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特表2024-514441透明多成分溶融シリカガラスを製造及び成形するために用いられる材料並びに方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】透明多成分溶融シリカガラスを製造及び成形するために用いられる材料並びに方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20240326BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C03B20/00 C
B22F9/00 B
C03B20/00 E
C03B20/00 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023558428
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2022058110
(87)【国際公開番号】W WO2022200627
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21165181.5
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519251243
【氏名又は名称】グラスソマー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラップ バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】コッツ-ヘルマー フレデリック
【テーマコード(参考)】
4G014
4K017
【Fターム(参考)】
4G014AH21
4G014AH23
4K017AA08
4K017BA09
4K017DA07
4K017EH18
(57)【要約】
本発明は、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造するために用いられる成形可能なナノコンポジットに関し、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーと、有機バインダー中に分散した溶融シリカガラス粉末であって、該溶融シリカガラス粉末は直径が5nm~500nmの範囲の溶融シリカガラス粒子を含む、溶融シリカガラス粉末とを含み、溶融シリカガラス粉末は、ドーパントで前修飾されている、及び/又は少なくとも1種の非晶質修飾剤が成形可能なナノコンポジットに含有されており、有機元素化合物、金属錯体、及び塩から選択される1種以上のドーパント試薬が、少なくとも1種の非晶質修飾剤として、成形可能なナノコンポジットに含有されており、成形可能なナノコンポジット中の溶融シリカガラス粉末の含有量は、有機バインダー100体積部に対して、少なくとも5体積部である。さらに、本発明は、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多成分溶融シリカガラス製の透明物品製造用の成形可能なナノコンポジットであって、
有機バインダーと、
前記有機バインダー中に分散した溶融シリカガラス粉末であって、該溶融シリカガラス粉末は、直径が5nm~500nmの範囲の溶融シリカガラス粒子を含む、溶融シリカガラス粉末と、
を含み、
前記溶融シリカガラス粉末は、ドーパントで前修飾されている、及び/又は少なくとも1種の非晶質修飾剤が前記成形可能なナノコンポジットに含有されていて、該少なくとも1種の非晶質修飾剤として有機元素化合物、金属錯体、及び塩から選択される1種以上のドーパント試薬が前記成形可能なナノコンポジットに含有されており、
前記成形可能なナノコンポジット中の前記溶融シリカガラス粉末の含有量は、前記有機バインダー100体積部に対して、少なくとも5体積部である、
成形可能なナノコンポジット。
【請求項2】
前記有機バインダーは、冷却した際に硬化可能な熱可塑性物である、請求項1に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項3】
前記有機バインダーは、外部刺激により開始される固化又は重合の際に硬化可能な樹脂である、請求項1に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項4】
前記溶融シリカガラス粉末は、直径が2μm~50μmの範囲の溶融シリカガラス粒子を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項5】
前記ドーパントは、Ag、Al、Au、B、Ti、F、Fe、Na、Ni、K、Ca、Cr、Ce、Co、Cu、Dy、Er、Eu、Gd、Ho、La、Lu、Nd、P、Pt、Pr、Pm、Rh、Sm、Sc、Tb、Tm、V、Yb、Y、Ge、Pb、Ba、Zr、Zn、及びMgからなる群より選択される1種以上の元素を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項6】
前記成形可能なナノコンポジット中の前記溶融シリカガラス粉末の含有量は、前記有機バインダー100体積部に対して、少なくとも30体積部である、請求項1~5のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項7】
前記有機バインダー中に分散した相形成剤を更に含み、該相形成剤は、室温で固形又は粘性であり、前記有機バインダー中に内相を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項8】
前記成形可能なナノコンポジット中の前記相形成剤の含有量は、前記有機バインダー100体積部に対して、少なくとも5体積部である、請求項7に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項9】
多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造する方法であって、以下の工程(a)~工程(d):
(a)前記有機バインダーの硬化前、硬化中、及び/又は硬化後、請求項1~8のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジットを、所定の幾何学的形状へと成形することにより、一次構造体を得る工程と、
(b)工程(a)で得られた前記一次構造体を、前記有機バインダーを除去することにより脱脂することにより、中に空隙が形成されている二次構造体を得る工程と、
(c)任意選択で、工程(b)で得られた前記二次構造体の前記空隙を、少なくとも1種の添加剤で充填する工程と、
(d)工程(b)で得られ、任意選択で工程(c)において少なくとも1種の添加剤で充填された前記二次構造体を焼結することにより、前記透明物品を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項10】
工程(a)において、前記成形可能なナノコンポジットは、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより成形される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)において、工程(a)で得られた前記一次構造体は、熱処理、化学反応、減圧、溶媒抽出若しくは気相抽出、又はそれらの組合せにより脱脂される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)において、工程(b)で得られた前記二次構造体の前記空隙は、少なくとも1種の添加剤で充填され、前記少なくとも1種の添加剤は、前記成形可能なナノコンポジットに含有される前記少なくとも1種の非晶質修飾剤と同じであるか、又は異なっている、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程(c)において、前記少なくとも1種の添加剤を含有する溶液に、工程(b)で得られた前記二次構造体を浸漬するか、前記少なくとも1種の添加剤を含有する若しくは生成する雰囲気中で、前記二次構造体を物理蒸着若しくは化学蒸着に曝露するか、又はこれらの組合せによって、前記二次構造体の前記空隙を前記少なくとも1種の添加剤で充填する、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造するために用いられる成形可能なナノコンポジットに関する。さらに、本発明は、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融シリカガラスは、高い光透過率に、高い熱的、化学的、及び機械的安定性を兼ね備えているため、重要な材料である。しかしながら、溶融シリカガラスは融点が高いため、その成形は複雑である。現在まで、溶融シリカガラスは、ほとんどが、溶融加工、研削、又はエッチングにより、所定の幾何学的形状へと成形されている。最近では、特許文献1において記載されるとおり、積層造形により溶融シリカガラスの成形を可能とする新規概念が導入されている。しかしながら、このアプローチは、一成分溶融シリカガラス製の透明物品の製造に限定される。
【0003】
非特許文献1には、三次元のプリント母材から紡糸されたシリカ光ファイバーが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ガラス形成材料を含むインクで印刷することにより構造体を形成することと、ガラス形成材料をガラスに変換するため、形成された構造体を熱処理することとを含む方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、シリカ煤の押出成形によるチタン含有シリカガラスハニカム構造体が記載されている。
【0006】
特許文献4には、ガラスシンチレーター及びその製造法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/065093号
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/024465号
【特許文献3】国際公開第00/48775号
【特許文献4】米国特許第10,940,639号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yushi Chu et al., Optics Letters, 2019, vol. 44, issue 21, pages 5358-5361
【発明の概要】
【0009】
したがって、本発明は、当該技術分野で既知の多成分溶融シリカガラス製の透明物品の製造に関連する上述の欠点を克服することを目的とする。特に、本発明は、所定の幾何学的形状に容易に成形することを可能とする多成分溶融シリカガラス製の透明物品の製造手段を提供することを基本的な技術的課題とする。
【0010】
上述の本発明の基本的な技術的課題は、添付の特許請求の範囲において特徴付けられる実施の形態を提供することにより解決されたのである。
【0011】
1つの態様においては、上述の技術的課題は、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造するために用いられる成形可能なナノコンポジットであって、本発明による成形可能なナノコンポジットは、
有機バインダーと、
有機バインダー中に分散した溶融シリカガラス粉末であって、該溶融シリカガラス粉末は、直径が5nm~500nmの範囲の溶融シリカガラス粒子を含む、溶融シリカガラス粉末と、
を含み、
溶融シリカガラス粉末は、ドーパントで前修飾されている、及び/又は少なくとも1種の非晶質修飾剤が成形可能なナノコンポジットに含有されていて、少なくとも1種の非晶質修飾剤として有機元素化合物、金属錯体、及び塩から選択される1種以上のドーパント試薬が成形可能なナノコンポジットに含有されており、
成形可能なナノコンポジット中の溶融シリカガラス粉末の含有量は、有機バインダー100体積部に対して、少なくとも5体積部である、
成形可能なナノコンポジットを提供することにより解決されたのである。
【0012】
別の態様においては、上述の技術的課題は、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造する方法であって、本発明による方法は、以下の工程(a)~工程(d):
(a)有機バインダーの硬化前、硬化中、及び/又は硬化後、本発明による成形可能なナノコンポジットを、所定の幾何学的形状へと成形することにより、一次構造体を得る工程と、
(b)工程(a)で得られた一次構造体を、有機バインダーを除去することにより脱脂することにより、中に空隙が形成されている二次構造体を得る工程と、
(c)任意選択で、工程(b)で得られた二次構造体の空隙を、少なくとも1種の添加剤で充填する工程と、
(d)工程(b)で得られ、任意選択で工程(c)において少なくとも1種の添加剤で充填された二次構造体を焼結することにより、透明物品を得る工程と、
を含む、方法を提供することにより解決されたのである。
【0013】
本発明者らの発見によれば、驚くべきことに、上記に定義される特徴のため、本発明による方法において使用される本発明による成形可能なナノコンポジットは、所定の幾何学的形状を有する透明物品をもたらすことができる。その理由は、成形可能なナノコンポジットが、有機バインダーと、その中に分散した溶融シリカガラス粉末とを含むことにある。そのため、溶融加工、研削、又はエッチングを何ら必要とせずに、成形可能なナノコンポジットを所定の幾何学的形状へと成形することができる。溶融シリカガラス粉末がドーパントで前修飾されているため、及び/又は少なくとも1種の特定の非晶質修飾剤が成形可能なナノコンポジット中に含有されているため、得られる、所定の幾何学的形状を有する透明物品は、多成分溶融シリカガラス製である。多成分溶融シリカガラスは、機能性溶融シリカガラスとも称する。すなわち、本発明は、得ようとする透明物品の本来の目的に応じて、ナノ粒子を含む少なくとも部分的に前修飾された溶融シリカガラス粉末を使用することにより、又はナノ粒子を含む未修飾溶融シリカガラス粉末を成形可能なナノコンポジットに含有される特定の少なくとも1種の非晶質修飾剤と組み合わせて使用することにより、又はナノ粒子を含む少なくとも部分的に前修飾された溶融シリカガラス粉末を成形可能なナノコンポジットに含有される特定の少なくとも1種の非晶質修飾剤と組み合わせて使用することにより、溶融シリカガラスの化学組成を改変することを可能にし、それにより、溶融シリカガラスの特性を改変することも可能にする。
【0014】
有利なことに、成形可能なナノコンポジットは、以下でより詳細に記載されるとおり、除去造形(subtractive manufacturing)プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せを含む、当該技術分野で既知の任意の適切な手段により所定の幾何学的形状へと成形することができるため、所定の幾何学的形状が更に制限されることはない。したがって、脱脂及び焼結により最終的に得られる透明物品の幾何学的形状も更に制限されることはない。本発明によると、製造される「所定の幾何学的形状を有する透明物品」は、その物品の厚さが、典型的には250μm超、好ましくは600μm超、更により好ましくは少なくとも1.0mmである限り、あらゆる任意の形状を有する物品と理解される。言い換えると、成形可能なナノコンポジットから生じる多成分溶融シリカガラス製の透明物品の幾何学的形状は、自由に選択可能であるが、ただし、厚さは透明物品内における最短距離である。
【0015】
以下において、本発明による成形可能なナノコンポジット及び本発明による方法を、図1を参照して詳細に説明するが、その内容は何ら制限されないと解釈される。
【0016】
本発明によると、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造するために用いられるナノコンポジットは成形可能である。このことは、その中の有機バインダーが成形可能な状態にある又はそのような状態に移行可能であることを意味する。有機バインダーが成形可能な状態にある又はそのような状態に移行可能であることで、有機バインダーを硬化させることにより、成形可能なナノコンポジットを所定の幾何学的形状へと成形することができる。これについては、以下でより詳細に記載する。
【0017】
有機バインダーが成形可能な状態にある又はそのような状態に移行可能である限り、すなわち硬化可能である限り、有機バインダーは、本発明によると更に制限されることはない。有機バインダーが硬化した結果として、工程(a)で得られる一次構造体は、成形可能なナノコンポジットが成形された結果である所定の幾何学的形状を維持する。
【0018】
本発明の1つの実施の形態において、有機バインダーは、冷却した際に硬化可能な熱可塑性物である。したがって、冷却することで軟化した熱可塑性物が固体になるので、有機バインダーは、もはや成形可能な状態にない。有機バインダーとして使用される熱可塑性物が硬化した結果として、以下で更に記載されるとおりの工程(a)で得られる一次構造体は、その形状を維持する。
【0019】
有機バインダーが熱可塑性物である場合、これは、芳香族若しくは脂肪族ジカルボン酸とジオール及び/又はヒドロキシカルボン酸に基づくポリエステル、脂肪族若しくは芳香族ジオールに基づくポリカーボネート、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリイソブテン、ポリ(エチレン酢酸ビニル)、エチレンプロピレンゴム(EPR)、ポリ(エチレンプロピレンジエン)、ポリ(ビニルブチラール)(PVB)、ポリアクリレート及びポリメタクリレート、シクロオレフィンポリマー等、並びにポリアミド、ポリアセタール、例えばポリオキシメチレン等、ビスフェノールに基づく芳香族ポリエーテルを含むポリエーテル、例えばポリエチレングリコール(PEG)等、若しくはポリウレタン、又はそれらの組合せから選択することが可能であるが、これらに限定されない。
【0020】
本発明の別の実施の形態において、有機バインダーは、外部刺激により開始される固化又は重合により硬化可能な樹脂である。この文脈において、外部刺激として、熱又は照射、特にUV照射を挙げることができる。場合によっては、混合でも外部刺激として十分である可能性があり、例えば、二成分樹脂において、樹脂の液体成分が互いに対して十分な反応性を呈する場合がそうである。さらに、必要に応じて、外部刺激として、有機バインダーの固化又は重合を促進するために有機バインダーに添加される開始剤を挙げることができる。適切な開始剤は、当業者に既知であり、そのような開始剤として、アセトフェノン、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPAP)、アゾ化合物、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾフェノン誘導体、フルオレセイン及びその誘導体、例えば、ローズベンガル、キノン、例えば、カンファーキノン、並びにホスフィン誘導体、例えば、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等があるが、これらに限定されない。したがって、外部刺激により開始された固化又は重合は、樹脂の液体成分(複数の場合もある)を固体にするので、有機バインダーは、もはや成形可能な状態にない。外部刺激に曝露すると、使用した樹脂に応じて、樹脂は固化して架橋構造体をもたらすか、重合して非架橋構造体をもたらすかのいずれかである。言い換えると、「樹脂」という用語には、本明細書において使用される場合、熱硬化性樹脂だけでなく、熱可塑性樹脂も包含される。すなわち、樹脂として、任意のモノマー及び/又はオリゴマー及び/又はポリマー組成物を本明細書において制限なく挙げることができる。有機バインダーとして使用された樹脂が硬化した結果として、以下で更に記載されるとおりの工程(a)で得られる一次構造体は、その形状を維持する。
【0021】
有機バインダーが樹脂である場合、これは、アクリレート樹脂及びメタクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、チオール-エン樹脂、又はポリウレタン樹脂から選択することができるが、これらに限定されない。特に、有機バインダーが樹脂である場合、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)又は2-ヒドロキシエチルメタクリレートとテトラエチレングリコールジアクリレート(TEGDA)との混合物を、有機バインダーとして挙げることができる。
【0022】
成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの他に、必須部分として、溶融シリカガラス粉末を含む。本明細書において、「溶融シリカガラス粉末」という用語は、未修飾の可能性がある溶融シリカガラス粉末(本明細書において、未修飾溶融シリカガラス粉末と称する場合がある)を包含するだけでなく、前修飾された可能性がある溶融シリカガラス粉末(本明細書において、前修飾溶融シリカガラス粉末と称する場合がある)も包含する。溶融シリカガラス粉末は、有機バインダー中に分散している。溶融シリカガラス粉末の分散は、使用する有機バインダーに応じて、当該技術分野で既知の任意の適切な手段により達成可能である。熱可塑性物が有機バインダーとして使用される場合、熱可塑性物は、そこに溶融シリカガラス粉末を加える前に、軟化されていてもよく、又は適切な有機溶媒若しくはガス相に溶解していてもよい。樹脂が有機バインダーとして使用される場合、溶融シリカガラス粉末は、樹脂の液体成分(複数の場合もある)に直接加えることができる。
【0023】
溶融シリカガラス粉末に含まれている粒子は、溶融シリカガラス粒子とも称する。本発明によると、溶融シリカガラス粉末は、直径が、5nm~500nmの範囲、好ましくは7nm~400nmの範囲、より好ましくは10nm~300nmの範囲、更により好ましくは20nm~180nmの範囲、最も好ましくは30nm~150nmの範囲の溶融シリカガラス粒子を含む。こうした粒子は、本明細書において、第1のタイプの粒子とも称する。溶融シリカガラス粉末は、これらに加えて、直径が、2μm~50μmの範囲、好ましくは2μm~40μmの範囲の溶融シリカガラス粒子を含むことができる。こうした粒子は、本明細書において、第2のタイプの粒子とも称する。溶融シリカガラス粉末が、第1のタイプの粒子と第2のタイプの粒子とを含む、すなわち溶融シリカガラス粒子の二峰性混合物を含む場合、径が小さい方の粒子が、径が大きい方の粒子間の隙間を埋めることができる。これにより、成形可能なナノコンポジット中に溶融シリカガラス粒子をより高密度で充填することができ、これにより今度は、以下で更に説明するとおりの工程(d)における焼結中の収縮がより小さくなる。原則として、溶融シリカガラス粉末は、第1のタイプのガラス粒子の直径とも第2のタイプのガラス粒子の直径とも異なる直径を有する任意の他のタイプの溶融シリカガラス粒子を更に含むことができる。溶融シリカガラス粒子のこのような多峰性混合物も、本発明の範囲内にある。この文脈において、有機バインダーと、その中に分散した溶融シリカガラス粉末とを含むコンポジットをナノコンポジットにしているのは、直径がナノメートル範囲にある第1のタイプの粒子である。
【0024】
本明細書において、第1、第2、及び任意の他のタイプの粒子の直径とは、ISO 9276-2に従って測定される平均直径と解釈されるものとする。本発明によると、溶融シリカガラス粒子は、(完全な)球状であることを必要としない。すなわち、粒子は、回転楕円形状であることも可能、すなわち、それらは、球体様であることが可能である。例えば、直径が5nm~500nmの範囲、好ましくは7nm~400nmの範囲、より好ましくは10nm~300nmの範囲、更により好ましくは20nm~180nmの範囲、最も好ましくは30nm~150nmの範囲の第1のタイプの粒子について、このことは、これらの粒子が、実質的に、直径5nm未満の寸法を有し得ず、好ましくは直径7nm未満の寸法を有し得ず、より好ましくは直径10nm未満の寸法を有し得ず、更により好ましくは直径20nm未満の寸法を有し得ず、最も好ましくは直径30nm未満の寸法を有し得ず、また実質的に、直径500nm超の寸法を有し得ず、好ましくは直径400nm超の寸法を有し得ず、より好ましくは直径300nm超の寸法を有し得ず、更により好ましくは直径180nm超の寸法を有し得ず、最も好ましくは直径150nm超の寸法を有し得ないことを意味する。
【0025】
本発明によると、溶融シリカガラス粉末は、ドーパントで前修飾されている、及び/又は少なくとも1種の非晶質修飾剤が、成形可能なナノコンポジットに含有されており、有機元素化合物、金属錯体、及び塩から選択される1種以上のドーパント試薬が、少なくとも1種の非晶質修飾剤として、成形可能なナノコンポジットに含有されている。すなわち、本発明による成形可能なナノコンポジットは、少なくとも部分的に前修飾された溶融シリカガラス粉末を含む可能性があるか、未修飾溶融シリカガラス粉末を、少なくとも1種の非晶質修飾剤と組み合わせて含む可能性があるか、少なくとも部分的に前修飾された溶融シリカガラス粉末を、少なくとも1種の非晶質修飾剤と組み合わせて含む可能性がある。本明細書において、「少なくとも部分的に前修飾された」という用語は、前修飾された溶融シリカガラス粉末に加えて、未修飾溶融シリカガラス粉末が存在する可能性があることを意味する。
【0026】
この文脈において、「前修飾」という用語は、溶融シリカガラス粉末の化学組成が改変されていることを意味する。そのような改変を達成する目的で、溶融シリカガラス粉末は、ドーパントで前修飾される。以下に限定されるものではないが、ドーパントは、Ag、Al、Au、B、Ti、F、Fe、Na、Ni、K、Ca、Cr、Ce、Co、Cu、Dy、Er、Eu、Gd、Ho、La、Lu、Nd、P、Pt、Pr、Pm、Rh、Sm、Sc、Tb、Tm、V、Yb、Y、Ge、Pb、Ba、Zr、Zn、及びMgからなる群より選択される1種以上の元素を含むことができる。上述の検討に従って、溶融シリカガラス粉末がドーパントで前修飾される場合、溶融シリカガラス粉末に含まれている各粒子がドーパントで前修飾されることは要求されない。すなわち、溶融シリカガラス粒子の一部がドーパントで前修飾されており、他は前修飾されていない実施の形態もまた、本発明の範囲内にある。言い換えると、本発明によると、溶融シリカガラス粉末の少なくとも一部分がドーパントで前修飾されていれば十分である。ドーパントで前修飾された溶融シリカガラス粉末を得る目的で、典型的には、既に調製過程にある溶融シリカガラス粉末に、ドーパントが添加される。例えば、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、又はチタノシリケートガラス製の透明物品を得るためドーパントがAl、B、又はTi等の元素を含む場合、対応するドーパント試薬、例えば、ジ-sec-ブトキシアルミノキシトリエトキシシラン、トリメチルボレート、又はテトライソプロピルオルトチタノエート等が、溶融シリカガラス粉末の調製元である原材料に添加される。
【0027】
「修飾剤」という用語は、溶融シリカガラス粉末の化学組成は未改変のままであるが、焼結後最終的に得られる透明物品を形成するガラスの化学組成が改変されることを意味する。そのような改変を達成する目的で、有機元素化合物、金属錯体、及び塩から選択される1種以上のドーパント試薬が、少なくとも1種の修飾剤として、成形可能なナノコンポジットに含有される。本発明によると、少なくとも1種の修飾剤は、存在する場合には、非晶質状態で有機バインダー中に分散している。これは、有機元素化合物、金属錯体、及び塩から選択されるドーパント試薬が、結晶性材料としてではなく、微細に分割されたイオン性ドメインとして、成形可能なナノコンポジットに含有されることを意味する。すなわち、以下で更に記載されるとおりの多成分溶融シリカガラス製の透明物品の製造過程において、少なくとも1種の修飾剤を非晶質せしめるために溶融プロセスを必要とはしない。上述の検討に従って、修飾剤は、本明細書において、非晶質修飾剤と称する。
【0028】
本明細書において、有機元素化合物は、無機元素(炭素、水素、酸素、及び窒素以外)が有機部分に共有結合している化合物を包含する。無機元素が金属である場合、有機元素化合物は、有機金属化合物とも称する。例として、メチルリチウム、エチルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、フェニルリチウム、フェロセン、コバルトセン、トリメチルアルミニウム、ジメチル亜鉛、ペンタカルボニル鉄、及びグリニャール試薬が挙げられるが、これらに限定されない。金属錯体及び塩の群に含まれる化合物は、当業者に既知である。
【0029】
一般に、少なくとも1種の修飾剤として使用される1種以上のドーパント試薬は、上述の前修飾用のものも含むことができる。使用される有機バインダーに応じて、少なくとも1種の修飾剤は、既に上述したとおり、微細に分割されたドメインになって、バインダー中に分散しており、そのようなドメインは、分離した又は錯形成したイオンからイオンクラスターまで及び有機元素相までの範囲に及び、したがって非晶質状態にある。当業者には明白であるとおり、少なくとも1種の修飾剤は、脱脂及び/又は焼結中に分解からもたらされる、ドーパントに含まれていた1種以上の元素を提供する。例えば、NaO-SiOガラス製の透明物品を得る目的で、ナトリウムイオン源として作用する塩の形状の修飾剤、例えば、メタクリル酸ナトリウムを添加することができる。着色溶融シリカガラス製の透明物品は、着色イオン源として作用する塩、例えば、硝酸クロム(III)又は塩化バナジウム(III)を添加することにより得ることができ、これらはそれぞれ、緑色又は青色溶融シリカガラス製の透明物品をもたらす。
【0030】
本発明によると、溶融シリカガラス粉末、すなわち、その少なくとも一部分が前修飾されており、同時に少なくとも1種の非晶質修飾剤が成形可能なナノコンポジットに含有されている実施の形態が包含される。これにより、溶融シリカガラスに2種以上の機能を付与することが容易に可能になる。こうした実施の形態において、溶融シリカガラス粉末の前修飾について、また少なくとも1種の非晶質修飾剤ついて提供された上述の検討は、等しく適用可能である。
【0031】
本発明によると、成形可能なナノコンポジット中の溶融シリカガラス粉末の含有量は、有機バインダー100体積部に対し、少なくとも5体積部、好ましくは少なくとも30体積部、より好ましくは少なくとも35体積部である。有機バインダーに対して溶融シリカガラス粉末の含有量が増えるほど、得られる透明物品中の溶融シリカガラス粒子の充填密度が高くなる。驚くべきことに、有機バインダーに対する溶融シリカガラス粉末の含有量が、相当高いとしても、例えば、有機バインダー100体積部に対し55体積部、更にはそれより多かったとしても、以下で更に記載されるとおり、工程(a)において成形可能なナノコンポジットを所定の幾何学的形状へと成形することが、依然として可能である。
【0032】
成形可能なナノコンポジットは、溶融シリカガラス粉末を分散状態で含み、存在する場合には、少なくとも1種の非晶質修飾剤を含む有機バインダーの他に、必要に応じて、得られる透明物品の製造を促進する1種以上の追加の作用剤を含むことができる。本発明によると、成形可能なナノコンポジット中の任意の追加の作用剤の全体での含有量は、成形可能なナノコンポジットの合計質量を100質量%として、20質量%超を占めず、より好ましくは15質量%以下、更により好ましくは10質量%以下、なおも更により好ましくは5質量%以下であることが好ましい。すなわち、本発明による成形可能なナノコンポジットは、溶融シリカガラス粉末を分散状態で含み、存在する場合には、少なくとも1種の非晶質修飾剤を含む有機バインダーから本質的になり、有機バインダーに添加された任意の開始剤を含む。本明細書において、「~から本質的になる」という用語は、溶融シリカガラス粉末を分散状態で含み、存在する場合には、少なくとも1種の非晶質修飾剤を含む有機バインダーの含有量が、有機バインダーに添加された任意の開始剤も含めて、成形可能なナノコンポジットの合計質量を100質量%として、好ましくは少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも85質量%、更により好ましくは少なくとも90質量%、なおも更により好ましくは少なくとも95質量%を占めることを意味する(残部は、以下で記載される1種以上の追加の作用剤からなる)。典型的には、1種以上の追加の作用剤は、室温で非晶質であり、このことは、本発明による成形可能なナノコンポジットが、どのような結晶性成分も含まないことを意味する。具体的には、好適な実施の形態に従って、有機バインダーマトリクス中で結晶性を維持する金属酸化物等の結晶性化合物は、成形可能なナノコンポジットに含有されない。
【0033】
例えば、溶融シリカガラス粉末の有機バインダー中への分散を促進する目的で、分散剤を添加することができる。分散剤として、アルコール、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシメチレン等、及びアニオン性界面活性剤、例えば、脂肪酸及びそれらの塩又は脂肪族カルボン酸及びそれらの塩等、例えば、ステアリン酸及びその塩又はオレイン酸及びその塩等を本明細書において挙げることができるが、特に限定されない。本発明での使用に適する可能性のある分散剤の別の例として、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸がある。本発明によると、分散剤が存在することは必須ではない。すなわち、本発明は、成形可能なナノコンポジットがどのような分散剤も含有しない実施の形態も包含する。
【0034】
以下で更に記載するとおりの工程(b)における一次構造体の脱脂を促進する目的で、成形可能なナノコンポジットは、好ましくは、有機バインダー中に分散した相形成剤を更に含む。相形成剤とは、室温(本明細書において25℃であると解釈される)で固形又は粘性であるものであり、有機バインダー中に内相を形成するものである。相形成剤の例として、アルコール、エーテル、及びシリコーンオイル、並びにそれらの組合せが挙げられ、これらの物質は、室温で固形又は粘性であるように、十分に高い分子量を有する、及び/又は適切な官能基を有する。本明細書において、「粘性」という用語は、DIN 53019に従って測定した場合の室温での粘度が、少なくとも1mPa・s、好ましくは少なくとも5mPa・sであることを指すと解釈されるものとする。相形成剤は、以下で更に記載されるとおりの工程(b)の一次構造体の脱脂前又は脱脂中に、例えば、相形成剤の蒸発若しくは昇華を招くか又は相形成剤の分解を招く熱処理により、有機バインダーから除去することができる。さらに、相形成剤は溶媒抽出又は気相抽出によって除去することもできる。
【0035】
相形成剤の具体例としては、フェノキシエタノール(POE)を挙げることができる。POEは室温で約30mPa・sの粘度を有するため、粘性物質である。POEは、大気圧下、242℃の温度で蒸発することができる。しかしながら、その蒸気圧が高いため、それより低い温度でかなりの量が既に除去されている。さらに、上述したPEG及び2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸は、相形成剤としても作用することができる。
【0036】
典型的には、成形可能なナノコンポジット中の相形成剤の含有量は、存在する場合には、有機バインダー100体積部に対して、少なくとも5体積部、好ましくは少なくとも10体積部、より好ましくは少なくとも15体積部である。これにより、以下で更に記載されるとおりの工程(b)の一次構造体の脱脂を促進するように、内相が有機バインダー中に十分に形成されることを確実にできる。
【0037】
なお、いったん一次構造体が形成されてしまうと、有機バインダーは、固体になる(液体、ゲル状、又はペースト様状態ではない)。当業者には当然のとおり、固体とは、その粘度を特定することが不可能であることを特徴とする。本明細書において、成形可能なナノコンポジットは、どのような増粘剤も含有していなければ、水のような低粘度溶媒を何も含有していない。低粘度とは、DIN 53019に従って測定した場合の室温での粘度が5mPa・s未満であることを意味する。本発明の特定の実施の形態に従って、成形可能なナノコンポジットは、トリグリセリド、ワックス、及びパラフィンのどれも含有していなければ、フタル酸塩及びそれらの任意の誘導体等の可塑剤を何も含有していない。
【0038】
本発明による方法の工程(a)において、上記で詳細に記載してきた本発明による成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化前、硬化中、及び/又は硬化後に、所定の幾何学的形状へと成形される。これにより、圧粉体とも称する一次構造体が得られる。使用される有機バインダーに応じて、硬化は、冷却によって達成されるか、外部刺激により開始される固化若しくは重合によって達成される。一次構造体の形状は、以下で更に記載されるとおりの工程(d)で得られる透明物品の形状を反映している。
【0039】
成形可能なナノコンポジットを所定の幾何学的形状へと成形することは、当該技術分野で既知の任意の適切な手段により達成することができる。特に、成形可能なナノコンポジットは、工程(a)において、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより成形することができる。適用されるプロセス(複数の場合もある)に応じて、溶融シリカガラス粉末を分散状態で含み、存在する場合には少なくとも1種の非晶質修飾剤を含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形前、成形中、及び/又は成形後に硬化する。
【0040】
除去造形プロセスの場合、溶融シリカガラス粉末を分散状態で含み、存在する場合には少なくとも1種の非晶質修飾剤を含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形前に硬化させる。言い換えると、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化後に、所定の幾何学的形状へと成形される。適切な除去造形プロセスとして、レーザー使用構造化技法(laser-based structuring techniques)、並びにCNC機械加工技法、例えば、フライス加工、掘削、研削、のこ引き、木摺打ち、及び研磨等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
積層造形プロセスの場合、溶融シリカガラス粉末を分散状態で含み、存在する場合には少なくとも1種の非晶質修飾剤を含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形中に硬化させる。言い換えると、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化中に、所定の幾何学的形状へと成形される。適切な積層造形プロセスとして、選択的レーザー焼結及び選択的レーザー溶融、熱溶解フィラメント製造(熱溶解積層造形法とも称する)、ステレオリソグラフィー、二光子重合、インクジェット印刷、並びに立体印刷技法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
複製プロセスの場合、溶融シリカガラス粉末を分散状態で含み、存在する場合には少なくとも1種の非晶質修飾剤を含む有機バインダーは、成形可能なナノコンポジットの成形後に硬化させる。言い換えると、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダーの硬化前に、所定の幾何学的形状へと成形される。適切な複製プロセスとして、鋳造、射出成形、(射出)圧縮成形、押出成形、熱成形、冷間又は熱間引抜、ホットエンボス、ナノインプリント、及びブロー成形が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
既に上述したとおり、成形可能なナノコンポジットを所定の幾何学的形状へと成形する目的で、1つ以上の除去造形プロセス、積層造形プロセス、及び複製プロセスを、組み合わせることができる。例えば、成形可能なナノコンポジットを複製プロセスにより成形して、一次構造体に当該複製プロセスを原因とする視認できるアーチファクトがある場合、除去造形プロセスを、後加工として一次構造体に適用することができる。あるいは、工程(a)で得られた一次構造体の表面を滑らかにする目的で、後加工としてコーティング技法を適用することができる。
【0044】
本発明による方法の工程(b)において、工程(a)で得られた一次構造体は、有機バインダーの除去により脱脂される。これにより、二次構造体(脱脂体とも称する)が得られる。一次構造体を脱脂した、すなわち有機バインダーを除去した結果として、得られる二次構造体は、その中に空隙が形成されている。
【0045】
使用される有機バインダーに応じて、工程(a)で得られる一次構造体は、熱処理、化学反応、減圧、溶媒抽出若しくは気相抽出、又はそれらの組合せにより、工程(b)で脱脂することができる。例えば、一次構造体を、最初に溶媒抽出用の溶媒に浸漬してから、熱処理することができる。原則として、二次構造体を形成する溶融シリカガラス粉末、及び存在する場合には、少なくとも1種の非晶質修飾剤に悪影響を及ぼすことなく有機バインダーを除去することができる任意の手段を適用することができる。この文脈において、当業者なら、工程(b)において有機バインダーを除去するために適用する適切な条件を慣習的に選択する。
【0046】
例えば、熱処理により脱脂を行う場合、脱脂中に適用する温度は、典型的には、100℃~600℃の範囲、例えば150℃~550℃の範囲であり、加熱速度は、典型的には0.1℃/分~5℃/分の範囲、例えば0.5℃/分~1℃/分の範囲であり、保持時間は、得られる透明物品のサイズに応じて、典型的には、2分~12時間の範囲である。得られる透明物品のサイズがかなり小さい場合、工程(b)において一次構造体を脱脂するのに数秒でも十分である可能性がある。本発明によると、熱処理による脱脂は段階的に行うこともできる。上述の検討に従って、有機バインダーの揮発性を高める減圧、すなわち大気圧より低い圧により、熱処理による脱脂を更に容易にすることができる。
【0047】
有機バインダーの除去後、溶融シリカガラス粒子同士は水素結合によって結合する。これにより、二次構造体に機械的安定性が付与される。ナノメートルの範囲の直径を有する溶融シリカガラス粒子のサイズを考慮すると、溶融シリカガラス粒子は比表面積が大きく、これにより、二次構造体を機械的に安定に保つのに十分な相互作用が可能となる。少なくとも1種の非晶質修飾剤が成形可能なナノコンポジットに含有されている場合、二次構造体は、少なくとも1種の非晶質修飾剤の固有凝集力により、及び非晶質修飾剤と溶融シリカガラス粉末に含まれる溶融シリカガラス粒子との相互作用により、安定化する。例として、有機元素化合物は、副次的力(secondary forces)、例えば、疎水的相互作用、ファン・デル・ワールス力、及び水素結合等を介して相互作用することができ、一方で金属錯体及び塩は、静電相互作用を形成して、これが二次構造体を安定化させる。
【0048】
工程(b)において有機バインダーを除去する前に、又は有機バインダーを除去する際に、相形成剤が存在する場合には、例えば、蒸発若しくは昇華によって、又は分解によって、一次構造体から除去する。相形成剤が存在する場合には、その除去を溶媒抽出又は気相抽出によって達成することもできる。原則として、有機バインダーの除去に関連して上で説明したものと同じ手段を適用することができる。
【0049】
相形成剤が存在する場合、相形成剤の除去により、工程(b)における一次構造体の脱脂が容易になる。これは、相形成剤によって形成された有機バインダー中の内相が除去されると、一次構造体に細孔が生成するからである。次いで、これらの細孔を通して、残存する有機バインダーをより制御された方法で除去することができる。これにより、特に厚い構造を採用する場合に、二次構造体がより損傷しにくくなる。有機バインダーを複数工程で除去する場合にも、同じことが当てはまる。例えば、有機バインダーが異なる熱分解挙動を示す2種以上のバインダー成分の組合せである場合、脱脂は、順次行うことができる。この場合、第1のバインダー成分、すなわち、分解温度が最も低いバインダー成分を除去した後、第1のバインダー成分の除去後に一次構造体中に生成した細孔により、それ以外のバインダー成分(複数の場合もある)の除去が容易になる。
【0050】
工程(b)における一次構造体の脱脂は、一次構造体内の消失模型として作用する埋没した鋳型構造体の除去も可能にする。埋没した鋳型構造体は、有機バインダーと同一又は化学的に類似の材料のみで構成されており、いったんこれが一次構造体の脱脂中に除去されてしまうと、これの逆形状が、得られる二次構造体内に中空構造として残される。この修飾は、犠牲鋳型(sacrificial template)複製とも称する。
【0051】
本発明による方法の工程(c)において、工程(b)で得られる二次構造体の空隙は、例えば、更なる修飾を達成する目的で及び/又はガラスの密度を上昇させる目的で、少なくとも1種の添加剤で充填することができる。本発明によると、工程(c)は任意選択である。充填剤とも称する少なくとも1種の添加剤は、二次構造体中に形成された空隙に導入可能であるように、適切なサイズを有することが必要である。本明細書において、少なくとも1種の添加剤は、更に制限されることはなく、適宜選択することができる。
【0052】
概して、少なくとも1種の添加剤は、成形可能なナノコンポジットに含有されている可能性のある少なくとも1種の非晶質修飾剤と同一であっても、異なっていてもよい。原則として、少なくとも1種の添加剤として、上記の非晶質修飾剤のどれでも適宜選択可能である。したがって、少なくとも1種の非晶質修飾剤について上記で概要を述べてきたものに加えて、有機元素化合物、金属錯体、及び塩が、少なくとも1種の添加剤として使用可能であるが、これらに限定されない。さらに、二次構造体の空隙は、成形可能なナノコンポジット中に存在するものと同じ化学組成を有する溶融シリカガラス粉末(例えば、ドーパントで前修飾された溶融シリカガラス粉末等を含む)で充填することができる。当業者には明らかであるとおり、溶融シリカガラス粉末が少なくとも1種の添加剤として使用される場合、溶融シリカガラス粉末に含まれるガラス粒子は、上記で概要を述べたことに加えて、適切な直径、すなわち適切なサイズを有する必要がある。
【0053】
少なくとも1種の添加剤は、特に制限なく、ガラス前駆体、例えば、テトラエチルオルトシリケート(Si(OC)(TEOSとも称する)のようなケイ素系前駆体等から選択することができる。特に、成形可能なナノコンポジット中の溶融シリカガラス粒子のものと区別することができないガラスを形成するガラス前駆体を、本明細書において、少なくとも1種の添加剤として使用することができるが、成形可能なナノコンポジット中の溶融シリカガラス粒子のものと異なるガラスを形成するガラス前駆体を、本明細書において、少なくとも1種の添加剤として使用することもできる。例えば、テトラエチルオルトチタネート(Ti(OC)のようなチタン系前駆体を使用することができる。本明細書において少なくとも1種の添加剤として使用可能な他の金属アルコキシドとしては、チタンイソプロポキシド、チタンエトキシド、ジルコニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、バナジルイソプロポキシド、ニオブエトキシド、タンタルエトキシド、及びカリウムtert-ブトキシドが挙げられる。更に好適なガラス前駆体が当業者に既知であり、それらも本明細書に使用可能である。
【0054】
以下で更に記載されるとおりの工程(d)において二次構造体を焼結して透明物品を得る過程で、溶融シリカガラス粉末及び存在する場合には少なくとも1種の非晶質修飾剤(これらは二次構造体を形成する)は、存在する場合には少なくとも1種の添加剤と一緒になって、緻密なガラスに変わる。ガラス製であるかガラスに変換されるように反応可能であるかのいずれかである少なくとも1種の添加剤で二次構造体を充填することにより、焼結中の二次構造体の収縮を低減することができる。
【0055】
本発明によると、従来の方法で処理した修飾溶融シリカガラスと同等の密度を有する多成分溶融シリカガラス製の透明物品を得ることができる。ガラスの密度を上昇させる目的で、二次構造体を少なくとも1種の添加剤で充填することがないとしても、以下で更に記載されるとおりの工程(d)で焼結後に得られる透明物品の波長範囲400nm~1000nmにおける光透過率は、従来の方法で処理した修飾溶融シリカガラスと同等である。
【0056】
工程(c)において、少なくとも1種の添加剤を含有する溶液に二次構造体を浸漬するか、少なくとも1種の添加剤を含有する若しくは生成する雰囲気中で、二次構造体を物理蒸着若しくは化学蒸着に曝露するか、又はこれらの組合せによって、二次構造体の空隙を少なくとも1種の添加剤で充填することができる。しかしながら、原則として、この点に関して他のいかなる充填プロセスも同様に適用することができる。例えば、ゾル-ゲルプロセスを適用することもできる。工程(c)において二次構造体の空隙を充填するのに用いる少なくとも1種の添加剤に応じて、二次構造体を、最初に、添加剤のうち1種を含有する溶液に浸漬することができ、次いで、添加剤のうち別の1種を含有する若しくはそれを生成する物理蒸着又は化学蒸着に曝露させることができる。二次構造体の空隙は、一次構造体の脱脂が完了する前であっても、適宜、少なくとも1種の添加剤で充填することができる。この場合、少なくとも1種の添加剤で充填されるのは部分脱脂された一次構造体である。
【0057】
本発明による方法の工程(d)において、工程(b)で得られ、任意選択で工程(c)において少なくとも1種の添加剤で充填された二次構造体を焼結する。これにより、透明物品が得られる。適切な焼結条件は、当業者に既知であり、適宜、習慣的に選択する。
【0058】
制限はないが、得られる透明物品のサイズに応じて、焼結中に適用される温度は、典型的には700℃~1250℃の範囲にあり、加熱速度は、典型的には1℃/分~10℃/分、例えば、3℃/分~5℃/分の範囲にあり、保持時間は、典型的には0.5時間~8時間の範囲にあり、例えば、4時間である。本発明によると、焼結は、段階的に行うことも可能である。さらに、有機元素化合物、金属錯体、及び塩が少なくとも1種の非晶質修飾剤として成形可能なナノコンポジットに含有されている場合、及び/又は工程(c)において二次構造体の空隙をそれらで及び/又はガラス前駆体で充填する場合、有機元素化合物、金属錯体、及び塩、及び/又はガラス前駆体を反応させてガラスに変換する目的で、比較的低温で、例えば、400℃~700℃の範囲で予備焼結を行うことができる。
【0059】
必要に応じて、緻密なガラスへの変換を完了させる目的で、後焼結を、比較的短い保持時間、例えば1分間、比較的高温で、例えば1250℃~1600℃の範囲で行うことができる。典型的には、後焼結を行う場合、加熱速度は、比較的速く、例えば50℃/分である。
【0060】
本発明によると、焼結は圧力の適用を必要としない。それどころか、工程(d)における焼結は、大気圧より低い圧力、例えば、最大で0.1mbar、好ましくは最大で0.01mbar、特に好ましくは最大で0.001mbarの圧力で適切に行うことができる。大気圧又は更に低い圧力で焼結を行うことができるため、焼結炉に関して本発明において満たすべき特定の要件はない。さらに、焼結は、火炎処理又は連続熱処理で行うこともできる。
【0061】
焼結後、得られた透明物品を室温まで冷却し、得られたままで使用することができる。本明細書において、「透明な」という用語は、厚さ1.0mmに対して、波長範囲400nm~1000nmで、10%超、好ましくは20%超、より好ましくは30%超、特に好ましくは40%超という光透過率を意味する。すなわち、本明細書において、物品が、厚さ1.0mmに対して、波長範囲400nm~1000nmで、10%超、好ましくは20%超、より好ましくは30%超、特に好ましくは40%超という光透過率を呈する場合に、透明であると解釈されるべきである。
【0062】
本発明による方法により、本発明による成形可能なナノコンポジットから得ることが可能な多成分溶融シリカガラス製の透明物品は、多種多様な用途、とりわけ、光学分野において、例えばレンズとしての用途に適している。除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せをはじめとする、当該技術分野で既知の任意の適切な手段を本明細書において適用することが可能であるため、本発明による成形可能なナノコンポジットを利用する本発明による方法は、高生産性及び高解像度の両方を備えた透明物品の製造を可能にし、その幾何学的形状は自由に選択可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】工程(a)、工程(b)、及び工程(d)を参照して、本発明による透明物品の製造を示す図である:(a)有機バインダーと、その中に分散した前修飾された溶融シリカガラス粉末とを含む、又は有機バインダーと、その中に分散した未修飾溶融シリカガラス粉末とを、非晶質修飾剤と合わせて含む成形可能なナノコンポジットから、一次構造体(圧粉体とも称する)を得る工程、(b)一次構造体から二次構造体(脱脂体とも称する)を得る工程、並びに(d)二次構造体から多成分溶融シリカガラス製の透明物品を得る工程。図1において、任意選択である工程(c)は省略した。図1には示されていないものの、成形可能なナノコンポジットは、有機バインダー及びその中に分散した前修飾された溶融シリカガラス粉末を、非晶質修飾剤と合わせて含むこともできる。
図2】以下で更に記載されるとおりの実施例1~実施例5で得られたそれぞれの多成分溶融シリカガラス製の透明物品を示す図である。
図3】以下で更に記載されるとおりの実施例6で得られたそれぞれの多成分溶融シリカガラス製の透明物品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0064】
以下の実施例によって本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
以下で更に記載されるとおりの実施例1~実施例3において、多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造するためAl、B、又はTiでドープした溶融シリカガラス粉末を用いた。それぞれの場合において、W. T. Minehan et al., Journal of Non-Crystalline Solids, 1989, vol. 108, issue 2, pages 163-168を応用したゾルゲル合成経路を用いて、前修飾された溶融シリカガラス粉末を調製した。例として、Tiドープ溶融シリカガラス粉末について以下に記載する:
【0066】
テトラエチルオルトシリケート20mL、塩酸0.538mL、エタノール51mL、及び水1.7mLを混合し、50℃の温度で15分間撹拌して、一部加水分解したシリカゾルを得た。チタンイソプロポキシド0.93mLを加えた後、得られる混合物を室温で更に30分間撹拌して、チタンイソプロポキシドと加水分解したシリカゾルとを反応させた。アンモニア溶液を加えて、Tiドープ溶融シリカガラス粉末を溶液内で沈澱させ、これに続いて溶媒を蒸発させた。
【0067】
実施例1
アルミノシリケートガラス製の透明物品の製造
Alを1.9質量%含有し、粒径が90nmであるAlドープ溶融シリカガラス粉末(アルミノシリケートガラス粉末とも称する)15gを、有機バインダーとしてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.25mL中に分散させた。相形成剤としてフェノキシエタノール3.75mLを加え、有機バインダーの光固化を促進するため開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン0.6gを加えた。
【0068】
得られた成形可能なナノコンポジットを、適切なステレオリソグラフィープリンター(Asiga Pico 2)を用いてステレオリソグラフィーにより、所定の幾何学的形状へと成形した。有機バインダーの硬化は、プリンターに組み込んだ光源により提供される300nm~400nmの波長範囲を有する光で固化させる際に達成され、これにより圧粉体を得た。
【0069】
得られた圧粉体から、以下のプロトコルを適用して加熱脱脂することにより有機バインダーを除去して、脱脂体を得た:
加熱速度:0.5℃/分:25℃→150℃ 保持時間:4時間
加熱速度:0.5℃/分:150℃→280℃ 保持時間:4時間
加熱速度:1℃/分: 280℃→550℃ 保持時間:2時間
冷却速度:5℃/分: 550℃→25℃ 終了
【0070】
得られた脱脂体を、大気条件下、以下のプロトコルを適用して焼結することにより、アルミノシリケートガラス製の透明物品を得た:
加熱速度:5℃/分: 25℃→800℃ 保持時間:2時間
加熱速度:3℃/分: 800℃→1250℃ 保持時間:1.5時間
加熱速度:50℃/分:1250℃→1400℃ 保持時間:1分
冷却速度:20℃/分:1400℃→1300℃ 保持時間なし
冷却速度:5℃/分: 1300℃→25℃ 終了
【0071】
得られたアルミノシリケートガラス製の透明物品を、図2(a)に示す。
【0072】
実施例2
ボロシリケートガラス製の透明物品の製造
を7.5質量%含有し、粒径が50nm~100nmの範囲であるBドープ溶融シリカガラス粉末(ボロシリケートガラス粉末とも称する)15gを、有機バインダーとしてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.25mL中に分散させた。相形成剤としてフェノキシエタノール3.75mLを加え、有機バインダーの光固化を促進するため開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン0.6gを加えた。
【0073】
得られた成形可能なナノコンポジットを、適切なステレオリソグラフィープリンター(Asiga Pico 2)を用いてステレオリソグラフィーにより、所定の幾何学的形状へと成形した。有機バインダーの硬化は、プリンターに組み込んだ光源により提供される300nm~400nmの波長範囲を有する光で固化させる際に達成され、これにより圧粉体を得た。
【0074】
得られた圧粉体から、上記の実施例1に記載のプロトコルを適用して加熱脱脂することにより有機バインダーを除去して、脱脂体を得た。
【0075】
得られた脱脂体を、残圧0.01mbarの真空下、以下のプロトコルを適用して焼結することにより、ボロシリケートガラス製の透明物品を得た:
加熱速度:5℃/分:25℃→800℃ 保持時間:2時間
加熱速度:3℃/分:800℃→1100℃ 保持時間:3時間
冷却速度:5℃/分:1100℃→25℃ 終了
【0076】
得られたボロシリケートガラス製の透明物品を、図2(b)に示す。
【0077】
実施例3
チタノシリケートガラス製の透明物品の製造
TiOを4.5質量%含有し、粒径が50nm~100nmの範囲であるTiドープ溶融シリカガラス粉末(チタノシリケートガラス粉末とも称する)15gを、有機バインダーとしてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル11.25mL中に分散させた。相形成剤としてフェノキシエタノール3.75mLを加え、有機バインダーの光固化を促進するため開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン0.6gを加えた。
【0078】
得られた成形可能なナノコンポジットを、適切なステレオリソグラフィープリンター(Asiga Pico 2)を用いてステレオリソグラフィーにより、所定の幾何学的形状へと成形した。有機バインダーの硬化は、プリンターに組み込んだ光源により提供される300nm~400nmの波長範囲を有する光で固化させる際に達成され、これにより圧粉体を得た。
【0079】
得られた圧粉体から、上記の実施例1に記載のプロトコルを適用して加熱脱脂することにより有機バインダーを除去して、脱脂体を得た。
【0080】
得られた脱脂体を、大気条件下、以下のプロトコルを適用して焼結することにより、チタノシリケートガラス製の透明物品を得た:
加熱速度:5℃/分: 25℃→800℃ 保持時間:2時間
加熱速度:3℃/分: 800℃→1200℃ 保持時間:1.5時間
加熱速度:50℃/分:1200℃→1500℃ 保持時間:1分
冷却速度:50℃/分:1500℃→1300℃ 保持時間なし
冷却速度:5℃/分: 1300℃→25℃ 終了
【0081】
得られたチタノシリケートガラス製の透明物品を、図2(c)に示す。
【0082】
実施例4
NaO-SiOガラス製の透明物品の製造
粒径が100nmである溶融シリカガラス粉末89gを、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル30mLに分散させた。メタクリル酸ナトリウム0.5gをメタクリル酸0.5mLに先に溶解させておき、これを非晶質修飾剤として加えた。有機バインダーの光固化を促進するため開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン0.3gを加えた。本明細書において、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタクリル酸は、有機バインダーとして作用した。
【0083】
得られた成形可能なナノコンポジットを、シリコーン型での鋳造により、所定の幾何学的形状へと成形した。有機バインダーの硬化は、300nm~400nmの波長範囲を有する光で固化させる際に達成され、これにより圧粉体を得た。
【0084】
得られた圧粉体から、上記の実施例1に記載のプロトコルを適用して加熱脱脂することにより有機バインダーを除去して、脱脂体を得た。
【0085】
得られた脱脂体を、火炎中、温度800℃で20秒間焼結することにより、NaO-SiOガラス製の透明物品を得た。
【0086】
得られたNaO-SiO製の透明物品を、図2(d)に示す。
【0087】
実施例5
着色(緑色)溶融シリカガラス製の透明物品の製造
粒径が50nm~100nmの範囲である溶融シリカガラス粉末25gを、有機バインダーとしてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル8.25mLに分散させた。相形成剤としてフェノキシエタノール3.75mLを加え、非晶質修飾剤として硝酸クロム(III)50mgを加え、有機バインダーの光固化を促進するため開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン0.6gを加えた。
【0088】
得られた成形可能なナノコンポジットを、適切なステレオリソグラフィープリンター(Asiga Pico 2)を用いてステレオリソグラフィーにより、所定の幾何学的形状へと成形した。有機バインダーの硬化は、プリンターに組み込んだ光源により提供される300nm~400nmの波長範囲を有する光で固化させる際に達成され、これにより圧粉体を得た。
【0089】
得られた圧粉体から、上記の実施例1に記載のプロトコルを適用して加熱脱脂することにより有機バインダーを除去して、脱脂体を得た。
【0090】
得られた脱脂体を、残圧0.01mbarの真空下、以下のプロトコルを適用して焼結することにより、着色(緑色)溶融シリカガラス製の透明物品を得た:
加熱速度:5℃/分:25℃→800℃ 保持時間:2時間
加熱速度:3℃/分:800℃→1300℃ 保持時間:1.5時間
冷却速度:5℃/分:1300℃→25℃ 終了
【0091】
得られた着色(緑色)溶融シリカガラス製の透明物品を、図2(e)に示す。
【0092】
実施例6
チタノシリケートガラス製の透明物品の製造
チタンイソプロポキシドと、プロピオン酸及びコハク酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチルとの縮合反応により、非晶質修飾剤としてのチタニア前駆体を合成した。これを行うため、2-プロパノール10mLに、チタンイソプロポキシド10gを溶解させた。次いで、チタンイソプロポキシドの溶液を一定撹拌しながら、そこに、プロピオン酸7.3g及びコハク酸モノ-2-(メタクリロイルオキシ)エチル9.70gを2-プロパノール10mLに溶解させた溶液を、30分間かけて滴下して加えた。得られる溶液を、温度60℃で還流下4時間撹拌した。次いで、溶媒を温度40℃で真空除去した。
【0093】
粒径が50nm~100nmの範囲である溶融シリカガラス粉末15gを、有機バインダーとしてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル1.61gと非晶質修飾剤として合成したチタニア前駆体7.54gとの混合物に分散させた。相形成剤としてフェノキシエタノール2.2gを加え、有機バインダーの光固化を促進するため開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン45mgを加えた。
【0094】
得られた成形可能なナノコンポジットを、シリコーン型での鋳造により、所定の幾何学的形状へと成形した。有機バインダーの硬化は、300nm~400nmの波長範囲を有する光で固化させる際に達成され、これにより圧粉体を得た。
【0095】
得られた圧粉体から、以下のプロトコルを適用して加熱脱脂することにより有機バインダーを除去して、脱脂体を得た:
加熱速度:0.5℃/分:25℃→150℃ 保持時間:1時間
加熱速度:0.5℃/分:150℃→270℃ 保持時間:1時間
加熱速度:1℃/分: 270℃→400℃ 保持時間:1時間
加熱速度:1℃/分: 400℃→600℃ 保持時間:1時間
冷却速度:5℃/分: 600℃→25℃ 終了
【0096】
加熱脱脂中、非晶質修飾剤は分解してチタニアになり、所望の化学組成であるTiOを7.1質量%及びSiOを92.9質量%有する脱脂体が得られた。
【0097】
得られた脱脂体を、大気条件下、以下のプロトコルを適用して焼結することにより、チタノシリケートガラス製の透明物品を得た:
加熱速度:10℃/分:25℃→1250℃ 保持時間:1時間
加熱速度:10℃/分:1250℃→1500℃ 保持時間:5分間
冷却速度:20℃/分:1500℃→25℃ 終了
【0098】
得られたチタノシリケートガラス製の透明物品を、図3に示す。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多成分溶融シリカガラス製の透明物品製造用の成形可能なナノコンポジットであって、
有機バインダーと、
前記有機バインダー中に分散した溶融シリカガラス粉末であって、該溶融シリカガラス粉末は、直径が5nm~500nmの範囲の溶融シリカガラス粒子を含む、溶融シリカガラス粉末と、
前記有機バインダー中に分散した相形成剤であって、該相形成剤は室温で固形又は粘性であり、前記有機バインダー中に内相を形成する、相形成剤と、
を含み、
前記溶融シリカガラス粉末は、ドーパントで前修飾されている、及び/又は少なくとも1種の修飾剤が前記成形可能なナノコンポジットに含有されていて、前記少なくとも1種の修飾剤として有機元素化合物、金属錯体、及び塩から選択される1種以上のドーパント試薬が前記成形可能なナノコンポジットに含有されており、前記少なくとも1種の修飾剤は、非晶質状態で前記有機バインダー中に分散しており、
前記成形可能なナノコンポジット中の前記溶融シリカガラス粉末の含有量は、前記有機バインダー100体積部に対して、少なくとも5体積部である、
成形可能なナノコンポジット。
【請求項2】
前記有機バインダーは、冷却した際に硬化可能な熱可塑性物である、請求項1に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項3】
前記有機バインダーは、外部刺激により開始される固化又は重合の際に硬化可能な樹脂である、請求項1に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項4】
前記溶融シリカガラス粉末は、直径が2μm~50μmの範囲の溶融シリカガラス粒子を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項5】
前記ドーパントは、Ag、Al、Au、B、Ti、F、Fe、Na、Ni、K、Ca、Cr、Ce、Co、Cu、Dy、Er、Eu、Gd、Ho、La、Lu、Nd、P、Pt、Pr、Pm、Rh、Sm、Sc、Tb、Tm、V、Yb、Y、Ge、Pb、Ba、Zr、Zn、及びMgからなる群より選択される1種以上の元素を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項6】
前記成形可能なナノコンポジット中の前記溶融シリカガラス粉末の含有量は、前記有機バインダー100体積部に対して、少なくとも30体積部である、請求項1~5のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項7】
前記成形可能なナノコンポジット中の前記相形成剤の含有量は、前記有機バインダー100体積部に対して、少なくとも5体積部である、請求項1~6のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジット。
【請求項8】
多成分溶融シリカガラス製の透明物品を製造する方法であって、以下の工程(a)~工程(d):
(a)前記有機バインダーの硬化前、硬化中、及び/又は硬化後、請求項1~7のいずれか一項に記載の成形可能なナノコンポジットを、所定の幾何学的形状へと成形することにより、一次構造体を得る工程と、
(b)工程(a)で得られた前記一次構造体を、前記有機バインダーを除去することにより脱脂することにより、中に空隙が形成されている二次構造体を得る工程と、
(c)任意選択で、工程(b)で得られた前記二次構造体の前記空隙を、少なくとも1種の添加剤で充填する工程と、
(d)工程(b)で得られ、任意選択で工程(c)において少なくとも1種の添加剤で充填された前記二次構造体を焼結することにより、前記透明物品を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項9】
工程(a)において、前記成形可能なナノコンポジットは、除去造形プロセス、積層造形プロセス、複製プロセス、又はそれらの組合せにより成形される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)において、工程(a)で得られた前記一次構造体は、熱処理、化学反応、減圧、溶媒抽出若しくは気相抽出、又はそれらの組合せにより脱脂される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程(c)において、工程(b)で得られた前記二次構造体の前記空隙は、少なくとも1種の添加剤で充填され、前記少なくとも1種の添加剤は、前記成形可能なナノコンポジットに含有される前記少なくとも1種の修飾剤と同じであるか、又は異なっている、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)において、前記少なくとも1種の添加剤を含有する溶液に、工程(b)で得られた前記二次構造体を浸漬するか、前記少なくとも1種の添加剤を含有する若しくは生成する雰囲気中で、前記二次構造体を物理蒸着若しくは化学蒸着に曝露するか、又はこれらの組合せによって、前記二次構造体の前記空隙を前記少なくとも1種の添加剤で充填する、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】