(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】減速ギアボックス構成部品を製造するための方法、減速ギアボックス構成部品および減速ギアボックス
(51)【国際特許分類】
C21D 9/32 20060101AFI20240321BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240321BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20240321BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C21D9/32 A
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302Z
C22C38/50
C21D9/00 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562587
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 DE2022100258
(87)【国際公開番号】W WO2022218469
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】102021108990.5
(32)【優先日】2021-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102022108012.9
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マークス ディンケル
(72)【発明者】
【氏名】グレゴア フリン
(72)【発明者】
【氏名】ヨヘン ダーメラウ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ビルクナー
(72)【発明者】
【氏名】イゴール ミース
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA18
4K042BA01
4K042BA03
4K042CA06
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA11
4K042CA12
4K042CA13
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD02
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE03
(57)【要約】
本発明は、減速ギアボックス構成部品(1)を製造するための方法であって、減速ギアボックス構成部品(1)は、析出硬化鋼から形成される、方法において、
-ブランクを提供する工程であって、ブランクは、組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015以下のマグネシウム重量%、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である、提供する工程と、
-ブランクを溶体化処理する工程であって、溶体化処理は、ブランクを950~1050℃の溶体化処理温度に加熱することによって、または1000~1200℃の温度での鍛造加工中のいずれかで、組成の析出硬化成分が溶体に存在するようになるまで行われる、溶体化処理する工程と、
-ブランクを室温まで冷却する工程と、
-減速ギアボックス構成部品(1)を形成するために、ブランクを機械加工する工程と、
-減速ギアボックス構成部品(1)を、450~650℃の温度で30分以上10時間以下、析出硬化する工程と、を含む、方法に関する。
さらに、本発明は、減速ギアボックス構成部品(1)および減速ギアボックス(2)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速ギアボックス構成部品(1)を製造するための方法であって、前記減速ギアボックス構成部品(1)は、析出硬化鋼から形成される、方法において、
-ブランクを提供する工程であって、前記ブランクは、組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015重量%以下のマグネシウム、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である、提供する工程と、
-前記ブランクを溶体化処理する工程であって、前記溶体化処理は、前記ブランクを950~1050℃の溶体化処理温度に加熱することによって、または1000~1200℃の温度で行われる鍛造加工中のいずれかで、前記組成の析出硬化成分が溶体に存在するようになるまで行われる、溶体化処理する工程と、
-前記ブランクが実質的にマルテンサイト組織を有するように、前記ブランクを室温まで冷却する工程と、
-前記減速ギアボックス構成部品(1)を形成するために、前記ブランクを機械加工する工程と、
前記減速ギアボックス構成部品(1)を、450~650℃の温度で30分以上10時間以下、析出硬化する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記ブランクは、前記溶体化処理および前記冷却後、硬さが350~500HV5であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、前記析出硬化後、硬さが550~750HV5であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015以下のマグネシウム重量%、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である析出硬化鋼を有する、減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項5】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、M6C型および/またはMC型の炭化物を有することを特徴とする、請求項4に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項6】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、サイズが100nm以下のニッケルアルミナイド析出物を有することを特徴とする、請求項4または5に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項7】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、硬さが550~750HV5である、請求項4~6のいずれか一項に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項8】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、引張強さが1600MPa以上であることを特徴とする、請求項4~7のいずれか一項に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項9】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、減速ギアボックスのリングギア(2)および/またはカラー付きスリーブ(3)であることを特徴とする、請求項4~8のいずれか一項に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項10】
請求項4~9のいずれか一項に記載の減速ギアボックス構成部品(1)を含む、減速ギアボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速ギアボックス構成部品を製造するための方法に関する。さらに、本発明は、減速ギアボックス構成部品および減速ギアボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許第10 2016 219 076(A1)号により、柔軟な、外側歯部付きギアボックス構成部品と、この外側歯部付きギアボックス構成部品と噛み合う、さらなる内側歯部付きギアボックス構成部品と、を備える減速ギアボックスが明らかである。さらなるギアボックス構成部品は、円筒形の、内側歯部付き、内部固定式スリーブ部と、このスリーブ部に接続している、円盤状の、柔軟な可塑性を備える底面部と、を有する。このような減速ギアボックスのカラー付きスリーブは、例えば、引張強さの範囲が1100~1300MPaである調質鋼製である。リングギアは、例えば、引張強さが900~1200MPaのオースフェライト鋳鉄から形成される。オースフェライト鋳物の製造だけではなく鋼構成部品の製造もまた、一般に、徹底的な熱処理、焼き入れ(マルテンサイトまたはベイナイト)、およびそれに続く所望の目標引張強さへの焼き戻し(テンパリング(Vergueten))からなる。その後、焼き戻しされた構成部品の構成部品形状は、従来型の仕上げ加工技術、すなわち、旋盤加工、ドリル加工、フライス加工、特にホブフライス加工、ホブピーリング加工、または歯切部の溝切削加工もしくはブローチ加工によっても形成される。このように製造された構成部品によって、最大400HVの引張強さが達成される。
【0003】
特許第2 595 609(B2)号では、浸炭焼き入れにより製造可能な快削鋼が開示されている。その鋼は、重量に基づいて、0.10~0.30%の炭素(C)、1.0%以下のケイ素(Si)、3.0%以下のマンガン(Mn)、8.0%以下のクロム(Cr)、5.0%以下のニッケル(Ni)、6.0%以下のモリブデン(Mo)、および2.0%以下のアルミニウム(Al)のうちの1つ以上の種類を含む。アルミニウムによって、鋼中の酸素量が低減され、同時に、窒化能が向上する。特許第2 595 609(B2)では、0.005%のAlを利用することが有利であるとみなされている。Alの割合が高くなるほど、材料の靭性に与える影響が大きくなる。さらに、鋼は、重量に基づいて、0.004~0.020%のホウ素(B)、0.005~0.050%の窒素(N)および0.0015%以下の酸素(O)を含む。窒素とホウ素との比率は、0.5~4.0N/Bである。チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)といった窒化物生成度の高い元素の総量は、0.01%以下である。残部は、鉄(Fe)からなる。鋼において、ホウ素および窒素は、窒化ホウ素包含物を生成する。
【0004】
特許第2 805 845(B2)号では、重量に基づいて、0.10~0.30重量%の炭素(C)、3.0%以下のマンガン(Mn)、8.0%以下のクロム(Cr)、5.0%以下のニッケル(Ni)、6.0%以下のモリブデン(Mo)および2.0%以下のアルミニウム(Al)のうちの1つ以上の種類、ならびに窒素とホウ素との比率が0.5~0.4N/Bの0.004~0.020%のホウ素(B)および0.005~0.050%の窒素(N)の鋼が開示されている。その鋼は、さらに、0.0015%以下の酸素(O)、0.10%以下のケイ素(Si)および0.015%以下のリン(P)を含む。チタン(Ti)およびジルコニウム(Zr)といった窒化物生成度の高い元素の総量は、0.01%以下である。残部は、鉄(Fe)からなる。必要に応じて、それに加えて、ニオブ(Nb)およびバナジウム(V)のうちの1つまたは両方の元素、ならびにカルシウム(Ca)、鉛(Pb)、硫黄(S)、ビスマス(Bi)およびテルル(Te)のうちの1つ以上の種類の最適な量が添加される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、減速ギアボックス構成部品を製造するための方法、減速ギアボックス構成部品および減速ギアボックスをさらに開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本課題は、請求項1の特徴を有する減速ギアボックス構成部品を製造するための方法、請求項4の特徴を有する減速ギアボックス構成部品、および請求項10の特徴を有する減速ギアボックスによって解決される。本発明の好ましいまたは有利な実施形態は、従属請求項、以下の説明および添付の図面から明らかになる。
【0007】
減速ギアボックス構成部品が析出硬化鋼から形成される、減速ギアボックス構成部品を製造するための本発明による方法は、
-ブランクを提供する工程であって、ブランクは、組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015重量%以下のマグネシウム、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である、提供する工程と、
-ブランクを溶体化処理する工程であって、溶体化処理は、ブランクを溶体化処理温度950~1050℃に加熱することによって、または1000~1200℃の温度で行われる鍛造工程中のいずれかで、組成の析出硬化成分が溶体に存在するようになるまで行われる、溶体化処理する工程と、
-ブランクが実質的にマルテンサイト組織を有するように、ブランクを室温まで冷却する工程と、
-減速ギアボックス構成部品を形成するために、ブランクを機械加工する工程と、
-減速ギアボックス構成部品を、450~650℃の温度で30分以上10時間以下、析出硬化する工程と、を含む。
【0008】
ブランクは、析出硬化鋼から形成されており、熱処理される前は圧延棒鋼として提供されてもよい。ブランクは、圧造または鍛造されてもよい。特に、ブランクは、鍛造などによって環状にすることができる。析出硬化鋼は、析出硬化によりプロセスパラメータおよび合金組成に応じてその硬さが調整可能な鋼である。ブランクは、熱処理のために、基本的にそれぞれ任意の加工状態、例えば、実質的に未加工の状態で提供されいてもよく、少なくともニアネットシェイプの減速ギアボックス構成部品を製造するために、ブランクの溶体化処理および冷却後、機械加工の全部または少なくとも大部分が室温で行われる。あるいは、ブランクまた、既に実質的にニアネットシェイプに形成されいてもよく、ブランクの溶体化処理および冷却後、ブランクの最終加工のみが行われて、例えば、変形が取り除かれ、減速ギアボックス構成部品をその最終寸法に加工する。
【0009】
ブランクまたはそのブランクから製造される減速ギアボックス構成部品の合金組成は、0.01~0.35重量%の炭素(C)、0~0.15重量%のケイ素(Si)、0~0.4重量%のマンガン(Mn)、4.5~5.5重量%のクロム(Cr)、4.5~6.5重量%のニッケル(Ni)、0.5~1重量%のモリブデン(Mo)、0~0.6重量%のバナジウム(V)、2~2.5重量%のアルミニウム(Al)、0~0.008重量%の硫黄(S)、0~0.02重量%のリン(P)、0~0.025重量%のチタン(Ti)、0.005~0.015重量%の窒素(N)、0~0.007重量%の酸素(O)、0~0.0035重量%のカリウム(K)、0~0.015重量%のマグネシウム(Mg)、ならびに残部として鉄(Fe)および不可避微量元素を有する。その微量元素は、特に、製造条件により材料に存在する不純物である。不純物は、例えば、銅(Cu)、アンチモン(Sb)、スズ(Sn)、ヒ素(As)などであり得る。
【0010】
この材料は、例えば、クロムおよびニッケルといった、焼き入れ性を向上させる元素が多い合金成分を有する。特に、特許第2 595 609(B2)号および同第2 805 845(B2)号と比較して実質的により高いアルミニウム割合は、本発明によれば2~2.5重量%であり、溶体化処理時に溶解するが、冷却中はこれが起こらない。これは、より長時間かかる処理時、および高温時であれば起こるであろうが、本明細書で提案される、本発明による製造方法では起こらないであろう。
【0011】
溶体化処理時、ブランクの組織内に存在する析出物、特に炭化物析出物、および混晶内においてさらなる相が溶解し、その組織は、ブランクを室温まで冷却することによって再度析出することが防止される。ブランクは、実質的にマルテンサイト組織が存在するような冷却率で室温まで冷却される。さらに、溶体化処理は、冷間加工された組織領域の再結晶、ひいては、加工硬化の除去に使用される。ブランクは、例えば、急速加熱後、構成部品の寸法に応じて950~1050℃の範囲内に保持される。溶体化処理は、特に、組成の析出硬化成分が溶体内に存在するようになるまで行われる。この時点が合金組成に依存している場合、一般に公知のシミュレーション方法によって、あらかじめ特定することができる。溶体化処理のために選択される温度は、好適には、材料の機械的特性にとって不利な、意図しない粗大な小片が組織内に残存しないように選択されている。他方、溶体化処理のための温度は、合金の共晶温度を超えて上昇しないように低く選択されている。溶体化処理のために好ましい時間は、30分以上90分以下である。理想的には、析出硬化成分は、約45分後に、素地の中に完全溶解して存在する。
【0012】
あるいは、先に述べた熱処理時に、組成の析出硬化成分が溶体内に存在するブランクの状態は、ブランクが鍛造を使用して加工されることにより、しかも有利には、1000~1200℃の温度で実現することができる。鍛造中、上述の析出物または相が溶解するので、ブランクは、鍛造および室温までの冷却後、溶体化処理された状態になる。
【0013】
溶体化処理直後の、ブランクの室温までの冷却は、基本的に任意に構成することができる。いずれにせよ、冷却後のブランクは、実質的にマルテンサイト組織を有する。溶体化処理後または鍛造後の材料の焼き入れ性は、冷却後に実質的にマルテンサイトの基本組織が存在することに冷却率が決定的な影響を及ぼさないほど高く、短時間、中程度の時間、長時間のいずれでも常にほぼ同一の硬さが実現される。上記の鋼組成のブランクは、空気でも冷却可能な空気焼き入れ鋼であるため、所望の材料特性、特に要求された硬さおよび/または引張強さが達成される。それにより、この鋼は、冷却時の冷却曲線ほど著しい感度を有していない。熱処理工程を加速するために、溶体化処理後、代替的にマルテンサイト硬化を行ってもよく、この場合、ブランクは、適切な媒体内の溶体化処理温度から出発して、室温まで急冷される。これによって、本製造方法は加速される。室温とは、本発明の意味において、10~40℃の、好適には、15~25℃の周囲温度と理解され得る。
【0014】
ブランクが室温まで冷却されると、ただちにそのブランクは、減速ギアボックス構成部品の形状が実質的にニアネットシェイプであるように機械加工することができる。言い換えれば、ブランクは、適切な機械加工工程によって、その最終寸法に加工される。機械加工とは、例えば、フライス加工、旋盤加工、ドリル加工、鋸引き加工およびホーニング加工といった切削による仕上げ加工方法または加工方法と理解され得る。特に、機械加工時、減速ギアボックス構成部品の歯切部が、内側歯部であれ、外側歯部であれ、製造することができる。したがって、ブランクは、柔らかい状態、すなわち溶体化処理された状態でも、従来型の技術によって減速ギアボックス構成部品の最終寸法に加工することができる。
【0015】
ブランクの初期冷却時、実質的にマルテンサイトの基本組織が生成され、その後、析出硬化が行われる。そのため、機械加工後、析出熱処理(Aushaerten)とも称される、析出硬化も行われ、減速ギアボックス構成部品の引張強さ、特に伸び限界を実質的に引き上げるために使用される。この場合、微細に配分された金属間相の析出が行われ、この金属間相は、内部応力または塑性変形による変形のために結晶格子内部での転移移動を困難にする。析出硬化は、有利には、温度450~650℃で30分以上10時間以下行われる。短時間および高温は、特に、硬さを急速に増加させるために有用である。完全な硬さレベルが目的とされず、可能な硬さレベルの部分だけが目標とされる場合、低い硬さと長い熟成時間を使用することができる。析出硬化時、個別の炭化物によって、焼き入れ性の向上の原因となる、ナノスケールのニッケルアルミナイドの形成が行われるが、従来型の析出硬化鋼の場合のようには行われない。
【0016】
本明細書で提案された方法の範囲内での析出硬化の利点は、減速ギアボックス構成部品が、一連の析出硬化において、形状もしくは容積の変化をまったく有しないか、または最低限のみ有することに実質的にある。析出硬化によって、減速ギアボックス構成部品の最終構成部品引張強さが調整される。本方法のさらなる利点は、従来の析出硬化鋼と比較して、鍛造または溶体化処理後に迅速な冷却を行う必要がなく、これにより、ブランク内の変形が著しく低減されることである。
【0017】
好ましくは、ブランクは、硬さが350~500HV5になるまで溶体化処理され、それに続いて冷却される。言い換えれば、ブランクは、溶体化処理および冷却後、硬さが350~500HV5になる。硬さは、本明細書では、第1の工程において、実質的に、0.2重量%未満~0.3重量%足らずの炭素成分の硬化能力に基づいているため、350~500HV5の焼き入れ歪みが達成される。硬さは、冷却後、室温で測定される。350HV(ビッカース硬さ)の硬さは、約35.5HRCのロックウェル硬さに相当し、500HVのビッカース硬さは、約49.1HRCのロックウェル硬さに相当する。したがって、ブランクは、ロックウェル硬さが35.5~49.1HRCになるまで溶体化処理される。硬さの値は、ビッカースによる硬さ試験によって決定され、その試験は、均質の材料を試験するために使用され、薄肉または表面硬化処理済みの被加工物および辺縁部の硬さ試験のためにも適している。この試験方法は、DIN EN ISO 6507-1:2018~-4:2018に準拠した規格に定められている。試験力としては、硬さを決定するために、5重量キログラムが適している。しかし、他の試験力も使用することができる。
【0018】
析出硬化を使用する追加的な焼き戻し処理によって初めて、減速ギアボックス構成部品の硬さは、約150~250HVだけ高められる。この意味で、減速ギアボックス構成部品は、析出硬化後、硬さが550~750HV5になる。550HVのビッカース硬さは、約52.3HRCのロックウェル硬さに相当し、750HVのビッカース硬さは、約62.2HRCのロックウェル硬さに相当する。したがって、減速ギアボックス構成部品は、硬さが52.3HRC~62.2HRCになるまで析出硬化される。
【0019】
析出硬化後、減速ギアボックス構成部品は、好適には、引張強さが1600MPa以上になる。これは、特に、組成内の炭素含有量を適合させることによって調整することができる。例えば、炭素含有量が約0.05重量%のとき、最大引張強さは、約1650MPaであり、炭素含有量が約0.18重量%のとき、引張強さは、約1850MPaであり、炭素含有量が約0.28重量%のとき、引張強さは、1900MPa超を達成可能である。
【0020】
本発明による減速ギアボックス構成部品は、組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015重量%以下のマグネシウム、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である析出硬化鋼を有する。
【0021】
好適には、減速ギアボックス構成部品は、M6C型および/またはMC型の炭化物を有する。この炭化物は、一連の析出硬化において形成される。M6C型の炭化物の例は、化学式Cr6Cの炭化クロムであり、MC型の炭化物の例は、化学式VCの炭化バナジウムである。
【0022】
好ましくは、減速ギアボックス構成部品は、サイズが100nm以下のニッケルアルミナイド析出物を有する。そのような析出物は、組成がNiAlであり、減速ギアボックス構成部品にとって良好な材料特性を示す。上述の析出物のため、減速ギアボックス構成部品の引張強さは、溶体化処理された状態と比較して、約200~250HVだけ上昇させることができる。
【0023】
本発明による減速ギアボックスは、本発明の第2の態様による減速ギアボックス構成部品を含む。減速ギアボックスは、例えば、非真円の外周面を有する波動発生器によって回転しながら局所的に半径方向に変形可能な、外側歯部を備える可撓性カラー付きスリーブと、内側歯部を備える剛性リングギアと、を含み、カラー付きスリーブの外側歯部は、トルクを伝達するために、歯の噛み合い部内のリングギアの内側歯部と少なくとも歯の噛み合い領域で、少なくとも部分的に接している。減速ギアボックス構成部品は、減速ギアボックスのリングギアであり得る。代替的または補完的に、減速ギアボックス構成部品は、減速ギアボックスのカラー付きスリーブでもあり得る。
【0024】
本方法に関する上述の実施形態は、本発明による減速ギアボックス構成部品、および本発明による減速ギアボックスに対して同様に適用され、逆もまた同様である。
【0025】
以下で図を参照して本発明の好ましい実施例の説明と一緒に、本発明を改善する別の措置を示す。これらの図では、同じ要素、または類似の要素には同じ参照符号が付与されている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】減速ギアボックス構成部品がリングギアとして形成されている、本発明の第1の実施形態による減速ギアボックス構成部品を示す概略断面図である。
【
図2】減速ギアボックス構成部品がカラー付きスリーブとして形成されている、本発明の第2の実施形態による減速ギアボックス構成部品を示す概略断面図である。
【
図3】
図1または
図2に示された、減速ギアボックス構成部品の本発明による製造方法を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図に基づいて、本発明による減速ギアボックス構成部品1を製造するための方法は、ブロック図により視覚表示されており、減速ギアボックス構成部品1は、
図1では減速ギアボックス(図示せず)のリングギア2として、
図2では減速ギアボックスのカラー付きスリーブ3として例示されている。言い換えれば、
図1によるリングギア2および
図2によるカラー付きスリーブ3は、減速ギアボックス構成部品1として理解され得る。製造方法を説明するためのブロック図は、
図3で示されている。リングギア2および/またはカラー付きスリーブ3は、したがって、減速ギアボックス内で使用されるように設計されている。
【0028】
第1の方法工程11において、ブランク(図示せず)が製造され、この場合、ブランクは、析出硬化鋼から圧延棒鋼としての形成されており、鍛造によって環状にされる。ブランクは、組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015重量%以下のマグネシウム、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である。
【0029】
第2の方法工程12において、提供されたブランクの溶体化処理が行われる。溶体化処理は、2つの代替工程によって行うことができる。一方では、溶体化処理は、個別の熱処理工程として行うことができ、ブランクは、950~1050℃の溶体化処理温度に加熱され、ブランクの組成の析出硬化成分が溶体中に存在するようになるまで熱処理される。このような成分は、特に炭化物析出物およびさらなる混晶相を含む。他方では、ブランクは、圧延棒鋼からのその製造中に、1000~1200℃の温度での鍛造工程が行われ、この場合、その温度は、ブランクの組成の析出硬化成分が溶体中に存在するようになるまで維持される。溶体化処理温度での溶体化処理または鍛造後、ブランクは、硬さが350~500HV5になる。
【0030】
第3の方法工程13において、ブランクを室温まで冷却する。この冷却は、本明細書では、空気に接触させて行われるが、水、油または気体といった流体中で行ってもよい。
【0031】
冷却に続いて、第4の方法工程14において、ブランクの機械加工が行われるので、ブランクから減速ギアボックス構成部品1が形成される。
図1に記載のリングギア2の例では、例えば、リングギア2の内周部の内側歯部4を、切削による仕上げ加工によって製造することができる。
図2に記載のカラー付きスリーブ3の例では、例えば、カラー付きスリーブ3の外周部の外側歯部5を、切削による仕上げ加工によって製造することができる。いずれにせよ、ブランクの機械加工により、減速ギアボックス構成部品1の実質的にニアネットシェイプが製造される。
【0032】
減速ギアボックス構成部品1は、その機械加工後、第5の方法工程15において、温度450~650℃で30分以上10時間以下、析出硬化が行われる。析出熱処理によって、Cr6C型の炭化クロム、および炭化バナジウム(VC)が減速ギアボックス構成部品1の組織内に形成する。それに加えて、サイズが100nm以下のニッケルアルミナイド析出物が形成する。この析出物または炭化物によって、組織内部の硬さは、200~250HVだけ上昇するので、減速ギアボックス構成部品1は、析出硬化後、硬さが550~750HV5、かつ引張強さが1600MPa以上になる。したがって、析出硬化後、組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015重量%以下のマグネシウム、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である析出硬化鋼を有する、減速ギアボックス構成部品が提供される。
【符号の説明】
【0033】
1 減速ギアボックス構成部品
2 リングギア
3 カラー付きスリーブ
4 内側歯部
5 外側歯部
11 第1の方法工程
12 第2の方法工程
13 第3の方法工程
14 第4の方法工程
15 第5の方法工程
【手続補正書】
【提出日】2023-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速ギアボックス構成部品(1)を製造するための方法であって、前記減速ギアボックス構成部品(1)は、析出硬化鋼から形成される、方法において、
-ブランクを提供する工程であって、前記ブランクは、組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015重量%以下のマグネシウム、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である、提供する工程と、
-前記ブランクを溶体化処理する工程であって、前記溶体化処理は、前記ブランクを950~1050℃の溶体化処理温度に加熱することによって、または1000~1200℃の温度で行われる鍛造加工中のいずれかで、前記組成の析出硬化成分が溶体に存在するようになるまで行われる、溶体化処理する工程と、
-前記ブランクが実質的にマルテンサイト組織を有するように、前記ブランクを室温まで冷却する工程と、
-前記減速ギアボックス構成部品(1)を形成するために、前記ブランクを機械加工する工程と、
前記減速ギアボックス構成部品(1)を、450~650℃の温度で30分以上10時間以下、析出硬化する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記ブランクは、前記溶体化処理および前記冷却後、硬さが350~500HV5であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、前記析出硬化後、硬さが550~750HV5であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
組成が0.01~0.35重量%の炭素、0.15重量%以下のケイ素、0.4重量%以下のマンガン、4.5~5.5重量%のクロム、4.5~6.5重量%のニッケル、0.5~1重量%のモリブデン、0.6重量%以下のバナジウム、2~2.5重量%のアルミニウム、0.008重量%以下の硫黄、0.02重量%以下のリン、0.025重量%以下のチタン、0.005~0.015重量%の窒素、0.007重量%以下の酸素、0.0035重量%以下のカリウム、0.015以下のマグネシウム重量%、および残部として不可避微量元素を伴う鉄である析出硬化鋼を有する、減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項5】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、M6C型および/またはMC型の炭化物を有することを特徴とする、請求項4に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項6】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、サイズが100nm以下のニッケルアルミナイド析出物を有することを特徴とする、請求項4または5に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項7】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、硬さが550~750HV5である、請求項4
または5に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項8】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、引張強さが1600MPa以上であることを特徴とする、請求項4
または5に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項9】
前記減速ギアボックス構成部品(1)は、減速ギアボックスのリングギア(2)および/またはカラー付きスリーブ(3)であることを特徴とする、請求項4
または5に記載の減速ギアボックス構成部品(1)。
【請求項10】
請求項4
または5に記載の減速ギアボックス構成部品(1)を含む、減速ギアボックス。
【国際調査報告】