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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240327BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20240327BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20240327BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
B23B51/00 J
C23C16/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565297
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2022060698
(87)【国際公開番号】W WO2022223786
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】21170080.2
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モーヤン ブレニング, ラルカ
(72)【発明者】
【氏名】フォン フィーアント, リーナ
(72)【発明者】
【氏名】エンクヴィスト, ヤン
【テーマコード(参考)】
3C037
3C046
4K030
【Fターム(参考)】
3C037CC01
3C037CC09
3C037CC10
3C037CC11
3C046FF03
3C046FF04
3C046FF05
3C046FF09
3C046FF10
3C046FF22
3C046FF23
3C046FF25
4K030AA03
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA18
4K030BA38
4K030BA41
4K030BB03
4K030BB12
4K030CA02
4K030CA03
4K030CA05
4K030CA11
4K030FA10
4K030JA01
4K030LA22
(57)【要約】
本発明は、少なくとも部分的に3~30μm被覆により被覆された基材を含む金属切削用の切削工具であって、前記基材が、超硬合金、サーメットまたはセラミックであり、前記被覆が1つまたは複数の層を含み、少なくとも1つの層が3~25μmの厚さを有するTi(C,N)層であり、前記Ti(C,N)層が≧25nmかつ≦35nmの平均粒径を有する柱状粒子で構成されている切削工具に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に3~30μm被覆により被覆されている基材を含む金属切削用の切削工具であって、前記基材が、超硬合金、サーメットまたはセラミックであり、前記被覆が1つまたは複数の層を含み、少なくとも1つの層が3~25μmの厚さを有するTi(C,N)層であり、前記Ti(C,N)層が柱状粒子で構成されており、
CuKα線によるX線回折により測定されたTi(C,N)層の平均粒径D422、粒径D422が、シェラーの式に従って、(422)ピークの半値全幅(FWHM)から計算され、
[式中、D422は、Ti(C,N)層中のTi(C,N)粒子の平均粒径であり、Kは、ここでは0.9と設定された形状係数であり、λは、ここでは1.5405Åと設定されたCuKα線の波長であり、B422は、(422)反射のFWHM値であり、θはブラッグ角であり、D422は、≧25nmかつ≦35nmである]、金属切削用の切削工具。
【請求項2】
4.5~25μmの厚さを有する前記少なくとも1つのTi(C,N)層が、CuKα線およびθ-2θスキャンを使用して測定されたX線回折パターンを示し、TC(hkl)がハリスの式に従って定義され:
[式中、I(hkl)は、(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)は、ICDDのPDF-カード番号42-1489による標準強度であり、nは反射の数であり、計算に使用される反射は(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)および(422)であり、TC(422)は≧3である]、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記少なくとも1つのTi(C,N)層が、6~25μmの厚さおよび≧4のTC(422)を有する、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記少なくとも1つのTi(C,N)層がX線回折パターンを示し、TC(422)が最高であり、TC(311)が2番目に高い、請求項2または3に記載の切削工具。
【請求項5】
Ti(C,N)層中のC/(C+N)比が、50%~70%、好ましくは55%~65%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
被覆がTiNの最内層を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
Ti(C,N)層が被覆の最外層である、請求項1~6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
ドリル、ミリングインサートまたは旋削インサート、好ましくは旋削インサートである、請求項1~7のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
金属切削における、請求項1~8のいずれか一項に記載の切削工具の使用。
【請求項10】
高合金鋼、硬化鋼、鋳鉄またはステンレス鋼における金属切削における、好ましくは高合金鋼における金属切削に使用される、請求項9に記載の切削工具の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材および被覆を含む被覆切削工具であって、被覆が25nmと35nmの間の平均粒径を有するTi(C,N)層を含む被覆切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工用の切削工具の技術分野において、CVD被覆の使用は、工具の耐摩耗性を増大させる周知の方法である。TiN、TiC、Ti(C,N)およびAlなどのセラミック材料のCVD被覆が通常使用される。
【0003】
EP2791387は、微粒の炭窒化チタン層を備えた被覆切削工具を開示している。被覆は、ノデュラー鋳鉄の旋削時および高速切削時の剥離に対する高い耐性を示すことにおいて好都合である。0.05~0.4μmの平均粒幅を有する柱状のMTCVD Ti(C,N)層が記載されている。
【0004】
切削工具の寿命を延ばすことができ、および/または公知の切削工具被覆よりも高い切削速度に耐えることができる切削工具被覆を見出すことが絶えず必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一目的は、金属切削用途において摩耗に対する改善された耐性を有する被覆切削工具を提供することである。さらなる目的は、旋削操作時の、特に鋼および硬化鋼の旋削時のその耐性を改善することである。さらなる目的は、鋼および硬化鋼の旋削時の高い耐クレーター性および耐逃げ面摩耗性を提供する耐摩耗性被覆を提供することである。
【0006】
これらの目的の少なくとも1つは、請求項1に記載の被覆切削工具により達成される。
【0007】
好ましい実施形態は従属項に列記される。
【0008】
本開示は、少なくとも部分的に3~30μm被覆により被覆されている基材を含む金属切削用の切削工具であって、前記基材が、超硬合金、サーメットまたはセラミックであり、前記被覆が1つまたは複数の層を含み、少なくとも1つの層が3~25μmの厚さを有するTi(C,N)層であり、前記Ti(C,N)層が柱状粒子で構成され、CuKα線によるX線回折により測定されたTi(C,N)層の平均粒径D422、粒径D422が、シェラーの式に従って、(422)ピークの半値全幅(FWHM)から計算され:
[式中、D422はTi(C,N)層中のTi(C,N)粒子の平均粒径であり、Kは、ここでは0.9に設定された形状係数であり、λは、ここでは1.5405Åに設定されたCuKα線の波長であり、B422は(422)反射のFWHM値であり、θはブラッグ角であり、D422は≧25nmかつ≦35nmである切削工具に関する。
【0009】
驚くべきことに、非常に微細な粒状のTi(C,N)層を備えた切削工具が、高合金鋼における旋削などの金属切削用途に使用される場合、摩耗に対する非常に高い耐性を示すことが見出された。結晶性と、多量の結晶粒界を有する柱状粒子との組合せが高い耐摩耗性に寄与すると考えられる。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記少なくとも1つのTi(C,N)層は、CuKα線およびθ-2θスキャンを使用して測定されたX線回折パターンを示し、TC(hkl)は、ハリスの式に従って定義される:
[式中、I(hkl)は、(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I0(hkl)は、ICDDのPDF-カード番号42-1489による標準強度であり、nは反射の数であり、計算に使用される反射は(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)および(422)であり、TC(422)は≧3である]。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記少なくとも1つのTi(C,N)層は厚さが6~25μmであり、X線回折パターンを示し、TC(422)が4以上である。
【0012】
本発明の一実施形態において、前記少なくとも1つのTi(C,N)層は厚さが4.5~25μmであり、X線回折パターンを示し、TC(422)が最高であり、TC(311)が2番目に高い。本発明の一実施形態において、Ti(C,N)層中のC/(C+N)比は、50%~70%、好ましくは55%~65%である。この組成は、このTi(C,N)層が高い化学安定性を示すという点で好都合である。
【0013】
本発明の一実施形態において、被覆は、TiNの最内層を含む。
【0014】
本発明の一実施形態において、Ti(C,N)層は、被覆の最外層である。
【0015】
本発明は、金属切削における上述の切削工具の使用にも関する。
【0016】
本発明の一実施形態において、切削工具は、高合金鋼、硬化鋼、鋳鉄またはステンレス鋼における金属切削に使用され、好ましくは高合金鋼における金属切削に使用される。
【0017】
本発明の一実施形態において、切削工具は、ドリル、ミリングインサートまたは旋削インサート、好ましくは旋削インサートである。
【0018】
本明細書に記載される被覆切削工具は、任意の組合せで、ブラスティング、ブラッシングまたはショットピーニングなどの後処理に付され得る。ブラスティング後処理は、例えばアルミナ粒子を使用するウェットブラスティングでもドライブラスティングでもよい。
【0019】
本発明のさらに他の目的および特徴は、添付図面と共に考察される以下の定義および例から明らかとなる。
【0020】
本発明の実施形態は添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の被覆の例、試料Aの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図2】基準被覆の例、試料Bの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図3】基準被覆の例、試料Cの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図4】本発明の被覆の例、試料Aの外表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図5】基準被覆の例、試料Bの外表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図6】基準被覆の例、試料Cの外表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図7】試料AのTi(C,N)層中の平面図のTKD(透過菊池回折)マップを示す。平面図は、基材-被覆接触面から約6μmの距離である。
図8】試料BのTi(C,N)層中の平面図のTKD(透過菊池回折)マップを示す。平面図は、基材-被覆接触面から約6μmの距離である。
図9】試料CのTi(C,N)層中の平面図のTKD(透過菊池回折)マップを示す。平面図は、基材-被覆接触面から約6μmの距離である。
図10】試料AのTi(C,N)層中の平面図の透過電子顕微鏡(TEM)分析の明視野画像を示す。平面図は、基材-被覆接触面から約6μmの距離である。
図11】試料BのTi(C,N)層中の平面図の透過電子顕微鏡(TEM)分析の明視野画像を示す。平面図は、基材-被覆接触面から約6μmの距離である。
図12】試料CのTi(C,N)層中の平面図の透過電子顕微鏡(TEM)分析の明視野画像を示す。平面図は、基材-被覆接触面から約6μmの距離である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
用語「切削工具」は、本明細書において、インサート、エンドミルまたはドリルなど、金属切削用途に好適な切削工具を示すものとする。応用分野は、例えば、鋼などの金属における旋削、粉砕または穿孔であり得る。
【0023】
方法
XRD
層の組織(texture)または配向および平均粒径も調査するために、PIXcel検出器を備えたPANalytical CubiX3回折計を使用して、X線回折(XRD)が逃げ面に対して実施された。被覆切削工具は、試料の逃げ面がサンプルホルダーの基準面に対して平行であること、および、また逃げ面が適切な高さにあることを確実にするようにサンプルホルダーに載せられた。45kVの電圧および40mAの電流で、Cu-Kα線が測定に使用された。1/2度の散乱防止スリットおよび1/4度の発散スリットが使用された。被覆切削工具からの回折強度は、20°~140°の2θ範囲、すなわち10~70°の入射角θ範囲にわたり測定された。データのバックグラウンドフィッティング、Cu-Kαストリッピングおよびプロファイルフィッティングを含むデータ分析は、PANalyticalのX’Pert HighScore Plusソフトウェアを使用して実施された。
【0024】
PANalyticalのX’Pert HighScore Plusソフトウェアから得られたプロファイルフィットされたカーブの積分されたピーク半値全幅が使用されて、シェラーの式(式1)(Birkholz、2006)に従って、層の粒径が計算された。
【0025】
平均粒径D422は、シェラーの式に従って、(422)ピークの半値全幅(FWHM)から計算される:
[式中、D422はTi(C,N)の平均粒径であり、Kは、ここでは0.9と設定された形状係数であり、λは、ここでは1.5405Åと設定されたCuKα線の波長であり、Bは(422)反射のFWHM値であり、θは、ブラッグ角、すなわち入射角である]。
【0026】
βは、機器によるブロードニング(instrumental broadening)(0,00174533ラジアン)を減算した後のFWHMでのラインブロードニング(ラジアンで示す)であり、θは入射角である。機器によるブロードニングの減算を伴うブロードニングの計算には、ガウス近似が使用された(式2)(Birkholz、2006):
β=√((FWHMobs-(FWHMins
[式中、βは粒径計算に使用された実際のブロードニング(ラジアンで示す)であり、FWHMobsは測定されたブロードニング(ラジアンで示す)であり、FWHMinsは機器によるブロードニング(ラジアンで示す)である]。
【0027】
層の組織または配向は、CuKα線およびθ-2θスキャンを使用して測定されたX線回折パターンに基づいて定義され、TC(hkl)はハリスの式に基づいて定義された:
[式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)はICDDのPDF-カード番号42-1489による標準強度であり、nは反射の数であり、計算に使用される反射は、(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)および(422)である]。
【0028】
Ti(C,N)-層の上の、存在し得るさらなる層は、Ti(C,N)-層に入り被覆全体から出るX線強度に影響を与えるので、層中のそれぞれの化合物の線形吸収係数を考慮してこれらを補正する必要がある。あるいは、Ti(C,N)-単層の上のさらなる層は、XRD測定結果に実質的に影響しない方法、例えば、化学エッチングにより除去することができる。
【0029】
ピークオーバーラップが、例えばいくつかの結晶性層を含む、および/または結晶相を含む基材上に堆積した被覆のX線回折分析に起こり得る現象であることが留意されるべきであり、これは当業者により考慮され、補正されなければならない。また、例えば基材中のWCが、本発明の関連ピークの近くに回折ピークを有し得ることが留意されるべきである。
【0030】
元素分析は、図1、2および3に表されるTi(C,N)層のC/(C+N)比を測定するために、波長分散型分光計(WDS)を備えたJEOL電子マイクロプローブJXA-8530Fを使用して電子マイクロプローブ分析により実施される。Ti(C,N)層の分析は、すくい面の研磨された断面に対して実施された。各種類のTi(C,N)層で、3つの試料が、基材表面に平行な直線に沿って50μmの間隔で、基材とTiN層との接触面から4~6μmの距離で、10点で分析された。データは、10kV、29nA、ならびに10.22重量% C、10.68重量% N、78.86重量% Tiおよび0.24重量% Oの組成を有するTi(C,N)基準を使用して取得された。
【実施例
【0031】
本発明の例示的な実施形態が、いまやより詳細に、および参照実施形態と比較されて開示される。被覆切削工具(インサート)を、製造し、分析し、切削試験で評価した。
【0032】
超硬合金基材を、粉砕、混合、噴霧乾燥、圧縮および焼結を含む従来のプロセスを利用して製造した。焼結した基材を、10000のハーフインチサイズ切削インサートを収容することが可能なIonbond Typeサイズ530のラジアルCVDリアクター中でCVD被覆した。基材をプレート上に配置し、さらに試験および分析すべき試料を、チャンバーの中央から、およびプレートの半径の半分に沿った位置で選択した。超硬合金基材(インサート)のISO-タイプの形状はCNMG-120408-PMであった。超硬合金の組成は、7.2重量% Co、2.9重量% TaC、0.5重量% NbC、1.9重量%TiC、0.4重量%TiNおよび残部WCであった。
【0033】
CVD堆積
約0.2μmTiNの第1の最内被覆を、400ミリバールおよび885℃のプロセスで全基材に堆積させた。48.8体積% H、48.8体積% Nおよび2.4体積% TiClの気体混合物を使用した。その後に、Ti(C,N)層を以下に開示される通り堆積させた。
【0034】
試料A上に、Ti(C,N)層を、80ミリバールで870℃の1工程で、2.95体積% TiCl、0.45体積% CHCNおよび残部Hの気体混合物中で堆積させた。
【0035】
試料B上に、Ti(C,N)層を、80ミリバールで830℃の1工程で、2.95体積% TiCl、0.45体積% CHCNおよび残部Hの気体混合物中で堆積させた。
【0036】
試料C上に、Ti(C,N)層を、2工程、内部Ti(C,N)および外部Ti(C,N)で堆積させた。内部Ti(C,N)を、10分間55ミリバールで、885℃で、3.0体積% TiCl、0.45体積% CHCN、37.6体積% Nおよび残部Hの気体混合物中で堆積させた。外部Ti(C,N)を、55ミリバールで、885℃で、7.8体積% N、7.8体積% HCl、2.4体積% TiCl、0.65体積% CHCNおよび残部Hの気体混合物中で堆積させた。
【0037】
被覆分析
光学顕微鏡を使用して、層の厚さを切削工具試料のすくい面で測定した。試料A~Cの被覆の層の厚さを表1に示す。
【0038】
Ti(C,N)層の粒径を、上記に開示された通り422ピークを分析して、X線回折により分析した。Ti(C,N)層のC/(C+N)比を、上記に開示された通り電子マイクロプローブ分析を使用して分析した。試料A、BおよびCの得られた粒径および炭素含有量を表2に表す。
【0039】
Ti(C,N)層の配向を、上記に開示された通りX線回折を使用して分析した。結果を表3に表す。
【0040】
また、試料中のTi(C,N)の粒径を、Ti(C,N)層の平面図のTEM画像により試験した。最初に、各試料の断面を、インサートを中央で切断し、その後断面を研磨することにより調製した。次いで、FIB(集束イオンビーム)ラメラを、リフトアウト技法を使用して、基材表面に平行に、被覆-基材接触面から約6μmでTi(C,N)被覆から取り出した。電子透過性が達成されるまで、イオンビームを使用して、ラメラを薄くした。明視野走査TEM画像を、300kVで運転するThermoFisherScientific Titan透過電子顕微鏡で取得した。TKD(透過菊池回折)マップを、ThermoFisherScientific Helios FIB-SEMにインストールされたOxford Aztecシステムにより収集した。結晶粒界オーバーレイを有するIPF(逆極点図)マップを、AztecCrystalソフトウェアにより作製した。明視野画像を図10~12に示す。TKD画像を図7~9に示す。全試料中で粒径に分布があることが分かる。試料A中のTi(C,N)が、試料B中のTi(C,N)より小さい粒子を示すことも分かる。
【0041】
切削試験1
切削工具を、SS2310、高合金鋼の被削材において、縦旋削操作で試験した。切削速度、Vは125m/分であり、送り、fは0.072mm/回転であり、切込み深さ、aは2mmであり、水混和性切削油剤を使用した。寿命到達時基準(end of life time criterion)に到達するまで機械加工を続けた。切削工具あたり1つの刃先を評価した。
【0042】
工具寿命基準は、第一もしくは第二逃げ面摩耗では>0.3mmまたはクレーター部分では>0.2mmに設定した。これらの基準のいずれかが満たされると同時に、試料の寿命に到達したと考えた。切削試験の結果を表4に表す。
【0043】
表4において分かる通り、試料Aは、意外にも高い耐摩耗性を示し、試料BおよびCと比べて2倍に近い寿命である。
【0044】
切削試験2
切削工具を、SS1672鋼の角材100×100mm被削材において断続的な正面旋削(face turning)操作でも試験した。切削速度、Vは250m/分であり、送り、fは0.1mm/回転であり、切込み深さ、aは2.5mmであり、水混和性切削油剤を使用した。寿命到達時基準に到達するまで機械加工を続けた。切削工具あたり1つの刃先を評価した。
【0045】
工具摩耗の評価の際に、第一稜線の損傷の%を、第一稜線が被削材と接触していた接触長さに沿って測定した。工具寿命基準を、被削材との接触域において第一稜線に沿って基材が曝露されたように40%以上の損傷と設定した。工具摩耗を、3サイクルごとに、すなわち3つの正面削りパスの後に測定した。基準が満たされると同時に、工具の寿命に到達したと考えた。40%損傷の最終的な工具寿命を計算するために、40%の損傷に達する前とその後の間に単純な内挿を行った。試料の種類あたり4つの並行切削試験の平均結果を表5に表す。時折、刃先破壊が観察され、これらを結果から除いた。連続的な摩耗を示し、それにより、被覆からの工具寿命への寄与を反映している試料のみをここに含める。
【0046】
本発明は種々の例示的実施形態と関連して説明されてきたが、本発明が開示された例示的実施形態に限定されるものではなく、それどころか、添付される特許請求の範囲内に種々の改変体および等価な配置を含むことが意図されることが理解されるべきである。さらに、本発明のあらゆる開示された形態または実施形態が、あらゆる他の開示もしくは記載もしくは示唆された形態または実施形態中に、一般的な設計変更として組み込まれ得ることが認識されるべきである。したがって、本明細書に添付される添付の特許請求の範囲の範囲により示される通りのみに限定されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】