(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-28
(54)【発明の名称】乳房オルガノイドを成長させるための培地及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240321BHJP
【FI】
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563221
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 CA2022050583
(87)【国際公開番号】W WO2022217363
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】518393115
【氏名又は名称】ステムセル テクノロジーズ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ロウボサム,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】スティングル,ジョン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC12
4B065BA23
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB31
4B065BB40
4B065BC46
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
乳房オルガノイドを指向的に形成するための培地、キット及び方法を開示する。オルガノイド培地の実施形態は、単離された乳房上皮細胞からの管腔オルガノイドの形成を偏向させる/濃縮するために使用され得る。改変オルガノイド培地の実施形態は、単離された乳房上皮細胞からの混合系統オルガノイドの形成を偏向させる/濃縮するために、または管腔オルガノイドを混合系統オルガノイドに変換するために使用され得る。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された乳房上皮細胞から乳房オルガノイドを形成する方法であって、前記方法は、
a)前記乳房上皮細胞を、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方を含まないオルガノイド培地と接触させることと、
b)非管腔細胞よりも多い管腔細胞から構成されるオルガノイドが濃縮されたオルガノイドの第1の集団を形成するのに十分な時間、前記オルガノイド培地中で前記乳房上皮細胞を培養することと、を含み、
ここで、前記オルガノイド培地は、基礎培地と、ERBB1のリガンド及び/またはERBB4のリガンドの一方または両方と、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記オルガノイド培地が、前記BMPシグナル伝達の阻害剤を含むが、前記WNTシグナル伝達アゴニストを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オルガノイド培地が、前記WNTシグナル伝達アゴニストを含むが、前記BMPシグナル伝達の阻害剤を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記WNTシグナル伝達アゴニストが、R-スポンジン、WNTタンパク質、または、前述のいずれかの操作された模倣物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記BMPシグナル伝達の阻害剤が、タンパク質または低分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記BMPシグナル伝達の阻害剤は、ノギン、コーディン、フォリスタチン、LDN193189またはドルソモルフィンのうちの1つ以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ERBB1のリガンドが、EGFまたはTGFアルファではない、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ERBB1のリガンドが、アンフィレグリンである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ERBB4のリガンドが、異なるERBB受容体ファミリーメンバーのリガンドでもある、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ERBB4のリガンドが、ニューレグリン1及び/またはニューレグリン3である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記オルガノイド培地が、外因的に付加された性ホルモンを含まない、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記性ホルモンが、プロゲステロンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記非管腔細胞が、基底細胞、間質細胞、造血細胞及び内皮細胞のうちの1つ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記オルガノイドが、50%以上の管腔細胞から構成される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記オルガノイドの第1の集団を改変オルガノイド培地中で培養して、前記オルガノイドの第1の集団をオルガノイドの第2の集団に変換することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記改変オルガノイド培地にEGFを補充する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記改変オルガノイド培地に、WNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤を補充する、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記WNTシグナル伝達アゴニスト及び/または前記BMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方が前記オルガノイド培地に添加されていない場合には、前記オルガノイドの第2の集団は、より多くの基底細胞及びより少ない管腔細胞から構成される、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記オルガノイドの第1の集団が、前記オルガノイド培地中で5回以上継代可能である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記オルガノイドの第2の集団が、前記改変オルガノイド培地中で5回以上継代可能である、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記オルガノイドの第1の集団をTGF-ベータの阻害剤と接触させることをさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
ERの核局在を得ることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
乳房オルガノイド培地であって、基礎培地と、ERBB1のリガンド及びERBB4のリガンドの一方または両方とを含み、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及びBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方を欠く、前記培地。
【請求項24】
前記オルガノイド培地が、前記BMPシグナル伝達の阻害剤を含むが、前記WNTシグナル伝達アゴニストを含まない、請求項23に記載の培地。
【請求項25】
前記オルガノイド培地が、前記WNTシグナル伝達アゴニストを含むが、前記BMPシグナル伝達の阻害剤を含まない、請求項23に記載の培地。
【請求項26】
前記WNTシグナル伝達アゴニストが、R-スポンジン、WNTタンパク質、または、前述のいずれかの操作された模倣物である、請求項23~25のいずれか1項に記載の培地。
【請求項27】
前記BMPシグナル伝達の阻害剤が、タンパク質または低分子である、請求項23~26のいずれか1項に記載の培地。
【請求項28】
前記BMPシグナル伝達の阻害剤は、ノギン、コーディン、フォリスタチン、LDN193189またはドルソモルフィンのうちの1つ以上である、請求項27に記載の培地。
【請求項29】
前記ERBB1のリガンドが、EGFまたはTGFアルファではない、請求項23~28のいずれか1項に記載の培地。
【請求項30】
前記ERBB1のリガンドが、アンフィレグリンである、請求項23~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記ERBB4のリガンドが、異なるERBB受容体ファミリーメンバーのリガンドでもある、請求項23~30のいずれか1項に記載の培地。
【請求項32】
前記ERBB4のリガンドが、ニューレグリン1またはニューレグリン3である、請求項23~31のいずれか1項に記載の培地。
【請求項33】
前記オルガノイド培地が、外因的に付加された性ホルモンを含まない、請求項23~32のいずれか1項に記載の培地。
【請求項34】
前記性ホルモンがプロゲステロンである、請求項33に記載の培地。
【請求項35】
前記オルガノイド培地中で、単離された乳房上皮細胞を培養することにより、非管腔細胞よりも多い管腔細胞から構成されるオルガノイドが濃縮される、請求項23~34のいずれか1項に記載の培地。
【請求項36】
単離された乳房上皮細胞から乳房オルガノイドを形成するためのキットであって、前記キットが、
基礎培地と;
前記基礎培地に添加される第1の補充物であって、ERBB1のリガンド及び/またはERBB4のリガンドの一方または両方を含み、かつ、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方を含まない、前記第1の補充物と、を含む、前記キット。
【請求項37】
前記基礎培地または前記第1の補充物を補充した前記基礎培地に添加される第2の補充物をさらに含み、前記第2の補充物が、前記第1の補充物中のERBB1のリガンドとは異なるERBB1の第2のリガンドと、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/または前記BMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方と、を含む、請求項36に記載のキット。
【請求項38】
前記基礎培地に、または前記第1の補充物及び/または前記第2の補充物を補充した前記基礎培地に添加される第3の補充物をさらに含み、前記第3の補充物が、TGFβシグナル伝達阻害剤を含む、請求項36または37に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月16日に出願された米国仮出願第63/175,686号に対する優先権の利益を主張し、そのすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、細胞培養用途に関するものであり、より具体的には乳腺の細胞を用いた細胞培養用途に関するものであり、さらに具体的には、特定の乳腺細胞型から構成される多細胞構造体の成長に関する細胞培養用途に関する。
【背景技術】
【0003】
米国の約8人に1人の女性が、生涯において浸潤性乳癌と診断される。乳房腫瘍は、乳腺の上皮に発生する。乳房上皮は、授乳中に乳汁分泌性腺房を排出させる一連の分岐管から構成されている。これらの管及び腺房の細胞は、内側管腔層及び外側基層を有する二層化上皮として組織化される。管腔層は、エストロゲン受容体(ER)を発現する系統と乳系統の2系統の上皮細胞から構成される。休止乳腺における乳系統細胞は、妊娠中に増殖して、腺房と呼ばれる嚢状構造を生成する細胞である。腺房の内側を覆っている細胞、すなわち腺房細胞は、授乳中に乳汁を合成して分泌する。乳房上皮の基底細胞層は、基底細胞から構成されており、これらの細胞は、収縮特性を有するため(乳腺から乳を搾り出す)、筋上皮細胞とも呼ばれる。
【0004】
出産後の腺における3系統の細胞(基底、ER+、乳)は、主にそれぞれ自身の幹細胞集団によって維持される。ER+系統は、高レベルの管腔ケラチン(K)8及び18を発現するが、基底K5及びK14は発現しない。これらの細胞は、その名前が示唆するように、プロゲステロン受容体(PR)と同様に、高レベルのERを発現する。基底細胞は、K8またはK18を発現しないが、ケラチンK5及びK14を発現する。乳系統は、中間表現型を有し;ヒトでは、この乳系統の細胞が、管腔及び基底のケラチンの両方を発現する。マウスにおける乳系統は、管腔ケラチン発現は低レベルではあるが、主に管腔表現型を有し、基底ケラチンの転写レベルは、低いが検出可能である。乳系統では、ERは発現しない。
【0005】
ヒト乳房腫瘍は、表現型に基づいて3つのサブタイプ:ER+、HER2増幅(HER2+)、及びトリプルネガティブ(ER-、PR-、HER2-)に広く分類できる。トリプルネガティブ分類は、さらに基底様とクローディンlowとに細分することができる。ヒト乳房腫瘍の細胞起源は、依然として完全には理解されていないが、ER+腫瘍は、ER+細胞に由来し、HER2+腫瘍は、ER+及び乳系統細胞に由来し、基底様腫瘍は、乳系統細胞に由来し、クローディンlow腫瘍は、基底細胞に由来するという仮説が存在する。
【0006】
In vitroモデル系は、基礎乳腺生物学の疑問を研究し、また乳房腫瘍細胞と比較して、正常な乳房細胞の違いを理解するためにも有益であろう。さらに、系は、化合物スクリーニングアッセイ及び毒性試験に有益であり得る。
【0007】
乳腺の正常状態及び疾患状態を調べるための効果的なin vitroモデル系が依然として必要とされている。特に、正常な状況でも疾患の状況でも、単離している乳腺の個々の細胞型を調べるためのin vitroモデル系が依然として必要とされている。さらに、正常な状態であろうと疾患のある状態であろうと、調査される特定の構造または細胞の型を再現するin vitroモデル系を得るために、細胞培養培地を含めた確認された培養条件が依然として必要である。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、乳房オルガノイドを成長させるための培地、キット及び方法に関する。より具体的には、本開示は、所望の乳腺細胞型から構成される乳房オルガノイドを予測可能かつ再現可能に得るために、乳房上皮細胞を培養することに関する。
【0009】
本開示の広い一態様では、単離された乳房上皮細胞から乳房オルガノイドを形成する方法が提供される。そのような方法は、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方を含まないオルガノイド培地と乳房上皮細胞とを接触させることと、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達阻害剤の一方または両方がオルガノイド培地に含まれる場合、非管腔細胞(基底細胞、間質細胞など)よりも多い管腔細胞から構成されるオルガノイドが濃縮されたオルガノイドの第1の集団を形成するのに十分な時間、オルガノイド培地中で乳房上皮細胞を培養することと、を含み得る。一実施形態では、乳房上皮細胞は、乳房上皮幹細胞または前駆細胞を含む。一実施形態では、乳房上皮細胞は、霊長類またはげっ歯類から単離される。一実施形態では、非管腔細胞は、基底細胞、間質細胞、造血細胞及び内皮細胞のうちの1つ以上である。
【0010】
一実施形態では、管腔細胞は、K8を発現する。一実施形態では、管腔細胞は、K8及びK18を共発現する。一実施形態では、基底細胞は、K5を発現する。一実施形態では、基底細胞は、K5及びK14を共発現する。
【0011】
一実施形態では、オルガノイド培地は、基礎培地と、ERBB1のリガンド及び/またはERBB4のリガンドの一方または両方と、を含む。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、EGFまたはTGFαではない。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、アンフィレグリンである。一実施形態では、ERBB4のリガンドはまた、異なるERBB受容体ファミリーメンバーのリガンドである。一実施形態では、ERBB4のリガンドは、ヘレグリン及び/またはニューレグリン3である。
【0012】
一実施形態では、オルガノイド培地は、BMPシグナル伝達の阻害剤を含むが、WNTシグナル伝達アゴニストを含まない。一実施形態では、オルガノイド培地は、WNTシグナル伝達アゴニストを含むが、BMPシグナル伝達の阻害剤を含まない。
【0013】
一実施形態では、WNTシグナル伝達アゴニスト(オルガノイド培地には含まれない)は、R-スポンジン、WNTタンパク質、または上記のいずれかの操作された模倣物である。
【0014】
一実施形態では、BMPシグナル伝達の阻害剤は、タンパク質または低分子である。一実施形態では、BMPシグナル伝達の阻害剤は、ノギン、コーディン、フォリスタチン、LDN193189またはドルソモルフィンのうちの1つ以上である。
【0015】
一実施形態では、オルガノイド培地は、外因的に付加された性ホルモンを含まない。一実施形態では、性ホルモンは、プロゲステロンである。
【0016】
一実施形態では、オルガノイドは、50%以上が管腔細胞で構成されている。
【0017】
一実施形態では、本方法は、オルガノイドの第1の集団を改変オルガノイド培地中で培養して、オルガノイドの第1の集団をオルガノイドの第2の集団に変換することをさらに含み得る。
【0018】
一実施形態では、改変オルガノイド培地には、EGFが補充される。一実施形態では、改変オルガノイド培地は、WNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤を補充する。
【0019】
一実施形態では、WNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方がオルガノイド培地に添加されていない場合には、オルガノイドの第2の集団は、より多くの基底細胞及びより少ない管腔細胞から構成される。
【0020】
一実施形態では、オルガノイドの第1の集団は、オルガノイド培地中で5回以上継代され得る。一実施形態では、オルガノイドの第2の集団は、改変オルガノイド培地中で5回以上継代され得る。
【0021】
一実施形態では、本方法は、オルガノイドの第1の集団または第2の集団をTGF-ベータの阻害剤と接触させることをさらに含み得る。一実施形態では、本方法は、TGF-ベータの阻害剤での処理により、ERの核局在を得ることをさらに含み得る。
【0022】
一実施形態では、オルガノイドの第1の集団は、平均して50%超の管腔細胞及び30%未満の基底細胞で構成されている。
【0023】
本開示の別の広い態様では、乳房オルガノイド培地配合物が提供される。そのような乳房オルガノイド培地は、基礎培地と、ERBB1のリガンド及びERBB4のリガンドの一方または両方とを含み、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及びBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方を欠く。
【0024】
一実施形態では、オルガノイド培地は、BMPシグナル伝達の阻害剤を含むが、WNTシグナル伝達アゴニストを含まない。一実施形態では、オルガノイド培地は、WNTシグナル伝達アゴニストを含むが、BMPシグナル伝達の阻害剤を含まない。
【0025】
一実施形態では、WNTシグナル伝達アゴニスト(オルガノイド培地には含まれない)は、R-スポンジン、WNTタンパク質、または上記のいずれかの操作された模倣物のうちの1つ以上である。
【0026】
一実施形態では、BMPシグナル伝達の阻害剤(オルガノイド培地に含まれない)は、タンパク質または低分子である。一実施形態では、BMPシグナル伝達の阻害剤(オルガノイド培地に含まれない)は、ノギン、コーディン、フォリスタチン、LDN193189またはドルソモルフィンのうちの1つ以上である。
【0027】
一実施形態では、ERBB1のリガンドは、EGFまたはTGFαではない。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、アンフィレグリンである。一実施形態では、ERBB4のリガンドはまた、異なるERBB受容体ファミリーメンバーのリガンドである。一実施形態では、ERBB4のリガンドは、ニューレグリン1及び/またはニューレグリン3である。
【0028】
一実施形態では、オルガノイド培地は、外因的に付加された性ホルモンを含まない。一実施形態では、性ホルモンは、プロゲステロンである。
【0029】
一実施形態では、オルガノイド培地中で、単離された乳房上皮細胞を培養することにより、非管腔細胞よりも多い管腔細胞から構成されるオルガノイドが濃縮される。
【0030】
一実施形態では、単離された乳房上皮細胞が、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達阻害剤の一方または両方を含むオルガノイド培地中で培養される場合、オルガノイド培地中で、単離された乳房上皮細胞を培養することにより、より多くの管腔細胞及びより少ない基底細胞から構成されるオルガノイドが濃縮される。一実施形態では、乳房上皮細胞は、乳房上皮幹細胞または前駆細胞を含む。一実施形態では、乳房上皮細胞は、霊長類またはげっ歯類から単離される。
【0031】
本開示の別の広い態様では、(本開示のオルガノイド培地、改変オルガノイド培地、及びER核局在性培地などの培地配合物を配合するための)キットが提供される。一実施形態では、このようなキットは、基礎培地と、この基礎培地に添加される第1の管腔細胞促進補充物とを含んでよい。一実施形態では、第1の補充物は、ERBB1のリガンド及び/またはERBB4のリガンドの一方または両方を含み得る。一実施形態では、第1の補充物は、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方を欠いている場合もある。
【0032】
一実施形態では、本開示のキットは、基礎培地に添加される、または第1の補充物を補充した基礎培地に添加される、第2の混合系統促進補充物をさらに含み得る。一実施形態では、第2の補充物は、第1の補充物中のERBB1のリガンドとは異なるERBB1の第2のリガンドを含み得る。一実施形態では、第2の補充物は、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の阻害剤の一方または両方をさらに含んでいてもよい。
【0033】
一実施形態では、本開示のキットはさらに、基礎培地に、または第1の補充物及び/または第2の補充物を補充した基礎培地に添加される第3のER核局在補充物を含んでもよい。一実施形態では、第3の補充物は、TGFβシグナル伝達の阻害剤を含み得る。一実施形態では、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、SB431542、RepSox、A77-01またはA83-01である。
【0034】
本発明の他の特徴、及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、この詳細な説明及び特定の例は、本発明の好ましい実施形態を示してはいるが、例示としてのみ行われるものであって、この詳細な説明によって当業者に明らかになる各種の変更や修正は、本発明の趣旨及び範囲内にあることを理解するべきである。
【0035】
本明細書に記載の種々の実施形態のより良い理解のため、またこれらの種々の実施形態を効果的に実行し得る方法をより明確に示すために、少なくとも1つの例示的実施形態を示す添付図面を参照として提示し、これより、添付図面について説明する。各図面は、本明細書に記載の教示の範囲を限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】選別されていないマウス乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドの代表的な画像を示す。パネルA)、B)及びC)の画像は、外因的に付加されたWNTアゴニスト及びBMPシグナル伝達の阻害剤を含むオルガノイド培地中のオルガノイドの連続継代に相当する。パネルDの画像には、パネルA)~C)に示されたオルガノイドを形成するために使用されるオルガノイド培地において生成されたオルガノイドの継代2の共焦点顕微鏡によって撮影された画像を示す。オルガノイドを、K8、K14及び核染色DAPIについて染色した。スケールバーは、パネルA)~C)では500μmであり、パネルD)では100μmである。
【
図2】選別されたマウス乳房上皮細胞の集団から形成されたオルガノイドの代表的な画像を示す。ER
+管腔細胞(パネルA及びD)、乳細胞(パネルB及びE)、ならびに基底細胞(パネルC及びF)を、BMPシグナル伝達の阻害剤を含まないオルガノイド培地中で、及びRSPO-1の存在下または非存在下のいずれかで培養した。スケールバーは、500μmである。
【
図3】選別されていないマウス乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドの代表的な画像を示す。パネルA)における画像は、WNTアゴニストRSPO-1もしくはRSPO-3を含むか、または外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニストを含まない培地中に形成されたオルガノイドを示す。スケールバーは、500μmである。パネルB)のフローサイトメトリープロットは、パネルA)のオルガノイド培地中のオルガノイドに形成された細胞間の表現型を示す。
【
図4】連続継代において選別されていないマウス乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドの代表的な画像を示す。管腔オルガノイドは、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニストを含むかまたは含まない、本開示のオルガノイド培地中で増殖した。スケールバーは、500μmである。継代2のオルガノイドを、K8、K14、及び核染色DAPIについて染色し、共焦点顕微鏡法によって撮像した。スケールバーは、100μmである。
【
図5】連続継代において選別されていないマウス乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドの代表的な画像を示す。管腔オルガノイドは、外因的に付加されたBMPシグナル伝達の阻害剤を含むかまたは含まない本開示のオルガノイド培地中では、形成または増殖しない。スケールバーは、500μmである。継代2のオルガノイドを、K8、K14、及び核染色DAPIについて染色し、共焦点顕微鏡によって撮像した。スケールバーは、100μmである。
【
図6】選別されていないマウス乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドの代表的なフローサイトメトリープロットを示す。パネルA)及びB)は、R-スポンジンを含む(パネルA)またはR-スポンジンを含まない(パネルB)培地中で14日間(P0)細胞を培養後のオルガノイドの代表的な画像を示す。パネルA)及びB)に示されるオルガノイドの細胞を、それぞれ、EpCAM及びCD49f(パネルC)及びD))の発現についてフローサイトメトリーにより分析した。フローサイトメトリーデータの概要をパネルEに示す。結果は、n=8のマウスで確認した。スケールバーは、500μmである。
【
図7】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドの代表的な画像を示す。RSPO-1、EGF及びノギンが外因的に添加されたオルガノイド培地に、オルガノイドが形成された。パネルA)の画像は、形成された複数のオルガノイドを捕捉するより広い焦点領域を示す。スケールバーは、500μmである。パネルB)及びパネルC)のそれぞれの画像は、K8、K14及び核染色DAPIについて染色した後に、明視野または共焦点顕微鏡法のいずれかによって撮像された1つのオルガノイドを示す。スケールバーは、100μmである。
【
図8】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたヒトのオルガノイドに対する、BMP受容体を介したシグナル伝達の調節の効果を示す。パネルA)のフローサイトメトリープロットは、BMPシグナル伝達アゴニスト(BMP2またはBMP4)またはアンタゴニスト(ノギンまたはLDN193189)のいずれかを含むオルガノイド培地での形成後のオルガノイド組成を比較する。パネルB)のフローサイトメトリープロットは、2つの異なるドナーについて、BMP受容体を介したシグナル伝達の阻害がオルガノイド細胞系統のバランスに及ぼす効果を示す。
【
図9】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたヒトのオルガノイドに対する、BMP受容体を介したシグナル伝達の調節の効果を示す。パネルA)のプロットは、BMPシグナル伝達アゴニスト(BMP2またはBMP4)またはアンタゴニスト(ノギンまたはLDN193189)のいずれかを含むオルガノイド培地に形成されたオルガノイドの中に含まれる細胞の総数を示す。パネルB)の棒グラフには、BMPシグナル伝達の異なる調節因子を含むオルガノイド培地に形成されたオルガノイドの組成をまとめる。棒グラフは、BMPシグナル伝達の外因的に付加された調節因子を含まない対照に対して正規化させた、2つの実験+/-標準偏差の平均を表す。パネルC)では、BMPシグナル伝達の阻害剤を含むまたは含まない培地に形成されたオルガノイドを、K8、K14及び核染色DAPIについて染色した後に共焦点顕微鏡によって撮像した。白い矢印は、K8について明るく染色している選択された領域を示す。スケールバーは、50μmである。
【
図10】連続継代において撮影された管腔偏向型ヒトオルガノイドの画像を示す。BMPシグナル伝達の2つの異なる阻害剤の組み合わせを含むオルガノイド培地中で、または各BMPシグナル伝達阻害剤を個別に含む培地中で、オルガノイドを形成させた。スケールバーは、500μmである。
【
図11】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドに対するWntアゴニスト作用の効果を示す。パネルA)のオルガノイドは、WNTシグナル伝達のアゴニストを含むか、または省略するオルガノイド培地中で形成され、そのようなオルガノイドの組成の代表的なフローサイトメトリープロットは、パネルB)に示す。スケールバーは、500μmである。パネルC)の棒グラフは、種々のWNTシグナル伝達アゴニストまたはアンタゴニストを含む培地中で形成された後のオルガノイド組成をまとめたものである。棒グラフは、外因的に付加されたWNTシグナル伝達調節因子を含まない対照に対して正規化させた、2つの実験+/-標準偏差の平均を表す。
【
図12】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドに対する、様々なERBB受容体ファミリーメンバーを介したシグナル伝達の調節の効果を示す。パネルA)のフローサイトメトリープロットは、ERBB受容体ファミリーメンバーの調節を含まないオルガノイド培地または示されたERBB受容体ファミリーリガンドを含むオルガノイド培地のいずれかで形成された後のオルガノイド組成の比較を示す。パネルB)のフローサイトメトリープロットは、2つの異なるドナーについて、ERBBファミリーメンバーの外因性調節因子を含まないかまたはEGFシグナル伝達阻害剤を含むオルガノイド培地のオルガノイド形成に対する効果を示す。
【
図13】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドに対する、ERBBファミリーメンバーを介したシグナル伝達の調節の効果を示す。パネルA)のプロットは、ERBBアゴニスト(AREG、EGFまたはNRG1)またはアンタゴニスト(エルロチニブ+ゲフィチニブ)のいずれかを含むオルガノイド培地中で形成されたオルガノイドに含まれる細胞の総数を示す。パネルB)の棒グラフには、異なるERBB受容体調節因子を含むオルガノイド培地中で形成された後に、得られたオルガノイドの組成をまとめる。棒グラフは、外因的に付加されたERBBファミリーシグナル伝達調節因子を含まない対照に対して正規化させた、2つの実験+/-標準偏差の平均を表す。
【
図14】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドに対する、TGFβを介したシグナル伝達の調節の効果を示す。パネルA)のフローサイトメトリープロットは、TGFβシグナル伝達の調節を含まないか、または外因的に付加されたTGFβ1を含むオルガノイド培地中で形成された後のオルガノイド細胞組成の比較を示す。パネルB)のフローサイトメトリーのプロットは、TGFβシグナル伝達の外因的に付加された阻害剤がオルガノイド形成に及ぼす効果を示す。
【
図15】TGFβを介したシグナル伝達の阻害がERの局在化に及ぼす効果を示す。パネルA)(ヒト)及びパネルB)(マウス)では、本開示のそれぞれのオルガノイド培地にオルガノイドが形成され、次いで、TGFβシグナル伝達の異なる阻害剤に一過性に曝露させた。K8、K14、ER及び核染色DAPIについて染色した後に、共焦点顕微鏡によりオルガノイドを撮像した。矢印は、ER染色及びDAPI染色の共局在を示す。
【
図16】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成された継代1、10日目のオルガノイドの代表的な画像を示す。オルガノイドは、外因的に付加されたRSPO-1、ノギン、プロゲステロンまたはEGFを含まないオルガノイド培地中で形成された。パネルA)の画像は、形成された複数のオルガノイドを捕捉するより広い焦点領域を示す。スケールバーは、100μmである。パネルB)~D)の画像は、K8、K14及び核染色DAPIについて染色した後に、共焦点顕微鏡によって撮像された1つの形成されたオルガノイドを、単独でまたはマージさせて示す。スケールバーは、50μmである。
【
図17】選別されていないヒト乳房上皮細胞から形成されたオルガノイドの代表的な共焦点顕微鏡画像を示す。管腔制限オルガノイドは、50ng/mlのニューレグリン3(NRG3)(A)または100ng/mlの抗ミュラー管ホルモン(AMH)(B)のいずれかを含むオルガノイド培地中で形成された。基底制限オルガノイドは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)50ng/mlを含むオルガノイド培地中で形成された(C)。オルガノイドを、K8、K14及び核染色DAPIについて染色した。スケールバーは、100μmである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示は、乳房オルガノイドを成長させるための培地及び方法に関する。より具体的には、本開示は、乳房上皮細胞の培養物を操作して、所望の乳腺細胞型から構成される乳房オルガノイドを予測可能かつ再現可能に生成することに関する。いくつかの実施形態では、本開示の培地中でまたは本開示の方法を実施することによって形成される乳房オルガノイドは、培地中において増殖されるかまたは継代されてよい。
【0038】
本開示で使用される場合、「乳房オルガノイド(複数可)」という用語は、乳房上皮またはその特定の成分、例えば乳管のセグメントまたは終末乳管小葉単位の一般的な組織を繰り返す多細胞構造を指す。一実施形態では、乳房オルガノイドは、他のあらゆる細胞型(例えば、基底、内皮、間質、造血など)よりも多い特定の細胞型(例えば、管腔細胞)から構成されている。関連する実施形態では、そのような乳房オルガノイドは、主に、または完全に、1つの型の乳房上皮細胞で構成され得る。一実施形態では、乳房オルガノイドは、様々な型の乳房上皮細胞のよりバランスの取れた混合物から構成される。
【0039】
前者の例として、「管腔オルガノイド」、「管腔制限オルガノイド」または「管腔偏向オルガノイド」は、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%またはそれ以上の管腔細胞から構成される乳房オルガノイド(本開示のオルガノイド培地を用いて形成される)である。したがって、管腔オルガノイドは、非管腔細胞よりも多い管腔細胞から構成され得る。本開示のオルガノイド培地を使用して形成される場合には、このような管腔オルガノイドは、オルガノイドの第1の集団と呼ばれ得る。一実施形態では、管腔オルガノイド(またはオルガノイドの第1の集団)は、本明細書に開示のとおりのオルガノイド培地とは異なって配合された培地を使用する場合に存在し得るよりも多い管腔細胞で構成される。
【0040】
後者の例として、「混合系統オルガノイド」または「分岐型オルガノイド」は、種々の細胞の種類(例えば、基底細胞、管腔細胞、間質細胞など)から構成される乳房オルガノイドである。混合系統オルガノイドは、実質的に正常乳房組織で観察されるようにして組織化され得る。本開示のオルガノイド培地とは異なるように配合された培地を使用して形成される場合に、そのような混合系統オルガノイドは、オルガノイドの第2の集団と呼ばれ得る。したがって、オルガノイドの第2の集団のオルガノイドは、本開示のオルガノイド培地に曝露された後に、少なくともより多くの基底細胞及びより少ない管腔細胞から構成される。混合系統オルガノイドは、単離された乳房上皮細胞から出発するかまたはオルガノイドの第1の集団から出発するかにかかわらず、本開示の改変オルガノイド培地を使用して形成することができる。
【0041】
本開示で使用される場合、「乳房上皮細胞」という用語は、哺乳動物の乳腺に存在し、この乳腺から単離可能な細胞を指す。一実施形態では、乳房上皮細胞は、乳房上皮幹細胞または前駆細胞を含み得る。本開示の目的のために、乳房上皮細胞は、単細胞懸濁液、乳房上皮細胞の断片の懸濁液、乳房上皮細胞の塊、または前述のものの任意の組み合わせの混合物として提供され得る。一実施形態では、乳房上皮細胞は、多能性幹細胞、例えば誘導多能性幹細胞、胚性幹細胞などから誘導される場合には、「乳房上皮様細胞」であり得る。一実施形態では、乳房上皮細胞または乳房上皮様細胞は、ヒトなどの霊長類またはマウスなどのげっ歯類に由来する。
【0042】
乳房上皮細胞は、典型的には、基底細胞(例えば、K14+、K5+、SMA+、CD49f+、及びK8-のうちの1つ以上を特徴とする細胞)及び管腔細胞を含み、ここで、管腔細胞は、ER+系統(例えば、K8+、ER+、K5-、K14-、及びCD49f-のうちの1つ以上を特徴とする細胞)及び乳産生系統(例えば、K8+、CD49b+、ALDEFLUOR+のうちの1つ以上を特徴とする細胞)にさらに細分される。一実施形態では、管腔細胞は、K8の発現(「K8+」)に基づいて分類され得る。一実施形態では、管腔細胞は、K8及びK18の共発現に基づいて分類され得る。一実施形態では、基底細胞は、K14の発現(「K14+」)に基づいて分類され得る。一実施形態では、管腔細胞は、K14及びK5の共発現に基づいて分類され得る。当業者であれば、基底細胞または管腔細胞のシグネチャは、網羅的でも排他的でもないことを理解するであろう。いくつかの場合において、異なるマーカーが、それぞれの細胞型の区別に有用であり得る。あるいは場合によっては、異なる細胞型が、おおむね同等のレベルまたは異なるレベルで、共通のマーカーを発現してもよい。
【0043】
基底細胞及び管腔細胞は、例えば選別された管腔細胞集団が、適切な培養環境が使用される限り、基底細胞の最終的な出現を促進する条件下で培養され、その逆の場合も同様であるため、双能である可能性が高い。一実施形態では、適切な培養環境は、(本明細書でさらに説明されるように)任意の適切な補充培養培地を含む。
【0044】
公知の方法論または公知の方法論の変形例を用いて、哺乳動物上皮細胞の調製物を得ることができる。典型的には、乳腺は、対象から切除され、メスまたは他の同様の手段を用いて物理的/機械的に破壊される。通常、酵素消化により、乳腺の結合組織などの乳腺のさらなる解離が容易になる。
【0045】
一実施形態では、メスを用いて細かく刻んだ乳房組織を、コラゲナーゼ及びヒアルロニダーゼを含む溶液中で穏やかに撹拌することにより、細胞外マトリックス及び結合組織を分解することができる。生じた液体画分は、その後、1回または複数回の遠心分離に供され得る。
【0046】
複数回の遠心分離を実施する場合には、各回を、段階的により高い遠心力及び/またはより長い継続時間で行ってもよく、これにより、各ステップにおけるペレットを節約することができる。一実施形態では、目的の細胞を単離するには、2~3回の遠心分離で十分である。例えば、約100xgで約0.5~1分間にわたる最初の遠心分離後に、乳房上皮細胞の断片を含むより大きなデブリがペレット中に回収され得る。約200xgで約3~5分間にわたる2回目の遠心分離の後に、ペレット中に乳房上皮細胞の塊及び個々の乳房上皮細胞を回収することができる。また、約400xgで約5分間にわたる3回目の遠心分離後、間質細胞を含む個々の細胞をペレット中に回収することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、ペレット細胞の外観に応じて、混入した赤血球を溶解するために塩化アンモニウムで短時間処理する必要があり得る。
【0048】
乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を生成するために、第1のペレットの細胞、及び該当する場合には第2のペレットの細胞は、トリプシン含有溶液、次にDNase溶液で順次処理し、任意にその後37μmフィルターを通した濾過によってさらに処理され得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、培養された乳房上皮細胞は、上記のように消化及び濾過後の残渣として得られるような、比較的大きい組織断片に含まれ得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、培養された乳房上皮細胞は、上記のプロセスを使用して得られる単一細胞であってよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、培養された乳房上皮細胞は、より小さいもの(例えば37μmのフィルターを通過するもの)及び/またはより大きいもの(例えば37μmのフィルターを通過しないもの)であるか否かにかかわらず、単一細胞及び組織断片の混合物であってよい。
【0052】
しかしながら、処理された乳房上皮細胞は、本明細書に開示の培地(例えば、オルガノイド培地)中に及び/または本明細書に開示の方法に従って播種及び培養され得る。
【0053】
培地
本開示の一態様では、乳房オルガノイドを形成または成長させるための細胞培養培地(すなわち、オルガノイド培地)が提供される。一実施形態では、本開示のオルガノイド培地は、複数の継代にわたって乳房オルガノイドを維持及び/または増殖させる。一実施形態では、オルガノイド培地は、乳房上皮細胞から乳房オルガノイドを成長させる/形成するため、及び複数の継代にわたって乳房オルガノイドを維持/増殖させるために使用され得る。
【0054】
本開示で使用される場合に、用語「オルガノイド培地」とは、乳房上皮細胞の単離された調製物から乳房オルガノイドを形成及び/または成長及び/または増殖させるために使用され得る溶液を指す。さらに、そのようなオルガノイド培地は、乳房上皮細胞の単離された調製物から形成された乳房オルガノイドを継代させるために使用されてもよい。一実施形態では、オルガノイド培地は、基礎培地を含み、かつ哺乳動物細胞、特に初代上皮細胞の培養用の添加剤、例えば、塩(複数可);緩衝液(複数可);アミノ酸;エネルギー源(複数可)(例えば、グルコース、ピルビン酸など);アルブミン(複数可)またはアルブミンサロゲート;微量元素;及び脂質のうちの1つ以上が適切に補充される。さらに、オルガノイド培地は、所望の系統の細胞から構成される乳房オルガノイド(乳房上皮細胞由来)の形成を偏向させるための、1つ以上の適切な低分子及び/またはサイトカインもしくは成長因子またはそれらの模倣物を含み得る。一実施形態では、そのようなオルガノイド培地はまた、乳房オルガノイドの成長/増殖を促進し得る。特定の実施形態では、オルガノイド培地は、オルガノイドの第1の集団に含まれ得る管腔オルガノイドを形成及び/または成長及び/または増殖させることを意図している。一実施形態では、同じオルガノイド培地を使用して、ヒト及びマウスの管腔オルガノイドを形成/継代させ得る。一実施形態では、異なるオルガノイド培地を使用して、ヒト及びマウスの管腔オルガノイドを形成/継代させ得る。
【0055】
オルガノイド培地は、乳房上皮細胞などの上皮細胞の培養をサポートすることができる任意の公知の及び/または市販の基礎培地を使用して配合され得る。例えば、乳房上皮細胞などの上皮細胞の培養において日常的に使用される基礎培地には、DMEM、DMEM/F12、Adv-DMEM、及びAdv-DMEM/F12などが含まれる。一実施形態では、基礎培地は、DMEM、DMEM/F12、Adv-DMEM、またはAdv-DMEM/F12のいずれかである。
【0056】
一方で、乳房上皮細胞の培養を偏向させて、そうでない場合に生じるよりも多くの管腔細胞で構成される管腔オルガノイドを形成することが望ましい場合には、この特定の目的のためにオルガノイド培地の配合物を最適化する必要があり得る。
【0057】
一実施形態では、オルガノイド培地は、少なくとも1種の分裂促進因子を含む。少なくとも1種の分裂促進因子は、ヒト遺伝子に対応するアミノ酸配列に基づくことができる。一実施形態では、分裂促進因子は、げっ歯類種などの非ヒト遺伝子に対応するアミノ酸配列に基づくことができる。一実施形態では、分裂促進因子の起源(配列または供給源に関して)を、培養する単離された乳房上皮細胞の種起源と一致させることが適切である。いくつかの実施形態では、分裂促進因子の起源(配列または供給源に関して)を、培養する単離された乳房上皮細胞の種起源と一致させる必要はない。
【0058】
一実施形態では、(管腔オルガノイドを形成及び維持するための)オルガノイド培地は、ERBB1のリガンドを含む。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、上皮成長因子(EGF)ではない。同一または異なる実施形態では、ERBB1のリガンドは、形質転換成長因子アルファ(TGFα)ではない。したがって、一実施形態では、ERBB1のリガンドは、EGFまたはTGFα、前述のものの機能的断片または模倣体でない。
【0059】
一実施形態では、ERBB1のリガンドは、アンフィレグリンである。そのような実施形態において、アンフィレグリンの濃度は、約1μg/mL~0.1ng/mL、または約500ng/mL~0.5ng/mL、または約250ng/mL~1ng/mL、または約125ng/mL~2ng/mL、または約50ng/mL~3ng/mLであり得る。
【0060】
一実施形態では、(管腔オルガノイドを形成及び維持するための)オルガノイド培地は、ERBB4のリガンドを含む。一実施形態では、ERBB4のリガンドはまた、異なるERBB受容体ファミリーメンバーのリガンドである。そのような実施形態では、ERBB4のリガンドはまた、ERBB3のリガンドであり得る。
【0061】
一実施形態では、ERBB4のリガンドは、ヘレグリン(別名ニューレグリン1、二量体化ERBB3及びERBB4のリガンド)である。そのような実施形態において、ヘレグリンの濃度は、約1μg/mL~0.1ng/mL、または約500ng/mL~0.5ng/mL、または約250ng/mL~1ng/mL、または約125ng/mL~2ng/mL、または約50ng/mL~3ng/mLである。一実施形態では、ERBB4のリガンドは、ニューレグリン3であり、これは前述の濃度範囲内でオルガノイド培地中に含まれ得る。
【0062】
一実施形態では、オルガノイド培地は、ERBB1またはERBB4のリガンドの一方を含む。一実施形態では、オルガノイド培地は、ERBB1及びERBB4のリガンドの双方を含む。
【0063】
一実施形態では、ERBB4のリガンドは、ベタセルリン、エピゲン、エピレグリン、ニューレグリン1、ニューレグリン2、ニューレグリン3、ニューレグリン4またはトモレグリンであり得る。いくつかの実施形態では、(基底または混合オルガノイドを促進及び維持するための)オルガノイド培地は、2つ以上のERBB4リガンドを含む。
【0064】
一実施形態では、ERBB4のリガンドは、ニューレグリン3である。そのような実施形態において、ニューレグリン3の濃度は、約1μg/mL~0.1ng/mL、または約500ng/mL~0.5ng/mL、または約250ng/mL~1ng/mL、または約125ng/mL~2ng/mL、または約50ng/mL~3ng/mLである。一実施形態では、ニューレグリン3の濃度は、約50ng/mLである。
【0065】
タンパク質、ペプチドまたは低分子リガンドを用いて特定のシグナル伝達カスケードを活性化及び/または阻害することが重要であり得るのと同様に、他のシグナル伝達カスケードを活性化及び/または阻害しないようにすることも重要であり得る。
【0066】
したがって、一実施形態では、(管腔オルガノイドを形成及び維持するための)オルガノイド培地は、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及びBMPシグナル伝達の調節因子(例えば、活性化剤または阻害剤)のうちの一方または両方を含まない。
【0067】
一実施形態では、オルガノイド培地には含まれないWNTシグナル伝達アゴニストは、R-スポンジン、WNTタンパク質、または上記のいずれかの操作された模倣物である。WNTシグナル伝達アゴニストは、特定の上皮性オルガノイドの培養において使用されるが、本発明者らは、本開示のオルガノイド培地中にWNTシグナル伝達アゴニストを含めることは、管腔オルガノイドの形成、成長の促進、及び維持にとって不要であり、または有害であり得ることを示した。また、WNTシグナル伝達アゴニストをオルガノイド培地に含むことによって、混合系統オルガノイドの形成/成長を促進/維持することもできる。
【0068】
一実施形態では、オルガノイド培地から除外されるR-スポンジンは、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、またはR-スポンジン4のうちの1つ以上である。一実施形態では、オルガノイド培地から除外されるR-スポンジンは、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、またはR-スポンジン4のそれぞれである。したがって、管腔オルガノイドを促進及び維持するために、オルガノイド培地に添加されるR-スポンジンの濃度は、0ng/mL、または実質的に0ng/mLである。
【0069】
一実施形態では、オルガノイド培地から除外されるWNTタンパク質は、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、またはWNT16のうちの1つ以上である。別の実施形態では、オルガノイド培地から除外されるWNTタンパク質は、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、またはWNT16のうちのそれぞれである。したがって、管腔オルガノイドを促進及び維持するために、オルガノイド培地に添加されるWNTタンパク質の濃度は、0ng/mL、または実質的に0ng/mLである。
【0070】
合成生物学における進歩により、タンパク質ベース、ペプチドベースまたは低分子ベースのリガンド模倣物のin silicoデザインが可能となった。このような模倣物の利点としては、限定されるものではないが、活性の増加、安定性の増加、構造の単純化、サイズの減少などが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態では、WNTまたはR-スポンジンの機能(例えばその模倣物によるもの)は、本開示のオルガノイド培地には存在しない。
【0071】
例えば、典型的な組換えWNTタンパク質は、培養培地に添加された場合、恐らく疎水性が高いことで急速に分解するため、効果はほとんどまたは全くない。この課題を解決するために、標準的なFZD媒介WNT経路アゴニストを、培養培地に添加した場合に許容される生物学的活性を保持しながら、野生型Wnt3aよりも強力になるように操作した(U-Protein Express)。
【0072】
一実施形態では、オルガノイド培地に含まれないBMPシグナル伝達の調節因子は、BMP受容体を介したシグナル伝達を阻害するタンパク質、ペプチドまたは低分子である。一実施形態では、オルガノイド培地に含まれないBMPシグナル伝達の調節因子は、BMP受容体を介したシグナル伝達を活性化するタンパク質、ペプチドまたは低分子である。BMPシグナル伝達の調節因子は、特定の上皮性オルガノイドを培養するために一般的に使用されるが、本発明者らは、本開示のオルガノイド培地中にBMPシグナル伝達の特定の調節因子(複数可)を含めることは、管腔オルガノイドの促進及び維持にとって不要または有害であり得ることを示している。
【0073】
一実施形態では、(管腔オルガノイドを促進/維持するための)オルガノイド培地から除外されるBMPシグナル伝達の阻害剤は、タンパク質またはペプチドである。そのような除外されるタンパク質(または機能的に同等のペプチド)は、ノギン、コーディン、フォリスタチン、スクレロスチン、CTGF/CCN2、グレムリン(gremlin)、ケルベロス(Cerberus)、DAN、PRDC、デコリン、アルファ-2マクログロブリンタンパク質などのうちの1つ以上であってもよい。一実施形態では、オルガノイド培地から除外されるBMPシグナル伝達阻害剤は、ノギン、コーディン、フォリスタチン、スクレロスチン、CTGF/CCN2、グレムリン、ケルベロス、DAN、PRDC、デコリン、及びアルファ-2マクログロブリンタンパク質のそれぞれである。したがって、管腔オルガノイドを促進及び維持するためのオルガノイド培地中のBMPシグナル伝達の阻害剤の有効濃度は、0ng/mL、または実質的に0ng/mLである。
【0074】
一実施形態では、(管腔オルガノイドを促進/維持するための)オルガノイド培地から除外されるBMPシグナル伝達の阻害剤は、低分子である。このような除外される低分子は、LDN193189またはドルソモルフィンであり得る。一実施形態では、オルガノイド培地から除外されるBMPシグナル伝達の阻害剤は、LDN193189及びドルソモルフィンの各々である。したがって、管腔オルガノイドを促進及び維持するためのオルガノイド培地中のBMPシグナル伝達阻害剤の有効濃度は、0ng/mL、または実質的に0ng/mLである。
【0075】
一実施形態では、BMPシグナル伝達の活性化剤は、BMP2もしくはBMP4などのタンパク質またはそれらのペプチドであり得る。
【0076】
BMPシグナル伝達の多くの調節因子が知られており、それらが調節する経路に基づいて、器官培地に包含するまたは包含しない特定の調節因子を選択することが重要であり得る。オルガノイド培地のいくつかの実施形態では、BMPを介したシグナル伝達の2つ以上の異なる調節因子を含むことにより、管腔オルガノイドの最適な形成及び維持を達成することができる。一実施形態では、BMPシグナル伝達の複数の阻害剤またはBMPシグナル伝達の複数の活性化剤がオルガノイド培地に含まれ得る。一実施形態では、BMPシグナル伝達の活性化剤及び阻害剤の両方が、オルガノイド培地に含まれ得る。BMPシグナル伝達阻害剤またはBMPシグナル伝達活性化剤またはこれら2つの組み合わせを含む任意の実施形態では、調節された特定のBMP経路は、管腔オルガノイドの形成にとって重要な考慮事項であり得る。
【0077】
一実施形態では、管腔オルガノイドを形成/維持するためのオルガノイド培地は、ERBB1及びERBB4リガンドの両方を含み、かつ外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及びBMPシグナル伝達の阻害剤(または前述のいずれかの模倣物)の一方または両方を含まない。
【0078】
一実施形態では、オルガノイド培地は、BMPシグナル伝達の阻害剤を含むが、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニストは含まない。一実施形態では、オルガノイド培地は、WNTシグナル伝達アゴニストを含むが、外因的に付加されたBMPシグナル伝達の阻害剤は含まない。
【0079】
管腔オルガノイドの形成を偏向させるまたは促進することは、オルガノイド培地中で乳房上皮細胞を培養することにより、(例えば、オルガノイド培地とは異なる培地中で単離された乳房上皮細胞からオルガノイドを形成することと比較して)非管腔細胞よりも多い管腔細胞から構成されるオルガノイドが濃縮されることを意味し得る。一実施形態では、オルガノイド培地中に形成された管腔オルガノイドは、70%超の管腔細胞と、約20%以下の基底細胞とを含む。一実施形態では、オルガノイド培地中に形成された管腔オルガノイドは、80%超の管腔細胞と、約15%以下の基底細胞とを含む。一実施形態では、オルガノイド培地中に形成された管腔オルガノイドは、約90%以上の管腔細胞と、約5%以下の基底細胞とを含む。
【0080】
他方で、管腔オルガノイド(すなわち、オルガノイドの第1の集団)の形成をむしろ、例えば混合系統オルガノイド(すなわち、オルガノイドの第2の集団)に変換することが所望される場合、この目的のために改変オルガノイド培地が使用され得る。一実施形態では、改変オルガノイド培地は、分裂促進因子、WNTシグナル伝達のアゴニスト、またはBMPシグナル伝達の調節因子のうちの1つ以上、または2つ以上を含み得る。
【0081】
一実施形態では、(混合系統オルガノイドを形成及び維持するための)改変オルガノイド培地は、ERBB1、ERBB2、ERBB3、またはERBB4のうちの1つ以上の、1つ以上のリガンドを含む。
【0082】
一実施形態では、ERBB1のリガンドは、上皮成長因子(EGF)、形質転換成長因子アルファ(TGFα)、アンフィレグリン、ヘパリン結合EGF(HB-EGF)、ベタセルリン、エピゲン、またはエピレグリンであってもよい。いくつかの実施形態では、改変オルガノイド培地は、2つ以上のERBB1リガンドを含み得る。
【0083】
一実施形態では、ERBB1のリガンドは、EGF及び/またはTGFα及び/またはアンフィレグリンである。そのような実施形態において、そのようなERBB1のリガンド(複数可)の濃度は、約1μg/mL~0.1ng/mL、または約500ng/mL~0.5ng/mL、または約250ng/mL~1ng/mL、または約125ng/mL~2ng/mL、または約50ng/mL~3ng/mLであり得る。
【0084】
一実施形態では、改変オルガノイド培地に含まれるERBB3のリガンドは、ニューレグリン1、ニューレグリン2、またはニューログリカンCのうちの1つ以上であり得る。いくつかの実施形態では、(混合系統オルガノイドを形成及び維持するための)改変オルガノイド培地は、2つ以上のERBB3リガンドを含み得る。
【0085】
一実施形態では、ERBB3のリガンドは、ニューレグリン1である。そのような実施形態において、ニューレグリン1の濃度は、約1μg/mL~0.1ng/mL、または約500ng/mL~0.5ng/mL、または約250ng/mL~1ng/mL、または約125ng/mL~2ng/mL、または約50ng/mL~3ng/mLである。
【0086】
一実施形態では、改変オルガノイド培地に含まれるWNTシグナル伝達アゴニストは、R-スポンジン、WNTタンパク質、または上記のいずれかの操作された模倣物である。WNTシグナル伝達アゴニストを改変オルガノイド培地に、単独で、または他の因子と組み合わせて含めることで、管腔オルガノイドの形成/維持を抑制し得、乳房上皮細胞の培養が混合系統オルガノイド(例えば、オルガノイドの第2の集団)に偏向する可能性がある。
【0087】
一実施形態では、改変オルガノイド培地に含まれるR-スポンジンは、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、またはR-スポンジン4のうち1つ以上である。一実施形態では、改変オルガノイド培地に含まれるR-スポンジンは、R-スポンジン1、R-スポンジン2、R-スポンジン3、またはR-スポンジン4である。したがって、混合系統オルガノイドを形成及び維持するための改変オルガノイド培地中のR-スポンジンの有効濃度は、1μg/mL~0.1ng/mL、または約500ng/mL~0.5ng/mL、または約250ng/mL~1ng/mL、または約125ng/mL~2ng/mL、または約50ng/mL~3ng/mLである。
【0088】
一実施形態では、改変オルガノイド培地に含まれるWNTタンパク質は、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、またはWNT16のうちの1つ以上である。したがって、混合系統オルガノイドを形成及び維持するための改変オルガノイド培地中のWNTタンパク質の有効濃度は、1μg/mL~0.1ng/mL、または約500ng/mL~0.5ng/mL、または約250ng/mL~1ng/mL、または約125ng/mL~2ng/mL、または約50ng/mL~3ng/mLである。
【0089】
Wnt3aは、細胞培養培地中で不安定であり得るか、または細胞培養条件下で使用される場合があるため、いくつかの実施形態では、Wnt3a馴化培地は、本開示の改変オルガノイド培地中のWnt3aの適切な代替物であり得る。WNT馴化培地は、WNT産生細胞の培養などによるなど、公知のアプローチを用いて生成することができる。WNT馴化培地中のWNTの濃度は、典型的には上記で概説した濃度と同等である。
【0090】
合成生物学の進歩により、リガンド模倣物のin silicoデザインが可能になった。このような模倣物の利点としては、限定されるものではないが、活性の増加、安定性の増加、構造の単純化、サイズの減少などが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態では、模倣物を介したWNTまたはR-スポンジン機能が、本開示のオルガノイド培地中に存在する。
【0091】
例えば、典型的な組換えWNTタンパク質は、培養培地に添加された場合、恐らく疎水性が高いことで急速に分解するため、効果はほとんどまたは全くない。この課題を解決するために、標準的なFZD媒介WNT経路アゴニストを、培養培地に添加した場合に許容される生物学的活性を保持しながら、野生型Wnt3aよりも強力になるように操作した(U-Protein Express)。
【0092】
一実施形態では、WNT模倣物が、管腔オルガノイドの形成/維持を抑制しながら混合系統オルガノイドの形成/維持を促進するための改変オルガノイド培地に含まれる。一実施形態では、WNT模倣物は、そのような培地中に単独でまたはWNTシグナル伝達の1種以上の他のアゴニストと共に含まれてよい。実施形態において、WNT模倣物がそのような培地中に含まれる場合、WNT模倣物は、WNTサロゲート-FC融合タンパク質であり得る。WNT模倣物が、管腔オルガノイドの形成/維持を抑制しながら基底または混合オルガノイドの形成/維持を促進するための改変オルガノイド培地に含まれる場合、WNT模倣物の濃度は、約100nM~0nM、約50nM~0.01nM、約20nM~0.05nM、または約10nM~0.1nMであり得る。
【0093】
一実施形態では、管腔オルガノイドの形成/維持を抑制しつつ、混合系統オルガノイドの形成/維持を促進するための改変オルガノイド培地に含まれるBMPシグナル伝達の調節因子は、タンパク質、ペプチドまたは低分子である。一実施形態では、このような調節因子は、BMPシグナル伝達の活性化剤または阻害剤であり得る。
【0094】
改変オルガノイド培地がBMPシグナル伝達の活性化剤を含む実施形態では、そのような活性化剤の例としては、BMP2またはBMP4などが挙げられる。したがって、改変オルガノイド培地中でのBMPシグナル伝達の活性化剤の有効濃度は、約10μg/mL~0.1ng/mL、または約1μg/mL~1ng/mL、または約300ng/mL~3ng/mL、または約150ng/mL~5ng/mL、または約100ng/mL~10ng/mL、または約50ng/mL~10ng/mLであり得る。
【0095】
改変オルガノイド培地がBMPシグナル伝達の阻害剤を含む実施形態では、そのようなタンパク質(またはペプチドベースの)阻害剤の例としては、ノギン、コーディン、フォリスタチン、スクレロスチン、CTGF/CCN2、グレムリン、ケルベロス、DAN、PRDC、デコリン、アルファ-2マクログロブリンタンパク質などが挙げられる。したがって、改変オルガノイド培地中でのBMPシグナル伝達の阻害剤の有効濃度は、約10μg/mL~0.1ng/mL、または約1μg/mL~1ng/mL、または約300ng/mL~3ng/mL、または約150ng/mL~5ng/mL、または約100ng/mL~10ng/mL、または約50ng/mL~10ng/mLであり得る。
【0096】
改変オルガノイド培地がBMPシグナル伝達の阻害剤を含む実施形態では、そのような低分子阻害剤の例としては、LDN193189またはドルソモルフィンが挙げられる。改変オルガノイド培地に含まれるBMPシグナル伝達のそのような阻害剤は、約1mM~0.001nM、約1μM~0.1nM、約100nM~1nMであり得る。
【0097】
一実施形態では、オルガノイド培地は、タンパク質/ペプチドベースまたは低分子(またはこれら2つの組み合わせ)である、BMPシグナル伝達の阻害剤を含み得、したがって、改変オルガノイド培地は、BMPシグナル伝達の活性化剤またはアゴニストを含み得るか、またはその逆も可能である。
【0098】
したがって、一実施形態では、管腔オルガノイドの形成/維持を抑制し、かつ混合系統オルガノイドの形成/維持を促進するための改変オルガノイド培地は、少なくとも1つのERBBリガンド、少なくとも1つのWNTシグナル伝達のアゴニスト、及び少なくとも1つのBMPシグナル伝達の調節因子のうちの2つ以上を含む。
【0099】
本開示の別の態様では、乳房オルガノイドを形成するための構成要素を含むキットが提供される。一実施形態では、マウス乳房オルガノイドを形成するために、ヒト乳房オルガノイドを形成するために使用されるものとは異なるキットが使用される。培地組成物に関する上記の記載は、以下のキットの記載に組み込まれる。
【0100】
本開示のキットは、基礎培地と、基礎培地に添加される少なくとも1種の補充物を含む。一実施形態では、本開示のキットは、基礎培地と、基礎培地に添加される少なくとも2種の補充物とを含む。一実施形態では、本開示のキットは、基礎培地と、基礎培地に添加される3種以上の補充物とを含む。
【0101】
特定のタイプの乳房オルガノイドを形成することが望ましい場合には、任意の特定の補充物を基礎培地と組み合わせてもよい。例えば、オルガノイドの第1の集団(例えば、管腔制限オルガノイドまたは管腔偏向オルガノイド)を形成することが望ましい場合には、基礎培地に添加される第1の補充物は、ERBB1のリガンド及びERBB4のリガンドの一方または両方を含み得る。いくつかの実施形態では、第1の補充物はまた、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及びBMPシグナル伝達の調節因子の一方または両方を含まない。このような実施形態では、BMPシグナル伝達の調節因子は、BMPシグナル伝達の活性化剤または阻害剤であり得る。関連する実施形態では、第1の補充物は、ERBB1のリガンド及びERBB4のリガンドの一方または両方、ならびにBMPシグナル伝達の調節因子のうち一方または両方を含み、WNTシグナル伝達アゴニストを含まない。関連する実施形態では、第1の補充物は、ERBB1のリガンド及びERBB4のリガンドの一方または両方、ならびにWNTシグナル伝達アゴニストを含み、BMPシグナル伝達の調節因子を含まない。関連する実施形態では、第1の補充物は、ERBB1のリガンド及びERBB4のリガンドの一方または両方を含み、WNTシグナル伝達アゴニスト及びBMPシグナル伝達の調節因子を両方とも含まない。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、EGFではない。一実施形態では、基礎培地または第1の補充物はいずれも、プロゲステロンを含まない。
【0102】
キットは、形成されたオルガノイドの第1の集団(例えば、管腔制限または管腔偏向オルガノイド集団)をオルガノイドの第2の集団(例えば、混合オルガノイド)に変換させるために、基礎培地に添加される第2の補充物をさらに含み得る。第2の補充物を補充した(かつ任意により第1の補充物も補充した)基礎培地は、本明細書では改変オルガノイド培地と呼ばれる。第2の補充物の実施形態では、これはWNTシグナル伝達アゴニスト及びBMPシグナル伝達調節因子の一方または両方を含み得る。このような実施形態では、BMPシグナル伝達の調節因子は、BMPシグナル伝達の活性化剤または阻害剤であり得る。関連する実施形態では、第2の補充物に含まれるBMPシグナル伝達調節因子は、BMP2またはBMP4などのBMPシグナル伝達の活性化剤である。関連する実施形態では、第2の補充物は、第1の補充物に含まれるERBB1のリガンドとは異なるERBB1のリガンドをさらに含み得る。一実施形態では、第2の補充物に含まれるERBB1のリガンドは、EGFである。
【0103】
キットは、基礎培地に添加される第3の補充物をさらに含んでもよい(第1の補充物及び第2の補充物の一方または両方が存在しているかまたは存在していない)。第3の補充物は、TGFβシグナル伝達の阻害剤を含み得る。一実施形態では、第3の補充物は、目的の乳房オルガノイドが形成された後に基礎培地(またはオルガノイド培地または改変オルガノイド培地)に添加されて、エストロゲン受容体の核局在化を促進する。一実施形態では、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、SB431542である。一実施形態では、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、RepSoxである。
【0104】
上記の培地(キットに含まれる実施形態など)はいずれも、乳房オルガノイドを形成及び/または維持する方法において使用することができ、それにより形成及び/または維持され得る乳房オルガノイドの種類は、培地の配合(例えば、オルガノイド培地対改変オルガノイド培地)に依存する。乳房上皮細胞及びそれから生じるオルガノイドは、性ホルモン応答性であるため、いくつかの実施形態では、本開示の培地(例えば、基礎培地、オルガノイド培地、及び改変オルガノイド培地)及びそれに添加される補充物は、方法において使用されるか、またはキットに組み込まれる場合でも、外因的に添加された性ホルモンを含まないことが望ましい場合がある。一実施形態では、性ホルモンは、エストロゲンである。一実施形態では、性ホルモンは、プロゲステロンである。
【0105】
方法
本開示の別の態様では、乳房オルガノイドを形成または成長させるための方法が提供される。一実施形態では、本開示の方法は、複数の継代にわたって乳房オルガノイドを維持及び/または増殖させる。開示された方法に従って形成/増殖/継代された乳房オルガノイドは、正常な状態及び疾患の状態の両方における乳腺の生物学をより深く理解するためなどの下流のアッセイ、薬物スクリーニング及び毒性試験、または治療用途などに使用され得る。
【0106】
単離された乳房上皮細胞から乳房オルガノイド、及び特にオルガノイドの第1の集団を形成する方法は、乳房上皮細胞を、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の調節因子の一方または両方を含まないオルガノイド培地と接触させることを含む。このような実施形態では、BMPシグナル伝達の調節因子は、BMPシグナル伝達の阻害剤であり得るか、またはBMPシグナル伝達の活性化剤であり得る。
【0107】
一実施形態では、方法は、BMPシグナル伝達の調節因子(例えば、BMPシグナル伝達の阻害剤または活性化剤)を含むが、WNTシグナル伝達アゴニストを含まないオルガノイド培地を用いる。一実施形態では、本方法は、WNTシグナル伝達アゴニストを含むが、BMPシグナル伝達の調節因子(例えば、BMPシグナル伝達の阻害剤または活性化剤)を含まないオルガノイド培地を使用する。一実施形態では、本方法は、BMPシグナル伝達の調節因子(例えば、BMPシグナル伝達の阻害剤または活性化剤)もWNTシグナル伝達アゴニストも含まないオルガノイド培地を使用する。
【0108】
一実施形態では、乳房上皮細胞は、乳房上皮幹細胞または前駆細胞を含む。
【0109】
単離された乳房上皮細胞は、任意の哺乳動物種のものであり得る。一実施形態では、乳房上皮細胞は、ヒト乳房上皮細胞またはマウス乳房上皮細胞のいずれかである。単離された乳房上皮細胞は、市販の供給者、学術的協力者から、または乳房組織を処理することによって得られ得る。乳房組織から出発する場合、このような試験片は、通常、機械的/物理的及び酵素的手段の組み合わせを使用して処理される。
【0110】
本明細書に記載されるように、乳房上皮細胞の単細胞懸濁液または乳房上皮細胞の断片または塊の懸濁液は、典型的には、メスまたは組織解離器などを使用して乳房組織を切断することによって生成される。切断操作後、または切断操作中、乳房組織は、典型的には、細胞外マトリックス及び結合組織を分解するために、酵素含有溶液中でインキュベートされる。酵素溶液は、乳房組織を処理する目的で有用な任意の酵素または酵素の組み合わせを含むことができる。非限定的な例として、この目的のために使用され得る酵素としては、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、ジパーゼ、サーモリシン、トリプシン、DNaseなどが挙げられる。
【0111】
一実施形態では、細かく刻んだ乳房組織の酵素処理は、連続的に適用される。例えば、細かく刻んだ乳房組織は、最初に、コラゲナーゼ及びヒアルロニダーゼの一方または両方を含む溶液中でインキュベートされてもよい。消化された乳房組織のより大きい断片は、比較的低い遠心力(例えば<200xg)で遠心分離により収集され、取り置かれてもよい。細胞の塊または単細胞を含む比較的小さい物質を単離するために、得られる上清は、徐々に高い遠心力(例えば、≧200xg)でさらに遠心分離することができる。両方のペレットを組み合わせ、トリプシン含有溶液中でさらに消化させ、実質的に単細胞の懸濁液を得ることができる。
【0112】
いくつかの実施形態では、実質的に単細胞もしくは断片の懸濁液、または単細胞と断片との混合物は、溶解された細胞からDNAを分解して、細胞懸濁液の粘度を低下させるためにDNase処理を必要とし得る。
【0113】
乳腺上皮細胞の懸濁液を生成した後、特にその中に単細胞が含まれている場合、サンプル中の様々な細胞型の状態から乳房上皮細胞の特定のサブセットを分離することが望ましい場合がある。乳房上皮細胞の特定のサブセットは、STEMCELL Technologiesによって市販されているように、蛍光活性化細胞選別または免疫磁気細胞分離などの既知の方法を使用して、サンプルから分離され得る。
【0114】
乳腺の細胞組成物は、上皮細胞及び非上皮細胞(線維芽細胞、内皮細胞、リンパ球細胞、脂肪細胞、ニューロン及び筋細胞)の両方を含む。対応する細胞型間のマーカーの発現は、ヒトとマウスとで異なり得る。ヒトでは、上皮細胞は、EpCAMの発現により非上皮細胞と区別され得る。EpCAM+上皮コンパートメント内では、乳房上皮は、2つの主要な系統、すなわち管腔系統及び筋上皮(または基底)系統を含む。筋上皮細胞は、典型的にはi)サイトケラチン5(K5)、サイトケラチン14(K14)、P63、平滑筋アクチン(SMA)、CD49f及びCD29の高発現;ならびにii)サイトケラチン8(K8)、サイトケラチン(K18)及びCD24が不在であることを特徴とする。一方、管腔系統は、2つの亜集団、すなわち乳前駆細胞とホルモン応答性ER+系統とに分けることができる。ER+系統は、i)K8、K18、エストロゲン受容体アルファ(ERα)、プロゲステロン受容体(PR)の高発現、ならびにii)K5、K14、CD49f及びSMAが不在であることによって区別され得る。乳系統は、i)ALDH1A3発現を示すALDEFLUOR染色陽性、ii)K8、K18及びCD49fの発現、iii)K5及びK14の発現、ならびにiv)ERα及びSMAが不在であることによって区別され得る。マウスでは、上皮細胞は、EpCAMまたはCD24の発現により非上皮細胞と区別され得る。EpCAM+上皮コンパートメント内では、乳房上皮は、2つの主要な系統、すなわち管腔系統及び筋上皮(または基底)系統を含む。筋上皮細胞は、典型的にはi)サイトケラチン5(K5)、サイトケラチン14(K14)、P63、平滑筋アクチン(SMA)、CD49f及びCD29の高発現;ならびにii)サイトケラチン8(K8)、サイトケラチン(K18)が不在であることを特徴とする。一方、管腔系統は、2つの亜集団、すなわち乳前駆細胞とホルモン応答性ER+系統とに分けることができる。ER+系統は、i)K8、K18、エストロゲン受容体アルファ(ERα)、プロゲステロン受容体(PR)の高発現、ならびにii)K5、K14、CD49f、CD49b及びSMAが不在であることによって区別され得る。乳系統は、i)ALDH1A3の発現を示す、ALDEFLUOR染色陽性;ii)K8、K18、CD49b、及びCD49fの発現;iii)K5、K14、ERα、及びSMAの低発現によって区別され得る。場合によっては、SMA及びER+の一方または両方が存在することまたは存在しないことは、基底細胞と管腔細胞とをさらに区別する助けとなり得る。
【0115】
いくつかの実施形態では、単離された乳房上皮細胞は、細胞外マトリックスを用いて培養される。一実施形態では、単離された乳房上皮細胞は、細胞外マトリックスの「ドーム」内に播種される。一実施形態では、単離された乳房上皮細胞は、細胞外マトリックスの「サンドイッチ」内に播種され、細胞は、細胞外マトリックスの層上に播種され、次いで、同じまたは異なる細胞外マトリックスの被覆層によって覆われる。一実施形態では、単離された乳房上皮細胞は、細胞外マトリックスの層の上に播種される。
【0116】
乳房上皮細胞を培養するための細胞外マトリックスが知られており、本開示では任意の適切な細胞外マトリックスが企図される。一実施形態では、細胞外マトリックスは、マトリゲル(商標)(Corning)である。一実施形態では、細胞外マトリックスは、Cultrex(登録商標)基底膜マトリックス(Trevigen)などのマトリゲルの好適な代替物であり得る。
【0117】
一実施形態では、細胞外マトリックスは、細胞外マトリックスの1つの天然成分であっても、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。細胞外マトリックスの天然成分の例としては、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ヘパリン硫酸塩、プロテオグリカン、またはフィブロネクチンが挙げられる。
【0118】
一実施形態では、細胞外マトリックスは、合成マトリックス、例えば上で概説した天然の細胞外成分のうちのいずれか1つ以上を配合したヒドロゲルであり得る。
【0119】
細胞外マトリックスの層上、または特定の体積の細胞外マトリックス内に播種される乳房上皮細胞の密度は、経験的に決定される。乳房上皮細胞が24ウェルプレートの底で細胞外マトリックスの「ドーム」内に播種される実施形態では、30~50μLのドーム内に約1,000~50,000個の任意の数の細胞を含めることができる。異なるプレートフォーマットを用いた場合、細胞数及び細胞外マトリックスの体積を調整する必要があり得る。それにもかかわらず、1つの細胞または細胞のクローン密度まで、細胞外マトリックス上または細胞外マトリックス中に播種できることを理解されたい。
【0120】
本明細書で先に記載したように、オルガノイド培地の性質は、本明細書に開示された方法の意図されるアウトプットに依存するであろう。したがって、上記のオルガノイド培地の説明は、乳房オルガノイドを形成する方法に関する以下の開示に組み込まれる。
【0121】
方法の所望のアウトプットが、オルガノイドの第1の集団(例えば、管腔オルガノイド)である場合には、オルガノイド培地は、基礎培地と、ERBB1のリガンド及び/またはERBB4のリガンドの一方または両方とを含み得る(加えて、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の調節因子(例えば、阻害剤または活性化剤)の一方または両方を含まない)。
【0122】
オルガノイド培地に含まれ得るERBB1及びERBB4の潜在的リガンドは、本明細書の上記に記載している。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、アンフィレグリンである。一実施形態では、ERBB4のリガンドは、ニューレグリン1である。管腔オルガノイドの形成及び/または維持を促進するためのオルガノイド培地の一実施形態では、培地は、ERBB1のリガンド及びERBB4のリガンドの両方を含む。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、EGFまたはTGFアルファではない。一実施形態では、ERBB1のリガンドは、EGFまたはTGFアルファのいずれでもない。
【0123】
また、上記のとおり、管腔オルガノイドの形成及び/または維持を促進するためのオルガノイド培地を配合する場合に重要な考慮すべき点は、特定のシグナル伝達カスケードを活性化または阻害しないようにすることである。したがって、このようなオルガノイド培地の一実施形態では、この培地は、外因的に付加されたWNTシグナル伝達アゴニスト及び/またはBMPシグナル伝達の調節因子(例えば、その阻害剤または活性化剤)の一方または両方を含まない。
【0124】
一実施形態では、(管腔オルガノイドの形成及び/または維持を促進するための)オルガノイド培地に含まれないWNTシグナル伝達のアゴニストは、R-スポンジン、WNTタンパク質またはペプチド、または上述のいずれかの操作/合成された模倣物である。
【0125】
一実施形態では、(管腔オルガノイドの形成及び/または維持を促進するための)オルガノイド培地に含まれないBMPシグナル伝達の阻害剤は、タンパク質阻害剤、例えば、ノギン、またはLDN193189もしくはドルソモルフィンなどの低分子阻害剤である。一実施形態では、BMPシグナル伝達のタンパク質阻害剤もBMPシグナル伝達の低分子阻害剤も、(管腔オルガノイドの形成及び/または維持を促進するための)オルガノイド培地に含まれない。
【0126】
したがって、本方法は、非管腔細胞よりも多い管腔細胞から構成されるオルガノイドが濃縮されたオルガノイドの第1の集団を形成するのに十分な時間、オルガノイド培地中で乳房上皮細胞を培養することをさらに含む。換言すれば、乳房上皮細胞は、オルガノイドの第1の集団を形成するのに十分な時間、オルガノイド培地中で培養されてよく、ここで、オルガノイド培地とは異なる培地を使用して形成されるオルガノイドは、全くオルガノイドを生じさせないか、本開示のオルガノイド培地が使用される場合と比較してより少ない管腔細胞(及びより多くの非管腔細胞)から構成される。
【0127】
一実施形態では、管腔オルガノイドは、オルガノイド培地による接触から約3日後に形成され得る。一実施形態では、管腔オルガノイドは、オルガノイド培地による接触から約5日後に形成され得る。一実施形態では、管腔オルガノイドは、オルガノイド培地による接触から約7日後に形成され得る。一実施形態では、管腔オルガノイドは、オルガノイド培地による接触から約10日後に形成され得る。一実施形態では、管腔オルガノイドは、オルガノイド培地による接触から約14日後に形成され得る。一実施形態では、形成された管腔オルガノイドは、継代する必要がある前に、最大30日間以上培養され得る。
【0128】
一実施形態では、乳房上皮細胞とオルガノイド培地とを接触させた際に形成される管腔オルガノイド(すなわち、オルガノイドの第1の集団)は、3回以上、または5回以上、または7回以上、または10回以上継代させ得る。
【0129】
方法のアウトプットが、混合系統オルガノイドが豊富に含まれる乳房オルガノイドの集団(例えば、オルガノイドの第2の集団)である場合、次いで、改変オルガノイド培地(上述したような)を使用して、乳房上皮細胞または第1の集団もしくはオルガノイドを接触させて培養してもよい。したがって、そのような改変オルガノイド培地は、オルガノイドの第1の集団の形成をオルガノイドの第2の集団に変換することができる。
【0130】
ERBBリガンド、WNTシグナル伝達のアゴニスト及びBMPシグナル伝達の調節因子(活性化剤または阻害剤)の例は、上記で特定されたとおりである。一実施形態では、(管腔オルガノイドの形成を抑制する、及び混合系統オルガノイドの形成/継代を促進するための)改変オルガノイド培地は、少なくとも1つのERBBリガンド;少なくとも1つのWNTシグナル伝達のアゴニスト;及び少なくとも1つのBMPシグナル伝達の調節因子のそれぞれを含む。
【0131】
一実施形態では、本開示のオルガノイド培地を使用して、または本開示の方法を実施することによって形成されたオルガノイドの第1の集団(例えば管腔オルガノイド)を、オルガノイドの第2の集団(例えば、混合系統オルガノイド)に変換してもよい。オルガノイドの第1の集団をオルガノイドの第2の集団に変えることは、本開示の改変オルガノイド培地を使用して行われ得る。
【0132】
一実施形態では、乳房上皮細胞またはオルガノイドの第1の集団を改変オルガノイド培地と接触させることで形成される混合系統オルガノイド(すなわち、オルガノイドの第2の集団)は、3回以上、または5回以上、または7回以上、または10回以上にわたり継代させ得る。
【0133】
一実施形態では、本方法は、オルガノイドの第1の集団またはオルガノイドの第2の集団をTGFβシグナル伝達の阻害剤と接触させることをさらに含み得る。TGFβシグナル伝達の阻害剤は、公知であり、市販されているため、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、そのような任意の阻害剤であり得る。一実施形態では、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、SB431542である。一実施形態では、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、A77-01である。一実施形態では、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、A83-01である。一実施形態では、TGFβシグナル伝達の阻害剤は、RepSoxである。オルガノイドの第1の集団及び/またはオルガノイドの第2の集団をTGFβシグナル伝達の阻害剤と接触させることにより、エストロゲン受容体の核局在が促進され得る。一実施形態では、オルガノイドの第1の集団及び/またはオルガノイドの第2の集団をTGFβシグナル伝達の阻害剤と接触させることは、(オルガノイド培地または改変オルガノイド培地中における)培養ステップの期間である。一実施形態では、オルガノイドの第1の集団及び/またはオルガノイドの第2の集団をTGFβシグナル伝達の阻害剤と接触させることは、例えば、オルガノイドの第1の集団及び/またはオルガノイドの第2の集団の形成後に、一時的に行われる。
【0134】
本明細書に開示された方法を実施することによって形成される乳房オルガノイドの種類にかかわらず、これらのオルガノイドは、任意の数の下流アッセイ、方法または用途で使用され得る。例として、乳房オルガノイドは、正常または疾患の乳房上皮細胞に由来するかにかかわらず、化合物のパネルをスクリーニングしてそれらの有効性及び/または毒性を決定するために使用され得る。別の例として、そのような乳房オルガノイドは、基礎乳房生物学またはがんなどの疾患乳房上皮の生物学を調査するために使用され得る。別の例として、このような乳房オルガノイドは、ヒト患者または動物モデルのいずれかの対象にグラフト移植される治療的介入を調査するために使用されてもよい。
【0135】
以下の非限定的実施例は、本開示を例示するものである。
【実施例】
【0136】
実施例1:乳房組織サンプルの処理
本開示で使用した全ての細胞は、適用可能なIRB及び倫理的要件に従って、ヒトまたはマウスの対象由来の組織から得たものである。
【0137】
ヒト乳房上皮細胞の断片を、以下のように、学術協力者から得られた組織サンプルから単離した。切除した組織サンプルを、メスを使用してペトリ皿で細かく刻んで、クロスハッチパターンで切断した。細かく刻んだ組織サンプルを、BSA、インスリン、コラゲナーゼ及びヒアルロニダーゼを補充した標準培養培地中の解離フラスコに入れた。フラスコを37℃の組織培養器に入れたオービタルシェーカーで一晩中穏やかに振とうした。翌朝、浮動層の脂肪をピペットにより取り除き、残りの液体をチューブに移し、低rpmで短時間遠心分離した(約80gで30秒間)。ペレット(ペレットA)を取り置き、上清をさらに、徐々により長い時間にわたって、かつ徐々により高いrpmで遠心分離した(4分間で約200g)。ペレット(ペレットB)を取り置き、上清をさらに、徐々により長い時間にわたって、かつ徐々により高いrpmで遠心分離した(5分間で約450g)。
【0138】
凍結保存したペレットA及びペレットBを、0.25%のトリプシン-EDTAで5分にわたり37℃で処理することによって単細胞懸濁液に解離させ(間欠的なトリチュレーションを伴う)、次いで300gで5分にわたり遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを100μg/mlのDNase溶液中に室温で1分間再懸濁させた。得られた細胞を37μmのストレーナに通過させて、単細胞懸濁液を得た。
【0139】
マウス乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を、乳腺から以下のように単離した。切除した乳腺を細かく刻み、50μg/mlのゲンタマイシン、コラゲナーゼ及びヒアルロニダーゼを含む標準培地の入ったチューブに入れた。乳腺を、組織培養器中、37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞解離混合物を高度DMEMで洗浄し、300gで5分間遠心分離した。ペレットの外観に応じて、いくつかの場合には、ペレットを塩化アンモニウムに再懸濁させて、混入した赤血球を溶解させることが望ましい。次に、ペレットを上記のとおり0.25%トリプシン-EDTA中に37℃で5分間再懸濁させ、次いで遠心分離する(300gで5分間)。上清を廃棄し、ペレットを100ug/mlのDNase溶液中に室温で1分間再懸濁させた。得られた細胞を37μmのストレーナに通過させて、単細胞懸濁液を得た。
【0140】
実施例2:乳房上皮細胞の単細胞懸濁液の播種及び培養
実施例1に記載したとおりに得られた単細胞懸濁液を100%のマトリゲル(商標)(Corning)中で再構成し、ドームとしてマイクロプレートのウェルに播種し、約1~2x104のヒト細胞または約5x103のマウス細胞をそれぞれの約25~40μLのドームに播種した。それぞれのウェルには、本明細書に記載の様々な培養培地のいずれか1種を0.5~1mL入れた。
【0141】
乳房上皮細胞のプレーティングされた単細胞懸濁液は、およそ7日おきに継代させるオルガノイドに形成され、そのような7日間の間に2~3回、完全に培地を変えた。オルガノイドを継代させるために、予め加温しておいた0.25%トリプシン-EDTAでピペッティングし、37℃で約5~15分間インキュベートし、再びピペッティングすることによってマトリゲルドームを粉砕した。トリプシン化反応を、2%FBSを補充した同容量のHanks Balanced Salt Solutionでの洗浄によって不活性化させた。オルガノイドの密度及びサイズに応じて、1:2~1:5の分割を行い、細胞を上記のようにドームとして播種した。代替的には、細胞を37μmのストレーナにより漉すことにより、単細胞懸濁液が得られ、上記のとおりマトリゲルドームに播種する。
【0142】
実施例3:乳房オルガノイドの染色
氷上で揺動させながらCorning細胞回収溶液で1時間インキュベートすることにより、マトリゲルからオルガノイドを回収した。次いで、オルガノイドを、室温で1時間、4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で固定し、4℃でPBS中に貯蔵した。PFA固定後、オルガノイドをクエン酸ナトリウム緩衝液中で96℃で20分間沸騰させることにより抗原回収を行った。オルガノイドを、室温で一晩、PBS中0.5%Triton-X-100溶液中で透過処理した。5%ヤギ血清の溶液中で一晩インキュベートすることによりサンプルをブロックした。
【0143】
固定及び透過処理の後に、オルガノイドを、室温で一晩、一次抗体及び二次抗体溶液(以下の表にまとめる)中で順次インキュベートした。サンプルを2ug/mlのDAPI溶液中で20分間対比染色し、メタノール濃度を増加させた溶液(50%、80%、次いで100%メタノール)中で段階的にインキュベートすることにより脱水した。オルガノイドを、2:1の安息香酸ベンジル-ベンジルアルコール(BABB)の溶液に埋め込み、Ibidiガラス底チャンバスライドに移し、Leica SP8共焦点レーザー走査顕微鏡を使用して撮像した。1%BSA、0.1%冷魚皮ゼラチン、0.2%Triton-X-100及び0.05%Tween 20を含むPBSからなる免疫蛍光(IF)緩衝液を用いて、各ステップ間にオルガノイドを洗浄した。
【表1】
【0144】
実施例4:マウス乳房分岐状オルガノイドの形成
マウス乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を実施例1に従って得、本質的に実施例2に記載したように、WNTシグナル伝達アゴニスト(例えば、RSPO1)、BMPシグナル伝達の阻害剤(例えば、ノギン)、及びEGFを含む培地中で播種し、培養した(
図1)。
【0145】
3つの連続継代において、上記の培地で形成されたマウス乳房オルガノイドは、基底細胞型及び他の非管腔細胞型を相当数有するオルガノイドの特徴である、高レベルの分岐を特徴とするオルガノイドを一貫して再生し、維持した(
図1A、1B、及び1C)。第2の継代後、形成されたオルガノイドを、実施例3に記載のとおり共焦点顕微鏡を使用して撮像し、高度に分岐したオルガノイドにおいて強いK14の発現が観察された(
図1D)。
【0146】
実施例5:本開示のオルガノイド培地におけるマウスの管腔偏向オルガノイドの形成
マウス乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を、実施例1に従って得た。BD FACSAria(商標)Fusionフローサイトメーターを使用して、EpCAM、CD49f及びCD49bの発現差に基づいて、ER
+、乳及び基底細胞系統に対応する3つの細胞集団に単細胞懸濁液を選別した。非上皮細胞は、CD45、Ter119及びCD31の発現をベースにした選別戦略の間にさらに除外された。選別された細胞は、基本的に実施例2に記載のとおり、外因的に付加されたBMPシグナル伝達の阻害剤を含まない、外因的に付加されたRSPO-1(約100ng/mL)を含むかまたは外因的に付加されたRSPO-1を含まないオルガノイド培地(例えば、MammoCult(商標)マウスオルガノイド成長培地、STEMCELL Technologies)に、播種し、培養した(
図2)。
【0147】
マウス乳房上皮細胞のER
+系統は、明らかな嚢胞性組織を有する管腔オルガノイドを形成し、試験した培地配合のいずれにおいてもほぼ同じ効率であった(
図2A及び
図2D)。対照的に、マウス乳房上皮細胞の乳系統は、RSPO-1含有培地で培養した場合に基底細胞、管腔細胞及び他の細胞の混合された組織がより多くなるのに比べて、RSPO-1欠損培養培地において嚢胞組織に偏向していた(
図2B及び2E)。乳系統と同様に、基底系統細胞は、RSPO-1含有培地で培養した場合に主に混合組織であったのに比べて、RSPO-1欠損培地では嚢胞性組織に偏向しているように見えるが、顕著な数の混合オルガノイドが残っていた(
図2C及び
図2F)。
【0148】
マウス乳房上皮細胞の3つの選別された系統のそれぞれが、培地配合に基づいて嚢胞組織(すなわち、管腔オルガノイド)に偏向している可能性があるという観察により、バルク(すなわち、選別されていない)乳房上皮細胞に対する異なる培地配合の効果を調査する実験が促がされた。
【0149】
オルガノイド培地を、外因的に付加されたRSPO-1またはRSPO-3のいずれかを欠くように配合し、それらを、実施例1に従って得られたバルク乳房上皮細胞の単細胞懸濁液について試験し、実施例2に記載のとおり、播種し、培養した。RSPO-1及びRSPO-3の両方を含む培地では、相当数の混合オルガノイドが得られたが、
図2と同様に、外因的に付加されたRSPO(または他のWntアゴニスト)がないオルガノイド培地では管腔偏向(または嚢胞性)オルガノイドが観察された(
図3A))。RSPO含有培地またはRSPO非含有培地のいずれかで形成されたオルガノイドの細胞組成のフローサイトメトリー分析により、WNTアゴニスト作用の非存在下で形成されたオルガノイドのうち、基底細胞の数が減少することが確認された(
図3B)。
【0150】
フォローアップ実験では、実施例1に従って得られた単細胞懸濁液からオルガノイドを形成し、実施例2に記載のとおり播種し、培養した。オルガノイドは、RSPO-1の存在下または非存在下で3回連続継代で培養され、各継代で、RSPO-1の非存在下で形成されたオルガノイドは、管腔細胞制限オルガノイドの特徴である分岐のない嚢胞状組織を一貫して再現し、維持した(
図4;P0、P1、及びP2)。第2の継代の最後に、形成されたオルガノイドを、実施例3に記載のとおり、K8、K14及びDAPIについて処理を行い、染色した。共焦点顕微鏡を用いて得られた画像は、WNTアゴニスト作用の非存在下で形成されたオルガノイド間での強いK8発現と、K14染色の明らかな欠如を示し、これは、WNTアゴニスト作用の存在下で形成されたオルガノイドの共焦点顕微鏡画像とは対照的であった(
図4)。
【0151】
BMPシグナル伝達の阻害剤を含む培地中で上記の実験を行い、マウス乳房オルガノイドの形成に対するBMPシグナル伝達阻害の効果を検討した。実施例1に従って得られた単細胞懸濁液からオルガノイドを形成し、外因的に付加されたBMPシグナル伝達の阻害剤を含むまたは含まない(0ng/mLまたは~100ng/mL)(しかし、WNTシグナル伝達アゴニストであるRSPO-1を含む)培地中で、実施例2に記載のとおり播種し、培養した。上記の培地配合物において連続継代にわたって撮影した明視野画像及び共焦点顕微鏡画像から、使用される培地配合物にかかわらず、顕著な数の基底細胞を含む顕著な数の分岐状オルガノイドが明らかになった(
図5)。
【0152】
次に、外因的に付加したWNTシグナル伝達アゴニストを含むかもしくは含まないオルガノイド培地の状況におけるBMPシグナル伝達阻害の有無の効果を検討した。オルガノイドを、実施例1に従って得られた単細胞懸濁液から形成させ、実施例2に記載のとおりに播種し、培養した。約100ng/mLのノギン及び約100ng/mLのRSPO-1を含むオルガノイド培地(
図6A)及び
図6C))、または外因的に添加されたノギン及びRSPO-1を含まないオルガノイド培地(
図6B)及び6D))を使用した8つの独立した実験に基づいて、BMPシグナル伝達の阻害剤及びWNTシグナル伝達アゴニストを含まない培地配合物では、管腔細胞の増加を伴う基底細胞の顕著な減少が観察された(
図6E)。
【0153】
前述のデータに基づき、オルガノイド培地中にWNTシグナル伝達アゴニストが存在しないことは、乳房オルガノイド間の系統バランスに大きい影響を及ぼし(例えば、管腔細胞の増加)、BMPシグナル伝達の阻害剤の有無は、管腔に偏向したオルガノイドの形成には必ずしも必要ではないと考えられる。
【0154】
実施例6:ヒトの乳房分岐状オルガノイドの形成
ヒト乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を実施例1に従って得て、実質的に実施例2に記載のとおり、RSPO-1、ノギン及びEGFを含む培地中で播種し、培養した(
図7)。
【0155】
26日目に、前述の培地で形成されたヒト乳房オルガノイドは、多数の基底細胞を含むオルガノイドの特徴である高レベルの分岐を特徴とするオルガノイドを一貫して再生し、維持した(
図7A、7B、及び7C)。共焦点顕微鏡を使用して、形成されたオルガノイドを撮像し、高度に分岐したオルガノイドでは強いK14の発現が観察された(
図7C)。ローブの周縁部における基底細胞は、互いに積み重なることが確認できる。凝集性分岐の代わりに、1つの集まりで基底細胞がオルガノイドから離れて進み、その結果、「分解性オルガノイド分岐」が生じる。腺形成ユニットがないことは、古典的な浸潤性小葉癌を暗示する。
【0156】
実施例7:本開示のオルガノイド培地におけるヒト管腔偏向オルガノイドの形成
ヒト乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を実施例1に従って得た。細胞の単細胞懸濁液を、BMPシグナル伝達の異なる活性化剤及び阻害剤の効果を試験するオルガノイド培地(例えばMammoCult(商標)Human Organoid Growth Media,STEMCELL Technologies)中に、実質的に実施例2に記載したように播種し、培養した(
図8)。
【0157】
BMPシグナル伝達活性化剤、約50ng/mLのBMP2または約50ng/mLのBMP4のいずれかを含む培地及びBMPシグナル伝達阻害剤、約25~200ng/mLのノギンまたは約10~100nMのLDN193189のいずれかを含む培地においてオルガノイドを形成した。第1の継代の直前に、形成されたオルガノイドを解離させ、細胞系統のバランスをフローサイトメトリーによって分析した。BMP経路を介するシグナル伝達の活性化は、BMPシグナル伝達の阻害剤を含む培地中で形成されるオルガノイドと比較して、基底細胞の顕著な増加及び管腔細胞の減少をもたらした(
図8A)。2つの異なるドナーサンプルでのフォローアップ実験により、BMPを介するシグナル伝達を阻害することにより、基底細胞の数が減少する一方で、BMP調節を含まないオルガノイド培地と比較して、管腔細胞の数が増加することが確認された(
図8B)。
【0158】
BMPを介するシグナル伝達を調節する効果を、形成されたオルガノイド間の総細胞数(
図9A)、及び形成されたオルガノイド間の細胞の系統バランス(
図9B)に関して、複数の実験において分析した。前述の条件で形成されたオルガノイドは、総細胞数について分析したところ、BMPを介するシグナル伝達が調節されないか、またはノギンもしくはLDN193189のいずれかを介して阻害された条件と比較して、BMP2またはBMP4のいずれかによるBMPを介するシグナル伝達の活性化により、総細胞の顕著な純損失が生じることが観察された(
図9A)。
図8で観察された結果と同様に、BMPシグナル伝達の活性化及び阻害について、細胞系統のバランスに対する効果を確認した(
図9B)。K8
+管腔細胞の相対的増加は、BMPシグナル伝達の阻害剤を含むオルガノイド培地に形成されたオルガノイドに関する共焦点顕微鏡法により確認された(
図9C)。また、共焦点顕微鏡法によって撮影された画像は、BMPシグナル伝達の阻害剤を含むオルガノイド培地に形成されたオルガノイド中のK14
+細胞の染色が、存在するとしても、わずかであることが判明した。
【0159】
最後に、BMPを介するシグナル伝達の二重阻害の潜在的な付加効果について検討した(
図10)。ノギン及びLDN193189の両方を含む培地中、またはノギンもしくはLDN193189の一方を含む培地中でオルガノイドを形成させた。明視野顕微鏡により培養物を調べることにより、BMPシグナル伝達の1つの阻害剤を含むオルガノイド培地が、乳房上皮細胞からの管腔オルガノイドの形成を偏向させるのに十分であると考えられることが明らかになった(
図10)。
【0160】
全体として、オルガノイド培地中にBMPシグナル伝達の1つ以上の阻害剤が存在しない場合には、顕著な数の管腔細胞から構成されるオルガノイドが生成され、オルガノイド培地中にBMPシグナル伝達の1つ以上の阻害剤を添加することにより、管腔細胞の数が増加し、基底細胞の数が減少すると考えられる。対照的に、BMPを介するシグナル伝達の活性化は、管腔制限型または管腔偏向型の乳房オルガノイドの形成が望まれる場合、オルガノイドの系統バランスに負の影響を及ぼすと考えられる。
【0161】
次に、BMPシグナル伝達の調節がヒト乳房オルガノイドの系統バランスに及ぼす重要な役割を考慮して、WNTシグナル伝達の調節が乳房オルガノイド形成に及ぼす潜在的影響を検討した。ヒト乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を実施例1に従って得た。細胞の単細胞懸濁液を、オルガノイド培地中に、実質的に実施例2に記載のとおりに播種し、培養し、異なる活性化剤(約0.1~1nMのWNTサロゲートまたは約20~200ng/mLのRSPO-1)及びWNTシグナル伝達阻害剤(約50ng/mLのDKK1または約200nMのNSC)の効果を試験した(
図11)。
【0162】
管腔促進性オルガノイド培地(例えばMammoCult(商標)Human Organoid Growth Medium、STEMCELL Technologies)を配合し、外因的に付加されたRSPO-1を補充したかまたは外因的に付加されたRSPO-1を含まないようにした。形成されたオルガノイドの明視野画像では、試験した2つの配合物間で管腔偏向オルガノイドの顕著な増加または減少は示されなかった(
図11A)。この観察は、いずれかの状態で形成されたオルガノイドの細胞を、フローサイトメトリーにより分析した後に確認された(
図11B)。複数のオルガノイド形成実験のフローサイトメトリーデータを集計したところ、同様に、WNTシグナル伝達の調節は、分析したオルガノイドの細胞の系統バランスにほとんど影響を有さないことが示唆された(
図11C)。オルガノイド培地にWNTシグナル伝達アゴニスト、WNTシグナル伝達アンタゴニストが含まれるか、またはWNTシグナル伝達の調節が含まれないかに関係なく、管腔細胞と基底細胞のパーセンテージはほぼ同等であると考えられた。したがって、WNTシグナル伝達のアゴニスト作用及び/またはアンタゴニスト作用は、乳房上皮細胞からの管腔制限型または管腔偏向型のヒト乳房オルガノイドの形成に対して重要でないと考えられる。
【0163】
WNTシグナル伝達の調節が管腔制限型または管腔偏向型ヒト乳房オルガノイドの形成には重要でないと考えられること、及びBMPシグナル伝達の阻害が、細胞系統バランスを管腔細胞に有利に傾けると考えられることから、次にERBBファミリーメンバーを介したシグナル伝達の調節が、ヒト乳房オルガノイドの形成に及ぼす効果を検討した。ヒト乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を実施例1に従って得た。実質的に実施例2に記載のとおり細胞の単細胞懸濁液を、オルガノイド培地(例えば、MammoCult(商標)Human Organoid Growth Medium、STEMCELL Technologies)中に播種して、培養し、異なるERBB受容体ファミリーメンバーのリガンドを試験した(
図12)。
【0164】
ERBB受容体ファミリーメンバーのリガンドを含まないか、または約10~50ng/mLのアンフィレグリン(AREG)、約10~50ng/mLの上皮成長因子(EGF)、または約50~100ng/mLのヘレグリン/ニューレグリン1(NRG1)を含む培地中でオルガノイドを形成した。第1の継代の直前に、形成されたオルガノイドを解離させ、細胞系統のバランスをフローサイトメトリーによって分析した。AREG及びNRG1が、細胞系統のバランスに対してわずかな効果を有するかまたは全く効果を有しないと考えられるのに対し、EGFは、形成されたオルガノイドの間の基底細胞の数を顕著に増加させながら、管腔細胞の数を顕著に減少させると考えられた(
図12A)。2つのドナーサンプルのフォローアップ実験では、約100nMのゲフィチニブ及び約100nMのエルロチニブでの処理により、EGF受容体を介したシグナル伝達の阻害の効果を試験し、この処理では、細胞系統のバランスに対しては、無視できるかまたは効果を有しないと考えられた(
図12B)。
【0165】
ERBB受容体ファミリーメンバーを介するシグナル伝達を調節する効果を、形成されたオルガノイド間の総細胞数(
図13A)、及び形成されたオルガノイド間の細胞の系統バランス(
図13B)に関して、複数の実験において分析した。前述の条件で形成されたオルガノイドを全細胞数について分析し、ERBBファミリーメンバーを介してシグナル伝達の活性化剤を含めることにより、ERBBシグナル伝達の調整を含まない対照条件と比較して、形成された乳房オルガノイドの細胞総数が正味増加することが観察された(
図13A)。最も高い分裂促進活性は、EGFまたはAREGのいずれかがオルガノイド培地に含まれている場合に観察された。
図12で観察された結果と同様に、試験した種々のERBB受容体ファミリーリガンドについて細胞系統のバランスに対する効果を確認した(
図13B)。EGFは、管腔細胞の最大減少及び基底細胞の最大増加をもたらした一方で、AREGは、管腔細胞の割合に最小の影響を有するが、基底細胞の割合の増加に大きな影響を有すると考えられる。それとは対照的に、NRG1をオルガノイド培地に含めることで、より高い割合の管腔細胞及び基底細胞の割合の低下が生じたと考えられた。
【0166】
最後の一連の実験において、TGFβを介したシグナル伝達の調整が、ヒト乳房オルガノイド形成に及ぼす効果について検討した。ヒト乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を実施例1に従って得た。細胞の単細胞懸濁液を実質的に実施例2に記載したとおりオルガノイド培地(例えば、MammoCult(商標)Human Organoid Growth Medium、STEMCELL Technologies)中で播種して、培養し、TGFβ受容体のリガンドまたはTGFβを介したシグナル伝達の阻害剤の効果を試験した(
図14)。
【0167】
TGFβ受容体のリガンドを含まないか、または約50ng/mLのTGFβ1(またはTGFβ3、データは示されていないが、TGFβ1と一致する結果)を含む培地中でオルガノイドを形成させた。第1の継代の直前に、形成されたオルガノイドを解離させ、細胞系統のバランスをフローサイトメトリーによって分析した。オルガノイド培地中でのTGFβ1の存在は、管腔細胞及び基底細胞の割合に全体的に負の影響を有すると同時に、形成された乳房オルガノイドの間の間質細胞の比率を大幅に増加させると考えられた(
図14A)。
【0168】
オルガノイド培地にTGFβ1が含まれていることが、管腔制限型または管腔偏向型のヒト乳房オルガノイドの形成に負の影響を有することを考慮して、TGFβ受容体を介したシグナル伝達の阻害による潜在的な役割を検討した。約10μΜのSB431542、約200~500nMのA77-01、または約5~25RepSox μMのいずれかをオルガノイド培地に含めることは、管腔細胞の比率を維持するかまたは改善しながら、間質細胞の比率を減少させると考えられた(
図14B)。これらの結果に基づいて、オルガノイド培地中にRepSoxなどのTGFβシグナル伝達の阻害剤を含めることで、TGFβ受容体を介したシグナル伝達の調節因子を含まないオルガノイド培地と比較して、管腔細胞の比率を増加させることができる。しかしながら、潜在的により興味深い発見により、TGFβシグナル伝達の阻害剤への一過性の曝露(上記のようにオルガノイドが形成された後)は、細胞質内ではなく核内でのエストロゲン受容体の局在が促進されることが示唆された(
図15)。これらの結果は、ヒト(
図15A)及びマウス(
図15B)の両方の乳房オルガノイドにおけるSB43154及びRepSoxの両方について確認された。
【0169】
フォローアップ実験では、オルガノイド培地を、外因的に付加されたRSPO-1及びノギンの両方を欠くように配合した。この培地を、実施例1に従って得られた、実施例2に記載のとおりに播種し、培養した単細胞懸濁液で試験した。第1の継代の10日目に、外因的に付加されたRSPO-1及びノギンに曝露することなく形成されたオルガノイドは、嚢胞形態を呈し、管腔オルガノイドの特徴である分岐がないことを示した(
図16A)。これらの培養条件下で形成された乳房オルガノイドの共焦点顕微鏡検査によって、管腔細胞マーカー発現(K8)が存在すること及び基底細胞マーカー発現(K5)が明らかにないことが確認された(
図16B、
図16C及び
図16D)。
【0170】
実施例8:乳房管腔オルガノイドの形成を促進するさらなる因子
他の候補因子をオルガノイド培地中で試験し、乳房上皮細胞の特定系統に制限される乳房オルガノイドの形成の偏向に対するその効果を調べた。ヒト乳房上皮細胞の単細胞懸濁液を実施例1に従って得た。細胞の単細胞懸濁液を、50ng/mlのニューレグリン(NRG3)、100ng/mlの抗ミュラー管ホルモン(AMH)または50ng/mlの顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)のいずれかを補充したオルガノイド培地(例えば、MammoCult(商標)Human Organoid Growth Medium、STEMCELL Technologies)中に実質的に実施例2に記載のとおり播種し、培養した。
【0171】
17日目のオルガノイドを、K14またはK8のいずれかについて染色し、共焦点顕微鏡法によって撮像した(
図17)。オルガノイド培地中にNRG3またはAMHのいずれかを含めることは、乳房上皮細胞の培養を偏向させて、管腔制限型オルガノイドを形成すると考えられ(
図17A及び
図17B)、一方、オルガノイド培地中にGM-CSFを含むことは、乳房上皮細胞の培養を偏向させて、基底制限型オルガノイドを形成すると考えられた(
図17C)。
【0172】
本開示は、現在好ましい実施例であると考えられるものを参照して説明してきたが、本開示は開示する実施例に限定されないことを理解すべきである。それとは反対に、本開示は、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれる種々の変更及び同等の構成を包括することを目的としている。
【0173】
全ての出版物、特許、及び特許出願は、各個別の出版物、特許、または特許出願が、その全体を参照することにより組み込まれるように明確にかつ個別に示された場合と同一の程度に、それらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】