IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キージーン ナムローゼ フェンノートシャップの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】共再生難再生性植物体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240321BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20240321BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240321BHJP
【FI】
C12N15/09 110
A01H1/00 A ZNA
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562905
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2022060173
(87)【国際公開番号】W WO2022219181
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】21168630.8
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】ストゥールマン,イェルン
(72)【発明者】
【氏名】スレスタ,ビプナ ラニ
(72)【発明者】
【氏名】ホフハイス,フーゴー フェルディナント
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AD20
2B030CA08
2B030CA17
2B030CB02
2B030CD11
2B030CD12
2B030CD17
2B030CD28
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AA89X
4B065AB03
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA12
4B065BA18
4B065CA53
(57)【要約】
本発明は、難再生性植物体の生殖系列前駆細胞を含む植物体のシュートを作製する方法に関する。生殖系列前駆細胞は、目的の配列に突然変異を含むように修飾されてもよい。本発明は更に、本発明の方法によって入手可能な植物体に関し、ここで植物体は、好ましくは、難再生性植物体の少なくともL2分裂組織層を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体のシュートを発生させて選択する方法において、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程であって、シュート再生を許容する条件下で前記再生可能植物体の前記細胞が前記難再生性植物体の前記細胞よりも高い再生効率を示す工程;
(b)シュート再生を許容する前記条件下で(a)の前記接触させた細胞にシュートを形成させる工程;
(c)工程(b)で形成されたシュートを選択する工程であって、前記シュートの少なくとも一部が前記難再生性植物体の細胞からなる工程;及び任意選択で
(d)工程(c)の前記選択されたシュートから植物体を成長させる工程
を含む方法。
【請求項2】
工程(c)において前記難再生性植物体の細胞からなる前記選択されたシュートの前記一部が、生殖系列前駆細胞を含む組織であり、任意選択で前記方法が、工程(d)及び工程(d)において成長させた前記植物体の種子又は植物後代を有性繁殖により、任意選択で自殖又は戻し交配により入手する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(c)において前記選択されたシュートが前記難再生性植物体の細胞からなり、任意選択で前記方法が、工程(d)及び工程(d)において成長させた前記植物体の後代を栄養繁殖により入手する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)の前記難再生性植物体の前記細胞及び前記再生可能植物体の前記細胞が、単離された細胞、好ましくはプロトプラストである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)における前記単離された細胞が、好ましくは植物細胞及び/又はプロトプラスト連結剤を使用することにより、前記細胞の細胞膜の凝集を促進する化合物に曝露され、好ましくは前記連結剤がヤリブ試薬である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)の前記難再生性植物体の前記細胞及び前記再生可能植物体の前記細胞が組織に含まれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)が、台木-接穂接木法、及び接木接合部を癒傷させることにより実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)が、
- 前記接木接合部又はその近傍に傷を発生させる工程;
- 前記付傷処理した接木接合部にカルスを形成させる工程;及び
- 前記カルスからシュートを成長させる工程
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)の前記難再生性植物体の前記細胞に、又はそれを起源とする工程(b)で形成された前記シュートの細胞に、
(i)トランス遺伝子;又は
(ii)目的の配列における突然変異
を導入する工程を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記トランス遺伝子又は前記突然変異を導入する前記工程が、工程(b)より前であり、任意選択で工程(a)より前である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記トランス遺伝子又は前記突然変異が、工程(b)で形成された前記シュートの
- 前記生殖系列前駆細胞及び/又はそれに由来する生殖系列細胞;及び
- 栄養繁殖に使用される工程(d)において成長させた前記植物体の植物部位
の少なくとも一方に含まれている、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記突然変異が、部位特異的エンドヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRエンドヌクレアーゼを好ましくは使用した、プログラム化ゲノム編集によって導入される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか一項に記載の方法から入手可能な植物体であって、
i)前記難再生性植物体の、生殖系列前駆細胞及び/又はそれに由来する生殖系列細胞;及び
ii)前記難再生性植物体のクローン繁殖用の植物部位
の少なくとも一方を含む植物体において、
前記生殖系列前駆細胞、生殖系列細胞及び/又は植物部位が、前記目的の配列に前記トランス遺伝子又は前記突然変異を含む、植物体。
【請求項14】
前記植物体が、前記難再生性植物体の細胞と前記再生可能植物体の細胞とを含む、請求項13に記載の植物体。
【請求項15】
難再生性植物体の細胞の細胞膜を再生可能植物体の細胞に連結する薬剤の、前記難再生性植物細胞の再生のための使用であって、好ましくは前記試薬がヤリブ試薬である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子植物生物学の分野に関し、詳細には、植物体再生の分野に関する。本発明は、植物体の再生能及び/又は再生効率を改良する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物バイオテクノロジーのワークフローの多くでは、単一の細胞から全植物体へと再生することが必要となる。一般に植物細胞の再生能は限られているため、再生工程が、かかるワークフローの重大なボトルネックになることも多い。再生可能性は、植物種、植物品種及び植物組織起源に大きく依存する。確立されたプロトコルであっても、植物体への再生が成功する細胞の割合は、通常かなり低い(Srinivasan et al.,Planta 2007,225:341-351)。再生が失敗する、又は効率が悪い植物種又は品種は、難再生性(recalcitrant)と見なされる。
【0003】
再生がボトルネックとなるワークフローの非限定的な例は、特に一倍体植物材料又は遺伝的に複雑な(例えば高倍数性及びヘテロ接合性の)F1集団の場合における、(クローン繁殖の)植物材料の一般的な増殖であるが、また、限定はされないが、標的植物ゲノム編集、(安定した又は一過性の)形質転換体の作製及び倍加半数体誘導など、より先進的な植物バイオテクノロジーワークフローであることもある。
【0004】
CRISPR/Cas9又は関連技術によるゲノム編集(GE)は、農業バイオテクノロジーにおける一握りの主要な技術躍進の中でも上位に位置付けられるものであり、植物体に迅速且つ効率的な定方向で遺伝性の突然変異を作り出すことにより、作物に改良された形質を容易に変換できる可能性がある。この技術は、今後10年間で本格化するであろうとともに、作物の改良及び育種の研究開発に多大な影響を与えるであろうと見込まれている。遺伝性の突然変異を担持する植物体を入手するには、植物プロトプラストにその突然変異を導入し、続いてプロトプラストを植物体へと再生することができる。この技術の重大な障害は、単一の編集された細胞から全植物体を再生するのに、多くの作物種がその能力を持たないこと、及び/又はその遺伝子型に依存することである。GEは、主にプロトプラストへの送達に頼るDNAを含まないシステムへと向かいつつあるため(Zhang et al.2021 Plant Communications 2(100168)p1-p13)、後者はとりわけGEの応用に際して鍵となる未解決の要因である。
【0005】
代替的な手法は、植物体に、ウイルスベクターなど、遺伝性の突然変異を誘導するベクターを接種するものである。この手法の大きな限界は、多くのシステムで、茎頂分裂組織(SAM)からウイルスが能動的に排除され、強力な転写後遺伝子サイレンシング機構によってサイレントになることである。従って体細胞編集しか達成することができず、生殖力のある組織は分裂組織から発生するため、そうした編集は典型的には後代に直接伝播されない。従って、このプロセスもまた、従って改良された再生プロトコルから利益を受ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、当該技術分野では、植物体の再生効率の向上、好ましくは難再生性植物体の再生効率の向上が強く求められている。詳細には、遺伝性の突然変異を担持する植物体の再生効率を向上させることが強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態に要約し得る:
【0008】
実施形態1.植物体のシュートを発生させて選択する方法において、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程であって、シュート再生を許容する条件下で再生可能植物体の細胞が難再生性植物体の細胞よりも高い再生効率を示す工程;
(b)シュート再生を許容する条件下で工程(a)の接触させた細胞に1つ以上のシュートを形成させる工程;
(c)工程(b)で形成されたシュートを選択する工程であって、前記シュートの少なくとも一部が難再生性植物体の細胞からなる工程;及び任意選択で
(d)工程(c)の選択されたシュートから植物体を成長させる工程
を含む方法。
【0009】
実施形態2.工程(c)において難再生性植物体の細胞からなる選択されたシュートの一部が、生殖系列前駆細胞を含む組織であり、任意選択でこの方法が、工程(d)及び工程(d)において成長させた植物体の種子又は植物後代を有性繁殖により、任意選択で自殖又は戻し交配により入手する工程を更に含む、実施形態1に記載の方法。
【0010】
実施形態3.工程(c)において選択されたシュートが難再生性植物体の細胞からなり、任意選択でこの方法が、工程(d)及び工程(d)において成長させた植物体の後代を栄養繁殖により入手する工程を更に含む、実施形態1又は2に記載の方法。
【0011】
実施形態4.工程(a)の難再生性植物体の細胞及び再生可能植物体の細胞が、単離された細胞、好ましくはプロトプラストである、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0012】
実施形態5.工程a)における単離された細胞が、好ましくは植物細胞及び/又はプロトプラスト連結剤を使用することにより、細胞の細胞膜の凝集を促進する化合物に曝露され、及び好ましくは連結剤がヤリブ試薬である、実施形態4に記載の方法。
【0013】
実施形態6.工程(a)の難再生性植物体の細胞及び再生可能植物体の細胞が組織に含まれている、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
実施形態7.工程(a)が、台木-接穂接木法、及び接木接合部を癒傷させることにより実施される、実施形態6に記載の方法。
【0015】
実施形態8.工程(b)が、
- 接木接合部又はその近傍に傷を発生させる工程;
- 付傷処理した接木接合部にカルスを形成させる工程;及び
- 前記カルスからシュートを成長させる工程
を含む、実施形態7に記載の方法。
【0016】
実施形態9.工程(a)の難再生性植物体の細胞に、又はそれを起源とする工程(b)で形成されたシュートの細胞に、
(i)トランス遺伝子;又は
(ii)目的の配列における突然変異
を導入する工程を更に含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0017】
実施形態10.トランス遺伝子又は突然変異を導入する工程が、工程(b)より前であり、任意選択で工程(a)より前である、実施形態9に記載の方法。
【0018】
実施形態11.トランス遺伝子又は突然変異が、工程(b)で形成されたシュートの
- 生殖系列前駆細胞及び/又はそれに由来する生殖系列細胞;及び
- 栄養繁殖に使用される工程(d)において成長させた植物体の植物部位、
の少なくとも一方に含まれている、実施形態9又は10に記載の方法。
【0019】
実施形態12.突然変異が、部位特異的エンドヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRエンドヌクレアーゼを好ましくは使用した、プログラム化ゲノム編集によって導入される、実施形態9~11のいずれか1つに記載の方法。
【0020】
実施形態13.実施形態9~12のいずれか1つに記載の方法から入手可能な植物体であって、
i)難再生性植物体の生殖系列前駆細胞及び/又はそれに由来する生殖系列細胞;及び
ii)難再生性植物体のクローン繁殖用の植物部位
の少なくとも一方を含む植物体において、
生殖系列前駆細胞、生殖系列細胞及び/又は植物部位が、トランス遺伝子又は目的の配列における突然変異を含む、植物体。
【0021】
実施形態14.前記植物体が、難再生性植物体の細胞と再生可能植物体の細胞とを含む、実施形態13に記載の植物体。
【0022】
実施形態15.難再生性植物体の細胞の細胞膜を再生可能植物体の細胞に連結する薬剤の、前記難再生性植物細胞の再生のための使用であって、好ましくは前記試薬がヤリブ試薬である、使用。
【0023】
定義
本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、本発明の方法、組成物、使用及び他の態様に関して様々な用語を使用する。かかる用語には、特に指示されない限り、本発明が関係する技術分野におけるその通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義される用語は、本明細書に提供される定義と矛盾しない方法で解釈されるものとする。
【0024】
当業者には、本発明の実施に、本明細書に記載されるものと同様の又は等価な任意の方法及び材料を使用し得ることは明らかである。
【0025】
本発明の方法に使用される従来技術を実行する方法は、当業者には明らかであろう。分子生物学、生化学、計算機化学、細胞培養、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、シーケンシング及び関連分野における従来技術の実施については、当業者に周知であり、例えば、以下の参考文献の中で考察されている:Sambrook et al.Molecular Cloning.A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989;Ausubel et al..Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York,1987及び定期更新;及びシリーズMethods in Enzymology,Academic Press,San Diego。
【0026】
単数形の用語「ある(a)」、「ある(an)」、及び「その(the)」は、文脈上特に明確に指示されない限り複数の指示対象を含む。従って、例えば、「ある細胞」という表現には、2つ以上の細胞の組み合わせが含まれる等である。このように、不定冠詞「ある(a)」又は「ある(an)」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0027】
用語「及び/又は」は、述べられている場合のうちの1つ以上が、単独で起こることも、又は述べられている場合のうちの少なくとも1つとの組み合わせ、最大では述べられている場合の全てとの組み合わせで起こることもあるような状況を指す。
【0028】
本明細書で使用されるとき、用語「約」は、小さいばらつきを表現し、及びそれを考慮するために使用される。例えば、この用語は、±(+又は-)10%以下、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下を指し得る。加えて、本明細書では、量、比、及び他の数値が範囲の形式で提示される。かかる範囲の形式は、簡便さ且つ簡潔さのために使用され、範囲の限界値として明示的に指定されている数値を含むが、その範囲内に包含されるあらゆる個々の数値又は部分的範囲もまた、あたかも各数値及び部分的範囲が明示的に指定されているかのように含むものと柔軟に理解されなければならないことが理解されるべきである。例えば、約1~約200の範囲にある比は、約1及び約200という明示的に記載されている限界値を含むが、約2、約3、及び約4などの個々の比、並びに約10~約50、約20~約100などの部分的範囲もまた含むものと理解されなければならない。
【0029】
用語「~を含んでいる(comprising)」は、包含的なオープンエンド形式であり、排他的ではないと解釈される。具体的には、この用語及びその変化形は、指定されている特徴、工程又は成分が包含されることを意味する。これらの用語は、他の特徴、工程又は成分の存在を除外するものと解釈されてはならない。
【0030】
用語「タンパク質」又は「ポリペプチド」は、同義的に使用され、具体的な作用様式、サイズ、三次元構造又は起源に関係なく、アミノ酸の鎖からなる分子を指す。このように、タンパク質の「断片」又は「一部分」は、なおも「タンパク質」と称することができる。「単離されたタンパク質」は、もはやその天然の環境にない、例えばインビトロにあるか、又は組換え細菌若しくは植物宿主細胞にあるタンパク質を指して使用される。
【0031】
「植物体」は、全植物体又は植物体から入手可能な植物組織若しくは器官の一部位(例えば花粉、種子、根、葉、花、花芽、葯、果実等)のいずれか、並びにこれらのいずれかの誘導体及び自殖又は交配又はアポミクシス生殖によるかかる植物体に由来する後代を指す。植物体の非限定的な例としては、アフリカナス(Affrican eggplant)、ニンニク、チョウセンアザミ、アスパラガス、オオムギ、テンサイ、ピーマン、ゴーヤ、ホオズキ、ユウガオ、キャベツ、キャノーラ、ニンジン、キャッサバ、カリフラワー、セロリ、チコリー、インゲンマメ、コーンサラダ、ワタ、キュウリ、ナス、エンダイブ、ウイキョウ、ガーキン、ブドウ、トウガラシ、レタス、トウモロコシ、メロン、アブラナ、オクラ、パセリ、パースニップ、ペピーノ、トウガラシ、ジャガイモ、カボチャ、ダイコン、コメ、トカドヘチマ、ロケット、ライムギ、ヘビウリ、モロコシ、ホウレンソウ、ヘチマ、カボチャ、サトウダイコン、サトウキビ、ヒマワリ、トマティーヨ、トマト、トマト台木、アブラナ属(Brassica)の野菜、スイカ、トウガン、コムギ及びズッキーニなど、作物植物体及び栽培植物体が挙げられる。
【0032】
「植物細胞」には、植物体を起源とする、単離されているか、又は組織、器官若しくは生物体内にあるかのいずれかの、プロトプラスト、配偶子、浮遊培養物、小胞子、花粉粒等が含まれる。植物細胞は、例えば、カルス、分裂組織、植物器官又は外植体など、多細胞性構造体の一部であってもよい。植物細胞は、分裂組織細胞、体細胞及び/又は生殖細胞であり得る。
【0033】
植物体/植物細胞の培養についての「同様の条件」とは、とりわけ、同様の温度、湿度、栄養及び光条件、並びに同様の灌水及び明暗周期の使用を意味する。
【0034】
用語「相同性」、「配列同一性」などは、本明細書では同義的に使用される。配列同一性は、本明細書では、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチド又はタンパク質)配列又は2つ以上のヌクレオチド(ポリヌクレオチド)配列の間の、それらの配列を比較することにより決定したときの関係として定義される。当該技術分野では、「同一性」はまた、場合によっては、かかる配列の一続きの間の一致性により決定したときの、アミノ酸配列間又は核酸配列間の配列関連性の程度も意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存されたアミノ酸置換を第2のポリペプチドの配列と比較することにより決定される。「同一性」及び「類似性」は、公知の方法によって容易に計算することができる。配列同一性/類似性パーセンテージは、配列の全長にわたって決定することができる。
【0035】
本明細書で使用されるとき「配列同一性」は、2つの最適にアラインメントされたポリヌクレオチド又はペプチド配列が、構成要素、例えば、ヌクレオチド又はアミノ酸のアラインメントウィンドウ全体にわたってどの程度不変であるかを指す。試験配列と参照配列とのアラインメントされた区間についての「同一性率」とは、それらの2つのアラインメントされた配列が共有する同一の構成要素の数を、参照配列区間、即ち、参照配列全体又は参照配列のうちそれより小さい決められた部分にある構成要素の総数で除したものである。「同一性パーセント」は、同一性率に100を乗じたものである。
【0036】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列の長さに応じて大域的又は局所的アラインメントアルゴリズムを使用したそれらの2つの配列のアラインメントにより決定することができる。同様の長さの配列は、好ましくは、配列を全長にわたって最適にアラインメントする大域的アラインメントアルゴリズム(例えば、ニードルマン・ブンシュ(Needleman Wunsch))を用いてアラインメントされる一方、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、局所的アラインメントアルゴリズム(例えば、スミス・ウォーターマン(Smith Waterman))を用いてアラインメントされる。ひいては配列は、それらが(例えばプログラムGAP又はBESTFITによりデフォルトパラメータを使用して最適にアラインメントしたとき)少なくともある一定の最小限の配列同一性パーセンテージ(本明細書に定義するとおり)を共有しているとき、「実質的に同一である」又は「本質的に類似している」と称し得る。配列同一性パーセントは、好ましくは、Sequence Analysis Software Package(商標)(バージョン10;Genetics Computer Group,Inc.、Madison,Wis.)の「BESTFIT」又は「GAP」プログラムを用いて決定される。GAPは、ニードルマン・ブンシュの大域的アラインメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch,Journal of Molecular Biology 48:443-453,1970)を用いて、2つの配列をその長さ全体(完全長)にわたり、マッチ数が最大となり、且つギャップ数が最小となるようにしてアラインメントする。大域的アラインメントは、2つの配列が同様の長さを有するときの配列同一性の決定に好適に使用される。概して、ギャップ生成ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)のGAPデフォルトパラメータが使用される。ヌクレオチドについては、使用されるデフォルトスコアリング行列はnwsgapdnaであり、タンパク質については、デフォルトスコアリング行列はBlosum62である(Henikoff & Henikoff,1992,PNAS 89,915-919)。配列同一性パーセンテージについての配列アラインメント及びスコアは、Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Package、バージョン10.3などのコンピュータプログラムを使用して決定するか、又はEmbossWIN、バージョン2.10.0のプログラム「needle」(大域的ニードルマン・ブンシュのアルゴリズムを使用する)又は「water」(局所的スミス・ウォーターマンアルゴリズムを使用する)などのオープンソースソフトウェアを使用して、上記のGAPと同じパラメータを使用するか、又はデフォルト設定を使用して決定し得る(「needle」及び「water」の両方について、並びにタンパク質及びDNAアラインメントの両方について、デフォルトギャップ開始ペナルティは10.0であり、デフォルトギャップ伸長ペナルティは0.5である;デフォルトスコアリング行列は、タンパク質についてBlossum62及びDNAについてDNAFullである)。ギャップ伸長ペナルティは、0.5であり;デフォルトスコアリング行列は、タンパク質についてBlossum62及びDNAについてDNAFullである)。「BESTFIT」は、2つの配列間の最良の類似性区間の最適なアラインメントを実施し、スミス・ウォーターマンの局所的相同性アルゴリズムを用いてギャップを挿入してマッチ数を最大化する(Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics,2:482-489,1981,Smith et al.,Nucleic Acids Research 11:2205-2220,1983)。配列が実質的に異なる全長を有するときは、スミス・ウォーターマンのアルゴリズムを使用するものなど、局所的アラインメントが好ましい。
【0037】
配列同一性を決定する有用な方法についてはまた、Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,ed.,Academic Press,San Diego,1994、及びCarillo,H.,and Lipton,D.,Applied Math(1988)48:1073にも開示されている。より詳細には、配列同一性を決定する好ましいコンピュータプログラムとしては、国立医学図書館(National Library of Medicine)、国立衛生研究所(National Institute of Health)、Bethesda、Md.20894の米国国立生物工学情報センター(National Center Biotechnology Information:NCBI)から公的に利用可能なBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)プログラムが挙げられる;BLAST Manual,Altschul et al.,NCBI,NLM,NIH;Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990)を参照のこと;バージョン2.0以上のBLASTプログラムでは、アラインメントへのギャップ(欠失及び挿入)の導入が可能である;ペプチド配列については、配列同一性の決定にBLASTXを使用することができる;及び、ポリヌクレオチド配列については、配列同一性の決定にBLASTNを使用することができる。
【0038】
或いは、類似性又は同一性パーセンテージは、FASTA、BLAST等などのアルゴリズムを使用して公開データベースを検索することにより決定されてもよい。従って、本明細書に記載される核酸及びタンパク質配列を更に「問い合わせ配列」として使用して公開データベースの検索を実施し、例えば、他のファミリーメンバー又は関連する配列を同定することができる。かかる検索は、Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のBLASTn及びBLASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して実施することができる。BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実施すると、本明細書に記載される核酸分子に相同なヌクレオチド配列を入手することができる。BLASTタンパク質検索をBLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3で実施すると、本明細書に記載されるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を入手することができる。比較目的でギャップ付きアラインメントを入手するには、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402に記載されるとおりのギャップ付きBLASTを利用することができる。BLAST及びギャップ付きBLASTプログラムを利用するときは、それぞれのプログラム(例えば、BLASTx及びBLASTn)のデフォルトパラメータを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/の国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)のホームページを参照のこと。
【0039】
「核酸」又は「ポリヌクレオチド」には、本明細書で使用されるとき、ピリミジン及びプリン塩基、好ましくは、それぞれシトシン、チミン、及びウラシル、並びにアデニン及びグアニンの任意のポリマー又はオリゴマーが含まれ得る(Albert L.Lehninger,Principles of Biochemistry,at 793-800(Worth Pub.1982)(これはあらゆる目的から本明細書に全体として参照により援用される)を参照のこと)。任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド又は核酸成分、並びにその任意の化学的変異体、例えば、メチル化された、ヒドロキシメチル化された、又はグリコシル化された形態のこれらの塩基などが企図される。ポリマー又はオリゴマーは、組成の点で異種又は同種であってもよく、天然に存在する供給源から単離されてもよく、又は人工的若しくは合成的に作製されてもよい。加えて、核酸はDNA(任意選択でcDNA)又はRNA、又はこれらの混合物であってもよく、ホモ二重鎖、ヘテロ二重鎖、及びハイブリッド状態を含め、一本鎖又は二本鎖の形態で、永久に、又は過渡的に存在してもよい。
【0040】
「単離された核酸」は、もはやその天然の環境にない、例えばインビトロにあるか、又は組換え細菌若しくは植物細胞にある核酸を指して使用される。核酸及び/又はタンパク質は、組換え、合成又は人工核酸及び/又はタンパク質のうちの少なくとも1つであり得る。
【0041】
用語「核酸コンストラクト」、「核酸ベクター」、「ベクター」及び「発現コンストラクト」は、本明細書では同義的に使用され、本明細書では、組換えDNA技術を用いた結果として生じる人為的に作り出された核酸分子として定義される。従って用語「核酸コンストラクト」及び「核酸ベクター」には、天然に存在する核酸分子は含まれないが、しかし核酸コンストラクトは、天然に存在する核酸分子(の一部)を含み得る。
【0042】
ベクター骨格は、例えば、当該技術分野において公知のとおりの、及び本明細書の他の部分に記載されるとおりの、バイナリー又はスーパーバイナリーベクター(例えば、米国特許第5,591,616号明細書、米国特許出願公開第2002138879号明細書及び国際公開第95/06722号パンフレットを参照のこと)、共組込みベクター又はT-DNAベクターであって、そこにキメラ遺伝子が組み込まれるか、又は好適な転写調節配列が既に存在する場合には、所望の核酸配列(例えば、コード配列、アンチセンス又は逆方向反復配列)のみが転写調節配列の下流に組み込まれるものであり得る。ベクターは、例えば、選択可能マーカー、多重クローニング部位など、分子クローニングでのその使用を容易にするための更なる遺伝学的エレメントを含み得る。
【0043】
用語「遺伝子」は、好適な調節領域(例えばプロモーター)に作動可能に連結された、細胞内でRNA分子(例えばmRNA)へと転写される領域(転写領域)を含むDNA断片を意味する。遺伝子は、通常、プロモーター、5’リーダー配列、コード領域及びポリアデニル化部位を含む3’非翻訳配列(3’末端)など、幾つかの作動可能に連結された断片を含むことになる。
【0044】
「遺伝子の発現」は、適切な調節領域、特にプロモーターに作動可能に連結されているDNA領域が、生物学的に活性なものであるRNA、例えば生物学的に活性なタンパク質又はペプチドへと翻訳される能力を有するRNA、又は例えば調節性非コードRNAへと転写される過程を指す。
【0045】
用語「作動可能に連結されている」は、機能的関係にあるポリヌクレオチドエレメントの連結を指す。核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係に置かれているとき、「作動可能に連結されている」。例えば、プロモーター、又はむしろ転写調節配列は、コード配列に対し、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合には、作動可能に連結されている。作動可能に連結されているとは、それらの連結されているDNA配列が隣接していることを意味し得る。
【0046】
「プロモーター」は、1つ以上の核酸の転写を制御するように機能する核酸断片を指す。プロモーター断片は好ましくは、遺伝子の転写開始部位から転写方向に対して上流(5’側)に位置し、構造的には、DNA依存性RNAポリメラーゼに対する結合部位、転写開始部位の存在によって同定され、更に、限定はされないが、転写因子結合部位、抑制因子及び活性化因子タンパク質結合部位、及び直接又は間接的にプロモーターからの転写量を調節する働きをする当業者に公知の任意の他のヌクレオチド配列を含め、任意の他のDNA配列を含み得る。
【0047】
「構成的」プロモーターは、ほとんどの組織においてほとんどの生理的及び発生的条件下で活性のあるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、生理的に調節される(例えば、ある種の化合物を外部から適用することによる)又は発生的に調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の種類の組織又は細胞においてのみ活性がある。
【0048】
任意選択で用語「プロモーター」にはまた、5’UTR領域(5’非翻訳領域)が含まれてもよい(例えば、本明細書ではプロモーターには、転写領域の翻訳開始コドンから上流にある1つ以上の部分が、転写及び/又は翻訳の調節においてその領域が役割を有し得ることに伴い含まれ得る)。
【0049】
「3’UTR」又は「3’非翻訳配列」(3’非翻訳領域、又は3’末端と称されることも多い)は、遺伝子のコード配列の下流に見られる核酸配列であって、例えば、転写終結部位及び(全てではないが、ほとんどの真核生物mRNAにおける)ポリアデニル化シグナル(例えばAAUAAA又はその変異体など)を含むものを指す。転写終結後、mRNA転写物はポリアデニル化シグナルの下流で切断されてもよく、及び細胞質(翻訳が行われるところ)へのmRNAの輸送に関わるポリ(A)テールが付加されてもよい。
【0050】
用語「cDNA」は、相補的DNAを意味する。相補的DNAは、RNAから相補的DNA配列への逆転写によって作られる。このように、cDNA配列は、遺伝子から発現するRNA配列に対応する。ゲノムから発現するRNA配列はスプライシングを受けてもよく、即ちイントロンがスプライシングによりプレmRNAから除去され、エクソンが一体につなぎ合わされた後に、それが細胞質においてタンパク質へと翻訳されるため、cDNAの発現とは、cDNAをコードするmRNAの発現を意味することが理解される。このように、cDNAは、あるタンパク質についての、つなぎ合わされたエクソンからなる完全なオープンリーディングフレームのみをコードし得るため、cDNA配列は、それが対応するゲノムDNA配列と同一でないこともあり、一方でゲノムDNA配列は、イントロン配列が間に入ったエクソン配列を含み得る。このように、タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子修飾は、そのタンパク質をコードする配列を修飾することに関係し得るのみならず、ゲノムDNAのイントロン配列及び/又はその遺伝子の他の遺伝子調節配列を突然変異させることもまた関わり得る。
【0051】
用語「再生」は、本明細書では、単一の植物細胞、一群の細胞、カルス、外植体、組織からの、又は器官からの新規組織及び/又は新規器官の形成として定義される。再生には、単一の植物細胞からの、又は例えば、カルス、外植体、組織又は器官からの新規植物体の形成が含まれ得る。再生用の植物細胞は、未分化の植物細胞であってもよい。好ましい植物細胞は、プロトプラストである。再生プロセスは、親組織から直接行うことも、又は間接的に、例えばカルスの形成を経て行うこともできる。再生経路は、体細胞胚形成又は器官形成であってもよい。体細胞胚形成は、本明細書では、全植物体へと成長することのできる体細胞胚の形成と理解される。器官形成は、本明細書では、(未分化)細胞からの新規器官の形成と理解される。器官形成は、分裂組織形成、不定シュート形成、花序形成、根形成、不定シュートの伸長及び(続く)完全な植物体の形成のうちの少なくとも1つであり得る。好ましくは、再生は、シュート再生、(異所性)頂端分裂組織形成及び根再生のうちの少なくとも1つである。本明細書に定義するとおりのシュート再生は、デノボのシュート形成である。例えば、再生は、(伸長した)胚軸外植体からの(花序)シュートの再生であり得る。
【0052】
用語「通常の成長条件」は、本明細書では、植物体が成長する環境と理解される。かかる条件には、最低でも、好適な温度(即ち0℃~60℃の間)、栄養、明暗周期及び灌水が含まれる。
【0053】
用語「再生を許容する条件」は、本明細書では、好ましくは通常の成長条件を含め、植物細胞又は組織が再生することのできる環境と理解される。
【0054】
「シュート器官形成」は、細胞、好ましくはカルス又は外植体の細胞が、葉原基及び葉を有するシュートへと発育するデノボの茎頂分裂組織を形成するときに経る再生経路である。頂端分裂組織は1つしかないため、これは単極構造体であり、この段階で根は形成されない。シュートの脈管系は親組織につながっていることが多い。シュートが完全に形成されて伸長し、例えばカルス又は外植体が取り去られて初めて、異なる培養培地での別個の根誘導工程にて根の形成を誘導することができる(Thorpe,TA(1993)In vitro Organogenesis and Somatic Embryogenesis:Physiological and Biochemical Aspects.In:Roubelakis-Angelakis K.A.,Van Thanh K.T.(eds)Morphogenesis in Plants.NATO ASI Series(Series A:Life Sciences),Vol.253.Springer,Boston,MA)。
【0055】
シュート器官形成は、自然発生的に起こり得るものであり、即ち、いかなる植物成長調節物質(PGR)も外部から添加することなく起こり得る。シュート器官形成は、植物成長調節物質、通常は種々の濃度のサイトカイニン単独によるか、又はオーキシンとの組み合わせで誘導してもよく、ここで好ましくはサイトカイニンは、新規茎頂分裂組織及びシュートが形成を終えて十分に伸長するまで、例えばそれを一次外植体又はカルスから取り去るまで、培養培地の構成成分のまま残り続ける。好ましくは、シュート形成の誘導には、サイトカイニンの濃度がオーキシンの濃度を超える。
【0056】
「体細胞胚形成」は、接合胚に似た双極構造体の形成につながり、これは、閉じた独立した脈管系を有する根-シュート軸を含む。換言すれば、根原基及びシュート原基は、両方とも同時に形成されるものであり、下層組織との血管の連絡はない(Dodds,JH and Roberts,LW(1985)Experiments in plant tissue culture.Cambridge University Press,Cambridge,UK)。体細胞胚形成は、例えば、カルス又は細胞懸濁液から間接的に誘導することができ、又はそれは、外植体の細胞上に直接誘導することができる(Thorpe、前掲)。体細胞胚の形成は、球状胚段階(小さい等直径の細胞塊)から心臓型胚段階(両側対称性の構造)を経て魚雷型胚段階(伸長)まで、幾つもの異なる段階を通る。球状胚から心臓型胚への移行は、2枚の子葉の生成及び幼根の発生開始によって特徴付けられる(Zimmerman,JL(1993)Somatic Embryogenesis:A Model for Early Development in Higher Plants.The Plant Cell 5:1411-1423;Von Arnold et al(2002)Developmental pathways of somatic embryogenesis.Plant Cell,Tissue and Organ Culture 69:233-249)。最後に、魚雷型胚段階の体細胞胚は、「発芽」(接合胚と類似している)又は「変換」又は「成熟」と称される過程の中で(Von Arnold et al.、前掲)、緑色の子葉、伸長した胚軸、及び明確に分化した根毛を伴う発育した幼根を含む小植物体へと発育し得る(Zimmerman、前掲)。体細胞胚形成の直接の又は間接的な誘導においては、初期段階でカルスに胚発生状態を誘導するため好ましくはオーキシンが使用されるが、胚は、培地への培養物の継代後に、オーキシンレベルの低下があってもなくても形成される。体細胞胚の誘導に使用されるオーキシンは、例えば、1-ナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、ピクロラム及びジカンバである。
【0057】
用語「内因性」は、本発明との関連においてタンパク質又は核酸と組み合わせて使用されるとき、前記タンパク質又は核酸がなおも植物体内に含まれている、即ち、その天然の環境に存在することを意味する。多くの場合に内因性遺伝子は、植物体におけるその通常の遺伝的コンテクストで存在することになる。
【0058】
「植物ホルモン」、「植物成長ホルモン」、「植物成長調節物質」又は「フィトホルモン」は、植物細胞及び組織の成長及び/又は発生に影響を与える化学物質である。植物成長調節物質は、以下の5つのグループの化学物質を含む:オーキシン類、サイトカイニン類、ジベレリン類、アブシジン酸(ABA)及びエチレン。これらの5つの主なグループに加えて、2つの他の化学物質クラスが、植物成長調節物質と見なされることが多い:ブラシノステロイド類及びポリアミン類。
【0059】
「標的突然変異誘発」は、限定はされないが、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、RNA誘導型エンドヌクレアーゼを使用した突然変異誘発(例えばCRISPR技術)、メガヌクレアーゼ、TALEN又はジンクフィンガー技術など、特定のヌクレオチド又は核酸配列を改変するように設計することのできる突然変異誘発である。
【0060】
用語「目的の配列」には、限定はされないが、例えば、遺伝子、遺伝子の一部、又は遺伝子内にあるか若しくは遺伝子に隣接する非コード配列など、好ましくは細胞内に存在する任意の遺伝子配列が含まれる。目的の配列は、染色体、エピソーム、ミトコンドリア若しくは葉緑体ゲノムなどの細胞小器官ゲノム又は例えば感染ウイルスゲノム、プラスミド、エピソーム、トランスポゾンなど、遺伝子材料の主体とは独立して存在し得る遺伝子材料に存在し得る。目的の配列は、遺伝子のコード配列内、転写された非コード配列内、例えば、リーダー配列、トレーラー配列又はイントロンなどにあってもよい。前記目的の配列は、二本鎖又は一本鎖核酸分子に存在し得る。核酸配列は、好ましくは二本鎖核酸分子に存在する。目的の配列は、核酸内にある任意の配列、例えば、遺伝子、遺伝子複合体、遺伝子座、偽遺伝子、調節領域、高度に反復性の領域、多型領域、又はこれらの一部分であってもよい。目的の配列はまた、表現型又は疾患の指標である遺伝的又は後成的変異を含む領域であってもよい。好ましくは、目的の配列は、二重鎖DNAの小さい又はより長い一続きの隣接するヌクレオチド(即ちポリヌクレオチド)であり、ここで前記二重鎖DNAは、前記二重鎖DNAの相補鎖に、目的の配列に相補的な配列を更に含む。目的の配列は目的の遺伝子、好ましくは目的の内因性遺伝子であってもよく、又はその一部であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】本発明の実施形態の例示的表現。(A)インビトロ繁殖させたビンチェジャガイモを接穂(2)としてトマト台木(3)に接木した概略図、任意選択の固定用スチールピン(1)を示す;(B)癒傷後、接木癒合部を接木癒傷時に裁頭した。切断部位を指示している(4);(C)シュートを再生させるため、裁頭した接木をそのままにしておいた(5)。
図2】共再生した植物体:純粋なトマト(A);ビンチェ及びトマトの周縁キメラ(B);純粋なビンチェ(C)。
図3】K1Cg中28℃暗所下でのチコリー・インティブス(Chicory intybus)のプロトプラスト培養。A)チコリーの葉を一晩酵素消化することにより入手したプロトプラスト、B)チコリープロトプラストをK1Cg培地で4日間培養した後に見られる初期分裂、C)7日間の培養後及びD)11日間の培養後に見られる微小コロニー。
図4】K1Cg培地中暗所下28℃でのタラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)のプロトプラスト培養。A)タンポポ属(Taraxacum)の葉を一晩酵素消化することにより入手したプロトプラスト、B)K1Cg培地で3日間培養した後の分裂の徴候を示さない空胞化したプロトプラスト、C)及びD)培養後10日及び17日経った後のプロトプラストのプロトプラスト空胞化及びデブリを示す。
図5-1】チコリーとタンポポとのプロトプラスト混合物からの小植物体の再生。A)及びB)は、その表現型のばらつきによって明確に異なると認識し得るチコリー及びタンポポ(破線の丸の囲み)の小植物体を生じさせる混合カルスの2つの異なる出現を示す。C)対照チコリーカルスからのチコリー小植物体の再生及びD)タラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)小植物体を生じさせる混合プロトプラストの共培養物からピッキングした黄色いカルス。
図5-2】(上記の通り。)
図6】タンポポ対照試料(レーン1)、チコリー対照試料(レーン2)及びタンポポ表現型(レーン3、5、7及び8)又はチコリー様表現型(レーン4及び6)を有する共再生体からの葉材料試料における2本のタンポポ特異的バンド(794bp)及びチコリー特異的バンド(429bp)を示すPCR反応。
図7-1】キイロトウガラシ(C.baccatum)に接木したMaorのキメラの発育。(A);植物体1の左側は、トウガラシ(C.annuum)トリコームを伴うキイロトウガラシ(C.baccatum)表現型を示した一方、右側は、純粋なキイロトウガラシ(C.baccatum)表現型を有した。(B);植物体2番も同様の分割表現型を有し、左側が、アントシアニン斑を含めた純粋なトウガラシ(C.annuum)表現型を有し、右側が純粋なキイロトウガラシ(C.baccatum)表現型を有した。(C);トウガラシ(C.annuum)トリコーム形態を有し、キイロトウガラシ(C.baccatum)の成長特性を伴う植物体7番。
図7-2】(上記の通り。)
図7-3】(上記の通り。)
図8】これらの2つの葉試料(3番目及び4番目の葉)のCapsアッセイ結果を提示する。結果から、植物体1、2及び7がキメラであって、植物体3、4、5及び6が純粋なトウガラシ(C.annuum)であることが示される。
図9】左:170ミクロンNitexメッシュに接合したRUBY及びvYFPプロトプラスト。右:メッシュをフラッシュした後に左から9M培地に接合したプロトプラスト接合片。ここでは細胞の凝集塊が液体培地中に自由に浮遊している。β-D-ガラクトシルヤリブを添加したため、両方の細胞型が一体になって凝集していることに留意されたい。
図10】(A)野生型トマト胚軸の先端にあるカルスからの大量のシュート再生。(B)gob突然変異体胚軸はほとんどカルスを形成せず、偶発的に異常な葉はあるが、機能性のシュート分裂組織はない。(C)WT-gob接木接合部から共再生した接木雑種植物体(chi)のCAPSマーカー分析。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明者らは、難再生性植物体の1つ以上の細胞及び/又は組織、任意選択で遺伝性の突然変異又はトランス遺伝子を担持するものが、それを再生可能植物体の1つ以上の細胞及び/又は組織と接触させると、ごく簡単に再生し得ることを発見した。従って本発明は、難再生性植物体の再生並びにクローナル及び/又は栄養繁殖に関する。加えて、本発明は、好ましくは少なくともクローン繁殖組織若しくは植物部位に、及び/又は有性生殖については生殖系列前駆細胞に遺伝性の突然変異又はトランス遺伝子を担持する植物体、好ましくは難再生性植物体を作製する方法に関する。故に、ある態様において、本発明は、難再生性植物体の細胞の再生能及び/又は再生効率を増加させる又はそれを誘導する方法であって、前記細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程を含む方法を提供する。
【0063】
本発明者らは、難再生性植物体の細胞又は組織を含む、又はそれからなるシュートが、かかる方法を用いると容易に発生し得ることを発見した。ここで「~の難再生性植物体」とは、本明細書では、本発明の方法において再生可能植物体の細胞と接触させる難再生性植物体の細胞から再生されるものと理解されるべきである。
【0064】
従って、ある態様において、本発明は、植物体のシュートを発生させて選択する方法であって、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程;
(b)工程(a)の接触させた細胞に1つ以上のシュートを形成させる工程;及び
(c)工程(b)で形成されたシュートを選択する工程であって、前記シュートの少なくとも一部が難再生性植物体の細胞からなる工程
を含む方法を提供する。
【0065】
工程(b)は好ましくは、幾つかのシュート、即ち2つ以上のシュートの形成を含む。従って本発明の方法の工程(c)は、工程(b)で形成された複数のシュートからシュートを選択する工程を含んでもよく、ここで前記選択されたシュートの少なくとも一部は難再生性植物体の細胞からなる。
【0066】
好ましくは、難再生性植物体又はその細胞は、通常の成長条件下で再生することができないか、又は再生効率の悪さを示す植物体又は細胞である。任意選択で、難再生性植物体又はその細胞は、限定はされないが、外部から供給される成長調節物質の存在下で再生を許容する条件など、当該技術分野において再生に最適であることが公知の条件下で再生することができないか、又は再生効率の悪さを示す。種内に難再生性及び再生可能の両方の栽培品種、品種及び/又は登録品種が存在し得るが、一般には、トウガラシ、ダイズ及びサトウダイコンが、難再生性植物体の非限定的な例であり、及びその細胞が、難再生性植物細胞の非限定的な例である。しかしながら、本発明の方法は、状況次第では再生効率の増加から有益を受けるあらゆる植物体又は植物細胞に適用することができる。従って、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞は、詳細には、本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞よりも低い再生効率を示す植物体又は植物細胞である。好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞は、再生可能植物体又は植物細胞の再生に好適な、好ましくは最適な条件下で、本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞よりも低い再生効率を示す。かかる好適な及び/又は最適な条件は、任意選択でホルモンを補足した、好適な栄養供給を少なくとも含む。かかる条件は、好適な及び/又は最適な温度及び/又は明期/暗期レジームを更に包含し得る。好ましくは、かかる好適な及び/又は最適な条件が、本発明の方法の工程(b)に適用される。好ましくは、工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞は、前記難再生性植物体又は植物細胞が前記再生可能植物体又は植物細胞と接触していないことを除いては本発明の方法の工程(b)において適用されるのと同様の条件に曝露したとき、工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞と比較して低い再生効率及び/又は再生能を示す植物体又は植物細胞である。別の言い方をすれば、工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞は、好ましくは本明細書に定義するとおりの接触させる工程(a)のない、難再生性及び再生可能細胞を本発明の方法の工程(b)において適用されるのと同様の条件に曝露したとき、工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞と比較して低い再生効率及び/又は再生能を示す植物体又は植物細胞である。これらの条件は、好ましくは、再生可能植物体、又はその細胞が再生するのに好適な条件である。当業者は、再生可能植物細胞が再生するのに好適な条件について認識している。かかる条件は、難再生性植物細胞が通常は(即ち再生可能細胞と接触していないとき)再生を示さない、ほとんど示さない条件であり得る。
【0067】
好ましくは、本発明の方法の工程(b)は、再生可能植物体又はその細胞が再生するのに好適な条件下で実施される。任意選択で、本発明の方法の工程(b)は、難再生性植物体の細胞が、再生可能植物体の細胞と異なり、前記再生可能植物細胞と接触していないときはいかなる再生も全く又はほとんど示さない条件下で実施されてもよい。
【0068】
好ましくは、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞及び再生可能植物細胞は、体細胞である。任意選択で、難再生性植物体又は植物細胞は、ポジティブ選択マーカーを含むように修飾される。当該技術分野において難再生性であることが公知の植物体の典型的な非限定的例は、トウガラシ(Capsicum annuum)、サトウダイコン(Beta vulgaris、より詳細にはテンサイ(Beta vulgaris subsp.vulgaris))、ダイズ(Gycine max)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、ワタ(Gossipium hirsutum)、アサ又は大麻(Cannabis sativa)、イチゴ(Fragaria x ananassa)、ホップ(Humulus lupulus)、メロン(Cucumis melo)及びキュウリ(Cucumis sativus)である。難再生性植物体は、いかなる再生も全く又はほとんど示さない植物体であり得るが、再生を(更に)改良し得る植物体であってもまたよい。従って、及び本明細書に例示されるとおり、難再生性植物体は、限定はされないが、トウガラシ(Capsicum annuum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)又はタラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)であり得る。同様に、難再生性植物体の細胞は、限定はされないが、トウガラシ(Capsicum annuum)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)又はタラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)の細胞であり得る。
【0069】
好ましくは、本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体(又はその細胞)は、通常の成長条件下、好ましくはオーキシン類及び/又はサイトカイニン類(cytokinines)などの外部から供給される成長調節物質の非存在下で植物体(又はその細胞)の再生を許容する条件下で再生能がある。好ましくはかかる条件下では、再生可能植物体はデノボで多細胞組織上にシュートを形成し得る。再生は、好ましくは、器官形成及び体細胞胚形成のうちの少なくとも1つである。好ましくは、再生可能植物体は、インビボで裁頭後、即ち予め形成されている全ての茎頂分裂組織の除去後にシュートの再生能がある。種内に難再生性及び再生可能の両方の栽培品種、品種及び/又は登録品種が存在し得るが、一般には、トマト及びタバコ、キイロトウガラシ(Capsicum baccatum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)の実生胚軸が、再生可能な外植体の例として当該技術分野において公知である。
【0070】
再生可能植物体又は植物細胞は、天然に存在する再生可能植物体又は植物細胞、即ち天然の再生能力を有する植物体又は植物細胞であり得る。或いは、植物体又は植物細胞は、再生可能性が増加するように遺伝子修飾されていてもよい。かかる植物体又は植物細胞の例としては、限定はされないが、国際公開第2019/211296号パンフレット及び国際公開第2019/193143号パンフレット(これらは参照により本明細書に援用される)に開示される植物体及び植物細胞が挙げられる。非限定的な例として、再生可能植物体又は植物細胞は、好ましくは国際公開第2019/193143号パンフレットに記載されるとおり、CHK4、CHK2及びCHK3からなる群から選択されるヒスチジンキナーゼの発現の誘導又は増加を呈するように修飾された植物体又は植物細胞であってもよい。加えて、又はその代わりに、再生可能植物体又は植物細胞は、国際公開第2019/211296号パンフレットに記載されるとおり、再生に関連する転写因子、好ましくは、WUSCHEL関連ホメオボックスタンパク質(好ましくはWOX5、任意選択で配列番号16のAtWox5)、PLETHORAタンパク質(好ましくはPLT1、任意選択で配列番号17のAtPLT1)及びWOUND INDUCED DEDIFFERENTIATION 1タンパク質(WIND1、任意選択で配列番号18のAtWIND1)、好ましくはWOX5及びPLT1の両方、更により好ましくはWOX5、PLT1及びWIND1、のうちの少なくとも1つの発現の誘導又は増加を好ましくは一過性に呈するように修飾された植物体又は植物細胞である。好ましくは、前記転写因子は誘導性プロモーターの制御下にあり、前記誘導性プロモーターの誘導を生じさせる薬剤に細胞を曝露することによって再生が誘導される。任意選択で、再生可能植物体又は植物細胞は、国際公開第2019/211296号パンフレットに記載されるとおり、SHOOT REGENERATION-2ベクター又はSHOOT REGENERATIONベクターによってトランスフェクトされる植物体又は植物細胞である。前記ベクターは、一過性の又は安定したトランスフェクションにより導入されてもよく、及び接触させた細胞をデキサメタゾン及びエストラジオールの少なくとも一方、好ましくはデキサメタゾン及びエストラジオールの両方に曝露することによって再生が誘導されてもよく、これは、指示される再生に関連する転写因子が、これらの化合物の投与を通じて誘導可能なプロモーターの制御下にあるためである(この点に関しては、国際公開第2019/211296号パンフレットが参照される)。加えて、又はその代わりに、再生可能植物体は、内因性遺伝子に、再生能及び/又は再生効率の向上を生じさせる突然変異を有する植物体であってもよい。非限定的な例は当該技術分野において公知であり、例えば、Duclerq et al.(Plant biology,2011,13,p317-324)に記載されるATHB15突然変異体、Shang et al.(PNAS 2016,113,5101-5106)に記載されるとおりのKCS1突然変異体、Buechel et al.(European Journal of Cell Biology 2010,89:279-284)に記載されるとおりのARR突然変異体及びLee et al.(2021)Cell Reports 37,1-13に記載されるとおりのATRXR2突然変異体がある。
【0071】
任意選択で、再生可能植物体又は植物細胞は、ネガティブ選択マーカーを含むように修飾される。再生可能植物体又は植物細胞は、限定はされないが、キイロトウガラシ(Capsicum baccatum)、トマト(Solanum lycopersicum)及びチコリー(Cichorium intybus)であってもよい。詳細には、本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞は、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞と比較したときより高い再生効率を示す植物体又は植物細胞である。好ましくは本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞は、再生可能植物体又は植物細胞の再生に好適な、好ましくは最適な条件下で本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞と比較したときより高い再生効率を示す植物体である。かかる好適な及び/又は最適な条件は、任意選択でホルモンを補足した、好適な栄養供給を少なくとも含む。かかる条件は、好適な及び/又は最適な温度及び/又は明期/暗期レジームを更に包含し得る。
【0072】
好ましくは、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞は、本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞と異なる遺伝子型を有する。本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞と再生可能植物体又は植物細胞とは、異なる属のものであっても、又は同じ属のものであってもよい。好ましくは、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞と再生可能植物体又は植物細胞とは、同じ属のものである。任意選択で、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞と再生可能植物細胞とは、異なる種のものである。好ましくは、本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞は、従来の育種法を通じて遺伝子材料を本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞と交換する能力のある植物体又は植物細胞である。好ましくは、難再生性植物体の細胞は、再生可能植物体の細胞と交雑させることができる。
【0073】
非限定的な例として、難再生性植物細胞及び再生可能植物細胞は、両方とも、ナス属(Solanum)又はトウガラシ属(Capsicum)のものであってもよい。例えば、難再生性植物体又はその細胞がトウガラシ(Capsicum annuum)であってもよく、再生可能植物体又はその細胞がキイロトウガラシ(Capsicum baccatum)であってもよい。同様に、難再生性植物体又はその細胞がジャガイモ(Solanum tuberosum)であってもよく、再生可能植物体又はその細胞がトマト(Solanum lycopersicum)であってもよい。更に、難再生性植物体又はその細胞がタラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)であってもよく、再生可能植物体又はその細胞がチコリー(Cichorium intybus)であってもよい。
【0074】
好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体又は植物細胞は、再生を許容する同じ又は同様の条件下で、但し互いが接触をなさない場合に、本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体又は植物細胞と比較したときより低い再生能及び/又は再生効率を示す植物体である。前記条件は、好ましくは、再生可能及び難再生性の両方の植物体又はその植物細胞に好適な通常の成長条件である。より好ましくは、前記条件は、再生を許容する条件であり、更により好ましくは、前記条件は、外部から供給された(例えば人的介入を通じた化学物質の添加)成長調節物質の非存在下で再生を許容する条件である。好ましい実施形態において、前記条件は、少なくとも再生可能植物体又は植物細胞の再生に最低限必要な条件である。任意選択で、前記条件は、少なくとも再生可能植物体又は植物細胞の再生に好適な条件任意選択で最適な条件である。
【0075】
ある態様において、本発明は、植物体のシュートを発生させて選択する方法に関し、ここで選択されたシュートは、難再生性植物体の生殖系列前駆細胞、即ち本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞から再生した生殖系列前駆細胞を含む。故に、任意選択で、本発明の方法は、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程;
(b)工程(a)の接触させた細胞に1つ以上のシュートを形成させる工程;及び
(c)工程(b)で形成されたシュートを選択する工程であって、前記シュートが難再生性植物体の生殖系列前駆細胞を含む工程
を含む。
【0076】
加えて、又はその代わりに、本発明は、植物体のシュートを発生させて選択する方法に関し、ここでシュートは、難再生性植物体のクローン繁殖組織及び/又は植物部位、即ち本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞から再生したクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる細胞を含む。故に、任意選択で、本発明の方法は、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程;
(b)工程(a)の接触させた細胞に1つ以上のシュートを形成させる工程;及び
(c)工程(b)で形成されたシュートを選択する工程であって、前記シュートが、難再生性植物体のクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる細胞を含む工程
を含む。
【0077】
任意選択で、工程(b)において難再生性植物体の接触させた細胞はカルスを形成し、シュートはカルスから成長する。従ってある実施形態において、本発明の方法は、難再生性植物体の生殖系列前駆細胞を含む植物体のシュートを発生させ、任意選択で選択する方法であって、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程;
(b)工程(a)の難再生性植物体の接触させた細胞にカルスを形成させる工程、及びカルスからシュートを成長させる工程;及び
(c)難再生性植物体の生殖系列前駆細胞を含む工程(b)で入手されたシュートを選択する工程
を含む方法である。
【0078】
従って、好ましくは本発明の方法は、シュートを選択する工程(c)を含み、ここで前記シュートの少なくとも一部は難再生性植物体の細胞からなり(即ち工程(a)の難再生性植物細胞から再生したものであり)、及びここで前記一部は、
i)生殖系列前駆細胞を含む組織;及び
ii)クローン繁殖組織及び/又はクローン繁殖植物部位を生じさせる細胞を含む組織
のうちの少なくとも一方である。
【0079】
クローン繁殖組織及び/又は植物部位とは、本明細書では、子孫、即ち後続の世代の植物体へとクローン繁殖するのに使用することのできる組織及び/又は植物部位と理解される。かかる組織及び/又は植物部位は、限定はされないが、塊茎、鱗茎、球茎、子球、吸枝、接穂、冠部、鱗芽、根茎、茎の頂端部、シュート又は挿し根、ノブ状の基部又は挿し穂、匍匐枝、塊茎状の挿し枝又は目、(クローン繁殖)種子などであってもよい。従ってクローン繁殖植物部位又は組織(を生じさせる細胞)の遺伝子型がクローン繁殖植物体の子孫の遺伝子型を決定し、この組織又は部位(を生じさせる細胞)に作られる任意のゲノム修飾が後続世代に受け継がれ得る。故にクローン繁殖植物部位(を生じさせる細胞)に作られるトランス遺伝子又は突然変異は、遺伝性のトランス遺伝子又は突然変異である。
【0080】
生殖系列前駆細胞とは、本明細書では、最終分化すると配偶子になるであろう細胞、又はそのクローナルな子孫と理解される。従って生殖系列前駆細胞の遺伝子型が配偶子の遺伝子型を決定し、生殖系列前駆細胞に作られる任意のゲノム修飾が後続世代に受け継がれることになる。故に生殖系列前駆細胞に導入されるトランス遺伝子又は突然変異は遺伝性であり、即ち遺伝性トランス遺伝子又は遺伝性突然変異である。L2シュート分裂組織層が、配偶子の遺伝子型を決定し得る(例えば、Filippis et al.Using a periclinal chimera to unravel layer-specific gene expression in plants,The Plant Journal,2013,75:1039-1049を参照のこと)。好ましくは、工程(c)において難再生性植物体の細胞からなる選択されたシュートの一部は、生殖系列前駆細胞を含む組織である。故に好ましくは、本発明の方法の生殖系列前駆細胞は、難再生性植物体のL2シュート分裂組織層(即ち本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞から再生したL2分裂組織層)に由来する。本発明の方法の工程(c)で選択されたシュートは、難再生性植物体のL1及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも一方を更に含み得る。任意選択で、前記シュートは、難再生性植物体のL1、L2及びL3シュート分裂組織層を含む。或いは、本発明の方法の工程(c)で選択されるシュートは、工程(a)の難再生性植物細胞から再生したL2シュート分裂組織層と、工程(a)の再生可能植物細胞から再生したL1及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも一方とを含み得る。本発明の方法の工程(b)で成長させて、工程(c)で選択したシュート、又は少なくとも1つのシュートは、不定シュート、又は少なくとも1つの不定シュートであってもよい。
【0081】
本発明の方法の工程(a)では、難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触した状態に至らせる。任意選択で、本発明の方法の工程(a)では、難再生性植物体の1つ以上の細胞を再生可能植物体の1つ以上の細胞と接触した状態に至らせる。接触させる工程(a)は、当業者に公知の任意の従来方法を用いて実施することができる。接触させる工程には、好ましくは、難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と物理的に接触した状態に至らせることが必要である。細胞の物理的接触とは、本明細書では、細胞間接触を通じた、任意選択で細胞を凝集させる試薬又はリンカーを介した細胞の安定した結び付き又は凝集と理解されるべきである。好ましくは、物理的接触のある細胞間にプラスモデスムが形成される。好ましくは、細胞間接触は、共通の細胞壁が形成されるようなものである。故に、好ましくは難再生性植物体の細胞と再生可能植物体の細胞との間の接触により、例えば細胞壁の共有及び/又はプラスモデスムが生じる。
【0082】
非限定的な例として、この接触させる工程には、当該技術分野において公知の任意のインビトロ技法、例えば周縁キメラを作製するための従来技術が含まれ得る:そうした技法には、以下のうちの少なくとも1つが含まれ得る:
(1)細胞の共培養、ここでは再生可能植物体及び難再生性植物体からの隣り合わせにした茎切片を一緒に培養してカルスにし、それらのカルスから、好ましくはホルモンを補足したインビトロ成長培地で不定シュートを再生させる。
【0083】
(2)混合カルス培養物、ここでは再生可能植物体と難再生性植物体との細胞懸濁液を混合し、その混合物を成長させてカルスにし、それらのカルスから、好ましくはホルモンを補足したインビトロ成長培地で不定シュートを再生させる。
【0084】
(3)プロトプラストの共培養、ここでは再生可能植物体と難再生性植物体とのプロトプラスト懸濁液を任意選択でアガロースに包埋し、極めて高い細胞密度で成長させ、そこの上で好ましくはホルモンを補足したインビトロ成長培地でシュートを再生させる。
【0085】
(4)インビトロ接木培養、ここでは再生可能植物体及び難再生性植物体をその胚軸又は節間部に沿って、好ましくは無菌条件下で接木する。これらの植物体の一方が「接穂」であり、他方が「台木」である。接木接合部の断面を培養して不定カルス及びシュートを誘導する。かかる技法は、組織培養の共通項に該当し、個々の植物系又は種に特異的であり得る多数の個別的なプロトコルからなる。当業者には、どのように2つの異なる植物体の細胞を組織培養下で一体に至らせてシュートを再生することができるかは、公知であろう。植物キメラに関する綿密なレビューについては、「植物キメラ(Plant Chimeras)」,Richard A.E.Tilney-Bassett(Cambridge University Press,1991)を参照のこと。任意選択で、上記の技法のいずれか1つが実施され、任意選択で本明細書に詳しく指定されるとおり、本発明の方法では、それにより、難再生性植物細胞から再生した組織であって、好ましくは生殖系列前駆細胞を含み、及び/又はクローン繁殖組織及び/又はクローン繁殖植物部位を生じさせる組織を含むか、又はそれからなる少なくとも1つの(不定)シュートが発生する。
【0086】
任意選択で、本発明の方法の工程(a)における難再生性植物体の細胞及び再生可能植物体の細胞は、組織及び/又は植物部位に含まれている。本発明の方法の接触させる工程(a)は、難再生性植物体及び再生可能植物体を、一方を台木とし、及び他方を接穂として接木することにより実施し得る。好ましくは、台木が再生可能植物体であり、接穂が難再生性植物体である。故に好ましくは、工程(a)の接触は、難再生性植物体の接穂を再生可能植物体の台木に接木することにより実施される。或いは、台木が難再生性植物体であってもよく、接穂が再生可能植物体であってもよく、工程(a)の接触は、再生可能植物体の接穂を難再生性植物体の台木に接木することにより実施される。接木は、一般に、維管束組織が一体に成長して接木接合部を形成するような方法で接穂と台木とを一体につなぎ合わせる工程を含む。
【0087】
好ましくは、台木植物体から取り除かれるシュートは頂芽を含み、それによって「裁頭された」植物体を与える。シュート裁頭は好ましくは、胚軸又は上胚軸、又は節間部におけるものである。好ましくは、裁頭された胚軸台木に子葉節が接木される。接木接合部に細長いカルス片が形成され得る。
【0088】
接木とは、本明細書では台木-接穂接木法としても指示される、台木への接穂の接木であり得る。しかしながら、当業者は、変形例が可能であり、それらが本発明の方法に包含されることを理解する。非限定的な例として、再生可能植物体の切片又は「スライス」が台木と難再生性植物体の接穂との間に差し挟まれて接木され得る。好ましくは、接木には若い植物材料が使用され、ここで前記若い植物材料は、播種後1~4週間、又は1~3週間の実生材料であり、好ましくは播種後約2週間の材料を使用する。好ましくは、接木に使用される若い植物材料は、0.1~1mm、0.1~0.75mm、0.1~0.5mm、又は0.1~0.25mmの実生材料である。好ましくは、実生材料は、最初の本葉が出た直後に使用される。好ましくは、前記接木過程では、前記実生材料の位置合わせ及び固定に(極めて小さい)スチールピン、好ましくは滅菌スチールピンが使用される。前記スチールピンは、本明細書に例示されるとおり(例えば図1を参照のこと)、台木及び接穂の中心に挿入することができる。加えて、又はその代わりに、2つの接木パートナーの周囲に結束具、テープ、バンド、及び/又は締め具を使用してそれらを一体に保持してもよく、任意選択で、固定のための接木接合部の縁部に接着剤(のり、ワックス又はペースト)を使用してもよい。
【0089】
接木接合部では、台木及び接穂の維管束組織が互いにつながり、栄養及び水が台木から接穂へと移動することが可能になる。本発明のこの実施形態の範囲内にある難再生性植物体及び再生可能植物体、即ち本発明の方法の接触させる工程(a)に接木を利用することは、接木接合部を形成する能力を天然で有する植物体であることが理解されるべきである。好ましくは、難再生性植物体及び再生可能植物体は、両方とも双子葉植物体である。任意選択で、難再生性植物体及び再生可能植物体は、両方とも単子葉植物体である。任意選択で、接木は、若い植物材料、例えば、インビトロマイクロプロパゲーションから入手した若い植物材料、若い実生材料又は種子を使用して実施される。単子葉(monocotyledoneous)植物体を接木するかかる方法については、例えば、国際公開第2020/099878号パンフレット及び国際公開第2020/099879号パンフレット(これらは参照により本明細書に援用される)に提供される。
【0090】
癒傷後、続いて接木癒合部が切断され、又は「付傷処理」されることにより、カルス、及び不定シュートの生成が生じる。これらの不定シュートの中でも特に、難再生性植物細胞を含む、又はそれからなるシュート、例えば難再生性植物体の生殖系列前駆細胞及び/又は難再生性植物体のクローン繁殖植物組織及び/又は植物部位を含むシュートが自然発生的に出現し得る。
【0091】
切断は、好ましくは、接木癒合部の難再生性植物体と再生可能植物体とが交わる部分で行われる。好ましくは、切断は、上に接穂細胞の薄層が残るようなものである。好ましくは、それらの接穂細胞は、難再生性植物体からの細胞である。好ましくは、切断は、ちょうど接木接合部の癒傷箇所である。故に、好ましくは工程(b)は、接木接合部又はその近傍に傷を発生させる工程及び付傷処理した接木接合部にカルスを形成させる工程を含み得る。
【0092】
傷は、完全な切断、例えば、横切断であって、接木を2つの植物部位に分けるものであってもよい。任意選択で、傷は、接木癒合部を2つの植物部位に完全に分けるのでなく、しかしカルスの生成を惹起し及び/又は刺激するのに十分である。任意選択で、付傷処理は、接木接合部から組織のスライスを取り、続いてそのスライスを培養してカルスを形成させることにより実施される。好ましくは、前記カルスからシュートを成長させ、ここで前記シュートは、難再生性植物細胞から再生した組織を含み得るか、又はそれからなり得る。換言すれば、好ましくは前記カルスからシュートを成長させ、ここで前記シュートの少なくとも一部は難再生性植物体の細胞からなる。この特別な方法は、育成室又は温室にて周囲条件下で実施される。
【0093】
従って、任意選択で、工程(a)の接触は、難再生性植物体の接穂を再生可能植物体の台木に接木すること、及び接木接合部を癒傷させることにより実施される。任意選択で、前記方法は、工程(b)においてまさに接木接合部のところ又はその近傍に傷を発生させる工程、(付傷処理した)接木接合部にカルスを形成させる工程及び前記カルスからシュートを成長させる工程を更に含み、及びここで前記シュートの少なくとも一部は、難再生性植物体の細胞からなる。
【0094】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、シュートを発生させて選択する方法であって、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と、難再生性植物体及び再生可能植物体の一方の接穂を難再生性植物体及び再生可能植物体の他方の台木に接木することにより接触させる工程であって、接穂と台木との間に接木接合部を形成させることによって接木癒合部を得る工程;
(b)接木接合部又はその近傍に傷を発生させることにより工程(a)の難再生性植物体の接触した細胞にカルスを形成させる工程、及びカルスから1つ以上のシュートを成長させる工程;及び
(c)工程(b)で成長させたシュートを選択する工程であって、前記シュートの少なくとも一部が難再生性植物体の細胞からなる工程
を含む方法である。
【0095】
任意選択で、工程(c)で選択されたシュート内にある難再生性植物体の1つ以上の細胞は、生殖系列前駆細胞である。任意選択で、工程(c)で選択されたシュート内にある難再生性植物体の細胞は、クローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる。
【0096】
好ましくは、工程(a)において再生可能植物体及び難再生性植物体は、好ましくは本明細書に定義するとおりの、実生又は若い栄養繁殖(任意選択でインビトロ)クローン植物体であり、接木は、前記接穂及び台木の中心に位置合わせ及び固定のためのスチールピンを挿入することによって促進し得る。
【0097】
上記に指摘したとおり、異なる植物体の細胞を接触させるための代替的方法が利用可能である。
【0098】
代替的実施形態において、本発明の方法の接触させる工程(a)は、難再生性植物体の1つ以上の単離された細胞を再生可能植物体の1つ以上の単離された細胞と接触させることによって実施されてもよい。従って、工程(a)の難再生性植物体の細胞及び再生可能植物体の細胞は、単離された細胞、好ましくはプロトプラストであってもよい。かかる単離された細胞は、単一細胞であり得る。好ましくは、接触させる工程(a)は、難再生性植物体のプロトプラストを再生可能植物体のプロトプラストと接触させることによって実施される。好ましくは、本発明の方法の工程(a)における単離された細胞は、細胞の細胞膜の凝集を促進する化合物で処理される。
【0099】
好ましくは、このプロセスの中で、難再生性植物体及び再生可能植物体の両方の1つ以上の単離された細胞は、プロトプラストである。好ましい実施形態において、難再生性及び再生可能植物体のプロトプラストは、限定はされないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ヤリブ抗原又は試薬(1,3,5-トリス(4-β-D-グリコピラノシルオキシフェニルアゾ)-2,4,6-トリヒドロキシベンゼン)、ビオチン-ストレプトアビジン及び抗体のうちの少なくとも1つによって媒介される凝集など(例えば、Yariv et al.(1962)Biochem.J.85,383-388;Hartmann et al.Planta(Berl.)1973,112;45-56;Larkin,J.Cell Sci.1978,30;283-282;Kesteren and Tempelaar,Plant Science 1993,93;131-141を参照のこと)、それらのプロトプラストの膜の接着を促進する当該技術分野において公知の方法を用いて接触させる。かかる方法は、例えばPEG処理、好ましくは約15%PEGを含む溶液を使用した処理による、プロトプラストが互いに近接した状態になるのを促進する処理を含んでもよく、ここで前記PEGは好ましくは、PEG 3350MWである。好ましくは、前記PEG溶液は、以下の本明細書の実施例に例示されるとおりのPEG溶液である。或いは、又はそれに加えて、かかる方法は、凝集したプロトプラストが密着して接触した状態になることができるように、高Ca2+イオン濃度及び高pH、好ましくは約50mM Ca2+イオンの濃度で少なくとも10のpH、好ましくはpH10.5での処理など、正常な表面電荷を中和する処理を含み得る。好ましくは、前記中和溶液は、本明細書の以下の実施例(実施例2)に例示されるとおりの中和溶液である。好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(a)は、以下の(サブ)工程:
(a1)再生可能植物体のプロトプラスト及び難再生性植物体のプロトプラストの単離工程;
(a2)難再生性植物体の単離されたプロトプラストを再生可能植物体の単離されたプロトプラストと混合する工程;
(a3)混合物をPEGで処理する工程;及び
(a4)混合物を中和溶液で処理する工程
を含む。
【0100】
任意選択で、工程(a2)の前及び工程(a1)の後に、再生可能植物体のプロトプラストが、有糸分裂を阻害する薬剤で処理される。
【0101】
加えて、又はその代わりに、かかる方法は、植物細胞及び/又はプロトプラストの細胞膜を一体に連結することによりプロトプラストの接着又は凝集を促進する工程を含み得る。換言すれば、好ましくは、本発明の方法の工程a)では、植物細胞の細胞膜を一体に連結する連結試薬を使用することができる。
【0102】
好ましくは、連結試薬は、植物細胞に存在するガラクタン及び/又はアラビノガラクタンタンパク質(AGP)を結合し、好ましくは選択的に結合し、それによって植物細胞を一体に連結する。
【0103】
好ましい連結試薬はヤリブである。ヤリブ(1,3,5-トリ(p-グリコシルオキシフェニルアゾ)-2,4,6-トリヒドロキシベンゼン)は、プロトプラストを連結する能力のある化合物である。好ましくは、本発明の方法では、グルコース、ガラクトース又はマンノース、マルトース、キシロース、ラクトース及びセルロースからなる群から選択されるグリコシル基を含むヤリブが使用される。好ましくはヤリブは、3個のβ-Dグリコシル基を含む。従って、更に好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(a)は、以下の(サブ)工程:
(a-i)再生可能植物体のプロトプラスト及び難再生性植物体のプロトプラストの単離工程;
(a-ii)再生可能植物体のプロトプラストを難再生性植物体のプロトプラストと混合する工程;
(a-iii)混合物をプロトプラスト連結試薬で処理する工程;及び
(a-iv)連結したプロトプラストを回収する工程
を含む。
【0104】
工程(a-iv)では、好ましくは(連結した)プロトプラストは、大量のプロトプラスト培地、限定はされないが、9M(9%(w/v)マンニトール、140mg/L CaCl.HO、580mg/L MES、pH5.8)などで好ましくは洗浄される。好ましくは、続いて、本発明の方法の工程(b)で培養するため、工程(a)の接触させた及び/又は連結したプロトプラストをヒドロゲル、好ましくはアルギン酸塩ポリマーに包埋する。
【0105】
本発明はまた、本明細書に定義するとおりの難再生性植物細胞の再生のための植物細胞膜を連結する薬剤の使用も提供する。好ましくは、前記連結剤は、β-D-ガラクトシルヤリブである。
【0106】
再生可能植物体のプロトプラストと難再生性植物体のプロトプラストとは、好ましくは、接触させる前及び/又は連結する前に、細胞型及び/又は種に応じて約1:1、1:2、1:3、1:4、1:5等の比で混合される。再生可能植物細胞と比べた難再生性植物細胞の存在量は、再生可能植物細胞が難再生性植物細胞を打ち負かし得るのを防ぐことが好ましいものであり得る。好ましくは、工程(a)における接触は、好ましくはプロトプラスト混合物を本明細書に指示するとおりの連結剤で処理した後又はその最中に(即ち工程(a-iii)の最中又はその後に)、一体に押し付け、それによって混合プロトプラスト間(好ましくは約10~約100個のプロトプラスト)の接触を更に増加させることにより実施される。これは、本明細書に例示されるとおりのメッシュを使用して、メッシュの穴において複数のプロトプラストを互いに物理的に接触させるようにして実現することができる。好ましい方法では、複数のプロトプラストは、本発明の方法の工程(a)においてプロトプラストを連結剤で処理している最中に互いに接触させる。連結、好ましくはヤリブ試薬による連結は、好ましくは約15~約30分間実施される。
【0107】
工程(b)は、再生可能植物体又は植物細胞の再生を許容する条件下、好ましくはシュート形成に好適な条件下で実施される。こうした条件は、本明細書では、少なくとも再生可能植物体又は植物細胞が再生するための最小必要要件であると理解され、一般に、これには、前記植物体又は植物細胞の通常の成長条件が少なくとも含まれる。好ましくは、工程(b)は、工程(a)の再生可能植物体又は再生可能植物細胞が再生するのに好適な条件下で実施される。好ましくは、工程(b)は、シュート形成前のカルスの形成を含む。従って、工程(b)は、(b1)少なくとも難再生性植物体の接触させた細胞にカルスを形成させるサブ工程;及び(b2)前記カルスからシュートを成長させるサブ工程を含んでもよく、ここで任意選択で(b1)及び(b2)の培養条件は異なる。より詳細には、工程(b1)は、少なくとも再生可能植物体の細胞がカルスを形成するのに好適な条件下で実施されてもよく;及び工程(b2)は、再生可能植物体カルスがシュートを形成するのに好適な条件下で実施されてもよい。当業者は、再生可能植物体についてのカルス及び/又はシュート再生に好適な条件を認識している。好ましくは、工程(b)において難再生性植物細胞に加え、再生可能細胞もまた再生してシュートを形成する。任意選択で、難再生性植物細胞に加え、再生可能細胞もまた工程(b1)で再生してカルスを形成し、任意選択で、前記カルスもまた工程(b2)で再生してシュートを形成する。従って、任意選択で、工程(b)、(b1)及び/又は(b2)において再生可能細胞と難再生性細胞とが共再生する。
【0108】
カルスは、工程(b)の再生プロセスの最中に(シュート)器官形成又は体細胞胚形成によって形成され得る。形成されるカルスの量は、例えば、本発明の方法で使用する植物種及び/又はシュート形成を許容する使用する条件に依存し得る。例えば、インビトロでの、及び/又は接木及び付傷処理後の前記カルス形成は、自然発生的に、即ち1つ以上の外部から供給された植物ホルモンの非存在下で起こり得る。同様に、工程(b)における、例えば任意選択のカルス形成後のシュートの形成も、自然発生的に、ひいては1つ以上の外部から供給された植物ホルモンの非存在下で起こり得る。或いは、カルスの前記形成は、1つ以上の植物ホルモンの存在下で誘導し、及び/又は増大させてもよい。或いは、又はそれに加えて、工程(b)におけるシュートの形成は、1つ以上の植物ホルモンの存在下で誘導し、及び/又は増大させてもよい。
【0109】
詳細な実施形態において、本発明の方法の工程(a)における細胞の接触と工程(b)におけるシュートの形成との間のカルスの形成は、最小限である。これは、再生可能植物体の細胞が難再生性植物体の細胞を打ち負かすことが回避されるため、特に好ましい。従ってカルス段階が最小限であれば、難再生性植物体の細胞を含む、又はそれからなるシュートが成長する可能性が高くなり得る。
【0110】
植物組織におけるシュート再生を誘導するため、1つ以上のサイトカイニンと1つ以上のオーキシンとの組み合わせを利用し得る。
【0111】
本発明の方法に使用し得るサイトカイニンは、アデニン型サイトカイニン又はフェニル尿素型サイトカイニンであり得る。同様に、サイトカイニンは、自然に産生されるフィトホルモンであってもよく、又は合成の化合物であってもよい。アデニン型サイトカイニンは、根、種子及び果実のうちの少なくとも1つで合成されるフィトホルモンであり得る。加えて、形成層及び他の活発に分裂している組織もまた、サイトカイニンを合成し得る。天然に存在するアデニン型サイトカイニンの非限定的な例は、ゼアチン並びにその代謝前駆体2iPである。合成のアデニン型サイトカイニンの非限定的な例は、カイネチン及び6-ベンジルアミノプリン(BAP)である。チジアズロン及びCPPUなど、置換尿素化合物は、植物体には存在しないが、組織培養下ではサイトカイニンとして働くことができる。アデニン型サイトカイニンは、カイネチン、ゼアチン、トランス-ゼアチン、cis-ゼアチン、ジヒドロゼアチン、6-ベンジルアミノプリン及び2iP、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。フェニル尿素型のサイトカイニンは、ジフェニル尿素又はチジアズロンであり得る。当該技術分野において、添加するサイトカイニンの種類は植物細胞の種類に依存することは公知であり、当業者は、必要に応じて、好適なサイトカイニンをごく簡単に選択することができる。
【0112】
或いは、又はそれに加えて、植物ホルモンはオーキシンであってもよい。オーキシンは、内因的に合成されたオーキシンであり得る。内因性に合成されたオーキシンは、インドール-3-酢酸(IAA)、4-クロロインドール-3-酢酸、フェニル酢酸、インドール-3-酪酸及びインドール-3-プロピオン酸からなる群から選択することができる。オーキシンは、合成オーキシン、例えばオーキシン類似体であり得る。合成オーキシンは、1-ナフタレン酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、α-ナフタレン酢酸(α-NAA)、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸(ジカンバ)、4-アミノ-3,5,6-トリクロロピコリン酸(トルドン又はピクロラム)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、インドール-3-酪酸(IBA)及び2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)のうちの少なくとも1つであり得る。オーキシンは、1-ナフタレン酢酸(NAA)であり得る。
【0113】
サイトカイニンとオーキシンとの組み合わせによるシュート器官形成のためには、好ましくはオーキシンに対するサイトカイニンの比が、好ましくは1より大きくなければならない(Dodds,JH and Roberts,LW(1985)Experiments in plant tissue culture.Cambridge University Press,Cambridge,UK)。
【0114】
任意選択で、工程(b)において最初のカルス形成が刺激され(工程b1)、続いてシュート形成が刺激される(工程b2)。工程(b1)は、再生可能植物体のカルス形成を許容する条件を使用して実施されてもよい。任意選択で、工程(b1)は、再生可能植物体のカルス形成を許容する最小限の条件を使用して実施される。好ましい実施形態において、工程(b1)は、再生可能植物体のカルス形成に最適な条件を使用して実施される。工程(b2)は、再生可能植物体のシュート形成を許容する条件を使用して実施されてもよい。任意選択で、工程(b2)は、再生可能植物体のシュート形成を許容する最小限の条件を使用して実施される。好ましい実施形態において、工程(b2)は、再生可能植物体のシュート形成に最適な条件を使用して実施される。
【0115】
本発明の方法は、工程(c)で選択されたシュートから植物体を成長させる工程(d)を更に含み得る。
【0116】
任意選択で、本発明の方法の工程(c)において、難再生性植物体の生殖系列前駆細胞を含むシュートが選択される。かかるシュートは、工程(a)で使用される難再生性植物細胞に由来する生殖系列前駆細胞及び/又は生殖系列細胞(例えば、配偶子、卵細胞、精細胞)を含む植物体を生じさせることができる。生殖系列細胞は、有性生殖用の配偶子を形成し得る。かかる植物体は、続いて種子の作製に使用することができ、ここで前記種子は胚を含み、及びここで胚の遺伝子型の少なくとも一部は本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞に由来し、任意選択で種子は自殖又は戻し交配によって得られる。
【0117】
任意選択で、本発明の方法の工程(c)では、難再生性植物体のクローン繁殖組織又は植物部位を生じさせ得る細胞、即ち、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞から再生したクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせ得る細胞を含むシュートが選択される。かかるシュートは、クローン繁殖に使用し得る難再生性植物細胞に由来する植物部位を含む植物体を生じさせることができる。かかる植物部位は、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞と同じ又は実質的に同じ遺伝子型を有する。
【0118】
選択されたシュートは、再生可能植物体の細胞を実質的に含まないものであり得る。かかるシュートは、難再生性植物体の細胞から(即ち難再生性植物細胞から再生した細胞から)なってもよく、前記シュートの(栄養)繁殖による、即ち前記シュートから全植物体を成長させることによる難再生性植物体の作製に使用することができる。シュートを選択する工程は、当業者に公知の任意の従来方法を用いて実施することができる。
【0119】
選択は、難再生性植物体の細胞に存在する、及び/又は難再生性植物体のシュート分裂組織層に存在するが、再生可能植物体の細胞に存在しない、及び/又は再生可能植物体のシュート分裂組織層に存在しない表現型特徴及び/又は分子マーカーを決定する工程を含み得る。或いは、又はそれに加えて、選択は、難再生性植物体の細胞に存在しない、及び/又は難再生性植物体のシュート分裂組織層に存在しないが、再生可能植物体の細胞に存在する、及び/又は再生可能植物体のシュート分裂組織層に存在する表現型特徴及び/又は分子マーカーを決定する工程を含み得る。好ましくは、選択は、難再生性植物体の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖植物部位に存在するが、再生可能植物体の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位に存在しない表現型特徴及び/又は分子マーカーを決定する工程を含み得る。或いは、又はそれに加えて、選択は、難再生性植物体の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位に存在しないが、再生可能植物体の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位に存在する表現型特徴及び/又は分子マーカーを決定する工程を含み得る。分子マーカーは、好ましくは、難再生性植物体に存在するか、又は再生可能植物体に存在するかのいずれかのゲノム配列である。
【0120】
或いは、又はそれに加えて、工程(c)及び/又は(d)は、(再生した)シュートを、ネガティブ選択マーカーを発現する(植物)細胞にとって毒性の化合物と接触した状態に至らせる工程を含み得る。この実施形態において、ネガティブ選択マーカーは、再生可能植物体の細胞に発現し、好ましくはネガティブ選択マーカーは、再生可能植物体の少なくとも生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位に発現する。任意選択で、毒性選択マーカーが、任意選択で誘導性プロモーターの制御下にある、再生可能細胞(のゲノム)によってコードされる。誘導性プロモーターを活性化させる物質にかかる細胞を曝露することにより、毒性選択マーカーが発現し、好ましくは再生可能細胞が死滅する。任意選択で、毒性選択マーカーの前駆体が、再生可能細胞における(そのゲノム)によってコードされる。前駆体から毒性成分への変換を活性化させる物質にかかる細胞を曝露することにより、好ましくはそれによって再生可能細胞を殺傷する。
【0121】
或いは、又はそれに加えて、工程(c)及び/又は(d)は、(再生した)シュートを、(植物)細胞にとって毒性の、しかしポジティブ選択マーカーの発現によって非毒性化合物に変換することのできる化合物と接触した状態に至らせる工程を含み得る。この実施形態において、ポジティブ選択マーカーは難再生性植物体のシュート分裂組織層に発現し、好ましくはポジティブ選択マーカーは、難再生性植物体の少なくとも生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位に発現する。
【0122】
好ましい実施形態において、本発明の方法の工程(c)で選択される発生したシュートの少なくとも1つ以上の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位は、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含む。好ましくは、発生したシュートのL1、L2及び/又はL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも1つは、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含む。好ましくは、発生したシュートの少なくともL2シュート分裂組織層は、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含む。
【0123】
トランス遺伝子又は突然変異は、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の細胞に、任意選択で本発明の方法の工程(a)の再生可能植物体の細胞に存在し得る。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の細胞に存在する。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、本発明の方法の工程(c)で選択される発生したシュートの難再生性植物体の少なくとも生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位に存在する。任意選択で、トランス遺伝子又は突然変異は、工程(c)で選択される発生したシュートの全て又は実質的に全ての細胞に存在し、ここで前記細胞は、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞から再生された細胞である。好ましくは、発生したシュートの少なくともL2シュート分裂組織層が、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含み、ここで少なくともL2シュート分裂組織層は難再生性植物体のものであり、即ち換言すれば、工程(a)で提供される難再生性植物細胞から再生される。続くかかるシュートから作製される種子は、好ましくは前記種子の胚内に、前記トランス遺伝子又は突然変異を含み得る。
【0124】
従って好ましくは本発明の方法は、工程(a)の難再生性植物体の細胞に目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を導入する工程を含む。或いは、又はそれに加えて、本発明の方法は(更に)、工程(a)の難再生性植物体を起源とする、且つ工程(b)で形成されたシュート、任意選択で工程(b)で形成されたカルスに存在する細胞に目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を導入する工程を含む。
【0125】
トランス遺伝子又は突然変異は、難再生性植物体の細胞へと(任意選択で1つ以上の細胞に)、工程(a)においてその1つ又は複数の細胞を再生可能植物体の細胞(任意選択で1つ以上の細胞)と接触させる前に導入されてもよい。非限定的な例として、トランス遺伝子又は突然変異を難再生性植物体の1つ以上の細胞に導入し、続いてそれらの細胞を再生可能植物体の1つ以上の細胞と共培養することができる。難再生性植物体及び/又は再生可能植物体のこれらの細胞は、任意選択でプロトプラスト、又はカルス若しくは茎スライス(若しくは接合部スライス)の一部であってもよい。同様に、トランス遺伝子又は突然変異を難再生性植物体の1つ以上の細胞に導入することができ、トランス遺伝子又は突然変異を担持するこの難再生性植物体の細胞を、任意選択で形質転換されていない又は突然変異していない再生可能植物体の細胞上に接ぎ合わせてもよい。
【0126】
或いは、又はそれに加えて、トランス遺伝子又は突然変異は、難再生性植物体の1つ以上の細胞を再生可能植物体の1つ以上の細胞と接触させた後に、難再生性植物体の1つ以上の細胞に導入されてもよい。トランス遺伝子又は突然変異は、好ましくはシュート形成前に導入される。このように好ましくは、突然変異を導入する工程は、本明細書に定義するとおりの方法の工程(b2)より前であり、しかし工程(a)又は(b1)の最中又はその後であってもよい。
【0127】
非限定的な例として、難再生性植物体の1つ以上の細胞を再生可能植物体の1つ以上の細胞とインビトロで接触させ、又は共培養し、続いて難再生性植物体の1つ以上の細胞へとトランス遺伝子又は突然変異を導入してもよい。任意選択で、接触させる又は「共培養する」細胞は、難再生性植物体の少なくとも1つ以上の細胞にトランス遺伝子又は突然変異を導入する前に、初めにカルスを形成させる。トランス遺伝子又は突然変異はまた、再生可能植物体の1つ以上の細胞に導入されてもよい。
【0128】
同様に、難再生性植物体の1つ以上の細胞を再生可能植物体の1つ以上の細胞上に接ぎ合わせてから、続いて難再生性植物体の1つ以上の細胞に目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を導入してもよい。トランス遺伝子又は突然変異はまた、再生可能植物体の1つ以上の細胞に導入されてもよい。任意選択で、接木した切断面は、難再生性植物体の少なくとも1つ以上の細胞にトランス遺伝子又は突然変異を導入する前に、初めに癒傷させる。任意選択で、接木癒合部は、難再生性植物体の少なくとも1つ以上の細胞にトランス遺伝子又は突然変異を導入する前に、初めに切断され、又は「付傷処理」される。任意選択で、接触させる細胞は、難再生性植物体の少なくとも1つ以上の細胞にトランス遺伝子又は突然変異を導入する前に、初めにカルスを形成させる。
【0129】
好ましくは、本発明の方法の工程(c)で選択されるシュートは、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の細胞から再生した細胞に目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を含む。シュートは好ましくは、本発明の方法の工程(a)の難再生性細胞から再生したL1、L2及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも1つにトランス遺伝子又は突然変異を含む。好ましくは、選択されたシュートの少なくとも生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位は、本発明の方法の工程(a)の難再生性細胞から再生され、目的の遺伝子にトランス遺伝子又は突然変異を含む。故に、本発明の好ましい方法は、植物体のシュートを発生させて選択する方法であり、ここでシュートは生殖系列前駆細胞を含み、及び/又は難再生性植物体のクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる細胞を含み、及びここで生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖植物組織及び/又は植物部位の1つ以上は、目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を含む。好ましくは、全て又は実質的に全ての生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位が、目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を含む。
【0130】
トランス遺伝子又は突然変異は、少なくともL2シュート分裂組織層に存在し得る。故に、本発明の好ましい方法は、植物体のシュートを発生させて選択する方法であり、ここでシュートは難再生性植物体のL2シュート分裂組織層を含み、及びここでL2シュート分裂組織層の1つ以上の細胞は、目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を含む。好ましくは、少なくともL2シュート分裂組織層の全て又は実質的に全ての細胞が、目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を含む。任意選択で、トランス遺伝子又は突然変異は、工程(c)で選択される発生したシュートの全て又は実質的に全ての細胞に存在し、ここで前記細胞は、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物細胞から再生された細胞である。
【0131】
本発明の方法において目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を導入すると、好ましくは、限定はされないが、増加した収穫量、病害抵抗性、作物栽培学的形質、非生物的形質、タンパク質組成、油組成、デンプン組成、虫害抵抗性、稔性、サイレージ、及び形態学的形質など、1つ以上の改良された表現型特性が生じる。
【0132】
トランス遺伝子は、植物体、植物部位、カルス、植物細胞又はプロトプラストをトランスフェクトする当業者に公知の任意の方法を用いて安定した又はトランスジェニックなトランスフェクションにより導入されてもよい。
【0133】
突然変異は、本明細書では、ヌクレオチド配列の遺伝子コードの改変(1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失又は置換)、又はメチル化の変化など、後成的改変のいずれかと理解されるべきである。突然変異は、ランダム突然変異誘発又は標的突然変異誘発によって導入されてもよく、後者はまた、プログラム化ゲノム編集とも称される。ランダム突然変異誘発は、限定はされないが、化学的突然変異誘発及びガンマ線照射であってもよい。化学的突然変異誘発の非限定的な例としては、限定はされないが、EMS(エチルメタンスルホネート)、MMS(メチルメタンスルホネート)、NaN3(ナトリウムアジド)D)、ENU(N-エチル-N-ニトロソウレア)、AzaC(アザシチジン)及びNQO(4-ニトロキノリン1-オキシド)が挙げられる。任意選択で、TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomics;McCallum et al.,2000,Nat Biotech 18:455、及びMcCallum et al.2000,Plant Physiol.123,439-442(両方とも参照により本明細書に援用される))などの突然変異誘発システムを使用して、難再生性植物体の細胞に突然変異を作成し得る。TILLINGでは、従来の化学的突然変異誘発(例えばEMS突然変異誘発)と、続いて突然変異に関するハイスループットスクリーニングが用いられる。このように、TILLINGを用いて、所望の突然変異の1つ以上を有する遺伝子を含む植物体、種子及び組織を入手し得る。好ましくは、所望の突然変異の1つ以上を有する遺伝子を含む植物体、種子及び組織は、国際公開第2007/037678号パンフレット(これは参照により本明細書に援用される)に記載されるとおりのKeyPoint(登録商標)Breedingを用いて入手し得る。
【0134】
標的突然変異誘発又はプログラム化ゲノム編集は、限定はされないが、オリゴ特異的突然変異誘発、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(例えばCRISPR技術)、TALEN、メガヌクレアーゼ又はジンクフィンガー技術など、特定のヌクレオチド又は核酸配列を改変するように設計することのできる突然変異誘発である。
【0135】
好ましくは、標的突然変異誘発は、部位特異的タンパク質、好ましくは部位特異的エンドヌクレアーゼによって導入される。部位特異的エンドヌクレアーゼは、好ましくは、ガイドRNAと複合体化したCRISPRタンパク質、TALEN、ジンクフィンガータンパク質、メガヌクレアーゼ及びアルゴノート複合体のうちの少なくとも1つである。好ましくは、部位特異的エンドヌクレアーゼは、ガイドRNAと複合体化したCRISPRタンパク質である。
【0136】
本発明の方法に使用されるCRISPRタンパク質複合体の一部であるCRISPRタンパク質は、好ましくは、CRISPRエンドヌクレアーゼ、CRISPRニッカーゼ及びCRISPRデアミナーゼのうちの少なくとも1つである。好ましくは、CRISPRタンパク質は、CRISPRエンドヌクレアーゼである。
【0137】
CRISPRタンパク質は、当該技術分野において公知の任意の好適なCRISPRタンパク質であり得る。任意選択で、CRISPRタンパク質は、CRISPRタンパク質を植物細胞の核へと導く核局在化シグナル(NLS)を含む。任意の公知の核局在化シグナルが、本発明での使用に好適であり得る。好ましい核局在化シグナルとしては、限定はされないが、SV40ラージT抗原のNLS、MEDPTMAPKKKRKV(配列番号1)及びヌクレオプラスミンのNLS、KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号2)が挙げられる。
【0138】
CRISPRエンドヌクレアーゼは、ヌクレアーゼドメインと、ガイドRNAと相互作用する少なくとも1つのドメインとを含む。ガイドRNAと複合体化すると、CRISPRタンパク質複合体はガイドRNAによって特異的核酸配列へと導かれる。ガイドRNAはCRISPRエンドヌクレアーゼとも、並びに標的特異的核酸配列とも相互作用し、そのため、CRISPRエンドヌクレアーゼは、標的核酸配列を含む部位へとガイド配列によって導かれると、標的部位に二本鎖切断を導入することが可能である。
【0139】
CRISPRタンパク質がCRISPRエンドヌクレアーゼである場合、ヌクレアーゼの両方のドメインに触媒活性があり、このタンパク質は、標的部位に二本鎖切断を導入することが可能である。CRISPRタンパク質がCRISPRニッカーゼである場合、ヌクレアーゼの一方のドメインに触媒活性があって、一方のドメインは触媒的に不活性であり、このタンパク質は、標的部位に一本鎖切断を導入することが可能である。
【0140】
当業者は、ガイドRNAがCRISPRエンドヌクレアーゼ又はCRISPRニッカーゼと組み合わせになったとき、核酸分子の所定の部位における一本鎖又は二本鎖切断の導入を達成するようにするには、ガイドRNAをどのように設計すればよいかを十分に認識している。
【0141】
CRISPRタンパク質は、コアエレメントの内容及び配列に基づいて6つの主要なタイプ(I~VI型)に大別することができ、これらは更に、サブタイプに細分される(Makarova et al,2011,Nat Rev Microbiol 9:467-77及びWright et al,2016,Cell 164(1-2):29-44)。一般に、CRISPRタンパク質複合体の2つの鍵となるエレメントは、CRISPRタンパク質及びガイドRNAである。
【0142】
II型CRISPRタンパク質複合体は、単一のタンパク質(約160KDa)であって、二重鎖DNAを特異的に切断する能力のあるシグネチャーCas9タンパク質を含む。Cas9タンパク質は、典型的には、2つのヌクレアーゼドメイン、アミノ末端近傍のRuvC様ヌクレアーゼドメインと、タンパク質の中央近傍のHNH(又はMcrA様)ヌクレアーゼドメインとを持っている。Cas9タンパク質の各ヌクレアーゼドメインは、二重らせんの一方の鎖の切断に特化している(Jinek et al,2012,Science 337(6096):816-821)。Cas9タンパク質は、II型CRISPR-CASタンパク質複合体のCASタンパク質の一例であり、crRNA及びトランス活性化crRNA(tracrRNA)と呼ばれる第2のRNAと組み合わせになると、エンドヌクレアーゼを形成する。crRNA及びtracrRNAは、一体となってガイドRNAとして機能する。CRISPRタンパク質複合体は、crRNAによって定義されるゲノム中の位置にDNA二本鎖切断(DSB)を導入する。Jinek et al.(2012,Science 337:816-820)は、crRNA及びtracrRNAの必須の部分を融合することによって作られる単鎖キメラガイドRNA(本明細書では「sgRNA」又は「シングルガイドRNA」として定義される)が、Cas9タンパク質との組み合わせで機能性のCRISPRタンパク質複合体を形成することが可能であったことを実証した。
【0143】
V型CRISPRタンパク質複合体、プレボテラ属(Prevotella)及びフランシセラ属(Francisella)からのクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)1又はCRISPR/Cpf1が記載されている。Cpf1遺伝子は、CRISPR遺伝子座と会合し、crRNAを使用してDNAを標的化するエンドヌクレアーゼをコードする。Cpf1は、Cas9よりも小さいエンドヌクレアーゼであり、CRISPR-Cas9システムの限界の一部を克服するものであり得る。Cpf1は、tracrRNAを欠くシングルRNA誘導型エンドヌクレアーゼであり、これはTリッチなプロトスペーサー隣接モチーフを利用する。Cpf1は、付着末端型のDNA二本鎖切断によってDNAを切断する(Zetsche et al(2015)Cell 163(3):759-771)。V型CRISPRタンパク質システムには、好ましくは、Cpf1、C2c1及びC2c3のうちの少なくとも1つが含まれる。
【0144】
本発明において使用されるCRISPRタンパク質複合体は、本明細書において上記に定義されるとおりの任意のCRISPRタンパク質を含み得る。好ましくは、CRISPRタンパク質は、II型CRISPRタンパク質、好ましくはII型CRISPRエンドヌクレアーゼ、例えば、Cas9(例えば、配列番号4によってコードされる、配列番号3のタンパク質、又は配列番号5のタンパク質)又はV型CRISPRタンパク質、好ましくはV型CRISPRエンドヌクレアーゼ、例えばCpf1(例えば、配列番号7によってコードされる、配列番号6のタンパク質)又はMad7(例えば配列番号8又は9のタンパク質)、又はそれらに由来する、その長さ全体にわたって前記タンパク質と好ましくは少なくとも約70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するタンパク質である。
【0145】
好ましくは、CRISPRタンパク質は、II型CRISPRエンドヌクレアーゼ、好ましくはCas9エンドヌクレアーゼである。
【0146】
当業者には、本発明の方法における使用のためのCRISPRタンパク質をどのように見付け出し、調製すればよいかは公知である。先行技術では、その設計及び使用に関して数多くの報告が利用可能である。例えば、ガイドRNAの設計及びそれをCASタンパク質(元は化膿レンサ球菌(S.pyogenes)から入手された)と組み合わせた使用に関するHaeussler et al(J Genet Genomics.(2016)43(5):239-50.doi:10.1016/j.jgg.2016.04.008.)によるレビュー、又はLee et al.(Plant Biotechnology Journal(2016)14(2)448-462)によるレビューを参照のこと。
【0147】
一般に、Cas9などのCRISPRエンドヌクレアーゼは、触媒活性のあるヌクレアーゼドメインを2つ含む。例えば、Cas9タンパク質は、RuvC様ヌクレアーゼドメインとHNH様ヌクレアーゼドメインとを含むことができる。RuvC及びHNHドメインは一体となって働き、両方とも一本鎖を切断するため、DNAに二本鎖切断が作り出される(Jinek et al.,Science,337:816-821)。
【0148】
デッド型CRISPRエンドヌクレアーゼは、いずれのヌクレアーゼドメインも切断活性を示さないような修飾を含む。CRISPRニッカーゼは、ヌクレアーゼドメインのうちの1つが、それがもはや機能性でなくなる(即ち、ヌクレアーゼ活性が存在しない)ように突然変異しているCRISPRエンドヌクレアーゼの変異体であり得る。一例は、D10A又はH840Aのいずれかの突然変異を有するSpCas9変異体である。
【0149】
CRISPRタンパク質は、II型又はV型CRISPRタンパク質全体又はその変異体若しくは機能性断片を含み得るか、又はそれからなり得る。好ましくは、かかる断片はガイドRNAと結合し、エンドヌクレアーゼ活性を少なくとも部分的に維持している。
【0150】
好ましくは、本発明の方法に使用されるCRISPRタンパク質は、Cas9タンパク質である。Cas9タンパク質は、細菌の化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)(SpCas9;NCBI参照配列NC_017053.1;UniProtKB-Q99ZW2)、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)(UniProtKB-A0A178TEJ9)、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerous)(NCBI参照:NC_015683.1、NC_017317.1);ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheria)(NCBI参照:NC_016782.1、NC_016786.1);スピロプラズマ・シルフィディコーラ(Spiroplasma syrphidicola)(NCBI参照:NC_021284.1);プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)(NCBI参照:NC_017861.1);スピロプラズマ・タイワネンス(Spiroplasma taiwanense)(NCBI参照:NC_021846.1);ストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)(NCBI参照:NC_021314.1);ベルリエラ・バルティカ(Belliella baltica)(NCBI参照:NC_018010.1);サイクロフレクサス・トークイス(Psychroflexus torquis)l(NCBI参照:NC_018721.1);ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(NCBI参照:YP_820832.1);リステリア・イノキュア(Listeria innocua)(NCBI参照:NP_472073.1);カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(NCBI参照:YP_002344900.1);又は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(NCBI参照:YP_002342100.1)に由来し得る。これらからの、SpCas9に対する不活性化型HNH又はRuvCドメインホモログを有するCas9変異体、例えば、SpCas9_D10A又はSpCas9_H840A、又はSpCas9タンパク質のD10又はH840に対応する位置に等価な置換を有することによりニッカーゼにされたCas9が包含される。
【0151】
本発明の方法に使用されるCRISPRタンパク質は、Cpf1、例えば、アシダミノコッカス属種(Acidaminococcus sp)からのCpf1;UniProtKB-U2UMQ6であってもよく、又はそれに由来してもよい。この変異体は、不活性化型RuvC又はNUCドメインを有するCpf1ニッカーゼであってもよく、ここでRuvC又はNUCドメインは、もはやそれ以上ヌクレアーゼ活性を有しない。当業者は、部位特異的突然変異誘発、PCR媒介性突然変異誘発、及び不活性化型RuvC又はNUCドメインなど、不活性化型ヌクレアーゼを許容する全遺伝子合成など、当該技術分野で利用可能な技法を十分に認識している。不活性なNUCドメインを伴うCpf1ニッカーゼの一例は、Cpf1 R1226Aである(Gao et al.Cell Research(2016)26:901-913、Yamano et al.Cell(2016)165(4):949-962を参照のこと)。この変異体では、NUCドメインにアルギニンからアラニンへの(R1226A)変換があり、それがNUCドメインを不活性にする。
【0152】
本発明の方法に使用されるCRISPRタンパク質は、Cas9の約半分のサイズのヌクレアーゼであるCRISPR-CasΦであってもよく、又はそれに由来してもよい。CRISPR-CasΦは、例えば、Pausch et al(CRISPR-CasΦ from huge phages is a hypercompact genome editor,Science(2020);369(6501):333-337)に記載されるとおり、核酸のターゲティング及び切断に単一のcrRNAを使用する。
【0153】
本発明の方法においては、例えば、ガイドRNAによって決まるとおりのDNAの特異的部位へと本明細書に詳述するとおりの融合した機能ドメインを導くため、活性な、部分的に活性な、又はデッド型のCRISPRタンパク質を使用し得る。
【0154】
故に、CRISPRタンパク質は機能ドメインに融合されてもよい。任意選択で、かかる機能ドメインは、後成的修飾用のもの、例えばヒストン修飾ドメインである。後成的修飾用のドメインは、メチルトランスフェラーゼ、デメチラーゼ、デアセチラーゼ、メチラーゼ、デアセチラーゼ、デオキシゲナーゼ(deoxygenase)、グリコシラーゼ及びアセチラーゼからなる群から選択することができる(Cano-Rodriguez et al,Curr Genet Med Rep(2016)4:170-179)。メチルトランスフェラーゼは、G9a、Suv39h1、DNMT3、PRDM9及びDot1Lからなる群から選択されてもよい。デメチラーゼは、LSD1であってもよい。デアセチラーゼは、SIRT6又はSIRT3であってもよい。メチラーゼは、KYP、TgSET8及びNUEのうちの少なくとも1つであってもよい。デアセチラーゼは、HDAC8、RPD3、Sir2a及びSin3aからなる群から選択されてもよい。デオキシゲナーゼ(deoxygenase)は、TET1、TET2及びTET3、好ましくはTET1cdのうちの少なくとも1つであってもよい(Gallego-Bartolome J et al,Proc Natl Acad Sci U S A.(2018);115(9):E2125-E2134)。グリコシラーゼは、TDGであってもよい。アセチラーゼは、p300であってもよい。
【0155】
任意選択で、機能ドメインは、アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)デアミナーゼファミリー、活性化誘導シトシンデアミナーゼ(AID)、ACF1/ASEデアミナーゼ、アデニンデアミナーゼ、及びADATファミリーデアミナーゼからなる群から選択されるデアミナーゼ、又はその機能性断片である。或いは、又はそれに加えて、デアミナーゼ又はその機能性断片は、ADAR1又はADAR2、又はその変異体であってもよい。
【0156】
アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)シトシンデアミナーゼ酵素ファミリーは、制御された有益な方法で突然変異誘発を惹起する働きをする11種のタンパク質を包含する。好ましくは、APOBECデアミナーゼは、APOBEC1、APOBEC2、APOBEC3A、APOBEC3B、APOBEC3C、APOBEC3D、APOBEC3F、APOBEC3G、APOBEC3H、APOBEC4及び活性化誘導性(シチジン)デアミナーゼからなる群から選択される。好ましくは、APOBECファミリーのシトシンデアミナーゼは、活性化誘導シトシン(又はシチジン)デアミナーゼ(AID)又はアポリポタンパク質B編集複合体3(APOBEC3)である。好ましくは、CRISPRタンパク質に融合したデアミナーゼドメイン APOBEC1ファミリーデアミナーゼ。
【0157】
CRISPRシステムヌクレアーゼに融合し得る別の例示的な好適な種類のデアミナーゼドメインは、アデニン又はアデノシンデアミナーゼ、例えばADATアデニンデアミナーゼファミリーである。更に、アデニンデアミナーゼは、好ましくはGaudelli et al.,2017(Gaudelli et al.2017 Nature 551:464-471)に記載されるとおり、TadA又はその変異体であってもよい。更に、CRISPRシステムヌクレアーゼは、例えばADAR1又はADAR2に由来するアデニンデアミナーゼドメインに融合してもよい。本発明のデアミナーゼドメインは、デアミナーゼタンパク質全体又は触媒活性を有するその断片を含み得るか、又はそれからなり得る。好ましくは、デアミナーゼドメインは、デアミナーゼ活性を有する。任意選択で、CRISPRタンパク質は、UDGインヒビター(UGI)ドメインに更に融合される。
【0158】
本発明の方法に使用されるCRISPRタンパク質は、ガイドRNA分子と複合体化され、ガイドRNA分子がCRISPRタンパク質を植物細胞のゲノムにおける特異的な位置に導いて、標的化されたゲノム修飾を実現する。好ましくは植物細胞は、難再生性植物体の細胞である。任意選択で、植物細胞は、難再生性植物体の生殖細胞系列若しくは生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる細胞である。
【0159】
CRISPRタンパク質とガイドRNAとを含む複合体はまた、リボ核タンパク質複合体ともアノテートされ得る。
【0160】
ガイドRNA分子は、複合体を二本鎖核酸分子内の決められた標的部位、別名プロトスペーサー配列へと向かわせる。ガイドRNA分子は、好ましくは植物細胞のゲノムにおける目的の配列の近傍にあるか、そこにあるか、又はその範囲内にあるプロトスペーサー配列へとCRISPRタンパク質複合体を標的化するための配列を含む。ガイドRNAは、シングルガイド(sg)RNA又はcrRNAとtracrRNAとの組み合わせ(例えばCas9について)又はcrRNAのみ(例えばCpf1及びCasΦの場合)であってもよい。
【0161】
本発明の方法に使用されるCRISPRタンパク質複合体は、このように、ガイドRNA分子を含んでもよく、ここでガイドRNA分子はcrRNAとtracrRNAとの組み合わせを含み、及びここで好ましくはCRISPRタンパク質は、Cas9である。crRNA及びtracrRNAは、好ましくは組み合わせでsgRNA(シングルガイドRNA)になる。或いは、本発明の方法に使用されるCRISPRタンパク質複合体は、ガイドRNA分子を含んでもよく、ここでガイドRNA分子はcrRNAを含み、及びここで好ましくはCRISPRタンパク質は、Cpf1又はCasΦである。
【0162】
本発明の方法に使用されるガイドRNA分子は、目的の配列、好ましくは本明細書に定義するとおりの目的の配列に、又はその近傍にハイブリダイズすることのできる配列を含み得る。ガイドRNA分子は、目的の配列における配列と完全に相補的なヌクレオチド配列を含んでもよく、即ち目的の配列がプロトスペーサー配列を含む。或いは、又はそれに加えて、本発明の方法に使用されるガイドRNA分子は、目的の配列の相補体に、又はその近傍にハイブリダイズすることのできる配列を含み得る。
【0163】
プロトスペーサー配列に相補的なcrRNAの一部は、プロトスペーサー配列とハイブリダイズし、及び複合体化したCRISPRタンパク質の配列特異的結合を導くのに十分なプロトスペーサー配列との相補性を有するように設計される。プロトスペーサー配列は、好ましくはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接しており、このPAM配列が、RNA誘導型CRISPRタンパク質複合体のCRISPRタンパク質と相互作用し得る。例えば、CRISPRタンパク質が化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9である場合、PAM配列は好ましくは、5’-NGG-3’(式中、Nは、T、G、A又はCのいずれか1つであり得る)である。
【0164】
当業者は、好ましくは配列を任意の所望のプロトスペーサー配列にハイブリダイズさせるため、それに対して少なくとも部分的に相補的であるように操作することにより、crRNAを任意の所望の配列を標的化するように操作する能力を有する。好ましくは、crRNA配列の一部とその対応するプロトスペーサー配列との間の相補性は、好適なアラインメントアルゴリズムを使用して最適にアラインメントしたとき、少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は100%である。プロトスペーサー配列に相補的なcrRNA配列の一部は、少なくとも約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75ヌクレオチド長、又はそれ以上であってもよい。一部の好ましい実施形態では、目的の配列に相補的な配列は、約75、50、45、40、35、30、25、20ヌクレオチド長未満である。好ましくは、目的の配列に相補的な配列の長さは、少なくとも17ヌクレオチドである。好ましくは相補的なcrRNA配列は、約10~30ヌクレオチド長、約17~25ヌクレオチド長又は約15~21ヌクレオチド長である。好ましくはプロトスペーサー配列に相補的なcrRNAの一部は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25ヌクレオチド長、好ましくは20又は21ヌクレオチド、好ましくは20ヌクレオチドである。
【0165】
crRNA及びtracrRNAとして好適な分子は、当該技術分野において周知である(例えば、国際公開第2013142578号パンフレット及びJinek et al.,Science(2012)337,816-821を参照のこと)。ガイドRNA分子のcrRNAとtracrRNAとは、一体に連結されて、シングルガイド(sg)RNAを形成し得る。crRNAとtracrRNAとは、当該技術分野において公知の任意の従来方法を用いて連結する、好ましくは共有結合的に連結することができる。crRNAとtracrRNAとの共有結合性の連結については、例えば、Jinek et al.(前掲)及び国際公開第13/176772号パンフレット(これらは参照により本明細書に援用される)に記載される。crRNAとtracrRNAとは、例えばリンカーヌクレオチドを使用するか、又はcrRNAの3’末端とtracrRNAの5’末端との直接的な共有結合性の連結を介して共有結合的に連結することができる。
【0166】
好ましくは、本発明の方法には、CRISPRヌクレアーゼとガイドRNAとを含む少なくとも1つのCRISPRタンパク質複合体が使用される。しかしながら、当業者は、本発明の方法において、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれ以上の異なるガイドRNAの使用により、追加のCRISPRタンパク質複合体を使用し得ることをごく簡単に理解する。これらの異なるガイドRNAは、同じ目的の配列を標的化して、それに結合するように設計することができる。或いは、異なるガイドRNAは、CRISPRタンパク質複合体を異なる目的の遺伝子に向けてもよい。
【0167】
目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異は、カルス形成前、カルス形成中及び/又はカルス形成後に導入されてもよい。トランス遺伝子又は突然変異は、好ましくはシュート形成が始まる前に導入される。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、本発明の方法の工程b)で形成されたシュートの少なくとも生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位に存在する。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、工程c)で選択されたシュートの少なくとも生殖系列前駆細胞に存在し、及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる細胞に存在する。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、工程b)で形成されたシュートの全ての生殖系列前駆細胞及び/又は全てのクローン繁殖組織及び/又は植物部位に存在する。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、本発明の方法の工程b)で形成されたシュートのL2シュート分裂組織層の少なくとも1つの細胞に存在する。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、工程b)で形成されたシュートのL2シュート分裂組織層の全ての細胞に存在する。トランス遺伝子又は突然変異はまた、L1及びL3-シュート分裂組織層の細胞など、他の細胞にも存在し得る。任意選択で、本発明の方法の工程c)で形成されたシュートの全ての細胞が、目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を含む。
【0168】
目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異は、難再生性植物体の細胞に、及び/又は再生可能植物体の細胞に導入されてもよい。好ましくは、目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異は、少なくとも本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の細胞に、及び/又は本発明の方法の工程(b)において共再生した難再生性植物体の細胞に導入される。
【0169】
突然変異は、植物細胞に部位特異的エンドヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRエンドヌクレアーゼをトランスフェクトすることにより導入されてもよい。トランス遺伝子は、植物細胞に目的のトランス遺伝子をトランスフェクトすることにより導入されてもよい。植物細胞のトランスフェクションは、当業者に公知の任意の従来手段を用いて実施することができる。
【0170】
「トランスフェクション」又は「形質転換」とは、本明細書では、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼタンパク質又はトランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼをコードする核酸分子の植物細胞への送達と理解される。前記核酸分子は、前記トランス遺伝子及び/又は部位特異的ヌクレアーゼをコードするDNA又はRNAであり得る。任意選択でトランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼは、(プレ)mRNAのトランスフェクションによって導入される。トランスフェクションには、部位特異的エンドヌクレアーゼと会合する(することになる)ガイドRNA又はガイドRNAをコードする核酸分子の植物細胞への送達が更に含まれ得る。任意選択で、部位特異的エンドヌクレアーゼは、ガイドRNAと複合体化したCRISPRエンドヌクレアーゼを含むCRISPRエンドヌクレアーゼ複合体として送達される。或いは、又はそれに加えて、CRISPRエンドヌクレアーゼ及びガイドRNAは植物細胞へと送達され、細胞内で複合体を形成する。或いは、又はそれに加えて、CRISPRエンドヌクレアーゼは、トランスフェクトされた核酸から発現し、細胞内で、任意選択で発現したガイドRNAと複合体を形成する。
【0171】
好ましくはトランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼ、又はそれをコードする核酸は、タンパク質として、又はCRISPRエンドヌクレアーゼの場合にはタンパク質-ガイドRNA複合体(リボ核タンパク質複合体とも呼ばれる)として難再生性植物体の細胞へと当業者に公知の任意の従来手段を用いて導入され得る。トランスフェクションの非限定的な例としては、限定はされないが、ウイルス感染、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、電気穿孔、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接のマイクロインジェクション、炭化ケイ素ウィスカー技術、アグロバクテリウム媒介形質転換などが挙げられる。方法の選択は、概して、形質転換する細胞の種類及び形質転換が行われる状況(即ち、インビトロ、エキソビボ、又はインビボ;タンパク質トランスフェクションか又は核酸トランスフェクションか)に依存する。
【0172】
土壌細菌アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に基づくトランスフェクション方法は、核酸分子を植物細胞へと導入するのに特に有用であり得る。アグロバクテリウムを培養植物細胞又は例えば葉組織、根外植体、子葉下部、茎片若しくは塊茎などの付傷処理した組織と共培養する方法は、当該技術分野において周知である。例えば、Glick and Thompson,(eds.),Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology,Boca Raton,Fla.:CRC Press(1993)を参照のこと。マイクロプロジェクタイル媒介形質転換もまた、植物細胞のトランスフェクションに使用することができる。Klein et al.(Nature 327:70-73(1987))によって初めて記載されたこの方法は、塩化カルシウム、スペルミジン又はポリエチレングリコールによる沈殿法によって例えば所望の核酸分子でコートされた金又はタングステンなどのマイクロプロジェクタイルに頼る。マイクロプロジェクタイル粒子をBIOLISTIC PD-1000(Biorad;Hercules Calif.)などの装置を使用して高速で加速して、被子植物組織に入れる。
【0173】
トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼをコードする核酸、任意選択でガイドRNA(をコードする核酸)は、核酸が植物細胞に入り込むことが可能となるような方法で、例えば、インビボ又はエキソビボプロトコルにより植物体へと導入されてもよい。「インビボ」とは、植物体の生体に例えばインフィルトレーション法で核酸が投与されるものを意味する。「エキソビボ」とは、細胞又は外植体が植物体の外部で修飾され、次にはかかる細胞又は器官が植物体のシュートへと再生されることを意味する。
【0174】
植物細胞の形質転換に好適な、及び/又はトランスジェニック植物体の樹立に好適な幾つものベクターが、Weissbach and Weissbach,(1989)Methods for Plant Molecular Biology Academic Press、及びGelvin et al.,(1990)Plant Molecular Biology Manual,Kluwer Academic Publishersに記載されるものを含め、記載されている。例としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)媒介形質転換、並びに、例えば、Herrera-Estrella et al.(1983)Nature 303:209,Bevan(1984)Nucl Acid Res.12:8711-8721,Klee(1985)Bio/Technology 3:637-642によって開示される方法が挙げられる。植物細胞を形質転換する従来方法としては、限定はされないが、遺伝子銃ボンバードメント、ポリエチレングリコール形質転換、及びマイクロインジェクションが挙げられる(例えば、Danieli et al Nat.Biotechnol 16:345-348,1998;Staub et al Nat.Biotechnol 18:333-338,2000;O’Neill et al Plant J.3:729-738,1993;Knoblauch et al Nat.Biotechnol 17:906-909;米国特許第5,451,513号明細書、同第5,545,817号明細書、同第5,545,818号明細書、及び同第5,576,198号明細書;国際公開第95/16783号パンフレット;及びBoynton et al.,Methods in Enzymology 217:510-536(1993)、Svab et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:913-917(1993)、及びMcBride et al.,Proc.Nati.Acad.Sci.USA 91:7301-7305(1994)を参照のこと。
【0175】
好ましくは、難再生性植物体の細胞にトランス遺伝子が導入され、及び/又は難再生性植物体の細胞の目的の配列に突然変異がある。難再生性植物体の細胞に、好ましくは、トランス遺伝子、CRISPRエンドヌクレアーゼ及び/ある1つのガイドRNAのうちの少なくとも1つがトランスフェクトされる。好ましくは、CRISPRエンドヌクレアーゼとガイドRNAとは、難再生性植物体の細胞へとトランスフェクトされるリボ核タンパク質複合体を形成する。好ましくは、前記細胞はプロトプラストである。好ましくはプロトプラストには、例えば、国際公開第2017/222370号パンフレット又は国際公開第2020/089448号パンフレット(これらは参照により本明細書に援用される)に記載されるなどのポリエチレングリコール形質転換を用いて、トランス遺伝子タンパク質及び/又はCRISPR-ガイドRNAリボ核タンパク質複合体がトランスフェクトされる。細胞は、単一細胞懸濁液中の細胞、プロトプラスト、カルス又はスライスに存在する細胞、及び/又は植物体に存在する、好ましくは接木癒合部に存在する細胞であり得る。
【0176】
或いは、又はそれに加えて、難再生性植物体の細胞には、トランス遺伝子及び/又は少なくとも1つの部位特異的エンドヌクレアーゼ及び/又は少なくとも1つのガイドRNAをコードする核酸分子がトランスフェクトされてもよい。任意選択で、前記細胞はプロトプラストである。任意選択で、プロトプラストには、例えば、国際公開第2018/115390号パンフレット及び国際公開第2020/011985号パンフレット(これらは参照により本明細書に援用される)に記載されるなどのポリエチレングリコール形質転換を用いて、トランス遺伝子及び/又はCRISPRエンドヌクレアーゼ及びガイドRNAをコードする1つ以上のプラスミドがトランスフェクトされる。
【0177】
好ましくは、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼのコドン配列は、植物細胞での発現に合わせて最適化される。少なくとも1つのトランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼ及び/又は少なくとも1つのガイドRNAをコードする核酸分子は、好ましくは核酸ベクターに含まれる。核酸ベクターは、好ましくは、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼ及び/又はガイドRNAの一過性発現用のベクターである。或いは、核酸ベクターは、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼ及び/又はガイドRNAの安定発現用のベクターである。任意選択で、本発明の方法の工程a)の難再生性植物体の細胞は、そのゲノムに組み込まれた、目的の遺伝子及び/又はプログラム可能なエンドヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRエンドヌクレアーゼをコードするトランス遺伝子を含み、ここで前記トランス遺伝子及び/又はプログラム可能なエンドヌクレアーゼは安定に発現してもよく、又はここで前記トランス遺伝子及び/又はプログラム可能なエンドヌクレアーゼの発現は、誘導性若しくは組織特異的プロモーターの制御下にある。
【0178】
トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼ任意選択で少なくとも1つのガイドRNAは、このように、ベクターに含まれる発現カセットから転写されてもよい。ベクター骨格は、例えば、発現カセットが組み込まれるか、又は好適な転写調節配列が既に存在する場合には(例えば(誘導性)プロモーター)、所望のヌクレオチド配列(例えば、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼをコードする配列)のみが転写調節配列の下流に組み込まれるプラスミドであり得る。
【0179】
本発明の方法に使用されるベクターは、例えば、選択可能なマーカー、多重クローニング部位など、分子クローニングにおけるその使用を容易にする遺伝的エレメントを更に含み得る。ベクター骨格は、当該技術分野において公知のとおりの、例えば、バイナリー又はスーパーバイナリーベクター(例えば、米国特許第5,591,616号明細書、米国特許出願公開第2002138879号明細書及び国際公開第95/06722号パンフレットを参照のこと)、共組込みベクター又はT-DNAベクターであってもよい。
【0180】
本発明の方法に使用されるベクターは、好ましくは、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼ任意選択で1つ以上のガイドRNAの発現を植物細胞に導入するのに特に好適である。好ましい発現ベクターは、ネイキッドDNA、DNA複合体又はウイルスベクターである。
【0181】
好ましいネイキッドDNAは、線状又は環状核酸分子、例えばプラスミドである。プラスミドとは、追加的なDNAセグメントを標準的な分子クローニング技術によるなどして挿入することのできる環状二本鎖DNAループを指す。DNA複合体は、細胞へのDNAの送達に好適な任意の担体にカップリングされたDNA分子であってもよい。好ましい担体は、リポプレックス、リポソーム、ポリマーソーム、ポリプレックス、PEG、デンドリマー、無機ナノ粒子、ビロソーム及び細胞透過性ペプチドからなる群から選択される。
【0182】
本発明の方法に使用されるベクターは、好ましくはウイルス発現ベクターである。ウイルスベクターは、DNAウイルス又はRNAウイルスであり得る。ウイルスベクターは、トバモウイルス、トブラウイルス、ポテックスウイルス、ジェミニウイルス、アルファモウイルス、ククモウイルス、ポティウイルス、トンブスウイルス、ホルデイウイルス、又はヌクレオラブドウイルスであってもよく、又はそれをベースとしてもよい。
【0183】
トバモウイルスのウイルスベクターは、タバコモザイクウイルス(TMV)及びサンヘンプ(Sun Hemp)モザイクウイルス(SHMV)のうちの少なくとも1つであり得る。トブラウイルスのウイルスベクターは、タバコ茎えそウイルス(TRV)であり得る。ポテックスウイルスのウイルスベクターは、ジャガイモXウイルス(PVX)及びパパイヤモザイクポテックスウイルス(PapMV)のうちの少なくとも1つであり得る。ジェミニウイルスのウイルスベクターは、コモウイルスササゲモザイクウイルス(CPMV)であり得る。好適なジェミニウイルスのウイルスベクターの更なる例には、キャベツ巻葉ウイルス、トマトゴールデンモザイクウイルス、インゲン黄化萎縮ウイルス、アフリカキャッサバモザイクウイルス、コムギ萎縮ウイルス、オギ条斑マストレウイルス、タバコ黄化萎縮ウイルス、トマト黄化巻葉ウイルス、マメゴールデンモザイクウイルス、ビートカーリートップウイルス、トウモロコシ条斑ウイルス、及びトマト仮性カーリートップウイルスが含まれ得る。アルファモウイルスは、アルファルファモザイクウイルス(AMV)であってもよい。ククモウイルスは、キュウリモザイクウイルス(CMV)であってもよい。ポティウイルスは、プラムポックスウイルス(PPV)であってもよい。トンブスウイルスは、トマトブッシースタントウイルス(TBSV)であってもよい。ホルデイウイルスは、ムギ斑葉モザイクウイルスであってもよい。ヌクレオラブドウイルスは、ソンカスイエローネットウイルス(SYNV)であってもよい(例えば、Hefferon K,Plant Virus Expression Vectors:A Powerhouse for Global Health,Biomedicines).2017,5(3):44及びLico et al,Viral vectors for production of recombinant proteins in plants,J Cell Physiol,2008;216(2):366-77を参照のこと)。
【0184】
好ましくは、ウイルスベクターは、タバコ茎えそウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、ソンカスイエローネットウイルス(SYNV)及びジャガイモXウイルス(PVX)からなる群から選択される。好ましくは、ウイルスベクターは、タバコ茎えそウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)及びソンカスイエローネットウイルス(SYNV)のうちの少なくとも1つである。
【0185】
本発明の方法に使用されるウイルスベクターは、ウイルスのパッケージング容量を増加させるため遺伝子の欠失を含み得る。好ましくは、ウイルスは、コートタンパク質(CP)をコードする遺伝子の欠失を含む。コートタンパク質の欠失を含む好ましいウイルスベクターは、トバモウイルスウイルス又はトブラウイルスウイルスである。好ましくはコートタンパク質の欠失を含むウイルスベクターは、トバモウイルス、好ましくはタバコモザイクウイルス(TMV)である。好ましいウイルスベクターは、例えば、Lindbo(TRBO:A High-Efficiency Tobacco Mosaic Virus RNA-Based Overexpression Vector,Plant Physiol,2007;145(4):1232-40)に記載されるとおりの、TMV RNAベースの過剰発現ベクター(TRBO)である。ウイルスベクターは、例えば、国際公開第2018/226972号パンフレット(これは参照により本明細書に援用される)に記載されるとおりの自己複製性RNAであり得る。
【0186】
ベクター、好ましくはウイルスベクターは、当初ウイルスベクターを植物体の植物細胞へと導入するため、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)に含まれてもよい。感染後、植物細胞においてアグロバクテリウム属(Agrobacterium)からウイルスベクターが発現する。このウイルスベクターは、複製し、周囲の植物細胞に感染し得る。ウイルスベクターは、例えば、ウイルスが全身に広がるのを防ぐコートタンパク質の欠失により、修飾されてもよい。
【0187】
トランスフェクトされる難再生性植物体の細胞は、好ましくは、新しく形成されたシュートの一部である組織へと発育することになり、ここで組織は、1つ以上の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる1つ以上の細胞を含む。トランスフェクトされる難再生性細胞は、初代トランスフェクト細胞、又は例えば、二次細胞又は続いてトランスフェクトされる細胞であってもよい。非限定的な例として、再生可能植物体の細胞には、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼを発現するベクター、例えばアグロバクテリウム及び/又はウイルスベクターなどがトランスフェクトされてもよい。このような初期感染した細胞で産生されるウイルスは、難再生性植物体の細胞に伝播及び感染し、即ち二次感染となり得る。
【0188】
例えば、再生可能植物体の1つ以上の細胞に、トランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼを発現するウイルスベクターを含むアグロバクテリウムを感染させてもよい。接木癒合部では、産生されたウイルスが難再生性植物体の細胞へと移行し得る。続いてウイルスベクターの感染により、難再生性植物体の1つ以上の細胞においてトランス遺伝子及び/又は部位特異的エンドヌクレアーゼが発現することになる。部位特異的エンドヌクレアーゼによって難再生性細胞の目的の配列に突然変異が導入されることになり、シュート形成時、この突然変異は、形成されたシュートに存在することになる。トランス遺伝子はシュート形成時に難再生性植物体に組み込まれてもよく、トランス遺伝子は、形成されたシュートに存在し得る。
【0189】
上記に指摘したとおり、本発明の方法は、工程(c)で選択されたシュートから植物体を成長させる工程(d)を更に含み得る。任意選択で、特に根再生が厄介である場合、工程(d)は、選択されたシュートを接木適合性のある台木に接木する工程を含み得る。工程(d)において成長した植物体は、好ましくは、生殖用の、即ち種子及び/又は後代植物体を生成するための少なくとも1つの花序を含む。
【0190】
より詳細には、本発明は、植物体を発生させる方法であって、本明細書に定義するとおりの工程(a)、(b)及び(c)を含み、更に、前記シュートから植物体を発生させる工程を含む方法を提供し、ここで好ましくは前記植物体は、少なくとも1つの花序を含む。任意選択で、発生した植物体は、工程(a)の再生可能植物体の細胞を含まない、又は実質的に含まない。換言すれば、任意選択で、発生した植物体は、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の同じ又は実質的に同じ遺伝子型を有する非キメラ植物体である。故に、発生させた植物体はまた、本明細書に定義するとおりの、好ましくは工程(a)の難再生性植物細胞と同じ種及び品種の難再生性植物体であってもよい。本発明の方法が突然変異及び/又はトランス遺伝子の導入を含む場合、好ましくは発生させる植物体の細胞の少なくとも1つ、任意選択で全ての細胞もまた、前記突然変異及び/又はトランス遺伝子を含む。従って、「実質的に同じ遺伝子型」は、本明細書では、本発明の方法を用いて導入し得る突然変異及び/又はトランス遺伝子を含んでいるとしても、同じ遺伝子型であると理解されるべきである。
【0191】
加えて、又はその代わりに、発生させた植物体の生殖系列細胞、好ましくは配偶子は、本明細書に更に詳述するとおりの本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の細胞に導入される突然変異及び/又はトランス遺伝子を任意選択で含む、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の配偶子と同じ又は実質的に同じ遺伝子型を有し得る。任意選択で、この植物体は、再生可能植物体の細胞又は組織層を更に含むキメラ植物体であってもよい。任意選択で、前記植物体は、交配、自殖及び/又はアポミクシス遺伝子型の生殖系列前駆細胞の場合にはアポミクシス繁殖(即ちアポミクシス生殖)による種子及び/又は後代の作製に使用される。任意選択で、植物体を授粉させ、及び/又は花粉を別の植物体又は同じ植物体(自殖)の授粉に使用する。任意選択で、前記植物体は、本明細書に定義するとおりのクローン繁殖用組織及び/又は植物部位の作製に使用され、任意選択で、前記組織及び/又は植物部位は単離され、クローン繁殖又は栄養繁殖に使用される。従って、本発明はまた、植物体又は種子を作製する方法であって、本明細書に定義するとおりの工程(a)、(b)及び(c)を含み、更に、工程(c)で選択されるシュートから栄養繁殖又はクローン繁殖によって植物体を発生させる工程であって、好ましくは前記植物体が少なくとも1つの花序を含む工程;任意選択で、発生させた植物体の種子及び/又は後代植物体を有性生殖又はアポミクシス生殖により作製する工程を含む方法も提供する。
【0192】
故に、本発明の方法は、植物体又は種子を作製する方法であって、
(a)難再生性植物体の細胞を再生可能植物体の細胞と接触させる工程;
(b)(a)の接触させた細胞にシュートを形成させる工程;及び
(c)工程(b)で形成されたシュートを選択する工程であって、前記シュートの少なくとも一部が難再生性植物体の細胞からなる工程、
(d)工程(c)で選択されたシュートから植物体を成長させる工程;任意選択で
(e)工程(d)の植物体から種子及び/又は後代を作製する工程
を含む方法であってもよい。
【0193】
本発明の方法が突然変異及び/又はトランス遺伝子の導入を含む場合、発生させる植物体の種子及び/又は後代は、前記突然変異及び/又はトランス遺伝子を有するものを選択し得る。作製される種子(又は前記種子の胚)は、任意選択で、導入される突然変異及び/又はトランス遺伝子を除いては、工程(a)の難再生性植物細胞が単離された又はその一部である難再生性植物体の子孫と同じ又は実質的に同じ遺伝子型を有し得る。
【0194】
任意選択で、工程(a)において接触させた細胞からシュートを再生する工程(b)は、シュート再生前にカルスの形成を含む。故に、本発明の方法は、植物体を作製する方法であってもよく、ここで植物体は、難再生性植物体の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用の組織及び/又は植物部位を含み、及びここでこの方法は、
(a)難再生性植物体の1つ以上の細胞を再生可能植物体の1つ以上の細胞と接触させる工程;
(b)工程(a)の難再生性植物体の接触させた細胞にカルスを形成させる工程、及び工程(b)において得られたカルスからシュートを成長させる工程;
(c)難再生性植物体の生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位を生じさせる細胞を含む工程(b)において得られたシュートを選択する工程;及び
(d)工程(c)で選択されたシュートから植物体を成長させる工程
を含む。
【0195】
任意選択で、複数の種子及び/又は後代植物体が作製され、本方法は、好ましくは本明細書に詳述されるとおりの本発明の方法の工程(a)の難再生性細胞において導入されたものであり得る突然変異及び/又はトランス遺伝子の存在を遺伝子タイピングし及び/又は評価した後に、少なくとも1つの種子及び/又は後代植物体を選択する工程を更に含む。種子及び/又は後代植物体は、遺伝子タイピングにより植物体が工程(a)の難再生性植物体の細胞と同じ又は実質的に同じ遺伝子型を有するかどうかを評価し得る。種子は、発芽させて、植物体へと発育させてもよい。
【0196】
任意選択で、本発明の方法の工程(a)の難再生性植物体の細胞は、倍数性異常を伴う細胞であり、一倍体であってもよい。故に本発明の方法は、一倍体植物材料を繁殖させる方法であってもよい。前記方法は、再生した植物体及び/又は種子を倍数性レベルに関してスクリーニングする工程を更に含み得る。
【0197】
任意選択で、工程(b)における共再生時、ゲノムは自然発生的に倍加してもよく、又は化学的に倍加させてもよく、それによって、倍加半数体細胞を含む、又はそれからなる少なくとも1つのシュートが発生する。その場合、発生したシュートの遺伝子型は、ゲノムが倍加している点で難再生性植物細胞と異なり得る。故に本発明の方法は、倍加半数体植物材料を作製する方法であってもよく、本発明の方法は、再生した植物体及び/又は種子を倍数性レベルに関してスクリーニングする工程を含み得る。
【0198】
別の実施形態において、工程(c)の選択されたシュートは単離されていないが、本発明の方法の工程(b)において発育した植物構造体上で花序を成長させることが可能であり、ここで前記植物構造体は、任意選択で更なるシュートを含む。前記花序は、有性生殖又はアポミクシス生殖に用いられ得る。前記花序は授粉させてもよく、又は前記花序の花粉が別の植物体又は同じ植物体(即ちこの花序は自殖する)の授粉に使用される。
【0199】
本明細書において指摘するとおり、本方法は、工程(a)の難再生性植物体の細胞に、又は工程(b)で再生したシュートにおけるそれを起源とする細胞に、
(i)トランス遺伝子;又は
(ii)目的の配列における突然変異
を導入する工程を更に含み得る。
【0200】
好ましくは、前記目的の配列は内因性の目的の配列である。トランス遺伝子又は突然変異の導入を含む方法において、好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異を導入する工程は、工程(b)より前、更により好ましくは工程(a)より前である。
【0201】
加えて、又はその代わりに、前記方法において、工程(b)で再生したシュートの少なくとも生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖組織及び/又は植物部位を生じさせる細胞は、トランス遺伝子又は突然変異を含む。任意選択で、突然変異は、部位特異的エンドヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRエンドヌクレアーゼを好ましくは使用した、プログラム化ゲノム編集によって導入される。
【0202】
任意選択で、本発明の方法の工程(a)における難再生性植物体の細胞は、(極めて)異種性が高く、本発明の方法は、異種植物材料を繁殖させる方法である。任意選択で、工程(a)の難再生性植物体の細胞は無菌であり、本発明の方法は、無菌植物材料を繁殖させる方法である。
【0203】
植物体は、本発明の方法の工程(c)で選択されるシュートから、当該技術分野において当業者に公知の任意の従来の培養条件を用いて成長させることができる。これらの培養条件は、本発明の方法によって作製される植物体に依存してもよく、当業者には、本発明の方法によって作製される植物体を成長させるのに最適な環境を発生させるために、これらの条件をどのように調整すればよいかは公知である。工程(d)において成長させた植物体は、本明細書に定義するとおりの目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異を含み得る。
【0204】
本発明の方法は、工程(d)において成長させた植物体の後代を作製し、又は入手する工程(e)を更に含み得る。後代は、例えば、有性繁殖により、即ち花粉と卵子との融合による種子の産生を通じて作製されてもよい。好ましくは、花粉及び卵子の少なくとも一方は、工程(d)で作製された植物体に由来する。本方法が本明細書に定義するとおりの目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異の導入を含む場合、好ましくは、花粉及び卵子の少なくとも一方は、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含む。任意選択で、花粉及び卵子は両方とも、工程(d)において成長させた植物体に由来する。好ましくは、花粉と卵子とは、目的の配列に同じトランス遺伝子及び/又は突然変異を含む。或いは、後代は、工程(d)において成長させた植物体の無性(栄養)繁殖によって入手される。好ましくは、かかる実施形態の中で、目的の配列におけるトランス遺伝子及び/又は突然変異は、クローン繁殖により次世代を形成する組織及び/又は植物部位に存在する。
【0205】
本発明はまた、本発明の方法によって入手可能な、好ましくは本発明の方法による工程(d)で入手可能な植物体にも関する。この植物体は、難再生性植物体の同じ又は実質的に同じ遺伝子型を有する細胞と、再生可能植物体の同じ又は実質的に同じ遺伝子型を有する細胞又は組織とを含むキメラ植物体であってもよい。好ましくは、植物体は、難再生性植物体の生殖細胞系列若しくは生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位を含む。好ましくは、植物体は、難再生性植物体のL2シュート分裂組織層を含む。任意選択で植物体は、周縁キメラ及び/又は植物体であり、好ましくは目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含む難再生性植物体又は周縁キメラである。故に、植物体は、非天然植物体、人為的に作り出された植物体、突然変異植物体及び/又は形質転換植物体であってもよい。
【0206】
ある態様において、このように本発明は、本発明の方法から入手可能な、好ましくは本明細書に定義するとおりの工程(d)から入手可能な周縁キメラに関する。「周縁キメラ」は、1つ以上の全細胞(組織)層L1、L2、及び/又はL3が別の細胞層と遺伝的に異なるキメラである。周縁キメラの場合、単一の組織層それ自体は均質であって、キメラではない。周縁キメラは、最も安定した形態のキメラであり、特徴のある高価値な植物表現型を生み出す。こうした植物体は、それが発生した元の末端分裂組織と同じ頂端構成を持つ腋芽を作る。従って、周縁キメラは、栄養繁殖によって増大させて、そのキメラ層構成を維持することができる。
【0207】
本発明の方法から入手可能な周縁キメラ植物体は、好ましくは、難再生性植物体の少なくとも1つのシュート分裂組織層と、再生可能植物体の少なくとも1つのシュート分裂組織層とを含む。好ましくはL1、L2及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも1つは、難再生性植物体からのものである。難再生性植物体からのものでないシュート分裂組織層は、好ましくは再生可能植物体からのものである。好ましくは、周縁キメラのL2シュート分裂組織層は難再生性植物体のものであり、L1及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも一方は再生可能植物体のものである。
【0208】
周縁植物体のL2分裂組織層並びにL1及びL3シュート分裂組織層は、同じ属のものであっても、又は異なる属のものであってもよい。好ましくは、周縁植物体のL2分裂組織層並びにL1及びL3シュート分裂組織層は、同じ属のものである。非限定的な例として、L1、L2及びL3シュート分裂組織層は、ナス属(Solanum)のもの又はトウガラシ属(Capsicum)のものである。例えば、L2シュート分裂組織層はトウガラシ(Capsicum annuum)植物体からのものであってもよく、L1及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも一方はキイロトウガラシ(Capsicum baccatum)植物体からのものであってもよい。同様に、L2シュート分裂組織層はジャガイモ(Solanum tuberosum)植物体からのものであってもよく、L1及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも一方はトマト(Solanum lycopersicum)植物体からのものであってもよい。
【0209】
周縁キメラは、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を更に含み得る。突然変異は、好ましくは少なくとも難再生性植物体の生殖細胞系列若しくは生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位に存在する。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、周縁キメラのL1、L2及びL3シュート分裂組織層のうちの少なくとも1つに位置する細胞にある。好ましくは、トランス遺伝子又は突然変異は、周縁キメラの少なくともL2シュート分裂組織層に位置する細胞に存在する。
【0210】
更なる態様において、本発明は、本発明の方法から入手可能な植物体であって、目的の配列にトランス遺伝子及び/又は突然変異を含む植物体に関する。故にこの植物体は、トランスジェニック植物体及び/又は突然変異植物体であり得る。この植物体は、人為的に作り出された植物体であってもよい。好ましくは、目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異は、難再生性植物体の生殖細胞系列若しくは生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位に位置する。従って好ましくは、植物体は、少なくとも難再生性植物体の生殖細胞系列若しくは生殖系列前駆細胞及び/又は難再生性植物体のクローン繁殖用組織及び/又は植物部位を含み、好ましくは、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含む。好ましくは、本発明の植物体は、本質的に生物学的な過程によって入手されるのでなく、又はそれによってのみ入手されるのでない。本発明の植物体は、好ましくは、それが目的の1つの配列に少なくとも1つのトランス遺伝子又は突然変異を持つという点で、自然界に存在する植物体とは少なくとも異なる。目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異は、好ましくは、植物体の少なくとも生殖細胞系列又は生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位に位置する。目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異は、好ましくは、少なくともL2シュート分裂組織層に位置する。目的の配列におけるトランス遺伝子又は突然変異は、好ましくは、植物体の花粉及び卵子のうちの少なくとも一方に存在する。
【0211】
植物体は好ましくは、難再生性植物体の少なくとも生殖細胞系列又は生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位を含む。植物体は好ましくは、難再生性植物体の少なくともL2シュート分裂組織層を含む。本発明の方法から入手可能な植物体は、好ましくは、目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を好ましくは含む難再生性植物体である。
【0212】
本発明は更に、本明細書に定義するとおりの植物体又は周縁キメラからの子孫又は種子に関する。子孫は、有性又は無性(栄養)繁殖により作製されてもよい。子孫は好ましくは、本明細書に定義するとおりの目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含む。種子の外皮は、胚と異なる遺伝子型を有し得る。好ましくは、外皮の遺伝子型は再生可能植物体からのものであり、胚の遺伝子型は難再生性植物体からのものである。
【0213】
本発明はまた、好ましくは本発明の方法の工程(c)、(d)又は(e)の、本発明の方法から入手した植物体に由来する植物部位又は植物産物にも関する。任意選択で、前記植物部位又は植物産物は、それが難再生性植物体並びに再生可能植物体の両方を起源とする遺伝子材料を含むことを特徴とする。好ましくは、前記植物部位又は植物産物は、難再生性植物体に由来する細胞若しくは組織又は遺伝子材料を含む。任意選択で、前記植物部位又は植物産物は、再生可能植物体に由来する細胞若しくは組織又は遺伝子材料を含まないか、又は実質的に含まない。任意選択で、前記植物部位又は植物産物は、難再生性植物体の遺伝子型を含むことを特徴とする細胞若しくは組織又は植物材料からなる。任意選択で、植物部位又は植物産物は、それが目的の配列にトランス遺伝子又は突然変異を含むことを特徴とする。かかる遺伝子材料は、ゲノムDNA又はゲノムDNAの断片であり得る。かかる遺伝子材料は、ミトコンドリアDNA又はミトコンドリアDNAの断片であり得る。かかる遺伝的材料は、葉緑体DNA又は葉緑体DNAの断片であり得る。
【0214】
植物部位は、繁殖材料又は非繁殖材料であってもよい。
【0215】
本明細書に引用される特許及び参考文献は全て、本明細書によって全体として参照により援用される。
【0216】
任意選択で、本発明の方法の工程(a)における細胞は、組織接木方法を用いて接触させる。本発明者らは、固定用のスチールピン(好ましくは滅菌スチールピン)を利用する接木方法、即ち本明細書に例示されるとおり台木及び接穂の中心に前記スチールピンを挿入することによる方法が(例えば図1を参照)、意外にも有効であることを認めた。かかるスチールピンを使用した接木方法は、実生材料、即ち若い植物材料、好ましくは播種の1~4、又は1~3週間後の実生材料、好ましくは播種の約2週間後の実生材料、好ましくは0.1~1mm、0.1~0.75mm、0.1~0.5mm、又は0.1~0.25mmの実生材料を使用するとき特に有用であり、好ましくは実生材料は、最初の本葉が出た後すぐに使用される。この接木方法は、本発明の方法の工程(a)において用いられてもよいが、また周縁キメラの作製にも用いられてもよい。スチールピンが固定に使用される接木方法は、限定はされないが、前記周縁キメラが難再生性植物体の生殖細胞系列又は生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位を含む場合の本明細書に記載されるとおりの方法であり得る。任意選択で、前記接木方法、例えば周縁キメラを作製するための接木方法は、より広範な適用が見出される。かかる方法であれば、本明細書に定義するとおりの難再生性植物体の生殖細胞系列若しくは生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用植物部位を任意選択で含む植物体のシュートを発生させて選択する方法と同じ工程を含むことになり得るが、但し、工程(a)で接木することになる植物体は、難再生性であること及び/又は再生可能であることに限定されず、両方の植物体が異なる遺伝子型を有する必要があるに過ぎず、及び工程(d)で選択されることになる得られるシュートは周縁キメラであり、必ずしも難再生性植物体の生殖細胞系列又は生殖系列前駆細胞及び/又はクローン繁殖用組織及び/又は植物部位を含むわけではない。任意選択で植物体はかかる周縁キメラから成長し、これは、限定はされないが、国際公開第2018/115395号パンフレット及び/又は国際公開第2018/115396号パンフレットに特定されるなどの適用が見出され得る。かかる方法及び結果として得られる周縁キメラは、本明細書に提供される更なる発明と見なすことができる。
【実施例
【0217】
実施例1
ジャガイモの繁殖(ジャガイモ(Solanum tuberosum)栽培品種ビンチェ、原産地オランダ)を実施し、これは単節挿し穂(腋芽を有する節間部)をホルモン不含固形MS20培地Murashige Skoog、ビタミン類、20g/Lスクロース含有、ホルモンなし)で発根させることによった。様々な遺伝子型のオランダ原産のトマト(即ち、ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum)栽培品種Money Makerとソラヌム・ハブロカイテス(Solanum habrochaites)登録品種LA1392又はPI27826、ソラヌム・ペンネッリイ(Solanum pennellii)登録品種LA716、又はソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum)登録品種LA3579の交雑品種)を、滅菌水道水に浸した滅菌ろ紙上に播種し、発根後にMS20上に置いた。接木は、MS20中のトマト実生胚軸(播種の約2週間後、その最初の本葉が出た直後)を台木として使用し、若い単節挿し穂のジャガイモ節性シュート先端を接穂として使用して、及び図1aに示されるとおり、固定用に台木及び接穂の中心に通して挿入した滅菌スチールピン(0.15mm直径)を使用して行った。接木体を滅菌組織培養容器内のMS20培地に23℃及び16/8時間の明期/暗期レジームで置いた。
【0218】
合計251本の接木体を6~9日間癒傷させた後、それらを図1bに示されるとおり、トマト台木上にジャガイモの薄層(約1mm)を残して裁頭し、図1cに示されるとおり、MS20内でシュートを縦向きに置いて、いかなるホルモンも添加することなく再生させておいた。
【0219】
ビンチェのような四倍体のクローン繁殖ジャガイモは、外部から供給される植物ホルモンが存在しなければ再生しないが、トマトはMS20で切断された胚軸から極めて速く再生し、6~12日後には、シュートの出現を示す最初の徴候が見られる。形態学的特徴(1)葉の形状、及び(2)トリコームを点数化することにより、合計251本の接木体から7~14日以内に3本のジャガイモ組織含有シュートが特定された。この量は、種々のトマト遺伝子型と組み合わせたビンチェの異なる接木体全体で、接木後1ヵ月で合計10本のジャガイモ組織含有シュートにまで増加した。従って、ジャガイモ組織再生は使用するトマト遺伝子型と無関係であるように見える。これらの10本のシュートのうち、3本が純粋なジャガイモであり、6本が不完全周縁キメラであり、及び1本が周縁キメラであった。これらのシュートの再生は接木の界面(接合部)で起こった。従って、本発明者らは、接木接合部において共存するトマト細胞の影響下でジャガイモが再生したと結論付けた。
【0220】
図2は、純粋なトマト、周縁キメラ、及びビンチェ再生体の写真を示す。
【0221】
実施例2
以下本明細書ではチコリーと称するチコリウム・インティブス L.(Chicorium intybus L.)の種子(チコリーRoodlof Indigo、Vreeken’s Zaden、オランダ)を70%エタノールで30秒間表面滅菌し、次に2%漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム(sodium hypochloride)溶液)で15分間滅菌し、リンス毎に滅菌MQで15分間のリンスを3回行い、暗所下にあるpH5.8及び0.8%寒天のMS(Murashige and Skoog,1962)20ホルモン不含培地のポットに播種した。
【0222】
以下本明細書ではタンポポと称するタラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)の種子(Jan Kirschner博士、Institute of Botany、Pruohonice、チェコ共和国から供与いただいた)を、初めに70%エタノールで30秒間リンスし、次に1%漂白剤で15分間滅菌した。次に種子を滅菌MQ水で4回リンスした。全滅菌過程にわたって種子を回転式振盪機に置いた。次に、セフォタキシム及びバンコマイシンを補足した暗所下にあるpH5.8及び0.2%寒天のMS20に種子を播種した。種子が発芽したところで、それらをMS20ホルモン不含培地のポットに置き、通常の光条件下(16時間明期及び8時間暗期)で植物体になるまで発育させた。
【0223】
チコリー・インティブス(Chicory intybus)は高度に再生可能であり、タラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)は難再生性である。
【0224】
プロトプラスト単離
植物体が4~6週齢になったところで、それぞれチコリー及びタンポポ植物体の葉材料から、チコリー及びタンポポプロトプラストを以下のとおり単離した。これらの植物体の3枚の最も幼若な葉をCPW9M(27mg/L KHPO、100mg/L KNO、200mg CaCl.2HO、512mg MgSO.7HO、0.16μg KI、0.39ng CuSO.HO、9%マンニトール、2.5mg/L Fe(SO.6HO及び580mg/L MES、pH5.8)中にて滅菌メス(滅菌10号外科用ブレード、Swaan Morton)で葉の葉脈に沿って切断し、ペトリ皿(Greiner 664161)内の25mL CPW9M中で30分間インキュベートすることにより原形質分離させた後、25mLの酵素溶液(4.44μM BAP(6-ベンジルアミノプリン)、10.74μM NAA(1-ナフタレン酢酸)及び0.9μM 2,4-D(ジクロロフェンオキシ酢酸)を補足したpH5.8のCPW9M中に調製した1%セルラーゼオノズカRS(C8003、Duchefa)、0.2%マセロチームR-10(M8002、Duchefa))にCPW9Mを交換し、暗所下25℃に置いて一晩消化させた(16~17時間;それぞれ図3A及び図4Aを参照のこと)。消化後、12.5%(w/v)スクロース溶液を使用してチコリー及びタンポポプロトプラストを精製した。
【0225】
チコリープロトプラスト不活性化
共再生に使用する精製したチコリープロトプラストをCPW9Mに再懸濁し、10mMヨードアセトアミド(IOA、Sigma)で30分間処理した。IOAは、有糸分裂前期における有糸分裂紡錘体集合の不可逆的阻害薬として働き、ひいては細胞分裂を妨げる(Varotto et al.2001)。IOA処理後、プロトプラストをCPW9Mで2回リンスした。
【0226】
タンポポプロトプラスト染色
精製したタンポポプロトプラストもまたCPW9Mに再懸濁した。タンポポプロトプラストは、選択のチコリー培地であるK1Cg及びK5Cgでは分裂しないため、それをIOAで処理する必要はない。代わりに、可視化する目的で、タンポポプロトプラストをフルオレセイン二酢酸塩(FDA、Widholm 1972)で5分間処理した。
【0227】
PEG処理
IOA処理したチコリー及びFDA処理したタンポポプロトプラストを1:1、1:2又は1:3のいずれかの比で1×10毎mLの総プロトプラスト密度で混合した。プロトプラストを互いに近接した状態に至らせるため、方法1又は方法2のいずれかを用いてこれらの混合物の各々をPEG(ポリエチレングリコール)3350MW溶液(30gのPEG 3350MW、150mg CaCl2HO、10mg KHPO4、100mL HOの最終容積中、pH5.5)で処理し、続いて中和溶液(735mg CaCl.2HO、375mgのグリシン、8gのマンニトール、100mL HOの最終容積中、pH10.5)で処理した。
【0228】
方法1
各実験につき、1mLのプロトプラスト混合物を6cmペトリ皿(Greiner 628102、SigmaAldrich)上に4滴穏やかにピペッティングした。同じ容積のPEG 3350MW溶液をプロトプラスト混合物の周囲に穏やかに滴下して加えた。プロトプラスト混合物及びPEG溶液を極めて慎重に混合し、室温で30分間インキュベートした。続いて、この混合物に10mLの中和溶液を加えた。次に、この混合物を800rpmで5分間遠心し、9M(9%(w/v)マンニトール、140mg/L CaCl.HO、580mg/L MES、pH5.8)で2回リンスした後、それらを以下に更に詳述するとおりのアルギン酸塩ディスクに包埋した。
【0229】
方法2
各実験につき、200μLのプロトプラスト混合物をペトリ皿に置き、このプロトプラスト混合物に、3容量の上記に指示したPEG 3350MW溶液を滴下して加えた。1分間インキュベートした後、700μLの上記に指示した中和溶液を1分間隔で2回加えた。5分後、2mLのCPW9Mを5分間隔で3回加えた。室温で10~15分間インキュベートした後、この融合混合物を800rpmで10分間遠心し、9Mで2回リンスした後、それらを以下に更に詳述するとおりのアルギン酸塩ディスクに包埋した。
【0230】
プロトプラスト培養
9M中のプロトプラスト懸濁液を9%(w/v)マンニトールを含む1.6%アルギン酸Na(S1320、Duchefa)溶液と1:1で穏やかに混合して0.25×10毎mLの最終的なプロトプラスト密度を達成し、続いて1mLのこの混合物をカルシウム寒天プレート上に穏やかに広げることにより、プロトプラストをアルギン酸塩ディスクに包埋した。これをプロトプラスト混合物並びに対照としての純粋な(即ち混合していない)チコリー及びタンポポプロトプラストについて実施した。アルギン酸塩ディスクを室温で45分間インキュベートすることにより重合させた。暗所下28℃にあるNAA及びBAPを補足した4mLのK1Cg培地(1.9g/L KNO、600mg/L CaCl.2HO、300mg/L MgSO.7HO、170mg/L KHPO、300mg/L KCl、750μg/L KI、3mg/L HBO、10mg/L MnSO.HO、2mg/L ZnSO.7HO、250μg/L NaMoO.2HO、25μg/L CuSO.5HO、25μ/L CoCl.6HO、20mg/Lピルビン酸Na、40mg/Lクエン酸、40mg/Lリンゴ酸、40mg/Lフマル酸及び100mg/Lミオイノシトール、補足物質として2.5mg/Lスクロース、2.5mg/Lフルクトース、2.5mg/Lリボース、2.5mg/Lキシロース、2.5mg/Lマンノース、2.5mg/Lラムノース、2.5mg/Lセロビオース、2.5mg/Lソルビトール、2.5mg/Lマンニトール、1%(v/v)Kao及びMichaylukビタミン溶液(K3129、Sigma-Aldrich)2%(v/v)ココナツ水(C5915、Sigma-Aldrich)、27.8mg/L FeSO.7HO、37.7mg/L NaEDTA.2HO、68.4g/Lグルコース、300mg/Lグルタミン、2mg/L NAA、1mg/L BAPを含む、pH5.8)が入った6cmペトリ皿(Greiner 62810、Sigma-Aldrich)へとディスクを移し替えた。
【0231】
1週間後、K1Cg培地を除去し、4mL K5CgK培地(600mg/L CaCl.2HO、300mg/L MgSO.7HO、170mg/L KHPO、300mg/L KCl、750μg/L KI、3mg/L HBO、10mg/L MnSO.HO、2mg/L ZnSO.7HO、250μg/L NaMoO.2HO、25μg/L CuSO.5HO、25μ/L CoCl.6HO、20mg/Lピルビン酸Na、40mg/Lクエン酸、40mg/Lリンゴ酸、40mg/Lフマル酸及び100mg/Lミオイノシトール、補足物質として2.5mg/Lスクロース、2.5mg/Lフルクトース、2.5mg/Lリボース、2.5mg/Lキシロース、2.5mg/Lマンノース、2.5mg/Lラムノース、2.5mg/Lセロビオース、2.5mg/Lソルビトール、2.5mg/Lマンニトール、1%(v/v)Kao及びMichaylukビタミン溶液(K3129、Sigma-Aldrich)2%(v/v)ココナツ水(C5915、Sigma-Aldrich)、27.8mg/L FeSO.7HO、37.7mg/L NaEDTA.2HO、52.5g/Lグルコース、600mg/Lグルタミン、750mg/L KCl、0.5mg/L NAA、0.5mg/L BAPを含む、pH5.8)に交換し、プロトプラストを暗所下28℃で培養した。K5CgKで2週間培養した後、アルギン酸塩ディスクを約5mmストリップのストリップに切断し、2.69μM l NAA及び2.22μM BAP及び1%sea plaqueアガロース(S1202、Duchefa)を補足した固形B5g-10培地に移し替えた。
【0232】
微小コロニーが形成されたところで、1~3mmサイズの微小カルス(2~3週間)それらを精密なピンセットで手作業によりピッキングし、1.43μM IAA(インドール酢酸、Duchefa)及び1.11μM BAPを補足したMS10培地が入った正方形ペトリ皿(Greiner 688102、SigmaAldrich)に50個の微小カルスを置いた。3週間後、次に同じホルモンの組み合わせを含むSH(シェンク・ヒルデブラント培地、Duchefa)10培地にカルス(再生を示す最初の徴候)を移し替えた。シュート様構造が観察されたところで、それらを1.43μM IAA及び1.11μM BAPを含むSH10のポット(OS60ポット、Duchefa)に移し替えた。次に発育中のシュートをSH10ホルモン不含培地が入った正方形のポット(Aarts plastics)に移し替え、それらを25℃で16時間明期及び8時間暗期条件にて培養した。再生した植物体の遺伝子型を、チコリー及びタンポポの特異的プライマーでタイピングした。
【0233】
結果
共再生
純粋なチコリープロトプラストは、単離の3~4日後のNAA及びBAPを補足したK1Cg培地でのプロトプラスト培養の最初の1週間で初期分裂が始まり(図3B)、4日後に微小コロニーが形成された(図3C)。チコリーコロニーは、11日間の培養後に見られた(図3D)。
【0234】
純粋なタンポポプロトプラストは難再生性であり、図4B図4Dに示されるとおり、K1Cg培地では分裂しなかった。3日間の培養後にも、初期分裂の徴候はなかった。10及び17日間の培養後、タンポポプロトプラストは空胞化した状態になり、生存を示す徴候はなかった。
【0235】
1:1及び1:2で混合したチコリー及びタンポポのプロトプラストを共培養すると、単離後8~10週間のプロトプラスト培養後に黄色がかったカルスが形成された。これらのカルスは、チコリーの白みがかった水っぽいカルスとは表現型が明確に異なった。これらの黄色がかったカルスは、1:1及び1:2のチコリー及びタンポポのプロトプラスト比でのプロトプラスト混合物を使用した実験において、両方のPEG処理プロトコル(方法1及び方法2)で出現した。これらのカルスが再生の徴候を示し始めると、各単一のカルス内で2つの特徴的な表現型が出現したことが観察された(図5A及び図5B)。
【0236】
白みがかったチコリーカルスに由来する小植物体は、チコリーのようなより大きい葉を有した一方、黄色がかったカルスは、タンポポのような薄い葉を生じた(図5C及び図5D)。
【0237】
再生した小植物体の葉を試料採取し、それらの葉のDNA試料に関して、それぞれチコリー特異的プライマーセット又はタンポポ特異的プライマーセットを使用して、57℃のアニーリング温度で35サイクルのPCRを行った。チコリー特異的フォワードプライマーは、5’-CAGACACAATGGTAGATGATGG-3’(配列番号10)の配列を有し、チコリー特異的リバースプライマーは、5’-CTTCATCGCCATGCCCAGAAG-3’(配列番号11)の配列を有して、429bpバンドを生じた。タンポポプライマーセットのフォワードプライマーは、5’-TAAGAAACCGAAGCAAACTC-3’(配列番号12)の配列を有し、タンポポプライマーのリバースプライマーは、5’-GCGCTTTCTACAATCTTACA-3’(配列番号13)の配列を有して794bpバンドを生じた。
【0238】
タンポポ属(Taraxacum)様の表現型を有する共培養物からの小植物体では、タンポポ特異的バンドのみが現れた一方、チコリー様の表現型はチコリー特異的バンドのみが現れたことが観察された(図6)。
【0239】
これは、2つの大きく異なる種、即ちチコリー・インティブス(Chicory intybus)(高度に再生可能)及びタラクサクム・ブレビコルニクラツム(Taraxacum brevicorniculatum)(難再生性)が、PEG 3350MWを使用するとプロトプラスト共培養物から共再生したという概念実証である。
【0240】
実施例3
Maorトウガラシ(トウガラシ(Capsicum annuum);イスラエル)は、難再生性植物であることで知られ、付傷処理及び/又は組織培養を受けてもシュート分裂組織再生を示さない。実施例1に記載されるのと同じ方法に従い、接穂としてのMaor子葉節を台木としてのキイロトウガラシ(C.baccatum)(栽培品種レインフォレスト(rainforest)、Vreeken’s Zaden、オランダ)の実生胚軸に接いだ合計201本の接木体を作成して裁頭し、但し接木体は、2%スクロースを含有するMS20の代わりに、1%スクロースを含有するMS10に置いた。実施例1と同じように、裁頭後に断端を残し、いかなるホルモンの添加もなしに再生させた。
【0241】
トリコーム形態から判断すると、合計201本の接木体から、Maor組織を含有する2枚の葉(不完全周縁キメラ)及び純粋なMaorの葉及びシュートを持つ5体の植物体が7~10日以内に特定された。キメラ1の左側は、全体的にキイロトウガラシ(C.baccatum)の表現型を示しつつ、トウガラシ(C.annuum)のトリコームを伴い、周縁キメラと見られる。右側は、純粋なキイロトウガラシ(C.baccatum)の表現型を示した。更なる分析のため、左側に1-1の標識を付し、右側に1-2の標識を付した(図7A)。キメラ2も同様の表現型を有し、ここでは左側に純粋なトウガラシ(C.annuum)の表現型が出現し、右側に純粋なキイロトウガラシ(C.baccatum)が出現した(図7B)。温室に移し替えた後、トリコーム形態に基づき純粋なトウガラシ(C.annuum)と特定された植物体7番が、キイロトウガラシ(C.baccatum)の成長表現型を示し、従って恐らく周縁キメラであると特定された(図7C)。
【0242】
配列5’atactaatttccacccaacaacgt3’(配列番号14)を有するフォワードプライマー及び配列5’tctcaacattaaacatgtcgccac3’(配列番号15)を有するリバースプライマーによるCAPSマーカーアッセイでは、これらの7体の植物体の試料に関するPCR増幅を実施した。詳細には、これらのプライマーを使用して、葉試料から単離したDNAに対し、34サイクル及び55℃のアニール温度によるPCR増幅を実施した。515bp産物をEcoRVと共に1時間インキュベートした。キイロトウガラシ(C.baccatum)の増幅されたゲノム配列にEcoRV認識部位が存在し、これはMaorの増幅されたゲノム配列には存在しなかったため、MaorからのアンプリコンのEcoRVインキュベーションの結果、515bp断片が生じた一方、MaorからのアンプリコンのEcoRVインキュベーションの結果、348bp及び167bpの断片が生じた。図8は、各植物体から採取した試料がこの表現型分析を支持し、植物体1、2及び7がキメラであり、植物体3、4、5及び6が純粋なトウガラシ(C.annuum)であることを示す。
【0243】
実施例4
タバコ(ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana);Herbalistics、オーストラリア)のプロトプラスト接木及び共再生を2つのトランスジェニックタバコ細胞株を使用して実施した。35Sプロモーターの制御下にあるビーナス黄色蛍光タンパク質を担持する一方の細胞株(35S::vYFP)及び35Sプロモーターの制御下にある細胞質RUBYを担持する第2の細胞株(He et al.Horticulture Research(2020)7:152)(35S::RUBY)。接木を調製するため、18/8時間光周期、25℃及び60%~70%相対湿度としてホルモン不含のMS20培地で成長させたタバコのインビトロシュート培養物を使用した。
【0244】
これらのシュート培養物からタバコプロトプラストを単離した。タバコ植物体から若い新鮮な葉を採取して、5mLのCPW9M(27mg/L KHPO、100mg/L KNO、200mg/L CaCl.2HO、512mg/L MgSO.7HO、0.16μg/L KI、0.39ng/L CuSO.HO、9%マンニトール、2.5mg/L Fe(SO.6HO及び580mg/L MES、pH5.8)が入った正方形のペトリ皿に裏返しに置いた。葉を慎重に押さえ付け、新鮮なメスを使用することにより、下側の表皮を主脈と垂直に1ミリメートル毎にスライスした。スライスした葉を、15mLのCPW9Mが入った15cmペトリ皿に移し替えた。全ての葉をスライスしたところで、スライスした材料を15cmペトリ皿に移し替え、5mLのEnzymeストックSR1(0.75%セルラーゼオノズカRS(C8003、Duchefa)、0.5%ドリセラーゼ(D8037、Sigma)、0.25%マセロチームR-10(M8002、Duchefa)pH5.8のCPW9M中に調製した)を皿に加え、穏やかにかき混ぜた。皿をラップで被覆し、25℃で18時間インキュベートした。プロトプラストを剥がすため、プレートをかき混ぜ続けた。
【0245】
次に以下の工程を用いてプロトプラストを洗浄した。ステンレス鋼50μm篩をCPW9Mで予め湿らせた。大型のデブリを拾い上げることなく、プロトプラスト溶液をピペットで吸い上げ、篩に移し替えた。残りのデブリに25mLのKC(2g/L CaCl.2HO、19g/L KCl及び580mg/L MES、pH5.8)を加えて更なるプロトプラストを剥がし、慎重に篩に移し替えた。12.5mLのKCを使用してこの工程を繰り返し、続いて更なる15.3mLのKCで篩をリンスした。フロースルーを遠心管に分配し、85×gで5分間スピンダウンした。上清を取り除いた後、ペレットに5mLのCPW9Mを加えて再懸濁した。2本の管を1つに組み合わせ、遠心工程を繰り返した。上清を取り除いた後、ペレットを再び5mLのCPW15S(150g/Lスクロースを補足したCPW)に再懸濁した。続いて、ペレットを2mLのCPW9Mで、これらの2層を混合しないようにしながら覆った。遠心工程を10分間繰り返し、スクロース層を乱すことなく相間層からプロトプラストを回収した。最終的なプロトプラスト密度はCPW9M中2×106毎mLに設定した。
【0246】
プロトプラストを接合するため、本発明者らは、170ミクロンメッシュ開口及び220ミクロン厚さの精密メッシュ(Nitex #03-177/34)の滅菌2×2cm片を使用し、これを乾燥させて、使用時まで無菌状態に保管した。この精密メッシュをK8P寒天プレート上に(600mg/L CaCl.2HO、300mg/L MgSO.7HO、170mg/L KHPO、300mg/L KCl、600mg/L NHNO、1.9g/L KNO、750μg/L KI、3mg/L HBO、10mg/L MnSO.HO、2mg/L ZnSO.7HO、250μg/L NaMoO.2HO、25μg/L CuSO.5HO、25μ/L CoCl.6HO、20mg/Lピルビン酸Na、40mg/Lクエン酸、40mg/Lリンゴ酸、40mg/Lフマル酸及び100mg/Lミオイノシトール、補足物質として2.5mg/Lスクロース、2.5mg/Lフルクトース、2.5mg/Lリボース、2.5mg/Lキシロース、2.5mg/Lマンノース、2.5mg/Lラムノース、2.5mg/Lセロビオース、2.5mg/Lソルビトール、2.5mg/Lマンニトール、1%(v/v)Kao及びMichaylukビタミン溶液(K3129、Sigma-Aldrich)2%(v/v)ココナツ水(C5915、Sigma-Aldrich)、27.8mg/L FeSO.7HO、37.7mg/L NaEDTA.2HO、68.4g/Lグルコース、3mg/L NAA、1mg/L BAPを含む、pH5.8)、メッシュの下に空気を閉じ込めないようにして適用した。これらの2つの細胞型の各々のプロトプラストの50μLアリコートを幅広先端のピペットを使用することにより2mLエッペンドルフ試験管内に混合し、2μLのβ-D-ガラクトシルヤリブ(2mg/mL、Biosupplies Australia Pty.Ltd.、カタログ番号:100-8A)溶液を加えた。ヤリブによりプロトプラストの凝集が確実となるため、共再生が可能となる。ヤリブ溶液がないと、プロトプラスト間に結合が起こらなかった(データは示さず)。この混合物を直ちにメッシュ上に滴下してスポッティングすることにより、メッシュの細孔に細胞を確実に飽和させ、目に見えるドーム形の液滴がなくなるように5分間静置させておいた。過剰な細胞があればメッシュから押しのけながら、スポットをK8P 1.6%寒天カバースリップで慎重に覆い、25分間凝集させておいた。メッシュから寒天スライドを取り除き、並びに寒天プレートからメッシュを取り除いた。メッシュを1mLの9M培地(90g/Lマンニトール、140mg/L CaCl.2HO、pH5.8)でリンスし、5cmペトリ皿に入れた(図10を参照のこと)。プロトプラストを包埋するため、1mLの9M+凝集懸濁液に1mLアルギン酸塩溶液(1.6%アルギン酸Na(S1320、Duchefa)、140mg/l CaCl.2HO、9%(w/v)マンニトール)を加え、穏やかに混合した。得られた混合物をCa-寒天プレート(72.50g/Lマンニトール、7.35g/L CaCl.2HO、0.8%マイクロ寒天、pH5.8)上に分散させて、1時間放置した。1時間後、ディスクを4mLのK8P培養培地に移し替え、密封し、暗所下28℃で5日間インキュベートした。
【0247】
カルスを形成させるため、0.5MS+2%スクロース+6%マンニトール+0.03mg/L NAA+0.1mg/L BAPと共に5日間インキュベートした後にK8p培地を交換し、7日間インキュベートした。アルギン酸塩をクエン酸ナトリウム(14.7g/Lクエン酸3Na.2H2O、36.4g/Lマンニトール、pH6.5)を使用して溶解させ、160ミクロン滅菌メッシュ(Nitex)に通過させて大型のコロニーを選別した。それらのコロニーを上記に記載されるとおりアルギン酸塩に包埋し、新鮮な0.5MS+2%スクロース+6%マンニトール+0.03mg/L NAA+0.1mg/l BAPを加えた。密封したプレートを暗所下25℃でインキュベートした。5日後、培地を0.5MS+2%スクロース+3%マンニトール+0.03mg/L NAA+0.1mg/L BAPに交換し、先述のとおりインキュベートした。培地を0.5MS+2%スクロース+0.25mg/Lゼアチンに交換し、明所下25℃でインキュベートした。再生が明らかになるまで、3週間毎にそれを新鮮培地に移し替えた。ディスク又はカルスを、0.5MS+2%スクロース+0.25mg/Lゼアチン+0.8%マイクロ寒天が入ったペトリ皿に移し替え、シュートを発育させて、所望の種類の再生体をスクリーニングした。
【0248】
幾つかの独立した実験において、選択して手で摘んだカルスから(96個の摘んだカルスのうち10個で)キメラの葉が発育した。これらのキメラカルスは、緑一色又は赤一色のバックグラウンドに赤色+緑色の器官を有した点で目立っていた。これらのキメラの一部は不完全周縁キメラで発育し、そこから腋芽を使用して周縁キメラを発育させた。
【0249】
実施例5
共再生についてはまた、トマト(RZ52201、Rijk Zwaan、オランダ)においても、再生可能な野生型(WT)を再生不能なgoblet遺伝子突然変異体(gob;Berger Y.et al.(2009)The NAC-domain transcription factor GOBLET specifies leaflet boundaries in compound tomato leaves.Development 136(5):823-832)に接木することにより試験した。ホモ接合性gobヌル突然変異体(gob-1、Berger et al.2009)は、幹細胞の特異化/維持の欠陥によりシュートを発生(再生)させることができない(図10A及び図10B)。gobヌル突然変異体の接穂をWT台木に接木することによって形成した接木接合部から(n=79本の接木体)、続いてそれらの接木接合部のスライスを培養して、シュートを再生した。全てWTであったが、例外的に1つの安定した(周縁)キメラがあり、ここではgobヌルが機能的に正常な表皮L1層を形成していた(図10C)。従って、不定シュート形成時の接合パターン形成により、即ち共再生により、安定した幹細胞アイデンティティがgob細胞に付与された。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
図9
図10
【配列表】
2024514169000001.app
【国際調査報告】