(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】ラジカル架橋双性イオンゲルおよびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/34 20170101AFI20240327BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240327BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240327BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240327BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20240327BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20240327BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240327BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240327BHJP
C08F 220/36 20060101ALI20240327BHJP
C08F 220/38 20060101ALI20240327BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K9/06
A61P1/04
A61P17/02
A61L15/24 100
A61K31/05
A61K47/10
A61K47/04
C08F220/36
C08F220/38
A61L26/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562276
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 US2022024048
(87)【国際公開番号】W WO2022217069
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502032275
【氏名又は名称】コロラド・スクール・オブ・マインズ
(71)【出願人】
【識別番号】523382144
【氏名又は名称】ジェルサナ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】クレブス, メリッサ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ステイジャー, マイケル エー.
(72)【発明者】
【氏名】オズモンド, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】デイビッドソン, マシュー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C206
4J100
【Fターム(参考)】
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4J100JA53
(57)【要約】
本発明は、ラジカル架橋双性イオンゲル、ラジカル架橋双性イオンゲルを調製する方法、および創傷を治療するためにラジカル架橋双性イオンゲルを使用する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル架橋双性イオンゲルであって、
[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム(SBMA)、[(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]-プロピオン酸(CBMA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される双性イオンモノマーと、
非双性イオンモノマーと、を含む、ラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項2】
前記非双性イオンモノマーが、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)である、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項3】
架橋剤をさらに含む、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項4】
前記架橋剤が、グリセロールジメタクリレート(GDMA)、メチレンビスアクリルアミド(MBA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、および二つ以上の架橋剤の組み合わせからなる群から選択される、請求項3に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項5】
前記架橋剤がポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)である、請求項4に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項6】
抗酸化剤をさらに含む、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項7】
前記抗酸化剤が、レスベラトロールである、請求項6に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項8】
レオロジー改質剤をさらに含む、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項9】
前記レオロジー改質剤が粘土である、請求項8に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項10】
治療剤をさらに含む、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項11】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが弾性である、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項12】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが注入可能である、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項13】
前記ラジカル架橋双性イオンが圧縮可能かつ放出可能である、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項14】
前記ラジカル架橋双性イオンが架橋を再確立することによって自己回復性である、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項15】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが細胞適合性である、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項16】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが約500Pa~約2,000Paの貯蔵弾性率を有する、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項17】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが約1,000Pa~約20,000Paの弾性率を有する、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項18】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが水溶液の存在下で膨潤する、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項19】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが長期間にわたり治療剤を放出する、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲル。
【請求項20】
ラジカル架橋双性イオンゲルを調製する方法であって、
(a)双性イオンモノマー、非双性イオン性イオンモノマー(non-zwitterionic ionic monomer)、任意選択の架橋剤、任意選択の開始剤、任意選択のレオロジー改質剤、任意選択の抗酸化剤、および反応混合物を形成する水を接触させる工程と、
(b)任意選択で、0.22μmの細孔フィルターを通して前記反応混合物を濾過して、濾過された反応混合物を形成する工程と、
(c)前記反応混合物および/または濾過された反応混合物を光または他の好適なラジカル発生剤に曝露し、それによって前記双性イオンモノマーおよび前記非双性イオン性イオンモノマーを重合してラジカル架橋双性イオンゲルを形成する工程と、
(d)任意選択で、前記ラジカル架橋双性イオンゲルを洗浄して、洗浄された架橋双性イオンゲルを形成する工程と、を含み、
前記ラジカル架橋双性イオンゲルおよびまたは洗浄された架橋双性イオンゲルが、約50mm超かつ約100mm未満の平均細孔サイズを有する、方法。
【請求項21】
前記双性イオンモノマーが、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム(SBMA)、[(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]-プロピオン酸(CBMA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記非双性イオンモノマーが、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
架橋剤を添加する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記架橋剤が、グリセロールジメタクリレート(GDMA)、メチレンビスアクリルアミド(MBA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、および二つ以上の架橋剤の組み合わせからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記架橋剤がポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)である、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
ラジカル開始剤を添加する工程をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記開始剤が、過硫酸ナトリウム、ルテニウム(II)-トリス(2,2’-ビピリジル)ジクロリド、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記光が、近UV光、可視光、または白色光である、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記化学的フリーラジカル発生剤が、過硫酸アンモニウム(APS)、N,N,N’N’-テトラメチルエチレン-1,2-ジアミン、有機過酸化物(TEMED)、アスコルビン酸、およびそれらの組み合わせである、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
前記抗酸化剤が、レスベラトロールである、請求項20に記載の方法。
【請求項31】
前記レオロジー改質剤が粘土である、請求項20に記載の方法。
【請求項32】
前記ラジカル架橋双性イオンゲルが、緩衝生理食塩水水溶液で洗浄される、請求項20に記載の方法。
【請求項33】
前記緩衝生理食塩水水溶液が、リン酸緩衝生理食塩水を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記方法が室温で実施される、請求項20に記載の方法。
【請求項35】
創傷を治療する方法であって、請求項1に記載のラジカル架橋双性イオンゲルを、それを必要とする対象の創傷に投与または適用することを含む、方法。
【請求項36】
前記創傷が糖尿病性潰瘍である、請求項35に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月9日に出願され、その全体が本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第63/173,017号の利益を主張する。
【0002】
本開示は、概して、ラジカル架橋双性イオンゲル、ラジカル架橋双性イオンゲルを調製するための方法、ラジカル架橋双性イオンゲルを含む組成物、およびラジカル架橋双性イオンゲルを使用して創傷を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
皮膚は、人体の最大の器官であり、微生物の侵入およびその他の外部損傷から体を保護する。しかしながら、この器官は、機械的または熱的損傷によって生成される損傷(すなわち、創傷)を受ける可能性がある。創傷のサイズおよび深さに応じて、創傷は生命を脅かす可能性がある。創傷の治癒が困難である場合、炎症の調節不全により慢性になる可能性がある。
【0004】
慢性創傷は、とりわけ、糖尿病、熱傷、免疫学的状態、および血管不全によって引き起こされ得る。糖尿病患者では、例えば、治癒障害は、神経障害、虚血、および/または外傷によって引き起こされる。これらの要因は、感染を当該範囲にもたらす機会につながる可能性があり、これが生命を脅かす感染症を引き起こし得る。慢性皮膚創傷は、大流行の域に達する重要な問題であり、2026年までに世界中で2,000~6,000万人に影響を及ぼすと推定されている。特定の期間後に治癒する急性創傷とは異なり、慢性皮膚創傷は、ゆっくりと治癒する(8週間以上で)か、または全く治癒しない。慢性創傷は、創傷ケア製品、手術、ならびに医師および看護師リソースに関連する医療費のために、健康管理システムに対する大きな負担を伴う長期入院につながる可能性がある。医療支援は、効率的な治療法が開発されていないため、足切断、病的状態、および死亡などの重大な合併症を防止しない。実際に、慢性皮膚創傷の5年死亡率は、前立腺がん、乳がん、および結腸がんを含むいくつかの一般的なタイプのがんの死亡率と同等であるか、またはそれよりも悪い。
【0005】
ハイドロゲルは、良好な酸素透過および創傷の周りの湿潤環境の維持に役立ち得る高い含水量のため、創傷被覆材材料にとって有望な材料であると長年考えられてきた。より重要なことに、成長因子または抗生物質などの治療用分子は、ハイドロゲルに容易に装填され得、創傷治癒を促進し、創傷を細菌感染から保護し、治癒プロセスを促進する。残念なことに、これらのハイドロゲルは一般的に、ゲルの高度に多孔性の構造に起因する大きな放出を伴い、治療用分子の急速な放出(典型的には数時間)をもたらす。治療薬の急速な放出は、療法の効率を低下させるだけでなく、これらの分子の血中濃度の急激な増加に起因する副作用を引き起こす可能性もある。
【0006】
必要とされるのは、好都合に調製され、高い含水量、良好な酸素透過、低い分解速度、生体不活性性、および細胞適合性などの強化された特性を有し、長期間にわたる治療剤の制御された放出を可能にするハイドロゲルである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、概して、活性成分を創傷に投与するのに有用な外傷用医薬材料に関する。より具体的には、これは、双性イオンモノマーおよび非双性イオンモノマーを含む、水溶性の創傷対向層を有する架橋双性イオンゲル外傷用医薬材料、創傷への活性成分の制御されたまたは持続的な送達のために、かかる外傷用医薬材料を使用する方法、およびそれらの製造方法に関する。本発明の外傷用医薬材料は、少なくとも約12時間、活性成分の制御された、および持続的な放出を提供することができる。
【0008】
一態様では、ラジカル架橋双性イオンゲルが本明細書に開示され、ラジカル架橋双性イオンゲルは、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム(SBMA)、[(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオン酸(CBMA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される双性イオンモノマーと、非双性イオンモノマーとを含む。いくつかの実施形態では、双性イオンモノマーおよび非双性イオンモノマーは、少なくとも部分的に架橋される。いくつかの実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、約50mm超かつ約100mm未満の平均細孔サイズを有する。
【0009】
様々な実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、水和ゲル、必要に応じて水和され得る凍結乾燥粉末、または凍結乾燥発泡体として形成され得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、高度に調整可能な機械的特性によって特徴付けられる。すなわち、本発明は、架橋双性イオンゲルの生成および使用を可能にする技術を提供し、これは、細胞成長、機能、生存率、および/または分化の支持における使用に特に好適な機械的特性(例えば、細孔サイズ、強度[例えば、貯蔵弾性率によって評価される]、柔軟性、剛性など)によって特徴付けられる。例えば、いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、例えば、ヒト間葉系幹細胞の伸長の結果によっても明らかであるように、生細胞を支持する機械的特性によって特徴付けられる。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明の 架橋双性イオンゲルは、所望の高貯蔵弾性率値によって特徴付けられる。いくつかの実施形態では、高貯蔵弾性率値は、強力なおよび/または堅牢なハイドロゲルに対応する。いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、高貯蔵弾性率値を含む。本明細書に例示されるいくつかの特定の実施形態では、提供される共有結合的に架橋されたハイドロゲルは、塑性変形の兆候を示すことなく、約50Pa~約5,000Paの貯蔵弾性率値によって特徴付けられる。本明細書に例示されるいくつかの特定の実施形態では、架橋双性イオンゲルは、塑性変形の兆候を示すことなく、約1kPa超の貯蔵弾性率値によって特徴付けられる。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、変質に抵抗し、かつ塑性変形の形跡を示さずに、少なくとも100%のせん断歪みから回復することを特徴とする。
【0012】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、高い弾性によって特徴付けられる。弾性または弾性変形は、一般的に、材料に力が加えられ、材料を変形した力がその後取り除かれた後に、材料がその元のサイズおよび/または形状に戻る傾向を測定する。対照的に、塑性変形は、材料がその元のサイズおよび/または形状に戻らないように、可逆的ではない方法で材料のサイズおよび/または形状の変化を引き起こすのに十分な圧力を材料に印加した後に起こる。塑性変形は特に、材料が回復できないような、分子および/または原子のシフトまたは転位など、材料の構造に対する変化を伴う。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、塑性変形の兆候を示すことなく、約50Pa~約5,0000Paの接線係数値を有することを特徴とする。いくつかの実施形態では、共有結合的に架橋された、本発明のハイドロゲルは、変質に抵抗し、かつ塑性変形の形跡を示さずに、少なくとも75%の圧縮歪みから回復することを特徴とする。
【0013】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、高い復元性によって特徴付けられる。復元性は、力が加えられ材料が変形したときの、材料のエネルギーを吸収する能力、およびその後、力が取り除かれて材料がその自然な状態に戻ることが可能になったときの、材料のエネルギーを放出する能力の兆候を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、高サイクルで繰り返し印加される力に対する高い復元性として特徴付けられる。いくつかの実施形態では、本発明の 架橋双性イオンゲルは、変形の形跡を示さずに、少なくとも10%の圧縮歪みへの曝露から回復することを特徴とする。いくつかの実施形態では、本発明の 架橋双性イオンゲルは、塑性変形の形跡を示さずに、少なくとも10%のせん断歪みへの曝露から回復することを特徴とする。
【0014】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、少なくとも一つの治療活性剤の封入を支持するように構成される。いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、少なくとも一つの治療活性剤を封入し得るか、でなければそれを含み得る。いくつかの実施形態では、少なくとも一つの治療活性剤を含む架橋性双性イオンゲルは、少なくとも、または約6時間、少なくとも、または約12時間、少なくとも、または約18時間、少なくとも、または約24時間、少なくとも、または約48時間、72時間、または少なくとも、または約96時間の期間について、緩徐または持続放出様式で薬剤を放出してもよい。
【0015】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、一つ以上の官能性部分の組み込みおよび/またはそれによる修飾を支持するように構成される。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、例えば、疾患、障害、もしくは状態の治療または予防における、および/または組織修復の誘導のための、を含む、例えば細胞工学および/または組織再生用途を支持する、調整可能な機械的特性を提供する。
【0016】
別の態様では、ラジカル架橋双性イオンゲルを調製する方法が本明細書に提供される。
【0017】
さらに別の態様では、創傷を治療する方法が本明細書に提供される。方法は、ラジカル架橋双性イオンゲルを、それを必要とする対象において創傷に投与または適用することを含む。
【0018】
本発明の他の特徴および反復は、以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1a】
図1aおよび1bは、白色光および405nm光で調製されたラジカル架橋双性イオンゲルの写真を示す。
【0020】
【
図2】
図2は、様々なラジカル架橋双性イオンゲルに対する細胞生存率のパーセンテージのグラフである。
【0021】
【
図3】
図3は、ガラススライドと比較したラジカル架橋双性イオンゲルの汚損防止を比較する一連の写真である。
【0022】
【
図4a】
図4aは、周囲光およびUV光に対する様々なラジカル架橋双性イオンゲルの貯蔵弾性率を示すグラフである。
【0023】
【
図4b】
図4bは、様々なラジカル架橋双性イオンゲルのせん断貯蔵弾性率を示すグラフである。
【0024】
【
図4c】
図4cは、様々な25%および50%ラジカル架橋双性イオンゲルのせん断貯蔵弾性率を示すグラフである。
【0025】
【
図4d】
図4dは、様々な25%および50%ラジカル架橋双性イオンゲルのせん断貯蔵弾性率を示すグラフである。
【0026】
【
図5】
図5は、14日間にわたるラジカル架橋双性イオンゲルの膨潤比率を示すグラフである。
【0027】
【
図6】
図6は、14日間にわたるラジカル架橋双性イオンゲルの分解比率を示すグラフである。
【0028】
【
図7】
図7は、白色光で調製されたラジカル架橋双性イオンゲルの注入可能性(injectability)、伸縮性、圧縮および放出、ならびに自己回復の特徴に関する一連の写真を示す。
【0029】
【
図8】
図8は、405nm光で調製されたラジカル架橋双性イオンゲルの注入可能性、伸縮性、圧縮および放出、ならびに自己回復の特徴に関する一連の写真を示す。
【0030】
【
図9】
図9は、ラジカル架橋双性イオンゲルと凍結(cryo)双性イオンゲルの注入可能性を比較する一連の写真である。
【0031】
【
図10a】
図10aは、長期間にわたる様々なラジカル架橋双性イオンゲルのミオグロビンの放出を示すグラフである。
【0032】
【
図10b】
図10bは、長期間にわたる様々なラジカル架橋双性イオンゲルからの酸化セリウムナノ粒子(CNP)の放出を示すグラフである。
【0033】
【
図11】
図11は、16日間にわたる様々なラジカル架橋双性イオンゲルの創傷閉鎖を示す一連の写真である。
【0034】
【
図12a】
図12aおよび12bは、マウスにおけるパーセンテージ創傷閉鎖および完全創傷閉鎖を示すグラフである。
【0035】
【
図13】
図13は、メタクリル化ヒアルロン酸を含有する双性イオンゲルの写真を示す。
【0036】
【
図14】
図14は、SBMA、HEMA、LAP、および/またはPEGDMAで作製された双性イオンゲルの写真を示す。
【0037】
【
図15】
図15は、レスベラトロール(抗酸化剤)なしおよびありで作製された双性イオンハイドロゲルの写真を示す。
【0038】
【
図16】
図16は、ラジカル開始剤として過硫酸アンモニウムおよびTEMEDを用いて作製された双性イオンハイドロゲルの写真を示す。
【0039】
【
図17】
図17は、重合中に様々な量のアスコルビン酸を添加した光架橋ハイドロゲルの写真を示す。
【0040】
【
図18】
図18は、様々な双性イオンハイドロゲルの定量的な組織接着力データを示す。
【0041】
【
図19】
図19は、凍結乾燥および再水和された双性イオンハイドロゲルサンプルの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
一態様では、本開示は、ラジカル架橋双性イオンゲルを提供する。これらのゲルは容易に調製され、治療剤の高度な伸縮性、注入可能性、経時的な低分解、生体不活性性、および高度に持続的な放出などの多くの望ましい特性を有する。特定の実施形態では、本開示のゲルは、使用中にタンパク質吸収を防止し得る。
【0043】
定義
本開示をより容易に理解するために、ある特定の用語を最初に以下に定義する。以下の用語および他の用語についての追加の定義は、本明細書全体を通して記載される。
【0044】
本出願では、文脈から別途明らかでない限り、「a」という用語は、「少なくとも一つ」を意味すると理解され得る。本出願で使用される場合、「または」という用語は、「および/または」を意味すると理解され得る。本出願では、「含む(comprising)」および「含む(including)」という用語は、それ自体によって提示されるか、または一つ以上の追加の構成要素もしくは工程と一緒に提示されるかにかかわらず、明細化された構成要素または工程を包含すると理解され得る。別段の記載がない限り、用語「約」および「おおよそ」は、当業者によって理解されるように、標準的な変動を許容すると理解され得る。範囲が本明細書に提供される場合、端点が含まれる。本出願で使用される場合、「含む(comprise)」という用語、および「含むこと(comprising)」および「含む(comprises)」など、その用語の変形形態は、他の追加物、構成要素、整数、または工程を除外することを意図していない。
【0045】
本出願で使用される場合、用語「約」および「おおよそ」は、同等のものとして使用される。約/おおよその有無にかかわらず、本出願で使用されるいかなる数字も、関連技術分野の当業者によって理解される任意の通常の変動を網羅することを意味する。特定の実施形態では、「おおよそ」または「約」という用語は、別段の記載がない限り、または文脈から明らかでない限り、記載された参照値のいずれかの方向(より大きいか、またはより小さい)において、25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ未満内に収まる値の範囲を指す(そのような数が可能性のある値の100%を超える場合を除く)。
【0046】
本明細書で使用される場合、「会合した」という用語は、典型的には、直接的または間接的のいずれかで(例えば、連結剤として機能する一つ以上の追加の実体を介して)、互いに物理的に近接する二つ以上の実体を指し、実体が関連する条件、例えば、生理学的条件下で物理的に近接したままであるように十分に安定した構造を形成する。いくつかの実施形態では、会合する実体は、互いに共有結合している。いくつかの実施形態では、会合する実体は、非共有結合している。いくつかの実施形態では、会合する実体は、特定の非共有結合相互作用によって(すなわち、例えば、ストレプトアビジン/アビジン相互作用、抗体/抗原相互作用など、使用状況において存在するその相互作用パートナーと他の実体とを区別する相互作用リガンド間の相互作用によって)、互いに連結される。あるいは、または追加的に、十分な数のより弱い非共有結合相互作用は、部分が会合したままとなるのに十分な安定性を提供することができる。例示的な非共有結合相互作用としては、親和性相互作用、金属配位、物理吸着、ホストゲスト相互作用、疎水性相互作用、パイ-スタッキング相互作用、水素結合相互作用、ファンデルワールス相互作用、磁気相互作用、静電相互作用、双極子-双極子相互作用などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書で使用される場合、「生体適合性」という用語は、本明細書で使用される場合、生体組織と、例えばインビボで、接触して配置されたときに、その生体組織に著しい害を引き起こさない材料を指す。特定の実施形態では、材料が細胞に対して毒性でない場合、「生体適合性」である。特定の実施形態では、インビトロでの細胞への材料の添加が20%以下の細胞死をもたらす場合、および/またはインビボでの材料の投与が有意な炎症または他のそのような有害作用を誘発しない場合、材料は「生体適合性」である。
【0048】
本明細書で使用される場合、「生分解性」という用語は、細胞に導入されたとき、細胞に著しい毒性の影響を与えることなく、細胞が再利用または廃棄することができる成分へと、(例えば、酵素分解、加水分解、および/またはそれらの組み合わせなどの細胞機構によって)分解される材料を指す。特定の実施形態では、生分解性材料の分解によって生成される成分は、生体適合性であり、したがって、インビボで有意な炎症および/または他の有害作用を誘発しない。いくつかの実施形態では、生分解性ポリマー材料は、その成分モノマーに分解される。いくつかの実施形態では、生分解性材料(例えば、生分解性ポリマー材料を含む)の分解は、エステル結合の加水分解を伴う。あるいは、または追加的に、いくつかの実施形態では、生分解性材料(例えば、生分解性ポリマー材料を含む)の分解は、ウレタン結合の切断を伴う。
【0049】
本明細書で使用される場合、「比較可能な」という用語は、互いに同一ではなくてもよいが、それらの間の比較を可能にするほどに十分に類似していて、観察される相違または類似性に基づいて結論を合理的に導き出し得る、二つ以上の薬剤、実体、状況、条件のセットなどを指す。当業者は、文脈において、任意の所与の状況で、二つ以上のかかる薬剤、実体、状況、条件のセットなどが比較可能と判断されるためには、どの程度の同一性が必要とされるかを理解するであろう。
【0050】
本明細書で使用される場合、「コンジュゲートされた」、「結合された」、「付着された」、および「会合された」という用語は、二つ以上の部分に関して使用される場合、その部分が、直接的に、または結合剤として機能する一つ以上の追加の部分を介して、互いに物理的に会合または連結されて、十分に安定的な構造を形成し、その結果、その部分がその構造が使用される条件、例えば、生理学的条件下で物理的に会合したままであることを意味する。典型的には、部分は、一つ以上の共有結合、または特異的結合を伴う機構のいずれかによって付着される。あるいは、十分な数のより弱い相互作用は、部分が物理的に会合されたままとなるのに十分な安定性を提供することができる。
【0051】
本明細書で使用される場合、「制御放出」という用語は、処方物からの薬物放出の様式およびプロファイルが制御されている薬物含有処方物を指す。これには、即時放出型処方物および非即時放出型処方物が含まれ、非即時放出型処方物には、持続放出型処方物および遅延放出型処方物が含まれるが、これらに限定されない。「持続放出」(「徐放放出」とも呼ばれる)という用語は、長期間にわたって薬物の段階的な放出を提供し、長期間にわたって実質的に一定のレベルの薬物をもたらし得る薬物処方物を指すために、その従来的な意味で本明細書で使用される。「遅延放出」という用語は、その従来的な意味で本明細書で使用され、処方物の投与と、そこからの薬物の放出との間に時間の遅延がある薬物処方物を指す。「遅延放出」は、長期間にわたる薬物の段階的な放出を伴っても伴わなくてもよく、したがって、「持続放出」であってもなくてもよい。「長期」放出という用語は、本明細書で使用される場合、薬物処方物が、少なくとも、2時間、3時間、4時間、時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、25時間、26時間、27時間、28時間、29時間、30時間、31時間、32時間、33時間、34時間、35時間、36時間、37時間、38時間、39時間、40時間、41時間、42時間、43時間、44時間、45時間、46時間、47時間、48時間、49時間、50時間、51時間、52時間、53時間、54時間、55時間、56時間、57時間、58時間、59時間、60時間、61時間、62時間、63時間、64時間、65時間、66時間、67時間、68時間、69時間、70時間、71時間、72時間、73時間、74時間、75時間、76時間、77時間、78時間、79時間、80時間、81時間、82時間、83時間、84時間、85時間、86時間、87時間、88時間、89時間、90時間、91時間、92時間、93時間、94時間、95時間、96時間、97時間、98時間、99時間、100時間、101時間、102時間、103時間、104時間、105時間、106時間、107時間、108時間、109時間、110時間、111時間、112時間、113時間、114時間、115時間、116時間、117時間、118時間、119時間、または120時間、治療レベルの活性成分を送達するように構築され、かつ整えられることを意味する。
【0052】
「封入された」という用語は、本明細書では、別の材料によって完全に囲まれている物質を指すために使用される。
【0053】
本明細書で使用される場合、「機能的な」生物学的分子は、それが特徴付けられる特性および/または活性を呈する形態にある生物学的分子である。生物学的分子は、二つの機能(すなわち、二機能性)または多くの機能(すなわち、多機能性)を有し得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「加水分解的に分解可能な」という用語は、加水切断によって分解する材料を指すために使用される。いくつかの実施形態では、加水分解的に分解可能な材料は水中で分解する。いくつかの実施形態では、加水分解的に分解可能な材料は、いかなる他の薬剤または材料の非存在下でも水中で分解する。いくつかの実施形態では、加水分解的に分解可能な材料は、例えば水中で、加水切断によって完全に分解する。対照的に、「非加水分解的に分解可能な」という用語は、典型的には、加水切断によって、および/または水の存在下で(例えば、水のみの存在下で)完全に分解しない材料を指す。
【0055】
本明細書で使用される場合、「親水性」および/または「極性」という用語は、水と混合する傾向、または水中に容易に溶解する傾向を指す。
【0056】
本明細書で使用される場合、「疎水性」および/または「非極性」という用語は、水をはじくか、水と混ざらないか、または水中に容易に溶解できない傾向を指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、一つ以上の薬学的に許容される担体と一緒に製剤化された活性剤を指す。いくつかの実施形態では、活性剤は、適切な母集団に投与されたときに所定の治療効果を達成する統計的に有意な確率を示す治療レジメンにおける投与に適した単位用量で存在する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、固体形態または液体形態での投与のために特別に製剤化されてもよく、以下に適合したものが含まれる;経口投与、例えばドレンチ(水性もしくは非水性の溶液または懸濁液)、錠剤、例えば頬側、舌下、および全身的吸収を標的にしたもの、ボーラス、粉末、顆粒、舌への適用のためのペースト;非経口投与、例えば皮下、筋肉内、静脈内、または硬膜外注射であって、例えば滅菌溶液または懸濁液、または持続放出型処方物として;局所適用であって、例えばクリーム、軟膏、または、皮膚、肺、もしくは口腔に適用される制御放出型パッチもしくはスプレーとして;膣内または直腸内用であって、例えばペッサリー、クリーム、または発泡体として;舌下;眼;経皮;または鼻;肺;および他の粘膜表面。
【0058】
本明細書で使用される場合、「生理学的条件」という表現は、組織の細胞内液および細胞外液中で遭遇する可能性が高い化学的条件(例えば、pH、イオン強度)および生化学的条件(例えば、酵素濃度)の範囲に関する。ほとんどの組織について、生理的pHは、約6.8~約8.0の範囲であり、約20~40°C、約25~40°C、約30~40°C、約35~40°C、約37°Cの温度範囲、約1の大気圧である。いくつかの実施形態では、生理学的条件は、水性環境(例えば、水、生理食塩水、リンゲル溶液、または他の緩衝液)を利用するか、または含んでおり、いくつかのそのような実施形態では、水性環境は、リン酸緩衝液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)であるか、またはこれを含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、「空隙率」という用語は、材料中の空隙の尺度を指し、総体積に対する空隙の体積の分数を0~100%の間のパーセンテージとして表す。空隙率の決定には、標準化された技術、例えば水銀ポロシメトリーおよびガス吸着(例えば、窒素吸着)を使用し、当業者に公知である。
【0060】
本明細書で使用される場合、「溶液」という用語は、一つの相から構成される均質な混合物を広く指す。典型的には、溶液は、溶媒中に溶解された溶質を含む。混合物の特性(濃度、温度、密度など)は、体積を通して均一に分布され得ることを特徴とする。したがって、本出願の文脈では、「シルクフィブロイン溶液」は、水などの溶媒中に溶解された可溶性形態のシルクフィブロインタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、シルクフィブロイン溶液は、シルクフィルムおよび他の足場などの固体状のシルクフィブロイン材料(すなわち、シルクマトリックス)から調製することができる。典型的には、固体状のシルクフィブロイン材料は、水および緩衝液などの水溶液で再構成されて、シルクフィブロイン溶液になる。均質ではない液体混合物、例えば、コロイド、懸濁液、エマルションは、溶液とはみなされないことに留意されたい。
【0061】
本明細書の組成物に適用される場合、「安定」という用語は、組成物が、指定された一連の条件下で、ある期間にわたってその物理的構造および/または活性の一つ以上の態様を維持することを意味する。いくつかの実施形態では、期間は、少なくとも約一時間であり、いくつかの実施形態では、期間は、約5時間、約10時間、約1日、約1週間、約2週間、約1か月、約2か月、約3か月、約4か月、約5か月、約6か月、約8か月、約10か月、約12か月、約24か月、約36か月、またはそれ以上である。いくつかの実施形態では、期間は、約1日~約24か月、約2週間~約12か月、約2か月~約5か月の範囲内、などである。いくつかの実施形態では、指定された条件は、周囲条件(例えば、室温および周囲圧力)である。いくつかの実施形態では、指定された条件は、生理的条件(例えば、インビボまたは約37°Cで、例えば、血清中またはリン酸緩衝生理食塩水中)である。いくつかの実施形態では、指定された条件は、低温貯蔵下である(例えば、約4°C以下、-20°C以下、または-70°C以下で)。いくつかの実施形態では、指定された条件は暗所である。
【0062】
本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語、および文法的等価物は、対象の特徴または特質の合計またはほぼ合計の範囲または程度を示す定性的条件を指す。当業者であれば、生物学的および化学的な現象が、完了すること、および/もしくは完了の域に到達すること、または絶対的な結果を達成もしくは回避することが、仮にあったとしても、稀であることを理解するであろう。
【0063】
「持続放出」という用語は、長期間にわたって生じる放出の当技術分野で理解されている意味に従って本明細書で使用される。長期間とは、少なくとも約3日、約5日、約7日、約10日、約15日、約30日、約1か月、約2か月、約3か月、約6か月、またはさらには約1年とすることができる。いくつかの実施形態では、持続放出は、実質的にバーストフリーである。いくつかの実施形態では、持続放出は、放出速度が、長期間にわたって約5%、約10%、約15%、約20%、約30%、約40%、または約50%を超えて変化しないように、長期間にわたる定常放出を伴う。いくつかの実施形態では、持続放出は、一次速度則を用いた放出を伴う。いくつかの実施形態では、持続放出は、初期バースト、続いて定常放出の期間を伴う。いくつかの実施形態では、持続放出は、初期バーストを含まない。いくつかの実施形態では、持続放出は、実質的にバーストフリー放出である。
【0064】
本明細書で使用される場合、「治療剤」という用語は、生物に投与されたときに所望の薬理学的効果を誘発する任意の薬剤を指す。いくつかの実施形態では、薬剤は、適切な集団にわたって統計的に有意な効果を示す場合、治療剤であるとみなされる。いくつかの実施形態では、適切な集団は、モデル生物の集団であってもよい。いくつかの実施形態では、適切な集団は、特定の年齢群、性別、遺伝的背景、既存の臨床状態などの様々な基準によって定義され得る。いくつかの実施形態では、治療剤は、疾患、障害、および/または状態の一つ以上の症状または特徴の、軽減、改善、緩和、阻害、予防、発症の遅延、重症度の低減、および/または発生率の低減に使用され得る任意の物質である。
【0065】
本明細書で使用される場合、「治療する」という用語は、特定の疾患、障害、および/または状態の一つ以上の症状または特徴の部分的な、または完全な、軽減、改善、緩和、阻害、予防(少なくともある期間)、発症の遅延、重症度の低減、頻度の低減、および/または発生率の低減を指す。いくつかの実施形態では、治療は、例えば、疾患に関連する病理を発症するリスクを減少させる目的で、疾患の症状、徴候、もしくは特徴を示さない、ならびに/または疾患の早期症状、徴候、および/もしくは特徴のみを示す対象に投与され得る。いくつかの実施形態では、治療は、疾患の一つ以上の症状、徴候、および/または特徴の発症後に投与され得る。
【0066】
「双性イオン」という用語は、正電荷および負電荷を有する中性分子である。
【0067】
(I)ラジカル架橋双性イオンゲル
本開示は、双性イオンモノマーおよび非双性イオンモノマーを含むラジカル架橋双性イオンゲルを包含する。いくつかの実施形態では、双性イオンモノマーは、非双性イオンモノマーで少なくとも部分的に架橋される。様々な実施形態では、架橋双性イオンゲルは、適用が容易であり、押出し可能であり、伸縮性であり、創傷に容易に適合する。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、一般的に入手可能な試薬から製造される。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、ゲル化を誘導するために揮発性化学物質を必要とすることなく生産することができる。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、全水性系処理(all aqueous processing)を使用して生産することができる。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、高価または複雑な機器(電源、ソニケーター、ボルテクサなど)に依存する必要なく生産することができる。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、調製が安価であり、調製が容易であり、バルク製造が可能である。
【0069】
いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、穏やかな生理学的に安全な反応条件下で調製される。いくつかの実施形態では、穏やかな水性系処理は、形成中の治療活性剤の組み込みに適している。いくつかの実施形態では、ハイドロゲルは、例えば、治療活性剤の浸透の容易さを提供する。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、生体適合性および生分解性である。いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは細胞傷害性ではない。いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは非免疫原性である。
【0070】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、優れた反発性および弾性によって特徴付けられる。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、大きな緊張または長期の周期的圧縮から完全に回復することを特徴とする。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、弾性率のわずかな変化で、かつ塑性変形などの機械的特性の顕著な変化の兆候を示さずに、長期の圧力に耐えるという点で特徴付けられる。いくつかの実施形態では、本発明の架橋性双性イオンゲルは、それらが反復する緊張に耐えることができるという点で特徴付けられる。いくつかの実施形態では、上記で特定された特徴および/または特性を示すことが示されている本発明の架橋双性イオンゲルは、双性イオンモノマーおよび非双性イオンモノマーの溶液から形成される。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、溶媒に曝露されたとき、最大50%、最大100%、最大150%、最大200%、最大300%、または最大400%膨潤する。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、治療剤の封入を支持するように構成される。いくつかの実施形態では、本発明の架橋双性イオンゲルは、一つ以上の治療剤の直接封入を提供する。いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、治療剤ありまたはなしで長期貯蔵能力を示す。
【0072】
双性イオンモノマーは、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム(SBMA)、[(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]-プロピオン酸(CBMA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、およびそれらの組み合わせであってもよい。一実施形態では、双性イオンモノマーは、2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム(SBMA)である。
【0073】
非双性イオンモノマーは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)であってもよい。
【0074】
一般に、双性イオンモノマーと非双性イオンモノマーとの重量比は、約1:19~約19:1の範囲であり得る。様々な実施形態では、双性イオンモノマーと非双性イオンモノマーとの重量比は、1:19~約19:1、約1:18~約18:1、1:17~約17:1、約1:16~約16:1、1:15~約15:1、約1:14~約14:1、1:13~約13:1、約1:12~約12:1、1:11~約11:1、約1:10~約10:1、1:9~約9:1、約1:8~約8:1、1:7~約7:1、約1:6~約6:1、1:5~約5:1、約1:4~約4:1、1:3~約3:1、約1:2~約2:1の範囲であり得る。
【0075】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、任意選択の架橋剤をさらに含み得る。この架橋剤は、重合後、双性イオンモノマーおよび非双性イオンモノマーに追加的な架橋を提供する。架橋剤は、グリセロールジメタクリレート(GDMA)、メチレンビスアクリルアミド(MBA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、および二つ以上の架橋剤の組み合わせからなる群から選択される。一つの好ましい実施形態では、架橋剤はポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)である。
【0076】
一般的に、架橋剤とラジカル架橋双性イオンゲルとの濃度パーセンテージ比は、約0.0:1.0~約0.25:1.0の範囲であり得る。様々な実施形態では、架橋剤とラジカル架橋双性イオンゲルとの濃度パーセンテージ比は、約0.0:1.0~約0.25:1.0、約0.001:1.0~約0.2:1.0、約0.005:1.0~約0.15:1.0、約0.01:1.0~約0.1:1.0の範囲であり得る。
【0077】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、レオロジー改質剤をさらに含み得る。レオロジー改質剤は、ラジカル架橋双性イオンゲルのレオロジー特性をさらに強化する。好適なレオロジー改質剤の非限定的な例は、様々な粘土であってもよい。一実施形態では、レオロジー改質剤は、合成のスメクチック粘土である。いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、添加剤、例えば、治療剤、予防剤、および/または診断剤を含む。
【0078】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、抗酸化剤をさらに含み得る。抗酸化剤は、貯蔵能力をさらに強化し、ラジカル架橋双性イオンゲルの特性を強化する。好適な抗酸化剤の非限定的な例としては、レスベラトロール、様々なビタミン、尿酸、およびグルタチオンが挙げられる。一実施形態では、抗酸化剤は、レスベラトロールである。他の実施形態では、抗酸化剤は、A5G81ペプチド、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスタキサンチン、カプリン酸、酸化セリウムナノ粒子、クルクミン、青化処理(cyaniding)、没食子酸エピガロカテキン、ホルスコリン、ジンゲロール、イチョウ、グルタミン、グルタチオン、グリチルリジン、ホスファチジルセリン、ピペリン、ケルセチン、レスベラトロール、スルホラファン、スーパーオキシドジスムターゼ、タウリン、ユビキノール、尿酸、ウルソール酸、ビタミンEなどであってもよい。他の実施形態では、抗酸化剤は、NDPH-オキシダーゼ阻害剤(例えば、2-アセチルフェノチアジン(ML171)、アポシニン、APX-115、G6PDi-1、GKT136901、GLX351322、GSK2795039、Setanaxib(GKT137831)、VAS2870など)であってもよい。
【0079】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、添加剤、例えば、治療剤、予防剤、および/または診断剤を含む。
【0080】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、治療剤をさらに含み得る。治療剤は、ヒドロキシル基を介して共有結合されてもよく、ラジカル架橋双性イオンゲル中の一つ以上のイオンにイオン結合されてもよく、水素結合されてもよく、ラジカル架橋双性イオンゲルとのファンデルワールス相互作用を介して結合されてもよく、またはこれらの二つ以上の組み合わせであってもよい。治療剤は、投与または適用後、例えば、創傷治癒を強化するために、ラジカル架橋双性イオンゲルから長期間にわたって放出され得る。
【0081】
創傷の治療に有用な任意の好適な治療剤は、本開示のラジカル架橋双性イオンゲルに関連して使用され得る。非限定的な治療剤としては、ミオグロビン、酸化セリウムナノ粒子(CNP)、miRNA、siRNA、mRNA、成長因子、およびそれらの組み合わせが挙げられる。例として、治療剤は銀を含んでもよく、コロイド銀、DNAse 1(例えば、ドルナーゼアルファ)、miRNA、siRNA、mRNA、(例えば、miRNA-146a)、シトルリン化阻害剤(例えば、Cl-アミジン)、成長因子(例えば、VEGF、PDGF(例えば、レグラネクス)、EGF、FGF、TGF-b、GM-CSF、およびそのアイソフォーム)、ヒアルロン酸、タクロリムスおよびAMD3100、インスリン、コラゲナーゼ-デブリドマン、広域スペクトル抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、バンコマイシン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール(例えば、バクトリム)、アモキシシリン/クラブラン酸(オーグメンチン)、アンピシリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、アミノグリコシド、アジスロマイシン、カルバペネム、ピペラシリン・タゾバクタム合剤、キノロン(例えば、シプロフロキサシン)、テトラサイクリン系薬剤、クロラムフェニコール、チカルシリン)、などを含む。
【0082】
本開示のラジカル架橋双性イオンゲルに関連して使用され得る他の好適な治療剤としては、酸/アルカリ不安定性薬物、pH依存性薬物、または弱酸もしくは弱塩基である薬物が挙げられる。酸不安定性薬物の例としては、スタチン(例えば、プラバスタチン、フルバスタチン、およびアトルバスタチン)、抗生物質(例えば、ペニシリンG、アンピシリン、ストレプトマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、およびアジスロマイシン)、ヌクレオシド類似体(例えば、ジデオキシイノシン(ddIまたはジダノシン)、ジデオキシアデノシン(ddA)、ジデオキシシトシン(ddC))、サリチル酸塩(例えば、アスピリン)、ジゴキシン、ブプロピオン、パンクレアチン、ミダゾラム、およびメサドンが挙げられる。酸pHでのみ可溶性である薬物には、ニフェジピン、エモナプリド、ニカルジピン、アモスラロール、ノスカピン、プロパフェノン、キニーネ、ジピリダモール、ジョサマイシン、ジレバロール、ラベタロール、エニソプロスト(enisoprost)、およびメトロニダゾールが含まれる。弱酸である薬物には、フェノバルビタール、フェニトイン、ジドブジン(AZT)、サリチル酸塩(例えば、アスピリン)、プロピオン酸化合物(例えば、イブプロフェン)、インドール誘導体(例えば、インドメタシン)、フェナム酸化合物(例えば、メクロフェナム酸)、ピロールアルカン酸(pyrrolealkanoic acid)化合物(例えば、トルメチン)、セファロスポリン(例えば、セファロチン、セファラキシン(cephalaxin)、セファゾリン、セフラジン、セファピリン、セファマンドール、およびセフォキシチン)、6-フルオロキノロン、およびプロスタグランジンが含まれる。弱い塩基である薬物には、アドレナリン系薬物(例えば、エフェドリン、デゾキシエフェドリン、フェニレフリン、エピネフリン、サルブタモール、およびテルブタリン)、コリン系薬物(例えば、フィゾスチグミンおよびネオスチグミン)、鎮痙薬(例えば、アトロピン、メタンテリン、およびパパベリン)、クラーレ様薬剤(例えば、クロリソンダミン)、精神安定剤および筋弛緩剤(例えば、フルフェナジン、チオリダジン、トリフルオペラジン、クロルプロマジン、およびトリフルプロマジン)、抗鬱剤(例えば、アミトリプチリンおよびノルトリプチリン)、抗ヒスタミン剤(例えば、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ジメンヒドリナート、トリペレナミン、ペルフェナジン、クロルプロフェナジン(chlorprophenazine)、およびクロルプロフェンピリダミン)、心臓作用薬(例えば、ベラパミル、ジルチアゼム、ガラポミル(gallapomil)、シンナリジン、プロプラノロール、メトプロロールおよびナドロール)、抗マラリア薬(例えば、クロロキン)、鎮痛剤(例えば、プロポキシフェンおよびメペリジン)、抗真菌剤(例えば、ケトコナゾールおよびイトラコナゾール)、抗菌剤(例えば、セフポドキシム、プロキセチル、およびエノキサシン)、カフェイン、テオフィリン、およびモルヒネを含む。
【0083】
別の実施形態では、本開示のラジカル架橋双性イオンゲルに関連して使用され得る治療剤は、抗菌剤であってもよい。好適な抗菌剤としては、アミノグリコシド(例えば、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、およびトブラマイシン)、カルベセフェム(carbecephems )(例えば、ロラカルベフ)、カルバペネム(例えば、セルタペネム(certapenem)、イミペネム、およびメロペネム)、セファロスポリン(例えば、セファドロキシル セファゾリン、セファレキシン、セファクロル、セファマンドール、セファレキシン、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、およびセフトリアキソン)、マクロライド(例えば、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、およびトロレアンドマイシン)、モノバクタム、ペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、およびチカルシリン)、ポリペプチド(例えば、バシトラシン、コリスチン、およびポリミキシンB)、キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、およびトロバフロキサシン)、スルホンアミド(例えば、マフェニド、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、およびトリメトプリム-スルファメトキサゾール)、およびテトラサイクリン(例えば、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびオキシテトラサイクリン)が挙げられる。
【0084】
代替的な実施形態では、本開示のラジカル架橋双性イオンゲルに関連して使用され得る治療剤は、抗ウイルスプロテアーゼ阻害剤(例えば、アンプレナビル、ホスアンプレナビル、インジナビル、ロピナビル/リトナビル、リトナビル、サキナビル、およびネルフィナビル)であり得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、添加物は、一つ以上の治療剤であるか、またはこれを含む。概して、治療剤は、医薬活性(例えば、一つ以上の関連する前臨床モデルまたは臨床設定において統計的有意性で実証された活性)を有する小分子および/または有機化合物であるか、またはそれを含む。いくつかの実施形態では、治療剤は、臨床的に使用される薬物である。いくつかの実施形態では、治療剤は、細胞、タンパク質、ペプチド、核酸類似体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸(DNA、RNA、siRNA)、ペプチド核酸、アプタマー、抗体またはその断片もしくは部分、麻酔薬、抗凝血剤、抗がん剤、酵素の阻害剤、ステロイド剤、抗炎症剤、抗悪性腫瘍剤、抗原、ワクチン、抗体、鼻づまり薬、降圧剤、鎮静剤、避妊薬、プロゲステロン作用薬、抗コリン剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗精神病薬、β-アドレナリン遮断剤、利尿剤、心血管活性剤、血管作用薬、抗緑内障剤、神経保護剤、血管新生阻害剤、ホルモン、ホルモン拮抗薬、成長因子または組換え成長因子ならびにその断片およびバリアント、サイトカイン、酵素、抗生物質または抗菌化合物、抗真菌剤、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、薬物(例えば、薬物、染料、アミノ酸、ビタミン、抗酸化剤)、薬理学的薬剤、およびその組み合わせであるか、またはそれを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、一つ以上の細胞を含む。本明細書の使用に適した細胞としては、前駆細胞または幹細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、角化細胞、肝細胞、胆管細胞、膵島細胞、甲状腺、副甲状腺、副腎、視床下部、脳下垂体、卵巣、精巣、唾液腺細胞、脂肪細胞、および前駆細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、一つ以上の抗生物質を含む。ハイドロゲルへの組み込みに適した抗生物質としては、以下に限定されないが、アミノグリコシド(例えば、ネオマイシン)、アンサマイシン、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン(例えば、セファゾリン、セファクロル、セフジトレン、セフジトレン、セフトビプロール)、糖ペプチド(例えば、バンコマイシン)、マクロライド(例えば、エリスロマイシン、アジスロマイシン)、モノバクタム、ペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン)、ポリペプチド(例えば、バシトラシン、ポリミキシンB)、キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、オフロキサシン、など)、スルホンアミド(例えば、スルファサラジン、トリメトプリム、トリメトプリム-スルファメトキサゾール合剤(コトリモキサゾール))、テトラサイクリン(例えば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、など)、クロラムフェニコール、リンコマイシン、クリンダマイシン、エタンブトール、ムピロシン、メトロニダゾール、ピラジナミド、チアンフェニコール、リファンピシン、チアンフェニクル(thiamphenicl)、ダプソン、クロファジミン、キヌプリスチン、メトロニダゾール、リネゾリド、イソニアジド、ホスホマイシン、フシジン酸、β-ラクタム抗生物質、リファマイシン、ノボビオシン、フシジン酸ナトリウム、カプレオマイシン、コリスチメタート、グラミシジン、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、ナリジクス酸、およびバンコマイシンが挙げられる。例えば、β-ラクタム抗生物質は、アジオシリン(aziocillin)、アズトレオナム、カルベニシリン、セフォペラゾン、セフトリアキソン、セファロリジン、セファロチン、モキサラクタム、ピペラシリン、チカルシリン、およびそれらの組み合わせであり得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、一つ以上の抗炎症剤を含む。抗炎症剤としては、コルチコステロイド(例えば、グルココルチコイド)、毛様麻痺薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、免疫選択性抗炎症誘導体(ImSAID)、およびそれらの任意の組み合わせを含み得る。例示的なNSAIDとしては、以下に限定されないが、セレコキシブ(Celebrex(登録商標))、ロフェコキシブ(Vioxx(登録商標))、エトリコキシブ(Arcoxia(登録商標))、メロキシカム(Mobic(登録商標))、バルデコキシブ、ジクロフェナク(Voltaren(登録商標)、Cataflam(登録商標))、エトドラク(Lodine(登録商標))、スリンダク(Clinori(登録商標))、アスピリン、アルクロフェナク、フェンクロフェナク、ジフルニサル(Dolobid(登録商標))、ベノリレート、ホスホサル(fosfosal)、アセチルサリチル酸、アセチルサリチル酸ナトリウム、アセチルサリチル酸カルシウム、およびサリチル酸ナトリウムを含むサリチル酸、イブプロフェン(モトリン)、ケトプロフェン、カルプロフェン、フェンブフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、スプロフェン、トリアプロフェン酸(triaprofenic acid)、フェノプロフェン、インドプロフェン、ピロプロフェン、フルフェナム、メフェナム、メクロフェナム、ニフルム、サルサレート、ロールメリン(rolmerin)、フェンチアザク、チロミソール、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、アパゾン、フェプラゾン、スドキシカム、イソキシカム、テノキシカム、ピロキシカム(Feldene(登録商標))、インドメタシン(Indocin(登録商標))、ナブメトン(Relafen(登録商標))、ナプロキセン(Naprosyn(登録商標))、トルメチン、ルミラコキシブ、パレコキシブ、リコフェロン(ML3000)を含み、薬学的に許容される塩、異性体、エナンチオマー、誘導体、プロドラッグ、結晶多形体、非晶質修飾(amorphous modification)、共結晶、およびその組み合わせを含む。
【0089】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、一つ以上の抗体を含む。ハイドロゲルへの組み込みに好適な抗体としては、以下に限定されないが、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、アルツモマブペンテタート、アルシツモマブ、アトリズマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベシレゾマブ、ビシロマブ、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、カツマキソマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、エフングマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、ファノレソマブ、フォントリズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、イゴボマブ(igovomab)、イムシロマブ、ラベツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ニモツズマブ、ノフェツモマブメルペンタン、オレゴボマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、スレソマブ、タカツズマブテトラキセタン、テフィバズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ビシリズマブ、ボツムマブ、ザルツムマブ、およびザノリムマブを含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、限定されないが、一つ以上の抗原、サイトカイン、ホルモン、ケモカイン、酵素、ならびに薬剤および/または官能基としてのそれらの任意の組み合わせを含む、一つ以上のポリペプチド(例えば、タンパク質)を含む。本明細書での使用に適した例示的な酵素としては、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
いくつかの実施形態では、架橋双性イオンゲルは、創傷治癒に有用な一つ以上の治療剤を含む。いくつかの実施形態では、創傷治癒に有用な薬剤には、1)自然創傷治癒プロセスを促進もしくは加速するか、または2)不適当な、もしくは遅延した創傷治癒に関連する影響(その影響には、例えば、有害な炎症、上皮化、血管新生および基質沈着、ならびに瘢痕化および線維症が含まれる)を低減する、創傷治癒カスケードの刺激剤、増強剤、または陽性媒介物質が含まれる。
【0092】
ラジカル架橋に使用される治療剤の量は、特定の治療剤、一日当たりに投与する必要のある治療剤の量、および使用される特定のラジカル架橋双性イオンゲルに応じて変化し得る。一般的に、治療剤とラジカル架橋双性イオンゲルとの濃度パーセンテージ比は、約0.001:1.0~約1.0:1.0の範囲であり得る。様々な実施形態では、治療剤とラジカル架橋双性イオンゲルとの濃度パーセンテージ比は、約0.001:1.0~約1.0:1.0、約0.01:1.0~約0.5:1.0、または約0.05:1.0~約0.1:1.0の範囲であり得る。
【0093】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、いくつかの新規かつ特有の特性を有する。ラジカル架橋双性イオン(radical crosslinked zwitterionic)は、約50mm超かつ約100mm未満の平均細孔サイズを有する。様々な実施形態では、平均細孔サイズD90は、約51mm、約52mm、約53mm、約54mm、約55mm、約56mm、約57mm、約58mm、約59mm、約60mm、約61mm、約62mm、約63mm、約64mm、約65mm、約66mm、約67mm、約68mm、約69mm、約70mm、約71mm、約72mm、約73mm、約74mm、約75mm、約76mm、約77mm、約78mm、約79mm、約80mm、約81mm、約82mm、約83mm、約84mm、約85mm、約86mm、約87mm、約88mm、約89mm、約90mm、約91mm、約92mm、約93mm、約94mm、約95mm、約96mm、約97mm、約98mm、または約99mmである。この細孔サイズは、任意選択の治療剤の時間調節された放出を可能にするために重要である。
【0094】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、弾性であり、注入可能であり、圧縮可能である。圧縮が完了した後、ラジカル架橋双性イオンゲルは放出され、その元の形態に戻る。さらに、ラジカル架橋双性イオンゲルは自己回復性である。この自己回復という用語は、ラジカル架橋双性イオンゲルの主要部分からラジカル架橋双性イオンゲルの一片を除去し、除去された一片をラジカル架橋双性イオンの残りの主要部分上に配置することを指し、除去された一片は主要部分内に合わさり、架橋を再確立する。
【0095】
一般的に、ラジカル架橋双性イオンゲルは、約50Pa~約2,000Paの貯蔵弾性率を有する。様々な実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、50PA~約2,000Pa、約100Pa~約1,800Pa、約200~約1,700Pa、約300~約1,600Pa、約400~約1,500Pa、約500~約1,400Pa、約600~約1,300Pa、約700~約1,200Pa、約800~約1,100Pa、約900~約1,000Pa、または約500Pa~約750Paの貯蔵弾性率を有する。
【0096】
一般的に、ラジカル架橋双性イオンゲルは、約1,000Pa~約20,000Paの弾性率を有する。様々な実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、約1,000Pa~約20,000Pa、約2,000Pa~約17,250Pa、約2,500~約15,000Pa、約3,000~約12,500Pa、約3,500~約10,000Pa、約4,000~約7,500Pa、または約5,000~約10,000Paの弾性率を有する。
【0097】
本開示のラジカル架橋双性イオンゲルの物理的特性は、汚損防止性、粘着性、自己回復性、細胞適合性であり、創傷の治癒の改善を提供するハイドロゲル材料を提供する。特定の態様では、本開示のラジカル架橋双性イオンゲルの自己回復特性は、ゲルが創傷のサイズおよび形状に適合する能力を促進する。
【0098】
表1は、本発明の異なる実施形態で架橋時間の効果を提供する。
【表1】
【0099】
(II)ラジカル架橋双性イオンゲルを調製する方法
別の態様では、本開示はラジカル架橋双性イオンゲルを調製する方法を提供する。方法は、(a)双性イオンモノマー、非双性イオン性イオンモノマー(non-zwitterionic ionic monomer)、任意選択の架橋剤、任意選択のレオロジー改質剤、任意選択の抗酸化剤、および溶媒(例えば、水)を混合して、反応混合物を形成する工程と、(b)任意選択で、粒子フィルター、例えば、0.22μmの細孔フィルターを通して、反応混合物を濾過し、それによって濾過された反応混合物を形成する工程と、(c)反応混合物および/または濾過された反応混合物を、光および/または他の好適なラジカル開始剤に曝露し、それによって、双性イオンモノマーおよび非双性イオン性イオンモノマーを重合して、ラジカル架橋双性イオンゲルを形成する工程と、を含み、ラジカル架橋双性イオンゲルは、約50mm超かつ約100mm未満の平均細孔サイズを有する。いくつかの実施形態では、本開示の調製方法は、ラジカル架橋双性イオンゲルを洗浄して、未反応モノマー、架橋剤、および任意選択の開始剤副生成物(存在する場合)を除去し、それによって洗浄されたラジカル架橋双性イオンゲルを形成することをさらに含んでもよい。
【0100】
双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、および任意選択の架橋剤を上記に詳述する。一般に、反応混合物および/または濾過された反応混合物は、均質な溶液を提供するのに十分な持続時間混合されてもよい。様々な混合方法が当該技術分野で公知である。特定の実施形態では、反応混合物および/または濾過された反応混合物は、光または他の好適なラジカル発生剤への曝露の前に混合されてもよく、または反応混合物および/または濾過された反応混合物は、光または他の好適なラジカル発生剤への曝露と同時に混合されてもよい。
【0101】
一実施形態では、双性イオンモノマーは、2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム(SBMA)であり、非双性イオンモノマーは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)であり、架橋剤は、任意選択でポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)である。
【0102】
一般に、初期反応混合物における、双性イオンモノマーと非双性イオンモノマーとの重量比は、約1:19~約19:1の範囲であり得る。様々な実施形態では、初期反応混合物における、双性イオンモノマーと非双性イオンモノマーとの重量比は、1:19~約19:1、約1:9~約9:1、約1:4~約4:1、または約2:1~約1:2の範囲であり得る。
【0103】
一般的に、反応混合物に初期に存在する架橋剤と、形成されたラジカル架橋双性イオンゲルとの濃度パーセンテージの比は、約0.0:1.0~約0.25:1.0の範囲であり得る。様々な実施形態では、反応混合物に初期に存在する架橋剤とラジカル架橋双性イオンゲル形態との濃度パーセンテージ比は、約0.0:1.0~約0.25:1.0、約0.001:1.0~約0.2:1.0、約0.005:1.0~約0.15:1.0、約0.01:1.0~約0.1:1.0の範囲であり得る。
【0104】
一般に、溶媒(例えば、水)の体積は、初期反応混合物中に存在する双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、および任意選択の架橋剤の重量に対して、約0.1:1.0~約500.0:1.0の範囲であり得る。様々な実施形態では、溶媒の体積は、初期反応混合物中の双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、および任意選択の架橋剤の重量に対して、約0.1:1.0~約500.0:1.0、約1.0:1.0~約250.0:1.0、または約5.0:1,0~約100.0:1.0の範囲であり得る。
【0105】
反応混合物は、任意選択で開始剤を含んでもよい。理論によって制限されるものではないが、開始剤は、双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、および任意選択の架橋剤の間の重合を促進し得る。非限定的な例として、本開示の調製方法に関連して有用な開始剤としては、過硫酸ナトリウム、ルテニウム(II)-トリス(2,2’-ビピリジル)ジクロリド、およびその組み合わせが挙げられる。
【0106】
一般に、開始剤の重量比は、初期反応混合物中の双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、および任意選択の架橋剤の重量比に対して、0.001:1.0~0.1:1.0の範囲であり得る。様々な実施形態では、開始剤の重量比は、初期反応混合物中の双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、および任意選択の架橋剤の重量比に対して、0.001:1.0~0.1:1.0、約0.005:1.0~約0.05:1.0、または約0.01:1.0~約0.02:1.0の範囲であり得る。
【0107】
一旦形成されたら、反応混合物を任意選択的に濾過して、例えば、0.22μmの細孔フィルターを通して、粒子サイズを減少させ、それによって濾過された反応混合物を形成してもよい。理論によって制限されることを意図するものではないが、濾過は、未溶解材料を反応混合物から除去し、均質な反応混合物の形成を容易にし、重合をより効率的に発生させることができる。
【0108】
次いで、反応混合物および/または濾過された反応混合物を、光および/または他の好適なラジカル発生剤に曝露して、重合を開始してもよい。理論によって制限されることを意図するものではないが、光および/またはラジカル発生剤の開始が、双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、任意選択の架橋剤、および任意選択のレオロジー改質剤がラジカル架橋双性イオンゲルを形成することを可能にする。任意選択の開始剤はさらに、架橋重合を強化し得る。
【0109】
様々な形態の光および/またはラジカル発生剤を使用して、反応混合物を重合することができる。ラジカルの生成に有用な光の波長は、一般的に400nm~700nmの範囲である。光の有用な形態の非限定的な例は、UV光、可視光、または白色光、例えば、405nmであってもよい。光は、太陽光、フィルタリングされた太陽光、または人工源からのもの(例えば、白熱光、LED光、UV光など)であってもよい。
【0110】
他の好適なラジカル発生剤は、単独で、または光曝露と組み合わせて使用されてもよい。好適なラジカル発生剤の非限定的な例は、過硫酸アンモニウム(APS)、N,N,N’N’-テトラメチルエチレン-1,2-ジアミン(TEMED)、アスコルビン酸、有機過酸化物、およびそれらの組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、好適なラジカル発生剤は、APS/TEMEDまたはAPS/アスコルビン酸(例えば、10mMアスコルビン酸、10mM APS)を含み得る。当該技術分野で公知の他の熱開始剤および非熱開始剤も使用され得る。特定の実施形態では、非熱ラジカル発生剤は、反応中に熱を放出する場合があり、冷却を必要とする場合がある。例として、K
2S
2O
8(50~60°Cの分解温度)または4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)(70°Cの分解)が使用され得る。表2は、ゲル剛性に対するラジカル消去剤濃度の効果を示す。表2は、ゲル靭性および接着性に対する様々な濃度の過硫酸アンモニウム(APS)の効果を示す。
【表2】
【0111】
理論によって限定されることを意図するものではないが、フリーラジカル活性化剤としてのアスコルビン酸のインサイチュ(in situ)重合での使用は、例えばセラミックスラリーから、有害な物質を除去する可能性を開く。アスコルビン酸(その形態のうちの一つはビタミンCとして一般的に知られている)は天然由来の化合物であり、単一細胞生物、植物および動物に見出すことができ、グルコースから産生される。水によく溶解し、ヒトおよび環境に有害ではない。さらに、アルカリアミンであるN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンの添加が一部のセラミックスラリーの凝固につながる一方で、アスコルビン酸の穏やかな酸性特性は、セラミック懸濁液の安定性にプラスの影響を与える可能性がある。表3は、ゲル剛性に対するラジカル消去剤濃度の効果を示す。
【表3】
【0112】
反応混合物は、好適な容器内に配置され、光源および/または他の好適なラジカル発生剤に曝露されてもよい。特定の実施形態では、反応容器は、特定の波長の光が反応混合物と接触して重合を提供することを可能にするように構成されてもよい。反応混合物を光および/または他の好適なラジカル発生剤に曝露する持続時間は、モノマー、任意選択の架橋剤、任意選択の開始剤、任意選択のレオロジー改質剤、使用されるモノマーのタイプ、および使用される任意選択の抗酸化剤の量に応じて変化し得る。一般に、反応混合物を光および/または他の好適なラジカル発生剤に曝露する持続時間は、約1分~24時間の範囲であり得る。様々な実施形態では、曝露期間は、約30分~24時間、約45分~6時間、または約1時間~2時間の範囲であり得る。一実施形態では、曝露期間は、約1時間である。
【0113】
特定の実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、例えば、緩衝生理食塩溶液で洗浄して、それによって未反応モノマー、未反応架橋剤、および任意選択の開始剤副生成物を除去し、それによって洗浄されたラジカル架橋双性イオンゲルを形成してもよい。
【0114】
一般に、ラジカル架橋双性イオンゲルは、緩衝生理食塩溶液で少なくとも一回洗浄されてもよい。様々な実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、緩衝生理食塩溶液で一回、二回、または二回を超えて洗浄されてもよい。ラジカル架橋双性イオンゲルの各洗浄は、未反応材料を除去するだけでなく、純度も増加させる。緩衝生理食塩溶液の各洗浄は、ラジカル架橋双性イオンゲルと一定期間インキュベートされて、未反応モノマー、未反応架橋剤、および開始剤副生成物がゲルから放散することを可能にし得る。
【0115】
一般的に、ラジカル架橋双性イオンゲルを洗浄するために、多種多様な緩衝生理食塩溶液を使用し得る。好適な緩衝生理食塩溶液の代表的な例には、リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、トリス緩衝液、および緩衝食塩水塩が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、本方法で有用な緩衝食塩水は、リン酸緩衝食塩水である。
【0116】
緩衝生理食塩溶液の量は、ラジカル架橋双性イオンゲルの調製サイズ、モノマーおよび任意選択の架橋剤のタイプ、任意選択の開始剤の量、ならびに使用される緩衝食塩水に応じて変化し得る。概して、緩衝生理食塩溶液の体積は、初期反応混合物中の双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、任意選択の架橋剤、および開始剤の量の重量に対して、約1.0:1.0~約100:1.0の範囲であり得る。様々な実施形態では、緩衝生理食塩溶液の体積は、初期反応混合物中の双性イオンモノマー、非双性イオンモノマー、および任意選択の架橋剤の重量に対して、約1.0:1.0~約100:1.0、約5.0:1.0~約90.0:1.0、約10.0:1.0~約50.0:1.0、または約15:1.0~約30.0:1.0の範囲であり得る。
【0117】
概して、本開示の調製方法は、0°C~約40°Cの範囲の温度で実施され得る。様々な実施形態では、調製方法は、0°C~約40°C、約10°C~約30°C、または約15°C~約25°Cの範囲の温度で実施され得る。一実施形態では、調製方法は、室温(例えば、約23°C)で実施され得る。本開示の調製方法は、典型的には、周囲圧力下で実施され、不活性雰囲気下、例えば、窒素、アルゴン、またはヘリウム下で行われてもよい。本明細書に開示される方法に従って調製されたラジカル架橋双性イオンゲルは、使用前に4°Cで保存され得る。
【0118】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、ラジカル架橋双性イオンゲルの乾式電源(dry power)を調製するためにさらに凍結乾燥されてもよい。この凍結乾燥方法は、使用前に再加水分解することができる好都合な粉末を可能にする。この形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、貯蔵寿命を延ばす。
【0119】
いくつかの実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲルは、最終使用前に溶媒中に溶解され、続いて共溶媒を使用して沈殿され得る。理論によって限定されることを意図するものではないが、残留開始剤および安定剤は一般的に溶液中に残り、ポリマーは固体(粉末、ガムまたは繊維)として分離される。このプロセスは、望ましいポリマー特徴が得られるまで繰り返され得る。この分別沈殿はまた、より低い分子量のポリマーを除去するのに効果的であり、結果としてより狭い分子量分布をもたらす。使用され得る溶媒/共溶媒対としては、トルエン/ヘキサン、トルエン/メタノール、THF/水などが挙げられる。
【0120】
本開示の調製方法の追加の態様を付録に示す。
【0121】
(III)創傷を治療する方法
別の態様では、本開示は、創傷を治療する方法、または創傷治癒を提供する方法を包含する。方法は、本明細書に記載されるラジカル架橋双性イオンゲル(または洗浄されたラジカル架橋双性イオンゲル)を、それを必要とする対象の創傷に投与または適用することと、創傷治癒を提供するのに十分な時間、ゲルを所定の位置に残すことと、を含む。特定の実施形態では、本開示の方法に従って提供される創傷治癒は、部分的創傷治癒(例えば、創傷閉鎖)または完全な創傷治癒(例えば、創傷閉鎖)であり得る。特定の実施形態では、創傷は、治療前の創傷と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または完全に治癒(例えば、閉鎖)し得る。
【0122】
特定の実施形態では、ラジカル架橋双性イオンゲル(または洗浄されたラジカル架橋双性イオンゲル)は、創傷の表面に局所的に適用されてもよく、または創傷内に注入されてもよい。ラジカル架橋双性イオンゲルは、様々なサイズおよび形状の創傷に適用され得る。特定の実施形態では、創傷は糖尿病性潰瘍であってもよい。他の実施形態では、創傷は、外科手術創傷または外傷創傷であってもよい。ラジカル架橋双性イオンゲルの一つ以上の適用は、長期間にわたって適用されてもよい。
【0123】
ラジカル架橋双性イオンゲルは、様々な手段で創傷に適用され得る。非限定的な方法は、シリンジによって、舌圧子を使用してラジカル架橋双性イオンゲルを適用すること、またはラジカル架橋双性イオンゲルを包帯もしくはバンド・エイドに塗布し、次いで包帯を創傷に適用することによる場合がある。凍結乾燥されたラジカル架橋双性イオンゲルは、容易に再水和され、創傷に直接適用され得る。
【0124】
本開示の方法に従って治療され得る対象は、ヒト、家畜動物、コンパニオンアニマル、実験動物、または動物園動物(zoological animal)を含む。一実施形態では、対象は、齧歯類、例えば、マウス、ラット、モルモットなどであってもよい。別の実施形態では、対象は家畜動物であってもよい。好適な家畜動物の非限定的な例としては、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラマ、およびアルパカを挙げることができる。さらに別の実施形態では、対象はコンパニオンアニマルであってもよい。コンパニオンアニマルの非限定的な例としては、イヌ、ネコ、ウサギ、および鳥などのペットを挙げることができる。さらに別の実施形態では、対象は動物園動物であってもよい。本明細書で使用される場合、「動物園動物」とは、動物園に見出され得る動物を指す。かかる動物は、非ヒト霊長類、大型ネコ、オオカミ、およびクマを含み得る。特定の実施形態では、動物は実験動物である。実験動物の非限定的な例としては、齧歯類、イヌ科動物、ネコ科動物、および非ヒト霊長類を挙げることができる。特定の実施形態では、動物は齧歯類である。齧歯類の非限定的な例としては、マウス、ラット、モルモットなどを挙げることができる。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0125】
本開示の治療方法の追加の態様を付録に示す。
【0126】
本発明の範囲から逸脱することなく、上述の方法において様々な変更を行うことができるため、上記の説明および以下に示される実施例に含まれるすべての事項は、限定的な意味ではなく、例示として解釈されることが意図される。
【実施例】
【0127】
材料:
[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)水酸化アンモニウム(SBMA)をAFG Scientific(イリノイ州、ノースブルック)から購入し、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオン酸(CBMA)をTCI Chemicals(オレゴン州、ポートランド)から購入した。ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、過硫酸ナトリウム(SPS)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、およびルテニウム(II)トリス-ビピリジル(Ru(bpy))ジクロリドをSigma Aldrich(ミズーリ州、セントルイス)から購入した。
【0128】
実施例1:白色光を使用したラジカル架橋双性イオンゲルの調製(より詳細な手順が必要である)
CBMA、SBMA、およびHEMAを、さらなる処理なしに受け取ったまま使用した。PEGDMAを水中で10%v/vに希釈し、SPSおよびRu(bpy)を10mg/mLで溶解した。所望の乾燥重量の双性イオンモノマーを、1.5mLの微小遠心管に添加した。次いで、様々な体積のHEMA、SPS、Ru(bpy)、およびPEGDMAを管に添加した。次いで、溶液の総体積を水で1mLまで増し、溶液を15秒間ボルテックスして、双性イオンモノマーを完全に溶解した。次いで、溶液を、0.22μmの細孔フィルターを通して滅菌濾過した。次いで、管を周囲、白色光下に1時間置き、重合を誘導した。重合後、ゲルを滅菌PBSで三回すすぎ、4°Cで保存した。表4は、モノマーおよび任意選択の架橋剤の量、ならびにこれらの実験の結果を示す。
【表4】
【0129】
実施例2:405nm光を使用したラジカル架橋双性イオンゲルの調製
CBMA、SBMA、およびHEMAを、さらなる処理なしに受け取ったまま使用した。所望の乾燥重量の双性イオンモノマーを、所望の体積のHEMAと共に1.5mLの微小遠心管に添加した。次いで、総溶液体積を、水で1mLまで増した。溶液を15秒間ボルテックスして、全ての成分を溶解し、0.22μmの細孔フィルターを通して滅菌濾過した。次いで、溶液を、近UV、405nmの光を有するカスタムライトボックス内に1時間置いた。重合後、ゲルを滅菌PBSですすぎ、4°Cで保存した。表5は、モノマーおよび任意選択の架橋剤の量、ならびにこれらの実験の結果を示す。
図1aおよび1bは、ラジカル架橋双性イオンゲルの写真を示す。
【表5】
【0130】
実施例3:ラジカル架橋双性イオンゲルの細胞適合性
ゲルを、上述のプロトコルに従って作製した。次いで、ゲルを、24ウェルプレート中で0.4μmの細孔サイズを有するトランスウェル膜にアリコートした。過剰な未反応モノマーおよび試薬をすすぐために、ゲルを滅菌1XPBS(pH7.4)に三日間浸漬した。毎日、PBSを吸引し、新鮮な溶液と交換した。すすぎ工程の後、50,000個のヒト皮膚線維芽細胞(hDF)を組織培養(TC)処理した24ウェルプレートに播種し、ゲルを含有するトランスウェル膜を培養物の上部に配置した。培養物を、湿気とともに、37
0Cおよび5%CO
2で24時間インキュベートした。24時間後の細胞生存率を試験するために、50μLのCCK8(Dojindo)を500μLの細胞培養培地に添加し、製造業者のプロトコルに従って一時間インキュベートした。次いで、100μLの培地を96ウェルプレート(n=3)に移し、マイクロプレートリーダーを用いて450nmで吸光度を読み取った。
図2は、これらの実験の結果を示す。
【0131】
実施例4:ラジカル架橋双性イオンゲルの汚損防止
双性イオンゲルの汚損防止能力を、蛍光顕微鏡検査法を使用して測定した。円形ホウケイ酸ガラスカバースリップを無水エタノールですすぎ、次いで10分間かけてからからに乾燥させた。次いで、ガラススライドを24ウェルプレートに移し、200μLの双性イオンゲル溶液で覆った。ゲルを一時間重合させ、その後、スライドを未使用のウェルに移した。次いで、200μLのFITC-BSA溶液(0.2mg/mL)を各ガラススライドに添加し、スライドを短時間振盪して、タンパク質溶液の完全なカバレッジを確実にした。次いで、プレートを箔で覆って光から保護し、37
0 Cで一晩インキュベートした。翌日、スライドを、λ
ex=495nmおよびλ
em=520nmのLecia蛍光顕微鏡を使用して撮像した。
図3は、ガラススライドと比較した、この汚損防止挙動の写真を示す。
【0132】
実施例5:ラジカル架橋双性イオンゲルのレオロジー測定
直径約22mmおよび高さ約4mmのゲルサンプルを12ウェルプレートで調製した。ゲルのレオロジー特性を決定するために、直径20mmのクロスハッチされた平行プレートを備えたAR-G2レオメーター(TA Instruments)を37°Cで使用して、周波数掃引および歪み掃引試験を実施した。周波数掃引測定を1%歪みで実施した。歪み掃引測定を10rad/s周波数で行った。FTIR測定のために、ゲルサンプルを凍結乾燥し、乾燥粉末を、ATR付属品(Specac、Golden Gate)を備えたNexus 470 ESP FT-IR分光計を使用して分析した。
図4a~4dは、これらの測定値の結果を示す。
【0133】
実施例6:ラジカル架橋双性イオンゲルの膨潤試験
ラジカル双性イオンハイドロゲルの膨潤挙動を決定するために、調製された状態のゲルを秤量して、初期サンプルの質量(m
初期)を決定し、PBS(pH:7.4)に浸漬し、37°Cでインキュベーター内で膨潤させた。ハイドロゲルを、選択された時間間隔で採取し、一つのペトリ皿から別のペトリ皿へと数回移して、ハイドロゲル表面から過剰な水を除去し、次いで、秤量して(m
湿潤ゲル)、ゲルの膨潤を決定した。
図5は、ラジカル架橋双性イオンゲルの膨潤比率を示す。
【0134】
実施例7:ラジカル架橋双性イオンゲルの分解試験
ハイドロゲルの分解挙動を決定するために、ゲルをPBS(pH7.4)に浸漬し、37°Cでインキュベーター内に着座させた。ハイドロゲルを、選択された時間間隔で採取し、凍結乾燥し、秤量して、異なる時間間隔で分解割合を決定した。
図6は、ラジカル架橋双性イオンゲルの分解比率を示す。
【0135】
実施例8:ラジカル架橋双性イオンゲルの注入可能性、伸縮性、圧縮および放出、ならびに自己回復
図7は、白色光で調製されたラジカル架橋双性イオンゲルの注入可能性(injectability)、伸縮性、圧縮および放出、ならびに自己回復の特徴に関する一連の写真を示す。
【0136】
図8は、405nm光で調製されたラジカル架橋双性イオンゲルの注入可能性、伸縮性、圧縮および放出、ならびに自己回復の特徴に関する一連の写真を示す。
【0137】
実施例9:ラジカル架橋双性イオンゲルの注入可能性。
図9は、ラジカル架橋双性イオンゲルの、極低温プロセスを使用して調製された双性イオンゲルと比べた、注入可能性の特徴の写真を示す。
【0138】
実施例10:治療剤の持続放出
図10aおよび10bは、長期間にわたる様々なラジカル架橋双性イオンゲルのミオグロビンおよびCNPの放出を示すグラフである。
【0139】
実施例11:創傷閉鎖実験
ラジカル架橋双性イオンゲルを、ヒトの創傷の閉鎖について評価した。(より詳細が必要)。
図11は、16日間にわたって治癒を強化する、創傷に適用されるラジカル架橋双性イオンゲルを示す一連の写真である。
【0140】
実施例12:マウス研究における創傷閉鎖実験
ラジカル架橋双性イオンゲルを一連のマウスに適用して、数日間にわたる創傷閉鎖のパーセンテージを決定した。データが示すように、創傷は2週間で完全に閉鎖された。
図12aおよび
図12bは、時間に対する測定での創傷閉鎖%のグラフを示す。
【0141】
その他の実施形態および等価物
本開示は、様々な実施形態および実施例と併せて説明されてきたが、それらがこうした実施形態または実施例に限定されることを意図するものではない。反対に、本開示は、当業者によって理解されるように、様々な代替物、修正物、および等価物を包含する。したがって、説明、方法、および図は、その効果について記載されない限り、要素の説明された順序に限定されるものとして読み取られるべきではない。
【0142】
本開示は、特定の実施形態を説明し、図示してきたが、本開示はそれらの特定の実施形態に限定されないことが理解されるべきである。むしろ、本開示は、説明および図示されてきた特定の実施形態および特徴の機能的および/または等価物であるすべての実施形態を含む。
【国際調査報告】