(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/16 20060101AFI20240321BHJP
【FI】
C08J11/16 ZAB
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562792
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(85)【翻訳文提出日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 KR2022005448
(87)【国際公開番号】W WO2022220634
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】10-2021-0049835
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0028275
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510256159
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユン、グァン ナム
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ドン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ヨン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ド ヨン
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA11
4F401BA06
4F401CA30
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401CB01
4F401EA04
4F401EA34
4F401EA62
4F401EA77
4F401FA01Y
4F401FA01Z
4F401FA02Y
4F401FA07Z
(57)【要約】
本発明は、廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法に関し、より詳細には、廃ポリスチレンを環境調和型溶媒とカリウム含有炭酸塩解重合触媒を用いて解重合させることにより、スチレンモノマーの回収工程において副生成物として生成されるエチルベンゼンなどの生成を抑制してスチレンモノマーを高収率で回収することができる、廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)廃ポリスチレンにテトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフランの中から選択された少なくとも1種の溶媒と、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムの中から選択された少なくとも1種の解重合触媒とを添加して、ポリスチレンが溶解した混合物を得るステップと、
(b)前記ポリスチレンが溶解した混合物を蒸留させて溶媒を分離回収するステップと、
(c)前記(b)ステップで得られた溶媒分離回収した混合物を解重合してスチレンモノマー含有生成物を得るステップと、を含み、
前記(c)ステップで得られた生成物のうち、スチレンモノマー(SM)に対するエチルベンゼン(EB)の重量比(SM/EB)が80以上であることを特徴とする、廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法。
【請求項2】
前記(a)ステップで、テトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランは、廃ポリスチレン100重量部に対して、100重量部~200重量部で添加することを特徴とする、請求項1に記載の廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法。
【請求項3】
前記(a)ステップは、常温常圧下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法。
【請求項4】
前記(b)ステップにおける蒸留は、80℃~250℃で行うことを特徴とする、請求項1に記載の廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法。
【請求項5】
前記(c)ステップの解重合は、200℃~600℃で行うことを特徴とする、請求項1に記載の廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法。
【請求項6】
前記(c)ステップにおける炭酸カリウム及び/又は炭酸水素カリウムは、廃ポリスチレン100重量部に対して1重量部~10重量部で存在することを特徴とする、請求項1に記載の廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法。
【請求項7】
前記(b)ステップで分離された溶媒を(a)ステップの廃ポリスチレンの溶解に再使用することを特徴とする、請求項1に記載の廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法に関し、より詳細には、廃ポリスチレンを触媒の存在下で解重合させてスチレンモノマーを回収する方法において、副反応により生成される副生成物を抑制して高収率及び高純度のスチレンモノマーを回収することを特徴とする、廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業発展に伴い、世界的に多量のプラスチックが使用されている。韓国の場合は、昨年、約700万トン以上の汎用プラスチック製品を生産し、世界4大プラスチック生産国となった。しかし、プラスチックは、使用後に大量に廃棄されており、多くの環境問題を引き起こしている。廃プラスチックは、現在主に埋立によって処理されているが、土壌での生分解時間が長く、埋立地などの不足現象により深刻な環境問題を引き起こす。このため、このような廃プラスチックを資源としてリサイクルする技術の開発に多くの関心を持っている。
【0003】
廃プラスチックの処理は様々な方法が提案されているが、単純な物理的添加や加工よりは、付加価値のある燃料油及び原料物質への再使用方法が環境問題又は経済的な面で最も好ましい方法と考えられている。廃プラスチックのリサイクル方法は、原形のまま又は加工してリサイクルする方法(material recycle)、焼却などの熱的リサイクル(thermal recycle)、樹脂原料などの化学物質を回収する方法(chemical recycle)に区分される。
【0004】
物理的な再生方法の場合、主に再生樹脂の製造、軽量コンクリートの製造、接着剤の製造などにリサイクルされているが、これは、物理的な再生方法であって、その付加価値が非常に低く、数回の物理的再生後にはリサイクルすることができないため、結局、多量の廃ポリスチレンが発生する。また、農水産物市場や建築廃棄物場へ排出される汚染された多量の廃ポリスチレンは、その他の廃ポリスチレンに比べて清潔でないため、物理的な再生方法に使用するには困難である。
【0005】
さらに、汚染された多量の廃ポリスチレンは、その他の廃ポリスチレンの約50倍以上の体積を持つため物理的なリサイクルが困難であるので、埋め立てや焼却などによって処理されている。しかし、焼却による方法は、ダイオキシンの発生などによる環境問題を引き起こすという問題点があった。
【0006】
これにより化学的再生方法が注目されており、廃ポリスチレンからモノマーであるスチレンを回収する技術は、1997年に西崎らが初めて試み、733Kで熱分解によりポリスチレンから約50%のモノマーへの回収が可能であると報告した。このような技術に基づいてスチレンモノマーの収率を増加させるために多くの研究者によってさまざまな触媒の影響が検討され、多くの触媒が開発されている。
【0007】
前記触媒を用いるスチレンモノマーを回収する方法としては、酸性の大きいCo3O4、Fe2O3、Cr2O3、CuOなどの金属酸化物を触媒として用いてスチレンモノマーを回収する技術(非特許文献1)、硫酸塩触媒を用いてスチレンモノマーを回収する技術(特許文献1及び2)、金属酸化物を主触媒とし、塩基性触媒を助触媒としてシリカ、アルミナにそれぞれ担持させて製造した二元触媒技術(特許文献3)等が提案された。
【0008】
しかし、非特許文献1のように酸性の大きいCo3O4、Fe2O3、Cr2O3、CuOなどの金属酸化物を触媒として使用する場合には、ポリスチレンの単一(C-C)結合の切断によってカルボカチオンが生成され、連鎖的にスチレンが分離されて熱分解反応が行われるが、カルボカチオンは、電子が2つ不足した状態で不安定なので、周辺のベンゼン環を攻撃するなどの副反応を起こしてスチレンモノマーの収率が低下するという問題があった。
【0009】
一方、BaO、K2O、MgO、ZnO、CaOなどの塩基性触媒、又は硫酸塩触媒を使用した場合には、オクテット(octet)法則を満たして電子不足状態のない安定したカルボアニオンを生成し、連鎖的にスチレンが分離されて熱分解反応が行われるが、副生成物であるエチルベンゼンやアルファメチルスチレンを増加させてスチレンモノマーの選択性を低下させるという問題があった。
【0010】
特に、エチルベンゼンは、最終目的物質であるスチレンモノマーと類似の沸点を有し、商業的に利用可能な高純度(>99.6%)スチレンモノマーの分離に必要な経費が増加することにより、経済性に大きな影響を及ぼす。
【0011】
したがって、廃ポリスチレンからモノマーであるスチレンを高収率/高純度で回収するための新しい回収方法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】公開特許第2001-294708号(公開日:2001.10.23)
【特許文献2】韓国公開特許第2001-87093号(公開日:2001.09.15)
【特許文献3】韓国公開特許第2003-0081717号(公開日:2003.10.22)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Ind.Eng.Res.、Vol.34、No.12、1995、4519
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の主な目的は、上述した問題点を解決するためのものであって、従来の廃ポリスチレンの回収工程で副反応により生成されるエチルベンゼン、アルファメチルスチレン、ベンゼン、トルエンなどの生成を抑制して高収率でスチレンモノマーを回収する方法を提供することにある。
【0015】
その中でも、特にスチレンモノマーと類似の沸点を有して分離が難しいエチルベンゼンの生成を抑制し、廃ポリスチレンの解重合産物からのスチレンモノマーの分離容易性を高めようとする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、(a)廃ポリスチレンにテトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフランの中から選択された少なくとも1種の溶媒と、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムの中から選択された少なくとも1種の解重合触媒とを添加して、ポリスチレンが溶解した混合物を得るステップと、(b)前記ポリスチレンが溶解した混合物を蒸留させて溶媒を分離回収するステップと、(c)前記(b)ステップで得られた溶媒分離回収した混合物を解重合してスチレンモノマー含有生成物を得るステップと、を含み、前記(c)ステップで得られた生成物のうち、スチレンモノマー(SM)に対するエチルベンゼン(EB)の重量比(SM/EB)が80以上であることを特徴とする、廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法を提供する。
【0017】
本発明の好適な一実施形態において、前記(a)ステップにおいて、テトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランは、廃ポリスチレン100重量部に対して100重量部~200重量部で添加することを特徴とすることができる。
【0018】
本発明の好適な一実施形態において、前記(a)ステップは、常温常圧下で行うことを特徴とすることができる。
【0019】
本発明の好適な一実施形態において、前記(b)ステップにおける蒸留は、80℃~250℃で行うことを特徴とすることができる。
【0020】
本発明の好適な一実施形態において、前記(c)ステップの解重合は、200℃~600℃で行うことを特徴とすることができる。
【0021】
本発明の好適な一実施形態において、前記(c)ステップで、炭酸カリウム及び/又は炭酸水素カリウムは、廃ポリスチレン100重量部に対して1重量部~10重量部で存在することを特徴とすることができる。
【0022】
本発明の好適な一実施形態において、前記(b)ステップで分離された溶媒であるテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランを(a)ステップの廃ポリスチレンの溶解に再使用することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法は、特定の溶媒と特定の触媒の組み合わせでポリスチレンを解重合させることにより、スチレンモノマーの回収工程で副生成物として生成されるエチルベンゼン等の生成を抑制させ、回収されるスチレンモノマーの収率を高めることができる。
【0024】
また、本発明で使用される溶媒は、沸点の低い環境調和型溶媒であるため、既存のトルエンのような毒性有機溶媒の使用による環境汚染を防止するとともに、溶媒再使用のための回収費用が低減されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態による廃ポリスチレンからのスチレンモノマーの回収方法を示す概略工程図である。
【
図2】本発明による実施例1及び2と比較例1~5で生成された生成物の収率を示すグラフである。
【
図3】本発明による実施例1及び2と比較例1~5で生成されたスチレンモノマーに対するエチルベンゼンの重量比を示すグラフである。
【
図4】プリスチン状態のK
2CO
3及びK
2CO
35gをTHF100ml及びトルエン100mlにそれぞれ溶解させて製造された混合物から溶媒の蒸発後に得られたK
2CO
3のXRD測定結果グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
他に定義されない限り、本明細書で使用されたすべての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使用されている命名法は、当技術分野でよく知られており、通常使用されるものである。
【0027】
本明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0028】
本明細書に記載されている「廃ポリスチレン」は、各種産業分野で使用された後の廃棄ポリスチレンを含む意味であって、それらの形状、用途などを問わずに適用できる。
【0029】
本明細書に記載されている「常温」とは、平常の大気中の温度を意味し、20±10℃であってもよく、「常圧」とは、平常の大気中の圧力を意味する。
【0030】
本明細書に記載されている「備える」、「含む」、又は「有する」などの用語は、明細書上に記載されている特徴、数値、ステップ、動作、構成要素、部品又はこれらの組み合わせが存在することを指すものであり、言及されていない他の特徴、数値、ステップ、動作、構成要素、部品又はこれらの組み合わせが存在又は付加される可能性を排除しない。
【0031】
本発明は、(a)廃ポリスチレンにテトラヒドロフラン及びメチルテトラヒドロフランの中から選択された少なくとも1種の溶媒と、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムの中から選択された少なくとも1種の解重合触媒とを添加して、ポリスチレンが溶解した混合物を得るステップと、(b)前記ポリスチレンが溶解した混合物を蒸留させて溶媒を分離回収するステップと、(c)前記(b)ステップで得られた溶媒分離回収した混合物を解重合してスチレンモノマー含有生成物を得るステップと、を含み、前記(c)ステップで得られた生成物のうち、スチレンモノマー(SM)に対するエチルベンゼン(EB)の重量比(SM/EB)が80以上であることを特徴とする、廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法に関する。また、本発明に係る方法によるスチレンモノマーの収率は、70重量%を上回る。
【0032】
より具体的には、本発明の一実施形態によるスチレンモノマーの回収方法は、バイオマス由来の環境調和型溶媒であるテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランと、解重合触媒である炭酸カリウム及び/又は炭酸水素カリウムの組み合わせでポリスチレンを解重合させることにより、スチレンモノマーの回収工程で副生成物として生成されるエチルベンゼン等の生成を抑制させ、回収されるスチレンモノマーの収率を高めることができるとともに、廃ポリスチレン溶解時に溶媒と同時に解重合触媒を添加して廃ポリスチレンを溶解させることにより、溶媒上の解重合触媒の均一な分散によって廃ポリスチレンの解重合効率を増加させることができる。
【0033】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法を示す概略工程図である。
【0035】
図1を参照すると、本発明の一実施形態による廃ポリスチレンからスチレンモノマーを回収する方法は、まず、常温常圧下で廃ポリスチレンにテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランと、炭酸カリウム及び/又は炭酸水素カリウムを添加し、撹拌させることにより、ポリスチレンが溶解した混合物を得る[(a)ステップ]。
【0036】
本発明において、前記テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)、メチルテトラヒドロフラン(methyltetrahydrofuran、MTHF)及びこれらの混合物は、廃ポリスチレンを溶解させる溶媒として使用される。
【0037】
前記テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)及びメチルテトラヒドロフラン(methyltetrahydrofuran、MTHF)は、ポリスチレンに対する溶解度が高いのに対し、他のポリプロピレンやポリエチレンなどの合成樹脂に対する溶解度は低く、発火しないと同時に気化点が高く、バイオマスで製造されて非常に環境にやさしい特性を有しており、ポリスチレン自体の物性を変化させることなく、常温常圧下でも廃ポリスチレンを短時間内に完全に溶解させて減容効率を向上させることができる。
【0038】
その他、従来のポリスチレンを溶解させることが可能な溶媒としてトルエン、スチレン、ベンゼン、キシレン、リモネンなどがあり得るが、ポリスチレンに対する溶解度が低く、これらは、人体に対する毒性が強いため、環境的な観点で問題がある可能性があり、スチレンモノマーとほぼ類似の沸点を有するため、その量が増加するほどスチレンモノマーの分離に必要な経費が増加することにより、経済性に影響を及ぼす。
【0039】
そこで、本発明では、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン及びこれらの混合物を用いて廃ポリスチレンを溶解させることにより、常温常圧下でも廃ポリスチレンを短時間内に完全に溶解させて感溶効率を向上させることができ、気化点が高いため溶剤収去過程においても自然蒸発による環境汚染や溶媒の損失などを防止することができるだけでなく、後述する溶媒回収などの作業過程の容易性を高めることができる。
【0040】
前記テトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランは、廃ポリスチレン100重量部に対して100重量部~200重量部で添加することができる。前記テトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランが廃ポリスチレン100重量部に対して、100重量部未満の場合には、ポリスチレンの減容が不十分であるおそれがあり、200重量部を超える場合には、溶媒の回収費用が増加するおそれがある。
【0041】
一方、炭酸カリウム(K2CO3)及び/又は炭酸水素カリウム(KHCO3)は、熱分解反応を促進する熱分解触媒であって、高温で安定であるので、触媒安定性が高く、回収が容易である。
【0042】
また、前記炭酸カリウム(K2CO3)及び/又は炭酸水素カリウム(KHCO3)は、ポリスチレン溶解時にテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランと同時にポリスチレンに添加されることにより、従来の解重合ステップで触媒投入により触媒が凝集する現象を防止することができ、ポリスチレンと共にテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランに均一に分散されることにより、ポリスチレンの解重合効率を向上させることができる。
【0043】
このとき、炭酸カリウム(K2CO3)及び/又は炭酸水素カリウム(KHCO3)は、廃ポリスチレン100重量部に対して、1重量部~10重量部で存在してもよい。前記炭酸カリウム(K2CO3)及び/又は炭酸水素カリウム(KHCO3)が廃ポリスチレン100重量部に対して、1重量部未満で存在する場合には、反応性が大幅に低下し、エチルベンゼンの量が大幅に増加するという問題が発生するおそれがあり、10重量部を超える場合には、反応性に差がなないため費用が上昇するという問題が発生するおそれがある。
【0044】
このようにテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランと炭酸カリウム(K2CO3)及び/又は炭酸水素カリウム(KHCO3)が添加された混合物は、廃ポリスチレンが溶解するように常温常圧で撹拌させることができる。このとき、廃ポリスチレンが溶媒に完全に溶解すると、一時的に静置させて、廃ポリスチレンに含まれているポリスチレン以外の難燃剤、バインダー、コーティング剤などの異物を沈降させ、前記沈降した異物を濾過させて混合物から除去させることができる。
【0045】
一方、本発明の一実施形態によるスチレンモノマーの回収方法は、前記(a)ステップの前に廃ポリスチレンを、洗浄等の方法で、廃ポリスチレンに付着しているビニル、紙、木片、食品残渣、小さな石などの不純物を除去し、廃ポリスチレンを溶解に適したサイズに粉砕するステップをさらに含むことができる。このとき、粉砕される廃ポリスチレンは、溶解に適したサイズである平均粒度1.0cm~10cmのサイズに粉砕することができる。
【0046】
その後、前記テトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランと炭酸カリウム(K2CO3)及び/又は炭酸水素カリウム(KHCO3)を添加して得たポリスチレンが溶解した混合物は、反応温度で分解されるか、或いは触媒反応を阻害するおそれがあるので、蒸留させて溶媒であるテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランを分離回収する[(b)ステップ]。
【0047】
前記蒸留は、通常の蒸留器を用いて、常圧下に80℃~250℃で行うことができる。もし、80℃未満で蒸留を行う場合には、ポリスチレンが溶解した混合物からテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランが適切に分離回収されず、250℃を超える場合には、溶媒の熱分解により溶媒回収に問題点が発生するおそれがある。
【0048】
このように分離回収されたテトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランは、(a)ステップの廃ポリスチレンの溶解に再使用することができる。
【0049】
その後、前記テトラヒドロフラン及び/又はメチルテトラヒドロフランが分離された、ポリスチレンが溶解した混合物は、炭酸カリウム(K2CO3)及び/又は炭酸水素カリウム(KHCO3)の存在下で解重合反応を行うことにより、スチレンモノマーが含有された生成物を得る[(c)ステップ]。
【0050】
前記解重合は、200℃~600℃で0.5~5時間行うことができる。もし、解重合温度が200℃未満である場合には、解重合が起こらないため反応性が大幅に低下するおそれがあり、解重合温度が600℃を超える場合には、クラッキング反応によりベンゼン及びトルエンの量が大幅に増加してスチレンモノマーの生成量が大幅に減少するおそれがあり、沸点の高いダイマー及びトライマーが生成物に混合できるという問題が発生するおそれがある。また、解重合時間が0.5時間未満である場合には、反応時間が不十分であってスチレンモノマーの回収量が少なく、解重合時間が5時間を超える場合には、エチルベンゼンの量が大幅に増加し、エネルギー消費を大きくすることにより生産性が低下するという問題が発生するおそれがある。
【0051】
その後、解重合反応で得られた生成物は、捕集して冷却させることで回収することができる。このとき、冷却は、冷媒を圧縮、蒸発させ、冷媒の蒸発熱を用いて、捕集された生成物を冷却する間接冷却方式や、直接冷却方式など、当業界で適用されている冷却方式を制限なく使用することができる。
【0052】
前記解重合反応で得られた生成物は、最終目的成分であるスチレンモノマー(styrene monomer、SM)だけでなく、エチルベンゼン(ethylbenzene、EB)、トルエン(toluene)、クメン(cumene)、アルファメチルスチレン(alpha methylstyrene)などの高沸点物質、解重合反応残留物などが発生するが、このような残渣は、解重合反応を妨げるだけでなく、スチレンモノマーの収率を低下させる。従来では、長時間運転の際にスチレンモノマーの収率が低下する。
【0053】
したがって、本発明に係るスチレンモノマーを回収する方法では、環境にやさしい溶媒と共にカリウム含有炭酸塩触媒を用いて廃ポリスチレンを溶解させ、解重合させることにより、最終目的成分であるスチレンモノマーを70%以上の収率で回収することができ、エチルベンゼン(ethylbenzene、EB)、トルエン(toluene)、クメン(cumene)及びアルファメチルスチレン(alphamethylstyrene)をそれぞれ3.5%以下の収率で回収することができる。特に、本発明に係るスチレンモノマーを回収する方法では、エチルベンゼン(EB)に対するスチレンモノマー(SM)の重量比(SM/EB)を80以上、好ましくは84以上にして回収することができる。
【0054】
すなわち、本発明に係るスチレンモノマーを回収する方法は、従来のスチレンモノマーの回収工程で副反応により生成されるエチルベンゼン、アルファメチルスチレン、トルエン、特にエチルベンゼンの生成を抑制して最終スチレンモノマーを回収するための分離工程を容易にすることができる。
【実施例】
【0055】
以下、具体的な実施例によって本発明をより具体的に説明する。下記の実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲は、これに限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
粉砕された廃ポリスチレン60gを常温で開閉可能な反応器に入れた後、ここにテトラヒドロフラン100gと触媒としての炭酸カリウム(K
2CO
3)(Sigma-Aldrich製、ACS reagent>99%)3gを仕込み、常温常圧で10分間撹拌して廃ポリスチレンを溶解させ、触媒を分散させた。前記廃ポリスチレンが溶解した混合物を200℃で30分間蒸留させてテトラヒドロフランを分離した。その後、温度を375℃に昇温し、この温度で1時間解重合反応を行った。前記解重合反応によって分解された生成物は、凝縮器で液化させて得た。得られた生成物を、キャピラリーカラム(capillary column、HP-5、30m×0.32mm×1.0μm、クロスリンクされた5%PH ME Siloxane)付きのGC/FID(ヨンリン機器製)を用いて測定し、その結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0057】
<実施例2>
実施例1と同様の方法で廃ポリスチレンの解重合を行って生成した生成物を得るが、触媒として炭酸カリウム(K
2CO
3)の代わりに炭酸水素カリウム(KHCO
3)(Sigma-aldrich製、ACS reagent>99.7%)3gを仕込んで解重合を行った。得られた生成物を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0058】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で廃ポリスチレンの解重合を行って生成した生成物を得るが、触媒投入なしに解重合を行った。得られた生成物を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0059】
<比較例2>
実施例1と同様の方法で廃ポリスチレンの解重合を行って生成した生成物を得るが、触媒として炭酸カリウム(K
2CO
3)の代わりに酸化バリウム(BaO)(Sigma-aldrich製、CS reagent>97%)3gを仕込んで解重合を行った。得られた生成物を実施例1と同様の方法で測定し、結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0060】
<比較例3>
実施例1と同様の方法で廃ポリスチレンの解重合を行って生成した生成物を得るが、触媒として炭酸カリウム(K
2CO
3)の代わりに酸化カルシウム(CaO)3gを仕込んで解重合を行った。得られた生成物を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0061】
<比較例4>
実施例1と同様の方法で廃ポリスチレンの解重合を行って生成した生成物を得るが、触媒として炭酸カリウム(K
2CO
3)の代わりに酸化ストロンチウム(SrO)3gを仕込んで解重合を行った。得られた生成物を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0062】
<比較例5>
実施例1と同様の方法で廃ポリスチレンの解重合を行って生成した生成物を得るが、触媒として炭酸カリウム(K
2CO
3)の代わりにKNO
33gを仕込んで解重合を行った。得られた生成物を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0063】
<比較例6>
実施例1と同様の方法で廃ポリスチレンの解重合を行って生成した生成物を得るが、溶媒としてテトラヒドロフランの代わりにトルエンを用いて解重合を行った。得られた生成物を実施例1と同様の方法で測定し、その結果を表1、
図1及び
図2に示した。
【0064】
【0065】
表1、
図1及び
図2に示すように、実施例1及び2の場合は、比較例1~6に比べてスチレンモノマー(styrenemonomer、SM)の収率が高いものの、副反応生成物であるエチルベンゼン(ethylbenzene、EB)、トルエン(toluene)、クメン(cumene)、アルファメチルスチレン(alphametylstyrene、a-MS)の収率は低いことが分かった。特に、実施例1及び2の場合は、スチレンモノマー(SM)の収率が70重量%以上であり、エチルベンゼン(EB)に対するスチレンモノマー(SM)の重量比が84以上であった。
【0066】
実施例1及び2と比較例1~5とを対比すると、触媒の有無或いは種類も、スチレンモノマー(SM)の収率及び副反応生成物の発生量と大きな関連があることが分かった。特に同じカリウム塩を使用しても、アニオンの種類によって活性差が大きかった。炭酸塩(CO3
2-)或いは重炭酸塩(HCO3
-)の形態が、スチレンモノマー(SM)の収率が高く、エチルベンゼン(EB)などの副生成物が低かった。
【0067】
また、実施例1と比較例6の結果を対比すると、触媒の種類が同じであっても、廃スチレンを溶解させる溶媒の種類も最終スチレンモノマーの収率及び副反応生成物の発生量と関連があることが分かった。比較例6は、従来から廃スチレンを減容するための溶媒として多く用いられるトルエンを溶媒として用いたものであり、実施例1は、THFを溶媒として用いたものであるが、トルエンを溶媒として用いた場合、スチレンモノマーの収率は62.3wt%であり、THFを溶媒として用いた場合の約88%に過ぎず、エチルベンゼンの収率は高かった。
【0068】
このような活性差の原因を確認するために、プリスチン(pristine)状態のK
2CO
3(pristine K
2CO
3)及びK
2CO
35gをTHF100ml及びトルエン100mlにそれぞれ溶解させて製造された混合物を24時間攪拌した後、120℃で12時間溶媒を蒸発させ、得られたK
2CO
3をXRD(Rigaku Ultima IV)で分析し、その結果を
図4に示した。
【0069】
図4を参照すると、THFとトルエンに溶解させた後のK
2CO
3は、プリスチンK
2CO
3に比べて全般的な結晶性(crystallity)の変化を示すが、特にトルエンの場合には、2theta=32.5度でのピークが大きく増加し、2theta=31.6度でのピークが減少することからみて、トルエンよりもTHFでさらに大きな安定性を示し、相転移(phase transformation)傾向も少ないことが示されており、トルエンよりはTHF溶液中でK
2CO
3構造が安定的なものであることを確認することができた。
【0070】
従って、本発明のように、溶媒としてTHF及びMTHFの少なくとも1種を選択し、解重合触媒としてK2CO3とびKHCO3の少なくとも1種を選択した、溶媒と触媒の組み合わせで廃ポリスチレン解重合する場合、解重合によって高収率でスチレンモノマーを回収することができ、スチレンモノマーと類似の沸点を有するエチルベンゼンの生成を抑制することができるため、生成物分離工程での費用を削減することができるので、新産業的な面で廃ポリスチレンの解重合工程の効率性を大きく増進させることができることが分かった。
【0071】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、特許請求の範囲、発明の詳細な説明及び添付図面の範囲内で様々に変形実施することが可能であり、これも本発明の範囲に属するのは当たり前である。
【国際調査報告】