(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】組換え凝固第VIII因子及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/755 20060101AFI20240327BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20240327BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240327BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240327BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240327BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240327BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240327BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240327BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240327BHJP
A61K 38/37 20060101ALI20240327BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240327BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20240327BHJP
【FI】
C07K14/755
C12N15/90 Z ZNA
C12N15/867 Z
C12N15/12
C12N7/01
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
A61K38/37
A61P7/04
C12N5/0789
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560862
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 CN2022085853
(87)【国際公開番号】W WO2022228087
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110455812.5
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202110762308.X
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520319705
【氏名又は名称】ベイジン・メイカン・ジーノ-イミューン・バイオテクノロジー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING MEIKANG GENO-IMMUNE BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room B104, 1st Floor, No. 5,Kaituo Road, Haidian District, Beijing 100085, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ルン-ジー
(72)【発明者】
【氏名】ゴン,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ルイ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084DC15
4C084MA66
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA531
4C084ZA532
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA42
4H045DA66
4H045EA24
4H045FA74
(57)【要約】
組換え凝固第VIII因子及びその応用用途が提供される。組換え凝固第VIII因子は、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列の80%より多くを含む。Bドメインの遺伝子改変により、組換え凝固第VIII因子は、糖鎖付加部位に富み、良好な凝固機能を有し、細胞外に容易に分泌され、トロンビン(EIIa)などの補因子と容易に相互作用する。さらに、組換え凝固第VIII因子は、抗体応答を誘導する弱い能力を有し、治療効果を効果的に実現することができ、免疫拒絶のリスクを低減させることができ、治療コストを低下させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列の80%より多くを含む、組換え凝固第VIII因子。
【請求項2】
配列番号8又は配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むBドメインを含有する、請求項1に記載の組換え凝固第VIII因子。
【請求項3】
配列番号3又は配列番号4に示される核酸配列を含む、請求項1又は2に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする、遺伝子。
【請求項4】
配列番号5又は配列番号6に示される核酸配列を含む、請求項3に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含む組換え発現ベクターであって、
好ましくは、請求項3又は4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含有するウイルスベクター又はプラスミドベクターを含み、
好ましくは、ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターpEGWIを含み、
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIの5’スプライスドナー部位GTが、CAに突然変異しており、
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIのU3領域におけるエンハンサーが欠失しており、
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIのU3領域が、インスレーターを含有する、組換え発現ベクター。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含有する組換えレンチウイルス。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含有する組換え細胞。
【請求項8】
組換え細胞のゲノムが、請求項3又は4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子と融合しており、
好ましくは、組換え細胞が、請求項5に記載の組換え発現ベクターを含有する、請求項7に記載の組換え細胞。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の組換え細胞を調製するための方法であって、
請求項3若しくは4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子、請求項5に記載の組換え発現ベクター又は請求項6に記載の組換えレンチウイルスを、宿主細胞に導入して、組換え細胞を得るステップ
を含み、
好ましくは、導入が、電気的形質導入、ウイルスベクター系、非ウイルスベクター系又は直接遺伝子注入のうちのいずれか1つを含む方法により実施され、
好ましくは、宿主細胞が造血幹細胞を含む、方法。
【請求項10】
請求項1若しくは2に記載の組換え凝固第VIII因子、請求項3若しくは4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子、請求項5に記載の組換え発現ベクター、請求項6に記載の組換えレンチウイルス又は請求項7若しくは8に記載の組換え細胞のうちのいずれか1つ又はこれらの組合せを含む医薬組成物であって、
好ましくは、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤のうちのいずれか1つ又はこれらのうちの少なくとも2つの組合せをさらに含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項1若しくは2に記載の組換え凝固第VIII因子、請求項3若しくは4に記載の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子、請求項5に記載の組換え発現ベクター、請求項6に記載の組換えレンチウイルス、請求項7若しくは8に記載の組換え細胞又は請求項10に記載の医薬組成物の、血友病を治療するための医薬の調製のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年4月26日出願の中国特許出願第CN202110455812.5号の優先権を主張し、その開示は、その全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、バイオテクノロジーの分野に属し、組換え凝固第VIII因子及びその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
血友病A(HA)は、遺伝性の抗血友病性グロブリン欠乏症又はFVIII欠乏症としても公知であり、凝固第VIII因子遺伝子(FVIII遺伝子又はF8遺伝子)の遺伝的欠損により引き起こされる凝固障害である。現在、HAは主に、血漿由来凝固因子又は外因的に培養された組換えタンパク質に基づくタンパク質補充療法(RPT)により治療される。しかし、PRTは、短い半減期、高いコスト及び長い治療期間などの限界を有する。
【0004】
遺伝子療法は、欠損遺伝子及び異常な遺伝子により引き起こされる疾患を治療することを目的として、欠損遺伝子及び異常な遺伝子を矯正又は代償するため、正常な外来遺伝子が標的細胞に導入されることを指す。現在、遺伝子療法は、HAについての最も有望な治療と考えられている。
【0005】
ヒトF8遺伝子の分析は、ヒトF8遺伝子の発現タンパク質が、A1-A2-B-A3-C1-C2として発現される明確なドメインを有することを示す。Bドメインは、非常に大きいエキソンによりコードされ、オリゴ糖に結合したアスパラギン(N)からなる高度に保存された領域を含有する。Miaoらは、無傷のアスパラギン結合糖鎖付加部位6つを含有する、N末端の226個のアミノ酸を保持するBドメインの部分欠失が、F8のインビトロ分泌を10倍増大させうることを指摘した(Miao,H.Z.、Sirachainan,N.、Palmer,L、Kucab,P.、Cunningham,M.A.ら Bioengineering of coagulation factor VIII for improved secretion.Blood、2004、103(9)、3412~3419頁を参照のこと。)。しかし、B-ドメイン欠失F8遺伝子(F8-BDD)を使用する遺伝子療法は、タンパク質の分泌及び機能の低下、F8ウイルスベクターの形質導入効率の低下、並びに抗体及び阻害因子形成に関連する応答(免疫拒絶)などの問題を有する。
【0006】
まとめると、良好な凝固機能、及び阻害抗体のインビボでの弱い応答誘導を有し、HA遺伝子療法の分野で非常に意義深い、組換え凝固第VIII因子が提供される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Miao,H.Z.、Sirachainan,N.、Palmer,L、Kucab,P.、Cunningham,M.A.ら Bioengineering of coagulation factor VIII for improved secretion.Blood、2004、103(9)、3412~3419頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(要旨)
本出願は、組換え凝固第VIII因子及びその使用を提供する。組換え凝固第VIII因子は、糖鎖付加部位に富み、良好な凝固機能及び抗体への弱い応答を有し、細胞外に容易に分泌され、血友病Aを効率的に矯正することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様において、本出願は、配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列の80%より多くを含む組換え凝固第VIII因子を提供する。
【0010】
本出願の組換え凝固第VIII因子は、糖鎖付加部位の配列に富み、良好な凝固機能を有し、細胞外に容易に分泌され、トロンビン(FIIa)などの補因子と容易に相互作用する。さらに、組換え凝固第VIII因子は、抗体を誘導する弱い応答を有し、治療効果を効果的に実現することができ、免疫拒絶のリスクを低減させることができ、治療コストを低下させることができる。
【0011】
配列番号1:(下線は本出願における合成Bドメイン[N8]であり、A2及びA3ドメインがそれぞれBドメインの前後にある。)
【0012】
【0013】
配列番号2:(下線は本出願における合成Bドメイン[299]であり、A2及びA3ドメインがそれぞれBドメインの前後にある。)
【0014】
【0015】
本出願の一部の実施形態において、組換え凝固第VIII因子は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むBドメインを含有する。
【0016】
配列番号8:(Bドメイン[N8])
【0017】
【0018】
本出願の一部の実施形態において、組換え凝固第VIII因子は、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むBドメインを含有する。
【0019】
配列番号9:(Bドメイン[299])
【0020】
【0021】
第2の態様において、本出願は、本出願の組換え凝固第VIII因子のBドメインをコードする、配列番号3及び配列番号4に示される遺伝子配列を提供する。
【0022】
配列番号3:
【0023】
【0024】
配列番号4:
【0025】
【0026】
一部の特定の実施形態において、組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子は、配列番号5又は配列番号6に示される核酸配列を含む。
【0027】
配列番号5:(全長F8-BDD-N8タンパク質をコードする核酸配列)
【0028】
【0029】
配列番号6:(全長F8-BDD-299タンパク質をコードする核酸配列)
【0030】
【0031】
本出願の組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子は、糖鎖付加部位の配列に富み、発現された凝固第VIII因子(F8タンパク質)は、良好な凝固機能を有し、細胞外に容易に分泌され、トロンビン(FIIa)などの補因子と容易に相互作用する。さらに、発現された凝固第VIII因子は、抗体応答を誘導する弱い能力を有し、治療効果を効果的に実現することができ、免疫拒絶のリスクを低減させることができ、治療コストを低下させることができる。
【0032】
第3の態様において、本出願は、組換え発現ベクターを提供する。組換え発現ベクターは、第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含む。
【0033】
好ましくは、組換え発現ベクターは、第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含有するウイルスベクター又はプラスミドベクターを含む。
【0034】
好ましくは、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターpEGWIを含む。
【0035】
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIの5’スプライスドナー部位GTは、CAに突然変異している。
【0036】
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIのU3領域におけるエンハンサーは欠失している。
【0037】
好ましくは、レンチウイルスベクターpEGWIのU3領域は、インスレーターを含有する。
【0038】
好ましくは、組換え発現ベクターは、EF1αプロモーターを含む。
【0039】
本出願において、レンチウイルスベクターpEGWIは改変されている:野生型5’スプライスドナー部位GTがCAに突然変異しており、U3領域におけるエンハンサーが欠失しており、インスレーター(cHS4)がU3領域に付加されており、これらのことが、ベクター生成コストを低減させるためにpEGWIの形質導入効率及び発現効率を効果的に改善することができ、さらに安全性を改善することができる。
【0040】
第4の態様において、本出願は、組換えレンチウイルスを提供する。組換えレンチウイルスは、第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含む。
【0041】
好ましくは、組換えレンチウイルスを調製するための方法は、
パッケージングプラスミドを使用して、第3の態様によるレンチウイルスベクターをパッケージングして、組換えレンチウイルスを得ること
を含む。
【0042】
好ましくは、パッケージングプラスミドは、pNHP及びpHEF-VSV-Gを含む。
【0043】
好ましくは、組換えレンチウイルスを調製するための方法は、以下のステップを含む:
(1)第3の態様によるレンチウイルスベクター、並びにパッケージングプラスミドpNHP及びpHEF-VSV-Gを、哺乳動物細胞HEK293Tにコトランスフェクトし、哺乳動物細胞HEK293Tを24~72時間培養するステップ、並びに
(2)精製及び濃縮を実施して、組換えレンチウイルスを得るステップ。
【0044】
第5の態様において、本出願は、組換え細胞を提供する。組換え細胞は、第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子を含む。
【0045】
好ましくは、組換え細胞のゲノムは、第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子と融合している。
【0046】
好ましくは、組換え細胞は、第3の態様による組換え発現ベクターを含有する。
【0047】
第6の態様において、本出願は、第5の態様による組換え細胞を調製するための方法を提供する。本方法は、
第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子、第3の態様による組換え発現ベクター又は第4の態様による組換えレンチウイルスを、宿主細胞に導入して、組換え細胞を得ること
を含む。
【0048】
好ましくは、導入は、電気的形質導入、ウイルスベクター系、非ウイルスベクター系又は直接遺伝子注入のうちのいずれか1つを含む方法により実施される。
【0049】
好ましくは、宿主細胞は造血幹細胞を含む。
【0050】
第7の態様において、本出願は、医薬組成物を提供する。医薬組成物は、第1の態様による組換え凝固第VIII因子、第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子、第3の態様による組換え発現ベクター、第4の態様による組換えレンチウイルス又は第5の態様による組換え細胞のうちのいずれか1つ又はこれらの組合せを含む。
【0051】
好ましくは、医薬組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤のうちのいずれか1つ又はこれらのうちの少なくとも2つの組合せをさらに含む。
【0052】
第8の態様において、本出願は、第1の態様による組換え凝固第VIII因子、第2の態様による組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子、第3の態様による組換え発現ベクター、第4の態様による組換えレンチウイルス、第5の態様による組換え細胞又は第7の態様による医薬組成物の、血友病を治療するための医薬の調製のための使用を提供する。
【0053】
既存の技術と比較して、本出願は、以下の有益な効果を有する。
【0054】
(1)遺伝子改変により、本出願の組換え凝固第VIII因子は、糖鎖付加部位に富み、良好な凝固機能を有し、細胞外に容易に分泌され、トロンビン(FIIa)などの補因子と容易に相互作用する。さらに、組換え凝固第VIII因子は、抗体への弱い応答を有し、治療効果を効果的に実現することができ、免疫拒絶のリスクを低減させることができ、治療コストを低下させることができる。
【0055】
(2)本出願において、レンチウイルスベクターpEGWIは改変されており、このことが、ベクターコストを低減させるためにpEGWIの形質導入効率及び発現効率を効果的に改善することができ、さらに安全性を改善することができる。
【0056】
(3)本出願において、組換え凝固第VIII因子をコードする遺伝子及びレンチウイルスベクターを使用することにより構築される発現ベクターは、HAマウスにおけるインビボでの発現を順調に実施することができ、HAマウスの出血の表現型をある程度まで矯正することができる。発現ベクターは、抗体への弱い応答を有し、遺伝子療法の有効性を実現することにおいて非常に意義深く、このことが、HA症状をより早く軽減し、より広範囲で長期にわたる遺伝子療法効果を達成するための基礎となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】レンチウイルスベクターpEGWIの構造図である。
【
図2A】正常なF8-BDD遺伝子の構造図である。
【
図2B】F8-BDD-N8遺伝子の構造図である。
【
図2C】F8-BDD-299遺伝子の構造図である。
【
図2D】組換えレンチウイルスベクターの構造図である。
【
図3】組換えレンチウイルスのウイルスコピー数を示すグラフである。
【
図4】組換えレンチウイルスによりトランスフェクトされた細胞のタンパク質発現の分析についてのフローチャートである。
【
図5】組換えレンチウイルスにより形質導入された細胞のタンパク質発現の結果を示すグラフである。
【
図6】APTTアッセイによる、インビトロ血漿の検出結果を示すグラフである。
【
図7】基質発光アッセイによる、インビトロ血漿の検出結果を示すグラフである。
【
図8】糖鎖付加阻害因子により処理された第VIII因子のウェスタンブロッティング結果を示すグラフである。
【
図9】第VIII因子のインビトロ活性を示すグラフである。
【
図10】HAマウスの処理についてのフローチャートである。
【
図11】マウスにおける第VIII因子のインビボ活性を示すグラフである。
【
図12】APTTアッセイによる、マウス血漿の検出結果を示すグラフである。
【
図13】酵素結合免疫吸着アッセイによる、マウス血漿の検出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
採用された技術手段及び本出願において達成される効果についてさらに詳述するため、本出願が、実施例及び図と併せて、以下でさらに記載される。本明細書で記載される具体的な実施形態は、本出願を例示することを意図され、本出願を限定することを意図されないことが理解されるべきである。
【0059】
実施例における、具体的な技法又は条件が言及されない実験は、当技術分野における文献又は製品仕様書に記載される技法又は条件に従って実施される。製造業者が明記されない、本明細書において使用される試薬又は機器は、然るべき経路から市販されている従来の製品である。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
レンチウイルスベクターを構築した。方法は、具体的に以下のステップを含む。
【0061】
(1)レンチウイルスベクターpEGWIの構造図が、
図1に示される。野生型5’スプライスドナー部位GTをCAに突然変異させ、U3におけるエンハンサーを欠失させ、インスレーター(cHS4)をU3に付加した。具体的な改変方法については、「Contributions of Viral Splice Sites and cis-Regulatory Elements to Lentivirus Vector Function、Cuiら Journal of Virology、1999年7月、6171~6176頁」を参照のこと。
【0062】
(2)プロモーター及びF8-BDD/F8-BDD-N8/F8-BDD-299遺伝子を挿入した。
【0063】
正常な未改変のF8-BDD遺伝子配列(配列番号7に示される)、F8-BDD-N8遺伝子配列(配列番号5に示される)及びF8-BDD-299遺伝子配列(配列番号6に示される)を、選択された可能な糖鎖付加部位の配列で化学的に合成し、ヒトEF1α(hEF1α)プロモーター配列を付加した。正常なF8-BDDの遺伝子構造が、
図2Aに示される。F8-BDD-N8及びF8-BDD-299には、合成された糖鎖付加部位関連配列を個々に挿入し、それらの遺伝子構造が、
図2B及び2Cに示される。正常なF8-BDD、F8-BDD-N8及びF8-BDD-299を、制限酵素消化部位を介してレンチウイルスベクターpEGWIに挿入した。得られた生成物を、シークエンシング及び二重の消化により特定し(最良の反応条件については、New England Biolab[NEB]の元の提言を参照のこと。)、BamHIクローニング部位(ggatcc-acc)-AUGを5’末端に使用し、SpeIクローニング部位(actagt)を3’末端に使用して、hEF1αにより制御される、正常なF8-BDD、F8-BDD-N8又はF8-BDD-299遺伝子を担持する、正しく結合したレンチウイルスベクターを得た。レンチウイルスベクターの具体的な結合位置及び組成が、
図2Dに示される。
【0064】
配列番号7:
【0065】
【0066】
[実施例2]
この実施例では、実施例1において構築されたレンチウイルスベクターを、さらにパッケージングし、精製し、濃縮して、組換えレンチウイルスを得た。実験方法については、[1]Chang L-J、Urlacher V、Iwakuma T、ら Efficacy and safety analyses of a recombinant human immunodeficiency virus type 1 derived vector system[J].Gene Therapy、1999、6(5):715~728頁。[2]Chang L J、Zaiss A K.Chang,L-J及びZaiss、AK.Lentiviral vectors.Preparation and use.Methods Mol Med 69:303~318頁[J].Methods in Molecular Medicine、2002、69:303~318頁を参照のこと。
【0067】
具体的なステップについては、先に列挙された文献を参照のこと。実験方法は、以下のように簡潔に記載される。
【0068】
(1)実施例1において構築されたレンチウイルスベクター並びにパッケージングプラスミドpNHP及びpHEF-VSV-Gを、哺乳動物細胞HEK293Tにコトランスフェクトし、次いで哺乳動物細胞HEK293Tを48h培養し、ウイルスベクター上清を収集した。
【0069】
(2)培養物から収集されたレンチウイルスを精製し、濃縮して、組換えレンチウイルスを得た。
【0070】
(3)各レンチウイルスのウイルスコピー数(VCN)を検出した。検出結果が
図3に示される。同じ感染多重度で、LV-F8-BDD、LV-F8-BDD-N8及びLV-F8-BDD-299レンチウイルスは、基本的に同様のコピー数を有する。
【0071】
[実施例3]
この実施例では、実施例2において調製された組換えレンチウイルスを、インビトロで試験した。
【0072】
正常なF8-BDD、F8-BDD-N8又はF8-BDD-299遺伝子を担持する、実施例2において調製された3種のレンチウイルス(LV-F8-BDD、LV-F8-BDD-N8及びLV-F8-BDD-299)を、EA-hy926内皮細胞に、個々に形質導入した。レンチウイルスを、以下の方法により形質導入した。
【0073】
10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を含有するDMEM培地を、6ウェルプレート(Corning、USA)に添加した。1ウェルあたり4×104個のEA-hy926内皮細胞株を播種し、37℃で18時間、5%CO2下でインキュベートし、MOI 50でレンチウイルスによりトランスフェクトした。ポリブレン(8μg/mL、Sigma-Aldrich)を、培地の最終体積が600μLとなるまで添加した。形質導入を24h実施し、次いで細胞コンフルエンスが90.0%に到達するまで、培地を新しい培地に毎日交換した。細胞をT75フラスコ(Corning、USA)に移した。
【0074】
タンパク質発現を検出して、細胞におけるF8-BDD、F8-BDD-N8及びF8-BDD-299遺伝子の発現を決定した。具体的な工程が
図4に示される。形質導入されたEA-hy926細胞により分泌された上清を収集し、濃縮し、細胞内抽出物も収集した。タンパク質発現を、ウェスタンブロッティングにより検出した。レンチウイルスなしで形質導入された細胞を、陰性対照(NC)として使用した。内部基準としてGAPDHを用いて、結果が
図5に示され、Lは細胞抽出物の検出結果を示し、Sは細胞培養物上清の検出結果を示す。
図5に示されるように、少量の第VIII因子(F8タンパク質)が、レンチウイルスなしで形質導入された細胞において発現され(低活性、43kDa)、一方、比較的多量のF8-BDD、F8-BDD-N8又はF8-BDD-299が、正常なF8-BDD、F8-BDD-N8又はF8-BDD-299遺伝子を担持するレンチウイルスにより形質導入された細胞において明らかに発現された。F8-BDDと比較して、より完全なF8タンパク質(110~200kDa)が、F8-BDD-N8又はF8-BDD-299により形質導入された細胞の上清において得られる。このことは、遺伝的に改変されたF8-BDD遺伝子:本出願におけるF8-BDD-N8及びF8-BDD-299により発現された第VIII因子が、より細胞外に分泌されやすく、効果的な凝固を実現することを示す。
【0075】
凝固機能は、2つの方法により主に評価される:活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)アッセイ及び基質発光アッセイ。APTT(Siemens Healthcare Diagnostics Products GmbH、ドイツ)アッセイは、以下のように実施された:37℃で細胞上清50μLを、試験される血漿50μLに添加し、次いでAPTT中アクチン試薬(第XII因子活性化因子及び大脳リン脂質)100μLを添加し、完全に混合し、7℃で3分間インキュベートし、最後にカルシウムイオン(CaCl2)100μLを添加して、血漿凝固に必要な時間、すなわち活性化部分トロンボプラスチン時間を観察した。
【0076】
基質発光アッセイは、F8発色アッセイキット(Hyphen BioMed、フランス)により活性を決定するための方法である。基質発光アッセイは以下のように実施した:試験される血漿及びブランク対照群を、トリス-BSA緩衝液(R4+)で40倍に希釈し、50μLをマイクロプレートに添加し、第X因子(R1)50μL、活性化第IX因子混合物(R2)50μL及びSXa-11基質(R3)50μLを個々に添加し、37℃で5分間インキュベートし、20%酢酸50μLを添加して、反応を停止させた。吸光度を405nmで読み取った。
【0077】
先に収集された、ウイルスにより形質導入されたEA-hy926細胞の上清を-80℃から取り出し、氷上で解凍した。各上清を、F8欠乏患者の血漿と混合した。F8欠乏患者の血漿を陰性対照(NC)として使用し、健康なボランティアの血漿を陽性対照(PC)として使用した。検出を、APTTアッセイ及び基質発光アッセイにより実施した。
【0078】
APTTアッセイの検出結果が
図6に示される。陰性対照と比較して、F8-BDDを形質導入された細胞の上清、F8-BDD-N8を形質導入された細胞の上清及びF8-BDD-299を形質導入された細胞の上清は、良好な凝固活性、及び血漿凝固時間が有意に低減するという点で、有意な凝固効果をそれぞれ有する。F8-BDD-299を形質導入された細胞の上清は、凝固時間が94.3秒であるという点で最良の効果を有し、この効果は、陽性対照の効果(57.5s)と比較して一定の統計上の差(p<0.05)を有する。F8-BDD-N8を形質導入された細胞の上清の凝固時間は113.7秒であり、この凝固時間は、F8-BDD-299及び陽性対照の凝固時間と比較して、一定の統計上の差(p平均)<0.05)を有する。F8-BDDをトランスフェクトされた細胞の上清の凝固時間は156.7秒であり、この凝固時間は、F8-BDD-N8、F8-BDD-299及び陽性対照の凝固時間と比較して、比較的大きい統計上の差(p平均)<0.001)を有する。このことは、改変されたF8-BDD遺伝子:本出願におけるF8-BDD-N8及びF8-BDD-299により発現された第VIII因子が、良好な凝固効果を有することを示す。
【0079】
図7は、基質発光アッセイの検出結果を示す。活性を、F8発色アッセイキットを使用して得、次いで第VIII因子をELISAにより定量化して、単位活性を得た。F8-BDD-299により発現された第VIII因子の単位活性は、F8-BDDにより発現された第VIII因子の単位活性の100倍であり、F8-BDD-N8により発現された第VIII因子の単位活性の2.8倍である。
【0080】
要約すれば、本出願において、レンチウイルスベクターは、改変されたF8-BDD遺伝子:F8-BDD-N8及びF8-BDD-299をそれぞれ使用して構築され、細胞において順調に発現され、F8-BDD-N8及びF8-BDD-299により発現された第VIII因子は、細胞外により容易に分泌され、良好な凝固効果を有する。
【0081】
[実施例4]
この実施例では、第VIII因子のN-糖鎖付加を検出した。
【0082】
F8-BDD、F8-BDD-N8及びF8-BDD-299を形質導入された内皮細胞の上清を、糖鎖付加阻害因子:ノイラミニダーゼ(N)及びペプチド-N-グリコシダーゼF(G)で個々に処理した。糖鎖付加阻害因子は、糖鎖除去を誘導し、分子量を低減しうる。ウェスタンブロッティングの結果が
図8に示され、「+」は対応する酵素での処理を示し、「-」は対応する酵素での処理を行わないことを示す。糖鎖付加阻害因子での処理後の、糖鎖除去後に低減したタンパク質分子量を有するタンパク質バンドが、矢印により示される。F8-BDD-N8及びF8-BDD-299により発現された第VIII因子の分子量は有意に低減し(-レーンと比較した++レーン)、一方、F8-BDDにより発現された第VIII因子の分子量は低減せず、本出願におけるF8-BDD遺伝子の改変が、糖鎖付加部位を効果的に導入しうることを示す。
【0083】
トロンビン(FIIa)は、第VIII因子にとって重要な補因子である。FIIaは、Bドメインの改変が、プロコアグラント補因子との相互作用にも影響を及ぼすか否かを調べるため、形質導入された内皮細胞の上清を処理するために使用される。トロンビンの添加はF8の活性化を増強し、第VIII因子のA2領域に関連するより多くのタンパク質(分子量43kDaを有する)が生成される。トロンビンを添加した後、活性検出を2分ごとに実施した(先に記載された基質発光アッセイにより)。結果が
図9に示される。2分目からは、F8-BDD-299により発現された第VIII因子の活性は有意に増大し、F8-BDD及びF8-BDD-N8により発現された第VIII因子の活性はわずかに増大する。
【0084】
[実施例5]
F8-BDD、F8-BDD-N8又はF8-BDD-299を担持する3種のレンチウイルス(LV-F8-BDD、LV-F8-BDD-N8及びLV-F8-BDD-299)を、実施例2に示されたように調製し、マウスの造血幹細胞に形質導入した。HAマウスを、
図10に示されるように処理した。F8遺伝子のノックアウトを有するC57BL/6マウス(6週齢、Beijing Biosubstrate Technologiesから購入)を、HAマウスとして使用した。マウスを全て、病原体不含環境に配置し、X線照射キャビネット(Faxitron、Tucson、AZ、USA)を用いて照射した(9.5Gy/マウス)。骨髄細胞を、HAマウスの脛骨及び大腿骨から収集した。造血幹細胞を骨髄細胞から単離し、レンチウイルスLV-F8-BDD、LV-F8-BDD-N8及びLV-F8-BDD-299それぞれを形質導入して、F8-BDD、F8-BDD-N8又はF8-BDD-299遺伝子を担持する幹細胞を得た。形質導入された幹細胞を、疾患治療のため、静脈内注射によりHAマウスに注射して戻した。
【0085】
同種骨髄移植から15日目、30日目、45日目及び60日目に、血液をマウスから採取し、血漿を血液から単離した。血漿中の第VIII因子の活性を、対照として未処理の血友病マウス(偽)及び野生型マウス(WT)を用いて、2ステップ基質発光アッセイにより決定した。結果が
図11に示される。F8-BDD-299により発現された第VIII因子の活性は、15日目の5%から60日目の8%まで連続的に増大する。F8-BDD及びF8-BDD-N8により発現された第VIII因子の活性は約3.0%に留まり、これは、F8-BDD-299の活性と一定の統計上の差(P<0.05)を有する。血漿の凝固機能を、APTTアッセイにより決定した。結果が
図12に示される。F8-BDD-299により発現された第VIII因子の凝固時間が最も短く、野生型マウスの凝固時間に最も近い(p<0.05)。
【0086】
さらに、抗体の応答について、先に処理されたマウスの眼窩末梢血を収集し、3000rpmで15分間遠心処理して血漿を得た。血漿をトリス-BSA緩衝液で、1:200で希釈し、PVCマイクロプレートに配置し、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウス全IgGを添加した。次いで、発光基質3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)のために添加して、第VIII因子に対する抗体の応答を評価した。第VIII因子に対するモノクローナル抗体を注射されたHAマウスを、陽性対照(Ctrl+)として使用した。結果が
図13に示される。F8-BDD-N8及びF8-BDD-299により発現された第VIII因子は、F8-BDDにより発現された第VIII因子よりも、IgG抗体に対し弱い応答を有し、F8-BDD-299により発現された第VIII因子は、IgG抗体に対し最も弱い応答を有する。
【0087】
要約すれば、本出願において、F8-BDD遺伝子は、遺伝的に改変され、糖鎖付加部位配列を付加され、発現ベクターは、改変されたレンチウイルスベクターを使用することにより構築される。発現ベクターは、高い形質導入及び発現効率を有し、発現された第VIII因子は、細胞外に容易に分泌され、効率的な凝固機能を有し、HAマウスの出血の表現型をある程度まで矯正することができ、抗体応答を誘導する弱い能力を有し、このことが、遺伝子療法の有効性を実現することにおいて非常に意義深く、HA症状をより早く軽減し、より広範囲で長期にわたる遺伝子療法を達成するための基礎となる。
【0088】
出願者は、本出願の詳細な方法が、先に記載された実施例により記載されるが、本出願が、先に記載された詳細な方法に限定されないことを明記しており、このことは、本出願の実施が、先に記載された詳細な方法に必ずしもよらないことを意味する。本出願における、本出願になされる任意の改善、生成物の各種原料の同等の代替物、補助成分の添加及び具体的な様式の選択などが全て、本出願の保護範囲及び開示範囲に入ることが、当業者には明らかであるはずである。
【配列表】
【国際調査報告】