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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-29
(54)【発明の名称】光活性触媒の機能を有する無機顔料
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/06 20060101AFI20240322BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240322BHJP
【FI】
C09C3/06
B01J35/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563280
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 RO2022050005
(87)【国際公開番号】W WO2022220702
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】A202100176
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RO
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523389154
【氏名又は名称】スペクトラム ブルー エイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブクレステーヌ、ラズヴァン - カタリン
【テーマコード(参考)】
4G169
4J037
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA36A
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB05A
4G169BB10A
4G169BB12A
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC13A
4G169BC31A
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169CA05
4G169DA05
4G169EB15X
4G169EC23
4G169EC28
4G169EE09
4G169FC08
4G169HA01
4G169HA02
4G169HA06
4G169HB02
4G169HB03
4G169HB06
4G169HC13
4G169HC14
4G169HE05
4G169HF02
4J037AA08
4J037AA22
4J037DD05
4J037FF11
(57)【要約】
本発明は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料、それを得るためのプロセス、この無機顔料を含有する様々な配合物、及びその使用に関する。本発明はまた、無機顔料を含有する配合物を付与している表面に、全可視スペクトル(400nm~700nm)からの電磁放射線を照射することに代表される、病原体を破壊する方法を提供する。また、本発明は、本明細書に開示する顔料を、光が存在しない状態でのその触媒活性、殺菌活性、殺ウイルス活性、及び汚染除去活性のために使用することを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料であって、
220nm~4μmまでの範囲内、好ましくは220nm~40μmの範囲内のサイズで工業的に使用するための、60~100の範囲内の比誘電率εrを特徴とする高誘電定数を有するTiO、ルチル又はアナターゼから選択され、好ましくはルチルである半導体金属酸化物から構成される第1の層と、
ABO形態又はA形態のペロブスカイト型又は擬ペロブスカイト型の無機強誘電構造体からなる二次元擬ペロブスカイト相と呼ばれる第2の層と、
前記第2の層の構造体上に堆積したナノメトリック金属クラスタからなる第3の層と、
を含む、無機顔料。
【請求項2】
請求項1に記載の無機顔料であって、
前記二次元擬ペロブスカイト相の層と呼ばれる前記第2の層が、前記第1の層の界面の表面を形成するTiOの分子八面体からなり、前記TiOの分子八面体の間にアルカリ土類金属カチオン、好ましくはCa2+又はBa2+が挿入されており、前記TiOの分子八面体がABO型又はA型のペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの強誘電無機構造体を形成しており、前記ABO型又はA型において、「O」型アニオン及び「B」型カチオンは、前記第1の層の界面の表面の組成物からの前記TiOの分子八面体の酸素アニオン及びチタンカチオンで表され、「A」型カチオンは、前記第1の層の界面の表面の配置においてTiO分子八面体の「O」アニオンに配位したアルカリ土類金属、好ましくはCa2+又はBa2+の侵入物で表される、無機顔料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無機顔料であって、ABO型又はA型のペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの無機強誘電構造体が、「B」型遷移金属としてチタン、好ましくはルチルチタン、カチオン型「A」と同様のアルカリ土類金属としてカルシウム又はバリウム、好ましくは、カルシウムを含有し、アニオン「O」が酸素である、無機顔料。
【請求項4】
前記第3の層が、前記第2の層の構造体上に堆積したCu、Ag又はAu、好ましくはCuの金属ナノメトリッククラスタからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の無機顔料。
【請求項5】
前記第2の層の構造体上に堆積した金属クラスタが、1nm~50nmの範囲内の長さと共に、1個~5個の金属原子の厚さであるが1nm以下である厚さを有する、請求項4に記載の無機顔料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の、光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料を得るためのプロセスであって、前記プロセスは、以下の工程、すなわち
a)塩基性NaOHの1M溶液に、TiO、アナターゼ又はルチルから選択され、好ましくはルチルである半導体金属酸化物をある量添加するが、ここで、前記NaOHの質量と前記半導体金属酸化物の質量との比は、1対8重量部~1重量部対10重量部までの範囲内であり、室温で少なくとも30分間十分に振とうして、前記半導体金属酸化物の表面のすべての不純物を除去し、その表面の酸素中心を活性化する工程と、
b)項目(a)からの撹拌溶液に、ある量のM(OH)を添加するが、ここで、前記M(OH)と、工程a)で添加した前記半導体金属酸化物との質量比は、1:5重量部~1:10重量部の範囲内、好ましくは1:5重量部であり、撹拌を少なくとも30分間続ける工程と、
c)工程b)からの前記溶液に、ある量のM’Xを添加するが、ここで、前記M’Xと、工程bで添加した前記半導体金属酸化物との質量比は、1対8重量部~1対25重量部までの範囲内、好ましくは1対12重量部である工程と、
d)室温で少なくとも15分間前記溶液を撹拌し続け、次いで、連続撹拌下で、水が沸騰するまで温度を上昇させ、前記溶液の体積が半分に減少するまで撹拌を続け、前記溶液を濃厚なクリーム状の構造体にする工程と、
e)段階d)で得た生成物を、熟成のために24時間静置する工程と
を含む、プロセス。
【請求項7】
請求項6に記載の、前記無機顔料を得るためのプロセスであって、
前記半導体金属酸化物が、220nm~4μmの範囲内、好ましくは220nm~40μmまでの範囲内のサイズで工業的に使用するための、60~100の範囲内の比誘電率εrを特徴とする高い誘電定数を有するTiO、ルチル又はアナターゼ、好ましくはルチルであり、
Mが、Ca及びBaから選ばれ、好ましくはCaであり、
M’Xが、CuSO、AgNO、又はAuNOから選択され、好ましくはCuSOである、
プロセス。
【請求項8】
前記第2の層の構造体上に堆積した金属ナノメトリッククラスタが、1nm~50nmの範囲内の長さと共に、1個~5個の金属原子の厚さであるが1nm以下である厚さを有する、請求項6及び7に記載の、前記無機顔料を得るためのプロセス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の、光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料を含む配合物であって、前記配合物は、装飾的又は保護的な役割で表面を被覆するのに適した任意の配合物から選択され、好ましくは、塗料、樹脂、プラスチックポリマー、セラミックうわぐすり、又は工業用セラミックである、
配合物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の、光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料を含む建設材料であって、石こう、プラスチック又はモルタル、可塑性又は無可塑性の紙又は板紙、ポリマー保護膜、及び瀝青系で自己硬化性のコーティング、アスファルト又はアスファルト若しくは瀝青系の混合物、自己硬化性建築スラブ又は充填材、それらに触媒特性を与える添加粉末から選択される、建設材料。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の、光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料を含む化粧品であって、皮膚に付与することにより抗菌効果を有する皮膚科学製品の種類、好ましくはクリーム、軟膏、懸濁液、水溶液から選択される、化粧品。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の顔料を活性成分として含有する配合物を付与することを含み、病原体を破壊する方法であって、前記方法は、以下の工程、すなわち
消毒する表面に前記配合物を付与する工程、
及び、任意選択で、可視範囲において、又は光が存在しない状態において、光放射線に前記配合物を曝露する工程
を含む、方法。
【請求項13】
化学合成のための工業用触媒であって、光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料のみで作製される塊触媒、又は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料からなる活性触媒構成成分を含浸する担体を形成する既存の不活性固体から作製される担持触媒のいずれかである、工業用触媒。
【請求項14】
水又はイオン性物質の電気化学的光解離のための電極であって、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料をベースとして作製された、電極。
【請求項15】
液体、ゲル又は固体の形態の汚染除去製品であって、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料をベースとして作製され、油残渣を除去するために使用される、汚染除去製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料、それを得るためのプロセス、この無機顔料を含有する様々な配合物、及びその使用に関する。本発明はまた、無機顔料を含有する配合物を付与した表面に、全可視スペクトル(400nm~700nm)からの電磁放射線を照射することを含み、病原体を破壊する方法を提供する。また、本発明は、本明細書に開示する顔料を、光が存在しない状態でのその触媒活性、殺菌活性、及び殺ウイルス活性のために使用することを提供する。
【背景技術】
【0002】
半導体金属酸化物光触媒は、光化学反応において、光増感剤(FS)として作用することが以前から知られている。これらの光触媒の使用に伴う主な問題は、光触媒を活性化され得るのが、人間にとって危険な放射線であるUV-A範囲の電磁放射線のみによることである。したがって、上記の半導体金属酸化物光触媒は、人間がいる環境では光触媒の用途に使用することができない。
【0003】
ドープ半導体金属酸化物の光触媒であって、可視領域の電磁放射線によって活性化される光触媒が得られる実験室用又は工業用の既知の技術がいくつかある。これらのプロセスにより、規格ISO/TS 80004-2:2015ナノテクノロジー-用語-第2部:寸法が約1nm~100nmの長さの範囲内のナノ物体で定義されたナノ粒子の形態である、無機又は有機の金属性ドープ光触媒が得られる。ナノ材料は、機能性顔料として工業的には受け入れられていない。これは、技術的使用、環境、及び労働安全に対する強制的制限に関する法律によって課されるものである環境中に放出されたナノ材料を、検出する可能性がないためである。世界保健機関(World Health Organization:WHO)は、2017年から、曝露を低減し、製造されたナノ材料の潜在的リスクから作業者を保護することを推奨している。
【0004】
可視光においてドープされた光触媒を得るためのすべての既知のプロセスは、有用生成物に対する全反応収率(有用生成物の質量/反応生成物の質量)が約5~10%と非常に低く、経済的に実現不可能である。これらの既知のプロセスは大量の化学廃棄物を発生させ、それらの中和には、極めて高い中和コストを発生させる特殊な設備を必要とする。
【0005】
米国特許第7449245号には、TiOをベースとする光触媒基材を生成する方法が記載されており、TiOは、有機溶媒、又は無機溶媒類の混合物から調製され、その溶媒には、TiXの形態の加水分解性チタン化合物が溶解され、加水分解性X基は、アルコキシド、アリールオキシド、アシルオキシド、又はアルキルカルボニルであってもよい。この溶液に、酸化物、又はカルボン酸塩型の錯体金属塩、例えばアセタート又はアセチルアセトナートを添加する。この方法の主な欠点は、反応収率が有用生成物において約5~10%と非常に低く、不活性化することが困難な化学廃棄物である多くの二次化合物を発生させることである。
【0006】
国際公開WO98/05601には、光触媒化粒子を含有する水硬性結合剤、セメント組成物、建築用コンクリートのドライミックスについて記載されており、光触媒化粒子は、軽気湿の存在において、かつ好ましい光触媒が二酸化チタンである環境において、汚染物質を酸化することができる。この技術の主な欠点は、光増感剤の活性化のために、光放射線の中で少量であるUV-Aドメインからの光を照射することが必要であることに起因する。
【0007】
欧州特許第0633064号には、光触媒粒子を有する基材を含む光触媒複合材と、その複合材を生成するためのプロセスとが開示されており、光触媒粒子は、例えば、劣化の少ない接着剤を介して基材に接着する酸化チタンである。最も劣化しにくい接着剤は、ケイ素化合物又はセメント化合物である。この技術の主な欠点は、光増感剤を活性化するために、光放射線の中で少量であるUV-A範囲からの光を照射する必要があることである。
【0008】
したがって、可視スペクトル放射線によって活性化され、国際認証基準及び汚染基準に適合しており、より高い効率で、中和が困難な有毒廃棄物を発生させることなく、比較的低い製造コストで得られ得る光触媒を製造するための、効率的で経済的かつ環境に配慮した方法及び技術が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、可視スペクトル全体からの光が存在する状態でも活性化され(光触媒の役割)、光が存在しない状態でも活性化される(触媒の役割)触媒の機能を有する無機顔料を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、可視スペクトル全体からの光によって活性化され得るが、光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料を得るためのプロセスを提供することである。
【0011】
別の目的は、可視スペクトル全体からの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料を活性成分として含む様々な配合物であって、装飾的又は保護的な役割で表面を被覆するのに適した任意の配合物から選択される様々な配合物を提供することである。
【0012】
さらに別の目的は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料を活性成分として含む建築材料であって、石こう、コンクリート、モルタル、セメント、可塑化された若しくは可塑化されていない紙若しくは板紙、ポリマー及び瀝青系の保護膜、自浄性コーティング、アスファルト又はアスファルト若しくは瀝青系の混合物、自浄性建築スラブ、又は充填材、触媒特性を与える粉末から選択される建築材料を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料を活性成分として含有する化粧料であって、皮膚に付与することにより抗菌効果を有する皮膚科学製品の種類から選択される化粧料を提供することである。
【0014】
本発明の最後の目的は、病原体を駆除するための方法であって、可視スペクトル全体からの光によって活性化され得る触媒である顔料(光活性無機剤(light-activated inorganic agent:LAIA)を活性成分として含有する様々な配合物を、消毒する表面に付与することを含む、病原体を駆除するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明により、上述の技術的状況における前述の欠点、並びに前述の技術的状況において明らかにされたその他の欠点は解消される。
【0016】
本発明の第1の目的は、可視スペクトル全体の光により活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料であって、半導体金属酸化物からなる第1の層と、ABO型又はA型の強誘電性ペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの無機構造体からなる第2の層と、金属ナノメトリッククラスタからなる第3の層とを含む無機顔料に関する。
【0017】
本発明の別の目的は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料を得るためのプロセスに関する。
【0018】
本発明の別の目的は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有するこの顔料を、活性成分として含有する様々な配合物であって、圧延された装飾表面又は保護表面を被覆するのに適した任意の配合物から選択される様々な配合物に関する。
【0019】
本発明のさらなる目的は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料を、活性成分として含む建設材料であって、石こう、コンクリート、モルタル、セメント、可塑化された又は可塑化されていない紙又は厚紙、ポリマー及び瀝青系の保護膜、自浄性コーティング、アスファルト又はアスファルト若しくは瀝青系の混合物、自浄性スラブ、又は充填材、触媒特性を与える粉末から選択される建設材料に関する。
【0020】
別の目的として、本発明は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料を、活性成分として含む化粧品であって、皮膚に付与することにより抗菌効果を有する皮膚科学製品の種類から選択される化粧品に関する。
【0021】
本発明の別の目的は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料のみから作製される塊触媒の形態で、化学合成に使用される工業用触媒を、提供する。
【0022】
本発明の別の目的は、担体を形成する不活性な既存の固体で作製された担持触媒の形態であり、化学合成に使用される工業用触媒であって、全可視スペクトルからの光によっても活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る無機顔料を、前記担体上に有する工業用触媒を、提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、水又はイオン性物質の電気化学的光解離のための電極であって、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料をベースとして作製された電極を、提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、無機顔料から形成された活性触媒構成成分を含浸した担体を形成する不活性な既存の固体で作製された担持触媒の形態であり、化学合成に使用される工業用触媒であって、無機顔料は、全可視スペクトルからの光によって活性化され得るが光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する工業用触媒を、提供することである。
【0025】
最後に、本発明の別の目的は、病原体を破壊する方法であって、全可視スペクトルからの光によって活性化され得る触媒の機能を有する上記顔料(光活性無機剤-LAIA)であるが、光が存在しない状態でも活性化され得る触媒の機能を有する上記顔料を、活性成分として含有する様々な配合物を、消毒する表面に付与することを含む、病原体を破壊する方法を提供することである。
【0026】
<用語の定義と図の説明>
可視スペクトルからの光によって活性化され得る触媒の機能を有する無機顔料(光活性無機剤-LAIA)という用語は、「機能性顔料」(ISO 18451-1:2019
-顔料、染料及び希釈剤)の種類に含まれる化合物であって、付与媒体に付与されると、その着色特性に加えて、その固有の物理的又は化学的な特性により特異的機能を有する化合物と定義される。
【0027】
「ナノ材料」という用語は、ナノスケール、1nmから100nmまでに位置づけされるサイズを指す。
【0028】
「バルク材料」という用語は、100nm超、一般に500nm超の寸法を有する微粉化された材料を指す。
【0029】
第2の層の構造体上に堆積した(又は堆積させた若しくは堆積された)(Cu、Ag又はAuの)金属ナノメトリッククラスタという用語は、Cu、Ag又はAuの1個~5個の原子の厚さを有するが1nm以下の厚さで第2の層の表面に形成され、1nm~50nmの可変的長さを有する層を指す。
【0030】
「ナノテクノロジー」及び「ナノ材料」の範囲における工業技術標準について、国際標準化機構(International Organization for Standardization)ISOは、技術標準規格ISO/TS 80004-2:2015 ナノテクノロジー-用語-第2部:ナノ物体を、導入している。この文献は、1nm~100nmの「ナノスケール」の寸法を有する粒子であるナノテクノロジー粒子の技術仕様に関する用語及び定義を列挙している。ナノ構造材料は、100nm未満の粒径を有し、特性を有する。
【0031】
したがって、すべての経済主体のために、またすべてのユーザのために、特に「ナノ材料」の場合、それらのサイズに応じて、粉末化された化学物質の使用に適用される規定が策定されている。「Recommendation of the Commission of 18 October 2011 on the definition of nanomaterials in the EEA relevance published in OJ L 275,20.10.2011,pp.38-40」により、経済、科学及び経済的ポリシーの目的のために、欧州連合において、標準として「ナノ材料」という用語の使用が推奨された。法律における一様な解釈を容易にする定義は、材料を構成する粒子の、測定される最も適切なサイズのみに基づいている。サイズ範囲として「微粉化バルク材料」の明確な粒子である「ナノ材料」を定義するために、2011年10月18日の委員会勧告により、下限を1nmとし、上限を100nmとして用いることが承認され、一般的合意に達した。天然の、二次的な又は製造された材料は、材料のサイズのみに基づいて本定義に含まれる。
【0032】
「顔料」という用語を定義するための業界標準は、ISO規格18451-1:2019-顔料、染料及び希釈剤一用語一第1部:一般用語である。この規格は、ポリマー分散液中に存在する粒子の線平均寸法について言及し、「顔料」、「機能性顔料」という特定の用語の意味を定義しているが、これらは「微粉化された」寸法についての定義であり、機能上の用語とは区別されている。
【0033】
「ナノ材料」又は「ナノ粒子」。これは、ナノスケールの外形寸法を有する材料として定義され、「ナノスケール」は、1nm~100nmの範囲内の任意の寸法として定義される用語である。
【0034】
「塊触媒(mass catalysts)」-単一の活性相のみから作製された単純触媒。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】触媒の機能を有する無機顔料の構造体の縦断面を示す図である。以下のことが観察される。1)光によっても活性化される触媒の機能を有する無機顔料LAIAは、顔料の共活性担体を形成するTiO、アナターゼ又はルチルの分子八面体の層によって形成されている。2)擬二次元ペロブスカイトとも呼ばれる第2の層は、TiOの分子八面体で表される強誘電無機構造体からなり、そのTiOの分子八面体の間には、カルシウムカチオンがインターカレートしており、Ca2+又はバリウムBa2+であるカチオンは、TiOの分子八面体の頂点の酸素原子に配位している。3)第3の層は、二次元擬ペロブスカイトの層と層との間に堆積した、Cu、Ag、及びAuから選択される金属性ナノメトリッククラスタからなる。
図2】(XII2+VI4+2- )型の式を有する、ABOペロブスカイト型の斜方晶構造体を示す図である。式中、「A」カチオンはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、「B」カチオンは遷移金属であり、「A」及び「B」は大きく異なるサイズの2つのカチオンであり、「A」原子は「B」原子よりも大きく、「O」は両方のカチオンに結合するアニオンである。標準的な斜方晶ペロブスカイト構造体内では、6(VI)配位の「B」カチオンは、八面体12(XII)配位の「A」カチオンの中心にある八面体によって囲まれている。
図3】TiOのバルクルチル多形体(実線)、及びTiOの多形体(点線)についてのギブス自由エネルギー図を表す。
図4】TiOについてのプーボワ(Pouboix))図を表す。
図5】TiO顔料の界面における、電気化学的界面の形態の電気二重層(略してSDE)の形成を示す図であり、その形成は、OHヒドロキシル基のアニオンとの間の水素結合の形成によるものであり、第1の電気層と第2の層とを形成するアニオンは、Naカチオンによって与えられる。
図6】TiO顔料界面の表面からの電気二重層の中のカルシウムカチオンが、温度で-HO基を失った後、TiOの分子八面体の間で絡み合い、顔料界面を構成する分子八面体の中の酸素原子と配位結合を作る様子を表す図である。このようにして、CaTiOペロブスカイト型の無機構造体が構成される。
図7】Cuについてのプーボワ(Pouboix)図を表す。
図8】顔料の表面のSEM画像を示す図であり、1)ナノメトリックCuクラスタが、顔料表面で堆積していることが観察される。
図9】いずれも工業起源のアナターゼTiOの試料及びルチルTiOの試料と比較した、LAIA顔料(光活性無機剤-LAIA)の試料について記録した反射率に従って光吸収を記録した結果を示す図である。SPECORD 250-222P108分光光度計を測定に使用した。新規な顔料は、全可視400nm~700nmスペクトルにわたって光触媒活性を示している。
図10】光触媒活性についてのスペクトル測定を表す図である。
図11】光活性触媒の機能を有する無機顔料の試料について得られたX線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)スペクトルであり、CaTiOペロブスカイト構造に特徴的であるスペクトルを示す図である。
図12】TiO分子の分子-軌道結合構造であり、(a)原子レベル、(b)結晶場の分割レベル、及び(c)相互作用の最終状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明を以下に詳細に説明する。
【0037】
第1の例では、本発明は、光活性触媒の機能を有する無機顔料であって、
-220nm~4μmまでの範囲内、好ましくは220nm~40μmの範囲内のサイズで工業的に使用するための、60~100の範囲内のεr比誘電率を特徴とする高い誘電定数を有するルチルTiO又はアナターゼTiOから選択され、好ましくはルチルである半導性金属酸化物からなる第1の層と、
-ABO又はAの形態のペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの無機強誘電構造体からなる、二次元擬ペロブスカイト相と呼ばれる第2の層と、
-第2の層の構造体上に堆積した金属ナノメトリッククラスタからなる第3の層と、
を含む、無機顔料に関する。
【0038】
さらに好ましい実施形態では、第1の層は、ルチルTiO半導性金属酸化物粒子からなる。バルクルチルTiOの結晶多形体の光触媒性能はアナターゼTiOの多形体の光触媒性能よりも良好であるため、工業的使用には、ルチルTiOのバルク粒子を使用することが好ましい。バルクルチルTiOの多形体の実験バンドギャップは約3.0eVであり、これは、実験バンドギャップが約3.2eVであるアナターゼTiOの多形体よりもはるかに小さい。ナノ粒子(特に1nm~50nmのサイズを有するもの)の場合、アナターゼTiO結晶は、表面エネルギーにより、ルチルTiO結晶よりも光触媒性が高い[Hanaor D.A.H.,Sorrell C.C.Review of the anatase to rutile phase transformation.J Mater Sci 46,855-874(2011)77,doi:10.1007/s 10853-010-5113-0による]。ギブス自由エネルギーの図、図3に見られるように、バルクルチルTiOの多形体は、すべての温度及び圧力で、アナターゼTiOの多形体よりも熱力学的に安定である[Hanaor D.A.H.,Sorrell C.C.Review of the anatase to rutile phase transformation.J Mater Sci 46,855-874(2011)77,doi:10.1007/s 10853-010-5113-0を参照されたい]。
【0039】
さらに、光活性無機剤(LAIA)の機能を有する無機顔料の第1の層は、ルチルTiO又はアナターゼTiO、好ましくはルチルの多形体で作製されるが、それは、その他の半導性金属酸化物が当該反応に関与することができないためである。ZnOは両性であり、強い塩基性溶液の存在下(活性中心の形成に必須の工程)で可溶性Zn亜鉛めっきになり、SiO、若しくはWO若しくはAl又は他の半導性金属酸化物は、それらの表面に活性酸素中心を有していない。本発明に記載の反応は、TiO分子にのみ特異的であり、TiO分子は、分子軌道の形成においてそれ自体のある特異性を有しており、記載される反応を生じさせることが可能である。
【0040】
第1の層は、光活性触媒の機能を有する無機顔料の共活性担体を表す。
【0041】
本発明の別の好ましい実施形態では、二次元擬ペロブスカイト相と呼ばれる第2の層は、第1の層の分子界面に形成され、アルカリ土類金属カチオン、好ましくはCa2+又はBa2+が、第1の層の界面の表面レベルを構成するTiOの分子八面体の間に挿入される。これらのアルカリ土類金属カチオンは、それが間に挿入されているTiOの分子八面体と共に、ABO型又はA型のペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの無機強誘電構造体を形成することになり、「O」型アニオン及び「B」型カチオンは、第1層界面の表面レベルの組成物からのTiO分子八面体の酸素アニオン及びチタンカチオンで表され、「A」型カチオンは、第1層界面の表面レベルの組成物からのTiOの分子八面体の「O」アニオンに配位したアルカリ土類金属侵入物、好ましくはCa2+又はBa2+で表される。
【0042】
ルチルTiO又はアナターゼTiOの構造体では、ナノメトリック又はバルクにかかわらず、Ca2+又はBa2+のアルカリ土類金属のみがTiOの八面体の間に挿入され得るが、これは、結晶構造の安定性及び歪みの指標であるゴールドシュミット許容因子が、BaTiOについては約1であり、CaTiOについては約0.9であることによる。本質的に、Ca2+カチオン又はBa2+カチオンは、TiO八面体の間を移動することができ、これらのTiO八面体の酸素アニオンと配位結合を形成することになる。Ca2+カチオン又はBa2+カチオンは、静電反発力によって、1層、最大で2層のTiOに関してのみ侵入することが可能であり、図6に見られるように、その侵入により、これらのTiO八面体と共に二次元擬ペロブスカイト相型層を形成することになり、図6は、それらがペロブスカイトの構造と近い構造を有することを示している。
【0043】
TiO結晶の界面では、TiOの分子八面体の間に、Ca2+又はBa2+のアルカリ土類金属の複数のカチオンが同じレベルにおいて介在しているが、文献には、TiO結晶の界面に形成された二次元相については記載されていない。本明細書の記載は、新規な二次元ペロブスカイト相の層モデルを表している。
【0044】
ペロブスカイトは層状に構造化することができ、侵入材料の薄層によって分離されたABO型構造体を形成することが、文献から知られている。これらの構造体は、文献では以下のように定義されている。
1.オーリビリウス(AURIVILLIUS)相-入力層は、各n個のABO層に現れる[Bi2+型のビスマスイオンから構成される。
2.ディオン-ジャコブソン(DION-JACOBSON)相-入力層は、各n個のABO層でアルカリ金属(M)から構成され、一般式はMA(n-1)BO(3n+1)となり、MはBとは異なるカチオンである。
3.ルドルスデン-ポッパー(RUDDLESDEN-POPPER)相-相のうちで最も単純であり、入力層は、ABOの各層(n=1)又はいくつかの層(n>1)の間で生じる。
【0045】
本発明の別の好ましい実施形態では、第2の層は、ABO形態又はA形態のペロブスカイト型又は擬ペロブスカイト型の無機強誘電構造体からなり、アルカリ土類金属カチオンがTiOの分子八面体の表面層の間に介在し、前記カチオンは、八面体TiO結晶の縁部で酸素原子に配位結合して、1個又は2個の斜方晶又は擬斜方晶の結晶厚さの層を形成し、その層は、ABOペロブスカイトと同様のA二次元擬ペロブスカイト相と呼ばれる層であり、「O」型アニオンは、TiO核の界面の酸素原子によって与えられ、「B」型遷移金属カチオンは、第1の層界面のチタン原子で表される。
【0046】
さらに好ましい実施形態では、顔料の第2の層は、間にCa2+カチオン又はBa2+カチオンが介在するTiOの八面体分子結晶の二次元プレートで表される強誘電無機構造体からなり、前記カチオンは八面体TiO結晶の縁部の酸素原子に配位結合し、それにより、1個又は2個の分子の八面体厚さの層が形成され、その層は、第1の層の表面に強く接着し、ABO又はAの形状のペロブスカイト又は擬ペロブスカイトに似た二次元擬ペロブスカイト相と呼ばれる層であり、「O」型アニオンは、TiOの第1の層の界面の酸素原子によって与えられ、「B」型遷移金属カチオンは、第1の層と第2の層との間の界面(TiOのペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの界面)のチタン原子で表される。「A」型カチオンは、TiOの八面体分子結晶の縁部の酸素原子に配位結合しているカルシウムCa2+原子又はバリウムBa2+原子で表される。
【0047】
さらに別の好ましい実施形態では、アルカリ土類金属カチオンはCa2+カチオンであり、これは、Baの場合よりも反応を制御しやすいためである。水酸化カルシウムは、水酸化バリウムよりも塩基解離定数pKが高いため、水酸化バリウムよりもはるかに容易にイオンに解離することから、カルシウムカチオンを使用することが好ましい。Ca(OH)については、塩基解離定数pKは1.37(第1のOH)、2.43(第2のOH)であり、水酸化バリウムについては、pK、塩基解離定数は、0.15(第1のOH)、0.64(第2のOH)である。
【0048】
さらに別の好ましい実施形態では、本発明は、光活性触媒の機能を有する無機顔料に関し、ABO型又はA型のペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの無機強誘電構造体は、「B」型遷移金属としてチタン、好ましくはルチルチタン、「A」型カチオンとして、アルカリ土類金属であるカルシウム又はバリウム、好ましくはカルシウムを含み、「O」アニオンは酸素である。
【0049】
本発明の別の好ましい実施形態では、第3の層は、第2の層の構造体上に堆積した金属ナノメトリッククラスタであって、金属は、Cu、Ag、又はAuから選択される金属ナノメトリッククラスタからなる。
【0050】
特に好ましい実施形態では、反応の制御が極めて容易であり経済的にも効率的であることから、金属クラスタはCuから形成される。
【0051】
特に好ましい実施形態では、第2の層の構造体上に堆積した金属クラスタであって、金属はCu、Ag、又はAuから選択される金属クラスタは、1nm~50nmの範囲内の長さと共に、1個~5個の金属原子の厚さであるが1nm以下である厚さを有する。厚さが1個~5個の金属原子の厚さであるが1nm以下であることにより、クラスタ電子がその表面にのみ位置することになる。このことにより、本発明の無機顔料は、光が存在しない状態でも触媒として作用する。これらの金属クラスタは、顔料の第2の層を形成する二次元擬ペロブスカイト相上に堆積される。
【0052】
本発明に記載の光活性無機剤(LAIA)の機能を有する無機顔料は、「微粉化」形状を有しており、微粉化粒子の平均寸法がTiOの金属酸化物半導体粒子のサイズ、すなわち4μm未満であるが220nm超であるため、ナノ材料のカテゴリには含まれない。したがって、当該無機顔料複合体は、ナノメートルサイズの化合物の使用を制限する国際規格に適合している。
【0053】
結晶性顔料などの固体は、均質な異方性体の三次元構造、すなわち、固体の構造単位(イオン、原子、分子)を、明確に定義された秩序で三次元に配置することによって組織化された構造を有する結晶の形態の秩序化分子である。この秩序は、構造単位の限られたグループ内でも(局所的秩序)、広い領域にわたっても(遠隔的順序)、確立されている。化学式が同じである場合、禁制帯域幅、量子効果、大きな比表面積、化学反応性などの特殊で特徴的な特性は、粒径によって大きく異なる。したがって、結晶性粒子のサイズに応じて、粉末状固体は、全く異なる化学的特性を有する2つの広範なカテゴリに分けられる。
・ナノ材料-サイズがナノスケールの1nm~100nmの範囲内にある。
・サイズが100nmを超える、一般に500nm超のバルク微粉化材料。
【0054】
粉末状材料の化学的特性は、特定のサイズによって大きく異なる。粉末状材料の寸法分布は、小さい質量比率に最も多くの粒子が含まれている可能性のあることを考慮すると、ナノスケールの粒子の質量比率ではなく、粒子数の集中度(すなわち、所与のサイズ範囲の粒子の数を粒子の総数で割ったもの)に応じた寸法分布として表されなければならない。
【0055】
本発明の光活性無機剤(LAIA)は、その物理的及び化学的特性により、全可視スペクトル(400nm~700nm)からの電磁放射線を照射されたときに予想外に光触媒活性が生じるが、光が存在しない状態、暗所でも触媒活性、殺菌活性、及び殺ウイルス活性を有することを特徴とする。本発明が記載する光活性無機剤(LAIA)は、「微粉化」粒子の中間サイズがTiO粒子のものと同様、すなわち4μm未満であるが220nm超であるので、「微粉化」形状を有しており、「ナノ材料」のカテゴリには入らない。
【0056】
本発明は、(XII2+VI4+2- )型の式のABOペロブスカイト型の金属酸化物構造体を使用し、カチオン「A」はアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、カチオン「B」は遷移金属であり、「A」及び「B」は異なるサイズの2つのカチオンであり、図2に示すように、「A」原子は「B」原子よりも大きく、
・「O」は、両方のカチオンに結合するアニオン、すなわち酸素アニオンであり、
・「B」は、アニオンの八面体に囲まれた6(VI)配位のカチオン、すなわち第1の層のチタンカチオンであり、
・「A」は、八面体の12(XII)配位のカチオンである。
【0057】
光触媒プロセスの観点から、ペロブスカイト構造体を有する化合物は、ペロブスカイトによって有利な帯域幅が提供され、様々な光誘起反応が可能になるので、説明した二元酸化物よりも大きな利点を提供する。同時に、ペロブスカイト構造体又は擬ペロブスカイト構造体は、強誘電特性を有すると認識されている。
【0058】
本発明の無機顔料の相乗効果は、ペロブスカイトの強誘電効果と、光触媒活性の予想外の増加をもたらす半導性金属酸化物の光触媒効果との組合せに起因する。
【0059】
しかし、ペロブスカイト又は擬ペロブスカイトの金属酸化物光触媒において、可視光を使用する能力は、酸素の「2p」軌道からなる低価電子帯によって生じる広い帯域幅により、本質的に制限される。
【0060】
本発明は、ルチルTiO又はアナターゼTiOの第1の層の表面に、ABO形態又はA形態のペロブスカイト型構造体又は擬ペロブスカイト型構造体を堆積させることによって、この問題を解決する。これらの構造体において、「O」型アニオンは、TiOの第1の層の界面からの酸素原子によって与えられ、「B」型の遷移金属カチオンは、第1の層の界面からのチタン原子で表される。「A」型のアルカリ土類型カチオンは、第1の層の表面に堆積するカルシウムカチオン又はバリウムカチオンで表される。本発明に記載のペロブスカイト/擬ペロブスカイト構造体内では、チタンで表される「B」金属カチオンは、ペロブスカイト/擬ペロブスカイト構造体の酸素アニオンに強く結合している。それぞれチタンである「B」遷移金属カチオンがペロブスカイトの触媒活性に関与しており、アルカリ土類金属で表される「A」型カチオンの役割は、自由結晶格子位置の制御形成によって、Bカチオンの異常な酸化状態を安定化することであり、これによって様々な予想外の触媒性能がもたらされる。この現象は、TiO担体の共活性化として定義することもできる。ABO又はAのペロブスカイト構造体又は擬ペロブスカイト構造体の表面には、ナノメトリック銅金属クラスタが堆積される。そのクラスタは、ペロブスカイト中の酸素原子及びカルシウム原子の電子軌道を組み合わせることによって形成されたABOのペロブスカイト原子価の最高占軌道(Highest Occupied molecular Orbital:HOMO)帯の電子状態に影響を及ぼす電場を、ペロブスカイト/擬ペロブスカイト中に誘起するクラスタである。銅金属クラスタによって誘起される場の影響下で、伝導帯(最低空軌道(Lowest Unoccupied molecular Orbital:LUMO))に対する酸素原子の2p価電子帯(HOMO)における電子エネルギーの準位が得られ、これは、チタン原子の自由「d」軌道を表す。ABOペロブスカイトとカップリングした金属クラスタによって誘起される電場の影響により、2つのバンド(HOMO)と(LUMO)との間のエネルギー差が減少することになり、全可視スペクトルからの電磁放射線の電場によって本発明の顔料を分極させ、続いて、可視スペクトル全体にわたって触媒が光活性化することが可能になる。
【0061】
TiOの八面体の間のCa2+又はBa2+であるアルカリ土類金属のカチオンの存在、及び、TiOの酸素アニオンとCa2+又はBa2+であるこれらアルカリ土類金属との間の配位結合の形成により、TiO分子のHOMO軌道を形成する2p分子軌道からの電子が縮退することになる。金属ナノメトリッククラスタによって形成された双極子によって発生する電場は、これらのHOMO価電子の非局在化にさらに影響を及ぼす。
【0062】
本発明に記載の顔料が、全可視スペクトルからの光量子を照射されると、金属クラスタにおける永久双極子の電場変化の影響下で非局在化電子が放出され、光-光触媒反応の影響下で触媒反応が開始される。
【0063】
電子不足分子が本発明に記載の顔料の表面に吸着されると、金属ナノメートルクラスタによって形成された双極子によって発生する電場の影響下で生じる現象により、すなわち、ナノメートル金属クラスタによって形成された双極子によって発生する電場によって非局在化した縮退HOMO電子により、顔料の表面に吸着された分子の電子の不足が満たされ、光が照射されることなく化学反応が開始される。ここで、顔料は触媒として作用し、すなわち、顔料は光が存在しない状態で触媒効果を有する。
【0064】
別の例において、本発明は、光活性触媒の機能を有する無機顔料を得るためのプロセスに関し、そのプロセスは、以下の工程を含む。
a)1MのNaOHの塩基性溶液に、アナターゼTiO又はルチルTiOから選択され、好ましくはルチルである半導性金属酸化物をある量添加する。NaOHの質量と半導性金属酸化物の質量との比は、1対8重量部~1重量部対10重量部までの範囲内である。そして、表面及び半導体金属酸化物のすべての不純物を除去し、その表面の酸素中心を活性化するために、室温で少なくとも30分間十分に撹拌しなければならない。
b)項目(a)からの撹拌溶液に、ある量のM(OH)を添加する。M(OH)と、工程a)において添加した半導性金属酸化物との質量比は、撹拌を少なくとも30分間継続する場合、1:5重量部~1:10重量部までの範囲内、好ましくは1:5重量部である。
c)前の工程からの溶液に、ある量のM’Xを添加する。M’Xと、工程bにおいて添加した半導性金属酸化物との質量比は、1対8重量部~1対25重量部までの範囲内、好ましくは1対12重量部である。
d)前記溶液を室温で少なくとも15分間撹拌し続け、次いで、連続撹拌下で、沸騰水温まで温度を上昇させ、前記溶液の体積が半分に減少して前記溶液が増粘クリームになるまで、撹拌まで沸騰を続ける。
e)前の段階において得られた生成物を、熟成のために24時間静置する。
【0065】
特定の実施形態では、本発明の顔料を得るプロセスにおいて、
-半導性金属酸化物は、220nm~4μmの範囲内、好ましくは220nm~40μmまでの範囲内のサイズで工業的に使用するための、60~100の範囲内の比誘電率εrを特徴とする高い誘電定数を有するルチルTiO又はアナターゼTiO、好ましくはルチルであり、
-M(OH)は、MがCa及びBaから選択され、好ましくはCaであり、
-M’Xは、CuSO、AgNO、又はAuNOから選択され、好ましくはCuSOである。
【0066】
特に好ましい実施形態では、AgNOが使用される。
【0067】
より好ましい別の実施形態では、CuSO五水和物が使用される。
【0068】
好ましい実施形態では、金属ナノメートルクラスタは、1個~5個の金属原子の厚さであるが1nm以下である厚さで、1nm~50nmの範囲内の長さで第2の層の構造体上に堆積し、その厚さにより、光が存在しない状態、すなわち暗所における触媒活性に関与する。
【0069】
特に好ましい別の実施形態では、本発明は、本発明の光活性触媒の機能を有する無機顔料を得るためのプロセスに関し、そのプロセスは、以下の工程を含む。
a)1MのNaOHの塩基性溶液に、ある量のルチルTiO又はアナターゼTiOを添加する。NaOHの質量とTiOの質量との比は、1対8重量部~1重量部対10重量部の範囲内である。そして、TiOの表面のすべての不純物を除去し、TiOの表面の酸素中心を活性化するために、室温で少なくとも30分間十分に撹拌しなければならない。
b)(a)からの撹拌溶液に、ある量のCa(OH)を添加する。Ca(OH)と、工程a)において添加したTiOとの質量比は、撹拌を少なくとも30分間継続する場合、1:5重量部~1:10重量部の範囲内であり、好ましくは1:5重量部である。
c)前の工程からの溶液に、ある量のCuSOを添加する。CuSOと、工程bにおいて添加したTiOとの質量比は、1対8重量部~1対25重量部までの範囲内、好ましくは1対12重量部である。
d)前記溶液を室温で少なくとも15分間撹拌し続け、次いで、連続撹拌下で、水の沸騰温度まで温度を上昇させ、前記溶液の体積が半分に減少して前記溶液が増粘クリームになるまで、撹拌しながら沸騰を続ける。
e)前の段階において得られた生成物を、熟成のために24時間静置する。
【0070】
本発明による製造プロセスは、有害廃棄物を発生しない環境に優しい技術であり、低い製造コストで実施することが容易である。
【0071】
ペロブスカイト/擬ペロブスカイト層は、湿式含浸プロセス及び電気化学交換反応を用いて形成され、それによって、アルカリ土類金属カチオン、特にCa2+が堆積される。主なII族のアルカリ金属の中で、Ba2+を用いることもできるが、当該反応をより制御しやすいことから、カルシウムを用いることが好ましい。これらの手順は3段階で行われる。
【0072】
<段階I-表面調製>
この段階において、ルチルTiO又はアナターゼTiOから選択され、好ましくはルチルである半導性金属酸化物の反応塊を、pH14の1MのNaOHの塩基性溶液と混合する。NaOHの質量とTiOの質量との比は、1対8重量部~1重量部対10重量部の範囲内である。NaOH溶液は、特異的な役割を有しており、TiO結晶表面の不純物を除去及び浄化し、TiO結晶表面の酸素中心を活性化する。
【0073】
図4に、チタン水溶液のプールベ図を示しており、強塩基性pHでは、酸化チタンはヒドロキシチタナートの組合せ複合物を形成する傾向がある。TiO結晶の表面の酸素原子は、OHヒドロキシル基と化学的親和性を有し、OHヒドロキシル基と一緒に水素結合を形成する。OH基は、TiO結晶表面の酸素中心に、水素結合により付着している。このように、(電極と同様である)TiO結晶の表面と、この場合にはNaカチオン及びOHアニオンからなる塩基性NaOH溶液である電解質との間の境界のTiO結晶表面に、電気二重層電気化学界面(略してSDE)が現れる第1のイオン層は、負に帯電しており、酸素原子と共に作られた水素結合を介してTiO表面に強く接着するOHアニオンからなる。この層により、コロンビアン効果(Columbian effect)によって、正に帯電したNaカチオンの第2の層の出現が決定づけられ、この第2の層は、図5に見られるように、第1のOH層に隣接する領域において、電荷補償の電気化学原理に従って反対の極性を有する層である。
【0074】
<段階II-ペロブスカイト/擬ペロブスカイト構造体の形成>
この段階において、ABOペロブスカイト構造体が、第1のTiO層の表面に形成される。ABO型の最も単純なペロブスカイト構造体では、カチオン「B」は遷移金属、この場合はチタンであり、カチオン「A」はアルカリ土類金属、Ca又はBa、好ましくはCaである。本発明はまた、アルカリ土類カチオンをTiO結晶の表面に堆積させ、TiO結晶の表面にチタン原子及び酸素原子を有する単純なABO型ペロブスカイト構造体を形成するプロセスについて記載する。
【0075】
TiO結晶の表面にペロブスカイト/擬ペロブスカイト構造体を形成するプロセスは、以下のように実施される。Ca(OH)の溶液を工程a)からの溶液に添加する。Ca(OH)の質量と、反応に導入されたTiOの質量との比は、1:5重量部~1:10重量部までである。水酸化カルシウムCa(OH)は、水に比較的不溶であり、難溶性の電解質と考えられ、Ksp溶解度が5.5×10-6の積(又は溶解度平衡定数)を有するが、Ca(OH)溶液を利用することが好ましい。それは、Ca(OH)の酸解離定数が、Ca(OH)溶液が酸-塩基解離反応:
Ca(OH)→Ca2++2OH--
を起こす程十分に高く、電気化学的活性に関しては金属に分類されるためである。ベケートフ-ボルタ金属(Beketov-Volta metal)の活性化系列によれば、Ca2+カチオン及びBa2+カチオンは、Naカチオンよりも反応性が高く、イオン交換反応によって溶液中のNaカチオンを置換する能力を有している。したがって、Ca2+カチオン及びBa2+カチオンはナトリウムよりも際立った電気陽性特性を有しているので、TiO粒子の表面の電気二重層において、Naカチオンは、Ca2+カチオン(又はバリウムを利用する場合はBa2+)で置換される。
【0076】
その後に続くのは、熱脱水反応である。温度の影響下で、水が除去され、TiO粒子の表面の電気二重層中のカルシウムカチオンが、結晶の表面の酸素原子及びチタン原子と配位結合し、図6のように、基本CaTiOペロブスカイトセルが形成される(添付の図を参照されたい)。
【0077】
第1の層の表面のCaTiOペロブスカイト又はCaTi擬ペロブスカイトの基本構造体の形成に有利な因子は、以下の通りである。
-バルク材料の場合、実際の表面の界面で、バルク材料の電子ストリップの構造体が減圧状態に変化し、これは、表面双極子を特徴とする表面状態と呼ばれる新たな電子状態の形成を伴う。この場合、熱力学的観点から、前駆体は、自由度が低くてもよく、結晶性担体上に保持され、熱化学処理後に金属粒子に変換される。
-カルシウムは、強い電気陽性特性と、非関与電子を含む軌道に対する親和性とを有しており、配位するTiO結晶の表面の酸素原子から2d非関与電子を引き付ける。
-TiOとほぼ同一のネットワーク定数を有する基本CaTiOセルのサイズ。さらに、カルシウムを使用する場合のゴールドシュミット許容因子は、ペロブスカイト構造体に理想的なほぼ0.9の値を有する。
【0078】
水を熱的に除去することによって、コロンビアン引力(Colombian attraction)?により、TiO結晶の表面のヒドロキシル基に結合したカルシウムカチオンは、そのヒドロキシル基を失い、酸素原子に配位する。温度の上昇により、系のエンタルピーが増大し、界面層中のヒドロキシル基とTiO結晶の表面の酸素原子との間の水素結合が破壊され、酸素原子がカルシウムカチオンと配位結合する。カルシウムは、強い電気陽性特性と、非関与電子を含む軌道に対する親和性とを有しており、TiO結晶の表面の酸素原子から2d非関与電子を引き付け、これらの酸素原子と配位結合し、その結果、チタン原子及び酸素とCaTiO型のペロブスカイトの基本セルを形成する。この配置の型は二次元(2D)材料であり、当該系は材料平面に垂直な方向に量子的に制限され、静的電気双極子モーメントを有し、焦電特性には、遷移金属の3d軌道と、カルシウムカチオンと配位する酸素原子の2p軌道とが関与している。1つの配置として、1個又は2個の強誘電無機八面体結晶の厚さを有する層構造体が形成されるが、それらの層は、間にカルシウムCa2+カチオンが介在するTiOの八面体分子結晶の二次元プレートとして現れるものであり、Ca2+カチオンは、TiO斜方晶結晶縁部において酸素原子と配位結合している。この層は擬ペロブスカイト相と呼ばれ、第1の層の表面に強く接着しており、ABO型ペロブスカイトと同様である。ここでは、「O」型アニオンは、TiOで形成された第1の層の界面の酸素原子によって与えられ、「B」型の遷移金属カチオンは、第1の層-第2の層の界面のチタン原子で表される。「A」型カチオンは、TiO八面体分子結晶縁部における酸素原子と配位結合しているカルシウムCa2+原子からなる。
【0079】
<段階III-ナノメトリック金属クラスタの層の形成>
上記の金属は、Cu、Ag、及びAuから選択され、好ましくはCuであり、二次元ペロブスカイト/擬ペロブスカイト層上に堆積される。この最後の層は、表面プラズモニック場を発生させる役割を有する。このナノメトリック金属クラスタは、ペロブスカイト/擬ペロブスカイト結晶の表面と、ショットキー接合型の半導体金属-誘電体接合を形成する。このショットキー接合型は電気双極子を形成する役割を有しており、その電気双極子は、ペロブスカイト中のカルシウムと酸素との配位結合の電子を縮退させる電場と、金属界面-誘電体ペロブスカイト/擬ペロブスカイトに沿って移動する電磁波の形態の表面プラズモニックポラリトン(surface plasmonic polariton:SPP)との両方を発生させる。
【0080】
この接合は、電子ギャップ対のレベルで生成されることを特徴とし、前記ギャップは、M2+である金属カチオンの形態の正電荷であって、クラスタ構造体において不動である正電荷であり、負電荷は、クラスタの表面で電子雲の形態で非局在化した自由電子によって与えられる。したがって、ショットキー接合は、クラスタ-ペロブスカイト界面を分極させ、界面の電気双極子モーメントを発生させる。双極子モーメントは、ショットキー接合界面に位置する永久電場の出現と、外部電場の影響下での表面プラズモン共鳴現象の出現との両方を、それぞれ可視領域における電磁放射線の電場の影響下で伴う。電子ギャップ対の存在を特徴とする電場は、クラスタの表面方向にのみ移動し、結晶の対称軸方向に偏光吸収帯を形成することができる。したがって、これらの電子ギャップ対は、化学反応のための触媒表面として機能することができ、自由電子を有する化学種をクラスタ内のギャップに吸着することができ、これらの化学種が活性化され、これらのクラスタ-ペロブスカイト界面によって反応に触媒作用を及ぼすことができる。
【0081】
クラスタとペロブスカイトとの間のショットキー接合の界面に形成された双極子によって発生した電場は、ペロブスカイト構造体のカルシウム-酸素配位結合を形成する2p軌道からの電子を縮退させる。したがって、クラスタ表面で、可視領域の光放射線の電場下で生じるプラズモニック共鳴現象によって発生した電磁振動は、カルシウム-酸素ペロブスカイト配位結合からの酸素の2p縮退電子の励起をもたらし、チタン原子の3d自由軌道で表されるLUMO伝導帯に価電子帯から移動し、可視領域の光の作用下で光触媒応答を発生させることになる。
【0082】
銅は電気の良好な伝導体であり、化学的安定性を有し分極しやすいことから、銅の使用が好ましくい。銅のプーボワ(Pouboix)図を表す図7は、極めて塩基性である溶液において、金属として銅を堆積させることができることを示している。その場で調製される不溶性銅塩基(水酸化銅)を使用して、ゾルゲル堆積プロセスが用いられる。銅イオンは酸化物表面の双極子によって引き付けられ、Cu(OH)温度で分解し、二次元CaTiOペロブスカイト構造体の表面に銅のナノメトリック層を形成する。銅クラスタの堆積は、図8で主張することができる。EDXオックスフォード検出器を備えた日立SU8230走査顕微鏡で、顔料試料を分析した。画像a)及びb)は、二次元ペロブスカイト/擬ペロブスカイト層上に堆積した銅クラスタを示している。
【0083】
以上のように、TiOの第1の層、第2の層-ペロブスカイト/擬ペロブスカイトCaTiOの二次元層、及び第3の層のナノメトリック金属性クラスタの、3つの状態を有する構造体が形成される(図1を参照されたい)。
【0084】
本発明に記載のプロセスにより、光活性無機剤-LAIAの機能を有し、光触媒及び(光が存在しない状態における)触媒の機能を有する無機顔料が得られる。触媒は、相対的共活性の不活性担体(TiO粒子)によって形成されており、粒子は、ナノメトリック金属クラスタを表面に堆積させたナノメトリックペロブスカイト/擬ペロブスカイト構造体を担持している。
【0085】
金属ナノ粒子を有するペロブスカイト構造体によって形成されたショットキー金属-半導体接合部において、金属性ナノ構造との近接場における電磁現象によって引き起こされた強く局在化した表面プラズモン共鳴(localized surface of plasmon resonance:LSPR)誘起電場と半導体との間の相互作用が、実際に生じる。プラズモニックナノ構造体を光励起した後、電磁場はナノ構造体において数桁増幅される。生成されたこれらの場は空間的に不均一であり、ナノ構造体の表面において、電場強度が最も高い。表面から20~30nmで、電場強度は距離と共に指数関数的に減少する。30nmを超えると、電場強度は距離と共に直線的に減少する。このように、光励起されたプラズモニックナノ構造体から数ナノメートルの距離で、半導体が、十分に強い電場と相互作用し得る。したがって、これらのペロブスカイト部位のレベルに現れるこれらのプラズモニック電場はまた、TiOの純粋な結晶塊において、電気ギャップ対に影響を及ぼし、電気ギャップ対を発生させ、光触媒プロセスを増幅させることができる。
【0086】
本発明が記載するプロセスによって得られる光活性無機剤-LAIAの機能を有する無機顔料の濃縮溶液は、そのまま使用することができ、広範囲の工業的適用性で、様々な組成物に添加することができる。
【0087】
本発明が記載するプロセスによって得られる光活性無機剤-LAIAの機能を有する無機顔料の濃縮溶液は、200℃~300℃の温度で3~4時間、か焼炉で乾燥及びか焼することができる。か焼後に得られた乾燥物の塊は、ボールミルで所望の顆粒に粉砕される。このか焼段階は、様々な建築材料に導入される粉末を得るため、又は有機溶媒に溶解した有機樹脂から作製される光触媒特性を有するポリマー化合物を得るため、所望される場合に用いられる。
【0088】
粉砕段階の後に得られた粉末は、その殺菌効果を向上させるために、種々の組成物において、溶液として、同じ方法で使用することができる。
【0089】
この製造プロセスは、原材料が安価で入手しやすいため、非常に有利である。
【0090】
当該プロセスの別の利点は、前駆体から出発する先行技術、又は、結果的に約5~10%という非常に低い収率でしかナノ粒子を得られない先行技術で用いられるプロセスと比較して、光活性無機剤-LAIAの機能を有する無機顔料について、約40%という非常に良好な収率が得られることである。
【0091】
当該プロセスの別の利点は、毒性化合物を生じないため、この製造プロセスはグリーンケミストリの一環として考え得ることである。
【0092】
当該プロセスの別の利点は、光活性無機剤-LAIAの機能を有する工業用無機顔料が、工業において、安価で入手しやすい化合物であるTiOルチルをベースとして得られることである。TiOの世界消費量の約80%が、TiOのルチル形態である。
【0093】
当該プロセスは、結果として、有用生成物が高い収率(約40%)で得られる単純なプロセスである。また、別の重要な利点は、反応を制御しやすいことである。第3層にはAuイオン、Agイオンも使用することができるが、Au、Agよりも電気陽性特性が顕著で安価であることから、Cuが好ましい。Ni、Fe、V、Cr、Coなどの他の遷移金属カチオンを使用することは推奨されない。これらの金属は、同じく非占有軌道を有しているものの、ベケートフ-ボルタ金属(Beketov-Volta metal)の活性系列において水素の前にあり、ペロブスカイト層の表面にクラスタを形成することができない。
【0094】
ナノメトリッククラスタとして堆積される金属の質量と半導体金属酸化物の質量との比は、1:8~1:25重量部、好ましくは1:12重量部であることが推奨される。
【0095】
別の例では、本発明は、装飾的又は保護的な役割で表面をコーティングするのに適した任意の組成物から選択され、本発明による顔料を活性成分として含有する様々な配合物に関する。特に好ましい実施形態では、配合物は、塗料、樹脂、ポリマープラスチック、セラミックうわぐすり、又は工業用セラミックから選択される。
【0096】
本発明の別の目的は、本発明による光活性無機剤-LAIAの機能を有する顔料を活性成分として含む諸配合物を提供することである。これらの調合物は、本発明が記載する顔料溶液を、これらの様々な調合物に添加することによって得られる。
【0097】
好ましい実施形態では、光活性無機剤-LAIAの機能を有するが、光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料粉末は、以下に限定されないが、塗料、又は、装飾的若しくは保護的な役割のための任意の表面コーティング組成物、樹脂、ポリマープラスチック、セラミックうわぐすり、又は工業用セラミックとしての様々な組成物に組み込むことができる。
【0098】
別の例では、本発明は、光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有し、本発明が記載する無機顔料を、活性成分として含む建築材料であって、石こう、コンクリート、モルタル、セメント、可塑化された又は可塑化されていない紙若しくは板紙、ポリマー及び瀝青系の保護膜、自浄性コーティング膜、アスファルト又はアスファルト若しくは瀝青系の混合物、自浄性建築スラブ、又は充填材料から選択される建築材料に言及し、本発明に記載の顔料複合体は、上記の材料において添加粉末の形態で成分として使用され、本発明に記載の顔料化合物の特異的な触媒機能に起因する触媒特性を、上記の材料に与える。上記の新規な建築材料の利点は、特異的な触媒機能に起因して、全可視スペクトル範囲において触媒特性を有することであり、当該建築材料は、全可視スペクトルからの光の影響下で光触媒活性である。
【0099】
別の例では、本発明は、光活性触媒の機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有し、本発明が記載する無機顔料を、活性成分として含む化粧品であって、皮膚に付与することにより抗菌効果を有する皮膚科学製品の種類から選択される化粧品に関する。特に好ましい実施形態では、化粧料は、クリーム、軟膏、懸濁液、水溶液から選択され、本発明に記載の顔料化合物は、これらの化粧品の成分として使用される。これらの新規な化粧品の利点は、全可視スペクトル範囲において触媒特性を有するが、光が存在しない状態でも同じく触媒特性を有することである。
【0100】
別の好ましい実施形態では、光活性無機剤-LAIAの機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する本発明による無機顔料の濃縮溶液は、日焼け防止用のものを含め、殺菌効果を有する化粧品、又は化粧料に組み込むことができる。
【0101】
本発明の別の範囲は、病原体因子を破壊するための方法であって、本発明が記載する顔料を活性成分として含有する調合物を、消毒する表面に付与することからなる方法に言及する。この方法は、適用が極めて容易であり、以下の工程、すなわち、
-消毒する表面への付与と、
-任意選択で、前記表面の可視光線又は暗光線への曝露と、
を含む。
【0102】
<試験及び判定>
<光触媒効率を判定するための試験>
触媒の機能を有する本発明に記載の新規な無機顔料の有効性を証明するために、光触媒効率試験を行った。本発明に従って調製した顔料試料について、DIN 52980:2008-10「表面の光触媒活性-メチレンブルーの分解による光触媒活性の判定」、ISO 10678-2010「メチレンブルーの分解による水性媒体中の表面の光触媒活性の判定」それぞれをベースとして発展させた内部の方法を用い、光触媒活性を判定するための試験を行った。実験データは、以下のように、近UVドメインからの光のみの照射、及び可視光のみの照射の両方について、分析した試料が光触媒活性を提示することを示した。
・近紫外範囲(300~400nm)からの光の照射、20mg/L濃度のメチレンブルー水溶液の退色によって呈示、平均比光触媒活性PMB=3.15x10-5mol/mh。
・可視光(400~800nm)の照射、20mg/L濃度のメチレンブルー水溶液の退色によって呈示、平均比光触媒活性PMB=0,46x10-5mol/mh。
・アーク-キセノン光の照射、20mg/L濃度のメチレンブルーの水溶液の退色によって呈示、平均比光触媒活性PMB=0.64x10-5mol/mh。
【0103】
光励起に使用した光源は、以下の通りであった。A)紫外線領域用:
OSRAM HQE 40 UVランプ(300nm≦λ≦420nmの範囲内の発光スペクトル、放射照度E=(20±0.5)W/m(試験試料のレベルで測定)、B)可視範囲用:LEDプロジェクタ(400nm≦λ≦800nmの範囲内のみの発光スペクトル、放射照度E=(15±0.5)W/m(試験試料のレベルで測定)、及びC)UV-Vis範囲用(擬似太陽光):ATLAS NXe 2000 HEアーク-キセノンランプ(300nm≦λ≦800nmの範囲内のみの発光スペクトル、放射照度E=(42±0.5)W/m(試験試料のレベルで測定)。10ppmのメチレンブルー溶液を使用した。
【0104】
試料に可視光を照射した後、1mLのメチレンブルー溶液を採取し、その吸光度を測定した。測定は、30分ごとの段階で行った。添付図は、時間t=0から始めて、溶液が完全に退色するまで、それぞれ180分間についてのメチレンブルー溶液の吸光度グラフを示している。時間t=0は、実験開始時の、濃度20ppmのメチレンブルー溶液の最大吸収を示す。実験の進行と同時に、試料に可視光が照射されて光触媒反応が起こる。光触媒反応により、メチレン分子に作用する反応種が発生し、この反応の結果、メチレンブルー溶液の濃度が減少する。30分ごとに行う測定により、メチレンブルー溶液の濃度が減少する様子が示され、顔料表面で開始される光触媒反応の速度を評価することが可能である。図10に、光触媒活性のスペクトル測定の結果を示し、メチレンブルー溶液の吸光度について記録した結果を示す。210分後、メチレンブルー溶液は、光触媒反応の結果、完全に退色したことが観察された。
【0105】
本発明が記載する顔料は、光触媒効果が向上しており、全可視スペクトル400nm~700nmで光触媒活性を有する。光励起は、全可視スペクトルで行われる。図9に、いずれも工業起源のアナターゼTiOの試料及びTiOルチル試料と比較した、LAIA顔料の試料について記録した反射率の関数として光吸収を記録した結果を示す。SPECORD 250-222P108分光光度計を測定に使用した。
【0106】
<XPS分光試験>
本発明に記載の光活性触媒の機能を有する無機顔料の試料について、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)試験を行い、得られた顔料の構造を確認した。図11に、光活性無機剤の試料について得られたXPSスペクトルを示す。囲みAにはCa2pについてのスペクトルを示し、囲みBにはCu 2pについてのスペクトルを示し、囲みCにはO 1sについてのスペクトルを示し、囲みDにはTi2pについてのスペクトルを示す。Cu 2pについてのスペクトル分析から、Cu 2p3/2ピーク、Cu 2+サテライト(約940eV及び942eVの各ピーク)及びCu 2p1/2が観察される。Cu2p3/2において、931.99eVでの最も強いピークは金属性の銅の存在を示し、その振幅から、試料表面に堆積した金属性銅構成成分であるように見える。O1sは、529.22eVに主な構成成分を有するが、530.49eVにも小さい構成成分を有しており、Ti2pピーク及びCa2pピークで裏付けられるが、本発明者らは、顔料の表面にペロブスカイトCaTiO3が形成されていると結論付ける。
【0107】
<特定の実施形態>
このプロセスによって得られる光活性無機剤LAIAの機能を有する無機顔料は、ISO 591-1:2000に従って定義される工業用途のための工業化バルク型無機顔料(バルク)であり、全可視スペクトル範囲で光触媒活性を有するが、表面での分極現象により、光が存在しない状態でも触媒活性を有する。当該無機顔料を、様々な調合物に組み込んで、このように可視領域で光触媒活性を受ける様々な製品を製造することができる。光活性無機剤LAIAの機能を有する無機顔料は、塗料、樹脂の種々の組成物、セラミック、コーティングポリマー、様々な建築材料、例えばモルタル、セメント、パテ、うわぐすり、アスファルト、化粧料又はスキンケア製品に、一般にTiO型半導体金属酸化物が充填剤又は充填顔料として添加される任意の製品に、標準的な技術によって導入することができる。本発明を何ら限定するものではなく、例示の目的でのみ述べる特定の実施形態において、光活性無機剤LAIAの機能を有するが光が存在しない状態でも同機能を有する無機顔料を得るためのプロセスは、以下の工程を含む。
1.60kgのNaOHを1500lの蒸留水に添加することにより、1MのNaOHの塩基性溶液を調製する。
2.項目1で述べた溶液に、500kgのルチルTiO、工業用のWhite Pigment 6(PW6)、TYTANPOL(登録商標)-市販品-二酸化チタンを添加する。
3.TiO表面からすべての不純物を除去し、TiO表面からの酸素の中心を活性化するために、室温で少なくとも30分間、前記溶液を十分に撹拌する。
4.30分間撹拌した後、100kgのCa(OH)を添加し、少なくとも30分間撹拌し続ける。
5.少なくとも30分間撹拌した後、項目(3)で述べた溶液に、40kgの質量の硫酸銅工業用五水和物CuSO*5HOを添加する。このようにして形成した溶液を少なくとも15分間撹拌しなければならず、次いで、連続的に撹拌しながら、温度を100℃の水沸騰温度まで上昇させなければならない。
6.溶液の体積が半分に減少するまで沸騰及び撹拌を続け、溶液を濃厚なクリーム状の構造体にする。沸騰後、溶液を24時間置いて熟成させ、生成物の品質チェックを行い(光触媒活性、pH、粘度、顆粒形成)、次いで製造プロセスに導入する。
【0108】
本発明を何ら限定するものではく、例示の目的でのみ述べる別の特定の実施形態では、光活性無機剤LAIAの機能を有する無機顔料を得るためのプロセスは、銀又は金の塩を使用して行うことができる。
【0109】
光活性無機剤LAIAの機能を有する無機顔料を得るためのプロセスは、以下の工程からなる。
1.60kgのNaOHを1500lの蒸留水に添加することにより、1MのNaOHの塩基性溶液を調製する。
2.項目1で述べた溶液に、500kgのルチルTiO、工業用のWhite Pigment 6(PW6)、TYTANPOL(登録商標)-市販品-二酸化チタンを添加する。
3.TiO表面からすべての不純物を除去し、TiO表面からの酸素の中心を活性化するために、室温で少なくとも30分間、前記溶液を十分に撹拌する。
4.30分間撹拌した後、100kgのCa(OH)を添加し、少なくとも30分間撹拌し続ける。
5.少なくとも30分間撹拌した後、項目(3)で述べた溶液に、17kgの質量の硝酸銀AgNOを添加する。このようにして形成した溶液を少なくとも15分間撹拌しなければならず、次いで、連続的に撹拌しながら、温度を100℃の水沸騰温度まで上昇させなければならない。
6.溶液の体積が半分に減少するまで沸騰及び撹拌を続け、溶液を濃厚なクリーム状の構造体にする。沸騰後、溶液を24時間置いて熟成させ、生成物の品質チェックを行い(光触媒活性、pH、粘度、顆粒形成)、次いで製造プロセスに導入する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】