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特表2024-514554大型車両を制動するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】大型車両を制動するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240326BHJP
   B60G 17/00 20060101ALI20240326BHJP
   B60J 7/22 20060101ALI20240326BHJP
   B60J 11/02 20060101ALI20240326BHJP
   B60L 7/12 20060101ALI20240326BHJP
   B60T 1/16 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60G17/00
B60J7/22
B60J11/02 K
B60L7/12 Q
B60T1/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561084
(86)(22)【出願日】2021-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 EP2021059238
(87)【国際公開番号】W WO2022214190
(87)【国際公開日】2022-10-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】ラーソン,レナ
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】リドストロム,マッツ
【テーマコード(参考)】
3D246
3D301
5H125
【Fターム(参考)】
3D246AA13
3D246BA05
3D246BA08
3D246DA03
3D246DA04
3D246EA05
3D246EA17
3D246EA20
3D246GA19
3D246GA29
3D246GB23
3D246GB39
3D246GC14
3D246HA32A
3D246HA64A
3D246HB08A
3D246HB24A
3D246HC04
3D246HC07
3D246JB41
3D246KA15
3D301AA48
5H125AA03
5H125AB06
5H125AC12
5H125CA18
5H125CB02
5H125CB05
5H125EE27
5H125EE51
(57)【要約】
大型車両(100)の空気抵抗を適合させるための方法。車両は、回生制動のために構成された少なくとも1つの電気機械(111、121、131)と、回生制動中に少なくとも1つの電気機械からエネルギーを受け取るように構成された1つ以上のエネルギー吸収装置(140)と、車両の異なる空気抵抗の範囲を提供するように構成された可変空気抵抗装置(210、220、230)とを含む。方法は、1つ以上のエネルギー吸収装置(140)の現在のエネルギー吸収能力を取得すること(S1)と、車両の計画されたルートの間及び車両(100)の空気抵抗の公称値の間、回生制動から予想されるエネルギー生成を取得すること(S3)と、現在のエネルギー吸収能力及び予想されるエネルギー生成に基づいて、車両の異なる空気抵抗の範囲から車両(100)の所望の空気抵抗を決定すること(S4)と、所望の空気抵抗に従って可変空気抵抗装置(210、220、230)を適合させること(S5)とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型車両(100)の空気抵抗を適合させる方法であって、前記車両が、回生制動のために構成された少なくとも1つの電気機械(111、121、131)と、回生制動中に前記少なくとも1つの電気機械からエネルギーを受け取るように構成された1つ以上のエネルギー吸収装置(140)と、前記車両の異なる空気抵抗の範囲を提供するように構成された可変空気抵抗装置(210、220、230)とを備え、前記方法が、
前記1つ以上のエネルギー吸収装置(140)の現在のエネルギー吸収能力を取得すること(S1)と、
前記車両の計画されたルートの間及び前記車両(100)の空気抵抗の公称値の間、回生制動から予想されるエネルギー生成を取得すること(S3)と、
前記現在のエネルギー吸収能力及び前記予想されるエネルギー生成に基づいて、前記車両の前記異なる空気抵抗の範囲から前記車両(100)の所望の空気抵抗を決定すること(S4)と、
前記所望の空気抵抗に従って前記可変空気抵抗装置(210、220、230)を適合させること(S5)と
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記予想されるエネルギー生成が前記現在のエネルギー吸収能力以上である場合、前記所望の空気抵抗が前記公称値以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予想されるエネルギー生成が前記現在のエネルギー吸収能力以下である場合、前記所望の空気抵抗が前記公称値以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記可変空気抵抗装置が、前記車両の可変サスペンション(230)、前記車両(100)に配置された可変スポイラ(210)、及び前記車両に配置された可変デフレクタ(220)のいずれかを備える、請求項1乃至3いずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のエネルギー吸収装置(140)の1つが、電子貯蔵システム、ESSである、請求項1乃至4いずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ESS(140)の現在の充電状態、SoCを取得すること(S2)をさらに含み、前記車両(100)の前記所望の空気抵抗が、前記現在のエネルギー吸収能力、前記予想されるエネルギー生成、及び前記現在のSoCに基づいて決定される(S51)、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記SoCが所定の閾値以上である場合、前記所望の空気抵抗が前記公称値以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記SoCが所定の閾値以下である場合、前記所望の空気抵抗が前記公称値以下である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記プログラムが、コンピュータでまたは電子制御ユニット、ECU(101)の処理回路(710)で実行されるとき、請求項1乃至8いずれか1項に記載のステップを実行するためのプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム(720)。
【請求項10】
前記プログラム製品が、コンピュータでまたは電子制御ユニット、ECU(101)の処理回路(710)で実行されるとき、請求項1乃至8いずれか1項に記載のステップを実行するためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム(720)を担持する、コンピュータ可読媒体(710)。
【請求項11】
大型車両(100)の空気抵抗を適合させるための電子制御ユニット、ECU(101)であって、前記車両が、回生制動のために構成された少なくとも1つの電気機械(111、121、131)と、回生制動中に前記少なくとも1つの電気機械からエネルギーを受け取るように構成された1つ以上のエネルギー吸収装置(140)と、前記車両の異なる空気抵抗の範囲を生成するように構成された可変空気抵抗装置(210、220、230)とを備え、前記ECUが、
前記1つ以上のエネルギー吸収装置(140)の現在のエネルギー吸収能力を取得し、
前記車両(100)の計画されたルートの間及び前記車両(100)の空気抵抗の公称値の間、回生制動から予想されるエネルギー生成を取得し、
前記現在のエネルギー吸収能力及び前記予想されるエネルギー生成に基づき、前記車両(100)の所望の空気抵抗を決定し、
前記所望の空気抵抗に従って前記可変空気抵抗装置(210、220、230)を適合させる
ように構成される、前記電子制御ユニット、ECU(101)。
【請求項12】
前記可変空気抵抗装置が、前記車両の可変サスペンション(230)、前記車両(100)に配置された可変スポイラ(210)、及び前記車両に配置された可変デフレクタ(220)のいずれかを備える、請求項11に記載のECU(101)。
【請求項13】
前記1つ以上のエネルギー吸収装置(140)の1つが、電子貯蔵システム、ESSである、請求項11又は12に記載のECU(101)。
【請求項14】
前記ESS(140)の現在の充電状態、SoCを取得するようにさらに構成され、前記車両(100)の前記所望の空気抵抗が、前記現在のエネルギー吸収能力、前記予想されるエネルギー生成、及び前記現在のSoCに基づいて決定される、請求項13に記載のECU(101)。
【請求項15】
請求項11乃至14いずれか1項に記載のECU(101)を備える、車両(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、貨物輸送用のセミトレーラ車両などの大型車両に関し、詳細には、大型車両を減速させるための装置に関する。装置は、十分な制動トルクをさらに長時間にわたって提供するために適している。本発明はセミトレーラ車両及びトラックに関して記載されるが、この特定のタイプの車両に限定されず、他のタイプの車両に使用されてもよい。
【背景技術】
【0002】
トラックやセミトレーラ車両などの大型車両は、通常、摩擦ブレーキに基づく常用ブレーキシステムを備える。ディスクブレーキやドラムブレーキなどの摩擦ブレーキは、長時間、下り坂を運転するときに発生し得る長時間の使用ができない。摩擦ブレーキを過度に使用すると、ブレーキフェードと呼ばれる現象が発生する場合がある。ブレーキフェードは制動面の熱の蓄積によって引き起こされ、制動能力の大幅な低下につながる。ブレーキフェードを避けるために、大型車両は、エンジンブレーキや様々なリターダシステムなど、補助制動が可能な補助ブレーキを備えることが多い。
【0003】
電気機械を使用して、車両を制動する、すなわち制動トルクを生成することもできる。電気機械は、車両からの運動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機として機能する。この電気エネルギーは、充電式バッテリなどの電気エネルギー貯蔵システム(ESS)に、または電気エネルギーを熱として放散する制動抵抗器に供給することができる。
【0004】
電気機械はブレーキフェードの影響を受けないが、ESSと制動抵抗器の総エネルギー吸収能力には限界があるため、電気機械は依然として長時間にわたる補助制動を実行できない可能性がある。したがって、制動のための追加の手段を車両に搭載する必要があるか、または補助制動を支援するために車両の電気エネルギーシステムの要件を過大に設定する(over-dimensioned)必要があるかのどちらかであるが、これは望ましくない。
【0005】
大型車両向けの制動装置におけるさらなる改良に対する継続的な要求がある。車両のESSシステムの制御を簡素化することも望まれている。
【発明の概要】
【0006】
大型車両向けの制動装置における改良を提供することが、本開示の目的である。この目的は、大型車両の空気抵抗に適合させるための方法によって少なくとも部分的に達成される。車両は、回生制動のために構成された少なくとも1つの電気機械と、回生制動中に少なくとも1つの電気機械からエネルギーを受け取るように構成された1つ以上のエネルギー吸収装置と、車両の異なる空気抵抗の範囲を提供するように構成された可変空気抵抗装置とを含む。方法は、1つ以上のエネルギー吸収装置の現在のエネルギー吸収能力を取得することと、車両の計画されたルートの間及び車両の空気抵抗の公称値の間、回生制動から予想されるエネルギー生成を取得することと、現在のエネルギー吸収能力及び予想されるエネルギー生成に基づいて、車両の異なる空気抵抗の範囲から車両の所望の空気抵抗を決定することと、所望の空気抵抗に従って可変空気抵抗装置を適合させることとを含む。
【0007】
特に、計画されたルートの長期間の下り坂区間の間に、回生制動からのエネルギー生成を制御できることが望ましい。可変空気抵抗装置は、計画されたルートの間、回生制動からの実際のエネルギー生成を(予想されるエネルギー生成に比して)増加または減少させるように適合させることができる。実際の空気抵抗が公称値から変化する場合、車両を減速させるための同じ制動トルクを提供するためには、少なくとも1つの電気機械からより多くのまたはより少ない負のトルクが必要とされる。したがって、本開示は、異なる状況に依存して、車両の異なる空気抵抗の範囲を構成することによって制動及び回生エネルギー管理を改善する。例えば、バッテリを完全に充電するために必要とされるより多くなど、エネルギーの余剰分が予想される場合、空気抵抗は増加させ得る。一方、バッテリのエネルギー不足の場合には、空気抵抗を最小値まで減少させることができる。さらに、車両の異なる空気抵抗の範囲によって、エネルギー吸収装置を過大に設定する必要性、及び/または補助制動に必要とされる追加の制動手段の必要性は低減する。
【0008】
態様によれば、予想されるエネルギー生成が現在のエネルギー吸収能力以上である場合、所望の空気抵抗は公称値以上である。他の態様によれば、予想されるエネルギー生成が、現在のエネルギー吸収能力以下である場合、所望の空気抵抗は公称値以下である。
【0009】
態様によれば、可変空気抵抗装置は、車両の可変サスペンション、車両に配置された可変スポイラ、及び車両に配置された可変デフレクタのいずれかを含む。可変スポイラ及び可変サスペンションは、既存の大型車両にすでに存在している場合がある。その場合、開示される方法を実装するためには、既存の車両に最小の改変が必要になる。可変デフレクタは、所望される場合、追加の可変空気抵抗を提供し得る。
【0010】
態様によれば、1つ以上のエネルギー吸収装置の1つは、電子貯蔵システム(ESS)である。この場合、方法は、ESSの現在の充電状態(SoC)を取得することをさらに含み得る。次に、車両の所望の空気抵抗は、現在のエネルギー吸収能力、予想されるエネルギー生成、及び現在のSoCに基づいて決定し得る。
【0011】
態様によれば、SoCが所定の閾値以上である場合、所望の空気抵抗は公称値以上である。例えば、バッテリが空である場合、所望の空気抵抗を減少させて、実際のエネルギー生成を増加させることが望ましい場合がある。さらなる態様によれば、SoCが所定の閾値以下である場合、所望の空気抵抗は公称値以下である。
【0012】
また、本明細書には、コンピュータプログラムがコンピュータでまたは電子制御ユニット(ECU)の処理回路で実行されるとき、上述のステップのいずれかを実行するためのプログラムコード手段を含む該コンピュータプログラムが開示される。
【0013】
また、本明細書には、プログラム製品がコンピュータでまたはECUの処理回路で実行されるとき、上述のステップのいずれかを実行するためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体が開示される。
【0014】
また、本明細書には、大型車両の空気抵抗を適合させるためのECUも開示される。車両は、回生制動のために構成された少なくとも1つの電気機械と、回生制動中に少なくとも1つの電気機械からエネルギーを受け取るように構成された1つ以上のエネルギー吸収装置と、車両の異なる空気抵抗の範囲を生成するように構成された可変空気抵抗装置とを含む。ECUは、1つ以上のエネルギー吸収装置の現在のエネルギー吸収能力を取得し、車両の計画されたルートの間及び車両の空気抵抗の公称値の間、回生制動から予想されるエネルギー生成を取得し、現在のエネルギー吸収能力及び予想されるエネルギー生成に基づいて、車両の所望の空気抵抗を決定し、所望の空気抵抗に従って可変空気抵抗装置を適合させるように構成される。
【0015】
また、本明細書には、上記説明によるECUを含む車両が開示される。
【0016】
一般に、特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書で明示的に定義されていない限り、技術分野における通常の意味に従って解釈するべきである。「1つの/その(a/an/the)要素、装置、コンポーネント、手段、ステップ等」への全ての言及は、例えば、明示的に別段の記載がない限り、要素、装置、コンポーネント、手段、ステップ等の少なくとも1つの実例を指すものとして公然と解釈するべきである。本明細書に開示される任意の方法のステップは、明示的に記載されない限り、開示された順序で正確に行われる必要はない。添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討するとき、本発明のさらなる特徴及び本発明による利点が明らかになるであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に説明されるもの以外の実施形態を創出し得ることを当業者は認識している。
【0017】
添付の図面を参照して、例として挙げた本発明の実施形態のより詳細な説明が下記に続く。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】例示的な大型車両を示す。
図2】例示的な大型車両を示す。
図3】車両制御システムの機能を模式的に示す。
図4A】ルートに対する高さを示す。
図4B】モータ速度に対するトルクを示す。
図4C】いくつかの例示的な大型車両のユースケースを示す。
図5】方法を示すフローチャートである。
図6】制御ユニットを概略で示す。
図7】例示的なコンピュータプログラム製品を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここで、本発明のある態様を示す付随の図面を参照して、本発明はより完全に以下に説明される。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で具体化され得、本明細書に記載される実施形態及び態様に限定されるものとして解釈するべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的及び完全なものとなり、本発明の範囲が当業者に十分に伝わるように、例として提供されるものである。説明全体を通じて、同様の番号は同様の要素を指す。
【0020】
当然ながら、本発明は、本明細書に記載し、図面に示した実施形態に限定されず、むしろ、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で多くの変更及び修正を行うことができることを認識されよう。
【0021】
図1は、貨物輸送用の大型連結車両100の例を示す。連結車両100は、既知の方法で、例えばフィフスホイール接続によってトレーラユニットを牽引するように構成されたトラックまたは牽引車両を含む。車両ユニットのそれぞれは、負のトルク、すなわち連結車両100を減速させる制動トルクを生成するための手段を含み得る。連結車両100は、車輪110、120、及び130を含む。連結車両は、充電式バッテリなどのESS140と、特に連結車両の動きを制御するための電子制御ユニット101とをさらに含む。車両100は、水素貯蔵タンクから電力を生成するように構成された燃料電池スタックをさらに含み得る。
【0022】
本明細書では、大型車両100は、より重い物体または大量の貨物の取り扱い及び輸送のために設計された車両であるとみなされる。例として、大型車両は、上述したセミトレーラ車両またはトラックであってよい。別の例として、大型車両は、建設、鉱山作業などで使用するために設計された車両であってよい。当然ながら、本明細書に開示される技術及び装置は、図1に例示されているものだけでなく、多種多様な電動車両ユニットとともに適用することができる。したがって、本明細書に開示の技術は、例えば、リジッドトラック、ならびに1つまたは複数の台車車両ユニットを含むマルチトレーラ大型電動車両にも適用可能である。
【0023】
トラック、及び潜在的にはトレーラユニットも、推進及び回生制動用に、軸方向磁束電気機械など1つ以上の電気機械111、121、131を含む。電気機械は、車両からの運動エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機として機能する。この電気エネルギーは、充電式電池またはスーパーキャパシタなど、電気エネルギー貯蔵システム(ESS)である可能性がある1つ以上のエネルギー吸収装置に供給できる。電気エネルギー吸収装置はまた、制動またはエネルギー貯蔵などのいかなる有用な効果ももたらさずに電気エネルギーを熱に変換する制動抵抗器など、電気エネルギーを放散する装置である可能性がある。電気エネルギー吸収装置はまた、電気エネルギーを貯蔵する装置と電気エネルギーを放散する装置との組み合わせであってよい。
【0024】
車両100などの大型車両は通常、電気機械による回生制動を補完するための摩擦ブレーキを含む。しかしながら、車両が、摩擦ブレーキがブレーキフェードを開始する危険がある長い急坂などを下るときに車両100を制動できることが必要とされる。したがって、回生ブレーキ及び摩擦ブレーキに加えて、長時間の制動用のエンジンブレーキまたは油圧ブレーキシステムなどの補助制動システムが必要とされる場合がある。
【0025】
電気機械はブレーキフェードの影響を受けないが、ESSと制動抵抗器の総エネルギー吸収能力には限界があるため、電気機械は依然として長時間にわたる補助制動を実行できない可能性がある。したがって、制動のための追加の手段を車両に搭載する必要があるか、または補助制動を支援するために車両の電気エネルギーシステムの要件を過大に設定する必要があるかのどちらかであるが、これは望ましくない。
【0026】
図1を参照し直すと、電気機械111、121、131はESSに接続されている。制動中に生成される電気機械からの電気エネルギーは、ESSが電力を吸収できる限りESSに供給される。ESSは、完全に充電されると、それ以上のエネルギーを吸収することはできない。さらに、充電時にESSに供給できる最大電流または最大電圧には限界がある場合がある。ESSが電気機械からの全てのエネルギーを受け入れることができない場合、余剰エネルギーを制動抵抗器に供給することができ、制動抵抗器は、余剰エネルギーを熱として放散する。したがって、制動システムは、電気機械からの生成された電気エネルギーをESS及び/または制動抵抗器に分配するように構成されたスイッチを含む場合がある。しかしながら、制動抵抗器は最終的に熱くなりすぎるため、吸収できる最大電力量がある。さらに、通常、制動抵抗器にはピーク電力能力が存在する。すなわち、制動抵抗器に供給できる最大電流または最大電圧には限界がある場合がある。
【0027】
燃料電池スタックは、通常、エネルギー出力のなんらかの最小レベルと関連付けられ、容易にオフにすることはできない。この最小レベルの電力出力はまた、長期間の下り坂運転の間のエネルギー余剰に寄与する。
【0028】
バッテリが完全に充電されており、制動抵抗器が最大許容温度に達している場合、制動中に電気機械から生成される電力を消散させる安全な方法はない。その場合、回生制動を停止する必要がある。制動抵抗器を過大に設計することによって、この問題をいくぶん軽減することができるが、それは実際に長い坂では十分ではない場合がある。この理由から、摩擦ブレーキなどの追加の制動手段が必要とされる。また、上述したように、電気機械は通常、ピーク制動トルク能力が制限されているため、追加の制動手段が必要とされる場合がある。しかしながら、摩擦ブレーキには、車両が長い急坂などを下るときにブレーキフェードを開始する危険がある。代わりに、または組み合わせて、追加の制動手段は、渦電流ブレーキを含むことができる。しかしながら、なおさらなる追加の制動手段を追加するか、または追加の制動手段の要件を低減させることが望ましい場合がある。
【0029】
結果として、十分な制動トルクをさらに長時間にわたって提供できる大型車両向けの制動装置におけるさらなる改良の必要性がある。車両の回生エネルギーシステムの制御を簡素化することも所望されている。特に、計画されたルートの長期間の下り坂区間の間に、回生制動からのエネルギー生成を制御できることも望ましい。エネルギー生成は、計画されたルートの間のエネルギー比率(つまり、電力)及び総エネルギーを含む場合がある。
【0030】
本開示は、車両を異なる空気抵抗の範囲で構成することを可能にすることによって制動及びエネルギーの管理を改善し、空気抵抗は異なる動作状況に依存して構成可能である。本開示は、例えば数か月から数時間まで、来るべき期間にわたって回生制動からどのくらい多くのエネルギーを予想できるのかを予測することを目的とする。車両運動管理(VMM)機能は、ESS、制動抵抗、渦電流ブレーキなどを含む、車両の1つ以上のエネルギー吸収装置の現在のエネルギー吸収能力を追跡する。交通状況管理(TSM)機能及び車両制御スタックの上位層は、計画されたルートに沿って移動する必要のある道路の将来の区間を追跡する。VMMは次に、長い下り坂区間など、状況に応じて空気抵抗を適合させる。エネルギーの余剰量が予想される場合、次に、VMMは空気抵抗を増加させ、一方、エネルギー不足の場合は、空気抵抗は最小値まで減少される。
【0031】
より詳細には、図2に示されるような大型車両100の空気抵抗を適合させる方法が本明細書に開示される。車両は、回生制動のために構成された少なくとも1つの電気機械111、121、131と、回生制動中に少なくとも1つの電気機械からエネルギーを受け取るように構成された1つ以上のエネルギー吸収装置140と、車両の異なる空気抵抗の範囲を提供するように構成された可変空気抵抗装置210、220、230とを含む。方法は、1つ以上のエネルギー吸収装置140の現在のエネルギー吸収能力を取得することS1と、車両の計画されたルートの間及び車両100の空気抵抗の公称値の間、回生制動から予想されるエネルギー生成を取得することS3と、現在のエネルギー吸収能力及び予想されるエネルギー生成に基づいて、車両の異なる空気抵抗の範囲から車両100の所望の空気抵抗を決定することS4と、所望の空気抵抗に従って可変空気抵抗装置210、220、230を適合させることS5とを含む。
【0032】
抗力とも呼ばれる空気抵抗は、空気を介して車両の移動を減速させる傾向がある力である。力は、車両の移動方向とは反対方向に作用し、車両がより速く移動するにつれて増加する。車両の空気抵抗は、以下により近似させることができ、
【数1】
上式では、Cdragは抗力係数であり、Qは空気の密度であり、Aは車両の断面積であり、vは車両の速度である。一般的に、可変空気抵抗装置は、例えば、車両の面積を適合させることによって、または抗力係数を適合させることによって空気抵抗を変化させるためのある種の装置である。特に、可変空気抵抗装置は、車両の可変サスペンション230、車両100に配置された可変スポイラ210、及び車両に配置された可変デフレクタ220のいずれかを含み得る。他の配置も可能である。車両上のスポイラは、通常、例えば、車両が高速で道路から浮き上がる傾向を低減させるように構成された、屋根に沿って配置される狭いプレートなど、ある種のデフレクタである。スポイラの向きは、例えば、車両の前方方向に対してスポイラの角度を変更することによって、空気抵抗を変化させるために変更することができる。より一般的には、可変空気抵抗装置は、車両の側面に配置されたフラップなど、任意のタイプの適合可能な空気デフレクタである場合がある。車両の可変サスペンションは、車両下側の隙間を変更するために使用され得、これは同様に、車両の空気抵抗に影響する。
【0033】
所望の空気抵抗に応じて可変空気抵抗装置210、220、230を適合させることは、スポイラもしくはデフレクタの角度または隙間高さなど装置の設定を変更することを意味する。可変空気抵抗装置が、複数の適合可能な要素を含む場合、複数の設定によって同じ空気抵抗が生じる場合がある。その場合、方法は、乱流を最小限に抑えるなど、二次的な目的を改善する設定の組み合わせを選択することを含み得る。
【0034】
態様によれば、エネルギー吸収装置140のエネルギー吸収能力は、例えば、バッテリの最大容量など、エネルギー吸収装置140が所望のエネルギーレベルに到達するために吸収できる最大量のエネルギーを含む。エネルギー吸収能力はまた、エネルギー吸収装置140による最大エネルギー吸収率、すなわち最大電力を含む場合がある。上述のように、VMM機能は、現在のエネルギー吸収能力を追跡し得る。現在のエネルギー吸収能力はまた、他のシステムまたは機能から取得され得る。
【0035】
バッテリ140の場合、エネルギー吸収能力は、バッテリ140の現在の充電状態と、バッテリ140の最大充電量との差によって決定されてよい。例えば、バッテリが完全に充電されている場合、エネルギー吸収能力はゼロであってよい。制動抵抗器の場合、エネルギー吸収能力は、制動抵抗器の定格電力、すなわち、過熱または損傷を引き起こすことなく制動抵抗器を介して放散できる電力量によって決定されてよい。装置のエネルギー吸収能力は、短期及び長期の両方で時間の経過とともに変化する可能性があることが理解される。例えば、すでに過熱した制動抵抗器は、冷えた未使用の制動抵抗器に比べてエネルギー吸収能力が小さくなり、数十分、場合によっては数十秒などの期間で変動が生じる。新しいバッテリは、多くの場合、より古くより消耗したバッテリと比較してより良いエネルギー吸収能力を有する。エネルギー吸収能力はまた、数か月または数年の期間にわたって変動する場合がある。
【0036】
TSM機能及び上位層は、計画されたルート、つまり下り坂区間など車両が横断する道路の1つ以上の区間を追跡し得る。それを使用して、車両の計画されたルートの間の回生制動からの予想されるエネルギー生成を決定することができる。予想されるエネルギー生成はまた、他のシステムまたは機能から取得され得る。
【0037】
予想されるエネルギー生成は、車両100の空気抵抗の公称値について決定される。好ましくは、公称値は、可変空気抵抗装置210、220、230が生成するように構成された車両の異なる空気抵抗の範囲における空気抵抗の所定値である。その場合、公称値は、例えば範囲内の空気抵抗の最低値、または範囲の中央の値であってもよい。公称値が範囲の中央にある場合、可変空気抵抗装置210、220、230は、計画されたルートの間の回生制動からの実際のエネルギー生成を増加または減少させるように適合できる。実際の空気抵抗が変化する場合、同じ制動トルクを提供して車両を減速させるためには、少なくとも1つの電気機械111、121、131からより多くのまたはより少ない負のトルクが必要になる。これらの関係性は、異なる車両種類を関与させる実際的な実験から決定及び一覧し得る。関係性はまた、解析的分析及び/またはコンピュータシミュレーションから少なくとも部分的に決定されてもよい。
【0038】
車両100の所望の空気抵抗は、空気抵抗の公称値について予想されるエネルギー生成と比較して、回生制動からの実際のエネルギー生成を増加または減少させる実際の空気抵抗である。実際の空気抵抗が増加すべきであるのか、それとも減少すべきであるのかは、状況による。したがって、所望の空気抵抗は、現在のエネルギー吸収能力及び予想されるエネルギー生成に基づいて決定される。所望の空気抵抗は、VMM機能によって、または他の手段によって決定できる。
【0039】
異なる空気抵抗構成について所与の運転状況における回生制動からの(ジュール及び/またはワット単位の)推定されるエネルギー生成は、コンピュータシミュレーションを含む場合がある実験及び/または数理解析によって事前に一覧することができる。しかしながら、異なる動作状況でのエネルギー生成が記録される場合、追加の利点を得ることができる。このようにして、どのくらい多くのエネルギーを回生制動から予想できるのかの推定の精度を高めることができる。例えば、所与の車両が特定の勾配を有する丘を下り、所与の量の貨物を運搬することによって、特定量のエネルギーが生成される場合、次に、この量及び運転状態をメモリに書き込むことができる。車両が、類似した積み荷を運ぶ同様の坂を次に下るとき、生成されるエネルギーの推定はより正確になる。いくつかのすでに経験した状況に似た状況についてエネルギー生成を推定するために補間を使用できることは言うまでもない。異なる運転状態において、異なる空気抵抗構成で回生されたエネルギーについて収集されたデータはまた、例えばリモートサーバを介して、他の車両と共有することもできる。このようにして、より多くのデータが利用可能になるため、エネルギーの回生量の推定はさらに改善される。
【0040】
予想されるエネルギー生成が現在のエネルギー吸収能力以上である場合、所望の空気抵抗は公称値以上である場合がある。例えば、エネルギーの余剰量が予想される場合、所望の空気抵抗は、公称値と比較して増加される。例えば、バッテリ140が半分フルであり、予想されるエネルギー生成がバッテリを完全に充電するために必要とされるエネルギーを超えている場合、所望の空気抵抗は、実際のエネルギー生成を減少させるために増加される。別の例では、制動抵抗器はそれ以外の場合過度に急速に熱くなると予想されるため、所望の空気抵抗は、実際のエネルギー生成を減少させるために増加される。増加した空気抵抗が実際のエネルギー生成を減少させるには十分ではない場合、車両はまた追加の制動手段で補完され得ることが理解される。さらに、予想されるエネルギー生成が、現在のエネルギー吸収能力以下である場合、所望の空気抵抗は、公称値以下である場合がある。
【0041】
1つ以上のエネルギー吸収装置140の1つが電子貯蔵システム(ESS)である場合、方法は、ESS140の現在の充電状態(SoC)を取得することS2をさらに含み得る。その場合、車両100の所望の空気抵抗は、現在のエネルギー吸収能力、予想されるエネルギー生成、及び現在のSoCに基づいて決定される(S51)。
【0042】
SoCが所定の閾値以上である場合、所望の空気抵抗は公称値以上である場合がある。例えば、バッテリ140が空であるか、またはフル充電をはるかに下回るレベルまでしか充電されない場合、所望の空気抵抗を減少させて、実際のエネルギー生成を増加させることが望ましい場合がある。さらに、SoCが所定の閾値以下である場合、所望の空気抵抗は公称値以下である場合がある。
【0043】
また、本明細書には、大型車両100の空気抵抗を適合させるための電子制御ユニット(ECU)101も開示される。車両は、回生制動のために構成された少なくとも1つの電気機械111、121、131と、回生制動中に少なくとも1つの電気機械からエネルギーを受け取るように構成された1つ以上のエネルギー吸収装置140と、車両の異なる空気抵抗の範囲を生成するように構成された可変空気抵抗装置210、220、230とを含む。ECUは、1つ以上のエネルギー吸収装置140の現在のエネルギー吸収能力を取得し、車両100の計画されたルートの間及び車両100の空気抵抗の公称値の間、回生制動から予想されるエネルギー生成を取得し、現在のエネルギー吸収能力及び予想されるエネルギー生成に基づいて、車両100の所望の空気抵抗を決定し、所望の空気抵抗に従って可変空気抵抗装置210、220、230を適合させるように構成される。
【0044】
TSM機能及びVMM機能のいずれも、ECU101によってまたは1つ以上の別個のユニットによって実行され得る。
【0045】
また、本明細書には、上記説明によるECU101を含む車両100が開示される。
【0046】
図3は、ここでは、少なくとも電気機械111、121、131と、可変空気抵抗装置210、220、230とを含む、いくつかの例示的な運動支援装置(MSD)によって1つ以上の車輪110、120、130を制御するための機能300を概略で示す。制御は、例えば、車輪速度センサ、全地球測位システム(GPS)センサ、レーダセンサ、ライダセンサ、ならびにカメラセンサ及び赤外線検出器などの視覚ベースのセンサなどの車両センサ370から取得された測定データに基づく。
【0047】
制御はまた、計画されたルートの高さプロファイルを示すトポロジーのデータに基づいてもよい。このトポロジーのデータは、推定された貨物の総重量とともに、ルートに沿って大型車両100を制動する必要性を判断するために使用される。
【0048】
TSM機能310は、例えば10秒程度の計画対象期間で運転操作を計画する。この時間枠は、例えば、車両100がカーブを通過するのにかかる時間に対応する。ただし、この計画対象期間は、数時間ほどなど、はるかに長い可能性がある。TSMによって計画及び実行される車両の操作は、所与の操作の所望の車両速度及び旋回を記述する加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqに関連付けることができる。例示的な加速度プロファイルareqは、道路の下り坂区間を横断するために必要とされる目標減速値を含む。TSM機能310は、安全かつロバストな方法でTSMからの要求を満たす力の配分を実行するVMM機能320から所望の加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを継続的に要求する。VMM機能は、例えば生成できる力、最大速度、及び加速度などの観点から車両の現在の能力を詳述する能力情報をTSM機能に継続的にフィードバックする。
【0049】
VMM機能320は、約1秒程度の計画対象期間で動作し、加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqを、車両100の異なるMSDによって作動される車両運動機能を制御するための制御コマンドに継続的に変換し、異なるMSDは同様にVMM機能320に能力を報告する。様々な能力は、VMM機能によって車両制御の制約として使用される。
【0050】
VMM機能320は、車両の状態または運動推定330を実行する。すなわち、VMM機能320は、MSDに接続していることが多いが常に接続しているわけではない、車両100上に配置された様々なセンサ370を使用して動作を監視することによって、連結車両の様々なユニットの位置、速度、加速度、及び連結角度を含む車両状態sを継続的に判断する。
【0051】
運動推定330の結果、すなわち、推定車両状態sが、力生成モジュール340に入力され、力生成モジュール340は、異なる車両ユニットについて、要求される加速度プロファイルareq及び曲率プロファイルcreqに従って車両100を移動させるために必要とされる総力及びモーメントFx Fy Mz、V=[V、V、V]を決定する。必要とされる総力ベクトルVはMSD連係機能350に入力され、MSD連係機能350は、車輪の力を配分し、ステアリングまたはサスペンションなどの他のMSDを連係させる。次に、連係されたMSDは、連結車両100による所望の運動を取得するために、車両ユニットに対する所望の横力Fy及び縦力Fx、ならびに必要なモーメントMzをともに提供する。
【0052】
例えば、全地球測位システム、視覚ベースセンサ、車輪速度センサ、レーダセンサ、及び/またはライダセンサを使用して車両ユニットの運動を決定し、この車両ユニットの運動を所与の車輪のローカル座標系に変換することによって(例えば、縦及び横の速度成分に関して)、車輪基準座標系での車両ユニットの運動を、車輪に接続して配置された車輪速度センサから取得したデータと比較することによって、車輪スリップをリアルタイムで正確に推定することが可能になる。
【0053】
タイヤモデルを使用して、所与の車輪iの所望のタイヤ縦力Fxと、車輪の等価の車輪スリップλとの間で変換することができる。車輪スリップλは、車輪の回転速度と対地速度との差に関係し、下記でより詳細に説明される。車輪速度ωは、車輪の回転速度であり、例えば、毎分回転数(rpm)、またはラジアン/秒(rad/sec)もしくは度/秒(deg/sec)で表される角速度の単位で示される。タイヤモデルは、車輪スリップの関数として、縦方向(転がり方向)及び/または横方向(縦方向に直交)で生成される車輪力を記述する車輪挙動のモデルである。「Tyre and vehicle dynamics」、Elsevier Ltd.2012、ISBN978-0-08-097016-5で、Hans Pacejkaは、タイヤモデルの基礎を取り上げている。例えば、車輪スリップと縦力との関係性について説明している第7章を参照されたい。
【0054】
要約すると、VMM機能320は力生成及びMSD連係の両方を管理する。すなわち、VMM機能320は、例えば、TSMによって要求された要求加速度プロファイルに従って車両を加速させるために及び/または同様にTSMによって要求された車両による特定の曲率運動を発生させるためになど、TSM機能310からの要求を満たすためにどの力が車両ユニットで必要とされるのかを判断する。力は、例えば、ヨーモーメントMz、縦力Fx、及び横力Fy、ならびに異なる車輪に加えられる異なるタイプのトルクを含み得る。
【0055】
態様によれば、より上位の制御層によって任意選択で補完されるTSM310の機能は、横断する必要のある道路の将来の下り坂区間を追跡する。したがって、車両は、例えば、所与のルートに沿ってどの程度の高さメートルを上り下りする必要のあるのかを判断し得る。このデータは、例えば貨物の総重量を示すデータとともに、車両100が移動するルートの下り坂区間中に回生される推定エネルギー量を決定するために使用できる。上述のように、車両制御システムは、所与の運転状況の場合に、つまり、所与の勾配の度合い及び異なる車両負荷について単位時間当たりに、どのくらい多くのエネルギーが生成されると予想できるのかを示すデータで事前に構成され得る。このデータはまた、異なる下り坂運転状態について実際の回生エネルギー量を測定することによって、時間の経過とともに動的に取得または精緻化され得る。データは、次に、将来の下り坂運転の状況からの回生エネルギー量を予測するために使用できる。この予測された回生エネルギー量は、次に、車両の推定されたエネルギー吸収能力と比較することができ、それに応じて車両の空気抵抗特性を適合させることができる。
【0056】
例えば、1~10の範囲の10の異なる設定値で空気抵抗を構成することができ、10が空気抵抗の最小値であり、10が空気抵抗の最大量であると仮定する。さらに、車両のエネルギー吸収能力がXジュールであり、車両が所与の距離、所与の勾配の丘を下って移動しようとしていると仮定する。その後、車両は、10の異なる空気抵抗のそれぞれの回生エネルギーの推定値が、類似した運転状態について一覧される車両のデータベースを参照し、次に、計画されたルートの適切な空気抵抗構成を選び出すことができる。
【0057】
別の例として、所与の高さプロファイルを有する計画されたルートを検討する。車両は、次に、高さプロファイルに基づいて計画されたルートのSoCを予測できる。このSoCがESSの容量を超えている場合、次に容量を超えたSoCの発生を回避するためにルートの重要な部分について、車両空気抵抗を増加することができる。
【0058】
ルートに沿った高さプロファイルの例は、図4Aに実線として示されている。破線は、空気抵抗の公称値について同じルートに沿った予想されるSoCを示す。SoCがルートの上り坂区間では減少し、ルートの下り坂区間では増加するのが分かる。このルートの最後で、予想されるSoCは100%を超え、これは望ましくない。これは、本開示の方法を使用することによって回避することができる。開示された方法の計画されたルートは、図4Aのルート全体であるか、図4Aのルートの区間であるか、または両方の組み合わせである可能性がある。計画されたルートが図のルート全体である場合、SoCをフル充電以下に維持するためには、単一の所望の空気抵抗を決定し得る。計画されたルートが図のルートの1つ以上の区間を含む場合、異なる区間に異なる所望の空気抵抗を決定し得る。任意選択で、各区間について決定された空気抵抗は、現在の区間及び将来の区間に基づいて決定し得る。
【0059】
図4Aの予想されるSoCは、1つ以上のエネルギー吸収装置140の現在のエネルギー吸収能力及び回生制動からの予想されるエネルギー生成から決定し得る。予想されるエネルギー生成は、少なくとも1つの電気機械111、121、131の既知のトルク挙動から取得できる。(毎分回転数、rpm単位の)モータ速度に対するトルクの例は、図4Bに示される。必要とされるトルクと異なる状況との関係性は、以下により詳細に説明される。VMM機能320は、制動抵抗、渦電流ブレーキ、バッテリSoCなどを含む車両の現在のエネルギー吸収能力を追跡する。VMMは、次に、計画されたルートの間の回生制動からの実際のエネルギー生成を増加または減少させるために、可変空気抵抗をどのようにして最良に適合させるのかを決定できる。
【0060】
車両の車輪にトルクを伝えることが可能であるVMMとMSDとの間のインタフェースは、従来、いかなる車両スリップも考慮せずに、VMMから各MSDへのトルクベースの要求に集中していた。しかしながら、このアプローチには重大な性能上の限界がある。安全上の重大または過度のスリップ状況が発生した場合、スリップを制御できる状態に戻すために、別の制御ユニットで動作される関連する安全機能(トラクション制御、アンチロックブレーキなど)が通常、介入し、トルクオーバーライドを要求する。このアプローチに関する問題として、アクチュエータのプライマリ制御、及びアクチュエータのスリップ制御が異なる電子制御ユニット(ECU)に割り当てられるため、それらの間の通信に伴うレイテンシーがスリップ制御性能を大幅に制限することが挙げられる。さらに、実際のスリップ制御を実現するために使用される2つのECUで行われる、関連するアクチュエータとスリップの仮定が一致しない可能性があり、これにより準最適な性能につながり得る。
【0061】
代わりに、VMMとMSDコントローラとの間のインタフェースで車輪速度または車輪スリップに基づく要求を使用することにより、大きな利益を実現することができ、これによって、難しいアクチュエータ速度制御ループは、一般的にVMM機能のサンプル時間と比較してかなり短いサンプル時間で動作するMSDコントローラに移行される。そのようなアーキテクチャは、トルクベースの制御インタフェースと比較して、はるかに優れた外乱除去を提供できるため、タイヤと道路との接触面で生成される力の予測可能性が向上する。
【0062】
図3を参照すると、逆タイヤモデルブロック360は、MSD連係ブロック350によって各車輪または車輪のサブセットについて決定された、必要とされる車輪力Fx、Fyを等価の車輪速度ωwiまたは車輪スリップλに変換する。これらの車輪速度またはスリップは、次にそれぞれのMSDコントローラに送信される。MSDコントローラは、例えばMSD連係ブロック350で制約として使用できる能力を折り返し報告する。
【0063】
縦方向の車輪スリップλは、SAE J670(SAE Vehicle Dynamics Standards Committee January 24, 2008)に従って、下式のように定義され得、
【数2】
上式で、Rはメートル単位の有効車輪半径であり、ωは車輪の角速度であり、vは車両の(車両の座標系での)縦方向速度である。したがってλは、-1と1の間で境界が定められ、路面に対して車輪がどの程度スリップしているかを数値化する。車輪スリップは、本質的には、車輪と車両との間で測定される速度差である。したがって、本明細書で開示される技術は、いかなる種類の車輪スリップの定義との使用にも適合させることができる。また、車輪スリップ値は、車輪の座標系において、表面上の車輪の速度を所与とした車輪速度値に同等であることを認識されたい。VMM320及び任意選択でMSD制御ユニットも(車輪の基準フレームで)vに関する情報を維持する一方、車輪速度センサなどを使用することができる。
【0064】
車両の下り坂登坂能力は、大型車両が長い坂道を一定の巡航速度で下る能力に関係する。空気抵抗、及び道路からの転がり抵抗によって車両は減速し、車両にかかる引力によって加速力が提供される。車両の下り坂登坂能力を保証するために、電気機械、可変空気抵抗装置210、220、230、及び他の可能性がある追加の制動手段は、長い下り坂運転中に、例えば、80~110km/時など、一定の巡航速度をサポートするように寸法設定できる。下り坂の登坂能力を考慮した設計とは、電気機械が、所与のレベルでかつ所与の空気抵抗範囲で連続的な負のトルクレベルを提供するように寸法設定され、1つ以上のエネルギー吸収装置に回生エネルギーを分配するように構成されることを意味する。エネルギー吸収装置は、これらのエネルギーレベルを吸収するように寸法設定される。したがって、車両の下り坂登坂能力は、少なくとも様々な運転状態について保証され得る。
【0065】
図4Cは、大型車両100が動作できなければならない4つのユースケース400を示す。車両100は、たとえ車両100に重い荷物が積まれており、路面摩擦が理想的でない場合でも、坂道で発進できなければならない410(始動性)。車両はまた、例えば70km/時などの定速でさらに急な坂道を通過できなければならない420(正の登坂能力)。下り坂の登坂性能430はおそらくさらに重要であり、これは、車両100が下り坂を長距離走行するときに速度を制限できなければならないこと(補助制動)を意味する。最後に、加速及び制動能力は、車両のMSDが正トルクと負トルクの両方でピークトルク要件を満たさなければならないことを意味する。
【0066】
必要な縦方向トルクは次のように表すことができる。
【数3】
上式で、mGCWは連結車両総重量であり、ax,reqは必要な加速度(ユースケース410、420、及び430ではゼロまたは非常に小さい)、Cは空気抗力係数Cと車両前部面積Aの積であり、pairは空気密度であり、vは車速であり、gは重力定数であり、Cは転がり抵抗であり、sは0~100の勾配パーセンテージである。この方程式を使用すると、例えば、空気抵抗(または空気抗力係数、前部面積など)の公称値について、計画されたルートに必要とされるトルクを取得できる。必要とされるトルクは、下り坂区間中のエネルギー生成を決定するために同様に使用できる。
【0067】
上り坂運転の正のトルクの状況では、[数4]及びgCGCWの項は推進MSDによって克服されなければならないが、下り坂の状況では、これらの項は代わりに車両100の制動に役立つ。
【数4】
これは、電気機械がユースケース410及び420にとって十分な正のトルクをサポートするように寸法設定されなければならないが、電気機械及び他の可能性のある追加の制動手段の組み合わせは、ユースケース430及びユースケース440による急ブレーキをサポートするように組み合わせた負のトルクを提供するように寸法設定されなければならないことを意味する。
【0068】
図6は、ECU101などの制御ユニットのコンポーネントを、いくつかの機能ユニットに関して概略で示す。制御ユニットは、本明細書に説明される実施形態に従って、TSM、VMM、及び/またはMSDの制御機能のうち、上述の機能の1つ以上を実装し得る。制御ユニットは、大型車両100の制御について上述された機能の少なくともいくつかを実行するように構成される。例えば、記憶媒体620の形態のコンピュータプログラム製品に格納されたソフトウェア命令を実行することができる適切な中央処理ユニット(CPU)、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)などの1つ以上の任意の組み合わせを使用する処理回路610が提供される。処理回路610は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路(ASIC)、またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)としてさらに提供されてよい。
【0069】
特に、処理回路610は、図5に関連して説明された方法などの動作またはステップのセットを制御ユニット101に実行させるように構成される。例えば、記憶媒体620は動作のセットを格納し得、処理回路610は記憶媒体620から動作のセットを読み出し、制御ユニット101に動作のセットを実行させるように構成され得る。動作のセットは、実行可能な命令のセットとして提供され得る。したがって、処理回路610は、それによって、本明細書に開示の命令を実行するように構成される。
【0070】
例えば、記憶媒体620は、また、磁気メモリ、光学メモリ、ソリッドステートメモリ、またはさらにリモートに搭載されたメモリのうちの任意の単一のものまたは組み合わせであり得る永続記憶装置を含み得る。
【0071】
制御ユニット101は、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインタフェース630をさらに含み得る。したがって、インタフェース630は、アナログコンポーネント及びデジタルコンポーネントと、有線通信または無線通信のための適切な数のポートとを含む、1つ以上の送信機及び受信機を含み得る。
【0072】
処理回路610は、例えば、インタフェース630及び記憶媒体620にデータ及び制御信号を送信することによって、インタフェース630からデータ及び報告を受信することによって、ならびにデータ及び命令を記憶媒体620から取り出すことによって、制御ユニット101の通常の動作を制御する。制御ノードの他のコンポーネント及び関連する機能は、本明細書で提示される概念を不明瞭にしないために省略される。
【0073】
図7は、該プログラム製品がコンピュータ上で起動するとき、図6に示される方法を実行するためのプログラムコード手段720を含むコンピュータプログラムを担持するコンピュータ可読媒体710を示す。コンピュータ可読媒体及びコード手段は、ともにコンピュータプログラム製品700を形成し得る。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
【国際調査報告】