(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-01
(54)【発明の名称】乾燥させている製品における表面水分活性を推定する方法
(51)【国際特許分類】
F26B 21/08 20060101AFI20240325BHJP
A23B 4/00 20060101ALI20240325BHJP
A23B 4/03 20060101ALI20240325BHJP
F26B 21/10 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
F26B21/08
A23B4/00 Z
A23B4/03 501A
A23B4/03 502D
F26B21/10
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023563173
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2022059449
(87)【国際公開番号】W WO2022218861
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】202110404907.4
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520023880
【氏名又は名称】ビスコファン テクノロジー (スージョウ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カルロス・マリア・ロンゴ
(72)【発明者】
【氏名】フアン・ネグリ・サンペル
【テーマコード(参考)】
3L113
【Fターム(参考)】
3L113AB02
3L113AC20
3L113AC67
3L113BA02
3L113BA16
3L113BA29
3L113BA30
3L113CA08
3L113CA09
3L113CB40
3L113DA09
3L113DA13
(57)【要約】
乾燥機と乾燥されている製品の表面水分活性awsを推定するための方法であって、乾燥機は少なくとも一つの乾燥機の雰囲気の相対湿度HRプローブと温度プローブとを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥機内において乾燥されている製品の表面水分活性awsを推定する方法であって、
前記方法が、コンピュータ手段によって実行される
前記製品の乾燥工程の間の時点tiにおける前記乾燥機の雰囲気の相対湿度HRi値および/または絶対湿度Habs
i値のセットを取得するステップと、
前記製品の乾燥工程の間の相対湿度HRi値に基づくHR
ri(%)代表値のセットを取得するステップと、
HRi値および/またはHabs
i値とti値とのセットに基づいて蒸発率TE
i値のセットを取得するステップと、
関数F(α,β)=F(HRri,TE
i)の回帰直線を得るステップであって、
式中、α=HReq、β=0またはβ=TEmax、α=0であり、
式中、HReqは空気と乾燥されている製品の表面とが平衡状態の時の相対湿度であり、
式中、TEmaxは乾燥機の空気のHRが0の時の最大蒸発率である、ステップと、
HReqに基づいて、乾燥されている製品のaws値を推定するステップであって、aws=HReq/100であるステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記相対湿度HR
ri(%)代表値のセットがHR
ri(%)=(HR
i+HR
i+1)/2に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相対湿度HR
ri(%)代表値のセットがHR
ri(%)=HR
iまたはHR
ri(%)=HR
i+1に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記相対湿度HR
ri(%)代表値のセットがHR
ri(%)=Me(HR
i+HR
i+1+…+HR
i+N)に対応し、式中、Meはデータ数Nの算術平均である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸発率TE
i値のセットを取得するステップが、TE
i=(HR
i+1―HR
i)/(t
i+1-t
i)またはTE
i=(Habs
i+1-Habs
i)/(t
i+1-t
i)に対応する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
乾燥されている製品の表面水分活性awsを推定するための乾燥機であって、
前記乾燥機は前記乾燥機の雰囲気用の少なくとも1つの相対湿度HRプローブと温度プローブとを備え、
前記乾燥機はコンピュータ媒体を備え、前記コンピュータ媒体は、
前記少なくとも1つの相対湿度HRプローブと温度プローブとを用いて製品乾燥工程における時点tiの乾燥機の雰囲気の相対湿度HRi値および/または絶対湿度Habs
i値のセットを取得することと、
製品乾燥工程における相対湿度HRi値に基づいて代表値HR
ri(%)のセットを取得することと、
HRi値および/またはHabs
i値とti値とのセットに基づいて蒸発率TE
i値のセットを取得することと、
関数F(α,β)=F(HRri,TE
i)の回帰直線を取得することであって、
式中、α=HReq、β=0またはβ=TEmax、α=0であり、
式中、HReqは空気と乾燥されている製品の表面が平衡状態の時の相対湿度であり、
式中、TEmaxは乾燥機内の空気のHRが0であった場合の最大蒸発率である、ことと、
HReqに基づいて、乾燥されている製品表面のaws値を推定することであって、aws=HReq/100であることと、を行うように構成されたことを特徴とする乾燥機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥させている製品における表面水分活性を推定する方法およびその方法を実施する乾燥設備(facilities)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気乾燥は多くの製品で使用されている。例えば、チーズ、特にソーセージ、とりわけ燻製(cured)ソーセージなどの食品である。例えば、サラミなどのソーセージは、所望の熟成度を得られるまで、乾燥チャンバー内において長く、高度に制御された乾燥工程にかけられる。最終的に最適な特性のソーセージを得るためには、これらのチャンバーにおける熟成および乾燥工程を制御することが不可欠である。
【0003】
例えば、サラミの準備では最初に肉混合物(meat mixture)に所望の添加物を加え、これを例えば高口径のケーシングに詰めこむ。肉製品はもともと水分活性(aw)が高く、awを徐々に連続的に下げて、保存性が高く微生物学的に安定した低awな肉製品にする必要がある。乾燥工程は製品の緩やかな乾燥を保証するため、チャンバー内の時間、温度(T)、相対湿度(HR%)を非常に注意深い手順によって実施されなければならない。なぜなら、もし十分に制御されなければ、「クラスティング(crusting)」と呼ばれる欠陥が生じ得るからである。実際、その目的は乾燥が、例えば数週間や数か月など商業的に可能な限り早くすることかつ、ソーセージの表面が乾燥しすぎることのない乾燥速度で、ソーセージの芯が徐々に乾燥しきってしまうことを防ぐことでもある。
【0004】
ある雰囲気と接触している物体が乾燥するためには、その物体のaw(例えばaw≒0.56)が接触している雰囲気のHR%(例えば、50%HR)より大きい、または、その物体がaw≒0.50に匹敵するような雰囲気相当物(equivalent form)の中に置かれている必要がある。この場合、雰囲気と物体の両方のawが同じとなる平衡状態になるまで、雰囲気による物体の乾燥が発生する。例えば、もし物体の質量がとても小さく、HR%が50%(aw≒0.50に相当)である無限の容量の大気中に置かれた場合、最終的に物体は乾燥してaw≒0.50となり、HR%が50%である大気と平衡状態となる。awが一定で小さな物体の場合、このようになる。
【0005】
しかし、例えばサラミなどの厚いソーセージのような乾燥中の物体において、例えば乾燥に28日間かかるような場合、サラミの芯のaw(当初はソーセージ肉製品の初期awにとても近い)から、サラミの表面のaw(aws)(接触している雰囲気のawと平衡になる傾向がある)に至るまで、物体内部においてawの勾配が存在し得る。この勾配は、awが低下している表面層の乾燥に依存して、動的であり、内部の隣接する層の乾燥が促進され、外側に向かう正味の移動と、したがって正味の乾燥とが起こる。ソーセージ内部のawのプロファイル(profile)は乾燥中に変化し、またこれまでに行われた乾燥工程の履歴に依存し、したがって乾燥工程は静的ではなく段階的で動的な工程をたどる。
【0006】
乾燥工程の原動力は雰囲気のawとソーセージのawの間に存在するawの勾配であり、この勾配が0の場合、すなわち、「雰囲気のaw≒ソーセージのaw」の場合、両方の構成要素(雰囲気とソーセージ)は平衡状態になり、雰囲気とソーセージの間で物質(matter)の正味の流れは発生しない。一方、「雰囲気のaw<<ソーセージのaw」である場合、雰囲気に向かってソーセージの強い乾燥が発生し、接触面におけるawの正味の差分が大きければ大きいほどより強い乾燥となる。この工程では、この影響に関わるソーセージのawは、ソーセージの表面のaw(つまり、aws)である。何故ならば、この領域が雰囲気に接触しているからである。一方、ソーセージ内部(例えば、ソーセージの芯)のaw(は外部雰囲気のawと直接は作用し合わないため、ソーセージの全ての内層を通じた拡散による間接的かつ遅い乾燥にしかならない。
【0007】
したがって、ソーセージのような製品の乾燥工程を追うためには、ソーセージ表面に接触する雰囲気のawとソーセージ表面のaw(aws)とを制御することが肝要となる。
【0008】
古典的なソーセージの製造において、ソーセージの乾燥工程はソーセージ製造業者の職人技によって管理されており、ソーセージ製造業者はソーセージおよび乾燥雰囲気の見かけの乾燥度を絶えず監視し、乾燥工程を加速もしくは減速するために、例えば乾燥チャンバーの窓を開けたり閉めたりするなど、全て経験的かつ伝統的な手法によって対処していた。
【0009】
現代においては既に、この工程は技術的手段によってより厳格に管理され始めている。
【0010】
例えば、第1項(雰囲気のaw)は乾燥チャンバー内部におけるセンサーなどのHR%プローブ(probe)によって連続的に測定され、工程全体を通して空気のHR%と温度(T)は測定および記録される。
【0011】
しかし、第2項に関して、ソーセージのawsを測定することは第1項(雰囲気のaw)ほど単純なことではない。実際、温湿度計プローブは空気サンプルのTとHR%を簡単かつ継続的に記録する一方、例えばある平衡状態になった後のプローブと製品の間の空気室の平衡HR%を取得するためには、プローブはソーセージ表面と接触しなければならない。その後、プローブはソーセージ表面自体の乾燥工程の邪魔になるため、次の測定を実施する前に片づける必要がある。そのため、ソーセージのawsの測定は、特に継続的に実施する場合において複雑かつ難しくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえ、乾燥工程を追うために、乾燥されている製品のawsを推定する単純かつ早い方法を得ることが望ましい。本発明はそのような要望を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の長所は下記である:
- 乾燥中の製品のawsを、従来の乾燥オーブン用のHR%プローブで推定することができ、ソーセージ用の高価な表面プローブを必要としない;
- 本発明の工程は単純でほとんど時間がかからないため、製品、特に食品およびソーセージ、とりわけ燻製(cured)ソーセージの乾燥工程の制御に使用することができる。
【0014】
- 本発明の工程では、例えば赤外線プローブによる表面温度測定や表面湿度プローブによるawsまたは熱流の測定などのような肉製品の複雑な測定は用いられず、一般的な乾燥機の設備(乾燥機雰囲気の内部温度プローブおよびHR%プローブなど)で、製品に応じたパラメータ(製品のawsや蒸発率(evaporation rate)(TE)など)を間接的に推定するので、例えばサラミなどの十分な乾燥工程、熟成工程の管理および制御を補助することができる。
【0015】
それゆえ、第1の観点として、本発明は乾燥機において乾燥されている食品の表面水分活性awsを推定する方法に関するものであり、本発明の工程はコンピュータ手段によって実行される下記ステップを含む。
【0016】
製品乾燥工程の時点tiにおける乾燥機内の雰囲気の複数の相対湿度HRiおよび/または絶対湿度Habsi値を取得し、製品乾燥工程中の相対湿度HRi値に基づく複数の代表相対湿度HRri値のセットを取得する。
【0017】
本方法はさらに、HRi(%)および/またはHabsiおよびti値のセットに基づく複数の蒸発率TEi値のセットを取得することを含む。
【0018】
本方法はまた、α=HReq、β=0またはα=0、β=TEmaxであるような関数F(α,β)=F(HRri,TEi)の回帰直線を得ることを含む。
【0019】
好ましい実施形態において、変数αはX座標軸上に表され、変数βはY座標軸上に表され、F(X,Y)=F(HRri,TEi)となり、式中、X=Hreq,Y=0またはY=TEmax、X=0となる)。
【0020】
式中、HReqは乾燥されている空気および製品表面が平衡状態にある時の相対湿度、TEmaxは乾燥機内の空気のHRが0である時の最大蒸発率である。
【0021】
本方法は最終的にaws=HReq/100であるようなHReqに基づいて乾燥されている製品のaws値を推定することを含む。
【0022】
第2の観点として、本発明は乾燥されている食品の表面水分活性awsを推定するための乾燥機に関するものであって、乾燥機は少なくとも一つの乾燥機の空気の相対湿度HR%プローブと、温度プローブと、製品乾燥工程中の時点における乾燥機内空気の複数の相対湿度HRiおよび/もしくは絶対湿度Habsi値を取得するプローブによって取得するように構成されたコンピュータ手段とを含む。
【0023】
加えて、前述の計算手段は、相対湿度HRri(%)の複数の代表値のセットを取得するように構成されている。
【0024】
さらに、前述の計算手段は、HRiおよび/またはHabsiおよびti値に基づく複数の蒸発率TEi値のセットを取得するように構成されている。
【0025】
加えて、前述の計算手段は、α=HReq、β=0またはα=0、β=TEmaxであるような関数F(α,β)=F(HRri,TEi)の回帰直線を得るように構成されている。
【0026】
好ましい実施形態において、変数αはX座標軸上に表され、変数βはY座標軸上に表され、F(X,Y)=F(HRri,TEi)となり、式中、X=Hreq,Y=0またはY=TEmax、X=0となる
式中、HReqは空気と乾燥されている製品表面とが平衡状態にある時の相対湿度、TEmaxは乾燥機内の空気のHRが0である時の最大蒸発率である。
【0027】
加えて、前述のコンピュータ手段はaws=HReq/100であるようなHReqに基づいて乾燥されているaws値を取得するように構成されている。
【0028】
好ましい実施形態において、代表相対湿度HRri(%)値のセットは、HRri(%)=(HRi+HRi+1)/2と表される。
【0029】
好ましい実施形態において、代表相対湿度HRri(%)値のセットは、HRri(%)=HRi;または、HRri(%)=HRi+1と表される。
【0030】
好ましい実施形態において、代表相対湿度HRri(%)値のセットは、HRri(%)=Me(HRi+HRi+1…HRi+1)と表される。式中、Meは算術的な意味、Nは整数であり、例えばN=100である。
【0031】
好ましい実施形態において、蒸発率TE値のセットは、TEi=(HRi+1-HRi)/(ti+1-ti);または、TEi=(Habsi+1-Habsi)/(ti+1-ti)と表される。
【0032】
本発明の他の変更例
本発明は特に熟成肉製品の分野、例えばサラミについての適用を説明しているが、説明した方法は乾燥食品、粉末、木材、紙など、製品一般の乾燥制御にも適用することができる。
【0033】
本発明は乾燥時間が長期間、例えば何週間にも渡る適用について説明したが、説明した方法はそれぞれ何時間、何分または測定値の調整といった遥かに短い期間の乾燥制御にも適用可能である。
【0034】
本発明は製品重量が減少する場合についての乾燥方法について詳細に説明したが、逆の工程、すなわち重量増加、またはその両方、すなわち、乾燥段階と乾燥以外の段階を経る工程にも適用することができる。
【0035】
本発明に係る工程は同等の条件(例えば空気流)を有する選択された区間、および、例えば出口、乾燥機への外部空気の入り口または結露によって外部と質量交換を行っていない閉鎖系において使用されることが望ましい。もしそうでなければ、得られる結果は正確性を欠くものになる可能性がある。
【0036】
説明を補足するため、および本推定方法の特徴をより理解しやすくするため、本推定手法の実施の実用的な好ましい例に係る、上記説明の不可欠な一部分として図面一式を添付するが、あくまでも例示であり、限定される目的はない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】乾燥工程における乾燥機下端の温度、相対湿度および風速の変化の周期を表す図である。
【
図2】
図1の周期における最初の値の範囲から得られたデータのグラフ表示である。
【
図3】
図1の周期における最初の値の範囲から得られたデータのグラフ表示である。
【
図4】
図1の周期における最初の値の範囲から得られたデータのグラフ表示である。
【
図5】
図1の周期における二つ目の値の範囲から得られたデータのグラフ表示である。
【
図6】
図1の周期における二つ目の値の範囲から得られたデータのグラフ表示である。
【
図7】
図1の周期における二つ目の値の範囲から得られたデータのグラフ表示である。
【
図8】本発明に係る方法によって得られた回帰直線のセットを3Dグラフ表示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
例1
測定段階
図1は肉製品の乾燥工程のそれぞれの期間における乾燥機下端の温度、相対湿度および風速の周期であるグラフ(100)を示す。特に、
図1は乾燥工程における「期間4:86~90%、16~18℃」に相当する。
【0039】
一例として、
図1のグラフ(100)に示される時間:4132~4162.5分における区間データが選択され、表1から以下の詳細点が選択される。分単位のデータは時間単位に変換されている。
【0040】
【0041】
【0042】
計算段階
表1のデータから、ある測定点から次の測定点までの連続した区間を選択する。点1と点2に相当する区間1(時間t1と時間t2)、点2と点3に相当する区間2、といった具合である。
【0043】
各区間の代表HRrを、各点と次の点のHR平均値とする。例えば、区間1の場合、HRr=(HR1+HR2)/2である。
【0044】
他の実施形態では、HRrは平均値ではなく他の代表相対湿度であってもよい。例えば、HRr=HR1またはHRr=HR2などであってもよく、これらは、HRの複数の値の算術平均Meである。
【0045】
各区間の代表TEを、この例ではある点と次の点間におけるHRおよびtの差分の比率としている。例えば、区間1の場合、TE1=(HR2-HR1)/(t2-t1)である。
【0046】
従って表2のデータが得られる。
【0047】
【0048】
表現と推定の段階
図3には表2のデータがxy座標のグラフ(300)として表示されている。ここでHRrは変数x、TEは変数yとして示されている。
図4のグラフ(400)には表2におけるデータの回帰直線も追加されている。
【0049】
回帰直線のX切片、Y切片としてそれぞれ以下の点が得られる。X切片:xy座標からHReq値が得られる(X=HReq=93.4%、Y=0)。Y切片:xy座標からTEmax値が得られる(X=0、Y=TEmax=1228.1)。
【0050】
パラメータの推定
乾燥されている製品の表面の推定aws値は、前のステップで得られた空気のHReq値に対応し、割合で表示される(HReq=93.4%、aws=93.4/100=0.934)。
【0051】
解釈:この場合、乾燥機内の空気のHRが93.4%である時にTEは0になることから、乾燥されている製品のawsは約0.934であると決定され、空気と乾燥されている製品の両方はある一方からもう一方へ蒸発することなく平衡となる。この平衡点において、awsとHReqの値は一致し、一方はソーセージの表面、もう一方は乾燥機の空気に相当する。それゆえ、本発明に係る方法を用いると、乾燥機内の空気のパラメータを通じて、直接測定することなく間接的に、乾燥されている製品のawsが推定される。
【0052】
HRrの各点におけるTE値は、得られた回帰直線を外挿することによって得ることができる。グラフ(300)中で得られたTEmax値に対応するTEの最大値の推定値はTEmax=1228.1となる。
【0053】
この場合、TEmaxの単位はHR/hourに対応する。
【0054】
解釈:TEmaxは、乾燥機の空気のHR%をHR=0%とすることで得られるTEに対応する。この場合、TEは、乾燥機内の空気が完全に乾燥した空気(HR=0%)である場合に(残りの条件が変わらないのであれば)最大値となる。TEmaxが異常に小さい値である場合、乾燥されている製品の表面がとても乾燥していること、および、たとえ乾燥機内の空気がHR=0%であったとしても乾燥されている製品の蒸発率が大きく下がることを意味し、乾燥機の空気のHRを非常にゆっくりとしか上昇させることができない(TEが非常に低い)。
【0055】
例2
測定段階
図1のグラフ(100)に示される「期間4:86~90%、16~18℃」の4173.5~4211.5分であるデータ区間が選択され、表3において次の詳細な点が選択される。データt(分)は時間に変換される。
【0056】
【0057】
【0058】
計算段階
表3のデータから、ある点とその次の点間の連続区間を選択する。区間1は点1と点2(時間t1とt2の間)、区間2は点2と点3の間、といった具合にそれぞれ対応する。
【0059】
各区間の代表HRrは、各点とその次の点の平均HRとする。例えば、区間1の場合、HRr=(HR1+HR2)/2となる。
【0060】
例2においては追加データが考慮され、本発明の方法が汎用的であることを示している。
【0061】
HRとT(℃)の値から、通常の湿度の方程式(psychrometric equation)を用いることで、空気のHabs(g/m3)が算出される。これらの値は表3において追加の列として含まれる。
【0062】
例2において、各区間の代表TEはある点とその次の点におけるHabsの差分およびtの差分の比率とする。例えば、区間1の場合、TE=(Habs2-Habs1)/(t2-t1)となる。
【0063】
従って表4のデータが得られる。
【0064】
【0065】
表現と推定の段階
図6のグラフ(600)はxyグラフであり、表4のデータが示される。HRrは変数x、TEは変数yである。
図7のグラフ(700)ではデータの回帰直線が追加されている。
【0066】
回帰直線をX軸とY軸まで外挿することで、次の点が得られる。X切片:xy座標からHreq値が得られる(X=HReq=93.9%、Y=0)。Y切片:xy座標からTEmax値が得られる(X=0、Y=TEmax=302.48)。
【0067】
パラメータの推定
乾燥されている製品表面の推定aws値は前の段階で得られた空気のHReq値に対応し、割合で表示される(HReq=93.9%、aws=93.9/100=0.939)。
【0068】
解釈:この場合、乾燥機内の空気のHRが93.9%の時にTEは0に低下するため、乾燥されている製品のawsは約0.939であると決定される。そして、空気と乾燥されている製品の表面の両方は一方からもう一方へ正味の蒸発を伴うことなく平衡状態になる。その平衡点において、awsとHReqの両方の値は一致する。
【0069】
HRrの各点におけるTE値は得られた回帰直線を外挿することによって得られる。
【0070】
最大蒸発率の推定値はグラフ(700)で得られるTEmax値に対応する(TEmax=302.48)。
【0071】
この場合、TEとTEmaxの単位はg/m3/hに対応する。すなわち、乾燥機内の空気の単位体積(m3)に含まれる蒸発量(g)の時間(h)あたりの増加量である。これにより現在のTEとTEmaxに関して定量的な推定が可能となる。
【0072】
解釈:TEmaxは乾燥機内の空気のHRが0%である時に達成されるTEに対応する。この場合、TEは乾燥機内において完全に乾燥した空気(HR=0%)が用いられた時(残りの条件が変わらないのであれば)に到達する最大値となる。TEmaxの値が異常に低い場合、ソーセージの表面がとても乾燥していること、および、たとえ乾燥機内の空気が0%HRであったとしても乾燥されている製品の蒸発率がとても遅くなることを意味し、乾燥機内の空気のHRがとても緩やかにしか上昇しない(とても低いTE)。
【0073】
加えて、サラミなどの乾燥されている製品の製造者がその工程に対して、乾燥機の空気容量、乾燥機内に設置されているソーセージの総質量、ソーセージの質量の成分、ソーセージの総表面などの追加データを取り込む場合、単位時間あたりに蒸発した総質量、毎日のソーセージの質量減少分、kg/m2/日としての蒸発量など、その工程の定量的な推定を単純な方法によって追加で得ることができる。
【0074】
例3
図8は本発明の方法により得たデータの回帰直線のセットの3Dグラフ(800)を示す。これらの回帰直線により下記の部分的な追跡が可能となる。
【0075】
XY平面において、HReqの切片(cut off points)は時間に関してのawsの進展の軌跡を示しており、これは乾燥工程の異なる段階におけるソーセージの直接的で詳細な測定によって得られたものと同様である。製品は高いaws(エマルジョン状の肉のawに近い)から始まり、例えば乾燥された肉製品のように、乾燥されている製品の終わりのawで安定するまで徐々に低下する。
【0076】
XZ平面において、TEmaxの切片(cut off points)は時間に関してのTEmaxの進展の軌跡を示しており、その軌跡は時間に関する乾燥割合の軌跡のグラフに類似している。TEmaxは最初とても高く、内部寄与が蒸発に対してすぐに十分な質量に寄与する間、TEmaxは維持される。ある点(臨界乾燥点のような点)から、最大蒸発割合であるTEmaxは、内部寄与が蒸発に対して表面に十分な質量を寄与することができなくなり、低下を始める。最終的にTEは、製品がほとんど乾燥し雰囲気と平衡状態になる時、とても低い値となる。
【0077】
YZ平面において、本発明の工程によって得られた回帰直線は重畳される。製品乾燥段階が進むにつれて、回帰直線は低い値において徐々にY軸と切片(cut off point)を持つことが観察される。その直線の傾きも変化し、その傾きは乾燥段階の初期においてより大きく、製品が既にとても乾燥された最終段階においてはより小さくなることが徐々に観察される。
【0078】
XYZ空間において、現在の乾燥点(drying points)HRr、TE、tは直線の束上に分布しており、これらは直線の傾きを変化させる。非常に高いTE値(とても強い蒸発)が何点かある場合、TEmaxの値は減少すること(クラスティング(crusting)欠陥の症状)が可能となる。
【0079】
グラフ(800)の回帰直線と回帰直線を平面上に投影した側方軌跡とを比較することによって、標準的な工程の例と比較することができる。標準的な軌跡から離れてしまった点や区間の部分的な軌跡が現れるということは、クラスティング(crusting)発生によるTEmaxの異常減少、または、DFD(dark firm dry)肉の使用もしくは肉エマルジョンの高pHや例えば肉エマルジョンのpHを十分に低下させない弱い発酵などによる他の要因に関連した低TEmax値など、工程において再検討するべき例外的な状況が発生しているということを示している可能性がある。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥機内において乾燥されている製品の表面水分活性awsを推定する方法であって、
前記乾燥機は、乾燥機の雰囲気用の少なくとも1つの相対湿度HRプローブを備え、
前記方法が、コンピュータ手段によって実行される
前記少なくとも1つの相対湿度HRプローブによって、前記製品の乾燥工程の間の時点tiにおける前記乾燥機の雰囲気の
相対湿度HRi値のセットを取得するステップと、
前記製品の乾燥工程の間の相対湿度HRi値に基づくHR
ri(%)代表値のセットを取得するステップと、
HRi値およびti値のセットに基づいて蒸発率TE
i値のセットを取得するステップと、
関数F(α,β)=F(HRri,TE
i)の回帰直線を得るステップであって、
式中、α=HReq、β=0またはβ=TEmax、α=0であり、
式中、HReqは空気と乾燥されている製品の表面とが平衡状態の時の相対湿度であり、
式中、TEmaxは乾燥機の空気のHRが0の時の最大蒸発率である、ステップと、
HReqに基づいて、乾燥されている製品のaws値を推定するステップであって、aws=HReq/100であるステップと、を含む方法。
【請求項2】
乾燥機内において乾燥されている製品の表面水分活性awsを推定する方法であって、
前記乾燥機は乾燥機の雰囲気用の少なくとも1つの温度プローブと相対湿度HRプローブとを備え、
前記方法が、コンピュータ手段によって実行される
前記少なくとも1つの温度プローブと相対湿度HRプローブとによって、製品の乾燥工程の間の時点tiにおける前記乾燥機の温度T値と雰囲気の相対湿度HRi値とのセットを取得するステップと、
温度T値および相対湿度HRi値のセットから、製品の乾燥工程の間の時点tiにおける乾燥機の雰囲気の絶対湿度Habs
i
値のセットを取得するステップと、
前記製品の乾燥工程の間の相対湿度HRi値に基づくHR
ri
(%)代表値のセットを取得するステップと、
Habs
i
値およびti値のセットに基づいて蒸発率TE
i
値のセットを取得するステップと、
関数F(α,β)=F(HRri,TE
i
)の回帰直線を得るステップであって、
式中、α=HReq、β=0またはβ=TEmax、α=0であり、
式中、HReqは空気と乾燥されている製品の表面とが平衡状態の時の相対湿度であり、
式中、TEmaxは乾燥機の空気のHRが0の時の最大蒸発率である、ステップと、
HReqに基づいて、乾燥されている製品のaws値を推定するステップであって、aws=HReq/100であるステップと、を含む方法。
【請求項3】
前記相対湿度HR
ri(%)代表値のセットがHR
ri(%)=(HR
i+HR
i+1)/2に対応する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記相対湿度HR
ri(%)代表値のセットがHR
ri(%)=HR
iまたはHR
ri(%)=HR
i+1に対応する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記相対湿度HR
ri(%)代表値のセットがHR
ri(%)=Me(HR
i+HR
i+1+…+HR
i+N)に対応し、式中、Meはデータ数
N+1の算術平均である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸発率TE
i値のセットを取得するステップが、TE
i=(HR
i+1―HR
i)/(t
i+1-t
i)またはTE
i=(Habs
i+1-Habs
i)/(t
i+1-t
i)に対応する、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
乾燥されている製品の表面水分活性awsを推定するための乾燥機であって、
前記乾燥機は前記乾燥機の雰囲気用の少なくとも1つの
相対湿度HRプローブを備え、
前記乾燥機はコンピュータ媒体を備え、前記コンピュータ媒体は、
前記少なくとも1つの相対湿度HRプローブを用いて製品乾燥工程における時点tiの乾燥機の雰囲気の
相対湿度HRi値のセットを取得することと、
製品乾燥工程における相対湿度HRi値に基づいて代表値HR
ri(%)のセットを取得することと、
HRi値およびti値のセットに基づいて蒸発率TE
i値のセットを取得することと、
関数F(α,β)=F(HRri,TE
i)の回帰直線を取得することであって、
式中、α=HReq、β=0またはβ=TEmax、α=0であり、
式中、HReqは空気と乾燥されている製品の表面が平衡状態の時の相対湿度であり、
式中、TEmaxは乾燥機内の空気のHRが0であった場合の最大蒸発率である、ことと、
HReqに基づいて、乾燥されている製品表面のaws値を推定することであって、aws=HReq/100であることと、を行うように構成されたことを特徴とする乾燥機。
【請求項8】
乾燥されている製品の表面水分活性awsを推定するための乾燥機であって、
前記乾燥機は前記乾燥機の雰囲気用の少なくとも1つの相対湿度HRプローブと温度プローブとを備え、
前記乾燥機はコンピュータ媒体を備え、前記コンピュータ媒体は、
前記少なくとも1つの相対湿度HRプローブと温度プローブとを用いて、製品乾燥工程における時点tiの乾燥機の雰囲気の温度T値および相対湿度HRi値のセットを取得することと、
温度T値および相対湿度HRi値のセットから、製品乾燥工程における時点tiの乾燥機の雰囲気の絶対湿度Habs
i
値のセットを取得することと、
製品乾燥工程における相対湿度HRi値に基づいて代表値HR
ri
(%)のセットを取得することと、
Habs
i
値およびti値のセットに基づいて蒸発率TE
i
値のセットを取得することと、
関数F(α,β)=F(HRri,TE
i
)の回帰直線を取得することであって、
式中、α=HReq、β=0またはβ=TEmax、α=0であり、
式中、HReqは空気と乾燥されている製品の表面が平衡状態の時の相対湿度であり、
式中、TEmaxは乾燥機内の空気のHRが0であった場合の最大蒸発率である、ことと、
HReqに基づいて、乾燥されている製品表面のaws値を推定することであって、aws=HReq/100であることと、を行うように構成されたことを特徴とする乾燥機。
【国際調査報告】