(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】害のない安定剤を有するシアノアクリレート組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 20/42 20060101AFI20240326BHJP
C09J 4/04 20060101ALI20240326BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240326BHJP
C09J 11/00 20060101ALI20240326BHJP
C08L 33/18 20060101ALI20240326BHJP
C08K 5/134 20060101ALI20240326BHJP
C07C 69/736 20060101ALI20240326BHJP
C09K 15/08 20060101ALI20240326BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C08F20/42
C09J4/04
C09J11/06
C09J11/00
C08L33/18
C08K5/134
C07C69/736
C09K15/08
C08F2/44 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550663
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-08-22
(86)【国際出願番号】 US2022070957
(87)【国際公開番号】W WO2022187848
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509292766
【氏名又は名称】エイチ.ビー.フラー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ラース・ホイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング・ヴィットヴァー
【テーマコード(参考)】
4H006
4H025
4J002
4J011
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB48
4H006BJ50
4H006BP30
4H006KC14
4H025AA16
4H025AA17
4J002BG091
4J002EJ066
4J002FD036
4J002GC00
4J002GJ01
4J011AA05
4J011PA33
4J011PB24
4J011PC02
4J011PC08
4J040FA121
4J040HA086
4J040HA236
4J040HA326
4J040HB37
4J040HD43
4J040KA13
4J040KA17
4J040KA19
4J040KA25
4J040KA27
4J040KA31
4J040KA35
4J040LA07
4J040MA14
4J040NA02
4J040NA06
4J100AM03P
4J100AM04P
4J100BA05P
4J100BA06P
4J100CA01
4J100JA03
(57)【要約】
本発明は、(i)少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーと、(ii)少なくとも1つのフリーラジカル安定剤と、を含む硬化性シアノアクリレート組成物であって、フリーラジカル安定剤は、無害であり、シアノアクリレートに対して良好な適合性を示すが、シアノアクリレートの反応性及び硬化後のその性能を損なわない、硬化性シアノアクリレート組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーと、
(ii)少なくとも1つのフリーラジカル安定剤と、
を含む硬化性シアノアクリレート組成物であって、前記フリーラジカル安定剤は、式(I)
【化1】
[式中、(x)は二重結合を表し、R
3は存在しないか、あるいは(x)は単結合を表し、R
3は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルであり;
R
1は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニル、又は基-C(O)-O-R
2’(式中、R
2’は、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルであり、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子によって中断されていてもよい)であり;
R
2は、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルであり、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子によって中断されていてもよく;
R
4は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルであり;
R
5及びR
5’は、独立して、水素又は基-O-R
6(式中、R
6は、独立して、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルである)であり、
R
3若しくはR
4のうちの一方は、R
1と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~18員の飽和若しくは不飽和環を形成してもよいか;又はR
3及びR
4は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~18員の飽和若しくは不飽和環を形成してもよいか;又はR
1は、R
3及びR
4と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~12員の飽和若しくは不飽和二環式環を形成してもよい]の1つ以上の化合物を含む、硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項2】
前記式(I)において、
R
1は、基-C(O)-O-R
2’(式中、R
2’は、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されている分岐又は環状C
3~C
12アルキルである)であり;
R
2は、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されている分岐又は環状C
3~C
12アルキルであり;
R
3は、(x)が単結合を表す場合、水素、直鎖C
1~C
4アルキル、又は分岐C
3~C
4アルキルであり;(x)が二重結合を表す場合、存在せず
R
4は、水素、直鎖C
1~C
4アルキル、又は分岐C
3~C
4アルキルであり;
R
5及びR
5’は、独立して、水素又は基-O-R
6(式中、R
6は、独立して、水素、直鎖C
1~C
4アルキル、又は分岐C
3~C
4アルキルである)であり、
R
3及びR
4は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されている5又は6員環を形成してもよい、請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項3】
前記式(I)において、
R
1は、基-C(O)-O-R
2’(式中、R
2’は分岐C
6~C
10アルキルである)であり;
R
2は、分岐C
6~C
10アルキルであり;
R
3は、(x)が単結合を表す場合、水素又はメチルであり;(x)が二重結合を表す場合、存在せず;
R
4は、水素又はメチルであり;
R
5及びR
5’は、独立して、-O-CH
3又は-OCH
2CH
3である、請求項2に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項4】
前記式(I)において、
R
3は、(x)が共有単結合を表す場合、水素であり;(x)が共有二重結合を表す場合、存在せず;
R
4は、水素であり;
R
5及びR
5’は、-O-CH
3である、請求項3に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項5】
前記シアノアクリレートモノマーが、式
【化2】
(式中、
R
7は、水素、直鎖若しくは分岐C
1~C
15アルキル、直鎖若しくは分岐C
2~C
15アルケニル、直鎖若しくは分岐C
2~C
15アルキニル、直鎖若しくは分岐C
2~C
15アルコキシ、シクロアルキル、アラルキル、アリル又はアリールであり、R
7は、任意選択的に、少なくとも1つのハロゲン及び/又は少なくとも1つのC
1~C
15アルコキシ基で更に置換されていてもよく;
R
8は、水素、直鎖若しくは分岐C
1~C
15アルキル、直鎖若しくは分岐C
2~C
15アルケニル、直鎖若しくは分岐C
2~C
15アルキニル、直鎖若しくは分岐C
2~C
15アルコキシ、シクロアルキル、アラルキル又はアリールであり、R
8は、任意選択的に、少なくとも1つのハロゲン及び/又は少なくとも1つのC
1~C
15アルコキシ基で更に置換されていてもよい)の少なくとも1つの化合物から選択され、
好ましくは、前記シアノアクリレートモノマーが、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、プロピルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレート、アリルシアノアクリレート、β-メトキシエチルシアノアクリレート、β-エトキシエチルシアノアクリレート及びそれらの組み合わせから選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項6】
前記組成物が、前記少なくとも1つのフリーラジカル安定剤を、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0.1~5.0重量%の量で含み、
好ましくは、前記組成物が、前記少なくとも1つのフリーラジカル安定剤を、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0.2~4.0重量%、より好ましくは0.3~3.0重量%の量で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項7】
前記組成物が、前記少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量で含み、
好ましくは、前記組成物が、前記少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、60.0~99.9重量%、より好ましくは88.0~99.8重量%、最も好ましくは97.0~99.5重量%の量で含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項8】
アニオン性安定剤を更に含み、前記アニオン性安定剤は、三フッ化ホウ素(BF
3)及びその錯体、二酸化硫黄(SO
2)、又はフッ化水素(HF)から好ましくは選択されるルイス酸又はブレンステッド酸である、請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項9】
前記組成物が、前記アニオン性安定剤を、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0.0005~5.0重量%の量で含む、請求項8に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項10】
増粘剤、チキソトロープ剤、促進剤、遅延剤、可塑剤、接着促進剤、顔料又は染料から選択される追加の添加剤を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項11】
前記追加の添加剤が、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、最大60重量%の量で存在し、
前記追加の添加剤が、好ましくは、前記硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、最大45重量%、より好ましくは最大30重量%の量で存在する、請求項10に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項12】
メタロセン化合物及び光開始剤を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の硬化性シアノアクリレート組成物。
【請求項13】
少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを含む組成物におけるフリーラジカル重合を阻害するための式(I)
【化3】
[式中、(x)は二重結合を表し、R
3は存在しないか、あるいは(x)は単結合を表し、R
3は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルであり;
R
1は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニル、又は基-C(O)-O-R
2’(式中、R
2’は、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルであり、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子によって中断されていてもよい)であり;
R
2は、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルであり、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子によって中断されていてもよく;
R
4は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルであり;
R
5及びR
5’は、独立して、水素又は基-O-R
6(式中、R
6は、独立して、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8である)であり、
R
3若しくはR
4のうちの一方は、R
1と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~18員の飽和若しくは不飽和環を形成してもよいか;又はR
3及びR
4は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~18員の飽和若しくは不飽和環を形成してもよいか;又はR
1は、R
3及びR
4と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~12員の飽和若しくは不飽和二環式環を形成してもよい]の化合物の使用。
【請求項14】
請求項1に記載の硬化性シアノアクリレート組成物を含む物品。
【請求項15】
食品容器、飲料容器、化粧品包装、及び皮膚に接着させる物品からなる群から選択される、請求項14に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーと、(ii)以下に定義される式(I)の少なくとも1つのフリーラジカル安定剤と、を含む硬化性シアノアクリレート組成物に関する。式(I)のフリーラジカル安定剤は、無害であり、シアノアクリレートに対して良好な適合性を示すが、シアノアクリレートの反応性及び硬化後のその性能を損なわない。本発明はまた、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを含む組成物におけるフリーラジカル重合を阻害するための式(I)の化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
シアノアクリレート組成物は、当該技術分野において周知である。特に、シアノアクリレートは、工業用途、医療用途、化粧品用途及び家庭用途を有する強力な速硬化性接着剤のファミリーを代表する。このような組成物は、シアノアクリレート基を有するモノマーを含有するインスタントグルー、パワーグルー又はスーパーグルーと総称されることもある。モノマー中のシアノアクリレート基は、例えば、水から生成された水酸化物イオンなどの求核試薬の存在下で急速に重合して、長くて強力な鎖を形成する。シアノアクリレート接着剤組成物の詳細は、例えば、H.V.Coover,D.W.Dreifus and J.T.O’Connor,”Cyanoacrylate Adhesives” in Handbook of Adhesives,27,463-77,I.Skeist,ed.,Van Nostrand Reinhold,New York,3rd ed.(1990)、又はG.H.Millet,”Cyanoacrylate Adhesives”in Structural Adhesives:Chemistry and Technology,S.R.Hartshorn,ed.,Plenum Press,New York,p.249-307(1986)に要約されている。
【0003】
シアノアクリレート基の高い反応性を考慮すると、シアノアクリレート組成物の貯蔵寿命は短い。シアノアクリレートはまた、フリーラジカル重合を受け得ることから、シアノアクリレート接着剤は、貯蔵中にフリーラジカル不安定化に対して安定化される必要がある。シアノアクリレートのための安定剤系は、例えば、国際公開第2019/068690号に開示されているように、当該技術分野において周知である。例えば、ヒドロキノン(hydroquinone、HQ)は、シアノアクリレート組成物におけるフリーラジカル安定剤として使用するのに最も一般的である。シアノアクリレート組成物において典型的に使用される別のフリーラジカル安定剤は、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole、BHA)である。シアノアクリレート組成物に好適な他の既知のフリーラジカル安定剤としては、例えば、Irganox 1010(CAS番号6683-19-8)又はIrganox 1076(CAS番号2082-79-3)が挙げられる。
【0004】
しかしながら、HQは、例えば、EUにおいて、有害物質(シグナルワード「危険」)として分類されており、発癌性又は突然変異誘発性である可能性がある。更に、BHAは、例えば、米国国立衛生研究所によって、ヒト発癌物質であると合理的に予想されており、例えば、カリフォルニア州によって発癌物質として挙げられている。Irganox 1010は、少なくともカナダでは危険物として分類されており、いくつかの害が、例えば欧州化学庁(European Chemicals Agency、ECHA)によって報告されている。Irganox 1076の場合も、生じ得る害がECHAによって述べられている。一般的なフェノール系酸化防止剤に関しては、ほぼ全ての種類について害が報告されている。いくつかの報告はまだ完全に証明されていないが、他のフェノール系酸化防止剤は、世界地域及び地方の規制/法律によれば、有害であると述べられている。一方、有害であることが証明されていない種類については、工業規模の合成は知られておらず、このことは、費用対効果に対する要求がないことを意味している。
【0005】
したがって、シアノアクリレート組成物における代替のフリーラジカル安定剤が当該技術分野で必要とされている。換言すれば、一方でシアノアクリレートと適合性であり、かつシアノアクリレート組成物においてフリーラジカル重合を防止するのに有効であり、他方で現在の知識によれば無害であり、健康上の懸念を示さない、フリーラジカル安定剤が必要とされている。
【0006】
しかしながら、シアノアクリレートは、ほぼ全ての材料に対して速硬化性の接着剤であり、これは、シアノアクリレートが、殆どの材料と接触すると重合する傾向が高いことを意味している。シアノアクリレートに対して反応性を示さない化学物質は非常に少ない。例えば、市場で入手可能な200を超える異なるグレードのポリ(メチルメタクリレート)[poly(methyl methacrylate)、PMMA]が存在する。しかしながら、増粘剤としてシアノアクリレートに希釈したときに適合性であることが知られているのは、それらのうちのごくわずかに過ぎず、他の全てのグレードは、数分から数日以内に重合を開始する。可能な包装材料に関する更なる例として、市場において入手可能な数千のポリエチレングレードがあるが、シアノアクリレートと良好な適合性を示すグレードは、それらのうちの5つ未満である。したがって、関係する特有の化学及び高い反応性を考慮すると、シアノアクリレートと共に機能する適合性材料を見出すことはともかく非常に困難であり、ましてやフリーラジカル重合の阻害などの特定の機能を発揮する適合性材料を見出すことは非常に困難である。
【0007】
上記を考慮して、本発明の目的は、一方でシアノアクリレートと適合性であり、かつフリーラジカル重合を阻害し、他方で無害である化合物を同定することである。特に、本発明の目的は、有害として分類されず、費用対効果が高く、シアノアクリレート配合物と良好な適合性を示すフリーラジカル安定剤を同定することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/187773号
【特許文献2】欧州特許出願公開第3766669号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/078207号明細書
【特許文献4】国際公開第2020/085334号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、無害なフリーラジカル安定剤を含むシアノアクリレート組成物に関する。特に、本発明は、
(i)少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーと、
(ii)少なくとも1つのフリーラジカル安定剤と、
を含む硬化性シアノアクリレート組成物であって、
フリーラジカル安定剤は、式(I)
【化1】
[式中、(x)は二重結合を表し、R
3は存在しないか、あるいは(x)は単結合を表し、R
3は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルであり;
R
1は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニル、又は基-C(O)-O-R
2’(式中、R
2’は、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルであり、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子によって中断されていてもよい)であり;
R
2は、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルであり、直鎖C
1~C
12アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
12アルキル、直鎖C
2~C
12アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子によって中断されていてもよく;
R
4は、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
1~C
8アルコキシ、分岐若しくは環状C
3~C
8アルコキシ、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルであり;
R
5及びR
5’は、独立して、水素又は基-O-R
6(式中、R
6は、独立して、水素、直鎖C
1~C
8アルキル、分岐若しくは環状C
3~C
8アルキル、直鎖C
2~C
8アルケニル、又は分岐若しくは環状C
3~C
8アルケニルである)であり、
R
3若しくはR
4のうちの一方は、R
1と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~18員の飽和若しくは不飽和環を形成してもよいか;又はR
3及びR
4は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~18員の飽和若しくは不飽和環を形成してもよいか;又はR
1は、R
3及びR
4と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されている5~12員の飽和若しくは不飽和二環式環を形成してもよい]の1つ以上の化合物を含む、硬化性シアノアクリレート組成物を提供する。
【0010】
本発明は更に、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを含む組成物におけるフリーラジカル重合を阻害するための、上で定義した式(I)の化合物の使用に関する。
【0011】
本発明者は、予期せぬことに、従来のフリーラジカル安定剤を、現在有害として分類されていない式(I)のフリーラジカル安定剤で置き換えることができることを見出した。式(I)の無害なフリーラジカル安定剤は、シアノアクリレートに良好に配合することができる。更に、得られたシアノアクリレート組成物は、例えば、ヒドロキノン(HQ)又はブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)などの有害な安定剤を含有する最先端の組成物と比較して、例えば貯蔵寿命及び接着特性において同様の特性を達成する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、(i)少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーと、(ii)少なくとも1つのフリーラジカル安定剤と、を含む硬化性シアノアクリレート組成物であって、フリーラジカル安定剤は、式(I)の1つ以上の化合物を含む、硬化性シアノアクリレート組成物に関する。
【化2】
【0013】
上記式(I)において、(x)は二重結合又は単結合のいずれかを表す。二重結合の場合、R3は存在しない。一方、(x)が単結合を表す場合、R3は、水素、直鎖C1~C8アルキル、分岐若しくは環状C3~C8アルキル、直鎖C1~C8アルコキシ、分岐若しくは環状C3~C8アルコキシ、直鎖C2~C8アルケニル、又は分岐若しくは環状C3~C8アルケニルである。更に、(x)が単結合を表す場合、R3は、好ましい実施形態では、水素、直鎖C1~C4アルキル、又は分岐C3~C4アルキルであり、好ましくは、R3は、水素又はメチルであり、より好ましくは水素である。あるいは、(x)が二重結合である場合、R3は、上記のように完全に存在しない。
【0014】
上記式(I)におけるR1は、水素、直鎖C1~C8アルキル、分岐若しくは環状C3~C8アルキル、直鎖C1~C8アルコキシ、分岐若しくは環状C3~C8アルコキシ、直鎖C2~C8アルケニル、分岐若しくは環状C3~C8アルケニル、又は基-C(O)-O-R2’である。基-C(O)-O-R2’におけるR2’は、直鎖C1~C12アルキル、分岐若しくは環状C3~C12アルキル、直鎖C2~C12アルケニル、又は分岐若しく環状C3~C12アルケニルである。基R2’におけるC1~C12アルキル、分岐若しくは環状C3~C12アルキル、直鎖C2~C12アルケニル、又は分岐若しくは環状C3~C12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子、例えば、1個又は2個の酸素原子などによって中断されていてもよい。
【0015】
好ましい実施形態では、R1は、基-C(O)-O-R2’である。より好ましくは、R1は、基-C(O)-O-R2’(式中、R2’は、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されている分岐又は環状C3~C12アルキルである)である。R2’は、好ましくは分岐C6~C10アルキル、例えば、2-エチルヘキシルである。
【0016】
上記式(I)におけるR2は、直鎖C1~C12アルキル、分岐若しくは環状C3~C12アルキル、直鎖C2~C12アルケニル、又は分岐若しくは環状C3~C12アルケニルである。基R2におけるC1~C12アルキル、分岐若しくは環状C3~C12アルキル、直鎖C2~C12アルケニル、又は分岐若しくは環状C3~C12アルケニルは、任意選択的に、1個以上の酸素原子、例えば、1個又は2個の酸素原子などによって中断されていてもよい。好ましい実施形態では、R2は、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されている分岐又は環状C3~C12アルキルである。より好ましくは、R2は、分岐C6~C10アルキル、例えば、2-エチルヘキシルである。
【0017】
上記(I)におけるR4は、水素、直鎖C1~C8アルキル、分岐若しくは環状C3~C8アルキル、直鎖C1~C8アルコキシ、分岐若しくは環状C3~C8アルコキシ、直鎖C2~C8アルケニル、又は分岐若しくは環状C3~C8アルケニルである。好ましい実施形態では、R4は、水素、直鎖C1~C4アルキル、又は分岐C3~C4アルキルである。好ましくは、R4は、水素又はメチルであり、より好ましくは水素である。
【0018】
更に、R3又はR4のうちの一方は、R1と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、5~18員の飽和又は不飽和環を形成してもよく、この環は、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されていてもよい。例えば、R3又はR4のうちの一方は、R1と一緒に、それらが結合している炭素原子と一緒になって、5又は6員の飽和又は不飽和環を形成してもよく、この環は、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されていてもよい。R3及びR4はまた、一緒に、それらが結合している炭素原子と共に、5~18員の飽和又は不飽和環を形成してもよく、この環は、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されていてもよい。例えば、R3及びR4は一緒に、それらが結合している炭素原子と共に、5又は6員の飽和又は不飽和環を形成してもよく、この環は、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されていてもよい。更に、R1、R3及びR4は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、5~12員の飽和又は不飽和二環式環を形成してもよく、この二環式環は、1個以上の酸素原子によって任意選択的に中断されていてもよい。例えば、R1、R3及びR4は、それらが結合している炭素原子と一緒になって、5~6員の飽和又は不飽和二環式環を形成してもよく、この二環式環は、1個又は2個の酸素原子によって任意選択的に中断されていてもよい。
【0019】
式(I)におけるR5及びR5’は、互いに独立して、水素又は基-O-R6である。基-O-R6におけるR6は、独立して、水素、直鎖C1~C8アルキル、分岐若しくは環状C3~C8アルキル、直鎖C2~C8アルケニル、又は分岐若しくは環状C3~C8アルケニルであり、好ましくは、R6は、独立して、水素、直鎖C1~C4アルキル、又は分岐C3~C4アルキルである。好ましい実施形態では、R5及びR5’は、互いに独立して、水素、-O-CH3又は-OCH2CH3である。好ましくは、R5及びR5’は、両方とも-O-CH3である。
【0020】
有害に分類されない本発明によるシアノアクリレートと適合性であることが見出された例示的な化合物は、市場で入手可能であり、例えば、Merck KGaA(Germany)によって、Oxynex(登録商標)ST又はOxynex(登録商標)ST Liquidとして販売されているジエチルヘキシルシリンギリデンマロネート(2-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシ-ベンジリデン)-マロン酸ビス-(2-エチルヘキシル)エステル;CAS番号444811-29-4)が挙げられる。本発明において好適な別の例示的な市販されている例は、Merck KGaA(Germany)によって、RonaCare(登録商標)APとして販売されているビス(2-エチルヘキシル)2-[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメトキシフェニル)メチル]プロパンジオエート(CAS番号872182-46-2)である。他の例示的な化合物としては、ジエチル[(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メチリデン]プロパンジオエート(CAS番号24331-83-7)、又はプロパン二酸、2-[(3,4,5-トリメトキシフェニル)メチレン]-,1,3-ジエチルエステル(propanedioic acid,2-[(3,4,5-trimethoxyphenyl)methylene]-,1,3-diethyl ester)(CAS番号51444-50-9)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
上記による化合物は、有害分類を受けておらず、化粧品における使用について、例えば、国際公開第2019/229401号に記載されている。しかしながら、シアノアクリレート系とのそれらの適合性は、文献に全く記載されていない。対照的に、本発明者は、予期せぬことに、このような化合物が、シアノアクリレート組成物において無害なフリーラジカル安定剤として使用できることを見出した。
【0022】
本発明による硬化性シアノアクリレート組成物は、式(I)の少なくとも1つのフリーラジカル安定剤を、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、例えば、0.1~5.0重量%の量で含み得る。好ましい実施形態では、硬化性シアノアクリレート組成物は、式(I)の少なくとも1つのフリーラジカル安定剤を、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、0.2~4.0重量%、より好ましくは0.3~3.0重量%の量で含む。
【0023】
本発明による硬化性シアノアクリレート組成物は、当然ながら、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを更に含む。好適なシアノアクリレートモノマーは、当該技術分野において周知である。本発明は、特定のタイプのシアノアクリレートモノマーに限定されない。例えば、シアノアクリレートモノマーは、式R7HC=C(CN)-COOR8(式中、R7は、水素、直鎖若しくは分岐C1~C15アルキル、直鎖若しくは分岐C2~C15アルケニル、直鎖若しくは分岐C2~C15アルキニル、直鎖若しくは分岐C2~C15アルコキシ、シクロアルキル、アラルキル、アリル又はアリールであり、R7は、任意選択的に、少なくとも1つのハロゲン及び/又は少なくとも1つのC1~C15アルコキシ基で更に置換されていてもよく、R8は、水素、直鎖若しくは分岐C1~C15アルキル、直鎖若しくは分岐C2~C15アルケニル、直鎖若しくは分岐C2~C15アルキニル、直鎖若しくは分岐C2~C15アルコキシ、シクロアルキル、アラルキル又はアリールであり、R8は、任意選択的に、少なくとも1つのハロゲン及び/又は少なくとも1つのC1~C15アルコキシ基で更に置換されていてもよい)の少なくとも1つの化合物から選択され得る。
【0024】
好ましい実施形態では、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーは、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、プロピルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレート、アリルシアノアクリレート、β-メトキシエチルシアノアクリレート、β-エトキシエチルシアノアクリレート及びそれらの組み合わせから選択される。特に好ましいものはエチルシアノアクリレートである。
【0025】
本発明による硬化性シアノアクリレート組成物中のシアノアクリレートモノマーの量は、特に限定されない。例えば、硬化性シアノアクリレート組成物は、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、少なくとも50重量%の量で含み得る。好ましい実施形態では、硬化性シアノアクリレート組成物は、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、60.0~99.9重量%の量で含む。好ましくは、硬化性シアノアクリレート組成物は、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、88.0~99.8重量%、より好ましくは97.0~99.5重量%の量で含む。
【0026】
当該技術分野で知られているように、シアノアクリレートはまた、アニオン重合を受けることがある。したがって、シアノアクリレート組成物は、典型的には、アニオン重合を防止するために、アニオン性安定剤(「酸安定剤」としても知られる)を更に含む。アニオン性安定剤は、通常、ルイス酸又はブレンステッド酸から選択される。したがって、本発明による硬化性シアノアクリレート組成物は、通常は、アニオン性安定剤としてルイス酸又はブレンステッド酸を更に含む。アニオン性安定剤は、好ましくは、三フッ化ホウ素(BF3)及びその錯体、二酸化硫黄(SO2)、又はフッ化水素(HF)から選択される。アニオン性安定剤は、硬化性シアノアクリレート組成物に、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、例えば、0.0005~5.0重量%の量で含まれ得る。
【0027】
シアノアクリレート組成物は、当該技術分野において周知の追加の添加剤を更に含有し得る。例えば、本発明による硬化性シアノアクリレート組成物はまた、例えば、増粘剤、チキソトロープ剤、促進剤、遅延剤、可塑剤、接着促進剤、顔料又は染料から選択される通常の添加剤も含み得る。当業者は、必要に応じて好適な添加剤及びその量を容易に選択することができよう。例えば、シアノアクリレート組成物において従来から用いられている追加の添加剤は、本発明による硬化性シアノアクリレート組成物に、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、最大60重量%の量で存在し得る。性能の観点から、そのような従来の添加剤は、本発明による硬化性シアノアクリレート組成物に、硬化性シアノアクリレート組成物の総重量に基づいて、好ましくは最大わずか45重量%、より好ましくは最大30重量%の量で存在する。
【0028】
本発明はまた、フリーラジカル重合に対してUV硬化性シアノアクリレート組成物などの光硬化性シアノアクリレート組成物を安定化するのにも好適である。光硬化性シアノアクリレート組成物は、当該技術分野において既知であり、例えば、米国特許第5,922,783号又は国際公開第2020/206405号に記載されている。光硬化性シアノアクリレート組成物は、典型的には、当業者に知られているように、メタロセン化合物及び光開始剤を含む。したがって、一実施形態では、本発明は、メタロセン化合物及び光開始剤を更に含む、上記の硬化性シアノアクリレート組成物に関する。当業者は、例えば、米国特許第5,922,783号又は国際公開第2020/206405号を参照することにより、好適なメタロセン化合物又は光開始剤及びそれらの量を選択することができよう。
【0029】
本発明による硬化性シアノアクリレート組成物は、シアノアクリレート接着剤が典型的に使用される任意の分野において使用することができる。その例としては、工業生産又は家庭用途が挙げられるが、これらに限定されない。無害なフリーラジカル安定剤を使用する本発明は、シアノアクリレート接着剤がヒトと接触する分野において、例えば、玩具製造、食品若しくは飲料のための容器の製造の分野において、又は例えば、化粧品包装若しくは皮膚に接着させる物品、例えば、接着用つけまつげに関する化粧品の分野において、及び医療分野において、例えば、液体プラスターなどとして、特に有利である。
【0030】
本発明はまた、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを含む組成物におけるフリーラジカル重合を阻害するための、上で定義した式(I)の化合物の使用に関する。あるいは、本発明は、少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを含む組成物におけるフリーラジカル重合を阻害する方法であって、式(I)の少なくとも1つの化合物を組成物に添加する工程を含む、方法に関する。例えば式(I)の好ましい化合物又は好ましいシアノアクリレートモノマー、及びそれらの量に関する本発明による使用(又は方法)の好ましい実施形態は、それぞれ、本発明の硬化性シアノアクリレート組成物に関する実施形態に関連して既に上に記載されている。
【0031】
本発明を以下の実施例によって更に説明する。
【実施例】
【0032】
材料:
シアノアクリレートモノマー:エチルシアノアクリレート
フリーラジカル安定剤:
○比較例:ヒドロキノン(HQ)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)
○本発明による:Oxynex(登録商標)ST(以下の表1においてO.STと称される)又はRonaCare(登録商標)AP(表1においてR.APと称される)、両方ともMerck KGaA(Germany)から入手可能。
【0033】
シアノアクリレートモノマー(CA)は、真空蒸留によって製造容器から直接精製した。試験に必要とされる特定の量を、別個の容器に取り直した。蒸留ラインから容器を取り出した直後に、ある量の5ppm酸安定剤(BF3-錯体)を添加して、即時重合を防止した。純度のレベルは、GC-MS及びHPLCを使用して確認した。更に使用された試料量において、ある量の99.5%超のシアノアクリレートモノマーが検出され、特にヒドロキノン(HQ)は検出されなかった。
【0034】
第2の工程において、予め安定化されたシアノアクリレートの一部を取り出し、フリーラジカル安定剤を添加して、以下の表1に列挙される濃度を達成した。増粘剤としてポリ(メチルメタクリレート)(poly(methyl methacrylate)、PMMA)を含む試料を、同様に調製した。
【表1】
【0035】
比較例1(CE1)及び比較例2(CE2)は、シアノアクリレートと共に使用することが既に知られている従来のフリーラジカル安定剤を使用している。本発明の実施例1~8(IE1~IE8)は、本発明に従って選択された無害なフリーラジカル安定剤を使用している。
【0036】
試料組成物の粘度は、コーンプレートレオメータを使用して、+20℃及び160rpmで測定した(ISO 9001又はIATF 16949による文書化標準に従った)。以下の表2は、3回の測定の平均結果をそれぞれ示している。
【0037】
表2中の「14日、60℃」という用語は、液体接着剤試料を(以下で更に記載される基材を含む試験品の調製前に)+60℃で14日間エージングしたことを示す。
【0038】
「360日、22℃」という用語は、液体接着剤試料を周囲温度で1年間エージングしたことを示す。
【表2】
【0039】
上記の表2から分かるように、本発明に従って用いられた無害なフリーラジカル安定剤は、シアノアクリレートモノマーに対して良好な適合性を示し、この分野でこれまで使用されてきた従来の「有毒な」フリーラジカル安定剤と同様なレベルで重合を防止するのに有効である。これは、本発明の実施例IE7及びIE8から分かるように、シアノアクリレート分野で典型的に使用される添加剤、例えば、増粘剤の存在下においても当てはまる。
【0040】
試料組成物の反応性を、試料組成物を接着剤として使用してEPDMゴムプロファイル表面を互いに接合することによって試験した。それぞれ5回試験したときに得られた平均硬化時間を、以下の表3に列挙する。
【表3】
【0041】
上記の表3から分かるように、本発明に従って選択された無害なフリーラジカル安定剤は、得られたシアノアクリレート組成物の反応性を実質的に損なわない。むしろ、反応性は、従来のフリーラジカル安定剤の存在下と同じ範囲の許容可能なレベルである。
【0042】
試料組成物を用いて得られた機械的強度を、更なる前処理なしに、表面洗浄された鋼試験片を接合することによって試験した(DIN EN 1465の方針に従った)。それぞれ3回の試験から得られた平均データを以下の表4に示す。
【表4】
【0043】
本発明に従って選択された無害なフリーラジカル安定剤の存在下で得られた接着接合の機械的強度は、損なわれていない。
【0044】
予期せぬことに、従来のフリーラジカル安定剤は、本発明に従って選択された無害なフリーラジカル安定剤で置き換えることができることが見出された。本発明に従って選択された無害なフリーラジカル安定剤は、シアノアクリレートに良好に配合することができる。試料組成物は、HQ又はBHAなどの有害な安定剤を含有する最先端の組成物と比較して、例えば貯蔵寿命及び接着特性において同様の特性を達成する。
【国際調査報告】