラリーチューブに(すなわち、キャピラリーチューブの透明部分の上に)向かわせるために利用される。そのような実施形態において、励起放射線は、光ファイバの近位端に結合することができる。光ファイバは、受け取った放射線をその遠位端に透過することができる。光ファイバの遠位端は、キャピラリーチューブの透明部分に光学的に結合され、それによって、光ファイバの遠位端を出る放射線の少なくとも一部は、チューブの透明部分の管腔を通って流れる少なくとも1つのタンパク質を励起するために、キャピラリーチューブにその透明部分を介して導入され得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、レーザー駆動光源によって放出される放射線のスペクトル範囲は、例えば、約170nm~約2100nmに及ぶことができる。さらに、いくつかの実施形態において、1つ以上の標的タンパク質を励起するための励起波長は、約200nm~約300nmに及ぶことができる。
【0036】
関連する態様において、試料中の標的タンパク質の濃度を決定するためのシステムが開示され、システムは、放射線を生成するためのLED光源と;近位端から遠位端まで延びている光ファイバであって、光ファイバの近位端はLED光源によって放出された放射線の少なくとも一部を受け取るためにLED光源に光学的に結合される、光ファイバと;目的の試料が流れるキャピラリー電気泳動システムのキャピラリーチューブであって、光ファイバの遠位端は、キャピラリーチューブを通って流れる試料中の少なくとも1つの標的タンパク質を照射するためにキャピラリーチューブの一部と光学的に結合する、キャピラリーチューブとを含む。LED光源によって生成された放射線は、試料中の少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの励起波長を含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、LED光源によって生成された放射線は、電磁スペクトルのUV範囲内の実質的に単色の波長を有する。例として、実質的に単色の波長は約285nmであり得る。
【0038】
いくつかの実施形態において、LED光源は、約50μW~約10mWの範囲の光出力を提供する。
【0039】
いくつかの実施形態において、キャピラリーチューブは、放射線透明部分を備え、放射線透明部分を通して、励起放射線をキャピラリーチューブに導入することができ、かつ励起放射線に応答して標的タンパク質によって生成された蛍光放射線の少なくとも一部が、キャピラリーチューブを出ることができる。
【0040】
いくつかの実施形態において、システムは、蛍光放射線の少なくとも一部を受け取り、受け取った蛍光放射線の検出に応答して1つ以上の蛍光検出信号を生成するために、キャピラリーチューブの透明部分に光学的に結合された検出器をさらに含むことができる。いくつかのそのような実施形態において、光学素子が、蛍光放射線を検出器に向かわせるためにさらに含まれることができる。いくつかのそのような実施形態において、光学素子は、蛍光放射線を検出器の上に集中させるためのレンズを備えている。いくつかの実施形態において、フィルタが、励起放射線をフィルタリング除去するために検出器の前に配置されることができる。
【0041】
システムは、LED光源から放出された放射線を光ファイバの近位端に透過するためにLED光源と光ファイバの近位端との間に配置された光学系をさらに含むことができる。いくつかのそのような実施形態において、光学系は、放射線を光ファイバの近位端に透過するための1つ以上のレンズを備えている。1つ以上のレンズは、LEDの放出面を光ファイバの近位端に結像するようにタンデムに設置された2つの収束レンズを含むことができる。いくつかの実施形態において、1つ以上のレンズは、第1のレンズおよび第2のレンズを含み、第1のレンズは、LED光源によって生成された放射線を実質的にコリメートするようにLED光源に対して構成および配置され、第2のレンズは、コリメートされた放射線を光ファイバの近位端に集中させるように第1のレンズに対して構成および配置される。
【0042】
いくつかの実施形態において、光学フィルタは、放射線の少なくとも一部を受け取り、試料を照射するための励起波長を選択するために、第1のレンズと第2のレンズとの間に配置されることができる。いくつかの実施形態において、光学フィルタは、光学バンドパスまたはショートパスフィルタを備えている。例として、光学バンドパスまたはショートパスフィルタは、約270nm~約290nmの範囲の透過帯域幅を示すことができる。
【0043】
本教示の様々な態様に従って、キャピラリー電気泳動(CE)システムでタンパク質分析を実行する方法が開示される。例えば、タンパク質分析のための方法は、CEシステムのキャピラリーチューブを通して試料を流すことと、試料中の少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの励起波長を含む放射線を生成するための光源を利用することとを含み得る。少なくとも1つの励起波長を含む励起ビームは、透明部分の管腔を通過する標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起して、少なくとも1つの天然蛍光体に蛍光放射線を生成するように、CEシステムのキャピラリーチューブの透明部分に向かわせられることができる。励起された標的タンパク質によって放出された蛍光放射線の少なくとも一部が、検出されることができる。
【0044】
本教示に従って様々な光源を使用することができる。例えば、いくつかの態様において、光源は、少なくとも1つの発光ダイオードを備えていることができる。代替的に、いくつかの態様において、光源は、レーザー駆動光源を備えていることができる。様々な態様において、光源は、スペクトル範囲にわたる波長を有する放射線を生成することができ、励起ビームは、放射線のスペクトル範囲より狭いスペクトル帯域幅を示すことができる。いくつかの関連する態様において、方法は、励起ビームを生成するために放射線をスペクトルフィルタリングすることをさらに含むことができる。例えば、光学バンドパスまたはショートパスフィルタが、放射線をスペクトルフィルタリングするために利用されることができる。いくつかの関連する態様において、光学バンドパスまたはショートパスフィルタは、約200nm~約300nmの範囲の透過帯域幅を示すことができる。
【0045】
様々な態様において、標的タンパク質は抗体を備え得る。
【0046】
様々な態様において、少なくとも1つの励起波長は、約285nmであり得る。追加的または代替的に、いくつかの態様において、方法は、励起ビーム内に含まれる少なくとも1つの励起波長を調整することを含むことができる。
【0047】
特定の態様において、本教示による方法は、蛍光放射線を検出器の上に集中させるためのレンズを利用することができる。いくつかの関連する態様において、方法は、検出器から励起波長をフィルタリングすることをさらに含むことができる。
【0048】
本教示の様々な態様のさらなる理解は、以下で簡単に説明される関連する図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1A図1Aは、CEシステムにおけるタンパク質のNFD定量化のための一実施形態によるシステムの一例を概略的に示す。
【0050】
図1B図1Bは、図1Aに示すキャピラリーチューブの断面図を概略的に示しており、キャピラリーチューブに印加された高電圧が、チューブの管腔に沿って電界を生成し、電界がチューブの入口から出口へのタンパク質の移動を引き起こすことを示している。
【0051】
図1C図1Cは、放射線源によって放出される放射線および/または蛍光放射線の経路に配置された光学フィルタを変更することを可能にするために、異なる透過帯域幅を有する複数の光学フィルタを取り付けることができるフィルタホイールを概略的に示す。
【0052】
図2図2は、一実施形態によるNFDシステムの一例の信号対雑音比を示すデータを検出器としてシステムで用いられるPMTに印加されるバイアス電圧の関数として提示する。
【0053】
図3A図3Aは、励起波長280nmにおけるNFDを伴う還元型SCIEX IgG対照標準のCE-SDS分離に対応するデータを提示する。
【0054】
図3B図3Bは、励起波長220nmにおけるNFDを伴う還元型SCIEX IgG対照標準のCE-SDS分離に対応するデータを提示する。
【0055】
図4A図4Aは、214nmおよび280nmでのUV吸光度検出を使用する非還元型SCIEX IgG対照標準のCE-SDS分離を使用して得られたUV吸光度データを提示する。
【0056】
図4B図4Bは、非還元型SCIEX IgG対照標準のCE-SDS分離を使用して得られたNFDデータを提示する。
【0057】
図5A図5Aは、280nmでのNIST IgGのcIEF分離を使用するUV吸光度検出データを提示する。
【0058】
図5B図5Bは、280nmでのNIST IgGのcIEF分離を使用するNFDデータを提示する。
【0059】
図6A図6Aは、CEシステムにおけるタンパク質のNFD定量化のための別の実施形態によるシステムの一例を概略的に示す。
【0060】
図6B図6Bは、CEシステムにおけるタンパク質のNFD定量化のためのさらに別の実施形態によるシステムの一例を概略的に示す。
【0061】
図7図7は、励起源として直接LED(A)とフィルタリングされたLED(B)とを使用するNFDを用いた還元型IgG対照標準のSDS-CGE分離を提示する。
【0062】
図8図8Aおよび8Bは、信号対雑音に対するPMT制御電圧の効果を提示する。
【0063】
図9図9A-Dは、試料注入時間、SDS-CGEの検出感度および分離効率の効果を提示する。
【0064】
図10図10Aおよび10Bは、非還元型NISTmAbの分析のためのNFDを伴うSDS-CGEの線形性を提示する。
【0065】
図11図11Aおよび11Bは、NFDに対するUV吸光度を用いたSDS-CGEにおけるエタネルセプトの定量化および純度分析を提示する。
【発明を実施するための形態】
【0066】
本開示は、深UVレーザーを必要とせずに、様々な試料の電気泳動分析におけるタンパク質定量化に使用することができるシステムおよび方法に関する。以下でより詳細に説明するように、多くの実施形態において、本教示によるシステムおよび方法は、214nmでの現在のUV吸光度検出技術によって示される感度より少なくとも10倍高い感度でNFDを実行することを可能にする。さらに、本教示のシステムおよび方法は、励起波長を調整することを可能にし、それは、特定の標的タンパク質のための励起波長を最適化することができる。したがって、高感度に加えて、多くの実施形態において、本教示によるシステムおよび方法は、励起波長の柔軟な選択を可能にする。例えば、多くの実施形態において、励起波長は、検出感度を低下させることなく、バンドパスまたはショートパスフィルタを異なるフィルタまたはモノクロメータに置き換えることによって調整されることができる。例として、励起波長を調整する能力は、量子収率を最適化するために有利に使用されることができるか、または、波長分解能型蛍光検出を実行するために使用されることができる。
【0067】
本明細書では、様々な用語が、当技術分野におけるそれらの通常の意味に従って使用される。本明細書で使用される「レーザー駆動光源」という用語は、連続スペクトル領域に及ぶ波長を有する放射線(例えば、約200nm~約300nmの範囲の波長を有する深UV放射線)を生成するために、ガスプラズマを高温に加熱するためのレーザー放射線を提供するレーザーを含む放射線源を指す。
【0068】
本明細書で使用される「約」という用語は、数値の周りで最大10%の変動を示すことを意図している。
【0069】
本明細書で使用される「実質的に」という用語は、存在する場合、最大で10%、または最大で5%の完全な状態および/または条件からの逸脱を示す。
【0070】
「光」および「放射線」という用語は、本明細書では、可視光だけでなく、より一般的に、電磁スペクトルの他の領域の放射線(UV放射線を含む)を指すために互換的に使用される。
【0071】
本明細書で使用される「放射輝度」という用語は、放射線源の単位面積によって所与の方向に単位立体角当たりに放出される放射線束として定義される。
【0072】
「透明」、「放射線透過性」という用語および同様の用語は、本明細書では、材料構造を通って入射する放射線の少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%または100%の通過を可能にする材料構造(例えばCEキャピラリーチューブの壁)の特性を示すために使用される。
【0073】
図1Aおよび図1Bを参照すると、CEシステムのキャピラリーチューブを通って流れる試料中の1つ以上の標的タンパク質をレーザー誘起蛍光測定によって定量化するための本教示の一実施形態によるシステム100は、約170nm~約2100nmに及ぶスペクトル真空波長範囲にわたって放射線を放出することができる放射線源1を含む。この実施形態において、放射線源は、約200nm~約300nmの範囲にわたる真空波長を有する放射線を放出することができ、この範囲にわたる放射輝度は、この範囲にわたる従来のUVランプによって示される放射輝度より少なくとも10倍高い。例として、放射線源1は、約200nm~約300nmのスペクトル波長範囲にわたって、約5~200mW/mm.sr.nmの範囲の放射輝度で放射線を放出することができる。例として、いくつかの実施形態において、LDLS(登録商標)の商標名でマサチューセッツ州ウィルミントンのEnergetiq Technology,Inc.によって販売されている放射線源が、使用することができ、それは、レーザーを使用してキセノンプラズマを深UV放射線の生成に必要な高温に直接加熱する。
【0074】
本明細書でさらに説明するように、そのような放射線源は、CEシステムでタンパク質のNFD分析を実行することにおいて特に有用であり得ることが発見された。
【0075】
この実施形態において、放射線源1によって放出された放射線は、平凸レンズ2によって受け取られ、平凸レンズ2は、その焦点距離だけ放射線源から分離され、放射線を実質的にコリメートする。以下にさらに説明するように、バンドパスまたはショートパスフィルタ3は、研究中の試料に含まれるか、または試料に含まれると疑われる少なくとも1つの標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起するために適した少なくとも1つの波長を含む放射線帯域幅を有する励起ビームを生成するように、放出された放射線のスペクトル範囲の一部を選択する。この実施形態において、光学フィルタ3はレンズ2とレンズ4との間に設置されているが、他の実施形態において、光学フィルタは、キャピラリー内の試料への放射線の伝播経路に沿って他の位置に設置され得る。
【0076】
別の平凸レンズ4が、フィルタリングされた放射線を光ファイバ5の近位端(PE)に集中させる。この実施形態において、レンズ2および4のf数は、光ファイバ5の近位端に集中させられる光が光ファイバへの放射線の結合を最適化するように光ファイバの開口数に実質的に等しい収束角を有するように、選択される。
【0077】
光ファイバ5は、受け取った放射線をその近位端(PE)からその遠位端(DE)に透過する。光ファイバの遠位端(DE)は、キャピラリーチューブ7の透明部分7a、すなわち試料が流れることができるキャピラリーチューブの透明壁を有する部分に光学的に結合されている。透明部分7aは、窓を提供し、光ファイバ5の遠位端から出る励起放射線は、その窓を通してキャピラリーチューブ7に導入され、試料がキャピラリーチューブの透明部分の管腔を通って流れているとき、少なくとも1つの標的タンパク質(試料中に存在する場合)を励起することができる。言い換えると、キャピラリーチューブの透明壁の前部、すなわち光ファイバの遠位端に面する部分は、励起放射線がキャピラリーチューブに入ることができる窓として機能することができる。
【0078】
励起放射線による照射に応答して、標的タンパク質の1つ以上の天然蛍光体は、蛍光放射線を放出することができる。タンパク質の天然蛍光は、3つのアミノ酸:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンの励起に由来する。フェニルアラニンに関連付けられた蛍光放出強度は、チロシンまたはトリプトファンの蛍光放出強度の約50分の1であり、タンパク質の天然蛍光検出では一般に無視できることが知られている。ほとんどのタンパク質では、天然蛍光は主にトリプトファン残基による蛍光に起因するが、いくつかのタンパク質はチロシン蛍光を示し得る。
【0079】
局所環境に敏感であるが、トリプトファンの発光ピークは、典型的に350nm付近である。いくつかの実施形態において、フィルタ3は、標的タンパク質中のトリプトファンアミノ酸を励起するために280nmの波長を有する放射線を通過させるように構成することができる。いくつかのそのような実施形態において、励起されたトリプトファンアミノ酸によって放出された蛍光放射線は、研究中の試料中の標的タンパク質の濃度を決定するために、例えば以下に説明する方法で、収集され、分析されることができる。
【0080】
より具体的に、引き続き図1Aを参照すると、この実施形態において、放出された蛍光放射線は、キャピラリーチューブの透明部分7aの壁を通ってキャピラリーチューブから出ることができる。放出された蛍光放射線の一部は、透明部分7aの後部7aaを介してキャピラリーチューブを出る一方、蛍光放射線の一部は、透明部分7aの前部7bbを介してキャピラリーチューブを出る。
【0081】
この実施形態において、キャピラリーチューブ7の透明部分7aの近くに配置された球面ミラー6が、キャピラリーチューブを出る蛍光放射線の少なくとも一部を捕捉し、捕捉した蛍光放射線(またはその少なくとも一部)を反射してキャピラリーチューブに戻し、それによって、反射された蛍光放射線(またはその少なくとも一部)は、透明部分7aの後部7aaを通って出る。
【0082】
平凸レンズ8が、キャピラリーチューブ7の透明部分7aに光学的に結合され、キャピラリーチューブを出る蛍光放射線(またはその少なくとも一部)を受け取り、蛍光放射線をコリメートして実質的にコリメートされた蛍光放射ビーム11を生成する。蛍光放射ビーム11はバンドパスフィルタ9を通過し、検出器10によって受け取られる。
【0083】
例として、バンドパスフィルタは、蛍光放射線の透過を可能にし、その一方、他の波長の放射線の通過を遮断し、または低減させる。例として、いくつかの実施形態において、バンドパスフィルタは、励起された標的タンパク質によって放出された蛍光放射線がその最大強度を示す波長に中心を置かれた透過帯域幅を有することができ、例えば、約5nm~約50nmに及ぶ透過帯域幅を有することができる。
【0084】
この実施形態において、検出器10は、光電子増倍管、例えば、Hamamatsuによって市販されている光電子増倍管(R5984)である。検出器10は、蛍光放射線の検出に応答して、1つ以上の検出信号を生成する。分析器20(本明細書では分析モジュールとも呼ばれる)は、検出器10によって生成された検出信号を受信し、調査中の試料中の目的の標的タンパク質の濃度を計算するために、それらの信号に基づいて動作する。分析器20は、本教示によって知らされるような当技術分野で公知の方法でソフトウェア/ファームウェア/ハードウェアにおいて実装されることができる。いくつかの実施形態において、蛍光データの分析のための命令は、分析器の永続メモリに記憶されることができ、分析器のプロセッサによる実行中、実行されるように一過性メモリモジュールに転送されることができる。
【0085】
例として、特定の濃度範囲(「線形ダイナミックレンジ」)では、タンパク質濃度はタンパク質UV吸光度ピークの面積に比例する。ある場合、例えば、較正曲線をが、5つ以上の異なる濃度のタンパク質を用いて、その範囲わたって確立されることができる。次いで、標的タンパク質の濃度は、UV吸光度ピーク面積および較正曲線を使用して計算されることができる。
【0086】
本教示は、トリプトファン残基の励起を介して標的タンパク質の濃度を決定することに限定されないことを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態において、例えば標的タンパク質が適切な濃度のトリプトファン残基を欠く場合、システムの励起波長は、チロシン蛍光を検出するように調整されることができる。
【0087】
特に図1Bを参照すると、高電圧源30は、キャピラリーチューブ7の両端に高電圧を印加してキャピラリーチューブを通る電界を生成し、次いで、電界は、調査中の試料中に存在する異なるタンパク質に(例えばそれらの移動度の差に起因して)異なる速度でチューブを通って移動させることができる。タンパク質の移動度の差は、それらの電荷の差に少なくとも部分的に起因し得る。結果として、キャピラリーチューブ7の入口7bからキャピラリーチューブ7に導入された標的タンパク質を含む試料が電界の影響を受けて出口7cに流れると、異なるタンパク質は、移動度の違いにより、キャピラリーチューブの透明部分に異なるタイミングで到達する。次いで、各標的タンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体の励起は、例えば本明細書で説明する方法で、NFDを介したそのタンパク質の定量化を可能にすることにより、試料中の様々なタンパク質の定量化を可能にする。
【0088】
図1Cに概略的に示すように、いくつかの実施形態において、複数の異なる光学フィルタ31、32、33、および34を含むカートリッジ30が、放出された放射線の経路に設置されることができ、各光学フィルタは、異なる光学バンドパスを示す。カートリッジは、複数の標的タンパク質の異なる蛍光体を励起するための異なる励起波長の選択を可能にする。同様に、複数の光学フィルタを含むカートリッジは、異なる波長の蛍光放射線を検出することを可能にするために、検出器10の前に設置されることができる。
【0089】
いくつかの実施形態において、内部標準が、試料中に存在する1つ以上の標的タンパク質の正確な定量化のための較正物質として機能するように試料に添加されることができる。適切な内部標準のいくつかの例は、限定されないが、既知の分子量を有するペプチドおよびタンパク質を含む。
【0090】
本教示は、様々なタイプのタンパク質の検出および定量化に使用されることができる。例として、いくつかの実施形態において、タンパク質は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの抗体であり得るが、本教示は、試料中の他のタンパク質の濃度を定量化するためにも使用されることができる。
【0091】
以下、タンパク質のNFD定量化のためのシステムのいくつかの他の実施形態が、図6Aおよび図6Bを参照して説明される。より詳細に、これらの実施形態は、光源として発光ダイオード(LED)を利用する。
【0092】
図6Aを参照すると、CEシステムのキャピラリーチューブを通って流れる試料中の1つ以上の標的タンパク質を定量化するための本教示の別の実施形態によるシステム600は、約190nm~約310nm(例えば、約285nm)の真空波長範囲で実質的に単色の放射線を放出することができる発光ダイオード(LED)放射線源601を含む。この実施形態において、LED放射線源は、図1Aに関して説明したレーザー光源より著しく狭い波長範囲を放出することができる。例として、いくつかの実施形態において、ニュージャージー州ニュートンのThorlabs,Inc.によって商品名M280L6で市販されているLEDが、使用されることができる。いくつかの実施形態において、LED光源601は、一般に市販のCEシステムに含まれるDC電源によって給電されることができる。したがって、システムの電力効率は、専用の電源を通常は必要とするレーザーベースのシステムより改善されることができる。
【0093】
LED放射線源601は、例えば突き合わせ結合技術を介して光ファイバ605の近位端に直接結合されることができる。その後、図1Aに示す実施形態と同様、光ファイバ605の遠位端は、キャピラリーチューブ607の透明部分607a、例えば、試料が流れることができるキャピラリーチューブ607の透明壁を有する部分に光学的に結合される。透明部分607aは、窓を提供し、光ファイバ605の遠位端から出る励起放射線は、その窓を通ってキャピラリーチューブ607に導入され、試料がキャピラリーチューブ607の透明部分の管腔を通って流れているとき、少なくとも1つの標的タンパク質(試料中に存在する場合)を励起することができる。
【0094】
いくつかの実施形態において、球面ミラー606が、キャピラリーチューブを出る蛍光放射線の少なくとも一部を捕捉し、捕捉した蛍光放射線(またはその少なくとも一部)を反射してキャピラリーチューブ607に戻すために、キャピラリーチューブ607の透明部分607aの近くに配置され、それによって、反射された蛍光放射線(またはその少なくとも一部)は、透明部分607aの後部を通って出る。
【0095】
平凸レンズ608が、キャピラリーチューブ607の透明部分607aに光学的に結合され、キャピラリーチューブ607(またはその少なくとも一部)を出る蛍光放射線を受け取り、蛍光放射線をコリメートして実質的にコリメートされた蛍光放射ビーム611を生成する。蛍光放射ビーム611は、バンドパスフィルタ609を通過し、検出器610によって受け取られる。
【0096】
図6Bに示すいくつかの実施形態において、バンドパスフィルタ609は、励起された標的タンパク質によって放出された蛍光放射線がその最大強度を示す波長に中心を置かれた透過帯域幅を有することができ、例えば、約5nm~約50nmに及ぶ透過帯域幅を有することができる。
【0097】
検出器610は、光電子増倍管、例えば、Hamamatsuによって市販されている光電子増倍管(R5984)として実装されることができる。検出器610は、蛍光放射線の検出に応答して、1つ以上の検出信号を生成することができる。分析器620(本明細書では分析モジュールとも呼ばれる)は、検出器610によって生成された検出信号を受信し、調査中の試料中の目的の標的タンパク質の濃度を計算するために、それらの信号に基づいて動作する。
【0098】
いくつかの関連する実施形態において、フィルタ(例えば、バンドパスフィルタ)603が、LED放射線源601から放出される放射線の波長をより正確に制限するために、LED放射線源601の前に配置されることができる。いくつかのそのような実施形態において、例えば、280nmバンドパスフィルタが、使用されることができる。いくつかのそのような実施形態において、バンドパスフィルタ603は、約270nm~約290nmの範囲内の透過帯域(例えば、>65%)を有することができる。そのような実施形態において、図6Bに示すように、LED放射線源601によって放出された放射線は、平凸レンズ602によって受け取られ、平凸レンズ602は、その焦点距離だけLED放射線源から分離され、放射線を実質的にコリメートする。
【0099】
バンドパスフィルタ603またはショートパスフィルタは、約300nmを超える波長の残留発光を排除する。別の平凸レンズ604が、フィルタリングされた放射線を光ファイバ605の近位端に集中させる。この実施形態において、バンドパスフィルタ603はレンズ602とレンズ604との間に設置されているが、他の実施形態において、バンドパスフィルタ603は、キャピラリーチューブ607内を流れる試料への放射線の伝播経路に沿った他の位置に設置され得る。
【0100】
図6Bに示す実施形態において、球面ミラー606、平凸レンズ608、バンドパスフィルタ609、検出器610、および分析器620は、同様に配置されることができ、試料内の少なくとも1つのタンパク質の少なくとも1つの天然蛍光体を励起し、その励起に応答して蛍光体によって放出された蛍光放射線を収集および分析するために、上述の実施形態と同様に機能することができる。
【0101】
以下の実施例は、本教示の様々な態様のさらなる例示のために提供され、本教示を実施する最適な方法および/または得られ得る最適な結果を必ずしも示すために提示されていない。
【0102】
(実施例1:レーザー駆動光源の使用)
マサチューセッツ州ウィルミントンのEnergetiq Technology,Incによって開発されたレーザー駆動光源(LDLS(登録商標))が、CEシステム内のいくつかのタンパク質の天然蛍光体を励起するために使用された。LDLS(登録商標)は、キセノンガス中に高強度プラズマを生成し、高強度プラズマは、170~2100nmの範囲の連続スペクトルにわたって放射線を生成する。200~300nmの領域では、生成された放射線の放射輝度は、従来のランプの放射輝度の約10倍であり、報告されている典型的な寿命は、約10,000時間である。連続スペクトルは、励起波長の選択においてレーザーより大きな柔軟性を可能にする。
【0103】
励起波長は、バンドパスフィルタを使用して選択され、バンドパスフィルタは、フィルタホイールに取り付けられ、異なるフィルタの交換可能な選択を可能にした。光電子増倍管(PMT)が、検出器として使用された。標準として200ng/mLのトリプトファン溶液を使用して、280nmの励起および333nm~375nmの発光で、信号対雑音比に対するPMTバイアス電圧の効果が、調査された。10kDa内部標準および還元型IgG1の固有蛍光に対するトリプトファンおよびチロシン残基の寄与は、励起波長および発光波長を調整することによって調査された。
【0104】
開発されたNFDシステムは、CE-SDSおよびcIEF中のモノクローナル抗体(mAb)の分析に成功裏に適用された。CE-SDSでは、NFDは、214nmでのUV吸光度検出と比較して濃度感度の15倍の改善を示した。さらに、検出データは、ベースライン変動または他の吸光種による干渉が少ないことを示した。cIEFでは、NFDは、おそらくUV感受性両性担体細胞のバックグラウンドの減少に起因して、280nmでのUV吸光度検出より178倍高い感度を示した。
【0105】
(試薬および材料)
SDS-MW分析キット、10kDa内部標準、IgG対照標準、cIEFペプチドマーカーキット、試料充填溶液、cIEFゲルは、SCIEX(カリフォルニア州ブレア)より入手された。トリプトファン(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)およびIgG対照標準(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)が、光学部品を評価し、NFDプロトタイプのパラメータを最適化するために使用された。USPモノクローナルIgGシステム適合参照標準(USP IgG)が、米国薬局方(メリーランド州ロックビル)から入手された。NISTmAb、ヒト化IgG1モノクローナル抗体(NIST IgG)は、米国国立標準技術研究所(メリーランド州ゲーサーズバーグ)から購入された。Pharmalyte 3-10が、Cytiva(マサチューセッツ州マルボロー)から入手された。他のすべての化学物質は、Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手された。
【0106】
(CE-SDS条件)
還元型IgG標準混合物は、96μLのSCIEX IgG対照標準溶液、2μLの10kDa内部標準、および2μLの2-メルカプトエタノールを混合することによって調製された。次いで、後続の溶液が、非共有結合種の解離およびSDS-タンパク質の結合を促進するために、70℃で10分間加熱された。非還元型SCIEX IgG対照標準も、使用前に70℃で10分間加熱された。
【0107】
すべてのCE-SDS分離は、内径50μm、外径375μmおよび全長/有効長30/20cmの裸の溶融シリカキャピラリー(Polymicro Technologies、アリゾナ州フェニックス)を使用して実行された。各分離の前、キャピラリーが、0.1M水酸化ナトリウム、0.1M塩酸、およびDI水を用いて、50psiで、それぞれ、5、3、および3分間連続して洗い落とされた。SDS-MWゲル緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)が、50psiで10分間キャピラリーに充填された。界面動電注入が、-5kVで10秒間実行された。分離が、気泡を形成するリスクを低減するために、20psiの圧力をかけて-15kVの電圧を印加することによって実施された。
【0108】
(cIEF条件)
cIEFマスターミックスが、以下の溶液を組み合わせることによって、調製された:(1)1mLのcIEFゲル中3.75Mの尿素;(2)60μLのPharmalyte 3-10;(3)100μLのDI水中500mMアルギニン;(4)10μLのDI水中200mMイミノ二酢酸。NIST IgG標準混合物が、200μLのcIEFマスターミックス、8μLの4mg/mLのNIST IgG、および2μLの各pIマーカー(10.0、7.0、9.5、5.5)を組み合わせることによって、UV吸光度検出のために調製された。NIST IgG試料が、cIEFマスターミックスで150倍希釈することによってNFDのために調製された。
【0109】
すべてのcIEF分離は、内径50μm、外径375μm、および全長/有効長30/20cmの中性被覆キャピラリー(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)を使用して実行された。使用前、キャピラリーが、350mM酢酸、DI水、およびcIEFゲル(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)を用いて、50psiで、それぞれ、5、2、および5分間すすぎ落とすことによってコンディショニングされた。各分離の前、キャピラリーは、20psiで試料充填溶液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)および水を用いて、それぞれ、3分間および2分間すすぎ落された。NIST IgG試料が、25psiで99秒間キャピラリーの中に充填された。キャピラリー入口が200mMリン酸に浸漬され、かつ出口が300mM水酸化ナトリウムに浸漬されている間、フォーカシングが、25kVの電圧を15分間印加することによって実行された。300mM水酸化ナトリウムを350mM酢酸に置き換え、化学的可動化が、30kVの電圧を20分間印加することによって実行された。
【0110】
(検出システム)
図1Aに関連して上述したようなNFDシステムが、測定を実行するために使用された。放射線源1(例えば、レーザー駆動プラズマ源)からの光ビームは、順次、平凸レンズ2を用いてコリメートされ、バンドパスまたはショートパスフィルタ3でフィルタリングされ、第2の平凸レンズ4で光ファイバ5の中に集中させられ、励起のためにキャピラリー窓7に送達された。蛍光放出は、平凸レンズ8でコリメートされ、バンドパスフィルタ9でフィルタリングされ、検出器10(例えば、光電子増倍管(PMT))で検出された。球面ミラー6が、キャピラリー内の分析物によって放出される光の収集効率を高めるために、検出窓の近位に配置された。
【0111】
(結果および考察)
(1.PMT電圧)
ノイズは、20秒の期間にわたるブランク試料の応答の標準偏差として定義された。信号対雑音比に対するPMT電圧の影響が、350V、475V、650V、および890Vの4つのレベルで調査された。200ng/mLのトリプトファン溶液が、0.5psiで5秒間注入され、圧力駆動分離をが、水をバックグラウンドとして5psiで動作させられた。図2に示すように、信号対雑音比は、PMT電圧が350Vから475Vに増加すると、110から380に向上した。信号対雑音比は、650VでのPMT電圧で、1,229であり、890VへのPMT電圧のさらなる増加は、1,681のより高い信号対雑音比をもたらした。しかしながら、650Vを超えるPMT電圧では、USP IgGの2.5mg/mL溶液は、使用したアナログ-デジタルモジュールを飽和させる電圧信号を生成した(データは示さず)。これは、高濃度レベルでのタンパク質分析のためのこの実施例におけるNFDスキームの適用を制限した。濃度感度と線形ダイナミックレンジとの間の妥協点として、650VのPMT電圧が、さらなる実験のために選択された。
【0112】
(2.励起および発光波長)
タンパク質の天然蛍光は、3つの芳香族アミノ酸:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンの励起に由来する。フェニルアラニンの発光強度は、チロシンまたはトリプトファンの発光強度の約50分の1であり、タンパク質の天然蛍光検出では一般に無視できる。ほとんどのタンパク質では、天然蛍光は、主にトリプトファン残基に起因するが、いくつかのタンパク質は、チロシン蛍光を示す。
【0113】
トリプトファンの発光ピークは局所環境に敏感ではあるが、トリプトファンの発光ピークは、通常、350nm付近である。セットアップ(上記の図1Aに関連して説明)で励起および発光フィルタを調整することによって、NFD測定プロセスが、最初に、280nmでの励起、および333~375nmの範囲での発光の収集により評価された。10kDaの内部標準と混合した還元型SCIEX IgG対照標準が、NFDセットアップを使用してCE-SDSによって分析された。IgG軽鎖(LC)、非グリコシル化重鎖(NGHC)、および重鎖(HC)を表す3つのピークは、214nmでのUV吸光度検出と比較して増強された信号対雑音比を示した。しかし、10kDaの内部標準に対する応答は、おそらくトリプトファン残基の欠如により、低かった。
【0114】
チロシン発光ピークは、局所環境に対して非感受性であることが示され、発光最大値は、約304nmで見られた。天然蛍光に対するチロシン残基の寄与は、220nmでの励起後の305~315nmの帯域における発光スペクトルを収集することによって調査された。分離は、内径50μm、外径375μmおよび合計/有効長30/20cmのコーティングされていないキャピラリーで実行された。印加電圧は、両端での20psi圧力で-15kVであった。試料の注入は、10秒間の-5kVの電圧で達成された。
【0115】
10kDaの内部標準ピークの大きさは増強されたが(図3B)、LC、NGHC、HCを表す3つのピークは10分の1未満であった(図3B図3A)。全体的なチロシン蛍光は、おそらくトリプトファンの吸光およびチロシンからトリプトファン残基へのエネルギー移動との発光重複により、弱かった。
【0116】
mAbのCE-SDSおよびcIEF分析の濃度感度を最大化するために、NFDは、280nmでの励起および333~375nm帯域での発光で使用された。しかしながら、NFDシステムの励起波長および発光波長は、標的タンパク質が適切な濃度のトリプトファン残基を欠く場合、チロシン蛍光を検出するように調整されることができる。
【0117】
(NFDを伴うCE-SDSを使用するmAbの分析)
その高い分解能、使いやすさおよび高い再現性に起因して、CE-SDSは、治療用mAbの分析のための生物医薬産業における日常的なツールとしてSDS-PAGEに取って代わりつつある。CE-SDSでは、UV吸光度検出は、最大濃度感度が達成される210~220nmの領域で動作させられることが多い。しかしながら、検出は選択的ではなく、他の吸光種またはベースライン異常による干渉を被る。
【0118】
非還元型SCIEX IgG対照標準が、214nmでのUV吸光度検出を伴うCE-SDSを使用して分離された(図4Aのトレース1を参照)。IgG試料が、70℃で10分間、使用前に加熱された。IgG試料は、直接使用され(図4A)、SDS-MW試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)での10倍希釈でも使用された(図4B)。他のすべてのCE-SDS条件は、図3に関連して使用された条件と同じであった。
【0119】
主ピークは、3,389の信号対雑音比をもたらした。ベースライン異常を排除する試みにおいて、同じIgG試料が、280nmでの吸光度検出を伴うCE-SDSを使用して分離された(図4Aのトレース2を参照)。しかしながら、応答ははるかに低く、それは、主ピークに関して67の信号対雑音比をもたらし、214nmでのUV吸光度検出を用いた場合の51文の1の感度を表した(トレース2対トレース1)。
【0120】
非還元型SCIEX IgG対照標準をが、NFDプロトタイプシステムを使用して、SDS試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)で10倍希釈し、分析された(図4Bを参照)。主ピークの信号対雑音比は、5,568であり、214nmでのUV吸光度検出と比較して16倍の感度改善を表した。さらに、ベースラインは、異常が少なく、ピーク積分は、214nmでの吸光度検出より干渉が少なかった(図4B図4Aのトレース1)。
【0121】
(NFDを伴うcIEFを用いたmAbの分析)
cIEFは、タンパク質分子をそれらのpIに基づいて分離し、mAb電荷アイソフォーム分析のために生物医薬産業で日常的に使用されている重要なCEベースの技術である。cIEFでは、吸光度検出は、両性担体電解質が特に214nmでUV感受性である傾向があるので、一般に280nmで行われる。LIF検出を伴うcIEFは、蛍光体誘導体化が、多くの場合、様々なタンパク質アイソフォームの電荷における変化につながり、分離がそれらの天然のタンパク質対応物のそれらに匹敵しないことをもたらし得るので、広く使用されていない。
【0122】
280nmでの吸光度検出を伴うcIEFを使用するNIST IgGの分離が、実行された(図5A)。分離は、中性コーティングキャピラリー(内径50μm、外径375μm、および全長/有効長30/20cmのSCIEX、カリフォルニア州ブレア)中で実行された。NIST IgG試料が、上記のように調製された。NFDに関して、UV吸光度検出に使用した試料は、150倍希釈された。試料の注入は、25psiで99秒間、集中は、25kVで15分間、および、化学的可動化は、30kVで20分間で達成された。
【0123】
主ピークの信号対雑音比は、956であった。NFDワークフローを使用して、同じNIST IgG溶液が、本発明者らのシステム上のアナログ-デジタルモジュールを飽和させる信号を生成した(データは示さず)。IgG溶液は、cIEFマスターミックスで150倍希釈され、IgG試料の信号対雑音比は、1,137(図5B)であった。150倍の試料希釈を考慮すると、NFDを使用した分析は、280nmでの吸光度検出より主ピークに関して178倍の感度改善を提供した。
【0124】
(実施例2:LED光源の使用)
ファイバ結合285nmのLEDモジュールは、Thorlabs,Inc.(ニュージャージー州ニュートン)から入手された。LED光源は、熱安定性のためにヒートシンクと直接接触する金属コア回路基板に取り付けられた単一のLEDを含んでいた。LEDは、LEDの順方向DC電流を0~1,200mAの範囲で変調することができるコンパクトなコントローラ(Thorlabs,Inc.、ニュージャージー州ニュートン)で駆動された。この実験では、LEDは、500mAの順方向DC電流で動作させられ、この電流では、LEDの典型的な寿命は>10000時間である。
【0125】
開発されたNFDスキームの性能が、マウス血清からのグリコシル化および非グリコシル化IgGで構成されるIgG対照標準(カリフォルニア州ブレアのSCIEX)を使用して評価された。総質量濃度は1mg/mLであり、非グリコシル化形態の量は、約9.5%である。95μLの試料が、5μLのβ-メルカプトエタノールと混合され、次いで、IgG試料が、70℃で10分間加熱することによって、還元された。分析前、還元型IgG対照標準が、SDS試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)で10倍希釈された。図7に示すように、3つのピークは、IgG軽鎖(LC)、非グリコシル化重鎖(NGHC)、および重鎖(HC)を表す。NGHCとHCとが、1.62の分解能でベースライン分離された。ここで、ノイズは、30秒間にわたるブランク試料の応答の標準偏差として定義された。信号対雑音比(S/N)は、LC、NGHCおよびHCに関して、それぞれ、3240、860、5458であった。
【0126】
300nmを超えるLEDの残留発光を特定するために、蛍光が、325~375nmの範囲で収集された。何故なら、この帯域における残留発光が、バックグラウンド信号を著しく増加させ、結果としてS/Nを低下させ得るからである。検出感度をさらに改善するために、図6Bを参照して上述したように、光を平凸レンズでコリメートし、280nmバンドパスフィルタを通して光をフィルタリングし、フィルタリングされた光を第2の平凸レンズで光ファイバに集中させることによって、残留発光を排除した。280nmバンドパスフィルタ(IDEX、ニューヨーク州ロチェスター)は、270~290nm帯域で>65%の透過率を示し、310~380nm帯域で>5ODの平均遮断を示す。2つのレンズと1つの光学フィルタとの組み合わせでは、光ファイバが受け取る光出力は、約50%減少し、したがって、減少したIgG試料によって放出される蛍光は、約45%減少した(線A対線Bを参照)。受け取った出力の全体的な減少にもかかわらず、バックグラウンド信号が著しく減少したので、S/Nは、LC、NGHC、およびHCに関して、それぞれ、7409、1917、および12566に増加した。これは、280nmバンドパスフィルタなしの構成より検出感度の約2.3倍の増強を表す。したがって、実施例2では、2枚のレンズと280nmのバンドパスフィルタとを組み合わせたLED光源を励起に使用した。
【0127】
(試薬および材料)
IgG対照標準、SDS-MWゲル分離緩衝液、SDS試料緩衝液、0.1NのHCl酸性洗浄、0.1NのNaOH塩基性洗浄、およびCEグレードの水は、SCIEX(カリフォルニア州ブレア)からであった。NISTモノクローナル抗体(NISTmAb)は、米国国立標準技術研究所(メリーランド州ゲーサーズバーグ)から購入された。それは、12.5mMのL-ヒスチジン、12.5mMのL-ヒスチジンHCl(pH6.0)中の10mg/mLのヒト化IgG1モノクローナル抗体の溶液である。ヨードアセトアミドおよび2-メルカプトエタノールは、Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手された。エタネルセプトはMyonex(ペンシルバニア州ノリスタウン)から購入された。
【0128】
250mMヨードアセトアミドは、46.2mgを1mLのCEグレードの水(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)に溶解することによって調製された。使用前、ストック溶液は、SDS試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)で20mMに希釈された。
【0129】
(機器類)
LIF検出で構成されたPA800 Plus CEシステム(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)が、この実験において使用された。励起源は、LIF検出器との適合性を可能にするために、285nm LED(Thorlabs,Inc.、ニュージャージー州ニュートン)およびカスタマイズされた光学素子に基づいて設計された。光源は、PA800 Plus CEシステムにおいて給電され、自己完結型であった。すべてのデータが、収集され、32Karatソフトウェア(バージョン10.1)を用いて処理された。
【0130】
(試料調製)
還元型IgG対照標準が、95μLのSCIEX IgG対照標準溶液と5μLの2-メルカプトエタノールを混合することによって、調製された。混合物は、70℃で10分間加熱され、次いで、室温まで冷却された。使用前、試料は、SDS試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)で10倍希釈された。
【0131】
非還元型SDS-NISTmAb複合体が、20mMヨードアセトアミドを含むSDS試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)で10mg/mLのNISTmAbを所望の濃度に希釈することによって、調製された。その後の溶液は、使用前、70℃で10分間加熱され、その後、室温まで冷却された。
【0132】
25mg/バイアルのエタネルセプトが、1mLの希釈剤で再構成され、ストック溶液が、20mMヨードアセトアミドを含むSDS試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)で所望の濃度に希釈された。試料溶液は、使用前、70℃で10分間加熱された後、室温まで冷却された。
【0133】
(SDS-CGE条件)
すべてのSDS-CGE分離は、内径(ID)50μmおよび外径(OD)375μmの裸の溶融シリカキャピラリー(P/N 338451、SCIEX、ブレア)を使用して実行された。キャピラリーは、全長が30.2cm、入口から検出窓までの長さが20.0cmとなるように、カートリッジ(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)に設置された。最初の使用の前、キャピラリーは、0.1NのNaOH塩基性洗浄、0.1NのHCl酸性洗浄、およびCEグレードの水で20psiで、それぞれ、10、5、および2分間すすぎ落とすことによってコンディショニングした。次いで、キャピラリーは、SDS-MWゲル分離緩衝液で70psiで10分間充填され、次いで、入口端と出口端の両方に20psiで-15kVの電圧を15分間印加することによって平衡化された。
【0134】
各分離の前、キャピラリーは、0.1NのNaOH塩基性洗浄、0.1NのHCl酸性洗浄、およびCEグレード水で70psiで、それぞれ、3、1、および1分間連続的にすすぎ落とされた。SDS-MWゲル分離緩衝液が、70psiで10分間キャピラリーに充填された。試料は、-5kVで40秒間キャピラリーに界面動電的に注入された。分離は、-15kVの電圧で実施された。気泡を形成するリスクを低減するために、20psiの圧力が、分離中、入口端部と出口端部の両方に加えられた。
【0135】
(結果および考察)
(1.PMT利得)
製造業者Hamamatsuは、PMTの最大定格を1250Vに指定している。電圧変動に対する信頼性を提供するために、PMTは、指定された最大定格より20%低い1000V未満の制御電圧で動作させられた。この実験では、PMT制御電圧のS/Nへの影響は、386、458、530、628、727、862、および997Vの7つのレベルで調査された。1mg/mLのIgG対照標準は、上記のように減少させられ、SDS-CGEで分析する前、10倍希釈された。図8Aに示されるように、制御電圧が386Vから727Vに増加させられると、蛍光シグナルは、約100倍増加した。LC、NGHCおよびHCを表す3つすべてのピークに関して、S/Nは、著しく増強された(図8Bを参照)。制御電圧の997Vへのさらに増加は、蛍光シグナルの10倍のさらなる改善をもたらしたが、S/Nは、プラトーに達した。さらに、727Vを超えるPMT電圧では、IgGの1mg/mL溶液が、使用されるアナログ-デジタル変換器の入力電圧範囲外の電圧信号を生成し、これは、高濃度レベルでのタンパク質分析のためのNFDを伴うSDS-CGEの適用を制限した。この研究では、本発明者らは、検出感度および線形ダイナミックレンジの両方を追求しながら、mAb試料中の微量レベルの不純物を定量化するための解決策を開発した。したがって、727VのPMT制御電圧が、さらなる実験のために選択された。
【0136】
(2.試料注入)
SDS-CGEでは、分離ゲル緩衝液は、粘性であり得るが、試料溶液は、ゲルフリーであり得る。この不一致は、圧力注入に問題をもたらすことが多く、試料注入は、一般に界面動電的に行われる。SDS変性タンパク質がその分子量にかかわらず均一な電荷対サイズ比を有するので、様々なタンパク質分子が、同じ移動度でゲルフリーの試料溶液中を移動し、注入バイアスを緩和する。
【0137】
一般に、試料の注入量を増やすとS/Nを向上させるが、長い試料プラグ注入は、ピークの広がりに寄与し、分離効率を低下させ得る。この実験では、注入電圧が-5kVに固定されている間、試料の注入量は、注入時間を5秒から120秒まで変更することによって、調整された。図9Aは、注入時間が5、20、60、および100秒の場合の100μg/mLの還元型IgG試料の代表的な電気泳動図を示す。注入時間が増加するにつれて、補正されたピーク面積は、0.9993~0.9999の範囲の相関係数(r)で線形的に増加した(図9Bを参照)。図9Cに示されるように、より長い注入時間は、LC、NGHC、およびHCを表す3つのピークすべてに関してより高いS/Nをもたらしたが、ピークの広がりももたらし、分離効率を低下させた。注入時間が40秒より長い場合、NGHCとHCとの間の分解能は<1.5である(図9Dを参照)。本研究では、SDS-CGEアッセイの検出感度と分離効率との間で妥協するために、試料注入は、-5kVで40秒間実行された。
【0138】
(3.線形性および感度)
低レベルの不純物の検出は、SDS-CGEアッセイの主な用途の1つである。この実験では、NFDを伴うSDS-CGEの線形ダイナミックレンジが、NISTmAbを使用して調査された。非還元型SDS-NISTmAb複合体が、10mg/mLのNISTmAbを20mMヨードアセトアミドを含むSDS試料緩衝液(SCIEX、カリフォルニア州ブレア)で希釈し、70℃で10分間加熱することによって、調製された。非還元型NISTmAb試料は、0.03~500μg/mLの範囲の11の濃度レベルで調製され、図10Aは、それらのSDS-CGE電気泳動図の重複を示す。挿入図は、0.05μg/mLでの電気泳動図の拡大図である。各試料は、三連で注入され、補正されたピーク面積の平均を濃度に対してプロットすることによって線形回帰を確立した(図10Bを参照)。回帰式はy=631.63xであり、ここで、yは補正されたピーク面積であり、xはNISTmAb濃度であった。相関係数(r)は0.9999であり、補正されたピーク面積とNISTmAb濃度との間に優れた線形関係があることが示された。
【0139】
この実験では、検出限界(LOD)および定量化限界(LOQ)は、それぞれ、3および10のS/Nを生じるタンパク質濃度として定義された。ノイズは、ブランク試料のバックグラウンド応答の大きさを測定し、30秒間にわたるこれらの応答の標準偏差を計算することによって推定された。最適化された条件下で、非還元型NISTmAbのLODおよびLOQは、それぞれ、8.3および27ng/mLであった。これは、銀染色を用いたSDS-CGE-LIFおよびSDS-PAGEで得られた濃度感度に匹敵する。
【0140】
(4.精度および正確さ)
反復性が、3つの濃度レベルでの18回の決定、各濃度での6回の決定によって評価された。補正されたピーク面積のRSDは、0.05、5、500μg/mLで、それぞれ、2.35%、0.75%、0.56%であった。
【0141】
NISTmAb中の不純物の試料を得ることができなかったので、正確さは、非還元型NISTmAb試料の実験濃度をそれらの理論濃度と比較することによって評価された。非還元型IgG試料は、0.05、0.5、5、50、および200μg/mLの5つの濃度レベルで調製された。各試料は、5回注入され、補正されたピーク面積の平均値が、実験濃度を算出するために、回帰式に代入された。表1に示すように、回収率は91.5%~104.9%であった。
【表1】
【0142】
(5.エタネルセプトの定量化および純度分析へのSDS-CGE-NFDの適用)
エタネルセプトは、乾癬性関節炎および関節リウマチを治療するために1998年にFDAによって承認された治療用Fc融合タンパク質である。これは、高度にグリコシル化されており、見かけの分子量は、約150kDaである。エタネルセプトおよびそのバイオシミラー中の純度および高分子量(HMW)含有量を評価するために、Choら(Choら、‘‘Evaluation of the structural,physicochemical,and biological characteristics of SB4,a biosimilar of etanercept.mAbs’’、2016、8(6)、1136-1155)は、サイズ排除クロマトグラフィー-多角度レーザー光散乱(SEC-MALLS)を使用し、参照生成物中の決定されたHMW含有量は、2.3~3.1%であった。しかしながら、主要種と低分子量(LMW)種との不十分なSEC分離に起因して、SEC-MALLSにおけるLMW含有量の定量化は、正確ではなく、それは、SDS-CGE-UVを使用して達成された。
【0143】
214nm領域での吸光度検出は、SDS-CGEで最も広く利用されている検出戦略であるが、選択的ではなく、ベースライン異常による干渉を受けることが多い。図11Aは、1mg/mL非還元型エタネルセプトのSDS-CGE-UV電気泳動図を示す。主ピーク付近のベースラインの起伏は、ピーク積分を複雑にし、エタネルセプトの純度分析、特にHMW領域における課題をもたらした。
【0144】
NFDはベースライン異常を排除し、濃度感度を向上させた。図11Bは、100μg/mL非還元型エタネルセプトのSDS-CGE-NFD電気泳動図を示す。HMWおよびLMWのピークの両方は、ノイズおよびベースライン変動からよく区別され、単一のアッセイを使用してHMWおよびLMW含有量の定量化を可能にした。補正されたピーク面積のパーセンテージは、表2の通りであった。決定されたHMW含有量は、一貫して2.57~2.63%の範囲であり、SEC-MALLSで分析した参照製品の報告されたHMW含有量に匹敵した。LMW含有量は、標的濃度(200μg/mL)の50~150%の範囲にわたって一貫して、1.19~1.27%であると決定された。
【表2】
【0145】
較正曲線が、主ピークに関して標的濃度200μg/mLの50~150%の範囲にわたって確立された。回帰式はy=353.43xであり、yは補正されたピーク面積を表し、xはエタネルセプト濃度を表した。相関係数(r)は0.9990であり、エタネルセプトの定量のためのSDS-CGE-NFD法の良好な線形性を示した。補正されたピーク面積の平均が、実験濃度を計算するために回帰式に代入され、回収率は、97.02~101.6%の範囲であった。
【0146】
当業者は、本教示の範囲から逸脱することなく、上記の実施形態に様々な変更を加えることができることを理解するであろう。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】