(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】白金族金属の粒子を析出させる方法
(51)【国際特許分類】
C25C 5/02 20060101AFI20240321BHJP
B22F 9/24 20060101ALI20240321BHJP
C25C 7/02 20060101ALI20240321BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20240321BHJP
C25C 1/20 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C25C5/02
B22F9/24 E
C25C7/02 306
C25C7/06 301Z
C25C1/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023559991
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2022058231
(87)【国際公開番号】W WO2022207621
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510054027
【氏名又は名称】ヴィート エヌブイ
(71)【出願人】
【識別番号】512320560
【氏名又は名称】カトリック ユニヴェルシテット ルーヴェン
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】フランツァー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス-モラ,オマル
(72)【発明者】
【氏名】ドミンゲス,ゾチトル
【テーマコード(参考)】
4K017
4K058
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA04
4K017BA02
4K017CA08
4K017EJ01
4K017FB01
4K017FB03
4K058AA21
4K058BA19
4K058BA20
4K058BA37
4K058BB02
4K058BB04
4K058CB03
4K058CB08
4K058CB16
4K058CB23
4K058EC04
(57)【要約】
本発明は、1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物から白金族金属を回収する方法であって、(i)多孔質の電気化学的な活物質を有するガス拡散電極を含む陰極を備える電気化学セルの陰極コンパートメントに、1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物を供給して、陰極コンパートメント内に液相を形成する工程と、(ii)CO2含有ガスを陰極コンパートメントに供給する工程と、(iii)COへのCO2の電気化学的還元を引き起こすような電位を陰極に印加する工程と、(iv)液相から1つ以上の白金族金属の析出粒子を元素形態で回収する工程とを含む、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物から白金族金属を回収する方法であって、
(i)多孔質の電気化学的な活物質を有するガス拡散電極を含む陰極を備える電気化学セルの陰極コンパートメントに、前記1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物を供給して、前記陰極コンパートメント内に液相を形成する工程と、
(ii)CO
2含有ガスを前記陰極コンパートメントに供給する工程と、
(iii)COへのCO
2の電気化学的還元を引き起こすような電位を前記陰極に印加する工程と、
(iv)前記液相から1つ以上の白金族金属の析出粒子を元素形態で回収する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
CO
2を前記ガス拡散電極に供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液相が水、H
2を生成することが可能なプロトン性溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトンの群から選択される有機溶媒、イオン液体、深共晶溶媒、及びこれらの2つ以上の混合物を含む群から選択される1つ以上の溶媒を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロトン性溶媒がアルコール、アンモニア、アミン、アミド、イオン液体、酢酸、及び上述の化合物の2つ以上の混合物を含む群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルコールがメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロピルアルコール、並びにこれらの2つ以上の混合物を含む群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の白金族金属イオンを含有する供給物が、前記1つ以上の前駆体化合物の水溶液を含有する液体供給物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記供給物が、前記1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物が溶解した液体供給物、特に溶液、又は液体分散剤中の前記1つ以上の前駆体化合物の分散液若しくは懸濁液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記液相が10℃~100℃、好ましくは15℃~75℃、より好ましくは15℃~50℃の範囲の温度、最も好ましくは室温を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
CO
2を純ガスとして、又は1つ以上の更なるガスとの混合物中で供給する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記白金族金属の供給物がPd、Pt、Rh、Ru、Os、Irの群から選択される1つ以上の金属を含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記陰極に-10 mA/cm
2~-1000 mA/cm
2、好ましくは50 mA/cm
2未満の電荷を印加する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記析出粒子が最大100 nmの粒径を有するナノ粒子である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記析出粒子が少なくとも100 nmの粒径を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
陽極がPt電極である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記陰極が炭素ベースのガス拡散電極である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルによる、1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物から白金族金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属はナノメートルスケールになると全く異なる特性を有することが多いため、金属ベースのナノ粒子が近年大きな注目を集めている。Pt、Pd、Rh等の白金族金属のナノ粒子は、その独特の触媒活性から特別な関心を集めている。白金族金属は、高価であり、地質学的な供給源は限られているものの、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)又は直接アルコール型燃料電池(DAFC)にとって最良の触媒である。現在、白金族金属ナノ粒子を合成する戦略は、ナノ粒子の特性を最適化し、金属の必要量を減少させることを目的としている。この他にも、好ましくはナノ粒子の形態での白金族金属の二次回収を達成し得る戦略が強く求められている。
【0003】
白金族金属ナノ粒子の合成によく用いられる方法として、例えばコロイド状Ptナノ粒子の形状制御合成のための還元剤として水素ガスを用いる化学的還元が挙げられる。炭素担持Pt金属ナノ粒子の合成にH2を使用する場合(Zhang et al. 201312)、COの非存在下では、純粋なH2の使用によって大きな多分散粒子が生成し、COの存在下では、単分散Ptナノキューブが形成されることが見出された。開示されている方法の大半において、H2及び/又はCOは、白金族金属化合物を含有する溶液にバブリングするか、又は白金族金属供給物を目的に応じて設計された炉内のガス流と接触させるかのいずれかによって、異なる温度で系の反応に導入される。規定の結晶配向を有するPtナノ粒子を合成するための水還元反応(WRR)から電気化学的に生成したH2の使用が幾つかの報告で開示されている13。
【0004】
現在まで、対応する白金族金属イオンが溶解、分散又は懸濁した前駆体化合物の希釈液体供給物流から白金族金属を元素形態で効果的に回収することを可能にする方法は開示されていない。
【0005】
Pt族金属のナノ粒子を合成又は回収する既知の方法は、選択的でも持続可能でもないという点で不利である。幾つかの方法では、金属回収後に除去する必要がある危険な化学試薬の添加、支持材料の使用が必要とされるか、又はH2が激しいバブリングを用いて供給される。既知の方法の幾つかは、200℃のような比較的高い温度で行う必要があるため、エネルギーを消費する。幾つかの方法は、Pt電極のような高価な電極材料を使用するため、Ptの回収には適していない。
【0006】
特許文献1は、ガス拡散電解結晶化(gas-diffusion electrocrystallization:GDEx)と呼ばれるプロセスによる金属酸化物又は金属水酸化物、例えば酸化鉄、ヒドロキシ塩化銅及びヒドロキシ塩化亜鉛(スピン転移材料)、スコロダイト及び混合金属(水)酸化物ライブラリー(すなわち、バーネス鉱、層状複水酸化物及びスピネル)のナノ粒子の電気化学的合成を開示している。特許文献1の方法によると、これらの金属の化合物が溶解した溶液に酸素を供給し、ガス拡散陰極上で還元させ、それによりヒドロキシルイオン(OH-)及び強酸化剤(H2O2及びHO2
-)を生成し、これらが金属の化合物の安定なナノ粒子の化学酸化による析出のための反応中間体として作用する。しかしながら、特許文献1は、対応する金属イオンの前駆体化合物を含有する供給物からの元素形態の白金族金属の析出を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物を含有する複雑な供給物流から白金族金属を元素形態で単離することを可能にする方法が必要とされている。
【0009】
したがって、本発明は、1つ以上の白金族金属の1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物から白金族金属の粒子を元素形態で回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これは、本発明によると、請求項1の特徴部分の技術的特徴を示す方法によって達成される。
【0011】
本発明の方法によれば、1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物から白金族金属を回収する方法は、
(i)多孔質の電気化学的な活物質を有するガス拡散電極を含む陰極を備える電気化学セルの陰極コンパートメントに、1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物を供給して、陰極コンパートメント内に液相を形成する工程と、
(ii)CO2含有ガスを陰極コンパートメントに供給する工程と、
(iii)COへのCO2の電気化学的還元を引き起こすような電位を陰極に印加する工程と、
(iv)液相から1つ以上の白金族金属の析出粒子を元素形態で回収する工程と、
を含む。
【0012】
供給物は、広範な供給源に由来することができ、産業起源のものが多い。供給物は特に、使用済み製品、例えば回路基板、電子機器、触媒、燃料電池、ガラス、セラミック、顔料、医科歯科用品(medical dental)、医薬品、光電池、超合金等の再利用品から白金族金属又は貴金属を回収するプロセスに由来し得る。かかる産業廃棄物の供給物の問題は、白金族金属イオンの濃度が廃棄物1トン当たり数百g程度と、かなり低い場合があることである。供給物は水性であることが多いが、1つ以上の有機溶媒が存在していてもよい。
【0013】
1つ以上の白金族金属(platinum metal group)イオンの1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物は、1つ以上の前駆体化合物を含有する固体又は液体の供給物のいずれかとして陰極コンパートメントに供給され得る。液体供給物は、1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物が溶解した溶液、又は液体分散剤中の1つ以上の前駆体化合物の分散液若しくは懸濁液のいずれであってもよい。
【0014】
陰極コンパートメント内の液相が供給物を含有することは当業者には明らかであろう。
【0015】
驚くべきことに、本発明の方法により、1つ以上の白金族金属イオンの1つ以上の前駆体化合物を含有する供給物から、対応する白金族金属の粒子又は粒子のクラスターを元素形態で析出させることが可能となることが見出された。これらの粒子は、更なる使用のために回収するのに適している。元素形態の白金族金属の粒子の析出は、主に陰極液中で起こり、液相からの金属粒子の簡易化された回収を可能にすることが見出されている。
【0016】
析出粒子は、最大100 nm以下の粒径を有するナノ粒子の形態をとることができる。析出粒子は、金属粒子の凝集体又はクラスターの形態をとることもでき、クラスター又は凝集体は、100 nmよりも大きな粒径を有する。有利には、本発明の方法により、1つ以上の方法パラメーターを操作することによって粒子のサイズを制御することができる。例えば析出粒子の粒径を制御することを目的として、1つ以上の前駆体化合物の濃度、電解質を陰極コンパートメントに供給する際の流量、ガス流量、電解質の伝導率等を変化させることができる。
【0017】
粒子は、供給物の組成に応じて、一種類の白金族金属を含んでいても、又は2つ以上の異なる白金族金属の混合物を含んでいてもよい。
【0018】
このように、白金族金属粒子を更なる処理に特に適した形態で回収することができる。一例においては、元素白金族金属の析出粒子を、特定の用途に使用するのに適した溶媒に再溶解してもよく、分散剤に分散させて懸濁液若しくはスラリーを得てもよく、又は乾燥ペレットに形成してもよい。
【0019】
有利には、本発明の方法は電気化学プロセスであり、消費される電荷は、主にCOへのCO2の電気化学的還元に関連する。液相中に水が存在する場合、H2への水の還元が電荷消費に寄与する。CO2をガス拡散電極のガス側に供給することができ、そこでガス拡散電極の分極時にCOへのCO2の電気化学的還元が起こるため、ガス拡散電極の使用により、特に水性供給物系におけるCO2の低い溶解性の問題が解決される。この還元反応は、主にガス拡散電極の作用面において起こる。これらの条件下で元素形態への白金族金属イオンの電気化学的還元が起こり得るが、これは本発明によって最小限に抑えることができる特徴である。電極における析出が粒径を制御し得る範囲を制限し、金属粒子の回収を複雑にし、しばしば電極の廃棄を必要とするため、これは利点である。
【0020】
本発明者らは、この理論に束縛されることを望むものではないが、本発明の条件下では、COがガス拡散電極でのCO2還元の主反応生成物であると推測する。CO2の還元によって形成されるCOは、それにより形成される白金族金属クラスターと相互作用することで、形成される金属粒子のサイズを制御することができる。COは例えば、金属粒子のサイズを制御することが可能なキャッピング剤として作用することができる。特許文献1の教示によると、COがむしろ化学酸化剤として作用することが予想されることから、これは驚くべきことである。
【0021】
一部の白金族金属イオンの還元は、多くの場合、電気化学的還元によってガス拡散電極の表面で起こり得るが、白金族金属イオンの還元は、主に陰極コンパートメント内、特に陰極液中で起こる。本発明者らは、この推測に束縛されることを望むものではないが、白金族金属の還元が、主に電極に隣接した位置で起こり、そこでCO2還元の反応生成物、主にCOが電解質へと伸びる反応フロントを形成すると考える。電解質へのCOの輸送は、溶液から電極への白金族金属イオンの輸送よりも速い速度で起こると推測される。電極表面での還元は、液相中の白金族金属イオン濃度が低く、それに付随する物資輸送が制限されることから、通常は限られたままであり、しばしば存在しないことさえある。これは、液相からの白金族金属粒子の回収を容易にし、金属粒子を電極から分離する必要をなくすことから利点である。
【0022】
本発明の方法は連続プロセス、バッチプロセスとして行うことができ、陰極コンパートメントに含まれる液相を再循環させることができる。
【0023】
好ましい実施の形態においては、液相は水、H2を生成することが可能なプロトン性溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトンの群から選択される有機溶媒、イオン液体、深共晶溶媒、及びこれらの2つ以上の混合物を含む群から選択される1つ以上の溶媒を含有し得る。これにより、プロトン性溶媒はアルコール、アンモニア、アミン、アミド、イオン液体、酢酸、及び上述の化合物の2つ以上の混合物を含む群から選択されるのが好ましい。特に、アルコールはメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロピルアルコール、並びにこれらの2つ以上の混合物を含む群から選択され得る。産業起源の廃棄物流は通常水性であるため、供給物は水を含有するのが好ましい。
【0024】
陰極コンパートメント内の液相に、供給物又は陰極液のいずれかに由来する水が存在する場合、H2を生成する水還元反応が同時に起こると推測される(反応3)22。有利には、本発明の方法は、H2が液相中に生成する電気化学プロセスである。
CO2+2H++2e-⇔CO+H2O E0=-0.106 VSHE (1)
CO2+2H2O+2e-⇔CO+2OH- E0=-0.934 VSHE (2)
2H2O+2e-⇔H2+2OH- E0=-0.828 VSHE (3)
【0025】
ガス拡散電極の使用により、十分な量のCO2を供給し、供給物から白金族金属の粒子を元素形態で析出させるのに十分な程度のH2形成を達成することができる。本発明者らは、この理論に束縛されることを望むものではないが、液相がプロトン性溶媒を含有する場合に形成されるH2が、陰極コンパートメントに供給された白金族金属イオンを元素形態に化学的に還元すると推測する。
【0026】
CO2還元によって生じる他の反応生成物としては、以下が挙げられる:
CO2+2H++2e-⇔HCOOH E°=-0.250 VSHE
CO2+2H2O+2e-⇔HCOO-+OH- E°=-1.078 VSHE
CO2+6H++6e-⇔CH3OH+H20 E°=0.016 VSHE
CO2+5H2O+6e-⇔CH3OH+6OH- E°=-0.812 VSHE
CO2+8H++8e-⇔CH4+2H20 E°=0.169 VSHE
CO2+6H2O+8e-⇔CH4+8OH- E°=-0.659 VSHE
2CO2+12H++12e-⇔CH2CH2+4H20 E°=0.064 VSHE
2CO2+8H2O+12e-⇔CH2CH2+12OH- E°=-0.764 VSHE
【0027】
これらの反応が主に電解触媒の存在下で起こり、電解触媒の非存在下では無視できることが注目される。
【0028】
有機溶媒の存在下では、COに加えて他のキャッピング剤、例えばクエン酸及び/又はシュウ酸が形成されることがあり、これらは析出する元素白金金属粒子の粒径の制御に役立つ可能性がある。
【0029】
好ましい実施の形態において、CO2をガス拡散電極、特にガス拡散電極のガス側に供給する。
【0030】
1つ以上の白金族金属イオンを含有する液体供給物は、水を含有する液体供給物であってもよい。液体供給物は、水に加えて、よく使用される様々な工業用溶媒の1つ以上を含有していてもよく、その例が上に開示されている。より好ましくは、1つ以上の白金族金属イオンを含有する液体供給物は、水中のかかる金属化合物の液体供給物である。
【0031】
陰極液中に水が存在する場合、COへのCO2還元が以下の反応を伴い、付加的にH2の形成をもたらすと推測される:
CO2+2H2O+2e-⇔CO+2OH- E0=-0.934 VSHE (2)
2H2O+2e-⇔H2+2OH- E0=-0.828 VSHE (3)
【0032】
本発明によるCO2還元によって生じる主還元生成物はCOであるが、特に液相中に有機溶媒が存在する場合、副生成物が形成される可能性は排除されない。かかるCO2還元の副生成物の例としては、シュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、メタノール、エタノール、メタン、エチレン、エチレンオキシド、及び当業者に一般に知られている他の化合物が挙げられ、それらの存在が所望の金属イオンの還元又は金属形態の白金族金属の析出に悪影響を及ぼさないことが観察されている。しかしながら、これらの生成物の少なくとも一部の形成が起こるためには、電解触媒の存在が必要とされる。
【0033】
CO2ガスは、ガス拡散電極のガスコンパートメント又は液相のいずれか又は両方に供給することができる。ナノ粒子又はより小さなサイズの粒子の形成が想定される場合、CO2ガスをガス拡散電極のガスコンパートメントに供給するのが好ましい。より大きな、例えば100 nmを超えるサイズの粒子の形成が想定される場合、CO2ガスを液相に供給することができる。液相へのCO2の供給は、白金族金属水酸化物の形成のリスクを最小限に抑え、金属粒子の形成に有利に働くという付加的な利点をもたらす。
【0034】
1つ以上の白金族金属イオンを含有する供給物は、一種類の白金族金属イオンを含有していても、又は2つ以上の異なる白金族金属イオンの混合物を含有していてもよい。本発明の方法は、白金族金属の性質とは無関係に元素形態の白金族金属の析出を得ることを可能とする。
【0035】
本発明の方法は、通常は液相の沸点を下回る温度で行われる。液相が水を含有する好ましい実施の形態において、本発明の方法は、最大100℃の温度、好ましくは10℃~100℃、より好ましくは15℃~75℃、最も好ましくは15℃~50℃の温度、特に室温程度の温度で行うのが好ましい。従来技術の方法は、反対に100℃を超える高温、しばしば最大210℃の高温の使用を必要とし、したがってエネルギーを消費する。
【0036】
本発明の方法は、有利には、単一の反応器において大気圧及び適度な温度で単一の工程にて行うことができる。
【0037】
本発明の方法の開始時の液相のpHは、広いpH範囲で変化し得るが、好ましくは、方法の開始時の液相のpHは最大5.0、好ましくは最大4.0、より好ましくは最大3.0である。これらのpH値では、白金族金属が水酸化物として析出するリスクを最小限に抑えることができる。本発明者らは、反応の過程で陰極液のpHが徐々にアルカリ性pHに向かって進行し得ることを観察した。本発明の一実施の形態において、液相のpHは、金属形態の白金族金属の析出が進行するとともに漸進的に変化させてもよい。実際には、上記のようにCO2の電気化学的還元によって生じる生成物は、緩衝剤として作用することで、液相のpHの望ましくない上昇を打ち消す。通常、pHは、液相の組成によって決まる或る特定の最大pHまで上昇する。代替的な実施の形態によると、pHを上述の限度内に維持するために、緩衝剤を液相に添加してもよい。好ましい実施の形態によると、pHを10未満、より好ましくは8.0未満、最も好ましくは7.0未満に保つことができる。
【0038】
本発明の方法の開始時の液相のpHは、少なくとも7.0、好ましくは少なくとも8.0、より好ましくは約9.0、又は更には例えば元素Ptの析出を目的とする場合に11.0であり得る。pHは反応の過程で漸進的に変化させてもよく、これは多くの場合、例えばpH8.0又は9.0までの低下を意味する。
【0039】
本発明の方法の開始時の液相のpHは、液相中に存在する白金族金属イオンの性質を考慮して適合させるのが好ましい。有利には、液相が白金族金属イオンとしてPtイオンのみを含有する場合、pHをpH11まで漸進的に変化させてもよく、これは、このpHを超えた場合にのみPt水酸化物の形成が起こると予想されるためである。
【0040】
本発明の範囲内において、白金族金属とは、Pd、Pt、Rh、Ru、Os、Irの群から選択される1つ以上の金属を意味し、これらの金属の2つ以上の混合物が含まれる。個々の金属イオンは、供給物中に同様の濃度で存在し得るが、個々の白金族金属イオンの濃度は異なっていてもよい。金属イオンは、供給物中に単一の酸化状態で、例えばPd2+又はRh3+として存在し得る。しかしながら、金属イオンは、供給物中に2つ以上の異なる酸化状態で、例えばPt2+とPt4+との混合物として含まれることもある。供給物が白金族金属を元素形態で、例えばPt0、Pd0又はRh0としても含有し得ることが明らかであろう。通常、このような元素形態の金属の粒子は、結晶化シードとしても作用し得る。
【0041】
本発明の方法は、多種多様な起源の溶液からの白金族金属の回収に適している。本発明の方法は、使用済み用途からの白金族金属、例えば触媒コンバーター、プリント配線板、電子部品等に由来する供給物中の白金族金属イオンの再利用に適している。本発明の方法は、廃棄物流、例えばスラグ、テーリング、廃水、浸出液等からの白金族金属の再利用にも同様に適している。
【0042】
本発明の方法が主に産業廃棄物流からの白金族金属の回収に用いられる場合、これらの廃棄物流中の白金族金属イオンの濃度は、かなり低い可能性がある(例えば、ppm~ppbの範囲)。しかしながら、本発明の方法は、より高濃度の溶液からの金属の回収にも適している。
【0043】
CO2は純ガスとして、又は更なるガス、例えばHe、Ar、N2等の1つ以上の不活性ガスとのガス混合物の形態で供給することができる。必要に応じて、CO2含有ガスは空気、合成ガス又は任意の他のCO2含有ガスを含み得る。空気、合成ガス又は任意の他のCO2含有ガスを使用する場合、競争反応が起きる可能性があるが、これらの競争反応は無視できるか、又は許容されるものであり得る。
【0044】
ガスの混合物を使用する場合、当業者は、CO2のモル分率を析出が可能なほど十分に高くなるように調整することができる。そのため、好ましくは、ガス混合物中のCO2モル分率は少なくとも0.15、より好ましくは少なくとも0.020であるが、最も好ましくは、ガス混合物中のCO2モル分率は、析出に有利に働く電解質の酸化還元電位が陰極液において達成され得ることを確実にするために、1と高くてもよい。一方、過度に低いCO2分圧は、反応速度を遅くする可能性がある。
【0045】
有利には、CO2ガス流量は、物質移動の最適化を可能にし、それによりガス拡散電極での金属沈着を最小限に抑え、液相へのH2拡散を促進する範囲に維持される。当業者は、電気化学反応器の寸法、陰極液中の前駆体化合物の濃度等を考慮してCO2ガス流量を適合させることができる。
【0046】
陰極コンパートメントが陰極液を含むことができ、本発明の方法の過程で、電解質を好適な流量、例えば所望の質量流量の達成を支持する流量で陰極コンパートメントに供給し得ることが当業者には明らかであろう。
【0047】
好ましい実施の形態において、ガス拡散陰極が受ける電気化学ポテンシャルは、参照電極に対する還元ポテンシャルであり、好ましくは水中でのCO2の安定性の熱力学的pH電位平衡領域未満、より好ましくは水の熱力学的安定性の領域未満であり、好ましくは水素を形成する水電解を確実にするために水素の熱力学的安定性の領域内ではない。CO2還元及び水電解が起こる電気化学ポテンシャルは、当業者によく知られている。
【0048】
有利には、より大きな粒子の形成が想定されるか、また金属沈着がH2生成よりも支持されるかに応じて、-10 mA/cm2~-50 mA/cm2の電荷が電極に印加される。-50 A/cm2を超える値では、H2の過剰生成が生じる可能性があり、セル抵抗/セル電位が増加することから、ガス拡散電極が不適切に機能する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1-1】
図1.1電気化学的に還元されるガス供給原料として、(a)O
2を使用する場合及び(b)CO
2を使用する場合に陰極コンパートメントにおいて起こる反応を示す図である。(a)においては、酸素還元反応(ORR)(1)の生成物は、金属イオンを金属酸化物(2)又は水酸化物(3)のナノ粒子に変える酸化化学種である。(b)においては、水還元(WRR)(1)からのH
2が還元剤として作用し、CO
2還元反応(CRR)(2)からのCOが、溶液中の金属イオンから元素ナノ粒子を合成するためのキャッピング剤として作用する(3)。未反応のCO
2からHCO
3
-及びCO
3
2-への平衡(4)は、WRR及びCRRにおいて生成したOH
-を消費し、プロセスを妨げるために非常に重要である。
【
図1-2】
図1.2:本発明での使用に適した電気化学反応器の概略図である。
【
図2】
図2.1:実施例2におけるAg/AgCl Rhストリップ溶液に対する-1.4 VでのCO
2の還元時のpH対時間の漸進的変化を示す図である。
*サンプリング点。
図2.2:実施例2におけるGDExプロセス中のRhストリップのpHの関数としてのRh濃度の漸進的変化を示す図である。各列の上のデータは、金属除去率(%)を表す。
【
図3】
図3.1:実施例3におけるAg/AgClに対する-1.4 VでのCO
2の還元時のpH及びRh濃度対時間の漸進的変化を示す図である。
図3.2:実施例3において得られた生成物のXRDパターンを示す図である。
【
図4-1】
図4.1:実施例4の浸出溶液のAg/AgClに対する-1.4 VでのCO
2の還元時のpH対時間の漸進的変化を示す図である。挿入図、経時的な溶液の色変化。
*サンプリング点。
図4.2:実施例4の浸出溶液のAg/AgClに対する-1.4 VでのGDExによるCO
2の還元時のPGM濃度対時間の漸進的変化を示す図である。
【
図4-2】
図4.3:実施例4のGDExプロセスのガス供給物としてCO
2を用いて得られた生成物のXRDパターンを示す図である。
【
図5-1】
図5.1:浸出溶液のAg/AgClに対する-1.4 VでのCO
2の還元時のpH対時間の漸進的変化を示す図である。挿入図、経時的な溶液の色変化。
*サンプリング点。
図5.1においては、サンプル1は実施例4、
図4.1に示す浸出液を指し、サンプル2は、この実施例5に使用した浸出液に対応する。
図5.2:実施例5の浸出溶液のAg/AgClに対する-1.4 VでのGDExによるCO
2の還元時のPGM濃度対時間の漸進的変化を示す図である。
【
図5-2】
図5.3:実施例5におけるGDExプロセスのガス供給物としてCO
2を用いて得られた生成物のXRDパターンを示す図である。
【
図6】a)CO
2をArに置き換えた場合のGDExプロセス全体を通して消費された電荷の関数としてのpHの漸進的変化を示す図である。b)Pd溶液について得られた生成物のX線回折パターンを示す図である。c)実施例6のRh溶液について得られた生成物のX線回折パターンを示す図である。
【
図7】左:気相でArを流し、陰極液リザーバでCO
2をバブリングして元素ナノ粒子を生じさせた場合のGDExプロセス全体を通して単位体積当たりに消費された電荷の関数としてのpHの漸進的変化を示す図である。右:元素ナノ粒子のX線回折パターン(上)並びにSEM顕微鏡写真及び分布ヒストグラム(下)を示す図である。白色スケールバーは、以下の金属について1 μmである:実施例7の(a)Pt;(b)Pd;(c)Rh。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0050】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0051】
材料及び方法
化学物質
ヘキサクロロ白金(IV)酸(H2PtCl6、Pt 39.93重量%)(Johnson Matthey)、塩化パラジウム(II)(PdCl2、99.9%)(Sigma-Aldrich)、塩化ロジウム(III)水和物(RhCl3・xH2O、99.98%)(Sigma-Aldrich)、塩化ナトリウム(NaCl、99.5%)(Acros Organics)、塩酸(HCl、37重量%)(Sigma-Aldrich)、二酸化炭素(CO2、99.998%)(Air Liquide)及びアルゴン(Ar、99.99%)(Air Liquide)を種々の供給元から購入し、更に精製することなくそのまま(as received)使用した。実験全体を通して脱塩水を水溶液の調製に使用した。
【0052】
電気化学反応器
電気化学反応器(
図1.2)は、3コンパートメントの電気化学セルであった。第1のコンパートメントには、ガス拡散電極(GDE)の疎水性層に過圧を設定してガス(すなわちCO
2、Ar)を一定速度で流す。陰極液及び陽極液を、それぞれのセルコンパートメントを通して、リザーバとして働く三つ口ボトルから三つ口ボトルへと流す。陰極液及び陽極液の両方のコンパートメントは、FUMASEPZ(商標)FAP-4130-PK陰イオン交換膜によって隔てられる。両方の液体コンパートメントは、10 cm
2の露出表面積及び21 cm
3の容量を有する。GDE(VITO CORE(商標))1は、集電体として働くステンレス鋼メッシュにプレスされた外側の活性炭-ポリテトラフルオロエチレン(C対PTFE比が80:20のC-PTFE)層で構成されるものであった。用いた活性炭は、Norit(商標)SX 1G(Cabot, Europe)であった。かかる陰極の投影表面積は10 cm
2であり、PTFE結合活性層のBET比表面積は約450 m
2/gであった。Ag/AgCl(3 M KCl)電極を参照電極として使用し、ルギン管を介してGDEの近くに配置した。白金被覆タンタルプレート電極(Pt厚10 μm)を陽極として使用し、この陽極はO
2又はCl
2を生成したが、電気化学(陰極)プロセス及び対象の生成物には無視できるほどの影響しか及ぼさなかった。
【0053】
合成手順
3つの白金族金属イオン(PGM)の前駆体化合物(H2PtCl6、PdCl2、RhCl3)の0.1 Mストック溶液を0.5 M NaCl中で調製し、対応する使用液(working solutions)の調製に使用した。GDExプロセスのバックグラウンド電解質は、濃HClで調整した0.5 M NaCl溶液(pH3)であった。陰極液の溶液は、Pt4+、Pd2+及びRh3+の最終濃度がそれぞれ3.0 mMとなるように、バックグラウンド電解質とPGMストック溶液とを混合することによって調製した。バックグラウンド電解質単独(すなわち、PGMを含まない)を陽極液として使用した。250 mL又は100 mLの陰極液及び陽極液を三つ口ガラスボトルに入れ、マープレンチューブ(Watson-Marlow)を用いて電気化学反応器に接続し、蠕動ポンプ(530、Watson-Marlow)を用いて40 mL/minの流量でそれぞれのチャンバに送液した。
【0054】
ガス(すなわち、CO2、Ar)をガスチャンバに20 mbarの過圧を用いて200 mL/minで流した。溶液及びガスを実験の開始前に(電極の分極を行わずに)15分間セルを通してフラッシュした。クロノポテンショメトリー実験を、Bio-Logic(VMP3)マルチチャンネルポテンショスタットを用いて-10 mA/cm2でバッチモードにて行った。全実験を通してpH、電荷及び電位をモニタリングした。
【0055】
pHは、Metrohm Unitrode pH電極を備えるMetrohm 781 pH/イオンメーターで5秒に1回測定した。異なる時点で陰極液から1 mlのアリコートを取り、100 μLの0.1 M HClを添加して反応をクエンチし、未反応の金属イオンの析出を回避した。アリコートを遠心分離し、0.3 μm細孔フィルターで濾過した。
【0056】
濾過した溶液を誘導結合プラズマ-発光分光分析装置(ICP-OES)(Varian 750 ES)で分析し、液相中の金属濃度をモニタリングした。清澄な溶液から暗く濁った溶液への変化が、ナノ粒子の形成を示すものであった。陰極液のアリコートを遠心分離した後に上清が透明になった時点で実験を終了した。ナノ粒子を一晩置いて沈降させた。上清をデカントし、脱塩水を用いてナノ粒子を再懸濁し、Hettich Rotina 35遠心分離機を用いて10000 rpmで遠心分離して、残存NaClを除去した。上清の伝導率が脱塩水と同様になるまで洗浄手順を繰り返した。生成物をAr雰囲気下にて室温で乾燥させ、更なる特性評価のために保存しておいた。
【0057】
特性評価
X線回折(XRD):乾燥サンプルを、Cu Kα線(λ=1.5406Å)を用いて電圧40 kV及び電流40 mAで操作したSeifert 3003 T/T回折計において粉末X線回折によって分析した。データは、0.05°のステップサイズを用いて20°~120°(2θ)の範囲で収集した。粉末回折パターンのプロファイルフィッティングを、無機結晶構造データベース(ICSD)を用いてHighscore Plus(Malvern Pannalytical)で行った。結晶子サイズは、以下のシェラーの式を用いて算出した:2
D=(κλ)/(βcosθ) (1)
ここで、Dは結晶性ドメインの平均結晶子サイズであり、κはシェラーの定数であり、通例、球状粒子では0.89とみなされ、λはX線波長であり、βはラジアン単位の最大強度の半分での線広がり(FWHM)であり、θ(°)は反射面でのブラッグ角である。
【0058】
走査型電子顕微鏡法(SEM):乾燥サンプルの顕微鏡写真は、Philips XL30 FEG走査型電子顕微鏡で撮影し、提示した画像は二次電子を用い、加速電圧30 kVで撮影した。粉末をエタノールに分散させ、30分間超音波処理することによってサンプルを調製した。次いで、サンプルホルダーに取り付けたアルミ箔に10 μLを滴下した。ソフトウェアImageJ(NIH)を用いて少なくとも100個の粒子を計数することによって平均粒径及び分布を評価した。その後、データを対数正規分布に当てはめ、平均粒径及び標準偏差を得た。
【0059】
実施例1-ブランク実験
PGMの非存在下(ブランク)での単位体積(volume unit)当たりの消費電荷の関数としてのCRRの進行に伴うpHの漸進的変化を
図2(灰色の線)に示す。酸性条件(すなわち、pH約3)から開始して、500 C/Lしか消費されていないときはバルクpHが3から約6まで上昇し、その後、実験終了時(10
4 C/L消費)までに、pHは約7.5まで緩衝されたままであった。COへのCO
2還元反応(反応1及び反応2)及びH
2への水還元反応(反応3)の両方がOH
-を生じ、電解質のpHを急速に上昇させた
15、24。このような弱アルカリ性環境においては、未反応のCO
2がHCO
3
-として陰極液に溶解する(反応4)。後者は、アルカリ性pHではCO
3
2-へと更に脱プロトン化され得る(反応5)。どちらの平衡反応も、陰極で生成したOH
-陰イオンの一部を消費し、電解質バルクの緩衝をもたらす
24。
CO
2+OH
-⇔HCO
3
- (4)
HCO
3
-+OH
-⇔CO
3
2-+H
2O (5)
【0060】
実施例2.
1.035 Mの塩化物陰イオン、0.7 Mの硫酸陰イオンを含有し、-0.02のpH及び以下の元素の濃度(mg/L)を有する、マトリックスとしての1 M HCl中のストリッピング溶液を出発溶液として使用した:0.01 Pt、0.01 Pd、2.17 Rh、1830 Al、15.2 Si、315 Mg、101 Ce、476 Zr、0.29 Ba、15.2 La、24.4 Fe、16.1 Ti、11.3 Sr、10.6 Nd、22519 S、62.2 Ca、144 K、42752 Na、<0.01 P、0.76 Zn、3.31 Ni、<0.01 Cu、1.48 Ag、3.79 Cr、0.78 V、<0.01 Co、0.64 As、3.16 Mn、0.78 Pb、0.90 Mo、3.80 Sn、<0.01 Ta、<0.01 Bi、<0.01 Sb、46.6 Sc、0.32 Au及び<0.01 Cd。このストリッピング溶液は、使用済み触媒コンバーターの前処理に由来するものであった。ロジウムが強調されるのは、本発明の方法対象を適用することによって、Rhを更に再使用することができるように残りの成分から選択的に分離し得ることが意図されるためである。
【0061】
本発明の方法対象の操作条件は、実施例1に提示したものと同じであった。
【0062】
GDEx中にCO
2還元が起こる陰極での分極を開始した後、系のpHは、
図2.aに示されるように時間とともに漸進的に変化する。同時に、Rhの除去は、
図2.cに示されるように進行し、表1に示されるように溶液中の最重要の成分の濃度が漸進的に変化する。18時間の処理により系がpH2に達し、Rhの95.5%が溶液から除去された(表2.1)。この時点で、殆どの不純物が溶液中に保持される。さらに、除去されるこれらの不純物は、与えられた条件においては元素形態まで還元され得ないため、電極の表面に水酸化物として析出する。これにより、純粋な元素ロジウムナノ粒子が得られる。
【0063】
【0064】
実施例3.
mg/L単位で以下の元素:1000 Fe、1000 Mg、5000 Al及び600~100の範囲のRhを含有する、実施例2のストリッピング溶液を部分的に模倣することを目的とした合成溶液を、マトリックスとしての1 M HCl中で調製し、その濃度の影響を評定した。RhCl3をRh前駆体として使用した。ガス供給物としてCO2を使用するGDExによるRhの選択的回収を目的とした。本発明の方法対象の操作条件は、先の実施例に提示したものと同じであった。この場合、方法によりpHは2までしか漸進的に変化せず、これは実施例2において最も高いRh回収率が見られた範囲である。
【0065】
図3.1は、経時的なpHの漸進的変化及びRhの濃度を示す。表3.1に示されるように、12時間処理し、pH約1.5に達した後、Rhの98%超が溶液から除去され、実験の終了時までに100 mg/L Rhを含有する溶液からRhの98.1%が除去され、350 mg/L Rhを含有する溶液からRhの99.3%が除去され、600 mg/L Rhを含有する溶液からRhの99.5%が除去された。溶液中の残りの金属イオンの除去率(%)は、100 mg/L Rhを含有する溶液を使用した場合に最も高かった。しかしながら、いずれの場合もこれらの不純物の除去は最小限であった。得られた生成物の定量的評価に基づくと、溶液中に最初に存在するRhの70%が元素Rhナノ粒子に回収された。得られた生成物の純度は、そのXRDパターン(
図3.b)によって示されるように100%であった。残りのRh(30%)は、不純物とともに電極表面に沈着することで失われた。
【0066】
表3.1 実験終了時のRh模倣ストリップ中の金属の金属除去率(%)
【表2】
【0067】
実施例4.
使用済み触媒コンバーターの前処理により浸出溶液を得た。浸出液は、pH-0.873及びイオン伝導率555 mS/cmの6 M HCl+31%H2O2(9:1 v/v)の溶液中に支持された。浸出液中の種々の元素の濃度(mg/L)は、84.25 Pt、136.5 Pd、21.5 Rh、11650 Al、3461 Mg、1687 Ce、1100 Fe、0.1 Zr、10.5 Ba、220 La、78.1 Ti、147 Sr、98.4 Nd、182 Cr、4 V、<0.01 Cuであった。PGMが強調されるのは、本発明の方法対象を適用することによって、これらを更なる再使用のために残りの成分から選択的に分離し得ることが意図されるためである。
【0068】
本発明の方法対象の操作条件は、先の実施例に提示したものと同じであった。
【0069】
図4.1は、実験を通してのpHの漸進的変化を示す。浸出液をGDExで処理する際に生じる種々の色の変化が強調される。約22時間の処理では、pH0.5に達し(
図5.a)、PGMの約99%が浸出液から除去された(
図4.2)。表4.1は、浸出液の種々の成分の濃度の漸進的変化を示し、ここで、特に7時間の処理までの溶液からの非PGM元素の最小限の除去が注目に値し、最も高いPGM除去率が見られた。
図4.3に示されるように、処理によって回収された生成物は、純粋なPGMの混合物からなっていた。
【0070】
表4.1. 異なるサンプリング時間での浸出液からの金属除去率(%)
【表3】
【0071】
実施例5.
使用済み触媒コンバーターの前処理により浸出溶液を得た。浸出液は、pH-0.873及びイオン伝導率555 mS/cmの6 M HCl+31%H2O2(9:1 v/v)の溶液中に支持された。浸出液中の種々の元素の濃度(mg/L)は、90.25 Pt、154.5 Pd、25.1 Rh、11750 Al、3570 Mg、1640 Ce、498 Fe、0.11 Zr、4.36 Ba、289 La、88.1 Ti、153 Sr、104 Nd、21.5 Cr、4.4 V、9.5 Cuであった。PGMが強調されるのは、本発明の方法対象を適用することによって、これらを更なる再使用のために残りの成分から選択的に分離し得ることが意図されるためである。
【0072】
本発明の方法対象の操作条件は、先の実施例に提示したものと同じであった。
【0073】
図5.1は、実験を通してのpHの漸進的変化を示す。浸出液をGDExで処理する際に生じる種々の色の変化が強調される。実施例1と同様、22時間の処理までにPGMの大部分が除去されたことが示され、GDExによるこの浸出液の処理時間は、22時間で終了した(すなわち、
図5.1の両実験のpHの漸進的変化の比較を参照されたい)。達成された最大pHは約0.75であり、その時点でPGMの99.9%が浸出液から除去された(
図5.2)。それにもかかわらず、表5.1には、最大PGM回収率が処理の最初の7時間で見られたことが示される。
図5.3に示されるように、処理によって回収された生成物は、純粋なPGMの混合物からなっていた。
【0074】
実施例6. ガスコンパートメントでのArによるCO
2の置換え
GDExプロセス中のpHを緩衝するCO
2平衡の役割を実証するために、CO
2をArに置き換え、陰極を同じ電流密度で分極した。予想の通り、水還元反応のみが起こる場合、OH
-イオンの生成により、顕著な緩衝帯なしにpHが3から11.5まで上昇する。同じ実験を、金属を含有する溶液で繰り返した。Pd及びRhの場合については、OH
-が[PdCl
4]
2-及び[RhCl
6]
3-のCl
-を置き換え、水酸化物錯体を形成する。Rh(OH)
3はそのまま析出するが、Pd(OH)
2は極めて不安定であり、X線回折パターンに示されるように(
図S4b及び
図S4c)、容易に水和PdOに変換される
13。Pd及びRhを用いた実験において、OH
-の消費は、pH11に達する前のpHプラトーで認められる。Pdの場合については、X線回折パターン(
図S3b)において、金属Pdに対応するピークが特定され、少量のPd
2+がPd
0に還元されたことが示唆された。これらの結果から、GDExプロセスにおけるCO
2平衡の重要性が強調される。
【0075】
実施例7 GDEx反応器の気相でのArの流入及び陰極液リザーバにおけるCO2のバブリング
GDExプロセス中のGDEでのCO2還元時に生成するCOの役割を実証するために、Arを反応器のガスコンパートメントに流し、CO2を陰極液リザーバにバブリングした。陰極を同じ電流密度で分極した。この条件では、H2への水還元及びバルク電解質でのCO2平衡が起こるが、COへのCO2還元は起こらない。予想の通り、陰極液のpHが(ブランク実験及び金属を含有する実験の両方において)約6に緩衝される。GDExプロセス(CO2がGDEで還元される)と同様、金属ナノ粒子が得られた。しかしながら、これらの生成物の平均直径はより大きく、分布はより広かった。これらの結果から、得られる生成物のサイズ及び分布を制御するためのGDExプロセスにおけるCOの形成及び存在の重要性が強調される。
【符号の説明】
【0076】
図面訳
図1.1
diffusion layer 拡散層
oxide 酸化物
hydroxide 水酸化物
図1.2
Anolyte 陽極液
Pt plate anode Ptプレート陽極
FUMASE
(商標) Anion exchange membrane FUMASEP(商標)陰イオン交換膜
Liquid phase 液相
VITO CORE
(商標) cathode VITO CORE(商標)陰極
Gas phase 気相
Catholyte (Metals) 陰極液(金属)
Product 生成物
図2.1
Time (h) 時間(時)
Rh Removal zone Rh除去域
Removal of impurities from solution 溶液からの不純物の除去
図2.2
Rh concentration Rh濃度
time (h) 時間(時)
Rh is removed before solution reached pH 2 溶液がpH2に達する前にRhを除去する
図3.1
Time (h) 時間(時)
Concentration 濃度
図3.2
Position 位置
Cobalt コバルト
Rhodium ロジウム
図4.1
time (h) 時間(時)
図4.2
Concentration 濃度
Time (h) 時間(時)
~99% of removal from the solution 溶液からの約99%の除去
図4.3
Position 位置
Cobalt コバルト
Leachate 浸出液
Palladium パラジウム
Platinum 白金
Sodium Chloride 塩化ナトリウム
図5.1
Tin 時間
Sample サンプル
図5.2
Concentration 濃度
Time (h) 時間(時)
99.9% of removal from de solution 溶液からの99.9%の除去
図5.3
Position 位置
Cobalt コバルト
2nd Exp 第2実験
Pt, Rh, Pd mixture Pt、Rh、Pdの混合物
Palladium パラジウム
Platinum 白金
図6
Volume charge density 体積電荷密度
Blank ブランク
図7
Volume charge density 体積電荷密度
Blank ブランク
参考文献
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【国際調査報告】