(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】パーキンソン病の治療における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240327BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240327BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A61K35/28
C12N5/0775
A61P25/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548225
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 CN2022126041
(87)【国際公開番号】W WO2023179001
(87)【国際公開日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】202210607894.5
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511128206
【氏名又は名称】南通大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】顧 暁松
(72)【発明者】
【氏名】孫 誠
(72)【発明者】
【氏名】丁 斐
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼ 蕾蕾
(72)【発明者】
【氏名】从 猛
(72)【発明者】
【氏名】王 暁敏
(72)【発明者】
【氏名】孫 華林
(72)【発明者】
【氏名】張 愉
(72)【発明者】
【氏名】趙 莉莉
(72)【発明者】
【氏名】銭 天梅
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB25
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC11
4B065BD15
4B065BD18
4B065BD45
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB44
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA59
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
【課題】パーキンソン病治療薬の調製における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、バイオ医薬品の分野に属し、特に、パーキンソン病の治療における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用に関する。前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームは、培養液により骨髄間葉系幹細胞を刺激して産生され、継代後に培養液から骨髄間葉系幹細胞エクソソームを抽出し、前記骨髄間葉系幹細胞の培養液はFBSとPSを含むα-MEM培養液である。骨髄間葉系幹細胞エクソソームはパーキンソン病モデルマウスの運動機能の大幅な改善、パーキンソン病モデルマウスのドーパミンニューロンの保護作用を有する以外に、パーキンソン病モデルマウスの嗅覚機能を改善することもでき、さらにパーキンソン病モデルマウスの嗅球のアストロサイトの活性化を抑制することもできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病治療薬の調製における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用であって、前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームは、培養液により骨髄間葉系幹細胞を刺激して産生され、継代後に前記培養液から前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームを抽出し、前記骨髄間葉系幹細胞の前記培養液はFBSとPSを含むα-MEM培養液であることを特徴とする、応用。
【請求項2】
前記応用は、
パーキンソン病の運動機能を向上するための薬剤の調製への応用、
パーキンソン病におけるドーパミン作動性ニューロンを保護するための薬剤の調製への応用、
パーキンソン病の嗅覚機能を改善するための薬剤の調製への応用、及び
パーキンソン病における嗅球のアストロサイトの活性化を低下させるための薬剤の調製への応用
のいずれかを含むことを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項3】
前記培養液は、10%のFBS及び1%PSを含むα-MEM培養液であることを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項4】
前記骨髄間葉系幹細胞の培養条件は、37℃、5%CO
2であることを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項5】
骨髄を37℃に予熱した完全培地に接種することを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項6】
前記骨髄間葉系幹細胞を培養する場合、細胞密度が80%に達したところでトリプシンを用いて消化し、顕微鏡で細胞が丸くなり、隙間が大きくなったのを観察すると、完全培地を加えて消化を停止させ、遠心分離して上清を捨て、細胞数に応じて継代比率を決定し、最初継代をP1とし、2日ごとに全量交換を実施し、4~6日にP2に継代し、再度消化してP3に継代し、P3継代を使用して前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームを抽出することを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項7】
前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームの抽出方法としては、骨髄間葉系幹細胞上清を回収し、前記骨髄間葉系幹細胞上清と同量のXBBを加えてよく混合し、メンブレンアフィニティースピンカラムを用いて前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームを濾過して回収することを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項8】
前記骨髄間葉系幹細胞上清の回収方法は、P3継代骨髄間葉系幹細胞が80%の密度に増殖したところ、元の培地を廃棄し、PBSで2回洗浄した後、無血清α-MEM培地に交換し、48時間培養を続けた後培地を回収する工程と、遠心分離によって細胞破片を除去した後、ろ過して上清を得る工程とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の応用。
【請求項9】
前記ろ過の方法は、0.22μmのろ過膜を用いてろ過することを特徴とする、請求項8に記載の応用。
【請求項10】
前記遠心分離の方法は、4℃、300gで10分間遠心分離し、その後2000gで10分間遠心分離することを特徴とする、請求項8に記載の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品の分野に属し、特に、パーキンソン病の治療における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD)は、振戦麻痺とも呼ばれ、普段よく目にする老人性神経変性疾患である。平均発症年齢は約60歳である。統計によると、世界人口800人に1人がパーキンソン病に罹患しており、高齢化が進んでいることにより2030年までにパーキンソン病の罹患率は2倍となり、患者数は900万人を超えると予想されている。中国の65歳以上の有病率は約1.7%である。患者の直接医療費は年間10,000米ドル以上と推定され、家族及び社会に大きな負担となっている。パーキンソン病は、進行性、多発性及び潜行性の発症を特徴とし、主な症状としては、動作緩慢、筋強剛、安静時振戦、姿勢保持障害などがある。なお、パーキンソン病には、うつ、便秘、嗅覚の低下及び睡眠障害などの非運動症状も含まれる。パーキンソン病の主な病理学的特徴は、黒質のドーパミン作動性ニューロンの細胞変性と細胞死、線条体のドーパミン含有量の大幅な減少、及び黒質部位でのレビー小体の出現である。パーキンソン病の臨床治療の基本はドーパミン補充療法である。この治療法を長期間使用すると、不安、不眠、幻覚などの精神症状の様々な副作用が生じる可能性がある。また、現在の治療法は病気の症状を改善することしかできず、病勢の進行そのものを止めることができず、病気を治すこともできない。したがって、新しいパーキンソン病治療薬の発見は、巨大な経済的及び社会的利益を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、パーキンソン病の治療における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用を提供することであり、骨髄間葉系幹細胞エクソソームはパーキンソン病モデルマウスの運動機能への大幅な改善、パーキンソン病モデルマウスのドーパミンニューロンへの保護作用を有する以外に、パーキンソン病モデルマウスの嗅覚機能を改善することもでき、さらにパーキンソン病モデルマウスの嗅球のアストロサイトの活性化を抑制することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、次の通りの技術的手段を採用する。
【0005】
パーキンソン病治療薬の調製における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用であって、前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームは、培養液により骨髄間葉系幹細胞を刺激して産生され、継代後に培養液から骨髄間葉系幹細胞エクソソームを抽出し、前記骨髄間葉系幹細胞の培養液はFBSとPSを含むα-MEM培養液である。
【0006】
さらに、前記応用は、次のいずれかを含む。
パーキンソン病の運動機能を向上するための薬剤の調製への応用、
パーキンソン病におけるドーパミン作動性ニューロンを保護するための薬剤の調製への応用、
パーキンソン病の嗅覚機能を改善するための薬剤の調製への応用、
パーキンソン病における嗅球のアストロサイトの活性化を低下させるための薬剤の調製への応用。
【0007】
さらに、前記培養液は、10%のFBS及び1%PSを含むα-MEM培養液である。
【0008】
さらに、骨髄間葉系幹細胞の培養条件は、37℃、5%CO2である。
【0009】
さらに、骨髄を37℃に予熱した完全培地に接種する。
【0010】
さらに、骨髄間葉系幹細胞を培養する場合、細胞密度が80%に達したところでトリプシンを用いて消化し、顕微鏡で細胞が丸くなり、隙間が大きくなったのを観察し、完全培地を加えて消化を停止させ、遠心分離して上清を捨て、細胞数に応じて継代比率を決定し、最初継代をP1とし、2日ごとに全量交換を実施し、4~6日にP2に継代し、再度消化してP3に継代し、P3継代を使用して骨髄間葉系幹細胞エクソソームを抽出する。
【0011】
さらに、前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームの抽出方法:骨髄間葉系幹細胞上清を回収し、骨髄間葉系幹細胞上清と同量のXBBを加えてよく混合し、メンブレンアフィニティースピンカラムを用いて骨髄間葉系幹細胞エクソソームを濾過して回収する。
【0012】
さらに、骨髄間葉系幹細胞上清の回収方法は、P3継代骨髄間葉系幹細胞が80%の密度に増殖したところ、元の培地を廃棄し、PBSで2回洗浄した後、無血清α-MEM培地に交換し、48時間培養を続けた後培地を回収する工程と、遠心分離によって細胞破片を除去した後、ろ過して上清を得る工程とを含む。
【0013】
さらに、前記ろ過の方法は、0.22μmのろ過膜を用いてろ過する。
【0014】
さらに、前記遠心分離の方法は、4℃、300gで10分間遠心分離し、その後2000gで10分間遠心分離する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、パーキンソン病治療薬の調製における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用を提供するものである。前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームは、パーキンソン病モデルマウスの運動機能の大幅な改善、パーキンソン病モデルマウスのドーパミンニューロンの保護作用を有する以外に、パーキンソン病モデルマウスの嗅覚機能を改善することもでき、さらにパーキンソン病モデルマウスの嗅球のアストロサイトの活性化を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2A】骨髄間葉系幹細胞エクソソームの同定を示す図である。骨髄間葉系幹細胞を示す。
【
図2B】骨髄間葉系幹細胞エクソソームの同定を示す図である。ナノ粒子トラッキング解析装置を用いて調製されたエクソソームを解析したものである。
【
図2C】骨髄間葉系幹細胞エクソソームの同定を示す図である。透過型電子顕微鏡を用いて調製されたエクソソームを観察したものである。
【
図3】骨髄間葉系幹細胞エクソソームがパーキンソン病モデルマウスの運動機能を向上することを示す図である(1:対照群、2:MPTP群、3:MPTP+エクソソーム群。*p<0.05で、one-way ANOVA方法で統計分析を行った)。
【
図4】骨髄間葉系幹細胞エクソソームがパーキンソン病モデルマウスの黒質部位におけるチロシンヒドロキシラーゼ(tyrosine hydroxylase、TH)発現を増加させることを示す図である(免疫蛍光染色方法でマウスの黒質領域TH発現(緑色)を検出し、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、紫色)で核を標識した)。
【
図5】骨髄間葉系幹細胞エクソソームがパーキンソン病モデルマウスの嗅覚機能を向上することを示す図である(1:対照群、2:MPTP群、3:MPTP+エクソソーム群。*p<0.05、one-way ANOVA方法で統計分析を行った)。
【
図6】骨髄間葉系幹細胞エクソソームがパーキンソン病モデルマウスの嗅球部位におけるグリア繊維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein;GFAP)の発現を減少かさせることを示す図である(免疫蛍光染色方法でマウス嗅球領域GFAP発現(赤色)を検出し、NeuN(ニューロン特異的な核タンパク質)でニューロン(緑色)を標識し、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、紫色)で核を標識した。Mergeは結合された画像である)。
【
図7】嗅神経細胞における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの内在化を示す図である(調製したエクソソームをPKH-26で標識してからマウス初代嗅神経細胞と共培養した。免疫蛍光染色方法でエクソソームの内在化を分析した。標識されたエクソソームは、赤色で、TUJ1(緑色)で嗅神経細胞を標識した)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示すように、マウスにMPTP(1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)を腹腔内投与し、パーキンソン病モデルマウスの確立のため、20mg/kg/日の用量で7日間連日投与した。モデリング後、2日間の行動トレーニング(ポールクライミング及び嗅覚機能行動を含む)を実施した。マウスに経鼻点滴注入によってエクソソームを投与して治療し、各マウスに10μlのエクソソーム(1×10
8個のエクソソーム粒子を含む)を投与した。治療は2日ごとに合計4回の治療を行った。治療後に行動学的及び形態学的検査を実施した(
図1)。
【0018】
具体的な工程は、次の通りである。
【0019】
1.ヒト骨髄間葉系幹細胞の培養
(1)接種:37℃に予熱した完全培地8mlを入れた10cm培養皿(10%FBS、1%PSを含むα-MEM培養液)に骨髄1mlを接種し、よく混合し、37℃、5%CO2細胞インキュベーターに入れてインキュベートする。前記骨髄は健常者の骨髄に由来した。前記完全培地は、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン及びストレプトマイシンを含むα-MEM培地である。
【0020】
(2)培地の交換:接種後4日目に半分交換し、7日目に全量交換する。
【0021】
(3)継代:細胞密度が80%以上に達したところで0.25%トリプシン1mlを用いて消化し、顕微鏡で細胞が丸くなり、隙間が大きくなったのを観察し、完全培地3mlを加えて消化を停止する。1000rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、細胞数に応じて継代比率を決定し、2日ごとに全量交換を実施し、4~6日にP2に継代し、P2が一定数まで増殖した後、再度消化してP3に継代し、P3継代を次の実験に使用する。
【0022】
2.エクソソーム抽出
(1)骨髄間葉系幹細胞上清の回収:P3継代ヒト骨髄間葉系幹細胞が80%の密度に増殖したところで、元の培地を廃棄し、PBSで2回洗浄した後、無血清α-MEM培地に交換し、48時間培養を続けた後培地を回収する。4℃、300gで10分間遠心分離及び2000gで10分間遠心分離によって細胞破片を除去してから0.22μmのろ過膜でろ過した後、培地を-80℃の冷蔵庫に入れて保存し用意しておく。
【0023】
(2)骨髄間葉系幹細胞エクソソームの抽出:抽出方法は、exoEasy kit(QIAGEN)の製品の説明書を参照する。工程は、次の通りである。
1)骨髄間葉系幹細胞の上清に等量のXBBを加え、よく混合し、
2)上記混合液をexoEasyカラムに加え、室温、500gで1分間遠心分離し、コレクションチューブ内の液体を捨て、混合液のろ過が完了するまでこの工程を繰り返し、
3)10mlのXWBを加え、5000gで5分間遠心分離し、コレクションチューブを廃棄し、
4)exoEasyカラムを新しいコレクションチューブに交換し、膜表面にBPE1mlを加え、500gで5分間遠心分離し、液体を膜表面に戻し、5000gで5分間遠心分離し、遠心管内のエクソソームを含む試料を回収してその後の実験に使用する。
【0024】
3.ナノ粒子トラッキング解析装置によるエクソソームの解析
抽出したエクソソームを1000倍に希釈し、ナノ粒子トラッキング解析装置(Nanoparticle Tracking Analysis、NTA)でエクソソームの濃度及び直径分布を同定する。
【0025】
4.透過型電子顕微鏡によるエクソソームの形態観察
1)エクソソーム原液20μlをピペットで取り、赤いワックスの上に滴下し、
2)事前にポリメチル酢酸ビニル/カーボンでコーティングされた銅グリッドが固定され、液滴の中に置かれて、室温で20分間静置し、
3)2%のパラホルムアルデヒドで室温にて2分間固定し、
4)2%のリンタングステン酸(PTA)で室温にて1分間対比染色し、
5)赤外線ランプで乾燥させ、
6)機械にセットして観察し、写真を撮影する。
【0026】
5.嗅球ニューロンの培養
成体C57BL/6Jマウスを頸部解剖により屠殺し、エタノールで消毒し、頭部を中心から切断し、直ちに1%PSを含むPBSに入れて血液を洗浄し、顕微鏡下で無菌解剖して嗅球を取り出し、髄膜を剥がし、予熱した0.25%トリプシンに入れ、0.5mm3に小さく切り、37℃で30分間作用させた後、10%牛胎児血清を含むDMEM/F12培養液でトリプシンの消化反応を停止させ、静かに数回ピペッティングする。調製した細胞懸濁液を1200rpmで5分間遠心分離し、上清を捨てた。1%グルタミン、2%B27を含むNeurobasal培地を加え、400メッシュのふるいにかけ、ポリ-L-リジンでコーティングされた丸いカバースリップに接種する。37℃、5%二酸化炭素のインキュベーターに入れて培養し、2日ごとに培地を交換し、神経細胞が6~7日まで成長した後、その後の実験を行う。
【0027】
6.嗅球ニューロンによるエクソソームの内在化
PKH26を使用してエクソソームを標識する具体的なプロセスは、次のとおりである。
(1)1×1010個のエクソソームを含む溶液(100μl)を用意し、
(2)エクソソームを500μlのDiluent Cに加え、穏やかに混合し、
(3)新しいEPチューブを取り、500μlのDiluent Cに4μlのPKH26を加え、
(4)(3)に(2)を加えてよく混ぜ、
(5)室温で4分間放置し、1分ごとに10回ピペッティングし、
(6)エクソソームを含まない等量のFBSを加えて染色を停止させ、
(7)限外濾過チューブを用いて濃縮して用意しておき、
(8)嗅球ニューロンに加え、12時間共培養した後、Anti-TUJ1抗体(1:1000)で免疫蛍光染色し、蛍光顕微鏡下で観察し、写真を撮影する。
【0028】
7.パーキンソン病モデルマウスの作製とエクソソーム治療
12週齢の雄C57BL/6Jマウスをランダムに対照群とモデル群に分けた。モデル群のマウスには、神経毒MPTP(N-methyl-4-phenyl-l,2,3,6-tetrahydropyridine)の腹腔内投与によってPDモデルマウスを誘導した。MPTPの用量は20mg/kg/日、投与方法は7日間連日腹腔内投与であった。エクソソーム治療は経鼻投与方法を用い、用量は1×108個のエクソソーム粒子で、容量は10μlであった。治療は2日ごとに合計4回の治療を行った。
【0029】
8.ポールクライミング実験
粗い表面の垂直に固定されたポール(直径15mm、長さ50cm)の頂点に動物を置き、マウスが頂点からポールの底部に到達し、2本の前肢が底部に触れるまでにかかる時間を計る。測定間隔は5分とし、5回測定を行い、最高値と最低値を除いて平均値をとった。
【0030】
9.嗅覚実験
マウスは予め20時間絶食させ、清潔なケージボックス(長さ42cm、幅24cm、高さ15cm)を用意し、きれいな床敷の中央、左上、右下、右上、左下に順番にチーズを埋め、チーズは床敷から0.5cm下にあること。動物を中に入れて、マウスがチーズを見つける時間を計る。300秒以内に見つからなかった場合、300秒として記録された。最小値と最大値を除去した後に統計分析を行った。
【0031】
10.組織免疫蛍光
(1)採取したマウス脳組織を4%パラホルムアルデヒドに浸し、4℃の冷蔵庫に24時間静置し、
(2)20%及び30%のスクロースを1XPBで調製し、24時間順次脱水し、
(3)脱水脳組織の凍結切片を作製し、厚さを12μmに調整し、37℃のオーブンで一晩加熱し、-20℃で保存し、
(4)染色前に切片を60℃で30分間乾燥させ、
(5)PBSで5分×3回洗浄し、
(6)ブロッキング溶液を用いて1時間37℃でブロッキングをし、
(7)PBSで10分×3回洗浄し、適切な比率でTH/GFAP/NeuN抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、
(8)PBSで3回洗浄し、相同二次抗体とともに室温で1時間インキュベートする。
(9)PBSで3回洗浄した後、スライドを蛍光封入剤で密封し、顕微鏡で観察し、写真を撮った。
【0032】
図2に示すように、調製されたエクソソームをナノ粒子トラッキング解析装置で解析したところ、エクソソームの平均直径は131.8nm、濃度は7.4×10
10粒子/mlであることがわかった(
図2B)。透過型電子顕微鏡により、調製されたエクソソームは二重膜を有するカップ状構造を呈していることが判明した(
図2C)。ポールクライミング実験の結果、エクソソーム治療によりパーキンソン病モデルマウスがポールクライミングに必要な時間を短縮できることが示されている(
図3)。黒質領域におけるチロシン水酸化酵素(TH)の発現を検出したところ、エクソソーム治療によりパーキンソン病モデルマウスの黒質領域におけるTHの発現を増加させることができることが判明した(
図4)。嗅覚機能実験により、エクソソーム治療により、パーキンソン病モデルマウスが隠れた餌を見つけるのにかかる時間を短縮できることが示されている(
図5)。嗅球部位におけるグリア繊維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein;GFAP)の発現を免疫蛍光法により検出し、エクソソーム治療によりパーキンソン病モデルマウスの嗅球部位におけるGFAPの発現を有意に低下させることができることが判明し、嗅球領域のアストロサイトの活性化が抑制されたことを示している(
図6)。内在化実験により、調製されたエクソソームが嗅神経細胞に取り込まれることができることを示している(
図7)。
【0033】
(付記)
(付記1)
パーキンソン病治療薬の調製における骨髄間葉系幹細胞エクソソームの応用であって、前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームは、培養液により骨髄間葉系幹細胞を刺激して産生され、継代後に前記培養液から前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームを抽出し、前記骨髄間葉系幹細胞の前記培養液はFBSとPSを含むα-MEM培養液であることを特徴とする、応用。
【0034】
(付記2)
前記応用は、
パーキンソン病の運動機能を向上するための薬剤の調製への応用、
パーキンソン病におけるドーパミン作動性ニューロンを保護するための薬剤の調製への応用、
パーキンソン病の嗅覚機能を改善するための薬剤の調製への応用、及び
パーキンソン病における嗅球のアストロサイトの活性化を低下させるための薬剤の調製への応用
のいずれかを含むことを特徴とする、付記1に記載の応用。
【0035】
(付記3)
前記培養液は、10%のFBS及び1%PSを含むα-MEM培養液であることを特徴とする、付記1に記載の応用。
【0036】
(付記4)
前記骨髄間葉系幹細胞の培養条件は、37℃、5%CO2であることを特徴とする、付記1に記載の応用。
【0037】
(付記5)
骨髄を37℃に予熱した完全培地に接種することを特徴とする、付記1に記載の応用。
【0038】
(付記6)
前記骨髄間葉系幹細胞を培養する場合、細胞密度が80%に達したところでトリプシンを用いて消化し、顕微鏡で細胞が丸くなり、隙間が大きくなったのを観察すると、完全培地を加えて消化を停止させ、遠心分離して上清を捨て、細胞数に応じて継代比率を決定し、最初継代をP1とし、2日ごとに全量交換を実施し、4~6日にP2に継代し、再度消化してP3に継代し、P3継代を使用して前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームを抽出することを特徴とする、付記1に記載の応用。
【0039】
(付記7)
前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームの抽出方法としては、骨髄間葉系幹細胞上清を回収し、前記骨髄間葉系幹細胞上清と同量のXBBを加えてよく混合し、メンブレンアフィニティースピンカラムを用いて前記骨髄間葉系幹細胞エクソソームを濾過して回収することを特徴とする、付記1に記載の応用。
【0040】
(付記8)
前記骨髄間葉系幹細胞上清の回収方法は、P3継代骨髄間葉系幹細胞が80%の密度に増殖したところ、元の培地を廃棄し、PBSで2回洗浄した後、無血清α-MEM培地に交換し、48時間培養を続けた後培地を回収する工程と、遠心分離によって細胞破片を除去した後、ろ過して上清を得る工程とを含むことを特徴とする、付記1に記載の応用。
【0041】
(付記9)
前記ろ過の方法は、0.22μmのろ過膜を用いてろ過することを特徴とする、付記8に記載の応用。
【0042】
(付記10)
前記遠心分離の方法は、4℃、300gで10分間遠心分離し、その後2000gで10分間遠心分離することを特徴とする、付記8に記載の応用。
【国際調査報告】