(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(54)【発明の名称】PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント及び製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/06 20060101AFI20240327BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240327BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240327BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240327BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14 500
A61L31/16
A61L31/04 120
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565946
(86)(22)【出願日】2022-04-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 CN2022088874
(87)【国際公開番号】W WO2022228357
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】202110487844.3
(32)【優先日】2021-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522426722
【氏名又は名称】国科温州研究院(温州生物材料与工程研究所)
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石 長燦
(72)【発明者】
【氏名】李 徐堅
(72)【発明者】
【氏名】潘 ▲る▼▲ち▼
(72)【発明者】
【氏名】季 志孝
(72)【発明者】
【氏名】楊 嘯
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081AC05
4C081AC09
4C081BA16
4C081BB07
4C081CA191
4C081CC02
4C081CD022
4C081CE01
4C081DC04
4C081EA02
(57)【要約】
PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント及び製造方法であって、生体適合性のある分解性高分子医療材料であるPTMC及びPEGが選択され、エレクトロスピニング法で製造され、当該吻合管のサイズを人体の管腔の大きさに応じて調整して、小腸、大腸に適する吻合器だけでなく、食道、動脈、静脈などの吻合、初期の支持に適する管腔吻合器として設計することができ、本発明で製造される吻合管は管壁が薄く、弾性に優れており、臨床手術で縫合する時に医師が縫合しやすいよう、革新的にも当該吻合管は硬さの高い植物性セルロース管の外部に隙間なく嵌められる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントであって、前記腸吻合ステントは全体としてPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料を用いて作製され、前記PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体は高分子医療材料PTMC及びPEGに対して開環重合の方法を用いて合成されるトリブロックPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体であり、前記PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体中のPEGの含有量は10~20%であり、前記腸吻合ステントの厚さは0.05~0.3mmであることを特徴とする生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項2】
前記生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントのPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料にトリクロサン(triclosan、TCS)が担持されることを特徴とする請求項1に記載の生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項3】
前記腸吻合ステント内にはさらに植物性セルローススリーブが設けられ、前記腸吻合ステントは隙間のない嵌着構造であり、内部は植物性セルロース材料の管であり、外部はPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料であることを特徴とする請求項1に記載の生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項4】
(1)PTMC-b-PEG-b-PTMCの開環重合:PEG及びTMCモノマーを反応容器に移し、N
2雰囲気下、触媒Sn(Oct)
2を無水トルエン溶液に溶解し、ピペットで100ppmを取り出して反応容器に加えて共重合反応させ、プロセス全体で水と酸素がないことを保証し、24時間後に生成物を溶解し、完全に溶解すると、ポリマー溶液を精製し、複数回繰り返し、精製後の共重合体を箱型真空乾燥機の中で48時間乾燥し、次に乾燥キャビネットの中で保管するステップ、
(2)エレクトロスピニングによる吻合ステントの製造:乾燥後のサンプルをDMF/THF混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5~10.0%であり、混合溶液の0.1~1.0wt%で抗菌剤を加え、混合後に37℃でシェーカーに置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得て、原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含み、紡糸後のサンプルの厚さは0.2±0.01mmであり、得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温でさらに乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去するステップより製造することを特徴とする請求項1に記載の生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントの製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)でTMCモノマーは70~90wt%であり、PEGは5~29wt%であり、触媒Sn(Oct)
2溶液は1~5wt%であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)で共重合反応の条件は温度100~150℃、反応時間24~48時間であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(1)で生成物の溶解の条件はCHCl
3又はDMF又はTHFで溶解して、シェーカーに置き、シェーカーの温度を37℃と設定することであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(1)で精製の条件はn-ヘキサン又はエタノールで精製し、且つガラス棒で不断に撹拌することであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(2)でDMF/THF混合溶液中のDMF:THF=1:1であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(2)の紡糸ステップは、具体的には、所定のサイズの植物性セルローススリーブをエレクトロスピニングレセプターに嵌めて紡糸し、パラメータを制御して対応するサイズの管を得ることができることであり、前記針先の押し速度はV=1.0~5.0mL/hであり、ローラーの回転速度はV=100~500rpmであり、温度T=25~35℃、湿度WET=20~40%であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、具体的には、高分子材料の技術分野に関し、具体的には、PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消化管の再建・吻合術は腹部外科で最も一般的な手術操作の1つであり、1世紀近くにわたる消化管外科の発展の歩みを見ると、吻合部漏出の発生率は明らかに低下しておらず、これは消化器外科手術の成功を妨げる世界的な難題の1つである。消化管の良性及び悪性腫瘍、消化管穿孔、消化管閉塞、出血、虚血などの腸管病変は、一般に病変腸管の一部を切除して吻合する必要があり、従来の方法では、手動縫合による吻合が殆どであるが、ここ数十年、管式吻合器による端々若しくは端側吻合、又は直線型切断吻合器(リニアステープラー)による側々吻合が多く行われるようになる。どの吻合方式であろうと、吻合部漏出という致命的な合併症は防げられないのである。
【0003】
現在、国内外の結腸直腸外科医によって一般的に認可及び実施されているのは、一時的なバイパスルート変更手術であり、例えば、一時的な回腸瘻造設又は結腸瘻造設であり、このような付加的な手術は吻合部漏出から起こる合併症を確実に避けられるが、吻合部漏出の発生率を低減できるかどうかについては言及している文献がまだない。しかしながら、ルート変更手術では計画的な二次手術を行って復元させる必要があり、再び復元を行うのは消化管の再建と吻合を再び行うことになるため、依然として吻合部漏出、吻合部狭窄などの関連合併症が発生する可能性はあるが、初回の手術と比べて発生の可能性は低い。吻合部の両端の血液供給が良好で、張力を伴わず突き合わせている場合、吻合部領域における腸管内容物、特に糞便内容物の隔離を実現して、相対的に隔絶している、清潔な局所環境を実現するのは、吻合部漏出や、腹膜炎、腹腔内膿瘍などの合併症を予防するための効果的な方式である。当該方式を実現する上で大きな技術的ボトルネックは理想的な吻合補助材料の取得である。
【0004】
腸管吻合の目的は吻合部の両端の腸管の物理学的、組織学的及び生理学的機能を回復させることである。現在、従来の吻合器の主な問題点は以下を含む。(1)金属吻合器は生分解性ではないため、体内に永続的に留置される。(2)分解性高分子材料吻合器は、創傷組織との機械的適合性が不十分である。(3)吻合器は組織修復の調節機能を備えないため、腸管の正常な機能の回復に対して合理的な調節を行えない。例えば、発明特許CN111449707Aは、ハンドルベースと、伝動アセンブリと、トリガーアセンブリと、キスカットアセンブリとを含む肛門-直腸吻合器を提案し、伝動アセンブリは、ハンドルベースの内部に設けられるボールねじと、ハンドルベースの尾端に設けられ前記ボールねじの尾端に接続される調節機構とを含み、ボールねじの前端にはステイプル当たり座が固定して取り付けられ、トリガーアセンブリは、ハンドルベースに設けられる可動ハンドルと、ボールねじに嵌設されるストレートプッシュロッドとを含み、キスカットアセンブリは、ステイプル押し板と、ステイプルカートリッジハウジングと、ステイプルカートリッジと、環状ナイフとを含む。当該発明ではステイプル押し板、ステイプルカートリッジハウジング及びステイプルカートリッジがいずれも金属材料で作製され、部品は体内で分解できないため、体内に永続的に留置されるか二次手術で取り出すしない。特許CN109480943Aは分解性材料で作製され、ステイプルボディで穿孔して固定する方式を採用し、ステイプルボディの後端にサポートフレームが設計されるが、吻合リングは硬さが高く、弾性がないため、腸管の蠕動にうまく適応できず、明らかな異物感がある。似ている発明特許としてCN103230265Aがあり、それは分解性材料であるポリグリコール酸、ポリ乳酸を原料とし、消化管の吻合のために利用される。当該吻合器は崩れやすいという特性があるが、腸管組織との機械的適合性はやはり不十分である。理想的な吻合器は次の特徴を備える。(1)腸管内容物を効果的に隔離する。(2)吻合器の埋め込み操作は吻合部の腸壁に対する損傷が小さい。(3)操作が簡単で行いやすい。現在市場の吻合装置はどれもが上記の要件を同時に満たすことができない。
【0005】
製造の面からみると、ステントは異なる個体に適応するよう異なる長さと直径にして製造され、複雑な保管プロセスは一切不要でなければならない。これらは全て要件を満たしながら、ステントの経済性とアフォーダビリティを保たなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の技術上の欠点を解決するために、PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント及び製造方法を提供し、それは腸管に適合する弾性を有し、組織修復の調節機能を有し、腸管吻合部の漏出及び他の合併症の発生率を明らかに低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が採用する技術的解決手段は次のとおりである。PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントであって、前記腸吻合ステントは全体としてPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料を用いて作製され、前記PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体は高分子医療材料PTMC及びPEGに対して開環重合の方法を用いて合成されるトリブロックPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体であり、前記PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体中のPEGの含有量は10~20%であり、前記腸吻合ステントの厚さは0.05~0.3mmである。
【0008】
前記生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントのPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料にトリクロサン(triclosan、TCS)が担持される。
【0009】
前記腸吻合ステント内にはさらに植物性セルローススリーブが設けられ、前記腸吻合ステントは隙間のない嵌着構造であり、内部は植物性セルロース材料の管であり、外部はPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料である。
【0010】
生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントの製造方法であって、以下のステップより製造する。
(1)PTMC-b-PEG-b-PTMCの開環重合:PEG及びTMCモノマーを反応容器に移し、N2雰囲気下、触媒Sn(Oct)2を無水トルエン溶液に溶解し、ピペットで100ppmを取り出して反応容器に加えて共重合反応させ、プロセス全体で水と酸素がないことを保証し、24時間後に生成物を溶解し、完全に溶解すると、ポリマー溶液を精製し、複数回繰り返し、精製後の共重合体を箱型真空乾燥機の中で48時間乾燥し、次に乾燥キャビネットの中で保管する。
(2)エレクトロスピニングによる吻合ステントの製造:乾燥後のサンプルをDMF/THF混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5~10.0%であり、混合溶液の0.1~1.0wt%で抗菌剤を加え、混合後に37℃でシェーカーに置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得て、原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含み、紡糸後のサンプルの厚さは0.2±0.01mmであり、得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温でさらに乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去する。
【0011】
前記ステップ(1)でTMCモノマーは70~90wt%であり、PEGは5~29wt%であり、触媒Sn(Oct)2溶液は1~5wt%である。
【0012】
前記ステップ(1)で共重合反応の条件は温度100~150℃、反応時間24~48時間である。
【0013】
前記ステップ(1)で生成物の溶解の条件はCHCl3又はDMF又はTHFで溶解して、シェーカーに置き、シェーカーの温度を37℃と設定することである。
【0014】
前記ステップ(1)で精製の条件はn-ヘキサン又はエタノールで精製し、且つガラス棒で不断に撹拌することである。
【0015】
前記ステップ(2)でDMF/THF混合溶液中のDMF:THF=1:1である。
【0016】
前記ステップ(2)の紡糸ステップは、具体的には以下のとおりである。所定のサイズの植物性セルローススリーブをエレクトロスピニングレセプターに嵌めて紡糸し、パラメータを制御して対応するサイズの管を得ることができ、前記針先の押し速度はV=1.0~5.0mL/hであり、ローラーの回転速度はV=100~500rpmであり、温度T=25~35℃、湿度WET=20~40%である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有益な効果は次のとおりである。本発明はPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント及び製造方法を提供し、生体適合性のある分解性高分子医療材料であるPTMC及びPEGが選択され、エレクトロスピニング法で製造され、当該吻合管のサイズを人体の管腔の大きさに応じて調整して、小腸、大腸に適する吻合器だけでなく、食道、動脈、静脈などの吻合、初期の支持に適する管腔吻合器として設計することができ、本発明で製造される吻合管は管壁が薄く、弾性に優れており、臨床手術で縫合する時に医師が縫合しやすいよう、革新的にも当該吻合管は硬さの高い植物性セルロース管の外部に隙間なく嵌められる。当該植物性セルロースは市販品であり、縫合時に支持する効果があるため、操作しやすく、腸管環境の中では15~30分間だけで完全に分解されて体外へ排出されるため、後の吻合管の性能には影響が及ばず、また抗菌、消炎、線維芽細胞の増殖と遊走を調節する異なる機能因子を担持することで、分解性腸管吻合管に組織の微小環境を調節する機能を与え、吻合部の微小環境を調節することで、吻合部漏出の可能性を低減させるという目的を達成する。当該ステントは一般に体内で2~3週間で分解され、腸管から体外へ排出されるため、金属装置は分解性ではないという欠点を補うことができ、優れた組織従順性を有し、分解性吻合装置の組織従順性が不十分であるという欠点を補い、後の特性評価では、当該分解性吻合管は患者の術後の吻合部の出血を低減させ、患者の術後の肛門の不快感、消化管の機能の乱れを軽減させ、医療費を低減させる上で利点があり、特に吻合部に異物が残留しない面ではそうであるということが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】体内試験のプロセスであり、(1)盲腸への切開部であり、(2)吻合ステントの埋め込みであり、(3)断続全層縫合である。
【
図2】本発明のトリブロック共重合体の合成プロセスの概略図である。
【
図3】PTMC、PEG及び共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの赤外吸収スペクトルである。
【
図4】ブロック共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの
1H NMRスペクトルである。
【
図5】PEG-b-PTMC-b-PEG複合繊維のSEM写真であり、図中PTMCの含有量に対して、PEGのパーセンテージは0.5%、10%、20%、30%、40%、50%である。
【
図6】PEG-b-PTMC-b-PEG繊維の繊維直径分布であり、ここで、PTMCの含有量に対するPEGの重量パーセンテージは(A)0.5%、(B)10%、(C)20%、(D)30%、(E)40%及び(F)50%である。
【
図7】トリブロック共重合体(A)の異なるサンプルの接触角の値の経時的変化であり、(B)PBS溶液に24時間入れていたサンプルの吸水率である。
【
図8】異なるPEGの含有量でのエレクトロスピニング腸吻合ステントをPBS溶液に入れる前と後の機械的特性であり、(A)弾性率であり、(B)引張強さであり、(C)破断伸びであり、(D)機械的特性の変化の傾向である。
【
図9】(A)PTMC-b-PEG-b-PTMCの体外酵素分解の重量損失と分解時間の関係であり、(B)PTMC-b-PEG-b-PTMC膜の酵素分解後のリパーゼ溶液のpH曲線であり、(C)異なる時間での体内分解状況、(D)埋め込む前と後の吻合ステントの比較、(E)重量の減少、(F)対応する時間でラットの体から取り出した吻合ステントの長さの減少である。
【
図10】トリクロサンを含まないサンプル(上の図)及びトリクロサンを含むサンプル(下の図)の抗菌効果であり、Aは黄色ブドウ球菌であり、Bは大腸菌であり、縮尺が1cmである。
【
図11】異なる材料の溶血速度であり、(A)PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体試験群であり、(B)TCS/PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体試験群である。
【
図12】サンプルの細胞毒性作用であり、AはPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体基であり、BはTCS/PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体基である。
【
図13】腸吻合術後の異なる時間の腹部癒着スコアリングである。
【
図14】術後7日目の、異なるサンプル群の吻合部の破裂圧であり、AはPTMC-b-PEG-b-PTMC群であり、BはTCS/PTMC-b-PEG-b-PTMC群である。
【
図15】吻合部の近くの腸壁組織に対するH&E及びマッソン(Masson)染色である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例の図面を参照しながら、本発明の実施例の技術的解決手段を明瞭かつ完全に説明し、言うまでもないが、説明される実施例は本発明の全ての実施例ではなく、その一部の実施例に過ぎない。当業者が本発明の実施例に基づいて、新規性のある作業をせず得ている他の実施例は、全て本発明の請求範囲に属する。
【0020】
材料:
ポリエチレングリコール(Poly(ethylene glycol))(PEG、Mn=5000)、オクタン酸第一スズ((Sn(Oct)2)、テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム(CHCl3)、トリクロサン(TCS)、トルエン、n-ヘキサン、リパーゼ(Lipase、ニホンコウジカビ(Aspergillus oryzae)由来、溶液、10万U/g以上)、以上はSigma-Aldrich Co.LLCより購入、ポリマーグレードの1,3-トリメチレンカーボネート(Polymer grade 1,3-trimethylene carbonate、TMC、中国Daigang Biology)。全ての試薬と化学品は分析グレードであり、精製しなくても使用できる。
【0021】
マウス線維芽細胞株L929は中国科学院典型培養物保藏センター(中国上海)が提供した。培養皿はコーニング(米国ニューヨーク)より購入された。ダルベッコ(Dulbecco’s)改変イーグル(Eagle)培地(DMEM、Gibco)に10%のウシ胎児血清(FBS、Gibco)、100IU/mLのペニシリン及び100mg/mLの硫酸ストレプトマイシンを添加して培養した。全ての細胞はいずれも37℃、5%CO2、完全に加湿された条件でインキュベーターの中で培養された。
【0022】
温州医科大学(中国温州)試験動物センターによって提供された雄のSprague-Dawleyラット(200±20g)を25℃と湿度55%の条件で飼育した。全ての動物試験は倫理委員会によって評価及び承認されるガイドラインに従って行われた。
【0023】
PTMC-b-PEG-b-PTMCを基材とする腸管吻合ステントの製造ステップ:
PTMC-b-PEG-b-PTMCの開環重合:
開環重合の方法を用いてトリブロックPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体を合成した[49]。簡単に言えば、計量したPEG及びTMCを磁気撹拌棒を備える完全に乾燥したガラス反応器に移した。N2雰囲気下、Sn(Oct)2を無水トルエン溶液に溶解し、ピペットで100ppmを取り出して反応容器に加えた。共重合反応は130±2℃で24時間反応し、プロセス全体で水と酸素がないことを保証した。24時間後に生成物をクロロホルムに溶解し、完全に溶解すると、ポリマー溶液に対して過剰のn-ヘキサンで生成物を精製し、3回繰り返した。精製後の共重合体を40℃の箱型真空乾燥機の中で48時間乾燥し、次に乾燥キャビネットの中で保管した。
【0024】
エレクトロスピニングによる吻合ステントの製造:
乾燥後のサンプルをDMF/THF(1:1、V:V)混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は10.0%であり、37℃でシェーカーに36時間置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得た。原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含む。具体的な紡糸条件は実験室の経験から得られ[50]、詳しくは表1の資料を参照する。紡糸後のサンプルの厚さは0.2±0.01mmであった。得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温でさらに24時間乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去した。紡糸後のサンプルを用いて機械的特性試験及び体外分解試験を行った。
【0025】
具体的な製造方法は次のとおりであった。
1.mPEG-PTMCの合成:合成プロセスは水と酸素のない環境で操作する必要があり、70~90wt%のTMCモノマー、5~29wt%のPEG5000及び1~5wt%の触媒Sn(Oct)2溶液を反応管に加え、反応管に撹拌子を入れ、反応管内に水と酸素がないことを保証して、管口をシリコーングリースで密封し、最後にパラフィルムで管口を密封して酸素と水分が入らないことを確保した。反応管をオイルバスに入れて反応させ、温度は100~150℃であり、反応時間は24~48時間であり、反応終了後、使用に備えて取り出した。
【0026】
2.mPEG-PTMCの溶解:1:5の固液比で、合成材料をCHCl3又はDMF又はTHFで溶解した。最初にCHCl3又はDMF又はTHFで内壁を複数回洗浄して、シリコーングリース及び未反応のモノマーを落とし、次に過剰のCHCl3又はDMF又はTHFを加えて、シェーカーに置き、シェーカーの温度を37℃と設定し、溶液が完全に溶解するのを待った。
【0027】
3.mPEG-PTMCの精製:溶解した溶液をn-ヘキサン又はエタノールが入ったビーカーにゆっくりと注いで精製し、ゆっくりと注ぎながらガラス棒で不断に撹拌した。得られた綿状物mPEG-PTMCを吸引濾過し、続いて箱型真空乾燥機に入れて48時間乾燥した。
【0028】
4.エレクトロスピニング溶液の調製:合成材料mPEG-PTMCを溶媒DMF/THF(DMF:THF=1:1)に溶解し、当該溶液の質量分率は5~10wt%であった。添加される抗菌剤の質量は材料の添加量の0.1~1.0wt%程度であった。ポリマーmPEG-PTMC、抗菌剤及び2種の溶媒を混合し、調製した溶液を、完全に溶解するまで37℃の恒温シェーカーに24時間置いた。完全に溶解すると紡糸操作を行った。
【0029】
5.エレクトロスピニングによる吻合管の製造:型番がTL-Pro-BMであるエレクトロスピニング装置において紡糸を行った。所定のサイズの植物性セルローススリーブをエレクトロスピニングレセプターに嵌めて紡糸し、パラメータを制御して対応するサイズの管を得ることができる。エレクトロスピニングより得た吻合管は2つの部分からなる隙間のない嵌着構造であり、内部は植物性セルロース材料の管であり、外部は合成ポリマー材料の管であった。パラメータの設定範囲は、電圧(-5,30)V、針先の押し速度V=1.0~5.0mL/h、ローラーの回転速度V=100~500rpm、温度T=25~35℃、湿度WET=20~40%であった。
【表1】
【0030】
特性評価:
物理的及び化学的特性の評価:
ATRアクセサリを備えるNicolet Magna-560分光計でポリマーPTMC、PEG及びブロック共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCのFTIR-ATRスペクトルを測定した。Bruker分光計でPTMC及びブロック共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの1H NMRスペクトルを測定し、全ての1H NMRはテトラメチルシラン(TMS)を内部参照とし、重水素化クロロホルム(CDCl3)を溶媒とし、ppm単位でサンプルの化学シフトを記録した。
【0031】
日立冷陰極電界放出型走査電子顕微鏡SU8010を用いてサンプルのエレクトロスピニング後の微視的形態、及び動物の体内に埋め込まれて分解した後の微視的形態を撮影した。
【0032】
DSC8000(米国PerkinElmer)を用いてDSC分析を行い、10℃/minの加熱速度でポリマーPTMC、PEG及びブロック共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの熱特性を記録した。
【0033】
Biolin Thetaシリーズ動的接触角分析装置を用いて、37℃で異なるPEGの含有量のサンプルの動的接触角を測定し、接触角の大きさを5分間ごとに、安定的になるまで記録した。
【0034】
ウベローデ粘度計を用いて25℃の恒温ウォーターバスにおいてPTMC-b-PEG-b-PTMCの固有粘度を測定し、溶媒はフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(2:3、W:W)であり、試験結果は3回の試験の平均値であった。Mark-Houwinkの式でポリマーの粘度平均分子量を計算した。
[η]=KMv
α、Mv=([η]/K)1/α
式中、K=7.9×10-2cm3/g、α=0.63。
【0035】
機械的特性は電子万能試験機(Instron5944)において測定し、エレクトロスピニング後のサンプルに対してサイズが45.0mm×25.0mm×0.2mmであるシート状になるよう処理し、SDラットの盲腸のサイズは45.0mm×25.0mm×0.3mmであり、生理食塩水で洗い流してきれいにし、表面から余分な水分を拭き取った。
【0036】
ステントの繊維直径及び孔隙率:
1枚の走査型電子顕微鏡写真において少なくとも20本の繊維及び50のセグメントを測定して繊維の平均直径及び直径分布を得て、ステントの孔隙率は下式[51]で計算した。
P=(1-ρ′/ρ0)
式中、Pはステントの孔隙率であり、ρ′はステントの見掛け密度であり、ρ0は共重合体のかさ密度である。
【0037】
吸水率:
初期重量が約40mg(W0)であるサンプルはPBS(37℃)の中で膨張した。24時間後に、濾紙で表面から余分な水分を除去し、膨張したサンプルの質量(Ws)を改めて秤量した。サンプルの吸水率は下式で決定される。
吸水率(Water absorption)=(Ws-W0)/W0×100%
【0038】
生分解性:
サイズが10.0×10.0×0.2mmであるPTMC-b-PEG-b-PTMC膜を1mLのリパーゼ溶液に入れて、37℃の空気浴の中に置き、毎日8時間振とうし、振幅は65回/分であった。酵素溶液を3日ごとに1回交換して酵素の活性を維持し、それぞれ、1日後、5日後、10日後、15日後、20日後にサンプルを取り出し、ランダムに3つの並行サンプルを選択した。サンプルを蒸留水で充分に洗浄した後、濾紙で表面の水分を吸い取り、37℃で12時間真空乾燥して質量が一定になった。乾燥サンプルの質量及び分解生成物を含有する媒体の水素イオン濃度を記録した。
【0039】
体内の生分解性挙動は、吻合ステントの埋め込み前と後の質量及びサイズを記録することにより得た。吻合ステントを取り出した後は蒸留水で洗浄してきれいにし、濾紙で表面の水分を吸い取った。重量損失率は下式で計算した。
重量損失率(Weight loss)(%)=(W0-Wt)/W0×100%
式中、W0、Wtは、それぞれ、サンプルの分解前と分解後の乾燥重量を表す。
【0040】
生物学的特性の評価:
共重合体の溶血性研究:
溶血率はヘモグロビン膜の血液適合性を評価するために利用される。これまで報告された方法[52]に従って、20mgのサンプルを9mLの生理食塩水に浸漬して24時間培養(37℃)することにより、PHMsの浸出液を得た。200μLの新鮮な抗凝固血液を1mLの浸出液に注射して充分に混合した。1時間インキュベート(37℃)した後、抗凝固血液と浸出液の混合物を遠心分離した(3000回転/分、10分)。最後に、ハイブリッドマルチモードマイクロプレートリーダー(Synergy NEO2、BioTek、米国)を用いて上清の吸光度(545nm)を測定した。超純水、生理食塩水をそれぞれ陰性対照、陽性対照とした。血液適合性は溶血率(%)で次のとおりに表示する。
【0041】
サンプル材料を予め蒸留水で洗い流してきれいにし、表面から余分な水分を拭き取り、ヒト全血を使用した。試験群:15mgのエレクトロスピニングサンプルをEP管に入れて、1mLの生理食塩水及び0.1mLの全血を加え、陰性対照群:EP管に1mLの生理食塩水及び0.1mLの全血を加え、陽性対照群:EP管に1mLの超純水及び0.1mLの全血を加えた。上記のサンプルを全て37℃で2時間インキュベートすることで、溶血反応試験を行った。
【0042】
全てのサンプルを3000rpmで10分間遠心分離し、上清がまだ透明でなければ再び遠心分離を1回繰り返した。写真を撮った後に上清を吸い出してウェルプレートに移し、各サンプルの上清から3つの並行サンプルを作り、各サンプルは200μL取り出して、721分光光度計を用いて波長540nmで吸光度(OD)を測定して結果を記録した。
【0043】
データ処理:サンプル群、対照群からそれぞれ3つのサンプルのODの平均値を得た。下式でサンプルの溶血率を計算した。
H(%)=(ODt-ODnc)/(ODpc-ODnc)×100%
式中、H%は溶血率であり、ODtはサンプルの吸光度であり、ODncは陰性対照サンプルの吸光度であり、ODpcは陽性対照サンプルの吸光度であった。GB/T1423.2-1993基準に従って、材料と赤血球が体外で接触する過程で起きている赤血球の溶解及びヘモグロビンの遊離の程度を測定することにより、材料の体外溶血性を評価し、溶血反応が5%を超えれば陽性であった。
【0044】
細胞毒性研究:
最初に、密度が5×104個の細胞である細胞懸濁液(100μL)を96ウェルプレートの各ウェルに加え、細胞を付着させるために、37℃、5%CO2の空気環境の中で24時間インキュベートした。次に、サンプル浸出液(100mL)で培地を置き換え、24時間、48時間インキュベートした。続いて、各ウェルにCCK-8溶液(10mL、完全培地中10%)を加えることでCCK-8測定を行い、37℃、5%CO2でさらに2時間インキュベートした。マイクロプレートリーダーで450nmでの吸光度を測定した。何の処理も行わなかった細胞をブランク対照とした。
【0045】
CCK-8法を用いて試験サンプルの毒性学研究を行い、試験ステップは次のとおりであった。
細胞培養液の調製:RPMI1640培地500mL+ウシ胎児血清50mL+ペニシリン/ストレプトマイシン5mL。
【0046】
試験群浸出液の調製:サンプルを予め75%アルコールで滅菌・消毒し、次にクリーンベンチにおいて正面と背面にそれぞれ紫外線を30分間照射した。エレクトロスピニングサンプルをそれぞれ切断して辺長1.82cmの正方形のフィルムにし、2mLの完全培地を加え、37℃の環境で24時間共インキュベートして、紡糸サンプル浸出液を得た。
【0047】
細胞の作製:細胞培養液でL929細胞を(細胞が壁に付着するまで)体外培養し、培養フラスコいっぱいになるまで、3世代以上増殖させた。PBSで3回洗い流した(細胞が流されないよう、正面から細胞に当たらない)。続いて50μLの0.25%トリプシンでそれを30秒(37℃)消化して、細胞懸濁液に変えた。すぐに3~5mLの完全培地を加えて遠心分離管に移し、1000rpmで5分間遠心分離して、上部の廃液を捨て、遠心分離管に5mLのPBSを加え、ピペットでピペッティングして細胞を均一に分散させた。1μLを取り出して、細胞計数盤に滴下して細胞を計数し、細胞の濃度を5×104個/mLに調整した。
【0048】
共培養:希釈後のL929細胞を96ウェルプレートに接種し、1ウェルあたり100μLであり、各ウェルには5000~8000個の細胞を必要とし、37℃、5%CO2の環境で24時間培養し、細胞が完全に壁に付着すると培養液を捨て、それぞれ、試験群浸出液及び陽性溶液(陽性対照群は10%DMSO(200μL))各100μLをウェルに加え、各群は6ウェル並行であり、37℃のインキュベーターで24時間インキュベートした。
【0049】
CCK-8測定:それぞれ、予め設定した時点(24時間、48時間)で96ウェルプレートを取り出し、原液を吸い出してサンプルウェルの周りに加え、各ウェルにはそれぞれ10μLのCCK-8試薬、100μLの完全培地を加え(予め2種の溶液を混合した)、37℃のインキュベーターで2時間インキュベートした後、多目的マイクロプレートリーダー(吸光度450nm)で吸光度(OD)の値を測定した。
【0050】
細胞の相対的増殖率の計算:各群の6ウェルのOD値の平均値を算出し、下式で各群の細胞の相対的増殖率(RGR)を計算した。
細胞生存率(Cell Viability)(%)=(As-Ab)/(Ac-Ab)×100%
式中、Asは試験ウェルの吸光度であり(ポリマー抽出液あり、細胞培地あり、CCK-8あり)、
Acは対照ウェルの吸光度であり(ポリマー抽出液なし、細胞培地あり、CCK-8あり)、
Abは試験ウェルの吸光度であった(ポリマー抽出液なし、細胞培地なし、CCK-8あり)。
【0051】
抗菌性研究:
それぞれ、凍結保存していた大腸菌、黄色ブドウ球菌の細菌原液を50μL取り出して5mLの細菌培養液が入った遠心分離管に加え、細菌インキュベーターで24時間インキュベートしておいた。材料に対して直径1.0cmの円形のシート状になるよう裁断し、75%アルコールで洗い流してきれいにした後に表面から余分な水分を拭き取り、紫外線で30分間殺菌した。それぞれ、希釈後の細菌を100μL取り出して培地に均一に塗布し、円形のシート状の材料を細菌を塗布された培地の上に置き、37℃の細菌インキュベーターで24時間インキュベートした。
【0052】
体内生体適合性研究:
SDラットによる体内試験:
試験前に、サンプルを75%アルコールで10分間浸漬し、紫外線で30分間滅菌・消毒した。一般グレードのSprague-Dawley雄ラットが180匹おり、体重は200±10gであり、体重基準で10%抱水クロラールを腹腔内注射して麻醉した。試験では、PTMC-b-PEG-b-PTMC群、TCS/PTMC-b-PEG-b-PTMC群及びブランク対照群の3群を設け、各群は4つの時点を設定し、それぞれ7日、14日、21日、28日であり、5匹のラットの並行群を設けた。マウスの腹部を除毛し、腹部を切開して、ラットの盲腸を露出させ、盲腸の中上部に切開部を作り、サイズは10±1mmであり、盲腸内容物を全て取り出し、PTMC-b-PEG-b-PTMC群、TCS/PTMC-b-PEG-b-PTMC群は試験サンプルを入れて縫合し、ブランク群は材料を入れず直接縫合した。吻合部の縫合はいずれも4針の単純断続全層縫合で行い、盲腸の横断面に対して、それぞれ、時計の3時、6時、9時、12時に対応する各位置において全層断続縫合を行い、ピッチは約0.4cmであり、間隔は約0.5cmであった。術後2群のラットが麻醉から目覚めると直ちに自由に摂食、飲水させた。
【0053】
術後1ケージ1匹で独立して飼育し、マウスの摂食、排便及び行為挙動の状況を常に観察した。3群の術後の一般状況及び死亡状況を記録した。各群のラットはそれぞれ対応する時点になると麻醉して開腹し、腹腔内癒着の状況、腹腔内感染があるかどうか、吻合部漏出の現象があるかどうかを観察及び記録した。
【0054】
腹腔内癒着スコアリング(Adhesion score):
術後SDラットの腹腔内癒着に対して段階評価を行って、定量化結果を得た。スコアリング基準はスコア0~3であった。
スコア0:癒着なし、
スコア1:軽度の癒着であり、吻合部の近くだけは組織によって覆われており、剥離しやすい。
スコア2:中等度の癒着であり、吻合部が腹腔内組織と癒着しており、剥離しにくいが、剥離はまだ可能である。
スコア3:重度の癒着であり、吻合部は腹腔内組織又は他の臓器組織と癒着しており、又は包まれて癒着している。
【0055】
吻合部の破壊圧力:
吻合部組織の破壊圧力は吻合部の癒合強度を測定する上で重要な機械的指標であり、それは腸管が耐えられる圧力の大きさを反映しているため、一般には吻合部の癒合強度を測定するために利用される。
【0056】
術後7日目に吻合部の腸管部分の破壊圧力試験を行い、体外圧力測定法を用いた。吻合部とその周りの約5cmの腸管を切り出して生理食塩水で腸内容物を洗い流した。腹腔内癒着を適切に剥離して、各吻合部の腸管部分を露出させ、腸管の片端に圧力計(YB-150A精密圧力計)を接続させて、2本の絹糸で結紮して固定し、吻合部を隔てた他端は同様に2本の絹糸で結紮して腸管腔を閉鎖させ、腸管を圧力計と同じ高さに保った。蠕動ポンプを用いて10mL/minの速度で腸管にメチレンブルー希釈液(0.16mg/mL)を定速で注入し、吻合部を観察しながら、吻合部から青い液体が溢れた(又は圧力が突然低下した)時の圧力計の表示値を記録し、これが吻合部の破壊圧力であった。
【0057】
H&E染色:
吻合部の組織を4%ホルムアルデヒド溶液で固定し、通常のパラフィン包埋を行い、4μmに切片し、切片をキシレンで通常脱蝋し、各濃度のエタノールで洗浄し、最後には水で洗浄し、スライドガラスから水を切ってヘマトキシリン溶液に入れて染色し、時間は4分であった。1%塩酸・エタノールで分化し、弱アルカリ性水の中で約30分間青色に戻し、流水で5~10秒間洗い流して無水エタノールガラスタンクに入れて撹拌しながら30秒間振とうし、次にスライドガラスから水を切ってエオシン染色液に入れた。染色後の切片を光学顕微鏡下で観察した。
【0058】
マッソン(Masson)染色:
組織を10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定して、流水で洗い流し、通常の脱水包埋を行った。鉄ヘマトキシリン(鉄ヘマトキシリンのA液、B液の等比率混合液)で10分間染色した。1%塩酸・エタノール分化液で分化した後、ポンソー酸性フクシン液で10分間染色し、リンモリブデン酸溶液で約5分間処理し、水洗せず直接アニリンブルー液で5分間再染色し、最後にエタノールで3回脱水し、キシレンで3回透徹させた。
【0059】
免疫組織化学染色:
パラフィン切片を水で脱蝋し、続いて抗原賦活用クエン酸緩衝液(pH6.0)が入った圧力鍋に組織切片を入れて抗原賦活化を行った。3%過酸化水素水溶液(過酸化水素:純水=1:9)で内因性ペルオキシダーゼをブロックし、3%BSAを加えてブロッキングし、次に4℃で一次抗体と共に一晩インキュベートした。一次抗体に対応する種の二次抗体を加えて室温で50分間インキュベートし、核をヘマトキシリンで染色した。インキュベートするたびに、細胞をPBSで2回洗浄した。蛍光顕微鏡(NIKON ECLIPSE TI-SR)を用いて染色した細胞の写真を撮った。
【0060】
画像分析システムを用いて切片組織の測定領域を自動的に読み取り、それぞれ分析して測定領域内の弱、中程度、強陽性の細胞数を計算した(陰性は着色なしであり、スコア0と記し、弱陽性は薄黄色であり、スコア1と記し、中程度の陽性は黄褐色であり、スコア2と記し、強陽性は茶色であり、スコア3と記した)。組織化学スコア(Histochemistry score、H-score)を計算して、陽性の強度を反映した。
【0061】
H-score=Σ(Pi×i)=(弱い強度の細胞のパーセンテージ(percentage of weak intensity cells)×1)+(中程度の強度の細胞のパーセンテージ(percentage of moderate intensity cells)×2)+(強い強度の細胞のパーセンテージ(percentage of strong intensity cells)×3):式中、Piは陽性細胞の割合を表し、iは着色の強度を表す)。
【0062】
PTMC-b-PEG-b-PTMCの合成及びその特性評価の結果:
ポリエチレングリコールヒドロキシル基によって開始される炭酸トリメチレンの開環重合により、PTMC-b-PEG-b-PTMCトリブロック共重合体を合成した(
図2)。Sn(Oct)
2の触媒で、TMCとPEGが共重合してPTMC-b-PEG-b-PTMCブロック共重合体が合成された。異なるPEGブロック比での共重合反応及び生成物の一部の物性を表1に示す。
【0063】
異なる分子量のブロック共重合体の分解速度及び機械的特性に違いが大きく、投入比はブロック共重合体の分子量に大きな影響を与え、腸管に埋め込むから製品には適切な分解速度と優れた機械的特性が求められるため、当試験では、ブロック共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの分子量及び特性に対する原料中のTMCモノマーとPEGの異なる比の影響を重点的に検討した。原料中のTMCモノマーとPEGの異なる質量比という要因を研究し、反応時間を24時間に限定し、結果を表1に示す。データは、原料中のPEGの割合の低減に伴い、PTMC-b-PEG-b-PTMCの固有粘度が増加し、分子量が増大することを示す。
【0064】
PTMC、PEG及び共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの赤外吸収スペクトルを
図3に示す。共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMC及びPTMCの1735cm
-1及び1218cm
-1での特徴的な吸収ピークが重なり、当該ピークは、それぞれ、炭酸エステルのカルボニル基とエーテル結合の特徴的なピークであった。1099cm
-1におけるPEGの特徴的な吸収ピーク及び1092cm
-1におけるPTMCの特徴的な吸収ピークはC-Oの特徴的な吸収ピークであり、共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの1108cm
-1におけるピークの相対強度は1092cm
-1より高かった。
【0065】
図4はブロック共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの
1H NMRスペクトルであった。それは化学シフトδ 4.25ppm(a)がPTMCブロック中の酸素の隣のメチレンプロトンに属し、δ 2.06ppm(b)がPTMCブロック中の他のメチレンプロトンに属し、δ 3.68ppm(c)がPEG主鎖中のメチレンプロトンに属することを明瞭に示す。
【0066】
DSCデータを表2に示す。ガラス転移温度は共重合体の組成に関係しており、共重合体におけるPEGのモル分率は50%から0.5%に低減し、ガラス転移温度は-30.88℃から-19.48℃に上昇していた。結果は、共重合体が生理的温度においていずれもゴム状態であり、体内埋め込みに適することを示す。
【表2】
a.[η]=KM
αより求められる。K=1.986×10
-4、α=0.789。
【0067】
エレクトロスピニング繊維:
エレクトロスピニング繊維の形態は、電圧、紡糸の流速、紡糸の距離及び溶液の特性(例えば、粘度、導電率、表面張力)など様々なパラメータから決められる。サンプルの微視的形態に対するPEGブロックの含有量の影響を知るために、異なる拡大倍率下の二次電子による走査型電子顕微鏡写真を得た(
図5)。PEGブロックの含有量が0.4%から50%に増加する時、繊維の直径が徐々に粗くなることが観察された。PEGの含有量が30%を超える時、繊維の癒着現象が増え、繊維は不均一な状態になり始めた。
図6はエレクトロスピニング膜の平均繊維直径及び直径分布を示す。PEGの含有量が20%以下である時、似ている平均繊維直径が測定された。PEGの含有量がさらに増加する時、平均繊維直径が増加し、繊維直径の差も大きくなり、特にPEGの含有量が50%である時、繊維の平均直径は3.36μmに達していた。20%及び30%のサンプルの繊維癒着現象の変化はエレクトロスピニングプロセス中のジェットの不安定性から起こるということができ、エレクトロスピニングのジェットの安定性は紡糸溶液の特性(例えば、粘度、導電率)から影響を受け
[58]、PEGの添加は溶液の粘度及び張力を変えていた。エレクトロスピニングで安定的なジェットを実現するために、粘度と張力との間のバランスが必要である。表3はエレクトロスピニング繊維膜の孔隙率をまとめている。得られたエレクトロスピニング膜は72%±2%から98%±2%までの孔隙率を有しており、PEG0.5%は最も高い孔隙率を有し、それは相対的に大きい孔径(
図5)と狭くて均一な繊維直径分布(
図6)を有するためであった。
【表3】
【0068】
共重合体の親水性と疎水性:
材料の良好な親水性により、より良い生体適合性が得られ、PTMC-b-PEG-b-PTMCの親水性と疎水性を評価するために、動的接触角試験によってサンプルの表面の水接触角を測定し、表4に示す。結果は、共重合体中のPEGの含有量の低減に伴い、動的接触角が増大するということを明瞭に示し、これは共重合体の親水性が共重合体中のPEGの含有量に正比例することを示す。5分間ごとにサンプルの表面の水接触角を測定し(
図7(A))、疎水性サンプルを含め全てのサンプルは時間の経過とともに接触角が小さくなることから、エレクトロスピニングより得た粗鬆の多孔質構造により材料は良い吸水性を有し、且つPEGの含有量の増加により、接触角の変化速度が増大するということが示された。
【0069】
吸水率(
図7(B))からも、繊維ステントの高い孔隙率と親水性PEGの添加がステントの吸水率を大幅に高めているということが裏付けられた。PEGの含有量が20%を超える時、その吸水率の増大が明らかであった。
【表4】
【0070】
エレクトロスピニングサンプルの機械的特性の評価:
PEGブロックの比率が異なることは、材料の機械的特性にも大きな影響を与える。PTMC-b-PEG-b-PTMCを用いてエレクトロスピニングより製造した吻合ステントの機械的特性を表5に示す。PEGブロックの比例の低減に伴い、共重合体の弾性率はそれぞれ29.76±0.47MPaから16.27±0.08MPaに低減し、また引張強さ及び破断伸びは共に低減しており、これはPEGが半結晶性ミクロ相の状態であり、ステントに対して可塑化及び硬化させる効果があり、PEGの増加に伴い、材料の結晶化度が増大し、破断伸びが低減するためであった。
【0071】
ステント材料の生理学的条件下の機械的特性は埋め込み材料としての重要な指標の1つであり、生理学的条件下の材料の機械的特性を観察するために、試験前に、サンプルをPBS溶液に24時間浸漬し、次に、サンプルのPEGの含有量が20%を超える時、ステントの引張強さ及び弾性率を大きく低減させるという影響について試験した。サンプルをPBSに24時間浸漬した後にステントの破断伸びはいずれもある程度増加しており(
図8(C))、これはステントの親水性の更なる増大のためであった。PEGの添加量が20%以上である時、ステントは吸水した後、その弾性率及び破断伸びの変化の差が大きく(
図8(A)、(B))、これは生理学的条件下で、その機械的特性が不安定であるということを示し、これは望ましくないことである。PEGの含有量が少ないほど、乾燥状態と湿潤状態下の機械的特性の差が小さく、しかしながらPEGの含有量が0.5%である時、ステントはほぼ親水性を持たないため、腸管吻合ステントの設計の原点から逸脱しているのであった。以上から分かるように、PEGを添加すると材料の機械的特性は変わるが、マクロレベルにおいてこの傾向を知るために、
図8(D)からその影響及び変化の傾向を直感的に見ることができ、目的に照らして、我々はPEGの含有量が10~20%である時、その機械的特性及び親水性は埋め込みの要件に適合すると考える。当該範囲内では、吻合ステントが一定の親水性を有し、且つ乾燥及び湿潤状態ではいずれも機械的特性が非常に安定的であり、一定の機械的強度が保たれ且つ優れた従順性があり、これは強度を満たすと同時に異物感と不快感がないことを保証し、腸管が損傷する時に良好な担体として組織を修復できる。
【表5】
a:吸水率、b:弾性率(そのまま)、c:弾性率(24時間予備湿潤)、d:引張強さ(そのまま)、e:引張強さ(24時間予備湿潤)、f:伸び:破断伸び(完成品)、g:破断伸び(24時間予備湿潤)。
【0072】
親水性、機械的特性、体外酵素溶液での分解といった総合的な要因から、当方はPEGの含有量が10~20%以内であれば、ステントの総合的な性能は当方の期待に沿えると考える。当試験ではPEGの含有量が15%であるサンプルを吻合ステントとして選択してマウスの盲腸に埋め込み、後の体内分解及び癒合促進効果を観察した。そのため、当方は当該PEGの含有量のサンプルを選択してエレクトロスピニングを行って、異なるエレクトロスピニングパラメータより得た異なる厚さのサンプルの機械的特性に対する影響を研究した。
【0073】
同じエレクトロスピニングパラメータより得た異なる厚さのサンプルの機械的特性に対する影響の研究:
親水性、機械的特性、体外酵素溶液での分解といった総合的な要因から、当方はPEGの含有量が10~20%以内であれば、ステントの総合的な性能は当方の期待に沿えると考える。当試験ではPEGの含有量が15%であるサンプルを吻合ステントとして選択してマウスの盲腸に埋め込み、後の体内分解及び癒合促進効果を観察した。そのため、当方は当該PEGの含有量のサンプルを選択してエレクトロスピニングを行って、異なるエレクトロスピニングパラメータより得た異なる厚さのサンプルの機械的特性に対する影響を研究した。
【0074】
乾燥後のサンプルをクロロホルム/DMF(9:1、V:V)混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5.5%であり、37℃でシェーカーに36時間置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得た。原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含む。具体的なエレクトロスピニングの条件の詳細は表1を参照する。紡糸後のサンプルの厚さは具体的なエレクトロスピニング時間によって決められた。得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温でさらに24時間乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去した。紡糸後のサンプルを用いて機械的特性試験及び体外分解試験を行った。
【0075】
【0076】
体外生分解性の評価:
ポリマーの親水性はその分解挙動及び生体適合性に大きな影響を与える。PTMCホモポリマーの分解速度が非常に遅いから、TMCとPEG、ラクトン、乳酸の共重合はすでにPTMCの分解特性を改善するための効果的な方式となっており、これはPTMCの医療材料としての応用範囲を大いに拡大させている。疎水性主鎖に親水性ブロックを導入することによりH2Oの基材への浸透を加速させることができるため、これは分解率を高めるための簡単かつ効果的な方法である。本明細書で合成された親水性PEGブロックを含むPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体はPTMCホモポリマーよりも良い分解特性を有している。
【0077】
PTMCは主に体外酵素分解及び体内表面侵食より分解されるということは文献に記載されており、PTMCはPBS溶液の中で不活性であり、質量と相対分子量はほぼ変わらず、PTMCの酵素溶液における重量損失率は加水分解による重量損失率をはるかに上回っている。PBS溶液におけるPTMCの安定性とリパーゼ溶液におけるその迅速な分解はリパーゼが分解反応に関与していることを示す。ZhangらもYangらも酵素は界面活性化の役割を果たし、酵素は分解された生成物の溶液へと流出する速度を加速させることができると考えている。分解生成物の拡散におけるリパーゼの界面活性剤としての役割から、PTMCは高い体外酵素分解率を有し、そのため体外では酵素分解を重点的に注目する。これまで、共重合体の形態が分解に大きな影響を与えるということは多くの報告に見られるため、腸管ステントについて、当方はエレクトロスピニング後の膜状材料の分解特性を研究した。
【0078】
重量損失率に対する酵素の影響を研究し(
図9(A))、試験結果は、PEGの割合の増加に伴い、ブロック共重合体PTMC-b-PEG-b-PTMCの親水性が向上し、分解が早くなるということを示す。リパーゼ溶液のpHは6.08であり、分解過程の溶液のpHの変化を観察したところ、ほぼ変わらなかった(
図9(B))。
【0079】
当方は、腸管吻合ステントとしては、その機械的特性を満たすことを前提に、良好な親水性及び適切な分解速度を有するのは好ましいと考える。PEGの含有量の高いステントは親水性が良好であるが、分解速度が非常に早く、且つ結晶領域がステントの機械的特性に大きな影響を与えるため、吸水後の機械的特性は不安定になる。PEGの含有量が10~20%の範囲である場合、ステントは優れたかつ安定的な機械的特性を有し、複雑な腸管環境への要件を満たしており、且つその分解速度は過不足がなく、2週間で40~50%の分解になり、ある程度の親水性により、良好な生体適合性が得られた。
【0080】
当回の動物試験の対象は雄のSDラットであり、ラットの腸管癒合期間は14日程度であることから、腸管に埋め込まれた吻合ステントは少なくとも2週間持続する機械的特性の強さと、約3週間で分解されるという要件を満たすべきである。腸管環境と体外酵素溶液との違いから、生理的環境における材料の分解速度は酵素溶液のそれより低く、両者の分解速度の関係性については現在まだ定量的なデータがなく、当方が以前に実施した試験によれば、体外酵素分解の速度は体内分解より少し早い。親水性、機械的特性、体外酵素溶液での分解といった総合的な要因から、当方はPEGの含有量が10~20%以内であれば、ステントの総合的な性能は当方の期待に沿えると考える。当試験ではPEGの含有量が15%であるサンプルを吻合ステントとして選択してマウスの盲腸に埋め込み、後の体内分解及び癒合促進効果を観察した。
【0081】
体内吻合ステントを対応する時点に取り出して微視的形態を観察した(
図9(C))。吻合ステントの質量及び長さは、程度の差はあるがいずれも減少しており(
図9(E)、(F))、21日後に質量は40%以上減少し、長さは70%減少しており、このように長さの減少率が質量損失率をはるかに上回っていることの原因は、材料の吸水にある可能性がある。体内分解後にその形態は崩れ始めているが、マクロレベルにおいて全体としてよく維持されており(
図9(D))、依然として一定の支持効果があった。28日後にラットの盲腸を解剖したところ、吻合ステントが見つからないため、21日後にステントは崩壊の加速により腸管の老廃物と共に代謝・排出され、又は機械的特性が腸管を支持するのに不十分であるため手術縫合糸から切り離されて排出されると想定される。しかしどちらの場合でも、ステントは少なくとも体内で吻合部を2週間保護するという要件を満たしているため、当方は分解に関してはPEGの含有量が15%である材料が優れると考えている。
【0082】
体外生物学的評価:
抗菌:
周知のように、創傷が癒合する過程では細菌に感染する可能性があり、これは創傷の癒合を遅らせてしまう。腸管中の微生物と細菌は数え切れないほどあり、細菌の桁数は1014に達し、種類は1000種を超えており[63,64]、他の上皮と比べて、腸管の癒合中に出現する病原性細菌はより高い密度を有し、それらは創傷の癒合という正常な生理的プロセスをかき乱す。手術部位の性質上、腸管吻合部で比較的清潔な環境を保つのは難しいから、この時には吻合ステントの抗菌と隔離効果が非常に重要な役割を果たす。
【0083】
この課題を解決するために、抗菌剤トリクロサンを一定の比率でサンプルに添加し、材料に抗菌性を持たせて、創傷部が比較的清潔であることを保証した。
図10に示すように、トリクロサンを含まないサンプルは細菌への抵抗力がなく、トリクロサンを添加したサンプルは緑膿菌、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対して明らかな阻害領域があった。PTMC-b-PEG-b-PTMCの分解は表面侵食分解であり、表面から徐々に内部へと分解していく過程であるため、トリクロサンがゆっくりと放出されて滅菌の役割を果たし続けることになる。
【0084】
溶血率:
吻合ステントが腸吻合部に直接接触するため、材料の関係で赤血球が破裂してしまえば、一般にアデノシン二リン酸が放出され、血小板の凝集が加速されることで、血栓が発生する。体外の材料を血液に直接接触させることにより、吻合ステントの溶血性を評価し、試験結果を
図11に示し、その溶血率は0.1%未満であり、埋め込み型医療機器の5%の上限値をはるかに下回っていた。PEGを親水性部分として導入すると、材料が水分と接触して1つの「水膜」を形成できる。このような水層は、赤血球の疎水性基材との直接接触を効果的に防止して、材料自体が引き起こす赤血球破裂の問題を最大限に緩和することができる。
【0085】
細胞毒性:
L929細胞を細胞毒性及び細胞適合性の体外試験に用いて、純粋なPTMC-b-PEG-b-PTMC及びトリクロサンを添加したPTMC-b-PEG-b-PTMCの細胞適合性を評価した(
図12)。L929細胞をサンプルと共に24時間、48時間インキュベートし、且つトリクロサンを添加したサンプルの細胞毒性を表す値は単純なブロック共重合体と大差がなく、細胞生存率はいずれも90%以上に保たれており、これはトリクロサンの添加量は効果的かつ実施可能であり、滅菌効果をもたらすと同時に組織細胞を傷つけることはないということを示していた。
【0086】
創傷回復状況の評価:
腹腔内癒着スコアリング及び吻合部の破壊圧力:
腸管吻合部の癒合には主に炎症反応、細胞増殖、腸壁構造の再構成などの段階があり、機械的、組織学的及び機能的の3つの面の修復を実現しないと最終的には癒合にたどり着けない。そのうち機能的な修復は非常に長いプロセスであり、消化吸収、内外分泌、神経修復及び伝播性の収縮運動(migrating motor complex)に関わり、機械的な面及び組織学的な面で指標を満たさないと、吻合部の癒合が完了すると考えることはできない。手術操作と結び付ければ、動物試験の段階では次の指標を満たすべきである。破壊圧力試験:機械的癒合の指標、腹腔内癒着スコアリング:吻合部の近くの局所的な炎症状況の反映、吻合部組織のHE染色、マッソン(Masson)染色及び免疫組織化学染色:炎症細胞の浸潤の程度と、コラーゲンの沈着状況の評価。
【0087】
それぞれ、術後7日目、14日目、21日目、28日目に開腹し、腹腔内癒着の状況についてスコアリングし、結果の詳細を
図13に示す。損傷の刺激又は感染により、腹腔では局所的にフィブリノゲンのコロイド溶液が生成し、それは早くフィブリンの凝固物に変わって損傷した粘膜の表面を覆って、修復保護の役割を果たす。フィブリンは高い接着性を有するため、互いに隣接する腹腔の粘膜をつなげる。損傷が癒合した後は、体がこれらのフィブリンを良好に吸収できれば、痕跡は残らない。吸収が不完全であれば、癒着は存在し続け、深刻な場合は癒着性腸閉塞になり、腸管の正常な生理的活動に影響を与える。吻合ステントによる癒合支援群は癒着がブランク対照群より明らかに少なく、これは吻合ステントが創傷と腸管内容物の直接接触を効果的に遮り、感染の発生を軽減させることにより、吻合部の修復・癒合速度が早くなるためであった。
【0088】
吻合部の破壊圧力は腸管吻合術から一定の期間後の吻合部の癒合の強度を効果的に反映でき、当該機械的指標で、吻合部が耐えられる張力の大きさを定量的に示すことができる。腸管が癒合する過程では、粘膜の下層のコラーゲン合成の沈着と再構築の速度との間のバランスは大きな要因である。組織修復の不足又は過剰はいずれも正常な腸管の機能に影響を与え、修復が不足する場合は潰瘍と瘻が起こり、修復過剰は繊維症と狭窄を引き起こす。術後4日目までは、コラーゲンの再構築の速度は沈着の速度をはるかに上回り、術後5日目からは、コラーゲンの沈着がメインとなり、最終的に7日目には増殖期のピークに達していた。増殖期のピークへの到達の遅延又は損傷は吻合部の裂開を引き起こす可能性がある。コラーゲンの沈着過剰と炎症は吻合部の狭窄を引き起こす。そのため、術後7日目に、吻合部の局所的な状況に影響を与えないことを前提として、癒着を剥離し、次に手術対象区間の盲腸を取得し、吻合部盲腸区間の破壊圧力試験を行った(
図13)。対照群で生存する20匹のラットの破壊圧力は183mmHgであり、吻合ステント群で生存する20匹のラットの197.6mmHg(PTMC-b-PEG-b-PTMC群)、217.3mmHg(TCS/PTMC-b-PEG-b-PTMC群)より低かった。吻合ステントは創傷の癒合に明らかな促進効果を果たし、且つトリクロサンを加えるのは創傷部の細菌を減らし、創傷の癒合に役立った。3群では統計学的有意差があった(P<0.001)。
【0089】
組織学的分析:
急性及び慢性腸炎の間に、マクロファージ及び好中球は活性酸素種及び組織分解酵素を分泌することにより局所的な組織損傷を誘導する。組織の損傷が深刻な場合は、筋線維芽細胞が欠損した部位まで遊走する。炎症は、T細胞、マクロファージ、好中球などの免疫細胞の浸潤に関係しており、それが常に炎症の起きる組織に深刻な損傷をもたらす。このような持続的な炎症は繊維症及び狭窄の形成を引き起こす可能性がある。
【0090】
当方は、術後の対応する時点に、吻合部の近くの腸壁組織に対してH&E及びマッソン(Masson)染色を行った(
図15)。時間順で、組織癒合の過程を炎症期、増殖期及び再構築期に分けることができ、3つのプロセスでは厳密な境界がない。一般には、7日目は炎症期と増殖期の境目とされ、14日目は増殖期と再構築期の境目とされる。炎症期は好中球を中心とする炎症細胞の凝集及び浸潤として認識され、増殖期は線維芽細胞数の増加、無秩序に並んだ大量の弱いコラーゲン繊維の生成として認識され、再構築期では急性炎症が明らかに減少し、代わりに慢性炎症のマーカーである多核巨細胞が生成され、且つコラーゲン繊維は明らかに増加する。HE染色は炎症細胞の浸潤の程度を反映することができる。術後の対応する時点で、対照群の炎症細胞の浸潤は吻合ステント支援群を明らかに上回り、トリクロサンを添加した吻合ステント群の炎症細胞はトリクロサンを添加しなった吻合ステント群より明らかに少なかった。マッソン(Masson)染色の方も上述したことを裏付けており、ステント群は細菌を隔絶させて炎症反応を低減させているため、繊維の再生に役立ち、トリクロサンの添加は創傷の癒合を一層促進していた。
【0091】
免疫組織化学分析:
創傷の修復は細胞によって分泌される成長因子、例えば、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)を介して行われる。TGF-βはα-平滑筋アクチン(α-SMA)の最も効果的かつ重要な誘導物質である。実験的小腸・結腸炎及びクローン病患者の繊維化部位の筋線維芽細胞の中で、TGF-βが増加している。トランスフォーミング成長因子はi型コラーゲンの発現を誘導でき、且つα-SMAの発現を効果的に刺激できる。創傷形成の初期に、TGF-βが大量に生成するが、TGF-βレベルが高くあり続けると創傷部にはコラーゲン繊維が過剰に凝集して繊維症となり、そのため創傷の癒合に伴い、TGF-βレベルは徐々に低下していく。創傷部のTGF-βレベルを測定すれば、創傷回復の早さとその良さを直感的に知ることができる。
【0092】
創傷感染は負傷した患者が死亡する主な原因の1つであるため、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)を監視指標として選び、免疫組織化学分析により感染の予防における吻合ステントの効果について試験した。TNF-αは腫瘍細胞を直接殺すことができ正常な細胞に対して明らかな毒性がないサイトカインであり、つまりそれはT細胞による様々な炎症因子の生成を促進し、さらに炎症反応の発生を促進することができる。組織に多くの炎症が生じれば、TNF-αは比較的高いレベルで測定される。
【0093】
結論:
吻合後の腸管の癒合は複雑かつ長い生理学的プロセスである。実際には、腸管の吻合は物理的癒合、組織学的癒合及び生理学的癒合の3つのプロセスを含む。物理的癒合とは吻合後の腸管が腸管腔を閉鎖させることができ、腸管内容物は腹腔に入ることができず、腸壁は一定の圧力に耐えられることを指す。組織学的癒合とは吻合部の粘膜上皮は組織学的に結合していることを指す。吻合部の両端の腸管には本来の神経支配が戻り、全体において規律的な腸管運動と蠕動を実現することを指し、このプロセスを生理学的癒合と呼ぶ。7週間の破壊圧力試験の結果は吻合ステントの埋め込みが吻合部の物理的癒合を促進していることを裏付けており、マッソン(Masson)染色の結果は吻合ステント群ではコラーゲンがより良く形成され、吻合部の組織学的癒合を促進できることを示していた。
【0094】
吻合部の張力は癒合不良につながる主な原因である。この張力は組織から来てもよいし、持続的に緊張している血管への血液供給不足が引き起こす可能性もある。当試験で製造した腸管吻合ステントは組織従順性を備えるため、このような張力を大いに軽減できるため、吻合部にはより良い癒合効果が得られる。また、吻合ステントは細菌やウィルスなどの不利な要因を効果的に隔絶させて、創傷に比較的清潔な環境を作ることができ、これは吻合部の癒合にとって極めて重要であり、H&E染色、TGF-β及びTNF-αはいずれも上記の結論を裏付けていた。
【0095】
なお、上記の特定の実施形態で本発明を説明しているが、本発明の趣旨は当該開示に限定されず、本発明の趣旨を用いた作り変えであれば、いずれも本特許の請求範囲に入るということを当業者は知るべきである。
【0096】
上述したのは本発明の好ましい実施形態に過ぎず、本発明の請求範囲は上記の実施例に限定されず、本発明の趣旨に基づく技術的解決手段であればいずれも本発明の請求範囲に属する。なお、当業者は本発明の原理を逸脱しない限りはいくつかの改良と修飾を行うことができ、これらの改良と修飾も本発明の請求範囲と見なすべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体に基づく生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントであって、前記腸吻合ステントは全体としてPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料を用いて作製され、前記PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体は高分子医療材料PTMC及びPEGに対して開環重合の方法を用いて合成されるトリブロックPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体であり、前記PTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体中のPEGの含有量は10~20%であり、前記腸吻合ステントの厚さは0.05~0.3mmであることを特徴とする生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項2】
前記生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントのPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料にトリクロサン(triclosan、TCS)が担持されることを特徴とする請求項1に記載の生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項3】
前記腸吻合ステント内にはさらに植物性セルローススリーブが設けられ、前記腸吻合ステントは隙間のない嵌着構造であり、内部は植物性セルロース材料の管であり、外部はPTMC-b-PEG-b-PTMC共重合体材料であることを特徴とする請求項1に記載の生体柔軟性エラストマー腸吻合ステント。
【請求項4】
(1)PTMC-b-PEG-b-PTMCの開環重合:PEG及びTMCモノマーを反応容器に移し、N
2雰囲気下、触媒Sn(Oct)
2を無水トルエン溶液に溶解し、ピペットで100ppmを取り出して反応容器に加えて共重合反応させ、プロセス全体で水と酸素がないことを保証し、24時間後に生成物を溶解し、完全に溶解すると、ポリマー溶液を精製し、複数回繰り返し、精製後の共重合体を箱型真空乾燥機の中で48時間乾燥し、次に乾燥キャビネットの中で保管するステップ、
(2)エレクトロスピニングによる吻合ステントの製造:乾燥後のサンプルをDMF/THF混合溶液に溶解し、調製した溶液の濃度は5~10.0%であり、混合溶液の0.1~1.0wt%で抗菌剤を加え、混合後に37℃でシェーカーに置いてサンプルが充分に溶解することにより、均一な共溶解紡糸原液を得て、原液を2.5mLの注射器に入れ、当該注射器は内径が0.5mmである1本の金属針を含み、紡糸後のサンプルの厚さは0.2±0.01mmであり、得られた繊維を箱型真空乾燥機の中で室温でさらに乾燥して、残留した有機溶媒及び水分を除去するステップより製造することを特徴とする請求項1に記載の生体柔軟性エラストマー腸吻合ステントの製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(1)でTMCモノマーは70~90wt%であり、PEGは5~29wt%であり、触媒Sn(Oct)
2溶液は1~5wt%であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(1)で共重合反応の条件は温度100~150℃、反応時間24~48時間であることを特徴とする請求項
4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(1)で生成物の溶解の条件はCHCl
3又はDMF又はTHFで溶解して、シェーカーに置き、シェーカーの温度を37℃と設定することであることを特徴とする請求項
4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(1)で精製の条件はn-ヘキサン又はエタノールで精製し、且つガラス棒で不断に撹拌することであることを特徴とする請求項
4に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(2)でDMF/THF混合溶液中のDMF:THF=1:1であることを特徴とする請求項
4に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(2)の紡糸ステップは、具体的には、所定のサイズの植物性セルローススリーブをエレクトロスピニングレセプターに嵌めて紡糸し、パラメータを制御して対応するサイズの管を得ることができることであり、前記針先の押し速度はV=1.0~5.0mL/hであり、ローラーの回転速度はV=100~500rpmであり、温度T=25~35℃、湿度WET=20~40%であることを特徴とする請求項
4に記載の製造方法。
【国際調査報告】