(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】FC由来のポリペプチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240321BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240321BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240321BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240321BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20240321BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240321BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240321BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240321BHJP
C12N 5/16 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/13
C12N5/10
C12N5/07
C07K19/00
C07K16/18
C07K14/47
C12N5/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562838
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 EP2022059902
(87)【国際公開番号】W WO2022219058
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523029526
【氏名又は名称】アンジャリウム バイオサイエンシズ エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル デ ビーア
(72)【発明者】
【氏名】モニーク マウラー
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス マイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ラバニヤ クナリンガム
(72)【発明者】
【氏名】マルチェロ クレリシ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、膜貫通ドメイン及びFcRn結合部位(例えば、改変されたFcドメイン)を含むポリペプチド、並びにそのようなポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、細胞外小胞(EV)及びハイブリドソーム(hybridosome))に関する。前記ポリペプチドは、そのようなポリペプチドを含むナノ小胞の単離及び精製を容易にすることができる。該ポリペプチド及びナノ小胞は、治療及び/又は診断用途に使用することができる。また提供されるのは、そのようなポリペプチドをコードする核酸及び発現ベクター並びに前記ポリペプチドを発現する細胞である。さらに、提供されるのは、そのようなポリペプチドを含むナノ小胞の生成方法及びこれらのナノ小胞の精製法である。そのようなポリペプチド又はナノ小胞を含む組成物及びそれらの使用も記載されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドであって、
a. 膜貫通ドメイン;及び
b. i. FcRnのFc結合部位に特異的に結合することができ;かつ
ii. ホモ二量体を形成する能力を欠く
免疫グロブリンの改変Fcドメイン
を含む、前記ポリペプチド。
【請求項2】
pH6.5でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数が最大で10
-4Mの値を有する、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
pH7.4でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数が少なくとも10
-4Mの値を有する、請求項1又は請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記改変Fcドメインが、ヒトFcRn(配列番号7)及び/又はマウスFcRn(配列番号8)の135~158位の間のアミノ酸配列に特異的に結合可能である、請求項1~3のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記改変Fcドメインが、アミノ酸配列
【化1】
に特異的に結合することができ、ここで、X
1、X
2、X
3、X
4、X
5、X
6、X
7及びX
8の各々は任意のアミノ酸である、請求項1~4のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、C1q、FcγRI、FcγRII又はFcγRIIIに実質的に結合しない、請求項1~5のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項7】
a. 前記改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性;
b. 前記改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性;
c. 前記改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性;及び/又は
d. 前記改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性
が、未改変Fcドメインと比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、又は50%低下する、請求項1~6のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項8】
a. 前記改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性;
b. 前記改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性;
c. 前記改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性;及び/又は
d. 前記改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性
が、未改変Fcドメインと比較して少なくとも1.5、2、3、4、又は5倍低下する、請求項1~7のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項9】
前記FcRn結合ポリペプチドが、N末端からC末端に:
a. 未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;
b. 未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;
c.リンカー配列;及び
d. 膜貫通ドメイン
を含む、請求項1~8のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
前記FcRn結合ポリペプチドが、C末端からN末端に:
a. 未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;
b. 未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;
c.リンカー配列;及び
d. 膜貫通ドメイン
を含む、請求項1~9のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項11】
前記膜貫通ドメインが、複数回貫通膜貫通ドメインである、請求項1~10のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項12】
scFv、(scFv)
2、Fab、Fab'、F(ab')
2、F(abl)
2、Fv、dAb、Fd断片、ダイアボディ、F(ab)2、F(ab')、F(ab')3、Fd、Fv、ジスルフィド結合Fv、dAb、sdAb、ナノボディ、CDR、ジ-scFv、bi-scFv、tascFv(タンデムscFv)、アビボディ(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、T-細胞エンゲージャー(BiTE)、V-NARドメイン、Fcab、IgGACH2、DVD-Ig、プロボディ(probody)、イントラボディ、ダルピン(DARPin)、センチリン、アフィボディ、アフィリン、アフィチン、アンチカリン、アビマー、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、アドネクチン、トリボディ、及びナノフィチンからなる群から選択される標的化ドメインをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項14】
請求項13記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項13記載の核酸又は請求項14記載の発現ベクターを含む、細胞。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項記載のポリペプチドを含む細胞外小胞。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項記載のポリペプチドを含むハイブリドソーム。
【請求項18】
細胞外小胞(EV)を精製する方法であって、
a. 前記EVを提供する工程であって、該EVは第1の結合パートナーと会合し、前記第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができる、前記工程;及び
b. 該第1の結合パートナーと会合した該EVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させる工程であって、前記第2の結合パートナーは、前記FcRnの前記Fc結合部位を含み、固体マトリックスと会合している、前記工程;並びに
c. 該第1の結合パートナーと会合した該EVを第2のpHで前記固体マトリックスから溶出する工程
を含む、前記方法。
【請求項19】
前記方法が前記第1のpHでの洗浄工程を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記第1のpHが6.5未満である、請求項18又は19記載の方法。
【請求項21】
前記第2のpHが7.4を超える、請求項18~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
EVを精製する方法であって、
a. 前記EVを提供する工程であって、該EVは第1の結合パートナーと会合し、前記第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができ、かつ請求項1~12のいずれか一項記載のポリペプチドを含むか、又はそれからなる、前記工程;及び
b. 該第1の結合パートナーと会合した該EVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させる工程であって、前記第2の結合パートナーは、前記FcRnの前記Fc結合部位を含み、かつ固体マトリックスと会合している、前記工程;並びに
c. 該第1の結合パートナーと会合した該EVを第2のpHで前記固体マトリックスから溶出する工程
を含む、前記方法。
【請求項23】
前記方法が前記第1のpHでの洗浄工程を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記第1のpHが6.5未満である、請求項22又は23記載の方法。
【請求項25】
前記第2のpHが7.4を超える、請求項22~24のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権)
本出願は、引用により完全に本明細書中に組み込まれる、2021年4月14日に出願された米国特許第63/174,855号の優先権の恩典を主張する。
【0002】
(電子的に提出される配列表への言及)
本出願は、2022年4月11日に作成され、サイズが176,537バイトである、「14497-004-228_Sequence_Listing.txt」と題するテキストファイルとして本出願と共に提出される配列表を引用により組み込む。
【0003】
(1.分野)
本開示は、膜貫通ドメイン及びFcRn結合部位(例えば、改変されたFcドメイン)を含むポリペプチド、並びにそのようなポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、細胞外小胞(EV)及びハイブリドソーム(hybridosome))に関する。前記ポリペプチドは、そのようなポリペプチドを含むナノ小胞の単離及び精製を容易にすることができる。該ポリペプチド及びナノ小胞は、治療及び/又は診断用途に使用することができる。また提供されるのは、そのようなポリペプチドをコードする核酸及び発現ベクター並びに前記ポリペプチドを発現する細胞である。さらに、提供されるのは、そのようなポリペプチドを含むナノ小胞の生成方法及びこれらのナノ小胞の精製法である。そのようなポリペプチド又はナノ小胞を含む組成物及びそれらの使用も記載されている。
【背景技術】
【0004】
(2.開示の背景)
新しい有望な薬物候補の特定における大きなブレークスルーにもかかわらず、これらの知見の臨床への応用は、疾患の部位に有効な薬物投薬量を送達する際の課題によって妨げられる場合が多い。最近発見された細胞間伝達経路は、より正確な薬物送達のための欠けているパズルのピースを提供する可能性がある。我々の体内のほとんど全ての細胞は、細胞外小胞(EV)と呼ばれる小さな「バルーン」を放出することによって、隣接する細胞及び遠位の細胞とのつながりを確立できることが明らかになった。これらのEV、特にエキソソームがシグナル伝達分子の機能的シャトルであるという発見が、遺伝的に、現代の医薬品の薬物送達システムの理想的なナノスケール候補となり得るという判断をもたらした。しかし、この考えは、EVの調製と単離及び循環中のそれらの半減期の延長に関することを含めて、いくつかの課題と結びついている。したがって、EVベースの技術の治療的使用及び他の適用をより良好に可能にするために、EVの作製、単離及び精製に関与する適切な方法及び組成物が必要である。
【0005】
したがって、工業的制約に適し、治療的品質の小胞調製物の生成を可能にする膜小胞の改善された調製法に対する必要性がある。そのために、国際特許出願公開WO2019/081474は、クロマトグラフィーマトリックスに結合する抗体のFcドメインを使用して、pHを8未満、好ましくは6未満に低下させることによって、捕捉したEVの溶出を誘導することにより、Fc結合ポリペプチドを含むように遺伝子操作されたEVを捕捉するためのクロマトグラフィー技術を開示している。しかし、特にEV治療分野がEVベースの治療の臨床への応用と影響に向かって進むにつれて、前記方法を上回る大幅な改善が必要である。
【0006】
本明細書における参考文献の引用は、そのようなものが本開示の先行技術であることを認めるものとして解釈されないものとする。
【発明の概要】
【0007】
(3.開示の概要)
一態様において、本明細書に提供されるのは、a.膜貫通ドメイン;及びb. i. FcRnのFc結合部位に特異的に結合することができ;かつii.ホモ二量体を形成する能力を欠く免疫グロブリンの改変Fcドメインを含むポリペプチドである。
【0008】
特定の実施態様において、pH6.5でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数は、最大で10-4Mの値を有する。特定の実施態様において、pH7.4でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数は、少なくとも10-4Mの値を有する。
【0009】
特定の実施態様において、改変Fcドメインは、ヒトFcRn(配列番号7)及び/又はマウスFcRn(配列番号8)の135~158位の間のアミノ酸配列に特異的に結合することができる。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、アミノ酸配列
【化1】
に特異的に結合することができ、その中のX
1、X
2、X
3、X
4、X
5、X
6、X
7及びX
8の各々は任意のアミノ酸である。
【0010】
特定の実施態様において、前記ポリペプチドは、C1q、FcγRI、FcγRII又はFcγRIIIに実質的に結合しない。
【0011】
特定の実施態様において、改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性、改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性、改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性、及び/又は改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性は、未改変Fcドメインと比較して少なくとも10%、20%、30%、40%又は50%低下する。
【0012】
特定の実施態様において、改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性、改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性、改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性、及び/又は改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性は、未改変Fcドメインと比較して少なくとも1.5、2、3、4、又は5倍低下する。
【0013】
特定の実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、N末端からC末端に:a. 未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;b. 未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;c. リンカー配列;及びd. 膜貫通ドメインを含む。
【0014】
特定の実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、C末端からN末端に:a. 未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;b. 未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;c. リンカー配列;及びd. 膜貫通ドメインを含む。
【0015】
様々な実施態様において、膜貫通ドメインは、複数回貫通膜貫通ドメインである。
【0016】
具体的な実施態様において、該ポリペプチドは、scFv、(scFv)2、Fab、Fab'、F(ab')2、F(abl)2、Fv、dAb、Fd断片、ダイアボディ、F(ab)2、F(ab')、F(ab')3、Fd、Fv、ジスルフィド結合Fv、dAb、sdAb、ナノボディ、CDR、ジ-scFv、bi-scFv、tascFv(タンデムscFv)、アビボディ(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、T-細胞エンゲージャー(BiTE)、V-NARドメイン、Fcab、IgGACH2、DVD-Ig、プロボディ(probody)、イントラボディ、ダルピン(DARPin)、センチリン、アフィボディ、アフィリン、アフィチン、アンチカリン、アビマー、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、アドネクチン(adnectin)、トリボディ、及びナノフィチンからなる群から選択される標的化ドメインをさらに含む。
【0017】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載のポリペプチドをコードする核酸である。
【0018】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の核酸を含む発現ベクターである。
【0019】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載の核酸又は本明細書に記載の発現ベクターを含む細胞である。
【0020】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載のポリペプチドを含む細胞外小胞である。
【0021】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載のポリペプチドを含むハイブリドソームである。
【0022】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、細胞外小胞(EV)を精製する方法であって、a. EVを提供する工程、該EVは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができる;及びb. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させる工程、第2の結合パートナーは、FcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合している;並びにc. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2のpHで固体マトリックスから溶出する工程、を含む前記方法である。特定の実施態様において、本方法は、第1のpHでの洗浄工程を含む。特定の実施態様において、第1のpHは6.5未満である。特定の実施態様において、第2のpHは7.4を超える。
【0023】
別の態様において、本明細書に提供されるのは、細胞外小胞(EV)を精製する方法であって、a. EVを提供する工程、該EVは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができ、本明細書に記載のポリペプチドを含むか、又はそれからなる;及びb. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させる工程、第2の結合パートナーはFcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合している;並びにc. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2のpHで固体マトリックスから溶出する工程、を含む前記方法である。特定の実施態様において、本方法は、第1のpHでの洗浄工程を含む。特定の実施態様において、第1のpHは6.5未満である。特定の実施態様において、第2のpHは7.4を超える。
【0024】
本開示は、当技術分野における既存の必要性を満たすこと、例えば、生理学的条件により近い条件(例えば、pH値)で実施され得る細胞外小胞の単離/分離のための手段を提供すること、及び循環中のEVのより長い半減期を可能にして、治療薬送達用のEVの治療可能性を著しく高めることを目的とする。
【0025】
本明細書に提供されるのは、膜貫通ドメインを含むFcRn結合ポリペプチド(本明細書ではFcRn結合剤と呼ばれることが多い)である。
【0026】
一態様において、本明細書に提供されるのは、目的のナノ小胞(例えば、EV)の精製のためのシステムであって、新生児Fc受容体(FcRn)結合剤及び哺乳動物FcRnを含み、FcRn結合剤及びFcRnが第1セットの条件下では高い親和性で、第2のセットの条件下では低い親和性で互いに結合する、前記システムである。
(3.1 実例的な実施態様)
1.ポリペプチドであって、
a. 膜貫通ドメイン;及び
b. i. FcRnのFc結合部位に特異的に結合することができ;かつ
ii. ホモ二量体を形成する能力を欠く
免疫グロブリンの改変Fcドメイン
を含む前記ポリペプチド。
2. pH6.5でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数が最大で10
-4Mの値を有する、第1項記載のポリペプチド。
3. pH7.4でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数が少なくとも10
-4Mの値を有する、第1項又は第2項記載のポリペプチド。
4. 改変Fcドメインが、ヒトFcRn(配列番号7)及び/又はマウスFcRn(配列番号8)の135~158位の間のアミノ酸配列に特異的に結合可能である、第1~3項のいずれか一項記載のポリペプチド。
5. 改変Fcドメインが、アミノ酸配列
【化2】
に特異的に結合することができ、その中のX
1、X
2、X
3、X
4、X
5、X
6、X
7及びX
8の各々は任意のアミノ酸である、第1~4項のいずれか一項記載のポリペプチド。
6. 前記ポリペプチドが、C1q、FcγRI、FcγRII又はFcγRIIIに実質的に結合しない、第1~5項のいずれか一項記載のポリペプチド。
7. a. 改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性;
b. 改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性;
c. 改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性;及び/又は
d. 改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性
が、未改変Fcドメインと比較して少なくとも10%、20%、30%、40%又は50%低下する、第1~6項のいずれか一項記載のポリペプチド。
8. a. 改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性;
b. 改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性;
c. 改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性;及び/又は
d. 改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性
が、未改変Fcドメインと比較して少なくとも1.5、2、3、4、又は5倍低下する、第1~7項のいずれか一項記載のポリペプチド。
9. FcRn結合ポリペプチドが、N末端からC末端に:
a. 未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;
b. 未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;
c. リンカー配列;及び
d. 膜貫通ドメイン
を含む、第1~8項のいずれか一項記載のポリペプチド。
10. FcRn結合ポリペプチドが、C末端からN末端に:
a. 未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;
b. 未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;
c. リンカー配列;及び
d. 膜貫通ドメイン
を含む、第1~9項のいずれか一項記載のポリペプチド。
11. 膜貫通ドメインが、複数回貫通膜貫通ドメインである、第1~10項のいずれか一項記載のポリペプチド。
12. scFv、(scFv)
2、Fab、Fab'、F(ab')
2、F(abl)
2、Fv、dAb、Fd断片、ダイアボディ、F(ab)2、F(ab')、F(ab')3、Fd、Fv、ジスルフィド結合Fv、dAb、sdAb、ナノボディ、CDR、ジ-scFv、bi-scFv、tascFv(タンデムscFv)、アビボディ(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、T-細胞エンゲージャー(BiTE)、V-NARドメイン、Fcab、IgGACH2、DVD-Ig、プロボディ、イントラボディ、ダルピン、センチリン、アフィボディ、アフィリン、アフィチン、アンチカリン、アビマー、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、アドネクチン、トリボディ、及びナノフィチンからなる群から選択される標的化ドメインをさらに含む、第1~11項のいずれか一項記載のポリペプチド。
13. 第1~12項のいずれか一項記載のポリペプチドをコードする核酸。
14. 第13項記載の核酸を含む発現ベクター。
15. 第13項記載の核酸又は第14項記載の発現ベクターを含む細胞。
16. 第1~12項のいずれか一項記載のポリペプチドを含む細胞外小胞。
17. 第1~12項のいずれか一項記載のポリペプチドを含むハイブリドソーム。
18. 細胞外小胞(EV)を精製する方法であって、
a. EVを提供する工程、該EVは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができる;及び
b. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させる工程、第2の結合パートナーは、FcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合している;並びに
c. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2のpHで固体マトリックスから溶出する工程
を含む、前記方法。
19. 該方法が第1のpHでの洗浄工程を含む、第18項記載の方法。
20. 第1のpHが6.5未満である、第18又は19項記載の方法。
21. 第2のpHが7.4を超える、第18~20項のいずれか一項記載の方法。
22. EVを精製する方法であって、
a. EVを提供する工程、該EVは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができ、第1~12項のいずれか一項記載のポリペプチドを含むか、又はそれからなる;及び
b. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させる工程、第2の結合パートナーは、FcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合している;並びに
c. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2のpHで固体マトリックスから溶出する工程
を含む、前記方法。
23. 該方法が第1のpHでの洗浄工程を含む、第22項記載の方法。
24. 第1のpHが6.5未満である、第22又は23項記載の方法。
25. 第2のpHが7.4を超える、第22~24項のいずれか一項記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0027】
(4. 図面の簡単な説明)
【
図1】
図1は、1型膜貫通ドメインを含有するFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の模式図である。
【0028】
【
図2】
図2は、T1足場、T2足場、及びPT足場を含む異なる膜貫通足場の膜貫通ヘリックス(TMH)に対する改変Fc(CH2及び単量体CH3)の位置の例を示す。PT足場の場合、FcRn結合部位は、N末端(PTa)、C末端(PTb)、又は細胞外ループ(PTc)に位置付けることができる。
【0029】
【
図3】
図3. Eph受容体の細胞外ドメインに由来する足場タンパク質に融合された単量体Fcを含むFcRn結合ポリペプチドの例示的な構造。
【0030】
【
図4】
図4.操作して、馴化培地から精製したEVを示すウェスタンブロット。
【0031】
【
図5】
図5A~5D.実施例2に記載されるように、蛍光抗ヒトFcドメイン抗体で染色した異なる細胞株のフローサイトメトリーヒストグラム。
【0032】
【
図6】
図6.異なるpHで20分間インキュベートしたEVのナノ粒子トラッキング解析(NTA)測定。
【0033】
【
図7】
図7. scFcRnの精製を示す抗FcRnウェスタンブロット。
【0034】
【
図8】
図8.コンストラクトから発現させた濃縮馴化培地中のEphA4融合タンパク質をscFcRnカラムにロードして、EphA4融合タンパク質の検出を示す抗EphA4ウェスタンブロット。第1のレーンはロードであり、第2のレーンはフロースルーの試料であり、第3のレーンは溶出画分の試料である。
【0035】
【
図9】
図9A及び
図9B.コンストラクトから発現させた濃縮馴化培地中のEphA4融合タンパク質を異なるpHでscFcRnカラムにロードして、EphA4融合タンパク質の検出を示す抗EphA4ウェスタンブロット。
図9Aでは、馴化培地を酸性化せず、
図9Bでは、実施例7に記載されるように、馴化培地を酸性化した。第1のレーンは溶出試料であり、第2のレーンはフロースルーの試料であり、第3のレーンは馴化培地の試料である。
【0036】
【0037】
【
図11】
図11. LNP製剤のIV投与と比較した、改変Fcドメインを示す足場タンパク質を含むEVのIV投与の3、6、21及び24日後のマウス血漿1μl当たりのDNAベクターコピー数。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(5. 詳細な説明)
本明細書に提供されるのは、膜貫通ドメイン及びFcRn結合部位(例えば、免疫グロブリンの改変Fcドメイン)を含むポリペプチドである。特定の実施態様において、FcRn結合部位(例えば、免疫グロブリンの改変Fcドメイン)は、FcRnのFc結合部位に特異的に結合することができ、ホモ二量体を形成する能力を欠く。ポリペプチドの様々な態様及び実施態様は、節5.2に記載されている。
【0039】
また提供されるのは、本明細書に記載のポリペプチドをコードする核酸、本明細書に記載の核酸を含む発現ベクター、及び本明細書に記載の核酸又は発現ベクターを含む細胞であり、これらの全ては、節5.3にさらに記載されている。
【0040】
さらに提供されるのは、本明細書に記載のポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)である。ナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)は、節5.4にさらに記載されている。
【0041】
ナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)を生成する方法が提供され、節5.4にさらに記載されている。ナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)を精製する方法も提供され、節5.5にさらに記載されている。
【0042】
本明細書に記載のポリペプチド、ナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)、核酸、発現ベクター、又は細胞を含む組成物及びキットが提供され、節5.6にさらに記載されている。
【0043】
本明細書に記載のポリペプチド、ナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)、組成物、又はキットの治療的及び診断的使用が提供され、節5.7にさらに記載されている。
【0044】
ナノ小胞(例えば、EV)の単離及び精製に関連付けられる問題を克服することが本開示の目的である。さらに、本開示は、当技術分野における他の既存の必要性を満たすこと、例えば、ナノ小胞(例えば、EV)を高収率かつ高い特異性で精製するための一般的に適用可能なアフィニティー精製戦略を開発することを目的とする。特に、エキソソームを精製するための以前から知られている方法は、EV治療薬の商業的生成に必要な大規模生成及びスケールアップには理想的ではない。本開示は、以前から知られている方法で達成可能であろう精製よりもはるかに大規模な高親和性での操作されたEVの精製を可能にする。
【0045】
発明者らは、操作されたナノ小胞(例えば、EV)と、細胞内に存在し得るか又はアフィニティークロマトグラフィー用の結合剤として存在し得るFcRn受容体との間の特異的相互作用を可能にする方法及び組成物を開発した。特に、一部のナノ小胞(例えば、EV)は、低いpHでコロイド安定性が低く、pH不安定成分を含有し、通常、fc結合ベースのアフィニティークロマトグラフィーで採用される低pH溶出には適さないことが実証されたが、効率的なアフィニティークロマトグラフィーには、その結合特異性を約5~8のpH範囲で調節することができるfc結合剤が必要である。
【0046】
本明細書に開示されるのは、高い親和性及び特異性でFcRnに結合するFcRn結合剤を含むナノ小胞(例えば、EV)である。有利には、本明細書に記載のFcRn結合剤のいくつかは、循環半減期などの1以上の改善された又は所望の薬物動態特性を有する。理論に束縛されることを望まないが、ナノ小胞(例えば、EV)はヒトにおいてある範囲の循環半減期を有することができ、循環半減期は、例えば、血清及び細胞成分との相互作用、FcRnとの相互作用、受容体媒介エンドサイトーシス、薬物用量、及び抗薬物抗体の生成に影響を及ぼす可能性があると考えられている。融合ポリペプチドをコードする核酸分子、発現ベクター、宿主細胞、組成物(例えば、医薬組成物)、キット、容器、及びFcRn結合ナノ小胞(例えば、EV)を作製する方法も提供される。本明細書に開示されるポリペプチド(例えば、抗体分子又は融合タンパク質)及び医薬組成物は、障害及び病態、例えば、標的分子(例えば、タンパク質)又は細胞と関連付けられる障害及び病態、例えば、本明細書に記載の障害又は病態を治療、予防、及び/又は診断するために(単独で、又は他の薬剤もしくは治療様式と組み合わせて)使用することができる。
【0047】
理論に束縛されることを望まないが、いくつかの実施態様において、本明細書に開示されるFcRn結合のためのFc又は半減期延長の操作は、Fcによって媒介される様々なエフェクター機能との関連で行われると考えられる。例えば、構造情報を使用して、中性及び酸性pHにおけるFcとFcRnとの相互作用を調べることができる。この構造情報を使用して、酸性pHにおけるFcRn結合を改善するための異なる構造を特定することができる。Fc変異を組み合わせて、FcRn及び他のFc受容体への結合について評価することができる。例えば、半減期を延ばし、ADCC及びCDCなどのエフェクター機能を保持する、場合によって、それらが低下したFc変異体を同定することができる。異なる疾患の予防及び治療のための治療薬としてナノ小胞(例えば、EV)を採用することへの関心が高まるにつれ、例えば、慢性疾患の治療又は予防のために、半減期が長いFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞を開発する必要性が高まっている。
【0048】
さらに、ポリペプチドを融合するための従来の戦略を使用して、本明細書で同定される全てのFcRn結合ポリペプチドとタンパク質を自由に組み合わせて融合タンパク質にすることができる。非限定的な例として、本明細書に記載の全てのFcRn結合ポリペプチドは、1以上のEVポリペプチドとの任意の組み合わせで自由に組み合わせてよい。また、FcRn結合ポリペプチドを互いに組み合わせて、2以上のFcRn結合ポリペプチドを含む融合タンパク質を生成してもよい。さらに、任意の及び全ての特徴(例えば、本明細書に記載のマーカッシュグループの任意の及び全てのメンバー)は、任意の及び全ての他の特徴(例えば、本明細書に記載の任意の他のマーカッシュグループの任意の及び全てのメンバー)と自由に組み合わせることができ、例えば、FcRn結合ポリペプチドを含む任意のEVは、任意のFcRnドメイン含有ポリペプチドを使用して精製及び/又は単離され得る。さらに、本明細書の教示が、単数のナノ小胞(例えば、EV)(及び/もしくはFcRn結合ポリペプチドを含むEV)並びに/又は別々の天然ナノ粒子様小胞としてのナノ小胞(例えば、EV)を指す場合、そのような教示は全て、複数のナノ小胞(例えば、EV)及びナノ小胞(例えば、EV)の集団に等しく関連し、適用可能であることを理解されたい。
【0049】
(5.1 定義)
本明細書で使用されるように、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」、及び「その」は、内容が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。そのため、例えば、「ポリペプチド」への言及は、2以上のそのような分子などを含み得る。
【0050】
本明細書で使用されるように、用語「約」及び「およそ」は、数値又は範囲で指定された量を修飾するために使用される場合、数値と当業者に知られているその値からの合理的な偏差、例えば、±20%、±10%、又は±5%が、列挙された値の意図された意味の範囲内にあることを示す。
【0051】
用語「遺伝子改変された」及び「遺伝子操作された」EVは、EVが、通常、それらの細胞によって生成されるナノ小胞(例えば、EV)に組み込まれる組換え又は外因性タンパク質産物を含む遺伝子改変/操作された細胞に由来することを示す。用語「改変されたEV」は、小胞が、例えば、EV生成細胞の遺伝子操作を介して、又は例えば、エキソソーム表面に部分を付着させるための化学コンジュゲーションを介して、遺伝的又は化学的アプローチのいずれかを使用して改変されたことを示す。
【0052】
「結合ドメイン」は、1以上の特異的結合パートナーに特異的に結合する免疫グロブリン(例えば、抗体)に由来するポリペプチドの断片などのペプチド領域である。複数の結合パートナーが存在する場合、それらのパートナーは、結合ドメインに検出可能に結合するのに十分な結合決定基を共有する。好ましくは、結合ドメインは、アミノ酸の連続配列である。
【0053】
用語「FcRn」は、新生児Fc受容体を示す。FcRnは、リソソーム分解経路からIgGを再利用するように機能し、その結果、クリアランスが減少し、半減期が長くなる。FcRnは、50kDaのクラスI主要組織適合遺伝子複合体様タンパク質(a-FcRn)と15kDaのβ2ミクログロブリン(β2ι)の2つのポリペプチドからなるヘテロ二量体タンパク質である。FcRnは、IgGのFcドメインのCH2-CH3部分に高い親和性で結合する。FcRnは、抗体のFc領域と相互作用し、正常なリソソーム分解からの救済を経てリサイクルを促進する。このプロセスは、酸性pH(例えば、6.5未満のpH)で、エンドソーム内で起こるが、血流の生理学的pH条件(例えば、非酸性pH)下では起こらないpH依存性プロセスである。酸性pHは、約7.0未満のpH、例えば、約pH6.5、約pH6.0、約pH5.5、約pH5.0である。上昇した非酸性pHは、約7以上のpH、例えば、約pH7.4、約pH7.6、約pH7.8、約pH8.0、約pH8.5、又は約pH9.0である。次いで、FcRnは、細胞表面へのFcRn結合ポリペプチドのリサイクルを促進し、その後、FcRn-FcRn結合ポリペプチド複合体が細胞外の中性pH環境に曝露されると、血流中への放出を促進する。
【0054】
本明細書で使用されるように、「FcRn結合部位」は、FcRnに結合するFcポリペプチドの領域を指す。
【0055】
本明細書で使用されるように、「Fc結合部位」は、免疫グロブリンのFcドメインに結合するFcRnポリペプチドの領域を指す。
【0056】
用語「特異的に結合する」は、別のエピトープ又は非標的化合物(例えば、構造的に異なる抗原)に結合する場合よりも、試料中のそのエピトープ又は標的に対してより高い親和性、より大きな結合活性、及び/又はより長い持続時間でエピトープ又は標的に結合する分子(例えば、Fab、scFv、又は改変Fcポリペプチド(又はその標的結合部分)を指す。いくつかの実施態様において、エピトープ又は標的に特異的に結合するFab、scFv、又は改変Fcポリペプチド(又はその標的結合部分)は、他のエピトープ又は非標的化合物よりも少なくとも5倍高い親和性、例えば、少なくとも6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、25倍、50倍、100倍、1000倍、10,000倍、又はそれ以上の親和性でエピトープ又は標的に結合するFab、scFv、又は改変Fcポリペプチド(又はその標的結合部分)である。本明細書で使用されるように、特定のエピトープ又は標的に対して用語「特異的結合」、「特異的に結合する」、又は「特異的である」は、例えば、それが結合するエピトープ又は標的に対して、例えば、10-4M以下、例えば、10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、又は10-12Mの平衡解離定数KDを有する分子によって示され得る。ある種由来の標的に特異的に結合するFab又はscFvが、その標的のオルソログにも特異的に結合する可能性があることは、当業者なら認識するであろう。
【0057】
本明細書で使用されるように、用語「CH3ドメイン」及び「CH2ドメイン」は、免疫グロブリン定常領域ドメインポリペプチドを指す。本出願の目的のために、CH2及びCH3ドメインポリペプチドは、IMGTサイエンティフィックチャート付番(Scientific chart numbering)(IMGTウェブサイト)に従って、CH2ドメイン付番が1~110であり、CH3ドメイン付番が1~107であるIMGT(ImMunoGeneTics)付番スキームによって付番され得る。CH2及びCH3ドメインは、免疫グロブリンのFc領域の一部である。あるいは、CH2及びCH3ドメインポリペプチドは、EU付番スキームに従って、CH2ドメイン付番が残基231~340にまたがり、CH3ドメイン付番が残基341~447にまたがるEU付番スキームによって付番され得る。Fc領域は、EU付番スキームに従って付番される場合、約231位から約447位までのアミノ酸のセグメントを指す。「EU付番スキーム」は、Kabatらの文献、免疫学的関心対象のタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest), U.S. Dept. Health and Human Services,第5版、1991に記載されているような抗体の定常領域に関するEU付番規則を指し、これらの各々は、引用により完全に本明細書中に組み込まれる。
【0058】
本明細書で使用されるように、用語「足場タンパク質」は、FcRn結合ポリペプチドをナノ小胞に固定するために使用することができるポリペプチドを指す。いくつかの態様において、足場タンパク質は、ナノ小胞(例えば、EV)中に天然に存在しないポリペプチドである。いくつかの実施態様において、足場タンパク質は、合成ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様において、足場タンパク質は改変タンパク質を含み、対応する未改変タンパク質は、ナノ小胞、例えば、エキソソーム中に天然に存在する。いくつかの実施態様において、足場タンパク質は、EV中に天然に存在するタンパク質、又はその断片、例えば、EVタンパク質の断片を含み、該タンパク質は、天然に存在するレベルよりも高いレベルで発現する。
【0059】
いくつかの実施態様において、足場タンパク質は、(i)天然に存在するEVタンパク質又はその断片及び(ii)異種ポリペプチド(例えば、FcRn結合ポリペプチド、抗原結合ドメイン、又はそれらの任意の組み合わせ)を含む融合タンパク質を含む。
【0060】
本明細書で使用されるように、本開示の用語「足場タンパク質」、又は文法的変形は、
【0061】
(i)少なくとも1つのFcRn結合部位を含み、さらにナノ小胞、例えば、エキソソームの膜にまたがる膜貫通ドメインを含む(天然に発現する、化学的もしくは酵素的に合成された、又は組換え生成された)ポリペプチド;
【0062】
(ii)(i)の任意の機能的断片;
【0063】
(iii)(i)又は(ii)の任意の機能的変異体;
【0064】
(iv)(i)~(iii)のいずれかの任意の誘導体;
【0065】
(v)(i)ナノ小胞(例えば、エキソソーム)の膜にまたがることができるタンパク質、又はそのようなポリエプチドを含む分子に由来するドメイン又はその組み合せに対応する任意のペプチド;
【0066】
(vi)本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド;
【0067】
(vii)少なくとも1つの非天然アミノ酸を含む(i)~(vi)のいずれかの分子;又は
【0068】
(viii)(i)~(vii)の任意の組み合わせ
であり得、
【0069】
これは、表面ナノ小胞、例えば、エキソソームにFcRn結合部位を標的化する(付着させる)足場としての使用に適している。
【0070】
本明細書で使用されるように、用語「表面修飾された」は、目的の分子(例えば、タンパク質)が付着している足場タンパク質を含むナノ小胞を指す。足場タンパク質は、化学的、物理的、もしくは生物学的方法によって、又は化学的、物理的、もしくは生物学的方法によって改変されている細胞から生成されることによって変化させることができる。具体的には、足場タンパク質を遺伝子操作によって変化させることができ、その結果、以前に遺伝子操作によって改変された細胞は、そのような改変された足場タンパク質を生成する。
【0071】
「融合された」ポリペプチド配列は、2つの対象ポリペプチド配列間のペプチド結合を介して結合される。
【0072】
本明細書で使用されるように、用語「ドメイン」は、独立して安定な三次構造に折り畳むことができるポリペプチドの単位(例えば、セグメント)を指す。一般的に、ドメインはタンパク質の別々の機能特性に関与しており、多くの場合、タンパク質の残りの部分及び/又はドメインの機能を失うことなく、他のタンパク質に付加されるか、除去されるか、又は転送され得る。いくつかの別々のドメインを異なる組み合わせで結合させて、マルチドメインポリペプチドを形成することができる。従来、ドメインにまたがるポリペプチドの長さは、実験的に決定されたタンパク質の3次元構造から原子座標を使用することによって解明されてきた。より最近では、実験的に決定された3次元(3D)構造を欠くタンパク質が、配列相同性に基づく計算方法によってドメインを割り当てられている。多くのタンパク質は分離された構造を持たないため、配列ベースのアプローチは非常により注目されている。配列ベースのアプローチには、予測方法がWang, Yanらの文献、Computational and structural biotechnology journal 第19巻 1145-1153. 2021年2月2日に概説されているように、3D構造又は相同配列を利用するかどうかに応じて、テンプレートベース、相同モデリングベース及び機械学習ベースの技術が含まれる。いくつかの計算で予測されたドメインは、公開されているデータベースにカタログ化されている(例えば、2021年のPfam:タンパク質ファミリーデータベース(The protein families database):J. Mistry, S.らの文献, Nucleic Acids Research(2020)に記載のPfamデータベース又はNCBI保存ドメインデータベース(the NCBI Conserved Domain Database(CDD) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/Structure/cdd/cdd.shtml)。
【0073】
用語「ドメイン間リンカー」は、2つの隣接ドメインを互いに結合するポリペプチドのセグメントを指す。ドメイン間リンカーは、Bhaskara RM,らの文献, J Biomol Struct Dyn. 2013 Dec; 31(12):1467-80に記載されているように、ドメインの動きを促進し、ドメイン間の配置を調節する柔軟性を提供する。ドメイン間リンカーは、隣接ドメインの長さ、立体配置、分子間相互作用、及び局所構造によって相互作用を調節し、それによってドメイン間の全体的な配置に影響を与える。予測された構造ドメインに基づく上記のデータベース(Pfamデータベース又はNCBI保存ドメインデータベース)は、ドメインの一般化を提供し、ドメイン境界の近似のみを(例えば、ドメイン内にある残基又はドメイン間リンカーである残基を区別するために)提供し得る。したがって、本明細書に記載のドメイン配列(例えば、表2~20の配列)は、対応するドメイン並びにドメイン間リンカーを含むポリペプチド配列を含み得る。いくつかの実施態様において、カタログ化されたドメイン配列のN末端又はC末端における1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10アミノ酸残基は、ドメイン間リンカーであり得る。当業者は、ドメイン及びドメイン間リンカーに対応するポリペプチド鎖のセグメントを決定することができ、そこで、ドメイン(すなわち、ドメイン境界の)からドメイン間リンカーへの移行が生じる。
【0074】
用語「融合ポリペプチド」は、FcRn結合ポリペプチド、又は少なくとも第2のポリペプチドに作用可能に連結されたポリペプチド由来のアミノ酸配列、又は少なくとも第2のポリペプチド由来のアミノ酸配列を指す。融合タンパク質の個別化されたエレメントは、例えば、直接結合、中間体もしくはスペーサーペプチドの使用、リンカー領域の使用、ヒンジ領域の使用、又はリンカー領域とヒンジ領域の両方の使用を含む様々な方法のいずれかで連結することができる。いくつかの実施態様において、リンカー領域がヒンジ領域の配列内にあるか、又はあるいは、ヒンジ領域がリンカー領域の配列内にあってもよい。好ましくは、リンカー領域はペプチド配列である。例えば、リンカーペプチドは、0~40個の範囲のアミノ酸、例えば、0~35個のアミノ酸、0~30個のアミノ酸、0~25個のアミノ酸、又は0~20個のアミノ酸を含む。好ましくは、ヒンジ領域はペプチド配列である。例えば、ヒンジペプチドは、0~75個の範囲のアミノ酸、例えば、0~70個のアミノ酸、0~65個のアミノ酸又は0~62個のアミノ酸を含む。
【0075】
CH3又はCH2ドメインに関して、用語「野生型」、「天然」、及び「天然に存在する」は、本明細書において、自然界に存在する配列を有するドメインを指すために使用される。
【0076】
本明細書で使用されるように、突然変異ポリペプチド又は突然変異ポリヌクレオチドに関して、用語「突然変異体」は、「変異体」と互換的に使用される。特定の実施態様において、IgGの所定の野生型CH3又はCH2ドメイン(例えば、Fcドメイン)の参照配列又は野生型足場タンパク質参照配列に関して、変異体は、天然に存在する対立遺伝子変異体を含むことができる。「非天然」変異体は、自然界の細胞には存在せず、例えば、遺伝子操作技術又は突然変異誘発技術を使用して、ポリペプチドをコードする核酸配列に適切な修飾を導入する親Fcドメインポリヌクレオチドの遺伝子改変によって、又はタンパク質/ペプチド合成によって生成される変異体又は突然変異体のドメインを指す。「変異体」は、野生型に関して少なくとも1個のアミノ酸変異を含む任意の配列を含む。突然変異は、別のタンパク質における1以上のアミノ酸の置換、挿入、及び欠失(例えば、切断)、並びにフレームシフト又は再配列を含み得る。同様に、ポリヌクレオチドに関して、用語「変異体」は、特定の親ポリヌクレオチドとは塩基配列が異なるポリヌクレオチドを指す。親ポリペプチド又はポリヌクレオチドの同一性は、文脈から明らかであろう。変異体は、親配列に対して1以上の特定の置換、挿入、及び/又は欠失を含み、%配列同一性を有することができる。
【0077】
用語「アミノ酸置換」は、少なくとも1つの既存のアミノ酸残基の別の異なるアミノ酸残基との置換(置換アミノ酸残基)を意味する。置換アミノ酸残基は、「天然に存在するアミノ酸残基」であり、アラニン(3文字コード:ala、1文字コード:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gin、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)、及びバリン(val、V)からなる群から選択され得る。
【0078】
用語「アミノ酸挿入」は、アミノ酸配列中の所定の位置における少なくとも1個のアミノ酸残基の組み込みを意味する。一実施態様において、挿入は、1又は2個のアミノ酸残基の挿入であろう。挿入されるアミノ酸残基(複数可)は、任意の天然に存在する又は非天然のアミノ酸残基であり得る。用語「アミノ酸欠失」は、アミノ酸配列中の所定の位置における少なくとも1個のアミノ酸残基の除去を意味する。
【0079】
用語「非天然のアミノ酸残基」は、上記に列挙した天然に存在するアミノ酸残基以外の、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基に共有結合することができるアミノ酸残基を意味する。非天然のアミノ酸残基の例としては、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリンが挙げられる。さらなる例は、Ellmanらの文献、Meth. Enzym. 202 (1991) 301-336に記載されている。非天然アミノ酸残基の合成の例示的な方法は、例えば、Norenらの文献, Science 244 (1989) 182及びEllmanらの文献、前掲に報告されている。
【0080】
参照ポリペプチド配列に関して、「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、必要に応じて、最大パーセント配列同一性を達成するために配列を整列させ、ギャップを導入した後の参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一であり、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮しない候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアラインメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、当業者の範囲内である様々な方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含めて、配列を整列させるための適切なパラメータを決定することができる。
【0081】
用語「細胞外小胞」、「EV」又は「エキソソーム」は、本明細書において互換的に使用され、任意の形態の細胞から取得することができる任意の種類の小胞、例えば、マイクロ小胞(例えば、細胞の細胞膜から脱落した任意の小胞)、エキソソーム(例えば、エンドソーム、リソソーム及び/又はエンド-リソソーム経路由来の任意の小胞)、アポトーシス小体、ARMM(アレスチンドメイン含有タンパク質1媒介マイクロ小胞)、フソソーム、微粒子及び細胞由来小胞構造に関すると理解されるものとする。一般的に、細胞外小胞は、流体力学的直径が20nm~1000nmの範囲であり、細胞外小胞の外表面に提示される内部空間内、及び/又は膜にまたがる様々な高分子運搬体を含むことができる。前記運搬体は、核酸、タンパク質、炭水化物、脂質、小分子、及び/又はそれらの組み合わせを含むことができる。例として、限定されないが、細胞外小胞には、アポトーシス小体、細胞の断片、直接的又は間接的な操作による(例えば、連続押出、超音波処理又はアルカリ溶液での処理による)細胞由来の小胞、小胞化された細胞小器官、及び生細胞によって生成される(例えば、直接的な細胞膜出芽又は後期エンドソームと細胞膜との融合による)小胞が含まれる。細胞外小胞は、生きている又は死んだ生物、外植された組織又は器官、及び/又は培養細胞に由来し得る。好ましい実施態様において、本開示によるEVは、エキソソーム、マイクロ小胞(MV)、又はエンドソーム、エンドリソーム及び/もしくはリソソーム経路から、又は親細胞の細胞膜から分泌される任意の他の種類の小胞である。さらに、本明細書の教示が単数のEV及び/又は別々の天然ナノ粒子様小胞としてのEVを指す場合、そのような教示は全て、複数のEV及びEVの集団に等しく関連し、適用可能であることを理解されたい。
【0082】
ナノ小胞(例えば、EV)の医学的及び科学的使用並びに適用を説明する場合、本開示は、通常、複数のナノ小胞(例えば、EV)、すなわち数千、数百万、数十億又はさらには数兆のナノ小胞(例えば、EV)を含み得るナノ小胞(例えば、EV)の集団に関することは、当業者には明らかであろう。以下の実験の節から分かるように、ナノ小胞(例えば、EV)は、単位容量当たり(例えば、ml当たり)105、108、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1018、1025、1030個、又はそれより多い、それより少ない、又はその間の範囲の任意の他の数のナノ小胞(「粒子」と呼ばれる場合が多い)などの濃度で存在し得る。個々のナノ小胞(例えば、EV)が複数存在する場合、EV集団を構成する。そのため、当然のことながら、本開示は、当業者には明らかであるように、個々のナノ小胞(例えば、EV)とナノ小胞(例えば、EV)を含む集団の両方に関係する。
【0083】
用語「ナノ小胞」は、ソース細胞(すなわち、細胞外小胞)由来の脂質ナノ小胞、又は合成脂質ナノ粒子、及び天然/合成ハイブリッド(ハイブリドソームなど)を指す。ナノ小胞は、通常、脂質又は脂肪酸並びにポリペプチドを含み、さらにペイロード、標的化部分又は他の分子を含み得る。さらに、本明細書における教示が単数のナノ小胞を指す場合、そのような教示の全ては、複数のナノ小胞及びナノ小胞の集団に等しく関連し、適用可能であることを理解されたい。ナノ小胞の医学的及び科学的使用並びに適用を説明する場合、本開示は、通常、複数のナノ小胞、すなわち、数千、数百万、数十億、又はさらには数兆のナノ小胞を含み得るナノ小胞の集団に関することは、当業者には明らかであろう。以下の実験の節から分かるように、ナノ小胞は、単位容量当たり(例えば、ml当たり)105、108、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1018、1025、1030個、又はそれより多い、それより少ない、又はその間の範囲の任意の他の数の粒子などの濃度で存在し得る。個々のナノ小胞が複数存在する場合、ナノ小胞集団を構成する。そのため、当然のことながら、本開示は、個々のナノ小胞とナノ小胞を含む集団の両方に関係する。
【0084】
さらに、本開示のナノ小胞(例えば、EV)は、ナノ小胞表面に結合し得るFcRn結合ポリペプチドに加えて、追加のペイロードも含み得る。
【0085】
用語「ソース細胞」又は「EVソース細胞」又は「親細胞」又は「細胞源」又は「EV生成細胞」又は任意の他の類似の用語は、適切な条件下で、例えば、懸濁培養又は接着培養又は任意の他の種類の培養系においてナノ小胞(例えば、EV)を生成できる任意の種類の哺乳動物細胞に関すると理解され得る。本開示によるソース細胞は、インビボでナノ小胞(例えば、EV)を生成する細胞も含み得る。本開示によるソース細胞は、懸濁培養又は付着培養で増殖し得るか、又は懸濁増殖に適合する広範囲の細胞及び細胞株から選択され得る。一般的に、ナノ小胞(例えば、EV)は、初代細胞源であれ不死化細胞株であれ、基本的に任意の細胞源に由来し得る。EVソース細胞は、任意の胚性、胎児、及び成人の体性幹細胞型であり、任意の方法により誘導された人工多能性幹細胞(iPSC)及び他の幹細胞を含み得る。ソース細胞は、治療される患者にとって本質的に同種異系、自家、又はさらには異種異系のいずれかであってよく、すなわち、細胞は、患者自身からのもの、又は無関係のドナー、一致するドナー、又は不一致のドナーからのものであり得る。特定の状況において、同種異系細胞は、特定の適応症に罹患している患者の自家細胞から得ることができそうにない免疫調節効果を提供できるため、医学的観点から好ましい場合がある。例えば、炎症性疾患又は変性疾患の治療のコンテキストにおいて、同種異系MSC又はAEは、それらのナノ小胞(例えば、EV)及び特にそれらのナノ小胞(例えば、EV)の固有の免疫調節のために、EV生成細胞源として非常に有益であり得る。特に関心のある細胞株には、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)、HEK293細胞などのヒト胚性腎臓(HEK)細胞、HEK293T細胞、無血清HEK293細胞、懸濁HEK293細胞、微小血管もしくはリンパ管内皮細胞などの内皮細胞株、赤血球、赤血球前駆細胞、軟骨細胞、異なる起源のMSC、羊膜細胞、羊膜上皮(AE)細胞、羊水穿刺を介して又は胎盤から得られる任意の細胞、気道又は肺胞上皮細胞、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞などが含まれる。
【0086】
用語「緩衝物質」は、溶液中にあるときに、例えば、酸性もしくは塩基性物質の添加又は放出による溶液のpH値の変化を和らげることができる物質を示す。
【0087】
本明細書で使用されるように、用語「単離する」、「単離される」、及び「単離すること」又は「精製する」、「精製される」、及び「精製すること」並びに「抽出される」及び「抽出すること」は、互換的に使用され、所望のFcRn結合EV調製物の1以上の精製プロセス、例えば、選択又は富化を経た所望のFcRn結合ナノ小胞(例えば、EV)の調製物(例えば、複数の既知もしくは未知の量及び/又は濃度)の状態を指す。いくつかの実施態様において、本明細書で使用される単離又は精製は、生成細胞含有試料からFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞を除去、部分的に除去するプロセス(例えば、分画)である。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド組成物を含む単離されたナノ小胞は、検出可能な望ましくない活性を有さないか、あるいは、望ましくない活性のレベル又は量が許容可能なレベル又は量以下である。他の実施態様において、単離されたエキソソーム組成物は、許容し得る量及び/又は濃度以上の量のFcRn結合ポリペプチドを含む所望のナノ小胞の量及び/又は濃度を有する。他の実施態様において、FcRn結合ポリペプチド組成物を含む単離されたナノ小胞は、組成物が得られる出発物質(例えば、生成細胞調製物)と比較して富化されている。この富化は、出発物質と比較して10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、99.99%、99.999%、99.9999%、又は99.9999%超であり得る。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド調製物を含む単離されたナノ小胞は、残留生体産物を実質的に含まない。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド調製物を含む単離されたナノ小胞は、任意の混入している生体物質を100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、又は90%含まない。残留生体産物は、非生物物質(化学物質を含む)又は望ましくない核酸、タンパク質、脂質、又は代謝産物を含み得る。残留生体産物を実質的に含まないとは、FcRn結合ポリペプチド組成物を含むナノ小胞が検出可能な生成細胞を含有しないこと、及びFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞のみが検出可能であることを意味することもできる。
【0088】
用語「ポリヌクレオチド」及び「核酸」は、互換的に、任意の長さのヌクレオチドの鎖を指し、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、及び/又はそれらの類似体、又はDNAもしくはRNAポリメラーゼによって鎖に組み込むことができる任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びそれらの類似体などの修飾ヌクレオチドを含み得る。本明細書において企図されるポリヌクレオチドの例としては、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖RNA、並びに一本及びの混合物を有するハイブリッド分子が挙げられる。
【0089】
通常、融合タンパク質の場合のように、融合タンパク質に通常含まれる2つの成分(すなわち、膜貫通ドメインを含むFcRn結合ポリペプチド及び足場タンパク質)は、融合タンパク質において連続的に直接連結されてよく、又は種々のリンカーを使用して互いに連結及び/又は付着されてもよい。ペプチドリンカーのいずれかは、少なくとも5残基、少なくとも10残基、少なくとも15残基、少なくとも20残基、少なくとも25残基、少なくとも30残基又はそれ以上の長さを含み得る。他の実施態様において、リンカーは、2~4残基、2~4残基、2~6残基、2~8残基、2~10残基、2~12残基、2~14残基、2~16残基、2~18残基、2~20残基、2~22残基、2~24残基、2~26残基、2~28残基、又は2~30残基の長さを含む。いくつかの実施態様において、第1のリンカーは、可動性リンカーを含む。いくつかの実施態様において、第1のリンカーは、グリシン-セリンリンカー、すなわち、主として、又は全体的にグリシン残基及びセリン残基の伸長体からなるリンカーを含む。いくつかの実施態様において、第1のリンカーは、(G4S)nリンカー(GGGGS)n(配列番号1)を含み、「n」はモチーフの繰り返し数を示し、1~10の整数である。いくつかの実施態様において、第1のリンカーは、G4S(GGGGS;配列番号2)リンカー、(G4S)2(GGGGS GGGGS;配列番号3)リンカー、(G4S)3(GGGGS GGGGS GGGGS;配列番号4)リンカー、又は(G4S)2-G4(配列番号5)リンカーを含む。
【0090】
本明細書で使用されるように、「一本鎖Fv」又は「scFv」とは、抗体のVH及びVLドメインを含む抗体断片を意味し、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般的に、Fvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインの間に、scFvが抗原結合に望まれる構造を形成することを可能にするポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvを生成する方法は、当技術分野で周知である。scFvの生成方法の概説については、Pluckthunの文献、モノクローナル抗体の薬理学(The Pharmacology of Monoclonal Antibodies),1 13巻, Rosenburg及びMoore(編). Springer-Verlag, New York, pp. 269-315(1994)を参照されたい。
【0091】
態様又は実施態様が、本明細書に「含む」という文言で記載される態様又は実施態様はどこでも、そうでなければ「からなる」及び/又は「本質的にからなる」という観点で記載される類似の態様も提供されることが理解される。
【0092】
(5.2 開示のポリペプチド)
特に、本明細書に提供されるのは、(i)少なくとも1つのFcRn結合部位及び(ii)膜貫通(TM)ドメインを含む特定のFcRn結合ポリペプチドである。特定の実施態様において、膜貫通ドメインは、複数回貫通膜貫通ドメインである。
【0093】
一態様において、本明細書に提供される方法及び組成物と共に使用するためのFcRn結合ポリペプチドは、生理的pH未満のpHで高い親和性でFcRnに結合することができ、かつ少なくとも1つの膜貫通ドメイン又はその断片によって膜に固定されるFcRn結合部位を含むポリペプチドに関するものと理解されるものとする。
【0094】
特定の実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、膜貫通ドメイン(例えば、足場タンパク質)と、新生児Fc受容体のFc結合部位に特異的に結合することができ、ホモ二量体を形成する能力を欠くFcRn結合部位(例えば、免疫グロブリンの改変Fcドメイン)と、を含む。特定の実施態様において、pH6.5でFcRnに結合するFcRn結合部位(例えば、免疫グロブリンの改変Fcドメイン)の平衡解離定数は、最大10
-4Mの値を有する。特定の実施態様において、pH7.4でFcRnに結合するFcRn結合部位(例えば、免疫グロブリンの改変Fcドメイン)の平衡解離定数は、少なくとも10
-4Mの値を有する。特定の実施態様において、FcRn結合部位(例えば、免疫グロブリンの改変Fcドメイン)は、アミノ酸配列
【表1】
に特異的に結合することができ、その中のX
1、X
2、X
3、X
4、X
5、X
6、X
7及びX
8の各々は任意のアミノ酸である。特定の実施態様において、FcRn結合部位(例えば、免疫グロブリンの改変Fcドメイン)は、ヒトFcRn(配列番号7)及び/又はマウスFcRn(配列番号8)の135~158位の間のアミノ酸配列に特異的に結合することができる。
【表2】
【0095】
特定の実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドは、免疫グロブリン重鎖ポリペプチドのC末端領域由来のFcRn結合部位(例えば、Fcドメイン)を含む。いくつかの実施態様において、Fcポリペプチドは、2つの連結されたIg様フォールド構造ドメイン(例えば、CH2及びCH3ドメイン)を含むことができ、酸性pHで、FcRnは、CH2とCH3の両方の構造ドメイン中のアミノ残基(FcRn結合部位)と結合することができる。いくつかの実施態様において、FcRnポリペプチドは、Ig様フォールド構造ドメイン(例えば、FcドメインのCH2)を含むことができ、酸性pHで、FcRnは、CH2構造ドメインのアミノ残基(例えば、FcRn結合部位)と結合することができる。いくつかの実施態様において、FcRnポリペプチドは、Ig様フォールド構造ドメイン(例えば、FcポリペプチドのCH3ドメイン)を含むことができ、酸性pHで、FcRnは、CH3構造ドメインのアミノ残基(FcRn結合部位)と結合することができる。
【0096】
いくつかの実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドは、様々な哺乳動物種(例えば、ヒト)並びに様々な免疫グロブリンのサブタイプ、例えば、IgG(非限定的な例として、IgG、lgG1、lgG2、lgG3、lgG4、lgG2a、lgG2d、及び/又はlgG2cの場合)由来の1以上のFcRn結合部位を含むことができる。いくつかの実施態様において、FcRn結合部位は、ヒトFc構造ドメイン、例えば、ヒトIgG Fcポリペプチド配列由来のアミノ酸配列を含むヒトIgG Fc構造ドメインであるか又はそれを含む。例えば、いくつかの実施態様において、FcRn結合部位は、ヒトIgG1 Fcポリペプチド配列由来のアミノ酸配列(野生型ヒトIgG1 Fcのアミノ酸配列については配列番号9を参照されたい)を含むヒトFc構造ドメインであるか又はそれを含む。他の実施態様において、FcRn結合部位は、ヒトIgG2 Fcポリペプチド由来のアミノ酸配列(野生型ヒトIgG2 Fcのアミノ酸配列については配列番号10を参照されたい)を含むヒトFc構造ドメインであるか又はそれを含む。他の実施態様において、FcRn結合部位は、ヒトIgG3 Fcポリペプチド由来のアミノ酸配列(野生型ヒトIgG3 Fcのアミノ酸配列については配列番号11を参照されたい)を含むヒトFc構造ドメインであるか又はそれを含む。他の実施態様において、FcRn結合部位は、ヒトIgG4 Fcポリペプチド由来のアミノ酸配列(野生型ヒトIgG4 Fcのアミノ酸配列については配列番号12を参照されたい)を含むヒトFc構造ドメインであるか又はそれを含む。
【0097】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドのCH2ドメインは、任意の適切な抗体から容易に取得することができる。任意に、CH2ドメインはヒト起源のものである。CH2ドメインは、リンカーアミノ酸配列のヒンジに(例えば、そのN末端で)連結されていても又はいなくてもよい。一実施態様において、CH2ドメインは、lgG1、2、4又は4サブタイプの天然に存在するヒトCH2ドメインである。一実施態様において、CH2ドメインは、CH2ドメインの断片(例えば、少なくとも10、20、30、40又は50アミノ酸長)である。一実施態様において、CH2ドメインは、本明細書に記載のポリペプチド中に存在する場合、FcRn、特にヒトFcRnへの結合を保持するであろう。
【0098】
一態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドは、Fcドメインを含んでもよく、前記Fcドメインは、抗体(例えば、IgG)の野生型FcドメインのFc構造と重ね合わせることができる三次元構造を示す。特定の実施態様において、本明細書に記載のポリペプチドはFcドメインを含み、前記Fcドメインは三次元構造を示し、そのベータ鎖の等しいCα位置の間の部分は、最大で1、2、4、4、5、6、7、8、9、10又は15Åの二乗平均平方根偏差(RMSD)で、抗体(例えば、IgG)の野生型Fcドメインと重ね合わせることができる。例えば、Fcドメインの構造は、Tam SH,らの文献 Antibodies (Basel). 2017;6(3):12に記載されるように、IgG1、IgG2、及びIgG4サブタイプのFcドメインと重ね合わせることができる。重ね合わせた構造のRMSDを計算することによって2つの生物学的構造を比較する方法は、(Xu, Y., Xu, D.及びLiang, J.の文献, 2007. タンパク質構造予測とモデリングのための計算法(Computational methods for protein structure prediction and modeling) Springerに記載されているように)当技術分野で周知である。
【0099】
別の態様において、本明細書に提供される方法及び組成物と共に使用するためのポリペプチドは、野生型免疫グロブリン重鎖Fcポリペプチド配列と比較して、少なくとも1つの突然変異、例えば、置換、欠失又は挿入を有するが、天然Fcドメインの全体的なIgフォールド又は構造を保持するFcRn結合ポリペプチドに関すると理解されるものとする。
【0100】
いくつかの実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドは、FcRnのFc結合部位に結合する能力を有する免疫グロブリンの改変Fcドメインを含む。改変Fcドメインは、任意のIgG抗体のFc部分の任意の配列と少なくとも50%相同であり得る。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、任意のIgG抗体のFc部分の任意の配列と少なくとも60%相同であり得る。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、任意のIgG抗体のFc部分の任意の配列と少なくとも70%相同であり得る。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、任意のIgG抗体のFc部分の任意の配列と少なくとも80%相同であり得る。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、任意のIgG抗体のFc部分の任意の配列と少なくとも90%相同であり得る。
【0101】
いくつか実施態様において、改変Fcドメインは、配列番号13~34のいずれかと少なくとも50%相同であり得る。特定の実施態様において、FcRn結合部分は、配列番号13~34のいずれかと少なくとも60%相同であり得る。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、配列番号13~34のいずれかと少なくとも70%相同であり得る。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、配列番号13~34のいずれかと少なくとも80%相同であり得る。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、配列番号13~34のいずれかと少なくとも90%相同であり得る。特定の実施態様において、改変Fcドメインは、配列番号13~34のいずれかと少なくとも95%又は少なくとも98%相同であり得る。
【0102】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、天然FcRn結合部位(例えば、Fcドメイン)を含む。いくつかの実施態様において、FcRn結合は、FcRn結合を変える改変を含む。いくつかの実施態様において、本開示の改変Fcドメインは、FcRn結合をさらに増強するために変異又は改変される。これらの実施態様において、変異又は改変されたFcポリペプチドは、以下の変異:EU付番体系を使用して、M252Y、S254T、T256E、L309N、T250Q、M428L、N434S、N434A、T307A、E380Aを含み得る。いくつかの実施態様において、変異又は改変されたFcポリペプチドは、M252Y、S256T、T256E、M428L、M428V、N434S、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1以上の変異を含む。増強されたFcRn結合のためのCH2及びCH3ドメイン改変は、引用により本明細書中に組み込まれる米国特許第16/845,894号に提示されている。
【0103】
様々な実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドは、酸性pHではFcRnのFc結合部位に対する結合親和性が増加し、中性付近のpHではFcRnのFc結合部位に対する結合親和性が減少する。好ましい実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドは、中性pH(例えば、pH7.4)とは対照的に、酸性pH(例えば、pH6.5)でFcRnと複合体を形成する傾向が増加する。
【0104】
いくつかの実施態様において、酸性pHでFcRnに結合するFcRn結合ポリペプチドの平衡解離定数は、少なくとも10-4、10-5、10-6、10-7、10-8又は10-9Mである。いくつかの実施態様において、pH6.5でFcRnに結合するFcRn結合ポリペプチドの平衡解離定数は、pH6.5でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数に等しい。いくつかの実施態様において、pH6.5でFcRnに結合するFcRn結合ポリペプチドの平衡解離定数は、FcRnに結合する改変Fcドメイン断片の平衡解離定数と比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%又は60%増加する。
【0105】
いくつかの実施態様において、中性pHでFcRnに結合するFcRn結合ポリペプチドの平衡解離定数は、10-5、10-4、10-3、10-2又は10-1 Mを超える。いくつかの実施態様において、中性pHでFcRnに結合するFcRn結合ポリペプチドの平衡解離定数は、中性pHでFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数に等しい。いくつかの実施態様において、pH6.5でFcRnに結合するFcRn結合ポリペプチドの平衡解離定数は、FcRnに結合する改変Fcドメイン断片の平衡解離定数と比較して、少なくとも20%、30%、40%、50%又は60%増加する。
【0106】
いくつかの実施態様において、酸性pHでFcRnに結合するFcRn結合ポリペプチドの改変Fcドメインの3次元構造は、生理的pHでの構造よりも大きい表面積(例えば、1000Å超)にまたがる結合界面を有する。特定の実施態様において、改変Fcドメイン鎖とFcRnのポリペプチド鎖との間の界面での埋没表面積は、Fcと、FcのCH2-CH3ドメイン間領域に結合する他のタンパク質(例えば、プロテインA、プロテインG、又はリウマチ因子)との間の界面で埋没した面積よりも大きい可能性がある。間の埋没表面積を計算する方法は、(Xu, Y., Xu, D.及びLiang, J.の文献, 2007. タンパク質構造予測とモデリングのための計算法(Computational methods for protein structure prediction and modeling) Springerに記載されているように)当技術分野で周知である。
【0107】
本明細書に記載の全ての態様の一実施態様において、酸性pHで、FcRn結合ポリペプチドは、ヒトFcRn、カニクイザルFcRn、マウスFcRn、ラットFcRn、ヒツジFcRn、イヌFcRn及びウサギFcRnから選択されるFcRnに対する結合親和性を有する。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、ヒトFcRnに対するよりもマウスFcRnに対する結合親和性が増加している。
【0108】
本明細書に開示されるFcRn結合ポリペプチド並びにFcRn結合ポリペプチドのFcドメインについて、結合親和性及び結合動態を分析する方法は、当技術分野で公知である。これらの方法には、固相結合アッセイ(例えば、ELISAアッセイ)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴(例えば、Biacore(商標))、速度論的排除アッセイ(例えば、KinExA(登録商標))、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(FACS)、バイオレイヤー干渉法(例えば、Octet(登録商標)(ForteBio))、及びウェスタンブロット分析が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、ELISAは、結合親和性を決定するために使用される。ELISAアッセイを実施する方法は、当技術分野で公知である。いくつかの実施態様において、表面プラズモン共鳴(SPR)は、結合親和性及び又は結合動態を決定するために使用される。いくつかの実施態様において、速度論的排除アッセイは、結合親和性及び/又は結合動態を決定するために使用される。いくつかの実施態様において、バイオレイヤー干渉アッセイは、結合親和性及び/又は結合動態を決定するために使用される。
【0109】
(5.2.1 CH2とCH3ドメインホモ二量体の改変)
様々な実施態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドは、別のFcドメインと二量体を形成しない(例えば、別の改変Fcドメインとホモ二量体を形成しない、又は内因性Fcドメインとヘテロ二量体を形成しない)ように操作される。一実施態様において、Fcドメインは、例えば、天然では荷電しているCH3-CH3界面内の接触残基の静電気工学によってヘテロ二量体化を破壊する改変、又は疎水性パッチの改変を含有する(例えば、単量体CH3と呼ばれる別のCH3ドメインとの相互作用を介して二量体化しない)。特定の実施態様において、本明細書において具体的には、FcドメインのCH3ドメインは、CH3二量体化インターフェースを破壊するための1以上のアミノ酸改変(例えば、アミノ酸置換)を含む。そのような実施態様において、CH3ドメイン改変は、CH2-CH3ドメインが単量体形態である場合に、疎水性残基の露出によって引き起こされるタンパク質足場の凝集を防止するであろう。同時に、本開示において有用なCH3ドメイン改変は、さらに新生児Fc受容体(FcRn)、例えば、ヒトFcRnに結合するFc由来ポリペプチドの能力を妨害しないであろう。
【0110】
一態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドは、単量体CH3ドメインを含み得、前記CH3ドメインは、抗体(例えば、IgG)の野生型CH3ドメインのCH3構造と重ね合わせることができる三次元構造を示す。特定の実施態様において、本明細書に記載のポリペプチドは、単量体CH3ドメインを含み、前記単量体CH3ドメインは三次元構造を示し、そのベータ鎖の等しいCα位置の間の部分は、最大で1、2、4、4、5、6、7、8、9、10又は15Åの二乗平均平方根偏差(RMSD)で、抗体(例えば、IgG)の野生型CH3ドメインと重ね合わせることができる。例えば、単量体CH3ドメインの構造は、Tam SH,らの文献 Antibodies (Basel). 2017;6(3):12に記載されるように、IgG1、IgG2、及びIgG4サブタイプのCH3ドメインと重ね合わせることができる。
【0111】
ホモ二量体形成を防止するために使用することができる単量体改変Fcドメインは、様々な刊行物に記載されている。例えば、米国特許公開第2006/0074225号、WO2006/031994、WO2011/063348及びYingらの文献(2012) J. Biol. Chem. 287(23):19399-19407を参照されたく、それらの各々の開示は引用により本明細書中に組み込まれる。ホモ二量体形成を阻止するために、CH3-CH3界面を構成する1以上の残基を荷電アミノ酸と置換すると、相互作用が静電的に好ましくなくなる。例えば、WO2011/063348は、リジン、アルギニン、又はヒスチジンなどの界面中の正電荷アミノ酸を、異なるアミノ酸(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸などの負電荷アミノ酸)と置換し、かつ/又は界面中の負電荷アミノ酸を、異なる(例えば、正電荷)アミノ酸と置換することを提供している。一実施態様において、本明細書に記載のCH3ドメインは、R355、D356、E357、K370、K392、D399、K409、及びK439位(EU付番による)の1、2、3、4、5、6、7又は8個の位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含む。特定の実施態様において、界面内の2以上の荷電残基を反対の電荷に変える。例示的なCH3ドメインは、K392D及びK409D変異、並びにD399K及びD356K変異を含むものを含有する。
【0112】
単量体Fcドメインを維持するためのさらなる戦略は、CH3-CH3界面を構成する1以上の大きな疎水性残基を小さな極性アミノ酸と置換することを含む。ヒトIgGを例にとると、CH3-CH3界面の大きな疎水性残基には、FcドメインのY349、L351、L368、L398、V397、F405、及びY407が含まれる。低極性アミノ酸残基には、アスパラギン、システイン、グルタミン、セリン、及びスレオニンが含まれる。そのため、一実施態様において、本明細書に記載のCH3ドメインは、R355、D356、E357、K370、K392、D399、K409、及びK439位の1、2、3、4、5、6、7又は8個の位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含む。WO2011/063348に記載の研究では、CH3ドメイン界面に近接して位置する正に荷電したLys残基のうちの2つをAspに変異させた。次いで、これら2つのLysからAspへの変異のバックグラウンドで、構造的に保存された大きな疎水性残基に対してスレオニンスキャニング変異誘発を行った。スレオニンとの様々な置換と共に、K392D及びK409D変異を含むFcドメインを、単量体形成について分析した。例示的な単量体Fcドメインには、K392D、K409D及びY349T置換を有するもの、並びにK392D、K409D及びF405T置換を有するものが含まれる。
【0113】
Yingらの文献 (2012) J. Biol. Chem. 287(23):19399-19407では、アミノ酸置換は、残基L351、T366、L368、P395、F405、T407及びK409においてCH3ドメイン内で行われた。異なる変異の組み合わせは、タンパク質凝集を引き起こすことなく、CH3二量体化界面の破壊をもたらした。一実施態様において、本明細書に記載のCH3ドメインは、L351、T366、L368、P395、F405、T407及び/又はK409位の1、2、3、4、5、6又は7個の位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含む。一実施態様において、本明細書に記載のCH3ドメインは、アミノ酸改変L351Y、T366Y、L368A、P395R、F405R、T407M及びK409Aを含む。一実施態様において、CH3ドメインは、アミノ酸改変L351S、T366R、L368H、P395K、F405E、T407K及びK409Aを含む。一実施態様において、本明細書に記載のCH3ドメインは、アミノ酸改変L351K、T366S、P395V、F405R、T407A及びK409Yを含む。
【0114】
様々な実施態様において、本開示の改変Fcドメインは、野生型Fc分子と比較して二量体化の低下を示す。そのため、本開示の実施態様は、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドの集団を含む組成物を含み、前記FcRn結合ポリペプチドによって示されるFcドメイン-Fcドメインホモ二量体の量は、集団の10%未満、20%未満、30%未満、40%未満、50%未満、60%未満、70%未満、80%未満、90%未満、95%未満、97%未満、又は99%未満である。二量体化は、当技術分野で公知のいくつかの技術によって測定され得る。改変Fcドメインのホモ二量体化を測定する好ましい方法には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、分析用超遠心分離(AUC)、動的光散乱(DLS)、及びネイティブPAGEが含まれる。
【0115】
(5.2.2 追加のFcドメイン改変)
いくつかの実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドは、1以上のさらなる改変を含有する。改変Fcドメインに導入することができる他の変異の非限定的な例としては、例えば、血清安定性を増加させ、かつ/又は半減期を延長させるための変異、エフェクター機能を調節するための変異、グリコシル化に影響を及ぼすための変異、及び又はヒトにおける免疫原性を低下させるための変異が挙げられる。
【0116】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドは、エフェクター機能を低下させる、すなわち、エフェクター機能を媒介するエフェクター細胞上又は細胞内で発現するFc受容体(FcRn以外)に結合する際に、特定の生物学的機能を誘導する能力を低下させる改変を含む。Fc受容体エフェクター機能の例としては、Clq結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御、及びB細胞活性化が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド中に存在する改変Fcドメインは、エフェクター機能を調節するさらなる改変を含み得る。
【0117】
いくつかの実施態様において、改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性;改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性;改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性;及び/又は改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性は、未改変Fcドメインと比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、又は50%低下する。
【0118】
いくつかの実施態様において、改変Fcドメインの補体依存性細胞傷害(CDC)活性;改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性;改変Fcドメインの抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)活性;及び/又は改変Fcドメインの抗体依存性細胞内中和(ADIN)活性は、未改変Fcドメインと比較して少なくとも1.5、2、3、4、又は5倍低下する。
【0119】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、N末端からC末端に:(a)未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;(b)未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;(c)リンカー配列;及び(d)膜貫通ドメインを含む。
【0120】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、C末端からN末端に:(a)未改変CH3ドメインに対してホモ二量体化を欠くように改変された改変CH3ドメイン;(b)未改変CH2ドメインに対してエフェクター機能を低下させるように改変された改変CH2ドメイン;(c)リンカー配列;及び(d)膜貫通ドメインを含む。
【0121】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドは、エフェクター機能を低下又は排除する改変を含み得る。例示的な改変には、エフェクター機能を低下させるCH2ドメイン改変が含まれ、これには、EU付番スキームに従って、例えば、234位及び235位に、modCH2と呼ばれるCH2ドメインにおける置換が含まれるが、これらに限定されない。例えば、いくつかの実施態様において、改変Fcドメインは、234及び235位にアラニン残基を含むことができる。そのため、FcRn結合ポリペプチドは、L234A及びL235A置換を有し得る。
【0122】
一実施態様において、CH2ドメインは、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド中に存在する場合、Fcγ受容体、特に、FcγRIIIA(CD16)への結合を低下させるか又は失わせる。CD16に結合できないCH2ドメインを含むFcRn結合ポリペプチドは、目的のエフェクター細胞抗原(例えば、NKp46、CD3など)を発現しない細胞(例えば、NK細胞、T細胞)によってADCCを活性化又は媒介することができないであろう。
【0123】
一実施態様において、CH2ドメインは、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド中に存在する場合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、FcR媒介細胞活性化(例えば、FcR架橋を介するサイトカイン放出)、及び/又はFcR媒介血小板活性化/枯渇を低下させるか、又はそれらを実質的に失わせるであろう。
【0124】
一実施態様において、CH2ドメインは、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド中に存在する場合、活性化Fcγ受容体、例えば、FcγRIIIA(CD16)、FcγRIIA(CD32A)もしくはCD64、又は阻害性Fc受容体、例えば、FcγRIIB(CD32B)への結合を実質的に喪失する。一実施態様において、CH2ドメインは、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド中に存在する場合、さらに補体の第1成分(C1q)への結合を実質的に喪失する。
【0125】
例えば、ヒトlgG1又はlgG2のCH2ドメイン内の残基233~236位及びlgG4の残基327、330及び331位の置換は、Fcγ受容体への結合、ひいてはADCC及びCDCを大いに減少させることが示された。さらに、Idusogieらの文献(2000) J Immunol. 164(8):4178-84は、K322を含む異なる位置でのアラニン置換が補体活性化を顕著に減少させることを実証した。
【0126】
エフェクター機能を調節する追加のCH2ドメイン改変又は変異には、以下のことが含まれるが、これに限定されない:329位に、プロリンがグリシン又はアルギニンと置換される変異を有するか、又はFcのプロリン329とFcyRIIIのトリプトファン残基Trp87及びTrp110との間に形成されるFc/Fcy受容体界面を破壊するのに十分な大きさのアミノ酸残基と置換される変異を有し得る。
【0127】
CH2ドメイン内の追加の例示的な置換には、EU付番スキームに従って、S228P、E233P、L235E、N297A、N297D、及びP331Sが含まれる。複数の置換、例えば、EUの付番スキームに従って、ヒトIgGl Fc領域のL234A及びL235A;ヒトIgGl Fc領域のL234A、L235A、及びP329G;ヒトIgG4 Fc領域のS228P及びL235E;ヒトIgGl Fc領域のL234A及びG237A;ヒトIgGl Fc領域のL234A、L235A、及びG237A;ヒトIgG2 Fc領域のV234A及びG237A;ヒトIgG4 Fc領域のL235A、G237A、及びE318A;並びにヒトIgG4 Fc領域のS228P及びL236Eも存在し得る。いくつかの実施態様において、1つのFcRn結合ポリペプチドは、ADCCを調節する1以上のアミノ酸置換、例えば、EU付番スキームに従って、298、333、及び/又は334位に置換を有してよい。
【0128】
一実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、例えば、全長の野生型ヒトlgG1 Fcドメインと比較して、ヒトFcy受容体(例えば、CD16、CD32A、CD32B及び/又はCD64)への結合が低下している。一実施態様において、該ポリペプチドは、例えば、ヒトlgG1アイソタイプの野生型Fcドメインを有するFcRn結合ポリペプチドと比較して、免疫エフェクター細胞によって媒介されるような、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、Fc受容体媒介細胞活性化/枯渇(例えば、FcR架橋を介するサイトカイン放出)、及び/又はFc受容体媒介血小板活性化/枯渇が低下(例えば、部分的又は完全に喪失)している。
【0129】
一実施態様において、FcRn受容体への結合を保持するが、Fcγ受容体への結合が減少しているCH2ドメインは、例えば、EU付番スキームによる残基N297において、N結合グリコシル化を欠くか又は改変されている。例えば、FcRn結合ポリペプチドは、N297でのグリコシル化を生じさせないN-アセチルグルコサミンへのフコシル付加について高い酵素活性を天然に有する細胞株内で発現させることができる。別の実施態様において、CH2ドメインは、残基297~299において標準的なAsn-X-Ser/Thr N結合グリコシル化モチーフの欠如をもたらす1以上の置換を有し得、これもFcγ受容体への結合を減少させることができる。そのため、CH2ドメインは、N297及び/又は隣接残基(例えば、298、299)で置換を有し得る。
【0130】
一実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、減少したFcγR結合能を示すが、保存されたFcRn結合を有するlgG2 Fc突然変異体由来のCH2ドメインを含有する。特定の実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EU付番体系に従って、変異V234A、G237A、P238Sを含む。別の態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EU付番体系に従って、変異V234A、G237A、H268Q又はH268A、V309L、A330S、P331Sを含む。特定の態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EU付番体系に従って、変異V234A、G237A、P238S、H268A、V309L、A330S、P331S、及び任意に、P233Sを含むlgG2 Fc由来のCH2ドメインを含有する。
【0131】
一実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、FcドメインのCH2ドメインに少なくとも1個のアミノ酸改変を含み(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又はそれ以上のアミノ酸改変を保有し)、任意にさらに、他のドメイン(例えば、CH3ドメイン)内に1以上のアミノ酸改変と組み合わせて含む。Fcドメイン改変を任意に組み合わせて行うことができる。一実施態様において、ヒトFcγ受容体への結合が低下した本開示のFcRn結合ポリペプチドは、アミノ酸残基237~340(EU付番)内の野生型CH2ドメインに対して少なくとも1個のアミノ酸改変を含み(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又はそれ以上のアミノ酸改変を保有し)、その結果、そのようなCH2ドメインを含むFcRn融合ポリペプチドは、野生型CH2ドメインを含む同等のポリペプチドに対して、目的のヒトFcγ受容体に対する親和性が低下している。
【0132】
一態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドは、CH2ドメイン(例えば、改変CH2ドメイン)を含み得、前記CH2ドメイン(例えば、改変CH2ドメイン)は、抗体(例えば、IgG)の野生型CH2ドメインのCH2構造と重ね合わせることができる三次元構造を示す。特定の実施態様において、本明細書に記載のポリペプチドは、改変CH2ドメインを含み、前記改変CH2ドメインは三次元構造を示し、そのベータ鎖の等しいCα位置の間の部分は、最大で1、2、4、4、5、6、7、8、9、10又は15Åの二乗平均平方根偏差(RMSD)で、抗体(例えば、IgG)の野生型CH2ドメインと重ね合わせることができる。例えば、改変CH2ドメインの構造は、Tam SH,らの文献 Antibodies (Basel). 2017;6(3):12に記載されるように、IgG1、IgG2、及びIgG4サブタイプのCH2ドメインと重ね合わせることができる。
【0133】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のCH3ドメインを含むFcRn結合ポリペプチドは、三要素モチーフ含有タンパク質21(TRIM21)の活性化を減少させる改変を含み得る。TRIM21の活性化を減少させる例示的なCH3ドメイン変異には、例えば、EU付番スキームによる433位でのCH3ドメイン内の置換が含まれるが、これに限定されない。例えば、いくつかの実施態様において、CH3ドメインは、EU付番スキームによる433位にアラニン残基を含むことができる。
【0134】
特定の態様において、本明細書に提供されるのは、目的の分子を付着させるためのナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)中のシグナル中性タンパク質足場に固定されたFcRn結合ポリペプチドである。
【0135】
さらなる態様において、本開示に有用なFcポリペプチドのFcRn結合部位は、CH2とCH3ドメインとの間のドメイン間界面(例えば、ヒンジ領域)の近くに内部アミノ酸を含み得るが、CH2とCH3ドメイン(例えば、fcポリペプチド)のC末端又はN末端を含まない。したがって、特定の実施態様において、FcRn結合部位を含む構造ドメインの両端は、FcRn結合機能に関連しないため、ポリペプチドのFcRn結合機能を著しく変えることなく改変(例えば、異種タンパク質と連結)することができる。構造的補完(例えば、FcRn結合)のためにアクセス可能な内部FcRn結合部位を有する(N末端又はC末端から遠位の)ドメインを含むポリペプチドは、節)に記載されるように、異なる種類の膜貫通ドメイン(1、II及びPT型)を含む足場タンパク質のN末端又はC末端のいずれかにつながれると、設計上の利点を提供し得る。さらに、本明細書に提供されるのは、足場タンパク質及び任意に、細胞型特異的標的化、受容体デコイ、又は精製などの追加機能のための異種タンパク質に融合されるアクセス可能なN末端及びC末端を有する内部FcRn結合部位を含むポリペプチドである。いくつかの実施態様において、FcRn結合部位を膜から突出するタンパク質足場に融合すると、FcRnがFcRn結合部位にアクセスすることが可能になる。特定の実施態様において、これは、(例えば、エフリン受容体足場タンパク質に融合した場合に)膜からのFcRn結合部位の長い突出をもたらし、安定性を維持しながら、同時に屈曲及び/又は再構成するのに柔軟である。安定な膜固定は、目的の分子がナノ小胞(例えば、EVもしくはハイブリドソーム)又は細胞の外表面に向けられる場合があるという点で、生じる融合タンパク質の立体配置を能率化することができる。
【0136】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドは、実質的にC1q、FcγRI、FcγRII又はFcγRIIIに結合しない。
【0137】
表1 野生型IgG1 Fcドメインと改変Fcドメインの例
【表3】
【0138】
(5.2.3 FcRn結合ポリペプチドの構造)
一態様において、FcRn結合ポリペプチドは、膜貫通ドメインを含む足場タンパク質(例えば、足場タンパク質)に連結されたFcRn結合部位を含む。いくつかの実施態様において、FcRn結合部位は、FcRnのFc結合部位に結合する能力を有する免疫グロブリンの改変Fcドメインを含む。
【0139】
((a)膜貫通ドメイン(例えば、膜貫通ドメインを含有する足場タンパク質))
様々な実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドは、細胞膜に埋め込まれ、かつ少なくとも1回細胞膜を横断する1以上の膜貫通領域を含む膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインを含む。そのような膜貫通領域又はその機能性断片は、FcRn結合ポリペプチドの膜アンカーとして使用され得る。本開示のFcRn結合ポリペプチドにおいて有用な膜貫通ドメインは、細胞膜、小胞体膜、ゴルジ複合体膜、リソソーム膜、核膜、及びミトコンドリア膜を含むが、これらに限定されない細胞の様々な膜のいずれかと会合する膜貫通タンパク質由来であり得る。これらの異なる種類の膜のいずれかと会合する膜貫通タンパク質の例は、日常的にEV試料のプロテオミクスデータセット(例えば、www.exocarta.org)に見いだされ、場合によって、CD63などの膜貫通タンパク質のエンドサイトーシスシグナルを、エンドソーム膜から細胞膜に局在を変えるように変異させると、結果として分泌されるEVには、同じタンパク質のエンドソーム標的型よりも、変えられた膜貫通タンパク質が多量に含まれる(Fordjourらの文献, bioRxiv; 2019を参照されたい)。
【0140】
膜貫通タンパク質には4つの一般的なクラス又は型がある(I~IV型、Nelson及びCoxの文献, Principles of Biochemistry (2008)を参照されたい)。I型膜貫通タンパク質は、小胞体(ER)内腔を標的とするN末端領域と細胞質に向けられるC末端領域を有する。II型膜貫通タンパク質は、細胞質ドメインを標的とするN末端領域とER内腔に向けられるC末端領域を有する。PT型膜貫通タンパク質は、細胞膜にまたがる翻訳タンパク質の2以上のセグメントを有する「複数回貫通」又はポリトピック膜貫通タンパク質である。
【0141】
様々な実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチド中の膜貫通ドメインは、膜貫通タンパク質が通常会合している細胞の膜を通常横断する膜貫通タンパク質の膜貫通領域の全部又は一部を含む。本開示のFcRn結合ポリペプチドの膜貫通ドメインは、膜貫通タンパク質の膜貫通領域だけでなく、膜貫通タンパク質の膜貫通領域又は膜包埋領域の上流(N末端)及び/又は下流(C末端)のいずれかの隣接領域に位置付けられる膜貫通タンパク質の追加のアミノ酸も含み得る。例えば、特定の実施態様において、膜貫通タンパク質の膜貫通領域全体が使用されるであろう。追加の実施態様において、膜貫通タンパク質の膜貫通領域全体及び膜包埋部分の任意の上流もしくは下流領域の全部又は一部を、本開示によるFcRn結合ポリペプチドの膜貫通ドメインとして使用してもよい。本開示のFcRn結合ポリペプチドの膜貫通アンカーの一部であり得る膜貫通タンパク質の膜包埋部分から上流(N末端)及び/又は下流(C末端)のいずれかに位置付けられる追加のアミノ酸は、1~10個のアミノ酸、1~20個のアミノ酸、1~30個のアミノ酸、1~40個のアミノ酸、1~50個のアミノ酸、1~60個のアミノ酸、1~70個のアミノ酸、1~80個のアミノ酸、1~90個のアミノ酸、1~100個のアミノ酸、1~200個のアミノ酸、1~300個のアミノ酸、1~400個のアミノ酸、1~500個のアミノ酸、1~600個のアミノ酸、1~700個のアミノ酸、1~800個のアミノ酸、及び1~900個のアミノ酸を含むが、これらに限定されないサイズ範囲を有してよい。いくつかの実施態様において、断片膜貫通ドメインは、天然タンパク質のN末端から少なくとも5、10、50、100、200、300、400、500、600、700、又は800個のアミノ酸を欠く。いくつかの実施態様において、断片膜貫通ドメインは、天然タンパク質のC末端から少なくとも5、10、50、100、200、300、400、500、600、700、又は800個のアミノ酸を欠く。いくつかの実施態様において、該配列は、天然タンパク質のN末端とC末端の両方から少なくとも5、10、50、100、200、300、400、500、600、700、又は800個のアミノ酸を欠く膜貫通ドメインの断片をコードする。いくつかの実施態様において、該配列は、天然タンパク質の1以上の機能ドメイン又は構造ドメインを欠く膜貫通ドメインタンパク質の断片をコードする。
【0142】
本明細書に記載の膜貫通ドメインを含むFcRn結合ポリペプチドは、例えば、細胞質尾部の望ましくないシグナル伝達機能を排除するために、膜貫通タンパク質の膜貫通領域に付着する細胞質領域全体、又は細胞質領域の1以上のアミノ酸の切断も含み得る。例えば、膜貫通タンパク質の細胞質領域のC末端部分におけるキナーゼドメインの存在は、シグナル伝達ドメインとして役立ち得る。したがって、キナーゼ膜貫通タンパク質の膜包埋(膜貫通)領域及び隣接する細胞質C末端領域の全部又は一部が、本開示の融合タンパク質の膜貫通ドメインとして使用される場合、膜貫通領域及び任意の隣接する細胞質領域を含む融合タンパク質が宿主細胞を活性化しないように、任意の既知の機能的キナーゼシグナルを排除又は破壊することができる。
【0143】
以下の表2~4は、1回貫通(表2)及び複数回貫通(表3及び表4)膜貫通ドメインを含む足場タンパク質のいくつかの非限定的な例のリストを、Uniprotデータベースエントリーと共に提供する。本開示のFcRn結合ポリペプチドに使用され得る膜貫通ドメインは、FcRn結合ポリペプチドをナノ小胞に固定するのに十分な膜貫通領域配列の一部を使用することができる。膜貫通領域の上流又は下流の隣接領域のセグメントを含む膜貫通タンパク質の他の部分は、それらの包含がナノ小胞の表面上のFcRn結合ポリペプチドの提示を増強するか、又は少なくとも著しく減少させない限り、FcRn結合ポリペプチドに含めてよい。膜貫通ドメインを含む足場タンパク質の表面のアクセス可能な末端にFcRn結合部位を含むポリペプチドを融合させると、屈曲及び/又は再構成に対して柔軟であると同時に、安定である構造を生み出すことができる。さらに、いくつかの実施態様において、足場タンパク質のエクトドメインは、足場タンパク質のエクトドメインが膜から突出するように、到達のための長い突出を提供し得る。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、配列番号35
【化3】
の膜貫通ドメイン(例えば、膜結合IgGの膜貫通ドメイン)を含まない。
【0144】
表2 足場タンパク質として使用することができる1回貫通(バイトピック)膜貫通タンパク質の例
【表4】
【0145】
表3 アクセス可能なN末端又はC末端を有する足場タンパク質を使用できる複数回貫通(ポリトピック)膜貫通タンパク質の例
【表5】
【0146】
表4 足場タンパク質を使用する膜貫通ドメインを含有することができる複数回貫通(ポリトピック)膜貫通タンパク質の例
【表6】
【0147】
本開示と共に使用することができる膜貫通ドメインを含む他の足場タンパク質のさらなる非限定的な例としては、アミノペプチダーゼN(CD13);ネプリライシン、別名膜メタロエンドペプチダーゼ(MME);エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼファミリーメンバー1(ENPP1);ニューロピリン-l(NRPl);PDGFR、GPIアンカータンパク質、ラクトアドヘリン、LAMP2、及びLAMP2B)が挙げられる。
【0148】
いくつか実施態様において、膜貫通ドメインは、野生型エフリン受容体の膜貫通ドメイン(例えば、配列番号35~48からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むエフリン受容体TMドメイン)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、ポリペプチドの膜貫通ドメインは、野生型エフリン受容体の膜貫通ドメイン(例えば、配列番号35~48からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むエフリン受容体TMドメイン)である。
【0149】
いくつか実施態様において、膜貫通ドメインは、野生型FPRPの膜貫通ドメイン(例えば、配列番号49のアミノ酸配列を含むFPRP TMドメイン)と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施態様において、ポリペプチドの膜貫通ドメインは、野生型FPRPの膜貫通ドメイン(例えば、配列番号49のアミノ酸配列を含むFPRP TMドメイン)である。
【0150】
【0151】
いくつかの実施態様において、膜貫通ドメインは、1個のアミノ酸変異、2個のアミノ酸変異、3個のアミノ酸変異、4個のアミノ酸変異、5個のアミノ酸変異、6個のアミノ酸変異、7個のアミノ酸変異、又は8個以上のアミノ酸変異を除く野生型エフリン受容体の膜貫通ドメイン(例えば、配列番号35~48からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むエフリン受容体膜貫通ドメイン)のアミノ酸配列を含む。変異(複数可)は、置換(複数可)、挿入(複数可)、欠失(複数可)、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0152】
いくつかの実施態様において、膜貫通ドメインは、1個のアミノ酸変異、2個のアミノ酸変異、3個のアミノ酸変異、4個のアミノ酸変異、5個のアミノ酸変異、6個のアミノ酸変異、7個のアミノ酸変異、又は8個以上のアミノ酸変異を除く野生型FPRPの膜貫通ドメイン(例えば、配列番号50のアミノ酸配列を含むFPRP膜貫通ドメイン)のアミノ酸配列を含む。変異(複数可)は、置換(複数可)、挿入(複数可)、欠失(複数可)、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0153】
いくつか実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、膜貫通ドメインにおける2以上のポリペプチド間の相互作用を増加させる膜貫通ドメインホモドメイン二量体化モチーフを含む。特定の実施態様において、膜貫通ドメインホモドメイン二量体モチーフは、膜貫通ロイシンジッパーモチーフである。特定の実施態様において、膜貫通ドメインホモ二量体モチーフは、膜貫通グリシンジッパーモチーフである。膜貫通ドメイン二量体化を改変及びアッセイする方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Bocharovらの文献 J Biol Chem. 2008 Oct 24;283(43):29385-95を参照されたい。
【0154】
いくつかの実施態様において、膜貫通ドメインは、野生型エフリン受容体の膜貫通ドメイン(例えば、配列番号35~48からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むエフリン受容体膜貫通ドメイン)のアミノ酸配列を含み、その長さは、配列番号35~48のN末端及び/又はC末端に1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、19アミノ酸、又は20アミノ酸又はそれ以上である。
【0155】
いくつかの実施態様において、膜貫通ドメインは、野生型FPRPの膜貫通ドメイン(例えば、配列番号50のアミノ酸配列を含むFPRP膜貫通ドメイン)のアミノ酸配列を含み、その長さは、配列番号50のN末端及び/又はC末端に1アミノ酸、2アミノ酸、3アミノ酸、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、11アミノ酸、12アミノ酸、13アミノ酸、14アミノ酸、15アミノ酸、16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、19アミノ酸、又は20アミノ酸又はそれ以上である。
【0156】
((b)膜貫通足場タンパク質の選択)
本開示のFcRn結合ポリペプチドにおいて膜貫通ドメインとして使用するための足場タンパク質の選択の際にいくつかの要因を考慮することができる。これらの要因の中には、膜貫通ドメインの供給源としての使用について、どの特定の膜貫通タンパク質の型(I、II、又はポリトピック型)が検討されているタンパク質であるかという認識、膜貫通タンパク質の天然の細胞内位置の認識、及び本開示による融合タンパク質におけるFcRn結合ポリペプチドと膜貫通ドメインが、ナノ小胞の表面上のFcRn結合ポリペプチドの提示について本明細書に記載のプロセス全体において互いの機能に影響を及ぼし得るかという認識がある。
【0157】
上述のように、4種類の足場タンパク質は、細胞質及び小胞体又はナノ小胞(例えば、EV)内腔に対してN末端及びC末端の相対的な配向、並びにタンパク質の膜貫通領域がナノ小胞(例えば、EV)膜を1回だけ通過する(「1回貫通」膜貫通領域)か、又はタンパク質が全体として2回以上膜を通過するように2以上の膜貫通領域(複数回貫通膜貫通領域)を含むかどうかによって互いに区別することができる。
【0158】
膜貫通領域が特定の種類の膜貫通タンパク質由来であることを知ると、本開示のFcRn結合ポリペプチドにおけるFcRn結合部位に対する膜貫通ドメインの好ましい配向及び位置が示唆される。これは、膜貫通領域のいずれかの側の、細胞質及びナノ小胞(例えば、EV)内腔に対してN末端とC末端の配向及び位置が固定されているI型及びII型膜貫通タンパク質に対して特に重要である。例えば、I型膜貫通タンパク質由来の膜貫通領域が、本開示のFcRn結合ポリペプチドの足場タンパク質(T1足場と呼ばれる)として使用される場合、FcRn結合部位は、(
図2に描かれているように)膜貫通ドメインのN末端にある。そのため、I型由来の膜貫通ドメインを有する本開示のFcRn結合ポリペプチドの最も一般的な立体配置は、以下のように例示されるN末端からC末端までの直鎖状構造:
(1)(FcRn結合部位)-L-(T1足場)
を含み、式中のLは、2つのドメインを連結する直接ペプチド結合又は1以上のアミノ酸残基のリンカー配列を表す。I型膜貫通ドメインを含有するFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の概略については
図1を参照されたい。
【0159】
加えて、I型由来の膜貫通ドメインを含むFcRn結合ポリペプチドは、好ましくは、N末端シグナル配列(例えば、シグナルペプチド)を含み、これは、融合タンパク質のN末端を、ER膜を通ってER内腔に導くI型膜貫通タンパク質の特徴である。
【0160】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA1由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA1又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA1のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号50又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号50と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA1由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0161】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA2由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA2又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA2のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号51又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号51と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA2由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0162】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA3由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA3又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA3のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号52又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号52と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA3由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0163】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA4由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA4又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA4のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号53又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号53と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA4由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0164】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA5由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA5又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA5のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号54又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号54と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA5由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0165】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA6由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA6又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA6のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号55又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号55と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA6由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0166】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA7由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA7又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA7のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号56又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号56と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA7由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0167】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA8由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA8又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA8のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号57又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号57と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA8由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0168】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphA10由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphA10又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphA10のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号58又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号58と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphA10由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0169】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphB1由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphB1又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphB1のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号59又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号59と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphB1由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0170】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphB2由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphB2又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphB2のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号60又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号60と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphB2由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0171】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphB3由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphB3又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphB3のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号61又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号61と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphB3由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0172】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphB4由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphB4又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphB4のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号62又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号62と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphB4由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0173】
具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、EphB6由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含むT1足場タンパク質に連結される。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、野生型EphB6又はその断片のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、野生型EphB6のエクトドメイン及び膜貫通ドメイン領域全体のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、該ポリペプチドは、配列番号63又はその断片と同一又は類似のアミノ酸配列を含み、配列番号63と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有し、前記ポリペプチドは、親Eph受容体と比較してエフリンへの結合が減少しているか又は結合を示さない。いくつかの実施態様において、EphB6由来のポリペプチドの部分は、1以上の異種タンパク質に融合される。
【0174】
表6. 例示的なEph受容体由来のエクトドメイン及び膜貫通ドメインを含む足場タンパク質
【表8】
【0175】
II型膜貫通タンパク質の膜貫通領域が足場タンパク質(T2足場と呼ばれる)として採用される場合、FcRn結合部位は、好ましくは、II型由来の膜貫通ドメインがFcRn結合部位のN末端にあるドメインの配置を含む。例えば、FcRn融合タンパク質は、(
図2に描かれているように)N末端からC末端方向に、II型由来の膜貫通ドメインを含む足場タンパク質又はその断片が(改変Fcドメインの)CH2ドメインに連結され、次に(改変Fcドメインの)単量体CH3ドメインに連結されるドメインの配置を含んでよい。
【0176】
そのため、II型由来の膜貫通ドメインを含む本開示のFcRn結合ポリペプチドの最も一般的な立体配置は、以下のように図示されるN末端からC末端までの直鎖状構造:
(2)(T2足場)-L-(FcRn結合部位)
を含有し、式中のLは、2つのドメインを連結する直接ペプチド結合又は1以上のアミノ酸残基のリンカー配列を表す。
【0177】
非限定的な例として、FcRn結合ポリペプチドは、配列番号64によるAT1B3又はその機能的断片と少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の配列同一性を共有するAT1B3(Uniprot P54709)のポリトピックII型由来の膜貫通タンパク質足場(T2足場)のC末端に改変Fcポリペプチドを融合することによって構築される。
【表9】
【0178】
ある実施態様において、複数回貫通(ポリトピック)膜貫通タンパク質由来の膜貫通領域が足場タンパク質(PT足場と呼ばれる)として採用される場合、FcRn結合部位に対する膜貫通ドメインの位置は、膜貫通領域の膜にまたがる領域を何個選択するか、及び細胞膜の細胞質側及びER側に対して、N末端からC末端に選択される膜にまたがる領域(複数可)の配向(
図2に描かれているように)が何であるかによって変化する。非細胞質末端を有する例示的なPT足場を表3に列挙する。PT足場又はその断片のどちらの末端が非細胞質であるかは当業者には明らかであろう。
【0179】
したがって、ポリトピック膜貫通ドメインを含む足場タンパク質(PT足場)由来の膜貫通ドメインを利用する本開示のFcRn結合ポリペプチドについての可能性のある直鎖状立体配置は、以下のように例示することができ、複数の膜貫通ドメインの使用を含んでよく、
(3)(FcRn結合部位)-L-(PT足場)、及び/又は
(4)(PT足場)-L-(FcRn結合部位)、
各式中のLは、2つのドメインを連結する直接ペプチド結合又は1以上のアミノ酸残基のリンカーを表す。
【0180】
いくつかの実施態様において、ポリトピック膜貫通ドメインを含むPT足場タンパク質は、I型由来の膜貫通ドメインを含む足場タンパク質を使用するための配置と同様に、FcRn結合部位に対してC末端ドメインに位置付けられるが、他の実施態様において、ポリトピック膜貫通ドメインを含むPT足場タンパク質は、FcRn結合部位に対してN末端ドメインに位置付けられる。I型膜貫通ドメインを含む足場タンパク質とは異なり、PT膜貫通を含む足場タンパク質は、PT足場のN末端をER膜に入れてER内腔へと導くためにN末端シグナル配列を必要としない場合がある。しかし、PT由来の膜貫通ドメインを含むFcRn結合ポリペプチドタンパク質の場合、ナノ小胞表面上のFcRn結合ポリペプチドの所望の位置を達成するために、N末端シグナル配列が依然として必要であり得る。
【0181】
非限定的な例として、FcRn結合ポリペプチドは、配列番号65によるZip2又はその機能的断片と少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の配列同一性を共有するZip2(野生型配列に対して金属輸送を低下させる改変をH63A位に含む)のタンパク質足場由来のポリトピック膜貫通ドメインのC末端に改変Fcポリペプチドを融合することによって構築される。
【0182】
追加の非限定的な例として、FcRn結合ポリペプチドは、配列番号66によるZip2又はその機能的断片と少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の配列同一性を共有するZip2(野生型配列に対して金属輸送を低下させる改変をH63A位に含む)のPT足場のN末端に改変Fcポリペプチドを融合することによって構築される。
【0183】
さらなる非限定的な例として、FcRn結合ポリペプチドは、両末端がナノ小胞の表面に位置し、配列番号67よるZip2又はその機能的断片と少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の配列同一性を共有するZip2(野生型配列に対して金属輸送を低下させる改変をH63A位に含む)のPT足場のN末端とC末端の両方に改変Fcポリペプチドを融合することによって構築される。
【表10】
【0184】
特定の実施態様において、細胞質に向かうN末端とC末端の両方を含む複数回貫通(ポリトピック)足場タンパク質の膜貫通領域の場合、FcRn結合部位を、膜貫通ドメインの2つの隣接する膜にまたがる断片の間の細胞外ループ上に配置することができる。細胞質末端を有する例示的なPT足場を表4に列挙する。PT足場膜貫通ドメインからのループが細胞質とは対照的に細胞外にあることは当業者には明らかであろう。
【0185】
したがって、(
図2に描かれているように)ポリトピック膜貫通ドメインを含む足場タンパク質(PT足場)由来の膜貫通ドメインを利用する本開示のFcRn結合ポリペプチドについて可能性のある直鎖状立体配置は、以下のように例示されてよく、複数の膜貫通ドメインの使用を含んでよく:
(6):(TMH
1)-(CL
1)-(TMH
2)-(L
1)-(FcRn結合部位)-(L
2)-(TMH
3)-(CL
2)
式中の各Lは、2つのドメインを連結する直接ペプチド結合又は1以上のアミノ酸残基のリンカーを表し、TMHは「膜貫通ヘリックス」を示し、CLは「細胞質ループ」を示す。
【0186】
((c)足場タンパク質として有用なポリペプチドを決定するための標準アッセイ)
以下の実施例で解明される本開示の特定の特徴に加えて、特定の足場タンパク質が本開示によるFcRn結合ポリペプチドとして有用であるか否かを決定するアッセイにおいて、膜貫通領域を含むタンパク質を採用することができることは明らかである。そのような足場タンパク質アッセイにおいて、候補膜貫通ドメインとインフレームで融合させたFcRn結合部位を含む融合タンパク質のアミノ酸配列をコードする組換え核酸分子は、標準的な方法(例えば、核酸合成、組換えDNA技術、及び/又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法)によって生成される。候補足場タンパク質は、通常、本明細書に記載の膜貫通ドメインの特徴に従って細胞膜もしくは細胞内膜に存在するか、又はそれを通過する膜タンパク質の一部を含む。そのため、非限定的な例として、任意の候補ポリペプチドを足場タンパク質として試験又は評価するために、候補膜貫通ドメインをコードする核酸は、FcRn結合部位を含むFcRn結合ポリペプチドの共通部分をコードする核酸にインフレームで連結される。次いで、得られた候補FcRn結合ポリペプチド融合タンパク質をコードする組換え核酸を、発現ベクターに挿入することができる。以下の実施例で使用されるHEK293細胞などの哺乳動物細胞株の細胞を、発現ベクターでトランスフェクトすることができる。次いで、トランスフェクト細胞を単離し、発現ベクター上にコードされるタンパク質の発現を可能にする条件下で培養して増殖させることができる。培地の試料又はそこから単離されるナノ小胞を、ナノ小胞(例えば、EV)に固定されたFcRn結合ポリペプチドの量(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用する)、フローサイトメトリー(例えば、蛍光抗Fcドメイン抗体を使用する)又は酸性pHでのFcRnへの機能的結合(例えば、Lumit(商標) FcRn競合アッセイを使用する)についてアッセイすることができる。トランスフェクトされていない対照細胞の培地中のFcRn結合ポリペプチドのレベルと比較して、トランスフェクト細胞の培地中のFcRn結合ポリペプチドのレベルの増加は、足場タンパク質、したがって、候補FcRn結合ポリペプチドが本開示による足場として有用であることを示す。好ましくは、融合タンパク質を発現する細胞の培養物の培地中に分泌されるナノ小胞中に存在するFcRn結合ポリペプチドのレベルは、対照細胞の培地中のレベルのそれよりも少なくとも1.5倍高い。ナノ小胞(例えば、エキソソーム)から分泌されるFcRn結合ポリペプチドのレベルを増強することも、治療上及び商業的に重要な特性であり、1.5倍以上の増加は、生成コストの顕著な低下並びに治療上及び商業的に重要なナノ小胞の利用可能性の顕著な増加を提供することができる。
【0187】
いくつかの実施態様において、FcRn結合部位及び足場タンパク質を含むFcRn結合ポリペプチドは、追加のポリペプチドドメイン又は配列も含有してよい。そのような追加のポリペプチドドメインは、様々な機能を発揮し得、例えば、そのようなドメインは、(i)FcRn結合ポリペプチドの表面濃度を増加させることに寄与し、(ii)足場タンパク質のクラスタリングをもたらし、それによってFcRn結合ポリペプチドの結合活性を増加させ、(iii)足場タンパク質とFcRn結合部位との間の相互作用を最適化するリンカーとして機能し、かつ/又は(iv)ナノ小胞膜における固定、並びに様々な他の機能を改善し得る。
【0188】
(5.2.4 機能的部分)
さらなる態様において、本明細書に提供されるFcRn結合ポリペプチドは、FcRnに条件付きで結合することができることに加えて、1以上の機能的部分(例えば、融合部分、好ましくは、特異的な器官、組織、又は細胞型に、該ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)を標的化することができる標的化ドメイン)を含むこともできる。好ましい実施態様において、1以上の機能的部分は、タンパク質(例えば、ペプチド又はポリペプチド)である。好ましい実施態様において、1以上の機能的部分は、ポリペプチドの残りの部分にインフレームで融合される。特定の実施態様において、1以上の機能的部分は、リンカーを介してポリペプチドの残りの部分に共有結合で融合される。
【0189】
そのような1以上の機能的部分は、ポリペプチドの残りの部分のN末端もしくはC末端にある(例えば、N末端及び/もしくはC末端で融合される)か、又はポリペプチドの残りの部分の異なるドメインの間に配置することができる。特定の実施態様において、1以上の機能的部分は、ナノ小胞の外部空間に向かって提示される。いくつかの実施態様において、1以上の機能的部分は、足場タンパク質の膜貫通ドメインのN末端にある(例えば、N末端で融合される)。いくつかの実施態様において、1以上の機能的部分は、改変FcドメインのN末端にある(例えば、N末端で融合される)。いくつかの実施態様において、1以上の機能的部分は、改変FcドメインのC末端にある(例えば、N末端で融合される)。いくつかの実施態様において、1以上の機能的部分は、足場タンパク質の膜貫通ドメインのC末端にある(例えば、C末端で融合される)。いくつかの実施態様において、1以上の機能的部分は、足場タンパク質の膜貫通ドメインのN末端にある(例えば、N末端で融合される)。特定の実施態様において、1以上の機能的部分は、ナノ小胞の内腔に向かって提示される。いくつかの実施態様において、1以上の機能的部分は、足場タンパク質の膜貫通ドメインのC末端にある(例えば、C末端で融合される)。いくつかの実施態様において、1以上の機能的部分は、改変FcドメインのC末端にある(例えば、C末端で融合される)。
【0190】
例示的な機能的部分は、限定されないが、アフィニティータグなどの標的化ドメイン及び精製ドメインを含む。機能的部分は、大きなポリペプチド又はペプチドであり得る。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、FcRn結合部位及び任意に標的化部分を含み、それらの各々は独立して改変することができる。
【0191】
いくつかの実施態様において、標的化ドメインは、好ましくは、ナノ小胞の表面上に位置付けられる。標的化ドメインは、特異的器官、組織、又は細胞に向けてナノ小胞を導くのに役立ち、好ましくは器官、組織、又は細胞に特異的である。1以上の標的化ドメインは、FcRn結合ポリペプチドの残りの部分に融合されてよい。2以上の標的化ドメインの存在は、標的器官、組織、又は細胞に対する特異性を増加させ得る。いくつかの実施態様において、標的化ドメインは、1以上の抗原結合分子であるか、又はそれを含む。いくつかの実施態様において、標的化ドメインは、癌細胞、転移性細胞、樹状細胞、幹細胞又は免疫細胞上で発現する抗原を特異的に標的とする。腫瘍細胞上で発現する例示的な抗原には、BAGE、BCMA、CEA、CD19、CD20、CD33、CD123、CEA、FAP、HER2、LMP1、LMP2、MAGE、Mart1/MelanA、NY-ESO、PSA、PSMA、RAGE及びサバイビンが含まれるが、これらに限定されない。
【0192】
いくつかの実施態様において、標的化ドメインは、ナノ小胞の内腔に位置付けられる。標的化ドメインは、陥入及び小胞形成の前に細胞質成分(例えば、タンパク質、タンパク質複合体、ウイルス)を足場に付着させるのに役立つ。2以上の標的化ドメインの存在は、生合成中のナノ小胞の内腔への細胞質成分の装填効率を増加させ得る。いくつかの実施態様において、標的化ドメインは、1以上の抗原結合分子であるか、又はそれを含む。いくつかの実施態様において、標的化ドメインは、アデノ随伴ウイルス上に発現する抗原を特異的に標的とする。
【0193】
特定の実施態様において、標的化ドメインは、scFv、(scFv)2、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、dAb、Fd断片、ダイアボディ、F(ab')3、ジスルフィド結合Fv、sdAb(VHH又はナノボディ)、CDR、ジ-scFv、bi-scFv、tascFv(タンデムscFv)、トリアボディ、テトラボディ、V-NARドメイン、Fcab、IgGACH2、DVD-Ig、プロボディ、ダルピン、センチリン、アフィボディ、アフィリン、アフィチン、アンチカリン、アビマー、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ(又はアドネクチン)、トリボディ、及びナノフィチンからなる群から選択される。特定の実施態様において、標的化ドメインは、scFv、(scFv)2、Fab、Fab'、F(ab')2、F(abl)2、Fv、dAb、Fd断片、ダイアボディ、F(ab)2、F(ab')、F(ab')3、Fd、Fv、ジスルフィド結合Fv、dAb、sdAb、ナノボディ、CDR、ジ-scFv、bi-scFv、tascFv(タンデムscFv)、アビボディ(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、T-細胞エンゲージャー(BiTE)、V-NARドメイン、Fcab、IgGACH2、DVD-Ig、プロボディ、イントラボディ、ダルピン、センチリン、アフィボディ、アフィリン、アフィチン、アンチカリン、アビマー、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、アドネクチン、トリボディ、及びナノフィチンからなる群から選択される。
【0194】
特定の実施態様において、標的化ドメインは、マーカーに特異的に結合する。具体的な実施態様において、マーカーは腫瘍関連抗原である。具体的な実施態様において、腫瘍関連抗原は、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、CD20、CD33、B細胞成熟抗原(BCMA)、前立腺特異的膜(PSMA)、DLL3、ガングリオシドGD2(GD2)、CD 123、アノクタミン-1(アノール)、メソテリン、炭酸脱水酵素IX(CAIX)、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達因子2(TROP2)、癌胎児抗原(CEA)、クローディン-l8.2、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、栄養膜糖タンパク質(5T4)、糖タンパク質非転移性黒色腫タンパク質B(GPNMB)、葉酸受容体アルファ(FR-アルファ)、妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP-A)、CD37、上皮細胞接着分子(EpCAM)、CD2、CD19、CD30、CD38、CD40、CD52、CD70、CD79b、fms様チロシンキナーゼ3(FLT3)、グリピカン3(GPC3)、B7ホモログ6 (B7H6)、C-Cケモカイン受容体タイプ4(CCR4)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体4 (CXCR4)、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体2(ROR2)、CD133、HLAクラスI組織適合性抗原、アルファ鎖E(HLA-E)、上皮成長因子受容体(EGFR/ERBB-l)、インスリン様成長因子1受容体(IGF1R)、及びヒト上皮成長因子受容体3からなる群から選択される。
【0195】
いくつかの態様において、ナノ小胞を特異的器官、組織又は細胞に標的化する方法であって、本開示のFcRn結合ポリペプチドの部分に標的化ドメインを融合し、ナノ小胞内でポリペプチドを発現させる工程を含む前記方法が提供される。
【0196】
標的化ドメインとしての役割を果たす抗原結合分子は、単一特異性、二重特異性又は多重特異性であり得る、すなわち、同じ標的又は異なる標的の1以上のエピトープを標的とし得る。ナノ小胞上に提示される特異性が高いほど、その標的化はより特異的になる。いくつかの実施態様において、抗原結合分子は、
(i)全長の抗体分子(例えば、IgG、IgM、IgA、IgM又はIgE);
(ii)抗体断片、例えば、CDR、Dab、Fab、Fab'、F(ab')2、Fd断片、Fv断片、ジスルフィド結合Fv、scFab、ナノボディ、最小認識ユニット、VHH又はV-NARドメイン;
iii)非抗体足場、例えば、アフィボディ、アフィチン分子、アフィチン、アドネクチン、アンチカリン、アビマー、センチリン、リポカリンムテイン、ダルピン、フィノマー、ノッチン、クニッツ型ドメイン、ナノフィチン、テトラネクチン又はトランスボディ;
iv)1以上の抗体ドメインを含む融合ポリペプチド、例えば、bi-scFv、aBITE、ダイアボディ、ジ-scFv、プロボディ、tascFv(タンデムscFv)、トリアボディ、トリボディ、テトラボディ、IgGACH2、DVD-Ig、MATCH、ミニボディ、scFv、Fv-Fc、二重特異性F(ab')2、F(ab')3、一価IgG;
v)可溶性T細胞受容体(sTCR);
vi)ペプチド、例えば、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド;及び
vii)ウイルスタンパク質、例えば、ウイルススパイクタンパク質(例えば、コロナウイルス)の受容体結合ドメイン又はインフルエンザのヘマグルチニン(HA)、ニパウイルスタンパク質F、麻疹ウイルスFタンパク質、ツパイパラミクソウイルスFタンパク質、パラミクソウイルスFタンパク質、ヘンドラウイルスFタンパク質、ヘニパウイルスFタンパク質、モルビリウイルスFタンパク質、レスピロウイルスFタンパク質、センダイウイルスFタンパク質、ルブラウイルスFタンパク質、又はアブラウイルスFタンパク質、又はそれらの断片それぞれ、
からなる群から選択される。
【0197】
さらなる態様において、膜貫通領域が特定の種類の膜貫通タンパク質由来であることから、本開示のFcRn結合ポリペプチド中の標的化部分に対する膜貫通ドメインの好ましい配向及び位置が示唆される。
【0198】
そのため、I型由来の膜貫通ドメインを有する本開示のFcRn結合ポリペプチドの最も一般的な立体配置は、以下のように例示されるN末端からC末端までの直鎖状構造:
(標的化ドメイン)-L-(FcRn結合部位)-L-(T1足場)
を含み、式中の各Lは、2つのドメインを連結する直接ペプチド結合又は1以上のアミノ酸残基のリンカーを表す。
【0199】
対照的に、II型膜貫通タンパク質の膜貫通領域が膜貫通ドメインとして採用される実施態様において、ドメインの配置は、標的化部分が本開示のFcRn結合ポリペプチドに融合される立体配置をもたらし、以下のように図示されるN末端からC末端までの直鎖状構造:
(T2足場)-L-(FcRn結合部位)-L-(標的化部分)
を含んでよく、式中の各Lは、2つのドメインを連結する直接ペプチド結合又は1以上のアミノ酸残基のリンカーを表す。
【0200】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、二重特異性改変Fcドメイン(例えば、トランスフェリン受容体結合を促進するようにさらに改変されたFcドメイン)である標的化部分を含む。いくつかの実施態様において、二重特異性改変Fcドメインは、改変されていないCH3ドメインと比較してトランスフェリン受容体に対してより高い結合親和性を示すように改変された単量体CH3ドメインを含み、FcRnのFc結合部位に結合する能力を保持している。いくつかの実施態様において、トランスフェリン受容体に特異的に結合する改変Fcドメインは、EU付番に従って、380、384、386、387、388、389、390、413、415、416、及び421を含むアミノ酸位置のセット中に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11個の置換を含む。いくつかの実施態様において、トランスフェリン受容体に特異的に結合する改変Fcドメインは、配列番号34に少なくとも80%、90%又は95%類似している。
【0201】
(5.3 核酸、発現ベクター、細胞、及びポリペプチドの作製法)
また提供されるのは、本明細書に記載のポリペプチドをコードする核酸(例えば、節5.2に記載される)、本明細書に記載の核酸を含むベクター(例えば、発現ベクター)、及び本明細書に記載の核酸又は発現ベクターを含む細胞(例えば、宿主細胞)である。
【0202】
本開示のFcRn結合ポリペプチドは、原核生物及び真核生物の発現系を含む任意の数の発現系を使用して生成することができる。いくつかの実施態様において、発現系は、HEK293T系などの哺乳動物細胞発現系である。そのようなシステムの多くは、商業的供給元から広く入手できる。いくつかの実施態様において、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)は、単一ベクターを使用して、例えば、バイシストロニック発現ユニット内で、又は異なるプロモーターの制御下で発現させることができる。他の実施態様において、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(特に、FcRn結合ポリペプチド))は、別々のベクターを使用して発現させることができる。
【0203】
ポリヌクレオチドは、様々な異なる形態で、及び/又は異なるベクターに存在し得る。例えば、ポリヌクレオチドは、本質的に直鎖状、環状であり得、かつ/又は任意の二次及び/又は三次及び/又は高次の構造を有し得る。さらに、本開示はまた、該ポリヌクレオチドを含むベクター、例えば、プラスミドなどのベクター、任意の環状又は直鎖状のDNAポリヌクレオチド、ミニサークル、ウイルス(アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスなど)、mRNA、及び/又は修飾mRNAに関する。
【0204】
いくつかの態様において、本開示は、本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)のいずれかをコードする核酸配列を含む単離された核酸;そのような核酸を含むベクター;及び核酸を複製し、かつ/又はポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を発現させるために使用される、核酸が導入される宿主細胞を提供する。
【0205】
いくつかの実施態様において、ポリヌクレオチド(例えば、単離されたポリヌクレオチド)は、本明細書に開示されるように(例えば、上記のように)、ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のポリヌクレオチドは、異種核酸、例えば、異種プロモーターに作用可能に連結される。
【0206】
本開示のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含有する適切なベクターには、クローニングベクター及び発現ベクターが含まれる。選択されるクローニングベクターは、使用が意図される細胞に応じて変化し得るが、有用なクローニングベクターは、一般に、自己複製能を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼ用の単一標的を保有してよく、かつ/又はベクターを含有するクローンを選択する際に使用することができるマーカー用遺伝子を担持してよい。例としては、プラスミド及び細菌ウイルス、例えば、pUCl8、pUCl9、ブルースクリプト(例えば、pBS SK+)及びその誘導体、mpl8、mpl9、pBR322、pMB9、ColEl、pCRl、RP4、ファージDNA、並びにpSA3及びpAT28などのシャトルベクターが挙げられる。これらの及び多くの他のクローニングベクターが、BioRad、Strategene、及びInvitrogenなどの商業ベンダーから入手できる。
【0207】
発現ベクターは、一般に、本開示の核酸を含有する複製可能なポリヌクレオチドコンストラクトである。発現ベクターは、エピソームとして、又は染色体DNAの組込み部分として細胞内で複製することができる。適切な発現ベクターには、プラスミド、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスを含むウイルスベクター、及び任意の他のベクターが含まれるが、これらに限定されない。通常、ポリペプチドのコード配列は、適切な宿主におけるDNAの発現に影響を及ぼすことができる適切な制御配列に作用可能に連結される。そのような制御配列には、転写に影響を及ぼすプロモーター、転写を制御する任意のオペレータ配列、mRNA上の適切なリボソーム結合部位をコードする配列、エンハンサー並びに/又は転写及び翻訳の終結を制御する配列が含まれ得る。
【0208】
本明細書に記載のポリヌクレオチドもしくはベクターをクローニング又は発現するのに適切な細胞には、原核細胞又は真核細胞が含まれる。いくつかの実施態様において、細胞は原核生物である。いくつかの実施態様において、細胞は真核生物、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ系細胞である。いくつかの実施態様において、細胞は、ヒト細胞、例えば、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞である。いくつかの実施態様において、細胞は、ヒト細胞、例えば、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞である。いくつかの実施態様において、細胞は、ヒト羊膜細胞由来の非腫瘍細胞株である。
【0209】
トランスフェクションは、非ウイルス法によって核酸を細胞に導入するプロセスである。形質導入は、ウイルスベクターを介して外来DNAを別の細胞に導入するプロセスである。一般的なトランスフェクション法には、リン酸カルシウム、カチオン性ポリマー(PEIなど)、磁気ビーズ、エレクトロポレーション、及びリポフェクタミン及びFugeneなどの市販の脂質ベースの試薬が含まれる。形質導入は主に、組換えウイルスベクター粒子の標的細胞への導入を説明するために使用されるが、「感染」は、野生型ウイルスによるヒト又は動物の自然感染を指す。
【0210】
核酸送達の上述の標準的な方法に加えて、本明細書に提供される核酸は、細胞のゲノム内の特異的部位を標的化することができる。そのような方法には、CRISPR-Cas9、TALEN、宿主細胞内の目的のゲノム配列に対して設計されたメガヌクレアーゼ、及びゲノムの正確な編集のための他の技術、Cre-lox部位特異的組換え;ジンクフィンガー媒介組込み;及び相同組換えが含まれるが、これらに限定されない。核酸は、本開示のポリペプチドをコードする核酸を含むトランスポゾンを含有してよい。いくつかの実施態様において、前記核酸は、トランスポザーゼ酵素をコードする核酸配列をさらに含有してよい。他の実施態様において、2つの核酸を有するシステムが提供され、第1のプラスミドは、本開示のポリペプチドをコードする核酸を含むトランスポゾンを含有し、第2のプラスミドは、トランスポザーゼ酵素をコードする核酸配列を含有する。第1と第2の核酸の両方が、宿主細胞に同時送達され得る。本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を発現する細胞は、遺伝子挿入(トランスポゾンを使用)と遺伝子編集(ヌクレアーゼを使用)の組み合わせを使用することによって作製することもできる。例示的なトランスポゾンには、piggyBac及びSleeping Beautyトランスポゾンシステム(SBTS)が挙げられるが、これらに限定されず;一方で、例示的なヌクレアーゼには、限定されないが、CRISPR/Casシステム、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)及びジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が含まれる。
【0211】
遺伝子改変細胞は、一過性又は安定な形質転換により外因性配列を含有することができる。外因性配列は、プラスミドとして形質転換することができる。外因性配列は、標的部位又はランダムな部位で、細胞のゲノム配列内に安定して組み込むことができる。いくつかの態様において、本明細書に開示されるポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)の生成用の安定細胞株が作製される。好ましくは、細胞を、本開示のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)をコードするコンストラクトで安定にトランスフェクトすると、安定細胞株が作製される。これは、有利に、均一な品質及び収率のナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)の一貫した生成をもたらす。
【0212】
本明細書に記載のポリペプチドの断片(特に、FcRn結合部位を含む断片)をコードする外因性配列は、内因性配列の上流(5'-末端)又は下流(3'-末端)内に位置付けられる、生成細胞のゲノム配列に挿入することができる。当技術分野で公知の様々な方法を、生成細胞への外因性配列の導入に使用することができる。例えば、様々な遺伝子編集方法(例えば、相同組換え、トランスポゾン媒介システム、loxP-Creシステム、CRISPR/Cas9又はTALENを使用する方法)を使用して改変された細胞は、本開示の範囲内にある。
【0213】
外因性核酸配列は、本明細書に開示されるポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)又はその断片もしくは変異体をコードする配列を含むことができる。ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)をコードする配列の余分なコピーを導入して、本明細書に記載のナノ小胞(例えば、FcRn結合ポリペプチドの密度がより高いナノ小胞又はナノ小胞の表面上に複数の異なるFcRn結合ポリペプチドを発現するナノ小胞)を生成することができる。ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)、変異体又はその断片をコードする外因性配列を導入して、内腔操作及び/又は表面修飾されたナノ小胞(EV又はハイブリドソーム)並びに任意に、ポリペプチドの改変又は断片(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含有するナノ小胞を生成することができる。
【0214】
いくつかの態様において、本明細書に記載の外因性融合部分(例えば、標的化部分又は精製ドメイン)を含む1以上のポリペプチド(特に、異なる足場タンパク質を含む1以上のFcRn結合ポリペプチド)で細胞を改変、例えば、トランスフェクトすることができる。
【0215】
別の態様において、本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を作製する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)の発現に適する条件下で、本明細書に記載の宿主細胞(例えば、本明細書に記載の核酸又は発現ベクターを含む細胞)を培養することを含む。いくつかの実施態様において、その後、ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)は宿主細胞(又は宿主細胞培地)から回収される。いくつかの実施態様において、ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)は、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによって精製される。
【0216】
(5.4 ナノ小胞(例えば、細胞外小胞及びハイブリドソーム)とナノ小胞の生成法)
また本明細書に提供されるのは、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、節5.2に記載)を含むナノ小胞(例えば、細胞外小胞及びハイブリドソーム)である。本開示の別の態様は、表面操作したナノ小胞の作製及び使用に関する。本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞は、重要な進歩をもたらし、新たなナノ小胞組成物及びそれを作製する方法につながる。以前は、外因性タンパク質の過剰発現は、表面操作したナノ小胞を生成するためのナノ小胞上への外因性タンパク質の確率的配置又はランダム配置に依存していた。その結果、ナノ小胞上の目的のタンパク質の密度は低く、予測不可能であった。
【0217】
そのため、一態様において、少なくともFcRn結合部位を含むナノ小胞であって、前記FcRn結合部位が、
(i)酸性pHでFcRnと結合し
(ii)ホモ二量体を形成する能力を欠き;かつ
(ii)膜貫通ドメインを含む、
ナノ小胞が提供される。
【0218】
本発明の開示のナノ小胞は、天然の(すなわち、エンドソーム、エンドリソーム及び/もしくはリソソーム経路からの分泌を通じてソース細胞から、又はソース細胞の細胞膜から生成される)ナノ小胞又は合成のナノ小胞であり得る。例示的なナノ小胞には、限定されないが、細胞外小胞(「EV」)、マイクロ小胞(MV)、エキソソーム、アポトーシス小体、ARMM、フソソーム、微粒子及び細胞由来の小胞構造は、膜粒子、膜小胞、エキソソーム様小胞、エクトソーム様小胞、エクトソーム又はエキソ小胞又はハイブリドソームが含まれる。
【0219】
一態様において、FcRn結合ポリペプチドは、ハイブリドソーム、すなわち、WO2015110957に記載のように、FcRn結合ポリペプチドを含むEVと調節可能な膜融合部分を含む脂質ナノ粒子から生じる構造的要素と生理活性要素を含むハイブリッド生体適合性担体上に存在することができる。いくつかの実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含む単離されたハイブリドソームは、治療分子をさらに含む。
【0220】
本開示はさらに、上記のように、少なくとも1つのポリペプチド(特に、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)を生成及び/又は精製する方法を提供する。本方法は、通常、(i)上記のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)をコードする核酸をEV生成細胞に導入する工程;(ii)EV生成細胞が該ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含むEVを生成することを可能にする工程、例えば、適切な条件下で該細胞を培養する工程を含み得る。膜貫通ドメインの存在の結果として、該ポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)は細胞の膜に効率的に輸送され、FcRn結合部位がEV内又はEV表面上に提示される。その後、工程(iii)において、EVは培地から精製され得る。そのような方法は、任意に、(iv)例えば、ハイブリドソームなどの合成ナノ小胞を生成するために、精製されたEVを化学的に改変する工程を含み得る。
【0221】
一態様において、1以上のFcRn結合部位で表面修飾されているナノ小胞を生成する方法であって、
(i)1以上のFcRn結合部位を含む、上記のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)をコードする核酸又は発現ベクターを提供する工程
(ii)前記核酸又は発現ベクターをEV生成細胞(例えば、間葉系幹細胞)に導入する工程;
(iii)EV(例えば、エキソソーム)が生成されるように適切な条件下で前記細胞を培養する工程;及び
(iv)そのように生成されたポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含むEV(例えば、エキソソーム)を細胞培養物から精製する工程
を含む前記方法が提供される。
【0222】
本方法は、任意に、(v)例えば、ハイブリソソームなどの合成ナノ小胞を生成するために、EVを化学的に改変する工程を含み得る。ハイブリドソームは、例えば、インビトロで生成した第2の小胞とEVを接触させ、それにより、前記第2の小胞と前記EVとを結合させることによって作製され、前記第2の小胞は、膜と、膜融合性、イオン化性、カチオン性脂質(例えば、第2の小胞の総脂質の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、及び好ましくは少なくとも30%のモル濃度で)と、任意に治療剤と、を含んでいる。
【0223】
一態様において、EVを生成する方法は、a.本明細書に記載の核酸又は本明細書に記載の発現ベクターで細胞をトランスフェクトすること;b. EVの生成に適する条件下で該細胞を培養すること;及びc.該細胞から分泌されたEVを収集することを含む。
【0224】
一態様において、ハイブリドソームを生成する方法は、第1のEVを第2のEVと接触させ、それによって第1のEVを第2のEVと結合させ、ハイブリドソームを生成することを含み、前記第1のEVはインビトロで生成され、第1のEVは、(i)膜、及び(ii)膜融合性、イオン化性、カチオン性脂質(例えば、第1のEVの総脂質の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、及び好ましくは少なくとも30%のモル濃度で)を含み、前記第2のEVは、本明細書に記載のEVを生成する方法によって生成される。
【0225】
本開示のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)は、適切な条件下で、例えば、懸濁培養又は付着培養又は任意の他の種類の培養系でナノ小胞(例えば、EV)を生成することができる任意の種類の哺乳動物細胞から生成することができる。本開示によるソース細胞はまた、インビボでナノ小胞(例えば、EV)を生成することができる細胞を含み得る。ソース細胞は、懸濁培養もしくは付着培養で増殖するか、又は懸濁増殖に適合し得る広範囲の細胞及び細胞株から選択され得る。一般に、ナノ小胞(例えば、EV及びハイブリドソーム)は、初代細胞源であれ不死化細胞株であれ、基本的に任意の細胞源に由来し得る。ソース細胞は、治療される患者にとって本来は同種異系、自家、又はさらには異種異系のいずれかであり得、すなわち、細胞は、患者自身からのもの、又は無関係のドナー、一致するドナーもしくは不一致のドナーからのものであり得る。特定の状況において、同種異系細胞は、特定の適応症に罹患している患者の自家細胞から得ることができそうにない免疫調節効果を提供できるため、医学的観点から好ましい場合がある。例えば、炎症性疾患又は変性疾患の治療のコンテキストにおいて、同種異系MSC又は羊膜上皮(AE)は、それらのEVの固有の免疫調節のために、ナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)生成細胞源として非常に有益であり得る。特に関心のある細胞株には、限定されないが、アニオン性流体由来細胞、人工多能性細胞、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞、例えば、HEK293細胞、HEK293T細胞、無血清HEK293細胞、懸濁HEK293細胞、内皮細胞株、例えば、微小血管又はリンパ管内皮細胞、赤血球、赤血球前駆細胞、軟骨細胞、異なる起源のMSC、羊膜細胞、AE細胞、羊水穿刺を介して又は胎盤から得られる任意の細胞、気道又は肺胞上皮細胞、線維芽細胞、内皮細胞、及び上皮細胞などが含まれる。
【0226】
上記のように、ソース細胞は、本明細書に記載のナノ小胞を生成するために、(例えば、1以上の融合タンパク質をコードする)1以上の外因性配列を含むように遺伝子改変することができる。好ましくは、本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)をコードする外因性配列は、生成細胞のゲノム配列に、標的部位又はランダム部位で安定に組み込まれる。いくつかの態様において、本明細書に開示されるポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞(例えば、EV)の生成用の安定な細胞株が作製される。これは、有利に、均一な品質及び収率のナノ小胞(例えば、EV)の一貫した生成をもたらす。
【0227】
いくつかの態様において、本開示のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞は、上記の1以上の異種タンパク質(例えば、標的化ドメイン)をさらに含み得る本明細書に開示されるFcRn結合部位(特に、FcRn結合ポリペプチド)に融合された全長の足場タンパク質をコードする配列で形質転換された細胞から生成することができる。本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)のいずれも、プラスミド、ゲノムに挿入された外因性配列、又は合成メッセンジャーRNA(mRNA)などの他の外因性核酸から発現させることができる。
【0228】
一態様において、本開示は、本開示の細胞から生成される2以上の相互作用するFcRn結合ポリペプチド(例えば、足場タンパク質)を含むEVを提供する。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のEV上のポリペプチド(例えば、足場タンパク質)の表面密度又は濃度は、二量体化又はオリゴマー化(CH3-CH3二量体化を除く)によって増加する。
【0229】
いくつかの実施態様において、本明細書に開示されるソース細胞は、追加の外因性配列を含むようにさらに改変される。例えば、追加の外因性配列を導入して、内因性遺伝子発現を調節するか、又はペイロードとして特定のポリペプチドを含むナノ小胞を生成することができる。いくつかの態様において、ソース細胞は、2つの外因性配列を含むように改変され、一方は本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)又はその変異体もしくは断片をコードし、他方はペイロードをコードする。いくつかの態様において、ソース細胞は、2つの外因性配列を含むように改変され、一方は本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)又はその変異体もしくは断片をコードし、他方は、任意の標的化部分を含む本明細書に記載のポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)をコードする。特定の実施態様において、ソース細胞は、ナノ小胞に追加の機能を付与する追加の外因性配列(例えば、ペイロード、標的化部分、又は精製ドメイン)を含むようにさらに改変することができる。いくつかの態様において、ソース細胞は、2つの外因性配列を含むように改変され、一方は本明細書に開示されるポリペプチド(特に、FcRn結合ポリペプチド)又はその変異体もしくは断片をコードし、他方はナノ小胞に追加の機能を付与するタンパク質をコードする。いくつかの態様において、ソース細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個又はそれ以上の追加の外因性配列を含むようにさらに改変される。
【0230】
したがって、本開示はさらに、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVの作製及び使用に関し、前記FcRn結合ポリペチドは、膜貫通ドメインと、(i)FcRnのFc結合部位に特異的に結合することができ;かつ(i)ホモ二量体を形成する能力を欠く免疫グロブリンの改変Fcドメインと、を含む。一態様において、FcRn結合ポリペプチドをナノ小胞(例えば、EV)上で発現させる場合、改変Fcドメインが共有結合で連結(例えば、融合)される膜貫通ドメイン又はその断片は改変FcドメインのEV膜への固定を提供し、その結果、FcRn結合ポリペプチドの改変Fcドメインが細胞外環境に突出し、その後、FcRnのFc結合部位への特異的かつ条件付き結合が可能になる。
【0231】
一態様において、本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV)は、酸性pHでFcRnのFc結合部位に対する結合親和性が増加し、中性付近のpHではFcRnのFc結合部位に対する結合親和性が減少する。好ましい実施態様において、本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、中性pHとは対照的に酸性pHで、FcRnとの複合体を形成する傾向が増加する。
【0232】
いくつかの実施態様において、酸性でFcRnに結合する本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV)の平衡解離定数は、少なくとも10-4、10-5、10-6、10-7、10-8又は10-9Mである。いくつかの実施態様において、酸性pH(例えば、6.5未満のpH)でFcRnに結合する本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVの平衡解離定数は、pH6.5でFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数に等しい。いくつかの実施態様において、pH6.5でFcRnに結合する本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVの平衡解離定数は、FcRnに結合する改変Fcドメイン断片の平衡解離定数と比較して、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%又は60%増加する。
【0233】
いくつかの実施態様において、中性pHでFcRnに結合する本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVの平衡解離定数は、10-5、10-4、10-3、10-2又は10-1Mを超える。いくつかの実施態様において、中性pHでFcRnに結合する本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVの平衡解離定数は、中性pHでFcRnに結合する改変Fcドメインの平衡解離定数に等しい。いくつかの実施態様において、pH6.5でFcRnに結合する本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVの平衡解離定数は、FcRnに結合する改変Fcドメイン断片の平衡解離定数と比較して、少なくとも20%、30%、40%、50%又は60%増加する。
【0234】
本明細書に記載の全ての態様の一実施態様において、酸性pHで、本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、ヒトFcRn、カニクイザルFcRn、マウスFcRn、ラットFcRn、ヒツジFcRn、イヌFcRn及びウサギFcRnから選択されるFcRnに対する結合親和性を有する。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、ヒトFcRnよりもマウスFcRnに対する結合親和性が増加している。
【0235】
本明細書に開示される本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVについて、結合親和性及び結合動態を分析する方法は、当技術分野で公知である。これらの方法には、固相結合アッセイ(例えば、ELISAアッセイ)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴(例えば、ビアコア(商標)(GE Healthcare, Piscataway, NJ))、速度論的排除アッセイ(例えば、KinExA(登録商標))、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(FACS)、バイオレイヤー干渉法(例えば、Octet(登録商標)(ForteBio, Inc., Menlo Park, CA))、及びウェスタンブロット分析が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、ELISAは、結合親和性を決定するために使用される。いくつかの実施態様において、表面プラズモン共鳴(SPR)は、結合親和性及び/又は結合動態を決定するために使用される。いくつかの実施態様において、速度論的排除アッセイは、結合親和性及び/又は結合動態を決定するために使用される。いくつかの実施態様において、バイオレイヤー干渉アッセイは、結合親和性及び/又は結合動態を決定するために使用される。
【0236】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、FcRn結合ポリペプチド内にエフェクター機能を低下又は消失させる改変を含み得る。したがって、いくつかの実施態様において、本明細書に記載の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、エフェクター機能を低下させる改変を含み、すなわち、エフェクター細胞上又はエフェクター細胞内で発現し、エフェクター機能を媒介するFc受容体(FcRn以外)への結合時に、特定の生物学的機能を誘導する能力が低下している。Fc受容体エフェクター機能の例としては、Clq結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御、及びB細胞活性化が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド中に存在する改変Fcドメインは、エフェクター機能を調節する追加の改変を含み得る。
【0237】
いくつか実施態様において、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、タンパク質細胞に対する細胞傷害性を引き起こし、タンパク質不安定性及び/又はEVの凝集をもたらし得る生成細胞内でのタンパク質ミスフォールディングを回避するために、ホモ二量体を形成する能力を欠く改変Fcドメインを有する。
【0238】
別の態様において、本開示の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、FcRnへの結合に加えて、特異的細胞上の抗原に特異的に結合する能力を有し得る。いくつかの実施態様において、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、追加の標的化ドメインを含む。いくつかの実施態様において、EVは、抗原に特異的に結合する抗原結合断片(例えば、Fab、Fv、又はscFv)などの標的化ドメインに融合され得るFcRn結合ポリペプチドを含む。いくつかの実施態様において、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、FcRn結合部位及び任意に標的化部分を含有し、それらの各々は独立して改変することができる。いくつかの実施態様において、改変は、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVが酸性pHでFcRnに特異的に結合することを可能にする。標的化部分は、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVを特異的器官、組織、又は細胞上の抗原に標的化するために使用することができる。
【0239】
いくつかの態様において、本明細書に記載の少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、当技術分野で公知のEVと比較して優れた特徴を示す。例えば、異なる膜貫通ドメインを含むFcRn結合ポリペプチド又はその断片は、天然に存在するEV又は従来のEVタンパク質を使用して生成されたEVよりも、該EV表面上で富化されている。いくつかの態様において、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチドを含むEVは、より多くの(例えば、2、3、4、5又はそれ以上)のFcRn結合部位を発現することができ、その結果、多くのEVは必要とされない。さらに、本開示の操作されたFcRn結合ポリペプチドを含むEVの表面は、天然に存在するEV又は従来の膜貫通ドメイン(例えば、Lamp2b、PTGFRN、CD63又はCD81)を使用して生成されたEVと比較して、より高い、より特異的、又はより制御された生物活性(例えば、特異的細胞への標的化又は半減期)を有することができる。
【0240】
さらなる態様において、FcRn結合ポリペプチドはハイブリドソーム、WO2015110957に記載のように、FcRn結合ポリペプチドを含むEVと調節可能な膜融合部分を含む脂質ナノ粒子から生じる構造的要素と生理活性要素を含むハイブリッド生体適合性担体上に存在し得る。FcRn結合ポリペプチドの存在の結果として、生じたハイブリドソームは、本明細書に記載のアフィニティークロマトグラフィー法によって融合されていない脂質ナノ粒子から単離することができる。いくつかの実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含む単離されたハイブリドソームは、治療薬をさらに含む。
【0241】
(5.4.1 治療分子)
いくつかの態様において、本明細書に開示されるFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)は、1以上の(例えば、2、3、4、5又はそれ以上の)治療分子を標的細胞に送達するように操作又は改変されている。
【0242】
治療分子は、任意の無機化合物又は有機化合物であり得る。治療分子は、哺乳動物又はヒトなどの動物における疾患、障害の発生もしくは進行、又は細胞増殖を減少、抑制、減弱、縮小、停止、又は安定化させ得る。FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)に導入することができる治療分子の例としては、治療剤、例えば、核酸(例えば、酵素などのポリペプチドをコードするDNAもしくはmRNA分子、抗原などのポリペプチドをコードするmRNA分子、又はmiRNA、dsDNA、及びlncRNAなどの調節機能を有するRNA分子)、アミノ酸(例えば、検出可能な部分又は毒素を含む、又は翻訳を妨害するアミノ酸)、ポリペプチド(例えば、酵素、遺伝子編集のための酵素、核酸結合タンパク質、抗体、イントラボディ、一本鎖可変断片(scFv)、アフィボディ、二重及び多重特異性抗体又は結合剤、アフィボディ、ダルピン、受容体、リガンド、又はそれらの断片)、脂質、炭水化物、並びに小分子(例えば、小分子薬及び毒素)が挙げられる。特定の実施態様において、治療分子は、疾患の診断、治療、又は予防において、又は薬物の成分として使用される物質であり得る。いくつかの実施態様において、ペイロードは、哺乳動物又はヒトなどの生物の身体内の標的部位に関する診断情報を取得することを容易にする化合物を指し得る。例えば、画像化剤は、診断に必要な画像化情報を提供する物質であるため、本開示において活性剤として分類され得る。
【0243】
本開示で使用されることが意図される治療用核酸のさらなる非限定的な例としては、siRNA、低分子又はショートヘアピンRNA(shRNA)、ガイドRNA(gRNA)、シングルガイドRNA(sgRNA)、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピートRNA(crRNA)、トランス活性化されたクラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピートRNA(tracrRNA)免疫刺激オリゴヌクレオチド、プラスミド、アンチセンス核酸及びリボザイムが挙げられる。特定の実施態様において、治療用核酸は、直鎖状DNA、環状DNA、又は人工染色体を含むDNAであり得る。いくつかの実施態様において、治療用DNAは、エピソームとして維持される。いくつかの実施態様において、治療用DNAは、ゲノムに組み込まれる。治療用RNAは、化学的に修飾されたRNAであり得、例えば、1以上の骨格修飾、糖修飾、非標準塩基、又はキャップを含み得る。骨格修飾には、例えば、ホスホロチオエート、N3'ホスホロアミダイト、ボラノホスフェート、ホスホノアセテート、チオPACE、モルホリノホスホロアミダイト、又はPNAが含まれる。糖修飾には、例えば、2'-0-Me、LNA、UNA、及び2'-0-MOEが含まれる。非標準塩基には、例えば、5-ブロモ- U、及び5-ヨード- U、2,6-ジアミノプリン、C-5プロピニルピリミジン、ジフルオロトルエン、ジフルオロベンゼン、ジクロロベンゼン、2-チオウリジン、プソイドウリジン、及びジヒドロウリジンが含まれる。キャップには、例えば、ARCAが含まれる。追加の修飾については、例えば、Deleaveyらの文献,「標的遺伝子サイレンシング用に化学修飾されたオリゴヌクレオチドの設計(Designing Chemically Modified Oligonucleotides for Targeted Gene Silencing)」 Chemistry & Biology 19巻, 発行8, 2012年8月24日, ページ937-954で論じられている。
【0244】
他の適切な治療分子の非限定的な例としては、抗悪性腫瘍薬、抗炎症薬、ホルモン又はホルモン拮抗薬、イオンチャネル調節剤、及び神経活性剤を含む薬理学的に活性な薬物及び遺伝的に活性な分子が挙げられる。治療剤の適切なペイロードの例としては、全て引用により本明細書中に組み込まれる「治療薬の薬理学的基礎(The Pharmacological Basis of Therapeutics)」、Goodman及びGilmanの文献, McGraw-Hill, New York, N.Y., (1996),第9版, 節:シナプス及び神経エフェクター結合部位で作用する薬物(Drugs Acting at Synaptic and Neuroeffector Junctional Sites);中枢神経系に作用する薬物(Drugs Acting on the Central Nervous System);オータコイド:炎症の薬物療法;水、塩及びイオン(Autacoids: Drug Therapy of Inflammation; Water, Salts and Ions);腎機能と電解質代謝に影響を与える薬物(Drugs Affecting Renal Function and Electrolyte Metabolism);心臓血管薬(Cardiovascular Drugs;胃腸機能に影響を与える薬物(Drugs Affecting Gastrointestinal Function);子宮の運動性に影響を与える薬物(Drugs Affecting Uterine Motility);寄生虫感染症の化学療法(Chemotherapy of Parasitic Infections);微生物病の化学療法(Chemotherapy of Microbial Diseases);腫瘍性疾患の化学療法(Chemotherapy of Neoplastic Diseases);免疫抑制に使用される薬物(Drugs Used for Immunosuppression);造血器官に作用する薬物(Drugs Acting on Blood-Forming organs);ホルモンとホルモン拮抗薬(Hormones and Hormone Antagonists);ビタミン、皮膚科学(Vitamins, Dermatology;及び毒物学(Toxicology)に記載されているものが挙げられる。適切なペイロードにはさらに、毒素、並びに生物剤及び化学兵器剤が含まれ、例えば、Somani, S. M.(編)の文献, Chemical Warfare Agents, Academic Press, New York (1992))を参照されたい。
【0245】
一態様において、足場タンパク質及び改変Fcドメインを含むナノ小胞は、血清半減期の増加、より短い血液クリアランス及びアフィニティー精製の改善を含むいくつかの望ましい特性をナノ小胞に付与することができる。いくつかの実施態様において、本明細書に記載のナノ小胞は、循環中のそれらの半減期を増加又は減少させるために改変することができる。いくつかの実施態様において、循環中の本明細書に記載のポリペプチドを含むナノ小胞中の治療薬運搬体の半減期は、ナノ小胞の半減期を変更することによって変えることができる。場合によって、半減期を増加させ、例えば、ナノ小胞に含まれていない治療薬及び血清含有溶液中で測定される半減期と比較した場合、本明細書に記載のポリペプチドを含むナノ小胞中に維持される治療剤ペイロードについての増加は、約1.5倍~20倍であり得る。
【0246】
特定の実施態様において、循環系におけるナノ小胞及び/又は治療分子ペイロードの有無は、ナノ小胞上の特定のポリペプチド又はその断片、例えば、改変Fcドメインポリペプチド又はその機能的断片の有無によって決定される。
【0247】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のポリペプチドを含むナノ小胞は、長期間にわたって対象の循環系又は組織に存在することができ、前記ポリペプチドを欠くナノ小胞によって達成することができる送達よりも効率的な治療効果の送達を可能にする。半減期の延長は、改変Fcドメインを含む足場タンパク質を含まない現在のEVベースの治療法と比較した場合に特に有利である。
【0248】
改変Fcドメインを含む足場タンパク質の有効量は、ナノ小胞当たり1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、60、80、100又はそれ以上のポリペプチドを含む。あるいは、有効量は、ポリペプチドを含まずにナノ小胞が示す半減期に対して、ナノ小胞の半減期を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、400%、800%、1,000%、又は10,000%延長することができる量である。
【0249】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)は、以下の方法で実証することができる特性を有する。いくつかの実施態様において、前記ナノ小胞の内容物を、研究及び特徴付けのために抽出することができる。いくつかの実施態様において、ナノ小胞は単離され、サイズ、形状、形態、又は分子組成物、例えば、核酸、タンパク質、代謝産物、及び脂質、並びに半減期及び薬力学を含むがこれらに限定されない測定基準によって特徴付けられる。
【0250】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の方法は、精製画分に含まれるナノ小胞及び/又はナノ小胞の集団のサイズを測定することを含む。いくつかの実施態様において、ナノ小胞のサイズは、測定可能な最長寸法として測定される。一般に、一般的なナノ小胞の最長寸法は、その直径とも呼ばれる。
【0251】
ナノ小胞のサイズは、当技術分野で公知の様々な方法、例えば、ナノ粒子トラッキング解析、多角度光散乱、単角度光散乱、サイズ排除クロマトグラフィー、分析用超遠心分離、フィールドフロー分画、レーザー回折、調整可能な抵抗パルスセンシング、又は動的光散乱を使用して測定することができる。
【0252】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の方法は、ナノ小胞表面上のFcRn結合ポリペプチドの密度を測定することを含む。表面密度は、単位面積当たりの質量、面積当たりのタンパク質の数、ナノ小胞当たりの分子数又は分子シグナルの強度、タンパク質のモル量などとして計算又は提示することができる。表面密度は、当技術分野で公知の方法、例えば、バイオレイヤー干渉法(BLI)、FACS、ウェスタンブロッティング、蛍光(例えば、GFP融合タンパク質)検出、ナノフローサイトメトリー、ELISA、アルファLISA、及び/又はタンパク質ゲル上のバンドを測定することによるデンシトメトリーを使用して実験的に測定することができる。
【0253】
(5.5 FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の精製)
医療目的でナノ小胞を使用するには、ナノ小胞が、核酸、夾雑タンパク質、脂質、炭水化物、代謝産物、小分子、金属、又はそれらの組み合わせなどの巨大分子を含むがこれらに限定されない不純物を培養上清中に含まないか、又はほとんど含まないことが必要である。本開示は、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞を混入している巨大分子から精製する方法を提供する。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドを含む精製ナノ小胞は、混入している巨大分子を実質的に含まない。
【0254】
場合によって、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の単離、精製及び除去は、FcRn及び固体支持体(例えば、樹脂)がカラム内に充填されているカラムを使用するカラムクロマトグラフィーによって行われる。いくつかの実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞含有試料をカラムにロードし、通過させて、結合させ、任意に洗浄緩衝液をカラムに流し、その後、溶出緩衝液をカラムにアプライして、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞含有溶出液を回収する。これらの工程は、大気圧で又は追加の圧力を印加して行うことができる。場合によって、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の単離、精製、及び溶出は、バッチ処理を使用して行われる。例えば、試料を容器内の固体支持体に付着しているFcRnに添加し、混合した後、固体支持体を分離し、その後、液相を除去して洗浄し、遠心分離して、溶出バッファーを添加し、再び遠心分離して、溶出液を除去する。場合によって、ハイブリッド法を採用することができる。例えば、試料を容器内の固体支持体に付着しているFcRnに添加し、その後、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞に結合した固体支持体をカラム上に充填し、カラム上で洗浄及び溶出を行う。
【0255】
一般的に言えば、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞のアフィニティー精製法は、純粋な高度に富化されたナノ小胞集団をもたらすであろう。しかし、追加の分離、精製、及び/又は洗練工程は、アフィニティー精製工程の上流及び/又は下流の両方に含めてもよい。適切な相補的精製工程には、サイズ排除液体クロマトグラフィー、ビーズ溶出液体クロマトグラフィー、イオン交換精製(陰イオン交換など)、荷電膜分離、及び当技術分野で使用される様々な他の精製及び/又は洗練戦略が含まれる。
【0256】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド試料を含むナノ小胞は、FcRn結合剤で単離又は精製され、その後、異なる結合剤(例えば、タンパク質親和性結合剤、イオン交換樹脂又は混合モード樹脂)で処理される。いくつかの実施態様において、2以上のカラムが連続して使用され、この場合、複数のカラムの各々は、異なる標的タンパク質に特異的な異なる結合剤を含有する。いくつかの実施態様において、単一カラムは、各々が異なる標的タンパク質に特異的な複数の結合剤を含有する。
【0257】
また本明細書に提供されるのは、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞を、前記ポリペプチドを含まないナノ小胞(例えば、非表面修飾EV又は脂質ナノ粒子)から分離する方法である。具体的な実施態様において、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の亜集団は、酸性pHでFcRnと複合体を形成することによって他の亜集団と区別される。
【0258】
一実施態様において、リガンドとしてFcRnを含むクロマトグラフィー材料は、本明細書に記載の方法及び使用において少なくとも3サイクルの安定性を有する。サイクルは、それぞれの方法の第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配である。そのため、一実施態様において、サイクルは、約pH5.5のpH値から約pH8.8のpH値までのpH勾配である。
【0259】
少なくとも1つの溶出画分が収集されると、溶出画分の組成を分析することができる。例えば、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞、宿主細胞タンパク質、夾雑タンパク質、DNA、炭水化物、又は脂質の濃度を、各溶出画分において測定することができる。各溶出画分中のナノ小胞の他の特性も測定することができる。特性には、平均サイズ、平均電荷密度、及び生体分布、細胞取り込み、半減期、薬力学、効力、投薬、免疫反応、負荷効率、安定性、又は他の化合物に対する反応性に関連する他の生理学的特性が含まれる。
【0260】
いくつかの態様において、FcRnに対する親和性が増加した(すなわち、本明細書に記載されるように、天然ナノ小胞と比較してFcRnカラム上での保持時間は増加しているが、pH7.4未満のpH値で依然として溶出する)FcRn結合ポリペプチド変異体を含むナノ小胞は、FcRnに対する親和性が低下したものと比較して、より長い血清半減期を有すると予測され得る。FcRnに対する親和性が増加したFcRn結合ポリペプチド変異体を含むナノ小胞は、投与されるEVの長い半減期が望まれる哺乳動物、特にヒトの治療法、例えば、慢性疾患又は障害の治療などで適用される。
【0261】
本発明のいくつかの実施態様は、ナノ小胞膜上で富化されたFcRn結合ポリペプチド(例えば、FcRn結合部位を含むポリペプチドに連結された本開示の足場タンパク質)と固定化結合剤(例えば、FcRn)との間の特異的結合相互作用(すなわちアフィニティー精製)を使用するナノ小胞の単離、精製及びサブ分画に関する。これらの方法は、一般に、(1)本開示のナノ小胞を含む試料を固定化薬剤にアプライ又はロードする工程、(2)任意に、ナノ小胞上に提示されるFcRn結合ポリペプチドと結合剤との間の結合相互作用を維持する適切な緩衝液を使用して、結合していない試料成分を洗い流す工程、及び(3)結合相互作用がなくなるように緩衝液条件を変更することによって、固定化結合剤からナノ小胞を溶出(解離及び回収)する工程を含む。
【0262】
いくつかの態様において、本明細書に記載の少なくとも1つのポリペプチド(特に、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞を精製するアフィニティー精製法は、当技術分野で公知のナノ小胞の他のアフィニティー精製と比較して優れた回収率を有する。例えば、本明細書に記載の少なくとも1つのポリペプチド(特に、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞は、固定化結合パートナー(例えば、プロテインA)からナノ小胞を溶出(例えば、解離)するために5未満のpH、場合により3未満のpHを必要とする従来のアフィニティー精製法と比較して穏やかなpH(例えば、pH7~pH9)で固定化結合パートナーから溶出することができる。
【0263】
医療目的でのナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)の使用は、さらに、ナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)が凝集形態ではなく、コロイド安定性を示すことが必要であり、非常に酸性のpHは、コロイド不安定性を引き起こし得る。本開示の重要な態様は、少なくとも1つのFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)を生理学的pH値などのより生理学的な条件で精製する方法を提供することである。
【0264】
本開示のいくつかの態様は、第1の結合パートナー(例えば、ナノ小胞膜上に存在するFcRn結合ポリペプチド)と第2の結合パートナー(例えば、固定化FcRn)との間の特異的結合相互作用を使用する、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)の単離及び精製に関する。これらの方法は、一般に、(1)第1の結合パートナー(例えば、ナノ小胞膜上に存在するFcRn結合ポリペプチド)を含むナノ小胞を含む試料を、第2の結合パートナー(例えば、固定化FcRn)含有マトリックス上にアプライ又はロードする工程、(2)任意に、第1の結合パートナー(例えば、ナノ小胞膜上に存在するFcRn結合ポリペプチド)と第2の結合パートナー(例えば、固定化FcRn)との間の結合相互作用を維持する適切な緩衝液を使用して、未結合の試料成分を洗い流す工程、及び(3)結合パートナー間の結合相互作用がなくなるように緩衝液条件を変更することによって、固定化結合FcRn剤からFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞を溶出(解離及び回収)する工程を含む。
【0265】
いくつか実施態様において、第2の結合パートナーは、任意に適切なマトリックス又はクロマトグラフィー材料上に固定されたFcRnである。いくつかの実施態様において、この単離及び精製プロセスに使用される第2の結合パートナーは、遺伝子改変又はトランスフェクションによって生成細胞によってインビトロで生成されるFcRnタンパク質、又は化学的、物理的もしくは他の生物学的方法によって改変され、単離されたFcRnタンパク質である。場合によって、FcRnタンパク質は、非突然変異FcRnタンパク質又は突然変異FcRnタンパク質、例えば、FcRnタンパク質の変異体又は断片である。場合によって、FcRnは融合タンパク質である。具体的な実施態様において、FcRnは、Fengらの文献(2011), Protein Expr. Purif. 79:66-71の方法に従って作製されるような可溶性一本鎖FcRnである。一実施態様において、可溶性FcRnは、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)と非共有結合ヘテロ二量体を形成する。
【0266】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、EVを精製する方法であって、a. EVを提供すること、該EVは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができ;b. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させること、第2の結合パートナーは、FcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合しており;及びc. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2のpHで固体マトリックスから溶出すること、を含む前記方法である。特定の実施態様において、本方法は、第1のpHでの洗浄工程をさらに含む。特定の実施態様において、第1のpHは6.5未満である。特定の実施態様において、第2のpHは7.4を超える。
【0267】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、EVを精製する方法であって、a. EVを提供すること、該EVは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができ、本明細書に記載のポリペプチドを含むか、又はそれからなり;b. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させること、第2の結合パートナーは、FcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合しており;及びc. 第1の結合パートナーと会合したEVを第2のpHで固体マトリックスから溶出すること、を含む前記方法である。特定の実施態様において、本方法は、第1のpHでの洗浄工程をさらに含む。特定の実施態様において、第1のpHは6.5未満である。特定の実施態様において、第2のpHは7.4を超える。
【0268】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、ハイブリドソームを精製する方法であって、a.ハイブリドソームを提供すること、ハイブリドソームは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができ;b. 第1の結合パートナーと会合したハイブリドソームを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させること、第2の結合パートナーは、FcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合しており;及びc. 第1の結合パートナーと会合したハイブリドソームを第2のpHで固体マトリックスから溶出すること、を含む前記方法である。特定の実施態様において、本方法は、第1のpHでの洗浄工程をさらに含む。特定の実施態様において、第1のpHは6.5未満である。特定の実施態様において、第2のpHは7.4を超える。
【0269】
具体的な実施態様において、本明細書に提供されるのは、ハイブリドソームを精製する方法であって、a.ハイブリドソームを提供すること、ハイブリドソームは第1の結合パートナーと会合し、第1の結合パートナーは、pH依存的にFcRnのFc結合部位に結合することができ、本明細書に記載のポリペプチドを含むか、又はそれからなり;b. 第1の結合パートナーと会合したハイブリドソームを第2の結合パートナーと第1のpHで接触させること、第2の結合パートナーは、FcRnのFc結合部位を含み、固体マトリックスと会合しており;及びc. 第1の結合パートナーと会合したハイブリドソームを第2のpHで固体マトリックスから溶出すること、を含む前記方法である。特定の実施態様において、本方法は、第1のpHでの洗浄工程をさらに含む。特定の実施態様において、第1のpHは6.5未満である。特定の実施態様において、第2のpHは7.4を超える。本明細書に記載の全ての態様の一実施態様において、FcRnは、ヒトFcRn、カニクイザルFcRn、マウスFcRn、ラットFcRn、ヒツジFcRn、イヌFcRn及びウサギFcRnから選択される。
【0270】
本明細書に記載の全ての態様の一実施態様において、ベータ-2-ミクログロブリンは、ヒトベータ-2-ミクログロブリン、カニクイザルベータ-2-ミクログロブリン、マウスベータ-2-ミクログロブリン、ラットベータ-2-ミクログロブリン、ヒツジベータ-2-ミクログロブリン、イヌベータ-2-ミクログロブリン及びウサギベータ-2-ミクログロブリンから選択される。
【0271】
一実施態様において、ヘテロ二量体は、同じ種由来のベータ-2-ミクログロブリンと可溶性FcRnで構成される。一実施態様において、ヘテロ二量体は、異なる種由来のベータ-2-ミクログロブリンと可溶性FcRnで構成される。
【0272】
そのため、本明細書に記載のリガンドとしての新生児Fc受容体(FcRn)とベータ-2-ミクログロブリンの複合体を含むクロマトグラフィー材料は、単量体FCを提示する細胞外小胞の単離/分離に使用することができ、そのため、従来のプロテインAアフィニティークロマトグラフィーの代替物を提供する。加えて、本明細書に記載のクロマトグラフィー材料を使用することにより、分離は、従来のプロテインAアフィニティークロマトグラフィーと比較して、pH値などのより生理学的な条件下で行うことができる。
【0273】
可溶性及び機能性FcRnを調製する方法は、当技術分野で公知である。1つの方法は、可溶性ヒトFcRn(sFcRn)を、一本鎖可溶性融合タンパク質(ヒト一本鎖FcRn及びマウス一本鎖FcRnのアミノ酸配列についてはそれぞれ配列番号70及び71を参照されたい)として哺乳動物細胞中で発現させることを含む。高親水性のベータ-2-ミクログロブリンは、15個のアミノ酸リンカーを介して疎水性重鎖と結合している。一本鎖融合タンパク質フォーマットは、重鎖の発現レベルを改善するだけでなく、精製プロセスを簡素化する(Fengらの文献 (2011), Protein Expr. Purif. 79:66-71)。正の直線pH勾配での可溶性Fc融合タンパク質のアフィニティークロマトグラフィーにおけるアフィニティークロマトグラフィーリガンドとしてのFcRn及びベータ-2-ミクログロブリン(b2m)の固定化された非共有結合複合体の使用は、WO2013/120929に記載されている。Fc含有可溶性融合タンパク質の精製のための組換えFcRn及びその変異体は、WO 2010/048313に記載されている。
【0274】
一実施態様において、第2の結合剤は、哺乳動物細胞においてβ
2-ミクログロブリン(ヒトベータ-2-ミクログロブリンについては配列番号69)と共発現するC末端His-Aviタグ又はC-Tagを有するFcRnの可溶性細胞外ドメイン(例えば、ヒトFcRnについては配列番号68)を含む。いくつかの実施態様において、非共有結合又は一本鎖FcRn複合体は、ビオチン化され、ストレプトアビジン誘導体化セファロース上にロードされる。いくつかの実施態様において、C-Tagを含む非共有結合FcRn複合体は、C-TagXlビーズ上にロードされる。
【表11】
【0275】
例示的なアフィニティークロマトグラフィーカラムは、マトリックス及びマトリックス結合クロマトグラフィー官能基を含み、マトリックス結合クロマトグラフィー官能基が新生児Fc受容体(FcRn)とベータ-2-ミクログロブリンの複合体を含むことを特徴とする。さらなる例示的なアフィニティークロマトグラフィーカラムは、マトリックス及びマトリックス結合クロマトグラフィー官能基を含み、マトリックス結合クロマトグラフィー官能基が可溶性新生児Fc受容体(FcRn)とベータ-2-ミクログロブリンの一本鎖融合タンパク質を含むことを特徴とする。
【0276】
好ましい実施態様において、FcRnを固相に付着させて、例えば、クロマトグラフィー精製及び/又は膜ベースの精製を可能にする。アフィニティークロマトグラフィーは、一般に、固定化FcRnリガンドと標的生体分子上の構造要素(例えば、FcRn結合ポリペプチド上のFcRn結合部位)との間の高度に選択的な相互作用に基づく。一実施態様において、前記標的生体分子は本開示のFcRn結合ポリペプチドであり、構造エレメントはFcRn結合部位(例えば、改変Fcドメイン)である。別の実施態様において、前記標的生体分子は、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞であり、構造エレメントは改変Fcドメインである。アフィニティークロマトグラフィーの高い選択性は、適切なマトリックス(例えば、クロマトグラフィーマトリックス)上に固定されたFcRnと本開示のFcRn結合ポリペプチドの一部を形成する改変Fcドメインとの間の複数の分子相互作用(水素結合、疎水性相互作用、イオン相互作用及び/又はファンデルワールス相互作用を含む)によって提供され得る。FcRn結合ポリペプチド含有ナノ小胞の親和性ベースの精製に適切な第2の結合パートナーは、FcRn受容体とその誘導体、ドメイン又は一部の任意の組み合わせの可溶性ヘテロ二量体である。
【0277】
さらなる態様において、本明細書に記載の第2の結合パートナーとしてFcRnを含むクロマトグラフィー法は、FcRn結合ポリペプチドを提示するナノ小胞の単離/分離に使用することができ、そのため、従来のプロテインAアフィニティークロマトグラフィーの代替物を提供する。加えて、本明細書に記載のクロマトグラフィー材料を使用することにより、分離は、従来のプロテインAアフィニティークロマトグラフィーと比較して、pH値などのより生理学的な条件で行うことができる。
【0278】
いくつかの実施態様において、本明細書で使用される単離又は精製は、生成細胞含有試料からFcRn結合ポリペプチド又は前記FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞を除去、部分的に除去(例えば、画分を除去)するプロセスである。いくつかの実施態様において、本明細書で使用される単離又は精製は、生成細胞を除去した後(例えば、遠心分離又は深層濾過によって細胞を除去した後)に、FcRn結合ポリペプチド又は前記FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV)を除去、、部分的に除去(例えば、画分を除去)するプロセスである。
【0279】
FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の集団が、FcRnに特異的な親和性を有し、酸性pHで結合するようになるように、FcRnを固体支持体に(例えば、ビオチン-ストレプトアビジン結合を介して)化学的に固定化又は結合させることができる。固体支持体の様々な形態、例えば、多孔質アガロースビーズ、マイクロタイタープレート、磁気ビーズ、又は膜を使用することができる。いくつかの実施態様において、固体支持体は、クロマトグラフィーカラムを形成し、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞のアフィニティークロマトグラフィーに使用することができる。
【0280】
「固体支持体」は、非流体物質を示し、ポリマー、金属(常磁性、強磁性粒子)、ガラス、及びセラミックなどの材料から作製された粒子(微粒子及びビーズを含む);シリカ、アルミナ、及びポリマーゲルなどのゲル物質;ポリマー、金属、ガラス、及び/又はセラミックで作製され得るキャピラリー;ゼオライト及び他の多孔質物質;電極;マイクロタイタープレート;固体ストリップ;及びキュベット、チューブ又は他の分光計試料容器を含む。アッセイの固相成分は、固体支持体が、分子と化学的に相互作用することが意図される少なくとも1つの部分をその表面に含有するという点で、不活性固体表面と区別される。固相は、チップ、チューブ、ストリップ、キュベット、又はマイクロタイタープレートなどの固定成分であっても、又はビーズ及び微粒子などの非固定成分であってもよい。微粒子は、均質なアッセイフォーマットの固体支持体として使用することもできる。FcRn複合体と他の物質の非共有結合又は共有結合での接着の両方を可能にする様々な微粒子が使用され得る。一実施態様において、固体支持体は、POROS(商標)ビーズで構成される。
【0281】
固体支持体へのFcRnのコンジュゲーションは、N末端基及び/又はεアミノ基(リジン)、異なるリジンのεアミノ基、タンパク質のアミノ酸主鎖のカルボキシ官能基、スルフヒドリル官能基、ヒドロキシル官能基、及び/もしくはフェノール官能基、並びに/又はタンパク質の炭水化物構造の糖アルコール基を介して化学的に結合することによって行うことができる。
【0282】
(5.5.1 結合)
本開示のいくつかの態様は、第1の結合パートナー(例えば、ナノ小胞の膜上に存在するFcRn結合ポリペプチド)と第2の結合パートナー(例えば、固定化FcRn)との間の特異的結合相互作用を使用する、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の単離及び精製に関する。
【0283】
一実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含有する試料、又は前記ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)を、第1のpH(すなわち酸性pH)に調整し、次いで、FcRnアフィニティーカラムにアプライする。一実施態様において、本開示のFcRn結合ポリペプチドを含有する生成混合物又は粗精製もしくは部分精製された培養上清を、第1のpH(すなわち酸性pH)に調整し、次いで、FcRnアフィニティーカラムにアプライする。一実施態様において、第1のpHは約pH6.5未満である。好ましい実施態様において、第1のpHは、約pH6.5未満で、pH5超である。
【0284】
一実施態様において、第1のpH値は、約pH5~約pH6である。一実施態様において、第1のpH値は、約pH5又は約pH5.5又は約pH6である。一実施態様において、第1のpH値は、約pH3.5、約pH3.6、約pH3.7、約pH3.8、約pH3.9、約pH4.0、約pH4.1、約pH4.2、約pH4.3、約pH4.4、約pH4.5、約pH4.6、約pH4.7、約pH4.8、約pH4.9、約pH5.0、約pH5.1、約pH5.2、約pH5.3、約pH5.4、約pH5.5、約pH5.6、約pH5.7、約pH5.8、約pH5.9、約pH6.0、約pH6.1、約pH6.2、約pH6.3、及び約pH6.4から選択される。
【0285】
本明細書に記載の方法は、FcRn結合ポリペプチドとFcRn精製リガンドとの間の特異的相互作用を必要とする。主にpHを変更するだけでなく、任意に塩濃度の変更、及び/又は有機修飾剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、もしくは尿素での極性の低下を介して、特異的結合に理想的な緩衝液条件をさらに特定するために、ハイスループットスクリーニングを実施することができる。本開示のFcRn結合ポリペプチドと結合剤(例えば、FcRn)との間の相互作用は、試料条件(例えば、クロマトグラフィー樹脂の容量当たりのロードされる試料量、FcRn結合ポリペプチドの濃度、FcRn結合ポリペプチドを含むEVの濃度、不純物の濃度)、ローディング緩衝液(例えば、pH、塩濃度、塩のアイデンティティ、極性)、及び他の物理的条件(例えば、温度)に応じて変えることもできる。加えて、滞留時間は、不純物とFcRn結合ポリペプチド又は前記ポリペプチドを含むナノ小胞との間の吸着速度の差に基づいて調整することができる。そのため、本明細書に記載の様々な精製条件を試験して、工程に理想的な条件を特定することができる。
【0286】
同様のアプローチを使用して、純度及び収率を改善し、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の亜集団の富化、枯渇、又は単離を補助することができる。これらの特性は、ロード負荷を最大化し、よりストリンジェントな溶出条件を適用するとともに、エキソソームの濃度をさらに高めるために用いることができる。
【0287】
(5.5.2 溶出)
一態様において、本明細書に記載の使用及び方法における、FcRnアフィニティーカラムに結合した本開示のFcRn結合ポリペプチド又は前記FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、EV又はハイブリドソーム)の回収は、主として、緩衝溶液のpHを、結合を促進する第1のpH値(すなわち、より酸性のpH)から、結合ペア間の結合はあまり促進しない第2のpH値(すなわち、より少ない酸性、より中性又はよりアルカリ性)に変化させることによる。
【0288】
いくつかの実施態様において、溶出は、第1の低pH値(すなわち、より酸性のpH値)から始まり、第2のより高いpH値(すなわち、あまり酸性ではない、中性又はアルカリ性のpH値)で終わるpH勾配を示す正の直線pH勾配によって行われ、溶離液のpHが時間の関数として連続的に変化するpHの変化によって促進される。連続pH勾配の例は直線pH勾配であり、pHの変化は時間の一次関数である。一実施態様において、溶離液を形成するために一緒に混合される異なるpHの2以上の緩衝液を利用することによって、連続的なpH勾配を確立することができる。溶離液内の緩衝液の比率、ひいては、溶離液のpHは、時間の関数として連続的に変化させることができる。緩衝液混合プロセスの制御は、通常、所望のpH勾配が生じるようにプログラムされたフローコントローラーによって制御される。一実施態様において、正の直線pH勾配は、約5.5の第1のpH値から始まり、約8.8の第2のpH値で終わる。
【0289】
いくつか実施態様において、pHの変化は、低い(すなわち、より酸性のpH値)から始まり、より高い(すなわち、あまり酸性ではない、中性又はアルカリ性のpH値)で終わる正のステップpH勾配によって達成され、pHの変化は、時間に関して不連続であり、1以上のステップ、又はpHが急激な変化を受ける時点を形成する。これは、溶離液として第1の緩衝液を異なるpHの第2の緩衝液に置き換えるだけで実現できる。本方法の好ましい実施態様において、採用される勾配はステップpH勾配である。一実施態様において、正のステップpH勾配は、約5.5の第1のpH値から始まり、約8.8の第2のpH値で終わる。
【0290】
一実施態様において、第2のpH値は、約pH7.3~約pH9.5である。一実施態様において、第2のpH値は、約pH8.5~約pH9である。一実施態様において、第2のpH値は約pH8.8である。
【0291】
一実施態様において、第2のpH値は、約pH7.1、約pH7.2、約pH7.3、約pH7.4、約pH7.5、約pH7.6、約pH7.7、約pH7.8、約pH7.9、約pH8.0、約pH8.0、約pH8.1、約pH8.2、約pH8.3、約pH8.4、約pH8.5、約pH8.6、約pH8.7、約pH8.8、約pH8.9、約pH9.0、約pH9.1、約pH9.2、約pH9.3、約pH9.4、及び約pH9.5から選択される。
【0292】
一実施態様において、第1のpH値は、約pH3.5、約pH3.6、約pH3.7、約pH3.8、約pH3.9、約pH4.0、約pH4.1、約pH4.2、約pH4.3、約pH4.4、約pH4.5、約pH4.6、約pH4.7、約pH4.8、約pH4.9、約pH5.0、約pH5.1、約pH5.2、約pH5.3、約pH5.4、約pH5.5、約pH5.6、約pH5.7、約pH5.8、約pH5.9、約pH6.0、約pH6.1、約pH6.2、約pH6.3、又は約pH6.4であり、第2のpH値は、約7.1、約pH7.2、約pH7.3、約pH7.4、約pH7.5、約pH7.6、約pH7.7、約pH7.8、約pH7.9、約pH8.0、約pH8.0、約pH8.1、約pH8.2、約pH8.3、約pH8.4、約pH8.5、約pH8.6、約pH8.7、約pH8.8、約pH8.9、約pH9.0、約pH9.1、約pH9.2、約pH9.3、約pH9.4、又は約pH9.5である。
【0293】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドを含むFcRn結合ナノ小胞の溶出は、代替的に、有機修飾剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、又は尿素を用いて塩濃度及び/又は極性を変化させることによって達成することができる。
【0294】
いくつかの実施態様において、pH範囲を調節することとは別に、溶出は、塩、有機溶媒、小分子、界面活性剤、双性イオン、アミノ酸、ポリマー、温度、及び上記の任意の組み合わせを調節することによっても達成することができる。同様の溶出剤を使用して、純度を改善し、収率を改善し、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の亜集団を単離することができる。
【0295】
いくつかの実施態様において、溶出は、pH、塩、有機溶媒、小分子、界面活性剤、双性イオン、アミノ酸、ポリマー、温度、及び上記の任意の組み合わせなどの異なる特性を有する複数の溶出緩衝液を用いて行うこともできる。複数の溶出画分を収集することができ、各画分に収集されたFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞は、異なる特性を有する。例えば、1つの画分中に収集されたFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞は、他の画分中のFcRn結合ナノ小胞よりも高い純度、小さい又は大きい平均サイズ、又は好ましい組成などを有する。
【0296】
原理的には、任意の緩衝物質を、本明細書に記載の方法で使用することができる。一実施態様において、リン酸又はその塩、酢酸又はその塩、クエン酸又はその塩、モルホリン、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)又はその塩、ヒスチジン又はその塩、グリシン又はその塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)又はその塩、(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)又はその塩などの医薬として許容し得る緩衝物質が使用される。
【0297】
具体的な一実施態様は、FcRn結合ポリペプチドと固定化FcRn結合剤との間の特異的結合相互作用を使用して、試料から非修飾ナノ小胞を除去する方法に関する。これらの場合、結合剤に結合したナノ小胞は結合剤から溶出されず、結合剤に結合しない画分を収集することができる。
【0298】
FcRn結合ポリペプチド又は前記ポリペプチドを含むナノ小胞の選択的溶出は、溶出緩衝液中の一価カチオン性ハロゲン化物塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化リチウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、及びヨウ化カリウム)、二価もしくは三価の塩(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、三塩化クロム、硫酸クロム、クエン酸ナトリウム、塩化鉄(III)、塩化イットリウム(III)、リン酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸ナトリウム、塩化第一鉄、クエン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、及び塩化第二鉄)、又はそれらの組み合わせの濃度を、一定のpHの一価カチオンのハロゲン化物塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化リチウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、及びヨウ化カリウム)、2価又は3価の塩(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、三塩化クロム、硫酸クロム、クエン酸ナトリウム、塩化鉄(III)、塩化イットリウム(III)、リン酸カリウム、硫酸カリウム、リン酸ナトリウム、塩化第一鉄、クエン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、及び塩化第二鉄)、又はこれらの組み合わせの増加勾配(ステップ又は直線)を使用して増加させることによって達成することができる。
【0299】
一実施態様において、緩衝物質は、リン酸もしくはその塩、又は酢酸もしくはその塩、又はクエン酸もしくはその塩、又はヒスチジンもしくはその塩から選択される。
【0300】
一実施態様において、緩衝物質は、5mM~500mMの濃度を有する。一実施態様において、緩衝物質は、10mM~300mMの濃度を有する。一実施態様において、緩衝物質は、10mM~250mMの濃度を有する。一実施態様において、緩衝物質は、10mM~100mMの濃度を有する。一実施態様において、緩衝物質は、15mM~50mMの濃度を有する。一実施態様において、緩衝物質は約20mMの濃度を有する。
【0301】
一実施態様において、第1の緩衝溶液中の緩衝物質と第2の緩衝溶液中の緩衝物質は、同じ緩衝物質である。一実施態様において、第1溶液中の緩衝物質と第2溶液中の緩衝物質は、異なる緩衝物質である。一実施態様において、第1の溶液は、約pH3.5~約pH7.5のpH値を有する。一実施態様において、第1の溶液は、約pH5~約pH6のpH値を有する。一実施態様において、第1の溶液は、約pH5.5のpH値を有する。
【0302】
一実施態様において、第2の溶液は、約pH7.0~約pH9.5のpH値を有する。一実施態様において、第2の溶液は、約pH8~約pH9のpH値を有する。一実施態様において、第2の溶液は、約pH8.2~約pH8.8のpH値を有する。
【0303】
例示的な第1の溶液は、pH5.5に調整された20mM MES及び150mM NaClを含む。例示的な第2の溶液は、pH8.8に調整された20mM TRIS及び150mM NaClを含む。例示的な第2の溶液は、pH8.6に調整された20mM HEPESを含む。例示的な第2の溶液は、pH8.2に調整された20mM TRISを含む。
【0304】
一実施態様において、緩衝溶液は追加の塩を含む。一実施態様において、追加の塩は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、クエン酸ナトリウム、又はクエン酸カリウムから選択される。一実施態様において、緩衝溶液は、50mM~1000mMの追加の塩を含む。一実施態様において、緩衝溶液は50mM~750mMの追加の塩を含む。一実施態様において、緩衝溶液は50mM~500mMの追加の塩を含む。一実施態様において、緩衝溶液は50mM~750mMの追加の塩を含む。一実施態様において、緩衝溶液は、約50mM~約300mMの追加の塩を含む。
【0305】
一実施態様において、第1及び/又は第2の溶液は、塩化ナトリウムを含む。一実施態様において、第1及び/又は第2の溶液は、約50mM~約300mMの塩化ナトリウムを含む。
【0306】
(5.5.3 洗浄)
いくつかの実施態様において、実質的なナノ小胞の純度は、カラムローディング段階中に不純物を流し、選択的賦形剤洗浄中に不純物を溶出し、カラムに結合した追加の不純物を残したまま溶出中に生成物を選択的に溶出することによって達成することができる。カラム溶出液から測定される吸光度は、本方法により得られるナノ小胞の精製を示すことができる。
【0307】
任意に、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の純度は、溶出前に試料を洗浄することによってさらに改善することができる。いくつかの実施態様において、賦形剤は洗浄緩衝液であり得る。賦形剤は、特定のpH範囲を有する溶液、塩、有機溶媒、小分子、界面活性剤、双性イオン、アミノ酸、ポリマー、及び上記の任意の組み合わせであり得る。
【0308】
より具体的には、賦形剤は、アルギニン、リジン、グリシン、ヒスチジン、カルシウム、ナトリウム、リチウム、カリウム、ヨウ化物、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、尿素、プロピレングリコール、アルミニウム、アンモニウム、グアニジニウム・ポリエチレングリコール、EDTA、EGTA、界面活性剤、塩化物、硫酸塩、カルボン酸、シアル酸、リン酸塩、酢酸塩、グリシン、ホウ酸塩、ギ酸塩、過塩素酸塩、臭素、硝酸塩、ジチオスレイトール、ベータメルカプトエタノール、又はリン酸トリ-n-ブチルを含むことができる。
【0309】
賦形剤には、Sigma-Aldrich社から入手可能な塩化セチルトリメチルアンモニウム、オクトキシノール-9、TRITON(商標)X-100(すなわち、ポリエチレングリコールp-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェニルエーテル)及びTRITON(商標)CG-110;ドデシル硫酸ナトリウム;ラウリル硫酸ナトリウム;デオキシコール酸;ポリソルベート80(すなわち、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート);ポリソルベート20(すなわち、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート);アルコールエトキシレート;アルキルポリエチレングリコールエーテル;デシルグルコシド;オクトグルコシド;セーフケア(SafeCare);DOW Chemical社から入手可能なECOSURF(商標)EH9、ECOSURF(商標)EH6、ECOSUR(商標)EH3、ECOSURF(商標)SA7、及びECOSURF(商標)SA9;BASF社から入手可能なLUTENSOL(商標)M5、LUTENSOL(商標)XL、LUTENSOL(商標)XP及びAPG(商標)325N;AIR PRODUCTS社から入手可能なTOMADOL(商標)900;CRODA社から入手可能なNATSURF(商標)265;Bestchem社から入手可能なSAFECARE(商標)1000;DOW社から入手可能なTERGITOL(商標)L64;カプリル酸;Lubrizol社から入手可能なCHEMBETAINE(商標)LEC;並びにMackol DGからなる群から選択される界面活性剤も含まれ得る。
【0310】
いくつかの実施態様において、精製結果を改善するさらなる方法を適用することができる。例えば、クロマトグラフィー樹脂の容量当たりのロード可能なFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の量は、供給材料を調節することによって、例えば、FcRn結合ナノ小胞の濃度を増加させること、不純物の濃度を低下させること、pHを変更すること、塩濃度を低下させること、イオン強度を低下させること、又はFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の特定の亜集団を変更することによって改善することができる。特定の実施態様において、物質輸送の制約並びに樹脂上のナノ小胞の吸着の遅れ及び脱離に起因して、クロマトグラフィー樹脂の容量当たりのロード可能なFcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞の量は、カラムローディング時の流速を遅くし、より長いカラムを採用して滞留時間を長くすることで増加させることができる。
【0311】
他の実施態様において、FcRn結合ポリペプチド組成物を含む単離されたナノ小胞は、許容し得る量及び/又は濃度以上で所望のFcRn結合ナノ小胞(例えば、EV)の量及び/又は濃度を有する。他の実施態様において、FcRn結合ポリペプチド組成物を含む単離されたナノ小胞は、組成物が得られる出発材料(例えば、生成細胞馴化培地)と比較して富化される。この富化は、出発物質と比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、99.99%又は99.9999%超であり得る。
【0312】
いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド調製物を含む単離されたナノ小胞は、残留生物生成物を実質的に含まない。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド調製物を含む単離されたナノ小胞は、混入している任意の生体物質を100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、又は90%含まない。残留生物生成物は、非生物物質(化学物質を含む)又は望ましくない核酸、タンパク質、脂質、もしくは代謝産物を含み得る。残留生物生成物を実質的に含まないとは、FcRn結合ポリペプチドを含むナノ小胞が検出可能な生成細胞を含有しないこと、及びFcRn結合ナノ小胞のみが検出可能であることも意味することができる。
【0313】
さらなる態様において、本明細書に記載の第2の結合パートナーとしてFcRnを含むクロマトグラフィー法を、融合されていない脂質ナノ粒子からのFcRn結合ポリペプチドを含むハイブリドソームの粗混合物の単離/富化に使用することができる。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド調製物を含む単離されたハイブリドソームは、融合されていない脂質ナノ粒子を実質的に含まない。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチド調製物を含む単離されたハイブリドソームは、融合されていない任意の脂質ナノ粒子を100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、又は90%含まない。
【0314】
(5.6 組成物とキット)
別の態様において、本開示の(例えば、節5.2~5.4に記載されているような)ポリペプチド、ナノ小胞、核酸、発現ベクター、及び/又は細胞を含む組成物及びキットが提供される。そのような組成物は、例えば、化粧品組成物、診断用組成物、又は医薬組成物であり得る。
【0315】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、本明細書に記載のFcRn結合ポリペプチド(例えば、膜貫通タンパク質を含むFcRn結合ポリペプチド及びFcRnに特異的に結合することができ、ホモ二量体を形成しない改変Fcドメイン)を含み、さらに、1以上の医薬として許容し得る担体及び/又は賦形剤を含む。製剤を調製するための指針は、当業者に知られている医薬調製物及び製剤に関する任意の数のハンドブックに見出すことができる。
【0316】
特定の実施態様において、本明細書に記載の組成物は薬物として有用である。通常、そのような薬物は、本明細書に提供される組成物の治療有効量を含む。したがって、それぞれの組成物は、障害の治療に有用な薬物の生成に使用することができる。そのため、一実施態様において、本開示のポリペプチド、ナノ小胞、核酸、発現ベクター、及び/又は細胞を含む医薬組成物並びにキットが提供される。いくつかの実施態様において、提供されるのは、本開示のナノ小胞(すなわち、上記のポリペプチドを含むナノ小胞)を含む医薬組成物及びキットである。
【0317】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、本明細書に記載のポリペプチド、ナノ小胞、核酸、発現ベクター、及び/又は細胞を含み、さらに、1以上の医薬として許容し得る担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む。製剤を調製するための指針は、当業者に知られている医薬調製物及び製剤に関する任意の数のハンドブックに見出すことができる。
【0318】
医薬として許容し得る担体は、生理学的に適合し、好ましくは活性剤の活性を妨害しないか、又はそうでなければ阻害しない任意の溶媒、分散媒、又はコーティング剤を含む。様々な医薬として許容し得る賦形剤は当技術分野で周知である。
【0319】
いくつかの実施態様において、医薬として許容し得る担体は、静脈内、筋肉内、経口、腹腔内、髄腔内、経皮、局所、又は皮下投与に適している。医薬として許容し得る担体は、例えば、組成物を安定化させるか、又は活性剤(複数可)の吸収を増減させるように作用する1以上の生理学的に許容し得る化合物(複数可)を含有することができる。生理学的に許容し得る化合物は、例えば、炭水化物、例えば、グルコース、スクロース、又はデキストラン、抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸又はグルタチオン、キレート剤、低分子量タンパク質、活性剤のクリアランス又は加水分解を低下させる組成物、又は賦形剤又は他の安定剤及び/又は緩衝剤を含むことができる。他の医薬として許容し得る担体及びそれらの製剤は、当技術分野で周知である。
【0320】
医薬組成物は、当業者に知られる様式で、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠生成、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。本明細書に開示される方法及び賦形剤は単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0321】
経口投与の場合、本明細書に開示されるFcRn結合ポリペプチドは、当技術分野で周知である医薬として許容し得る担体と組み合わせることによって製剤化することができる。そのような担体は、治療される患者による経口摂取のために、該化合物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、エマルジョン、親油性及び親水性懸濁液、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして製剤化することを可能にする。経口使用のための医薬調製物は、所望により、錠剤又は糖衣錠コアを取得するために、化合物を固体賦形剤と混合し、任意に、得られた混合物を粉砕し、適切な助剤を添加した後に顆粒の混合物を処理することによって取得することができる。適切な賦形剤には、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、又はソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)が含まれる。所望により、崩壊剤、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸もしくはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムを添加することができる。
【0322】
本明細書に開示されるFcRn結合ポリペプチドは、注射による、例えば、ボーラス注射又は持続注入による非経口投与用に製剤化することができる。注射用に、FcRn結合ポリペプチドは、水性又は非水性溶媒、例えば、植物油又は他の類似の油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸又はプロピレングリコールのエステルに、所望により、可溶化剤、等張化剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤及び防腐剤などの従来の添加剤と共に溶解、懸濁又は乳化することによって調製物に製剤化することができる。いくつかの実施態様において、FcRn結合ポリペプチドは、水溶液に、好ましくは生理学的適合緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理食塩水緩衝液に製剤化することができる。注射用の製剤は、防腐剤を添加して単位剤形、例えば、アンプル又は複数回用量容器で提供することができる。該組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液又はエマルジョンなどの形態をとることができ、懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤などの製剤を含有することができる。
【0323】
いくつかの実施態様において、本明細書に開示されるFcRn結合ポリペプチドは、持続放出、制御放出、徐放、時限放出又は遅延放出の製剤、例えば、活性剤を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスでの送達用に調製される。様々な種類の持続放出用の材料が確立されており、当業者によく知られている。現在の徐放性製剤には、フィルムコーティング錠剤、多粒子又はペレットシステム、親水性又は親油性材料を使用するマトリックス技術、及び細孔形成賦形剤を有するワックスベースの錠剤が含まれる。持続放出送達システムは、その設計に応じて、数時間又は数日にわたって、例えば、4、6、8、10、12、16、20、又は24時間以上にわたって化合物を放出することができる。通常、持続放出製剤は、天然又は合成ポリマー、例えば、ポリマービニルピロリドン、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP);カルボキシビニル親水性ポリマー;疎水性及び/又は親水性ハイドロコロイド、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース;及びカルボキシポリメチレンを使用して調製することができる。
【0324】
通常、インビボ投与に使用するための医薬組成物は無菌である。滅菌は、当技術分野で公知の方法、例えば、加熱滅菌、蒸気滅菌、滅菌濾過、又は放射線照射に従って達成することができる。
【0325】
本開示の医薬組成物の投薬量及び所望の薬物濃度は、想定される特定の用途に応じて変更してよい。適切な投与量又は投与経路の決定は、十分に当業者の範囲内である。例示的な適切な投薬量は、以下の節5.7にも記載されている。
【0326】
(5.7 治療用途及び診断用途)
本開示のポリペプチドを含むナノ小胞(例えば、節5.4に記載)、並びにそのようなポリペプチドをコードする核酸及び発現ベクター(例えば、節5.3に記載)、そのようなポリペプチドを発現できる細胞(例えば、節5.3に記載)、並びに前述のものを含む組成物及びキット(例えば、節5.6に記載)は、多くの疾患及び障害(例えば、癌、炎症、又は癌と関連付けられる炎症)を治療、監視、予防及び/又は診断するために使用され得る。
【0327】
そのため、一態様において、本明細書に提供されるのは、標的細胞もしくは組織に治療薬又は診断薬を送達する方法であって、本明細書に記載の細胞外小胞又はハイブリドソームを前記標的細胞又は組織に提供することを含む前記方法である。
【0328】
一態様において、疾患又は障害を治療する方法が提供される。本方法は、本明細書に記載の組成物(すなわち、ポリペプチドを含むか又は発現できる組成物)の医薬として有効な量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む。一実施態様において、本方法は、上記の医薬組成物の医薬として有効な量を投与することを含む。
【0329】
治療を必要とする対象は、ヒト又は非ヒト動物であり得る。通常、対象は哺乳動物、例えば、類人猿、イヌ、モルモット、ウマ、サル、マウス、ブタ、ウサギ又はラットである。動物モデルの場合、動物は障害を発症するように、又は疾患の特徴を示すように遺伝子操作されている可能性がある。
【0330】
いくつか実施態様において、対象は、癌、炎症性障害、自己免疫疾患、慢性疾患、炎症、損傷した器官機能、感染症、代謝疾患、変性障害、遺伝病(例えば、遺伝子欠損、劣性遺伝性障害、又は優性遺伝性障害)、又は傷害を有する。いくつかの実施態様において、対象は感染症を有し、ナノ小胞は、該感染症に対する抗原を含む。いくつかの実施態様において、対象は遺伝子欠損を有し、ナノ小胞は、該対象が欠損しているタンパク質、又は該タンパク質をコードする核酸(例えば、mRNA)、又は該タンパク質をコードするDNA、又は該タンパク質をコードする染色体、又は該タンパク質をコードする核酸を含む核を含む。いくつかの実施態様において、対象は優性遺伝性障害を有し、ナノ小胞は、優性変異対立遺伝子の核酸阻害剤(例えば、shRNA、siRNA又はmiRNA)を含む。いくつかの実施態様において、対象は優性遺伝性障害を有し、かつ/又はナノ小胞は、優性変異対立遺伝子の核酸阻害剤(例えば、shRNA、siRNA又はmiRNA)を含み、かつ/又はナノ小胞は、核酸阻害剤によって標的とされない変異遺伝子の変異していない対立遺伝子をコードするmRNAも含む。いくつかの実施態様において、対象は予防接種を必要とする。いくつかの実施態様において、対象は、例えば、損傷部位の再生を必要とする。
【0331】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のナノ小胞又は組成物は、少なくとも1、2、3、4、又は5回対象に投与される。
【0332】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のポリペプチドを含むナノ小胞は、対象、例えば、マウス又はヒトに投与される場合、組織、例えば、肝臓、肺、心臓、脾臓、膵臓、胃腸管、腎臓、精巣、卵巣、脳、生殖器官、中枢神経系、末梢神経系、骨格筋、内皮、内耳、又は眼を標的とする。いくつかの実施態様において、投与される組成物中に本明細書に記載のポリペプチドを含むナノ小胞の少なくとも0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、4%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%が、24、48、又は72時間後に標的組織に存在する。
【0333】
いくつかの実施態様において、上記のナノ小胞又は組成物は、治療有効量又は治療有効用量で対象に投与される。例示的な投薬量は、約0.01mg/kg~約500mg/kg、又は約0.1mg/kg~約200mg/kg、又は約1mg/kg~約100mg/kg、又は約10mg/kg~約50mg/kgの1日用量範囲を含む。しかし、投薬量は、選択された投与経路、組成物の製剤化、患者の反応、病態の重症度、対象の体重、及び処方医師の判断を含むいくつかの要因に従って変更してよい。投薬量は、個々の患者の要求に応じて、経時的に増減することができる。いくつかの実施態様において、患者は、最初に低用量を与えられ、次いで、用量は患者に許容される有効投薬量まで増加される。有効量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0334】
いくつかの実施態様において、本明細書に開示されるナノ小胞又は組成物は、癌の治療に使用される。特定の実施態様において、癌は、CNSの原発癌、例えば、神経膠腫、多形膠芽腫、髄膜腫、星状細胞腫、聴神経鞘腫、軟骨腫、乏突起膠腫、髄芽腫、神経膠腫、神経鞘腫、神経線維腫、神経芽腫、又は硬膜外腫瘍、髄内腫瘍又は硬膜内腫瘍である。いくつかの実施態様において、癌は固形腫瘍であり、又は他の実施態様において、癌は非固形腫瘍である。固形腫瘍癌には、中枢神経系の腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌(基底細胞癌、細胞癌、扁平上皮癌及び黒色腫を含む)、子宮頸癌、子宮癌、肺癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、星状細胞腫、神経膠腫、膵臓癌、中皮腫、胃癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、腎芽腫を含む腎癌、膀胱癌、食道癌、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、子宮内膜癌、腺癌、小細胞癌、神経芽腫、副腎皮質癌、上皮癌、デスモイド腫瘍、線維形成性小円形細胞腫瘍、内分泌腫瘍、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、胚細胞腫瘍、肝芽腫、肝細胞癌、非横紋筋肉腫軟部肉腫、骨肉腫、末梢原始神経外胚葉腫瘍、網膜芽細胞腫、及び横紋筋肉腫が含まれる。いくつかの実施態様において、癌を治療するための薬物の製造における本明細書に開示されるようなナノ小胞の使用が提供される。
【0335】
いくつかの実施態様において、本明細書に開示されるナノ小胞又は組成物は、自己免疫性又は炎症性疾患の治療に使用され得る。そのような疾患の例としては、強直性脊椎炎、関節炎、変形性関節症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、喘息、強皮症、脳卒中、アテローム性動脈硬化症、クローン病、大腸炎、潰瘍性大腸炎、皮膚炎、憩室炎、線維症、特発性肺線維症、線維筋痛症、肝炎、過敏性腸症候群(IBS)、狼瘡、全身性エリテマトーデス(SLE)、腎炎、多発性硬化症、及び潰瘍性大腸炎が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、自己免疫疾患又は炎症性疾患を治療するための薬物の製造における本明細書に開示されるナノ小胞の使用が提供される。
【0336】
いくつかの実施態様において、本明細書に開示されるようなナノ小胞又は組成物は、心血管疾患、例えば、冠状動脈疾患、心臓発作、異常な心拍リズム又は不整脈、心不全、心臓弁膜症、先天性心疾患、心筋疾患、心筋症、心膜疾患、大動脈疾患、マルファン症候群、脈管疾患、又は血管疾患の治療に使用され得る。
【0337】
本開示のナノ小胞又は組成物は、通常、治療される疾患及び/又はナノ小胞、組成物、及び/もしくは治療分子の特徴に応じて、様々な異なる投与経路、例えば、耳介(耳)、頬側、結膜、皮膚、歯科、電気浸透、子宮頸管内、副鼻腔内、気管内、腸内、硬膜外、羊膜外、体外、血液透析、浸潤、間質、腹腔内、羊膜内、動脈内、関節内、胆管内、気管支内、嚢内、心臓内、軟骨内、尾内、海綿体腔内、腔内、脳内、脳室内、槽内、角膜内、冠状内(歯)、冠内、海綿体内(intracorporus cavernosum)、皮内、椎間板内、管内、十二指腸内、硬膜内、表皮内、食道内、胃内、歯肉内、回腸内、病変内、腔内、リンパ内、髄内、髄膜内、筋肉内、眼内、卵巣内、心膜内、腹腔内、胸腔内、前立腺内、肺内、洞内、脊髄内、滑膜内、腱内、精巣内、髄腔内、胸腔内、尿細管内、腫瘍内、鼓室内、子宮内、血管内、静脈内、急速静注、点滴静注、脳室内、膀胱内、硝子体内、イオントフォレーシス、洗浄、喉頭、経鼻、鼻腔胃、密封療法(occlusive dressing technique)、眼科、経口、中咽頭、その他、非経口、経皮、関節周囲、硬膜周囲、神経周囲、歯周、直腸、呼吸器(吸入)、球後、軟部組織、くも膜下、結膜下、皮下、舌下、粘膜下、局所、経皮、経粘膜、経胎盤、経気管、経鼓膜、尿管、尿道、及び/もしくは膣投与、並びに/又は上記の投与経路の任意の組み合わせによりヒト又は動物の対象に投与され得る。
【0338】
本明細書に開示されるナノ小胞は、定量的及び/又は定性的検出を包含するインビボ及び/もしくはインビトロでの検出又は診断目的のために使用され得る。同様に、前のテキストに記載したポリペプチド、核酸、発現ベクター及び/又は細胞を、この節で詳述するようにそれに応じて使用することができる。
【0339】
診断適用又は検出目的では、ナノ小胞は、検出可能である部分、例えば、放射線学又は磁気共鳴画像法を含む生物学的画像化を通じて検出可能である部分を含み得る。いくつかの実施態様において、ナノ小胞は、レポータータンパク質又は検出可能な標識を含む。いくつかの実施態様において、本明細書に開示されるナノ小胞は、検出物質が認識することができる1以上の物質と結合される。例として、ナノ小胞はビオチンと共有結合してもよく、ビオチンはストレプトアビジンに結合する能力によって検出することができる。
【0340】
特定の実施態様において、ナノ小胞は、試料、好ましくは、例えば、ヒト対象からの生体由来の試料におけるその存在を検出するのに有用である。生体試料の非限定的な例としては、血液、生検、脳脊髄液、リンパ液、尿、及び/又は非血液組織が挙げられる。特定の実施態様において、生体試料は、ヒト患者由来の細胞又は組織を含む。
【0341】
そのため、いくつかの態様において、(i)対象又は生体試料と、検出可能な部分を含む本開示のナノ小胞とを接触させる工程;(ii)ナノ小胞を対象又は試料と相互作用させる工程、及び(iii)ナノ小胞を検出する工程を含む方法が提供される。そのような方法は、インビトロ法又はインビボ法であり得る。いくつかの実施態様において、そのような方法は、ナノ小胞を局在化する方法である。
【実施例】
【0342】
(6. 実施例)
実施例は、本明細書に開示される方法及び組成物を例示する。上記に一般的な説明が提供されるが、様々な他の実施態様を実施してよいことが理解される。
【0343】
(6.1 実施例1:操作されたEVの生成)
膜貫通足場タンパク質(EphA4)に融合したFcRn結合部位を含む融合タンパク質のDNA配列をインシリコで設計した。該DNA配列は、以下の構造を有するポリペプチドをコードしていた:
【0344】
融合タンパク質1: EphA4シグナルペプチド-scFv -リンカー1-改変単量体Fc-リンカー2-EphA4断片- リンカー3-EGFP、
図3に示す細胞外ドメインを有する、及び
【0345】
融合タンパク質2: EphA4シグナルペプチド-scFv -リンカー1-EphA4断片- リンカー3-EGFP。
【0346】
該DNA配列は、商業的DNA合成ベンダーによって合成され、内部リボソーム侵入部位及び抗生物質選択マーカーを含むレンチウイルス骨格にクローニングされた。標準プロトコールを使用してレンチ粒子を生成し、HEK293T細胞に形質導入し、次いで、GFP発現についてフローサイトメトリーによって選別し、次いで、モノクローナル増殖させた。
【0347】
細胞株を培養し、安定クローンの培養上清からEVを単離した。具体的には、EV含有培地を回収し、分画遠心法により細片から清澄化した。次いで、上清を0.22μmシリンジ又はボトルトップフィルターで濾過し、異なる精製工程でさらに処理した。大規模な生成では、高密度培養物を灌流モードで、攪拌バイオリアクター内で維持し、収集した灌流上清を事前に清澄化し、0.2μm中空糸フィルターを取り付けた交互接線流システムによって濾過した。EVを、様々な方法、通常、透析濾過/限外濾過とタンジェンシャルフロー濾過(TFF)の組み合わせ、及びフロースルーベースのマルチモーダルクロマトグラフィー並びに/又は結合及び溶出クロマトグラフィー工程を使用して、清澄化した馴化培地から単離及び精製した。次いで、精製したEVを凍結し、下流分析のために保存した。精製したEVでウェスタンブロッティングを行った。
図4に示すように、EV上で発現した融合タンパク質1(左レーン)と融合タンパク質2(右2)の等しいタンパク質量を変性ポリアクリルアミドゲル上にローディングした。EphA4細胞外ドメインに特異的な抗体を使用するEphA4のウェスタンブロッティングにより、操作したEV上で融合タンパク質1及び2が発現していることが実証された。
【0348】
(6.2 実施例2:FcRn結合ポリペプチドを発現するソース細胞の選択)
実施例1で作製した生成細胞株に加えて、N末端からC末端に:標的化モノボディ-リンカー1-改変単量体Fc- リンカー2-EphB2足場-リンカー3-turboluc(EphB2足場は、EphB2の残基195~905を含み、LBDを欠き、かつ野生型EphB2に対して以下のアミノ酸置換L356A I395A S536E A562S、Y822Fを含有する)を含むFcRnポリペプチド(融合タンパク質3)を発現する細胞の安定プールを、同じレンチ骨格を使用して作製した。完全融合タンパク質の配列については配列番号73を参照されたい。前の2つのGFPタグ付き細胞株とは対照的に、この細胞株が発現するFcRn結合ポリペプチドは、フローサイトメトリー支援細胞選別(FACS)を可能にするGFPタグを含まない。高発現細胞クローンを選択するために、形質導入細胞を限界希釈法及び抗生物質選択を使用してモノクローナル増殖させた。異なるクローンを、蛍光抗ヒトFcドメイン抗体(Invitrogenカタログ12-4998-82)を使用するフローサイトメトリーによりFcRn結合ポリペプチド発現レベルについてスクリーニングした。
図5A~
図5Dに示すように、HEK293T対照細胞及び融合タンパク質2(実施例1に記載されている)を発現する細胞株(それぞれ
図5A及び
図5B)は、抗ヒトFcドメイン抗体によって染色されなかったが、融合タンパク質1を発現する細胞株の全ての細胞(実施例1に記載されている、改変単量体Fcを含む)及びこの実施例のFcRn結合ポリペプチドを発現する選択クローンの全ての細胞は、蛍光抗ヒトFcドメイン抗体による染色が成功した(それぞれ
図5C及び
図5D)。
【0349】
(6.3 実施例3:操作されたEVの低pH溶出)
実施例2で作製した生成細胞の高発現クローンを、無血清の化学的に規定された培地で培養し、操作したEVを、実施例1に記載したように上清から単離した。操作して単離したEVをプロテインAアフィニティークロマトグラフィーカラムにロードした。カラム平衡化、試料のローディング及びカラム洗浄の所定の位置での手順の流量設定を、メーカーの指示に従って選択した。0.1M グリシン-HCI、pH3.0を含む溶出緩衝液を利用して、プロテインAに結合したFcRn結合EVを予めプレーティングしたpH中和緩衝液に溶出した。フロースルーと溶出液を96ウェルプレートに分画し、動的光散乱(DLS)による粒子計数のためにサンプリングした。カラム上にロードした粒子の量と比較して、フロースルー画分と溶出画分の両方でUV吸光度と粒子/ml測定の両方が最小であることは、回収率が低いことを示している。
【0350】
回収率の低さを調べるために、約1.8x10
12粒子/mlの精製したEV試料を、pHを低下させた緩衝液で1:10希釈し、十分に混合し、室温で20分間インキュベートした。次いで、インキュベートしたEV試料を希釈係数で中性pHの緩衝液(50mM Tris、50mM NaCl)に希釈して、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)装置で直線範囲の粒子濃度を達成し(それぞれ、より高いpHでの1:2500から低いpHでの1:500の間)、次いで、試料の粒子濃度を測定した。
図6に示すように、操作したEVを5未満のpHで単にインキュベートし、その後pH7.4に戻すと、粒子濃度が約90%減少し(約1.8x10
11から約1.8x10
10)、測定ビデオで大きな凝集体が見られた。凝集は、EVを高pH緩衝液に希釈することによって元に戻らなかった。したがって、pH5未満のEV溶出は不可逆的な凝集につながる可能性があり、最適以下の非常に低いpHがアフィニティー精製法には必要とされる。
【0351】
(6.4 実施例4:一本鎖FcRn発現ベクターの構築)
分泌シグナルとしてのマウスIgGカッパ鎖リーダー配列の後に、Cタグに融合したFCGRT重鎖の成熟配列に3個の(GGGGS)(配列番号72)を介して連結した成熟B2M配列を含有する組換えヒト及びマウス一本鎖FcRn (scFcRn)コンストラクトをインシリコで設計し、商業的DNA合成ベンダーによって合成してもらい、レンチベクター及び一過性ベクターにクローニングした。
【0352】
(6.5 実施例5:組換えscFcRnの生成)
組換えヒトscFcRn及びマウスscFcRnポリペプチドを、カスタマイズして化学的に規定された培地(小分子のみを含有する)で増殖させたHEK293細胞内でそれぞれ発現させた。濃縮上清中のscFcRnの発現を、ウェスタンブロット(ヒト: Invitrogen PA5-97738抗体、マウスR&D Systems AF6775)によって検出した。大規模生成のために、組換えscFcRnを発現する安定細胞株を、実施例4のベクターを使用して作製した。前記細胞株を中空糸カートリッジ(5kDaカットオフ)又はオービタルシェーカーで培養した。清澄化した上清又は部分的に精製し清澄化した上清(濃縮し、10kDa中空糸ユニットを有する接線流装置にてPBSに対して透析濾過した)を、Capture-Select C-TagXLアフィニティークロマトグラフィーカラムにロードした。カラムをPBSで洗浄し、scFcRnを、i)20mM Tris、2.0M MgCl
2 pH7.4、ii)50mM 酢酸 pH3.0、又はiii)20mM Tris、2mM 「S E P E A」ペプチド、pH7.4のいずれかで溶出した。「S E P E A」ペプチドによって溶出したscFcRnについては、溶出画分を透析するか又は脱塩してペプチドを除去した。精製scFcRnのタンパク質含量を、ビシンコニン酸アッセイ(BCA)で測定し、生成物を-20℃で保存した。scFcRnの純度をウェスタンブロット及びSDS-Pageにより調べた。
図7に示すように、清澄化した上清のウェスタンブロッティング(レーン1)、フロースルー画分(レーン2)及び溶出画分(レーン3)について、マウスFcRn特異的抗体を使用して、scFcRn生成物の結合及び溶出を確認した。あるいは、機能性タンパク質の純度と選択を高めるために、2段階のアフィニティークロマトグラフィーを実施した。第1の工程で、清澄化した粗上清又は部分的に精製し清澄化した上清を、上記と同様に、HClでpH5.8に調整し、0.45μmフィルターで濾過し、MES緩衝液pH5.8で予め平衡化した市販のhIgG-セファロースカラムにロードした。カラムをMES緩衝液pH5.8の5カラム容量で洗浄した。最後に、結合タンパク質をpH8.0の緩衝液(50mM Tris, pH8.0, 100mM NaCl)でカラムから溶出した。次いで、精製タンパク質をCapture-Select C-TagXLカラムにロードし、PBSで洗浄し、任意に、上記のように、i)20mM Tris、2.0M MgCl2 pH7.4、ii)50mM 酢酸 pH3.0、又はiii)20mM Tris、2mMの「S E P E A」ペプチド、pH7.4で溶出した。
【0353】
(6.6 実施例6:操作したEVのscFcRn精製)
実施例5の組換えscFcRnタンパク質を、取扱説明書の手順に従って、C-tagXLカラムにロードした。次いで、樹脂を25mM MES pH5.8、150mM NaClで洗浄した。N末端からC末端に標的化モノボディ-リンカー-改変単量体Fc-リンカー-EphA4断片(EphA4の残基29~590及び野生型EphA4に対してF154Aのアミノ酸置換を含有する)を含むポリペプチドを発現する安定細胞株を作製し、培養して、上清を回収し、清澄化して、濃縮した。収集した上清のpHをpH5.8に調整し、次いで、平衡カラムにロードし、25mM MES pH5.8、150mM NaClでさらに洗浄した。結合した試料を、50mM Tris pH7.4、150mM NaCl(逆流)で溶出した。
【0354】
溶出したフロースルー及び溶出試料中の膜貫通FcRn結合ポリペプチドの存在を確認するために、溶出画分をプールし、濃縮し、その後、抗EphA4抗体(ECM Biosciences, カタログ番号EM2801)を使用するウェスタンブロッティングによって調べた。
図8に示すように、溶出試料はEphA4シグナルの強化を示した。
【0355】
(6.7 実施例7: scFcRnによるpH依存的富化)
樹脂材料1ml当たり約5mgのscFcRNタンパク質を、取扱説明書の手順に従って、POROS 20 EP樹脂に共有結合させた。次いで、樹脂を、500mM NaClを有するpH8.2の0.2M Trisの10カラム容量で洗浄し、続いて、製造業者のマニュアルの指示に従って、25mM Tris pH8.2の10カラム容量で洗浄した。Tris-NaClで最終洗浄し、続いて、カラムをMES緩衝液pH5.8で平衡化した後、すぐに使用できるようにした。樹脂の官能化の成功を、精製ヒトIgG1をローディングすることによって確認した。
【0356】
pHを事前調整しないで、膜貫通EphA4足場タンパク質を含むFcRn結合ポリペプチド(すなわち、実施例1に記載の融合タンパク質1)を発現する生成細胞の清澄化及び透析濾過した上清を50mM Tris pH7.4、150mM NaClで予め平衡化したscFcRn官能化POROS EP樹脂上にローディングすることによって、FcRn結合ポリペプチドを含む操作したEVの富化のpH依存性を決定した。あるいは、上清の同じバッチの試料を、25mM MES pH5.8で予め平衡化したscFcRn官能化POROS EP樹脂上にロードする前に、実施例6に記載したようにpH調整した。実施例6に記載したようにカラムを洗浄し、溶出した。どちらの場合も、フロースルー画分及び溶出画分をプールし、濃縮した。溶出フロースルー及び溶出試料中の膜貫通FcRn結合ポリペプチドの存在を確認するために、フロースルー溶出画分をプールし、濃縮し、その後、抗EphA4抗体(ECM Biosciences, カタログ番号EM2801)を使用してウェスタンブロッティングによって調べた。清澄化した上清は濃縮しなかった。
図9Aに示すように、pH調整していない上清については、プールし、濃縮したフロースルー画分は膜貫通EphA4を保持していたが、
図9Bの酸性化した上清については、プールし、濃縮した溶出画分は、膜貫通EphA4足場タンパク質を含むFcRn結合ポリペプチドの富化を示した。
【0357】
(6.8 実施例8: FcRn結合イムノアッセイ)
Lumit(商標)FcRn結合イムノアッセイ(Promega)を、実施例2に記載の精製EV及び天然Hek293 EVを用いて実施した。前記EVの試料並びに対照としてのヒトIgG1及びマウスIgG1の各々を段階希釈し、製造元の指示に従ってスプリットFcRn/トレーサーとインキュベートした(トレーサー及びFcRnを10倍希釈した)。検出試薬を添加し、プレートリーダーで発光を検出した。
図10Aに示すように、実施例1に記載の精製EVはFcRnに結合することができたが、天然EVはFcRnに結合しなかった。
図10Bに示すように、ヒトIgG1はFcRnに結合することができたが、マウスIgG1は結合できなかった。
【0358】
(6.9 実施例9:改変FcハイブリドソームのIV投与後の血液クリアランス)
EV(例えば、エキソソーム)は、非常に短い半減期及び循環時間を有すると考えられる。実施例2に記載のEphB2足場を含むハイブリドソームの血液クリアランスを試験するために、免疫適格ヌードSKH1マウス(6~8週齢、n=6/群)にDNA搭載脂質ナノ粒子又はハイブリドソーム(0.5mg/kg)を静脈内注射した。DNAカーゴは、プロモーター、レポーター導入遺伝子及びBGHポリ(A)をコードしていた。脂質ナノ粒子を、製造元の指示に従って、Nanoassemblr(商標)マイクロ流体システム(Precision NanoSystems)上で調製した。投与後21日目に、動物に再投与した。血液クリアランスを監視するために、3、6、21日目(2回目の投与前)及び24日目にそれぞれ、尾静脈から20マイクロリットルの血液を採取し、処理して血漿にした。2マイクロリットルの希釈した血漿を、Taqman qPCRアッセイで使用し、同じプレート上の標準曲線と比較することにより、DNA配列、具体的には、BGHポリA配列を定量した。ナイーブマウスの血漿からのDNAの回収効率を、DNAベクターをマウス血漿にスパイクすることによって決定した。
図11に示すように、EphB2足場タンパク質に融合した標的化モノボディ改変Fcドメインを含むハイブリドソームは、投与後6日目にマウス血漿中で検出することができたが、LNP処置群の同日の血漿コピー数は、検出限界を下回った。
【表12】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】