(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-04
(54)【発明の名称】燃料電池システムを動作させる方法、制御装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04313 20160101AFI20240328BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240328BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20240328BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240328BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20240328BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240328BHJP
【FI】
H01M8/04313
H01M8/04 J
H01M8/04746
H01M8/04537
H01M8/0438
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563984
(86)(22)【出願日】2022-04-12
(85)【翻訳文提出日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 EP2022059749
(87)【国際公開番号】W WO2022223371
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】102021204028.4
(32)【優先日】2021-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ファルケナウ,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ボッシュ,ティモ
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AC03
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA33
5H127BA59
5H127BB02
5H127DB32
5H127DB71
5H127DB86
5H127DC87
5H127DC90
5H127EE23
5H127FF10
(57)【要約】
本発明は、タンクからの水素および再循環水素がアノードガスとして、アノード回路(1)を介して少なくとも1つの燃料電池に供給され、アノードガスに含まれる水(6)がアノード回路(1)に組み込まれた水分離器(2)を用いて分離され、容器(3)に収集され、ドレン弁(4)を一時的に開くことによってシステムから除去される、燃料電池システムを動作させる方法に関する。本発明によれば、満杯の容器(3)を検出するために、次のステップ、すなわち、-容器(3)に配置されたパージ弁(5)を開くステップ、-アノード回路(1)の目標圧力を維持するために、アノード回路(1)に組み込まれた水素計量弁の開口断面が急激に変化する時点を検知するステップ、-この時点をパージ弁(5)の開放時点と比較するステップ、が実行される。本発明は、さらに、方法もしくは個々の方法ステップを実行するための制御装置に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクからの水素および再循環水素がアノードガスとして、アノード回路(1)を介して少なくとも1つの燃料電池に供給され、前記アノードガスに含まれる水(6)が前記アノード回路(1)に組み込まれた水分離器(2)を用いて分離され、容器(3)に収集され、ドレン弁(4)を一時的に開くことによってシステムから除去される、燃料電池システムを動作させる方法において、
満杯の容器(3)を検出するために、次のステップ、すなわち、
-前記容器(3)に配置されたパージ弁(5)を開くステップ、
-前記アノード回路(1)の目標圧力を維持するために、前記アノード回路(1)に組み込まれた水素計量弁の開口断面が急激に変化する時点(t
2)を検知するステップ、
-前記時点(t
2)を前記パージ弁(5)の開放時点(t
1)と比較するステップ、が実行されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記水素計量弁の前記開口断面が急激に変化する前記時点(t
2)を検知するために、前記水素計量弁を制御するためのアクチュエータ電流が評価されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アクチュエータ電流を評価するために、前記水素計量弁を制御するために用いられる前記燃料電池システムの制御装置が使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
好ましくは前記制御装置を用いて、前記ドレン弁が前記アクチュエータ電流の評価に依存して制御されることを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記アクチュエータ電流の前記評価の基礎をなす信号が、前もってフィルタリングされ、および/または時間的に平均化されることを特徴とする、請求項2から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アクチュエータ電流の評価の際に、前記パージ弁(5)の跳ね返り時間が考慮されることを特徴とする、請求項2から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アクチュエータ電流の評価の際に、前記パージ弁(5)が開いたときに生じる負荷の変化が考慮されることを特徴とする、請求項2から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
制御装置であって、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように設定された、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム、特に高分子電解質膜(PEM)燃料電池システムを動作させる方法に関する。さらに、本発明は、方法のステップを実行するように設定された制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PEM燃料電池は、アノードとカソードとの間に配置された高分子電解質膜を有する。PEM燃料電池を用いて、アノードに供給される水素と空気の形態でカソードに供給される酸素を電気エネルギー、熱、および水に変化させることができる。実用では、生成される電圧を高めるため、複数の燃料電池が「スタック」とも呼ばれる燃料電池積層体に統合される。
【0003】
PEM燃料電池から流れ出すアノードガスは、通常、未使用の水素を含んでいるため、再循環させて、アノード回路を介して再びアノードに供給される。しかし、カソード側からアノード側に向けて拡散する窒素が時間とともに再循環アノードガスに蓄積される。したがって、燃料電池への十分な水素の供給を確保するためには、アノード領域を時々パージ(英語「purgen」)しなければならない。このために弁、いわゆるパージ弁が開かれ、パージ弁を介してアノードガスが導出される。さらに、導出された量をタンクからの新鮮な水素と置き換えるために水素計量弁(Wasserstoffdosierventil)が開かれる。このようにして燃料電池への水素の供給が確保されるだけでなく、同時にアノード回路のガス圧が予め定められた目標圧力に保たれる。
【0004】
さらに、燃料電池内の電気化学反応の際に生成される水をアノードガスから除去する必要がある。このために、アノード回路には、分離された水が収集される容器を有する水分離器が組み込まれている。容器内の充填レベルに応じて、別の弁、いわゆるドレン弁が開かれ、容器が空にされる。容器を空にすべき時機を認識するために、充填レベルセンサを用いて容器内の充填レベルを監視することができる。しかし移動用途では、充填レベルセンサが測定結果に影響を及ぼす可能性のある揺れや振動にさらされ、それにより充填レベルセンサの使用には問題がつきまとう。さらに、充填レベルセンサはコストを上昇させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、充填レベルセンサを用いずに、分離された水を収集するための容器内の充填レベルの信頼性の高い、かつ同時に安価な監視を可能にする燃料電池システムを動作させる方法を提供するという課題に取り組むものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の特徴を有する方法が提案される。本発明の有利な発展形態は従属請求項から読み取ることができる。さらに、方法もしくは個々の方法ステップを実行するための制御装置が提供される。
【0007】
提案される燃料電池システムを動作させる方法では、タンクからの水素および再循環水素がアノードガスとして、アノード回路を介して少なくとも1つの燃料電池に供給される。方法では、さらに、アノードガスに含まれる水がアノード回路に組み込まれた水分離器を用いて分離され、容器に収集され、ドレン弁を一時的に開くことによってシステムから除去される。満杯の容器を検出するために、本発明によれば、次のステップが実行される。すなわち、
-容器に配置されたパージ弁を開くステップ、
-アノード回路の目標圧力を維持するために、アノード回路に組み込まれた水素計量弁の開口断面が急激に変化する時点を検知するステップ、
-この時点をパージ弁の開放時点と比較するステップ、が実行される。
【0008】
容器が満杯であるか、もしくは水面がパージ弁の接続箇所よりも上にある場合、パージ弁が開くと、まずガスではなく水が流れ出す。その際、アノード回路の目標圧力はほとんど変わらず、それにより水素計量弁の開口断面は実質的に一定である。パージ弁を介して水ではなくガスが導出されて初めて、目標圧力を維持するために開いた水素計量弁をさらに開く必要がある。これは急激に行われるので、ガスが流れ出し始めたことの明確なしるしとみなすことができる。したがって、パージ弁の開放と水素計量弁の開口断面の変化との間の時間的なずれによって容器が満杯であることが認識される。その場合、最大充填高さは、パージ弁の高さ位置によって予め設定される。
【0009】
パージ弁を介して容器から水のみが導出され、ガスが導出されないうちは、水柱が小さくなるにもかかわらず、水素が補充される(nachfuehren)必要はない。なぜなら水の導出は、アノード回路の目標圧力にわずかな影響しか及ぼさないからである。
【0010】
本発明の発展形態において、水素計量弁の開口断面が急激に変化する時点を検知するために、水素計量弁を制御するためのアクチュエータ電流が評価されることが提案される。アクチュエータ電流は、水素計量弁の開度もしくは計量投入される(eindosieren)水素体積流量に比例する。したがって、アクチュエータ電流は、アノード回路の目標圧力を調整するための調整量である。
【0011】
アクチュエータ電流を評価するために、好ましくは水素計量弁を制御するために用いられる燃料電池システムの制御装置が使用される。パージ弁が開くと直ちにアノードガスが導出される場合、水素計量弁は、アノード回路の目標圧力を保つために比較的高い電流で制御される必要がある。パージ弁が開くと最初に水が流れ出す場合、もし制御するのであれば、目標圧力になるようアノード回路の容積を拡大するため、水素計量弁がごくわずかに逆制御する(gegenregeln)必要がある。変化したアクチュエータ電流は、制御装置を用いて正確に、高い測定頻度で検知され得る。評価は、殊に、制御装置に記憶することができる適切なアルゴリズムを用いて行われる。
【0012】
その場合、アクチュエータ電流の評価に応じてドレン弁を制御することができる。特に、容器が満杯であることが認識された場合にドレン弁を開くことができる。ドレン弁の制御も同様に制御装置を用いて行われることが好ましい。このようにして方法を完全に自動化することができる。
【0013】
さらに、アクチュエータ電流の評価の基礎をなす信号が、前もってフィルタリングされ、および/または時間的に平均化されることが提案される。このようにして評価の精度を高めることができる。
【0014】
アクチュエータ電流の評価の際に、パージ弁の跳ね返り時間(Entprellzeit)が考慮されることが好ましい。これは、パージ弁の制御と開放との間のいくらかの時間的なずれが評価に算入されることを意味する。このようにして、評価の精度をさらに高めることができる。
【0015】
さらに、アクチュエータ電流の評価の際に、パージ弁が開いたときに生じる負荷の変化が考慮されることが好ましい。なぜなら負荷の変化は、水素計量弁の制御の変化を結果としてもたらすことができ、それによりアクチュエータ電流が変化するからである。
【0016】
さらに、本発明による方法のステップを実行するように設定された制御装置が提案される。特に、水素計量弁を制御するために必要なアクチュエータ電流は、制御弁(Steuerventil)を用いて検知および評価できる。評価の結果、パージ弁の開放後のアクチュエータ電流の上昇の時間的なずれが判明した場合、これにより容器が満杯であることが推測される。この場合、容器を空にするために、制御装置を用いてドレン弁を制御および開放することができる。アクチュエータ電流を評価するために、制御装置に相応のアルゴリズムが記憶されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】燃料電池システムのアノード回路に組み込まれた水分離器の模式図である。
【
図2】水分離器の容器内の充填レベルに依存したアクチュエータ電流プロファイルをグラフで示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明および本発明の利点を添付の図面をもとにして詳しく説明する。
【0019】
図1は、アノード回路1に組み込まれた水分離器2を例示的に示す。水分離器2は、水分離器2を用いてアノード回路1のアノードガスから分離される水6を収集するための容器3を備える。容器3を空にするために、底側にドレン弁4が設けられる。ドレン弁は、容器3の充填レベルに応じて開かれる。さらに、容器3の側方にパージ弁5が設けられる。窒素が蓄積されたアノードガスをパージ弁によりアノード回路1から除去することができる。しかしこれは、パージ弁5が水面より下に位置するほどには容器3内の充填レベルが高くないことを前提とする。そうでなければパージ弁5が開くと水6が流れ出し、ガス7は流れ出ない。水6は、充填レベルがH
maxに達するまでの間流れ出る。充填レベルは、容器3におけるパージ弁5の高さ位置によって予め設定される。
【0020】
パージ弁5が開くと容器3から流れ出すガス7は新鮮な水素と置き換えられる。水素は、水素計量弁(図示せず)を用いてアノード回路に計量投入される。このために、水素計量弁もしくは水素計量弁のアクチュエータ(図示せず)が、制御装置(図示せず)により相応に制御される。したがってパージ弁5が開くのに伴いアクチュエータ電流が上昇する。この関係が
図2に例示的に示され、まん中の図表b)は、時間tに対するパージ弁5の開閉を示し、下の図表c)は、関連するアクチュエータ電流プロファイルを示す。その場合、パージ弁5が最後に開いたときのアクチュエータ電流の上昇が明らかに時間的に遅れて行われていることが見て取れる(矢印8を参照)。これは、容器3が時間とともに水で満たされ、それによりパージ弁5の開放時点t
1に充填レベルがH
maxMaxより上にあったことによるものである。これは、時点t
1にパージ弁5が開くと、まず容器3から水6のみが流れ出したことを意味する。ガスが導出されるほど充填レベルが低くなってはじめてアクチュエータ電流も上昇する。これは時点t
2に当てはまる。したがって、t
1とt
2との時間のずれから、容器3が満杯であり、ドレン弁4を開いて空にしなければならないことがわかる。
【符号の説明】
【0021】
1 アノード回路
2 水分離器
3 容器
4 ドレン弁
5 パージ弁
6 水
7 ガス
8 矢印
【手続補正書】
【提出日】2023-10-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクからの水素および再循環水素がアノードガスとして、アノード回路(1)を介して少なくとも1つの燃料電池に供給され、前記アノードガスに含まれる水(6)が前記アノード回路(1)に組み込まれた水分離器(2)を用いて分離され、容器(3)に収集され、ドレン弁(4)を一時的に開くことによってシステムから除去される、燃料電池システムを動作させる方法において、
満杯の容器(3)を検出するために、次のステップ、すなわち、
-前記容器(3)に配置されたパージ弁(5)を開くステップ、
-前記アノード回路(1)の目標圧力を維持するために、前記アノード回路(1)に組み込まれた水素計量弁の開口断面が急激に変化する時点(t
2)を検知するステップ、
-前記時点(t
2)を前記パージ弁(5)の開放時点(t
1)と比較するステップ、が実行されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記水素計量弁の前記開口断面が急激に変化する前記時点(t
2)を検知するために、前記水素計量弁を制御するためのアクチュエータ電流が評価されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アクチュエータ電流を評価するために、前記水素計量弁を制御するために用いられる前記燃料電池システムの制御装置が使用されることを特徴とする、請求
項2に記載の方法。
【請求項4】
好ましくは前記制御装置を用いて、前記ドレン弁が前記アクチュエータ電流の評価に依存して制御されることを特徴とする、請求
項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アクチュエータ電流の前記評価の基礎をなす信号が、前もってフィルタリングされ、および/または時間的に平均化されることを特徴とする、請求項2から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アクチュエータ電流の評価の際に、前記パージ弁(5)の跳ね返り時間が考慮されることを特徴とする、請求項2から
4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記アクチュエータ電流の評価の際に、前記パージ弁(5)が開いたときに生じる負荷の変化が考慮されることを特徴とする、請求項2から
4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
制御装置であって、請求項1から
4までのいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように設定された、制御装置。
【国際調査報告】