(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】PD-1及びTIM-3を標的化する二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240326BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240326BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240326BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240326BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240326BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P37/04
A61P35/04
A61P11/00
C07K16/28
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562513
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 US2022024368
(87)【国際公開番号】W WO2022221245
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ポリッツィ,クリステン
(72)【発明者】
【氏名】ハモンド,スコット エイ
(72)【発明者】
【氏名】メイザー,ヤリブ
(72)【発明者】
【氏名】ペリー,トリニティ
(72)【発明者】
【氏名】プリッツ,ステイシー
(72)【発明者】
【氏名】ジャイスワル,アシュビン アール
(72)【発明者】
【氏名】オガネシャン,バヘー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チュンニン
(72)【発明者】
【氏名】クーレク,ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】チャイコフスカヤ,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】フェルテ,シャルル
(72)【発明者】
【氏名】クランシー-トンプソン,エリノア
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB42
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、対象において、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)とホスファチジルセリン(PS)との間のエンゲージメントを変化させる方法を提供する。TIM-3結合タンパク質を使用する治療の方法であって、TIM-3結合ドメインは、TIM-3の免疫グロブリン可変(IgV)ドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)とホスファチジルセリン(PS)との間のエンゲージメントを変化させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を前記対象に投与することを含み、前記TIM-3結合ドメインは、TIM-3の免疫グロブリン可変(IgV)ドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法。
【請求項2】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象における抗腫瘍活性を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、前記TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象における抗腫瘍活性を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象においてT細胞媒介性抗腫瘍活性を増加させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を前記対象に投与することを含み、前記TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法。
【請求項5】
前記対象における前記T細胞媒介性抗腫瘍活性は、抗体投与なしと比較して増加する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記対象における前記T細胞媒介性抗腫瘍活性は、前記TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して増加する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象におけるアポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞食作用を増加させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、前記TIM-3のIgVドメインの前記PS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象におけるアポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞食作用を増加させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象における腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、前記TIM-3のIgVドメインの前記PS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象における腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
対象において腫瘍細胞の樹状細胞食作用を促進させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を前記対象に投与することを含み、前記TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法。
【請求項12】
対象において腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を前記対象に投与することを含み、前記TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法。
【請求項13】
樹状細胞交差提示のレベルは、抗体投与なしと比較して増加する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
樹状細胞交差提示のレベルは、前記TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して増加する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象におけるTIM-3陽性T細胞へのエンゲージ時のIL-2分泌を増加させる、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、前記TIM-3のIgVドメインの前記PS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象におけるTIM-3陽性T細胞へのエンゲージ時のIL-2分泌を増加させる、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記TIM-3結合タンパク質の投与は、前記対象における腫瘍成長の阻害をもたらす、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
腫瘍は、進行性又は転移性の固形腫瘍である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象は、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、肺癌、食道癌、胃癌、胆道腫瘍、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の1つ以上を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記対象は、癌免疫療法(IO)獲得耐性を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
IO獲得耐性を有する対象において癌を治療する方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を前記対象に投与することを含み、前記TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法。
【請求項22】
前記癌は、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、肺癌、食道癌、胃癌、胆道腫瘍、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の1つ以上である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記対象は、ヒトである、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象は、根治的外科手術若しくは放射線療法が適さないステージIII又はステージIVの非小細胞肺癌(NSCLC)を実証している、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記NSCLCは、扁平上皮又は非扁平上皮NSCLCである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対象は、単剤療法としての又は化学療法との組み合わせにおける、最低でも3~6ヶ月間の抗PD-1/PD-L1療法による初期治療後、X線で実証された腫瘍進行又は臨床的悪化を有し、且つ初期の臨床的利益、すなわち疾患の安定化又は退縮の兆候を有していた、請求項1~25、45又は46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記IO獲得耐性は、
(i)抗PD-1/PD-L1単剤療法への6ヶ月間未満の曝露で、部分的退縮若しくは完全退縮の初期最良総合効果(BOR)を伴い、続いて治療中の疾患進行若しくは抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行を伴うこと、又は
(ii)単独での若しくは化学療法との組み合わせにおける抗PD-1/PD-L1療法への6ヶ月間以上の曝露で、疾患の安定化、部分的退縮若しくは完全退縮のBORを伴い、続いて治療中の疾患進行若しくは抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行を伴うこと
として定義される、請求項20~26、45又は46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記IO獲得耐性は、単独での又は化学療法との組み合わせにおける抗PD-1/PD-L1療法への6ヶ月間以上の曝露;疾患の安定化、部分的退縮又は完全退縮の最良総合効果(BOR)、それに続く治療中の疾患進行又は抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行として定義される、請求項20~26、45又は46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記対象のPD-L1腫瘍比率スコア(TPS)は、1%以上である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記対象は、ファーストライン設定での以前の全身療法を受けていない、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記以前の全身療法は、抗PD-1/PD-L1療法以外のIO療法である、30に記載の方法。
【請求項32】
前記対象は、以前のネオ/アジュバント療法を受けているが、抗PD-1/PD-L1療法を最後に投与してから少なくとも12ヶ月間にわたって進行しなかった、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記対象のPD-L1 TPSは、50%以上である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記TIM-3結合タンパク質は、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び9又はそれぞれ配列番号1、2、3、7、8及び13のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含む、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記TIM-3結合ドメインは、前記TIM-3のIgVドメイン上のエピトープに特異的に結合し、及び前記エピトープは、TIM-3のN12、L47、R52、D53、V54、N55、Y56、W57、W62、L63、N64、G65、D66、F67、R68、K69、D71、T75及びE77(配列番号29)を含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記TIM-3結合タンパク質は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)結合ドメインを更に含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記TIM-3結合ドメインは、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び9又は1、2、3、7、8及び13のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第1のセットを含み、及び
前記PD-1結合ドメインは、それぞれ配列番号4、5、6、10、11及び12のアミノ酸配列を含むCDR:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第2のセットを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記TIM-3結合タンパク質は、配列番号14のアミノ酸配列を含む第1の重鎖可変ドメイン(VH)、配列番号17のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖可変ドメイン(VL)、配列番号19のアミノ酸配列を含む第2の重鎖VH及び配列番号21のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖VLを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記TIM-3結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記TIM-3結合タンパク質は、配列番号23のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号24のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号23のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号24のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記TIM-3結合タンパク質は、配列番号25のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号26のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号25のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号26のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記TIM-3結合タンパク質は、アグリコシル化されたFc領域を含む、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記TIM-3結合タンパク質は、脱グリコシル化されたFc領域を含む、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記TIM-3結合タンパク質は、減少したフコシル化を有するか又はアフコシル化されているFc領域を含む、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
進行性又は転移性NSCLCを有する対象においてNSCLCを治療する方法であって、PD-1結合ドメイン及びTIM-3結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質を前記対象に投与することを含み、
前記二重特異性結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含み、
前記対象は、IO獲得耐性を有する、方法。
【請求項46】
進行性又は転移性腫瘍を有する対象において非小細胞肺腫瘍の成長を阻害する方法であって、PD-1結合ドメイン及びTIM-3結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質を前記対象に投与することを含み、
前記二重特異性結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含み、
前記対象は、IO獲得耐性を有する、方法。
【請求項47】
前記TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
前記TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメイン上のエピトープに特異的に結合し、及び前記エピトープは、TIM-3のN12、L47、R52、D53、V54、N55、Y56、W57、W62、L63、N64、G65、D66、F67、R68、K69、D71、T75及びE77(配列番号29)を含む、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項49】
前記NSCLCは、扁平上皮又は非扁平上皮NSCLCである、請求項45~48のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)結合タンパク質を使用する治療であって、TIM-3結合領域は、TIM-3の免疫グロブリン可変(IgV)ドメインに特異的に結合する、治療の作用機序及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、依然として主な世界的健康負担である。癌免疫療法の進歩にも関わらず、特に癌免疫療法(IO)獲得耐性を有する患者のための効果的な治療法に対する満たされていない医学上の必要性が依然として存在する。
【0003】
いくつかの分子標的は、癌に対するIO療法薬としてのその潜在的な有用性に関して同定されている。癌免疫療法の分野においてその治療薬の可能性について研究されているいくつかの分子標的としては、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4又はCD152)、プログラム死リガンド1(PD-L1又はB7-H1又はCD274)、プログラム死-1(PD-1)、OX40(CD134又はTNFRSF4)並びにT細胞阻害性受容体T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有3(TIM3)が挙げられる。しかしながら、全ての患者が免疫療法に応答するわけではなく、一部の患者は、時間の経過と共に応答しなくなる。こうしたIO獲得耐性の理由は、研究者によって理解されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、免疫療法、特にIO獲得耐性を克服し、且つ現行の臨床評価された免疫療法戦略を上回って患者の応答を向上させる免疫療法の候補標的を継続して特定する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
対象において、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)とホスファチジルセリン(PS)との間のエンゲージメントを変化させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含み、TIM-3結合ドメインは、TIM-3の免疫グロブリン可変(IgV)ドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法が本明細書で提供される。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象における抗腫瘍活性を増加させる。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象における抗腫瘍活性を増加させる。
【0006】
対象においてT細胞媒介性抗腫瘍活性を増加させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含み、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法も本明細書で提供される。いくつかの態様では、対象におけるT細胞媒介性抗腫瘍活性は、抗体投与なしと比較して増加する。いくつかの態様では、対象におけるT細胞媒介性抗腫瘍活性は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して増加する。
【0007】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象におけるアポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞食作用を増加させる。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象におけるアポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞食作用を増加させる。
【0008】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象における腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象における腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる。
【0009】
対象において腫瘍細胞の樹状細胞食作用を促進させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含み、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法も本明細書で提供される。
【0010】
対象において腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含み、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法も本明細書で提供される。いくつかの態様では、樹状細胞交差提示のレベルは、抗体投与なしと比較して増加する。いくつかの態様では、樹状細胞交差提示のレベルは、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して増加する。
【0011】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、抗体投与なしと比較して、対象におけるTIM-3陽性T細胞へのエンゲージ時のIL-2分泌を増加させる。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象におけるTIM-3陽性T細胞へのエンゲージ時のIL-2分泌を増加させる。
【0012】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、対象における腫瘍成長の阻害をもたらす。いくつかの態様では、腫瘍は、進行性又は転移性の固形腫瘍である。いくつかの態様では、対象は、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、肺癌、食道癌、胃癌、胆道腫瘍、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の1つ以上を有する。
【0013】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、対象は、癌免疫療法(IO)獲得耐性を有する。
【0014】
IO獲得耐性を有する対象において癌を治療する方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含み、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法も本明細書で提供される。いくつかの態様では、癌は、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、肺癌、食道癌、胃癌、胆道腫瘍、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の1つ以上である。いくつかの態様では、対象は、ヒトである。いくつかの態様では、対象は、根治的外科手術若しくは放射線療法が適さないステージIII又はステージIVの非小細胞肺癌(NSCLC)を実証している。いくつかの態様では、NSCLCは、扁平上皮又は非扁平上皮NSCLCである。いくつかの態様では、対象は、単剤療法としての又は化学療法との組み合わせにおける、最低でも3~6ヶ月間の抗PD-1/PD-L1療法による初期治療後、X線で実証された腫瘍進行又は臨床的悪化を有し、且つ初期の臨床的利益、すなわち疾患の安定化又は退縮の兆候を有していた。
【0015】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、IO獲得耐性は、以下の通り定義される:(i)抗PD-1/PD-L1単剤療法への6ヶ月間未満の曝露で、部分的退縮若しくは完全退縮の初期最良総合効果(BOR)を伴い、続いて治療中の疾患進行若しくは抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行を伴うこと、又は(ii)単独での若しくは化学療法との組み合わせにおける抗PD-1/PD-L1療法への6ヶ月間以上の曝露で、疾患の安定化、部分的退縮若しくは完全退縮のBORを伴い、続いて治療中の疾患進行若しくは抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行を伴うこと。
【0016】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、IO獲得耐性は、単独での又は化学療法との組み合わせにおける抗PD-1/PD-L1療法への6ヶ月間以上の曝露;疾患の安定化、部分的退縮又は完全退縮の最良総合効果(BOR)、それに続く治療中の疾患進行又は抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以内の疾患進行として定義される。いくつかの態様では、対象のPD-L1腫瘍比率スコア(TPS)は、1%以上である。いくつかの態様では、対象は、ファーストライン設定での以前の全身療法を受けていない。いくつかの態様では、以前の全身療法は、抗PD-1/PD-L1療法以外のIO療法である。いくつかの態様では、対象は、以前のネオ/アジュバント療法を受けているが、抗PD-1/PD-L1療法を最後に投与してから少なくとも12ヶ月間にわたって進行しなかった。いくつかの態様では、対象のPD-L1 TPSは、50%以上である。
【0017】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び9又はそれぞれ配列番号1、2、3、7、8及び13のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含む。
【0018】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメイン上のエピトープに特異的に結合し、及びエピトープは、TIM-3のN12、L47、R52、D53、V54、N55、Y56、W57、W62、L63、N64、G65、D66、F67、R68、K69、D71、T75及びE77(配列番号29)を含む。
【0019】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)結合ドメインを更に含む。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び9又は1、2、3、7、8及び13のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第1のセットを含み、及びPD-1結合ドメインは、それぞれ配列番号4、5、6、10、11及び12のアミノ酸配列を含むCDR:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第2のセットを含む。
【0020】
いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、配列番号14のアミノ酸配列を含む第1の重鎖可変ドメイン(VH)、配列番号17のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖可変ドメイン(VL)、配列番号19のアミノ酸配列を含む第2の重鎖VH及び配列番号21のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖VLを含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、配列番号23のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号24のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号23のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号24のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、配列番号25のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号26のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号25のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号26のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む。
【0021】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、アグリコシル化されたFc領域を含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、脱グリコシル化されたFc領域を含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、減少したフコシル化を有するか又はアフコシル化されているFc領域を含む。
【0022】
進行性又は転移性NSCLCを有する対象においてNSCLCを治療する方法であって、PD-1結合ドメイン及びTIM-3結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質を対象に投与することを含み、二重特異性結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含み、対象は、IO獲得耐性を有する、方法も本明細書で開示される。
【0023】
進行性又は転移性腫瘍を有する対象において非小細胞肺腫瘍の成長を阻害する方法であって、PD-1結合ドメイン及びTIM-3結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質を対象に投与することを含み、二重特異性結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含み、対象は、IO獲得耐性を有する、方法も本明細書で開示される。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメイン上のエピトープに特異的に結合し、及びエピトープは、TIM-3のN12、L47、R52、D53、V54、N55、Y56、W57、W62、L63、N64、G65、D66、F67、R68、K69、D71、T75及びE77(配列番号29)を含む。
【0024】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、NSCLCは、扁平上皮又は非扁平上皮NSCLCである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】O13-1モノクローナル抗体(mAb)(AZD7789に対する親抗TIM-3mAb)は、アイソタイプ対照と比較して且つh-TIM-3とホスファチジルセリン(PS)との相互作用を低下させる抗TIM-3mAb(F9S)と比較して、ヒト(h-)TIM-3のホスファチジルセリンとの結合を増加させることを示す。
【
図1B】AZD7789によるTIM-3の一価エンゲージメントは、二価mAb O13-1結合と比較して且つアイソタイプ対照と比較して、TIM-3のホスファチジルセリンとの相互作用を増加させるのに十分であることを示す。エラーバーは、SEMを表す。
【
図2】O13-1モノクローナル抗体(mAb)及びAZD7789mAbは、h-TIM-3のアポトーシス細胞との相互作用を低下させる抗PD-1(LO115)、PSをブロックする抗TIM-3mAb(F9S)、Duet LO115/F9S及びE2Eと比較して、ヒトTIM-3 IgVとアポトーシス細胞との結合を増加させることを示す。
【
図3】AZ抗TIM3クローンの62GL及びO13は、TIM3を発現するJurkat T細胞からのIL-2産生を強化する同様の効果を媒介することを示す。したがって、62GLとO13との間の1アミノ酸の差異は、この表現型に影響を与えない。
【
図4】抗TIM-3mAbであるO13-1が、T細胞刺激時にJurkat細胞を発現するh-TIM-3のIL-2産生の増加を駆動する、濃度依存的な効果を示す。評価された全ての他の抗TIM-3mAbは、IL-2産生の濃度依存的な低下を示した。エラーバーは、SEMを表す。
【
図5】刺激及び抗TIM-3mAb O13-1の添加後にJurkat細胞を発現するh-TIM-3由来のIL-2の観察された増加は、TIM-3のホスファチジルセリンとの相互作用をブロックする高濃度の抗TIM-3mAbであるF9S中で細胞が培養される場合に除去されることを示す。
【
図6】Jurkat T細胞中にTIM3を導入すると、IL-2産生が強化されることを示し、これは、AZ抗TIM3(クローンO13)によって更に増加し、競争者様抗TIM3(F9S)によって更に低下する。結合に不可欠な残基の変異(R111A)は、薬物効果及びJurkat T細胞からのIL-2産生全体を無効化するため、この薬物効果は、ホスファチジルセリンに結合するTIM3に依存する。
【
図7】AZD7789及びその親抗TIM-3mAbであるO13-1は、刺激された初代ヒトPBMCのIFN-γの分泌を強化することを示す。
図7Aは、あるドナーの細胞におけるmAb投与の結果としての刺激された初代ヒトPBMCのIFN-γの分泌を示す。
図7Bは、別のドナーの細胞におけるmAb投与の結果としての刺激された初代ヒトT細胞のIFN-γの分泌を示す。試験抗体をキー内に示す。エラーバーは、三重反復ウェルのSEMを表す。
【
図8】AZD7789は、アポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞のエフェロサイトーシスを強化し得ることを示す。
図8Aは、試験抗体を投与した後の又は薬物投与なしでの、実時間(時間)でのアポトーシスJurkat細胞の樹状細胞のエフェロサイトーシスを示す。
図8Bは、試験抗体投与後のエフェロサイトーシスの倍数変化を示す。エフェロサイトーシスの倍数変化は、薬物治療なしの群から決定した。エラーバーは、SEMを表す。
【
図9】試験抗体の存在下又は不在下でアポトーシス腫瘍細胞と共にプレインキュベートされた樹状細胞と共培養した後の、初代ヒトT細胞からのT細胞増殖のパーセントを示す。
図9Aは、アポトーシスMART-1を発現するJurkat細胞とプレインキュベートされた樹状細胞と共培養した後の、MART-1反応性T細胞の増殖のパーセントを示す。
図9Bは、アポトーシスCMVpp65を発現するJurkat細胞とプレインキュベートされた樹状細胞と共培養した後の、CMVppp65反応性T細胞の増殖のパーセントを示す。
【
図10】ヒト腫瘍反応性T細胞が養子移入されたヒト化マウスモデルにおいて、AZD7789は、抗PD-1単体と比較して腫瘍の抑制(
図10A)及び生存(
図10B)を改善することを示す。
【
図11】AZD7789による治療の結果、抗PD-1 mAbの単体又は二価mAbとしての若しくは二重特異性フォーマットにおける、ホスファチジルセリンをブロックする抗TIM-3分子との組み合わせによる治療と比較して、ヒト化マウスインビボモデルにおける腫瘍成長が低減することを示す。
図11Aは、第1のドナーに試験抗体を投与した後の腫瘍容積を示す。
図11Bは、別のドナーに試験抗体を投与した後の腫瘍容積を示す。水平バーは、群内の相加平均腫瘍容積を表す。
【
図12】AZD7789の投与は、エクスビボで刺激された、抗PD-1治療が進行したマウスから採取された腫瘍浸潤リンパ球のIFN-γ分泌を増加させることを示す。
図12Aは、ヒト化マウスモデルにおける、腫瘍容積に対する抗PD-1抗体投与の結果及び試験薬物による切除した腫瘍のエクスビボ刺激を示す研究の概略図である。
図12Bは、アイソタイプ対照と比較した、抗PD-1抗体LO115及びAZD7789を添加した後の、エクスビボで刺激された腫瘍浸潤リンパ球のIFN-γ分泌の倍数変化の集計を示す。
図12Cは、アイソタイプ対照と比較した、抗PD-1抗体LO115及びAZD7789を添加した後の、ある代表的なマウスから採取された、エクスビボで刺激された腫瘍浸潤リンパ球のIFN-γ分泌の増加を示す。
【
図13A】ヒトPC9-MART-1腫瘍細胞を皮下移植されたヒト化免疫不全マウスにおける、アイソタイプ対照、AZD7789、抗PD-1 LO115抗体単体及びAZD7789の順次治療が後続する抗PD-1による治療後の腫瘍成長曲線を示すグラフである。
【
図13B-13C】抗PD-1抗体治療に後続するAZD7789による順次治療は、抗PD-1抗体のみによる継続的治療と比較して、マウスにおける腫瘍成長を遅延させ得ることを示す。
図13Bは、アイソタイプ対照による治療、抗PD-1抗体LO115による継続的治療及び抗PD-1抗体治療に後続するAZD7789による順次治療後の腫瘍容積の変化を示す。
図13Cは、抗PD-1抗体治療に後続するAZD7789による順次治療と比較した、抗PD-1抗体LO115による継続的治療後の腫瘍容積の倍数変化を示す。
【
図14】AZD7789の提案される作用機序を示す概略図である。
【
図15】
図15Aは、Ca++と結合したヒトTIM-3 IgVドメインのリボンダイアグラムである。
図15Bは、Ca++と結合したヒトTIM-3 IgVドメインの表面図である。鎖は、大文字で標識され、ループ(BC、CC’、C’C’’、DE及びFG)は、イタリックで強調表示されている。ホスファチジルセリンは、ループCC’及びFGによって画定されるドメインのクレフト内に結合する。
【
図16A】
図16Aおよび
図16Bは、AZD7789及びF9S抗体の結合を示す概略図である。
図16Aは、ホスファチジルセリン及びCa++イオン結合部位付近の、CC’及びFGループの近位のIgVドメインの近位のF9Sの結合を示す。AZD7789は、IgVベータサンドイッチの反対側に結合する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示がより容易に理解され得るようにするために、特定の用語が最初に定義される。本願で使用される場合、本明細書中で他に明らかに提供される場合を除き、以下の各用語は、以下で示す意味を有するものとする。本願全体を通して更なる定義が示される。
【0027】
5.1 用語
「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子であって、この免疫グロブリン分子の可変領域内の少なくとも1箇所の抗原認識部位を介して、標的(例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質又は前述の組み合わせ)を認識して特異的に結合する免疫グロブリン分子を意味する。本明細書中で用いられる用語「抗体」は、その抗体が所望の生物学的活性を示す限り、インタクトポリクローナル抗体、インタクトモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体を含む融合タンパク質及び他のあらゆる修飾免疫グロブリン分子を包含する。抗体は、免疫グロブリンの5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM又はそれらのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)(それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ及びミューと呼ばれる重鎖定常ドメインの同一性に基づく)のいずれかであり得る。免疫グロブリンの異なるクラスは、異なる周知のサブユニット構造及び3次元立体配置を有する。抗体は、裸抗体であり得るか、又は例えば毒素、放射性同位体などの他の分子にコンジュゲートされ得る。
【0028】
明示的に記載されていない場合且つ文脈がそうでないことを示さない限り、用語「抗体」は、単一特異性、二重特異性又は多重特異性抗体及び単鎖抗体を含む。いくつかの態様では、抗体は、二重特異性抗体である。用語「二重特異性抗体」とは、2つの異なるエピトープに結合する抗体を指す。エピトープは、同じ標的抗原上にあり得るか又は異なる標的抗原上にあり得る。
【0029】
用語「抗体フラグメント」は、インタクト抗体の一部分を指す。「抗原結合フラグメント」、「抗原結合ドメイン」又は「抗原結合領域」は、抗原に結合するインタクト抗体の一部分を指す。二重特異性抗体に関連して、抗原結合フラグメントは、2つの抗原に結合する。抗原結合フラグメントは、インタクト抗体の抗原認識部位を含有し得る(例えば、抗原に特異的に結合するのに十分な相補性決定領域(CDR))。抗体の抗原結合フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFvフラグメント、線状抗体並びに単鎖抗体が挙げられるが、これらに限定されない。抗体の抗原結合フラグメントは、げっ歯類(例えば、マウス、ラット又はハムスター)及びヒトなどのあらゆる動物種から得ることもできるし、人工的に生成することもできる。
【0030】
「モノクローナル」抗体又はその抗原結合フラグメントは、単一の抗原決定基又はエピトープの高度に特異的な結合に関与する均質な抗体又は抗原結合フラグメントの集団を指す。これは、様々な抗原決定基に対して向けられる様々な抗体を典型的に含むポリクローナル抗体と対照的である。用語「モノクローナル」抗体又はその抗原結合フラグメントは、インタクトなモノクローナル抗体及び完全長のモノクローナル抗体の双方並びに抗体フラグメント(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvなど)、単鎖(scFv)変異体、抗体部分を含む融合タンパク質及び抗原認識部位を含む他のあらゆる修飾免疫グロブリン分子を包含する。更に、「モノクローナル」抗体又はその抗原結合フラグメントは、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え発現及びトランスジェニック動物によるものが挙げられるが、これらに限定されない任意の数の方法で製造されるような抗体及びその抗原結合フラグメントを指す。
【0031】
いくつかの態様では、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合フラグメントは、多価分子である。本願中で使用するとき、用語「価」とは、抗体分子中に指定された数の結合部位が存在することを示す。本発明の、例えば天然の抗体又は完全長抗体は、2つの結合部位を有し、これは「二価」である。用語「四価」は、抗原結合タンパク質中に4つの結合部位が存在することを示す。用語「三価」は、抗体分子中に3つの結合部位が存在することを示す。本明細書で使用するとき、用語「二重特異性、四価」は、4つの抗原結合部位を有し、その少なくとも1つが第1の抗原に結合し、少なくとも1つが第2の抗原又は抗原の別のエピトープに結合する、本発明の抗原結合タンパク質を示す。
【0032】
本明細書で使用する用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、互換的に使用され、当技術分野において一般的である。可変領域は、典型的には、抗体の一部分、広義には軽鎖又は重鎖の一部分、典型的には成熟重鎖内のアミノ末端の約110~120個のアミノ酸又は110~125個のアミノ酸及び成熟軽鎖内の約90~115個のアミノ酸を指し、これらは抗体間で配列が異なり、そしてその特定の抗原に対する特定の抗体の結合及び特異性において用いられる。配列の可変性は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる領域中に集中しており、一方、可変ドメイン中のより高度に保存された領域はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。いかなる特定の機序にも理論にも縛られることを望むものではないが、軽鎖及び重鎖のCDRは、主に抗体と抗原との相互作用及び特異性を担うものと考えられる。本開示のいくつかの態様では、可変領域はヒト可変領域である。本開示のいくつかの態様では、可変領域は、げっ歯類又はネズミ科のCDR及びヒトフレームワーク領域(FR)を含む。本開示の特定の態様では、可変領域は霊長類(例えば非ヒト霊長類)の可変領域である。本開示のいくつかの態様では、可変領域は、げっ歯類又はネズミ科のCDR及び霊長類(例えば非ヒト霊長類)のフレームワーク領域(FR)を含む。
【0033】
用語「VL」及び「VLドメイン」は、互換的に用いられ、抗体の軽鎖可変領域を指す。
【0034】
用語「VH」及び「VHドメイン」は、互換的に用いられ、抗体の重鎖可変領域を指す。
【0035】
用語「Kabat付番」及び同様の用語は、当技術分野で認識されており、抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域又はそれらの抗原結合フラグメントのアミノ酸残基を付番する方式を指す。いくつかの態様では、CDRは、Kabat付番方式に従って決定することができる(例えば、Kabat EA&Wu TT(1971)Ann NY Acad Sci 190:382-391 and Kabat EA et al.,(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242を参照されたい)。Kabat付番方式を使用すると、抗体重鎖分子内のCDRは、典型的には、アミノ酸31位~35位(CDR1)(35位の後に続く1つ又は2つの追加のアミノ酸(Kabat付番スキームでは35A及び35Bと称する)を任意選択的に含み得る)、アミノ酸50位~65位(CDR2)及びアミノ酸95位~102位(CDR3)に存在する。Kabat付番方式を使用すると、抗体軽鎖分子内のCDRは、典型的には、アミノ酸24位~34位(CDR1)、アミノ酸50位~56位(CDR2)及びアミノ酸89位~97位(CDR3)に存在する。本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される抗体のCDRは、Kabat付番スキームに従って決定されている。
【0036】
Chothiaは、代わりに、構造ループの位置を指す(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。Kabat付番規則を使用して付番した場合のChothia CDR-H1ループの末端は、このループの長さに応じてH32~H34で変化する(これは、Kabat付番スキームがH35A及びH35Bに挿入を置くためであり、35Aも35Bも存在しない場合、このループは、32で終わり、35Aのみが存在する場合、このループは、33で終わり、35A及び35Bの両方が存在する場合、このループは、34で終わる)。AbM超可変領域は、Kabat CDRとChothia構造ループとの間の妥協案を示し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって用いられる。
【0037】
本明細書で使用するとき、用語「定常領域」及び「定常ドメイン」は、互換的であり、当技術分野における一般的な意味を有する。定常領域は、抗体部分、例えば、抗体の、抗原への結合に直接的には関与しないが、Fc受容体との相互作用などの種々のエフェクタ機能を示し得る軽鎖及び/又は重鎖のカルボキシル末端部分である。免疫グロブリン分子の定常領域は一般に、免疫グロブリン可変ドメインと比較して、より保存されたアミノ酸配列を有する。
【0038】
本明細書で使用する用語「重鎖」は、抗体に関して使用する場合、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、任意の別個のタイプ、例えば、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)及びミュー(μ)を指すことができ、これによりIgGのサブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む抗体のIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMクラスがそれぞれ生じる。重鎖アミノ酸配列は、当技術分野で公知である。本開示のいくつかの態様では、重鎖はヒト重鎖である。
【0039】
本明細書で使用する用語「軽鎖」は、抗体に関して使用する場合、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、任意の別個のタイプ、例えばκ(カッパ)又はλ(ラムダ)を指すことができる。軽鎖アミノ酸配列は、当技術分野で公知である。本開示のいくつかの態様では、軽鎖はヒト軽鎖である。
【0040】
本明細書で使用するとき、用語「プログラム死1」、「プログラム細胞死1」及び「PD-1」は互換的に用いられる。完全なPD-1配列は、NCBI参照配列:NG_012110.1で見ることができる。ヒトPD-1タンパク質のアミノ酸配列は、
【化1】
である。
【0041】
プログラム死-1(「PD-1」)は、T細胞調節因子の拡張CD28/CTLA-4ファミリーの約31kDのI型膜タンパク質メンバーである(Ishida,Y.et al.(1992)Induced Expression Of PD-1,A Novel Member Of The Immunoglobulin Gene Superfamily,Upon Programmed Cell Death,”EMBO J.11:3887-3895を参照されたい)。
【0042】
PD-1は、活性化T細胞、B細胞及び単球上で発現する(Agata,Y.et al.(1996)“Expression of the PD-1 Antigen on the Surface of Stimulated Mouse T and B Lymphocytes,”Int.Immunol.8(5):765-772;Martin-Orozco,N.et al.(2007)“Inhibitory Costimulation and Anti-Tumor Immunity,”Semin.Cancer Biol.17(4):288-298)。PD-1は、PDL-1又はPDL-2の結合による活性化に続く免疫系のダウンレギュレーションを担う受容体であり(Martin-Orozco,N.et al.(2007)“Inhibitory Costimulation and Anti-Tumor Immunity,”Semin.Cancer Biol.17(4):288-298)、細胞死誘導物質として機能する(Ishida,Y.et al.(1992)“Induced Expression of PD-1,A Novel Member of The Immunoglobulin Gene Superfamily,Upon Programmed Cell Death,”EMBO J.11:3887-3895;Subudhi,S.K.et al.(2005)“The Balance of Immune Responses:Costimulation Verse Coinhibition,”J.Molec.Med.83:193-202))。このプロセスは、PD-L1の過剰発現を介して多数の腫瘍において利用され、免疫応答の抑制をもたらす。
【0043】
PD-1は、腫瘍学における免疫媒介療法のために十分に検証された標的であり、とりわけ黒色腫及び非小細胞肺癌(NSCLC)の治療の臨床試験から有望な結果をもたらしている。PD-1/PD-L-1相互作用の拮抗的阻害は、T細胞活性化を高め、宿主免疫系による腫瘍細胞の認識及び排除を増強する。感染症及び腫瘍を治療し、且つ適応免疫応答を強化するための抗PD-1抗体の使用が提案されている(例えば、米国特許第7,521,051号明細書;同第7,563,869号明細書;同第7,595,048号明細書を参照されたい)。
【0044】
プログラム死リガンド1(PD-L1)も、T細胞活性化の制御に関与する受容体及びリガンドの複合系の一部である。正常な組織において、PD-L1は、T細胞、B細胞、樹状細胞、マクロファージ、間葉幹細胞、骨髄由来マスト細胞並びに様々な非造血性細胞上で発現する。その正常な機能は、その2つの受容体:プログラム死1(別名PD-1又はCD279)及びCD80(別名B7-1又はB7.1)との相互作用を介してT細胞の活性化と寛容性とのバランスを制御することである。PD-L1は、腫瘍によっても発現され、複数の部位で作用して、宿主免疫系による検出及び排除を腫瘍が回避することを促進する。PD-L1は、高頻度で非常に多種の癌に発現される。一部の癌において、PD-L1の発現は、生存率の低減及び不都合な予後に関連している。PD-L1とその受容体との相互作用をブロックする抗体は、PD-L1依存性免疫抑制効果を軽減し、抗腫瘍T細胞の細胞傷害性活性をインビトロで増強することができる。デュルバルマブ(Durvalumab)は、PD-1及びCD80受容体の両方とPD-L1との結合をブロックすることができる、ヒトPD-L1に対するヒトモノクローナル抗体である。感染症及び腫瘍を治療し、且つ適応免疫応答を強化するための抗PD-L1抗体の使用が提案されている(例えば、米国特許第8,779,108号明細書及び同第9,493,565号明細書(参照によりその全体が本明細書に援用される)を参照されたい)。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3」及び「TIM-3」は互換的に使用され、ヒトTIM-3のバリアント、イソ型、種ホモログを含む。TIM-3はタイプI細胞表面糖タンパク質であり、N末端免疫グロブリン(Ig)様ドメイン、膜付近にO-結合グリコシル化及びN-結合グリコシル化を有するムチンドメイン、単一の膜貫通ドメイン並びにチロシンリン酸化モチーフを有する細胞質領域を含む。TIM-3は、T細胞/膜貫通、免疫グロブリン及びムチン(TIM)遺伝子ファミリーのメンバーである。ヒトTIM-3のIgVドメインのアミノ酸配列は、
【化2】
である。
【0046】
シグナルペプチドを含むヒトTIM-3タンパク質のアミノ酸配列は、
【化3】
である。
【0047】
T細胞阻害性受容体TIM-3(T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有3)は、IFN-γ産生CD4+ヘルパー1(Th1)及びCD8+T細胞傷害性1(Tc1)T細胞に発現されることから、抗腫瘍免疫の調節においてある役割を果たす。これは、当初、特にTh1及びTc1 T細胞応答の持続時間及び大きさを制限するために機能する免疫チェックポイント受容体として作用するT細胞阻害性受容体として同定された。更なる研究により、TIM-3経路がPD-1経路と協同して、癌におけるCD8+T細胞中に重度の機能不全表現型の発生を促進し得ることが特定された。これは、特定の癌の調節T細胞(Treg)でも発現されている。TIM-3は、マウス肥満細胞、マクロファージ及び樹状細胞(DC)の亜集団、NK及びNKT細胞、並びにヒト単球を含む自然免疫系の細胞上、並びにマウスの初代気管支上皮細胞株上でも発現される。TIM-3は、阻害シグナルを生成してTh1及びTc1細胞のアポトーシスをもたらすことができ、アポトーシス細胞の食作用及び抗原の交差提示を媒介することができる。
【0048】
TIM-3のIgVドメインの結晶構造は、ジスルフィド結合によって結合される2つの逆平行βシートの存在を示す。4つの非カノニカルなシステインによって形成された2つの追加的ジスルフィド結合は、IgVドメインを安定化させ、CC’ループをFGループに向けて再配向し、それにより、リガンドの結合に関与すると考えられており、他のIgSFメンバー中には見ることのできない「クレフト」構造を形成する。代わりに、この「クレフト」集合体は、TIM-1及びTIM-4を含む全てのTIMファミリータンパク質中で確認されるシグネチャー構造である。適切なリガンドによるIgVドメインのエンゲージメントは、TIM-3の免疫調節の役割に重要であることが判明しており、抗腫瘍免疫の末梢寛容及び抑制の誘導に有益である。TIM-3のC’C’’ループは、ベータ鎖C’の後且つベータ鎖C’’の前のアミノ酸、例えばアミノ酸50~54を伴う。DEループは64~73のアミノ酸からなり、CC’ループ及びFGループはアミノ酸35~43及び92~99をそれぞれ含む。
【0049】
TIM-3はいくつかの既知のリガンド、例えばガレクチン-9、ホスファチジルセリン、CEACAM1及びHMGB1を有する。ガレクチン-9は、長い可撓性リンカーによって接合された2つの異なる炭水化物認識ドメインを備えるS型レクチンであり、より大きいポリ-N-アセチルラクトサミン含有構造に対して強化された親和性を有する。ガレクチン-9は、シグナル配列を有さず、細胞質中に局在化している。しかしながら、これは、分泌され得、その炭水化物鎖を介して標的細胞の表面上の糖タンパク質に結合することによってその機能を発揮する(Freeman G J et al.,Immunol Rev.2010 Can;235(1):172-89)。結合の研究、変異誘発性及び共結晶構造に基づき、ヒト及びマウスの両方のTIM-3がホスファチジルセリンの受容体であることが示されており、またTIM-3発現細胞がホスファチジルセリンを発現するアポトーシス細胞に結合し、且つ/又はそれを取り込んだことが示されている。結合部位がIgVドメインの両側にあることが判明したため、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用は、ガレクチン-9との相互作用を除外しない。
【0050】
いくつかの癌で免疫抑制されている主要な免疫細胞集団へのTIM-3経路の関与を考慮すれば、これは、癌免疫療法の魅力的な候補となる。Anderson,A.C.,Cancer Immunol Res.,(2014) 2:393-398;及びFerris,R.L.,et al.,J Immunol.(2014)193:1525-1530を参照されたい。
【0051】
用語「キメラ」抗体又はその抗原結合フラグメントは、アミノ酸配列が2つ以上の種に由来する抗体又はその抗原結合フラグメントを指す。典型的には、軽鎖及び重鎖双方の可変領域は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ等)の一種に由来する、所望される特異性、親和性及び能力を有する抗体又はその抗原結合フラグメントの可変領域に対応する一方で、定常領域は、別の種(通常はヒト)における免疫応答を誘発することを回避するために、その種に由来する抗体又はその抗原結合フラグメント内の配列に相同である。
【0052】
用語「ヒト化」抗体又はその抗原結合フラグメントは、最小限の非ヒト(例えばネズミ科)配列を含む特定の免疫グロブリン鎖、キメラ免疫グロブリン又はそのフラグメントである、非ヒト(例えばネズミ科)抗体又は抗原結合フラグメントの形態を指す。典型的には、ヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)のCDRの残基によって相補性決定領域(CDR)の残基が置換されている(「CDRグラフト化」)ヒト免疫グロブリンである(Jones et al.,Nature,321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature,332:323-327(1988);Verhoeyen et al.,Science,239:1534-1536(1988))。場合によっては、ヒト免疫グロブリンの特定のFvフレームワーク領域(FR)残基は、所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種由来の抗体又はフラグメント中の対応する残基で置換される。ヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、Fvフレームワーク領域にある、且つ/又は非ヒトCDR残基内にある追加の残基の置換によって更に修飾されて、抗体又はその抗原結合フラグメントの特異性、親和性及び/又は能力を洗練し最適化することができる。一般に、ヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、非ヒト免疫グロブリンに対応するCDR領域の全て又は実質的に全てを含有する可変ドメインを含むことになるが、FR領域の全て又は実質的に全てが、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体又はその抗原結合フラグメントは、免疫グロブリン定常領域又はドメイン(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのものも含み得る。ヒト化抗体を生成するのに用いられる方法の例は、米国特許第5,225,539号明細書、Roguska et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,91(3):969-973(1994)及びRoguska et al.,Protein Eng.9(10):895-904(1996)に記載されている。本開示のいくつかの態様では、「ヒト化抗体」は、再表面化抗体である。
【0053】
用語「ヒト」抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒト免疫グロブリン遺伝子座から誘導されたアミノ酸配列を有する抗体又はその抗原結合フラグメントを意味し、このような抗体又は抗原結合フラグメントは、当技術分野で既知の任意の技法を用いて作製される。ヒト抗体又はその抗原結合フラグメントのこの定義は、インタクトな抗体又は完全長の抗体及びそれらのフラグメントを含む。
【0054】
「結合親和性」は、一般に、分子(例えば抗体又はその抗原結合フラグメント)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合性の相互作用の合計の強度を指す。特に指定されない限り、本明細書中で用いられる「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体又はその抗原結合フラグメントと抗原)間の1:1相互作用を反映する内因性結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(KD)によって表され得る。親和性は、平衡解離定数(KD)及び平衡結合定数(KA)が挙げられるが、これらに限定されない、当技術分野で既知の多くの方法で測定し、且つ/又は表すことができる。KDはkoff/konの商から計算され、一方でKAはkoff/konの商から計算される。konは、例えば抗体又はその抗原結合フラグメントの抗原に対する結合速度定数を指し、koffは、例えば抗体又はその抗原結合フラグメントの抗原からの解離を指す。kon及びkoffは、当業者に既知の技法、例えばBIAcore(登録商標)又はKinExAによって決定することができる。
【0055】
本明細書中で用いられる「エピトープ」は、当技術分野の用語であり、抗体又はその抗原結合フラグメントが特異的に結合し得る抗原の局所領域を指す。エピトープは、例えば、ポリペプチド(直鎖状であるか又は連続したエピトープ)の連続アミノ酸であり得るか、又はエピトープは、例えば、ポリペプチドの2つ以上の非連続領域から一体となり得る(コンフォメーションエピトープ、非直鎖状エピトープ、不連続エピトープ又は非連続エピトープ)。本開示のいくつかの態様では、抗体又はその抗原結合フラグメントが特異的に結合するエピトープは、例えば、NMR分光法、X線回折結晶解析研究、ELISAアッセイ、水素/重水素交換質量分析法(例えば、液体クロマトグラフィーエレクトロスプレー質量分析法)、アレイベースのオリゴペプチドスキャニングアッセイ及び/又は変異誘発マッピング(例えば、部位特異的変異誘発マッピング)によって決定することができる。X線結晶構造解析の場合、結晶化は、当技術分野で既知の方法のいずれかを使用して達成され得る(例えば、Giege R et al.,(1994)Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 50(Pt 4):339-350;McPherson A(1990)Eur J Biochem 189:1-23;Chayen NE(1997)Structure 5:1269-1274;McPherson A(1976) J Biol Chem 251:6300-6303)。抗体/その抗原結合フラグメント:抗原の結晶は、周知のX線回折技術を用いて研究することができ、且つコンピューターソフトウェア、例えばX-PLOR(Yale University、1992、Molecular Simulations,Incにより配布される;例えば、Meth Enzymol(1985)volumes 114&115,eds Wyckoff HW et al.,U.S.2004/0014194)及びBUSTER(Bricogne G(1993)Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 49(Pt 1):37-60;Bricogne G(1997)Meth Enzymol 276A:361-423,ed Carter CW;Roversi P et al.,(2000)Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 56(Pt 10):1316-1323を参照されたい)を用いて精製することができる。変異誘発マッピング研究は、当業者に既知の任意の方法を用いて達成され得る。例えば、アラニンスキャニング変異誘発技術を含む変異誘発技術の説明については、Champe M et al.,(1995)J Biol Chem 270:1388-1394及びCunningham BC&Wells JA(1989)Science 244:1081-1085を参照されたい。
【0056】
参照抗体と「同じエピトープに結合する」抗体は、参照抗体と同じアミノ酸残基に結合する抗体を指す。抗体の、参照抗体と同一エピトープに結合する能力は、水素/重水素交換アッセイ(Coales et al.Rapid Commun.Mass Spectrom.2009;23:639-647を参照されたい)又はX線結晶構造解析により決定され得る。
【0057】
抗体は、それが所与のエピトープへの参照抗体の結合をある程度ブロックする限り、そのエピトープ又は重複エピトープに優先的に結合する場合、所与のエピトープに対する参照抗体の結合を「競合的に阻害する」又は「交差競合する」と言われる。競合的阻害は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば競合ELISAアッセイにより判定され得る。抗体は、所与のエピトープへの参照抗体の結合を少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%又は少なくとも50%競合的に阻害すると言うことができる。
【0058】
「単離」されたポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞又は組成物は、天然に見られない形態のポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞又は組成物である。単離されたポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞又は組成物として、もはや天然に見出される形態ではない程度まで精製されているものが挙げられる。本開示のいくつかの態様では、単離されている抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、細胞又は組成物は、実質的に純粋である。本明細書で使用する「実質的に純粋」は、少なくとも50%純粋(すなわち夾雑物を含まない)、少なくとも90%純粋、少なくとも95%純粋、少なくとも98%純粋又は少なくとも99%純粋な材料を指す。
【0059】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書では、あらゆる長さのアミノ酸のポリマーに言及するために互換的に使用される。ポリマーは、直鎖又は分岐鎖であり得、修飾アミノ酸を含み得、非アミノ酸によって中断され得る。この用語は、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質付加、アセチル化、リン酸化又は任意の他の操作若しくは修飾、例えば標識成分とのコンジュゲーションにより、天然に又は介在により修飾されているアミノ酸ポリマーも包含する。例えば、アミノ酸の1つ又は複数の類似体(例えば、非天然アミノ酸などを含む)及び当技術分野で公知の他の修飾を含有するポリペプチドも定義の範囲に含まれる。本開示のポリペプチドは、抗体に基づくため、本開示のいくつかの態様では、ポリペプチドは、単鎖又は結合鎖として存在し得ることが理解される。
【0060】
本明細書で使用するとき、用語「AZD7789」は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖並びに配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む抗TIM-3/PD-1二重特異性抗体を指す。AZD7789は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第10,457,732号明細書に開示されている。本明細書で論じられるモノクローナル抗体O13-1及びクローン62の配列も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第10,457,732号明細書に開示されている。
【0061】
本明細書で使用するとき、用語「医薬配合物」は、活性成分の生物活性が有効となるのを可能にするような形態であり、且つ配合物が投与されることになる対象に対して許容できないほど毒性の高い追加の成分を含有しない製剤を指す。配合物は無菌であり得る。
【0062】
「投与する」、「投与すること」、「投与」などの用語は、本明細書で使用するとき、抗TIM-3/PD-1結合タンパク質(例えば抗体又はその抗原結合フラグメント)などの薬物を所望の生物学的作用部位に送達することを可能にするために使用され得る方法(例えば、静脈内投与)を指す。本明細書に記載される薬剤及び方法と共に用いることのできる投与技法は、例えば、Goodman and Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,current edition,Pergamon;及びRemington’s,Pharmaceutical Sciences,current edition,Mack Publishing Co.,Easton,Paに見出される。
【0063】
本明細書で使用される場合、「組み合わせて」又は「組み合わせて投与される」という用語は、本明細書に記載の抗体又はその抗原結合フラグメントを1つ又は複数の追加の治療薬と共に投与することができることを意味する。いくつかの態様では、抗体又はその抗原結合フラグメントは、1つ又は複数の更なる治療剤と共に同時に又は逐次的に投与され得る。いくつかの態様では、本明細書中に記載される抗体又はその抗原結合フラグメントは、同じ組成物又は異なる組成物において1つ又は複数の更なる治療剤と共に投与され得る。
【0064】
本明細書で使用する用語「対象」及び「患者」は、互換的に用いられる。対象は、動物であり得る。本開示のいくつかの態様では、対象は、哺乳動物、例えば非ヒト動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、マウス、サル又は他の霊長類など)である。本開示のいくつかの態様では、対象は、カニクイザルである。本開示のいくつかの態様では、対象は、ヒトである。
【0065】
用語「治療有効量」は、対象の疾患又は障害を治療するのに有効な薬物、例えば抗TIM-3/PD-1抗体又はその抗原結合フラグメントの量を指す。「治療する」、「治療」、「治療すること」、「軽減する」及び「軽減すること」などの用語は、病状又は障害を治癒し、減速させ、その症状を緩和し、且つ/又はその進行を停止させる治療的手段を指す。したがって、治療を必要とする者には、障害を有すると既に診断されたか又は障害を有することが疑われる者が含まれる。
【0066】
本開示及び特許請求の範囲で使用するとき、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈上特に明確に指示されない限り、複数形を含む。
【0067】
本明細書中で本開示の態様が「含む」という語と共に説明されるときは、常に「~からなる」及び/又は「~から本質的になる」という用語で説明される、他の点では類似の態様も提供されることを理解されたい。
【0068】
特に明記されていない限り又は文脈から明らかでない限り、本明細書で使用する場合、「又は」という用語は、包括的であると理解される。「及び/又は」という用語は、本明細書において「A及び/又はB」などの語句で使用される場合、「A及びB」、「A又はB」の両方、「A」及び「B」を含むものとする。同様に、「及び/又は」という用語は、「A、B及び/又はC」などの語句で使用される場合、以下の態様の各々を包含するものとする:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)。
【0069】
本明細書で使用するとき、「約」及び「およそ」という用語は、数値又は数範囲を修飾するために用いられる場合、その値又は範囲から5%~10%上及び5%~10%下の偏差が、列挙された値又は範囲の意図された意味の内に留まることを示す。
【0070】
本明細書で提供される組成物又は方法のいずれも、本明細書で提供される他の組成物及び方法のいずれかの1つ以上と組み合わせることができる。
【0071】
単位、接頭辞及び記号は、これらの国際単位系(SI)で認められている形態で表記される。数値範囲には、この範囲を画定する数字が含まれる。本明細書中で提供される見出しは、全体として本明細書を参照することによって得ることのできる本開示の様々な態様を限定するものではない。したがって、直下に定義される用語は、本明細書全体を参照することによってより詳細に定義される。
【0072】
5.2 本開示の方法
いくつかの態様では、本開示は、PD-1及びTIM-3を同時に標的化する、新規な抗癌剤AZD7789の治療方法を提供する。いくつかの態様では、本開示は、IO獲得耐性を有する患者にAZD7789を用いる方法を提供する。
【0073】
X線回折結晶解析研究により、TIM-3のアームは、TIM-3の免疫グロブリン可変(IgV)細胞外ドメイン上の固有のエピトープに結合するため、AZD7789のTIM-3のアームは、他の臨床的抗TIM-3剤(例えばモノクローナル抗体)と異なることが明らかになった。このエピトープは、ホスファチジルセリン結合(FG-CC’ループ)クレフトの外部にあり、アミノ酸N12(H結合)、L47、R52(塩橋)、D53(H結合)、V54、N55、Y56、W57、W62、L63)H結合)、N64(H結合)、G65、D66(H結合)、F67、R68(H結合、塩橋)、K69(H結合、塩橋)、D71、T75、E77(H結合)からなる。軽鎖からのパラトープは、CDR1の残基28~31、CDR2の48~53及びCDR3の残基92を含む。重鎖からのパラトープは、CDR1の残基30~33、CDR2の52~57及びCDR3の100~108を含む。
【0074】
AZD7789のTIM-3結合アームは、ホスファチジルセリン結合とは反対側の部位でIgVドメインに結合し、これらのループからの残基との相互作用に直接関与しない。したがって、AZD7789は、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用をブロックしない。代わりに、AZD7789は、TIM-3とホスファチジルセリンとの間のエンゲージメントを増加させる。この固有の機序は、T細胞媒介性抗腫瘍反応を、ホスファチジルセリンブロッキング抗TIM3mAbから観察されるものを超えて改善する。したがって、いくつかの態様では、本開示は、対象において、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)とホスファチジルセリン(PS)との間のエンゲージメントを変化させる方法であって、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含み、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する、方法を提供する。
【0075】
A.TIM-3とPSとの間のエンゲージメントを変化させる方法
いくつかの態様では、本開示は、対象において、T細胞免疫グロブリン及びムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)とホスファチジルセリン(PS)との間のエンゲージメントを変化させる方法を提供する。いくつかの態様では、方法は、本明細書に開示されるTIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、TIM-3の免疫グロブリン可変(IgV)ドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。
【0076】
本明細書に開示される、対象においてTIM-3とPSとの間のエンゲージメントを変化させる方法のいくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、対象における抗腫瘍活性を増加させる。いくつかの態様では、抗腫瘍活性は、結合タンパク質(例えば、抗体)なしの投与と比較して増加する。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象における抗腫瘍活性を増加させる。
【0077】
いくつかの態様では、本開示は、対象においてT細胞媒介性抗腫瘍活性を増加させる方法を提供する。いくつかの態様では、対象においてT細胞媒介性抗腫瘍活性を増加させる方法は、本明細書に開示されるTIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。
【0078】
本明細書に開示される対象においてT細胞媒介性抗腫瘍活性を増加させる方法のいくつかの態様では、前記対象における前記T細胞媒介性抗腫瘍活性は、結合タンパク質(例えば抗体)なしの投与と比較して増加する。いくつかの態様では、対象におけるT細胞媒介性抗腫瘍活性は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して増加する。
【0079】
B.腫瘍抗原の樹状細胞のエフェロサイトーシス及び交差提示を増加させる方法
いくつかの態様では、本開示は、アポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞食作用を増加させる方法を提供する。いくつかの態様では、本明細書に記載のTIM-3結合タンパク質を投与することにより、アポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞エフェロサイトーシスが増加する。いくつかの態様では、アポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞エフェロサイトーシスは、結合タンパク質(例えば抗体)なしの投与と比較して、対象において増加する。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象におけるアポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞エフェロサイトーシスを増加させる。
【0080】
いくつかの態様では、本開示は、対象において腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる方法を提供する。交差提示とは、樹状細胞などの特定の抗原提示細胞が細胞外抗原を取り込み、プロセシングし、MHCクラスI分子と共にCD8+T細胞へ提示する能力である。このプロセスの結果であるクロスプライミングは、ナイーブな細胞傷害性CD8+T細胞を活性化細胞傷害性CD8+T細胞へと刺激する。このプロセスは、抗原提示細胞に容易に感染しないが、末梢組織細胞に感染する大半の腫瘍及びウイルスに対する免疫に必要である。交差提示は、通常はMHC IIによって樹状細胞の表面上に提示される外来性抗原の提示を、MHC I経路を介しても提示されるようにするため、特に重要である。
【0081】
いくつかの態様では、本明細書に記載のTIM-3結合タンパク質を投与することにより、対象における腫瘍抗原の樹状細胞交差提示が増加する。いくつかの態様では、腫瘍抗原の樹状細胞交差提示は、結合タンパク質(例えば抗体)なしの投与と比較して増加する。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象における腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる。
【0082】
いくつかの態様では、本開示は、対象において腫瘍細胞の樹状細胞エフェロサイトーシスを促進する方法を提供する。対象において腫瘍細胞の樹状細胞エフェロサイトーシスを促進する方法のいくつかの態様では、方法は、本明細書に記載されるTIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。
【0083】
いくつかの態様では、本開示は、対象において腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる方法を提供する。いくつかの態様では、対象において腫瘍抗原の樹状細胞交差提示を増加させる方法は、本明細書に記載されるTIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。いくつかの態様では、樹状細胞交差提示のレベルは、結合タンパク質(例えば抗体)なしの投与と比較して増加する。いくつかの態様では、樹状細胞交差提示のレベルは、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して増加する。
【0084】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、本明細書に記載のTIM-3結合タンパク質の投与は、対象におけるTIM-3陽性T細胞へのエンゲージ時のIL-2分泌を増加させる。いくつかの態様では、IL-2分泌は、結合タンパク質(例えば、抗体)なしの投与と比較して増加する。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、TIM-3のIgVドメインのPS結合クレフト(FG及びCC’ループ)に結合するTIM-3結合タンパク質の投与と比較して、対象におけるTIM-3陽性T細胞へのエンゲージ時のIL-2分泌を増加させる。
【0085】
5.3 患者集団
本明細書に開示される任意の方法、例えば、二重特異性抗体(例えばAZD7789)又はその抗原結合フラグメントを用いて、ヒト患者における癌(例えば扁平上皮又は非扁平上皮NSCLC)を治療する方法が本明細書で提供される。いくつかの態様では、患者は、固形腫瘍を有する。いくつかの態様では、患者は、進行性又は転移性の固形腫瘍を有する。
【0086】
いくつかの態様では、対象は、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、肺癌、食道癌、胃癌、胆道腫瘍、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の1つ以上を有する。
【0087】
癌免疫療法(IO)獲得耐性を有する対象において癌を治療するための方法も本明細書で提供される。いくつかの態様では、対象は、ヒトである。
【0088】
いくつかの態様では、対象は、根治的外科手術又は放射線療法が適さないステージIIIの癌を実証している。いくつかの態様では、対象はステージIVの非小細胞肺癌(NSCLC)を有する。いくつかの態様では、NSCLCは、扁平上皮又は非扁平上皮NSCLCである。
【0089】
いくつかの態様では、癌免疫療法(IO)獲得耐性を有する対象は、単剤療法としての又は化学療法との組み合わせにおける、最低でも3~6ヶ月間の抗PD-1/PD-L1療法による初期治療後、X線で実証された腫瘍進行又は臨床的悪化を有し、且つ初期の臨床的利益、すなわち疾患の安定化又は退縮の兆候を有していた。
【0090】
いくつかの態様では、抗PD-1療法は、ニボルマブ(別名OPDIVO(登録商標)、5C4、BMS-936558、MDX-1106及びONO-4538)、ペムブロリズマブ(Merck;別名KEYTRUDA(登録商標)、ラムブロリズマブ及びMK-3475;国際公開第2008/156712号パンフレットを参照されたい)、PDR001(Novartis;国際公開第2015/112900号パンフレットを参照されたい)、MEDI-0680(AstraZeneca;別名AMP-514;国際公開第2012/145493号パンフレットを参照されたい)、セミプリマブ(Regeneron;別名REGN-2810;国際公開第2015/112800号パンフレットを参照されたい)、JS001(TAIZHOU JUNSHI PHARMA;Si-Yang Liu et al.,J.Hematol.Oncol.70:136(2017)を参照されたい)、BGB-A317(Beigene;国際公開第2015/35606号パンフレット及び米国特許出願公開第2015/0079109号明細書を参照されたい)、INCSHR1210(Jiangsu Hengrui Medicine;別名SHR-1210;国際公開第2015/085847号パンフレット;Si-Yang Liu et al,J Hematol.Oncol.70:136(2017)を参照されたい)、TSR-042(Tesaro Biopharmaceutical;別名ANB011;国際公開第2014/179664号パンフレットを参照されたい)、ピジリズマブ(Medivation/CureTech;米国特許第8,686,119B2号明細書又は国際公開第2013/014668A1号パンフレットを参照されたい);GLS-010(Wuxi/Harbin Gloria Pharmaceuticals;別名WBP3055;Si-Yang Liu et al,J.Hematol.Oncol.70:136(2017)を参照されたい)、AM-0001(Armo)、STI-1110(Sorrento Therapeutics;国際公開第2014/194302号パンフレットを参照されたい)、AGEN2034(Agenus;国際公開第2017/040790号パンフレットを参照されたい)、MGA012(Macrogenics、国際公開第2017/19846号パンフレットを参照されたい)及びIBI308(Innovent;国際公開第2017/024465号パンフレット、同第2017/025016号パンフレット、同第2017/132825号パンフレット及び同第2017/133540号パンフレットを参照されたい)から選択される抗体である。いくつかの態様では、抗PD-1療法は、PD-1拮抗物質AMP-224であり、これは、PD-1リガンドプログラム細胞死リガンド2(PD-L2)の細胞外ドメイン及びヒトIgGのFc領域からなる組換え融合タンパク質である。AMP-224は、米国特許出願公開第第2013/0017199号明細書で論じられている。これらの参考文献の各々の内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0091】
いくつかの態様では、抗PD-L1療法は、BMS-936559(別名12A4、MDX-1105;例えば、米国特許第7,943,743号明細書及び国際公開第2013/173223号パンフレットを参照されたい)、アテゾリズマブ(Roche;別名TECENTRIQ(登録商標);MPDL3280A、RG7446;米国特許第8,217,149号明細書を参照されたく;Herbst et al.(2013)J Clin Oncol 3 l(suppl):3000も参照されたい)、デュルバルマブ(AstraZeneca;別名IMFINZI(商標)、MEDI-4736;国際公開第2011/066389号パンフレットを参照されたい)、アベルマブ(Pfizer;別名BAVENCIO(登録商標)、MSB-0010718C;国際公開第2013/079174号パンフレットを参照されたい)、STI-1014(Sorrento;国際公開第2013/181634号パンフレットを参照されたい)、CX-072(Cytomx;国際公開第2016/149201号パンフレットを参照されたい)、KN035(3D Med/Alphamab;Zhang et al.,Cell Discov.7:3(March 2017)を参照されたい)、LY3300054(Eli Lilly Co.;例えば国際公開第2017/034916号パンフレットを参照されたい)及びCK-301(Checkpoint Therapeutics;Gorelik et al.,AACR:Abstract 4606(Apr 2016)を参照されたい)から選択される抗体であり、これらの参考文献の各々の内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0092】
本明細書に開示される方法の特定の態様では、IO獲得耐性は以下の通り定義される:
(i)抗PD-1/PD-L1単剤療法への6ヶ月間未満の曝露で、部分的退縮若しくは完全退縮の初期最良総合効果(BOR)を伴い、続いて治療中の疾患進行若しくは抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行を伴うこと、又は
(ii)単独での若しくは化学療法との組み合わせにおける抗PD-1/PD-L1療法への6ヶ月間以上の曝露で、疾患の安定化、部分的退縮若しくは完全退縮のBORを伴い、続いて治療中の疾患進行若しくは抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行を伴うこと。
【0093】
本明細書に開示される方法の特定の態様では、IO獲得耐性は、単独での又は化学療法との組み合わせにおける抗PD-1/PD-L1療法への6ヶ月間以上の曝露;疾患の安定化、部分的退縮又は完全退縮の最良総合効果(BOR)、それに続く治療中の疾患進行又は抗PD-1/PD-L1治療を中断してから12週間以下での疾患進行として定義される。
【0094】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様では、対象のPD-L1腫瘍比率スコア(TPS)は、1%以上である。いくつかの態様では、対象は、ファーストライン設定での以前の全身療法を受けていない。いくつかの態様では、以前の全身療法は、抗PD-1/PD-L1療法以外のIO療法である。いくつかの態様では、対象は、以前のネオ/アジュバント療法を受けているが、抗PD-1/PD-L1療法を最後に投与してから少なくとも12ヶ月間にわたって進行しなかった。いくつかの態様では、対象のPD-L1 TPSは、50%以上である。
【0095】
5.4 結果
本明細書に開示される方法に従って治療された患者は、好ましくは、癌の少なくとも1つの徴候の改善を経験する。一態様では、改善は、測定可能な腫瘍病変の量及び/又はサイズの減少によって測定される。別の態様では、病変は、胸部X線又はCT若しくはMRIフィルム上で測定され得る。別の態様では、細胞学又は組織学を用いて療法に対する応答性を評価することができる。いくつかの態様では、二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントの投与に対する腫瘍応答は、腫瘍評価の治験責任医師レビューによって決定され、RECIST v1.1ガイドラインによって定義され得る。追加の腫瘍測定は、治験責任医師の裁量で又は施設の慣例に従って行うことができる。
【0096】
いくつかの態様では、治療された患者は、完全寛解(CR)、すなわち全ての標的病変の消失を示す。いくつかの態様では、治療された患者は、部分的寛解(PR)、すなわちベースライン径和を基準とした、標的病変の径和の少なくとも30%の減少を示す。いくつかの態様では、治療された患者は、進行性疾患(PD)、すなわち試験中の最小和(これは、ベースライン和が試験中の最小である場合、ベースライン和を含む)を基準とした、標的病変の径和の少なくとも20%の増大を示す。20%の相対的増加に加えて、その和は、少なくとも5mmの絶対的増加を示す必要もある。(注:1つ以上の新たな病変の出現は、進行とみなされ得る。)いくつかの態様では、治療される患者は、安定疾患(SD)、すなわち試験中の最小径和を基準としてPRと認定するほど十分に縮小しておらず、PDと認定するほど十分に増大していないことを示す。
【0097】
別の態様では、治療された患者は、腫瘍の縮小及び/又は成長速度の低下、すなわち腫瘍成長の抑制を経験する。いくつかの態様では、望ましくない細胞増殖が低減又は阻害される。いくつかの態様では、以下の1つ又は複数が起こり得る。癌細胞の数が減少され得る;腫瘍サイズが縮小し得る;末梢器官への癌細胞浸潤が阻害、阻止、遅延又は停止され得る;腫瘍転移が遅延又は阻害され得る;腫瘍成長が阻害され得る;腫瘍の再発が防止又は遅延され得る;癌に関連する症状の1つ又は複数がある程度緩和され得る。
【0098】
他の態様では、本明細書で提供される方法のいずれかによる二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントの投与は、腫瘍サイズの縮小、経時的に現れる転移性病変数の減少、完全寛解、部分寛解又は安定疾患からなる群から選択される少なくとも1つの治療効果をもたらす。
【0099】
いくつかの態様では、1つ又は複数の腫瘍生検が、本明細書中に提供される方法のいずれかに従って二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントの投与に対する腫瘍応答を決定するために使用され得る。いくつかの態様では、試料はホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)試料である。いくつかの態様では、試料は新鮮な試料である。腫瘍試料(例えば、生検)を使用して、免疫及び腫瘍微小環境に関連する予測的及び/又は薬力学的バイオマーカを同定することができる。そのようなバイオマーカは、IHC、腫瘍突然変異分析、RNA分析及びプロテオーム分析を含むアッセイから決定することができる。特定の態様では、腫瘍バイオマーカの発現は、RT-PCR、インサイチュハイブリダイゼーション、RNアーゼ保護、RT-PCRベースのアッセイ、免疫組織化学、酵素結合免疫吸着アッセイ、インビボ撮像又はフローサイトメトリーによって検出される。
【0100】
5.5 二重特異性抗体及びその抗原結合フラグメント
本明細書では、TIM-3及びPD-1(例えば、ヒトTIM-3及びPD-1)に特異的に結合する抗体及びその抗原結合フラグメントを対象に投与することを含む、対象(例えばヒト対象)における癌を治療する方法が提供される。いくつかの態様では、本明細書に適用される方法に使用され得るTIM-3及びPD-1(例えば、ヒトTIM-3及びPD-1)抗体及びその抗原結合フラグメントとしては、TIM-3及びPD-1に特異的に結合し、固有のTIM-3エピトープを標的化する一価の二重特異性ヒト化免疫グロブリンG1(IgG1)モノクローナル抗体(mAb)であるAZD7789が挙げられる。
【0101】
AZD7789は、DuetMab分子の主鎖上に構築された。DuetMabの設計については、Mazor et al.,MAbs.7(2):377-389,(2015 Mar-Apr 2015)で説明されており、これは、参照によりその全体が本明細書に援用される。「DuetMab」設計は、2つの異なる重鎖をヘテロ二量体化するためのノブ・イントゥ・ホール(KIH)技術を含み、CH1-CL界面の1つの天然のジスルフィド結合を改変ジスルフィド結合に置き換えることにより、同族の重鎖と軽鎖とを対合する効率を増大させる。
【0102】
AZD7789は、TIM-3に結合する可変領域を含む重鎖中のノブ変異及びPD-1に結合する可変領域を含む重鎖中のホール変異を含む。
【0103】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトTIM-3及びヒトPD-1に特異的に結合し、表1及び2に示されるAZD7789抗体のCDRを含む。
【0104】
【0105】
【0106】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び9のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含む。本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び13のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3を含む。
【0107】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントのTIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメイン上の固有のエピトープに特異的に結合する。TIM-3のIgVドメイン上のエピトープは、TIM-3のN12、L47、R52、D53、V54、N55、Y56、W57、W62、L63、N64、G65、D66、F67、R68、K69、D71、T75及びE77(配列番号29)を含む。
【0108】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)結合ドメインを更に含む。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び9のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第1のセットを含み、及びPD-1結合ドメインは、それぞれ配列番号4、5、6、10、11及び12のアミノ酸配列を含むCDR:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第2のセットを含む。
【0109】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)結合ドメインを更に含む。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、それぞれ配列番号1、2、3、7、8及び13のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第1のセットを含み、及びPD-1結合ドメインは、それぞれ配列番号4、5、6、10、11及び12のアミノ酸配列を含むCDR:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2及びLCDR3の第2のセットを含む。
【0110】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトTIM-3及びPD-1に特異的に結合し、表3に列挙されるAZD7789抗体の重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0111】
【0112】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、配列番号14のアミノ酸配列を含む第1の重鎖可変ドメイン(VH)、配列番号17のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖可変ドメイン(VL)、配列番号19のアミノ酸配列を含む第2の重鎖VH及び配列番号21のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖VLを含む。
【0113】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントは、ヒトTIM-3及びPD-1に特異的に結合し、表4に列挙されるAZD7789抗体の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)を含む。
【0114】
【0115】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む。
【0116】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、配列番号23のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号24のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号23のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号24のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む。
【0117】
本開示のいくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメント、TIM-3結合タンパク質は、配列番号25のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号26のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号25のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号26のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含む。
【0118】
いくつかの態様では、本明細書に記載される方法に使用するための二重特異性抗体又はその抗原結合フラグメントのTIM-3結合タンパク質は、アグリコシル化されたFc領域を含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、脱グリコシル化されたFc領域を含む。いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質は、減少したフコシル化を有するか又はアフコシル化されているFc領域を含む。
【0119】
5.6 治療方法
いくつかの態様では、本開示は、対象における非小細胞肺癌(NSCLC)を治療する方法を提供する。いくつかの態様では、本開示は、進行性又は転移性NSCLCを有する対象においてNSCLCを治療する方法を提供する。
【0120】
いくつかの態様では、進行性又は転移性NSCLCを有する対象においてNSCLCを治療する方法は、PD-1結合ドメイン及びTIM-3結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質を対象に投与することを含み、二重特異性結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含み、対象は、IO獲得耐性を有する。いくつかの態様では、本開示のTIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。
【0121】
いくつかの態様では、本開示は、進行性又は転移性腫瘍を有する対象において非小細胞肺腫瘍の成長を阻害する方法を提供する。進行性又は転移性腫瘍を有する対象において非小細胞肺腫瘍の成長を阻害する方法のいくつかの態様では、方法は、PD-1結合ドメイン及びTIM-3結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質を対象に投与することを含み、二重特異性結合タンパク質は、配列番号15のアミノ酸配列を含む第1の重鎖、配列番号18のアミノ酸配列を含む第1の軽鎖、配列番号20のアミノ酸配列を含む第2の重鎖及び配列番号22のアミノ酸配列を含む第2の軽鎖を含み、対象は、IO獲得耐性を有する。いくつかの態様では、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。
【0122】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるPD-1結合ドメイン及びTIM-3結合ドメインを含む二重特異性結合タンパク質のTIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメイン上のエピトープに特異的に結合し、及びエピトープは、TIM-3のN12、L47、R52、D53、V54、N55、Y56、W57、W62、L63、N64、G65、D66、F67、R68、K69、D71、T75及びE77(配列番号29)を含む。
【0123】
いくつかの態様では、NSCLCは、扁平上皮又は非扁平上皮NSCLCである。
【0124】
いくつかの態様では、本開示は、IO獲得耐性を有する対象において癌を治療する方法を提供する。いくつかの態様では、IO獲得耐性を有する対象において癌を治療する方法は、TIM-3結合ドメインを含むTIM-3結合タンパク質を対象に投与することを含み、TIM-3結合ドメインは、TIM-3のIgVドメインのC’C’’及びDEループに特異的に結合する。いくつかの態様では、癌は、卵巣癌、乳癌、結腸直腸癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、膀胱癌、頭頸部癌、黒色腫、膵臓癌、腎細胞癌、肺癌、食道癌、胃癌、胆道腫瘍、尿路上皮癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の1つ以上である。いくつかの態様では、対象は、ヒトである。いくつかの態様では、対象は、根治的外科手術若しくは放射線療法が適さないステージIII又はステージIVの非小細胞肺癌(NSCLC)を実証している。
【0125】
いくつかの態様では、TIM-3結合タンパク質の投与は、対象における腫瘍成長の阻害をもたらす。
【0126】
以下の実施例は、限定としてではなく、例示として提供される。
【実施例】
【0127】
本節(すなわち第6節)の実施例は、限定ではなく例示として提供される。
【0128】
6.1 実施例1:TIM-3 IgVドメインの特性評価
抗TIM3#62モノクローナル抗体(「#62」又は「クローン62」)の抗原結合フラグメントとのTIM-3 IgVドメインの相互作用を調査した。クローン62は、クローン62の親和性成熟バリアントである、抗TIM-3抗体O13-1の親である。mAb O13-1及びクローン62の配列は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第10,457,732号明細書に開示されている。
【0129】
結晶化、データ収集及び構造決定
抗原結合フラグメント(Fab)を有するTIM-3 IgVドメインの共結晶構造を得るために、全てのタンパク質を哺乳動物細胞中で発現させ、均質になるまで精製した。精製したTIM-3 IgVドメイン及びFab(一度に)を、僅かにIgVドメイン過剰でインキュベートし、続いて複合体をサイズ排除精製した。複合体の結晶化を室温で実施した。X線回折データを、Stanford Synchrotron Radiation Lightsource(SSRL,Menlo Park,CA,USA)で収集した。複合体の構造を分子置換によって解決した。
【0130】
TIM-3のIgVドメインに結合した抗TIM3抗体#62のFabの結晶構造を、2.2Åの分解能で決定した。Fabの重鎖及び軽鎖の両方が抗原と相互作用した。Fabの2つの鎖が、815Å2の界面面積を生成し、うち軽鎖が365Å2に寄与し、重鎖が450Å2に寄与した。Fabの両方の鎖から相互作用に関与するアミノ酸が合計で27個存在し、19個のアミノ酸がTIM-3のIgVドメインに由来する。TIM-3アミノ酸の一部は、Fabの両方の鎖と相互作用した。
【0131】
IgVドメインの以下のアミノ酸は、抗TIM3抗体#62:Fabの重鎖との界面に属し、且つ/又はこれとの相互作用に関与する:N12、L47、D53、V54、N55、Y56、W57、W62、L63、N64、G65、D66、F67、T75及びE77。このうち、アミノ酸N12、L63(主鎖)及びE77は、重鎖のCDR2及び3との水素結合を確立する。
【0132】
【0133】
抗TIM3抗体#62の重鎖のFabでは、以下のアミノ酸は、TIM-3のIgVドメインとの界面に属し、且つ/又はそれとの相互作用に関与する:S30、S31、Y32及びA33(全て重鎖のCDR1に属する)、S52、G53、S54、G56、S57(全て重鎖のCDR2に属する)、S100、Y101、G102、T103、Y104、Y105、N107及びY108(全て重鎖のCDR3に属する)。
【0134】
IgVドメインの以下のアミノ酸は、抗TIM3抗体の軽鎖中のFabとの界面に属し、且つ/又はそれとの相互作用に関与する:R52、D53、L63、N64、G65、D66、F67、R68、K69、D71。
【0135】
【0136】
【0137】
抗TIM3抗体#62の軽鎖のFabでは、以下のアミノ酸は、TIM-3のIgVドメインとの界面に属し、且つ/又はそれとの相互作用に関与する:G28、G29、K30及びS31(全て軽鎖のCDR1に属する)、Y48、Y49、D50、S51、D52、R53(全て軽鎖のCDR2に属する)並びにR92(軽鎖のCDR3に属する)。
【0138】
これは、抗TIM3抗体#62の抗原結合フラグメントは、ホスファチジルセリン結合の反対側からIgVドメインに結合することを実証する。この結合は、TIM-3のIgVドメインの折りたたみ又は構造に変化を導入しない。この構造由来のIgVドメインのモデルは、結合したホスファチジルセリンを有するものを0.7Åの平均二乗偏差でアラインさせる。抗TIM3抗体#62とTIM-3のIgVドメインとの相互作用界面は、78位にグリコシル化アスパラギンを含むこともなく、炭水化物自体に結合することもない。
【0139】
6.2 実施例2:TIM-3とホスファチジルセリンとの結合
ホスファチジルセリンを、30μg/mLでマルチアレイ96ウェルプレート(Meso Scale Discovery)上に播種してから終夜蒸発させた。プレートを、1%のウシ血清アルブミンでブロッキングした。薬物を、10μg/mLから開始する5倍段階希釈を用いた7点曲線によって滴定した。続いて、SULFOタグ(Meso Scale Discovery)とコンジュゲートした5μg/mLのTIM-3 IgVを、薬物と共に15分間プレインキュベートしてからプレートに添加した。1.5時間のインキュベーション期間後、プレートを洗浄し、MESO SECTOR S600計器(Meso Scale Discovery)上で電気化学発光シグナルを検出した(
図1A)。
【0140】
図1Aに示されるデータは、AZD7789に対する親抗TIM-3mAb(すなわちmAb O13-1)が、アイソタイプ対照と比較して、TIM-3とホスファチジルセリンとの結合を増加させることを実証する。逆に、抗TIM-3mAbであるF9Sの滴定は、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用をブロックする。全体的に、このデータは、TIM-3の異なるエピトープに結合する抗体は、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用を異なった方法で調節し得ること示す。
【0141】
次に、ホスファチジルセリンを、30μg/mLでマルチアレイ96ウェルプレート(Meso Scale Discovery)上に播種してから終夜蒸発させた。プレートを、1%のウシ血清アルブミンでブロッキングした。薬物を、150μg/mLから開始する4倍段階希釈を用いた7点曲線によって滴定した。続いて、薬物を添加した直後に、SULFOタグ(Meso Scale Discovery)とコンジュゲートした1.67μg/mLのTIM-3 IgVを各ウェルに添加した。2時間のインキュベーション期間後、プレートを洗浄し、MESO SECTOR S600計器(Meso Scale Discovery)上で電気化学発光シグナルを検出した。1治療あたり2つのウェルを評価した。(
図1B)。
【0142】
このデータは、AZD7789対抗TIM-3であるO13-1の結合によって確認される通り、TIM-3のC’CC’’/DEエピトープにおける一価エンゲージメントは、アイソタイプ対照と比較して、TIM-3のホスファチジルセリンとの相互作用を増加させるのに十分であることを実証する。反対に、TIM-3のCC’/FGと結合する2つの独立して誘導された抗TIM-3抗体(mAb F9S及びmAb‘N’)は、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用をブロッキングした。全体的に、このデータは、TIM-3の異なるエピトープに結合する抗体が、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用を異なった方法で調節することができ、この効果が、一価及び二価のエンゲージメントにわたって観察され得ること示す。
【0143】
6.3 実施例3:死滅されたA375黒色腫細胞株に対するTIM3 IgVの結合
A375黒色腫細胞を1μM/mLのスタウロスポリンで24時間かけて殺傷した。翌日、細胞を洗浄し、1ウェルあたり20万個の細胞を播種した。薬物を5倍段階希釈によって滴定し、10μg/mLのTIM-3 IgVと共に45分間共インキュベートした。薬物/TIM3 IgV混合物を、続いてアポトーシスA375細胞と共にインキュベートした。45分後、細胞を冷緩衝液で洗浄し、4%PFAで20分間固定した。データを、BD Symphony A2上で取得し、flowjoによって解析した。グラフを、PRISMを用いて生成した。1治療あたり2つのウェルを評価した。(
図2)。
【0144】
図2に提示するデータは、AZD7789及びクローンO13-1が、アポトーシス黒色腫細胞に対する可溶性TIM-3 IgVの結合を強化するが、抗PD-1であるLO115はこれを強化しないことを示す。抗TIM-3であるE2E及びduet LO115/F9S抗体は、TIM-3とアポトーシス細胞とのエンゲージメントを低下させる。
【0145】
6.4 実施例4:ヒトTIM-3を発現するように改変されたJurkat細胞株
Jurkat細胞株を、ヒトTIM-3を発現するように改変した(h-TIM-3 Jurkat細胞)。1ウェルあたり20万個の細胞を播種した。薬物を、10μg/mLから開始する9点4倍段階希釈によって滴定した。薬物を添加した直後、細胞を可溶性抗CD3(2.5μg/mL)及び抗CD28(0.5μg/mL)で刺激した。24時間後に上清を回収し、Meso Scale Discoveryのhuman IL-2 Tissue Culture kitを用いた電気化学発光検出によってIL-2を評価した。1治療あたり2つのウェルを評価した。
【0146】
図3に示すように、AZD7789に対する非リード最適化及びリード最適化親抗TIM-3mAb(それぞれ抗TIM-3抗体#62及びO13)は、T細胞で刺激した際に、アイソタイプ対照と比較して、h-TIM-3 Jurkat細胞のIL-2産生を増加させる(エラーバーは、SEMを表す)。反対に、抗TIM-3mAb41又はF9Sは、同じ刺激条件下でIL-2産生を減少させる。全体的に、このデータは、TIM-3の異なるエピトープに結合する抗体が、ヒトTIM3 Jurkat刺激アッセイにおいて異なる転帰を誘発し得ることを示す。非リード最適化クローン62とリード最適化クローン13との間の1つのアミノ酸変化は、このJurkat刺激アッセイにおける機能的転帰を変化させない。
【0147】
別の研究では、1ウェルあたり20万個のh-TIM-3Jurkat細胞を播種した。薬物を、10mg/mLから開始する9点3倍段階希釈によって滴定した。薬物を添加した直後に、細胞を抗CD3(1μg/mL)/抗CD28(0.5μg/mL)で刺激した。24時間後に上清を回収し、Meso Scale Discoveryのhuman IL-2 Tissue Culture kitを用いた電気化学発光検出によってIL-2を評価した。(
図4)。1治療あたり2つのウェルを評価した。エラーバーは、SEMを表す。比較器の抗TIM-3抗体「N」、「J」及び「L」は、特許配列に由来した。抗TIM-3抗体2E2は市販されている(Leaf精製抗ヒトCD366,Biolegend)。
【0148】
図4に示すように、親抗TIM-3mAbであるO13-1の滴定により、T細胞で刺激した際のh-TIM-3 Jurkat細胞のIL-2産生は増加する。反対に、本アッセイで評価された全ての他の抗TIM-3 mAbの滴定により、同じ刺激条件下でのIL-2産生は低下する。全体的に、このデータは、TIM-3の異なるエピトープに結合する抗体が、ヒトTIM-3 Jurkat刺激アッセイにおいて異なる転帰を誘発し得ることを示す。
【0149】
h-TIM-3 Jurkat細胞を用いた別の研究では、30μg/mLで開始する11点3倍段階希釈によって薬物を滴定した。「抗TIM-3 O13-1(滴定)+抗TIM-3 F9S(定常)」治療群では、細胞を定濃度の抗TIM-3mAb F9S(10μg/mL)と共にインキュベートした後、抗TIM-3mAb O13-1を滴定する。薬物を添加した後、細胞を、抗CD3(1μg/mL)/抗CD28(0.5μg/mL)で刺激した。24時間後に上清を回収し、Meso Scale Discoveryのhuman IL-2 Tissue Culture kitを用いた電気化学発光検出によってIL-2を評価した(
図5)。
【0150】
図5に示すように、抗TIM-3mAb O13-1添加後の刺激されたh-TIM-3 Jurkat細胞からのIL-2の観察された増加は、TIM-3のホスファチジルセリンとの相互作用をブロックする高濃度の抗TIM-3mAbであるF9S中で細胞が培養される場合に除去されることを示す。このデータは、抗TIM-3mAb O13-1によって誘発されたIL-2産生が、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用に依存し、この相互作用を無効化することで、IL-2分泌の強化が妨げられることを示唆する。
【0151】
次に、親Jurkat T細胞を、ヒトTIM-3の野生型及び変異体(R111A)バージョンを発現するように遺伝子改変された2つのJurkat細胞株と比較した。R111は、TIM-3がホスファチジルセリンに結合するのに不可欠な残基である。TIM-3中のR111A変異は、ホスファチジルセリンのTIM-3への結合を無効化する(Gandhi et al.,Scientific Reports 2018;8:17512;Nakayama et al.,Blood,2009)。薬物を添加した後、細胞を抗CD3(2.5μg/mL)/抗CD28(0.5μg/mL)で刺激した。24時間後に上清を回収し、Meso Scale Discoveryのhuman IL-2 Tissue Culture kitを用いた電気化学発光検出によってIL-2を評価した(
図6)。データを、50nMで処理した3回の個別の実験からコンパイルした。エラーバーは、SEMを表す。****、p<0.0001。
【0152】
図6に提示するデータは、TIM-3の発現が、ホスファチジルセリンとのエンゲージメントと共に、刺激後にTIM-3を発現するJurkat細胞からのIL-2産生を抗TIM-3mAb O13-1が媒介して増加させるのに必要であることを示す。
【0153】
6.5 実施例5:初代ヒトT細胞におけるIFN-γ分泌
2体の健康なドナーに由来する新鮮な末梢血単核球(PBMC)を、40,000細胞/ウェルで播種した。薬物を、100nMから開始する4点10倍段階希釈によって滴定した。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を、細胞表面上にヒト抗CD3 OKT3単鎖可変フラグメント(scFv)を発現するように改変した。CHO-OKT3細胞に放射線(10Gy)を照射してアポトーシスを誘導し、1ウェルあたり5,000で播種した。細胞を3日間共培養した。続いて上清を回収し、Meso Scale Discoveryのhuman IFN-γ Tissue Culture kitを用いた電気化学発光検出によってIFN-γを評価した(
図7A及び7B)。エラーバーは、三重反復ウェルのSEMを表す。**、p<0.01;*、p<0.05。
【0154】
図7A及び7Bに示すデータは、AZD7789及びその親二価抗TIM-3mAbであるO13-1が、細胞アポトーシスとの関係で刺激された初代ヒトT細胞のIFN-γ分泌を強化することを示唆する。これは、抗体又は二重特異性フォーマットにおける抗TIM-3分子をブロックするホスファチジルセリンには当てはまらない。
【0155】
6.6 実施例6:アポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞エフェロサイトーシスに対するAZD7789の効果
ヒト樹状細胞(DC)を、100ng/mLのIL-4及び100ng/mLの顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の存在下で6日間培養した、単離したばかりの単球から生成した。アポトーシスを誘発するために、Jurkat細胞株を、100mMのスタウロスポリンで24時間治療した。アポトーシスJurkat細胞を、続いて1ng/mLのIncucyte(登録商標)pHrodo(登録商標)Red染料で標識した。アポトーシス細胞を、試験薬物の存在下で、単球由来DCと4:1の比で共培養した。プレートを、Incucyte(登録商標)S3 Live-Cell Imaging systemの内部に入れた。画像を、24時間の期間にわたって15分間毎に取得した。Incucyte(登録商標)S3 2018Bソフトウェアを用いて、赤色蛍光を測定及び分析した。データの視覚的描写を、Windows用のGraphPad Prismバージョン8.04.02(GraphPad Software)を用いて実施した。
図8Aは、Incucyte(登録商標)S2 2018Bソフトウェアを用いて生成した1実験からの代表的データの例を示す。
図8Bは、10回以上の個別の実験からコンパイルされたデータの視覚的表現を示す。
図8Bのエフェロサイトーシスの倍数変化は、薬物治療なしの群から決定した。****、p<0.0001;***、p<0.001;*、p<0.05。
【0156】
図8A及び8Bに示すデータは、AZD7789が、アポトーシス腫瘍細胞の樹状細胞のエフェロサイトーシスを強化し得ることを実証する。対照的に、TIM-3のホスファチジルセリン結合クレフトを標的化する抗体(mAb F9S)は、対照群と比較して低減した効果を示した。
【0157】
6.7 実施例7:腫瘍抗原のDC交差提示に対するAZD7789の効果
2つのJurkat細胞株を、ヒトMART-1又はCMVpp65抗原のいずれかをそれぞれ発現するように改変した。これらの細胞株は、アッセイ中で腫瘍細胞としての役割を果たした。アポトーシスを誘発するために、MART-1及びCMVpp65 Jurkat細胞株を、100mMのスタウロスポリンで24時間治療した。ヒト樹状細胞(DC)を、100ng/mLのIL-4及び100ng/mLのGM-CSFの存在下で6日間培養した、単離したばかりの単球から生成した。HLA-A*02陽性の健康なドナーの血液から単球を単離した。樹状細胞を、被験物質の存在下で、アポトーシスMART-1又はCMVpp65 Jurkat細胞と共培養し(比率1:4)、24時間インキュベートして、エフェロサイトーシス及び抗原プロセシングを可能にした。ドナー適合した抗原特異性T細胞を、抗原ペプチドMART-1(Leu26)-HLA-A*0201(ELAGIGILTV)又は抗原ペプチドCMVpp65-HLA-A*0201(NLVPMVATV)のいずれかを用いて7日間刺激した冷凍PBMC及びペプチドから生成した。24時間のMART-1又はCMVpp65 Jurkat細胞のDCエフェロサイトーシス後、ウェルを培地で2回洗浄することにより、残ったアポトーシスJurkat細胞を除去した。抗原特異性T細胞をCellTrace増殖染料で標識し、DCと1:4の比(DC:T細胞)で7日間共培養した。7日後、デキストラマー:HLA-A*0201/NLVPMVATV-抗原:pp65又はデキストラマー:HLA-A*0201/ELAGIGLTV-抗原MART-1を用いて、T細胞をCD3、CD8及び抗原特異性に関して染色した抗原特異性T細胞の増殖を、フローサイトメトリーによって決定し、FlowJoソフトウェアを用いて解析した。(
図9A及び9B)。棒グラフは、MART-1Jurkat細胞実験の二重ウェル及びCMVpp65 Jurkat細胞実験の三重ウェルを示し、エラーバーは、SEMを表す;*、p<0.05。
【0158】
図9A及び9Bに提示されるデータは、AZD7789がT細胞に対する腫瘍抗原のDC交差提示を強化し得ることを示す。この効果は、TIM-3上のホスファチジルセリン結合部位をブロックする類似のモダリティーと異なる(Duet LO115/F9S)。この実施例は、抗原特異性T細胞に対するDC交差提示を強化することにより、AZD7789が抗腫瘍反応を改善し得ることを実証する。
【0159】
6.8 実施例8:抗PD-1対AZD7789の腫瘍成長阻害及び生存の比較
研究0日目に、免疫不全NOD.Cg-Prkdcscid IL2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウスに、2x10
6個のOE21-10xGSV3細胞(目的のウイルスペプチドを発現するように改変されたヒト食道扁平上皮細胞癌)を皮下移植した。7日後、健康なドナーのPBMCに由来するウイルスペプチド反応性CD8+T細胞を静脈内投与した(1×10
6/マウス)。研究10日目から、抗PD-1 mAb LO115又は抗PD-1/抗TIM3 mAb AZD7789を腹腔内投与し、マウスに合計で4回の用量(10mg/kg)を投与し、投与の間に2~3日の間隔を空けた。腫瘍容積を連続的に監視した。腫瘍サイズが2000mm
3に達した時点でマウスを犠牲にした。腫瘍容積のグラフ(
図10A)は、アイソタイプ対照、AZD7789及び抗PD-1 mAb LO115の間の治療の比較を示す。n=8マウス/治療であり、全ての治療は10mg/kgで投与した。治療群間のマウスの生存を
図10Bに示す。
【0160】
図10A~Bのこれらの結果は、抗原特異性ヒト化マウス腫瘍モデルにおいて、AZD7789の治療は、抗PD-1又はアイソタイプ対照で連続的に治療されたマウスと比較して、腫瘍成長を遅延させ、生存を強化することを実証する。これは、AZD7789による治療が、抗PD-1療法よりも高い程度で患者に利益をもたらし得ることを示唆する。
【0161】
6.9 実施例9:腫瘍成長に対するAZD7789の投与の効果
1日目に、48匹の免疫不全NOD.Cg-Prkdc scid IL2rg tm1Wjl/SzJ(NSG)マウスに、2x10
6個のOE21-10xGSV3細胞(目的のウイルスペプチドを発現するように改変されたヒト食道扁平上皮細胞癌)を皮下移植した。7日目に、2体の健康なドナー(D203517及びD896)のPBMCに由来する腫瘍抗原特異性CD8+T細胞を静脈内投与した(1×10
6/マウス)。8日目に、腫瘍容積に基づいてマウスを6つの異なる治療群に無作為化し、1群あたり8匹のマウスとした。9日目から、被験物質及び対照物質を腹腔内投与し、マウスに合計で4回の用量(各10mg/kg)を投与した。
図11A及び11Bは、異なるT細胞ドナー(D203517及びD896)を有する2つの個別の研究の、13日目の腫瘍容積を示す。アイソタイプ対照と他の全ての薬物治療との腫瘍容積の比較を行い、一元ANOVA、テューキーの多重比較検定によって群間差異の統計的有意性を分析した。各記号は、ベースラインから被験物質又は対照物質の3回目の用量の日(13日目)までの腫瘍容積の倍数変化を表す。水平バーは、群内の相加平均腫瘍容積を表す。****、p<0.0001;***、p<0.001;*、p<0.05。
【0162】
図11A及び11Bに示されるデータは、AZD7789による治療が、抗PD-1抗体のみによる治療又は抗PD-1抗体及びホスファチジルセリンをブロックする抗TIM-3分子の組み合わせによる治療と比較して、腫瘍成長の低下をもたらすことを実証する。この傾向は、2つのドナーにわたって観察された。
【0163】
6.10 実施例10:ヒト化マウス腫瘍モデルにおいて過去に抗PD-1療法を受けた、エクスビボ刺激された腫瘍浸潤リンパ球のIFN-γ分泌に対するAZD7789の効果
研究0日目に、免疫不全NOD.Cg-Prkdcscid IL2rgtm1Wjl/SzJ(NSG)マウスに、2x10
6個のOE21-10xGSV3細胞(目的のウイルスペプチドを発現するように改変されたヒト食道扁平上皮細胞癌)を皮下移植した。7日後、健康なドナーのPBMCに由来するウイルスペプチド反応性CD8+T細胞を静脈内投与した(1×10
6/マウス)。研究10日目から、抗PD-1 mAb LO115を腹腔内投与し、マウスに合計で4回の用量(10mg/kg)を投与し、投与の間に2~3日の間隔を空けた。腫瘍容積を連続的に監視した。腫瘍サイズが2000mm
3に達した時点でマウスを犠牲にした。単一の細胞懸濁液中へと腫瘍を引き離した。生存細胞を保持するように細胞をフィコール勾配で遠心分離にかけ、1ウェルあたり0.1×10
6個で播種した。被験物質及び対照物質(10nM)、組換えヒトIL-2(20IU/mL)並びに1.5mg/mLのGILGFVFTLペプチドでパルスした0.02×10
6のT2細胞を、それぞれのウェルに添加した。72時間後に上清を回収し、Meso Scale Discoveryのhuman IFN-γ Tissue Culture kitを用いた電気化学発光検出によってIFN-γを評価した。説明された実験のインビボ及びエクスビボ要素の概略を
図12Aに示す。IFN-γの倍数変化を、アイソタイプ対照群へのエクスビボでの薬物添加からの測定値を比較することによって決定した。6つの抗PD-1で治療されたマウスから採取された腫瘍を評価した。(
図12B)。エクスビボの薬物治療で刺激された1つの抗PD-1に予め曝露された腫瘍からの代表的IFN-γプロットを
図12Cに示す。***、p<0.001;**、p<0.01;*、p<0.05。
【0164】
図12A~12Cに示されるデータは、AZD7789が、抗PD-1治療中に進行した、マウスから採取されたエクスビボで刺激されたTILのIFN-γ分泌を増加させ得ることを示唆する。この実施例は、AZD7789が、抗PD-1療法に応答しなくなった細胞の抗腫瘍反応を改善させ得ることを実証する。
【0165】
6.11 実施例11:ヒト化マウス腫瘍モデルにおける腫瘍成長に対する、抗PD-1治療に後続するAZD7789の順次治療
32匹の免疫不全NSGマウスに、3×10
6個のPC9-MART-1細胞(黒色腫腫瘍抗原、MART-1を発現するように改変されたヒト腺癌細胞株)を皮下移植した。14日目に、健康なドナーのPBMCに由来するMART-1反応性CD8+T細胞を静脈内投与した(5×10
6細胞/マウス)。15、17、20日目並びに続いて23、27及び30日目にマウスを腫瘍容積に基づいて無作為化し、被験物質及び対照物質を10mg/kgで腹腔内投与した。抗PD-1で治療したマウスを、21日目の3回目の用量から24時間後、ベースラインからの腫瘍容積の倍数変化に基づいて再び無作為化し、抗PD-1の治療を継続した10匹のマウス及びAZD7789の治療に切り替えた10匹のマウスの2つのコホートに分割した。腫瘍容積のグラフ(
図13A)は、アイソタイプ対照、AZD7789、抗PD-1 mAb LO115のみ及びAZD7789の順次治療が後続する抗PD-1(3用量の抗PD-1、それに続いて3用量のAZD7789)の間の治療の比較を示す。n=8マウス/治療であり、全ての処置は10mg/kgで投与した。統計は、テューキーの多重比較検定を用いた二元ANOVAによって評価した。グラフ内の時点5(28日目)及び6(31日目)で示される統計は、抗PD-1治療群と抗PD-1→AZD7789治療群と比較する。****、p<0.0001;***、p<0.001。他の全ての統計は、最終治療から5日後の35日目の時点での群を比較する。****、p<0.0001;***、p<0.001**、p<0.01;*、p<0.05。
【0166】
これらの結果は、抗原特異性ヒト化マウス腫瘍モデルにおいて、抗PD-1治療に後続するAZD7789の順次治療が、抗PD-1で連続的に治療されたマウスと比較して腫瘍成長を遅延させ得ることを実証する。これは、AZD7789による処置が、抗PD-1療法に応答しなくなった患者に利益をもたらし得ることを示唆する。
【0167】
6.12 実施例12:ヒト化マウス腫瘍モデルにおける腫瘍成長に対する、抗PD-1治療に後続するAZD7789の順次治療の効果
研究1日目に、免疫不全NSGマウスに、2×10
6個のOE21-10xGSV3細胞(目的のウイルスペプチドを発現するように改変されたヒト食道扁平上皮細胞癌)を皮下移植した。7日後、健康なドナーから単離されたヒトPBMCに由来するウイルス反応性CD8+T細胞を静脈内投与した(1×10
6細胞/マウス)。8日目に、腫瘍容積に基づいてマウスを割り当て治療群に無作為化した。9日目から、10mg/kgの被験物質及び対照物質を腹腔内投与した。
図13Bでは、9日目及び11日目に、マウスにアイソタイプ対照又は抗PD-1を2用量投与し、その後、抗PD-1で治療したマウスを、ベースラインからの腫瘍容積の倍数変化を基準にして3つの個別の治療群に無作為化し、続いて、14日目及び17日目に、抗PD-1(αPD-1連続)、アイソタイプ対照(αPD→Iso対照)又はAZD7789(αPD1→AZD7789)のいずれかを2用量投与した。
図13Bのグラフは、2用量の順次治療から24時間後の18日目における治療群間の腫瘍容積の差を示す。一元ANOVA、テューキーの多重比較検定によって群間差異の統計的有意性を分析した。
図13Cでは、9、13及び16日目に3用量の抗PD-1でマウスを治療し、その後、16日目に後続の治療群に無作為化した。研究は、3体の健康なドナー由来のヒトPBMCを用いた(D896、D1051、D1063)。各記号は、再無作為化時点からの腫瘍容積の倍数変化を表す(3用量の抗PD-1後;16日目から20日目の第1の順次投与の24時間後まで)。対応のないt検定により、治療群にわたる腫瘍容積の倍数変化間の比較の統計的有意性を分析した。水平バーは、群内の相加平均倍数変化を表す。**、p<0.01;*、p<0.05。n=1治療群あたり10匹のマウス。全ての治療は、10mg/kgで投与された。
【0168】
この実施例は、第2の抗原特異性ヒト化マウス腫瘍モデルにおいて、抗PD-1治療に後続するAZD7789の順次治療が、抗PD-1抗体で連続的に治療されたマウスと比較して腫瘍成長を遅延させ得ることを実証する。この結果は、AZD7789による処置が、抗PD-1療法に応答しなくなった患者に利益をもたらし得ることを示唆する。
【0169】
全体的に、これらの実施例は、AZD7789が、異なる細胞のサブセットを調節して抗腫瘍応答を促進することを実証する(
図14)。
【0170】
6.13 実施例13:結合エピトープの比較的特性評価
親抗体クローンO13-1(AZD7789に対する親クローン)及びF9Sの推定上の結合エピトープを、様々な方法で特性評価し、既知の抗TIM-3抗体と比較した。下記の表5に示すように、X線結晶解析研究及び競合結合アッセイは、mAb O13-1がTIM-3 IgVドメインのC’C’’及びDEループに結合することを立証した。対照的に、試験されたその他の抗TIM-3抗体の大部分が、主にCC’及びFGループに結合した(
図15A及びB;Gandhi et al.,Scientific Reports 2018;8:17512を参照されたい)。1つの試験されたmAbはBC及びCC’ループに結合し(国際公開第2015/117002号パンフレット)、1つのmAbはDEループに結合した(国際公開第2016/111947号パンフレット)。
【0171】
【0172】
表5に示すように、表で定義される方法を用いて、抗TIM-3抗体によって結合されたヒトTIM-3免疫グロブリン可変(IgV)ドメインのループへの結合を特性評価した。参照抗体のそれぞれが、列挙された結合ループに強固に結合したが、以下の2つの例外を除く:国際公開第2015/117002号パンフレットに開示される様々な抗体は、BCループに弱く結合し、国際公開第2016/111947A2号パンフレットに開示されるmAb15は、DEループに弱く結合した。CC’及びFGドメインに結合し、ホスファチジルセリンをブロッキングした抗体(又は誘導体)は、C’C’’及びDEループに結合した抗体と比較して最も強い機能活性が報告され(国際公開第2016/111947A2号パンフレット、米国特許出願公開第2018/0016336A1号明細書);C’C’’及びDEループに結合した抗体(国際公開第2016/071448号パンフレット)は、最も特性評価された後続のPD1/TIM3二重特異性抗体に選択されなかった(国際公開第2017/055404号パンフレット)。
【0173】
更に、
図16A及び
図16Bに示すように、2つの社内開発抗体であるクローン62(AZD7789のTIM-3アーム)及びF9Sは、TIM-3のIgVドメインに非競合的に結合する。F9S(
図16Bの明灰色のリボンで示される)は、ホスファチジルセリン及びCa++イオン結合部位に近接するCC’及びFGループ付近のIgVドメイン(
図16A)に結合する。クローン62(黒い略画で示される)は、IgVベータサンドイッチの反対側に結合する。クローン62エピトープは、ループBC、C’C’’、DE及び短鎖Dを含む。
【0174】
この実施例は、AZD7789が、ホスファチジルセリン結合の反対側でTIM-3 IgVドメイン上の固有のエピトープに結合することを立証する(
図15A及び15B(Gandhi et al.,Scientific Reports 2018;8:17512))。この結合は、TIM-3のIgVドメインの折りたたみ又は構造に変化を導入せず、TIM-3とホスファチジルセリンとの相互作用をブロッキングしない(
図2)。代わりに、AZD7789は、TIM-3とホスファチジルセリンとの間のエンゲージメントを増加させる(
図2)。この固有の機序は、T細胞媒介性抗腫瘍反応を、既知のホスファチジルセリンブロッキング抗TIM3抗体から観察されるものを超えて改善する(
図11~13)。
【0175】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態によってその範囲を限定されるべきではない。実際、記載されたものだけでなく、本発明の様々な変更形態が前述の説明及び添付の図面から当業者に明らかになるであろう。そのような変更形態は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0176】
本明細書で引用される全ての参考文献(例えば、公報又は特許若しくは特許出願)は、それぞれの個々の参考文献(例えば、公報又は特許若しくは特許出願)が、あらゆる目的のためにその全体が参照により組み込まれると具体的且つ個別に示されるのと同じ程度に、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0177】
配列表
【0178】
【0179】
【0180】
【0181】
【配列表】
【国際調査報告】