(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】抗TIGIT抗体を用いるがんの治療方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240327BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240327BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240327BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240327BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240327BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20240327BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240327BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240327BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20240327BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240327BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240327BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240327BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240327BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240327BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P37/04
A61P11/00
A61P11/02
A61P11/04
A61P1/02
A61P43/00 105
A61P13/02
A61P1/04
A61P15/00
A61K39/395 N
A61P13/12
A61P1/16
A61P25/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C07K16/30 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561703
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 US2022023973
(87)【国際公開番号】W WO2022217026
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503188759
【氏名又は名称】シージェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガルデイ,シラ
(72)【発明者】
【氏名】スミス,アリソン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA28
(57)【要約】
本明細書において、抗TIGIT抗体を用いて抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体と組み合わせてがんを治療する方法が提供される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを治療する方法であって、前記方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記がんのサンプル中のPD-L1のレベルは、CPS(Combined Positive Score)によって測定したときに10未満であるか、またはTPS(Total Proportion Score)によって測定したときに50%未満であるか、またはTC(Tumor Cellスコア)によって測定したときに50%未満であるか、または腫瘍浸潤免疫細胞染色(IC)によって測定したときに10%未満であり、ここで、前記抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含む、前記方法。
【請求項2】
前記がんが、CPSによって測定された場合に、5未満、または3未満、または1未満のレベルのPD-L1を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記がんが、TPSによって測定された場合に、40%未満、または30%未満、または20%未満、または10%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満のレベルのPD-L1を発現する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記がんが、TCによって測定された場合に、40%未満、または30%未満、または20%未満、または10%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満のレベルのPD-L1を発現する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記がんが、ICによって測定された場合に、5%未満、または3%未満、または1%未満のレベルのPD-L1を発現する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法であって:
a)前記がんが、非小肺癌であり、かつ前記TPSが1%未満である;
b)前記がんが、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)であり、かつ前記CPSが1未満である;
c)前記がんが、尿路上皮癌であり、かつ前記CPSが、10未満である;
d)前記がんが、胃癌であり、かつ前記CPSが、1未満である;
e)前記がんが、食道癌であり、かつ前記CPSが、10未満である;
f)前記がんが、子宮頸癌であり、かつ前記CPSが、1未満である;または
g)前記がんが、トリプルネガティブ乳癌であり、かつ前記CPSが、10未満である、
前記方法。
【請求項7】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブまたはニボルマブである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつ前記TPSが、50%未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、セミプリマブである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法であって:
a)前記がんが、尿路上皮癌であり、かつICが、5%未満である;
b)前記がんが、トリプルネガティブ乳癌であり、かつICが、1%未満である;または
c)前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつICが、10%未満である;または
d)前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつTCが、50%未満である、
前記方法。
【請求項11】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、アテゾリズマブである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、治療量以下の用量で投与する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
がんを治療する方法であって、前記方法が、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗TIGIT抗体が、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、前記抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体が、治療量以下の用量で投与される、前記方法。
【請求項14】
前記抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の前記治療量以下の用量が、a)治療される前記がんについての前記抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療される前記がんの単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で前記抗体を投与することを含む、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
前記抗体の前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記抗体の前記単剤療法の用量よりも少ない用量を含む、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記単剤療法の用量の5%~90%、または5%~80%、または5%~70%、または5%~60%、または5%~50%、または5%~40%、または5%~30%である前記抗体の用量である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブであり、前記単剤療法の用量が、200mgまたは400mgである、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ニボルマブであり、前記単剤療法の用量が、240mg、360mg、または480mgである、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、セミプリマブであり、前記単剤療法の用量が、350mgである、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アベルマブであり、前記単剤療法の用量が、800mgである、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、デュルバルマブであり、前記単剤療法の用量が、10mg/kgまたは1500mgである、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブであり、前記単剤療法の用量が、840mg、1200mg、または1680mgである、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体の前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記単剤療法の投与頻度よりも少ない前記抗体の投与頻度を含む、請求項12~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、ペムブロリズマブであり、前記単剤療法の投与頻度が、3週間ごとまたは6週間ごとである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、ペムブロリズマブであり、前記単剤療法の用量が、3週間ごとに200mgまたは6週間ごとに400mgである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、ニボルマブであり、前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごとまたは3週間ごとまたは4週間ごとである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、ニボルマブであり、前記単剤療法の用量が、2週間ごとに240mg、3週間ごとに360mg、または4週間ごとに480mgである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、セミプリマブであり、前記単剤療法の投与頻度が、3週間ごとである、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アベルマブであり、前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごとである、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、デュルバルマブであり、前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごとまたは4週間ごとである、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、デュルバルマブであり、前記単剤療法の用量が、2週間ごとに10mg/kg mg、または4週間ごとに1500mgである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブであり、前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごと、3週間ごと、または4週間ごとである、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブであり、前記単剤療法の用量が、2週間ごとに840mg、3週間ごとに1200mg、または4週間ごとに1680mgである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記がんが、小細胞肺癌、早期小細胞肺癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、トリプルネガティブ乳癌、胃癌、肝細胞癌、神経膠芽腫、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、及び高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌から選択される、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
がんを治療する方法であって、前記方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、前記がんが、小細胞肺癌、早期小細胞肺癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、トリプルネガティブ乳癌、胃癌、肝細胞癌、神経膠芽腫、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、及び高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌から選択される、前記方法。
【請求項36】
前記方法が、尿路上皮癌の第1選択治療である、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記がんが、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の有効性を低下させる変異を含む、請求項1~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
がんを治療する方法であって、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗TIGIT抗体が、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、前記がんが、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の有効性を低下させる変異を含む、前記方法。
【請求項39】
前記がんが、EGFR遺伝子における変異及び/またはALK遺伝子における変異及び/またはROS1遺伝子における変異を含む、請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつ前記がんが、EGFR遺伝子における変異及び/またはALK遺伝子における変異を含む、請求項37~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、ペムブロリズマブまたはニボルマブである;または前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記抗TIGIT抗体が、FcγRIIIa、FcγRIIa、及びFcγRIのうちの少なくとも1つに対する結合が増強されているFcを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記抗TIGIT抗体が、少なくともFcγRIIIaへの結合が増強されているFcを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗TIGIT抗体が、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIIaへの結合が増強されているFcを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記抗TIGIT抗体が、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項46】
前記抗TIGIT抗体が、FcγRIIIa、FcγRIIa及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
前記抗TIGIT抗体の前記Fcが、FcγRIIbへの結合が減少している、請求項42~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記抗TIGIT抗体が、重鎖定常領域内に置換S293D、A330L、及びI332Eを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記抗TIGIT抗体が、非フコシル化抗体である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記方法が、抗TIGIT抗体の組成物を投与することを含み、前記組成物中の少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の前記抗体が、非フコシル化抗体である、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記抗TIGIT抗体の前記Fcが、同じアイソタイプの対応する野生型Fcと比較して、増強されたADCC及び/またはADCP活性を有するFcを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記抗TIGIT抗体が、以下を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法:
a)配列番号7~9から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1;
b)配列番号10~13から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2;
c)配列番号14~16から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;
d)配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1;
e)配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2;及び
f)配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3配列。
【請求項53】
前記抗TIGIT抗体が、以下の配列を含む重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR、及びCDR3を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法:
a)それぞれ、配列番号7、10、14、17、18、及び19;または
b)それぞれ、配列番号8、11、14、17、18、及び19;または
c)それぞれ、配列番号9、12、15、17、18、及び19;または
d)それぞれ、配列番号8、13、16、17、18、及び19;または
e)それぞれ、配列番号8、12、16、17、18、及び19。
【請求項54】
前記抗TIGIT抗体が、配列番号1~5から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記抗TIGIT抗体が、配列番号20~24から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号25のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記抗TIGIT抗体を、治療量以下の用量で投与する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記抗TIGIT抗体の前記治療量以下の用量が、a)治療される前記がんについての前記抗TIGIT抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療される前記がんの前記単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で前記抗TIGIT抗体を投与することを含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記抗TIGIT抗体の前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記抗TIGIT抗体の前記単剤療法の用量よりも少ない用量を含む、請求項56または57に記載の方法。
【請求項59】
前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記単剤療法の用量の5%~90%、または5%~80%、または5%~70%、または5%~60%、または5%~50%、または5%~40%、または5%~30%である前記抗TIGIT抗体の用量である、請求項56~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記抗TIGIT抗体の前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記単剤療法の投与頻度よりも少ない前記抗TIGIT抗体の投与頻度を含む、請求項56~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記抗PD-1抗体が、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、CT-011、BGB-A317、セミプリマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、TSR-042、PDR001、またはトリパリマブから選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含む、請求項1~60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
前記抗PD-L1抗体が、デュルバルマブ、BMS-936559、アテゾリズマブまたはアベルマブから選択される、請求項63に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月9日に出願された米国仮出願第63/173,216号の優先権の利益を主張するものであり、その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書において、抗TIGIT抗体を用いて抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体と組み合わせてがんを治療する方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
TIGIT(「T-cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains(Igドメイン及びITIMドメインを有するT細胞免疫受容体)」)は、活性化、記憶、及び制御性T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞などのT細胞のサブセットに発現する免疫細胞エンゲージャーである。TIGITは、Igスーパーファミリーのタンパク質中のCD28ファミリーのメンバーであり、T細胞の増殖及び活性化ならびにNK細胞の機能を制限する共阻害性分子として作用する。TIGITは、CD226(DNAXアクセサリー分子-1、または「DNAM-1」としても知られている)と同じセットのリガンド:CD155(ポリオウイルス受容体または「PVR」としても知られている)及びCD112(ポリオウイルス受容体関連2または「PVRL2」としても知られている)と競合することにより、その免疫抑制効果を媒介する。Levin et al.,Eur.Immunol.,2011,41:902-915。TIGITに対するCD155の親和性は、CD226に対する親和性よりも高いため、TIGITが存在する場合には、CD226シグナル伝達が阻害され、それによってT細胞の増殖及び活性化が制限される。
【0004】
黒色腫などの特定のがんを有する患者では、TIGITの発現は、腫瘍抗原(TA)特異的CD8+T細胞及びCD8+腫瘍浸潤リンパ球(TIL)上で上方制御される。TIGITリガンド(CD155)発現細胞の存在下において、TIGITを遮断することにより、TA特異的CD8+T細胞及びCD8+TILの増殖、サイトカイン産生、ならびに脱顆粒が増加する。Chauvin et al.,J Clin Invest.,2015,125:2046-2058。したがって、TIGITは、患者において抗腫瘍T細胞応答を刺激するための潜在的な治療標的であるが、TIGITを遮断し、抗腫瘍応答を促進する改善された方法、及び単剤療法として、または他の剤(例えば、抗体)と組み合わせて、抗TIGIT抗体によりがんを治療する改善された方法が依然として必要とされている。
【0005】
本明細書において、抗TIGIT抗体を用いて、抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体と組み合わせてがんを治療する改善された方法が提供される。
【発明の概要】
【0006】
実施形態1 がんを治療する方法であって、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記がんのサンプル中の前記PD-L1のレベルは、CPS(Combined Positive Score)によって測定したときに10未満であるか、またはTPS(Total Proportion Score)によって測定したときに50%未満であるか、またはTC(Tumor Cellスコア)によって測定したときに50%未満であるか、または腫瘍浸潤免疫細胞染色(IC)によって測定したときに10%未満であり、ここで、前記抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含む、前記方法。
【0007】
実施形態2 前記がんが、CPSによって測定された場合に、5未満、または3未満、または1未満のレベルのPD-L1を発現する、実施形態1に記載の方法。
【0008】
実施形態3 前記がんが、TPSによって測定された場合に、40%未満、または30%未満、または20%未満、または10%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満のレベルのPD-L1を発現する、実施形態1または2に記載の方法。
【0009】
実施形態4 前記がんが、TCによって測定された場合に、40%未満、または30%未満、または20%未満、または10%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満のレベルのPD-L1を発現する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0010】
実施形態5 前記がんが、ICによって測定された場合に、5%未満、または3%未満、または1%未満のレベルのPD-L1を発現する、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0011】
実施形態6 実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法であって:
a)前記がんが、非小肺癌であり、かつ前記TPSが1%未満である;
b)前記がんが、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)であり、かつ前記CPSが1未満である;
c)前記がんが、尿路上皮癌であり、かつ前記CPSが、10未満である;
d)前記がんが、胃癌であり、かつ前記CPSが、1未満である;
e)前記がんが、食道癌であり、かつ前記CPSが、10未満である;
f)前記がんが、子宮頸癌であり、かつ前記CPSが、1未満である;または
g)前記がんが、トリプルネガティブ乳癌であり、かつ前記CPSが、10未満である、前記方法。
【0012】
実施形態7 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブまたはニボルマブである、実施形態6に記載の方法。
【0013】
実施形態8 前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつ前記TPSが、50%未満である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
実施形態9 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、セミプリマブである、実施形態8に記載の方法。
【0015】
実施形態10 実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法であって:
a)前記がんが、尿路上皮癌であり、かつICが、5%未満である;
b)前記がんが、トリプルネガティブ乳癌であり、かつICが、1%未満である;または
c)前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつICが、10%未満である;または
d)前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつTCが、50%未満である、
前記方法。
【0016】
実施形態11 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、アテゾリズマブである、実施形態10に記載の方法。
【0017】
実施形態12 前記抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、治療量以下の用量で投与する、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0018】
実施形態13 がんを治療する方法であって、前記方法が、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗TIGIT抗体が、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、前記抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体が、治療量以下の用量で投与される、前記方法。
【0019】
実施形態14 前記抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の前記治療量以下の用量が、a)治療される前記がんについての前記抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療される前記がんの前記単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で前記抗体を投与することを含む、実施形態12または13記載の方法。
【0020】
実施形態15 前記抗体の前記治療量以下の用量は、治療される前記がんの前記抗体の前記単剤療法の用量よりも少ない用量を含む、実施形態12~14のいずれか1つに記載の方法。
【0021】
実施形態16 前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記単剤療法の用量の5%~90%、または5%~80%、または5%~70%、または5%~60%、または5%~50%、または5%~40%、または5%~30%である前記抗体の用量である、実施形態15に記載の方法。
【0022】
実施形態17 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブであり、前記単剤療法の用量が、200mgまたは400mgである、実施形態14~16のいずれか1つに記載の方法。
【0023】
実施形態18 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ニボルマブであり、前記単剤療法の用量が、240mg、360mg、または480mgである、実施形態14~16のいずれか1つに記載の方法。
【0024】
実施形態19 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、前記抗PD-1抗体が、セミプリマブであり、前記単剤療法の用量が、350mgである、実施形態14~16のいずれか1つに記載の方法。
【0025】
実施形態20 前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アベルマブであり、前記単剤療法の用量が、800mgである、実施形態14~16のいずれか1つに記載の方法。
【0026】
実施形態21 前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、デュルバルマブであり、前記単剤療法の用量が、10mg/kgまたは1500mgである、実施形態14~16のいずれか1つに記載の方法。
【0027】
実施形態22 前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブであり、前記単剤療法の用量が、840mg、1200mg、または1680mgである、実施形態14~16のいずれか1つに記載の方法。
【0028】
実施形態23 前記抗体の前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの単剤療法の投与頻度よりも少ない前記抗体の投与頻度を含む、実施形態12~22のいずれか1つに記載の方法。
【0029】
実施形態24 実施形態23に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブであり、かつ前記単剤療法の投与頻度が、3週間ごとまたは6週間ごとである、前記方法。
【0030】
実施形態25 実施形態24に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブであり、前記単剤療法の用量が、3週間ごとに200mgであるか、または6週間ごとに400mgである、前記方法。
【0031】
実施形態26 実施形態23に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ニボルマブであり、かつ前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごとまたは3週間ごとまたは4週間ごとである、前記方法。
【0032】
実施形態27 実施形態26に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで前記抗PD-1抗体は、ニボルマブであり、かつ前記単剤療法の用量が、2週間ごとに240mg、3週間ごとに360mg、または4週間ごとに480mgである、前記方法。
【0033】
実施形態28 実施形態23に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、セミプリマブであり、かつ前記単剤療法の投与頻度が、3週間ごとである、前記方法。
【0034】
実施形態29 実施形態23に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-L1抗体は、アベルマブであり、かつ前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごとである、前記方法。
【0035】
実施形態30 実施形態23に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-L1抗体は、デュルバルマブであり、かつ前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごとまたは4週間ごとである、前記方法。
【0036】
実施形態31 実施形態30に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、デュルバルマブであり、かつ前記単剤療法の用量が、2週間ごとに10mg/kg mg、または4週間ごとに1500mgである、前記方法。
【0037】
実施形態32 実施形態23に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブであり、かつ前記単剤療法の投与頻度が、2週間ごと、3週間ごと、または4週間ごとである、前記方法。
【0038】
実施形態33 実施形態32に記載の方法であって、前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブであり、前記単剤療法の用量が、2週間ごとに840mg、3週間ごとに1200mg、または4週間ごとに1680mgである、前記方法。
【0039】
実施形態34 前記がんが、小細胞肺癌、早期小細胞肺癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、トリプルネガティブ乳癌、胃癌、肝細胞癌、神経膠芽腫、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、及び高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌から選択される、実施形態1~33のいずれか1つに記載の方法。
【0040】
実施形態35 がんを治療する方法であって、前記方法は、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、がんを有する対象に投与することを含み、前記抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、ここで、前記がんが、小細胞肺癌、早期小細胞肺癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、トリプルネガティブ乳癌、胃癌、肝細胞癌、神経膠芽腫、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、及び高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌から選択される、前記方法。
【0041】
実施形態36 前記方法が、尿路上皮癌の第1選択治療である、実施形態34または35に記載の方法。
【0042】
実施形態37 前記がんが、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の有効性を低下させる変異を含む、実施形態1~36のいずれか1つに記載の方法。
【0043】
実施形態38 がんを治療する方法であって、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、前記抗TIGIT抗体が、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、前記がんが、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の有効性を低下させる変異を含む、前記方法。
【0044】
実施形態39 前記がんが、EGFR遺伝子における変異及び/またはALK遺伝子における変異及び/またはROS1遺伝子における変異を含む、実施形態37または38に記載の方法。
【0045】
実施形態40 前記がんが、非小細胞肺癌であり、かつ前記がんが、EGFR遺伝子における変異及び/またはALK遺伝子における変異を含む、実施形態37~39のいずれか1つに記載の方法。
【0046】
実施形態41 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブまたはニボルマブである;または前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、前記抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブである、実施形態40に記載の方法。
【0047】
実施形態42 前記抗TIGIT抗体が、FcγRIIIa、FcγRIIa、及びFcγRIのうちの少なくとも1つに対する結合が増強されているFcを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0048】
実施形態43 前記抗TIGIT抗体が、少なくともFcγRIIIaへの結合が増強されているFcを含む、実施形態42に記載の方法。
【0049】
実施形態44 前記抗TIGIT抗体が、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIIaへの結合が増強されているFcを含む、実施形態42に記載の方法。
【0050】
実施形態45 前記抗TIGIT抗体が、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む、実施形態42に記載の方法。
【0051】
実施形態46 前記抗TIGIT抗体が、FcγRIIIa、FcγRIIa及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む、実施形態42に記載の方法。
【0052】
実施形態47 前記抗TIGIT抗体の前記Fcは、FcγRIIbへの結合が減少している、実施形態42~46のいずれか1つに記載の方法。
【0053】
実施形態48 前記抗TIGIT抗体が、重鎖定常領域内に置換S293D、A330L、及びI332Eを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0054】
実施形態49 前記抗TIGIT抗体が、非フコシル化抗体である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0055】
実施形態50 前記方法が、抗TIGIT抗体の組成物を投与することを含み、前記組成物中の少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の前記抗体が、非フコシル化抗体である、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0056】
実施形態51 前記抗TIGIT抗体の前記Fcが、同じアイソタイプの対応する野生型Fcと比較して、増強されたADCC及び/またはADCP活性を有するFcを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0057】
実施形態52 前記抗TIGIT抗体が、以下を含む、先行実施形態のいずれか1項に記載の方法:
a)配列番号7~9から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1;
b)配列番号10~13から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2;
c)配列番号14~16から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;
d)配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1;
e)配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2;及び
f)配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3。
【0058】
実施形態53 前記抗TIGIT抗体が、以下の配列を含む重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR、及びCDR3を含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法:
a)それぞれ、配列番号7、10、14、17、18、及び19;または
b)それぞれ、配列番号8、11、14、17、18、及び19;または
c)それぞれ、配列番号9、12、15、17、18、及び19;または
d)それぞれ、配列番号8、13、16、17、18、及び19;または
e)それぞれ、配列番号8、12、16、17、18、及び19。
【0059】
実施形態54 前記抗TIGIT抗体が、配列番号1~5から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0060】
実施形態55 前記抗TIGIT抗体が、配列番号20~24から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号25のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0061】
実施形態56 前記抗TIGIT抗体を、治療量以下の用量で投与する、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0062】
実施形態57 前記抗TIGIT抗体の前記治療量以下の用量が、a)治療される前記がんについての前記抗TIGIT抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療される前記がんの前記単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で前記抗TIGIT抗体を投与することを含む、実施形態56に記載の方法。
【0063】
実施形態58 前記抗TIGIT抗体の前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記抗TIGIT抗体の前記単剤療法の用量よりも少ない用量を含む、実施形態56または57に記載の方法。
【0064】
実施形態59 前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記単剤療法の用量の5%~90%、または5%~80%、または5%~70%、または5%~60%、または5%~50%、または5%~40%、または5%~30%である前記抗TIGIT抗体の用量である、実施形態56~58のいずれか1つに記載の方法。
【0065】
実施形態60 前記抗TIGIT抗体の前記治療量以下の用量が、治療される前記がんの前記単剤療法の投与頻度よりも少ない前記抗TIGIT抗体の投与頻度を含む、実施形態56~59のいずれか1つに記載の方法。
【0066】
実施形態61 前記方法が、抗PD-1抗体を投与することを含む、先行実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0067】
実施形態62 前記抗PD-1抗体が、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、CT-011、BGB-A317、セミプリマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、TSR-042、PDR-001、またはトリパリマブから選択される、実施形態61に記載の方法。
【0068】
実施形態63 前記方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含む、実施形態1~60のいずれか1つに記載の方法。
【0069】
実施形態64 前記抗PD-L1抗体が、デュルバルマブ、BMS-936559、アテゾリズマブまたはアベルマブから選択される、実施形態63に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1A】完全に免疫応答性のマウスにおいて成長させた100mm
3でのRenca腫瘍における免疫細胞の組成を示す。
【
図1B】完全に免疫応答性のマウスにおいて成長させた100mm
3でのCT26腫瘍における免疫細胞の組成を示す。
【
図1C】完全に免疫応答性のマウスにおいて成長させた100mm
3でのMC38腫瘍における免疫細胞の組成を示す。
【
図2】これらの腫瘍におけるPD-1(A)及びPD-L1(B)のmRNA発現レベルを示す。
【
図3】皮下同系MC38腫瘍に対する、治療量以下の用量の抗PD-1抗体と組み合わせた、異なるエフェクター機能を有するFc骨格を有する抗TIGIT抗体の治療量以下の用量の治療のin vivoデータを示す。
【
図4】皮下同系CT26腫瘍(A)またはRenca腫瘍(B)に対する治療量以下の用量の非フコシル化エフェクター機能増強抗TIGIT抗体であるSEA-TGT mIgG2a抗体(すなわち、非フコシル化ヒトIgG1骨格に対応する非フコシル化マウスIgG2aとして再構成されたSEA-TGT抗体)による治療、治療量以下の用量の抗PD-1抗体による治療、またはその両方の組み合わせによる治療のin vivoデータを示す。
【
図5A】皮下同系MC38腫瘍に対する治療用量での異なる抗TIGIT抗体による単剤治療についてのin vivo応答データを示す。
【
図5B】皮下同系CT26腫瘍に対する治療用量での異なる抗TIGIT抗体による単剤治療についてのin vivo応答データを示す。
【
図5C】皮下同系Renca腫瘍に対する治療用量での異なる抗TIGIT抗体による単剤治療についてのin vivo応答データを示す。
【
図5D】同系皮下腫瘍MC38における治療用量の抗PD-1抗体を用いた単剤治療についてのin vivo応答データを示す。
【
図5E】同系皮下腫瘍CT26における治療用量の抗PD-1抗体を用いた単剤治療についてのin vivo応答データを示す。
【
図5F】同系皮下腫瘍Rencaにおける治療用量の抗PD-1抗体を用いた単剤治療についてのin vivo応答データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
I.序文
本発明は、低レベルのPD-L1を発現するがんは、抗TIGIT抗体によって、抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体と組み合わせて治療することができるという驚くべき知見に部分的に基づく。このことは特に、Fc結合特性及びエフェクター機能が増強された抗TIGIT抗体の場合であることが判明した。所望のFc結合特性には、活性化FcγRへの結合の増強、阻害性FcγRへの結合の減少、ADCC活性の増強、及び/またはADCP活性の増強などの活性が含まれた。所望の活性を有する特定のそのような抗体は、非フコシル化抗体であった。
【0072】
本発明者らは、これらの知見に基づき、がんが低レベルのPD-L1を発現する対象に対して、抗TIGIT抗体と抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体とを組み合わせて投与することにより、腫瘍のサイズ及び/または成長速度を低下させることを実証した。いくつかの実施形態では、抗体は、治療量以下の用量で投与され得る。様々な実施形態では、抗TIGIT抗体は、増強されたFc結合特性及び/またはエフェクター機能を有する。
【0073】
したがって、本明細書で提供されるいくつかの実施形態は、がんを治療する方法であって、本方法は、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、がんを有する対象に投与することを含み;ここで、がんは、CPS(Combined Positive Score)によって測定して10未満、またはTPS(Total Proportion Score)によって測定して50%未満のレベルのPD-L1を発現し、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体は、治療量以下の用量で投与される。
【0075】
いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、抗TIGIT抗体は、治療量以下の用量で投与される。
【0076】
いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、抗TIGIT抗体及び抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の両方は、治療量以下の用量で投与される。
【0077】
いくつかの実施形態では、本方法は、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、がんを有する対象に投与することを含み、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、ここで、がんは、小細胞肺癌、早期小細胞肺癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、トリプルネガティブ乳癌、胃癌、肝細胞癌、神経膠芽腫、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、及び高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌から選択される。
【0078】
いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、抗TIGIT抗体が、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、がんが、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の有効性を低下させる変異を含む。
【0079】
II.定義
別段の定義のない限り、本明細書で用いられている技術用語と科学用語は、当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。例えば、Lackie,Dictionary of Cell and Molecular Biology,Elsevier(4th ed.2007);Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Press(Cold Springs Harbor,NY 1989)を参照されたい。本発明の実施の際には、本明細書に記載されている方法、器具及び材料と類似または同等の方法、器具及び材料のいずれかを用いることができる。
【0080】
本明細書で使用する場合、内容上明らかに別段に示されている場合を除き、「a」、「an」及び「the」という単数形には、複数の言及物が含まれる。したがって、例えば「an antibody」への言及は、任意選択的に2つ以上のかかる分子の組み合わせなどを含む。
【0081】
本明細書で使用される「約」という用語は、当業者であれば容易に理解するそれぞれの値の通常の誤差範囲を指す。
【0082】
「抗体」という用語は、インタクト抗体及びその抗原結合フラグメントを含み、抗原結合フラグメントは、抗原結合領域と、CH2に位置するアスパラギン(N)297を含む重鎖定常領域の少なくとも一部とを含む。典型的には、「可変領域」は、抗体の抗原結合領域を含み、結合の特異性及び親和性に関与する。Fundamental Immunology 7th Edition,Paul,ed.,Wolters Kluwer Health/Lippincott Williams&Wilkins(2013)を参照されたい。軽鎖は、典型的には、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、典型的には、順番に免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEそれぞれを定義する、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類される。
【0083】
「抗体」という用語には、二価または二重特異性分子、ダイアボディ、トリアボディ及びテトラボディも含まれる。二価及び二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al.(1992)J.Immunol.148:1547、Pack and Pluckthun(1992)Biochemistry 31:1579、Hollinger et al.(1993),PNAS. USA90:6444、Gruber et al.(1994)J Immunol.152:5368、Zhu et al.(1997)Protein Sci.6:781、Hu et al.(1996)Cancer Res.56:3055、Adams et al.(1993)Cancer Res.53:4026及びMcCartney,et al.(1995)Protein Eng.8:301に記載されている。
【0084】
「モノクローナル抗体」は、実質的に同種の抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、少量で存在し得る天然に存在する変異の可能性を除いて同一である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本発明による使用対象のモノクローナル抗体は、Kohler et al.(1975)Nature 256:495が初めて述べたハイブリドーマ法によって作製してもよく、または組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号を参照されたい)によって作製してもよい。「モノクローナル抗体」はまた、例えば、Clackson et al.(1991)Nature,352:624-628及びMarks et al.(1991)J.Mol.Biol.,222:581-597に記載の技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離され得るか、または他の方法で作製され得る。本明細書に記載の抗体は、モノクローナル抗体である。
【0085】
モノクローナル抗体のその標的抗原への特異的結合は、少なくとも106、107、108、109、または1010M-1の親和性を意味する。特異的結合は、その規模が検出可能なほど高く、少なくとも1つの無関係な標的に生じる非特異的結合と区別可能である。特異的結合は、特定の官能基間の結合形成または特定の空間適合(例えば、ロックアンドキー型)の結果であるのに対して、非特異的結合は通常、ファンデルワールス力の結果である。
【0086】
基本的な抗体構造単位は、サブユニットの四量体である。各四量体は、2つの同一のポリペプチド鎖対を含み、各対は、1本の「軽」鎖(約25kDa)及び1本の「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識に関与する約100~110以上のアミノ酸長の可変領域を含む。この可変領域は、最初に切断可能なシグナルペプチドに連結して発現する。シグナルペプチドを含まない可変領域は、成熟可変領域と呼ばれることがある。したがって、例えば、軽鎖成熟可変領域は、軽鎖シグナルペプチドを含まない軽鎖可変領域を意味する。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を画定する。
【0087】
軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンとして分類され、これらによって、抗体のアイソタイプがそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD、IgEと定義される。軽鎖及び重鎖内で、可変領域及び定常領域は、約12以上のアミノ酸の「J」領域によって連結され、重鎖は約10以上のアミノ酸の「D」領域も含む。(一般に、Fundamental Immunology(Paul,W.,ed.,2nd ed.Raven Press,N.Y.,1989,Ch.7(これは、すべての目的のためにその全体が参照により組み込まれる)を参照のこと)。
【0088】
各軽鎖/重鎖対の成熟可変領域は、抗体結合部位を形成する。したがって、インタクト抗体は、2つの結合部位を有する。二機能性または二重特異性抗体を除いて、2つの結合部位は同じである。鎖はすべて、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって連結された、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。各対の2本の鎖からのCDRはフレームワーク領域によって整列され、これにより、特定のエピトープへの結合が可能になる。N末端からC末端へ、軽鎖及び重鎖の両方がドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,MD,1987及び1991)またはChothia&Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987);Chothia et al.,Nature 342:878-883(1989)、またはKabat/Chothia、またはIMGT(ImMunoGeneTics information system)、AbM またはContactまたは他の従来のCDRの定義に従う。また、Kabatは、異なる重鎖間または異なる軽鎖間の対応する残基に同じ番号が割り当てられる、広く使用されているナンバリング規則(Kabatナンバリング)も提供する。文脈から特に明らかでない限り、Kabatナンバリングを使用して、可変領域内のアミノ酸の位置を指定する。文脈から特に明らかでない限り、EUナンバリングは、定常領域の指定された位置に使用される。
【0089】
「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体の反応性を保持しながら、ヒトにおける免疫原性が低い抗体である。これは、例えば、非ヒトCDR領域を保持し、抗体の残りの部分をそれらのヒト対応物と置換することによって達成され得る。例えば、Morrison et al.,PNAS USA,81:6851-6855(1984);Morrison and Oi,Adv.Immunol.,44:65-92(1988);Verhoeyen et al.,Science,239:1534-1536(1988);Padlan,Molec.Immun.,28:489-498(1991);Padlan,Molec.Immun.,31(3):169-217(1994)を参照されたい。
【0090】
本明細書で使用される「キメラ抗体」という用語は、(a)定常領域またはその一部が置換されて、これにより抗原結合部位(可変領域、CDR、またはその一部)が異なる種の定常領域に連結している抗体分子を指す。
【0091】
「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の任意の部位を指す。エピトープは、1つ以上のタンパク質の三次フォールディングが近接している連続アミノ酸または非連続アミノ酸から形成され得る。連続アミノ酸から形成されたエピトープは典型的には、変性溶媒にさらされたときに保持されるが、三次フォールディングによって形成されたエピトープは典型的には、変性溶媒で処理することにより喪失する。エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、より通常は少なくとも5または8~10のアミノ酸を固有の空間コンフォメーション内に含む。エピトープの空間コンフォメーションを決定する方法としては、例えば、X線結晶学及び2次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols,in Methods in Molecular Biology,Vol.66,Glenn E.Morris,Ed.(1996)を参照されたい。
【0092】
同じまたは重複するエピトープを認識する抗体は、ある抗体が別の抗体の標的抗原への結合と競合する能力を示す簡素なイムノアッセイにおいて同定され得る。抗体のエピトープは、その抗原に結合した抗体のX線結晶構造解析によって定義して、接触残基を同定することもできる。あるいは、一方の抗体の結合を減少させるかまたは排除する抗原中のすべてのアミノ酸変異が他方の結合を減少させるかまたは排除する場合には、2つの抗体は、同じエピトープを有する。一方の抗体の結合を減少させるかまたは排除するいくつかのアミノ酸変異が他方の結合を減少させるかまたは排除する場合には、2つの抗体は、重複するエピトープを有する。
【0093】
抗体間の競合は、試験中の抗体が参照抗体の共通抗原への特異的結合を阻害するアッセイによって決定される(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.50:1495,1990を参照されたい)。競合結合アッセイで測定したときに、過剰な試験抗体(例えば、少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍または100倍)が、参照抗体の結合を少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%または99%阻害する場合、試験抗体は、参照抗体と競合している。競合アッセイによって同定される抗体(競合抗体)としては、参照抗体と同じエピトープに結合する抗体、及び立体障害が発生するために参照抗体が結合するエピトープに十分近い隣接エピトープに結合する抗体が挙げられる。
【0094】
「特異的に結合する」という語句は、サンプル中のその標的に対して、非標的化合物に結合するよりも、より高い親和性、結合力、より容易に、及び/またはより長い持続時間で標的に結合する分子(例えば、抗体または抗体フラグメント)を指す。いくつかの実施形態では、標的に特異的に結合する抗体は、非標的化合物よりも少なくとも2倍高い親和性、例えば、少なくとも4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、25倍、50倍、または100倍の親和性で標的に結合する抗体である。例えば、TIGITに特異的に結合する抗体は、典型的には、非TIGIT標的よりも少なくとも2倍高い親和性でTIGITに結合する。この定義を読んだ当業者は、例えば、第1の標的に特異的または優先的に結合する抗体(または部分またはエピトープ)が、第2の標的に特異的または優先的に結合してもしなくてもよいことを理解するであろう。そのため、「特異的に結合する」は、排他的結合を(含むことはできるが)必ずしも必要としない。
【0095】
「結合親和性」という用語は、本明細書では、2つの分子、例えば抗体またはそのフラグメントと抗原との間の非共有結合による相互作用の強度の尺度として使用される。「結合親和性」という用語は、一価の相互作用(内因性活性)を示すために使用される。
【0096】
一価相互作用による2つの分子、例えば抗体またはそのフラグメントと抗原との間の結合親和性は、解離定数(KD)の決定によって定量化され得る。次に、KDは、非限定的な例として、表面プラズモン共鳴(SPR)法(Biacore(商標))を使用して、複合体形成及び解離の動態を測定することによって決定することができる。一価複合体の会合及び解離に対応する速度定数は、それぞれ会合速度定数ka(またはkon)及び解離速度定数kd(またはkoff)と呼ばれる。KDは、式KD=kd/kaによってka及びkdに関連付けられる。解離定数の値は、周知の方法によって直接決定することができ、または例えばCaceci et al.(1984,Byte 9:340-362)に記載のものなどの方法によって、複合混合物についても算出され得る。例えば、KDは、Wong&Lohman(1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5428-5432)によって開示されたものなど、二重フィルターニトロセルロースフィルター結合アッセイを使用して確立され得る。標的抗原に対する抗体などのリガンドの結合能力を評価するための他の標準アッセイは、当技術分野で知られており、例えば、ELISA、ウエスタンブロット、RIA、及びフローサイトメトリー分析、ならびに本明細書の他の場所で例示されている他のアッセイが挙げられる。抗体の結合動態及び結合親和性はまた、当技術分野で知られている、または以下の実施例のセクションに記載の標準アッセイ、例えばBiacore(商標)システムを使用することによる、表面プラズモン共鳴(SPR);KinExA(登録商標)などの結合平衡除外法;及びBioLayer干渉法(例えば、ForteBio(登録商標)Octetプラットフォームを使用)によって判定することもできる。いくつかの実施形態では、結合親和性は、BioLayer干渉測定アッセイを使用して決定される。例えば、Wilson et al.,Biochemistry and Molecular Biology Education,38:400-407(2010);Dysinger et al.,J.Immunol.Methods,379:30-41(2012);及びEstep et al.,Mabs,2013,5:270-278を参照されたい。
【0097】
本明細書で使用される「交差反応」という用語は、抗体が産生された抗原以外の抗原に抗体が結合する能力を指す。いくつかの実施形態では、交差反応性は、抗体が産生された抗原とは別の種由来の抗原に結合する抗体の能力を指す。非限定的例として、ヒトTIGIT抗原に対して産生される本明細書に記載の抗TIGIT抗体は、異なる種(例えば、マウスまたはサル)由来のTIGITとの交差反応性を呈し得る。
【0098】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定され、分離及び/または回収された抗体、及び/または組換えにより産生された抗体を指す。「精製抗体」とは、典型的には、その産生または精製から生じる干渉タンパク質及び他の夾雑物に対して少なくとも50%w/w純粋である抗体であるが、モノクローナル抗体が、過剰の薬学的に許容される担体(複数可)、またはその使用を容易にすることを意図した他のビヒクルと組み合わされる可能性を排除するものではない。干渉タンパク質及び他の夾雑物には、例えば、抗体が単離されるかまたは組換えにより産生される細胞の細胞成分が含まれ得る。場合によっては、モノクローナル抗体は、産生または精製による干渉タンパク質及び夾雑物に対して少なくとも60%、70%、80%、90%、95または99%w/w純粋である。ラット、キメラ、加工(veneered)及びヒト化抗体を含む、本明細書に記載の抗体は、単離及び/または精製された形態で提供することができる。
【0099】
「Combined Positive Score」または「CPS」は、がん由来の腫瘍サンプルなど、がん中のPD-L1発現を測定する免疫組織化学的方法である。CPSは、PD-L1染色細胞(腫瘍細胞、リンパ球、マクロファージ)の数を生存腫瘍細胞の総数で割り、100を掛けたものである。一部の治療的処置では、腫瘍サンプルは、CPS≧1の場合にPD-L1発現を有するとみなされる。例えば、胃癌、子宮頸癌、及び頭頸部扁平上皮癌を有する対象などの、特定のPD-1またはPD-L1阻害剤療法を受けるのに適した対象は、CPS≧1である必要がある。場合によっては、ペムブロリズマブで治療されている尿路上皮癌(膀胱癌)、食道扁平上皮癌(ESCC)、またはトリプルネガティブ乳癌を有する患者など、特定のPD-1またはPD-L1阻害剤療法を受けるのに適した対象は、CPS≧10である必要がある。
【0100】
「Tumor Proportion Score」または「TPS」は、がん由来の腫瘍サンプルなど、がん中のPD-L1発現を測定する免疫組織化学的方法である。TPSは、任意の強度で部分的または完全な膜染色を示す生存腫瘍細胞のパーセンテージである。いくつかの治療的処置では、TPS≧1%の場合には、腫瘍サンプルがPD-L1発現を有し、TPS≧50%の場合には、高いPD-L1発現を有すると考えられる。例えば、非小細胞肺癌を有する対象など、特定のPD-1またはPD-L1阻害剤療法(例えば、ペムブロリズマブ)を受けるのに適した対象は、TPS≧1%である必要がある。場合によっては、特定のPD-1またはPD-L1阻害剤療法(例えば、セミプリマブ)を受けるのに適した対象は、TPS≧50%である必要がある。
【0101】
腫瘍浸潤免疫細胞(IC)染色または「IC」は、がん由来の腫瘍サンプルなどのPD-L1の発現を測定する免疫組織化学的方法である。発現は、任意の強度のPD-L1染色ICによって占有される腫瘍面積の割合として測定される。試験片が、腫瘍浸潤免疫細胞において任意の強度のPD-L1染色が腫瘍面積の5%以上を占める場合、この試験片は、≧5%ICのPD-L1発現レベルとなる。試験片が、腫瘍浸潤免疫細胞において任意の強度のPD-L1染色が腫瘍面積の5%未満である場合、この試験片は、<5%ICのPD-L1発現レベルとなる。一部の治療的処置では、ICを用いて、尿路上皮癌組織由来のPD-L1発現をスコア化する。切除、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)、ならびに原発部位及び転移部位の両方からのコア針生検から得られた尿路上皮癌組織サンプルが、ICアッセイで使用され得る。市販のICアッセイとしては、Ventana PD-L1(SP142)Assay(商標)が挙げられる。
【0102】
腫瘍細胞または「TC」スコアは、任意の強度のPD-L1発現腫瘍細胞のパーセンテージ(%TC)を指し、TPSに類似している。いくつかの実施形態では、TCスコアは、Ventana PD-L1(SP142)アッセイを用いて得られる。TCスコアは、例えば、NSCLC患者がアテゾリズマブ(TECENTRIQ)で治療される場合に使用される。この適応症では、治療の閾値は、TCスコア≧50%である。TCスコア化に関する更なる情報は、例えば、1)Physician Labeling:Ventana PD-L1(SP142)Assay(2020)Ventana Medical Systems,Inc.及びRoche Diagnostics International,Inc.、2)Ventana PD-L1(SP142)Assay:Interpretation Guide(2019)Ventana Medical Systems,Inc.及びRoche Diagnostics International,Inc.で入手可能である。
【0103】
「対象」、「患者」、「個体」などの用語は、互換的に使用され、指示されている場合を除き、ヒト及びヒト以外の霊長類などの哺乳動物、ならびにウサギ、ラット、マウス、ヤギ、ブタ、及び他の哺乳動物の種などを指す。この用語は、対象が特定の疾患と診断されたことを必ずしも示すものではないが、典型的には、医学的管理下にある個体を指す。
【0104】
「治療法」、「治療」、及び「改善」という用語は、症状の重症度のあらゆる軽減を指す。がんを治療する場合、治療とは、例えば、腫瘍サイズ、がん細胞の数、成長速度、転移活性、非がん細胞の細胞死などを減少させることを指すことができる。本明細書で使用される「治療する」及び「防止する」は、絶対的用語であることを意図するものではない。治療及び予防とは、あらゆる発症の遅延、症状の改善、患者の生存率の改善、生存時間の延長または生存率の上昇などを指し得る。治療及び予防は、本明細書に記載の治療を受けていない患者よりも症状の頻度または重症度が低くなるように、完全(検出可能な症状が残っていない)または部分的であり得る。治療の効果は、治療を受けていない個体または個体のプール、または同じ患者の治療前または治療中の異なる時点と比較することができる。いくつかの態様では、疾患の重症度は、例えば、投与前の個体または治療を受けていない対照個体と比較して、少なくとも10%低下する。いくつかの態様では、疾患の重症度は、少なくとも25%、50%、75%、80%、または90%低下するか、場合によっては、標準診断技術を使用してもはや検出できない。
【0105】
本明細書で使用される場合、剤(例えば、本明細書に記載の抗体)の「治療量」または「治療有効量」は、対象における疾患(例えば、がん)の症状を予防する、緩和する、和らげる、改善する、または重症度を軽減する剤の量である。
【0106】
本明細書で使用される場合、剤(例えば、本明細書に記載される抗体)の「治療量以下の量」または「治療量以下の用量」は、同じ種類またはサブタイプのがんなど、同じ適応症を治療するために剤を単剤療法として使用する場合に投与される用量よりも少ない剤の用量である。治療量以下の用量は、単剤療法の用量の頻度を減少させて、これにより、対象が全体的により少ない用量の剤を受けるようにすることを含むことができる。
【0107】
「投与する」、「投与される」、または「投与すること」という用語は、所望の生物学的作用部位に剤、化合物、または組成物を送達する方法を指す。これらの方法には、局所送達、非経口送達、静脈内送達、皮内送達、筋肉内送達、結腸送達、直腸送達、または腹腔内送達が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に記載の剤及び方法と共に任意に使用される投与技術としては、例えば、Goodman and Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,current ed.;Pergamon;及びRemington’s,Pharmaceutical Sciences(current edition),Mack Publishing Co.,Easton,PAで論じられているものなどが挙げられる。
【0108】
III.PD-L1の発現レベル
対象におけるがん中でのPD-L1の発現レベルは、本明細書に開示される任意の組成物を投与する前に、または任意の方法を使用する前に測定することができる。発現レベルは、当技術分野で知られている任意の方法によって決定され得る。
【0109】
PD-L1の発現レベルを評価するために、いくつかの実施形態では、この治療法を必要とする対象からがん組織サンプルを得ることができる。別の実施形態では、PD-L1の発現レベルの評価は、がん組織サンプルを得ることなく達成することができる。いくつかの実施形態では、好適な対象を選択することには、(i)任意により、対象から得られたがん組織サンプルを提供することであって、ここで、がん組織サンプルは、がん細胞及び/またはがん浸潤性炎症細胞を含む、提供することと;(ii)がん組織サンプル中の細胞表面上にPD-L1を発現する細胞の割合を評価することと、を含む。
【0110】
しかしながら、がん組織サンプルにおけるPD-L1の発現を測定することを含む方法のいずれにおいても、対象から得られたがん組織サンプルを提供することを含むステップは、任意のステップであることが理解されるものとする。特定の実施形態において、細胞表面上にPD-L1を発現するがん組織サンプル中の細胞を同定するまたは細胞の数もしくは割合を決定するための「測定する」または「評価する」ステップは、PD-L1の発現についてアッセイする形質転換法、例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)アッセイまたは免疫組織化学(IHC)アッセイを実施することにより実施されることも理解されるものとする。いくつかの実施形態では、形質転換ステップは伴わずに、例えば、試験室からの試験結果の報告を検討することによってPD-L1の発現が評価される。特定の実施形態では、方法のPD-L1の発現を評価するまでのステップ及びPD-L1発現を評価することを含めたステップでは、治療に好適である対象を選択する際に使用するために、医師または他の医療提供者に提供され得る中間結果を提供する。特定の実施形態では、中間結果を提供するステップは、医療従事者、または医療従事者の指示の下で行動する者によって実行される。他の実施形態では、これらのステップは、独立した試験室によって、または試験室技術者などの独立した人員によって行われる。
【0111】
いくつかの実施形態では、PD-L1を発現する細胞の割合は、PD-L1 RNAの存在を判断するためのアッセイを実施することによって評価される。いくつかの実施形態では、PD-L1 RNAの存在は、RT-PCR、in situハイブリダイゼーション、またはRNase保護によって決定される。他の実施形態では、PD-L1を発現する細胞の割合は、PD-L1ポリペプチドの存在を判断するためのアッセイを実施することによって評価される。いくつかの実施形態では、PD-L1ポリペプチドの存在は、IHCアッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、in vivoイメージング、またはフローサイトメトリーによって決定される。いくつかの実施形態では、PD-L1の発現は、IHCアッセイによって決定される。Chen et al.,(2013)Clin.Cancer Res.19(13):3462-3473を参照されたい。
【0112】
イメージング技術は、がん研究及び治療において、重要な手段を提供している。ポジトロン放射断層撮影(PET)、単一光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT)、蛍光反射分光法(FRI)、蛍光媒介断層撮影(FMT)、生物発光分光法(BLI)、レーザー走査型共焦点顕微鏡法(LSCM)及び多光子顕微鏡法(MPM)を含む分子イメージングシステムの最近の開発は、がん研究におけるこれらの技術の更なる普及を示唆している可能性がある。これらの分子イメージングシステムの一部は、臨床医が身体内でのがんの位置を確認できるのみでなく、がんの挙動及び/または治療薬物に対する応答性に影響を与える特定の分子、細胞、及び生物学的プロセスの発現及び活性を可視化できる(Condeelis and Weissleder,In vivo imaging in cancer,Cold Spring Harb.Perspect.Biol.2(12):a003848(2010))。PETの感度及び解像度と組み合わせた抗体特異性により、免疫PETイメージングは、組織サンプル中の抗原の発現を監視及びアッセイするのに特に有力になる(McCabe and Wu,Positive progress in immunoPET-not just a coincidence,Cancer Biother.Radiopharm.25(3):253-61(2010);Olafsen et al.,ImmunoPET imaging of B-cell lymphoma using 124I-anti-CD20 scFv dimers(diabodies),Protein Eng.Des.Sel.23(4):243-9(2010))。特定の実施形態では、PD-L1の発現は、イムノPETイメージングによってアッセイされる。特定の実施形態では、PD-L1を発現するがん組織サンプル中の細胞の割合は、がん組織サンプル中の細胞の表面上のPD-L1ポリペプチドの存在を決定するアッセイを実施することによって評価される。特定の実施形態では、がん組織サンプルは、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルである。他の実施形態では、PD-L1ポリペプチドの存在は、IHCアッセイによって決定される。さらなる実施形態では、IHCアッセイは、自動化プロセスを使用して実施される。いくつかの実施形態では、IHCアッセイは、PD-L1ポリペプチドに結合する抗PD-L1モノクローナル抗体を使用して行われる。
【0113】
いくつかの実施形態では、自動IHC法を使用して、FFPE組織片中の細胞表面上のPD-L1の発現をアッセイする。本開示は、がん組織サンプル中のヒトPD-L1抗原の存在を検出するための方法、またはサンプル中のヒトPD-L1抗原のレベルもしくは抗原を発現する細胞の割合を定量化するための方法を提供し、本方法は、抗体またはその一部とヒトPD-L1との間の複合体の形成を可能にする条件下で、試験サンプル及び陰性対照サンプルを、ヒトPD-L1に特異的に結合するモノクローナル抗体と接触させることを含む。特定の実施形態では、試験及び対照の組織サンプルは、FFPEサンプルである。次いで、複合体の形成が検出され、試験サンプルと陰性対照サンプルとの間の複合体形成の差異により、サンプル中におけるヒトPD-L1抗原の存在が示される。PD-L1の発現を定量化するために、様々な方法が使用される。
【0114】
いくつかの実施形態では、自動IHC法は、(a)自動染色装置でマウントされた組織切片を脱パラフィンし、再水和することと;(b)110℃で10分間加熱したデクローキングチャンバー及びpH6緩衝液を使用して抗原を回収することと;(c)自動染色装置上に試薬をセットすることと;(d)自動染色装置を実行することと、を含み、組織片中の内因性ペルオキシダーゼを中和するステップと;スライド上の非特異的タンパク質結合部位をブロックするステップと;スライドを一次抗体とインキュベートするステップと;ポスト一次ブロッキング剤とインキュベートするステップと;NovoLinkポリマーとインキュベートするステップと;色原体基質を加えて発色させるステップと;ヘマトキシリンによる対比染色を行うステップと;を含む。
【0115】
がん組織サンプルにおけるPD-L1の発現を評価するために、病理医は、顕微鏡で各視野の膜PD-L1+がん細胞の数を調べ、陽性である細胞の割合を暗算で推定し、次に、これらを平均して最終パーセンテージを得ることができる。異なる染色強度は、0/ネガティブ、1+/弱、2+/中程度、及び3+/強として定義することができる。パーセンテージ値は、最初に、0及び3+バケットに割り当てることができ、次に中間の1+及び2+の強度が検討され得る。高度に不均一な組織では、試験片をゾーンに分割し、各ゾーンを別々にスコア化した後に、1つのパーセンテージ値セットに合わせることができる。異なる染色強度に対する陰性及び陽性の細胞の割合は、各領域から決定され、各ゾーンに中央値が付与される。最終的なパーセンテージ値は、各染色強度カテゴリー:ネガティブ、1+、2+及び3+について組織に付与し得る。全ての染色強度の合計は、100%となり得る。
【0116】
染色は、マクロファージ及びリンパ球などのがん浸潤性炎症細胞においても評価される。ほとんどの場合、マクロファージは、マクロファージの多くの割合で染色が観察されるため、内部陽性対照として機能する。3+強度で染色する必要はないが、いかなる技術的不具合も除外するために、マクロファージの染色がないことが考慮され得る。原形質膜染色について、マクロファージ及びリンパ球を評価し、各細胞カテゴリーについて、すべてのサンプルについてのみ陽性または陰性であるとして記録することができる。染色はまた、外側/内側がん免疫細胞の指定にしたがって、特徴付けられる。「内側」とは、免疫細胞が、がん細胞間に物理的にインターカレートされることなく、がん組織内及び/またはがん領域の境界上にあることを意味する。「外側」とは、がんとの物理的な会合がないことを意味し、免疫細胞は、結合組織またはあらゆる会合隣接組織と関連する周辺部で見られる。
【0117】
これらのスコア付け方法の特定の実施形態では、サンプルは、独立して作業する2名の病理学者によってスコア付けされ、その後スコアが統合される。特定の他の実施形態では、陽性細胞及び陰性細胞の同定は、適切なソフトウェアを用いてスコア付けされる。
【0118】
IHCデータのより定量的な尺度として、ヒストスコアが使用される。いくつかの実施形態では、ヒストスコアは、以下のように計算され得る:ヒストスコア=[(%がん×1(低強度))+(%がん×2(中強度))+(%がん×3(高強度)]。
【0119】
いくつかの実施形態では、ヒストスコアを決定するために、病理医は、試験片内の各強度カテゴリーにおける染色された細胞のパーセンテージを推定することができる。ほとんどのバイオマーカーの発現は不均一であるため、ヒストスコアは、発現全体のより真の表示であり得る。最終ヒストスコア範囲は、0(発現なし)~300(最大発現)である。
【0120】
いくつかの実施形態では、がん中でのPD-L1発現を定量化する手段は、がん浸潤性炎症細胞によるPD-L1発現パーセントを炎症密度に乗じたものとして定義される調整炎症スコア(AIS)スコアを決定することである。Taube et al.,Colocalization of inflammatory response with B7-hl expression in human melanocytic lesions supports an adaptive resistance mechanism of immune escape,Sci.Transl. Med.4(127):127ra37(2012))。
【0121】
いくつかの実施形態では、がん中のPD-L1の発現を定量化する手段は、CPS(Combined Positive Score)を決定することであり、これは上述したように、PD-L1染色細胞(腫瘍細胞、リンパ球、マクロファージ)の数を生存腫瘍細胞の総数で割り、100を掛けたものである。一部の治療的処置では、腫瘍サンプルは、CPS≧1の場合にPD-L1発現を有するとみなされる。例えば、ペムブロリズマブで治療されている尿路上皮癌(膀胱癌)、食道扁平上皮癌(ESCC)、またはトリプルネガティブ乳癌の対象などの、特定のPD-1またはPD-L1阻害剤療法を受けるのに適した対象には、CPS≧10が必要である。
【0122】
いくつかの実施形態では、がん中のPD-L1の発現を定量化する手段は、TPS(Tumor Proportion Score)を決定することであり、これは、上記のように、任意の強度で部分的または完全な膜染色を示す生存腫瘍細胞のパーセンテージである。いくつかの治療的処置では、TPS≧1%の場合には、腫瘍サンプルがPD-L1発現を有し、TPS≧50%の場合には、高いPD-L1の発現を有するとみなされる。
【0123】
いくつかの実施形態において、がん中のPD-L1発現を定量化するための手段は、腫瘍細胞(TC)スコアを決定することである。いくつかの治療的処置では、TC≧50%の場合、腫瘍サンプルは、PD-L1の発現を有するとみなされる。
【0124】
いくつかの実施形態において、がん中のPD-L1発現を定量するための手段は、腫瘍浸潤免疫細胞(IC)スコアを決定することである。いくつかの治療的処置の場合、試験片が、腫瘍浸潤免疫細胞における任意の強度のPD-L1染色が腫瘍面積の5%以上を占める場合、腫瘍サンプルは、PD-L1発現を有するとみなされる。
【0125】
いくつかの実施形態では、がん中のPD-L1発現を定量化する手段は、Agilent(Dako)PD-L1 IHC223 pharmDx Assay(商標)であり、その説明は、以下のうちの少なくとも1つに見られ得る:1)Physician Labeling,Dako PD-L1 IHC 22C3 pharmDx,Dako North America,Inc.,Carpinteria,CA;2)Keytruda添付文書(2021)Merck&Co.,Inc.,Kenilworth,NJ;3)PD-L1 IHC 22C3 pharmDx Instructions for Use(2020)Dako,Agilent Pathology Solutions,Carpinteria,CA;4)Garon EB,Rizvi NA,Hui R,et al.Pembrolizumab for the treatment of non-small-cell lung cancer,N.Engl.J.Med.372(21):2018-2028(2015);及び5)Roach C,Zhang N,Corigliano E,et al.Development of a companion diagnostic PD-L1 immunohistochemistry assay for pembrolizumab therapy in non-small-cell lung cancer,Appl Immunohistochem Mol.Morphol.24:392-397(2016)。
【0126】
いくつかの実施形態では、がん中のPD-L1発現を定量化する手段は、Agilent(Dako)PD-L1 IHC 28-8 pharmDx Assay(商標)であり、その説明は、以下のうちの少なくとも1つに見られ得る:1)Physician Labeling,Dako PD-L1 IHC 28-8 pharmDx(2020)Dako North America,Inc.,Carpinteria,CA;2)OPDIVO添付文書(2021)Bristol Myers Squibb,New York,NY;3)PD-L1 IHC 28-8 pharm Dx:Interpretation Manual(2021),Dako,Agilent Pathology Solutions,Carpinteria,CA;及び4)Phillips T,Simmons P,Inzunza HD,Cogswell J,Novotny J Jr,Taylor C,et al.Development of an automated PD-L1 immunohistochemistry(IHC)assay for non-small cell lung cancer,Appl.Immunohistochem.Mol.Morphol.23:541-9(2015)。
【0127】
いくつかの実施形態において、がん中のPD-L1発現を定量化する手段は、Agilent(Dako)PD-L1 IHC 73-10 Assay(商標)であり、その説明は、以下のうちの少なくとも1つに見出され得る:1)Hans,J.G.et al.PD-L1 Immunohistochemistry Assay Comparison Studies in Non-Small Cell Lung Cancer:Characterization of the 73-10 Assay,J.Thoracic Oncology 15:1306-1316(2020);及び2)Bavencio添付文書(2021)EMD Serono,Inc.Rockland,MA及びPfizer Inc.,New York,NY。
【0128】
いくつかの実施形態では、がん中のPD-L1発現を定量化する手段は、Ventana PD-L1(SP142)アッセイ(商標)であり、その説明は、以下のうちの少なくとも1つに見出され得る:1)Physician Labeling:Ventana PD-L1(SP142)Assay(2020)Ventana Medical Systems,Inc.及びRoche Diagnostics International,Inc.;2)Tecentriq添付文書(2021)Genentech,Inc.,South San Francisco,CA;3)Ventana PD-L1(SP142)Assay:Interpretation Guide(2019)Ventana Medical Systems,Inc.及びRoche Diagnostics International,Inc.;及び4)Vennapusa et al.,Development of a PD-L1 Complementary Diagnostic Immunochemistry Assay(SP142)for Atezolizumab,Appl.Immunohistochem.Mol.Morphol.27:92-100(2019)。
【0129】
いくつかの実施形態において、がん中でのPD-L1発現を定量化する手段は、Ventana PD-L1(SP263)アッセイ(商標)であり、その説明は、以下のうちの少なくとも1つに見出され得る:1)Physician Labeling:Ventana PD-L1(SP263)Assay(2017)Ventana Medical Systems,Inc.,Tucson,AZ;2)Imfinzi添付文書(2021),AstraZeneca Pharmaceuticals LP,Wilmington,DE;及び3)Ventana PD-L1(SP263)Assay Staining:Interpretation Guide(2019)Roche Diagnostics GmbH,Munich,DE。
【0130】
以下の表1は、上記のアッセイの概要、及びそれらが使用され得る薬物と、米国において現在承認されている治療のための適応症とを提示する。本明細書で提供される併用療法の一部は、PD-L1発現レベルを決定するための対応するアッセイとともに、表1に列記する適応症における薬物を利用する。
【表1】
【0131】
さらに、O’Malley et al.,Immunohistochemical detection of PD-L1 among diverse human neoplasms in a reference laboratory:observations based upon 62,896 cases,Modern Pathology 32:929-942(2019)には、様々な種類のがんにおける抗体クローン22C3、28-8、SP142、またはSP263を使用して、PD-L1発現を評価する説明が記載されている。
【0132】
IV.例示的抗体
例示的なPD-1阻害剤及びPD-L1阻害剤
特定の実施形態では、本明細書において提供される方法は、PD-1/PD-L1阻害剤を投与することを含む。PD-l/PD-L1阻害剤の例として、米国特許第7,488,802号、同第7,943,743号、同第8,008,449号、同第8,168,757号、同第8,217,149号、及びPCT特許出願公開第WO2003042402号、同第WO2008156712号、同第WO2010089411号、同第WO2010036959号、同第WO2011066342号、同第WO2011159877号、同第WO2011082400号、及び同第WO2011161699号に記載のものが挙げられるが、これらに限定されず、これらは全て、全体が本明細書中に援用される。
【0133】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、PD-1阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、PD-1阻害剤は、抗PD-1抗体である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、AMP-224、CT-011、セミプリマブ、カムレリズマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、TSR-042、PDR001、トリパリマブ、BGB-A317、ニボルマブ(ONO-4538、BMS-936558、またはMDX1106としても知られる)、ペムブロリズマブ(MK-3475、SCH900475、またはランブロリズマブとしても知られる)である。一実施形態では、抗PD-1抗体は、ニボルマブである。ニボルマブは、ヒトIgG4抗PD-1モノクローナル抗体であり、Opdivo(商標)という商品名で販売されている。別の実施形態では、抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブである。ペムブロリズマブは、ヒト化モノクローナルIgG4抗体であり、Keytruda(商標)という商品名で販売されている。さらに別の実施形態では、抗PD-1抗体は、ヒト化抗体CT-011である。さらに別の実施形態では、抗PD-1抗体は、融合タンパク質AMP-224である。別の実施形態において、PD-1抗体は、BGB-A317である。BGB-A317は、Fcガンマ受容体Iに結合する能力が特別に操作されており、高い親和性及び優れた標的特異性でPD-1との独自の結合シグネチャを有するモノクローナル抗体である。一実施形態では、PD-1抗体は、セミプリマブである。別の実施形態では、PD-1抗体は、カムレリズマブである。さらなる実施形態では、PD-1抗体は、シンチリマブである。いくつかの実施形態では、PD-1抗体は、チスレリズマブである。ある実施形態では、PD-1抗体は、TSR-042である。さらに別の実施形態では、PD-1抗体は、PDR001である。さらに別の実施形態では、PD-1抗体は、トリパリマブである。
【0134】
特定の実施形態では、本明細書において提供される方法は、PD-L1阻害剤を投与することを含む。いくつかの実施形態では、PD-L1阻害剤は、抗PD-L1抗体である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、MEDI4736(デュルバルマブまたはIMFINZI(登録商標)としても知られる)、BMS-936559(MDX-1105-01としても知られる)、アテゾリズマブ(MPDL3280A及びTecentriq(登録商標)としても知られる)またはアベルマブ(BAVENICO(登録商標)としても知られる)である。一実施形態では、抗PD-L1抗体は、MEDI4736(デュルバルマブ)である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、BMS-936559である。さらに別の実施形態では、PD-L1阻害剤は、アテゾリズマブである。さらなる実施形態では、PD-L1阻害剤は、アベルマブである。
【0135】
例示的な抗TIGIT抗体
本明細書に記載される治療方法の特定の方法において利用される抗TIGIT抗体は、種々の活性を有する。例えば、いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、TIGITとリガンドCD155及びCD112の一方または両方との間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、機能的バイオアッセイにおいてTIGITとCD155との間の相互作用を阻害し、CD155-CD226シグナル伝達を生じさせ得る。
【0136】
本発明者らは、驚くべきことに、抗TIGIT抗体が、低PD-L1がん中でもPD-1/PD-L1遮断と相乗効果を呈することを見出した。本明細書で実証されるように、低レベルのPD-L1を発現するがんを含むマウスモデルに、抗PD-1及び/または抗PD-L1抗体と組み合わせて抗TIGIT抗体を投与することにより、腫瘍サイズ及び/または成長速度が減少する。
【0137】
ある実施形態では、抗TIGIT抗体は、MTIG7192Aまたはその非フコシル化型である。別の実施形態では、抗TIGIT抗体は、BMS-986207またはその非フコシル化型である。さらに別の実施形態では、抗TIGIT抗体は、OMP-313M32またはその非フコシル化型である。一実施形態では、TIGIT阻害剤は、MK-7684またはその非フコシル化型である。別の実施形態では、抗TIGIT抗体は、AB154またはその非フコシル化型である。さらに別の実施形態では、抗TIGIT抗体は、CGEN-15137またはその非フコシル化型である。一実施形態では、抗TIGIT抗体は、SEA-TGTである。別の実施形態では、抗TIGIT抗体は、ASP8374またはその非フコシル化型である。さらに別の実施形態では、抗TIGIT抗体は、AJUD008またはその非フコシル化型である。
【0138】
いくつかの実施形態では、非フコシル化抗TIGIT抗体などの抗TIGIT抗体は、ヒトTIGITタンパク質またはその一部に高親和性で結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトTIGITに対して、5nM未満、1nM未満、500pM未満、250pM未満、150pM未満、100pM未満、50pM未満、40pM未満、30pM未満、20pM未満、または約10pM未満の結合親和性(KD)を有する。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトTIGITに対して50pM未満の結合親和性(KD)を有する。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトTIGITに対して、約1pM~約5nM、例えば、約1pM~約1nM、約1pM~約500pM、約5pM~約250pM、または約10pM~約100pMの範囲のKDを有する。
【0139】
いくつかの実施形態では、高親和性でのヒトTIGITへの結合に加えて、非フコシル化抗TIGIT抗体は、カニクイザル(「cyno」)TIGIT及び/またはマウスTIGITとの交差反応性を呈する。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、100nM以下の結合親和性(KD)でマウスTIGITに結合する。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、5nM以下のKDでヒトTIGITに結合し、100nM以下のKDでマウスTIGITと交差反応する。いくつかの実施形態では、ヒトTIGITに結合する抗TIGIT抗体は、カニクイザルTIGIT及びマウスTIGITの両方との交差反応性も呈する。
【0140】
いくつかの実施形態では、抗体交差反応性は、細胞(例えば、ヒトTIGIT、カニクイザルTIGIT、またはマウスTIGITを発現する細胞株、またはTIGITを内因的に発現する初代細胞、例えば、ヒトTIGIT、cynoTIGIT、またはマウスTIGITを内因的に発現する初代T細胞)上に発現するTIGITに対する抗TIGIT抗体の特異的結合を検出することによって決定される。いくつかの実施形態では、抗体結合及び抗体交差反応性は、抗TIGIT抗体の精製または組換えTIGIT(例えば、精製または組換えヒトTIGIT、精製または組換えcynoTIGIT、または精製または組換えマウスTIGIT)へのまたはTIGITを含むキメラタンパク質(例えば、ヒトTIGIT、カニクイザルTIGIT、またはマウスTIGITを含むFc融合タンパク質、またはヒトTIGIT、cynoTIGIT、またはマウスTIGITを含むHisタグ付きタンパク質)への特異的結合を検出することによって決定される。
【0141】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗TIGIT抗体は、TIGITとリガンドCD155との間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗TIGIT抗体は、TIGITとリガンドCD112との間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗TIGIT抗体は、TIGITとリガンドCD155及びCD112の両方との間の相互作用を阻害する。
【0142】
いくつかの実施形態では、ヒトTIGITに結合する抗TIGIT抗体は、以下に記載の抗体:クローン13、クローン13A、クローン13B、クローン13C、またはクローン13Dのいずれかに由来する、軽鎖可変領域配列またはその一部、及び/または重鎖可変領域配列またはその一部を含む。抗TIGIT抗体クローン13、クローン13A、クローン13B、クローン13C、及びクローン13DのCDR、軽鎖可変ドメイン(VL)、及び重鎖可変ドメイン(VH)のアミノ酸配列は、以下の配列表に記載する。
【0143】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、以下のうちの1つ以上(例えば、1、2、3、4、5、または6)を含む:
配列番号7、配列番号8、及び配列番号9から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1配列;
配列番号10、配列番号11、配列番号12、及び配列番号13から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2配列;
配列番号14、配列番号15及び16から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列;
配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1配列;
配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2配列;及び/または
配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3配列。
【0144】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号7、配列番号8、または配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1配列;配列番号10、配列番号11、配列番号12、または配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2配列;及び配列番号14、配列番号15、または16のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列を含む。
【0145】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1配列;配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2配列;及び配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3配列を含む。
【0146】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号7、配列番号8、または配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1配列;配列番号10、配列番号11、配列番号12、または配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2配列;配列番号14、配列番号15、または配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列;配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1配列;配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2配列;及び配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3配列を含む。
【0147】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、以下のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3、ならびに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む:
(a)配列番号7、10、14、17、18、及び19のそれぞれ;または
(b)配列番号8、11、14、17、18、及び19のそれぞれ;または
(c)配列番号9、12、15、17、18、及び19のそれぞれ;または
(d)配列番号8、13、16、17、18、及び19のそれぞれ;または
(e)配列番号8、12、16、17、18、及び19のそれぞれのアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3と、軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3と、を含む。
【0148】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5に対して、少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列を含むVHを含む。いくつかの実施形態では、VH配列は、参照配列(例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5)に対して、少なくとも90%の配列同一性を有するVH配列は、参照配列と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むが、ヒトTIGITに結合する能力を保持し、任意により、CD155及び/またはCD112のTIGITへの結合を遮断する能力を保持している。
【0149】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号6に対して、少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号6のアミノ酸配列を含むVLを含む。いくつかの実施形態では、参照配列(例えば、配列番号6)に対して、少なくとも90%の配列同一性を有するVL配列は、参照配列と比較して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含むが、ヒトTIGITに結合する能力を保持し、任意により、CD155及び/またはCD112のTIGITへの結合を遮断する能力を保持している。
【0150】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5に対して、少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性(例えば、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、または配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含み、かつ配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0151】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は:
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むVH及び配列番号6のアミノ酸配列を含むVL;
(b)配列番号2のアミノ酸配列を含むVH及び配列番号6のアミノ酸配列を含むVL;または
(c)配列番号3のアミノ酸配列を含むVH及び配列番号6のアミノ酸配列を含むVL;または
(d)配列番号4のアミノ酸配列を含むVH及び配列番号6のアミノ酸配列を含むVL;または
(f)配列番号5のアミノ酸配列を含むVH及び配列番号6のアミノ酸配列を含むVLを含む。
【0152】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号20、21、22、23、及び24から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号25のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0153】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、SEA-TGTであり、これは、配列番号7、10、14、17、18、及び19のアミノ酸配列をそれぞれ含む重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3ならびに軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含む非フコシル化IgG1抗体である。対応するVH及びVLは、配列番号1及び6のアミノ酸配列をそれぞれ含む。例えば、PCT公開第WO2020/041541号を参照されたい。
【0154】
いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用するための抗TIGIT抗体は、US2009/0258013、US2016/0176963、US2016/0376365、またはWO2016/028656に開示されている抗TIGIT抗体の非フコシル化型である。
【0155】
増強したエフェクター機能を有する例示的なFc領域
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法において使用される抗体は、以下の特徴のうちの1つ以上またはすべてを任意の組み合わせで有するFcを含む:1)1つ以上の活性化FcγRへの結合が増強されている、2)阻害性FcγRへの結合が減少している、3)非フコシル化されている、4)ADCC活性が増強されている、5)ADCP活性が増強されている、6)抗原提示細胞(APC)を活性化している、7)CD8T細胞応答が増強されている、8)共刺激受容体を上方制御している、9)自然細胞免疫応答を活性化している、及び/または10)NK細胞を結合している。いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法で使用される抗TIGIT抗体は、前述の特徴のうちの1つ以上を有するFcを含む。
【0156】
したがって、いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、所望の増強されたFcγR結合プロファイルを得るために、1つ以上の活性化FcγRへの結合が増強され、及び/または1つ以上の阻害性FcγRへの結合が減少しているFcを含む。活性化FcγRには、FcγRIIIa、FcγRIIa、及び/またはFcγRIのうちの1つ以上が含まれる。阻害性FcγRには、例えば、FcγRIIbが含まれる。
【0157】
ある実施形態では、抗TIGIT抗体は、少なくともFcγRIIIaへの結合が増強されているFcを含む。他の実施形態では、抗体は、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIIaへの結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む。ある実施形態では、抗体は、FcγRIIIa、FcγRIIa、及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む。
【0158】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、活性化FcγRへの結合の増強に加えて、またはそれとは別に、1つ以上の阻害性FcγRへの結合の減少を有する。したがって、いくつかの実施形態では、抗体は、FcγRIIa及び/またはFcγRIIbへの結合が減少している。
【0159】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、非フコシル化抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、上記のFcγR結合プロファイルのうちの1つをさらに有する。
【0160】
ある実施形態では、抗TIGIT抗体のFcは、野生型Fcと比較して、アミノ酸変化を含み、これにより、上記のようなFcγR結合プロファイルを得るために、活性化FcγRへの結合を増強し、及び/または1つ以上の阻害性FcγRへの結合を減少させる。例えば、いくつかの実施形態では、抗体のFcは、重鎖定常領域内に置換S293D、A330L、及び/またはI332Eを含む。
【0161】
上記のとおり、本明細書に提供される方法で使用される抗TIGIT抗体は、以下の活性のうちの1つ以上を有するFcを含む:1つ以上の活性化FcγRへの結合の増強;阻害性FcγRへの結合の減少;ADCC活性の増強;及び/またはADCP活性の増強。そのような活性及び所望の活性プロファイルを有するFcを有する抗体は、非フコシル化タンパク質の産生及び/または所望の活性をもたらす特定の変異を含むようにFcを操作することによるなど、様々な方法で生成することができる。本明細書では、非フコシル化抗体を生成するための方法、及び例示的操作アプローチについて、さらなる特定の詳細を示す。
【0162】
抗体は、定常領域中の保存された位置においてグリコシル化され得る(Jefferis and Lund,(1997)Chem.Immunol.65:111-128;Wright and Morrison,(1997)TibTECH 15:26-32)。免疫グロブリンのオリゴ糖側鎖は、タンパク質の機能(Boyd et al.,(1996)Mol.Immunol.32:1311-1318;Wittwe and Howard,(1990)Biochem.29:4175-4180)、及び糖タンパク質の立体構造に影響を与え得る糖タンパク質の部分と糖タンパク質の提示された三次元表面との間の分子内相互作用(Jefferis and Lund、上記;Wyss and Wagner,(1996)Current Opin. Biotech.7:409-416)に影響を与える。オリゴ糖はまた、特定の認識構造に基づいて、ある分子に特定の糖タンパク質を標的化する働きもし得る。例えば、アガラクトシル化IgGでは、オリゴ糖部分がCH2間空間から「反転」し、末端のN-アセチルグルコサミン残基がマンノース結合タンパク質に結合できるようになることが報告されている(Malhotra et al.,(1995)Nature Med.1:237-243)。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で産生されたCAMPATH-1H(ヒトリンパ球のCDw52抗原を認識する組換えヒト化マウスモノクローナルIgG1抗体)からのオリゴ糖のグリコペプチダーゼによる除去は、補体媒介性溶解(CMCL)の完全な減少をもたらした(Boyd et al.,(1996)Mol.Immunol.32:1311-1318)が、ノイラミニダーゼを使用したシアル酸残基の選択的除去では、DMCLは喪失しなかった。抗体のグリコシル化は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)に影響を与えることも報告されている。特に、バイセクティングGlcNAcの形成を触媒するグリコシルトランスフェラーゼであるβ(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)のテトラサイクリン調節発現を有するCHO細胞は、ADCC活性の改善を有することが報告された(Umana et al.(1999)Nature Biotech.17:176-180)。
【0163】
抗体のグリコシル化は、典型的には、N結合またはO結合のいずれかである。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖へ炭水化物部分が付着することを指す。トリペプチド配列であるアスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(式中、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、炭水化物部分のアスパラギン側鎖への酵素結合の認識配列である。したがって、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列のいずれかが存在することにより、潜在的なグリコシル化部位が作製される。O結合グリコシル化とは、糖類であるN-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、またはキシロースのうちの1つの、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリンまたはスレオニンへの結合を指すが、5-ヒドロキシプロリンまたは5-ヒドロキシリジンも使用され得る。
【0164】
抗体のグリコシル化バリアントは、抗体のグリコシル化パターンが改変されたバリアントである。改変とは、抗体中に見られる1つ以上の炭水化物部分を欠失させること、抗体に1つ以上の炭水化物部分を付加すること、グリコシル化の組成(グリコシル化パターン)、グリコシル化の程度などを変更することを意味する。
【0165】
抗体へのグリコシル化部位の付加は、アミノ酸配列を上述のトリペプチド配列のうちの1つ以上を含むように改変することによって達成され得る(N結合型グリコシル化部位の場合)。改変は、元の抗体の配列への1つ以上のセリンまたはスレオニン残基の付加、またはそれらによる置換によっても行われ得る(O結合型グリコシル化部位の場合)。同様に、グリコシル化部位の除去は、抗体の天然のグリコシル化部位内のアミノ酸改変によって達成することができる。
【0166】
アミノ酸配列は、通常、基礎となる核酸配列を改変することによって改変される。これらの方法としては、天然源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列バリアントの場合)または抗体の以前に調製されたバリアントまたは非バリアント型のオリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発、及びカセット変異誘発による調製が挙げられる。
【0167】
抗体のグリコシル化(グリコシル化パターンを含む)は、アミノ酸配列または基礎となるヌクレオチド配列を改変することなく改変され得る。例えば、Pereira et al.,2018,MAbs,10(5):693-711を参照されたい。グリコシル化は、抗体の発現に使用される宿主細胞に大きく依存する。潜在的な治療薬として、抗体などの組換え糖タンパク質の発現に使用される細胞型が天然細胞であることはめったにないため、抗体のグリコシル化パターンの有意な変動が予想される。例えば、Hse et al.,(1997)J.Biol.Chem.272:9062-9070を参照されたい。宿主細胞の選択に加えて、抗体の組換え産生中にグリコシル化に影響を与える因子としては、成長様式、培地配合、培養密度、酸素添加、pH、精製スキームなどが挙げられる。オリゴ糖産生に関与する特定の酵素の導入または過剰発現など、特定の宿主生物中で達成されるグリコシル化パターンを改変するために、様々な方法が提唱されている(米国特許第5047335号;同第5510261号;同第5278299号)。グリコシル化、または特定の種類のグリコシル化は、例えばエンドグリコシダーゼH(Endo H)を使用して、糖タンパク質から酵素的に除去することができる。さらに、組換え宿主細胞は、遺伝子操作することができ、例えば、特定の種類の多糖類のプロセシングを欠損させ得る。これら及び類似の技法は、当該技術分野で既知である。
【0168】
抗体のグリコシル化構造は、レクチンクロマトグラフィー、NMR、質量分析、HPLC、GPC、単糖組成分析、逐次酵素消化、及び電荷に基づいてオリゴ糖を分離するために高pH陰イオン交換クロマトグラフィーを使用するHPAEC-PADなど、炭水化物分析の従来の技術によって容易に分析できる。分析目的でオリゴ糖を放出するための方法も知られており、これらに限定されないが、酵素処理(通常、ペプチド-N-グリコシダーゼF/エンド-β-ガラクトシダーゼを使用して行われる)、過酷なアルカリ環境を使用して主にO結合構造を放出する脱離、及び無水ヒドラジンを使用してN及びO結合オリゴ糖の両方を放出する化学的方法が挙げられる。
【0169】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体のグリコシル化の修飾形態は、コアフコシル化の減少である。「コアフコシル化」とは、N結合型グリカンの還元末端でのN-アセチルグルコサミン(「GlcNAc」)へのフコースの付加(「フコシル化」)を指す。
【0170】
「複合N-グリコシド結合型糖鎖」は、典型的にはアスパラギン297(Kabatのナンバーによる)に結合している。本明細書では、複合N-グリコシド結合型糖鎖とは、バイアンテナリー複合糖鎖を有し、主に以下の構造を有する:
【化1】
ここで、±は、糖分子が存在するかまたは存在していないことを示し、数字は糖分子間の連結の位置を示す。上記構造において、アスパラギンと結合する糖鎖末端(右)を還元末端、反対側を非還元末端と呼ぶ。フコースは、通常、還元末端のN-アセチルグルコサミン(「GlcNAc」)に、典型的にはα1,6結合(GlcNAcの6位がフコースの1位に連結)によって結合している。「Gal」はガラクトースを指し、「Man」はマンノースを指す。
【0171】
「複合N-グリコシド結合糖鎖」には、以下を含む;1)複合型、ここでは、コア構造の非還元末端側が、ガラクトース-N-アセチルグルコサミン(「gal-GlcNAc」ともいう)の0個または1個以上の分岐を有し、gal-GlcNAcの非還元末端側が、任意によりシアル酸、バイセクティングN-アセチルグルコサミンなどを有する;及び2)ハイブリッド型、ここでは、コア構造の非還元末端側が、高マンノースN-グリコシド結合型糖鎖及び複合N-グリコシド結合型糖鎖の両方の分岐を有する。
【0172】
本明細書で提供されるいくつかの方法では、少量のフコースのみが、抗TIGIT抗体の複合N-グリコシド結合型糖鎖(複数可)に取り込まれる。例えば、様々な実施形態では、組成物中約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、または約3%未満の抗TIGIT抗体がフコースによるコアフコシル化を有する。いくつかの実施形態では、組成物中約2%の抗TIGIT抗体がフコースによるコアフコシル化を有する。様々な実施形態において、組成物中60%未満の抗TIGIT抗体がフコースによるコアフコシル化を有する場合には、組成物の抗体は「非フコシル化」または「アフコシル化」と称され得る。いくつかの実施形態では、組成物中少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の抗TIGIT抗体が非フコシル化である。
【0173】
ある実施形態では、少量のフコース類似体(またはフコース類似体の代謝産物または産物)のみが複合N-グリコシド結合型糖鎖(複数可)に取り込まれる。例えば、様々な実施形態では、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、または約3%未満の抗TIGIT抗体がフコース類似体またはフコース類似体の代謝産物または産物によるコアフコシル化を有する。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体の約2%が、フコース類似体またはフコース類似体の代謝産物もしくは産物によるコアフコシル化を有する。
【0174】
いくつかの実施形態では、組成物中約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、または約3%未満の抗TIGIT抗体が、G0、G1、またはG2グリカン構造上にフコース残基を有する(例えば、Raju et al.,2012,MAbs 4:385-391,Figure 3を参照)。いくつかの実施形態では、組成物中約2%の抗TIGIT抗体がG0、G1、またはG2グリカン構造上にフコース残基を有する。様々な実施形態において、組成物中60%未満の抗TIGIT抗体が、G0、G1、またはG2グリカン構造上にフコース残基を有する場合、組成物の抗体は「非フコシル化」と称され得る。いくつかの実施形態では、組成物中、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の抗TIGIT抗体が、G0、G1、またはG2グリカン構造上にフコースを有しない。G0グリカンには、G0-GNグリカンを含むことを留意されたい。G0-GNグリカンは、1つの末端GlcNAc残基を有するモノアンテナグリカンである。G1グリカンには、G1-GNグリカンを含む。G1-GNグリカンは、1つの末端ガラクトース残基を有するモノアンテナグリカンである。G0-GN及びG1-GNグリカンは、フコシル化または非フコシル化であり得る。
【0175】
非フコシル化抗体を生成するためには、様々な方法を利用することができる。例示的な戦略は、フコシル化経路に関与する特定の生合成酵素を欠く細胞株の使用、またはフコシル化経路に関与する特定の遺伝子の阻害またはノックアウトが含まれる。このようなアプローチの概説は、Pereira,et al.(2018)mAbs 10:693-711によって提供され、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0176】
例えば、抗体産生細胞をフコース類似体とインキュベートすることによって、本明細書に開示される非フコシル化抗TIGIT抗体などの非フコシル化抗体を作製する方法は、例えば、WO2009/135181及びUS8,163,551に記載されている。簡潔に言えば、該抗体を発現するように操作された細胞を、フコース類似体またはフコース類似体の細胞内代謝産物もしくは産物の存在下でインキュベートする。細胞内代謝産物は、例えば、GDP修飾類似体または完全もしくは部分的に脱エステル化された類似体であり得る。産物は、例えば、完全にまたは部分的に脱エステル化された類似体であり得る。いくつかの実施形態では、フコース類似体は、フコースサルベージ経路における酵素(複数可)を阻害することができる。例えば、フコース類似体(またはフコース類似体の細胞内代謝産物もしくは産物)は、フコキナーゼまたはGDP-フコース-ピロホスホリラーゼの活性を阻害することができる。いくつかの実施形態では、フコース類似体(またはフコース類似体の細胞内代謝産物もしくは産物)は、フコシルトランスフェラーゼ(好ましくは、1,6-フコシルトランスフェラーゼ、例えばFUT8タンパク質)を阻害する。いくつかの実施形態では、フコース類似体(またはフコース類似体の細胞内代謝産物もしくは産物)は、フコースのde novo合成経路における酵素の活性を阻害することができる。例えば、フコース類似体(またはフコース類似体の細胞内代謝産物もしくは産物)は、GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼまたはGDP-フコースシンテターゼの活性を阻害することができる。いくつかの実施形態では、フコース類似体(またはフコース類似体の細胞内代謝産物もしくは産物)は、フコース輸送体(例えば、GDP-フコース輸送体)を阻害することができる。
【0177】
一実施形態では、フコース類似体は、2-フルオロフコースである。成長培地中のフコース類似体及び他のフコース類似体を使用する方法は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2009/135181に開示されている。
【0178】
細胞株を操作してコアフコシル化を減少させるための他の方法としては、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、及びRNA干渉(RNAi)が挙げられる。例えば、Pereira et al.,2018,mAbs,10(5):693-711を参照されたい。遺伝子ノックアウトでは、FUT8(アルファ1,6-フコシルトランスフェラーゼ酵素)をコードする遺伝子が不活性化される。FUT8は、GDP-フコースからN-グリカンのAsn結合(N結合)GlcNacの6位へのフコシル残基の転移を触媒する。FUT8は、Asn297でのN結合型バイアンテナリー炭水化物へのフコースの付加に関与する唯一の酵素であることが報告されている。遺伝子ノックインは、GNTIIIまたはゴルジアルファマンノシダーゼIIなどの酵素をコードする遺伝子を付加する。細胞内においてそのような酵素のレベルが増加することにより、モノクローナル抗体をフコシル化経路からそらして(コアフコシル化の減少がもたらされる)、バイセクティングN-アセチルグルコサミンの量が増加する。RNAiも、典型的には、FUT8遺伝子発現を標的とし、mRNAの転写レベルの低下、または遺伝子発現の完全なノックアウトなどをもたらす。
【0179】
使用され得る他の戦略としては、GlycoMAb(登録商標)(米国特許第6,602,684号)及びPotelligent(登録商標)(BioWa)が挙げられる。
【0180】
これらの方法のいずれかを使用して、非フコシル化抗体の産生が可能となる細胞株を生成することができる。
【0181】
様々な工学的アプローチを利用して、所望のFcγR活性及びエフェクター機能を有するFc領域を得ることもできる。いくつかの実施形態では、Fcは、S239D、A330L及びI332Eの変異の組み合わせを有するように操作し、これにより、FcγRIIIAに対するFcドメインの親和性を増大させ、結果としてADCCを増加させる。FcγRIIIaに対する親和性を増大させる追加の置換としては、例えば、T256A、K290A、S298A、E333A、及びK334Aが挙げられる。活性化FcγRIIIaへの結合を増強し、阻害性FcγRIIIbへの結合を減少させる置換としては、例えば、F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L及びF243L/R292P/Y300L/L235V/P396Lが挙げられる。いくつかの実施形態では、置換は、IgG1 Fc骨格中にある。
【0182】
保存されたAsn297に共有結合により付着しているオリゴ糖は、IgGのFc領域がFcγRに結合する能力に関与している(Lund et al.,1996,J.Immunol.157:4963-69;Wright and Morrison,1997,Trends Biotechnol.15:26-31)。このグリコフォームをIgG上で操作することにより、IgG媒介ADCCを顕著に改善できる。このグリコフォームへのバイセクティングN-アセチルグルコサミン修飾の付加(Umana et al.,1999,Nat.Biotechnol.17:176-180;Davies et al.,2001,Biotech.Bioeng.74:288-94)、またはこのグリコフォームからのフコースの除去(Shields et al.,2002,J.Biol.Chem.277:26733-40;Shinkawa et al.,2003,J.Biol.Chem.278:6591-604;Niwa et al.,2004,Cancer Res.64:2127-33)は、IgG FcとFcγRとの間の結合を改善し、それによってIg媒介ADCC活性を増強するIgG Fc操作の2つの例である。
【0183】
ヒトIgG1 Fc領域の溶媒露出アミノ酸の全身的置換により、FcγR結合親和性が変化したIgGバリアントが生成される(Shields et al.,2001,J.Biol.Chem.276:6591-604)。親IgG1と比較した場合、Thr256/Ser298、Ser298/Glu333、Ser298/Lys334、またはSer298/Glu333/Lys334でのAlaへの置換を含むこれらのバリアントのサブセットは、FcγRに対する結合親和性及びADCC活性の両方の増大を示す(Shields et al.,2001,J.Biol.Chem.276:6591-604;Okazaki et al.,2004,J.Mol.Biol.336:1239-49)。
【0184】
抗体でのフコシル化の量を決定するために、多くの方法が利用可能である。方法としては、例えば、PLRP-SクロマトグラフィーによるLC-MS、エレクトロスプレーイオン化四重極TOF MS、レーザー誘起蛍光によるキャピラリー電気泳動(CE-LIF)、及び蛍光検出による親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)が挙げられる。
【0185】
抗体の調製
抗体を調製するために、当技術分野で知られている多くの技術を使用することができる。例えば、Kohler&Milstein,Nature 256:495-497(1975);Kozbor et al.,Immunology Today 4:72(1983);Cole et al.,pp.77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985);Coligan,Current Protocols in Immunology(1991);Harlow&Lane,Antibodies,A Laboratory Manual(1988);及びGoding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(2nd ed.1986))を参照されたい。
【0186】
目的の抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子は、細胞からクローニングすることができ、例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子は、該抗体を発現するハイブリドーマからクローニングし、組換えモノクローナル抗体を産生するために使用することができる。モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーは、ハイブリドーマまたはプラズマ細胞からも作製できる。さらに、ファージまたは酵母ディスプレイ技術を使用して、選択された抗原に特異的に結合する抗体及びヘテロマーFabフラグメントを同定することができる(例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552-554(1990);Marks et al.,Biotechnology 10:779-783(1992);Lou et al.(2010)PEDS 23:311;及びChao et al.,Nature Protocols,1:755-768(2006)を参照されたい)。あるいは、抗体及び抗体配列は、例えばXu et al.,Protein Eng Des Sel,2013,26:663-670;WO2009/036379;WO2010/105256;及び2012/009568に開示のものなど、酵母ベースの抗体提示系を使用して単離及び/または同定され得る。重鎖及び軽鎖の遺伝子産物のランダムな組み合わせは、異なる抗原特異性を有する抗体の大きいプールを生成する(例えば、Kuby,Immunology(3rd ed.1997))を参照されたい)。単鎖抗体または組換え抗体の産生技術(米国特許第4,946,778号、米国特許第4,816,567号)も、抗体を産生するために適合させることができる。抗体を二重特異性にすることもでき、すなわち、2つの異なる抗原を認識できるようにすることもできる(例えば、WO93/08829,Traunecker et al.,EMBO J.10:3655-3659(1991);及びSuresh et al.,Methods in Enzymology 121:210(1986)を参照されたい)。抗体はまた、ヘテロコンジュゲート体、例えば、共有結合により連結した2つの抗体、または免疫毒素に共有結合により結合した抗体であり得る(例えば、米国特許第4,676,980号、WO91/00360;及びWO92/200373を参照されたい)。
【0187】
抗体は、原核生物及び真核生物の発現系など、任意の数の発現系を使用して産生することができる。いくつかの実施形態では、発現系は、ハイブリドーマまたはCHO細胞などの哺乳動物細胞である。このような系の多くは、商用供給業者から広く入手できる。抗体が重鎖及び軽鎖を両方とも含む実施形態では、重鎖及び重鎖及び軽鎖は、単一のベクターを使用して、例えば、二重シストロン発現ユニットで発現させてもよく、または異なるプロモーターの制御下にあり得る。他の実施形態では、重鎖及び軽鎖領域は、別個のベクターを使用して発現させ得る。本明細書に記載の重鎖及び軽鎖は、場合によりN末端にメチオニンを含んでもよい。
【0188】
いくつかの実施形態では、抗体フラグメント(Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、またはダイアボディなど)が生成される。抗体フラグメントを産生するための様々な技法が開発されている。従来、これらのフラグメントは、インタクト抗体のタンパク質分解消化により得られていた(例えば、Morimoto et al.,J.Biochem.Biophys.Meth.,24:107-117(1992);及びBrennan et al.,Science,229:81(1985))。しかしながら、これらのフラグメントは、現在、組換え宿主細胞により直接産生され得る。例えば、抗体フラグメントは、抗体ファージライブラリから単離され得る。あるいは、Fab’-SHフラグメントは、E.coli細胞から直接回収され、化学的にカップリングして、F(ab’)2フラグメントを形成し得る(例えば、Carter et al.,BioTechnology,10:163-167(1992)を参照されたい)。別のアプローチに従って、F(ab’)2フラグメントは、組換え宿主細胞培養から直接単離することができる。抗体フラグメントを産生するための他の技術は、当業者には明らかであろう。他の実施形態では、最適な抗体は単鎖Fvフラグメント(scFv)である。例えば、PCT公開第WO93/16185号、ならびに米国特許第5,571,894号及び同第5,587,458号も参照されたい。抗体フラグメントは、例えば米国特許第5,641,870号に記載の線形抗体であってもよい。
【0189】
いくつかの実施形態では、抗体または抗体フラグメントを別の分子、例えばポリエチレングリコール(PEG化)または血清アルブミンにコンジュゲートして、in vivoでの半減期を延長させ得る。抗体フラグメントのPEG化の例は、Knight et al. Platelets 15:409,2004(アブシキシマブに関して);Pedley et al.,Br.J.Cancer70:1126,1994(抗CEA抗体に関して);Chapman et al.,Nature Biotech.17:780,1999;及びHumphreys,et al.,Protein Eng.Des.20:227,2007)に記載されている。
【0190】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体が提供される。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原または同じ抗原の少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。多重特異性抗体を作製する方法としては、宿主細胞における重鎖及び軽鎖の2つの対の組換え共発現(例えば、Zuo et al.,Protein Eng Des Sel,2000,13:361-367参照);「knobs-into-holes」技術(例えば、Ridgway et al.,Protein Eng Des Sel,1996,9:617-721を参照);「ダイアボディ」技法(例えば、Hollinger et al.,PNAS(USA),1993,90:6444-6448参照);及び分子内三量体化(例えば、Alvarez-Cienfuegos et al.,Scientific Reports,2016,doi:/10.1038/srep28643を参照)が挙げられるが、これに限定されない;また、Spiess et al.,Molecular Immunology,2015,67(2),Part A:95-106を参照されたい。
【0191】
定常領域の選択
本明細書に記載の抗体の重鎖及び軽鎖可変領域は、ヒト定常領域の少なくとも一部に連結することができる。定常領域の選択は、抗体依存性細胞介在性細胞傷害、抗体依存性細胞食作用、及び/または補体依存性細胞傷害が望まれるか否かに部分的に依存する。例えば、ヒト同位体IgG1及びIgG3は、強い補体依存性細胞傷害性を有し、ヒトアイソタイプIgG2は、弱い補体依存性細胞傷害性を有し、ヒトIgG4は、補体依存性細胞傷害性を欠いている。ヒトIgG1及びIgG3は、ヒトIgG2及びIgG4よりも強力な細胞媒介性エフェクター機能も誘導する。軽鎖定常領域は、ラムダまたはカッパであり得る。抗体は、2つの軽鎖と2つの重鎖を含む四量体として、別々の重鎖、軽鎖、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFvとして、または重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとがスペーサーを介して連結されている単鎖抗体として発現できる。
【0192】
ヒト定常領域は、異なる個体間でアロタイプ多様体及びアイソアロタイプ多様体を示す。すなわち、定常領域は、異なる個体中の1つ以上の多型位置で異なり得る。アイソアロタイプは、アイソアロタイプを認識する血清が1つ以上の他のアイソタイプの非多型領域に結合するという点でアロタイプとは異なる。
【0193】
軽鎖及び/または重鎖のアミノ末端またはカルボキシ末端の1つまたはいくつかのアミノ酸(重鎖のC末端リジンなど)は、分子の一部またはすべてで欠落しているかまたは誘導体化され得る。置換は、補体介在性細胞傷害性またはADCCなどのエフェクター機能を減少または増加させるために(例えば、Winter et al.,米国特許第5,624,821号;Tso et al.,米国特許第5,834,597号;及びLazar et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103:4005,2006を参照)、またはヒトでの半減期を延長するために(例えば、Hinton et al.,J.Biol.Chem.279:6213,2004を参照)、定常領域で行うことができる。
【0194】
いくつかの実施形態では、所望の抗体を構築するために、例示的な置換としては、アミノ酸位置234、235、237、239、267、298、299、326、330、または332に導入される、システイン残基への天然アミノ酸のアミノ酸置換、好ましくは、ヒトIgG1アイソタイプ中のS239C変異(ナンバリングは、EUインデックスに準拠(Kabat,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,MD,1987及び1991);US20100158909を参照(参照により本明細書に組み込まれる))が挙げられる。追加のシステイン残基の存在により、鎖間ジスルフィド結合が形成され得る。このような鎖間ジスルフィド結合の形成は、立体障害を引き起こす可能性があり、それによってFc領域とFcγRの結合相互作用の親和性が低下する。234位、235位、236位、及び/または237位のいずれかにおける他の置換は、Fcγ受容体、特にFcγRI受容体に対する親和性を低下させる(例えば、US6,624,821、US5,624,821を参照)。
【0195】
抗体のin vivo半減期も、そのエフェクター機能に影響を与え得る。抗体の半減期は、その治療活性を変化させるために延長または短縮することができる。FcRnは、β2-ミクログロブリンと非共有結合により会合するMHCクラスI抗原に構造的に類似した受容体である。FcRnは、IgGの異化作用及び組織全体でのトランスサイトーシスを調節する(Ghetie and Ward,2000,Annu.Rev.Immunol.18:739-766;Ghetie and Ward,2002,Immunol.Res.25:97-113)。IgG-FcRn相互作用は、pH6.0(細胞内小胞のpH)で発生するが、pH7.4(血液のpH)では発生せず、この相互作用により、IgGを循環に戻すことができる(Ghetie and Ward,2000,Ann.Rev.Immunol.18:739-766;Ghetie and Ward,2002,Immunol.Res.25:97-113)。FcRn結合に関与するヒトIgG1上の領域がマッピングされている(Shields et al.,2001,J.Biol.Chem.276:6591-604)。ヒトIgG1のPro238位、Thr256位、Thr307位、Gln311位、Asp312位、Glu380位、Glu382位、またはAsn434位でのアラニン置換は、FcRn結合を増強する(Shieldsetal.,2001,J.Biol.Chem.276:6591-604)。これらの置換を保有するIgG1分子は、長い血清半減期を有する。その結果、これらの修飾されたIgG1分子は、非修飾のIgG1と比較して、より長い期間にわたってエフェクター機能を実施できるため、治療効果を発揮し得る。FcRnへの結合を増加させるための他の例示的な置換としては、250位のGln及び/または428位のLeuが挙げられる。定常領域内のすべての位置に関しては、EUナンバリングが使用される。
【0196】
抗体の補体固定活性(C1q結合及びCDC活性の両方)は、Lys326及びGlu333における置換によって改善することができる(Idusogie et al.,2001,J.Immunol.166:2571-2575)。ヒトIgG2主鎖上での同じ置換は、C1qへの結合が弱く補体活性化活性が著しく欠損している抗体アイソタイプを、C1qの結合及びCDCの媒介が両方とも可能なアイソタイプに変換することができる(Idusogie et al.,2001,J.Immunol.166:2571-75)。抗体の補体固定活性を改善するために、いくつかの他の方法も適用されている。例えば、IgMの18アミノ酸のカルボキシル末端尾部ピースをIgGのカルボキシル末端に移植することにより、そのCDC活性が大幅に向上する。これは、通常、検出可能なCDC活性を持たないIgG4でも観察される(Smith et al.,1995,J.Immunol.154:2226-36)。また、IgG1重鎖のカルボキシ末端近くに位置するSer444をCysで置換することにより、IgG1の尾部から尾部への二量体化が誘導され、単量体IgG1よりもCDC活性が200倍増加した(Shopes et al.,1992,J.Immunol.148:2918-22)。さらに、C1qに特異性を有する二重特異性ダイアボディ構築物は、CDC活性も付与する(Kontermann et al.,1997,Nat.Biotech.15:629-31)。
【0197】
補体活性は、重鎖のアミノ酸残基318、320、及び322の少なくとも1つを、Alaなどの異なる側鎖を有する残基に変異させることによって低下させることができる。Gly、Ile、Leu、またはValなどの他のアルキル置換非イオン性残基、または3つの残基のうちのいずれか1つの代わりにあるPhe、Tyr、Trp、及びProなどの芳香族非極性残基も、C1q結合を減少させるかまたは無効にする。Ser、Thr、Cys、及びMetは、C1q結合活性を減少させるかまたは無効にするために、残基320及び322で使用できるが、318では使用できない。極性残基による318(Glu)残基の置換は、C1q結合活性を変更し得るが、無効にする可能性はない。残基297(Asn)をAlaに置き換えることにより、溶解活性が取り除かれるが、C1qに対する親和性はわずかに低下する(約3分の1になる)のみである。この変化は、グリコシル化部位と、補体活性化に必要な炭水化物の存在とを破壊する。この部位での任意の他の置換も、グリコシル化部位を破壊する。以下の変異及びそれらの任意の組み合わせもまた、C1q結合を減少させる:D270A、K322A、P329A、及びP311S(WO06/036291を参照)。
【0198】
ヒト定常領域への言及は、任意の天然のアロタイプまたは天然のアロタイプの多型位置を占める残基の置換を有する定常領域を含む。また、Fcγ受容体結合を減少させるか、またはFcRNへの結合を増加させるために、上に示したものなど、天然ヒト定常領域に対して最大1、2、5、または10個の変異が存在し得る。
【0199】
核酸、ベクター及び宿主細胞
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体は、組換え法を使用して調製される。したがって、いくつかの態様では、本発明は、本明細書に記載の抗体のいずれか(例えば、本明細書に記載のCDRのいずれか1つ以上)をコードする核酸配列を含む単離された核酸;そのような核酸を含むベクター;抗体をコードする核酸を複製するため及び/または抗体を発現するために使用される核酸が導入される宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、真核細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;またはヒト細胞である。
【0200】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド(例えば、単離されたポリヌクレオチド)は、本明細書に記載の抗体をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、本明細書に開示される1つ以上のアミノ酸配列(例えば、CDR、重鎖、軽鎖、及び/またはフレームワーク領域)をコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、本明細書に開示の配列(例えば、CDR、重鎖、軽鎖、またはフレームワーク領域配列)に対して、少なくとも85%の配列同一性(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性)を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0201】
さらなる態様では、本明細書に記載の抗体を作製する方法が提供される。いくつかの実施形態では、方法は、抗体の発現に好適である条件下で、本明細書に記載の宿主細胞(例えば、本明細書に記載のポリヌクレオチドまたはベクターを発現する宿主細胞)を培養することを含む。いくつかの実施形態では、抗体は、その後、宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収する。
【0202】
本開示の抗体またはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドを含む好適なベクターとしては、クローニングベクター及び発現ベクターが挙げられる。選択されるクローニングベクターは、使用することを意図する宿主細胞に応じて異なり得るが、有用なクローニングベクターは、一般に自己複製能力を有しており、特定の制限エンドヌクレアーゼに対して単一の標的を有してもよく、及び/またはベクターを含むクローンの選択に使用できるマーカーの遺伝子を有してもよい。例には、プラスミド及び細菌ウイルス、例えば、pUC18、pUC19、Bluescript(例えば、pBS SK+)及びその誘導体、mp18、mp19、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージDNA、ならびにpSA3及びpAT28などのシャトルベクターが挙げられる。クローニングベクターは、BioRad、Stratagene、Invitrogenなどの商用ベンダーから入手できる。
【0203】
発現ベクターは、一般に、本開示の核酸を含む複製可能なポリヌクレオチド構築物である。発現ベクターは、宿主細胞内でエピソームとして、または染色体DNAの不可欠な部分として複製することができる。好適な発現ベクターとしては、これらに限定されないが、プラスミド、ウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、及び任意の他のベクターが挙げられる。
【0204】
組換え抗体の発現
抗体は、典型的には、組換え発現によって産生される。組換えポリヌクレオチド構築物は、典型的には、抗体鎖のコード配列に動作可能に連結された発現制御配列を含み、天然関連または異種プロモーター領域を含む。好ましくは、発現制御配列は、真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトできるベクター中の真核プロモーター系である。ベクターが適切な宿主に組み込まれると、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベル発現、ならびに交差反応抗体の収集及び精製に好適な条件下で維持される。
【0205】
哺乳動物細胞は、免疫グロブリンまたはそのフラグメントをコードするヌクレオチドセグメントを発現するための好ましい宿主である。Winnacker,From Genes to Clones,(VCH Publishers,NY,1987)を参照されたい。インタクト異種タンパク質を分泌できる複数の好適な宿主細胞株が当技術分野で開発されており、CHO細胞株(例えば、DG44)、様々なCOS細胞株、HeLa細胞、HEK293細胞、L細胞、及び非抗体産生骨髄腫、例えばSp2/0及びNS0などが挙げられる。好ましくは、細胞は、非ヒトである。これらの細胞の発現ベクターは、複製起点、プロモーター、エンハンサーなどの発現制御配列(Queen et al.,Immunol、Rev.89:49(1986))、及びリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写ターミネーター配列などの必要な処理情報部位を含むことができる。好ましい発現制御配列は、内因性遺伝子、サイトメガロウイルス、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルスなどに由来するプロモーターである。Co et al.,J.Immunol.148:1149(1992)を参照されたい。
【0206】
一旦発現すると、抗体は、HPLC精製、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動など、当技術分野の標準手順に従って精製することができる(概して、Scopes,Protein Purification(Springer-Verlag,NY,1982)を参照)。
【0207】
抗体の特徴付け
結合親和性、結合動態、及び交差反応性を分析するための方法は、当技術分野で知られている。例えば、Ernst et al.,Determination of Equilibrium Dissociation Constants,Therapeutic Monoclonal Antibodies(Wiley&Sons ed.2009)を参照されたい。これらの方法としては、これらに限定されないが、固相結合アッセイ(例えば、ELISAアッセイ)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴(SPR、例えば、Biacore(商標)(GE Healthcare,Piscataway,NJ)、結合平衡除外法(例えば、KinExA(登録商標))、フローサイトメトリー、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、BioLayer干渉法(例えば、Octet(商標)(ForteBio,Inc.,Menlo Park,CA))、及びウエスタンブロット分析が挙げられる。SPR技術は、例えば、Hahnfeld et al. Determination of Kinetic Data Using SPR Biosensors,Molecular Diagnosis of Infectious Diseases(2004)に概説されている。典型的なSPR実験では、1つの相互作用物質(標的または標的化剤)がフローセル内のSPR活性な金コーティングガラススライド上に固定され、他の相互作用物質を含むサンプルが導入されて表面を流れる。特定の波長の光が表面に照射されると、金の光反射率の変化が結合及び結合の動態を示す。いくつかの実施形態では、結合平衡除外法を使用して親和性を決定する。この技術は、例えば、Darling et al.,Assay and Drug Development Technologies Vol.2,number 6 647-657(2004)に記載されている。いくつかの実施形態では、BioLayer干渉法アッセイが、親和性を決定するために使用される。この技術は、例えば、Wilson et al.,Biochemistry and Molecular Biology Education,38:400-407(2010);Dysinger et al.,J.Immunol.Methods,379:30-41(2012)に記載されている。
【0208】
V.治療方法
いくつかの実施形態では、対象におけるがんを治療するための方法が提供される。いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含む。
【0209】
いくつかの実施形態では、本方法は、低レベルのPD-L1を発現するがんが、抗TIGIT抗体によって、抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体と組み合わせて治療することができるという驚くべき知見に部分的に基づく。抗TIGIT抗体と抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体との相乗効果により、抗PD1抗体またはPD-L1抗体を用いて、現在承認された単剤療法が存在しないがんの治療が可能となる。
【0210】
例えば、表2には、特定の抗PD-1抗体を用いた特定のがんの治療に関する治療投与レベル、PD-L1発現レベル、及び変異状態を示す。表3には、特定の抗PD-L1抗体を用いた特定のがんの治療に関する治療投与レベル、PD-L1発現レベル、及び変異状態を示す。これらの表で確認できるように、このような抗体の多くは、特定の閾値を下回るPD-L1レベルを発現するがんを有する対象には承認されず、また、特定の変異を含むがんを有する対象には承認されない。以下により詳細に記載のとおり、本明細書で提供される方法は、承認されたカットオフまたは閾値レベルを下回るレベルでPD-L1を発現する腫瘍を有する患者、抗PD1抗体または抗PD-L1抗体による治療に対する応答性を低下させる、表に列記されているような変異を有する患者を治療するため、及び/または表に列記されている承認用量を下回る抗PD1抗体または抗PD-L1抗体の用量で患者を治療するために、使用することができる。
【0211】
例えば、いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体は、表2及び/または表3に記載の用量などの治療用量で投与されるが、他の実施形態では、抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体は、表2及び/または表3に記載される用量よりも少ない用量及び/または頻度が少ない用量などの治療量以下の用量で投与され得る。いくつかの実施形態では、本方法は、表2及び/または表3に記載の治療などの特定の治療から対象を排除する結果となる変異を含むがんを有する対象を治療する。
【0212】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、表2及び/または表3に記載された治療が利用できないがんを有する対象の治療を提供する。これらの方法は、PD-L1レベルの閾値及び投薬などに関して、以下でより詳細に論じる。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0213】
いくつかの実施形態では、対象におけるがんを治療するための方法が提供される。いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、がんのサンプル中のPD-L1のレベルは、CPS(Combined Positive Score)によって測定したときに10未満であるか、またはTPS(Total Proportion Score)によって測定したときに50%未満であるか、またはTPS(Total Proportion Score)によって測定したときに50%未満であるか、またはTC(Tumor Cellスコア)によって測定したときに50%未満であるか、または腫瘍浸潤免疫細胞染色(IC)によって測定したときに10%未満であり、ここで、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含む。
【0214】
いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体は、治療量以下の用量で投与される。
【0215】
いくつかの実施形態では、本方法は、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を、がんを有する対象に投与することを含み、抗TIGIT抗体は、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、ここで、がんは、小細胞肺癌、早期小細胞肺癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、トリプルネガティブ乳癌、胃癌、肝細胞癌、神経膠芽腫、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、及び高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌から選択される。いくつかの実施形態では、本方法は、尿路上皮癌の第1選択治療である。
【0216】
いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に、(1)抗TIGIT抗体、及び(2)抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体を投与することを含み、抗TIGIT抗体が、増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含み、がんが、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の有効性を低下させる変異を含む。
【0217】
いくつかの実施形態では、本方法は、抗PD-1抗体及び抗PD-L1抗体を、がんを有する対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に抗PD-1抗体を投与するが、抗PD-L1抗体は投与しないことを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、がんを有する対象に抗PD-L1抗体を投与するが、抗PD-1抗体は投与しないことを含む。
【0218】
PD-L1閾値レベル
いくつかの実施形態では、がんは、CPSによって測定された場合、10未満、5未満、または3未満、または1未満のPD-L1レベルを含む。いくつかの実施形態では、がんは、CPSによって測定された場合、0~10、または1~10、または3~10、または5~10、または0~7、または1~7、または3~7、または0~5、または1~5、または3~5、または0~3、または1~3であるPD-L1レベルを含む。
【0219】
いくつかの実施形態では、がんは、TPSによって測定された場合、50%未満、または40%未満、または30%未満、または20%未満、または10%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満であるPD-L1レベルを含む。いくつかの実施形態では、がんは、TPSにより測定された場合、0%~50%、または1%~50%、または3%~50%、または5%~50%、または10%~50%、または20%~50%、または0%~30%、または1%~30%、または3%~30%、または5%~30%、または10%~30%、または0%~20%、または3%~20%、または5%~20%であるPD-L1のレベルを含む。
【0220】
いくつかの実施形態では、がんは、TCによって測定された場合、50%未満、または40%未満、または30%未満、または20%未満、または10%未満、または5%未満、または3%未満、または1%未満であるPD-L1レベルを含む。いくつかの実施形態では、がんは、TCにより測定された場合、0%~50%、または1%~50%、または3%~50%、または5%~50%、または10%~50%、または20%~50%、または0%~30%、または1%~30%、または3%~30%、または5%~30%、または10%~30%、または0%~20%、または3%~20%、または5%~20%であるPD-L1のレベルを含む。
【0221】
いくつかの実施形態では、がんは、ICによって測定された場合、10%未満、5%未満、または3%未満、または1%未満のPD-L1レベルを含む。いくつかの実施形態では、がんは、ICによって測定された場合、0%~10%、または1%~10%、または3%~10%、または5%~10%、または0%~7%、または1%~7%、または3%~7%、または0%~5%、または1%~5%、または3%~5%、または0%~3%、または1%~3%であるPD-L1レベルを含む。
【0222】
抗TIGIT抗体及び抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の投与
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、治療量以下の用量で投与されるが、抗PD-L1抗体は投与されない。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、治療量以下の用量で投与されるが、抗PD-1抗体は投与されない。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体及び抗PD-1抗体のそれぞれは、治療量以下の用量で投与される。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、治療量以下の用量で投与される。
【0223】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の治療量以下の用量は、a)治療されるがんについての抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療されるがんについての単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で抗体を投与することを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体の治療量以下の用量は、a)治療されるがんについての抗TIGIT抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療されるがんの単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で抗TIGIT抗体を投与することを含む。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体の治療量以下の用量は、a)治療されるがんについての抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療されるがんについての単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で抗体を投与することを含み、抗TIGIT抗体の治療量以下の用量は、a)治療されるがんについての抗TIGIT抗体の単剤療法の用量よりも少なく、及び/またはb)治療されるがんの単剤療法の投与頻度よりも少ない投与頻度で抗TIGIT抗体を投与することを含む。
【0224】
いくつかの実施形態では、抗体の治療量以下の用量は、治療されるがんの抗体の単剤療法の用量よりも少ない用量を含む。いくつかの実施形態では、治療量以下の用量は、治療されるがんについての単剤療法の5%~90%、または5%~80%、または5%~70%、または5%~60%、または5%~50%、または5%~40%、または5%~30%、または10%~90%、または10%~80%、または10%~70%、または10%~60%、または10%~50%、または10%~40%、または10%~30%、または20%~90%、または20%~80%、または20%~70%、または20%~60%、または20%~50%、または20%~40%、または20%~30%、または30%~90%、または50%~80%、または30%~70%、または30%~60%、または30%~50%、または30%~40%、または40%~90%、または40%~80%、または40%~70%、または40%~60%、または40%~50%、または50%~90%、または50%~80%、または50%~70%、または50%~60%である抗体の用量である。
【0225】
いくつかの実施形態では、治療量以下の用量は、抗体の単剤療法の投与よりも少ない頻度である抗体の投与である。いくつかの実施形態では、単剤療法の投与が毎週である場合、治療量以下の投与のために、抗体は、10日ごと、または2週間ごと、または3週間ごと、または4週間ごと、または1ヶ月ごと、またはさらに少ない頻度で投与される。いくつかの実施形態では、単剤療法の投与が2週間ごとである場合、治療量以下の投与のために、抗体は、3週間ごと、または4週間ごと、1ヶ月ごと、または5週間ごと、または6週間ごと、またはさらに少ない頻度で投与される。いくつかの実施形態では、単剤療法の投与が3週間ごとである場合、治療量以下の投与のために、抗体は、4週間ごと、または1ヶ月ごと、または5週間ごと、または6週間ごと、または8週間ごと、または2ヶ月ごと、または10週間ごと、または12週間ごと、または3ヶ月ごと、またはさらに少ない頻度で投与される。いくつかの実施形態では、単剤療法の投与が4週間ごとである場合、治療量以下の投与のために、抗体は、5週間ごと、または6週間ごと、または8週間ごと、または2ヶ月ごと、または10週間ごと、または12週間ごと、または3ヶ月ごと、または14週間ごと、または16週間ごと、または4ヶ月ごと、またはさらに少ない頻度で投与される。
【0226】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに240mg未満、3週間ごとに200mg未満、3週間ごとに350mg未満、3週間ごとに360mg未満、4週間ごとに480mg未満、または6週間ごとに400mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに200mg未満、3週間ごとに150mg未満、3週間ごとに300mg未満、3週間ごとに320mg未満、4週間ごとに420mg未満、または6週間ごとに350mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに150mg未満、3週間ごとに120mg未満、3週間ごとに250mg未満、3週間ごとに280mg未満、4週間ごとに360mg未満、または6週間ごとに300mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに100mg未満、3週間ごとに80mg未満、3週間ごとに200mg未満、3週間ごとに240mg未満、4週間ごとに320mg未満、または6週間ごとに250mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに50mg未満、3週間ごとに60mg未満、3週間ごとに150mg未満、3週間ごとに200mg未満、4週間ごとに240mg未満、または6週間ごとに200mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに25mg未満、3週間ごとに20mg未満、3週間ごとに100mg未満、3週間ごとに120mg未満、4週間ごとに180mg未満、6週間ごとに160mg未満である。
【0227】
いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブであり、ペムブロリズマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、200mgまたは400mgである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ニボルマブであり、ニボルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、240mg、360mg、または480mgである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、セミプリマブであり、セミプリマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、350mgである。
【0228】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに240mg、3週間ごとに200mg、3週間ごとに350mg、3週間ごとに360mg、4週間ごとに480mg、または6週間ごとに400mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、4週間ごとに240mg、6週間ごとに200mg、6週間ごとに350mg、6週間ごとに360mg、8週間ごとに480mg、または12週間ごとに400mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、6週間ごとに240mg、9週間ごとに200mg、9週間ごとに350mg、9週間ごとに360mg、12週間ごとに480mg、または18週間ごとに400mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、8週間ごとに240mg、12週間ごとに200mg、12週間ごとに350mg、12週間ごとに360mg、16週間ごとに480mg、または24週間ごとに400mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体についての治療量以下の用量は、10週間ごとに240mg、15週間ごとに200mg、15週間ごとに350mg、15週間ごとに360mg、20週間ごとに480mg、または30週間ごとに400mgより低い頻度である。
【0229】
いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブであり、ペムブロリズマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の投与頻度は、3週間ごとまたは6週間ごとである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブであり、ペムブロリズマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、3週間ごとに200mg、または6週間ごとに400mgである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ニボルマブであり、ニボルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の投与頻度は、2週間ごと、3週間ごと、または4週間ごとである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ニボルマブであり、ニボルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、2週間ごとに240mg、3週間ごとに360mg、または4週間ごとに480mgである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、セミプリマブであり、セミプリマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の投与頻度は、3週間ごとである。
【0230】
いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに800mg未満、2週間ごとに840mg未満、3週間ごとに1,200mg未満、3週間ごとに1,500mg未満、または4週間ごとに1,680mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに600mg未満、2週間ごとに620mg未満、3週間ごとに800mg未満、3週間ごとに1,000mg未満、または4週間ごとに1,240mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに400mg未満、2週間ごとに410mg未満、3週間ごとに400mg未満、3週間ごとに500mg未満、または4週間ごとに820mg未満である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに200mg未満、3週間ごとに200mg未満、3週間ごとに250mg未満、または4週間ごとに410mg未満である。
【0231】
いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、アベルマブであり、アベルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、800mgである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、デュルバルマブであり、デュルバルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、10mg/kgまたは1,500mgである。
【0232】
いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、2週間ごとに800mg、2週間ごとに840mg、3週間ごとに1,200mg、3週間ごとに1,500mg、または4週間ごとに1,680mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、4週間ごとに800mg、4週間ごとに840mg、6週間ごとに1,200mg、6週間ごとに1,500mg、または8週間ごとに1,680mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、6週間ごとに800mg、6週間ごとに840mg、9週間ごとに1,200mg、9週間ごとに1,500mg、または12週間ごとに1,680mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、8週間ごとに800mg、8週間ごとに840mg、12週間ごとに1,200mg、12週間ごとに1,500mg、または16週間ごとに1,680mgより低い頻度である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体についての治療量以下の用量は、10週間ごとに800mg、10週間ごとに840mg、15週間ごとに1,200mg、15週間ごとに1,500mg、または20週間ごとに1,680mgより低い頻度である。
【0233】
いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブであり、アテゾリズマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、840mg、1,200mg、または1,680mgである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、アベルマブであり、アベルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の投与頻度は、2週間ごとである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、デュルバルマブであり、デュルバルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の投与頻度は、2週間ごとまたは4週間ごとである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、デュルバルマブであり、デュルバルマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、2週間ごとに10mg/kg mg、または4週間ごとに1,500mgである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブであり、アテゾリズマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の投与頻度は、2週間ごと、3週間ごと、または4週間ごとである。いくつかの実施形態では、方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブであり、アテゾリズマブは、単剤療法の用量または単剤療法の用量よりも少ない治療量以下の用量(例えば、本明細書で提供されるパーセンテージ内または減少された用量または頻度)で投与され、単剤療法の用量は、2週間ごとに840mg、3週間ごとに1,200mg、または4週間ごとに1,680mgである。
【0234】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体の治療量以下の用量は、治療されるがんの抗TIGIT抗体の単剤療法の用量よりも少ない用量を含む。いくつかの実施形態では、治療量以下の用量は、治療されるがんについての単剤療法の5%~90%、または5%~80%、または5%~70%、または5%~60%、または5%~50%、または5%~40%、または5%~30%、または10%~90%、または10%~80%、または10%~70%、または10%~60%、または10%~50%、または10%~40%、または10%~30%、または20%~90%、または20%~80%、または20%~70%、または20%~60%、または20%~50%、または20%~40%、または20%~30%、または30%~90%、または50%~80%、または30%~70%、または30%~60%、または30%~50%、または30%~40%、または40%~90%、または40%~80%、または40%~70%、または40%~60%、または40%~50%、または50%~90%、または50%~80%、または50%~70%、または50%~60%である抗TIGIT抗体の用量である。
【0235】
しかし、投与量は、いくつかの要因、例えば、選択された投与経路、組成物の製剤、患者の応答、状態の重症度、対象の体重、及び処方医の判断に応じて変動し得る。投与量は、個々の患者の必要に応じて、時間の経過とともに増加または減少させることができる。いくつかの実施形態では、患者は、最初に低用量が投与され、その後、患者が耐えられる高用量まで増加させる。いくつかの実施形態では、患者には最初により高い用量が投与され、その後、この用量をより少ない用量まで減少させる。
【0236】
例示的適応症
いくつかの実施形態では、がんは、膀胱癌、乳癌、トリプルネガティブ乳癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、食道癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、消化器癌(gastrointestinal cancer)、胃癌(gastric cancer)、膵臓癌、大腸癌、高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌、結腸癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎明細胞癌、頭頸部癌、神経膠芽腫、肺癌、小細胞肺癌、初期段階小細胞肺癌、肺腺癌、胃癌、胚細胞癌、骨癌、肝臓癌、肝細胞癌、甲状腺癌、皮膚癌、黒色腫、中枢神経系の新生物、中皮腫、リンパ腫、白血病、慢性リンパ性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄腫、または肉腫である。いくつかの実施形態では、がんは、胃癌、精巣癌、膵臓癌、肺腺癌、膀胱癌、尿路上皮癌、頭頸部癌、頭頸部扁平上皮癌、前立腺癌、中皮腫、及び腎明細胞癌から選択される。いくつかの実施形態では、がんは、これらに限定されないが、例えば、急性骨髄性、慢性骨髄性、急性リンパ性または慢性リンパ球性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫、脾辺縁帯B細胞リンパ腫、または結節外辺縁帯B細胞リンパ腫などのリンパ腫または白血病である。いくつかの実施形態では、がんは、大腸癌、結腸癌、腎臓癌、または明細胞腎癌である。いくつかの実施形態では、がんは、転移性癌である。
【0237】
いくつかの実施形態では、がんは、小細胞肺癌、早期小細胞肺癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、トリプルネガティブ乳癌、胃癌、肝細胞癌、神経膠芽腫、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道扁平上皮癌(ESCC)、及び高頻度非マイクロサテライト不安定性(non-MSI high)大腸癌から選択される。
【0238】
いくつかの実施形態において、がんは、非小細胞肺癌である。
【0239】
いくつかの実施形態では、がんは、多くの場合、T細胞応答を駆動するためのより多くの抗原を有するので、高い腫瘍変異負荷を有するがんである。したがって、いくつかの実施形態では、がんは、肺癌、黒色腫、膀胱癌、または胃癌(gastric cancer)などの変異負荷の高いがんである。いくつかの実施形態では、がんは、マイクロサテライト不安定性を有する。
【0240】
いくつかの実施形態では、
a)がんが非小細胞肺癌であり、かつTPS<1%である;
b)がんが頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)であり、CPS<1である;
c)がんが尿路上皮癌であり、かつCPS<10である;
d)がんが胃癌であり、かつCPS<1である;
e)がんが食道癌であり、かつCPS<10である;
f)がんが子宮頸癌であり、かつCPS<1である;または
g)がんがトリプルネガティブ乳癌であり、かつCPSが<10である。
【0241】
いくつかの実施形態では、
a)がんが、尿路上皮癌であり、かつIC<5%である;
b)がんが、トリプルネガティブ乳癌であり、かつIC<1%である;または
c)がんが、非小細胞肺癌であり、かつIC<10%である。
【0242】
いくつかの実施形態では、がんは、非小細胞肺癌であり、TPSは、50%未満である。
【0243】
いくつかの実施形態では、方法は、尿路上皮癌の第1選択治療である。
【0244】
いくつかの実施形態では、がんは、抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体の有効性を低下させる変異を含む。いくつかの実施形態では、がんは、抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体のそれぞれの有効性を低下させる変異を含む。いくつかの実施形態では、がんは、抗PD-1抗体の有効性を低下させるが、抗PD-L1抗体の有効性は低下させない変異を含む。いくつかの実施形態では、がんは、抗PD-L1抗体の有効性を低下させるが、抗PD-L1抗体の有効性は低下させない変異を含む。いくつかの実施形態では、がんは、抗TIGIT抗体の有効性を低下させる変異を含む。
【0245】
いくつかの実施形態において、がんは、EGFR遺伝子における変異及び/またはALK遺伝子における変異及び/またはROS1遺伝子における変異を含む。いくつかの実施形態において、がんは、EGFR遺伝子における変異及び/またはALK遺伝子における変異を含む。いくつかの実施形態では、がんは、EGFR遺伝子における変異及びALK遺伝子における変異を含むが、ROS1遺伝子における変異は含まない。いくつかの実施形態では、がんは、EGFR遺伝子における変異及びROS1遺伝子における変異を含むが、ALK遺伝子における変異は含まない。いくつかの実施形態では、がんは、ALK遺伝子における変異及びROS1遺伝子における変異を含むが、EGFR遺伝子における変異は含まない。いくつかの実施形態では、がんは、EGFR遺伝子における変異を含むが、ALK遺伝子における変異またはROS1遺伝子における変異は含まない。いくつかの実施形態では、がんは、ALK遺伝子における変異を含むが、EGFR遺伝子における変異またはROS1遺伝子における変異は含まない。いくつかの実施形態では、がんは、ROS1遺伝子における変異を含むが、ALK遺伝子における変異またはEGFR遺伝子における変異は含まない。
【0246】
さらなる例示的な実施形態
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、FcγRIIIa、FcγRIIa、及びFcγRIのうちの少なくとも1つに対する結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、FcγRIIIa、FcγRIIa、及びFcγRIのそれぞれに対する結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIIaへの結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、少なくともFcγRIIIa及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、少なくともFcγRIIa及びFcγRIへの結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、少なくともFcγRIIIaへの結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、少なくともFcγRIIaへの結合が増強されているFcを含む。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、少なくともFcγRIへの結合が増強されているFcを含む。
【0247】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体のFcは、1つ以上の阻害性FcγRへの結合が減少している。
【0248】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体のFcは、FcγRIIbへの結合が減少している。
【0249】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、重鎖定常領域内に置換S293D、A330L、及びI332Eを含む。
【0250】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、非フコシル化抗体である。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、抗TIGIT抗体の組成物に含まれ、組成物中の少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の抗TIGIT抗体が、非フコシル化抗体である。
【0251】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体のFcは、同じアイソタイプの対応する野生型Fcと比較して、増強されたADCC及び/またはADCP活性を有するFcを含む。
【0252】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体が、
(a)配列番号7~9から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1;
(b)配列番号10~13から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2;
(c)配列番号14~16から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3;
(d)配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1;
(e)配列番号18のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2;及び
(f)配列番号19のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を含む。
【0253】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体が、
(a)それぞれ、配列番号7、10、14、17、18及び19;または
(b)それぞれ、配列番号8、11、14、17、18及び19;または
(c)それぞれ、配列番号9、12、15、17、18及び19;または
(d)それぞれ、配列番号8、13、16、17、18及び19;または
(e)それぞれ、配列番号8、12、16、17、18及び19
の配列を含む重鎖CDR1、CDR2、及びCDR3と、軽鎖CDR1、CDR、及びCDR3とを含む。
【0254】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体が、配列番号1~5から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、を含む。
【0255】
いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、配列番号20~24から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号25のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。
【0256】
いくつかの実施形態では、本方法は、抗PD-1抗体または複数の抗PD-1抗体を投与することを含む。
【0257】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、CT-011、BGB-A317、セミプリマブ、シンチリマブ、チスレリズマブ、TSR-042、PDR001、またはトリパリマブから選択され、または複数の抗PD-1抗体はそれぞれ独立してそれらから選択される。
【0258】
いくつかの実施形態では、本方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブまたはニボルマブである。いくつかの実施形態では、本方法は、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、セミプリマブである。いくつかの実施形態では、本方法は、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブである。
【0259】
いくつかの実施形態では、本方法は、抗PD-L1抗体または複数の抗PD-L1抗体を投与することを含む。
【0260】
いくつかの実施形態では、抗PD-L1抗体は、デュルバルマブ、BMS-936559、アテゾリズマブまたはアベルマブから選択され、または複数の抗PD-L1抗体はそれぞれ独立してそれらから選択される。
【0261】
いくつかの実施形態では、方法が、抗PD-1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-1抗体は、ペムブロリズマブまたはニボルマブである;または方法が、抗PD-L1抗体を投与することを含み、ここで、抗PD-L1抗体が、アテゾリズマブである。
【0262】
様々な実施形態では、抗TIGIT抗体は、制御性T(Treg)細胞を枯渇させ、抗原提示細胞(APC)を活性化し、CD8T細胞応答を増強し、共刺激受容体を上方制御し、及び/または免疫活性化サイトカイン(CXCL10及び/またはIFNγ)の放出を促進する。いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体は、免疫抑制サイトカイン(IL10及び/またはMDCなど)よりも高い程度で免疫活性化サイトカインの放出を促進する。
【0263】
抗TIGIT抗体、抗PD-1抗体、及び/または抗PD-L1抗体は、同時投与または逐次投与することができる。逐次投与の場合、抗TIGIT抗体、抗PD-1抗体、及び抗PD-L1抗体のうちの1つの少なくとも第1の投与は、抗TIGIT抗体、抗PD-1抗体、及び抗PD-L1抗体のうちの別の1つの少なくとも第1の投与の前に行うことができる。同時投与の場合、いくつかの実施形態では、抗TIGIT抗体、抗PD-1抗体及び抗PD-L1抗体のうちの1つの少なくとも第1の投与、ならびに抗TIGIT抗体、抗PD-1抗体及び抗PD-L1抗体のうちの別の1つの少なくとも第1の投与は、別個の医薬組成物として、または同じ医薬組成物中において投与され得る。
【0264】
医薬組成物の投与経路は、経口、腹腔内、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、吸入、局所、病変内、直腸、気管支内、経鼻、経粘膜、腸、眼または耳への送達、または当分野で知られている任意の他の方法であり得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の治療剤が、経口、静脈内、または腹腔内に投与される。
【0265】
抗TIGIT抗体、抗PD-1抗体、及び/または抗PD-L1抗体のいずれかなどの共投与される治療剤は、一緒にまたは別々に、同時にまたは異なる時点で投与することができる。投与する場合、治療剤は独立して、必要に応じて、1日1回、2回、3回、4回、またはそれより多く、またはそれより少ない頻度で投与することができる。いくつかの実施形態では、投与される治療剤は、1日1回投与される。いくつかの実施形態では、投与される治療剤は、例えば混合物として同時に(複数可)投与される。いくつかの実施形態では、治療剤のうちの1つ以上が持続放出製剤中で投与される。
【0266】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される併用療法のいずれかは、長期間にわたって、例えば、少なくとも30日、40日、50日、60日、70日、80日、90日、100日、150日、200日、250日、300日、350日、またはそれ以上の間、対象に投与される。
【0267】
例示的な有効性の結果
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の併用療法の少なくとも一部で観察される活性の増強は、対応する単剤療法治療と比較して特定の利点を有する。例えば、いくつかの実施形態では、併用療法は、単剤療法として投与された場合の成分抗体のいずれかと同等の毒性プロファイルを有する。いくつかの実施形態では、併用療法の投与は、単剤療法として投与された場合の任意の成分抗体と比較してより長い応答期間をもたらす。いくつかの実施形態では、併用療法の投与は、単剤療法として投与した場合の成分抗体のいずれかと比較して、より長い無増悪生存期間をもたらす。いくつかの実施形態では、併用療法の投与は、併用療法の成分抗体のいずれかを用いた単剤療法治療後に再発する再発がんを治療するために使用できる。
【0268】
VI.組成物及びキット
別の態様では、対象におけるがんの治療または予防に使用するための組成物及びキットが提供される。
【0269】
医薬組成物
いくつかの実施形態では、本方法で使用するための医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、(1)抗TIGIT抗体、ならびに(2)抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体のうちの少なくとも1つが、第1の医薬組成物中で投与され、(1)抗TIGIT抗体、ならびに(2)抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体のうちの少なくとも別の1つが、第2の医薬組成物中で投与される。いくつかの実施形態では、(1)抗TIGIT抗体、ならびに(2)抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体は、単一の医薬組成物中で投与される。
【0270】
本発明で使用するための製剤を調製するためのガイダンスは、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Ed.,2006、上記;Martindale:The Complete Drug Reference,Sweetman,2005,London:Pharmaceutical Press;Niazi,Handbook of Pharmaceutical Manufacturing Formulations,2004,CRC Press;及びGibson,Pharmaceutical Preformulation and Formulation:A Practical Guide from Candidate Drug Selection to Commercial Dosage Form,2001,Interpharm Pressに記載され、これらは、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の医薬組成物は、当業者に知られている方法、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、乳化、封入、捕捉または凍結乾燥プロセスによって製造することができる。以下の方法及び賦形剤は単なる例示であり、決して限定するものではない。
【0271】
いくつかの実施形態では、1つ以上の治療剤が、持続放出、制御放出、延長放出、時限放出、または遅延放出製剤で、例えば、治療剤を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックス中で送達するために調製される。様々なタイプの持続放出材料が確立されており、当業者に周知である。現在の延長放出製剤としては、フィルムコーティング錠、多粒子またはペレットシステム、親水性または親油性材料を使用したマトリックス技術、及び細孔形成賦形剤を含むワックスベース錠剤が挙げられる(例えば、Huang,et al.Drug Dev.Ind.Pharm.29:79(2003);Pearnchob,et al.Drug Dev.Ind.Pharm.29:925(2003);Maggi,et al.Eur.J.Pharm.Biopharm.55:99(2003);Khanvilkar,et al.,Drug Dev.Ind.Pharm.228:601(2002);及びSchmidt,et al.,Int.J.Pharm.216:9(2001)を参照されたい)。持続放出送達システムは、その設計に応じて、数時間または数日にわたって、例えば、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、16時間、20時間、24時間、またはそれ以上にわたって化合物を放出することができる。通常、持続放出製剤は、天然または合成ポリマー、例えば、高分子ビニルピロリドン、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP);カルボキシビニル親水性ポリマー;疎水性及び/または親水性親水コロイド、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース;及びカルボキシポリメチレンを使用して調製できる。
【0272】
経口投与の場合、治療剤は、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって容易に製剤化され得る。そのような担体は、化合物を、治療される患者による経口摂取のために、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、エマルジョン、親油性及び親水性の懸濁液、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして製剤化することができる。経口使用のための医薬組成物は、化合物を固形賦形剤と混合することによって得ることができ、任意に、所望される場合、好適な補助剤を添加した後、結果として得られる混合物を粉砕し、顆粒の混合物を処理して、錠剤または糖衣錠芯を得る。好適な賦形剤としては、例えば、フィラー、例えば、糖類、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトール;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/またはポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。所望の場合、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、またはアルギン酸もしくはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤が添加され得る。
【0273】
治療剤は、ボーラス注射または継続的注入によるなど、注射による非経口投与用に製剤化され得る。注射用に、化合物(複数可)は、水性または非水性溶媒、例えば、植物性または他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステルまたはプロピレングリコール;及び必要ならば、可溶化剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤及び保存剤などの通常使用されている添加剤と共に、溶解、懸濁または乳化させることによって調製物中に製剤化することができる。いくつかの実施形態では、化合物は、水溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水緩衝液などの生理学的に適合する緩衝液中で製剤化することができる。注射用製剤は、単位剤形で、例えばアンプル中で提供することができ、または多用量容器に、保存剤を加えて提供することができる。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクル中の懸濁液、溶液または乳濁液のような形態を取ることができ、懸濁化剤、安定剤及び/または分散剤のような製剤化剤を含むことができる。
【0274】
治療剤は、経粘膜または経皮手段によって全身投与することができる。経粘膜または経皮投与のために、浸透させる障壁に適切な浸透剤が製剤中に使用される。局所投与のために、剤は、軟膏剤、クリーム、軟膏、粉末及びゲルに製剤化される。一実施形態では、経皮送達剤は、DMSOであり得る。経皮送達システムには、例えばパッチが含まれ得る。経粘膜投与のために、浸透すべき障壁に適切な浸透剤が製剤に使用される。そのような浸透剤は、当技術分野で一般的に知られている。例示的な経皮送達製剤としては、米国特許第6,589,549号;同第6,544,548号;同第6,517,864号;同第6,512,010号;同第6,465,006号;同第6,379,696号;同第6,312,717号及び同第6,310,177号に記載されているものが挙げられ、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0275】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、許容される担体及び/賦形剤を含む。薬学的に許容される担体としては、生理学的に適合性があり、好ましくは治療剤の活性と干渉しないかまたは他の方法で阻害しない任意の溶媒、分散媒、またはコーティングが含まれる。いくつかの実施形態では、担体は、静脈内、筋肉内、経口、腹腔内、経皮、局所、または皮下投与に好適である。薬学的に許容される担体は、例えば、組成物を安定化する、または活性剤(複数可)の吸収を増加または減少させる働きをする、1つ以上の生理学的に許容される化合物を含むことができる。生理学的に許容される化合物としては、例えば、グルコース、スクロース、またはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸またはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質、活性剤のクリアランスまたは加水分解を減少させる組成物、または賦形剤または他の安定剤及び/または緩衝剤を挙げることができる。他の薬学的に許容される担体及びそれらの製剤は周知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,Philadelphia,PA. Lippincott Williams&Wilkins,2005に一般的に記載されている。様々な薬学的に許容される賦形剤が当技術分野で周知であり、例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients(5th ed.,Ed.Rowe et al.,Pharmaceutical Press,Washington,D.C.)に記載されている。
【0276】
本開示の医薬組成物の投与量及び所望の濃度は、想定される特定の使用に応じて異なり得る。適切な投与量または投与経路の決定は、十分に当業者の技術の範囲内である。好適な投与量は本明細書にも記載されている。
【0277】
キット
いくつかの実施形態では、がんを有する対象の治療に使用するためのキットが提供される。いくつかの実施形態では、キットは、以下を含む:
本明細書で提供される抗TIGIT抗体、及び
本明細書で提供される抗PD-1抗体及び/または抗PD-L1抗体。
【0278】
いくつかの実施形態では、キットは、本発明の方法を実施するための指示(すなわち、プロトコル)(例えば、がんを治療するためにキットを使用するための指示)を含む説明資料をさらに含むことができる。説明資料は、一般的に、書面または印刷資料を含むが、これらに限定されない。そのような指示を格納し、それらをエンドユーザーに伝達することができる任意の媒体が、本発明によって企図される。そのような媒体としては、これらに限定されないが、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)などが挙げられる。そのような媒体としては、そのような説明資料を提供するインターネットサイトへのアドレスが含まれてもよい。
【実施例】
【0279】
以下に論じられる実施例は、単に本発明の例示となるよう意図されており、決して本発明を限定するものと見なされるべきではない。実施例は、以下の実験が実施された全ての実験または唯一の実験であることを表すようには意図されていない。使用される数(例えば、量、温度等)に対する正確さを確保するよう努力されているが、いくつかの実験誤差及び偏差が計上されるべきである。別途示されない限り、部は、重量部であり、分子量は、平均分子量であり、温度は、摂氏温度であり、圧力は、大気圧であるか、またはそれに近い。
【0280】
実施例1:異なる同系モデルにおける腫瘍微小環境
1.1 材料及び方法
Renca、CT26及びMC38腫瘍細胞を、Balb/cまたはC57BL/6マウスに皮下移植し、100mm3まで成長させた。腫瘍を動物から切除し、製造業者(Millipore)の指示に従って、酵素解離キットを使用して1種の細胞懸濁液を作製した。これらの腫瘍を抗体で染色して、B細胞(CD19+)、CD4+T細胞(CD3+CD8-CD4+FoxP3-)、NK細胞(CD3-NKp46+)、mMDSC(CD11b+Ly6G-Ly6C+)、DC(CD11c+MHCII+)、gMDSC(CD11b+Ly6G+Ly6C-)、マクロファージ(CD11b+F4/80+Ly6c-Ly6G-)、制御性T細胞(CD3+CD8-CD4+FoxP3+CD25+CD127-)、CD8+T細胞(CD3+CD4-CD8+)、及び活性化CD8+T細胞(CD3+CD4-CD8+Eomes+PD-1+Ki67+)を識別し、Attuenフローサイトメーターを用いて分析した。
【0281】
1.2 結果
腫瘍内の各細胞型のパーセンテージを決定し、プロットした(
図1A~1C)。各腫瘍は、治療開始前の100mm
3ベースラインで、腫瘍微小環境における各免疫細胞サブセットの様々な明確なレベルを示した。例えば、MC38は、T細胞に対する自然免疫細胞による集積の増加を示した(
図1C)。これらの結果は、本発明者の施設で分析した場合のこれらの腫瘍型におけるベースライン免疫微小環境であるが、これらの腫瘍型を他の施設で評価した場合、結果が異なる可能性がある(Mosely,2017,Cancer Immunology Res.5(1):29-41)。
【0282】
実施例2:腫瘍PD-1及びPD-L1の発現レベル
1.1 材料及び方法
バルク腫瘍RNAseqを、様々なサイズ(100mm3、300mm3、及び1,000mm3)のRenca、CT26及びMC38腫瘍に対して実施した。異なる治療法に対する応答性の基礎と成り得る様々な同系腫瘍モデルのベースライン免疫チェックポイント特性を調べるために、様々な免疫チェックポイント分子の転写レベルを分析した。
【0283】
1.2 結果
この分析により、異なる腫瘍モデル間で異なるレベルのPD-1及びPD-L1発現が明らかになり(
図2A~2B)、MC38腫瘍は、両方の分子の最も低い平均レベルを示し、Renca腫瘍が続いた。CT26腫瘍は、両方の分子の最も高いレベルを示した。
【0284】
実施例3:抗TIGIT及び抗PD-1抗体に対するMC38腫瘍の応答性
1.1 材料及び方法
異なるFc骨格を有する様々な抗TIGIT抗体と抗PD-1抗体との組み合わせに対するMC38腫瘍の応答性を、C57BL/6マウスにMC38同系腫瘍細胞株を移植することによって試験した。腫瘍を皮下移植し、100mm3に達したときに、0.1mg/kgのSEA-TGT mIgG2a抗体(すなわち、SEA-TGT抗体を、非フコシル化ヒトIgG1骨格に対応する非フコシル化マウスIgG2aに再構成したもの)、野生型mIgG2a抗TIGIT抗体、Fc-null抗TIGIT LALA mIgG2a抗体、抗マウスPD-1抗体、または両方の剤(例えば、SEA-TGT及び抗マウスPD-1)の組み合わせを、3日間隔で3回投与(q3dx3)することにより動物を処置した。種々の抗TIGIT抗体はそれぞれ、同じ可変ドメインを有し、Fc骨格及び関連する増強されたエフェクター機能のレベル(非フコシル化>野生型>LALA Fc-null)に関してのみ異なっていた。腫瘍サイズを測定し、成長を経時的にプロットした。
【0285】
1.2 結果
最適以下の用量(0.1mg/kg)またはより低い用量のいずれかの剤単独で処置した動物は、最小の応答性及び腫瘍成長の遅延のみ示した(
図3)(TIGIT単独では示さない)。Fc-null抗TIGIT LALA抗体をPD-1治療に加えても、抗腫瘍活性は増強しなかった。PD-1治療にmIgG2a骨格の標準抗TIGIT(IgG1ヒト骨格のFcγR結合と同等)を加えることにより、腫瘍成長が遅延する程度まで実質的に増加し、治癒率を2倍増加させた(
図3)。
【0286】
しかしながら、このFc相互作用が、非フコシル化抗TIGIT抗体のSEA骨格(SEA-TGT mIgG2a)によってさらに増強された場合、抗腫瘍活性はさらに増強され、合わせて、完全奏効がさらに2倍増加した(
図3)。これらのデータは、抗TIGIT抗体によるFc係合が、抗TIGIT治療と抗PD-1遮断との相乗効果を促進するのに役立つことを実証している。また、特に、SEA-TGT mIgG2aとのこの相乗活性は、PD-1及びPD-L1の両方の発現が最も低いレベルのMC38モデルで見られた(
図2)。
【0287】
実施例4:抗TIGIT及び抗PD-1抗体に対するCT26及びRenca腫瘍の応答性
1.1 材料及び方法
SEA-TGT mIgG2a(さらなる詳細については実施例3を参照)及び抗PD-1抗体の組み合わせに対する応答性を、CT26モデル及びRencaモデルでさらに試験した。Balb/cマウスにCT26またはRenca同系腫瘍細胞株を移植した。腫瘍を皮下移植し、それらが100mm3に達すると、動物をSEA-TGT mIgG2a、抗マウスPD-1、またはこれら両方の剤の組み合わせ、q3dx3の最適以下の濃度(0.1mg/kg)で治療した。腫瘍サイズを測定し、成長を経時的にプロットした。
【0288】
1.2 結果
0.1mg/kgのSEA-TGT単独の最適以下の用量で処置した動物は、CT26モデル(
図4A)及びRencaモデル(
図4B)の双方において、最小の応答性及び腫瘍成長遅延を示し、同様に、低用量の抗PD-1治療でも、最小の抗腫瘍活性が見られた。しかしながら、SEA-TGT mIgG2a及び抗PD-1抗体の2つの最適以下の用量を添加することにより、抗腫瘍活性が大きく増強された。腫瘍成長遅延及び併用治療に対する完全奏効の両方の増加は、CT26モデル(
図4A)及びRencaモデル(
図4B)の両方で見られた。組み合わせ活性の程度は、Rencaモデル(
図4B)と比較して、CT26モデル(
図4A)においてより大きく、MC38モデル(
図3)では、組み合わせに対して依然として最大の感度を示している。
【0289】
1.3 実施例2~4のまとめ
これらのモデルにおける異なるレベルのPD-L1発現(
図2A~2B)に照らして、実施例2~4のデータは、SEA-TGT mIgG2aと抗マウスPD-1抗体との相乗効果が驚くべきことに、基礎となるPD-L1発現レベルと相関していないことを実証している。最も低いPD-L1発現レベルを有するMC38モデルは、SEA-TGT mIgG2aと抗PD-1抗体との組み合わせを用いて治療した場合に最大の効果を示した(
図3)。
【0290】
増強されたエフェクター機能を有するFc領域を含む抗TIGIT抗体(例えば、SEA-TGTなどの非フコシル化抗体)が、より低いレベルのPD-L1を発現する腫瘍モデルであっても、抗PD-1抗体との相乗効果を呈し得るという発見は、驚くべきことであった。これは、他のFc骨格(例えば、野生型またはIgG1エフェクターnullなど)を有する抗TIGIT抗体を用いた試験により、この組み合わせが比較的高いレベルのPD-L1発現に依存することが判明しているためである。したがって、従来、そのような抗TIGIT抗体を用いて実施された臨床試験は、多くの場合、特定の閾値限界を超えてPD-L1を発現する患者でのみこの併用を試験するように設計された。
【0291】
実施例5:MC38、CT26及びRenca腫瘍の単剤での治療
1.1 材料及び方法
示された同系腫瘍細胞株をC57BL/6またはBalb/cマウスに移植することにより、異なるFc骨格を有する抗TIGIT抗体に対するMC38、CT26及びRenca腫瘍の応答性を試験した(
図5A~
図5F)。腫瘍を皮下移植し、100mm
3に達したときに、野生型フコシル化mIgG2a型SEA-TGT(mAb13)またはSEA-TGT mIgG2a(非フコシル化ヒトIgG1骨格に相当する非フコシル化マウスIgG2aとして再構成されたSEA-TGT抗体)を示された用量(
図5A~5F)で、q3dx3で処置した。腫瘍サイズを測定し、成長を経時的にプロットした。各群の動物において、完全に腫瘍が除去された場合を完全奏効(CR)として記録した。骨格エフェクター機能とは関係なく、より高用量のクローン13またはSEA-TGT mIgG2aによって抗腫瘍応答が誘導されたが、抗PD-1と組み合わせた場合に見られるような、同じ治療応答を常に駆動することはできなかった。
【0292】
1.2 結果
MC38モデルでは、用量5mg/kgの抗TIGIT治療の単独投与でも、完全奏効治癒率は1/6であり(
図5A)、これとは、対照的に、0.1mg/kgのSEA-TGT mIgG2aのみを、0.1mg/kgの抗PD-1抗体の投与(
図3)と組み合わせた場合は、4/5であった。したがって、MC38モデルでは、単剤療法としてSEA-TGT mIgG2aの用量レベルを50倍増加させた場合に得られたものよりも、併用療法の完全奏効率は、より良好であった。
【0293】
CT26モデルでは、用量5mg/kgのSEA-TGT mIgG2aは、MC38モデル(
図5B)で達成されたものと比較して、治癒的応答レベルの向上をもたらしたが、それでも同様のレベルの治癒的応答が、抗PD-1抗体を投与した場合、用量0.1mg/kgで見られた(
図4A)(すなわち、50倍低下させたSEA-TGT抗体のレベルで同じ応答率をもたらす)。
【0294】
対照的に、Rencaモデルでは、1mg/kg用量のSEA-TGT mIgG2aにより、治療的応答がもたらされたが(
図5C)、抗PD-1抗体を投与した場合、0.1mg/kg用量で同様の応答が見られた(
図4B)。
【0295】
抗PD-1抗体治療単独では、5mg/kgの用量では、MC38モデルにおいて、腫瘍成長を減少させ(
図5D)、10mg/kgの用量では、CT26モデルにおいて、腫瘍成長を中程度減少させ(
図5E)、1mg/kgの用量では、Rencaモデルにおいて、腫瘍成長を減少させなかった(
図5F)。非常に最小の単剤での活性にもかかわらず、抗PD-1治療に対するSEA-TGTの添加を、これらのモデルの全てにおいて実質的により少ない用量で行うことにより、抗腫瘍活性を大幅に向上させることができた。
【0296】
まとめると、前述の実施例に示された結果は、低レベルのPD-L1を発現するがんが、抗TIGIT抗体、及びPD-1/PD-L1阻害剤と組み合わせた抗TIGIT抗体によって治療され得るという驚くべき知見を裏付けるものである。前述の実施例によって実証されるように、これは、特に、増強されたFc結合特性及びエフェクター機能を有する抗体(例えば、SEA-TGT)を使用する場合であることが判明した。所望のFc結合特性には、活性化FcγRへの結合の増強、阻害性FcγRへの結合の減少、ADCC活性の増強、及び/またはADCP活性の増強などの活性が含まれた。SEA-TGTなど、所望の活性を有する特定のそのような抗体は、非フコシル化抗体であった。本明細書に提供されるデータは、例えば、抗PD1抗体または抗PD-L1抗体を使用する、現在承認されている治療法のカットオフレベル未満でPD-L1を発現する腫瘍を有する患者を治療するために、増強されたFc骨格を有する抗TIGIT抗体(例えば、SEA-TGT)を、抗PD1抗体または抗PD-L1抗体と組み合わせて使用することを裏付けるものである。データはさらに、本明細書に記載されるものなどの腫瘍中の変異が理由で、抗PD1または抗PDL1抗体治療を用いた標準的な治療に比較的応答がない患者においても、かかる併用療法を支持する。
【0297】
本明細書に提供されるデータはまた、抗TIGIT抗体、例えば、SEA-TGTなどの増強されたエフェクター機能を有する抗TIGIT抗体、及び治療量以下の用量のPD-L1阻害剤による治療が、有効性の相乗的改善を呈することを実証するものである。また、データは、そのような抗TIGIT抗体の治療量以下の用量を、PD-1/PD-L1阻害剤と組み合わせて、低レベルのPD-L1を発現するがんの治療に使用できることも示す。抗PD1(または抗PD-L1)抗体及び/または抗TIGIT抗体をより低いレベルで投与できる場合には、毒性を軽減し得る。
【0298】
理論に束縛されることを意図するものではないが、TIGITの場合、非フコシル化抗TIGIT抗体は、抗原(+)T細胞と抗原提示細胞との間の免疫シナプスの強度を向上させると考えられている。自然細胞上でFcγRIIIaが係合することにより、それらの活性化、及び抗原特異的T細胞応答を増強できる因子の産生が増加する。非フコシル化骨格は、標的抗原とは関係なく、自然免疫細胞またはガンマデルタT細胞などの他のFcγRIIIa発現細胞に結合して、二次抗原特異的T細胞応答の誘発を補助し得る活性化状態を誘導することができる。非フコシル化抗体が働くこれらすべてのメカニズムは、抗腫瘍活性及び長寿命の免疫防御を駆動するT細胞応答につながり得る。FcγRIIbへの結合の減少または欠如は、非フコシル化抗体によって駆動される免疫活性化を減少させるカウンターシグナルまたは阻害性シグナルがないことを意味する。
【0299】
本明細書に引用された公開文献、特許、特許出願、または他の文献は全て、あたかも各個別の公開文献、特許、特許出願、または他の文献があらゆる目的のために参照により援用されるように個別に示されるのと同じ範囲まで、あらゆる目的のために、それらの全体において参照により本明細書に援用される。
【0300】
【0301】
【配列表】
【国際調査報告】