(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-04
(54)【発明の名称】フィブリン由来シトルリン化ペプチドと、CD38及び/又はCD138に結合する抗体又は抗体断片とを含むハイブリッド分子並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/745 20060101AFI20240328BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20240328BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240328BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240328BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240328BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240328BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240328BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240328BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240328BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240328BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240328BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240328BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C07K14/745
C07K14/00 ZNA
C07K19/00
C07K14/47
C12N15/12
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K47/64
A61P37/02
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P43/00 121
A61K38/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555855
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-07
(86)【国際出願番号】 FR2022050505
(87)【国際公開番号】W WO2022195238
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・トゥールーズ・トロワ-ポール・サバティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE TOULOUSE III-PAUL SABATIER
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】523346951
【氏名又は名称】ソントル オスピタリエ ユニヴェルシテール ドゥ トゥールーズ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE TOULOUSE
(71)【出願人】
【識別番号】523346962
【氏名又は名称】ソントル オスピタリエ ユニヴェルシテール ドゥ モンペリエ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE MONTPELLIER
(71)【出願人】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】523346973
【氏名又は名称】アートリティス ルシェルシュ エ デヴロプマン
【氏名又は名称原語表記】ARTHRITIS RECHERCHE & DEVELOPPEMENT
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ヴァシン, ポーリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルイ-プランス, パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ヨルゲンセン, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】エスケール, カミーユ
(72)【発明者】
【氏名】クラヴェール, シリール
(72)【発明者】
【氏名】セール, ギィ, ブリューノ, ルネ
(72)【発明者】
【氏名】コンブ, エブ
(72)【発明者】
【氏名】ロベール, ブリューノ
(72)【発明者】
【氏名】マルティノー, ピエール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084BA41
4C084CA18
4C084DC11
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB151
4C084ZB152
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB41
4C085BB43
4C085BB44
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA65
4H045DA75
4H045EA22
(57)【要約】
本発明は、フィブリン由来シトルリン化ペプチドと、CD38及び/又はCD138に結合する抗体又は抗体断片とを含むハイブリッド分子、そのようなハイブリッド分子の使用、並びにその製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのシトルリル残基を有する少なくとも1つのフィブリン由来ペプチドを含むハイブリッド分子であって、前記ペプチドが、少なくとも1つの抗体又は少なくとも1つの抗体断片に共有結合しており、前記抗体又は断片が、CD38及び/又はCD138に結合することができ、1つ以上のスペーサーが、前記ペプチドと前記抗体又は前記断片との間に存在していてもよい、ハイブリッド分子。
【請求項2】
前記ペプチドがスペーサーに共有結合しており、前記スペーサー自体が前記抗体又は抗体断片に共有結合している、請求項1に記載のハイブリッド分子。
【請求項3】
前記ペプチドが、少なくとも1つのアルギニル残基をシトルリル残基で置換することによる脊椎動物のフィブリンのα鎖又はβ鎖の配列の全部又は一部に由来し、前記脊椎動物のフィブリンが、好ましくは哺乳動物、好ましくはヒトのフィブリンである、請求項1又は2のいずれかに記載のハイブリッド分子。
【請求項4】
前記スペーサーが、エーテル基を含有する1つ以上の繰り返し単位を含有するポリマーであり、前記スペーサーが、好ましくは式PEGnのポリエチレングリコールであり、式中、nは、1~100、好ましくは1~10、特に1、2、3、4又は8の整数を表す、請求項1~3のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【請求項5】
前記ペプチドが、少なくとも1つのシトルリル残基を含み、
a)配列X
1PAPPPISGGGYX
2AX
3(配列番号1)で定義されるペプチドであって、X
1、X
2及びX
3がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X
1又はX
2又はX
3残基の少なくとも1つがシトルリル残基である、ペプチド;
b)配列GPX
1VVEX
2HQSACKDS(配列番号2)で定義されるペプチドであって、X
1及びX
2がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X
1又はX
2残基の少なくとも一方がシトルリル残基である、ペプチド;
c)配列SGIGTLDGFX
1HX
2HPD(配列番号3)で定義されるペプチドであって、X
1及びX
2がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X
1又はX
2残基の少なくとも一方がシトルリル残基である、ペプチド;
d)配列VDIDIKIX
1SCX
2GSCS(配列番号4)で定義されるペプチドであって、X
1及びX
2がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X
1又はX
2残基の少なくとも一方がシトルリル残基である、ペプチド;
e)配列X
1GHAKSX
2PVX
3GIHTS(配列番号12)で定義されるペプチドであって、X
1、X
2及びX
3がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X
1又はX
2又はX
3残基の少なくとも1つがシトルリル残基である、ペプチド;
f)上記ペプチドa)~e)の1つからの少なくとも1つのシトルリル残基を含む少なくとも5個の連続アミノ酸を含むペプチド
からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【請求項6】
前記ペプチドが、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22及び配列番号23からなる群から選択され、より詳細には配列番号5、配列番号6、配列番号14、配列番号18及び配列番号19、より詳細には配列番号18及び配列番号19、からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【請求項7】
前記断片が、断片、scFc、Fv、Fab又はF(ab’)
2から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【請求項8】
前記抗体又はF(ab’)
2断片が、二重特異性抗体又はF(ab’)
2断片であり、
- CD38及び別の形質細胞標的、又は
- CD138及び別の形質細胞標的、又は
- CD38及びCD138
に対する、請求項1~7のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【請求項9】
前記分子が、
- 配列番号19又は配列番号18によって表されるペプチドにカップリングしたシクロオクチンに共有結合したアジドに、それ自体カップリングするPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができる抗体断片;
- 配列番号19又は配列番号18によって表されるペプチドに、それ自体結合したPEGnスペーサーにカップリングしたシクロオクチンに共有結合したアジドに、それ自体カップリングしたPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができる抗体断片
によって表され、
nは、好ましくは1~10、より詳細には1、2、3、4又は8の整数を表す、
請求項1~8のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【請求項10】
医薬品として使用するための、特に抗シトルリン化タンパク質自己抗体の産生に関連する自己免疫疾患、特にグージュロー・シェーグレン症候群及び関節リウマチの治療に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【請求項11】
第2のハイブリッド分子と組み合わせて医薬品として使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載のハイブリッド分子であって、前記第2の分子が、シトルリル残基の少なくとも1つのフィブリン由来ペプチドキャリアに共有結合した少なくとも1つのFc抗体断片を含み、スペーサーが、前記Fc断片と前記ペプチドとの間に存在していてもよい、請求項1~10のいずれか一項に記載のハイブリッド分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリン由来シトルリン化ペプチドと、CD38及び/又はCD138に結合する抗体又は抗体断片とを含むハイブリッド分子、そのようなハイブリッド分子の使用及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチは、最も一般的なタイプの炎症性リウマチ又は関節炎であるが、最も一般的な自己免疫疾患でもある。この疾患は、滑膜関節の慢性炎症を特徴とし、不可逆的な関節破壊をもたらす。
【0003】
抗シトルリン化タンパク質自己抗体(ACPA)として知られる、シトルリン化タンパク質に対するクラスG自己抗体の存在は、関節リウマチに非常に特異的である。ACPAを含有する患者由来の血清、それらをそれらの膜上に発現するリンパ球細胞及び患者自身は全て「ACPA陽性」であると言われる。いくつかの研究は、これらのACPAがリウマチ様疾患に特異的な自己免疫反応の中心にあり、したがって選択される治療標的であることを実証している。
【0004】
ACPAの抗原標的は特徴付けられている。それらは、特に、炎症を起こした滑膜組織に豊富に存在するタンパク質であるフィブリンのα及びβポリペプチド鎖の脱イミン化形態又はシトルリン化形態に対して特異的に向けられる。このシトルリン化は、ペプチジル-アルギニンデイミナーゼ(PAD)の作用によるタンパク質のアルギニル残基の酵素的脱イミン化に対応する。
【0005】
より具体的には、フィブリンのα及びβポリペプチド鎖上のACPAによって認識される免疫優性エピトープは、特にPCT/FR00/01857又はPCT/FR2007/000758の出願において特徴付けられ、公開されている。免疫優性エピトープを有する5つのシトルリン化ペプチドは、より詳細には、α36-50Cit(配列番号5に示すように)、α171-185Cit(配列番号6に示すように)、α501-515Cit(配列番号14に示すように)、α621-635Cit(配列番号18に示すように)及びβ60-74Cit(配列番号19に示すように)と命名されたペプチドである。ACPA陽性患者の血清は、これら5つのペプチドのうちの1つ以上を認識する。
【0006】
局所形質細胞によってリウマチ滑膜組織に分泌されたACPAは、そこに高濃度で見出される。それらは、それらの主な標的であるシトルリン化フィブリンに近いままであり、これも間質沈着物の形態でそこに豊富に存在する。これらの沈着物へのACPAの結合、及び関節リウマチに関連し、また局所形質細胞によって分泌される別の自己抗体であるリウマチ因子に結合する固定化免疫複合体の結果として生じる形成は、炎症促進性事象のカスケードを引き起こす。
【0007】
これらの免疫マクロ複合体によるマクロファージ細胞の、本質的にそれらの膜Fc-ガンマ受容体を介した刺激は、マクロファージ細胞に炎症促進性サイトカイン、特にTNF-アルファを分泌させ、これはリウマチ性炎症に関与する主要なサイトカインとして同定されている。
【0008】
今日まで、関節リウマチの治癒的治療法はない。治療は、再発の発生を治療及び/又は予防することのみを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】PCT/FR00/01857
【特許文献2】PCT/FR2007/000758
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、関節リウマチの治療を提供することである。
【0011】
ACPAはオリゴクローナルであるため、少数のクローンBリンパ球の分化から生じる少数のクローン形質細胞によってのみ分泌される。
【0012】
関節リウマチの場合、クローンBリンパ球は、その膜上にACPA特異性を有する免疫グロブリンを発現し(これらはACPA陽性Bリンパ球である)、一方、ACPA陽性クローンBリンパ球の分化から生じる形質細胞(これらはACPA陽性形質細胞である)は、これらのACPAをそれらの微小環境中に豊富に分泌する。
【0013】
本発明は、(i)少なくとも1つのシトルリル残基を有するフィブリン由来ペプチドと、(ii)CD38及び/又はCD138に結合する抗体又は抗体断片とを含むハイブリッド分子を使用して、微小環境において豊富にACPAを分泌する形質細胞を標的化し、それらを排除することが可能であることを示す本発明者らの結果に基づく。これらのハイブリッド分子は、(当該形質細胞の表面上に発現される分子マーカーであるCD38及び/又はCD138に結合する抗体又は抗体断片を使用して)形質細胞を標的とし、少なくとも1つのシトルリル残基を有するフィブリン由来ペプチドのおかげで、ハイブリッド分子は、ACPAによって特異的に認識されるであろう(ペプチドは、これらのACPAの標的である)。架橋(形質細胞に結合したハイブリッド分子自体へのACPAの結合)後、形質細胞は、アポトーシスによって、マクロファージの存在下での食作用によって、NK細胞の存在下でのADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害)によって、又は補体活性化によって溶解される。
【0014】
したがって、本発明のハイブリッド分子は、ACPAを分泌する形質細胞を標的とすることによって、患者の身体及びこれらのACPAの供給源からのACPAの消失を引き起こして、疾患の寛解を誘導することを目的とする。
【0015】
形質細胞及びハイブリッドを使用して当該形質細胞によって放出される抗体の標的化は、例えば欧州特許第2892926号明細書に既に記載されている。しかし、関節リウマチに関する特定の構築物又は結果は開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によるハイブリッド分子
第1の態様では、少なくとも1つのシトルリル残基を有する少なくとも1つのフィブリン由来ペプチドを含むハイブリッド分子に関し、当該ペプチドは、少なくとも1つの抗体又は少なくとも1つの抗体断片に共有結合しており、当該抗体又は断片は、CD38及び/又はCD138に結合することができ、1つ以上のスペーサーが、当該ペプチドと当該抗体又は当該断片との間に存在していてもよい。そのような構築物の図を
図2に示す。
【0017】
本発明によれば、「ハイブリッド分子」は、異なる性質の少なくとも2つの成分、この場合、当該ペプチド、並びにCD38及び/又はCD138に結合することができる抗体又は抗体断片を有する分子を意味する。
【0018】
本発明によれば、「抗体」は免疫グロブリンを意味する。免疫グロブリンは、各々が重鎖及び軽鎖からなる2つの二量体の集合体からなる。重鎖及び軽鎖の各々は、定常領域及び可変領域からなる。より具体的には、各軽鎖は、可変領域(VL)及び定常領域(CL)からなる。各重鎖は、可変領域(VH)と、3つ又は4つの定常ドメインCH1、CH2、CH3及び場合によりCH4からなる定常領域とからなる。抗体とは、IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEを意味する。好ましくは、抗体はIgG、より詳細にはIgG1である。本発明による抗体はまた、2つの異なる抗原に対して親和性を有する二重特異性抗体を意味する。本発明によるハイブリッド分子に使用される抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0019】
本発明によれば、「抗体断片」は、抗原結合部位を有する抗体の一部を意味する。そのような抗体断片は、例えば、Fab、F(ab’)2、Fv、dsFv、scFv、単離されたVH又はVL断片などの単鎖断片、ラクダ科VHH、軟骨魚類VNAR、又は更には異なる断片からなる多重特異性抗体、例えばタンデムの二重特異性抗体、又は「ナノボディ」、「ダイアボディ」、「トリアボディ」、「テトラボディ」、若しくはscFvである。これらの断片は当業者に周知である。これらの断片及び構築物に関する更なる情報は、例えば、国際出願である国際公開第2017137579号、Bird et al.,1988 Science 242:423-426;及びHuston et al.,1988 Proc.Natl.Acad.Sci.85:5879-5883、又はNelson,mAbs 2:1,77-83;January/February 2010に記載される。
【0020】
典型的には、「Fab」は、ジスルフィド架橋によって連結された抗体の重鎖のN末端側の約半分及び軽鎖全体を含む抗体断片である。Fabは、特にプロテアーゼ、パパインでの処理によってIgGから得ることができる。したがって、「F(ab’)2」は、ジスルフィド架橋によって一緒に連結された、上で定義したような2つのFab断片を示す。F(ab’)2は、特にプロテアーゼ、ペプシンでの処理によってIgGから得ることができる。
【0021】
典型的には、「Fv」は、2つの非共有結合VL及びVHドメインに対応し、「dsFv」は、ジスルフィド架橋によって連結されたVH及びVLの会合に対応する。
【0022】
典型的には、「scFv」(一本鎖Fv)は、VLドメイン及びVHドメインをコードする遺伝子と、これらのドメインを連結することを意図したペプチドをコードする配列とを使用して合成されたVH:VLポリペプチドである。scFvは互いに関連付けられ、例えば、ダイアボディ(2 scFv)、トリアボディ(3 scFv)又はテトラボディ(4 scFv)を形成し得る。そのような構築物では、scFvは、一般に、1つ以上のペプチド結合によって一緒に連結される。そのような多量体構築物に関与する各scFvの抗原特異性は、同じであっても異なっていてもよい。
【0023】
好ましい実施形態によれば、当該ハイブリッド分子において、当該断片は、断片scFv、Fv、Fab又はF(ab’)2、より詳細にはFab又はF(ab’)2から選択される。
【0024】
本発明によれば、「CD38」及び「CD138」は、形質細胞の表面上に発現されるマーカーを指す。CD138は形質細胞に特異的である。CD38は形質細胞に特異的ではないが、形質細胞はそれにもかかわらず、このマーカーを最も強く発現する細胞の1つである。ダラツムマブは、CD38を標的とする治療用抗体の一例である。好ましくは、当該抗体又は当該断片はCD38に対するものである。
【0025】
別の実施形態によれば、当該ハイブリッド分子において、当該抗体又は当該断片は二重特異性であり、CD38及び別の形質細胞標的又はCD138及び別の形質細胞標的又はCD38及びCD138に対するものである。より詳細には、一実施形態によれば、当該ハイブリッド分子において、当該抗体又はF(ab’)2断片は、二重特異性抗体又はF(ab’)2断片であり、
- CD38及び別の形質細胞標的、又は
- CD138及び別の形質細胞標的、又は
- CD38及びCD138
に対するものである。
【0026】
本発明によれば、「別の形質細胞標的」は、形質細胞の表面に発現される任意のマーカーを意味する。
【0027】
本発明によれば、「共有結合した」という表現は、共有結合、すなわち2つの原子が2つの電子を共有する化学結合を意味する。当該共有結合は、極性又は非極性であり得る。
【0028】
本発明によれば、「スペーサー」は、当該抗体又は抗体断片を当該ペプチドから分離しながら(したがって、起こり得る立体障害を低減しながら)、少なくとも1つのシトルリル残基を有する当該フィブリン由来ペプチドへの当該抗体又は抗体断片の共有結合を可能にするカップリング剤である。スペーサーは、任意の分子、特にペプチドであり得る。好ましくは、スペーサーは、ハイブリッド分子の物理的及び化学的特性を改変しない。
【0029】
少なくとも1つのスペーサーの存在は有利である:それは、ハイブリッド分子の2つのパートナーの独立したアクセスを容易にし(当該ペプチドがACPA陽性B細胞に結合するためにより容易にアクセス可能であるのと同様に、抗体又は抗体断片は、形質細胞に結合するためにより容易にアクセス可能である)、及び/又はハイブリッド分子を安定化し、及び/又はハイブリッド分子の溶解度を増加させる。
【0030】
一実施形態によれば、本発明によるハイブリッド分子は、1つ以上のスペーサーを含み得る。好ましくは、ハイブリッド分子は、1つ又は2つのスペーサーを含む。一実施形態によれば、少なくとも1つのスペーサーが本発明の当該ハイブリッド分子中に存在する場合、当該抗体又は抗体断片はスペーサーに共有結合し、当該スペーサーはそれ自体が当該ペプチドに共有結合している。別の実施形態によれば、少なくとも2つのスペーサーが本発明の当該ハイブリッド分子中に存在する場合、当該抗体又は抗体断片は第1のスペーサーに共有結合し、当該第1のスペーサーはそれ自体が第2のスペーサーに共有結合し、第2のスペーサーはそれ自体が当該ペプチドに共有結合する。したがって、抗体又は抗体断片とペプチドとの間の結合は、スペーサーの存在下で直接的又は間接的でさえあり得る。
【0031】
一実施形態によれば、本発明によるハイブリッド分子は、少なくとも1つのシトルリル残基を有する少なくとも1つのフィブリン由来ペプチドを含み得る。これは、抗体又は抗体断片が1つ又は2つのペプチドに連結され得ることを意味する。これは、抗体又は抗体断片が2つのモノマーを含み、したがって、抗体又は抗体断片は、2つのモノマーのうちの1つのみのペプチドに共有結合することができ、又は抗体又は抗体断片は、各モノマーのペプチドに共有結合することができるからである(二重特異性抗体又は断片の場合、3つ又は4つであってもよい)。好ましくは、2つのペプチドが抗体又は抗体断片に結合している場合、2つのペプチドは同一であり、例えば、配列番号18又は配列番号19の2つのペプチドである。
【0032】
一実施形態によれば、当該スペーサーは、エーテル基を含有する1つ以上の繰り返し単位を含有するポリマーである。特定の一実施形態によれば、当該スペーサーは、式PEGn(式中、nは1~100、好ましくは1~10、特に1、2、3、4又は8の整数を表す)のポリエチレングリコールである。本発明によれば、当該ポリエチレングリコールは、例えばアミン基(PEG-NH2などのPEGn-アミン)で官能化することができる。本発明によれば、「1~100の整数」は、1~100の全ての整数値、すなわち1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、及び100を表す。
【0033】
本発明によれば、「少なくとも1つのシトルリル残基を有するフィブリン由来ペプチド」という表現は、少なくとも1つのアルギニル残基がシトルリル残基によって置換されたフィブリン又はフィブリノーゲンの分子を意味する。本発明による「少なくとも1つのシトルリル残基を有するフィブリン由来ペプチド」は、ACPAによって認識されるペプチドを意味し、「シトルリン化ペプチド」と表すこともできる。そのようなペプチドは、天然、組換え又は合成のフィブリン又はフィブリノーゲンの断片から得ることができる。このようなペプチドは、直接合成によっても得ることができる。ペプチドを構成するアミノ酸は、L又はDアミノ酸、好ましくはLであり得る。当該置換は、例えば、ペプチジル-アルギニンデイミナーゼ(PAD)の作用下で酵素的脱イミン化工程によって行うことができる。そのようなペプチドは、1つ以上のシトルリル残基を合成ペプチドに直接組み込むことによっても得ることができる。本発明によるペプチドはACPAに結合し、少なくとも1つのシトルリル残基を有する当該フィブリン由来ペプチドとACPAとの間の結合は、ELISA試験を用いて、又はSebbag M,Moinard N,Auger I,Clavel C,Arnaud J,Nogueira L,Roudier J,Serre G,Epitopes of human fibrin recognized by the rheumatoid arthritis-specific autoantibodies to citrullinated proteins.Eur J Immunol 36:2250-2263,2006による刊行物に記載されるように実証され得る。
【0034】
一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該ペプチドは、少なくとも1つのアルギニル残基をシトルリル残基で置換することによって、脊椎動物のフィブリンのα鎖又はβ鎖の配列の全部又は一部に由来する。好ましくは、当該ペプチドは、脊椎動物のフィブリンのα鎖(特に、配列番号27によって表される)又はβ(特に、配列番号28によって表される)の少なくとも5個の連続したアミノ酸の配列に由来する。更により詳細には、当該脊椎動物のフィブリンは、哺乳動物、好ましくはヒトのフィブリンである。
【0035】
一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、ペプチドは、少なくとも2個の連続するアミノ酸、3個の連続するアミノ酸、4個の連続するアミノ酸、好ましくは5個の連続するアミノ酸、更により好ましくは5~25個のアミノ酸のサイズを有する。本発明によれば、「5~25」は、全ての値:5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24及び25を意味する。好ましくは、当該ペプチドは、10~20アミノ酸、より詳細には15アミノ酸のサイズを有する。
【0036】
一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該ペプチドは好ましくは直鎖状である。
【0037】
一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、ペプチドは、ACPAに対するその反応性を改善するように修飾することができる。例として、ペプチドは環化することができ、ペプチドはレトロペプチド(Lアミノ酸は、再生されるペプチドの逆配列に従って連結される)又はレトロインベルソ(retro-inverso)ペプチド(アミノ酸Dアミノ酸は、天然のLアミノ酸の代わりに、再生されるペプチドの逆配列に従って連結される)であり得る。なお更なる特定の実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該ペプチドの末端カルボキシル官能基(COOH)は、カルボキサミド官能基(CONH2)によって置き換えられる。好ましくは、配列番号12のペプチドでは、当該ペプチドの末端カルボキシル官能基(COOH)がカルボキサミド官能基(CONH2)によって置き換えられている。例として、β60-74Citペプチド(配列番号19で表されるように)は、有利には、このようなカルボキサミド機能を有する。
【0038】
別の実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、ペプチドは、例えばアルキル化によって、その合成を容易にし、及び/又はその安定性を改善するように修飾することができる。更により特定の実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該ペプチドの末端アミン官能基(NH2)はアセチル化されている。好ましくは、配列番号1のペプチドにおいて、当該ペプチドの末端アミン官能基はアセチル化されている。例として、α621-635Citペプチド(配列番号18に示すように)は、有利には、その末端アミン(NH2)にそのようなアセチル官能基を有する。
【0039】
一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、ペプチドのアミン官能基及びカルボキシル官能基は、酸又は塩基に対応する塩の形態であり得る。
【0040】
一実施形態では、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該ペプチドは、少なくとも1つのシトルリル残基を含み、
a)配列X1PAPPPISGGGYX2AX3(配列番号1)で定義されるペプチドであって、X1、X2及びX3がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X1又はX2又はX3残基の少なくとも1つがシトルリル残基である、ペプチド;
b)配列GPX1VVEX2HQSACKDS(配列番号2)で定義されるペプチドであって、X1及びX2がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X1又はX2残基の少なくとも一方がシトルリル残基である、ペプチド;
c)配列SGIGTLDGFX1HX2HPD(配列番号3)で定義されるペプチドであって、X1及びX2がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X1又はX2残基の少なくとも一方がシトルリル残基である、ペプチド;
d)配列VDIDIKIX1SCX2GSCS(配列番号4)で定義されるペプチドであって、X1及びX2がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X1又はX2残基の少なくとも一方がシトルリル残基である、ペプチド;
e)配列X1GHAKSX2PVX3GIHTS(配列番号12)で定義されるペプチドであって、X1、X2及びX3がそれぞれシトルリル残基又はアルギニル残基を表し、X1又はX2又はX3残基の少なくとも1つがシトルリル残基である、ペプチド;
f)上記ペプチドa)~e)の1つからの少なくとも1つのシトルリル残基を含む少なくとも5個の連続アミノ酸を含むペプチド
からなる群から選択される。
【0041】
1つの特定の実施形態によれば、当該ペプチドは、少なくとも1つのシトルリル残基を含み、
- 配列番号1の配列によって定義されるペプチドであって、X1又はX2又はX3から選択される少なくとも1つの残基がシトルリル残基である、ペプチド、あるいは当該シトルリル残基(複数可)を含む当該配列の少なくとも5個の連続するアミノ酸の断片を含むペプチド;
- 少なくともX1又はX2がシトルリル残基である配列番号2によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基(複数可)を含有する当該配列の少なくとも5個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド;
- 少なくともX1又はX2がシトルリル残基である配列番号3によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基(複数可)を含有する当該配列の少なくとも5個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド;
- 少なくともX1又はX2がシトルリル残基である配列番号4によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基(複数可)を含有する当該配列の少なくとも5個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド;
- 少なくともX1又はX2又はX3がシトルリル残基である配列番号12によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基(複数可)を含有する当該配列の少なくとも5個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド
からなる群から選択される。
【0042】
なお更なる特定の実施形態では、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該ペプチドは、少なくとも1つのシトルリル残基を含み、
- X1、X2、及びX3がシトルリル残基である、配列番号1によって定義されるペプチド、又は当該配列(配列番号19のペプチド)を含む少なくとも15アミノ酸のペプチド;
- X1及びX2がシトルリル残基である配列番号2によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基を含有する当該配列の少なくとも5個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド(これは配列番号5のペプチドである);
- X1及びX2がシトルリル残基である配列番号3によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基を含有する当該配列の少なくとも5個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド(これは配列番号14のペプチドである);
- X1及びX2がシトルリル残基である配列番号4によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基を含有する当該配列の少なくとも5個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド(これは配列番号6のペプチドである);
- X1及びX2及びX3がシトルリル残基である配列番号12によって定義されるペプチド、又は当該シトルリル残基を含有する当該配列の少なくとも10個の連続アミノ酸の断片を含むペプチド(これは配列番号18のペプチドである)
からなる群から選択される。
【0043】
なお更なる特定の実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該ペプチドは、配列番号5(α36-50cit38,42)、配列番号6(α171-185cit178,181)、配列番号7(α183-197cit186,190)、配列番号8(α246-260cit258)、配列番号9(α259-273cit263,271)、配列番号10(α366-380cit367)、配列番号11(α396-410cit404)、配列番号13(α411-425cit425)、配列番号14(α501-515cit510,512)、配列番号15(α546-560cit547)、配列番号16(α561-575cit573)、配列番号17(α588-602cit591)、配列番号18(α621-635cit621,627,630)、配列番号19(β60-74cit60,72,74)、配列番号20(β210-224cit224)、配列番号21(β281-295cit285,294)、配列番号22(β420-434cit421)及び配列番号23(β433-447cit436,445)からなる群から選択され、より詳細には、配列番号5(α36-50cit38,42)、配列番号6(α171-185cit178,181)、配列番号14(α501-515cit510,512)、配列番号18(α621-635cit621,627,630)及び配列番号19(β60-74cit60,72,74)からなる群から選択され、更により詳細には、配列番号18(α621-635cit621,627,630)及び配列番号19(β60-74cit60,72,74)から選択される。
【0044】
抗体又は抗体断片及びペプチドは、それぞれN末端及びC末端を有する。したがって、抗体又は抗体断片は、そのN末端又はC末端を介してペプチドのN末端又はC末端に結合することができる。別の好ましい実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該共有結合は、当該ペプチドのN末端と当該抗体若しくは抗体断片のN末端との間、又は当該ペプチドのN末端と当該抗体若しくは抗体断片のC末端との間に位置する。1つの実施形態によれば、スペーサーが存在するとき、スペーサーは、そのN末端又はC末端を介して抗体又は抗体断片に結合され得る。別の実施形態によれば、2つのスペーサーが存在する場合、第1のスペーサーは、そのN末端又はC末端を介して抗体又は抗体断片に結合することができ、第2のスペーサーは、そのN末端又はC末端、特にN末端を介してペプチドに結合することができる。あるいは、当該抗体又は抗体断片と当該ペプチドとの間の当該共有結合は(場合により1つ以上のスペーサーの存在下で)、後者が形質細胞に結合するその能力を保持する限り、抗体又は抗体断片の全部又は一部に作り出すことができる。本発明によれば、「抗体又は断片の全部又は一部」は、抗体又は断片を構成する異なるアミノ酸が当該ペプチドとの共有結合に関与し得ることを意味する。
【0045】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのスペーサーが本発明による当該ハイブリッド分子中に存在する場合、当該スペーサーは、それ自体が当該ペプチドとの共有結合に関与するアジド又はアルキンへの抗体又は断片の結合を可能にする。一実施形態によれば、少なくとも1つのスペーサーが本発明による当該ハイブリッド分子中に存在する場合、当該スペーサーは、それ自体が抗体又は断片との共有結合に関与するアルキン又はアジドへのペプチドの結合を可能にする。更により好ましい実施形態によれば、本発明によるハイブリッド分子は、少なくとも2つのスペーサー:抗体又は断片のアジド又はアルキンへの結合を可能にする第1のスペーサー及びペプチドのアジド(抗体又は断片がアルキンに結合している場合)又はアルキン(Fc断片がアジドに結合している場合)への結合を可能にする第2のスペーサーを含む。
【0046】
本発明による一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、当該抗体又は当該断片は、
- シクロオクチンなどのアジド又はアルキン、特にDBCOにカップリングされている、又は
- それ自体がアジド又はアルキン、例えばシクロオクチン、特にDBCOにカップリングしているスペーサーに結合しており、当該ペプチドは、
- アジド又はアルキン、例えばシクロオクチン、特にDBCOとカップリングされているか、
- 又はそれ自体がアジド若しくはアルキン、例えばシクロオクチン、特にDBCOにカップリングされたスペーサーに結合されるかのいずれかであり、
当該断片と当該ペプチドとの間の共有結合は、場合により1つ以上のスペーサーの存在下で、アジドとアルキンとの間に作り出される。
【0047】
本発明による一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、
- 当該抗体又は当該断片が少なくとも1つのアジドにカップリングされ、当該ペプチドがシクロオクチンなどのアルキン、特にDBCOにカップリングされるか、又は
- 当該抗体又は当該断片が、少なくとも1つのアルキン、例えばシクロオクチン、特にDBCOにカップリングされ、当該ペプチドがアジドにカップリングされ、
当該抗体又は当該断片と当該ペプチドとの間の共有結合が、アジドとアルキンとの間に作り出される。
【0048】
本発明による一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、
- 当該抗体又は当該断片がスペーサーに結合し、それ自体がアジドにカップリングしており、当該ペプチドがシクロオクチンなどのアルキン、特にDBCOにカップリングしているか、又は
- 当該抗体又は当該断片は、それ自体がシクロオクチンなどのアルキン、特にDBCOにカップリングされたスペーサーに結合され、当該ペプチドはアジドにカップリングされ、
当該抗体又は当該断片と当該ペプチドとの間の共有結合は、スペーサーの存在下でアジドとアルキンとの間に作り出される。
【0049】
本発明による一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子において、
- 当該抗体又は当該断片は、それ自体がアジドにカップリングされたスペーサーに結合され、当該ペプチドはまた、それ自体がシクロオクチンなどのアルキン、特にDBCOにカップリングされた第2のスペーサーに結合され、又は
- 当該抗体又は当該断片は、それ自体がシクロオクチンなどのアルキン、特にDBCOにカップリングしたスペーサーに結合しており、当該ペプチドは、それ自体がアジドにカップリングした第2のスペーサーにも結合しており、
当該抗体又は当該断片と当該ペプチドとの間の共有結合は、1つ以上のスペーサーの存在下でアジドとアルキンとの間に作り出される。
【0050】
一実施形態によれば、上記の分子、より詳細には9頁15行~10頁12行(原文)において、使用されるスペーサーは好ましくはPEGnスペーサーであり、nは好ましくは1~10の整数を表す。本発明によるハイブリッド分子が少なくとも2つのPEGnスペーサーを含む場合、2つのスペーサーのnの値は同一であっても異なっていてもよい。例えば、第1のスペーサーはPEG2とすることができ、第2のスペーサーはPEG3又はPEG4とすることができる。
【0051】
特に好ましい一実施形態によれば、上記の分子、より詳細には9頁15行~10頁12行(原文)において、ペプチドはヒトフィブリン又はフィブリノーゲンに由来し、抗体又は抗体断片はヒトである。
【0052】
本発明による一実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子は、
- 配列番号19(β60-74cit60,72,74)若しくは配列番号18(α621-635cit621,627,630)で表されるペプチドにカップリングしたシクロオクチンに共有結合したアジドに、それ自体カップリングした、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3に結合したCD38に結合することができる抗体断片、又は
- 配列番号19(β60-74cit60,72,74)又は配列番号18(α621-635cit621,627,630)によって表されるペプチドに結合した、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3にカップリングしたシクロオクチンに共有結合したアジドに、それ自体カップリングした、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3に結合したCD38に結合することができる抗体断片
によって表され、nは、好ましくは1~10、より詳細には1、2、3、4又は8の整数を表し、好ましくはFab断片である。
【0053】
本発明による更により特定の実施形態によれば、本発明による当該ハイブリッド分子は、
- 配列番号19(β60-74cit60,72,74)で表されるペプチドにカップリングしたシクロオクチンに共有結合したアジドに、それ自体カップリングした、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3に結合したCD38に結合することができる抗体断片、又は
- 配列番号19(β60-74cit60,72,74)で表されるペプチドにカップリングした、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3にカップリングしたシクロオクチンに共有結合したアジドに、それ自体カップリングした、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3に結合したCD38に結合することができる抗体断片、又は
- 配列番号18(α621-635cit621,627,630)で表されるペプチドにカップリングした、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3にカップリングしたシクロオクチンに共有結合したアジドに、それ自体カップリングした、PEGnスペーサー、好ましくはPEG3に結合したCD38に結合することができる抗体断片
によって表され、
nは、好ましくは1~10、より詳細には1、2、3、4又は8の整数を表し、当該断片は、好ましくはFab断片である。
【0054】
本発明によれば、アジドとアルキンとの間の共有結合の形成は、「クリック化学」工程として知られているものに対応し、アジドのN3部分はアルキンと反応する。アジドは、ヒドラゾ酸HN3の塩、又は窒素原子の1つが有機化合物の炭素原子と共有結合している有機アジド(例えば、メチルアジドCH3N3)を意味する。好ましくは、アジドは式N3で表される。アルキンは、少なくとも1つの三重結合の存在を特徴とする、一般式CnH2n-2を有する分子を意味する。アルキンは、好ましくはシクロオクチンであり、更により好ましくはジベンゾシクロオクチン(DBCO)である。
【0055】
抗体又は断片、当該ペプチド及び場合により当該スペーサーは、任意の従来使用されている分子カップリング技術(コンジュゲーションなど)によってアルキン又はアジドにカップリングされる。抗体又は断片をスペーサーに、及び/又はペプチドをスペーサーに共有結合させるために、任意の技術を使用してもよい。
【0056】
より詳細には、コンジュゲーション技術は、酵素的コンジュゲーション又は化学的コンジュゲーションを意味する。酵素的コンジュゲーションは、例えば、遊離アミン基とグルタミン又はリジン残基との間の共有結合の形成を触媒するトランスグルタミナーゼを使用するコンジュゲーション、又は更にはソルターゼなどのトランスペプチダーゼを使用するコンジュゲーションを意味する。酵素コンジュゲーションに関する更なる情報については、例えば、特許出願米国特許第20160361434号若しくは米国特許第20170313787号、又はOhtsuka et al.,Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry Volume 64,2000-Issue 12,Comparison of Substrate Specificities of Transglutaminases Using Synthetic Peptides as Acyl donorsによる刊行物を参照されたい。トランスグルタミナーゼ基質は、例えば、配列番号29(LLQG)で表されるグルタミル残基(Qタグ)を含むペプチドである。抗体又は断片はQタグを担持し得る。化学的コンジュゲーションは、例えば、ジスルフィド架橋の還元後に単離されるか又はジスルフィド架橋に関与するシステインと、例えばマレイミドとの間の共有結合を意味する。
【0057】
本発明によれば、「カップリングされた」又は「分子カップリング」という用語は、共有結合の確立を意味し、したがって抗体又は断片及び/又はペプチド及び/又はスペーサーは、アルキン又はアジドに共有結合している。「結合した」という用語はまた、共有結合を意味する。したがって、例として、表現「当該抗体又は当該断片は、アジドにカップリングされたスペーサーに結合され、当該ペプチドはまた、シクロオクチンなどのアルキンにカップリングされた第2のスペーサーにも結合される」は、「当該抗体又は当該断片は、アジドに共有結合されたスペーサーに共有結合され、当該ペプチドはまた、シクロオクチンなどのアルキンに共有結合された第2のスペーサーにも共有結合される」と読み取ることもできる。
【0058】
本発明によるハイブリッド分子の使用
第2の態様では、本発明はまた、医薬品として使用するための上で定義されたハイブリッド分子に関する。
【0059】
より詳細には、本発明によれば、当該ハイブリッド分子は、アポトーシスによって、食作用によって、ADCCによって、又は補体活性化によって、患者の体内のACPA分泌形質細胞を標的とし、溶解することを意図している。これは、CD38及び/又はCD138に結合する抗体又は断片のおかげで形質細胞に結合する本発明によるハイブリッド分子に起因する。本発明によるハイブリッド分子はまた、シトルリル残基を有するフィブリン由来ペプチドのおかげでACPAに結合し、フィブリン由来ペプチドは当該ACPAの標的である。ACPAは、形質細胞の表面に結合した本発明によるハイブリッド分子の架橋を可能にし、したがってそれらのアポトーシスを誘導する。ACPAは、任意の抗体と同様に、それらの標的抗原に結合した後に活性化されるエフェクター機能を有し、したがって食作用及び/又はADCC及び/又は補体活性化による形質細胞の破壊に関与する。
【0060】
1つの特定の実施形態によれば、本発明は、シトルリン化タンパク質に対する自己抗体の産生に伴う自己免疫疾患、特に、ゴーゲロット・シェーグレン症候群及び関節リウマチの治療におけるその使用のための上記で定義されるようなハイブリッド分子に関する。この実施形態では、抗シトルリン化タンパク質自己抗体の産生に関連する当該自己免疫疾患の重篤な形態、並びに乾癬性関節炎又は全身性エリテマトーデスなどの他の慢性関節炎に「接する」形態が標的化される。
【0061】
一実施形態によれば、本発明はまた、薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせて、先行する請求項のいずれか一項に記載のハイブリッド分子を含む医薬組成物に関する。
【0062】
本発明によれば、「薬学的に許容されるビヒクル」は、組成物を任意のガレノス形態で患者に投与するのに適したものにする任意の製剤を意味する。
【0063】
上記のように、本発明は、ACPA分泌形質細胞を標的とすることを目的とする。しかし、形質細胞の前駆体であるACPA陽性Bリンパ球は、それらの分化前に、本発明による当該ハイブリッド分子によって標的化されないか、又はわずかしか標的化されない。したがって、1つの特定の実施形態によれば、本発明は、第2のハイブリッド分子と組み合わせた医薬品としてのその使用について前述したようなハイブリッド分子に関し、当該第2のハイブリッド分子は、少なくとも1つのシトルリル残基を有する少なくとも1つのフィブリン由来ペプチドに共有結合した少なくとも1つの抗体Fc断片を含み、スペーサーは、当該Fc断片と当該ペプチドとの間に存在していてもよい。そのような併用療法は、その前駆体であるACPA分泌クローン形質細胞及びACPA陽性Bリンパ球を特異的に標的化及び破壊することを可能にし、したがって、患者の身体からのACPAの消失を引き起こし、それらの再出現を防止する。
【0064】
1つの特定の実施形態によれば、本発明による当該第2のハイブリッド分子において、当該Fc断片は、ヒトFc断片、特にIgG、より詳細にはIgG1のヒトFc断片である。IgG1は、そのアロタイプのいずれか、例えばG1m3又はnG1m1に対応し得る。一例として、IgG1のFc断片は、配列番号24、配列番号25(Fc+Q-tag)又は配列番号26(Fc+Q-tag bis)によって表される。
【0065】
一実施形態によれば、本発明による当該第2のハイブリッド分子において、当該Fc断片は野生型又は変異型である。突然変異(複数可)は、血漿半減期を増加若しくは減少させること、又はFc断片のエフェクター機能を改変することなどを目的とし得る。
【0066】
なお更なる特定の実施形態によれば、当該変異型Fc断片は、少なくとも以下の変異を含む:
- L234A及びL235A(LALA)、又は
- L234A、L235A及びP329G(LALAPG)、又は
- G236A、S239D及びI332E(GASDIE)、又は
- G236A、S239D、A330L及びI332E(GASDALIE)、又は
- S239D、H268F、S324T及びI332E(SDHFSTIE又はSDH)、
ナンバリングは、EUインデックスに従ってヒトIgG1の配列で示される。そのような突然変異は、Bruhns and Jonsson,Immunol Rev.2015 Nov;268(1):25-51による論文に記載されている。好ましくは、ハイブリッド分子が治療に使用される場合、当該変異型Fc断片は、少なくともGASDIE、GASDALIE又はSDH変異を含む。
【0067】
1つの特定の実施形態によれば、本発明による当該第2のハイブリッド分子において、当該Fc断片は、グリコシル化形態の0%~100%のフコシル化率を有する。本発明によれば、「0%~100%」は、0~100の全ての整数値、すなわち0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、及び100%を表す。Fc断片の弱いフコシル化は、強いADCC応答を引き起こす。これが、1つの特定の実施形態によれば、当該Fc断片が、0%~60%、特に50%、40%、30%、20%、10%又は0%のグリコシル化形態のフコシル化率を有する理由である。本発明によれば、フコシル化率は、Fc断片が運ぶことができるフコースの最大量に対する、Fc断片によって運ばれるフコースの平均割合として定義される。
【0068】
本発明のこの特定の実施形態によれば、第1及び第2のハイブリッド分子は、同時に、別々に、又は経時的に徐々に投与される。
【0069】
別の実施形態によれば、本発明によるハイブリッド分子は、少なくとも1つの放射性同位体又はA488若しくはA647などの少なくとも1つの蛍光色素にカップリングすることができる。そのような分子は、分子トレーサツールとして有利に使用することができる。
【0070】
したがって、別の実施形態によれば、本発明は、少なくとも1つのシトルリル残基を有する少なくとも1つのフィブリン由来ペプチドを含むハイブリッド分子の分子ツールとしてのインビトロ又はエクスビボでの使用に関し、当該ペプチドは、少なくとも1つの抗体又は少なくとも1つの抗体断片に共有結合しており、当該抗体又は断片は、CD38及び/又はCD138に結合することができ、1つ以上のスペーサーが、当該ペプチドと当該抗体又は当該断片との間に存在していてもよい。そのような構築物は、特に、ハイブリッド分子のACPA及び形質細胞への結合を分析するため、並びに形質細胞の、ハイブリッドの結合とそれに続くACPAへの架橋などに対する反応性を分析するために使用することができる。放射性同位元素及び/又は蛍光色素は、好ましくは抗体断片にカップリングされる。
【0071】
本発明によるハイブリッド分子の製造方法
別の態様では、本発明はまた、先に定義されたハイブリッド分子で移植された免疫細胞を得ることを可能にする方法に関する。
【0072】
したがって、一実施形態によれば、本発明は、上で定義されたハイブリッド分子を製造するための方法に関し、以下の工程を含む。
- (i)CD38及び/又はCD138に結合することができる抗体、又は断片にカップリングされたアジドを得る工程、あるいはCD38及び/又はCD138に結合することができる抗体又は断片にカップリングされたアルキンを得る工程、
- (ii)ペプチドにカップリングされたアルキンを得る工程、又はペプチドにカップリングされたアジドを得る工程、
- (iii)(i)及び(ii)で生成された生成物を混合する工程であって、共有結合がアジドとアルキンとの間に特異的に確立される工程、
工程(i)を工程(ii)の前若しくは後に、又はそうでなければ同時に行うことが可能である。
【0073】
したがって、一実施形態によれば、本発明は、上で定義されたハイブリッド分子を製造するための方法に関し、以下の工程を含む。
- (i)場合によりスペーサーの存在下で、アジドを、CD38及び/又はCD138に結合することができる抗体又は断片にカップリングする工程、
- (ii)場合によりスペーサーの存在下で、アルキンをペプチドにカップリングさせる工程、
- (iii)(i)及び(ii)で生成された生成物を混合する工程であって、共有結合がアジドとアルキンとの間に特異的に確立される工程。
工程(i)を工程(ii)の前若しくは後に、又はそうでなければ同時に行うことが可能である。
【0074】
別の実施形態によれば、本発明はまた、上で定義されるようなハイブリッド分子を製造するための方法に関し、以下の工程を含む。
- (i)場合によりスペーサーの存在下で、アルキンを、CD38及び/又はCD138に結合することができる抗体又は断片にカップリングする工程、
- (ii)場合によりスペーサーの存在下で、アジドをペプチドにカップリングさせる工程、
- (iii)(i)及び(ii)で生成された生成物を混合する工程であって、共有結合がアジドとアルキンとの間に特異的に確立され、工程(i)を工程(ii)の前若しくは後に、又はそうでなければ同時に行うことが可能である、工程。
【0075】
別の実施形態によれば、本発明はまた、上で定義されるようなハイブリッド分子を製造するための方法に関し、以下の工程を含む。
- (i)場合によりスペーサーの存在下で、少なくとも1つのアルキン又はアジドを、CD38及び/又はCD138に結合することができる抗体又は断片の各モノマーにカップリングさせる工程、
- (ii)場合によりスペーサーの存在下で、少なくとも1つのアジド又はアルキンをペプチドにカップリングする工程、
- (iii)(i)及び(ii)で生成された生成物を混合する工程であって、共有結合がアジドとアルキンとの間に特異的に確立され、工程(i)を工程(ii)の前若しくは後に、又はそうでなければ同時に行うことが可能である、工程。
【0076】
【0077】
本発明の他の特徴、詳細及び利点は、本発明を説明する添付の図面及び実施例を読むことから明らかであり、決して本発明を限定することを意図するものではない。
【0078】
例示されるハイブリッド分子では、PEGnスペーサーに結合しているのはFab断片のN末端であり、シクロオクチン、DBCO又は存在する場合は第2のPEGnスペーサーに結合しているのは常に当該ペプチドのN末端である。更に、例示されたハイブリッド分子において、Fab断片に結合したPEGnスペーサーでは、nはより詳細には3又は4を表し、ペプチドに結合したPEGnスペーサーでは、PEGnスペーサーは3又は8を表すが、nの他の任意の値、特に1~10の間を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1A】本発明によるDara-Fab-シトルリン化ペプチドハイブリッド分子(シトルリン化ペプチドに共有結合したダラツムマブ抗体のFab断片)が連結されたCD38分子をその表面に発現する形質細胞を示す図である。 当該ハイブリッド分子自体は、シトルリン化ペプチドによってACPAに結合される。ACPAによるDara-Fab-シトルリン化ペプチドハイブリッド分子の架橋は細胞傷害性であり、形質細胞の死をもたらす。
【
図1B】形質細胞の表面上のDara-Fab-シトルリン化ペプチドハイブリッド分子のACPA架橋後のCD38+形質細胞のマクロファージ(ADP)による食作用又はNK細胞誘導細胞傷害(ADCC)を示す図である。 形質細胞は、その表面に、本発明によるDara-Fab-シトルリン化ペプチドハイブリッド分子が結合したCD38分子を発現し、当該ハイブリッド分子自体は、シトルリン化ペプチドによってACPAに結合している。マクロファージの表面に発現される異なるFcγR又はNK細胞の表面に発現されるFcγRIIIAへのACPAのFc断片の結合は、食作用(ADP)及び/又は抗体誘導細胞傷害(ADCC)を活性化し、形質細胞の特異的破壊をもたらす。
【
図2】本発明によるハイブリッド分子の一例の図を示す図である。 スペーサー(任意である)は、CD38(Dara)に結合する抗体又は抗体断片と、シトルリル残基を有するフィブリン由来ペプチド(「シトルリン化ペプチド」と称される)との間に示される。F(ab)’2断片を有する構築物も示されている。例えば、F(ab)’2は、CD38及びCD138の両方に結合することができる。Fab:断片抗原結合。Dara Fab:CD38分子に対する特異的抗体のFab(ダラツムマブ)。
【
図3】精製抗β60-74 ACPAに対する、配列番号19のペプチド(β60-74cit
60,72,74)を含むいくつかのハイブリッド分子の反応性を示す図である。 β60-74は、配列番号19のペプチドを表す。DaraFab-β60-74は、配列番号19のペプチドにカップリングしたシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしているPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができるFabを表す。DaraFab-PEG-β60-74は、それ自体が配列番号19のペプチドに結合しているPEGnスペーサーにカップリングしているシクロオクチン(DBCO)に共有結合しているアジドに、それ自体がカップリングしている、PEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができるFabを表す。nは、PEGnスペーサーが使用される場合、1~10の数、好ましくは1、2、3、4又は8を表す。
【
図4】抗α621-635精製ACPAに対する、配列番号18のペプチド(α621)を含むいくつかのハイブリッド分子の反応性を示す図である。 α621は、配列番号18のペプチドを表す。DaraFab-PEG-α621-635は、それ自体が配列番号18のペプチドに結合しているPEGnスペーサーにカップリングしているシクロオクチン(DBCO)に共有結合しているアジドに、それ自体がカップリングしているPEGnスペーサーに結合した、CD38に結合することができるFabを表す。nは1~10、好ましくは1、2、3、4又は8の数を表す。
【
図5】精製抗β60-74 ACPAによる架橋後の、関節リウマチ患者のリンパ球から産生されたBAEV B細胞株(BC-9)に対するDaraFab-PEG-β60-74Citの細胞傷害性を示す図である。 左側は生細胞のパーセンテージを表し、右側は後期アポトーシスにおける細胞のパーセンテージを表す。
【
図6】分化前(左)及び分化後(右)のBC-9細胞におけるCD38の発現及びFab Daraの結合(蛍光色素A647で標識されたCD38に結合するFab断片)を示す図である。
【
図7】KMS-12-PE骨髄腫細胞株の表面上のDaraFab-PEG-α621-635及び精製抗α621-635cit ACPA又は2H06 ACPAの相互作用を示す図である。 DaraFab-PEG-α621-635は、それ自体が配列番号18のペプチドに結合しているPEGnスペーサーにカップリングしているシクロオクチン(DBCO)に共有結合しているアジドに、それ自体がカップリングしているPEGnスペーサーに結合した、CD38に結合することができるFabを表す。nは1~10、好ましくは1、2、3、4又は8の数を表す。
【
図8】DaraFab-PEG-α621-635 Citハイブリッド及び2H06 ACPAの存在下でのマクロファージによる分化KMS-12-PE骨髄腫細胞株の食作用を示す図である。 DaraFab-PEG-α621-635citは、
図7に記載のハイブリッド分子を表す。DaraFab-PEG-α621-635argは、それ自体が配列番号18のペプチドに結合したPEGnスペーサーにカップリングしたシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしたPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができるFabを表し、Xはアルギニル残基を表す(すなわち、ペプチドはシトルリン化されていない)。
【
図9】DaraFab-PEG-β60-74又はDaraFab-PEG-α621-635及びそれぞれ精製抗β60-74cit又は抗α621-635cit ACPAの存在下でのマクロファージによる分化KMS-12-PE骨髄腫細胞株の食作用を示す図である。 DaraFab-PEG-α621-635は、
図7に示されるような分子である。DaraFab-α621-635は、配列番号18のペプチドにカップリングしたシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしているPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができるFabを表す。DaraFab-PEG-β60-74は、それ自体が配列番号19のペプチドに結合しているPEGnスペーサーにカップリングしているシクロオクチン(DBCO)に共有結合しているアジドに、それ自体がカップリングしている、PEGnスペーサーに結合した、CD38に結合することができるFabを表す(nは1~10、好ましくは1、2、3、4又は8の数を表す)。DaraFab-β60-74は、配列番号19のペプチドにカップリングしたシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしているPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができるFabを表す。
【
図10】DaraFab-PEG-α621-635及び精製抗α621-635cit ACPA又は2H06 ACPAの存在下でのNK細胞による分化KMS-12-PE骨髄腫細胞株のアポトーシスの誘導を表す図である。 ハイブリッド分子は、
図8に記載されているものである。
【実施例】
【0080】
実施例1:本発明によるハイブリッド分子の製造例
本明細書に記載のハイブリッド分子は、以下の構築物:それ自体がアジドにカップリングされたPEGnに共有結合するFab断片であって、当該アジドは、シトルリン化ペプチドにカップリングされたスペーサーにそれ自体が結合されたアルキンに共有結合されている、Fab断片を含む。そのような分子を読み取ることができる:Fab-PEGn-N3-DBCO-PEGn-シトルリン化ペプチド。
【0081】
1.NH2-PEGn-N3(すなわち、一方の端部でアジドにカップリングされ、他方の端部で遊離アミン官能基を有するスペーサー)の合成。
【0082】
2.NH2-PEGn-N3を、Qタグ及びトランスグルタミナーゼを有するFab断片と、好ましくは37℃で16時間接触させること。この「誘導体化」工程は、好ましくは、Fab断片のモル数よりも10倍多いモルのNH2-PEGn-N3を用いて行われる。トランスグルタミナーゼは、存在するQタグ当たり15U/μmolのレベルで使用される。脱塩を任意選択的に行って、工程の最後にFab断片に結合していない過剰なスペーサーを除去することができる。これにより、Fab-PEGn-N3が生成される。抗体又は断片が2つのQタグ(各モノマーに担持されたもの)を有する場合、抗体又は断片は2つのPEGn-N3を担持することができる。
【0083】
3.シトルリン化Cys-PEGn-ペプチド(すなわち、一方の末端でペプチドにカップリングし、他方の末端に遊離システインを有するスペーサー)の合成。次いで、DBCOをシステインでCys-PEGn-シトルリン化ペプチドにカップリングさせ、したがって、DBCO-PEGn-シトルリン化ペプチドを生成する。
【0084】
4.「クリック」の形成:N3とDBCOとの間のカップリング。DBCO-PEGn-シトルリン化ペプチドをFab-PEGn-N3と接触させ、好ましくはFab-PEGn-N3のモル数の10倍多いDBCO-PEGn-シトルリン化ペプチドを使用する。クリック反応は室温で行われ、4時間後にほぼ完了する。
【0085】
5.ハイブリッド分子:Fab-PEGn-N3-DBCO-PEGn-シトルリン化ペプチドの生成。
【0086】
同様に、Fab-PEGn-DBCO及びN3-PEGn-シトルリン化ペプチドを得ることができ、次いで、Fab-PEGn-DBCO-N3-PEGn-シトルリン化ペプチドを得るためにカップリングさせることができる。
【0087】
同様に、Fab-PEGn-DBCO及びN3-シトルリン化ペプチドを得ることができるか、又はFab-PEGn-N3及びシトルリン化DBCOペプチドを得た後、それらをカップリングさせて、それぞれFab-PEGn-DBCO-N3-シトルリン化ペプチド又はFab-PEGn-N3-DBCO-シトルリン化ペプチドを得ることができる。
【0088】
同じ方法を、抗体又は別のタイプの抗体断片と共に使用することができる。
【0089】
実施例2:DaraFab-Citペプチドハイブリッドに関する、シトルリン化ペプチドに対する精製ACPAの反応性
使用されるACPA(ここではACPA、pH3画分)は、ACPA陽性関節リウマチに罹患している患者の血清から得られるACPAである。そのようなACPAは、本発明の5つの免疫優性ペプチド(配列番号5、配列番号6、配列番号14、配列番号18又は配列番号19を参照のこと)の1つ以上を結合抗原として使用して、当業者に公知の標準的なカラムアフィニティークロマトグラフィー法によって得た。
【0090】
a.β60-74citペプチドを含有するハイブリッド分子を用いた実施例
ELISAマイクロタイタープレートを、β60-74citペプチド(配列番号19)又はハイブリッド分子:DaraFab-β60-74又はDaraFab-PEG-β60-74のいずれかを含有する100μl/ウェルの溶液でコーティングした。これらの溶液をそれぞれPBS(リン酸緩衝生理食塩水)緩衝液中5μg/mlの濃度で使用し、4℃で一晩インキュベートした。非シトルリン化ペプチド及び非シトルリン化ペプチド(β60~74arg)で構築されたハイブリッド分子を同じ濃度で対照として使用した。次いで、ウェルをPBS2%BSA(ウシ血清アルブミン)緩衝液中で4℃にて1時間飽和させた。洗浄後、精製したACPAをPBS2%BSA 2MNaCl緩衝液で希釈した1、0.5又は0.25μg/mlで4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、PBS2%BSA緩衝液で1/10,000に希釈したF(ab’)2抗ヒトIgG Fc二次抗体を用いてACPA反応性を検出した。結果は、β60-74citペプチド又はβ60-74citペプチドで構築されたハイブリッド分子で得られたODに対応するΔOD(光学密度の変化)で表され、β60-74argペプチド又はβ60-74argペプチドで構築されたハイブリッド分子で得られたODからそれぞれ差し引かれる。
【0091】
結果を
図3に示す。結果は、ハイブリッド分子DaraFab-β60-74及びDaraFab-PEG-β60-74に関して、ペプチドβ60-74に対する精製ACPAの用量依存的反応性を示す。β60-74ペプチドに対するACPAの反応性は比較的弱いが、ハイブリッド分子のエピトープ密度よりも大きいエピトープ密度を示す。したがって、エピトープは、ハイブリッド分子上でより接近可能である。
【0092】
b.α621-635citペプチドを含有するハイブリッド分子を有する実施例
ELISAプレートを、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)緩衝液中5μg/mlの濃度で4℃で一晩使用した、α621-635citペプチド(配列番号18)又はDaraFab-PEG-α621-635ハイブリッド分子のいずれかを含有する100μl/ウェルの溶液でコーティングした。非シトルリン化ペプチドα621-635arg及び非シトルリン化ペプチド(α621-635arg)で構築されたハイブリッド分子を同じ濃度で対照として使用した。次いで、ウェルをPBS2%BSA(ウシ血清アルブミン)緩衝液中で4℃にて1時間飽和させた。洗浄後、精製したACPAをPBS2%BSA 2MNaCl緩衝液で希釈した4、2又は1μg/mlで4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、PBS2%BSA緩衝液で1/10,000に希釈したF(ab’)2抗ヒトIgG Fc二次抗体を用いてACPA反応性を検出した。結果は、α621-635citペプチド又はα621-635citペプチドで構築されたハイブリッド分子で得られたODに対応するΔOD(光学密度の変化)で表され、α621-635argペプチド又はα621-635argペプチドで構築されたハイブリッド分子で得られたODからそれぞれ差し引かれる。
【0093】
結果を
図4に示す。結果は、DaraFab-PEG-α621-635citハイブリッド分子に関して、α621-635Citペプチドに対する精製ACPAの強い用量依存的反応性を示す。α621-635citペプチドに対するACPAの反応性は比較的弱いが、そのエピトープ密度はハイブリッド分子のエピトープ密度よりも大きい。したがって、エピトープは、ハイブリッド分子上でより接近可能である。
【0094】
実施例3:pH3で溶出したβ60-74に対する精製ACPAによって誘導されたDaudi細胞株(CD38+)の細胞に対するDara-Fabペプチドβ60Citの細胞傷害性(ハイブリッド架橋)
実施例2と同様にしてACPAを得る。
【0095】
本明細書においてDaraFab-ペプチドCITは、配列番号19のペプチドに結合したシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしているPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができるFabを表す。ここで、DaraFab-ペプチドNCITは、配列番号19のペプチドにカップリングしたシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしたPEGnスペーサーに結合した、CD38に結合することができるFabを表し、ここで、アルギニル残基はシトルリル残基によって置換されていない(すなわち、ペプチドはシトルリン化されていない)。nは、1~10の数、好ましくは1、2、3、4又は8を表す。
【0096】
Daudi細胞株(CD38+)由来の細胞を、完全RPMI培地(10%FBS、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中50,000細胞/ウェルの量で96ウェルプレートに入れ、10μg/mlのDaraFab-ペプチド-CIT又はDaraFab-ペプチド-NCITハイブリッドと共に37℃で1時間インキュベートした。洗浄後、pH3、5μg/mlで20時間、37℃で溶出したヒトIgG(陰性対照)又は精製抗β60-74 ACPAを添加した後、アネキシンV(アポトーシスマーカー)で標識した。次いで、細胞を収集し、フローサイトメトリー(BD Biosciences,CANTO II)によって分析した。最初の3列に示される値は、アネキシンV陽性細胞のパーセンテージに対応する。Δ(CIT-NCIT)(%)は、DaraFab-ペプチドCITの存在下でのアネキシンV陽性細胞の百分率対NCITの百分率の差を、DaraFab-β60-74ペプチドNCITの存在下でのアネキシンV陽性細胞の百分率で割ったものを表す。この指標は、IgG又はACPAの存在下でのアポトーシスの調節を示す。
【0097】
【0098】
結果は、DAUDI細胞をDaraFab-β60-74CITハイブリッドで処理した場合、DaraFab-β60-74NCITで処理したものと比較して、ACPAの存在下での細胞死の増加を示す。ACPAによる架橋後の非シトルリン化形態(DaraFab-β60-74NCIT)と比較した、シトルリン化ハイブリッド分子(DaraFab-β60-74CIT)の存在下での細胞死の増加は、平均16.5%である。
【0099】
Daudi細胞株(CD38+)由来の細胞を、完全RPMI培地(10%FBS、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中50,000細胞/ウェルの量で96ウェルプレートに入れ、10μg/mlのDaraFab-β60-74CIT又はDaraFab-β60-74NCITハイブリッドと共に37℃で1時間インキュベートした。洗浄後、5μg/mlでpH3で溶出したヒトIgG(陰性対照)又は精製抗β60-74 ACPAを添加し、37℃で20時間インキュベートした。細胞生存性試験(MTT:細胞ミトコンドリア活性の比色マーカー)を行った。次いで、細胞を取り出し、ODを分光法(Thermofisher Multiskan Fc)によって分析した。示されている値は、各実験条件下で得られたODに対応する。
【0100】
Δ(CIT-NCIT)(%)は、DaraFab-β60-74CITの存在下で得られたODとNCITとの差を表し、DaraFab-β60-74NCITの存在下で得られたODで割ったものである。
【0101】
【0102】
結果は、Daudi細胞をDaraFab-β60-74CITハイブリッドで処理した場合、DaraFab-β60-74NCITで処理したものと比較して、ACPAの存在下での細胞生存率の減少を示す。
【0103】
ACPAによる架橋後の非シトルリン化形態(DaraFab-β60-74NCIT)と比較した、シトルリン化ハイブリッド分子(DaraFab-β60-74CIT)の存在下での細胞生存率の低下は、平均17.33%である。
【0104】
実施例4:精製抗β60-74 ACPAによる架橋後の、関節リウマチ患者のリンパ球から産生されたBAEV B細胞株(BC-9)に対するDaraFab-PEG-β60-74Citの細胞傷害性
実施例2と同様にしてACPAを得る。
【0105】
関節リウマチ患者の血液リンパ球からのBC-9細胞株(B BAEV)の細胞を、完全IMDM培地(10%FBS、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中100,000細胞/ウェルの量で96ウェルプレートに入れ、10μg/mlのDaraFab-PEG-β60-74cit及びDaraFab-PEG-β60-74argハイブリッドと共に37℃で1時間インキュベートした。洗浄後、pH3、5μg/mlで溶出した精製抗β60-74ACPAを37℃で20時間添加した後、7-AAD(後期アポトーシスマーカー)で標識した。次いで、細胞を取り出し、フローサイトメトリー(BD Biosciences,CANTO II)によって分析した。提示されたデータは、4つの独立した実験の平均に対応する。統計分析は、スチューデントのt検定を使用して行った(*p<0.05)。
【0106】
本明細書においてDaraFab-PEG-β60-74citは、配列番号19のペプチドにカップリングしたシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしているPEGnスペーサーに結合したCD38に結合することができるFabを表す。DaraFab-PEG-β60-74argは、配列番号19のペプチドにカップリングしたシクロオクチン(DBCO)に共有結合したアジドに、それ自体カップリングしたPEGnスペーサーに結合した、CD38に結合することができるFabを表し、ここで、アルギニル残基はシトルリル残基によって置換されていない(すなわち、ペプチドはシトルリン化されていない)。nは、1~10の数、好ましくは1、2、3、4又は8を表す。したがって、結果(
図5に提示)は、BC-9細胞を以前にシトルリン化ハイブリッドDaraFab-PEG-β60-74citと共にインキュベートした場合、DaraFab-PEG-β60-74argと共にインキュベートしたものの生存率と比較して、精製ACPAの存在下で細胞生存率の有意な減少(左側)があることを示す。同時に、これらの同じ条件下で後期アポトーシスの有意な増加がある(右部分)。
【0107】
実施例5:pH3で溶出した精製抗β60-74 ACPAによるハイブリッドの架橋後の、関節リウマチ患者のリンパ球に由来する分化BAEV B細胞株に対するDara-Fabペプチド-β60Cit及びDara-Fabペプチド-α621Citハイブリッドの細胞毒性
実施例2と同様にしてACPAを得る。
【0108】
図6に示すように、その表面上のCD38マーカーの発現を増加させるために、BC-9細胞株(B BAEV)からの細胞を分化させた(7日間)。
【0109】
ここで、DaraFab-PEG-α621-635は、それ自体が配列番号18のペプチドに結合しているPEGnスペーサーにカップリングしているシクロオクチン(DBCO)に共有結合しているアジドに、それ自体がカップリングしている、PEGnスペーサーに連結したCD38に結合することができるFab断片を表す。DaraFab-PEG-α621-635citはペプチドがシトルリン化されているハイブリッドを表し、DaraFab-PEG-α621-635argはペプチドがシトルリン化されていない場合を表す。nは、1~10の数、好ましくは1、2、3、4又は8を表す。
【0110】
ここで、DaraFab-PEG-β60-74は、それ自体が配列番号19のペプチドに結合しているPEGnスペーサーにカップリングしているシクロオクチン(DBCO)に共有結合しているアジドに、それ自体がカップリングしている、PEGnスペーサーに連結したCD38に結合することができるFabを表す。DaraFab-PEG-β60-74citはペプチドがシトルリン化されているハイブリッドを表し、DaraFab-PEG-β60-74argはペプチドがシトルリン化されていない場合を表す。nは、1~10の数、好ましくは1、2、3、4又は8を表す。
【0111】
形質細胞分化プロトコルに7日間供された関節リウマチ患者の血液リンパ球からのBC-9細胞株(B BAEV)由来の細胞を、完全IMDM培地(10%FBS、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中100,000細胞/ウェルの量で96ウェルプレートに入れ、次いで、10μg/mlのDaraFab-PEG-β60-74cit/DaraFab-PEG-β60-74arg及びDaraFab-PEG-α621-635cit/DaraFab-PEG-α621-635argハイブリッドと共に37℃で30分間インキュベートした。洗浄後、pH3、5μg/mlで24又は48時間、37℃で溶出したヒトIgG(陰性対照)又は精製抗β60-74ACPAを添加した後、アネキシンV(初期アポトーシスマーカー)及び7-AAD(後期アポトーシスマーカー)で標識した。次いで、細胞を収集し、細胞死分析装置(Luminex,MUSE)によって分析した。示されている値は、アネキシン陽性細胞のパーセンテージに対応する。Δ(cit-arg)(%)は、DaraFab-PEG-β60-74cit又はDaraFab-PEG-α621-635citの存在下でのアネキシンV陽性細胞のパーセンテージと、DaraFab-PEG-β60-74arg又はDaraFab-PEG-α621-635argの存在下でのアネキシンV陽性細胞のパーセンテージとの差を、DaraFab-PEG-β60-74arg又はDaraFab-PEG-α621-635argの存在下でのアネキシンV陽性細胞のパーセンテージで割ったものを表す。
【0112】
【0113】
結果は、BC-9細胞がDaraFab-PEG-β60-74cit又はDaraFab-PEG-α621-635citで前処理された場合、非シトルリン化形態DaraFab-PEG-β60-74arg及びDaraFab-PEG-α621-635argで前処理されたものと比較して、ACPAの存在下で誘導されたアポトーシスの定量化を示す。
【0114】
非シトルリン化形態と比較した、シトルリン化ハイブリッド分子(DaraFab-β60-74cit及びDaraFab-PEG-α621cit)の存在下でのアポトーシスの増加は、精製ACPAによる架橋後、24時間後に約30%、48時間後に40%である。
【0115】
実施例6:ヒト骨髄腫又は悪性形質細胞腫に由来するKMS-12-PE細胞株の表面上のDaraFab-PEG-α621-635ハイブリッド及び精製抗α621-635cit ACPA又は2H06 ACPAの相互作用
ACPA(ここで、精製ACPA)は、ACPA陽性の関節リウマチ患者の血清から得られたACPAである。そのようなACPAは、本発明の5つの免疫優性ペプチド(配列番号5、配列番号6、配列番号14、配列番号18又は配列番号19を参照のこと)の1つ以上を結合抗原として使用して、当業者に公知の標準的なカラムアフィニティークロマトグラフィー法によって得た。
【0116】
ここでも使用されるACPAは、組換えモノクローナルヒトACPA(2H06として知られるクローン022014CCP14CFCT2H06)である。そのようなACPAは、Titcombe P.J.,Wigerblad G.,Sippl N.,Zhang N.,Shmagel A.K.,Sahlstrom P.,Zhang Y.,Barsness L.O.,Ghodke-Puranik Y.,Baharpoor A.,et al.Pathogenic Citrulline-Multispecific B Cell Receptor Clades in Rheumatoid Arthritis.Arthritis&Rheumatology 2018,70(12),1933-1945.https://doi.org/10.1002/art.40590に記載されているように得ることができる。2H06 ACPA VHはGenbank受託番号MH629710.1を有し、VLは受託番号MH629700.1を有する。
【0117】
DaraFab-PEG-α621-635 Cit/ArgハイブリッドをAlexaFluor(登録商標)647蛍光色素で標識し、精製抗α621-635cit ACPA並びに2H06 ACPAを、市販のキット(Lightning Link,Abcam)を使用してAlexaFluor(登録商標)488蛍光色素で標識した。KMS-12-PEヒト骨髄腫細胞株からの細胞を、完全RPMI培地(10%FCS、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)中200,000細胞/ウェルの量で96ウェルプレートに入れ、AlexaFluor(登録商標)647で標識した10μg/mlのDaraFab-PEG-α621-635 Cit/Argハイブリッドと共に4℃で30分間インキュベートし、次いで精製抗α621-635cit ACPA又はAlexaFluor(登録商標)488で標識した2H06 ACPAと共に5μg/mlで4℃で30分間インキュベートした。2%PBS BSA緩衝液で洗浄した後、KMS-12-PE細胞を収集し、フローサイトメトリー((BD Biosciences,Canto II)によって分析した。
【0118】
図7に示される結果は、二重陽性AF647/AF488集団の出現によって可視化される、KMS-12-PE骨髄腫細胞株の表面上のDaraFab-PEG-α621-635 Citハイブリッド分子と抗α621-635cit ACPA又は2H06 ACPAとの相互作用を示す。DaraFab-PEG-α621-635Argハイブリッドの存在下では観察されないため、この相互作用は特異的であり、ペプチドと関連している。
【0119】
実施例7:DaraFab-PEG-α621-635及び2H06 ACPAの存在下でのマクロファージによる分化KMS-12-PE骨髄腫細胞株の食作用
実施例6と同様にして2H06 ACPAを得る。
【0120】
(A)KMS-12-PE骨髄腫細胞株からの細胞を4日間分化させて、100ng/mlのIFN-α、50ng/mlのIL-6、及び10ng/mlのIL-15からなるサイトカインの混合物を使用して、その表面上のCD38マーカーの発現を増加させた。次いで、細胞をCFSE(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル、蛍光細胞内マーカー)で標識し、ダラツムマブ(陽性対照として使用した抗CD38モノクローナルAC)の存在下又はDaraFab-PEG-α621-635 Cit/Argハイブリッドの存在下で、37℃の完全RPMI培地中10μg/mlで30分間置いた。次いで、細胞を完全RPMI培地中で50μg/mlの2H06 ACPAと共に37℃で30分間インキュベートし、洗浄せずに、1マクロファージ当たり1 KMS-12-PE細胞の量で、ヒトマクロファージ(健常被験体の末梢血から単離されたCD14+単球からM-CSF(100ng/ml)の存在下でインビトロで分化させる、非標識)と37℃で2時間接触させた。次いで、マクロファージを分離し、Cd11b BV421標識(マクロファージ特異的膜マーカー)を使用してフローサイトメトリーによって分析した。異なる細胞集団を全細胞集団のパーセンテージとして表し、CFSE/BV421二重陽性(貪食されたKMS-12-PE細胞を有するマクロファージ)のパーセンテージ及び残留KMS-12-PE標的集団のパーセンテージを含む。(B)データは、4つの独立した同一の実験を表す。統計分析は、対応のあるスチューデントのt検定を使用して行った(**p<0.01;***p<0.001)。
【0121】
(A)
図8に示される結果は、食作用活性がハイブリッドDaraFab-PEG-α625-631 Cit及び2H06 ACPAの存在下で増強されることを示す。二重陽性事象の70%の増加が観察され、標的集団の73%の減少に関連する。更に、DaraFab-PEG-α625-631 Citハイブリッド及び2H06 ACPAの存在下で得られた食作用活性は、ダラツムマブ対照で得られた食作用活性よりも高い。(B)この実験を4回実施したところ、二重陽性集団の78%の特異的かつ有意な増加(***p<0.001、対応のあるt検定)が、ハイブリッドDaraFab-PEG-α625-631 Cit及び2H06 ACPAの存在下で観察され、標的集団の75%の有意な減少(**p<0.01、対応のあるt検定)が観察された。
【0122】
実施例8:精製DaraFab-PEG-β60-74又はDaraFab-PEG-α621-635及びACPA、それぞれ抗β60-74cit又は抗α621-635citの存在下でのマクロファージによる分化骨髄腫KMS-12-PE細胞株の食作用
実施例6と同様にして2H06 ACPAを得る。
【0123】
KMS-12-PE骨髄腫細胞株からの細胞を4日間分化させて、100ng/mlのIFN-α、50ng/mlのIL-6、及び10ng/mlのIL-15からなるサイトカインの混合物を使用して、その表面上のCD38マーカーの発現を増加させた。次いで、細胞をCFSE(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル、蛍光細胞内マーカー)で標識し、ダラツムマブ(陽性対照として使用した抗CD38モノクローナル抗体)の存在下、又はDaraFab-PEG-α621-635 Cit/Argハイブリッド若しくはDaraFab-α621-635 Cit/Argハイブリッド若しくはDaraFab-PEG-β60-74 Cit/Arg若しくはDaraFab-β60-74 Cit/Argハイブリッドの存在下、37℃の完全RPMI培地中10μg/mlで30分間置いた。次いで、細胞を、37℃の完全RPMI培地中、5μg/mlの精製抗α621-635cit又は抗β60-74cit ACPAと共に30分間インキュベートした。KMS-12-PE細胞を、洗浄せずに、M-CSF(100ng/ml)の存在下でインビトロで分化させた、健常被験体の末梢血から単離したCD14+単球から、標識されていない、マクロファージ1個当たり1個のKMS-12-PE細胞の量で、37℃で2時間、ヒトマクロファージと接触させた。次いで、マクロファージを分離し、続いて、Cd11b BV421標識(マクロファージ特異的膜マーカー)を使用してフローサイトメトリーによって分析した。
【0124】
結果を
図9に示し、DaraFab-ペプチドα625-631 Cit又はDaraFab-ペプチドβ60-74 Citハイブリッド及び対応する精製ACPA、抗α621-635cit又は抗β60-74citの存在下で食作用活性が増加することを示す。更に、DaraFab-ペプチドα625-631 Citハイブリッド及び精製抗α625-631cit ACPAの存在下で得られた食作用活性は、ダラツムマブ対照で得られた食作用活性よりも高い。DarFabβ60-74citハイブリッド及び精製抗β60-74citACPAを使用した条件下では、食作用活性は、ダラツムマブ対照で得られたものと同等である。
【0125】
実施例9:DaraFab-PEG-α621-635及び精製抗α621-635citACPA又は2H06 ACPAの存在下でのNK細胞による分化KMS-12-PE骨髄腫細胞株の細胞におけるアポトーシスの誘導
精製されたACPA及び2H06モノクローナル抗体は、実施例6に記載されるように得られる。
【0126】
KMS-12-PE骨髄腫細胞株からの細胞を3日間分化させて、100ng/mlのIFN-α、50ng/mlのIL-6、及び10ng/mlのIL-15を含むサイトカインの混合物を使用して、その表面上のCD38マーカーの発現を増加させた。96ウェルプレートにおいて、100,000細胞/ウェルを、完全RPMI培地中でDaraFab-α621-635 Citハイブリッド分子と共に30分間、37℃で10μg/mlで、次いで2H06 ACPAと共に50μg/mlで、又は精製抗α621-635cit ACPAと共に10μg/mlで、エフェクター細胞として使用した新たに精製したNK細胞(Cell Tracker Violetで標識)の存在下で、100,000細胞/ウェルで、37℃で16時間インキュベートした。特異性対照として使用したDaraFab-α621-635Argハイブリッド分子を同じ条件下でインキュベートした。陰性対照として、KMS-12-PE細胞を、ハイブリッドの非存在下、単独又はNK細胞の存在下でインキュベートした。細胞溶解を、蛍光プローブ7-AAD及びアネキシンV-PEによる標識化を使用するフローサイトメトリーによって測定した。
【0127】
結果を
図10に示し、精製抗α621-635cit ACPA又は2H06 ACPAの存在下でのDaraFab-PEG-α621-635 Citハイブリッドが、KMS-12-PE標的細胞のNK細胞によって引き起こされるADCCによる溶解を特異的に増加させることができることを示す。標的細胞の破壊は、2H06 ACPAの存在下では47%から68%に、精製抗α621-635cit ACPAの存在下では49%から57%に増加する。
【配列表】
【国際調査報告】