(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】抗CD19抗体及びCAR-T構造体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240321BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240321BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240321BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240321BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240321BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240321BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240321BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240321BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240321BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240321BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240321BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240321BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240321BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240321BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240321BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240321BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240321BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240321BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240321BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240321BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240321BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240321BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
C07K16/46
C07K19/00
C07K14/725
C12N15/12
C12N15/62 Z
A61P43/00 105
A61P35/02
A61P35/00
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K35/17
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561019
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 US2022023723
(87)【国際公開番号】W WO2022216864
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トリンクライン,ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス,キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】アバンジーノ,ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,カレン
(72)【発明者】
【氏名】デイビソン,ローラ
(72)【発明者】
【氏名】マディソン,ブレア・ビー
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス,ジョーセフ・エス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
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4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA021
4C084ZA961
4C084ZB051
4C084ZB151
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB271
4C085AA13
4C085BB11
4C085CC01
4C085CC08
4C085CC21
4C085DD23
4C085DD31
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA05
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA96
4C087ZB05
4C087ZB15
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
抗CD19抗体(例えば、UniAbs(商標))及びCAR-T構造体は、かかる抗体及びCAR-T構造体を作製する方法、かかる抗体及びCAR-T構造体を含む医薬組成物を含む組成物並びにCD19の発現によって特徴付けられる障害を処置するためのその使用と共に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1において2つ以下の置換を有するCDR1配列;及び/又は
(b)配列番号2において2つ以下の置換を有するCDR2配列;及び/又は
(c)配列番号3~4の何れか1つにおいて2つ以下の置換を有するCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する抗体。
【請求項2】
前記CDR1、CDR2及びCDR3配列は、ヒトVHフレームワーク中に存在する、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
(a)配列番号1及び38からなる群から選択されるCDR1配列;及び/又は
(b)配列番号2及び39からなる群から選択されるCDR2配列;及び/又は
(c)配列番号3~4からなる群から選択されるCDR3配列
を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の抗体。
【請求項5】
(a)配列番号1又は配列番号38を含むCDR1配列;及び
(b)配列番号2又は配列番号39を含むCDR2配列;及び
(c)配列番号3又は配列番号4を含むCDR3配列
を含む、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は
(c)配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(d)配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は
(e)配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(f)配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列
を含む、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
配列番号5、6、40及び41の配列の何れか1つに対して少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の抗体。
【請求項8】
配列番号5、6、40及び41からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
配列番号5の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
配列番号6の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項11】
配列番号40の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項12】
配列番号41の重鎖可変領域配列を含む、請求項8に記載の抗体。
【請求項13】
ヒトVHフレームワークにおけるCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する抗体であって、前記CDR配列は、配列番号1、2、3、4、38及び39からなる群から選択されるCDR配列において2つ以下の置換を有する配列である、抗体。
【請求項14】
ヒトVHフレームワークにおけるCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、前記CDR配列は、配列番号1、2、3、4、38及び39からなる群から選択される、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
(a)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は
(c)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(d)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は
(e)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(f)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する抗体。
【請求項16】
多特異性である、請求項1~15の何れか一項に記載の抗体。
【請求項17】
二特異性である、請求項16に記載の抗体。
【請求項18】
2つの異なるCD19タンパク質に結合する、請求項17に記載の抗体。
【請求項19】
同じCD19タンパク質上の2つの異なるエピトープに結合する、請求項17に記載の抗体。
【請求項20】
エフェクター細胞に結合する、請求項16に記載の抗体。
【請求項21】
T細胞抗原に結合する、請求項16に記載の抗体。
【請求項22】
CD3に結合する、請求項21に記載の抗体。
【請求項23】
CAR-Tフォーマットである、請求項1~15の何れか一項に記載の抗体。
【請求項24】
(a)配列番号1又は配列番号38を含むCDR1配列;及び
(b)配列番号2又は配列番号39を含むCDR2配列;及び
(c)配列番号3又は配列番号4を含むCDR3配列
を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインを含むCARを含むCAR-T細胞。
【請求項25】
前記重鎖可変領域は、
(a)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(b)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は
(c)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(d)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は
(e)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は
(f)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列
を含む、請求項24に記載のCAR-T細胞。
【請求項26】
CD19に結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号5、6、40及び41の配列の何れか1つに対して少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む、請求項24又は25に記載のCAR-T細胞。
【請求項27】
CD19に結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号5、6、40及び41からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む、請求項26に記載のCAR-T細胞。
【請求項28】
CD19に結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号5の重鎖可変領域配列を含む、請求項27に記載のCAR-T細胞。
【請求項29】
CD19に結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号6の重鎖可変領域配列を含む、請求項27に記載のCAR-T細胞。
【請求項30】
CD19に結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号40の重鎖可変領域配列を含む、請求項27に記載のCAR-T細胞。
【請求項31】
CD19に結合する前記細胞外抗原結合ドメインは、配列番号41の重鎖可変領域配列を含む、請求項27に記載のCAR-T細胞。
【請求項32】
請求項1~23の何れか一項に記載の抗体又は請求項24~31の何れか一項に記載のCAR-T細胞を含む医薬組成物。
【請求項33】
CD19の発現によって特徴付けられるB細胞障害の処置の方法であって、前記障害を有する対象に、請求項1~23の何れか一項に記載の抗体、請求項24~31の何れか一項に記載のCAR-T細胞又は請求項32に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項34】
前記障害は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記障害は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記障害は、非ホジキンリンパ腫(NHL)である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記障害は、全身性エリテマトーデス(SLE)である、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記障害は、関節リウマチ(RA)である、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記障害は、多発性硬化症(MS)である、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
請求項1~23の何れか一項に記載の抗体又は請求項24~31の何れか一項に記載のCAR-T細胞のCARをコードするポリヌクレオチド。
【請求項41】
請求項40に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項42】
請求項41に記載のベクターを含む細胞。
【請求項43】
請求項1~23の何れか一項に記載の抗体を生成する方法であって、前記抗体の発現を許容する条件下において、請求項42に記載の細胞を成長させることと、前記細胞及び/又は前記細胞が成長する細胞培養培地から前記抗体を単離することとを含む方法。
【請求項44】
請求項1~23の何れか一項に記載の抗体を作製する方法であって、UniRat動物をCD19で免疫することと、CD19結合重鎖配列を同定することとを含む方法。
【請求項45】
処置の方法であって、必要とする個体に、有効用量の、請求項1~23の何れか一項に記載の抗体、請求項24~31の何れか一項に記載のCAR-T細胞又は請求項32に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項46】
必要とする個体の疾患又は障害の処置のための薬物の調製における、請求項1~23の何れか一項に記載の抗体又は請求項24~31の何れか一項に記載のCAR-T細胞の使用。
【請求項47】
必要とする個体の治療における使用のための、請求項1~23の何れか一項に記載の抗体、請求項24~31の何れか一項に記載のCAR-T細胞又は請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項48】
必要とする個体の疾患又は障害を処置するためのキットであって、請求項1~23の何れか一項に記載の抗体、請求項24~31の何れか一項に記載のCAR-T細胞又は請求項32に記載の医薬組成物と使用説明書とを含むキット。
【請求項49】
少なくとも1つの追加の試薬をさらに含む、請求項48に記載のキット。
【請求項50】
前記少なくとも1つの追加の試薬は、化学療法薬を含む、請求項49に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年4月6日に出願された米国仮特許出願第63/171,520号明細書の出願日の優先権利益を主張するものであり、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本願は、2022年2月18日に出願された米国仮特許出願第63/311,913号明細書の出願日の優先権利益も主張するものであり、この開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、CD19に結合する抗体(例えば、UniAbs(商標))及びCAR-T構造体に関する。本発明は、かかる抗体及びCAR-T構造体を作製する方法、かかる抗体及びCAR-T構造体を含む医薬組成物を含む組成物並びにCD19の発現によって特徴付けられる障害を処置するためのその使用にさらに関する。
【背景技術】
【0003】
分化クラスター19(CD19)
CD19、別名B-リンパ球表面抗原B4(UniProt P15391)は、あらゆるヒトB細胞に発現するが、形質細胞には発現しない細胞表面受容体である。CD19は、細胞質シグナル伝達タンパク質を膜に動員する膜貫通タンパク質であり、これは、CD19/CD21複合体内でB細胞受容体シグナル伝達経路の閾値を低下させる役割を果たす。CD19は、比較的大型の240アミノ酸の細胞質テールを有する。この細胞外Ig様ドメインは、潜在的にジスルフィド結合型の非Ig様ドメインと、N-結合型の糖鎖付加部位とに分けられる。この細胞質テールは、C末端近傍に少なくとも9個のチロシン残基を有し、そのいくつかは、リン酸化していることが示されている。CD20及びCD22と共に、CD19の発現は、B細胞系統に制限されているため、CD19は、B細胞悪性腫瘍の治療処置に魅力的な標的となる。CD19に特異的なモノクローナル抗体及び抗体-薬物コンジュゲートが多数記載されている(Naddafi et al.2015,PMC4644525)。加えて、抗CD19キメラ抗原受容体T細胞は、白血病の処置に承認されている(Sadelain et al.2017,PMID:29245005)。
【0004】
重鎖抗体
従来のIgG抗体では、重鎖と軽鎖との会合は、一部には、軽鎖定常領域と重鎖のCH1定常ドメインとの間の疎水性相互作用に起因する。重鎖のフレームワーク2(FR2)及びフレームワーク4(FR4)の領域には、この重鎖と軽鎖との間の疎水性相互作用にも寄与するさらなる残基が存在する。
【0005】
しかしながら、ラクダ科動物(ラクダ、ヒトコブラクダ及びラマを含むタイロポダ(Tylopoda)亜目)の血清には、対になったH鎖のみから構成される主要なタイプの抗体(重鎖抗体又はUniAb(商標))が含有されることが知られている。ラクダ科(Camelidae)(キャメルス・ドロメダリウス(Camelus dromedarius)、キャメルス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)、ラマ・グラマ(Lama glama)、ラマ・グアナコ(Lama guanaco)、ラマ・アルパカ(Lama alpaca)及びラマ・ビクーニャ(Lama vicugna))のUniAb(商標)は、単一可変ドメイン(VHH)、ヒンジ領域及び古典的な抗体のCH2及びCH3ドメインと相同性の高い2つの定常ドメイン(CH2及びCH3)からなる独特の構造を有する。これらのUniAb(商標)は、ゲノム中に存在するが、mRNAプロセシング中にスプライスアウトされる定常領域の第1のドメイン(CH1)を欠いている。CH1ドメインの非存在は、このドメインが軽鎖の定常ドメインのアンカー位置であるため、UniAb(商標)における軽鎖の非存在を説明する。このようなUniAb(商標)は、従来の抗体又はその断片からの3つのCDRによる抗原結合特異性及び高親和性を付与するように自然に進化した(Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302;Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124)。サメなどの軟骨魚類も、軽鎖ポリペプチドを欠き、完全に重鎖によって構成される、IgNARと称される特有のタイプの免疫グロブリンを進化させた。IgNAR分子は、分子工学によって操作して、単一重鎖ポリペプチドの可変ドメイン(vNAR)を作製し得る(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0006】
軽鎖を欠く重鎖抗体(heavy chain-only antibodies)が抗原に結合する能力は、1960年代に確立された(Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、四量体抗体の80%の抗原結合活性を保持した。Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790は、再編成されたマウスμ遺伝子からのCH1ドメインの除去が、哺乳動物細胞培養において、軽鎖を欠く重鎖抗体の産生をもたらすことを示した。産生された抗体は、VH結合特異性及びエフェクター機能を保持した。
【0007】
高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体は、免疫付与を通じて様々な抗原に対して生成され得(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999))、VHH部分を容易にクローニングし、酵母で発現させ得る(Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解性及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)断片又はFv断片より顕著に高い(Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。
【0008】
λ(ラムダ)軽鎖(L)遺伝子座及び/又はλ及びκ(カッパ)L鎖遺伝子座が機能的にサイレンシングされたマウス及びそのようなマウスによって産生される抗体は、米国特許第7,541,513号明細書及び同第8,367,888号明細書に記載されている。マウス及びラットにおける重鎖抗体の組み換え産生は、例えば、国際公開第2006008548号パンフレット、米国特許出願公開第20100122358号明細書、Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101;Bruggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90;及びZou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283において報告されている。ジンクフィンガーヌクレアーゼの胚マイクロインジェクションによるノックアウトラットの作製は、Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433に記載されている。このような抗体を産生する異種重鎖遺伝子座を含む可溶性重鎖抗体及びトランスジェニック齧歯類は、米国特許第8,883,150号明細書及び同第9,365,655号明細書に記載されている。結合(標的化)ドメインとして単一ドメイン抗体を含むCAR-T構造は、例えば、Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641及びJamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,541,513号明細書
【特許文献2】米国特許第8,367,888号明細書
【特許文献3】国際公開第2006008548号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第20100122358号明細書
【特許文献5】米国特許第8,883,150号明細書
【特許文献6】米国特許第9,365,655号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Naddafi et al.2015,PMC4644525
【非特許文献2】Sadelain et al.2017,PMID:29245005
【非特許文献3】Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302
【非特許文献4】Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124
【非特許文献5】Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003)
【非特許文献6】Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004)
【非特許文献7】Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003)
【非特許文献8】Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195
【非特許文献9】Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790
【非特許文献10】van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999)
【非特許文献11】Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000)
【非特許文献12】Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997)
【非特許文献13】Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101
【非特許文献14】Bruggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90
【非特許文献15】Zou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283
【非特許文献16】Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433
【非特許文献17】Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641
【非特許文献18】Jamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様は、(a)配列番号1において2つ以下の置換を有するCDR1配列;及び/又は(b)配列番号2において2つ以下の置換を有するCDR2配列;及び/又は(c)配列番号3~4の何れか1つにおいて2つ以下の置換を有するCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する抗体を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、CDR1、CDR2及びCDR3配列は、ヒトVHフレームワーク中に存在する。いくつかの実施形態では、抗体は、CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1及び38からなる群から選択されるCDR1配列;及び/又は(b)配列番号2及び39からなる群から選択されるCDR2配列;及び/又は(c)配列番号3~4からなる群から選択されるCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1又は配列番号38を含むCDR1配列;及び(b)配列番号2又は配列番号39を含むCDR2配列;及び(c)配列番号3又は配列番号4を含むCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、(a)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は(c)配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(d)配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は(e)配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(f)配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号5、6、40及び41の配列の何れか1つに対して少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号5、6、40及び41からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号5の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号6の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号40の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号41の重鎖可変領域配列を含む。
【0015】
本発明の態様は、ヒトVHフレームワークにおけるCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する抗体を含み、CDR配列は、配列番号1、2、3、4、38及び39からなる群から選択されるCDR配列において2つ以下の置換を有する配列である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトVHフレームワークにおけるCDR1、CDR2及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、CDR配列は、配列番号1、2、3、4、38及び39からなる群から選択される。
【0016】
本発明の態様は、(a)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は(c)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(d)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は(e)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(f)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する抗体を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、抗体は、多特異性である。いくつかの実施形態では、抗体は、二特異性である。いくつかの実施形態では、抗体は、2つの異なるCD19タンパク質に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、同じCD19タンパク質上の2つの異なるエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター細胞に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、T細胞抗原に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、CD3に結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、CAR-Tフォーマットである。
【0018】
本発明の態様は、(a)配列番号1又は配列番号38を含むCDR1配列;及び(b)配列番号2又は配列番号39を含むCDR2配列;及び(c)配列番号3又は配列番号4を含むCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインを含むCARを含むCAR-T細胞を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、重鎖可変領域は、(a)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(b)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は(c)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(d)ヒトVHフレームワークにおける配列番号38のCDR1配列、配列番号2のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列;又は(e)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号3のCDR3配列;又は(f)ヒトVHフレームワークにおける配列番号1のCDR1配列、配列番号39のCDR2配列及び配列番号4のCDR3配列を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号5、6、40及び41の配列の何れか1つに対して少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号5~6からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号5、6、40及び41の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号6の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号40の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD19に結合する細胞外抗原結合ドメインは、配列番号41の重鎖可変領域配列を含む。
【0021】
本発明の態様は、本明細書に記載される抗体又はCAR-T細胞を含む医薬組成物を含む。
【0022】
本発明の態様は、CD19の発現によって特徴付けられるB細胞障害を処置する方法であって、前記障害を有する対象に、本明細書に記載される抗体、CAR-T細胞又は医薬組成物を投与することを含む方法を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、障害は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。いくつかの実施形態では、障害は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)である。いくつかの実施形態では、障害は、非ホジキンリンパ腫(NHL)である。いくつかの実施形態では、障害は、全身性エリテマトーデス(SLE)である。いくつかの実施形態では、障害は、関節リウマチ(RA)である。いくつかの実施形態では、障害は、多発性硬化症(MS)である。
【0024】
本発明の態様は、本明細書に記載される抗体又はCAR-T細胞のCARをコードするポリヌクレオチド、かかるポリヌクレオチドを含むベクター及びかかるベクターを含む細胞を含む。
【0025】
本発明の態様は、本明細書に記載される抗体を生成する方法であって、抗体の発現を許容する条件下において、本明細書に記載される細胞を成長させることと、細胞及び/又は細胞が成長する細胞培養培地から抗体を単離することとを含む方法を含む。
【0026】
本発明の態様は、本明細書に記載される抗体を作製する方法であって、UniRat動物をCD19で免疫することと、CD19結合重鎖配列を同定することとを含む方法を含む。
【0027】
本発明の態様は、処置の方法であって、必要とする個体に、有効用量の、本明細書に記載される抗体、CAR-T細胞又は医薬組成物を投与することを含む方法を含む。
【0028】
本発明の態様は、必要とする個体の疾患又は障害の処置のための薬物の調製における、本明細書に記載される抗体又はCAR-T細胞の使用を含む。
【0029】
本発明の態様は、必要とする個体の疾患又は障害を処置するためのキットであって、本明細書に記載される抗体、CAR-T細胞又は医薬組成物と使用説明書とを含むキットを含む。いくつかの実施形態では、キットは、少なくとも1つの追加の試薬をさらに含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの追加の試薬は、化学療法薬を含む。
【0030】
これら及びさらなる態様について、実施例を含めた本開示の残りの部分でさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】CD19+ Raji細胞及び陰性対照細胞に対する指示される抗体コンストラクトについてのCD19結合データを要約する表である。
【
図2】パネルA及びBは、指示される細胞型(Raji及びDaudi)における、指示される抗体コンストラクトについての抗体濃度の関数としての細胞結合を示すグラフである。
【
図3】CD19+ Raji及びDaudi細胞に対する指示される抗体コンストラクトの細胞結合EC50値を要約する表である。
【
図4】パネルAは、抗CD19細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造体の概略図である。パネルB及びCは、指示される細胞株で試験した、抗CD19細胞外結合ドメインを含むCARコンストラクトの抗原特異的結合及び活性化を示すグラフである。
【
図5】パネルA及びBは、親VH-034結合体と比較した、T29D VH結合体又はS55D VH結合体の何れかを含むCARを発現するT細胞間の細胞傷害性比較結果を示すグラフである。
【
図6】親VH-034結合体と比較した、T29D VH結合体又はS55D VH結合体の何れかを含むCARを発現するT細胞におけるインビトロT細胞活性化の向上を要約する表である。
【
図7】CARフォーマットの濃縮されたCD19 VH結合体が親VH-034結合体と比較してT細胞でCARをより高度に発現することを示す表である。
【
図8】T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞がインビボでのT細胞増大の向上を呈することを示す表である。
【
図9】T29D又はS55D CD19 VH結合体を含むCARを発現するT細胞が親VH-034 CD19結合体と比較して少ないT細胞枯渇を呈したことを示す表である。
【
図10】T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞が腫瘍制御を呈したことを示すグラフである。
【
図11】
図10に示されるのと同じ結果を図示する、簡約していない個々のマウスモデルデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施は、特に明記しない限り、分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を使用し、これらは、当技術分野の技術の範囲内である。そのような技術は、文献、例えば“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook et al.,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987);“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987,and periodic updates);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994);“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988);“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001);Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I,Cold Spring Harbor Laboratory(1998);及びHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)で十分に説明されている。
【0033】
値の範囲が提供される場合、この範囲の上限と下限との間の各介在値(別途文脈が明確に示す場合を除き、下限の単位の10分の1まで)及びこの述べられる範囲のあらゆる他の指定の又は介在する値が本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、より小さい範囲に含まれ得、またこの指定された範囲で具体的に排除された何れかの制限を条件として本発明内に包含される。指定された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、含まれているこれらの限界の一方又は両方を除く範囲も本発明中に含まれる。
【0034】
別段の指示がない限り、本明細書中の抗体残基は、Kabatナンバリングシステム(例えばKabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))に従い番号付けされる。
【0035】
以下の説明では、本発明のより詳細な理解を提供するために、多くの具体的な詳細を記載する。しかしながら、本発明は、これらの具体的な詳細の1つ又は複数がなくても実施され得ることが当業者にとって明らかであろう。他の例では、周知の特徴及び当業者にとって周知の手順は、本発明を不明瞭にすることを避けるために説明していない。
【0036】
特許出願及び刊行物を含む、本開示全体を通して引用されている全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
I.定義
「含む」とは、列挙された要素は、組成物/方法/キットにおいて必要であるが、他の要素は特許請求の範囲内の組成物/方法/キットなどを形成するために含まれ得ることを意味する。
【0038】
「基本的に~からなる」とは、記載された組成物又は方法の範囲を、主題発明の基本的且つ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない特定の材料又は段階に限定することを意味する。
【0039】
「~からなる」とは、特許請求の範囲において特定されていない要素、段階又は成分を、組成物、方法又はキットから排除することを意味する。
【0040】
本明細書中の抗体残基は、Kabatナンバリングシステム及びEUナンバリングシステムに従って番号付けされる。Kabatナンバリングシステムは一般に、可変ドメインの残基(重鎖のおよそ1~113の残基)を指す場合に使用される(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。「EUナンバリングシステム」又は「EUインデックス」は一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域の残基を指す場合に使用される(例えば、Kabat et al.,前出、において報告されるEUインデックス)。「KabatにおけるEUインデックス」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基の番号付けを指す。本明細書中で別段の記載がない限り、抗体の可変ドメイン中の残基番号への言及は、Kabatナンバリングシステムによる残基番号付けを意味する。本明細書において別段の記載がない限り、抗体の定常ドメイン中の残基番号への言及は、EUナンバリングシステムによる残基番号付けを意味する。
【0041】
免疫グロブリンとも呼ばれる抗体は従来、少なくとも1本の重鎖及び1本の軽鎖を含み、重鎖及び軽鎖のアミノ末端ドメインの配列は可変であり、従って一般に可変領域ドメイン又は可変重鎖(VH)若しくは可変軽鎖(VL)ドメインと呼ばれる。2つのドメインは従来、会合して特異的結合領域を形成するが、本明細書で論じるように、特異的結合は、重鎖のみの可変配列を用いても得ることができ、抗体の様々な非天然構造が知られており、当技術分野で使用されている。
【0042】
「機能的」又は「生物学的に活性である」抗体又は抗原結合分子(本明細書に記載の重鎖抗体及び多特異性(例えば二特異性)3本鎖抗体様分子(TCA)を含む)は、構造的、調節的、生化学的又は生物物理学的事象においてその天然の活性の1つ以上を発揮することが可能なものである。例えば、機能的抗体又は他の結合分子、例えばTCAは、抗原に特異的に結合する能力を有し得、結合は次に、シグナル伝達又は酵素活性などの細胞又は分子事象を誘発又は変更し得る。機能的抗体又は他の結合分子、例えばTCAは、受容体のリガンド活性化を遮断し得るか又はアゴニスト若しくはアンタゴニストとしても作用し得る。抗体又は他の結合分子、例えばTCAがその天然の活性の1つ以上を発揮する能力は、ポリペプチド鎖の適切なフォールディング及びアセンブリを含むいくつかの因子に依存する。
【0043】
本明細書中の「抗体」という用語は最も広い意味で使用され、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単量体、二量体、多量体、多特異性抗体(例えば二特異性抗体)、重鎖抗体、3本鎖抗体、TCA、単鎖Fv(scFv)、ナノボディなどを包含し、抗体断片も、それらが所望の生物学的活性を示す限り含まれる(Miller et al(2003)Jour.of Immunology 170:4854-4861)。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体又は他の種由来であり得る。
【0044】
抗体という用語は、完全長重鎖、完全長軽鎖、インタクトな免疫グロブリン分子又はこれらのポリペプチドサブユニットの何れかの免疫学的に活性な部分、即ち関心対象の標的の抗原又はその一部に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含むポリペプチドを指し得、そのような標的としては、癌細胞又は自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を産生する細胞が挙げられるが限定されない。本明細書中で開示される免疫グロブリンは、何れかのタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はエフェクター細胞活性を低減若しくは増強させる改変Fc部分を有する改変サブクラスを含む免疫グロブリン分子のサブクラスであり得る。本抗体の軽鎖は、カッパ軽鎖(Vカッパ)又はラムダ軽鎖(Vラムダ)であり得る。免疫グロブリンは、何れかの種に由来し得る。一態様では、免疫グロブリンは主にヒト起源のものである。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、即ち、集団を構成する個々の抗体は、僅かに存在し得る可能性のある天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は極めて特異性が高く、単一の抗原部位を対象とする。さらに、典型的には異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。本発明によるモノクローナル抗体は、例えば、Kohler et al.(1975)Nature 256:495により最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製され得、組み換えタンパク質作製法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照)によっても作製され得る。
【0046】
「可変」という用語は、抗体に関連して使用される場合、抗体可変ドメインの特定の部分の配列が抗体間で大きく異なり、その特定の部分が各特定の抗体のその特定の抗原に対する結合及び特異性において用いられるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均等に分布しているわけではない。それは軽鎖及び重鎖の可変ドメインにおける何れも超可変領域と呼ばれる三つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保存される部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ大部分がβシート構造をとり、ループ接続を形成し、場合によりβシート構造の一部を形成する、3つの超可変領域によって接続された4つのFRを含む。各鎖の超可変領域は、FRによりごく近接して一体に保持され、他方の鎖由来の超可変領域と一緒になって抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)を参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合には直接関わらないが、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)における抗体の関与などの種々のエフェクター機能を示す。
【0047】
「超可変領域」という用語は、本明細書中で使用される場合、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」若しくは「CDR」に由来するアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメインの残基31~35(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))及び/又は「超可変ループ」に由来するアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメインの26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3);Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987))を含む。いくつかの実施形態では、「CDR」は、Lefranc,MP et al.,IMGT,the International ImMunoGeneTics database,Nucleic Acids Res.,27:209-212(1999)において定義されているような抗体の相補性決定領域を意味する。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書で定義されるような超可変領域/CDR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0048】
例示的なCDRの名称を本明細書中で示すが、当業者は、Kabatの定義(“Zhao et al.A germline knowledge based computational approach for determining antibody complementarity determining regions.”Mol Immunol.2010;47:694-700を参照)(これは、配列の可変性に基づいており、最も一般的に使用されている)を含む、CDRのいくつかの定義が一般に使用されていることを理解するであろう。Chothiaの定義は、構造ループ領域の位置に基づく(Chothia et al.“Conformations of immunoglobulin hypervariable regions.”Nature.1989;342:877-883)。関心対象の代替的なCDRの定義としては、Honegger,“Yet another numbering scheme for immunoglobulin variable domains:an automatic modeling and analysis tool.”J Mol Biol.2001;309:657-670; Ofran et al.“Automated identification of complementarity determining regions (CDRs) reveals peculiar characteristics of CDRs and B-cell epitopes.”J Immunol.2008;181:6230-6235;Almagro“Identification of differences in the specificity-determining residues of antibodies that recognize antigens of different size:implications for the rational design of antibody repertoires.”J Mol Recognit.2004;17:132-143;and Padlanet al.“Identification of specificity-determining residues in antibodies.”Faseb J.1995;9:133-139に開示されているものが挙げられるが限定されない(これらの各文献は、参照により本明細書に明確に組み込まれる)。
【0049】
「重鎖抗体(heavy chain-only antibody)」及び「重鎖抗体(heavy chain antibody)」という用語は、本明細書中で交換可能に使用され、広義で、抗体又は抗体の1つ以上の部分、例えば従来の抗体の軽鎖を欠く抗体の1つ以上のアームを指す。この用語には、具体的には、CH1ドメインの非存在下でVH抗原結合ドメインとCH2及びCH3定常ドメインとを含むホモ二量体抗体;このような抗体の機能的(抗原結合)バリアント、可溶性VHバリアント、1つの可変ドメイン(V-NAR)及び5つのC様定常ドメイン(C-NAR)のホモ二量体を含むIg-NAR及びその機能的断片;並びに可溶性単一ドメイン抗体(sUniDabs(商標))が含まれるが限定されない。一実施形態では、重鎖抗体は、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、フレームワーク3、CDR3及びフレームワーク4から構成される可変領域抗原結合ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH2及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH3ドメインから構成される。CH2及び/又はCH3ドメインがトランケートされている重鎖抗体も本明細書中に含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3又はCH4)ドメインから構成されるが、ヒンジ領域は含まれない。重鎖抗体は、2つの重鎖が互いとジスルフィド結合されているか、又はさもなければ互いに共有結合的若しくは非共有結合的に結合されている、二量体の形態であり得る。重鎖抗体は、IgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書中に含まれる。特定の実施形態では、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ、特にIgG1又はIgG4サブタイプである。一実施形態では、重鎖抗体は、IgG4サブタイプであり、CHドメインの1つ以上が抗体のエフェクター機能を変化させるように修飾される。一実施形態では、重鎖抗体は、IgG1又はIgG4サブタイプであり、CHドメインの1つ以上が抗体のエフェクター機能を変化させるように修飾される。エフェクター機能を変化させるCHドメインの修飾は、本明細書中でさらに記載される。重鎖抗体の非限定例は、例えば、国際公開第2018/039180号パンフレットに記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0050】
いくつかの実施形態では、本明細書中の重鎖抗体は、キメラ抗原受容体(CAR)の結合(標的化)ドメインとして使用される。この定義には、具体的に、UniAb(商標)と呼ばれる、ヒト免疫グロブリントランスジェニックラット(UniRat(商標))によって産生されるヒト重鎖抗体が含まれる。UniAb(商標)の可変領域(VH)は、UniDabs(商標)と呼ばれ、多特異性、効力の上昇及び半減期の延長を伴う新規治療薬の開発のために、Fc領域又は血清アルブミンに連結され得る多用途の構成要素である。ホモ二量体UniAbs(商標)は、軽鎖及び従ってVLドメインを欠くため、抗原は、1つの単一ドメイン、即ち重鎖抗体の重鎖の可変ドメイン(VH又はVHH)によって認識される。
【0051】
本明細書中で使用される場合、「インタクトな抗体鎖」は、完全長可変領域及び完全長定常領域(Fc)を含む抗体鎖である。インタクトな「従来の」抗体は、分泌されたIgGでは、インタクトな軽鎖及びインタクトな重鎖並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、ヒンジ、CH2及びCH3を含む。IgM又はIgAなどの他のアイソタイプは、異なるCHドメインを有し得る。定常ドメインは、ネイティブ配列定常ドメイン(例えば、ヒトネイティブ配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列バリアントであり得る。インタクトな抗体は、抗体のFc定常領域(ネイティブ配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生物学的活性を指す1つ以上の「エフェクター機能」を有し得る。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC);食作用;及び細胞表面受容体の下方制御が挙げられる。定常領域バリアントには、エフェクタープロファイル、Fc受容体への結合などを変化させるものが含まれる。
【0052】
重鎖のFc(定常ドメイン)のアミノ酸配列に応じて、抗体及び種々の抗原結合タンパク質を様々な「クラス」に割り当て得る。重鎖Fc領域には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかは、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2にさらに分けられ得る。様々なクラスの抗体に対応するFc定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ及びμと呼ばれ得る。様々なクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元構造は、周知である。Ig形態には、ヒンジ修飾又はヒンジレス形態が含まれる(Roux et al(1998)J.Immunol.161:4083-4090;Lund et al(2000)Eur.J.Biochem.267:7246-7256;米国特許出願公開第2005/0048572号明細書;米国特許出願公開第2004/0229310号明細書)。何れかの脊椎動物種由来の抗体の軽鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、κ(カッパ)及びλ(ラムダ)と呼ばれる2つのタイプの1つに割り当てられ得る。本発明の実施形態による抗体は、カッパ軽鎖配列又はラムダ軽鎖配列を含み得る。
【0053】
「機能的Fc領域」は、ネイティブ配列Fc領域の「エフェクター機能」を有する。エフェクター機能の非限定例としては、C1q結合;CDC;Fc受容体結合;ADCC;ADCP;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方制御などが挙げられる。そのようなエフェクター機能は一般に、受容体、例えば、FcγRI;FcγRIIA;FcγRIIB1;FcγRIIB2;FcγRIIIA;FcγRIIIB受容体及び低親和性FcRn受容体と相互作用するためのFc領域を必要とし、当技術分野で公知の様々なアッセイを使用して評価され得る。「死滅した」又は「サイレンシングされた」Fcは、例えば、血清半減期の延長に関して活性を保持するように突然変異されているが、高親和性Fc受容体を活性化しないか、又はFc受容体に対する親和性が低下しているものである。
【0054】
「ネイティブ配列Fc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。ネイティブ配列ヒトFc領域としては、例えば、天然配列ヒトIgG1 Fc領域(非A及びAアロタイプ)、ネイティブ配列ヒトIgG2 Fc領域、ネイティブ配列ヒトIgG3 Fc領域及びネイティブ配列ヒトIgG4 Fc領域並びにそれらの天然のバリアントが挙げられる。
【0055】
「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸の修飾、好ましくは1つ以上のアミノ酸の置換により、ネイティブ配列Fc領域のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、ネイティブ配列Fc領域又は親ポリペプチドのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、約1~約10個のアミノ酸置換、好ましくは天然配列Fc領域又は親ポリペプチドのFc領域における約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書におけるバリアントFc領域は、好ましくは、ネイティブ配列Fc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、最も好ましくは少なくとも約90%のそれとの相同性、より好ましくはそれと少なくとも約95%のそれとの相同性を有する。
【0056】
バリアントFc配列は、EUインデックス位置234、235及び237でFcγRI結合を低減するためにCH2領域に3つのアミノ酸置換を含み得る(Duncan et al.,(1988)Nature 332:563を参照)。EUインデックス位置330及び331における補体C1q結合部位における2つのアミノ酸置換は、補体結合を減少させる(Tao et al.,J.Exp.Med.178:661(1993)及びCanfield and Morrison,J.Exp.Med.173:1483(1991)を参照)。ヒトIgG1又はIgG2残基の233~236位での置換並びにIgG4残基の327、330及び331位での置換は、ADCC及びCDCを大幅に低下させる(例えば、Armour KL.et al.,1999 Eur J Immunol.29(8):2613-24;及びShields RL.et al.,2001.J Biol Chem.276(9):6591-604を参照)。ヒトIgG4 Fcアミノ酸配列(UniProtKB番号P01861)を配列番号76として本明細書で提供する。サイレンシングされたIgG1は、例えばBoesch,A.W.,et al.,“Highly parallel characterization of IgG Fc binding interactions.”MAbs,2014.6(4):p.915-27に記載されており、これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0057】
ジスルフィド結合を形成することが可能な領域が欠失されているか、又は特定のアミノ酸残基がネイティブFcのN末端で除去されているか、又はメチオニン残基が付加されているものを含むが限定されない、他のFcバリアントが可能である。従って、いくつかの実施形態では、抗体の1つ以上のFc部分が、ジスルフィド結合を排除するために、ヒンジ領域に1つ以上の変異を含み得る。また別の実施形態では、Fcのヒンジ領域を完全に除去し得る。さらに別の実施形態では、抗体は、Fcバリアントを含み得る。
【0058】
さらに、Fcバリアントは、補体結合又はFc受容体結合をもたらすためにアミノ酸残基を置換(突然変異)、欠失又は付加することにより、エフェクター機能を除去するか又は実質的に低下させるように構築され得る。例えば、限定されないが、欠失は、C1q結合部位などの補体結合部位において生じ得る。免疫グロブリンFc断片のこのような配列誘導体を調製するための技術は、国際公開第97/34631号パンフレット及び国際公開第96/32478号パンフレットで開示されている。さらに、Fcドメインは、リン酸化、硫酸化、アシル化、グリコシル化、メチル化、ファルネシル化、アセチル化、アミド化などによって修飾され得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、抗体は、T366W突然変異を含むバリアントヒトIgG4 CH3ドメイン配列を含み、これは、本明細書中では、任意選択でIgG4 CH3ノブ配列と呼ばれ得る。いくつかの実施形態では、抗体は、T366S突然変異、L368A突然変異及びY407V突然変異を含むバリアントヒトIgG4 CH3ドメイン配列を含み、これは、本明細書中では、任意選択でIgG4 CH3ホール配列と呼ばれ得る。本明細書中に記載のIgG4 CH3変異は、抗体二量体中の第1の単量体の第1の重鎖定常領域に「ノブ」を置き、抗体二量体中の第2の単量体の第2の重鎖定常領域に「ホール」を置き、それによって抗体中の重鎖ポリペプチドサブユニットの所望の対の適切な対合(ヘテロ二量体化)を促進するために、何れかの好適な方法で利用され得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、抗体は、S228P突然変異、F234A突然変異、L235A突然変異及びT366W突然変異(ノブ)を含むバリアントヒトIgG4 Fc領域を含む重鎖ポリペプチドサブユニットを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、S228P突然変異、F234A突然変異、L235A突然変異、T366S突然変異、L368A突然変異及びY407V突然変異(ホール)を含むバリアントヒトIgG4 Fc領域を含む重鎖ポリペプチドサブユニットを含む。
【0061】
「Fc領域含有抗体」という用語は、Fc領域を含む抗体を指す。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリングシステムによる残基447)は、例えば、抗体の精製中又は抗体をコードする核酸の組み換え操作によって除去され得る。従って、本発明によるFc領域を有する抗体は、K447を有する抗体又はK447のない抗体を含み得る。
【0062】
本発明の態様には、1価又は2価構造の重鎖のみの可変領域を含む抗体を含む。本明細書で使用される場合、重鎖のみの可変領域ドメインに関して使用される場合、「1価構造」という用語は、重鎖のみの可変領域ドメインが1つのみ存在し、単一の結合部位を有することを意味する。一方、重鎖のみの可変領域ドメインに関して使用される「2価構造」という用語は、重鎖のみの可変領域ドメインが2つ存在し(それぞれが単一の結合部位を有する)、リンカー配列によって連結されることを意味する。リンカー配列の非限定例は、本明細書中でさらに論じられ、様々な長さのGSリンカー配列が含まれるが限定されない。重鎖のみの可変領域が2価構造である場合、重鎖のみの2つの可変領域ドメインのそれぞれは、同じ抗原又は異なる抗原(例えば、同じタンパク質上の異なるエピトープに;2つの異なるタンパク質になど)に結合し得る。しかしながら、特に断らない限り、「2価構造」であると示される重鎖のみの可変領域は、リンカー配列によって連結された2つの同一の重鎖のみの可変領域ドメインを含有すると理解され、2つの同一の重鎖のみの可変領域ドメインの各々は、同じ標的抗原に結合する。
【0063】
本発明の態様は、二特異性、三特異性などを含むが限定されない、多特異性構造を有する抗体を含む。多種多様な方法及びタンパク質構成が知られており、二特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三特異性抗体などにおいて使用されている。
【0064】
2つ以上の抗体の可変ドメインを組み換え融合することにより、多価の人工抗体を作製するための様々な方法が開発されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチド上の第1及び第2の抗原結合ドメインは、ポリペプチドリンカーによって連結されている。このようなポリペプチドリンカーの1つの非限定例は、4つのグリシン残基のアミノ酸配列、続いて1つのセリン残基を有するGSリンカーであり、配列はn回反復され、ここで、nは、1~約10の範囲の整数、例えば2、3、4、5、6、7、8又は9である。このようなリンカーの非限定例としては、GGGGS(配列番号38)(n=1)及びGGGGSGGGGS(配列番号39)(n=2)が挙げられる。他の好適なリンカーも使用され得、例えばChen et al.,Adv Drug Deliv Rev.2013 October 15;65(10):1357-69に記載されており、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
「3本鎖抗体様分子」又は「TCA」という用語は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含むか、基本的にそれらからなるか又はそれらからなり、その2つが、モノクローナル抗体の1本の重鎖及び1本の軽鎖又は抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含むそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含むか、基本的にそれらからなるか又はそれらからなる抗体様分子を指すために使用される。この重鎖/軽鎖対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの非存在下でCH2、及び/又はCH3、及び/又はCH4ドメインを含むFc部分と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する1つ以上の抗原結合ドメイン(例えば、2つの抗原結合ドメイン)とを含み、そのような結合ドメインが抗体重鎖又は軽鎖の可変領域に由来するか又はそれと配列同一性を有する重鎖抗体を、含むか、基本的にそれからなるか又はそれからなる。そのような可変領域の一部は、VH及び/又はVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント又はJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再編成されたVHDJH、VLDJH、VHJL又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。
【0066】
TCA結合化合物は、「重鎖抗体(heavy chain only antibody)」又は「重鎖-抗体(heavy chain antibody)」又は「重鎖ポリペプチド」を使用し、本明細書で使用される場合、重鎖定常領域CH2及び/又はCH3及び/又はCH4を含むが、CH1ドメインを含まない単鎖抗体を意味する。一実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部並びにCH2及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部及びCH3ドメインから構成される。CH2及び/又はCH3ドメインがトランケートされている重鎖抗体も本明細書中に含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3又はCH4)ドメインから構成され、ヒンジ領域は含まれない。重鎖抗体は、2つの重鎖がジスルフィド結合されているか、又は他の方法で互いに共有結合的若しくは非共有結合的に取り付けられている二量体の形態であり得、任意選択で、CHドメインの1つ以上の間において、ポリペプチド鎖間での正しい対合を促す非対称な界面(例えば、ノブインホール(KiH)界面)を含み得る。重鎖抗体は、IgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体も本明細書中に含まれる。特定の実施形態では、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ、特にIgG1サブタイプ又はIgG4サブタイプのものである。TCA結合化合物の非限定例は、例えば、国際公開第2017/223111号パンフレット及び国際公開第2018/052503号パンフレットに記載されており、これらの開示は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる。
【0067】
重鎖抗体は、ラクダ科動物、例えばラクダ及びラマによって産生されるIgG抗体の約4分の1を構成する(Hamers-Casterman C.,et al.Nature.363,446-448(1993))。これらの抗体は、2つの重鎖によって形成されるが、軽鎖を欠いている。結果として、可変抗原結合部分はVHHドメインと称され、天然に存在する最小のインタクトな抗原結合部位を表し、長さは僅か約120アミノ酸である(Desmyter,A.,et al.J.Biol.Chem.276,26285-26290(2001))。高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体は、免疫化によって様々な抗原に対して生成され得る(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999))、VHH部分を容易にクローニングし、酵母で発現させ得る(Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現、溶解性及び安定性のレベルは、古典的なF(ab)断片又はFv断片より大幅に高い(Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。サメは、その抗体中にVNARと呼ばれる単一のVH様ドメインを有することも示されている。(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003);Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004);Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0068】
用語「CD19」は、本明細書中で使用される場合、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する95kDa膜貫通糖タンパク質であって、Bリンパ球上のB細胞抗原受容体複合体(BCR)の共受容体として機能するものを指す。用語「CD19」には、任意のヒト及び非ヒト動物種のCD19タンパク質が含まれ、特に、ヒトCD19並びに非ヒト哺乳類のCD19が含まれる。
【0069】
「ヒトCD19」という用語は、本明細書中で使用される場合、その供給源又は調製方式にかかわらず、ヒトCD19(UniProt P15391)の何れかのバリアント、アイソフォーム及び種相同体を含む。従って、「ヒトCD19」は、細胞によって天然に発現されるヒトCD19及びヒトCD19遺伝子を遺伝子移入した細胞で発現されるCD19を含む。
【0070】
「抗CD19重鎖抗体(heavy chain-only antibody)」、「CD19重鎖抗体(heavy chain-only antibody)」、「抗CD19重鎖抗体(heavy chain antibody)」及び「CD19重鎖抗体(heavy chain antibody)」という用語は、本明細書中で交換可能に使用され、本明細書中、上で定義したとおりのヒトCD19を含む、CD19に免疫特異的に結合する、本明細書中、上で定義したとおりの重鎖抗体を指す。この定義には、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニックラット又はトランスジェニックマウス、例えば、上で定義されたようなヒト抗CD19 UniAb(商標)を産生するUniRat(商標)抗体など、トランスジェニック動物によって産生されたヒト重鎖抗体が含まれるが限定されない。
【0071】
参照ポリペプチド配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアラインさせ、必要に応じて、最大の配列同一性%を達成するためにギャップを導入した後の、配列同一性の一部として保存的置換を考慮しない、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、当業者の範囲内である様々な方法で、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成され得る。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な何れかのアルゴリズムを含む、配列をアラインするための適切なパラメータを決定し得る。しかしながら、本明細書の目的のためには、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用して生成される。
【0072】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から同定され、分離され及び/又は回収されたものである。その天然環境の混入成分は、抗体の診断的又は治療的使用を妨害し得る物質であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質が含まれ得る。好ましい実施形態では、抗体は、(1)ローリー法による決定で抗体が95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで、(2)スピニングカップ配列決定装置の使用によってN末端又は内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を十分に得られる程度まで、又は(3)クマシーブルー若しくは好ましくは銀染色を用いて、還元条件下又は非還元条件下でSDS-PAGEによって均質になるまで精製される。単離された抗体には、その抗体の天然環境の少なくとも1つの成分は存在しないため、組み換え細胞内にインサイチュで存在する抗体が含まれる。しかし、通常は、単離された抗体は少なくとも1つの精製段階によって調製される。
【0073】
本発明の抗体としては、多特異性抗体が挙げられる。多特異性抗体は、複数の結合特異性を有する。「多特異性」という用語には、具体的には、「二特異性」及び「三特異性」並びにより高次のポリエピトープ特異性などのより高次の独立した特異的結合親和性並びに4価抗体及び抗体断片が含まれる。「多特異性抗体」、「多特異性重鎖抗体(multi-specific heavy chain-only antibody)」、「多特異性重鎖抗体(multi-specific heavy chain antibody)」及び「多特異性UniAb(商標)」という用語は、本明細書中では、最も広い意味で使用され、複数の結合特異性を有する全ての抗体を包含する。本発明の多特異性抗重鎖抗CD19抗体は、具体的には、ヒトCD19などのCD19タンパク質上の2つ以上の非重複エピトープに免疫特異的に結合する抗体を含む(即ち2価及びバイパラトピック)。本発明の多特異性重鎖抗CD19抗体は、具体的には、ヒトCD19などのCD19タンパク質上のエピトープ及び例えばCD3タンパク質、例えばヒトCD3タンパク質などの異なるタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体も含む(即ち、二特異性及びバイパラトピック)。本発明の多特異性重鎖抗CD19抗体は、具体的には、ヒトCD19タンパク質などのCD19タンパク質上の2つ以上の、重複しないか又は部分的に重複するエピトープ及び例えばCD3タンパク質、例えばヒトCD3タンパク質などの異なるタンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する抗体も含む(即ち3価及びバイパラトピック)。
【0074】
本発明の抗体は、1つの結合特異性を有する単一特異性抗体を含む。単一特異性抗体は、具体的には、単一結合特異性を含む抗体並びに同じ結合特異性を有する複数の結合ユニットを含む抗体を含む。「単一特異性抗体」、「単一特異性重鎖抗体(monospecific heavy chain-only antibody)」、「単一特異性重鎖抗体(monospecific heavy chain antibody)」及び「単一特異性UniAb(商標)」という用語は、本明細書では、最も広い意味で使用され、1つの結合特異性を有する全ての抗体を包含する。本発明の単一特異性重鎖抗CD19抗体は、具体的には、ヒトCD19タンパク質などのCD19タンパク質上の1つのエピトープに免疫特異的に結合する抗体(1価及び単一特異性)を含む。本発明の単一特異性重鎖抗CD19抗体は、具体的には、ヒトCD19などのCD19タンパク質上のエピトープに免疫特異的に結合する複数の結合ユニットを有する抗体(例えば多価抗体)も含む。例えば、本発明の実施形態による単一特異性抗体は、各抗原結合ドメインがCD19タンパク質上の同じエピトープに結合する2つの抗原結合ドメインを含む重鎖可変領域を含み得る(即ち2価及び単一特異性)。
【0075】
「エピトープ」は、単一の抗体分子が結合する抗原分子の表面上の部位である。一般に、抗原は、数個又は多くの異なるエピトープを有し、多くの異なる抗体と反応する。この用語には、具体的には、線状エピトープ及び立体構造エピトープが含まれる。
【0076】
「エピトープマッピング」は、抗体の標的抗原上の、抗体の結合部位又はエピトープを同定する過程である。抗体エピトープは、線状エピトープ又は立体構造エピトープであり得る。線状エピトープは、タンパク質中のアミノ酸の連続配列によって形成される。立体構造エピトープは、タンパク質配列中の不連続であるが、タンパク質が三次元構造に折り畳まれると1つにまとまるアミノ酸から形成される。
【0077】
「ポリエピトープ特異性」は、同じ又は異なる標的上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合する能力を指す。上記のように、本発明は、特に、ポリエピトープ特異性を有する抗CD19重鎖抗体、即ちヒトCD19などのCD19タンパク質上の1つ以上の非重複エピトープに結合する抗CD19重鎖抗体;及びCD19タンパク質上の1つ以上のエピトープ及び例えばCD3タンパク質などの異なるタンパク質上のエピトープに結合する抗CD19重鎖抗体を含む。抗原の「非重複エピトープ」又は「非競合エピトープ」という用語は、本明細書中では、一対の抗原特異的抗体の一方のメンバーによって認識されるが、他方のメンバーによっては認識されないエピトープを意味すると定義される。非重複エピトープを認識する、多特異性抗体上の同じ抗原を標的とする抗体の対又は抗原結合領域は、その抗原への結合について競合せず、その抗原に同時に結合することが可能である。
【0078】
抗体は、2つの抗体が同一又は立体的に重複するエピトープを認識する場合、参照抗体と「本質的に同じエピトープ」に結合する。2つのエピトープが同一又は立体的に重複するエピトープに結合するか否かを決定するための迅速で最も広く使用されている方法は、標識抗原又は標識抗体の何れかを使用して、あらゆる数の異なる形式で構成され得る競合アッセイである。通常、抗原を96ウェルプレート上に固定化し、標識抗体の結合を遮断する非標識抗体の能力を、放射性標識又は酵素標識を用いて測定する。
【0079】
本明細書中で使用される場合の「価」という用語は、抗体分子中の結合部位の特定の数を指す。
【0080】
「1価」抗体は、1つの結合部位を有する。従って、1価抗体は単一特異性でもある。
【0081】
「多価」抗体は、2つ以上の結合部位を有する。従って、「2価」、「3価」及び「4価」という用語は、それぞれ2つの結合部位、3つの結合部位及び4つの結合部位が存在することを指す。従って、本発明による二特異性抗体は、少なくとも2価であり、3価、4価又は他の多価であり得る。本発明の実施形態による2価抗体は、同じエピトープ(即ち2価、モノパラトピック)又は2つの異なるエピトープ(即ち2価、バイパラトピック)への2つの結合部位を有し得る。
【0082】
二特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三特異性抗体などを調製するための多種多様な方法及びタンパク質構造が知られており、使用されている。
【0083】
「3本鎖抗体様分子」又は「TCA」という用語は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含むか、基本的にそれらからなるか又はそれらからなり、その2つが、モノクローナル抗体の1本の重鎖及び1本の軽鎖又は抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含むそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含むか、基本的にそれらからなるか又はそれらからなる抗体様分子を指すために使用される。この重鎖/軽鎖対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの非存在下でCH2及び/又はCH3及び/又はCH4ドメインを含むFc部分と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインとを含み、そのような結合ドメインは、抗体重鎖又は軽鎖の可変領域に由来するか又はそれと配列同一性を有する、重鎖抗体を含むか、基本的にそれからなるか又はそれからなる。そのような可変領域の一部は、VH及び/又はVL遺伝子セグメント、D及びJH遺伝子セグメント又はJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再編成されたVHDJH、VLDJH、VHJL又はVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。TCAタンパク質は、本明細書中の上で定義した重鎖抗体を利用する。
【0084】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という用語は、本明細書中で、最も広い意味で使用され、所望の結合特異性(例えば、モノクローナル抗体又は他のリガンドの抗原結合領域)を膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインに移植する、改変された受容体を指す。典型的には、この受容体を用いて、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に移植して、キメラ抗原受容体(CAR)を作製する。(J Natl Cancer Inst,2015;108(7):dvj439;及びJackson et al.,Nature Reviews Clinical Oncology,2016;13:370-383)。CAR-T細胞は、免疫療法での使用のための人工T細胞受容体を生成させるように遺伝子操作されたT細胞である。一実施形態では、「CAR-T細胞」は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び少なくとも1つの細胞質ドメインから最小限構成される1つ以上のキメラ抗原受容体をコードする導入遺伝子を発現する治療用T細胞を意味する。
【0085】
「ヒト抗体」という用語は、本明細書では、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むために使用される。本明細書中のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基、例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的突然変異誘発により導入される突然変異又はインビボでの体細胞突然変異により導入される突然変異を含み得る。「ヒト抗体」という用語には、具体的には、トランスジェニック動物、例えば、トランスジェニックラット又はマウスによって産生される、ヒト重鎖可変領域配列を有する重鎖抗体、特に上で定義されるUniRat(商標)によって産生されるUniAb(商標)が含まれる。
【0086】
「キメラ抗体」又は「キメラ免疫グロブリン」とは、少なくとも2つの異なるIg遺伝子座に由来するアミノ酸配列を含む免疫グロブリン分子、例えば、ヒトIg遺伝子座によってコードされる部分及びラットIg遺伝子座によってコードされる部分を含むトランスジェニック抗体を意味する。キメラ抗体は、非ヒトFc領域又は人工Fc領域を有するトランスジェニック抗体及びヒトイディオタイプを含む。そのような免疫グロブリンは、そのようなキメラ抗体を産生するように操作された本発明の動物から単離され得る。
【0087】
本明細書中で使用される場合、「エフェクター細胞」という用語は、免疫応答の認識相及び活性化相とは対照的に、免疫応答のエフェクター相に関与する免疫細胞を指す。いくつかのエフェクター細胞は、特異的Fc受容体を発現し、特異的免疫機能を実行する。いくつかの実施形態では、ナチュラルキラー細胞などのエフェクター細胞が抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導することが可能である。例えば、FcRを発現する単球及びマクロファージは、標的細胞の特異的死滅及び免疫系の他の成分への抗原の提示又は抗原を提示する細胞への結合に関与する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞は、標的抗原又は標的細胞を貪食し得る。
【0088】
「ヒトエフェクター細胞」は、T細胞受容体又はFcRなどの受容体を発現し、エフェクター機能を果たす白血球である。好ましくは、細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たす。ADCCに介在するヒト白血球の例としては、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球が挙げられ、NK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、その天然供給源、例えば本明細書中に記載されるような血液又はPBMCから単離され得る。
【0089】
「免疫細胞」という用語は、本明細書中で、最も広い意味で使用され、骨髄又はリンパ起源の細胞、例えば、リンパ球(例えば、B細胞及び細胞溶解性T細胞(CTL)を含むT細胞)、キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好酸球、多形核細胞、例えば、好中球、顆粒球、肥満細胞及び好塩基球を含むが限定されない。
【0090】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(ネイティブ配列Fc領域又はアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因する生物活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体、BCR)の下方制御などが挙げられる。
【0091】
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)を発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上の結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞介在性反応を指す。ADCCに介在するための主要な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現する一方で、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991)の464頁、表3に要約される。関心対象の分子のADCC活性を評価するために、インビトロADCCアッセイ、例えば、米国特許第5,500,362号明細書又は同第5,821,337号明細書に記載されているもの、を実施し得る。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代わりに又はさらに、関心対象の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al.PNAS(USA)95:652-656(1998)に開示されているような動物モデルにおいて、インビボで評価され得る。
【0092】
「補体依存性細胞傷害」又は「CDC」は、補体の存在下で分子が標的を溶解する能力を指す。補体活性化経路は、補体系の第1の成分(C1q)の、同族抗原と複合化した分子(例えば抗体)への結合によって開始される。補体活性化を評価するために、例えばGazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されているようなCDCアッセイを実施し得る。
【0093】
「結合親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合性相互作用の合計強度を指す。別段の指示がない限り、本明細書中で使用される場合、「結合親和性」は、結合対(例えば抗体と抗原)のメンバー間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)によって表され得る。親和性は、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定され得る。低親和性抗体は一般に、抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向がある一方、高親和性抗体は一般に、より速く抗原に結合し、結合したままである傾向がある。
【0094】
本明細書中で使用される場合、「Kd」又は「Kd値」は、動力学モードでOctet QK384機器(Fortebio Inc.,Menlo Park,CA)を使用して、バイオレイヤー干渉法によって決定される解離定数を指す。例えば、抗マウスFcセンサーにマウスFc融合抗原を載せ、次いで、抗体含有ウェルに浸漬して、濃度依存性結合速度(kon)を測定する。抗体解離速度(koff)を最終段階で測定し、ここで、センサーを緩衝液のみを含有するウェルに浸漬する。Kdは、koff/konの比である。(さらに詳しくは、Concepcion,J,et al.,Comb Chem High Throughput Screen,12(8),791-800,2009を参照)。
【0095】
「処置」、「処置する」などの用語は、本明細書では、一般に所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味するために使用される。効果は、疾患若しくはその症状を完全若しくは部分的に防ぐ点で予防的であり得、且つ/又は疾患及び/又は疾患に起因する有害作用に対する部分的若しくは完全な治癒の点で治療的であり得る。本明細書中で使用される場合、「処置」は、哺乳動物における疾患のあらゆる処置を包含し、(a)疾患の素因があり得るが、それを有するとまだ診断されていない対象において疾患が生じるのを防止すること;(b)疾患を阻止すること、即ちその発症を阻止すること;又は(c)疾患を軽減すること、即ち疾患の退縮を引き起こすことを含む。治療薬は、疾患又は傷害の発症前、発症中又は発症後に投与され得る。処置が患者の望ましくない臨床症状を安定化又は軽減する、進行中の疾患の処置は、特に興味深い。そのような処置は、罹患組織における機能の完全な喪失前に実施されることが望ましい。対象の治療は、疾患の症候性段階中、場合により疾患の症候性段階後に投与され得る。
【0096】
「治療的有効量」は、対象に治療的利益を与えるのに必要な活性薬剤の量を意図する。例えば、「治療的有効量」は、疾患に関連する病理学的症状、疾患の進行若しくは生理学的状態の改善を誘導するか、改良するか若しくは引き起こすか、又は障害に対する抵抗性を改善する量である。
【0097】
用語「B細胞性新生物」又は「成熟B細胞性新生物」には、本発明に関連して、限定はされないが、あらゆるリンパ性白血病及びリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、前リンパ球性白血病、前駆Bリンパ芽球性白血病、有毛細胞白血病、小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性リンパ腫、B細胞慢性リンパ球性白血病、マントル細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、多発性骨髄腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾辺縁帯リンパ腫、形質細胞性新生物、例えば、形質細胞性骨髄腫、形質細胞腫、モノクローナル免疫グロブリン沈着症、重鎖病、MALTリンパ腫、節性辺縁帯B細胞リンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、ヘアリー細胞白血病、原発性滲出性リンパ腫及びエイズ関連非ホジキンリンパ腫が含まれる。
【0098】
用語「CD19の発現によって特徴付けられる」とは、広義には、疾患又は障害の特徴である1つ以上の病的過程にCD19発現が付随するか、又はそれが関わる任意の疾患又は障害を指す。かかる障害としては、限定はされないが、B細胞性新生物が挙げられる。
【0099】
「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、処置について評価され及び/又は処置されている哺乳動物を指す。一実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。「対象」、「個体」及び「患者」という用語は、癌を有する個体、自己免疫疾患を有する個体、病原体感染を有する個体などを包含するが限定されない。対象はヒトであり得るが、他の哺乳動物、特にヒト疾患のための実験モデルとして有用な哺乳動物、例えばマウス、ラットなども含む。
【0100】
「医薬製剤」という用語は、有効成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される対象に対して許容できない毒性を有する追加成分を含有しない製剤を指す。このような製剤は無菌である。「薬学的に許容可能な」賦形剤(ビヒクル、添加剤)は、使用される有効成分の有効用量を提供するために対象哺乳動物に合理的に投与され得るものである。
【0101】
「無菌」製剤は、無菌であるか、又は全ての生きている微生物及びそれらの胞子を含まないか若しくは基本的に含まない。「凍結」製剤は、0℃未満の温度のものである。
【0102】
「安定な」製剤は、その中のタンパク質が貯蔵時にその物理的安定性、及び/又は化学的安定性、及び/又は生物学的活性を基本的に保持するものである。好ましくは、製剤は、貯蔵時、その物理的及び化学的安定性並びにその生物学的活性を基本的に保持する。貯蔵期間は、一般に、製剤の意図された有効期間に基づいて選択される。タンパク質安定性を測定するための様々な分析技術が当技術分野で利用可能であり、例えばPeptide and Protein Drug Delivery,247-301.Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991) and Jones.A.Adv.Drug Delivery Rev.10:29-90)(1993)で概説されている。安定性は、選択された温度で、選択された期間、測定され得る。安定性は、凝集体形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて濁度を測定することにより、且つ/又は目視検査によって);陽イオン交換クロマトグラフィー、画像キャピラリー等電点電気泳動(icIEF)又はキャピラリーゾーン電気泳動を用いて電荷不均一性を評価することによって;アミノ末端又はカルボキシ末端配列の分析;質量分光分析;還元されたインタクトな抗体を比較するためのSDS-PAGE分析;ペプチドマップ(例えば、トリプシン又はLYS-C)分析;抗体の生物学的活性又は抗原結合機能の評価などを含む様々な異なる方法で定性的及び/又は定量的に評価され得る。不安定性には、以下の何れかの1つ以上が含まれ得る:凝集、脱アミド化(例えばAsn脱アミド化)、酸化(例えば、Met酸化)、異性化(例えばAsp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えばヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセシング、グリコシル化の相違など。
【0103】
II.詳細な説明
抗CD19抗体
本発明は、ヒトCD19に結合する近縁抗体のファミリーを提供する。このファミリーの抗体は、本明細書に定義し及び表1に示すとおりの一組のCDR配列を含み、表2に示される提供される重鎖CDR1、CDR2及びCDR3配列及び表3に示される配列番号5及び6の重鎖可変領域(VH)配列によって例示される。この抗体ファミリーは、1つ又は複数の臨床治療薬としての有用性に寄与するいくつもの利益を提供する。これらの抗体には、様々な結合親和性を有するメンバーが含まれるため、所望の結合親和性を有する具体的な配列を選ぶことが可能である。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
開発及び治療的又は他の使用、限定なしに、二特異性抗体としての又は例えば
図4パネルBに図示されるとおりのCAR-T構造体の一部としての使用を含めた使用のために、好適な抗体を本明細書に提供されるものから選択し得る。
【0108】
候補タンパク質に対する親和性の決定は、Biacore測定などの当技術分野で知られた方法を使用して行い得る。抗体ファミリーの-メンバーは、約10-6~約10-10前後;約10-6~10-9前後;約10-6~約10-8前後;約10-8~約10-11前後;約10-8~約10-10前後;約10-8~約10-9前後;約10-9~約10-11前後;約10-9~約10-10前後;又はこれらの範囲内の何れかの値を含むが限定されない、約10-6~約10-11前後のKdの、CD19に対する親和性を有し得る。親和性選択は、インビトロアッセイ、前臨床モデル及び臨床治験並びに潜在的な毒性の評価を含む、CD19の生物学的活性の調整、例えば遮断についての生物学的評価によって確認され得る。
【0109】
本明細書における抗体ファミリーのメンバーは、カニクイザルのCD19タンパク質と交差反応性を示さないが、必要に応じて、カニクイザルのCD19タンパク質又は任意の他の動物種のCD19との交差反応性が付与されるように操作することができる。
【0110】
本明細書中のCD19特異的抗体のファミリーは、ヒトVHフレームワークにおけるCDR1、CDR2及びCDR3配列を含むVHドメインを含む。CDR配列は、一例として、配列番号5~6で示される、提供される代表的な可変領域配列の、それぞれCDR1、CDR2及びCDR3に対する、アミノ酸残基26~33;51~58;及び97~116の前後の領域に位置し得る。異なるフレームワーク配列が選択される場合、CDR配列は異なる位置にあり得るが、一般に配列の順序は同じままであることが当業者により理解されよう。
【0111】
いくつかの実施形態では、抗CD19抗体は、配列番号1又は38の何れか1つのCDR1配列を含む。詳細な実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号1のCDR1配列を含む。詳細な実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号38のCDR1配列を含む。
【0112】
いくつかの実施形態では、抗CD19抗体は、配列番号2又は39の何れか1つのCDR2配列を含む。詳細な実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号2のCDR2配列を含む。詳細な実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号39のCDR2配列を含む。
【0113】
いくつかの実施形態では、抗CD19抗体は、配列番号3~4の何れか1つのCDR3配列を含む。詳細な実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号3のCDR3配列を含む。詳細な実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号4のCDR3配列を含む。
【0114】
さらなる実施形態において、抗CD19重鎖抗体は、配列番号1のCDR1配列;配列番号2のCDR2配列;及び配列番号3のCDR3配列を含む。
【0115】
さらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号1のCDR1配列;配列番号2のCDR2配列;及び配列番号4のCDR3配列を含む。
【0116】
さらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号38のCDR1配列;配列番号2のCDR2配列;及び配列番号4のCDR3配列を含む。
【0117】
さらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号1のCDR1配列;配列番号39のCDR2配列;及び配列番号4のCDR3配列を含む。
【0118】
さらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号5~6及び40~41(表3)の重鎖可変領域アミノ酸配列の何れかを含む。
【0119】
なおもさらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号5の重鎖可変領域配列を含む。
【0120】
なおもさらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号6の重鎖可変領域配列を含む。
【0121】
なおもさらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号40の重鎖可変領域配列を含む。
【0122】
なおもさらなる実施形態において、抗CD19抗体は、配列番号41の重鎖可変領域配列を含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、本発明の抗CD19抗体におけるCDR配列は、配列番号1~4、38及び39(表1;表2)の何れか1つにあるCDR1、CDR2及び/又はCDR3配列又は一組のCDR1、CDR2及びCDR3配列と比べると1つ又は2つのアミノ酸置換を含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、抗CD19抗体は、好ましくは、CDR3配列が、表1又は表2に提供されるCDR3配列を有する抗体の何れか1つのCDR3配列に対してアミノ酸レベルで80%以上、例えば少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)を含み、CD19に結合する。
【0125】
いくつかの実施形態では、抗CD19抗体は、好ましくは、全一組のCDR1、2及び3(の組み合わせ)が、表1又は表2に提供されるCDR配列を有する抗体のCDR1、2及び3(の組み合わせ)に対してアミノ酸レベルで85パーセント(85%)以上の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)を含み、CD19に結合する。
【0126】
いくつかの実施形態では、抗CD19抗体は、配列番号5~6及び40~41(表3に示される)の重鎖可変領域配列の何れかに対して少なくとも約80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性又は少なくとも99%の同一性の重鎖可変領域配列を含み、CD19に結合する。
【0127】
いくつかの実施形態では、二特異性又は多特異性抗体が提供され、これは、限定なしに、二特異性3本鎖抗体様分子(TCA)を含め、本明細書で考察される構成の何れも有し得る。いくつかの実施形態では、多特異性抗体は、CD19に対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域と、CD19以外のタンパク質に対する結合特異性を有する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含むことができる。いくつかの実施形態では、多特異性抗体は、CD19に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域と、CD19以外のタンパク質に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域とを含むことができる。いくつかの実施形態では、多特異性抗体は、少なくとも2つの抗原結合ドメインを含む重鎖可変領域を含むことができ、それらの抗原結合ドメインは、各々がCD19に結合する。いくつかの実施形態では、多特異性抗体は、第1の抗原(例えば、CD3)に結合する重鎖/軽鎖の対と、重鎖抗体からの重鎖とを含むことができる。特定の実施形態において、重鎖抗体からの重鎖は、CH1ドメインの非存在下で、CH2及び/又はCH3及び/又はCH4ドメインを含むFc部分を含む。詳細な一実施形態において、二特異性抗体は、エフェクター細胞上の抗原(例えば、T細胞上のCD3タンパク質)に結合する重鎖/軽鎖の対と、CD19に結合する抗原結合ドメインを含む重鎖抗体からの重鎖とを含む。
【0128】
いくつかの実施形態では、多特異性抗体は、軽鎖可変ドメインと対をなすCD3結合VHドメインを含む。特定の実施形態において、軽鎖は、固定された軽鎖である。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、ヒトVHフレームワークにおける配列番号7のCDR1配列、配列番号8のCDR2配列及び配列番号9のCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、ヒトVHフレームワークにおける配列番号10のCDR1配列、配列番号11のCDR2配列及び配列番号12のCDR3配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、ヒトVLフレームワークにおける配列番号13のCDR1配列、配列番号14のCDR2配列及び配列番号15のCDR3配列を含む。一緒になって、CD3結合VHドメインと軽鎖可変ドメインとはCD3に対する結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号16の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号17の重鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、CD3結合VHドメインは、配列番号16又は17の重鎖可変領域配列に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%のパーセント同一性を有する配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、配列番号18の軽鎖可変領域配列を含む。いくつかの実施形態では、固定された軽鎖は、配列番号18の軽鎖可変領域配列に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%のパーセント同一性を有する配列を含む。
【0129】
上述のCD3結合VHドメイン及び軽鎖可変ドメインを含む多特異性抗体は、例えば、国際公開第2018/052503号パンフレット(この開示は全体として参照により本明細書に組み込まれる)に記載される有利な特性を有する。本明細書に記載される、CD19に対して結合親和性を有する多特異性抗体及び抗原結合ドメインの何れも、本明細書に記載されるCD3結合ドメイン及び固定された軽鎖ドメイン(例えば、表4及び表5を参照)並びに表6及び表7に提供されるものなど、追加の配列と組み合わせて、1つ以上のCD19エピトープ並びにCD3に対して結合親和性を有する多特異性抗体を作成することができる。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
いくつかの実施形態では、二特異性3本鎖抗体様分子(TCA)を含むが限定されない本明細書中で論じられる配置の何れかを有し得る二特異性又は多特異性抗体が提供される。いくつかの実施形態では、二特異性抗体は、CD19に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域及びCD19以外のタンパク質に結合する少なくとも1つの重鎖可変領域を含み得る。いくつかの実施形態では、二特異性抗体は、第1の抗原に結合する重鎖/軽鎖対と、CH1ドメインの非存在下でCH2及び/又はCH3及び/又はCH4ドメインを含むFc部分を含む重鎖抗体由来の重鎖と、第2の抗原のエピトープ又は第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインとを含み得る。特定の一実施形態では、二特異性抗体は、エフェクター細胞上の抗原(例えばT細胞上のCD3タンパク質)に結合する重鎖/軽鎖対と、CD19に結合する抗原結合ドメインを含む重鎖抗体由来の重鎖とを含む。
【0138】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体が二特異性抗体である場合、抗体の一方のアーム(1つの結合部分又は1つの結合単位)がヒトCD19に特異的である一方、他方のアームは、標的細胞、腫瘍関連抗原、ターゲティング抗原、例えばインテグリン等、病原体抗原、チェックポイントタンパク質などに特異的であり得る。標的細胞としては、限定なしに、CD19の発現によって特徴付けられる血液学的悪性腫瘍に関連する細胞を含めた癌細胞並びにCD19の発現によって特徴付けられる自己免疫障害に関連する病原性B細胞が特に挙げられる。いくつかの実施形態では、抗体の一方のアーム(1つの結合部分又は1つの結合単位)がヒトCD19に特異的である一方、他方のアームはCD3に特異的である。
【0139】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号28又は29の何れか1つの配列に連結された、一価又は二価構成の、配列番号30の配列を含む抗CD3軽鎖ポリペプチド、配列番号16又は17の配列を含む抗CD3重鎖ポリペプチド及び配列番号5又は6の配列を含む抗CD19重鎖ポリペプチドを含む。これらの配列を様々な方法で組み合わせて、所望のIgGサブクラス、例えばIgG1、IgG4、サイレントなIgG1、サイレントなIgG4の二特異性抗体を作製することができる。好ましい一実施形態において、抗体は、配列番号30を含む第1のポリペプチドと、配列番号31を含む第2のポリペプチドと、配列番号32、33、34、35、36又は37を含む第3のポリペプチドとを含むTCAである。
【0140】
多特異性抗体の様々な形式は本発明の範囲内にあり、例えば、1本鎖ポリペプチド、2本鎖ポリペプチド、3本鎖ポリペプチド、4本鎖ポリペプチド及びそれらの複合を含むが限定されない。本明細書中で多特異性抗体は具体的に、CD19及びCD3に結合するT細胞多特異性(例えば二特異性)抗体(抗CD19 x 抗CD3抗体)を含む。このような抗体は、強力なT細胞介在性のCD19発現細胞の死滅を誘導する。
【0141】
抗CD19抗体の調製
本発明の抗体は、当技術分野で公知の方法によって調製され得る。好ましい実施形態では、本明細書中の抗体は、内因性免疫グロブリン遺伝子がノックアウトされるか又は無効にされているトランスジェニック動物、例えばトランスジェニックマウス及びラット、好ましくはラットによって産生される。好ましい実施形態では、本明細書中の重鎖抗体は、UniRat(商標)において作製される。UniRat(商標)の内因性免疫グロブリン遺伝子をサイレンシングし、ヒト免疫グロブリン重鎖トランス遺伝子座を使用して、完全ヒトHCAbの多様な天然に最適化されたレパートリーを発現させる。ラットの内因性免疫グロブリン遺伝子座は様々な技術を使用してノックアウト又はサイレンシングし得るが、UniRat(商標)では、ジンクフィンガー(エンド)ヌクレアーゼ(ZNF)技術を使用して、内因性ラット重鎖J遺伝子座、軽鎖Cκ遺伝子座及び軽鎖Cλ遺伝子座を不活性化した。卵母細胞へのマイクロインジェクションのためのZNFコンストラクトは、IgH及びIgLノックアウト(KO)株を産生させ得る。詳しくは、例えば、Geurts et al.,2009,Science 325:433を参照。Ig重鎖ノックアウトラットの特性は、Menoret et al.,2010,Eur.J.Immunol.40:2932-2941により報告されている。ZNF技術の利点は、数kbまでの欠失によって遺伝子又は遺伝子座をサイレンシングするために連結する非相同末端が、相同組込みのための標的部位を提供することもできることである(Cui et al.,2011,Nat Biotechnol 29:64-67)。UniRat(商標)で産生されるヒト重鎖抗体は、UniAb(商標)と呼ばれ、従来の抗体で攻撃することができないエピトープに結合し得る。それらの高い特異性、親和性及び小さいサイズのために、それらは、単一特異性及び多特異性用途に理想的である。
【0142】
UniAb(商標)に加えて、ラクダ科動物のVHHフレームワーク及び突然変異を欠く重鎖抗体並びにそれらの機能的VH領域が、本明細書中に具体的に含まれる。このような重鎖抗体は、例えば、国際公開第2006/008548号パンフレットに記載されているように、完全ヒト重鎖単独遺伝子座を含むトランスジェニックラット又はマウスにおいて産生され得るが、ウサギ、モルモット、ラットなどの他のトランスジェニック哺乳動物も使用され得、ラット及びマウスが好ましい。重鎖抗体(それらのVHH又はVH機能性断片を含む)は、組み換えDNA技術、例えば哺乳動物細胞(例えばCHO細胞)、大腸菌(E.coli)又は酵母を含む好適な真核又は原核宿主中でのコード核酸の発現によっても産生され得る。
【0143】
重鎖抗体のドメインは、抗体及び低分子薬の利点を兼ね備え、1価又は多価であり得、毒性が低く、製造するための費用効率が高い。それらのサイズが小さいため、これらのドメインは経口又は局所投与を含む投与が容易であり、胃腸における安定性を含む高い安定性を特徴とし、それらの半減期は、所望の使用又は適応に合わせ得るさらに、HCAbのVH及びVHHドメインは、費用効率の高い方法で製造され得る。
【0144】
特定の実施形態では、UniAb(商標)を含む本発明の重鎖抗体は、FR4領域の第1の位置(Kabatナンバリングシステムによるアミノ酸位置101)に、別のアミノ酸残基によって置換されたネイティブアミノ酸残基を有し、このアミノ酸残基はその位置においてネイティブアミノ酸残基を含むか又は天然アミノ酸残基と結合している表面露出疎水性パッチを破壊することが可能である。このような疎水性パッチは通常、抗体軽鎖定常領域との界面に埋め込まれるが、HCAbでは表面露出され、少なくとも部分的に、HCAbの望ましくない凝集及び軽鎖結合のためである。置換されたアミノ酸残基は好ましくは荷電しており、より好ましくは正に荷電しており、例えば、リジン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)又はヒスチジン(His、H)、好ましくはアルギニン(R)である。好ましい実施形態では、トランスジェニック動物由来の重鎖抗体は、101位にTrpからArgへの突然変異を含有する。得られるHCAbは、好ましくは、高い抗原結合親和性及び凝集なしの生理学的条件下での溶解性を有する。
【0145】
本発明の一部として、ELISAタンパク質及び細胞結合アッセイにおいて、ヒトCD19に結合する、UniRat(商標)動物由来の特有の配列を有するヒトIgG抗CD19重鎖抗体(UniAb(商標))を同定した。同定された重鎖可変領域(VH)配列は、ヒトCD19タンパク質結合に対して及び/又はCD19+細胞に対する結合について陽性であり、CD19を発現しない細胞への結合について全て陰性である。
【0146】
CD19タンパク質上の非重複エピトープに結合する重鎖抗体、例えばUniAbs(商標)は、競合結合アッセイ、例えば酵素結合免疫アッセイ(ELISAアッセイ)又はフローサイトメトリー競合結合アッセイなどによって同定され得る。例えば、標的抗原に結合する既知の抗体と関心対象の抗体との間の競合を使用し得る。このアプローチを使用することにより、抗体のセットを、参照抗体と競合するものと競合しないものとに分け得る。非競合抗体は、参照抗体が結合するエピトープと重複しない別個のエピトープへの結合として同定される。多くの場合、1つの抗体を固定化し、抗原を結合させ、第2の標識した(例えばビオチン化した)抗体を、捕捉された抗原に結合する能力についてELISAアッセイにおいて試験する。これは、ProteOn XPR36(BioRad,Inc)、Biacore 2000及びBiacore T200(GE Healthcare Life Sciences)及びMX96 SPRイメージャ(Ibis technologies B.V.)を含む表面プラズモン共鳴(SPR)プラットフォームを使用することにより、且つOctet Red384及びOctet HTX(ForteBio,Pall Inc)などのバイオレイヤー干渉プラットフォーム上でも行われ得る。さらなる詳細については、本明細書中の実施例を参照。
【0147】
典型的には、抗体は、標準的な技術、例えば上記の競合結合アッセイによって決定されるように、標的抗原に対する参照抗体の結合の約15~100%の減少を引き起こす場合、参照抗体と「競合する」。種々の実施形態では、相対阻害率は、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%以上である。
【0148】
医薬組成物、使用及び処置の方法
本発明の別の態様は、本発明の1つ以上の抗体を好適な薬学的に許容可能な担体と混合して含む医薬組成物を提供することである。本明細書中で使用されるような薬学的に許容可能な担体としては、アジュバント、固体担体、水、緩衝液若しくは治療成分を保持するために当技術分野で使用されている他の担体又はこれらの組み合わせが例示されるが限定されない。
【0149】
一実施形態において、医薬組成物は、CD19に結合する重鎖抗体(例えば、UniAb(商標))を含む。別の実施形態において、医薬組成物は、CD19タンパク質上の2つ以上の重複しないエピトープに対して結合特異性を有する多特異性(二特異性を含む)の重鎖抗体(例えば、UniAb(商標))を含む。好ましい実施形態において、医薬組成物は、CD19に対する結合特異性を有し、且つエフェクター細胞上の結合標的(例えば、T細胞上のCD3タンパク質など、例えば、T細胞上の結合標的)に対する結合特異性を有する多特異性(二特異性及びTCAを含む)の重鎖抗体(例えば、UniAb(商標))を含む。好ましい実施形態において、医薬組成物は、CD19に結合し、且つエフェクター細胞上の結合標的(例えば、T細胞上のCD3タンパク質など、例えば、T細胞上の結合標的)に結合する多特異性(二特異性及びTCAを含む)の重鎖抗体(例えば、UniAb(商標))を含む。
【0150】
本開示に従って使用される抗体の医薬組成物は、保管のために、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態などで、所望の純度を有するタンパク質を任意選択の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と混合することによって調製される(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)を参照)。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、使用される投与量及び濃度でレシピエントに対して毒性がなく、それらには、リン酸、クエン酸及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドンなど;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Znタンパク質錯体);及び/又はTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0151】
非経口投与のための医薬組成物は、好ましくは、無菌で且つ実質的に等張であり、適正製造基準(GMP)条件下で製造される。医薬組成物は単位剤形(即ち単回投与のための剤形)で提供され得る。製剤は、選択される投与経路に依存する。本明細書中の抗体は、静脈内注射若しくは注入により又は皮下に投与され得る。注射投与のために、本明細書中の抗体は、水溶液中で、好ましくは生理学的に適合性の緩衝液中で製剤化されて、注射部位の不快感を軽減し得る。溶液は、上で論じられるように、担体、賦形剤又は安定剤を含有し得る。代わりに、抗体は、使用前に好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水、での構成のために、凍結乾燥された形態であり得る。
【0152】
例えば米国特許第9,034,324号明細書において抗体製剤が開示される。本発明の、UniAbs(商標)を含む、重鎖抗体に対して、同様の製剤が使用され得る。皮下抗体製剤は、例えば、米国特許出願公開第20160355591号明細書及び米国特許出願公開第20160166689号明細書に記載されている。
【0153】
使用方法
本明細書に記載される抗CD19抗体及び医薬組成物は、限定なしに、本明細書にさらに記載される病態及び疾患を含め、CD19の発現によって特徴付けられる疾患及び病態の処置に使用することができる。
【0154】
CD19は、あらゆるヒトB細胞に発現するが、形質細胞には見られない細胞表面受容体である。これは、比較的大型の240アミノ酸の細胞質テールを有する。この細胞外Ig様ドメインは、潜在的にジスルフィド結合型の非Ig様ドメインと、N-結合型の糖鎖付加部位とに分けられる。この細胞質テールは、C末端近傍に少なくとも9個のチロシン残基を有し、そのいくつかは、リン酸化していることが示されている。CD20及びCD22と共に、CD19の発現はB細胞系統に制限されているため、CD19はB細胞悪性腫瘍の治療的処置に魅力的な標的となる。CD19は、いくつもの血液学的悪性腫瘍でその発現が観察されるため、抗体ベースの治療薬の有望な標的である。
【0155】
一態様において、本明細書の抗CD19抗体(例えば、UniAbs(商標))及び医薬組成物は、限定なしに、本明細書にさらに記載される疾患及び障害を含め、CD19の発現によって特徴付けられる障害の処置に使用することができる。
【0156】
本発明の抗CD19重鎖抗体(UniAbs)は、限定なしに、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、非ホジキンリンパ腫、B細胞慢性リンパ球性白血病(CLL)及びB細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)を含めた、CD19の発現によって特徴付けられる血液学的悪性腫瘍の処置用治療薬の開発に使用することができる。
【0157】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL又はDLBL)は、成人に最も多く見られる形態の非ホジキンリンパ腫であり(Blood 1997 89(11):3909-18)、米国及び英国での推定年間発生率は毎年10万人に7~8例である。これは、事実上身体のあらゆる部位に発生し得る高悪性度の癌として特徴付けられる。DLBCLの原因は十分に解明されておらず、これは正常なB細胞からも、他の種類のリンパ腫又は白血病細胞の悪性形質転換からも生じ得る。処置手法は、概して化学療法及び放射線照射を伴い、成人の5年全生存率の平均は約58%となっている。一部のモノクローナル抗体がDLBCLの処置に有望であるとされているが、一貫した臨床的有効性は未だ決定的には実証されていない。従って、DLBCLに対する免疫療法を含めた新規の治療法が大いに必要とされている。
【0158】
別の態様において、本明細書におけるCD19重鎖抗体(例えば、UniAbs(商標))及び医薬組成物は、限定なしに、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)及び多発性硬化症(MS)を含めた、CD19を発現する病原性B細胞を特徴とする自己免疫障害の処置に使用することができる。
【0159】
一実施形態において、本明細書における抗体は、重鎖のみの抗CD19抗体-CAR構造体、即ち、重鎖のみの抗CD19抗体-CAR形質導入T細胞構造体の形態であり得る。
【0160】
疾患の処置のための本発明の組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトであるか又は動物であるか、他の薬剤の投与及び処置が予防的であるか又は治療的であるかを含む多くの異なる因子に依存して変動する。通常、患者はヒトであるが、非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマなどのコンパニオン動物、ウサギ、マウス、ラットなどの実験用哺乳動物も処置され得る。処置投与量は、安全性及び有効性を最適化するために用量設定され得る。
【0161】
投与量レベルは通常の技術を有する臨床医によって容易に決定され得、必要に応じて、例えば、治療に対する対象の応答を変更するために必要に応じて変更し得る。単一の剤形を生成させるために担体材料と組み合わせられ得る有効成分の量は、処置される宿主及び特定の投与方式に応じて変動する。単位剤形は、一般に、約1mg~約500mgの有効成分を含有する。
【0162】
いくつかの実施形態では、薬剤の治療投与量は宿主体重の約0.0001~100mg/kg、より一般的には0.01~5mg/kgの範囲であり得る。例えば、投与量は、1mg/kg体重若しくは10mg/kg体重又は1~10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な処置レジメンは、2週間ごと又は1カ月に1回若しくは3~6カ月ごとの投与を伴う。本発明の治療物質は、通常、複数回投与される。単回投与間の間隔は、毎週、毎月又は毎年であり得る。間隔は、患者における治療物質の血中レベルを測定することによって示されるように不規則でもあり得る。代わりに、本発明の治療物質は、徐放性製剤として投与され得、その場合、投与頻度をより少なくする必要がある。投与量及び頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期に応じて変動する。
【0163】
典型的には、組成物は溶液又は懸濁液の何れかとしての注射剤として調製され、注射前の液体ビヒクル中の溶液又は懸濁液に適した固体形態を調製することもできる。本明細書中の医薬組成物は、直接の又は固体(例えば凍結乾燥)組成物の再構成後の静脈内又は皮下投与に好適である。調製物は、上述のように、アジュバント効果を高めるために、ポリラクチド、ポリグリコリド又はコポリマーなどのリポソーム又は微粒子中に乳化又はカプセル化することもできる。Langer,Science 249:1527,1990及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の薬剤は、有効成分の持続放出又はパルス放出を可能にするような方式で製剤化され得るデポ注射又はインプラント製剤の形態で投与され得る。本医薬組成物は、一般に、無菌であり、実質的に等張であり、米国食品医薬品局の全ての適正製造基準(GMP)規則を完全に遵守して製剤化される。
【0164】
本明細書中に記載の抗体及び抗体構造体の毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な医薬的手順により、例えばLD50(集団の50%に致死的な用量)又はLD100(集団の100%に致死的な用量)を決定することにより決定され得る。毒性と治療効果との間の用量比は、治療指数である。これらの細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを、ヒトでの使用に対して毒性ではない投与量範囲を処方する際に使用し得る。本明細書中に記載の抗体の投与量は、毒性が殆どないか又は全くない有効用量を含む循環濃度の範囲内であることが好ましい。投与量は、使用される剤形及び利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。正確な処方、投与経路及び投与量は、個々の医師により、患者の状態を考慮して選択され得る。
【0165】
投与のための組成物は一般に、薬学的に許容可能な担体、好ましくは水性担体中で溶解された抗体又は他のアブラティブ剤を含む。様々な水性担体、例えば、緩衝生理食塩水などを使用し得る。これらの溶液は無菌であり、一般に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌され得る。本組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤などの生理学的条件に近似するために必要とされる薬学的に許容可能な補助物質、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含有し得る。これらの製剤中の活性薬剤の濃度は広く変動し得、選択された特定の投与方式及び患者の必要性に従い、主に流体体積、粘度、体重などに基づいて選択される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed.,1980)及びGoodman&Gillman,The Pharmacological Basis of Therapeutics(Hardman et al.,eds.,1996))。
【0166】
本発明の活性物質及びその処方物及び使用説明書を含むキットも本発明の範囲内にある。本キットは、少なくとも1つのさらなる薬剤、例えば化学療法薬などをさらに含有し得る。キットは、典型的には、キットの内容物の意図される使用を示すラベルを含む。「ラベル」という用語は、本明細書中で使用される場合、キット上で又はキットと共に供給されるか、又はそうでなければキットに添付される、何らかの書面又は記録素材を含む。
【0167】
ここで、本発明を十分に説明するが、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、様々な変更形態及び修正形態がなされ得ることは、当業者にとって明らかであろう。
【実施例】
【0168】
III.実施例
実施例1:CD19+ Raji細胞への結合
CD19陽性Raji細胞への結合をフローサイトメトリーにより評価した。簡潔に言えば、50,000個の標的細胞を、精製したUniAbs(商標)の希釈系列によって4℃で30分間染色した。インキュベーション後、細胞をフローサイトメトリー緩衝液(1×PBS、1%BSA、0.1%NaN3)で2回洗浄し、R-フィコエリトリン(PE)にコンジュゲートしたヤギF(ab’)2抗ヒトIgG(Southern Biotech、カタログ番号2042-09)で染色することにより、細胞に結合した抗体を検出した。4℃で20分間のインキュベーション後、細胞をフローサイトメトリー緩衝液で2回洗浄し、平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーにより測定した。二次抗体単独で染色した細胞のMFIを使用してバックグラウンドシグナルを決定し、各抗体の結合をバックグラウンドに対する倍数に変換した。
【0169】
結果は
図1に提供し、
図1は、指示される抗CD19抗体の標的結合活性を要約している。列1は、HCAbのクローンIDを示す。列2は、バックグラウンドMFIシグナルに対する倍数として測定したRaji細胞への結合を示す。列3は、バックグラウンドMFIシグナルに対する倍数として測定したCD19タンパク質を発現しないCHO細胞(陰性対照)への結合を示す。
【0170】
実施例2:CD19+ Raji及びDaudi細胞への結合
2つの細胞株:Raji(A)及びDaudi(B)に関して、実施例1に記載されるとおり、細胞結合用量曲線を実施した。抗体は、200nMの出発濃度と、続く8点用量曲線の3倍系列希釈で試験した。PE平均蛍光強度をバックグラウンド(二次検出抗体のみとインキュベートした細胞)に対する倍数としてプロットした。
【0171】
結果は
図2、パネルA(Raji細胞)及びパネルB(Daudi細胞)に提供する。
【0172】
実施例3:CD19+細胞株に対する細胞結合EC50値
細胞結合EC50値を決定するため、実施例2に記載されるとおり、CD19発現細胞株Raji及びDaudiに関して細胞結合用量曲線を実施した。抗体は、200nMの出発用量と、続く8点用量曲線の3倍系列希釈で試験した。変換したデータを非線形回帰曲線当てはめ(GraphPad Prism 8.4.3で利用可能)を用いてxyグラフとしてプロットすることにより、EC50(nM)を求めた。
【0173】
【0174】
実施例4:ヒト腫瘍細胞株によるCAR-T媒介性T細胞活性化
Jurkat Tリンパ球細胞を抗CD19 CAR及び6×NFAT TKナノルシフェラーゼレポーターとコトランスフェクトすることにより、CAR-T細胞活性を測定した。トランスフェクトしたJurkatをCD19+ Raji、Ramos及びSU-DHL-10又はCD19陰性K562細胞と共に24時間共培養した。Promega Nano-Gloルシフェラーゼアッセイシステム(カタログ番号N1110)を使用してルシフェラーゼ活性を測定し、データは、CARをトランスフェクトしたJurkat及びCD19陰性K562細胞株を含む共培養物で正規化した。統計的有意性は、対応のない両側t検定を用いて決定した。
【0175】
【0176】
図4、パネルAは、本発明の態様に従う抗体配列を含む抗CD19細胞外結合ドメインを含むCAR-T構造体の概略図である。パネルBは、抗CD19 370034 CARをトランスフェクトしたJurkatの、Raji(
**p= 0.0055)、Ramos(
**p=0.0058)及びSU-DHL-10(
***p=0.00025)でのT細胞活性を描く。パネルCは、抗CD19 370083 CARをトランスフェクトしたJurkatの、Raji(
****p=0.000009)、Ramos(
**p=0.004)及びSU-DHL-10(
*p=0.016)でのT細胞活性を描く。
【0177】
実施例5:部位飽和突然変異誘発による生物学的特性の亢進を呈するCD19 VH結合体の作成
この例では、部位飽和突然変異誘発を用いて、野生型アミノ酸コード配列を他の19個のアミノ酸コード配列の1つに系統的に置き換えたユニークなCD19 VH結合配列のプールを作成することにより突然変異体のプールを作成した。これをスクリーニングすることにより、親VH結合体と比較してインビトロ及び/又はインビボ特性が向上したCD19 VH結合体を同定し得る。
【0178】
CD19 VH結合体VH-034は、3つの相補性決定領域(「CDR」):CDR1(8アミノ酸;配列番号1)、CDR2(8アミノ酸;配列番号2)及びCDR3(10アミノ酸;配列番号4)を含む。部位飽和突然変異誘発を利用して、26個の組み合わせのCDRアミノ酸の各々を他の19個の残りの非野生型アミノ酸残基の1つに系統的に置き換え、3つ全てのCDR配列にわたる範囲で単一のCDRアミノ酸置換を含む513個のユニークなCD19 VH結合体配列のライブラリを作成した。
【0179】
簡潔に言えば、VH-034をコードするヌクレオチド配列が部位飽和突然変異誘発のDNA鋳型としての役割を果たした(例えば、Chronopoulou and Labrou(2011)Curr Protocol Protein Sci Chapter 26 doi:10.1002/0471140864.ps2606s63)。PCR及びプライマーとして変性合成オリゴヌクレオチドを使用することにより、同じ反応内で1つのコドンを20個全てのアミノ酸コドンと置き換え、次にそれを26個のCDRコドンの各々に系統的に適用した。結果として得られた、各々が単一アミノ酸置換をコードする513個のメンバーの核酸プール及び親の野生型配列をナノプラスミドベクターにクローニングし、このプラスミドプール中の513個のユニークなVH結合体配列の各々の頻度を次世代シーケンシング(NGS)により決定した。
【0180】
ナノプラスミドベクターnPBv2-EF1a-iC9-CD19.VH034-DHFR.は、5’から3’方向に以下を含む:右端ITR-5’UTR-インスレーター-EF1aプロモーター-誘導性iCaspase9遺伝子-T2A-CD8aリーダーペプチド-VH034結合体の部位-CD19BBZ CARカセット-T2A-DHFR選択可能マーカー-SV40ポリA-インスレーター-3’-UTR及び左端ITR。各ユニークな結合体配列をCD19BBZ CARカセットにインフレームでクローニングして、EF1aプロモーターの制御下にある完全長CAR(CD19 VH結合体-CD28ヒンジ-41-BB膜貫通ドメイン及びCD3ゼータドメイン)を作成した。
【0181】
実施例6:突然変異体CD19 VH結合体を含むCAR発現T細胞プールの作成
この例では、513個のCD19 VH結合体配列の1つを含むCARを発現する個別のT細胞のT細胞プールを作成した。
【0182】
SuperpiggyBacトランスポザーゼをコードするmRNA及び低DNAコピー数のDNAナノプラスミドプールのアリコートをT細胞にエレクトロポレートすることにより、エレクトロポレートしたT細胞が513個のナノプラスミドの1つについての単一のコピーを含むことが確実となるようにして、実施例5で作成した513個のCD19 VH結合体ナノプラスミドのライブラリを含むT細胞プールを調製した。エレクトロポレートしたT細胞の集団を250nMメトトレキサート中でインキュベートして、CAR発現トランスポゾンの組み込まれたゲノムコピーを含む転移したT細胞を選択した。T細胞プール中における513個のユニークな結合体配列の各々の頻度をNGSにより決定した。
【0183】
実施例7:CD19刺激の繰り返しによる結合の向上を呈するCD19 VH結合体を含むCARを発現するT細胞の濃縮
この例は、特定の抗原への繰り返しの曝露及び抗原刺激に起因して数が優先的に増大したT-クローンの選択により、T細胞集団内で選択のT細胞クローンを濃縮し得ることを示す。
【0184】
一つの実験では、Grex-6Mウェルプレートにて、実施例6で作成したT細胞プールからの約20×10e6 T細胞/ウェルのT細胞を各ウェルにデュプリケートセットで加えた。一方のセットには、2×10e6個のRAJI細胞(CD19+)を加え、他方のセットには、不活性なCD19遺伝子を有する2×10e6個の対照RAJI細胞(RAJI KO)を加えて、CD19-CAR発現T細胞の活性化を刺激した。3、6、9日目に、それぞれ、2×10e6個のRAJI細胞又はRAJI KOでT細胞を再チャレンジした。12日後、RAJI細胞によって刺激されたT細胞プールの分類されない増大は約20倍であった一方、RAJI KO細胞の使用では、増大はほとんど乃至全く認められなかった。
【0185】
CD19+細胞をNGSにより分析して、増大したCD19+ T細胞集団内での513個の突然変異体結合体配列の各々の頻度を決定し、各メンバーのこの頻度を元のプラスミド及びT細胞プール集団と比較して分析した。
【0186】
第2の実験では、実施例6で作成したT細胞プールをウサギ抗ヒトIgG抗体で処置してCAR陽性細胞を捕捉し、FACS分析によりCAR細胞を選別して分析した。次に選別したCAR陽性T細胞プールをRAJI CD19+細胞又はRAJI-KOによる再刺激に供し、15日後(Raji細胞による6回の刺激後)、T細胞の約40倍の増大が観察された。CAR+ T細胞をNGSにより分析して、増大したCAR+ T細胞集団内での513個の突然変異体結合体配列の各々の頻度を決定し、各メンバーのこの頻度を元のプラスミド及びT細胞プール集団と比較して分析した。
【0187】
元のプラスミド集団内、T細胞プール内及び2つの濃縮条件の各々における各VH結合体の相対頻度を比較することにより、各VH結合体配列の頻度の相対的な変化を決定し得る。513個のVH結合体配列の大多数はRAJI処置T細胞プールから枯渇したことから、それらの突然変異がCD19結合の点で有害であったことが示唆される一方、VH結合体配列の集団の頻度はCD19刺激によっても比較的変化しないままであったことから、導入された突然変異がCD19結合にほとんど効果を及ぼさなかった可能性があることが示唆される。ある種のT細胞クローンはCD19刺激によって濃縮され、これらの2つの濃縮アッセイにより、両方のアッセイで濃縮されるように見えるT細胞クローンの重複のあるリストが生み出されている。
【0188】
両方の濃縮アッセイで観察された上位12個のVH結合体をさらに分析した。2つの特別なT細胞クローンが、RAJI細胞を使用した刺激の繰り返し後にT細胞集団内で高度に濃縮された。第1のT細胞クローンは、CDR1にT29D突然変異を含む(配列番号38)CD19 VH結合体を発現するCARを含み、及び第2のT細胞クローンは、CDR2にS55D突然変異を含む(配列番号39)CD19 VH結合体を発現するCARを含んだ。
【0189】
これらの2つの濃縮されたCD19 VH結合体T29D及びS55Dをインビトロ及びインビボアッセイでさらに特徴付けた。
【0190】
実施例8:T29D又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞はインビトロ細胞傷害性の亢進を呈する
この例では、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞が、親のVH034結合体と比較すると、CD19発現細胞に対して高度なインビトロ細胞傷害性を呈することを示す。
図5、パネルA及びBは、親VH-034結合体と比較した、T29D VH結合体又はS55D VH結合体の何れかを含むCARを発現するT細胞間のインビトロ細胞傷害性比較結果を示すグラフである。より具体的には、これらの結果は、親VH-034結合体と比較した、Nalm6(
図5、パネルAを参照)又はRAJI(
図5、パネルBを参照)細胞を使用したCD19刺激時のインビトロ細胞傷害性を示している。
【0191】
96ウェルプレートにて、親VH-034結合体、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現する約20,000 T細胞/ウェルのT細胞を各ウェルにデュプリケートセットで加えた。一方のセットには、10,000個のRAJI-GFP細胞を加え、他方のセットには、10,000個のNalm6-GFP細胞を加えて、CD19-CAR発現細胞の活性化を刺激した。48時間、116時間及び172時間の時点で、それぞれ30,000個のRAJI-GFP又はNalm6-GFPでT細胞を再チャレンジした。インビトロ細胞傷害性は、252時間(Nalm6-GFPについて)又は188時間(RAJI-GFPについて)にわたってIncucyteによりリアルタイムで測定した。
【0192】
実施例9:T29D又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞はインビトロT細胞活性化の向上を呈する
この例は、CD19刺激によって濃縮されたCD19 VH結合体を含むCARを発現するT細胞が親のVH034結合体と比較して高度なインビトロT細胞活性化を呈することを示す。
【0193】
図6は、親VH-034結合体と比較したT29D VH結合体又はS55D VH結合体の何れかを含むCARを発現するT細胞におけるインビトロT細胞活性化の向上を要約する表である。親VH-034結合体、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現する約0.2×10e6個のT細胞を0.1×10e6個のNalm6又はRAJI細胞を加えることによって活性化し、これらの培養物を、10%FBSを補足したRPMI 1640培地において37℃で16時間インキュベートした。次にT細胞をFACS分析により分析して、T細胞活性化のマーカーであるCD25発現を定量化した。
図6に図示する表中に、各VH結合体について活性化T細胞のCD25の幾何平均蛍光強度(gMFI)を示す。
【0194】
図6に図示する表から明らかなとおり、T29D及びS55D CD19 VH結合体は、親CD19 VH-034結合体と比較してT細胞活性化の向上を呈し、これらの置換によってCD19発現細胞によるT細胞活性化が向上することを実証した。
【0195】
実施例10:T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞はインビボでCARをより高度に発現する
この例は、CARフォーマットの濃縮されたCD19 VH結合体が親VH-034結合体と比較してT細胞でCARをより高度に発現することを示す。
【0196】
図7は、CARフォーマットの濃縮されたCD19 VH結合体が親VH-034結合体と比較してT細胞でCARをより高度に発現することを示す表である。親VH-034結合体、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現する約10×10e6個のT細胞をマウス(n=5)に投与した。14日後、処置した動物から血液試料を採取し、血液をACK緩衝液によって溶解させて赤血球を除去した。次に循環T細胞をFACS分析によりCD19+細胞でゲーティングして分析し、試料毎にCAR発現細胞の数を決定した。結果は、
図7に図示する表に示す。
【0197】
図7に図示する表から明らかなとおり、平均CD19 CAR+循環T細胞数は、親VH-034結合体と比較すると、T29D及びS55D VH結合体についてそれぞれ約35%及び65%多かった。
【0198】
実施例11:T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞はインビボT細胞増大の向上を実証する
この例は、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞が、親VH-034を含むCARを発現するT細胞と比較してインビボでのT細胞増大の向上を呈することを示す。
【0199】
図8は、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞がインビボでのT細胞増大の向上を呈することを示す表である。NSG(NOD.Cg-Prkdc
scidIl2rg
tm1Wjl/Szj(n=5/群)に、野生型VH-034結合体、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現する10×10e6個のT細胞を投与した。3、7及び14日目に、処置したマウスから血液試料を採取し、血液1マイクロリットル当たりの循環T細胞数を決定した。結果は、
図8に図示する表に示す。
【0200】
図8に図示する表から明らかなとおり、T細胞増大の動態及び大きさは、親VH-034結合体又は2つの突然変異体VH結合体の何れかを発現するT細胞間で異なる。例えば、S55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞は、T29D VH結合体を含むCARを発現するT細胞と比べると、S55D T細胞の増大ピークが3日であるのに対し、T29D T細胞の増大ピークが14日である点で異なる動態を呈する。その上、これらの2つの突然変異体VH結合体は、各々が、親VH-034 T細胞と比較したとき動態の向上を実証した。
【0201】
実施例12:T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞はインビボT細胞枯渇の低下を実証する
この例は、CD19結合に関して濃縮されたCD19 VH結合体の1つを含むCARを発現するT細胞が、親VH-034結合体と比較してインビボT細胞枯渇の低下を呈することを示す。
【0202】
親VH-034、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を発現する約10×10e6個のT細胞を成体NSG(NOD.Cg-Prkdc
scidIl2rg
tm1Wjl/Szjマウス(n=5/群)に投与した。21日後、処置した動物から約100μlの血液試料を採取し、各試料からACK溶解緩衝液によって赤血球を除去した。各試料のT細胞枯渇の程度をFACS分析により、T細胞枯渇の公知のマーカーであるPD-1又はTIGIT-1を発現する細胞に関してゲーティングすることによって決定した。
図9は、T29D又はS55D CD19 VH結合体を含むCARを発現するT細胞が親VH-034 CD19結合体と比較して少ないT細胞枯渇を呈したことを示す表である。
【0203】
図9の表から明らかなとおり、T29D又はS55D CD19 VH結合体を含むCARを発現するT細胞は、21日目に、PD-1又はTIGITを発現するT細胞の数の減少からも明らかなとおり、より少ないT細胞枯渇を呈し、親VH-034 CD19結合体と比較して、より高い割合のこれらの細胞が非枯渇状態のままであることが実証された。
【0204】
実施例13:T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞はインビボ有効性の向上を呈する
この例は、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞が、親VH-034結合体を含むCARを発現するT細胞と比較してインビボ有効性の向上を呈することを示す。
【0205】
0日目、6~7週齢の成体雌NGS(NOD.Cg-Prkdcscidll2rgtm1Wjl/Szi)マウス(n=5/群)に、ルシフェラーゼを発現するように遺伝子操作した0.5×10e6個のRAJI細胞を静脈内投与した。5日目、マウスに、親VH-034結合体、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現する10×10e6個のT細胞を投与した。55日の期間にわたってマウスをモニタした。
【0206】
この試験の経過中、1週間間隔で麻酔下のマウスに全身生体発光イメージング(「BLI」)を実施して腫瘍進行をモニタし、8、12、18、25、32、39及び55日目に、処置した動物から全血を採取した。55日目、マウスを安楽死させ、続いてさらなる分析のため、その血液、脾臓及び大腿骨骨髄を採取した。
【0207】
図10は、T29D VH結合体又はS55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞が腫瘍制御を呈したことを示す簡約データによるグラフである。
図11は、
図10に示されるのと同じ結果を図示する簡約していない個々のマウスモデルデータを示すグラフである。図示されるとおり、親VH-034を含むCARを発現するT細胞がこの試験の経過中に腫瘍成長の制御に及ぼす効果は、それほど大きくなかった。対照的に、T29D VH結合体を含むCARを発現するT細胞を投与したマウスは、5匹中5匹が55日目まで腫瘍の完全な制御及び退縮を呈した。同様に、S55D VH結合体を含むCARを発現するT細胞を投与した5匹中3匹が、少なくとも30日目まで腫瘍の完全な制御及び退縮を呈した。これらの結果から、T29D及びS55D突然変異を含む濃縮されたCD19 VH結合体が、RAJIモデルにおいて観察されるインビボ有効性の向上に寄与することが指摘される。
【0208】
本発明の好ましい実施形態を本明細書中に示し、記載してきたが、このような実施形態が単なる例として提供されることは、当業者にとって明らかであろう。ここで、当業者は、本発明から逸脱することなく、多くの様々な変化形態及び置換形態を認識するであろう。本明細書中に記載の本発明の実施形態に対する様々な代替形態が本発明の実施において使用され得ることを理解すべきである。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義し、これらの特許請求の範囲内の方法及び構造並びにその均等物がそれにより包含されるものとする。
【配列表】
【国際調査報告】