(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-01
(54)【発明の名称】薬物およびワクチン誘発性免疫性血小板減少症を特定の化合物を投与することによって治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20240325BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240325BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240325BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
A61K31/519
A61P7/04
A61P43/00 121
A61P7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562944
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 US2022024806
(87)【国際公開番号】W WO2022221527
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513288724
【氏名又は名称】プリンシピア バイオファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ダブリュ・スミス
(72)【発明者】
【氏名】スティーヴ・ピー・ワトソン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・エル・アール・ニコルソン
(72)【発明者】
【氏名】クレア・ラングリッシュ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB06
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZA53
4C086ZA54
4C086ZC75
(57)【要約】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)ならびにワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を、ある特定のBTK阻害剤および/またはその薬学的に許容される塩によって治療および/または予防するための方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とするヒト対象において薬物誘発性血小板減少症(DITP)を治療または予防するための方法であって、
化合物(I):
【化1】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]、
化合物(II):
【化2】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]、
およびその薬学的に許容される塩
から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む方法。
【請求項2】
それを必要とするヒト対象においてワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を治療または予防するための方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む方法。
【請求項3】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)またはワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を有するヒト対象において血小板数を増加させる方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む方法。
【請求項4】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)またはワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を有するヒト対象において血小板凝集を減少させる方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む方法。
【請求項5】
投与の前に、ヒト対象は、以下:
a.高いD二量体レベル;
b.血栓症;および
c.抗血小板第4因子(PF4)抗体
から選択される少なくとも1つの特徴を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)は、治療療法において見出される小分子、タンパク質、または構成要素、希釈剤、賦形剤または同様のものの投与によって誘発される、請求項1および3~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)は、非分画ヘパリン、エノキサパリン、ダルテパリン、チンザパリン、アセノクマロール、アセトアミノフェン、アセチルジゴキシン、アルファカルシドール、アロプリノール、アルテプラーゼ、アンホテリシンB、アルガトロバン、アスピリン、アテノロール、アザチオプリン、ビバリルジン、ボルテゾミブ、カペシタビン、カプトプリル、カルバマゼピン、カルボプラチン、カルフィルゾミブ、セフトリアキソン、セファレキシン、クロルタリドン、シラスタチン/イミペネム、クロピドグレル、クロザピン、シクロシチジン、ダクチノマイシン/アクチノマイシン、デフェラシロクス、デフェリプロン、ジフルニサル、ジゴキシン、ジピリダモール、ドロスピレノン/エチニルエストラジオール、エルトロンボパグ、エポエチンアルファ、エポプロステノール、エプチフィバチド、ファモチジン、フルコナゾール、フルオロウラシル、フロセミド、フシジン酸、ガンシクロビル、ゲムシタビン、ゲンタマイシン、糖タンパク質IIB/IIA阻害剤、金、ヒドロクロロチアジド、ヒドロクロロチアジド/トリアムテレン、ヒドロキシクロロキン、イマチニブ、イナムリノン、インテグリリン、ITP薬、イキサゾミブ、レナリドミド、レベチラセタム、リネゾリド、メルペロン、メナテトレノン、メロペネム、メトトレキサート、メトプロロール、モルシドミン、ネダプラチン、ニコチンアミド、ニトロフラントイン、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)(例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブ、ジクロフェナク、および同様のもの)、オクトレオチド、パントプラゾール、ペニシラミン、フェニトイン、ピペラシリン、プロプラノロール、プロトンポンプ阻害薬、キニーネ、リファンピン、ルキソリチニブ、ルキソリチニブリン酸塩、シロリムス、スピロノラクトン、ストレプトキナーゼ、スルファメトキサゾール、スルフィソキサゾール、スニチニブ、タイコプラニン、テモゾロミド、テムシロリムス、チクロピジン、チロフィバン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、ウロキナーゼ、バルガンシクロビル、バルプロ酸、バンコマイシン、ワルファリン、またはそれらの組合せの投与によって誘発される、請求項1および3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)は、フィルグラスチム(顆粒球コロニー刺激因子;G-CSF)、インターフェロン、インターフェロンアルファ、ペグインターフェロンアルファ2B、ペグインターフェロンアルファ2B/リバビリン、第VIII因子、TNFアルファ、INFガンマ、またはそれらの組合せの投与によって誘発される、請求項1および3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、抗体-薬物コンジュゲート、抗胸腺細胞グロブリン、ブレンツキシマブ、シクスツムマブ、エファリズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、またはそれらの組合せの投与によって誘発される、請求項1および3~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)は、ワクチンの投与によって誘発される、請求項2~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)は、アデノウイルスベクターにおいて送達されるワクチンの投与によって誘発される、請求項2~5および10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
アデノウイルスベクターは、治療薬および/または予防薬を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
治療薬または予防薬は、遺伝子療法剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ワクチンは、コロナウイルス感染症を防ぐためのものである、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
コロナウイルス感染症は、COVID-19である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ワクチンは、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、水疱瘡、単純ヘルペスウイルス1、単純ヘルペスウイルス2、水疱瘡、ロタウイルス、インフルエンザ、黄熱、痘瘡、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス、肺炎球菌、A型肝炎、脾脱疽、ジフテリア、無細胞百日咳、インフルエンザ菌、例えば、タイプBなど、髄膜炎菌C、髄膜炎、腸チフス、狂犬病、ライム病、破傷風、またはそれらの任意の組合せから選択される感染症を予防するためのものである、請求項10~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル、(S)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルと(S)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルとの混合物;または該化合物のうちのいずれかの個々の(E)もしくは(Z)異性体;および/または該化合物のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(E)異性体またはその薬学的に許容される塩である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(Z)異性体またはその薬学的に許容される塩である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物またはその薬学的に許容される塩である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、(S)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルと(S)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの混合物、または該化合物のうちのいずれかの個々の(E)もしくは(Z)異性体;および/または該化合物のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(E)異性体またはその薬学的に許容される塩である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(Z)異性体またはその薬学的に許容される塩である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物またはその薬学的に許容される塩である、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)ならびにワクチン誘発性血栓症および血小板減少症(VITT)は、自己免疫性ヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)に対する臨床類似性を有し、患者の大部分が、抗血小板第4因子(PF4)抗体に対して検査で陽性を示す。非特許文献1;非特許文献2。HITにおいて、IgG含有免疫複合体は、高い結合活性において免疫複合体を結合する低親和性Fc受容体(FcR)である血小板表面受容体FcγRIIA(CD32a)を結合して架橋させ、血小板活性化を開始する。非特許文献2。自己免疫性HITは、その名前にもかかわらず、まれであるが、ヘパリンとは無関係に生じ、結果として、DICおよび微小血管血栓症と一緒に永続的な重症の血小板減少症を生じさせる。同文献。
【0002】
DITPおよびVITT患者において血小板数を維持するための新規の安全で有効な経口治療は、看護の現行基準より、重要な治療上の利点を表すであろう。したがって、特定の化合物によるDITPおよびVITTの治療ならびに/または予防のための新規の方法が、本明細書において開示される。
【0003】
ブルートンの無ガンマグロブリン血症チロシンキナーゼ(BTK)は、B細胞受容体(BCR)、Fcガンマ受容体(FcγR)、およびFcイプシロン受容体(FcεR)の下流の必須のシグナル伝達エレメントである。BTKは、非受容体チロシンキナーゼであり、ならびにキナーゼのTECファミリーのメンバーである。BTKは、B細胞系統成熟化に対して必須であり、細胞におけるBTK活性の阻害は、BCRの遮断に一致する表現型変化を生じる。実例として、BTK阻害は、結果として様々なB細胞活動、例えば、細胞増殖、分化、成熟化、および生存などの下方制御、ならびにアポプトーシスの上方制御を生じる。
【0004】
「オン/オフスイッチ」方式において作用するよりむしろ、BTKは、免疫機能「モジュレーター」として最良に見える(非特許文献3;非特許文献4)。BTK機能への重要な洞察は、ヒトおよびマウスにおける機能分析の欠如からもたらされる。BTK遺伝子における機能変異を欠如する個体は、B細胞および形質細胞の循環の完全な欠如ならびに全てのクラスの免疫グロブリンの非常に低いレベルによって特徴づけられる、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)を生じる(非特許文献5、非特許文献6)。このことは、自己免疫疾患の発症において重要であると考えられる自己抗体の産生をBTK阻害が抑圧する可能性を示している。
【0005】
BTKは、T細胞、ナチュラルキラー細胞、およびプラズマ細胞において発現されず、T細胞および形質細胞においていかなる追跡可能な直接的機能も有さないが(非特許文献7;非特許文献8)、その一方で、酵素は、他の造血細胞、例えば、好塩基球、肥満細胞、マクロファージ、好中球、および血小板などの活性化を調整する。例えば、BTKは、好中球の活性化においてある役割を果たし、損傷治癒に貢献する炎症反応において主要な一員であるが、組織障害も引き起こし得る(非特許文献9)。
【0006】
したがって、選択的BTK阻害剤は、例えば、これらに限定されるわけではないが、BCRの阻止;形質細胞の分化および抗体産生の阻害;単核細胞またはマクロファージにおけるIgG媒介性FcγR活性化、食作用、および炎症性メディエータの阻止;肥満細胞または好塩基球におけるIgE媒介性FcεR活性化および脱顆粒の阻止;ならびに好中球における活性化、付着、動員、および酸化バーストの阻害など、炎症および自己免疫に関与する複数の経路を標的にする可能性を有する。これらの効果に基づいて、選択的BTK阻害剤は、様々な炎症性疾患の開始および進行を阻止し得、ならびにこれらの疾患から生じる組織障害を緩和し得る。BTK遺伝子における機能変異を欠如する個人は、体液性免疫を低下させており、化膿性細菌およびエンテロウイルスの感染に罹りやすく、静脈内免疫グロブリンによる治療を必要とするが、無傷の免疫システムを有する個人におけるBTKの阻害は、感染に対して同様の感受性を生じるとは予想されない。
【0007】
例えば、イブルチニブ(PCI-32765)およびスペブルチニブ(CC-292)など、いくつかの経口投与されるBTK阻害剤(BTKi)が、現在市販されているか、または様々な指標のために臨床開発中である(非特許文献10)。例えば、イブルチニブは、BTK標的のさらなる臨床評価を提供し、最近、米食品医薬品局(FDA)によって、マントル細胞リンパ腫、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、および慢性リンパ球性白血病におけるヒト使用が承認された(非特許文献11)。イブルチニブは、他の血液学的悪性腫瘍における活性(非特許文献12、非特許文献13)、ならびに、ごく最近には、抗血小板薬としての使用(非特許文献14)ならびに、COVID-19ワクチンAZD1222(Vaxzevria)によるワクチン接種後まもなくに生じる血小板減少の相殺(非特許文献15)も実証した。さらに、CC-292は、BTK酵素の100%の占有率を提供する用量において、健常志願者集団において十分に許容されることが報告されている(非特許文献16)。さらに、エボブルチニブは、最近、フェーズ2トライアルにおける多発性硬化症に対する効能を実証した(非特許文献17)。他のBTKi化合物は、様々な免疫媒介性障害、例えば、天疱瘡(NCT02704429)、関節リウマチ(NCT03823378、NCT03682705、NCT03233230)、および喘息(NCT03944707)など、に対して臨床開発中である(非特許文献17;非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22;非特許文献23)。
【0008】
いくつかのBTK阻害剤は、出血を生じ得、したがって、血小板減少性である対象、抗凝固処理された対象、および/または脳内出血を有する対象における使用のための理想的な候補ではないであろう。非特許文献24。PMID:33674445;PMCID:PMC7980532。しかしながら、開示される化合物(I)は、インビトロにおいて正常な血小板の機能に対して影響を全く有さず、ならびに、血小板減少性である患者における出血に関連しておらず、実際に、免疫性血小板減少症(ITP)の治療において研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Greinacherら、Thrombotic thrombocytopenia after ChAdOx1 nCov-19 vaccination、N Engl J Med、doi:10.1056/NEJMoa2104840(2021)
【非特許文献2】Greinacherら、Autoimmune heparin-induced thrombocytopenia、J Thromb Haemost 15(11):2099-114(2017)
【非特許文献3】Crofford LJら、2016
【非特許文献4】Pal Singh Sら、2018
【非特許文献5】Tsukada 1993
【非特許文献6】Vetrie 1993
【非特許文献7】SiderasおよびSmith 1995
【非特許文献8】Mohamedら、2009
【非特許文献9】Volmering Sら、2016
【非特許文献10】Lee Aら、2017
【非特許文献11】Imbruvica Package Insert、2015
【非特許文献12】Wang 2013
【非特許文献13】Byrd 2013
【非特許文献14】Nicolson PLら(2020)Haematologica 106(1):208~219;doi.org/10.3324/haematol.2019.218545
【非特許文献15】von Hundelshausenら(2021)Thromb Haemost.April 13.Doi 10.1055/a-1481~3039
【非特許文献16】Evans 2013
【非特許文献17】Montalban Xら、2019
【非特許文献18】Norman P 2016
【非特許文献19】Tam CSら、2018
【非特許文献20】Crawford JJら、2018
【非特許文献21】Min TKら、2019
【非特許文献22】Gillooly KM 2017
【非特許文献23】Nadeem Aら、2019
【非特許文献24】Langrish CLら(2021)J Immunol.Apr 1;206(7):1454~1468
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書において記載される化合物(I)は、「リルザブルチニブ」としても知られる、下記の構造のBTK阻害剤である:
【化1】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]。参照により本明細書に組み込まれるPCT公開番号WO2014/039899の、例えば、実施例31を参照されたい。
【0011】
この化合物は、いくつかの特許刊行物、例えば、PCT公開番号WO2014/039899、WO2015/127310、WO2016/100914、WO2016/105531、およびWO2018/005849などにおいて開示され、なお、当該文献のそれぞれの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0012】
リルザブルチニブは、B細胞受容体を介した非T細胞白血球シグナル伝達、BTK経路のFCγRおよび/またはFcεRシグナル伝達の新規の高度に選択的な小分子阻害剤である。リルザブルチニブは、可逆的共有結合性BTK阻害剤として機能し、ならびに、その標的と非共有結合および共有結合の両方を形成して、低い全身曝露によって、高められた選択性および拡張された阻害を可能にする。第1および第2世代のBTKiと比較して、リルザブルチニブは、他の分子との最小限の交差反応性を示しており、オフターゲット効果に対して低リスクである(Smith PFら、2017)。重要なことに、リルザブルチニブの可逆的結合は、永久に改変されたペプチドの可能性を最小にする(Serafimova IM 2012)。さらに、リルザブルチニブは、共有結合性BTK阻害剤であるイブルチニブと比較して、改善されたキナーゼ選択性を示し、リルザブルチニブ(1μM)は、251のキナーゼパネルにおいて、イブルチニブ(1μM)における21のキナーゼと比較して、6のキナーゼに対して>90%の阻害を達成する。
【0013】
リルザブルチニブは、免疫媒介性疾患の治療に対して有望な結果を示した。リルザブルチニブは、自己免疫疾患(フェーズ3、NCT03762265)に対する開発において最も先進的なBTKiであり、ITPのように自己抗体駆動型の水疱形成疾患である天疱瘡の治療において評価されるべき第1のBTKiである。ヒトにおいて、リルザブルチニブは、経口投与の後に、速い半減期(3~4時間)および可変の薬物動態(PK)において急速に吸収される。
【0014】
本明細書において記載される化合物(II)は、「アツザブルチニブ」としても知られる、下記の構造のBTK阻害剤である:
【化2】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]。この化合物は、例えば、WO2012/158764において開示されており(例えば、表1の化合物125A/125Bを参照されたい)、なお、当該文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
本明細書により、以下の非限定的な実施形態が包含される:
実施形態1.それを必要とするヒト対象において薬物誘発性血小板減少症(DITP)を治療または予防するための方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法。
実施形態2.それを必要とするヒト対象においてワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を治療または予防するための方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法。
実施形態3.薬物誘発性血小板減少症(DITP)またはワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を有するヒト対象において血小板数を増加させる方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法。
実施形態4.薬物誘発性血小板減少症(DITP)またはワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を有するヒト対象において血小板凝集を減少させる方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法。
実施形態5.投与の前に、ヒト対象が、以下:
a.高いD二量体レベル;
b.血栓症;および
c.抗血小板第4因子(PF4)抗体
から選択される少なくとも1つの特徴を有する、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
実施形態6.薬物誘発性血小板減少症(DITP)が、治療療法において見出される小分子、タンパク質、または構成要素、希釈剤、賦形剤または同様のものの投与によって誘発される、実施形態1および3~5のいずれか1つに記載の方法。
実施形態7.薬物誘発性血小板減少症(DITP)が、非分画ヘパリン、エノキサパリン、ダルテパリン、チンザパリン、アセノクマロール、アセトアミノフェン、アセチルジゴキシン、アルファカルシドール、アロプリノール、アルテプラーゼ、アンホテリシンB、アルガトロバン、アスピリン、アテノロール、アザチオプリン、ビバリルジン、ボルテゾミブ、カペシタビン、カプトプリル、カルバマゼピン、カルボプラチン、カルフィルゾミブ、セフトリアキソン、セファレキシン、クロルタリドン、シラスタチン/イミペネム、クロピドグレル、クロザピン、シクロシチジン、ダクチノマイシン/アクチノマイシン、デフェラシロクス、デフェリプロン、ジフルニサル、ジゴキシン、ジピリダモール、ドロスピレノン/エチニルエストラジオール、エルトロンボパグ、エポエチンアルファ、エポプロステノール、エプチフィバチド、ファモチジン、フルコナゾール、フルオロウラシル、フロセミド、フシジン酸、ガンシクロビル、ゲムシタビン、ゲンタマイシン、糖タンパク質IIB/IIA阻害剤、金、ヒドロクロロチアジド、ヒドロクロロチアジド/トリアムテレン、ヒドロキシクロロキン、イマチニブ、イナムリノン、インテグリリン、ITP薬、イキサゾミブ、レナリドミド、レベチラセタム、リネゾリド、メルペロン、メナテトレノン、メロペネム、メトトレキサート、メトプロロール、モルシドミン、ネダプラチン、ニコチンアミド、ニトロフラントイン、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)(例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブ、ジクロフェナク、および同様のもの)、オクトレオチド、パントプラゾール、ペニシラミン、フェニトイン、ピペラシリン、プロプラノロール、プロトンポンプ阻害薬、キニーネ、リファンピン、ルキソリチニブ、ルキソリチニブリン酸塩、シロリムス、スピロノラクトン、ストレプトキナーゼ、スルファメトキサゾール、スルフィソキサゾール、スニチニブ、タイコプラニン、テモゾロミド、テムシロリムス、チクロピジン、チロフィバン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、ウロキナーゼ、バルガンシクロビル、バルプロ酸、バンコマイシン、ワルファリン、またはそれらの組合せの投与によって誘発される、実施形態1および3~6のいずれか1つに記載の方法。
実施形態8.薬物誘発性血小板減少症(DITP)が、フィルグラスチム(顆粒球コロニー刺激因子;G-CSF)、インターフェロン、インターフェロンアルファ、ペグインターフェロンアルファ2B、ペグインターフェロンアルファ2B/リバビリン、第VIII因子、TNFアルファ、INFガンマ、またはそれらの組合せの投与によって誘発される、実施形態1および3~6のいずれか1つに記載の方法。
実施形態9.薬物誘発性血小板減少症(DITP)が、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、抗体-薬物コンジュゲート、抗胸腺細胞グロブリン、ブレンツキシマブ、シクスツムマブ、エファリズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、またはそれらの組合せの投与によって誘発される、実施形態1および3~6のいずれか1つに記載の方法。
実施形態10.ワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)が、ワクチンの投与によって誘発される、実施形態2~5のいずれか1つに記載の方法。
実施形態11.ワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)が、アデノウイルスベクターにおいて送達されるワクチンの投与によって誘発される、実施形態2~5および10のいずれか1つに記載の方法。
実施形態12.アデノウイルスベクターが、治療薬および/または予防薬を含む、実施形態11に記載の方法。
実施形態13.治療薬または予防薬が、遺伝子療法剤である、実施形態12に記載の方法。
実施形態14.ワクチンが、コロナウイルス感染症を防ぐためのものである、実施形態10~13のいずれか1つに記載の方法。
実施形態15.コロナウイルス感染症が、COVID-19である、実施形態14に記載の方法。
実施形態16.ワクチンが、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、水疱瘡、単純ヘルペスウイルス1、単純ヘルペスウイルス2、水疱瘡、ロタウイルス、インフルエンザ、黄熱、痘瘡、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス、肺炎球菌、A型肝炎、脾脱疽、ジフテリア、無細胞百日咳、インフルエンザ菌、例えば、タイプBなど、髄膜炎菌C、髄膜炎、腸チフス、狂犬病、ライム病、破傷風、またはそれらの任意の組合せから選択される感染症を予防するためのものである、実施形態10~13のいずれか1つに記載の方法。
実施形態17.化合物Iが、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル、(S)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルと(S)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルとの混合物;または上記化合物のうちのいずれかの個々の(E)もしくは(Z)異性体;および/または上記化合物のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である、実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
実施形態18.化合物Iが、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(E)異性体またはその薬学的に許容される塩である、実施形態17に記載の方法。
実施形態19.化合物Iが、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(Z)異性体またはその薬学的に許容される塩である、実施形態17に記載の方法。
実施形態20.化合物Iが、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物またはその薬学的に許容される塩である、実施形態17に記載の方法。
実施形態21.化合物IIが、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、(S)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルと(S)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの混合物、または上記化合物のうちのいずれかの個々の(E)もしくは(Z)異性体;および/または上記化合物のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である、実施形態1~17のいずれか1つに記載の方法。
実施形態22.化合物IIが、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(E)異性体またはその薬学的に許容される塩である、実施形態21に記載の方法。
実施形態23.化合物IIが、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(Z)異性体またはその薬学的に許容される塩である、実施形態21に記載の方法。
実施形態24.化合物IIが、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物またはその薬学的に許容される塩である、実施形態21に記載の方法。
【0016】
追加の目的および利点は、一部は以下の記述において詳細に説明され、一部はその記述から明らかになるであろうし、または実践によって学習され得る。目的および利点は、添付の特許請求の範囲において具体的に指摘された要素および組合せにより実現および達成されるであろう。
【0017】
先述の概略的な説明および以下の詳細な説明は両方とも、単なる例示および説明であり、特許請求の範囲の制限ではないことは理解されるべきである。
【0018】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、1つの(いくつかの)実施形態を例証するものであり、ならびに説明と共に本明細書に記載される原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】ワクチン誘発性血栓症を有する患者からの血清、および血小板減少症候群(VITT)が、FcγRIIAを介して血小板凝集を誘発することを示す図である。洗浄血小板(2×10
8/mL)を、静脈内免疫グロブリン(IVIg)治療の前および後に、または10μg/mLのIV.3F(ab)または低濃度ヘパリン(0.2U/mL)の存在下において、または熱不活性化(56℃、45分)後に、健康なドナー(HD)またはVITTを有する患者(P)からの血清(1:15、v/v)によって刺激した。血小板凝集を、各条件において測定した。
図1Aは、代表的な凝集跡を示す。
図1Bおよび1Cは、IVIg前および後の試料P2、P3、P4、およびP7(
図1B)ならびにIVIg後の試料P1、P5、およびP6(
図1C)ならびに血漿交換試料に対して10分間測定したときの、曲線下面積(AUC)による最大凝集の定量化を表す。平均±SEM、n=3。統計分析は、Dunnett多重比較による二元配置分散分析によって行った。
*p<0.05、ns:有意でない(non-significant)。
【
図1B】ワクチン誘発性血栓症を有する患者からの血清、および血小板減少症候群(VITT)が、FcγRIIAを介して血小板凝集を誘発することを示す図である。洗浄血小板(2×10
8/mL)を、静脈内免疫グロブリン(IVIg)治療の前および後に、または10μg/mLのIV.3F(ab)または低濃度ヘパリン(0.2U/mL)の存在下において、または熱不活性化(56℃、45分)後に、健康なドナー(HD)またはVITTを有する患者(P)からの血清(1:15、v/v)によって刺激した。血小板凝集を、各条件において測定した。
図1Aは、代表的な凝集跡を示す。
図1Bおよび1Cは、IVIg前および後の試料P2、P3、P4、およびP7(
図1B)ならびにIVIg後の試料P1、P5、およびP6(
図1C)ならびに血漿交換試料に対して10分間測定したときの、曲線下面積(AUC)による最大凝集の定量化を表す。平均±SEM、n=3。統計分析は、Dunnett多重比較による二元配置分散分析によって行った。
*p<0.05、ns:有意でない(non-significant)。
【
図1C】ワクチン誘発性血栓症を有する患者からの血清、および血小板減少症候群(VITT)が、FcγRIIAを介して血小板凝集を誘発することを示す図である。洗浄血小板(2×10
8/mL)を、静脈内免疫グロブリン(IVIg)治療の前および後に、または10μg/mLのIV.3F(ab)または低濃度ヘパリン(0.2U/mL)の存在下において、または熱不活性化(56℃、45分)後に、健康なドナー(HD)またはVITTを有する患者(P)からの血清(1:15、v/v)によって刺激した。血小板凝集を、各条件において測定した。
図1Aは、代表的な凝集跡を示す。
図1Bおよび1Cは、IVIg前および後の試料P2、P3、P4、およびP7(
図1B)ならびにIVIg後の試料P1、P5、およびP6(
図1C)ならびに血漿交換試料に対して10分間測定したときの、曲線下面積(AUC)による最大凝集の定量化を表す。平均±SEM、n=3。統計分析は、Dunnett多重比較による二元配置分散分析によって行った。
*p<0.05、ns:有意でない(non-significant)。
【
図2】VITTを有する患者からの血清によって誘発される血小板凝集を阻止する、リルザブルチニブによるBtk阻害の効果を示す図である。洗浄血小板(2×10
8/mL)を、リルザブルチニブ(0.5μM)またはビヒクル(0.02%のDMSO)を用いて10分間インキュベートし、次いで、VITTを有する患者の血清(1:15、v/v)によって刺激した。
図2Aは、代表的な凝集跡を示す。
図2Bは、最大凝集の定量化を示す。統計分析は、Dunnett多重比較による一元配置分散分析によって行った。平均±SEM、n=7。
*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
特に明記されない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される以下の用語は、本願の目的のために定義され、以下の意味を有する。本願において使用される全ての未定義の技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0021】
本明細書において使用される場合、「a」または「an」を伴う名詞は、そのものが1つまたはそれ以上であることを意味し;例えば、化合物(a compound)は、特に明記されない限り、1つまたはそれ以上の化合物または少なくとも1つの化合物を意味する。したがって、用語「1つの(「a」(または「an」))」、「1つまたはそれ以上の」、および「少なくとも1つの」は、本明細書において相互互換的に使用することができる。
【0022】
本明細書において使用される場合、用語「約(about)」は、およそ(「approximately」、「in the region of」、「roughly」、または「around」)を意味するために本明細書において使用される。用語「約」が、数値範囲に関連して使用される場合、説明された数値の上限および下限を拡張することによってその範囲を修飾する。一般的に、用語「約」は、本明細書において、5%の変動によって、言明された値を上回るおよび下回る数値を修飾するために使用される。特定の値に関して、対象集団(例えば、記載される臨床試験の対象)に対して本明細書において記載される特定の値は、特に明記されない限り、中央値、平均値、または統計的な数を表す。したがって、対象における特定の値を必要とする本開示の態様は、本明細書において、関連値が対象集団における重要な限界であると評価される集団データによって支持される。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「活性医薬成分」または「治療薬」(「API」)は、生物活性化合物を意味する。
【0024】
本明細書において使用される場合、用語「投与する」、「投与すること」、または「投与」は、本明細書において、健康な実行者または委任代理人のいずれかによって提供すること、与えること、投薬すること、および/もしくは処方すること、ならびに/または患者またはヒト自身によって注入すること、摂取すること、もしくは消費することを意味する。例えば、患者へのAPIの「投与」は、患者へAPIを導入または送達する任意の経路(例えば、経口送達)を意味する。投与は、自己投与および別の人による投与を包含する。
【0025】
本明細書において使用される場合、「免疫性血小板減少症」(ITP)は、一般的に使用される他の用語、例えば、特発性血小板減少症、および特発性血小板減少性紫斑病などを包含するかまたは少なくともそれも意味する。ITPには2つの主要なタイプ:短期(急性)および慢性(長期)が存在する。急性ITPは、典型的には、6カ月未満において続き、その一方で、慢性ITPは、6カ月以上続き得る。ITPは、複数の年齢層に影響し、子供、若者、および成人において見ることができる。
【0026】
ITPは、軽度または過度の皮下出血および出血を生じ得る障害である。出血は、血小板の異常に低いレベルに起因する。ITPは、構造的血小板抗原に対する抗体の発生に起因し得る。小児期のITPでは、抗体は、ウイルス抗原によって引き起こされ得る。成人では、原因は分かっていないが、ITPは、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染と関連付けられ、その感染の治療の後に、ITPの寛解が続いた。ITPは、妊娠中に悪化し得、母体罹病率のリスクを増加させ得る。いくつかの実施形態において、ITPは、薬物(すなわち、薬物誘発性免疫性血小板減少症;DITP)、例えば、小分子または抗体などによって誘発され得る。
【0027】
本明細書において使用される場合、「薬物誘発性免疫性血小板減少症」(DITP)は、対象が突然の重度の血小板減少症を有する場合に疑われ得る、急性の免疫性の血小板減少症を意味する。DITPは、薬物によって誘発される。DITPを誘発し得る例示的で非限定的な薬物としては、治療療法において使用される小分子、タンパク質、抗体、ならびに組成物および/または化合物が挙げられる。
【0028】
本明細書において使用される場合、「ワクチン誘発性免疫血栓症および血小板減少症」(VITT)は、血小板の低レベルを伴う血液凝固(すなわち、血小板減少を伴う血栓症)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、およびワクチンによって誘発される高死亡率の出血を意味する。いくつかの実施形態において、VITTは、COVID-19ワクチンによって誘発される。COVID-19ワクチンは、全ウイルス、弱毒化ウイルス、ウイルス粒子、タンパク質、核酸、および/またはウイルスベクターを含み得る。いくつかの実施形態において、COVID-19ワクチンは、ウイルスベクターワクチンである。いくつかの実施形態において、COVID-19ワクチンは、アデノウイルスベクターワクチンである。いくつかの実施形態において、当該ワクチンは、AZD1222(オックスフォード-アストラゼネカ;以前のChAdOx1 nCoV-19)である。VITTは、場合により、「ワクチン誘発性プロトロンビン免疫性血小板減少症」(VIPIT)と呼ばれ、両方が本明細書に包含される(すなわち、VITTは、VITTおよびVIPITを含む)。
【0029】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤」は、概して安全であり、生物学的にもそれ以外においても望ましくなくはない、医薬組成物の調製において有用なキャリアまたは賦形剤、例えば、哺乳動物用の製薬学的用途に対して許容されるキャリアまたは賦形剤などを意味する。
【0030】
本明細書において使用される場合、用語「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容され、塩が形成されたAPIの所望の薬理活性を保持する、活性医薬品の塩形態、例えば、酸付加塩を意味する。薬学的に許容される塩は、当技術分野において周知であり、好適な無機および有機酸から得られるものを含む。そのような塩としては、これらに限定されるわけではないが、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、および同様のものなどによって形成される塩;または、有機酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、および同様のものなどによって形成される塩が挙げられる。S.M.Bergeらは、J.Pharmaceutical Sciences、1977、66、1~19において薬学的に許容される塩について詳細に説明している。
【0031】
本明細書において使用される場合、用語「化合物(I)」、「リルザブルチニブ」、「(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル」、および「2-[(3R)-3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]-ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル」は、下記の構造を有する化合物を意味するために相互互換的に使用され:
【化3】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]。
【0032】
リルザブルチニブの用量は、約5重量%未満の不純物質として、例えば、約1重量%未満の不純物質としてなど、対応する(S)鏡像異性体を含み得る。同様に、リルザブルチニブの(E)異性体の用量は、約1重量%未満の不純物質として、対応する(Z)異性体を含み得;リルザブルチニブの(Z)異性体の用量は、約1重量%未満の不純物質として、対応する(E)異性体を含み得る。リルザブルチニブが、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物と称される場合、それは、混合物中の(E)または(Z)異性体の量が約1重量%を超えることを意味する。いくつかの実施形態において、(E)異性体と(Z)異性体のモル比は、9:1である。
【0033】
本明細書において使用される場合、「化合物(II)」および「アツザブルチニブ」は、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、(S)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、の(E)異性体、(Z)異性体、または(E)および(Z)異性体の混合物、または以下の構造を有する2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(R)および(S)鏡像異性体の混合物を意味するために相互互換的に使用され:
【化4】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]。
【0034】
化合物(II)が、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルと称される場合、それは、5重量%未満の不純物質、例えば、1重量%未満の不純物質としてなど、対応する(S)鏡像異性体も含み得る。したがって、化合物(II)が、2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(R)および(S)鏡像異性体の混合物と称される場合、混合物中の(R)または(S)鏡像異性体の量は、1重量%を超える。同様に、化合物(II)が、(E)異性体と称される場合、それは、5重量%未満、例えば、1重量%未満の不純物質として、対応する(Z)異性体を含み得る。したがって、化合物(II)が、2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物と称される場合、混合物中の(E)または(Z)異性体の量は、1重量%を超える。
【0035】
いくつかの実施形態において、化合物(II)は、2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(R)および(S)鏡像異性体の混合物である。
【0036】
いくつかの実施形態において、化合物(II)は、実質的に、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルである。いくつかの実施形態において、化合物(II)は、少なくとも約75重量%、例えば、少なくとも約80重量%、少なくとも約85重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%が(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルである。いくつかの実施形態において、化合物(II)は、少なくとも約95重量%が(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルである。
【0037】
本明細書において使用される場合、用語「治療有効量」は、化合物が投与されるその目的の所望の効果(例えば、DITPもしくはDITPの症状の改善、またはDITPもしくはDITPの症状の重症度の軽減、またはVITTもしくはVITTの症状の改善、またはVITTもしくはVITTの症状の重症度の軽減)を生じる当該化合物の量を意味する。有効量の正確な量は、治療の目的に依存するであろうし、既知の技術を使用する当業者によって確認可能であろう(例えば、Lloyd(1999)The Art、Science and Technology of Pharmaceutical Compoundingを参照されたい)。
【0038】
本明細書において使用される場合、用語「治療する」、「治療すること」、または「治療」は、障害または状態に関連して使用される場合、任意の効果、例えば、結果として障害または状態の改善を生じる、軽減、減少、調整、改善、または排除を包含する。障害または状態の任意の症状の重症度の改善または軽減は、当技術分野において既知の標準的方法および技術に従って容易に評価することができる。
【0039】
「予防すること」は、本明細書に使用される場合、疾患、障害、または状態に罹りやすくあり得るが依然として疾患、障害、または状態とは診断されていない対象における疾患、障害、または状態の発症または再発に対する予防を提供することを包含する。特に明記されない限り、用語「予防する」、「予防」、「減少させる」、「阻害する」、または「予防する」は、全治療期間における完全な予防を意味するまたは必要とするわけではない。
【0040】
説明に従って、それを必要とするヒト対象において薬物誘発性血小板減少症(DITP)を治療または予防するための方法であって、化合物(I):
【化5】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]、
化合物(II):
【化6】
[式中、
*Cは、立体化学中心である]、
およびその薬学的に許容される塩
から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法が、本明細書において提供される。
【0041】
それを必要とするヒト対象においてワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を治療または予防するための方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法も、本明細書において提供される。
【0042】
いくつかの実施形態において、薬物誘発性血小板減少症(DITP)またはワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を有するヒト対象において血小板数を増加させる方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法。
【0043】
いくつかの実施形態において、薬物誘発性血小板減少症(DITP)またはワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を有するヒト対象において血小板凝集を減少させる方法であって、化合物(I)、化合物(II)、およびその薬学的に許容される塩から選択される少なくとも1つのBTK阻害剤の治療有効量をヒト対象に投与する工程を含む上記方法。
【0044】
各場合において、いくつかの実施形態では、投与の前に、ヒト対象は、以下:高いD二量体レベル、血栓症;および抗血小板第4因子(PF4)抗体から選択される少なくとも1つの特徴を有する。
【0045】
薬物誘発性血小板減少症(DITP)に関連する実施形態において、DITPは、治療療法において見出される小分子、タンパク質、または構成要素、希釈剤、賦形剤または同様のものの投与によって誘発され得る。
【0046】
いくつかの実施形態において、薬物誘発性血小板減少症(DITP)は、非分画ヘパリン、エノキサパリン、ダルテパリン、チンザパリン、アセノクマロール、アセトアミノフェン、アセチルジゴキシン、アルファカルシドール、アロプリノール、アルテプラーゼ、アンホテリシンB、アルガトロバン、アスピリン、アテノロール、アザチオプリン、ビバリルジン、ボルテゾミブ、カペシタビン、カプトプリル、カルバマゼピン、カルボプラチン、カルフィルゾミブ、セフトリアキソン、セファレキシン、クロルタリドン、シラスタチン/イミペネム、クロピドグレル、クロザピン、シクロシチジン、ダクチノマイシン/アクチノマイシン、デフェラシロクス、デフェリプロン、ジフルニサル、ジゴキシン、ジピリダモール、ドロスピレノン/エチニルエストラジオール、エルトロンボパグ、エポエチンアルファ、エポプロステノール、エプチフィバチド、ファモチジン、フルコナゾール、フルオロウラシル、フロセミド、フシジン酸、ガンシクロビル、ゲムシタビン、ゲンタマイシン、糖タンパク質IIB/IIA阻害剤、金、ヒドロクロロチアジド、ヒドロクロロチアジド/トリアムテレン、ヒドロキシクロロキン、イマチニブ、イナムリノン、インテグリリン、ITP薬、イキサゾミブ、レナリドミド、レベチラセタム、リネゾリド、メルペロン、メナテトレノン、メロペネム、メトトレキサート、メトプロロール、モルシドミン、ネダプラチン、ニコチンアミド、ニトロフラントイン、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)(例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブ、ジクロフェナク、および同様のもの)、オクトレオチド、パントプラゾール、ペニシラミン、フェニトイン、ピペラシリン、プロプラノロール、プロトンポンプ阻害薬、キニーネ、リファンピン、ルキソリチニブ、ルキソリチニブリン酸塩、シロリムス、スピロノラクトン、ストレプトキナーゼ、スルファメトキサゾール、スルフィソキサゾール、スニチニブ、タイコプラニン、テモゾロミド、テムシロリムス、チクロピジン、チロフィバン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、ウロキナーゼ、バルガンシクロビル、バルプロ酸、バンコマイシン、ワルファリン、またはそれらの組合せの投与によって誘発される。
【0047】
いくつかの実施形態において、薬物誘発性血小板減少症(DITP)は、フィルグラスチム(顆粒球コロニー刺激因子;G-CSF)、インターフェロン、インターフェロンアルファ、ペグインターフェロンアルファ2B、ペグインターフェロンアルファ2B/リバビリン、第VIII因子、TNFアルファ、INFガンマ、またはそれらの組合せの投与によって誘発される。
【0048】
いくつかの実施形態において、薬物誘発性血小板減少症(DITP)は、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、抗体-薬物コンジュゲート、抗胸腺細胞グロブリン、ブレンツキシマブ、シクスツムマブ、エファリズマブ、ナタリズマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、またはそれらの組合せの投与によって誘発される。
【0049】
ワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)に関連する実施形態において、VITTは、ワクチンの投与によって誘発され得る。いくつかの実施形態において、(VITT)は、アデノウイルスベクターにおいて送達されるワクチンの投与によって誘発される。ある特定の態様において、アデノウイルスベクターは、治療薬および/または予防薬を含む。いくつかの実施形態において、治療薬または予防薬は、遺伝子療法剤である。いくつかの実施形態において、ワクチンは、コロナウイルス感染症を防ぐためのものである。いくつかの実施形態において、コロナウイルス感染症は、COVID-19である。いくつかの実施形態において、ワクチンは、AZD1222(オックスフォード-アストラゼネカCOVID-19ワクチン)である。
【0050】
いくつかの実施形態において、ワクチンは、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、水疱瘡、単純ヘルペスウイルス1、単純ヘルペスウイルス2、水疱瘡、ロタウイルス、インフルエンザ、黄熱、痘瘡、B型肝炎、ヒトパピローマウイルス、肺炎球菌、A型肝炎、脾脱疽、ジフテリア、無細胞百日咳、インフルエンザ菌、例えば、タイプBなど、髄膜炎菌C、髄膜炎、腸チフス、狂犬病、ライム病、破傷風、またはそれらの任意の組合せから選択される感染症を予防するためのものである。
【0051】
いくつかの実施形態において、化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル、(S)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリル、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルと(S)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルとの混合物;または上記化合物のうちのいずれかの個々の(E)もしくは(Z)異性体;および/または上記化合物のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である。
【0052】
いくつかの実施形態において、化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(E)異性体またはその薬学的に許容される塩である。
【0053】
いくつかの実施形態において、化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(Z)異性体またはその薬学的に許容される塩である。
【0054】
いくつかの実施形態において、化合物Iは、(R)-2-[3-[4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシ-フェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-カルボニル]-4-メチル-4-[4-(オキセタン-3-イル)ピペラジン-1-イル]ペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0055】
いくつかの実施形態において、化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、(S)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリル、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルと(S)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルとの混合物、または、上記化合物のうちのいずれかの個々の(E)もしくは(Z)異性体;および/または上記化合物のうちのいずれかの薬学的に許容される塩である。
【0056】
いくつかの実施形態において、化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(E)異性体またはその薬学的に許容される塩である。
【0057】
いくつかの実施形態において、化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(Z)異性体またはその薬学的に許容される塩である。
【0058】
いくつかの実施形態において、化合物IIは、(R)-2-(3-(4-アミノ-3-(2-フルオロ-4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-カルボニル)-4,4-ジメチルペンタ-2-エンニトリルの(E)および(Z)異性体の混合物またはその薬学的に許容される塩である。
【実施例1】
【0059】
方法
A.対象
アストラゼネカワクチンAZD1222(以前はChAdOx1 nCoV-19)によるワクチン接種の後に生じた、血栓症および血小板減少症を示す患者を募集した。
【0060】
B.抗体および試薬
ヒトCD32に対するマウスモノクローナルIgG2b抗体(IV.3)を、ハイブリドーマ細胞上清から精製し、IV.3 F(ab)断片を、Pierce Fab Preparationキット(Thermo Fisher Scientific、カタログ#44985)を使用して作製した。
【0061】
血清の調製:患者および健康なドナーの血清を、凝固した全血の遠心分離(2000×g、10分、室温(RT))の後に採取した。患者の血清を、デキサメタゾンおよび静脈内免疫グロブリン(IVIg;実施例2の表1を参照されたい)による治療の前後に採取した。
【0062】
C.ヒト血小板の調製
洗浄血小板を、Nicolsonら、Low-dose BTK inhibitors selectively block platelet activation by CLEC-2、Haematologica 106(1):208~19(2021)に記載される通りに、クエン酸全血から調製した。簡潔に説明すると;クエン酸血を、健康な無薬物ボランティアから採取し、クエン酸デキストロースと混合し(1:10、v/v)、遠心分離して(200×g、20分、室温)、多血小板血漿を作製した。次いで、多血小板血漿を、0.2μg/mLのプロスタサイクリンの存在下において遠心分離した(1000×g、10分、室温)。血小板ペレットを、Nicolsonらに記載される通りに調製した改変Tyrode’s-HEPES緩衝液、クエン酸デキストロース、および0.2μg/mLのプロスタサイクリンに再懸濁させ、遠心分離した(1000×g、10分、室温)。血小板ペレットを、2×108/mLの濃度まで改変Tyrode’s-HEPES緩衝液に再懸濁させ、使用前に30分間静置した。
【0063】
D.透過光凝集検査法(LTA)
血清による刺激の後に(1:15、v/v)、20分間、透過光血小板凝集計(Model 700、ChronoLog)を使用して、洗浄血小板(2×108/mL)において37℃で撹拌しながら(1200rpm)、凝集を測定した。血清による刺激の前に、洗浄血小板を、IV.3 F(ab)を用いて5分間、または阻害剤を用いて10分間、予備インキュベートした。ビヒクルとして改変Tyrode’s-HEPES緩衝液またはジメチルスルホキシド(DMSO)を使用した。
【0064】
E.統計分析
全てのデータは、平均±平均の標準誤差(SEM)として示され、p<0.05は、統計的に有意であると見なした。統計分析は、多重比較に対するDunnett補正による一元配置または二元配置分散分析を使用して、GraphPad Prism9(GraphPad Software Inc.)において実施した。
【実施例2】
【0065】
結果
A.ワクチン誘発性血栓症および血小板減少症候群(VITT)を有する患者は、血栓症、血小板減少症、高いD二量体レベル、および抗血小板第4因子(PF4)抗体を示す
VITTを有する7人の患者の、プレゼンテーション、調査結果、治療、および転帰を、表1にまとめる。
【0066】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0067】
7人全ての患者は、50歳未満の白人であり、以前に、症状的COVID-19を有したことはなかった。患者は、血栓症を示し(6人の患者は脳静脈洞血栓症[CVST]を有し、1人の患者は虚血性脳卒中を有した)、最初のAZD1222ワクチン接種後9~14日で血小板減少症を示した。全ての患者が頭痛を示し、1人は、AZD1222の投薬後10~14日で、表出性不全失語症も有した。プレゼンテーションにおいて、臨床研究は、全ての患者が、非常に高いD二量体および低いフィブリノゲンレベルを伴う、血小板減少症である(範囲:7~113×109血小板/L)ことを明らかにした。4人の患者は男性であり、3人の患者は女性であった。
【0068】
ヘパリンへの事前暴露を行っていないにもかかわらず、抗血小板第4因子(PF4)IgGアッセイ(Immucor カタログ#HAT45G)を用いたヘパリン誘発性血小板減少症(HIT)スクリーニングは、全ての患者において強い反応性を示した。ヘパリン誘発性血小板活性化(HIPA)アッセイ(HITAlert(商標)キット;IQ製品カタログIQP-396)を使用することにより、試験した患者の4人の血清は、低濃度のヘパリンによって減少され、高濃度のヘパリンによって遮断された患者の血清と比較して、血小板活性化を示した。これらの結果は、VITTを有する他の患者の報告と同様である。例えば、Greinacherら、Thrombotic thrombocytopenia after ChAdOx1 nCov-19 vaccination、N Engl J Med、doi:10.1056/NEJMoa2104840(2021);Schlutzら、Thrombosis and thrombocytopenia after ChAdOx1 nCoV-19 vaccination、N Engl J Med、doi:10.1056/NEJMoa2104882(2021)を参照されたい。脳断層撮影は、3人の患者において、脳静脈洞血栓症(CVST)および脳内出血を、ならびに1人の患者において、内頸動脈の動脈血栓によって引き起こされた虚血性脳卒中を確認した。
【0069】
全ての患者が、VITTに対する英国血液学会のガイドラインによって推奨される、静脈内免疫グロブリン(IVIg)およびステロイドデキサメサゾンを受けた(英国血液学会、血栓症および血小板減少症(VITT)を誘発するCovid-19ワクチンに焦点を当てた専門家血液学パネル(EHP)から作製されたガイダンス、b-s-h.org.uk/media/19530/guidance-version-13-on-mngmt-of-thrombosis-with-thrombocytopenia-occurring-after-c-19-vaccine_20210407.pdf(2021))。血小板数は、プレゼンテーション後24時間に死亡した1人を除いて全ての患者において1~4日間において改善した。これを書いている時点で、3人の患者が回復し、退院して、現在は正常な血小板数であり、1人の患者は入院中であり、2人の患者は、CVSTの後遺症および二次脳内出血が原因で死亡した。ダビガトランを摂取した退院患者の1人は、血小板減少症および頭痛を再発したが、退院後8週間において、血栓症またはD二量体の増加はなく、IVIgおよびコルチコステロイドによる反復治療を必要とした。2人の患者は、血漿交換を受けた。注目すべきことに、IVIgは、血小板活性化を誘発するHIT抗体を急速に阻害することも分かっている。Warkentin、High-dose intravenous immunoglobulin for the treatment and prevention of heparin-induced thrombocytopenia:a review、Expert Rev Hematol 12(8):685~98、doi:10.1080/17474086.2019.1636645(2019)。患者は、非ヘパリン抗凝血剤も受け、2人の患者は、集中治療室サポートを必要とした。
【0070】
B.VITTを有する患者からの血清は血小板凝集を誘発する
血清を、健康なドナーおよびVITTを有する患者から採取した。患者1は、IVIgが投与された後に採取された血清を有した。患者2、3および4は、IVIg投与の前後の両方に採取した血清を有した。患者2は、最初の血清採取前にデキサメタゾンを受けた。血小板活性化に対する効果を調べるために、これらの血清を洗浄血小板に加え、血小板凝集を測定した(
図1A~1C)。VITTを有する患者からの血清は、血小板ドナーに応じて様々な程度に血小板凝集を引き起こし、それは、IVIg治療後血清において無効化された。低力価抗PF4抗体は、健康な個人のわずかな比率において、ワクチン接種後に発生することが分かっているが;しかしながら、それらは、血小板凝集を引き起こさなかった。凝集は、IVIgに対して臨床的に応答せず血漿交換を必要とした2人の患者を除いて、IVIg治療後に阻害された(
図1A)。これら2人の患者において、凝集応答は、血漿交換後に阻止された。エプチフィバチド治療は、応答は、凝集(aggregation)であり、凝着(agglutination)ではないことを確認した。応答することが知られている健康なドナーからの血小板において各血清試料に対して、3回の反復を実施した。
【0071】
インテグリンαIIbβ3阻害剤エプチフィバチド(9μM)の添加は、患者の血清に対する応答を阻害し、これが、凝着(agglutination)ではなく凝集(aggregation)であることを確認した(データは示されず)。
【0072】
C.VITTを有する患者からの血清に対する血小板凝集は、FcγRIIA遮断および熱不活性化によって無効化される
HITにおける血小板活性化は、FcγRIIAの抗体媒介性クラスタリングによって生じる。Greinacherら、Autoimmune heparin-induced thrombocytopenia、J Thromb Haemost 15(11):2099~114(2017)。同様のメカニズムがVITTに関与しているか否かを決定するために、本発明者らは、抗FcγRIIAブロッキングIV.3 F(ab)を使用した。患者の血清による血小板活性化は、IV.3 F(ab)の存在下では無効化され、このことは、VITTにおける血小板活性化がFcγRIIAによって媒介されることを実証した(
図1A)。
【0073】
患者の血清と併用した、HITにおけるPF4およびヘパリンの効果を評価した。PF4および低濃度のヘパリンの両方が、HITアッセイにおいて血小板応答を増強することが分かっているが、その一方で、高濃度のヘパリンは、全ての応答を阻害する。Rubinoら、A comparative study of platelet factor 4-enhanced platelet activation assays for the diagnosis of heparin-induced thrombocytopenia、H Thrombo Haemost 19(4):1096~102(2021);Vayneら、Beneficial effect of exogenous platelet factor 4 for detecting pathogenic heparin-induced thrombocytopenia antibodies、Br J Haematol 179(5):811~9(2017);Padmanabhanら、A novel PF4-dependent platelet activation assay identifies patients likely to have heparin-induced thrombocytopenia/thrombosis、Chest150(3):506~15(2016)。患者2の血清に対して観察された部分的な凝集の増強は、10μg/mLのPF4存在下において観察されなかった(データは示されず)。低濃度のヘパリンは、HITアッセイにおいて血小板応答を増強することが知られているが、その一方で、高濃度のヘパリンは、阻害性である。対照的に、低濃度(0.2U/mL)のヘパリンは、凝集を防ぐか(7人の患者中5人)または遅延させる(7人の患者中2人)。高いヘパリン濃度(100U/mL)は、凝集を阻止する(
図1B~1C)。
【0074】
FcγRIIAを介して血小板を活性化する免疫複合体が、COVID-19によって重症の患者において報告されている。ヘパリンに曝露され、血小板減少症および血栓症を示しているこれらの患者において、anti-PF4抗体の欠如およびヘパリンに対して非依存性の血小板活性により、HITは除外された。これらの免疫複合体による血小板活性化は、低濃度および高濃度の両方のヘパリンによって阻止された。本発明者らは、ヘパリンが血小板凝集を阻止することを観察し、これは、VITTを有する患者でのヘパリン使用を差し控える決定を、おそらく再考すべきであることを示している。非分画ヘパリン治療は、VITTを有する1人の患者において、有害効果なく、報告されている。
【0075】
重度のCOVID-19を有する患者からの抗SARS-CoV-2スパイクタンパク質IgG抗体は、アポトーシスを誘発し、FcγRIIAによって媒介される、血小板におけるホスファチジルセリンの外在化を増加させることが分かっているが、IgG凝集体または免疫複合体は、患者の血清から単離することができなかった。同様のメカニズムが、VITTを有する患者において生じる可能性がある。FcγRIIAの活性化は、ホスファチジルセリン曝露および凝血促進性血小板を生じさせることができ、それは、VITTを有する患者において観察された広範な血栓症および血小板減少症を引き起こし得る。血清における他の源(例えば、トロンビンおよび補体など)からの血小板活性化を排除するために、活性化を引き起こした3人の患者の血清の熱不活性化(56℃、45分)を使用した。Warkentinら、The platelet serotonin-release assay、Am J Hematol 90(6):564~72、doi:10.1002/ajh.24006(2015)。患者の血清の熱不活性化は、7人の患者のうちの3人において凝集を阻止し(
図1A)、その一方で、凝集に対する軽度の効果が、コンプスタチン(C3a阻害剤)およびFUT-175(C3、C4、およびC5阻害剤;データは示されず)において観察された。これらの研究結果は、補体は重要ではないが、血小板活性化を補強し得ることを示している。エクリズマブ(抗C5モノクローナル抗体)治療が、抗凝血剤およびIVIgまたは血漿交換が失敗した、VITTを有する2人の患者において報告されている。両方の患者は、急速に改善した。VITT病理学において、内皮、単核細胞、および好中球、ならびに血小板を伴う広範囲の血栓性炎症反応を媒介する補体の関与は、考慮されるべきである。VITTを有する患者における正常な血清補体レベルは、報告されている。
【0076】
D.リルザブルチニブによるブルートンのチロシンキナーゼ(Btk)の阻害はVITT患者の血清によって誘発される血小板凝集を阻止する
本発明者らは、Btk阻害剤であるリルザブルチニブ(0.5μMの濃度を達成するためにDMSOにおいて調製したリルザブルチニブ粉末(最終的に0.02%のDMSO))が患者の血清における血小板凝集を防ぐことができるか否かを試験した。
図2A~2Bに示されるように、リルザブルチニブは、患者の血清における血小板凝集を防いだ(
図2A~B)。リルザブルチニブは、3μg/mLのコラーゲンまで凝集を完全に阻害した(結果は示されず)。
【0077】
同等物
上述の明細書は、当業者が実施形態を実践するのを可能にするのに十分であると考えられる。上記の説明および実施例は、ある特定の実施形態を詳述し、本発明者らによって検討された最適な様式を説明する。しかしながら、上記の説明が本文においてどれほど詳細であり得ても、実施形態は、多くの方式において実践してもよく、ならびに添付の特許請求の範囲およびその任意の同等物に従って解釈されるべきである。
【0078】
本明細書において使用される場合、「約」なる用語は、明確に示されているか否かにかかわらず、例えば、整数、分数、および割合などの数値を意味する。「約」なる用語は、概して、当業者が列挙された値と同等であると考える(例えば、同じ機能または結果を有する)数値の範囲(例えば、列挙された範囲の+/-5~10%)を意味する。例えば、「少なくとも」および「約」などの用語が、数値または範囲のリストに先行する場合、この用語は、リストにおいて提供される値または範囲の全てを修飾する。いくつかの場合において、「約」なる用語は、最も近い有効数字に四捨五入された数値を含み得る。
【国際調査報告】