(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】抗菌性コーティングを有する創傷ケア製品
(51)【国際特許分類】
A61F 13/02 20240101AFI20240326BHJP
A61F 13/00 20240101ALI20240326BHJP
【FI】
A61F13/02 310Z
A61F13/02 355
A61F13/00 301Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562717
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2022059209
(87)【国際公開番号】W WO2022223305
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507226709
【氏名又は名称】メンリッケ・ヘルス・ケア・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【氏名又は名称】本田 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】デニス ハンソン
(72)【発明者】
【氏名】オセアネ ランソン
(57)【要約】
本開示は概ね、裏打ち層(201;301;401)と、皮膚対向面(203;403)を有する接着層(202;302;402)とを含む創傷ケア製品(200;300;400)であって、接着層(202;302;402)の皮膚対向面(203;403)の少なくとも一部が、抗菌性コーティング(204)を含む形式のものに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏打ち層(201;301;401)と、皮膚対向面(203;403)を有する接着層(202;302;402)とを含む創傷ケア製品(200;300;400)であって、前記接着層(202;302;402)の前記皮膚対向面(203;403)の少なくとも一部が、抗菌性コーティング(204)を含むものにおいて、前記抗菌性コーティング(204)が水性媒体中に可溶性であることと、前記抗菌性コーティング(204)がクロルヘキシジンホスフェートを含むことを特徴とする、創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項2】
前記抗菌性コーティング(204)の少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%が、水性媒体に暴露されてから3時間以内に溶解されるように構成されている、請求項1に記載の創傷ケア製品。
【請求項3】
前記創傷ケア製品が剥離ライナ(206;404)を含み、前記剥離ライナ(206;404)が、前記接着層(202;302;402)の前記皮膚対向面(203;403)に取り外し可能に取り付けられている、請求項1又は2に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項4】
前記創傷ケア製品(200;300;400)が、ドレッシング(200;300)又は外科用ドレープ、好ましくは切開用ドレープ(400)である、請求項1から3のうちいずれか1項に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項5】
前記創傷ケア製品が切開用ドレープ(400)であり、前記接着層(402)がポリアクリレート系接着剤を含む、請求項4に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項6】
前記創傷ケア製品(200;300;400)がドレッシング(200;300)であり、前記接着層(202;302)がシリコーン系接着剤を含む、請求項1から4のうちいずれか1項に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項7】
前記抗菌性コーティング(204)が、前記接着層(202;302;402)の前記皮膚対向面(203;403)上の不連続なコーティングである、請求項1から6のうちいずれか1項に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項8】
前記抗菌性コーティング(204)内の前記クロルヘキシジンホスフェートの濃度が、5~1000μg/cm2、例えば10~500μg/cm2、例えば20~200μg/cm2である、請求項1から7のうちいずれか1項に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項9】
前記創傷製品がドレッシング(200;300)であり、前記ドレッシング(200;300)が、前記裏打ち層(201;301;401)と前記接着層(202;302;402)との間に配置された吸収性パッド(205;303)をさらに含む、請求項1から4、又は6から8のうちいずれか1項に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項10】
前記吸収性パッド(205;303)が第2抗菌化合物を少なくとも含む、請求項9に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項11】
前記接着層(202;302;402)が第3抗菌化合物を少なくとも含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の創傷ケア製品(200;300;400)。
【請求項12】
創傷ケア製品(200;300;400)を製造する方法であって、
a) 裏打ち層(201;301;401)と、皮膚対向面(203;403)を有する接着層(202;302;402)とを含む創傷ケア製品(200;300;400)を用意し、前記創傷ケア製品(200;300;400)が任意には、前記裏打ち層(201;301;401)と前記接着層(202;302;402)との間に配置された吸収性パッド(205;303)を含むこと、
b) リン酸及び水の中にクロルヘキシジンを溶解することにより、クロルヘキシジンホスフェートの水溶液を用意すること、
c) 前記接着層(202;302;402)の前記皮膚対向面(203;403)の少なくとも一部上へ前記水溶液を被着すること、
d) 前記接着層(202;302;402)の前記皮膚対向面上の前記水溶液を乾燥させること
を含む、創傷ケア製品(200;300;400)を製造する方法。
【請求項13】
クロルヘキシジンホスフェートの前記水溶液のpHが4~6である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記水溶液中のクロルヘキシジン:ホスフェートのモル比が1:1~1:3、好ましくは1:2である、請求項12又は13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水溶液が、スプレー塗布によって前記接着層(202;302;402)の前記皮膚対向面(203;403)の少なくとも一部上へ被着される、請求項12から14のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が、
e) 前記接着層(202;302;402)の前記皮膚対向面(203;403)に剥離ライナ(206;404)を被着する
工程をさらに含む、請求項12から15のうちいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、裏打ち層と、皮膚対向面を有する接着層とを含む創傷ケア製品であって、前記接着層の前記皮膚対向面の少なくとも一部が、抗菌性コーティングを有する創傷ケア製品に関する。
【背景技術】
【0002】
感染は慢性創傷及び外科的創傷における共通の問題である。外科的部位又は開放創は、細菌が適合しコロニー形成するのに好適な環境である。創傷内又は創傷を取り囲む皮膚における細菌感染は、正常な創傷治癒プロセスを混乱させ、その結果、慢性の治癒しない創傷が生じるおそれがある。
【0003】
創傷の治療に際しては、創傷の感染を排除又は低減するために、抗菌剤がしばしば使用される。包帯及び創傷被覆材内へ抗菌剤を組み入れることにより、治癒を促進し、創傷の感染リスクを排除又は低減することができる。これを目的として、種々のタイプの抗菌性ドレッシングが開発されている。
【0004】
外科的環境において、いわゆる切開用ドレープ(incision drapes)を利用して、外科的部位の感染リスクを増大させ得る非滅菌領域から外科的部位を隔離することがある。切開用ドレープは、外科的処置中に切り抜かれるように構成されている。
【0005】
外科的環境及び創傷治療の両方において、汚染微生物によって引き起こされる感染が防止される必要がある。
【0006】
数多くの創傷ケア製品の場合、抗菌剤の迅速な送達が望ましい。その理由は、抗菌剤が低速で徐々に放出されると、創傷部位又は皮膚に存在する細菌を、概ね低い抗菌剤濃度に順応させることになり得るからである。
【0007】
創傷ケア製品、例えばドレッシング及び切開用ドレープは一般的には、感圧接着剤(pressure-sensitive adhesive(PSA))としても知られる自己付着性接着剤を含む。この目的は、創傷及び/又は創傷を取り囲む皮膚に接着し、ひいてはドレッシングを望ましい位置に固定することである。創傷ケア製品を皮膚上に貼付するために種々の接着剤が使用されてよい。最も一般的なもののいくつかは、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、及びホットメルト接着剤である。創傷ケア製品の組み立て中、接着層は一般的には、使用前の汚染から接着層及び製品を保護するために、剥離ライナによって覆われる。製品は一般的に、外科的環境で使用する前、又は患者の皮膚又は創傷に被着する前に滅菌される。
【0008】
迅速な放出、ひいては迅速な効果を可能にするために、接着層の皮膚対向面に抗菌組成物が被覆されることがある。
【0009】
特許文献1及び特許文献2に基づき、接着面上に可溶性銀塩コーティングを含む抗菌性ドレッシングが公知である。これらのドレッシングでは、銀が液体と接触すると、正電荷イオンとして放出される。銀の放出は抗菌効果を有し、そして創傷部位の細菌濃度を低減し得る一方、菌類、例えばカンジダ・アルビカンスに対するその効果、並びに細菌性バイオフィルムの防止及び排除が制限される。
【0010】
クロルヘキシジンは、外科的処置前に創傷洗浄剤として一般に使用される別の抗菌化合物である。クロルヘキシジンは口内洗浄液のような口腔用途においても使用されており、医療デバイス、例えば歯科用インプラント及びカテーテルにも適用されている。クロルヘキシジンは環境上適正且つ安全であると考えられる。最も一般的に使用されるクロルヘキシジン塩はクロルヘキシジングルコネート及びクロルヘキシジンアセテートである。
【0011】
創傷ケア製品の接着層に抗菌性コーティングを被着するときには、コーティングが接着層の接着特性又は「
粘着性(tackiness)」を損なわないことが重要である。
【0012】
さらに、抗菌性コーティングは、製品が患者の皮膚又は創傷に被着されようとするときに、創傷ケア製品の接着面に残ることが重要である。抗菌性コーティングを含む創傷ケア製品と関連する1つの問題点は、ひとたび剥離ライナが創傷ケア製品から取り除かれると、抗菌組成物が剥離ライナと一緒に取り除かれ、これにより接着層から取り除かれることである。結果として、ドレッシングの抗菌効果は排除されるか、又は少なくとも著しく低減される。
【0013】
したがって、抗菌創傷ケア製品に関する上述の困難を克服する必要がある。より具体的には、抗菌化合物の迅速な送達をもたらす創傷ケア製品であって、製品の分解後でも、すなわち剥離ライナを取り除いた後でも、効果が創傷ケア製品内に残る、創傷ケア製品を提供する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3191039号明細書
【特許文献2】欧州特許第3191144号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第3023083号明細書(欧州特許出願第14194054.4号明細書)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述の問題点に照らして、本開示の目的は、抗菌創傷ケア製品に関する、具体的には可溶性抗菌性コーティングを含む製品を提供することに関する改善策であって、このようなコーティングが、剥離ライナが製品から取り除かれた後に接着層に残る、改善策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の態様によれば、裏打ち層と、皮膚対向面を有する接着層とを含む創傷ケア製品であって、前記接着層の前記皮膚対向面の少なくとも一部が、抗菌性コーティングを含み、前記コーティングが水性媒体中に可溶性であり、そして前記コーティングがクロルヘキシジンホスフェートを含む、創傷ケア製品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
抗菌性コーティングは水性媒体中で可溶性である。したがって、創傷浸出液又は湿潤皮膚と接触すると、抗菌性コーティングは溶解し、そしてクロルヘキシジンホスフェートの迅速な最初の放出を可能にするので、創傷又は外科的部位、又は創傷又は切開部を取り囲む皮膚に存在する細菌を根絶することができる。接着層の表面における感染微生物の成長がこれにより防止される。このことは創傷部位及び創傷ケア製品におけるコロニー形成を回避する。
【0018】
本開示は、接着層の接着特性を損なうことなしに、例えばスプレー塗布によって創傷ケア製品の接着層上へ、クロルヘキシジンホスフェートを含む抗菌性コーティングを容易に被着し得るという認識に基づいている。より重要なのは、本開示の抗菌性コーティングが、剥離ライナを取り除いた後でも、接着層の皮膚対向面上に残る能力を有することである。
【0019】
創傷ケア製品の接着性皮膚接触層上のコーティングとして、数多くの抗菌化合物が提供され、また種々の細菌に対する抗菌活性を有し得るものの、多くのコーティングは、接着面から剥離ライナへ抗菌性コーティングが移行するという問題がある。結果として、抗菌効果はドレッシング内部で失われる。
【0020】
クロルヘキシジンは安全且つ強力な抗菌剤である。発明者は種々のタイプのクロルヘキシジン塩を試験し、その際に得られた結論は、クロルヘキシジンホスフェート(CHP)が、剥離ライナ除去後に接着層上に残る能力、そしてさらに創傷浸出液と接触すると容易に溶解する能力、の両方を有することであった。クロルヘキシジンホスフェートを含む可溶性コーティングが接着層上、すなわち創傷ケア製品内部に残るという驚くべき発見は、本開示の製品を、感染が創傷内及び外科的部位に発生するのを防止するための商業的に魅力のある解決手段にする。
【0021】
本発明者らはまた、クロルヘキシジンホスフェート(CHP)の抗菌活性を当業者に知られた他の抗菌剤と比較した。その際に得られた結論は、CHPがグラム陰性菌及びグラム陽性菌の両方、並びにカンジダ・アルビカンスに対して驚くほどに効果的であることである。さらに、CHPは細菌性バイオフィルムに対して効果的である。
【0022】
実施態様において、前記抗菌性コーティングの少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%が、水性媒体に暴露されてから3時間以内に溶解されるように形成されている。
【0023】
したがって、迅速な抗菌効果を創傷部位に確立することができ、そして抗菌性コーティングは創傷浸出液と接触すると完全に溶解される。
【0024】
いくつかの実施態様では、前記創傷ケア製品が剥離ライナを含み、前記剥離ライナが、前記接着層の前記皮膚対向面に取り外し可能に取り付けられている。
【0025】
剥離ライナの目的は、ドレッシング及び接着層を汚染から保護することである。剥離ライナは、製品が製造された後に被着され、そしてドレッシングを皮膚表面上に被着する前に取り除かれる。
【0026】
創傷ケア製品はドレッシング、例えば創傷被覆材、又は外科用ドレープ、好ましくは切開用ドレープであってよい。
【0027】
ドレッシングは一般的には開放創、又は治療の必要がある瘢痕に被着される。切開用ドレープは外科処置中に被着され、切り抜かれるように構成されている。両タイプの製品の場合、創傷又は皮膚部位における感染性微生物の防止が望ましい。
【0028】
創傷ケア製品が切開用ドレープである実施態様では、接着層はポリアクリレート系接着剤を含んでよい。
【0029】
しかしながら、ドレープの接着層が他のタイプの接着剤、例えばシリコーン系接着剤を含むことも考えられる。
【0030】
創傷ケア製品がドレッシングである実施態様では、接着層はシリコーン系接着剤を含む。
【0031】
このような接着剤は皮膚に優しく、ドレッシングが皮膚に害を与えることなしに取り外され、再被着されるのを可能にする。
【0032】
実施態様において、前記抗菌性コーティングが、前記接着層の前記皮膚対向面上の不連続なコーティングである。
【0033】
したがって、抗菌性コーティングは、接着層の皮膚対向面の表面を完全には覆わない。このことは、接着層によって提供される皮膚との接着を損なうのを回避するために有益である。このような不連続なコーティングは例えばスプレー塗布によって提供されてよい。
【0034】
不連続なコーティングは、クロルヘキシジンホスフェートの十分な放出と、接着層の接着特性の維持との間の良好なバランスを可能にする。
【0035】
実施態様において、前記抗菌性コーティング内の前記クロルヘキシジンホスフェートの濃度が、5~1000μg/cm2、例えば10~500μg/cm2、例えば20~200μg/cm2である。
【0036】
したがって、コーティングが創傷液又は皮膚の湿分と接触して溶解すると、抗菌剤、すなわちクロルヘキシジンホスフェートの十分な放出が可能になる。さらに、このような範囲は、クロルヘキシジンホスフェートの十分な放出と、接着層の接着特性の維持との間の良好なバランスを可能にする。
【0037】
本開示のドレッシングは吸収性又は非吸収性であってよい。
【0038】
ドレッシングが非吸収性である実施態様では、ドレッシングは裏打ち層と接着性皮膚接触層とを含む。このようなドレッシングは種々の用途において有用であり得る。例えば、表皮水疱症、皮膚及び粘膜の機械的脆弱性によって特徴付けられる疾患(又は疾患群)の患者が、シリコーン系接着性ドレッシングを被着することによって治療され得る。感染防止が治療の重要な要素である。
【0039】
別の実施態様では、創傷ケア製品は吸収性ドレッシングである。このような実施態様では、前記ドレッシングは、前記裏打ち層と前記接着層との間に配置された吸収性パッドをさらに含む。
【0040】
多くの創傷、具体的には感染創は大量の滲出液を滲出し得るので、吸収性パッドを含むドレッシングを利用することが一般的には必要である。吸収性パッドは任意の吸収性材料、例えば吸収性の繊維、ゲル、フォームなどを含んでよい。好ましくは、吸収性パッドは親水性フォーム、例えば親水性ポリウレタンフォームを含む。吸収性パッドは1つ又は2つ以上のパッド形成層を含んでよい。
【0041】
本開示のドレッシングは、抗菌効果が望まれるすべての創傷ケアの場面において利用されてよい。ドレッシングは例えば、陰圧創傷治療(negative pressure wound therapy (NPWT))用途において利用されてよい。これらの事例では、ドレッシングは陰圧源、例えばポンプに接続され、陰圧源はドレッシングを通して陰圧、例えば真空を印加する。ドレッシングは陰圧創傷治療に使用されるときには、吸収性又は非吸収性であってよい。後者の事例では、ドレッシングは二次ドレッシングとして作用してよく、そして一般的には創傷充填剤、例えば開放空洞創傷に最初に被着されたガーゼ又はフォームと併せて使用される。
【0042】
ドレッシングの抗菌効果を高めるために、吸収性パッドは少なくとも1種の第2抗菌化合物を含んでよい。
【0043】
パッド内に第2抗菌化合物を提供することは一般的には、可溶性抗菌性コーティングによって提供されたより迅速な放出と比較して、抗菌剤のより低速の、より緩やかな放出と関連する。種々の用途のために、コーティングによって細菌の迅速な殲滅が達成され、そして吸収性パッド内に存在する抗菌剤によってより低速の放出が達成されるように、製品を構成することが望ましい場合がある。
【0044】
実施態様において、前記接着層が少なくとも1種の第3抗菌化合物を含む。換言すれば、ドレッシング又は切開用ドレープの接着層は抗菌化合物を含んでよい。接着層内に抗菌剤を提供することは、より低速の放出と関連し、そして可溶性抗菌性コーティングによってもたらされる迅速な放出と有利に組み合わされる。接着層からの第3抗菌化合物の放出を容易にするために、接着層内部に付加的な賦形剤が必要となることがある。
【0045】
第2抗菌化合物と第3抗菌化合物とは同じでも異なっていてもよい。前記少なくとも1種の第2及び第3抗菌化合物はクロルヘキシジンホスフェートであってよい。
【0046】
別の態様によれば、創傷ケア製品を製造する方法であって、
a) 裏打ち層と、皮膚対向面を有する接着層とを含む創傷ケア製品を用意し、前記創傷ケア製品が任意には、前記裏打ち層と前記接着層との間に配置された吸収性パッドを含むこと、
b) リン酸及び水の中にクロルヘキシジンを溶解することにより、クロルヘキシジンホスフェートの水溶液を用意すること、
c) 前記接着層の前記皮膚対向面の少なくとも一部上へ前記水溶液を被着すること、
d) 前記接着層の前記皮膚対向面上の前記水溶液を乾燥させること、
を含む、創傷ケア製品を製造する方法が提供される。
【0047】
本開示の方法は、抗菌創傷ケア製品を製造するための単純ではあるが、しかし効率的な方法を可能にする。
【0048】
水溶液は、リン酸及び水の中にクロルヘキシジンを溶解することにより提供される。したがって、クロルヘキシジンホスフェートの溶解された溶液が得られる。
【0049】
乾燥工程中、コーティングの水相が除去される。しかしながら、皮膚湿分又は創傷液と接触すると、乾燥済みコーティングは溶解し、そしてクロルヘキシジンホスフェートを、創傷中へ、そして創傷を取り囲む皮膚へ放出することができる。
【0050】
実施態様において、クロルヘキシジンホスフェートの前記水溶液のpHが4~6である。
【0051】
感染性細菌は一般的には、より高いpH値、例えば約7.5~8.5で生育する。したがって、被覆溶液の低いpHは、感染性細菌が成長しコロニー形成するのに適さない環境をもたらし、そして細菌を、クロルヘキシジンホスフェートによって提供される抗菌効果に対してより高い感受性にすることもできる。
【0052】
水溶液は、当業者に知られた任意の手段によって、接着層の皮膚対向面の少なくとも一部上へ被着されてよい。
【0053】
好ましくは、水溶液は、スプレー塗布によって、接着層の皮膚対向面の少なくとも一部上へ被着されてよい。
【0054】
スプレー塗布は、種々の利点に関連する単純な被覆法である。例えば、溶液を接着面上へスプレーし得るということによって、コーティングのより制御された被着が可能になる。特定のドレッシング領域内に被着を集中させ、そして皮膚対向面上の液滴のサイズを制御することができる。
【0055】
さらに、溶液は、接着層の接着特性に悪影響を及ぼさない方法で被着することができる。
【0056】
実施態様において、前記方法が、
e) 前記接着層の前記皮膚対向面に剥離ライナを被着する
工程をさらに含む。
【0057】
剥離ライナは、接着層(及びコーティング)に取り外し可能に取り付けられるように形成されており、そして患者の皮膚又は創傷上へドレッシングを被着する前に取り除かれるように形成されている。
【0058】
添付の特許請求の範囲、及び下記説明を研究すれば、本開示のさらなる特徴、及び利点が明らかになる。本開示の範囲から逸脱することなしに、本開示の種々異なる特徴を組み合わせて、下記のもの以外の実施態様を作り出し得ることは当業者には明らかである。
【0059】
具体的な特徴及び利点を含む本開示の種々の態様は、下記詳細な説明及び添付の図面から容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1は、従来技術のドレッシングに関連する問題点を概念的に示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の模範的実施態様に基づくドレッシングを示す分解図である。
【
図3】
図3は、本開示の模範的実施態様に基づくドレッシングであって、ドレッシングが複数のパッド形成層を含むものを概略的に示す斜視図である。
【
図4a】
図4aは、本開示の模範的実施態様に基づく切開用ドレープを示す概略図である。
【
図5】
図5は、本開示の模範的実施態様に基づく方法の工程を概略的に示す図である。
【
図6a】
図6aは、抗菌性クロルヘキシジンホスフェート(CHP)コーティングを含む創傷接触層の皮膚対向面を、滅菌後及び剥離ライナの除去後の状態で示す光学顕微鏡画像である。
【
図6b】
図6bは、
図6aの創傷接触層から取り除かれた剥離ライナを示す光学顕微鏡画像である。
【
図6c】
図6cは、抗菌性クロルヘキシジングルコネート(CHG)コーティングを含む創傷接触層の皮膚対向面を、滅菌後及び剥離ライナの除去後の状態で示す光学顕微鏡画像である。
【
図6d】
図6dは、
図6cの創傷接触層から取り除かれた剥離ライナを示す光学顕微鏡画像である。
【
図7】
図7は、抗菌性クロルヘキシジンホスフェート(CHP)コーティングを含む切開用ドレープの皮膚対向面を、滅菌後及び剥離ライナの除去後の状態で示す光学顕微鏡画像である。
【
図8a】
図8aは、ポリウレタンフォームと創傷接触層とを含む試料による緑膿菌(P.aeruginosa(PaO1))に対する抗菌効果を、クロルヘキシジンホスフェートを含む抗菌性コーティングを有する又は有しない状態で、そしてポリウレタンフォーム内の銀を有する又は有しない状態で示す図である。
【
図8b】
図8bは、ポリウレタンフォームと創傷接触層とを含む試料による黄色ブドウ球菌(S.aureus(ATCC6538))に対する抗菌効果を、クロルヘキシジンホスフェートを含む抗菌性コーティングを有する又は有しない状態で、そしてポリウレタンフォーム内の銀を有する又は有しない状態で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
添付の図面を参照しながら本開示を以下により十分に説明する。図面には本開示の現在好ましい実施態様が示されている。しかしながら、本開示は数多くの種々異なる形態で具体化されてよく、本明細書中に示された実施態様に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施態様は完璧さ及び完全さのために提供され、本開示の範囲を当業者に十分に伝える。
【0062】
本開示の根底を成す問題点が
図1に概略的に示されている。
図1は、接着性皮膚接触層101と剥離ライナ102とを含む、従来技術に基づくドレッシング100を示している。
図1に示された剥離ライナは3つの剥離可能な部分102a~cを含み、そしてドレッシングの接着性皮膚接触層101に取り付けられている。接着性皮膚接触層101は最初は、皮膚対向面上に抗菌性コーティングを含む。第1の剥離ライナ部分102aが取り除かれると、コーティングは接着性皮膚接触層101(
図1の矢印によって示される)から取り除かれ、そして剥離ライナ部分(103参照)の表面へ移行される。その結果、ドレッシングの抗菌効果は失なわれる。
【0063】
図2には、模範的な実施態様に基づく創傷ケア製品が概念的に示されている。創傷ケア製品は、裏打ち層201と、皮膚対向面203を有する接着層202とを含むドレッシング200であり、接着層202の皮膚対向面203の少なくとも一部は、抗菌性コーティング204を含み、抗菌性コーティング204は水性媒体中に可溶性であり、そしてコーティング204はクロルヘキシジンホスフェートを含む。
【0064】
接着層は、裏打ち層201に面する反対側の表面(図示せず)を有する。クロルヘキシジンは下記化学構造、すなわち
【化1】
を有している。
【0065】
ホスフェート対イオンは下記化学構造、すなわち
【化2】
を有している。
【0066】
図2に示された実施態様では、ドレッシング200は、裏打ち層201と前記接着層202との間に配置された吸収性パッド205をさらに含む。したがって、ドレッシング200は吸収性である。接着層202は例えば吸収性パッド205上に被覆されてよく、或いは接着層は吸収性パッド205に接着されるか又は貼り合わされてよい。
【0067】
接着層は、皮膚対向面203上にクロルヘキシジンホスフェートを含む可溶性コーティング204を含む。
【0068】
好ましくは、接着層の皮膚対向面の少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%が抗菌性コーティングを含む。
【0069】
抗菌性コーティング204は創傷滲出液に暴露されると溶解し、そしてクロルヘキシジンホスフェートが創傷部位へ放出される。これにより迅速な抗菌効果を達成することができる。
【0070】
本明細書中に使用される「水性媒体中に可溶性」という用語は、コーティングが水性媒体と接触すると溶解することを意味する。水溶液は水であってよい。したがって、抗菌性コーティングは創傷浸出液又は皮膚湿分と接触すると迅速に溶解する。少量の皮膚湿分又は創傷浸出液でさえ、抗菌性コーティングの溶解を引き起こすことになる。コーティングは最初は接着層の表面へ水溶液として被着され、続いて乾燥させられる。創傷浸出液又は水性媒体と接触すると、乾燥済みコーティングは溶解され、接着層から放出されることになる。
【0071】
実施態様において、抗菌性コーティング(204)の少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%が、水性媒体に暴露されてから3時間以内に溶解されるように形成されている。
【0072】
実施態様において、抗菌性コーティング(204)の少なくとも90%、例えば100%が、水性媒体に暴露されてから3時間以内に溶解されるように形成されている。
【0073】
したがって、本開示の抗菌性コーティングは、活性抗菌剤(CHP)の迅速な放出、及び迅速な抗菌効果を可能にする。
【0074】
本開示の抗菌性コーティングは溶解されたクロルヘキシジンホスフェート塩を含む。換言すれば、コーティングが一般的には水溶液の形態で被着されるときには、溶解されていないCHP粒子は実質的に存在しない。これは、創傷浸出液と接触したときに迅速な溶解(及び迅速な効果)を可能にするためである。
【0075】
クロルヘキシジンホスフェートが、グラム陽性菌及びグラム陰性菌を死滅させる上で効率的であるだけでなく、カンジダ・アルビカンスに対しても効率的であることを、本発明者らは見出した(実施例1参照)。したがって、本開示の創傷ケア製品は、いくつかの微生物種に対して使用し得る、前途有望であり且つ商業的に実現可能な抗菌製品である。創傷ケア製品は、商業化時に抗菌性創傷ケア製品が満たさなければならないより厳しい(行政機関の)要件をも満足させる。
【0076】
さらに、他の商業的に入手可能なクロルヘキシジン塩(及び他の抗菌剤)と比較して、クロルヘキシジンホスフェートを含むコーティングは、剥離ライナがドレッシングから取り除かれても、ドレッシングの接着層202の皮膚対向面203上に残る能力を有することを、本発明者は見出した。したがって、抗菌効果は、剥離ライナの除去時にドレッシング内部に残る。
【0077】
図2の剥離ライナは2つの剥離ライナ部分206a及び206bを含む。第1剥離ライナ部分206aは、第2剥離ライナ部分206bの上方に配置されている。第2剥離ライナ部分206bは折り返され、そして第1剥離ライナ部分206aは第2剥離ライナ部分206bの折られた縁部とオーバーラップし、そしてこの折られた縁部を超えて延びている。したがって、第1タブと第2タブとが形成され、これらのタブを介護者又は患者が把持することにより、剥離ライナを容易に取り外すことができる。
【0078】
理論に束縛されることを望むものではないが、例えばクロルヘキシジングルコネートと比較して、クロルヘキシジンホスフェートの吸湿性が低いことが、接着層から剥離ライナへのクロルヘキシジンホスフェートの移行量が著しく低いことの要因であると考えられる。
【0079】
吸収性パッド205は特定の材料に限定されることはなく、いかなる吸収性材料を利用してもよい。好ましくは、吸収性パッド205はフォーム、例えばポリウレタンフォームを含む。
【0080】
ポリウレタンフォームパッドを含むドレッシングは、大量の創傷滲出液を吸収することができる。感染創は大量の滲出液を滲出し、そしてドレッシングはこのような滲出液を適切に処理できなければならない。
【0081】
ポリウレタンフォームは例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)又はメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)に基づくプレポリマーを含む組成物から製造されてよい。
【0082】
接着層は「創傷接触層」又は「皮膚接触層」と呼ぶこともある。好ましくは、ドレッシングの接着層はシリコーン系接着剤を含む。このような接着剤は皮膚に優しく、皮膚にダメージを招かないでドレッシングの除去を可能にする。接着層は皮膚対向面と、反対側の表面とを有している。反対側の表面はドレッシングの裏打ち層に面している。反対側の表面は、裏打ち層、又は存在するならば吸収性パッドと接触した状態で配置されていてよい。
【0083】
剥離ライナ206は1つ又は2つ以上の剥離ライナ部分から形成されてよい。
図2では、剥離ライナは2つの剥離ライナ部分206a~bを含む。
【0084】
ドレッシングの文脈において、剥離ライナは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、及びシリコーン・コート紙から選択された材料を含んでよい。例えば、剥離ライナは、厚さが30~300μm、例えば50~150μmであるポリエチレンフィルムであってよい。
【0085】
抗菌性コーティングは、不連続又は連続コーティングとして、接着層202の皮膚対向面203の少なくとも一部上に備えられてもよい。
【0086】
コーティングの被着モードに応じて、コーティングは不連続であってよく、すなわち、接着層の皮膚対向面を完全には被覆しなくてもよく、或いは連続的であってもよい。
【0087】
クロルヘキシジンホスフェートを含む水溶液中に接着層をディッピング又は浸漬することにより、連続コーティングが提供されてよい。
【0088】
接着層202によってもたらされる皮膚との接着を損なうのを回避するためには、不連続コーティング204が概ね好ましい。
【0089】
抗菌性コーティング204内のクロルヘキシジンホスフェートの濃度は、5~1000μg/cm2、例えば10~500μg/cm2、例えば20~200μg/cm2であってよい。実施態様において、抗菌性コーティング204内のクロルヘキシジンホスフェートの濃度は、50~200μg/cm2、例えば10~130μg/cm2、例えば20~100μg/cm2である。
【0090】
このことは、創傷部位に抗菌効果をもたらすのに十分な量で、クロルヘキシジンホスフェートを放出することを保証する。
【0091】
図3には、いわゆる「縁取りドレッシング(border dressing)」が示されている。ドレッシング300は裏打ち層301、接着層302、及び裏打ち層301と接着層302との間に配置された吸収性パッド303を含んでよい。裏打ち層301及び接着層302は、境界部分304を形成するために、吸収性パッド303の輪郭を超えて延びるように形成されている。
【0092】
吸収性パッドは、単一の層又は複数のパッド形成層から形成されていてよい。吸収性パッドは特定の材料に限定されることはないが、しかし一般的には吸収性フォーム又はゲルを含んでよい。これは超吸収性材料、例えば超吸収性ポリマー(SAP)又は超吸収性繊維(SAF)を含んでもよい。
【0093】
模範的実施態様では、吸収性パッドは、互いに貼り合わされた、異なる特性を有する2つ又は3つ以上の層を含む。
【0094】
図3に示されているように、吸収性パッド303は、第1吸収性層305と、液体分配層306と、第2吸収性層307とを含んでよい。一般的には、液体分配層306は第1吸収性層305と第2吸収性層307との間に配置され、第1吸収性層305は、吸収性パッドの最下層である。
【0095】
第1吸収性層305はフォームを含んでよい。第1吸収性層305内に使用するのに適したフォーム材料は、ポリウレタンフォームが挙げられるが、これに限定されない。
【0096】
第2吸収性層307は超吸収性層であってよい。したがって、第2吸収性層は超吸収性ポリマー(SAP)又は超吸収性繊維(SAF)を含んでよい。
【0097】
液体分配層306は滲出液を効率的に分配し得るいかなる材料をも含んでよい。例えば、液体分配層306は不織布材料を含んでよい。不織布は適切にバランスのとれた剛性を層に、そしてこのようなものとしてドレッシングに与える。不織布は吸収性層305によって吸収された液体を効率的に分配し延展することができるので、裏打ち層301を通して大きな表面にわたって液体を蒸発させることができる。例えば、不織布はビスコース、ポリエステル、又はこれらの混合物を含んでよい。
【0098】
層は例えば圧力及び熱を用いて、接着、貼り合わせによって接合することができる。
【0099】
吸収性パッドは付加的な層、例えば液体輸送層、互いに貼り合わされたフォーム層と不織布層との種々の組み合わせを含んでよい。
【0100】
図3を参照すると、層305は吸収性フォームを含んでよく、層306は液体捕捉層であってよく、そして層307は超吸収性層であってよい。
【0101】
このような層状パッド構造は、体液が皮膚に近接して蓄積することを防止し、ドレッシングの液体処理を改善する。大抵の創傷は何らかの滲出液を含有するが、しかし滲出液のレベルは種々様々である。慢性創傷において、滲出液産生量は、炎症が持続するため極めて多い。上記構造を有するドレッシングは、大量の滲出液を処理するのに適しており、また創傷を取り囲む皮膚の浸軟を防止するのにも適している。このように、ドレッシングは感染防止に特に適している。
【0102】
接着層302は、少なくとも1つのポリマーフィルムと、接着性シリコーン層とを含む積層体であってよく、接着性シリコーン層は、皮膚又は創傷と接触するように配置されている。
【0103】
ポリマーフィルムは製造プロセスを単純化し、そして接着層302に安定性及び完全性を与える。
【0104】
ポリマーフィルムは好ましくは通気性フィルムであり、例えばポリエチレン、ポリアミド、又はポリエステルポリウレタンを含んでよい。好ましくは、ポリマー系フィルムはポリウレタンを含む。ポリウレタンフィルムの厚さは15~100μm、例えば20~80μm、好ましくは20~60μmであってよい。
【0105】
接着層302の接着性シリコーン層、及び/又は
図2に関連して記載された接着層202内に使用するのに適したシリコーンゲルの例は、二成分RTVシステム、例えばLiveo MG-7-9960 (DuPont)、及び本明細書中で述べられるSilGel 612 (Wacker Chemie AG)、並びにNuSilシリコーンエラストマーを含む。本発明の実施態様では、接着剤は、ASTM D 937及びDIN 51580に基づく方法によって測定して、柔らかさ(針入度)が例えば8~22mm、例えば12~17mmの軟質シリコーンゲルを含んでよい。方法は特許文献3に記載されている。接着層の厚さは一般的には少なくとも20μmである。接着層の厚さは30~200μmであってよい。
【0106】
図3に示されているように、接着層302は複数のアパーチャ308を含んでよい。アパーチャ308は接着性皮膚接触層302を通って延びている。アパーチャ308は、接着層302によって与えられる皮膚とのタイトフィット状態を損なうことなく、パッド303内への迅速な吸収を可能にする。接着性皮膚接触層302は、吸収性パッド303の下側に位置する領域内に複数のアパーチャ308を含むが、しかし境界部分304を形成する領域内ではアパーチャがない。ドレッシングの境界部分にアパーチャがないことは、ドレッシングの境界部分304における接着性を改善し、そしてこれによりドレッシングの滞留能力を改善するために有益である。
【0107】
アパーチャ308は、接着性皮膚接触層302の種々の領域に沿って、異なる形状及び密度を有していてよく、そして規則的又は不規則的なパターンを成して配置されていてよい。
【0108】
クロルヘキシジンホスフェートを含む可溶性抗菌性コーティングは一般的には、接着層の皮膚対向面の非アパーチャ部分上に設けられている(図示せず)。好ましくは、抗菌性コーティングは、吸収性パッド303の下側に位置する少なくとも接着層の領域内に設けられている。
【0109】
前述の種々の実施態様では、裏打ち層は、蒸気透過性の薄いフィルム、シート又はメンブレンであってよい。裏打ち層の好適な材料の例としては、ポリウレタン、ポリエチレン、又はポリアミドフィルム、シリコーンフィルム、ポリエステル系不織布材料、及びポリエステル系不織布材料とポリウレタンフィルムとの積層体が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、裏打ち層は厚さ5~40μm、例えば15~25μmのポリウレタンフィルムである。
【0110】
抗菌効果を高めるために、ドレッシングの付加的な層又は構成部分が抗菌化合物を含んでよい。例えば、実施態様において、吸収性パッド303は少なくとも1種の第2抗菌化合物を含む。或いは、吸収性パッド303のパッド形成層のうちの少なくとも1つが、少なくとも1種の第2抗菌化合物を含む。
【0111】
この代わりに、又はこれに加えて、接着層302は少なくとも1種の第3抗菌化合物を含む。
【0112】
少なくとも1種の第2抗菌化合物と第3抗菌化合物とは同じであっても異なっていてもよい。
【0113】
パッド内又は接着層内に組み入れるのに適したいかなる抗菌化合物も使用してよい。実施態様において、第2及び/又は第3抗菌化合物は、銀塩、クロルヘキシジン塩、ポリヘキサメチレンビグアニド、塩化ベンゼトニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどを含む群から選択されてよい。
【0114】
実施態様において、第2及び/又は第3抗菌化合物は銀塩、例えば硫酸塩である。
【0115】
実施態様において、第2及び/又は第3抗菌化合物はクロルヘキシジンホスフェートである。
【0116】
実施態様において、少なくとも1種の第2抗菌化合物は、吸収性パッド又はパッド形成層内に組み入れられている。例えば、少なくとも1種の第2抗菌化合物は、
図3の吸収性パッドのフォーム層内へ、又は
図2に示されたフォームパッド内へ組み入れられてよい。少なくとも1種の第2抗菌化合物は、フォームの構造又は内側面、例えば孔に化学的に結合されてよい。第2抗菌化合物は例えば、フォームの荷電された内側面に結合されてよい。
【0117】
発泡プロセス工程前にプレポリマーに第2抗菌化合物を添加することにより、第2抗菌化合物がフォーム内へ組み入れられることも考えられる。このようにすると、抗菌化合物は、フォーム内へ組み込まれ、フォームのセル壁内部で結合されるようになる。
【0118】
或いは、少なくとも1種の第2抗菌化合物は、任意選択的には、1つ又は2つ以上のパッド形成層又は他のパッド層との接合又は貼り合わせ前に、吸収性パッドの層上にコーティングとして提供される。
【0119】
或いは、フォームは、少なくとも1種の第2抗菌化合物で含浸される。このようにすると、フォーム表面上へ第2抗菌化合物が被覆され得る。この被着方法はまた、フォームの内部孔表面上に第2抗菌化合物のコーティングを提供し得る。
【0120】
実施態様において、少なくとも1種の第3抗菌化合物が接着性皮膚接触層内に組み込まれる。この事例では、第3抗菌化合物は未硬化のシリコーンゲル接着剤混合物へ添加され、接着剤混合物は続いて硬化される。少なくとも1種の第3抗菌化合物の放出を容易にするように構成された追加的な賦形剤が添加されてもよい。
【0121】
第2及び/又は第3抗菌化合物の濃度は一般的には、抗菌性コーティング内のクロルヘキシジンホスフェートの濃度よりも高い。第2及び/又は第3抗菌化合物はより低速の放出プロフィールを有し、ひいてはより長時間にわたる抗菌効果を提供してよい。
【0122】
図4a及び4bには、模範的実施態様に基づく創傷ケア製品が概念的に示されている。創傷ケア製品は
図4では切開用ドレープ400であり、そして領域406は、ドレープが外科処置中に切り抜かれるようになっている場所を概略的に示している。
【0123】
本明細書中に使用される「切開用ドレープ」は、外科処置中に使用される外科用ドレープを意味し、このドレープは切り抜かれるように構成されている。「外科用切開用ドレープ」とも呼ばれることのある切開用ドレープは、患者の皮膚に取り付けられ、外科的部位の感染リスクを増大させ得る非滅菌領域から外科的部位を隔離する。
【0124】
図4bに示されているように、切開用ドレープ400は、裏打ち層401と、皮膚対向面403を有する接着層402とを含み、接着層402の皮膚対向面403の少なくとも一部は、抗菌性コーティング(図示せず)を含み、抗菌性コーティングは水性媒体中に可溶性であり、そして抗菌性コーティングはクロルヘキシジンホスフェートを含む。
【0125】
抗菌性コーティングは有利には、外科処置中に切開用ドレープ上で使用することにより、汚染微生物が切開部位に感染するのを防止し、これに対抗する。
【0126】
外科用ドレープ、例えば本明細書中では切開用ドレープの文脈において使用される「裏打ち層」という用語は、創傷ケア製品のトップ層、すなわち患者の皮膚から離反した層を意味する。ドレープの裏打ち層は例えばポリウレタン、ポリエステル、及び/又はポリプロピレンを含んでよい。
【0127】
接着層402は任意の適宜の接着剤を含んでよく、特定のタイプの接着剤に限定されることは決してない。一般的には、使用される接着剤はシリコーン系接着剤、又はポリアクリレート系接着剤である。好ましくは、切開用ドレープの事例では、接着層402はポリアクリレート系接着剤を含む。
【0128】
裏打ち層401及び接着層402の材料は、ドレープの層のそれぞれを切り抜くのを容易にするように構成されている。
【0129】
図4に示されているように、切開用ドレープは、ドレープの被着前に取り除かれるように形成された剥離ライナ404を含む。剥離ライナ404は接着層に取り外し可能に取り付けられている。
図4では、剥離ライナ404は、裏打ち層401と同じ断面積を有している。剥離ライナ404が、使用前のドレープからの除去を容易にするために、より大きな断面積を有することも考えられる。
【0130】
図4aに示されているように、接着層402の余白は持ち手部分405a~bを形成することができ、介護者はこれらの持ち手部分を把持することにより、剥離ライナ404を接着層402から取り除くことができる。外科用ドレープは一般的には比較的大きいサイズを有しており、処置のために二人の介護者の助けをしばしば必要とする。一方の介護者がドレープの第1持ち手部分405aを把持する一方、他方の介護者が第2持ち手部分405bを把持し、そして剥離ライナを接着層から徐々に取り除き、これにより接着面を露出することができる。次いで、切開用ドレープを患者に被着し、続いて皺の形成を防止するために平滑化する。持ち手部分405a~bは任意の材料から形成されてよい。例えばポリマーフィルム、例えばポリエチレンが利用されてよい。剥離ライナ404は持ち手部分405a~bには接着されていない。これは剥離ライナ404を接着層402から取り除くのを容易にするためである。
【0131】
剥離ライナ404は特定の材料に限定されることはなく、当業者に知られている任意の材料が利用されてよい。実施態様において、剥離ライナは、シリコーン・コーテッド紙又はポリエステルライナを含む。
【0132】
抗菌性コーティングは、汚染微生物が切開部位又は創傷部位内へ移動するのを防止する。被着前に、汚染を防止するために皮膚は一般的には清浄化されるものの、毛穴は細菌をまだ含有していることがあり、これらの細菌は切開部位へ移動し得る。したがって、抗菌性コーティングは外科的部位汚染を防止する。
【0133】
図5を参照すると、本開示の第2態様が概略的に示されており、創傷ケア製品を製造する方法を対象にしている。
【0134】
この方法は、
a) 裏打ち層と、皮膚対向面を有する接着層とを含む創傷ケア製品を用意し、前記創傷ケア製品が任意選択的には、前記裏打ち層と前記接着層との間に配置された吸収性パッドを含み(工程501)、
b) リン酸及び水の中にクロルヘキシジンを溶解することにより、クロルヘキシジンホスフェートの水溶液を用意し(工程502)、
c) 前記接着層の前記皮膚対向面の少なくとも一部上へ前記水溶液を被着し(工程503)、
d) 前記接着層の前記皮膚対向面上の前記水溶液を乾燥させる(工程504)
ことを含む。
【0135】
創傷ケア製品は、当業者に知られた手段によって提供されてよい。裏打ち層と、接着層と、存在するならば吸収性パッドとの組み立ては、特定の方法に限定されることはなく、任意の手段(例えば接着、貼り合わせなど)が利用されてよい。
【0136】
クロルヘキシジンホスフェートの水溶液は、リン酸及び水の中にクロルヘキシジンを溶解することにより提供される。水溶液は混合され、そして塩の完全な溶解を保証するために任意には撹拌されてよい。
【0137】
接着層の皮膚対向面の少なくとも一部上へ水溶液を被着する工程は、任意の被覆技術を用いて達成されてよい。
【0138】
好ましくは、水溶液は接着層の皮膚対向面の少なくとも一部上へ、スプレー塗布によって被着される。
【0139】
この被覆技術は、これが使用されるべきドレッシング又は支持体に応じた、そして治療されるべき創傷のタイプに応じたフレキシビリティを可能にするので有益である。これはまた、コーティングを被着するためのシンプルな手段である。接着層の選択された領域が被覆されてよく、そして接着性皮膚接触層の接着特性を妨害するのを回避するために、表面上の液滴のサイズが制御されてよい。
【0140】
当業者によく知られた手段によって、乾燥が実施される。例えば、コーティングを加熱することにより、コーティングからの液体の蒸発を促進することができる。
【0141】
クロルヘキシジンホスフェートの水溶液のpHは4~6であってよい。
【0142】
この範囲は、感染性微生物が成長しコロニー形成するには好ましくない環境にする。
【0143】
水溶液中のクロルヘキシジン:ホスフェートのモル比は1:1~1:3、好ましくは1:2であってよい。
【0144】
したがって、塩は溶解されていない粒子がほとんどない状態で、水性溶液中に完全に溶解される。比があまりにも低い場合には、溶解度は低下する。反対に、比があまりにも高い場合には、被着される溶液は十分な活性物質を含まないことがある。
【0145】
方法は、
e) 前記接着層の前記皮膚対向面に剥離ライナを被着する
工程(工程505)をさらに含んでよい。
【実施例】
【0146】
実施例1:CHPの抗菌効果
試験生物:緑膿菌(P.aeruginosa ATCC 9027)(細菌)、黄色ブドウ球菌(S.aureus ATCC 6538)(細菌)、カンジダ・アルビカンス(C.albicans ATCC 10231)(菌類)、緑膿菌(P.aeruginosa ATCC PAO1)(細菌、実施例1b)
試験時間:細菌は24時間、そして菌類は48時間
出発接種材料:細菌は1x10^6CFU/ml、菌類は4x10^6CFU/ml。
【0147】
実施例1a:溶液中の微生物を排除するのに必要となる最小濃度
SWF(ウシ胎児血清(FBS)及びペプトン水(PW))が等しい比率で混合された模擬創傷液であって、創傷滲出液のタンパク質及び電解質濃度に相当するもの(Emiko Aiba-Kojima, MD et.al Wound Rep Reg (2007) 15 511-520; Trengove, N et al Wound Rep Reg (1996) 4 1067-1927))を試験培地として使用して、硫酸銀、クロルヘキシジンホスフェート、及びクロルヘキシジングルコネートの有効性を比較するために、試験を溶液中で実施した。その目的は、特定の微生物を死滅させるのに必要な抗菌剤の最低濃度を定義することであった。試験微生物をSWF中に懸濁させ、ウェル・マイクロタイタープレート(well microtiter plate)内で二次培養する前に、これに抗菌物質を異なる濃度で添加した。陽性及び陰性の対照を使用して、インキュベーション期間にわたる十分な微生物成長と、培地無菌性とを実証した。
【0148】
その結果から、カンジダ・アルビカンスを死滅させるために、クロルヘキシジンホスフェートの最大190倍超の銀が必要となることが示された。クロルヘキシジンホスフェート(CHP)は、硫酸銀及びクロルヘキシジングルコネート(CHG)の両方と比較して、最も効率的な抗菌剤であった(下記表1参照)。
【表1】
【0149】
実施例1b:CHP溶液と接触したバイオフィルムのカウントの減少
SWFを試験培地として使用して、コラーゲンマトリックス上で培養されたバイオフィルムに対するクロルヘキシジンホスフェート(CHP)の有効性を評価するために、試験を溶液中で実施した。
【0150】
その目的は、シリコーン接触層の表面上にスプレー塗布され得るCHPの濃度が、バイオフィルムに影響を与えるか否かを見極めることであった。試験微生物は、SWF溶液中に懸濁されて、24ウェルプレート(well-plate)のウェル(well)内のコラーゲンマトリックス上に置かれた緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa PAO1)であった。ウェルプレートを37℃、95%相対湿度で24時間にわたってインキュベートすることによって、バイオフィルムの形成を引き起こした。インキュベーション及びバイオフィルムの形成の後、抗菌物質CHPをバイオフィルムの上部に3つの異なる濃度で添加し、そしてさらに24時間にわたって37℃、95%相対湿度でインキュベートした。陽性及び陰性の対照(control)を使用して、インキュベーション期間にわたる十分なバイオフィルム成長と、培地無菌性とを実証した。PetriFilms上に培養することにより、生菌数を割り出した。
【0151】
下記表2に示された結果は、シリコーン接触層にスプレーすることによって達成し得る濃度である、CHP溶液の濃度37μM、75μM、150μMがバイオフィルムの量を減少させたことを示し、そしてFDAの要件であるリダクション(reduction)4よりも高い対数減少を示した。したがって、クロルヘキシジンホスフェート(CHP)は、特に例えばバイオフィルムに対する有効性が低い硫酸銀と比較して、細菌性バイオフィルムに対する効率的な抗菌物質である。
【表2】
【0152】
試料1C:シリコーン表面上にスプレーされたCHPの抗菌効果
75μg/cm2の硫酸銀で被覆されたプロトタイプの有効性を、45μg/cm2及び75μg/cm2のクロルヘキシジンホスフェートで被覆されたプロトタイプと比較するために、被覆され滅菌された創傷接着層上で試験を実施した。プロトタイプを打ち抜くことにより、7cm2のディスクを形成し、これらを懸濁状態の微生物(実施例1aに使用されたものと同じ微生物)の溶液を含有する2mLのSWFと接触させた状態でウェル内に入れた。
【0153】
試験に使用された創傷接触層は、200gsmのシリコーン接着剤で被覆されたポリウレタンフィルムを含んだ。
【0154】
硫酸銀コーティング及びCHPコーティングを、スプレー塗布(Sono-Tekの超音波ノズル(120kHz))によって、シリコーン表面に被着した。
【0155】
陽性及び陰性の対照を使用して、インキュベーション期間にわたる十分な微生物成長と、培地無菌性とを実証した。微生物の成長をシリコーン層上、すなわち皮膚対向面上で、そして液体中の懸濁状態において評価した。
【0156】
45μg/cm2及び75μg/cm2の濃度でスプレーされたクロルヘキシジンホスフェート・プロトタイプは、シリコーン表面上及び溶液中の両方ですべての微生物を完全に排除することを示した。硫酸銀は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対して接種菌量から対数4減少を達成することすらなかったので、これを他の微生物に対してさらに評価することはしなかった。
【0157】
実施例2:抗菌剤の剥離ライナへの移行
抗菌剤の剥離ライナへの移行を比較するために、被覆され滅菌された創傷接着層上で試験を実施した。
【0158】
試験に使用された創傷接触層は、200gsmのシリコーン接着剤で被覆されたポリウレタンフィルムを含んだ。
【0159】
クロルヘキシジンホスフェートの抗菌溶液(0.56重量%)で被覆されたプロトタイプと、クロルヘキシジングルコネートの抗菌溶液(0.56重量%)でスプレーされたプロトタイプとを比較した。スプレーは、実施例1に記載されたものと同じパラメータを用いて、そして同じ設備を使用して実施した。スプレー後、試料を生産現場の滅菌へ送ることにより、抗菌製品に必要となる一般的な滅菌サイクルをこれらに施した。
【0160】
滅菌後、滅菌済みの試料を光学顕微鏡検査(Olympus Zoom高性能立体顕微鏡SZH)によって観察した。その結果から、創傷接触層のシリコーン表面から剥離ライナへのクロルヘキシジンホスフェート(CHP)の観察された移行量が僅かにすぎないことが示された(
図6a~6b参照)。しかしながら、クロルヘキシジングルコネート(CHG)で被覆された創傷接触層の場合、CHGコーティングの大部分が剥離ライナへ移行した。皮膚対向面のいくつかの領域は、完全に近い移行を示し、シリコーン領域の大部分を、抗菌性CHGを剥ぎ取られた状態で残した(
図6c~6d)。
【0161】
抗菌剤の移行をより十分に理解するために、滅菌済みの試料を打ち抜くことにより、7cm2のディスクを形成した。三部のシリコーン被覆フィルム(創傷接触層)と剥離ライナとを分離し、そしてCHP及びCHGの抗菌粒子の十分な溶解を可能にすると評価された時間にわたって、2mlの水溶液と接触させた状態でウェル内に入れた。当該溶液に対する設備の較正後、異なるウェル内のCHP及びCHGの濃度を、液体クロマトグラフィ-質量分析によって評価することにより、シリコーン上に存在する抗菌剤の量、及び剥離ライナへ移行した量を数値化した。
【0162】
その結果から、滅菌後、創傷接触層上にスプレー塗布されたCHPの66%超がシリコーン表面上に存在し、ひいては抗菌活性のために利用可能であることが示された。スプレーされたCHGの36%未満がシリコーン上に残され、そしてCHGの大部分(64%超)が剥離ライナへ移行した。したがって、剥離ライナが取り除かれると、抗菌効果は著しく失われた。
【0163】
実施例3:光学顕微鏡検査で観察された切開用ドレープ上のCHPの存在
剥離ライナへの抗菌剤の潜在的な移行を確認するために、CHPでスプレー塗布された切開用ドレープ(Moelnlycke Health Careの921014-00 BNS Incise Drape)上でも試験を実施した。1つのプロトタイプを試験に使用し、そして前述の実施例1~2に記載されたものと同じスプレー設備を利用して、切開用ドレープの接着面(ポリアクリレート系接着剤を含む)を、CHPの溶液(0.56重量%)でスプレーした。乾燥後、試料を光学顕微鏡検査(Olympus Zoom高性能立体顕微鏡SZH)によって観察した。その結果から、剥離ライナが取り除かれたときに、高濃度のCHPが切開用ドレープ表面上に存在することが示された(
図7参照)。
【0164】
実施例4:抗菌性コーティングの溶解速度
抗菌性コーティングの溶解速度、すなわち抗菌化合物の放出速度を評価するために、被覆され滅菌された創傷接着層上で試験を実施した。比較は、クロルヘキシジンホスフェート(0.56重量%)の抗菌溶液でスプレー塗布されたプロトタイプと、クロルヘキシジンアセテート(0.68重量%)の抗菌溶液でスプレー塗布されたプロトタイプとの間で行った。スプレー塗布は、前述の実施例1及び2に関して説明したものと同じパラメータを用いて、そして同じ設備で実施した。スプレー後、試料を生産現場の滅菌へ送ることにより、抗菌製品に必要となる一般的な滅菌サイクルをこれらに施した。
【0165】
滅菌後、プロトタイプを打ち抜くことにより、7cm2のディスクを形成した。三部のシリコーン被覆フィルム(創傷接触層)と剥離ライナとを分離し、そして3時間にわたって2mlの水溶液と接触させた状態でウェル内に入れ、次いで取り出し、そして24時間にわたって新しいウェル内に入れることにより、即時(>3時間)及び短期(>24時間)の溶解を評価した。
【0166】
当該溶液に対する設備の較正後、異なるウェル内のCHP及びCHAcの濃度を、液体クロマトグラフィ-質量分析によって評価することにより、即時又は短期的に溶解可能な抗菌性コーティングの量を数値化した。
【0167】
CHPは即時の溶解、すなわちシリコーン表面からの即時の放出を有した。CHPの100%が3時間後に溶解されたのに対して、CHAは28%しか3時間後に溶解されず、そして24時間後に溶解されたのは40%未満であった。
【表3】
【0168】
これらの試験は、例えばより低い溶解速度を有するCHAcと比較して、CHPが高い溶解速度を有し、ひいては迅速な放出及び迅速な抗菌効果を可能にすることを実証した。
【0169】
実施例5:摩耗試験/粘着性試験
クロルヘキシジンホスフェート(CHP)でスプレーされた試料の粘着性に対する影響を評価するために、試験を実施した。タック又は粘着性は、接触するとすぐに表面に付着するのを可能にする材料の特性である。ローリングボールタック試験(tack rolling ball test)(ASTM D 3121-06)を用いて、粘着性を評価した。この試験では、シリコーン表面上の金属ボールの変位が測定される。
【0170】
それぞれ15、45及び75μg/cm2でクロルヘキシジンホスフェートによってスプレーされた(前述のような)滅菌済み創傷接触層上で、タックローリング・ボール試験を実施した。
【0171】
下記表4に示されているように、クロルヘキシジンホスフェート(CHP)の濃度がより高いときにも、粘着性に対する顕著な影響は観察されなかった。対照として、被覆されていない滅菌済みの創傷接触層を使用した。
【表4】
【0172】
実施例6:剥離ライナからのCHPの移行
創傷接触層から剥離ライナへのクロルヘキシジンホスフェートの移行をさらに評価するために、付加的な試験を実施した。
【0173】
試験に使用された創傷接触層は、50gsmのシリコーン接着剤で被覆されたポリウレタンフィルムを含んだ。
【0174】
いくつかの逸脱、すなわちスプレー塗布(Sprayin System Co.の空気噴霧(Air Atomizing)ノズル)によって、そしてこれに続いてフード下でインライン乾燥段階を施すことによって、50gsmのシリコーン接着剤にCHPコーティングを被着するという逸脱を伴って、実施例2に記載されたように試験を実施した。さらに、それぞれの試験片の試料サイズは3,1cm2であり、試験は4試験片で実施した。創傷接触層とその剥離ライナとを分離し、これらを1mlの水とともにウェル内に24時間にわたって入れた。
【0175】
実施例2に示されるように、液体クロマトグラフィ-質量分析(LCMS)を用いて、創傷接触層上、すなわちシリコーン接着剤上に存在する抗菌剤(CHP)の量、並びに剥離ライナへ移行されたCHPの量を数値化した。
【0176】
下記表5に示されているように、事実上すべてのCHPが滅菌後の創傷接触層上に残る。創傷接触層上のCHPの表面濃度が28~92μg/cm2であるときには、剥離ライナへ移行されたCHPはほとんど又は全くなかった。
【表5】
【0177】
実施例7:CHPコーティング及び銀含有ポリウレタンフォームを含む試料の抗菌効果
それぞれ106CFU/mLの緑膿菌(P.aeruginosa(PaO1))及び黄色ブドウ球菌(S.aureus(ATCC6838))の懸濁液を加熱不活性化されたSWF中で調製し、そして145μLの体積でウェルプレート内へ接種した。2.5cm2のサイズを有するそれぞれの試料の三部の複製を、それぞれの接種材料の上部に、創傷接触層が接種材料に面した状態で被着し、35℃で24時間にわたってインキュベートした。
【0178】
被験試料のそれぞれは、ポリウレタンフォームと、シリコーン接着層を備えたポリウレタンフィルムを含有する創傷接触層とを含んだ。創傷接触層をポリウレタンフォームに接着した。試料のいくつかにおいて、ポリウレタンフォームに、約1.2mg/cm2の量の銀を含ませた(下記試料A及びB)。ほぼ45μg/cm2の濃度でスプレー塗布することにより、CHPコーティングを創傷接触層、すなわちシリコーン接着層へ被着した。スプレー塗布は、前述の実施例6に関して説明したものと同じパラメータを用いて、そして同じ設備で実施した。
【0179】
微生物の成長を試料全体、すなわち創傷接触層及び銀含有フォームにおいて評価した。
【0180】
試料Aは、CHPコーティングを含む接着性皮膚接触層を備えた銀含有ポリウレタンフォームを含んだ。
【0181】
試料Bは、抗菌性コーティングを含まない接着性皮膚接触層を備えた銀含有ポリウレタンフォームを含んだ。
【0182】
試料Cは、抗菌性コーティングを含まない接着性皮膚接触層を備えた、いかなる抗菌剤をも有しないポリウレタンフォームを含んだ。
【0183】
図8aに示されているように、ポリウレタンフォーム内の銀と、創傷接触層上に被覆されたCHPとを含有する試料(試料A)に対しては、緑膿菌(P.aeruginosa)の完全な排除が観察された。したがって、フォーム内の銀とコーティング内のCHPとを有することの複合的な効果が観察された。これらの試験条件を用いた場合、細菌濃度は、ポリウレタンフォーム内に銀を含有し、且つ創傷接触層上にCHPを含まない試料(試料B)に関しては、接種菌量にとどまった。したがって、フォーム内の銀の存在は、緑膿菌(P.aeruginosa)の増殖を抑制したが、しかし細菌数を試料Aのように減少させはしなかった。抗菌剤なしの対照試料(試料C)は、約Log8の細菌数に達した。これは出発接種材料から2Logの増加である。
【0184】
黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対しても、同様の複合的な効果が観察された(
図8b参照)。
【0185】
本開示のすべての態様の用語、定義、及び実施態様は、必要な変更を加えれば本開示の他の態様に当てはまる。
【0186】
本開示をその特定の例示的な実施態様を参照しながら説明したが、数多くの種々異なる変更形、改変形、及びこれに類するものが当業者には明らかになる。
【0187】
開示された実施態様の変更は、図面、開示、及び添付の請求項を研究することから、本開示を実施する上で当業者によって理解し達成することができる。さらに、請求項において、「含む(comprising)」は他の要素又は工程を排除することはなく、不定冠詞「a」、又は「an」は複数形を排除しない。
【国際調査報告】