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特表2024-514347JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤を含む医薬組成物及びその医薬用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-01
(54)【発明の名称】JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤を含む医薬組成物及びその医薬用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/505 20060101AFI20240325BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
A61K31/505
A61P37/02
A61P17/00
A61P43/00 111
A61P17/04
A61P37/08
A61P17/14
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/14
A61K9/08
A61K9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564175
(86)(22)【出願日】2022-04-20
(85)【翻訳文提出日】2023-10-19
(86)【国際出願番号】 CN2022087872
(87)【国際公開番号】W WO2022222948
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】202110436177.6
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519108051
【氏名又は名称】深▲セン▼微芯生物科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN CHIPSCREEN BIOSCIENCES CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】21F-24F, Building B, Zhigu Industrial Park, Shuguang Community, Xili Street, Nanshan District, Shenzhen Guangdong 518057, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黄 聖健
(72)【発明者】
【氏名】魯 先平
(72)【発明者】
【氏名】潘 徳思
(72)【発明者】
【氏名】趙 一如
(72)【発明者】
【氏名】張 倩
(72)【発明者】
【氏名】鐘 華
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA54
4C076AA56
4C076BB01
4C076BB31
4C076CC07
4C076CC18
4C076DD40
4C076EE53
4C076FF01
4C076FF11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA21
4C086MA23
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZA92
4C086ZB07
4C086ZB13
4C086ZC20
(57)【要約】
JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の新たな使用が開示される。動物実験から、JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は自己免疫性皮膚疾患、特に円形脱毛症及びアトピー性皮膚炎のような炎症性皮膚疾患に対して顕著な治療効果及び改善効果を有することが証明された。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するための医薬品の製造におけるJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の使用であって、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、及びN-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドからなる群より選択された化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;より好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;さらに好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミドであり、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは、1単位の製剤における用量が20~600mgであり、
前記自己免疫性皮膚疾患は、好ましくは炎症性皮膚疾患であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎であり、さらに好ましくは円形脱毛症である使用。
【請求項2】
自己免疫性皮膚疾患の治療又は予防又は改善におけるJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の使用であって、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、N-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドからなる群より選択された化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;より好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;さらに好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミドであり、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは20~600mg/回/日の投与量で投与され、
前記自己免疫性皮膚疾患は、好ましくは炎症性皮膚疾患であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎であり、さらに好ましくは円形脱毛症である使用。
【請求項3】
治療有効量のJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤を含み、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、N-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドからなる群より選択された化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;より好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;さらに好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミドであり、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは、1単位の製剤における用量が20~600mgであり、
前記自己免疫性皮膚疾患は、好ましくは炎症性皮膚疾患であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎であり、さらに好ましくは円形脱毛症であることを特徴とする、自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するために用いられる医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物が、潤滑剤、接着剤、充填剤、防腐剤、界面活性剤、着色剤、矯味剤、乳化剤、懸濁化剤、希釈剤、ゲル化剤、崩壊剤、pH調整剤、可溶化剤、及びそれらの組み合わせからなる群より選択された薬学的に許容されるアジュバントをさらに含ることを特徴とする、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が、錠剤、丸剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、注射剤、錠剤、又は徐放性製剤であり得ることを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するための医薬品の製造、或いは自己免疫性皮膚疾患の治療又は予防又は改善における、請求項3~5のいずれか1項に記載の自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するために用いられる医薬組成物の使用であって、
前記自己免疫性皮膚疾患は、好ましくは炎症性皮膚疾患であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎であり、さらに好ましくは円形脱毛症である使用。
【請求項7】
請求項3~5のいずれか1項に記載の自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するために用いられる医薬組成物を含む医薬キットであって、
前記自己免疫性皮膚疾患は、好ましくは炎症性皮膚疾患であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎であり、さらに好ましくは円形脱毛症であることを特徴とする、医薬キット。
【請求項8】
必要とする個体に治療又は予防又は改善有効量のJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤を投与することを含み、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、及びN-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドからなる群より選択された化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;より好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であり;さらに好ましくは、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミドであり、
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、好ましくは、20~600mg/回/日の投与量で投与され、
前記自己免疫性皮膚疾患は、好ましくは炎症性皮膚疾患であり、より好ましくはアトピー性皮膚炎であり、さらに好ましくは円形脱毛症である、自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物技術の分野に関し、特にJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤を含む医薬組成物及びその医薬用途に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫性皮膚疾患は、免疫系が自己抗原に免疫反応することにより免疫の不均衡となり、皮膚損傷を引き起こす皮膚疾患の一種である。自己免疫性皮膚疾患には多くの種類があるだけでなく、多くの免疫性疾患には皮膚症状も含まれる。一般に、多くの場合非常にかゆみのある鱗状の皮膚を伴う乾癬、主に皮膚組織の内層に影響を及ぼして手と足の近くの皮膚の肥厚を引き起こす強皮症、多くの場合大きな膿の詰まった水疱を特徴とする水疱性疾患、主に頭皮に影響を及ぼして脱毛を引き起こす円形脱毛症という4つの疾患と診断されることが大半である。免疫系は非常に複雑であるため、ほとんどの自己免疫性皮膚疾患は原因が不明であり、疾患の進展が複雑で、治療が困難である。
【0003】
自己免疫性皮膚疾患のうちの皮膚炎を呈する皮膚疾患は、自己免疫障害による炎症性皮膚疾患である。自己免疫障害による炎症性皮膚疾患には、多様な臨床症状があり、様々なタイプの皮膚損害を引き起こす恐れがあり、患者は、皮膚の発赤、腫れ、乾燥又はかゆみを経験したり、皮膚の水疱、滲出液、傷跡化又は落屑を経験したりすることがあり、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、神経性皮膚炎、虫刺され皮膚炎などが含まれている。
【0004】
アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis,AD)は、アトピー性湿疹、特発性皮膚炎、特異的皮膚炎としても知られており、かつて「異位性皮膚炎」、「遺伝アレルギー性皮膚炎」と呼ばれたことがあり、慢性、再発性、典型的な炎症性皮膚疾患であり、その病因はまだ分かられていないが、遺伝、免疫、環境要因、皮膚バリア機能の異常に関係している可能性があると考えられている。一般的な臨床症状としては、皮膚の乾燥、湿疹様の皮疹、激しいかゆみなどが挙げられ、症状が重篤な場合は日常生活までに悪影響を及ばす場合がある。アトピー性皮膚炎は、他のアレルギー性疾患を合併しているかどうかにより、単純型と混合型の2種類に分けられる。単純型皮膚炎は皮膚炎としてのみ現れる。さらに内因性タイプと外因性タイプに分けられる場合もあり、外因性タイプの患者では血清総IgE、特異的IgEレベル及び末梢血好酸球が上昇するが、内因性タイプでは上記の変化が明らかではないか、又は存在しない。内因性アトピー性皮膚炎は見逃されやすい。混合型皮膚炎は、皮膚炎の症状に加えて、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎及びアレルギー性結膜炎を合併する場合がある。アトピー性皮膚炎(AD)は一般的な皮膚疾患の1つであり、通常、乳児や幼児に初めて発症し、全患者の約60%が1歳未満で発症し、最も多くは生後2か月以降に発症し、成人に発症することもあり、世界中で重大な公衆衛生問題となっている。先進国では、小児におけるこの病気の罹患率が10%~20%にも達する。中国では、1998年の学齢期の青少年(6~20歳)の総罹患率は0.70%で、2002年の10都市の未就学児(1~7歳)の罹患率は2.78%であった。過去30年間で、ADの発生率が世界中で徐々に増加しており、発展途上国で罹患率が大きく増加していることは、都市化、工業化に関連しているだろうと考えられている。中国でも、過去20年間でアトピー性皮膚炎の罹患率が徐々に増加していた。
【0005】
一般に「ゴースト坊主頭」として知られる円形脱毛症(alopecia areata,AA)は、脱毛域の境界が明瞭で、傷跡がなく、炎症反応を伴わない突然の局所的な斑状の脱毛である。その病因は、まだ明らかになっていないが、精神的ストレス、内分泌、遺伝及び自己免疫などに関連していると考えられている。基本的な病因としては、一つ目は、人体の免疫系が外部微生物の侵入を認識および抵抗する役割を担っている一方、免疫系におけるTリンパ球が機能障害に陥り、正常な細胞を区別できなくなり、毛包を攻撃し、特異的な免疫反応を引き起こし、正常な毛包の構造を破壊し、異常な発毛、色素生成の減少及び斑状の脱毛を引き起こす場合があるという免疫機能障害であり、二つ目は、研究によって示されるように、25%の円形脱毛症患者に家族歴があるという遺伝のことである。なお、円形脱毛症が遺伝に関連していることは、同一の遺伝子を持つ一卵性双生児は二卵性双生児よりも両方ともに円形脱毛症に罹患する確率がはるかに高いということからも示唆されている。その誘発要因としては、一つ目は、睡眠障害や、うつ病、憂鬱、不安などによる精神的ストレスが円形脱毛症を誘発又は悪化させる恐れがよくあるという精神的・心理的要因であり、二つ目は、アトピー性皮膚炎や、自己免疫性甲状腺疾患、慢性リンパ球性甲状腺炎(橋本病)、亜急性甲状腺炎、尋常性白斑、エリテマトーデス、シェーグレン症候群、糖尿病、ダウン症などの疾患を患う場合、人体の免疫機能が影響されて、健常の人より円形脱毛症が発生する恐れが高くなるという免疫に影響する基礎疾患であり、三つ目は、ウイルス感染、ある薬物の使用、ワクチン接種などの様々な誘因が免疫機能障害を引き起こし円形脱毛症を誘発する場合のような他の要因である。
【0006】
WO2016041472A1には、選択的JAK3及び/又はJAK1キナーゼ阻害剤としての芳香族複素環式化合物の一般式構造が記載されており、具体的に、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、N-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドなどの一連の具体的な化合物の構造が開示され、また上記の化合物のキナーゼ活性データも開示されている。ところが、上記の化合物が円形脱毛症などの自己免疫性皮膚疾患や炎症性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎など)の治療に使用できるという関連報告はまだない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の発明の目的を達成するために、本発明は以下の技術案を提供する。
【0009】
自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するための医薬品の製造、或いは自己免疫性皮膚疾患の治療又は予防又は改善における、JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の使用。
【0010】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、N-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドからなる群より選択された化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であることが好ましい。
【0011】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であることが好ましい。
【0012】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミドであることが好ましい。
【0013】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、1単位の製剤における用量が20~600mgであることが好ましい。
【0014】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、20~600mg/回/日の投与量で投与されることが好ましい。
【0015】
これに対応して、本発明はまた、自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するために用いられる医薬組成物を提供することを目的とする。上記の発明の目的を達成するために、本発明は以下の技術案を提供する。
【0016】
治療有効量のJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤を含む、自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するための医薬組成物が提供される。前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、N-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドからなる群より選択された化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であることが好ましい。
【0017】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であることが好ましい。
【0018】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミドであることが好ましい。
【0019】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、1単位の製剤における用量が20~600mgであることが好ましい。
【0020】
前記医薬組成物は、薬学的に許容されるアジュバントをさらに含むことが好ましい。前記薬学的に許容されるアジュバントは、潤滑剤、接着剤、充填剤、防腐剤、界面活性剤、着色剤、矯味剤、乳化剤、懸濁化剤、希釈剤、ゲル化剤、崩壊剤、pH調整剤、可溶化剤、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることが好ましい。これらのアジュバントは、適切な剤形に応じて適宜選択され得ること、及びそれらの含有量が具体的な必要に応じて変化され得ることが当業者にとって分かられている。
【0021】
ある実施形態において、前記医薬組成物は、注射剤、錠剤、丸剤、錠剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、及び徐放性製剤などの任意の適切な剤形であってもよい。
【0022】
ある実施形態において、本発明の薬物は経口投与されることができる。
【0023】
ある実施形態において、本発明の薬物は、例えば腹腔内、筋肉内、動脈内、静脈内、皮下、皮内などの経路により非経口投与されることができる。
【0024】
本発明の別の態様において、自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するための医薬品の製造、又は自己免疫性皮膚疾患の治療又は予防又は改善における、上記の自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するために用いられる医薬組成物の使用が提供される。
【0025】
これに対応して、本発明はまた、上記の自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するために用いられる医薬組成物のいずれかを含む医薬キットを提供することを目的とする。
【0026】
これに対応して、本発明はまた、必要とする個体に治療又は予防又は改善有効量のJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤を投与することを含む自己免疫性皮膚疾患を治療又は予防又は改善するための治療方法を提供することを目的とする。前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-トリフルオロメチルベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミド、N-(3-(5-クロロ-2-(4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニルアミノ)ピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-ジメチルアミノベンズアミド、N-(3-(2-(3-アクリルアミド-4-フルオロ-フェニルアミノ)-5-クロロピリミジニル-4-アミノ)プロピル)-4-フルオロベンズアミドからなる群より選択された化合物、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体であることが好ましい。
【0027】
前記化合物は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド、又はその薬学的に許容される塩、又はその立体異性体から選択されることが好ましい。
【0028】
前記化合物は、N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミドであることが好ましい。
【0029】
前記JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は、20~600mg/回/日の投与量で投与されることが好ましい。
【0030】
本発明に記載されている自己免疫性皮膚疾患は、炎症性皮膚疾患であることが好ましく、アトピー性皮膚炎であることがより好ましい。
【0031】
本発明に記載されている自己免疫性皮膚疾患は円形脱毛症であることが好ましい。
【0032】
定義:
本発明に記載されている「薬用可能な塩」又は「薬学的に許容される塩」とは、JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤と薬学的に許容される酸との反応により調製された酸付加塩、或いは酸性基を有する化合物と薬学的に許容される塩基との反応により生成された塩を指す。ここで、前記薬学的に許容される酸は、無機酸(塩酸や、硫酸、リン酸、臭化水素酸など)、及び有機酸(シュウ酸や、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸など)から選択されることが好ましい。前記薬学的に許容される塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、アンモニア水、及び重炭酸アンモニウムなどから選択されることが好ましい。
【0033】
本発明における前記立体異性体には、配座異性体、エナンチオ異性体、及びジアステレオ異性体が含まれる。
【0034】
本発明における前記「治療又は予防又は改善有效量」とは、最小制限量と最大量の間にあり、かつ毒性反応を引き起こすことなく生体に明らかな治療効果を生じる可能な用量を指す。
【発明の効果】
【0035】
本発明の有益な效果:本発明では、JAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤は自己免疫性皮膚疾患、特に円形脱毛症やアトピー性皮膚炎のような炎症性皮膚疾患に対して顕著な治療効果や改善効果を有することが動物実験において証明された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、実施例1の試験終点で得られた一般的な観察、検出及び分析の統計結果(脾臓重量比、耳の厚さ)を示す。
図2図2は、実施例1の試験終点で得られた血清及び組織の病理検出及び分析統計結果(IgE、耳表皮の厚さ、耳表皮の肥満細胞数)を示す。
図3図3は、実施例2の投薬期間中の各実験群における円形脱毛症面積の変化率を示すグラフである。
図4図4は、実施例2の投薬期間中の各実験群におけるマウスの背中の円形脱毛症部位での発毛及び円形脱毛症面積の変化を示す比較写真である。
図5図5は、実施例2の試験終点での各実験群におけるマウスの脾臓重量及び脾臓重量比の比較統計結果を示す。 グラフ中、「*」はモデル群とブランク群の比較を表し、「#」は投与群とモデル群の比較を表す。「*」及び「#」はp<0.05を表し、「**」及び「##」はp<0.01を表し、「****」はp<0.0001を表す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、自己免疫性皮膚疾患、特に円形脱毛症や特異的皮膚炎のような炎症性皮膚炎に対するJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の治療又は予防又は改善効果を開示する。当業者なら、本明細書の内容を参照して、本発明に対していくつかの改良及び修飾を行い得る。なお、当業者にとって自明である類似の置換や修正は本発明に含まれるものと見なされることに留意されたい。本発明に係る使用及び医薬組成物は、好ましい実施形態を通じて説明されてきたが、当業者なら、本発明の内容、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された使用及び医薬組成物に対して修正又は適切な変更及び組み合わせを行って、本発明の技術を実現及び適用することができることは明らかである。
【0038】
以下、本発明で提供される技術案について、具体的な試験を通じてさらに詳細に説明する。
【0039】
特に定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0040】
実験部分:
試験材料:
供試品:深▲セン▼微芯生物科技股▲フン▼有限公司によって合成されたJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤(N-(3-((5-クロロ-2-((4-フルオロ-3-(N-メチルアクリルアミド)フェニル)アミノ)-4-ピリミジニル)アミノ)プロピル)-4-シアノベンズアミド)。
【0041】
DNCB粉末1gを量り、アセトン-オリーブ油溶液100ml(4:1)に加え、よく混合して、1%DNCBを調製した。DNCB粉末0.5gを量り、アセトン-オリーブ油溶液100ml(4:1)に加え、よく混合して、0.5%DNCBを調製した。DNCB(2,4-dinitrochlorobenzene)はSigmaから購入された。
【0042】
実施例1 特異的皮膚炎の症状に対するJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の治療効果及び改善効果
【0043】
薬物の調製:適量の供試品粉末を精密に量り、サンプル調製チューブに入れ、精製水を加えてサンプルが完全に溶解するまで超音波処理し、5mg/mlの濃度(有効成分として計算)に調製し、調製後15分間以内に投与した。
【0044】
実験動物:Sichuan Academy of Chinese Medicine Sciencesから購入された合計27匹のBalb/cマウス。
【0045】
実験方法:
グループ分け:Balb/cマウス(合計27匹)を、各群9匹ずつに、それぞれブランク群、モデル群及び投与群の3つの群にランダムに分けた。
【0046】
モデリング:モデル群及び投与群におけるマウスの腹部に1%DNCB300μlを塗布し、7日後から31日間まで、1日おきに0.5%DNCBを耳に塗布した。
【0047】
投薬:モデリング12日後から投薬を行った。投与群において、投与量を50mg/kg(有効成分として計算)、頻度を1日2回とした。モデル群において、等量の溶媒を投与した。投薬期間を3週間(12日~31日)とし、投与方法を強制経口投与とした。
【0048】
モデリング及び投薬の情報を下図に示す。
【表1】
【0049】
検出指標と検出方法:
(1)一般的な観察:耳の厚さ、脾臓重量比。試験終点でマウスの体重を秤量し、マウスの左右の耳の厚さを測定し、次にマウスを一般的に解剖し、マウスの脾臓の重量を量り、マウスの脾臓重量比を算出した。
【0050】
(2)血清:IgE。試験終点でマウスの眼窩から採血し、マウス血清の総IgEを検出した(ELISA法)。
【0051】
(3)組織病理:耳HE染色(耳表皮の厚さを測定)及びトルイジンブルー染色(耳表皮の肥満細胞数を評価)。
【0052】
耳HE染色:固定したマウス耳組織を全自動脱水機で脱水して包埋した後に切片化した。切片を水よりまで脱脂した後、青色が現れるまでヘマトキシリンで染色し、溶出後にエオシンで染色してマウントし、最後に顕微鏡検査及び画像収集を行った。
【0053】
トルイジンブルー染色:マウス耳組織をスライドガラスを剥離防止処理した後に切片化し、通常どおり水よりまで脱脂し、50℃に予熱した1%トルイジンブルー水溶液に入れ、56℃のインキュベーターで20分間染色し、蒸留水で洗浄し、70%アルコール1min浸漬し、95%アルコールで分別し、顕微鏡下で管理し、ニッスル小体の明瞭さを度合いとし、無水アルコールで素早く脱水し、キシレンで透明にし、中性ガムで密封した。上記の標本はすべて、脱水、トリミング、包埋、切片化、染色、マウントなどの手順に従って行い、最後に顕微鏡検査及び画像収集を行った。
【0054】
実験結果:
実施例1で得られた検出統計結果を図1及び図2に示す。図1において、Aは各実験群の試験終点で得られた脾臓重量比(spleen/body weight ratio(%))の統計結果、Bは各実験群の試験終点で得られた左耳の厚さ(left ear swelling(mm))の統計結果、Cは各実験群の試験終点で得られた右耳の厚さ(right ear swelling(mm))の統計結果である。図1により、DNCBによるモデリング後、モデル群(vehicle)は、ブランク群よりも脾臓重量比(*)及び耳の厚さ(****)が有意に高く、モデリングが成功したことを示唆している。供試品が投与された後にモデル動物の脾臓重量比(#)及び左耳の厚さと右耳の厚さ(#)が有意に低下したことは、供試品が特異的皮膚炎を顕著に改善する機能を有することを示唆している。図2において、Aは各実験群における血清IgE(Serum IgE(ng/ml))の検出及び分析の統計結果、Bは各実験群における耳表皮の厚さ(Ear swelling(mm))の検出及び分析の統計結果、Cは各実験群における耳表皮の肥満細胞(Mast cells)数の検出及び分析の統計結果である。図2により、DNCBによるモデリング後、血清IgEレベル(****)、耳表皮の厚さ(****)及び耳表皮の肥満細胞数(****)がブランク群の結果よりも有意に高く、モデリングが成功したことが示唆されているが、投与群には血清IgEレベル(##)、耳表皮の厚さ(#)及び耳表皮の肥満細胞数(#)が有意に低下し、供試品が特異的皮膚炎を顕著に改善する機能を有することが示唆されている。
【0055】
実施例2 円形脱毛症の症状に対するJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤の治療効果及び改善効果
【0056】
薬物の調製:適量の供試品粉末を精密に量り、サンプル調製チューブに入れ、精製水を加えてサンプルが完全に溶解するまで超音波処理し、8mg/ml(有効成分として計算)の濃度に調製し、調製後15分間以内に投与した。
【0057】
実験動物:北京維通利華実験動物技術有限公司から購入した雌性、12週齢、16匹の天然円形脱毛症C57BL/6Jマウスを使用した。動物の選択基準:斑状、脱毛痕跡なしの、主に背中と頭に脱毛したマウスを選択した。
【0058】
実験方法:
グループ分けと標準:モデル群5匹(Vehicle)、投与群9匹(供試品)、合計で14匹のC57BL/6Jマウスを使用した。投与群における動物は、モデル群よりも全体的な脱毛が重度であった。
【0059】
投薬情報:投与群において単回用量を80mg/kg(有効成分として計算)として、1日2回に、23日間連続投与した。モデル群において等量の溶媒を投与した。投薬方法を強制経口投与とした。
【0060】
検出指標と検出方法:
体重、円形脱毛症面積変化率の記録:月曜日と木曜日で週に2回、体重測定と目視による観察を行った。
【0061】
脾臓のサイズ、脾臓の重量:試験終点でマウスの体重を秤量し、次にマウスを一般的に解剖し、マウスの脾臓を観察して量り、マウスの脾臓重量比を算出した。
【0062】
実験結果:
実施例2で得られた指標検出及び分析統計結果を図3図4及び図5に示す。図3は、投薬期間中の各実験群における円形脱毛症面積の変化率(change rate of Alopecia areata(%))を示すグラフである。図4は、投薬期間中の各実験群におけるマウスの背中の円形脱毛症部位での発毛及び円形脱毛症面積の変化を示す写真(D0は0日目、D5は5日目を表し、その他も同様である)である。図3図4には、モデル群では動物の円形脱毛症の面積が投薬期間中にほぼ維持され、投与群では円形脱毛症の面積が有意に改善され、投薬後19~23日目に最適な薬効が得られ、また投与群はモデル群(vehicle)よりも円形脱毛症の面積変化の改善が有意に優れた(**,p<0.01)ことが示されている。図5は、マウスの一般的な解剖後の脾臓重量及び脾臓重量比の計算統計結果を示すものである。図5は、試験終点で得られた各実験群におけるマウスの脾臓重量(slpeen weight(mg))及び脾臓重量比(spleen/body weight ratio(%))の統計結果を示すものである。図5には、投与群は、モデル群(vehicle)よりも脾臓重量及び脾臓重量比が有意に低かった(*,p<0.05)ことが示されている。供試品が正常動物において脾臓重量を低下させなかったことを組み合わせて見ると、このモデルにおける脾臓重量の低下がメカニズムに関連していることが示唆され、供試品は安全かつ有効であり、毒副作用がほとんどなかったことが分かった。
【0063】
上記の動物実験は、本発明で提供されるJAK3/JAK1/TBK1選択的阻害剤が、特異的皮膚炎や円形脱毛症などの自己免疫性皮膚疾患に対して顕著な治療効果及び改善効果を有することを証明した。
【0064】
以上、本発明を詳細に紹介してきたが、特に好ましい実施形態例を利用して本発明の原理及び実施形態を説明した。上記の実施形態の説明は、最良の実施形態、本発明の方法及びその要旨の理解を助けるために用いられるもので過ぎない。また、それらの説明により、当業者なら本発明を実施できるようになり、例えばその製造及び使用ならびに任意の組み合わせた方法を実施できるようになる。なお、当業者にとって本発明の原理から逸脱することなく、本発明に対していくつかの改良や修飾を行い得るが、これらの改良及び修飾も本発明の特許請求の範囲に含まれることに留意されたい。本発明の特許保護の範囲は特許請求の範囲によって規定されるが、当業者が想到し得る他の実施形態なら、特許請求の範囲の文字通りの表現と異ならない構成要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文字通りの表現と実質的に相違しない同等の構造要素を含む場合には、特許請求の範囲に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】