(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-01
(54)【発明の名称】肝細胞癌に対するバイオマーカーとしてのタンパク質チロシンホスファターゼおよびその使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240325BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560332
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 EP2022058188
(87)【国際公開番号】W WO2022207588
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514084347
【氏名又は名称】ユニベルシテ リブレ デ ブリュッセル
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】グルゾフ,エステバン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ウェイ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
本出願は、個別でのタンパク質チロシンホスファターゼの差次的発現と組み合わせるか否かにかかわらず、サンプル中のすべてのタンパク質チロシンホスファターゼの総計発現レベルおよび酸化レベルに基づく、がん、特に肝臓がんまたは肝細胞癌(HCC)の診断、予後診断、および/またはモニタリングのためのインビトロ法を開示する。予防的もしくは治療的処置の選択または治療的処置の有効性の評価のためのインビトロ法もまた提供される。さらに、本出願は、前記方法において用いられるキットを提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 対象のサンプル中のタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の総計発現レベルを決定するステップ、
- 対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、ならびに
- 前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルを、がんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である対応する参照値または閾値に対して比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象におけるがんの診断、予後診断および/または疾患状態を示すものである、ステップ
を含む、対象におけるがんの診断、予後診断および/またはモニタリングのためのインビトロ法。
【請求項2】
- 対象のサンプル中のタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の総計発現レベルを決定するステップ、
- 対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、ならびに
- 前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルを、がんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である対応する参照値または閾値に対して比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象におけるがんを発症するリスクを示すものである、ステップ
を含む、対象においてがんを発症するリスクを決定するためのインビトロ法。
【請求項3】
- 対象のサンプル中のタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の総計発現レベルを決定するステップ、
- 対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、ならびに
- 前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルを、がんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である対応する参照値または閾値に対して比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象の予防的または治療的処置の選択を示すものである、ステップ
を含む、対象におけるがんの予防的または治療的処置の選択を支援するためのインビトロ法。
【請求項4】
- 処置の開始前の時点および処置の開始後の一定間隔などの1つまたは複数の時点で、対象のサンプル中のタンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の総計発現レベルを決定するステップ、
- 処置の開始前の時点および処置の開始後の一定間隔などの1つまたは複数の時点で、対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、ならびに
- 第1のサンプル中の前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルを、後続サンプルのうちの1つまたは複数における前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルと比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象における治療的処置の有効性を示すものである、ステップ
を含む、対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するためのインビトロ法。
【請求項5】
サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定される、請求項1から4のいずれか一項に記載のインビトロ法。
【請求項6】
PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルが、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される、請求項1から4のいずれか一項に記載のインビトロ法。
【請求項7】
PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルが、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される、請求項1から4のいずれか一項に記載のインビトロ法。
【請求項8】
1つもしくは複数の個別のPTPの発現レベルおよび/または1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルを決定するステップ、ならびに1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの前記発現レベルを、がんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である対応する参照値または閾値に対して比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象の診断、予後診断および/もしくは疾患状態を示すものであるか、またはがんを発症するリスクを示すものであるか、または対象の予防的もしくは治療的処置の選択を示すものであるか、または対象における治療的処置の有効性を示すものである、ステップをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のインビトロ法。
【請求項9】
個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPが、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される、請求項8に記載のインビトロ法。
【請求項10】
個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPのうちの少なくとも2種;好ましくは少なくとも5種の発現レベルが決定される、請求項8または9に記載のインビトロ法。
【請求項11】
PTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6の発現レベルが決定される、請求項8から10のいずれか一項に記載のインビトロ法。
【請求項12】
酸化型PTPN1、酸化型PTPN2および酸化型PTPN6の発現レベルが決定される、請求項8から11のいずれか一項に記載のインビトロ法。
【請求項13】
対象におけるがんの診断、予後診断および/もしくはモニタリングのための、または対象におけるがんを発症するリスクを決定するための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、またはがんの治療的処置の有効性を評価するための、対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルと組み合わせた、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の総計発現レベルの使用。
【請求項14】
サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが用いられる、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルが、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルが、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される、請求項13に記載の使用。
【請求項17】
- 対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを測定するための手段;
- 対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルを測定するための手段;
- 前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段であって、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中のPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中のPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値または閾値ががんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す、参照値もしくは閾値または参照値もしくは閾値を確立するための手段
を含む、対象におけるがんの診断、予測、予後診断および/もしくはモニタリングのための、対象におけるがんを発症するリスクを決定するための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、または対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するためのキット。
【請求項18】
- 対象のサンプル中のすべてのPTPの総計発現レベルを測定するための手段;
- 対象のサンプル中のすべてのPTPの総計酸化レベルを測定するための手段;
- 前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段であって、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中のすべてのPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中のすべてのPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値または閾値ががんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す、参照値もしくは閾値または参照値もしくは閾値を確立するための手段
を含む、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
- 対象のサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルを測定するための手段;
- 対象のサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計酸化レベルを測定するための手段;
- 前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段であって、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値または閾値ががんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す、参照値もしくは閾値または参照値もしくは閾値を確立するための手段
を含む、請求項17に記載のキット。
【請求項20】
- 対象のサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルを測定するための手段;
- 対象のサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計酸化レベルを測定するための手段;
- 前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段であって、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値または閾値ががんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す、参照値もしくは閾値または参照値もしくは閾値を確立するための手段
を含む、請求項17に記載のキット。
【請求項21】
- 対象のサンプル中の1つまたは複数の個別のPTPの発現レベルを測定するための手段;および
- 1つまたは複数の個別のPTPの発現レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段であって、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中の1つまたは複数の個別のPTPの発現レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中の1つまたは複数の個別のPTPの発現レベルに対応するなど、前記参照値または閾値ががんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す、参照値もしくは閾値または参照値もしくは閾値を確立するための手段
をさらに含む、請求項17から20のいずれか一項に記載のキット。
【請求項22】
- 対象のサンプル中の1つまたは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルを測定するための手段;および
- 1つまたは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段であって、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中の1つまたは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中の1つまたは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルに対応するなど、前記参照値または閾値ががんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す、参照値もしくは閾値または参照値もしくは閾値を確立するための手段
をさらに含む、請求項18から21のいずれか一項に記載のキット。
【請求項23】
個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPが、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される、請求項21または22に記載のキット。
【請求項24】
対象におけるがんの診断、予測、予後診断および/もしくはモニタリングのための;または対象におけるがんを発症するリスクを決定するための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための;または対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するための、請求項17から23のいずれか一項に記載のキットの使用。
【請求項25】
がんが、肝細胞癌(HCC)、乳がん、膵臓がん、肺がん、結腸がん、前立腺がん、黒色腫、多発性骨髄腫、リンパ腫、白血病から選択され;好ましくは、がんは肝細胞癌であり;さらにより好ましくは、がんは肥満誘導型HCCである、請求項1から24のいずれか一項に記載のインビトロ法、使用、キットまたは前記キットの使用。
【請求項26】
がんが肝細胞癌であり、好ましくは、がんは肥満誘導型HCCである、請求項1から25のいずれか一項に記載のインビトロ法、使用、キットまたは前記キットの使用。
【請求項27】
サンプルが、組織サンプルまたは体液サンプルであり;好ましくは、サンプルは組織サンプルであり;さらにより好ましくは、サンプルは肝臓組織サンプルである、請求項1から26のいずれか一項に記載のインビトロ法、使用、キットまたは前記キットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大まかには医学分野に入り、特に診断および予後診断検査、ならびに個別化医学の分野に入る。本発明は、対象における肝細胞癌(HCC)の評価に対して有用なバイオマーカー、ならびに関連する方法、使用、キットおよび治療剤または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓がんは、全世界でがんによる死亡の第4位の最も一般的な原因である。肝細胞癌(HCC)は、原発肝臓がんのうちの90%を占め、略すべての現在利用可能な抗がん療法に対して不応性であり、5年生存率は15%近い。直近20年間にわたって、HCCの発生率は先進国において急速に増加してきており、この発生率は、大部分が、C型肝炎ウイルス(HCV)、アルコール性および非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に起因する。HCVに対しては新規抗ウイルス療法が開発されたので、肥満の蔓延が、先進国における40%ものHCCの増加の主原因であると現在考えられている。ベルギーでは、肝臓がんは、男性ではがんに由来する死亡のうち第10位の頻度が高い原因であり、女性では第8位である(ベルギーがん登録)。NAFLDの特徴は、肝細胞における脂肪の蓄積である。実際には、NAFLDの主なリスク因子は、肥満および2型糖尿病であり(脂肪症がすべての肥満個体のうちの75%超で起こり、BMI≧30kg/m2である場合、有病率は4.6倍に増加する)、これらは、線維症、肝硬変、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)およびHCCへと進行し得る。全世界で約16億人の過体重成人[BMI>25kg/m2]がおり、そのうちの6億5千万人が肥満[BMI>30kg/m2]である。この人数は近い将来には上昇し、かつ生活習慣への介入により弱まらないことが予測されている(WHO)。肥満は、慢性軽度炎症の状態に関連付けられている。
【0003】
NASH関連末期肝臓疾患を発症する患者数の増加および近い将来の薬物治療に伴って、HCC自体に対するバイオマーカーについての必要性に加えて、予想、治療およびモニタリングに対する患者の選択のためのHCCバイオマーカーを開発する差し迫った必要性がある。
【0004】
タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)は、当初、全身性のハウスキーピングの役割を有する遍在的に発現される酵素の小さなファミリーとして記載された。PTPは、細胞内タンパク質上の様々なチロシン残基の脱リン酸化を介して、タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)活性の調節を担い、したがって、リガンド媒介型受容体シグナル伝達および細胞周期イベントなどの基本的な細胞イベントを調節する。古典的PTPは、受容体様(21メンバー)および非膜貫通型(17メンバー)へと細分される。当初は見過ごされたが、PTPの作用は、細胞機能の調節における関与が示唆され得ることが現在明らかになり、細胞恒常性を維持するためのシグナル伝達イベントにおける厳重なタンパク質リン酸化レベルの重要性が理解されたので、このことが明白になった。タンパク質リン酸化におけるこの緊密な調節の喪失は、肥満、脂肪症およびHCCをはじめとする様々な疾患の病理に関連付けられる重要なシグナル伝達経路の過剰活性化および過少活性化をもたらす(Tonks、FEBS J、2013;Gurzovら、Trens Endocrinol Metb 2015)。近年の研究および利用可能な技術の大多数は、個別のPTPメンバーの役割、細胞株およびゼブラフィッシュにおけるPTPの酸化プロファイル(Wuら、2017、Sci Rep;Karischら、Cell 2011)、ならびに、例えば、Gurzovら(Cell Metabolism 2014)、Grohmannら(Cell、2018)およびLitwakら(Diabetes、2017)に記載される通り、例えば、肝臓脂肪症、NAFD、NASHおよびHCCなどの肝疾患でのROSによるそれらの不活性化の影響にのみ焦点を当てられてきた。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、それらの差次的発現プロファイルおよび活性と組み合わせるか否かにかかわらず、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)の総計発現レベルおよびそれらの総計酸化レベルに基づく、新規リスク診断および/または予後診断ツールを開発した。より具体的には、本発明者らは、それらの総計酸化レベルと組み合わせた、および任意によりそれらの差次的発現と組み合わせた、サンプル中のPTPの総計発現レベルが、ヒト対象におけるがん、より具体的には肝細胞癌(HCC)の診断、予後診断および/またはモニタリングを可能にすることを見出した。
【0006】
したがって、第1の態様では、本出願は、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを決定するステップ、サンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップならびにがんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的であるPTPの総計発現および酸化レベルに関する対応する参照値または閾値に対して、PTPの前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルを比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象の診断、予後診断および/または疾患状態を示すものである、ステップを含む、対象におけるがんの診断、予後診断および/またはモニタリングのためのインビトロ法を提供する。
【0007】
別の態様では、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを決定するステップ、サンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、ならびにがんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的であるPTPの総計発現および酸化レベルに関する対応する参照値または閾値に対して、PTPの前記総計発現および酸化レベルを比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象におけるがんを発症するリスクを示すものである、ステップを含む、対象におけるがんを発症するリスクを決定するためのインビトロ法が開示される。
【0008】
さらなる態様では、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを決定するステップ、サンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、ならびにがんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的であるPTPの総計発現および酸化レベルに関する対応する参照値または閾値に対して、PTPの前記総計発現および酸化レベルを比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象の予防的または治療的処置の選択を示すものである、ステップを含む、対象におけるがんの予防的または治療的処置の選択を支援するためのインビトロ法が開示される。
【0009】
また別の態様では、処置の開始前の時点および処置の開始後の一定間隔などの1つまたは複数の時点で、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、ならびに第1のサンプル中のPTPの前記総計発現レベルおよびPTPの前記総計酸化レベルを、後続サンプルのうちの1つまたは複数におけるPTPの前記総計発現レベルおよびPTPの前記総計酸化レベルと比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象における治療的処置の有効性を示すものである、ステップを含む、がんの治療的処置の有効性を評価するためのインビトロ法が提供される。
【0010】
一部の実施形態では、サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定される。
一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される。
【0011】
本発明の一部の実施形態では、インビトロ法は、1つもしくは複数の個別のPTPの発現レベルおよび/または1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルを決定するステップならびにがんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である対応する参照値または閾値に対して、前記総計発現レベルを比較するステップをさらに含み、このとき、逸脱もしくは逸脱がないことが、対象の診断、予後診断および/もしくは疾患状態を示すものであるか、または対象の予防的もしくは治療的処置の選択を示すものであるか、または対象における治療的処置の有効性を示すものである。
【0012】
別の態様では、対象におけるがんの診断、予後診断および/もしくはモニタリングのための、または対象におけるがんを発症するリスクを決定するための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、またはがんの治療的処置の有効性を評価するための、サンプル中のPTPの総計酸化レベルと組み合わせた、サンプル中に存在するPTPの総計発現レベルの使用が提供される。特定の実施形態では、PTPの総計発現レベルの使用およびPTPの総計酸化レベルの使用が、対象におけるがんの診断、予後診断および/もしくはモニタリングのために、または対象におけるがんを発症するリスクを決定するために、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するために、またはがんの治療的処置の有効性を評価するために、1つもしくは複数の個別のPTPまたは酸化型PTPの発現レベルの使用と組み合わせられる。
【0013】
本出願の他の態様は、対象でのがんを診断、予測、予後診断および/もしくはモニタリングするための、対象におけるがんを発症するリスクを決定するための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、または対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するためのキットを提供する。前記キットは、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを測定するための手段;対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルを測定するための手段;ならびにPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルの参照値もしくは閾値または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段であって、前記参照値または閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中、またはがんに罹患しているサンプル中のPTPの総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルに対応する場合など、前記参照値または閾値が、がんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す、参照値もしくは閾値または参照値もしくは閾値を確立するための手段を含む。
【0014】
一部のさらなる態様では、対象におけるがんの診断、予測、予後診断および/もしくはモニタリングのための、または対象におけるがんを発症するリスクを決定するための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、または対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するための、そのようなキットの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ヒトPTPN1の結晶構造が、活性モチーフCys(赤色)-X
5-Arg(黄色)を強調して示される。ROSによるタンパク質チロシンホスファターゼ阻害の経路。PTPの触媒部位中の保存されたシステイン残基が、その活性に対して重要である。
【
図2】総PTPまたは総計PTP発現および酸化を決定するために、肝臓組織がDTT(DTTは酸化型PTPを可逆的に還元するであろう)の存在下でホモジナイズされ、続いて、過バナジン酸塩処理(バッファー交換後;過バナジン酸塩はPTPをスルホン酸状態へと酸化するであろう)および続いてトリプシンによって消化されるであろう。酸化型PTPに関して、すべての還元型/活性化PTPをアルキル化するために、NEMが用いられるであろう。続いて、過酸化PTPが免疫沈降(IP)により検出され、質量分析(MS)により定量化が達成されるであろう。
【
図3】当初PTP発現および酸化プロファイル分析のための瞬間凍結ヒト肝臓サンプルのリストおよび患者説明を示す図である。
【
図4-1】ヒトサンプル由来のPTP発現データを示す図である。A.当初および総計PTP発現および酸化プロファイル分析のための瞬間凍結ヒト肝臓サンプルのリストおよび患者説明。サンプル中の発現/酸化型PTPの合計リストおよび包括的タンパク質プロファイルを取得するために、ヒト肝臓生検を示されるプロトコールに供した。B.やせ型、脂肪症およびNASH肝臓は、平衡化PTPプール(総計PTP発現レベル)を維持する。HCCでは、包括的PTPプロテオーム(総計PTP発現レベル)は低減される。HCCでは、コア非受容体PTP(PTPN1、PTPN2およびPTPN6)を除いて、大多数のPTPは失われる。C~E.個別のPTP発現レベルの著しい変化を示す質量分析データ。PTPRFは、脂肪症コホートで比較的高いPTPのうちの1つであり、その発現はHCCでは失われる。
【
図4-2】ヒトサンプル由来のPTP発現データを示す図である。A.当初および総計PTP発現および酸化プロファイル分析のための瞬間凍結ヒト肝臓サンプルのリストおよび患者説明。サンプル中の発現/酸化型PTPの合計リストおよび包括的タンパク質プロファイルを取得するために、ヒト肝臓生検を示されるプロトコールに供した。B.やせ型、脂肪症およびNASH肝臓は、平衡化PTPプール(総計PTP発現レベル)を維持する。HCCでは、包括的PTPプロテオーム(総計PTP発現レベル)は低減される。HCCでは、コア非受容体PTP(PTPN1、PTPN2およびPTPN6)を除いて、大多数のPTPは失われる。C~E.個別のPTP発現レベルの著しい変化を示す質量分析データ。PTPRFは、脂肪症コホートで比較的高いPTPのうちの1つであり、その発現はHCCでは失われる。
【
図4-3】ヒトサンプル由来のPTP発現データを示す図である。A.当初および総計PTP発現および酸化プロファイル分析のための瞬間凍結ヒト肝臓サンプルのリストおよび患者説明。サンプル中の発現/酸化型PTPの合計リストおよび包括的タンパク質プロファイルを取得するために、ヒト肝臓生検を示されるプロトコールに供した。B.やせ型、脂肪症およびNASH肝臓は、平衡化PTPプール(総計PTP発現レベル)を維持する。HCCでは、包括的PTPプロテオーム(総計PTP発現レベル)は低減される。HCCでは、コア非受容体PTP(PTPN1、PTPN2およびPTPN6)を除いて、大多数のPTPは失われる。C~E.個別のPTP発現レベルの著しい変化を示す質量分析データ。PTPRFは、脂肪症コホートで比較的高いPTPのうちの1つであり、その発現はHCCでは失われる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中で用いる場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明らかに指示しない限り、単数形および複数形の指示物の両方を含む。
本明細書中で用いる場合、用語「含むこと」、「含む」および「から構成される」は、「はじめとする」、「挙げられる」または「含有すること」、「含有する」と同義であり、包含的またはオープンエンドであり、かつ追加の列挙されないメンバー、要素または方法ステップを除外しない。これらの用語はまた、特許用語において十分に確立された意味を有する「からなる」および「本質的に~からなる」も包含する。
【0017】
エンドポイントによる数値範囲の列挙は、それぞれの範囲内に組み込まれるすべての数および分数、ならびに列挙されるエンドポイントを含む。
本明細書中で用いる場合、用語「約」または「概ね」は、パラメータ、量、持続時間などの測定可能な値を参照する際には、開示される発明において遂行するためにそのような変動が適切である限り、特定される値のおよび特定される値からの±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、およびさらにより好ましくは±0.1%以下の変動などの、特定される値のおよび特定される値からの変動を包含することを意味する。修飾語句「約」が参照する値が、それ自体も具体的に、かつ好ましくは開示されることが理解されるべきである。
【0018】
メンバーの群の1つもしくは複数のメンバーまたは少なくとも1つのメンバーなどの用語「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」はそれ自体が明らかであるが、さらなる例示によって、この用語は、とりわけ、例えば、当該メンバーのうちのいずれか≧3、≧4、≧5、≧6または≧7などの当該メンバーのいずれか1つ、または当該メンバーのうちのいずれか2つ以上、および最大すべての当該メンバーに対する参照を包含する。別の例では、「1つまたは複数」または「少なくとも1つ」とは、1、2、3、4、5、6、7つ以上を意味することができる。
【0019】
本明細書中の本発明に対する背景の議論は、本発明の文脈を説明するために含められる。これは、参照される資料のうちのいずれかが、特許請求の範囲のうちのいずれかの優先日のものとして、いずれかの国で公開されるか、公知であるか、または共通の一般的な知識の一部であったことの了解として受け取られるべきではない。
【0020】
本開示全体を通して、特定する引用により、様々な刊行物、特許および公開特許明細書が参照される。本明細書中で引用されるすべての文書は、それらの全体で参照により本明細書中に組み入れられる。特に、本明細書中で具体的に参照されるそのような文書の教示またはセクションは、参照により組み入れられる。
【0021】
別途定義されない限り、技術用語および科学用語をはじめとする本発明の開示において用いられるすべての用語は、本発明が属する分野の当業者により通常理解される通りの意味を有する。さらなるガイダンスによって、用語の定義が、本発明の教示をよりよく理解するために含められる。具体的な用語が本発明の特定の態様または本発明の特定の実施形態との関連で定義される場合、そのような言外の意味が、別途定義されない通り、本明細書全体を通して、すなわち、本発明の他の態様または実施形態の文脈でも、適用されることが意図される。
【0022】
以下の一節では、本発明の異なる態様または実施形態が、より詳細に定義される。そのように定義されるそれぞれの態様または実施形態は、それとは反対であることが明らかに示されない限り、いずれかの他の態様または実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましいかまたは有利であると示されるいずれかの特徴を、好ましいかまたは有利であると示されるいずれかの他の特徴または特徴群と組み合わせることができる。
【0023】
「一実施形態」、「実施形態」に対する本明細書全体を通した参照は、実施形態との関連で記載される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態中に含められることを意味する。つまり、本明細書全体を通して様々な位置での語句「一実施形態では」または「実施形態では」の出現は、必ずしも同じ実施形態に対するすべての参照ではないが、そうであり得る。さらに、特定の特徴、構造または特性は、1つまたは複数の実施形態において、本開示から当業者には明らかであろう通り、いずれかの好適な様式で組み合わせることができる。さらに、本明細書中に記載される一部の実施形態は、他の実施形態に含められる一部の特徴を含むが他の特徴を含まず、一方で、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、当業者により理解されるであろう通り、本発明の範囲内に入り、かつ、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求される実施形態のうちのいずれかを、いずれかの組み合わせで用いることができる。
【0024】
本出願を用いて、本発明者らは、組織サンプル中のPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルを評価することにより、がん、特にHCC、より具体的には肥満誘導型HCCを有するサンプルを特定することができたことを実証する。より具体的には、かつ本出願の実験パートにおいてさらに詳述もされる通り、本発明者らは、本明細書中でPTPの総計発現レベルとも称され、かつPTPプロテオーム中に表される、サンプル中のPTPの包括量または合計量が、健康組織サンプルまたは肝臓脂肪症、NASHもしくはNAFLDを有する対象から誘導されるサンプルと比較した場合に、HCCサンプル中では低減することを見出した。加えて、本発明者らは、総計PTP発現レベルと共にそれらの活性に関する尺度を形成する、サンプル中のPTPの総計酸化レベルもまた、健康対象とHCCを有する患者との間で異なることも見出した。つまり、本発明者らは、PTPの総計酸化レベルと組み合わせて、PTPの総計発現レベルを評価することによる、HCCの診断のための新規方法を提示する。またさらに、本発明者らは、総計PTP酸化プロファイルとの総計PTP発現レベルの組み合わせにより表される総計PTP活性が、HCCの診断を可能にすることを見出した。驚くべきことに、本発明者らは、大部分のPTPがHCCサンプルでは失われ、それにより、健康対照、または肝臓脂肪症、もしくはNASHを有する患者由来のサンプルと比較して、HCCサンプル中でのPTPの総計発現の顕著な減少がもたらされることを見出した。それゆえ、組織サンプル、およびより具体的には肝臓組織サンプル中でのそれらの酸化プロファイルと組み合わせたPTPの合計量または包括量の評価が、HCCの診断のための、またはHCCへの肝臓脂肪症、NAFLDもしくはNASHの疾患進行を評価するための、新規バイオマーカーとして本明細書中で提示される。それゆえ、本発明の方法は、PTPの全体量もしくは総体的な量または発現レベルを評価することができ、このとき、この量の低減は、HCCまたはHCCへの進行の指標として機能し、かつ本発明の方法は、酸化されている包括的PTPの割合を追加的に決定し(包括的PTP量が低減しているか否かにかかわらず)、このとき、増加したPTP酸化は、HCCまたはHCCへの進行の指標として機能する。特定の実施形態では、総PTP活性または処理能力は、サンプル中のPTPの全体および総計発現レベルに基づいて推定することができ、酸化されているPTPの割合が増加するにつれて低減し、それにより、サンプル中の総PTP活性または処理能力は、酸化されていない(それゆえ、活性であると見なされる)サンプル中に存在するPTPに対応する。
【0025】
さらに、異なる個別のPTPの差次的発現の評価により、本発明者らは、肝臓脂肪症、NAFLD、NASHまたはHCCの間を差次的に診断することができた。本発明者らは、肝臓脂肪症、NAFLD、NASHおよびHCCの異なるステージ中に、個別のPTPの発現での著しい変化が見られることを見出した。発現でのこれらの変化は、総PTPまたは全体PTP活性の処理能力での変化を構成するであろう。
【0026】
したがって、一部の態様では、本出願は、対象におけるがんの診断、予後診断および/もしくはモニタリングのための、対象におけるがんを発症するリスクを決定するための、対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、または対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するための、インビトロ法を提供する。前記方法は、典型的には、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルが決定されること、ならびにPTPの前記総計発現レベルおよび総計酸化レベルが、対象におけるがんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である対応する参照値または閾値と比較されることを特徴とする。それゆえ、対象におけるがんの診断、予後診断および/またはモニタリングのためのインビトロ法では、対応する参照値または閾値と比較される場合のサンプルのPTPの総計発現レベルおよび酸化レベルの逸脱または逸脱がないことが、対象におけるがんの診断、予後診断および/または疾患状態を示すものである。がんを発症するリスクを決定するためのインビトロ法では、対応する参照値または閾値と比較される場合のサンプル中のPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルの逸脱または逸脱がないことが、対象におけるがんを発症するリスクを示すものである。対象におけるがんに対する予防的または治療的処置の選択を支援するためのインビトロ法では、対応する参照値または閾値と比較される場合のサンプルのPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルの逸脱または逸脱がないことが、対象の予防的または治療的処置の選択を示すものである。かつ、対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するためのインビトロ法では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルが、処置の開始前の時点および処置の開始後の1つまたは複数の時点で決定される。続いて、PTPの前記総計発現レベルおよび酸化レベルが、1つまたは複数の後続サンプル中のPTPの総計発現レベルおよび酸化レベルと比較され、このとき、逸脱または逸脱がないことが、対象における治療的処置の有効性を示すものである。
【0027】
したがって、本出願の本発明者らは、サンプル中に存在するPTPの総計酸化レベルと組み合わせて、サンプル中に存在するPTPの総計発現レベルを、がん、特にHCCのバイオマーカーとして用いることができることを見出した。本出願の文脈では、PTPの総計発現レベルは、サンプル中で測定可能であるか、またはサンプルに対して行われる測定に基づいて決定もしくは算出することができるPTPの合計量または包括量として理解されるべきである。PTPの総計酸化レベルは、サンプル中で測定可能であるか、またはサンプルに対して行われる測定に基づいて決定もしくは算出することができるPTPの合計または包括的酸化レベルとして理解されるべきである。一部の状況では、サンプル中に存在するPTPの全体または総計発現レベルまたは量での観測される減少は、そのサンプル中でのPTPの総計活性が減少しているという結論を既に可能にするであろう。他の好ましい状況では、サンプル中の包括的PTPレベルが減少しているか否かにかかわらず、サンプル中のPTPの酸化の程度を評価すること、すなわち、それらの活性部位システインで酸化されており、したがって、不活性になっているか、または酸化されておらず、それゆえ、活性であると推定される、サンプル中の総体的PTPの割合を決定することも望まれる場合がある。そのような酸化測定は、続いて、サンプル中の総計PTP活性の全体的決定につながり得る。それゆえ、本発明のインビトロ法は、サンプル中のPTPの総計発現レベルの決定または測定を、サンプル中のPTPの総計酸化レベルの決定または測定と組み合わせる。前記方法では、したがって、PTPの総計発現レベルが、PTPの総計酸化レベルと組み合わせられ、それにより、サンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。本出願の文脈では、PTPの総計活性は、したがって、PTPの酸化レベルと組み合わせたPTPの全般的、包括的または総計発現レベルにより反映される。より具体的には、PTPの総計活性は、PTPの全体的および総計発現レベルにより反映され、酸化されているPTPの割合が増加するにつれて低減し、それにより、サンプル中の総PTP活性または処理能力は、酸化されていない(それゆえ、活性であると見なされる)サンプル中に存在するPTPに対応する。以下でさらに詳述されかつ実施例中でも示される通り、サンプル中のPTPの包括的または総計発現レベルおよびPTPの包括的または総計酸化レベルが、したがって、別個にかつ個別にサンプル中の個別のPTPの発現または酸化レベルを決定することなく、全般的または包括的レベルに対して決定される。
【0028】
一部の実施形態では、サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定され、かつサンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。
【0029】
一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される。前記実施形態では、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定されるPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、サンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。
【0030】
一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される。前記実施形態では、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定されるPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、サンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。
【0031】
PTPは、当初、全身性のハウスキーピングの役割を有する遍在的に発現される酵素の小さなファミリーとして記載された。PTPは、21種類の異なる受容体様メンバー、および17種類の非膜貫通型メンバーへと細分することができ、研究により、PTPはROSにより不活性化されることが示されている(
図1も参照されたい)。PTPの一部は、異なるアイソフォームで存在することができる。さらに、一部のPTPは、例えば、PTPRF-1およびPTPRF-2として表されるPTPRF、PTPRA-1およびPTPRA-2として表されるPTPRA、ならびにPTPRE-1およびPTPRE-2として表されるPTPREなど、2箇所の異なる触媒部位を有することができる。以前は、PTPのレベルは、別個での個別のPTPのそれぞれのレベルに基づいて全般的に決定された。本出願の実験パートに示される通り、本発明者らは、本出願で、個別でのPTPのそれぞれの測定を伴わずに、組織サンプル、より具体的には肝臓組織サンプル中の包括的または総計PTPタンパク質発現プロファイルを定量的に測定する質量分析法を開発した。この方法を用いて、本発明者らは、質量分析により評価される場合の全般的なPTPの包括的タンパク質発現レベルが、健康肝臓組織サンプルまたは肝臓脂肪症、NAFLD、もしくはNASHを有する対象由来の肝臓組織サンプルと比較した場合に、HCC腫瘍サンプルでは顕著に低減していることを見出した。さらに、本発明者らはまた、PTPの包括的または総計酸化が、HCCにおける疾患状態に対応することも見出した。それゆえ、方法論の観点から、PTPの総計、累積、包括的、合計または全体的活性、発現レベル、量または酸化状態に対する参照は、全体としての酵素のPTP群に対して行われるそれぞれの測定を意味することができる。これは、全部併せたPTPに対する読み出し値を提供することができる限り、測定方法論が、サンプル中に存在する異なるPTP間を区別することもできる可能性があることを除外しない。例として、および限定を伴わずに、一斉にサンプル由来の実質的にすべてのPTPを分離/単離し、その後に定量化するために、PTPの高度に保存された活性部位の存在を利用する方法論は、本発明の方法の目的のために特に好適であり得る。
【0032】
本発明の異なる態様に従うインビトロ法は、したがって、サンプル中のPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルを決定するステップならびに対応する参照値または閾値に対して前記レベルを比較するステップにより特徴付けられる。つまり、PTPの総計活性は、サンプル中のPTPの総計酸化レベルと組み合わせた、PTPの総計発現レベルにより決定され、これらにより表される。つまり、PTPの総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルは、別個でのそれらの個別のレベルの測定を伴わずに、全般的レベルに対して測定することができる。したがって、一部の実施形態では、PTPは、サンプル中で取得可能なすべてのPTPから選択される。つまり、一部の実施形態では、サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定される。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される。一部の他の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される。
【0033】
例えば、PTPの総計発現レベルを決定する場合、発現レベルは、包括的な様式で決定することができ、それにより、個別に各PTPの発現レベルを特異的に決定することなく、かつこれらの個別の発現レベルを合計することなく、全般的な様式ですべてのPTPの発現レベルが測定される。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において;または少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含む群において決定され、このとき、この群中のPTPの発現レベルは、個別に各PTPの発現レベルを特異的に決定することなく、かつこれらの個別の発現レベルを合計することなく、包括的な様式で決定される。これは例えば、すべてのPTPの触媒部位を検出する万能抗体を用いることにより行うことができる。
【0034】
一部の他の実施形態では、PTPの総計発現レベルは、別個に各PTPの発現を個別に決定し、続いて、これらの個別のレベルに基づいてそれらの合計量を算出することにより、個別に決定することができる。実施形態では、PTPは、PTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6から選択することができ、このとき、PTPの総計発現レベルは、これらのPTPの少なくともそれぞれの個別の発現レベルを合計することにより決定される。関連する実施形態では、PTPは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択することができる。さらに別の実施形態では、PTPは、少なくともPTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、およびPTPN12を含み、このとき、PTPの総計発現レベルは、これらのPTPの少なくともそれぞれの個別の発現レベルを合計することにより決定される。
【0035】
同様に、PTPの総計酸化レベルを決定する場合、これは、個別にそれぞれの酸化型PTPのレベルを決定することなく、包括的レベルに対して決定することができる。一部の実施形態では、PTPの総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定され、このとき、この群におけるPTP酸化レベルは、個別に各PTPの酸化レベルを特異的に決定することなく、かつこれらの個別の酸化レベルを合計することなく、包括的な様式で決定される。一部の実施形態では、PTPの総計酸化レベルは、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定され、このとき、この群におけるPTP酸化レベルは、個別に各PTPの酸化レベルを特異的に決定することなく、かつこれらの個別の酸化レベルを合計することなく、包括的な様式で決定される。
【0036】
一部の実施形態では、PTPの総計酸化レベルは、別個に各PTPの酸化レベルを個別に決定し、続いて、これらの個別のレベルに基づいてそれらの合計量を算出することにより、個別に決定することができる。実施形態では、PTPは、PTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6から選択することができる。関連する実施形態では、PTPは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択することができる。
【0037】
さらに別の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび/またはPTPの総計酸化レベルは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される少なくとも2種、好ましくは少なくとも5種のPTPおよび/または酸化型PTPを評価することにより決定される。さらなる関連する実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび/または酸化レベルは、PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、およびPTPN12の少なくとも発現レベルを評価し、続いて、それらの酸化型形態と組み合わせて、これらの個別の発現レベルに基づいてそれらの合計量を算出することにより、決定される。さらに一部の他の実施形態では、本明細書中で教示される通りのPTPの包括的もしくは総計発現レベルおよび/または酸化レベルが、酸化型PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、またはPTPN12の個別の発現レベルと;特に酸化型PTPN1、酸化型PTPN2および酸化型PTPN6の個別の発現レベルと組み合わせられる。
【0038】
一部の実施形態では、本発明のインビトロ法は、1つもしくは複数の個別のPTPの発現レベルおよび/または1つもしくは複数の酸化型PTPの発現レベルを決定するステップ、ならびに1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの前記発現レベルを、対象の既知の診断、予後診断および/もしくは疾患状態を有する対象に特徴的であるか、またはがんを発症するリスクを示すものであるか、または対象の予防的もしくは治療的処置の選択を示すものであるか、または対象における治療的処置の有効性を示すものである、対応する参照値または閾値に対して比較するステップをさらに含むことができる。前記文脈では、本明細書中で教示される通りのPTPの包括的または総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルが、続いて、個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPのうちの1つまたは複数の発現レベルと組み合わせられる。さらなる実施形態では、個別のPTPは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される。またさらなる実施形態では、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPのうちの少なくとも2種、好ましくは少なくとも5種の発現レベルが決定される。さらなる他の実施形態では、PTPの包括的または総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルが、それらの酸化型形態と組み合わせるか否かにかかわらず、PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、およびPTPN12の個別の発現レベルと組み合わせられる。さらなる一部の他の実施形態では、PTPの包括的または総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルが、酸化型PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、またはPTPN12の個別の発現レベルと;特に、酸化型PTPN1、酸化型PTPN2および酸化型PTPN6の個別の発現レベルと組み合わせられる。
【0039】
つまり、一部の態様では、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを決定するステップ、サンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、任意により、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを決定するステップ、ならびにPTPの総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベル、および任意により、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを、がんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である前記PTPの対応する参照値または閾値に対して比較するステップを含む、対象におけるがんの診断、予後診断および/またはモニタリングのためのインビトロ法であって、逸脱または逸脱がないことが、対象におけるがんの診断、予後診断および/または疾患状態を示すものである、方法が提供される。一部の実施形態では、サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定され、かつサンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される。一部のさらなる実施形態では、個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される。好ましい実施形態では、前記個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPのうちの少なくとも2種、好ましくは少なくとも5種が決定される。さらなる一部の他の好ましい実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび/または酸化レベルは、PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、および/またはPTPN12の個別の発現レベルと組み合わせて;またさらには、酸化型PTPN1、酸化型PTPN2および酸化型PTPN6の個別の発現レベルと組み合わせて、決定される。
【0040】
一部の他の態様では、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを決定するステップ、サンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、任意により、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを決定するステップ、ならびにサンプル中のPTPの総計発現レベルおよびサンプル中のPTPの総計酸化レベル、および任意により、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを、がんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である前記PTPの対応する参照値または閾値に対して比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象におけるがんを発症するリスクを示すものである、ステップを含む、対象においてがんを発症するリスクを決定するためのインビトロ法が提供される。一部の実施形態では、サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定され、かつサンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される。一部のさらなる実施形態では、個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される。好ましい実施形態では、前記個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPのうちの少なくとも2種、好ましくは少なくとも5種が決定される。さらなる一部の他の好ましい実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび酸化レベルは、PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、および/またはPTPN12の個別の発現レベルと組み合わせて;またさらには、酸化型PTPN1、酸化型PTPN2および酸化型PTPN6の個別の発現レベルと組み合わせて、決定される。
【0041】
さらなる一部の他の態様では、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを決定するステップ、サンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、任意により、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを決定するステップ、ならびにPTPの総計発現およびPTPの総計酸化レベル、および任意により、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを、がんの既知の診断、予後診断および/または疾患状態を有する対象に特徴的である前記PTPの対応する参照値または閾値に対して比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象の予防的または治療的処置の選択を示すものである、ステップを含む、対象におけるがんの予防的または治療的処置の選択のためのインビトロ法が提供される。一部の実施形態では、サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定され、かつサンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される。一部のさらなる実施形態では、個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される。好ましい実施形態では、前記個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPのうちの少なくとも2種、好ましくは少なくとも5種が決定される。さらなる一部の他の好ましい実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび/または酸化レベルは、PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、および/またはPTPN12の個別の発現レベルと組み合わせて;またさらには、酸化型PTPN1、酸化型PTPN2および酸化型PTPN6の個別の発現レベルと組み合わせて、決定される。
【0042】
一部の他の態様では、処置の開始前の時点および処置の開始後の一定間隔などの1つまたは複数の時点で、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを決定するステップ、処置の開始前の時点および処置の開始後の一定間隔などの1つまたは複数の時点で、サンプル中のPTPの総計酸化レベルを決定するステップ、任意により、処置の開始前の時点および処置の開始後の一定間隔などの1つまたは複数の時点で、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを決定するステップ、ならびに第1のサンプル中のPTPの総計発現および酸化レベルおよび任意により1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの発現レベルを、後続サンプルのうちの1つまたは複数におけるものと比較するステップであって、逸脱または逸脱がないことが、対象における治療的処置の有効性を示すものである、ステップを含む、対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するためのインビトロ法が提供される。一部の実施形態では、サンプル中に存在するすべてのPTPの総計発現レベルおよびすべてのPTPの総計酸化レベルが決定され、かつサンプル中のPTPの総計または包括的活性を表す。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を含むPTPの群において決定される。一部の実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルは、少なくともPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を含むPTPの群において決定される。一部のさらなる実施形態では、個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPは、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択される。好ましい実施形態では、前記個別のPTPおよび/または個別の酸化型PTPのうちの少なくとも2種、好ましくは少なくとも5種が決定される。さらなる一部の他の好ましい実施形態では、PTPの総計発現レベルおよび酸化レベルは、PTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、および/またはPTPN12の個別の発現レベルと組み合わせて;またさらには、酸化型PTPN1、酸化型PTPN2および酸化型PTPN6の個別の発現レベルと組み合わせて、決定される。
【0043】
本出願の文脈では、「診断」および「診断すること」は、一般的に、疾患または障害に対する対象の感受性の決定、対象が現在疾患または障害に罹患しているか否かに関する決定、疾患または障害に罹患している対象の予後診断、およびテラメトリクス(therametrics)(例えば、療法の効果または有効性に関する情報を提供するために対象の状態をモニタリングすること)を含む。
【0044】
用語「予後診断」または「予後診断する」とは、疾患の経過を予言する行動または技術を意味する。加えて、この用語は、その疾患の通常の経過から予測されるかまたは個別の症例の特別な特徴により示される通りの疾患からの生存的回復の見込みを意味する。さらに、この用語は、その徴候および症状から疾患を特定する技術または行動を意味する。
【0045】
本出願では、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12から選択されるPTPの総計発現レベル、PTPの総計酸化レベル、および/またはPTPの個別の発現レベルは、がんに対する、より具体的には肝細胞がん(HCC)に対するバイオマーカーであると考えられる。一部の態様では、前記バイオマーカーはまた、肝臓脂肪症、NAFLD、NASHおよび/またはHCCなどの異なる疾患状態の間で区別するために用いることもできる。本明細書中で用いる場合、「バイオマーカー」は、当技術分野において普及しており、かつ対象におけるその定性的および/または定量的評価が、例えば、所与の疾患または状態についての対象の状態に関してなど、対象の表現型および/または遺伝子型のうちの1つまたは複数の態様に関して、予測的または情報伝達的(例えば、予測、診断および/または予後診断)である、生物学的分子および/またはその検出可能な一部分を広く意味することができる。2種以上のバイオマーカーが本明細書中で教示される通りの方法または使用において検出されている場合、「バイオマーカーパネル」が本明細書中で参照される。
【0046】
特定の実施形態では、本明細書中で教示される通りのバイオマーカーは、ペプチド、ポリペプチドおよび/またはタンパク質に基づくことができる。
いずれかのペプチド、ポリペプチド、タンパク質をはじめとするいずれかのマーカーに対する参照は、当技術分野においてそれぞれの名称の下に一般的に公知であるマーカー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質に対応する。この用語は、それが見出されるいずれかの生物、特に動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、またさらに好ましくはヒトおよび非ヒト哺乳動物をはじめとする哺乳動物、さらにより好ましくはヒトの、そのようなマーカー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質を包含する。この用語は特に、生来型配列を有する、すなわち、その一次配列が天然に見出されるかまたは天然から誘導されるマーカー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質のものと同じである、そのようなマーカー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質を包含する。当業者は、生来型配列が、そのような生物種間での遺伝的多様性に起因して異なる生物種間で異なる場合があることを理解する。さらに、生来型配列は、所与の生物種内での通常の遺伝的多様性(変動)に起因して、同じ生物種の異なる個体間または異なる個体内で異なる場合がある。また、生来型配列は、転写後または翻訳後修飾に起因して、同じ生物種の異なる個体間または異なる個体内でさえも、異なる場合がある。マーカー、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質のいずれかのそのような変異体またはアイソフォームが、本明細書中で意図される。したがって、天然に見出されるかまたは天然から誘導されるマーカー、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質のすべての配列が、「生来型」であると考えられる。この用語は、生存生物、器官、組織または細胞の一部を形成する場合、生物学的サンプルの一部を形成する場合、ならびにそのような供給源から少なくとも部分的に単離される場合のマーカー、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を包含する。この用語はまた、組み換えまたは合成手段により生成される場合のマーカー、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質も包含する。
【0047】
特定の実施形態では、本明細書中で教示される通りのバイオマーカーは、特に、PTPの総計活性、PTPの総計発現レベル、PTPの総計酸化レベル、あるいはPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/もしくはPTPN12、ならびに/またはそれらの酸化型形態からなる群より選択される個別のヒトタンパク質などの、ヒトバイオマーカーであり得る。好ましい実施形態では、バイオマーカーは、PTPRF、PTPN1、PTPRK、PTPN2、PTPN6、PTPN7、および/もしくはPTPN12、ならびに/またはそれらの酸化型形態からさらに選択される。
【0048】
文脈からそうでないことが明らかでない限り、いずれかのマーカー、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、またはそれらの断片に対する本明細書中での参照はまた、一般的に、例えば、リン酸化、グリコシル化、脂質化、メチル化、システイン化、スルホン化、グルタチオン化、アセチル化、酸化等をはじめとする発現後修飾を保有するなどの、前記マーカー、ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質、またはそれらの断片の修飾型形態も包含し得る。
【0049】
いずれかのマーカー、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に対する本明細書中での参照はまた、それらの断片も包含する。それゆえ、いずれか1つのマーカー、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質を測定するステップ(またはその量を測定するステップ)、その存在を決定するステップ、またはその発現レベルを決定するステップに対する本明細書中での参照は、例えば、それらのいずれかの成熟形態および/またはプロセシングされた可溶性/分泌型形態(例えば、血漿循環形態)を測定するステップおよび/またはそれらの1つもしくは複数の断片を測定するステップなどの、マーカー、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質を測定するステップ、その存在を決定するステップまたはその発現レベルを決定するステップを包含することができる。
【0050】
例えば、いずれかのマーカー、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、および/またはそれらの1つもしくは複数の断片は、測定される量が総体的に測定される分子種の合計量に対応するように、総体的に測定することができる。さらなる例では、いずれかのマーカー、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質および/またはそれらの1つもしくは複数の断片は、それぞれ個別に測定することができる。
【0051】
ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に対する参照を伴う用語「断片」は、一般的に、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質のNおよび/またはC末端切断型形態を意味する。好ましくは、断片は、前記ペプチド、ポリペプチド、または10タンパク質のアミノ酸配列長の少なくとも約30%、例えば、少なくとも約50%または少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、例えば、少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、およびまたさらに好ましくは少なくとも約95%または約99%でさえも含むことができる。例えば、全長ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の長さを超過しない限り、断片は、対応する全長ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の5個以上の連続するアミノ酸、または10個以上の連続するアミノ酸、または20個以上の連続するアミノ酸、または30個以上の連続するアミノ酸、例えば、40個以上の連続するアミノ酸、例えば、50個以上の連続するアミノ酸など、例えば、60個以上、70個以上、80個以上、90個以上、100個以上、200個以上、300個以上または400個以上の連続するアミノ酸の配列を含むことができる。
【0052】
いずれかのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに対する本明細書中での参照はまた、それらの変異体も包含することができる。タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの用語「変異体」とは、当該列挙されるタンパク質またはポリペプチドの配列に対して実質的に同一(すなわち、大部分は同一であるが完全に同一ではない)、例えば、少なくとも約80%同一または少なくとも約85%同一、例えば、好ましくは少なくとも約90%同一、例えば、少なくとも91%同一、92%同一、より好ましくは少なくとも約93%同一、例えば、少なくとも94%同一、またさらに好ましくは少なくとも約95%同一、例えば、少なくとも96%同一、さらにより好ましくは少なくとも約97%同一、例えば、少なくとも98%同一、および最も好ましくは少なくとも99%同一である配列(すなわち、アミノ酸配列)のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを意味する。好ましくは、変異体は、列挙されるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの完全配列が配列アライメントにおいて問い合わせられる場合、列挙されるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに対するそのような同一性の程度(すなわち、全体配列同一性)を示すことができる。
【0053】
タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの変異体は、当該タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドのホモログ(例えば、オルソログまたはパラログ)であり得る。本明細書中で用いる場合、用語「相同性」は、一般的に、同じかまたは異なる分類群由来の巨大分子同士の間、特に2種類のタンパク質またはポリペプチド間での構造的類似性を表し、このとき、前記類似性は共通の祖先に起因する。
【0054】
本明細書がタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの断片および/または変異体を参照するかまたは包含する場合、これは、好ましくは、「機能的」である、すなわち、それぞれのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの生物学的活性または意図される機能性を少なくとも部分的に保持する変異体および/または断片を表す。好ましくは、機能的断片および/または変異体は、対応するタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドと比較して、意図される生物学的活性または機能性のうちの少なくとも約20%、例えば、少なくとも30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、例えば、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも約70%、例えば、少なくとも80%、またさらに好ましくは少なくとも約85%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約95%または約100%以上でさえも保持することができる。
【0055】
一部の実施形態では、つまり、本発明は、がんの診断、予後診断、またはモニタリングを可能にする。一部のさらなる実施形態では、がんは、肝細胞がん(HCC)、乳がん、膵臓がん、肺がん、結腸がん、前立腺がん、黒色腫、多発性骨髄腫、リンパ腫、および/または白血病から選択することができる。好ましくは、がんはHCCであり;さらにより好ましくは、がんは肥満誘導型HCCである。
【0056】
実験パートから証明される通り、PTPの総計酸化レベルと組み合わせたPTPの総計発現レベルは、HCCと健康対象または肝臓脂肪症、NAFLDまたはNASHを有する対象との間を区別することを可能にする。つまり、本発明の方法は、健康対象または非悪性肝臓疾患を有する対象とHCCとの間を区別することを可能にする。したがって、本発明の方法は、非悪性肝臓疾患を悪性HCCへと評価することができる場合を特定し、それにより、早期に悪性HCCを特定するために有用である。
【0057】
本出願の文脈で用いる場合、肝臓脂肪症(liver steatosisまたはhepatic steatosis)は、肝臓細胞(肝細胞)中の脂肪(脂肪酸およびトリグリセリド)の過剰な蓄積により特徴付けられる広範囲の肝臓障害として理解される。肝臓脂肪症はまた、脂肪肝とも称され、肝臓脂肪症を有する対象は、今のところは障害された肝機能を常に示すわけではない。飲酒しないかまたは非常に控えめに飲酒する対象において生じる肝臓脂肪症の早期は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)と称される。NAFLDは脂肪肝の一因であり、過剰なアルコール摂取以外の原因に起因して肝臓に脂肪が沈着する場合に起こる。これは先進国における最も一般的な肝臓障害であり、通常、メタボリックシンドロームの因子に関連付けられる。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、肝臓脂肪症が炎症および線維症と組み合わせられ(脂肪性肝炎)、障害された肝機能をもたらす疾患状態である。NASHは、未知の原因での肝硬変の主な原因と考えられる。肝臓脂肪症、NAFLDおよびNASHは、肝細胞癌(HCC)または肝臓がんに進行することが公知である。本明細書中で用いる場合、肝細胞癌(HCC)とは、肝臓で生じる悪性腫瘍を意味する。一部の実施形態では、HCCは、肥満誘導型HCCとさらに特定される。用語「肥満」は、脂肪の過剰な蓄積または脂肪組織の全体的な肥大により特徴付けられる、予防可能な多元的起源の慢性疾患としての医学分野での通常の意味で理解されるべきであり;すなわち、体脂肪の形態で貯蔵されるヒトおよび他の動物の天然のエネルギー貯蔵が、特定の健康状態または疾患などの多数の合併症を伴いかつ死亡率を増加させる程まで増加する場合におけるものである。
【0058】
本明細書中で示される通り、本出願の一部の実施形態に従う方法は、対象のサンプル中でのPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12からなる群より選択されるタンパク質のうちの少なくとも1種の存在、発現レベルおよび/または酸化レベルを決定するステップを含むことができる。さらなる実施形態では、少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種、またはすべてのタンパク質が、PTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11および/またはPTPN12からなる群より選択される。また一部のさらなる実施形態では、選択されるPTPは、少なくともPTPRF、PTPRK、PTPN1、PTPN2、PTPN6、PTPN7、およびPTPN12を含む。
【0059】
本発明の別の態様では、かつ本明細書中に開示される通り、対象におけるHCCの予防的または治療的処置の選択を支援するためのインビトロ法が開示される。対象におけるHCCの治療的処置の有効性を評価するためのインビトロ法もまた提供される。
【0060】
用語「治療」、「治療すること」、「治療する」等は、所望の薬理学的および/または生理学的作用を取得することを意味する。作用は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に予防することに関して予防的であり得、かつ/または疾患および/もしくは疾患に起因する有害作用に関する部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒に関して治療的であり得る。「治療」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のいずれかの処置を網羅し、かつ(a)それを有するとまだ診断されていない疾患または症状を予防すること;(b)疾患症状を阻害すること、すなわち、その発症を停止させること;または(c)疾患症状を軽減すること、すなわち、疾患もしくは症状の退行を引き起こすことを含む。有益なまたは所望の臨床的結果としては、限定するものではないが、1つもしくは複数の症状または1つもしくは複数の生物学的マーカーの軽減、疾患の程度の消失、疾患の安定化された(すなわち、悪化しない)状態、疾患進行の遅延または減速、疾患状態の改善または緩和等が挙げられる。「治療」はまた、治療を受けない場合に予期される生存期間と比較した場合の延長された生存期間も意味することができる。肝臓脂肪症、NAFLD、NASHおよび/またはHCCの治療的処置の非限定的な例は、放射線療法、化学療法、標的薬療法、免疫療法および外科手術である。
【0061】
さらなる態様では、サンプルは、対象由来の生物学的サンプルである。サンプルは、PTPの総計および/もしくは個別の発現レベルならびに/またはPTPの総計および/もしくは個別の酸化レベルを決定することができる、対象由来のいずれかの生物学的サンプルであり得る。一実施形態では、生物学的サンプルは、組織サンプル、糞便サンプル、細胞サンプルまたは体液サンプルである。さらなる実施形態では、生物学的サンプルは、組織サンプル、特に、腫瘍サンプルなどの新生物組織サンプルである。好ましい実施形態では、サンプルは、肝臓組織サンプル、特にがんが疑われる肝臓組織サンプルである。生物学的サンプルはまた、生物学的液体または体液、例えば、全血、血液、尿、リンパ液、血清、血漿、乳頭吸引液、乳管液、唾液、胆汁、喀痰または腫瘍滲出液から誘導することもできる。
【0062】
本発明の方法の一部の実施形態では、サンプルは、新生物組織サンプル、または新生物であることが疑われる組織サンプルである。特定の実施形態では、組織サンプルは、細針吸引物から誘導される。特定の実施形態では、組織サンプルは、切除組織サンプルである、特定の実施形態では、サンプルは、組織生検または組織細針吸引物、例えば、原発腫瘍組織または転移腫瘍組織からの腫瘍組織生検または腫瘍細針吸引物である。他の実施形態では、サンプルは、切除腫瘍組織、例えば、切除原発または転移腫瘍組織である。
【0063】
生物学的サンプルは、必要とされる細胞またはタンパク質を含むサンプルを取得するために臨床環境で典型的に用いられるいずれかの方法で、対象から取得することができる。例えば、サンプルは、検査対象である好適な細胞またはタンパク質を含む器官または組織の新鮮、凍結、もしくはパラフィン包埋手術サンプルまたは生検から取得することができる。所望である場合、サンプルは、液体と混合するか、または精製もしくは増幅またはそれ以外の様式で処理することができる。例えば、サンプルは、サンプル中の所望の細胞またはタンパク質の純度を増加させるための1つまたは複数の精製ステップにおいて処理することができるか、またはいかなる精製ステップも伴わずに調べることができる。
【0064】
特定の好ましい実施形態では、サンプルは、新鮮サンプルまたは凍結サンプルであり得る。
特定の実施形態では、総計PTP、総計酸化型PTP、および/または個別のPTPもしくは酸化型PTPの存在および/または発現レベルは、組織サンプル、好ましくは対象の肝臓サンプル中で決定される。いずれかの既存の、利用可能なまたは慣用の分離、検出および定量化方法を、サンプル中のマーカー、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の存在もしくは非存在(例えば、存在するかもしくは非存在である読み出し値;または検出可能な量もしくは検出不可能な量)および/または量(例えば、絶対または相対濃度などの、例えば、絶対または相対量である読み出し値)を測定するために、本明細書中で用いることができる。
【0065】
例えば、そのような方法としては、質量分析法、生化学アッセイ法、免疫アッセイ法、もしくはクロマトグラフィー法、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
用語「免疫アッセイ」とは、一般的に、サンプル中の目的の1つもしくは複数の分子またはアナライトを検出するためのそれ自体公知の方法を意味し、このとき、目的の分子またはアナライトに関する免疫アッセイの特異度は、限定するものではないが通常は抗体である特異的結合剤と、目的の分子またはアナライトとの間の特異的結合性により付与される。免疫アッセイ技術としては、限定するものではないが、免疫組織化学、直接ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、間接ELISA、サンドイッチELISA、競合ELISA、マルチプレックスELISA、放射免疫アッセイ(RIA)、ELISPOT技術、および当技術分野で公知の他の類似の技術が挙げられる。
【0066】
一般的に、ペプチドの質量に関する、および好ましくは選択されるペプチドの断片化および/もしくは(部分的)アミノ酸配列にも関する精密な情報を取得することが可能であるいずれかの質量分析(MS)技術(例えば、タンデム質量分析、MS/MSにおける;またはポストソース分解、TOF MSにおける)が、本明細書中で有用である。好適なペプチドMSおよびMS/MS技術ならびにシステムは、それ自体周知であり(例えば、Methods in Molecular Biology、第146巻:“Mass Spectrometry of Proteins and Peptides”、Chapman編、Humana Press 2000、ISBN 089603609x;Biemann 1990.Methods Enzymol 193:455~79;またはMethods in Enzymology、第402巻:“Biological Mass Spectrometry”、Burlingame編、Academic Press 2005、ISBN 9780121828073を参照されたい)、かつ本明細書中で用いることができる。MSペプチド分析法は、有利なことに、例えば、クロマトグラフィーなどの上流のペプチドもしくはタンパク質分離または分画法と有利に組み合わせることができる。MSから取得されるデータは、Skylineソフトウェア(v19.1.0.193)などの、当技術分野で公知のプロテオミクスおよび/またはメタボロミクスのデータ解析のためのソフトウェアを用いて処理することができる。
【0067】
クロマトグラフィーもまた、バイオマーカーを測定するために用いることができる。本明細書中で用いる場合、用語「クロマトグラフィー」は、それ自他が参照されかつ当技術分野で大いに利用可能である、化学的物質を分離するための方法を包含する。本明細書中で用いる場合のクロマトグラフィーは、好ましくはカラム式(すなわち、固定相がカラム中に堆積または充填される)、好ましくは液体クロマトグラフィー、またさらに好ましくはHPLCであり得る。クロマトグラフィーの詳細は当技術分野で周知であるが、さらなる案内に関して、例えば、Meyer M.、1998,、ISBN:047198373X、および“Practical HPLC Methodology and Applications”、Bidlingmeyer、B.A.、John Wiley&Sons Inc.、1993を参照されたい。
【0068】
本開示中のバイオマーカーを測定するために、任意により上記の分析方法のうちのいずれかと同時に、さらなるペプチドまたはポリペプチド分離、特定または定量化法を用いることができる。そのような方法としては、限定するものではないが、化学抽出分配、キャピラリー等電点電気泳動(CIEF)、キャピラリー等速電気泳動(CITP)、キャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)等をはじめとする等電点電気泳動(IEF)、一次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)、キャピラリーゲル電気泳動(CGE)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、ミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)、フリーフロー電気泳動(FFE)等が挙げられる。
【0069】
好ましい実施形態では、前記バイオマーカーは、質量分析法、生化学アッセイ法、免疫アッセイ法、クロマトグラフィー法またはそれらの組み合わせを用いて決定することができる。さらに好ましい実施形態では、バイオマーカーは質量分析法を用いて決定される。特定の実施形態では、PTPの総計活性ならびに/または個別のPTPおよび/もしくは酸化型PTPの存在および/もしくは発現レベルは、質量分析、好ましくは液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を用いて決定される。
【0070】
当業者は、質量分析に先立って、生物学的サンプルを枯渇させかつ加工し、例えば、(限外)ろ過、変性、アルキル化、消化および/または脱グリコシル化することができることを理解するであろう。
【0071】
本明細書中で開示される通り、PTPの総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベル、ならびに/または個別のPTPおよび/もしくは個別の酸化型PTPの存在および/もしくは発現レベルを決定するための、本発明のインビトロ法が提供される。特定の実施形態では、つまり、前記方法は、対象由来のサンプル中の前記バイオマーカーの分量、量または発現レベルを測定することを含む。
【0072】
用語「分量」、「量」および「レベル」は、同義であり、かつ当技術分野で広く十分理解されている。本明細書中で用いる場合、これらの用語は特に、サンプル中の分子もしくはアナライトの絶対的定量化、またはサンプル中の分子もしくはアナライトの相対的定量化、すなわち、本明細書中で教示される通りの参照値に対するなどの別の値に対して、またはバイオマーカーのベースライン発現を示す値の範囲を意味することができる。これらの値または範囲は、単一の患者から、または患者の群から取得することができる。
【0073】
サンプル中の分子またはアナライトの絶対量は、有利には、重量としてもしくはモル量として、またはより一般的には濃度、例えば、重量/体積もしくはモル/体積として表現することができる。
【0074】
サンプル中の分子またはアナライトの相対量は、有利には、本明細書中で教示される通りの参照値に対するなど、前記別の値に対する、増加もしくは減少として、または増加倍率もしくは減少倍率として、表現することができる。第1および第2のパラメータ(例えば、第1および第2の量)の間の相対的比較を行うステップは、しかしながら、前記第1および第2のパラメータの絶対値を最初に決定することを要求する必要はない場合がある。例えば、測定法は、前記第1および第2のパラメータに関する定量化可能な読み出し値(例えば、シグナル強度など)を生成することができ、このとき、前記読み出し値は、前記パラメータの値の関数であり、かつ前記読み出し値を、それぞれのパラメータの絶対値へと読み出し値を最初に変換する実際の必要性なしに、第1のパラメータと第2のパラメータとに関する相対値を生成するために、直接的に比較することができる。
【0075】
本出願でのバイオマーカーの用語「量」および「発現レベル」は、本明細書中で相互に交換可能に用いられて、サンプル中のいずれかのそのような生成物の絶対的および/または相対的定量化、濃度レベルまたは量を意味する。好ましくは、バイオマーカーはタンパク質であり、用語「発現レベル」は「タンパク質発現レベル」を意味する。
【0076】
本発明者らは、生物学的サンプル中のPTPの総計発現レベルが、健康対象または肝臓脂肪症、NASHもしくはNAFLDを有する対象由来の生物学的サンプルと比較して、HCCに罹患している患者において有意に異なることを見出した。さらに、酸化型PTPの総計発現レベル(本明細書中でPTPの総計酸化レベルとも称される)との、および任意により1つもしくは複数のPTPまたは酸化型PTPの個別の発現レベルとの、PTPの総計発現レベルの組み合わせはまた、対象におけるHCCを特定するためのバイオマーカーも提供する。
【0077】
特定の実施形態では、本明細書中で教示される通りの方法は、対象のサンプル中の総計PTP、総計酸化型PTPの量または発現レベルおよび/あるいは1つもしくは複数のPTPまたは酸化型PTPの個別の発現レベルを、前記バイオマーカーに関する参照もしくは閾値量または発現レベルと比較するステップを含むことができる。前記参照もしくは閾値量または発現レベルは、肝臓脂肪症、NASH、NAFLDまたはHCCの既知の診断を表すことができる。これはまた、健康対象を表すこともできる。好ましくは、前記参照閾値は、健康組織から決定される。
【0078】
一部の実施形態では、対象におけるがん、特にHCCの治療的処置の有効性を評価するためのインビトロ法が提供される。前記方法では、バイオマーカーの少なくとも1種の存在が、処置の開始前の時点および処置の開始後の一定間隔で取得される組織サンプル中で評価される。その後、第1の組織サンプル中の前記バイオマーカーのレベルが、後続の組織サンプルのうちの1つまたは複数におけるレベルと比較され、このとき、逸脱または逸脱がないことが、対象における治療的処置の有効性を示すものである。
【0079】
つまり、区別できる参照または閾値が、がん、より具体的にはHCCの診断を表すことができる。別の例では、区別できる参照または閾値は、がん、特にHCCの治療的処置に関する対象の必要性を表すことができる。別の例では、区別できる参照または閾値は、対象の予防的または治療的処置の選択を示すものである。また別の例では、区別できる参照または閾値は、対象における治療的処置の有効性を示すものであり得る。
【0080】
そのような比較は、一般的に、少なくとも1つの差異の、および任意により比較されている値またはプロファイル間でのそのような差異のサイズの存在または非存在を決定するためのいずれかの手段を含むことができる。比較は、目視検査、測定値の算術的または統計学的比較を含むことができる。そのような統計学的比較は、限定するものではないが、アルゴリズムの適用を含む。値またはバイオマーカープロファイルが少なくとも1つの標準を含む場合、前記値またはバイオマーカープロファイルにおける差異を決定するための比較はまた、それらの標準の測定も含むことができ、それにより、バイオマーカーの測定値は、内部標準の測定値に対する相関が示される。
【0081】
総計PTP、酸化型PTPの、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルの量または発現レベルに関する参照値または閾値は、他のバイオマーカーに関して以前に利用された公知の手順に従って確立することができる。
【0082】
例えば、本明細書中で教示される通りのHCCの詳細な診断のための、PTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベルの、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルの参照値は、前記疾患または状態の前記詳細な診断により特徴付けられる一個体由来または個体の集団(例えば、群)由来の組織サンプル中の前記バイオマーカーの量または発現を決定することにより確立することができる。そのような集団は、限定するものではないが、2個体以上、10個体以上、100個体以上、または数百個体以上でさえも、含むことができる。
【0083】
それゆえ、例示的な例によって、そのような疾患または状態がない対象に対するHCCの診断のための、PTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベルの、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルの参照値は、それぞれHCCを有するかまたは有しないと診断された(例えば、例えば臨床的徴候および症状、撮像法などの他の十分に確定的な手段に基づいて)、一個体由来または個体の集団由来のサンプル中の、PTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルを決定することにより、確立することができる。
【0084】
異なる時点での同じ患者に関するPTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベルの、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルの量または発現レベルを測定することは、つまり、そのような場合には、患者の状況の連続的モニタリングを可能にすることができ、かつ本明細書中で教示される通りの所与の疾患または状態に関する患者の状態の悪化または改善の予測につながる場合がある。本明細書中で以下に記載されるキットなどのツールを、このタイプのモニタリングを確実にするために開発することができる。HCCの発症に関連付けられる前記少なくとも1種のバイオマーカー量または発現レベルに関する1つもしくは複数の参照値、閾値または範囲は、例えば、前記対象において、事前にまたは一定期間にわたるモニタリングプロセス中に、決定することができる。あるいは、これらの参照値または範囲は、非常に類似する疾患表現型を有する数名の患者の、例えば、HCCを発症していない対象由来の、データセットを通して確立することができる。前記参照値、閾値、または範囲からの前記少なくとも1種のバイオマーカーのレベルの突然の逸脱は、(多くの場合には重度の)症状を実際に感じるかまたは観察することができる前に、患者(例えば、自宅または診療所において)の状態の悪化を予測することができる。モニタリングは、対象の内科的処置、好ましくは、そのようなモニタリングされる疾患または状態を軽減することを目的とする内科的処置の経過において適用することができる。そのようなモニタリングは、例えば、患者が退院することができるか、処置の変更を必要とするかまたはさらなる入院を必要とするか否かの決定に含めることができる。
【0085】
実施形態では、本明細書中で意図される通りの参照値または閾値は、本明細書中で意図される通りのバイオマーカーの絶対量を伝達することができる。別の実施形態では、検査される対象由来のサンプル中のバイオマーカーの量は、参照値と直接的に比較して(例えば、増加もしくは減少、または増加倍率もしくは減少倍率に関して)、決定することができる。有利には、これは、バイオマーカーのそれぞれの絶対量を最初に決定する必要なしに、対象由来のサンプル中のバイオマーカーの量または発現レベルの、参照値との比較(言い換えれば、参照値に対する対象由来のサンプル中のバイオマーカーの相対量を測定するための)を可能にし得る。
【0086】
説明される通り、本発明の方法、使用、または製品は、対象由来のサンプル中で測定される本明細書中で教示される通りのPTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルと、所与の参照値または閾値との間での逸脱または逸脱がないことを見出すことを含むことができる。
【0087】
第2の値からの第1の値の「逸脱」または第1の値と第2の値との間の「差異」は、一般的に、いずれかの方向(例えば、増加:第1の値>第2の値;または減少:第1の値<第2の値)およびいずれかの変化の程度を包含することができる。
【0088】
例えば、逸脱または差異は、限定するものではないが、比較が行われる第2の値に対する、少なくとも約10%(約0.9倍以下)まで、または少なくとも約20%(約0.8倍以下)まで、または少なくとも約30%(約0.7倍以下)まで、または少なくとも約40%(約0.6倍以下)まで、または少なくとも約50%(約0.5倍以下)まで、または少なくとも約60%(約0.4倍以下)まで、または少なくとも約70%(約0.3倍以下)まで、または少なくとも約80%(約0.2倍以下)まで、または少なくとも約90%(約0.1倍以下)までの、第1の値における減少を包含することができる。
【0089】
例えば、逸脱または差異は、限定するものではないが、比較が行われる第2の値に対する、少なくとも約10%(約1.1倍以上)まで、または少なくとも約20%(約1.2倍以上)まで、または少なくとも約30%(約1.3倍以上)まで、または少なくとも約40%(約1.4倍以上)まで、または少なくとも約50%(約1.5倍以上)まで、または少なくとも約60%(約1.6倍以上)まで、または少なくとも約70%(約1.7倍以上)まで、または少なくとも約80%(約1.8倍以上)まで、または少なくとも約90%(約1.9倍以上)まで、または少なくとも約100%(約2倍以上)まで、または少なくとも約150%(約2.5倍以上)まで、または少なくとも約200%(約3倍以上)まで、または少なくとも約500%(約6倍以上)まで、または少なくとも約700%(約8倍以上)までなどの、第1の値における増加を包含することができる。
【0090】
好ましくは、逸脱または差異は、統計学的に有意が観測上の変化を意味することができる。例えば、逸脱または差異は、所与の集団における参照値の許容誤差(例えば、標準偏差もしくは標準誤差により、またはそれらの所定の倍数、例えば、±1×SDもしくは±2×SDもしくは±3×SD、または±1×SEもしくは±2×SEもしくは±3×SEにより表される通り)から外れる観測上の変化を意味することができる。逸脱または差異はまた、所与の集団における値により規定される参照範囲から外れる(例えば、前記集団における値の≧40%、≧50%、≧60%、≧70%、≧75%または≧80%または≧85%または≧90%または≧95%または≧100%でさえも含む範囲から外れる)値も意味することができる。
【0091】
さらなる実施形態では、逸脱または差異は、観測上の変化が所与の閾値またはカットオフを超える場合、判断することができる。そのような閾値またはカットオフは、予測法の選択された精度、感度および/または特異度、例えば、少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%の精度、感度および/または特異度を提供するために、当技術分野で広く知られる通りに選択することができる。
【0092】
例えば、受信者動作特性(ROC)曲線解析を、許容可能な包括的精度、感度および/もしくは特異度、または陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)、陽性尤度比(LR+)、陰性尤度比(LR-)、ヨーデン指標、または類似のものなどの、それ自体周知である関連する性能尺度に基づいて、本発明の診断試験の臨床的使用のために、所与のバイオマーカーの量の最適閾値またはカットオフ値を選択するために、用いることができる。
【0093】
例えば、最適閾値またはカットオフ値は、受信者動作特性(ROC)曲線の局所的極値、すなわち、Robin X.、PanelomiX:a threshold-based algorithm to create panels of biomarkers、2013、Translational Proteomics、1(1):57~64に記載される通り、対角線に対する局所的最大距離の点として、各個別のバイオマーカーに関して選択することができる。
【0094】
当業者は、正確な閾値またはカットオフ値を与えることは重要でないことを理解するであろう。関連する閾値またはカットオフ値は、感度および特異度ならびにいずれかの閾値またはカットオフ値に関する感度/特異度の相関関係を決定することにより、取得することができる。
【0095】
どのレベルの陽性適中率/陰性適中率/感度/特異度が望ましいかおよび陽性または陰性適中率でのどれ程大きな低下が許容されるかを決定することは、診断技術者の技能の範囲内である。選択された閾値またはカットオフレベルは、診断技術者により本発明の方法と組み合わせて用いられる他の診断パラメータに依存し得るであろう。
【0096】
本発明の方法、使用、または製品は、対象由来の組織サンプル中で測定される本明細書中で教示される通りのPTPもしくは酸化型PTPの量もしくは発現レベル、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルと、所与の参照値または閾値との間での逸脱または逸脱がないことのいずれかの知見を、HCCの存在または非存在に対する理由であるとすることをさらに含むことができる。
【0097】
本明細書中に提供される方法では、対象由来の生物学的サンプル中のPTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルと、参照値または閾値との間での逸脱の観測が、前記対象におけるがん、特にHCCの診断が前記参照値または閾値により表されるものとは異なるという結論を導くことができる。同様に、対象由来の生物学的サンプル中のPTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルと、参照値または閾値との間での逸脱が見出されない場合、そのような逸脱の非存在は、前記対象におけるがんの診断が、前記参照値または閾値により表されるものと実質的に同じであるという結論を導くことができる。
【0098】
特定の実施形態では、本発明に従う方法において用いる場合の参照値または閾値は、健康対象または健康対象の群などの、がんに罹患していない対象または対象の群由来の生物学的サンプルから決定される。健康対象または健康対象の群は、HCCなどのがんを発症する高リスクまたは平均的リスクであり得、例えば、健康対象または健康対象の群は、早期の肝臓脂肪症を有する対象であり得る。対象、例えば、HCCを有する対象由来の生物学的サンプル中のバイオマーカーのうちの少なくとも1種の量または発現レベルは、健康対象または健康対象の群などのHCCに罹患していない対象または対象の群由来、または肝臓脂肪症、NASHもしくはNALFDに罹患している対象由来の生物学的サンプル中のPTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルを表す参照値または閾値と比較して(すなわち、それに対して)、上昇(例えば、バイオマーカーが酸化型PTPN1または酸化型PTPN2である場合)または減少(例えば、バイオマーカーがPTPの総計発現レベルである場合)する場合がある。そのように上昇または減少した量または発現レベルは、対象におけるHCCの診断を可能にすることができる。
【0099】
用語「対象」または「患者」は、本明細書中で用いる場合、典型的にかつ好ましくはヒトを意味するが、非ヒト動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、またさらに好ましくは哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ブタなどに対する参照も包含することができる。がん、特にHCCを有することが既知であるかまたは疑われる対象が特に意図される。好適な対象としては、肝臓脂肪症、NAFLD、NASHもしくはHCCに対するスクリーニングのために医師の診察を受けており、かつ/または肝臓脂肪症、NAFLD、NASHもしくはHCCを示す症状および徴候を有する対象が挙げられる。
【0100】
特定の実施形態では、対象は、HCCの平均的または高リスクを有する対象などの、がんのリスクを有する対象である。HCCに対するリスク因子の非限定的な例としては、肥満、飲酒、遺伝的感受性、食餌が挙げられる。
【0101】
より詳細な実施形態では、対象は、肥満を有する対象である。
本明細書中で教示される通りの診断方法は、HCCスクリーニングなどのがんスクリーニングにおいて、撮像技術を効率的に補完するために用いることができる。
【0102】
特定の実施形態では、対象は、例えば、撮像技術により、肝臓脂肪症、NAFLD、NASHまたはHCCを有すると診断された対象である。
HCCなどのがんの診断、予後診断またはモニタリングの本発明の方法は、対象から取り出されたサンプルに対して;好ましくは、対象から取り出された肝臓組織サンプルに対して、1つもしくは複数のインビトロ処理および/または分析ステップを適用するインビトロ法として、適切に条件付けられることができる。用語「インビトロ」は、一般的に、身体、例えば、動物またはヒト身体に対して外側、または外部を意味する。対象由来の組織サンプル中のPTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、および/またはPTPもしくは酸化型PTPの個別のレベルを検出または測定することは、通常、本発明の方法の検査相が、対象由来のサンプル中の前記バイオマーカーのうちの少なくとも1種の量または存在を測定することを含むことを暗示することができる。本発明の方法が、一般的に、対象から、かつ/または対象に関して、データが収集される検査相を含むことができることが理解される。
【0103】
さらなる態様では、本出願は、対象のサンプル中のPTPの総計発現レベルを測定するための手段、対象のサンプル中のPTPの総計酸化レベルを測定するための手段、ならびにPTPの総計発現レベルの、およびPTPの総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段を含む、対象におけるHCCなどのがんを診断、予測、予後診断および/もしくはモニタリングするための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、または対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するためのキットを提供し、このとき、前記参照値もしくは閾値が、健康組織中などのがんに罹患していないサンプル中のPTPの総計発現およびPTPの総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患している組織中のPTPの総計発現レベル、およびPTPの総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値もしくは閾値は、がん、特にHCCの既知の診断、予測および/または予後診断を表す。
【0104】
一部の実施形態では、キットは、対象のサンプル中のすべてのPTPの総計発現レベルを測定するための手段、対象のサンプル中のすべてのPTPの総計酸化レベルを測定するための手段、ならびに前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段を含むことができ、このとき、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中のすべてのPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中のすべてのPTPの総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値または閾値は、がんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す。
【0105】
一部の実施形態では、本明細書中で教示される通りのキットは、対象のサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルを測定するための手段、対象のサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計酸化レベルを測定するための手段;ならびに前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段を含み、このとき、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中のPTPN2、PTPRF、PTPRK、PTPN12、PTPN7、PTPN1、およびPTPN6を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値または閾値が、がんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す。
【0106】
一部の実施形態では、本明細書中で教示される通りのキットは、対象のサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルを測定するための手段、対象のサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計酸化レベルを測定するための手段;ならびに前記総計発現レベルおよび前記総計酸化レベルの参照値もしくは閾値、または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段を含み、このとき、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中のPTPRB、PTPRD、PTPRF、PTPRM、PTPRG、PTPRK、PTPRJ、PTPRC、PTPRA、PTPRE、PTPN1、PTPN2、PTPN3、PTPN6、PTPN7、PTPN9、PTPN11およびPTPN12を少なくとも含むPTPの群の総計発現レベルおよび総計酸化レベルに対応するなど、前記参照値または閾値は、がんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す。
【0107】
一部の実施形態では、キットは、対象のサンプル中の1つもしくは複数の個別のPTPの発現レベルを測定するための手段、および1つもしくは複数の個別のPTPの発現値の参照もしくは閾値または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段をさらに含み、このとき、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中の1つもしくは複数の個別のPTPの発現レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中の1つもしくは複数の個別のPTPの発現レベルに対応するなど、前記参照値または閾値は、がんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す。
【0108】
一部の実施形態では、キットは、対象のサンプル中の1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルを測定するための手段、および1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルの参照値もしくは閾値または前記参照値もしくは閾値を確立するための手段をさらに含み、このとき、前記参照値もしくは閾値が、健康サンプル中などのがんに罹患していないサンプル中の1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値が、がんに罹患しているサンプル中の1つもしくは複数の個別の酸化型PTPの発現レベルに対応するなど、前記参照値または閾値は、がんの既知の診断、予測および/または予後診断を表す。
【0109】
バイオマーカーを測定するための様々な技術は、当該それぞれのバイオマーカーに対する結合剤を利用する場合がある。それゆえ、対象由来のサンプル中のPTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、ならびに/または1つもしくは複数の個別のPTPおよび/もしくは酸化型PTPの発現レベルを測定するための手段は、可視化および/または、例えば、分光光度法による、測定の定量的読み出し値を可能にする、前記バイオマーカーに特異的に結合することが可能な結合剤、例えば、抗体もしくは抗体断片、アプタマー、フォトアプタマー、タンパク質、ペプチド、ペプチドミメティクス、もしくは小分子、および/または担体を含むことができる。一部の実施形態では、本明細書中で教示される通りの結合剤は、検出可能な標識を含むことができる。一部の実施形態では、結合剤は、別の薬剤を用いる(例えば、プローブ結合パートナーを用いる)検出を許容するタグを伴って提供されることができる。バイオマーカー・結合剤コンジュゲートは、検出を促進する検出剤に会合または連結されることができる。
【0110】
特定の実施形態では、参照値または閾値は、PTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、ならびに/または1つもしくは複数の個別のPTPおよび/もしくは酸化型PTPの発現レベルに関する参照値または閾値であり、このとき、前記参照値もしくは閾値は、健康対象もしくは健康対象の群由来のサンプルなどのがんに罹患していない対象由来のサンプル中の前記バイオマーカーの量もしくは発現レベルに対応するか、または前記参照値もしくは閾値は、HCCなどのがんに罹患している対象もしくは対象の群由来のサンプル中の前記バイオマーカーの量もしくは発現レベルに対応する。
【0111】
特定の実施形態では、キットは、それらのそれぞれの参照値または閾値から逸脱していることが見出された、PTPもしくは酸化型PTPの総計発現レベル、ならびに/または1つもしくは複数の個別のPTPおよび/もしくは酸化型PTPの発現レベルから選択されるバイオマーカーの数を表す参照または閾値スコアをさらに含む。
【0112】
対象におけるがんを診断するためのキットは、即時使用基質溶液、洗浄溶液、希釈バッファーおよび説明書をさらに含むことができる。診断キットはまた、陽性および/または陰性対照サンプルも含むことができる。
【0113】
好ましくは、診断キットに含められる説明書は、当業者に対して曖昧でなく、簡潔かつ理解可能である。説明書は、典型的には、キット内容物に関する情報、組織サンプルを採取する方法、方法論、実験読み出し値およびその解釈ならびに注意および警告を提供する。
【0114】
本明細書全体を通して用いる場合の用語「部品のキット」および「キット」とは、それらの輸送および保存を可能にするように梱包された、特定される方法(例えば、対象におけるがんの診断のための、または対象が本明細書中で教示される通りのがんの治療的処置を必要とするか否かを決定するための方法)を行うために必要な構成要素を含む製品を意味する。キットに含められる構成要素を梱包するために好適な材料としては、クリスタルガラス、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート)、瓶、フラスコ、バイアル、アンプル、紙、封筒、または他のタイプの容器、担体もしくは支持材が挙げられる。キットが複数の構成要素を含む場合、構成要素のうちの少なくともサブセット(例えば、複数の構成要素のうちの2以上)または構成要素のうちの全部が、物理的に分離され、例えば、別個の容器、担体もしくは支持材中またはその上に含められることができる。キットに含められる構成要素は、特定される方法を行うために十分であることも、または十分でないこともあり、その結果、外部試薬または物質が、それぞれ、方法を行うために必要でないことも、または必要であることもある。典型的には、キットは、液体操作装置、装置を制御する環境(例えば、温度)、分析機器などの標準的な研究装置と共に利用される。任意によりアレイまたはマイクロアレイ上で提供される、例えば、抗体、ハイブリダイゼーションプローブ、増幅および/または配列決定プライマーなどの本明細書中で教示される通りの列挙される結合剤に加えて、本発明のキットはまた、特定される方法において有用である、溶媒、バッファー(例えば、限定するものではないが、ヒスチジンバッファー、クエン酸バッファー、コハク酸バッファー、酢酸バッファー、リン酸バッファー、ギ酸バッファー、安息香酸バッファー、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン)バッファーもしくはマレイン酸バッファー、またはそれらの混合物など)、酵素(例えば、限定するものではないが、熱安定性DNAポリメラーゼなど)、検出可能な標識、検出試薬、および対照製剤(陽性および/または陰性)のうちの一部または全部も含むことができる。典型的には、キットはまた、印刷された挿入物またはコンピュータ読み取り可能媒体上などに、その使用のための説明書も含むことができる。この用語は、用語「製品(article of manufacture)」と相互に交換可能に用いることができ、本明細書の文脈で用いる場合、いずれかの人造の有形構造製造物を広く包含する。
【0115】
特定の実施形態では、キットは、本明細書中で教示される通りの方法を行うための1つまたは複数のプログラムを格納したコンピュータ読み取り可能記憶媒体をさらに含む。
さらに、特に、対象におけるがんの診断、予測、予後診断および/もしくはモニタリングのための、または対象におけるがんの予防的もしくは治療的処置の選択を支援するための、または対象におけるがんの治療的処置の有効性を評価するための、そのようなキットの使用もまた提供される。
【0116】
また別の態様では、がんの治療の処置における医薬としての使用のための治療剤または予防剤が提供され、前記薬剤は、PTPおよび/もしくは酸化型PTPの少なくとも総計発現レベル、ならびに/または個別のPTPおよび/もしくは酸化型PTPのうちの1つもしくは複数の発現または活性を、阻害または増加するなど、変化させることが可能である。
【0117】
さらに、本発明の実施形態のうちのいずれかに従う使用のための方法、キットまたは薬剤は、がん、特にHCCを対象とする。さらなる実施形態では、前記HCCは、肥満誘導型HCCである。
【0118】
さらなる態様では、
(a)総計PTPおよび総計酸化型PTPの存在および/または発現レベルを決定するステップ、
(b)PTPの総計発現レベルおよびPTPの総計酸化レベルに基づいて、対象におけるがんを診断するステップ、ならびに
(c)がんに対する有効量の治療剤を前記対象に投与するステップなどの、がんに対する療法を、がんを有すると診断された前記対象に投与するステップ
を含む、対象におけるがん、特にHCCを診断および治療する方法が本明細書中に提供される。
【0119】
一部のさらなる実施形態では、対象におけるがん、特にHCCを診断および治療する方法は、対象由来の生物学的サンプル中の1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの存在および/または発現レベルを決定するステップ、1つもしくは複数の個別のPTPおよび/または酸化型PTPの存在および/または発現レベルに基づいて、対象におけるがんを診断するステップ、ならびにがんに対する有効量の治療剤を前記対象に投与するステップなどの、がんに対する療法を、がんを有すると診断された前記対象に投与するステップをさらに含む。
【0120】
上記に説明される通りの実質的な利益を提供する、本発明の製品、方法、および使用に従って提供されていることが明らかである。本発明をその具体的実施形態との関連で説明してきたが、多数の代替、改変、および変動が、上記の説明に鑑みて当業者に明らかであろうことが明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広範な範囲内の以下の通りのすべてのそのような代替、改変、および変動を包含することが意図される。
【0121】
上記の態様および実施形態は、以下の非限定的な実施例によりさらに支持される。
【実施例】
【0122】
材料および方法
組織ホモジナイゼーション
新鮮凍結肝臓組織試料を、様々なステージの肝臓疾患を有すると診断された数名の患者および健康対象から採取し(
図3)、組織サンプルを、以下のプロトコールに従ってホモジナイズした:
- 新鮮凍結組織試料をエッペンドルフチューブに移す。
- 脱気した溶解バッファー(10%グリセロール、1%NP-40、1×プロテアーゼ阻害剤、1×ホスファターゼ阻害剤、PBS中)中の等重量の酸洗浄済みガラスビーズを添加する。
- 30秒間のオン/オフサイクルを用いて、4度で10分間、ビーズを打ち付けることにより組織を破砕する。
- 30秒間のオン/オフサイクルを用いて、4度で10分間、超音波処理する。
- 4度で1時間、20,000×gで残渣をペレット化する。
- BSA標準曲線に対するブラッドフォード法によるタンパク質含有量の推定のために上清を保持する。
【0123】
化学的誘導体化(
図2)
- 20度で1時間、溶解バッファー中の10mMジチオトレイトールを用いる酸化型PTPの還元。
- 暗所における20度で30分間、溶解バッファー中の20mM N-エチルマレイミドを用いる還元型PTPのアルキル化。
- 暗所における30分間の溶解バッファー中での1mM過バナジン酸塩を用いる還元型PTPの過酸化。
【0124】
溶解物消化
- 20度で1時間、4mMジチオトレイトール中で総タンパク質を還元する。
- 暗所において20度で30分間、8mMヨードアセトアミド中で総タンパク質をアルキル化する。
- さらなる4mMジチオトレイトールを用いてヨードアセトアミドをクエンチし、混合および進行する。
- 50μgの総タンパク質当たり、1μgのLysCを添加し、37度で4時間インキュベートする。
- 50μgの総タンパク質当たり、1μgのトリプシンを添加し、37度で16時間インキュベートする。
- 0.1%最終濃度までのギ酸を用いて消化をクエンチし、後続の使用のために瞬間凍結する。
【0125】
PTP触媒ペプチドプルダウン
- 消化済み溶解物をPBS中に希釈し、4度で10分間、20,000×gでペレット化する。可溶性画分をインプットとしてプルダウンのために保持する。
- サンプル毎に、10μgのoxPTP抗体(R&D Systems、MAB2844)をコーティングした10μLのプロテインA/Gアガロースビーズと共に、4度での終端間インキュベーションを用いて一晩プルダウンを行う。
- 一晩のインキュベーション後、アガロースビーズを回収し、組織プロテオームプロファイリング(下記の通り、SCXマイクロSTAGEチップクリーンアップも必要とする)のためにIPフロースルーを保持する。
- アガロースビーズを、PBSを用いて3回洗浄し、MSグレード水を用いて3回洗浄する。
- 10%TFA、90%MSグレード水を用いて溶出し、真空遠心分離によりペプチドを乾燥させる。
- 自家製強カチオン交換(SCX)マイクロSTAGEチップにより、溶出されたペプチドに対するクリーンアップを行う(以下のステップa~d)。
【0126】
- a.100%メタノールを用いてSCX STAGEチップを清浄化する。80%MSグレード水、20%ACN、0.1%ギ酸を用いて平衡化する。
- b.SCXロードのために、80%MSグレード水、20%ACN、0.1%ギ酸中に乾燥ペプチドを再構成する。
- c.80%MSグレード水、20%ACN、0.1%ギ酸を用いてSCX STAGEチップを洗浄する。
- d.80%MSグレード水、20%ACN、0.1%ギ酸、0.5M酢酸アンモニウムを用いてSCX STAGEチップを溶出する。
- 真空遠心分離により溶出液を乾燥させ、MS注入に対して準備する。
【0127】
PTP触媒ペプチドのLC-MS/MS分析
- Thermo Scientific Q Exactive HF-X質量分析計に連結したAgilent1290 LCシステムによるPTPペプチド分離、特定および定量化のためのパラメータ。
- LCバッファーA=100%MSグレード水、0.1%ギ酸;LCバッファーB=80%ACN、20%MSグレード水、0.1%ギ酸。25分間の勾配時間(合計40分間の分析時間)での10%から44%までのバッファーBの線形溶出勾配。
- データ依存的取得モードにおいて質量分析取得を行う。以下の設定を用いる:
【0128】
フルMS/DD-MS2(TOPN)
一般
実行時間 0~40分間
極性 正
インソースCID 0.0eV
デフォルト荷電状態 2
包含 -
除外 -
タグ -
フルMS
マイクロスキャン 1
解像度 60,000
AGC標的 3e6
最大IT 20ms
スキャン範囲の数 1
スキャン範囲 375~1600m/z
スペクトルデータタイプ プロファイル
dd-MS2/dd-SIM
マイクロスキャン 1
解像度 15,000
AGC標的 1e5
最大IT 150ms
ループカウント 7
MSXカウント 1
TopN 7
単離ウインドウ 1.4m/z
単離オフセット 0.0m/z
スキャン範囲 200~2000m/z
固定第1質量 120.0m/z
(N)CE/段階的(N)CE nce:27
スペクトルデータタイプ プロファイル
dd設定
最小AGE標的 1.00e4
強度閾値 6.7e4
頂点トリガー -
電荷除外 未割当、1、6~8、>8
複合荷電状態 すべて
ペプチドマッチ 好適
除外アイソトープ オン
動的除外 6.0s
アイドルの場合 . . 他サンプルを採取しない
【0129】
- 最新のヒトUniprotデータベースに対するデータベース検索。
- 良好なイオンラダー網羅および過酸化システインの確信的な局在化を確認するために必要とされる手動スペクトル検査。
- 曲線下面積による定量化、またはスペクトルカウントによる半定量化。
【0130】
結果
肝臓生検サンプルのPTPの総計活性を表す包括的PTPプロファイルを特性決定するために、本発明者らは、ヒト生検における総計PTP発現/酸化を初めて評価するために、本明細書中の上記の材料および方法セクションに詳細に記載され、かつ
図4Aに概要を示される定量的プロテオミクスアプローチを利用した(
図4A)。簡潔には、包括的または総計PTP発現および酸化が、瞬間凍結生検において評価され、サンプルは、2セットに分割され、一方は不可逆的に酸化されていないすべてのPTPをアルキル化/過酸化するための試薬、および他方はすべてのPTPを過酸化するための試薬の存在下でホモジナイズされている。すべてのPTPの酸化型触媒部位に対して開発された特異的抗体を利用して、PTPが免疫沈降される。重要なことに、上清を用いて、本発明者らは、サンプル中に存在するすべてのタンパク質を評価するために、プロテオミクス分析を行う。このアプローチは、本発明者らが、1)存在するPTPの完全なリスト、2)個別のPTPの酸化の程度、および3)サンプル中に存在するPTPタンパク質の完全または総計セットを規定することを可能にした。技術の最初のスクリーニングおよびセットアップを、
図4Aに記載される選択されたサンプルを用いて行った。生検由来のプロテオームデータは、HCCサンプルにおける低減された総計PTP発現を示すが、やせ型/脂肪症/NASHサンプルのTyrPhomeにおける包括的な差異は示さない(
図4B)。本発明者らは、群間での個別のPTP発現における差異(
図4C~E)およびHCCサンプル中のPTPN1の酸化(
図4C)を観察した。つまり、本発明者らの結果は、総計PTPレベルを用いるHCCサンプルの特定ならびにやせ型、NAFLD、NASHからHCCへの移行に寄与し得る個別のPTP(例えば、PTPRF、PTPRK、PTPN7、PTPN12、PTPN2、PTPN1)およびHCCサンプル中のPTPN1の酸化の特定を示す。
【0131】
参考文献
Grohmann, M. et al. (2018) Obesity Drives STAT-1-Dependent NASH and STAT-3-Dependent HCC. Cell 175 (5), 1289-1306 e20.
Gurzov, E.N. et al. (2014) Hepatic oxidative stress promotes insulin-STAT-5 signaling and obesity by inactivating protein tyrosine phosphatase N2. Cell Metab 20 (1), 85-102.
Gurzov, E.N. et al. (2015) Protein tyrosine phosphatases: molecular switches in metabolism and diabetes. Trends Endocrinol Metab 26 (1), 30-9.
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Litwak, S.A. et al. (2017) JNK Activation of BIM Promotes Hepatic Oxidative Stress, Steatosis, and Insulin Resistance in Obesity. Diabetes 66 (12), 2973-2986.
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Wu, W. et al. (2017) Differential oxidation of protein-tyrosine phosphatases during zebrafish caudal fin regeneration. Sci Rep. 7(1), 12699.
【国際調査報告】