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特表2024-514742高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石、その製造方法、及び使用
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  • 特表-高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石、その製造方法、及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石、その製造方法、及び使用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/42 20060101AFI20240327BHJP
   C07D 213/36 20060101ALI20240327BHJP
   H01F 1/10 20060101ALI20240327BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240327BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20240327BHJP
   C07F 5/02 20060101ALN20240327BHJP
   C07C 19/01 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
H01F1/42
C07D213/36
H01F1/10
H01F41/02 G
C07F5/00 D
C07F5/02 A
C07C19/01
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548926
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(85)【翻訳文提出日】2023-08-10
(86)【国際出願番号】 CN2022130520
(87)【国際公開番号】W WO2023165155
(87)【国際公開日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】202210208783.7
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520154254
【氏名又は名称】江蘇科技大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU UNIVERSITY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】No.2 Mengxi Road,Zhenjiang,Jiangsu 212003,China
(71)【出願人】
【識別番号】523306715
【氏名又は名称】鎮江睿▲フ▼智能科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHENJIANG RUIFU INTELLIGENT TECHNOLOGY CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】Room 411,Innovation Building,101 Nanxu Avenue,High-tech Zone,Zhenjiang,Jiangsu 212004,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲レイ▼
(72)【発明者】
【氏名】程 志杰
(72)【発明者】
【氏名】楊 亦謀
(72)【発明者】
【氏名】景 蓉
(72)【発明者】
【氏名】趙 穎娟
(72)【発明者】
【氏名】蔡 星▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】鄭 紹軍
【テーマコード(参考)】
4C055
4H006
4H048
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4C055BA02
4C055BA27
4C055BB17
4C055CA01
4C055DA01
4C055EA01
4C055GA02
4H006AA03
4H006AB91
4H048AA03
4H048AB91
4H048VA32
4H048VA70
4H048VB10
5E040AC01
5E040AC05
5E040CA06
5E040HB15
5E062CC10
(57)【要約】
本発明は、高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石、その製造方法、及び使用を開示する。前記単イオン磁石は、構造式が[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClであり、BPA-TPAは、2,6-ビス(ビス(2-ピリジルメチル)アミノ)メチルピリジンである。従来技術と比較して、本発明は以下の利点を有する。(1)本発明の前記ジスプロシウム単イオン磁石は、ゼロ磁場で典型的な遅い緩和挙動を示し、単分子磁石の特徴を有し、エネルギーバリアが1600Kを超え、分子系磁性材料として新規な高密度情報記憶装置(例えば、光ディスク、ハードディスクなど)で使用することができる。(2)前記ジスプロシウム単イオン磁石は、空気中で風化せず、安定性に優れる。(3)前記方法は、プロセスが安全で簡便であり、制御性が高く、再現性に優れている
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石であって、
前記単イオン磁石の構造式は、[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClであり、BPA-TPAは、2,6-ビス(ビス(2-ピリジルメチル)アミノ)メチルピリジンである、ことを特徴とする高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石。
【請求項2】
前記単イオン磁石の化学構造式は、次の式である、ことを特徴とする請求項1に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石。
【化2】
【請求項3】
前記ジスプロシウム単イオン磁石の構造単位は、結晶が三斜晶系、P-1空間群に属し、セルパラメータがa=12.7371(3)オングストローム、b=14.2679(4)オングストローム、c=22.1844(6)オングストローム、α=101.261(2)、β=93.525(2)、γ=116.025(2)である、ことを特徴とする請求項1に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石。
【請求項4】
前記Dy(III)は、1個のBPA-TPA配位子の7個の窒素原子と1個のメトキシ基とに配位し、8配位三角十二面体配置を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石。
【請求項5】
前記ジスプロシウム単イオン磁石は、無色の塊状結晶であり、ゼロ磁場で典型的な遅い緩和挙動を示し、単分子磁石の特徴を有し、エネルギーバリアが1600Kを超え、ブロッキング温度が8Kに達する、ことを特徴とする請求項1に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法であって、
2,6-ビス(ビス(2-ピリジルメチル)アミノ)メチルピリジンとDyCl・6HOをメタノールに溶解し、黄色の清澄溶液になるまで加熱還流し、トリメチルシリルオキシナトリウムを加え、微量の黄色の沈殿が生じるまで還流を持続し、室温まで冷却し、微量の不溶物をろ過して除去し、これにテトラフェニルホウ酸ナトリウムを加え、撹拌して多量の薄黄色の沈殿を生じさせ、沈殿をろ過し、ジクロロメタンで溶解し、試験管に移し、n-ヘキサンをゆっくり加え、静置し、二相拡散し、ジスプロシウム単イオン磁石を得るステップを含む、ことを特徴とする高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法。
【請求項7】
前記DyCl・6HOとBPA-TPAのモル比が1:1~1.5であり、1mmol当たりのDyCl・6HOは、15~20mLのメタノール、1~2mmolのトリメチルシリルオキシナトリウム、3~5mmolのテトラフェニルホウ酸ナトリウム、5~10mLのジクロロメタンに対応する、ことを特徴とする請求項6に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法。
【請求項8】
前記n-ヘキサンの体積がジクロロメタンの3~4倍である、ことを特徴とする請求項6に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法。
【請求項9】
前記静置時間は、無色の塊状結晶を得るために2~4日である、ことを特徴とする請求項6に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法。
【請求項10】
分子系磁性材料の製造における請求項1~5のいずれか1項に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料の技術分野に属し、単分子磁石材料、具体的には、高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石、その製造方法、及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
情報技術の発展に伴い、電子デバイスの集積数は指数関数的に増加し、デバイスのサイズは絶えず減少することが求められている。このような集積化と微型化の進展は、加工プロセスとコストによる制限を受け、その結果、現代の電子デバイスの集積技術には、解決しにくい課題が生じる。そのため、分子系磁性材料の研究・開発は、科学者らが注目する焦点となっている。単分子磁石(SMM)は、分子系磁性材料の研究において重要な分野である。また、高密度情報記憶、量子コンピューターや分子スピン学の分野では、その応用の将来性が期待できる。
【0003】
ランタノイドイオンは、単電子数が多く、より強いスピン軌道結合を持つため、単イオン磁石を設計するのに好適なものである。Dy(III)は、Kramer電子層構造(f層は奇数の電子を有する)を有するため、ジスプロシウム系単イオン磁石の基底状態は双安定状態であり、配位場の平衡に依存しない。そのため、ジスプロシウム系単イオン磁石は、多くの研究者の注目を集め、すでに性能の最適な単イオン磁石系になっており、その有効エネルギーバリアとブロッキング温度は1540cm-1と80Kに達する。しかし、これらの高性能ジスプロシウム系単イオン磁石を合成するには、水と酸素のない極端な条件下で行う必要があるため、合成プロセスを制御するのは困難であり、再現効果が悪く、収率が低い。また、このような材料の一部は、常温や空気中で不安定で、分解や風化が生じやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の欠点を解決して、安定で単分子磁石の特性に優れたジスプロシウム錯体を得るとともに、合成条件が温和で制御可能で、再現性の良い合成方法を提供するために、本発明は、高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石、その製造方法、及び使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石であって、
前記単イオン磁石の構造式は、[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClであり、BPA-TPAは、2,6-ビス(ビス(2-ピリジルメチル)アミノ)メチルピリジンであり、前記単イオン磁石の化学構造式は、次の式である。
【化1】
【0006】
好ましくは、前記ジスプロシウム単イオン磁石の構造単位は、結晶が三斜晶系、P-1空間群に属し、セルパラメータがa=12.7371(3)オングストローム、b=14.2679(4)オングストローム、c=22.1844(6)オングストローム、α=101.261(2)、β=93.525(2)、γ=116.025(2)である。
【0007】
好ましくは、前記Dy(III)は、1個のBPA-TPA配位子の7個の窒素原子と1個のメトキシ基とに配位し、8配位三角十二面体配置を形成する。
【0008】
好ましくは、前記ジスプロシウム単イオン磁石は、無色の塊状結晶であり、ゼロ磁場で典型的な遅い緩和挙動を示し、単分子磁石の特徴を有し、エネルギーバリアが1600Kを超え、ブロッキング温度が8Kに達する。
【0009】
以上のいずれか1項に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法であって、
2,6-ビス(ビス(2-ピリジルメチル)アミノ)メチルピリジン(BPA-TPA)とDyCl・6HOをメタノールに溶解し、黄色の清澄溶液になるまで2h加熱還流し、トリメチルシリルオキシナトリウムを加え、微量の黄色の沈殿が生じるまで還流を2h持続し、室温まで冷却し、微量の不溶物をろ過して除去し、これにテトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaBPh)を加え、30min撹拌して多量の薄黄色の沈殿を生じさせ、沈殿をろ過し、ジクロロメタンで溶解し、試験管に移し、n-ヘキサンをゆっくり加え、静置し、二相拡散し、該ジスプロシウム単イオン磁石を得るステップを含む。ここで、前記DyCl・6HOとBPA-TPAのモル比が1:1~1.5であり、1mmol当たりのDyCl・6HOは、15~20mLのメタノール、1~2mmolのトリメチルシリルオキシナトリウム、3~5mmolのテトラフェニルホウ酸ナトリウム、5~10mLのジクロロメタンに対応する。
【0010】
好ましくは、前記n-ヘキサンの体積がジクロロメタンの3~4倍である。
【0011】
好ましくは、前記静置時間は、無色の塊状結晶を得るために2~4日である。
【0012】
分子系磁性材料の製造における上記のいずれか1項に記載の高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の使用。
【発明の効果】
【0013】
有益な効果は以下のとおりである。本発明の前記ジスプロシウム単イオン磁石は、ゼロ磁場で典型的な遅い緩和挙動を示し、単分子磁石の特徴を有し、エネルギーバリアが1600Kを超え、分子系磁性材料として新規な高密度情報記憶装置(例えば、光ディスク、ハードディスクなど)で使用することができる。(2)前記ジスプロシウム単イオン磁石は、空気中で風化せず、安定性に優れる。(3)前記方法は、プロセスが安全で簡便であり、制御性が高く、再現性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClの結晶構造図である。
図2】高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClの粉末X線回折図である。
図3】高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClの直流磁化率試験図である。
図4】高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClのヒステリシスループ図である。
図5】高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClの虚部交流磁化率の曲線図である。
図6】高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石[Dy(BPA-TPA)(CHO)](BPh・CHClの緩和時間と温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の実施例は、本発明の内容をさらに説明するが、本発明を限定するものとして理解されるべきではない。本発明の精神及び趣旨から逸脱することなく、本発明の方法、ステップ又は条件の変更及び置換は、すべて本発明の範囲に属する。特に明記されていない限り、実施例に用いられる技術的手段は当業者に周知の従来の手段である。
【0016】
実施例1
高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法において、2,6-ビス(ビス(2-ピリジルメチル)アミノ)メチルピリジン(BPA-TPA)(1mmol)とDyCl・6HO(1mmol)をメタノール15mLに溶解し、黄色の清澄溶液になるまで2h加熱還流し、トリメチルシリルオキシナトリウム(2mmol)を加え、微量の黄色の沈殿が生じるまで還流を2h持続し、室温まで冷却し、微量の不溶物をろ過して除去し、これにNaBPh4(4mmol)を加え、30min撹拌して多量の薄黄色の沈殿を生じさせ、沈殿をろ過し、ジクロロメタン5mLに溶解し、n-ヘキサン15mLをゆっくり加え、静置し、2日間二相拡散し、該ジスプロシウム単イオン磁石を得るステップを含む。
本実施例で製造されたジスプロシウム分子磁石の収率は66.4%であった。
【0017】
実施例2
高エネルギーバリアジスプロシウム単イオン磁石の製造方法において、2,6-ビス(ビス(2-ピリジルメチル)アミノ)メチルピリジン(BPA-TPA)(1.5mmol)とDyCl・6HO(1mmol)をメタノール20mLに溶解し、黄色の清澄溶液になるまで2h加熱還流し、トリメチルシリルオキシナトリウム(2.5mmol)を加え、微量の黄色の沈殿が生じるまで還流を2h持続し、室温まで冷却し、微量の不溶物をろ過して除去し、これにNaBPh4(4.5mmol)を加え、30min撹拌して多量の薄黄色の沈殿を生じさせ、沈殿をろ過し、ジクロロメタ8mLで溶解し、試験管に移し、n-ヘキサン20mLをゆっくり加え、静置し、3日間二相拡散し、該ジスプロシウム単イオン磁石を得るステップを含む。
本実施例で製造されたジスプロシウム分子磁石の収率は69.2%であった。
本実施例で製造されたジスプロシウムイオン磁石は、以下のように特徴付けられる。
(1)結晶構造の測定
【0018】
顕微鏡下で適当な大きさの単結晶を選び、室温でBruker SMART Apex II CCD単結晶装置で、黒鉛単色化モリブデンターゲットMo Kα(λ=0.71073A)を用いて構造を試験した。APEXIIプログラムを用いてデータを収集し、セルを決定した。構造データについて、SAINTとSADABSプログラムを用いて正規化処理と吸収補正を行った。SHELXTL-2016プログラムを用いて構造解析を行った。すべての非水素原子座標を差分フーリエ合成法により取得し、全行列最小二乗法を用いて原子座標と異方性温度因子を補正し、すべての水素原子を理論的に水素化した。構造図を図1に、結晶学的データを表1に、配位結合長を表2に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
図1の構造図から明らかに、Dy(III)は、1個のBPA-TPA配位子の7個の窒素原子と1個のメトキシ基とに配位し、8配位三角十二面体配置を形成する。
(2)粉末X線回折による相純度の測定
【0022】
本実施例で得られた無色の塊状結晶生成物の相純度について、Bruker D8 Advance粉末X線回折計を用いて特徴付けた。図2に示すように、シミュレーション曲線はMercuryソフトウェアを用いて単結晶構造データをシミュレーションしたものである。その結果、前記ジスプロシウム単分子磁石材料は、信頼性の高い相純度を持ち、分子系磁性材料への使用を確保した。
(3)磁気特性の特徴付け
【0023】
磁気測定には、超伝導量子干渉計Quantum Design MPMS SQUID VSM磁気測定システムを用いた。直流磁化率の試験では、温度は2.0~300Kであり、磁場は0.1Tである。磁化強度の試験では、温度は2~8Kであり、磁場は0~7Tである。虚部交流磁化率及び実部交流磁化率に使用される周波数範囲は1~999Hz、温度範囲は2~60Kとした。
【0024】
図3に示すように、温度が300Kの場合、直流磁化率(χ)と温度(T)の積は14.66cmmol-1Kとなり、スピンのみのDy(III)(S=5/2、L=5、15/2,g=4/3)の理論値である14.17cmk mol-1と一致する。この積は、温度が下がり始めると、段階的に下がり、温度が10K未満になると、急激に下がり始め、これは、系に重要な磁気異方性が存在するためである。磁化強度曲線(図4)から、この錯体は、2~8Kでヒステリシスループの性質を示し、この錯体が単分子磁石性質を有することが確認され、この錯体のブロッキング温度は8Kに達することも示された。ゼロ磁場の場合、この錯体の虚部交流磁化率χ''は、2~60Kの温度範囲で顕著な温度依存性と周波数依存性を示し(図5)、遅い磁気緩和挙動を生じる。緩和時間(τ)と温度(T)をプロットすると、図6に示すように、高温領域のデータをアレニウスフィットした結果、このジスプロシウム単イオン磁石のエネルギーバリアは1695Kである。これらの現象を総合すると、本発明で製造されたジスプロシウム単イオン磁石は、ゼロ磁場で典型的な遅い緩和挙動を示し、単分子磁石の特徴を有し、エネルギーバリアが1600Kを超え、ブロッキング温度が8Kに達する。分子系磁性材料として新規な高密度情報記憶装置(例えば、光ディスク、ハードディスクなど)で使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】