(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】腫瘍関連マクロファージを標的とするためのナノキャリア
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20240326BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240326BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240326BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240326BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240326BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240326BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240326BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
A61K35/12
C12N5/10
C07K19/00
A61P35/00
A61K47/64
C12N15/12 ZNA
C12N15/62 Z
C07K14/705
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563946
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 US2022071154
(87)【国際公開番号】W WO2022226450
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514137997
【氏名又は名称】オハイオ・ステイト・イノベーション・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イギータ-カストロ,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】ギャレゴ-ペレス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】サラザール-プエルタ,アナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C087AA01
4C087AA02
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4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書では、がんを治療するためにTAMを効果的に標的とするナノキャリアシステムが開示される。開示されるナノキャリアは、抗腫瘍剤などの治療用カーゴが担持されたカスタムメイドの細胞外小胞(EV)であり、TAMにおける特定の受容体のためのリガンドによる修飾を介して、標的化された送達のために機能化されている。したがって、TAMを選択的に標的とすることを含む、腫瘍増殖又は腫瘍転移の阻害を必要とする対象においてそれを行う方法も開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてがんを治療する方法であって、前記対象に、治療有効量のCD200R標的化リガンドで修飾された細胞外小胞を投与することを含む、方法。
【請求項2】
前記細胞外小胞が、CD200と、エクソソーム又はリソソーム膜貫通タンパク質と、を含む融合タンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CD200が、アミノ酸配列配列番号1、又は配列番号1の少なくとも250個の連続したアミノ酸を含むCD200の断片、又は肺マクロファージと相互作用することができる、配列番号1又はその前記断片と少なくとも95%の同一性を有するそのバリアントを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞外小胞が、治療用カーゴを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療用カーゴが、抗腫瘍剤である、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月22日に出願された、米国仮特許出願第63/178,037号の優先権を主張し、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、2022年3月14日に作成され、2,625バイトを有する、「321501_2550_Sequence_Listing_ST25」と題するASCII.txtファイルとして電子形式で出願された配列表を含む。配列表の内容は、その全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
腫瘍は、形質転換されていない宿主細胞とがん細胞が密接に関連する動的微小環境を有する。腫瘍関連間質は、腫瘍増殖中に重要な役割を果たすと考えられ、血管新生、転移、及び免疫抑制などの現象に影響を及ぼす。したがって、間質は、診断及び治療用途に魅力的な標的を形成する。
【0004】
種々の骨髄細胞は、腫瘍間質の重要な構成要素である。骨髄細胞は、多くの場合、腫瘍に浸潤することが見出され、多様な腫瘍促進活性に関連付けられている。特に、腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、マウスモデル及びヒト患者の両方において、腫瘍間質の重要な構成要素である。TAMは、血管新生、免疫抑制、並びに浸潤及び転移に影響を及ぼすことによって、腫瘍成長を促進することができる。
【0005】
マクロファージは、免疫状況に応じて異なる表現型をとることができる可塑性細胞である。微小環境刺激は、マクロファージを、スペクトルにおける両極である「古典的」(M1)又は「代替的」(M2)活性化状態のいずれかに向かって駆動することができる。M1マクロファージは、典型的には、炎症促進性サイトカイン、誘導性一酸化窒素合成酵素2(Nos2)、及びMHCクラスII分子の発現によって特徴付けられる。M2マクロファージは、前述の分子のレベルが減少しており、アルギナーゼ-1及びマンノース及びスカベンジャー受容体を含む様々なマーカーのそれらのシグネチャー発現によって同定される。TAMは、M2様表現型を示すことが示唆されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書では、がんを治療するためにTAMを効果的に標的とするナノキャリアシステムが開示される。開示されるナノキャリアは、抗腫瘍剤などの治療用カーゴが担持されたカスタムメイドの細胞外小胞(EV)であり、TAMにおける特定の受容体のためのリガンドによる修飾を介して、標的化された送達のために機能化されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらのナノキャリアは、多様なトランスフェクション技術(例えば、バルクエレクトロポレーション、ナノエレクトロポレーション、組織ナノトランスフェクション、ウイルストランスフェクション)を使用して、インビトロ又はインビボで細胞をトランスフェクションした後に得られ得る。
図1に示すように、EVに抗腫瘍剤を担持させること、及び/又は細胞標的化リガンドでの修飾は、例えば、特定のカーゴ又はリガンドをコードするプラスミドDNAをトランスフェクションすることによって達成され得る。カーゴは、調節する必要がある炎症経路に応じて変化させることができ、表面修飾は、標的細胞型に応じて変化させることができる。
【0008】
例えば、TAMは、膜糖タンパク質CD200をコードし得るプラスミド遺伝子を使用して標的化され得る。CD200で機能化されたEVは、TAMにおけるCD200R受容体と優先的に相互作用する。また、CD200Rで機能化されたEVは、CD200発現細胞上のCD200受容体と優先的に相互作用することが開示される。
【0009】
CD200-CD200R相互作用は、CD200Rを発現する腫瘍関連マクロファージ、樹状細胞、及び骨髄由来サプレッサー細胞などの腫瘍関連骨髄細胞(TAMC)に影響を与えることによって、腫瘍微小環境を調節するうえで重要である。CD200は、種々のヒト腫瘍のがん細胞、T細胞、及び内皮細胞で高度に発現され、TAMCの機能を阻害し、腫瘍形成、転移を阻害し、T細胞療法の素因に影響を及ぼす。したがって、CD200-CD200R相互作用を標的とすることは、免疫療法のための選択肢を提供し得る。
【0010】
CD200がチェックポイント分子(免疫チェックポイント遮断をもたらすPD-1、CTLA4、及びCD47)と共有するいくつかの構造的類似性がある。種々の研究では、神経芽細胞腫腫瘍におけるCD200-CD200R経路に関連する抗腫瘍免疫の下方調節(腫瘍部位でのCD8+及びCD4+T細胞の量の低減)が示されている。したがって、この経路を遮断するために抗CD200抗体を使用する場合、神経芽細胞腫に対して有益である可能性がある。
【0011】
ニューロンはまた、ミクログリア細胞の表面上のCD200Rと相互作用する自己保護機構としてのCD200を発現し、したがって、それらの細胞によって引き起こされる二次的な神経損傷を防止する(例えば、脳卒中免疫療法)。脳卒中後、ミクログリアが活性化され、ニューロン及び血液脳関門を損傷する可能性のある多くの炎症促進性サイトカインを産生し始め、これが神経新生に影響を与える可能性がある。ミクログリアによって引き起こされる損傷は、結合が炎症促進性媒介物質の産生の阻害をもたらすため、受容体-リガンド相互作用、CD200-CD200Rによって回復する可能性がある。別の例は、パーキンソン病である。
【0012】
マウス多発性硬化症のモデルは、自己免疫性脳脊髄炎(EAE)であり、これは、中枢神経系に移動し、ミクログリア活性化、組織損傷、及び神経学的欠損(例えば、麻痺)をもたらす、末梢マクロファージ、T細胞、及び顆粒球の活性化によって特徴付けられる。CD200が存在しない場合、疾患の発病及び進行が増加する。
【0013】
関節の炎症性自己免疫疾患であるヒト関節リウマチは、コラーゲン誘導性関節炎(CIA)モデルを用いて模倣することができる。CD200によるCD200Rの刺激は、骨髄細胞に阻害シグナルを送達する。研究により、CD200-Fc(CD200Rのためのアゴニスト)を使用して、コラーゲン誘導性関節炎の発症を遮断し得ることが示されている(5、6)。
【0014】
CD200-CD200R相互作用は、炎症応答の抑制及び制御性T細胞の誘導によって移植片の受容を増加させることが示されている。
【0015】
肺は、CD200を高度に発現し(例えば、肺胞マクロファージ、肥満細胞、及び樹状細胞)、肺免疫調節において重要な役割を果たすと考えられている。より具体的には、気道上皮は、樹状細胞及び肺胞マクロファージ上のCD200R1と相互作用する高レベルのCD200を提示する。炎症刺激がない場合、この相互作用はそれらの活性化を阻害する。喘息中、それらのレベルのCD200は、気道上皮で下方調節され、肺常在免疫細胞は、CD200Rの過剰発現を示す。
【0016】
TAMはまた、CD163、スカベンジャー受容体(SR-A、CD204)、Tyro3、Axl、及びMertk(TAM受容体チロシンキナーゼ)、FRβ(リガンド:免疫毒素)、マンノース受容体(MMR、CD206)、TIM-3遮断抗体、VEGF、cMAF、MGL1、又はMGL2をコードし得るプラスミド遺伝子を使用して標的化され得る。
【0017】
TAMは、IL4、IL13、IL10、TGFβ、PGE2(活性化M2)、成長停止特異的因子6(Gas6)及びタンパク質S(Pros1)を使用して標的化され得、Tyro3、Axl、Mertk、Melittin(MEL、M2マクロファージにおけるCD206に優先的に結合する)、PD-1、SIRPa、LILRB1、又はSIglec-10(受容体)を活性化する特異的リガンドである。
【0018】
図2に示すように、表面修飾されたEVには、濃度勾配を介してEVに拡散し得る膜透過性薬理学的化合物である治療用カーゴが担持され得る。
【0019】
したがって、本明細書ではまた、TAMを選択的に標的とすることを含む、腫瘍増殖又は腫瘍転移の阻害を必要とする対象においてそれを行う方法も開示される。特定の実施形態として、上記方法は、哺乳動物に、薬学的有効量の本明細書に開示されるナノキャリアシステムを投与することを含む。
【0020】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面及び以下の説明に明示されている。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】細胞又は組織のトランスフェクション後、抗炎症性カーゴが担持された、及び/又は細胞標的化リガンドで修飾されたカスタムメイドのナノキャリアの産生の概略図である。
【
図2】他の抗炎症性カーゴ、例えば、膜透過性薬理学的化合物が担持された表面修飾EVの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示をより詳細に説明する前に、本開示は、説明される特定の実施形態に限定されず、そのため、当然ながら変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本開示の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになるので、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0023】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確にそうでないことを指示しない限り、下限の単位の10分の1まで、その範囲の上限と下限との間の各介在値と、その記述された範囲内の任意の他の記述された値又は介在値が、本開示内に包含されることを理解されたい。これらのより小さな範囲の上限及び下限は、独立して、より小さな範囲に含まれてもよく、また、記述された範囲内の任意の明確に除外された限定を前提として、本開示内に包含される。記述された範囲が、上限及び下限の一方又は両方を含む場合、それらの含まれた上限及び下限の一方又は両方を除外する範囲もまた、本開示に含まれる。
【0024】
別段定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されているものと類似又は均等の任意の方法及び材料もまた、本開示の実施又は試験に使用することができるが、ここで好ましい方法及び物質を本明細書に記載する。
【0025】
本明細書で引用された全ての刊行物及び特許は、各個々の刊行物又は特許が、参照により本明細書に組み込まれることを明確にかつ個別に示される場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれ、引用された刊行物に関連して方法及び/又は物質を開示し、説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、出願日以前のその開示のためのものであり、本開示が、先行開示のためにそのような刊行物に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。更に、提供した公開日は実際の公開日とは異なる可能性があり、これらは独立して確認する必要があり得る。
【0026】
本開示を読めば当業者には明らかとなるとおり、本明細書に記載及び例示される個々の実施形態の各々は、本開示の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離され得るか、又はそれらと組み合わされ得る個別の成分及び特徴を有する。任意の列挙された方法は、列挙された事象の順序、又は論理的に可能な任意の他の順序で実施され得る。
【0027】
本開示の実施形態は、別段の指示がない限り、当技術分野の範囲内である、化学、生物学などの技法を用いる。
【0028】
以下の実施例は、当業者に、本明細書において開示及び特許請求された方法及びプローブの使用方法の完全な開示及び説明を提供するために示される。数値(例えば、量、温度など)に関して精度を保証するように努力がなされてはいるが、いくらかの誤差及び偏差が考慮されるべきである。別段の指示がない限り、部は、重量部であり、温度は、℃であり、圧力は、大気圧又はその付近である。標準温度及び圧力は、20℃及び1気圧と定義されている。
【0029】
本開示の実施形態が詳細に説明される前に、別段の指示がない限り、本開示は、特定の材料、試薬、反応物質、製造プロセスなどに限定されないので、変化し得ることが理解されるであろう。また、本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することを意図するものではないことを理解されたい。本開示では、ステップは、論理的に可能である場合には異なる順序で行われ得ることも可能である。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別段文脈が明示的に示さない限り、複数の指示物を含むことに留意する必要がある。
【0031】
開示されるEVは、いくつかの実施形態では、細胞によって産生され得る任意のものであり得る。細胞は、アポトーシス小体(1~5μm)、微小胞(100~1000nmのサイズ)、及びエクソソームとして知られるエンドソーム起源の小胞(50~150nm)を含む、広範な直径及び機能を有する細胞外小胞(EV)を分泌する。
【0032】
開示される細胞外小胞は、当該技術分野で既知の方法によって調製され得る。例えば、開示される細胞外小胞は、真核生物細胞において、細胞標的化リガンドをコードするmRNAを発現させることによって調製され得る。いくつかの実施形態では、細胞はまた、治療用カーゴをコードするmRNAを発現する。細胞標的化リガンド及び治療用カーゴのためのmRNAは、開示されるEVを産生するための好適な産生細胞にトランスフェクションされるベクターから発現され得る。細胞標的化リガンド及び治療用カーゴのためのmRNAは、同じベクターから発現され得るか(例えば、ベクターは、別個のプロモーターから細胞標的化リガンド及び抗炎症性カーゴのためのmRNAを発現する)、又は細胞標的化リガンド及び治療用カーゴのためのmRNAは、別個のベクターから発現され得る。細胞標的化リガンド及び治療用カーゴのためのmRNAを発現させるためのベクターは、開示される細胞外小胞を調製するために設計されたキットにパッケージングされ得る。
【0033】
開示される標的化リガンドを含有するEVを含む組成物もまた開示される。いくつかの実施形態では、EVは、治療用カーゴが担持され得る。また、開示されるEVを分泌するように操作されたEV産生細胞が開示される。
【0034】
エクソソームなどのEVは、Bリンパ球、Tリンパ球、樹状細胞(DC)、及びほとんどの細胞などの免疫細胞を含む多くの異なる型の細胞によって産生される。EVはまた、例えば、神経膠腫細胞、血小板、網状赤血球、ニューロン、腸上皮細胞、及び腫瘍細胞によって産生される。開示される組成物及び方法における使用のためのEVは、上記で特定された細胞を含む任意の好適な細胞に由来し得る。大量産生のための好適なEV産生細胞の非限定的な例としては、樹状細胞(例えば、未成熟樹状細胞)、ヒト胚性腎臓293(HEK)細胞、293T細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、及びヒトESC由来間葉系幹細胞が挙げられる。EVは、エクソソームが送達される患者における免疫応答の生成を低減又は回避するために、自己患者由来、異種ハプロタイプ一致、又は異種幹細胞から得られ得る。任意のEV産生細胞を本目的に使用できる。
【0035】
また、開示されるEVを分泌するように操作された開示されるEV産生細胞を培養することを含む、治療用カーゴが担持された開示されるEVを作製するための方法が開示される。本方法は、細胞からEVを精製することを更に含み得る。
【0036】
細胞から産生されたEVは、任意の好適な方法によって培養培地から収集され得る。典型的には、EVの製剤は、遠心分離、濾過、又はこれらの方法の組み合わせによって、細胞培養物又は組織上清から調製され得る。例えば、EVは、分画遠心分離、すなわち、より大きな粒子をペレット化するための低速(<20000g)遠心分離、それに続く、EVをペレット化するための高速(>100000g)遠心分離、適切なフィルタによるサイズ濾過、(例えば、スクロース勾配による)勾配超遠心分離、又はこれらの方法の組み合わせによって調製され得る。
【0037】
開示されるEVは、細胞の表面上で発現される細胞表面部分に結合する標的化部分を、EVの表面上で発現することによって、TAMに対して標的化され得る。好適な標的化部分の例は、標的化部分がエクソソームの表面上で発現され得る限り、短いペプチド、scFv、及び完全タンパク質である。ペプチド標的化部分は、典型的には、100アミノ酸長未満、例えば、50アミノ酸長未満、30アミノ酸長未満、10、5、又は3アミノ酸の最小長までであり得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、TAMは、膜糖タンパク質CD200又はCD200Rを使用して標的化され得る。
【0039】
CD200で機能化されたEVは、TAMにおけるCD200R受容体と優先的に相互作用する。表面にCD200を発現する細胞には、胸腺細胞、B細胞、T細胞、濾胞樹状細胞、扁桃濾胞、腎糸球体、合胞体栄養細胞、内皮細胞(CNS)、ニューロン、平滑筋細胞、上皮細胞、乏突起膠細胞、星状細胞、及びヒトがん細胞が含まれる。
【0040】
表面にCD200Rを発現する細胞には、ミクログリア、骨髄細胞(マクロファージ、好中球、及び肥満細胞)、T細胞のいくつかのサブセット(制御性T細胞[Treg])、及び樹状細胞(DC)における低発現が含まれる。
【0041】
いくつかの実施形態では、標的化部分は、アミノ酸配列:MERLVIRMPFCHLSTYSLVWVMAAVVLCTAQVQVVTQDEREQLYTPASLKCSLQNAQEALIVTWQKKKAVSPENMVTFSENHGVVIQPAYKDKINITQLGLQNSTITFWNITLEDEGCYMCLFNTFGFGKISGTACLTVYVQPIVSLHYKFSEDHLNITCSATARPAPMVFWKVPRSGIENSTVTLSHPNGTTSVTSILHIKDPKNQVGKEVICQVLHLGTVTDFKQTVNKGYWFSVPLLLSIVSLVILLVLISILLYWKRHRNQDREP(配列番号1)、又はマクロファージと相互作用し得る、配列番号1と少なくとも65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するそれらのバリアント及び/若しくは断片を有するCD200である。
【0042】
いくつかの実施形態では、標的化リガンドは、配列番号1の少なくとも100、110、120、130、140、141、142、143、144、145、156、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、261、262、263、264、265、266、267、268、若しくは269個の連続したアミノ酸、又は肺マクロファージと相互作用し得る、この断片と少なくとも65%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するバリアントを含む、CD200の断片である。
【0043】
細胞標的化リガンドは、いくつかの場合では、それをエクソソーム又はリソソーム膜貫通タンパク質との融合タンパク質として発現させることによって、EVの表面上で発現され得る。多くのタンパク質は、エクソソームに関連することが知られており、すなわち、それらは、エクソソームが形成されるときにエクソソームに組み込まれる。例としては、Lamp-1、Lamp-2、CD13、CD86、フロチリン、シンタキシン-3、CD2、CD36、CD40、CD40L、CD41a、CD44、CD45、ICAM-1、インテグリンアルファ4、LiCAM、LFA-1、Mac-1アルファ及びベータ、Vti-IA及びB、CD3イプシロン及びゼータ、CD9、CD18、CD37、CD53、CD63、CD81、CD82、CXCR4、FcR、GluR2/3、HLA-DM (MHC II)、免疫グロブリン、MHC-I又はMHC-II構成要素、TCRベータ、並びにテトラスパニンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
開示される細胞外小胞には、治療用カーゴが更に担持されてもよく、ここで、細胞外小胞が標的細胞に薬剤を送達する。好適な治療用カーゴとして、治療薬(例えば、小分子薬物)、治療用タンパク質、及び治療用核酸(例えば、治療用RNA)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、開示される細胞外小胞は、治療用RNA(本明細書では「カーゴRNA」とも称される)を含む。例えば、いくつかの実施形態では、細胞標的化モチーフを含有する融合タンパク質はまた、細胞外小胞が細胞から分泌される前に、カーゴRNAを細胞外小胞にパッケージングするためにカーゴRNAに存在する1つ以上のRNAモチーフに結合するRNAドメイン(例えば、融合タンパク質の細胞質C末端)を含む。そのため、融合タンパク質は、「細胞標的タンパク質」及び「パッケージタンパク質」の両方として機能し得る。いくつかの実施形態では、パッケージタンパク質は、細胞外小胞担持タンパク質又は「EV担持タンパク質」と称され得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、カーゴRNAは、miRNA、shRNA、mRNA、ncRNA、sgRNA、又はそれらの任意の組み合わせである。開示される細胞外小胞のカーゴRNAは、任意の好適な長さのものであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、カーゴRNAは、少なくとも約10nt、20nt、30nt、40nt、50nt、100nt、200nt、500nt、1000nt、2000nt、5000nt、又はそれ以上のヌクレオチド長を有し得る。他の実施形態では、カーゴRNAは、約5000nt、2000nt、1000nt、500nt、200nt、100nt、50nt、40nt、30nt、20nt、又は10nt以下のヌクレオチド長を有し得る。なお更なる実施形態では、カーゴRNAは、これらの想定されるヌクレオチド長の範囲内のヌクレオチド長、例えば、約10nt~5000ntの範囲又は他の範囲のヌクレオチド長を有し得る。開示される細胞外小胞のカーゴRNAは、比較的長いものであってもよく、例えば、カーゴRNAは、mRNA又は別の比較的長いRNAを含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、治療用カーゴは、細胞によって分泌された後にEVに担持される膜透過性薬理学的化合物である。開示される方法は、臨床的に関連する親油性化合物及び他の膜透過性化合物をEVに担持させるために適用され得る。いくつかの実施形態では、治療用カーゴは、濃度勾配を介した拡散によってEVに担持される。
【0047】
いくつかの実施形態では、治療用カーゴは、抗腫瘍剤である。いくつかの実施形態では、治療用カーゴは、トラベクチジン、ルルビネクテジン(TAM枯渇)、ペキシダルチニブ、パクリタキセル、ドセタキセルゾレドロン酸(M1に向かって再分極)、ドキソルビシン及びラパチニブ、IL-6、IL-12、IL-23、TNFα(炎症促進性媒介物質)、抗CD47(例えば、Hu5F9-G4 mAb、CC-90002 mAb、SRF231 mAb、TTI-62)、抗SIRPα(例えば、MY-1)、抗CSF-1R(例えば、RG7155、FPA008、BLZ945、ARRY-382、JNJ-40346527、PLX3397)、抗CSF1(例えば、MCS110)、PD-1/PD-L1阻害剤、抗CD40(例えば、CP-870,893、APX005M、RO7009789)、PI3K阻害剤(例えば、IPI549)、又は抗CD204(例えば、免疫毒素)である。
【0048】
本明細書では、開示されるEVを使用するための方法も企図される。例えば、開示される細胞外小胞は、開示される治療用カーゴを標的TAMに送達するために使用されてもよく、本方法は、標的TAMを開示されるEVと接触させることを含む。したがって、本明細書では、対象においてがんを治療する方法であって、本明細書に開示されるカーゴ担持肺標的化EVを含有する、治療有効量の組成物を対象に投与することを含む方法が開示される。いくつかの実施形態では、がんは、卵巣がん腫、肺がん腫、乳がん、黒色腫、白血病、肉腫、神経線維腫、急性骨髄性白血病、前立腺がん、膵臓がん、骨転移、神経膠芽腫、腎臓がん、神経芽細胞腫、及び大腸がんである。
【0049】
開示されるEVは、腫瘍を治療するための医薬組成物の一部として製剤化されてもよく、医薬組成物は、カーゴを標的腫瘍に送達するためにそれを必要とする患者に投与されてもよい。
【0050】
開示されるEVは、任意の好適な手段によって対象に投与され得る。ヒト又は動物対象への投与は、非経口、筋肉内、脳内、血管内、皮下、又は経皮投与から選択され得る。典型的には、送達方法は、注射によるものである。好ましくは、注射は、筋肉内又は血管内(例えば、静脈内)である。医師は、各特定の患者に必要な投与経路を決定することができるであろう。
【0051】
EVは、好ましくは、組成物として送達される。組成物は、非経口、筋肉内、脳内、血管内(静脈内を含む)、皮下、又は経皮投与のために製剤化され得る。非経口投与のための組成物には、緩衝剤、希釈剤、及び他の好適な添加剤も含有し得る滅菌水溶液が含まれ得る。EVは、EVに加えて、薬学的に許容される担体、増粘剤、希釈剤、緩衝液、防腐剤、及び他の薬学的に許容される担体又は賦形剤などを含み得る医薬組成物中で製剤化され得る。
【0052】
非経口投与は、概して、皮下、筋肉内、又は静脈内などの注射によって特徴付けられる。非経口投与のための製剤には、注射の準備ができている滅菌溶液、皮下錠剤を含む、使用直前に溶媒と組み合わせる準備ができている凍結乾燥粉末などの滅菌乾燥可溶性製品、注射の準備ができている滅菌懸濁液、使用直前にビヒクルと組み合わせる準備ができている滅菌乾燥不溶性製品、及び滅菌エマルジョンが含まれる。溶液は、水性又は非水性のいずれかであり得る。
【0053】
静脈内投与する場合、好適な担体としては、生理食塩水又はリン酸緩衝食塩水(PBS)、及びグルコース、ポリエチレングリコール、及びポリプロピレングリコールなどの増粘剤及び可溶化剤を含有する溶液、並びにそれらの混合物が挙げられる。非経口製剤で使用される薬学的に許容される担体としては、水性ビヒクル、非水性ビヒクル、抗菌剤、等張剤、緩衝液、抗酸化剤、局所麻酔剤、懸濁剤及び分散剤、乳化剤、封鎖剤又はキレート剤、並びに他の薬学的に許容される物質が挙げられる。水性ビヒクルの例としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張性デキストロース注射液、滅菌水注射液、デキストロース及び乳酸リンゲル注射液が挙げられる。非水性非経口ビヒクルには、植物由来の固定油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、及びピーナッツ油が含まれる。フェノール又はクレゾール、水銀、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチル及びプロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、チメロサール、塩化ベンザルコニウム及び塩化ベンゼトニウムを含む、静菌濃度又は静真菌濃度の抗菌剤が、複数回用量容器に包装された非経口製剤に添加されなければならない。等張剤としては、塩化ナトリウム及びデキストロースが挙げられる。緩衝液としては、リン酸塩及びクエン酸塩が挙げられる。抗酸化剤としては、重硫酸ナトリウムが挙げられる。局所麻酔剤には、プロカイン塩酸塩が含まれる。懸濁剤及び分散剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0054】
乳化剤としては、ポリソルベート80(TWEEN(登録商標)80)が挙げられる。金属イオンの封鎖剤又はキレート剤としては、EDTAが挙げられる。薬学的担体はまた、水混和性ビヒクルのためのエチルアルコール、ポリエチレングリコール、及びプロピレングリコール、並びにpH調整のための水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸、又は乳酸を含む。薬学的に活性な化合物の濃度は、注射により所望の薬理学的効果を産生するための有効量が提供されるように調節される。正確な用量は、当該技術分野で知られているように、患者又は動物の年齢、体重、及び状態に依存する。
【0055】
単位用量の非経口製剤は、アンプル、バイアル、又は針を備えた注射器にパッケージングされ得る。非経口投与のための全ての製剤は、当該技術分野で既知であり、実施されるように、無菌である必要がある。
【0056】
治療有効量の組成物が投与される。用量は、様々なパラメータに従って、特に、治療される患者の状態の重症度、年齢、及び体重、投与経路、並びに必要なレジメンに従って決定され得る。医師は、任意の特定の患者に必要な投与経路及び投薬量を決定することができるであろう。最適な投薬量は、個々の構築物の相対的な効力に応じて変動し得、概して、インビトロ及びインビボ動物モデルで有効であることが見出されるEC50に基づいて推定され得る。概して、投薬量は、体重1kg当たり0.01mg~100mg/kgである。典型的な1日用量は、特定の構築物の効力、治療される対象の年齢、体重及び状態、疾患の重症度、並びに投与の頻度及び経路に従って、体重のkg当たり約0.1~50mg、好ましくは約0.1mg/kg~10mg/kgである。投与が筋肉内注射によるものであるか、又は全身(静脈内又は皮下)注射によるものであるかに応じて、異なる投薬量の構築物が投与され得る。
【0057】
好ましくは、単回筋肉内注射の用量は、約5~20μgの範囲にある。好ましくは、単回又は複数回の全身注射の用量は、体重の10~100mg/kgの範囲にある。
【0058】
構築物のクリアランス(及び任意の標的化された分子の分解)により、患者は、例えば、毎日、毎週、毎月、又は毎年1回以上、繰り返し治療されなければならない場合がある。当業者は、体液又は組織中の測定された滞留時間及び構築物の濃度に基づいて、投薬の反復率を容易に推定することができる。治療が成功した後、患者に維持療法を受けてもらうことが望ましい場合があり、構築物は、1日1回以上~20年に1回、体重1kg当たり0.01mg/kg~100mg/kgの範囲の維持用量で投与される。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を記載してきた。それにもかかわらず、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、種々の変更が行われ得ることを理解されたい。したがって、他の実施形態は、以下の特許請求の範囲の範囲内である。
【0060】
別段定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、開示される発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に引用される刊行物及びそれらが引用する物質は、参照により具体的に本明細書に組み込まれる。
【0061】
当業者は、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、又は確認することができるであろう。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】