(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】臓器保存溶液における脂質結合タンパク質ベースの複合体の使用
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20240321BHJP
C07K 14/775 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
A01N1/02
C07K14/775 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562828
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 IB2022000227
(87)【国際公開番号】W WO2022219413
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522403550
【氏名又は名称】アビオニクス ファーマ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100103182
【氏名又は名称】日野 真美
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【氏名又は名称】吉光 真紀
(72)【発明者】
【氏名】トゥピン,シリル
(72)【発明者】
【氏名】バルバラス,ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】ゲスアルド,ロレト
(72)【発明者】
【氏名】フランツィン,ロッサーナ
(72)【発明者】
【氏名】スタシ,アレッサンドラ
【テーマコード(参考)】
4H011
4H045
【Fターム(参考)】
4H011BB17
4H011BB23
4H011CA01
4H011CB05
4H011CD02
4H011DA13
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA55
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA34
(57)【要約】
臓器保存溶液に用いられる脂質結合タンパク質ベースの複合体、脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液、臓器保存溶液を作製するためのキット、臓器保存溶液を使用して臓器を保存するプロセス、それによって保存された臓器、臓器保存溶液を含む、臓器を保存するためのシステム、および臓器保存プロセスによって得られた臓器を移植する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器保存溶液に用いられる脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項2】
再構成されたHDLまたはHDL疑似体である、請求項1に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項3】
スフィンゴミエリンを含む、請求項1または2に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項4】
負に帯電された脂質を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項5】
前記負に帯電された脂質が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](DPPG)またはその塩である、請求項4に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項6】
CER-001、CSL-111、CSL-112、CER-522またはETC-216である、請求項2に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項7】
CER-001である、請求項6に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項8】
ApomerまたはCargomerである、請求項1から5のいずれか一項に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液。
【請求項10】
脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液。
【請求項11】
前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、再構成されたHDLまたはHDL疑似体である、請求項10に記載の臓器保存溶液。
【請求項12】
前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、スフィンゴミエリンを含む、請求項10または11に記載の臓器保存溶液。
【請求項13】
前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、負に帯電された脂質を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の臓器保存溶液。
【請求項14】
前記負に帯電された脂質が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](DPPG)またはその塩である、請求項13に記載の臓器保存溶液。
【請求項15】
前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、CER-001、CSL-111、CSL-112、CER-522またはETC-216である、請求項11に記載の臓器保存溶液。
【請求項16】
前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、CER-001である、請求項15に記載の臓器保存溶液。
【請求項17】
前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、ApomerまたはCargomerである、請求項10から14のいずれか一項に記載の臓器保存溶液。
【請求項18】
緩衝液、抗酸化剤、栄養分および/または代謝基質、電解質、コロイド、非透過性物質、気体、またはそれらの組合せを含む、請求項9から17のいずれか一項に記載の臓器保存溶液。
【請求項19】
Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の1つまたは複数の構成成分(表2に記載)を含む、請求項18に記載の臓器保存溶液。
【請求項20】
Celsior(登録商標)溶液の1つまたは複数の構成成分(表2に記載)を含む、請求項19に記載の臓器保存溶液。
【請求項21】
0.1mg/mlから5mg/mlの濃度で前記脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む、請求項9から20のいずれか一項に記載の臓器保存溶液。
【請求項22】
0.4mg/mlの濃度で前記脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む、請求項9から20のいずれか一項に記載の臓器保存溶液。
【請求項23】
脂質結合タンパク質ベースの複合体と、臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分とを含むキットであって、前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、請求項1から8のいずれか一項に記載のものであってもよい、キット。
【請求項24】
前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、緩衝液、抗酸化剤、栄養分および/または代謝基質、電解質、コロイド、非透過性物質、気体、またはそれらの組合せを含む、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の1つまたは複数の構成成分(表2に記載)を含む、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
請求項23から25のいずれか一項に記載のキットから臓器保存溶液を調製するプロセスであって、前記脂質結合タンパク質ベースの複合体および前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分を組み合わせることを含む、プロセス。
【請求項27】
脂質結合タンパク質ベースの複合体および臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分を組み合わせることを含む、臓器保存溶液を調製するプロセスであって、前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、請求項1から8のいずれか一項に記載のものであってもよい、プロセス。
【請求項28】
前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、緩衝液、抗酸化剤、栄養分および/または代謝基質、電解質、コロイド、非透過性物質、気体、またはそれらの組合せを含む、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
請求項26から28のいずれか一項に記載のプロセスによって生産された臓器保存溶液。
【請求項30】
密封容器中に請求項9から21および29のいずれか一項に記載の臓器保存溶液を含む臓器保存溶液製品。
【請求項31】
前記容器が袋である、請求項30に記載の臓器保存溶液製品。
【請求項32】
前記容器が、前記臓器保存溶液1Lを含む、請求項30または31に記載の臓器保存溶液製品。
【請求項33】
(a)請求項9から21および29のいずれか一項に記載の臓器保存溶液または請求項30から32のいずれか一項に記載の臓器保存溶液製品と、(b)灌流機および/または臓器とを含むシステム。
【請求項34】
灌流機を含む、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
前記灌流機が、心肺装置である、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
臓器を含む、請求項33から35のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項37】
前記臓器が、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、または気管である、請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
前記臓器が、腎臓である、請求項37に記載のシステム。
【請求項39】
前記臓器が、ヒトまたはブタあってもよい哺乳動物由来である、、請求項33から38のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項40】
ドナー臓器を、請求項9から21および29のいずれか一項に記載の臓器保存溶液と接触させることを含む、ex-vivo臓器保存のプロセス。
【請求項41】
前記臓器を、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すこと(少なくとも1時間および/または最大1週間であってもよい)を含む、請求項40に記載のプロセス。
【請求項42】
機械灌流の非存在下での前記臓器の低温保管(2℃から6℃であってもよい)を含む、請求項40に記載のプロセス。
【請求項43】
前記臓器が、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、または気管である、請求項40から42のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項44】
前記臓器が、腎臓である、請求項43に記載のプロセス。
【請求項45】
前記臓器が、ヒトまたはブタであってもよい哺乳動物由来である、、請求項40から44のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項46】
請求項40から45のいずれか一項に記載のプロセスによって得られた臓器。
【請求項47】
臓器を移植する方法であって、請求項46に記載の臓器を、臓器移植を必要とする対象に移植することを含む、方法。
【請求項48】
ドナー組織を、請求項9から21および29のいずれか一項に記載の臓器保存溶液と接触させることを含む、ex-vivo組織保存のプロセスであって、任意選択で、前記ドナー組織が、少なくとも1時間および/または最大4週間、前記臓器保存溶液中で保管される、プロセス。
【請求項49】
前記組織が、眼、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、または神経組織である、請求項48に記載のプロセス。
【請求項50】
前記組織が、角膜組織である、請求項49に記載のプロセス。
【請求項51】
請求項48から50のいずれか一項に記載のプロセスによって得られた組織。
【請求項52】
組織を移植する方法であって、請求項51に記載の組織を、組織移植を必要とする対象に移植することを含む、方法。
【請求項53】
a.ドナー臓器を得るステップ;
b.前記ドナー臓器を、請求項9から21および29のいずれか一項に記載の臓器保存溶液と接触させるステップであって、
前記接触させるステップは、
i.前記臓器保存溶液を用いた前記臓器の機械灌流、または
ii.前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管
を含むステップ、および
c.前記臓器を、臓器移植を必要とする対象に移植するステップ
とを含む、移植方法。
【請求項54】
前記ドナー臓器が、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、または気管である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記接触させることが、少なくとも1時間および/または最大1週間の前記臓器保存溶液を用いた前記臓器の機械灌流または低温保管を含む、請求項53または54に記載の方法。
【請求項56】
a.ドナー組織を得るステップ;
b.前記ドナー組織を、請求項9から21および29のいずれか一項に記載の臓器保存溶液中で保管するステップ、
c.前記組織を、組織移植を必要とする対象に移植するステップ
とを含む、移植方法。
【請求項57】
前記ドナー組織が、眼、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、または神経組織である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記保管することが、少なくとも1時間および/または最大4週間、前記臓器保存溶液を用いて前記組織を保管するステップを含む、請求項56または57に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月15日に出願された米国特許仮出願第63/175,330号明細書の優先権の利益を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
2.配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を含有し、これによりその全体が参照により本明細書に組み込まれる。2022年4月11に作成された前記ASCIIの複写は、CRN-043WO_SL.txtと名付けられ、そのサイズは4,326バイトである。
【背景技術】
【0003】
3.背景
腎移植は、末期腎疾患(ESRD)の患者にとって救命処置である。後者は、慢性腎疾患を患う患者の世界人口の約10%に相当し、2030年までには764万人に上昇すると予想されている(Liyanage et al., 2015, Lancet, 385(9981):1975-82;Levin et al., 2017, Lancet, 390(10105):1888-917)。しかしながら、腎移植は生活の質に劇的に影響を与え、高価な透析費用を節約することができるという事実にも関わらず、依然として未解決の問題が存在する。まず、利用可能なドナー腎臓の数が不十分であり、毎日20人を超える人々が、移植臓器を待機しながら死亡している。この臓器不足により、移植の専門家は、心臓死または高齢者(60歳以上)ドナー、即ち、DCD(心停止死(Circulatory Death)後臓器提供)およびECD(拡大適応(Expanded Criteria)ドナー)ドナー由来の「マージナル」臓器を受け入れざるを得ない。しかしながら、これらの腎臓の使用は、より乏しい生存率、拒絶の発生および移植片機能遅延(DGF)と相関している。次に、使用されるドナーに関係なく、輸送および移植手術自体が、阻血/再灌流傷害(IRI)の不可避なリスクを伴い、臓器の品質に大きく影響を及ぼし得る。腎臓の他に、心臓および肺などの他の臓器もまた、IRIが起きやすい(Fernandez et al., 2020, Int. J. Mol. Sci. 21:8549)。
【0004】
保管および輸送中にドナー臓器に引き起こされる傷害を減らして、臓器移植後の移植片生存率を改善するために、臓器保存溶液が開発されてきた。機械灌流を用いたこれらの臓器保存溶液の使用は、静的低温保管(CS)と比較して、初期同種移植片機能不全において優れた転帰を示している。最近の研究により、ex vivo正常温度(normothermic)機械灌流(NMP)は、より低比率のDGF、腎代謝の改善および腎IRIの低減をもたらすことが示されている(Kataria et al., 2019, Curr Opin Organ Transplant. 24(4):378-384)。NMPは、CSと比較した場合に、保存方法として優れているようであり(Hosgood et al., 2018, Br J Surg 105(4), 388-394)、したがって、拡大適応臓器提供(ECD)由来、ならびに心停止後臓器提供(DCD)由来の移植片の移植の転帰を改善することによって、ドナープールを潜在的に増加させている。NMPによって保存された腎移植片は、即座に移植された非保管腎臓と比較した場合でさえ、温阻血後に受ける阻血再灌流傷害はより少ない(Kaths et al., 2017, Transplantation 101(4), 754-763)。機能の保持を可能にすることに加えて、NMPは、制御された状態で臓器を維持するのに使用することができ、綿密な観察および生存能評価を可能にして首尾よい移植を可能にする(Hamar et al., 2018, Transplantation 102(8), 1262-1270)。移植前のドナー臓器傷害を減らすために様々な臓器保存溶液が開発されてきたが、移植前の臓器傷害は依然として問題である。
【0005】
したがって、臓器保存における新たなアプローチを開発することが差し迫って必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
4.概要
本開示は、様々な態様では、臓器保存溶液に用いられる脂質結合タンパク質ベースの複合体、脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液、脂質結合タンパク質ベースの複合体と、臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分とを含むキット、脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液を調製するプロセス、本開示の臓器保存溶液と、灌流機および/または臓器とを含むシステム、ex-vivo臓器保存のプロセス、本開示の臓器保存プロセスによって得られた臓器、ならびに本開示の臓器を、臓器移植を必要とする対象に移植する方法を提供する。本明細書中に記載される臓器保存溶液は、臓器および組織(例えば、角膜)の両方を保存するのに使用することができる。したがって、様々な態様では、本開示は、本開示の臓器保存溶液と、灌流機および/または組織とを含むシステム、ex-vivo組織保存のプロセス、本開示の組織保存プロセスによって得られた組織、ならびに本開示の組織を、組織移植を必要とする対象に移植する方法を提供する。
【0007】
幾つかの研究により、末梢組織から肝臓へのコレステロールの中心的な輸送体である高密度リポタンパク質(HDL)粒子は、重要な細胞保護機能に関与していることが実証されている。HDL複合体は、抗炎症性、抗動脈硬化性、および抗線維化機能を発揮し、血管保護性効果を伴ってROSによるLDL酸化を防止し、凝固および血小板凝集を阻害する。HDL粒子は、抗酸化酵素(例えば、血清パラオキソナーゼ/アリールエステラーゼ1(PON1)、レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼLCATおよびリポタンパク質関連ホスホリパーゼA2LpPLA2)を運搬することができ、脂質過酸化を防ぐことが可能である(Rysz et al., 2020, Int J Mol Sci. 21(2):601)。
【0008】
腎IRIのラットモデルにおけるHDLまたはApoA-Iの投与は、腎機能を著しく改善し、腎機能不全および尿細管機能不全を低減し、再灌流中に腎組織に浸潤する多形核白血球(PMN)の数を減少し、これがI/Rによって引き起こされる腎ミエロペルオキシダーゼ活性の増加の減衰に反映されることがわかった(Kaths et al., 2017, Transplantation 101(4), 754-763;Rysz et al., 2020, Int J Mol Sci. 21(2):601)。さらに、HDLは、再灌流中に接着分子、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、およびP-セレクチンの発現を顕著に低減させた(Thiemermann et al., 2003, J Am Soc Nephrol. 14(7):1833-1843;Lee et al., 2005, Atherosclerosis. 183(2):251-258)。特に、ApoA-Iの投与は、IRI制御と比較して、血清クレアチニンレベル、血清TNF-アルファおよびIL-1ベータレベルならびに組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を大きく低減した。さらに、ApoA-I処置は、内皮上での細胞間接着分子-1(ICAM-1)およびP-セレクチンの発現を抑制し、したがって、好中球接着および続く組織傷害を減少させる(Shi., 2008, J Biomed Sci. 15(5):577-583)。
【0009】
HDLの保護機能および全身性炎症および酸化的ストレスを低減するその能力を考慮して、腎機能を保存し、内皮機能不全および尿細管不全に対抗するためには、理論に縛られないが、HDL疑似薬CER-001などの脂質結合タンパク質ベースの複合体は、臓器保存溶液においてex vivoで好適に使用することができると考えられている。再び理論に縛られないが、CER-001などの脂質結合タンパク質ベースの複合体のex vivo使用は、潜在的に有害な炎症促進性単核細胞の、移植片への動員を制御する接着分子を低減することによって、移植片内皮細胞を保護して、腎機能を改善することができ、したがって、ドナー腎臓のDGFおよび急性拒絶のリスクの減少をもたらすと考えられている。さらに、HDL疑似薬CER-001などの脂質結合タンパク質ベースの複合体は同様に、保管および輸送中に、他の臓器、例えば、心臓および肺を保護することができる。
【0010】
したがって、一態様では、本開示は、臓器保存溶液に用いられる脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)を提供する。脂質結合タンパク質ベースの複合体の例示的な特徴は、以下のセクション6.1ならびに特定実施形態1から21および24から43に記載されている。
【0011】
別の態様では、本開示は、脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)を含む臓器保存溶液を提供する。臓器保存溶液の例示的な特徴は、以下のセクション6.2ならびに特定実施形態22から63に記載されている。
【0012】
別の態様では、本開示は、脂質結合タンパク質ベースの複合体と、臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分とを含むキットを提供する。キットの例示的な特徴は、以下のセクション6.3ならびに特定実施形態64から78に記載されている。
【0013】
ある特定の態様では、本開示は、臓器保存溶液を調製するプロセスおよびそれによって調製された臓器保存溶液を提供する。本開示の臓器保存溶液を調製するプロセスおよびかかるプロセスによって調製された臓器保存溶液の例示的な特徴は、以下のセクション6.2ならびに特定実施形態79から95に記載されている。
【0014】
ある特定の態様では、本開示は、臓器保存溶液と、灌流機および/または臓器とを含むシステムを提供する。ある特定の態様では、本開示は、臓器保存溶液と組織とを含むシステムを提供する。本開示のシステムの例示的な特徴は、以下のセクション6.3ならびに特定実施形態96から112に記載されている。
【0015】
ある特定の態様では、本開示は、ex-vivo臓器保存のプロセスおよびそれによって得られた臓器を提供する。ある特定の態様では、本開示は、ex-vivo組織保存のプロセスおよびそれによって得られた組織を提供する。ex-vivo臓器および組織保存プロセスならびにそれらによって得られた臓器および組織の例示的な特徴は、以下のセクション6.4ならびに特定実施形態113から154および156から179に記載されている。
【0016】
さらなる態様では、本開示は、臓器を、臓器移植を必要とする対象に移植する方法を提供する。さらなる態様では、本開示は、組織を、組織移植を必要とする対象に移植する方法を提供する。本開示の移植方法の例示的な特徴は、以下のセクション6.4ならびに付番した実施形態155および180から186に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】PumpProtect(登録商標)溶液(●)またはCER-001を補充したPumpProtect(登録商標)溶液(□)を用いて4時間、HMP灌流させたブタ腎臓に関する血管抵抗(
図1A)および流速(
図1B)(実施例4)。各群に関してn=5。
【
図2-1】PumpProtect(登録商標)溶液(対照)またはCER-001を補充したPumpProtect(登録商標)溶液(CER-001)を用いてHMP灌流させたブタ腎臓由来の、過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色によって実施した組織学的分析(
図2A);尿細管傷害スコア(
図2B);
【
図2-2】灌流液中のMCP-1のレベル(
図2C);灌流液中のTNF-αのレベル(
図2D);
【
図2-3】灌流液中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼのレベル(
図2E)(実施例4)。
図2C~
図2Eにおいて、対照データは●で示し、CER-001データは□で示す。
【
図3-1】PumpProtect(登録商標)溶液(対照)またはCER-001を補充したPumpProtect(登録商標)溶液(CER-001)を用いて灌流させたか、あるいは静的低温保管(SCS)で維持された腎臓におけるCCL2(MCP-1)(
図3A)
【
図3-2】IL-6(
図3B)およびET-1(
図3C)遺伝子発現(実施例4)。結果は、平均値±SDである。n=5。
*<0.05。
図3B~
図3Cにおいて、SCSデータは△で示し、対照データは●で示し、CER-001データは□で示す。
【
図4】内皮細胞におけるSer 1177-eNOSリン酸化を示すFACS分析(実施例5)。
【
図5-1】従来の保存溶液(対照)またはCER-001を補充した従来の保存溶液を用いてNMP灌流させた腎臓の腎灌流パラメーター(実施例6)。
図5A:血管抵抗;
【発明を実施するための形態】
【0018】
6.詳細な説明
本開示は、様々な態様では、臓器保存溶液に用いられる脂質結合タンパク質ベースの複合体、脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液、脂質結合タンパク質ベースの複合体と、臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分とを含むキット、脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液を調製するプロセス、本開示の臓器保存溶液と、灌流機および/または臓器とを含むシステム、ex-vivo臓器保存のプロセス、本開示のプロセスによって得られた臓器、ならびに本開示の臓器を、臓器移植を必要とする対象に移植する方法を提供する。本開示の臓器保存溶液は、臓器および組織(例えば、眼(例えば、角膜または強膜)、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、および神経系)の両方を保存するのに使用することができる。したがって、本開示はさらに、本開示の臓器保存溶液と、組織とを含むシステム、ex-vivo組織保存のプロセス、本開示のプロセスによって開示された組織、ならびに本開示の組織を、組織移植を必要とする対象に移植する方法を提供する。
【0019】
脂質結合タンパク質ベースの複合体の例示的な特徴は、セクション6.1に記載されている。臓器保存溶液およびそれらの生産のプロセスの例示的な特徴は、セクション6.2に記載されている。キットおよびシステムの例示的な特徴は、セクション6.3に記載されている。ex-vivo臓器および組織保存プロセス、それによって得られた臓器および組織、ならびに移植方法の例示的な特徴は、セクション6.4に記載されている。
【0020】
6.1.脂質結合タンパク質ベースの複合体
6.1.1.HDLおよびHDL疑似体(mimetic)ベースの複合体
一態様では、脂質結合タンパク質ベースの複合体は、HDLまたはHDL疑似体ベースの複合体を含む。例えば、複合体は、米国特許第8,206,750号明細書、PCT国際公開第2012/109162号パンフレット、PCT国際公開第2015/173633号パンフレット(例えば、CER-001)または米国特許出願公開第2004/0229794号明細書に記載されるようなリポタンパク質複合体を含んでもよく、それらそれぞれの内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている。「リポタンパク質」および「アポリポタンパク質」という用語は、本明細書中で言い換え可能に使用され、文脈によって他の状況が求められない限りは、「リポタンパク質」という用語は、リポタンパク質疑似体を包含する。「脂質結合タンパク質」および「脂質結合ポリペプチド」という用語もまた、本明細書中で言い換え可能に使用され、文脈によって他の状況が求められない限りは、当該用語は、特定の長さのアミノ酸配列を含意しない。
【0021】
リポタンパク質複合体は、タンパク質分画(例えば、アポリポタンパク質分画)および脂質分画(例えば、リン脂質分画)を含み得る。タンパク質分画は、アポリポタンパク質、ペプチド、もしくはアポリポタンパク質ペプチドの類似体または疑似体などの1つまたは複数の脂質結合タンパク質分子、例えば、セクション6.1.4に記載される1つまたは複数の脂質結合タンパク質分子を含む。
【0022】
脂質分画は通常、中性であり得るか、負に帯電され得るか、正に帯電され得るか、またはそれらの組合せであり得る1つまたは複数のリン脂質を含む。例示的なリン脂質および脂質分画に含まれ得る他の両親媒性分子は、セクション6.1.5に記載されている。
【0023】
ある特定の実施形態では、脂質分画は、少なくとも1つの中性リン脂質(例えば、スフィンゴミエリン(SM))および任意選択で、1つまたは複数の負に帯電されたリン脂質を含有する。中性リン脂質および負に帯電されたリン脂質の両方を含むリポタンパク質複合体において、中性リン脂質および負に帯電されたリン脂質は、同じ数または異なる数の炭素および同じ飽和度または異なる飽和度を有する脂肪酸鎖を有し得る。一部の場合において、中性および負に帯電されたリン脂質は、同じアシル尾部、例えば、C16:0、またはパルミトイル、アシル鎖を有する。特定実施形態では、特に、卵SMが中性脂質として使用される実施形態では、アポリポタンパク質分画:脂質分画の重量比は、約1:2.7から約1:3の範囲(例えば、1:2.7)である。
【0024】
生理学的pHで少なくとも部分的な負の電荷を保有する任意のリン脂質は、負に帯電されたリン脂質として使用することができる。非限定的な例として、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジン酸の負に帯電された形態、例えば塩が挙げられる。特定実施形態では、負に帯電されたリン脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グロセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]、またはDPPG、ホスファチジルグリセロールである。好ましい塩として、カリウム塩およびナトリウム塩が挙げられる。
【0025】
一部の実施形態では、本開示の組成物および方法で使用されるリポタンパク質複合体は、米国特許第8,206,750号明細書または国際公開第2012/109162号パンフレット(およびその米国対応物である米国特許出願公開第2012/0232005号明細書)に記載されるようなリポタンパク質複合体であり、それらそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。特定の実施形態では、リポタンパク質複合体のタンパク質構成成分は、国際公開第2012/109162号パンフレット(および米国特許出願公開第2012/0232005号明細書)のセクション6.1に、好ましくはセクション6.1.1に記載されている通りであり、脂質構成成分は、国際公開第2012/109162号パンフレット(および米国特許出願公開第2012/0232005号明細書)のセクション6.2に記載されている通りであり、それらは任意選択で、国際公開第2012/109162号パンフレット(および米国特許出願公開第2012/0232005号明細書)のセクション6.3に記載される量で一緒に複合体形成され得る。これらのセクションそれぞれの内容は、参照により本明細書に組み込まれている。ある特定の態様では、本開示のリポタンパク質複合体は、国際公開第2012/109162号パンフレット(および米国特許出願公開第2012/0232005号明細書)のセクション6.4に記載されるように、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%均質である複合体の集団で存在し、それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0026】
特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン50~80分子およびSM20~50分子を含む。
【0027】
別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン50分子およびSM50分子を含む。
【0028】
さらに別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン80分子およびSM20分子を含む。
【0029】
さらに別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン70分子およびSM30分子を含む。
【0030】
さらに別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン60分子およびSM40分子を含む。
【0031】
特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、本質的に2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン50~80分子およびSM20~50分子からなる。
【0032】
別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、本質的に2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン50分子およびSM50分子からなる。
【0033】
さらに別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、本質的に2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン80分子およびSM20分子からなる。
【0034】
さらに別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、本質的に2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン70分子およびSM30分子からなる。
【0035】
さらに別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、本質的に2~4 ApoA-I等価体、帯電されたリン脂質2分子、レシチン60分子およびSM40分子からなる。
【0036】
特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、SM約90から99.8重量%および負に帯電されたリン脂質約0.2から10重量%、例えば、負に帯電されたリン脂質(複合可)総計約0.2~1重量%、0.2~2重量%、0.2~3重量%、0.2~4重量%、0.2~5重量%、0.2~6重量%、0.2~7重量%、0.2~8重量%、0.2~9重量%、または0.2~10重量%を含む脂質構成成分を含む。別の特定実施形態では、本開示の方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、レシチン約90から99.8重量%および負に帯電されたリン脂質約0.2から10重量%、例えば、負に帯電されたリン脂質(複合可)総計約0.2~1重量%、0.2~2重量%、0.2~3重量%、0.2~4重量%、0.2~5重量%、0.2~6重量%、0.2~7重量%、0.2~8重量%、0.2~9重量%、または0.2~10重量%を含む。
【0037】
特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、本質的にSM約90から99.8重量%および負に帯電されたリン脂質約0.2から10重量%、例えば、負に帯電されたリン脂質(複合可)総計約0.2~1重量%、0.2~2重量%、0.2~3重量%、0.2~4重量%、0.2~5重量%、0.2~6重量%、0.2~7重量%、0.2~8重量%、0.2~9重量%、または0.2~10重量%からなる液体構成分を含む。別の特定実施形態では、本開示の方法において使用することができるリポタンパク複合体は、本質的にレシチン約90から99.8重量%および負に帯電されたリン脂質約0.2から10重量%、例えば、負に帯電されたリン脂質(複合可)総計約0.2~1重量%、0.2~2重量%、0.2~3重量%、0.2~4重量%、0.2~5重量%、0.2~6重量%、0.2~7重量%、0.2~8重量%、0.2~9重量%、または0.2~10重量%からなる。
【0038】
さらなる別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、SM約9.8から90重量%、レシチン約9.8から90重量%および負に帯電されたリン脂質約0.2~10重量%、例えば、負に帯電されたリン脂質(複合可)総計約0.2~1重量%、0.2~2重量%、0.2~3重量%、0.2~4重量%、0.2~5重量%、0.2~6重量%、0.2~7重量%、0.2~8重量%、0.2~9重量%から0.2~10重量%を含む液体分画を含む。
【0039】
さらなる別の実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、本質的にSM約9.8から90重量%、レシチン約9.8から90重量%および負に帯電されたリン脂質約0.2~10重量%、例えば、負に帯電されたリン脂質(複合可)総計約0.2~1重量%、0.2~2重量%、0.2~3重量%、0.2~4重量%、0.2~5重量%、0.2~6重量%、0.2~7重量%、0.2~8重量%、0.2~9重量%から0.2~10重量%からなる液体分画を含む。
【0040】
別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、ApoA-Iアポリポタンパク質および脂質分画を含み、ここで、脂質分画は、スフィンゴミエリンおよび約3重量%の負に帯電されたリン脂質を含み、脂質分画対ApoA-Iアポリポタンパク質のモル比は、約2:1から200:1であり、前記複合体は、2~4 ApoA-I等価体を含有する小または大円板状粒子である。
【0041】
別の特定実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができるリポタンパク質複合体は、ApoA-Iアポリポタンパク質および脂質分画を含み、ここで、脂質分画は、本質的にスフィンゴミエリンおよび約3重量%の負に帯電されたリン脂質からなり、脂質分画対ApoA-Iアポリポタンパク質のモル比は、約2:1から200:1であり、前記複合体は、2~4 ApoA-I等価体を含有する小または大円板状粒子である。
【0042】
HDLベースまたはHDL疑似体ベースの複合体は、単一タイプの脂質結合タンパク質、あるいは同じか、もしくは異なる種に由来し得る2つまたはそれを超える異なる脂質結合タンパク質の混合物を含み得る。必須ではないが、療法に対して免疫応答を誘導するのを回避するために、複合体は、好ましくは、処置される動物種または保存される臓器の種に由来するか、またはそれらにアミノ酸が相当する脂質結合タンパク質を含む。したがって、ヒト患者の処置および/またはヒト臓器の保存のために、ヒト起源の脂質結合タンパク質が使用されることが好ましい。ペプチド疑似体アポリポタンパク質の使用もまた、免疫応答を低減し得るか、または回避し得る。
【0043】
一部の実施形態では、脂質構成成分は、2つのタイプのリン脂質:スフィンゴミエリン(SM)および負に帯電されたリン脂質を含む。例示的なSMおよび負に帯電されたリン脂質は、セクション6.1.5.1に記載されている。
【0044】
SMを含む脂質構成成分は、任意選択で、少量のさらなる脂質を含み得る。リゾリン脂質、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、グリセリド、トリグリセリド、ならびにコレステロールおよびその誘導体を含むがこれらに限定されない事実上任意のタイプの脂質が使用され得る。
【0045】
含まれる場合、かかる任意選択の脂質は通常、脂質分画の約15重量%未満を占めるが、一部の場合では、より多くの任意選択の脂質が含まれ得る。一部の実施形態では、任意選択の脂質は、約10重量%未満、約5重量%未満、または約2重量%未満を占める。一部の実施形態では、脂質分画は、任意選択の脂質を含まない。
【0046】
特定実施形態では、リン脂質分画は、90:10から99:1の範囲、より好ましくは95:5から98:2の範囲の重量比(SM:負に帯電されたリン脂質)で卵SMまたはパルミトイルSMまたはフィトスフィンゴミエリンおよびDPPGを含有する。一実施形態では、重量比は97:3である。
【0047】
本開示の複合体の脂質構成成分対タンパク質構成成分のモル比は多様であり、因子の中でも特に、タンパク質構成成分を含むアポリポタンパク質の独自性(複数可)、脂質構成成分を含む脂質の独自性および量、ならびに複合体の所望のサイズに依存する。ApoA-Iなどのアポリポタンパク質の生物学的活性は、アポリポタンパク質を含む両親媒性ヘリックスによって媒介されると考えられるため、ApoA-Iタンパク質等価体を使用して脂質:アポリポタンパク質モル比のアポリポタンパク質分画を発現することは利便性が高い。ApoA-Iは、ヘリックスを算出するのに使用される方法に応じて、6~10個の両親媒性ヘリックスを含有することが一般に受けられている。他のアポリポタンパク質は、それらが含有する両親媒性ヘリックスの数に基づいて、ApoA-I等価体に関して表され得る。例えば、通常ジスルフィド架橋二量体として存在するApoA-IMは、ApoA-IMの各分子がApoA-Iの分子の2倍多い両親媒性ヘリックスを含有するため、2 ApoA-I等価体として表され得る。逆に、単一の両親媒性ヘリックスを含有するペプチドアポリポタンパク質は、各分子がApoA-Iの分子の1/10~1/6倍の両親媒性ヘリックスを含有するため、1/10~1/6 ApoA-I等価体として表され得る。概して、リポタンパク質複合体の脂質:ApoA-I等価体モル比(本明細書中では、「Ri」と定義される)は、約105:1から110:1の範囲である。一部の実施形態では、Riは、約108:1である。重量の比は、リン脂質に関しておよそ650~800のMWを使用して得ることができる。
【0048】
一部の実施形態では、脂質:ApoA-I等価体のモル比(「RSM」)は、約80:1から約110:1、例えば約80:1から約100:1の範囲である。具体例では、複合体に関するRSMは、約82:1であり得る。
【0049】
一部の実施形態では、本開示の組成物および方法において使用されるリポタンパク質複合体は、好ましくは成熟した完全長ApoA-Iであるタンパク質分画、ならびに中性リン脂質、スフィンゴミエリン(SM)、および負に帯電されたリン脂質を含む脂質分画を含む、負に帯電された複合体である。
【0050】
特定実施形態では、脂質構成成分は、90:10から99:1の範囲の、より好ましくは95:5から98:2の範囲の、例えば97:3の重量比(SM:負に帯電されたリン脂質)でSM(例えば、卵SM、パルミトイルSM、フィトSM、またはそれらの組合せ)および負に帯電されたリン脂質(例えば、DPPG)を含有する。
【0051】
特定実施形態では、タンパク質構成成分対脂質構成成分の比は、約1:2.7から約1:3の範囲であってもよく、1:2.7が好ましい。これは、およそ1:90から1:140の範囲のApoA-Iタンパク質対脂質のモル比に相当する。一部の実施形態では、複合体におけるタンパク質対脂質のモル比は、約1:90から約1:120、約1:100から約1:140、または約1:95から約1:125である。
【0052】
特定の実施形態では、複合体は、CER-001、CSL-111、CSL-112、CER-522またはETC-216を含む。好ましい実施形態では、複合体はCER-001である。
【0053】
文献および以下の実施例で使用される場合のCER-001は、国際公開第2012/109162号パンフレットの実施例4に記載される複合体を指す。国際公開第2012/109162号パンフレットは、SM:DPPGの重量:重量比97:3で1:2.7のリポタンパク質重量:総リン脂質重量比を有する複合体として、CER-001に言及している。国際公開第2012/109162号パンフレットの実施例4はまた、その製造方法について記載している。
【0054】
本開示のCER-001投薬レジメンまたは組成の状況で使用される場合、CER-001は、その個々の成分が最大20%分、国際公開第2012/109162号パンフレットの実施例4に記載されるようなCER-001とは異なり得るリポタンパク質複合体を指す。ある特定の実施形態では、リポタンパク質複合体の成分は、最大10%分、国際公開第2012/109162号パンフレットの実施例4に記載されるようなCER-001とは異なる。好ましくは、リポタンパク質複合体の成分は、国際公開第2012/109162号パンフレットの実施例4に記載されるもの(+/-受容可能な製作公差変動)である。CER-001におけるSMは、天然または合成であり得る。一部の実施形態では、SMは、天然SM、例えば、国際公開第2012/109162号パンフレットに記載される天然SM、例えば鶏卵SMである。一部の実施形態では、SMは、合成SM、例えば、国際公開第2012/109162号パンフレットに記載される合成SM、例えば国際公開第2012/109162号パンフレットに記載されるような合成パルミトイルスフィンゴミエリンである。パルミトイルスフィンゴミエリンを合成する方法は、例えば国際公開第2014/140787号パンフレットに記載されるように、当該技術分野で既知である。CER-001におけるリポタンパク質であるアポリポタンパク質A-I(ApoA-I)は、好ましくは、国際公開第2012/109162号パンフレットの配列番号1(国際公開第2012/109162号パンフレットの前記配列番号1は、本明細書中では配列番号2として開始される)のアミノ酸25から267に相当するアミノ酸配列を有する。ApoA-Iは、動物供給源(特に、ヒト供給源由来)によって精製され得るか、または組換え的に産生され得る。好ましい実施形態では、CER-001におけるApoA-Iは、組換えApoA-Iである。本開示の投薬レジメンで使用されるCER-001は好ましくは、非常に均質であり、ゲル浸透クロマトグラフィにおける単一ピークに反映されるように、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%均質である。例えば、国際公開第2012/109162号パンフレットのセクション6.4を参照のこと。
【0055】
CSL-111は、ダイズホスファチジルコリン(SBPC)と複合体形成された血漿から精製された再構成されたApoA-Iである(Tardif et al., 2007, JAMA 297:1675-1682)。
【0056】
CSL-112は、血漿から精製されて、静脈内注入に適したHDLを形成するよう再構成されたApoA-Iの製剤である(Diditchenko et al., 2013, DOI 10.1161/ATVBAHA.113.301981)。
【0057】
ETC-216(MDCO-216としても既知)は、組換えApoA-IMilanoを含有するHDLの脂質枯渇形態である。Nicholls et al., 2011, Expert Opin Biol Ther. 11(3):387-94. doi: 10.1517/14712598.2011.557061を参照のこと。
【0058】
別の実施形態では、本開示の組成物および方法において使用することができる複合体は、CER-522である。CER-522は、3個のリン脂質および22個のアミノ酸ペプチドの組合せを含むリポタンパク質複合体、CT80522である:
【0059】
【0060】
CER-522のリン脂質構成成分は、48.5:48.5:3の重量比の卵スフィンゴミエリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン、DPPC)および1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](ジパルミトイルホスファチジル-グリセロール、DPPG)からなる。CER-522複合体におけるペプチド対総リン脂質の比は、1:2.5(w/w)である。
【0061】
一部の実施形態では、リポタンパク質複合体は、脱脂HDLである。血漿中のほとんどのHDLは、コレステロールに富んでいる。HDLにおける脂質は、例えばそのコレステロール含有量を低減するために、枯渇させることができ、例えば部分的におよび/または選択的に枯渇させることができる。一部の実施形態では、脱脂HDLは、HDLの小α、プレβ-1、および他のプレβ形態のようであり得る。HDLの選択的枯渇のプロセスは、Sacks et al., 2009, J Lipid Res. 50(5): 894-907に記載されている。
【0062】
ある特定の実施形態では、リポタンパク質複合体は、米国特許第2004/0229794号明細書に記載されるような生理活性剤送達粒子を含む。
【0063】
生理活性剤送達粒子は、脂質結合ポリペプチド(例えば、本セクションまたはセクション6.1.4においてすでに記載されているようなアポリポタンパク質)、脂質二重層(例えば、本セクションまたはセクション6.1.5.1においてすでに記載されているような1つまたは複数のリン脂質を含む)、および生理活性剤(例えば、抗がん剤)を含むことができ、ここで、脂質二重層の内部は、疎水性領域を含み、生理活性剤は、脂質二重層の疎水性領域と結合されている。一部の実施形態では、生理活性剤送達粒子は、米国特許第2004/0229794号明細書に記載されている。
【0064】
一部の実施形態では、生理活性剤送達粒子は、親水性コアを含まない。
【0065】
一部の実施形態では、生理活性剤送達粒子は、円盤形状(例えば、直径約7から約29nmを有する)である。
【0066】
生理活性剤送達粒子は、脂質二重層形成脂質、例えば、リン脂質(例えば、本セクションまたはセクション6.1.5.1においてすでに記載されているような)を含む。一部の実施形態では、生理活性剤送達粒子は、二重層形成脂質および非二重層形成脂質の両方を含む。一部の実施形態では、生理活性剤送達粒子の脂質二重層は、リン脂質を含む。一実施形態では、送達粒子に組み込まれたリン脂質は、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)を含む。一実施形態では、リン脂質層は、7:3のモル比でDMPCおよびDMPGを含む。
【0067】
一部の実施形態では、脂質結合ポリペプチドは、アポリポタンパク質(例えば、本セクションまたはセクション6.1.4においてすでに記載されているような)である。脂質結合ポリペプチド、例えばアポリポタンパク質分子と、脂質二重層との間の主な相互作用は一般に、脂質結合ポリペプチドの両親媒性構造、α-ヘリックスの疎水面の残基と、粒子の外周にある外部面上の脂質の脂肪アシル残基との間の疎水性相互作用である。生理活性剤送達粒子は、交換可能および/または交換不可能なアポリポタンパク質を含み得る。一部の実施形態では、脂質結合ポリペプチドは、ApoA-Iである。
【0068】
一部の実施形態では、生理活性剤送達粒子は、粒子の安定性を高めるように修飾された脂質結合ポリペプチド分子、例えば、アポリポタンパク質分子を含む。一実施形態では、修飾は、分子内および/または分子間ジスルフィド結合を形成するためのシステイン残基の導入を含む。
【0069】
別の実施形態では、生理活性剤送達粒子は、1つまたは複数の結合機能性部分、例えば1つまたは複数のターゲティング部分および/または送達粒子に組み込まれた生理活性剤の活性と相乗して増強または機能し得る所望の生物学的活性、例えば抗菌活性を有する1つまたは複数の部分とのキメラ脂質結合ポリペプチド分子、例えばキメラアポリポタンパク質分子を含む。
【0070】
6.1.2.Apomerベースの複合体
一態様では、本開示の方法および組成物において使用することができる脂質結合タンパク質ベースの複合体は、Apomerを含む。Apomerベースの複合体において含まれ得るApomerの特徴は、国際公開第2019/030575号パンフレットに記載されており、その内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0071】
Apomerは概して、両親媒性分子と複合体形成された単量体または多量体形態でアポリポタンパク質を含む。概して、Apomerは、それぞれが1つまたは複数の両親媒性分子と複合体形成された1つまたは複数のアポリポタンパク質分子を含む。ある特定の態様では、両親媒性分子はともに、Apomerにおいてアポリポタンパク質分子1つ当たり少なくとも+1または-1の正味電荷を付与する。Apomerにおいて使用することができる例示的なアポリポタンパク質分子は、セクション6.1.4.1に記載されている。例示的な両親媒性分子は、セクション6.1.5に記載されている。
【0072】
6.1.3.Cargomerベースの複合体
一態様では、本開示の方法および組成物において使用することができる脂質結合タンパク質ベースの複合体は、1つまたは複数のカーゴ部分を有する脂質結合タンパク質ベースの複合体であるCargomerを含む。Cargomerベースの複合体において含まれ得るCargomerの特徴は、国際公開第2019/030574号パンフレットに記載されており、その内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0073】
Cargomerは概して、単量体もしくは多量体形態のアポリポタンパク質(例えば、2個、4個、または8個のアポリポタンパク質分子)および1つまたは複数のカーゴ部分を含む。カーゴ部分は、両親媒性または非両親媒性であり得る。両親媒性カーゴ部分は、アポリポタンパク質を可溶化して、それが凝集するのを防ぎ得る。カーゴ部分が、両親媒性でないか、またはアポリポタンパク質分子(複数可)を可溶化するのに不十分である場合、Cargomerはまた、アポリポタンパク質を可溶化するために1つまたは複数のさらなる両親媒性分子を含み得る。したがって、Cargomerの状況での両親媒性分子の言及は、カーゴ部分である両親媒性分子、カーゴ部分ではない両親媒性分子、またはそれらの幾つかの組合せを包含する。好ましくは、Cargomerは、例えばNMR分光法を使用して決定される場合、円板状ではない。
【0074】
カーゴ部分は、生物学的に活性な分子(例えば、薬物、生物製剤、および/または免疫原)または他の薬剤、例えば、診断薬に使用される薬剤を含み得る。本明細書中で使用する場合、「分子」および「薬剤」という用語はまた、複合体およびコンジュゲート(例えば、抗体-薬物コンジュゲート)を含む。「生物学的に活性な」、「診断上有用な」などの用語は、直接的な薬理学的または生物学的活性を有する物質に限定されず、例えばプロドラッグの代謝またはリンカーの切断に起因して、投与後に活性となる物質を含み得る。したがって、「生物学的に活性」および「診断上有用な」という用語はまた、薬理学的もしくは生物学的効果を発揮し、および/または診断検査で検出可能である生成または代謝産物または他の切断生成物を通して、投与後に生物学的に活性または診断上有用になる物質を含む。
【0075】
Cargomerにおける両親媒性分子は、アポリポタンパク質を可溶化し、および/またはアポリポタンパク質凝集を低減するか、もしくは最低限に抑えることができ、またCargomerにおいて他の機能を有し得る。例えば、両親媒性分子は、治療的有用性を有することができ、したがって、対象への投与時のCargomerによる送達を対象とするカーゴ部分であり得る。さらに、以下のセクション6.1.5で論述されるように、両親媒性分子は、Cargomerにおいて非両親媒性カーゴ部分をアポリポタンパク質に固着させるのに使用することができる。したがって、一部の実施形態では、Cargomerにおけるカーゴ部分および両親媒性分子は同じである。他の実施形態では、Cargomerにおけるアンカー部分および両親媒性分子は同じである。さらに他の実施形態では、Cargomerにおけるカーゴ部分、アンカー部分および両親媒性分子は同じである(例えば、両親媒性分子が治療的活性を有し、また別の生物学的に活性な分子をアポリポタンパク質分子(複数可)に固着させる場合)。
【0076】
アンカーおよび/またはリンカー部分は、両親媒性分子ではないカーゴ部分を有するCargomerに特に有用である。
【0077】
一部の実施形態では、本開示のCargomerにおけるカーゴ部分の少なくとも1つ、カーゴ部分の大部分、またはカーゴ部分の全てが、アンカーを介してCargomerにカップリングされる。一部の実施形態では、Cargomerにおけるカーゴ部分の少なくとも1つが、アンカーを介してCargomerにカップリングされる。一部の実施形態では、Cargomerにおけるカーゴ部分の大部分が、アンカーを介してCargomerにカップリングされる。一部の実施形態では、Cargomerにおけるカーゴ部分の全てが、アンカーを介してCargomerにカップリングされる。Cargomerにおけるアンカーはそれぞれ、同じであってもよく、あるいは、異なるタイプのアンカーが、単一Cargomerに含まれてもよい(例えば、1つのタイプのカーゴ部分が、1つのタイプのアンカーを介してCargomerにカップリングされてもよく、第2のタイプのカーゴ部分が、第2のタイプのアンカーを介してCargomerにカップリングされてもよい)。
【0078】
ある特定の態様では、両親媒性分子、カーゴ、および存在する場合、アンカーおよび/またはリンカーはともに、Cargomerにおけるアポリポタンパク質分子1つ当たり少なくとも+1または-1(例えば、+1、+2、+3、-1、-2、または-3)の正味電荷に寄与する。一部の実施形態では、正味電荷は、負の電荷である。他の実施形態では、正味電荷は、正の電荷である。文脈によって他の状況が求められない限りは、電荷は、生理学的pHで測定される。
【0079】
Cargomerにおけるアポリポタンパク質分子対両親媒性分子のモル比は、整数で存在し得るか、またはアポリポタンパク質と両親媒性分子との間で1:1の関係を反映し得るが、必ずしもそうである必要はない。例として、制限されずに、Cargomerは、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比2:5、8:7、3:2、または4:7を有し得る。
【0080】
一部の実施形態では、Cargomerは、8:1から1:15(例えば、8:1から1:15、7:1から1:15、6:1から1:15、5:1から1:15、4:1から1:15、3:1から1:15、2:1から1:15、1:1から1:15、8:1から1:14、7:1から1:14、6:1から1:14、5:1から1:14、4:1から1:14、3:1から1:14、2:1から1:14、1:1から1:14、8:1から1:13、7:1から1:13、6:1から1:13、5:1から1:13、4:1から1:13、3:1から1:13、2:1から1:13、1:1から1:13、8:1から1:12、7:1から1:12、6:1から1:12、5:1から1:12、4:1から1:12、3:1から1:12、2:1から1:12、1:1から1:12、8:1から1:11、7:1から1:11、6:1から1:11、5:1から1:11、4:1から1:11、3:1から1:11、2:1から1:11、1:1から1:11、8:1から1:10、7:1から1:10、6:1から1:10、5:1から1:10、4:1から1:10、3:1から1:10、2:1から1:10、1:1から1:10、8:1から1:9、7:1から1:9、6:1から1:9、5:1から1:9、4:1から1:9、3:1から1:9、2:1から1:9、1:1から1:9、8:1から1:8、7:1から1:8、6:1から1:8、5:1から1:8、4:1から1:8、3:1から1:8、2:1から1:8、1:1から1:8、8:1から1:7、7:1から1:7、6:1から1:7、5:1から1:7、4:1から1:7、3:1から1:7、2:1から1:7、1:1から1:7、8:1から1:6、7:1から1:6、6:1から1:6、5:1から1:6、4:1から1:6、3:1から1:6、2:1から1:6、1:1から1:6、8:1から1:5、7:1から1:5、6:1から1:5、5:1から1:5、4:1から1:5、3:1から1:5、2:1から1:5、1:1から1:5、8:1から1:4、7:1から1:4、6:1から1:4、5:1から1:4、4:1から1:4、3:1から1:4、2:1から1:4、1:1から1:4、8:1から1:3、7:1から1:3、6:1から1:3、5:1から1:3、4:1から1:3、3:1から1:3、2:1から1:3、1:1から1:3、8:1から1:2、7:1から1:2、6:1から1:2、5:1から1:2、4:1から1:2、3:1から1:2、2:1から1:2、1:1から1:2、8:1から1:1、7:1から1:1、6:1から1:1、5:1から1:1、4:1から1:1、3:1から1:1、または2:1から1:1)の範囲のアポリポタンパク質:両親媒性分子のモル比で両親媒性分子と複合体形成されたアポリポタンパク質分子を含む。
【0081】
一部の実施形態では、Cargomerにおけるアポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、6:1から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:1から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、4:1から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、3:1から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、2:1から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:1から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、4:1から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、3:1から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、2:1から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:1から1:4の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、4:1から1:4の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、3:1から1:4の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、2:1から1:4の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:1から1:3の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、4:1から1:3の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、3:1から1:3の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、2:1から1:3の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:1から1:2の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、4:1から1:2の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、3:1から1:2の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、2:1から1:2の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:1から1:1の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、4:1から1:1の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、3:1から1:1の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、2:1から1:1の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:1から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:1から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:1から1:4の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:1から1:3の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:1から1:2の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:2から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:2から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:2から1:4の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:2から1:3の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:3から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:3から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:3から1:4の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:4から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:4から1:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1:5から1:6の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、1.5:1から1:2の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:4から4:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:3から3:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、5:2から2:5の範囲である。一部の実施形態では、アポリポタンパク質対両親媒性分子のモル比は、3:2から2:3の範囲である。
【0082】
一部の実施形態では、アポリポタンパク質分子対両親媒性分子の比は、約1:1である。他の実施形態では、アポリポタンパク質分子対両親媒性分子の比は、約1:2である。さらに他の実施形態では、アポリポタンパク質分子対両親媒性分子の比は、約1:3である。さらに他の実施形態では、アポリポタンパク質分子対両親媒性分子の比は、約1:4である。さらに他の実施形態では、アポリポタンパク質分子対両親媒性分子の比は、約1:5である。さらに他の実施形態では、アポリポタンパク質分子対両親媒性分子の比は、約1:6である。
【0083】
一部の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子1個を含む。
【0084】
他の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子2個を含む。アポリポタンパク質分子2個を含むCargomerは好ましくは、3nmまたはそれ未満のストークス半径を有する。一部の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子2個、およびアポリポタンパク質分子1個当たり負に帯電された両親媒性分子(例えば、負に帯電されたリン脂質分子)1個、2個、または3個を含み得る。
【0085】
他の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子4個を含む。アポリポタンパク質分子4個を含むCargomerは好ましくは、4nmまたはそれ未満のストークス半径を有する。一部の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子4個、およびアポリポタンパク質分子1個当たり負に帯電された両親媒性分子(例えば、負に帯電されたリン脂質分子)1個、2個、または3個を含み得る。
【0086】
他の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子8個を含む。アポリポタンパク質分子4個を含むCargomerは好ましくは、5nmまたはそれ未満のストークス半径を有する。一部の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子8個、およびアポリポタンパク質分子1個当たり負に帯電された両親媒性分子(例えば、負に帯電されたリン脂質分子)1個、2個、または3個を含み得る。ある特定の実施形態では、本開示のCargomerは、コレステロールおよび/またはコレステロール誘導体(例えば、コレステロールエステル)を含有しない。
【0087】
一部の実施形態では、Cargomerは、約1:2から約1:3の範囲のアポリポタンパク質対リン脂質の重量比を含む。
【0088】
一部の実施形態では、Cargomerは、1:2.7の範囲のアポリポタンパク質対リン脂質の重量比を含む。
【0089】
Cargomerは、生体液、例えば、リンパ、脳脊髄液、硝子体液、房水、および血液または血液分画(例えば、血清または血漿)の1つまたは複数の中に可溶性であり得る。
【0090】
Cargomerは、例えばCargomerを特定の細胞または組織型へとターゲティングするためのターゲティング官能性を含み得る。一部の実施形態では、Cargomerは、アポリポタンパク質分子または両親媒性分子に結合されたターゲティング部分を含む。一部の実施形態では、Cargomerに組み込まれる1つまたは複数のカーゴ部分は、ターゲティング能を有する。
【0091】
6.1.4.脂質結合タンパク質分子
本明細書中で記載される複合体において使用することができる脂質結合タンパク質分子は、セクション6.1.4.1に記載されるものなどのアポリポタンパク質およびセクション6.1.4.2に記載されるものなどのアポリポタンパク質疑似体ペプチドを含む。一部の実施形態では、複合体は、脂質結合タンパク質分子の混合物を含む。一部の実施形態では、複合体は、1つまたは複数の脂質結合タンパク質分子および1つまたは複数のアポリポタンパク質疑似体ペプチドの混合物を含む。
【0092】
一部の実施形態では、複合体は、1個から8個のApoA-I等価体(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、1個から7個、1個から6個、1個から5個、1個から4個、1個から3個、1個から2個、2個から8個、2個から6個、2個から4個、4個から6個、または4個から8個のApoA-I等価体)を含む。脂質結合タンパク質は、それらが含有する両親媒性ヘリックスの数に基づいてApoA-I等価体に関して表され得る。例えば、通常ジスルフィド架橋二量体として存在するApoA-IMは、ApoA-IMの各分子がApoA-I分子の2倍多い両親媒性ヘリックスを含有するため、2 ApoA-I等価体として表され得る。逆に、単一両親媒性ヘリックスを含有するペプチド疑似体は、各分子がApoA-Iの分子の1/10~1/6倍の両親媒性ヘリックスを含有するため、1/10~1/6 ApoA-I等価体として表され得る。
【0093】
6.1.4.1.アポリポタンパク質
脂質結合タンパク質ベースの複合体に含まれ得る適切なアポリポタンパク質として、アポリポタンパク質ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-V、ApoB、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoD、ApoE、ApoJ、ApoH、および先述の2つまたはそれよりも多くの任意の組合せが挙げられる。多型形態、アイソフォーム、変異体および突然変異体ならびに先述のアポリポタンパク質の切断形態(それらの最も一般的なものは、アポリポタンパク質A-IMilano(ApoA-IM)、アポリポタンパク質A-IParis(ApoA-IP)、およびアポリポタンパク質A-IZaragoza(ApoA-IZ)である)もまた使用され得る。システイン残基を含有するアポリポタンパク質突然変異体もまた既知であり、同様に使用され得る(例えば、米国特許出願公開第2003/0181372号明細書を参照)。アポリポタンパク質は、単量体またはホモ二量体もしくはヘテロ二量体であり得る二量体の形態で存在し得る。例えば、ApoA-I(Duverger et al., 1996, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 16(12):1424-29)、ApoA-IM(Franceschini et al., 1985, J. Biol. Chem. 260:1632-35)、ApoA-Ip(Daum et al., 1999, J. Mol. Med. 77:614-22)、ApoA-II(Shelness et al., 1985, J. Biol. Chem. 260(14):8637-46;Shelness et al., 1984, J. Biol. Chem. 259(15):9929-35)、ApoA-IV(Duverger et al., 1991, Euro. J. Biochem. 201(2):373-83)、ApoE(McLean et al., 1983, J. Biol. Chem. 258(14):8993-9000)、ApoJおよびApoHのホモおよびヘテロ二量体(実現可能である場合)が使用され得る。
【0094】
アポリポタンパク質は、例えば、米国特許出願公開第2008/0234192号明細書および同第2013/0137628号明細書、ならびに米国特許第8,143,224号明細書および同第8,541,236号明細書に記載されるように、酸化を受けにくくさせるようにそれらの一次配列において修飾され得る。アポリポタンパク質は、Hisタグなどのそれらの単離を容易にするエレメント、または他の目的で設計された他のエレメントに相当する残基を含み得る。好ましくは、複合体におけるアポリポタンパク質は、生体液(例えば、リンパ、脳脊髄液、硝子体液、房水、および血液、または血液分画(例えば、血清または血漿))中に可溶性である。
【0095】
一部の実施形態では、複合体は、共有結合された脂質結合タンパク質モノマー、例えばシステインを含有するApoA-Iの突然変異形態である二量体アポリポタンパク質ApoA-IMilanoを含む。システインは、ホモ二量体またはヘテロ二量体(例えば、ApoA-I Milano-ApoA-II)の形成をもたらし得るジスルフィド架橋の形成を可能にする。
【0096】
一部の実施形態では、アポリポタンパク質分子は、ApoA-I、ApoA-II、ApoA-IV、ApoA-V、ApoB、ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III、ApoD、ApoE、ApoJ、もしくはApoH分子またはそれらの組合せを含む。
【0097】
一部の実施形態では、アポリポタンパク質分子は、ApoA-I分子を含むか、またはそれらからなる。一部の実施形態では、前記ApoA-I分子は、ヒトApoA-I分子である。一部の実施形態では、前記ApoA-I分子は組換えである。一部の実施形態では、ApoA-I分子は、ApoA-IMilanoではない。
【0098】
一部の実施形態では、ApoA-I分子は、アポリポタンパク質A-IMilano(ApoA-IM)、アポリポタンパク質A-IParis(ApoA-IP)、またはアポリポタンパク質A-IZaragoza(ApoA-IZ)分子である。
【0099】
アポリポタンパク質は、動物供給源から(特に、ヒト供給源から)精製され得るか、または当業者に既知であるように組換え的に産生され得る。例えば、Chung et al., 1980, J. Lipid Res. 21(3):284-91;Cheung et al., 1987, J. Lipid Res. 28(8):913-29を参照のこと。同様に、米国特許第5,059,528号明細書、同第5,128,318号明細書、同第6,617,134号明細書;米国特許出願公開第2002/0156007号明細書、同第2004/0067873明細書、同第2004/0077541明細書、および同第2004/0266660号明細書;ならびにPCT国際公開第2008/104890号パンフレットおよび同第2007/023476号パンフレットを参照のこと。例えばPCT国際公開第2012/109162号明細書に記載されるように、他の精製方法もまた可能であり、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0100】
アポリポタンパク質は、プレプロ形態、プロ形態、または成熟形態で存在し得る。例えば、複合体は、ApoA-IがプレプロApoA-I、プロApoA-I、または成熟ApoA-IであるApoA-I(例えば、ヒトApoA-I)を含み得る。一部の実施形態では、複合体は、配列番号1に対して少なくとも90%配列同一性を有するApoA-Iを含む。
【0101】
【0102】
他の実施形態では、複合体は、配列番号1に対して少なくとも95%配列同一性を有するApoA-Iを含む。他の実施形態では、複合体は、配列番号1に対して少なくとも98%配列同一性を有するApoA-Iを含む。他の実施形態では、複合体は、配列番号1に対して少なくとも99%配列同一性を有するApoA-Iを含む。他の実施形態では、複合体は、配列番号1に対して100%配列同一性を有するApoA-Iを含む。
【0103】
他の実施形態では、複合体は、配列番号2のアミノ酸25から267に対して少なくとも95%配列同一性を有するApoA-Iを含む。他の実施形態では、複合体は、配列番号2のアミノ酸25から267に対して少なくとも98%配列同一性を有するApoA-Iを含む。他の実施形態では、複合体は、配列番号2のアミノ酸25から267に対して少なくとも99%配列同一性を有するApoA-Iを含む。他の実施形態では、複合体は、配列番号2のアミノ酸25から267に対して少なくとも100%配列同一性を有するApoA-Iを含む。
【0104】
一部の実施形態では、複合体は、1個から8個のアポリポタンパク質分子(例えば、1個から6個、1個から4個、1個から2個、2個から8個、2個から6個、2個から4個、4個から8個、4個から6個、または6個から8個のアポリポタンパク質分子)を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子1個を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子2個を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子3個を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子4個を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子5個を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子6個を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子7個を含む。一部の実施形態では、複合体は、アポリポタンパク質分子8個を含む。
【0105】
アポリポタンパク質分子(複数可)は、アポリポタンパク質と、例えば1つまたは複数のCRN-001複合体(複数可)、1つまたは複数のターゲティング部分、所望の生物学的活性を有する部分、精製を補佐するための親和性タグ、および/または特性化もしくは局在化研究のためのレポーター分子などの1つまたは複数の結合された機能性部分とを含むキメラアポリポタンパク質を含み得る。生物学的活性を有する結合された部分は、本開示の複合体へ組み込まれた化合物またはカーゴ部分の生物学的活性を増強し、および/またはそれと相乗作用を発揮することが可能な活性を有し得る。例えば、生物学的活性を有する部分は、抗菌(例えば、抗真菌、抗細菌、抗原虫、静菌、静真菌、または抗ウイルス)活性を有し得る。一実施形態では、キメラアポリポタンパク質の結合された機能性部分は、複合体の疎水性表面と接触しない。別の実施形態では、結合された機能性部分は、複合体の疎水性表面と接触している。一部の実施形態では、キメラアポリポタンパク質の機能性部分は、天然タンパク質に固有であり得る。一部の実施形態では、キメラアポリポタンパク質は、細胞表面受容体または他の細胞表面部分によって認識されるか、もしくはそれとの相互作用が可能なリガンドまたは配列を含む。
【0106】
一実施形態では、キメラアポリポタンパク質は、例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae)α-接合因子ペプチド、葉酸、トランスフェリン、またはラクトフェリンなどの自然アポリポタンパク質に固有ではないターゲティング部分を含む。別の実施形態では、キメラアポリポタンパク質は、本開示の複合体へ組み込まれた化合物またはカーゴ部分の活性を増強し、および/またはそれと相乗作用を発揮する所望の生物学的活性を有する部分を含む。一実施形態では、キメラアポリポタンパク質は、アポリポタンパク質に固有の機能性部分を含み得る。アポリポタンパク質固有の機能性部分の一例は、低密度リポタンパク質受容体ファミリーの成員によって認識される受容体結合領域を含むヒトApoEのおよそアミノ酸130~150によって形成される固有のターゲティング部分である。アポリポタンパク質固有の機能性部分の他の例として、低密度リポタンパク質受容体と相互作用するApoB-100の領域およびスカベンジャー受容体B1型と相互作用するApoA-Iの領域が挙げられる。他の実施形態では、機能性部分は、キメラアポリポタンパク質を産生するように合成的または組換え的に付加され得る。別の例は、別のプレプロアポリポタンパク質由来のプレプロまたはプロ配列(例えば、プレプロapoA-Iのプレプロ配列に代わって置換されたプレプロapoA-II由来のプレプロ配列)を有するアポリポタンパク質である。別の例は、両親媒性配列セグメントの一部が、別のアポリポタンパク質由来の他の両親媒性配列セグメントによって置換されているアポリポタンパク質である。
【0107】
本明細書中で使用する場合、「キメラ」は、個々に存在することが可能であり、一緒に結合されて、その成分分子の全ての所望の機能性を有する単一分子形成する2つまたはそれよりも多い分子を指す。キメラ分子の成分分子は、キメラコンジュゲーションによって合成的に結合され得るか、または成分分子が全て、ポリペプチドまたはそれらの類似体である場合は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、単一の連続ポリペプチドが発現されるように一緒に組換え的に融合され得る。かかるキメラ分子は、融合タンパク質と称される。「融合タンパク質」は、成分分子が全てポリペプチドであり、キメラ分子が連続単一鎖を形成するように互いに結合(融合)されているキメラ分子である。様々な成分が、直接互いに結合され得るか、あるいは1つまたは複数のリンカーを通じてカップリングされ得る。様々な成分の1つまたは複数のセグメントは、例えば、アポリポタンパク質の配列において挿入され得るか、または別の例では、アポリポタンパク質の配列に対してN末端もしくはC末端で付加され得る。例えば、融合タンパク質は、抗体軽鎖、抗体断片、重鎖抗体、または単一ドメイン抗体を含み得る。
【0108】
一部の実施形態では、キメラアポリポタンパク質は、アポリポタンパク質および結合されるべき機能性部分を化学的にコンジュゲートすることによって調製される。分子を化学的にコンジュゲートする手段は、当業者に周知されている。かかる手段は、結合されるべき部分の構造に従って様々であるが、当業者には容易に確認可能である。ポリペプチドは通常、機能性部分上または部分をそれに結合するためのリンカー上の適切な官能基との反応に利用可能である、様々な官能基、例えばカルボン酸(--COOH)、遊離アミノ(--NH2)、またはスルフヒドリル(--SH基)を含有する。機能性部分は、アポリポタンパク質分子のN末端、C末端で、または内部残基(即ち、N末端とC末端との間の中間にある位置の残基)上の官能基に結合され得る。あるいは、アポリポタンパク質および/またはタグ付けされるべき部分は、さらなる反応性官能基を露出または結合するよう誘導体化され得る。
【0109】
一部の実施形態では、ポリペプチド機能性部分を含む融合タンパク質は、組換え発現系を使用して合成される。通常、これは、2つのポリペプチドが、発現される際にインフレームであるようにアポリポタンパク質および機能性部分をコードする核酸(例えば、DNA)配列を創出するステップ、プロモーターの制御下にDNAを配置するステップ、宿主細胞においてタンパク質を発現するステップ、発現されたタンパク質を単離するステップを包含する。
【0110】
キメラアポリポタンパク質をコードする核酸は、宿主細胞における発現に適した形態で、組換え発現ベクターへ組み込まれ得る。本明細書中で使用する場合、「発現ベクター」は、適切な宿主細胞へ導入されると、ポリペプチドに転写および翻訳され得る核酸である。また、ベクターは、プロモーター、エンハンサー、または他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)などの調節配列を含み得る。かかる調節配列は、当業者に既知である(例えば、Goeddel, 1990, Gene Expression Technology: Meth. Enzymol. 185, Academic Press, San Diego, Calif.;Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology 152 Academic Press, Inc., San Diego, Calif.;Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning--A Laboratory Manual (2nd ed.) Vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Press, NYなどを参照)。
【0111】
一部の実施形態では、アポリポタンパク質が本開示の複合体へ組み込まれる場合に、修飾が、複合体の安定性を高めるか、ターゲティング能を付与するか、または容量を増加するように、アポリポタンパク質は修飾されている。一実施形態では、修飾は、例えば部位特異的突然変異誘発による分子内または分子間ジスルフィド結合の形成を可能にするためのアポリポタンパク質分子へのシステイン残基の導入を含む。別の実施形態では、キメラ架橋剤は、複合体の安定性を増強するためにアポリポタンパク質分子間に細胞間連結を形成するのに使用される。分子間架橋は、アポリポタンパク質分子の、複合体からの解離を防止もしくは低減し、および/または複合体が投与される個体内の内因性アポリポタンパク質分子による置き換えを防止する。他の実施形態では、アポリポタンパク質は、1つまたは複数のアミノ酸残基の化学的誘導体化によって、または部位突然変異誘発によって修飾されて、細胞表面受容体へのターゲティング能またはそれによる認識を付与する。
【0112】
複合体は、受容体認識特性を、アポリポタンパク質へ操作することによって、特定細胞表面受容体へとターゲティングされ得る。例えば、複合体は、アポリポタンパク質を、標的とされている細胞型の表面上の受容体と相互作用することが可能にさせるようそれを修飾することによって、特定のタイプの感染病原体を保有することが知られている特定の細胞型へとターゲティングされ得る。例えば、複合体は、マクロファージエンドサイトーシスクラスAスカベンジャー受容体(SR-A)による認識を付与するようアポリポタンパク質を変更させることによって、マクロファージへとターゲティングされ得る。SR-A結合能力は、部位特異的突然変異誘発によって、1つまたは複数の正に帯電されたアミノ酸を中性または負に帯電されたアミノ酸で置き換えるよう、アポリポタンパク質を修飾することによって、複合体に付与され得る。SR-A認識はまた、SR-Aによって認識されるリガンドを有するN末端もしくはC末端伸長または高濃度の負に帯電された残基を有するアミノ酸配を含むキメラアポリポタンパク質を調製することによって付与され得る。アポリポタンパク質を含む複合体はまた、例えばABCA1受容体、ABCG1受容体、メガリン、キュブリン(Cubulin)およびSR-B1などのHDL受容体であるがこれらに限定されないアポリポタンパク質受容体と相互作用することができる。
【0113】
複合体は、カーゴ部分をCargomerへ固着する脂質結合タンパク質(例えば、アポリポタンパク質分子)を含み得る。一部の実施形態では、アポリポタンパク質分子は、直接的な結合によってカーゴ部分へカップリングされる。他の実施形態では、アポリポタンパク質分子は、例えばセクション6.1.7.に記載されるように、リンカーによってカーゴ部分へカップリングされる。
【0114】
6.1.4.2.アポリポタンパク質疑似体
アポリポタンパク質の活性を模倣するペプチド、ペプチド類似体、およびアゴニスト(本明細書中ではまとめて、「アポリポタンパク質ペプチド疑似体」と称する)はまた、本明細書中に記載される複合体において、単独で、あるいは1つまたは複数の他の脂質結合タンパク質と組み合わせて使用することができる。本明細書に記載される複合体および組成物における封入に適したアポリポタンパク質に相当するペプチドおよびペプチド類似体、ならびにApoA-I、ApoA-IM、ApoA-II、ApoA-IV、およびApoEの活性を模倣するアゴニストの非限定的な例は、米国特許第6,004,925号明細書、同第6,037,323号明細書および同第6,046,166号明細書(Dasseuxら)、米国特許第5,840,688号明細書(Tsoに発行)、米国特許第6,743,778号明細書(Kohnoに発行)、米国特許出願公開第2004/0266671号明細書、同第2004/0254120号明細書、同第2003/0171277号明細書および同第2003/0045460号明細書(Fogelmanに)、米国特許出願公開第2006/0069030号明細書(Bachovchinに)、米国特許出願公開第2003/0087819号明細書(Bielickiに)、米国特許出願公開第2009/0081293号明細書(Muraseらに)、およびPCT国際公開第2010/093918号パンフレット(Dasseuxらに)に開示されており、それらの開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれている。これらのペプチドおよびペプチド類似体は、L-アミノ酸もしくはD-アミノ酸またはL-およびD-アミノ酸の混合物で構成され得る。これらのペプチドおよびペプチド類似体はまた、1つまたは複数の非ペプチドまたはアミド結合、例えば1つまたは複数の周知のペプチド/アミドアイソスターを含み得る。かかるアポリポタンパク質ペプチド疑似体は、例えば米国特許第6,004,925号明細書、同第6,037,323号明細書および同第6,046,166号明細書に記載される技法を含む、当該技術分野で既知のペプチド合成に関する任意の技法を使用して合成または製造され得る。
【0115】
一部の実施形態では、脂質結合タンパク質分子は、アポリポタンパク質ペプチド疑似体分子および任意選択で、1つまたは複数の、上述するようなものなどのアポリポタンパク質分子を含む。
【0116】
一部の実施形態では、アポリポタンパク質ペプチド疑似体分子は、ApoA-Iペプチド疑似体、ApoA-IIペプチド疑似体、ApoA-IVペプチド疑似体、ApoA-Iペプチド疑似体、もしくはApoEペプチド疑似体、またはそれらの組合せを含む。
【0117】
本開示の複合体は、カーゴ部分を複合体へ固着するアポリポタンパク質ペプチド疑似体分子を含み得る。一部の実施形態では、アポリポタンパク質ペプチド疑似体は、直接的な結合によってカーゴ部分にカップリングされる。他の実施形態では、アポリポタンパク質ペプチド疑似体分子は、例えば、セクション6.1.7.に記載されるように、リンカーによってカーゴ部分にカップリングされる。
【0118】
6.1.5.両親媒性分子
両親媒性分子は、疎水性(無極性)エレメントおよび親水性(極性)エレメントの両方を保有する分子である。本明細書中に記載される複合体において使用することができる両親媒性分子として、脂質(例えば、セクション6.1.5.1に記載されるような)、洗浄剤(例えば、6.1.5.2.に記載されるような)、脂肪酸(例えば、セクション6.1.5.3に記載されるような)、および例えば糖または核酸であるがこれらに限定されない極性分子に共有結合された無極性分子およびステロール(例えば、セクション6.1.5.4に記載されるような)が挙げられる。
【0119】
複合体は、単一種類の両親媒性分子(例えば、単一種のリン脂質またはリン脂質の混合物)を含むことができるか、あるいは両親媒性分子(例えば、リン脂質および洗浄剤)の種類の組合せを含有することができる。複合体は、脂質結合タンパク質分子(複数可)の可溶化を容易にするよう設計された1種の両親媒性分子または両親媒性分子の組合せを含有し得る。
【0120】
一部の実施形態では、Apomerおよび/またはCargomerベースの複合体は、脂質結合タンパク質分子を可溶化するのに十分な量の両親媒性分子のみを含む。換言すると、Apomerおよび/またはCargomerベースの複合体は、脂質結合タンパク質分子を可溶化するのに必要な最小量の1つまたは複数の両親媒性分子を含み得る。
【0121】
一部の実施形態では、含まれる両親媒性分子は、リン脂質、洗浄剤、脂肪酸、糖に共有結合された無極性部分もしくはステロール、またはそれらの組合せ(例えば、上記で論述された両親媒性分子のタイプから選択される)を含む。
【0122】
一部の実施形態では、両親媒性分子は、リン脂質分子を含むか、またはそれらからなる。一部の実施形態では、リン脂質分子は、負に帯電されたリン脂質、中性リン脂質、正に帯電されたリン脂質またはそれらの組合せを含む。一部の実施形態では、リン脂質分子は、複合体においてアポリポタンパク質分子1つ当たり1~3の正味電荷に寄与する。一部の実施形態では、正味電荷は、負の正味電荷である。一部の実施形態では、正味電荷は、正の正味電荷である。一部の実施形態では、リン脂質分子は、負に帯電されたリン脂質および中性リン脂質の組合せからなる。一部の実施形態では、負に帯電されたリン脂質対中性リン脂質のモル比は、1:1から1:3の範囲である。一部の実施形態では、負に帯電されたリン脂質対中性リン脂質のモル比は、約1:1から約1:2の範囲である。
【0123】
一部の実施形態では、複合体は、アンカーである少なくとも1つの両親媒性分子を含む。
【0124】
一部の実施形態では、両親媒性分子は、95:5から99:1の重量比の中性リン脂質および負に帯電されたリン脂質を含む。
【0125】
6.1.5.1.脂質
脂質結合タンパク質ベースの複合体は、1つまたは複数の脂質を含み得る。様々な実施形態では、1つまたは複数の脂質は、飽和および/または不飽和の、天然および/または合成の、帯電されたか、または帯電されていない双性イオンであり得るか、あるいはそうでない。一部の実施形態では、脂質分子(例えば、リン脂質分子)はともに、複合体において脂質結合タンパク質分子1つ当たり1~3(例えば、1~3、1~2、2~3、1、2、または3)の正味電荷に寄与し得る。一部の実施形態では、正味電荷は負である。他の実施形態では、正味電荷は正である。
【0126】
一部の実施形態では、脂質はリン脂質を含む。リン脂質は、同じか、または異なる2つのアシル鎖(例えば、異なる数の炭素原子、アシル鎖間で異なる飽和度、アシル鎖の異なる分岐、またはそれらの組合せを有する鎖)を有し得る。脂質はまた、蛍光プローブを含有するよう修飾され得る(例えば、avantilipids.com/product-category/products/fluorescent-lipids/に記載されるように)。好ましくは、脂質は少なくとも1つのリン脂質を含む。
【0127】
リン脂質は、約6から約24個の炭素原子(例えば、6~20個、6~16個、6~12個、12~24個、12~20個、12~16個、16~24個、16~20個、または20~24個)の範囲の不飽和または飽和アシル鎖を有し得る。一部の実施形態では、本開示の複合体において使用されるリン脂質は、12個、14個、16個、18個、20個、22個、または24個の炭素原子の1つまたは2つのアシル鎖(例えば、同じ長さの2つのアシル鎖または異なる長さの2つのアシル鎖)を有する。
【0128】
リン脂質において含まれ得る一般に存在する脂肪酸中に存在するアシル鎖の非限定的な例を以下の表1に提示する:
【0129】
【0130】
本開示の複合体中に存在し得る脂質として、小アルキル鎖リン脂質、卵ホスファチジルコリン、ダイズホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアリルホスファチジルコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジオレオホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルグリセロールホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール類、ジホスファチジルグリセロール類、例えばジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脳ホスファチジルセリン、脳スフィンゴミエリン、パルミトイルスフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、卵スフィンゴミエリン、ミルクスフィンゴミエリン、フィトスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール塩、ホスファチジン酸、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド類、セレブロシド類、ジラウリルホスファチジルコリン、(1,3)-D-マンノシル-(1,3)ジグリセリド、アミノフェニルグリコシド、3-コレステリル-6’-(グリコシルチオ)ヘキシルエーテル糖脂質類、およびコレステロールならびにその誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。合成パルミトイルスフィンゴミエリンまたはN-パルミトイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホスホコリン(フィトスフィンゴミエリンの形態)などの合成脂質を使用して、脂質酸化を最低限に抑えることができる。
【0131】
一部の実施形態では、脂質結合タンパク質ベースの複合体は、2つのタイプのリン脂質を含む:中性脂質、例えばレシチンおよび/またはスフィンゴミエリン(SMと略記)、および帯電されたリン脂質(例えば、負に帯電されたリン脂質)。「中性」リン脂質は、生理学的pHでほぼゼロの正味電荷を有する。多くの実施形態では、中性リン脂質は双性イオンであるが、他のタイプの正味中性リン脂質が知られており、使用することができる。一部の実施形態では、帯電されたリン脂質(例えば、負に帯電されたリン脂質)対中性リン脂質のモル比は、1:1から1:3、例えば、約1:1、約1:2、または約1:3の範囲である。
【0132】
中性リン脂質は、例えば、レシチンおよび/またはSMの一方あるいは両方を含むことができ、任意選択で、他の中性リン脂質を含み得る。一部の実施形態では、中性リン脂質はレシチンを含むが、SMを含まない。他の実施形態では、中性リン脂質はSMを含むが、レシチンを含まない。さらなる他の実施形態では、中性リン脂質は、レシチンおよびSMの両方を含む。これらの特定の例示的な実施形態は全て、レシチンおよび/またはSMに加えて、中性リン脂質を含み得るが、多くの実施形態では、かかるさらなる中性リン脂質を含まない。
【0133】
本明細書中で使用する場合、「SM」という表現は、天然供給源に由来するか、またはそれらから得られたスフィンゴミエリン、ならびに天然に存在するSMでみられるようなLCATによる加水分解に影響されない天然に存在するSMの類似体および誘導体を含む。SMは、レシチンと構造が非常に類似したリン脂質であるが、レシチンとは異なり、SMは、グリセロール骨格を有さず、したがって、アシル鎖を結合するエステル結合を有さない。どちらかといえば、SMは、アシル鎖を結合するアミド結合を有するセラミド骨格を有する。SMは、例えば、ミルク、卵または脳から得ることができる。SM類似体または誘導体もまた使用することができる。有用な類似体および誘導体の非限定的な例として、パルミトイルスフィンゴミエリン、N-パルミトイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホスホコリン(フィトスフィンゴミエリンの形態)、パルミトイルスフィンゴミエリン、ステアロイルスフィンゴミエリン、D-エリスロ-N-16:0-スフィンゴミエリンおよびそのジヒドロ異性体、D-エリスロ-N-16:0-ジヒドロ-スフィンゴミエリンが挙げられるが、これらに限定されない。動物起源のスフィンゴ脂質よりも少ない混入物および/または酸化生成物を伴うより均質な複合体を生産するために、合成パルミトイルスフィンゴミエリンまたはN-パルミトイル-4-ヒドロキシスフィンガニン-1-ホスホコリン(フィトスフィンゴミエリン)などの合成SMが使用され得る。SMを合成する方法は、米国特許出願公開第2016/0075634号明細書に記載されている。
【0134】
天然供給源から単離されたスフィンゴミエリンは、1つの特定の飽和または不飽和アシル鎖において人工的に富化され得る。例えば、ミルクスフィンゴミエリン(Avanti Phospholipid、Alabaster社、Ala.)は、長い飽和アシル鎖を特徴とする(即ち、20個またはそれよりも多い炭素原子を有するアシル鎖)。対比して、卵スフィンゴミエリンは、短い飽和アシル鎖を特徴とする(即ち、20個よりも少ない炭素原子を有するアシル鎖)。例えば、ミルクスフィンゴミエリンの約20%のみがC16:0(炭素16個、飽和)アシル鎖を占めるのに対して、卵スフィンゴミエリンの約80%がC16:0アシル鎖を占める。溶媒抽出を使用して、ミルクスフィンゴミエリンの組成は、卵スフィンゴミエリンの組成に匹敵するアシル鎖組成を有するように富化させることができ、またはその逆も同様である。
【0135】
SMは、それが特定のアシル鎖を有するように半合成であってもよい。例えば、ミルクスフィンゴミエリンは、まずミルクから精製された後、1つの特定のアシル基、例えば、C16:0アシル鎖が切断され、別のアシル鎖によって置き換えられ得る。SMはまた、例えば大規模合成によって、完全に合成され得る。例えば、1993年6月15に発行されたSynthesis of D-erythro-sphingomyelinsという表題のDongらの米国特許第5,220,043号明細書;Weis, 1999, Chem. Phys. Lipids 102 (1-2):3-12を参照のこと。SMは、例えば米国特許出願公開第2014/0275590号明細書に記載されるように完全合成であってもよい。
【0136】
半合成または合成SMを含むアシル鎖の長さおよび飽和レベルは、選択的に変化させることができる。アシル鎖は、飽和または不飽和であってもよく、約6から約24個の炭素原子を含有し得る。鎖はそれぞれ、同数の炭素原子を含有することができ、あるいは、鎖はそれぞれ、異なる数の炭素原子を含有することができる。一部の実施形態では、半合成または合成SMは、一方の鎖が飽和しており、一方の鎖が不飽和であるような混合アシル鎖を含む。かかる混合アシル鎖SMでは、鎖長は、同じであり得るか、または異なり得る。他の実施形態では、半合成または合成SMのアシル鎖は、ともに飽和しているか、またはともに不飽和である。さらに、鎖は、同数、または異なる数の炭素原子数を含有し得る。一部の実施形態では、半合成または合成SMを含むアシル鎖はともに同一である。特定実施形態では、鎖は、例えばオレイン酸、パルミチン酸またはステアリン酸などの天然に存在する脂肪酸のアシル鎖に相当する。別の実施形態では、飽和または不飽和の官能基化された鎖を有するSMが使用される。別の特定実施形態では、アシル鎖はともに飽和されており、6から24個の炭素原子を含有する。半合成および合成SMに含まれ得る一般に存在する脂肪酸中に存在するアシル鎖の非限定的な例は、上記の表1に提示している。
【0137】
一部の実施形態では、SMは、C16:0アシル鎖を有する合成パルミトイルSMなどのパルミトイルSMであるか、または主成分としてパルミトイルSMを含む卵SMである。
【0138】
特定実施形態では、フィトスフィンゴミエリンなどの官能基化されたSMが使用される。
【0139】
レシチンは、天然供給源に由来し得るか、またはそれらから単離され得るか、あるいはレシチンは、合成的に得られ得る。天然供給源から単離された適切なレシチンの例として、卵ホスファチジルコリンおよびダイズホスファチジルコリンが挙げられるが、これらに限定されない。適切なレシチンのさらなる非限定的な例として、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファリジルコリン、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファリジルコリン、1-オレオイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリンおよびそれらのエーテル誘導体または類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
天然供給源に由来するか、またはそれらから単離されたレシチンは、特定のアシル鎖を含むよう富化され得る。半合成または合成レシチンを用いる実施形態では、アシル鎖の独自性(複数可)は、SMに関連して上記で論述したように、選択的に変化させることができる。本明細書中に記載される複合体の一部の実施形態では、レシチン上のアシル鎖はともに同一である。SMおよびレシチンの両方を含む複合体の一部の実施形態では、SMおよびレシチンのアシル鎖は、全て同一である。特定実施形態では、アシル鎖は、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸またはステアリン酸のアシル鎖に相当する。
【0141】
本開示の複合体は、1つまたは複数の負に帯電されたリン脂質を含み得る(例えば、単独で、あるいは1つまたは複数の中性リン脂質と組み合わせて)。本明細書中で使用する場合、「負に帯電されたリン脂質」は、生理学的pHで正味負電荷を有するリン脂質である。負に帯電されたリン脂質は、単一タイプの負に帯電されたリン脂質、あるいは2つまたはそれよりも多い異なる負の帯電されたリン脂質の混合物を含み得る。一部の実施形態では、帯電されたリン脂質は、負に帯電されたグリセロリン脂質である。適切な負に帯電されたリン脂質の具体例として、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、およびそれらの塩(例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩)が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、負に帯電されたリン脂質は、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよび/またはホスファチジン酸の1つまたは複数を含む。特定実施形態では、負に帯電されたリン脂質は、ホスファチジルグリセロールの塩もしくはホスファチジルイノシトールの塩を含むか、またはそれらからなる。別の特定実施形態では、負に帯電されたリン脂質は、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]、もしくはDPPG、もしくはそれらの塩を含むか、またはそれらからなる。
【0142】
負に帯電されたリン脂質は、天然供給源から得られ得るか、または化学合成によって調製され得る。合成の負に帯電されたリン脂質を用いる実施形態では、アシル鎖の独自性は、SMと関連して上記で論述したように、選択的に変化させることができる。本開示の複合体の一部の実施形態では、負に帯電されたリン脂質上のアシル鎖はともに同一である。一部の実施形態では、本開示の複合体において含まれるリン脂質の全てのタイプのアシル鎖は、全て同一である。特定実施形態では、複合体は、負に帯電されたリン脂質(複数可)、および/または全てがC16:0またはC16:1のアシル鎖を有するSMを含む。特定実施形態では、SMの脂肪酸部分は、主にC16:1パルミトイルである。一特定実施形態では、帯電されたリン脂質(複数可)、レシチンおよび/SMのアシル鎖は、パルミチン酸のアシル鎖に相当する。さらに別の特定実施形態では、帯電されたリン脂質(複数可)、レシチンおよび/またはSMのアシル鎖は、オレイン酸のアシル鎖に相当する。
【0143】
本開示の複合体において含まれ得る正に帯電されたリン脂質の例として、N1-[2-((1S)-1-[(3-アミノプロピル)アミノ]-4-[ジ(3-アミノ-プロピル)アミノ]ブチルカルボキシアミド)エチル]-3,4-ジ[オレイルオキシ]-ベンズアミド、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン、1,2-ジミリストレオイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1,2-ジオレオイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1,2-ジステアロイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1,2-ジパルミトイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1,2-ジミリストイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1,2-ジラウロイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1,2-ジラウロイル-sn-グロセロ-3-エチルホスホコリン、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン、N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロパン-1-アミニウム、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ステアロイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジパルミトイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、N-[1-(2,3-ジミリスチルオキシ)プロピル]-N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド、N,N,N-トリメチル-2-ビス[(1-オキソ-9-オクタデセニル)オキシ]-(Z,Z)-1-プロパナミニウムメチルスルホン酸塩、およびそれらの塩(例えば、塩化物または臭化物塩)が挙げられる。
【0144】
使用される脂質は、好ましくは少なくとも95%純粋であり、および/または低減したレベルの酸化剤(例えば過酸化物であるが、これに限定されない)を有する。天然供給源から得られる脂質は好ましくは、より少ない多価不飽和脂肪酸部分および酸化の影響を受けない脂肪酸部分を有する。試料における酸化のレベルは、ヨウ素滴定法を使用して決定することができ、ヨウ素滴定法は、meqO/kgで略記される試料1kg当たりの単離ヨウ素のミリ当量数で表される過酸化物値を提供する。例えば、Gray, 1978, Measurement of Lipid Oxidation: A Review, Journal of the American Oil Chemists Society 55:539-545;Heaton, F.W. and Ur, Improved Iodometric Methods for the Determination of Lipid Peroxides, 1958, Journal of the Science of Food and Agriculture 9:781-786を参照のこと。好ましくは、酸化のレベル、または過酸化物レベルは低く、例えば、5meqO/kg未満、4meqO/kg未満、3meqO/kg未満、または2meqO/kg未満である。
【0145】
複合体は、一部の実施形態では、少量のさらなる脂質を含み得る。リゾリン脂質、ガラクトセレブロシド、ガングリオシド、セレブロシド、グリセリド、トリグリセリド、ならびにステロールおよびステロール誘導体(例えば、植物ステロール、動物ステロール、例えばコレステロール、またはステロール誘導体、例えばコレステロール誘導体)を含むがこれらに限定されない事実上任意のタイプの脂質が使用され得る。例えば、本開示の複合体は、コレステロールまたはコレステロール誘導体、例えば、コレステロールエステルを含有し得る。コレステロール誘導体はまた、置換コレステロールまたは置換コレステロールエステルであり得る。本開示の複合体はまた、例えば酸化コレステロールまたは酸化ステロール誘導体(例えば、酸化コレステロールエステルであるが、これらに限定されない)であるが、これらに限定されない酸化ステロールを含有する。一部の実施形態では、複合体は、コレステロールおよび/またはその誘導体(例えば、コレステロールエステルまたは酸化コレステロールエステル)を含まない。
【0146】
6.1.5.2.洗浄剤
複合体は、1つまたは複数の洗浄剤を含有し得る。洗浄剤は、双性イオン性、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性、またはそれらの組合せであり得る。例示的な双性イオン洗浄剤として、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸塩(CHAPS)、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸塩(CHAPSO)、およびN,N-ジメチルドデシルアミンN-オキシド(LDAO)が挙げられる。例示的な非イオン性洗浄剤として、6-モノオレイン酸D-(+)-トレハロース、N-オクタノイル-N-メチルグルカミン、N-ノナノイル-N-メチルグルカミン、N-デカノイル-N-メチルグルカミン、1-(7Z-ヘキサデセノイル)-rac-グリセロール、1-(8Z-ヘキサデセノイル)-rac-グリセロール、1-(8Z-ヘプタデセノイル)-rac-グリセロール、1-(9Z-ヘキサデセノイル)-rac-グリセロール、1-デカノイル-rac-グリセロールが挙げられる。例示的な陽イオン性洗浄剤として、(S)-O-メチル-セリンドデシルアミド塩酸塩、塩化ドデシルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、および硫酸セチルトリメチルアンモニウムが挙げられる。例示的な陰イオン性洗浄剤として、ヘミコハク酸コレステリル、コール酸塩、硫酸アルキル、およびスルホン酸アルキルが挙げられる。
【0147】
6.1.5.3.脂肪酸
複合体は、1つまたは複数の脂肪酸を含有し得る。1つまたは複数の脂肪酸として、5個またはそれ未満の炭素の脂肪族尾部を有する短鎖脂肪酸(例えば、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、またはイソ吉草酸)、6から12個の炭素の脂肪族尾部を有する中鎖脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、またはラウリン酸)、13から21個の炭素の脂肪族尾部を有する長鎖脂肪酸尾部を有する長鎖脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、またはアラキドン酸)、22個またはそれを上回る炭素の脂肪族尾部を有する超長鎖脂肪酸(例えば、ベヘン酸、リグノセリン酸、またはセロチン酸)、またはそれらの組合せが挙げられ得る。1つまたは複数の脂肪酸は、飽和(例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、またはセロチン酸)、不飽和(例えば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、またはドコサヘキサエン酸)またはそれらの組合せであり得る。不飽和脂肪酸は、シスまたはトランス脂肪酸であり得る。一部の実施形態では、本開示の複合体において使用される不飽和脂肪酸は、シス脂肪酸である。
【0148】
6.1.5.4.糖に結合された無極性分子およびステロール
複合体は、糖(例えば、グルコースもしくはガラクトースなどの単糖類、またはマルトースもしくはトレハロースなどの二糖類)に結合された無極性分子もしくは部分(例えば、炭化水素鎖、アシルまたはジアシル鎖)またはステロール(例えば、コレステロール)を含む1つまたは複数の両親媒性分子を含有し得る。糖は、修飾された糖または置換糖であり得る。糖に結合された無極性分子を含む例示的な両親媒性分子として、ドデカン-2-イルオキシ-β-D-マルトシド、トリデカン-3-イルオキシ-β-D-マルトシド、トリデカン-2-イルオキシ-β-D-マルトシド、n-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)、n-オクチル-β-D-グルコシド、n-ノニル-β-D-グルコシド、n-デシル-β-D-マルトシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、4-n-ドデシル-α,α-トレハロース、6-n-ドデシル-α,α-トレハロース、および3-n-ドデシル-α,α-トレハロースが挙げられる。
【0149】
一部の実施形態では、無極性部分は、アシルまたはジアシル鎖である。
【0150】
一部の実施形態では、糖は、修飾糖または置換糖である。
【0151】
6.1.6.アンカー
カーゴ部分は、脂質結合タンパク質ベースの複合体へのカーゴ部分のカップリングを促進するために両親媒性部分または無極性部分に共有結合され得る。両親媒性部分および無極性分は、脂質結合タンパク質ベースの複合体における無極性領域と相互作用することができ、それにより両親媒性部分および無極性部分に結合されたカーゴ部分を複合体に固着させる。
【0152】
アンカーとして使用することができる両親媒性部分として、脂質(例えば、セクション6.1.5.1に記載されるような)および脂肪酸(例えば、セクション6.1.5.3に記載されるような)が挙げられる。一部の実施形態では、アンカーは、ステロールまたはステロール誘導体、例えば植物ステロール、動物ステロール、またはビタミンなどのステロール誘導体を含む。例えば、コレステロールなどのステロールは、カーゴ部分に共有結合されて(例えば、ステロールのA環の3位にある水酸基を介して)、カーゴ部分を複合体に固着させるのに使用することができる。アンカーとして使用することができる無極性分として、アルキル鎖、アシル鎖、およびジアシル鎖が挙げられる。カーゴ部分は、直接的にまたはリンカーを介して(例えば、二官能性ペプチドまたはセクション6.1.7に記載される他のリンカーを介して)間接的に、アンカー部分に共有結合され得る。生物学的に活性であるカーゴ部分は、アンカー(またはアンカーに結合されたリンカー)に共有結合されている間、それらの生物学的活性を保持し得る一方で、他の部分は、カーゴ部分をアンカー(またはアンカーに結合されたリンカー)に結合する共有結合の切断(例えば、加水分解による)を要し得る。
【0153】
一部の実施形態では、少なくとも1つのカーゴ部分は、アンカーにカップリングされている。一部の実施形態では、アンカーは、脂肪族および/または無極性部分を含む。一部の実施形態では、アンカーは、両親媒性部分を含む。一部の実施形態では、両親媒性部分は、複合体において両親媒性分子の1つを含む。一部の実施形態では、両親媒性部分は、脂質、洗浄剤、脂肪酸、糖に結合された無極性分子、または糖に結合されたステロールを含む。
【0154】
一部の実施形態では、両親媒性部分は、ステロールを含む。一部の実施形態では、ステロールは、動物ステロールまたは植物ステロールを含む。一部の実施形態では、ステロールは、コレステロールを含む。
【0155】
他の実施形態では、アンカーは、無極性部分を含む。一部の実施形態では、無極性部分は、アルキル鎖、アシル鎖、またはジアシル鎖を含む。
【0156】
一部の実施形態では、カーゴ部分は、直接的な結合によってアンカーにカップリングされる。
【0157】
一部の実施形態では、カーゴ部分は、リンカーによってアンカーにカップリングされる。
【0158】
6.1.7.リンカー
リンカーは、カーゴ部分を、Cargomerなどのカーゴ運搬複合体における他の部分に、例えばアポリポタンパク質分子、両親媒性分子、およびアンカーに共有結合する原子鎖を指す。幾つかのリンカー分子が、例えばThermoFisher Scientific社から市販されている。適切なリンカーは、当業者に周知されており、直鎖または分岐鎖炭素リンカー、複素環式炭素リンカー、およびペプチドリンカーが挙げられるが、これらに限定されない。リンカーは、ホモ二官能性またはヘテロ二官能性のいずれかである二官能性リンカーであり得る。
【0159】
適切なリンカーとして、切断可能なリンカーおよび切断不可能なリンカーが挙げられる。
【0160】
リンカーは、切断可能なリンカーであってもよく、in vivoでカーゴ部分の放出を促進する。切断可能なリンカーとして、酸に不安定なリンカー(例えば、ヒドラジンまたはシスアコニチルを含む)、プロテアーゼ感度(例えば、ペプチダーゼ感度)リンカー、光に不安定なリンカー、またはジスルフィド含有リンカーが挙げられる(Chari et al., 1992, Cancer Research 52:127-131;米国特許第5,208,020号明細書)。切断可能なリンカーは通常、細胞内条件下で切断の影響を受けやすい。適切な切断可能なリンカーとして、例えば、細胞内プロテアーゼ、例えばリソソームプロテアーゼまたはエンドソームプロテアーゼによって切断可能なペプチドリンカーが挙げられる。例示的な実施形態では、リンカーは、ジペプチドリンカー、例えばバリン-シトルリン(val-cit)またはフェニルアラニン-リジン(phe-lys)リンカーであり得る。
【0161】
切断可能なリンカーは、pH感受性であってもよく、即ち、ある特定のpH値での加水分解に感受性があり得る。通常、pH感受性リンカーは、酸性条件下で加水分解可能である。例えば、リソソームで加水分解可能な酸に不安定なリンカー(例えば、ヒドラゾン、セミカルバゾン、チオセミカルバゾン、シスアコニチン酸アミド、オルトエステル、アセタール、ケタールなど)が使用され得る。(例えば、米国特許第5,122,368号明細書;同第5,824,805号明細書;同第5,622,929号明細書;Dubowchik and Walker, 1999, Pharm. Therapeutics 83:67-123;Neville et al., 1989, Biol. Chem. 264:14653-14661を参照)。かかるリンカーは、血中の条件などの中性pH条件下で比較的安定であるが、リソソームのおおよそのpHであるpH5.5または5.0未満で不安定である。ある特定の実施形態では、加水分解可能なリンカーは、チオエーテルリンカー(例えば、アシルヒドラゾン結合を介してカーゴ部分に結合されたチオエーテル(例えば米国特許第5,622,929号明細書を参照))である。
【0162】
一部の実施形態では、リンカーは、還元条件下で切断可能である(例えば、ジスルフィドリンカー)。例えば、SATA(N-スクシンイミジル-5-アセチルチオアセテート)、SPDP(N-スクシンイミジル-2-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)、SPDB(N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルチオ)ブチレート)およびSMPT(N-スクシンイミジルオキシカルボニル-アルファ-メチル-アルファ-(2-ピリジル-ジチオ)トルエン)、SPDBおよびSMPTを使用して形成され得るものを含む、様々なジスルフィドリンカーが当該技術分野で既知である(例えば、Thorpe et al., 1987, Cancer Res. 47:5924-5931;Wawrzynczak et al., In Immunoconjugates: Antibody Conjugates in Radioimagery and Therapy of Cancer, C.W.Vogel ed., Oxford U. Press, 1987を参照。また、米国特許第4,880,935号明細書を参照)。
【0163】
一部の実施形態では、リンカーは、細胞内環境中に(例えば、リソソームまたはエンドソームまたはカベオラ内に)存在する切断剤、例えば酵素によって切断可能である。リンカーは、例えば、リソソームもしくはエンドソームプロテアーゼを含むがこれらに限定されない細胞内ペプチダーゼまたはプロテアーゼ酵素によって切断されるペプチジルリンカーであってもよい。一部の実施形態では、ペプチジルリンカーは、少なくとも2つのアミノ酸長または少なくとも3つのアミノ酸長である。切断剤は、カテプシンBおよびDならびにプラスミンを含んでもよく、それらは全て、ジペプチド薬誘導体を加水分解して、標的細胞の内側で活性薬物の放出をもたらすことが知られている(例えば、Dubowchik and Walker, 1999, Pharm. Therapeutics 83:67-123を参照)。一部の実施形態では、細胞内プロテアーゼによって切断可能なペプチジルリンカーは、Val-CitリンカーまたはPhe-Lysリンカーである。
【0164】
一部の実施形態では、リンカーは、マロネートリンカー(Johnson et al., 1995, Anticancer Res. 15:1387-93)、マレイミドベンゾイルリンカー(Lau et al., 1995, Bioorg-Med-Chem. 3(10):1299-1304)、または3’-N-アミド類似体(Lau et al., 1995, Bioorg-Med-Chem. 3(10): 1305-12)である。
【0165】
他の実施形態では、リンカー単位は、切断不可能であり、カーゴ部分は、例えば複合体分解によって放出される。例示的な切断不可能なリンカーとして、マレイミドカプロイル、4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸N-スクシンイミジル(SMCC)および4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸N-スクシンイミジル(SIAB)が挙げられる。
【0166】
一部の実施形態では、カーゴ部分は、リンカーによってアンカー(例えば、セクション6.1.6に記載されるような)にカップリングされる。一部の実施形態では、カーゴ部分をアンカーにカップリングさせるリンカーは、二官能性リンカーである。一部の実施形態では、カーゴ部分をアンカーにカップリングするリンカーは、切断可能なリンカーである。一部の実施形態では、切断可能なリンカーは、バリン-シトルリン(val-cit)またはフェニルアラニン-リジン(phe-lys)リンカーなどのジペプチドリンカーである。一部の実施形態では、カーゴ部分をアンカーにカップリングするリンカーは、切断不可能なリンカーである。例示的な切断不可能なリンカーとして、マレイミドカプロイル、4-(マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸N-スクシンイミジル(SMCC)および4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸N-スクシンイミジル(SIAB)が挙げられる。
【0167】
6.2.臓器保存溶液
市販の臓器保存溶液が幾つか存在する。これらの臓器保存溶液の多くは、保管および輸送中に外植される臓器および組織に引き起こされる損傷を最低限に抑える構成成分を含有する。臓器保存溶液はまた、移植片拒絶の可能性を低減するよう調整されている。臓器保存溶液は、様々な構成成分、例えば、コロイド、非透過性物質(impermeants)、気体、電解質、抗酸化剤、栄養分および/または代謝基質、緩衝液、およびそれらの組合せから選択される構成成分を含み得る。
【0168】
一部の市販の腎臓保存溶液として、コリンズ溶液、EC溶液、ウィスコンシン大学溶液(UW溶液)、ヒスチジン-トリプトファン-ケトグルタル酸溶液(HTK溶液)、Celsior(登録商標)溶液、高張クエン酸アデニン溶液(HC-A溶液およびHC-A II溶液)、リン酸緩衝スクロース(PBS)140、HP16、HBS、B2、Lifor、Ecosol、Biolasol、腎保存溶液2(RPS-2)、F-M、AQIXRS-I、WMO-II、Institute Georges Lopez-1(IGL-1(登録商標))およびCZ-1溶液が挙げられる(Chen et al., 2019, Cell Transplantation, 28(12): 1472-1489)。移植後に阻血/低酸素傷害を最小限に抑えて、臓器機能を最大限にするために、様々な構成成分が臓器保存溶液中に含まれ得る。
【0169】
市販の臓器保存溶液の例示的な構成成分を以下の表2に提示する:
【0170】
【0171】
【0172】
本開示の臓器保存溶液は、例えば、脂質結合タンパク質ベースの複合体と、表2に列挙した1つまたは複数の構成成分とを含み得る。例えば、臓器保存溶液は、脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)と、Celsior(登録商標)溶液、EC液、UW液、HTK液、IGL-1(登録商標)溶液、またはHC-A溶液の1つまたは複数の構成成分とを含み得る。一部の実施形態では、本開示の臓器保存溶液は、脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)と、Celsior溶液(登録商標)、EC液、UW液、HTK液、IGL-1(登録商標)溶液、またはHC-A溶液の構成成分とを含み、任意選択で、Celsior(登録商標)溶液、EC液、UW液、HTK液、IGL-1(登録商標)溶液、またはHC-A溶液の構成成分は、表2に示される濃度で、または表2に示される濃度の±20%、±15%、±10%、または±5%で存在する。一部の実施形態では、本開示の臓器保存溶液は、CER-001と、Celsior(登録商標)溶液の構成成分とを含む。一部の実施形態では、CER-001は、タンパク質ベースで0.1mg/mlから5mg/ml(例えば、0.3mg/mlから0.5mg/ml、0.2mg/mlから0.6mg/ml、0.1mg/mlから1mg/ml、1mg/mlから2mg/ml、または2mg/mlから5mg/ml)の濃度で存在する。一部の実施形態では、CER-001は、タンパク質ベースで0.4mg/mlの濃度で存在する。本明細書中で使用する場合、「タンパク質ベース」という表現は、脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)の量が、脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)における脂質結合タンパク質(例えば、ApoA-I)の量に基づいて算出されることを意味する。
【0173】
使用することができる別の例示的な臓器保存溶液は、0.5mMの塩化カルシウム(二水和物)、10mMのHEPES(遊離酸)、25mMのリン酸カリウム(一塩基)、30mMのマンニトール、10mMのグルコース(無水)、80mMのグルコン酸ナトリウム、5mMのグルコン酸マグネシウム、5mMのD-リボース、50g/Lのペンタフラクション(HES)、3mMのグルタチオン(還元型)、3mMのアデニン(遊離塩基)を含むPumpProtect(登録商標)溶液である。一部の実施形態では、本開示の臓器保存溶液は、脂質結合タンパクベースの複合体(例えば、CER-001)と、PumpProtect(登録商標)溶液の構成成分とを含む。一部の実施形態では、PumpProtect(登録商標)溶液の構成成分は、このパラグラフに列挙した濃度または±20%、±15%、±10%、または±5%で存在する。
【0174】
硫酸コンドロイチンおよびデキストランを含有する溶液(例えば、Optisol(商標)、Optisol GS(商標))は、角膜組織を保存するための溶液において使用することができる。McCarey-Kaufman(MK)培地、Chen培地、およびCornisolもまた使用することができる。例えば、市販の角膜保存溶液は、脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)で補充され得る。一部の実施形態では、角膜組織を保存するための溶液は、脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)と、1つまたは複数の(例えば、任意の1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、または8個の)下記:硫酸コンドロイチン、デキストラン、炭酸水素ナトリウム、抗生物質(例えば、ゲンタマイシンおよび/またはストレプトマイシン)、アミノ酸の混合物、ピルビン酸ナトリウム、L-グルタミン酸、および2-メルカプトエタノールとを含む。
【0175】
本開示の臓器保存溶液は、例えば、脂質結合タンパク質ベースの複合体を、溶液の他の構成成分と組み合わせることによって作製され得る。例えば、脂質結合タンパク質ベースの複合体は、あらかじめ作製された(例えば、市販の)臓器保存溶液と組み合わせることができる。あるいは、臓器保存溶液の構成成分は、任意の他の様式で組み合わせられ、例えば順次添加および混合され得る。
【0176】
一部の態様では、本開示は、臓器保存溶液製品を提供する。かかる製品は、密封容器、例えば袋(例えば、溶液1Lを含有する)または瓶(例えば、溶液1Lを含有する)中に本開示の臓器保存溶液を含み得る。
【0177】
6.2.1.コロイド
コロイド、特に高分子量コロイドは、臓器保存溶液中に含まれ得る。臓器保存溶液において、高分子量コロイドの添加は、血管内膠質浸透圧を維持して、間質浮腫を防止することができる。臓器保存溶液中に含まれ得る例示的なコロイドとして、ヒドロキシエチルデンプン(HES)(例えば、50kDa)、デキストラン(例えば、40kDa)、PEG35(35kDa)またはPEG20(20kDa)などのポリエチレングリコール(PEG)およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0178】
6.2.2.非透過性物質
非透過性物質は、細胞浮腫を制限するために臓器保存溶液中に含まれ得る。細胞膨潤の防止における非透過性物質の有効性は概して、それらの分子量によって決定される。一般に、より大きな分子は、細胞膨潤を防止するのにより優れている。非透過性物質の例として、グルコース(分子量180kDa)、マンニトール(分子量182kDa)、スクロース(分子量342Da)、ラフィノース(分子量504kDa)、ラクトビオン酸塩およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0179】
6.2.3.気体
酸素(O2)、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、硫化水素(H2S)およびアルゴン(Ar)を含む幾つかの気体が、臓器移植において阻血/低酸素傷害を低減するのに使用されている。気体は、臓器保存溶液に添加され得る。
【0180】
6.2.4.電解質
例えば塩由来の電解質は、ドナー臓器における電解質恒常性を維持する助けとなるように臓器保存溶液中に含まれ得る。例示的な電解質として、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Cl-、SO4
2-、PO4
3-、HCO3-、クエン酸塩およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0181】
6.2.5.抗酸化剤
臓器保存溶液は、外植された臓器に対する阻血/低酸素傷害を制限する助けとなるように抗酸化剤および/またはラジカルスカベンジャーを含み得る。ROS生成経路を妨げて、既存のROSを除去する添加剤は、臓器保存中の阻血/低酸素傷害を防止または低減する助けとなり得る。例示的な抗酸化剤および/またはラジカルスカベンジャーとして、アロプリノール(キサンタンオキシダーゼ阻害剤)、還元型グルタチオン(チオール含有アミノ酸)、トリプトファンまたはL-アルギニンおよびヒスチジンなどのROS除去アミノ酸、レシチン化(lecithinized)スーパーオキシドジムスターゼ(lec-SOD)、H2S、N-アセチルシステイン、プロポフォール、TMZ、rh-BMP-7、トロロクス、エダラボン、セレン、ニカラベン、プロスタグランジンE1、タンシノンIIAおよびそれらの組合せが挙げられる。
【0182】
6.2.6.栄養分および/または代謝基質
アミノ酸は、栄養分を提供するために、および/または代謝基質として作用するために臓器保存溶液中に含まれ得る。一部の実施形態では、アミノ酸は、トリプトファン、グルタミン酸、ヒスチジン、L-アルギニン、N-アセチルシステイン、およびD-システインの1つまたは複数から選択される。一部の実施形態では、臓器保存溶液中に含まれる栄養分として、環状ヘリックスBペプチド栄養因子、例えば、ウシ好中球ペプチド-1(BNP-1)、サブスタンスP(SP)、神経成長因子-β(NGF-β)、インスリン様増殖因子-1(IGF-1)、上皮様増殖因子(EGE)、肝細胞増殖因子(HGF)、組換えヒト骨形成タンパク質-7(rh BMP-7)、レシチン化スーパーオキシドジムスターゼ(lec-SOD)、TNF-受容体融合タンパク質(TNF-RFP)およびそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
【0183】
6.2.7.緩衝液
緩衝剤は、細胞pHを制御するために臓器保存溶液中に含まれ得る。一部の実施形態では、本開示の臓器保存溶液のpHは、約7.0から約7.4である。一部の実施形態では、緩衝剤は、ホウ酸塩、ホウ酸塩-ポリオール複合体、コハク酸塩、リン酸塩緩衝剤、クエン塩酸緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、有機緩衝剤、ヒスチジンなどのアミノ酸緩衝剤、およびそれらの組合せから選択される。
【0184】
6.2.8.他の構成成分
ミトコンドリア機能不全は、ATP合成の障害および考え得るATP欠乏をもたらし得る阻血中の重大な事象である。ミトコンドリア完全性を維持すること、およびミトコンドリア機能を保護することは、臓器保存溶液の重要な要件である。一部の実施形態では、本開示の臓器保存溶液は、1つまたは複数のミトコンドリア保護試薬を含有する。適切なミトコンドリア保護試薬として、H2S、MitoQ、キナクリン、TMZ、およびAP39が挙げられるが、これらに限定されない。
【0185】
多重の炎症経路および因子は、阻血後傷害をもたらし得る臓器の再灌流中に活性化され得る。一部の実施形態では、特定抗体または経路阻害剤は、炎症応答を調節し、阻血後傷害を減衰させるために臓器保存溶液中に含まれ得る。適切な化合物として、内皮受容体アンタゴニスト、TNF-受容体融合タンパク質(TNF-RFP)、ICAM-1アンチセンスデオキシヌクレオチド、内皮受容体アンタゴニスト、p38MAPK阻害剤、例えばFR167653、外因性COまたはCO放出分子、H2S、O2、Ar、メラガトラン、環状ヘリックスBペプチド、TMZ、lec-SOD、Rho-キナーゼ阻害剤HA1077、トロンビン阻害剤、例えばメラガトラン、血小板活性化因子(PAF)受容体アンタゴニスト、プロテアソーム阻害剤およびそれらの組合せが挙げられる。
【0186】
阻血/低酸素、続く再灌流傷害は、アポトーシス、ネクローシスおよびオートファジー関連細胞死などの細胞死プログラムの活性化を引き起こす。一部の実施形態では、臓器保存溶液は、グルココルチコイド、例えばデキサメタゾン、ネイキッドカスパーゼ3 siRNA、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)-2 siRNA、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化因子およびそれらの組合せなどの細胞死プログラムの活性化を阻止する添加剤を含有する。
【0187】
一部の実施形態では、アデノシンなどのエネルギー物質は、保存中の迅速なATP再生を可能にするために臓器保存溶液中に添加され得る。
【0188】
臓器保存溶液への他の有用な添加物として、ベラパミルのようなカルシムチャネルブロッカーなどのCa2+恒常性を補助する薬剤またはPI3K/Akt/PKG依存性経路を介してNa+/H+交換体活性を阻止し得るカルシウム過負荷を防止し得る他の薬理学的試薬、例えばH2Sが挙げられる。
【0189】
ある特定の実施形態では、プロスタグランジンE1、タウリン、ラノラジンおよびそれらの組合せを含むがこれらに限定されない1つまたは複数の添加剤が、臓器保存溶液中に含まれる。
【0190】
6.3.キットおよびシステム
ある特定の態様では、本開示は、例えばセクション6.1に記載されるような脂質結合タンパク質ベースの複合体と、例えばセクション6.2に記載されるような臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分とを含むキットを提供する。ある特定の実施形態では、脂質結合タンパク質ベースの複合体は、キットにおいて溶液の形態で提供される。ある特定の実施形態では、脂質結合タンパク質ベースの複合体は、キットにおいて凍結乾燥形態で提供される。
【0191】
ある特定の実施形態では、キットの1つまたは複数の構成成分は、密封容器中に提供される。一部の実施形態では、密封容器は袋である。
【0192】
ある特定の実施形態では、臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分は、キットにおいて溶液の形態で存在する。
【0193】
ある特定の実施形態では、臓器保存溶液複合体の1つまたは複数の構成成分は、密封容器中に存在する。一部の実施形態では、密封容器は袋である。
【0194】
一部の実施形態では、キットは、1つの容器中に脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)を、また1つまたは複数のさらなる容器中に臓器保存溶液の残りの構成成分を含む。例えば、キットは、1つの容器中に脂質結合タンパク質ベースの複合体(例えば、CER-001)を、また第2の容器中にCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、またはHC-A溶液を含み得る。一部の実施形態では、キットは、1つの容器中にCER-001を、またまた別の容器中にCelsior(登録商標)溶液を含む。完成臓器保存溶液は、脂質結合タンパク質ベースの複合体を、他の構成成分と組み合わせることによってかかるキットから作製され得る。
【0195】
別の態様では、本開示は、(a)本開示の臓器保存溶液または臓器保存溶液製品と、(b)灌流機および/または臓器(例えば、ヒトもしくはブタなどの例えば哺乳動物由来であり得る腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸または気管)とを含むシステムを提供する。一部の実施形態では、システムは、灌流機を含む。他の実施形態では、システムは、臓器を含む。さらに別の実施形態では、システムは、灌流機と、臓器とを含む。例示的な灌流機として、心肺装置、正常温度灌流機および正常温度以下の(subnormothermic)灌流機が挙げられるが、これらに限定されない。
【0196】
別の態様では、本開示は、(a)本開示の臓器保存溶液または臓器保存溶液製品と、(b)ヒトまたはブタなどの例えば哺乳動物由来であり得る組織(例えば、眼(例えば、角膜または強膜)、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、または神経組織)とを含むシステムを提供する。一部の実施形態では、システムは、灌流機をさらに含む。
【0197】
6.4.臓器、組織、臓器および組織保存のプロセスならびに移植方法
一部の態様では、本開示は、本開示の臓器保存溶液を使用したex vivo臓器保存のプロセスを提供する。臓器は、例えば、ヒトまたはブタ臓器などの哺乳動物臓器であり得る。例示的な臓器として、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、および気管が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、臓器は腎臓である。一部の実施形態では、臓器は眼である。
【0198】
上記プロセスは、例えば、本開示の臓器保存溶液を使用して臓器の機械灌流を実施するステップを含み得る。臓器保存溶液は、一部の実施形態では、血液、例えば全血で希釈され得る。例えば、臓器保存溶液は、臓器保存溶液対全血の容量:容量比1:1から1:3で、全血を用いて希釈され得る。一部の実施形態では、比は1:1である。他の実施形態では、比は1:3である。あるいは、臓器保存溶液は、希釈なしで使用され得る。
【0199】
機械灌流は、例えば、正常温度、例えば30℃から38℃、または正常温度未満、例えば2℃から8℃であり得る。一部の実施形態では、機械灌流は、30℃から38℃で実施される。他の実施形態では、機械灌流は、2℃から8℃で実施される。他の実施形態では、機械灌流は、8℃~30℃(例えば、20℃から25℃)の温度で実施される。機械灌流は、一部の実施形態では、臓器を臓器保存溶液で、例えば低温臓器保存溶液(例えば、2℃から8℃)で流すステップが先行され得る。
【0200】
低温保管(CS)を使用して臓器を保存するプロセスもまた提供される。一部の実施形態では、低温保管は、臓器を、機械灌流の非存在下で、例えば2℃から6℃で臓器保存溶液中に保管するステップを含む。低温保管は、一部の実施形態では、臓器を、臓器保存溶液で、例えば低温臓器保存溶液(例えば、2℃から8℃)で流すステップが先行され得る。
【0201】
機械灌流および低温保管は、任意の適切な時間、例えば臓器がドナーから収集される時間(またはその直後)からレシピエントへの移植までの時間(またはその直前)で実施され得る。一部の実施形態では、機械灌流または低温保管は、臓器で少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、および/または最大1週間、最大5日間、最大4日間、最大3日間、最大2日間、最大36時間、最大1日間、最大12時間、あるいは先述の値の任意の2つで囲まれた任意の範囲、例えば2から4時間、2から6時間、4から6時間、6時間から12時間、12時間から1日間、1日間から2日間
などで実施される。
【0202】
一部の実施形態では、腎臓は、最大24時間または最大36時間、機械灌流または低温保管に付される。
【0203】
一部の実施形態では、肝臓は、最大12時間、機械灌流または低温保管に付される。
【0204】
一部の実施形態では、肺は、最大6時間または最大8時間、機械灌流または低温保管に付される。
【0205】
一部の実施形態では、心臓は、最大4時間または最大6時間、機械灌流または低温保管に付される。
【0206】
一部の実施形態では、膵臓は、最大12時間または最大1日間、機械灌流または低温保管に付される。
【0207】
一部の実施形態では、腸は、最大12時間または最大1日間、機械灌流または低温保管に付される。
【0208】
一部の実施形態では、気管は、最大12時間または最大1日間、機械灌流または低温保管に付される。
【0209】
臓器保存のプロセスは、臓器を臓器ドナーから取り出すステップをさらに含み得る。一部の実施形態では、臓器ドナーは、生存ドナー(例えば、腎臓ドナー)である。他の実施形態では、ドナーは死亡している。
【0210】
本開示は、本開示の臓器保存プロセスによって保存された臓器を、臓器移植を必要とする対象へ移植するステップを含む、臓器移植の方法をさらに提供する。本明細書中に記載される方法に従って処置され得る対象は、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
【0211】
一部の態様では、本開示は、本開示の臓器保存溶液を使用したex vivo組織保存のプロセスを提供する。組織は、例えば、ヒトまたはブタ組織などの哺乳動物組織であり得る。例示的な組織として、眼(例えば、角膜または強膜)、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、および神経組織が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、組織は角膜組織である。
【0212】
プロセスは、例えば、組織を、本開示の臓器保存溶液中に保管するステップ(例えば、低温保管(CS))を含み得る。一部の実施形態では、低温保管は、組織を、臓器保存溶液中で、例えば2℃から6℃にて保管するステップを含む。
【0213】
臓器保存溶液中での組織の保管は、任意の適切な時間、例えば組織がドナーから収集される時間(またはその直後)からレシピエントへの移植までの時間(またはその直前)で実施され得る。一部の実施形態では、保管は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、および/または最大4週間、最大2週間、最大1週間、最大5日間、最大4日間、最大3日間、最大2日間、最大36時間、最大1日、最大12時間、あるいは先述の値の任意の2つで囲まれた任意の範囲、例えば2から4時間、2から6時間、4から6時間、6時間から12時間、12時間から1日間、1日間から2日間、1日間から1週間、1週間から2週間、2週間から4週間などで実施される。一部の実施形態では、角膜組織は、臓器保存溶液中で、最大4週間保管される。
【0214】
臓器保存のプロセスは、組織を組織ドナーから取り出すステップをさらに含み得る。一部の実施形態では、組織ドナーは生存ドナーである。他の実施形態では、ドナーは死亡している。
【0215】
本開示は、本開示の臓器保存プロセスによって保存された組織を、臓器移植を必要とする対象に移植するステップを含む、組織移植の方法をさらに提供する。本明細書中に記載される方法に従って処置され得る対象は、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトである。
【実施例】
【0216】
7.実施例
免疫抑制療法における、および移植手術技法の分野における近年の改善にもかかわらず、阻血/再灌流傷害は、移植された臓器の機能的損失の主な原因の1つとなり続けている。
【0217】
IRI損傷を制限することが可能な新たな戦略における関心は、臓器保存に必要な灌流機の成長過程にある技術的な向上に起因してここ数十年で膨大な力を受けてきた。レシピエントの輸送または準備中に臓器の品質を保存する優れた機会であることに加えて、灌流機は、臓器が移植前に薬理学的に処置されることを可能にする。腎IRI損傷の状況で、酸化的ストレスを調節することが可能なモノクローナル抗体αCD47Ab、可溶性補体受容体因子sCR1および抗凝固の役割を有する組換えタンパク質トロンボモジュリン(rTM)などの幾つかの薬理学的アプローチが、マウスモデルにおいて試行されている。しかしながら、これらの薬物の多くは、臨床状況に移されると効果的ではなかった(Hameed et al., 2020, Sci Rep. 10(1):6930)。理論に縛られないが、HDLおよびCER-001などのHDL疑似体は、酸化的ストレス、炎症および凝固の同じメカニズムで作用することによって臓器保存溶液中でex vivoでIRI損傷を制限することが可能であると考えられる。さらに、HDLおよびCER-001などのHDL疑似体は、モノクローナル抗体の同じ二次効果を引き起こすと予想されない内因性タンパク質を含む。
【0218】
実施例1は、IRI腎臓損傷のブタモデルにおける臓器保存研究について記載する。IRIブタモデルは、それが血清クレアチニンの低減、間質性線維症、尿細管委縮、循環性白血球の浸潤を模倣するため、腎臓移植のヒト系で起きることの良好な動物モデルである(Delpech et al 2016, J Transl Med 14, 277)。
【0219】
ブタモデルの別の利点は、薬物によって調節されるプロセスが、明らかに強調されるのを可能にする、温阻血および冷阻血から再灌流までの腎動脈のクランピングを特徴とする手順全体を制御する能力である。細胞内ATPの低減、乳酸の増加、Ca++の細胞内蓄積およびミトコンドリアレベルでのO2のフリーラジカルの形成の代謝変化は、モデルにおいて正確に研究することができる。
【0220】
ブタおよびヒトの腎臓は、解剖学的に類似している(齧歯類および単葉マウスの腎臓と対比して多葉性構造を特徴とする)。ブタの身体サイズは、ヒトの身体サイズと類似した外科的処置、予備灌流技術の評価および最適化のための末梢血またはバイオプシーの反復収集を可能にする。最終的に、免疫系の生理学との密接な類似性が、臓器保存溶液におけるHDLおよびCER-001などのHDL疑似体の有効性の評価を可能にする。
【0221】
7.1.[実施例1]:ブタex vivo灌流モデルにおける阻血/再灌流傷害を低減するためのCER-001の有効性の評価
総計28匹のブタを本研究に使用する。体重45~60kgのブタを、研究前の24時間絶食させる。動物には全て、咽頭および気管分泌物を低減して、挿管後の徐脈を防止するためにアザペロン(8mg/kg)およびアトロピン(0.03mg/kg)の筋内混合物を前投与する。大腿静脈のカニューレ挿入後、腎臓のex vivo灌流のための静脈血600mLを、それぞれヘパリン5,000IUを充填した滅菌血液袋に採取する(活性凝固時間、ACT480秒まで)。麻酔後、両方の腎臓に、正中腹側切開を介して接近する。その後、腎動脈および静脈を単離して、直角クランプを用いて、血管ループを腎動脈周辺に配置する。血管ループをたぐり寄せることによって、温阻血を60分間誘導した後、3時間灌流する。次に、1mL/kg(体重)のペントバルビタールのIV投与によって、動物を安楽死させる。臓器外植後、腎臓を秤量し、4℃にてCelsiory溶液で流した。各ブタに関して、一方の腎臓を4℃で静的に保管する(低温静的保管、CS)のに対して、他方の腎臓を機械灌流システムに挿入する。灌流されている腎臓に関して、腎動脈にカニューレ挿入し(逆光性心筋保護カテーテル)、腎静脈(1/4”チューブコネクター、1/4”管組織)および尿管(14Fr.カテーテル)にカニューレ挿入する。心拍数、酸素ヘモグロビン飽和、呼吸気体組成、呼吸数、一回呼吸量、気道圧、収縮期血圧および中心静脈圧を連続的にモニタリングして、自動的に記録する(Ohmeda Modulus CD;Datex Ohmeda社、ヘルシンキ、フィンランド)。
【0222】
7.1.1研究設計
臓器外植食後、腎臓を下記の群へ無作為化する:
【0223】
群1:4℃で6時間、保存溶液としてCelsior(登録商標)を用いて低温保管した腎臓(CS)、N=7。
【0224】
群2:4℃で6時間、CER-001(0.4mg/ml)を補充した保存溶液としてCelsior(登録商標)を用いて低温保管した腎臓(CS+CER-001)、N=7。
【0225】
群3:32℃で6時間、Celsior(登録商標)溶液+全血(1:1比)を用いた正常温度灌流機で灌流させた腎臓(NMP)、N=7。
【0226】
群4:32℃で6時間、CER-001(0.4mg/ml)を補充したCelsior(登録商標)溶液+全血(1:1比)を用いた正常温度灌流機で灌流させた腎臓(NMP+CER-001)。
【0227】
Celsior(登録商標)溶液を用いて腎動脈を通して腎臓全てを流した後、各腎臓にカニューレ挿入する。正確な温度制御を可能にする3T Heater-Coolerデバイス(Stockert GmbH社、ドイツ)を装備したS3心肺装置(HLM)(Stockert GmbH社、ドイツ)によってNMPを実施する。さらに、S3 HLMには、掃引流速および吸入酸素濃度(FiO2)の観点で正確な気体送達を保証するSechrist Model 3500CP-G低流速気体ブレンダー(Sechrist社、米国)が装備されている。灌流回路は幾つかの消耗品を含む:ホスホリルコリン(PC)コーティングを有する小児人工肺Lilliput2(LivaNova社、イタリア);遠心ポンプ(LivaNova社、イタリア)、心臓切開術(LivaNova社、イタリア)、管組織におけるPVC1/4(LivaNova社、イタリア)。特注設計したポンプコントローラーを手動で調節することによって標的平均動脈圧(MAP)75mmHgを維持して、連続的にモニタリングする。腎血流(RBF)を、超音波流量センサーを介してモニタリングする。
【0228】
7.1.2.灌流液および尿のサンプリングならびに分析
動脈および静脈灌流液ならびに尿の試料を、別個の時点で収集する。動脈および静脈pO2ならびにpHレベルを、血液気体アナライザーを使用して測定する。腎代謝活性は、動脈および静脈の酸素含有量、動脈および静脈SO2およびpO2値ならびにヘモグロビン濃度を使用することによって、酸素消費の算出((caO2-cvO2)*RBF/腎臓の重さ)によって概算される(ca/vO2=Sa/vO2*1.34*c(Hb)+pa/vO2*0.0031)。尿は別々に収集して、尿量を記録する。
【0229】
灌流液血漿試料および尿試料は、次の分析のために-80℃で保管する。灌流液試料は、ナトリウムおよびクレアチニンレベルに関して分析する。尿試料中のタンパク質、ナトリウムおよびクレアチニン濃度を決定する。動脈灌流液および尿レベルを使用して、クレアチニンクリアランス(尿クレアチニン*尿流/血漿クレアチニン/腎臓の重さ)およびナトリウム排泄率(尿ナトリウム*血漿クレアチニン/血漿ナトリウム/尿クレアチニン)を算出する。
【0230】
灌流パラメーター
・ 灌流液溶液:Celsior(登録商標)溶液+全血(ヘマトクリットHCTに基づいて1:1/1:3の比);
・ Hb:9~11mg/dL(このパラメーター未満の場合、回収手順中に細胞セーバーデバイスを介して得られた白血球欠乏の無血漿血液が添加される);
・ 未分画ヘパリン(UFH)のU.I.;
・ 灌流の持続期間:6時間;
・ 灌流圧:75mmHg超;
・ 腎静脈圧:0~3mmHg;
・ 流速:代謝パラメーターおよび血管抵抗に基づいて調節;
・ 灌流温度:32℃。
【0231】
モニタリング
・ 流速(mL/分):連続的なモニタリング;
・ 圧力(mmHg):連続的なモニタリング;
・ 腎臓内抵抗(mmHg/mL/分):10分で点検;
・ 血液-気体分析(酸-塩基恒常性、電解質、Hb、PaO2、PaCO2など):30分で点検;
・ 代謝パラメーター(DO2、VO2、O2ER):30分で点検;
・ 灌流温度:連続的なモニタリング。
【0232】
分析
灌流前および灌流後:
・ 重量
血液気体測定:
・ 動脈:pH、pOs、pCO2、HCO3-、塩基過剰、乳酸塩、Na+、K+、Cl-、Ca2+
・ 静脈:pH、pOs、pCO2、HCO3-、塩基過剰、乳酸塩、Na+、K+、Cl-、Ca2+
腎臓機能:
・ 尿量(ml/h)
・ 血清クレアチニンレベル(umol/l)
・ クレアチニンクリアランス(ml/分/100g)
・ 腎酸素消費(ml/分/グラム(pO2動脈-pO2静脈)×(流速)/体重(gewicht))、ナトリウム排泄率(FENa=[Na+]尿×クレアチン濃度血漿/[Na+]血漿×クレアチン濃度尿)
損傷マーカー:
・ AST
・ LDH
・ サイトカイン:IL-6、MCP-1、CRP、IL-8、TNF-α、CXCL-10、PAI-1
【0233】
腎バイオプシーを、手順のT0およびTendで実施して、下記を測定する:
・ ATP
・ 補体
・ 組織学
・ 染色H&E形態、PMN浸潤物、ICAM-1、P-セレクチン、MPO
【0234】
7.1.3.結果
予備結果において、CER-001を補充していないCelsior(登録商標)溶液を用いて保存した外移腎臓に対して、CER-001を補充したCelsior(登録商標)溶液を用いて保存した外移腎臓において、腎流体力学、炎症性サイトカインレベル、および組織学の改善が観察された。
【0235】
7.2.[実施例2]:ヒト内皮細胞および尿細管上皮細胞を保護するためのCER-001の有効性のin vitro評価
このin vitro研究の目的は、内皮細胞および尿細管外皮細胞に関するCER-001保護の分子メカニズムを評価することである。C5aおよびH202刺激、続くCER-001への曝露後のヒト内皮細胞および尿細管上皮細胞に対するCER-001(50μg/mlおよび500μg/ml)の効果を、in vitroで評価する。C5a補体構成成分は、細胞培養において強力な炎症を誘導することが可能な最も強力な補体アナフィラトキシンであり、阻血/再灌流関連免疫活性化を模倣するのに使用される(Peng et al., 2012, J Am Soc Nephrol. 23(9):1474-1485;Curci et al., 2014, Nephrol Dial Transplant. 29(4):799-808;Franzin et al., 2020, Front Immunol. 11:734)。CER-001による前処置、続くC5aおよびH202刺激も評価する。
【0236】
下記の分析を実施する:
・ バイタリティー検査(MTT、アネキシンV/PI)
・ サイトカイン(IL-6、MCP-1として)に関するELISA検査
・ 酸化的ストレス分析に関する検査(即ち、AOPP ASSAY KIT Oxiselect)
・ VCAM、ICAM-1
・内皮細胞におけるSR-BIによるシグナル伝達経路分析およびHDL媒介性シグナル伝達を検出するためのeNOSタンパク質におけるSer 1177のリン酸化に関するウェスタンブロット(Uittenbogaard et al., 2000, J Biol Chem, 275:11278-11283;Adelheid Kratzer et al., 2014, Cardiovascular Research, Vol. 103(3): 350-361)。
【0237】
CER-001は、C5aおよびH202刺激後に免疫活性化を低減する。
【0238】
7.3.[実施例3]:ECDおよびDCDドナー由来の廃棄される腎臓の品質を改善するためのex-vivo正常温度機械灌流におけるCER-001の使用
この実施例の目的は、CER-001によるCelsior(登録商標)溶液の補充に基づく新たな正常温度未満の保存戦略の状況において腎臓機能、内皮機能不全、サイトカイン放出および組織学的損傷のレベルを比較することである。廃棄されるDCDおよびECD腎臓のex-vivo灌流中の腎臓機能、炎症、アポトーシス、内皮機能不全および移植脈管障害を評価する。この研究の目標の1つは、CER-001の送達によって臓器移植用の市販の灌流システムを最適化して、移植片生着を改善することである。
【0239】
7.3.1.研究設計
研究は2つの群を有する。両方の群において、腎臓は、非管理の心停止後臓器提供(uDCD)ドナーおよび/または拡大基準ドナー(ECD)由来であるか、あるいは組織学的スコア(Karpinskyスコア)ならびに腎臓ドナーリスク指数(KDRI)および腎臓ドナープロファイル指数(KDPI)などの移植片転帰を予測することが可能な指標に基づいて移植可能な臓器ではないと断言されている。
【0240】
KDRIは、年齢、高血圧および糖尿病の有病率、死因、および血清クレアチニン(sCr)レベルを含むドナー因子を使用した移植片評価および意思決定のために開発された。KDRIに倣って、KDPIは、術後の移植片機能の予測および配分プロセスに広く使用されている。
【0241】
KDRIおよびKDPIのスコアは、幾つかの臨床因子に基づいている。しかしながら、年齢は、これらのスコアを算出するのに最も重要な因子である。
【0242】
2つの群は以下である:
・ 従来のCelsior(登録商標)溶液を用いたin-situ低温フラッシュ、続く6時間の正常温度機械灌流による標準的な腎臓獲得を受ける対照群。
・0.4mg/mlでCER-001を補充した従来のCelsior(登録商標)溶液を用いたin-situ低温フラッシュ、続く6時間の正常温度機械灌流による標準的な腎臓獲得を受けるCER-001群。
【0243】
7.3.2.分析
分析される主な出力は、尿産生を含む腎臓機能である:
【0244】
腎機能:
・ 尿量(ml/h)
・ 血清クレアチンレベル(umol/l)
・ クレアチニンクリアランス(ml/分/100g)
・ 腎酸素消費(ml/分/グラム(pO2動脈-pO2静脈)×(流速)/体重)、ナトリウム排泄率(FENa=[Na+]尿×クレアチン濃度血漿/[Na+]血漿×クレアチン濃度尿)
【0245】
灌流前および灌流後:
・ 体重
【0246】
血液気体測定:
・ 動脈:pH、pOs、pCO2、HCO3-、塩基過剰、乳酸塩、Na+、K+、CL-、Ca2+
・ 静脈 pH、pOs、pCO2、HCO3-、塩基過剰、乳酸塩、Na+、K+、CL-、Ca2+
【0247】
腎バイオプシーを、T0およびTendで実施して、下記を測定する:
・ ATP
・ 補体
・ 組織学
・ 染色H&E形態、PMN浸潤物
・ ICAM-1、P-セレクチン、MPO
【0248】
灌流パラメーター:
・ 灌流液溶液Celsior(登録商標)溶液+全血(ヘマトクリットHCTに基づいて1:1/1:3の比)
・ Hb:7mg/dL超(未満の場合、回収手順中に細胞セーバーデバイスを介して得られた白血球欠乏の無血漿血液が添加される)
・ 未分画ヘパリン(UFH)のU.I.
・ 灌流圧:75mmHg超
・ 腎静脈圧:0~3mmHg
・ 流速:代謝パラメーターおよび血管抵抗に基づいて調節
・ 灌流温度:32℃
【0249】
モニタリング
・ 流速(mL/分):連続的なモニタリング
・ 圧力(mmHg):連続的なモニタリング
・ 腎臓内抵抗(mmHg/mL/分):10分で点検
・ 血液-気体分析(酸-塩基恒常性、電解質、Hb、PaO2、PaCO2など):30分で点検
・ 代謝パラメーター(DO2、VO2、O2ER):30分で点検
・ 灌流温度:連続的なモニタリング
【0250】
損傷マーカー:
・ AST
・ LDH
・サイトカイン:IL-6、MCP-1、CRP、IL-8、TNF-アルファ、CXCL-10、PAI-1
【0251】
7.3.3.結果
CER-001の存在下でNMPに付した腎臓は、CER-001の非存在下でNMPに付した腎臓と比較して、腎損傷の低減を示す。理論に縛られないが、CER-001、ならびに他の脂質結合タンパク質ベースの複合体は、本明細書中に記載される臓器保存溶液において使用される場合、例えば、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、および気管において、臓器機能を保存する助けとなり、臓器損傷を制限することができると考えられる。
【0252】
7.4.[実施例4]:ブタex vivo灌流モデルにおける阻血/再灌流傷害を低減するためのCER-001の有効性の評価
7.4.1.材料および方法
総計10匹のブタを、両耳側電気ショックで気絶させ、続いて、正常な屠殺場の手順に従って血を抜いた(UNI En ISO 9001)。温阻血の60分後、腎臓を流して、4℃にて乳酸リンゲル液500mlで冷却し、これが冷阻血の開始を示した(T-1)。次に、腎臓を一晩低温保管して、損傷のレベルを増加させた。翌日、臓器由来の血管を露出させて、腎灌流機デバイスに接続した(T0)。CER-001を補充したPumpProtect(登録商標)溶液およびCER-001を補充していないPumpProtect(登録商標)溶液を使用して、酸素処理した拍動性低温機械灌流(HMP)を、平均動脈圧25mmHgで4時間実施した(T4またはTend)。
【0253】
過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色によってT0、T2、およびTendで、組織学的分析を実施した。デジタルスライドを、AperioScanScope CS2デバイス(Aperio、Vista社、CA、米国)を使用することによって獲得および分析した。尿細管傷害スコア測定を、Aperio Scanスコアソフトウェアを使用して実施した。尿細管損傷は、2名の盲検観測者によって半定量的にスコア付けした。各動物におけるスコア指数は、得られたスコア全ての平均値として表し、またメジアン±IQRと表した。
【0254】
CCL2(MCP-1)およびTNF-αレベルならびにアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼレベルを、灌流液中でT-1、T0、T2、およびTendにて測定した。
【0255】
CCL2(MCP-1)、IL-6およびエンドセリン-1(ET-1)遺伝子発現レベルを、腎バイオプシーにおいてT0およびTendにて、qRT-PCRによって測定した。
【0256】
7.4.2.結果
CER-001を補充していないPumpProtect(登録商標)溶液を用いて保存した外植腎臓に対して、CER-001を補充したPumpProtect(登録商標)溶液を用いて保存した外植腎臓において、腎血管抵抗パラメーターの改善が観察された(
図1A~1B)。
【0257】
組織学的分析は、心臓死後のブタ腎臓の腎形態の典型的な変化を示した。これらの変化は、尿細管刷子縁の損失、尿細管細胞の空胞形成および拡張を含み、一晩の静的低温保管(SCS)後により明白になった(
図2A、T0)。従来のPumpProtect(登録商標)溶液を用いたHMP処置は、腎生理学的形態を部分的に保存し、傷害を低減した(
図2A、対照)。しかしながら、CER-001補充溶液を用いたHMP処置は、膨張および尿細管上皮細胞のネクローシス/アポトーシスの低減、扁平上皮の減少、浮腫の低減および腎組織の全体的な改善を伴って、腎組織を著しく改善した(
図2A、「CER001」)。
【0258】
CER-001を補充していないPumpProtect(登録商標)溶液を用いて保存した外植腎臓に対して、CER-001を補充したPumpProtect(登録商標)溶液を用いて保存した外植腎臓において、尿細管傷害が低減された(
図2B)。炎症性サイトカインの灌流液分析により、非補充溶液と比較して、CER-001補充保存溶液中でのHMP処置後にMCP-1およびTNF-αレベルの低減が明らかとなった(
図2C~2D)。アスパラギン酸トランスフェラーゼレベル(腎傷害のマーカーとして評価される)は、CER-001を補充していないPumpProtect(登録商標)溶液を用いて保存した外植腎臓に対して、CER-001を補充したPumpProtect(登録商標)溶液を用いて保存した腎臓に関して、T2およびTendで低減された(
図2E)。
【0259】
CER-001補充PumpProtect(登録商標)溶液を用いて灌流させた腎臓おけるCCL2(MCP-1)、IL-6およびET-1遺伝子発現は、非補充溶液を用いて灌流させた腎臓と比較して減少した(
図3A~3C)。
【0260】
7.5.[実施例5]:ヒト内皮細胞を保護するためのCER-001の有効性のin vitro評価
このin vitro研究の目的は、内皮細胞に関するCER-001保護の分子メカニズムを評価することであった。
【0261】
内皮細胞において、Ser-1177でのeNOSのリン酸化は、in vivo NO生成を調節し、保護的な抗アポトーシス、抗酸化および抗炎症性効果を伴って、酵素のCa2+感度およびNO形成の速度の両方を変更させる。通常、Ser-1177でのeNOSのリン酸化は、血管内皮増殖因子(VEGF)によって刺激される。Thr-495のリン酸化は、カルモジュリンおよびカベオリン相互作用の調節を通じてこのプロセスに間接的に影響を及ぼす(Chen et al., 2008, J Biol Chem. 283(40):27038-27047)。
【0262】
この研究において、ヒト内皮細胞(HUVEC)を、EndoGro培地中で成長させた後、(i)10-7nMのC5aとともに60分間、(ii)4μg/mlのLPSとともに60分間、(iii)CER-001(5~100μg/lの範囲)とともに60分間、または(iv)10-7nMのC5aとともに30分間、続いてCER-001とともに30分間、インキュベートした。50ng/mlのVEGFとともに60分間インキュベートしたHUVEC細胞を、Ser-1177でのeNOSのリン酸化の陽性対照として使用した。Ser 1177-eNOSのリン酸化は、FACSによって分析した。
【0263】
CER-001は、C5a刺激後に内皮細胞機能不全を低減させた(
図4)。未処置の条件(基礎)と比較して、C5aおよびLPSはともに、ホスホSer1177-eNOSの著しい減少を誘導したのに対して、CER-001は、ホスホSer1177-eNOSレベルを増加させた。C5aに30分間、続いてCER-001にもう30分間曝露した内皮細胞は、C5a条件と比較して、ホスホSer1177-eNOSレベルの回復を示し、CER-001の保護的な役割を示した。
【0264】
7.6.[実施例6]:腎臓の品質を改善するためのex-vivo正常温度機械灌流におけるCER-001の使用
腎臓を、従来の臓器保存溶液を用いた、またはCER-001を補充した従来の臓器保存溶液を用いた正常温度機械灌流(NMP)に付した。
【0265】
結果を
図5A~5Eに示す。CER-001を補充していない従来の溶液を用いて灌流させたNMP灌流腎臓と比較して、CER-001を補充した従来の溶液を用いて灌流させたNMP灌流腎臓の血管腎抵抗(
図5A~5C)および腎流(
図5D)において、著しい改善が観察された。尿量は、CER-001補充溶液を用いて灌流させた腎臓においてレベルの増加を示した(
図5E)。
【0266】
8.特定実施形態
本開示の様々な態様は、下記の番号が付されたパラグラフに記載される実施形態に記載されている。
1.臓器保存溶液に用いられる脂質結合タンパク質ベースの複合体。
2.再構成されたHDLまたはHDL疑似体である、実施形態1に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
3.スフィンゴミエリンを含む、実施形態1または実施形態2に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
4.負に帯電された脂質を含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
5.前記負に帯電された脂質が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](DPPG)またはその塩である、実施形態4に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
6.CER-001、CSL-111、CSL-112、CER-522またはETC-216である、実施形態2に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
7.CER-001である、実施形態6に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
8.前記CER-001が、ApoA-I重量:総リン脂質重量比1:2.7+/-20%のApoA-Iおよびリン脂質ならびにスフィンゴミエリン:DPPG重量:重量比97:3+/-20%の前記リン脂質スフィンゴミエリンおよびDPPGを含むリポタンパク質複合体である、実施形態7に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
9.前記CER-001が、ApoA-I重量:総リン脂質重量比1:2.7+/-10%のApoA-Iおよびリン脂質ならびにスフィンゴミエリン:DPPG重量:重量比97:3+/-10%の前記リン脂質スフィンゴミエリンおよびDPPGを含むリポタンパク質複合体である、実施形態7に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
10.前記CER-001が、ApoA-I重量:総リン脂質重量比1:2.7のApoA-Iおよびリン脂質ならびにスフィンゴミエリン:DPPG重量:重量比97:3の前記リン脂質スフィンゴミエリンおよびDPPGを含むリポタンパク質複合体である、実施形態7に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
11.前記ApoA-Iが、国際公開第2012/109162号パンフレットの配列番号1のアミノ酸25~267のアミノ酸配列を有する、実施形態7から10のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
12.前記ApoA-Iが、組換え的に発現される、実施形態7から11のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
13.前記CER-001が、天然スフィンゴミエリンを含む、実施形態7から12のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
14.前記天然スフィンゴミエリンが、鶏卵スフィンゴミエリンである、実施形態13に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
15.前記CER-001が、合成スフィンゴミエリンを含む、実施形態7から14のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
16.前記合成スフィンゴミエリンが、パルミトイルスフィンゴミエリンである、実施形態15に記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
17.CER-001が、少なくとも95%均質である、実施形態7から16のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
18.CER-001が、少なくとも97%均質である、実施形態7から17のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
19.CER-001が、少なくとも98%均質である、実施形態7から18のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
20.CER-001が、少なくとも99%均質である、実施形態7から19のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
21.ApomerまたはCargomerである、実施形態1から5のいずれか1つに記載の使用のための脂質結合タンパク質ベースの複合体。
22.実施形態1から21のいずれか1つに記載の脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液。
23.脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む臓器保存溶液。
24.前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、再構成されたHDLまたはHDL疑似体である、実施形態23の臓器保存溶液。
25.前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、スフィンゴミエリンを含む、実施形態23または実施形態24の臓器保存溶液。
26.前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、負に帯電された脂質を含む、実施形態23から25のいずれか1つの臓器保存溶液。
27.前記負に帯電された脂質が、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](DPPG)またはその塩である、実施形態26の臓器保存溶液。
28.前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、CER-001、CSL-111、CSL-112、CER-522またはETC-216である、実施形態24の臓器保存溶液。
29.前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、CER-001である、実施形態28の臓器保存溶液。
30.前記CER-001が、ApoA-I重量:総リン脂質重量比1:2.7+/-20%のApoA-Iおよびリン脂質ならびにスフィンゴミエリン:DPPG重量:重量比97:3+/-20%の前記リン脂質スフィンゴミエリンおよびDPPGを含むリポタンパク質複合体である、実施形態29の臓器保存溶液。
31.前記CER-001が、ApoA-I重量:総リン脂質重量比1:2.7+/-10%のApoA-Iおよびリン脂質ならびにスフィンゴミエリン:DPPG重量:重量比97:3+/-10%の前記リン脂質スフィンゴミエリンおよびDPPGを含むリポタンパク質複合体である、実施形態29の臓器保存溶液。
32.前記CER-001が、ApoA-I重量:総リン脂質重量比1:2.7のApoA-Iおよびリン脂質ならびにスフィンゴミエリン:DPPG重量:重量比97:3の前記リン脂質スフィンゴミエリンおよびDPPGを含むリポタンパク質複合体である、実施形態29の臓器保存溶液。
33.前記ApoA-Iが、国際公開第2012/109162号パンフレットの配列番号1のアミノ酸25~267のアミノ酸配列を有する、実施形態29から32のいずれか1つの臓器保存溶液。
34.前記ApoA-Iが、組換え的に発現される、実施形態29から33のいずれか1つの臓器保存溶液。
35.前記CER-001が、天然スフィンゴミエリンを含む、実施形態29から34のいずれか1つの臓器保存溶液。
36.前記天然スフィンゴミエリンが、鶏卵スフィンゴミエリンである、実施形態35の臓器保存溶液。
37.前記CER-001が、合成スフィンゴミエリンを含む、実施形態29から36のいずれか1つの臓器保存溶液。
38.前記合成スフィンゴミエリンが、パルミトイルスフィンゴミエリンである、実施形態37の臓器保存溶液。
39.CER-001が、少なくとも95%均質である、実施形態29から38のいずれか1つの臓器保存溶液。
40.CER-001が、少なくとも97%均質である、実施形態29から39のいずれか1つの臓器保存溶液。
41.CER-001が、少なくとも98%均質である、実施形態29から40のいずれか1つの臓器保存溶液。
42.CER-001が、少なくとも99%均質である、実施形態29から41のいずれか1つの臓器保存溶液。
43.前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、ApomerまたはCargomerである、実施形態23から27のいずれか1つの臓器保存溶液。
44.緩衝液、抗酸化剤、栄養分および/または代謝基質、電解質、コロイド、非透過性物質、気体、またはそれらの組合せを含む、実施形態22から43のいずれか1つの臓器保存溶液。
45.緩衝液を含む、実施形態44の臓器保存溶液であって、任意選択で、前記緩衝液が、ホウ酸塩、ホウ酸塩-ポリオール複合体、コハク酸塩、リン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、有機緩衝剤、ヒスチジンなどのアミノ酸緩衝剤、またはそれらの組合せを含む、臓器保存溶液。
46.抗酸化剤を含む、実施形態44または実施形態45の保存溶液であって、任意選択で、前記抗酸化剤が、アロプリノール、還元型グルタチオン、トリプトファンまたはl-アルギニンまたはヒスチジンなどのROS除去アミノ酸、レシチン化スーパーオキシドジムスターゼ(lec-SOD)、H2S、N-アセチルシステイン、プロポフォール、TMZ、rh-BMP-7、トロロクス、エダラボン、セレン、ニカラベン、プロスタグランジンE1、タンシノンIIAまたはそれらの組合せを含む、臓器保存溶液。
47.栄養分および/または代謝基質を含む、実施形態44から46のいずれか1つの臓器保存溶液であって、任意選択で、前記栄養分および/または代謝基質が、トリプトファン、グルタミン酸、ヒスチジン、l-アルギニン、N-アセチルシステイン、d-システインなどのアミノ酸、またはそれらの組合せを含む、臓器保存溶液。
48.電解質を含む、実施形態44から47のいずれか1つの臓器保存溶液であって、任意選択で、前記電解質が、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Cl-、SO4
2-、PO4
3-、HCO3-、クエン酸塩またはそれらの組合せを含む、臓器保存溶液。
49.コロイドを含む、実施形態44から48のいずれか1つの臓器保存溶液であって、任意選択で、前記コロイドが、ヒドロキシエチルデンプン(HES)(例えば、50kDa)、デキストラン(例えば、40kDa)、PEG35(35kDa)もしくはPEG20(20kDa)などのポリエチレングリコール(PEG)、またはそれらの組合せである、臓器保存溶液。
50.非透過性物質を含む、実施形態44から49のいずれか1つの臓器保存溶液であって、任意選択で、前記非透過性物質が、グルコース、マンニトール、スクロース、ラフィノース、ラクトビオン酸塩またはそれらの組合せである、臓器保存溶液。
51.気体を含む、実施形態44から50のいずれか1つの臓器保存溶液であって、任意選択で、前記気体が、酸素(O2)、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、酸化窒素(NO)、硫化水素(H2S)、アルゴン(Ar)、またはそれらの組合せである、臓器保存溶液。
52.Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の1つまたは複数の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態44の臓器保存溶液。
53.Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態45の臓器保存溶液。
54.表2に記載される濃度±20%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態53の臓器保存溶液。
55.表2に記載される濃度±15%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態53の臓器保存溶液。
56.表2に記載される濃度±10%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態53の臓器保存溶液。
57.表2に記載される濃度±5%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態53の臓器保存溶液。
58.Celsior(登録商標)溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態53から57のいずれか1つの臓器保存溶液。
59.PumpProtect(登録商標)溶液の1つまたは複数の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態44の臓器保存溶液。
60.PumpProtect(登録商標)溶液の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態59の臓器保存溶液。
61.セクション6.2に記載される濃度±20%、±15%、±10%、または±5%でPumpProtect(登録商標)溶液の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態60の臓器保存溶液。
62.0.1mg/mlから5mg/ml(例えば、0.3mg/mlから0.5mg/ml、0.2mg/mlから0.6mg/ml、0.1mg/mlから1mg/ml、1mg/mlから2mg/ml、または2mg/mlから5mg/ml)の濃度で前記脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む、実施形態22から61のいずれか1つの臓器保存溶液。
63.0.4mg/mlの濃度で前記脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む、実施形態22から61のいずれかの臓器保存溶液。
64.脂質結合タンパク質ベースの複合体と、臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分とを含むキットであって、任意選択で、前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、実施形態1から21のいずれか1つに記載されている、キット。
65.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、緩衝液、抗酸化剤、栄養分および/または代謝基質、電解質、コロイド、非透過性物質、気体、またはそれらの組合せを含む、実施形態64のキット。
66.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の1つまたは複数の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態65のキット。
67.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態66のキット。
68.表2に記載される濃度±20%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態67のキット。
69.表2に記載される濃度±15%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態67のキット。
70.表2に記載される濃度±10%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態67のキット。
71.表2に記載される濃度±5%でCelsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態67のキット。
72.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、Celsior(登録商標)溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態67から71のいずれか1つのキット。
73.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、PumpProtect(登録商標)溶液の1つまたは複数の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態65のキット。
74.PumpProtect(登録商標)溶液の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態73のキット。
75.セクション6.2に記載される濃度±20%、±15%、±10%、または±5%でPumpProtect(登録商標)溶液の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態74のキット。
76.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分を含有する溶液を含む、実施形態64から75のいずれか1つのキット。
77.前記脂質結合タンパク質ベースの複合体の溶液を含む、実施形態64から76のいずれか1つのキット。
78.凍結乾燥形態で前記脂質結合タンパク質ベースの複合体を含む、実施形態64から76のいずれか1つのキット。
79.実施形態64から78のいずれか1つのキットから臓器保存溶液を調製するプロセスであって、前記脂質結合タンパク質ベースの複合体および前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分を組み合わせることを含む、プロセス。
80.脂質結合タンパク質ベースの複合体および臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分を組み合わせることを含む、臓器保存溶液を調製するプロセスであって、任意選択で、前記脂質結合タンパク質ベースの複合体が、実施形態1から21のいずれか1つに記載されている、プロセス。
81.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、緩衝液、抗酸化剤、栄養分および/または代謝基質、電解質、コロイド、非透過性物質、気体、またはそれらの組合せを含む、実施形態80のプロセス。
82.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の1つまたは複数の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態81のプロセス。
83.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態82のプロセス。
84.Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)が、表2に記載される濃度±20%で存在する、実施形態83のプロセス。
85.Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)が、表2に記載される濃度±15%で存在する、実施形態83のプロセス。
86.Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)が、表2に記載される濃度±10%で存在する、実施形態83のプロセス。
87.Celsior(登録商標)溶液、EC溶液、UW溶液、HTK溶液、IGL-1(登録商標)溶液、もしくはHC-A溶液の構成成分(表2に記載されるような)が、表2に記載される濃度±5%で存在する、実施形態83のプロセス。
88.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、Celsior(登録商標)溶液の構成成分(表2に記載されるような)を含む、実施形態83から87のいずれか1つのプロセス。
89.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、PumpProtect(登録商標)溶液の1つまたは複数の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態81のプロセス。
90.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、PumpProtect(登録商標)溶液の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態89のプロセス。
91.前記臓器保存溶液の1つまたは複数の構成成分が、セクション6.2に記載される濃度±20%、±15%、±10%、または±5%でPumpProtect(登録商標)溶液の構成成分(セクション6.2に記載されるような)を含む、実施形態90のプロセス。
92.実施形態80から91のいずれか1つのプロセスによって生産される臓器保存溶液。
93.密封容器中に実施形態22から63および92のいずれか1つの臓器保存溶液を含む臓器保存溶液製品。
94.前記容器が袋である、実施形態93の臓器保存溶液製品。
95.前記容器が、前記保存溶液1Lを含む、実施形態93または実施形態94の臓器保存溶液製品。
96.(a)実施形態22から63および92のいずれか1つの臓器保存溶液または実施形態93から95のいずれか1つの臓器保存溶液製品と、(b)灌流機および/または臓器とを含むシステム。
97.灌流機を含む、実施形態96のシステム。
98.前記灌流機が、心肺装置である、実施形態97のシステム。
99.臓器を含む、実施形態96から98のいずれか1つのシステム。
100.前記臓器が、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、または気管である、実施形態99のシステム。
101.前記臓器が、腎臓である、実施形態100のシステム。
102.前記臓器が、哺乳動物由来である、実施形態96から101のいずれか1つのシステム。
103.前記哺乳動物が、ヒトまたはブタである、実施形態102のシステム。
104.前記哺乳動物が、ヒトである、実施形態103のシステム。
105.前記哺乳動物が、ブタである、実施形態103のシステム。
106.(a)実施形態22から63および92のいずれか1つの臓器保存溶液または実施形態93から95のいずれか1つの臓器保存溶液製品と、(b)組織とを含むシステム。
107.前記組織が、眼、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、または神経組織である、実施形態106のシステム。
108.前記組織が、角膜組織である、実施形態107のシステム。
109.前記組織が、哺乳動物由来である、実施形態106から108のいずれか1つのシステム。
110.前記哺乳動物が、ヒトまたはブタである、実施形態109のシステム。
111.前記哺乳動物が、ヒトである、実施形態110のシステム。
112.前記哺乳動物が、ブタである、実施形態110のシステム。
113.ドナー臓器を、実施形態22から63および92のいずれか1つの臓器保存溶液と接触させることを含む、ex-vivo臓器保存のプロセス。
114.前記臓器を、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態113のプロセス。
115.前記臓器を、最大2日間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114のプロセス。
116.前記臓器を、最大36時間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114のプロセス。
117.前記臓器を、最大1日間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114のプロセス。
118.前記臓器を、最大12時間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114のプロセス。
119.前記臓器を、少なくとも1時間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114から118のいずれか1つのプロセス。
120.前記臓器を、少なくとも2時間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114から118のいずれか1つのプロセス。
121.前記臓器を、少なくとも4時間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114から118のいずれか1つのプロセス。
122.前記臓器を、少なくとも6時間、前記臓器保存溶液を用いて機械灌流に付すことを含む、実施形態114から118のいずれか1つのプロセス。
123.前記機械灌流が、実施形態96から105のいずれか1つのシステムを使用して実施される、実施形態114から122のいずれか1つのプロセス。
124.前記臓器保存溶液が、全血で希釈される、実施形態113から123のいずれか1つのプロセス。
125.臓器保存溶液対全血の容量:容量比が、1:1から1:3である、実施形態124のプロセス。
126.前記臓器保存溶液が、希釈されない、実施形態113から123のいずれか1つのプロセス。
127.前記機械灌流が、正常温度、任意選択で30℃から38℃である、実施形態114から126のいずれか1つのプロセス。
128.前記機械灌流が、8℃から25℃、任意選択で20℃から25℃である、実施形態114から126のいずれか1つのプロセス。
129.前記機械灌流が、正常温度未満、任意選択で2℃から8℃である、実施形態114から126のいずれか1つのプロセス。
130.前記臓器を、前記機械灌流の前に前記保存溶液で流すことを含む、実施形態114から129のいずれか1つのプロセスであって、任意選択で、前記臓器保存溶液が、前記臓器を流す前に2℃から8℃である、プロセス。
131.任意選択で2℃から6℃で、前記機械灌流の前および/または後に前記臓器の低温保管をさらに含む、実施形態114から130のいずれか1つのプロセス。
132.任意選択で2℃から6℃で、機械灌流の非存在下で前記臓器の低温保管を含む、実施形態113のプロセス。
133.最大1週間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
134.最大5日間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
135.最大4日間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
136.最大3日間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
137.最大2日間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
138.最大36時間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
139.最大1日間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
140.最大12時間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131または132のプロセス。
141.少なくとも1時間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131から140のいずれか1つのプロセス。
142.少なくとも2時間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131から140のいずれか1つのプロセス。
143.少なくとも4時間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131から140のいずれか1つのプロセス。
144.少なくとも6時間、前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管を含む、実施形態131から140のいずれか1つのプロセス。
145.前記ドナーから前記臓器を取り出す前および/または取り出した後に、前記臓器を、任意選択で、2℃から8℃または2℃から6℃である前記保存溶液で流すことを含む、実施形態113から144のいずれか1つのプロセス。
146.前記保存溶液が、低温保管および/または輸送中の前記臓器の血管系に残される、実施形態145のプロセス。
147.前記臓器が、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、または気管である、実施形態113から146のいずれか1つのプロセス。
148.前記臓器が、腎臓である、実施形態147のプロセス。
149.前記臓器が、哺乳動物由来である、実施形態113から148のいずれか1つのプロセス。
150.前記哺乳動物が、ヒトまたはブタである、実施形態149のプロセス。
151.前記哺乳動物が、ヒトである、実施形態150のプロセス。
152.前記哺乳動物が、ブタである、実施形態150のプロセス。
153.前記臓器を、前記臓器ドナーから取り出すことをさらに含む、実施形態113から152のいずれか1つのプロセス。
154.実施形態113から153のいずれか1つのプロセスによって得られた臓器。
155.臓器を移植する方法であって、実施形態154の臓器を、臓器移植を必要とする対象に移植することを含む、方法。
156.ドナー組織を、実施形態22から63および92のいずれか1つの臓器保存溶液と接触させることを含む、ex-vivo組織保存のプロセス。
157.前記臓器保存溶液中での前記組織の保管を含む、実施形態156のプロセス。
158.任意選択で30℃から38℃の前記臓器保存溶液における前記組織の正常温度保管を含む、実施形態156のプロセス。
159.任意選択で2℃から6℃の前記臓器保存溶液における前記組織の低温保管を含む、実施形態156のプロセス。
160.前記組織を、最大4週間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
161.前記組織を、最大2週間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
162.前記組織を、最大1週間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
163.前記組織を、最大4日間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
164.前記組織を、最大2日間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
165.前記組織を、最大36時間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
166.前記組織を、最大1日間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
167.前記組織を、最大12時間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から159のいずれか1つのプロセス。
168.前記組織を、少なくとも1時間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から167のいずれか1つのプロセス。
169.前記組織を、少なくとも2時間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から167のいずれか1つのプロセス。
170.前記組織を、少なくとも4時間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から167のいずれか1つのプロセス。
171.前記組織を、少なくとも6時間、前記臓器保存溶液中で保管することを含む、実施形態157から167のいずれか1つのプロセス。
172.前記組織が、眼、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、または神経組織である、実施形態156から171のいずれか1つのプロセス。
173.前記組織が、角膜組織である、実施形態172のプロセス。
174.前記組織が、哺乳動物由来である、実施形態156から173のいずれか1つのプロセス。
175.前記哺乳動物が、ヒトまたはブタである、実施形態174のプロセス。
176.前記哺乳動物が、ヒトである、実施形態175のプロセス。
177.前記哺乳動物が、ブタである、実施形態175のプロセス。
178.前記組織を、前記組織ドナーから取り出すことをさらに含む、実施形態156から177のいずれか1つのプロセス。
179.実施形態156から179のいずれか1つのプロセスによって得られた組織。
180.組織を移植する方法であって、実施形態179の組織を、組織移植を必要とする対象に移植することを含む、方法。
181.a.ドナー臓器を得るステップ;
b.前記ドナー臓器を、実施形態22から63および92のいずれか1つの臓器保存溶液と接触させるステップであって、
前記接触させるステップは、
i.前記臓器保存溶液を用いた前記臓器の機械灌流、または
ii.前記臓器保存溶液中での前記臓器の低温保管
を含むステップ、および、
c.前記臓器を、臓器移植を必要とする対象に移植するステップ
とを含む、移植方法。
182.前記ドナー臓器が、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓、腸、または気管である、実施形態181の方法。
183.前記接触させるステップが、少なくとも1時間および/または最大1週間の前記臓器保存溶液を用いた前記臓器の機械灌流または低温保管を含む、実施形態181または実施形態182に記載の方法。
184.a.ドナー組織を得るステップ;
b.前記ドナー組織を、実施形態22から63および92のいずれか1つの臓器保存溶液中で保管するステップ、
c.前記組織を、組織移植を必要とする対象に移植するステップ
とを含む、移植方法。
185.前記ドナー組織が、眼、皮膚、脂肪、筋肉、骨、軟骨、胎児胸腺、または神経組織である、実施形態184に記載の方法。
186.前記保管することが、少なくとも1時間および/または最大4週間、前記臓器保存溶液を用いて前記組織を保管するステップを含む、実施形態184または実施形態185に記載の方法。
【0267】
様々な特定実施形態が説明および記載されてきたが、本開示(複数可)の主旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更が成され得ることは理解されよう。
【0268】
9.参照による組み込み
本出願で引用される全ての刊行物、特許、特許出願および他の文書は、全ての目的で参照により組み込まれるよう個々の刊行物、特許、特許出願または他の文書が別個に示されたのと同じ程度で、全ての目的でそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0269】
本明細書中に含まれている文書、行動、材料、デバイス、論文等の任意の議論は、本開示に関して文脈を単に提供する目的だけのためである。本開示が本出願の優先日より前にあらゆる場所に存在した場合、これらの事柄のいずれかまたは全てが、従来技術の土台の一部を成すか、または本開示に関連した分野において共通の一般常識であったという承認と解釈されるべきではない。
【配列表】
【国際調査報告】