(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】耐酸化性Al-Mg高強度ダイカスト鋳造合金
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20240326BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240326BHJP
B22D 17/14 20060101ALI20240326BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20240326BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20240326BHJP
B22D 27/20 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/00 M
B22D17/14
B22D17/00 B
B22D21/04 A
B22D27/20 B
C22C21/00 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562873
(86)(22)【出願日】2022-04-01
(85)【翻訳文提出日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 CA2022050497
(87)【国際公開番号】W WO2022217338
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511025400
【氏名又は名称】リオ ティント アルカン インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RIO TINTO ALCAN INTERNATIONAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100133765
【氏名又は名称】中田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】パン,レイ
(72)【発明者】
【氏名】ブレトン,フランシス
(72)【発明者】
【氏名】モレル,マーティン
(57)【要約】
本開示は、ベリリウムを含まない、鋳造作業に適する鋳造合金に関する。鋳造合金は、重量パーセントで、Mg(約1.0~約17.0)、Fe(約0.5~約1.8)、Ca(約0.003~約6.0)又はSr(約0.003~約2.5)のうちの一方、所望に応じて結晶微細化剤、並びに残量のアルミニウム及び不可避不純物、を含む。鋳造合金は、鋳造作業中におけるMg喪失及び/又はドロス生成を低減するために、アルミニウム鋳造製品を製造する方法に用いることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセントで、
約1.0乃至約17.0のMg、
約0.5乃至約1.8のFe、
約0.003乃至約6.0のCa又は約0.003乃至約2.5のSrのうちの一方、及び、
残量のアルミニウム及び不可避不純物、
を含み、合金元素としてBeを含まない、鋳造合金。
【請求項2】
結晶微細化剤をさらに含む、請求項1に記載の鋳造合金。
【請求項3】
Caを含む、請求項1又は2に記載の鋳造合金。
【請求項4】
約0.01乃至約0.3のCaを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鋳造合金。
【請求項5】
約3.0乃至約8.0のMgを含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の鋳造合金。
【請求項6】
約4.0乃至約6.0のMgを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の鋳造合金。
【請求項7】
約0.8乃至約1.8のFeを含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の鋳造合金。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の鋳造合金を含むアルミニウム鋳造製品。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の鋳造合金をモールド中で鋳造することを含む、アルミニウム鋳造製品を製造する方法。
【請求項10】
前記鋳造されたアルミニウム合金を高圧真空ダイカストに供することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
鋳造後熱処理工程を含まない、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる又は得られるアルミニウム鋳造製品。
【請求項13】
構造自動車部品である、請求項8又は12に記載のアルミニウム鋳造製品。
【請求項14】
以下の特性のうちの少なくとも1つ、
- 少なくとも約200MPaの引張強度、
- 少なくとも約100MPaの降伏強度、
- 少なくとも約7%の伸び、及び
- 少なくとも約30°のVDA曲げ角度、
を有する、請求項8、12、及び13のいずれか一項に記載のアルミニウム鋳造製品。
【請求項15】
Al
4Caを含む、請求項8、12乃至14のいずれか一項に記載のアルミニウム鋳造製品。
【請求項16】
Al
13Fe
4相、Al
3Mg
2相、及びAl
4Ca相を有する、請求項8、12乃至15のいずれか一項に記載のアルミニウム鋳造製品。
【請求項17】
前記Al
3Mg
2相と接合したAl
4Caを有する、請求項16に記載のアルミニウム鋳造製品。
【請求項18】
結晶粒界にAlMgCa相を有する、請求項8、12乃至17のいずれか一項に記載のアルミニウム鋳造製品。
【請求項19】
コントロールアルミニウム製品と比較してアルミニウム製品の鋳造作業中におけるMg喪失及びドロス生成を制限する方法であって、重量パーセントで、約0.003乃至約6.0のCa又は約0.003乃至約2.5のSrのうちの一方を、第一のアルミニウム合金に添加して、鋳造されることを意図する鋳造合金を得ることを含み、前記第一のアルミニウム合金は、重量パーセントで、
約1.0乃至約17.0のMg、
約0.5乃至約1.8のFe、及び
残量のアルミニウム及び不可避不純物、
を含み、前記第一のアルミニウム合金及び前記鋳造合金は、合金元素としてBeを含まない、方法。
【請求項20】
前記第一のアルミニウム合金が、結晶微細化剤をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記鋳造合金を溶融して溶融鋳造合金を得ることをさらに含む、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記溶融鋳造合金が少なくとも6時間にわたって保持される場合に、Mg喪失を約12重量パーセント未満に低減するためである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記溶融鋳造合金が少なくとも6時間にわたって保持される場合に、ドロス生成を約7重量パーセント未満に低減するためである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記溶融鋳造合金を鋳造して鋳造されたアルミニウム合金を得ることをさらに含む、請求項21乃至23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記鋳造されたアルミニウム合金を高圧真空ダイカストに供することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
鋳造後熱処理工程を含まない、請求項19乃至25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記鋳造アルミニウム合金が、Caを含む、請求項19乃至26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記鋳造アルミニウム合金が、約0.01乃至約0.3のCaを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第一のアルミニウム合金が、約3.0乃至約8.0のMgを含む、請求項19乃至28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記第一のアルミニウム合金が、約4.0乃至約6.0のMgを含む、請求項19乃至29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記第一のアルミニウム合金が、約0.8乃至約1.8のFeを含む、請求項19乃至30のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に援用される2020年4月14日に出願された米国仮特許出願第63/174,796号の優先権を主張するものである。
【0002】
本開示は、高圧真空ダイカスト作業(high pressure vacuum die-casting operations)などの鋳造作業に適するAl-Mg鋳造合金に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車産業の分野では、構造ダイカスト部品に対する需要が増加し続けている。既存の合金のほとんどは、良好な機械的特性を有する製品を製造するために、熱処理を必要とする。したがって、構造ダイカスト品の製造コストを低減するためには、熱処理を行わない合金が求められることになる。
【0004】
Al-Mgダイカスト鋳造合金は、鋳造したままの状態での優れた機械的特性のために、大きな関心を集めてきた。充分な固溶強化を得るために、Mgが多く添加されて(>3%)Al-Mg合金が製造される。しかし、Mgの酸素との強い親和性に起因して、Al-Mg合金は、著しいドロスの形成及び溶融物からのMgの喪失をもたらし得る問題となる酸化を起こしてしまう。酸化を最小限に抑えるためにベリリウムを用いることができ、なぜなら、それは、Mgのさらなる酸化を防止する保護BeO層を空気-金属界面に形成するからである。しかし、Beの使用は、Beダストを吸い込む又はそれに接触するオペレーターに対して健康上のリスクをもたらす。
【0005】
したがって、アルミニウムダイカスト市場では、Al-Mg合金において、類似の酸化防止効果を提供するが、健康リスクは伴わないBeの代替物を求められている。また、耐ダイ焼き付き性(die soldering resistance)など、鋳造作業中に改善された特性を呈する合金を提供することも求められている。さらに、鋳造されたままの状態(質別F)で改善された機械的特性を呈するアルミニウム鋳造製品を提供することも求められている。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、ベリリウム非含有鋳造合金を提供する。本開示の鋳造合金は、Ca又はSrを含む。いくつかの実施形態では、鋳造合金は、鋳造作業中におけるMg喪失の低減及び/又はドロス生成の低減を呈する。いくつかの実施形態では、鋳造合金は、鋳造作業中における耐ダイ焼き付き性の向上も呈する。いくつかの実施形態では、鋳造アルミニウム合金から製造されたアルミニウム鋳造製品は、鋳造されたままの状態であっても、改善された機械的特性を呈する。
【0007】
第一の態様によると、本開示は、重量パーセントで、
Mg 約1.0~約17.0;
Fe 約0.5~約1.8;
Ca 約0.003~約6.0又はSr 約0.003~約2.5、のうちの一方;並びに
残量のアルミニウム及び不可避不純物、
を含む鋳造合金を提供し、鋳造合金は、合金元素としてBeを含まない。
【0008】
一実施形態では、鋳造合金は、結晶微細化剤をさらに含む。別の実施形態では、Caをさらに含む。なお別の実施形態では、鋳造合金は、重量パーセントで約0.01~約0.3のCaを含む。さらに別の実施形態では、鋳造合金は、重量パーセントで約3.0~約8.0のMgを含む。なお別の実施形態では、鋳造合金は、約4.0~約6.0のMgを含む。さらに別の実施形態では、鋳造合金は、重量パーセントで約0.8~約1.8のFeを含む。
【0009】
第二の態様によると、本開示は、本明細書で述べる鋳造合金を含むアルミニウム鋳造製品を提供する。いくつかの実施形態では、鋳造されたアルミニウムは、構造自動車部品である。追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、以下の特性:少なくとも約200MPaの引張強度、少なくとも約100MPaの降伏強度、少なくとも約7%の伸び、及び/又は少なくとも約30°のVDA曲げ角度、のうちの少なくとも1つを有する。追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、Al4Caを含む。いくつかのさらなる実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、Al13Fe4相、Al3Mg2相、及びAl4Caを有する。いくつかの追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、Al3Mg2相で接合されたAl4Caを有する。なお追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、結晶粒界にAlMgCa相を有する。
【0010】
第三の態様によると、本開示は、アルミニウム鋳造製品を製造する方法を提供し、その方法は、本明細書で述べる鋳造アルミニウムをモールド中で鋳造することを含む。一実施形態では、方法はさらに、鋳造されたアルミニウム合金を高圧真空ダイカストに供することを含む。なお別の実施形態では、方法は、鋳造後熱処理工程を含まない。
【0011】
第三の態様によると、本開示は、本明細書で述べる方法によって得ることができる又は得られるアルミニウム鋳造製品を提供する。いくつかの実施形態では、鋳造されたアルミニウムは、構造自動車部品である。追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、以下の特性:少なくとも約200MPaの引張強度、少なくとも約100MPaの降伏強度、少なくとも約7%の伸び、及び/又は少なくとも約30°のVDA曲げ角度、のうちの少なくとも1つを有する。追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、Al4Caを含む。いくつかのさらなる実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、Al13Fe4相、Al3Mg2相、及びAl4Caを有する。いくつかの追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、Al3Mg2相と接合したAl4Caを有する。なお追加の実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、結晶粒界にAlMgCa相を有する。
【0012】
第四の態様によると、本開示は、コントロールアルミニウム製品と比較して、アルミニウム製品の鋳造作業中におけるMg喪失及びドロス生成を制限するための方法を提供する。この方法は、約0.003~約6.0のCa又は約0.003~約2.5のSrのうちの一方を、第一のアルミニウム合金に添加して、鋳造されることを意図する鋳造合金を得ることを含む。第一のアルミニウム合金は、重量パーセントで、
Mg 約1.0~約17.0;
Fe 約0.5~約1.8;並びに
残量のアルミニウム及び不可避不純物、
を含み、第一のアルミニウム合金及び鋳造合金は、合金元素としてBeを含まない。
【0013】
いくつかの実施形態では、方法はさらに、鋳造合金を溶融して溶融鋳造合金を得ることを含む。一実施形態では、第一のアルミニウム合金は、結晶微細化剤をさらに含む。いくつかの追加の実施形態では、方法は、溶融鋳造合金が少なくとも6時間にわたって保持される場合、Mg喪失を約12重量パーセント未満に低減するために用いることができる。いくつかのさらなる実施形態では、方法は、溶融鋳造合金が少なくとも6時間にわたって保持される場合、ドロス生成を約7重量パーセント未満に低減するために用いることができる。いくつかの実施形態では、方法はさらに、溶融鋳造合金を鋳造して、鋳造されたアルミニウム合金を得ることを含む。さらに追加の実施形態では、方法はさらに、鋳造されたアルミニウム合金を高圧真空ダイカストに供することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、鋳造後熱処理工程を含まない。いくつかの追加の実施形態では、鋳造アルミニウム合金は、Caを含む。なおさらなるいくつかの実施形態では、鋳造アルミニウム合金は、約0.01~約0.3のCaを含む。追加の実施形態では、第一のアルミニウム合金は、約3.0~約8.0のMgを含む。さらなるいくつかの実施形態では、第一のアルミニウム合金は、約4.0~約6.0のMgを含む。なお別の実施形態では、第一のアルミニウム合金は、約0.8~約1.8のFeを含む。
【0014】
本発明の性質について全般的に記載してきたが、その好ましい実施形態を例示する添付の図面を次に参照する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図2Aは、例で用いたHPVDCプレートの写真を示す。破線は、例で提示する引張試験で用いたセクションを示す。
図2Bは、例で用いたASTM B557引張試験試料の寸法の図を示す。
【
図3】
図3は、空気曝露酸化試験の過程における溶融表面の変化の写真を示す(左から右に向かって、スキミング後、1時間保持、2時間保持、又は20時間保持)。
【
図4-1】
図4Aは、固体ドロスの形態の写真を示す。
図4Bは、ドロスの電子顕微鏡画像であり、エネルギー分散型X線分析の(EDX)-1粒子及びEDX-2粒子を示す。スケールバーは20μmである。
【
図5】
図5Aは、100ppmのCa(■)、1000ppmのCa(▲)、100ppmのSr(×)、又は1000ppmのSr(●)を含む合金中、0~6時間の保持時間の過程における、ベース合金中(Ca、Sr、及び/又はCaとSrとの組み合わせ、破線(stapled line))のMgの重量パーセントを示す。
図5Bは、100ppmのCa、1000ppmのCa、100ppmのSr、又は1000ppmのSrを含む合金中、合計6時間の保持時間後における、ベース合金中(Ca、Sr、及び/又はCaとSrとの組み合わせ)のMg喪失のパーセントを示す。
【
図6】
図6は、添加剤なし、Caのみ、Srのみ、及びCaとSrとの組み合わせを含む溶融Al-1.5Fe-5Mgベース合金の、770℃で2時間の保持時間後における典型的な外観の写真を示す。
【
図7】
図7は、合計6時間の保持時間後における、ベースAl-1.5Fe-5Mg合金、Caのみ添加の合金、Srのみ添加の合金、又はCaとSrとの組み合わせを添加した合金の合計生成ドロス量(重量パーセント)を示す。
【
図8】
図8は、ベースAl-1.5Fe-5Mg合金及びCa添加(0.1)合金の機械的特性を比較して示す。結果は、比較した2つの合金について、引張強度(左の棒グラフ、MPa)、降伏強度(中央の棒グラフ、MPa)、伸び指数(左の棒グラフ、%)、及び品質指数(■、MPa)として示す。
【
図9】
図9は、比較合金1、比較合金2(Beを含む)、及びAl-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の機械的特性を比較して示す。結果は、比較した3つの合金について、引張強度(左の棒グラフ、MPa)、降伏強度(中央の棒グラフ、MPa)、伸び指数(左の棒グラフ、%)、及び品質指数(■、MPa)として示す。
【
図10】
図10Aは、ベースAl-1.5Fe-5Mg合金の代表的な光学画像を示す。矢印は、材料中の多孔質部分を指している。スケールバーは100μmである。
図10Bは、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の代表的な光学画像を示す。スケールバーは100μmである。
図10Cは、ベースAl-1.5Fe-5Mg合金の代表的な光学画像を示す。スケールバーは20μmである。
図10Dは、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の代表的な光学画像を示す。スケールバーは20μmである。
【
図11】
図11Aは、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金中に見出されるAl
13Fe
4相の走査型電子顕微鏡(SEM)画像、EDX、及び電子線後方散乱回折法(EBSD)を示す。
図11Bは、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金中に見出されるAl
3Mg
2相の走査型電子顕微鏡(SEM)画像及びEDXを示す。
図11Cは、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金中に見出されるAl
4Ca構成成分の走査型電子顕微鏡(SEM)画像、EDX、及び電子線後方散乱回折法(EBSD)を示す。
図11Dは、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金中に見出されるAl-Mg-Ca相の走査型電子顕微鏡(SEM)画像及びEDXマッピングを示す。
【
図12】
図12は、合金の降伏強度に対するMgの影響を示す結果を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
アルミニウム合金は、自動車産業において、燃費の向上及びCO2排出の削減のために軽量化の目標を達成するための魅力的なソリューションを提供する。高圧真空ダイカスト(HPVDC)は、迅速で経済的なニアネットシェイプ製造法として、アルミニウム構造コンポーネントの製造に広く用いられている。構造ダイカスト品のための合金は、典型的には、良好な流動性及び耐ダイ焼き付き性、高い機械的特性、並びに充分な耐腐食性を必要とする。産業界で取り組まれている重要な課題は、ダイ焼き付き、固溶化処理中のブリスター発生、及び強度と延性とを併せ持つ必要性である。広くコスト及び品質の観点から、質別F及びT5において充分に設計されたアルミニウム合金が好ましい。
【0017】
Al-Mg鋳造合金では、酸化を制限又は防止するために、Beが多くの場合用いられる。しかし、本開示では、鋳造作業で用いることを意図するAl-Mg鋳造合金中のBeを置き換えることを模索した。驚くべきことに、Ca又はSrをAl-Mg鋳造合金に添加すると、鋳造作業中の合金の酸化が制限されるだけでなく、改善された機械的特性を呈する鋳造製品も得られることが見出された。
【0018】
本開示の鋳造アルミニウム合金は、Ca又はSrのいずれかを含む。いくつかの実施形態では、鋳造アルミニウム合金は、CaとSrとの組み合わせは含まない。上記で示されるように、Ca及びSrは、合金の酸化を制限し、さらには、いくつかの実施形態では、鋳造条件を改善する。鋳造アルミニウム合金が鋳造製品の製造に用いられる場合、いくつかの実施形態では、鋳造製品の1又は複数の機械的特性を改善することもできる(いくつかの実施形態では、その鋳造されたままの状態で)。
【0019】
本開示の鋳造アルミニウム合金は、鋳造作業に適するいかなるAl-Mg鋳造合金であってもよい。一実施形態では、本開示の鋳造アルミニウム合金は、5xx.xアルミニウム合金であってよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、Caは、約0.003以上の重量パーセントで鋳造アルミニウム合金中に存在する。いくつかの実施形態では、Caは、約0.01以上の重量パーセントで鋳造アルミニウム合金中に存在する。いくつかの実施形態では、Caは、約0.1以上の重量パーセントで鋳造アルミニウム合金中に存在する。追加の実施形態では、Caは、少なくとも約0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、又はそれ以上の重量パーセントで存在する。Caが合金中に存在する場合、それは、6.0以下の重量パーセントで存在する。いくつかの実施形態では、Caは、約6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの具体的な実施形態では、Caは、約0.01~約6.0の重量パーセントで合金中に存在する。追加の実施形態では、Caは、少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、又はそれ以上の重量パーセントで存在する。いくつかの実施形態では、Caは、約6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの具体的な実施形態では、Caは、約0.1~約6.0の重量パーセントで合金中に存在する。なお他の実施形態では、Caは、少なくとも約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。なおさらなる実施形態では、Caは、約0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。なお追加の実施形態では、Caは、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、又は0.2から約0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、又は0.02までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約0.01から約0.3までの重量パーセントなどである。なお他の実施形態では、Caは、少なくとも約0.1、0.2、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。なおさらなる実施形態では、Caは、約0.3、0.2以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。なお追加の実施形態では、Caは、約0.1又は0.2から約0.3又は0.2までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約0.1から約0.3までの重量パーセントなどである。
【0021】
いくつかの実施形態では、Srは、約0.003以上の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの実施形態では、Srは、約0.01以上の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの実施形態では、Srは、約0.1以上の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの追加の実施形態では、Srは、少なくとも約0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、又はそれ以上の重量パーセントで存在する。Srが合金中に存在する場合、それは、2.5以下の重量パーセントで存在する。いくつかの実施形態では、Srは、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.009、0.008、0.007、0.006、0.005、0.004以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの具体的な実施形態では、Srは、約0.003~約2.5の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの追加の実施形態では、Srは、少なくとも約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、又はそれ以上の重量パーセントで存在する。いくつかの実施形態では、Srは、約2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの具体的な実施形態では、Srは、約0.01~約2.5の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの追加の実施形態では、Srは、少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、又はそれ以上の重量パーセントで存在する。いくつかの実施形態では、Srは、約2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの具体的な実施形態では、Srは、約0.1~約2.5の重量パーセントで合金中に存在する。なお他の実施形態では、Srは、少なくとも約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、又は0.2の重量パーセントで合金中に存在する。なおさらなる実施形態では、Srは、約0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、0.02以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。なお追加の実施形態では、Srは、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、又は0.2から約0.3、0.2、0.1、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04、0.03、又は0.02までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約0.01から約0.3までの重量パーセントなどである。Srは、少なくとも約0.1、0.2、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。なおさらなる実施形態では、Srは、約0.3、0.2以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。なお追加の実施形態では、Srは、0.1又は0.2から約0.3又は0.2までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約0.1から約0.3までの重量パーセントなどである。
【0022】
本開示の鋳造アルミニウム合金は、得られる鋳造製品に許容可能な機械的特性を提供するために、Mgを含む。Mgの主要な強化機構が固溶強化であることから、アルミニウム中におけるMgの溶解度を超えて添加しても、対応するアルミニウム鋳造製品の機械的特性がさらに上昇することはない。このため、本開示の鋳造アルミニウム合金では、17.0以下の重量パーセントでMgが提供される。Mgは、少なくとも約1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、15.0、16.0、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。Mgは、約17.0、16.0、15.0、14.0、13.0、12.0、11.0、10.0、9.0、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0、3.0、2.0以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。一実施形態では、Mgは、約1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0、14.0、15.0、16.0から約17.0、16.0、15.0、14.0、13.0、12.0、11.0、10.0、9.0、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0、3.0、2.0までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約1.0から17.0までなどである。いくつかの実施形態では、Mgは、少なくとも約3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの実施形態では、Mgは、約8.0、7.0、6.0、5.0、4.0以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。一実施形態では、Mgは、約3.0、4.0、5.0、6.0、7.0から約8.0、7.0、6.0、5.0、4.0までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約3.0から8.0までなどである。いくつかの実施形態では、Mgは、少なくとも約4.0、5.0、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。いくつかの実施形態では、Mgは、約6.0、5.0以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。一実施形態では、Mgは、約4.0、5.0から約6.0、5.0までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約4.0から6.0までなどである。
【0023】
本開示の鋳造アルミニウム合金は、鋳造作業中に耐ダイ焼き付き性を提供するために、Feを含む。しかし、本開示の鋳造合金中に存在するFeの量は、もろく、対応するアルミニウム合金製品の機械的特性を低下させ得る大きい鉄相の生成が回避されるように、制限されるべきである。このため、Feは、少なくとも約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。Feは、約1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。一実施形態では、Feは、約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7から約1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約0.5から1.8までなどである。一実施形態では、Feは、少なくとも約0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、又はそれ以上の重量パーセントで合金中に存在する。Feは、約1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9以下、又はそれ未満の重量パーセントで合金中に存在する。一実施形態では、Feは、約0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7から約1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9までの重量パーセントで合金中に存在し、例えば、約0.8から1.8までなどである。
【0024】
所望に応じて、結晶微細化剤が、完全に等軸状である微細結晶粒組織でアルミニウム合金を固化するために、Ti、TiB2、TiB、又はTiCの形態で本開示のアルミニウム合金に含まれてもよい。TiBが結晶微細化剤として用いられる場合、その結果として、合金中のB含有量は最大0.05重量%となり得る。TiCが結晶微細化剤として用いられる場合、その結果として、合金中のC含有量は最大0.01重量%となり得る。結晶微細化剤は、再溶融されるべきインゴットの製造時に添加され得る、又はそれは、最終鋳造品の製造時の再溶融後に添加され得る。
【0025】
本開示の鋳造合金は、意図的な添加剤としても又は合金元素としても、Beを含まない。存在する場合は、Beは、不可避不純物であると見なされる。
本開示のいくつかの実施形態では、鋳造合金は、意図的な添加剤としても又は合金元素としても、Cuを含まない。このため、いくつかの実施形態では、存在する場合は、Cuは、不可避不純物であると見なされ得る。
【0026】
本開示のアルミニウム合金の残部は、アルミニウム(Al)及び不可避不純物である。一実施形態では、不純物の各々は、重量パーセントで、最大約0.05で存在し、合計不可避不純物は、重量パーセントで、約0.15(重量パーセント)未満で存在する。
【0027】
本開示の鋳造アルミニウム合金は、アルミニウム鋳造製品が得られるように、高圧真空ダイカスト(HPVDC)を含むがこれに限定されない様々な鋳造作業に供することができる。Ca又はSrが存在することにより、いくつかの実施形態では、溶融アルミニウム合金の保持の過程におけるMg喪失の量及び/又はドロス生成の量が低減されることで鋳造作業を改善することができる。いくつかの実施形態では、Ca又はSrが存在することにより、溶融合金を少なくとも6時間保持した場合の溶融時のMg喪失を約12重量パーセント未満に低減することができる(対応するベース合金と比較した場合-Ca、Sr、及び/又はCaとSrとの組み合わせ)。いくつかの実施形態では、Ca又はSrが存在することにより、溶融合金を少なくとも6時間保持した場合のドロス生成を約7重量パーセント未満に低減することができる(Ca及びSrを含まない対応するベース合金と比較した場合)。
【0028】
本開示は、したがって、本明細書で述べる鋳造アルミニウム合金からアルミニウム鋳造製品を製造する方法を提供する。方法は、広くは、本明細書で述べる鋳造アルミニウム合金をモールド中で鋳造すること、及び所望に応じて、鋳造されたアルミニウム合金を高圧真空ダイカスト(HPVDC)に供すること、を包含する。いくつかの実施形態では、方法は、鋳造後熱処理工程を用いることを回避するものである。そのような実施形態では、対応するアルミニウム製品が、鋳造されたままの状態(例:質別F)で提供される。
【0029】
方法のいくつかの実施形態では、インゴットの形態で提供され得る鋳造アルミニウム合金は、溶融工程に供されて、溶融されたアルミニウム合金が得られる。溶融工程は、アルミニウム合金を加熱及び撹拌すること、並びに所望に応じて、鋳造前に溶融されたアルミニウム合金を保持することを含む。溶融工程中に(例えば、保持工程中に)ドロスが生成する場合、方法は、鋳造前にドロスを除去することを含み得る。溶融されたアルミニウム合金が得られると、それは、モールド中で鋳造されて、アルミニウム鋳造製品が得られる。鋳造工程は、鋳造されたアルミニウム合金を、高圧真空ダイカスト工程に供することを含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、モールドからアルミニウム鋳造製品を取り出す工程を含み得る。いくつかの実施形態では、アルミニウム鋳造製品を製造する方法は、鋳造後熱処理工程を含まず、アルミニウム鋳造製品は、鋳造されたままの状態で得られる(例:質別F)。しかし、いくつかの実施形態では、鋳造されたアルミニウムを製造する方法は、1又は複数の鋳造後処理工程を含んでもよい(例:アニーリング工程、ひずみ硬化工程、固溶化熱処理工程、及び/又は熱処理工程)。
【0030】
アルミニウム製品が鋳造製品である実施形態では、方法はまた、いかなる鋳造後処理も除外し得る(例:それは、鋳造されたまま又は質別Fとして提供され得る)。別の選択肢として、方法は、例えば、T5、T6、又はT7処理(例:固溶化熱処理工程及び人工時効工程)などの鋳造後熱処理を含み得る。アルミニウム製品が鋳造製品である実施形態では、後者は、シャシー又はローターなどの自動車部品であり得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、本開示の鋳造合金は、鋳造作業中におけるドロス生成を低減するために用いることができる。いくつかの実施形態では、本開示の鋳造合金は、溶融アルミニウム合金が少なくとも6時間にわたって保持される場合、溶融工程中に(例えば、保持工程中に)生成されるドロスの重量パーセントを、7、6、5、4、3、2、1%未満に低減する。
【0032】
いくつかの実施形態では、本開示の鋳造合金は、鋳造作業中におけるMg喪失を低減するために用いることができる。いくつかの実施形態では、本開示の鋳造合金は、溶融アルミニウム合金が少なくとも6時間にわたって保持される場合、溶融工程中(例えば、保持工程中)におけるMg喪失の重量パーセントを、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2%未満に低減する。
【0033】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、Ca又はSrを、アルミニウム又は第一のアルミニウム合金に添加して、マスター合金又は本開示の鋳造合金を得ることを含み得る。いくつかの実施形態では、Ca又はSrは、純アルミニウムに添加されて、マスター合金が得られる。そのような実施形態では、マスター合金は、次に、本開示の鋳造合金を製造するために用いられてよく、Mg、Fe、及び所望に応じて結晶微細化剤が添加されてもよい。純アルミニウム又はマスター合金は、合金元素としてのBeを含まず、Beが存在する場合、それは不純物と見なされる。いくつかの実施形態では、Ca又はSrは、Mg及びFe、並びに所望に応じて結晶微細化剤を含み、残部はアルミニウム及び不可避不純物である第一のアルミニウム合金に添加される。第一のアルミニウム合金は、合金元素としてのBeを含まず、第一のアルミニウム合金中にBeが存在する場合、それは不純物と見なされる。
【0034】
本開示はまた、本明細書で述べる方法によって得ることができる又は得られ得るアルミニウム鋳造製品も提供する。本開示の文脈において、「アルミニウム鋳造製品」の用語は、最終鋳造製品(例えば、構造自動車部品など)、又はさらに再度溶融されて異なる形状のアルミニウム製品とされ得る中間インゴットを意味し得る。いくつかの実施形態では、アルミニウム鋳造製品は、ショックタワー、Aピラー、Bピラー、又はトルクボックスである。いくつかの実施形態では、本開示のアルミニウム鋳造製品は、CaもSrも含まない(及び所望に応じてBeを含む)対応するアルミニウム製品の特性と比較した場合、引張強度、降伏強度、品質指数、VDA角度、及び/又は伸びパーセントの改善を呈する。いくつかの実施形態では、引張強度、降伏強度、品質指数、VDA角度、及び/又は伸びパーセントの改善は、アルミニウム製品の鋳造されたままの状態(例:質別F)で見られる。
【0035】
いくつかの実施形態では、本開示の鋳造合金から製造されるアルミニウム鋳造製品は、少なくとも約200、210、220、230、240、250MPa、又はそれ以上の引張強度を有する。具体的な実施形態では、本開示の鋳造合金から製造されるアルミニウム鋳造製品は、少なくとも約200MPaの引張強度を有する。いくつかの追加の実施形態では、本開示の鋳造合金から製造されるアルミニウム鋳造製品は、少なくとも約100、110、120、130、140、150MPa、又はそれ以上の降伏強度を有する。いくつかの追加の実施形態では、本開示の鋳造合金から製造されるアルミニウム鋳造製品は、少なくとも約100MPaの降伏強度を有する。いくつかの追加の実施形態では、本開示の鋳造合金から製造されるアルミニウム鋳造製品は、少なくとも約7、8、9、10%、又はそれ以上の伸びを有する。いくつかの追加の実施形態では、本開示の鋳造合金から製造されるアルミニウム鋳造製品は、少なくとも約7%の伸びを有する。いくつかの追加の実施形態では、本開示の鋳造合金から製造されるアルミニウム鋳造製品は、少なくとも約30°以上の、規格VDA(Verband der Automobilindustrie)238-100の角度を満たす。
【0036】
本発明は、本発明の範囲を限定するためではなく本発明を例証するために与えられる以下の例を参照することによって、より容易に理解されるであろう。
実施例
本発明の例は、鋳造されたままの質別での用途におけるアルミニウムHPVDC構造コンポーネントに対して非常に優れた機械的特性及び耐ダイ焼き付き性を提供するための新規なアルミニウム合金の開発を提示する。微細構造の変化及び機械的特性を、走査型電子顕微鏡及び引張/曲げ試験によって試験した。微細構造と特性との間の関係を分析し、試験合金の強化機構について考察する。実験結果に基づいて、新規な合金は、HPVDCコンポーネントを鋳造されたままの状態で適用することに対して、有望なソリューションを明示している。
【0037】
Beに対する考え得る代替物として、Ca及びSrを、液体Al-1.5Fe-5Mg合金の酸化防止に対するその効果について、酸化形態、ドロス生成、及びマグネシウム喪失の観察及び測定を通して調べた。
【0038】
溶融Al-5Mg酸化試験。Al-1.5Fe-5Mg合金におけるCa及びSrの様々な添加について試験した。合金を、P1020アルミニウム、純マグネシウム、及び純鉄粉末を用いて製造した。Sr及びCaの元素については、Al-10%Sr及びAl-10%Caのマスター合金を用いてバッチ処理した。これらの合金の化学組成を、光学発光分光法(OES)によって分析し、結果を表1に示す。合金は、350-kg電気抵抗炉を用いて、実験室で溶融した。
【0039】
【0040】
実験手順を
図1に提示する。手順は、2つの工程、合金バッチ処理プロセス及び保持プロセス、を含む。典型的な合金バッチ処理プロセスを用いた。より具体的には、P1020を炉に投入し、Fe及びMgと共にバッチ処理した。次に、溶融金属を撹拌し、アルゴンを用いて脱気した。フラックス塩を用いて、脱気中に溶融物を浄化した。脱気後、表1の化学設計に従って、Ca及びSrを、Caについては100ppm~0.3%、Srについては100~1000ppmの割合で添加した。鋳造中の酸化発生を調べるために、断続熱保持プロセス(interrupted thermal holding process)を用いた。金属の保持温度は、典型的な鋳造における上限である770℃に設定した。液体金属上に形成される酸化物質量は、温度と共に増加することから、この試験では、最も苛酷な酸化条件下でのAl-Mg酸化に対するCa及びSrの効果を例証する。
図1に示されるように、合金化に続いて、各々を2時間とする3回の保持時間とした。各時間の後、溶融金属表面の外観を撮影した。ドロス生成量を定量するために、金属表面の完全なスキミングを行った。6つのOESサンプルを採取して、マグネシウム喪失を評価した。各試験の後、坩堝を充分に洗浄した。ベースAl-1.5Fe-5Mg合金については、20時間までの長い熱保持時間を行って、酸化の変化について試験した。
【0041】
Al-Mg合金の特性及び微細構造分析。Al-1.5Fe-5Mg合金の機械的特性及び曲げ延性に対する少量のCaの効果について試験した。高圧真空ダイカスト(HPVDC)によって得た厚さ3mmのプレートを、260tのBuhlerマシンで製造した。Al-1.5Fe-5Mgベース合金及び新規Al-1.5Fe-5Fe0.1Ca合金を鋳造した。調べた合金の化学組成を、光学発光分光法(OES)を用いて特定し、結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
引張試験用のサンプルを鋳造ブランクから切り出した(
図2に示されるように、サンプル中央の長方形部分)。次に、プレートを、ASTM B557規格に準拠する正確な寸法である試験サンプルの形状に機械加工した。各合金について、鋳造されたままの状態の10個の引張サンプルで引張試験を行った。曲げ試験のために、60×60mmの正方形サンプルを、3mmのHPVDCプレートから機械加工した。各合金について6個のサンプルを、VDA 238-100標準に従って試験した。
【0044】
金属組織学サンプルを、鋳造されたままの状態のHPVDCプレートから取った。光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、鋳造されたままの状態の微細構造を分析し、金属間相を識別した。
【0045】
溶融Al-Mg合金の酸化防止に対するCa及びSrの効果。酸化機構を理解するために、Al-Mgの酸化現象について試験した。Al-Mg合金の酸化防止効果に対するCa及びSrの効果を調べた。
【0046】
ベースAl-1.5Fe-5Mg合金の酸化特性。
図3は、空気中、770℃で熱保持の過程におけるAl-1.5Fe-5Mg合金の溶融表面を示す。充分なスキミング後の溶融物の表面は、非常に清浄である。1時間の曝露後、表面は、坩堝端部近くに、部分的なポップコーン形状の酸化を見せている。2時間の曝露後、溶融物の表面は、ポップコーン形状の酸化物で完全に覆われた状態となっている。金属の温度は、アルミニウムとマグネシウムとの発熱酸化反応に起因して、800℃に上昇した。20時間の曝露後、酸化物の色は部分的に黒色に変わっている。固体のポップコーン形状の酸化物は、
図4Aに示されるように、多孔質の形態を有し、それは、多数の細孔及び酸化物クラスターを構成している(
図4Bを参照)。EDX分析から、ドロスは、主として酸化マグネシウム(MgO)及びスピネル(MgAl
2O
4)から構成されていることが示される。
【0047】
図5A及び
図5Bは、0から6時間までの保持時間の間にMg濃度が変化すること、並びに合計6時間の保持時間後におけるMg喪失のパーセントを示す。ベースAl-1.5Fe-5Mg合金が最も高いMg喪失を起こしたことが分かる。6時間の保持時間後の合計Mg喪失は、0.63重量%又は12.6%の喪失である。Ca又はSrの添加により、溶融中のMg喪失が効果的に低減された。Mg喪失は、Ca含有合金では0.1重量%未満又は2%未満の喪失であり、Sr含有合金では0.3重量%未満又は6%未満の喪失であった。
【0048】
CaとSrとの組み合わせ。
図6は、添加剤なし、Caのみ、Srのみ、及びCaとSrとの組み合わせを含む溶融Al-1.5Fe-5Mgベース合金の視覚的外観を示す。Ca及びSrの両方を含有する合金は、小さい波形状を有している。この特徴は、Sr含有合金の特徴と類似している。酸化層は厚いように見える。多孔質のドロスは存在しない。この結果は、CaとSrとの組み合わせが、Al-1.5Fe-5Mgの酸化に効果的に対抗する手助けとなり得ることを示す。
【0049】
図7は、合計6時間の保持時間後における生成された合計ドロス量(投入量の重量%)を示す。CaとSrとの組み合わせが、ドロス生成を効果的に低減したことには留意されたい。Ca及びSrの両方を含む合金は、2.1重量%のドロス生成を示し、これは、ベース合金のドロス生成(6.9重量%)及びSrを含む合金のドロス生成(2.9重量%)よりも低い。しかし、生成されたドロスの量は、Caを含む合金のドロス量(1.0重量%)よりも高い。
【0050】
まとめると、Al-1.5Fe-5Mg中のMgは、酸素に対する強い親和性を有する。ベース合金の場合、溶融物表面に分厚い酸化物が見られた。Ca及びSrのいずれも、Al-1.5Fe-5Mgの酸化を防止するのに良好な効果を示した。
【0051】
機械的特性。Al-1.5Fe-5Mg及びAl-1.5Fe-5Mg0.1Caの特性を試験した。表3は、鋳造されたままの状態の試験合金及び参照合金における引張特性及びVDA曲げの結果をまとめて示す。
図8は、Al-1.5Fe-5Mg合金の機械的特性に対するCaの効果を示す。Al-1.5Fe-5Mg0.1Caが、Al-1.5Fe-5Mg合金と比較して優れた引張特性を示すことが見出された。引張強度及び延性のいずれについても、Al-1.5Fe-5Mg合金よりもAl-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の方が高い。QI=UTS+150
*log(El%)の式を用いて算出される合金品質指数(QI)は、Al-1.5Fe-5Mg0.1Caにおいて459MPaであり、これは、Al-1.5Fe-5Mgよりも81MPa又は21%高い。一方、表3に示されるように、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、Al-1.5Fe-5Mg合金よりも良好な曲げ延性を与える(Al-1.5Fe-5Mg0.1Caにおける曲げ角度37.7°に対してAl-1.5Fe-5Mg合金における29.0°)。結果は、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の機械的性能に対するCaの有益な効果を強調するものである。
【0052】
【0053】
図9は、新規Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の機械的特性を他の市販のダイカスト合金(例:比較合金1及び2)と比較して示す。新規合金は、比較合金1及び2よりも高い品質指数値を示した。それは、全体として最も高い引張強度及び降伏強度を有していた。
【0054】
7.5重量%のSi及び0.17重量%のFeを含有する比較合金1と比較すると、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、より高い引張強度及びより低い伸びを有していた。伸びは、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の10%に対して、比較合金1の11.5%であった。興味深いことに、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、比較合金1よりも良好な曲げ延性を示し、比較合金1の32.4°と比較して、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の曲げ角度は37.7°であった。Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、比較合金1に類似の又はより良好な延性を有するものと考えられる。耐ダイ焼き付き性に関しては、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、1.5重量%のFeを含有しており、これは、比較合金1と比較して、固着する傾向を低減して、ダイ寿命を大幅に改善するものと考えられる。
【0055】
比較合金2のAl-1.6Fe-4.2Mg-Be合金と比較して、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、より高い強度を示したが、延性は低かった。理論に束縛されるものではないが、これは、比較合金2(4.3重量%のMg)よりも高いAl-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金中のMg含有量(5.1重量%のMg)に起因する可能性があり、そのことが、より高い固溶強化効果を提供したものである。Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の延性は、より高い伸びが必要とされる場合、Mgの量を減少させることによって改善することができる。合金の品質指数に関しては、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、比較合金2(427MPa)よりも高い品質指数値(459MPa)を示した。Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、全体として比較合金2よりも良好な機械的特性を有していた。耐ダイ焼き付き性に関しては、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金及び比較合金2は、1.5重量%対1.6重量%の類似のFe含有量を有していた。Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金は、ダイ寿命に関しては、比較合金に類似の性能であるものと考えられる。
【0056】
鋳造されたままの状態の微細構造分析。Al-1.5Fe-5Mg合金中のCaの強化機構を理解するために、鋳造されたままの状態のプレートに対して微細構造分析を行った。結果を表10に示す。Al-1.5Fe-5Mgは、収縮孔を示すが、Al-1.5Fe-5Mg0.1Caは、細孔のない微細構造を示す。CaはAl-Mg酸化の低減に非常に効率的であることから、Al-1.5Fe-5Mg0.1Caが、より少ない酸化物及びより低い多孔性を有することは理にかなっている。
【0057】
相の形態及び化学の識別を、SEM/EDX及びEBSD分析を用いて行った。結果を
図11に示す。表4は、試験の2つの合金で識別された異なる安定相をまとめて示す。合金マトリックスは、主として、Al-1.5Fe-5Mg合金ではAl
13Fe
4及びAl
3Mg
2相、Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金ではAl
13Fe
4及びAl
3Mg
2/Al
4Ca相から成っていた。Al-5Mg-1.5Fe合金にCaを添加することで、マトリックス中の結晶粒界において、Al
3Mg
2相と接合したAl
4Ca相又はAlMgCa相の形成が可能となる。加えて、Caは、鉄リッチ相の形態を僅かに改変すると思われる。Al-1.5Fe-5Mg0.1Ca合金の微細構造中には、非常に不均一に分布した部分的に断片化されたスクリプト状Fe相(partially fragmented script Fe phases)がより多く存在していることが観察された。小さい粒子が、引張試験において均一な変形を促進し、より高い伸びをもたらしている。
【0058】
【0059】
加えて、Mg添加による合金の機械的特性に対する効果についても試験した。本質的には、以下の表5及び
図12に見られるように、引張強度(UTS)及び降伏強度(YS)は、Mg含有量の増加と共に上昇した。
【0060】
【0061】
本発明を、その具体的な実施形態と関連して記載してきたが、請求項の範囲は、例で示した好ましい実施形態によって限定されるべきではなく、記載内容全体と一致する最も広い解釈が与えられるべきであることは理解されるであろう。
【国際調査報告】