IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナーゲル,ピーターの特許一覧

特表2024-514546亜酸化窒素により治療抵抗性うつ病性障害を治療するための組成物及び方法
<>
  • 特表-亜酸化窒素により治療抵抗性うつ病性障害を治療するための組成物及び方法 図1
  • 特表-亜酸化窒素により治療抵抗性うつ病性障害を治療するための組成物及び方法 図2
  • 特表-亜酸化窒素により治療抵抗性うつ病性障害を治療するための組成物及び方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】亜酸化窒素により治療抵抗性うつ病性障害を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20240326BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240326BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240326BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20240326BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P25/24
A61K9/72
A61P25/18
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561012
(86)(22)【出願日】2022-04-02
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 US2022023191
(87)【国際公開番号】W WO2022212929
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】63/200,909
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523374367
【氏名又は名称】ナーゲル,ピーター
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ナーゲル,ピーター
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC01
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA07
4C086HA08
4C086HA13
4C086HA21
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA70
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA18
(57)【要約】
本発明は、一般に、治療抵抗性うつ病性障害患者を治療するための25%の亜酸化窒素の使用と、そのために有用な組成物とに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要としている対象において治療抵抗性うつ病性障害を治療する方法であって、有効量の吸入ガスを前記対象に投与することを含み、前記ガスが25重量%の亜酸化窒素を含む、方法。
【請求項2】
前記治療抵抗性うつ病性障害が、非定型うつ病、双極性障害、緊張性うつ病、他に特定されないうつ病性障害、抑うつ性パーソナリティ障害、二重うつ病、気分変調症、大うつ病性障害、メランコリー型うつ病、小うつ病性障害、産後うつ病、外傷後ストレス障害、精神病性大うつ病、反復性短期うつ病、季節性感情障害、自殺傾向/急性的な自殺リスク、及び治療抵抗性大うつ病から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記うつ病性障害が治療抵抗性大うつ病(TRMD)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記吸入ガスがさらに、酸素、窒素、キセノン、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記吸入ガスが、(a)25重量%の亜酸化窒素、5~25重量%のキセノン、及び残りの酸素;(b)25重量%の亜酸化窒素、5~25重量%の窒素、及び残りの酸素;並びに(c)25重量%の亜酸化窒素及び75%の酸素からなる群から選択される混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記吸入ガスが60分間投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記25重量%の亜硝酸ガスが、キャリアガスを亜酸化窒素で滴定することによって吸入の直前に形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記吸入ガス中の亜酸化窒素のレベルが、治療中に最大25重量%の亜酸化窒素に滴定される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記滴定時間が5~10分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記吸入ガスが、(a)7日間の治療ごとに少なくとも1日、(b)2週間の治療ごとに少なくとも1日、又は(c)1か月の治療ごとに少なくとも1日投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が、少なくとも1か月間治療される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
それを必要としている対象において治療抵抗性うつ病性障害を治療する方法であって、
(a)第1の治療期間に、25重量%の亜酸化窒素を含む有効量の吸入ガスを前記対象に投与することと、
(b)第2の治療期間に、50重量%の亜酸化窒素を含む有効量の吸入ガスを前記対象に投与することと
を含む方法。
【請求項13】
前記第1の治療期間が少なくとも1週間であり、前記第2の治療期間が少なくとも1週間である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
吸入可能なガスを含むガス容器であって、前記ガスが25重量%の亜酸化窒素を含む、容器。
【請求項15】
前記ガスがさらに、酸素、窒素、キセノン、又はこれらの組合せを含む、請求項14に記載のガス容器。
【請求項16】
前記ガスが、(a)25重量%の亜酸化窒素、5~25重量%のキセノン、及び残りの酸素;(b)25重量%の亜酸化窒素、5~25重量%の窒素、及び残りの酸素;並びに(c)25重量%の亜酸化窒素及び75%の酸素からなる群から選択される混合物を含む、請求項14に記載のガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般に、治療抵抗性うつ病性障害患者を治療するための25重量%の亜酸化窒素の使用と、そのために有用な組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
治療抵抗性うつ病は、大うつ病性障害の特に重度の形態である。大うつ病性障害患者(米国における推定有病率は成人1000万人である)の3人に1人が罹患しているが、治療抵抗性うつ病患者は、標準的な抗うつ薬による複数の治療に失敗することが多く、好ましくない長期予後を有する。治療抵抗性うつ病の治療法の選択肢は少ない。
【0003】
国際公開第2015175531号には、亜酸化窒素(笑気ガス)(50重量%、吸入濃度)が治療抵抗性大うつ病(TRMD)患者の抑うつ症状をどのように改善するかが記載された(1回の投薬で、投与の1週間後までの結果が報告された)。50重量%の亜酸化窒素の使用は、商業的に促進されなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、薬物療法に部分的にしか応答せず、難治性(例えば、治療抵抗性)であるうつ病の治療に対するニーズは依然として満たされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
一態様において、本発明は、対象において治療抵抗性うつ病性障害を治療する新規の方法であって、25重量%の亜酸化窒素を含む吸入ガスを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0006】
別の態様では、本発明は、25重量%の亜酸化窒素を含む吸入可能なガスを含む、新規の隔離された組成物を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、薬物療法で使用するための新規の隔離された組成物を提供する。
【0008】
別の態様では、本発明は、対象における治療抵抗性うつ病性障害の治療のための薬剤を製造するための、本発明の新規の隔離された組成物の使用を提供する。
【0009】
以下の詳細な説明において明らかになるこれら及び他の態様は、予想外且つ実質的に副作用の低減を伴って、予想外に50%の亜酸化窒素と同様の有効性を有することがここで示された25重量%の亜酸化窒素を使用して、対象においてうつ病性障害を治療する新規の方法の本発明者らによる発見によって達成された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面の簡単な説明
図1】ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale)(主要アウトカム)における、50%亜酸化窒素、25%亜酸化窒素、及びプラセボ間の抑うつ症状の相対変化を示す(平均+/-95%信頼区間)。
図2】研究完了の前後の抑うつ症状の重症度の比較を示す(平均+/-95%信頼区間)。
図3】50%亜酸化窒素、25%亜酸化窒素、及びプラセボによる治療後に応答又は寛解(HDRS-21に基づく)を経験した患者の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好ましい態様の詳細な説明
本発明の例示的な態様は、必要に応じて図面を参照して記載される。以下の詳細な説明は、説明のために多くの詳細を含有するが、当業者は、以下の詳細に対する変形及び変更が本発明の範囲内にあることを認識するであろう。したがって、本発明の以下の態様は、特許請求された発明に対して一般性を喪失することなく、且つ限定を課すことなく説明される。
【0012】
略語及び定義
本開示又はその態様の要素を導入する場合、冠詞「a」、「an」、「the」及び「前記(said)」は、その要素が1つ又は複数存在することを意味することが意図される。「含む(comprising)」、「含む(including)」及び「有する(having)」という用語は包括的であることが意図され、記載される要素以外の付加的な要素が存在し得ることを意味する。
【0013】
「及び/又は」という用語は、2つ以上の項目のリストにおいて使用される場合、記載される項目のいずれか1つが単独で、或いは記載される項目のいずれか1つ又は複数と組み合わせて使用され得ることを意味する。例えば、「A及び/又はB」という語句は、A及びBのいずれか又は両方、すなわちA単独、B単独、又はA及びBの組合せを意味することが意図される。「A、B及び/又はC」という語句は、A単独、B単独、C単独、A及びBの組合せ、A及びCの組合せ、B及びCの組合せ、又はA、B、及びCの組合せを意味することが意図される。
【0014】
「うつ病」又は「うつ病性障害」という用語は、以下の症状を特徴とする任意の神経系障害及び/又は精神状態を指す:抑うつ気分、無快感症、激しい悲しみ及び絶望の感情、精神力の低下、集中力の喪失、悲観的な心配、興奮、自己卑下、睡眠パターンの乱れ(例えば、不眠症、REM睡眠の喪失、又は過眠症)、食欲不振、食欲の変化及び体重減少又は重量増加、精神運動興奮、エネルギーの低下、性欲減退、及びホルモンの概日リズムの変化、離脱、気分、活動、体温、及び神経内分泌機能の日周リズムの変化、並びにこれらの組合せ。「うつ病」の非限定的な例としては、大うつ病性障害、双極性抑うつ気分障害、適応気分障害、及び産後気分障害が挙げられる。
【0015】
「治療(treatment)」、「治療する(treating)」又は「治療する(treat)」という用語は、状態に言及する場合、及び当該技術分野で理解されるように、臨床結果を含む有益な又は所望の結果を得るためのアプローチを意味すると定義される。有益な又は所望の臨床結果は、検出可能又は検出不能にかかわらず、状態の1つ又は複数の症状の軽減、疾患又は状態の程度の減少、疾患又は状態の安定化した(すなわち、悪化していない)状況、疾患の蔓延の防止、疾患の進行の遅延又は減速、病状の緩和、及び寛解(部分的又は全体的)を含むことができる。
【0016】
「対象」又は「患者」という用語は互換的に使用され、動物界の全てのメンバー(例えば、ヒト)を意味する。
【0017】
亜酸化窒素の投与に言及する場合の「それを必要としている対象」という用語は、亜酸化窒素で治療することができる状態を有する対象を意味する。
【0018】
「有効量」又は「薬学的に有効な量」という用語は互換的に使用され、患者に投与したときに認識できる生物学的応答を引き起こすのに十分な亜酸化窒素の量又は分量を意味すると定義される。正確な治療用量は患者の年齢及び状態、並びに治療される状態の性質に依存し、担当医師の最終的な判断によるものであることが認識されるであろう。
【0019】
BRPS-18は、簡易精神症状評価尺度(Brief Psychiatric Rating Scale)18項目を指す。
【0020】
CADSS-28は、臨床医管理解離状態尺度(Clinical Administered Dissociative States Scale)28項目を指す。
【0021】
DSM-IVは、精神障害の診断及び統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)を指す。
【0022】
HDRSは、ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-21、21項目尺度)(HDRS-17、17項目尺度)を指す。
【0023】
IQRは、四分位範囲を指す。
【0024】
MADRSは、モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale)を指す。
【0025】
MDDは、大うつ病性障害を指す。
【0026】
MINIは、精神疾患簡易構造化面接法(Mini International Neuropsychiatric Interview)を指す。
【0027】
NMDAは、N-メチル-D-アスパラギン酸を指す。
【0028】
POMS-2は、気分状態プロファイル(Profile of Mood States)第2版を指す。
【0029】
QIDS-SRは、簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomology)-自己報告を指す。
【0030】
RRは、相対リスクを指す。
【0031】
rTMSは、反復経頭蓋磁気刺激を指す。
【0032】
SSRIは、選択的セロトニン再取り込み阻害剤を指す。
【0033】
SNRIは、セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤を指す。
【0034】
TRMDは、治療抵抗性大うつ病を指す。
【0035】
方法及び組成物
一態様において、本発明は、それを必要としている対象において治療抵抗性うつ病性障害を治療する新規の方法であって、25重量%の亜酸化窒素を含む有効量の吸入ガスを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0036】
別の態様では、治療抵抗性うつ病性障害は、非定型うつ病、双極性障害、緊張性うつ病、他に特定されないうつ病性障害、抑うつ性パーソナリティ障害、二重うつ病、気分変調症、大うつ病性障害、メランコリー型うつ病、小うつ病性障害、産後うつ病、外傷後ストレス障害、精神病性大うつ病、反復性短期うつ病、季節性感情障害、自殺傾向/急性的な自殺リスク、及び治療抵抗性大うつ病から選択される。
【0037】
別の態様では、うつ病性障害は治療抵抗性大うつ病(TRMD)である。
【0038】
別の態様では、対象はヒトである。
【0039】
別の態様では、吸入ガスはさらに、酸素、窒素、キセノン、又はこれらの組合せを含む。
【0040】
別の態様では、吸入ガスは、25重量%の亜酸化窒素、5~25重量%のキセノン、及び残りの酸素を含む。
【0041】
別の態様では、吸入ガスは、25重量%の亜酸化窒素、5~25重量%の窒素、及び残りの酸素を含む。
【0042】
別の態様では、吸入ガスは、25重量%の亜酸化窒素及び75%の酸素を含む。
【0043】
別の態様では、吸入ガスは、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5~10.0リットル/分(L/分)の流量で投与される。他の例には、1~9L/分及び2~8L/分が含まれる。
【0044】
別の態様では、吸入ガスは、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85~90分間投与される。他の例には、15~60分間、30~60分間、及び60分間が含まれる。
【0045】
別の態様では、亜硝酸ガス(例えば、約100%の亜酸化窒素)が吸入前にキャリアガス(例えば、酸素、窒素/酸素、キセノン/酸素、空気、又はこれらの組合せ)と混合される(キャリアガス及び亜酸化窒素の混合物を0~25重量%の亜酸化窒素に滴定するため)場合、全治療時間には、亜酸化窒素を25重量%に滴定することが含まれる。滴定時間の例には、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14~15分が含まれる。別の例には、5~10分が含まれる。
【0046】
別の態様では、吸入ガスは、7日間の治療ごとに少なくとも1日投与される。例としては、治療期間の毎日、1日置き、3日ごと、4日ごと、5日ごと、及び6日ごとが挙げられる。他の例としては、2週間の治療ごとに1回、3週間の治療ごとに1回、及び4週間の治療ごとに1回が挙げられる。
【0047】
別の態様では、治療期間は、少なくとも1、2、3~4週間である。例としては、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11~12ヶ月が含まれる。他の例としては、少なくとも0.5、1、15、2、2.5~3年が含まれる。
【0048】
別の態様では、本発明は、それを必要としている対象において治療抵抗性うつ病性障害を治療する新規の方法であって、(a)第1の治療期間に、25重量%の亜酸化窒素を含む有効量の吸入ガスを対象に投与することと、(b)第2の治療期間に、50重量%の亜酸化窒素を含む有効量の吸入ガスを対象に投与することとを含む方法を提供する。この用量増大治療は、通常、より強力な治療効果が所望される場合(例えば、25%亜硝酸治療の効果が観察された後)に使用され得る。
【0049】
別の態様では、第1の治療期間は、少なくとも1、2、3~4週間である。第1の治療期間の例としては、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11~12ヶ月が挙げられる。
【0050】
別の態様では、第2の治療期間は、少なくとも1、2、3~4週間である。第2の治療期間の例としては、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11~12ヶ月が挙げられる。第2の治療期間の他の例としては、少なくとも0.5、1、15、2、2.5~3年が挙げられる。
【0051】
別の態様では、本発明は、25重量%の亜酸化窒素を含む、新規の隔離された吸入可能なガスを提供する。吸入可能なガスは、通常、ガス容器内に収容(隔離)されている。ガス容器は、吸入可能なガスの貯蔵(長期の貯蔵及び輸送のため)と、治療中の対象にガスを送達するのに適したデバイスへの接続(通常はバルブを介して)との両方に適したものである。ガス容器の一例は、大気圧よりも高い(又ははるかに高い)圧力で吸入可能なガスを貯蔵するのに適したガスシリンダー又はガスボトルである。別の態様では、ガス容器は、ガスを充填すると共に、容器から逃げるガスの速度を制御するように構成されたガスバルブを含む。別の態様では、ガス容器はさらに、ガス容器内の吸入可能なガスの圧力を表示するように構成された圧力ゲージを含む。別の態様では、バルブ及び圧力ゲージは別々であるが、動作可能に接続される(例えば、ゲージは、カップリングによってバルブに装着される)。ガス容器の容積は、目的の用途(及びその頻度)に基づいて異なり得る。ガス容器の容積(21℃、1気圧における内部容積)の例としては、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95~100Lが挙げられる。
【0052】
別の態様では、本発明は、治療法で使用するための化合物を提供する。
【0053】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される徴候の治療のための薬剤を製造するための化合物の使用を提供する。
【0054】
本発明は、その趣旨又は本質的な特性から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化され得る。本発明は、本明細書に記載される本発明の態様の全ての組合せを包含する。本発明のありとあらゆる実施形態は、付加的な実施形態を説明するために任意の他の実施形態(単数又は複数)と結合され得ることが理解される。また、実施形態の個々の要素はそれぞれ、それ自体の独立した実施形態として個別に解釈されることが意図されることも理解されるべきである。さらに、実施形態の任意の要素は、付加的な実施形態を説明するために任意の実施形態からのありとあらゆる他の要素と組み合わされることを意味する。
【実施例
【0055】
実施例
臨床結果の概要
亜酸化窒素(50%の吸入濃度)は、治療抵抗性大うつ病(TRMD)患者において抑うつ症状を改善することが示されている。この研究の時点では、より低い濃度の亜酸化窒素(25%)が、有害な副作用のリスクを低減しながら、同様の有効性及び抗うつ効果の持続性を提供し得るかどうかは不明であった。本明細書に記載される第2相臨床試験では、重度のTRMD患者24人を、(1)50%亜酸化窒素、(2)25%亜酸化窒素、又は(3)プラセボ(空気/酸素)による1時間の単回吸入からなる3つの治療にクロスオーバー方式でランダムに割り当てた。主要アウトカムは、ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-21)における変化であった。亜酸化窒素は、プラセボに対して抑うつ症状を有意に改善し(p=0.01)、25%亜酸化窒素と50%亜酸化窒素との間に統計的有意差はなかった(p=0.58)。
【0056】
25%とプラセボの間の推定差は、2時間では-0.75ポイント(HDRS-21)(p=0.73)、24時間では-1.41ポイント(p=0.52)、1週目では-4.35ポイント(p=0.05)、及び2週目では-5.19ポイント(p=0.02)であった。50%とプラセボの間の推定差は、2時間では-0.87ポイント(p=0.69)、24時間では-1.93ポイント(p=0.37)、1週目では-2.44ポイント(p=0.25)、及び2週目では-7.00ポイント(p=0.001)であった。有害事象は用量と共に減少した:47(50%亜酸化窒素)、11(25%亜酸化窒素)、及び6(プラセボ)(p<0.001)。これらの結果により、25%亜酸化窒素は、TRMDの改善において50%亜酸化窒素と同等の有効性を有するが、有害作用率は著しく低いことが示唆される。
【0057】
背景
治療抵抗性大うつ病(TRMD)は、患者が複数の標準的な抗うつ治療に応答することができない、大うつ病性障害(MDD)の重度の形態である(1、2)。大うつ病性障害の生涯有病率はおよそ10~20%であると推定され、そのうち患者の少なくとも3分の1は、TRMDのリスクがあると推定される(3~5)。米国だけでも、これは、TRMDを有する成人がおよそ1700万人であることに相当する(6)。
【0058】
原理証明研究により、50%亜酸化窒素(「笑気ガス」)の1時間の吸入は、TRMD患者において急速な抗うつ効果を有することが実証された(7)。この研究には2つの重要な限定があった。第1に、抗うつ効果が24時間を超えて持続するかどうかは、正式に試験されなかった。第2に、高濃度の亜酸化窒素(50%)が使用されており、悪心及び他の望ましくない副作用のリスクがその臨床用途を限定し得る。さらに、同様に提唱される作用機序(NMDA-受容体拮抗作用)(9~11)を有する薬物であるケタミンの抗うつ薬使用からの証拠(8)により、より低い麻酔域下用量は、潜在的により低い副作用のリスクを与えながら、同等に効果的であり得ることが示唆されている(12~14)。
【0059】
この試験において、目的は、より低い濃度の亜酸化窒素(25%)が、TRMDにおいて50%亜酸化窒素と同等の抗うつ効力を有するかどうかを決定することであった。この研究の付加的な目的は、25%亜酸化窒素の吸入がより少ない副作用に関連し得るかどうか、及び、少なくとも14日のフォローアップ期間を伴う単回吸入治療の後、亜酸化窒素の抗うつ効果が24時間を超えて継続し得るかどうかを決定することであった。
【0060】
方法
研究設計及び監視
この研究は、単一施設二重盲検ランダム化プラセボ対照クロスオーバー試験であった。全ての対象は、それぞれ少なくとも4週間の間隔をあけて、3回の1時間吸入セッションをランダムな順序で受けた。セッションには、プラセボ(0%NO)、25%NO、及び50%NO(空気/酸素とバランスがとられる)が含まれた。盲検化は、吸入治療と精神医学的評価のための場所及びチームを分離することによって実施した。吸入治療を施す麻酔チームだけが研究群の割り当てを知っており、患者及び評価者を含む全ての他の参加者は盲検化された。同様に、研究設定は全てのセッションについて同一であり、ガス流量計は隠れているため、不注意による非盲検化の可能性が低くなる。この研究は、Washington University(St. Louis)Institutional Review Boardによって承認され、全ての患者は、書面のインフォームドコンセントを提供した。この試験は、clinicaltrials.gov(NCT03283670)に登録された。
【0061】
患者
患者は、Washington University Department of PsychiatryのTRMDの二次紹介クリニックへの参加を通して特定されたTRMD患者の既存のデータベースと、Washington University School of Medicine内の「健康ボランティア」患者プール(臨床研究への参加を志願する、種々の医学的/精神医学的状態を有する個人)とから募集された。選択規準は、a)18~75歳の成人;b)精神疾患簡易構造化面接法により確認されるような精神病を伴わない単極性大うつ病性障害(MDD)の現在の診断;c)モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)における19以上のスコア;d)現在のうつ病エピソードにおける1回以上の抗うつ薬療法の失敗を含め、3回以上の適切な用量/期間の抗うつ治療試験に対する、文書化された生涯にわたる応答の失敗;及びe)英語が堪能であることであった。除外基準は、a)統合失調症、双極性障害、統合失調感情障害、強迫性障害、パーソナリティ障害、又はパニック障害についての任意の精神障害の診断及び統計マニュアル(DSM-IV)の診断の基準を満たしていること;b)報告された病歴及び尿薬物スクリーニングにより決定される、物質依存又は乱用(タバコを除く)の最近(過去12カ月以内)のあらゆる病歴;c)妊娠する能力があり、効果的な避妊を使用していないこと;d)亜酸化窒素の使用に対する禁忌;e)インフォームドコンセントを提供できないこと;及びf)研究者の判断で、患者の安全性又はコンプライアンスに影響を与え得る任意の他の要因であった。患者は、研究開始前の4週間及び研究を通して、その現在の標準治療であるMDD治療を継続し、安定した向精神薬用量又は心理療法レジメンを維持することが指示された。さらに、患者は、3カ月の試験の過程でその抗うつ治療を変更しないこと(すなわち、新しい抗うつ薬を追加したり、或いは既存の抗うつ薬用量を変更したりしないこと)が指示された。
【0062】
研究手順
各患者について計画された研究訪問は合計14回であった。スクリーニング訪問は、適格性を検証し、患者の人口統計、病歴、バイタルサイン、及び身体検査を含む背景情報を収集するために使用された。薬物スクリーニングのために尿サンプルを採取し、患者の参加の安全性を確認するために研究医師が検査を要求した場合には、任意選択的な採血を行った。研究チーム及び患者により、構造化臨床面接法である精神疾患簡易構造化面接法(MINI)(15)、及びベースラインのうつ病重症度を測定する他の精神医学的評価を完了した。この厳格なスクリーニングにより適切な一次診断が検証され、除外された診断(例えば、外傷後ストレス障害、精神病性障害、重度の併存パーソナリティ障害、及び物質使用障害)が排除された。
【0063】
対面スクリーニングの後、3回の治療セッションのそれぞれは、4回の訪問:吸入前の気分評価、吸入、並びに22~28時間、1週間、及び2週間における吸入後フォローアップセッションで構成された。付加的な評価は、最終の吸入治療の4週間後に完了した。
【0064】
吸入セッション
3回の吸入セッションは全て、1時間の予定であった。患者は、(1)プラセボ(空気/酸素)、(2)酸素中25%の亜酸化窒素、又は(3)酸素中50%の亜酸化窒素の混合物を受けた。吸入ガス混合物の選択を除いて、治療セッションは、その他の点では同一であった。ガス混合物は、麻酔器又はFDA承認のPorter/Praxair MXR呼吸回路に接続されたチューブを通して、標準的な麻酔フェイスマスクを介して投与された。小さいサンプルコネクタラインをフェイスマスクに挿入し、吸入ガス及び呼気ガスの濃度の測定を可能にした。全ガス流は2~8L/分であり、亜酸化窒素濃度は、治療の最初の5~10分にわたって徐々に増大させた。担当レベルの麻酔専門医の監視下で、連続3リードECG、パルスオキシメトリ、非侵襲的血圧、及び呼気終末のCO測定を含むAmerican Society of Anesthesiologistsの基準に従って、治療中及び治療後に患者をモニターした。1時間の治療セッションの後、回復室で患者を最大1時間までモニターし、その時点で、研究チーム医師は、患者が退院の基準を満たすかどうかを決定した。
【0065】
アウトカム
(a)ベースライン時(各吸入セッションの前)、(b)吸入の2時間後、(c)24時間後、(d)1週間後、及び(e)2週間後にデータを収集した。気分に対する吸入治療の有効性は、以下を用いて測定した:ハミルトンうつ病評価尺度21項目(HDRS-21;主要アウトカム);モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS);簡易抑うつ症状尺度-自己報告(QIDS-SR);及び気分状態プロファイル第2版(POMS-2)。他の行動評価には、解離の評価である臨床医管理解離状態尺度28項目(CADSS-28);及び精神病の出現の評価である簡易精神症状評価尺度18項目(BPRS-18)が含まれた。これらの気分及び行動の評価は、精神医学研究チームの盲検メンバーによって実行された。さらに、盲検の妥当性は、各吸入セッションの完了後に与えられる盲検質問表(Blinding Questionnaire)によって評価された。治療の安全性は、(a)心血管状態;(b)呼吸機能;(c)中枢神経系;及び(d)精神症状、特に精神病症状の存在に関連する有害事象(AE)をモニターすることによって評価した。
【0066】
統計分析
治療企図解析は、対象内クロスオーバー設計によって生じる相関関係を考慮するために混合効果線形回帰モデル(Hedeker and Gibbons, 2006)に基づいた。一次解析には、治療群(プラセボ、25%及び50%)、時間(ベースライン、吸入の2時間後、24時間後、1週間後、及び2週間後)、期間、及び治療と時間の相互作用がカテゴリー変数として含まれた(ランダム切片モデル)。期間効果は、研究の間に治療の累積効果(ランダムな順序)を調整する。治療と時間の相互作用は、尤度比カイ2二乗統計量を用いて、経時的に抑うつ症状の重症度(HDRS-21)において治療群間で差異のない帰無仮説を検定する。同じ解析を実施して、25%治療群と50%治療群とを互いに、及び25%及び50%用量群の組合せとプラセボとを直接比較した。これらのモデルは、ワルド検定を用いた群比較間の時点も提供する。積極的治療群のそれぞれとプラセボとの間の直線的な時間的傾向の比較も実施した。最後に、直線的な用量-応答関係も検定した。カテゴリーアウトカム(応答、寛解)間の差は、フィッシャーの正確確率検定によって検定した;相対リスク及び95%信頼区間は、Koopman漸近スコアを用いて算出した。有害事象数の差は、Kruskal-Wallis検定により比較した。全ての報告されたp値は両側であり、<0.05のp値が統計的に有意であると考えられた。全ての解析は、SuperMix(Scientific Software International, Lincolnwood IL)を用いて実施した。
【0067】
結果
患者
スクリーニングの失敗のために6人の患者を除外した後、2016年11月~2019年10月の間に28人の患者が登録された。20人の患者が3回全ての吸入セッション(プラセボ、25%亜酸化窒素、50%亜酸化窒素)を完了し、1人の患者は2回のセッション後、3人の患者は1回のセッション後に中止し、4人の患者はスクリーニング後、治療の前に中止した。結果は、3回全ての吸入セッションを完了した20人の患者(合計60回の吸入セッション)及び少なくとも1回の治療を受けた4人の患者から報告される。1人の患者は不注意にも、50%亜酸化窒素による2回のセッションを受けたがプラセボは受けず、最終的に、プラセボによる治療数22、25%亜酸化窒素による治療数20、及び50%亜酸化窒素による治療数23となった。
【0068】
研究患者は、持続性で高度に難治性のうつ病を患っており、平均してMDDの生涯年数は17.5年であり、中央値で4.5(四分位範囲(IQR)3~10)回、適切な用量/期間の抗うつ薬治療に失敗していた(表1)。登録時のHDRS-21スコアの中央値は20.5であり、MADRSスコアの中央値は30であり、重度のTRMDを示した。
【0069】
【表1】
【0070】
数値は、中央値及び四分位範囲(IQR)で、或いは数及びパーセンテージで記載される。rTMS-反復経頭蓋磁気刺激。SSRI-選択的セロトニン再取り込み阻害剤;SNRI-セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害剤。
【0071】
研究アウトカム
治療企図解析(n=24、完了者20人、部分完了者4人)では、2週間の観察にわたる、主要アウトカム(HDRS-21)に対する亜酸化窒素(両方の群)の全体的効果は、プラセボと比較して有意であった(p=0.01)が、25%亜酸化窒素と50%亜酸化窒素の間の有意差はなかった(p=0.58)。25%とプラセボの間の推定差は、2時間では-0.75ポイント(HDRS-21)(p=0.73、d=0.16)、24時間では-1.41ポイント(p=0.52、d=0.21)、1週目では-4.35ポイント(p=0.05、d=0.38)、及び2週目では-5.19ポイント(p=0.02、d=0.62)であった。50%とプラセボの間の推定差は、2時間では-0.87ポイント(p=0.69、d=0.29)、24時間では-1.93ポイント(p=0.37、d=0.32)、1週目では-2.44ポイント(p=0.25、d=0.35)、及び2週目では-7.00ポイント(p=0.001、d=0.85)であった(図1を参照)。50%と25%の間の推定差は、2時間では0.11ポイント(p=0.96)、24時間では0.42ポイント(p=0.85)、1週目では1.91ポイント(p=0.37)、及び2週目では-1.67ポイント(p=0.44)であった。プラセボ群と25%及び50%群の組合せの間の推定差は、2時間では-0.81ポイント(p=0.66)、24時間では-1.67ポイント(p=0.37)、1週目では-3.35ポイント(p=0.07)、及び2週目では-6.13ポイント(p=0.001)であった。プラセボに対して、積極的治療群の効果は、25%群(測定機会あたり-1.38、p=0.007)及び50%群(測定機会あたり-1.55、p=0.002)について、時間と共に直線的に増大した。2週目に有意な用量-応答関係が見られた(用量の増大25%につき-3.51の減少、p=0.001)が、それよりも前の測定時には見られなかった。キャリーオーバー効果を研究するために、50%用量の投与の順序が2週間のHDRS-21スコアに関連しているかどうかを決定する分析を実行した。有意な効果の試験順序は見出されなかった(p=0.22)。
【0072】
MADRSデータは、50%亜酸化窒素についてはHDRS-21の結果と有効性が類似しているが、25%亜酸化窒素についてはそうではない(有意ではない)。QIDS尺度における結果は、2週間での50%亜酸化窒素を除いて、統計的に有意ではない。POMS尺度における結果は、50%亜酸化窒素ではより強い応答を示す(2週間では有意である)が、25%亜酸化窒素では示さない。
【0073】
治療の全過程にわたって(研究を完了した患者のみを含む、n=20)、患者は、ベースラインHDRS-21スコア中央値20.5(IQR 19.0~25.5)から研究完了時の8.5(IQR 2.0~16.0)まで、抑うつ症状の臨床的に有意な改善を経験し、これは、3カ月の研究期間後の-11.0ポイント(IQR -3.3~-14.0ポイント、p<0.0001)の中央値変化に相当した(図2)。研究完了時に、11/20人の患者(55%)は、治療応答(50%以上のHRDS-21のポイント減少)を有し、8/20人(40%)は寛解しており(HRDS≦7ポイント)、17/20人(85%)は、少なくとも1つのカテゴリーだけ(すなわち、重度から中程度に)抑うつ症状が改善された。
【0074】
図3は、各吸入治療について治療応答率及び寛解率を示す(この分析では、治療前HDRS-21スコアが19以上である治療のみを含めた)。プラセボ治療の後、1/9人の患者が治療応答を有し(11.1%)、1/9人が寛解した(11.1%);25%亜酸化窒素の後、3/9人の患者が治療応答を有し(33.3%、相対リスク(RR)2.50、95%CI 0.43~16.30)、2/9人が寛解した(22.2%、RR 1.82、95%CI 0.27~12.84);50%亜酸化窒素の後、5/12人の患者が治療応答を有し(41.7%、RR 2.94、95%CI 0.57~18.02)、5/12人が寛解した(41.7%、RR 2.94、95%CI 0.57~18.02)。
【0075】
各吸入セッションの後に、患者が積極的治療又はプラセボを受けたかを患者に尋ねる質問表を含めることによって、盲検化の質を評価した。60回のセッションのうちの50回(83%)において、患者はその治療群を正しく推測し、8/60回(13%)は間違って推測し、2つの例では、患者は分からなかった。記録の再調査により、4人の患者は、研究の過程で、抗うつ薬を追加(n=2)又は増量(n=2)したことが示され、4人の患者は抗うつ薬療法の低減を確認し、2人の患者は抗うつ薬療法の中止を確認した。
【0076】
安全性
治療間の有害事象における統計的有意差を観察した:50%亜酸化窒素吸入後に47の有害事象、25%亜酸化窒素吸入後に11の有害事象、及びプラセボ吸入後に6の有害事象(p<0.0001)。有害事象はどれも重篤ではなく、ほぼ全てが治療セッションの最中又は直後に起こり、数時間以内に消失した(表2)。
【0077】
【表2】
【0078】
考察
このランダム化対照第2相クロスオーバー試験では、いくつかの重要な観察を行った。第1に、この試験は、50%又は25%の亜酸化窒素の1時間の単回吸入が、重度のTRMD患者において迅速な抗うつ効力を提供するという最初の知見を拡張する(7)。第2に、抗うつ効果は時間と共に大きさが増大し、一部の患者では最大4週間持続した。第3に、全体的な傾向は、重度のTRMDうつ病患者の集団において高い応答率、寛解率、及び症状改善率を示した:研究開始から3ヶ月の完了時に、85%の患者は改善され、55%の患者は治療応答を有し、40%の患者は寛解した。第4に、この試験では、25%又は50%の亜酸化窒素は同等の抗うつ効力を有するが、25%の亜酸化窒素は、著しくより低い有害副作用率を示すことが見出された。第5に、2つの用量はほぼ等しい抗うつ効力を示したが、2週間のフォローアップでは、用量-応答関係の証拠がある。第6に、個々の時間的傾向は個人間のかなりのばらつきを示したが、このばらつきを我々の統計モデルに組み込んでも、治療関連効果の有意性を弱めることはない。
【0079】
考察-有効性
亜酸化窒素の吸入後にほとんどの患者において抗うつ効果が観察されたが、応答は均一ではなかった。一部の患者は、亜酸化窒素及びプラセボ後の改善が最小限であるか又は全くなく、非応答者であると見なされるべきである。さらに、一部の患者は強力なプラセボ応答があり、場合によっては亜酸化窒素に対する応答を反映した。特に重要なことに、吸入セッション間に4週間の間隔があるにもかかわらず、一部の患者は、その抑うつ症状の持続的な改善を示し、そのうつ病重症度の治療前ベースラインレベルに戻らないことも観察された。25%亜酸化窒素による吸入は、統計的には50%と同様であったが、平均すると、治療の2週間後に、50%亜酸化窒素群における抑うつ症状の改善の方がより大きい傾向があった。さらに、即時の気分効果を測定する自己報告式POMS尺度における亜酸化窒素への抗うつ応答は、患者が25%亜酸化窒素と比較して50%亜酸化窒素のより強い有効性を報告したことを裏付ける。また、患者の大多数は、3カ月間にわたってそれぞれが2回の亜酸化窒素及び1回のプラセボ治療を受けた研究の完了を通して、その抑うつ症状の顕著な改善が見られたことも注目される。ホーソン効果(臨床研究中であること)及びプラセボ効果により、観察された改善の一部は説明され得るが、代替の説明は、一連の2回の亜酸化窒素治療が、単回の亜酸化窒素吸入治療と比較して、相加的及び持続的な有効性を有し得ることでもあり得る。
【0080】
これらの効果の大きさを意味付けるために、Gibbons et al. 2012は、アウトカムとしてHDRS-17を用いて、フルオキセチン及びベンラファキシンについての37人の成人及び老人のプラセボ対照二重盲検ランダム化試験のデータを統合した。積極的治療とプラセボ対照の間で、6週間で-2.55のHDRS-17単位の推定分離が見出された。17項目HDRSに対して21項目HDRSの範囲の24%の増大を考えると、これは、6週間でのHDRS-21における-3.16単位の差と同等である。2週間では、より小さい効果が観察された(Gibbons et.al 2012、図1を参照)(16、17)。それに反して、単回治療の後に、50%亜酸化窒素では2週間で-7.00HDRS-21単位の差、25%亜酸化窒素では2週間で-5.19単位の差が見出された。これは、試験患者集団との関連で特に重要になる(この研究は重度のTRMDであり、Gibbons et al.はより軽度のうつ病である)。
【0081】
これは、治療抵抗性大うつ病性障害に対する50%対25%亜酸化窒素のリスク/ベネフィット比を決定することを目的とした第2相臨床試験であったため、小規模試験の知見を大規模患者集団に外挿する際には慎重でなければならない。しかしながら、これらの試験結果は、その同等の有効性と、より低いリスクプロファイルとのために、より低用量の亜酸化窒素(25%)での治療を開始することが合理的であり得ることを示唆するが、より強力な治療効果が所望される場合には、50%まで段階的に増大させることが考慮される。
【0082】
TRMDの治療における亜酸化窒素の使用の可能性を調べる最初の試験の発表以来、1つの事例報告では、1カ月を超える50%亜酸化窒素の単回吸入の有効性(18);米国退役軍人における外傷後ストレス障害の治療(19)及び外傷後ストレス障害をシミュレートするための心理的外傷の実験モデル(20)における早期の見込みが示された。
【0083】
考察-安全性
25%亜酸化窒素の有効性は50%亜酸化窒素と同様であったが、有害作用のリスクはそうではなかった。50%亜酸化窒素と比較して、25%亜酸化窒素の吸入は、有害事象の4倍の減少に関連した。ほぼ全ての有害事象は、亜酸化窒素投与の最中又は直後に起こり、通常は数時間に限定された。有害事象は、鎮静(例えば、眠気)、軽度の解離効果(意識朦朧、妄想症、高揚感)、並びに悪心及び嘔吐症状に関連した(21、22)。
【0084】
制限
この研究にはいくつかの制限がある。第1に、サンプルサイズは用量設定第2相試験には適していたが、小さかった;しかしながら、治療患者と対照患者の間の有意な分離を検出するには小さすぎなかった。第2に、フォローアップは、2週間及び単回の治療に限定された。しかしながら、亜酸化窒素による2回の治療を含む3カ月の治療レジメン全体に対して、HDRS-21ポイントの減少中央値11が観察されたが、これは、従来の抗うつ薬試験で通常見られるよりもはるかに大きいことが注目される(16、17)。第3に、治療セッション間に1か月の間隔があるにもかかわらず、一部の患者は、4週間を超えて持続する治療効果を有し、これによりキャリーオーバー効果が生じ、研究の効力に影響を与えた。第4に、5例のうち4例を超えて、患者はその治療(亜酸化窒素対プラセボ)を正しく推測し、偶然により予測されるよりも高かった。したがって、研究結果には偏りが生じる可能性があるが、同様の臨床試験では、85%の患者が治療アームを正しく推測したにもかかわらず、煩わしい耳鳴に対する亜酸化窒素の治療効果は観察されなかった(23)。
【0085】
亜酸化窒素の鎮静効果(この理由で、歯科的処置で使用される)を考えると、亜酸化窒素対プラセボに対して、患者を完全に盲検化することは極めて困難である。亜硝酸の一時的な多幸感/抗不安効果を人為的に模倣するためにプラセボ群において弛緩剤(例えば、ベンゾジアゼピン)の併用が考慮された;しかしながら、これが抑うつ症状に異なる影響を与え得ることを懸念して、この方法を採用しないことを決めた(24)。とは言うものの、小さいプラセボ効果が観察され(図1)、これは24時間でピークに達し、2週間までに治まるようであった。一部の患者がその抗うつ薬療法の投薬量又は選択を変更したという事実は、一部の研究結果に影響を与えた可能性がある。最後に、50%亜酸化窒素の吸入は有害事象率が著しくより高く、したがってクロスオーバー設計では参加者は最も容易にプラセボと区別できたであろうことから、QIDS及びPOMS尺度における25%亜酸化窒素の有意でない結果は、機能的な非盲検化への関心を高める。
【0086】
結論
この研究の知見により、50%の亜酸化窒素と比較して、より低濃度の亜酸化窒素(25%)は、著しくより低い有害事象のリスクを有しながら、治療抵抗性大うつ病において同様の有効性を有することが裏付けられる。亜酸化窒素の抗うつ効果は、2~4週間の間で持続し得る。
【0087】
参考文献:
1.C.Kraus,B.Kadriu,R.Lanzenberger,C.A.Zarate,Jr.,S.Kasper,Prognosis and improved outcomes in major depression:a review.Transl Psychiatry 9,127(2019).
2.D.L.Dunner,A.J.Rush,J.M.Russell,M.Burke,S.Woodard,P.Wingard,J.Allen,Prospective,long-term,multicenter study of the naturalistic outcomes of patients with treatment-resistant depression.J Clin Psychiatry 67,688-695(2006).
3.A.J.Rush,S.R.Wisniewski,S.Zisook,M.Fava,S.C.Sung,C.L.Haley,H.N.Chan,W.S.Gilmer,D.Warden,A.A.Nierenberg,G.K.Balasubramani,B.N.Gaynes,M.H.Trivedi,S.D.Hollon,Is prior course of illness relevant to acute or longer-term outcomes in depressed out-patients?A STAR*D report.Psychol Med 42,1131-1149(2012).
4.L.Thomas,D.Kessler,J.Campbell,J.Morrison,T.J.Peters,C.Williams,G.Lewis,N.Wiles,Prevalence of treatment-resistant depression in primary care:cross-sectional data.Br J Gen Pract 63,e852-858(2013).
5.D.S.Hasin,A.L.Sarvet,J.L.Meyers,T.D.Saha,W.J.Ruan,M.Stohl,B.F.Grant,Epidemiology of Adult DSM-5 Major Depressive Disorder and Its Specifiers in the United States.JAMA Psychiatry 75,336-346(2018).
6.H.A.Whiteford,L.Degenhardt,J.Rehm,A.J.Baxter,A.J.Ferrari,H.E.Erskine,F.J.Charlson,R.E.Norman,A.D.Flaxman,N.Johns,R.Burstein,C.J.Murray,T.Vos,Global burden of disease attributable to mental and substance use disorders:findings from the Global Burden of Disease Study 2010.Lancet 382,1575-1586(2013).
7.P.Nagele,A.Duma,M.Kopec,M.A.Gebara,A.Parsoei,M.Walker,A.Janski,V.N.Panagopoulos,P.Cristancho,J.P.Miller,C.F.Zorumski,C.R.Conway,Nitrous Oxide for Treatment-Resistant Major Depression:A Proof-of-Concept Trial.Biol Psychiatry 78,10-18(2015).
8.G.Sanacora,M.A.Frye,W.McDonald,S.J.Mathew,M.S.Turner,A.F.Schatzberg,P.Summergrad,C.B.Nemeroff,B.American Psychiatric Association Council of Research Task Force on Novel,Treatments,A Consensus Statement on the Use of Ketamine in the Treatment of Mood Disorders.JAMA Psychiatry 74,399-405(2017).
9.P.Nagele,L.B.Metz,C.M.Crowder,Nitrous oxide(N(2)O)requires the N-methyl-D-aspartate receptor for its action in Caenorhabditis elegans.Proc Natl Acad Sci USA 101,8791-8796(2004).
10.S.Mennerick,V.Jevtovic-Todorovic,S.M.Todorovic,W.Shen,J.W.Olney,C.F.Zorumski,Effect of nitrous oxide on excitatory and inhibitory synaptic transmission in hippocampal cultures.J Neurosci 18,9716-9726(1998).
11.V.Jevtovic-Todorovic,S.M.Todorovic,S.Mennerick,S.Powell,K.Dikranian,N.Benshoff,C.F.Zorumski,J.W.Olney,Nitrous oxide(laughing gas)is an NMDA antagonist,neuroprotectant and neurotoxin.Nat Med 4,460-463(1998).
12.M.C.Kalmoe,A.M.Janski,C.F.Zorumski,P.Nagele,B.J.Palanca,C.R.Conway,Ketamine and nitrous oxide:The evolution of NMDA receptor antagonists as antidepressant agents.J Neurol Sci 412,116778(2020).
13.C.F.Zorumski,P.Nagele,S.Mennerick,C.R.Conway,Treatment-Resistant Major Depression:Rationale for NMDA Receptors as Targets and Nitrous Oxide as Therapy.Front Psychiatry 6,172(2015).
14.C.G.Abdallah,G.Sanacora,R.S.Duman,J.H.Krystal,Ketamine and rapid-acting antidepressants:a window into a new neurobiology for mood disorder therapeutics.Annu Rev Med 66,509-523(2015).
15.D.V.Sheehan,Y.Lecrubier,K.H.Sheehan,P.Amorim,J.Janavs,E.Weiller,T.Hergueta,R.Baker,G.C.Dunbar,The Mini-International Neuropsychiatric Interview(M.I.N.I.):the development and validation of a structured diagnostic psychiatric interview for DSM-IV and ICD-10.J Clin Psychiatry 59 Suppl 20,22-33;quiz 34-57(1998).
16.R.D.Gibbons,K.Hur,C.H.Brown,J.M.Davis,J.J.Mann,Benefits from antidepressants:synthesis of 6-week patient-level outcomes from double-blind placebo-controlled randomized trials of fluoxetine and venlafaxine.Arch Gen Psychiatry 69,572-579(2012).
17.R.D.Gibbons,C.H.Brown,K.Hur,J.Davis,J.J.Mann,Suicidal thoughts and behavior with antidepressant treatment:reanalysis of the randomized placebo-controlled studies of fluoxetine and venlafaxine.Arch Gen Psychiatry 69,580-587(2012).
18.P.Nagele,F.Brown,V.Bass,D.Yohanna,Prolonged Remission of Major Depressive Disorder After Single Nitrous Oxide Inhalation Treatment.Frontiers in Psychiatry 11,(2020).
19.A.Varias,P.van Roessel,M.Parsiani,M.Filippou-Frye,T.C.Neylan,P.Nagele,J.Yesavage,J.D.Clark,C.I.Rodriguez,Does Nitrous Oxide Help Veterans With Posttraumatic Stress Disorder?A Case Series.J Clin Psychiatry 81,(2020).
20.R.K.Das,A.Tamman,V.Nikolova,T.P.Freeman,J.A.Bisby,A.I.Lazzarino,S.K.Kamboj,Nitrous oxide speeds the reduction of distressing intrusive memories in an experimental model of psychological trauma.Psychol Med 46,1749-1759(2016).
21.P.Nagele,C.F.Zorumski,C.Conway,Exploring Nitrous Oxide as Treatment of Mood Disorders:Basic Concepts.J Clin Psychopharmacol 38,144-148(2018).
22.W.Buhre,N.Disma,J.Hendrickx,S.DeHert,M.W.Hollmann,R.Huhn,J.Jakobsson,P.Nagele,P.Peyton,L.Vutskits,European Society of Anaesthesiology Task Force on Nitrous Oxide:a narrative review of its role in clinical practice.Br J Anaesth 122,587-604(2019).
23.H.Y.Hong,O.Karadaghy,D.Kallogjeri,F.T.Brown,B.Yee,J.F.Piccirillo,P.Nagele,Effect of Nitrous Oxide as a Treatment for Subjective,Idiopathic,Nonpulsatile Bothersome Tinnitus:A Randomized Clinical Trial.JAMA Otolaryngol Head Neck Surg 144,781-787(2018).
24.P.van Vliet,R.C.van der Mast,M.van den Broek,R.G.Westendorp,A.J.de Craen,Use of benzodiazepines,depressive symptoms and cognitive function in old age.Int J Geriatr Psychiatry 24,500-508(2009).
【0088】
引用された全ての参考文献の内容は、その全体が本明細書中に援用される。
【0089】
上記の教示を考慮して、本発明の多数の修飾及び変形が可能である。したがって、特許請求の範囲の範囲内で、本発明は、本明細書中に具体的に記載された以外の方法でも実施され得ることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】