(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】マイナス鎖RNAウイルスベクター及び形質転換を必要としない植物ゲノム編集方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240326BHJP
C12N 15/83 20060101ALI20240326BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20240326BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240326BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20240326BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240326BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240326BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/83 Z ZNA
C12N5/04
C12N5/10
A01H1/00 A
A01H5/00 A
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564543
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 CN2022088299
(87)【国際公開番号】W WO2022223010
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】202110431464.8
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 正 和
(72)【発明者】
【氏名】劉 倩
(72)【発明者】
【氏名】趙 承 露
【テーマコード(参考)】
2B030
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA15
2B030CB02
4B029AA23
4B029BB12
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4B029GB10
4B065AA88X
4B065AA89X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA46
4B065CA53
(57)【要約】
本発明は、マイナス鎖RNAウイルスベクターを利用して植物の遺伝物質に対して部位特異的修飾を行う方法及びウイルスベクターシステムを提供する。更に、修飾対象とする植物に対して安定的な遺伝形質転換を必要とせず、植物ゲノムの目標DNAに対して部位特異的編集を行う方法であって、トマト黄化えそウイルスベクターを利用して植物に感染すると共に、配列特異的核酸修飾酵素を瞬時発現し、前記配列特異的核酸修飾酵素が前記感染された植物ゲノムの標的部位をターゲティングすると共に、標的部位を切断又は修飾し、植物のDNA修復メカニズムにより前記標的部位に対する標的指向型修飾を完成させるステップを含む、方法を提供する。RNAウイルスベクターを利用して配列特異的核酸修飾酵素を送達することで、標的部位に対する編集効率が向上されるだけでなく、非遺伝子組換えの編集株が取得される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物細胞の遺伝物質に対して修飾を行う方法であって、前記方法は、外来遺伝物質の修飾対象とする細胞ゲノムへの取り込みを必要とせず、下記ステップ、即ち、
a)遺伝物質を修飾対象とする植物細胞の少なくとも1つを提供するステップと、
b)トスポウイルス属ウイルスベクターを提供し、前記ウイルスベクターが配列特異的核酸修飾酵素をコードするポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含むステップと、
c)前記ウイルスベクターを前記植物細胞に取り込み、前記核酸修飾酵素を瞬時発現するステップと、
d)前記配列特異的核酸修飾酵素が前記植物細胞ゲノムの特定部位をターゲティングすると共に、切断又は修飾し、前記植物細胞の内因性DNA修復メカニズムにより前記植物細胞の遺伝物質に対する修飾を完成させるステップとを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
遺伝物質が修飾された植物の発生方法であって、前記方法は、外来遺伝物質の修飾された細胞ゲノムへの取り込みを必要とせず、下記ステップ、即ち、
a)遺伝物質を修飾対象とする植物細胞の少なくとも1つを提供するステップと、
b)トスポウイルス属ウイルスベクターを提供し、前記ウイルスベクターが配列特異的核酸修飾酵素をコードするポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含むステップと、
c)前記ウイルスベクターを前記植物細胞に取り込み、前記核酸修飾酵素を瞬時発現するステップと、
d)前記配列特異的核酸修飾酵素が前記植物細胞ゲノムの特定部位をターゲティングすると共に、切断又は修飾し、前記植物細胞の内因性DNA修復メカニズムにより前記植物細胞の遺伝物質に対する修飾を完成させるステップと、
e)前記植物細胞から遺伝物質が修飾された植物を取得するステップとを含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
更に、前記遺伝物質が修飾された植物細胞又は植物を選択するステップを含み、前記選択プロセスは選択マーカーを使用する必要がなく、前記修飾は植物細胞の標的遺伝子部位における1つ又は複数のヌクレオチドの欠失、挿入又は置換を含み、或いは前記修飾方式の組合せである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記配列特異的核酸修飾酵素はゲノム編集を実現できる任意のヌクレアーゼ、その突然変異形態又はその誘導体であり、好ましくは、前記配列特異的核酸修飾酵素はCRISPR/Casヌクレアーゼから選ばれ、更に好ましくは、化膿レンサ球菌由来のCRISPR/SpCas9、ラクノスピラ由来のCRISPR/LbCas12a(LbCpf1)ヌクレアーゼ、SpCas9バリアントと塩基脱アミノ化酵素が融合してなるアデニン塩基エディター又はシトシン塩基エディターである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記トスポウイルス属ウイルスベクターはトマト黄化えそウイルスに由来し、好ましくは、前記トマト黄化えそウイルスの3本のゲノム断片S、M、Lポリヌクレオチド配列はそれぞれSEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2及びSEQ ID NO: 3と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%又は100%の相同性を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はキメラCRISPRガイドRNAポリヌクレオチド分子である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノムにおける非構造タンパク質NSsをコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードするポリヌクレオチド配列又はそれとその他の配列が融合してなる配列によって置換され、好ましくは、その他の配列は蛍光レポーター遺伝子をコードする配列である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は1つのガイドRNAをコードする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は2つ又は複数のガイドRNAをコードする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はCasポリペプチドであり、より好ましくは、化膿レンサ球菌由来のSpCas9、ラクノスピラ由来のLbCas12aポリペプチド、SpCas9バリアントと塩基脱アミノ化酵素が融合してなるアデニン塩基エディター又はシトシン塩基エディターである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノムにおけるウイルス糖タンパク質(GP)をコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードするポリヌクレオチド配列によって置換される、請求項5又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記トマト黄化えそウイルスベクターLゲノム断片のポリヌクレオチド配列はキメラ配列であり、そのウイルスポリメラーゼ(RdRp)をコードするポリヌクレオチド配列はコドン最適化RdRp配列によって置換され、好ましくは、前記コドン最適化RdRp配列はSEQ ID NO: 5に示される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスベクターの植物細胞への取り込み方法は、組換えウイルス発生可能な条件で植物細胞にウイルスベクターポリヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトを取り込むことであり、好ましくは、前記取り込み方法はアグロバクテリウム感染法である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記植物細胞に取り込む核酸コンストラクトは、更に、1つ又は複数のRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)をコードする補助発現ベクターを含み、好ましくは、前記サイレンシングサプレッサーは、トンブスウイルスp19、タバコエッチウイルスHcPro、オオムギ斑葉モザイクウイルスγb、トマト黄化えそウイルスNSsの1種又は複数種から選ばれる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ウイルスベクター配列を含む核酸コンストラクトは植物細胞に導入されてから、転写によりトマト黄化えそウイルスキメラのS、M、Lゲノムのセンス鎖又はアンチセンス鎖RNAを発生させ、好ましくは、センス鎖RNAを発生させる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
トマト黄化えそウイルスS、M、Lキメラゲノム断片を含む核酸コンストラクトの濃度比は1-2:2-10:1-2であり、好ましくは、1:10:2である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記核酸コンストラクトはプラスミドであり、好ましくは、アグロバクテリウムバイナリープラスミドであり、前記濃度比はアグロバクテリウム菌液の混合物に含まれる各バイナリープラスミドのアグロバクテリウム株系の濃度比である、請求項13-16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ウイルスベクターの植物細胞への取り込み方法は、組換えウイルス粒子による感染であり、機械的摩擦や高圧スプレーや移植による接種の1種又は複数種を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項19】
前記トマト黄化えそウイルスベクターは、NSs遺伝子欠失の弱毒性感染性ウイルスベクターである、請求項1-18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記トマト黄化えそウイルスベクターは、GP遺伝子欠失のために媒介昆虫による伝播ができない感染性ウイルスベクターである、請求項1-19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記遺伝物質を修飾対象とする植物は、トスポウイルス属ウイルスによる全身又は局所感染が可能な天然又は実験の宿主植物であり、好ましくは、前記宿主植物は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)、タバコ(Nicotiana tabacum)、トマト(Lycopersicon esculentum)、パプリカ(C. annuum)、タバスコ(C. frutescens)、ハバネロ(C. Chinense)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ホオズキ(Physalis alkekengi)、ナス(Solanum melongena)、ダイズ(Glycine max)、ワキョ(Lactuca sativa)、ワタ(Gossypium hirsutum)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、スイカ(Citrullus lanatus)、キュウリ(Cucumis sativus)、ソラマメ(Vicia faba)、ケツルアズキ(Vigna mungo)、リョクトウ(Vigna radiata)又はササゲ(Vigna unguiculata)の1種又は複数種から選ばれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項22】
前記遺伝物質を修飾対象とする植物は、更に、トスポウイルス属ウイルスの宿主植物の各品種又は遺伝子型を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
トスポウイルス属ウイルスによって感染された細胞から組織培養により無ウイルス株を取得する方法であって、下記ステップ、即ち、
a)トスポウイルス属ウイルスによって感染された植物細胞の少なくとも1つを提供するステップと、
b)抗ウイルス化合物を含む培地で前記植物細胞に対して組織培養及び株再生を行うステップと、
c)ウイルスが駆除された再生株を取得して同定するステップとを含む、方法。
【請求項24】
前記抗ウイルス化合物はリバビリンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記抗ウイルス化合物はファビピラビルである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記抗ウイルス化合物はレムデシビルである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
組換えウイルスベクターシステムであって、
a)トスポウイルス属ウイルスベクターのポリヌクレオチド配列と、
b)ウイルス転写シスエレメントに操作可能に連結され、配列特異的核酸修飾酵素の少なくとも1つをコードするポリヌクレオチド配列と、を含み、
前記ウイルスベクターシステムは植物細胞に取り込まれてから、前記配列特異的核酸修飾酵素を複製して発現し、前記配列特異的核酸修飾酵素が前記植物細胞ゲノムの特定標的部位をターゲティングして切断又は修飾することを特徴とする、組換えウイルスベクターシステム。
【請求項28】
前記配列特異的核酸修飾酵素はゲノム編集を実現できる任意のヌクレアーゼ、その突然変異形態又はその誘導体であり、好ましくは、前記配列特異的核酸修飾酵素はCRISPR/Casヌクレアーゼから選ばれ、更に好ましくは、化膿レンサ球菌由来のCRISPR/SpCas9、ラクノスピラ由来のCRISPR/LbCas12a(LbCpf1)ヌクレアーゼ、SpCas9バリアントと塩基脱アミノ化酵素が融合してなるアデニン塩基エディター又はシトシン塩基エディターである、請求項27に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項29】
前記トスポウイルス属ウイルスベクターはトマト黄化えそウイルスに由来し、好ましくは、前記トマト黄化えそウイルスの3本のゲノム断片S、M、Lポリヌクレオチド配列はそれぞれSEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2及びSEQ ID NO: 3と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%又は100%の相同性を有する、請求項27に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項30】
前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はキメラCRISPRガイドRNAポリヌクレオチド分子である、請求項27又は29に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項31】
前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノムにおける非構造タンパク質NSsをコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードするポリヌクレオチド配列又はそれとその他の配列が融合してなる配列によって置換され、好ましくは、その他の配列は蛍光レポーター遺伝子をコードする配列である、請求項27、29又は30の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項32】
前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は1つのガイドRNAをコードする、請求項30又は31の何れか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は2つ又は複数のガイドRNAをコードする、請求項30又は31の何れか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はCasポリペプチドであり、より好ましくは、化膿レンサ球菌由来のSpCas9、ラクノスピラ由来のLbCas12aポリペプチド、SpCas9バリアントと塩基脱アミノ化酵素が融合してなるアデニン塩基エディター又はシトシン塩基エディターである、請求項27又は29に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項35】
前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノムにおけるウイルス糖タンパク質(GP)をコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードするポリヌクレオチド配列によって置換される、請求項27、29又は34の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項36】
前記トマト黄化えそウイルスベクターLゲノム断片のポリヌクレオチド配列はキメラ配列であり、そのウイルスポリメラーゼ(RdRp)をコードするポリヌクレオチド配列はコドン最適化RdRp配列によって置換され、好ましくは、前記コドン最適化RdRp配列はSEQ ID NO: 5に示される、請求項27又は29に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項37】
前記ウイルスベクターはウイルスベクターポリヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトであり、前記核酸コンストラクトは植物細胞に取り込まれてから、感染性組換えウイルスベクターを形成できる、請求項27又は29に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項38】
植物細胞に一緒に取り込まれる核酸コンストラクトは1つ又は複数のRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)をコードする補助発現ベクターを更に含み、好ましくは、前記サイレンシングサプレッサーは非相同性ウイルスにコードされるトンブスウイルスp19、タバコエッチウイルスHcPro、オオムギ斑葉モザイクウイルスγb、トマト黄化えそウイルスNSsの1種又は複数種から選ばれる、請求項37に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項39】
前記ウイルスベクター配列を含む核酸コンストラクトは植物細胞に導入されてから、転写によりトマト黄化えそウイルスキメラのS、M、Lゲノムセンス鎖又はアンチセンス鎖RNAを発生させ、好ましくは、センス鎖RNAを発生させる、請求項37に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項40】
トマト黄化えそウイルスS、M、Lキメラゲノム断片を含む核酸コンストラクトの濃度比は1-2:2-10:1-2であり、好ましくは、1:10:2である、請求項37に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項41】
前記核酸コンストラクトはプラスミドであり、好ましくは、アグロバクテリウムバイナリープラスミドであり、前記濃度比はアグロバクテリウム菌液の混合物に含まれる各バイナリープラスミドのアグロバクテリウム株系の濃度比である、請求項37-40の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項42】
前記ウイルスベクターの植物細胞への取り込み方法は、組換えウイルス粒子による植物への接種であり、機械的摩擦や高圧スプレーや移植による接種の1種又は複数種を含む、請求項27又は29に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項43】
前記ウイルスベクターは、NSs遺伝子欠失の弱毒性感染性ウイルスベクターである、請求項27-42の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項44】
前記ウイルスベクターは、GP遺伝子欠失のために媒介昆虫による伝播ができない感染性ウイルスベクターである、請求項27-43の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステム。
【請求項45】
請求項27-44の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステムを含む、細菌菌株又は組換えウイルス粒子。
【請求項46】
請求項27-44の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステムを含む試薬キットであって、前記ウイルスベクターを含む試薬は単独で提供してもよく、組合せで提供してもよく、該試薬キットは、
a)トマト黄化えそウイルスS、M、Lゲノム断片を含み、前記ゲノム断片が配列特異的核酸修飾酵素をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含む、核酸コンストラクト組成物と、
b)1つ又は複数のRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)をコードし、好ましくは、前記サイレンシングサプレッサーは非相同性ウイルスにコードされるp19、HcPro、γb、又はTSWV自身にコードされるNSsの1種又は複数種から選ばれる、補助発現ベクターとを含むことを特徴とする、試薬キット。
【請求項47】
更に、マニュアル又は取扱説明書を含む、請求項46に記載の試薬キット。
【請求項48】
請求項27-44の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターシステム、請求項45に記載の細菌菌株又は組換えウイルス粒子、請求項46又は47に記載の試薬キット、或いは請求項1-26の何れか1項に記載の方法の、植物ゲノム編集における適用。
【請求項49】
請求項27-44の何れか1項に記載の組換えウイルスベクターによる全身感染、或いは請求項1-26の何れか1項に記載の方法によって発生される、遺伝物質が修飾された植物及び後代植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物遺伝子工学分野であり、安定的な遺伝形質転換を必要としない植物ゲノム編集方法に関する。具体的には、本発明は、工学的な植物マイナス鎖RNAウイルスベクターシステムを利用してCRISPR核酸修飾酵素を植物内に送達すると共に植物ゲノムに対して遺伝的修飾を行う方法、及び前記方法による遺伝物質が修飾された植物並びにその後代に関する。
【背景技術】
【0002】
配列特異的ヌクレアーゼ(Sequence-specific nucleases, SSNs)技術の発展により、標的指向型ゲノム編集(Targeted genome editing)が可能となる。SSNは、配列特異的DNA結合ドメイン(DNA binging domain)と非特異的DNA切断ドメイン(DNA cleavage domain)からなり、細胞に導入されてからゲノムの特定部位をターゲティングし、DNA二本鎖切断(Double-strand breaks, DSBs)を発生させ、細胞の非相同末端結合(Non-homologous end joining, NHEJ)メカニズムを活性化させてDSBsを修復する。該プロセスにおいて、塩基の挿入又は欠失が発生しやすいため、目標配列に突然変異が発生しやすい。また、細胞内に相同性DNA配列が存在する場合、体内の相同組換え(Homologous recombination, HR)メカニズムが相同性テンプレートを利用してDSBsを修復することで、目標配列に対して遺伝子修飾、対立遺伝子の置換又は外来遺伝子の標的指向型挿入などの遺伝子操作を行う。また、DSBが発生できないSSNミュータントを、転写制御因子、シトシン脱アミノ化酵素、アデニン脱アミノ化酵素、逆転写酵素などのエフェクターと融合することで、標的遺伝子転写制御、塩基編集、単一又は複数の塩基の挿入又は削除が実現できる。
【0003】
通常のSSNは、主に亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(Zinc finger nuclease, ZFN)、転写活性因子様エフェクターヌクレアーゼ(Transcription activator-like effector nuclease, TALEN)、クラスター化規則的空間間短パリンドローム反復配列及びその関連タンパク質システム(Clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins, CRISPR/Cas)を含む。なお、CRISPR/Cas技術は、細胞にCasヌクレアーゼと標的部位特異的ガイドRNAを導入するだけでよく、操作簡単、高効率などのメリットがあるため、動物や植物のゲノム編集において幅広く使用されている。
【0004】
ゲノム編集技術の重要な一環として、SSNs試薬の送達、即ち、SSNsを受容体細胞に導入する方法と手段が挙げられる。SSNs分子の直接トランスフェクションが植物細胞の剛性細胞壁の成分によって阻害されるため、通常、SSNがアグロバクテリウムによる形質転換又は遺伝子銃による衝撃などの方法によって遺伝子組換えの形で植物細胞に送達され、即ち、遺伝形質転換が起こされる。該方法が作物の遺伝的改良に使用される場合、課題として、1)形質転換効率が低い作物の種又は種類は多々あること、2)特に、倍数性が複雑で、育種サイクルが長く、又は栄養繁殖の植物について、編集株の後代におけるSSNの遺伝子組換え分離がセクシャルハイブリダイゼーションに依存し、該プロセスでは時間と工数がかかること、3)安定的な遺伝形質転換プロセスでは、植物の染色体DNAに予期せぬ変化と損害を与える可能性があること、4)一部の国では遺伝形質転換プロセスに関わる製品が遺伝子組換え植物として規制対象となる可能性があることなど、が挙げられる。
【0005】
ウイルスベクターは天然の生物大分子の送達ツールであり、非相同遺伝子の植物への取り込み及び瞬時発現に幅広く使用される(例えば、Donsonら、Proc Natl Acad Sci U S A, 1991, 88: 7204-7208; Wangら,PLoS Pathog, 2015, 11: e1005223)。特に、RNAウイルスベクターは、その複製プロセスがDNAステージに関与しないため、外来核酸が宿主ゲノムに統合されるリスクはない。植物ウイルスによる株の感染は、遺伝子組換えによる安定的な形質転換より即効で簡易的であるほかに、ウイルス複製による外来遺伝子の過剰発現が起こされる。また、感染性ウイルスベクターは、特定の受容体細胞又は組織を分離することなく、外来遺伝子の植物内(in planta)への直接送達を実現できる。現在、ベクターに改造された植物ウイルスは多々あり、核酸分子の植物内への送達又は外来タンパク質の発現に使用される(Glebaら、Curr Opin Plant Biol, 2004, 7: 182-188; Cody及びScholthof, Annu Rev Phytopathol, 2019, 57: 211-230)。
【0006】
植物ゲノム編集において、CRISPR/Casヌクレアーゼの遺伝子分子量は大きく、例えば、一般的に使用されるCas9とCas12aヌクレアーゼの遺伝子が約4000キロベース(kb)であり、更にシス調節エレメントを加えると、5-7kbとなるため、ウイルスベクターのパッケージング能力にとって大きな課題となる。パッケージング能力に限界があるため、一部の感染性植物ウイルスベクターは小さいCRISPRガイドRNA(gRNA)、例えば、ゲノムが一本鎖DNAであるキャベツ葉巻ウイルス(Yinら,Sci Rep, 2015, 5: 14926)、及びゲノムがセンスRNAであるタバコガラガラウイルス(Aliら,Mol Plant, 2015, 8: 1288-1291;特許WO 2015189693;特許WO 2016084084)、タバコモザイクウイルス(Codyら,Plant Physiol, 2017, 175: 23-35)、エンドウ早期褐変ウイルス(PEBV:pea early-browning virus)(Aliら,Virus Res, 2018, 244: 333-337)、ビートえそ性葉脈黄化ウイルス(Jiang ら,Plant Biotechnol J, 2019, 17: 1302-1315)、ヒゲシバ縞モザイクウイルス(CSMV:Chloris striate mosaic virus)(Meiら,Plant Direct, 2019, 3: 1-16)などの送達に使用される。これらのウイルスベクターによって送達されるガイドRNAと遺伝子組換えによって発現されるCas9との共同作用により、ゲノムの部位特異的編集が実現できる。強いパッケージング能力のその他の特定のセンスRNA植物ウイルスベクターは、その他のヌクレアーゼ構成部分の送達に使用される。例えば、タバコガラガラウイルスは、約1kbのメガヌクレアーゼ(Honigら,Mol plant, 2015, 8: 1292-1294)又は約2kbの亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(Martonら,Plant Physiol, 2010, 154: 1079-1087;特許WO 2009130695)、及び分裂されたCRISPR/Casヌクレアーゼ構成部分(アメリカ特許出願US 20190359993)の送達に使用される。
【0007】
ウイルスレプリコン(replicon)システムは、複製できるが全身感染できないベクターであり、強い外来断片受容能力を有する。論文(Baltesら,Plant Cell, 2014, 151-163)及び特許(WO 2018081081及びUS 20210054388)は、ジェミニウイルス科インゲンマメ黄色矮性ウイルスレプリコンベクターによるCRISPR/Casヌクレアーゼと相同組換えDNAテンプレートの送達が開示された。論文(Wangら,Mol Plant, 2017, 10: 1007-1010)及び中国特許CN 109880846 Aは、ジェミニウイルス科コムギ矮性ウイルスレプリコンベクターシステムによるCRISPR/Casヌクレアーゼ及び相同組換えDNAテンプレートの送達が開示された。論文(Arigaら,Plant Cell Physiol, 2020, 61: 1946-1953)及びアメリカ特許(US 20190359993)は、ジャガイモXウイルス及びトマトモザイクウイルスベクターによるCRISPR/Casヌクレアーゼ遺伝子の送達方法が開示された。論文(Gaoら,New Phytol, 2019, 223: 2120-2133)及び中国特許(CN 110511955 A)は、オオムギ黄縞モザイクウイルスベクターによる植物単細胞内におけるCRISPR/Casヌクレアーゼの送達方法が開示された。前記レプリコンウイルスベクターは、植物に全身感染できず、アグロバクテリウムによる形質転換又は遺伝子銃による衝撃などの方法によりウイルスベクター含有DNAを細胞に導入して、接種細胞内で完全なCRISPR/Casヌクレアーゼを発現すると共に、ゲノム編集を実現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
植物マイナス鎖RNAウイルスは、主に非分節マイナス鎖RNAウイルス目ラブドウイルス科ウイルスと分節ブニヤウイルス目ウイルスを含む。現在、これらのウイルスベクターに関する報告が少ない。論文(Maら,Nature Plants, 2020, 6: 773-339)は、ノゲシ黄網ラブドウイルスベクターによるベンサミアナタバコ株内におけるCRISPR/Casヌクレアーゼの全身送達方法及びDNA無しゲノム編集の実現方法が開示されたが、ウイルス宿主の範囲に制限があるため、現在、異なる作物におけるCRISPR/Casヌクレアーゼの送達が報告されていない。論文(Fengら,Proc Natl Acad Sci U S A, 2020, 117: 1181-1190)は、ブニヤウイルス目トマト黄化えそウイルスの遺伝子操作及びウイルス救助の方法が報告されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
植物ウイルスベクターを利用して植物に対して遺伝子組換え無しのゲノム部位特異的修飾を行う現段階の技術課題を解決するために、本発明はトマト黄化えそウイルスを利用して配列特異的核酸修飾酵素を植物に送達する。前記配列特異的核酸修飾酵素は、植物ゲノムの特定の核酸配列をターゲティングできると共に、標的部位を切断又は修飾して、植物の内因性DNA修復メカニズムにより前記標的部位に対して部位特異的修飾を完成させる。更に、前記トマト黄化えそウイルスは、全身感染能力を有するため、植物内で配列特異的核酸修飾酵素を全身送達すると共に、外来核酸配列による統合を含まない部位特異的編集植物部分を取得する。更に、外来配列による統合を含まない部位特異的編集植物部分(例えば、植物細胞)は、再生により非遺伝子組換えの安定的に遺伝できる部位特異的編集植物を取得する。更に、外来配列による統合を含まない部位特異的編集植物部分(例えば、植物細胞)は、再生プロセスで抗ウイルス薬により処理されてから、ウイルスを含まない非遺伝子組換えの安定的に遺伝できる部位特異的編集植物を取得する。
【0010】
最初に、本発明の一態様は、植物細胞の遺伝物質に対して修飾を行う方法であって、前記方法は、外来遺伝物質の修飾対象とする細胞ゲノムへの取り込みを必要とせず、下記ステップ、即ち、
a)遺伝物質を修飾対象とする植物細胞の少なくとも1つを提供するステップと、
b)トスポウイルス属ウイルスベクターを提供し、前記ウイルスベクターシステムが配列特異的核酸修飾酵素をコードするポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含むステップと、
c)前記ウイルスベクターを前記植物細胞に取り込み、前記核酸修飾酵素を瞬時発現するステップと、
d)前記配列特異的核酸修飾酵素が前記植物細胞ゲノムの特定部位をターゲティングすると共に、切断又は修飾し、前記植物細胞の内因性DNA修復メカニズムにより前記植物細胞の遺伝物質に対する修飾を完成させるステップとを含む、方法を提供する。
【0011】
別の様態において、本発明は、更に、遺伝物質が修飾された植物の発生方法であって、前記方法は、外来遺伝物質の修飾された細胞ゲノムへの取り込みを必要とせず、下記ステップ、即ち、
a)遺伝物質を修飾対象とする植物細胞の少なくとも1つを提供するステップと、
b)トスポウイルス属ウイルスベクターを提供し、前記ウイルスベクターが配列特異的核酸修飾酵素をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含むステップと、
c)前記ウイルスベクターを前記植物細胞に取り込み、前記核酸修飾酵素を瞬時発現するステップと、
d)前記配列特異的核酸修飾酵素が前記植物細胞ゲノムの特定部位をターゲティングすると共に、切断又は修飾し、前記植物細胞の内因性DNA修復メカニズムにより前記植物細胞の遺伝物質に対する修飾を完成させるステップと、
e)前記植物細胞から遺伝物質が修飾された植物を取得するステップとを含む、方法を提供する。
【0012】
幾つかの実施形態において、前記方法は、前記遺伝物質が修飾された植物細胞又は植物を選択することを含み、好ましくは、前記選択プロセスは選択マーカーを使用する必要がない。
【0013】
幾つかの実施形態において、前記修飾は植物細胞の標的遺伝子部位における1つ又は複数のヌクレオチドの欠失、挿入又は置換を含み、或いは前記修飾方式の組合せである。
【0014】
幾つかの実施形態において、前記配列特異的核酸修飾酵素をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列はゲノム編集を実現できる任意のヌクレアーゼ、その突然変異形態又はその誘導体であり、好ましくは、前記配列特異的核酸修飾酵素はCRISPR/Casヌクレアーゼ、TALENヌクレアーゼ、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼから選ばれ、更に好ましくは、CRISPR/Casヌクレアーゼであり、より一層好ましくは、化膿レンサ球菌由来のCRISPR/SpCas9又はラクノスピラ由来のCRISPR/LbCas12a(LbCpf1)ヌクレアーゼである。
【0015】
別の幾つかの実施形態において、前記配列特異的核酸修飾酵素をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列はゲノム塩基編集を実現できる任意のポリヌクレオチド配列であり、例えば、Casポリペプチドとアデニン脱アミノ化酵素(adenine deaminase)が融合してなるアデニン塩基エディター、又はCasポリペプチドとシトシン脱アミノ化酵素(cytidine deaminase)が融合してなるシトシン塩基エディターである。好ましくは、前記Casポリペプチドは化膿レンサ球菌由来のSpCas9ニッカーゼ(nikase)バリアントであり、前記アデニン脱アミノ化酵素は人工的に進化された大腸菌tRNAアデニン脱アミノ化酵素A(ecTadA)バリアント(TadA8e V106W)であり、前記シトシン脱アミノ化酵素はヒトアポリポ蛋白BメッセンジャーRNAシトシン脱アミノ化酵素触媒サブユニット3A(hAPOBEC3A;hA3A)である。
【0016】
幾つかの実施形態において、前記組換えウイルスベクターシステムにおいて、ウイルスベクターはトマト黄化えそウイルスベクターであり、好ましくは、前記トマト黄化えそウイルスの3本のゲノム断片S、M、Lポリヌクレオチド配列はそれぞれSEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2及びSEQ ID NO: 3と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%又は100%の相同性を有する。
【0017】
本発明により提供されるトマト黄化えそウイルスベクターは1つ又は複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の外来遺伝子の挿入部位を含む。幾つかの実施例において、組換えトマト黄化えそウイルスベクターSゲノムは1つのレポーター遺伝子を持ち、Mゲノムはもう1つのレポーター遺伝子を持ち、レポーター遺伝子がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結される。好ましくは、前記レポーター遺伝子は緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)及び赤色蛍光タンパク質遺伝子(RFP)である。植物細胞に組換え核酸コンストラクトを導入した場合、組換えウイルスの複製及び全身感染がレポーター遺伝子の発現によって追跡される。
【0018】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はキメラCRISPRガイドRNAポリヌクレオチド分子である。
【0019】
具体的な実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノムにおける非構造タンパク質NSsをコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列又はそれとその他の非相同性配列が融合してなる配列によって置換され、好ましくは、その他の非相同性配列は蛍光レポーター遺伝子をコードする配列であり、より好ましくは、蛍光レポーター遺伝子をコードする配列である。
【0020】
幾つかの実施形態において、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列は、ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド配列である。
【0021】
幾つかの実施形態において、前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は1つのガイドRNAをコードする。
【0022】
幾つかの実施形態において、前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は2つ又は複数のガイドRNAをコードする。
【0023】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はCasポリペプチドであり、より好ましくは、ラクノスピラ由来のLbCas12aポリペプチド、化膿レンサ球菌由来のSpCas9、SpCas9バリアントと塩基脱アミノ化酵素が融合してなるアデニン塩基エディター又はシトシン塩基エディターである。
【0024】
好ましい実施形態において、前記SpCas9、LbCas12a、アデニン塩基エディター及びシトシン塩基エディターポリペプチドをコードする配列は植物コドン最適化配列であり、好ましくは、前記コドン最適化配列はそれぞれSEQ ID NO: 10、11、84、85に示される。
【0025】
具体的な実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノムにおけるウイルス糖タンパク質(GP)をコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列によって置換される。
【0026】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターLゲノム断片のポリヌクレオチド配列はキメラ配列であり、そのウイルスポリメラーゼ(RdRp)をコードするポリヌクレオチド配列はコドン最適化RdRp配列によって置換され、好ましくは、前記コドン最適化RdRp配列はSEQ ID NO: 5に示される。
【0027】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターは、NSs遺伝子欠失の弱毒性感染性ウイルスベクターである。別の幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターは、GP遺伝子欠失のために媒介昆虫による伝播ができない感染性ウイルスベクターである。
【0028】
更に、本発明は、感染性トマト黄化えそウイルスベクターの植物細胞への取り込み、核酸修飾酵素の発現、感染された植物細胞内遺伝物質の修飾などの方法を提供する。幾つかの実施形態において、前記核酸修飾酵素はCRISPR/LbCas12aヌクレアーゼである。幾つかの実施形態において、前記核酸修飾酵素はCRISPR/SpCas9ヌクレアーゼである。幾つかの実施形態において、前記核酸修飾酵素はアデニン塩基エディターである。幾つかの実施形態において、前記核酸修飾酵素はシトシン塩基エディターである。
【0029】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターの植物細胞への取り込み方法は、組換えウイルス発生可能な条件で植物細胞にウイルスベクターポリヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトを取り込むことである。
【0030】
好ましい実施形態において、前記方法で使用される組換えウイルスベクター又は核酸コンストラクトはアグロバクテリウムバイナリープラスミドであり、転写を調節できるプロモーター及びターミネーターを含み、前記植物細胞への取り込み方法はアグロバクテリウム感染法である。
【0031】
幾つかの実施形態において、前記植物細胞に取り込む核酸コンストラクトは、更に、1つ又は複数のRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)をコードする補助発現ベクターを含み、好ましくは、前記サイレンシングサプレッサーは、トンブスウイルスp19、タバコエッチウイルスHcPro、オオムギ斑葉モザイクウイルスγb、トマト黄化えそウイルスNSsの1種又は複数種組合せから選ばれる。
【0032】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクター配列を含む核酸コンストラクトは植物細胞に導入されてから、転写によりトマト黄化えそウイルスキメラのS、M、Lゲノムセンス鎖又はアンチセンス鎖RNAを発生させ、好ましくは、センス鎖RNAを発生させる。
【0033】
好ましい実施形態において、トマト黄化えそウイルスS、M、Lキメラゲノム断片を含む核酸コンストラクトの濃度比は1-2:2-10:1-2であり、好ましくは、1:10:2である。更に、前記核酸コンストラクトはアグロバクテリウムバイナリープラスミドであり、前記濃度比はアグロバクテリウム菌液の混合物に含まれる各バイナリープラスミドのアグロバクテリウム株系の濃度比である。
【0034】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターの植物細胞への取り込み方法は、組換えウイルス粒子による植物への接種であり、機械的摩擦や高圧スプレーや移植による接種を含む。
【0035】
好ましい実施形態において、前記遺伝物質を修飾対象とする植物は、トスポウイルス属ウイルスによる全身又は局所感染が可能な天然又は実験の宿主植物であり、更に、前記宿主植物は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)、タバコ(N. tabacum)、トマト(Lycopersicon esculentum)、パプリカ(Capsicum annuum)、タバスコ(C. frutescens)、ハバネロ(C. Chinense)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ホオズキ(Physalis alkekengi)、ナス(Solanum melongena)、ダイズ(Glycine max)、ワタ(Gossypium hirsutum)、ワキョ(Lactuca sativa)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、スイカ(Citrullus lanatus)、キュウリ(Cucumis sativus)、ソラマメ(Vicia faba)、ケツルアズキ(Vigna mungo)、リョクトウ(Vigna radiata)又はササゲ(Vigna unguiculata)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0036】
幾つかの実施形態において、前記遺伝物質を修飾対象とする植物は、トスポウイルス属ウイルスの宿主植物の各品種又は遺伝子型を含む。好ましい実施形態は、例えば、Huayu25、Huayu32、Huayu39、Huayu48、Huayu9616、Fengyou68、Honghua1、Dabaisha、Silihong、Shuofeng518などの複数のラッカセイ品種を含むが、これらに限定されない。別の幾つかの好ましい実施形態において、例えば、Zhoula2、Zhoula3、Zhoula4、Fuxiangxiuli、Bola5、Bola7、Bola15、Xingshu201、Xingshu301、Xingshuguiyanなどのパプリカの複数の品種を含むが、これらに限定されない。
【0037】
幾つかの実施形態において、植物細胞に取り込まれる感染性トマト黄化えそウイルスベクターはLbCas12aポリペプチドとシングルガイドRNAを発現し、形成されたヌクレアーゼ複合体がベンサミアナタバコのcrFucT標的配列(SEQ ID NO: 86)及びcrDCL2標的配列(SEQ ID No:87)、又はベンサミアナタバコ及びタバコの保存的crPDS1標的配列(SEQ ID NO: 12)、又はトマトのcrPDS2標的配列(SEQ ID NO: 13)、又はトウガラシのcrPDS3標的配列(SEQ ID NO: 14)及びcrPDS6標的配列(SEQ ID NO: 99)、又はラッカセイ及びダイズのcrPDS4標的配列(SEQ ID NO: 15)、又はラッカセイのcrPDS5標的配列(SEQ ID NO: 98)、又はホオズキのcrER標的配列(SEQ ID NO: 88)をターゲティングする。
【0038】
幾つかの実施形態において、植物細胞に取り込まれる感染性トマト黄化えそウイルスベクターはLbCas12aポリペプチドと複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の直列ガイドRNAを発現し、形成された複数のヌクレアーゼ複合体が複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の標的配列をターゲティングする。好ましい実施例において、2つのガイドRNAを直列発現し、ベンサミアナタバコのcrPDS1及びcrFucT標的部位をそれぞれターゲティングし、又は3つのガイドRNAを直列発現し、crPDS1、crFucT及びcrDCL2標的部位をそれぞれターゲティングする。
【0039】
幾つかの実施形態において、植物細胞に取り込まれる感染性トマト黄化えそウイルスベクターはSpCas9ポリペプチドとシングルガイドRNAを発現し、形成されたヌクレアーゼ複合体がベンサミアナタバコGFP遺伝子組換えのgGFP標的配列(SEQ ID NO: 16)、又はベンサミアナタバコ内因性遺伝子のgPDS2標的配列(SEQ ID NO: 89)、gRDR6標的配列(SEQ ID NO: 90)、若しくはgSGS3標的配列(SEQ ID NO: 91)、又はベンサミアナタバコ及びタバコの保存的gPDS1標的配列(SEQ ID NO: 17)をターゲティングする。
【0040】
幾つかの実施形態において、植物細胞に取り込まれる感染性トマト黄化えそウイルスベクターはSpCas9ポリペプチドと複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の直列ガイドRNAを発現し、形成された複数のヌクレアーゼ複合体が複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の標的配列をターゲティングする。好ましい実施例において、2つのガイドRNAを直列発現し、ベンサミアナタバコのgPDS2及びgRDR6標的部位をそれぞれターゲティングし、又は3つのガイドRNAを直列発現し、gPDS2、gRDR6及びgSGS3標的部位をそれぞれターゲティングする。
【0041】
幾つかの実施形態において、植物細胞に取り込まれる感染性トマト黄化えそウイルスベクターはアデニン塩基エディターポリペプチドとガイドRNAを発現し、形成された塩基修飾酵素複合体がベンサミアナタバコのgPDSa標的配列(SEQ ID NO: 92)、又はgFucTa1標的配列(SEQ ID NO: 93)、又はgBBLd標的配列(SEQ ID NO: 97)をターゲティングする。
【0042】
幾つかの実施形態において、植物細胞に取り込まれる感染性トマト黄化えそウイルスベクターはシトシン塩基エディターポリペプチドとガイドRNAを発現し、形成された塩基修飾酵素複合体がベンサミアナタバコのgFucTa2標的配列(SEQ ID NO: 94)、又はgRDR6a1標的配列(SEQ ID NO: 95)、又はgRDR6a2標的配列(SEQ ID NO: 96)をターゲティングする。
【0043】
更に、本発明は、ウイルスベクターによって感染され遺伝物質が修飾された植物細胞から植物を取得する方法、及び遺伝物質が修飾された植物を選択する方法を提供する。
【0044】
本発明に係る植物細胞は、完全株の細胞であってもよく、カルス、浮遊細胞、プロトプラストなどの単離植物細胞であってもよい。本発明の幾つかの好ましい実施形態において、前記細胞は完全株の細胞である。
【0045】
本発明の幾つかの実施形態において、ウイルスによって感染された植物細胞又は組織を外植片(explant)として、選択マーカー(例えば、抗生剤、除草剤など)を含まない培地で組織培養及び株再生を行って、遺伝物質が修飾された植物を取得する。
【0046】
更に、該方法は、再生株から遺伝物質が修飾された植物を選択することを含み、前記選択プロセスは選択マーカー(例えば、抗生剤、除草剤など)による選択を必要としない。本発明の別の幾つかの実施例において、遺伝物質が修飾された株の選択方法は選択マーカー遺伝子を必要とせず、採用される同定方法は制限酵素保護解析、Sangerシークエンシング解析、ハイスループットシークエンシング解析の1種又は複数種組合せである。
【0047】
本発明の幾つかの好ましい実施形態において、トマト黄化えそウイルスヌクレアーゼの送達ベクターによって感染されたベンサミアナタバコ葉細胞は組織培養に使用されて、外来核酸挿入によらず遺伝物質が修飾された株は取得された。
【0048】
本発明の幾つかの好ましい実施形態において、トマト黄化えそウイルスヌクレアーゼの送達ベクターによって感染されたタバコ葉細胞は組織培養に使用されて、外来核酸挿入によらず遺伝物質が修飾された株が取得された。
【0049】
本発明の幾つかの好ましい実施形態において、トマト黄化えそウイルスヌクレアーゼの送達ベクターによって感染されたトマト葉細胞は組織培養に使用されて、外来核酸挿入によらず遺伝物質が修飾された株が取得された。
【0050】
更に、本発明は、NSs遺伝子を含む/含まないトマト黄化えそウイルスベクターによる感染の植物細胞の分化及び再生に対する影響を比較した結果、NSsの含有によって植物再生が抑制されることは分かった。そのため、本発明の幾つかの好ましい実施形態において、NSs欠失のトマト黄化えそウイルスベクターによって感染された植物細胞は組織培養に使用されて、遺伝物質が修飾された株を再生する。
【0051】
本発明の別の様態において、トスポウイルス属ウイルスによって感染された細胞から組織培養により無ウイルス株を取得する方法であって、下記ステップ、即ち、
a)トスポウイルス属ウイルスによって感染された植物細胞の少なくとも1つを提供するステップと、
b)抗ウイルス化合物を含む培地で前記植物細胞に対して組織培養及び株再生を行うステップと、
c)ウイルスが駆除された再生株を取得して同定するステップとを含む、方法を提供する。
【0052】
幾つかの実施形態において、前記抗ウイルス化合物はリバビリンであり、ウイルスが駆除された再生株は100%である。それに対して、抗ウイルス薬を含まない対照では、ウイルスが駆除された再生株は僅か4.4%である。
【0053】
幾つかの実施形態において、前記抗ウイルス化合物はファビピラビルであり、ウイルスが駆除された再生株は66.7%である。
【0054】
幾つかの実施形態において、前記抗ウイルス化合物はレムデシビルであり、ウイルスが駆除された再生株は15.6%である。
【0055】
本発明の別の様態は、組換えウイルスベクターシステムであって、前記組換えウイルスベクターシステムは1つ又は複数の組換えウイルスベクターを含み、前記組換えウイルスベクターは、
a)トスポウイルス属ウイルスベクターのポリヌクレオチド配列と、
b)ウイルス転写シスエレメントに操作可能に連結され、配列特異的核酸修飾酵素の少なくとも1つをコードする非相同性ポリヌクレオチド配列と、を含み、
前記ウイルスベクターシステムは植物細胞に導入されてから、前記配列特異的核酸修飾酵素を複製して発現し、前記配列特異的核酸修飾酵素が前記植物細胞ゲノムの特定標的部位をターゲティングして切断又は修飾する、組換えウイルスベクターシステムを提供する。
【0056】
前記配列特異的核酸修飾酵素はゲノム修飾を実現できる任意のヌクレアーゼ、その突然変異形態又はその誘導体であり、好ましくは、前記配列特異的核酸修飾酵素はCRISPR/Casヌクレアーゼから選ばれ、更に好ましくは、化膿レンサ球菌由来のCRISPR/SpCas9、ラクノスピラ由来のCRISPR/LbCas12a(LbCpf1)ヌクレアーゼ、CRISPR/SpCas9ヌクレアーゼバリアントに基づいて構築されたアデニン塩基エディター及びシトシン塩基エディターである。
【0057】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターはトマト黄化えそウイルスに由来し、好ましくは、前記トマト黄化えそウイルスの3本のゲノム断片S、M、Lポリヌクレオチド配列はそれぞれSEQ ID NO: 1、SEQ ID NO: 2及びSEQ ID NO: 3と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%又は100%の相同性を有する。
【0058】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はキメラCRISPRガイドRNAポリヌクレオチド分子である。
【0059】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターSゲノムにおける非構造タンパク質NSsをコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列又はそれとその他の非相同性配列が融合してなる配列によって置換され、好ましくは、その他の配列は蛍光レポーター遺伝子をコードする配列である。
【0060】
幾つかの実施形態において、前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は1つのガイドRNAをコードする。
【0061】
幾つかの実施形態において、前記Sゲノムに挿入される非相同性ポリヌクレオチド配列は2つ又は複数のガイドRNAをコードする。
【0062】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノム断片は配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含み、前記非相同性ポリヌクレオチド配列がウイルスmRNA転写に関するシスエレメントに操作可能に連結され、好ましくは、前記特異的核酸修飾酵素構成部分はCasポリペプチドであり、より好ましくは、化膿レンサ球菌由来のSpCas9、ラクノスピラ由来のLbCas12aポリペプチド、SpCas9バリアントと塩基脱アミノ化酵素が融合してなるアデニン塩基エディター及びシトシン塩基エディターである。
【0063】
好ましい実施形態において、前記SpCas9又はLbCas12a、アデニン塩基エディター及びシトシン塩基エディターポリペプチドをコードする配列は植物コドン最適化配列であり、好ましくは、前記コドン最適化配列はSEQ ID NO: 10、11、84、85に示される。
【0064】
好ましい実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターMゲノムにおけるウイルス糖タンパク質(GP)をコードするポリヌクレオチド配列の一部又は全部は、前記配列特異的核酸修飾酵素構成部分をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列によって置換される。
【0065】
幾つかの実施形態において、前記トマト黄化えそウイルスベクターLゲノム断片のポリヌクレオチド配列はキメラ配列であり、そのウイルスポリメラーゼ(RdRp)をコードするポリヌクレオチド配列はコドン最適化RdRp配列によって置換され、好ましくは、前記コドン最適化RdRp配列はSEQ ID NO: 5に示される。
【0066】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターはウイルスベクターポリヌクレオチド配列を含む核酸コンストラクトであり、前記核酸コンストラクトは植物細胞に取り込まれてから、感染性組換えウイルスベクターを形成でき、好ましくは、前記核酸コンストラクトはアグロバクテリウムバイナリープラスミドであり、転写を調節できるプロモーター及びターミネーターを含み、前記植物細胞への取り込み方法はアグロバクテリウム感染法である。
【0067】
好ましい実施形態において、植物細胞に一緒に取り込まれる核酸コンストラクトは1つ又は複数のRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)をコードする補助発現ベクターを更に含み、好ましくは、前記サイレンシングサプレッサーはトンブスウイルスp19、タバコエッチウイルスHcPro、オオムギ斑葉モザイクウイルスγb、トマト黄化えそウイルスNSsの1種又は複数種から選ばれる。
【0068】
更に、前記ウイルスベクター配列を含む核酸コンストラクトは植物細胞に導入されてから、転写によりトマト黄化えそウイルスキメラのS、M、Lゲノムセンス鎖又はアンチセンス鎖RNAを発生させ、好ましくは、センス鎖RNAを発生させる。
【0069】
好ましい実施形態において、トマト黄化えそウイルスS、M、Lキメラゲノム断片を含む核酸コンストラクトの濃度比は1-2:2-10:1-2であり、好ましくは、1:10:2である。
【0070】
好ましい実施形態において、前記核酸コンストラクトはアグロバクテリウムバイナリープラスミドであり、前記濃度比はアグロバクテリウム菌液の混合物に含まれる各バイナリープラスミドのアグロバクテリウム株系の濃度比である。
【0071】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターの植物細胞への取り込み方法は、組換えウイルス粒子による感染であり、機械的摩擦や高圧スプレーや移植による接種を含む。
【0072】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、NSs遺伝子欠失の弱毒性感染性ウイルスベクターである。
【0073】
幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターは、GP遺伝子欠失のために媒介昆虫による伝播ができない感染性ウイルスベクターである。
【0074】
本発明の別の様態において、更に、上記に記述される組換えウイルスベクターシステムを含み、好ましくは、前記細菌が大腸菌又はアグロバクテリウムである、細菌菌株又は組換えウイルス粒子を提供する。
【0075】
別の様態において、本発明は、更に、前記組換えウイルスベクターシステムの試薬キットであって、前記ウイルスベクターを含む試薬は単独で提供してもよく、組合せで提供してもよく、
a)トマト黄化えそウイルスS、M、Lゲノム断片を含み、前記ゲノム断片が配列特異的核酸修飾酵素をコードする非相同性ポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを含む、核酸コンストラクト組成物と、
b)1つ又は複数のRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)をコードし、好ましくは、前記サイレンシングサプレッサーはトンブスウイルスp19、タバコエッチウイルスHcPro、オオムギ斑葉モザイクウイルスγb、トマト黄化えそウイルスNSsの1種又は複数種から選ばれる、補助発現ベクターと、を含む試薬キットを提供する。
【0076】
更に、前記試薬キットは、更に、マニュアル又は取扱説明書を含む。
【0077】
別の様態において、本発明は、更に、上記に記述される組換えウイルスベクターシステム、細菌菌株又は組換えウイルス、試薬キット又は方法の、植物ゲノム編集における適用に関する。
【0078】
別の様態において、本発明は、更に、上記に記述される組換えウイルスベクターによる全身感染、或いは上記に記述される方法によって発生される、遺伝物質が修飾された植物及び後代植物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】トマト黄化えそウイルス(TSWV)ベクターによりCRISPR/Casヌクレアーゼを送達して植物ゲノム編集を行う方法である。ヌクレアーゼ配列を含む組換えウイルスベクターアグロバクテリウムを浸潤によりベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の下部の葉に接種して、ウイルスベクターを株に全身感染させる。組換えウイルス粒子を含む株の汁液をその他のウイルスの宿主植物に更に接種してもよい。ウイルスベクターは感染された株の細胞内でヌクレアーゼを発現して、ゲノム編集を発生させる。ウイルスによって感染された植物組織を外植片として、組織培養により再生株を取得する。標的配列をPCRにより増幅させて、制限酵素保護テスト及びSangerシークエンシングにより、編集される再生株及び後代を選択する。
【
図2】TSWVウイルス粒子形態及びゲノム構造である。(2A)はTSWV類球状ウイルス粒子を示し、表面に1層の脂質被膜が覆われ、脂質被膜にウイルスにコードされるGn及びGc糖タンパク質の突起が定着されている。ウイルス粒子の内部には、ヌクレオカプシドタンパク質(N)で覆われる3本の一本鎖アンチセンスRNAゲノムが含まれると共に、少量でコピーされるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)が結合されている。(2B)はTSWVゲノム構造を示す。分子量によって名付けられる3本のゲノム、即ち、L及びそのアンチセンスによりコードされるRdRp、M及びそのアンビセンスによりコードされる移行タンパク質NSmと糖タンパク質前駆体GP、S鎖及びそのアンビセンスによりコードされる外被タンパク質NとNSsタンパク質である。
【
図3】プラスミドベクタープロファイルである。(3A)はpCB301-2μ-HDVプラスミドプロファイルを示し、ウイルスゲノムcDNAクローンの構築に使用される。上図のプラスミドは、2×35S(35Sプロモーター)(SEQ ID NO: 9)、D型肝炎ウイルスリボザイム配列(HDV-Rz)、NOSターミネーター、バイナリーベクターT-DNAレフトアーム(LB)及びライトアーム(RB)、イースト複数起点(2μ ori)、イーストTRP1独立栄養マーカー、細菌複数起点(oriV)、カナマイシン耐性遺伝子(KanR)、レプリカーゼ遺伝子trfAを含む。下図は、転写により末端配列が忠実なウイルスRNAを発生させるために、ウイルスcDNA配列がStuI及びSmaIにより消化されるベクターに挿入してもよいことを示す。(3B)は瞬時発現ベクターの構築に使用されるpGDアグロバクテリウムバイナリーベクタープロファイルを示す。
【
図4】2つのレポーター遺伝子を同時に発現できるTSWVベクター構築の模式図である。(4A)はLアンチゲノムcDNAクローニングベクターpL
(+)、及びそのRdRpコーディング配列(SEQ ID NO: 4)がコドン最適化配列(SEQ ID NO: 5)によって置換されたベクターpL
(+)optである。(4B)はMゲノムcDNAクローニングベクターpM
(-)、及びGPコーディング配列(SEQ ID NO: 6)が赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子によって置換されたゲノムcDNAクローニングベクター(pM
(-)RFP)とアンチゲノムcDNAクローニングベクター(pM
(+)RFP)である。(4C)はSアンチゲノムcDNAクローニングベクターpS
(+)、及びNSsコーディング配列が緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)によって置換された誘導ベクターpS
(+)GFPである。2×35S:2つの35Sプロモーター;Rz:D型肝炎ウイルスリボザイム;NOS:NOSターミネーター;5’及び3’:ウイルスゲノムの5’ノンコーディング領域及び3’ノンコーディング領域(5’UTR及び3’ UTR);IGR:遺伝子間。
【
図5】2つの蛍光レポーター遺伝子を同時に発現するTSWVベクターである。(5A)は各核酸コンストラクトを含むアグロバクテリウム接種混合物の組合せを示す。(5B)は各アグロバクテリウム組成物でベンサミアナタバコ葉を浸潤してから5日間後の浸潤葉及び10日間後の全身感染葉におけるGFPとRFPの蛍光イメージである。(5C)は接種してから10日間後に組換えウイルスをベンサミアナタバコに感染させることで発生された症状及び蛍光イメージである。Mock:接種組成物にpL
(+)optが含まない陰性対照。(5D)はTSWV構造タンパク質N、GFP、RFPタンパク質のウイルスによって感染された全身感染葉における発現をWestern blotにより検出する。
【
図6】各RNAサイレンシングサプレッサー(VSR)のTSWVベクターに対する救助作用である。(6A)は1つ又は複数のVSRsとTWSVベクター核酸コンストラクトを含むアグロバクテリウム混合物の組合せを示す。(6B)は単一又は組合せのVSRを発現する場合のTSWVベクターの救助効率のグラフである。
【
図7】TSWV-Cas12a-crRNAベクター構築のイメージである。pL
(+)optはコドン最適化RdRpを含むLアンチゲノム鎖(センス)cDNAクローンである。pM
(-)Cas12a及びpM
(+)Cas12aはそれぞれGP遺伝子がCas12aコーディング配列によって置換されるMゲノム(アンチセンス)及びアンチゲノム鎖(センス)cDNAクローンである。pS
(+)crRNA:GFPはNSs遺伝子がGFP遺伝子によって置換されると共に5’がcrRNA配列に挿入されるSアンチゲノムcDNAクローンである。2×35S:2つの35Sプロモーター;Rz:D型肝炎ウイルスリボザイム;NOS:NOSターミネーター;5’及び3’UTR:5’及び3’ノンコーディング領域;IGR:遺伝子間;m
7G:mRNAキャップ;DR:crRNAダイレクトリピート(direct repeat);guide:crRNAガイド配列。
【
図8】TSWV-Cas12a-crRNAベクターの救助系である。(8A)は各アグロバクテリウム浸潤混合物の組合せでベンサミアナタバコ葉を浸潤してから5日間後に、組換えTSWV Sゲノムで発現するGFP蛍光を示す。(8B)はpM
(-)Cas12a及びpM
(+)Cas12aベクターから取得されるTSWVベクターにより誘導される症状である。Mock:接種組成物にpL
(+)optコンストラクトが含まない陰性対照。(8C)は全身感染組織におけるウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aの発現をWestern blotイメージにより示す。(8D)は組換えウイルスMゲノムにおけるCas12a遺伝子の完全性をRT-PCRにより検出する。上図はNSm及びCas12a遺伝子のPCR検出プライマーの設計を示し、下図はPCR産物のゲル電気泳動図である。(8E)はSangerシークエンシングピーク図であり、pM
(-)Cas12a(群4)により救助されるTSWVベクターMゲノムにおけるCas12aの配列の大半が欠失し、5’及び3’の少量のコーディング領域しか保留されていない。
【
図9】TSWV-Cas12a-crRNAベクターをベンサミアナタバコに感染させると共に、標的ゲノム編集を発生させる。(9A)はベンサミアナタバコPDS遺伝子構造図及び標的配列である。なお、PDSa及びPDSbは異質四倍体ベンサミアナタバコの2つのPDSコピーを表し、選択されるcrPDS1標的部位はPDSa及びPDSb遺伝子において保存的である。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(9B)は組換えウイルスをベンサミアナタバコに接種することで発生される症状及び発現されるGFP蛍光である。(9C)はTSWV Nタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより検出する。(9D)はcrPDS1標的部位の編集効率をPCR/RE法により検出する。Mock/U:健康なベンサミアナタバコPCR産物が制限酵素によって消化されてない。Mock/D:健康なベンサミアナタバコPCR産物が制限酵素によって消化されている。Indel(%)はHinfIによりダイジェストできないPCR産物の総PCR産物に占めるパーセンテージを表す。
【
図10】TSWV-Cas12a-crRNAウイルス粒子を機械的接種により複数の植物に感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(10A)はテストフローの模式図である。アグロバクテリウムを浸潤によりベンサミアナタバコ株に接種することで、組換えウイルスベクターを救助し、ウイルス粒子を含むベンサミアナタバコ汁液をウイルス発生源として、摩擦又は高圧スプレーによりその他の植物に接種し、植物が感染されてから、標的部位のゲノム編集を検出する。(10B)は組換えウイルス粒子を摩擦によりベンサミアナタバコ、ジャガイモ、ホオズキ、レタス、ワタの株に接種すると共にGFP蛍光を発現することを示す。(10C)は感染されたベンサミアナタバコ全身感染葉におけるウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより検出する。(10D)は摩擦により接種されるベンサミアナタバコにおけるPDS標的部位のゲノム編集をPCR/REにより解析する。Indel(%)は標的ゲノム編集効率を表す。
【
図11】TSWV-Cas12a-crRNA粒子をタバコに感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(11A)はタバコPDS遺伝子構造図及び標的配列を示す。PDSa及びPDSbは異質四倍体タバコの2つのPDSコピーを表し、選択されるcrPDS1はタバコPDSa及びPDSbにおいて保存的である。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(11B)はTSWV-Cas12a-crRNA粒子を摩擦によりタバコに接種してから5日間後に発生された症状及び全身感染葉の蛍光イメージである。上図はMock対照であり、下図はTSWV-Cas12a-crRNA粒子を接種した植物である。(11C)はウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより解析する。(11D)は摩擦によるタバコPDS標的部位のゲノム編集をPCR/REにより解析する。Indel(%)は標的ゲノム編集頻度を表す。
【
図12】TSWV-Cas12a-crRNAウイルス粒子をトマトに感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(12A)はトマトPDS遺伝子構造図及び標的配列を示す。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(12B)はTSWV-Cas12a-crRNA粒子を摩擦によりトマトに接種することで発生された症状及び全身感染葉の蛍光イメージである。Mock:接種緩衝液対照。(12C)はウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより解析する。(12D)は摩擦によるトマトPDS標的部位のゲノム編集をPCR/REにより解析する。Indel(%)は標的ゲノム編集頻度を表す。
【
図13】TSWV-Cas12a-crRNAウイルス粒子をトウガラシに感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(13A)はトウガラシPDS遺伝子構造図及び標的配列を示し、該標的部位はタバスコ、パプリカ、ハバネロにおいて保存的である。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(13B)はウイルス粒子を摩擦によりタバスコ(C. frutescens)、パプリカ(C. annuum)、ハバネロ(C.chinense)に接種することで発生された症状及び全身感染葉の蛍光イメージである。上図は健康対照であり、下図はウイルス感染株である。(13C)はウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより解析する。(13D)はウイルスによって感染されたタバスコ(C. frutescens)組織におけるPDS標的部位のゲノム編集をPCR/REにより解析する。Indel(%)は標的ゲノム編集効率を表す。(13E)はウイルスによって感染されたタバスコ、パプリカ、ハバネロ組織における標的遺伝子突然変異効率をハイスループットシークエンシングにより解析する。
【
図14】TSWV-Cas12a-crRNAをホオズキに感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(14A)はTSWV-Cas12a-crRNA粒子を摩擦によりホオズキに接種することで発生された症状及び全身感染葉の蛍光イメージである。Mock:接種緩衝液対照。(14B)はウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより解析する。(14C)はウイルスベクターをホオズキに全身感染させる効率及び全身感染された組織におけるER標的部位のゲノム編集効率を示す。
【
図15】TSWV-Cas12a-crRNA粒子をラッカセイに感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(15A)はラッカセイPDS遺伝子構造図及び標的配列を示す。PDSa及びPDSbは異質四倍体ラッカセイの2つのPDSコピーを表し、crPDS4はラッカセイの2つのPDSコピーにおいて保存的である。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、(G)は標的部位と隣接する側鎖配列であり、隣接する標的配列とNdeIダイジェスト部位を構成する。ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(15B)はウイルス粒子を摩擦によりタバコに接種してから5日間後に発生された症状及び全身感染葉の蛍光イメージである。左図はMock対照であり、右図はウイルス粒子が接種された植物である。(15C)はウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより解析する。(15D)は摩擦によるラッカセイPDS標的部位のゲノム編集をPCR/REにより解析する。Indel(%)は標的ゲノム編集効率を表す。
【
図16】TSWV-Cas12a-crRNAウイルス粒子をダイズに感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(16A)はダイズPDS遺伝子構造図及び標的配列を示す。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(16B)はウイルス粒子をダイズ子葉に注射してから4日間及び8日間後の蛍光イメージである。(16C)はウイルスNタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより解析する。(16D)は摩擦によるダイズPDS標的部位のゲノム編集をPCR/REにより解析する。Indel(%)は標的ゲノム編集効率を表す。
【
図17】TSWV編集ベクターの各パプリカ品種に対する感染及び編集効率である。(17A)は感染株組織におけるTSWV Nタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより検出する。(17B)はTSWVベクターの各パプリカ品種に対する全身感染効率及び標的ゲノム編集効率を示す。各品種はそれぞれ3つの生物学的レプリケートを取る。
【
図18】TSWV編集ベクターの各ラッカセイ品種に対する感染及び編集効率である。(18A)はTSWVベクターを各ラッカセイ品種に感染させることで発生された症状を示す。(18B)は感染株組織におけるTSWV Nタンパク質、GFP、Cas12aタンパク質の発現をWestern blotにより検出する。(18C)はTSWVベクターの各ラッカセイ品種に対する全身感染効率及び標的ゲノム編集効率を示す。各品種はそれぞれ3つの生物学的レプリケートを取る。
【
図19】TSWV-Cas12a-crRNA多標的編集ベクターが複数の標的遺伝子を同時に編集する。(19A)は多標的ベクターが複数のcrRNAを発現する模式図を示す。S1、S2、S3はSpacer(スペーサー配列) 1、Spacer 2、Spacer 3配列である。DRはdirect repeat(ダイレクトリピート配列)である。UTRはウイルスノンコーディング領域である。赤い矢印はCas12a切断部位を示し、1つ又は複数の成熟したcrRNAを発生させる。(19B)はTSWV単一標的及び多標的編集ベクターをベンサミアナタバコに感染させることで発生された症状である。(19C)は多標的編集ベクターの各標的部位で発生される編集効率と単一標的ベクターの各自部位における編集効率が類似であることを示す。nsは有意差がないことである(n = 6生物学的レプリケート、two-tailed Student’s t-test)。
【
図20】TSWV-Cas9-gRNA発現ベクター構築の模式図である。pL
(+)optはコドン最適化RdRp(SEQ ID NO: 5)を含むLアンチゲノム鎖(センス)cDNAクローンである。pM
(-)Cas9及びpM
(+)Cas9はそれぞれGP遺伝子がCas9コーディング配列によって置換されるMゲノム(アンチセンス)及びアンチゲノム(センス)cDNAクローンである。pS
(+)RFP:gRNAはNSs遺伝子がRFP遺伝子によって置換されると共に5’がgRNA配列に挿入されるSアンチゲノムcDNAクローンである。ウイルスが複製して転写する場合、SゲノムにおけるRFP及びgRNA融合配列がmRNAに転写され、Mゲノムで発現するCas9タンパク質がgRNA配列に結合し、植物内因性RNA酵素が両端の余計な配列を加工して除去する。2×35S:2つの35Sプロモーター;Rz:D型肝炎ウイルスリボザイム;NOS:NOSターミネーター;5’及び3’UTR:5’及び3’ノンコーディング領域;IGR:遺伝子間;m
7G:mRNAキャップ;scaffold:gRNA骨格配列(crRNA及びtracrRNA);guide:gRNAガイド配列。
【
図21】pM
(-)Cas9及びpM
(+)Cas9コンストラクトが組換えTSWV-CRISPR/Cas9ベクターを救助する効率の対比である。
【
図22】TSWV-Cas9-gRNAベクターがベンサミアナタバコGFP遺伝子組換えを編集する。(22A)は組換えウイルスをベンサミアナタバコ16C株に感染させることで発生された症状及び蛍光イメージを示す。(22B)はTSWV Nタンパク質、RFP、GFP、Cas9の発現をWestern blotにより検出する。(22C)はGFP遺伝子標的部位の編集効率をPCR/RE法により検出することを示す。Indel(%)は標的ゲノム編集効率を表す。(22D)は標的配列の編集をSangerシークエンシングにより検証することを示す。wt:野生型;d#:#個の塩基欠失;×#:#個のクローン。
【
図23】TSWV-Cas9-gRNAベクターがベンサミアナタバコPDS標的部位を編集する。(23A)はベンサミアナタバコPDS遺伝子構造図及び標的配列である。PDSa及びPDSbは異質四倍体ベンサミアナタバコの2つのPDSコピーを表し、選択されるgPDS1はPDSa及びPDSbにおいて保存的である。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(23B)は組換えウイルスをベンサミアナタバコに接種することで発生された症状図である。(23C)はTSWV構造タンパク質N、Cas9タンパク質の発現をWestern blotにより検出する。(23D)はPDS標的部位の編集効率をPCR/RE法により検出する。Mock/U:健康なベンサミアナタバコPCR産物が制限酵素によって消化されてない。Mock/D:健康なベンサミアナタバコPCR産物が制限酵素によって消化されている。
【
図24】TSWV-Cas9-gRNAウイルス粒子をタバコに感染させると共に、ゲノム編集を発生させる。(24A)はタバコPDS遺伝子構造図及び標的配列を示す。選択されるgPDS1は異質四倍体タバコのPDSa及びPDSbの2つのコピーにおいて保存的である。赤い縦線は標的配列の位置を表し、下線は標的配列に含まれる制限酵素識別配列を表し、ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。(24B)はTSWV-Cas9-gRNA粒子を摩擦によりタバコに接種することで発生された写真である。(24C)はウイルスNタンパク質、Cas9タンパク質の発現をWestern blotにより解析する。(24D)は摩擦によるタバコPDS標的部位のゲノム編集効率をPCR/REにより解析する。Indel(%)は標的ゲノム編集効率を表す。
【
図25】TSWV-Cas9-gRNA多標的編集ベクターが複数の標的遺伝子を同時に編集する。(25A)は多標的編集ベクターが複数のsgRNAを発現する模式図を示す。S1、S2、S3はSpacer1、Spacer2、Spacer3配列である。ScaffoldはsgRNA骨格配列である。UTRはウイルスノンコーディング領域である。ウイルスmRNAに包埋され、gRNAの加工がCas9タンパク質の結合に依存すると共に、植物内因性RNA酵素が両端の余計な配列を加工して除去する。(25B)はTSWV-Cas9-gRNA単一標的及び多標的編集ベクターをベンサミアナタバコに感染させることで発生された症状である。(25C)のヒストグラムは多標的編集ベクターの各標的部位で発生される編集効率と単一標的ベクターの各自部位における編集効率が類似であることを示す。nsは有意差がないことである(n = 3-6個の生物学的レプリケート、two-tailed Student’s t-test)。
【
図26】TSWV-ABE-gRNA発現ベクター構築の模式図である。pL
(+)optはコドン最適化RdRp(SEQ ID NO: 5)を含むLアンチゲノム鎖(センス)cDNAクローンである。pM
(+)ABEはGP遺伝子がABEコーディング配列によって置換されるMアンチゲノム鎖(センス)cDNAクローンである。pS
(+)GFP:gRNAはNSs遺伝子がGFP遺伝子によって置換されると共に3’がgRNA配列に挿入されるSアンチゲノムcDNAクローンである。2×35S:2つの35Sプロモーター;Rz:D型肝炎ウイルスリボザイム;NOS:NOSターミネーター。
【
図27】TSWV-ABE-gRNAベクターがベンサミアナタバコ内因性遺伝子標的部位を編集する。(27A)は組換えウイルスをベンサミアナタバコに感染させることで発生される症状図及び発現されるGFP蛍光である。(27B)はTSWV構造タンパク質N、GFP、塩基エディターの発現をWestern blotにより検出する。(27C)のヒストグラムはPDSa、FucTa、BBLd標的部位の塩基編集効率をハイスループットシークエンシングにより検出することを示す。(27D)のヒストグラムは標的部位の塩基編集ウィンドウにおける塩基AからGまで(又はTからCまで)の置換効率をハイスループットシークエンシングにより検出することを示す。
【
図28】TSWV-CBE-gRNA発現ベクター構築の模式図である。pM
(+)CBEはGP遺伝子がCBEコーディング配列によって置換されるMアンチゲノム鎖(センス)cDNAクローンである。2×35S:2つの35Sプロモーター;Rz:D型肝炎ウイルスリボザイム;NOS:NOSターミネーター。
【
図29】TSWV-CBE-gRNAベクターがベンサミアナタバコ内因性遺伝子標的部位を編集する。(29A)は組換えウイルスをベンサミアナタバコに接種することで発生される症状図及び発現されるGFP蛍光である。(29B)はTSWV構造タンパク質N、GFP、塩基エディターの発現をWestern blotにより検出する。(29C)のヒストグラムはRDR6a及びFucTa標的部位の塩基編集効率をハイスループットシークエンシングにより検出することを示す。(29D)のヒストグラムは標的部位の塩基編集ウィンドウにおける塩基CからTまで(又はGからAまで)の置換効率を示す。
【
図30】TSWV-Cas12a-crRNAによって感染されたベンサミアナタバコ細胞からミュータント植物を組織培養して再生する。(30A)はTSWV- Cas12a-crRNAによって感染されたベンサミアナタバコの上部葉を外植片に選択して組織培養を行い、脱分化及び根付きを経て再生苗を取得する。赤い丸はPDSが機能消失である1株の白化苗を示す。(30B)及び(30C)は3株(M0-1/-2/-3)の再生株のPDS標的部位のゲノム編集をそれぞれPCR/RE法及びSangerシークエンシングにより検出することを示す。M0-3は白化苗である。wt:野生型;d#:#個の塩基欠失。
【
図31】TSWV-Cas9-gRNAベクターによって感染された遺伝子組換えベンサミアナタバコ細胞からミュータント植物を組織培養して再生する。(31A)は3株の再生株及びGFP蛍光イメージを示す。(31B)は3株の再生株のgGFP部位の遺伝子型をSangerシークエンシングにより決定することを示す。イタリック体アルファベットは塩基挿入を表す。「-」は塩基欠失を表す。ボールド体アルファベットはPAM配列を表す。i1:1つの塩基挿入;d1:1つの塩基欠失。
【
図32】TSWV-Cas12a-crRNAによって感染されたトマト細胞からミュータント株を組織培養して再生する。(32A)は組織培養してから3週間後に、切断葉がカルスを誘導すると共に分化して芽を形成する(赤い丸で示す)ことを示す。(32B)は白化カルス(上図)及び根付きを誘導する再生株(下図)を示す。(32C)は5株の再生苗のPDS標的部位のゲノム編集をPCR/REにより解析することを示す。(32D)は5株(M0-1/-2/-3/-4/-5)の再生株のPDS標的部位の遺伝子型をSangerシークエンシングにより同定することを示す。wt:野生型;d#:#個の塩基欠失。
【
図33】抗ウイルス薬による処理で再生株のウイルス駆除を促進する実験フローである。
【
図34】抗ウイルス薬の再生苗に対するウイルス除去作用である。(34A)は再生株におけるウイルスRT-PCRの検出結果である。ウイルスの存在をTSWV Nの特異的プライマーにより検出し、ベンサミアナタバコの内因性Actinプライマーを内部リファレンスとする。(34B)のヒストグラムは各薬物により処理した場合のウイルス除去率を示す。
【
図35】抗ウイルス薬による処理の再生苗の編集効率に対する影響である。(35A)はベンサミアナタバコ再生苗の表現を実現する。一部の再生苗がPDSの4つの対立遺伝子(ベンサミアナタバコは異質四倍体)ノックアウトにより白化表現型を現れる。(35B)のヒストグラムは各薬物により処理された場合の再生苗における各突然変異タイプのパーセンテージを示す。PDS-A及びPDS-B遺伝子の標的部位領域配列のPCRアンプリコンに対してハイスループットシークエンシングを行うことで、標的遺伝子の突然変異タイプを決定する。下記の定義に基づいて、ベンサミアナタバコのPDS-A及びPDS-Bの遺伝子型を指定する。編集効率(indels%)が0-10.0%であるものは野生型(Wildtype, WT)である。10% < indels% ≦ 35.0%はキメラ突然変異(Chimeric, Chi)である。35.0% < indels% ≦ 80.0%はヘテロ接合型突然変異(Heterozygote, He)であり、即ち、1つの対立遺伝子の標的部位に編集を発生されたが、もう1つの対立遺伝子が野生型である。編集効率が80.0%~100.0%であるものについて、2つの対立遺伝子に同じタイプの編集を発生された場合、ホモ接合型突然変異(Homozygous, Ho)であり、2つの対立遺伝子に2つのタイプの編集を発生された場合、両アレル型突然変異(Biallelic, Bi)である。
【
図36】再生株後代表現型の分離の遺伝子解析である。(36A)はPDS遺伝子突然変異を含む2つの再生株後代表現型の分離比率を示す。RB-#54(-20/wt; -10/wt)緑色苗:白化苗の分離比が15:1であり、RD-#76(-11/-12; -11/-14)の分離比が3:1である。(36B)の表は再生M0株系のM1後代株の表現型の分離比及び統計解析を示す。M0株 PDS-A 及び PDS-B遺伝子は2つとも突然変異を有するが、対立遺伝子に少なくとも1つの野生型対立遺伝子又は非フレームシフト突然変異(-6,-9,-12;青いアルファベットで注記)が存在するため、株が依然として緑色に表現する。これらのM0の自家受粉によるM1代株の性状分離によって白化苗が発生された。x
2 P値はカイ二乗検定により取得され、P値>0.5は分離比の実績値と分離比の理論値が一致していることを示す。
【
図37】TSWV-Cas12a-crRNAによって感染されたタバコ細胞からミュータント株を組織培養して再生する。(37A)は根付き培地におけるタバコ再生苗を示す。(37B)は各群の編集を含む株の各群総数に占める比である。NtPDS-A及びNtPDS-Bホモログにおける標的部位領域配列のPCRアンプリコンのHTSを含むことで、株に対して編集を解析する。indels<=10%は野生型に認定され、indels>10%は編集株に認定される。(37C)は各群M0株における各突然変異遺伝子型の比率である。
【
図38】NSs遺伝子を含むTSWV-Cas9-gRNAベクターの救助効率が低下すると共に、株再生に影響を与える。(38A)はMゲノムがgRNA挿入を含むと共に、NSs遺伝子が保留され(pS
(+)NSs:gPDS1)又はRFPによって置換される(pS
(+)RFP:gPDS1)コンストラクトを示す。(38B)はNSs遺伝子を含む/含まないTSWV-Cas9-gRNAをベンサミアナタバコに感染させることで表現されたほぼ同じ症状を示す。(38C)は全身感染組織において発生された相当な標的ゲノム編集効率を示す。(38D)はNSs遺伝子の存在によって組換えウイルスベクターの救助効率が明らかに低下することを示す。(38E)はNSsを含む/含まない組換えTSWV粒子を摩擦によりベンサミアナタバコに接種することでほぼ同じ感染率を有することを示す。(38F)はNSs遺伝子を保留するTSWV-Cas9-gRNAベクターによって感染されたベンサミアナタバコ細胞が再生できないことを示す。NSsを含む編集ベクターによって感染されたベンサミアナタバコ葉組織は組織培養再生時に壊死するが、NSsを除去したウイルスベクターは再生に影響しない。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明はその適用を下記の明細書に示されるもの又は実施例により説明されるものに限定するものではないと理解すべきである。本発明はその他の実施形態を有してもよく、又は様々な形態で実施或いは完成してもよい。また、本明細書に使用される言葉及び用語は記述するためのものであり、限定するものではないと理解すべきである。
【0081】
本発明をより正確に定義すると共に、本発明を実施するように当業者に指導するために、下記の定義及び方法を提供する。特に断りのない限り、本明細書に使用される科学や技術の名詞は当業者が一般的に理解できる意味を有する。また、本明細書に使用されるタンパク質及び核酸化学、分子生物学、細胞及び組織培養、微生物学、ウイルス学関連用語及びラボ操作ステップは、対応する分野において幅広く使用される用語及び通常ステップである。例えば、本発明に使用される標準組換えDNA及び分子クローニング技術は当業者が熟知するものであり、下記の文献、即ち、Michael R. Green和Joseph Sambrook,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(4th edition);Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,2012により更に全面的に記述されている。更に、本発明をより正確的に理解するために、以下は関連用語の定義及び解釈を提供する。
【0082】
定義
用語「含む」「備える」「含有する」「有する」及びそれらの同義語は「を含むが、これらに限定されない」という意味である。この用語の範囲は用語「……からなる」及び「基本的に……からなる」の範囲を含む。
【0083】
慣用句「基本的に……からなる」は、該組成物及び方法が要求される組成物又は方法の基礎及び新規特徴を実質的に変えることがない限り、その他の成分及び/又はステップを含んでもよいという意味である。
【0084】
文脈からその他の形式で明記しない限り、本明細書に使用される単数形式「1つ」及び「該」は複数の指示対象を含む。例えば、用語「1種の化合物」又は「少なくとも1種の化合物」は複数種の化合物を含んでもよく、その混合物を含む。
【0085】
本発明において、用語「植物」は、植物全体、任意の後代、植物を構成する植物部分などを含み、植物部分は、植物細胞、植物細胞の培養物、植物組織、植物組織の培養物、植物の挿し木、植物の器官(例えば、花粉、胚、花、果実、芽、葉、根、茎、関連外植片)、植物の種子(例えば、成熟した種子、成熟していない種子、種皮のない未成熟胚)などを含むが、これらに限定されない。植物細胞は単離された単一細胞又は細胞集合体の形態(例えば、カルス、培養される細胞)であってもよく、プロトプラスト、配偶子が発生される細胞であってもよく、或いは完全な植物に再生できる細胞又は細胞の集合であってもよい。植物細胞の培養物又は組織の培養物は、該細胞又は組織に由来する植物生理学又は形態学の特徴を有する植物に再生できると共に、該植物とほぼ同じ遺伝子型を有する植物に再生できる。植物細胞の培養物又は組織の培養物における再生可能な細胞は、胚、プロトプラスト、分裂組織細胞、カルス、花粉、葉、葯、根、根端、花糸、花、小堅果、穂、穂軸、殻、茎であってもよい。植物部分は収穫可能な部分及び繁殖に利用できる後代植物の部分を含む。繁殖に利用できる植物部分は、例えば、種子、果実、挿し木、苗、塊茎、根茎を含むが、これらに限定されない。植物の収穫可能な部分は、植物の任意の有用な部分であってもよく、例えば、花、花粉、苗、塊茎、葉、茎、果実、種子、根を含むが、これらに限定されない。
【0086】
用語「植物細胞」は植物の構造及び生理的なユニットである。本明細書に使用される植物細胞は、プロトプラスト、一部の細胞壁を有するプロトプラストを含む。植物細胞は単離された単一細胞又は細胞集合体の形態(例えば、柔らかいカルス、培養される細胞)であってもよく、更に高等な組織ユニット(例えば、植物組織、植物の器官、植物)の一部であってもよい。そのため、植物細胞はプロトプラスト、配偶子が発生される細胞であってもよく、或いは完全な植物に再生できる細胞又は細胞の集合であってもよい。そのため、本明細書の実施形態において、複数の植物細胞を含むと共に、完全な植物に再生できる種子が「植物部分」と思われる。植物「後代」は植物の任意の後続世代を含む。
【0087】
植物「品種(variety)」「品系(line)」「栽培品種(cultivar)」「遺伝資源(germplasm)」「遺伝子型(genotype)」は本発明において互いに交換して使用でき、分類について同一種(species)の植物種類であり、その遺伝子組合せと表現型がその他の植物種類と区別できる安定的な特徴を有する。
【0088】
「遺伝子」は1本のポリペプチド鎖又は機能RNAを発生させるために必要な全てのヌクレオチド配列である。
【0089】
用語「ゲノム」は、植物細胞に使用される場合、細胞核に存在する染色体DNAを含むだけでなく、細胞に存在するサブオルガネラ構成部分(例えば、ミトコンドリア、プラスチド)におけるオルガネラDNAを更に含む。「ポリヌクレオチド」「核酸配列」「ヌクレオチド配列」「核酸断片」は互いに交換して使用でき、一本鎖又は二本鎖RNA又はDNA重合体であり、合成、非天然又は改変のヌクレオチド塩基を任意に含んでもよい。ヌクレオチドは下記1文字のアルファベットで指定する。「A」はアデノシン又はデオキシアデノシン(それぞれRNA又はDNAに対応)を表す。「C」はシチジン又はデオキシシチジンを表す。「G」はグアノシン又はデオキシグアノシンを表す。「U」はウリジンを表す。「T」はチミジンを表す。「I」はイノシンを表す。「R」はプリン(A又はG)を表す。「Y」はピリミジン(C又はT)を表す。「K」はG又はTを表す。「H」はA又はC又はTを表す。「N」は任意のヌクレオチドを表す。
【0090】
用語「遺伝物質」は親世代と子世代との間で遺伝情報を伝達するDNAである。
【0091】
用語「配列」とは任意長さのヌクレオチド配列であり、前記ヌクレオチド配列はDNA又はRNAであってもよく、直鎖、環状又は分岐鎖であってもよく、更に一本鎖又は二本鎖であってもよい。
【0092】
用語「発現」とは配列情報を対応する発現産物に変換することであり、直接転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNA又はその他の任意タイプのRNA)、又はmRNAの翻訳によって発生されたタンパク質を含む。発現産物は、更に、例えば、キャッピング、アデニル化、メチル化などの方法によって修飾されたRNA、及び例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADPリボシル化、ミリスチル化、グリコシル化によって修飾されたタンパク質を含む。
【0093】
用語「コード」とは、DNAポリヌクレオチド配列がタンパク質を翻訳するRNA(mRNA)に転写できること、又はDNAポリヌクレオチド配列がタンパク質を翻訳しないRNA(tRNA、rRNAなどのノンコーディングRNA)に転写できること、又はタンパク質に翻訳できるRNAポリヌクレオチド配列であることである。
【0094】
用語「ポリペプチド」「ペプチド」「タンパク質」は本発明において互いに交換して使用でき、アミノ酸残基の重合体である。
【0095】
「融合タンパク質」とは、2つ以上のポリペプチドをコードする遺伝子を連結して発現することで発生されたポリペプチド鎖であり、ポリペプチド鎖同士が特定のリンカーポリペプチド(linker peptide)により連結してもよい。
【0096】
「コドン最適化」とは標的タンパク質の特定宿主細胞における発現レベルを向上させるために、コーディング配列における1つ又は複数のコドンを同義コドン(synonymous codon)で置換することである。全ての生物がコドン利用の差異又は選好をある程度で示すことから、遺伝子の目標生物における発現レベルを向上させるために、アミノ酸を変更せずに、目標遺伝子における使用頻度の低いコドン又はレアなコドンを目標生物の選好的なコドンで置換する。また、コドン最適化の対象は、更に、不活化疑いのポリアデニル化部位、エキソン-イントロンスプライス部位、二次構造を形成できる配列、バランスGC含有量などを含み、転写レベルで遺伝子の発現レベルを向上させる。「コドン最適化」は通常の遺伝子設計手段であり、本分野では、特定の植物種において発現しようとする遺伝子コドンを最適化するための開示された特許及びコンピュータプログラムが既存である。例えば、数社の核酸合成事業化会社により提供されるコドン最適化ソフト、www.kazusa.orjp/codon/から取得可能なコドン利用データベース(「Codon Usage Database」、アメリカ特許881,224,7(Method for achieving improved polypeptide expression)及び8224578(Method and device for optimizing a nucleotide sequence for the purpose of expression of a protein)、文献Murrayら(Nucleic Acids Res 1989, 17:477-497)及びNakamuraら(Nucleic Acids Res, 2000, 28: 292)が挙げられる。
【0097】
「相同性」又は「同一性」パーセンテージはポリヌクレオチド又はポリペプチドセグメントの配列(例えば、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列)アラインメントにおける類似程度を記述する。配列アラインメントは、例えば、本明細書に提供される参照配列と別の配列など、2つの配列を、例えば、個別のヌクレオチド又はアミノ酸などのマッチング要素を最も多く発生させるように、手動でアラインメントすることで得られるが、切り口を任意の配列に取り込んでもよい。参照配列とアラインメントする配列の「相同性点数」は、マッチング要素の数を参照配列の全長で割ることで求められるが、アラインメントプロセスで参照配列に取り込まれる切り口を含まない。本明細書に使用される「パーセンテージ同一性」(「%同一性」)は、同一性点数に100を掛けることで求められる。
【0098】
本明細書に使用される「組換え」核酸は非天然核酸であり、例えば、本来なら別々の2つの核酸断片を人工的に連結することで発生される目標機能を持つ組合せ核酸断片である。この人工的な組合せは、通常、化学合成の手段、又は核酸の別々のセグメントを人工的に操作すること(例えば、遺伝子工学技術)により完成される。
【0099】
本明細書に使用される、核酸又はポリペプチドに適用される用語「キメラ配列」は、異なる由来の2つ以上の配列を1つの組換え配列に人工的な方法により組合せ、或いは同じ由来であるが一般的な天然のものと異なる方式で配列される調節配列及び興味のあるヌクレオチド配列である。
【0100】
用語「非相同性」及び「外来」は本明細書において互いに交換して使用でき、天然核酸又はタンパク質に存在していないヌクレオチド又はポリペプチド配列である。キメラ核酸配列を発生させるために、非相同性核酸配列は天然の核酸配列(又はそのバリアント)に(例えば、遺伝子工学的な手段により)連結されてもよい。
【0101】
用語「ベクター」とは、遺伝子工学技術において外来核酸断片を受容体細胞に移行する自己複製可能な核酸分子であり、例えば、プラスミド、ファージ、ウイルス又はコスミドである。
【0102】
用語「核酸コンストラクト」及び「組換えベクター」、「組換え核酸コンストラクト」又は「組換え発現ベクター」は本明細書において互いに交換して使用でき、ベクター及び少なくとも1つの挿入されるDNA分子を含み、更に、これらのコンストラクトが転写により発生された機能性RNA分子、又は核酸コンストラクト配列により化学合成されたRNA同等物を含む。通常、核酸コンストラクトは、挿入物を発現及び/又は繁殖するために、或いはその他の組換え核酸配列を構築するために発生された組換え発現ベクターである。挿入されるDNA分子は、プロモーター配列に操作可能に又は操作不可能に連結されると共に、DNA調節配列に操作可能に又は操作不可能に連結される。
【0103】
用語「調節配列」とは、コーディング配列内部又は側鎖(5’又は3’末端)配列に存在して、転写、RNA加工又は安定性、翻訳を調節するための特異的核酸配列である。調節配列は、プロモーター、エンハンサー、イントロン、転写調節エレメント、ポリアデニル化シグナル、RNA加工シグナル、翻訳エンハンサーエレメントなどを含むが、これらに限定されない。
【0104】
用語「操作可能に連結」とは、調節エレメント(例えば、プロモーター配列、転写終結配列などであるが、これらに限定されない)と核酸配列(例えば、コーディング配列又はオープンリーディングフレーム)が連結することで、ヌクレオチド配列の転写と翻訳が前記調節エレメントにより制御及び調節されることである。
【0105】
本発明に使用される「プロモーター」は、RNAポリメラーゼに結合できると共に、下流(3’方向)におけるコーディング又はノンコーディング配列の転写を開始させるDNA調節領域であり、別の核酸断片の転写を制御できる核酸断片である。本発明の幾つかの実施形態において、プロモーターは、植物細胞に由来するか、又はウイルスに由来するかを問わず、植物細胞において下流の遺伝子の転写を制御できるプロモーターである。プロモーターは恒常的プロモーター、組織特異的プロモーター、発育調節プロモーター、誘導性プロモーターであってもよい。
【0106】
植物に「導入」又は「取り込み」とは、アグロバクテリウムによる形質転換、遺伝子銃による衝撃、電気穿孔、PEGによる形質転換などを含む(これらに限定されない)方法により、核酸分子(例えば、プラスミド、リニア核酸断片、RNAなど)又はタンパク質を植物細胞に形質転換することで、植物細胞において前記核酸又はタンパク質を機能させることである。
【0107】
「アグロバクテリウム浸潤(agroinfiltration)」とは植物生物学における植物内で遺伝子発現を誘導する方法であり、該方法は、根頭癌腫病菌(Agrobacterium tumefaciens)の懸濁液を植物の葉に注射して、細胞間隙に存在するアグロバクテリウムによりバイナリープラスミド移行DNA(T-DNA)内部にある目標遺伝子を植物細胞内部に移行して瞬時発現する。アグロバクテリウム浸潤法は様々な植物に適用できるが、特にベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)とタバコ(Nicotiana tobacum)によって効果的である。
【0108】
「アグロバクテリウム感染(agroinfection)」又は「アグロバクテリウム接種(agroinoculation)」とは根頭癌腫病菌により感染エレメント(例えば、ウイルス又はウイロイド)を植物に接種する方法である。ウイルス(又はウイロイド)DNA又はcDNA配列はアグロバクテリウムバイナリープラスミドのT-DNA領域にクローニングされて、アグロバクテリウム感染により植物細胞に移行される。ウイルス(又はウイロイド)は細胞内で複製することで、通常、全身感染及び症状の発生に致す。
【0109】
用語「瞬時発現」とは、アグロバクテリウム浸潤、遺伝子銃による衝撃、ウイルスベクター感染、PEGより仲介されるプロトプラスト形質転換などの方法により、植物細胞、組織、器官又は個体に外来核酸配列を導入し、外来核酸配列は植物の染色体に統合されてもよく又は統合されなくてもよく、外来核酸断片は導入位置で発現を一定時間で維持できる。
【0110】
「ウイルス感染性クローン」とはウイルス配列を含む核酸コンストラクト又はプラスミドであり、含まれるウイルス配列が適切な宿主細胞に導入されてから、活性を持つ組換えウイルスを救助できる。
【0111】
用語「ウイルス救助」とは、ウイルス感染性DNAクローン又はcDNAクローンを適切な宿主細胞に導入すると共に感染性ウイルスを発生させるプロセスである。
【0112】
本明細書において、「組換えウイルス」とは、組換えDNA技術により発生されたウイルスである。天然の野生型ウイルスと違って、組換えウイルスの配列は組換えDNA技術により人工的に修正できる。
【0113】
本明細書に使用される「ウイルスベクター」「組換えウイルスベクター」「組換えウイルス発現ベクター」「組換えウイルスベクターシステム」は本明細書において互いに交換して使用でき、実験環境で遺伝子工学的に修飾されたウイルスであり、宿主細胞、組織、器官又は個体に非相同性核酸配列を導入することを目的とする。
【0114】
幾つかの実施形態において、ウイルスベクターシステムは1つ又は複数の組換え核酸コンストラクト又は組換えウイルスベクターの組成物であってもよく、宿主細胞に導入されてから、非相同性配列を複製、転写及び発現できる。幾つかの実施形態において、前記システムは異なる核酸コンストラクト又はウイルスベクターをそれぞれ含む細菌菌株の組合せであってもよく、好ましくは、前記細菌菌株はアグロバクテリウムである。別の幾つかの実施形態において、前記ウイルスベクターシステムは、更に、遺伝子工学的に修飾されたウイルス粒子であってもよい。
【0115】
用語「ウイルス粒子(virion)」とは、感染活性を有するウイルス構造の形態であり、ゲノムの核酸コアとカプシドを含み、更に、外側のエンベロープ(envelope)を含んでもよく、又は含まなくてもよい。本明細書において、「ウイルス粒子」は、被膜構造がなく、感染活性を有するウイルスヌクレオカプシド(nucleocapsid)粒子を含む。
【0116】
ウイルス「センス鎖」RNA及び「アンチセンス鎖」RNAはメッセンジャーRNA(mRNA)の極性に対する言い方であり、mRNAと同義を持つものは「センス鎖」RNAであり、相補的なものは「アンチセンス鎖」RNAである。マイナス鎖RNAウイルスについて、その名前の通り、そのウイルス粒子によって覆われるゲノムRNA(genomic RNA)はアンチセンス鎖RNAであり、ウイルス粒子RNA(virion RNA,vRNA)とも呼ばれる。逆に、相補的なセンス鎖RNAは、相補的RNA(complementary RNA,cRNA)又はアンチゲノムRNA(antigenomic RNA,agRNA)とも呼ばれる。
【0117】
本発明において、「遺伝的修飾」「遺伝子修飾」「核酸修飾」「ゲノム編集」とは、生物工学的な手段により生体のゲノムを修飾して、ゲノム配列の構造又は構成を変えることであり、例えば、遺伝子の配列の改変であり、単一又は複数のデオキシヌクレオチドの欠失、置換、挿入、又は前記方式の任意の組合を含む。遺伝可能なエピジェネティックな修飾を発生させ、例えば、DNAメチル化、ヒストン修飾などである。
【0118】
「遺伝的修飾された植物」は遺伝子工学的な手段により修飾された植物であり、単一又は複数のデオキシヌクレオチドの挿入、欠失、置換、又は前記方式の任意の組合せをそのゲノムに取り込むと共に、修飾された遺伝子配列が安定的に遺伝できるものを含む。
【0119】
本明細書において、「核酸修飾酵素」とは、細胞の核酸配列の構造又は構成を特異的にターゲティングできると共にそれを改変する酵素であり、例えば、遺伝子の配列の改変であり、単一又は複数のデオキシヌクレオチドの欠失、置換、挿入、又は前記方式の任意の組合せを含み、遺伝可能なエピジェネティックな修飾を発生させ、例えば、DNAメチル化、ヒストン修飾などである。
【0120】
「配列特異的エンドヌクレアーゼ(sequence-specific endonuclease)」「エンドヌクレアーゼ(endonuclease)」「ヌクレアーゼ(nuclease)」「核酸修飾酵素(nucleic acid modifying enzyme)」は本明細書において互いに交換して使用でき、核酸の分解又は修飾に利用される活性を有する酵素である。
【0121】
「Casヌクレアーゼ」「CRISPRヌクレアーゼ」「CRISPR/Casタンパク質」「Casタンパク質」「Casエフェクター」は本明細書において互いに交換して使用でき、Casタンパク質又はその断片を含むもの(例えば、Casの活性DNA切断ドメイン及び/又はCasのガイドRNA結合ドメインを含むタンパク質)であり、RNAによりガイドされるヌクレアーゼである。Casタンパク質は、CRISPR/Cas(クラスター化規則的空間間短パリンドローム反復配列及びその関連システム)ゲノム編集システムのタンパク質構成部分であり、ガイドRNAによるカイドを基に、DNA標的配列をターゲティングして切断し、DNA二本鎖又は一本鎖の切断を形成できる。
【0122】
「ガイドRNA」「gRNA」「sgRNA」は本明細書において互いに交換して使用でき、ヌクレアーゼに結合すると共に、ヌクレアーゼがゲノムの特定部位をターゲティングするように誘導するRNA分子である。ガイドRNAは、標的配列と十分な相補性を有して該標的配列とハイブリダイゼーションするためのヌクレオチド配列、及びCasタンパク質と結合してCRISPR/Cas複合体を形成するためのヌクレオチド配列を含む。CRISPR/Cas9ヌクレアーゼシステムにおいて、通常、ガイドRNAは、部分相補的なCRISPR RNA(crRNA)とtrans-acting CRISPR RNA(tracrRNA)がハイブリダイゼーションして形成されたRNA二元複合体分子、又は該2つのRNA分子を人工的に連結して形成された1つのgRNA分子である。CRISPR/Cas12aヌクレアーゼシステムにおいて、ガイドRNAは、tracrRNA分子を必要とせず、crRNAだけで構成される。
【0123】
「塩基編集」は細胞の核酸分子の特定塩基に対して編集を行う技術であり、例えば、配列特異的核酸修飾酵素を利用して細胞の標的DNA又はRNA分子の単一又は複数の塩基に対して脱アミノ反応を行い、細胞の内因性DNAの複製及び修復経路により脱アミノ化修飾された塩基をその他の塩基に変換し、例えば、シトシンをチミン又はグアニンに変換し、又はアデニンをグアニンに変換する。
【0124】
「塩基エディター」は、ヌクレオチド(例えば、DNA又はRNA)塩基(例えば、A、C、G、T又はU)を特異的にターゲティングして修飾できると共に、修飾された塩基を変換させる試薬であり、その修飾する塩基によって、アデニン塩基エディター(adenine base editor,ABE)、シトシン塩基エディター(cytosine editor,CBE)などに分類できる。通常、「塩基エディター」は、Cas9ニッカーゼ(Cas9 nikase, nCas9)又はヌクレアーゼ活性を持たないCas9(nuclease dead Cas9 , dCas9)と塩基脱アミノ化酵素及びその他のエフェクターから構成される融合タンパク質であり、ガイドRNAによるガイドを基に、特定核酸配列をターゲティングして塩基脱アミノ反応を触媒することで、脱アミノされた塩基が細胞の内因性DNAの複製及び修復経路によりその他の塩基に変換される。
【0125】
用語「プロトスペーサー隣接モチーフ(Protospacer adjacent motif sequence,PAM)」とはDNA標的配列領域の1つの核酸配列であり、対応するCasヌクレアーゼによって認識され、ガイドRNAによりカイドされるCasヌクレアーゼによる標的DNAの切断にとって重要な作用を果たしている。
【0126】
本明細書に使用される「標的DNA」は「標的部位」又は「標的配列」を含むDNAポリヌクレオチドである。用語「標的部位」「標的配列」「プロトスペーサー(protospacer)DNA」は本明細書において互いに交換して使用でき、本発明においてゲノムにおける1つの標的DNA断片がガイドRNAに結合できる核酸配列を含む。
【0127】
植物ゲノム編集システム
本発明は、植物ゲノム編集のために広域スペクトルの植物RNAウイルスベクターを利用して配列特異的核酸修飾酵素を送達する方法が開示され、具体的に、該ウイルスベクターシステムをゲノム編集エレメントの送達及び植物遺伝物質の修飾に適用する方法を含むが、これらに限定されない。工学的な感染性ウイルスベクターは、配列特異的核酸修飾酵素核酸配列を含むためのものであり、該ウイルスベクターを植物に感染させてから、細胞内で配列特異的核酸修飾酵素を発現する。前記核酸修飾酵素は植物ゲノムの特定部位をターゲティングすると共に、切断又は修飾して、DNA二本鎖切断又は塩基修飾を発生させ、細胞の内因性DNA修復メカニズムにより前記植物細胞の遺伝物質に対する修飾を完成させて、塩基の削除、挿入、置換による突然変異の1種又は複数種の組合せを発生させる。
【0128】
ゲノム編集に一般的に利用される配列特異的ヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼ(meganuclease)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ、転写活性エレメント様エフェクターヌクレアーゼ、CRISPR/Casヌクレアーゼを含む。メガヌクレアーゼ、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ、転写活性エレメント様エフェクターヌクレアーゼシステムがヌクレアーゼタンパク質のDNA結合ドメインによりDNA部位を特異的にターゲティングするのに対して、CRISPR/Casヌクレアーゼシステムは1つの短いガイドRNAによりCasタンパク質をガイドして標的配列を識別するため、複数のDNA結合ユニットを組立てるステップがなく、細胞内にCasタンパク質及びガイドRNAを導入するだけで、標的部位に対する切断を実現できることから、最も広く適用されるゲノムの標的編集システムである。
【0129】
CRISPR/CasシステムはCas遺伝子の数及び機能によって2種類5型(I~V)に分類される。最も簡単に工学的なゲノム編集ツールとして利用できるのは第2類のII型とV型システムであり、単一のCasエフェクターがあればよい。II型CRISPRシステムはCRISPR/Cas9システムを含み、例えば、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に由来するSpCas9システム、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に由来するSaCas9システムであり、該システムはCas9タンパク質、crRNA、tracrRNAを含む。crRNAとtracrRNAの一部の相補的配列がハイブリダイゼーションして二本鎖RNAを形成し、該構造が細胞の内因性二本鎖RNA酵素によって切断され、crRNAの加工と成熟に繋がる。それと同時に、crRNAとtracrRNAがハイブリダイゼーションして二元複合体を形成し、Cas9タンパク質に結合すると共に、後者をガイドしてcrRNAプロトスペーサー(protospacer)とペアになっている標的DNA配列をターゲティングする。工学的なゲノム編集CRISPR/Cas9ヌクレアーゼシステムは、crRNAとtracrRNAを連結して単一のガイドRNA(single guide RNA,sgRNA又はgRNA)を形成する。ガイドRNAはCas9に結合する配列構造、及び標的DNAとペアになっているプロトスペーサーを含む。V型CRISPR/CasシステムはCRISPR/Cas12a(又はCpf1と呼ばれる)を含み、例えば、アシダミノコッカス属(Acidaminococcus)、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、フランシセラ・ノビシダ菌(Franisella novicida)に由来するAsCas12a、LbCas12a及びFnCas12aなどであり、これらの相同タンパク質はRNAによりガイドされるDNAエンドヌクレアーゼの活性を有する。CRISPR/Cas12aヌクレアーゼシステムはシングルガイドRNA、即ちcrRNAだけでよく、tracrRNAの関与を必要としない。crRNAはCas12aに結合する配列、及び標的DNAとペアになっているプロトスペーサー配列を含む。また、Cas12aは自身cRNA加工の活性を有し、複数のcrRNA配列を含む転写ユニットを切断して複数のガイドRNAを発生させるため、crRNAの精密加工、及び複数のcrRNAの同時発現による多標的編集をより簡単に実現できる(Fonfaraら,Nature, 2016, 532: 517-521;Zetscheら,Nat Biotechnol, 2017, 35: 31-34)。
【0130】
CRISPR/Cas9又はCRISPR/Cas12aヌクレアーゼを設計してゲノム編集を行う方法は文献により開示され(Jinekら,Science, 337: 816-821; Congら,Science, 2013, 339: 819-823; Zetscheら,Cell, 2015, 63: 759-771)、SpCas9及びLbCas12aアミノ酸配列はSwissProtデータベースから検索して取得できる(登録番号Q99ZW2及び5ID6_A)。簡単に言えば、ガイドRNA配列は標的特異性を決定するため、gRNAにおける標的配列(プロトスペーサー)を変更するだけで、Casヌクレアーゼの遺伝子標的を変更できる。通常、Casタンパク質の一端又は両端に1つ又は複数の特定のタンパク質局在化シグナルが融合されており、例えば、核局在化シグナルNLSであり、該シグナルはCasタンパク質とガイドRNA複合体を特定のオルガネラ(例えば、細胞核)に輸送して機能させ得る。Casタンパク質と工学的なガイドRNAを共同で導入、又は細胞内で共発現する場合、Casタンパク質とガイドRNAが複合体を形成すると共に、ガイドRNAによりガイドされてゲノムの標的部位に結合され、Casタンパク質により標的配列の1本又は2本のDNA鎖が切断される。切断されたDNA鎖は細胞内の非相同末端結合(Non-homologous end joining,NHEJ)修復メカニズムにより損傷が修復され、切断された2つの末端がそのまま結合されるが、該修復メカニズムにより結合部に塩基の欠失、挿入又は置換が発生しやすい。
【0131】
二本鎖DNAの断裂が発生された細胞に外来DNAの組換えテンプレートを提供して、切断されたDNA末端を相同組換え(homologous recombination,HR)メカニズムにより修復する場合、設計された配列を修復テンプレートによりゲノムに取り込んでもよい。組換えテンプレートは、直線状又は環状の一本鎖又は二本鎖DNAであってもよく、ヌクレアーゼにより切断されたゲノムの標的配列の両側と相同性を持つ配列(相同性アーム)を含み、相同性アームの長さは1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100個のヌクレオチド又はそれ以上である。ヌクレアーゼによりゲノムの標的遺伝子を切断することでDNA切断が発生された場合、遊離するDNA末端を相同性配列により仲介して、外来DNAをテンプレートとしてDNA合成を行うことで、事前に設定された外来配列を目標部位に組み込む。
【0132】
幾つかの実施例において、本発明はCRISPR/LbCas12aヌクレアーゼを利用して植物ゲノム編集を行う。別の幾つかの実施例において、CRISPR/SpCas9ヌクレアーゼを利用して植物ゲノム編集を行う。
【0133】
また、Cas融合タンパク質は1つ又は複数の非相同性エフェクタードメインを更に含んでもよく、理想的な状況では、2つのドメインが1つのリンカー配列により連結される。Casタンパク質と融合できるタンパク質ドメインは、抗原エピトープタグ(例えば、HA、His、Flag、myc)、レポータータンパク質(緑色蛍光タンパク質、β-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ)、DNAメチル化酵素、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、ヒストン修飾酵素、DNAトポイソメラーゼ、DNA組換え酵素、シトシン脱アミノ化酵素、ウラシルグリコシラーゼサプレッサー、アデニン脱アミノ化酵素、DNAポリメラーゼ、逆転写酵素などを含むが、これらに限定されない。Casタンパク質DNAエンドヌクレアーゼドメインは突然変異によって不活化されるが、ガイドRNAと複合体を形成する能力を維持し、ゲノムの特異的DNA配列をターゲティングする。例えば、Cas9タンパク質のRuvCドメイン又はHNHドメイン活性部位にアミノ酸突然変異を取り込む場合、例えば、10番目アスパラギン酸のアラニン(D10A)への突然変異、又は840番目ヒスチジンのアラニン(H840A)への突然変異、又は854番目アスパラギナートのアラニン(N854A)への突然変異、又は863番目アスパラギナートのアラニン(N863A)への突然変異であり、nCas9突然変異タンパク質を発生させて、一本鎖しか切断できず、即ち、ニッカーゼ(nickase)になる。RuvCとHNHドメイン活性部位を同時に突然変異させる場合、発生されたdCas9ミュータントがDNA切断能力を失う。dCas9又はnCas9タンパク質は前記特定のエフェクタードメインと融合でき、ガイドRNAによるガイドを基に、ゲノム配列の局在、DNA修飾(シトシンメチル化、アデニン塩基編集、シトシン塩基編集など)、転写調節(活性化、抑制、ヒストン修飾など)、DNA組換え、DNA合成などに適用できる(Anzaloneら,Nat Biotechnol, 2020, 38: 824-844)。
【0134】
塩基エディターは、ヌクレアーゼが不活化したCasタンパク質(例えば、Cas9とCpf1など)、DNA依存性塩基脱アミノ化酵素を含み、例えば、シトシン脱アミノ化酵素、アデニン脱アミノ化酵素である。シトシン脱アミノ化酵素は、天然又は工学的改造の脱アミノ化酵素であり、例えば、アポリポ蛋白Bヒトシトシン脱アミノ化酵素3A(human APOBEC3A, hA3A)である。天然のアデニン脱アミノ化酵素は、通常、RNAを基質とし、脱アミノ作用により一本鎖RNAにおけるアデノシンをイノシン(I)に変換する。最近、定向進化の方法により、大腸菌のtRNAアデニン脱アミノ化酵素A(ecTadA)に基づいて、一本鎖DNAを基質として一本鎖DNAにおけるデオキシグアノシンをイノシン(I)に変換できるDNA依存性アデニン脱アミノ化酵素を取得した(Gaudelliら,Nature,2017,551: 464-471)。シトシン塩基エディター(CBE)とアデニン塩基エディター(ABE)タンパク質は、ガイドRNAによるガイドを基に、細胞の核酸分子を特異的にターゲティングでき、二本鎖DNA切断(DSB)を形成しない前提で標的部位にあるシトシン塩基(C)又はアデニン塩基(A)に対して脱アミノ反応を行い、DNA複製と修復により、それぞれチミン(T)又はグアニン(G)に置換されて、CからTまで(シトシン塩基編集)又はAからGまで(アデニン塩基編集)の標的指向型置換を実現する。
【0135】
ABEとCBEシステムにおけるガイドRNAの塩基修飾方法の設計は文献により開示された(Komorら,Nature, 2016,533: 420-424; Gaudelliら,Nature, 2017,551: 464-471)。簡単に言えば、ガイドRNA配列は標的特異性を決定するため、gRNAにおける標的配列(プロトスペーサー)を変更するだけで、塩基エディターの遺伝子標的を変更できる。塩基エディターとガイドRNAを共同で細胞に導入した場合、塩基エディタータンパク質は標的配列の活性ウィンドウ内で塩基変換を発生できる。
【0136】
幾つかの実施例において、本発明はCBEを利用して植物ゲノム塩基編集を行う。別の幾つかの実施例において、ABEを利用して植物ゲノム塩基編集を行う。
【0137】
ウイルスベクターに基づくヌクレアーゼの送達システム
上記に示される通り、本発明は植物細胞にCRISPR/Casエレメントを送達するウイルスベクターシステム及び方法を提供する。
【0138】
ウイルスベクターは植物細胞における1つ又は複数のCRISPRエレメントの発現に適用される。例えば、1つのCasヌクレアーゼ核酸配列、1つ又は複数のgRNA核酸配列は、各ウイルスベクターに挿入されると共に、ウイルスの転写調節配列に操作可能に連結される。好ましくは、2つ又は複数のCRISPR/Casエレメントは、同一のウイルスベクターに挿入されると共に、1つ又は複数の転写調節配列に操作可能に連結される。Casヌクレアーゼと1つ又は複数のgRNA核酸配列はウイルスゲノムにおける同一の部位に挿入されてもよく、同一の調節配列により発現が制御される。Casヌクレアーゼと1つ又は複数のgRNA核酸配列はウイルスゲノムの異なる部位に挿入されてもよく、異なる調節配列により発現が制御される。
【0139】
具体的に、大部分の植物DNAウイルスベクター及びプラス鎖RNAウイルスベクターが限定的な長さの外来断片しかパッケージングできないことを考えれば、大分子量のCRISPR/Casヌクレアーゼ遺伝子(4kb以上)を発現しにくく、本発明は、1つの分節植物マイナス鎖RNAのトスポウイルス属ウイルスベクターシステムを工学的にすると共に、トマト黄化えそウイルス(Tomato spotted wilt virus,TSWV)ベクターを好ましい実施例とする。本発明の実施例において、TSWVベクターは、1つ又は複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の挿入部位を含んでもよく、前記挿入部位がウイルス転写調節エレメントの上流及び/又は下流にある。本発明の好ましい様態において、組換えTSWVベクターの1つのゲノムに含まれるCasタンパク質コーディング配列がウイルス転写調節配列に操作可能に連結され、もう1つのゲノムに含まれる1つ又は複数のgRNAコーディング配列がウイルス転写調節配列に操作可能に連結される。TSWVによって感染された細胞において、ウイルス転写調節配列がCasタンパク質とgRNAの発現を駆動し、gRNAがCasヌクレアーゼをガイドしてゲノムの特定のDNA部位をターゲティングし、Casヌクレアーゼが標的配列の一本鎖又は二本鎖を切断する。
【0140】
トスポウイルス属ウイルス(tospoviruses)は、オルソトスポウイルス属ウイルス(orthotospoviruses)とも呼ばれ、分類についてネガルナウイルス門(Negarnaviricota)ブニヤウイルス目(Bunyavirales)トスポウイルス科(Tospoviridae)に属されるウイルス種類である。該属のウイルスは、ラッカセイ芽壊死ウイルス(Groundnut bud necrosis virus, GBNV)、ラッカセイ輪点ウイルス(Groundnut ringspot virus, GRSV)、ラッカセイ黄斑ウイルス(Groundnut yellow spot virus, GYSV)、インパチェンスえそ斑紋ウイルス(Impatiens necrotic spot virus, INSV)、トマト退緑斑点ウイルス(Tomato chlorotic spot virus, TCSV)、トマト黄化えそウイルス(Tomato spotted wilt virus, TSWV)、スイカ灰白色斑紋ウイ ルス(Watermelon silver mottle virus, WSMoV)、ズッキーニ致死性退緑ウイルス(Zucchini lethal chlorosis virus, ZLCV)、ラッカセイ退緑扇状斑紋ウイルス(Groundnut chlorotic fan-spot virus, GCFSV)、スイカ芽壊死ウイルス(Watermelon bud necrosis virus, WBNV)、メロン黄化えそウイルス(Melon yellow spot virus, MYSV)、アイリス黄斑ウイルス(Iris yellow spot virus, IYSV)、キク茎えそウイルス(Chrysanthemum stem necrosis virus, CSNV)などを含む。
【0141】
トスポウイルス属ウイルスは保存的形態学、生物学、分子生物学の特徴を有する。ウイルス粒子は類球状を示し、直径が約80-110ナノメートル(nm)であり、表面に1層の被膜が覆われ、被膜の外層が約5nmの糖タンパク質の突起により構成される。ウイルス粒子により3本の異なる長さの一本鎖アンチセンスゲノムRNAが覆われ、それぞれL、M、Sゲノム断片であり、ゲノムの総長さが約16600個の塩基(nt)である。各ゲノム断片3’末端は高度保存的な9つの塩基を有すると共に、5’末端領域と相補的であり、パンハンドル(panhandle)構造を形成し、各ゲノム断片を擬環状にして、該構造がウイルス転写及び複製プロセスにおいて重要な作用を果たす(
図2)。Lゲノムはアンチセンスのエンコーディング戦略であり、そのアンチゲノム鎖がサイズ約330kDaのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコードし、ウイルス複製転写にとって不可欠である。M及びSゲノムはアンビセンスのエンコーディング戦略を採用し、センス鎖とアンチセンス鎖がそれぞれ1つのオープンリーディングフレームを含み、遺伝子間によって分離され、遺伝子間が転写終結を機能するシスエレメントを含む。Mゲノム鎖は非構造移行タンパク質NSmをコードし、ウイルスの細胞間移行及び長距離移行において重要な働きを果たすが、アンチゲノム鎖は糖タンパク質の前駆体タンパク質(GP)をコードし、GPが加工により糖タンパク質GN及びGCに成熟され、糖タンパク質がウイルス粒子に定着されるタンパク質突起であり、ウイルス粒子の成熟及び媒介昆虫による伝播にとって不可欠である。Sゲノム鎖によりコードされる非構造タンパク質NSsはRNAサイレンシングサプレッサーであり、アンチゲノム鎖によりコードされるヌクレオカプシドタンパク質(nucleocapsid protein,N)であるNタンパク質はウイルス構造のタンパク質であり、ウイルスゲノムにより形成されるヌクレオカプシドを覆う。マイナス鎖ウイルスの最小感染ユニットはヌクレオカプシド(nucleocapsid)であり、即ち、ウイルスゲノムRNAがNタンパク質及びRdRpタンパク質によってパッケージングされてなるリボヌクレオタンパク質複合体(ribonucleprotein complex)である。
【0142】
トスポウイルス属ウイルスは自然条件でアザミウマ(thrips)によって伝播され、複数種の食用作物、工芸作物、野菜、草花などの植物に感染できるが、ラボ条件で機械的摩擦、移植などの手段で接種によりその天然又は実験の宿主植物に容易に感染できる。トスポウイルス属ウイルスの大部分は幅広い宿主範囲を有するが、トマト黄化えそウイルス(TSWV)の宿主範囲は特に広く、ナス科、ウリ科、キク科、マメ科、アブラナ科など85科以上1090種以上の単子葉及び双子葉植物(Parrellaら,J Plant Pathol, 2003, 85: 227-264)を含み、例えば、オクラ(Abelmoschus esculentus)、アゲラタム(Ageratum houstonianum)、タマネギ(Allium cepa)、ヒモゲイトウ(Amaranthus caudatus)、ホソアオゲイトウ(Amaranthus hybridus)、アオゲイトウ(Amaranthus retroflexus)、ハリビユ(Amaranthus inosus)、ホナガイヌビユ(Amaranthus viridis)、アマリリス(Amaryllis sp.)、パイナップル(Ananas comosus)、Anemone、セロリ(Apium graveolens var dulce)、セイヨウオダマキ(Aquilegia vulgaris)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ゴボウ(Arctium lappa)、クロバナアルム(Arum palaestinum)、シュウカイドウ(Begonia sp.)、ヒオウギ(Belamcanda chinensis)、ビート(Beta vulgaris)、コセンダングサ(Bidens pilosa)、アブラナ(Brassica campestris)、カリフラワー(Brassica oleracea var botrytis)、ハクサイ(Brassica pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa ssp. Chinensis)、Calceolaria herbeohybrida、トウキンセンカ(Calendula officinalis)、エゾギク(Callistephus chinensis)、ヤツシロソウ(Campanula glomerata)、カンパニュライソフィラ(Campanula isophylla)、Campanula latiloba、Campan ula pyramidalis、ナタマメ(Canavalia gladiata)、ナガミハマナタマメ(Canavalia obtusifolia)、セイヨウナタマメ(Canavalia occidentalis)、ナズナ(Capsella bursa-pastoris)、パプリカ(Capsicum annuum)、タバスコ(Capsicum frutescens)、ハバネロ(Capsicum Chinense)、カプシクムバッカツム(Capsicum Baccatum)、ロコトトウガラシ(Capsicum Pubescens)、パパイア(Carica papaya)、ハブソウ(Cassia occidentalis)、エビスグサ(Cassia tora)、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)、ヤグルマギク(Centaurea cyanus)、ウォールフラワー(Cheiranthus cheiri)、シロザ(Chenopodium album)、アメリカアリタソウ(Chenopodium ambrosioides)、アカザ(Chenopodium amaranticolor)、ミナトアカザ(Chenopodium murale)、シュンギク(Chrysanthemun coronarium)、シマカンギク(Chrysanthemun indicum)、フランスギク(Chrysanthemun leucanthemum)、キク(Chrysanthemun morifolium)、ヒヨコマメ(Cicer arietinum)、エンダイブ(Cichorium endiva)、キクニガナ(Cichorium intybus)、サイネリア(Cineraria)、スイカ(Citrullus lanatus)、アラビアコーヒー(Coffea arabica)、セイヨウヒルガオ(Convolvulus arvensis)、アレチノギク(Conyza bonariensis)、センネンボク(Cordyline fruticose)(別名Cordyline terminalis)、コエンドロ(Coriandrum sativum)、キンケイギク(Coreopsis drummondii)、カラクサナズナ(Coronopus didymus)、オニタビラコ(Crepis japonica)(別名Youngia japonica)、インカタヌキマメ(Crotalaria incana)、クロタラリア(Crotalaria juncea)、オオミツバタヌキマメ(Crotalaria pallida)(別名Crotalaria mucronata)、メロン(Cucumis melo)、キュウリ(Cucumis sativus)、セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)、ニホンカボチャ(Cucurbita moschata)、キンシウリ(Cucurbita pepo)、シクラメン(Cyclamen indicum)(別名Cyclamen persicum)、アーティチョーク(Cynara scolymus)、ダリア(Dahlia pinnata)、Dahlia variabilis、ヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium)、デルフィニウム(Delphinium sp.)、ハイマキエハギ(Desmodium triflorum)、Desmodium unicinatum、ヅボイシア(Duboisia leichhardtii)、ウスベニニガナ(Emilia sonchifolia)、ウイキョウ(Foeniculum vulgare)、ワイルドストロベリー(Fragaria vesca)、コゴメギク(Galinsoga parviflora)、ハキダメギク(Galinsoga quadriradiata)、グラジオラス(Gladiolus sp.)、ダイズ(Glycine max)、ツルマメ(Glycine soja)、センニチコウ(Gomphrena globosa)、アプランドワタ(Gossypium hirsutum)、カイトウメン(Gossypium barbadense)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、オオハマボウ(Hibiscus tiliaceus)、アマリリス(Hippeastrum hybridum)、ジャガタラズイセン(Hippeastrum reginae)、Hippeastrum rutilum、サクララン(Hoya carnosa)、アジサイ(Hydrangea macrophylla)、ヒヨス(Hyoscyamus niger)、ホルスティホウセンカ(Impatiens holsii)、サルタニホウセンカ(Impatiens sultanii)、ワレラナホウセンカ (Impatiens wallerana)、サツマイモ(Ipomea batatas)、ワキョ(Lactuca sativa)、スイートピー(Lathyrus odoratus)、ケカニア(Leonotis nepetaefolia)、ニワハナビ(Limonium latifolium)、シロハウチワマメ(Lupinus leucophyllus)、マダラハウチワマメ(Lupinus mutabilis)、タヨウハウチワマメ(Lupinus polyphyllus)、クコ(Lycium procissimum)、トマト(Lycopersicon esculentum)、野生種トマト(Lycopersicon hirsutum)、カラントトマト(Lycopersicon pimpinellifolium)、ウサギアオイ(Malva parviflora)、ストック(Matthiola incana)、ウマゴヤシ(Medicago polymorpha)、セイヨウエビラハギ(Melilotus officinalis)、セイヨウキョウチクトウ(Nerium oleander)、オオセンナリ(Nicandra physaloides)、Nicotiana acuminata、Nicotiana bigelovii、クリーブランドタバコ(Nicotiana clevelandii)、グルチノザタバコ(Nicotiana glutinosa)、ルスチカタバコ(Nicotiana rustica)、Nicotiana sylvestris、タバコ(Nicotiana tabacum)、アイスランドポピー(Papaver nudicaule)、ゼラニウム(Pelargonium hortorum)、ペチュニア(Petunia hybrida)、アズキ(Phaseolus angularis)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、フロックス(Phlox drummondii)、ヒメセンナリホオズキ(Physalis angulata)(別名Physalis minima)、ホオズキ(Physalis spp)、アカエンドウ(Pisum arvense)、エンドウ(Pisum sativum)、セイヨウオオバコ(Plantago major)、ブラックシードプランテイン(Plantago rugelii)、ソバカズラ(Polygonum convolvulus)、スベリヒユ(Portulaca oleracea)、プリムラ(Primula sp.)、プリムラマラコイデス(Primula malacoides)、プリムラシネンシス(Primula sinensis)、ラナンキュラス(Ranunculus sp.)、レッドラズベリー(Rubus idaeus)、ルドベキアアンプレクシカウリス(Rudbeckia amplexicaulis)、セントポーリアイオナンタ(Saintpaulia ionantha)、Salpiglossis、Scabiosa、シザンサス(Schizanthus)、ハヤトウリ(Sechium edule)、シネラリア(Senecio cruentus)、ヤコブボロギク(Senecio jacobea)、ゴマ(Sesamum indicum)、オオイワギリソウ(Sinningia eciosa)、偽エルサレムチェリー(Solanum capsicastrum)、ワルナスビ(Solanum carolinense)、シホウカ(Solanum laciniatum)、ツノナス(Solanum mammosum)、ナス(Solanum melongena)、イヌホオズキ(Solanum nigrum)、テリミノイヌホオズキ(Solanum nodiflorum)、ルリイロツルナス (Solanum seaforthianum)、Solanum triflorum、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ノゲシ(Sonchus oleraceus)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、ヤブチョロギ(Stachys arvensis)、Stapellia、ハンロウ(Stellaria media)、Streptosolen jamesonii、フレンチマリーゴールド(Tagetes patula)、Taraxacum、Tephrosia purpurea、ハマビシ(Tribulus terrestris)、シロツメクサ(Trifolium repens)、Trifolium subterraneum、キンレンカ(Tropaeolum majus)、Vallota、ヒメアレチハナガサ(Verbena brasilliensis)、ハマクマツヅラ(Verbena litoralis)、ウェルベシナエンケリオイデス(Verbesina enceloides)、ソラマメ(Vicia faba)、ケツルアズキ(Vigna mungo)、リョクトウ(Vigna radiata)、ササゲ(Vigna unguiculata)、Xanthium saccharatum、オランダカイウ(Zantedeschia aethopica)、シラホシカイウ(Zantedeschia albo-maculata)、キバナカイウ(Zantedeschia elliottiana)、Zantedeschia melanoleuca、モモイロカイウ(Zantedeschia rehmannii)、ヒャクニチソウ(Zinnia elegans)などが挙げられる。
【0143】
上記に示される通り、本発明の一態様はトマト黄化えそウイルス発現ベクターシステムを提供する。バイオテクノロジー分野の当業者に理解できるように、ウイルスゲノムの遺伝子操作及びウイルスベクター開発はウイルス感染性クローンの構築を前提とするが、適切な宿主細胞に導入することで、組換えウイルスのウイルスDNAクローンを発生させ、即ち、ウイルス救助を実現して、宿主細胞でウイルスに含まれるウイルス又は非ウイルスの配列を発現する。
【0144】
植物マイナス鎖RNAウイルス感染性cDNAクローンとウイルス発現ベクターの構築方法及び適用は、関連文章又は特許、例えば、植物ラブドウイルスのノゲシ黄網ウイルス(SYNV)の関連論文(Wangら,PLoS Pathog, 2015, 11: e 1005223)及び特許CN 105039388 B、植物ラブドウイルスのオオムギ黄縞モザイクウイルス(BYSMV)の関連論文(Gaoら,New Phytol, 2019, 223: 2120-2133)及び特許CN 110511955 A、トマト黄化えそウイルス感染性クローンシステム(Fengら,PNAS, 2020, 117: 1181-1190)などにより開示された。クローンのDNAから組換えマイナス鎖RNAウイルスを救助するプロセスは、1)ウイルスゲノム又はアンチゲノムRNAを転写により発生できる核酸コンストラクト及びウイルスコアタンパク質を発現する核酸コンストラクトを構築すること、2)前記核酸コンストラクトを環状プラスミド、リニアDNA断片、体外転写により発生された核酸断片などの形態で適切な宿主細胞に共同で導入すること、3)細胞内でウイルスRNAとタンパク質を発現し、パッケージングにより感染性ユニットを形成して、組換えウイルスを発生させること、を含む。前記導入方法は本分野における既知の方法であり、例えば、アグロバクテリウムによる形質転換法、遺伝子銃法、核酸(プラスミドDNA又は体外転写RNA)摩擦法、PEG仲介法、電撃法、マイクロインジェクション法、リポソームによる形質転換法、ナノ粒子により仲介される形質転換法により適切な真核細胞に取り込む。
【0145】
前記核酸コンストラクトを適切な植物宿主細胞に導入した場合、植物RNAサイレンシング反応はその高効率的な発現及びその後の組換えウイルス発生を阻害する重要な制限要因である。外来核酸進入を阻害する重要なメカニズムとして、植物RNAサイレンシング反応は、核酸コンストラクトの瞬時発現(Johansenら,Plant Physiol 2001, 126: 930-938)を抑制する一方で、新生組換えウイルスの複製と感染(Kasschauら,Virology 2001, 285: 71-81)を限定する。瞬時発現効率と組換え植物マイナス鎖RNAウイルスの救助効率を向上させるために、本分野における既知の解決手段は、共発現ウイルスによりコードされるRNAサイレンシングサプレッサー(viral suppressor of RNA silencing)である(Wangら,PLoS Pathog, 2015, 11: e 1005223; Ma & Li, Viruses 2020, 12: 1459)。現在、既知のウイルスRNAサイレンシングサプレッサーは多数であり、トンブスウイルスp19、タバコエッチウイルスHcPro、オオムギ斑葉モザイクウイルスγb、トマト黄化えそウイルスNSs、カブクリンクルウイルスp38、フロックハウスウイルスB2、インフルエンザウイルスNS1、エボラウイルスVP35などを含む。これらのサイレンシングサプレッサーの具体的なメカニズムは異なり、共同発現する際に、組換えマイナス鎖ウイルス救助の促進にとってシナジー効果を有する(Ganesanら,J Virol 2013, 87:10598-10611; Ma & Li, Viruses 2020, 12: 1459)。
【0146】
本発明に係る実施例はTSWVウイルスベクターシステムの構築方法及び組換えウイルス救助の技術手段が開示された。前記TSWVゲノム配列、即ち、そのSゲノム、Mゲノム、Lゲノム配列はそれぞれSEQ ID NO: 1、2、3に示される。本分野において、前記ウイルスゲノム配列は、開示された配列SEQ ID NO: 1、2、3と100%の同一性を有する必要はない。前記ウイルスゲノム配列は、本発明により開示された全ゲノム配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%の同一性を有する。或いは、それによりコードされるRdRpタンパク質アミノ酸配列は、本発明により開示されたRdRp遺伝子(SEQ ID NO: 4)によりコードされるタンパク質アミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%の相同性を有する。
【0147】
ウイルスゲノムRNAを転写により発生できる核酸コンストラクトを構築するために、本発明に係る実施例において、TSWV S、M、Lゲノム核酸配列は植物発現ベクターに挿入されると共に、プロモーター配列の下流に操作可能に連結される。適切な植物発現ベクターの多くは、当業者に知られていると共に、市販により取得でき、例えば、pCambia、pGreen、pCASS、PBin19、pGD、pCB301などが挙げられる。適切なプロモーターは、植物内因性遺伝子又は植物ウイルスに由来する恒常的プロモーター又は誘導性プロモーターを含み、例えば、アクチン(Actin)プロモーター、ユビキチン(Ubiquitin)プロモーター又はカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターなどが挙げられる。本発明の実施例はCaMV 35Sプロモーターの1つのバージョン(SEQ ID NO: 9)を採用し、該プロモーターは5’末端忠実な的ウイルスRNAを発生できる。
【0148】
前記TSWVゲノムの核酸コンストラクトにおいて、ウイルス配列3’末端が自己スプライシング可能なD型肝炎ウイルスリボザイム配列に操作可能に連結され、転写により発生されたウイルスRNAがリボザイムによりスプライシングされることで、3’末端忠実な的ウイルス末端配列が発生できる。D型肝炎ウイルスリボザイムの設計は論文(Sharmeenら,1998, J. Virol. 62, 2674-2679;Fengら,Proc Natl Acad Sci U S A, 2020, 2: 1181-1190)及びアメリカ特許522,533,7(Ribozyme compositions and methods for use)により開示され、当業者に知られている知識である。
【0149】
本発明の実施例において、TSWV Lゲノム核酸コンストラクトは、転写によりセンス鎖のLアンチゲノムRNAを発生させるために35Sプロモーターに操作可能に連結されるLアンチゲノム(antigenomic RNA)cDNA配列を含み、Mゲノム核酸コンストラクトは、転写によりMゲノム(アンチセンス)又はアンチゲノム(センス)RNAを発生させるために35Sプロモーターに操作可能に連結されるMゲノム又はアンチゲノムcDNA配列を含み、Sゲノム核酸コンストラクトは、転写によりセンス鎖のSアンチゲノムRNAを発生させるために35Sプロモーターに操作可能に連結されるSアンチゲノムcDNA配列を含む。
【0150】
上記に示されるように、マイナス鎖ウイルスの救助は、転写によりウイルス感染性ユニットを発生されるために、細胞内でウイルスコアタンパク質とウイルスRNAを共発現する必要がある。本発明の実施において、L及びSアンチゲノムRNA転写ユニット(センス)は翻訳テンプレートとしてウイルスヌクレオカプシドコアタンパク質RdRp(又はLと呼ばれる)及びNをそれぞれ発現し、更に、N及びRdRpタンパク質とパッケージングによりウイルスヌクレオカプシドを形成し、ウイルス複製のテンプレートとして後代ウイルスゲノムを発生させる。
【0151】
L及びS核酸コンストラクトが35Sプロモーターに操作可能に連結されるL及びSゲノムcDNA配列を含んでもよいが、この場合に、L及びSゲノムRNA転写ユニット(アンチセンス)がウイルスコアタンパク質を発現できないため、細胞内にRdRp及びN補助発現ベクターを別途で提供して、翻訳によりウイルスコアタンパク質を発生させてウイルスゲノムをパッケージングし、組換えウイルス複製及び感染を開始させる必要はあると、当業者は理解すべきである。
【0152】
本発明の実施例において、TSWV Lゲノム核酸コンストラクトを更に修飾して、LゲノムにおけるRdRpをコードする配列(SEQ ID NO: 4)をコドン最適化コーディング配列によって置換する。好ましくは、最適化されたRdRp配列はSEQ ID NO: 5に示される。なお、遺伝子配列の最適化はバイオテクノロジーの通常操作であり、同一の遺伝子が異なる最適化方法により異なる最適化された配列を取得できるが、本発明により提供されるコドン最適化配列はその例示的なものに過ぎない。その他の適切に最適化された配列も、植物細胞におけるTSWV RdRpの高効率的且つ安定的な発現を向上させることができ、組換えウイルスの発生に繋がる。
【0153】
本発明の幾つかの実施例において、TSWV Mゲノム断片は組換えDNA技術により操作でき、例えば、非相同性核酸配列の挿入、或いはGP遺伝子配列(SEQ ID NO: 6)の一部又は全部の欠失又は置換を行うことができる。幾つかの好ましい実施例において、GP遺伝子の全部又は一部の配列は非相同性レポーター遺伝子核酸配列によって置換される。
【0154】
本発明の幾つかの実施例において、TSWV Sゲノム断片は組換えDNA技術により操作でき、例えば、非相同性核酸配列のNSs遺伝子(SEQ ID NO: 7)コーディング配列の上流又は下流への挿入、或いはNSs遺伝子の一部又は全部の欠失又は置換を行うことができる。幾つかの好ましい実施例において、NSs遺伝子の全部又は一部の配列は非相同性レポーター遺伝子核酸配列によって置換される。
【0155】
本発明の実施例において、TSWV M及びSゲノムに含まれる非相同性核酸配列はウイルス転写シスエレメントに操作可能に連結され、例えば、M及びSゲノムノンコーディング領域におけるmRNA転写を機能するプロモーターエレメント、及びウイルス遺伝子間における転写終結を機能するシスエレメントが挙げられる。
【0156】
更に、前記組換えTSWV S、M、Lゲノムの核酸コンストラクトは適切な植物細胞に導入され、前記導入は組換えウイルス救助を実現できる条件で行われる。本発明に係る実施例において、組換えウイルスの発生を促進するために、細胞に共同で導入される補助核酸コンストラクトは、プロモーターに操作可能に連結されて1つ又は複数のRNAサイレンシングサプレッサーをコードする配列を更に含む。本態様の幾つかの実施例において、好ましくは、前記RNAサイレンシングサプレッサーはトンブスウイルスp19、タバコエッチウイルスHc-Pro、オオムギ斑葉モザイクウイルスγb、トマト黄化えそウイルスNSsの単一又は複数の組合せであり、前記プロモーターは35Sプロモーターである。必要に応じて、細胞に共同で導入される核酸コンストラクトはTSWV N及びRdRpタンパク質補助発現ベクターを更に含んでもよい。
【0157】
本態様の実施例の植物細胞に導入される核酸コンストラクト組成物は、a)TSWV S、M、L組換えゲノム配列を含む核酸コンストラクトと、b)1種又は複数種のウイルスサイレンシングサプレッサーをコードする補助発現コンストラクトと、を含み、必要に応じて、c)TSWV N及びLタンパク質をコードする1種又は複数種の補助発現コンストラクトを更に含む。
【0158】
本態様に係る「植物細胞に導入する」方法は本分野の通常方法であり、例えば、アグロバクテリウムによる形質転換法、遺伝子銃による衝撃法、花粉による導入法、PEGにより仲介される融合法、電撃法、マイクロインジェクション法、超音波による形質転換法、リポソームによる形質転換法、ナノ粒子により仲介される形質転換などの方法により、ウイルス核酸配列を含む環状プラスミド、リニアDNA断片、体外転写によるRNAなどを適切な真核生物細胞に取り込む。
【0159】
本発明の幾つかの実施例において、前記植物細胞に導入する方法はアグロバクテリウム感染法であり、即ち、前記1つ又は複数の核酸コンストラクトをアグロバクテリウム浸潤により適切な植物細胞に形質転換する。前記核酸コンストラクトは、アグロバクテリウムによる形質転換に適するプラスミドベクターであり、即ち、バイナリープラスミドベクターであり、アグロバクテリウムを植物に感染させるプロセスにおいて植物細胞に移行される移行DNA(T-DNA)領域を含む。核酸コンストラクトはその他の方式により細胞に導入されてもよく、例えば、遺伝子銃による衝撃法、葉摩擦法、PEG融合法などが挙げられる。この場合、核酸コンストラクトはDNA、RNA又はリボヌクレオタンパク質複合体の形態で細胞に導入されてもよい。
【0160】
本発明の好ましい例において、アグロバクテリウムでベンサミアナタバコの葉組織を浸潤させて、アグロバクテリウムバイナリープラスミドの移行DNA断片をベンサミアナタバコ細胞に導入すると共に、転写、発現及び組換えウイルス救助を行う。ベンサミアナタバコはアグロバクテリウムによる形質転換に最適な植物の1つであるが、その他の複数種の植物はアグロバクテリウムによる形質転換に対しても異なる程度の感受性を有する。
【0161】
本発明の幾つかの実施例において、GP遺伝子の全部又は一部が欠失された組換えTSWVは植物にとって感染性を有するが、該組換えウイルスは媒介昆虫のアザミウマに獲得されることはなく、媒介昆虫によりその他の植物に伝播されることもない。そのため、本発明により提供される組換えウイルス及び方法は高い生物安全性を有する。
【0162】
本発明の幾つかの実施例において、NSs遺伝子の全部又は一部が欠失された組換えTSWVは植物にとって感染性を有すると共に、野生型ウイルスよりも弱い毒性を有する。
【0163】
TSWVベクターは、1つ又は複数の(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)の挿入部位を含んでもよく、前記挿入部位がウイルス転写調節エレメントの上流及び/又は下流にある。幾つかの実施例において、組換えTSWVベクターMゲノムは1つのレポーター遺伝子を持ち、Sゲノムはもう1つのレポーター遺伝子を持ち、レポーター遺伝子がウイルス転写調節配列に操作可能に連結される。好ましくは、前記レポーター遺伝子は緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)及び赤色蛍光タンパク質遺伝子(RFP)である。植物細胞に組換え核酸コンストラクトを導入した場合、組換えウイルスの複製及び全身感染がレポーター遺伝子の発現によって追跡される。
【0164】
別の様態において、本発明は配列特異的核酸修飾酵素を植物に送達するTSWV発現ベクターシステム及びその構築方法が開示された。
【0165】
本発明の幾つかの実施例において、組換えTSWVベクターMゲノムはウイルス転写調節配列に操作可能に連結される核酸修飾酵素の1つの構成部分のコーディング配列を含み、Sゲノムはウイルス転写調節配列に操作可能に連結される核酸修飾酵素のもう1つの構成部分を含む。TSWVによって感染された細胞において、ウイルス転写調節配列は核酸修飾酵素構成部分の共発現を駆動し、形成された複合体がゲノムの特定DNA部位をターゲティングすると共に修飾を発生させる。
【0166】
上記に示される通り、TSWVベクターが複数の挿入部位を含み、M及び/又はSゲノムがそれぞれ又は同時に外来核酸配列を含む組換えウイルスは植物を全身感染させると共に、1つ又は複数の外来配列を発現する。そのため、本発明の実施例は、配列特異的核酸修飾酵素を発現できるウイルス発現ベクターシステムを提供し、具体的に、CRISPR/Cas核酸修飾酵素構成部分をコードする少なくとも2つのポリヌクレオチド配列が組換えTSWVゲノムに挿入されると共に、ウイルス転写シスエレメントに操作可能に連結される。組換えTSWVベクターを植物細胞に導入することで、核酸修飾酵素が発現される。
【0167】
本発明の幾つかの実施例において、前記CRISPR/Cas核酸修飾酵素はラクノスピラに由来するCRISPR/LbCas12aシステムである。
【0168】
本発明の幾つかの実施例において、CRISPR/Cas核酸修飾酵素は化膿レンサ球菌に由来するCRISPR/SpCas9システムである。
【0169】
本発明の幾つかの実施例において、前記CRISPR/Cas核酸修飾酵素はCRISPR/SpCas9システムに基づくABEである。
【0170】
本発明の別の幾つかの実施例において、前記CRISPR/Cas核酸修飾酵素はCRISPR/SpCas9システムに基づくCBEである。
【0171】
植物細胞におけるCasエフェクターの発現効率を向上させるために、本発明の幾つかの実施例において、イネコドン最適化LbCas12aコーディング配列(例えば、SEQ ID NO: 10に示される)、ベンサミアナタバココドン最適化SpCas9タンパク質配列(例えば、SEQ ID NO: 11に示される)、ベンサミアナタバココドン最適化アデニンエディタータンパク質コーディング配列(例えば、SEQ ID NO:84に示される)、ベンサミアナタバココドン最適化シトシンエディタータンパク質コーディング配列(例えば、SEQ ID NO:85に示される)を提供する。具体的な宿主種に対してコドン最適化を行う方法が実行可能で既知であると、当業者は理解すべきである。
【0172】
前記配列に示されるように、本発明のCasエフェクターは融合タンパク質であり、植物細胞核においてCRISPR/Cas複合体の十分な集積を実現するために、そのN末端及び/又はC末端が核局在化配列を更に含む。また、編集するDNA部位によれば、本発明のCas融合タンパク質はその他の局在化配列を更に含んでもよく、例えば、細胞質局在化配列、葉緑体局在化配列、ミトコンドリア局在化配列などが挙げられる。本発明の幾つかの実施例において、Cas12aタンパク質をコードする配列によりMゲノムGPコーディング配列を置換し、Cas12aタンパク質の発現はMゲノムシスエレメントにより制御される。Cas12aガイドRNA(crRNA)をコードする外来核酸分子がSゲノムNSsコーディングフレームの上流又は下流に挿入され、ガイドRNAの発現はSゲノムシスエレメントにより制御される。好ましくは、SゲノムNSsコーディングフレームが同時にレポーター遺伝子フレームによって置換され、該組換えウイルスによる感染はレポーター遺伝子により追跡される。該態様の実施例において、ガイドRNA転写ユニットはCas12aヌクレアーゼ加工メカニズムによりウイルスに由来する末端ポリヌクレオチドがスプライシングされた。
【0173】
本発明の別の幾つかの実施例において、Cas9タンパク質をコードする配列によりMゲノムGPコーディング配列を置換し、Cas9タンパク質の発現はMゲノムシスエレメントにより制御される。Cas9ガイドRNAをコードする外来核酸分子がSゲノムNSsコーディングフレームの上流又は下流に挿入され、ガイドRNAの発現はSゲノムシスエレメントにより制御される。好ましくは、NSsコーディングフレームはレポーター遺伝子によって置換される。該態様の実施例において、ガイドRNA転写ユニットはCas9ヌクレアーゼ及び内因性RNA加工メカニズムによりウイルスに由来する末端ポリヌクレオチドがスプライシングされた。
【0174】
本発明の幾つかの実施例において、ABEタンパク質のコーディング配列によりMゲノムGPコーディング配列を置換し、その発現はMゲノムシスエレメントにより制御される。ガイドRNAをコードする外来核酸分子がSゲノムNSsコーディングフレームの上流又は下流に挿入され、ガイドRNAの発現はSゲノムシスエレメントにより制御される。好ましくは、NSsコーディングフレームは蛍光レポーター遺伝子によって置換される。
【0175】
本発明の幾つかの実施例において、CBEタンパク質のコーディング配列によりMゲノムGPコーディング配列を置換し、その発現はMゲノムシスエレメントにより制御される。ガイドRNAをコードする外来核酸分子がSゲノムNSsコーディングフレームの上流又は下流に挿入され、ガイドRNAの発現はSゲノムシスエレメントにより制御される。好ましくは、NSsコーディングフレームは蛍光レポーター遺伝子によって置換される。
【0176】
上記実施形態において、CasエフェクターとガイドRNA(crRNA又はgRNA)エレメントをコードする2つの核酸配列はそれぞれ組換えTSWVベクターMとSゲノムに挿入される。本分野における既存の技術手段によれば、CasエフェクターとgRNA(又はcrRNA)エレメントをコードする核酸配列は単一のRNA転写ユニットに直列的に連結されて発現を行うことができる(Campaら,Nat Methods, 2019, 16: 887-893;Tangら,Plant Biotechnol J, 2019, 17: 1431-1445)。そのため、Casタンパク質とgRNAエレメントをコードする2つの核酸配列は1本の核酸配列となるように連結されてTSWVの1つのゲノムに挿入されることで発現され、例えば、Mゲノム、Sゲノム、Lゲノムが挙げられる。
【0177】
更に、本発明の幾つかの実施例において、前記組換えTSWVベクターを利用して植物細胞でCRISPR/Cas核酸修飾酵素を発現する。前記TSWV組換えゲノム断片を含む核酸コンストラクト及び補助発現コンストラクトは適切な植物細胞に導入され、前記導入は組換えウイルス救助を実現できる条件で行われる。
【0178】
本発明に係る実施例において、植物細胞に導入される核酸コンストラクト組成物は、a)組換えTSWV S、M、Lゲノム配列を含む核酸コンストラクトであって、SゲノムがCRISPRガイドRNAをコードする1つ又は複数の非相同性核酸配列を含み、MゲノムがCasヌクレアーゼ構成部分をコードする1つ又は複数の非相同性核酸配列を含み、Lゲノムがコドン最適化のウイルスRdRp配列(SEQ ID NO: 5)を含む核酸コンストラクトと、b)1種又は複数種のウイルスサイレンシングサプレッサーをコードする補助発現コンストラクトと、を含み、必要に応じて、c)TSWV N及びLタンパク質をコードする補助発現コンストラクトを更に含む。
【0179】
本発明に係る「植物細胞に導入する」方法は本分野の通常方法であり、例えば、アグロバクテリウムによる形質転換法、遺伝子銃による衝撃法、花粉管による導入法、PEGにより仲介される融合法、電撃誘導法、マイクロインジェクション法、レーザーによる形質転換法、超音波による形質転換法、リポソームによる形質転換法、ナノ粒子により仲介される形質転換などの方法により、ウイルス核酸配列を含む環状プラスミド、リニアDNA断片、体外転写により発生されたRNAなどを適切な真核生物細胞に取り込む。本発明の幾つかの実施例において、前記植物細胞に導入する方法は、アグロバクテリウム感染法であり、即ち、前記核酸コンストラクト(バイナリープラスミドベクター)を含むアグロバクテリウムでベンサミアナタバコの葉組織を浸潤させて、バイナリープラスミドの移行DNA断片をベンサミアナタバコ細胞に導入すると共に、転写、発現及び組換えウイルス発生を行う。
【0180】
TSWVは分節マイナス鎖RNAウイルスであり、クローンのDNAから組換えウイルスを救助する場合、同一の細胞でS、M、Lの3つの組換えゲノムを同時に取得することで、転写により活性を有する感染ユニットを発生させて、組換えウイルス感染を開始できる。容易に理解されるように、S、M、Lの3つのゲノムは長さの差異が大きいため、それらの発現とアセンブリー効率に差異がある。また、例えば、3.9kbのLbCas12aコーディング配列、4.2kbのSpCas9コーディング配列、4.9kbのABEコーディング配列、5.2kbのCBEコーディング配列などの、大きい断片の非相同性配列の挿入は、更に、組換えゲノム断片の救助効率に影響を与える。本発明に係る技術手段によれば、組換えウイルスを効果的に発生させるために、核酸コンストラクトにおける組換えゲノムcDNAの極性(センス又はアンチセンス)及び3つのゲノム核酸の構築比率を最適化する必要はなる。
【0181】
関連する実施例において、組換えL及びSゲノム断片はアンチゲノムcDNA方向で35Sプロモーターの下流に操作可能に連結され、転写により発生されたセンス鎖ウイルスRNAはN及びLタンパク質の翻訳テンプレートとしてもよく、ゲノム複製のテンプレートとしてもよい。
【0182】
幾つかの実施例において、LbCas12aコーディング配列を含む組換えMゲノム断片はアンチゲノムcDNA方向で35Sプロモーターに操作可能に連結され、転写により組換えMゲノムのセンス鎖RNAを発生させる。
【0183】
別の幾つかの実施例において、SpCas9コーディング配列を含む組換えMゲノム断片はアンチゲノム又はゲノムcDNA方向で、好ましくは、ゲノムcDNA方向で35Sプロモーターに操作可能に連結され、転写により組換えMゲノムのアンチセンス鎖RNAを発生させる。
【0184】
別の幾つかの実施例において、ABE又はCBE非相同性コーディング配列を含む組換えMゲノム断片はアンチゲノムcDNA方向で35Sプロモーターに操作可能に連結され、転写により組換えMゲノムのセンス鎖RNAを発生させる。
【0185】
アグロバクテリウム浸潤によりウイルス発現ベクターに導入する場合、アグロバクテリウム菌液の濃度(OD600値で示す)を調整することで、植物に導入する各組換えゲノムコンストラクトの比率を変更して、3つの組換えゲノムの協調的発現と有効的アセンブリーを実現する。なお、一定の範囲内で組換えコンストラクトの比率を調整することで、クローンのウイルスcDNAから組換えウイルスを救助することが可能である。
【0186】
幾つかの実施例において、crRNAを含む組換えSゲノムコンストラクトと、LbCas12aを含む組換えMゲノムコンストラクトと、組換えLゲノムコンストラクトとのアグロバクテリウム濃度比が2:2:1、1:2:1、1:10:2である場合、組換えウイルスの救助を実現できる。好ましくは、S組換えゲノムコンストラクトの濃度が最も低く、Lゲノムの濃度が次に低く、Mゲノムの濃度が最も高い場合、例えば、S:M:L比率が1:10:2である場合、組換えウイルスの救助効率は最も高い。
【0187】
幾つかの実施例において、gRNAを含む組換えSゲノムコンストラクトと、SpCas9を含む組換えMゲノムコンストラクトと、組換えLゲノムコンストラクトとのアグロバクテリウム濃度比が1:10:2である場合、組換えウイルスの高効率的救助を実現できる。
【0188】
幾つかの実施例において、gRNAを含む組換えSゲノムコンストラクトと、塩基エディターを含む組換えMゲノムコンストラクトと、組換えLゲノムコンストラクトとのアグロバクテリウム濃度比が1:10:2である場合、組換えウイルスの高効率的救助を実現できる。
【0189】
パッケージング能力の限界は、組換えウイルスベクターによる特異的配列ヌクレアーゼの送達にとって、最大な難関である。本発明の幾つかの実施例によれば、TSWVベクターゲノムは複数の挿入部位及び普通ではない外来断片の組立て能力を有し、長さ5kb以上のCRISPR/Casヌクレアーゼ断片を持つ組換えウイルスは植物を全身感染させると共に外来配列を発現できる。なお、TSWVが発現できるヌクレアーゼは、更に、その他の分子量相同又はそれ以下のCRISPR/Casヌクレアーゼ、例えば、SaCas9、STl1Cas9、STl2Cas9、St3Cas9、NmCas9、AsCas12a、FnCas12a、CasX、CasY、CasΦヌクレアーゼシステム、及びCRISPRヌクレアーゼの一部のアミノ酸のミュータント又は誘導体、例えば、高忠実度CasヌクレアーゼespCas9、HFCas9、Cas9ニッカーゼ(nCas9)、Cas9不活性酵素(dCas9)、ガイドエディターなどを含むが、これらに限定されず、更に、その他の小分子量のヌクレアーゼのタイプ、例えば、メガヌクレアーゼ(meganuclease)(~1kb)、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(~2kb)、転写活性エレメント様エフェクターヌクレアーゼ(~3kb)を含む。
【0190】
本発明の実施例により採用されるウイルスベクターは、トスポウイルス属標徴種トマト黄化えそウイルス(TSWV)である。なお、本発明の示唆に基づいて実施できるものは、類似するゲノム構造と生物学特性を有するトスポウイルス属及びその他の分節植物マイナス鎖RNAウイルスを更に含み、ラッカセイ芽壊死ウイルス(Groundnut bud necrosis virus, GBNV)、ラッカセイ輪点ウイルス(Groundnut ringspot virus, GRSV)、ラッカセイ黄斑ウイルス(Groundnut yellow spot virus, GYSV)、インパチェンスえそ斑紋ウイルス(Impatiens necrotic spot virus,INSV)、トマト退緑斑点ウイルス(Tomato chlorotic spot virus, TCSV)、スイカ灰白色斑紋ウイルス(Watermelon silver mottle virus, WSMoV)、ズッキーニ致死性退緑ウイルス(Zucchini lethal chlorosis virus, ZLCV)、ラッカセイ退緑扇型斑ウイルス(Groundnut chlorotic fan-spot virus, GCFSV)、スイカ芽壊死ウイルス(Watermelon bud necrosis virus, WBNV)、メロン黄斑点ウイルス(Melon yellow spot virus, MYSV)、アイリス黄斑ウイルス(Iris yellow spot virus, IYSV)、キク茎えそウイルス(Chrysanthemum stem necrosis virus, CSNV)を含むが、これらに限定されない。
【0191】
ウイルス送達システムに基づく植物ゲノム編集
別の様態において、本発明は、植物遺伝物質の修飾方法であって、該方法が本発明のTSWVベクターを利用して植物細胞にCRISPR/Cas核酸修飾酵素複合体を送達し、CasエフェクターがガイドRNAによるガイドを基に、植物ゲノムの特定配列をターゲティングし、DNA切断又は塩基修飾を発生させ、細胞内因性DNA修復メカニズムにより前記植物細胞の遺伝物質に対する修飾を完成させて、塩基の削除、挿入、置換による突然変異の1種又は複数種タイプの組合せを発生させる、方法を提供する。
【0192】
本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるヌクレアーゼはCRISPR/LbCas12aヌクレアーゼであり、別の幾つかの実施例において、CRISPR/SpCas9ヌクレアーゼである。
【0193】
本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達される塩基エディターはABEであり、別の幾つかの実施例において、CBEである。
【0194】
既定の標的配列に基づいて適切なCRISPRガイドRNAを設計及び構築する方法は、当業者にとって既知の知識であり、例えば、LbCas12a crRNAの設計は文献Fonfaraら(Nature, 2016, 532: 517-521)に参照できる。一般的に、LbCas12a crRNAは、標的配列と相補的な約23個ヌクレオチドのプロトスペーサー(ガイド配列)、及びLbCas12aタンパク質と結合して複合体を形成するダイレクトリピート(DR)配列を含み、そのうち、DR配列がCas12aと結合して複合体を形成するが、スペーサー配列が相補的な標的DNAをターゲティングする。前記標的配列は、下記構造、即ち、5’-TTTN-NX-3’を有し、NはA、G、C、Tから選ばれる任意の1つの塩基であり、NxはX個の連続的なヌクレオチドを表し、Xは15≦X≦30の整数であり、TTTNはLbCas12aのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列である。本発明の幾つかの具体的な実施形態において、Xは23である。
【0195】
また、Cas12aは自身cRNA加工の活性を有し、複数のcrRNA配列を含む転写ユニットを切断して複数のガイドRNAを発生させるため、crRNAの精密加工、及び複数のcrRNAの同時発現による多標的編集をより簡単に実現できる(Fonfaraら,Nature, 2016, 532: 517-521;Zetscheら,Nat Biotechnol, 2017, 35: 31-34)。
【0196】
本発明の幾つかの実施形態において、前記Cas12aのガイドRNAは単一crRNAであり、その構造は「ダイレクトリピート(direct repeat, DR)-スペーサー配列(Spacer)-ダイレクトリピート(direct repeat, DR)」である。該態様の実施例において、TSWVは「DR-Spacer-DR」ガイドRNAの初期転写ユニットを発現し、その両端がウイルスに由来する配列を含み、Cas12aタンパク質がDR配列に結合した後、そのヌクレアーゼ活性によりウイルスに由来する末端ポリヌクレオチドを加工してスプライシングし、「DR-Spacer」構造を含む成熟したcrRNAを形成できる。
【0197】
本発明の別の幾つかの実施形態において、前記Cas12aのガイドRNAは直列に連結される複数のcrRNAであり、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上のcrRNA配列である。具体的には、前記crRNA直列の発現方式は「DR-Spacer 1-DR- Spacer 2-DR…」構造である。該態様の実施例において、TSWVは直列crRNAを含む初期転写ユニットを発現し、その両端がウイルスに由来する配列を含み、Cas12aタンパク質がDR配列に結合した後、そのヌクレアーゼ活性により2つ以上の成熟したcrRNA分子を加工して放出できる。それにより発生された標的遺伝子の編集効率は、単一crRNAを送達する対応のTSWVベクターと類似する。
【0198】
本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるLbCas12aとcrRNA複合体の標的部位は、ベンサミアナタバコ及びタバコフィトエン不飽和化酵素(PDS)遺伝子における保存的crPDS1標的配列5’-TTTCTGCCGTTAATTTGAGAGTCCAAG-3’(SEQ ID NO: 12)(ボールド体アルファベットはPAM配列であり、下記同様)から選ばれ、別の幾つかの実施例において、トマトPDS遺伝子のcrPDS2標的配列5’-TTTCTGCTGTTAACTTGAGAGTCCAAG-3’(SEQ ID NO: 13)から選ばれ、別の幾つかの実施例において、トウガラシPDS遺伝子のcrPDS3標的配列5’-TTTCTGCTGTCAACTTGAGAGTCCAAG-3’(SEQ ID NO: 14)から選ばれ、別の幾つかの実施例において、ラッカセイとダイズPDS遺伝子における保存的crPDS4標的配列5’- TTTGACAGAAAACTGAAGAACACATAT-3’(SEQ ID NO: 15)から選ばれる。
【0199】
本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるLbCas12aとcrRNA複合体の標的部位は、ベンサミアナタバコFucT遺伝子における保存的標的配列5'- TTTGGAACAGATTCCAATAAGAAGCCT-3'(crFucT,SEQ ID NO: 86)、又はDCL2標的配列5'- TTTGAGAAGCTATGCTTATCTTCTTCG -3'(crDCL2,SEQ ID NO:87)から選ばれ、別の幾つかの実施例において、ホオズキER遺伝子の標的配列5'- TTTAATGTTAAACCTTTAGTGTCCTTT -3'(crER,SEQ ID NO: 88)から選ばれ、幾つかの実施例において、ラッカセイPDS遺伝子の保存的標的配列5'- AATGCAATGTATATTGATTGCCTTAAA -3'(crPDS5,SEQ ID NO: 98)から選ばれ、幾つかの実施例において、トウガラシPDS遺伝子の保存的標的配列5'-TTTCTGCTGTCAACTTGAGAGTCCAAG -3'(crPDS6,SEQ ID NO: 99)から選ばれる。
【0200】
本発明の別の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるLbCas12aは直列に連結される複数のcrRNAと複数のLbCas12a/crRNA複合体を形成することで、複数の遺伝子を同時にターゲティングして多重編集を行い、例えば、2つのcrRNA(crPDS1&crFucT;SEQ ID NO: 135)を直列に発現してベンサミアナタバコcrPDS1及びcrFucT部位をそれぞれターゲティングし、或いは、3つのcrRNA(crPDS1&FucT&crDCL2;SEQ ID NO: 136)を直列に発現してベンサミアナタバコcrPDS、crFucT及びcrDCL2部位をそれぞれターゲティングし、且つ、多標的ベクターにより発生された編集効率は、単一gRNAを送達する対応のTSWVベクターと類似する。
【0201】
SpCas9 gRNAの設計は文献Ranら(Nat Protoc, 2013, 11: 2281-2308)に参照できる。SpCas9 gRNAは、標的配列と相補的な約20個ヌクレオチドのプロトスペーサー、及びSpCas9タンパク質と結合して複合体を形成する配列を含み、且つ、その3’末端が隣接するプロトスペーサー隣接モチーフNGGを含む。前記標的配列は、下記構造、即ち、5'-NX-NGG-3’を有する。そのうち、NはA、G、C、Tから選ばれる任意の1つの塩基であり、NxはX個の連続的ヌクレオチドを表し、Xは14≦X≦30の整数であり、NGGはSpCas9のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列である。本発明の幾つかの具体的な実施形態において、Xは20である。
【0202】
RNAウイルスベクターを利用してgRNAを発現する場合、通常、gRNA初期転写ユニットの両端はウイルスに由来する配列を含む。Cas9タンパク質と共発現する場合、gRNA配列がCas9タンパク質に結合され、結合していないウイルスに由来する配列が内因性RNA加工酵素によりスプライシングされることで、1つ又は複数の成熟したgRNA分子が放出された(Mikamiら,Plant Cell Physiol, 2017, 58: 1857-1867;Ellisonら,Nat Plants, 2020, 6: 620-624)。
【0203】
本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるSpCa9とgRNA複合体の標的部位は、ベンサミアナタバコGFP遺伝子の組換えgGFP標的配列5’-GATACCCAGATCATATGAAGCGG-3’(SEQ ID NO: 16)から選ばれ、別の幾つかの実施例において、ベンサミアナタバコ及びタバコPDS遺伝子における保存的gPDS1標的配列5’-GGACTCTTGCCAGCAATGCTTGG-3’(SEQ ID NO: 17)から選ばれる。
【0204】
本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるSpCas12aとgRNA複合体の標的部位は、ベンサミアナタバコPDS遺伝子における保存的標的配列5'-TTGGTAGTAGCGACTCCATGGGG-3'(gPDS2,SEQ ID NO: 89)、又はRDR6標的配列5'-CCCCTCCTGACTCTTACCCAACT-3'(gRDR6,SEQ ID NO: 90)、又はSGS3標的配列5'-ACAAGAGTGGAAGCAGTGCTGGG-3'(gSGS3,SEQ ID NO: 91)から選ばれる。
【0205】
本発明の別の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるSpCas9は直列に連結される複数のgRNAと複数のSpCas9/gRNA複合体を形成することで、複数の遺伝子を同時にターゲティングして多重編集を行い、例えば、2つのgRNA(gPDS2&gRDR6;SEQ ID NO: 137)を直列に発現してgPDS2及びgRDR6部位をそれぞれターゲティングし、或いは、3つのgRNA(gPDS2&gRDR6&gSGS3;SEQ ID NO: 138)を直列に発現してgPDS2、gRDR6及びgSGS3部位をそれぞれターゲティングし、且つ、多標的ベクターにより発生された標的遺伝子の編集効率は、単一gRNAを送達する対応のTSWVベクターと類似する。
【0206】
塩基エディター(ABE及びCBEなど)のgRNA設計はSpCas9ヌクレアーゼ設計と基本的に類似する。本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるABEとgRNA複合体の標的部位は、ベンサミアナタバコPDSa遺伝子の標的配列5’-TGCAAATTGAGTTGGGAGTGAGG-3’(gPDSa,SEQ ID NO: 92)から選ばれ、幾つかの実施例において、ベンサミアナタバコFucTa遺伝子の標的配列5’-CCTCTTGAGAATGTTGCTATTGG-3’(gFucTa1,SEQ ID NO: 93)から選ばれ、又はベンサミアナタバコベルベリンブリッジ酵素様核酸(BBL)d遺伝子の標的配列5’-GAAATCAGAGTAAGGTGCGGAGG -3’(gBBLd,SEQ ID NO: 97)から選ばれる。
【0207】
本発明の幾つかの実施例において、TSWVベクターにより送達されるCBEとgRNA複合体の標的部位は、ベンサミアナタバコα-1,3-フコース転移酵素a遺伝子(FucT a)の標的配列5’-CACACCTTCCTCCAGGAGATAGG-3’(gFucTa2,SEQ ID NO: 94)、RNA依存性RNAポリメラーゼ6a遺伝子(RDR6a)の標的部位1配列5’-CCAATATCTAGGCGTGAGGGATT-3’(gRDR6a1,SEQ ID NO: 95)及び標的部位2配列5’-CCCGACTTCATGGGGAAGGAGGA-3’(gRDR6a2,SEQ ID NO: 96)から選ばれる。
【0208】
前記ガイドRNAは、単一の遺伝子、又は例えば、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個及びそれ以上など複数の遺伝子をターゲティングできる。本発明の幾つかの実施例において、前記ガイドRNAは単一の遺伝子をターゲティングし、例えば、Cas12a crRNAがトマトPDS遺伝子、トウガラシPDS遺伝子、ダイズPDS遺伝子をターゲティングし、及びCas9 gRNAがGFP遺伝子組換えをターゲティングする。別の幾つかの実施例において、前記ガイドRNAは2つの遺伝子をターゲティングし、例えば、Cas12a crRNAがベンサミアナタバコ及びタバコPDSaとPDSb遺伝子、ラッカセイPDSaとPDSb遺伝子をターゲティングし、並びに、Cas9 gRNAがベンサミアナタバコ及びタバコPDSaとPDSb遺伝子をターゲティングする。
【0209】
植物細胞の遺伝物質の修飾を実現するために、前記Casエフェクターを含むと共に異なる標的部位のガイドRNAをターゲティングするTSWVウイルスベクターは、本分野における既知の任意の方法により植物細胞、組織又は器官に導入される。例えば、アグロバクテリウム感染法、遺伝子銃による衝撃法、花粉管による導入法、PEGにより仲介される融合法、電撃法、マイクロインジェクション法、超音波による形質転換法、リポソームによる形質転換法、ナノ粒子により仲介される形質転換などの方法により、組換えウイルスベクター核酸配列を含む環状プラスミド、リニアDNA断片、体外転写によるRNAなどを適切な植物細胞に取り込む。本発明の幾つかの実施例において、前記植物細胞に導入する方法は、アグロバクテリウム感染法であり、即ち、前記核酸コンストラクト(バイナリープラスミドベクター)を含むアグロバクテリウムでベンサミアナタバコの葉組織を浸潤させる。ベンサミアナタバコ細胞に導入されるウイルス核酸配列は組換えウイルスの発生をガイドし、植物の接種葉及び全身感染葉でCRISPRヌクレアーゼ複合体を発現し、後者は標的配列をターゲティングすると共に切断又は修飾して、遺伝物質の修飾を誘導する。
【0210】
TSWVウイルスベクターはウイルス粒子で植物を感染させる方法により植物細胞に導入されてもよい。例えば、機械的摩擦、高圧スプレー、針刺し法、シリンジ注射、真空浸潤、遺伝子銃による衝撃などの方法により、感染性組換えウイルス粒子を含む植物の汁液で植物を感染させ、或いは、感染された株と感染しようとする株に対して同種又は異種移植を行うことでウイルスを接種する。本発明の幾つかの実施例において、前記感染方法は、摩擦接種及び高圧スプレーの方法により、組換えウイルス粒子を含むベンサミアナタバコ汁液をベンサミアナタバコ、タバコ、トマト、パプリカ、タバスコ、ハバネロ、ジャガイモ、ホオズキ、ワキョ、ラッカセイ、ダイズ、ワタに接種する。株細胞に導入される組換えウイルス粒子はウイルスの複製及び感染を開始させ、接種葉及び/又は全身感染葉でCRISPRヌクレアーゼ複合体を発現し、後者は標的配列を切断又は修飾して、遺伝物質の修飾を誘導する。
【0211】
植物がウイルスベクターによって感染された場合、本分野における既知の任意の方法は、標的配列に対する修飾の同定に適用できる。例えば、レポーター遺伝子発現の不活化又は活性化などの機能性測定、又はポリメラーゼ連鎖反応によるDNA配列の増幅を利用して行うSurveyorとT7EIヌクレアーゼ測定、制限酵素保護解析、Sangerシークエンシング解析、ハイスループットシークエンシング解析が挙げられる。
【0212】
本発明の幾つかの実施例において、採用される同定方法は制限酵素保護解析とSangerシークエンシング解析である。標的配列によっては、本発明において、ウイルスベクターにより発現されるヌクレアーゼによる標的遺伝子の編集効率は45%-98%になる。
【0213】
本発明の別の幾つかの実施例において、採用される同定方法はハイスループットシークエンシング解析である。ハイスループットシークエンシングは、植物総DNAをテンプレートとして、リンカー付きの特異的プライマーにより標的を含む1つの配列を増幅させた後、該配列のアンプリコンを更に増幅させ、barcodeを付加してから、ハイスループットシークエンシングを行う。その後、シークエンシング結果と野生型配列とを比較して解析し、標的部位で予期の突然変異が発生されたreads数の総readsに占める比率を算出する。該比率は標的遺伝子の編集効率である。
【0214】
本発明の方法は、前記ヌクレアーゼのコーディング遺伝子を植物に安定的に形質転換する必要はなく、感染性組換えTSWVウイルスベクターを導入するだけで、植物組織でCRISPR核酸修飾酵素を局所的又は全身的に瞬時発現し、植物細胞ゲノムの標的配列に対する修飾を実現できるため、植物ゲノムにおける外来ヌクレオチド配列の統合は免れた。
【0215】
本発明において、修飾対象とする標的配列は、ゲノムの任意の部位にあってもよく、例えば、タンパク質コーディング遺伝子であるエキソン又はイントロンなどの機能性遺伝子にあってもよく、或いは、プロモーター領域又はエンハンサー領域などの遺伝子発現調節領域にあってもよいため、前記遺伝子に対する機能性修飾又は遺伝子発現に対する修飾を実現できる。本発明の幾つかの実施形態において、前記標的配列修飾は、1つ又は複数の塩基の削除、挿入、置換による突然変異の1種又は複数種タイプの組合せを含み、標的遺伝子のオープンリーディングフレームのフレームシフト及びプレ成熟終結、アミノ酸の置換又は欠失に致す。
【0216】
なお、組換えTSWVウイルスベクターで感染された植物細胞において、外来DNAの組換えテンプレートを提供した場合、DNAの相同組換えのガイドに適用できる。ウイルスベクターにより発現されるヌクレアーゼでゲノム標的遺伝子を切断することでDNA断裂が発生された場合、遊離するDNA末端を相同性配列により仲介して、外来DNAをテンプレートとしてDNA合成を行うことで、事前に設定された外来配列を目標遺伝子部位に組み込む。
【0217】
本発明により提供される方法で遺伝物質の修飾を行う植物は、ウイルスベクターによって感染される天然又は実験宿主を含み、例えば、オクラ(Abelmoschus esculentus)、アゲラタム(Ageratum houstonianum)、タマネギ(Allium cepa)、ヒモゲイトウ(Amaranthus caudatus)、ホソアオゲイトウ(Amaranthus hybridus)、アオゲイトウ(Amaranthus retroflexus)、ハリビユ(Amaranthus inosus)、ホナガイヌビユ(Amaranthus viridis)、アマリリス(Amaryllis sp.)、パイナップル(Ananas comosus)、Anemone、セロリ(Apium graveolens var dulce)、セイヨウオダマキ(Aquilegia vulgaris)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ゴボウ(Arctium lappa)、クロバナアルム(Arum palaestinum)、シュウカイドウ(Begonia sp.)、ヒオウギ(Belamcanda chinensis)、ビート(Beta vulgaris)、コセンダングサ(Bidens pilosa)、アブラナ(Brassica campestris)、カリフラワー(Brassica oleracea var botrytis)、ハクサイ(Brassica pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa ssp. Chinensis)、Calceolaria herbeohybrida、トウキンセンカ(Calendula officinalis)、エゾギク(Callistephus chinensis)、ヤツシロソウ(Campanula glomerata)、カンパニュライソフィラ(Campanula isophylla)、Campanula latiloba、Campan ula pyramidalis、ナタマメ(Canavalia gladiata)、ナガミハマナタマメ(Canavalia obtusifolia)、セイヨウナタマメ(Canavalia occidentalis)、ナズナ(Capsella bursa-pastoris)、パプリカ(Capsicum annuum)、タバスコ(Capsicum frutescens)、ハバネロ(Capsicum Chinense)、カプシクムバッカツム(Capsicum Baccatum)、ロコトトウガラシ(Capsicum Pubescens)、パパイア(Carica papaya)、ハブソウ(Cassia occidentalis)、エビスグサ(Cassia tora)、ニチニチソウ(Catharanthus roseus)、ヤグルマギク(Centaurea cyanus)、ウォールフラワー(Cheiranthus cheiri)、シロザ(Chenopodium album)、アメリカアリタソウ(Chenopodium ambrosioides)、アカザ(Chenopodium amaranticolor)、ミナトアカザ(Chenopodium murale)、シュンギク(Chrysanthemun coronarium)、シマカンギク(Chrysanthemun indicum)、フランスギク(Chrysanthemun leucanthemum)、キク(Chrysanthemun morifolium)、ヒヨコマメ(Cicer arietinum)、エンダイブ(Cichorium endiva)、キクニガナ(Cichorium intybus)、サイネリア(Cineraria)、スイカ(Citrullus lanatus)、アラビアコーヒー(Coffea arabica)、セイヨウヒルガオ(Convolvulus arvensis)、アレチノギク(Conyza bonariensis)、センネンボク(Cordyline fruticose)(別名Cordyline terminalis)、コエンドロ(Coriandrum sativum)、キンケイギク(Coreopsis drummondii)、カラクサナズナ(Coronopus didymus)、オニタビラコ(Crepis japonica)(別名Youngia japonica)、インカタヌキマメ(Crotalaria incana)、クロタラリア(Crotalaria juncea)、オオミツバタヌキマメ(Crotalaria pallida)(別名Crotalaria mucronata)、メロン(Cucumis melo)、キュウリ(Cucumis sativus)、セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)、ニホンカボチャ(Cucurbita moschata)、キンシウリ(Cucurbita pepo)、シクラメン(Cyclamen indicum)(別名Cyclamen persicum)、アーティチョーク(Cynara scolymus)、ダリア(Dahlia pinnata)、Dahlia variabilis、ヨウシュチョウセンアサガオ(Datura stramonium)、デルフィニウム(Delphinium sp.)、ハイマキエハギ(Desmodium triflorum)、Desmodium unicinatum、ヅボイシア(Duboisia leichhardtii)、ウスベニニガナ(Emilia sonchifolia)、ウイキョウ(Foeniculum vulgare)、ワイルドストロベリー(Fragaria vesca)、コゴメギク(Galinsoga parviflora)、ハキダメギク(Galinsoga quadriradiata)、グラジオラス(Gladiolus sp.)、ダイズ(Glycine max)、ツルマメ(Glycine soja)、センニチコウ(Gomphrena globosa)、アプランドワタ(Gossypium hirsutum)、カイトウメン(Gossypium barbadense)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、オオハマボウ(Hibiscus tiliaceus)、アマリリス(Hippeastrum hybridum)、ジャガタラズイセン(Hippeastrum reginae)、Hippeastrum rutilum、サクララン(Hoya carnosa)、アジサイ(Hydrangea macrophylla)、ヒヨス(Hyoscyamus niger)、ホルスティホウセンカ(Impatiens holsii)、サルタニホウセンカ(Impatiens sultanii)、ワレラナホウセンカ(Impatiens wallerana)、サツマイモ(Ipomea batatas)、ワキョ(Lactuca sativa)、スイートピー(Lathyrus odoratus)、ケカニア(Leonotis nepetaefolia)、ニワハナビ(Limonium latifolium)、シロハウチワマメ(Lupinus leucophyllus)、マダラハウチワマメ(Lupinus mutabilis)、タヨウハウチワマメ(Lupinus polyphyllus)、クコ(Lycium procissimum)、トマト(Lycopersicon esculentum)、野生種トマト(Lycopersicon hirsutum)、カラントトマト(Lycopersicon pimpinellifolium)、ウサギアオイ(Malva parviflora)、ストック(Matthiola incana)、ウマゴヤシ(Medicago polymorpha)、セイヨウエビラハギ(Melilotus officinalis)、セイヨウキョウチクトウ(Nerium oleander)、オオセンナリ(Nicandra physaloides)、Nicotiana acuminata、Nicotiana bigelovii、クリーブランドタバコ(Nicotiana clevelandii)、グルチノザタバコ(Nicotiana glutinosa)、ルスチカタバコ(Nicotiana rustica)、Nicotiana sylvestris、タバコ(Nicotiana tabacum)、アイスランドポピー(Papaver nudicaule)、ゼラニウム(Pelargonium hortorum)、ペチュニア(Petunia hybrida)、アズキ(Phaseolus angularis)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、フロックス(Phlox drummondii)、ヒメセンナリホオズキ(Physalis angulata)(別名Physalis minima)、ホオズキ(Physalis spp)、アカエンドウ(Pisum arvense)、エンドウ(Pisum sativum)、セイヨウオオバコ(Plantago major)、ブラックシードプランテイン(Plantago rugelii)、ソバカズラ(Polygonum convolvulus)、スベリヒユ(Portulaca oleracea)、プリムラ( Primula sp.)、プリムラマラコイデス(Primula malacoides)、プリムラシネンシス(Primula sinensis)、ラナンキュラス(Ranunculus sp.)、レッドラズベリー(Rubus idaeus)、ルドベキアアンプレクシカウリス(Rudbeckia amplexicaulis)、セントポーリアイオナンタ(Saintpaulia ionantha)、Salpiglossis、Scabiosa、シザンサス(Schizanthus)、ハヤトウリ(Sechium edule)、シネラリア(Senecio cruentus)、ヤコブボロギク(Senecio jacobea)、ゴマ(Sesamum indicum)、オオイワギリソウ(Sinningia eciosa)、偽エルサレムチェリー(Solanum capsicastrum)、ワルナスビ(Solanum carolinense)、シホウカ(Solanum laciniatum)、ツノナス(Solanum mammosum)、ナス(Solanum melongena)、イヌホオズキ(Solanum nigrum)、テリミノイヌホオズキ(Solanum nodiflorum)、ルリイロツルナス (Solanum seaforthianum)、Solanum triflorum、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ノゲシ(Sonchus oleraceus)、ホウレンソウ(Spinacia oleracea)、ヤブチョロギ(Stachys arvensis)、Stapellia、ハンロウ(Stellaria media)、Streptosolen jamesonii、フレンチマリーゴールド(Tagetes patula)、Taraxacum、Tephrosia purpurea、ハマビシ(Tribulus terrestris)、シロツメクサ(Trifolium repens)、Trifolium subterraneum、キンレンカ(Tropaeolum majus)、Vallota、ヒメアレチハナガサ(Verbena brasilliensis)、ハマクマツヅラ(Verbena litoralis)、ウェルベシナエンケリオイデス(Verbesina enceloides)、ソラマメ(Vicia faba)、ケツルアズキ(Vigna mungo)、リョクトウ(Vigna radiata)、ササゲ(Vigna unguiculata)、Xanthium saccharatum、オランダカイウ(Zantedeschia aethopica)、シラホシカイウ(Zantedeschia albo-maculata)、キバナカイウ(Zantedeschia elliottiana)、Zantedeschia melanoleuca、モモイロカイウ(Zantedeschia rehmannii)、ヒャクニチソウ(Zinnia elegans)などが挙げられる。
【0218】
本発明の幾つかの実施例において、好ましい植物は、ベンサミアナタバコ、タバコ、トマト、パプリカ、タバスコ、ハバネロ、ホオズキ、ジャガイモ、ワキョ、ラッカセイ、ダイズ、ワタを含む。
【0219】
周知の通り、植物、特に栽培作物は、異なる品種(variety)を含み、或いは、品系(line)、栽培品種(cultivar)、遺伝資源(germplasm)、遺伝子型(genotype)などとも呼ばれる。本発明によれば、TSWVヌクレアーゼ送達ベクターは同一種(species)の異なる品種を効果的に感染させると共に、核酸修飾酵素を発現し、類似する標的遺伝子の標的指向型修飾効率を発生させる。
【0220】
本発明の幾つかの好ましい実施形態において、TSWVヌクレアーゼ送達ベクターを10種のラッカセイ品種に感染させて、類似する標的遺伝子の標的指向型修飾効率を発生させた。該ラッカセイ品種は、Huayu25、Huayu32、Huayu39、Huayu48、Huayu9616、Fengyou68、Honghua1、Dabaisha、Silihong、Shuofeng518品種を含む。
【0221】
本発明の別の幾つかの好ましい実施形態において、TSWVヌクレアーゼ送達ベクターを10種のパプリカ品種に感染させて、類似する標的遺伝子の標的指向型修飾効率を発生させた。該パプリカ品種は、Zhoula2、Zhoula3、Zhoula4、Fuxiangxiuli、Bola5、Bola7、Bola15、Xingshu201、Xingshu301、Xingshuguiyan品種を含む。
【0222】
一般的に考えれば、ウイルスの宿主植物に対する感染は植物の遺伝子型に依存しない。なお、TSWVヌクレアーゼ送達ベクターは、その他の宿主植物の異なる品種(variety)、品系(line)、栽培品種(cultivar)、遺伝資源(germplasm)、遺伝子型(genotype)を効果的に感染させると共に、その遺伝物質を修飾する。
【0223】
遺伝的修飾された植物の発生方法
更に、本発明は、前記遺伝物質が修飾された植物細胞から植物を取得する方法、及び遺伝物質が修飾された植物を選択する方法が開示された。
【0224】
本発明に係る植物細胞は、ウイルスによって感染された完全株の細胞であってもよく、カルス、浮遊細胞、プロトプラストなどの単離植物細胞であってもよい。
【0225】
植物細胞から植物器官又は完全株を取得する方法は種子による繁殖を含み、例えば、植物細胞が成体の胚性幹細胞に発育し、更に、生殖細胞に発育して、有性生殖により種子を発生させるように、自然的又は人工的な方法により誘導する。また、微細繁殖(micropropagation)により植物細胞から完全株を取得してもよく、即ち、植物組織の培養技術を利用して、単離の条件で植物細胞に対して栄養繁殖を行ってもよい。
【0226】
本発明の幾つかの実施形態において、遺伝物質が修飾された株を取得する方法は微細繁殖である。該方法は、ウイルスによって感染された植物細胞又は組織を外植片(explant)として、選択マーカーを含まない培地で組織培養及び株再生を行うことを含み、即ち、組織培養プロセスにおいて選択剤(例えば、抗生剤、除草剤など)を使用しない。更に、該方法は、再生株から遺伝物質が修飾された植物を選択することを含み、前記選択プロセスは選択マーカーによる選択を必要とせず、制限酵素解析又はDNAシークエンシング解析により標的遺伝子配列を選定する。
【0227】
更に、本発明は、NSs遺伝子を含む/含まないTSWVウイルスベクターによる感染の植物細胞の分化及び再生に対する影響を比較した結果、NSsの含有によって植物再生が抑制されることは分かった。そのため、本発明の幾つかの好ましい実施形態において、NSs欠失のTSWVベクターによって感染された植物細胞は組織培養に使用されて、遺伝物質が修飾された株を再生する。
【0228】
植物の株培養及び再生の方法は当業者にとって既知であり、培地成分及びホルモン濃度と比率に対する要求は植物細胞によって異なる。
【0229】
本発明の幾つかの好ましい実施形態において、TSWVヌクレアーゼ送達ベクターによって感染されたベンサミアナタバコ葉細胞は組織培養に使用されて、外来核酸挿入によらず遺伝物質が修飾された株は取得された。
【0230】
本発明の幾つかの好ましい実施形態において、TSWVヌクレアーゼ送達ベクターによって感染されたタバコ葉細胞は組織培養に使用されて、外来核酸挿入によらず遺伝物質が修飾された株は取得された。
【0231】
本発明の幾つかの好ましい実施形態において、TSWVヌクレアーゼ送達ベクターによって感染されたトマト葉細胞は組織培養に使用されて、外来核酸挿入によらず遺伝物質が修飾された株は取得された。
【0232】
ウイルスによって感染された体細胞組織を利用して組織培養を行う場合、通常、ウイルスは再生株に残る。ウイルスベクターによる感染は、再生株で核酸修飾酵素を発現し続け、体細胞における標的遺伝子を修飾して、遺伝できない編集を発生させ、或いは、非標的遺伝子を修飾して、オフターゲット(off-target)修飾を発生させる。また、ウイルスによる持続的な感染は、植物の生理及び表現型を干渉し、開花及び着果率に悪影響を与える。そのため、株再生の際にウイルスベクターを除去することで前記悪影響は免れる。
【0233】
特定の化合物はインビボ及びインビトロでヒト又は動物RNAウイルスの複製を効果的に抑制でき、例えば、特定のヌクレオチド又はヌクレオチド類似体であり、例えば、リバビリン(ribavirin)、ファビピラビル(favipiravir)、レムデシビル(remdesivir)、6-アザウリジン(6-azauridine)、オキシプリノール(oxypurinol)、ゲムシタビン(gemcitabine)、galidesivir(BCV4430)、ミゾリビン(mizoribine)、モルヌピラビル(molnupiravir)、ソホスブビル(sofosbuvir)、テノホビル(tenofovir)などが挙げられる(Geraghtyら,Viruses,2021,13: 667;Borboneら,Molecules, 2021,26:986)。これらのヌクレオチド又はヌクレオチド類似体はウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)をターゲティングし、ウイルス複製の際に、RdRpにより新生のウイルスRNA鎖に誤って組み込まれることで、ウイルスRNAの複製終結、又はウイルスゲノム組織における有害突然変異の大量蓄積が発生された。各化合物と各動物RNAウイルスRdRPとの親和力が明らかに異なるため、その抗ウイルス効果も異なる。本発明者は、TSWVによって感染された体細胞組織を利用して組織培養を行う場合、培地に特定のヌクレオチド又はヌクレオチド類似体を添加することで、再生株のウイルス駆除効率が大幅に向上されると共に、再生株に含まれる遺伝子修飾の比率が明らかに増加されたこと、を意外に発見した。
【0234】
本発明の幾つかの実施例において、TSWV CRISPR/Cas12a送達ベクターによって感染された葉組織を40mg/Lリバビリン含有の培地で再生する場合、ウイルスが駆除された再生株は100%であり、crPDS1標的部位でテトラアレル(tetra-allelic)突然変異を発生させる効率は28.9%であり、抗ウイルス薬を含まない対照の場合、ウイルスが駆除された再生株は4.4%であり、両アレル突然変異を含む再生株は15.6%である。
【0235】
本発明の幾つかの実施例において、TSWV CRISPR/Cas12a送達ベクターによって感染された葉組織を40mg/Lファビピラビル含有の培地で再生する場合、ウイルスが駆除された再生株は66.7%である。
【0236】
本発明の幾つかの実施例において、TSWV CRISPR/Cas12a送達ベクターによって感染された葉組織を1.2mg/Lレムデシビル含有の培地で再生する場合、ウイルスが駆除された再生株は15.6%である。
【0237】
別の様態において、本発明は、前記組換えTSWV粒子であって、前記ウイルス粒子によって覆われるウイルスキメラゲノムが非相同性配列特異的核酸修飾酵素のコーディング配列を含む組換えTSWV粒子を更に提供する。前記組換えTSWVウイルス粒子は、例えば、汁液の摩擦による接種、高圧スプレーなどの本分野における通常方法により、単離された植物細胞、或いは、例えば、葉、葉脈、根などの完全株の特定器官又は組織に接種される。ウイルス粒子は、植物細胞を感染させてから核酸修飾酵素を発現し、植物ゲノムの標的配列を切断又は修飾すると共に、遺伝物質を修飾するように誘導する。
【0238】
別の様態において、本発明は、前記方法及び組成物により言及されるウイルスベクターエレメントを含む試薬キットを更に提供する。試薬キットは、ウイルスベクターシステム及びそのマニュアルを含んでもよく、a)組換えTSWV S、M、Lキメラゲノム配列を含む核酸コンストラクトであって、SゲノムがCRISPRガイドRNA構成部分をコードする1つ又は複数の非相同性核酸配列を含み、MゲノムがCas核酸修飾酵素構成部分をコードする1つ又は複数の非相同性核酸配列を含み、Lゲノムがコドン最適化のウイルスRdRp配列(SEQ ID NO: 5)を含む核酸コンストラクトと、b)1種又は複数種のウイルスサイレンシングサプレッサーをコードする補助発現コンストラクトと、を含む。前記ウイルスベクターは細胞に導入されてから、組換えウイルスを発生させ、CRISPR/Cas核酸修飾酵素を瞬時発現すると共に、細胞ゲノムの遺伝物質に対して修飾を行う。前記ウイルスベクターの試薬は単独で提供してもよく、組合せで提供してもよく、例えば、チューブ、ビン、又はバイアルなどの適切な容器に入れてもよい。
【0239】
本発明により開示されたウイルスベクター送達システムに基づく編集技術は、既存技術と比較すれば、下記の優位性を有する。
【0240】
(1)該ウイルスベクターは、良好な外来断片パッケージング能力を有し、遺伝的安定性が優れるため、大分子量のCasヌクレアーゼ遺伝子の送達に適用できるが、修飾対象とする植物細胞は、遺伝子組換えにより発現されるヌクレアーゼ構成部分を含む必要はない。
【0241】
(2)該ウイルスベクターは、植物において完全感染性ウイルスを有するため、完全株(in planta)における複数の器官及び組織でヌクレアーゼを送達及び発現できる。
【0242】
(3)該ウイロイドは幅広い宿主範囲を有し、組換えウイルス粒子が摩擦により宿主植物に接種して感染させるため、複数種の重要な作物に適用できる。
【0243】
(4)該ウイルスベクターは被膜のない欠失ミュータントであり、昆虫によって伝播されることができず、優れた生物安全性を有する。
【0244】
(5)ウイルスベクターの複製は大量な配列特異的ヌクレアーゼを発現でき、高いゲノム編集効率の取得に繋がる。
【0245】
(6)RNAウイルス複製プロセスはDNAステージに関与せず、外来DNAの統合リスクがないため、取得された編集株は外来遺伝物質を含まない。
【0246】
(7)通常、ウイルスベクターにより仲介される瞬時発現は宿主植物の遺伝子型に依存しないため、様々な作物品種に適用できるが、従来のアグロバクテリウムより仲介される安定的な形質転換は通常、少ない種又は特定品種に限って実施可能である。
【0247】
(8)株再生の際にウイルスベクターを抗ウイルス薬により高効率的に除去できるため、ウイルス無しのミュータント株を取得できる。
【実施例】
【0248】
以下、実施例を参照しながら、本発明をより詳しく記述する。該実施例は本発明の説明に利用されるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない前提で実施された修正又は改善は、本発明の保護範囲である。
【0249】
特別に説明しない限り、下記実施例に使用される実験方法は通常方法である。特別に説明しない限り、使用される試薬、材料は商業ルートで入手できるものである。
【0250】
下記の実施例で組換えトマト黄化えそウイルス(TSWV)ベクターを記述する場合にTSWV-X-Y命名法(又はV-X-Yと略称)を採用し、XはMゲノムに含まれる非相同性核酸配列を指し、YはSゲノムに挿入される外来核酸配列を指す。ゲノムに直列に連結される2つの非相同性核酸エレメントが含まれる場合、セミコロンで連結し、例えば、TSWV-X-Y:Zである。例えば、TSWV-Cas12a-crPDS1:GFPは、Mゲノムに非相同性Cas12a配列が含まれ、Sゲノムに非相同性crRNA及びGFP配列が含まれる組換えTSWVベクターである。TSWV S、M、LゲノムcDNA配列が含まれるプラスミドコンストラクトを記述する場合、pS/M/L(-/+)X形式を採用し、(-)はゲノムcDNA方向でコンストラクトにおけるプロモーターの下流に挿入され、細胞に導入されてから、転写によりウイルスアンチセンス鎖RNAを発生させることを表し、(+)はアンチゲノムcDNA方向でコンストラクトにおけるプロモーターの下流に挿入され、細胞に導入されてから、転写によりウイルスセンス鎖RNAを発生させることを表し、Xはゲノムに含まれる非相同性核酸配列を表す。例えば、pM(+)cas12aは非相同性Cas12a配列を含むTSWV MアンチゲノムcDNAベクターである。
【0251】
アグロバクテリウムバイナリーベクターpCB301-2μ-HDV(
図3A)は、文献「Sun K, Zhao D, Liu Y, Huang C, Zhang W, Li Z. Rapid construction of complex plant RNA virus infectious cDNA clones for agroinfection using a yeast-E. coli-Agrobacterium shuttle vector. Viruses. 2017, 9(11). pii: E332」により開示されている。
【0252】
アグロバクテリウムバイナリーベクターpGD(
図3B)、及びpGD-GFPとpGD-RFPベクターは、文献「Goodin MM, Dietzgen RG, Schichnes D, et al., pGD vectors: versatile tools for the expression of green and red fluorescent protein fusions in agroinfiltrated plant leaves. Plant J, 2002, 31: 375-83」により開示されている。
【0253】
RNAサイレンシングサプレッサー(VSR)タンパク質発現ベクターpGD-HcPro、pGD-p19、pGD-γbは、文献「Ganesan U, Bragg JN, Deng M, et al., Construction of a sonchus yellow net virus minireplicon: a step toward reverse genetic analysis of plant negative-strand RNA viruses. J Virol. 2013, 87: 10598-10611」により開示されている。
【0254】
ベンサミアナタバココドン最適化のSpCas9配列は、文献「Yin K, Han T, Liu G, et al., Geminivirus-based guide RNA delivery system for CRISPR/Cas9 mediated plant genome editing. Scientific Reports, 2015, 5: 14926」により開示されている。
【0255】
イネコドン最適化のLbCas12a配列が含まれるプラスミドpYQ230は、文献「Tang, X., Lowder, L.G., Zhang, T., et al. A CRISPR-Cpf1 system for efficient genome editing and transcriptional repression in plants. Nature Plants,2017, 3:17018」により開示されている。
【0256】
ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)LAB品種と16C遺伝子組換え系は、文献「Ruiz MT, Voinnet O, Baulcombe DC. Initiation and maintenance ofvirus-induced gene silencing. Plant Cell, 1998, 10:937-46」により開示されている。タバコ(N. tabacum cv. K326)、トマト(Solanum lycopersicum cv. Hongbaoshi)、ジャガイモ(S. tuberosum)、パプリカ(Capsicum annuum)、タバスコ(C. frutescens)、ハバネロ(C. Chinense)、ホオズキ(Physalis grisea)、ワキョ(Lactuca sativa)、アプランドワタ(Gossypium hirsutum cv. Junmian No. 1)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ダイズ(Glycine max cv. William 82)は通常の植物実験材料であり、一般者が浙江大学生物技術研究所から入手できる。
【0257】
ナス科植物(ベンサミアナタバコ、タバコ、トマト、ジャガイモ、トウガラシ)の標的遺伝子配列はナス科ゲノムデータベース(https://solgenomics.net/)から検索して取得できるが、マメ科植物(ラッカセイ、ダイズ)の標的遺伝子配列はマメ科ゲノム情報システムLISデータベース(https://legumeinfo.org/)から検索して取得できる。Cas12a標的部位はCRISPR RGEN Tools(http://www.rgenome.net/)オンラインソフト設計に基づいて選択し、Cas9及びCas9により誘導される塩基エディターの標的部位はCRISPR-Pサイト(http://cbi.hzau.edu.cn/cgi-bin/CRISPR)オンラインソフト設計に基づいて選択する。
【0258】
実施例1:TSWVダブルレポーター遺伝子発現ベクターの構築
TSWVによって感染された植物サンプルの総RNAの抽出:
本ラボで保存されるTSWVウイルス源0.1gを取り、液体窒素で粉末となるように早速に研磨する。TRIzol試薬(Invitrogen)によりサンプルの総RNAを抽出し、イソプロパノールだけ沈殿した後、50μL DEPCにより処理された純水に溶解させて、その後の実験にそのまま利用し、或いは分注して-80℃冷蔵庫に保存した。
【0259】
逆転写によるウイルスゲノムcDNAの取得
TaKaRa社AMV逆転写酵素の取扱説明書に参照しながら操作し、具体的なステップは下記の通りである。
【0260】
1)下記の系を混合して反応させる:
【0261】
【0262】
2)PCR装置により42℃ 1h、50℃ 30min、95℃ 5min、4℃ 10minの条件で反応させる。収穫された産物をそのまま希釈させてPCRテンプレートとし、或いは-20℃で保存して使用に備える。
【0263】
組換えTSWVベクターとウイルスタンパク質瞬時発現ベクターの構築
TSWVゲノムは、S、M、Lゲノムの3つの断片(
図2)を小さい順で含み、配列はSEQ ID NO: 1、2、3に示される。3つのウイルスゲノムcDNAはそれぞれバイナリーベクターpCB301-2μ-HDVにコンストラクトされる。
図3Aに示されるように、StuI/SmaIによりダイジェストされるpCB301-2μ-HDVによって平滑末端リニア化ベクターが取得され、外来ウイルス配列が挿入された後、35Sプロモーター(SEQ ID NO: 9)が挿入配列の5’-末端の1番目塩基から転写を開始させ、D型肝炎リボザイム配列(HDV-RZ)はウイルスRNA転写ユニットが忠実な3’-末端配列を含むことを保証できる。ウイルスタンパク質瞬時発現ベクターはバイナリーベクターpGDにクローニングされる(
図3B)。本発明のベクター構築に係るプライマー配列は表1に挙げられる。プライマー及び遺伝子断片はGenScript社(南京)により合成される。
【0264】
1)pL
(+)及びpL
(+)optベクターの構築
pL
(+)はTSWV LアンチゲノムcDNAベクターである(
図4A)。前記逆転写により取得されるL cDNAをテンプレートとして、特異的プライマーL(+)/F及びL(+)/R(表1)によりL 全長アンチゲノムcDNA(SEQ ID NO: 3)を増幅させる。制限酵素StuI及びSmaIによりpCB301-2μ-HDVイースト-アグロバクテリウム-大腸菌シャトルベクターを消化して、リニア化されたプラスミドDNA断片を取得すると共に、L cDNA断片と共同で形質転換し、Sunら(Viruses. 2017, 9. pii: E332.)文献に参照し、イースト相同組換えクローン法により環状プラスミドを取得する。トリプトファン欠如のイーストプレートにおけるイーストコロニーを選択してプラスミドを抽出し、大腸菌を形質転換した後、プラスミドを抽出してダイジェスト検証を行い、更に、合格した陽性イースcトプラスミドクローンをSangerシークエンシングにより検証して、pL
(+)を取得する。
【0265】
pL
(+)optはpL
(+)に由来し、RdRpコーディング配列(SEQ ID NO: 4)がコドン最適化の配列(SEQ ID NO: 5)によって置換される(
図4A)。ベンサミアナタバココドンの選好に応じてRdRpコドンを最適化すると共に、ソフトウエアAlternative Splice Site Predictor(ASSP)(http://wangcomputing.com/assp/)により野生型RdRp配列に対して潜在的なイントロン-エキソンスプライス部位(intron splicing sites)を予測し、予測されたスプライス部位を除去して、コドン最適化のRdRp配列(SEQ ID NO: 5)を取得する。pL
(+)プラスミドをテンプレートとして、プライマーLopt 5’ UTR/F及びLopt 3’ UTR/Rにより増幅させ、RdRpコーディング配列が除去されたベクター断片を取得すると共に、化学合成されたコドン最適化のRdRp断片と共同でイースト細胞を形質転換して、組換えクローンpL
(+)optを組立てる。
【0266】
2)pM
(-)、pM
(-)RFP及びpM
(+)RFPベクターの構築
pM
(-)はTSWV MゲノムcDNAベクターである(
図4B)。前記逆転写により取得されたM cDNAをテンプレートとして、プライマーM 5’UTR/F及びM 3’UTR/Rにより増幅させて、M全長ゲノム全長cDNA(SEQ ID NO: 2)を取得する。該プライマーペアの両側には、StuI及びSmaIのリニア化pCB301-2μ-HDVベクターの両側と相同性を有する15bp配列が含まれる。In-Fusionクローン試薬(Invitrogen)によりM全長ゲノムcDNA断片をリニア化pCB301-2μ-HDVに挿入して、pM
(-)プラスミドを取得する。
【0267】
pM
(-)RFPはpM
(-)プラスミドにおけるGP遺伝子がRFP遺伝子によって置換されるベクターである(
図4B)。それぞれプライマーペアM IGR/ScaI/FとM IGR/R、RFP/M 3’UTR/FとpCB-PmeI/RによりpM(-)をテンプレートとして増幅させ、完全なM遺伝子間(IGR)配列を含むScaI-IGR断片、及びMの3’UTRからpCB301ベクターPmeIダイジェスト部位まで含む3’UTR-PmeI断片を取得する。また、プライマーRFP/F及びRFP/RによりpGD-RFPプラスミドからRFP断片を増幅させ、制限酵素ScaI及びPmeIによりpM(-)ベクターを消化してから、ベクター断片を回収する。In-Fusionクローン試薬により前記4つの断片を連結して、pM
(-)RFPを取得する。
【0268】
pM
(+)RFPとpM
(-)RFPは同じ挿入配列を有するが、相反の方向でベクターに挿入されて、転写によりMアンチゲノムRNAを発生させる(
図4B)。プライマー35S/M 3’UTR/F /及びHDV/M 5’UTR/RによりpM
(-)RFPをテンプレートとして、RFPを含むウイルスMゲノムcDNAを増幅させると共に、In-Fusionクローンにより、SmaI/StuIによって消化されたpCB301-2μ-HDVと連結される。
【0269】
3)pS
(+)及びpS
(+)GFPベクターの構築
pS
(+)はTSWV SアンチゲノムcDNAベクターである(
図4C)。前記逆転写により取得されたS cDNAをテンプレートとして、プライマー35S/S 3’UTR/F及びHDV/S 5’UTR/Rにより増幅させて、Sアンチゲノム全長cDNA断片(SEQ ID NO: 1)を取得すると共に、In-Fusionクローンにより、StuI/ SmaIによってダブルダイジェストされたpCB301-2μ-HDVベクター断片と連結される。
【0270】
pS
(+)GFPはpS
(+)プラスミドにおけるNSs遺伝子がGFP遺伝子によって置換されるベクターである(
図4C)。pS
(+)ベクターをテンプレートとして、プライマーS 5’UTR/F及びS IGR/Rにより増幅させて、NSs配列が除去されたDNA断片を取得する。プライマーGFP/5’UTR/F及びGFP/IGR/RプライマーによりpGD-GFPプラスミドをテンプレートとして増幅させて、GFP断片を取得する。前記2つの断片はIn-Fusionによりシームレスで連結されてpS
(+)GFPを取得する。
【0271】
4)pGD-NSs及びpGD-NSm発現ベクターの構築
前記逆転写により取得されたS及びM cDNAをテンプレートとして、それぞれプライマーペアBamHI/NSs/FとSalI/NSs/R、BamHI/NSm/FとSalI/NSm/により、NSs(SEQ ID NO: 7)及びNSm(SEQ ID NO: 8)コーディング領域cDNA断片を増幅させる。BamHI及びSalIに消化された前記PCR産物をそれぞれpGDベクターと連結して、瞬時発現ベクターpGD-NSs及びpGD-NSmを取得する。
【0272】
実施例2:TSWVベクターによる2つの蛍光レポータータンパク質の同時発現
アグロバクテリウムのベンサミアナタバコへの浸潤による接種
前記pL(+)opt、pM(-)RFP、pM(+)RFP、pS(+)GFP、pS(+)ウイルスゲノムcDNAバイナリープラスミドを、アグロバクテリウム細菌菌株EHA105に電撃により形質転換すると同時に、TSWV移行タンパク質NSm発現ベクターpGD-NSm、TSWVサイレンシングサプレッサータンパク質NSs発現ベクターpGD-NSs、非相同性ウイルスRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)発現ベクター、例えば、pGD-p19(トンブスウイルスp19タンパク質)、pGD-HcPro(タバコエッチウイルスHcProタンパク質)、pGD-γb(オオムギ斑葉モザイクウイルスγbタンパク質)を、それぞれアグロバクテリウム細菌菌株EHA105に電撃により形質転換する。アグロバクテリウムシングルコロニーを選定して、50μg/mLカナマイシンと25μg/mLリファンピシン含有のYEP液体培地4mL(牛肉エキス10 g/L、イースト抽出液10g/L、NaCl 5g/L、PH 7.0)に接種し、OD600が0.8-1.2となるように28℃、220rpmで一晩培養し、5,500rpmで10分間遠心分離して菌液の沈殿を集め、浸潤緩衝液(10mM MgCl2、10mM MES、200mMアセトシリンゴン)により菌体を再懸濁させ、OD600が約1.0となるように調整して、2-3時間静置する。
【0273】
2つのレポーター遺伝子を持つ組換えウイルスを救助するために、並びに、Mゲノム極性(センス又はアンチセンス)及びNSmタンパク質の共発現の組換えウイルス救助効率に対する影響を測定するために、下記3つの組合せでアグロバクテリウム混合物を調製してベンサミアナタバコ葉を浸潤させ、組換えウイルスの救助を行う。
【0274】
実験群1:pL
(+)opt、pM
(-)RFP、pS
(+)GFP、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSs
実験群2:pL
(+)opt、pM
(+)RFP、pS
(+)GFP、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSs
実験群3:pL
(+)opt、pM
(+)RFP、pS
(+)GFP、pGD-NSm、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSs
混合物について、S、M、Lゲノムプラスミドを含む菌液は最終濃度がそれぞれOD
600=0.1となるように調整され、各RNAサプレッサープラスミドを含む菌液は同じ割合で混合されてから最終濃度がOD
600=0.05となるように調整され、pGD-NSm発現ベクターを含む菌液は最終濃度がOD
600=0.1である。
図5Aに示される方法により、上記3つの実験群で5-7葉期のベンサミアナタバコの下部の葉3枚を浸潤させ、接種された株を25℃防虫対策の温室で培養する。
【0275】
レポーター遺伝子の発現解析
浸潤5日間後、3つの組合せで浸潤されたベンサミアナタバコ葉は全てGFP及びRFPを発現し、GFPを発現する葉組織はRFPを発現する組織と比較すればもっと局所的であり、実験群3は特にそのようである(
図5B)。
【0276】
浸潤7日間後、実験群1と2の上部の非浸潤葉は全て緑色と赤色の蛍光が現れ、10日間後、全身感染葉は幅広い蛍光の広がりが現れた。それに対して、実験群1で浸潤されたベンサミアナタバコ全身感染葉は蛍光が若干遅れて現れ、10日間後、赤色と緑色の蛍光斑紋が点在する(
図5B)。
【0277】
浸潤6-8日間後、実験群1と2の全ての接種株は、例えば、若葉の巻き、縮み、退緑などのウイルス感染症状が続々と現れ、実験群3は株の全身感染が2-3日間遅れている。全身感染された株はUVなどの条件で全て蛍光タンパク質を発現する(
図5C)。上部葉の総タンパク質を抽出して、それぞれTSWV Nポリクローナル抗体、GFPポリクローナル抗体、mCherryポリクローナル抗体を利用してWestern blot解析を行い、3つの実験群の葉の総タンパク質は全てウイルスNタンパク質、GFPタンパク質の縞模様及びRFPタンパク質の縞模様が検出されたが、Lゲノムプラスミドを含まない対照群は対応する縞模様が検出されていない(
図5D)。
【0278】
上記結果によれば、i)L及びSアンチゲノムcDNAベクターは転写によりウイルスRNAを発生させるため、そのまま翻訳によりウイルスゲノムをパッケージングするための十分なRdRpとNタンパク質を発生させ、ヌクレオカプシド感染ユニットを形成すること、ii)Mゲノムにとって、ゲノムcDNAベクター(実験群1)とアンチゲノムcDNAベクター(実験群2と3)にも関わらず、組換えウイルスの発生に繋がること、iii)ウイルス移行タンパク質瞬時発現ベクターを別途で提供することで、組換えウイルスの救助を促進することができず、逆にウイルス救助を遅らせる(実験群2と3と比較)こと、iv)NSsとGP遺伝子欠失の組換えはベンサミアナタバコを全身感染させると共に、レポーター遺伝子GFPとRFPを同時に発現することが分かる。
【0279】
実施例3:RNAサイレンシングサプレッサー組合せの組換えウイルス救助に対する作用
実施例2のアグロバクテリウム浸潤混合物は、4つのRNAサイレンシングサプレッサー(VSR)発現ベクター、即ち、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSsを含む。本実施例は、更に、単一又は複数のウイルスサイレンシングサプレッサー組合せの発現の組換えTSWV救助に対する作用を測定した。アグロバクテリウム混合物について、pL(+)opt、pM(-)RFP、pS(+)GFPプラスミドを含む菌液はそれぞれ最終濃度がOD600=0.1となるように調整され、下記各VSRプラスミドの菌液は最終濃度がOD600=0.05となるように調整される。
【0280】
実験群1:pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSs(pGD-VSRs)
実験群2:pGD-p19
実験群3:pGD-HcPro
実験群4:pGD-γb
実験群5:pGD-NSs
実験群6:pGD-p19、pGD-HcPro
実験群7:pGD(ブランク対照)
接種8日間後、実験群1(VSRs)、2(p19)、6(p19+HcPro)は浸潤株20株のうち、16-18株に全身感染症状が現れ、即ち、救助効率が80-90%である。実験群3(HcPro)、4(γb)及び5(NSs)はそれぞれ7、12、2株に全身感染が現れた。現れた全身感染の時間と比率によれば、効率は高い順で実験群2、1、6、4、3、5である。接種20日間後になっても、実験群7は浸潤株20株に全身感染が現れていない(
図6)。上記結果によれば、サイレンシングサプレッサーの共発現は組換えTSWVベクターの救助にとってそれぞれ違う程度で促進作用があり、特にp19は作用が最も顕著であり、NSsタンパク質は効率が低い。
【0281】
実施例4:TSWV-Cas12a-crRNA編集ベクターの設計及び構築
CRISPR/Cas12aヌクレアーゼシステムは、Cas12aタンパク質及び標的と結合するガイドRNA(crRNA)を含む。
図7に示されるように、TSWV-Cas12a-crRNAベクターの構築戦略は、i)Cas12aをコードする配列でTSWV MゲノムにおけるGP配列を置換して、ゲノムcDNAベクターpM
(-)Cas12a及びアンチゲノムcDNAベクターpM
(+)Cas12aをそれぞれ構築すること、ii)crRNA配列をpS
(+)GFP ベクターに挿入し、GFPコーディングフレーム開始コドン5’部位と隣接して、pS
(+)crRNA:GFPベクターを構築することである。挿入されるcrRNA配列の構造は「ダイレクトリピート(Direct Repeat)-ガイド配列(guide)-ダイレクトリピート(Direct Repeat)」であり、2つのダイレクトリピートの設計は、Mゲノムに発現されるCas12aタンパク質により、Sゲノムで発生されるcrRNA初期転写ユニットを加工し、側鎖のウイルス由来配列をスプライシングして、的確なcrRNA配列を放出するためである。以下、具体的な構築方法を詳しく記述する。
【0282】
1)pM(-)Cas12a及びpM(+)Cas12aベクターの構築
イネコドン最適化のCas12a配列を含むと共に両側に核局在化シグナル及び3×Flag抗原エピトープ配列(SEQ ID NO: 10)を含むプラスミド(pYQ230に由来)をテンプレートとして、プライマーM UTR/Cas12a/F及びCas12a/R(表1)により増幅させて、3×Flag-NLS-Cas12a-NLS断片を取得する。プライマーM 3’UTR/F及びCas12a/M IGR/RによりpM(-)プラスミドから増幅させて、GP配列欠失のMベクター断片を取得する。In-Fusionクローン試薬により上記2つの断片を連結してpM(-)Cas12aベクターを発生させる。
【0283】
pM(-)Cas12aをテンプレートとして、プライマー35S/M 3’UTR/F及びHDV/M 5’UTR/Rにより増幅させて、組換えMゲノムcDNA断片を取得すると共に、In-Fusionクローン法により、制限酵素StuI及びSmaIによる消化処理を受けたpCB301-2μ-HDVベクター断片と連結し、アンチゲノムcDNA方向でベクターに挿入して、pM(+)Cas12aベクターを発生させる。
【0284】
2)pS(+)crRNA:GFPシリーズベクターの構築
crRNAを容易に挿入するために、pS(+)GFPプラスミドGFP開始コドン5’に1つのSpeIダイジェスト部位を挿入する。pS(+)GFPベクターにおけるIGR配列にあるPacI及びNOS配列にあるPvuIシングルダイジェスト部位を利用して、プライマーペアSpeI/GFP/FとIGR PacI/R、NOS PvuI/FとS 5’UTR/RによりそれぞれpS(+)GFPベクターから増幅させて、PacI-IGR-GFP-SpeI及びSpeI-5’UTR-HDV-NOS断片を取得する。前記断片をPacI及びPvuIにより消化されたpS(+)GFPベクターに挿入して、SpeIダイジェスト部位を取り込んだpS(+)SpeI:GFP中間ベクターを取得する。
【0285】
CRISPR RGEN Tools(http://www.rgenome.net/)オンライン設計ソフトに基づいて、ベンサミアナタバコ及びタバコフィトエン不飽和化酵素遺伝子(PDS)の標的部位crPDS1(5’-TTTCTGCCGTTAATTTGAGAGTCCAAG-3’)(SEQ ID NO: 12)(ボールド体アルファベットはPAM配列であり、下記同様)、トマトPDSの標的部位crPDS2(5’-TTTCTGCTGTTAACTTGAGAGTCCAAG-3’)(SEQ ID NO: 13)、トウガラシPDSの標的部位crPDS3(5’-TTTCTGCTGTCAACTTGAGAGTCCAAG-3’)(SEQ ID NO: 14)、ラッカセイ及びダイズPDSの標的部位crPDS4(5’-TTTGACAGAAAACTGAAGAACACATAT-3’)(SEQ ID NO: 15)を選択する。前記標的部位をターゲティングするcrRNA配列(それぞれSEQ ID NO: 18-21に示される)は、その構造が「ダイレクトリピート-ガイド配列-ダイレクトリピート」であり、両側にSpeIダイジェスト部位を含む。前記crRNA配列断片をそれぞれpS(+)SpeI:GFPベクターSpeI部位に挿入して、pS(+)crPDS1:GFP、pS(+)crPDS2:GFP、pS(+)crPDS3:GFP、pS(+)crPDS4:GFPベクターを発生させる。
【0286】
実施例5:組換えTSWV-Cas12a-crRNA救助系の構築
実施例2はTSWV-RFP-GFPベクターの救助条件を構築した結果、Mゲノム及びアンチゲノムcDNAベクターが組換えウイルスの救助に適用できることを発見した。本実施例の初期予備実験によれば、Mゲノムに4kb弱のCas12a遺伝子を挿入することで、TSWV-Cas12a-crRNAベクターの発生に明らかな影響を与えた。そのため、本実施例は、Mゲノムの極性(センス又はアンチセンス)及び各ゲノム構成部分の相対的な比率を含む、TSWV-Cas12a-crRNAベクターを発生させるための実験条件について、全面的に検討した。下記に示されるように、8つの組合せで異なる濃度(OD600)のアグロバクテリウム混合物を調製し、各組合せは、全て、L、M、S cDNAベクター、及び4つのVSRベクター、即ち、pGD-p19+ pGD-HcPro+ pGD-γb+ pGD-NSsを含む。群1-4はMゲノムcDNAベクターpM(-)Cas12aを含み、群5-8はMアンチゲノムcDNAベクターpM(+)Cas12aを含み、群5-7はpGD-NSm発現ベクターを含む。
【0287】
【0288】
前記アグロバクテリウム組成物でベンサミアナタバコ葉を浸潤させて組換えウイルス救助を行う。
図8Aに示されるように、5日間後、各組合せは、浸潤葉にGFP蛍光が広く分布されることが観察された。浸潤9日間後、一部の組合せは浸潤株に全身感染症状が現れるが、群1、2、3は全ての株に組換えウイルスによる全身感染が始終に現れず、群4は接種株50株のうちの僅か2株(4%)に組換えウイルスによる全身感染が最終的に現れた。上表に示されるように、MアンチゲノムRNAを発現する群5-8は感染比率がそれぞれ10%、28%、60%、83%であり、MゲノムRNAの群1-4より明らかに高い。群5-8は、Mプラスミド及びSプラスミドを持つアグロバクテリウム比率がそれぞれ1:1、2:1、10:1、10:1であり、高効率的な組換えウイルス救助が比較的に高濃度のMアンチゲノムcDNAプラスミドを必要とすることを示す。
【0289】
前記組合せは、全身感染株に典型的なTSWV症状が現れた(
図8B)。群4の全身感染株2株の上部葉の総タンパク質サンプル、及び群8の感染株の任意2株の総タンパク質を抽出して、それぞれTSWV Nポリクローナル抗体、GFPポリクローナル抗体、Flagモノクローナル抗体(Cas12aタンパク質を検出)によりWestern blot解析を行う。これらのサンプルはウイルスNタンパク質及びGFPタンパク質の発現が検出されたが、群8の2つのサンプルだけはCas12aタンパク質の縞模様が現れ、群4の2つのサンプルはCas12の発現が検出されていない(
図8C)。更に、群4の株にCas12aの発現が検出されていない原因を究明するために、前記4株の全身感染葉の総RNAサンプルを抽出して、NSmを増幅させる特異的プライマーNSm/F(5’-ATGTTGACTTTTTTTGGTAATAAGGG-3’)(SEQ ID NO: 24)とNSm/R(5’-CTATATTTCATCAAAAGATAACTGAGC-3’)(SEQ ID NO: 25)、及びCas12a側鎖のプライマーペアIGR/F(5’-TACTTTTAATACCACTTATTTAAGCTT-3’)(SEQ ID NO: 26)とM UTR/R(5’-AGAGCAATCAGTGCAAACAAAAAC-3’)(SEQ ID NO: 27)により、前記4つのサンプルにおける組換えウイルスMゲノムのNSm遺伝子及びCas12a挿入断片に対して逆転写PCR(RT-PCR)検出を行う。
図8Dに示されるように、4つのサンプルは予測大きさのNSm遺伝子の存在が検出され、群8の2つのサンプルは~4.3kb大きさの目標Cas12a縞模様が検出されたが、群4の2つのサンプルは約0.5-0.7kbの小さい断片だけ検出された。前記欠失断片をクローニングしてSangerシークエンシング解析を行った結果、群4は組換えウイルスにおけるCas12挿入断片の大半が欠失し、Cas12a遺伝子の5’及び3’の一部の配列だけ残った(
図8E)。
【0290】
上記結果によれば、TSWV-RFP-GFPベクター救助系と違って、MゲノムcDNAベクターpM(-)Cas12aを含むアグロバクテリウム混合物は、TSWV-Cas12a-crRNAの救助に適用できず、或いは救助された組換えウイルスがCas12a挿入配列の大半を失ったが、MアンチゲノムcDNAベクターpM(+)Cas12aは、完全なTSWV-Cas12a-crRNAベクターの発生に適用できる。Lゲノムベクター、Mゲノムベクター、Sゲノムベクターを持つアグロバクテリウム比率が2:10:1である場合、組換えウイルスの救助は最も高効率的であるが(群8)、NSmタンパク質の瞬時発現は組換えウイルスベクターの救助に対して促進作用はない(群7と8と比較)。そのため、下記関連する実施例において、群8のアグロバクテリウム組合せと濃度で組換えウイルス救助を行う。
【0291】
実施例6:TSWV-Cas12a-crRNAベクターによるベンサミアナタバコPDS遺伝子の編集
ベンサミアナタバコ株は異質四倍体であり、PDS遺伝子の標的部位crPDS1配列(5’-TTTCTGCCGTTAATTTGA
GAGTCCAAG-3’;SEQ ID NO: 12)(ボールド体アルファベットはPAMであり、下線塩基はHinfIダイジェスト部位であり)は、2つの先代親ゲノムに由来するPDSa及びPDSb遺伝子種において保存的である(
図9A)。実施例4に示されるように、pS
(+)crPDS1:GFPベクターはcrPDS1部位をターゲティングできるcrRNA配列を含む。実施例5における群8の試験系の各ベクターを混ぜて持つアグロバクテリウム浸潤の構成部分(実験群)に基づき、同時にpS
(+)crPDS1:GFPベクターの代わりにcrRNAを含まないpS
(+)GFPベクターを陰性対照群とする。下記の通りである。
【0292】
実験群:pL
(+)opt、pM
(+)Cas12a、pS
(+)crPDS1:GFP、pGD-p19+ pGD-HcPro+ pGD-γb+ pGD-NSs
対照群:pL
(+)opt、pM
(+)Cas12a、pS
(+)GFP、pGD-p19+ pGD-HcPro+ pGD-γb+ pGD-NSs
2群のアグロバクテリウム混合物をそれぞれ浸潤によりベンサミアナタバコ葉に接種し、接種約10日間後、葉の巻きと縮み及び退緑斑紋などのTSWV症状が発生されると共に、全身感染葉にGFPタンパク質が発現された(
図9B)。全身感染葉の組織を集めて総タンパク質を抽出し、それぞれ特異的抗体によりTSWV N、GFP、Cas12aタンパク質が検出された(
図9C)。
【0293】
ウイルスベクターによって感染された細胞が標的遺伝子部位に編集を発生させたかについて検証するために、ポリメラーゼ連鎖反応/制限酵素保護法(Polymerase Chain Reaction/Restriction digestion,PCR/RE)により標的部位のゲノム編集を検出する。該標的部位に編集が発生された場合、Cas12aダイジェスト部位と部分的に重なる制限酵素部位が破壊され、標的DNA PCR断片が対応するエンドヌクレアーゼにより消化できない。具体的な方法は下記の通りである。
【0294】
1)PureLink(登録商標)Quick Gel Extraction Kit(Invitrogen)により植物の上部葉組織のゲノムDNAを抽出する。
【0295】
2)表2における標的配列両側の特異的プライマーにより標的crPDS1を含むゲノムDNA断片に対してPCR増幅を行う。
【0296】
3)制限酵素によりPCR産物を消化し、通常のダイジェスト系は下記の通りである。
【0297】
【0298】
PCR/RE解析によれば、TSWV-Cas12a-crPDS1:GFPによって感染された株のPDS標的部位の突然変異効率は約50%であり、対照群V-Cas12a-GFPによって感染された組織は標的部位の編集が存在しない(
図9D)。上記結果によれば、TSWVベクターはベンサミアナタバコ内でCas12a/crRNA複合体を全身送達できると共に、標的部位で部位特異的編集を高効率的に発生させる。
【0299】
実施例7:TSWV-Cas12a-crRNAウイルス粒子の機械的伝播及び安定性解析
実施例6では、アグロバクテリウム浸潤による接種の方式により、ベンサミアナタバコ株にTSWV-Cas12a-crPDS1:GFPベクターによる感染を開始させるが、多くの植物はアグロバクテリウムによる形質転換に対する感受性がモデル植物のベンサミアナタバコより明らかに低い。その他のウイルスによる接種の実行可能性を検証するために、本実施例は組換えウイルス粒子のその他の植物への機械的接種の実行可能性を検討した結果、テストフローは下記の通りである(
図10A)。
【0300】
1)アグロバクテリウムでベンサミアナタバコを浸潤されて、TSWV-Cas12a-crPDS1:GFP組換えウイルスを発生させる。
【0301】
2)全身感染されたベンサミアナタバコの上部葉を集め、接種緩衝液(0.01mM亜硫酸ナトリウム、0.01mMリン酸カリウム、pH7.0)で研磨して、ウイルス汁液を取得する。
【0302】
3)接種しようとする葉に最初に600目エメリーを均一に撒く。
【0303】
4)指腹でウイルス汁液を付け、葉をゆっくりと摩擦して接種する。或いは、卓上遠心分離機によりウイルス汁液を12,000rpmで10min遠心分離する。ウイルス汁液の上澄を取り、最終濃度が0.1%(v/v)となるように界面活性剤silwet70を入れる。ウイルス汁液を高圧スプレーガンに装填して、気圧が40 PSIで安定になるまでスプレーガンの空気ポンプを調節する。そして、スプレーガンのノズルをエメリーが撒かれた葉に向け、3-5cm離れたところでウイルス汁液を噴射する。
【0304】
5)接種完了後、無菌水を噴射して葉に残留されたエメリーを洗い流す。
【0305】
6)症状観察、蛍光イメージング、Western blot、RT-PCRなどの方法により、組換えウイルスによる感染を検出する。PCR/RE及び/又はSangerシークエンシング法により標的部位のゲノム編集を検出する。
【0306】
前記機械的接種法によりTSWV-Cas12a-crPDS1:GFP汁液をそれぞれ健康なベンサミアナタバコ、ジャガイモ、ホオズキ、ワタ、ワキョの早苗に接種する。接種8-16日間後、摩擦及び高圧スプレー法により接種されたベンサミアナタバコ、ジャガイモ、ホオズキ、ワキョの株はウイルス感染症状が現れると共に、蛍光顕微鏡により感染株組織に緑色蛍光シグナルが検出された(
図10B)。全身感染されたベンサミアナタバコ株を例として、Western blot解析により、全身感染されたベンサミアナタバコ株の組織にTSWV Nタンパク質及びCas12aとGFPタンパク質が検出できることがわかる(
図10C)。実施例6に係るPCR/RE法によりベンサミアナタバコPDS遺伝子の標的配列の編集効率を検出して、ランダムで選定された摩擦接種及び高圧スプレーによる接種株各2株について、PDS標的部位の突然変異効率は47-71%であり(
図10D)、アグロバクテリウム接種による株の編集効率(43-55%、実施例6)と相当である。
【0307】
crPDS1標的部位がベンサミアナタバコ及びタバコPDS遺伝子の2つのコピーにおいて保存的である(
図11A)ため、前記組換えウイルス汁液をウイルス源として摩擦によりタバコ株にも接種した。接種約8日間後、全身感染葉に緑色蛍光が観察されると共に、退緑斑紋、葉脈黄化、葉の縮みなどの症状が現れ(
図11B)、更に、TSWV N、Cas12a、GFPタンパク質の発現が検出された(
図11C)。タバコ標的部位特異的プライマーによりゲノムDNAを増幅させ(表2)、PCR/RE解析によれば、組換えウイルスによって感染された組織にPDS標的部位の突然変異効率が56%に達する可能性があることを示した(
図11D)。
【0308】
上記結果によれば、組換えウイルス粒子を含む汁液は、机械的接種により多くの植物に効果的に感染できると共に、後代ウイルスが非相同性ヌクレアーゼ及びレポータータンパク質を安定的に発現し、標的編集を発生させた。
【0309】
実施例8:TSWV-Cas12a-crRNAベクターのトマト及びトウガラシゲノム編集における適用
トマトPDS遺伝子の標的部位crPDS2(5’-TTTCTGCTGTTAACTTGA
GAGTCCAAG-3’(SEQ ID NO: 13)(ボールド体アルファベットはPAMであり、下線塩基はHinfIダイジェスト部位であり)。
図12Aに示されるように、実施例4に記述されるpS
(+)crPDS2:GFPベクターは該部位をターゲティングできるcrRNA配列を含む。pL
(+)opt、pM
(+)Cas12a、pS
(+)crPDS2:GFP、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSs各ベクターを持つアグロバクテリウムを適切な比率で混合させ、浸潤によりベンサミアナタバコ葉に接種して、組換えウイルス救助を行う。接種株に全身感染症状が現れて3日間後、上部の若葉をウイルス源として、摩擦により4-6枚真葉期のトマト株に接種すると同時に、健康なベンサミアナタバコ汁液をトマトに摩擦して陰性対照とする。TSWV-Cas12a-crRNAウイルス汁液で摩擦されたトマト株は、接種約12日間後、退緑、環状斑紋、縮みなどの症状が現れると共に、蛍光顕微鏡により全身感染葉にGFPの発現が観察された(
図12B)。接種15日間後、前記全身感染葉の総タンパク質を抽出してWestern blot解析を行い、TSWV N、Cas12a、GFPタンパク質の発現が検出された(
図12C)。ランダムで選定された6枚の感染されたトマト株葉について、トマト標的部位特異的プライマーによりゲノムDNAを増幅させ(表2)、PCR/RE解析によれば、組換えウイルスによって感染された組織におけるPDS標的部位の突然変異効率が53-89%である(
図12D)。
【0310】
俗称がトウガラシである植物はトウガラシ属(Capsicum)の複数種を含み、パプリカ(C. annuum)、タバスコ(C. frutescens)、ハバネロ(C. Chinense)を含む。更に、前記トウガラシ植物において保存的であるPDS遺伝子の標的部位crPDS3(5’-TTTCTGCTGTCAACTTGA
GAGTCCAAG -3’(SEQ ID NO: 14)(ボールド体アルファベットはPAMであり、下線塩基はHinfIダイジェスト部位であり)を選択する(
図13A)。実施例6に係る方法を利用して、該部位をターゲティングできるpS
(+)crPDS3:GFPベクター、及びpL
(+)opt、pM
(+)Cas12a、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSsベクターをアグロバクテリウム浸潤法によりベンサミアナタバコ葉に導入し、取得された組換えウイルスを摩擦により4-6葉期のトウガラシ早苗に接種する。約12日間後、これらのトウガラシ株の全身感染葉に僅かな退緑黄化が現れると共に、GFPの発現が示された(
図13B)。Western blot解析によれば、前記症状が組換えウイルスのトウガラシへの感染によるものであり(
図13C)、PCR/RE解析(プライマーが表2に示される)によれば、組換えウイルスによって感染されたパプリカ組織にPDS標的部位の突然変異効率が87-94%である(
図13D)。これらのトウガラシ株の標的部位配列に対してPCR増幅(プライマーが表2に示される)を行った後、ハイスループットシークエンシングを行い、タバスコ、パプリカ、ハバネロにPDS遺伝子標的部位の突然変異効率がそれぞれ51.5%、64.0%、49.3%である。
【0311】
上記実験結果によれば、組換えTSWV-Cas12a-crRNAベクターは摩擦により複数種のナス科作物に接種して感染させると共に、標的ゲノム編集を発生させる。
【0312】
実施例9:TSWV-Cas-crRNAベクターのホオズキゲノム編集における適用
ホオズキ(Physalis alkekengi L.)はナス科ホウズキ属の植物であり、系図から見ればトマトと近い。研究によれば、トマト及びホオズキにおいて突然変異ER遺伝子により節間が短縮された(Kwonら,Rapid customization of Solanaceae fruit crops for urban agriculture. Nat Biotechnol, 2020, 38: 182-188)。ホオズキER遺伝子の標的部位crER: 5’-TTTAATGTTAAACCTTTAGTGTCCTTT-3’(ボールド体アルファベットはPAMであり、SEQ ID NO: 88)を選択して、実施例4に記述される方法によりpS
(+)crER:GFPを構築する。実施例6に記述される方法を利用して、該部位をターゲティングできるpS
(+)crER:GFPベクター、及びpL
(+)opt、pM
(+)Cas12a、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSsベクターをアグロバクテリウム浸潤法によりベンサミアナタバコ葉に導入し、取得された組換えウイルスを摩擦により2枚真葉期のホオズキ早苗に接種する。10日間後、全身感染葉に退緑黄化及び軽い巻きが現れると共に、GFPの発現が示された(
図14A)。Western blot解析によれば、組換えウイルスによって感染されたホオズキ組織にウイルスNタンパク質、GFPタンパク質、Cas12aタンパク質が検出され(
図14B)、標的及び付近の配列のアンプリコンに対してハイスループットにより検出した結果、組換えウイルスによって感染された組織にPDS標的部位の突然変異効率が約52.9%である(
図14C)。
【0313】
上記実験結果によれば、組換えTSWV-Cas12a-crRNAベクターは摩擦によりホオズキに接種して感染させると共に、標的ゲノム編集を発生させる。
【0314】
実施例10:TSWV-Cas12a-crRNAベクターのラッカセイ及びダイズゲノム編集における適用
ラッカセイ(Arachis hypogaea)は異質四倍体であり、ゲノムが2つの先代野生種Arachis duranensis及びArachis ipaensisに由来する。設計された標的配列crPDS4(5’-TTTGACAGAAAACTGAAGAACA
CATAT(G)-3’(SEQ ID NO: 15)(ボールド体アルファベットはPAMであり、下線の標的塩基配列と標的側鎖(G)塩基によりNdeIダイジェスト部位が構成される)は、ラッカセイの2つの内因性PDS遺伝子コピーにおいて保存的である(
図15A)。前記実施例に係る方法を利用して、先ず、アグロバクテリウム浸潤によりベンサミアナタバコ株に接種して、該標的部位に対するCas12aヌクレアーゼ配列を持つ組換えウイルスを取得し、ウイルスを含むベンサミアナタバコ汁液を摩擦により四葉期のラッカセイ早苗に接種する。ラッカセイ葉に厚いワックス層を有するため、接種液の浸透力を向上させるために、接種緩衝液に0.01Mのβ-メルカプトエタノールを別途で入れる。摩擦による接種10日間後、一部のラッカセイ株の全身感染葉組織に緑色蛍光が観察されると共に、退緑、黄化、矮化などの症状が現れ(
図15B)、全身組織にTSWV N、Cas12a、GFPタンパク質の発現が検出された(
図15C)。PCR/RE法によりPDS標的部位編集を検出した結果、ランダムで選定された3枚の感染されたラッカセイ株の全身感染葉組織に、標的編集効率が48-59%である(
図15D)。
【0315】
crPDS4標的部位はダイズPDS遺伝子においても保存的であり(
図16A)、前記組換えウイルスは、大豆株の機械的接種にも用いられている。組換えウイルスによって感染されたベンサミアナタバコの全身感染葉を接種緩衝液に均質化させ、卓上遠心分離機により12,000rpmで1min遠心分離してから、上澄を取り、針付きの1-mLシリンジにより発芽4日間後のダイズ子葉に注射して接種する。接種4日間後、子葉の刺創付近に明らかな緑色蛍光が観察され、接種8日間後、蛍光が周りの組織に広がるが、健康植物汁液を注射されたダイズ子葉に赤色の背景蛍光だけである(
図16B)。前記接種子葉組織の総タンパク質サンプルにTSWV N、Cas12a、GFPタンパク質の発現が検出される(16C)と同時に、表2のプライマーにより総DNAサンプルの標的部位を含む配列を増幅させ、PCR/RE保護テストによれば、3株の子葉サンプルに標的遺伝子の突然変異効率が27-46%である(
図16D)。
【0316】
上記実験結果によれば、組換えTSWV編集ベクターは機械的接種により複数の科又は属の植物宿主に感染できると共に、標的DNA編集を高効率的に発生できることがわかる。
【0317】
実施例11:TSWVゲノム編集ベクターのパプリカゲノムに対する編集は品種に限定されない
10個のパプリカ(C. annuum)品種のPDS遺伝子において保存的である標的crPDS6(5’-TTTCTGCTGTCAACTTGAGAGTCCAAG-3’)(ボールド体はPAM配列であり、SEQ ID NO: 99)を選定して、実施例4に係る方法によりpS
(+)crPDS6:GFPベクターを構築し、実施例8に記述される方法により10個のパプリカ品種の株に接種する。接種約7日間後、上部の非接種葉に斑紋、縮みなどの症状が観察された。全身感染葉組織の総タンパク質を抽出し、Western blot解析によりウイルスNタンパク質及び発現されるCas12aとGFPが検出された(
図17A)。各品種はウイルスベクターによって効果的に全身感染されるが、感染効率に一定の差異がある(
図17B)。幼い全身感染葉組織を取り、総DNAを抽出し、標的部位領域のDNA配列を増幅させると共に、ディープシーケンシングを行う。シークエンシング結果によれば、各品種の編集効率が50.7-64.4%範囲内であり、明らかな差異が存在しない(
図17B)。上記結果によれば、組換えTSWVゲノム編集ベクターは各パプリカ品種を効果的に感染させると共に、標的ゲノム編集を発生させ、品種遺伝子型依存性はない。
【0318】
実施例12:TSWVゲノム編集ベクターのラッカセイゲノムに対する編集は品種に限定されない
10個のラッカセイ品種の内因性PDS遺伝子コピーにおいて保存的である標的crPDS5(5’-AATGCAATGTATATTGATTGCCTTAAA-3’)(ボールド体はPAM配列であり、SEQ ID NO: 98)を選定して、実施例4に係る方法によりpS
(+)crPDS5:GFPベクターを構築し、実施例10に記述される方法により10個のラッカセイ品種の株に接種する。接種約7日間後、非接種葉に斑紋、黄化などの症状が観察される(
図18A)と共に、全身感染葉組織にウイルスNタンパク質及びCas12aとGFPの発現が検出された(
図18B)。各ラッカセイ品種はウイルスベクターによって効果的に全身感染されるが、感染効率に一定の差異がある(
図18C)。幼い葉の総DNAを抽出し、標的部位領域のDNA配列を増幅させると共に、ハイスループットシークエンシングを行う。各品種の編集効率が59.4-73.1%であり、明らかな差異はない(
図18C)。これらの結果によれば、組換えTSWVゲノム編集ベクターは各ラッカセイ品種を効果的に感染させると共に、標的ゲノム編集を発生させ、品種遺伝子型依存性はない。
【0319】
実施例13:TSWV-Cas12a-crRNA多重編集ベクターによるベンサミアナタバコの複数の内因性遺伝子の同時編集
前記実施例6-12によれば、TSWV-Cas12a-crRNAはCas12a及び単一crRNAを送達できる。本実施例は、該ベクターによりCas12a及び複数crRNAを送達して多重ゲノム編集を行う方法を提供する。実施例6に係るベンサミアナタバコcrPDS1標的部位、及び新しい標的部位crFucT(5'-TTTGGAACAGATTCCAATAAGAAGCCT- 3';SEQ ID NO: 86)とcrDCL2(5'-TTTGAGAAGCTATGCTTATCTTCTTCG-3';SEQ ID NO: 87)(表3)を選定して、実施例4に記述される方法により、それぞれTSWV Sゲノムの単一標的部位を含むプラスミドpS
(+)crPDS1:GFP、pS
(+)crFucT:GFP、pS
(+)crDCL2:GFPを構築する。また、crPDS1及びcrFucT標的部位を同時にターゲティングできる、2つのcrRNAが直列に連結される配列(SEQ ID NO: 135)を化学合成し、その構造は「DR-Spacer 1-DR-Spacer 2-DR」であり、並びに、crPDS1、crFucT及びcrDCL2標的部位を同時にターゲティングできる、3つのcrRNAが直列に連結される配列(SEQ ID NO: 136)を化学合成し、その構造は「DR-Spacer 1-DR-Spacer 2-DR-Spacer 3-DR」である(
図19A)。合成された配列をpS
(+)GFPプラスミドのSpeIダイジェスト部位にクローニングして、pS
(+)crPDS1& FucT:GFP及びpS
(+)crPDS1& FucT&DCL2:GFPプラスミドを発生させる。ウイルスを複製する場合、Sゲノムの転写により発生されたcrRNA転写ユニット前駆体にはcrRNA配列が含まれ、Mゲノムにより発現されたCas12aタンパク質で前駆体RNAを切断加工して、1つ又は複数の成熟したcrRNA分子を放出した(
図19A)。
【0320】
アグロバクテリウム細菌菌株EHA105を前記プラスミドによりそれぞれpL(+)opt、pM(+)Cas12a、VSRsと共同で形質転換し、実施例6に従って浸潤によりベンサミアナタバコに接種する。接種7日間後、株は続々と全身感染され、葉の巻きと縮み、退緑斑紋などの症状が現れた(
図19B)。感染株の全身感染葉の総DNAをランダムで抽出し、標的配列ゲノムのDNA配列を増幅させ、ハイスループットシークエンシング法によりウイルス感染組織における標的遺伝子の編集効率を測定する。結果によれば、多重編集ベクターの各標的に対する編集効率は、対応する単一標的編集ベクターと同様である(
図19C)。上記結果によれば、該直列発現により複数のcrRNAを効果的に発現し、複数のCRISPR/Cas12a複合体を形成して、植物ゲノムの多標的に対して編集を行うことができる。
【0321】
実施例14:TSWV-Cas9-gRNAゲノム編集ベクターの設計及び構築
CRISPR/Cas9ヌクレアーゼシステムは、Cas9タンパク質及び標的と結合するガイドRNA(gRNA)を含む。
図20に示されるように、TSWV-Cas9-gRNAベクターの構築戦略は、i)SpCas9をコードする配列でTSWV MゲノムにおけるGP配列を置換して、ゲノムcDNAベクターpM
(-)Cas9及びアンチゲノムcDNAベクターpM
(+)Ca9をそれぞれ構築すること、ii)RFPコーディングフレーム及びgRNAを含む配列をpS
(+)ベクターに挿入し、NSsコーディングフレームを置換して、pS
(+)RFP:crRNAベクターを構築することである。この設計において、Sゲノムの転写により発生されたRFP mRNA配列3’ノンコーディング領域にはgRNA配列が含まれる。従来の研究によれば、gRNA配列は相同性Cas9タンパク質に結合されると共に、内因性RNA加工酵素により末端塩基がスプライシングされることで、成熟したgRNA分子が放出された(Mikamiら,Plant Cell Physiol, 2017, 58: 1857-1867;Maら,Nat Plants, 2020, 6: 773-779)。以下、具体的な構築方法を詳しく記述する。
【0322】
1)pM(-)Cas9及びpM(+)Cas9ベクターの構築
ベンサミアナタバココドン最適化のCas9配列を含むプラスミド(Yinら,Scientific Reports, 2015, 5: 14926)をテンプレートとし、該Cas9配列の両側に核局在化シグナル及び3×Flag抗原エピトープ配列(SEQ ID NO: 11)を更に含み、プライマーCas9/F及びCas9/Rにより増幅させて、3×Flag-NLS-Cas9-NLS断片を取得する。pM(-)ベクターをテンプレートとして、プライマーM 3’UTR/F及びCas9/M IGR/Rにより増幅させて、GP配列が除去された断片を取得する。上記2つの断片の末端に15bpの相同性配列を有し、In-Fusion試薬により連結して、pMR(-)Cas9ベクターを発生させる。
【0323】
pMR(-)Cas9をテンプレートとして、プライマー35S/M 3’UTR/F及びHDV/M 5’UTR/Rにより増幅させて、組換えMゲノムcDNA断片を取得すると共に、In-Fusionクローン法により、制限酵素StuI及びSmaIによる消化処理を受けたpCB301-2μ-HDVベクター断片と連結し、ゲノム鎖cDNA方向でベクターに挿入して、pMR(+)Cas9ベクターを発生させる。
【0324】
2)pS(+)RFP:gRNAシリーズベクターの構築
先ず、SアンチゲノムcDNAベクターpS(+)RFP:gGFPを構築した。該ベクターは、ベンサミアナタバコmGFP5遺伝子組換え標的部位gGFP(5’-GATACCCAGATCATATGAAGCGG-3’)(SEQ ID NO: 16)(ボールド体配列はPAMである)をターゲティングするgRNA分子を発現できる。pS(+)GFPプラスミドをテンプレートとして、S 5’UTR/F及びS IGR/Rにより増幅させて、GFP遺伝子が除去された断片を取得する。pGD-RFPベクターをテンプレートとして、プライマーS 5’UTR/RFP/F及びRFP/RによりRFP断片を増幅させる。gGFP標的部位に対するgRNA配列(SEQ ID NO: 22)を化学合成し、該gRNA配列の両側にSpeI及びBamHIダイジェスト部位並びにIn-Fusionクローンに使用される15nt相同性配列を更に含む。In-Fusionクローン試薬により前記3つのDNA断片を連結してpS(+)RFP:gGFPを発生させる。該ベクターのgRNA配列の両側にSpeI及びBamHIダイジェスト部位が含まれ、gRNA配列の置換を容易にする。
【0325】
CRISPR-Pサイト(http://cbi.hzau.edu.cn/cgi-bin/CRISPR)オンラインソフトに基づいて複数種のナス科植物のPDS遺伝子において保存的である標的部位gPDS1(5’-GGACTCTTGCCAGCAATGCTTGG-3’)(SEQ ID NO: 17)を選択し、該標的部位に対するgRNA(SEQ ID NO: 23)を合成し、SpeI及びBamHIダブルダイジェスト部位によりpS(+)RFP:gGFPベクターを挿入して、pS(+)RFP:gPDS1を取得する。
【0326】
実施例15:TSWV-Cas9-gRNAベクターによるベンサミアナタバコmGFP5遺伝子組換えの編集
実施例4の結果によれば、大きいCasコーディング配列の挿入によりMゲノムのパッケージングに影響を与えられたため、高効率的な組換えウイルス救助にとって比較的に高濃度のMアンチゲノムcDNAプラスミドが必要とされる。そのため、pL(+)optベクター、pM(-)Cas9又はpM(+)Cas9ベクター、pS(+)RFP:gGFPベクターを持つアグロバクテリウムEHA105細菌菌株の比率を2:10:1に設定して、別の1体積のVSR発現ベクター(pGD-p19+ pGD-HcPro+ pGD-γb+ pGD-NSs)を持つアグロバクテリウムは、下記に使用されるように、アグロバクテリウム接種混合物を調製する。
【0327】
【0328】
接種約10日間後、群1と群2の浸潤株は、ウイルス全身感染株が現れ、葉の斑紋、退緑、巻きなどのTSWV症状が示される。浸潤株に対して20日間連続的に統計した結果、群1の発症効率が群2よりやや高い(
図21)。
【0329】
蛍光顕微鏡により、組換えウイルスによって感染されたベンサミアナタバコ16c株の全身感染葉に赤色蛍光の発現が現れたが、健康な対照株に赤色蛍光はない。相応に、RFPを発現した葉組織に遺伝子組換えGFPの発現は明らかに除去された(
図22A)。Western blot解析により、群1と群2におけるウイルスによって感染された組織にN、Cas9、RFPの発現が高レベルで含まれるが、GFPタンパク質の蓄積レベルについて対照株より明らかに低く(
図22B)、組換えウイルスに発現されるCas9/gRNA複合体により標的遺伝子の発現が干渉されたことは示唆された。
【0330】
mGFP5の標的部位のゲノム編集を検証するために、表2の特異的プライマーにより、gGFP標的部位(5’-GATACCCAGAT
CATATGAAGCGG-3’(SEQ ID NO: 16)、下線はNdeIダイジェスト部位である)両側のゲノムDNA断片に対してPCR増幅を行い、PCR/REにより標的部位のゲノム編集効率を検出する。PCR/RE解析によれば、TSWV-Cas9-RFP:gGFPによって感染された株のPDS標的部位の突然変異効率は約56-60%であり、健康な対照株組織は標的部位の編集が存在しない(
図22C)。前記PCR増幅産物のSangerシークエンシング解析によれば、発生された編集タイプの多くは1-12個塩基の欠失である(
図22D)。
【0331】
上記結果によれば、Mゲノム及びアンチゲノムRNAの発現は組換えウイルス救助に繋がると共にCas9タンパク質を発現し、Sゲノムに挿入されるRFP:gRNA融合配列は蛍光レポーター遺伝子を発現してウイルス感染を追跡するたけでなく、融合発現されるRNAにより該RNAの機能的加工成熟を発生させ、Cas9タンパク質と共同で標的配列に作用されて、ゲノム編集を発生させる。
【0332】
実施例16:TSWV-Cas9-gRNAベクターによるベンサミアナタバコ及びタバコ内因性PDS遺伝子の編集
図23Aに示されるように、gPDS1標的配列(5’-GGACTCTTGCCA
GCAATGCTTGG-3’(SEQ ID NO: 17)、(ボールド体アルファベットはPAMであり、下線はBsrDIダイジェスト部位であり)はベンサミアナタバコPDSa及びPDSbコピーにおいて保守的である。実施例15に係る方法を利用して、アグロバクテリウム浸潤法により、ベンサミアナタバコ葉にpL
(+)opt、pM
(-)Cas9、pS
(+)RFP:gPDS1、VSRs(pGD-p19+pGD-Hc-Pro+pGD-γb +pGD-NSs)ベクターを導入して、組換えウイルス救助を行う。浸潤約10日間後、ベンサミアナタバコの上部若葉に葉の巻き、退緑、黄化などの症状が現れる(
図23B)と共に、ウイルスNタンパク質及びCas9タンパク質の発現が検出される(
図23C)。表2のプライマーにより標的部位配列を増幅させ、該プライマーペアはPDSa及びPDSb配列を同時に増幅させる。PCRのBsrDIダイジェスト保護テストによれば、4株の組織にPDS標的部位の編集効率は74-98%と高い(
図23D)。
【0333】
前記gPDS1標的部位はタバコPDSa及びPDSbの2つのコピーにおいて保存的である(
図24A)。ベンサミアナタバコに発生された組換えウイルスを汁液摩擦によりタバコに接種し、約8日間後、全身感染を発生させ、全身感染葉に退緑斑紋、葉脈黄化、葉の縮みなどの症状が現れた(
図24B)。Western blot解析によれば、前記感染株はN及びCas9タンパク質を発現した(
図24C)。タバコgPDS標的部位プライマー(表2)によりPCR増幅及びBsrDIダイジェスト解析を行った結果、ランダムで選択された3株の標的編集効率は84-94%であり(
図24D)、ベンサミアナタバコの効率と相当であることがわかる。上記実験結果によれば、TSWV-Cas9-gRNAベクターはアグロバクテリウム浸潤又は機械的摩擦により異なる宿主を感染させると共に、標的ゲノム編集を高効率的に発生させる。
【0334】
実施例17:TSWV-Cas9-gRNA多重編集ベクターによるベンサミアナタバコの複数の内因性遺伝子の同時編集
前記実施例14-16によれば、TSWV-Cas9-gRNAはCas9及び単一gRNAを送達できる。本実施例は、該ベクターによりCas9タンパク質及び複数のgRNAを送達して多重ゲノム編集を行う方法を提供する。ベンサミアナタバコgPDS2標的部位(5'-TTGGTAGTAGCGACTCCATGGGG-3' ;SEQ ID NO:89)、gRDR6標的部位(5'-CCCCTCCTGACTCTTACCCAACT-3';SEQ ID NO: 90)及びgSGS3標的部位(5'-ACAAGAGTGGAAGCAGTGCTGGG-3';SEQ ID NO: 91)(表3)を選定して、実施例14に記述される方法により、それぞれTSWV Sゲノムの単一標的部位を含むプラスミドpS
(+)gPDS2:GFP、pS
(+)gRDR6:GFP、pS
(+)gSGS3:GFPを構築する。また、gPDS2及びgRDR6標的部位を同時にターゲティングできる、2つのgRNAが直列に連結される配列(SEQ ID NO: 137)を化学合成し、及びgPDS2、gRDR6、gSGS3標的部位を同時にターゲティングできる、3つのgRNAが直列に連結される配列(SEQ ID NO: 138)を化学合成する(
図25A)。合成された配列をpS
(+)GFPプラスミドのSpeIダイジェスト部位にクローニングして、pS
(+)gNbPDS2&RDR6:GFP及びpS
(+)gNbPDS2&RDR6&SGS3-1:GFPプラスミドを発生させる。ウイルスを複製する場合、Sゲノムの転写により発生されたgRNA転写ユニット前駆体にはgRNA配列が含まれ、Mゲノムにより発現されたCas9タンパク質がgRNA配列に結合され、植物の内因性ヌクレアーゼによる切断加工により両端の配列が除去されて、1つ又は複数の成熟したgRNA分子を放出した(
図25A)。
【0335】
前記プラスミドをそれぞれpL(+)opt、pM(+)Cas9、VSRsとアグロバクテリウム細菌菌株EHA105により形質転換し、実施例14に従って浸潤によりベンサミアナタバコに接種する。接種7日間後、株は続々と全身感染され、葉の巻きと縮み、退緑斑紋などの症状が現れた(
図25B)。感染株の全身感染葉の総DNAをランダムで抽出し、標的配列ゲノムのDNA配列を増幅させ、ハイスループットシークエンシング法によりウイルス感染組織における標的遺伝子の編集効率を測定する。結果によれば、多重編集ベクターの各標的に対する編集効率は、対応する単一標的編集ベクターと同様である(
図25C)。これらの結果によれば、該直列発現により複数のgRNAを効果的に発現し、複数のCRISPR/Cas9複合体を転写により形成して、植物ゲノムに対して多標的編集を行うことができる。
【0336】
実施例18:TSWV-ABE-gRNA塩基編集ベクターの設計及び構築
アデニン塩基編集システムは、アデニン塩基エディター(ABE)融合タンパク質、及び標的に結合するガイドRNA(gRNA)を含む。
図26に示されるように、ABEを送達するためのウイルスベクターTSWV-ABE-gRNAの構築戦略は、i)ABEをコードする配列でTSWV MゲノムにおけるGP配列を置換して、アンチゲノムcDNAベクターpM
(+)ABEを構築すること、ii)GFPコーディング配列及びgRNAを含む融合配列をpS
(+)ベクターに挿入し、NSsコーディングフレームを置換して、pS
(+)gRNA:GFPベクターを構築することである。この設計において、Sゲノムの転写により発生されたGFP mRNA配列3’ノンコーディング領域にはgRNA配列が含まれる。従来の研究によれば、gRNA配列は相同性Cas9タンパク質に結合されると共に、内因性RNA加工酵素により末端塩基がスプライシングされることで、成熟したgRNA分子が放出された(Mikamiら,Plant Cell Physiol, 2017, 58: 1857-1867;Maら,Nat Plants, 2020, 6: 773-779)。以下、具体的な構築方法を詳しく記述する(
図26)。
【0337】
1)pM(+)ABEベクターの構築
ベンサミアナタバココドン最適化のTadA8e(V106W)配列とnCas9とが融合して形成されたABEヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 84)を化学合成し、該融合配列のN末端にNLS及び3×Flag抗原エピトープ配列が更に含まれ、C末端に3xSV40 NLS配列が更に含まれる。プライマーSpeI/Flag/F(SEQ ID NO: 124)及びABE/R(SEQ ID NO: 125)により増幅させてNLS-3×Flag-TadA8e(V106W)-nCas9-3xNLS断片を取得し、pMR(+)Cas9ベクターをテンプレートとして、プライマーM 3’UTR/F(SEQ ID NO: 65)及びCas9/M IGR/R(SEQ ID NO: 66)により増幅させてCas9配列が除去された断片を取得する。上記2つの断片の末端に15bpの相同性配列を有し、In-Fusion試薬により連結して、pMR(+)ABEベクターを発生させる。
【0338】
2)pS(+)GFP:gRNAシリーズベクターの構築
CRISPR-Pサイト(http://cbi.hzau.edu.cn/cgi-bin/CRISPR)オンラインソフトに基づいて、ベンサミアナタバコPDSa遺伝子の標的配列5’-TGCAAATTGAGTTGGGAGTGAGG-3’(gPDSa;SEQ ID NO: 92)、α-1,3-フコース転移酵素a(FucTa)遺伝子の標的配列5’-CCTCTTGAGAATGTTGCTATTGG-3’(gFucTa1,SEQ ID NO: 93)、ベルベリンブリッジ酵素様核酸d(BBLd)遺伝子の標的配列5’-GAAATCAGAGTAAGGTGCGGAGG-3’(gBBLd,SEQ ID NO: 97)を選択する。前記gRNA配列断片をそれぞれpS(+)SpeI:GFPベクターSpeI部位に挿入して、pS(+)gPDSa:GFP、pS(+)gFucTa1:GFP、pS(+)gBBLd:GFPベクターを発生させる。
【0339】
実施例19:TSWV-ABE-gRNAベクターによるベンサミアナタバコの複数の内因性遺伝子の標的部位の編集
実施例18に記述されるpS
(+)gPDSa:GFP、pS
(+)gFucTa1:GFP、pS
(+)gBBLd:GFPベクターは、gPDSa、gFucTa1、gBBLdの3つの部位をそれぞれターゲティングできるsgRNA配列を含む。選択されたgPDSaはベンサミアナタバコPDSaコピーだけターゲティングする。ベンサミアナタバコに4つのFucT遺伝子が含まれ、選択されたgFucTa1はFucTaだけターゲティングする。ベンサミアナタバコに5つのBBL遺伝子が含まれ、選択されたgBBLdは5つの遺伝子において保存的である。本発明は、BBLd遺伝子の標的部位の塩基編集効率だけ解析した。実施例15に係る方法に参照しながら、前記3つのプラスミドを含むアグロバクテリウム細菌菌株を、pL
(+)opt、pM
(+)ABE、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSsの各ベクターを持つアグロバクテリウムと、適切な比率でそれぞれ混合させ、浸潤によりベンサミアナタバコ葉に接種して組換えウイルス救助を行う。浸潤約10日間後、ベンサミアナタバコの上部若葉に葉の巻き、退緑、黄化などの症状が現れる(
図27A)と共に、ウイルスNタンパク質、GFP、塩基編集融合タンパク質の発現が検出された(
図27B)。表2のプライマー(SEQ ID NO: 112と115,SEQ ID NO: 122と123)により標的部位配列をそれぞれ増幅させ、ハイスループットシークエンシング及びSangerシークエンシング解析によれば、TSWV-ABE-gRNAベクターのgPDSa、gFucTa1、gBBLdの3つの標的部位における塩基編集効率は約28%-39%であり(
図27C)、且つ標的配列の塩基編集活性ウィンドウ(4番目塩基から9番目塩基まで)においてAからGまで(又はTからCまで)の標的指向型塩基変換を発生させた(
図27D)。上記実験結果によれば、TSWVベクターは植物にアデニン塩基エディターを送達できると共に、感染された株の組織に標的遺伝子の塩基編集を高効率的に発生させることができる。
【0340】
実施例20:TSWV-CBE-gRNA塩基編集ベクターの設計及び構築
シトシン塩基編集システムは、シトシン塩基エディター(CBE)融合タンパク質、及び標的に結合するガイドRNA(gRNA)を含む。
図28に示されるように、CBEを送達するためのウイルスベクターTSWV-CBE-gRNAの構築戦略は、i)CBEをコードする配列でTSWV MゲノムにおけるGP配列を置換して、アンチゲノムcDNAベクターpM
(+)CBEを構築すること、ii)GFPコーディング配列及びgRNAを含む融合配列をpS
(+)ベクターに挿入し、NSsコーディングフレームを置換して、pS
(+)gRNA:GFPベクターを構築することである。以下、具体的な構築方法を詳しく記述する。
【0341】
1)pM(+)CBEベクターの構築
ベンサミアナタバココドン最適化のhA3A配列とnCas9配列及びUGI配列とが連結して形成されたCBEヌクレオチド配列(SEQ ID NO: 85)を化学合成し、該hA3A配列のN末端にNLS及び3×Flag抗原エピトープ配列が更に含まれ、該UGI配列のC末端にNLSが更に含まれる。プライマーSpeI/Flag/F(SEQ ID NO: 124)及びCBE/R(SEQ ID NO: 126)により増幅させて、NLS-3×Flag-hA3A-nCas9-UGI-NLS断片を取得し、pMR(+)Cas9ベクターをテンプレートとして、プライマーM 3’UTR/F及びCas9/M IGR/Rにより増幅させて、Cas9配列が除去された断片を取得する。上記2つの断片の末端に15bpの相同性配列を有し、In-Fusion試薬により連結して、pMR(+)CBEベクターを発生させる。
【0342】
2)pS(+)GFP:gRNAシリーズベクターの構築
CRISPR-Pサイト(http://cbi.hzau.edu.cn/cgi-bin/CRISPR)オンラインソフトに基づいてRNA依存性RNAポリメラーゼ6(RDR6a)遺伝子の標的部位1配列5’-CCAATATCTAGGCGTGAGGGATT-3’(gRDR6a1;SEQ ID NO: 95)及び標的部位2配列5’-CCCGACTTCATGGGGAAGGAGGA-3’(gRDR6a2;SEQ ID NO:96)、α-1,3-フコース転移酵素a遺伝子(FucTa)の標的配列5’-CACACCTTCCTCCAGGAGATAGG-3’(gFucTa2;SEQ ID NO: 94)を選択する。前記sgRNA配列断片をそれぞれpS(+)SpeI:GFPベクターSpeI部位に挿入して、pS(+)gRDR6a1:GFP、pS(+)gRDR6a2:GFP、pS(+)gFucTa2:GFPベクターを発生させる。
【0343】
実施例21:TSWV-CBE-gRNAベクターによるベンサミアナタバコの複数の内因性遺伝子の標的部位の編集
実施例20に記述されるpS
(+)gRDR6a1:GFP、pS
(+)gRDR6a2:GFP及びpS
(+)gFucTa2:GFPベクターは1つの標的部位をターゲティングできるgRNA配列をそれぞれ含む。選択されたgRDR6a1及びgRDR6a2はベンサミアナタバコRDR6a遺伝子だけターゲティングする。ベンサミアナタバコに4つのFucT遺伝子が含まれ、選択されたgFucTa2はFucTaだけターゲティングする。実施例15に係る方法に参照しながら、前記3つのプラスミドを含むアグロバクテリウム細菌菌株を、pL
(+)opt、pM
(+)CBE、pGD-p19、pGD-HcPro、pGD-γb、pGD-NSsの各ベクターを持つアグロバクテリウムと、適切な比率でそれぞれ混合させ、浸潤によりベンサミアナタバコ葉に接種して組換えウイルス救助を行う。浸潤約10日間後、ベンサミアナタバコの上部若葉に葉の巻き、退緑、黄化などの症状が現れる(
図29A)と共に、ウイルスNタンパク質、GFP、塩基編集融合タンパク質の発現が検出された(
図29B)。表2のプライマー(SEQ ID NO: 116-121)により標的部位配列をそれぞれ増幅させ、ハイスループットシークエンシング及びSangerシークエンシング解析によれば、TSWV-CBE-gRNAベクターのgRDR6a1、gRDR6a2、gFucTa2の3つの標的部位における塩基編集効率は55%-82%と高く(
図29C)、且つ標的配列の塩基編集活性ウィンドウ(2番目塩基から13番目塩基まで)においてCからTまで(又はGからAまで)の標的指向型塩基変換を発生させる(
図29D)。上記実験結果によれば、TSWV-CBE-gRNAベクターは植物にシトシン塩基エディターを送達すると共に、感染された株の組織に標的ゲノムの塩基編集を高効率的に発生させる。
【0344】
実施例22:TSWVゲノム編集ベクターによって感染されたベンサミアナタバコ葉組織によるミュータント株の再生
TSWV-Cas12a-crRNAウイルスベクターによって感染された組織からミュータント株を再生して取得できるかについて検証するために、実施例6における組換えTSWV-Cas12a-crPDS1:GFPベクターによって感染されたベンサミアナタバコの全身感染葉を集めて、組織培養により株再生を行い、具体的な実験フローは下記の通りである。
【0345】
1)葉を無菌水で洗い流し、70%エタノールで表面を15秒消毒し、0.1%塩化水銀(v/v)で表面を8分消毒して、無菌水で3回以上洗い流す。
【0346】
2)1cm2サイズに切断された葉の外植片を抗生剤が含まないMS分化培地(4.4g/L MS [Duchefa Biochemie]、30g/Lショ糖、1mg/Lのサイトカイニン6-BA、4g/L寒天、pH 5.8)に入れ、25℃培養室で12時間明期/12時間暗期の条件で約2-3週間培養した。
【0347】
3)分化された芽が適切なサイズに成長してから、MS根付き培地(4.4g/L MS、3g/Lショ糖、7g/Lグルコース、4g/L寒天、pH5.8)に移動して、約3週間培養し続けた。
【0348】
4)早苗が深く根を張った後、培養瓶にDDW水(ddH2O)を入れ、4-5日間順化して、土に移植する。
【0349】
ウイルスによって感染された葉を分化培地で10日間培養した後、幾つかの外植片にカルスの分化が現れると共に、経時に伴って、葉と芽が分化された。再生株は白化苗と緑苗の2種類の表現型があり、緑苗は正常に根付き、土に移植される一方、白化苗は根付きできない(
図30A)。2株の緑苗(M0-1/-2)と1株の白化苗(M0-3)を選定し、ゲノムDNAを抽出して、PCR/RE解析を行う。表現型に相応して、白化苗の標的配列のPCR産物がHinfIにより消化されないことから、その4つのPDS対立遺伝子のHinfIダイジェスト部位は全て破壊されたことを示す。2株の緑色苗から増幅されたPCR産物がHinfIにより不完全に消化されることから、一部の突然変異のPDS対立遺伝子は存在することを示す(
図30B)。PCR産物に対してSangerシークエンシングによりジェノタイピング解析を行った結果、白化苗(M0-3)の4つのPDS対立遺伝子は塩基欠失によるPDSコーディングフレームのフレームシフトが現れたが、緑苗M0-1及びM0-2はそれぞれ1つと2つの突然変異のPDS対立遺伝子がある(
図30C)。これらの結果によれば、TSWV-Cas12a-crRNAによって感染されたベンサミアナタバコ体細胞は組織培養による再生によりミュータント株が取得された。
【0350】
同様に、TSWV-Cas9-gRNAベクターによって感染された細胞からミュータント株を再生して取得できるかについて検証するために、実施例15における組換えTSWV-Cas9-RFP:gGFPによって感染されたベンサミアナタバコの全身感染葉片を集めて、前記組織培養の方法により株再生を行う。蛍光イメージングによれば、選択された3株の再生株はmGFP5遺伝子組換えの発現がない(
図31A)。増幅された再生株の標的配列に対してSangerシークエンシング解析を行い、M0-1とM0-2のmGFP5標的部位遺伝子型は1つの塩基が挿入されたホモ接合体であり、M0-3は1つの塩基が欠失されたホモ接合体である(
図31B)。
【0351】
実施例23:TSWVゲノム編集ベクターによって感染されたトマト葉組織によるミュータント株の再生
実施例8における組換えウイルスV-Cas12a-crPDS2:GFPを摩擦により接種することで感染されたトマトの全身感染葉を集めて、無菌水で洗い流してから、70%エタノールで表面を15s消毒し、0.1%昇汞(v/v)溶液に移動して表面を8min消毒して、無菌水で3-5回洗い流す。消毒済みの葉を取り、無菌ろ紙で水分を吸い取り、鮮明な主脈及び葉縁を切り取り、葉を0.5cm2サイズに切断した。切断された葉を抗生剤が含まないMS分化培地に入れ、25℃で7日間暗期培養してから、明期12時間/暗期12時間での培養に移行し、下記に示される4つの組合せの植物ホルモンの濃度をそれぞれ測定する。
【0352】
【0353】
培養約22日間後、実験群1と実験群2の培地における外植片に芽と葉の分化が現れ、実験群3と実験群4の葉縁に膨大なカルスが現れたが、芽と葉の分化がなく(
図32A)、一部のカルスに白化の表現型が現れたことから、PDS遺伝子が編集された後に不活化になったことを示す(
図32B、上図)。分化された芽をMS根付き培地(0.1mg/LのIAAを含む)に移動して、培養し続け、2-3週間後に強い根が分化された(
図32B、下図)。
【0354】
5株の再生トマト苗をランダムで選定し、ゲノムDNAを抽出して、PCR/REによりPDS標的部位の編集を検出する。M0-1とM0-4株のPCR産物はHinfIダイジェストに対して一部の保護作用を有することから、編集を発生させるPDS遺伝子があることを示し、M0-2株のPCR産物はHinfIダイジェストに対して完全の保護作用を有することから、1対のPDS対立遺伝子が編集されたことを示し、M0-3とM0-5株のPCR産物はHinfIダイジェストに対して感受性があることから、標的遺伝子に編集が発生されていないことがわかる(
図32C)。
【0355】
実施例24:抗ウイルス薬処理によるウイルス無しの再生ミュータント株の取得効率の向上
ウイルス編集ベクターによって感染された組織を外植片として組織培養を行い、取得された再生株は通常ウイルスを効果的に駆除できない。本実施例は、TSWV-Cas12a-crRNAベクターを例とし、該ベクターcrRNAがベンサミアナタバコcrPDS1標的部位をターゲティングし、株再生プロセスにおける抗ウイルス薬処理のウイルス駆除効率とミュータント株取得に対する影響を検討した。
図33に示されるように、該ウイルスベクターによって全身感染されたベンサミアナタバコ株葉を外植片として、実施例22に記述される方法を利用して、40mg/Lリバビリン、又は40mg/Lファビピラビル、又は1.2mg/Lレムデシビルを含む培地、或いは、抗ウイルス薬(Mock)を含まない培地に入れて、再生苗を誘導培養する。誘導培養35日間後、各群の外植片及び誘導されるカルスなどを、抗ウイルス薬を含まない誘導培地に全部移動して、55日間まで誘導培養し続けて、再生苗を根付き培地に移動する。各群に3つの独立的な生物学的レプリケートを設定し、各群の各生物学的レプリケートからランダムで30株選択してから、その後の解析を行う。各群のM0再生苗の総RNAを抽出し、TSWV Nの特異的プライマーN/F(CTATGGATTACCTCTTGATGATGC; SEQ ID NO: 131)及び N/R(TTAAGCAAGTTCTGCAAGTTTTG; SEQ ID NO:132)を利用して、RT-PCRにより各再生苗のウイルス保有状況を検出し、ベンサミアナタバコActinプライマーNb/actin/F(CAATCCAGACACCTGTACTTTCTCTC; SEQ ID NO: 133)及びNb/actin/R(AAGCTGCAGGTATCCATGAGACTA; SEQ ID NO: 134)を内部リファレンスとする。結果によれば、Ribavirinにより処理された全ての再生株にTSWV組換えウイルスが検出されず、即ち、ウイルス駆除効率が100%である。それに対して、Mock処理はウイルス無しの再生株が僅か4.4%である。Remdesivir及びFavipiravir処理群はウイルス無しの再生株がそれぞれ15.6%、28.9%である(
図34AとB)。
【0356】
組織培養プロセスにおいて、各群に誘導により発生された白化表現型のベンサミアナタバコ株が異なる数で観察された(
図35A)ことから、これらの株にPDS遺伝子の4つの対立遺伝子(ベンサミアナタバコは異質四倍体である)が編集されて不活化になったことを示す。薬物処理の取得された再生株の標的ゲノム編集に対する影響を究明するために、標的部位を含む配列(増幅プライマーはSEQ ID NO: 70と71)に対してPCR増幅を行い、アンプリコンに対してハイスループットシークエンシングを行い、各株の突然変異タイプを解析して、各群の編集効率を統計した。下記の定義に基づいて、ベンサミアナタバコの2つのサブゲノムの遺伝子型を指定する。編集効率(indels%)が0-10.0%であるものは野生型(Wild-type, WT)であり、10% < indels% ≦ 35.0%はキメラ(Chimeric, Chi)であり、35.0% < indels% ≦ 80.0%はヘテロ接合突然変異(Heterozygous, He)であり、即ち、1つの対立遺伝子の標的部位に編集を発生させたが、もう1つの対立遺伝子が野生型である。編集効率が80.0%~100.0%であるものについて、2つの対立遺伝子に同じタイプの編集を発生された場合、ホモ接合突然変異(Homozygous, Ho)であり、2つの対立遺伝子に2つのタイプの編集を発生された場合、両アレル突然変異(Biallelic, Bi)である。各群のM0株PDSa及びPDSbの突然変異の遺伝子型を統計して解析した結果、標的部位に突然変異を有する株の比率について、Ribavirin処理群は最も高く、Remdesivir処理群はMock群より僅かなメリットを有し、Favipiravir群は突然変異効率が最も低い。更に解析した結果、Ribavirin群はMock群と比較すれば、Ho/Biタイプの比率が2つのコピーにおいて高くなり、Chiタイプの比率が低くなった。Remdesivir群はMock群と比較すれば、総編集効率が相当であるが、Ho/Biタイプの比率がPDSb遺伝子の標的部位において僅か高くなり、Chiタイプの比率が2つのコピーにおいて低くなった。Favipiravir群はMock群と比較すれば、総編集効率が低くなるが、全ての突然変異遺伝子型においてHo/Biタイプの比率が明らかにMock群より高い(
図35B)。
【0357】
更に、M0代株における各突然変異遺伝子型のM1代に伝達された場合の遺伝特徴について解析し、前記4種類の遺伝子型を含む19株のM0株を選定すると共に、自家受粉により発生された種子を取得した。各M0株系から14-16株のM1早苗をランダムで選択し、ハイスループットシークエンシングによりそのPDSa及びPDSb遺伝子の各自標的部位の突然変異遺伝子型を解析した。結果は表4に示されるように、遺伝子型がWT及びChi(0 < indels% ≦ 35.0%)であるM0株について、そのM1後代株は野生型であり、M0株の遺伝子型がヘテロ接合(He)である場合、その後代は含まれる突然変異及び野生型の比率が3:1であり、メンデル法則に合致する。M0株の遺伝子型がBi/Hoである場合、そのM1後代株は同じ突然変異タイプを含む株である。これらの結果によれば、M0株におけるHe及びHo/Biの突然変異タイプは後代に安定的に遺伝されるが、Chi突然変異は遺伝できない。
【0358】
また、PDSa及びPDSaがHe遺伝子型又はHo/Bi遺伝子型であるM0株の10株を選定して種子を取り、種を撒いて発芽してから、後代の表現型を統計した。一部の株系M1は緑苗:白苗が約3:1であり、例えば、RB-#54である。また、一部の株系は後代の緑苗:白苗が約15:1であり、例えば、RD-#76である(
図36A)。カイ二乗検定により、各群の表現型はメンデル法則に合致することがわかる(
図36B)。上記によれば、組織培養プロセスにおいて抗ウイルス薬を添加することで、突然変異を有するウイルス無しの再生株の取得効率を明らかに向上させる。
【0359】
実施例25:TSWVゲノム編集ベクターによって感染されたタバコ葉組織によるミュータント株の再生
本実施例は、更に、TSWVベクターによって感染されたタバコ組織を組織培養による再生に適用する場合、抗ウイルス薬処理のウイルス駆除効率及びミュータント株取得に対する影響を検討した。実施例24における組換えTSWV-Cas12a-crRNAベクターを例として、該ベクターはタバコPDS遺伝子のcrPDS1標的部位を同時にターゲティングできる。該ウイルスベクターによって感染された全身感染葉を外植片として組織培養及び株再生を行い、具体的な実験フローは実施例24に記載される。ウイルスによって感染された葉を分化培地で10日間培養した後、幾つかの外植片にカルスの分化が現れると共に、経時に伴って、葉と芽が分化された。再生株は白化苗と緑苗の2種類の表現型があり、緑苗は正常に根付き、土に移植される一方、白化苗は根付きできない(
図37A)。ハイスループットシークエンシングにより各薬物処理群の再生株が標的編集を含む比率について解析し、結果は
図37Bに示されるように、Ribavirin処理群は対照処理群及びその他の薬物処理群と比較すれば、再生株が標的編集を含む比率は明らかに高い。更に、各薬物処理群の再生株の突然変異遺伝子型の分布を解析した結果、ribavirinにより各突然変異タイプの比率が向上された(
図37C)。再生株に対してウイルスを検出した結果、ベンサミアナタバコの結果と同様に、Ribavirin処理により、ウイルスが駆除された再生株は100%である。これらの結果によれば、TSWV-Cas12a-crRNAによって感染されたタバコ体細胞は組織培養による再生によりミュータント株が取得されると共に、リバビリン処理によりウイルスの除去が促進されて、突然変異を有する再生株の取得効率が向上された。
【0360】
実施例26:NSs遺伝子を含むTSWVベクターの組換えウイルス救助及び感染細胞再生に対する悪影響
TSWV Nss遺伝子が1つのRNAサイレンシングサプレッサーをコードする(Takedaら,FEBS Lett, 2002, 532: 75-79)。上記実施例において、組換えTSWVベクターのNSs遺伝子がレポーター遺伝子によって置換される。NSs遺伝子の組換えウイルス救助効率、毒性、ゲノム編集能力に対する影響を検討するために、本実施例は、NSs遺伝子を含む組換えウイルスベクターTSWV-Cas9-NSs:gPDS1を測定した。該ベクターはTSWV-Cas9-RFP:gPDS1と同様であるが、crPDS1 gRNA配列の上流にRFPレポーター遺伝子ではなく、ウイルスNSs遺伝子が残された(
図38A)。
【0361】
そのため、SアンチゲノムベクターpS(+)NSs:gPDS1を構築した。具体的な構築方法は、プライマーgPDS1/NSs/F及びS IGR/RによりpS(+)プラスミドに対してPCR増幅を行ってリニア化プラスミド断片を取得することと、プライマーgPDS1/F及びIGR/scaffold/RによりgPDS1 gRNA配列(SEQ ID NO: 23)を含む断片を増幅させることと、In-Fusion試薬により前記2つの断片を連結してpS(+)NSs:gPDS1ベクターを取得することと、を備える。
【0362】
実施例11に記述されるアグロバクテリウム浸潤方法により、下記アグロバクテリウム混合物でベンサミアナタバコを浸潤させる。
【0363】
TSWV-Cas9-RFP:gPDS1救助混合物:pL
(+)opt、pM
(-)Cas9、pS
(+)RFP:gPDS1、pGD-p19 + pGD-HcPro + pGD-γb + pGD-NSs
TSWV-Cas9-NSs:gPDS1救助混合物:pL
(+)opt、pM
(-)Cas9、pS
(+)NSs:gPDS1、pGD-p19 + pGD-HcPro + pGD-γb
TSWV-Cas9-NSs:gPDS1ウイルスS鎖がNSsを発現できるため、浸潤時にVSR組合せに予定外のpGD-NSs瞬時発現ベクターは含まない。浸潤8日間後、組換えTSWV-Cas9-RFP:gPDS1に全身感染が現れたが、10日間後、TSWV-Cas9-NSs:gPDS1に全身感染が現れた。両者に発生された症状は明らかな差異がない(
図38B)。浸潤20日間後、全ての浸潤株はTSWV-Cas9-RFP:gPDS1によって感染されたが、僅か50%の株は組換えTSWV-Cas9-NSs:gPDS1による救助が取得された(
図38D)。発症株の葉をウイルス源として健康なベンサミアナタバコを摩擦し、2つの組換えウイルスの全身感染発生時間及び感染効率は明らかな区別がない(
図38E)。PCR/RE解析によれば、2つの組換えウイルスの感染株の葉における標的ゲノム編集効率は相当である(
図38C)。
【0364】
TSWV-Cas9-NSs:gPDS1及びTSWV-Cas9-RFP:gPDS1ベクターによって感染された組織を集めて、実施例13の方法により組織培養を行う。培養7日間後、TSWV-Cas9-NSs:gPDS1によって感染された葉の外植片に厳重な壊死が現れ、10日間後、完全に壊死した。逆に、TSWV-Cas9-RFP:gPDS1によって感染された葉に厳重な壊死がなく、10日間後、カルスの初期分化が現れた(
図38F)。
【0365】
上記結果によれば、NSs病原因子遺伝子が残されたTSWVゲノム編集ベクターの救助効率は低くなり、組織培養プロセスにおいて感染を発生させた細胞に厳重な壊死が現れて、株再生を阻害した。
【0366】
実施例27:GP遺伝子欠失の組換えウイルスベクターのアザミウマによる伝播は不可能
TSWV糖タンパク質(GP)は被膜粒子の形成及び媒介昆虫による伝播にとって不可欠である(Sinら,Proc Natl Acad Sci U S A, 2005, 102: 5168-5173)。本発明の実施例においてGP遺伝子が非相同性配列によって置換された。組換えウイルスベクターの昆虫介体による伝播が不可能であることを検証するために、実施例15により取得された組換えTSWV-Cas9-NSs:gPDS1及び野生型TSWV(TSWV-WT)ウイルスを摩擦によりパプリカに接種する。アザミウマ若虫を全身感染されたパプリカ株に置き、ウイルスを獲得させる。24時間摂食した後、アザミウマ5匹を1群として、1株の健康なパプリカ株に置き、20日間摂食させた。アザミウマ及びパプリカ株の総RNAを抽出し、NSm/F及びNSm/Rプライマー(表1)によりアザミウマのウイルス保有率(ウイルスを保有するアザミウマ数/アザミウマの総数)及びアザミウマのウイルス感染率(感染されたパプリカ株の数/摂食による接種を受けたトウガラシ株の総数)が検出される。下記に示されるように、野生型ウイルスによって感染されたパプリカ株は、アザミウマのウイルス保有率が53%であり、ウイルス感染率が65%であるが、組換えTSWV-Cas9-NSs:gPDS1はアザミウマによるウイルス保有と伝播ができない。
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【配列表】
【国際調査報告】