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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-05
(54)【発明の名称】溶射コーティングのための懸濁液
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/11 20160101AFI20240329BHJP
   C23C 4/134 20160101ALI20240329BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C23C4/11
C23C4/134
C04B41/87 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561618
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2022059139
(87)【国際公開番号】W WO2022214553
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】21167250.6
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507346030
【氏名又は名称】トライバッハー インダストリー アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】TREIBACHER INDUSTRIE AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュシュニャル、ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】トランシュ、リシャール
(72)【発明者】
【氏名】カリー、ニコラス
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031CB42
4K031CB43
4K031DA04
4K031EA07
(57)【要約】
本発明は、固体セラミック粒子および溶媒を含む、サスペンション溶射用の懸濁液に関し、懸濁液の微細分率比が0.5以下であることを特徴としており、微細分率比は、-レーザ回折粒子解析を使用した粒径解析から得られた粒径分布から決定した場合に、粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の体積分率と、-懸濁液中の固体セラミック粒子の質量分率との比率として定義されており、固体セラミック粒子の密度は3.0~7.0g/cm3であり、固体セラミック粒子は、体積基準d50値が2μm~10μmの範囲である粒径分布を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体セラミック粒子および溶媒を含む、サスペンション溶射用の懸濁液であって、前記懸濁液の微細分率比が0.5以下であることを特徴としており、前記微細分率比が、
-レーザ回折粒子解析を使用した粒径解析から得られた粒径分布から決定した場合に、粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の体積分率と、
-懸濁液中の固体セラミック粒子の質量分率と
の比率として定義されており、
前記固体セラミック粒子の密度が3.0~7.0g/cmであり、
前記固体セラミック粒子が、体積基準d50値が2μm~10μmの範囲である粒径分布を有する、懸濁液。
【請求項2】
粒径が1.0μm以下である前記固体セラミック粒子の前記体積分率が、20%以上である、請求項1に記載の懸濁液。
【請求項3】
前記固体セラミック粒子の前記密度が4.9~6.6g/cmである、請求項1または2に記載の懸濁液。
【請求項4】
前記固体セラミック粒子が、Cr、Al、Y、TiO(式中、xは1.6~2の範囲であることが好ましい)ならびにこれらの混合物および/または複合材料からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項5】
粒径が1.0μm以下である前記固体セラミック粒子の前記体積分率が、30体積%未満、好ましくは25体積%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項6】
前記固体セラミック粒子が、4μm~5μmの範囲のd50値を含む粒径分布を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項7】
前記溶媒が水を含むか、または水からなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項8】
前記溶媒が凍結防止剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項9】
前記凍結防止剤が、グリコール(好ましくはエチレングリコール)もしくはアルコール(好ましくはエタノールもしくはイソプロパノール)を含むか、またはこれからなる、請求項8に記載の懸濁液。
【請求項10】
前記溶媒が、水とエチレングリコールの混合物からなり、水のエチレングリコールに対する重量比が1:10(w/w)~1:1(w/w)の範囲である、請求項1~9のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項11】
分散剤を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項12】
前記懸濁液中の前記固体セラミック粒子の前記質量分率が、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも75重量%である、請求項1~11のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項13】
前記微細分率比が、0.4以下、好ましくは0.35以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項14】
本明細書に記載のように測定した場合、前記懸濁液の粘度が、50mPa*s未満、好ましくは40mPa*s未満、更により好ましくは30mPa*s未満である、請求項1~13のいずれか一項に記載の懸濁液。
【請求項15】
サスペンション溶射、好ましくはサスペンションプラズマ溶射のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の懸濁液の使用。
【請求項16】
基材上にコーティングを製造するための請求項15に記載の使用であって、前記基材が、金属、セラミック、ポリマー、合金およびこれらの混合物からなる群から選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション溶射のための懸濁液に関する。
【背景技術】
【0002】
サスペンション溶射、例えばサスペンションプラズマ溶射は、コーティングを生成するためのエマージング技術となっている。
【0003】
溶射の原料としての懸濁液によって典型的には平均サイズ(d50)が10μm未満の微細粒子の使用が可能となり、粉末などの固体原料を用いた従来の溶射と比較して多くの利点を示す。サスペンション溶射では、表面粗さおよびコーティング有孔率を低くすることができ、かつより小さな細孔径を得ることができる。更には、小さな粒子を用いたサスペンション溶射は、空気圧溶射供給システムにとって有益である。
【0004】
懸濁液の特性(例えば、粘度、表面張力、粒径、固形物負荷)に応じて、サスペンション溶射によって円柱状の、および緻密なコーティングが形成される。加えて、懸濁液材料を用いて、数マイクロメートルの厚さを有するコーティングを得ることができる。滑らかで緻密なコーティングは、耐摩耗性用途および耐腐食性用途ならびに電気絶縁性に関して特に注目されている。
【0005】
緻密コーティングを製造するための好ましいサスペンション溶射は、サスペンションプラズマ溶射(suspension plasma spraying、SPS)である。サスペンションプラズマ溶射では、懸濁液は高熱かつ高速プラズマガスの溶射ジェットに投入され、より小さな液滴に微粒化される。次いで、液体が気化するのと同時に元々の固体粒子が凝集し、これによりサイズが増大する。これらのスプレー粒子は高熱プラズマガスにより溶融され、コーティングされる表面に向かって加速される。低温かつ固体表面に衝突することで、スプレー粒子は一般にはスプラットと呼ばれるものへと平坦化され、冷却されて凝固し、溶射コーティングを形成する。
【0006】
緻密なセラミックコーティングのサスペンションプラズマ溶射の一般的な原理は、米国特許第5,609,921号明細書、米国特許第6,579,573号明細書および米国特許出願公開第2006/0222777号明細書に開示されている。
【0007】
VanEveryら(Journal of Thermal Spray Technology,第20(4)巻,第817~828号(2011))は、懸濁液の液滴サイズおよびコーティング微細構造上の堆積粒径の影響を考察している。慣性が低く、小さな堆積粒子は基材近くのガスジェットに従い、基材面に対して垂直ではない衝突角度で堆積され、円柱状構造(欠陥)が形成される。対照的に、慣性が高く、大きな堆積粒子はそれらの軌道を維持し、コーティング表面に対して90°近い角度で衝突し、緻密な微細構造を形成する。典型的には、同一の懸濁液の液滴サイズから出発する場合、懸濁液が低濃度で小さな固体粒子を含有する場合には小さな堆積粒子が形成されるが、懸濁液が高濃度で大きなまたは小さな粒子を含有する場合には大きな堆積粒子が形成される。
【0008】
コーティング形成に関する更なる背景は、L.Pawlowski,Surface&Coatings Technology 第203(19)巻,第2807~2829頁(2009)に開示されている。Curryら(Coatings,第5巻,第338~356頁(2015))は、懸濁液の液滴サイズが懸濁液の特性、特に粘度、表面張力および懸濁液の密度(固形物負荷)で制御されることを開示している。更なる先行技術は、KitamuraらによるJournal of Thermal Spray Technology,第20巻(第1~2号),第170~185頁(2011)、米国特許出願第2019/0242001(A1)号およびAghasibeigらによる溶射技術ジャーナル、第28巻、第1579~1605頁(2019)に開示されている。
【0009】
市販の懸濁液は、円柱状コーティング製造用のエタノール系または緻密コーティング製造用の水系である。エタノールと水の混合物もまた報告されているが、本業界では広範には使用されていない。
【0010】
最新技術における耐摩耗性コーティング用の懸濁液は、通常、水系液体中に約25~40重量%のクロミア、アルミナまたはチタニアを含有する。滑らかで緻密なコーティングが求められている場合の適用については、これらの懸濁液によって円柱状の欠陥形成が増大してしまう(Kiilakoskiら,Journal of Thermal Spray Technology,第28巻,第1933~1944頁(2019))。これらの欠陥は、「ぶつ」(“nodules”)と呼ばれ得る。
【0011】
例えば、エアクロスジェット(Kiilakoskiら,Journal of Thermal Spray Technology,第28巻,第1933~1944頁(2019))または水シュラウド(米国特許第10,279,365号明細書)など、更なる機器を使用してスプレージェットから微細粒子を除去するときのみ、欠陥を含まないコーティングが製造され得る。こうした更なる機器は、コストおよび労力が増大することから好ましくない。
【0012】
本開示の技術に関連する更なる先行技術は、米国特許出願公開第2020/0048752号明細書;Forgらによる「Suspension and coating characterization of high velocity suspension flame sprayed(HVSFS)mixed titanium oxide-titanium carbide coatings」,Surf.CoatingsTech.第371巻,第90~96頁(2019);Arevaloらによる「An investigation of the dispersion of YSZ,SDC,and mixtures of YSZ/DSC powders in aqueous suspensions for application in suspension plasma spraying」,Surf.Coatings Tech.第205巻,第5218~5227頁(2011)および欧州特許第3,778,981号明細書に開示される。
【発明の概要】
【0013】
最新技術の欠点を克服し、かつエアクロスジェットまたは水シュラウドなどの更なる技術的処置を使用することなく、欠陥(ぶつ)を有さない緻密なコーティングを製造することができるサスペンション溶射用の懸濁液を提供することが、本発明の目的である。
【0014】
この目的は、固体セラミック粒子と溶媒を含む懸濁液であって、当該懸濁液の微細分率比(FFR:fine fraction ratio)が0.5以下であることを特徴とする懸濁液によって解決される。本発明によれば、微細分率比は、
-粒径分布から決定した場合に、粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の体積分率と、
-懸濁液中の固体セラミック粒子の質量分率と
の比率として定義されており、
当該固体セラミック粒子の密度は3.0~7.0g/cmであり、
固体セラミック粒子は、体積基準d50値が2μm~10μmの範囲である粒径分布を有する。
【0015】
したがって、本発明は、懸濁液中の粒子の異なる粒径分布およびサスペンションスプレー中のスプレージェットでの粒子凝集プロセスを考慮し、懸濁液の固体含量の粒径分布における、微細含量とこの懸濁液中の固体濃度との臨界比を定義する。微細分率比は、懸濁液組成物がぶつのない緻密なコーティング構造を自然に製造する十分大きなスプレー粒子を形成するための最小限の基準を定義している。
【0016】
本発明は、緻密な微細構造および滑らかな表面を特に有する、耐腐食性、耐浸食性および/または耐擦りきずコーティングを製造するのに特に有用である。
【0017】
ぶつを減少させる能力は、懸濁液配合物に固有のものである。低FFRによってスプレージェット中での微細粒子形成が低減され、これによって円柱状の欠陥形成が防止される。スプレージェットから微細粒子を取り除くためには、エアクロスジェットまたは水シュラウドなどの更なる技術装置は必要とされない。
【0018】
FFRが低い本発明に記載の懸濁液によって、スプレー距離を減少させることができる。この理由は、スプレージェット中のより大きなスプレー粒子はより高い慣性を有するからである。スプレー距離を増大させることで、コーティング上での熱負荷が減少し、熱応力によるクラックが防止される。更には、更なる手段によって微細粒子をスプレージェットから除去する必要がない場合に、より多くの材料が基材に到達することから、堆積効率は自動的により高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】緻密かつクラックやぶつ(欠陥)を含まない微細構造および滑らかな表面を表す、例1で得られたコーティングの研磨断面のSEM BSE画像を示す(倍率:170倍、加速電圧:15.0kV、作動距離(working distance)、WD:10.2mm)。
図1B】連続して同じ断面のSEM BSE画像を示す(倍率:170倍、加速電圧:15.0kV、WD:10.1mm)。
図2】緻密かつクラックやぶつ(欠陥)を含まない微細構造および滑らかな表面を表す、例2で得られたコーティングの研磨断面のSEM BSE画像を示す(倍率:60倍、加速電圧:15.0kV、WD:10.1mm)。
図3】緻密かつクラックやぶつ(欠陥)を含まない微細構造および滑らかな表面を表す、例3で得られたコーティングの研磨断面のSEM BSE画像を示す(倍率:60倍、加速電圧:15.0kV、WD:11.8mm)。
図4A】表面に凹凸がある(粗い)、バイモーダルコーティング構造を表す、比較例1Aで得られたコーティングの断面のSEM BSE画像を示す(図4A:倍率:1000倍、加速電圧:15.0kV、WD:11.5mm)。
図4B】表面に凹凸がある(粗い)、バイモーダルコーティング構造を表す、比較例1Aで得られたコーティングの断面のSEM BSE画像を示す(図4B:倍率:1000倍、加速電圧:15.0kV、WD:11.5mm)。
図4C】表面に凹凸がある(粗い)、バイモーダルコーティング構造を表す、比較例1Aで得られたコーティングの断面のSEM BSE画像を示す(図4C:倍率:1000倍、加速電圧:15.0kV、WD:10.0mm)。
図4D】表面に凹凸がある(粗い)、バイモーダルコーティング構造を表す、比較例1Aで得られたコーティングの断面のSEM BSE画像を示す(図4D:倍率:1000倍、加速電圧:15.0kV、WD:9.8mm)。
図5】単一カラムで形成された、ぶつ形態で表面の凸凹が単発的に/散在的に存在する全体的に平坦な表面を表す、例1Bに記載のものと同じ方法で調製された、得られたコーティングの研磨断面のSEM BSE画像を示す(倍率:500倍、加速電圧:15.0kV、WD:10.2mm)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、第1の態様では、固体セラミック粒子および溶媒を含む、サスペンション溶射用の懸濁液であって、懸濁液の微細分率比は0.5以下であることを特徴としており、微細分率比は、-粒径分布から決定した場合に、粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の体積分率と、-懸濁液中の固体セラミック粒子の質量分率との比率として定義されており、固体セラミック粒子の密度は3.0~7.0g/cmであり、固体セラミック粒子は、体積基準d50値が2μm~10μmの範囲である粒径分布を有する。
【0021】
第2の態様では、本発明はサスペンション溶射のための当該懸濁液の使用を提供する。
【0022】
以下の開示は、当該第1の態様および当該第2の態様に同様に適用されている。
【0023】
本明細書で使用される場合、「サスペンション溶射」といった用語は、プラズマ溶射(大気プラズマ溶射および低圧プラズマ溶射など)、高速酸素燃料溶射、高速空気燃料溶射、フレーム溶射、コールドスプレー、レーザスプレーまたはレーザクラッディングを含む溶射プロセスにおける原料としての懸濁液の使用を指す。好ましくは、本発明に記載の懸濁液は、サスペンションプラズマ溶射および低圧プラズマ溶射および高速酸素燃料溶射で使用され、最も好ましくはサスペンションプラズマ溶射、具体的には大気サスペンションプラズマ溶射で使用される。
【0024】
本明細書および特許請求の範囲の目的のために、微細分率比(FFR)は、式(1):
【数1】

に記載の、粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の体積分率と固体セラミック粒子の質量分率の懸濁液中の比率として定義される。
【0025】
本発明によれば、微細分率比は0.5以下である。好ましくは、微細分率比は0.4以下である。
【0026】
本明細書に提案されているFFRは、密度が好ましくは3.0~7.0g/cm、より好ましくは4.9~6.6g/cmである固体セラミック粒子に適用されることが好ましい。
【0027】
本明細書で使用される場合、「体積分率」といった用語は、懸濁液中の全固体セラミック粒子の総体積に対する粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の総体積の割合に関する。体積分率は体積%で得られる。
【0028】
「懸濁液中の固体セラミック粒子の質量分率」といった用語は、懸濁液の総質量(すなわち、懸濁液全成分の質量の合計)に対する懸濁液中の全セラミック粒子の総質量の割合に関する。質量分率は重量%で得られる。
【0029】
粒径が1.0μm以下である粒子の体積分率は、粒径解析で得られる粒径分布から決定される。本発明では、粒径分布は、レーザ回折粒子解析、好ましくは「Microtrac」粒子分析計を使用して決定される。
【0030】
こうした粒子分析計では、レーザビームは試料の粒子によって散乱し、光散乱角度は粒径に反比例する。粒径分布は、典型的には区間(「ボックス」)で決定される。
【0031】
本発明によれば、緻密なコーティングを得るためには、粒径が1μm以下の粒子の体積分率を最小化することが特に好ましい。粒径分布からこれらの粒子の体積分率を決定するため、可能な限り1.0μmに近い粒子分析装置の測定値が取得される。次いで、1.0μmでの値は、この装置が1.0μmで正確に区切られる区間のデータを提供しない場合、線形補間で決定される。
【0032】
本発明では、粒径分布は、Fraunhofer解析モードを利用するMicrotrac S3500またはMicrotrac X100装置(測定モード:吸光粒子のフルレンジ解析(FRA))を使用して決定される。「フルレンジ解析」といった用語は、装置の全測定範囲にわたる粒径の決定を指し、「吸光粒子」といった用語は、光を透過しない粒子を指す。
【0033】
Microtrac S3500およびX100装置は、1.0μmに最も近い値として0.972μm~1.06μmの範囲の区間で粒子体積分率を決定する。
【0034】
Microtrac S3500およびX100装置に匹敵する感度および測定範囲、特に同等の検出可能な粒径の下限およびサイズが小さい領域での同等の感度を示す他の装置は、本発明に記載の粒径分布を決定するために利用されてもよい。当業者は、市場での好適な装置を知っている。
【0035】
好ましい実施形態では、粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の体積分率は20%以上である。本発明は、小さい粒径の粒子をある一定量を有する懸濁液の場合には、本質的に有益である。したがって、本発明は特に、粒径が小さい粒子が仮に存在する場合には、懸濁液中に含有されなければならない、小粒径の粒子最大量についての教示を提供する。
【0036】
更に好ましい実施形態によれば、粒径が1.0μm以下である固体セラミック粒子の体積分率は、30体積%未満、好ましくは25体積%未満である。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明の懸濁液の固体セラミック粒子は、4.0μm~5.0μmの範囲のd50値を有する粒径分布を示す。d50値は、「平均粒径」として理解されるべきであり、粒径分布から決定される。d50値は、メジアン径、すなわち粒径分布の中央値として知られており、これらは体積基準表示(dv50)または数基準表示(dn50)から決定される。本出願では、d50値は体積基準表示、すなわち累積分布における50体積%での粒径(例えば、2.0μmのd50は、50体積%の粒子が2.0μmよりも小さい直径を有することを意味する)を指す。
【0038】
一実施形態では、当該固体セラミック粒子は、遷移金属、希土類金属または周期表の第13族もしくは第14族の少なくとも1つの酸化物を含むか、またはこれからなる。
【0039】
本明細書で使用される「遷移金属」といった用語は、遷移金属元素またはこれらの混合物、すなわち2つ以上の遷移金属元素を指す。IUPACに従い、遷移金属はその原子が不完全なdサブ殻を有するか、不完全なdサブ殻を有するカチオンを生じ得る元素である。ただし、本明細書および特許請求の範囲の目的のために、「遷移金属」といった用語は周期表の第4族~第11族の元素およびZnのみを含む。
【0040】
本明細書で使用される「希土類金属」といった用語は、ランタニド、イットリウムおよびスカンジウムを含む17種類の化学的に類似する金属元素の群を指す。ランタニドは、原子番号57~71の一連の元素として定義されており、プロメチウムを除くそれら全てが自然界に存在する(Extractive Metallurgy of Rare Earths,C.K.Gupta,N.Krishnamurthy,CRC)。
【0041】
当該固体セラミック粒子が遷移金属の酸化物を含むか、またはこれからなる場合には、当該酸化物は、好ましくは酸化クロム(III)酸化物(クロミア、Cr)または酸化チタン(チタニア、TiO、xは好ましくは1.6~2、更により好ましくは1.6~1.9であり、または2であって、これはすなわちTiO)である。
【0042】
当該固体セラミック粒子はまた、酸化イットリウム(イットリア、Y)などの希土類金属の酸化物を含むか、これからなっていてもよい。
【0043】
当該固体セラミック粒子が、周期表の第13族の金属酸化物を含むか、これらからなっている場合には、当該酸化物は好ましくは酸化アルミニウム(アルミナ、Al)である。
【0044】
当該固体セラミック粒子が、周期表の第14族の金属酸化物を含むか、これらからなっている場合には、当該酸化物は、好ましくは二酸化ケイ素(シリカ、SiO)を含むケイ酸塩鉱物であり、例えばムライトなどのケイ酸アルミニウム(3Al・2SiO)である。
【0045】
特に好ましい実施形態では、当該固体セラミック粒子は、酸化クロム(III)(Cr)、酸化アルミニウム(Al)、酸化イットリウム(Y)、酸化チタン(TiOであってxは好ましくは1.6~2の範囲)ならびにこれらの混合物および/または複合材料からなる群から選択される。
【0046】
好ましい実施形態によれば、懸濁液中の固体セラミック粒子の質量分率は、少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも70重量%、更により好ましくは少なくとも75重量%である。懸濁液中の固体セラミック粒子の質量分率はまた、少なくとも80重量%以上であってもよい。
【0047】
本発明によれば、当該溶媒は、水もしくは有機溶媒もしくはこれらの混合物を含んでもよく、またはこれらからなってもよい。有機溶媒は、アルコール、ケトン、エステル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエーテルエステルもしくは炭化水素またはこれらのいずれかの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0048】
好ましくは、溶媒は、水、好ましくは脱イオン水を含むか、またはこれからなる。溶媒はまた、凍結防止剤を含んでもよい。凍結防止剤は、溶媒が主に水、または完全に水からなる場合には特に有用である。溶媒は、水が溶媒の少なくとも60重量%、好ましくは少なくとも70重量%、または75重量%、または80重量%、または85重量%、または90重量%以上を構成している場合には、主に水からなる。
【0049】
凍結防止剤によって、懸濁液が0℃未満の温度にて確実に液体の状態かつ安定状態を維持することが可能となる。これは、懸濁液の輸送および貯蔵にとって有益である。好ましくは、懸濁液は少なくとも-10℃では液体の状態を維持する。凍結防止剤は、グリコールおよびアルコールの群から選択されてもよい。好ましくは、凍結防止剤はエチレングリコールである。凍結防止剤はまた、エタノールまたはイソプロパノールであってもよい。
【0050】
本発明の特定の実施形態によれば、溶媒は水とエチレングリコールの混合物からなる。好ましくは、水のエチレングリコールに対する重量比は、1:10(w/w)~1:1(w/w)の範囲である。例えば、溶媒は70重量%~80重量%の水と30重量%~20重量%のエチレングリコールからなってもよい。
【0051】
一態様では、本発明に記載の懸濁液は、分散剤を更に含む。分散剤は、溶射のために懸濁液を安定化させるのに好適な任意の化合物であってもよい。分散剤によって、粒子は十分分散した状態を維持し、大きな凝集物または沈殿物を形成しないことが確実になる。例えば分散剤は重合物の塩および無機塩または有機分子であってもよい。当業者は、各種固体セラミック粒子に好適な分散剤を知っている。
【0052】
好適な分散剤の例は、2-アミノ-2-メチルプロパノール(AMP 90(商標)およびAMP 95(商標))、ポリカルボン酸アンモニウム、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(2-[2-(2-methoxyethoxy)ethoxy]acetic acid、MEEA)、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、メタリン酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、トリエタノールアミン、TRITON X-100(商標)、Lopon(登録商標)888、炭酸水素ナトリウムおよびクエン酸である。例えば、Crに特に好ましい分散剤は、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールおよびポリカルボン酸アンモニウムである。Alに好適な分散剤は、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールまたは2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEA)である。
【0053】
ただし、本発明は分散剤のこの例示的な一覧に限定されない。
【0054】
分散剤の濃度は、懸濁液中の固体セラミック粒子の濃度に応じて、均質で安定した懸濁液を提供し、かつ粘度を低下させるために選択される。分散剤の濃度は、固体セラミック粒子の含量に対して0.1重量%~10重量%、好ましくは0.5~5重量%、更により好ましくは1~3重量%の範囲であってもよく、例えば1重量%であってもよい。
【0055】
本発明に記載の懸濁液は、任意選択では結合剤を更に含有してもよい。
【0056】
好ましくは、本発明に記載の懸濁液の粘度は、100~1000s-1のせん断速度にて、50mPa*s未満、好ましくは40mPa*s未満、更により好ましくは30mPa*s未満である。通常、粘度は室温で測定されるが、室温は23~25℃の範囲を示す。好ましくは、粘度は1000s-1のせん断速度で測定される。更に好ましくは、粘度はプレート-プレートシステムを搭載したAnton Paar Physica MCR 301回転レオメータなどで測定される。
【0057】
サスペンション溶射プロセスには粘度が低いことが好ましい。
【0058】
本発明に記載の懸濁液は、サスペンション溶射、好ましくはサスペンションプラズマ溶射により、緻密な微細構造および滑らかな表面を有するコーティングを製造するには特に好適である。本明細書で理解されるように、「緻密な微細構造」は、小さい細孔の細孔径が20μm未満、好ましくは10μm未満である低有孔率(すなわち、10%未満、好ましくは5%未満)によって特徴付けられる。加えて、緻密なコーティングは、好ましくは50μm以上、好ましくは10μm以上のクラックを有さない。当業者は、緻密なコーティングを得るための好適な溶射パラメータを知っている。
【0059】
これらのコーティングは、好ましくはコーティングされた材料の腐食、浸食および/または擦りきず保護のために使用される。
【0060】
本発明によれば、金属、セラミック、ポリマー、セラミックマトリックス複合材料、合金およびこれらの混合物または複合材料などの任意の好適な基材上に、緻密なコーティングを製造することができる。例えば、基材はアルミニウム、鉄、鋼からなっていてもよく、好ましくはステンレス鋼からなっていてもよい。
【0061】
固体セラミック原料を本明細書に記載の溶媒中に分散させ、所望の平均粒径(d50)が得られるまで懸濁液を粉砕することで、本発明に記載の懸濁液を製造することができる。粉砕は、任意選択で本明細書に記載の分散剤の存在下で実施される。この後、懸濁液は所望の固体濃度に希釈される。
【0062】
ここで、本発明は以下の例および比較例にてより詳細に説明されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0063】
例1
懸濁液用の原料として、平均粒径(d50)が4.3である市販のCr粉末(10.192kg)を使用した。Crの純度は99重量%超であった。粉末の粒径を、5重量%のTSPP分散剤(ピロリン酸ナトリウム四塩基性)を5滴用いるMicrotrac S3500を使用して、測定チャンバ内で測定した。以下のパラメータを使用した:解析モード:Fraunhofer、測定モード:「FRA」(フルレンジ解析)、粒子透過性:吸光モード、水の屈折率1.33、流量50%および内部超音波出力30ワットで40秒間。
【0064】
原料を、2.548kgの脱イオン水中に80重量%の固体濃度で分散させた。原料懸濁液の粘度を減少させるため、102gの分散剤Lopon(登録商標)888(BK Giulini GmbH,Germany)を加え、強力な分散工程を可能にした。これは、酸化物含量に対して1重量%の量に対応する。混合物を15分間撹拌した。WAB Dyno-Mill Multilab高エネルギーボールミルで酸化物材料を粉砕した。粉砕を実施し、凝集物を含有しない十分分散した懸濁液を得た。1mm径の粉砕ボールを使用した。このようにして製造されたCr懸濁液は、79.54重量%の固体と0.79重量%の分散剤Lopon(登録商標)888を含有した。
【0065】
粒子の沈降を避けるため、開始から製造終了まで懸濁液を撹拌した。懸濁液の密度は2.8g/ccmであり、メスシリンダおよびスケールを用いて測定した。懸濁液の粘度は、レオメータMCR301(Anton Paar,Austria)で測定すると、100 1/sのせん断速度では23~24mPasの範囲であった。最終PSD(粒径分布)は、d10:0.24μm、d50:3.99μm、d90:8.82μmであった。10mlの脱イオン水で10mlの懸濁液を希釈し、5重量%のTSPP分散剤(ピロリン酸ナトリウム四塩基性)5滴と1分間手動で混合することで、粒径を測定するための試料を調製した。測定にはこのようにして調製された試料を数滴使用した。使用した機器はMicrotrac S3500であった。測定開始前に、更に5重量%のTSPP分散剤5滴を測定チャンバに入れた。以下のパラメータを使用した:解析モード:Fraunhofer、測定モード:「FRA」(フルレンジ解析)、粒子透過性:吸光モード、水の屈折率1.33、流量70%および内部超音波出力35ワットで50秒間。1.0μm未満の粒子の体積分率は、21.76体積%であった。計算されたFFRは0.27であった。
【0066】
この懸濁液を、サスペンションプラズマ溶射プロセスで原料として使用した。30ml/分の供給速度で懸濁液供給装置(NanoFeeder(商標)、Northwest Mettech)として使用し、懸濁液をスプレートーチ(Axial III(商標)、Northwest Mettech)に供給した。23~25kJ/lの出力設定にて1分あたり220標準リットルの流量でアルゴン-窒素-水素プラズマガス組成物を用いて、スプレートーチを操作した。コーティングを、直径25mmおよび厚さ5mmのグリッドブラストステンレス鋼クーポン上へと140mmのスプレー距離(トーチノズル出口から基材表面まで)で堆積した。試料を、垂直軸を中心に106回/分で回転させる設備に取り付けた。所望のコーティング厚さに到達するように、回転基材上にスプレートーチを直線垂直方向に14回移動させた。5バールの圧縮空気を備えたエアジェット2つをトーチに平行に取り付け、コーティング堆積中、コーティング表面を250℃未満の温度に保つため、5バールの圧縮空気を備えたエアジェット1つをコーティング試料に面するように取り付けた。
【0067】
SEM BSE画像で示されるように(図1Aおよび図1B)、緻密かつクラックやぶつ(欠陥)を含まない断面および滑らかな表面を備えるコーティングを得た。コーティングの研磨断面でSEM BSE画像を撮影した。コーティング断面をエポキシ樹脂中に嵌め込み、次いでシリコンカーバイド研磨紙で滑らかにし、鏡面研磨で表面仕上げが完了するまでダイヤモンド懸濁液で研磨した。
【0068】
例2
懸濁液用の原料として、平均粒径(d50)が4.3μmである市販のCr粉末(20.0kg)を使用した。測定は、例1に記載のものと同じであった。Crの純度は99重量%超であった。
【0069】
原料を、5.236kgの水/モノエチレングリコール混合物中に79.3重量%の固体濃度で分散させた。4.0kg(76.4重量%)の脱イオン水と1.236kg(23.6重量%)のエチレングリコール(99%,Donau Chem GmbH,Austria)を混合することで、混合物を作製した。原料懸濁液の粘度を減少させるため、200gの分散剤Lopon(登録商標)888(BK Giulini GmbH,Germany)を加え、強力な分散工程を可能にした。これは、酸化物含量に対して1重量%の量に対応する。WAB Dyno-Mill Multilab高エネルギーボールミルで酸化物材料を湿式粉砕した。粉砕を実施し、凝集物を含有しない十分分散した懸濁液を得た。1mm径の粉砕ボールを使用した。粉砕後、粗粒子不純物を取り除くため、懸濁液を40μmのふるいを通してポンプ輸送した。懸濁液の大量損失を防ぐため、ミルを通して300mlの水/MEG混合物をポンプ輸送した。この液体を合わせ、懸濁液と混合した。
【0070】
このようにして製造されたCr懸濁液は、78.7重量%の固体濃度と0.79重量%の分散剤Lopon(登録商標)888を含有した。粒子の沈降を避けるため、開始から製造終了まで懸濁液を撹拌した。最終PSDは、d10;0.23μm、d50:3.66μm、d90:7.93μmであった。測定は、例1に記載のものと同じであった。1.0μm未満の粒子の体積分率は、24.25体積%であった。計算されたFFRは0.31であった。
【0071】
この懸濁液を、サスペンションプラズマ溶射プロセスで原料として使用した。30ml/分の供給速度で懸濁液供給装置(NanoFeeder(商標)、Northwest Mettech)として使用し、懸濁液をスプレートーチ(Axial III(商標)、Northwest Mettech)に供給した。23~25kJ/lの出力設定にて1分あたり220標準リットルの流量でアルゴン-窒素-水素プラズマガス組成物を用いて、スプレートーチを操作した。コーティングを、グリッドブラスト処理を行った50×30×5mmのステンレス鋼プレート上へと160mmのスプレー距離(トーチノズル出口から基材表面まで)で堆積した。試料を、垂直軸を中心に106回/分で回転させる設備に取り付けた。所望のコーティング厚さに到達するように、回転基材上にスプレートーチを直線垂直方向に96回移動させた。5バールの圧縮空気を備えたエアジェット2つをトーチに平行に取り付け、コーティング堆積中、コーティング表面を250℃未満の温度に保つため、5バールの圧縮空気を備えたエアジェット1つをコーティング試料に面するように取り付けた。
【0072】
例1に記載したものと同じ方法で準備された研磨断面のSEM BSE画像で示されるように(図2)、緻密かつクラックやぶつ(欠陥)を含まない断面および滑らかな表面を備えるコーティングを得た。
【0073】
例3
懸濁液用の原料として、平均粒径(d50)が2.4μmである市販のY粉末(4.56kg)を使用した。測定は、例1に記載のものと同じであった。Yの純度は99重量%超であった。
【0074】
懸濁液の以下の工程:
1.MEG撹拌中に粉末をゆっくりと加えることで、原料を1.97kgのモノエチレングリコール/MEG中に分散させた。
2.30分撹拌後、1.03kgの1-ヘキサノールを混合物に加え、更に30分間撹拌した。
3.懸濁液の粘度を100*1/sのせん断速度で50mPas未満に減少させるため、更に69gの分散剤MEEA(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ酢酸)(Amri Global)を加えた。懸濁液を更に30分間撹拌した。
【0075】
このようにして製造されたY懸濁液は、60.4重量%の固体と0.90重量%の分散剤MEEAを含有した。懸濁液の密度は1.9g/ccmであり、メスシリンダおよびスケールを用いて測定した。懸濁液の粘度は、レオメータMCR301(Anton Paar,Austria)で測定すると、100 1/sのせん断速度では34~38mPasの範囲であった。最終PSD(粒径分布)は、d10:0.52μm、d50:2.35μm、d90:5.64μmであった。測定は、例1に記載のものと同じであった。1.0μm未満の粒子の体積分率は、25.05体積%であった。計算されたFFRは0.41であった。
【0076】
この懸濁液を、サスペンションプラズマ溶射プロセスで原料として使用した。30ml/分の供給速度で懸濁液供給装置(NanoFeeder(商標)、Northwest Mettech)として使用し、懸濁液をスプレートーチ(Axial III(商標)、Northwest Mettech)に供給した。14.2kJ/lの出力設定にて1分あたり220標準リットルの流量でアルゴン-窒素-水素プラズマガス組成物を用いて、スプレートーチを操作した。コーティングを、サイズ30×50mm、厚さ4mmのグリッドブラスト処理を行ったアルミナクーポン上へと115mmのスプレー距離(トーチノズル出口から基材表面まで)で堆積した。試料を、垂直軸を中心に318回/分で回転させる設備に取り付けた。所望のコーティング厚さに到達するように、回転基材上にスプレートーチを直線垂直方向に160回移動させた。4.1バールの圧縮空気を備えたエアジェット2つをトーチに平行に取り付け、コーティング堆積中、コーティング表面を250℃未満の温度に保つため、4.1バールの圧縮空気を備えたエアジェット1つをコーティング試料に面するように取り付けた。
【0077】
例1に記載したものと同じ方法で準備された研磨断面のSEM BSE画像で示されるように(図3)、緻密かつクラックやぶつ(欠陥)を含まない断面および滑らかな表面を備えるコーティングを得た。
【0078】
比較例1
懸濁液用の原料として、平均粒径(d50)が1.08μmである市販のCr粉末(2.3kg)を使用した。粉末の粒径を、5重量%のTSPP分散剤(ピロリン酸ナトリウム四塩基性)を5滴用いるMicrotrac X100を使用して、測定チャンバ内で測定した。以下のパラメータを使用した:水の屈折率1.33、流量70%および内部超音波出力35ワットで50秒間。
【0079】
Crの純度は99重量%超であった。
【0080】
原料を、水/モノエチレングリコール混合物中に43.7重量%の固体濃度で分散させた。1.978kg(66.7重量%)の脱イオン水と0.989kg(33.3重量%)のエチレングリコール(99%,Donau Chem GmbH,Austria)を混合することで、混合物を作製した。原料懸濁液の粘度を減少させるため、23gの分散剤AMP 90(商標)(BK Giulini GmbH,Germany)を加え、強力な分散工程を可能にした。AMP 90(商標)は、2-アミノ-2-メチルプロパノールおよび10重量%の水を含む。酸化物含量に対して1重量%の量で分散剤を加え、ディソルバーディスクを用いて20分間撹拌した。このようにして製造された43.5重量%の測定固体濃度を有する4.6kgのCr懸濁液を、希釈工程に使用した。40重量%の懸濁液を得るため、0.4kgの脱イオン水を撹拌中に加えた。粒子の沈降を避けるため、開始から製造終了まで懸濁液を撹拌した。このようにして製造された懸濁液の固体濃度は40.05重量%であり、分散剤AMP 90(商標)の濃度は0.4重量%であった。
【0081】
懸濁液の粘度は、レオメータMCR301(Anton Paar,Austria)で測定すると、100 1/sのせん断速度では3~4mPasの範囲であった。Microtrac S3500および例1のパラメータを用いて、最終PSD(粒径分布)測定を実施した。最終PSD(粒径分布)は、d10:0.16μm、d50:0.86μm、d90:2.54μmであった。1.0μm未満の粒子の体積分率は、52.4体積%であった。算出したFFRは1.31であった。
【0082】
比較例1A
この懸濁液を、サスペンションプラズマ溶射プロセスで原料として使用した。30ml/分の供給速度で懸濁液供給装置(NanoFeeder(商標)、Northwest Mettech)として使用し、懸濁液をスプレートーチ(Axial III(商標)、Northwest Mettech)に供給した。23~25kJ/lの出力設定にて1分あたり220標準リットルの流量でアルゴン-窒素-水素プラズマガス組成物を用いて、スプレートーチを操作した。コーティングを、直径108mm、壁厚4mmのグリッドブラスト処理を行った鋼管上へと160mmのスプレー距離(トーチノズル出口から基材表面まで)で堆積した。管を、水平軸を中心に382回/分で回転させた。所望のコーティング厚さに到達するように、回転管上にスプレートーチを直線水平方向に30回移動させた。5バールの圧縮空気を備えたエアジェット2つをトーチに平行に取り付け、コーティング堆積中、コーティング表面を250℃未満の温度に保つため、5バールの圧縮空気を備えたエアジェット1つを管表面に向けて取り付けた。
【0083】
例1に記載のものと同じ方法で調製された、得られたコーティングの研磨断面のSEM解析によって、凹凸のある(粗い)表面を有するバイモーダルコーティング構造が明らかになった(図4A図4D)。
【0084】
比較例1B
同じ懸濁液を、サスペンションプラズマ溶射プロセスで原料として使用した。45ml/分の供給速度で懸濁液供給装置(NanoFeeder(商標)、Northwest Mettech)として使用し、懸濁液をスプレートーチ(Axial III(商標)、Northwest Mettech)に供給した。23~25kJ/lの出力設定にて1分あたり220標準リットルの流量でアルゴン-窒素-水素プラズマガス組成物を用いて、スプレートーチを操作した。コーティングを、直径25mmおよび厚さ5mmのグリッドブラストステンレス鋼クーポン上へと120mmのスプレー距離(トーチノズル出口から基材表面まで)で堆積した。試料を、垂直軸を中心に106回/分で回転させる設備に取り付けた。所望のコーティング厚さに到達するように、回転基材上にスプレートーチを直線垂直方向に60回移動させた。5バールの圧縮空気を備えたエアジェット2つをトーチに平行に取り付け、コーティング堆積中、コーティング表面を300℃未満の温度に保つため、5バールの圧縮空気を備えたエアジェット1つをコーティング試料に面するように取り付けた。
【0085】
例1に記載のものと同じ方法で調製されて得られたコーティングの研磨断面のSEM解析は、単一カラムで形成され、ぶつ形態で表面の凸凹が単発的に/散在的に存在する全体的に平坦な表面を示す(図5)。
【0086】
比較例2
懸濁液用の原料として、平均粒径(d50)が4.3μmである市販のCr粉末(5.0kg)を使用した。測定は、例1に記載のものと同じであった。Crの純度は99重量%超であった。
【0087】
原料を、1.25kgの水/モノエチレングリコール混合物中に80重量%の固体濃度で分散させた。0.955kg(76.4重量%)の脱イオン水と0.295kg(23.6重量%)のモノエチレングリコール(99%,Donau Chem GmbH,Austria)を混合することで、混合物を作製した。原料懸濁液の粘度を減少させるため、50gの分散剤Lopon(登録商標)888(BK Giulini GmbH,Germany)を加え、粉砕工程を可能にした。酸化物含量に対して1重量%の量で分散剤を加えた。WAB Dyno-Mill Multilab高エネルギーボールミルで酸化物材料を湿式粉砕した。粉砕を実施し、凝集物を含有しない十分分散した懸濁液を得た。YSZ製の粉砕ボールを使用した。粉砕後、粗粒子不純物を取り除くため、懸濁液を40μmのふるいを通してポンプ輸送した。懸濁液の大量損失を防ぐため、ミルを通して500mlの水/MEG混合物をポンプ輸送した。この液体を合わせ、懸濁液と混合した。このようにして製造されたCr懸濁液は、78.25重量%の固体濃度を有した。粒子の沈降を避けるため、開始から製造終了まで懸濁液を撹拌した。懸濁液の密度は2.6g/ccmであり、メスシリンダおよびスケールを用いて測定した。上記の水/MEG混合物6.2kgを加えることで、懸濁液の固体濃度を40.05重量%に希釈した。懸濁液の粘度は、レオメータMCR301(Anton Paar,Austria)で測定すると、100 1/sのせん断速度では2~3mPasの範囲であった。最終PSD(粒径分布)は、d10:0.22μm、d50:3.90μm、d90:8.81μmであった。測定は、例1に記載のものと同じであった。1.0μm未満の粒子の体積分率は、23.63体積%であった。算出したFFRは0.59であった。
【0088】
この懸濁液を、サスペンションプラズマ溶射プロセスで原料として使用した。45ml/分の供給速度で懸濁液供給装置(NanoFeeder(商標)、Northwest Mettech)として使用し、懸濁液をスプレートーチ(Axial III(商標)、Northwest Mettech)に供給した。23~25kJ/lの出力設定にて1分あたり220標準リットルの流量でアルゴン-窒素-水素プラズマガス組成物を用いて、スプレートーチを操作した。コーティングを、直径25mmおよび厚さ5mmのグリッドブラストステンレス鋼クーポン上へと120mmのスプレー距離(トーチノズル出口から基材表面まで)で堆積した。試料を、垂直軸を中心に106回/分で回転させる設備に取り付けた。所望のコーティング厚さに到達するように、回転基材上にスプレートーチを直線垂直方向に40回移動させた。5バールの圧縮空気を備えたエアジェット2つをトーチに平行に取り付け、コーティング堆積中、コーティング表面を300℃未満の温度に保つため、5バールの圧縮空気を備えたエアジェット1つをコーティング試料に面するように取り付けた。
【0089】
コーティング断面の十分なSEM BSE画像を得ることはできなかった。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
【国際調査報告】