(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-04
(54)【発明の名称】β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 9/88 20060101AFI20240328BHJP
C12N 9/12 20060101ALI20240328BHJP
C12N 15/70 20060101ALN20240328BHJP
C12P 19/30 20060101ALN20240328BHJP
【FI】
C12N9/88
C12N9/12
C12N15/70 Z ZNA
C12P19/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563927
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 CN2021117960
(87)【国際公開番号】W WO2022217827
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】202110397619.0
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523390415
【氏名又は名称】シェンチェン リードライン バイオテック シーオー.,エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN READLINE BIOTECH CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ティエメイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘ,シュウシュウ
(72)【発明者】
【氏名】クィン,グオフゥ
(72)【発明者】
【氏名】リン,ルイメイ
(72)【発明者】
【氏名】リン,リフェン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ウェンジン
(72)【発明者】
【氏名】パン,ジュンフェン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジアン
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AE63
4B064CA02
4B064CC24
4B064CE10
4B064DA01
(57)【要約】
本発明は、生物技術の分野に関し、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物及びその使用を開示する。本発明では、アデノシン、ニコチンアミドを原料とし、PNP酵素とNRK酵素の酵素組成物の酵素触媒下でD-リボース-1-リン酸及びニコチンアミドリボシド中間体を生成し、NMNを得る。反応系全体には2つの酵素のみの関与が必要になり、副生成物のアデニンはリサイクルして再利用できる。同時に、1分子のNMNを生成する同時に1分子のATPのみが消費されるため、プロセスコストが大幅に削減される。最後のステップにおけるNRK酵素触媒によるNMN合成反応は不可逆的であるので、基質変換率が大幅に向上し、生産コストがさらに削減される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EC番号がEC2.4.2.1のプリンヌクレオシドホスホリラーゼ及びEC番号がEC2.7.1.22のニコチンアミドリボシドキナーゼからなる酵素組成物であって、前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼは、子牛の脾臓(calf spleen)、ボス・タウルス(Bos taurus)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セレウス菌(Bacillus cereus)、バチルス・クラウジ(Bacillus clausii)、エロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、ウシ・サルモネラ・エンテリカ(Bovine Salmonella enterica)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)、及びエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)のうちの1種又は2種以上に由来することを特徴とする、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物。
【請求項2】
前記ニコチンアミドリボシドキナーゼが、類鼻疽菌(B. pseudomallei)、アッシビヤ・ゴシッピー(Ashbya gossypii)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、クプリアビドゥス・メタリデュランス(Cupriavidus metallidurans)、ザントモナス・カンペストリス・pv.カンペストリス(Xanthomonas campestris pv. Campestris)、アグロバクテリウム・ビティス(Agrobacterium vitis)、シューダースロバクター・クロロフェノリカス(Pseudarthrobacter chlorophenolicus)、アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、及びアッシビヤ・ゴシッピー(Ashbya gossypii)のうちの1種又は2種以上に由来することを特徴とする、請求項1に記載の酵素組成物。
【請求項3】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを合成するための酵素製剤の調製又はβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの合成における、請求項1又は2に記載の酵素組成物の使用。
【請求項4】
アデノシンと、ニコチンアミドと、ATPと、Mgイオン及びMnイオンから選択された一つのイオンと、リン酸塩とを原料とし、請求項1又は2に記載の酵素組成物の酵素触媒作用下でβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを合成する工程を含むことを特徴とする、酵素触媒法によるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの合成方法。
【請求項5】
前記酵素組成物が、各酵素を発現する宿主細胞、各酵素の酵素液、又は各酵素の固定化酵素の形態で酵素触媒反応に関与することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記各酵素を発現する宿主細胞が、各酵素を発現するベクター又は2つの酵素を共発現するベクターを含有する大腸菌であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記各酵素の酵素液が、各酵素を発現する宿主細胞から抽出された酵素液であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ろ過、クロマトグラフィーによる分離、濃縮・結晶化及び乾燥を行って純粋なβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得るというβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製工程、をさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
この出願は、2021年04月14日に中国特許庁に提出された、出願番号202110397619.0、発明名称「β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物及びその応用」である中国特許出願の優先権を主張し、その全部内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、生物技術の分野に関し、特に、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物及びその応用に関する。
【背景技術】
【0003】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(Nicotinamide mononucleotide、略称NMN)は、生体内に存在する物質であり、ニコチンアミドヌクレオチドアデノシルトランスフェラーゼによりアデニル化された後、生体細胞の生存が依存する重要な物質であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+、補酵素Iとも呼ばれる)に転換される。2017年3月にDavid Scinclairの研究チームが「science」に発表した研究では、マウス体内のNAD+の増加により、高齢のマウスの組織と筋肉の老化の兆候が逆転され、人間の若返りがもはや夢ではないことが示された。NAD+は、分子量が大きすぎるため、経口投与では細胞内に取り込むことができず、主に体内での細胞合成に依存しており、合成量が非常に少ない。ところが、NAD+の前駆体小分子物質であるNMNに関する研究により、β-NMNを摂取すると体内のNAD+の含有量が効果的に増加し、老化による代謝を大幅に抑制できることが判明しており、β-NMNが「不老の奇跡の薬」となっている。今まで、ニコチンアミドモノヌクレオチドには、老化の遅延やパーキンソン病などの老人性疾患の治療、インスリン分泌の調節、mRNAの発現への影響などの多くの医療及びヘルスケア用途があることが発見されてきた。
【0004】
NMNを合成する主な方法には、化学合成、生体触媒法が含まれている。化学法はコストが高く、深刻な環境汚染を引き起こす恐れがあるため、生体触媒法に置き換えられてきた。それに対して、生体酵素法によるNMNの触媒生産は、より効果的で、コストがより低く、省エネで環境に優しい。NMNを生産する生体触媒方法としては、以下の3つがある。1つ目は、ニコチンアミドリボシド(Nicotinamide Riboside)を原料とし、ニコチンアミドリボシドキナーゼ(Ribosylnicotinamide kinase、EC2.7.1.22)によりATPを供給しながらNMNを生成する。2つ目は、ニコチンアミド、リボース及びATPを基質とし、D-リボキナーゼ(Ribokinase、EC2.7.1.15)、リボースリン酸ピロホスホキナーゼ(ribose phosphate pyrophosphokinase、EC2.7.6.1)、及びニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(Nicotinamide phosphoribosyltransferase、EC.2.4.2.12)による触媒反応によりNMNを生成する。3つ目は、アデノシン又はAMP、ATP、ニコチンアミドを原料とし、アデノシンキナーゼ(EC2.7.1.20)(ただし、AMPを原料とする場合はこの酵素は必要ない)、アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(EC2.4.2.7)、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(Nicotinamide phosphoribosyltransferase、EC.2.4.2.12)により触媒されてNMNを生成する。
【0005】
上記1つ目の方法は、直接にニコチンアミドリボシドを原料とし、基質の変換率が高いが、ニコチンアミドリボシドが高価であり、コスト的に有利ではない。2つ目、3つ目の方法は、最終にPRPPとニコチンアミドからニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(Nicotinamide phosphoribosyltransferase、EC.2.4.2.12)によりNMNを調製することになっており、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼは、可逆反応を触媒するので、NMNを合成しながらNMNを加水分解することもあり、これらの方法の反応変換率が低くなり、また、中間体のPRPP化合物は不安定であり、反応の進行に不利になる。さらに、上記2つの方法の多段階反応にはATPが反応に関与する必要があり、プロセス全体で大量のATPが消費されるので、これらの生体触媒法の生産コストが依然として高くなっている。だから、より効果的で低コストのNMNの生体触媒による新規な調製方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、アデノシン、ニコチンアミドを原料としてβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを合成する際に、1分子のNMNを生成する同時に1分子のATPだけを消費することができ、反応中の最後のステップにおけるNMNの合成反応が不可逆的であり、基質変換率の大幅向上や生産コストの削減が図れる、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を調製するための酵素組成物を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、上記酵素組成物を用いたNMNの合成方法を提供すること、及びNMN合成における上記酵素組成物の使用を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術方案を提供する。
【0009】
EC番号がEC2.4.2.1のプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine-nucleoside phosphorylase、略称PNP酵素)とEC番号がEC2.7.1.22のニコチンアミドリボシドキナーゼ(ribosylnicotinamide kinase、略称NRK酵素)とを含む、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物。
【0010】
本発明は、現在の酵素触媒法の多くの欠陥を考慮し、酵素反応技術を利用し、以下の反応経路で示される、アデノシン(adenosine)、ニコチンアミド(nicotinamide)を使用してβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを合成する別のプロセスを提供する。
【0011】
【0012】
まず、アデノシンとリン酸塩からPNP酵素の作用下でD-リボース-1-リン酸を合成し、その後、まだ該酵素の触媒下でニコチンアミドと反応してニコチンアミドリボシドを合成し、次に1分子のATPを消費してNRK酵素の触媒下で不可逆反応によりNMNを生成する。
【0013】
上記反応過程において、PNP酵素は、子牛の脾臓、ボス・タウルス、大腸菌、ネズミチフス菌、セレウス菌、バチルス・クラウジ、エロモナス・ハイドロフィラ、ウシ・サルモネラ・エンテリカ、バクテロイデス・フラジリス、デイノコッカス・ラディオデュランス、及びエロモナス・ハイドロフィラのうちの1種又は2種以上に由来するプリンヌクレオシドホスホリラーゼを含む。また、前記PNP酵素は、子牛の脾臓、ボス・タウルス(ウシ)、大腸菌K12、ネズミチフス菌(ATCC 700720株)、セレウス菌(ATCC 14579株)、バチルス・クラウジ(KSM-K16株)、エロモナス・ハイドロフィラ、ウシ・サルモネラ・エンテリカ、バクテロイデス・フラジリス(ATCC 25285株)、デイノコッカス・ラディオデュランス(ATCC 13939株)、及びエロモナス・ハイドロフィラのうちの一種又は二種以上に由来するプリンヌクレオシドホスホリラーゼを含むことが好ましい。
【0014】
本発明においては、D-リボース-1-リン酸の生成にもニコチンアミドリボシドの生成にもPNP酵素の関与を必要とするが、D-リボース-1-リン酸の生成過程には、PNP酵素の由来が特に限定されず、EC2.4.2.1に属するPNP酵素であればよく、ニコチンアミドリボシドの生成過程には、所定のPNPが必要である。本発明で提供されるPNP酵素であれば、二つのステップの反応とも行える。
【0015】
NRK酵素は、類鼻疽菌、アッシビヤ・ゴシッピー、インフルエンザ菌、出芽酵母、分裂酵母、ネズミチフス菌、クプリアビドゥス・メタリデュランス、ザントモナス・カンペストリス・pv.カンペストリス、アグロバクテリウム・ビティス、シューダースロバクター・クロロフェノリカス、アクチノバチルス・サクシノゲネス、ホモ・サピエンス、出芽酵母、及びアッシビヤ・ゴシッピーのうちの1種又は2種以上に由来する。また、前記NRK酵素は、類鼻疽菌K96243、アッシビヤ・ゴシッピーATCC 10895、インフルエンザ菌ATCC 51907、出芽酵母ATCC 204508、分裂酵母ATCC 24843、ネズミチフス菌(ATCC 700720株)、クプリアビドゥス・メタリデュランス(ATCC 43123株)、デイノコッカス・ラディオデュランス(ATCC 13939株)、ザントモナス・カンペストリス・pv.カンペストリス(ATCC 33913株)、アグロバクテリウム・ビティス(ATCC BAA-846株)(リゾビウム・ヴィティス(S4株))、シューダースロバクター・クロロフェノリカス、アクチノバチルス・サクシノゲネス(ATCC 55618株)、ホモ・サピエンス(ヒト)、出芽酵母(ATCC 204508株)(パン酵母)、及びアッシビヤ・ゴシッピー(ATCC 10895株)のうちの1種又は2種以上に由来することが好ましい。
【0016】
本発明で提供されるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物によれば、アデノシン及びニコチンアミドを原料としてPNP酵素、NRK酵素によりNMNを合成する場合、2つの酵素だけの関与でNMNを得ることができ、原料のアデノシンおよびニコチンアミドが安価であり、副生成物のアデニンがリサイクルして再利用できるため、コストを大幅に削減することが図れる。また、1分子のNMNを生成する同時に1分子のATPのみが消費されるので、コストがさらに大幅に削減される。従来の酵素触媒法とさらに異なるのは、最後のステップにおけるNRK酵素触媒によるNMN合成反応は不可逆的であり、従って基質変換率が大幅に向上し、生産コストがさらに削減される。
【0017】
さらに、本発明は、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを合成するための酵素製剤の調製又はβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの合成における前記酵素組成物の使用も提供する。
【0018】
また、本発明は、上記の使用に基づいて、アデノシン、ニコチンアミド、ATP、Mgイオン又はMnイオン、リン酸塩を原料とし、本発明に係る酵素組成物の酵素触媒作用下でβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド及び次の反応過程にリサイクルできるリン酸塩を合成する、酵素触媒法によるβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの合成方法も提供する。反応は通常、トリスやPBS緩衝液などの緩衝液中で行われるが、便利かつ効果的のためにPBS緩衝液を採用する。PBS緩衝液は、反応媒体とすることもできるし、反応中のリン酸塩として反応を開始することもできる。
【0019】
補酵素因子であるマグネシウムイオン又はマンガンイオンとしては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マンガン、硫酸マンガン、及び硝酸マンガンのうちの一つまたは複数により提供されることが好ましい。
【0020】
前記酵素組成物は、各酵素を発現する宿主細胞、各酵素の酵素液又は各酵素の固定化酵素の形態で酵素触媒反応に関与することが好ましい。本発明の具体的な実施形態において、前記各酵素を発現する宿主細胞は、各酵素を発現するベクターを含有する大腸菌であり、また前記ベクターは、その中の1つの酵素を単独で発現することもあるし、2つの酵素を共発現することもある。その具体的な調製過程は次の通りである。
【0021】
菌株DNAをテンプレートとして抽出し、PCRにより標的PNP酵素又はNRK酵素のDNA断片を増幅し(大腸菌のコドン優先に従って最適化してもよい)。本明細書の表1には、各実施形態で使用されたPNP酵素又はNRK酵素の配列が列挙されている。増幅された遺伝子は、制限酵素で切断部位から切断し、同じ酵素で切断されたベクタープラスミドに接続する。遺伝子配列決定により確認された正しいプラスミドがE.coli BL21(DE3)菌株に移され、LB培地に培養された後、IPTG条件下で発現を誘導し、各酵素の湿細胞を収集する。前記ベクタープラスミドとしては市販のpET28aプラスミドを使用した。各酵素の増幅プライマーは各酵素のコード配列に基づいて設計することができる。
【0022】
本発明の具体的な実施形態において、前記各酵素の酵素液は、各酵素を発現する宿主細胞から抽出された酵素液である。その抽出方法は、収集された湿細胞を高圧下で破砕し、高速遠心分離して粗タンパク質含有上清、即ち酵素含有酵素液を収集することである。上清は、さらに精製してもよい。
【0023】
本発明において、ろ過、クロマトグラフィーによる分離、濃縮・結晶化、乾燥を経して純粋なβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドを得るというβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドの精製工程をさらに含むことが好ましい。
【0024】
本発明の方法に従ってNMNを製造すれば、基質変換率(アデノシンとして計算、アデノシンに対する生成物のモル比)が90~99%になり、得られたNMN製品の純度が99%以上に達する。
【0025】
上記の技術方案から分かるように、本発明では、アデノシンおよびニコチンアミドを原料とし、PNP酵素とNRK酵素の酵素組成物の酵素触媒下でD-リボース-1-リン酸及びニコチンアミドリボシド中間体を生成し、NMNを得、また反応系全体には2つの酵素のみの関与が必要であり、副生成物のアデニンがリサイクルして再利用できる。また、1分子のNMNが生成すると同時に1分子のATPのみが消費されるので、プロセスコストが大幅に削減される。最後のステップにおけるNRK酵素触媒によるNMN合成反応は不可逆的であることから、基質変換率が大幅に向上し、生産コストがさらに削減される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドを調製するための酵素組成物及びその使用を開示するものであり、当業者が本明細書の内容を参考にして、適切にプロセスパラメータを改善して実現することができる。類似の置換や修正は当業者にとって明らかであり、本発明に含まれるものとみなされることに留意されたい。本発明に係る酵素組成物及びその使用については、好ましい実施形態を通じて説明してきたが、当業者なら、本発明の内容、精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書における酵素組成物及びその使用に対して修正又は適切な変更及び組み合わせを行うことで、本発明の技術を実現及び適用することができることは明らかである。
【0027】
本発明に記載されている合成方法及びその反応原理の概略図は、中心の反応経路を明確に説明するものであり、反応全体が一工程で行われるか複数工程で行われるかを限定するものではない。
【0028】
本発明で使用される各酵素は、配列に従って人工的に合成することもできるし、本発明で提供される方法に従ってプラスミドベクターを介して各酵素の発現遺伝子を搭載し、宿主細胞を介して発現を誘導することもできる。
【0029】
固定化を行う際、この分野の従来の固定化酵素の調製方法を参照することができる。本発明の具体的な実施形態において、本発明は、LX-1000EPエポキシ樹脂(SUNRESIN Xi'an)で次の通りに1回的混合固定を行った。1Lのリン酸カリウム緩衝液(1M pH7.5)に上記のPNP純酵素液100ml、NRK純酵素液10mlを加えてよく混合し、80gのLX-1000EPエポキシ樹脂を加え、室温で8時間攪拌した後、樹脂をろ過し、25mM pH8.0リン酸カリウム緩衝液で3回洗浄し、吸引濾過した後に固定化酵素を得た。この固定化酵素を測定したところ、PNP酵素活力が800U/g、NRK酵素活力が80U/gであった。
【0030】
本発明のプロセスの反応経路における各反応物質の用量は、実際の状況に応じて調整すればよいが、效率を最大化するために、以下の各反応物質の濃度及び用量を採用することができる。PNP酵素とNRK酵素の比率は、酵素活性として、PNP:NRKの酵素活性比を1:(0.01~100)とし、好ましくは1:(0.1~10)とする。アデノシンの基質濃度を1~150mM、ニコチンアミドの基質濃度を1~150mM、ATPの基質濃度を1mM~150mM、マグネシウムイオン又はマンガンイオンの濃度を5mM~200mM、リン酸塩又はトリス緩衝液の濃度を5~200mMとする。
【0031】
反応過程における反応液のpHは6.5以上9.5以下の範囲、好ましくは7.0以上8.5以下の範囲に維持し、反応温度は25℃以上50℃以下の範囲、好ましくは35℃以上45℃以下の範囲に維持する。
【0032】
本発明の具体的な実施形態で使用される酵素に関する情報については、表1及び表2を参照のこと。
【0033】
【0034】
【実施例】
【0035】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに説明する。
【0036】
実施例1:
PNP酵素の由来:ボス・タウルス(ウシ)
NRK酵素の調製由来:インフルエンザ菌(ATCC 51907)
【0037】
PNP/NRK酵素比1:1、37℃、pH6.5、アデノシンの基質濃度が150mM、ニコチンアミドの基質濃度が150mM、ATPの基質濃度が150mM、マグネシウムイオンの濃度が20mM、リン酸塩の濃度が20mM、基質変換率が90%であった。
【0038】
PNP酵素の調製:ボス・タウルスに由来するPNP酵素は、タンバク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列がコドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成され、Nde I/Xho I酵素(NEB社)により切断され、同じ酵素で切断されたpET28aプラスミド(Addgeneから購入)に接続された。構築したプラスミドをE.coli BL(DE3)菌株(Shanghai Weidi Biotechnology Co.,Ltd.)に移し、正しいと確認されたコロニーをカナマイシン100uM含有LB培地に接種した。ただし、LB培地は、1%トリプトン、0.5%酵母粉末、1%NaCl、1%リン酸水素二カリウム、1%リン酸二水素カリウム及び5%のグリセリンで構成された。細胞が対数期中期から後期まで増殖したら、0.2mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えて30℃でタンパク質発現を5時間誘導し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0039】
NRK酵素の調製:インフルエンザ菌ATCC 51907菌株のDNAをテンプレートとして抽出し、PCRによりNadR遺伝子断片(genbank:NZ_CP009610.1),(NadRセンスプライマー:F:5’-catatgcgagctaagtataacgcaaaat-3’,NadRアンチセンスプライマー:R:5’-ctcgagtcattgagatgtcccttttataggaaaggt-3’,GENEWIZ社により合成されたもの)を増幅し、この遺伝子断片に対応するタンバク質配列を表1に示す。増幅された遺伝子は、NEB社から購入されたNde I/Xho I酵素により切断し、同じ酵素で切断されたpET28aプラスミド(Addgeneから購入)に接続した。構築したプラスミドをE.coli BL21(DE3)菌株(Shanghai Weidi Biotechnology Co.,Ltd.)に移し、正しいと確認されたコロニーをカナマイシン100uM含有LB培地に培養した。ただし、LB培地は、1%トリプトン、0.5%酵母粉末、1%NaCl、1%リン酸水素二カリウム、1%リン酸二水素カリウム及び5%のグリセリンで構成された。細胞が対数期中期から後期まで増殖したら、0.2mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えて30℃でタンパク質発現を5時間誘導し、遠心分離して湿細胞を収集した。
【0040】
上記PNP酵素、NRK酵素の各湿細胞 100gをそれぞれ20mMトリスpH7.5水溶液1000mlに再懸濁したものを高圧破砕してPNP酵素及びNRK酵素の粗酵素液を得た。PNP酵素及びNRK酵素活性の測定には、従来技術に記載された公知の方法を使用し、特定の条件下で1分間以内に1マイクロモルの基質を変換するのに必要な酵素量を1活力単位(U)とした。本発明のPNP酵素の酵素活性は、1分間に1マイクロモルのアデノシンを転換してD-リボース-1-リン酸を生成するのに必要な酵素量を1活力単位(U)するように定義される。本発明のNRK酵素の酵素活性は、1分間に1マイクロモルのニコチンアミドリボシドを転換してβ-ニコチンアミドリボシドモノヌクレオチドを生成するのに必要な酵素量を1活力単位(U)とするように定義される。上記PNP粗酵素液の酵素活力を75U/ml、NRK酵素活力を600U/mlと測定した。
【0041】
1L反応槽に150mM アデノシン、150mM ニコチンアミド、20mM MgCl2、150mM ATP、20mMのpH8.0のPBS緩衝液を加え、pH値を6.5に調整し、反応液の総体積を0.8Lとし、上記PNPの粗酵素液32mlを加え、上記NRKの粗酵素液4mlを加え、37℃で撹拌しかつpH8.0を維持しながら8時間反応させ、NMN 135mM(45.1g/L)を生成した。基質変換率が90%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 27.1gを得た。NMN生成物の純度が99.2%、NMN生成物の核磁気結果が次の通りである。1H NMR(400 MHz, D2O) δ 9.46 (s, 1H), 9.29 (d, J = 5.9 Hz, 1H), 8.99 (d, J = 7.9 Hz, 1H), 8.31 (t, J = 7.1 Hz, 1H), 6.22 (d, J = 5.1 Hz, 1H), 4.64 (s, 1H), 4.58-4.55 (m, 1H), 4.46-4.43 (m, 1H), 4.32-4.29 (m, 1H), 4.17-4.13 (m ,1H )。
【0042】
実施例2:
PNP酵素1の由来:大腸菌(K12株)
PNP酵素2の由来:バチルス・クラウジ(KSM-K16株)
NRK酵素の由来:ネズミチフス菌(ATCC 700720)
【0043】
PNP/NRK酵素比100:1、35℃、pH8.5、アデノシンの基質濃度が135mM、ニコチンアミドの基質濃度が135mM、ATPの基質濃度が135mM、マグネシウムイオンの濃度が200mM、トリス緩衝液の濃度が20mM、基質変換率が92%であった。
【0044】
PNP酵素1の調製:大腸菌(K12株)に由来するPNP酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列がコドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0045】
PNP酵素2の調製:バチルス・クラウジ(KSM-K16株)に由来するPNP酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0046】
NRK酵素の調製:ネズミチフス菌(ATCC 700720)に由来するNRK酵素は、タンパク質配列が表1示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0047】
上記PNP酵素1、PNP酵素2、NRK酵素の各湿細胞 100gをそれぞれ20mMトリスpH7.5の水溶液1000mlに再懸濁したものを高圧破砕してPNP酵素1、PNP酵素2及びNRK酵素の粗酵素液を得た。上記PNP酵素1の粗酵素液の酵素活力を200U/ml、PNP酵素2の粗酵素液の酵素活力を500U/ml、NRK酵素活力を50U/mlと測定した。
【0048】
1L反応槽に135mMアデノシン、135mMニコチンアミド、200mM MgCl2、135mM ATP、20mMトリス緩衝液を加え、pH値を8.5に調整し、反応液の総体積を0.8Lとし、上記PNP酵素1の粗酵素液50ml、PNP酵素2の粗酵素液30ml、上記NRKの粗酵素液5mlを加え、35℃で撹拌しかつpH8.5を維持しながら24時間反応させ、NMN 124.2mM(41.5g/L)を生成した。基質変換率が92%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 28.2gを得た。NMN生成物の純度が99.3%になった
【0049】
実施例3:
PNP酵素の由来:バクテロイデス・フラジリス(ATCC 25285株)
NRK酵素の由来:類鼻疽菌K96243
固定化酵素の形態
PNPとNRK酵素の割合(10:1)
【0050】
PNP/NRK酵素比10:1、40℃、pH7.0、アデノシンの基質濃度が50mM、ニコチンアミドの基質濃度が50mM、ATPの基質濃度が80mM、マンガンイオンの濃度が5mM、リン酸塩の濃度が200mM、基質変換率が91.1%であった。
【0051】
PNP酵素の調製:バクテロイデス・フラジリス(ATCC 25285株)に由来するPNP酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0052】
NRK酵素の調製:類鼻疽菌K96243に由来するNRK酵素は、タンパク質配列が表1示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0053】
上記収集したPNP酵素、NRK酵素を含む菌体細胞を混合した後、それぞれ高圧破砕、遠心分離を経て粗タンパク質含有上清を収集した。上清をそれぞれニッケルイオンキレートアフィニティーカラム(Yeasen Biotechnology(Shanghai)Co.,Ltd.)を用いて精製し、PNP純酵素液及びNRK純酵素液を得た。PNP純酵素液の活力が6800U/ml、NRK純酵素液の活力が6400U/mlであった。
【0054】
得られた純酵素液をLX-1000EPエポキシ樹脂(SUNRESIN)で次の通りに1回固定した。1Lのリン酸カリウム緩衝液(1M pH7.5)に上記PNP純酵素液100ml、NRK純酵素液10mlを加えてよく混合し、80gのLX-1000EPエポキシ樹脂を加え、室温で8時間攪拌した後、樹脂をろ過し、25mM pH8.0リン酸カリウム緩衝液で3回洗浄し、吸引濾過した後に固定化酵素を得た。この固定化酵素を測定したところ、PNP酵素活力が800U/g、NRK酵素活力が80U/gであった。
【0055】
1L反応槽に50mM アデノシン、50mM ニコチンアミド、5mM MnCl2、80mM ATP、200mM pH7.0 PBS緩衝液を加え、pH値を7.0に調整し、反応液の総体積を0.8Lとし、上記固定化酵素20gを加え、40℃で撹拌しかつpH7.0を維持しながら8時間反応させ、NMN 45.5mM(15.2g/L)を生成した。基質変換率が91.1%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 9.12gを得た。NMN生成物の純度が99.2%になった
【0056】
実施例4:
PNP酵素の由来:ネズミチフス菌(ATCC 700720)
NRK酵素の由来:類鼻疽菌K96243精製酵素
【0057】
PNP/NRK酵素比1:100、35℃、pH7.5、アデノシンの基質濃度が100mM、ニコチンアミドの基質濃度が100mM、ATPの基質濃度が100mM、マグネシウムイオンの濃度が20mM、リン酸塩の濃度が5mM、基質変換率が99%であった。
【0058】
PNP酵素の調製:ネズミチフス菌(ATCC 700720)に由来するPNP酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui) Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。実施例3の方法に従ってPNP純酵素液を調製し、PNP純酵素液の活力が6200U/mlであった。
【0059】
1000ml三角フラスコに100mMアデノシン、100mMニコチンアミド、20mM MgCl2、100mM ATP、20mM pH8.0 PBS緩衝液を加え、pH値を8.0に調整し、反応液の総体積を500mlとし、上記のPNP純酵素液4.8mlを加え、類鼻疽菌K96243に由来するNRK純酵素液46mlを加え、35℃で撹拌しかつpH8.0を維持しながら24時間反応させ、NMN 99mM(30.07g/L)を生成した。基質変換率が99%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 12.7gを得た。NMN生成物の純度が99.4%になった
【0060】
実施例5:
PNP酵素の由来:エロモナス・ハイドロフィラ
NRK酵素の由来:出芽酵母ATCC 204508
NRK PNP共発現+全細胞触媒の形態(酵素活性比1:1)
【0061】
PNP/NRK酵素比1:1、37℃、pH8.0、アデノシンの基質濃度が135mM、ニコチンアミドの基質濃度が135mM、ATPの基質濃度が135mM、マグネシウムイオンの濃度が20mM、リン酸塩の濃度が20mM、基質変換率が92%であった。
【0062】
全細胞の調製:エロモナス・ハイドロフィラに由来するPNP酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems(Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成され、BamH I/Not I酵素(NEB社)により切断された。出芽酵母ATCC 204508に由来するNRK酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成され、BamH I/Not I酵素(NEB社)により切断された。酵素で切断された上記の二つの遺伝子をともに、同じ酵素で切断されたpRSFDuet-1プラスミド(biofengから購入)に接続した。構築したプラスミドをE.coli BL21(DE3)菌株(Shanghai Weidi Biotechnology Co., Ltd.)に移し、正しいと確認されたコロニーをカナマイシン100uM含有LB培地に培養した。ただし、LB培地は、1%トリプトン、0.5%酵母粉末、1%NaCl、1%リン酸水素二カリウム、1%リン酸二水素カリウム及び5%のグリセリンで構成された。細胞が対数期中期から後期まで増殖したら、0.2mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を加えて30℃でタンパク質発現を5時間誘導し、遠心分離して湿細胞を収集した。
【0063】
上記遠心分離した湿細胞を20mM pH7.0 PBS緩衝液で2回洗浄した後に再懸濁し、0.15%Triton X-100を加えて低速で30分間攪拌し、遠心分離して湿細胞を収集した。透過後の湿細胞を測定したところ、PNP酵素活力が750U/g、NRK酵素活力が750U/gであった。
【0064】
1L反応槽に135mMアデノシン、135mMニコチンアミド、20mM MgCl2、135mM ATP、20mM pH8.0のPBS緩衝液を加え、pH値を8.0に調整し、反応液の総体積を0.8Lとし、上記湿細胞32gを加え、37℃で撹拌しかつpH8.0を維持しながら12時間反応させ、NMN 124.2mM(41.48g/L)を生成した。基質変換率が92%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 24.22gを得た。NMN生成物の純度が99.1%になった
【0065】
実施例6:
PNP酵素1の由来:デイノコッカス・ラディオデュランス(ATCC 13939株)
PNP酵素2の由来:ホモ・サピエンス(ヒト)
NRK酵素源:アッシビヤ・ゴシッピー(ATCC 10895株)
この実施例には、同じ酵素活性下で(1:0.518)、様々な形態の粗酵素、純酵素、固定化酵素の効果を比較した。
【0066】
PNP酵素1/NRK酵素比1:0.518、粗酵素、37℃、pH8.0、アデノシンの基質濃度が100mM、ニコチンアミドの基質濃度が100mM、ATPの基質濃度が100mM、マグネシウムイオンの濃度が20mM、リン酸塩の濃度が20mM、基質変換率が90%であった。
【0067】
PNP酵素1/NRK酵素比1:0.518、純酵素、37℃、pH8.0、アデノシンの基質濃度が100mM、ニコチンアミドの基質濃度が100mM、ATPの基質濃度が100mM、マグネシウムイオンの濃度が20mM、リン酸塩の濃度が20mM、基質変換率が95%であった。
【0068】
PNP酵素1/NRK酵素比1:0.518、固定化酵素、37℃、pH8.0、アデノシンの基質濃度が100mM、ニコチンアミドの基質濃度が100mM、ATPの基質濃度が100mM、マグネシウムイオンの濃度が20mM、リン酸塩の濃度が20mM、基質変換率が94%であった。
【0069】
PNP酵素1/NRK酵素比1:0.518、固定化酵素、25℃、pH9.5、アデノシンの基質濃度が1mM、ニコチンアミドの基質濃度が1mM、ATPの基質濃度が1mM、マグネシウムイオンの濃度が5mM、リン酸塩の濃度が5mM、基質変換率が99%であった。
【0070】
PNP酵素1/NRK酵素比1:0.518、固定化酵素、45℃、pH9.5、アデノシンの基質濃度が1mM、ニコチンアミドの基質濃度が1mM、ATPの基質濃度が1mM、マグネシウムイオンの濃度が5mM、リン酸塩の濃度が5mM、基質変換率が99%であった。
【0071】
PNP酵素1の調製:デイノコッカス・ラディオデュランス(ATCC 13939株)に由来するPNP酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0072】
PNP酵素2の調製:ホモ・サピエンス(ヒト)に由来するPNP酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems(Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0073】
NRK酵素の調製:アッシビヤ・ゴシッピー(ATCC 10895株)のNRK酵素は、タンパク質配列が表1に示され、対応するDNA遺伝子配列が、コドン最適化後にGeneral Biosystems (Anhui)Co.,Ltdによりインビトロで合成された。そして、実施例1の方法に従って遺伝子組換え細菌を構築して菌体を培養し、遠心分離して湿菌体を収集した。
【0074】
上記PNP酵素1湿細胞、PNP酵素2湿細胞、NRK酵素湿細胞をそれぞれ100g秤量し、それぞれ20mMトリスpH7.5の水溶液1000mlに再懸濁したものを高圧破砕してPNP酵素の粗酵素液及びNRK酵素の粗酵素液を得た。上記PNP酵素1の粗酵素液の酵素活力を450U/ml、PNP酵素2の粗酵素液の酵素活力を550U/ml、NRKの粗酵素液の酵素活力を760U/mlと測定した。
【0075】
上記方法に従って調製したPNP酵素1、NRKの粗酵素液から遠心分離により上清を収集した。この上清をそれぞれニッケルイオンキレートアフィニティーカラム(Yeasen Biotechnology (Shanghai)Co.,Ltd.)で精製し、PNP酵素1純酵素液及びNRK純酵素液を得た。PNP酵素1純酵素液の活力が4800U/ml、NRK純酵素液の活力が6700U/mlであった。
【0076】
得られた純酵素液をLX-1000EPエポキシ樹脂(SUNRESIN)で次の通りに1回固定した。2Lのリン酸カリウム緩衝液(1M pH7.5)に上記PNP酵素1純酵素液50ml、NRK純酵素液40mlを加えてよく混合し、160gのLX-1000EPエポキシ樹脂を加え、室温で8時間攪拌した後、樹脂をろ過し、25mM pH8.0リン酸カリウム緩衝液で3回洗浄し、吸引濾過した後に固定化酵素を得た。この固定化酵素を測定したところ、PNP酵素1の酵素活力が98.4U/g、NRK酵素活力が190U/gであった。
【0077】
粗酵素形態(PNP酵素1):1L反応槽に100mMアデノシン、100mMニコチンアミド、20mM MgCl2、100mM ATP、20mM pH8.0 PBS緩衝液を加え、pH値を8.0に調整し、反応液の総体積を0.8Lとした。上記調製したPNP酵素1の粗酵素液35ml、NRK粗酵素液40mlを加え、37℃で撹拌しかつpH8.0を維持しながら6時間反応させ、NMN 90mM(30.06g/L)を生成した。基質変換率が90%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 18.04gを得た。NMN生成物の純度が99.1%になった
【0078】
粗酵素形態(PNP酵素2):1L反応槽に100mMアデノシン、100mMニコチンアミド、20mM MgCl2、100mM ATP、20mM pH8.0のPBS緩衝液を加え、pH値を8.0に調整し、反応液の総体積を0.8Lとした。上記調製したPNP酵素2の粗酵素液28.8ml、NRK粗酵素液40mlを加え、37℃で撹拌しかつpH8.0を維持しながら6時間反応させ、NMN 1mM(0.33g/L)を生成した。基質変換率が1%になった。基質変換率は低すぎて、純粋な生成物は得られなかった。
【0079】
第1ステップの反応のみを完了できるが第2ステップの反応を完了できないPNP酵素2を使用した。その結果から、反応が第1ステップまでしか進行できなかったこと、又は効率が非常に低かったことが確認された。また、これから、ニコチンアミドリボシドの生成過程には、所定のPNP酵素が必要であることが示された。
【0080】
純酵素形態(PNP酵素1):1L反応槽に100mMアデノシン、100mMニコチンアミド、20mM MgCl2、100mM ATP、20mM pH8.0 PBS緩衝液を加え、pH値を8.0に調整し、反応液の総体積を0.8Lとした。上記調製したPNP酵素1の純酵素液3.28ml、NRK純酵素液4.53mlを加え、37℃で撹拌しかつpH8.0を維持しながら5時間反応させ、NMN 95mM(31.73g/L)を生成した。基質変換率が95%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 20.05gを得た。NMN生成物の純度が99.4%になった
【0081】
固定化酵素形態(PNP酵素1):1L反応槽に100mMアデノシン、100mMニコチンアミド、20mM MgCl2、100mM ATP、20mM pH8.0 PBS緩衝液を加え、pH値を8.0に調整し、反応液の総体積を0.8Lとした。上記調製したPNP酵素1、NRK固定化酵素160gを加え、37℃で撹拌しかつpH8.0を維持しながら5.5時間反応させ、NMN 94mM(31.39g/L)を生成した。基質変換率が94%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 19.8gを得た。NMN生成物の純度が99.4%になった
【0082】
固定化酵素形態(PNP酵素1、25℃):1L反応槽に1mMアデノシン、1mMニコチンアミド、5mM MgCl2、1mM ATP、5mM pH8.0のPBS緩衝液を加え、pH値を9.5に調整し、反応液の総体積を0.8Lとした。上記調製したPNP酵素1、NRK固定化酵素160gを加え、25℃で撹拌しかつpH9.5を維持しながら5.5時間反応させ、NMN 0.99mM(0.33g/L)を生成した。基質変換率が99%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 0.13gを得た。NMN生成物の純度が99.4%になった
【0083】
固定化酵素形態(PNP酵素1、45℃):1L反応槽に1mM アデノシン、1mM ニコチンアミド、5mM MgCl2、1mM ATP、5mM pH8.0のPBS緩衝液を加え、pH値を9.5で調整し、反応液の総体積を0.8Lとした。上記調製したPNP酵素1、NRK固定化酵素160gを加え、45℃で撹拌しかつpH9.5を維持しながら0.5時間反応させ、NMN 0.99mM(0.33g/L)を生成した。基質変換率が97%になった。反応液をろ過、クロマトグラフィーにより分離し、濃縮・結晶化して乾燥した後に、純粋なNMN 0.13gを得た。NMN生成物の純度が99.4%になった
【0084】
上記は、本発明の好ましい実施形態にすぎず、当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び修正を行い得る。これらの改良及び修正も本発明の保護範囲に入るべきであることに留意されたい。
【配列表】
【国際調査報告】