(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】グラフェン粉末、その調製方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
C01B 32/184 20170101AFI20240326BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240326BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C01B32/184
H01M4/62 Z
H01B1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564534
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 CN2021120924
(87)【国際公開番号】W WO2022222380
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】202110438129.0
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503191287
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】509128052
【氏名又は名称】中国石油化工股▲ふん▼有限公司上海石油化工研究院
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI RESEARCH INSTITUTE OF PETROCHEMICAL TECHNOLOGY SINOPEC
【住所又は居所原語表記】NO.1658 PUDONG BEI ROAD,PUDONG NEW AREA,SHANGHAI 201208,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】孫賽
(72)【発明者】
【氏名】張絲雨
(72)【発明者】
【氏名】董文▲チェン▼
(72)【発明者】
【氏名】高煥新
【テーマコード(参考)】
4G146
5G301
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC07A
4G146AC07B
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4G146AC20B
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4G146BB06
4G146BC28
5G301BA10
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA17
5H050DA10
5H050EA08
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5H050GA10
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5H050HA01
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5H050HA07
5H050HA08
5H050HA14
5H050HA15
5H050HA17
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、グラフェン材料に関する。グラフェン粉末、その調製方法および使用が開示される。グラフェン粉末は、グラフェンシートの積層体である。該グラフェン粉末のラマンスペクトルにおいて、ピーク高さがそれぞれID、IGであるDピークおよびGピークが存在し、ID/IGが0.10未満である。本開示のグラフェン粉末は、導電性複合材料、防食塗料、および放熱複合材料に適用することができ、特に、リチウムイオン電池に使用した場合、有意に、電極の内部抵抗を低減し、電池の安定性を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンシートの積層体であるグラフェン粉末であって、該グラフェン粉末のラマンスペクトルにおいて、ピーク高さがそれぞれI
D、I
GであるDピークおよびGピークを含み、I
D/I
Gが0.10以下、好ましくは0.01~0.10、さらに好ましくは0.03~0.10である、グラフェン粉末。
【請求項2】
前記グラフェン粉末中に空隙が存在し、好ましくは、前記グラフェン粉末の粒径が15~35μmである、請求項1に記載のグラフェン粉末。
【請求項3】
前記グラフェン粉末の質量を基準として、前記グラフェン粉末は、炭素含有率が99.50%以上、好ましくは99.80~99.95%であり、酸素含有率が300ppm以下である、請求項1に記載のグラフェン粉末。
【請求項4】
前記グラフェン粉末は、
比表面積が50~300m
2/g、好ましくは100~250m
2/gであり、または、
タップ密度が0.02~0.04g/cm
3であり、または、
導電率が500~5000S/cm、好ましくは1500~4000S/cm、さらに好ましくは2000~3500S/cmである、請求項1に記載のグラフェン粉末。
【請求項5】
前記グラフェンシートが1~10層のグラフェンを含み、
好ましくは、前記グラフェンシートの中央粒径が5~15μm、より好ましくは8~15μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のグラフェン粉末。
【請求項6】
前記グラフェンシートのラマンスペクトルにおいて、ピーク高さがそれぞれI
D、I
GであるDピークおよびGピークを含み、I
D/I
Gが0.10以下、好ましくは0.01~0.10、さらに好ましくは0.03~0.10である、請求項1~4のいずれか1項に記載のグラフェン粉末。
【請求項7】
前記グラフェンシートを空気雰囲気下で熱処理する場合、熱分解開始温度が600℃以上、好ましくは700℃以上であり、または、
前記グラフェンシートを空気雰囲気下、800℃で熱処理する場合、グラフェンシートの熱損失率が10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のグラフェン粉末。
【請求項8】
前記グラフェンシートの導電率が500~5000S/cm、好ましくは1500~4000S/cm、さらに好ましくは2000~3500S/cmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のグラフェン粉末。
【請求項9】
(1)膨張性黒鉛を予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得る工程;
(2)工程(1)で得られた予備膨張黒鉛、湿潤剤および溶媒を混合した後、得られた混合物を、第1の高圧均質化および第2の高圧均質化に供し、グラフェン粉末を含むスラリーを得る工程、
ここで、前記第2の高圧均質化の圧力が前記第1の高圧均質化の圧力よりも10~20MPa高く;
(3)工程(2)で得られたグラフェン粉末を含むスラリーを乾燥させ、グラフェン粉末を得る工程を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のグラフェン粉末を調製する方法。
【請求項10】
工程(1)で得られた予備膨張黒鉛は、予備膨張前の膨張性黒鉛と比較して、膨張率が200~300倍であり、
好ましくは、工程(1)の予備膨張は、膨張性黒鉛を800~950℃に加熱する工程、膨張性黒鉛を10~60秒間膨張化させて、予備膨張黒鉛を得る工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(2)において、第1の高圧均質化は、圧力が30~40MPaであり、時間が20~60分間であり、第2の高圧均質化は、圧力が40~50MPaであり、時間が10~30分間である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
工程(2)において、前記湿潤剤が脂肪アミンポリオキシエチレンエーテルであり、好ましくは、前記脂肪アミンポリオキシエチレンエーテルのHLB値が12以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
工程(1)で得られた予備膨張黒鉛と湿潤剤とを、工程(2)において1:0.01~0.1の質量比で供給する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
工程(3)において、乾燥が噴霧乾燥または凍結乾燥であり、
前記噴霧乾燥の条件は、空気入口温度が300~350℃であり、空気入口温度が空気出口温度より200~250℃高く、空気出口温度が100~130℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転速度が20000~30000rpmであり、
凍結乾燥の条件は、冷却トラップ温度が-65℃以下、好ましくは-75~-70℃であり、棚仕切り板の温度が-55℃以下、好ましくは-65~-60℃であり、昇温速度が0.1~0.5℃/分であり、棚仕切り板の温度から0℃まで昇温するための時間が24時間以上、好ましくは26~30時間であり、真空度が10Pa以下、好ましくは0.5~5Paである、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか1項に記載のグラフェン粉末、または、請求項9~14のいずれか1項に記載の方法により調製されたグラフェン粉末の、導電性複合材料、防食塗料または放熱複合材料における使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本開示は、グラフェン材料に関し、特にグラフェン粉末、並びにその調製方法および使用に関する。
【0002】
〔背景技術〕
グラフェンは、sp2混成炭素原子によって連結された単層二次元ハニカム格子構造を有する炭素材料である。グラフェンは超高導電性(電子移動度10000cm2/(V・s))、超高熱伝導性(約5000W/(m・K))および大きい比表面積を有し得る。グラフェンは、電子、航空宇宙、軍事、新エネルギーなどの分野に広く応用できる可能性がある。グラフェンは、現代の電子技術に新たな革命を起こし得ると期待されている。長年の研究開発の結果、グラフェンの大規模生産技術、加工装置および製品品質において大きな成果が得られた。しかし、解決すべき重要な技術課題はまだ多くある。例えば、現在多くの企業が採用しているグラフェン粉末の調製方法は、なお酸化還元法であり、該方法では、多くの強酸および酸化性物質を含む可能性があり、深刻な汚染問題を引き起こしている。同時に、製造されたグラフェン粉末には多数の欠陥が含まれ、製品の品質が制御できないため、下流への応用が制限され、グラフェンの工業化が著しく限定される。
【0003】
CN102838110Bには、マグネシウム粉末と炭酸塩粉末との混合粉末を燃焼および合成に供してグラフェン粉末を得ることを含むプロセスが提案されている。このプロセスは操作が簡単であり、連続生産が可能である。しかし、このプロセスは高純度のマグネシウム粉末を必要とする。グラフェンは炭酸塩を炭素源としているため、経済性に劣る。さらに、グラフェン粉末は結晶度および品質が低い場合があるため、下流への応用がある程度制限される。
【0004】
CN107539973Bには、黒鉛、インターカレーション膨張剤およびクロロスルホン酸を原料として、超音波剥離作用によりグラフェンスラリーを得て、凍結乾燥してグラフェン粉末を得ることを含むプロセスが提案されている。このプロセスで得られたグラフェンは、完全な結晶構造を有し得る。このプロセスは操作が簡単であり、コストが低い。しかし、超音波剥離は効率が低く、かつ処理の均一性が悪い場合があり、製品から炭素イオン以外の不純物を除去することが困難であるため、大規模な使用を実現しにくい。
【0005】
CN105540575Aは、高圧ホモジナイザーを用いてグラフェンを剥離して調製する方法であって、黒鉛、インターカレーション剤および分散剤を原料として、高圧ホモジナイザーでグラフェン粉末を得る方法を開示している。この方法は、グラフェンの収率を高くすることができる。しかし、この方法は複雑であり、大量の有機溶媒を必要とし、環境を汚染する。同時に、溶液中のインターカレーション剤がグラフェン生成物中に残留することにより、精製が困難となり、グラフェン生成物の品質に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、この生成物の、リチウムイオン電池などの下流事業への大規模な応用は困難であり得る。
【0006】
したがって、分散性能に優れ、簡単に調製でき、コストが安価で、品質の高いグラフェン粉末を開発することは、本分野の技術的課題である。
【0007】
〔発明の概要〕
本発明の目的は、従来技術におけるグラフェン粉末の導電率が低いこと、溶媒への分散が不均一であること、凝集しやすいこと、調製の複雑さなどの課題の1つ以上を解決することである。そのため、本開示はグラフェン粉末、その調製方法および使用を提供する。本開示のグラフェン粉末は、欠陥が少なく、導電性が高いこと等の利点を有し、導電性複合材料、防食塗料、放熱複合材料に適用することができる。特に、リチウムイオン電池に使用した場合、電極の内部抵抗を大幅に低減することができ、任意の電流レートにおける電池の安定性を向上させることができる。
【0008】
本開示の第1の態様では、グラフェンシートの積層体であるグラフェン粉末であって、該グラフェン粉末のラマンスペクトルにおいて、ピーク高さがそれぞれID、IGであるDピークおよびGピークを含み、ID/IGは0.10以下であるグラフェン粉末が提供される。
【0009】
本開示の第2の態様では、
(1)膨張性黒鉛を予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得る工程;
(2)工程(1)で得られた予備膨張黒鉛、湿潤剤および溶媒を混合した後、得られた混合物を、第1の高圧均質化および第2の高圧均質化に供し、グラフェン粉末を含むスラリーを得る工程、
ここで、前記第2の高圧均質化の圧力が前記第1の高圧均質化の圧力よりも10~20MPa高く;
(3)工程(2)で得られたグラフェン粉末を含むスラリーを乾燥させ、グラフェン粉末を得る工程を含む、前記グラフェン粉末を調製する方法が提供される。
【0010】
本開示の第3の態様では、上記のグラフェン粉末または上記の方法により調製されたグラフェン粉末の、導電性複合材料における使用が提供される。
【0011】
本開示の第4の態様では、上記のグラフェン粉末または上記の方法により調製されたグラフェン粉末の、防食塗料における使用が提供される。
【0012】
本開示の第5の態様では、上記のグラフェン粉末または上記の方法により調製されたグラフェン粉末の、放熱複合材料における使用が提供される。
【0013】
従来技術と比較して、本発明は以下の技術的効果を奏する。
(1)本開示のグラフェン粉末は、グラフェンシートを積層してなる。好ましくは、グラフェンシートは、積層体中に空隙(voids)を残して緩く積層される。したがって、本開示のグラフェン粉末は、溶媒との接触面が大きく、水性/油性溶媒の両方に対して良好な分散性を有し得る。使用時、積層体は、対応するグラフェンシートに分散され得る。本開示のグラフェン粉末および分散によって形成される対応するグラフェンシートは、純度が高く、欠陥が少なく、導電率が高いなどの特性を有し得る。本開示のグラフェン粉末は、導電性複合材料、防食塗料(特に、エポキシ樹脂防食塗料)、放熱複合材料などの分野で好適に使用することができる。例えば、本開示のグラフェン粉末が防食塗料に使用される場合、亜鉛含有量を有意に低減させることができるが、塗料の防食性能を向上させることができる。本開示のグラフェン粉末が放熱塗料に適用される場合、得られる放熱フィルムのX方向およびY方向の熱伝導率を有意に向上させることができる。本開示のグラフェン粉末は、特にリチウム電池の導電剤として好適に使用することができる。本開示のグラフェン粉末に含まれるグラフェンシートは、完全であり、半径方向のサイズが大きい。そのため、本開示のグラフェンシートを導電剤として使用する場合、分散された大きなサイズのグラフェンシートは、グラフェンシートと電極活物質との間の接触面積を大きくすることができる。これにより、電極活物質に多くの電子経路を提供することができ、電極の内部における電子の平面伝導のためのネットワークの形成を容易にすることができる。前記グラフェンシートは、電極の内部抵抗を低減させることができ、電池のレート性能と安定性とを向上させることができる。
(2)本開示の調製方法は、黒鉛を層ごとに剥離する際に、圧力を段階的に上昇させた均質化を採用し、任意に特定の湿潤剤を選択し、任意に黒鉛を膨張させるための適切な膨張係数を選択する。グラフェンシート中のグラフェンの格子整合性は、より良好に保たれる。そのため、得られたグラフェン粉末では、グラフェンシートが比較的完全であり、半径方向のサイズがより大きく、厚みがより薄く、純度がより高く、欠陥が少なく、導電性がより高い。さらに、本発明のグラフェン粉末の調製方法は、酸化剤、強酸、強塩基などの試薬を使用する必要がなく、環境に優しい。
【0014】
〔図面の簡単な説明〕
〔
図1〕実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のSEM像である。
〔
図2〕実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のTEM像である。
〔
図3〕実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のHR-TEM像である。
〔
図4〕実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のラマンスペクトルである。
〔
図5〕実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のXRDスペクトルである。
〔
図6〕実施例2で得られたグラフェン粉末G-2のSEM像である。
〔
図7〕実施例2で得られたグラフェン粉末G-2のHR-TEM像である。
〔
図8〕比較例1で得られたグラフェン粉末DG-1のSEM像である。
〔
図9〕実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を負極導電剤として、シリコン-炭素材料を負極活物質として含有する負極を有するコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
〔
図10〕は、比較例4において、Super Pを負極導電剤として、シリコン-炭素材料を負極活物質として含有する負極を有するコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
〔
図11〕実施例1の負極導電剤としてグラフェン粉末G-1を用いた負極のSEM像(上面図)である。
〔
図12〕比較例4の負極導電剤として市販のSuper Pを用いた負極のSEM像(上面図)である。
〔
図13〕実施例5において、炭素鋼基材上の防食塗料に切り込み傷をつけた中性塩水噴霧試験の結果を示しており、左は従来の防食塗料(亜鉛を80%含有)の結果、右はグラフェン粉末を使用した塗料(亜鉛を30%含有)の結果である。
〔
図14〕比較例1で得られたグラフェン粉末DG-1のHR-TEM像である。
〔
図15〕比較例1で得られたグラフェン粉末DG-1のラマンスペクトルである。
〔
図16〕実施例4で得られたグラフェン粉末G-4のラマンスペクトルである。
〔
図17〕実施例4で得られたグラフェン粉末G-4を負極導電剤として、シリコン-炭素材料を負極活物質として用いたコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
〔
図18〕比較例3で得られたグラフェン粉末DG-3を負極導電剤として、シリコン-炭素材料を負極活物質として用いたコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
〔
図19〕異なるグラフェン材料サンプルの空気雰囲気下での熱損失曲線を示し、1は実施例1で得られたグラフェン粉末G-1、2は市販のグラフェン粉末(物理的方法で調製)、3は市販の酸化グラフェン、4は市販の還元型酸化グラフェンである。
〔
図20〕市販のグラフェン粉末(物理的方法で調製)のSEM像である。
〔
図21〕市販の酸化グラフェンのSEM像である。
〔
図22〕市販の還元型酸化グラフェンのSEM像である。
【0015】
〔発明を実施するための形態〕
本明細書に開示された範囲の端点および任意の値は、正確な範囲または値に限定されるものではなく、それらの範囲または値に近い値を包含することを理解すべきである。値の範囲については、各範囲の端点値間、各範囲の端点値と特定点値との間、および特定点値間の組み合わせにより、1つまたは複数の新たな数値範囲を得ることができ、これらの新たな数値範囲も、本明細書で具体的に開示されているものとみなす。
【0016】
実施例を除き、本明細書中のすべての数値は、数値の前に「約」が実際に現れるか否かにかかわらず、全ての場合に「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。
【0017】
本明細書では、「グラフェン」という用語は、ハニカム構造に積層したsp2混成炭素原子の単層から構成される二次元材料を指す。グラフェンは通常、機械的剥離、酸化還元、SiCエピタキシャル成長などによって調製される。そのため、「グラフェン」という用語には、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェンなども含まれる。
【0018】
本明細書において、「グラフェンシート」という用語は、グラフェンの層状集合体を意味し、1層または複数層のグラフェンを含み得る。したがって、グラフェンシートには、単層グラフェン(単にグラフェンと呼ぶこともある)、二層グラフェン、および、3~10層のグラフェンを含む低層グラフェンが含まれる。一般に、層数が10以下の場合、グラフェンの層状集合体はグラフェン(単層グラフェン)と同様の特性を有すると考えられる。層数が10を超えると、グラフェンの層状集合体の特性は黒鉛に近くなる。グラフェンシートの厚さはナノスケールであり、他の2つの次元は通常ナノスケールよりも大きい。
【0019】
本明細書において、「膨張性黒鉛」という用語は、ワーム状の膨張黒鉛を形成するために使用できる黒鉛材料を指す。例えば、化学的または物理的手段(加熱など)により、黒鉛材料の黒鉛層がZ軸方向に沿って高い比率(例えば100~400倍の膨張率)で膨張し、ワーム状の膨張黒鉛が形成される。「膨張性黒鉛」と「黒鉛層間化合物」は同じ意味であり得る。
【0020】
本開示の一態様では、グラフェンシートの積層体であるグラフェン粉末であって、該グラフェン粉末のラマンスペクトルにおいて、ピーク高さがそれぞれID、IGであるDピークおよびGピークを含み、ID/IGが0.10以下であるグラフェン粉末が提供される。一変形例では、ID/IGは0.01~0.10であってもよく、好ましくは0.03~0.10であってもよく、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10などであるが、これらに限定されない。一変形例では、グラフェンシート間の空隙またはグラフェンシート内の空隙など、グラフェン粉末中に空隙(voids)が存在する。空隙が存在するということは、黒鉛層間の連結が破壊されていることを意味する。一変形例では、グラフェン粉末の粒径は15~35μmである。
【0021】
ラマン分光法は、炭素材料の分析に広く用いられている。グラフェン材料のラマンスペクトルは、主にG、D、およびG’の複数のピークから構成され得る。Gピークはグラフェンの主な特徴的ピークであり、sp2混成炭素原子の面内振動に起因する。Gピークは、グラフェンサンプル中のグラフェン層の数を効果的に反映する。Dピークは通常、グラフェンの無秩序な振動ピークとみなされており、グラフェンサンプル中の構造欠陥の評価に用いられる。G’ピークは2Dピークとしても知られ、2フォノン共鳴の2次ラマンピークであり、グラフェンサンプル中の炭素原子の中間層積層型を特徴づけるために用いられ得る。グラフェン粉末のラマンスペクトルにおいて、波長1250~1450cm-1の範囲にピーク高さIDのDピーク、波長1500~1700cm-1の範囲にピーク高さIGのGピーク、波長2600~2800cm-1の範囲にピーク高さI2Dの2Dピークが存在する。ラマン分光法は、グラフェン材料の欠陥を特徴付けることにおいて利点を有する。一般に、欠陥密度はID/IGに比例すると考えられている。グラフェン粉末のID/IGはより低いため、グラフェンの導電性複合材料中に欠陥がより少ないことが示される。
【0022】
グラフェン粉末の導電率は、500~5000S/cm、好ましくは1500~4000S/cm、さらに好ましくは2000~3500S/cmであり得、例えば、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
グラフェン粉末の比表面積は50~300m2/gであり得、好ましくは100~250m2/gであってもよい。
【0024】
グラフェン粉末のタップ密度は、0.02~0.04g/cm3であり得る。
【0025】
グラフェン粉末の質量を基準として、グラフェン粉末の炭素含有量は99.50%以上であり得、好ましくは99.80~99.95%であり得、酸素含有量が300ppm以下であってもよい。
【0026】
一実施形態では、グラフェンシートの積層体において、グラフェンシートは1~10層のグラフェンを含む。一変形例では、総厚は0.5~3.0nmである。一変形例では、グラフェンシートの積層体において、グラフェンシートは5~15μm、好ましくは8~15μmの中央粒径を有する。グラフェンシートの中央粒径は、グラフェンシートの最大次元の寸法を表す。上述したように、グラフェンシートはナノスケールの厚さを有し、他の2つの次元の寸法は通常ナノスケールよりも大きい。これに対応して、グラフェンシートの中央粒径は、長さ/幅(X-Y)方向の寸法を表す。
【0027】
グラフェンシートのラマンスペクトルにおいて、ピーク高さがそれぞれID、IGであるDピークおよびGピークが存在し、ID/IGが0.10以下であり得る。一変形例では、ID/IGは0.01~0.10であってもよく、好ましくは0.03~0.10であってもよく、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
グラフェンシートのラマンスペクトルでは、波長1250~1450cm-1の範囲にピーク高さIDのDピーク、波長1500~1700cm-1の範囲にピーク高さIGのGピーク、波長2600~2800cm-1の範囲にピーク高さI2Dの2Dピークが存在する。グラフェンシートのID/IGが低いため、グラフェンシート内には欠陥が少ないことが示される。
【0029】
熱重量分析において、グラフェンシートは以下の挙動を示す。空気雰囲気下でグラフェンシートを熱処理する場合、グラフェンシートの熱分解開始温度は600℃以上、好ましくは700℃以上である。一変形例では、空気雰囲気下、800℃で熱処理する場合、グラフェンシートの熱損失率は10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。ここで、熱損失率は、(熱処理前のグラフェンシートの重量-熱処理後のグラフェンシートの重量)/熱処理前のグラフェンシートの重量である。熱分解の開始温度は、グラフェン材料サンプルの不純物含有量と負の相関がある。この点に関しては、熱分解開始温度が高いほど、グラフェン材料サンプルの不純物含有量は少なくなる。熱損失率は、グラフェン材料サンプルの不純物含有量と正の相関がある。この点に関しては、熱損失率が小さいほど、グラフェン材料サンプルの不純物含有量は少なくなる。
【0030】
グラフェンシートの導電率は、500~5000S/cmであり得、好ましくは1500~4000S/cmであり得、さらに好ましくは2000~3500S/cmであり得、例えば、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、4000などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本開示の別の態様では、
(1)膨張性黒鉛を予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得る工程;
(2)工程(1)で得られた予備膨張黒鉛、湿潤剤および溶媒を混合した後、得られた混合物を第1の高圧均質化および第2の高圧均質化に供し、グラフェン粉末を含むスラリーを得る工程、
ここで、前記第2の高圧均質化の圧力が前記第1の高圧均質化の圧力よりも10~20MPa高く;
(3)工程(2)で得られたグラフェン粉末を含むスラリーを乾燥させ、グラフェン粉末を得る工程を含む、グラフェン粉末を調製する方法が提供される。
【0032】
一変形例では、膨張性黒鉛と比較して、工程(1)で得られた予備膨張黒鉛は膨張率が200~300倍である。
【0033】
好ましくは、工程(1)は、膨張性黒鉛を800~950℃に加熱する工程、膨張性黒鉛を10~60秒間膨張させて、予備膨張黒鉛を得る工程を含み得る。一変形例では、膨張性黒鉛は70~100メッシュの粒度を有し得る。
【0034】
一変形例では、工程(2)の湿潤剤は脂肪族アミンポリオキシエチレンエーテルである。好ましくは、脂肪族アミンポリオキシエチレンエーテルのHLB値は12以上であり得る。
【0035】
好ましくは、工程(1)で得られた予備膨張黒鉛と湿潤剤とを、工程(2)において1:0.01~0.1の質量比で供給する。溶媒は、水またはエタノールのうちの1種または2種以上であってよい。グラフェン粉末を含むスラリーは固形分含有量が0.5~5.0重量%であり得る。
【0036】
より好ましくは、工程(2)において、第1の高圧均質化の圧力が30~40MPaであり、時間が20~60分間である。第2の高圧均質化の圧力が40~50MPaであり、時間が10~30分間である。
【0037】
変形例では、工程(3)で得られたグラフェン粉末は、残留溶媒レベルが0.1重量%以下であり得る。
【0038】
好ましくは、工程(3)の乾燥は、噴霧乾燥または凍結乾燥である。一つの変形例では、噴霧乾燥の条件は、空気入口温度が300~350℃であり、空気入口温度が空気出口温度より200~250℃高く、空気出口温度が100~130℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転速度が20000~30000rpmである。一つの変形例では、凍結乾燥の条件は、冷却トラップ温度が-65℃以下、好ましくは-75~-70℃であり、棚仕切り板の温度が-55℃以下、好ましくは-65~-60℃であり、昇温速度が0.1~0.5℃/分であり、棚仕切り板の温度から0℃まで昇温するための時間が24時間以上、好ましくは26~30時間であり、真空度が10Pa以下、好ましくは0.5~5Paである。
【0039】
本開示のグラフェン粉末は、良好な分散性、高純度、欠陥の少なさ、高い導電性等の特徴を有する。本開示のグラフェン粉末は、導電性複合材料、防食塗料(特にエポキシ樹脂防食塗料)、放熱複合材料などの分野に好適に使用することができる。
【0040】
この点に関し、さらに、本開示の更なる態様では、本開示のグラフェン粉末の、導電性複合材料、防食塗料、特にエポキシ樹脂防食塗料、および放熱複合材料における使用が提供される。
【0041】
本開示のグラフェン粉末は、リチウムイオン電池に使用することができる。リチウムイオン電池は、当業者に周知の構造を有し得る。一般に、リチウムイオン電池は、負極、正極、セパレータ、および電解質を含み得る。セパレータは、正極と負極との間に配置され得る。正極は正極活物質を含み、負極は負極活物質を含む。正極活物質の具体的な組成は特に限定されない。正極活物質は、当該技術分野で一般的に使用されているリチウム含有正極活物質であってもよい。負極活物質の具体的な組成は特に限定されない。好ましくは、負極活物質は、シリコン-炭素負極材料である。本開示のグラフェン粉末は、負極活物質または正極活物質と組み合わせて、対応する電池電極において導電剤として使用することができる。
【0042】
セパレータは、ポリプロピレン微多孔フィルム、ポリエチレンマット、ガラス繊維マット、または超微細ガラス繊維紙など、当業者に公知でリチウムイオン電池に一般的に使用されている各種セパレータから選択することができる。
【0043】
電解質は、非水電解質など、従来の様々な電解質であってよい。非水電解質は、非水溶媒中の電解質リチウム塩によって形成される溶液である。当業者に知られている従来の非水電解質を使用することができる。例えば、電解質リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)およびヘキサフルオロケイ酸リチウム(LiSiF6)からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。非水溶媒は、直鎖エステル、環状エステル、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。直鎖エステルは、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)およびジプロピルカーボネート(DPC)からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。環状エステルは、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)およびビニレンカーボネート(VC)からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0044】
[構造および性能に関する試験]
本開示では、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、材料サンプルの形態を特徴づける。具体的には、走査型電子顕微鏡は、米国FEI社のTECNALG2F20(200kv)である。試験方法は、導電性テープを含むサンプル台にサンプルを直接押し付け、電子顕微鏡に挿入して観察する。観察倍率は8,000倍である。
【0045】
本開示では、材料サンプルの形態は、日本電子株式会社のJEM-2100透過電子顕微鏡(TEM、HR-TEM)を用いて特徴づけられる。試験方法は、サンプルを銅製の支持網の上に置き、電子顕微鏡に挿入して観察する。観察倍率は17,000倍と380,000倍である。
【0046】
本開示では、グラフェンシートの中央粒径は、Malvern Panalytical社のレーザー粒度分析計MS-3000を用いることによって、動的光散乱により特徴づけられる。試験は、0.01mg/mlの濃度になるように脱イオン水でサンプルを分散させ、10分間の超音波処理後に試験に供することによって行われる。分析装置の遮光範囲は5~20%に設定されている。
【0047】
本開示では、日本理学社製のX線回折装置D/max-2200/PCを用いて、材料サンプルのXRD分析を行った。試験条件は、2θ試験範囲10~70°、走査速度6°/分、管電圧40KV、電流40mA、およびCu-Kα線源を含む。
【0048】
本開示では、材料サンプルの比表面積は、米国Micromeritics社のASAP2010比表面積・細孔分布試験機を用いて測定する。試験条件は、温度77K、および窒素雰囲気を含む。
【0049】
本開示では、熱損失曲線は、米国Perkin-Elmer社のPyris1熱重量分析装置を用い、空気雰囲気下、加熱速度20℃/分で測定される。
【0050】
本開示では、ラマンスペクトルは、波長785nmのレーザーを励起光源とし、Invia/Reflrx Laser Micro-Ramanスペクトロメーターを用いて、スライド上に材料サンプルを置いて試験を行った。
【0051】
本開示では、膨張率は以下のように測定する。一定量の膨張性黒鉛を秤量し、メスシリンダーで膨張性黒鉛の体積を測定する。前述のように、膨張性黒鉛を予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得る。予備膨張黒鉛を室温まで冷却した後、メスシリンダーで予備膨張黒鉛の体積を検出する。膨張率は以下の式により算出される。
膨張率=(予備膨張黒鉛の体積-膨張性黒鉛の体積)/膨張性黒鉛の体積。
【0052】
本開示では、残留溶媒率は以下のように測定する。得られたグラフェン粉末1gをサンプルとし、60℃の真空オーブンで10時間乾燥させた後、サンプルの重量を測定する。残留溶媒率は、以下の式により算出される。
残留溶媒率%=(1-乾燥後のサンプルの重量(g))/1×100%。
【0053】
本開示では、Rico instrument technology Co., LTDの多機能タップ密度試験機FT-100Eを用いて、試験周波数200Hz、振動数5000回でタップ密度を測定する。
【0054】
本開示では、導電率は、Suzhou Jingge Electronic Co., Ltd..のST-2258C多機能デジタル4探針試験機を用いて測定する。サンプルは圧縮により調製する。具体的には、得られたグラフェン粉末のサンプルを10MPaの圧力で100μmの薄板状に圧縮し、試験機を用いて試験を行う。
【0055】
本開示では、酸素含有量および炭素含有量は、ThermoFisher社のFlashSmart-1120265元素分析計を用い、キャリアガスとしてHeガスを用い、注入量1mgで測定する。
【0056】
本発明では、組立てられたリチウムイオン電池の電気化学特性を武漢藍電電池試験システム(CT2001B)で測定する。測定条件は、電圧範囲0.005V~2V、および電流範囲0.05A~2Aを含む。各サンプルは10個のコイン電池を組み立て、同じ電圧および電流のもとで電池性能を測定する。その平均値を測定結果とする。
【0057】
本開示では、HG/T5573-2019に従って、米国Q-Lab社のQ-FOGサイクル腐食塩水噴霧試験機を用いて中性塩水噴霧試験を実施する。試験は、以下の工程で実施する:(5±0.5%)塩化ナトリウムを含有し、pHが6.5-7.2の生理食塩水を噴霧装置により噴霧し、噴霧した塩水を切り込みのある試験片に付着させる。1440時間後、表面の切り込みの腐食状態を観察する。切り込みの腐食距離を検出することにより防食効果を判定する。
【0058】
〔実施例〕
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0059】
以下の実施例および比較例において、室温は25℃である。
【0060】
以下の実施例および比較例において、膨張性黒鉛は、アラジン試薬(株)製のE-196403を用いた。湿潤剤は、Huntsman Chemical Trading Co., Ltd..のSurfonic T-10であった。
【0061】
〔実施例1〕
(1)膨張性黒鉛100g(75メッシュ)を900℃で20秒間予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得た。上述した試験により測定したところ、予備膨張黒鉛の膨張率は220倍であった。
【0062】
(2)工程(1)で得られた予備膨張黒鉛10g、湿潤剤(Surfonic T-10、HLB値12.4、脂肪族アミンポリオキシエチレンエーテル)0.25g、脱イオン水239.75gを高圧ホモジナイザーに加え、30MPaで30分間均質化した後、45MPaに昇圧して30分間均質化し、グラフェン粉末を含むスラリーを得た。
【0063】
(3)該スラリーを噴霧乾燥装置で乾燥させた。噴霧乾燥装置の空気入口温度は350℃であり、空気出口温度は100℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転数は20000rpmであった。出口で回収された粉末はグラフェン粉末G-1であった。
【0064】
図1は、実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のSEM像である。
図1からわかるように、G-1はグラフェンシートが積層して形成された構造であり、粒径は20~30μmであり、グラフェンシート間には空隙があった。
【0065】
図2は、実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のTEM像である。
図2からわかるように、グラフェンシートは積層した状態であり、
図1のSEM像から得られた結果と一致していた。このことは、G-1がグラフェンシートを積層したものであることを示している。
【0066】
図3は、実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のHR-TEM像である。
図3に格子縞で示すように、G-1中のグラフェンシートは、4~6層のグラフェンを有する少層グラフェンであり、その厚さは約1.2nm~1.9nmであった。グラフェンシートの中央粒径は8.5μmであった。
【0067】
図4は、実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のラマンスペクトルである。
図4からわかるように、このグラフェン粉末のDピークは1354cm
-1であり、Gピークは1574cm
-1であり、そのピーク高さの比(I
D/I
G)は0.09であり、G-1の欠陥が少ないことが示された。さらに、G-1はまた、2709cm
-1に顕著な2Dピークを示し、G-1が少層グラフェン積層体であることが確認された。これは
図3の結果と一致していた。
【0068】
図5はG-1のXRDスペクトルである。26.63°に顕著な回折ピークが現れたのみで、不純物ピークは見られなかった。これは、G-1が酸化または不純物元素のドーピングによって形成された不純物相を含まないことを示している。
【0069】
元素分析装置により測定された結果、実施例1で得られたG-1の炭素含有量は99.95重量%であり、酸素含有量は140ppmであった。
【0070】
上述した試験で測定したところ、G-1の熱分解開始温度は640℃であり、800℃における熱損失率は6.5%であり、導電率は3200S/cmであり、タップ密度は0.028g/cm3であり、比表面積は180m2/gであり、溶媒残存率は0.1%であった。
【0071】
実施例1で得られたグラフェン粉末G-1の熱損失曲線を
図19に示し、これを1とする。比較のため、市販品を比較サンプルとし、その熱損失データとSEM画像とを取得し、結果を
図19~
図22に示す。比較サンプル2(図中、単に2と記す)は、Shanghai carbon source valley new material technology co., LTD..のグラフェン粉末(物理的方法で調製したグラフェン粉末)である。比較サンプル3(図中、単に3と記す)は常州第六元素材料科技有限公司のSE-3521(酸化グラフェン粉末)である。比較サンプル4(図中、単に4と記す)は、常州第六元素材料科技有限公司のSE-1430(酸化還元型グラフェン粉末)である。
図19に示すように、比較サンプル2は、熱分解開始温度が560℃であり、800℃における熱損失率が57%であった。比較サンプル3は、熱分解開始温度が420℃であり、800℃における熱損失率が68%であった。比較サンプル4は、熱分解開始温度が50℃であり、800℃における熱損失率は98%であった。
【0072】
図20は、比較サンプル2のSEM像である。
図20に示すように、該比較サンプルのグラフェンシートは層数が多く、グラフェンシート間に空隙がなく、強固に結合していた。このような構造では、溶媒が浸潤しにくくなり、グラフェンの分散が困難になる。
【0073】
図21は、比較サンプル3のSEM像である。
図21に示すように、該比較サンプルは、グラフェン材料シートが複数枚積層して形成されているが、シートの厚みが大きく、また、比較サンプルには球状粒子の不純物が多く含まれており、純度が低い。
【0074】
図22は比較サンプル4のSEM像である。
図22に示すように、該比較サンプルは、同様にグラフェン材料シートが複数枚積層して形成されているが、シートの厚みが大きく、比較サンプルには球状粒子の不純物が多く含まれており、純度が低い。
【0075】
〔組み立て工程〕
実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を導電剤としてリチウムイオン電池の負極に添加した。このリチウムイオン電池は、正極が金属リチウムシート、セパレータがポリプロピレン微多孔フィルム、電解質が1mol/Lヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)溶液(溶媒として炭酸ビニルと炭酸ジエチルの体積比が3:7である混合物を使用した)である。負極は、実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を導電剤として含み、かつ、設計容量500mAhg-1のシリコン-炭素負極活物質を含み、導電剤とシリコン-炭素負極活物質との質量比は1:8であった。CR2016コイン電池を組み立てた。
【0076】
組み立てたコイン電池を上記の試験に供し、異なる電流レートにおけるサイクル性能を特徴づけた。その結果を
図9に示す。
【0077】
〔実施例2〕
(1)膨張性黒鉛100g(75メッシュ)を900℃で20秒間予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得た。上述した試験により測定したところ、予備膨張黒鉛の膨張率は220倍であった。
【0078】
(2)工程(1)で得られた予備膨張黒鉛10g、湿潤剤(Surfonic T-10、HLB値12.4)0.25g、脱イオン水239.75gを高圧ホモジナイザーに加え、30MPaで30分間均質化した後、45MPaに昇圧して30分間均質化し、グラフェン粉末を含むスラリーを得た。
【0079】
(3)該スラリーを凍結乾燥装置で乾燥させた。冷却トラップの温度は-75℃であり、棚仕切り板の温度は-60℃であり、昇温速度が0.5℃/分であり、温度は、-60℃、-50℃、-40℃、-20℃、-10℃、0℃でそれぞれ、12時間、4時間、4時間、2時間、2時間、2時間保った。処理中、棚内の真空度を常に5Paに維持した。棚仕切り板の温度が室温に戻った後、得られた生成物を取り出し、G-2と命名した。
【0080】
図6は、実施例2で得られたグラフェン粉末G-2のSEM像である。
図6からわかるように、G-2はグラフェンシートが積層して形成された構造であり、粒径は22~25μmであり、グラフェンシート間には空隙があった。
【0081】
図7は、実施例2で得られたグラフェン粉末G-2のHR-TEM像である。
図7に格子縞で示すように、G-2中のグラフェンシートは、5~8層のグラフェンを有する少層グラフェンであり、その厚さは約1.5nm~2.4nmであった。上述した試験で測定したところ、グラフェンシートの中央粒径は6.7μmであった。生成物G-2のDピークは1346cm
-1であり、Gピークは1569cm
-1であり、そのピーク高さの比(I
D/I
G)は0.08であることから、G-2の欠陥が少ないことが示された。さらに、G-2は2692cm
-1にも顕著な2Dピークが現れたため、G-2が少層グラフェン積層体であることが確認された。
【0082】
さらに、上述した試験により、G-2のXRDスペクトルが得られた。その結果、26.63°に顕著な回折ピークが現れるのみで、不純物ピークは見られなかった。これは、G-2が酸化または不純物元素のドーピングによって形成された不純物相を含まないことを示している。
【0083】
上述した試験で測定したところ、G-2の炭素含有量は99.95重量%であり、酸素含有量は200ppmであり、熱分解開始温度は640℃であり、800℃における熱損失率は7%であり、導電率は2000S/cmであり、タップ密度は0.021g/cm3であり、比表面積は220m2/gであり、溶剤残存率は0.1%であった。
【0084】
〔実施例3〕
(1)膨張性黒鉛100g(75メッシュ)を900℃で40秒間予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得た。前記の試験により測定したところ、予備膨張黒鉛の膨張率は300倍であった。
【0085】
(2)予備膨張黒鉛10g、湿潤剤(Surfonic T-10、HLB値12.4)0.25g、脱イオン水239.75gを高圧ホモジナイザーに加え、30MPaで30分間均質化した後、45MPaに昇圧して30分間均質化し、グラフェン粉末を含むスラリーを得た。
【0086】
(3)該スラリーを噴霧乾燥装置で乾燥させた。噴霧乾燥装置の空気入口温度は350℃であり、空気出口温度は100℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転数は20000rpmであった。出口で回収された粉末はグラフェン粉末G-3であった。
【0087】
上述した試験により、G-3のSEM像とXRDスペクトルとが得られた。G-3のSEM像からわかるように、G-3はグラフェンシートが積層して形成された構造であり、粒径は20~25μmであった。グラフェンシート間には空隙があった。HR-TEMの結果からわかるように、G-3のグラフェンシートは、4~6層のグラフェンを有する少層グラフェンであり、その厚さは約1.2nm~1.8nmであった。動的光散乱のデータからわかるように、グラフェンシートの粒径の中央値は10μmであった。ラマンスペクトルに示されるように、G-3のDピークは1351cm-1であり、Gピークは1572cm-1であり、そのピーク高さの比(ID/IG)は0.09であり、G-3の欠陥が少ないことが示された。さらに、G-3はまた、2702cm-1に顕著な2Dピークを示し、G-3が少層グラフェン積層体であることが確認された。さらに、G-3のXRDスペクトルでは、26.63°に顕著な回折ピークが現れるのみで、不純物ピークは見られなかった。これは、G-3が酸化または不純物元素のドーピングによって形成された不純物相を含まないことを示している。
【0088】
上述した試験で測定したところ、G-3の炭素含有量は99.82重量%であり、酸素含有量は260ppmであり、熱分解開始温度は655℃であり、800℃における熱損失率は8.4%であり、導電率は1800S/cmであり、タップ密度は0.031g/cm3であり、比表面積は120m2/gであり、溶剤残存率は0.1%であった。
【0089】
〔実施例4〕
(1)膨張性黒鉛100g(75メッシュ)を900℃で40秒間予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得た。前記の試験により測定したところ、予備膨張黒鉛の膨張率は300倍であった。
【0090】
(2)予備膨張黒鉛10g、湿潤剤(Surfonic T-10、HLB値12.4)0.25g、脱イオン水239.75gを高圧ホモジナイザーに加え、30MPaで60分間均質化した後、45MPaに昇圧して30分間均質化し、グラフェン粉末を含むスラリーを得た。
【0091】
(3)該スラリーを噴霧乾燥装置で乾燥させた。噴霧乾燥装置の空気入口温度は350℃であり、空気出口温度は100℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転数は20000rpmであった。出口で回収された粉末はグラフェン粉末G-4であった。
【0092】
上述した試験により、G-4のSEM像とXRDスペクトルとが得られた。G-4のSEM像からわかるように、G-4はグラフェンシートが積層して形成された構造であり、粒径は18~22μmであった。グラフェンシート間には空隙があった。HR-TEMの結果からわかるように、G-4のグラフェンシートは、4~6層のグラフェンを有する少層グラフェンであり、その厚さは約1.2nm~1.8nmであった。動的光散乱のデータからわかるように、グラフェンシートの粒径の中央値は10μmであった。
図16のラマンスペクトルに示すように、G-4のDピークは1346cm
-1であり、Gピークは1565cm
-1であり、そのピーク高さの比(I
D/I
G)は0.04であり、G-4の欠陥が少ないことが示された。さらに、G-4はまた、2702cm
-1に顕著な2Dピークを示し、G-4が少層グラフェン積層体であることが確認された。さらに、G-4のXRDスペクトルでは、26.63°に顕著な回折ピークが現れるのみで、不純物ピークは見られなかった。これは、G-4が酸化または不純物元素のドーピングによって形成された不純物相を含まないことを示している。
【0093】
上述した試験で測定したところ、G-4の炭素含有量は99.85重量%であり、酸素含有量は140ppmであり、熱分解開始温度は640℃であり、800℃における熱損失率は6.7%であり、導電率は2000S/cmであり、タップ密度は0.029g/cm3であり、比表面積は140m2/gであり、溶剤残存率は0.1%であった。
【0094】
実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を実施例4で得られたG-4に置き換えたこと以外は、実施例1の組み立てを繰り返し、コイン電池を組み立てた。このコイン電池について、異なる電流レートにおけるサイクル性能を特徴づける試験を行った。その結果を
図17に示す。
【0095】
〔比較例1〕
(1)膨張性黒鉛100g(75メッシュ)を900℃で20秒間予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得た。前記の試験により測定したところ、予備膨張黒鉛の膨張率は220倍であった。
【0096】
(2)予備膨張黒鉛10g、湿潤剤(Teric N6、HLB値10.9、アルキルフェノールポリオキシエチレンエーテル)0.25g、脱イオン水239.75gを高圧ホモジナイザーに加え、30MPaで30分間均質化した後、45MPaに昇圧して30分間均質化し、グラフェン粉末を含むスラリーを得た。
【0097】
(3)該スラリーを噴霧乾燥装置で乾燥させた。噴霧乾燥装置の空気入口温度は350℃であり、空気出口温度は100℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転数は20000rpmであった。出口で回収された粉末はグラフェン粉末DG-1であった。
【0098】
上述した試験により、DG-1のSEM像が得られ、
図8に示す。図からわかるように、DG-1のグラフェンシートは無秩序に積層していた。DG-1は明確な粒径を有していなかった。
【0099】
図14は、DG-1のHR-TEM像である。図からわかるように、DG-1のグラフェンシートは、15~20層のグラフェンを有する層状構造であり、厚さが約4.5nm~6nmであった。
【0100】
図15はDG-1のラマンスペクトルである。図からわかるように、DG-1のDピークは1351cm
-1であり、Gピークは1514cm
-1であり、そのピーク高さの比(I
D/I
G)は0.25であり、DG-1はG-1よりも実質的に欠陥が多い。さらに、DG-1はまた、2702cm
-1に2Dピークを示したが、これはブロードなピークであり、顕著なピークではなかった。このことから、DG-1のグラフェンシートは、より多くのグラフェン層を含む層状構造であることが確認された。
【0101】
上述した試験で測定したところ、DG-1の炭素含有量は99.32重量%であり、酸素含有量は240ppmであり、熱分解開始温度は620℃であり、800℃における熱損失率は9.2%であり、導電率は800S/cmであり、タップ密度は0.042g/cm3であり、比表面積は60m2/gであり、溶剤残存率は0.25%であった。
【0102】
〔比較例2〕
(1)膨張性黒鉛100g(75メッシュ)を900℃で20秒間予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得た。上述した試験により測定したところ、予備膨張黒鉛の膨張率は220倍であった。
【0103】
(2)予備膨張黒鉛10g、湿潤剤(Surfonic T-10、HLB値12.4)0.25g、脱イオン水239.75gを高圧ホモジナイザーに加え、30MPaで60分間均質化し、グラフェン粉末を含むスラリーを得た。
【0104】
(3)該スラリーを噴霧乾燥装置で乾燥させた。噴霧乾燥装置の空気入口温度は350℃であり、空気出口温度は100℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転数は20000rpmであった。出口で回収された粉末はグラフェン粉末DG-2であった。
【0105】
上述した試験により、DG-2のSEM像、HR-TEM像、およびラマンスペクトルが得られた。DG-2のSEM像からわかるように、DG-2中のグラフェンシートは無秩序に積層していた。DG-2は明確な粒径を有していなかった。HR-TEM像からわかるように、DG-2中のグラフェンシートは、10~15層のグラフェンを有する層状構造であり、厚さが約3nm~4.5nmであった。DG-2のラマンスペクトルからわかるように、DG-2のDピークは1351cm-1であり、Gピークは1514cm-1であり、そのピーク高さの比(ID/IG)は0.2であり、DG-2はG-1よりも大幅に欠陥が多いことが示された。さらに、DG-2は2702cm-1に2Dピークを示したが、これはブロードなピークであり、DG-2に少量の少層グラフェンが存在することが示された。
【0106】
上述した試験で測定したところ、DG-2の炭素含有量は99.95重量%であり、酸素含有量は140ppmであり、熱分解開始温度は640℃であり、800℃における熱損失率は7%であり、導電率は500S/cmであり、タップ密度は0.08g/cm3であり、比表面積は12m2/gであり、溶剤残存率は0.1%であった。
【0107】
〔比較例3〕
(1)膨張性黒鉛100g(75メッシュ)を900℃で20秒間予備膨張させ、予備膨張黒鉛を得た。上述した試験により測定したところ、予備膨張黒鉛の膨張率は220倍であった。
【0108】
(2)予備膨張黒鉛10g、湿潤剤(Surfonic T-10、HLB値12.4)0.25g、脱イオン水239.75gを高圧ホモジナイザーに加え、45MPaで60分間均質化し、グラフェン粉末を含むスラリーを得た。
【0109】
(3)該スラリーを噴霧乾燥装置で乾燥させた。噴霧乾燥装置の空気入口温度は350℃であり、空気出口温度は100℃であり、噴霧乾燥装置の遠心ディスクの回転数は20000rpmであった。出口で回収された粉末はグラフェン粉末DG-3であった。
【0110】
上述した試験により、DG-3のSEM像、HR-TEM像、およびラマンスペクトルが得られた。DG-3のSEM像からわかるように、DG-3は明確な粒径を有していなかった。DG-3のHR-TEM像からわかるように、DG-3のグラフェンシートは4~6層のグラフェンを有する少層グラフェンであり、その厚さは約1.2nm~1.9nmであった。DG-3のラマンスペクトルからわかるように、DG-3のDピークは1354cm-1であり、Gピークは1574cm-1であり、そのピーク高さの比(ID/IG)は0.13であり、DG-3は欠陥が少なくG-1に類似することが示された。さらに、DG-3は2709cm-1に2Dピークを示したが、これはシャープなピークであり、DG-3のグラフェンシートが少層グラフェンであることが示された。DG-3は粒度分布が広いため、工業的な応用には不利である。
【0111】
上述した試験で測定したところ、DG-3の炭素含有量は99.95重量%であり、酸素含有量は140ppmであり、熱分解開始温度は640℃であり、800℃における熱損失率は7%であり、導電率は1600S/cmであり、タップ密度は0.018g/cm3であり、比表面積は200m2/gであり、溶剤残存率は0.1%であった。
【0112】
実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を比較例3で得られたDG-3に置き換えたこと以外は、実施例1の組み立てを繰り返し、コイン電池を組み立てた。このコイン電池について、異なる電流レートにおけるサイクル性能を特徴づける試験を行った。その結果を
図18に示す。
【0113】
〔比較例4〕
実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を市販のSuper P導電剤に置き換えたこと以外は、実施例1の組み立てを繰り返し、コイン電池を組み立てた。このコイン電池について、異なる電流レートにおけるサイクル性能を特徴づける試験を行った。その結果を
図10に示す。
【0114】
図9に示すように、実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を導電剤として用いた場合、電流レート0.1C/0.2C/0.5C/1Cにおいて、コイン電池の容量保持率はそれぞれ100%、97%、90%、78%であった。
図10に示すように、導電剤として市販のSuper Pを用いた場合、電流レート0.1C/0.2C/0.5C/1Cにおいて、容量保持率はそれぞれ96%、92%、68%、40%であった。以上の結果から、本開示のグラフェン粉末により、コイン電池の安定性がより優れたものとなることが示された。
【0115】
図17に示すように、導電剤としてG-4を用いた場合、電流レート0.1C/0.2C/0.5C/1Cにおいて、コイン電池の容量保持率はそれぞれ100%、91%、83%、69%であった。
図18に示すように、導電剤としてDG-3を用いた場合、電流レート0.1C/0.2C/0.5C/1Cにおいて、コイン電池の容量保持率はそれぞれ95%、89%、64%、42%であった。両者の容量保持率は、いずれも導電剤としてG-1を用いた場合よりも低かった。導電剤としてDG-3を使用した場合、特定の電流レートでは安定性が大幅に低下した。
【0116】
図11は、実施例1のグラフェン粉末G-1を導電剤として有する負極の形態を示す。
図12は、導電剤としてSuper Pを有する負極の形態を示す。この2つの負極の形態には大きな違いがあることが明らかであった。
図11からわかるように、本開示のグラフェン粉末中のグラフェンシートは完全であり、半径方向のサイズが大きい。したがって、本開示のグラフェン粉末を導電剤として使用する場合、分散した大きなサイズのグラフェンシートは、それらと電極活物質との間の接触面積を増加させた。これにより、電極活物質において、電子を移動させるためのより多くの経路が提供され、得られた電極内部での電子の平面伝導のためのネットワークの形成が促進され、その結果、優れた導電性(3200S/cm)が得られ、電極の内部抵抗が低減され、電池のレート性能が向上した。さらに、グラフェンシートに付随する柔軟性が、充放電サイクル中のシリコン-炭素負極材料の体積膨張を緩衝し、電池のサイクル性能を向上させた。
図12に示すように、Super Pはシリコン-炭素負極材料の間に分散していた。したがって、電子は直線的に伝導した。Super Pは、シリコン-炭素負極材料の体積膨張を緩和する効果もなかった。
【0117】
〔実施例5〕
亜鉛粉末含有エポキシ防食樹脂の調製
エポキシ樹脂と無機亜鉛粉末とを必要量秤量し、均一に混合して亜鉛粉末含有エポキシ防食樹脂を得た。
【0118】
実施例1で得られたグラフェン粉末G-1 1gを、亜鉛粉末含有エポキシ防食樹脂999g(亜鉛粉末はエポキシ防食樹脂の30質量%を占める)に添加した。均一に混合した後、混合物を洗浄した炭素鋼試験片の表面に塗布し、厚さ90μmの皮膜を形成した。別途、亜鉛粉末含有エポキシ防食樹脂(亜鉛粉末がエポキシ防食樹脂の80質量%を占める)1000gを洗浄した炭素鋼試験片の表面に塗布し、厚さ90μmの皮膜を形成した。HG/T5573-2019に準拠して2枚の炭素鋼試験片の被覆表面に交差線を切り込み、その後、塩水噴霧試験ボックスに入れて中性塩水噴霧試験を行った。1440時間後、炭素鋼表面の切り込みの腐食状態を観察した。その結果を
図13に示す。左図は従来の亜鉛含有エポキシ防食樹脂(亜鉛含有率80%)の結果であり、塩水噴霧試験後の切り込みの腐食拡散距離は5~20mmであった。右図はグラフェン粉末を添加した亜鉛含有エポキシ防食樹脂(亜鉛30%含有)の結果であり、塩水噴霧試験後の切り込みの腐食拡散距離は2~3mmであった。2つの結果を比較すると、右図の拡散距離は左図の拡散距離よりも明らかに小さかった。また、左図では基板の下部には明らかな腐食模様が見られたが、右図では見られなかった。以上のことから、グラフェン粉末の添加により、エポキシ樹脂防食塗料の耐食性が大幅に向上することが示された。さらに、(エポキシ樹脂)防食塗料における本開示のグラフェン粉末の使用は、亜鉛の使用量を実質的に減少させた。
【0119】
以上、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の技術的範囲内において、本発明の実施形態に様々な簡単な変更を加えることができ、他の任意の適切な方法で様々な技術的特徴を組み合わせてもよい。これらの簡単な修正および組み合わせも、本明細書に開示された内容であり、本開示の保護範囲内にあるものとみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【
図1】実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のSEM像である。
【
図2】実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のTEM像である。
【
図3】実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のHR-TEM像である。
【
図4】実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のラマンスペクトルである。
【
図5】実施例1で得られたグラフェン粉末G-1のXRDスペクトルである。
【
図6】実施例2で得られたグラフェン粉末G-2のSEM像である。
【
図7】実施例2で得られたグラフェン粉末G-2のHR-TEM像である。
【
図8】比較例1で得られたグラフェン粉末DG-1のSEM像である。
【
図9】実施例1で得られたグラフェン粉末G-1を負極導電剤として、シリコン-炭素材料を負極活物質として含有する負極を有するコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
【
図10】は、比較例4において、Super Pを負極導電剤として、負シリコン-炭素材料を負極活物質として含有する負極を有するコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
【
図11】実施例1の負極導電剤としてグラフェン粉末G-1を用いた負極のSEM像(上面図)である。
【
図12】比較例4の負極導電剤として市販のSuper Pを用いた負極のSEM像(上面図)である。
【
図13】実施例5において、炭素鋼基材上の防食塗料に切り込み傷をつけた中性塩水噴霧試験の結果を示しており、左は従来の防食塗料(亜鉛を80%含有)の結果、右はグラフェン粉末を使用した塗料(亜鉛を30%含有)の結果である。
【
図14】比較例1で得られたグラフェン粉末DG-1のHR-TEM像である。
【
図15】比較例1で得られたグラフェン粉末DG-1のラマンスペクトルである。
【
図16】実施例4で得られたグラフェン粉末G-4のラマンスペクトルである。
【
図17】実施例4で得られたグラフェン粉末G-4を負極導電剤として、シリコン-炭素材料を負極活物質として用いたコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
【
図18】比較例3で得られたグラフェン粉末DG-3を負極導電剤として、シリコン-炭素材料を負極活物質として用いたコイン電池の異なる電流レートにおけるサイクル性能を示す。
【
図19】異なるグラフェン材料サンプルの空気雰囲気下での熱損失曲線を示し、1は実施例1で得られたグラフェン粉末G-1、2は市販のグラフェン粉末(物理的方法で調製)、3は市販の酸化グラフェン、4は市販の還元型酸化グラフェンである。
【
図20】市販のグラフェン粉末(物理的方法で調製)のSEM像である。
【
図22】市販の還元型酸化グラフェンのSEM像である。
【国際調査報告】