(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】軸方向が短い構造方式をもつガスインジェクタ
(51)【国際特許分類】
F02M 61/04 20060101AFI20240321BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
F02M61/04 G
F02M21/02 301R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562875
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-12-08
(86)【国際出願番号】 EP2022054745
(87)【国際公開番号】W WO2022218596
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】102021203738.0
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161908
【氏名又は名称】藤木 依子
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,マーティン
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA02
3G066AB05
3G066AC07
3G066BA49
3G066BA67
3G066CE22
(57)【要約】
本発明は、電機子(20)、内側磁極(21)、およびコイル(22)をもつ磁気アクチュエータ(2)と、弁ニードル(30)を備え、封止座部(11)においてガス経路(14)を解放および閉止する閉鎖要素(3)であり、電機子(20)が閉鎖要素(3)と接続されている、閉鎖要素(3)と、潤滑剤が充填され、電機子(20)が内部に配置されている密閉された潤滑剤チャンバ(4)であり、潤滑剤が電機子(20)の潤滑を保証する、潤滑剤チャンバ(4)と、潤滑剤チャンバ(4)をガス経路(14)に対し封止する可撓性封止要素(51)と、閉鎖要素(3)を、閉鎖されている初期位置に戻す復元要素(10)と、案内スリーブ(9)と弁ニードル(30)との間に形成されている第1のニードル案内部(31)とを含む、気体燃料を吹き込むためのガスインジェクタであって、第1のニードル案内部(31)が、潤滑剤チャンバ(4)内で、可撓性封止要素(51)の径方向内側に配置されており、復元要素(10)が、潤滑剤チャンバ(4)内で、少なくとも部分的に、特に全体的に可撓性封止要素(51)の内部に配置されている、ガスインジェクタに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子(20)、内側磁極(21)、およびコイル(22)をもつ磁気アクチュエータ(2)と、
弁ニードル(30)を備え、封止座部(11)においてガス経路(14)を解放および閉止する閉鎖要素(3)であり、前記電機子(20)が前記閉鎖要素(3)と接続されている、閉鎖要素(3)と、
潤滑剤が充填され、前記電機子(20)が内部に配置されている密閉された潤滑剤チャンバ(4)であり、前記潤滑剤が前記電機子(20)の潤滑を保証する、潤滑剤チャンバ(4)と、
前記潤滑剤チャンバ(4)を前記ガス経路(14)に対し封止する可撓性封止要素(51)と、
前記閉鎖要素(3)を、閉鎖されている初期位置に戻す復元要素(10)と、
案内スリーブ(9)と前記弁ニードル(30)との間に形成されている第1のニードル案内部(31)とを含む、気体燃料を吹き込むためのガスインジェクタであって、
前記第1のニードル案内部(31)が、前記潤滑剤チャンバ(4)内で、前記可撓性封止要素(51)の径方向内側に配置されており、
前記復元要素(10)が、前記潤滑剤チャンバ(4)内で、少なくとも部分的に、特に全体的に前記可撓性封止要素(51)の内部に配置されている、ガスインジェクタ。
【請求項2】
前記可撓性封止要素(51)が、ベローズ、特に金属ベローズもしくはプラスチックベローズ、または膜またはゴム要素である、請求項1に記載のガスインジェクタ。
【請求項3】
前記可撓性封止要素(51)が前記弁ニードル(30)に直接および前記案内スリーブ(9)に直接固定されている、請求項1または2に記載のガスインジェクタ。
【請求項4】
前記弁ニードル(30)がさらに固定ディスク(30b)を有し、前記可撓性封止要素(51)が前記固定ディスク(30b)に固定されている、請求項3に記載のガスインジェクタ。
【請求項5】
前記潤滑剤チャンバ(4)内で前記弁ニードル(30)と前記案内スリーブ(9)の間に形成されている第2のニードル案内部(32)をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項6】
前記復元要素(10)が全体的に前記案内スリーブ(9)内に配置されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項7】
前記案内スリーブ(9)が、前記復元要素(10)を支持するための内側に向いた段部(90a)を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項8】
前記ガスインジェクタの側面に、特に前記ガスインジェクタの長手軸(X-X)に対して90°の角度で配置されているガス流入口(70)をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項9】
前記封止座部(11)が平面封止座部である、請求項1から8のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【請求項10】
前記潤滑剤チャンバ(4)内に制動機構(6)が配置されており、前記制動機構(6)が、開状態から閉状態への前記ガスインジェクタの復元プロセス時に前記閉鎖要素(3)を減速するように構成されており、
前記制動機構(6)が、特に、制動ボルト(60)と、潤滑剤を充填され、前記潤滑剤チャンバ(4)と流体接続している減衰チャンバ(62)と、弾性制動要素(61)とを有し、前記制動ボルト(60)および前記弾性制動要素(61)が、前記ガスインジェクタの復元プロセス時に、前記閉鎖要素(3)と動作接続することができ、前記制動ボルト(60)が、前記ガスインジェクタの復元プロセス時に、閉状態への前記制動ボルト(60)の復元を減衰するために、潤滑剤を前記減衰チャンバ(62)から前記潤滑剤チャンバ(4)に変位させるように構成されている、請求項1から9のいずれか一項に記載のガスインジェクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向が短くかつコンパクトな構造方式をもつ、気体燃料、特に水素または天然ガスなどを吹き込むためのガスインジェクタに関する。本ガスインジェクタは、特に、内燃機関の燃焼室に直接吹き込むために設計されている。
【背景技術】
【0002】
先行技術から、ガスインジェクタは様々な構成で知られている。ガスインジェクタにおける問題点は、本質的に、吹き込むべき媒体が気体であるので、例えばガソリンまたはディーゼル燃料を噴射する燃料インジェクタでは可能な、媒体による潤滑が不可能なことである。これにより、液体燃料用の燃料インジェクタに比べて、動作中に過度の摩耗が発生する。さらに、内燃機関がますます小型化することでしばしば必要なのが、内燃機関のシリンダの主軸においてまたはその近くで中心部に取り付けるのとは違い、横に取り付ける必要があるということである。
【発明の概要】
【0003】
それに対し、本発明による、請求項1の特徴をもつ気体燃料を吹き込むためのガスインジェクタは、このガスインジェクタの軸方向の構造長さが短いという利点を有する。これによりこのガスインジェクタは、特に内燃機関の燃焼室の横に配置され得る。このガスインジェクタはそれにもかかわらず非常にスリムで、特に、小さな外径で提供され得る。これは本発明によれば、ガスインジェクタが、電機子、内側磁極、およびコイルを備えた磁気アクチュエータを含むことによって達成される。ガスインジェクタはさらに、弁ニードルを備えた閉鎖要素を含み、この閉鎖要素が、弁座において気体燃料用のガス経路を解放および閉止する。ここで、電機子は閉鎖要素と接続している。さらに、潤滑剤で充填され、可動の電機子が内部に配置されている密閉された潤滑剤チャンバが設けられている。ここで、潤滑剤が電機子の潤滑を保証し、それにより、動作中に電機子に摩耗が発生しない。潤滑剤チャンバは、潤滑剤チャンバをガス経路に対し封止することで閉鎖要素の軸方向の可動性を保証する少なくとも1つの可撓性封止要素、特にベローズを含む。ガスインジェクタはさらに、復元要素、特に円筒ばねの形態での閉鎖ばねを含み、この復元要素が閉鎖要素を、閉鎖されている初期位置に戻す。さらに第1のニードル案内部が、案内スリーブと閉鎖要素の弁ニードルとの間に形成されている。ここで第1のニードル案内部は、潤滑剤チャンバ内で、可撓性封止要素の内部に配置されており、復元要素も潤滑剤チャンバ内で少なくとも部分的には可撓性封止要素の内部に配置されている。好ましくは、復元要素が全体的に可撓性封止要素の内部に配置されている。したがって可撓性封止要素と、第1のニードル案内部と、復元要素とは入れ子状に配置されている。これにより軸方向の構造空間を節減することができ、ガスインジェクタの軸方向の全長が減少し得る。この潤滑剤チャンバはさらに磁気アクチュエータの長寿命をもたらし、なぜなら、特にニードル案内部および電機子ならびに電機子と接触し得る構成要素の摩耗があまり発生しないからである。
【0004】
従属請求項は、本発明の好ましい発展形態を示す。
可撓性封止要素は、好ましくは金属ベローズである。金属ベローズは、一方では、閉鎖要素の軸方向運動を可能にするために、非常に良好な可動性を提供し、他方では、金属ベローズはそれにより内燃機関の熱い燃焼室の可能な限り近くに配置され得る。これによりガスインジェクタの軸方向の長さがさらに減少し得る。代替として、可撓性封止要素は、プラスチックベローズまたは膜またはゴム要素である。
【0005】
ここで特に好ましくは、可撓性封止要素が弁ニードルに直接および案内スリーブに直接固定されている。
弁ニードルに可撓性封止要素を特に簡単に固定するため、弁ニードルは好ましくは固定ディスクを含む。固定ディスクは、弁ニードルと一体的に形成することができ、または代替として、例えば溶接接合によって弁ニードルと接合されたリングディスクとして設けられ得る。
【0006】
本発明のさらなる好ましい一構成によれば、弁ニードルと案内スリーブの間に第2のニードル案内部が形成されている。第2のニードル案内部は、閉鎖要素の封止座部からは、第1のニードル案内部よりもさらに封止座部から遠い。好ましくは、第2のニードル案内部も可撓性封止要素の内部に配置されている。
【0007】
さらにコンパクトな構造を達成するため、復元要素は好ましくは全体的に案内スリーブ内に配置されている。特に好ましくは、復元要素は、弁ニードルに密接に当接している円筒ばねである。特に好ましくは、案内スリーブが段部を有し、この段部で、復元要素の一方の端部が支持される。さらに好ましくは、もう一方の端部がばねホルダに支持される。
【0008】
好ましくは、案内スリーブが内側段部を有し、この内側段部で、復元要素の一方の端部が支持される。
本発明のさらなる好ましい一構成によれば、ガスインジェクタは、ガスインジェクタの側面に配置されているガス流入口を含む。好ましくは、ガス流入口は、ガスインジェクタの本体の側面に配置されている。これにより、ガスインジェクタの軸方向の構造長さをさらに減少させることができ、ガスインジェクタがさらにコンパクトに形成され得る。側面のガス流入口は、好ましくはガスインジェクタの長手軸に対して90°の角度で設けられている。
【0009】
さらに好ましくは、ガスインジェクタが平面封止座部を有する。好ましくは、閉鎖要素が、燃焼室に向いた端部に封止ディスクを含み、この封止ディスクが弁座において、1つまたは複数の貫通口を解放する。ここでガスインジェクタは、好ましくは外向きに開くインジェクタとして形成されている。これにより、ガスインジェクタの長手方向に垂直な一平面内にある封止座部が提供され得る。
【0010】
好ましくは、ガスインジェクタは、潤滑剤チャンバ内に配置された制動機構をさらに含み、この制動機構が、開状態から閉状態へのガスインジェクタの復元プロセス時に閉鎖要素を減速するように構成されている。制動機構は、制動ボルト、潤滑剤チャンバと流体接続している減衰チャンバ、および弾性制動要素、特にばねを含む。復元プロセス時、制動ボルトおよび弾性制動要素は、閉鎖要素および/または電機子と動作接続しており、制動ボルトはさらに、復元プロセス時に、制動ボルトの復元を減衰するために、潤滑剤を減衰チャンバから変位させるように構成されている。減速プロセスの一部は、制動ボルトと、ガスインジェクタの開状態で制動ボルトが当接しているストッパ構成要素との間の液圧接着によって提供されるので、減衰チャンバを設けることにより、液圧接着が克服される際の液体潤滑剤のベーパーロック現象を阻止でき、これにより特にキャビテーションによる摩耗が阻止され得る。
【0011】
制動プロセスは、制動機構によって提供される、追加の質量の加速によってさらにサポートされる。さらに、電機子と制動ボルトとの間での潤滑剤の変位により、さらなる減速が実現される。閉鎖要素の復元速度は、案内要素などと制動ボルトとの摩擦によってさらに低下され得る。これらすべてが、ストッパへの電機子の衝突力を低減し、電機子の寿命もさらに延ばされ得る。
【0012】
さらに好ましくは、制動ボルトが、特に当接面をもつ本体を含み、この当接面は、制動ボルトの本体のうち閉鎖要素に向いた側に配置されており、閉鎖要素と動作接続することができ、ストッパ面として働く。本体は、好ましくは円筒形である。さらに好ましくは、本体のうち閉鎖要素に向いた側にリングフランジが配置されている。このリングフランジが、好ましくはストッパ面として働く。
【0013】
本発明のさらなる好ましい一構成によれば、制動機構の弾性制動要素が減衰チャンバ内に配置されている。これにより、特にコンパクトな構造が実現され得る。弾性制動要素は、好ましくは圧縮ばね、特に円筒ばねである。
【0014】
さらに好ましくは、減衰チャンバが、制動ボルトの案内遊びを介して潤滑剤チャンバと流体接続している。
好ましくは、ガスインジェクタはさらに、減衰チャンバと潤滑剤チャンバを接続する絞り部を含む。潤滑剤は、減衰チャンバから絞り部を経てその後に潤滑剤チャンバに移るので、この絞り部が、減衰プロセスが規定通りに進行し得ることを保証する。絞り部は、好ましくは、減衰チャンバと潤滑剤チャンバの間の小さな接続孔である。接続孔の幾何学的寸法、例えば孔の直径および/または長さの選択により、制動機構の減衰挙動が調整され得る。
【0015】
ガスインジェクタは、さらに好ましくは、閉鎖要素に当接している電機子ボルトを含み、電機子ボルトは電機子と接続している。電機子ボルトのうちガスインジェクタの封止座部に面していない端部が、ガスインジェクタの閉状態では制動ボルトと接触するように構成されている。
【0016】
ガスインジェクタは、好ましくは、電機子ボルトを案内する電機子ボルト案内部をさらに含む。電機子ボルト案内部は、ガスインジェクタの開状態では制動ボルトのためのストッパになっている。閉状態では、電機子ボルト案内部と制動ボルトとの間に第1のギャップが存在している。開放時は、この第1のギャップが、制動ボルトに作用する制動機構のばねの圧力によって克服される。
【0017】
本発明のさらなる好ましい一構成によれば、ガスインジェクタは、潤滑剤チャンバ内に配置された、制動ボルトの案内のための案内領域をもつ案内体を含む。案内体は、好ましくは、特に制動ボルトを案内する案内体のうち封止座部に向いた端部に凹部を有する。
【0018】
好ましくは、ガスインジェクタの閉状態では制動ボルトと電機子ボルト案内部との間の第1のギャップが第1の幅Bを有し、第1の幅Bは、電機子と内側磁極との間の第2の幅Cをもつ第2のギャップよりも小さい。ここで、電機子ボルト案内部と制動ボルトとの間の軸方向ギャップBは、好ましくは、電機子と内側磁極との間の軸方向ギャップCの1%~90%の範囲内にある。特に好ましくは、電機子ボルト案内部と制動ボルトとの間の軸方向ギャップBは、軸方向ギャップCの25%よりも小さく、さらに好ましくは軸方向ギャップCの3%~20%の範囲内にある。軸方向ギャップCは、好ましくは、0.05mm~3mm、特に0.8mmのサイズを有する。
【0019】
好ましくは、潤滑剤チャンバの可撓性封止要素は、第1および第2の可撓性封止要素を含む。したがって潤滑剤チャンバは2つの可撓性封止要素によって封止されており、それにより、潤滑剤チャンバ内の潤滑剤の変位時に不都合な正圧または負圧が発生することを阻止でき、この不都合な正圧または負圧は、例えば潤滑剤貯蔵部の構成要素を介して意図しない力をガスインジェクタの閉鎖要素にかけ得る。2つの可撓性封止要素を設けることにより、たとえ不都合な力が封止要素の1つにかかり、これが、密閉された潤滑剤チャンバ内の圧力を上昇させ得るとしても、第2の可撓性封止要素によって平衡が提供され得る。これにより、密閉された潤滑剤チャンバの内部の望ましくない圧力変化がうまく阻止され得る。
【0020】
さらに好ましくは、貯蔵部ばねが外側から所定の力を、密閉された潤滑剤チャンバ内の潤滑剤にかける。ここでは、好ましくは0.5~10×105Pa、特に好ましくは1~5×105Paの間の正圧がかけられる。これにより潤滑剤チャンバ内の潤滑剤に所定の予応力をかけることができ、それにより、閉鎖要素のストロークへの影響を有し得る望ましくない変形が確実に阻止され得る。
【0021】
特に好ましくは、第1の可撓性封止要素が第1のベローズであり、第2の可撓性封止要素が第2のベローズである。さらに好ましくは、第1および第2のベローズが同一に形成されており、つまり同じ平均ベローズ直径および同じベローズ波数を有する。これにより、特にガスインジェクタの製造費が減少し得る。
【0022】
さらに好ましくは、第2のベローズが、ばね受けを介して貯蔵部ばねと接続されている。これにより、単純で安価な構造が実現され得る。さらにこれにより、貯蔵部ばねによって直接的に第2のベローズに特定の予応力をかけることができ、これにより第2のベローズの剛性は、第1のベローズよりも少し高くなっている。
【0023】
代替として、第1および第2の可撓性封止要素が、それぞれ膜またはそれぞれゴム要素である。膜は単層または多層でよく、例えば、潤滑剤チャンバを封止するためにレーザ溶接によってそれぞれの構成要素に固定されていてもよい。
【0024】
好ましくは、潤滑剤として、油、特に鉱物油が使用される。代替として、液体燃料、特にディーゼル燃料またはガソリンが使用される。さらなる代替として、潤滑剤としてグリースが使用される。
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の1つの例示的実施形態を詳細に述べる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の例示的実施形態によるガスインジェクタの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、
図1を参照して、本発明の第1の好ましい例示的実施形態によるガスインジェクタ1を詳細に述べる。
図1から分かるように、気体燃料を導入するためのガスインジェクタ1は、外側に開く閉鎖要素3を閉状態から開状態に移動させる磁気アクチュエータ2を含む。ここで、
図1は、ガスインジェクタの閉状態を示す。
【0028】
磁気アクチュエータ2は、電機子ボルト24によって閉鎖要素3と接続している電機子20を含む。磁気アクチュエータ2は、内側磁極21と、コイル22と、磁気アクチュエータの磁気帰還を保証する磁気ハウジング23とをさらに含む。
【0029】
さらに、ガスインジェクタ1は、側面にガス流入口70をもつ本体7を含み、側面のガス流入口70を通して気体燃料が供給される。ここで、本体7には弁ハウジング8が固定され、弁ハウジング8内に磁気アクチュエータ2が配置される。弁ハウジング8にハウジングスリーブ19および弁管90がつながり、弁管90の自由端では、弁座構成要素93において封止座部11が設けられており、この封止座部11において、閉鎖要素3が、気体燃料のための通路を解放および閉止する。
【0030】
図1には、本体7および弁ハウジング8を通って磁気アクチュエータ2まで案内されている電気接続部13が概略的に示されている。
参照番号10は、開放プロセス後に閉鎖要素3を
図1に示される閉状態に戻すための復元要素を示す。
【0031】
図1に、ガスインジェクタ1を通るガス経路14としてガス流がさらに示されている。ここで、ガス流は、ガス流入口70で始まり、次いで偏向され、弁ハウジング8と本体7との間の環状空間80に入る。ここで、ガス流14は、磁気アクチュエータ2の外側領域を通り過ぎ、フィルタ15を通って、封止座部11の手前までさらに進む。ここで、対応する開口がそれぞれの構成要素に設けられているが、それらすべてを
図1に示してはいない。
【0032】
ガスインジェクタ1の開放時、気体燃料は、
図1に矢印Aによって示されているように、磁気アクチュエータ2の外周および開いた封止座部11を通過して、ノズルアタッチメント94および内燃機関の燃焼室100に流入する。
【0033】
閉鎖要素3は、燃焼室に向いた閉鎖要素の端部に配置された弁座受け30aを備えた弁ニードル30を含む。ここで、封止座部11は、弁座受け30aと、複数の軸方向の開口92を有する弁座構成要素93との間に形成されている。
【0034】
閉鎖要素3には、弁座受け30aから磁気アクチュエータ2の方向に少し間隔をあけて配置されている固定ディスク30bもさらに設けられている。
したがって、閉鎖要素3は、封止座部11においてガス経路14を解放し、これを閉止する。
図1から詳細に分かるように、閉鎖要素の案内のために、閉鎖要素3と案内スリーブ9との間に第1のニードル案内部31および第2のニードル案内部32が設けられている。第1のニードル案内部31は、直接的に閉鎖要素3と案内スリーブ9との間に形成されている。第2のニードル案内部32は、ばね受け16と案内スリーブ9との間に形成されている。ばね受け16は、閉鎖要素3と固定的に接続されており、復元要素10は、案内スリーブ9の内側段部90aとばね受け16との間で支持されている。
【0035】
ガスインジェクタ1は、密閉された潤滑剤チャンバ4をさらに含む。密閉された潤滑剤チャンバ4は、液状潤滑剤、例えば油で完全にまたは部分的に充填されている。
図1から分かるように、潤滑剤チャンバ4は、第1の可撓性封止要素51、内側磁極21、磁気ハウジング23、案内体18、および第2の可撓性封止要素52によって画定されている。第1および第2の可撓性封止要素51、52はそれぞれベローズとして形成されている。ここで、第1および第2の可撓性封止要素51、52は同様に形成されている。
【0036】
可撓性封止要素51、52としては、ベローズの代わりに、例えば膜やチューブなどでもよいことに留意されたい。
図1からさらに分かるように、第2の可撓性封止要素52は、貯蔵部ばね受け41に、例えば溶接接合によって固定されている。ガスインジェクタ1は貯蔵部圧縮ばね40をさらに含み、この貯蔵部圧縮ばね40は、本体7に支持され、貯蔵部ばね受け41を介して第2の可撓性封止要素52に予応力をかける。案内体18には接続孔18aが設けられており、これにより、潤滑剤チャンバ4内にある潤滑剤は、第2の可撓性封止要素52の内側の領域にも存在している。
【0037】
第1の可撓性封止要素51は、閉鎖要素3の固定ディスク30bに直接固定されており、別の端部では案内スリーブ9と接続されている。ここで、案内スリーブ9には横孔91が設けられており、これにより、第1の可撓性封止要素51の内部空間と案内スリーブ9の内部空間との間に流体接続が存在している。
【0038】
したがって潤滑剤チャンバ4は、2つの可撓性封止要素51、52および貯蔵部圧縮ばね40を有する。貯蔵部圧縮ばね40は、潤滑剤チャンバ4内にある潤滑剤に、特定の予応力、例えば1×105Paをかける。よって開放プロセス時に閉鎖要素3のストロークによりまたはさらに潤滑剤の熱膨張もしくは冷却により潤滑剤の変位が発生する場合に、潤滑剤チャンバ4の内部で生じることがある正圧/負圧は、貯蔵部圧縮ばね40の収縮と関連した第2の可撓性封止要素52のたわみによって平衡され得る。これにより可撓性封止要素51が、ベローズ作用面を介して作用する意図しない力を閉鎖要素3にかける可能性はない。
【0039】
密閉された潤滑剤チャンバ4内には、電機子20が固定された電機子ボルト24も配置されている。潤滑剤チャンバ4には、潤滑剤、例えばガソリンやディーゼル燃料などの液体燃料、またはグリースが充填されているので、電機子20は継続的に潤滑されている。これにより、気体燃料において先行技術で生じる問題、すなわち可動部品が潤滑されないという問題が補償され得る。
【0040】
図1から分かるように、密閉された潤滑剤チャンバ4を充填するために、充填チャネル17aが設けられている。充填チャネル17aは、閉止ボール17によって液密に閉止されている。
【0041】
図1からさらに分かるように、ここでは、案内スリーブ9と弁ニードル30との間に形成された第1のニードル案内部31が、第1の可撓性封止要素51の内部に配置されている。さらに、復元要素10の一部も第1の可撓性封止要素51の内部に配置されている。案内スリーブ9の一部も第1の可撓性封止要素51の内部に配置されている。つまり本発明によれば、復元要素10、案内スリーブ9、および第1の可撓性封止要素51が入れ子状に配置されている。これにより、ガスインジェクタ1の軸方向の構造長さが大幅に減少し得る。
【0042】
弁ニードル30、復元要素10、案内スリーブ9、および第1の可撓性封止要素51が入れ子状に組み込まれているにもかかわらず、特に弁管90の領域で、外径が大きくなっていない。
【0043】
さらに、貯蔵部圧縮ばね40および貯蔵部ばね受け41も、少なくとも部分的に第2の可撓性封止要素52内に配置されている。案内体18の一領域も第2の可撓性封止要素52内に配置されている。これにより、ガスインジェクタ1の軸方向の構造長さがさらに減少する。
【0044】
構造空間比がそれを必要とするなら、ノズルアタッチメント94をなくしてもよいことに留意されたい。さらに、気体燃料は、側面のガス流入口70を通って横から供給され、ガスインジェクタでこれまで通常であったように軸方向にではない。これは、特にガスインジェクタのうち燃焼室に面していない領域で、ガスインジェクタの構造長さをさらに減少させる。
【0045】
密閉された潤滑剤チャンバ4には、さらに制動機構6が配置されている。制動機構6は、制動ボルト60と、制動ばね61と、減衰チャンバ62とを含む。減衰チャンバ62は潤滑剤チャンバ4と流体接続している。
【0046】
制動ボルト60および弾性制動要素61は、閉鎖されている初期位置へのガスインジェクタの復元プロセス時には、閉鎖要素3と動作接続している。ここで、復元プロセス時に潤滑剤が減衰チャンバ62から潤滑剤チャンバ4に変位することで、ガスインジェクタの閉状態(
図1)への制動ボルト60の復元時にさらなる減衰が達成される。制動ボルト60は案内体18内で案内されている。
【0047】
図1からさらに分かるように、減衰チャンバ62は、制動ボルト60のうち弁座11に面していない側で、制動ボルト60に直接的に形成されている。減衰チャンバ62は、小さな孔である絞り部63を介して接続孔18aと、したがって潤滑剤チャンバ4の主要領域と接続されている。制動ばね61は、ばねチャンバ67に配置されている。
【0048】
制動ボルト60は当接面60aを有し、当接面60aは電機子ボルト24と接触している。ここで、
図1に示した閉状態では、制動ボルト60と定置の電機子ボルト案内部25との間に第1のギャップ101がある。電機子ボルト案内部25は、開放プロセスおよび閉鎖プロセス時に電機子ボルト24を案内する。
【0049】
図1からさらに分かるように、制動ばね61は、制動ボルト60と案内体18との間に配置されている。ここで、制動ボルト60はフランジを有し、フランジは、案内体18に対して遊びをもって設けられている。さらに、案内体18には、案内体18のうち電機子ボルト案内部25に向いた端部に例えばスリットとして形成され得る通路65が設けられている。これにより潤滑剤のための流体接続が、ばねチャンバ67から案内遊びおよび通路65を経て潤滑剤チャンバ4へと提供され得る。
【0050】
閉状態では、さらに、制動ボルト60の当接面60aと電機子ボルト案内部25との間に第1のギャップ101が形成されている。ここで、ギャップ101は第1の幅Bを有し、第1の幅Bは、第2のギャップ102における電機子20と内側磁極21との間の第2の幅Cよりも小さい(
図1を参照)。これにより、圧縮ばね61により軸方向に予応力をかけられている制動ボルト60のストロークが、電機子20のストロークよりも小さいことが保証されている。したがって、吹込みプロセス中に、潤滑剤チャンバ4から絞り部63を経て減衰チャンバ62に十分な流体が流れ得る。
【0051】
閉鎖プロセス時には、電機子ボルト24が制動ボルト60の当接面60aに当たる。それにより制動ボルト60は、減衰チャンバ62内にある流体に向かって押される。絞り部63により、減衰チャンバ62から流体をすぐにではなくゆっくりと押し出せることで、閉鎖プロセス時に減衰作用が可能になる。それにより、閉鎖プロセスが制動ボルト60の復元を通して減衰されるので、封止座部11および電機子20の過大な摩耗が阻止される。
【0052】
減衰プロセスは、さらに制動ばね61によって、および電機子ボルト案内部25における制動ボルト60の液圧接着によってサポートされる。ここで、電機子ボルト案内部25と制動ボルト60の当接面60aとの間のこの領域で、閉鎖プロセス時のキャビテーションが、減衰チャンバ62によって阻止され得る。案内体18内での制動ボルト60の摩擦も復元プロセスを遅らせ、さらに、潤滑剤チャンバ4全体では、可動構成要素の加速し得る質量が、密閉された潤滑剤チャンバ4内の潤滑剤を変位させ、それにより閉鎖プロセス時にさらなる減速をもたらす。
【0053】
絞り部63の直径および/または長さの選択により、減衰挙動が、それぞれのガスインジェクタのために個別に調整され得る。
好ましくは、減衰ボルト60と電機子ボルト案内部25との間のストッパ面を、楔形に、つまりガスインジェクタの中心軸X-Xに対して直角ではないように形成し得ることに留意されたい。その代わりにまたはそれに加えて、当接面60aに、または電機子ボルト案内部25のうち制動ボルト60に向いた端面に、径方向のスリットを設けることができ、これによりキャビテーション効果がさらに低減および阻止される。
【0054】
ここで、
図1に示されるガスインジェクタ1は、圧力平衡されている。すなわち、閉鎖要素3が第1の可撓性封止要素51を介して案内スリーブ9と接続されており、金属ベローズとして形成された第1の可撓性封止要素51が、封止座部11における直径、詳しくは閉鎖要素3が封止する直径に等しい平均直径を有している。それにより、閉鎖要素3に対する圧縮力が生じず、したがって閉鎖要素3を開くのに必要な磁力を非常に小さく保つことができ、特に気体燃料の圧力に依存しない。
【0055】
したがって本発明により、閉鎖要素3が磁気アクチュエータ2の作動により開状態にされ(閉鎖要素3の
図1では左への移動)、ガス吹込みが実施される場合、閉鎖要素3の復元時には、閉鎖要素が弁座11に押し付けられる直前に確実な減衰が実施され得る。ここで、制動ボルト60は、電機子ボルト24により減衰チャンバ62の方向に押され、ゆっくりとしか、すなわち潤滑剤が減衰チャンバ62から絞り部63を通って潤滑剤チャンバ4に押し出されるのと同じくらいゆっくりとしか移動しない。これにより、弁座11に閉鎖要素が当たる前に、閉鎖要素3の閉鎖速度が大幅に効果的に減速される。それにより弁座11および閉鎖要素3の摩耗を効果的に低減でき、ここで制動機構6はさらに、より静かなガスインジェクタの動作を可能にする。要素が弁座に激しく当たって激突しながら戻されるいわゆる閉鎖激突も効果的に阻止され得る。
【0056】
封止座部11が平面封止座部として形成されていることにより、弁座受け30aおよび弁座構成要素93における封止面は、簡単に、例えば研磨のような平面加工によって作製され得る。
【0057】
したがって、ガスインジェクタ1は、可動部品、特に弁座11、電機子20、および電機子ボルト24の摩耗の低減を提供することができる。さらに、液体潤滑剤を含む密閉された潤滑剤チャンバ4によって、磁気アクチュエータ2からの放熱が大幅に改良され得る。さらに、両方の可撓性封止要素51、52により、意図しない力が閉鎖要素3に作用することが阻止され得る。
【0058】
さらに、ガスインジェクタ1は、大幅に減少した軸方向の長さを有し得ることにより、特に、内燃機関の燃焼室100に横から取り付けることができる。ガスインジェクタの構成要素が入れ子状に組み込まれていると同時に、側面のガス流入口70も設けられているので、ガスインジェクタ1の軸方向の構造長さは大幅に減少している。
【国際調査報告】