(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】結腸直腸癌検査用組成物、試薬キット及び応用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20240327BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20240327BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20240327BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240327BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565302
(86)(22)【出願日】2021-04-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 CN2021089368
(87)【国際公開番号】W WO2022222146
(87)【国際公開日】2022-10-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514106764
【氏名又は名称】ビージーアイ ゲノミクス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BGI GENOMICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Floors 7-14,Building No.7,BGI Park,No.21 Hongan 3rd Street,Yantian District Shenzhen,Guangdong 518083,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】汪宇盈
(72)【発明者】
【氏名】彭佳茜
(72)【発明者】
【氏名】孫健瀧
(72)【発明者】
【氏名】李志隆
(72)【発明者】
【氏名】蒋睿▲ジン▼芳
(72)【発明者】
【氏名】鄭建超
(72)【発明者】
【氏名】朱師達
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ43
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
(57)【要約】
結腸直腸癌検査用組成物、試薬キット及び応用を提供する。提供された組成物はADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子メチル化状態を含む試薬を含み、結腸直腸癌を検査するために使用でき、高い感度と特異性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子メチル化状態を検査するための試薬を含むことを特徴とする結腸直腸癌検査用組成物。
【請求項2】
前記試薬はプライマーセットとプローブを含み、
前記プライマーセットは、
(a-1)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1本、
(b-1)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1本、及び
(c-1)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1本を含み、
前記プローブは、
(a-2)SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、
(b-2)SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び
(c-2)SEQ ID NO:128~SEQ ID NO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記プライマーセットはSEQ ID NO:1~SEQ ID NO:2に示される配列をさらに含み、
前記プローブはSEQ ID NO:99に示される配列をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
ADHFE1遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8及びSEQ ID NO:127に示される配列を含み、
PPP2R5C遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:53、SEQ ID NO:54及びSEQ ID NO:139に示される配列を含み、
SDC2遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:90及びSEQ ID NO:101に示される配列を含み、
選択可能に、前記組成物はGAPDH遺伝子を検査するための試薬をさらに含み、前記のGAPDH遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2及びSEQ ID NO:99に示される配列を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、
PCR緩衝液、塩イオン、dNTP、DNAポリメラーゼまたはターゲット核酸の中から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を含むことを特徴とする結腸直腸癌診断用試薬キット。
【請求項7】
DNA抽出試薬、DNAメチル化形質転換試薬、核酸精製試薬の中の少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の試薬キット。
【請求項8】
サンプル中の遺伝子メチル化状態の決定方法であって、前記遺伝子はADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子を含み、
前記方法は、
(1)前記サンプルからのゲノムDNAを取得するステップと、
(2)形質転換産物を得るように、前記ゲノムDNAをメチル化して形質転換処理するステップであって、前記ゲノムDNAがメチル化処理され、メチル化サイトと非メチル化サイトに差を示すステップと、
(3)プライマーセットとプローブを利用して前記形質転換産物に対して蛍光定量PCR検査を行い、サンプル中の遺伝子のメチル化状態を決定するようにするステップと、を含むことを特徴とするサンプル中の遺伝子メチル化状態の決定方法。
【請求項9】
前記サンプルは、組織サンプル、血液サンプル、分泌物または排泄物の中から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記排泄物は糞便サンプルを含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記プライマーセットは、
(a)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1本、
(b)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1本、及び
(c)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1本を含み、
前記プローブは、
SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、
SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び
SEQ ID NO:128~SEQ ID NO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光定量PCR検査条件は、95℃10分、95℃15秒、55℃30秒、72℃30秒の合計45サイクルを含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
分離された核酸配列であって、前記分離された核酸配列はプライマーセットとプローブを含み、
前記プライマーセットは、
(a)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1本、
(b)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1本、及び
(c)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1本を含み、
前記プローブは、
SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、
SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び
SEQ ID NO:128~SEQ ID NO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含むことを特徴とする分離された核酸配列。
【請求項14】
被験者の結腸直腸癌罹患状態の評価方法であって、前記方法は、
a)被験者のサンプルを提供するステップであって、前記サンプルは前記被験者のターゲット核酸を含み、前記ターゲット核酸はADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子に由来の核酸を含むステップと、
b)前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価するステップと、
c)前記ターゲット核酸のメチル化状態に基づいて、前記被験者の結腸直腸癌罹患状態を評価するステップと、を含むことを特徴とする被験者の結腸直腸癌罹患状態の評価方法。
【請求項15】
前記被験者は哺乳動物であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップb)ではプライマーセットとプローブを使用して前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価し、前記プライマーセットは、
(a)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1本、
(b)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1本、及び
(c)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1本を含み、
前記プローブは、
SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、
SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び
SEQ ID NO:128~SEQ ID NO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、前記サンプルから前記ターゲット核酸を分離するステップをさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、前記ターゲット核酸を増幅するステップをさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】
内部参照遺伝子を使用してDNA含有量が検査を満たすかどうかを決定し、標的遺伝子Ct値と内部参照遺伝子Ct値の差値(△Ct)を使用してメチル化状態を判断するステップをさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体技術分野に関し、具体的に結腸直腸癌検査用組成物、試薬キット及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
下部消化管結腸、直腸部位に発生する結腸直腸癌はよく見られる悪性腫瘍である。最新の統計数字によると、世界中の結腸直腸癌の新規発症数は男性で3位、女性で2位、死亡割合数は男性で4位、女性で3位(Brayなど、2018)である。中国で、結腸直腸癌の予防管理の状況も非常に厳しく、悪性腫瘍の新規症例で3位(38.8万人)であり、死亡症例で5位(18.7万人)(鄭栄寿など、2019)である。結腸直腸癌の進行が遅く、一般的に、ポリープ、腺腫、腸癌などの過程を経て、腺腫から腸癌に発展する時間は5-10年にわたる。結腸直腸癌の進行の早期に介入すれば、死亡率を顕著に下げることができる。I期結腸直腸癌患者の五年生存率は90%以上に達することができ、IV期結腸直腸癌患者の五年生存率は20%(Marzieh Araghiなど、2020)より低い。
【0003】
伝統的な結腸直腸癌の早期スクリーニング技術には主に大腸内視鏡検査、便潜血試験、腫瘍マーカーCEA及びCA19-9などが含まれ、これらの技術手段は、現在一定の制限がある。大腸内視鏡検査は腸癌診断のゴールデンスタンダードであり、肛門からレンズと光源を挿入することにより、順次に直腸、乙状結腸などの部位を経て回腸の末端に到達することができ、画像をリアルタイムにモニターに伝送して、操作医者の観察に供することができる。大腸内視鏡検査の画像は直観的で鮮明で、明らかで、癌、ポリープ、潰瘍、出血などの様々な病変を観察することができ、ポリープなどの鏡下摘出などの操作も可能である。しかし、それは侵襲的な検査技術であり、準備過程は複雑であり、飲食のコントロールと腸管洗浄が必要であり、被検者のコンプライアンスが低い。しかも、設備と人員に要件があり、病院の専門家と麻酔科医で操作する必要があり、一部の被験者は不快感があり、合併症が発生するリスクがある(3-5例/1000人)。便潜血試験は非侵襲的な方法であり、便中の血液成分(ヘモグロビン)を検査することによって消化管出血の有無を判別し、医者が腸癌リスクを判断するようにする。該方法は迅速で簡便であり、被検者のコンプライアンスが高い。しかし、該検査方法は飲食中の肝臓、血液製品、緑葉野菜などの影響を受けやすく、偽陽性になり、同時に、出血量が少ない早期結腸直腸癌患者に対する感度が低く、診断を見逃しやすい。広域スペクトル腫瘍マーカーとして、CEAなどは特異性が低く、偽陽性が多くなり、感度が限られる。このため、正確で簡便且つ経済的な結腸直腸癌の早期スクリーニング方法を確立する必要がある。
【0004】
DNAメチル化は遺伝子の発現と抑制を調節することができる重要な遺伝子発現調節メカニズムであり、腫瘍の発生と進行に大きな影響を与える。癌関連遺伝子の異常メチル化は癌発生の早期によく見られるため、DNAメチル化信号は潜在力のある腫瘍早期スクリーニングマーカーと考えられる。人の糞便サンプルにメチル化などの情報が載せられる腸管細胞DNAが混ざっており、これらの情報を検査と分析することによって、被験者が腸癌に罹患する可能性を推定することができる。一部の遺伝子、例えばSFRP2、SEPT9、NDRG4及びSDC2など(Hannes M Muellerなど、2004;Jie Chenなど、2019)は糞便中の腸癌検査メチル化マーカーとして使用できることが証明されるが、それらの性能は臨床需要を完全に満たすことができず、例えばSFRP2の腸癌に対する感度と特異性は77%しかない(Hannes M Muellerなど、2004)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、関連技術における技術的問題の一つを一定の程度で解决するように、結腸直腸癌検査用組成物、試薬キット及び応用を提供する。提供される組成物は結腸直腸癌を検査するために使用でき、その特異性と感度はいずれも高く、臨床検査を補助し、結腸直腸癌の診断と検査を豊富にすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
具体的に、本発明は以下のような技術的解決手段を提供する。
【0007】
本発明の第1の態様では、本発明は結腸直腸癌検査用組成物を提供し、ADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子メチル化状態を検査するための試薬を含む。
【0008】
本発明の第2の態様では、本発明は結腸直腸癌を診断するための試薬キットを提供し、前記試薬キットは上記第1の態様に記載の結腸直腸癌検査用組成物を含む。
【0009】
本発明の第3の態様では、本発明はサンプル中の遺伝子メチル化状態の決定方法を提供し、前記遺伝子はSDC2遺伝子、ADHFE1及びPPP2R5C遺伝子を含み、前記方法は、
(1)前記サンプルからのゲノムDNAを取得するステップと、
(2)形質転換産物を得るように、前記ゲノムDNAをメチル化して形質転換処理するステップであって、前記ゲノムDNAがメチル化処理され、メチル化サイトと非メチル化サイトに差を示すステップと、
(3)プライマーセットとプローブを利用して前記形質転換産物に対して蛍光定量PCR検査を行い、サンプル中の遺伝子のメチル化状態を決定するようにするステップと、を含む。
【0010】
本発明の第4の態様では、本発明は、分離された核酸配列を提供し、前記分離された核酸配列はプライマーセットとプローブを含み、前記プライマーセットは、(a)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1対、
(b)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1対、及び
(c)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1対を含み、
前記プローブは、
SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、
SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び
SEQ ID NO:128~SEQ ID NO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含む。
【0011】
本発明の第5の態様では、本発明は、被験者の結腸直腸癌罹患状態の評価方法を提供し、前記方法は、a)被験者のサンプルを提供するステップであって、前記サンプルは前記被験者のターゲット核酸を含み、前記ターゲット核酸はADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子を含むステップと、b)前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価するステップと、c)前記ターゲット核酸のメチル化状態に基づいて、前記被験者の結腸直腸癌罹患状態を評価するステップと、を含む。
【0012】
本発明の付加的な態様と利点を以下の説明から部分的に示し、部分的に以下の説明から明らかになり、本発明の実践を通じて了解する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の上記及び/又は付加的な態様と利点は、以下の図面と組み合わせた実施例の説明から明らかになり、理解しやすい。
【
図1】本発明の実施例によるTCGAデータベースにおける結腸直腸癌と非腸癌サンプルのメチル化レベルの模式図である。
【
図2】本発明の実施例2における陽性標準品の蛍光定量PCR増幅グラフである。
【
図3】本発明の実施例2における陰性標準品の蛍光定量PCR増幅グラフである。
【
図4】本発明の実施例3によって提供される結腸直腸癌診断用試薬キットの検査フローチャートである。
【
図5】本発明の実施例3における各遺伝子検査結腸直腸癌サンプルのROCグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を詳細に説明し、なお、説明される実施例は例示的なものであり、本発明を解釈するためにのみ使用され、本発明を制限するためのものではない。本発明によって提供される手段を説明する過程において、本明細書で関連する用語を解釈及び説明するが、これらの解釈と説明は手段を容易に理解するためのものであり、本発明の保護手段を制限するものと考えられない。
【0015】
本発明の一態様では、本発明は結腸直腸癌検査用組成物を提供し、ADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子を検査するための試薬を含む。本明細書で言及された組成物は2種または2種以上の物質が混合して接触する形態で存在する必要がなく、言及された組成物とは、使用時に同一の環境で応用されることを意味する。例えば、結腸直腸癌を検査する際に、ADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子のメチル化状態を同時に検査する。
【0016】
本明細書で言及されたADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子のメチル化修飾は癌の発生と進行とに密接に関連しており、正常組織と癌罹患組織で顕著な差を示す。例えばSDC2遺伝子、ADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子は癌組織において高いメチル化レベルを示す。ADHFE1遺伝子はトランスフェラーゼをコードし、該遺伝子の過メチル化による異常制御は腸癌細胞周期を短縮し、癌細胞増殖を促進することができる(Hu YHなど、2019)。大腸の正常組織に対して、ADHFE1遺伝子は癌組織と進行期腺腫組織のいずれにおいても高いメチル化レベルを示し(Tae CHなど、2013)、そのメチル化レベルは正常組織、腸癌組織及び腺腫組織において顕著な差があり、腸癌検査の理想マーカー(Naumov VAなど、2013.Fan, Jなど、2020)である。PPP2R5C遺伝子はPP2Aフォスファターゼの1つの調節サブユニットをコードし、細胞成長及び増殖の負の制御因子(Veerle JANSSENSなど、2001)であり、そのコードタンパク質はDNA損傷に対応するようにp53タンパク質の脱リン酸化を調節し、腸癌細胞の成長を抑制できる証拠がある(Li HHなど、2007)。PPP2R5C遺伝子の過メチル化状態は腸癌の発生と進行と密接に関連しており、腸癌検査の潜在力のあるマーカーとして使用されることができる(Galamb Oなど、2016)。SDC2遺伝子は内因性膜タンパク質をコードし、細胞の分裂や移動などの過程で重要な生体学的機能を有する(Kim JH等、2018)。多くの研究では、大腸癌患者の癌組織と癌隣接組織のメチル化修飾状態を比較したところ、SDC2遺伝子のメチル化レベルは癌組織と癌隣接組織で顕著な差があり、且つ癌組織、腺腫組織、ポリープ組織及び正常組織での検出率は明らかに逓減する傾向があり、腸癌検査の有効なマーカーとして使用されることができる(Oh TJなど、2017)。
【0017】
現在、SDC2遺伝子は結腸直腸癌診断と検査の比較的信頼できる基準になっている。本明細書はSDC2遺伝子及びADHFE1遺伝子をPPP2R5C遺伝子と組み合わせることによって、単独したSDC2遺伝子より検査感度が高く、特異性が高い。また、他の遺伝子、例えばNDRG4、BMP3など遺伝子よりも、SDC2遺伝子、ADHFE1遺伝子及びPPP2R5C遺伝子を組み合わせて結腸直腸癌の診断を行う方が特異性と感度が高い。例えば、感度は85%以上、特異性は90%以上、さらに例えば感度は87%以上、ひいては90%以上、特異性は90%以上、ひいては94%以上に達することができる。しかも、結腸直腸癌サンプルと正常サンプルではより差別化を示すことができる。
【0018】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記試薬はプライマーセットとプローブを含む。本明細書で言及された「プライマー」とは、遊離3’水酸基を持つ短い核酸配列を指し、前記核酸配列は相補的なテンプレートと塩基対を形成し、テンプレート鎖複製の出発点として機能することができる。適切な緩衝液と温度条件下で、プライマーは異なるヌクレオシド三リン酸と重合試薬(例えばDNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)の存在下でDNAの合成を開始することができる。
【0019】
「プローブ」という用語は、例えばRNAまたはDNAなどのポリヌクレオチの断片であり、特定の遺伝子のmRNAまたは相補的なDNA(cDNA)に特異的に結合でき、且ついくつかから数百塩基対の長さを持つ。プローブは標識されているため、プローブが結合しようとする標的mRNAまたはcDNAの存在の有無または発現レベルを検査するために使用できる。
【0020】
幾つかの実施手段において、前記プライマーセットは、
(a-1)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1本(例えば示される配列の中の少なくとも1対である)、
(b-1)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1本(例えば示される配列の中の少なくとも1対である)、及び
(c-1)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1本(例えば示される配列の中の少なくとも1対である)を含み、
前記プローブは、
(a-2)SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、
(b-2)SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び
(c-2)SEQ ID NO:128~SEQ ID NO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含む。
【0021】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記プライマーセットは、(a-1)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1対、(b-1)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1対、及び(c-1)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1対を含み、前記プローブは、(a-2)SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、(b-2)SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び(c-2)SEQ ID NO:128~SEQ IDNO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含む。
【0022】
言及された配列の中の少なくとも1対とは、ある同一の遺伝子(即ち本明細書で言及されたADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子、またはSDC2遺伝子)の任意の順方向プライマーと任意の逆方向プライマーを1対のプライマーとすることを意味する。なお、同一の遺伝子に用いられるプライマーとプローブを組み合わせて使用すると、ある同じ遺伝子の任意の順方向プライマーと該順方向プライマーの後に位置する逆方向プライマー、及び正、逆方向プライマー間に位置するプローブをいずれも組み合わせて使用することができ、結腸直腸癌関連遺伝子の増幅と検査を実現することができる。当業者は本明細書で提供された配列に基づき、配列をゲノムに比較し、プライマーとプローブの組み合わせを選択して使用することができる。例えば、番号がSEQ ID NO:7、またはSEQ ID NO:11である順方向プライマーをそれぞれ番号がSEQ ID NO:8、またはSEQ ID NO:24である逆方向プライマーセットと組み合わせて1対のプライマーとして使用することができ、必要に応じて番号がSEQ ID NO:115、SEQ ID NO:114、SEQ ID NO:125、またはSEQ ID NO:126などであるプローブと合わせて使用することができる。
【0023】
幾つかの実施手段において、前記プライマーセットは、SEQ ID NO:1~SEQ ID NO:2に示される配列をさらに含み、前記プローブは、SEQ ID NO:99に示される配列、SEQ ID NO:1~SEQ ID NO:2に示される配列及びSEQ ID NO:99に示される配列をさらに含み、内部参照遺伝子であるGAPDH遺伝子のPCR増幅及び検査に用いられることができる。
【0024】
各配列を表1に示す。これらのプライマーセットとプローブは、関連遺伝子ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子メチル化修飾後の配列に対して設計され、メチル化修飾された配列を特異的に識別することができ、GAPDH遺伝子を内部参照とする場合、内部参照遺伝子の増幅はメチル化修飾によって影響されず、サンプル中のテンプレート数を定量することができ、目的遺伝子Ct値と内部参照遺伝子Ct値の差を計算することにより、サンプルのメチル化の程度を判定することができ、これにより、結腸直腸癌の検査に役に立つことできる。言及されたプローブの5’端はFAM、VIC、ROX、CY5蛍光基に接続でき、3’末端はMGBなどのクエンチャー基に接続できる。用いられる蛍光基とクエンチャー基は本分野ではよく使用される基である。
【0025】
【0026】
幾つかの実施手段において、ADHFE1遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8及びSEQ ID NO:127に示される配列を含み、PPP2R5C遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:53、SEQ ID NO:54及びSEQ ID NO:139に示される配列を含み、SDC2遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:89、SEQ ID NO:90及びSEQ ID NO:101に示される配列を含み、前記組成物はGAPDH遺伝子を検査するための試薬をさらに含み、前記のGAPDH遺伝子を検査するための試薬はSEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2及びSEQ ID NO:99に示される配列を含む。
【0027】
言及されたプライマーまたはプローブは人工的に合成することができ、例えばホスホロアミダイト固相担体を用いて合成するか、本分野でよく使用される他の方法を用いて化学的に合成することができる。
【0028】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記組成物は、PCR緩衝液、塩イオン、dNTP、DNAポリメラーゼまたはターゲット核酸から選ばれる少なくとも1つを含む。言及されたターゲット核酸はいくつかの市販の試薬キットによってサンプルから抽出することで得ることができる。前記ターゲット核酸はADHFE1、PPP2R5C、SDC2に由来の遺伝子を含む核酸配列である。
【0029】
少なくとも幾つかの実施手段において、言及された蛍光定量PCR検査条件は95℃10分、95℃15秒、55℃30秒、72℃30秒の合計45サイクルを含む。
【0030】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記プライマーセットと前記プローブの質量比は1:1:1:1である。これにより、理想的な検査結果を得ることができる。
【0031】
本発明の他の態様では、本発明は結腸直腸癌を診断するための試薬キットを提供し、前記試薬キットは上記に記載の組成物を含む。本発明で提供される試薬キットはサンプル中のADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子のメチル化修飾状況を特異的に検査することができ、これにより、被験者が結腸直腸癌に罹患するリスクを評価する。本発明はADHFE1、PPP2R5C、SDC2の3つの遺伝子のメチル化状態を併せて検査し、単一遺伝子メチル化検査に比べて、検査性能を効果的に向上させることができる。
【0032】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記試薬キットは、DNA抽出試薬、DNAメチル化形質転換試薬、核酸精製試薬のうちの少なくとも1つをさらに含む。DNA抽出試薬はサンプル中のDNAを取得するために使用できる。DNAメチル化形質転換試薬はDNA中のシトシンをウラシルに形質転換することができる。核酸精製試薬は精製後の核酸を取得し、後続の反応過程に用いることができる。
【0033】
言及された試薬キットは以下の同様の方法でサンプル中の遺伝子メチル化状態を決定したり、被験者の結腸直腸癌の罹患を評価したりするためにも用いることができる。このため、本発明は試薬キットの調製における試薬の用途をさらに提供し、前記試薬キットは、サンプル中の遺伝子メチル化状態を決定するために使用される。本発明は、試薬キットの調製における試薬の用途をさらに提供し、前記試薬キットは被験者の結腸直腸癌の罹患状態を評価するために使用される。
【0034】
本発明の更なる態様では、本発明はサンプル中の遺伝子メチル化状態の決定方法を提供し、前記遺伝子はADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子を含み、
前記方法は、
(1)前記サンプルからのゲノムDNAを取得するステップと、
(2)形質転換産物を得るように、前記ゲノムDNAをメチル化して形質転換処理するステップと、
(3)プライマーセットとプローブを利用して前記形質転換産物に対して蛍光定量PCR検査を行い、サンプル中の遺伝子のメチル化状態を決定するようにするステップと、を含む。
【0035】
メチル化状態とは、通常、DNA配列中の1つまたは複数のCpGジヌクレオチドに5-メチルシトシンが存在するか、存在しないかを意味する。本発明はサンプル中の遺伝子メチル化状態の決定方法を提供し、正確で簡便且つ経済的な結腸直腸癌の早期スクリーニング手段として使用でき、結腸直腸癌ハイリスク群及び一般健康診断者における結腸直腸癌(特に早期腸癌)の検出率を高め、さらに結腸直腸癌患者の生存率を向上させ、大量の医療費を節約し、医療負担を低減することができる。
【0036】
前記サンプルは特に制限されず、ターゲット核酸を含む生物学的サンプルであってもよく、これらの生物学的サンプルは体外のものである。組織サンプル、血液サンプル、唾液サンプル、分泌物または排泄物の中の少なくとも1つを含むが、これらに制限されない。言及された排泄物は尿液サンプル、汗液サンプルまたは涙液サンプルであってもよい。いくつかの好ましい実施手段において、前記排泄物は糞便サンプルである。糞便サンプルには腸管剥離細胞が含まれ、且つ糞便サンプルによる検査は非侵襲的特点があるため、糞便サンプルを好ましい検査対象として使用できる。
【0037】
言及されたメチル化形質転換処理はいくつかの化学試薬、例えば亜硫酸水素ナトリウムであってもよい。例えばいくつかの市販の試薬キットを使用して、メチル化形質転換処理を行うことができ、例えばEZ DNA Methylation-Gold Kitを使用してDNAに亜硫酸水素塩形質転換を行う。得られた産物は市販の試薬キットを用いてカラム精製及び再溶解処理を行い、精製後の産物を取得することができる。
【0038】
本発明の他の態様では、本発明は分離可能な核酸配列を提供し、前記分離可能な核酸配列はプライマーセットとプローブを含み、前記プライマーセットは、
(a)SEQ ID NO:3~SEQ ID NO:40に示される配列の中の少なくとも1対、
(b)SEQ ID NO:41~SEQ ID NO:60に示される配列の中の少なくとも1対、及び
(c)SEQ ID NO:61~SEQ ID NO:98に示される配列の中の少なくとも1対を含み、
前記プローブは、
SEQ ID NO:100~SEQ ID NO:112に示される配列の中の少なくとも1つ、
SEQ ID NO:113~SEQ ID NO:127に示される配列の中の少なくとも1つ、及び
SEQ ID NO:128~SEQ ID NO:142に示される配列の中の少なくとも1つを含む。
【0039】
本発明は、被験者の結腸直腸癌罹患状態の評価方法をさらに提供し、前記方法は、a)被験者のサンプルを提供するステップであって、前記サンプルは前記被験者のターゲット核酸を含み、前記ターゲット核酸はADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子に由来の核酸を含むステップと、b)前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価するステップと、c)前記ターゲット核酸のメチル化状態に基づいて、前記被験者の結腸直腸癌罹患状態を評価するステップと、を含む。前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価するための試薬は、例えば亜硫酸塩または亜硫酸水素塩、重亜硫酸塩などの化学試薬を用いることができ、亜硫酸水素ナトリウムであってもよい。これらの化学試薬で処理された後のターゲット核酸のうちのメチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、メチル化されたシトシンはこのような変換を起こさない。次に、形質転換後の配列の差別を、例えばシーケンシング、PCR、高解像度融解曲線分析などの手段、特に蛍光定量PCRの手段の様々な手段で分析することができ、迅速且つ容易に区別することができる。勿論、前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価するための試薬は、例えばペプチドまたはいくつかのメチル化に敏感な制限酵素などの酵素などのいくつかの生物学的試薬を使用してもよい。
【0040】
本明細書で言及された被験者は人間である。例えば診断が必要な患者であってもよい。被験者からの生物学的サンプルのタイプは、組織サンプル、血液サンプル、唾液サンプルなどの分泌物または排泄物の中の少なくとも1つを含むが、これらに制限されない。言及された排泄物は尿液サンプル、汗液サンプルまたは涙液サンプルであってもよい。しかも、糞便サンプルには腸管剥離細胞が含まれ、且つ糞便サンプルによる検査は非侵襲的特点があるため、糞便サンプルを好ましい検査対象として使用できる。
【0041】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記被験者は哺乳動物である。少なくとも幾つかの実施手段において、ステップb)において、上記で言及されたプライマーセットとプローブを用いて前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価する。
【0042】
前記方法は、前記サンプルから前記ターゲット核酸を分離するステップをさらに含む。本分野におけるいくつかの市販の試薬キットを用いてサンプルから前記ターゲット核酸を分離することができる。
【0043】
前記方法は前記ターゲット核酸を増幅するステップをさらに含む。核酸増幅用のいくつかの通常の試薬を使用することができる。核酸増幅用の試薬は、例えばポリヌクレオチ増幅反応で使用される酵素、蛍光定量ポリメラーゼ反応(qPCR)で使用される酵素などの酵素を含むことができる。
【0044】
前記方法は前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価してメチル化指標を取得し、前記メチル化指標と基準値を比較し、前記サンプルのメチル化状態を決定するステップをさらに含む。幾つかの実施手段において、化学試薬を使用して前記ターゲット核酸のメチル化状態を評価するステップを含む。本発明の好ましい実施手段によると、前記化学試薬は亜硫酸水素塩または亜硫酸塩を含む。幾つかの好ましい実施形態において、前記基準値は内部参照遺伝子GAPDHからのものであり、ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子の増幅Ct値と内部参照GAPDH遺伝子の増幅Ct値を比較することによって、閾値に基づいてサンプル遺伝子のメチル化状態を判定する。言及された閾値は既知の病理情報の大量の臨床サンプル分析に基づいて設定することができる。勿論、言及されたメチル化指標は、例えばメチル化頻度、メチル化1倍型負荷などの他の一般的なメチル化指標でもよい。
【0045】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記方法は、内部参照遺伝子を使用してDNA含有量が検査を満たすかどうかを決定し、標的遺伝子Ct値と内部参照遺伝子Ct値の差値(△Ct)を使用してメチル化状態を判断するステップをさらに含む。
【0046】
少なくとも幾つかの実施手段において、前記方法は、GAPDHを内部参照遺伝子として利用し、蛍光定量PCRの方法によって前記被験者の結腸直腸癌罹患状態を評価するステップと、
GAPDHのCt値が37より大きい場合、品質管理に失敗したと判定するステップと、
ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子が37より大きい場合、陰性であると判定するステップと、
ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子Ct値≦37である場合、ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子の増幅Ct値と内部参照GAPDH遺伝子の増幅Ct値の差値△Ctを計算し、ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子△CtのROC曲線結果とAUC結果に基づいて、前記被験者の結腸直腸癌罹患状態を評価するステップと、を含む。
【0047】
前記方法は、△Ct(ADHFE1)≦8、△Ct(PPP2R5C)≦5、△Ct(SDC2)≦12である場合、陽性であると判定するステップをさらに含む。
【0048】
前記方法は、前記被験者メチル化状態に基づいて結腸直腸癌罹患の可能性を評価し、診断補助と腫瘍スクリーニングなどの目的を達成し、できるだけ早く被験者に治療を提供するステップをさらに含む。少なくとも幾つかの実施手段において、前記治療は化学療法、放射療法、免疫療法、細胞療法、手術のうちの少なくとも1つを含む。
【0049】
以下、実施例を組み合わせて本発明の手段を解釈する。当業者は、以下の実施例が本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことを理解することができる。実施例に具体的な技術または条件が示されない場合、当該分野の文献に記載されている技術または条件に従って、または製品の明細書に従って実行する必要がある。用いられる試薬または機器にメーカーが示されない場合、市販によって購入できる従来の製品である。
【0050】
実施例1
発明者らは、以下の方法とステップにしたがって結腸直腸癌診断のターゲット核酸を決定した。
まず、発明者らは癌ゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas、TCGA)データベースにおける異なる遺伝子が腫瘍/非腫瘍サンプルのメチル化レベルで示した顕著な差別を比較することによって、メチル化検査の候補遺伝子:CDH4、ZNF132、PPP2R5C、LONRF2、ADHFE1、SDC2、NDRG4、BMP3をスクリーニングして決定した。
次に、上記候補遺伝子に対して、特異的なプライマー及びプローブをそれぞれ設計した。プライマーとプローブを設計する過程で、発明者らは、ターゲット核酸のメチル化の検査に関するため、測定対象ゲノム配列が亜硫酸水素塩によって形質転換された後、大部分のCがUに形質転換されるため、ゲノムの複雑さが低く、プライマーとプローブの設計時に多くの単一塩基が連続的に出現することに遭遇し、且つアニール温度が一般的に低く、プライマーを設計できる領域が比較的少ないことを発見した。
【0051】
続いて、上記設計で得られたプライマーとプローブに基づいて、少量の腫瘍/非腫瘍サンプルを利用して候補遺伝子を初期にスクリーニングし、各遺伝子の感度/特異性結果は、CDH4(61.5%/61.5%)、ZNF132(50%/100%)、PPP2R5C(78.9%/100%)、LONRF2(77.8%/72%)、ADHFE1(100%/91.3%)、SDC2(88.9%/100%)、NDRG4(70%/95%)、BMP3(65%/90%)である。ここで、BMP3、NDRG4、ADHFE1、PPP2R5C及びSDC2の感度/特異性がよい。
【0052】
さらに、上記感度/特異性が良い5つの候補遺伝子に対して、TCGAデータベースにおけるメチル化データを比較したところ、
図1に示すように、BMP3遺伝子とNDRG4遺伝子よりも、ADHFE1、PPP2R5C及びSDC2遺伝子はいずれも癌隣接組織でのバックグラウンドが低く、癌組織と癌隣接組織でもより顕著な差を示すことを発見した。
【0053】
したがって、発明者らは、最終的にADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子を結腸直腸癌診断用ターゲット核酸として決定し、上記ターゲット遺伝子をさらに設計して特異的なプライマーとプローブ配列を最適化した。具体的に表1に示す。
【0054】
実施例2
発明者らは、実施例1で得られた結腸直腸癌診断用のターゲット核酸(ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子)の各プライマーとプローブを利用し、陽性または陰性細胞系の蛍光定量PCR増幅を行い、プライマーとプローブの効果を検証するようにする。
【0055】
ステップ1.サンプル収集:陽性標準品DNA(CpGenome Human Methylated DNA Standard Set、Sigma-Aldrich、S8001M)、陰性標準品DNA(CpGenome Human Non-Methylated DNA Standard Set、Sigma-Aldrich、S8001U)
ステップ2.DNA修飾:上記標準品DNAをそれぞれ10ng取り、EZ DNA Methylation-Gold Kit(ZYMO RESEARCH)を使用してDNAに亜硫酸水素塩形質転換を行い、カラム精製後、33ulのNF水で再溶解して予備的に使用する。
【0056】
ステップ3.PCR検査:
それぞれ表1中のプライマーとプローブを例として、以下のPCR系とPCR反応手順に従って蛍光定量PCR検査を行い、ここで、ADHFE1のプライマー、プローブにはSEQ ID NO :7、SEQ ID NO :8とSEQ ID NO が選択され、127;PPP2R5Cのプライマー、プローブにはSEQ ID NO :53、SEQ ID NO :54とSEQ ID NO :139が選択され、SDC2のプライマー、プローブにはSEQ ID NO :89、SEQ ID NO :90とSEQ ID NO :101が選択され、内部参照GAPDH遺伝子のプライマー、プローブにはSEQ ID NO :1、SEQ ID NO :2とSEQ ID NO :99が選択される。
【0057】
ここで、プローブSEQ ID NO :127の5’末端はFAMであり、3’末端はBHQ1であり、
プローブSEQ ID NO :139の5’末端はCY5であり、3’末端はBHQ3であり、
プローブSEQ ID NO :101の5’末端はVICであり、3’末端はBHQ1であり、
プローブSEQ ID NO :99の5’末端はROXであり、3’末端はMGBである。
【0058】
(1)PCR系を表2に示す
【0059】
【0060】
(2)PCR反応手順を表3に示す。
【0061】
【0062】
ステップ4、結果分析:ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子の増幅Ct値と内部参照GAPDH遺伝子の増幅Ct値との差値(△Ct値)を計算し、既知の病理情報の大量の臨床サンプル分析で設定される判定閾値に基づいて、サンプル遺伝子メチル化程度が正常であるかどうかを判定する。
【0063】
ここで、上記プライマー、プローブ増幅結果を
図2と
図3に示す。
【0064】
実施例3
発明者らは、結腸直腸癌診断についての試薬キットを設計して開発しており、ADHFE1遺伝子、PPP2R5C遺伝子及びSDC2遺伝子メチル化を特異的に検査する特異的なプライマーとプローブを含み、ここで、異なる試薬キットに含まれる特異的なプライマーは、表1に示されたプライマーから選ばれ、プローブは表1に示されたプローブから選ばれる。各試薬キットはADHFE1遺伝子を特異的に検査する少なくとも1つの正逆方向プライマー、PPP2R5C遺伝子を特異的に検査する少なくとも1つの正逆方向プライマー、及びSDC2遺伝子を特異的に検査する少なくとも1つの正逆方向プライマーを含み、必要に応じてADHFE1遺伝子を検査する少なくとも1つのプローブ、PPP2R5C遺伝子を検査する少なくとも1つのプローブ、及びSDC2遺伝子を検査する少なくとも1つのプローブを含む。
【0065】
開発された試薬キットは、必要に応じて、内部参照遺伝子、例えばGAPDHを検査するための正逆方向プライマーとプローブを含んでもよい。
【0066】
プローブの5’末端にFAM、VIC、ROXまたはCY5などの蛍光基を接続してもよく、3’末端にMGBなどのクエンチャー基を接続してもよい。
【0067】
試薬キットにおけるプライマーとプローブ配列は粉末の形態で提供されることができる。
【0068】
また、提供された試薬キットは必要に応じてPCR反応緩衝液、ポリメラーゼ、DNAメチル化形質転換試薬などを含み、これにより、当業者は本発明の方法に従って結腸直腸癌を容易に診断することができる。
【0069】
実施例4
発明者らは実施例3に示される結腸直腸癌診断用の試薬キットを利用して、以下の方法によってサンプルにメチル化検査を行い、ステップを
図4に示し、以下のステップを含む。
【0070】
1.サンプル収集:
合計201例の結腸直腸癌サンプル、184例の健常人対照、4例の腺腫サンプル及び7例のポリープサンプルが収集された。
【0071】
2.サンプルDNA抽出:
市販の糞便サンプルDNA抽出試薬キットを用いて収集したサンプルをDNA抽出する。
【0072】
3.DNA修飾:
EZ DNA Methylation-Gold Kit(ZYMO RESEARCH)を使用してDNAに亜硫酸水素塩形質転換、カラム精製及び再溶解を行い、予備的に使用する。
【0073】
4.PCR検査:
本実施例において、ADHFE1のプライマー、プローブにSEQ ID NO :7、SEQ ID NO :8とSEQ ID NO :127が選択され、PPP2R5Cのプライマー、プローブにSEQ ID NO :53、SEQ ID NO :54とSEQ ID NO :139が選択され、SDC2のプライマー、プローブにSEQ ID NO :89、SEQ ID NO :90とSEQ ID NO :101が選択され、内部参照GAPDH遺伝子のプライマー、プローブにSEQ ID NO :1、SEQ ID NO :2とSEQ ID NO :99が選択される。上記実施例2のPCR系及び反応条件に従って収集したサンプルに蛍光定量PCR検査を行い。
【0074】
5.結果分析:
SLAN96S qPCR装置を使用して検査し、ベースライン、閾値はデフォルトで設定し、各遺伝子Ct値の閾値は37である。
【0075】
ここで、GAPDHのCt値が37より大きい場合、品質管理に失敗したと判定し、
ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子が37より大きい場合、陰性であると判定し、
ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子Ct値≦37である場合、ADHFE1、PPP2R5C、SDC2遺伝子の増幅Ct値と内部参照GAPDH遺伝子の増幅Ct値の差値△Ctを計算し、SPSSソフトウェアを使用して3つの検査対象遺伝子△CtのROC曲線を作成し、ROC曲線を
図5に示し、各遺伝子の性能及び曲線下面積(AUC)を表4に示す。
【0076】
【0077】
試薬キット性能を更に向上させるために、3つの遺伝子の△Ct値を整合して分析し、AUCが0.945に達することができる。最終的に△Ct(ADHFE1)≦8、△Ct(PPP2R5C)≦5、△Ct(SDC2)≦12の場合、該遺伝子検査が陽性であると決定し、任意の遺伝子が陽性の場合、該サンプル検査が陽性であると判定し、この判定条件で、特異性が94.02%である場合、感度が87.56%に達することができる。
【0078】
ここで、感度は、検査により、最終的な臨床病理で結腸直腸癌と診断された陽性サンプルまたは患者が結腸直腸癌と診断された比率を示すために使用される。
【0079】
特異性とは、検査により、最終的な臨床病理で正常と診断されたサンプルまたは患者が正常と診断された比率を示す。
【0080】
以上の結果から、本発明は複数の遺伝子の組み合わせ検査により、単一の遺伝子検査よりも優れた検査性能を得ることができる。
【0081】
本明細書の説明では、「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体例」、または「いくつかの例」という参考用語などの説明は、該実施例または例を組み合わせて説明する具体的な特徴、構造、材料または特点は本発明の少なくとも1つの実施例または例に含まれる。本明細書では、上記用語の例示的な叙述は必ずしも同じ実施例または例を対象とする必要がない。また、説明する具体的な特徴、構造、材料または特点はいずれかまたは複数の実施例または例では適切な方式で結合することができる。なお、互いに衝突しない場合、当業者は本明細書に説明される異なる実施例または例及び異なる実施例または例の特徴を結合と組み合わせることができる。
【0082】
本発明の実施例を提示し記述したが、上記実施例は例示的なものであり、本発明を制限するためのものとして理解することができなく、当業者であれば、本発明の範囲で上記実施例について様々な変化、修正、置換および変形が可能であることが理解できる。
【配列表】
【国際調査報告】