(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】電力半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 29/74 20060101AFI20240329BHJP
H01L 29/747 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H01L29/74 F
H01L29/747
H01L29/743
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553049
(86)(22)【出願日】2022-01-31
(85)【翻訳文提出日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 EP2022052225
(87)【国際公開番号】W WO2022184353
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【氏名又は名称】山下 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベムラパティ,ウママヘスワラ
(72)【発明者】
【氏名】ロフィティス,ネオファイトス
(72)【発明者】
【氏名】ボベッキー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウドレア,フローリン
(72)【発明者】
【氏名】スティアスニー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】コルバシェ,キアラ
(72)【発明者】
【氏名】アントニウ,マリナ
【テーマコード(参考)】
5F005
【Fターム(参考)】
5F005AA01
5F005AA03
5F005AC00
5F005AC01
5F005AC02
5F005AE01
5F005AH01
5F005DA00
5F005DA01
5F005EA00
(57)【要約】
電力半導体デバイス(1)は、カソード電極(2)と、第1の導電率タイプのカソード領域(9)と、第2の導電率タイプのベース層(8)と、第1の導電率タイプのドリフト層(7)と、第2の導電率タイプのアノード層(5)と、アノード電極(3)と、ゲート電極(4)とを含むゲート整流サイリスタセル(20)を備えている。ベース層(8)は、カソード領域(9)とドリフト層(7)の間に配置された、第1の深さ(D1)を有するカソードベース領域(81)と、ゲート電極(4)とドリフト層(7)の間に配置された、第2の深さ(D2)を有するゲートベース領域(82)と、カソードベース領域(81)とゲートベース領域(82)の間に配置された、第1の深さ(D1)と第2の深さ(D2)の間である2つの異なる値の第3の深さ(D3)を有する中間ベース領域(83)とを備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート整流サイリスタセル(20)と、第1の主面(21)と、前記第1の主面(21)とは反対側の第2の主面(22)とを備える電力半導体デバイス(1)であって、前記ゲート整流サイリスタセル(20)が、前記第1の主面(21)から前記第2の主面(22)への順に、
- 前記第1の主面(21)に配置されたカソード電極(2)と、
- 第1の導電率タイプのカソード領域(9)と、
- 前記カソード領域(9)への第1の接合(31)を形成する、前記第1の導電率タイプとは異なる第2の導電率タイプのベース層(8)と、
- 前記ベース層(8)との第2の接合(32)を形成する前記第1の導電率タイプのドリフト層(7)と、
- 前記第2の導電率タイプのアノード層(5)と、
- 前記第2の主面(22)に配置されたアノード電極(3)と
を備え、前記ゲート整流サイリスタセル(20)が、前記カソード領域(9)に対して横方向に配置されるゲート電極(4)をさらに備え、
前記ベース層(8)が、
- 前記カソード領域(9)と前記ドリフト層(7)の間に配置された、第1の深さ(D1)を有するカソードベース領域(81)と、
- 前記ゲート電極(4)と前記ドリフト層(7)の間に配置された、第2の深さ(D2)を有するゲートベース領域(82)と、
- 前記カソードベース領域(81)と前記ゲートベース領域(82)の間に配置された、少なくとも2つの異なる値の第3の深さ(D3)を有する中間ベース領域(83)と
を備え、
前記少なくとも2つの値の前記第3の深さ(D3)は、いずれも前記第1の深さ(D1)より深く、前記第2の深さ(D2)より浅く、
前記ゲートベース領域(82)の最大ドーピング濃度が前記中間ベース領域(83)の最大ドーピング濃度より高く、
前記中間ベース領域(83)の前記最大ドーピング濃度が前記カソードベース領域(81)の最大ドーピング濃度より高い、
電力半導体デバイス(1)。
【請求項2】
中間ベース領域(83)が、一方の側の前記ゲート電極(4)と前記カソード領域(9)との間のギャップと、他方の側の前記第2の接合(32)との間の領域を含む、
請求項1に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項3】
前記中間ベース領域(83)が、
- 前記ゲート電極(4)と前記第2の接合(32)の間の隣接する領域および、
- 前記カソード領域(9)と前記第2の接合(32)の間の隣接する領域
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項2に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項4】
前記第1の主面(21)に最も近いエリアにおける前記ゲートベース領域(82)の最大ドーピング濃度が前記第1の主面(21)に最も近い前記カソードベース領域(81)の最大ドーピング濃度より高い、
請求項1から3のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項5】
前記第1の深さ(D1)が前記カソードベース領域(81)の最低深さであり、
前記第2の深さ(D2)が前記ゲートベース領域(82)の最高深さである、
前記少なくとも2つの値の前記第3の深さ(D3)が前記第1の深さ(D1)より深く、かつ、前記第2の深さ(D2)より浅い、
請求項1から4のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項6】
前記第1の深さ(D1)が前記ドリフト層(7)までの前記カソード領域(9)の最短距離であり、
前記第2の深さ(D2)が前記ドリフト層(7)までの前記ゲート電極(4)の最長距離であり、
前記少なくとも2つの値の前記第3の深さ(D3)が前記第1の深さ(D1)より深く、かつ、前記第2の深さ(D2)より浅い、
請求項1から5のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項7】
前記第1の深さ(D1)が5μmと110μmの間の範囲の値を有する、
請求項1から6のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項8】
前記第2の接合(32)のうちの前記カソードベース領域(81)と前記ドリフト層(7)の間に配置されている部分が少なくとも部分的に第1の平面に配置され、
前記第2の接合(32)のうちの前記ゲートベース領域(82)と前記ドリフト層(7)の間に配置されている部分が少なくとも部分的に第2の平面に配置され、
前記第2の接合(32)のうちの前記中間ベース領域(83)と前記ドリフト層(7)の間に配置されている部分が前記第1の平面と前記第2の平面の間に配置される、
請求項1から7のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項9】
前記第2の接合(32)のうちの前記中間ベース領域(83)と前記ドリフト層(7)の間に配置されている前記部分が、
- 階段を形成している第1のベース移行領域(10)と、
- 他の階段を形成している第2のベース移行領域(11)と、
- 前記第1のベース移行領域(10)と前記第2のベース移行領域(11)の間の平面と
を含む、
請求項1から8のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項10】
前記カソード領域(9)の幅(W1)が50μmと250μmの間の範囲である、
請求項1から9のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項11】
前記カソード領域(9)の幅(W1)と前記ゲート電極(4)の幅(W2)の差が10μmから70μmの範囲である、
請求項1から10のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項12】
前記第1の主面(21)では、前記カソード領域(9)が、円、矩形、八角形および六角形を含むグループのうちの形態を有する、
請求項1から11のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項13】
前記アノード層(5)がゲートアノード領域(51)およびカソードアノード領域(52)を含み、前記ゲートアノード領域(51)の最大ドーピング濃度が前記カソードアノード領域(52)の最大ドーピング濃度未満である、
請求項1から12のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項14】
前記ゲート整流サイリスタセル(20)が前記第1の導電率タイプのバッファ層(6)を備え、
前記バッファ層(6)が前記ドリフト層(7)と前記アノード層(5)の間に配置され、また、ゲートバッファ領域(61)およびカソードバッファ領域(62)を含み、
前記ゲートバッファ領域(61)の最大ドーピング濃度が前記カソードバッファ領域(62)の最大ドーピング濃度より高い、
請求項1から13のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【請求項15】
前記ゲート整流サイリスタセル(20)が、非対称集積ゲート整流サイリスタセル(100)(非対称IGCT)、逆導通集積ゲート整流サイリスタセル(104)(RC-IGCTセル)、逆阻止集積ゲート整流サイリスタセル(109)(RB-IGCTセル)、および双方向性ターンオフサイリスタセル(110)(BTTセル)を含むグループのうちの構成要素として実現される、
請求項1から14のいずれか1項に記載の電力半導体デバイス(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電力半導体デバイスに関する。
本開示は電力半導体デバイスの分野に関し、より詳細には、それには限定されないが高電圧電力半導体デバイスに関する。電力半導体デバイスは、例えばゲートを介してターンオフさせることができる4層npnp能動サイリスタ構造を含む。電力半導体デバイスは、1つのゲート整流サイリスタセルまたは複数のゲート整流サイリスタセルを備えることができる。
【背景技術】
【0002】
文書US7816706B2は電力半導体デバイスを記述している。
刊行物「High Temperature Operation of HPT+IGCTs」、M.Arnoldら、proceedings of PCIM Europe、May17-19,2011、Germanyは、IGCTで略称される集積ゲート整流サイリスタ(integrated gate-commutated thyristor)に関している。
【0003】
文書CN108242465Aは、ゲート整流サイリスタおよびその供給方法を記述している。TOBIAS WIKSTROMらによる文書「The Corrugated P-Base IGCT-a New Benchmark for Large Area SQA Scaling」、POWER SEMICONDUCTOR DEVICES AND IC’S,2007.ISPSD’07.19THINTERNATIONAL SYMPOSIUM ON,IEEE,PI、1 May2007(2007-05-01)、29~32ページ、XP031129660、ISBN:978-1-4244-1 095-8は、並外れた安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)を有するIGCTを記述している。文書EP2622639B1は逆導通電力半導体デバイスを記述している。文書CN104795439Bはゲート整流サイリスタチップを記述している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の実施形態は、改善されたターンオフ性能を有する電力半導体デバイスの提供に関している。
【0005】
実施形態によれば、電力半導体デバイスは、ゲート整流サイリスタセルと、第1の主面と、第1の主面とは反対側の第2の主面とを備える。ゲート整流サイリスタセルは、第1の主面から第2の主面への順に、第1の主面に配置されたカソード電極と、第1の導電率タイプのカソード領域と、カソード領域への第1の接合を形成する第2の導電率タイプのベース層と、ベース層との第2の接合を形成する第1の導電率タイプのドリフト層と、第2の導電率タイプのアノード層と、第2の主面に配置されたアノード電極とを備える。第2の導電率タイプは第1の導電率タイプとは異なっている。ゲート整流サイリスタセルは、カソード領域に対して横方向に配置されるゲート電極をさらに備える。ベース層は、カソード領域とドリフト層の間に配置された、第1の深さを有するカソードベース領域と、ゲート電極とドリフト層の間に配置された、第2の深さを有するゲートベース領域と、カソードベース領域とゲートベース領域の間に配置された、少なくとも2つの異なる値の第3の深さを有する中間ベース領域とを備える。少なくとも2つの値の第3の深さは、いずれも第1の深さより深く、第2の深さより浅い。
【0006】
ゲート整流サイリスタセルは、3つ以上の全く異なるベース領域を含むことが有利である。カソードベース領域は最良のオン状態性能に対して最適化することができ、ゲートベース領域は最良のターンオフ性能に対して構成することができ、また、中間ベース領域は最適化における余分の1自由度をもたらし、本質的にゲートベース領域およびカソードベース領域の個別の最適化を可能にし、したがってゲート整流サイリスタセルは、より低いオン状態電圧および大きいターンオフ電流能力の両方を達成する。
【0007】
「深さ」は、本明細書においては、第1の主面から第2の主面の方向に測定された厚さとして理解される。
【0008】
第1の主面および/または第2の主面は、製造公差の限界内で平らにすることができる。
【0009】
第2の接合は以下のような形状を有することができる。ゲートベース領域の上方を横方向、すなわち第2の主面に対して平行に移動すると、第2の接合は、第2の主面に対して一定の高さに位置することができる。中間ベース領域の上方をゲートベース領域から離れる方向にカソードベース領域に向かって横方向に移動すると、第2の接合の高さは単調に増加することができ、例えば厳密に単調に増加することができる。カソードベース領域の上方を移動すると、第2の接合の高さは、常にゲートベース領域および/または中間領域におけるよりも高くなり得る。
【0010】
他の実施形態によれば、カソード電極はカソード領域とオーム接点を形成する。アノード電極はアノード層とオーム接点を形成する。ゲート電極はベース層とオーム接点を形成する。アノード層はドリフト層によってベース層から分離される。第1の接合および第2の接合はp-n接合として実現される。ベース層は他の領域を含むことができる。
【0011】
他の実施形態によれば、中間ベース領域は、一方の側のゲート電極とカソード領域との間のギャップと、他方の側の第2の接合との間の領域を含む。2つの異なる値の第3の深さはこの領域に存在し得る。例えば2つの異なる値の第3の深さは、カソード電極およびゲート電極と、ゲートベース領域からカソードベース領域へ向かう横方向に重畳しない。
【0012】
他の実施形態によれば、中間ベース領域は、ゲート電極と第2の接合の間の隣接する領域、およびカソード領域と第2の接合の間の隣接する領域のうちの少なくとも1つをさらに含む。
【0013】
他の実施形態によれば、ゲートベース領域の最大または平均ドーピング濃度は、中間ベース領域の最大または平均ドーピング濃度より高い。中間ベース領域の最大または平均ドーピング濃度は、カソードベース領域の最大または平均ドーピング濃度より高い。「より高い」は、少なくとも2倍または少なくとも10倍を意味し得る。
【0014】
他の実施形態によれば、中間ベース領域および/または第1の主面におけるゲートベース領域、または第1の主面に最も近いエリアにおけるゲートベース領域のドーピング濃度(平均または最大)は、第1の接合におけるカソードベース領域および/または第1の主面に最も近いエリアにおけるカソードベース領域のドーピング濃度(最大または平均)より高い。
【0015】
他の実施形態によれば、第1の深さはカソードベース領域の最低深さである。第2の深さはゲートベース領域の最高深さである。
【0016】
他の実施形態によれば、第1の深さはドリフト層までのカソード領域の最短距離である。第2の深さはドリフト層までのゲート電極の最長距離である。
【0017】
他の実施形態によれば、第3の深さの値の各々は第1の深さより深く、また、第2の深さより浅い。有利には、中間ベース領域によってカソードベース領域からゲートベース領域への滑らかな移行が達成される。
【0018】
他の実施形態によれば、第2の接合のうちの中間ベース領域とドリフト層の間に配置されている部分は、階段を形成している第1のベース移行領域、他の階段を形成している第2のベース移行領域、および第1のベース移行領域と第2のベース移行領域の間の平面を含む。本明細書においては、平面は、例えば第1の主面および/または第2の主面に対して平行に走っている部分である。
【0019】
他の実施形態によれば、カソード領域は、円、矩形、八角形および六角形を第1の主面に含むグループの形態を有する。この形態は、電力半導体デバイスの上面図で見ることができる。有利には、カソード領域またはカソード電極の形状は、改善された性能および設計自動化のためのより多くの自由度を含む、抵抗およびインダクタンスが小さいゲートのための柔軟な設計を可能にする。
【0020】
他の実施形態によれば、ゲート電極は第1の主面におけるカソード領域を取り囲む。
他の実施形態によれば、アノード層はゲートアノード領域およびカソードアノード領域を含む。ゲートアノード領域の最大ドーピング濃度はカソードアノード領域の最大ドーピング濃度未満である。ゲートアノード領域はゲート電極と隣接する。カソードアノード領域はカソード領域と隣接する。したがって、アノード層は2つの全く異なる領域すなわちエリアに分割される。カソードアノード領域はカソード領域の下方に垂直方向に配置され、また、ゲートアノード領域はゲート電極の下方に垂直方向に配置される。ゲートの下方のゲートアノード領域は、例えばPNPトランジスタ利得を小さくするために低いドーピング濃度を有する。
【0021】
他の実施形態によれば、ゲート整流サイリスタセルは第1の導電率タイプのバッファ層を備える。バッファ層はドリフト層とアノード層の間に配置される。バッファ層は、例えばゲートバッファ領域およびカソードバッファ領域を含む。ゲートバッファ領域の最大ドーピング濃度はカソードバッファ領域の最大ドーピング濃度より高い。したがってバッファ層は2つの全く異なる領域すなわちエリアに分割される。カソードバッファ領域はカソード領域の下方に垂直方向に配置され、また、ゲートバッファ領域はゲート電極の下方に垂直方向に配置される。ゲートの下方のゲートバッファ領域は、例えばPNPトランジスタ利得を小さくするために高いドーピング濃度を有する。
【0022】
他の実施形態によれば、ゲート整流サイリスタセルは、集積ゲート整流サイリスタセル、略称IGCTセルとして実現される。ゲート整流サイリスタセルは、ゲート電極に提供される信号によってターンオフさせることができる。ゲート整流サイリスタセルは、非対称集積ゲート整流サイリスタセル(略称非対称IGCT)、逆導通集積ゲート整流サイリスタセル(RC-IGCTセル)、逆阻止集積ゲート整流サイリスタセル(RB-IGCTセル)、および双方向性ターンオフサイリスタセル(BTTセル)を含むグループのうちの構成要素として実現することができる。したがって提案されるゲート-カソード設計概念は、非対称IGCT、逆導通IGCT、逆阻止IGCTおよびBTTなどの異なるGCTファミリに適用することができる。RB-IGCTセルは、順方向および逆方向の両方で阻止するように構成される。
【0023】
実施形態によれば、電力半導体デバイスは、
- 半導体基板に第1の導電率タイプのドリフト層を提供するステップと、
- 第1の導電率タイプのカソード領域を提供するステップと、
- 第2の導電率タイプのアノード層を提供するステップと、
- 第1の主面にカソード電極を提供し、かつ、第1の主面に、カソード領域に対して横方向にゲート電極を提供するステップと、
- 第2の主面にアノード電極を提供するステップと、
- 第2の導電率タイプのベース層を製造するステップと
を含む方法によって製造される。
【0024】
他の実施形態によれば、ベース層は、電力半導体デバイスを製造した後に、ベース層が、
- カソード領域とドリフト層の間に配置された、第1の深さを有するカソードベース領域と、
- ゲート電極とドリフト層の間に配置された、第2の深さを有するゲートベース領域と、
- カソードベース領域とゲートベース領域の間に配置された、少なくとも2つの異なる値の第3の深さを有する中間ベース領域と
を備えるよう、ゲートベースドーピングプロセス、中間ベースドーピングプロセスおよびカソードベースドーピングプロセスを実施することによって製造される。2つの値の第3の深さは、いずれも第1の深さより深く、第2の深さより浅い。
【0025】
有利には、中間ベース領域は、カソードベース領域からのゲートベース領域をデカップリングすることを可能にする。有利には、電力半導体デバイスは、大きいターンオフ能力および小さいオン状態電圧降下を有する。上で示したステップおよびプロセスは、上で与えられた順序で実施されない。電力半導体デバイスを製造するための方法は電力半導体デバイスのために適している。したがって電力半導体デバイスに関連して説明されている特徴および利点は、方法のために使用することができ、また、その逆についても同様である。
【0026】
他の実施形態によれば、中間ベースドーピングプロセスは、カソード領域のエリアの少なくとも一部を覆う第1のマスクを堆積させるステップ、および第1のイオン注入プロセスを実施するステップを含む。ゲートベースドーピングプロセスは、カソード領域のエリアを覆い、また、中間ベース領域のエリアの少なくとも一部を覆う第2のマスクを堆積させるステップ、および第2のイオン注入プロセスを実施するステップを含む。カソードベースドーピングプロセスは、マスクを使用することなく第3のイオン注入プロセスを実施するステップを含む。
【0027】
他の実施形態によれば、電力半導体デバイスは、オン状態損失が少なく、また、ターンオフ能力が大きい、GCTで略称される微細パターンゲート整流サイリスタとして実現される。これは、微細パターンセル設計によって達成される。電力半導体デバイスは、例えばバイポーラシリコンデバイスの分野に属する。
【0028】
他の実施形態によれば、提案されるGCT設計概念では、pベース領域の深さおよびドーピングプロファイルが最適化される。ベース層はpベース層と呼ぶことができる。ベース層は、(i)比較的浅い深さおよび最大ドーピング濃度を有するカソードベース領域、(ii)カソードベース領域に対して比較すると、より深い深さおよびより高い最大ドーピング濃度を有するゲートベース領域、および(iii)カソードベース領域およびゲートベース領域に対して比較すると、中間の深さおよび中間の最大ドーピング濃度を有する中間ベース領域の3つの全く異なる領域を有する。中間ベース領域(中間pベース領域とも呼ばれる)は最適化における余分の1自由度をもたらし、本質的にゲートベース領域(ゲートpベース領域とも呼ばれる)およびカソードベース領域(カソードpベース領域とも呼ばれる)の個別の最適化を可能にし、カソードベース領域は最良のオン状態性能に対して設計され、また、ゲートベース領域は最良のターンオフ性能に対して構成され、それにより小さいオン状態電圧降下および大きいターンオフ電流能力が得られる。電力半導体デバイス(プレーナGCTと共に)は、微細パターンGCT(小さいカソードおよびゲート特徴サイズ)、ならびにカソード領域のセルラー設計のイネーブラーである。
【0029】
他の実施形態によれば、電力半導体デバイスは、オン状態電圧VTと最大制御可能電流(maximum controllable current)(MCCで略称される)の間の最新技術トレードオフを最適化し、はるかに小さいオン状態電圧降下を可能にし、また、それと同時により大きい電流制御可能性を可能にする。これは、少なくとも3つの異なるレベルの最大ドーピング濃度および深さを有するベース層を構造化することによって達成される。ドーピング濃度は、例えばドーピング密度と呼ぶことも可能である。
【0030】
他の実施形態によれば、ゲート整流サイリスタセルは、一様なベース深さまたは2つの全く異なるベース領域のみを特徴としない。ゲート整流サイリスタセルは、動的なだれ現象の間に生成されるキャリアのより良好な処理、およびターンオフ中のプラズマおよび正孔のより良好な抽出を可能にする。したがって電流密度が局所的に増加しても、サイリスタのラッチング(再トリガリング)に何ら悪影響を及ぼさない。MCCは、オン状態電圧を高くすることなく達成することができる。一方、電力半導体デバイスは、大きいMCCを達成し、また、オン状態電圧をも低くする。
【0031】
他の実施形態によれば、オン状態電圧(伝導損)をより低くし、また、それと同時にターンオフ電流能力を大きくするために、3つおよびそれ以上の全く異なるpベース領域を有するゲート整流サイリスタセルが設計される(多重レベルコルゲーション)。ゲート整流サイリスタセルは、例えば、多重レベルコルゲーションと組み合わせた、250μm未満の狭い幅のカソードおよび/またはゲート領域を有する。例では、ゲート整流サイリスタセルは、分割されたバッファ領域および/または分割されたアノード領域を含む。ゲート整流サイリスタセルは、六角形、八角形、円形および/または矩形(縞形態)などのカソード形状を有する、より小さい特徴サイズのセル設計を獲得する。
【0032】
他の実施形態によれば、電力半導体デバイスは、ドアをより高い電力密度に向かって開く、より少ない損失およびより高い耐久性を獲得する。方法は、強化された性能を有するGCTの処理を利用可能にする。ベースが浅い場合、また、温度が上昇する場合、小さければ小さいほど、ますます良好である。例では、ベースが75μmより浅い場合、例えば150μm未満の狭いフィンガがMCC幅の改善を促進することになる。ゲートコンタクト領域の寸法は、典型的にはカソード領域の寸法に等しい。ゲート整流サイリスタセルは、より狭いカソードおよびゲート領域を使用して実現することができる(例えばカソード領域の幅は250μm未満である)。
【0033】
本開示は、電力半導体デバイスおよび対応する製造方法のいくつかの態様を含む。これらの態様のうちの1つに関連して説明されるすべての特徴もまた、特定の態様の文脈でそれぞれの特徴が明確に言及されていない場合であっても、本明細書において、他の態様に関連して開示される。
【0034】
添付の図は、さらなる理解を提供するために含まれている。図においては、同じ構造および/または機能性の要素は、同じ参照符号によって参照され得る。図に示されている実施形態は例証的な表現であり、必ずしもスケール通りには描かれていないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】異なる実施形態による電力半導体デバイスの断面図である。
【
図2】異なる実施形態による電力半導体デバイスの断面図である。
【
図3A】異なる実施形態による電力半導体デバイスの断面図である。
【
図3B】異なる実施形態による電力半導体デバイスの断面図である。
【
図4】異なる実施形態による電力半導体デバイスの断面図である。
【
図5】異なる実施形態による電力半導体デバイスの断面図である。
【
図6】異なる実施形態による電力半導体デバイスの断面図である。
【
図7】異なる実施形態による電力半導体デバイスの斜視図である。
【
図8】異なる実施形態による電力半導体デバイスの斜視図である。
【
図9A】異なる実施形態による電力半導体デバイスの上面図である。
【
図9B】異なる実施形態による電力半導体デバイスの上面図である。
【
図9C】異なる実施形態による電力半導体デバイスの上面図である。
【
図9D】異なる実施形態による電力半導体デバイスの上面図である。
【
図10】実施形態による電力半導体デバイスの断面およびマスクを示す図である。
【
図11】異なる実施形態による電力半導体デバイスの図および特性である。
【
図12】異なる実施形態による電力半導体デバイスの図および特性である。
【
図13】異なる実施形態による電力半導体デバイスの図および特性である。
【
図14】異なる実施形態による電力半導体デバイスの図および特性である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、実施形態による電力半導体デバイス1の断面図である。電力半導体デバイス1は、ゲート電極4とカソード電極2の間に負の電圧を印加することによってターンオフさせることができる4層npnp能動サイリスタ構造を含む。電力半導体デバイス1は、セルで略称されるゲート整流サイリスタセル20を含む。電力半導体デバイス1は、第1の主面21および第2の主面22を備えている。
図1は、知られているゲート整流サイリスタセルを示している。セルは、アノード層5、バッファ層6、ドリフト層7(第2のベース層と呼ぶことができる)、ベース層8およびカソード領域9(カソード層とも呼ぶことができる)を有している。カソード領域9はn+ドープ領域によって形成されている。カソード領域9は、カソードメタライゼーションとも呼ぶことができるカソード電極2と接触している。ベース層8はpドープベース層として実現され、カソード電極2とは反対側でカソード領域9と接触している。
【0037】
ドリフト層7はnドープされ、nドープされた第2のベース層とも呼ぶことができる。ベース層8はpドープされている。ドリフト層7は、カソード領域9とは反対側でベース層8と接触している。バッファ層6はnドープされている。バッファ層6は、ベース層8とは反対側でドリフト層7と接触している。アノード層5すなわちアノード領域はpドープされている。電力半導体デバイス1のアノード層5は、ベース層8とは反対側でバッファ層6と接触している。アノードメタライゼーションと呼ぶことができるアノード電極3は、バッファ層6とは反対側でアノード層5と接触している。nドープ層すなわち領域によって第1の導電率タイプが実現されている。pドープ層すなわち領域によって第2の導電率タイプが実現されている。第2の導電率タイプは第1の導電率タイプとは異なっている。
【0038】
集積ゲート整流サイリスタ(IGCTで略称される)は高電圧(HV)単一ウェーハ半導体デバイスであり、多くのゲート整流サイリスタセル20(GCTセル)でできている。個々のGCTセル20は、カソード電極2、ゲート電極4およびアノード電極3を包含している。GCTセル20は、ゲートコンタクトとも呼ばれる、環状金属領域の形態の少なくとも1つのゲート電極4を、GCTウェーハとも呼ばれる電力半導体デバイスウェーハの中央、中心および/または周囲のいずれかに含む。ゲートコンタクト領域は、ウェーハ中のすべてのゲート電極4と物理的に連続しており、ゲート電極4が互いに、および例えばゲートコンタクト領域と一体で、電気的および熱的に接続されていることを意味している。個々のGCTセル20は、導電率が異なる4つの層を含むか、またはそれらからなっており、サイリスタ構造を形成している。
【0039】
最新技術のGCTセルは、ゲート電極4に電圧を印加することによってターンオフする。正孔は、ベース層8からゲート電極4へ抽出され、また、極めて速やかにカソード領域9からの電子のすべての注入が停止する。ターンオフの次のフェーズの間、カソード領域9は、デバイスが完全にターンオフするまでオフを維持する。その後、電力半導体デバイス1が完全にターンオフするまで、ドープベース層8、ドープドリフト層7、ドープバッファ層6およびドープアノード層5のみが電流を導き、それらは、オープンベースPNPトランジスタと類似した半導体層の組合せをもたらす。IGCTは、大きい電流をターンオフすると、ターンオフ中のサイリスタの寄生再トリガリングのため、失敗し得る。サイリスタの寄生再トリガリングは、ウェーハデバイス中の少なくとも1つのカソードセグメントの近傍で観察される大電流密度、動的なだれ現象によって誘導される現象、ならびに固有設計非対称および電気インピーダンス不平衡によるものである。
【0040】
サイリスタの内部構造を有する電力半導体デバイス1は、ターンオフ中、すべての数のキャリアまたは低減された数のキャリアがカソード領域9の近傍から離れて維持される場合、電流をターンオフするための大きい能力を有するゲート電極4を介してターンオフさせることができる。一方、オン状態損失の低減は、カソードからの電子の注入を強化することによって、電力半導体デバイス1のベース層8の厚さを薄くし、および/または最大ドーピング濃度を低くすることによって電子再結合を低減することによって達成することができ、これは、ターンオフ能力に対して逆の効果を有している。
【0041】
カソード領域9とベース層8の間の界面、およびゲート電極4とベース層8の間の界面は単一の平面に配置されている。カソード領域9とベース層8の間の界面、およびゲート電極4とベース層8の間の界面は平らで、かつ、共面である。ベース層8およびカソード領域9は第1の接合31を形成している。ドリフト層7およびベース層8は第2の接合32を形成している。バッファ層6およびアノード層5は第3の接合33を形成している。バッファ層が省略される場合、ドリフト層7およびアノード層5が第3の接合33を形成する。
【0042】
図2は、
図1に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の断面図である。GCTセル20のpドープベース層8は、2つの全く異なる領域、すなわちカソード領域9と隣接しているカソードベース領域81、およびゲート電極4と隣接し、カソード領域9からは距離を隔てて配置されているゲートベース領域82を有している。阻止状態における場を変調し、かつ、動的なだれ現象に駆動されると、生成された正孔をカソードから焦点外れにするために、ゲートベース領域82はカソードベース領域81より高い最大ドーピング濃度を有し、および/またはゲートベース領域82はカソードベース領域81より深い深さを有している。カソードベース領域81はカソードpベース領域と呼ぶことも可能である。ゲートベース領域82はゲートpベース領域と呼ぶことができる。
【0043】
図3Aは、
図1および
図2に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の断面図である。ゲート整流サイリスタセル20にはバッファ層6がない。ドリフト層7およびアノード層5が第3の接合33を形成している。ベース層8は、少なくとも3つの全く異なるベース領域、すなわちカソードベース領域81、ゲートベース領域82および中間ベース領域83を含む。カソードベース領域81は、電子再結合の低減、より小さいシート抵抗および薄いウェーハ厚さを可能にするために、比較的浅い深さおよび比較的低い最大ドーピング濃度を有している。ゲートベース領域82は、ターンオフ中、ドリフト層7(第2のベース層と呼ぶことができる)の内側深くからプラズマを引き出し、高い電界および動的なだれキャリアの生成の場所をゲート電極4の真下の所望の場所に加え、また、高い電圧をサポートするために、比較的深い深さおよび高い最大ドーピング濃度を有している。したがってターンオフ中、プラズマ除去プロセスがより速くなり、また、カソード領域9またはカソード電極2の近傍に達することなく、動的なだれ現象によって生成されるあらゆるキャリアがゲート電極4によって除去される。
【0044】
カソードベース領域81は、カソード領域9の中心部分の下方に垂直方向に配置されている。ゲートベース領域82は、ゲート電極9の中心部分の下方に垂直方向に配置されている。中間ベース領域83は、カソード領域9とゲート電極4の間のギャップの下方に垂直方向に配置されているが、追加として、ゲート電極9の縁部分およびカソード領域9の縁部分の下方に配置することも可能である。
【0045】
中間ベース領域83は、ゲートベース領域82およびカソードベース領域81に対して比較すると、中間の深さおよび中間の最大ドーピング濃度を有している。中間ベース領域83の深さ、幅および最大ドーピング濃度によって、2つの他の領域81、82の厳密な範囲、ならびに移行エリアの形状が決まる。さらに、全く異なる中間レベルを有することにより、最適化における余分の1自由度が達成され、本質的に他の2つのベース領域81、82の個別の最適化、最良のオン状態性能のためのカソードベース領域81、および最良のターンオフ性能のためのゲートベース領域82を可能にし、ターンオフ能力とオン状態性能の間のトレードオフを阻止する。有利には、電力半導体デバイス1は、高い動的なだれ現象の領域の正確なピンポイント指示を達成し、また、オープンベーストランジスタモードにおけるターンオフの間、なだれ現象生成キャリアおよびサイリスタの再トリガリングからの大電流密度の完全な抑制を達成する。それと同時に、電力半導体デバイス1によれば、オン状態性能を改善するために、浅いカソードベース領域81を設計することができる。有利には、電力半導体デバイス1は、大きいターンオフ能力および小さいオン状態電圧降下を達成する。電力半導体デバイス1は、最大制御可能電流(MCC)を大きくし、その一方でオン状態電圧降下を小さくする。
【0046】
カソードベース領域81は第1の深さD1を有している。第1の深さD1はカソード領域9とドリフト層7の間の最短距離である。第1の深さD1は、5μmと110μmの間、別法として20μmと110μmの間、また、別法として50μmと80μmの間の範囲の値を有している。使用する値は、4.5kV GCTセル20に対して選択することができるが、他のGCTセルに対して選択することも可能である。
【0047】
ゲートベース領域82は第2の深さD2を有している。第2の深さD2は、ゲート電極4とドリフト層7の間の最長距離である。第2の深さD2は、70μmと160μmの間、また、別法として100μmと130μmの間の範囲の値を有している。
【0048】
中間ベース領域83は第3の深さD3を有している。第3の深さ83は少なくとも2つの異なる値を有している。典型的には第3の深さD3は3つ以上の異なる値を有している。第3の深さD3の値は、30μmと140μmの間、また、別法として80μmと100μmの間の範囲である。ベース層8の深さは、例えばベース層8の厚さである。第3の深さD3は、例えば中間ベース領域83の厚さである。第3の深さD3は、例えばドリフト層7までの中間ベース領域83の表面の距離である。
【0049】
使用する値は、第1の深さD1が第2の深さD2未満になるように選択される。第3の深さD3は第1の深さD1と第2の深さD2の間である。第3の深さD3の少なくとも2つの値、すなわち個々の値は、第1の深さD1と第2の深さD2の間である。第3の深さは少なくとも2つの異なる値を有しているため、第2の接合32は、中間ベース領域83に例えば傾斜または階段を有している。
【0050】
第1の深さD1の値がカソード領域9とドリフト層7の間の最短距離である場合、また、第2の深さD2の値がゲート電極4とドリフト層7の間の最長距離である場合、第1の深さD1の値は第2の深さD2の値未満である。第3の深さD3の少なくとも2つの値、すなわち個々の値は、第2の深さD2の前記値より小さく、また、第1の深さD1の前記値より大きい。
【0051】
第2の接合32の一部、すなわちカソードベース領域81とドリフト層7の間に配置されている界面は、少なくとも部分的に第1の平面に配置されている。第2の接合32の一部、すなわちゲートベース領域82とドリフト層7の間に配置されている界面は、少なくとも部分的に第2の平面に配置されている。界面、すなわち中間ベース領域83とドリフト層7の間に配置されている第2の接合32の一部は、第1の平面と第2の平面の間に配置されている。第1の平面および第2の平面は第1の主面21に対して平行である。
【0052】
カソード領域9の幅W1またはカソード電極2の幅は、50μmと250μmの間、別法として100μmと200μmの間の範囲である。pベースが浅い場合、W1は狭いことが有利である。例えばベース層8が75μmより浅い場合、例えば150μm未満の狭いフィンガがMCCの改善を促進することになる。ゲート電極4の幅W2の寸法は、典型的にはカソード領域9の幅W1の寸法に等しい。提案されている設計は、より高い定格では失敗の機構をもたらす。幅W1は、カソード領域9の一方の縁の、
図4に示されている断面図におけるカソード領域9の反対側の縁までの距離である。幅W2は、ゲート電極4の一方の縁の、
図4に示されている断面図におけるゲート電極4の反対側の縁までの距離である。
【0053】
電力半導体デバイス1は良好なMCCトレードオフを達成し、電力半導体デバイス1によれば、オン状態電圧降下をはるかに小さくすることができ、また、それと同時に、電流制御可能性をより高くすることができる。これは、少なくとも3つの異なるレベルの最大ドーピング濃度および深さを有するベース層8を構造化することによって達成される。電力半導体デバイス1によれば、動的なだれ現象の間に生成されるキャリアをより良好に処理することができ、また、ターンオフ中のプラズマおよび正孔をより良好に抽出することができる。したがって電流密度が局所的に増加しても、サイリスタのラッチングに何ら悪影響を及ぼさない。これは、オン状態電圧降下を大きくすることなく達成することができる。
図3Aに示されている実施形態とは対照的に、
図1および
図2に示されている例は、一様なベース深さ、または2つの全く異なるベース領域のみ、のいずれかを特徴としている。
【0054】
ゲート整流サイリスタセル20は二重コルゲーションによって実現されている。ベース層8とドリフト層7の間の第2の接合32は平らではない。
【0055】
図には示されていない代替実施形態では、ゲート整流サイリスタセル20は4つ以上の全く異なるpベース領域を含む。
【0056】
図3Bは、
図1および
図2に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の断面図である。ドリフト層7への中間ベース領域83の界面すなわち接合は、第1のベース移行領域10および第2のベース移行領域11を含む。第1のベース移行領域10および第2のベース移行領域11の形状は、アノード層5から移動する正孔に、ゲート電極4に向かって指し示す横方向の速度成分を加える。
【0057】
図4は、
図1、
図2、
図3Aおよび
図3Bに示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の断面図である。電力半導体デバイス1はM個のゲート整流サイリスタセル20を含む。この例では数Mは2である。電力半導体デバイス1は、ゲート整流サイリスタセル20および他のゲート整流サイリスタセル23を備えている。典型的には、セルの数Mは2より大きい。
【0058】
カソード領域9の幅W1は、50μmと250μmの間、別法として100μmと200μmの間の範囲である。ゲート電極4の幅W2は、50μmと250μmの間、別法として100μmと200μmの間の範囲である。カソード領域9の幅W1とゲート電極4の幅W2の差は10μmから70μmの範囲である。別法として差は30μm未満、別法として10μm未満、また、別法として5μm未満である。
【0059】
例では、カソード領域9とドリフト層7の間の距離は、オン状態電圧降下を最小化するために10μm程度の短さにすることができる。さらに、セル寸法が小さくなるとMCCが大きくなり、また、ゲート-カソード篏合が大きくなることがあり、例えばカソード層幅W1は250μm未満である。有利には、セル寸法を小さくし、かつ、ゲート-カソード篏合を大きくする場合に、MCCを大きくするか、または不変を維持することができる。これは、サイリスタセル20がより大きい電流密度をラッチすることによるものである。
【0060】
したがってカソード領域9と第2の接合32の間の距離(この距離は第1の深さD1とも呼ばれる)は、10μm程度の短さにすることができ、また、カソード領域9の幅W1は200μm未満にすることができる。電力半導体デバイス1は、極めて浅いカソードベース領域81と狭いカソードセグメント幅W1の組合せに似ている。この事例では、セル寸法は比例的に小さくなり(例えば10%の逸脱が可能にされる)、また、ゲート-カソード篏合の等価増加が達成され、その一方でGCTセル20の総能動面積はほぼ不変を維持する。
【0061】
例では、電力半導体デバイス1はウェーハ上で製造され、例えばGCTウェーハであってもよい91mmウェーハ上で製造される。電力半導体デバイス1は微細パターンGCT(狭いカソードおよび極めて浅いカソードベース領域を有するゲート領域)を実現している。ウェーハは例えばシリコンウェーハである。単一のウェーハは厳密に1つの電力半導体デバイス1を含むことができる。電力半導体デバイス1は1ウェーハのサイズを有している。
【0062】
より狭いカソードおよびゲート領域(例えば250μm未満のカソード領域幅W1)を有するゲート整流サイリスタセル20は、改善された性能および設計自動化のためのより高い自由度を含む、ゲート抵抗およびインダクタンスが小さい柔軟な設計のための任意選択の形状のカソード電極2および/またはカソード領域9を有する微細パターンGCTをもたらす。
【0063】
図5は、
図1~
図4に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の断面図である。電力半導体デバイス1では、なだれ電流はゲート電極4の下方のエリアに拘束され、また、第1の接合31(カソード/ベース層接合と呼ぶことも可能である)は逆バイアスに維持される。したがって故障発生時は、電力半導体デバイス1は、ターンオフに失敗するオープンベースPNPである。これを克服するために、また、ターンオフ能力をさらに改善するために、
図5に示されている分割バッファ設計、および/または
図6に示されている分割アノード設計によってPNPトランジスタ利得を小さくすることができる。
【0064】
分割バッファ設計では、バッファ6はゲートバッファ領域61およびカソードバッファ領域62を備えている。ゲートバッファ領域61は、ゲート電極4の少なくとも真下に位置している、さらに、ゲートバッファ領域61もまた、カソード領域9とゲート電極4の間のギャップの下方であってもよい。カソードバッファ領域62はカソード領域9の真下である。ゲートバッファ領域61は、カソードバッファ領域62に対して比較すると、より高い最大ドーピング濃度を有している。
【0065】
したがってバッファ層6は2つの全く異なるエリアに分割され、そのうちの一方は、カソード領域9の下方に垂直方向に配置され、また、他方はゲート電極4の下方に配置されている。ゲートバッファ領域61の高い最大ドーピング濃度がPNPトランジスタ利得を小さくしている。
【0066】
図6は、
図1~
図5に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の断面図である。アノード層5はゲートアノード領域51およびカソードアノード領域52を備えている。ゲートアノード領域51は、ゲート電極4の少なくとも真下である。さらに、ゲートアノード領域51もまた、カソード領域9とゲート電極4の間のギャップの下方であってもよい。カソードアノード領域52はカソード領域9の真下である。したがってアノード層5は2つの全く異なるエリアすなわち領域に分割され、そのうちの一方は、カソード領域9の下方に垂直方向に配置され、また、他方はゲート電極4の下方に配置されている。ゲートアノード領域51は、カソードアノード領域52に対して比較すると、より低い最大ドーピング濃度を有しており、例えばPNPトランジスタ利得を小さくしている。
【0067】
図7は、
図1~
図6に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の斜視図である。ゲート電極4はカソード領域9を取り囲んでおり、したがってカソード電極2をも取り囲んでいる。相応じて中間ベース領域83はカソードベース領域81を取り囲んでいる。さらに、ゲートベース領域82は中間ベース領域83を取り囲んでいる。
【0068】
図8は、
図1~
図7に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の斜視図である。ゲート整流サイリスタセル20はプレーナGCTすなわち平らなGCTとして実現されており、したがってシリコンはエッチングされず、すなわちシリコンの第1の主面21は平らである。カソード領域9はベース層8に接続され、したがってカソードベース領域81に接続されている。カソード領域9は電力半導体デバイス1の基板の内側に製造されている。ゲートとカソードの間の絶縁は、ゲートおよびカソードのメタライゼーションの高さの相違を介して達成されている。カソードメタライゼーションは、ゲートメタライゼーションに対して比較するとより分厚い。ゲート整流サイリスタセル20は、カソード電極2とカソード領域9の間に配置されている追加カソードメタライゼーション2aをさらに含む。したがってカソード電極2および追加カソードメタライゼーション2aの二重層はゲート電極4より分厚い。任意選択で、他の図に示されている電力半導体デバイス1の例は、
図8で説明されているように、カソード領域9および/または追加カソードメタライゼーション2aを含むことができる。
図7、
図8および
図9A~
図9Dは、円形および六角形のカソード電極2およびカソード領域9の設計、ならびにプレーナおよびメサカソード設計例を示している。電力半導体デバイス1の基板は、シリコンおよび例えば炭化ケイ素などのワイド-バンドギャップ半導体のうちの少なくとも1つである。
【0069】
図9A~
図9Dは、
図1~
図8に示されている実施形態の他の開発である異なる実施形態による電力半導体デバイス1の上面図である。カソード領域9および延いてはカソード電極2は、
図9Aに示されているように円の形態、
図9Bに示されているように六角形の形態、
図9Cに示されているように矩形または縞の形態、および/または
図9Dに示されているように八角形の形態を有することができる。他の形態も適切である。カソードセグメント特徴サイズを小さくする可能性により、異なる形状のカソード領域9およびカソード電極2を実現することができる。設計者は、縞の形状のカソードフィンガ(
図9C)、および/または
図7および
図8に示されているプレーナGCT概念と共に、六角形または円形のセル概念(低解像度リソグラフィを使用する技術のためにより適している)を使用することができる。利点は、電気パラメータ(MMC)および上で説明した250μmより狭いカソードおよびゲート領域の可能な処理のさらなる改善である。
【0070】
図10は、上記の図に示されている実施形態の他の開発である実施形態による電力半導体デバイス1の断面およびマスクを示したものである。ベース層8は、少なくともゲートベースドーピングプロセス86、中間ベースドーピングプロセス85およびカソードベースドーピングプロセス87を実施することによって製造されている。中間ベースドーピングプロセス85は、カソード領域9のエリアの少なくとも一部を覆う第1のマスク88を堆積させるステップ、および第1のイオン注入プロセスを実施するステップを含む。ゲートベースドーピングプロセス86は、カソード領域9のエリアを覆い、また、中間ベース領域83のエリアの少なくとも一部を覆う第2のマスク89を堆積させるステップ、および第2のイオン注入プロセスを実施するステップを含む。カソードベースドーピングプロセス87は、マスクを使用することなく第3のイオン注入プロセスを実施するステップを含む。
図10では、太い矩形は、イオン注入によって第1の主面21にイオンを提供することができるエリアを示している。イオンは矢印によって示されている。
【0071】
ゲートベースドーピングプロセス86、中間ベースドーピングプロセス85およびカソードベースドーピングプロセス87は、第2の導電率タイプのドーピングを提供する。ゲートベースドーピングプロセス86は、ゲートベース領域82を得るために、第2のマスク89を使用して打込み低ドープp領域を実現するように構成されている。中間ベースドーピングプロセス85は、中間ベース領域83を得るために、第1のマスク88を使用して打込み低ドープp領域を実現するように構成されている。カソードベースドーピングプロセス87は、カソードベース領域81を得るために、マスクを使用することなく打込み低ドープp領域を実現するように構成されている。
【0072】
さらに、浅いベースドーピングプロセス90がマスクを使用することなく実施される。浅いベースドーピングプロセスは、ベース層8、すなわち第1の主面に向かうベース層8の界面に打込み高ドープ領域を製造するように構成されている。
【0073】
ゲートベースドーピングプロセス86、中間ベースドーピングプロセス85、カソードベースドーピングプロセス87および浅いベースドーピングプロセス90は、第2の導電率タイプのドーピング(pドーピング)を提供する。
【0074】
電力半導体デバイス1を製造するための他のプロセスは従来のプロセスまたはステップである。他のプロセスは、
- 半導体基板に第1の導電率タイプのドリフト層7を提供するステップと、
- 第1の導電率タイプのカソード領域9を提供するステップと、
- 第2の導電率タイプのアノード層5を提供するステップと、
- 第1の主面21にカソード電極2を提供し、かつ、第1の主面に、カソード領域9に対して横方向にゲート電極4を提供するステップと、
- 第2の主面22にアノード電極3を提供するステップと
を含む。
【0075】
製造中のプロセスの順序は、上で書かれた順序とは異なっていてもよい。製造のための方法は、上では言及されていない他のプロセスを含むことができ、例えばパッシベーション層を提供するステップを含むことができる。
【0076】
電力半導体デバイス1を製造した後、例えば3つのベースドーピングプロセス85~87の後、また、最後のアニールステップの後および/最後の高温ステップの後、ベース層8は、上で説明した中間ベース領域83、カソードベース領域81およびゲートベース領域82を備える。ドーパント分布の例は
図10に示されている。
【0077】
任意選択で、バッファ層6がさらに提供される。
図11~
図14は、上で示した実施形態の他の開発である異なる実施形態による電力半導体デバイス1の図および特性である。
図11~
図13には、電力半導体デバイス1の断面図、上面図および電流/電圧特性が示されている。
図11に示されているように、ゲート整流サイリスタセル20は、非対称IGCTセルで略称される非対称集積ゲート整流サイリスタセル100として実現されている。ゲート整流サイリスタセル20は、他のカソード電極101および他のカソード領域102を備えている。I/V特性では、FCは順方向導通を表し、また、FBは順方向阻止を表している。
【0078】
図12で明らかであるように、ゲート整流サイリスタセル20は、逆導通集積ゲート整流サイリスタセル104、すなわちRC-IGCTセルとして実現されている。電力半導体デバイス1はダイオード105をさらに備えている。
図12の断面図に示されているように、分離領域106は、ゲート整流サイリスタセル20すなわちセルをダイオード105から分離している。ダイオード105は、ダイオードアノード107およびダイオードカソード108を有するPN接合として実現されている。ダイオードアノード107は第1の主面21に配置されている。ダイオードカソード108は第2の主面22に配置されている。RCは逆導通を表している。
【0079】
図13に示されているように、ゲート整流サイリスタセル20は、逆阻止ゲート整流サイリスタセル109、略称RB-IGCTとして実現されている。この例ではバッファ層6は省略されている。RBは逆阻止を表している。
【0080】
さらに、
図14に示されているように、電力半導体デバイス1は、BTTで略称される双方向性ターンオフサイリスタ110として実現されており、ゲート整流サイリスタセル20およびゲート整流サイリスタセル20に逆並列接続されている他のゲート整流サイリスタセル115を備えている。他のゲート整流サイリスタセル115は、他のカソード電極101、他のカソード領域102、他のゲート電極111、他のベース層112、他のアノード電極113および他のアノード層114を備えている。
【0081】
図11~
図14に示されている例のベース層8は、
図3A、
図3Bまたは
図4に示されているように実現される。したがって新しいゲート-カソード設計概念を非対称IGCT、逆導通IGCT、逆阻止IGCTおよびBTTなどの異なるGCTファミリに適用することができる。
【0082】
本開示は、様々な変更態様および代替形態に対して従順であるが、図にはそれらの詳細が一例として図に示されており、また、詳細に説明されることになる。しかしながら本開示を説明されている特定の実施形態に限定することは意図されていないことを理解されたい。それとは逆に、添付の特許請求の範囲によって定義されている本開示の範囲の範疇であるすべての変更態様、等価物および代替を包含することが意図されている。
【0083】
図1~
図14に示されている、言及された実施形態は、改善された電力半導体デバイス1および製造方法の例示的実施形態を表しており、したがってそれらは、改善された電力半導体デバイスおよび方法によるすべての実施形態の完全なリストを構成していない。実際の電力半導体デバイスおよび方法は、例えば配置、デバイス、層、領域、設計およびプロセスに関して、示されている実施形態から変化し得る。
【符号の説明】
【0084】
1 電力半導体デバイス
2 カソード電極
2a 追加カソードメタライゼーション
3 アノード電極
4 ゲート電極
5 アノード層
6 バッファ層
7 ドリフト層
8 ベース層
9 カソード領域
10 第1のベース移行領域
11 第2のベース移行領域
13 カソードエリア
20 ゲート整流サイリスタセル
21 第1の主面
22 第2の主面
31 第1の接合
32 第2の接合
33 第3の接合
51 ゲートアノード領域
52 カソードアノード領域
61 ゲートバッファ領域
62 カソードバッファ領域
81 カソードベース領域
82 ゲートベース領域
83 中間ベース領域
85 中間ベースドーピングプロセス
86 ゲートベースドーピングプロセス
87 カソードベースドーピングプロセス
90 浅いベースドーピングプロセス
100 非対称集積ゲート整流サイリスタセル
101 他のカソード電極
102 他のカソード領域
104 逆導通集積ゲート整流サイリスタセル
105 ダイオード
106 分離領域
107 ダイオードアノード
108 ダイオードカソード
109 逆阻止集積ゲート整流サイリスタセル
110 双方向性ターンオフサイリスタセル
111 他のゲート電極
112 他のベース層
113 他のアノード電極
114 他のアノード層
【国際調査報告】