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特表2024-513954タイヤと地面との潜在的な粘着ポテンシャルを推定する方法
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  • 特表-タイヤと地面との潜在的な粘着ポテンシャルを推定する方法 図1
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  • 特表-タイヤと地面との潜在的な粘着ポテンシャルを推定する方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】タイヤと地面との潜在的な粘着ポテンシャルを推定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240319BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562555
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 FR2022050682
(87)【国際公開番号】W WO2022219278
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】2103733
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイセット ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】アルヴィス ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ミュソ ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】デレイ ティボー
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB16
3D131LA34
(57)【要約】
本発明は、転がり面上のタイヤの転がりパラメータの評価の分野に関し、より具体的には、転がり面上のタイヤの粘着ポテンシャルの推定に関する。従って、本発明は、このような推定を可能にする方法及びシステムに関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり面上のタイヤの粘着ポテンシャルを推定する方法であって、前記タイヤは車両に取り付けられ、前記車両は、
-車両モデル及び状態オブザーバの関数として前記タイヤが受ける力を推定する第1の推定ステップと、
-前記タイヤの熱機械モデルの関数として前記タイヤが受ける力を推定する第2の推定ステップと、
-前記第1及び第2の推定ステップで決定された力を統計的に比較するステップと、
-前記比較ステップの結果の関数として、前記タイヤ/地面粘着ポテンシャルの値を決定するステップと、
を含む方法を備える、推定方法。
【請求項2】
前記車両モデルは自転車モデルであり、及び/又は、前記状態オブザーバはカルマンフィルタである、請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記比較ステップは、ベイズ論理法を用いる、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項4】
前記比較ステップは、モンテカルロ・マルコフ連鎖法を用いる、請求項1又は2に記載の推定方法。
【請求項5】
前記タイヤの前記熱機械モデルは、長手方向の力、横方向の力、セルフアライニングトルク、及び粘着接触領域と滑り接触領域との間の遷移点における前記タイヤの基本剪断力と滑り力とのバランスのモデルを含む、請求項1から4のいずれかに記載の推定方法。
【請求項6】
前記推定方法は、少なくとも前記第2の推定ステップの前に、前記タイヤモデルを縮小するステップを含む、請求項1から5のいずれかに記載の推定方法。
【請求項7】
前記ステップの全ては、リアルタイムで実行される、請求項1から6のいずれかに記載の推定方法。
【請求項8】
タイヤの転がり面の粘着ポテンシャル推定する推定システムであって、前記タイヤは車両に取り付けられ、前記推定システムは、
-車両モデル及び状態オブザーバの関数として前記タイヤが受ける力を推定する手段と、
-前記タイヤの熱機械モデルの関数として前記タイヤが受ける力を推定する手段と、
-前記第1及び第2の推定ステップの間に決定された力を統計的に比較する手段と、
-前記比較ステップの結果の関数として、前記タイヤ/地面粘着ポテンシャルの値を決定する手段と、
を備える、推定システム。
【請求項9】
前記手段のそれぞれは前記車両に取り付けられている、請求項8記載の推定システム。
【請求項10】
前記車両に取り付けられたセンサをさらに備える、請求項8又は9に記載の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり面上のタイヤの転がりパラメータを評価する分野に関し、より具体的には、タイヤの潜在的なタイヤと地面との粘着ポテンシャルの推定に関する。
【背景技術】
【0002】
車載技術の継続的な発展により、車両の走行状態に関するますます多くの情報を得ることが可能になってきている。従って、車両に様々な運転支援システム及び安全システムを提供するためには、粘着力の低下による横滑りの危険性を防止するためにタイヤの所定の路面に対する潜在的な粘着力をリアルタイムで知ることが有用である。
【0003】
明瞭化のために、本明細書では、転がり面に対するタイヤの粘着係数を示すために、記号μまたは用語「mu」を使用する。
【0004】
この技術分野では、このようなパラメータを推定する方法を記載した多数の科学刊行物及び特許文献が知られている。例えば、欧州公開第3028909号には、道路の粘着レベルを推定するための知的方法が記載されている。
【0005】
既存の方法は、大きく2つに分類でき、
-車両に取り付けられた1又は2以上の特定のセンサ(たとえば音響センサ、熱センサ、光学センサなど)を使用する方法、
-利用可能な車両データからの情報を再構成することに依存するセンサーレス手法、
である。
【0006】
最初の方法は、コスト、車両への工業的介入、機器のメンテナンスに関して大きな欠点がある。この欠点はセンサーレス方式には見られない。しかしながら、現在まで、全ての荷重条件下で良好な推定レベルを保証できるセンサーレス方法は存在しない。このため、アライニングトルク値を用いる方法が知られているが、アライニングトルク値は横力よりも急速に飽和するため、軽い応力荷重の条件でのみ機能するという欠点がある。他の方法はタイヤモデルを使用するが、タイヤの熱特性を考慮していないため、低荷重で決定された値が改ざんされる。しかしながら、全てのこれらの既存の方法は、最大粘着力に達したときに又はそれに近い(最大粘着力の80%から100%の間)ときに、最大粘着力を正確に推定するという共通の原理に基づいている。しかしながら、いずれの手法も、低荷重条件下、例えば、最大muの40%未満の荷重がかかるような走行条件下で最大粘着力を推定することはできない。
【0007】
タイヤの物理的動作に関する情報源を使用しない機械学習法も知られている。しかしながら、これらの方法は、実装が非常に面倒な非常に複雑な学習プロセスを学習する必要があり、どの方法も有効であることが証明されていない。
【0008】
最後に、多くの方法は、車両に即座に是正措置をもたらすように、粘着ポテンシャルが達成されたとき又はほぼ達成されたときに、粘着ポテンシャルを推定することを目的としていることが知られている。例えば、現在大型貨物車及び乗用車に広く導入されているABS及びESPシステムで採用されている方法がそうである。それにも関わらず、これらの方法では、粘着力の予防的推定を行うことができず、是正措置の開始を回避するために、事前に車両の挙動を修正することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州公開第3028909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、従来技術の多数の欠点を改善することができる方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明は、転がり面上のタイヤの粘着ポテンシャルを推定する方法に関し、タイヤは、車両に取り付けられ、車両は、
-車両モデル及び状態オブザーバの関数としてタイヤが受ける力を推定する第1の推定ステップと、
-タイヤの熱機械モデルの関数としてタイヤが受ける力を推定する第2の推定ステップと、
-第1及び第2の推定ステップで決定された力を統計的に比較するステップと、
-この比較ステップの結果の関数として、タイヤ/地面粘着ポテンシャルの値を決定するステップと、
を含む方法を備える。
【0012】
第1の推定ステップでは、各車軸によって発生し、車輪の中心に写される力を観察することができる。このステップは、以下に図面を用いて説明する車両モデルに基づいている。
【0013】
好ましい実施形態では、車両モデルは自転車モデルであり、及び/又は状態オブザーバはカルマンフィルタである。
【0014】
第2の推定ステップで熱機械タイヤモデルを使用することは、例えば温度の影響など、粘着ポテンシャルに影響を与える様々な物理現象の良好な表現を可能にする。熱の影響を考慮することで、現在利用可能な方法よりも非常に信頼性の高い方法を提供することができる。
【0015】
図1に示すように、粘着ポテンシャルは、スリップ率の関数として正規化された長手方向の摩擦力曲線の最大値に対応する。この最大値は、図1の曲線上のμmaxで示され、横軸はスリップ率0から0.4の間を示し、縦軸は長手方向摩擦力Fxを垂直荷重Fzで割った値を示す。
【0016】
μmaxの値は、低荷重、すなわち図1の曲線の直線部分(0.08未満のスリップ)でも推定できる必要がある。ところで、この直線部分の勾配は、複数のパラメータ、特に温度に依存することが分かっている。従って、熱の影響を考慮しないと、低荷重時の粘着ポテンシャルを正しく推定することができない。圧力、荷重、摩耗などの他のパラメータについても同様である。
【0017】
実施形態に応じて、比較ステップを実行し、粘着ポテンシャルを決定するために使用できる複数の方法がある。これらには、モンテカルロ・マルコフ連鎖法などのベイズ論理を採用する方法が含まれる。これらの方法については以下に詳述する。
【0018】
1つの実施形態では、タイヤの熱機械モデルは、長手方向の力、横方向の力、セルフアライニングトルク、及び粘着接触領域と滑り接触領域との間の遷移点におけるタイヤの基本剪断力と滑り力とのバランスのモデルを含む。このモデルは、特に欧州出願第2057567号及び欧州出願第2062176号に記載されている。しかしながら,本発明はこの実施形態に限定されるものではなく,何らかの熱機械タイヤモデルを使用することができる。しかしながら、少なくとも空気圧、適用荷重、タイヤ摩耗を考慮した熱機械モデルを使用することが好ましい。
【0019】
1つの実施形態では、本発明による方法は、少なくとも第2の推定ステップの前に、タイヤモデルを縮小するステップを含む。この特徴により、本発明による方法をリアルタイムで実施することが可能になる。
この縮小ステップは、有利には、
- 荷重、圧力、温度などのタイヤパラメータの異なる値について、熱機械モデルを用いて観測行列を生成するステップと、
-この行列の値と特異ベクトルを計算するステップと、
-観測時間における投影係数を計算するステップと、
-全てのパラメータ値に対して使用することができる補間を行うステップと、
のサブステップを含む。
【0020】
このようにして、縮小モデルを使用することにより、各時間ステップで完全なモデルを計算する必要性が回避され、それによって必要な計算リソースが削減され、リアルタイム決定のためにこのモデルを車両に組み込むことが可能になる。
【0021】
本発明はまた、転がり面上のタイヤの粘着ポテンシャルを推定する推定システムに関し、タイヤは車両に取り付けられ、推定システムは、
-車両モデル及び状態オブザーバの関数としてタイヤが受ける力を推定する手段と、
-タイヤの熱機械モデルの関数としてタイヤが受ける力を推定する手段と、
-第1及び第2の推定ステップで決定された力を統計的に比較する手段と、
-この比較ステップの結果の関数として、タイヤ/地面粘着ポテンシャルの値を決定する手段と、
を備える。
【0022】
1つの実施形態では、システムは、様々な手段が車両に取り付けられるようなものである。
1つの実施形態では、システムは、車両に取り付けられたセンサをさらに含む。
【0023】
本発明の他の利点及び実施形態は、図を用いて、非限定的により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】既述のスリップ率の関数としての正規化された長手方向摩擦力曲線を示す。
図2】本発明による方法の概要を示すブロック図である。
図3】本発明で使用するモデルにおいて車両に作用する力の描写である。
図4】本発明で使用するモデルにおいて車両に作用する力の描写である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による方法は、図2に示すように、様々なデータを用いるいくつかのステップを含む。
以下の表は、図に現れる様々なパラメータの意味を、その単位と共に示している。
【表1】
【0026】
考慮されるタイヤは、様々なセンサを装着した車両に取り付けられる。車両の既知のエンジントルク及びブレーキトルクに基づき、及び様々なセンサによって測定されたデータから、長手方向車速及びスリップ率を含む、車両11の走行パラメータのセットは、ブロック1で決定される。外乱12も考慮される。
【0027】
次に、これらのデータは、タイヤが受ける力を推定する2つのステップを実行するために使用される。ブロック2の第1のステップは、車両モデル21及び何らかの外乱22に従って、タイヤが受ける力を決定するものである。
【0028】
図3に示すように、長手方向の動的変化及びピッチ変動を考慮した自転車モデルが有利に使用される。これらのピッチ変動を考慮するために、図4に示すようなサスペンションモデルを考慮する必要もある。
【0029】
自転車モデル及びサスペンションモデルを使用すると、次のような状態表現になる。
【数1】
【数2】
【数3】
【0030】
使用する状態オブザーバは拡張カルマンフィルタである。
自転車モデルの主な仮定は、
-前輪左側の操舵角=前輪右側の操舵角、
-後輪操舵はゼロ、
-車両は平らな地面を走行する(バンクなし)、
である。
【0031】
さらに、このモデルでは、多くの場合、ピッチングとロールの影響は無視される。
本例では、サスペンションシステムが考慮されるので、ロール動力学は実際に無視されるが、ピッチ動力学は無視されない。
【0032】
ブロック3の第2のステップでは、熱機械モデル4に基づいて経験する力を推定する。このモデルは、パラメータのセット、特に温度から決定される。このモデルを使用すると、モデルに供給されるmu0値に関する最大粘着ポテンシャルを決定するために、タイヤが直面する条件下(計算時に直面する圧力、荷重、温度など)で、スリップ率の関数としてmuの値を計算することができる。mu0の異なる設定値についてこの手順を繰り返すことにより、様々な可能レベルの地面粘着に対応するmumax値のリストが得られる。
【0033】
有利な実施形態では、初期モデルは、より少ないリソースで計算できるように縮小されるため、車両に直接組み込むことが容易になる。
次に、ステップ5で、ブロック2及び3の結果を比較し、粘着ポテンシャルを決定する。
【0034】
上記の2つのパートで推定された力の比較は、ここではベイズ論理アプローチを用いて行われる。この種のアプローチには、求める値に加えて関連する確率を提供できるという利点を有する。これを実行するためには、最初に、粘着ポテンシャルを知っている推定力の確率密度に関する仮定を立てる必要がある。カルマンフィルタはガウス雑音を考慮して機能するため、選択される確率密度はガウス分布の形をとる。従って以下の通りである。
【数4】
【0035】
次に、ベイズの公式を使って、粘着ポテンシャルが摩擦力を知っている確率を決定する。
【数5】
【0036】
従って、粘着係数は加重和を計算することで得られる。
【数6】
【0037】
従って、粘着ポテンシャルはこの加重和の最大値となる。
別の例では、ベイズ法ではなく、MCMCとして知られるモンテカルロ・マルコフ連鎖法を用いる。
【0038】
ベイズ法では、μは離散確率変数として扱われるため、ベイズの式の分母は簡単に計算できる離散的な和である。MCMC法を用いれば、μを連続確率変数とみなすことができ、より高い精度を得ることができる。しかしながら、その場合、ベイズの式の分母は離散的な和ではなく積分となり、計算が複雑になる。従って、MCMC法は、分母の必要性をなくすために確率密度比の計算を提案する。この方法には、低荷重の測定値と連携するという利点もある。このアプローチでは、これらの測定値は、カルマンフィルタを用いて推定された力である。
【0039】
従って、本発明による方法は、信頼性の高い粘着ポテンシャルの推定を可能にする。本発明は、長手方向の場合について詳細に説明している。それにも関わらず、この説明は、非限定的であり、同様のアプローチを横方向に、又は両者の組み合わせにも想定することができる。
【符号の説明】
【0040】
11 車両
12 外乱
21 車両モデル
22 外乱
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】