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特表2024-515162遷移金属リン酸塩を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】遷移金属リン酸塩を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/37 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
C01B25/37 J
C01B25/37 M
C01B25/37 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023556995
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 EP2022055857
(87)【国際公開番号】W WO2022194614
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】21162868.0
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591091515
【氏名又は名称】シュトゥディエンゲゼルシャフト・コーレ・ゲマインニュッツィゲ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Platz 1, D-45470 Muelheim an der Ruhr, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】シュミット・ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】シュテグマン・ニクラス
(57)【要約】
本発明は、遷移金属酸化物と次亜リン酸化合物とを混合し、不活性ガス条件下で混合物を加熱することを含む遷移金属リン酸塩を製造するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)粒子状の遷移金属酸化物(なお、ランタニドおよびアクチニド酸化物をも含む)と、少なくとも化学量論量の粒子状の次亜リン酸化合物またはこれらの混合物との混合物を製造すること、
b)ステップa)で得られた混合物を、好ましくは不活性ガス条件下で、次亜リン酸化合物の融点と分解温度との間の温度範囲まで加熱すること
を含む遷移金属リン酸塩を製造するための方法であって、
ここで、次亜リン酸化合物と遷移金属酸化物の質量の比が、2:1~10:1、好ましくは5:1~10:1の範囲である、前記方法。
【請求項2】
前記加熱ステップb)が、200℃~600℃との間の範囲の温度まで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)の前記加熱が、好ましくは1℃/分~20℃/分の間の範囲で、徐々に上昇する温度で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱ステップが、30~600分間、好ましくは90~250分間実施される、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
-ステップb)において得られた生成物を、好ましくは溶媒で洗浄することによって、好ましくは脱イオン水または蒸留水で洗浄することによって、精製すること、および、任意に
-得られた生成物を、好ましくは空気中において乾燥すること、をさらに含む、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
遷移金属酸化物が、好ましくは第一列遷移金属酸化物または代替的に他の前周期遷移金属酸化物である、請求項1~5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
次亜リン酸化合物が(NH)HPOである、請求項1~6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
金属酸化物が、Ti、V、Cr、MnおよびFeの酸化物またはそれらの混合物から選択される、請求項1~7のいずれか一つに記載の方法によって得られる遷移金属リン酸塩。
【請求項9】
TiOが遷移金属酸化物として使用され、前記加熱ステップb)が500℃未満の温度まで、好ましくは250℃~350℃との間の範囲の温度まで実施される、請求項1~7のいずれか一つに記載の方法によって得られるリン酸チタン(III/IV)化合物。
【請求項10】
請求項9に記載のリン酸チタン(III/IV)化合物の、有機化学反応または電気化学デバイスにおける触媒としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属リン酸塩の製造方法およびそれから得られる遷移金属リン酸塩に関する。
【背景技術】
【0002】
新規機能性材料の合成および開発は、現代社会における技術的課題を克服するための鍵である。そのような観点から、金属リン酸塩は機能性材料の主要なクラスに属している。
【0003】
遷移金属リン酸塩(TMPs)に属する化合物の数は、機能性材料としての利用に対する持続的な要望のため、数十年来絶えず増加している。研究および産業界において広範に研究され、応用されているTMP材料は、現在および将来の数多くのキーテクノロジーに貢献している。
【0004】
特有な構造的特徴に基づくTMPは、21世紀におけるクリーンで効率的な発電とエネルギー貯蔵に重要な役割を果たす。リチウムイオン二次電池は、正極材料としてTMPsを使用する。特にリン酸鉄リチウム(LiFePO)が商業的に利用されており、高い出力性能と可逆性、環境の持続可能性と低コストを兼ね備えている。次世代燃料電池技術においては、金属ピロリン酸塩(MP、M=Ti、Zr...)は、構造に基づく多数のプロトン結合部位と輸送経路により、プロトン伝導膜材料として機能する。
【0005】
ブレンステッド酸部位の密度が高いことから、プロトン伝導性TMPは効果的なイオン交換体としての役割も果たしている。
【0006】
不均一系触媒との関連では、TMPは、酸化還元性および/または酸性のユニークな組み合わせにより、熱および光触媒用途に広く使用されている材料である。
【0007】
TMP触媒の中でも、ピロリン酸バナジル(VO(P))は、化学的に最も広く研究されている触媒の一つであり、ブタンを無水マレイン酸に変換するための唯一の商業的応用材料である。
【0008】
広範囲の応用は非線形光学(NLO)の分野により補完され、TMP材料は、リン酸塩の高温溶融物からの結晶化によって製造され、波長200nm以下のコヒーレントな深紫外光の生成に使用される。
【0009】
ほとんどの遷移金属について、合成リン酸塩が知られている。金属陽イオンの数と縮合リン酸塩ユニットの構造の多様性を考慮すると、異なる相の量は非常に多い。TMP材料のクラスによって形成される化合物の多様性は、主に基本的なイオン構成単位の本質的な化学的性質によって制限される。
【0010】
しかし、前駆体や製造方法の利用可能性によっても制限されることがある。高結晶性のバルクTMPの合成には、水熱法、溶融塩法、単純沈殿法などの汎用性の高い基本的な製造法が確立されている。しかし、TMPを機能性材料として応用するには、かなり高度な製造方法が必要になることが多い。材料の性能を最適化するためには構造指示技術が必要であり、ナノキャスティング戦略によって多孔性を発生させ、気相堆積法によって薄膜が形成され、電気化学的アプローチによってナノ粒子が合成される。既知の方法であり、リン酸塩ベースの前駆体を使用する方法が知られている。
【0011】
先行技術においては、金属リン酸塩を製造するためのいくつかの方法が知られている。例えば、WO98/31630A1は、a)水溶液中で、酸化剤の存在下、金属塩と化学量論量の微粒子次亜リン酸化合物とを反応させるステップと、b)溶液および任意に得られた沈殿物を、沈殿化合物の融点と分解温度との間の温度範囲に加熱するステップとを含む方法を開示している。酸化還元反応のため、沈殿物の正確な組成は不明である。
【0012】
US2012/061612A1は、リン酸塩(フォスフェイト)、次亜リン酸塩、亜リン酸塩(フォスファイト)、メタリン酸塩から選択される少なくとも1つのようなリン源を用いたオリビン型リン酸リチウム含有化合物(LiMPO)の合成を開示している。記載された反応プロセスは、2段階の焼成レジームを含み、第1の焼成ステップは、400℃より高い温度で実施され、揮発性成分を除去するためのものである。好ましくは、この第1の焼成ステップは、1体積%以上の酸素を含む雰囲気中で実施され、これを支持するために、この先行技術における全ての具体例は、空気雰囲気下で実施されている。しかしながら、次亜リン酸塩を使用する具体例は示されておらず、次亜リン酸塩を空気中または1体積%の酸素雰囲気中で使用する場合、これらの条件下では次亜リン酸塩材料が酸化してリン酸塩材料になることを発見するであろう。
【0013】
WO2014/102531A2は、i)1種以上の金属含有前駆体化合物および任意選択で1種以上の非金属含有反応物を含む反応混合物を固体状態または溶液中で形成するステップ、および、ii)1種以上の次亜リン酸塩含有材料を化学量論比で還元剤として使用するステップを含む金属含有化合物を製造するための新規な固体状態のプロセスに関し、次亜リン酸塩含有材料の1種以上は、金属含有前駆体化合物の1種以上を還元するための薬剤として使用され;そしてさらに、このプロセスが、酸化性雰囲気の非存在下で実施される。WO2014/102531A2によれば、メタリン酸塩:TM(P、TM(P12)、TM(P18)などの高度に縮合したリン酸単位を有する結晶性TMPを製造することは不可能である。このことは、WO2014/102531A2の実施例および表1を参照すれば明らかである。
【0014】
上記の方法はすべて、かなり労働集約的であることも共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO98/31630A1
【特許文献2】US2012/061612A1
【特許文献3】WO2014/102531A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
解決すべき課題は、TMPを製造するための簡便な方法を提供すること、特に、従来技術の欠点を克服し、リン酸塩ベースの前駆体を必要とせず、適度な反応温度を可能にする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従来の合成法とは対照的に、次亜リン酸化合物を金属酸化物と組み合わせてTMPの前駆体として作用させることができることを見出した。
【0018】
この課題は、
a)粒子状の遷移金属酸化物と少なくとも化学量論量の粒子状の次亜リン酸化合物との混合物を製造すること、
b)ステップa)で得られた混合物を、好ましくは不活性ガス条件下で、次亜リン酸化合物の融点と分解温度との間の温度範囲まで加熱すること
を含む遷移金属リン酸塩を製造するための方法によって解決され、ここで、次亜リン酸化合物と遷移金属酸化物の質量の比は、2:1~10:1、好ましくは5:1~10:1の範囲である。
【0019】
この方法は、無機遷移金属リン酸塩(TMP)の新規な合成経路を提示する。次亜リン酸化合物が過剰であるため、溶融物が反応媒体として機能し、複雑な構造のTMPの形成が可能となる。この方法は、既知および新規のTMP(Ti、V、Cr、Mn、Feなど)の合成に容易かつ適応可能であり、特に酸化状態の低いTMPの合成に適している。一般的な金属酸化物と次亜リン酸化合物は、適度な条件下でTMP前駆体として作用する。この新しい経路の主な特徴は、次亜リン酸化合物の還元性であり、これによって遷移金属の酸化状態を制御することができる。このような還元的条件下では、従来のアプローチでは達成できなかった、新規および既知の低原子価TMPに容易にアクセスできる。従来の技術によれば、TMPの低酸化状態は、一般に金属粉末または低原子価の金属化合物を前駆体として用いることでアクセス可能であると報告されている。それに比べ、この新しい方法においては、次亜リン酸化合物を介して遷移金属の酸化状態を制御することが可能となり、その結果、反応条件が非常に緩やかになる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次亜リン酸化合物は、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アルカリ、次亜リン酸アルカリ土類、遷移金属次亜リン酸塩、次亜リン酸塩およびその有機エステル誘導体、またはそれらの混合物から選択することができ、これによって、金属酸化物が還元条件下で遷移金属カチオンを提供するリン酸塩前駆体として機能する。次亜リン酸化合物の還元性により、遷移金属はTMP形成中に還元される。従って、本発明による方法は、既知および新規の第一遷移金属リン酸塩、特に中程度の温度で低酸化状態の第一遷移金属リン酸塩の合成に使用できる、簡便かつ汎用性の高いアプローチである。
【0021】
提案された酸化還元反応メカニズムでは、前駆体化合物は酸素供与体(ドナー)と受容体(アクセプター)の対と考えることができる。次亜リン酸塩が酸素受容体として作用して安定なリン酸化合物を形成する一方で、金属酸化物は還元的条件下で酸素原子を供与する。したがって、この新しい方法は、遷移金属酸化物の一種の還元的リン酸化とみなすことができる。
【0022】
本発明のプロセスで使用される遷移金属酸化物は、好ましくは粉末である。
【0023】
好ましい実施形態において、遷移金属酸化物は、第一列遷移金属酸化物または別の初期遷移金属酸化物である。TiO、V、Cr、MnOまたはFeは、例えば、ステップa)において遷移金属酸化物として使用することができ、または代替的に、MoO、WO、CeOから例示的に選択される別の初期遷移金属酸化物を使用することができる。
【0024】
好ましい実施形態においては、ステップb)の加熱は、少なくとも次亜リン酸化合物が溶融する温度まで行われる。従って、溶融された次亜リン酸化合物は反応媒体として同時に機能する。この方法のプロセスウィンドウは、次亜リン酸化合物の融点と熱分解の間の温度と時間によって決定される。次亜リン酸塩溶融物は、分散または溶解した金属酸化物との反応を媒介する。次亜リン酸アニオンの熱力学的不安定性により、ホスファンガスとリン酸塩への不均化が反応を制限する。ホスファンは、反応条件下で主にスペクテータ(傍観者)として作用する。
【0025】
好ましくは、ステップb)の加熱は、溶融物が凝固(固化)する温度まで行われる。
【0026】
一実施形態において、加熱ステップb)は、200℃~600℃との間の範囲の温度で実施される。一実施形態においては、加熱はその温度で30~600分間、好ましくは90~250分間保持される。加熱ステップb)を徐々に加熱しながら、好ましくは1℃/分~20℃/分の範囲で行うことが好ましい。
【0027】
次亜リン酸化合物としては、次亜リン酸アンモニウムが好ましく用いられる。次亜リン酸化合物の質量と遷移金属酸化物の質量の比は、2:1~10:1、好ましくは5:1~10:1の範囲である。過剰の次亜リン酸塩を使用することによる溶融物の形成は、金属酸化物の完全な転化および生成物の高い結晶性のために有益である。十分な次亜リン酸塩が利用可能であれば、金属酸化物の酸素はすべて消費され、還元された陽イオンは自由に結晶性のTMP相を形成する。
【0028】
次亜リン酸化合物の質量比を増やしてTMPを合成すると、異なる相組成になる。次亜リン酸化合物の比率が低いと(1/1~1/2)、金属酸化物を定量的に変換するのに十分でない場合がある。しかし、これらの条件でも部分的な還元が起こり、最初の金属酸化物粒子の表面に安定な還元金属酸化物種が形成される。より低い酸化状態を有する純粋なTMP相が溶融物から得られる(比≧1/6)前に、次亜リン酸塩比(1/3~1/5)を増加させることにより、未知の中間相を形成することができる。
【0029】
不活性ガス条件は、好ましくは、反応チャンバー内の窒素またはアルゴンなどの不活性ガス流または真空(減圧)によって達成される。
【0030】
TMPを含む溶融物を冷却し、結晶表面に形成された過剰のリン酸化合物を水で洗浄することにより容易に除去し、純粋なTMPを得ることができる。ホスファンと金属酸化物の反応による金属リン化物の形成は、この反応条件下では観察されなかった。本発明による方法は、さらに以下を含むことができる
-生成物を冷却すること、および/または
-生成物を精製すること、および/または
-生成物を、好ましくは空気中で乾燥すること。
【0031】
精製ステップは、混在物を除去し、好ましくは、脱イオン水もしくは極性有機溶媒またはそれらの混合物であることができる溶媒で洗浄することによって実施される。あるいは、リン酸水溶液のような酸性溶液による洗浄、または相による昇華も実行可能な精製方法である。
【0032】
本発明はさらに、本発明による方法から得られる遷移金属リン酸塩に関する。本発明は、本発明による方法から得られるリン酸チタン(III)化合物に関し、TiOが遷移金属酸化物として使用され、加熱が500℃未満の温度まで、好ましくは250℃~350℃の間の範囲の温度まで行われる。
【0033】
本発明は、添付の図および実験パートによってさらに説明される。以下の図のように示される:
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1は、次亜リン酸アンモニウムと金属酸化物の固体混合物から出発するTMPの製造のための一般的な合成手順を示す。
【0035】
図2は、次亜リン酸アンモニウムの溶融物中でd)TiO(P25)を転化して合成した2つの新規リン酸チタン相(a)Ti(III)P、b)Ti(IV)P)およびc)Ti(POのXRDパターンを示す。線はTiO化合物の主な反射の位置を示す。
【0036】
図3はTi(III)pのラマンスペクトルであり、無機ピロリン酸化合物に特徴的な範囲(ボックス)に強いシグナル(764cm-1)が見られる。
【0037】
図4は、Ti(III)p→Ti(IV)p相転移のTG-DSC曲線を示す。
【0038】
図5は、Ti(III)p→Ti(IV)p相転移のTG曲線と、それに関連する水素(m/z 2)、アンモニア(m/z 17)、水(m/z 17,18)の質量シグナルを示している。これらの質量シグナルは、TG/DSC装置の排出ガスのマススペクトル(質量スペクトル)から記録された。
【0039】
図6は、Ti(III)p化合物相から相転移を介して製造したTi(IV)pの31P MAS NMRスペクトルを示す。Ti(III)pサンプルは、1g、5g、10gの異なるバッチで製造した。
【0040】
図7は、次亜リン酸塩の質量比を1/1から1/10まで増加させて得られた相のXRDパターンを示す。縦線はTiO化合物の主な反射の位置を示す。
【0041】
図8は、1/2の質量比のTiOとNHPOの混合物から合成したa)Ti(III)p、b)Ti(PO、c)Ti(IV)pおよびd)リン酸化Ti(III/IV)酸化物のXPSスペクトルである。
【0042】
図9は、次亜リン酸アンモニウムの溶融物中で変換されたTiOから出発する新規および既知のリン酸チタン相の製造のための反応経路を示す。
【0043】
図10は、次亜リン酸アンモニウムの溶融物中で金属酸化物を還元的リン酸化することによって合成されたTMPのXRDパターンである:a)V(PO(500℃で得られた)、b)Mn(P12)(500℃で得られた)、c)Cr(NH)HP10(300℃で得られた)(Cr化合物相(線)に属する追加の反射)、d)Cr(PO(500℃で得られた)、e)Fe(II)p(300°で得られた)、f)Fe(P12)(500℃で得られた)。
【0044】
図11は、80Kで記録されたFe(II)pの57Feメスバウアースペクトルを示し、Fe(II)種に特徴的な異性体シフトを持つ2つのメスバウアーサイトを示している。
【0045】
実験部分
特性評価法
粉末X線回折(XRD)
XRDパターンは、Stoe STADI P (Debye-Scherrer)透過およびSTADI P 反射(Bragg-Brentano)ジオメトリーで、透過測定には0.5mmホウケイ酸キャピラリーを用いて測定した。透過型回折計には一次ゲルマニウムモノクロメーターが、反射型回折計にはエネルギー分散型PINダイオード検出器が装備されていた。両装置ともCu Kα線を用いた。
【0046】
ラマン分光測定
ラマンデータは、励起波長785nmのInVia分光器(Renishaw Ltd,UK)で記録した。1200格子/mmグリッドは、1cm-1のスペクトル分解能を保証した。すべてのスペクトルは、1ステップ10秒、3回の繰り返しで収集された。
【0047】
熱質量分析と質量分析
TG/DSC測定は、Netzsch Aeolos質量分析計に取り付けたNetzsch STA 449熱天秤を用いて行った。測定はアルゴン雰囲気下、加熱速度10℃/分で行った。
【0048】
X線光電子分光法
XPS測定は、PHOIBOS 150 1D-DLD半球型エネルギー分析器を装備したSPECS GmbHからの分光計を用いて行った。単色化Al KαX線源(E=1486.6eV)を15kV、200Wで作動させた。高分解能スキャンを測定するため、通過エネルギーを20eVに設定した。レンズモードとして中領域モードを使用した。分析チャンバー内の実験中のベース圧力は5x10-10mbarであった。荷電効果を考慮し、すべてのスペクトルは284.5eVのC 1sを基準とする。
【0049】
MAS NMR分光法
31P MAS NMRスペクトルは、Bruker Avance III HD 500WBスペクトロメーターで、ダブルベアリングMASプローブ(DVT BL4)を用いて、共鳴周波数202.5MHzで記録した。スペクトルは、3~12kHzの間のいくつかの回転速度で、600秒のリサイクル遅延(4または8スキャン)でシングルπ/2パルス(3.0μs)を印加することによって測定された。高出力プロトンデカップリング(spinal64)を適用した。化学シフトは、固体のNHPOを二次リファレンス(δ=0.81ppm)として使用し、85%水溶液HPOに対して与えられた。
【0050】
メスバウアー分光法
メスバウアースペクトルは、γ-sourceを交互に一定に加速する従来の分光計で記録した。装置の最小実験線幅は0.24mm/s(半値全幅)であった。サンプル温度はオックスフォード・インストゥルメンツのバリオックス・クライオスタット(Oxford Instruments Variox cryostat)で一定に保たれ、57Co/Rh線源(0.9GBq)は室温に保たれた。検出器はKetek GmbH製AXAS-M1システムのSi-Driftダイオード(150mm SDD CUBE)を使用した。分光器は25μmのα-Feフォイルのメスバウアースペクトルを室温で記録して校正した。6線パターンの中心をゼロ速度としたため、異性体シフトは300Kの金属鉄に対する相対値で示した。ゼロ磁場スペクトルは、mf.SL(EBによる)というプログラムを用いてローレンツシアン(Lorentzians)でシミュレートした。
【0051】
一般合成手順
TMPの一般的な合成手順を図1に示す。典型的な製造法では、金属酸化物粉末(例えば、TiO、V、Cr、MnO、Feなど)を余剰の次亜リン酸アンモニウム(NHPO)と1/10までの質量比(金属酸化物粉末1部、次亜リン酸アンモニウム10部)で混合し、アルゴン流下、管状反応器で2時間加熱する。最後に、サンプルを冷却し、結晶材料から過剰のリン酸塩を除去するためにpH6になるまで脱イオン水で洗浄する。
【0052】
本発明の方法は、低温(300℃)および高温(500℃)条件下で、一連の第一列遷移金属(Ti、V、Cr、Mn、Fe)について試験された。表1に示す結果から、低温条件ではアンモニウムTMPが形成しやすく、高温条件では縮合メタリン酸構造を有するアンモニウム不含のTMPが形成することがわかる。ほとんどの場合、反応は遷移金属の還元を伴っていた。
【0053】
【表1】
【0054】
典型的な反応では、金属酸化物粉末(TiO、V、Cr、MnO、Fe)を余剰の次亜リン酸塩(NHPO)と混合し、不活性ガス流下、管状反応器で短時間加熱する。その後、溶融物を冷却し、水で洗浄して純粋なTMPを得る。この方法のプロセスウィンドウは、次亜リン酸化合物の融点から熱分解までの温度と時間によって決定される。したがって、プロセスの加熱速度は重要である。次亜リン酸塩溶融物は、分散または溶解した金属酸化物との反応を媒介する。次亜リン酸アニオンは熱力学的に不安定であるため、ホスファンガスとリン酸塩への不均化が反応を制限する。ホスファンは、提示された反応条件下ではスペクテータ(傍観者)として作用する。結晶表面に生成した過剰のリン酸化合物は、水で洗浄することで容易に除去できる。先行技術にしばしば記載されているような、ホスファンと金属酸化物の反応による金属リン化物の形成は、ここで用いた反応条件下では観察されなかった。
【0055】
代表的な例は、酸化チタン(IV)(P25)と次亜リン酸アンモニウムの反応であり、新規および既知の結晶性リン酸チタン(III)化合物が得られた。300℃においては、図2aのそれぞれのXRDパターンが示すように、未知の結晶性リン酸チタン(III)アンモニウム化合物(Ti(III)pと表記)が溶融物から形成される。生成物は、ラマン分光法によって証明されるように、ピロリン酸塩である(図3)。反応温度を500℃まで上げると、既知のトリメタリン酸チタン(III)、Ti(POが得られる(図2c)。この構造では、孤立したTiO八面体がPO四面体の無限鎖を介して連結している。
【0056】
300℃におけるTi(III)pの合成
Ti(III)pの合成は、TiO(P25、Degussa、アナターゼとルチルの混合相、≧99.5%)とNH(HPO)(Fluka、≧97.0%)の質量比1/10の乾燥混合物から行った。この合成は、1gから10gまでのバッチでテストされたが、技術的な複雑さや生成物の結晶性や純度の逸脱はなかった。混合物をセラミックるつぼに充填し、Ar流(アルゴン流下)(100mL/分)下、管状反応器で300℃、2時間加熱した。250℃までは10℃/分の加熱速度を使用し、300℃までは2℃/分で低下させた。最後にサンプルを冷却し、流出液のpHが6になるまで脱イオン水で洗浄した。粉末状の生成物を80℃の空気中で乾燥させた。
【0057】
次亜リン酸アンモニウムが215℃で融解を開始する前に、200℃まで化合物混合物は粉末状を維持した。次亜リン酸アンモニウムの部分的な熱分解は、230℃超で始まり、ホスファンとリン酸アンモニウムになる。245℃を超えると、次亜リン酸アンモニウムは酸化チタンと反応し始め、これはチタン(III)種の形成に特徴的な溶融物の濃い紫色の着色によって示される。最後に、次亜リン酸アンモニウム全体が反応または分解した後、溶融物は凝固する。両分解生成物は、関連する反応条件下でTiOとの反応性を試験したが、有意な反応は示さなかった。
【0058】
次亜リン酸アンモニウムの熱分解により、強い呼吸毒として知られるガス状ホスファン(PH、CAS:7803-51-2)の形成が生じる。このため、提示された溶融塩法によるTMPの製造は、不活性ガスの連続流下、閉鎖系でのみ実施する必要がある。
【0059】
図3は、Ti(III)pのラマンスペクトルであり、無機ピロリン酸化合物に特徴的であることが確認されている範囲(ボックス)に強いシグナル(764cm-1)を示している。
【0060】
500℃におけるTi(IV)pの合成
上記の合成手順で得られたTi(III)pをセラミックるつぼに充填し、Ar流下(アルゴン流下)(100mL/min)、10℃/minの加熱速度で4時間、500℃で熱処理した。最後に、得られた白黄色がかった粉末を脱イオン水で洗浄し、80℃の空気中で12時間乾燥させた。相転移は、100mgから1gのバッチで試験したが、生成物の結晶性と純度に逸脱はなかった。
【0061】
アルゴン雰囲気下、10℃/分の加熱速度でTG(熱質量測定)/DSC(示差走査熱量測定)を行ったところ、300~500℃の間で単一段階の質量損失が見られた。7質量%の質量損失は、相転移中にアンモニア、水素、水が放出されたことを示す2つの吸熱シグナル(図4)を伴っている(図5)。Ti(IV)pは熱安定性が高いため、それ以上の相転移は起こらない。アンモニウムカチオンの熱分解によりアンモニアが放出され、図5に示されるように、Ti(III)からTi(IV)への酸化の際にプロトンが水素に還元される。
【0062】
図6は、提示されたTi(III)p化合物相から相転移を介して製造された3つのTi(IV)pサンプルの31P MAS NMRスペクトルを示す。Ti(III)p化合物材料は、1g、5g、10gの異なるバッチで合成された(図6a-c)。-30ppm付近のシグナルは、結晶性Ti(IV)pサンプルのピロリン酸ユニットに起因する。スペクトルa)とb)は、0~-10ppmの間に2つの小さなシグナルを示したが、これは結晶構造の一部ではない遊離のオルトリン酸塩とピロリン酸塩に特徴的である。Ti(IV)pの31P MAS NMRスペクトルは、付加相を示さず、アモルファス部分の量も少ないことから、Ti(III)p化合物原料の純度が高いことも示している。このことは、Ti(III)p化合物の純度が高いことを示している。結晶性を損なうことなくスケールアップでき、純度が高いことは、提示した溶融塩法の特徴である。
【0063】
500℃におけるTi(PO の合成
Ti(POの合成に使用した手順は、加熱速度と温度が異なること以外、Ti(III)Pについて説明した手順と同様である。TiO(P25,Degussa)とNH(HPO)(Fluka,≧97.0%)の質量比1/10の混合物をセラミックるつぼに充填し、管状反応器で500℃、Ar流下(100mL/分)、加熱速度10℃/分で2時間加熱した。最後にサンプルを冷却し、pH6になるまで脱イオン水で洗浄した。粉末状の生成物を空気中80℃で乾燥させた。この合成法は、1gから5gのバッチでテストされたが、技術的な複雑さや生成物の結晶性や純度の逸脱はなかった。
【0064】
次亜リン酸塩の量の影響
過剰の次亜リン酸塩を使用することによる溶融物の形成は、TiOの完全な転化と生成物の高い結晶性にとって有益である。次亜リン酸化合物の質量比を増やしてTi(POを合成すると、図7のXRDパターンに示されるように、異なる相組成になる。次亜リン酸化合物の比率が低いと(1/1~1/2)、TiOを定量的に変換するには不十分である。しかしながら、これらの条件でも部分的な還元が生じ、チタニア粒子表面に安定な酸化チタン(III)種が形成されることが、特徴的な黒色着色によって示され、XPSスペクトルによって確認された(図8d)。純粋な相Ti(POが溶融物から得られる(図7の比率≧1/6)前に、次亜リン酸塩の比率を増加させることにより未知の中間相が形成される(図7の1/3-1/5)。提案された酸化還元反応メカニズムにおいては、この化合物は供与体(ドナー)と受容体(アクセプター)のペアとみなすことができる。次亜リン酸塩が酸素受容体として作用して安定なリン酸化合物を形成する一方、金属酸化物は還元的条件下で酸素原子を供与する。十分な次亜リン酸塩があれば、金属酸化物の酸素はすべて消費され、還元された陽イオンは遊離して結晶性TMP相を形成する。
【0065】
低価チタン(III)リン酸塩
低価(low-valent)のチタン(III)リン酸塩に関する報告は、先行技術ではかなり稀であるが、これは空気などの酸化剤の存在下で酸化する傾向が強いためと考えられる。XPSスペクトルは、図8のa)とb)に示すように、Ti(III)pとTi(POの結晶表面に2つの異なるチタン種の存在を示している。これらはTi(III)とTi(IV)に起因すると考えられ、Ti(IV)種が両化合物の結晶表面に存在することを示し、周囲の空気による表面上のTi(III)の酸化の結果である可能性が高い。XPS分析は粒子の表面近傍領域をプローブするため、Ti(IV)シグナルは表面種によるものである。結晶性のTi(POは純粋なTi(III)化合物であることが知られている。
【0066】
熱安定性
新規Ti(III)p化合物のバルクは、XRDデータが示すように、良好な熱安定性と化学的安定性を示す。高温でも酸性水溶液中で長時間安定であり(HPO,pH=1,80℃,72時間)、空気中でも250℃まで熱的に安定である。より高い温度では、材料は既知のピロリン酸チタン(IV)(TiP)に相転移する。非酸化条件下においては、Ti(III)pの熱処理により、Ti(IV)pと表記される別の新規な結晶性Ti(IV)リン酸塩が得られ、これは専らTi(IV)種を示す(図8c)。TG-MSモニタリング(図4および図5)により、相転移はアンモニア、水素および水の放出を伴うことが明らかになった。新規のTi(IV)pのXRDパターンを図2bに示す。新規の結晶性反磁性Ti(IV)p化合物の再現性と純度は、31P MAS NMRスペクトル(図6)により確認され、生成物中に追加の結晶部分や顕著なアモルファス部分は認められなかった。
【0067】
反応経路
全体として、次亜リン酸アンモニウムによるTiOの変換は、図9に示したように、いくつかの既知のリン酸チタン化合物および2つの新規の相への反応経路を提供する。代表的な例として、Ti(IV)からTi(III)への還元は、次亜リン酸経路の還元的特徴と可変性を示している。
【0068】
ここでチタン化合物について報告されたような低原子価のリン酸塩の形成は、他の遷移金属化合物についても観察される(下記参照)。先行技術においては、TMPの低酸化状態は一般に、化合物として金属粉末または低原子価のチタン化合物を使用することでアクセス可能であると報告されている。それに比べ、新しいル経路においては、次亜リン酸塩を介して遷移金属の酸化状態を指示する可能性があり、その結果、反応条件がかなり緩和される。
【0069】
300℃におけるV(PO の合成
V(POの合成は、0.2gのV(Merck、≧99%)と2gのNH(HPO)(Fluka、≧97.0%)の混合物から行った。混合物をセラミックるつぼに充填し、Ar流下(アルゴン流下)(100mL/分)、管状反応器において300℃で2時間加熱した。250℃までは10℃/分の加熱速度を使用し、300℃までは2℃/分で下げた。最後にサンプルを冷却し、pH6になるまで脱イオン水で洗浄した。乾燥ステップ中の残留洗浄水による生成物の部分的溶解を避けるため、エタノールによる追加洗浄ステップを実施した。粉末状の生成物を80℃の空気中で乾燥させた。
【0070】
500℃におけるV(PO の合成
500℃でのV(POの合成に使用した手順は、上記の300℃の場合と同様である。合成は、1gのV(Merck、≧99%)と10gのNH(HPO)(Fluka、≧97.0%)の混合物から行った。混合物をセラミックるつぼに充填し、Ar流下(アルゴン流下)(100ml/分)、管状反応器で500℃、10時間加熱した。250℃までは10℃/分の加熱速度で加熱し、500℃までは2℃/分の加熱速度で加熱した。最後にサンプルを冷却し、流出液のpHが6になるまで脱イオン水で洗浄した。乾燥ステップ中の残留洗浄水による生成物の部分的溶解を避けるため、エタノールによる追加洗浄ステップを実施した。粉末状の生成物を80℃の空気中で乾燥させた。図10aにV(PO3)のXRDパターンを示す。
【0071】
300℃におけるCr(NH )HP 10 の合成
Cr(NH)HP10の合成は、0.5gCr(Merck,≧98%)と5gNH(HPO)(Fluka,≧97.0%)の混合物から行った。混合物をセラミックるつぼに充填し、Ar流下(アルゴン流下)(100ml/分)、管状反応器において300℃で10時間加熱した。250℃までは10℃/分の加熱速度を使用し、300℃までは2℃/分で下げた。最後にサンプルを冷却し、流出液のpHが6になるまで脱イオン水で洗浄した。乾燥ステップ中の残留洗浄水による生成物の部分的溶解を避けるため、エタノールによる追加洗浄ステップを実施した。粉末状の生成物を80℃の換気オーブンで一晩乾燥させ、分析に使用した。図10cは、Cr(NH)HP10のXRDパターンと、Cr化合物相に属する追加の反射を示している。
【0072】
500℃におけるCr(PO の合成
Cr(POの合成は、0.2gのCr(Merck、≧98%)と2gのNH(HPO)(Fluka、≧97.0%)の混合物から行った。この混合物をセラミックるつぼに充填し、管状反応器で500℃、4時間、Ar流下(アルゴン流下)(100ml/分)、5℃/分の加熱速度で加熱した。最後にサンプルを冷却し、流出液のpHが6になるまで脱イオン水で洗浄した。乾燥ステップ中の残留洗浄水による生成物の部分的溶解を避けるため、エタノールによる追加洗浄ステップを実施した。粉末状の生成物を80℃の換気オーブンで一晩乾燥させ、分析に使用した。図10dは、Cr(POのX線回折パターンと、既知のリン酸クロム相や酸化物相に帰することができない追加の相を示している。
【0073】
500℃におけるMn (P 12 )の合成
Mn(P12)の合成は、0.2gMnO(Merck,≧99.0%)と1gのNH(HPO)(Fluka、≧97.0%)の混合物から行った。この混合物をセラミックるつぼに充填し、管状反応器において500℃、4時間、Ar流下(アルゴン流下)(100ml/分)、10℃/分の加熱速度で加熱した。最後にサンプルを冷却し、流出液がpH6になるまで脱イオン水で洗浄した。粉末状の生成物を80℃の空気中で乾燥させた。図10bにMn(P12)のXRDパターンを示す。
【0074】
300℃におけるFe(II)pの合成
新規Fe(II)p化合物の合成は、0.5gのFe(RiedeldeHaen、≧97%)と5gのNH(HPO)(Fluka、≧97.0%)の混合物から行った。混合物をセラミックるつぼに充填し、Ar流下(アルゴン流下)(100ml/分)、管状反応器において300℃で10時間加熱した。250℃までは10℃/分の加熱速度を使用し、300℃までは2℃/分で下げた。最後にサンプルを冷却し、流出液のpHが6になるまで脱イオン水で洗浄した。粉末状の生成物を80℃の空気中で一晩乾燥させた。図10eは、新規のリン酸鉄(II)相(Fe(II)p)のXRDパターンを示す。
【0075】
図11に、Fe(II)pの57Feメスバウアースペクトルを示す。Fe(II)の高スピン種に予想される範囲の異性体シフトを持つ2つの異なるメスバウアースペクトルが示されている。第一成分(緑線)の四重極分裂はLiFePOで観測されたものと同様であるが、第二成分(青線)の四重極分裂はFe(II)高スピン種に対して非常に小さい。スペクトルの鋭い共鳴シグナルは、サンプルがリン酸鉄の重要な非晶質部分を含まないことを示している。
【0076】
500℃におけるFe (P 12 )の合成
Fe(P12)の合成は、0.2gのFe(RiedeldeHaen、≧97%)と2gのNH(HPO)(Fluka、≧97.0%)の混合物から行った。この混合物をセラミックるつぼに充填し、管状反応器において500℃、10時間、Ar流下(アルゴン流下)(100ml/分)、10℃/分の加熱速度で加熱した。最後にサンプルを冷却し、流出液がpH6になるまで脱イオン水で洗浄した。粉末状の生成物を80℃の空気中で一晩乾燥させた。図10fは、Fe(P12)のXRDパターンを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-01-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)粒子状の遷移金属酸化物(なお、ランタニドおよびアクチニド酸化物をも含む)と、少なくとも化学量論量の粒子状の次亜リン酸化合物との混合物を製造すること、
b)ステップa)で得られた混合物を、好ましくは不活性ガス条件下で、次亜リン酸化合物の融点と分解温度との間の温度範囲まで加熱すること
を含む遷移金属リン酸塩を製造するための方法であって、
ここで、次亜リン酸化合物と遷移金属酸化物の質量の比が、2:1~10:1、好ましくは5:1~10:1の範囲であり、次亜リン酸化合物が(NH )H PO である前記方法。
【請求項2】
前記加熱ステップb)が、200℃~600℃との間の範囲の温度まで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)の前記加熱が、好ましくは1℃/分~20℃/分の間の範囲で、徐々に上昇する温度で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱ステップが、30~600分間、好ましくは90~250分間実施される、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
-ステップb)において得られた生成物を、好ましくは溶媒で洗浄することによって、好ましくは脱イオン水または蒸留水で洗浄することによって、精製すること、および、任意に
-得られた生成物を、好ましくは空気中において乾燥すること、をさらに含む、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
遷移金属酸化物が、好ましくは第一列遷移金属酸化物または代替的に他の前周期遷移金属酸化物である、請求項1~5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
金属酸化物が、Ti、V、Cr、MnおよびFeの酸化物またはそれらの混合物から選択される、請求項1~のいずれか一つに記載の方法によって得られる遷移金属リン酸塩。
【請求項8】
TiOが遷移金属酸化物として使用され、前記加熱ステップb)が500℃未満の温度まで、好ましくは250℃~350℃との間の範囲の温度まで実施される、請求項1~のいずれか一つに記載の方法によって得られるリン酸チタン(III/IV)化合物。
【請求項9】
請求項に記載のリン酸チタン(III/IV)化合物の、有機化学反応または電気化学デバイスにおける触媒としての使用。
【国際調査報告】