(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-04
(54)【発明の名称】黒鉛粉末の製造のための組成物
(51)【国際特許分類】
C01B 32/205 20170101AFI20240328BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240328BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240328BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240328BHJP
【FI】
C01B32/205
C01B32/05
H01M4/587
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023565157
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 NZ2021050146
(87)【国際公開番号】W WO2022225405
(87)【国際公開日】2022-10-27
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523398112
【氏名又は名称】カーボンスケープ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CARBONSCAPE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】バーデンホルスト、ハインリッヒ
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
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4G146CB09
5H050AA02
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5H050BA17
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5H050HA01
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、高性能リチウムイオン電池アノードを生成する、及び他の用途に適した黒鉛粉末の製造のための組成物に関する。前記組成物は、バイオ炭と、金属と、黒鉛とを含む。前記バイオ炭は、典型的に、木質バイオマスの熱分解に由来する。前記金属は、典型的に、有機金属化合物又は無機金属化合物の分解及び還元に由来する遷移金属である。前記黒鉛は、高結晶性であり、広範囲のモルフォロジー又は構造を有する。目的のコンポジットを製造するために、必要とされる前駆体(バイオ炭及び前記金属化合物)を混合し、加熱処理に供する。得られた明確に定義されたコンポジットを、次いで、他の後処理工程に供して、最終の黒鉛粉末を得る。得られた黒鉛粉末は、多数の工業的用途を有し、最も顕著には、高性能リチウムイオン電池アノードにおいて工業的用途を有するが、これに限定されない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ炭と、金属と、黒鉛との混合物を含む組成物であって、(a)約25重量%~約65重量%の間の黒鉛分と、(b)約15重量%~約75重量%の間の金属分と、(c)1重量%~35重量%の間のバイオ炭分とを有する組成物。
【請求項2】
前記黒鉛は、約0.3354nm~約0.3401nmの間の面間隔dを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記黒鉛の電気化学容量が200mAh/g以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記黒鉛の電気化学容量が300mAh/g以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記黒鉛の比表面積が約0.2m
2/g~約50m
2/gの間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記黒鉛の比表面積が約0.5m
2/g~約20m
2/gの間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記黒鉛は、60%より大きな「クーロン」効率又は第一サイクル効率を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記黒鉛は、80%より大きな「クーロン」効率又は第一サイクル効率を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記混合物中の前記黒鉛分は、粒子形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記混合物中の前記金属分は、粒子形態である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記混合物中の前記バイオ炭分は、粒子形態である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記黒鉛分、前記金属分、及び前記バイオ炭分は、全て粒子形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記混合物は、約25%~約75%の間の、バイオ炭及び黒鉛から構成されている炭素と、約75%~約25%の間の選択された金属とからなる元素組成を有する二元混合物である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記バイオ炭分は、約200℃~約1000℃の間の温度まで加熱された木質バイオマスに由来する、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記金属は、遷移金属である、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記遷移金属は、クロム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、クロム、バナジウム、又はそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記バイオ炭の成分の粒径は、約1mm未満である、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記金属の成分の粒径は、約1mm未満である、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記黒鉛の成分の粒径は、約1mm未満である、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
全ての成分の粒径が1mm未満である、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記混合物は、約55重量%よりも大きな総黒鉛状炭素分を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載の混合物から製造される黒鉛粉末。
【請求項23】
請求項1~21のいずれか一項に記載の混合物から製造される高性能リチウムイオン電池アノード粉末。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の混合物を製造するための方法であって、
i)200℃~1000℃の間の温度において粒子形態にあるバイオマスを熱処理して、粒状バイオ炭を形成する工程と、
ii)得られた前記バイオ炭を、湿潤形態又は乾燥形態にある粒状金属化合物と組み合わせて、前駆体混合物を生成する工程と、
iii)前記前駆体混合物を約400℃~約3000℃の間まで不活性条件下において加熱して、黒鉛含有混合物を形成する工程と、
iv)最終混合物を約1mm未満の粒径まで篩い分けて、(a)約25重量%~約65重量%の間の黒鉛分と、(b)約15重量%~約75重量%の間の金属分と、(c)1重量%~35重量%の間のバイオ炭分とを有する混合物を製造する工程と、を備える方法。
【請求項25】
前記バイオマスは、水熱工程において水中において熱処理される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記バイオマスは、乾燥熱分解工程において、不活性条件下において熱処理される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記バイオマスは、林地残材である、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記バイオマスは、おがくず、木材チップ、又は他の木材ベースの材料である、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記バイオマスの粒子は、約10mm未満である、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記バイオマスの粒子は、約1mm未満である、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
(a)精製工程と、
(b)得られた前記黒鉛を洗浄及び濾過する工程と、
(c)高密度化工程と、
(d)炭素コーティング工程と、
から選択された工程のうちの1つ以上を含む、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
酸浸出が前記精製工程において使用される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
球状化が前記高密度化工程において使用される、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
請求項24~33のいずれか一項に記載の方法により製造される黒鉛粉末。
【請求項35】
請求項24~33のいずれか一項に記載の方法により製造される高性能リチウムイオン電池アノード粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛(グラファイト)粉末の製造に適した組成物に関する。該黒鉛粉末は、高性能リチウムイオン電池アノードの製造及び他の用途に適する。該組成物は、バイオ炭(biochar)、金属、及び黒鉛を含む。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、社会に遍在するようになり、携帯電子機器から電動工具、電気自動車までの全てにおいて使用されている。リチウムイオン電池の利用率の上昇によって、性能を向上させるための新規で改良された構成材料を探求するための開発が推進されている。加えて、特定のリチウムイオン電池の成分は供給が制限されており、化石燃料ベースのインフラでなく電気インフラへの世界的な移行に伴って需要が増大するにつれて、希少性が増大するばかりであろう。係る理由のために、代替原材料源を(最も適切には持続可能性を維持するために再生可能な資源から)見出すための協調努力がなされている。リチウムイオン電池における成分のうち、供給が不足している1つが黒鉛である。
【0003】
黒鉛は、石油系前駆体から合成されるか、天然堆積物から得られる。いくつかの炭素材料(コークス及びメソフェーズピッチなど)を、単に加熱によって黒鉛に変換することが可能であり、そうした材料は、黒鉛化可能と称される。他の炭素材料(例えば、チャー及びいくつかの炭化した高分子)は、黒鉛に変換するために他の成分の添加を必要とする[1,2](非特許文献1、非特許文献2)。しかしながら、リチウムイオン電池における用途には、非常に特殊な要件が満たされる必要がある。非常に狭い範囲の特性を有する黒鉛材料のみが、現代の用途に必須の性能を達成することが可能である。黒鉛、触媒、及び残留チャーの混合物に達するために無数の可能性が存在する。しかしながら、そうした混合物のうちの限られた一部のみが、黒鉛へのさらなる処理及びリチウムイオン電池における最終的な使用に適した組成物をもたらす。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mochida, I., Ohtsubo, R., Takeshita, K. and Marsh, H.,「Catalytic graphitization of non-graphitizable carbon by chromium and manganese oxides」,Carbon,1980,18(2),p.117-123
【非特許文献2】Oya, A., Yamashita, R. and Otani, S.,「Catalytic graphitization of carbons by borons」,Fuel,1979,58(7),p.495-500
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、詳細には、市販の高性能リチウムイオン電池における使用に適した黒鉛粉末を製造するのに適切な組成物を開示する。本開示は、元素組成の必要な範囲だけでなく、区別可能な炭素同素体の相対量の必要な範囲を規定する。さらにまた、成分の各々の構造及び結晶状態に関連する特性が定義可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって、バイオ炭と、金属と、黒鉛との混合物を含む組成物が提供される。係る混合物は、それを高性能リチウムイオン電池アノード粉末に処理することを可能にする一連の独特な性能を有する。前記混合物を、また、他の用途において使用するための黒鉛粉末に処理してもよい。また、係る組成物を製造するための方法も開示する。
【0007】
一態様では、バイオ炭と、金属と、黒鉛との混合物を含む組成物が提供される。一実施形態では、前記混合物は、(a)約25重量%~約65重量%の間の黒鉛分と、(b)約15重量%~約75重量%の間の金属分と、(c)1重量%~35重量%の間のバイオ炭分とを有する。
【0008】
一実施形態では、前記黒鉛は、約0.3354nm~約0.3401nmの間の面間隔dを有する。
一実施形態では、前記黒鉛の電気化学容量が200mAh/g以上であり、より好ましくは、前記黒鉛の前記電気化学容量が300mAh/gより大きい。
【0009】
一実施形態では、前記黒鉛の比表面積が約0.2m2/g~約50m2/gの間である。より好ましくは、前記黒鉛の前記比表面積は、約20m2/g未満である。
一実施形態では、前記黒鉛は、60%より大きい「クーロン(Coulombic)」効率又は第一サイクル効率を示し、より好ましくは、80%より大きい。
【0010】
一実施形態では、前記混合物中の前記黒鉛分は、粒子形態である。
一実施形態では、前記混合物中の前記金属分は、粒子形態である。
一実施形態では、前記混合物中の前記バイオ炭分は、粒子形態である。
【0011】
一実施形態では、前記黒鉛分、前記金属分、及び前記バイオ炭分は、全て粒子形態である。
一実施形態では、前記混合物は、約25%~約75%の間の、バイオ炭及び黒鉛から構成されている炭素と、約75%~約25%の間の選択された金属とからなる元素組成を有する二元混合物である。
【0012】
一実施形態では、前記バイオ炭分は、約200℃~約1000℃の間の温度まで加熱された木質バイオマスに由来する。
一実施形態では、前記金属は、遷移金属である。一実施形態では、前記遷移金属は、クロム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、クロム、バナジウム、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0013】
一実施形態では、前記バイオ炭の成分の粒径は、約1mm未満である。
一実施形態では、前記金属の成分の粒径は、約1mm未満である。
一実施形態では、前記黒鉛の成分の粒径は、約1mm未満である。
【0014】
一実施形態では、全ての成分の粒径が1mm未満である。
一実施形態では、前記混合物における総黒鉛状炭素分は、約55重量%よりも大きい。
一態様では、上記に定義されたような混合物を製造するための方法であって、
i)200℃~1000℃の間の温度において粒子形態にあるバイオマスを熱処理して、粒状バイオ炭を形成する工程と、
ii)得られた前記バイオ炭を、湿潤形態又は乾燥形態にある粒状金属化合物と組み合わせて、前駆体混合物を生成する工程と、
iii)前記前駆体混合物を約400℃~約3000℃の間まで不活性条件下において加熱して、黒鉛含有混合物を形成する工程と、
iv)最終混合物を約1mm未満の粒径まで篩い分けて、(a)約25重量%~約65重量%の間の黒鉛分と、(b)約15重量%~約75重量%の間の金属分と、(c)1重量%~35重量%の間のバイオ炭分とを有する混合物を製造する工程と、を備える方法がある。
【0015】
一実施形態では、前記バイオマスは、水熱工程において水中において熱処理される。
一実施形態では、前記バイオマスは、乾燥熱分解工程において、不活性条件下において熱処理される。
【0016】
一実施形態では、前記バイオマスは、林地残材である。
一実施形態では、前記バイオマスは、おがくずである。
一実施形態では、前記バイオマスは、木材チップ又は任意の他の木材ベースの材料である。
【0017】
一実施形態では、前記バイオマスの粒子は、約10mm未満である。一実施形態では、前記バイオマスの粒子は、約1mm未満である。
一実施形態では、前記黒鉛、前記金属、及び前記バイオ炭の粒径は、篩い分け後に、全て、約1mm未満である。
【0018】
一実施形態では、前記方法は、前記混合物を酸浸出すること(又は他の手法)による精製工程と、得られた黒鉛試料を高純度の黒鉛まで洗浄及び濾過する工程と、などのさらなる工程を含むが、これらに限定されない。追加の工程は、性能をさらに向上させるために、高密度化工程又は球状化工程と、炭素コーティング工程と、を含んでよい。
【0019】
本発明の前述の及び他の態様又は利点は、本明細書において提供される詳細な説明、画像、分析結果及び性能試験結果を使用して当業者に明らかになり得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本明細書において記載される黒鉛試料を生成するために使用されるマイクロ波アプリケータの画像を示す図。
【
図2a】マイクロ波アプリケータにおける試料用るつぼの配置の画像を示す図。
【
図2b】高温における試料用るつぼの画像を示す図。
【
図3】例1において生成された黒鉛試料の走査電子像を示す図。
【
図4】例1において生成された黒鉛試料のXRD回折図。
【
図5】篩い分けによって除去された、例1において生成された大きな黒鉛の「球体(sphere)」の画像を示す図。
【
図6】例2において生成された黒鉛試料の走査電子像を示す図。
【
図7】例2において生成された黒鉛試料のXRD回折図。
【
図8】例3において生成された黒鉛試料の走査電子像を示す図。
【
図9】例3において生成された黒鉛試料のXRD回折図。
【
図10】例4において言及されている黒鉛試料のXRD回折図。
【
図11】例4において言及されている黒鉛試料の粒径分布を示す図。
【
図12】例4において言及されている黒鉛試料の電気化学的挙動を示す図。
【
図13】例5及び例6において生成された黒鉛試料のXRD回折図。
【
図14】リチウムイオン電池用の黒鉛アノード粉末へのバイオマスの変換全体を示すプロセス図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明は、多数の例示的な構成と、パラメータと、などを記載する。しかしながら、そうした説明は、本発明の範囲を限定することを意図するわけではなく、実施形態例の説明として提供されることが認識されるものである。
【0022】
本明細書において引用された特許及び特許出願を含むすべての参考文献は、参照により本明細書に援用される。どの参考文献も従来技術を構成することを認めるものではない。そしてまた、ニュージーランド、又は任意の他の国において、どの参考文献の議論も、そうした参考文献が分野における一般知識の一部を形成することを認めることを構成するものではない。
【0023】
定義
本明細書の各例において、説明、実施形態、例、及び特許請求の範囲において、用語「含んでいる(comprising,includingなど)」は、限定することなく、拡張的に読まれるべきである。ゆえに、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、明細書及び特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」などは、排他的な意味とは反対に包括的な意味において、すなわち、「含んでいるが、これに限定されない(including but not limited to)」という意味で解釈されるべきである。
【0024】
本明細書において使用される場合、冠詞「1つの(a,an)」は、冠詞の文法上の目的語のうちの1つ又は1つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を表すために使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素又は1つ以上の要素を意味すると解釈されることが可能である。
【0025】
用語「約(about又はapproximately)」は、所与の値を中心とするより広い範囲を示すために使用され、文脈から明らかでない限り、「約1.1」が1.0~1.2の範囲を意味するなど、最下位桁の周りのより広い範囲を意味する。最下位桁が不明瞭である場合、用語「約」は、2の因数を意味し、例えば、「約X」は、0.5×~2×の範囲における値を意味し、例えば、約100は、50~200の範囲における値を意味する。さらにまた、本明細書に開示される全ての範囲は、その中に包括される任意の及び全ての部分的な範囲を包含することを理解されるべきである。例えば、「10未満(less than 10)」の範囲は、最小値のゼロと、最大値の10と、の間(及びそれらを含んでいる)の任意の及び全ての部分的な範囲、すなわち、ゼロ以上の最小値及び10以下の最大値を有する任意の及び全ての部分的な範囲(例えば、1~4)を含むことが可能である。
【0026】
他に定義されない限り、本明細書において使用される科学技術用語及び専門用語は、本開示が関連する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
広い範囲を記載する数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の非限定的な例において記載される数値は、可能な限り正確に報告されている。しかしながら、任意の数値は、これを書いている時点においてはそれらのそれぞれの試験測定値において見出される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。さらにまた、文脈から明らかでない限り、本明細書に提示される数値は、最初の有効数字によって与えられる暗示された精度を有する。ゆえに、値1.105は、1.0~1.2の値を意味する一方、1.105×102によって与えられた110.5は、100~120の値を意味する。
【0027】
本明細書において使用される場合、用語「バイオ炭(biochar)」又は「炭素質チャー(carbonaceous char)」又は「チャー(char)」は、不活性雰囲気における炭素質材料の熱分解から生じる材料を意味するように互換的に使用される。
【0028】
本明細書において使用される場合、「非晶質(amorphous)」は、ある定義された単位格子の繰り返しから構成されている規則的な格子の形態における原子配列を有する結晶とは対照的に、長距離又は短距離の構造秩序性を有しない物質を意味する。
【0029】
本明細書において使用される場合、「同素体(allotrope)」は、同じ元素組成を有する(例えば純粋な炭素など)一方、異なる形態又は原子配置を有する(例えばダイヤモンド対黒鉛、又は非晶質バイオ炭/チャー対黒鉛)材料を意味する。
【0030】
本明細書において使用される場合、「熱処理された(thermally treated)」は、水熱分解及び乾燥熱分解を含むバイオ炭を生成するのに十分な温度においてバイオマスに対して適用される任意の熱処理プロセスを意味する。
【0031】
本明細書において使用される場合、リチウムイオン電池アノード粉末に関する「高性能(high performance)」は、200mAh/g以上の電気化学容量をもたらす0.3354nm~0.3401nmの間の面間隔dと、60%より大きな「クーロン」効率又は第一サイクル効率をもたらす約0.2m2/g~約50m2/gの間の比表面積とを有する黒鉛粉末を意味する。
【0032】
バイオ炭と、金属と、黒鉛とのコンポジット
本明細書に記載される新規な組成物は、バイオ炭と、金属と、黒鉛から構成されている。バイオ炭は、典型的には、木質バイオマスの熱分解に由来する。金属は、典型的には、有機金属化合物又は無機金属化合物の分解及び還元に由来する遷移金属である。黒鉛は、高結晶性であり、広範囲のモルフォロジー又は構造を有する。目的のコンポジットを製造するために、必要とされる前駆体(バイオ炭及び金属化合物)を混合し、400℃~3000℃の間の温度において60秒~20時間の間の浸漬時間にわたって加熱処理の手順に供する。
【0033】
一般的には、バイオ炭は、バイオマス出発材料(木材チップ、おがくず、林地残材若しくは林地廃棄物、又は任意の植物由来の原料など)を、不活性雰囲気(例えば、窒素)下において、200℃~1000℃の間の温度において、数秒(「高速(fast)」熱分解)~数時間までの間の期間にわたって熱分解することによって製造される。あるいは、バイオマスを、水熱アプローチを使用してチャーに変換することが可能である。ここで、チャー及び水を約360℃、約20MPaの圧力におけるオートクレーブに熱分解と同じ期間にわたって配置して、続いて乾燥することが可能である。全ての場合において、得られたチャーは、主に炭素元素から構成されており、いわゆる固定炭素分は少なくとも40%より大きい一方、より一般的には60%より大きい。残りは、一組のヘテロ原子(主に水素、酸素、窒素、及び硫黄)から構成されている。さらにまた、チャーは、加熱処理中に蒸発しないために十分高い分子量の脂肪族又は芳香族の炭化水素として定義される揮発性物質を含んでよい。正確な組成は、熱分解条件および選択されたバイオマス出発材料に依存し得る。係る材料は、慣習的に「グリーン(green)」チャーと呼ばれている。
【0034】
記載されるバイオ炭材料のいずれも、前述の前駆体混合物の生成のために選択されることが可能である。原料バイオマスを直接使用することが場合によっては可能であり、それは次いで、加熱処理の手順中にチャーに変換される。前駆体混合物(バイオ炭及び金属化合物)を前述の加熱処理の手順に供した後、チャーは、2つの手法において変化する。第1に、残りのヘテロ原子及び揮発性物質のうちの実質的に全てを除去し、実質的に炭素のみであり、固定炭素分がおよそ99%より多い材料を得た。係る材料は、慣習的に「か焼された(calcined)」又は「完全に炭化した(fully carbonized)」チャーと呼ばれている。第2に、炭素の質量が減少した。炭素は、前駆体混合物の一部を構成する有機金属化合物又は無機金属化合物のための還元剤として作用する。
【0035】
金属前駆体は、可能な無数の有機金属化合物又は無機金属化合物のうちのいずれか1つであってよい。化合物の金属成分は、好ましくは遷移金属(クロム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、クロム、バナジウム、又はそれらの任意の組み合わせなどであるが、これらに限定されない)である。しかしながら、金属成分は、また、非遷移金属(ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スズ、鉛など)から構成されてもよい。加熱処理すると、ほとんどの有機化合物及びいくつかの無機化合物は、分解して、金属酸化物を形成し得る。しかしながら、これは必要条件ではなく、唯一の重要な必須条件は、元の化合物又は形成された中間化合物が、加熱処理プロセス中にその金属状態に還元されることが可能であることである。還元は、典型的に、不活性雰囲気下において、前述の炭素(チャー)成分の存在下で達成される。係るプロセスによって、気体としての非金属元素の損失及び化合物に対する金属の密度の増加のために、固体質量及び粒径が減少する(ほとんどの場合において)。
【0036】
元素状金属を400℃~3000℃の間の温度において不活性条件下で炭素源(チャーなど)に対して暴露するとき、触媒変換のプロセスが起こり得る。これにより、「完全に炭化した」非晶質のチャーを高結晶性黒鉛に経時的に変換し得る。そうすることで、純粋な炭素の1つの同素体を別の同素体に変換する。黒鉛の形成の程度及び速度は、選択された金属に高く依存する一方で、主にバイオマスは完全に炭化しているので、バイオマスの最初の選択には比較的影響を受けにくい。触媒的変換の正確なメカニズムは、依然不明であるが、2つの妥当な仮説(すなわち、溶解-沈殿及び炭化物形成-分解)が提唱されている。前者では、炭素源を金属に溶解して、黒鉛が、その自由エネルギー又は構造秩序性のレベルにおける差のために自発的に沈殿する。後者では、不安定な金属炭化物が形成されて、これが自発的に分解して黒鉛を生じる。正確な形成メカニズムは、本発明の組成物と関連性を有しない。
【0037】
選択された加熱処理温度及び浸漬時間に応じて、変化する量のチャーが黒鉛に変換され得る。全体として、本発明の新規な組成物は、その元素組成によって定義されることが可能である。バイオ炭成分が完全に炭化され、およそ99%を超える炭素を含有し、黒鉛が、また、純粋な炭素の同素体でもあるという事実を考慮すれば、コンポジットは、25%~75%の間の炭素と、選択された純粋な金属から構成されている残りとの元素組成を有する二元混合物である(合金が使用されていない場合)。
【0038】
第2の例では、炭素は、その2つの同素体(すなわち、残留チャー及び形成された黒鉛)に細分されてよい。黒鉛の相対量(存在する炭素の百分率として)は、約55重量%~約99.9重量%の間であってよく、残留チャーが残りの約45%~約0.1重量%を占める。黒鉛状材料については、係る百分率は、また、「総黒鉛状炭素(total graphitic carbon)」又は「TGC」としても知られている。
【0039】
黒鉛結晶の理想的なモデル構造は周知であるが、実際の黒鉛状材料がそうした結晶完全性を達成することは稀である。結晶不完全性の重要な指標は、いわゆる「面間隔d(d-spacing)」、すなわち、黒鉛構造を含んでいるグラフェン層の層間距離である。ロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)[3]は、非黒鉛状(すなわち、非晶質の)炭素の層間間隔を0.3440nmとして定義し、黒鉛が0.3354nmの層間間隔を有すると定義した。実際の黒鉛状材料は、その間のどこかに属する。選ばれた条件及び選択された金属前駆体に応じて、達成される面間隔dが変化し得る。考慮中の新規な組成物については、必要とされる面間隔dが0.3354nm~0.3401nmとして指定されてよい。
【0040】
元素組成及び各成分の形態又は同素体に加えて、新規な組成物は、各元素の構造によってさらに定義されることが可能である。加熱処理の手順中に、金属粒子が凝集して、サイズが大きくなる傾向がある。本発明の組成物については、金属粒子が特定の臨界値未満に留まることが必要である。より小さな粒子は、比表面積がより高いため、続く精製工程により適している。したがって、一般的に、混合物中の全ての成分の粒径が1mm未満である必要がある。
【0041】
しかしながら、特定の条件下において、少量の非常に大きな金属粒子(極端な場合には数cmまで)が時々形成されることがある。これは、効果的でない雰囲気制御、加熱速度の選択、システムの幾何学的配列などの要因により得る。これらの大きな粒子は、混合物のごく一部(金属成分の10重量%未満)を構成するのみである。これらを除去するために、加熱処理の後に、コンポジット全体を1mm以下の粒径までスクリーニングする(screened)か篩い分け(sieved)てよい。コンポジットが異常な構成を含む場合、そうした構成は全体の分布の少ない割合を構成するだけであるので、そうしたコンポジットは依然として本発明の組成物に含まれると考えられてよい。
【0042】
前述の混合物を製造するための方法の以下の説明は、例示及び説明の目的のために提示される。これは網羅的なものではなく、該方法を開示された明確な形態に限定するものではない。修正および変形が本開示を考慮して可能であるか、これらの方法の実施から得られてよい。
【0043】
均等な分布を確実にするために、選択されたバイオ炭及び選ばれた金属化合物を必要であれば粉砕してよい。2つの前駆体(バイオ炭及び金属成分)を、次いで、約0.1重量/重量~約10重量/重量の間の比において混合する。これは、湿潤条件下又は乾燥条件下において行われることが可能である。混合物を炉、オーブン、キルン、反応容器、又は類似物において400℃~3000℃の間の温度まで加熱する。加熱は、加熱抵抗電気素子、マイクロ波、又は高周波電磁界の誘導結合によって達成されてよい。選択された加熱方法は、しかしながら、十分な変換及び一貫した製品品質を終始確実にするように、材料塊全体の均一な加熱を確実にする必要がある。ゆえに、試料浸透が制限されるレーザー又は電磁波などの表面加熱技術は除外される。そうした技術は、係る組成物についての必要条件として本明細書に記載される炭素成分についての高い総黒鉛状炭素(TGCが55重量%より大きい)を達成し得ない。混合物を不活性雰囲気下において1分~20時間の間の期間、浸漬する。この時間の後、混合物を冷却し、炉から取り出し、1mm未満の粒径まで篩い分けて、所望の性質を有する前記混合物を製造する。
【0044】
混合物の前述された性質は、物理的性質及び性能特性の最終セットを達成するために望ましく、得られた黒鉛がリチウムイオン電池における高性能アノードとして使用されることを可能にする。コンポジットを、これらの性質のうちのいくつかの測定を可能にするためにさらに処理することが可能である。1つのそうした工程は、金属成分の除去である。金属の相対量及びサイズによって、酸浸出を使用するその迅速な除去が可能になる。小さな粒子(1mm未満)によって、酸への効率のよい暴露が可能になる一方で、25重量%~75重量%の間の選ばれた投入量によって浸出時間が過剰にならないことが確実になる。99.5重量%の炭素を超える非常に高い純度を数時間以内に達成することが可能である。金属分が減少する場合、急速な浸出も可能である一方、黒鉛への変換が不十分となり、それによって他の電池アノード性質を損ない得る。
【0045】
例えば、高性能リチウムイオン電池アノード材料のための優先仕様は、達成可能な電気化学容量である。面間隔dにおける減少が電気化学容量における減少をもたらすことは、学術文献[4,5]において決定的に実証されている。加熱処理されたチャーが黒鉛よりも低い容量を示し[6]、ゆえに、TGCが高いほど、達成される容量が高くなる。混合物に由来する高純度で高結晶性の黒鉛(TGCが55重量%より大きい)は、200mAh/gを超える黒鉛の容量、372mAh/g程度の大きさの黒鉛の容量を達成することが可能であり、それゆえに、リチウムイオン電池の必要条件を満たす。
【0046】
高性能リチウムイオン電池アノード材料のための第2の重大な仕様は、いわゆる「第一サイクル効率(first cycle efficiency)」又は「クーロン効率(Coulombic efficiency)」である。「クーロン効率」が黒鉛粉末の比表面積に直接相関することが実証されている[5]。比表面積は、バイオマス源の選択を含む広範な要因に依存する。バイオマス構造において存在する構造及び固有のポロシティは、大部分は、混合物中に存在する黒鉛までプロセス全体を通して持続し得る。0.2m2/g~50m2/g以下の黒鉛の表面積範囲が満足な「クーロン効率」を達成するために望ましい。係る新規な混合物組成物コンポジット由来の高純度で高密度の黒鉛は、60%より大きな「クーロン効率」、99%程度の大きさの「クーロン効率」を達成し、それにより、リチウムイオン電池のための必要条件を満たす。
【0047】
例
本明細書に記載されている例は、本発明の特定の実施形態を例示する目的で提供され、決して本発明を限定する意図ではない。本明細書に記載されている例が方法を説明するために使用されているが、そうした詳細は単にこの目的のためであり、プロセス全体の趣旨及び範囲から逸脱することなく、当業者によってその中で変形がなされてよいことが理解される。
【0048】
これらの試料を製造するために使用されたマイクロ波実験室セットアップを以下のように説明し得る。カスタム設計されたマイクロ波アプリケータを使用して、試料を3kWの最大電力入力において2000℃までの温度まで加熱する。アプリケータの配置を
図1において示す。マイクロ波発生器は、WR340導波管自動整合器と、PTFEの窓と、受動型結合要素とを介してアプリケータに電力を受け渡す。マイクロ波発生器は、2.45GHzのYJ1600ベースの源(サイレム(Sairem))である。試料をるつぼ内に置き、特定の放射分布を得るために特定の所定の高さにおいて、通常「ピラー(pillar)」、すなわち、スタンド上において、アプリケータ内に配置する(
図2a参照)。ユニットを密封し、窒素ガス(純度99.9%)を使用して高流量において約1時間パージして、不活性雰囲気を確立し、次いで、より低いパージ流量を使用して不活性雰囲気を維持する。この後、電力を30W/分の速度において徐々に印加して、試料をゆっくり加熱し、所望の最終電力において定常状態を急速に達成する。所望の温度を達成するために、定常電力の設定を選ぶ。最終電力レベルを、次いで、所望の結果に応じて、特定の時間にわたって保持する。
図2bに示されているように、この時点において、試料が赤熱しており、るつぼの表面温度を、手持ち式高温計を使用してのぞき窓を通して測定することが可能である。高温計の示度が、高レベルの変動及び不確実性を示したので、下記の適用可能な例において温度帯を報告する。電力を次いで所与の時間枠にわたって一定に維持し、その後、該発生器をオフにして、得られた混合物試料を除去するために放冷した。
【0049】
例1
マツ(ラジアータ・パイン(pinus radiata))のおがくず(50g)を360℃の温度において20分間オートクレーブにおいて脱イオン水を用いて水熱処理した。試料を放冷して、次いで、ブフナー漏斗を使用して濾過して、得られたチャーを従来のオーブンにおいて乾燥した。炭素分が約80%である乾燥チャー(17.5g)を9.4gの酢酸マンガン(四水和物)と化合させた。得られた混合物をるつぼ中に置いて、マイクロ波アプリケータへ移した。不活性条件を上記のように窒素ガスを使用して確立して、電力を約30W/分の速度において1.9kWまで徐々に増加させた。温度を測定したところ、1700℃-1900℃の間であった。電力を約5~10分間にわたって一定に維持し、その後、マイクロ波アプリケータへの電力を遮断して、得られた混合物を製造した。冷却した後、試料を1mm未満まで篩い分けて、混合物中のいくつかの大きな金属粒子を除去した。この時点において、混合物の組成をテーブル1に示されるように計算することが可能である。これを500mLの濃塩酸で終夜浸出して、次に脱イオン水で洗浄するとともにブフナー漏斗で濾過して、黒鉛を製造した。得られた黒鉛をXRD(コバルトKα線(加重平均波長0.1709026nm)のミラー由来の1mm高平行ビームを使用するブルカー(Bruker) D8 Advance回折計)と、SEM(1kV~10kVの加速電圧において動作するインレンズ検出システムを備える超高分解能電界放出顕微鏡:ツァイス ウルトラ プラス(Zeiss Ultra Plus) 55 FEGSEMを使用。1mm~5mmの間の作動距離を使用し、追加の試料調製なしに粉末をカーボンテープ上に軽く置いた。)とを使用して分析した。XRDスペクトルを
図4に示す。XRDスペクトルは、0.3355nmの面間隔dを示し、これに加えて黒鉛のピーク以外のピークがないので、試料が90重量%を超える黒鉛(炭素)純度を有すると結論付けることが可能である。さらにまた、XRDスペクトルが低角度における非晶質炭素の広く、低強度のピークを欠いているので、炭素のうちの20%未満が黒鉛状ではないと結論付けることが可能である。得られた黒鉛の試料を同定し、26.8m
2/gの比表面積を有することを見出した。形成された黒鉛の構造は
図3に示されており、規則性の高い黒鉛結晶を有する大きな、フレーク状の異方性材料を示している。係る実験によって、混合物中にいくつかの大きな金属粒子が製造された。その例を
図5に示す。
テーブル1-例1-混合物の組成
【0050】
【0051】
XRDの結果に基づいて、炭素のうちの80%が黒鉛状であると仮定することが可能であり、ゆえに、混合物の組成は以下の通りであると言える。すなわち、
(a)約66重量%の黒鉛分、
(b)約18重量%の金属分、及び
(c)約16重量%のバイオ炭分。
【0052】
例2
マツ(ラジアータ・パイン)のおがくず(50g)を360℃の温度において20分間オートクレーブにおいて脱イオン水を用いて水熱処理した。試料を放冷して、次いで、ブフナー漏斗を使用して濾過して、得られたチャーを従来のオーブンにおいて乾燥した。炭素分が約80%である乾燥チャー(10.1g)を8.2gの酢酸マンガン(四水和物)と化合させた。得られた混合物をるつぼ中に置いて、マイクロ波アプリケータへ移した。不活性条件を確立して、電力を約30W/分の速度において1.3kWまで徐々に増加させた。温度を測定したところ、1400℃-1600℃の間であった。電力を約5~10分間にわたって一定に維持し、その後、電力を遮断した。冷却した後、試料を1mm未満まで篩い分けた。この時点において、混合物の組成をテーブル2に示されるように計算することが可能である。これを500mLの塩酸で終夜浸出して、次に脱イオン水で洗浄するとともにブフナー漏斗で濾過した。得られた黒鉛をXRD(コバルトKα線(加重平均波長0.1709026nm)のミラー由来の1mm高平行ビームを使用するブルカー D8 Advance回折計)と、SEM(1kV~10kVの加速電圧において動作するインレンズ検出システムを備える超高分解能電界放出顕微鏡:ツァイス ウルトラ プラス 55 FEGSEMを使用。1mm~5mmの間の作動距離を使用し、追加の試料調製なしに粉末をカーボンテープ上に軽く置いた。)とを使用して分析した。XRDスペクトルを
図7に示す。XRDスペクトルは、0.3392nmの面間隔dを示し、これに加えて黒鉛のピーク以外のピークがないので、試料が90重量%を超える黒鉛(炭素)純度を有すると結論付けることが可能である。さらにまた、XRDスペクトルが低角度における非晶質炭素の広く、低強度のピークを欠いているので、炭素のうちの20%未満が黒鉛状ではないと結論付けることが可能である。黒鉛の試料を同定し、74.0m
2/gの表面積を有することを見出した。形成された黒鉛の構造は
図6に示されており、より小さく、ランダムな結晶子及びより等方性の構造を有する材料を示している。
テーブル2-例2-混合物の組成
【0053】
【0054】
XRDの結果に基づいて、炭素のうちの80%が黒鉛状であると仮定することが可能であり、ゆえに、混合物の組成は以下のとおりであると言える。すなわち、
(a)約60重量%の黒鉛分、
(b)約25重量%の金属分、及び
(c)約15重量%のバイオ炭分。
【0055】
例3
マツ(ラジアータ・パイン)のおがくず(50g)を360℃の温度において20分間オートクレーブにおいて純水を用いて水熱処理した。試料を放冷して、次いで、ブフナー漏斗を使用して濾過して、得られたチャーを従来のオーブンにおいて乾燥した。炭素分が約80%である乾燥チャー(26.7g)を16.2gの酢酸マンガン(四水和物)と化合させた。得られた混合物をるつぼ中に置いて、マイクロ波アプリケータへ移した。不活性条件を確立して、電力を約30W/分の速度において1.3kWまで徐々に増加させた。温度を測定したところ、1400℃-1600℃の間であった。電力を約30~40分間にわたって一定に維持し、その後、電力を遮断した。冷却した後、試料を1mm未満まで篩い分けた。この時点において、混合物の組成をテーブル3に示されるように計算することが可能である。これを500mLの塩酸で終夜浸出して、次に脱イオン水で洗浄するとともにブフナー漏斗で濾過した。得られた黒鉛をXRD(コバルトKα線(加重平均波長0.1709026nm)のミラー由来の1mm高平行ビームを使用するブルカー D8 Advance回折計)と、SEM(1kV~10kVの加速電圧において動作するインレンズ検出システムを備える超高分解能電界放出顕微鏡:ツァイス ウルトラ プラス 55 FEGSEMを使用。1mm~5mmの間の作動距離を使用し、追加の試料調製なしに粉末をカーボンテープ上に軽く置いた。)とを使用して分析した。XRDスペクトルを
図9に示す。XRDスペクトルは、0.3360nmの面間隔dを示し、これに加えて黒鉛のピーク以外のピークがないので、試料が90重量%を超える黒鉛(炭素)純度を有すると結論付けることが可能である。黒鉛の試料を同定し、50.2m
2/gの表面積を有することを見出した。さらにまた、XRDスペクトルが低角度における非晶質炭素の広く、低強度のピークを欠いているので、炭素のうちの20%未満が黒鉛状ではないと結論付けることが可能である。形成された黒鉛の構造は
図8に示されており、フレーク状の粒子と、より等方性の構造を有するより小さく、ランダムな結晶子との間の中間物を示している。
テーブル3-例3-混合物の組成
【0056】
【0057】
XRDの結果に基づいて、炭素のうちの80%が黒鉛状であると仮定することが可能であり、ゆえに、混合物の組成は以下の通りであると言える。すなわち、
(a)約64重量%の黒鉛分、
(b)約20重量%の金属分、及び
(c)約16重量%のバイオ炭分。
【0058】
例4
例1~例3に記載されているものと同様の条件下におけるいくつかの実施試験からの黒鉛を混合して一体とし、電池試験のための大きな試料を生成した。この混合した試料を、XRDを使用して分析して、
図10に示すように約0.3378nmの面間隔dを有することを見出した。表面積を測定したところ、52.85m
2/gであった。粒径分布を検証し、
図11に実証されているように材料が29.22μmの平均粒径を有することが見出された。リチウムイオン電池の性能を次のように検証した。すなわち、黒鉛を適当な結合剤を使用して銅箔上にコーティングした。乾燥後、パンチ及びマレットを使用して円形ディスクを切断した。これらを金属リチウム箔と結合して、コインセルを形成した。LiPF
6及び炭酸エチレンからなる有機電解質を不活性条件下において導入した。コインセルを密封し、ポテンショスタットを使用して試験した。CR2016コインセルにおける試験の後に、電気化学データを手動で収集するとともに分析した。
図12は、一定の電流レートにおけるC/20(Cは、372mAh/gである黒鉛の理論容量である)における第一充放電サイクルを示す。ハーフセルにおけるカーボンスケープ(CarbonScape)黒鉛について第一放電サイクルから得られた比容量は、410.87mAh/gである一方、充電容量は、275mAh/gである。これにより、66.46%の第一サイクル効率又は「クーロンの(Coloumbic)」効率が与えられ、ゆえに、黒鉛は、リチウムイオン電池における使用に適した性質を示す。
【0059】
例5
マツ(ラジアータ・パイン)のおがくず(およそ10g)を約17.6gの酢酸マンガン(四水和物)と化合させた。得られた混合物をるつぼ中に置いて、従来の電気加熱炉(RD WEBB Aircooled Vacuum Furnace モデルRD-G)において加熱した。不活性条件を、アルゴンガス(99.9%より大きい)を用いてパージすることによって確立して、温度を10℃/分の上昇率において上昇させた。最終温度を1750℃に設定した。温度を180分間にわたって一定に維持し、その後、炉をオフにした。冷却した後、試料を1mm未満まで篩い分けた。この時点において、混合物の組成をテーブル4に示されるように計算することが可能である。これを500mLの塩酸で終夜浸出して、次に脱イオン水で洗浄するとともにブフナー漏斗で濾過した。得られた黒鉛をXRD(コバルトKα線(加重平均波長0.1709026nm)のミラー由来の1mm高平行ビームを使用するブルカー D8 Advance回折計)を使用して分析した。XRDスペクトルを
図13に示す。XRDスペクトルは、0.3358nmの面間隔dを示し、これに加えて黒鉛のピーク以外のピークがないので、試料が90重量%を超える黒鉛(炭素)純度を有すると結論付けることが可能である。面間隔dと放電容量との間の確立した相関関係[5]を使用して、係る材料が約351mAh/gの電気化学容量を有することが推定されてよい。さらにまた、XRDスペクトルが低角度における非晶質炭素の広く、低強度のピークを欠いているので、炭素のうちの20%未満が黒鉛状ではないと結論付けることが可能である。黒鉛の試料を同定し、5.439m
2/gの想定外に低い表面積を有することを見出した。「クーロン効率」と比表面積との間の確立した相関関係[5]を使用して、係る材料が約85%の「クーロン効率」を有することが推定されてよい。
テーブル4-例5-混合物の組成
【0060】
【0061】
XRDの結果に基づいて、炭素のうちの80%が黒鉛状であると仮定することが可能であり、ゆえに、混合物の組成は以下の通りであると言える。すなわち、
(a)約27重量%の黒鉛分、
(b)約66重量%の金属分、及び
(c)約7重量%のバイオ炭分。
【0062】
例6
ニュージーランドにおける「ソリッド・エナジー(Solid Energy)」社の熱分解された硬質木炭(およそ10g)を粉砕して、200μm未満まで篩い分けた。炭素分が約70%であるチャーを約6.6gの酸化マンガンと化合させた。得られた混合物をるつぼ中に置いて、従来の電気加熱炉(RD WEBB Aircooled Vacuum Furnace モデルRD-G)において加熱した。不活性条件を、アルゴンガス(99.9%より大きい)を用いてパージすることによって確立して、温度を10℃/分の上昇率において上昇させた。最終温度を1750℃に設定した。温度を180分間にわたって一定に維持し、その後、炉をオフにした。冷却した後、試料を1mm未満まで篩い分けた。この時点において、混合物の組成をテーブル5に示されるように計算することが可能である。これを500mLの塩酸で終夜浸出して、次に脱イオン水で洗浄するとともにブフナー漏斗で濾過した。得られた黒鉛をXRD(コバルトKα線(加重平均波長0.1709026nm)のミラー由来の1mm高平行ビームを使用するブルカー D8 Advance回折計)を使用して分析した。また、係る試料についてのXRDスペクトルも
図13に示す。XRDスペクトルは、0.3362nmの面間隔dを示し、これに加えて黒鉛のピーク以外のピークがないので、試料が90重量%を超える黒鉛(炭素)純度を有すると結論付けることが可能である。面間隔dと放電容量との間の確立した相関関係[5]を使用して、係る材料が約346mAh/gの電気化学容量を有することが推定されてよい。さらにまた、XRDスペクトルが低角度における非晶質炭素の広く、低強度のピークを欠いているので、炭素のうちの20%未満が黒鉛状ではないと結論付けることが可能である。黒鉛の試料を同定し、ただ0.204m
2/gだけの非常に低い表面積を有することを見出した。「クーロン効率」と比表面積との間の確立した相関関係[5]を使用して、係る材料が約96%の「クーロン効率」を有することが推定されてよい。
テーブル5-例6-混合物の組成
【0063】
【0064】
XRDの結果に基づいて、炭素のうちの80%が黒鉛状であると仮定することが可能であり、ゆえに、混合物の組成は以下の通りであると言える。すなわち、
(a)約53重量%の黒鉛分、
(b)約34重量%の金属分、及び
(c)約13重量%のバイオ炭分。
【0065】
プロセス全体の概略的なアウトラインは、
図14において示され、そこで、粒子形態にあるバイオマス(1)は、電池アノードにおける使用に適した黒鉛粉末(4)まで処理される。バイオマス(1)を粒子形態にあるバイオ炭(2)に変換する。バイオ炭(2)を、次いで、粒子形態にある金属と化合させて、加熱処理し、組成物(3)を形成する。バイオ炭と黒鉛と金属との混合物の組成物(3)を、次いで、使用して、黒鉛粉末(4)を形成する。黒鉛粉末(4)を例において上記に記載したような混合物(3)の処理によって生成する。
【0066】
例及び
図14から分かるように、高性能リチウムイオン電池アノード粉末として使用されるのに適当な性能を有する黒鉛粉末を達成することが可能である。従来の天然黒鉛及び合成黒鉛と比較して、プロセスの独特な開始点のために、得られるアノード粉末は、その構造及び性能に関して独特であることが見出されている。このため、達成された黒鉛粉末は、特徴的な一連の性能特性を示し、特定のリチウムイオン電池用途において、天然黒鉛と合成黒鉛との両方より性能が優れていることが可能である。加えて、本発明の黒鉛は、負のCO
2排出フットプリントを有する唯一の材料である。これにより、本発明の黒鉛が環境に優しい選択肢になる。
【0067】
【国際調査報告】